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1947/07/28 第1回国会 衆議院 衆議院会議録情報 第001回国会 外務委員会 第3号
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1947/07/28 第1回国会 衆議院

衆議院会議録情報 第001回国会 外務委員会 第3号

#1
第001回国会 外務委員会 第3号
付託事件
 平和會議に關する決議案(尾崎行雄君提出)(
 決議第一號)
―――――――――――――――――――――
昭和二十二年七月二十八日(月曜日)
    午後一時三十八分開議
 出席委員
   委員長 安東 義良君
   理事 加藤シヅエ君 理事 細川 隆元君
   理事 武藤 嘉一君 理事 栗山長次郎君
   理事 亘  四郎君
      猪俣 浩三君    田中  齊君
      戸叶 里子君    馬場 秀夫君
      和田 敏明君    鈴木 強平君
      中山 マサ君    菊池 義郎君
      佐々木盛雄君    仲内 憲治君
      若松 虎雄君   唐木田藤五郎君
      多賀 安郎君    綱島 正興君
 出席政府委員
        司 法 次 官 佐藤 藤佐君
        司法事務官   國宗  榮君
    ―――――――――――――
七月二十六日
 ソ連領からの復員促進に關する請願(坂東幸太
 郎君紹介)(第九號)擇捉島、國後島及び色丹
 諸島を日本領土に復歸の請願(坂東幸太郎君紹
 介)(第一五號)
 ソ連軍占領地よりの復員促進に關する請願(小
 川原政信君紹介)(第五六號)
の審査を本委員會に付託された。
    ―――――――――――――
本日の會議に付した事件
 刑法の一部を改正する法律案中國交に關する罪
 についての説明聽取竝びに意見交換
    ―――――――――――――
#2
○安東委員長 ただいまより會議を開きます。前囘に引續きまして、刑法の一部改正に關する法立案中、國交に關する罪につきまして、私よりさらに補足的の説明と同時に質問をいたしたいと思いまするので、委員長を細川委員に代理していただきます。
    〔委員長退席、細川委員長代理着席〕
#3
○細川委員長代理 安東委員長から發言を求められておりますので、私が委員長の指名によつて委員長席につきます。まず發言を求められております安東委員から御發言願います。
#4
○安東委員 前囘佐藤司法次官が各國の元首竝びに外交使節に對し國際法は特別の保護をなすべきものであるということはお認めになつておつたようでありましたが、その點についてなお一應司法省側の御見解を承りたいと思います。
#5
○國宗政府委員 お答えいたします。その點につきましては、前囘佐藤次官から申し述べました通り、司法省においてもそれは認めておるところでございます。
#6
○安東委員 しからば新改正法中かくのごとき考え方が明瞭に現れておりますでしようか、その點をお伺いいたしたいと思います。
#7
○國宗政府委員 お答えいたします。その點につきましても、前囘佐藤司法次官から申し上げました通り、暴行、脅迫、名譽毀損等の刑を引上げまして、その趣旨を明らかにしたつもりでございます。
#8
○安東委員 ただいまのお答えにつきましてなお質問いたしたいのでありますが、今度の改正刑法中暴行等に對する形を引上げられましたのは、動機は外交使節に對して特別の保護を必要とするという意味ではなくて、一般の人權保護の精神から、これらの犯罪を強く罰せられることにせられたものと了解いたしまするが、その點はいかがでございますか。
#9
○佐藤(藤)政府委員 暴行、脅迫の刑罰を引上げましたのは、ただいまの御説のように、まつたく新憲法の暴力否定の精神に副わんがために形を引上げたのであります。その結果これほどまでに刑を引上げたならば、外交使節に關する特別を削除いたした次第であります。
#10
○安東委員 それは結局のところ裁判官が刑を科するにあたつて、これを自由裁量の見地から裁量するかせんかというところに歸着するわけでありますが、もし何ら法的の根據が明らかにせられていない場合には、日本の刑法は法定裁量主義ということをとつてあると思いますので、その點について非常な不都合が生じてこぬかと思いますが、その點いかように考えておられますか。
#11
○佐藤(藤)政府委員 暴行、脅迫の點について改正法立案が十分刑を引上げましたので、具體的事例にあたつて、裁判官は具體的事件の刑として、適切な刑を裁量いたすことと信じておるのであります。殊に外交使節に對する事例がもしあつたといたしまするならば、外交使節に對する國際法上の原則なり、あるいは慣例というものうを裁判官においても十分承知いたしておるのでありまするから、その要請を滿たし得る程度に法定刑の範圍内において、具體的な刑罰が裁量されることと期待いたしております。
#12
○安東委員 してみますれば、結局外國の慣例その他を參酌して、裁判官が自由裁量をするということに歸着するのでありまして、その點に關しまして、私は從來の法の問題に對する慣例を一、二申し上げまして、こういうことが明定していないためにいかに不都合を生じたかということを、御参考に申し上げたいと思います。
 一九一二年のことであります。アメリカの特派大使がキューバにおいて侮辱を受けたのであります。それはちようどキューバの新聞報道員が、ハヴアナでヒュージ・ギブソンという米國の特派大使を襲つたことであります。犯人は捕らえられましたけれども、判事は彼を釋放いたしたのであります。そのときに判事はこう言うた。被害者アメリカの公使であつてもキューバの最低階級に屬する市民であろうと、侵害者にとつては同じことである。ちようど今囘の法律の改正案について、司法省で申されました趣旨と同じ趣旨を申したのであります。これに對してアメリカ合衆國政府は、かかる國際法の解釋に強硬に抗議しまして、滿足なる解決を要求いたしたのであります。その結果報道員はついに再び監禁せられまして、二年半の懲役に處せられたという事件があります。この一事件をもつてみましても、もし日本にこれら特別の規定がない場合には、かりに裁判官は自由裁量によつてやつたのだというても、もし外國においてこれを不滿とするものがありましたならば、さらにこれに對して強い刑罰を要求することがないとは申されないのであります。
 さらにこれにつきましてもう一つの事例を申し上げたいと思います。これは國際法上あまりにも有名なことでありまして、ほとんど皆様は御存じであるかもしれません。いわゆるロシヤ大使事件と申すものであります。それは古い話でありまするが、一七〇八年夏ロンドンでロシヤの大使が警官によつて馬車からおろされまして、數時間拘留されたという事件が起つたのであります。そのロシヤ大使は英國の商人に三百ポンドの借金がありましたので――これはあまり感心したことではありませんが、借金がありましたので、執達吏が裁判所の令状に基いてなしたのであります。がしかしながら、大使は直ちに釋放されたのであります。當時の英國の女王アンは早速外務大臣を大使のもとに派しまして、鄭重に詫びて、犯人を嚴罰に處することを誓わせたのでありましたが、ロシヤ大使はもつと徹底的に彼の恥をそそぐ方法を講ずべきであることを要求致しまして、召喚をまたないで歸國してしまつのであります。その際彼は女王から贈られました記念品も受けず、また彼のために差し向けられた船にも乗ることを潔しとしなかつたのであります。そこで女王及び閣僚はあらゆる手を盡し、國際法上の義務を遂行するに努めて、關係商人、執達吏及び、令状を出した裁判官を逮捕させまして、有名な辯護士、陪審員を交え、大臣、高官の前で裁判を行つたのであります。そして有罪の判決が下りまするや、かかる事件は異例、重大かつ前例のないことであるというわけで、正式にロシヤ大使に通報し、また多數の陳謝及び激昂の意を表した手紙が送られたのでありましたが、大使及びロシヤ皇帝の鎮撫には役立たなかつたのであります。當時議會におきまして、大赦令が審議公布されましたが、女王に對し罪を犯した者までもこの恩典に浴したのであります。ところが本件關係者はこれより除外されたのであります。さらに議會は本事件に關連して外交官の特權に關する法律を議し、その中においてこの種の暴行侮辱罪により英國民は深く震駭されたるにより、ロシヤ大使逮捕に關する手續は一切無效とされ、法定の記録から抹殺せらるべし、事件関係者は極悪人の汚名を冠せらるべし、またかかる罪を犯し、外交使節の特権を犯すものには、裁判官獨斷でいかなる極刑をも課し得べく、かくして將來外交使節の安全保護は永久に確立さるべしと宣言したのであります。これがいわゆるアン宣言であります。しかしそれでもロシヤ側は以前きかないで、法外なる賠償とともに、犯人を死刑に處し、共犯者を極刑に處すべきことを要求してきたのであります。當時交換されましたロシヤ側の文書の中には、ベニスにおいて、英國の大使が關税に關連して間接に些細な不當待遇を受けたことに對し、ベニス政府は法律に定められた以外の罪として、關係税關役人を長期重勞働に處した事件を引き、かかる事件は國内法の範疇でなく、國際法が侵されたのであるから、不通の國内法手續を適用するのは不可であり、一層徹底的な措置が要求されております。ロンドンにおける外交團もロシヤ側を支持し、議會協議中の前に申し上げました外交官の特權に關する法律案も、まだ問題を國内法の範疇として取扱つておる氣味があり、從つてかかる法律は後法によつて改廢される疑問を殘しておるものと解す。とういうわけで、この問題の結果、結局二年後に至つてやつとできたのであります。すなわちアン女王はロシヤ駐在英國大使に特に全權を授けまして、ロシヤ皇帝の面前に出頭させ、居竝ぶ高官の前でアン女王の陳謝状を披露し、それを獨露二語の譯文を朗讀させたて、ロシヤ皇帝に呈し、それをロシヤ皇帝はさらに英國におるロシヤの大使に送つて、英國の政府からあらためて陳謝したということでやつとけりがついたのであります。かくのごとく、こと小なる侮辱事件でも國際法の問題となり、國交の問題となりますと、きわめて紛糾錯雜してくるおそれがあるのであります。從つてわれわれがこの點を明瞭に刑法上に殘しておくことは決して無駄でないばかりでなく、將來の國交紛訂を避ける意味においても有益であり、必要である、こう私は信ずる次第であります。以上、私は前囘の補足として申し上げた次第であります。
#13
○細川委員長代理 今の安東委員の御發言に對し何か御意見がありますればお述べ願いたいと思います。
#14
○佐藤(藤)政府委員 ただいま安東委員から、外國に駐在する大使が侮辱せられ、あるいは暴行せられた場合について重大な外交問題の發生した先例をお聞かせいただきまして、私も非常に参考となつたのであります。本改正法律案におきましては、名譽毀損罪のほかに、公然事實摘記しないで名譽を毀損した場合、すなわち精神的侮辱罪については、すべて不問に附するという趣旨で、侮辱罪の現行刑法を削除いたしておりまするので、この點につきましては削除いたした以上、たとえ外交使節に對する侮辱の犯罪が圧手も現行刑法ではこれを賄うことができないので、その點については御説のように將來外交問題となつた場合にまことに申しわけないことと存ずるのであります。從つて一般の問題といたしましても、侮辱罪について、現行法を削除するのは不適當であるという御意見に對しましては、非常に私たちは敬意を表して拝聴いたしたのであります。しかしながら暴行、脅迫につきましては、先ほど來申し上げましたように、現行刑法を新憲法の精神に則つて刑を重くいたしたのであります。現行刑法は一年以下の懲役であつたのを、二年以下といたしまして、また名譽毀損罪は一年以下のを三年以下というふうに刑を加重いたしましたので、具體的な事例が、外交使節に對して暴行脅迫または名譽毀損の行為がありましても、その場合には裁判官が、國際法上の慣例なり、あるいは國際法を十分理解して適切妥當な刑を裁量するだらうと考えているのであります。侮辱罪の點につきましては、さらにこの刑法二百三十一條の削除の點についてあらためて研究いたしたいと考えております。
#15
○細川委員長代理 安東委員の御發言一區切りついたようでありますから、安東委員に委員長席に著いていただいて審議を進めたいと思います。
    〔細川委員長代理退席、委員長著席〕
#16
○安東委員長 猪俣君。
#17
○猪俣委員 國交に關する罪として舊刑法に規定されておりました法益と、國内法上の目的のためにできておりました名譽毀損罪あるいは暴行罪、そういうものの法益が違うのじやないかと思うのであります。國交に關する刑罰は、それの保護すべき法益というものがあるので、國内人の暴行、脅迫とはまた違つた一つの法律がなければならぬ。それを保護するための法律であるはずである。刑罰が重くなつたからということだけではどうもこの削除する理由がはつきりせぬと思うのであります。法益が違うのじやないかと私は思うのであります。それから、刑罰が重くなつたという御議論でありますが、今ここに六法全書がありませんのではつきりいたしませんので、もし間違つておつたらお直しを願いたいと思うのでありますが、いわゆる國交に關する罪におきましては、暴行、脅迫罪は一年以上十年以下の懲役ということになつておつたかと思うのであります。昭和十五年に發表されました刑法假案を見ましても、六年以下の懲役ということになつておると記憶しております。また名譽毀損につきましては、刑法假案は四年以下の懲役または禁錮というふうになつておつたと思う。もちろんそれにかかわる必要もないのでありますが、十八箇年間かを費やして法制審議會でつくりました刑法假案が、さような刑罰になつておるそれと今囘の改正案を比較いたしましてそれは國内におきますところの、要するに暴行脅迫罪といたしましては重くなつたかもしれませんが、いわゆる法益を異にいたしますところの國交に關する罪に對する罰としては、今までの案よりは輕くなつたのではないか。さようなことがこの日本の現在の立場として妥當なりや否や、こういうふうに考えるのでありますが、この法益についての説明、及び刑が重くなつたということの説明。それからいま一つ、どうも私は六法全書がないのでわかりませんが、單純暴行罪は親告罪になつておつた、あるいはこれは改正になつたような氣もするのでありますが、そういうことになると、單純暴行に對して、何人が告訴するものなりや。名譽毀損罪に對しては、改正案中に規定がありますが、單純暴行については、そこの規定がないような氣がするのであります。もし單純暴行が親告罪なりとするならば、どういうふうなことになるのであるか。その御説明が願いたい。
#18
○佐藤(藤)政府委員 國交に關する罪の法益でありますが、見方によりましては御説のように、これは單純な個人の利益ではない。日本國に滯在する外國の君主、大統領、使節に對する犯罪があつた場合には、その犯罪は相手方の權利を侵害するのではなく、相手國、その外國に對する侵害だ、甲見るのも一つの見方であると思うのでありますが、私どもの考えるところでは、國交に關する罪であつても、各種の犯罪によつてその法益がそれぞれ違うのでありまして、たとえば暴行罪であれば、その暴行の相手方の身體に對する權利を侵害した、こう見ているのであります。たといその相手方が天皇であつても、皇族であつても、あるいは外國の使節であつても、大統領であつても、その暴行罪の法益はやはり、暴行の侵害を受けた相手方の身體權が侵害されたものというふうに解釋いたしているのであります。ところが現行刑法において、國交に關する罪として、外國の君主、大統領、使節に對する暴行罪について、特に刑罰を一般人に対する暴行罪よりも重く規定したのは、どういう譯か。こうなりますと、それは國際法上の原則なり、あるいは國際慣例、國際儀禮を重んじて、刑罰を重くしたのであるというふうに考えているのでありまして、犯罪の對象とする法益は、どこまでもその侵害を受けた個人の法益つまり個人の身體權が侵害されたものというふうに、解釋いたしているのであります。名譽權に對しても同様であるというふうに考えているのであります。それから現行刑法の外國の君主、大統領に對する暴行、脅迫が、一年以上十年以下の懲役というお話でありましたが、これはまつたく御説の通り現行刑法の九十條では、「帝國ニ滯在スル外國ノ君主又は大統領ニ對シ暴行又ハ脅迫ヲ加ヘタル者ハ一年以上十年以下ノ懲役ニ處ス」單純なる暴行、脅迫をしても一年以上十年以下というので、非常に刑罰が重いようでありまするが、その實、この暴行、脅迫という中には、普通人ならば侵害の罪、傷をつけたというひどい暴行の場合もみな含んでおるのでありまして、この點は學説、判例一致しておるところであります。文字は暴行であつても、暴行によつて傷害の結果が生じた場合も含む。しかしながら、普通人に對する傷害の場合は刑法二百四條によつて懲役十年以下、しかし輕い場合でも一年以上でなければならぬという制限はありますけれども單純なる暴行について、すべて懲役十年以下という趣旨ではないのであります。重い暴行の場合に初めてマキシマムの十年以下で處斷されるのでありまして、輕い場合はやはり懲役一年以上ということになるのであります。そういうふうに考えますと、現行法の九十條及び九十一条を改めたことによつて、形の上ではいかにも帝國に滯在する外國の君主、大統領、使節ニ對する身體の保護が非常に薄くなつたように見えるのでありますけれども、一般人に對する傷害罪、一般人に對する暴行脅迫罪等の法廷刑と比較いたしますると、現行刑法を改めて、外國の君主、大統領、使節に對する刑罰規定が、一般人に對する刑罰規定と全然同一にいたしましても、實質上は決して外交官の不可侵權に對する保護を薄くしたということにはならないのであります。現在のわが國の國際間における地位にかんがみまして、將來民主的な平和國家として國際場裡に伍していかなければならないわが國といたしましては、國交に對しては十分慎重な態度をもつて臨まなければなりませんので、本改正案のように、國交に對する罪の一部を改正するにあたりましても、從來の國際法なり、あるいは國際慣例を尊重する點については十分考慮いたしたつもりであります。
 なお、單純な一般人に對する暴行罪が親告罪であるのに、外交使節に對する暴行罪も、一般人と同様にした場合に、その告訴はいかに取扱うのかという御意見がありましたが、御質問はまことにごもつともでありまするが、この點につきましては、一般人の暴行、脅迫に對する罪についても、從來親告罪であつたのを非親告罪といたしまして、いかに輕い暴行罪であつても、被害者の告訴をまたないで起訴できるように、一般人の犯罪と同じような取扱いをいたしましたので、この點につきましては、外交使節に對する告訴という問題が別に生ずることはなくなつたのであります。
#19
○仲内委員 この前、佐藤次官の御説明にもありましたように、今度の改正の御趣旨は、日本の新しい憲法のもとで、國民はすべて法律の前に平等という、むしろそれは國内法上の改正から出發しておるように了解しておるのであります。ところが、現行刑法における「國交ニ關スル罪」というのはその表題から示しておりますように、國交を主眼にした特別の規定であると思うのであります。しかも國交とは、先ほど來お話のありましたように、國際法の原則というものを基本にしておるわけであります。この國際法の原則を認める以上は、國内法の改正にかかわらず、國際法の文明國によつて認められた原則をあくまでも尊重していくということは當然であると思うのであります。また先ほど來いくたの前例もあげられておるのであります。私どもも海外に、低い身分ではありましたが國家を代表した經驗をもつております。その場合決してこれは個人に對する特權とは思わないのであります。國を代表する上に、外國から禮儀として認められておる。現に各國の立法例はその禮儀を今なお尊重しておる。日本が新憲法のもとに國内で各人を平等にしたからといつて、外國の禮儀に報ゆるいわゆる國際禮儀と申しますか、いわゆる國際法の原則を無視して自分だけの改正をする。實際的には取扱いは裁判官の自由裁量に任すといつても、少なくとも立法例を竝べたときに、日本は國際法の禮讓の規定からその立法例をもたないという改正をしたということだけでも――國際は言うまでもなく相互主義であります。その意味におきましても、あるいは極端に言えば、日本の外交官に對してはその慣例を認めないというような除外例を設けられても、やむを得ないことになるではないかと思うのでありまして、殊にただいま司法次官のお説のありました通り、日本は特別國際關係の状態にあるのであります。もしも講和會議の成立によつて國交が再び囘復されました場合、何かの間違いで、あるいはアメリカの使節その他舊連合國の使節に對して侮辱なり暴行なりの事實が現れ、しかもそれは――先ほど法益のお話がありましたが、この法益につきましても、私は少し御説明を願いたいと思うのでありまして、個人に對する法益というよりは、これはどうしてもその國家の名譽、威嚴を代表するという國際法的な觀點から來ておる規定に相違ないと思うのであります。それならばこそ國交に關するという特別の章が設けられ、規定が設けられておると思うのでありまして、外國を代表するがゆえに普通人とは違う。どうしても特別の保護を與えなければならない必要があるということが長い國際間の慣例によつて認められ、また今日では確定しておるという事實からいたしましても、日本があえてこの際――しかも新しく世界の信用を囘復すべく再出發する場合において、外國の代表者を今まで以上鄭重に、殊に外交再開の當初おいて、萬一誤つた、たとえば極端な無政府主義者というようなものが、意識的に國交を混亂さすために、暴行侮辱の行動に出たと言う場合に、これを普通人の刑法をもつて論ずる。たとえ酌量の餘地はあるにしても、これを裁判官の酌量のみに任すということは、事あまりに國交の上において重大な問題ではないか。それならばこそ司法委員會を離れて、この外交委員會の問題として御協議になつたことと思うのであります。その意味におきまして、あくまでも國交に重點をおかれて御檢討あらんことを希望する次第であります。
#20
○猪俣委員 今佐藤さんの御説明で、これは法益が違わぬのだ、やはり個人に對する法益と同じようだという説でありますが、どうも私どもが習いました範圍におきましては、さような説は今初めて承ります。もちろんこの改正刑法において、國政ということに對する法益は認めなくなつたんだという説明ならばそういう結論が出るかもしれませんが、そういう國交に關する法益というものを認めておるのかおらぬのか。認めておつても、それに對しては刑罰をもつて臨まぬということであるか。今までの學者の説によりましても、これは外國の制度または國際法上の原則を擁護するための目的なのであると説明をする人といやそうじやない、結局擁護することによつて外國と事を構えることを少くするためのやはり國内法のためなんだ、國内法のためなんだという説明との二つの説明があつて、多少趣を違えておりますけれども、結局いわゆる個人の身體とか名譽とかいうものを毀損するのとは違うのだという説明を學者がしておるようでありますが、同じだという御説明は今日初めて承つた。私ども寡聞でありますから、そういう學説もあつたかもしれませんが、國交に關する法益というものを考えにお入れにならぬで、こういう規定の削除をなさつたのか。それは考えておるけれども、刑罰をもつて臨む必要はないので、やはり個人個人の身體、名譽というものを保護すればそれでいいんだという見地にお立ちになつたのでありますか。結局論爭はこの法益の違うか同じかという問題じやないかと思われる。その點について、いま少しく前の委員の質問と關連いたしまして、私どもの釋然とするような御説明を願いたいと思います。
#21
○佐藤(藤)政府委員 先ほど外國の君主、大統領、使節に對する刑法の規定の保護法益は何であるかというような御質問に對して、それはもちろんその人の個人の身體または名譽を保護する趣旨であるというふうにお答えいたしたのでありますが、ちよつとその説明が單純に過ぎましたので、あるいは私の言わんとする趣旨が誤解される恐れもありますので、もう少し詳しく申し上げますと、國交に對する罪の法益が、お説のように國交と申しますが、相手國、その外國に對する國際儀禮あるいは國際法上の要求という、そのことだけが法益となるのではないのであつて、むしろ個人の法益に重きをおき、さらにそれのみではなく、やはり國交ということに相當重きをおいて、特別な加重刑が規定されたのであると考えておるのであります。言いかえれば、刑法九十條、九十一條が從來特別におかれましたのは、これは單に個人を保護するのみを目的とするものではなく、個人の法益と同じに國交に關する外國の地位をも保護する趣旨で規定されたものであると考えるのであります。ただその見方が個人の法益に重きをおいておるのであるか、個人の法益よりもむしろ相手國たる外國の地位というものに重きをおいておるのであるかということについては、これは見る人によつてどうも違うようであります。刑法學者のいろいろな著書を見ましても、どちらにウエートをおくかということはいろいろな説があるようでありますが、私の見るところでは、國交に對する罪であつても、もちろんその主體とあるものは個人の法益に重きをおいておるのである。さらにその個人の國際法上の地位というものを尊重して、特別に重い保護規定がなされておるのである。かような考えをいたしておるのであります。
#22
○猪俣委員 そういうふうに一般の法益と同じように考えて立案になつたということでありますが、そうすると二百三十條のニの「前條六一項ノ行為公共ノ利害ニ關スル事實ニ係リ其目的専ラ公益ヲ圖ルニ出タルモノト認ムルトキハ事實の眞否ヲ判斷シ眞實ナルコトノ證明アリタルトキハ之ヲ罰セス」これはやはり外國の元首に對しても適用になるのでありますか。
#23
○佐藤(藤)政府委員 その點はもちろん外國の元首、大統領、使節に對しましても、またわが國の天皇、皇族に對しましても全部同様に考えております。
#24
○細川(隆)委員 刑法改正中の國交に關する罪の點について、司法當局と安東委員長からお述べになりました意見との間に食い違いがありまして、私どもが審議します上に、この二つの食い違いをどちらに理があるかという判斷によつて、私どもの態度がきまるわけでありますが、私個人としましてはまだ結論が出ておりませんので、司法當局と安東委員長の兩方に對してお尋ねを申し上げて、私の態度をきめます参考にしたいと思います。
 まず司法當局に對してでありますが、この改正をなされたときに、特にこの國交に關する罪の取扱を審議されたときに、次のような點を考慮に入れてなされたのか、なされないのかを伺いたいと思います。それは、現在日本は連合軍の占領下にありますので、いわゆる裁判權というものが非常に制限されておることはもちろんであります。講和條約ができまして、形式の上で一應の自主國家となり、一應の主權の囘復が行われましても、裁判權というものがはたして無條件に囘復するかどうかということは、これは連合國の決定にまつのでありますが、講和條約ができて、そして一應占領が解かれたとしても、現在われわれの想像し、世界の想像するところは、日本管理というものが相當長期にわたつて續くであろうというふうに見られておるのであります。講和條約ができて、そして管理が行われる場合に、日本の裁判權というものは完全に囘復しないで、たとえばこういつた國交に關する罪というがごときものは、占領下にあります現在において刑法が制限されておるのと同様、あるいは程度は違うが何がしかの意味において制限されることを豫想し、從つて占領が解かれた場合に裁判權が完全に囘復するのだから、こういう國交に關する罪は削除しておいても、制限された裁判權によつて外國の裁判權が適用されるというような豫想があつたのかどうかという點を、まず第一にお尋ねしたいと思います。
 第二の點はただいま猪俣委員及び仲内委員から御質問がありましたようなことを、私はお聽きしてみたいと思つておりましたが、これはすでに質問が濟みましたから、この點は省略いたします。從つて第一の點だけを司法當局にお尋ねいたします。
 それから安東委員にお尋ねしたいことが二つあります。第一は、もしも國交の罪として法益、いわゆる外交官の不可侵權の保護の裏打ちとしての國際親善、すなわち外國の名譽、尊嚴を尊重するという點からこれができておるとするならば、外國の元首、大統領、使節というものに對する殺人罪に對して特別の規定を設ける必要はないのか、理論上暴行、脅迫、名譽毀損がそういつた法益を守るということであれば當然殺人の問題もこれに関連して特別の規定を設けなければならないはずであるが、そういうことまでも特別規定として守らなければならないと、理論上考えられるかどうかという點が第一點であります。
 第二點は、ただいま司法當局の御説明によりますと、形の上ではこれをなくしたけれども、しかし刑の量定においてはなくしてもなくされないでも變らない。從つて外交官の不可侵權の保護というものは十分達せられるというお話でありましたが、安東委員長はこれを削除することが、いけないのみならず、これを生かしておいてもなおかつ刑の量定においては差をつけなければならない。すなわち傷害罪及び脅迫、名譽毀損という刑が引上げられておるけれでも、さらにこの改正刑法によつて加重された一般日本國民に對する刑罰以上に刑を課せなければならない。すなわち具體的に言えば、現行刑法九十條、九十一條の刑そのままではいけない。さらに一般日本國民に對する刑が加重されたのに比例して、何がしかの刑を加重しなければならないという御所見であるかどうか、あるいは單に九十條、九十一條を現行のまま復活すれば事が足りるという御意見であるかどうか、この二點をお伺いしたいと思います。
#25
○佐藤(藤)政府委員 ただいまの日本に駐屯いたしておりまする連合國最高司令部、ないし將來講和條約締結後の日本駐在の外交官によつて、日本の裁判權がある程度の制限を必ず受けるのではないかという御意見でございますが、現在は御承知のように裁判權の行使については一部なるほど制限を受けております。連合國軍の安寧、安全を侵害するような犯罰、たとえば連合國軍に對して侵害を加えるというような、安全を害する行為については、その犯罪は日本の裁判所で裁判をしないで、連合國の軍事裁判所で裁判をすることになつておりますので、その範圍においてはなるほど制限を受けておるのであります。それからもう一つは連合國軍に屬する財産權の侵害であります。連合國のもつている兵器、彈薬あるいはカン詰その他の食料品に至るまで、これを窃取した場合のような財産權に對する侵害についても、從來は日本の裁判所で裁判をしないで、連合國軍の軍事裁判所で裁判するという制限を受けておつたのでありますが、この點はこのたび一部制限を解除せられまして、財産權の侵害に對しては、日本の裁判所で從來通り裁判をしてもよろしいという緩和の覺書をもらいましたので、その點は一部解除になつたのであります。將來講和會議の成立後に、ある程度日本が連合國の支配のもとにおかれるのであろうということは、よく巷間でうわさされておるところでありまして、私どももある程度の制限はあるのではないかというふうに考えておりますが、國内における裁判權にまで制限を受けるであろうというようなことは、私は想像はいたしておらないのであります。講和條約によつて日本の主權が相當程度までその獨立性を認められるのではないか。殊に裁判權の行使については、今までも具體的な事件については、決して干渉をしないというプリンシプルを連合國軍においても現に守つておられまするので、講和條約成立後において、將來日本の裁判の行使に對してある程度の制限があるだらうということは、實ははなはだ手前勝手のようでありますけれども、私どもは想像いたしておらないのであります。これを御承知願います。
#26
○安東委員長 ただいまの細川委員の御質問に對してお答へいたします。第一點の殺人に關しては、元首竝びに大統領または諸外國使臣に對して特別の規定がないが、それで差支えないか、論理に矛盾はないのかというお話でありますが、私はその點につきましては、殺人についてはほとんどいずれもの刑法が最高死刑をもつて論ずることになつておりますので、この元首竝びに使節に對して特別に重く罰するという精神が、その刑法上に明瞭になつておる限りにおいては、あえてこれを設ける必要はないと思うのであります。それから第二點のしからばこの九十條、九十一條を、ほかの暴行、脅迫等に關して罰を重くしたのに比例して、存置したときに、これを重くする必要はないのかというお話でありますが、私はこれに關しましては第九十一條の二項の「帝國に派遣セラレタル外國ノ使節ニ對シ侮辱ヲ加ヘタル者ハ二年以下ノ懲役ニ處ス」とありますのを、二年以下を三年以下に改める必要がなかろうか、こう思うのであります。その他は字句の修正であつて「帝國」というのを「日本國」に改めるというような點にとどまつておる。さように考えるのであります。
#27
○細川(隆)委員 委員長にお伺いいたしますが、殺人罪はすでに死刑ということが定まつておりまして、日本國民と一般に同列の刑罰規定によつてこと足りる。しかし情状の酌量ということは、日本刑法に通るところの通則になつております、すなわち殺人罪に關しましても、裁判官の裁量によりまして、百パーセント死刑になるとは限らないのであります。從つてもしも暴行脅迫及び名譽毀損というものが外國元首、大統領、使臣に特に特別規定を設けなければならない。そうでなければ先ほど委員長から言われましたように、刑の裁量の場合に、裁判官が特別規定に拘束されないで自由にやり得るから、國交上弊寄が起こるというのと同じ意味において、殺人罪においても先ほどからの委員長の論旨を一貫しますならば、當然刑の特別規定が設けられなければ説明がつかないことになるのではないか。さように私は考えるのであります。すなわち九十條、九十一條も刑の量定においては今度の改正と刑罰は同じであります。問題は裁判官が量定をする餘地を殘しておるから弊害が起るか起らぬかということが、さつきからの問題なんですから、この點をもう少し兩方關連して御説明願えれば結構だと思います。
#28
○安東委員長 ただいまの點について私の見解を申し上げます。この要點は、私は外國の元首もしくは使節に對して、特に重く保護するということが要點でありまして、その具體的なきめ方それ自體は、各國の國内法に任せられておるのが實情であります。と同時に、またその施行にあたつても裁判、官がこれを自由裁量によつてきめるという餘地は、もちろんある程度まで殘さるべきものであろうと思うのであります。ただ普通人に對してこれをやつた場合と比べたならば、それよりも重くなるというところに眼目がなければならぬ。ところが今度の改正案の趣旨によりますと、普通人よりも重くしなければならぬという根據は、この成文法上からは出てこない。何となれば個人の人格平等なりという思想を推し進めたものでありますから、そういう觀念が絶對に出てこない、ただ國際法上そういう慣例があるとか何とかいうことでありまするけれども、それを法律として日本の裁判官が認めなければそれまでのことであります。要するに普通人に加えられるものよりも重く罰し、強く保護するという精神が、この新しい改正法案のどこかにはつきり現れることが必要である。國際法尊重の精神を現わすということが眼目じやなかろうかと實は考えております。―ほかに御意見はございませんか。では大體御意見も盡きたことと思いますから、これをもつて閉會いたしたいと思いますが、なお今後の處置につきましては、あるいは私からこの改正案に對する政府修正案を提出いたすかもしれません。その場合はまたよろしく御審議を願います。
#29
○細川(隆)委員 刑法改正については、司法委員會の主管に屬することでありまするから、本委員會の審議は司法委員會の審議と竝行して進められるようにお願いいたしたいと思います。
#30
○安東委員長 承知いたしました。
 それではこれをもつて散會いたします。
    午後二時四十分散會
ソース: 国立国会図書館
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