くにさくロゴ
1947/10/27 第1回国会 衆議院 衆議院会議録情報 第001回国会 外務委員会 第16号
姉妹サイト
 
1947/10/27 第1回国会 衆議院

衆議院会議録情報 第001回国会 外務委員会 第16号

#1
第001回国会 外務委員会 第16号
昭和二十二年十月二十七日(月曜日)
    午前十時四十二分開議
 出席委員
   委員長 安東 義良君
   理事 細川 隆元君 理事 栗山長次郎君
   理事 堀江 實藏君
      高瀬  傳君    戸叶 里子君
      馬場 秀夫君    和田 敏明君
      中山 マサ君   長野重右ヱ門君
      植原悦二郎君    菊池 義郎君
      竹尾  弌君    仲内 憲治君
      若松 虎雄君   唐木田藤五郎君
      多賀 安郎君
 出席國務大臣
        外 務 大 臣 芦田  均君
 出席政府委員
        外務事務官   輿謝野 秀君
 委員外の出席者
        外務事務官   近藤 晋一君
    ―――――――――――――
十月二十三日
 在外資産の補償に關する陳情書外二件(高知縣
 廳内社團法人海外引揚者高知縣更生連盟理事長
 馬場敬春外四名)(第四四一號)
 在外同胞引揚促進に關する陳情書(茨城縣久慈
 郡町長會長宮田重文)(第四四二號)
 在外資産の補償等に關する陳情書(徳島縣板野
 郡松坂村矢武引揚者代表田村圓純)(第四四四
 号)
 在外資産の補償に關する陳情書(島根縣鹿足郡
 津和野町鷲原地區代表者石川尚男外八名)(第
 四八二號)
 救濟資金返濟に關する陳情書(島根縣鹿足郡津
 和野町鷲原地區代表者石川尚男外八名)(第
 四八三號)
を本委員會に送付された。
    ―――――――――――――
本日の會議に付した事件
 米國の國内政治經濟情勢について、當局より説
 明聽取の件
    ―――――――――――――
#2
○安東委員長 ただいまより會議を開きます。
 アメリカ合衆國の最近の政治、經濟情勢につきまして、外務省調査局第二課長近藤晋一君の説明を聽取いたします。
#3
○近藤説明員 ただいまより最近のアメリカの政治、經濟事情に關しまして御説明を申し上げます。
 最近のアメリカの政治、經濟情勢を概觀いたしますと、はなはだ微妙かつ重要な動きを示していることが看取されるのであります。それは第一には數日前トルーマンも發表いたしました通り、對外經濟援助問題、あるいは國内經濟、すなわちインフレの處理の問題、こういうふうなアメリカの國内及び對外關係に非常に大きな影響を及ぼすべき問題に當面しているということであります。さらに注意すべきことは、明年の大統領選擧を控えまして、これらの重要な問題の處理を通じまして、大統領選擧の歸趨に非常に重要な影響を與えるであろうという、この二つの點からでございます。トルーマン大統領はこのような重大な問題に當面し、かつ明年の大統領選擧を控えまして、これらの問題の處理にあたつてかなりむつかしい事態を處理しつつあるのであります。と申しますのは、このような重大な問題を處理する場合にあたりまして、どうしても議會の協力を得なけれらばらないのでありますが、御承知のように、ただいまのアメリカの議會はトルーマン政府の反對黨でありますところの共和黨が大多数を占めている状況でありまして、政府としましては、その施策にあたりまして、議會の協力を得るためにいろいろ苦慮しているわけでございます。トルーマンはその政策の遂行にあたりまして、議會の協力を得ますために、民主黨の政策をかなり妥協的に緩和いたしまして、共和黨の立場に近づいていることが看取されるのであります。これに對しまして共和黨は、昨年の中間選擧によりまして十数年ぷりで議會の多數を占めました以上、次に來るべき大統領選擧にぜひとも政権を奪囘するという目標のもとに議會の運營に政府より主導權を奪囘して、自己の政策を全面的に議會に反映させようという積極的な態度が見られるのであります。ただいまアメリカの議會は閉會中でございますが、本年の一月から七月の末までございましたアメリカの第八十議會の、第一會期の審議状況を概觀いたしますと、この政府と共和黨との對立關係というものがかなり激しく行われたということが了解されるのであります。
 まず第一に外交問題に關してでございますが、外交問題に關しましては、戰時中からいわゆるノン・パーティザン・ポリシーと申しますか、政黨の區別を超越して、アメリカの國家利益のために協力をするという政策が、民主黨及び共和黨によつて支持されてきたのでございます。從いましてこの第八十議會におきましても、一應はこの無黨派的主義のもとに政府の外交政策に對しまして、共和黨は協力をしてまいつたのであります。しかしながらこういうような協力的態度のうちにも、共和黨が自己の政策をはつきりと出して、外交政策に關しても、ただ政府の言うなりにそれを支持するというだけでなく、共和黨自身の意見を政府の外交政策に反映させようという努力が非常に強いことが看取されるのでございます。政府はもちろん、共和黨の外交政策に關する協力を得るために、あるいは國際會議にあたつて、共和黨から代表を加える、あるいは重要な外交政策の問題にあたつて共和黨の議員の意見を聽取するというようなことをやつておりますが、共和黨は重要外交政策の決定にあたつて、決定される前に共和黨の意見が反映されなければならぬということを強く主張しておるのであります。從いまして最近のアメリカの外交政策にはかなり共和黨の意見がはいつてきておることがうかがわれるのであります。すなわち共和黨上院外交委員長でありますところのヴアンデンバーグ、あるいは共和黨の外交顧問でありますところのフオスター・ダレス、こういうような人の意見が最近のアメリカの外交政策に強く反映しております。
 外交問題に關しましては、一應こういうような政府と議會の協力的な關係がうかがわれるのでありますが、兩者の對立がはつきり現われてまいりますのは内政問題に關してでございます。共和黨は昨年の中間選擧におきまして、三つの大きな公約をもつたのであります。すなわちそれは、第一には豫算の削減、第二には所得税を切り下げる、第三には勞働統制問題、この三つの大きな政策を掲げて昨年の中間選擧に勝利を占めたのであります以上、本年の議會におきまして、共和黨はこの三つの政策を強力に議會において實現することに努めたのであります。その結果政府の意見と對立を來しまして、所得税の切り下げの法案に對しましては、大統領が二囘もこれに拒否權を行使したという對立を示し、また勞働統制法に關しましては、大統領はこれを拒否したけれども、議會側がさらにその拒否を乗り切つたというような鋭い對立を示したのであります。こういうような對立の根本にあります共和黨と民主黨、すなわち政府との意見の相違というものを概觀してみますならば、共和黨は戰後のアメリカの國民經濟の運營にあたりまして、フリー・エンタープライズ・システムと申しますか、私企業、企業の自由ということを最も重要なものと認めまして、戰時中の政府のとりました諸般の統制の手段は、いたずらにアメリカの生産力の發展を阻害するのみであり、從つて戰後における經濟の運營は完全なる自由經濟でなくてはならないという立場を、まず第一に強く出すのであります。また第二に、從來民主黨の政權のもとにおいて新勞働政策がとられ、その結果勞働組合の異常なる発展を來し、あるいは勞働者側の勢力が企業者側の勢力を上から壓倒するような勞働組合側の行過ぎを呈しておる以上、アメリカの國民經済の運営ないしは繁榮のためには、この勞働組合の行過ぎを矯正ないしは抑制しなくてはいけない。こういう立場をとつておるのであります。これに對しまして政府側、民主黨の立場は、戰前におきまするニユーデイール的な政策は現在において放棄しておるものと認められますが、しかしながらなお共和黨の立場といくつかの點において重要な相違をもつておるのであります。すなわち民主黨は共和黨と同じくフリー・エンタープライズ・システム、私企業の重要性ということは原則的に認めるのでありますけれども、しかし、ながら戰後の國民經濟の運榮にあたつて、共和黨の言うごとく、もし完全なる自由經濟というものに對しますならば、戰時中に蓄積しました厖大なる購買力が一時に出てくる。また現在すでに大きな額を占めておりますところの海外の需要、こういうようなものが重なりましてアメリカの經濟を混亂せしめる、すなわちインフレ激化というような形が大衆の生活を脅かす。從つて戰後の經濟の轉換にあたつては、窮極においては自由經濟ということを目的とするものの、徐々にわくをはずすある程度の統制をやつていかなくてはならないという態度をとつておるのであります。この政府の見解と共和黨との見解の對立は、昨年の物價統制法を撤廢するか否かという問題をめぐりまして非常に強い對立を來しまして、結果におきましては共和黨の主張が通りまして、物價統制法が廃止された經緯は御承知の通りであります。また政府及び民主黨の勞働問題に對しまする態度は、民主黨がこの十數年間の政治におきまして、勞働者の政治的支持のもとに第一黨を占めてきたという事情もありまして、共和黨の言うごとく、勞働運動の行ぎ過ぎを一應是正することはいいけれども、これを抑壓するというような反勞働的の態度には反對であるということを、政府及び民主黨は主張してきておるのであります。すなわちこの八十議會第一會期において最も重要な問題の一つでありましたワグナー法、アメリカの勞働保護法の改正の問題にあたりまして、政府と共和黨が對立したのもこのような見解の相違のためであつたのであります。
 こういうような戰後の經済の運営に對しまする兩者の意見の相違というものが、現在のアメリカの國内において大きな問題でありますところのアメリカ經濟におきまするインフレの問題の措置、竝びにこれと密接な關係にありますところの對外經濟援助問題、この二つの大きな問題をめぐりまして對立しており、今後大統領選擧等の關係もありまして、この兩者の對立の關係が非常に微妙な働きを示しておるわけであります。
 そこでまず最初にアメリカの國内經濟の問題、すなわち現在取上げられておりますところのインフレの問題、これに關しまして御説明を申し上げたいと思います。この七月に發表されましたアメリカ政府の經濟報告によりましても、本年の上半期のアメリカの經濟は、戰時中ないしは戰前を超えて未曾有の好景氣を呈しておるのであります。これを示します一、二の具體的の指數を申し上げますならば、上半期におきまして、アメリカの國民總生産額は二千二百五十億ドルに達しておるのでありまして、またアメリカの民間雇用數というものは、かのウオーレスが六千萬人の雇用という本におきまして、アメリカの經濟の理想として掲げましたところの六千萬人の雇用を、この上半期において實現しておるのであります。すなわち本年六月のアメリカの民間雇用數は六千二百六十萬に達しておるのでありまして、これに對しまして、失業はわすか二百五十萬足らずという完全雇用の状態を呈しておるのであります。このような好景氣自體は何ら政治的の問題となつておるのではありませんので、ただこのような好景氣に伴つて、現在アメリカの國内經濟において豫定しつつありますところのインフレの激化という問題が、民主黨、共和黨の間の政治的の問題として取上げられておるわけであります。すなわち民主黨の立場から申しますれば、現在のインフレの状況、それによる大衆の生活の低下というような政治的責任は共和黨にある。それはなぜかといえば、政府があれほど警告をし、反對をした物價統制法を撤廢することを主張したのは共和黨であるからである、ということを申しておるのでありまして、トルーマンはこのようなインフレを避けるために、いくたびとなく經濟界の自發的な物價引下げを主張してきたということを辯護論として言つておるのであります。これに對しまして共和黨は、現在のインフレはまず第一に、政府が戰後の國民經濟の運営にあたつて種々の統制的のまずい手段をとつた。そのためにアメリカの生産カが完全に發揮されなかつた。第二には、政府がアメリカの國内經濟の問題を考慮せずして、いたずらに對外經濟援助を行い、その結果その悪影響が國内經濟に及び、そうしてインフレになつたのであるという政府の施策の失敗をあげて攻撃しておるのであります。すなわち現在のアメリカの經濟において、ますます激化しておりますところのインフレの問題は、こういうような政治論をめぐりまして、明年の大統領選擧における大きな問題として取上げられつつあるのであります。
 現在のアメリカのインフレを知るために、一つの資料を考えてみなければなりません。まずアメリカの戰後におきまする卸物價指數の足どりを御參考までに申し上げたいと思います。終戰後昨年の六月までは、アメリカは戰時中と同様な、かなり強度の物價統制を行つてきましたが、この間約一箇年の間における物價の足どりは非常に緩慢でありまして、わずか五%そこらしか値上りを示しておりません。しかしながら先ほど御説明いたしましたように、物價統制法のわくがはずされるということになりますと、昨年の六月から年末の十二月までの間に、二八%の鋭い上昇を來しました。その後本年の半ばころまでは一應上昇程度も鈍りまして、その間約八%くらいの値上りを示しておつたのでありますが、本年の六月以降再び物價の上昇の勢いが鋭くなりまして、六月から九月までの三箇月の間において一〇%も値上りを示しておる、最近物價の上昇の勢いがかなり鋭くなつて、そのためにアメリカにおきましてインフレ問題が、今政治問題化しつつあるわけであります。本年九月における卸物價は、大體戰前に比べて約倍でございます。こういう物價の値上りというものが國民經濟に與える影響は申すまでもなく、このインフレに對して大衆の所得の上昇が追つつかない。從つて一般國民の購買力は鈍る。またインフレの過程において所得の不均衡が激化される、こういうような面があるわけでありまして、現在のアメリカの國民經濟は、先ほども申し上げましたように、好況を來しておりますが、こういうようなインフレが統制されない限り、ますます大衆の購買力は減退し、また所得は不均衡を來すために、自然にアメリカの國民經濟の中に矛盾を増しておる。從つてある時期におきましては、このような高物價が是正される、すなわちそれが一つの景氣後退、それがミセツシヨンという形になつて現われてくることが豫期されるわけであります。從いまして現在アメリカの經濟が非常な好況にあるとはいえ、その反面におきましてその反動がくるという警告が最近は強く言われておるわけであります。事實本年の上半期の末ごろにおきましては、このようなアメリカの大衆購買力の減退の事實が現われてきておるのでありまして、實質賃金の低下あるいは一般の國民貯蓄の減少ということもその例でありますし、また工業生産物に對しますところの新規注文高も、本年の第ニ・四半期は第一・四半期に比べて、金額においても減少し、またその量においても、本年の第ニ・四半期は一箇年前に比して一四%も低いという、警告すべき材料が現われておるのであります。また工業生産指數を見ましても、本年の六月には、本年の三月に比べまして、――本年の三月には一九八という戰後最高の生産指數を出しておるのですが、それよりも八ポイント下つておるのであります。從つて現在のアメリカの經濟の好況という反面に、アメリカの經濟における矛盾というものが、インフレを通じて激化しつつある。これをいかに防止するかということにトルーマン政府は當面しておるわけであります。
 今囘十一月の十七日から招集されます臨時議會におきましても、海外經濟援助の問題と相竝んで、この國内インフレの統制の問題、それに對する何らかの立法的措置をするということが大きな題目としてあげられておるわけであります。この國内のインフレの問題と海外經濟援助の問題が非常な密接な關係にあるということは申すまでもないことでありまして、共和黨の主張によりますれば、現在の國内インフレの最大原因は、政府の對外經濟援助のためであるということを、申しておることからもうかがえるのであります。どの程度海外經濟援助が國内のインフレに貢獻しておるかという判斷は非常にむずかしいのでありますが、少くとも厖大な海外經濟援助というものが國内のインフレに大きな作用をなしつつある、かということは疑いない事實であります。
 そこで第二に、最近のアメリカの對外政策あるいは對内政策におきまして、大きな問題になつておりますところの對外經濟援助の問題について、御説明を申し上げることにいたします。申すまでもなく、この第二次世界大戰におきまして、世界經濟は非常に大きな損耗をいたしまして、從つて戰後において世界經濟が囘復をし、あるいは混亂した經濟を救濟するために、多くの物資を要することは申すまでもないことでありまして、これらの海外の要求、需要に對しまして供給し得る實カのあるものは、アメリカ經濟のみなのであります。從つてアメリカ經濟が、このような世界經濟に對する物資の提供というものが非常に大きくなることは、申すまでもないことでありまして、これに對して戰爭によつて大きな被害を受けた世界經濟が、アメリカ經濟に對して提供し得る物資はまた逆に少いのであります。從いまして戰後のアメリカの對外貿易の経過をたどつてみますと、戰後は毎年非常に大きな輸出超加を、アメリカの輸出入貿易は占めておるのであります。すなわち一九四五年のアメリカの輸出超加は五十七億、四六年は八十二億、さらに四七年においてはこの傾向がさらに強まりまして、第一・四半期におきましては、年率百二十億に達する厖大な輸出超加を示しておるのであります。しからばこのような大きな輸出超加を諸外國はいかにして賄つてきたかということになりますと、その大部分がアメリカの經濟援助、すなわち借款あるいは贈與という形による援助によつて賄つてこられたのであります。例を昨年にとつてみますれば、昨年はアメリカの對外貿易は八十二億の輸出超加を示してきておるのでありますが、その中の六十一億というものがアメリカの經濟援助によつて賄つてこられたのであります。その六十一億の内譯をさらに申しますれば、三十億がアメリカの對外借款によつて賄われ、殘りの三十一億がレンド・リースとかアンラとか、あるいは占領地の救濟というようなものから出されたところの、アメリカからの一方的な贈與によつて賄われてきております。すなわち約四分の三がアメリカの經濟援助によつて賄つてこられたということがこれによつて示されておるのであります。從つて戰後におけるアメリカの諸外國に對する經濟援助の額は非當に厖大な額に達しておるのであります。
 まず外國に與えました借款でありますが、これは正確な數字を計算することはなかなかむずかしいのでありますが、概略本年の六月まで百二億という計算になつております。すなわち四五年にアメリカが與えました對外借款は二十四億五千萬、四六年には六十八億三千萬、四七年の上半期におきましては九億六千萬、こういうような厖大な對外債款を與えております。またアンンとかあるいは占領地の救濟というような、いわゆるアメリカの借款によらざる援助の總額は四十億五千萬という數字になつております。從つてこれら兩方を合計いたしまして、アメリカが戰後海外に與えてまいりました對外經濟援助の總額は、百四十二億九千萬という數に上つております。
 すなわち戰後の世界經濟はアメリカ經濟の對外經濟援助によつて大きく賄われてきたのでありますが、しかしながら戰後の世界經濟の不安定、これはもちろん戰爭による厖大なる損害及び戰後の政治的不安の繼續ということのために、世界經濟の復興が非常に遅々として進まない。それがためにこの大きなアメリカの對外經濟援助も非常に早い速度をもつて消費されつつあるのでありまして、昨年の末においてアメリカの與えました對外借款のうち、使い殘りの分は五十七億八千ということになつております。しかしながら本年にはいりますや、ますますアメリカの輸出超加が續きまして、本年六月にはそれが十億も殘つておるものがないという非常に心細い状態になりました。ここに再びアメリカの對外經濟援助の問題が大きく問題とされ、海外からはしきりに對外借款、アメリカの借款ないしは援助というものが要求され、國内においても世界經濟の混亂を救うために援助をすべし、あるいは國内の經濟に對する影響から援助を控えよ、というような贊否兩論が行われて、非常に大きなアメリカの國内政治問題になつてきたわけであります。
 この對外經濟援助問題は、もちろんこういうような援助がなければ世界經濟、殊に現在問題になつておりますところのヨーロツパ經濟が崩壊する。從つて將來におけるアメリカの輸出市場を喪失するというような經濟的理由もございますが、現在におけるアメリカの對外經濟援助は、こういうような経済的の理由のほかに、さらに大きな比重をもつて政治的の理由が掲げられるのであります。と申しますのは、アメリカの立場から申しますれば、現在歐州經濟が混亂をし、さらに崩壊するならば、自然そこに左翼的勢力の擡頭があり、從つてそれを契機とするところのソ連の勢力の發展が豫想される。從つてこういう政治的な問題、ソ連の發展を防止するためにも、ヨーロツパ經濟の安定が行われなければいけない。すなわち、そのためにアメリカは對外經濟援助を強化しなければいけない。こういうような對外經濟援助の政治的反面が、アメリカの國内において強く主張されておるのであります。
 この本年の春以來の對外經濟援助問題の論議にあたりまして、二つの新しい傾向が強く現われてまいつたのであります。第一には、從來のアメリカの對外經濟援助は各國個別的に與えられてきたのでありまして、各國は援助をもらえば、それを自分の必要に應じてどんどん使つていくというような現象が行われてきたのであります。しかしながらそれではいつまでたつても問題は解決しない。すなわち、援助を受ける方の國もお互いに共同して、一つの彼らの經濟復興の共同計畫を立てて、その共同計畫を遂行するためにアメリカの經濟援助を受ける、こういうような形にもつていかなければいけない。いわゆるマーシヤルの本年の六月五日に、ハーバード大學で演説しました議論が、そこに現われてきたわけであります。
 第二には、アメリカの國民經濟というものは、いかに厖大であるにしましても、現在アメリカの國民經濟における私的消費と申しますか、プライベートのコンサンプションは非常に大きいわけであります。從つてこれと對外經濟援助とが競合する以上、どうしてもアメリカ經濟の負擔を過度にしないために、援助を合理的に行わなければいけない。すなわち、この問題を最初に取上げましたのは、もと共和黨大統領でありましたところのフーバーでありますが、こういうような對外經濟援助の限度というものをはつきりさしていかなければいけないという議論が、強く殊に共和黨の方から主張されてきたのであります。すなわち、最近のアメリカの對外經濟援助の問題はこの二つの線に沿いまして計畫され、遂行されんとしておるのであります。
 すなわち第一は、マーシャルの提案に基きまして、西歐諸國十六箇國がパリで會談を開いて、すなわち被らの經濟復興の共同計畫をつくる。それに基いてアメリカの經濟援助を要求する。これと併行してアメリカの國内においては經濟援助の限度、經濟援助に利用し得べきアメリカの資源、こういうようなものをアメリカ政府において研究する。この二つの處置が本年の夏以來行われたのであります。
 マーシャル・プランというものに關して多少御説明をいたしますが、この計畫は現在ワシントンにおいて検討され、それが來るべき臨時議會に提案されるのでありますが、まず第一に、十六箇國が一九五一年を目標としまして、經濟復興計畫を立てておるのであります。それにはいくつかの目標が掲げられておりますが、たとえばグレーン・プロダクシヨン、穀物の生産高を一九三八年と同等にまで引上げる。また電カに關して一九五一年には三八年に比べて六五%も引上げる。こういうようないくつかの目標が掲げられておるのであります。こういうような目標を達成するためには十六箇國は輸出入計畫を立てて、この輸出入計畫において貿易上の差額、すなわち輸入超過というものを賄うためにアメリカの經濟援助を受けるということになるわけでありまして、この一九四八年から五一年の四箇年にわたり、ヨーロツパ經濟が要求するところの貿易上の差額を埋めるための必要な額は、二百二十四億四千という數字が掲げられております。すなわちヨーロツパの十六箇國はこういうような貿易上の差額を埋めますために、まず國際復興開發銀行から約三十一億の借款を豫想し、さらにアメリカを除く米州大陸の諸國から三十億の援助を豫想し、殘るところの百六十二億九千五百というものをアメリカの援助にまとうというのがいわゆるマーシヤル・プランの實態なのであります。これは四箇年にわたつての援助の要求總額でありまして、第一年におきましては七十一億というものが要求されておりまして、漸次それが減少するという建前になつております。すなわち以上の説明によりましても御了解願えますように、マーシヤル・プランというものによつて示されますものは四箇年の長期にわたる復興計畫であります。しかもこのマーシャル・プランは明年の新會計年度、すなわち歐洲における新會計年度、四月から始められる計畫となつておるのであります。そこにその間の緊急援助、すなわち今年の冬を越すための援助というものが問題となつてくるわけでありまして、十一月の十七日から招集される臨時議會におきましても、この緊急援助の問題がマーシャル・プラン、すなわち恆久的な援助と相竝んで問題とされているわけであります。トルーマンが要求したところによりますならば、まずイタリアに對する援助が明年の三月まで二億八千五百萬、フランスに對する援助が三億五千七百萬、合計伊佛兩國に六億四千二百萬の援助を要求し、さらに日獨の占領救濟費のために二億九千萬、合計九億三千二百萬、約十億足らずの緊急援助がそこに要求されているわけであります。
 このようなマーシャル・プランないしはそれを實行いたしますまでの緊急援助、これが來るべき臨時議會において問題とされるのでありますが、先ほども申しましたように、アメリカの國民經濟が非常なインフレの傾向を示す際に、このような巨額の對外經濟援助がさらにそれを促進する可能性をもつているわけでありまして、そこに政府は、政治的理由から對外經濟援助をしなくてはならないが、しかしながら援助する場合には、國内のインフレ的傾向をそのまま放置するわけにはいかない。從つてそこに國内インフレを何らかの形において統制する必要に迫られるわけであります。これに對して共和黨は國内インフレを矯正する手段は、對外經濟援助を切下げるのが一番よいということを強く主張しておりまして、トルーマンの要請しました緊急援助に對しましても、また現在検討されておりますところのマーシヤル・プランにいたしましても、共和黨からかなり批判的な聲が上つているわけであります。このような國内經濟の問題及び對外經濟援助の問題、さらに先ほど申し上げました勞働統制の問題、この三つの問題が今年の秋、冬を越え、さらに來年の大統領選擧における三つの重大なるイツシユーとして取上げられることが豫想されるのであります。
 最後に大統領選擧の問題に關しまして簡單に御説明したいと思います。元來アメリカの政治史を見ますと、中間選擧において勝利を得ました政黨は、その次に來ますところの大統領選擧においては例外なく勝利を占めているのであります。從いましてこの先例によりますれば、明年の大統領選擧は共和黨が勝つというような順序になることが豫想されるのであります。しかしながら最近のトルーマン政府の人氣を見ますと、必ずしも現在そのような斷定が下されないということが言えるのであります。最近フオーチユンという雑誌が輿論調査をいたしましたのを見れは、共和黨の大統領候補者の中でわすかにテニーイのみがトルーマンよりも優勢を示しておるだけでありまして、その他の者は例外なくトルーマンが壓倒的に優勢を示しております。しかもトルーマン大統領め人氣は、本年三月の同じ輿論調査と比べまして、最近の輿論調査においては非常な人氣の囘復を示しておるのであります。たとえばトルーマンとデユーイの何れを選ぶかといぅ問題の提出に對しまして、本年三月においてはトルーマンを支持する者が二八%、デユーイを支持する者が五〇%、すなわちデユーイが非常にリードしていたのでありますが、今度の輿論調査においてはトルーマンを支持する者が四二%、デユーイを支持する者が四三%、すなわち一%の差までにトルーマンが人氣を囘復して來ておるのであります。このようなトルーマン大統領の政治的人氣の囘復の原因は、いろいろ豫想されるのでありますが、第一には先ほど申し上げた第八十議會における勞働問題の審議にあたりまして、トルーマン大統領が勞働者の味方をしまして、勞働統制法をビートする擧に出たこと、從つて勞働者がトルーマンを強く支持し始めたこと、第二には最近マーシヤル・プランその他對ソ政策によつて示されてありますごとく、對外政策に對する國民一般の支持、第三には共和黨の大統領候補者というものが民主黨のトルーマン一本と比較しまして、デユーイであるとか、あるいはタフト、スタツセン、バンデンバーグというようなぐあいに、濫立しておる。こういうような事情があるのではないかと推察されるのであります。いずれにいたしましても、現在の状況におきましては、民主黨が勝つか、あるいは共和黨が勝つかということを斷定するのは時期尚早でありまして、現在の状況においてはいろいろな資料から判斷しても、五分々々であるということが申し上げられると思うのであります。しかも今まで御説明いたしてまいりました通り、國内インフレの問題及び對外經濟援助の問題、こういうような重要な問題の處理を通じまして、この兩者の均衡を破るべきいろいろ微妙な影響が今後起るであろうということが豫想されるわけであります。
 以上をもちまして私の最近のアメリカの政治經濟事情に關します御説明を終ることといたします。

#4
○安東委員長 これより懇談會に入ります。
     ――――◇―――――
    〔午前十一時三十二分懇談會に入る〕
    〔午後零時七分懇談會を終る〕
     ――――◇―――――
    〔懇談會を終つて散會〕
ソース: 国立国会図書館
姉妹サイト