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1947/11/13 第1回国会 衆議院 衆議院会議録情報 第001回国会 外務委員会 第17号
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1947/11/13 第1回国会 衆議院

衆議院会議録情報 第001回国会 外務委員会 第17号

#1
第001回国会 外務委員会 第17号
昭和二十二年十一月十三日(木曜日)
    午前十時四十三分開議
 出席委員
   委員長 安東 義良君
   理事 加藤シヅエ君 理事 細川 隆元君
   理事 亘  四郎君 理事 堀江 實藏君
      高瀬  傳君    竹内 克巳君
      戸叶 里子君    馬場 秀夫君
      和田 敏明君   長野重右ヱ門君
      菊池 義郎君    竹尾  弌君
      仲内 憲治君    若松 虎雄君
     唐木田藤五郎君    多賀 安郎君
      綱島 正興君
 出席政府委員
        外務事務官   與謝野 秀君
 委員外の出席者
        議     員 川合 彰武君
        外務事務官   曽野  明君
        外務事務官   小島 太作君
        外務事務官   和田 敏雄君
        外務事務官   庄司  宏君
        專門調査員   佐藤 敏人君
        專門調査員   村瀬 忠夫君
十一月七日委員田中齊君が辭職した。
    ―――――――――――――
十一月十日
 海外行方不明者の調査促進に關する陳情書(福
 井縣家族同盟會長朝倉寅三外三百二十名)(第
 五三二號)
 在外同胞引揚促進に關する陳情書外一件(福山
 地方海外同胞引揚促進連盟代表藤間東晃外一
 名)(第五八二號)
を本委員會に送付された。
    ―――――――――――――
本日の會議に付した事件
 ソ連の經濟について、當局より説明聽取の件
  請願
 一 滿州における戰犯者救護に關する請願(原
   侑君紹介)(第六三〇號)
 二 北鮮に殘留中の邦人釋放に關する請願(川
   合彰武君紹介)(第九〇七號)
    ―――――――――――――
#2
○安東委員長 これより會議を開きます。
外務省より入手いたしました左記調書の名を御報告いたします。アメリカ大統領候補及び國内經濟問題に關する輿論調査西半球平和及び安全保障米州會議、アメリカ國務省の運營と改革、最近の國際情勢八月號、アメリカ經濟の動向、戰後アメリカ共産黨と反共運動、マーシヤル計畫とアメリカの國民經濟、これらはいずれも部數がございませんので、專門調査員の方に原本を所持しております。必要の方はこれについてごらんを願います。
    ―――――――――――――
#3
○安東委員長 次に、北鮮に殘留中の邦人釋放に關する請願、文書表第九〇七號を審議いたします。紹介議員川合彰武君。
#4
○川合彰武君 北鮮に殘留中の邦人釋放に關する請願の紹介議員として、紹介の言葉を申し上げ、皆樣方の御贊同を得て、ぜひ御採擇の上、善處あらんことをお願いするのであります。
 終戰以來二箇年を經過いたしまして、私自身もそうでありますが、約二十年の間朝鮮に住んでおつたのでありますが、三十八度以南におつた私ども約六十萬近い在鮮者はほとんど引揚げを完了されたのでありますが、北鮮におる方々はまだ多數殘つておるわけであります。殊に北鮮において抑留されておる方々が多數あるわけであります。ここに名薄がありますが、私たちの同僚とし、かつまた親友として、相當に朝鮮において知名な士が北鮮で抑留せられておるわけでありますが、その抑留せられまた刑に處せられという理由は、思想事件の檢察、竝びに監督に當つておるいうような事實、また經濟事件、治安事件の檢擧に從事したというよな事實あるいは裁判官として思想犯人に死刑を宣告したという事實、あるいは道會副議長として統治政策に協カしたというな事實、こういうような事實によりまして、これに基きましてあるいは政治犯とし、あるいは人權蹂躙と稱しまして、無期懲役または十五年、十年といつたような長期の懲役刑を科せられて、現在北鮮の監獄において非常に苦勞せられている方が相當あるわけであります。こういうような抑留投獄された方々は、あるいは今日の段階から見ますれば、いろいろな問題もあるでありましようが、しかしながらその人達が善良なる官吏として、あるいはまた朝鮮統治のために盡したというような觀點からいたしますならば、われわれとしてはこういうような罪名のもとに投獄されたことは解しかねるわけであります。終戰後引揚げまで私もずつと京城におりまして、三十八度以北の状況というものは身をもつて知つておるわけでありますが、北鮮のああいうような政治状態、またああいうような人心からいたしますれば、當時においては混亂してやむを得ないにしても、今日の状況においては何らかの方法をもつてかような方々を救濟する必要があるではないかというふうに思います。一般邦人の引揚というようなことに關しましても、今日においてはかなり困難な問題がありまして、これらに關しましてはすでに皆樣御承知の通りでありますが、われわれはこういうような一般邦人の引揚げとともに、現在投獄せられて非常に苦勞な生活を續けられている人達を一日も早く解放してやるということは、科たち朝鮮におつたものとしては一層そういうような氣がいたす次第であります。どうか皆樣方におきましても、一般邦人の引揚げを促進すると同樣のお心持をもちまして、これらの投獄されている方々の釋放と同時に、その歸國を促進せられるように御盡力を願いたいと思うわけであります。この請願は前の朝鮮の政務總監をせられ、小磯内閣當時の書記官長をせられた田中武雄さんが、特に私に御依頼になつてここに請願に及んだ次第であります。言葉は少いのでありますけれども、大體において皆樣もこの事情は御承知のことと存じますので、私から多くは申しません。私たちの氣持をお察しの上、何とぞ皆樣方の御支持を得まして、採擇の上當局において善處をせられるようにお取計らい方を願いたいと思います。これをもつて簡單ながら請願の説明といたします。
#5
○安東委員長 ただいま御説明のありました請願に關して政府委員において何ら意見はありませんか。
#6
○與謝野政府委員 この問題に關連いたしまして、政府のとつておりました措置等につきまして、外務省管理局の小島在外邦人課長より、從來の經過その他につきまして、御説明させたいと存じます。
#7
○小島説明員 ただいま北鮮の殘留者中特にいわわる方法に抑留されている方々について、これを速やかに救出するという必要を御強調になつたのでありますけれども、私からただいままでに入手いたしておりまするこれら抑留者、そのほかに殘留しておりまする方方の状況を簡單に御報告申し上げます。三十八度線以北のいわゆる北鮮はソ連管下にありまして、そこにおりました日本人のうち、朝鮮總督府關係その他各官廳に勤務しておりましたものは、いわゆる惡質前職罪というような罪名のもとに、主として朝鮮側の裁判所で起訴され刑に服せしめられているという情報が、われわれのもとにはいつておるのであります。このような情報を入手する方法は、私の課員を引揚港である佐世保、函館、舞鶴等ございますが、そこに常時駐在せしめまして、引揚者の中からできるだけ廣く情報を集め、かつその代表的な方々には直接に接觸していろいろな資料を求めておるのでありますが、その駐在員からの報告もございます。そのほかに特に引揚げてこられた方の中で、政府に何らかの手を打つてもらわなければならぬというような御希望の方は、直接役所の方へお出でくださる方がありまして、相當の資料を提供していただいております。この資料に基いて、ただいまの北鮮においてはちよつと想像のつかない惡質前職罪――ただ前に總督府に勤めておつたということが朝鮮側からみれば、長い間朝鮮人を壓迫したというような理由で處分されておるのであります。大體の數で申しますると、われわれのところにはいつている情報にありますれば、約二千名の者が北鮮からソ連領へ連行されているそうであります。北鮮内に殘つてそのような處置を受けた者は、京城に二十三名、新義州に三名殘つているといわれております。われわれの立場から見ますと、この惡質前職罪というようなものは、理解できないのでありまして、その内容を究明することに努めておりましたが、たまたま現實に惡質前職罪の罪名のもとに刑を科せられまして、服役中刑期二年以下の者は微罪として釋放するという措置が、ソ連側の指示によつてとられた結果、たまたま二年以下の刑を受けておつたために釋放されて、刑を受けるについての起訴状まで持參し歸られた方が、その起訴状をわれわれに示されまして、そのいききつを説明されましたので、これは最も確實なる根據があるものといたしまして、われわれのところではその内容を檢討いたしまして、これはいかなる權限に基いて、いかなる法律に根據して、このような裁判を行つておるのであるかという説明を求めると同時に、現在殘留中の者の速やかなる内地送還――このようにして勾禁されておる者の審理を速やかに實施して、できれば内地で服役する方法をとつてもらいたいという申出を、正式に總司令部を通じていたしておるのであります。これに對しては、ただいままで何らの囘答に接しておりません。
 次に、北鮮にまだ殘つておる一部の留用者のことについて申し上げますと、本年の一月に北鮮からの正式の引揚げが終了いたしました際に、千數百名の技術者が、いわゆる留用という形で現地に殘留させられておりました。その後隨時三月と七月に、その留用――これは内地で言う徴用に當ると考えられますが、これを解除せられまして、歸國いたしました。それでその後本月の八日に、北鮮から五百二十二名また歸つております。いわゆる正式な、計畫的な引揚げではありませんので、隨時歸り得る状態になつた者は、ある數溜つたときに、ソ連側から配給を要求してきて、その船に乘つて歸られる方々でありますから、ごく最近の五百二十二名を引きますと、現在ではおそらく八百名くらいの技術者が北鮮に殘つておるのではないかと考えられます。これらの方々はどのような待遇を受けておるかと申しますと、朝鮮には技術系統の能力をもつた者は非常に少く、ソ連からもまだ技術系統の者はあまりはいつていないという結果、技術をもつた者は非常に重用せられまして、割合にいい待遇を受けておるというのが、留用解除になつて歸國した人の報告であります。たとえば、食糧なんかは、一般人が三合くらいの配給のときに、四合の配給を受けておる。上陸されるそれらの方々を見ると、割合に服裝も良好で、健康がよろしい。結局留用技術者を割合に厚遇しておるという状況にあることになります。殘つておられる方々は、形の上では自由契約で殘つておるのだということになつておりまするが、引揚者の報告によりますと、實情は自由契約書に署名させられておるという状況だそうであります。このような方々の引揚げもひつくるめまして、速やかに歸還を政府としては正式に要望してきておるのでありますが、その他のソ連地區問題を含めましてソ連關係からはわが方の正式要請に對して囘答のあつた事例はほとんどただいままでないのであります。簡單に實情を申し上げます。
#8
○安東委員長 御意見はありませんか。――別に御意見がないようでありますが、ただいま政府側説明員の説明にありまする通り、政府といたしましてもこの點について多大の關心をもつて善處しつつあるようでありますから、當委員會といたしましても、この請願を採擇し、内閣に送付することとしていかがでございのすか、御異議ありませんか。
    「異議なし」と呼ぶ者あり」〕
#9
○安東委員長 それでは採擇と決定いたしまして、内閣に送付することにいたします。
    ―――――――――――――
#10
○安東委員長 次に滿洲における戰犯者救護に關する請願でありまするが、紹介議員原侑君がまだ參つておらぬようでありますから、これは後囘しにいたします。
    ―――――――――――――
#11
○安東委員長 引續いて外務省の調査部會野明課長からソ連經濟の運用について御研究を承ることにいたしたいと思います。
#12
○曽野説明員 本日はソ連の經濟機構とその運營につきまして御説明することになつておりますが、時間の關係もございますので、ごく簡單に皆樣の御參考になると思われます點をかいつまんで申し上げます。皆樣御承知のように、ソ連ではすでにいわゆる社會主義經濟體制というものを完成しておると稱せられておるのであります。事實革命直後一九二〇年のころまでに土地とか大企業、金融という機關、運輸通信機關、その他の主要な生産手段というものは個人の手から國家または公共團體の手に收められたのであります。そのようにしまして、その後一九三五年ごろまでには農業の集團化もでき上りました。また國營商業の組織もでき上つたのであります。このようにいたしましてほとんどすべての生産手段は國家の強力な統制のもとに、いわゆる計畫に基きまして運營されることになつたわけであります。すなわち資本主義社會が利潤の追求という精神によりまして運營されておるのに對しまして、ソ連の社會は計畫によつて運營されておるということになるわけであります。しかしながら人間性の常といたしまして、たとえ計畫に基きまして勞働を命ぜられましても、なかなか十分の仕事をしないということは當然あり得る點であるわけであります。ソ連におきましてもやはりこの點に問題が存するわけなのであります。從いましてソ連邦政府あるいは連邦共産黨といたしましては、ソ連にはもはや資本家の搾取はない、從つて國民は大いに自覺をもつて自分たちの仕事に努力せねばいかぬということを國民にしきりに教えておるわけであります。これがいわゆる共産主義的な勞働精神の涵養という言葉でいわれておるわけであります。しかしながらこのような精神運動だけをもつてしましては、とうてい急速に人間性を引締めていくということは不可能であるわけであります。そこでソ連邦政府といたしましては、やはり國家的ないしは公共的な利害というものに勞働者の個人的な利害を結びつけることによりまして、個人の勞働意欲というものを刺戟いたしまして、より多く働いた者より多く公共的な貢獻をなした者に對しましてはより多くの報酬、より高い地位あるいはより大きい名譽というものを與える方法をとつておるわけであります。たとえば出來高賃金制あるいは工場や企業間におきまする皆樣御承知の社會主義競爭、その結果勝ちました企業に對しましては優勝旗を與える。あるいは勞働營位、その他の勳章とか記章を與えるというような方法をとつているわけであります。しかもそれでも十分に精勤しない者に對しましては、行政的な手段によりまして強制が行われているわけであります。たとえば缺勤とか遲刻とか早退とかいう者に對する處分は、ほかの國に類を見ないほど嚴重に行われているわけであります。
 ただいま申し上げました勞働能率の増進策のうちで、本日は特に個人の利害心を刺戟することによりまして、生産を増大させる方策を中心としましたソ連の經濟機構を御説明いたしたいと思います。第一は賃金の制度と出來高拂いの制度について御説明いたします。ソ連におきましては賃金は決して均一化平等化されているのではございません。勞働者あるいはその他の勤務員のそれぞれにつきまして職業の種類と熟練の程度によりまして、一定の賃金がきまつているのであります。そうして勞働時間は現在一日八時間と定められておりますが、ただ漫然と八時間働いたのでは規定の賃金をもらえないのであります。すなわち一勞働日當りの作業基準量、ノルマといわれておりますが、これが定められましてこのノルマの遂行が義務的であるわけであります。たとえばある工場で八時間働きまして、このノルマをちようどうまく遂行いたしますと規定の日給がもらえるのでありますが、もし八時間働きましてもノルマの八割しか遂行できなかつたといたしますと、賃金も八割になるわけでありますが、實際はそれよりも少くなるようなふうに定められております。これと反對に八時間の間にノルマを十二割つまり二割よけいに遂行いたしますと、賃金は二割増しになるわけでありますが、實際はそれよりもさらに多くなるように定められている場合が多いのであります。つまりノルマ以上に働きました場合には出來高單價が累進的に殖えていくという制度になつているのでありまして、一般の國國の出來高制度とはむしろ逆な形になつているわけであります。しかもソ連政府といたしましては年々勞働生産性、勞働能率を増加させるように努力しているのでありまして、たとえば生産設備や技術面の改善合理化をはかり、あるいは生産方法や勞働組織の改善をする。あるいは勞働者の技能水準を向上させるというようないろいろの措置をとつているのでありますから、ノルマも毎年々々だんだんと強化されていくという傾向にあるのであります。從いまして勞働者といたしましては、毎年自分の能率をだんだんと高めていくというふうに努カをしませんときは、賃金收入の増加ということも容易に、期待できない。こういうふうになつているのであります。
 一方農業におきましても、これと同じような制度をとつておるのでありまして、たとえばコルホーズにおきましては、作業の種類によりまして、一日の作業量につきまして、やはりノルマが設けられておるわけであります。このノルマを一日で遂行した場合は一勞働日ということになるわけであります。たとえば手で草を刈るわけでありますが、〇・二ヘクタールの土地を刈りますと、それが一勞働日という計算になるわけであります。一日の間にその二倍を刈りますと、一日働いただけで二勞働日というふうな計算をされるわけであります。そういうふうにされまして、コルホーズにおきましては、一年中の各コルホーズの勞働農民の勞働日を計算いたしまして、按分比例によりましてコルホーズの産物の供出殘りの分だとかあるいは現金收入を皆にわけるわけなのであります。從いまして勞働日の多い人はよけいもらうという制度になつておるわけであります。勞働日の制度は最近におきまして、コルホーズの收穫量と關連させまして、だんだんと強められていくという傾向になつておるように見受けられるのであります。今申し上げましたようにソ連におきましては決して各人が均等の賃金で働いておるというわけではないのであります。多く働けば、またよりよい仕事をすれば、それだけよい生活ができるということになつておるのであります。まさにソ連憲法の第十二條をここらんになりますと、おわかりになると思いますが、十二條には、ソ連においては各人その能カに應じて、各人その勞働に應じて、という社會主義の原則が實現されておるというふうにうたつておるわけであります。從いましてこの原則はただいま申し上げましたように、單に工場の勞働者やあるいはコルホーズの農民についてだけ行われておるわけではないのでありまして、ソ連の社會全體についてもあてはめられるものであります。たとえばこれははつきりした數がわかりませんが、戰前の數を一應とつてみますと、一般の弊働者の收入は、月約四百五十ルーブルであつた場合に、技手級の者は七百ルーブル、技師級の者は千ルーブルというふうになつておつたことがあるのであります。すなわちソ連という國家に對しまして、多くの貢獻をなした者には多くの收入を與える。そしてよりよい生活をさせるということになつておるのでありまして、これはソ連の立場から見ましても、現段階におきしては、當然であるというふうに考えられておるわけであります。
 第二の問題は、獨立採算制の問題であります。ソ連の國營企業は國家から生産計畫と資金計畫とを詳しく定められておるのであります。すなわち物と金との二つの面から、國家から與えられる計畫を忠實に實行するということがソ連の國營企業の任務になつておるわけなのであります。しかし個々の企業はその經營活動につきましては、一定の範圍で獨立性をもつておるというわけであります。ただ獨立の收支計算によりまして收益を追求いたしまして企業を運營していくという仕組になつておるわけであります。これがソ連のいわゆる獨立採算制といわれる制度であるわけであります。すなわち個々の企業は原料の購入だとか、あるいは生産品の販賣というものは、原則として自分の採量で行うことができるということになつておるわけであります。しかしここで附け加えなければなりませんことは、ソ連におきましては、わが國の戰時中に見られましたような、各企業間のコーペレーション關係が發達しておるわけでありますので、なるほどその企業は原料を好きな所から買い、あるいは生産品を自由に賣れという建前になつておりますが、實際上の問題といたしましては、個々の企業が賣買の相手を選ぶ場合、は相當な制限があるということは當然であるわけであります。このようにいたしまして、個々の企業は一應の獨立性をもつておりますけれども、ソ連におきましては、價格は一般に國定價格でありましす。いわゆる公定價格であります。原材料の値段も生産品値段もいずれも國家によつて定められておるわけであります。後いまして個々の企業といたしましては、製品の販賣といたしのして、資本主義國家で見られるような投機的な要素は見られないのであります。すなわちソ連の企業といたしては、國家のきめております値段で原材料を買いまして、國家のきめておる値段で製品を賣るということになるわけであります。
 それではそのような状況のもとにおきまして、いわゆる獨立採算制、收益の追求というやり方がどんなふうにして行われてあるかということを御説明したいと思います。一つ一つの企業を例にとつてみますと、この企撃の計畫面を見ますと、その製品の價格は一つ一つの企業に具體的に決定されております計畫的な原價、それから後に御説明いたします取引税、それからいわゆる適正利潤に相當する計畫利潤、この三つから生産品の價格ができ上つておるわけであります。この中で實際に企業が活動する場合に取引税というものは變らないのであります。計畫においても、實績の場合においても、取引税は一定してとられるわけであります。從つてこれは全然變らないのであります。ところが原價の方は計畫の場合と實際の場合とを比べてみますと、計畫以上に原價がかかる場合もありますし、あるいは計畫よりも安くでき上る場合もあるわけであります。從いまして取引税は攣らないのでありまして、原價の方が動くわけでありますから、利潤はその原價と逆比例して動くわけであります。でき上つた品物の値段は一定しております。取引税は變りません。そうして原價がよけいかかれば利潤が減ります。原價が安くできれば利潤は高くなる。こういうことになつているわけであります。但しその企業といたしましては利潤を高めるように努力するわけなのであります。これは今申しましたように、原債を引下げるというやり方も一つでありますが、もう一つのやり方といたしましては、與えられた生産計畫に對して計畫以上によけい物をつくるということによつても、もちろん利潤はできるわけであります。但し計畫經濟のソ連でありますから、生産量をやたらに殖やすということはなかなか容易でないわけであります。從いまして結局企業といたしましては利潤の増大ということは原價をいかにして引下げるかというところに求められることになるわけなのであります。從いましてこの點に個々の企業の關係者の利害と、それからその企業の成績を結びつけることによりまして、生産能率の向上をはかるという手段がとられておるわけであります。この方法が、皆樣も御承知の、いわゆる企業長基金というものの運營によつて行われるわけであります。この企業長基金と申しますのは、先ほど申しました個々の企業の利潤の中から、初めに政府がきめまする計畫的な利潤の四%と、それから計畫以上の利潤を得ました場合の、その部分の五〇%というもののニ種類からでき上るわけであります。これが企業長基金になるわけであります。そうしてこの企業長基金の中の五〇%以上は、その企業の文化施設とか、住宅施設に充てられるわけであります。その殘りが企業長以下の模範的な勞働者に對する賞與だとか、あるいは各種の福利施設、あるいはその他のプレミアム、そういうものに使われておるわけであります。すなわちある企業の關係者が大いに能率を向上いたしまして、生産費を引下げる。そうしてあるいはまた生産計畫以上に遂行する。こうすれば結局においてその企業の利潤は殖えるのでありまして、やがては自分らの利益にもなる。こういうふうに結びつけられている制度であるわけであります。
 御説明の順序が少し逆になりましたが、この企業長基金と申しますものは、先ほど申しました企業の利潤の一部であるわけでありますが、それではその利潤の全體がどういうふうに處分されるかということを御説明しておきますと、國營企業の利潤の中から第一には收益税というものが引かれるのであります。これはいわば資本家であります國家に對する配當でありまして、その税率は企業の成續によりまして違つておりますが、全體といたしましては利潤總額の約五〇%ないし六〇%という程度であります。そしてその利潤總額からこの收益税と企業長基金、この二つを取りました殘りはいわば企業の社内留保利潤として、その企業の自己資金の中に入れられるのであります。そして擴張資金とか、あるいは運轉資金に使われるものなのであります。しかしながらこの企業の資金というものも、やはり國家全體が定めております資金計畫の一部にもちろん含まれることは當然であります。
 ここで先ほどちよつと觸れました取引税について御説明をしておきます。取引税は一種の間接税でございまして、主として消費税であります。その税率は消費財には非常に高く、生産財にはきわあて低く、また消費財の中でもぜいたく品に對しましてはきわめて高く、必需品に對してはきわめて低い、こういうふうにきめられておるわけであります。たとえば一九三八年度の税率を見ますと、石炭、セメント、船、こういうものは〇・五%であります。ビールは五九%であります。牛肉は七〇%であります。そしてさらにここで御留意を願いたいことは、この税率は原價に對しましてかかるものではありませんで、その物の引渡す價格の中に對する税率であるわけであります。たとえば一九四〇年度におきまする小麥の引渡し價格は一ツエントネルにつきまして百二十ルーブルであつたわけでありますが、その中で取引税率が八五・八%、つまり小麥の値段は十・七ルーブル、取引税の値段は百三ルーブル、合計百二十ルーブルということになるわけであります。この傾向は消費財一般についても見られるところであるわけでありまして、あたかもわが國におきまするタバコと同じように、大部分は税金であるということが言えるわけなのであります。ここにソ連邦におきまする資本の蓄積の主要なる源泉が見出されるわけであります。それではこの取引税が全體といたしまして、各生産部門からどのような割合でとられていたかということを御説明いたしますと、一九三七年度におきましては、重工業の部門からはわずかに取引税總額の一一・五%しかとられておりませんのに對しまして、經工業からは一四・八%食料品工業からは二七%、農産物の收買機關からは三一・四%というような工合になつておるわけであります。これを換言いたしますると、ソ連の財政收入の最も重要なる財源になつております取引税、たとえば一九四〇年度の歳入豫算におきましては、歳入總額の三一%を占めておりますが、そのほとんど大部分は農産物、食糧品、經工業品というような消費財からとられておると言えるわけであります。
 第三に、農業の機構について御説明いたします。ソ連におきましては全農家總數の九四%はコルホーズ農家になつております。その播種面積の九九%以上というものはコルホーズの土地になつております。從いましてコルホーズの生産物をどのようにして集めるかということは、ソ連の食糧政策上の最大の問題であるわけでありまして、それ以外の分はあまり大きな影響を及ぽさない。こういうことになるわけであります。コルホーズと一般にいわれておりますが、これは決して農業だけに限られておるわけでございませんで、牧畜とか、漁業とかのコルホーズもあるわけなのであります。ただ一般的に申しまして、農業のコルホーズが一番多くて、有名でありますので、普通日本ではコルホーズを集團農場というふうな譯をつけておるわけであります。また農業のコルホーズの中にも穀物その他のものを主に生産するものや、あるいは棉花とか麻などの工業原料を主として生産するコルホーズもあるわけであります。コルホーズは皆樣御承知のソホーズ、國營農場と異りまして、多數の農家か集まつて組織した協同組合であります。コルホーズには三つの種類がございまして、コンムーンというものと、アルテーリというものと、トーズというものと三種類があるわけであります。コンムーンと申しますのは生産も消費も共同で行うというものであります。トーズは一部の作禁だけを共同で行うという程度のものであります。これに對しましてアルテーリというものはいわばその中間に位置するものでございまして、生産の主要部分は共同化されておりますが、各人の消費生活は各自の自由に委ねるという形のものであります。すなわち今の三つの形を見てみますと、コンムーンこそは最も共産主義の理想に近いものであるわけでありますが、ソ連邦政府は現在の段階におきましては消費生活の共同化はかえつて惡平等を招いて、生産意欲を減退させるという建前に立ちまして、今申しました中間的な形でありますアルテーリが最も適したものであるというふうに認めておるわけなのであります。從いまして現在のソ連のコルホーズは殆んどこのアルテーリ型のコルホーズであるということが言えるわけであります。
 このアルテーリ型のコルホーズにおきましては、農地には一切の境界を設けておりません。共同の耕作利用に充てられておるわけであります。このうちの一部はコルホーズ農家の宅地附屬地といたしまして、個人的な使用が認められておるわけであります。その面積は穀物地帶におきましては四分の一ないし二分の一へクタール以内、その他の地域におきましては一ヘクタール以内、というふうに定められておるわけであります。またトラツクターその他の農業機械とか大農具あるいは役畜、こういうふうなものはすべて共同化されておるわけであります。ただその宅地附履地の耕作に必要な小さな農具と若干の家畜だけは、個人の私有が許されておるわけであります。このようにアルテーリ型のコルホーズにおきましては、主要な部分の共同化と一部の私的所有というものが竝んであるという點が特徴であるわけであります。そしてその今申し上げました宅地附屬地、あるいは各個人のもつております家畜、こういうものからの收穫物につきましては、供出の義務を果しました後には、そのコルホーズ農民は自由に虚分することができるというふうになつておるわけであります。
 それではこのコルホーズの收穫物というものはどのように處分されるかということを御説明いたしますと、まず第一にどうしても出さなければなりませんのは義務納入の分であります。この義務納入と申しますのは、税金または地代として性格をもつておりまして、そし値段は必ずしも生産費を償わないということが言えるのであります。但しその義務納入の制度が適用されてておりますのは、穀物、馬鈴薯、牛乳、羊毛、肉類、皮革等でありまして、棉花その他の工業用の作物につきましては豫約買付制度という制度がとられておりをすが、今日はこの點は省略いたします。今穀物を例にとつて申し上げますと、この各コルホーズに對しまする義務納入量の割當は、一つのコルホーズのもつております土地全體の中から、ただいま申しました一般的な豫役買付制度の對象になつておる作物のつくつてあります部分を除きました、全コルホーズの全農地に對しまして、一へクタール當りといくらというふうに定められるのであります。しかもその一ヘクタール當りの義務納入量は、地域と作物の種類によりまして細かくわけられているわけであります。從來は日本で申しますと郡にあたりますが、同じ郡の中にあるコルホーズにつきましてはいずれも同一であつたわけでありまして、そのコルホーズの個個の特殊的な事情というものは全然考慮されなかつたのでありますが、本年の三月に至りまして、この點につきまして若干の改正が行われたのであります。それは戰時中及び戰後におきまして農業機械が非常に缺乏しておりましたり、あるいは勞働力が非常に不足しておりましたために、コルホーズの土地の利用率がだんだん低下してきたのは事實であります。殊に大農地區、たとえばシベリヤとか、カザフスタン北部とか、あるいは沿ヴオルガ地方という土地におきましては、勞働力不足の打撃が非常に大きかつたのであります。そのために播種面積がだんだん減つてまいつたのであります。そこでソ連邦政府といたしましては、このようなコルホーズに對しましてはある程度の特殊事情を考慮して、義務納入量をきめる、こういうふうにもつてきておるように思えるのであります。いずれにしましても、今申しましたような制度が行われております關係上、個々のコルホーズとしましてはできるだけ土地を遊ばせないで耕すことが有利であります。そこで收穫率をできるだけ多くすることが有利であるということになるわけであります。
 次はトラクター・ステーシヨンの問題でありますが、この詳しい御説明は省略いたしまして、要するにトラクター・ステーシヨンと申しますものは、ソ連では、大きな農業機械を國家がプールして、そして個々のコルホーズの要望に應じてその機械カでもつて手傳いをする、こういうことになつておりますが、それに對してコルホーズとしては現場で支拂いをするという形になるわけであります。つまり先ほど申しました義務納入によりまして、いわば地代に相當するものを國家に納める。トラクター・ステーシヨン――M・T・Sに對する現物の支拂いとしてお禮を出す、こういうことになるわけなのであります。そうしてここでもやはり先ほどから申しました原則が貫かれておるのでありまして、そのM・T・Sに對するコルホーズの現物支拂というものは、M・T・Sのやつてくれました作業の種類、作業の面積、それらが非常にこまかくなつておりまして、どの作業面積に對してどういう作業をすればいくら現物支拂をする、そしてそれも收穫物に影響してくるわけでありますが、そういうこまかい規定によりまして、コルホーズはM・T・Sに現物で手拂いをする、こういうことになつております。
 ただいま申し上げました義務納入とM・T・Sに對する現物支拂、この二つがソ連の穀物收買の最も大きな源泉になつておるわけでありますが、戰前におきましては義務納入の調達總量に對する比率というものは、當初は非常に高くて、たとえば一九三三年度におきましては七〇%もあつたのでありますが、その割合はだんだんと小さくなつてまいりまして、これに反しまして二番目のM・T・Sに對する現物支拂というものの比率はだんだん上つていく、こういうふうになつておるのであります。たとえば一九三七年度におきましては、調達總量に對する義務納入の比率は三三・五%であつたのに對しまして、M・T・Sに對する支拂いの比率は三五%、こういうふうに二つの大きな收買の源泉の比率は同じようになつてきたわけであります。いずれにしましても、結局ソ連の政府の必要としまする商品穀物の半分以上は義務納入と、M・T・Sに對する現物支拂によつて賄われるということがいえるのであります。
 このようにいたしまして、コルホーズは義務納入を遂行し、M・T・Sへの現物支拂を完了いたしまして、またもしそのコルホーズが種子を播きました際に政府から種子を借りておれば、その分を返し、それからまた次の年のための種子を取除く、それから冬の間の家畜に對する飼料を保持する、こういうものを引きまして、そしてさらにその殘りの一部を萬一の場合の備えにとつておく。あるいはコルホーズ員の相互扶助に使う部分としてとつておく。こういう必要な部分を引去りましてその殘りを先ほど申しました勞働日の計算によりまして、按分比例でコルホーズ農民にわけるわけであります。また非常に餘剩が多い場合には、たとえば協同組合とかあるいは國營機關に任意供出の形で賣るということも行われているのであります。また後ほど御説明いたします。コルホーズ市場へ賣るということもできるわけであります。つまり今までお話いたしました點から見ましても、結局コルホーズ農民は多く働いて勞働日をよけいもつておれば割當も多くなるというわけであります。コルホーズ農民といたしましては、先ほど申しました宅地附履地の生産物をもつており、またただいま申しましたコルホーズからの勞働日による分配というものももらえるわけであります。この中から自分らの生活に必要な物を除きまして殘りがあれば、それをコルホーズ・マーケツトへもつていつて賣るわけであります。この場合の値段は自由價格であります。そこでもうおわかりのように、コルホーズ農民がよく働けば賣る量も多くなるわけであります。從いましてこのバザール市場の存在ということは、コルホーズ農民の生産意欲を非常に刺戟する。そこへ行けば自分の物を賣つて、ほしい物が買える。しかもそれは自由價格であるということでありますから、非常にコルホーズ農民の生産意欲を刺戟する一方農村にあります餘剩物資を買集めることができるというふうな、一つの非常に巧妙なる政策であるということがいえるわけであります。
 第四番目に、商業機構と物價の問題を御説明いたします。ソ連の國内商業は商業省直轄の國營商業機關によるいわゆる國營商業と、協同組合商業活動と、ただいま申しましたコルホーズ・マーケットの三つから成立つていると考えられるのであります。そのうちで國營商業は最も基本的な形でありまして、大きな都市におきます商店網というものは、最近までこの國營商業によつて占られておつたのであります。次に協同組合商業というものは、消費組合とか、あるいは廢兵組合というものが行う商業であります。そのうちの消費組合は全國的に消費組合全國連合會というものに統合されておりまして、主として農村に全國的な商店網をもつているのであります。つまり最近までは都市においては國營商業、農村においては協同組合商業、こういう形になつておつたのであります。この二つは國定價格によりまして商業を行うものでありまして、この獨ソ戰爭が始まりまして配給制が布かれましてからは、完全に國家の配給機關になつているわけであります。最後にコルホーズ・マーケツトは先ほども申し上げましたようにコルホーズあるいはコルホーズ農民が自分の餘つている物を直接賣るわけでありますから、その値段は自由價格であります。
 今申し上げましたところからおわかりになりますように戰前の段階におきましては、ソ連の商業は固定價格によるものと自由價格によるものとの二本建になつていたのであります。しかもこの自由價格によりますコルホーズ・マーケツトこそは、先ほども申し上げましたように、農村における餘剩物資を吸いつけると同時に、農民に必要な工業製品を直接に供給するという使命をもつておつたわけであります。このコルホーズ・マーケツトの存在こそソ連の市氏生活に多大の潤いを與えていた大きな要素であると思われるのであります。しかるに獨ソ戰爭が始まりまして、ソ連では一九四一年の七月の十七日から食料品と輕工業品の切符制が布かれたのであります。この切符制度は各人の勤務先を通じて配給されるのであります。從いまして何か職業をもつて勤務先に登録されておるものと、戰時徴用令によつて特に勞働の義務を免除されておつた若干の人だけが配給されるわけであります。家庭でぶらぶらしておる者に對しては、配給はないという建前になつておるのであります。食料品の配給は、普通には五段階にわかれておりまして、重勞働者、輕勞働者、それからその他の勤務員、それから扶養家族の大人と子供というふうになつておるのでありますが、そのほかに軍人だとか、高級官吏、あるいは企業長、工場長、職場長、こういうふうな特別な役付のものに對しましては、特別の追加配給があるわけであります。機關手だとかあるいは治金關係の勞働者、こういうようなものに對しましては、特別な取扱いがされておるわけであります。また學校の先生だとか、科學研究員、學生、こういうようなものは輕勞働者竝に取扱われておるわけであります。このように配給制度も、その職業と地位によりまして種々この段階にわかれておるということが申せるのであります。工業品の配給について申し上げますと、やはり日本と同じく點數制になつております。その點數も、六箇月に對しまして、段階がありまして勞働者が百二十五點、その他の勤務者は百點、扶養家族は八十點というような段階になるのであります。しかしソ連では、點數をもつておるだけで買えるものは非常に少いのであります。おもな商品につきましては、點數と同時に販賣指令書というものが必要なわけであります。この指令書はどういうふうに出されるかと申しますと、官廳とか企業などの勞働組合委員會が特に成績を上げた勞働者、勤務員、あるいは政府の賣り出します公債を標準以上に買つた者、こういうものにその販賣指令所を與えるのであります。また學童とか妊産婦、病人などというものに對しても、特別の販賣指令書が與えられるというとになつております。さらに軍人だとか教員だとか、あるいは科學研究員などに對しましては、特別の商店がありまして、そこの商店へ行けば一般の商店よりも豊富に物がある。あるいはただいま申しました販賣指令書を必要としない商品の範圍が大きい。あるいはまた全然それを必要としない。こういうような優遇が與えられておるわけであります。
 以上述べましたように、獨ソ戰爭が始まりましてから、ソ連でも配給制度が行われたわけでありますけれども、この配給量というものはやはり生活の最低限を充たすものにすぎなかつたのであります。しかもスターリングラード以後戰況がソ連にとつて非常に不利でありましたときは、決して配給量が確保されていたとは言えないのであります。從いまして市民はいきおいコルネーズのマーケツトで不足分を補わなければならぬということになつておりまして、そのコルホーズのマーケツトの自由價格というものが非常に上つてきたというのは當然であります。
 一方ソ連邦政府は一九四四年の四月の復活祭を前にいたしまして、新しく商業價格による食料品店を開いたのであります。同年の夏には同じく商業價格による工業品店も開いたわけであります。ここで商業價格と申しますのはやはり固定價格ではありますけれども、今までの固定價格とは違いまして、非常に高いもの、最初はコルホーズ・マーケツトの自由價格のほぼ一割増というぐらいなように定められたのであります。つまりこれを御説明いたしますと、國家のつくつております商業價格店におきましては、とにかくコルホーズ・マーケツトよりも品質も保障あるいい物があるわけでありますから、コルホーズ・マーケツトより少し高目に値段がついておりますが、大體のラインとしましては、要するにコルホーズ・マーケットの自由價格を基礎として、高い方の固定價格をつくつたということになるわけであります。たとえば砂糖一キロについて見ますと、普通の固定價格二十五ルーブルというものに對しまして、商業價格の場合は八百ルーブル、こういうような大きな差のついた二重價格を布いたわけであります。こういうふうになりまして、ソ連ではいわば二つの種類の固定價格と一つの自由價格、こういうものができたと言えるわけであります。ただいま申しましたように、高い方の固定價格すなわち商學價格は、コルホーズ・マーケツトの價格にマッチするものでありまして、いわば商業價格というものはコルホーズ・マーケツトの自由價格を抑制する働きをなしていたということがいえるわけなのであります。その後だんだんと戰況もよくなりまして、コルホーズ・マーケツトへの商品の出まわりは殖増えてまいりました。そうしますとコルホーズ・マーケツトの自由價格は下つてくる。こういうことになつたわけなのであります。ソ連邦政府はそれに伴いまして、商業價格の値段も下げていつたわけであります。そうしてそれ以來、數次にわたりまして毎囘二五%ないし五〇%ずつと値下げをしていつていつた。その結果といたしまして、昨年の夏ごろには、先ほど申しました砂糖一キロが、初め八百ルーブルでありましたのが二百ルーブルに下つた。四分の一に下つた。こういう状況になつておるのであります。なおこの商業價格におきましては、軍人だとか高級官更、あるいはその他の特別の人々、特にまた勞働成績の優秀であつた者、こういうものに對しましては相當大きい割引率が認められておるわけであります。つまりよく働けばよりよい生活ができるという原則は、このラインにもあてはまつておるわけなのであります。ただいま申し上げましたように、商業價格とコルホーズ市場の價格とがだんだん下つてまいります。おいおい本來の固定價格――現在は配給の値段でありますが、配給價格に非常に接近してまいつたわけなのであります。これがいわば戰時中に施行しました切符制度の廢止の臨時措置であるというふうに考えられるのでありまして、現に昨年の二月には、ソ連邦政府は昨年中にパンとその他の穀物の切符制度を廢止する、それからまた來年中に切符制度を全廢するということを申しておつたようであります。但しこの點は、この前も御説明したと思いますが、昨年度は四十年來の大旱魃でありましたために、未だ全然廢止の緒にはついておらぬわけなのであります。
 ここで最後に、商業に關係いたしまして各工場に存在しておりまする勞働者配給部、いわゆるオルスの制度について御説明いたしたいと思います。さきに述べましたように、一般の配給は最低量を保障しておりますが、とてもそれだけでは足らない。しかも戰時中におきましては、品不足のために最低配給量もなかなか確保されなかつたということがいえるわけなのであります。しかしてコルホーズ・マーケットの自由價格は非常に高くなつてくる。こういう状況に對しまして、ソ連邦政府は個人及び企業に對しまして空地を耕してよい、そこで菜園をつくつてよいということを命令したのであります。そうしてその企業部分につきましては、一九四二年五月にただいま申しました勞働者配給部、オルスをつくらせたのであります。このオルスは個々の企業が經營しておりまする菜園、野菜畑あるいは牧場、そういうものからできました生産品や、あるいはその地方のコルホーズの餘剩生産物というものを買付けまして、そういうふうな食料品で食堂を經營する。そして從業員に給食するというための機關であります。初めはパンの切符を取つて食わしておりましたが、だんだん切符なしでも食事を與えるようになつてきました。そうなりますと、そういうふうな工場に勤めております勞働者は、一般の配給以外にその食事がとれるということになつたわけなのであります。またお祭りの場合なんかには、從業員やその家族に對して、その成績に應じまして、肉類その他の特別な配給を行うということもやつておつたわけなのであります。またさらにおもしろいことは、大きな工場におきましては、いろいろな日用品をつくる職場を設けたわけであります。これはつまり古くなつた機械とか、あるいは廢物になつた原料を使いまして、たとえばなべをつくり、あるいは農具をつくり、あるいはライターをつくる、こういうことを始めたのであります。そしてその一部を政府に納入いたしまして、その殘りを從業員に分配する、しかもそれは結局においてやはり成績に應じて分配するわけであります。そういうふうな制度も發達しておるわけであります。
 以上大ざつぱでありますが、現在とソ連の國營企業やコルホーズが、どのような刺激劑によつて國家の必要とする生産計畫を遂行しておるかというとうことを御説明したわけであります。
 要するに、ソ連では、最初にも申し上げましたように、社會主義經濟統制というものは完成したといわれておりますが、しかし國家の強力な統制のもとに計畫經濟が行われておるわけでありますけれども、その成功の裏には、やはり人間性の機微をつかんだ功妙な方策がとられておるということは、見逃がしてはならぬと思うのであります。
#13
○安東委員長 御質問ございませんか。
#14
○和田委員 經濟運用の基本的な問題ですがソヴイエトに軍人や邦人などを殘しておることは、新五箇年計畫の遂行途上において、勞働人口が不足しておるから、日本人を殘しておるということを盛んにいわれます。これは今政府はそう答辯しておるわけですが、このことは私は將來の日ソ關係を規定する上において相當考えられてもいい問題だと思う。日本としては、平和克服後においては、日本の勞働人口を世界の各地に計畫的にばら撒く必要がある。ソビエトなんかが現に勞働人口が不足しておるとすれば、平和克服後において、日本の進歩的な分子をソヴイエトに勞働人口として供給する用意があるというようなことも考えていいと思うのです。今までは反共とかいつた、防共協定を一方において結んでおいて、日ソ關係を規定しようというようなことを、日ソ外交關係の段階においてとつたのでありますが、今度は新しい世界の客觀情勢のもとにおいて、新しい日ソ關係のもとにおいては、そういう勞働人口、勞働者の輸出ということが可能になると思う。また世界經濟の全般からみまして、ソヴイエトの經濟を繁榮させるために、日本の進歩的な分子が協力するということも、世界の大きな面からみて、決して惡いことではない。そういう意味において、實際この勞働人口というものがどういうふうに不足しておるかどうかということを、あなたの知つておる限り知らしてほしいのであります。
#15
○和田説明員 勞働人口の現在の状態でありますが、これは戰時中からもちろん非常な祕密事項になりまして、ほとんど詳細な數字は公表されておりません。大體私たちの方では戰前の勞働人口の配置状況その他の數字に基きまして、ずつと推定に推定を重ねてきているわけでありまして、戰後の現在でもやはりほんの目見當程度のことしか申し上げられませんが、大體日本その他の國におきまして勞働人口といつております範圍、雇用勞働に從事しておりますもの、つまり平たく申しますとコルホーズあるいは協同組合關係の從業員、こういつたものを除きまして雇用勞働、これに屬しまする勞働人口は、現在におきましては大體二千九百萬から三千萬と推定されております。大體戰前におきまして、この雇用勞働關係の勞働人口は三千百萬程度であつたのであります。戰爭中の人的資源の損失というのは、ソ連の公表によりまして大體七百萬という數字でありますが、その後復員いたしまして、大體戰前の三千百萬に對しまして、最大限の推定といたしまして三千萬、あるいは二千九百萬という程度にまで、少くとも絶體的數字、絶對量は――熟練とか、非熟練工とかの問題は別といたしまして、頭數におきましては、そこまでこぎつけているということがいえると思います。なおこの勞働人口の總數は右のようでありまするが、そのうち特に重要な工業勞働者、これは大體戰前におきまして千百萬、これが現在千萬ないし九百五十萬程度にまでこぎつけているだろうと推定しております。從いまして、戰前の數字と現在の私たちの推定數字を比べますと、さほど數字の上では、頭數の上では、大きな不足ということはないのでありますが、しかしいわゆる戰後の復興經濟、これに要しまする勞働カの需要、これが戰後におきまして非常に厖大になつた。もう一つは勞働力の質の部面におきまして、優秀な技術者竝びに熟練工、これらの部面に受けました損害が非常に大きいために、質の部面において非常な低下がみられる。その面でむしろソ連邦の現在の勞働力には一番難關を呈しているだろうというふうに考えられます。大體新五箇年計畫の遂行にとりまして一番難問題となつておりまするのは、ただいま御質問のありました勞働力關係であります。
#16
○竹尾委員 ソ連の利潤の問題ですが、御承知のように、ソヴイエトでは資本家がなくなつたから、そこに剩餘價値というものがない。しかしその代りに剩餘勞働というものはもちろんあるわけであつて、その剩餘勞働の收奪、という言葉を使うと惡いかもしれませんが、その剩餘勞働がどういうぐあいにソ連政府の中にはいつているかということが、ソ連政府の物質的基礎になると思いますが、そういう點につきまして、具體的なことがおわかりでございましようか。つまりプリバーボチナヤ・ラボータのはいり方、それがソ連政府にはいる經過の方は、今の御説明で大體わかつておりますが、その剩餘勞働の收奪の形態が具體的におわかりでしたら、伺いたいと思います。そこが一番問題であります。
#17
○和田説明員 ただいまの御質問は難問題でございますが、ソ連邦では搾取竝びに剩餘價値は存在しないということを、理論的に、また原則的に申しておりますが、剩餘勞働の存在はもちろん疑うことのできないことでありまして、剩餘勞働の方法、大きき、これがはたして一般の資本主義諸國におきます剩餘勞働、剩餘價値とどの程度開きがあるかというと、あるいはソ連邦の方が案外大きいのではないかと考えられるくらいであります。この剩餘勞働が國家の手に取上げるといいますか、國家の手中にはいつてくる經路、これの、一番大きな經路は、ただいま御説明のありました國家財政これの大系の中から組み上げてくるものでありまして、先ほど説明のありました取引税、收益税、それからなお農村部面の義務納入、こういつた經路によりましてとつてくるのであります。計畫經濟の大きな部面からみますと、大體ソ連邦では國民所得の配分計畫を一番の根ずえといたしますが、その場合に國民全體のいわゆる國民消費、これの水準をどの程度におくかということを一應定めます。それと同時に國民所得の殘餘の蓄積部分を、どの程度にするかということを決定いたします。この國民所得の蓄積部分が、他の一般の諸國、たとえば非常に進んでおりますアメリカなどを例にとりましても、アメリカのいわゆる蓄積部分とソ連邦の蓄積部分の割合では、ソ連邦の方がはるかに高いのであります。たとえば大體三十五年計畫竝びに戰後計畫されておりますのは、大體國民所得のうち、年々二〇%ないし二七%程度を蓄積する、殘餘の八〇%ないし七三%程度のものを國民の消費に充てるというふうに、配分計畫を立てております。この蓄積部分は、アメリカの資本主義の非常に發達いたしましたときですら、年々十一、二%の蓄積率をもつて國民經濟は發展しておつたのであります。これに對しまして、大體ソ連邦では二〇%から二七%までの高率な蓄積を計畫いたして、人為的に、計畫的に決定して強行してくる。つまりそこに剩餘勞働をそれだけ國家の、あるいは公共的な部面に割いていくという形をとつております。それには大體具體的な手段といたしまして、まず賃金水準を、ソ連邦では企業者と勞働者の任意は團體協約とか、賃金協定によつて決定しておりません。またいわゆる勞働力の市場價値、これによつても決定しておりませんで、國定によりまして一應賃金のの水準を決定しております。それからその賃金が購買カとして作用いたします場合に、諸商品の物價もまた國定いたしまして、この物價と貸金の計畫的な決定によつて、大體國民の消費生活の水準を一應計畫的に抑えております。そして先ほど申し上げましたような取引税、收益税、あるいは義務納入、そういつた具體的な財政上の手段によりまして、剩餘勞働分に値します國民所得の蓄積部分を國家の手中に收めて、これを國防とか經濟建設に向けております
#18
○竹尾委員 あまり詳しいことは質問いたしませんが、ソ連邦では義務納入の形で差額地代を最近認めておりますか。
#19
○和田説明員 大體マルキシズムでは、原則として差額地代は消滅するというようになつておりまして、ソ連邦でも最近までは大體差額地代を否定しておつたのでありますが、戰爭中たしか四十四年ごろはらでありますが、公然と差額地代の存在を認めるようになりまして、差額地代はソ連邦の社會主義體制においても存在し、その差額地代は一部いわゆる義務納入とか、その他の政府の收入の中に加わり、また一部は農民自身の所得の増加分となつて現われるというふうに、いわば古典的な昔の學説を訂正しております。
#20
○和田委員 委員長に注文があります。われわれからすればきようの話はソ連社會主義經濟の常識的な部面であります。ところがわれわれとしてソ連から一番學びとらなければならぬ點は、戰後におけるソ連の計畫經濟だと思います。第一次歐州大戰後の第一次、第二次五箇年計畫遂行の跡をわれわれは大いに學ばなければならぬ。殊に日本が一度は高度資本主義の段階に達したけれども、今や敗戰の結果、わずかに資本主義經濟を維持しているこの段階において、どうしても相當長期にわたる計畫經濟の實施は、日本の經濟復興をなし得る最大の要素だと思います。その意味で次會には戰後の新五箇年計畫實施の状況調査を聽きたいと思います。これは文獻もたくさんありますが、われわれとした今非常に聞きたいところであります。また調査することも困難でありますから、ぜひともお願いしたいと思います。
#21
○安東委員長 ただいまの和田委員の御希望はごもつともと思いますから、政府委員に、あるいはこの次またはその次になるかもしれませんが、しかるべきときに、用意ができたときにやつていただきたいと存じます。
#22
○竹尾委員 今のコルホーズの説明の中で勞働日の御説明がありましたが、この勞働日は、六、七年前にはコルホーズ農家のいわゆる發生過程によつて、勞働日の差異も非常にありましたが、最近そういう差違はどういうぐあいに縮まつておりましようか。たとえば富農出身と中農出身と貧農出身と、勞働日は非常に違つておりましたが、そういう點は縮まつておりましようか。
#23
○庄司説明員 ただいまの御質問のうち、富農出身、中農出身、そういうようなかつての階級出身によつて異なるところの差というものは、現在は認めておりません。現在は勞働日の計算において、熟練度の方を認めております。
 これは三十四年からの規定でありまして、熟練度によつて七種類のものを認めております。それでたとえばトラクターを運轉するトラクター手、そういうものと、そういう熟練を全然要しないところのあるいは倉庫の張番をするとか、あるいは手でもつて草刈をするもの、そういうものとの間には大體二倍から四倍、一番最低と一番最高に四倍の違いがありまして、その倍數を勞働日の計算の中に考慮に入れることになつております。勞働日の計算というのは非常に複雜なもので、ちよつと簡單に説明できませんが、今の質問だけにお答えいたしておきます。
#24
○竹尾委員 そうしますと、コルホーズの中の中農、富農、貧農の階層の對立はなくなつておるのですか。
#25
○庄司説明員 現實ににそういう階層の對立があるかないかということにつきましては、具體的には資料が發表されておりませんからわかりません。現在においては、たとえば法制上において、その階層を基礎としていろいろな差を認めるということは取扱われておりません。
#26
○竹尾委員 いやその取扱つておるおらぬではなくて、そういう事實があるかどうか。
#27
○庄司説明員 そういう事實について、向うの公表されたものには全然そういうことは觸れておりません。今言いました法制上や何かで、今の勞働日の計算とかその他いろいろな待遇についてはないが、現實においてあるかないかということについては、私も十分材料をもつておりませんから、ちよつとお答えできません。
#28
○安東委員長 それでは時間もまいりましたから、これをもつて質問を打切ります。
 滿洲における戰犯者救護に關する請願は、紹介議員の原侑君がまだお見えになりませんので、審査を次會に延期いたしたいと存じます。これをもつて閉會いたします。
    午後零時十四分散會
ソース: 国立国会図書館
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