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1965/11/02 第50回国会 参議院 参議院会議録情報 第050回国会 社会労働委員会 第5号
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1965/11/02 第50回国会 参議院

参議院会議録情報 第050回国会 社会労働委員会 第5号

#1
第050回国会 社会労働委員会 第5号
昭和四十年十一月二日(火曜日)
   午前十時十二分開会
    ―――――――――――――
  出席者は左のとおり。
    委員長         小柳  勇君
    理 事
                鹿島 俊雄君
                川野 三暁君
                佐野 芳雄君
                藤田藤太郎君
    委 員
                黒木 利克君
                紅露 みつ君
                土屋 義彦君
                丸茂 重貞君
                山本  杉君
                横山 フク君
                大橋 和孝君
                森  勝治君
                山崎  昇君
                小平 芳平君
   国務大臣
       厚 生 大 臣  鈴木 善幸君
   政府委員
       厚生大臣官房長  梅本 純正君
       厚生省医務局長  若松 栄一君
   事務局側
       常任委員会専門
       員        中原 武夫君
   参考人
       癌研究所所長東
       京大学名誉教授  吉田 富三君
       日本胃集団検診
       学会理事長日本
       大学教授     有賀 槐三君
    ―――――――――――――
  本日の会議に付した案件
○社会保障制度に関する調査
 (ガン対策に関する件)
    ―――――――――――――
#2
○委員長(小柳勇君) ただいまより社会労働委員会を開会いたします。
 社会保障制度に関する調査を議題とし、ガン対策に関する件について調査を行ないます。
 本日は、本件調査のため、去る十月二十六日の委員会に引き続きまして、お手元に配付してあります参考人の方々から御意見を拝聴してまいりたいと存じます。
 参考人の皆さまに御一言ごあいさつを申し上げます。
 本日は、御多忙中にもかかわらず、本委員会に御出席くださいまして、まことにありがとうございました。
 御承知とは存じますが、本委員会においては、すでにガン対策について、笠対ガン協専務理事、黒川癌研附属病院長、今井九大教授の御三方を参考人としてお招きし、その御意見を伺ってまいりましたが、本日は、さらに皆さまから、ガンを制圧し、ガンに対する国民の恐怖を取り除くための諸方策について忌憚のない御意見を拝聴いたしたく存じておるわけであります。本日御出席の吉田参考人は、癌研究所の所長として、また、有賀参考人は、ガンの集団検診を広範囲に実施されるなど、それぞれのお立場からガンの制圧のため御献身されておられますことは、私ども深く敬意を表するところであります。
 これから両参考人の方の御意見を伺うのでありますが、議事の進め方といたしまして、まことに恐縮でございますが、まず吉田参考人、有賀参考人の順序に、お一人約二、三十分程度御意見を開陳していただき、御陳述が全部終わりましたあとで各委員の御質疑にお答えいただきたいと存じますので、よろしくお願いいたします。
 それでは、これより順次参考人の方々から御意見を拝聴いたします。
 まず、吉田参考人よりお願いいたします。
#3
○参考人(吉田富三君) いま御指名のありました吉田でございます。どのようなことを申し上げたらいいか、あまり明瞭でありませんのですけれども、いまお話の中にありましたように、国民のガンに対する恐怖を取り除き、そして国のガン対策を推進する上に御参考にあるいはなるかもしれないような自分の所見を述べよ、こういうことに理解いたしますので、その点につきましてふだん考えていることを率直に申し述べまして責めを果たしたいと存じます。
 最初に、国民のガンに対する恐怖心のことでありますが、これは普通ガン・ノイローゼというふうに言われているほど最近その傾向が強いようで、ガンの病院を訪れる人が非常に多くなっているというようなことがその一つのあらわれであると思います。けれども、このガン・ノイローゼと言われるような、これほどの少し行き過ぎた一般の恐怖観念というものは、私は一時的の、あるいは一過性のものであろうと考えております。したがいまして、この恐怖の観念を取り除くという、そのものに対するずばりとした対策というものは、これは本来ないものであろうと思います。したがって、へたなことをすると、かえって逆効果になるおそれもある、かように考えております。これに類したことは、かつてアメリカにあったように思います。イギリスとかフランスとかという国ではそうでなかったようであります。ところが、たばこと肺ガンの関係がアメリカから唱えられ出したときに、それに一番敏感に反応をしたのが、国民性として一番落ちついていると思われるイギリスであったように思います。そうして国会の問題にまでなったのはイギリスであったように思います。こういうふうに、非常に強い恐怖心というようなものが国民一般の間に流れるということは起こり得る現象でありますが、強い根拠のあるものではないので、一過性のものであろうと、そういうふうな見方を私はいたしております。しかし、これは国民のガンに対する関心というものを決して軽視するものではありません。要は、国がこのガンの対策に対する腰の入れ方が本格的であって、そうして、きわめて着実で誠実であるということが国民にわかれば、それがそのまま反映して一番有効な鎮静作用をするものであると思います。そこで、国が国民のこのガン・ノイローゼにつり込まれて、国の対策までノイローゼ的になるということが、かりに起こるとしますと、それは最も遺憾なことになると考えます。で、国のガン対策には、次の二つの点を確実に認識するということが一番重要な柱になると考えます。
 その一つは、ガンという病気は、学問的、科学的立場から見まして、これは必ず克服のできる病気である、克服できるものであります。この科学的確信に立って策を講ずるということが一番大事な点の一つであろうと思います。しかし、この克服は、きわめて着実で忍耐強い学問的研究によってのみ達せられるものであります。だれもが予想もできないような治療法が奇想天外に降ってわいてくるというような、そういう式の考えが多少でもありますと、そのところに乗じていろいろの無用な混乱が起こってくるものであります。ですから、この科学的確信に立っているということが一番大切でありまして、そして、さきに申しましたように、その政策の推進は科学的で誠実で、そして永続するものでなければならない。多少でも迎合的で一時的であるような策が見えますと、それは最も遺憾なことになると思うのであります。
 それから、第二点は、現在のガンの診断と治療との方法をもってして確実になおすことのできるガンがたくさんあるという事実であります。で、国としましては、こういう現実をつかまえまして、そしてこの幸運に恵まれる人をできるだけ多くするという方針を打ち出しまして、そして診療の施策を拡充し、専門医の養成を推進し、それに必要な看護婦その他の人員の養成ということを気長にやる必要があると思います。一時的に、はででなくとも永続するということ、着実に前進するということ、こういうことが一番大切な点であると考えております。
 以上が一般的のことでありましたが、二、三講釈じみるかもしれませんけれども、ガンの治療剤というものに対する国の態度、これについて私の抱いている考えを申してみたいと思います。
 ガンの治療剤というものは、サイエンスの、つまり科学的に十分な根拠がなければならないものであります。それは発明者が、あるいは開発者が、正当の科学的研究を経て、そして他の研究者がこれを追試、追認して、それが学界においても十分に討議され、承認されるようなものでなければならないという意味であります。薬剤はケミカルな物質でありますから、その点の化学的研究が十分であって、そしてそれを動物に試験した結果の効果が、十分の根拠をもって人を納得させ、その上で人体効果を論ずるのでなければならないのでありまして、この前段の学問的手続を抜いて、いきなり人間に使って効果があるからというような、そういう主張を受け取ってはならないと思います。ほんとうに人間のガンにきくという薬であれば、必ず前段に申しましたような学問的な客観的根拠を示すものであります。そこのところを当局としては強く守ってお進めになることが大切だと思います。しばしば耳にしたことでありますけれども、ある薬剤が国会の問題になってくるというようなことを、風説にもせよ、耳にするときに、私はかねて非常に遺憾に思っていたところであります。かりに国なり政府なりに対して、ある薬剤の開発者が、これはきわめて有効なんであるから、国の力をもってこれを研究することなり使うことなりを促進してほしいというような要求があれば、あるときには国は断固としてこれを学問的研究の場に差し戻すべきであると思います。そして、ある特定の薬剤の研究を、たとえば国立の機関にもせよ、国がその研究を要求するというようなことは正しい筋道ではないと考えます。それは正しい科学的研究者であれば、学問の場をこえて、たとえば国会に持ち込むというようなことは決してしないところでありますので、こういうところに国の権力が多少とも作用するというようなことがないように、私どもはかねて希望しております。この点は、いわゆるジャーナリズムのあり方も、現在までのところ、必ずしも歓迎すべきものでなかったのであります。いずれは消えてしまうような非科学的な薬剤が、ジャーナリズムで取り上げられましたためにいたずらな混乱を起こして消えていったというようなことが今日までもたびたびありましたので、国がもしこういう点で何かをするならば、こういう点に関心を払ってもらいたいと思います。それは言論の自由、報道の自由ということもありましょうけれども、こういう点で、ある考え方をしていただければ幸いで、そういうことはできないものかということを以前から考えておりましたので、そのことを申し添えます。要するに、国は、自分の国の科学者に絶大なる信用を置くということが最も大切な態度であると思うのであります。
 それから、もう一つの点は、ガンの病原体ということであります。これもいささか講釈めくことで恐縮でありますが、国の責任の立場にあられる方、文化人として代表的な方々、そういう方々がテレビとかラジオとかでガンの問題を話をされるようなときにでも、ガンはいまだに病原体がわかっていないのであるから、何とぞ早く病原体をわかるようにしてほしいというような、そういうことばがしばしば出てまいります。新聞等にもそれを見受けるようであります。そのときに私どもは、このガンの病原体というものを皆さんはどういうふうにお考えになっているのかということを非常に疑問に思うのであります。ガンには、結核とかその他の伝染性の病気の場合の細菌にあたるような病原体はないということが今日における学問の定説であります。いろいろの原因によって人体の細胞がその生物学的な性質をかえてガン細胞というものになる、そして、そのガン細胞がからだの中ではびこることが病気なのでありますから、ガンの病原体といえばこのガン細胞であるというのが今日の医学の常識であります。この細胞をガン細胞にする、正常な細胞をガン細胞にする、その作用はいろいろの科学的な作用、放射線の作用、いろいろありますが、その中の一つに、ビールスというものもこの作用を持っている。人体では明らかではありませんけれども、動物の場合には、ビールスがその正常細胞をガン細胞に変えるという作用を持っていることが明らかでありますが、しかし、一たんビールスが細胞をガンに変えてしまえば、それから先、ガン細胞というものはそのビールスとは無関係にからだの中ではびこってガンという病気の病原体の作用をする。したがいまして、ビールスはガンという病気の直接の病原体ではないのであります。これも今日ビールス学者がそのとおりに申しているところの定説であります。で、この現在の学問の定説に従ってものを考えるということが一番大切なことであります。なぜ私がこういうことを申しますかというと、責任のある方々、文化人というようなお医者さんでない方でも、そういう方々から病原体病原体ということをいわれると、国民大衆は、何か病原体があるような考えを持ってくる。そうすると、その病原体を発見したというような適当でない学者があらわれてくる、そして無用な混乱を起こすということがありますので、民心の安定の上からも、こういう用語に注意を払うということが必要だと思うのであります。
 ここで一つの話を付言いたしますが、ある大学の学長が、日本のガンの研究が進まないのは、吉田富三というガンの世界のボスがいてビールス論に反対するからである、あれを推進すればガンの研究がもう少し進むんだというようなことを申したが、ほんとうかということを私に直接聞かれたことがあるので、そのときは、まさにそのとおりでありますと、こう申しましたけれども、私は、個人としてはこのビールスの研究を最も強く推進をはかっている人間の一人であります。けれども、それはいま申したような意味であります。その研究の中からガンの発生に関する重要な知見が出てくるであろうということで推進しているのでありまして、ガンの病原体というような意味でビールスを考えているのではないのであります。たいへんめんどうなことを言ったようでありますけれども、こういう病原体というようなことは国民の間にいろいろの混乱を起こしますので、責任のある立場では、もう少し学問的な用語を尊重すべきであるというようなことを考えている次第であります。
 そこで、ガンの薬剤に対する考え、それから、病原体というようなことを間にはさみましたけれども、最初に申しました国のガンの対策は、ガンという病気は必ず克服されるのだ、される可能性のあるものだという確信に立たなければならぬということと、それから現実の問題が二本の大きな柱と申しました。そこのところへ立ち戻りまして、最初に、このガンの基礎的な研究、つまり必ず克服できるということはガンの基礎的研究を推進するということでありますが、その点についてはどういうことを私は考えているかということを申してみますと、第一に、現在の日本のガンの研究は世界第一流に位するものであることは、自他ともに学界において認めるところであります。私個人も、最も水準の高い研究を持続していると考えております。この研究を、どこまでも日本の研究を日本の研究として推進することが、ガンの基礎的研究の一大方針でなければならぬと思います。それには研究者の自由ということを尊重することは言うまでもありませんが、私は、日本では日本の研究が伸びていくというようなことを心がまえとすべきであると思っております。世界の各国を見渡して見ますると、それぞれの国にそれぞれの特徴があるのでありますが、すべてが同じような方向に同じようなことをやっているのではないのであります。日本には日本の特徴がある。そこで、世界各国それぞれ自分の国の特徴のある研究をするということが、世界全体として見るときに、ガンの克服に近づいていくほんとうの道だと思うのであります。そこに自由があってよろしいのだと思います。日本の研究をそれなら伸ばすのにはどうすればよろしいかと言いますると、外国を見て回って、あるいは外国の情報などを聞いてろうばいする、あわてることのないような施設と研究費とを与えることであります。遺憾ながら、日本の学者の間にも、まだまだ外国に対しては弱い。外国のものを見ると感心するという潜在的な気持ちは抜け切っていないのであります。それで、どうかすると外国の研究につり込まれ、向こうのペースに乗せられるということがしばしばあります。そこで、私がかねて望んでおりますることは、どこの国へ行ってどんな施設を見ても驚かないくらいの設備と研究費とを日本の研究者に国の中で与えてやるということをしていただきたいものだと思うのであります。これは財政的にむずかしいことでありましょうけれども、その方向に国としては進めていただきたいと思うのであります。昨年、国がガンの研究のために特別に二億円のお金を出していただいたのであります。その一億円が文部省の受け持ちになりまして、われわれガンの研究の委員会など、文部省の立場でやっておりましたものは非常に潤ったわけでありますが、それでも文部省からわれわれに出たお金は一億円でありました。それが二倍になりましたので非常に大きく感じたのであります。これは御承知のとおり、米国などに比べるとまことに貧弱な金ではありますが、それでも国がこれだけのことをしてくれるのに、われわれは十分な責任を感じなければならぬということを、立って演説した中年の学者があったのであります。世界的に見ればまことにささやかな金でありますけれども、国が自分らの研究にこれだけ力を入れてくれたという、ただ一億円のことで――その人のその中から受け取る研究費というものは二百万にも足らないような金でありますけれども、それでも、少しはっきり言いますと、涙を流さんばかりにその人は感激していたのであります。私は長年ガン研究の研究費のお世話などをしておりましたけれども、初めて見た情景であります。研究者というようなものは、まことにじみに研究室の中にこもっているものでありまして、自分らの仕事を国が激励してくれるということにこんなに感動するものかということを初めて私も感じましたので、そういうことを皆さんにも知っていただくことは多少の意味があるかと思ってそういうことを申したのであります。
 それで、これからの研究の重点はどういうところにあるのがよろしいかということについて、これは個人的の見解でありますけれども、第一に、これからわれわれが――これからというより、さしあたり進めていきたいと思っていることは薬剤の研究であります。これはすでにかなり終戦後間もなくから日本でもずいぶん進められておりますけれども、金のかかることであるというのと、基礎的な研究をする学者の養成、次々と若い人がその方面に入ってくるということがなかなか困難なことなのであります。このほうをぜひ進めようと私個人は努力をしているのでありますが、その目標はどういうところにあるかといいますと、現在外科手術がかなりのところまで発達しましたので、ガンの治療はできる。放射線の治療法も有効に作用する。しかし、それらはいずれも局所的の方法でありますので、ほかのところに散らばっているガンの細胞に対しては効果がないわけであります。それで手術後三年ほどの間は非常によかったが、それから再発したということが一番遺憾なところなのであります。この再発というものがなくなるなら、あるいは減少させることができるなら、ガンの治療は非常に効果をあげるわけであります。三年後に再発する事例が、かりに七〇%あるといたします――大体そんなものだと思いますが、それを逆に再発しないのが七〇%というところまで持っていくことができれば、ガンの治療成績というものは非常によくなるわけであります。それをやるのは何でできるかというと、薬剤以外にいまのところ考えられないわけであります。そういう意味で薬剤の研究ということが私の年来の念願なのでありますので、それを申し上げます。
 それから、御承知のように、厚生省その他で診療施設の拡充を大きな計画として取り上げられておりますが、これがさきに私が申しました、いまある治療方法をフルに国民に潤してやるということでありますが、これで全国的にガン治療センターをつくるというようなネットワークをつくる方策ということはまことに賛成であります。けっこうでありますけれども、これは第一にマンパワーと申しますか、それに当たる医者が必要でありますので、設備その他の建物というものができても、医者がこれに追いついていかなければ、医者、看護婦その他の要員、それがなければ実効をあげないのであります。この点は後ほど有賀教授からも集団検診等のことでお話があることかと思いますけれども、一番大事なのは人間が十分にあるということであります。そういう点から見まして、全国に国立大学だけでも二十五校ありまして、そこに付属病院があって、そこには十分なお医者さんがいるのであります。そういうところにたとえば五十ベットずつでもガンの専用のものを付設して、そしてそこの大学の運営によってそれを運営していくということがとられれば、全国的に相当に比較的早い効果をあげることができるのではないかというふうに思います。そのほか、公立、私立の研究所、その付属病院等もあります。そういう既設のものを強化するという方法がさしあたり実効があるのではないかと思うのであります。そうして、そういうところはすでに従来の実績を持っておりまして、人間を養成するセンターとしても効果をあげるところであります。ただ、大学の場合には、これが文部省管轄であるということと、それから、大学病院自体がガンの病床どころでない、国立病院といえども、大学病院自体がはなはだ不完全な状態でありますので、その病院の一般的の整備ということが第一の問題になると思うのであります。これは具体的に申しますと、全国の国立大学の病院がその設備拡充のために緊急要求をしているのが今年でも平均約十億であります。ひどい大学もありますので、平均して十億になるそうであります。そうすると、二十五の大学で二百五十億、そういう全般的な整備をした上でなければ、ガンの病床だけをふやすというようなことはなかなかむずかしいというような話が出てくると思うのであります。この二百五十億というのは非常にたいへんなようでありますけれども、現在でも、国は、結核の対策に対して昭和四十年度で三百二十億使っております。そうすると、この二百五十億くらいはわずかな――わずかな金でもないでしょうけれども、そんなに驚くべき数字ではないということになります。厚生省はことし三十億の目標を掲げられましたけれども、いまのような数字で考えてみますると、ガンの対策というものは決して大きなものにはいまだなっていないということをわれわれとしても痛感する次第であります。
 そういう設備拡充の両がありますが、もう一つは、先ほどからたびたび言いました専門医の養成であります。ガンのお医者さんというのは非常に苦労が多くて、そして暗い仕事であります。で、非常にすぐれた人間的愛情を持っていることが特に要求される。看護婦にしても同じでありますので、すぐれた人間愛を持って、しかも、献身的で、余分の勤労を喜んでやるというようなお医者さんでなければならないので、この医師の待遇ということは非常にむずかしい問題だと思いますが、これがないと、人員の養成と一口に言いましてもなかなかできませんので、この点は非常にむずかしいものだと思いますが、これは政府ばかりでなしに、国民も一緒に考えなければならぬし、これに関連して、現行の保険医療制度なるものについても十分に再検討すべき点があるように考えております。
 それから、たいへん時間をとりまして恐縮でありますが、最後に一言申し上げてみたいことは、この三十億にしても五十億にしても、国がガンの研究とその診療対策に対してお金を使われるというときに、一番大切なことは、現業の――現在業務を行なっている省のワクをこえた運営ができるということが大切だという点であります。現実には、研究に関しては文部省、診療に関しては厚生省だというなわ張りがあります。しかし、文部省管轄の大学にも病院があり、厚生省関係のところにも研究者がいるのであります。この二つがそれぞれの従来の受け持ち意識から、あるいはなわ張り意識からそれぞれ別個にやるというようなことでは、せっかく大所高所からお金がおりてきても、その受けざらは別々になって、別に動くということになるわけであります。昨年二億円のお金がおりたときに、それぞれ厚生省と文部省の受けざらに一億円ずつもらって、それを合同で協議して運営するという方式がつくられました。ガン研究懇談会というものを厚生省と文部省との間でつくりまして、その意見の交換をしながら運営しているので、これは従来からみると一大進歩であると、私どもなどもその席に呼ばれまして感じておりますけれども、まだまだ各省の分担意識と、あるいは、ことばは適当でないかもしれませんが、意識、功名意識のようなものがお役人の間で作用しております。これはまことにやむを得ないことでありまして、われわれとしても理解のできないことではありませんけれども、これから非常にたくさんのお金が使われていくというようなときには、この各省の業務の範囲というものに拘束されない運営方式を考える、こういうことがお金をほんとうに生かしていく道であろうというふうに考えるので、そのことを最後に述べさしていただきます。
 たいへん長くなりまして、申し上げたことにあるいは適当でなかったこともあるかと思いますが、この問題についてふだん考えておりますことをできる限り率直に申し上げてみたのであります。
#4
○委員長(小柳勇君) ありがとうございました。
 次に、有賀参考人にお願いいたします。
#5
○参考人(有賀槐三君) 私、ただいま御紹介いただきました有賀でございます。
 私は、ガンの対策として、現在私たちがやっております胃の集団検診という仕事を通じまして、ガン対策の進め方の御参考に供したいと思います。
 わが国のガンの対策は胃ガンに重点を置かなければならないということは、皆さんすでに御承知のとおりでございます。現在、胃ガンの患者は病院でどのような状態にあるかということを簡単に申し上げますと、胃ガンの外来に来られる患者さんの三分の一は、すでに手おくれのいわゆる晩期ガンでございます。で、手術をいたしまして大体八〇%以上の五年生存率が得られる、ほぼなおるという考えのできる早期ガンというふうなものは、わずか二〇%にも足らないわけでございます。残りの五〇%というのは、一応その両者の間を進行しつつあるガンでございまして、まあ手術をすることはできる、しかし、五年以上生存する者は数が少ない。ただ、一年なり二年なり三年なりその人の生命を延長することができるというふうな形のガンでございます。したがいまして、胃ガンの対策といたしましては、この手おくれの胃ガンをどういうふうにするか、これをなくするためにはどうしたらいいかということと、もう一つは、非常に早い時期の、ガン細胞がまだ胃の粘膜にとどまっているとか、あるいは胃の外側ににじみ出ていない、そういうふうな早期ガンをできるだけ多く見つけるような態勢をとっていくということになるかと存じます。で、この病院へ来られる胃ガンの患者さんが、どうしてもっと早い時期に来なかったか、どうして手おくれになったかということをアンケートによって調べてみますと、その大半は、ほとんどこれという症状がなかったからということと、もう一つは、若干の症状はありましたけれども、それに対してあまり関心を持たなかったという方々でございます。したがいまして、胃ガンの手おくれをなくするためには、まず第一に、この自覚していない無自覚性胃ガンの発見ということにあると存じます。この無自覚性胃ガンをすみやかに発見していくということが胃ガン対策として一番重要なポイントではないかと存じます。
 また、第二には、自覚症があってもいいかげんにしてほうっておる人に関心を呼び起こさせまして、早く受診させるチャンスを与えるということであります。したがいまして、いかに施設を整備して有能な医師をそろえましても、患者のほうが来てくれなければ、これは早期発見にはならないのでございます。このためには、啓蒙運動が必要でありますし、受診の窓口を広げるということも有効であります。しかし、これだけでは無自覚性胃ガンを早期に発見するという問題は解決されないと存じます。で、この目的を果たすためには、積極的に普通に生活している人たちの中に入って、そうして綱で魚をすくうように、これは怪しいなと思う人をそれで拾い上げて、そうして十分な検査をすることによって早く胃ガンを発見するということでございます。これが胃の集団検診でございます。胃の集団検診は無自覚性胃ガンを発見するということが第一の目的でございます。それで、これによって次第に手おくれの胃ガンがなくなっていきまして、そうして、また、一方には、早い時期の胃ガンが発見されるようになります。ここで大事なことは、いま申しましたように、自覚していない胃ガン患者を拾い上げるということが第一の焦点であるということをよく記憶していただきたいと存じます。それで事実、胃集検の普及によって早期ガンの数は年々増加してきております。私たちの成績でも胃の集団検診によって発見されました胃ガン患者の六四%は、過去にも現在にも、ほとんど症状のなかった人、あるいはあっても軽く考えて、別に気にもせず普通に生活していた人たちでございます。したがいまして、この人たちは、この胃集団検診をやらなかったならば手おくれになったのではなかろうかと考えられる人たちでございます。また、同時に、この胃集団検診によって自覚症のあまりない胃ポリープとか、かいようとかいうふうなものも多数発見されております。従来少ないと言われました胃ポリープが胃ガンとほぼ同数にあるということや、胃かいようや十二指腸かいようが胃ガンの十倍もあるということや、その胃かいようの半数あまりは自覚症のあまりない慢性化したものであるということなどが明らかにされてきております。これらが慢性化して放置されているということは、これらが胃ガンと関係があるという現在の学会の考え方から、胃ガン対策上注目しなければならないことだと存じます。それで、日本のかいようの死亡率は戦後急速に減ってきておりまするけれども、しかし、まだ米国の三倍余もあります。こういうふうなことも考え合わせまして、慢性の放置されているかいようを早期発見するということも、無自覚性胃ガンの発見とともに、胃集団検診の重要な目標でございます。
 さらに、この再集団検診を実施することによって、一般民衆に大きな啓蒙を与えます。ことに集団検診によって発見されておりまする、そうして手術を受けて、いつまでも元気に働いておる胃ガン患者の姿を見ることは、ガンは早ければなおるんだという観念を大ぜいの人たちに実際目のあたりに植えつけることによってガンへの恐怖を取り去ることもできますし、検診の必要性を認識させて、早期に受診するという傾向を助長してくるのでございます。
 また、この集検によって死亡統計では明確でなかった胃ガンを中心とする胃疾患の実態が明らかにされてまいり、さらには胃ガンと関係がある環境因子の問題の解明にも役立つのでございまして、このような胃の集団検診を推し進めていくには三つの方向がございます。
 第一は、市町村単位の地域社会の集団検診でございます。
 第二は、会社、工場等の職場単位の定期検診、すなわち、私たちは職場集検と呼んでおりますが、それでございます。
 第三には、病院外来における胃の検診、すなわち、外来集検でございます。現存、この一と二が広く行なわれてきておりまするが、その実態はどうであるかと申しますと、お手元に差し上げてございますところの三十九年度の全国集計というのをごらんになっていただければおわかりと存じますが、昨年一カ年間に、主として胃集団検診、学会のメンバーによって実施されました件数及び受診者数は、その別冊の六ページの第四表にございますが、地域の集検が十四万五千八百二十一名、職域が六万四千百九十六名で、合計二十一万余名でございます。この中から九ページの第十二表のように、約一〇%、二万余名の有病者が発見されまして、その有病者の中の四二・五%、約半数近くがガン、ポリープ及びかいようでございます。そうして、この胃ガンの発見数は受診者の総数の〇・二%強であり、すなわち、千人に二人というふうなことになります。この胃ガン患者のうち、次のページの十六表の(註)のところに書いてございますが、切除された胃ガンのうち、早期ガン、すなわち、五年生存率が八〇%とか一〇〇%とかいわれますところの早期ガンが二六・五%あり、病院外来では一〇%ないし一五%というふうなことでありますから、大体この約二倍見つかっております。私たちの十年間やりました成績では、地区によって、あるいは対象集団によって胃ガンの発見頻度は必ずしも一定ではありませんけれども、地域の集検では胃ガンは大体〇・五%発見されて、それでこれらの胃ガン患者のうち、手術では手おくれの晩期ガンがやはりなお二〇%前後ございますが、しかし、病院の場合が三六%、私のところは三六%でございますので、晩期ガンは約半数でございます。一方、切除した胃ガンのうち、胃壁の外側にガン細胞がにじみ出ていないような早い時期の間に切除した胃ガン患者の半数近く、四一%もございます。この手術した方の五年生存率は五〇%でありますから、病院の胃ガン患者の場合のやはり二倍の数でございます。したがいまして、胃集検が晩期ガンを少なくしていくという目的にかなっているということが言えると存じます。
 また、胃集検によって得られたもう一つのことを申し上げますと、わが国に胃ガン患者がどのくらいあるかということでございますが、私たちが長野県の下伊那郡及び富士見町で集団検診を受けた者や、また、受けない者全部について調査をいたしました結果では、四十歳以上の人口総数の〇・四二と〇・四九%という頻度が出ました。すなわち、千人に五人弱の胃ガン患者があるということでございまして、これは四十歳以上の胃ガン死亡率の大体三倍近くでございます。
 次に、職場集検のことを申し上げますと、職場集検では、一般に地域社会よりも年齢層が低い関係で、胃ガンは非常に少なくて、かいようがかなり多く発見されております。われわれのやった成績では、地域集検の場合には、かいようは胃ガンの六倍でありますが、職場集検ではこの胃ガンが少ないために、かいようが胃ガンの二十七倍と、非常な開きがあります。お手元の全国集計では、受診者が、地域社会の人が三分の二、職域の人が三分の一であるというふうな関係で、九ページの第十二表のように、胃かいようは胃ガンの八倍強でございます。病院では胃かいようは胃ガンの大体主ないし四倍でございますから、このことからも、放置されている胃かいようが多いということがおわかりかと存じます。
 さて、この胃集団検診を実施する上には、あるいはさらに効果あらしめるためには、なお幾多の問題がございます。
 第一は、どのような方法で検診をするのが最もよいかということでございます。御承知のように、集団検診では多数の人たちを扱うという関係上、時間的な制約がございます。また、経済的にできるだけ安い方法をということも要求されますし、また、肉体的に負担のあまりないもの、あるいは場所的な制約というふうないろいろの制約がございます。で、一定時間にできるだけ多数の人がやれるものであって、費用が安くてあまり苦痛を与えないで容易に実施できるものというふうなことが要求されるわけでございます。しかし、やはり胃の集団検診でありますから、これは胃ガン、その他腎疾患の発見が目的であるということから、当然その検診方法は、現在の胃ガンを中心とするところの腎疾患の診断方法の進歩と密接な関係がございます。現段階ではレントゲン検査と胃カメラ、ファイバースコープなどの内祝鏡検査とが腎疾患診断法の両横綱ともいうべきものでございます。したがいまして、集団検診におきましても、この両者をただいま申しましたようないろいろの制約のもとでどのように使用していったらいいかということが問題でございます。これについては、学会における一つの焦点でございまして、また、私たちのこれに関する研究班といたしましても、年々この問題について研究してまいりましたが、現在におけるところのそのまとめといたしましては、まず第一に、実際に当たっては、からだのぐあいその他の調査事項を聞くところの問診と、それから間接レントゲン検査法であるということにされております。そのレントゲン検査法といたしましては、腹臥位、背臥位――寝た位置で二枚、立位正面――立った位置の正面と斜めになった第一斜位の四枚を基本とする。それで、できればこれに適宜得意な方法を加える。そのお手元の全国集計でも、八ページの第八表にありますように、この四枚の撮影が現在最も広く行なわれておるのでございます。もし経済的負担が許されれば、たとえば職場集検というふうな場合には、これに集検用胃カメラ等の内視鏡検査を加えることが望ましいのでございまして、少なくとも第二次検査においては内視鏡検査を行なうべきであるという結論でありました。第二には、レントゲン間接撮影方法でガンあるいはかいようその他の疾患を疑われ、精密検査を必要とする人々が大体一五%から二〇%出てまいりますが、この人たちをいかにして一〇〇%検査を受けさせるかということでございます。ただいまの全国集計では、八ページ中段のところに書いてありますように、このような人たちが一七・五%あります。しかし、その受診率は六六%で、すなわち、三分の一以上がせっかく検診をしても、その後の処置を受けていないという現状でございます。このように受診率が低いのは、初めのスクリーニングと次の精密検査とが直結していないからであります。現在の胃集団検診の集計では、このように直結していないのが、六ページの第五表のように、約半数もあるという現状でございます。われわれの集団検診のやり方は、現地で、その場でスクリーニングと並行して粘密検査を行なうというやり方をやっておりますが、そうした場合の受診率は九〇%以上であります。したがいまして、こういうことは、主として適当な医療施設の不足とか、経済的負担の問題がおもになっておると思われます。
 第三には、発見された患者、ことに胃ガン患者の事後処理の問題でございます。われわれのやりました成績では、発見胃ガン患者に手術をすすめ、家族に話をいたしまして、それぞれの地区の医療機関に手術を依頼しただけで集団検診を終わった場合には、その手術率は四五%の低率で、半数しか手術を受けておりません。しかるに、外科の教室と共同いたしまして、集団検診のあと、直ちに現地で手術をするというふうにやりました場合には八〇%と、二倍近くも手術率が向上しております。これは経済的問題とからみまして、本人があまり症状がなく、普通に生活しているために、胃ガン手術というふうな話をされましても、本人及び家族に切実感がわかないというようなことや、手術しようと思いましても、手術までに間があいてしまうとか、あるいは適当な医療機関が近くにないというふうなことが関係しております。もちろん、以上の受診率を高めるとか、患者の事後処理のためには経済的援助の問題がありますが、これはすでにもうよくおわかりのことでありますので、特別に申し上げる必要はないと思いますが、ただ、現在、第一次の検診によってガンあるいはかいようを疑われた人々が精密検査を受ける場合に、保険の適用を受けられない地区があるということは、私たちはたいへん理解に苦しむところでございます。これはすみやかに全国どこでも精密検査の際は保険の適用を受けられるということをはっきり打ち出していただきたいと存じます。
 次に、この職場集検と外来集検の問題をお話しいたします。職場集検では、以上の地域社会における集検の場合とは違いまして、いろいろの制約の問題はかなり緩和されております。職場集検では対象集団が固定しておりますし、時間的、経済的な制約も少なくて、精密検査を直結することも容易でありますし、事後処理も容易にできますし、また、定期検診あるいは追跡調査というふうなことがしやすいという利点がございます。したがいまして、職場集検は、そこの経営あるいは管理の責任者の方々の理解と衛生担当者の熱意とによって今後大いに拡大強化していくことができると存じます。そして、これはわが国におけるところの胃ガン対策の重要な一環を果たすものであります。また、この仕事は、同時に、職場に多い胃腸病の対策としても、事業所の人的資源の温存とか能率増進の面から見ましても、健康保険組合等の福祉事業として最適のものであろうと存じます。
 で、外来集検ということは、ちょっとあまりお聞きになっておらないかも存じませんけれども、これは私が命名した名前でございますが、この問題は、来年の秋の日本胃集団検診学会でシンポジウムとして討議することでございますが、外来集検の場合は、さらにこれらの制約は少なくなってまいりまして、検診方法も、より高度にすることができますし、集団ドックとも言うべき形をとることも可能でございます。外来集検とは、検診を受けたいと希望する個人がいつでも申し込めて、病院側は週に一回、あるいは月に二回というように日をきめて、二十人あるいは五十人とまとめて外来について集検方式で検査することでございます。これによって、いつでも、だれでも、どこでも容易に検診を受けられるというふうにするわけでございます。これには医師会の協力が必要でありますし、多くの実地医家の方の参加が期待されるわけでございます。また、国家的には、がんセンターあるいは国立病院その他にこのための専門の部科を設ける。先ほども吉田先生からお話がございましたが、既設の施設を大いに活用していくということが胃ガン対策の上でたいへん重要なことであると存じます。で、こういうふうにいたしますと、これらは各地域の胃集団検診のセンター的な役割りを兼ねることができますし、地区の集検でひっかかった人々を精密検査する場合の精密検査機関ともなりまして、先ほど申しましたところのスクリーニングと精密検査を直結させるとか、事後処理の問題が逐次解決されてまいります。こういうふうにいたしました場合には、指定医とか、あるいは指定病院というふうな考え方が必要になってまいりますし、胃の検診のためのチェーン・ホスピタルというふうな考え方が出てくるわけでございます。
 ここで一言付け加えたいことは、がんセンターを新たにつくることもたいへんけっこうなことでございますが、現在の国立病院等が一般の開業医と同じような患者をみておるということをやめまして、このような方面に医師の力を振り向ければ、胃ガン対策をすみやかに推進していくことができると存じます。
 次に、医師の問題でございますが、以上のようにして胃集団検診を推進していくことが日本のガン対策としても緊急、かつ、適切な方法であると私は確信しておりますが、胃集団検診学会といたしましても、すでに全国に十二カ所の拠点を持っておりまして、主として大学のメンバーによって胃集検の実施を推進しております。この運動が拡大強化していきますと、どうしてもそれを担当する医師の問題が出てまいります。この仕事は胃ガンの早期発見ということでございますし、胃疾患にタレントのある方が必要でございますが、そういう専門的な能力を持った医師の予防的活動とも言えるものでありますから、胃集検が普及してくるにつれまして医師を多数必要としてまいります。しかし、先ほど申し述べましたような検診の方法というものはそれほどむずかしいものではなく、従来の私たちの経験では、胃集検の実施に伴なって、これをやり得る医師はだんだんふえてきている状態でございます。一例を申しますと、お手元の三十八年度の集計のときには実施機関数が三十八でございます。ところが、三十九年度のときは百五十五でありまして、わずか一年の間に四倍になっております。で、こういうふうなタレントのある医師というのが集検に参加してそのフイルムの読影をやるというふうなことで、一日五十人以上のフイルムを読影するわけでございますので、習熟するのは、普通の場合と違って、かなり早いのでございます。
 また、一方、胃ガン対策上の問題点といたしまして、病院を訪れる胃ガン患者の手おくれの原因が医療をやる側にある場合が、少数ではありますが、あります。これは診断設備の不足も原因ではありますが、診断方法が実施医家の方々に十分に普及していないということも一因でございます。最初にみた医師が、かりに詳しい検査ができなくて診断がつかないといたしましても、これは怪しいということがわかれば、それだけで精密検査のできる病院に送りまして、手おくれにならずに済むということができるわけでございます。この怪しいということを診断することは、それはちょうど胃の集団検診でスクリーニングをすることと全く同じでございます。この胃集検で行なわれている検診方法は、だれでも容易に実施し得るものでありまして、たとえば先ほど申し上げました四枚撮影法は胃のレントゲン診断の基本的なものでもございますが、この四枚撮影法は診療の忙がしい実地医家の方々でも簡単にやれるものでございます。手おくれの胃ガン患者をなくしていくためには、高度の診断施設と技術を持った機関も必要でありますけれども、しかし、低い中に高い山がぽつんとそびえ立っておるというような状態ではなくして、この低いところを盛り上げて丘にいたしまして、その丘の上にところどころ高いところがあるというふうな形にすることがわが国の胃ガンを撲滅していく上にたいへん重要なことであろうと存じます。
 以上で私の話を終わりたいと存じますけれども、私は、胃の集団検診の必要性、その現況、その得られた成果、また、今後の問題点とその対策等についてごく概略を述べましたが、この胃集団検診の施策が、もはや一日でも早く強力に実行していくことが手おくれの胃ガン患者を一日でも早く少なくしていくということにつながることでございまして、先ほど吉田先生が言われました一億のガンの研究費に感激した方があるというお話でございますけれども、もしも私たちのこの胃集団検診の運動に対しまして一億なり一億なりの援助が得られれば、全国の十二カ所の拠点における医師の養成、あるいは集団検診の実施推進というふうなことが急速に進むであろうということを私は確信しております。また、一方には、この胃集団検診を主体といたしました総合的な胃ガン対策業務を行ない得る機関の必要性を痛感しております。
 御参考になれば幸いと存じます。
#6
○委員長(小柳勇君) ありがとうございました。
 以上で参考人の御意見の開陳は終わりました。これより質疑に入ります。参考人及び政府に対し、御質疑のある方は、順次御発言を願います。
 ちょっと速記をとめてください。
  〔速記中止〕
#7
○委員長(小柳勇君) 速記をおこして。
#8
○藤田藤太郎君 吉田先生にお尋ねしたいわけでありますが、病原体と申しましょうか、病原体がまだわからないから、それが早くわかってその病原体の対策、そこからやってもらいたいという一般の意見がある、こういうことは困るとおっしゃいました。だから、そこのところをもう少し――先生の話を聞いておって、ガン細胞が発達していくというかっこう、その少しわかったものといたしましては、ガン細胞が発達していくところで食いとめることができないか、また、発達していくものを押えることができないかという、そうなってくると、できてきたものの治療――臨床の面から治療をしていただいて、早期発見その他の問題で御努力願っているわけですけれども、ガンの細胞の根元を押えることがどういうわけでできないか、世界的に研究していただいているわけでございますが、一般にノイローゼになるガンの病原体が何らかの形でわかって、それと同じように、何とかここのところに手を打つことができないかという願いが、素朴な意味で、あると思うのであります。この点の学問的なことはなかなか専門の先生方でないとわからないわけでございますが、何かしら普通のできものや炎症が起きたもの、そういうものを取り除いただけでは、どうもガンというか、ガン細胞の中のお話がありましたが、その切開手術をしても、残ったものを、今度はそれが発達しないように薬で押えるその薬の研究をやはりしなければならないというお話がありましたが、そういうことになってくると、これはもう批判とか意見ではなしに、願いとして、そういう病原体のうちにとどめることができないのかどうか、早くそれを研究願えないのかどうか、その予防対策はないのかどうかということが、しろうとの意見と申しましょうか、願いとして私は出てくるのだと思うのですが、そういう点の御解明をもう少しお願いをしたいと思うわけであります。
 それから、もう一つ吉田先生にお尋ねしたいのは、たとえば薬剤の問題にいたしましても、新しい薬剤ができた場合にも、学問的、科学的経過を経ないで、そして使用するようなことがあってはいけないということが、御意見にあったと思いますが、それは何をさしておられるのか、そこのところがちょっとよくわからないので、お尋ねをしておきたい。もうちょっと具体的にお話がしていただければ非常にけっこうです。ガンの問題に関してか、一般論としてのそういうとらえ方をせられたのか、そこらの点をお尋ねをしておきたい。
 それから、有賀先生にお尋ねをしたいのでありまするが、時間がありませんので続けて申しますので恐縮ですが、エックス線で技師が発見する――この前のお話だと三つの方法だというお話がありました。要するに、エックス線で見るということ、それから診察、それから胃の中に写真機を入れてやるという三つの方法でやるんだというお話がありましたが、そのエックス線の技師の能力や資格というものをもっと高めることによって、よりどのような効果がたとえば出るのかどうか、そこらの経験上のお話がしていただければけっこうだと思うのです。
 それにあわせまして、検診車であちらこちらで胃の集団検診をしていただいているわけでありまするが、いま日本全国でやるとしたら、予算的にも、それから数量的にもどれくらいのものを必要とするであろうかという、これはもう腰だめになると思いますけれども、先生のお考えがどの辺にあるかというお話も聞かしていただければけっこうだと思うのです。両先生にお伺いいたします。
#9
○参考人(吉田富三君) 吉田でございます。
 先ほどの第一の点の病原体ということは、これはことばの使い方で、人が病原体と言うときにどういうことを頭に描いているかといいますと、昔からの通念では、病気を起こすようなものがからだの外からからだの中に入ってきて病気を起こす、そのものが病気の原因になるというときに病原体と言っております。生きものですね、微生物が外からからだの中に入ってきて、そのもの自体がからだの中で繁殖して病気を起こすときに、その小さな生きものを病原体というのが、これがどんな人でも頭に持っている病原体という通念だろうと思います。そのとおりだと思いますが、そうしますと、そういう意味の病原体というものはガンにはないのだということがさっき申したところであります。
 ガンという病気を起こす原因になっているものは、からだの細胞が、自分の細胞がガン細胞に変わって、そのガン細胞がふえるということが病気のもとであります。外から入ってきた結核菌というものがからだの中にふえることが結核という病気です。それと同じように、からだの中にできたガン細胞というものがからだの中でふえることがガンという病気である、こういうことであります。ですから、そのガン細胞そのものが外から入ってくるということはない。ガン細胞以外のものが、生きものが入ってきて、そのガンという病気を起こしているのでもないから、ガンという病気に対しては先ほど言った通念にある病原体はないのだと、こういうことになります。
 そこで、国民の願い、人の願いとして、それではどんな原因かによってからだの細胞がその病原体たるところのガン細胞に変わることを押えることはできないかということは、これはまさに研究春がやっているところであります。どうしてそういう変化が起こるのかという、普通のことばでいっている発ガン機構の研究というのがそういうところでありまして、細胞がガン細胞に変わるその機構をよく研究して、そうしてどんな原因かがそこに作用してその変化を押えることができるようなくふうはないかというのが一つの研究の眼目であります。けれども、現在のところでそれの解明ということはまだまだ手のかかることのように思われます。
 そこで、できてしまったガン細胞に対する対策としては、これを取ってしまうということ、先ほどから有賀教授も言っておられた早くそれを取ってしまうということ、それが第一でありますけれども、残ったものに対しては、このガン細胞はからだの中を動きますので、どこにいるかわからないものに対しては薬剤の開発が大切だと。それはできてしまったものに対する、さっき言った意味のガンの病原体の体内ばっこに対する対策であります。
 ですから、病原体ということばと原因ということば、これを使い分ければいいのです。大体その病原体はからだの中にできるのだと考えればいい。そうしてその病原体は何だといったら、それはガン細胞だと、こういうことに考えていただけばいいのであります。そこをあやふやにしておきますと、こういう微小体を自分は発見した、これがガンの原因なんだと。で、この微小体に対するワクチンをおれは発明したよというようなのが出てくると。そういうことであります。そういうことが過去何十年にわたって、洋の東西を問わず、そういう発明者というのがたくさんいるのです、外国にも。で、それはきわめて容易に人を納得させるのです。病原体をこの人はもう発見して、そうしてそれを殺すことができる薬を見つけたのだから、それじゃこれはたいへんいいことだ、こういう簡単な論理で人はひっかけられるわけであります。ビールスという生きものでありまして、こいつがやはり細胞をガンに変えるということがあるけれども、動物の場合ですね。しかし、ガン細胞になってしまうと、もうビールスと絶縁しているのです。ですから、そのビールスに対するワクチンをつくったとかりにいたしましても、ガン細胞はどんどんそれとは無関係にふえるということです。その関係は、たばこをのんでガンになってしまってから、たばこをやめる、あるいはたばこを中和する薬を飲むと同じようなことになるわけです。で、そういうところがごちゃごちゃにされるから、いろいろ混乱を起こすので、そういうところは注意したほうがよかろうというのが、これは私の願いであったのであります。
 しかし、重ねて申しますけれども、その原因というのは、いろいろあるわけです、この細胞をガン細胞に変えるという原因は。そこのメカニズムを研究しております。そうすると、いろいろな原因が寄っても細胞は変わらないなら、ガン細胞はできないわけであります。そこまでいければ、これは研究のもう最終目標であります。
 それから、薬剤をもっと具体的に申せということでありますけれども、最近、新聞紙上をにぎわしたのはSICという薬剤でありました。あれはガンの微小体を発見して、その微小体に対するワクチンでありますから、それを発明して、それによってガンを治療している、こういう研究者の言い立てであります。これは癌学会に持ち込まれまして、そしてずいぶんその研究方法に学問的にきわめて遺憾な点、不備な点がありますので、学会ではこれを強く指摘したわけであります。しかし、実際にこれは患者にきいているのだということをあくまで主張されたのであります。そうなりますと、それは学会の討論の場以外のところにはみ出していったわけであります。そして実際にそれが治療に使われているというのが実情であります。そしてこれほど実際に患者にきいているものを、学会が偏狭で、狭量でこれを抹殺しようとする、それははなはだけしからぬから、よろしくこれを国家の権力でしかるべきところに研究をさせて、これの開発に努力したらどうかということを国会に申されているということを私は聞いていたのであります。
 で、国がそういう態度に出るということがかりにあるとすれば、学問を尊重するゆえんではない、文化国家の行政府としてとるべき態度ではないであろうというのが私の意見だったのであります。それはあくまで学者の間の自由な研究、自由な討論、批判、それにまかせるべきであって、それを生き抜いてきて、そして学問的に正しいという基盤を持ったものが初めて取り上げられるべきである。それが国が自国の、自分の国の科学者に全面的な信頼を置くゆえんであり、それがこういう医学行政においてはきわめて重要な点であるというのが私の申したところであります。
 このSICというものをここで一つの例として取り上げましたことが何らかの影響があっては困ると思いますので、そのSICをやっておる方々に不当な迷惑をかけては困ると思いますので、その点は私もちゅうちょして申さなかったわけでありますが、実際実例を言えということでありますから、それを申したのであります。その方々がそれをやられることも一つの自由でありまして、医師としての範囲の中でやっておられますから、それに不当な妨害を加えたということを言われても私も困りますので、そういうことは、ものの名前をあげることは控えようと思ったのですけれども、言えということでありますので申したので、ここでは言って差しつかえないものかと了解した次第です。そのほかにもいろいろございます。これは外国の例もたくさんあります。
#10
○参考人(有賀槐三君) 有賀であります。
 先ほどのレントゲン撮影法の問題ですけれども、これは立位――立った位置で二枚、寝た位置で二枚というとり方で、とる方法もきまっておりますので、集団検診車の中でレントゲン撮影をするという問題におきましては、レントゲン技術者の技量の発揮をする場はあまりないのではないかと存じます。しかも、一人大体三分以内くらいの時間で集団検診等はやっておりますから、なかなかレントゲン技師の方がここで技量を発揮することはないだろうと存じますけれども、ただ、今後そういう集団検診の撮影のやり方として、撮影条件をどういうふうにしていったらいいかというふうなことは、レントゲン技術者としても一つの研究課題になると存じますし、また精密検査の場におきましては、どういうふうなやり方をしたならば早期胃ガンの発見に役立つかというふうなことを研究していく上においては、医師とレントゲン技術者との共同研究の形になることもしばしばありますので、そういう意味におきましては、レントゲン技術者が現在のレベルよりも向上していただくということはたいへんけっこうな話と存じます。
 それから、次の検診車の問題でございますが、大体四十歳以上の人口をまず二千万人と考えますと、一台の検診カーが一日にゆっくり検診がやれる数というものは大体五十名でございます。大いにやれば八十名くらいはこなし得るのでございますが、大体五十名と考えます。また、一台の検診カーが一年間に稼働し得る日数というふうなことは、まず一年の三分の一というふうな考え方をいたしますと、大体一台のレントゲンカーが一年間に五、六千人を消化するというふうなことになってまいります。これをただいまの二千万人の人たちをシラミつぶしにやるというふうな考え方をいたしましたときには、大体四千台の車が要る。現在は私の知っている範囲内では大体八十台でございますけれども、そのほかにもあると存じますので、大ざっぱに百台くらいのものだろうと存じます。将来四千台まで必要かというふうなお話になりますと、先ほど申しました職場集検とか外来集検とかいうふうなほうがどんどん促進してまいりますと、レントゲン・カーを最も必要とするところの地域社会の集団検診の数というものは、少なくとも半減するだろうと存じます。そういうふうなことから大ざっぱに考えまして、二千台くらい考えておいたらどうであろうか。
 しかし、この場合に、二千台じゃすぐとてもできないということにならないように、あくまでもこういうことは漸進主義でいったほうがいいと思います。十台でも二十台でも、毎年毎年できていくことが必要でありまして、それによって一人でも二人でも手おくれの胃ガンの患者がなくなっていくという体制をとりたいと思います。
#11
○山崎昇君 一点だけお聞きをしたいと思います。両先生のお話をいま聞いておって、これからのガン対策についての御意見もございましたが、それを私なりに考えてみますと、二つになるのじゃないかと思います。
 一つは、がんセンター等の設置も必要であるけれども、むしろいまの大学施設なりあるいは公立の施設なりをもっと拡充整備をしてガン対策に充てるべきではないか、こういうふうにひとつ理解をしたんですが、そのとおりでいいかどうか。
 それから、二つ目には、国はあくまでも政策として積極的に対策を進めるべきだし、また予算の面でもめんどう見るべきであるけれども、実際の研究の主体はやはり学会その他で行なうべきものではないのか、こういうふうに理解をされるんですが、そういうふうに理解していいかどうか。
 二つだけ時間がありませんのでお聞きをしたいのであります。これは吉田先生でも有賀先生でもけっこうでありますけれども、両先生のお話を共通するとそうなるのでございます。
#12
○参考人(有賀槐三君) 有賀ですが、お答えいたしますけれども、このやはりがんセンター、ここでひとつまあ間違っている方はたぶんないだろうと存じますけれども、ガンの専門医ということばは、これは診断面では非常に不適当なことばだと存じます。というのは、やはり胃ガンは消化器の内科の先生が診断をするものでありますし、また子宮ガンは婦人科のお医者さんが診断する能力があるわけでございますし、また喉頭ガンは耳鼻科の先生が診断をすることであります。そういうふうに事診断に関しては、ガンの専門医ということばはないと思います。そこで、がんセンターというものをつくりました場合に、やはり診断面のことを考えますと、各科をつくるということになります。そうすると、すでに国立の病院でも、大学でも、とにかく各科というものはできておるわけでございます。したがいまして、まず現血のガン対策の一番最初にやらなきゃならぬことは早期に発見する、早くガンを診断するということでございますから、したがいまして、そういう施設を充実させるということと、もう一つは、発見された患者さんの治療の面において十分な治療施設を持ったガン病院をつくるということは、たいへんけっこうじゃないかと思います。
#13
○丸茂重貞君 ただいま吉田先生と有賀先生にたいへんいろいろ有益なお話を承ったんですが、はからずも両先生がいまのガン対策の二つの柱についてお述べになったんですが、まず第一点は、ガンの本体をきわめるということが何よりの予防の第一であり、これは吉田先生もお述べになったとおりですが、ガンの本体をきわめるということになりますると、これはたいへんなことになると思うのです。これはもう場合によりますと、医学者だけじゃなく、生物学者あるいは薬学者、あらゆる方面を網羅した総合的な機関をつくらなければいかぬ。私、正直に申し上げますと、昭和四十年度予算の編成の際にも、四十一年度予算の編成にあたっても、政府はこの際思い切ってガン対策に百億を出せということを強く主張したんです。これはいろいろな事情でとうとう実現しませんでしたけれども、私はこれはもうあくまでも叫び続けていくつもりです。私はそのときに、百億を十年計画、一千億出せ。私としては足らない額だが、国家予算を考えると、百億をこの際思い切ってぽんと出して、とにかく自由に使えということでガン対策を立てる、このぐらいのことはやらないと、なかなかガン対策はできないということでだいぶんがんばったんですが、ただ、私がその際に非常に心配したのは、もし、よし百億出そうということになった場合に受け入れる組織のほう、学会にいたしましても、役所にいたしましても、いま吉田先生がちょっとお触れになりましたように、なかなか分かれておってむずかしいということがあるわけなんです。幸い世論もこういうことになってまいりましたし、国民はだれでもガンのおそるべきことは知っているので、来年度の予算編成になると、私の主張はますます通しやすい客観情勢ができてくると思うのです。ところが、さて予算は百億出そうということになったと仮定いたしましても、それを受け入れまするところの研究機関にいたしましても、役所にいたしましても、いまのままではとうていこの百億を消化して効果ある使い方ができるかどうかということを非常に私、疑問に思っているわけです。これはいまの吉田先生のお話をここに承っておっても、おそらくそう私と違わない気持ちを持たれると思うのです。これを癌研に百億出しても、まことにことばが過ぎるかもしれませんが、ねらうような成果は早急には出なかろう。あるいはがんセンターに出しても同じだということになりますと、これはまことにもう臨床と本体をきわめるという問題と、それから、いま先生が結論的に薬物だということを考えあるいは患者を早期に発見するというふうなことを考えますと、これはもう相当大きな有機的な組織がないと、なかなか効果はあがらない。もしその組織が有機的にでき上がれば、少ない百億であっても相当な効果をあげ得る日本医学界の水準だと私は信じています。
 こういう点について、まず第一に吉田先生にお伺いしたいことは、かりにいま一億の予算でも泣かれた。百億、これは私は非常に少ない額だと思っておりますが、そういうふうなことが幸い行なわれた場合には、学会あるいは役所、役所はあとで聞きますが、特に学会を中心にしてそれを効果的に使って、何と申しまするか、期待に沿い得るような方向に研究が進められるかどうか、こういう点をまず第一にお伺いしたい。
 それから、第二は有賀先生の……。
#14
○参考人(吉田富三君) そこから話さしてください。丸茂さん、さっきから私の話をお聞きになっておられたのかどうか、少し誤解があるようなので、その点をただしたいと思います。
 金をたくさんちょうだいしても、学会が分かれていて、なかなかこれは使い切れないというふうに理解をされておりますが、それはどこのところでそういうふうに御理解になったのかわかりませんが、そういう考えは私は持っておらない。私は昨年の暮れに日本のガン対策推進方策についての意見書というようなものをつくって、これを文部省の方々などに見ていただいておりまして、それの中で私が申しましたことは、現在文部省を基盤にしてガン研究学会体制をつくっておりますところで、学者から要求されている金額を基準にして考えますと、現在のところ年間十億円をほしい、基礎的研究のところです。それは要求額の約三分の一だと思います。ということは、実現可能な範囲ということで考えましたので、十億という数字が出ておりますが、五年計画で十億を一期としてとにかくまず出すことから国は基礎研究のほうは推進したらよかろう、こういう意見を述べております。いま丸茂さんが言われる。百億を出したらびっくりするのじゃないかということでありますが、現在額が、先ほども申しましたが、整備の緊急費用として要求しているのは、各大学病院平均十億であります。これは二十五の大学といたしますると二百五十億であります。これでやっと大学の付属病院全体としての整備が整うのであります。先ほど有賀教授もまことに正当に申されましたように、ガンの専門医という言い方は適当でないということであります。すべての医学知識を持った人がガンの診断もできるのでありますから、大学をガンの検診治療の基盤としてひとつ使おうとすれば、まずその大学なり大学付属病院として完全なものに整備しなければならぬ。それには二百五十億かかるわけであります。そうした上でガンの病床をふやしていくというようなことであれば、百億というお金はそれほど大きな、それにかかっていくということになれば、決してびっくりして気が遠くなるような金ではないのであります。
 ただ、私が申しましたのは、今日までいかに悲惨であったか。一億でさえ感激をするような人があったくらい悲惨なことであった、そういうふうに申しましたので、一億もらってびっくりして泣いたというのではないのであります。そこのところは誤解のないようにお願いいたしたいと思います。われわれは幾らでも金をくれたら幾らでも使ってみせるというような、そういうようなことは申しませんけれども、少なくとも結核においてすでに三百二十億昨年出して、今年も三百七十億からの要求があるということを聞いておりますが、結核はそうやって克服されてきたわけであります、過去何十年も。ガンについては三十億出るかどうかということがいまの時点で問題であるということをいって、私は比較に申しましたが、百億というようなことが一挙にして出していただければきわめてけっこうで、これは必ず消化される、その点は御心配ないと私は信じております。
#15
○丸茂重貞君 どうもたいへんありがとうございました。ただ、ちょっと私のことばが足らなかったんでしょうか、私は各大学病院に交付する予算を言っているのではないのです。これは中央で、あるいは一つの組織のもとに、ガンを制圧するのだという組織のもとに、単一にそれだけやろう、これを私は申し上げております。
#16
○参考人(吉田富三君) 私が申し上げましたのは、大学でこれにすでに二百五十億使えるのだが、五百億あればいいだろうというのであります。
#17
○丸茂重貞君 これは多ければ多いほどけっこうなんで、よくわかるのです。ところが、まことに情けない予算でして、これはわれわれも努力しなければならぬと思うのですが、ところが、各大学が個々に研究を進める。もちろんこれはオルガに出てくる病気ですから、当然そうあるべきでしょうが、いま先生おっしゃったように、これを決定的になおすという、とってしまうというのは治療ではないですから、本体はやはり薬でなおしていくということなんですから、各大学が個々にやるほうが効果的であるか、あるいはそういう知識を一堂に集めて、一つの組織に集めて、相互に連絡をとってやるほうが有効であるとかということになると、私はしろうとですが、やはり単に医学者だけでなくて、生物学者とかあるいは物理学者、化学者、こういう方々の総合的な知識を糾合しないと、ガンというものは制圧できないくらい底知れないものだという気がほのかにするわけなんです。先生のおっしゃるように……
#18
○参考人(吉田富三君) それはほのかにではないのです。私が最初に言いました二本の柱がある、一つは御承知のとおり、あらゆる知能を結集した基礎的研究で、このガンという病気は今日までの研究の結果は必ず克服できるものだという理解にまで達しているので、この確信に立って国策を立てていただきたいと、そういうことを申しましたので、それは基礎研究で、それには医学、生物学、すでに結集しております。そういうところで今日一億とか二億とかいっておりますので、せめて十億まで伸ばしていただきたいという、その点一つ。それから、現在ある、先ほど有賀教授のお話に四十以上の人口層では、千人に五人の患者がガンを持っている人が実在するのだ、それを拾い出して、それに治療を加えるという方策、基礎研究を一本、一方でそれを現実の問題としてやるという、この二本をお国としてはなさるべきであろう、そういう考え方でございます。
#19
○丸茂重貞君 どうもありがとうございました。
#20
○委員長(小柳勇君) 時間が……。
#21
○丸茂重貞君 有賀先生にまだ残っておりますが……。有賀先生、たいへんありがとうございました。私は実は群馬県の対ガン協会の理事として集団検診に行っているのです。これは先生のおっしゃるとおり、いろいろな隘路があると思います。いま私は、対策のうち一本を吉田先生にお伺いしたわけです。当然、先生の分担されていることは非常に重大なことなんですね。もう対策は両者が並行した、相緊密に連絡をもっていかなければいかぬということは、よくわかるのです。このことは、本体をきわめるより非常にやさしいわけですね。予算があればある程度拡充し、実績をおさめられる。これは非常にやりいいだろうと思うのです。この点は非常に、きょう私、先生のお話を承っておりまして、力強いし、この方向には非常に発展性がある、予算も非常にある程度わかりやすいかっこうで使えるという自信を持っております。ただ、実際に私らがやってみますと、いま先生が言われたガン検診車が行ってあやしい者を引っぱり出す、そしてそれを精密検査をするから来い。来る率がたしか五〇%でしょう。群馬県では四〇%くらいしか来ないのです。なぜ来ないかというのを調べてみましたら、大体僻地ほど来ないのです。だから、そういうことですから、この問題は、いま先生のおっしゃるような方向と一緒に、われわれは、何と申しますか、総合的に地域の、僻地に対するいろいろな問題と一緒にやらなければいかぬという気がいたすわけです。
 そこで、私は医務局長に、対ガン協会、これはいま民間がやっているわけでしょう。そこで、この対ガン協会が、とにかく大きな問題だから、マスコミの助力を得なければならぬ。ところが、このマスコミが、ある一社が特にやっているのです。ところが、私の印象かもしれませんが、一社は非常に力を入れてくれているが、反動かどうか知りませんが、どうもそのほかの社が、何となく十分じゃないという印象を非常に受けるのです。この点は、私は、対ガン協会の活動が非常に障害を受けるようなことになるのではないかということを心配するのです。この点をひとつ説明してくれませんか。
#22
○政府委員(若松栄一君) 対ガン協会が民間活動として活発な動きを示してきておりますことは、私ども非常に感謝しております。しかし、お話のように、マスコミの中の大きな一社の支持が非常に強いために、多少他の協力が得られないという点は事実でございます。そういう点も考えまして、何とかこれを真の全国民的な組織にしたいという気持ちがあります。なお、対ガン協会のほかにも、有賀先生等の特に御関係のある集団検診と胃の検診とを主体として全国的な団体の結成等もございますので、それらの点を考慮いたしまして、総合的な、しかも強力な、できるだけ単一的な団体を育成していきたいというつもりで、現在検討を始めております。
#23
○委員長(小柳勇君) それでは、十二時でやめる約束ですから。
 なお、政府がせっかく概算したようでありますから、さっきの有賀先生のお話について答弁を求めますが、精密検査は保険の適用はしない、適用してくれという話がありましたから、それで条件をつけて、概算でいいから、政府で試算したことをちょっと発表してください、どのくらい金がかかるか。
#24
○政府委員(若松栄一君) これはきわめて概算的に申しまして、たとえば、四十歳以上二千万人――これは仮定の二千万人でございます。二千万人で、一件、保険点数等で実施いたすといたしますと、約二千円程度かかる。これに八割の国庫負担をいたすといたしますと、約三百二十億という計算になります。
#25
○委員長(小柳勇君) 他に御発言もなければ、本件に関する質疑は、本日はこの程度にとどめておきます。
 参考人の皆さまに申し上げます。本日は長時間にわたり、貴重な御意見の御開陳を賜わりありがとうございました。本委員会といたしましては、皆さまの御意見を参考とし、国会の立場よりガン対策の確立と推進に努力を傾注してまいりたいと存じております。なお、今後とも本件に関する資料の収集等には御協力をお願いするとともに、御要望の点などがございましたら、本委員会に御連結くださいますようお願い申し上げます。本日はありがとうございました。
 次回の委員会は委員長に御一任願いたいと。追って公報をもってお知らせすることとし、本日はこれにて散会いたします。
   午後零時九分散会
     ―――――・―――――
ソース: 国立国会図書館
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