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1962/01/23 第43回国会 参議院 参議院会議録情報 第043回国会 本会議 第3号
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1962/01/23 第43回国会 参議院

参議院会議録情報 第043回国会 本会議 第3号

#1
第043回国会 本会議 第3号
昭和三十八年一月二十三日(水曜日)
   ○開 会 式
 午前十時五十分 参議院議長、衆議院参議院の副議長、常任委員長及び議員、内閣総理大臣その他の国務大臣及び最高裁判所長官は、式場に入り、所定の位置に着いた。
 午前十一時 天皇陛下は衆議院議長の前行で式場に入られ、お席に着かれた。
  〔一同敬礼〕
 午前十一時一分 衆議院議長清瀬一郎君は式場の中央に進み、次の式辞を述べた。
   式 辞
  天皇陛下の御臨席をいただき、第四十三回国会の開会式をあげるにあたり、衆議院日参議院を代表して、式辞を申し述べます。
  現下の内外の情勢に対処して、われわれはこの際、広く諸外国との友好親善の関係を深め、世界平和の達成に寄与するとともに、産業経済の発展、社会福祉の充実、教育及び科学技術の振興等、各般にわたり適切な施策を推進し、ますます国家の繁栄を図らなければなりません。
  ここに、開会式を行なうにあたり、われわれに負荷された重大な使命にかんがみ、日本国憲法の精神を体し、おのおの最善をつくしてその任務を遂行し、もつて国民の委託にこたえようとするものであります。
 次いで、天皇陛下から次のおことばを賜った。
 おことば
 本日、第四十三回国会の開会式に臨み、全国民を代表する諸君と親しく一堂に会することは、わたくしの喜びとするところであります。
 現下の国際情勢は、まことに多端でありますが、この間に処して、わが国が諸外国との友好を深め、世界平和の達成に貢献していることは、諸君とともに喜びに堪えません。また、内にあつては、全国民が相協力して、憲法の理想とする民主主義の本義を守り、民生の安定向上と経済の発展とのため、たゆみない努力を続け、着々とその成果をあげつつあることは、わたくしの深く多とするところであります。
 しかしながら、内外の諸情勢に対処して、国運を繁栄に導き、世界の信頼をいよいよ高めてゆくためには、なおいつそうの努力を要することと思います。
 ここに、国会が国権の最高機関として、その任務の達成に最善を尽くし、国民の信託にこたえることを切に望みます。
 〔一同敬礼〕
 衆議院議長はおことば書をお受けした。
 天皇陛下は参議院議長の前行で式場を出られた。
 次いで一同は式場を出た。
  午前十一時七分式終わる

昭和三十八年一月二十三日(水曜日)
   午後三時九分開議
    ━━━━━━━━━━━━━
 議事日程 第三号
  昭和三十八年一月二十三日
   午後三時開議
 第一 国務大臣の演説に関する件
    ━━━━━━━━━━━━━
○本日の会議に付した案件
 一、日程第一 国務大臣の演説に関
  する件
    ━━━━━━━━━━━━━
#2
○議長(重宗雄三君) 諸般の報告は、朗読を省略いたします。
     ―――――・―――――
#3
○議長(重宗雄三君) これより本日の会議を開きます。
 日程第一、国務大臣の演説に関する件。
 内閣総理大臣から施政方針に関し、外務大臣から外交に関し、大蔵大臣から財政に関し、それぞれ発言を求められております。これより順次発言を許します。池田内閣総理大臣。
  〔国務大臣池田勇人君登壇、拍手〕
#4
○国務大臣(池田勇人君) 第四十三回通常国会の再開に際し、明年度予算とその他の重要案件の御審議を求めるにあたり、内外の諸問題についての政府の所信を明らかにし、国民諸君の理解と協力を得たいと存じます。
 終戦以来、われわれ国民は、貧困と窮乏から抜け出して生活の安定と向上をはかることに必死の努力を傾注して参りました。そして、今や、われわれは、かつては国家発展を制約する宿命的な原因と考えられていた、国土の狭小、資源の貧弱、人口の過剰等の困難な諸条件を克服しつつあるのであります。国民総生産の規模は、すでに十八兆円をこえ、西欧先進国の水準に迫っております。最近、欧米諸国がわが国を有力な市場として注目するとともに、低賃金国としての悪評も、また根強い対日差別観も、ようやくにして緩和のきざしを見せて参りました。
 経済のこのような繁栄に伴い、わが国は、自由主義陣営の重要な一員として、世界平和推進の政治的な役割についても世界各国から高い評価を受けるに至り、さらにはまた、発展途上にある新興諸国に明るい希望を与えておるのであります。
 このような成果は、わが国民の創意と工夫の結果であります。今日の時代において、一国の運命を決定するものは、領土の大小や保有する金の分量ではなく、われわれ自身の決意と努力であることを立証したものであります。これは、一つには、民主主義を国是とした自由な体制が進んだこと、また、一つには、 サンフランシスコ条約、安保体制の確立によって、わが国自身の安全を保障し、極東の安全ひいては世界の平和が確保されるなど、環境と条件に恵まれたことも、あずかって力があったのであります。
 しかし、われわれは、この程度の成果に安住し、これに満足することはできません。経済が目ざましく発展したといっても、過去の蓄積が乏しく、国民一人当たりの所得は、欧米諸国に比べてなお相当の開きがあるのであります。また、道路、住宅、環境衛生施設など社会資本の分野においては、歴然とその立ちおくれが看取されるのであります。国家、民族、伝統等に対する敬愛の念、社会生活における公徳心、公共心についても、なお欠くるところがあることを否めないのであります。
 私は、今後、世界の平和とわが国の安全、国民創造力の発揮などを基盤として、順調な成長を続けつつある経済をさらに伸長するとともに、その内容を充実して均衡のとれたものとし、一方、真の自由を体得した近代的市民生活の秩序を確立し、もって福祉国家の建設に努めなければならないと思います。
 私があらためて「人つくり」、「国づくり」を強調しているゆえんも、ここにあるのであります。
 人つくりについて申し上げます。
 人つくりは、国づくりの根幹であります。輝かしい歴史を生み出すものは、世界的な視野に立ち、活発な創造力と旺盛な責任感を持った国民であります。国民の持てる資質を最高度に開発し、それを十二分に発掘することは、民族発展の基礎であり、その発展を通じて世界人類に寄与するゆえんでもあるのであります。このような人つくりは、国民一人一人がみずからの問題として精進すべきことであります。われわれ政府の任務は、家庭、学校、社会のそれぞれの場において、このような機運を醸成し、そのための環境と条件を整えることにあるのであります。人つくりの主たる対象は、何といっても将来をになう青少年でありましょう。青少年が心身ともに健康で、能力に富み、真の自由を体得するとともに、みずからの責任を果たし得る自主性を養い、祖国の伝統につちかわれた豊かな創造力を十分に発揮して、わが国の繁栄と世界の平和に貢献し得るよう、私は心から願うものであります。
 わが国における教育の普及は、世界の最高水準にあるのでありまするが、その内容については、反省を要する点が少なくないと思われます。政府は、まず、青少年の教育に携わる指導者、教育者の自覚を促し、その資質の向上をはかるとともに、道徳教育の充実、科学技術教育の振興、育英事業の拡充、私学の助成強化、義務教育における教科書の無償供与、学校給食の拡充等を実行することといたしました。また、社会教育及び体育についても一そうの充実強化をはかっております。
 指導的人材の育成と学術振興のにない手である大学においては、認証官学長制度を設ける等の措置を講じ、その運営が自主的に適正化されることを強く期待するものであります。このほか、心身に障害のある人々、家庭環境に恵まれない子供たちや、取り残された青少年の処遇とその能力開発についても、一そうの配慮を加えることにいたしました。
 新聞、ラジオ、テレビ等は、家庭、学校、社会の三つを通じ、人つくりの環境を整える最も強力な手段となりつつあります。最近におけるテレビの普及は、とのことを決定的にしたものといっても過言ではありません。私は、これら言論機関の責任者が社会教育の先達者であるとの誇りと責任をもって、人つくりに一そうの力を尽くされるよう期待してやまないものであります。
 人つくりは、それにふさわしい社会的、政治的環境が不可欠の要件であります。しかも、その環境は、われわれ社会人が近代市民としての自覚を持ち、そのルールを守ることによって確立されるものであります。この意味において、私は、深い反省と自戒のもとに、政治に携わる諸君とともに、国民のよりよき代表となり、わが国民主化の確立に懸命の努力をいたす覚悟であります。
 当面の経済情勢と経済運営の基本方針について申し上げます。国づくりの骨格は、産業間、地域間の格差の是正と、産業の近代化、社会資本の充実、雇用の拡大、消費者物価の安定、社会保障の拡充等に深く留意しつつ、調和のとれた経済成長を推進し、もってすみやかに高度の生活水準を実現することであります。最近の経済の情勢を見ますと、一昨年来の金融引き締め措置等、一連の景気調整策が着実に効を奏したのであります。今年度末の外貨準備高も十八億ドルをこえる見通しとなりました。政府としては、今後、国際収支の均衡に十分留意しつつ、財政金融政策その他各般の施策を適切に運用して、正常にして力強い経済の発展をはかって参る考えであります。私は、政府民間相協力して努力をするならば、わが国の経済は、秋を待たずして好況に転じ得るものと確信いたすものであります。
 経済成長について当面克服すべき試練は、自由化の問題であります。貿易為替の自由化はわれわれ自身の利益であり、自由化は経済成長を促進するものであっても、それを抑制するものではありません。大事なことは、自由な国際競争に耐え得るだけの経済力を強化することであります。このためには、国民経済全体として、国際的な視野に立って、生産性の向上と国際経済環境の変化に即応する産業体制の確立を進めていくことが要請されるのであります。政府としては、道路、港湾、輸送等の社会資本を充実して産業基盤を強化し、科学技術の振興に特段の配慮を加え、資本の蓄積とその効率的運用並びに金利の国際水準へのさや寄せをはかり、民間における企業合同等、生産規模の拡大合理化を進め得るような施策を講ずる必要があります。さらに、輸出の拡大をはかるためには、秩序ある輸出体制の確立が喫緊の要務であります。
 今や、経済は全面的な近代化革命の時代であります。農業や中小企業における人手不足の出現がそれを示しております。すなわち、近代的な諸産業の導入と拡大によって生産性の高い職場が拡充され、多数の従業者の労働条件が向上し、近代化するとともに、農林漁業や中小企業における近代化の必要性と可能性が急速に表面化したのであります。政府は、この現状に対応して、わが国農林漁業の近代化と経営の安定をはかるため、長期かつ低利の資金を円滑に融通する制度を創設するとともに、農業基本法の主旨に基づき、農業構造改善事業等、諸般の施策を引き続き強力に実施することはもちろん、林業、漁業についても、これと並行して所要の処置をとって参りたいと思います。
 中小企業につきましても、中小企業の近代化を進める根本方向を確定するため、今国会に中小企業基本法案を一連の関係法案とともに提出することとし、また、財政上、税制上の助成策を強化したのであります。
 地域格差の是正が経済の均衡ある発展上必要なことは言うまでもなく、政府は、後進地域の開発と産業の適正配置等に一そうの努力を傾ける考えであります。
 なお、需要構造の変化等の観点から問題のある、石炭、非鉄金属、海運等についても、政府は、関係各界の自主的努力と協力を期待するとともに、あたたかい配意をめぐらし、でき得る限りの援助をする所存であります。
 国民経済の発展のためには、その動脈ともいうべき、道路、港湾、鉄道等について、早急に抜本的な整備を推進する必要があります。また、わが国特有の災害については、これを未然に防止できるよう治山治水計画を促進しなければなりません。さらに、生活環境の改善、特に、住宅建設の推進や上下水道の整備は、国民生活の向上と相待って近年とみに緊急な課題とされております。しかるに、従来は、わが国の生産性の低さと生産能力の不足のために、社会資本に対する要求を満たすことができず、これら施設は著しい立ちおくれを見たのであります。
 最近数年間における合理化、近代化を目ざした民間設備投資の急増は、このような要求を飛躍的に充足する力を生み出したのであります。この力を生かさなければなりません。それによって、この国土の全体を健康で住みよいものになし得るのであります。三十八年度予算は、この方向における大きな前進であることを私は確信するものであります。
 およそ経済成長が生産性の向上を不可欠の条件とすることは申すまでもありませんが、それは国民の多数を生産性の低い職場に拘束したままで実現できるものではありません。低い生産性を温存することによってではなく、前向きに、高い生産性に脱皮することが肝要であります。これがためには、従来の年功序列賃金にとらわれることなく、勤労者の職務、能力に応ずる賃金制度の活用をはかるとともに、技能訓練施設を整備し、労働の流動性を高めることが雇用問題の最大の課題であると思います。
 今後の雇用情勢は、全体として、相当数の増加が見込まれますが、石炭や非鉄金属等一部においては、引き続き離職者が発生するものと考えられます。政府としては、職業指導、職業訓練、失業保険制度など、従来の失業対策を大幅に改善強化するとともに、産業災害の防止にも格段の努力を傾注する所存であります。
 ILO八十七号条約については、でき得る限り早急にその批准をいたしたい政府の基本方針に変わりはありません。関係法案とともにこれを本国会に提出することにいたしております。
 卸売物価が軟調であったにもかかわらず、消費者物価が上昇したことは、この際特に留意しなければなりません。この上昇は、所得水準の向上によって、消費需要が旺盛になったこと、サービスの価格が上昇したこと、並びに、産業構造の高度化に伴い資本費が増加したことなどが基本的原因であります。このことは、わが国経済が急速に西欧先進諸国の水準に近づき、所得格差が是正され、物価体系が近代化されつつある過程においては、ある程度やむを得ない面もあると思います。今後の対策としては、合理的理由のない値上げについて極力抑制することはもちろん、農林漁業、中小企業の生産性向上について指導助成措置を講ずるとともに、宅地造成と住宅建設の促進による地価及び家賃の抑制、消費物資、特に生鮮食料品の供給力の増大、流通過程の整備等の方策を進め、国民生活が脅かされないよう万全の努力を払う考えであります。
 言うまでもなく、日本の経済成長は、われわれの幸福と繁栄の条件を増進するためのものであり、経済の繁栄を推進する機会とその成果を、すべての国民にひとしく分かち与えるためのものであります。社会保障制度の意義は、病人とか生活能力の乏しい人々に援助の手を差し伸べ、働き得る人々を病苦と貧困から解放し、再び建設的創造的な活動に復帰せしめることにあると思います。
 社会保障の拡充につきましては、政府はつとに最大の努力をいたして参りましたが、来年度も引き続き、生活保護基準の大幅な引き上げ、福祉年金の増額等、低所得者対策に最も意を用いました。医療面においても、国民健康保険の内容改善、結核、精神衛生対策の強化等、一段とその前進を期することとしたのであります。
 次に、外交について申し上げます。
 一国が世界の動きと無関係にその安全と繁栄をはかることは不可能であります。以上述べてきました人つくり、国づくりが真に実を結び、わが国が一そうの繁栄をかちとるためには、わが国が国際社会の一員としての役割と責務を忠実に果たし、世界平和に寄与することが必要であります。このことがまた、わが国の国際的信用を高め、その安全を全うし、わが国を繁栄に導くゆえんであります。私がかねがね内政と、外交の一体を唱えているのも、まさにこの点に存するのであります。
 昨年は、インドシナ半島における情勢の緊迫化、中印間の国境紛争、キューバをめぐる危機の発生、さらには中ソ対立の顕在化等、国際政局はまことに多事多難をきわめた年でありました。なかんずくキューバ問題は、幸いにして戦争の破局に発展することなく、未然に防止されましたが、これは、米ソ両国首脳が、戦争が人類を破滅に陥れることを十分に認識して、良識ある忍耐強い努力を払ったためであります。しかし、その背後に、米国のかたい決意と中南米諸国を初めとする自由陣営全体の確固たる団結があったことを見落としてはなりません。ざらにキューバ問題は、西欧陣営に、政治的、軍事的、経済的並びにこれらの総合的な力に対する自信を与えたものと考えられます。
 しかしながら、東西陣営間の基本的対立関係や、各種の国家的利害関係の対立は、依然として根強いものが存することには変わりはありません。私は、世界各国が波乱に満ちた昨年の国際情勢の推移を反省し、国際紛争は、すべて平和的手段によって解決するという国連憲章の根本精神を厳守するよう強く訴えるものであります。この意味におきまして、私は、軍縮問題、なかんずく核兵器実験停止協定締結のための交渉が、さらに進展を見ることを強く期待するものであります。政府は、かねてより有効な核実験禁止協定の早期締結について強く働きかけてきましたが、最近、地下実験の査察方式について、米ソ両国間の話し合いに打開の糸口が出てきたことを喜ぶものであります。私は、関係国がさらに一段の熱意をもって協定成立に到達することを、強く要請し、本年こそ話し合いによる緊張緩和に新たな第一歩を踏み出す年となることを期待してやみません。
 昨年は、わが国の対外経済発展の上からも、まことに意義深い年でありました。去る十一月、多年の懸案でありました日英通商航海条約の署名をみるに至り、また、その他西欧諸国との間にも、対日輸入制限の緩和ないし撤廃について原則的了解に到達し、さらに経済協力開発機構への加入についても明かるい見通しを得るに至りました。これらの事実は、西欧諸国のわが国に対する信頼の向上、北米に加えてわが国との協力提携を緊密にしようとする意図の現われにほかならないのであります。しかし、今後日本と西欧諸国との間の経済関係がさらに発展の道を進むかいなかは、わが国がこれら諸国の信頼を維持し、さらにこれを強化し得るかいなかにかかるところがきわめて大きいのであります。したがって、私は、特に秩序ある輸出体制の整備強化について、政府民間相協力して、一そうの努力を必要とすることを重ねて強調いたしたいと思います。
 今後西欧諸国は、経済統合のもとにさらに繁栄を続けるものとみられ、米国は、通商拡大法の成立により貿易の拡大をはかる態勢にあり、これにカナダを加えた先進工業国は、関税の一括引き下げを含み、相互の貿易の一そうの自由化拡大の方向に向かうものと予想されるのであります。わが国といたしましては、このような趨勢に対応して、関税一括引き下げ交渉にみずから参加するとともに、貿易の自由化についても一そうの努力をいたす所存であります。
 ソ連との貿易が次第に増大の方向に向かい、対中共貿易も再開の緒につき、東欧諸国がわが国との貿易の促進に目を向けつつあるなど、共産圏諸国との貿易は増大の機運に向かっているのであります。しかし、これら諸国の経済状況を見るとき、貿易の伸長に多くの期待をかけることは困難であります。政府といたしましては、これら諸国との貿易を行なうにあたり、自由陣営の一員としての立場を考慮しつつ、自主的判断のもとに、これを進めて行く従来の方針に変わりはありません。
 先進工業国の経済発展が明かるい前途を約束されている際に、われわれは、発展途上にある新興諸国家の前途にも目を向けることを怠ってはならないのであります。もし先進工業国と新興諸国との経済上の格差がますます拡大するごとき結果となるならば、調和のとれた世界の発展を阻害し、世界平和の維持をも危うくするものであるといっても過言ではありません。先進工業国の経済的繁栄は、新興諸国家の政治的安定と経済発展に依存するところがきわめて多いのであります。私は、この意味において、アジアにおける最も進んだ工業国としてわが国の責務の重大さを痛感し、本年は、アジアを中心とする発展途上にある諸国家に対し、経済協力を一そう積極的に推進する所存であります。
 日韓交渉とビルマ賠償再検討問題は、いずれもわが国のいわゆる戦後処理として残された懸案であります。この意味におきましても、私は、できる限りすみやかに交渉が妥結に到達することを希望し、これがため格段の努力をなさんとするものであります。私は、これらの問題に取り組むにあたりまして、単なる過去の懸案を解決するとの立場にこだわらず、新興諸国に対するわが国の寄与を通じて相互の発展と繁栄をはかるという大局的見地に立ち、相手国の理解を得て交渉を促進し、諸問題を解決するよう最善の努力を傾ける所存であります。
 われわれは今、大きな歴史的課題の前に立っています。われわれは、世界の平和と繁栄のため独特の貢献をなし縛るはずであります。われわれの力はまだ十分でないかもしれません。しかし、私は、世界の平和と繁栄は、大西洋の両岸の国々だけでささえるよりも、アジア大陸の東岸、太平洋の西岸に位するわが国を加えた、三木の柱でささえる方が、はるかに強固となると考えます。
 私は、この世界史の課題に対し、日本国民が堂々と立ち向う意欲と情熱と能力を持っていることを信じて疑わないものであります。(拍手)
    ―――――――――――――
#5
○議長(重宗雄三君) 大平外務大臣。
  〔国務大臣大平正芳君登壇、拍手〕
#6
○国務大臣(大平正芳君) 今日の世界情勢は、キューバをめぐる危機の発生と、その収拾を契機といたしまして、一つの大きな転機を迎えたと思います。そして、それは、世界政治の指導的立場にある諸国家が、世界平和の維持に決定的な責任をもっていることを立証するとともに、すべての国々が、平和的手段により国際紛争を解決する精神に、より深く徹することの重要性を示唆するものであると思います。さらに、今後、世界が平和を維持しつつ、その調和ある発展と繁栄を遂げるためには、各国が、それぞれ、国際社会の一員として、その分に応じ、広い基盤にわたって、国際的協力を積極的に推進いたします必要のあることは申すまでもありません。
 わが国は、その国力の伸張と国際的地位の向上に伴いまして、世界の平和と繁栄に対し、ますます重い責任を負担するに至りました。私は、国際的役割と責任が増大すればするほど、わが国といたしましては、常に冷静に国際情勢の判断を誤らず、その国際環境にふさわしい地道な努力を、積み重ねて参りたいと思います。
 私はこのような観点に立ち、過去一年にわたるわが国外交を回顧しつつ、当面する外交案件について、若干の展望を試みたいと考えます。
 旧臘、第十七回国際連合総会は、平穏のうちに幕を閉じましたが、加盟各国が、いたずらに自国の宣伝と他国に対する非難に終始することなく、軍縮、経済開発その他、世界の平和と繁栄にかかわる諸問題の討議に積極的に参加いたしましたことは、国際連合の権威を高める上に意義深いものがあったと思います。わが国は、従来より、国際連合に積極的に協力して参ったのでありますが、本総会においても、引き続き経済社会理事会理事国に選出されました。このことは、国際連合におけるわが国の活動が高く評価された結果にほかならないと考えます。
 この総会において取り上げられました議題の中で、すみやかにその解決を迫られているものは、核兵器実験停止の問題であることはあらためて申すまでもありません。その成否は、一に、地下爆発の疑いある場合に査察を認めるか否かにかかっているのであります。この点について、最近米ソ両国間に、直接、問題解決のための交渉が行なわれております。私はこの話し合いが円滑に進み、有効な核兵器実験停止協定がすみやかに締結されますよう強く要望するものであります。政府といたしましても、引き続き積極的な働きかけを行ないたいと存じます。
 次に、わが国の直面する外交問題を地域別に概観いたします。
 まず、米国との関係は年を追うて緊密の度を加えております。日米貿易経済合同委員会及び日米科学委員会は、一昨年以来二回にわたりまして開催され、また、日米文化教育会議も、来たる十月には第二回の会合を行なうこととなっております。さらに、安全保障協議委員会も随時開かれております。このように、政治、経済、文化の広範な分野にわたり、日米両国間に意志の疎通が活発に行なわれております。米国との関係は、もとよりわが国の安全と繁栄に至大の関係があり、日本外交の根幹であることは申すまでもありません。安全保障の分野における日米協力は、すでに日米安全保障条約に明らかにされているとおりであります。他方、経済の分野における協力は、文化や科学の面における協力とともに、今後ますます発展せしむべきものであります。政府は、今後とも、米国との間に、相互の信頼を深め、幅広い接触を保ちつつ、緊密かつ円滑なる関係を維持進展せしめたいと考えております。
 なお、明年度における沖縄援助につきましては、十二月下旬対米協議がととのい、約十八億円の援助を沖縄住民の生活水準向上のために供与することになりました。また、昨年来、沖縄に対する経済援助のための日米琉間の協議機構を設置することにつき、米国政府と協議を重ねておりますが、近く東京に協議委員会、沖縄に日米琉の技術委員会が設置されることになるものと期待しております。
 中南米諸国につきましては、メキシコ大統領の来日を初めとして、わが国とこの地域の友邦国との間に要人多数の往来があり、彼我の友好関係が大いに深められました。また、貿易、移住、経済協力、文化交流の面におきましても、相互の関係がますます緊密になりました。わが国といたしましては、この地域の有望な将来性にかんがみまして、さらに彼我の関係を一そう強化して参りたいと考えております。
 わが国の対西欧外交は、池田総理の訪欧を契機としまして、一そうの進展を見るに至りました。すなわち、現在日米間に存するごとき緊密な関係を、日本と西欧との間にも発展せしめる糸口が開かれたのであります。このことは、ただに、わが国と西欧諸国相互の利益を増進するにとどまらず、広く世界の平和と繁栄に寄与するものであると信ずるのであります。
 わが国とソ連との間では、それぞれの体制上の相違を認めつつ、近時、貿易と文化の面における交流が進展しております。北方領土問題は依然として未解決でありますが、固有の領土に対するわが国民の正当な権利と愛着を無視して、安易な妥協をはかることなく、あくまでわがほうの主張を堅持しつつ、今後とも、この問題の正しい解決を期して参る所存であります。
 最近アジアにおきましては、中印国境、インドシナ半島等に見られますように、その情勢は依然として安定を欠いております。アジアに位置するわが国といたしましては、後に述べますように、アジアの友邦諸国に、可能な限り経済技術協力を推進いたしまして、アジアの平和と安全に貢献したいと考えております。
 日韓両国の国交正常化は、それ自体当然の要請であります。今次の日韓会談は、幸い両国朝野における国交正常化への気運を背景として、ようやく軌道に乗って具体的討議が進められるに至っております。特に請求権の問題につきましては、その討議を通じまして、その法的根拠の有無に関する両国の見解に大きな隔たりがあること、また、戦後十数年を経過し、その間朝鮮動乱があった等のために、事実関係の正確な立証もきわめて困難なことが判明するに至ったのであります。しかしながら、このような両国の対立をそのまま無期限に放置することは、大局的に見て適当でないことは明らかであります。そこで、かかる困難を打開する構想につき、昨年夏以来へ韓国側と交渉を続けて参りました。その骨子とするところは、かつて一つの国家を形成していたという両国の特別な関係と、将来における親交関係の展望に立って、この際、韓国の民生の安定、経済の発展に貢献することを目的として、同国に対し無償及び有償の経済協力を行なうこととし、このような経済協力を供与することの随伴的な結果として、平和条約上の請求権の処理が同時に一切解決したことを、両国間で確認するというものであります。この構想の大筋につきましては、昨年末までに両国間で合意を見ております。政府といたしましては、請求権の問題のみならず、漁業問題を初め、在日韓国人の法的地位、竹島等の全懸案を、一括して同時に解決することにより、国交正常化をはかるべく、目下鋭意折衝中でございます。
 また、中共の国連参加、その承認等の問題につきましては、わが国の置かれた立場、特にアジアと世界の平和に対し本問題の及ぼすべき重大な影響にかんがみ、慎重に対処する必要があると考えております。同時に、このことを十分認識した上で、可能な範囲において、民間ベースによる貿易等については、現実的に対処して参る所存であります。
 ビルマが提起いたしました賠償再検討要求の問題につきましては、わが国は、ビルマの経済発展と福祉増進に協力するため、無償及び有償の経済協力を行なうこととし、ビルマ側は、再検討条項に基づく要求を今後行なわないという方式で解決すべく、目下せっかく交渉中でございます。
 中近東アフリカ諸国は、わが国の貿易市場として、次第にその重要性を増して参りました。このため、政府は、アフリカの新興独立諸国に順次在外公館を整備拡充し、これら諸国と貿易協定の締結、人的交流の促進等をはかるほか、昨年ガーナとの間に技術協力協定を締結し、また、近く、ガーナ、ナイジェリア及びケニアに技術協力センターを設置することになっております。
 次に、経済外交について申し上げます。
 国内経済の高度成長、輸入自由化の推進により、わが国の貿易総額は百五億ドルをこえ、今やわが国は、自由世界における第七位の輸出国、また第五位の輸入国として、国際的な経済交流に大きな役割を演ずるとともに、開発途上の諸国に対する経済協力を強化し、世界の繁栄に対する貢献の度を年々高めております。
 昨年の通商関係を顧みまするに、わが国の重要な安定市場である米国に対する輸出は、為替統計によれば、十一月末までの実績で、約十三億五千万ドルと、前年同期に比し三五%の増加を示しております。一昨年は八億五千万ドルに上った貿易収支の赤字も、昨年十一月末現在で約一億二千万ドルに縮小され、日米経済関係は着実な進展と改善をみつつあります。日米間におけると同様、このほど、カナダとの間にも、新年早々閣僚委員会を開催する等、太平洋にまたがる日米加三国間の協調は今後ますます緊密の度を加えるものと考えます。
 昨年十一月、英国との間に調印をみました通商航海条約は、英国のガット第三十五条援用撤回をも含む画期的なものでありまして、日英の通商関係に安定した基礎を提供し、その進展に寄与するばかりでなく、わが国と西欧との通商関係の将来にも明るい影響をもたらすものであると信じます。
 さらに政府は、ガット第三十五条援用、あるいはその他の対日差別を行なっている諸国と鋭意交渉を重ねました結果、フランス、イタリア、ベネルックス三国、ノールウェー、スペイン及びオーストリアの西欧諸国並びにローデシア・ニアサランド連邦等の対日輸入制限はかなり縮小をみるに至ったのであります。また、ニュー・ジーランド及びガーナはガット第三十五条援用を正式に撤回いたしました。なお、オーストラリアにつきましても、一そう安定した通商関係を発展せしめるため、目下せっかく交渉中であります。また、アフリカの新興独立国であるカメルーン、ダホメ及びニジェールも、対日無差別待遇の意向を表明いたしました。かくて、たとえば、昨年の西欧に対する輸出は著しい伸びを示し、十一月までの実績は約五億九千二百万ドルと、前年同期に比し約二七%の増大をみております。
 池田総理訪欧の際、欧州経済共同体諸国の指導者が、わが国との経済関係の正常化に努めることを約するとともに、経済開発協力機構、すなわちOECDへのわが国の全面加盟につきましても、その支持を表明されましたことは、御承知のとおりであります。彼我の経済使節の往来等、民間における経済交流も活発となり、業界相互の親善と理解が増進されましたことは、まことに意義深いものがあります。このような気運を背景といたしまして、わが国は秩序ある輸出体制の整備に努め、西欧諸国との通商関係の一そうの発展をはかりたいと思います。
 開発途上の国々に目を転じますれば、一般的に、これら諸国の貿易は、一次産品市況の不振と深刻な外貨の不足等により、伸び悩みの状況にあります。過去八年の趨勢を見ましても、先進国間の貿易は倍増しておりますが、これら諸国と先進国間の貿易は三八%、これら諸国相互間では二五%の増加を見たにすぎない実情であります。開発途上の国々が、その経済開発促進のために、自国の一次産品価格の安定と販路の確保を要望し、先進諸国の一そうの協力を期待しておりますことは、十分理解し得るところであります。わが国としては、昨年も一次産品の買付増大につき努力して参りましたが、今後とも、後進国貿易の拡大に、あるいは国際商品協定による一次産品の価格安定に、一そうの協力を続けて参りたいと考えております。この意味におきまして、国連が中心となりまして目下準備を進めている国連貿易開発会議にも、わが国は進んで参加する所存であります。
 世界経済の趨勢を見ますれば、欧州経済共同体の発展を契機として、先進工業国間においては、輸入自由化に引き続き、ガットを通じての関税の一括引き下げにより、貿易上の障害を軽減するため多角的な交渉を開始する準備が進められております。わが国は、昨年も世界関税会議に参加して、欧州経済共同体を初め、米国その他の国との間に関税交渉を行ない、関係品目につき相互の関税引き下げを約束しました。さらに、来たるべき関税の一括引き下げ交渉にも参加し、世界経済の新しい動向に即しつつ、わが国の貿易体制の整備をはかりたいと考えております。
 かかる先進工業国相互間、及び先進工業国と開発途上の国々との間における経済協力関係の発展は、関係各国の国内経済に、程度の差こそあれ、相当きびしい試練を課するものであり、わが国もその例外とはなり得ないことは、御承知のとおりであります。しかし、今後の世界経済においては、もはや孤立の繁栄はあり得ず、協調による繁栄こそ、基本的にわが国の利益に合致するものであると固く信ずるのであります。
 貿易とともに経済外交の重要な一翼をになう経済協力につきましては、政府は引き続きその拡充に努めてきており、インド、パキスタンへの借款供与を初めとして、開発途上の地域に対する役融資残高は、昨年九月末現在において約九億ドルに達し、さらに賠償の実施済額も約三億八千万ドルに上っております。ちなみに、昭和三十六年における開発途上の地域に対する資金供与額は三億八千二百万ドルでありまして、米、仏、英、西独に次ぎ世界第五位を占めております。技術協力の分野におきましても、昨年九月末で、受入研修生の数は延べ四千名をこえ、派遣専門家も総数六百名に近い規模となりました。さらに、昭和三士二年度から始まりました海外技術訓練センター計画も、今日までに十カ所のセンター設置協定が結ばれ、そのうち六カ所は、すでにその開設を見ております。技術協力の能率的な実施を目的として設立されました海外技術協力事業団も、ようやく、その活動が軌道に乗りつつあります。
 経済協力を通じて、アジア近隣諸国を初めとする多くの国々との政治経済関係を安定せしめ、その緊密化をはかることは、わが外交の基本方針の一つであります。政府といたしましては、わが国の経済力が充実するに伴い、今後とも、わが国の経済技術協力が、相手国の経済発展に積極的に貢献し、その規模の拡大に寄与すると同時に、多種多様の相手国の要請にできる限り効果的に応じ得るよう、その内容の多角化をはかって参りたい所存であります。
 海外移住の問題につきましては、移住に対する新しい考え方の確立と、移住行政の刷新を期するため、政府は、海外移住審議会の答申に基づき、移住の実務機関を刷新強化する等、適切な施策を進めることにいたしました。すなわち来たる七月一日を期して、日本海外移住振興株式会社及び日本海外協会連合会の業務を統合し、特殊法人海外移住事業団を設置することにいたしました。政府はその海外移住行政を簡素化し、移住実務をできる限り同事業団にゆだねる考えでありまして、事業団が、その責任において、地方、中央、海外を一貫する能率的な移住業務を積極的に推進することを期待するものであります。
 最近の国際情勢の動きをみて、私の特に痛感いたしますことは、世論が各国の外交政策を左右する傾向が強くなっていることであります。政府は、かねてより、文化はもとより、政治、経済等各般にわたるわが国の実情を、平和に対するわが国民の念願とともに、広く海外に知らせるべく努力して参りました。幸いにして、近来、世界各国民のわが国に対する認識と評価は次第に深まり、わが国と相携えて平和と福祉に向かって前進しようとする機運がとみに顕著になって参りました。一方、政府がその外交方針を策定するにあたりましても、常に国民の世論に深甚なる考慮を払い、慎重を期して参っている次第であります。国民各位におかれましても、諸外国の実情はもとより、複雑なる国際情勢全般に対する関心をますます深められますとともに、世界平和に対してわが国の果たすべき役割を十分認識され、その実践に参往されまするよう希求するものであります。
 わが国は今や、直接世界の平和と人類の幸福に応分の寄与をなすことを、全世界から期待されております。私は、国民各位がこの点に新たなる自信と抱負を持たれ、内政面の充実と相待ちまして、全世界の信頼にこたえる外交の展開をさらに強く支援されまするよう切望する次第でございます。(拍手)
    ―――――――――――――
#7
○議長(重宗雄三君) 田中大蔵大臣。
  〔国務大臣田中角榮君登壇、拍手〕
#8
○国務大臣(田中角榮君) わが国は、今や、国際経済社会の有力な一員として、貿易立国の精神に徹しつつ、強力に自由化を推進するとともに、健全にして均衡のとれた成長のための基盤を一段と強化すべき新たな年を迎えたのであります。
 私は、この年の課題にこたえるための努力の焦点を一つにしぼれば、それは、輸出力の増大であると信じております。すなわち、貿易・為替の自由化は、諸国間の輸出入の拡大を通じて国際分業の利益をもたらすものであり、さらに、わが国にとりましては、諸外国の差別的な対日輸入制限の撤廃を促進し、輸出市場を拡大するために不可欠な手段となるものでありますが、反面、輸出力の増大を伴わずして自由化を進める場合におきましては、輸入の一方的な増加から国際収支の均衡を失することとなるのでありまして、輸出力の増大こそ自由化の実現に欠くことができない前提であります。
 また、わが国経済の健全にして均衡ある成長を達成するためには、輸出力を増大して、経済規模の拡大に伴い必要な資源の輸入余力を増強することが、絶対に必要であることは、特に論を待たないところであります。
 今回提出いたしました昭和三十八年度予算も、このような心がまえをもって編成されたものでありますが、その際、私が最も意を用いた諸点は、次のとおりであります。
 第一に、社会資本の充実、産業基盤の強化であります。わが国経済が、対外競争力を強化し、輸出力を増大し、自由化に邁進するためにも、また、日本経済の安定成長を実現するためにも、民間資本の拡充に即応して、社会資本を格段に充実し、産業基盤を一そう強化し、国民経済全体として、近代化、合理的な国づくりを行なわねばならないことを痛感いたしております。
 第二に、国内産業の体制整備であります。
 わが国産業の輸出力は、近年における飛躍的な経済発展を経て、大幅に強化せられたとはいえ、貿易の自由化を
 一段と推進して参るにあたりましては、世界的な視野に立って、産業構造の高度化、企業体質の改善等を急速に進めるとともに、必要に応じては、雇用と資本の転換を促進し、さらに過当競争を排除する等、産業体制を整備することがきわめて緊要であります。また、このことは、全体として、生産性を高め、資源の合理的な利用を進め、もって日本経済の健全な成長を促進することとなるのであります。
 第三に、文教、社会保障等の重要施策であります。
 文教には文教としての、社会保障には社会保障としての本来の使命があり、意義があることは、もとよりでありますが、同時に、人つくりの持つ経済的な役割が急速に増大しつつあることも事実であります。経済の健全にして均衡のとれた成長のためには、そのにない手たる国民の能力の開発活用に努めるとともに、成長の成果を広く各階層に及ぼすことが必要であると固く信ずるものであります。
 このことは、国際的な経済交流の一そうの活発化にあたり、国際競争力を充実し、輸出力を増大するためにも、また同様に必要な事柄であります。
 次に、今回提出いたしました昭和三十八年度予算について、項目別にその概略を申し述べます。
 まず、社会資本の充実のための公共投資の拡大であります。
 道路整備につきましては、最近における道路交通の実情にかんがみ、一般財源の投入を大幅に増額したほか、財政投融資計画におきましても、前年度に対し七割近い増額を行ない、中央、地方を通ずる道路網の整備を促進することとし、特に、大都市及びその周辺の道路に重点を置くことといたしました。また、港湾についても、輸出の振興と地方開発に重点を置いて五カ年計画を促進するとともに、国有鉄道、電信電話施設の計画的拡充のため、必要な資金措置を講ずることとしました。
 さらに、農業基盤の整備についても、一そうの充実に努め、また、用地、用水の確保をはかるため、一般会計及び財政投融資を通じ、所要の措置を講じております。治山治水対策につきましては、既定の五カ年計画を特に推進するため必要な予算を計上し、災害復旧の進捗と相待って、国土の保全に万全を期することといたしたわけであります。
 以上、公共事業関係費の総額は、災害復旧関係費を除き四千五百六十四億円に達し、昭和三十七年度当初予算に対し七百七十八億円の増加となります。なお、公共事業の円滑な遂行をはかるため、特定公共事業に関する譲渡所得に対する課税を大幅に減免する措置を講ずることといたしております。
 文教施策の飛躍的な拡充をはかり、科学技術を振興して、現下の要請にこたえることは、政府として最も意を用いているところであります。
 これがため、道徳教育の充実、教育水準の質量両面における向上と教育環境の改善、小・中学校の学級編成及び教職員定数の適正化と施設の整備をさらに推進するとともに、高等学校生徒の急増に備えての校舎の一そうの整備につき、所要の資金措置を講ずることといたしました。
 また、前年度に引き続き、国立高等専門学校を創設整備するとともに、大学、高校における理工系の学生、生徒の増募、施設等の充実をはかり、産業の発展に伴う技術者の確保に遺憾なきを期しております。さらに、現下の科学技術の動向にかんがみ、各省研究機関の研究体制の強化、国産新技術の開発、原子力、防災科学等の重要研究を推進して、科学技術の一段の向上を期することといたしております。育英奨学、低所得者子弟の就学援助等、教育の機会均等を確保するための施策、勤労青少年教育のための方策につきましても、特段の配慮を加えましたほか、義務教育教科書の無償措置を拡大するとともに、新たに、小・中学校の全学童を対象とするミルク給食について、財政負担の措置を講ずることといたしました。
 以上、文教及び科学振興費の総領は三千七百十七億円となり、昭和三十七年度当初予算に対し六百三十四億円の増加となっております。
 次に、社会保障及び社会福祉関係であります。
 わが国の社会保障制度は、戦後、目ざましい発展を遂げたのでありますが、昭和三十八年度予算におきましては、社会保障関係諸施策の画期的な拡充改善をはかることといたしました。
 すなわち、重ねて、生活保護基準の大幅な引き上げを行ない、児童保護及び老人福祉を中心に、社会福祉費を増額するとともに、国民健康保険の世帯主七割給付、低所得者の保険料の軽減を新たに実施するほか、医療費の地域差を撤廃する等、医療保障の改善をはかることといたしております。また、国民年金におきましては、福祉年金につき所要の改善措置を講ずることといたしております。
 さらに、雇用対策の面におきましては、産業構造の変革に即応して、労働力移動の円滑化をはかるための諸措置を一図拡充強化し、失業対策事業の刷新改善をはかるとともに、失業保険につきましても、給付日額の引き上げ等、給付内容の改善措置を講ずることといたしました。
 以上、社会保障関係費の総額は、三千六百七十九億円となり、昭和三十七年度当初予算に対し六百七十六億円の増加を示しております。
 このほか、なお、環境衛生施設の整備につき、新たに五カ年計画を策定して、その計画的促進をはかるほか、住宅対策につきましても所要の改善措置を講ずることといたしました。
 輸出力の増大は、申すまでもなく、国の総力をあげての経済の合理化、近代化によって達成されるべきものでありますが、貿易振興及び経済協力推進のための直接の措置といたしましては、引き続き、海外市場調査、国際見本市、技術協力等の事業を拡充強化するとともに、日本輸出入銀行に対し多額の財政資金を投入し、もって輸出の増進に資することといたしました。
 農林漁業の振興につきましては、成長農産物の選択的拡大、農林漁業の近代化、合理化と、生産基盤の強化をさらに促進し、経営の安定向上を期するほか、農林水産物の価格安定対策についても特に意を用いております。また、農林金融につきましては、農業近代化資金の融資ワクを拡大するとともに、農林漁業経営構造改善資金融通制度を設けて、農林漁業金融公庫の資金の飛躍的な充実をはかり、特に、長期低利の資金を確保する方途を講ずることといたしました。
 中小企業につきましては、その基本的対策を確立するとともに、経営の安定強化に資するよう、従来からの諸施策の拡充強化に加え、新たに、団地化、協業化を推進するための中小企業高度化資金融通特別会計を設置するほか、中小企業投資育成株式会社を新設して、自己資本の充実に資するとともに、税制面においても、これらの施策に即応して、中小企業者の設備等に関する割増し償却制度の新設等を行なうことといたしております。また、中小企業金融対策といたしましては、中小企業信用保険公庫において、設備の近代化をはかるための新種保険を創設するほか、融資基金に充てるため、出資を増額するとともに、財政投融資において、国民金融公庫、中小企業金融公庫、商工組合中央金庫等の貸付ワクの拡大に必要な資金措置を講じ、民間資金の協力と相待って、中小企業金融の拡充、円滑化に資することといたしております。
 特定の産業に対する対策といたしましては、まず、石炭鉱業の安定強化が、エネルギー及び雇用対策の両面から見て、今日、きわめて重要であります。昭和三十八年度におきましては、原油及び重油の関税率を引き上げることとし、これによる関税収入の増加額を勘案しつつ、石炭鉱業の近代化、合理化、産炭地域の振興、炭鉱離職者対策等を一そう強力に推進するほか、新たに、鉱害処理の促進をはかるための鉱害賠償基金、電力用炭の引き取り確保のための電力用炭代金精算株式会社を創設することとし、百八十億円を計上いたしております。また、財政投融資計画におきましても、日本開発銀行、石炭鉱業合理化事業団、産炭地域振興事業団の事業遂行に支障を生ずることのないよう、所要の資金措置を講ずることといたしました。
 また、海運業につきましては、合併等の集約化を行ない、自立態勢を整える企業に対し、既往の借入金の利払いを猶予することとし、業界の再編合理化を推進するとともに、新造船に対する利子補給率の引き上げ等を行ない、国際競争力の強化をはかることといたしております。
 さらに、新たに、自由化に備える対策として、非鉄金属鉱業について金属鉱物探鉱融資事業団を設置し、また、日本開発銀行の融資対象においても特別の考慮を払うほか、重電機器や工作機械についても、外国製品の有利な延べ払い条件を利用した進出に対処するための措置を講ずる等、格段の意を用いております。
 地方財政の内容は、幸いにして、近年著しく改善されつつありますが、昭和三十八年度においては、電気ガス税の負担の軽減をはかり、他方、市町村たばこ消費税の税率を引き上げ、地方財源の充実をはかることといたしました。そのほか、地方交付税及び地方税の大幅な増収、地方団体の起債ワク拡大等により、地方の行政内容、住民福祉は、引き続き向上するものと期待される次第であります。なお、地方団体におきましても、経費使用の合理化をはかり、財政の健全化の努力を続けられるよう希望するものであります。
 わが国の税負担は、相次いで行なわれた税制改正の結果、相当合理化されて参りましたが、わが国の社会経済の著しい進展に即応するため、現在、税制調査会において、租税制度の基本的検討を行なっているところであります。
 しかし、来年度におきましても、国民生活の安定に資するため、一般的な負担の軽減をはかること、及び現下の経済情勢に顧み、当面の産業及び金融政策上の要請に対応する税制上の措置を講ずることの二点を主眼として、平年度五百四十億円程度の減税を行なうことといたしました。すなわち、中小所得者の負担の軽減をはかるため、所得税の課税最低限を引き上げ、中小法人の留保所得課税を軽減するとともに、資本蓄積の促進、社会資本の充実、産業体制の整備、中小企業設備の近代化等のための税制上の措置を講ずることといたしたのであります。
 財政投融資につきましては、以上、それぞれの項目においても触れたところでありますが、計画の策定にあたりましては、住宅、上下水道を初めとする生活環境施設の整備、及び道路、国鉄等の公共投資の拡充強化に重点を置くほか、輸出の振興と国内産業の整備合理化に努めるとともに、引き続き、中小企業金融の円滑化、農林漁業の振興に特に配慮いたしております。
 以上、昭和三十八年度における財政の重点項目についてその概要を御説明いたしましたが、一般会計予算の総額は、歳入歳出とも二兆八千五百億円でありまして、昭和三十七年度当初予算に対し四千二百三十二億円、すでに成立いたしました補正予算を加えた予算額に対しましては三千六百九十億円の増加となっております。
 また、財政投融資計画の総額は、外貨債等を含み一兆一千九十七億円でありまして、昭和三十七年度当初計画に対し二千四十五億円、改定計画に対しては一千四百三十九億円の増加となっております。
 このように、昭和三十八年度予算及び財政投融資計画は、時代の要請と現下の経済情勢に即応して、昭和三十七年度に比し一段とその規模を拡大しておりますが、通貨価値の安定と国際収支の均衡維持の配慮のもとに、健全均衡財政の方針は引き続き堅持されているのでありまして、財政投融資における政府資金、民間資金を通ずる積極的な活用とも相待って、デフレの脅威もインフレの不安もない正常な経済の発展に大きく貢献すると信ずるものであります。
 なお、この際、昭和三十七年度補正予算第二号について、一言申し述べます。
 公務員の給与改善、石炭対策、過年災害の復旧等につきましては、さきに、補正予算第一号をもって対処したのでありますが、さらに、産業投資特別会計の資金の充実、義務的経費の不足補てん、地方交付税交付金の増額等を内容として、八百二十一億円の補正予算第二号を提出いたしました。産業投資特別会計の資金への繰り入れは、経済基盤の強化、企業の体質改善を強力に推進すること等のため、同会計よりの出資需要がますます増大しておりますので、この際、その資金を充実することが急務と考えられるところから行なうものであります。
 この結果、昭和三十七年度一般会計予算の総額は、歳入歳出とも、それぞれ二兆五千六百三十一億円と相なることになります。
 次に、金融政策について申し述べます。
 過去一年余にわたり、国際収支の改善を目途として、一連の金融引き締め策を講じて参りましたが、これら景気調整のための施策も所期の効果をおさめましたため、日本銀行においては、昨年十月及び十一月の二度にわたり、公定歩合の引き下げ等を行ない、これとともに、金融政策も新たな局面を迎えるに至ったのであります。
 金融政策の新しい局面におきましては、金融正常化の必要が一段と痛感されております。御承知のように、日本銀行においては、昨年十月の公定歩合の引き下げに際し、高率適用制度の改正を行なうとともに、今後の金融調節の手段としては、債券の売買を一そう弾力的に行ない、これにより、市中金融機関が日本銀行借り入れに過度に依存する姿を是正する方針を決定いたしました。これは、金融の正常化のための環境を醸成する上からもきわめて好ましい施策であると考えるのでありますが、私は、このような日本銀行の新しい方針と相待って、金融の正常化については、さらにその推進をはかる考えであります。この点に関し、ことに、長期の安定した産業資金調達のために、株式市場や公社債市場の育成強化をはかることは、きわめて肝要でありまして、その健全な発達のため一そうの工夫と配慮を重ねて参りたいと存じます。なお、両市場の安定した運営は、言うまでもなく、健全な大衆投資家の支持と信頼を基盤とするものでありますが、今後とも、この点を特に重視して、所要の施策を講じて参る所存であります。
 次に、金利につきましては、わが国の金利水準は、諸外国の金利水準に比較して割高であり、その引き下げはかねてより要請されているのでありますが、特に、今後、わが国経済の国際競争力を強化するためにも、国際金利水準に、可能な限りさや寄せしていく必要があります。もとより、金利の問題は、資金需給の実態に即して考えらるべき問題でありまして、まず、このためには、貯蓄増強に努める等、資金供給の増加をはかるとともに、資金需要の調整にも留意し、金利引き下げのための環境を整備することが肝要であります。このような見地から、私は、国民貯蓄の増強を一段と推進して参る必要のあることを強調するものであります。政府といたしましては、来年度より、従来の預貯金等の利子所得に対する課税について、一そうの優遇措置を講ずるとともに、国民貯蓄組合にかえて、新たに少額貯蓄優遇制度を設けることにより、免税制度の適正な運営をはかるなど、貯蓄増強のための一連の施策を行なうことといたしておるわけであります。
 以上、金融政策の新局面について申し述べましたが、なお、この際、ここに付言いたしますと、さきの景気調整の過程において、政府は経済界に対し、いたずらに摩擦や困難が生ずることのないよう、特に、その影響が不当に中小企業等に対し、しわ寄せされることのないよう、適時適切な施策を講じて参ったのでありますが、なお、ここしばらくは、その円滑な収束のために、財政金融面を通じて、きめのこまかい配慮をいたして参る考えであります。
 次に、国際収支の状況並びにこれに関連する当面の国際金融政策について申し述べたいと存じます。
 国際収支は、当初期待されました昭和三十七年度下期を待たずして、すでに、上期には均衡を回復し、その後も改善を続けております。外貨準備高も、昨年末をもって十八億ドルをこえるに至っており、米国市中銀行からの特別借款の今後の返済については、外貨の資金繰り上何らの支障もなく、また、昨年一月国際通貨基金との間に締結いたしましたスタンド・バイ取りきめも、これを実際に使用することなく、最近、終了させることができた次第であります。しかしながら、国際収支は、国内経済活動の動向等により、変動しやすいものであります。また、貿易・為替の自由化の影響は、これから本格的に現われてくるものと考えなければなりません。世界経済の今後の動向も必ずしも楽観を許さないものがあります。
 他方、主要な先進工業諸国は、つとに通貨の交換性を回復し、その相互間の経済交流はますます活発化しておりますが、最近は、欧州経済共同体の進展、米国における通商拡大法の成立を契機として、関税の一括引き下げを行なおうとする機運がとみに高まっております。
 以上のような情勢に即応し、わが国としては、国際収支の基礎を一そう強固なものにするとともに、これまでに達成した自由化の成果の上に立って、さらにこれを着実に推進し、円の交換性の実現という大きな目標に向かってその体制の整備に一段の努力を傾けるべきであります。
 この際、国民各位におかれましても、一そう広い視野に立って、わが国経済の当面するこの大きな転換の時期に対処していかれることを切望いたします。
 また、低開発国に対する経済協力は、今後の世界貿易並びに経済の発展のために必要であるのみならず、わが国の貿易拡大のためにも大きな意義を有するものであります。わが国は、これまでも、国際機関への出資や二国間の取りきめ等を通じて、できる限りの経済協力をして参ったのでありますが、今後におきましても、国力の許す範囲内で積極的に努力いたしたいと考えております。
 以上、財政金融政策の基本的な考え方と予算の大綱について御説明をいたしました。
 もとより、躍動する国際経済社会の中にあって、日本経済が、その大きな歩みと完全に一体化しつつ着実な発展を続け、所得と福祉の一そうの増大を達成し、自由世界をささえる一つの大きな柱としての地位を確立することは、容易ならざることであります。
 しかしながら、戦後わずか十八年、幾たびかの危機を乗り越えて今日のごとき日本を作り上げた国民の不撓不屈の努力と旺盛な創造力をもってすれば、必ずやその目標を達成し得るものとかたくこれを信ずるのであります。
 中国の古典に、「財は国の命なり」とあります。私は、わが国経済の目標達成の上において、財政金融政策がそのかなめであることを思うとき、職責の重大さを身にしみて感ずるとともに、力の限りを尽くして努力する覚悟をかたくするものであります。
 国民各位におかれましても、政府の意のあるところを了とせられ、あらゆる理解と協力を寄せられんことを切望してやみません。(拍手)
#9
○議長(重宗雄三君) ただいまの演説に対し質疑の通告がございますが、これを次会に譲りたいと存じます。御異議ございませんか。
  〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
#10
○議長(重宗雄三君) 御異議ないと認めます。
 次会の議事日程は、決定次第、公報をもって御通知いたします。
 本日はこれにて散会いたします。
   午後四時二十九分散会
ソース: 国立国会図書館
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