くにさくロゴ
1962/06/13 第43回国会 参議院 参議院会議録情報 第043回国会 法務委員会 第19号
姉妹サイト
 
1962/06/13 第43回国会 参議院

参議院会議録情報 第043回国会 法務委員会 第19号

#1
第043回国会 法務委員会 第19号
昭和三十八年六月十三日(木曜日)
   午前十時四十六分開会
  ―――――――――――――
 出席者は左の通り。
   理事
           後藤 義隆君
           松野 孝一君
           和泉  覚君
   委員      大谷 贇雄君
           杉浦 武雄君
           鈴木 万平君
           大矢  正君
           小宮市太郎君
           柏原 ヤス君
           岩間 正男君
  政府委員
   法務政務次官  野本 品吉君
   法務省刑事局長 竹内 寿平君
  事務局側
   常任委員会専門
   員       西村 高兄君
  説明員
   警察庁刑事局捜
   査第一課長   槙野  勇君
   法務省刑事局参
   事官      臼井 滋夫君
  ―――――――――――――
  本日の会議に付した案件
○刑事事件における第三者所有物の没
 収手続に関する応急措置法案(内閣
 提出、衆議院送付)
○検察及び裁判の運営等に関する調査
 (小倉警察署における留置人の逃走
 事件に関する件)
  ―――――――――――――
 〔理事後藤義隆君委員長席に着く〕
#2
○理事(後藤義隆君) ただいまから法務委員会を開会いたします。
 刑事事件における第三者所有物の没収手続に関する応急措置法案を議題といたします。
 本案の提案理由はすでに聴取いたしておりますので、本日は、まず、本案の逐条説明を聴取いたします。竹内刑事局長。
#3
○政府委員(竹内寿平君) ただいま議題となりました応急措置法案の逐条説明をさしていただきます。
 第一条は、この法律の趣旨でございます。
 本条は、この法案の趣旨を明らかにした規定でございます。すなわち、この法案は、没収制度が抜本的に整備されるまでの間の応急措置として、被告人以外の者(第三者)の所有物が刑事手続において誤って没収されるのを防止するため、没収されるおそれのある物の所有者に対し、被告事件の手続に参加して自己の権利を主張する機会を与えますとともに、誤って第三者の所有物が没収された場合には、裁判確定後に十分な権利の救済を保障しようとするものであります。
 第二条は、(告知)についてであります。本条は、第三者の所有物を没収する必要がある場合、その第三者に被告事件の手続への参加を促すため、告知または公告の手続をとることを検察官の義務とする趣旨の規定でございます。告知または公告すべき事項は、第一項第一号ないし第七号に列挙されておりまして、第四号の「没収の理由となるべき事実」には、被告人の犯罪事実、これと没収すべき物との関係及び所有者が悪意であった事実など、没収の要件に当たるすべての事実が含まれているものと解せられます。
 第一項の告知は、直接本人に告知することが事実上可能である場合、すなわち、告知すべき第三者が特定しており、しかも、その所在がわかっている場合に行なわれるのであります。通常は、検察庁または裁判所に出頭した第三者に告知の書面を手渡しするか、あるいは、告知の書面を配達証明つき書留郵便に付して郵送することになるわけでございます。告知の効果は、第三者またはその同居の親族等が告知の書面を受け取ったときに生ずると解せられます。
 第一項による告知ができない場合、すなわち、第三者を特定することができない場合、その所在がわからない場合、第三者が外国にいて告知の方法がない場合には、検察官は、第二項に規定する公告の手続をとらなければならないものとされております。すなわち、告知すべき事項を十四日間検察庁の掲示場に掲示するとともに、これを官報及び新聞紙に掲載するのであり、これらの手続が完了しましたときに公告の効果が生ずると解せられます。ただし、価額が五千円に満たないことが明らかな物につきましては、官報及び新聞紙への掲載を省略することができるものとされております。
 第三項は、告知または公告の手続をとったことを裁判所に知らせるための規定でございます。
 第三条は(参加の手続)でございます。
 本条は、刑事事件において没収されるおそれのある物を所有する第三者が被告事件に参加するための手続を定めた規定でございます。
 第一項は、参加の申し立てをすることができる者の範囲、申し立ての方式及び申し立てをすることのできる期間を定めております。参加の申し立てをすることができますのは、「没収されるおそれのある物を所有する第三者」でありますが、真に所有者であるかどうかは、審理をまってはじめて明らかになることでありますから、申し立ての段階におきましては、所有者であることを主張すればよいということになります。ただし、没収すべき物と全く関係のない第三者の参加によって訴訟の遅延及び混乱が生ずるのを防ぎますために、第三項は、「没収すべき物が申立人の所有に属しないことが明らかであるとき」は、申し立てを棄却することといたしております。また、「没収されるおそれのある物」に関する限り、第二条の告知または公告を受けたかどうかにかかわりなく、参加の申し立てをすることができるのでありますが、没収すべきでないことが明らかな物についてまで参加を許す必要はございませんから、第四項ただし書きは、その物の「没収をすることができないか又はこれを必要としない」という検察官の意見を裁判所が相当と認めますときは、申し立てを棄却することができるものといたしているのでございます。
 第二条の告知または公告があったときは、参加の申し立てをすることのできる期間は、告知または公告があった後十四日間であります。期間経過後になされた参加の申し立ては、第三項の規定によって棄却されますが、同項ただし書きは、それが「申立人の責めに帰することのできない理由による」ものと認められます場合には、第一審の裁判があるまでに限って、裁判所の健全な裁量によってなお参加を許すことができるものといたしております。これに反して、告知または公告がなかったときは、第一審の裁判があるまで参加の申し立てをすることができるのであります。
 上訴審におきましては、もはや参加の申し立てをすることが許されないという建前になっております。略式手続または交通事件即決裁判手続におきましては略式命令または即決裁判があった後でも、検察官または被告人が正式裁判をすることのできる期間内及び正式裁判の請求があった後通常の公判手続による第一審の裁判があるまでは、告知または公告後十四日を経過していない限り、なお参加の申し立てをすることができるものとされております。
 第二項は、被告事件が告知または公告された裁判所から他の裁判所へ移送された場合、移送前の裁判所への参加の申し立てを移送後の裁判所への申し立てとして取り扱うことにするための規定でございます。
 第三項及び第四項は、参加の申し立てを棄却する裁判及び参加を許す裁判の要件を定めておりまして、第五項は、参加を許す裁判の取り消しの要件を定める規定であります。
 第六項前段は、参加に関する裁判の手続及び方式を定めておりまして、同項後段は、これに対する不服申し立ての方法を定める規定でございます。
 第七項は、参加の取り下げの方式を定める規定でございます。
 次は(参加人の権利)に関する第四条でございます。
 本条は、参加人の地位を明らかにする原則的規定でございます。刑法は、没収が被告人に対して科せられる附加刑であるという原則をとっているので、没収手続に関する応急的な措置といたしましては、たとえ第三者の所有に属する物を没収するのでありましても、被告人に対する刑事裁判手続から独立した別個の手続でその言い渡しをするとか、被告事件の中へその第三者を独立の当導者として加入きせるとかの方法をとるのは適当でないと考えられます。そこで、この法案は、没収すべき物を所有する第三者を参加人という資格で被告事件に関与させることといたしますとともに、実質的には当事者に近い訴訟上の地位を参加人に与えることといたしているのであります。
 第一項は、参加人が原則として被告人と同一の訴訟上の権利を有することを定めた規定であります。ここで「権利」というのは、刑事訴訟法、刑事訴訟規則等において明示的に被告人の権限とされるものに限らず、裁判所、検察官その他の訴訟関係人の義務を定める規定の反射的効果として被告人が有する利益な地位をも含むというふうに解されます。この規定によって、参加人が有する権利のうち最も重要なものは、公判期日に出頭して自己の意見を陳述し、証拠調べを請求し、証拠調べに立ち会い、特に証人等を尋問し、裁判に不服であれば上訴をする権利でございます。「被告人と同一」の訴訟上の権利と申しますのは、被告人が本来持っている権利と同じ権利という意味でありまして、具体的な場合に被告人が行使することのできる権利だけをさすのではないのであります。したがって、被告人がある権利を放棄し、またはこれを行使しないという意思を表明している場合でも、参加人は、その権利を独立して行使することができるのであります。しかし、その効果は、参加人だけについて生ずるのではなく、被告事件そのものについて生ずるわけであります。たとえば、参加人の請求によりまして取り調べられた証拠は、証拠能力がある限り、被告事件そのものの証拠と相なるわけであります。
 参加人の有する訴訟上の権利は、原則として被告人の権利と同一でありますが、これには二つの重要な例外があることを御留意願いたいのでございます。第一に、当然のことでありますが、参加人の権利は、その所有物の没収に関係する限りにおいて認められるにすぎないのであります。第二に、この法案の第四条第二項及び第五条から第十一条は、参加人の地位及び権限に関する特例を定める規定でありまして、その限度で参加人と被告人とが異なった取り扱いを受けることは申すまでもないところでございます。
 第二項は、参加人に証人適格があることを明らかにする規定でございます。すなわち、没収は、被告人に対する附加刑であり、参加人にとっても不利益な処分ではございますけれども、憲法第三十八条第一項にいう「不利益な供述」というものは、刊事訴追または刊事責任を受けるおそれのある供述に限られるのでありますから、参加人には、被告人が有するのと同じ意味での黙秘権を認めず、これを証人として取り調べることができるものといたしたのでございます。
 次に、第五条(参加人の出頭等)に関するものであります。
 本条は、参加人の公判期日に出頭する権利、没収の原因となるべき事実について告知を受ける権利等を定める規定でございます。
 第一項は、参加人が公判期日に出頭する権利は有するのでありますが、出頭する義務を負わないことを明らかにする規定でございます。参加人が自己の権利を十分に主張するためにも、必ずしもすべての公判期日に出頭する必要はないし、他面、勾引または勾留することのできない参加人の不出頭によって訴訟が遅延することは好ましくないので、参加人に出頭する義務を課さないこととするとともに、参加人が出頭しなくても公判手続を進めることができるようにいたしているのであります。
 第二項は、参加人の所在がわからなければ、公判期日の通知その他訴訟書類の送達をする必要がないものとし、訴訟の不当な遅延を防ごうとする趣旨の規定でございます。
 第三項は、裁判所が、公判期日に出頭した参加人に対し、「没収の理由となるべき事実の要旨、その参加前の公判期日における審理に関する重要な事項その他参加人の権利を保護するために必要と認める事項」を告げまして、かつ、「没収について陳述する機会」を与えることとする規定でございます。これによりまして、参加人は、いかなる事項について主張及び立証をすればよいかを理解することができ、自己の主張を十分に述べることができるわけでございます。
 次に、第六条(証拠)の関係でございます。
 第一項は、参加人が憲法第三十七条第二項にいう証人審問権を有しないことを前提とし、参加人の参加によっても、証拠能力に関する刑事訴訟法の規定が影響を受けないことを明らかにする規定でございます。すなわち、被告事件においてもともと証拠となる証拠は、参加人にとって伝聞証拠であっても証拠とすることができるのでありますし、他面、参加人との関係では伝聞証拠の例外に当たる場合でありましても、被告人との関係で証拠とすることが許されなければ、証拠とすることはできない。ということになるわけでございます。
 第二項の前段は、伝聞証拠の取調べによって生ずる参加人の不利益を除き、これに実質的な証人審問権を保障するため、刑事訴訟法第三百二十条第二項本文、第三百二十六条または第三百二十七条の規定により参加人の意思に反して伝聞証拠が証拠とされた場合には、裁判所は、参加人の請求によって、その権利の保護に必要と認める限り、原供述者を証人として取り調べなければならないものとしたのでございます。さらに、本項の後段は、参加人の参加前に取り調べられた証人の再尋問について、同様の趣旨を規定しております。
 次に、第七条(没収の裁判の制限)についての規定でございます。
 本条は、没収すべき物を所有する第三者が参加人として被告事件の手続に関与することができなかったときは、原則として没収の裁判をすることができないものとする趣旨の規定でございます。これに対する例外といたしまして、所有者が被告事件の手続に参加していなくても没収の裁判をすることができますのは、所有者が参加人となる機会を与えられたにもかかわらず、参加の権利を行使しなかったと認められる場合でございます。すなわち、第一に、第二条の規定によって検察官が告知または公告の手続をとったにもかかわらず、没収すべき物の所有者が参加の申し立てをしないで参加申し立ての期間を経過した場合、第二に、所有者による参加の申し立てが法令上の方式に違反するという理由で棄却された場合、第三に、所有者が参加を許された後にみずからこれを取り下げた場合でございます。これに反して、第三者が適法に参加の申し立てをしたにもかかわらず、没収すべき物がその第三者の所有に属しないことが明らかであるとか、その物の没収をする必要がないとかの理由で参加が拒否された場合には、あらためて告知の手続がとられない以上、その第三者の所有に属する物を没収することはできないということにされておるわけでございます。
 次に、第八条(上訴)についてであります。
 本条は、上訴審における参加人の地位及び参加人がした上訴または正式裁判の請求の効果を明らかにする規定であります。参加人にも上訴権及び正式裁判請求権がありますことは、第四条第一項の規定によって明らかであります。
 第一項は、上訴審における参加人の地位を明らかにする規定でありますが、二つの意味を持っていると思うのでございます。すなわち、まず、検察官または被告人が上訴をしましたときは、上訴をしなかった参加人も、自動的に上訴審における参加人の地位を取得するのでありますが、他方、たとえ参加人がみずから上訴をしても、上訴審におけるその地位は、あくまでも参加人であって、当事者になるのではないということであります。
 第二項は、参加人だけが上訴した場合におけるその上訴の効果を定める規定であります。すなわち、検察官及び被告人が原裁判の中心部分である主刑について上訴をしないにもかかわらず、付随的な没収の部分について参加人の不服があるからといって、被告事件の全部を未確定の状態におきますことは、迅速な裁判を受ける国及び被告人の利益と全く相いれないものと思うのでございます。そこで、本項は、参加人だけが上訴をした場合には、主刑に関する部分を確定させ、没収に関する部分だけが上訴審に係属するものといたしているのでございます。
 第三項は、参加人のみが上訴した場合における被告人の地位を明らかにする規定であります。第二項の規定によりまして、原裁判中没収に関する部分だけが上訴審に係属することとされる場合でありましても、被告人はなお事件の当事者でありますが、原審の裁判に何ら不服のない被告人に対して、被告人という地位から生ずる訴訟上の権利及び義務をそのまま認める必要はないので、本項は、上訴審及びその後の審級の手続においては、被告人に出頭の義務を免除するとともに、これに国選弁護人を付せず、また、被告人及び弁護人が出頭しなくても開廷できることといたしているのであります。
 第四項は、略式命令または交通事件即決裁判に対して参加人だけが正式裁判の請求をした場合にも、裁判の確定及び被告人の権利義務に関し、上訴の場合と同様に取り扱う趣旨の規定であります。
 次に、第九条(訴訟能力)に関するものであります。
 本条は、この法案の規定によりまして、被告事件の手続に関与する第三者の訴訟能力を明らかにし、訴訟能力がない場合におきまして、これを代表または代理する者を定める規定であります。
 次に、第十条(代理人)の規定であります。
 本条は、没収されるおそれのある物について所有権を主張する第三者が弁護士たる代理人によって参加の申し立て及び参加人としての訴訟活動をすることができることを定めますとともに、参加人には弁護人の選任及び国選弁護に関する刑事訴訟法の規定の適用がない趣旨を明らかにする規定であります。
 次に、第十一条(訴訟費用)のことであります。本条は、参加人の参加によって生じた被告事件の訴訟費用に関する規定でございまして、ごらんをいただけばわかるとおりでございます。
 次に、第十二条(刑事訴訟法との関係)の規定でございます。
 本条は、第三者所有物の没収に関しましてこの法案の第二条から第十一条までに定める手続が刑事訴訟手続の一部にすぎず、これから独立した特別の手続でないことを明らかにいたしますとともに、この法律に特別の規定のある場合のほかは、刑事訴訟の規定がそのまま適用されることを定めた規定でございます。
 次に、第十三条(没収の裁判の取消し)の規定でございます。
 本条は、没収物の所有者である第三者が、自己の責めに帰することのできない理由により、被告事件の手続に参加することができなかった場合に、その第三者に対し、没収の裁判が違法であったことを理由にその取消しを請求する権利を与える趣旨の規定でありまして、取消し請求の要件、請求に対する裁判手続及び取消しの裁判の効果を定めているのであります。言うまでもなく、第二条から第十二条までの規定によれば、第三者の所有物について没収の裁判が行なわれますのは、原則として、検察官がその第三者に対して告知または公告の手続をとった場合に限られ、しかも、告知または公告を受けた所有者は被告事件の手続に参加して十分に自己の権利を主張することができるのであって、自己の所有物の没収に関して告知、弁解、防禦の機会を与えられるという第三者の権利は、これらの規定によりまして、十分に保護されているものといわなければならないのであります。しかし、検察官及び裁判所が没収すべき物の所有者を誤認している場合には、真の所得者に対して告知または公告の手続がとられないままで没収の裁判が言い渡されることもあり、また、たとえ告知または公告の手続がとられたとしても、第三者がその責めに帰することのできない理由により参加の手続において自己の権利を主張することができなかったという場合もないわけではないのであります。これらの場合において、所有者が事前に主張及び立証の機会を与えられなかったため、実体法上没収の要件が存在しない物について没収の裁判が言い渡されたのであるときは、その裁判によって侵害された第三者の権利を回復する方法がなくてはならないと思うのでございます。
 第一項は、没収の裁判の取消しの請求の理由、請求権者、請求期限及び請求手続の管轄裁判所を定める規定であります。
 取消しの請求の理由は、「法律上没収することのできない物について没収の裁判」があったこと、すなわち、実体法上違法な没収の裁判があったことであります。たとえば、犯人の所有物しか没収できないとされているのに、所有権の誤認により犯人以外の者の所有物が没収された場合、所有者が犯罪行為について情を知っているのでなければ没収できないとされているのに、善意の第三者の所有物が没収された場合などがそれであります。
 取消しの請求をすることができるのは、没収の裁判が確定した時における没収物の「所有者」でありまして、被告人であった者以外の者に限られるのであります。請求人が没収物の所有者がどうかは、没収の実体法上の要件にも関係するので、請求に対する終局的な裁判において判断されることになるのでありますが、第三項の規定により、「没収された物が請求人の所有に属しないものであったことが明らかであるとき」は、決定によって請求が棄却されるのであります。
 没収物の所有者でも、「自己の責めに帰することのできない理由により被告事件の手続において権利を主張することができなかった」場合でなければ、取消しの請求をすることはできないのであります。この点は、具体的な事件について個別に判断するほかないが、第二条の規定による告知または公告を受けた所有者については、特殊な例外の場合を除き、事前に権利の主張をすることができたものと認められるであろうと思います。参加手続による権利の主張が可能であったにもかかわらずこれを怠った者については、第三項の規定により、請求が棄却されるわけであります。
 取消しの請求は、請求権者が没収の確定裁判を知った日から十四日以内、かつ、裁判確定後五年以内にしなければならず、この期間が経過した後にされた請求は、第三項の規定によって棄却されることになっております。
 第三項は、請求の方式を定める規定であります。趣意書には、請求の「理由となる事実」、すなわち、請求人の所有物についてなされた没収の裁判がどういう理由で違法であるかを明示しなければならないのであります。
 第三項は、決定による請求棄却の形式裁判をする場合及びその手続を定め、これに対して即時抗告が許されることを明らかにする規定でございます。
 第四項は、請求に対する実体裁判に関する規定であります。すなわち没収の裁判が正当であるかまたは請求人が没収物の所有者でないときは、請求を棄却し、法律上没収することのできない物について没収の裁判があったと認められるときは、これを取り消すことになるのであります。これらの裁判は、判決でされるが、これに対しては検察官または請求人から上訴すなわち控訴または上告をすることができるのであります。
 第五項前段は、審判の範囲を定める規定でありまして、裁判所は、請求人の差し出した趣意書に包含された事項について、当事者の意見を聞き、証処の取り調べをしなければならないとしているが、趣意書に包含されていない事項であっても、没収の裁判を取り消すかどうかに関係があると認める限り、当事者の申立てまたは職権によって調査することを妨げる趣旨ではないのであります。後段は、参加人が正当の理由がなく出頭しないときには、不出頭のまま公判手続を進めることができるようにする規定であります。
 第六項は、訴訟費用に関する規定であります。
 第七項は、請求に対する裁判手続に関し、参加の取り下げの方式を定めた第三条第七項、参加人に公判期日の通知等をしなくてもよい場合に関する第五条第二項、参加人の訴訟能力に関する第九条、代理人に関する第十条並びに訴訟費用に関する第十一条第二項及び第三項の規定を準用するとともに、この法案に特別の規定がある場合のほかは、刑事訴訟の例によることを明らかにする規定であります。「刑事訴訟の例による」とは、刑事訴訟に準じた手続で審判するという趣旨でありますが、本条第二項から第六項まで、第八項及び第七項中準用部分に特別の規定があることにより、刑事訴訟法の規定がかなり大きな修正を受けた上で適用されることになり、主として適用されるのは、裁判、書類及び送達、証拠等に関する総則の規定、公判期日、証拠調、弁論等に関する公判手続の規定及び上訴に関する規定などであります。
 第八項は、第七項が請求に対する裁判手続は「刑事訴訟の例による」としておりますことに対する重要な例外といたしまして、請求人に証人適格があることを明らかにし、伝聞証拠でも証拠とすることができるものとする規定であります。伝聞証拠でも証拠とすることができることといたしましたのは、請求人が参加人と同じく憲法第三十七条第二項の証人審問権を有せず、これに刑事訴訟法第三百二十条から第三百二十八条までの規定を適用する必要はないからであります。
 第九項は、没収の裁判が取り消された場合の効果を定める規定でありまして、没収の執行による刑事補償に準じて補償するものとしているのであります。すなわち、刑事補償法第四条第六項は、没収の執行による補償に関し、「没収物がまだ処分されていないときは、その物を返付し、すでに処分されているときは、その物の時価に等しい額の補償金を交付」すると規定し、同法第六条から第二十三条までは、補償請求の手続を定めておりますが、没収の裁判の取消しの場合の補償につきましても、これらの規定を全面的に適用する趣旨であります。
 最後に、附則について御説明を進めたいと思います。
 第一項は、この法案の施行期日を公布後二十日を経過した日とする規定であります。この法案のうち第二条から第十二条までの規定は、その性質上、施行日前に第一審の裁判が言い渡された事件には適用されませんが、施行日までに第一審の裁判がない事件におきまして第三者の所有に属する物を没収する必要があれば、これらの規定による手続をとらなければならないことを明らかにしておるのでございます。
 第二項は、確定した没収の裁判の取消しに関する第十三条の規定が遡及して適用されることを明らかにし、施行日前に確定した没収の裁判によって不当に自己の所有物を没収された第三者に救済を与えようとする趣旨の規定であります。本項による取消しの請求の期間も、原則として、確定裁判を知った日から十四日間でありますが、この法案の施行前に確定裁判を知った者については、本項の後段によりまして、十四日の期間をこの法案の施行日から起算することといたしたのであります
 以上をもって説明を終わります。
#4
○理事(後藤義隆君) 以上で説明を終わりました、本案に対し御質疑のおありの方は、順次御発言を願います。
#5
○松野孝一君 ただいま本法案の逐条説明を詳細に承ったのでありますが、まず、こういう法案を急に出さなければならなかった理由ですね、それは提案理由の説明にもちょっと出ておりますけれども、その点をもう少し詳細にお聞きしたいんですが、まず、没収制度――第三者没収も含めて、没収制度が刑法にもあり、それからその他の特別法にもありますが、それに対する最高裁の判例の変化ですね、変遷について、どういう順序でこうなってこういうふうに出さざるを得なくなったかということをもうちょっと詳しくお聞きしたいんですが、どなたでもいいからひとつ説明していただきたい。
#6
○政府委員(竹内寿平君) 今回の応急措置法を立案しなければならなくなった直接の動機は、昨年十一月二十八日に最高裁の大法廷が言い渡しました第三者没収を違憲とした二つの判決に基づくものでございますが、この違憲判決は、要するところ、被告人以外の第三者の所有物の没収を認めております現行の刊法や特別法の没収に関する実体規定そのものは憲法に違反するものではないのでありますけれども、これを没収するにあたって第三者に意見、弁解、防御の機会を与えることを定めた手続規定が欠如しておりますために、そのような第三者の所有物を没収することは違憲である、こういう趣旨でございます。
 で、このような考え方は突如として現われてきたのではございませんで、実は、昭和三十五年十月十九日に、第三者没収について、最高裁の大法廷は、先ほど御紹介申しました違憲反決とは違って、合憲の判決をいたしておるのでございます。その合憲の判決におきましては、言い方は、「訴訟において、他人の権利に容喙干渉し、これが救済を求めるが如きは、本来許されない筋合のものと解するを相当とするが故に、本件没収の如き事項についても、他人の所有権を対象として基本的人権の侵害がありとし、憲法上無効である旨論議抗争することは許されない」と言って、被告人がこれは第三者の物だと言った主張を退けて、その第三者没収を合憲としたわけでございます。しかしながら、この判決の結論は、当時十五名の裁判官のうち八名の裁判官の多数意見に基づくものでありまして、その余の七名の裁判官には反対意見が付されておりました。この七名の裁判官の意見の中にも、第三者没収の効果として自己の所有物を失う被告人以外の訴外の第三者に対して告知、聴聞の機会が与えられることが憲法三十一条の要請である、それが法的に保障されていることが必要であるというふうなことに関連しまして説が分かれて、この少数意見の中にもまた分かれておりまして、その七人のうちの二人の裁判官は、これがぜひとも必要だ、こういう意見でありますし、五名の裁判官は、そういう手続まで必要でないのであるけれども、現実の裁判の過程におきまして証人調べの段階などで第三者に弁解、防衛の機会を与えれば最小限度よろしいのだという意見でございます。つまり、繰り返して申しますと、十五名の裁判官のうちで二名だけが手続がなければ憲法に違反するという意見で、八名はもう初めから合憲である、少数意見の五名も証人調べの段階で調べておきさえすれば違憲ではない、こういう意見でありました。でありますから、十五人のうちの十三人まではまあ合憲という立場を大体とっておったのであります。それが三十五年の判決でありますが、昨年の十一月二十八日の判決になりましては、この二名の意見がずっと膨張して参りまして、これが多数意見になって、先ほど申したような趣旨で違憲であるという判決に相なった次第でございます。
 このことは、最高裁の判例が合憲であると言っているんだからいいのではないかというような考え方で実はおりませんで、この没収制度は、昭和十六年に刑法が改正されて第三者没収という制度が刑法の中に導入されましたが、特別法の中ではこの第三者没収はぜひとも保安上あるいは刑事政策上必要でありますので、各国の立法例にならいまして――わが国においてもつとにこの制度は実体法としては導入されておったわけでございますが、しかし、まあ最近の学問の進歩あるいは諸外国の立法例等から考えまして、実体法の面におきましても手続法の面におきましても日本の刑法刑事訴訟法はきわめて不備であるという観点からいたしまして、さきに公表いしました刑法改正準備草案におきましても、没収を附加刑というようなふうに見ないで没収という特別の処分を刑法の中に規定いたしまして、附加刑的なものと倍安処分的なものと二つの規定を定め、そうしてまた、その手続も刑事手続の中で明らかに規定していこうという考え方を示しておりますし、ことに昭和三十五年の、合憲とはされましたけれども少数意見の中に違憲の意見が出てきたというあの時期以後におきましては、法務省におきましても鋭意これが対策を検討して参ったおりから、むずかしい問題がございますのでどういう形式で立法すべきかというような点をいろいろ諸外国の実例なども調査しておりましたところが、先ほど申しましたような昨年十一月の違憲判決が出ましたので、刑法の改正ではなかなか年月日もかかりますし、この際全面改正に至るまでの時限立法という考え方でこの応急措置法案を立案せざるを得なくなった、そういう事情でございます。
#7
○松野孝一君 さっき御説明がありましたが、三十五年の最高裁の大法廷における判決は、第三者没収は合憲であると。その理由として、何ですか、他人の権利に容喙する必要はないとかなんとかいうお話のようでありますが、その点をもう少し説明して下さいませんか。
#8
○政府委員(竹内寿平君) この違憲論を展開いたしましたのは被告人側でございまして、被告人が、自分の罪の附加刑として他人の第三者の物が没収されておるわけですが、これは第三者の基本的人権を侵害する処分であるという主張をしたわけであります。そこで、裁判所は、先ほど私が読みましたように、「他人の所有権を対象として基本的人権の侵害ありとし、憲法上無効である旨論議抗争することは許されない」、おまえは自分の権利だけを主張すればいい、人のことまで言う必要はない、そういう権利の主張は最高裁としては認めないという立場でその主張を退けまして、結局、その第三者没収をしました下級審の判決を支持しておるわけでございまして、そういう意味で合憲――まあ合憲であると積極的に表示したものではありませんが、消極的に合憲であるということを認めたわけでございます。
#9
○松野孝一君 そうすると、その三十五年の事案は、第三者の所有に属する物を没収するというのは、被告人自体のものでないから、そんなことに容喙する必要はない、上告の理由にならないというわけなのですね。
#10
○政府委員(竹内寿平君) そのとおりでございます。
#11
○松野孝一君 今度の判決によってこの改正案が出たわけだが、昨年の十一月二十八日に最高裁の大法廷がくつがえしたと言われるが、上告の理由になるというのはどういう関係ですか。
#12
○政府委員(竹内寿平君) これは最高裁が考え方を変えたわけでございまして、まず第一に、前には人の権利について容喙することを許さぬと言ったのに、それはやっぱり容喙することができるのだという考え方が第一に明らかにされまして、それから十五人のうち二人の裁判官の意見でありました、証人尋問の段階で機会を与える程度ではいけないので、三十一条にいっておりますところの「一法律の定める手続」というのはやはり意見、弁解、防御、そういうものを法律の手続として定めてなければ三十一条に違反するんだ、こういう非常にきびしい態度に裁判官が全員変わってしまった。その間に裁判官の入れかえもございましたが、一年余りの間に百八十度の転換がなされた、こういうことであろうかと思います。
#13
○松野孝一君 それからちょっと観点を変えてお聞きしたいのですが、その第三者の没収というものは、まあこれは法令の定め方にもよりましょうけれども、今までは悪意であってもあるいはまた善意であってもかまわない、第三者没収ができるのだというふうに最高裁でも認めておった。ところが、それは三十五年でしたか、三十何年だったかに、最高裁の判例によりまして、そうじゃない、善意の物は没収できないのだ、悪意の物だけだというふうになったというように読んだようですが、そのとおりですか。
#14
○政府委員(竹内寿平君) さようでございます。法文によりましては、善意、悪意を問わないで第三者の物が没収される場合があり得そうな条文がございます。たとえば旧関税法第八十三条一項の規定のごときものがそれでございます。この場合は、学者によりましては、善意の第三者の物でありましても没収し得るのだという見解も成り立ち得る条文でございます。しかしながら、最高裁はこの被告事件におきまして、昭和三十二年十一月二十七日の大法廷の判決で解釈を明らかにいたしまして、条文の上では善意か悪意かどっちでもとれるように読めるかもしれないが、法律の精神は善意の物は入らないのだ、こういう解釈をして、いやしくも第三者の物を没収することができるという実体法の規定の根底をなしておりますのはやはり悪意の第三者のだ、こういう解釈を出しております、これにつきましては、学者の間でも、少しきびし過ぎるのではないか――きびし過ぎるという意味は、少し狭く解釈し過ぎるのではないか、実際問題として、過失程度のものに全然無過失のものまでも広げるのはいかがかと思いますけれども、悪意でなければ第三者の物は没収できないということになりますと、場合によっては法禁物のような、麻薬のようなものは、これは砂糖だと思って持っておったのだという第三者のやつは没収できないのだということでは、これは刑事政策的にも保安処分に考えましても不適当だということで、この判決に対しましてはかなり不満も現在ございます。しかし、最高裁の判例が出ております関係で、実際の運用におきましては最高裁の判例の趣旨に従って第三者でありましても悪意の第三者の物についてのみ没収ができるということで、この判例以後におきましてはそういう運用をして今日に至っているわけでございます。
#15
○松野孝一君 今度の判決ですね、昨年の十一月の判決、それによっては今の問題は何も別に影響しないわけですね。
#16
○政府委員(竹内寿平君) さようでございます。昨年十一月の判決は、その点には全然触れておりません。
#17
○松野孝一君 それから、いろいろな資料を拝見しますと、法文の書き方にもよりますけれども、第三者に属するということが明らかでない物、つまり所属不明な物は、今までの刑法十九条の解釈上、それは第三者の物でない、被告人の物であるというふにして取り扱っているのが現在の例ですが、これは最高裁の……
#18
○説明員(臼井滋夫君) ただいま御指摘の点でございますが、刑法十九条の二項の解釈といたしまして、「没収ハ其物犯人以外ノ者ニ属セサルトキニ限ル」という解釈といたしまして、この点について最高裁の判例はございませんけれども、古い大審院の判例でございますが、これは犯人の物であるか否かが明らかでない、所有者不明の場合、「犯人以外ノ者ニ属セサルトキニ限ル」、これに該当するという解釈になっております。
#19
○松野孝一君 その点については、この応急措置法で変わってくるわけでございますか。
#20
○説明員(臼井滋夫君) お答えいたします。
 この点につきましては、ただいまの判例は直接この法案で変更するという趣旨のものではございませんで、こういう従来からの解釈を前提にいたしまして、手続法上犯人である被告人のものであるかそうでないか明らかでないという物については、権利を主張する第三者があるかもしれない、そういう者にもこの権利主張の機会を与えようと、こういう趣旨でこの法案に定める手続を適用しようと、こういう考え方でございます。
#21
○松野孝一君 この資料をいろいろ見てみますと、ずいぶん学問的なあるいはその他むずかしい議論をしておるようですが、今お話もあり、これは提案理由の設明にもございましたが、実体法的にあるいは手続法的にいろいろ没収問題を解決するために考えておられる、刑法改正草案に出ておるというのですが、どういう点がいけなくて、どういうふうに直そうというようになっておりますか、その点をもう少し説明していただきたいと思います。
#22
○政府委員(竹内寿平君) 刑法準備草案におきましては、この没収制度というものを附加刑という考え方から切り離しまして、附加刑的なものと保安処分的なものの二本立に没収の要件を定めまして、そうしてこれをまた――手続法はもちろん刑法ですから書いてございませんが、おそらくは対物訴訟的なものとして、被告人本来の犯人のほうの処分とは別個に、没収物だけについても裁判の手続を経て必要があれば没収することができるというふうなことになることを前提としたような準備草案の規定になっておるかと思います。しかし、それに対しましても、それでいいかどうかということは、まだ学者の間にも議論がございまして、過般五月二十日に準備草案を一つの参考として法制審議会に諮問が発せられておりますが、この点は、法制審議会でさらに外国の立法例、特にドイツの秩序違反法などにつきましては非常に参考になる規定が現在ございますので、そういうものなどを参考にいたしまして、すっきりした実体法が作られることと期待をいたしておるわけでございます。いずれにしましても、この応急措置法におきましては、それらのものができますまでの間の措置でございますので、附加刑という考え方を取り入れざるを得ないので、そういうことを前提とした手続規定でございます。
#23
○松野孝一君 外国の立法例とかいろいろ参考にされると思いますけれども、ドイツとかあるいは英米法とか、どういう工合になっておるのでございますか。
#24
○政府委員(竹内寿平君) 大陸法系の諸国におきましての法制を見ますると、大体わが国の現行法とよく似ておるわけでございまして、似ておりますのは、刑法典の総則の中に没収に関する源則的な規定を設けておりまして、さらに各則のほうやあるいは特別法の罰則の中に特別規定を設ける、こういう体系でございます。これは、日本の場合と大体よく似ておるのでございます手続といたしましては、大陸法は、日本と同じような刑事手続の過程においてやるというのが通例でございます。
 で、たとえば、フランス、ベルギー、ドイツ、オランダ等の諸国の刑法のように古い刑法の国におきましては、没収を日本と同じように附加刑というふうに規定いたしておりますが、イタリア、スイス、ルーマニア、ユーゴスラビア、ギリシャ等の諸国の刑法は、比較的新しい刑法典でございますが、これらの国におきましては、没収を保安処分あるいは刑以外の処分というような規定のいたし方をしておるものも見られるのでございます。そうして、この保安処分あるいは刑以外の処分というふうに規定しております立法例におきましては、もちろんのことでありますが、刑法総則の中で没収を刑として規定しておる法制を持っておる諸国におきましても、予防的な見地から、いわゆる法禁物的な――麻薬のようなものでございますが、法禁物的なものばかりでなく、そのもの自体は危険はないのでありますが、相対的危険物とでも申しましょうか、犯行にまた使われるおそれのあるような物、そういうものを第三者没収を広く認めておるのでございます。で、これらの諸外国の最近の立法例の傾向を見て見ますと、第三者没収の範囲をだんだん広めていっておるように見受けられます。
 一方、これと対照的なのがアメリカの法系でございますが、アメリカ連邦の規定や各州の法制におきましては、大陸法系の法制のように刑法の中に総則的規定を置くというようなことはございませんで、各種の法律の中に個々の犯罪ごとに没収の対象となる物を、どういうものが没収の対象になるかということをきわめておりまして、それから、また、没収の手続は、刑事手続から独立した民事訴訟の性質を持った手続で、まあ私ども対物訴訟と申しておりますが、そういうような訴訟形態で実際的に没収をきめていくというやり方の法系になっております。このアメリカ系統におきましては、対象の物が第三者の善意、悪意を問わない、善意の物でも対物訴訟によって没収できることがあり得るようにも読める規定があるのでございます。麻薬だとか密造酒だとか密輸品等はもちろんのことでありますが、これらのものの運搬に利用された船舶、自動車、賭博の道具なども、それが犯人の所有に属するか否かとにかかわらず没収されておるということでございまして、運用の実際面においては大陸も英米法系におきましても結論的にはかなり広がってきておる。しかし、手続、法文の立て方、法体系、そういうものは、今申し上げましたように、両者の間に著しい相違が見られるように思われます。
#25
○松野孝一君 今問題になっておる法案が、最高裁の違憲判決によって、それを救済するために作ったというふうに言いますけれども、これで全部違憲問題は解消することになるわけですか。新しい刑法ができるまでの間ということですか。
#26
○政府委員(竹内寿平君) これは、率直に申し上げますが、これで全部カバーするわけにはいかないと思います。第一、この手続によく似た手続が実はあるわけでございまして、行政処分としてやります通告処分のようなもの、あるいは没取処分のようなもの、それから第三者の所有物の上にいろいろな物権が設定されておるような場合はどうかというようなことなど、まだこの応急措置法で解決し得ないものがかなりあると思いますが、しかし、それらのものを全部カバーして全き姿の没収制度を考えるということになりますと、先ほど申したような根本的な実体法、手続法の両面からの改正を必要といたしますので、事件としてほとんどないに等しいようなものとか、あるいは理論的には考えられるが実際問題としてはあまり多く起こってていないような物権を持っておる、そういったような権利を持っておるような第三者の所有物のようなものはこの規定から除外して、とりあえず最小限度の手当をしたというのがこの法案でございます。
#27
○理事(後藤義隆君) ちょっと関連してお聞きしますが、関税法とかあるいは国税犯則取締法の通告処分ですね、いわゆる普通の刑法の没収に該当する通告処分、ちょっと今お話があったのですが、これは一体どうなりますか。
#28
○政府委員(竹内寿平君) この通告処分は、さしあたり刑事手続ではございませんので、判例はそういうものについて何ら触れているところはございませんのであります。しかし、この最高裁の判例というものをどういうふうに理解するかということと関係がありまして、これはその事件ごとにきめただけであって、同じような内容であっても別の事件には何ら拘束力もないというような考え方もありますし、やはり最高裁の判例で違憲の線が出ますと、それと同じ精神でものを見ていかなければならないという、そういう対世的な効果と由しますか、そういう効力を持つというような考え方等もありますが、最高裁の判例ということになりますと、そのあとのほうの考え方に立たざるを得ない。実際の運用としてもそうでございます。そういう考え方からいたしますと、この最高裁の違憲とした精神というものは、刑事罰以外のものでありましても、憲法第三十一条の適正条項の規定は、不利益処分から制裁に至るまでの、刑罰だけでなく、そういうものにまで及ぶというのが憲法の解釈として通説でございますので、そういう点を総合して考えた上で今お尋ねのような行政処分についてどう考えるべきかということがおのずから出てくるわけでございます。
 そういう考え方に立ちますと、やはり行政処分でありましても、第三者の物が、任意提供ではありますが、それによって国庫に帰属してしまうという不利益な処分が第三者に及んでいくわけでございまして、違憲の精神をこの場合に当てはめてみますと、やはり理論としてはそういうものは今後運用上大法廷の判決の線に沿って運用していかなければならないというように考えるわけでございます。
#29
○理事(後藤義隆君) もう一つ関連してお聞きしますが、その第三者物件の上に物権の設定されておる場合には、どんな工合に取り扱いますか。
#30
○政府委員(竹内寿平君) この場合もやはり違憲判決の効果が、物権を持っておる権利者の利益に影響を及ぼすわけでございますから、今の行政処分の場合と同じように理論としては考えていかなければならない。したがいまして、その場合には、そういうことがあることが明らかであれば、この手続によりましても没収することができない。要するに、そういうものは全面改正の機会に解決をされるので、それまでの間はできないということになるのでございます。
 そのような不都合な内包している法案でがまんしたのはどういうわけかということは、当然私どもとしても議論したわけでございますが、このような事件というものは、実務の上ではほとんどゼロと申してもいいほどでございまして、しかしながら、それを含めて立案しますのには、実体法の面で相当十数条に及ぶ実体法を作らなければなりませんし、そうなりますと、ほとんど活用されない事項のために応急措置法の中で十数条の条文を作ってまでやるだけの値打があるであろうかどうか、応急措置法という性格に照らしまして、その程度の不都合は割愛せざるを得ないのじゃないかという結論で、その点はもういけないということはわかりながら、あえてこの中へ入れなかったわけでございます。
#31
○松野孝一君 今の問題、私はこういうような感じがするのです。しろうとでよくわからないので、教えてもらいたいと思うのです。担保物権なら担保物権が第三者の持っている没収せんとする物にあるとするならば、それは所有者ではないのだから、所有権に基づいて問題が起こるのじゃないですか。だから、担保物権があるなら、民事訴訟的な解決はできないものでしょうか。何かそういう感じがするのですが、没収できないというふうになりますか。
#32
○政府委員(竹内寿平君) これはやはり没収することができないという考えでございます。この種の手続き民事訴訟がどこまで入ってこれるかという問題が一つございます。もちろん、没収してしまった、損害を受けた人が民事訴訟で損害賠償の請求をする権利はあるだろうと思いますが、そういうような刑事手続の中へ民事手続というようなものがまた入り込む余地のあるようなことになりまして、本来民事と刑事とは体系が違いますために、刑事では有罪だが民事では無罪だというような、無罪を前提として損害賠償を認めるとか、いろいろ法律の結論に違いを生じてきますので、こういう手続は刑事手続一本でおさめてしまうのが国にとっても関係者にとりましても利益でございます。そういう点を考えて参りますと、民事訴訟法で被害者が権利を保護されているから、こういうものも含めてもいいではないかという御議論もあろうかと思いますけれども、憲法三十一条の適正条項の規定は、「刑罰を科せられないということがあるのですが、その刑罰という意味が不利益処分までも含むというのが通説でございまして、そのような権利者が、所有者ではございませんけれども、そういう権利を持っているということは、法律上の利益でありまして、その権利がその権利者の意見、弁解、防御の機会を与えられずに取られてしまうということになりますと、憲法第三十一条に違反する疑いがあるわけでございます。これはやはり含めて解せざるを得ないというふうに考えております。
#33
○松野孝一君 過去においてどのくらいこういう第三者没収があったものか、資料も来ているようですけれども、その相保物権とかいうようなものの例がありますか。また、どのくらい大きいか小さいか、金額的にどういうものがあったか、お調べになったことはございますか。
#34
○説明員(臼井滋夫君) お答えいたします。
 昨年の大法廷の違憲判決がございますまで行なわれて参りました一切の第三者没収を調査いたしますことは不可能でございます。実際に従来第三者没収が多く行なわれて参りましたのは、関税法あるいは酒税法、たばこ専売法、漁業取締関係法、麻薬取締法等の特別法の第三者没収の規定に基づく事件においてこの第三者の物の没収が多く行なわれてきたと認められるわけでございます。そこで、お手元に提出いたしました「事例集」の統計にもございますように、昨年の一月から六月までに全国の裁判所で確定いたしました事件でただいま申し上げました罪名に当たる事件を、ただし簡易裁判所関係のものは除いて、統計的に数字を取りまとめましたところ、ただいま申し上げました罪名に当たる事件は全部で千五十七件でございます。その中で没収の言い渡しのあったものは五百七十八件でございますが、この五百七十八件の中には、第三者所有のもののみならず、被告人所有のものも含まれます。そこで、この五百七十八件の中で、さらに第三者の所有に属するものと認められるもの、あるいは第三者所有か被告人の所有であるか明らかでないものはどれだけの数字になるかと申しますと、明らかに第三者の所有に属すると認められますものは二十九件でございます。その内訳は、関税法七件、酒税法、漁業法関係各三件、麻薬取締法十六件となっております。それから第三者、被告人のいずれの所有に属するか明らかでないもの、これは六十三件でございます。いずれも麻薬取締法違反でございます。ただいま申し上げました合計九十二件の対象物件は、麻薬が大部分を占めております。これに次ぎまして関税法違反の密輸貨物とか、あるいは酒税法違反の密造酒等がこれに次いでおるわけでございます。これら調査の対象にいたしました事件で、先ほど来御指摘の所有権以外の没収物の上に担保物権等が存在するものがあったかどうかを調査いたしましたところ、これは全く皆無でございます。したがいまして、この調査をいたしました限りではこれはございませんで、さらに広い範囲にわたって調査いたしますればまた中にはきわめて希有の事例としてはあるかもしれませんが、それはきわめてまれな事案であろう、かように考えられるわけでございます
 なお、補足して申し上げますと、先ほどの担保物権の問題につきましては、立法論といたしましては、先ほど仰せのとおり、物件を公共の保護の見地から没収いたしました上で担保物権者に対して補償するというような方法が考えられるわけでございます。たとえば改正法準備草案の七十七条とか、あるいはドイツその他の外国の立法例にも見られるところでございますが、これはしかし手続法のみで解決できる問題ではございませんで、実体法を根本的に改正いたしませんとそういった手当てはできませんので、この法案におきましても担保物権の問題については触れなかったわけでございます。
#35
○松野孝一君 この法案が実施されることによって今までよりも訴訟がめんどうになるような気がするのですが、いろいろ訴訟の複雑化、裁判の遅延なんかを来たすおそれはないでしょうか
#36
○政府委員(竹内寿平君) これは、何と申しましても、そういう参加人の制度を認めて、それらの者が裁判の過程において入ってくるわけでございますから、複雑化することは間違いないと思いますし、したがって、訴訟の遅延ということも免れがたいのでございますが、議論といたしましてはまさしくそのことがはっきり言立るのでございますけれども、実務の上からみますと、先ほど臼井参事官から実例について申し上げましたとおりに、あまり件数がないのでございまして、第三者らしい者というのは、実はよくよく調べてみると共犯でございまして、共犯でありますために出るに出られないで逃げ隠れておるというようなものもあるのじゃないか。もし共犯ということになりますと、これは犯人以外のものではなく、犯人のものと同視される。そのことは判例にもはっきり出ておるわけでございます。そういう関係から、実際問題としてそういう事件はあまりないのではないかという実務上の実際問題としての考え方が一つございますし、それからまた、法案の中におきましても、先ほど逐条説明で申し上げましたように、被告人と同じ地位、それに近い地位を認めながらも、証拠の問題、あるいは出頭義務を免除する、あるいは代理人でこれを済ますことができるとか、出頭しなくても訴訟そのものを進行させることができるとか、いろいろな規定を設けまして、訴訟の遅延にならないような配慮を随所でいたしているわけでございます。でありますから、私の見通しとしましては、このようなやや複雑な様相を呈しておりますけれども、現実の手続におきましては、さほど複雑になりかつ訴訟が遅延するというようなことはなかろうという見通しのもとにこの案を考えております。
#37
○松野孝一君 この法案の中身ですが、第八条の第二項によれば、参加人だけが上訴をした場合には、没収に関する部分だけが上訴審に係属するということになるわけですが、そうすると、被告事件の一部を確定させ他の一部を未確定にするということは、事件全体が不確定になるということになるので、ちょっと現行法制上どういうものでしょうか。
#38
○説明員(臼井滋夫君) ただいま御指摘の問題はたいへんむずかしい問題でございますが、参加人は被告事件の手続に参加するのでございまして、しかもその被告事件は単一のものでございます。主刑に関する部分と不確定である没収に関する部分とが分離されるという性質のものではございませんので、参加人にもこの被告人と同一の訴訟上の権利を与えまして、独立して上訴することを許すといたしますれば、その上訴の効果は被告事件の全部に及ぶとするのが理論的であるかもしれません。しかしながら、実際的に考えます場合に、検察官及び被告人が原裁判の中心部分でございます主刑について上訴をいたしませんのにかかわらず、このいわば付随的な裁判の部分でございますところの没収の部分について参加人のみにその不服があるために、それだけの理由によりまして被告事件の全部を未確定の状態に置くということは、きわめて常識的に見て不合理でございますばかりでなく、被告人といたしましては迅速な裁判を受ける権利が憲法上保障されているわけでございまして、そういう被告人の憲法上の権利が侵害されるおそれもあるわけでございます。一方でまた、国といたしましても、適正な刑罰権の実現という見地から迅速な裁判が行なわれることについて利益を持つわけでございますが、そういった国の利益も害されるわけでありまして結局参加人のみが上訴した場合に事件全体を不確定の状態に置くということは、ただいま申しました被告人の権利並びに国の利益という見地から見て法律的に見ても適切ではない、かように考えられるわけでございます。
 そこで、この法案におきましては、先ほど刑事局長から逐条説明で申し上げましたとおり、八条二項におきまして、参加人のみが上訴をいたしました場合におきましては、主刑の部分は確定して、没収の部分のみが不確定である、こういう構成といたしたわけでございます。
#39
○松野孝一君 大体これで私の質問を終わりますけれども、第三者没収応急措置法もなかなかめんどうなようですが、それでもなお十分でない。それで、新しい刑法草案にもいろいろ出ているそうですが、刑法草案というものはいつごろまでにできるような見通しでございますか。
#40
○政府委員(竹内寿平君) なかなか予測を立てますことが因難でございますが、去る五月二十日に法制審議会会長としての法務大臣のあいさつの中で、審議権を制限するとかあるいは粗雑な審議をしてもらいたいという意味ではない、慎重に審議していい案を作ってもらいたいのであるけれども、諸般の情勢をいろいろと考えてみると、まあ三年ぐらいでひとつ答申を得たいという希望を表明されました。で、これがもし三年ということで答申が出るといたしましたならば、それから以後国会へ御審議をわずらわすことになるのでございますが、私どもまあ事務当局だけの考えで申し上げますと、二つぐらいの国会にまたがって御審議を願う必要が起こってくるのではないかというふうに思っております。
#41
○理事(後藤義隆君) 他に御発言もないようですから、本案に対する質疑は一応この程度にとどめます。
―――――――――――――――――――――
#42
○理事(後藤義隆君) 次に、検察及び裁判の運営等に関する調査を議題といたします。
 小宮君から発言を求められておりますので、これを許します。
#43
○小宮市太郎君 時間の約束もございますから、簡単に質問をしたいと思います。
 去る五月の二十六日に小倉署で被疑者が逃亡をするという事件が起きたわけであります。被疑者は、日豊本線の複線化用地の売買をめぐって国鉄汚職事件と言われたものの取り調べであったと、こういうふうに聞いているが、その概要はどういうものであったか、ちょっとお示し願いたい。
#44
○説明員(槙野勇君) ただいまの問題は、去る五月二十五日のことでございまして、福岡県警、特に小倉署を中心といたしまして、日豊線の土地買収にからみまして端緒を得ましたので、それに関連いたしまするところのすでに服役しております――府中刑務所において服役しておりました是沢芳光を小倉署に移監いたしまして、本年の一月から約四カ月にわたって調べをしておったわけでございます。ところが、去る五月二十五日、その日の調べが約十時ごろに終わりまして、一応この被告人を房に入れてから、かねてこの被告人の義母に当たります松本シノ、これはその前からたびたび差し入れの関係で看守と会っておるわけでございますけれども、これの要請に基づいて面会をさせたわけでございます。当時の看守係は永芳強という巡査でございますけれども、これが松本シノに電話をいたしまして、十時ごろに非常口のところで会わせるから来るようにと、こういう連絡をしたわけであります。そこで、十時十分ごろに房から出しまして、非常口のところに連れていって施錠をはずし、松本シノの来ておることを確認せずに面会させるような状況を与えたと。それから、さらにその面会が終わってから被告人の是沢が看守の永芳巡査のところへ参りまして、もう一度十一時ごろに面会させてほしいと、こういう申し入れをしたのであります。そこで、永芳巡査は再び会わせることになって、十一時ごろに再び同じような状況で非常口で面会をさせた。ところが、しばくたっても戻ってこないので、不審に思って非常口のところへ行ったところが、すでに是沢はどこかに行っていない。あわててその周辺を探しましたが、すでに逃亡のあとであった。まあ本人は、逃げるという気持は――本人と申しますのは看守係は、送げるという気持はなかったようでございまして、戻ってくるだろう。この松本シノというのは市内に居住している人でございますが、戻ってくるだろうということで、しばらく非常口をあけたままで待っておった。ところが、一時間たっても戻ってこないので、交代の勤務者と交代の機会に大急ぎでその逃亡した是沢を探しに行ったと、こういうことに相なっているのであります。ところが見つからず、結局市内の松本イシのところに行って状況を聞いたところが、松本イシのところへは来ていない。そこで、かねてから上京するような話を聞いておりましたので、その間に同僚の非番であります田中巡査のところに状況を話をして、まあもちろんそのときに田中巡査は、たいへんな事件でございますので、すぐ一緒に出署するということで、準備している間に、すでにもう玄関から去って、永芳巡査は是沢を探すために、小倉を中心に、門司、下関というふうに探しに行ったのであります。それで、上京すべく決意をして、二十六日の早朝急行に乗って東京へ向かったわけでありますが、一人ではとうてい探すことは困難だという気持が車中で起き、神戸で途中下車いたしまして、二十六日は神戸で宿泊、翌日朝の汽車で再び小倉に引き返し、二十七日の夕刻小倉に着いたわけでありますが、家族と会って出署すべく出かけたところ、かねて小倉署のほうで手配をしておりました係官と会って、そのまま小倉署に連れてきて、二十七、二十八日は行政上の取り調べ、懲戒上の取り調べをなし、二十八日の夜逃走幇助の罪で逮捕したのでございます。
 一方、是沢のほうは、逃走後、山口、島根、鳥取、大阪を経て兵庫に六月一日に立ち回っているのを、小倉署の捜査員が逮捕して、直ちに小倉署に連れて参りまして、これも単純逃走罪で事件送致し、六月十日に起訴されております。
 簡単に申し上げますと、以上のような事件でございます。
#45
○小宮市太郎君 松本シノですか、イシですか、どっちですか。先のほうではシノとおっしゃって、あとのほうではイシとおっしゃった。
#46
○説明員(槙野勇君) たいへん申しわけございません。松本イシでございます。
#47
○小宮市太郎君 イシがほんとうですね。
 それでは、竹内刑事局長が衆議院のほうに御用がおありだそうですから、ちょっとそちらのほうから先に伺います。
 中心人物で逃走した是沢芳光という男は、相当な犯罪歴を持った男のようですが、しかも服役中この事件に関係して呼ばれて、取り調べを五カ月間やっておったというのですが、犯罪歴というのはどういうのですか、わかりましたらひとつお示し願いたいと思います。
#48
○政府委員(竹内寿平君) 私どものほうにおきましても福岡の検事正から事件の報告をいただいておりますが、何か輻湊しておりますので、ちょっとほかの御質問をしていただきまして、私その間に概要を頭に入れましてお答えをさせていただきたいと思います。
#49
○小宮市太郎君 ああ、そうですか。
 松本イシというのは、たしかこの事件の関係者といいますか、すでにもう起訴をされている、是沢の片棒をかついで贈賄容疑で起訴済みだというように聞いておったのですが、そういうのは接見禁止になっているわけじゃございませんか。
#50
○政府委員(竹内寿平君) 松本イシは、是沢の義母に当たる人でございますが、贈賄幇助ということで取り調べを受けまして、本年の二月七日に私どもの報告では起訴猶予処分に付せられておるようでございます。
#51
○小宮市太郎君 それでは、監房から出したというわけですが、こういう場合に手錠をはずしておったわけですが、相当犯罪歴を持った男を簡単に手錠をはずして会わせることがあるのですか。その点はいかがでしょうか。
#52
○説明員(槙野勇君) 御指摘のとおり、第一、面会させる場所が職務上義務に違反した場所でございますし、面会をさせる方法についてはもちろん許されない方法でございます。房内では普通手錠をかけておりませんけれども、そういうのはもうすでに許されない行為でございます。
#53
○小宮市太郎君 さっき竹内刑事局長にお聞きしましたが、私が新聞面を拾ったので犯罪歴を見ますと、愛媛県の宇和島の生まれで、小倉に住んでおった。二十六年の一月に高知県で詐欺罪でつかまった。三十四年、山口県庁の汚職事件に関係した。山口県庁のモーニング事件といわれるものです。秘書課長が洋服コンクールのにせ表彰状を是沢に作ってやった、こういう山口県庁の汚職事件に関係しておった。さらにまた、不渡り手形に裏書きをした手形を出した事件にも関係している。三十五年に、北九州市小倉区の恐喝で五年の判決があって、保釈中に逃走した。三十七年の十一月に東京駅八重洲口、ここで刀剣不法所持でつかまった。そして、府中の刑務所で服役中であった。その逃走中にこの事件に関係しておる。それからまた、北九州水道企業庁汚職事件で暗躍をしたと、こういうように新聞等では報じておるのですが、大体こういう経歴をたどっておりましょうか。
#54
○政府委員(竹内寿平君) おそらくただいまお述べになりましたような経歴のものと思われますが、正式な報告書面には明確に書いてございませんので、もし御必要でございますならば、ちょっと時間をいただきまして、正確に前科、前歴の調査をした上でお答えをさしていただきたいと思います。
#55
○小宮市太郎君 それでは、今すぐ調査できないと思いますから、あとで……。
 こういうように非常に知能犯であり、相当な犯罪歴を持っておる人ですが、こういう事件を見ていると、実に寛大な取り扱いを受けているのじゃないかというように思われます。選挙のときなどには、小倉の警察などは候補者の奥さんに尾行をつけるというような非常にきびしいこともやったんですが、実際こういう犯罪に対してあまりに寛大な措置じゃなかったかと思うのですが、どうもわからぬのですが、どうですか、これは。
#56
○説明員(槙野勇君) 永芳巡査の同夜のとった措置はもう論外でございますけれども、それまでの状況は、約四カ月にわたって小倉警察署の留置場に留置されておりまして、その間一カ月ばかりは胃カタルという診断を受けまして、そのためにかゆの差し入れが続いたわけでございます。そういう関係で、多少病人という前提のもとに扱いが甘かったと申しますか、あるいはずっとそこで監房に勤務しておった巡査との間に接触の機会が多くなったんじゃないかというふうな気がするわけでございます。
#57
○小宮市太郎君 事件の捜査は昨年の十月ごろから始めておられるようですが、捜査の段階は、これで大体収賄側の取り調べが終わって、今度は是沢という被疑者の資金源と見られる黒幕捜査に移るというように一般にいわれておったわけです。そうしてみると、この是沢は最後の日なんですね。これはもう二十六日一日で、それで今度はほかに行くわけなんですね、行くようになっていた。それで、そういう機会をこの男はねらっていたのじゃないかというようにわれわれしろうとでも思われるのですけれども、そうすると、逃走したというのは、単純じゃないのです、非常に深いものがあるのじゃないかと思われるのです。それで、あるいは証拠隠滅とか土地問題の整理などで妙に動き回ったという疑惑が持たれるのですが、捜査上これほど大きなミスは私はないと思うのですが、どういうようにお考えでしょうか。
#58
○説明員(槙野勇君) 御指摘のとおりまことに遺憾な不祥事故の発生を見て申しわけなく思っておるのでございますが、ただいま御指摘のような点については、われわれ報告に接しておりませんので、申し上げる資料がございませんが、われわれ接しておる報告から見ますと、一応日豊線の関係の汚職事件は終了したというふうに聞いておるのでございます。
 それから是沢被告人につきましては、代用監獄に留置いたしますのは一カ月をこえてはならないという規定がございますので、ちょうど一カ月直前になっておりましたので、あるいは本人はそういう計画のもとに事を運んでおったのではないかと思われる節はあろうかと思います。
#59
○小宮市太郎君 さっき病気の関係もあって若干心をゆるめた点があったかと思われるというような御答弁がありましたが、私が聞いているところでは、是沢の取り扱いは他の留置人よりも非常に自由であったというように一般に言われておったようです。特に、吉展ちゃん事件それから狭山の事件等があって、刑事警察に対してごうごうたる非難があって後なんですね。さらにまた、それぞれ官庁の汚職事件、国鉄の汚職事件その他、こういう汚職事件に対する世論の批判というものは非常に大きいわけです。そういうきびしい中にありながら、一般の風評がこういう被疑者に対して寛大であるという批判を受けるというのは、非常に残念なことだと思うのですよ。特に当時の新聞に、記者団の追及に対して、どの新聞を見てもこういうことが書いてある。小倉署長も、「取り調べの技術上、あるていどのチヤホヤはしかたがないが限度がすぎた」と、こう言っておる。関係者の面会も必要以上に便宜をはかっておった。調べ室やあるいは署内の食堂がありますね、そこでも簡単に会わせた。話も自由にさせておる。面会人の時間というものがちゃんと規則できめられておると思う。そういうものも無視されていたんじゃないかというように思うのですが、それはどうでしょうね、まだ報告ございませんか。
#60
○説明員(槙野勇君) ただいまの点につきましては、報告を読みますと、このケースは、これで一般を判断していただくのはもちろん適切でないと私ははっきり申し上げられると思います。あらゆる警察署の留置場の看守の任務というのは、消極的任務としては最も困難な任務だと私は考えております。にもかかわらず、それぞれ事故を起こさず一生懸念、しかもある看守についてはそれぞれの被疑者の更生を念じつつ勤務しておるという状況でございまして、一般に規律は厳止に保たれておると考えておりますが、このケースは、たまたま永芳巡査とこの是沢との間に発生したケースでございまして、このケースのあり方につきましては、私のほうの報告では、被疑者の段階における面接というのはすべて検事の指揮になっております。検事の承諾を得て面会をさしたというふうになっておりますので、一応検察庁とも話をして会わせていたものと考えております。
#61
○小宮市太郎君 小倉というのは、相当暴力事件その他犯罪の多いところなんです。これは宮地刊事局長も福岡県の県警の本部長をしておったから十分おわかりでしょうが、きょうはほかの衆議院のほうで出られないので非常に残念ですけれども、しかし、私の聞いた限りにおいては、特に自由にふるまわしておったということを非常によく聞くのです。八時半から午後の五時までというのが大体面会時間ですね。今おっしゃるようにいろいろの関係があっても、そういう時間に面会させるという規則になっているようです。それ以後に面会させるという場合には、当直主任の許可を得るとか、いろいろのこまかい注意が必要なんでしょう。ところが、今お話によると、実に二重の扉を開けて、そうしてしかも路地みたいな所で、だれもいなくて本人同士会わしている。こういう全く放任といいますか、勝手に何でもおやりなさいという格好なんですね。こういうのは、ここのケースは特殊だとおっしゃるけれども、これは署全体が弛緩しているのじゃないかと思うのですが、いかがでしょう。
#62
○説明員(槙野勇君) このケースだけを取り上げますと、まことに規律は弛緩しておると言われてもいたし方ないのでございますけれども、私は、このケースは、全くの偶発と申しますとたいへん適当でないかもしれませんが、たまたまこういうケースがあったのでございまして、一般は、先ほど申しましたとおり、厳正な規律、適切な処遇という点に一段の現在努力をしておるし、またそのようになっておると確信しております。小倉署の具体的に日常のことを詳しく私も聞いておりませんので、申し上げられませんが、おそらくそうであろうと考えております。
#63
○小宮市太郎君 監房係の永芳巡査というのはまだ若いようですが、三十ちょっと出たばかりですね。しかしまあよくまじめに勤めたと新聞等に載っておりますが、ただ、私の聞いたところでは、酒を飲むと非常に異常な性質になって、あるいは取り調べ中に相手をなぐったというような事件も起こした人らしい。その限りにおいてはそういう激しい気性の点もあったようですが、しかし、魔がさしたというか、魔がさすにしてもあまりにも警察官としてはその魔がひど過ぎるのじゃないか。で、私は、署全体が、そういうように長い間調べておる間に是沢に対する注意力といいますかそういうものがだんだんゆるんできて、それが監房係の永芳巡査もそういう雰囲気になって、麻痺感といいますかな、そういうものになっていったのじゃないかという気がいたしますが、いかがですか。
#64
○説明員(槙野勇君) 確かにおっしゃるように、われわれ看守の勤務につきましては、平素から、特に長く在監すると申しますか房におる――これは代用監獄でおる場合が一番長いわけでございますが、そういうときの長い接触という点について、いろいろと人情が移ったりする場合がかつてもないわけではございませんでしたので、そういう場合にも、規律の保持、適切なる処遇という点について常に反省しつつこれを処遇していくということについて、これを教養し指導して参ったわけでございますけれども、そういう点について永芳巡査は反省が十分でなかったのじゃないかというふうな気がいたすわけでございます。
#65
○小宮市太郎君 永芳巡査に対しては、養老福岡県警部長が二十八日懲戒免職をしたというふうに発表されたようです。これは当然と私は思うのですが、しかし、永芳巡査一人を懲戒免職にしただけで小倉署の責任はそれで済むだろうかどうだろうか、こういうふうに私は思うのですが、いかがでしょうか。
#66
○説明員(槙野勇君) 現在のところ永芳巡査だけの処分になっておるようでございますけれども、当然監督者の適正なる処分ということは現在県警においても考えておることと考えております。
#67
○小宮市太郎君 こういう事件は、警察に対する不信感はもちろん、特に汚職事件というようなものを取り調べている被疑者ですね、相手は。ですから、政治に対する不信、そういうものがごっちゃになって、これは非常な影響だと思うのです。こういう点について、もう永芳巡査の場合は、本人の行動そのものは弁解の余地はないと思う。しかし、問題になってくるのは、いろいろな疑惑があるわけですね。起訴猶予にはなったけれども、義母の松本イシと面会を自由にさせている。しかも、逃走するときの服装ですね、洋服を与えるとか、あるいはくつを与えるとか、あるいはまた、持っていた時計を署でもって売却して、その金をどうしたのかその行方がはっきりしない。あるいは、永芳巡査が東京まで行く、一人の者を探すのに自分一人で東京へ行ったり神戸へ行ったり大阪へ行ってつかまるはずのものじゃないのですが、飛んでいく。しかも、金は一体どこから出たか、といういろいろな問題非常な疑惑がある。そこで、私は専門家でないからこまかいことはわかりませんけれども、逃走させる罪とか逃走を幇助した罪とかいろいろあると思うんです。これを警察官あるいは監房係というものがやった日には、全くこれは警察行政、検察行政の申しわけない大ミスだと私は思うんですが、この点については私は篠田公安委員長にも聞きたいところなんですけれども、また機会を改めて聞きたいと思っていますが、きょうはその点についてちょっと意見を伺っておきたい。
#68
○説明員(槙野勇君) 本件につきましては、先刻も申し上げたとおり、全くの不祥事件でございまして、別に留置場だけに限らず、全体の規律の保持について一そうの指導教養をいたしますと同時に、個別のそれぞれの警察官の性格ないし環境というものを十分に知悉して監督者が常に指導していくという点にも留意しなければならぬということをあらためて考えさせられるケースでございますが、今後一そう注意して参りたいと、かように考えております。
#69
○理事(後藤義隆君) 他に御発言もないようですから、本件については一応この程度にとどめます。
 本日はこれにて散会いたします。
    午後零時四十五分散会
   ―――――・―――――
ソース: 国立国会図書館
姉妹サイト