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1962/06/25 第43回国会 衆議院 衆議院会議録情報 第043回国会 法務委員会 第27号
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1962/06/25 第43回国会 衆議院

衆議院会議録情報 第043回国会 法務委員会 第27号

#1
第043回国会 法務委員会 第27号
昭和三十八年六月二十五日(火曜日)
   午後二時三十一分開議
 出席委員
   委員長 高橋 英吉君
   理事 上村千一郎君 理事 唐澤 俊樹君
   理事 小島 徹三君 理事 田中伊三次君
   理事 林   博君 理事 坂本 泰良君
   理事 坪野 米男君
      稻葉  修君    小川 半次君
      岸本 義廣君    小金 義照君
      早川  崇君    藤井 勝志君
      松本 一郎君    志賀 義雄君
 出席国務大臣
        法 務 大 臣 中垣 國男君
 委員外の出席者
        検     事
        (刑事局参事
        官)      長島  敦君
        専  門  員 櫻井 芳一君
    ―――――――――――――
六月二十四日
 鳥取県日南町大宮、石見地区を鳥取地方法務局
 矢戸出張所の管轄区域に統合等に関する請願(
 足鹿覺君紹介)(第四六五六号)
は本委員会に付託された。
    ―――――――――――――
本日の会議に付した案件
 暴力行為等処罰に関する法律等の一部を改正す
 る法律案(内閣提出第五九号)
     ――――◇―――――
#2
○林委員長代理 これより会議を開きます。
 委員長が所用のためその職務を行なえませんので、私が委員長の職務を行ないます。
 暴力行為等処罰に関する法律等の一部を改正する法律案を議題とし、審査を進めます。
 質疑の申し出がありますので、これを許します。坪野米男君。
#3
○坪野委員 暴力行為等処罰に関する法律等の一部を改正する法律案については、同僚の委員諸君からすでにいろいろな角度から質疑が続けられておるわけでありまするが、私も、若干の重複はあるかもしれませんが、また違った角度から少し掘り下げて問題点についてお尋ねをしてみたいと思うわけでございます。
 私は、先回の法務委員会で、池田総理の出席を求めて質疑をした際に、最初に申し上げたことは、いわゆる町の暴力団に対してきびしい態度をもって取り締まりを行なう、暴力犯罪を根絶するということの必要は、私たちもこれを認めるにやぶさかでないわけでありますし、そのために政府なりまた警察当局が姿勢を正してきびしい態度で臨むということであれば、いわゆる暴力団退治あるいは暴力犯罪をなくすることができるということも申し上げたわけでありまして、一にかかって政府並びに警察の姿勢が問題だということを冒頭に申し上げたと思うわけであります。この考え方は現在も変わっておらないのでありまして、ただ暴力犯罪に対して刑罰を強化する法律をつくるというだけでこと足れりとしておっては、ほんとうに暴力団を取り締まる、あるいは暴力犯罪を根絶せしめるということはとうてい不可能だと思うわけであります。そういう意味で、やはり根本においては、法律の改正よりも政府並びに警察当局あるいは検察当局がきびしい態度で暴力事犯に対処する、取り締まりを強化する、こういう姿勢が一番肝心だと思うわけであります。私はそういう立場に立って、現行法のもとにおいても十分暴力対策は立て得るし、現行法制のもとにおいて十分暴力事犯に対処できるという考え方を持っておるものでありまして、一方、今回のこの程度の改正法案でもってどの程度の取り締まりの効果、実をあげ得るのかという点についても非常に疑問を持っておるわけであります。さほど効果のないこの程度の法案でもって、ただこういう改正案をつくったというだけでもって、暴力対策なれりというように安易に考えられてはとんでもないことだと思うわけであります。最初に言うたとおり、政府の姿勢を正すということを今後――従来も、政府は浅沼事件以来右翼の暴力あるいは町の暴力に対して相当きびしい態度で臨んでこられたということを私は必ずしも否定するわけでもありません。また警察当局も、従来とかく右翼とつながりがある、あるいは暴力団を温存しておる、そして凶悪犯罪が発生した際に、これらの暴力組織を犯人検挙に利用するというようなことで暴力団を温存しておったという傾向も従来の警察にあったことを私も承知しておりますが、世論の動向にかんがみて、最近警察当局もこの暴力団に対して非常にきびしい態度で臨むようになったということも、大体の傾向としては承知をいたしております。けれども、もっときびしい態度で臨まなければ、ほんとうに暴力犯罪の根絶を期することはできないということを強く感じておるわけでありますが、最初に、この私の考え方に対して法務大臣の御所見を伺っておきたいと思います。
#4
○中垣国務大臣 政府といたしましては、最近における暴力事犯が非常に増加しつつある傾向になり、また悪質の暴力団等の、たとえばばく徒であるとかテキヤ、それから青少年の不良団、それから売春、麻薬、そういうものの暴力団といったような団体の構成員またはその仲間というような者が引き起こしておる悪質犯罪というものが非常に増加してまいっておりますので、これをこのままに放置しておいてはならないということから、閣議等におきましてもたびたび話題になりまして、暴力に対する対策を総合的に進めるとともに、暴力行為等処罰法を一部改正をいたしまして、そうして悪質のものに対する刑罰を引き上げるべきである、こういう考え方に立ちまして今度の改正案を出したわけでありますが、姿勢と申しますか、政府の考え方といたしましては、いかなる暴力に対しましても厳正公平な立場で強力なる取り締まりを断行すべきである、こういう心がまえに立って今日までまいった次第でございます。
#5
○坪野委員 そこで私の考え方からすれば、現行法令のもとで取り締まりは十分可能だという考え方を持っております。いま大臣は、この種の暴力犯罪に対して刑罰の強化、引き上げが必要だという考え方から一部改正案を出したのだ、こういう御答弁でありますが、今回の刑罰強化の改正は刑の下限を引き上げるということでありまして、むしろ法定刑の上限を引き上げるということであれば、この種の暴力団に対して刑罰が強化されたという印象を世間に与えるわけであり、また威嚇的な効力という点からも相当な効果が期待されるわけでありますが、長期を傷害の場合十年というように据え置いて、ただ短期で罰金、科料をはずす、あるいは一年以上というように短期を引き上げたというだけでは、私はそれほど効果的な刑罰の強化にはなり得ないと考えるわけであります。そこで現行法のもとにおいても可能ではないかという私の立論の根拠は、裁判官が裁判で量刑をするというのはもちろん当然でありますが、その際に検察官が求刑の引き上げ――従来の暴力事犯に対する求刑が非常に軽きに失したということであれば、政府の指導――間接の指導になりましょうが、また検察庁検事一体の原則で最高検の適切な指導によって求刑の引き上げということをやれば、やはり求刑の引き上げによって、裁判官も世論の動向を十分承知をして、おのずから判決における量刑も引き上げられるのじゃないかというようにも考えられますが、この求刑の引き上げ措置によって、従来低きに失したといわれる暴力事犯に対する刑罰を相当引き上げることができるのじゃないか。むしろ検察官の求刑も従来低かったのじゃないかというようにも考えられるわけですが、この求刑の引き上げその他の措置によって、裁判官の量刑を間接的に引き上げせしめるということはある程度の効果はあるけれども、限界があるのだということを前回刑事局長は答弁しておりましたけれども、どういう根拠で、どういう限界があるのだということを、専門的になりますから長島参事官からひとつ御説明を願いたいと思います。
#6
○中垣国務大臣 専門的なことは長島参事官からお答えをさせますが、求刑基準の引き上げにつきましては、昨年の十一月、検察庁会同をいたしましたときに、このことを政府の方針といたしまして、いろいろ私説明をしたわけでありますが、そのときに、資料を見ますと、大体三月であるとか、四月であるとかいう非常に刑の短い裁判の判決を得る者が多いために、むしろ社会人にとってはそのことが逆に恐怖心を与えておるというようなこと等も、当時の新聞等にも非常にやかましく宣伝されておったわけでありますが、この求刑基準の引き上げをいたしましてから、最近になりましての資料によりますと、若干判決が重くなったということは事実でございます。そういうことを考慮に入れますと、なるほど法改正をしなくてもある程度の効果が期せられるのではないかという御議論でありますが、それにいたしましても、資料としてたしかお配りしてあると思いますが、これを見ますと、まだまだ非常にその判決が軽い。そういうこと等で、刑事局長が先回の委員会で言いましたように、求刑基準の引き上げだけではどうも限度があるようだということ等も考慮に入れまして、このたびの改正案を出したのでございます。
#7
○長島説明員 御承知のとおりでございますが、日本のただいまの刑法は非常に法定刑の幅が広いわけでございます。御承知のように傷害、暴行等につきましては、下は科料から上は懲役十年まで、そういった刑の幅があるわけでございまして、そういう場合には、これは日本だけではございませんが、一般に各国の最近の例といたしまして、とかく裁判の実際は刑の軽いほうにつくという傾向があるわけでございまして、先ほど御指摘がございましたように、そういう場合に、検察官が求刑を引き上げるということによりまして、実際上の科刑がある程度適正な、また重い刑罰になるということは考え得るわけでございますが、一つにはその場合の立証の困難性というものもございまして、たとえば常識的にはこれは暴力団に通じておるものだというふうに言われておりましても、それを証拠といたしまして法廷に出していくということになりますと、いろいろな制約がございまして、必ずしも十分にそういった立証ができないというような点もあるわけでございます。そこで、御承知のとおりでございますが、各国の刑法典におきましては、たとえば今度提案しております銃砲、刀剣類といったような危険な凶器を用いましたものにつきましては、その罪質自体が非常に危険なものであるということから、法定刑自体が、短期が重くなっておるわけでございます。その他常習犯というような形でとらえまして、性格的に非常に危険でありますし、またこういうものについては相当長期間の更生保護の措置が必要であるというようなものにつきましては、それに相応しました、やはり短期を上げた法定刑をきめるということによりまして、裁判上の一つの基準ができてくるわけでございます。さような基準ができてまいりますと、御承知のとおりその基準のワク内で裁判がなされることになるのでございまして、ちょうどそういう基準は、先ほどと御指摘がございましたように、世論と申しますか、そういう意味の考え方、あるいは一般予防的な考え方、あるいは犯人の更生というようないろいろな考え方からこの基準ができてまいるわけでございますが、そういうある程度の法的な基準をつくることが、適正な刑を盛っていく場合に最も必要なことだというふうに考えられるおけでございます。すべてを非常にワクの広い範山内の裁量の余地がございます中におきまして、適正な刑罰を得るために、検察官の求刑の引き上げとか、その情状の立証に非常な苦労を払っておるわけでございますが、何と申しましても、局長も申し上げましたように、そこには限界があるわけでございまして、こういう今回の法律のような一つの基準を設けてまいりまして、特に短期につきましてそこの下限を切っておるということは、非常に意味があることだというふうに考えてかような立案をいたしたわけでございます。
#8
○坪野委員 私は、ただいまの説明では納得できないわけであります。下限を引き上げたことに意味があるのだ――その理由はあとでただしますが、おそらく権利保釈の制限、あるいは罰金刑はあり得ないということを意味しておると思いますが、竹内刑事局長の答弁の中にも、求刑の引き上げその他の行政措置では限界があるのだとお答えになりましたが、これは限界はないのだと私は思う。限界があるとすれば、最高十年で、十年以上の求刑ができないという限界は通常の場合あろうと思うのです。しかし、法定刑の範囲内で、検察官が、これがいわゆる常習の暴力団員だ、あるいは悪質な暴力団員だというような、犯人の主観的な要件、あるいは計画的にやったとか、あるいは残虐な手段方法でやったとか、あるいは重大な傷害の結果を来たしたということで、同じ傷害でも、非常に重い傷害と、それから軽微な傷害というものがあり得ると思います。ちょっとかすり傷を負わしても傷害は傷害だということになりますから、そういう重い傷害が生じた場合に、従来の判例の傾向を見れば、なるほど下限に近いところで量刑されておるようでありますけれども、検察官がこういう特殊な犯罪に対して、現在の時勢における特殊な犯罪に対してきびしい態度で求刑をするということは、私は決して不可能ではないと思う。たとえば交通違反の事件、あるいは交通事故から発生した業務上過失致死傷事件、そういう交通事件については、検察官はいわゆる交通戦争と言いますか、非常にきびしい態度で求刑をされて、それだけで効果をおさめたと言えないかもしれないが、またそれが相当効果をおさめておる面もあるように私たちも見ておりますが、交通事犯では非常にきびしい求刑が検察庁の方針でなされておる。そして相当な成果を得ているわけですから、傷害事件でも、事案によっては相当大幅の、従来の常識を破った求刑ができないはずはないと思う。大体銃砲または刀剣類を用いてなす傷害といえば、最高十年でありますが、結果が軽微であったという場合はともかくとして、非常に重い、不具者にする、重い傷害を与えたという場合もありましょうし、あるいは銃砲または刀剣類を用いて傷害をするといいましても、通常銃砲または刀剣類を用いて傷害をする場合は、未必的な殺意の推定を受けて殺人未遂で起訴される場合が多いと思うのです。ピストルを足をめがけて撃つという特殊な場合、あるいは押えつけて刀で相手の耳を切り取るとか、あるいは足を切るとかいう特殊な場合は別として、普通暴力団がやる傷害事件で銃砲、刀剣類を用いるというケースは、おそらく現実には殺人未遂、殺人の未必の故意を認定されて殺人未遂で起訴されている。未遂減刑をするかしないかは別として、最高死刑にまでなるわけです。ですから、銃砲、刀剣を用いて殺意のない傷害の事犯という場合で最高が十年だという場合に、傷害から致死に至る、あるいはもう殺人と紙一重というような、危険な凶器を用いてなす傷害――殺人罪で断罪される場合はもちろん殺人罪の法定刑を受けるわけです。ですから、殺意がなかった、未必的な殺意さえもなかったという特異なケースの中で重大な結果を発生している、不具者にした、半殺しにしたというような重大な結果を招来した、またそれが常習暴力団であり、また集団的な犯行であって非常に悪質だという場合に、いままでの刑は非常に軽いのですけれども、これが五年なり七年なり、あるいは傷害罪の中で最も憎むへき最も悪質と認められる具体的な事案の場合に、最高刑の十年が求刑されてもちっともおかしくないと思うのです。刑の公平ということから、おそらく検察庁といえどもいろいろな配慮をされるのだと思いますけれども、求刑の引き上げに限度があるといいまして毛、その限度は、従来の判決はこの程度だ、ぼちぼち程度には引き上げられるけれども、それを一度に三倍に引き上げるわけにはいかないという、何か確信のなさは、むしろ従来の判決の量刑に引きずられて、そこを基準にしてものを考えるからであって、戦後の民主主義の基盤を守るという点から、暴力を根絶するのだという決意があれば、これもただ検察当局がそういう決意を持つということでなしに、そういう暴力を憎むという強い世論に支えられて政府も腹をくくってやるならば、私は具体的事案によってはきびしい求刑はあり得ると思う。ですから、求刑の引き上げには限界があるというお考えには、にわかに私は賛成できないのであります。
 一方、下限を引き上げるという考え方も、重い傷害、軽い傷害――これは法律のことばかどうか知りませんが、外国の立法は知りませんが、常識的には言えるわけなんですが、軽い傷害の場合、しかも暴力団が銃砲、刀剣類を用いて傷害をするという場合には、一応悪質だ、こんなものを罰金にする必要もないという考え方もわかります。また最近の傾向も、おそらく罰金でおさまる事案は非常に特異な事件じゃないかと思います。しかし、また偶発犯の場合、たまたま許可を受けて持っておった猟銃とか、あるいは美術品としての刀剣類があって、猪俣さんは夫婦げんかを例にとっておりましたけれども、夫婦げんかとは言わなくても、偶発的に被害者の挑発を受けてかっとなって人を傷害するという事犯も起こり得るわけであります。ですから、傷害というのは、重い傷害、軽い傷害、あるいはその傷害の動機等によって、ただ手段だけがたまたま銃砲、刀剣類であるといたしましても、情状的に非常に幅があると思うのです。この場合は、傷害の結果はさほどでもないが、銃砲、刀剣類を用いたのだ、情状からして起訴猶予にする道は残されているでありましょうけれども、何らかの処分が必要だという場合に、相当程度の罰金で足りるのじゃないか。被害者が挑発をして、被害者のほうに道義的責任のある場合も傷害事件には相当あるわけでありますから、そういう場合に、下限を引き上げるという考え方で、裁判官の刑の量定の幅を狭くするということは必ずしも私は策を得たものではないと思う。むしろ、悪質な傷害事件に対しては求刑の引き上げその他でびしびし検察当局がやればよい。もちろん裁判官は、必ずしも検察官の求刑に従うわけではありませんけれども、検察当局としては何ら限界がないと私は思うのですが、その限界があるということを言われた根拠を具体的に明らかにしていただきたい。
#9
○長島説明員 私の説明が不十分でございましたので、申しわけないと思いますが、検察官の求刑自体につきましては別に限界はないわけでございまして、御指摘のとおり、非常に悪い、客観的に非常に危険である、あるいは悪質である、その他各般の情状がございまして、たとえば十年の求刑が相当だという場合にはもちろん十年まで求刑ができるわけであります。ただ問題は、そういうふうに検察官が考えました場合に、それを実際の科刑の上におきまして、裁判の上でそういう求刑に沿った判決をいただきますためには、十分の立証が必要なわけでございまして、御承知のとおりでございますが、情状に関する立証につきましても、いろいろ訴訟的には制約がございまして、実際問題といたしましては、うわさとか伝聞とかいう程度のものではなかなか立証がつかないわけでございます。現場からよく聞くところによりますと、いわゆる暴力団の団員というふうに一応は警察も見ておるということでございますが、その根拠を法廷で立証する場合に非常に困難を感ずる事例もあるわけでございます。そういう意味で、実は限界があると申しましたのは、非常に幅の広い法定刑の中におきまして、しかも一般的に裁判の実際の県刑がとかく下限につきやすいという実情がございますもとにおきまして、単に求刑を引き上げるということだけで、その科刑が実際に重くなるという結果を得るのはなお相当困難があるという趣旨で申し上げたわけでございます。
 御指摘のように、検察庁といたしましても非常に努力をいたしておりまして、一昨年の二月でございますか、閣議決定がございまして、暴力犯罪についての総合対策をそれ以来実施しておるわけでございます。先ほど大臣も御説明いたされましたように、その後三回と思いますが、検事の会同がありますたびにこれが議題になりまして、各高等検察庁におきまして、管内の検察庁と会議を開きまして、一斉に相当程度求刑の引き上げを現にやっておるわけでございまして、鋭意立証に実は努力をしてきたわけでございますが、それでもなお十分に効果があがらないというような実情がございまして、一応裁判の一つの基準を示すというような意味で今回の改正を考えたわけでございます。
 なお、先ほど御指摘がございました点でございますが、長期につきましても、たとえば銃砲、刀剣を用いるような非常に危険な傷害でございますから、懲役十年が適当であるかどうかというところはかなり問題があろうかと思いますが、現在の刑法におきまして、傷害致死で、相手方が死にました場合にも有期懲役ということで、実は長期が十五年になっております。そういった刑法のほかの条文とのさしあたりの均衡というようなことも考えましたことと、懲役十年と申しますと、実は相当重い刑でございまして、実際に十年の刑ということになりますと、かなり効果もあるというふうにも考えられたので、長期は一応現状ではこのままにいたした次第でございます。
 なお、短期の点につきましていろいろ御指摘がございまして、まことにそのとおりだと思うのでございますが、この短期を定めておりますということは、先ほど申し上げましたように、裁判上の量刑の一つの基準を示しておるということがございますほかに、行為者に対します一つの一般予防的な効果がやはりあるわけでございまして、こういった形の犯罪をいたしますと、短くても一年行かなければならないというようなことが周知されてまいりますと、やはりそれは威嚇的効果を持つわけでございますし、また偶発犯の場合につきまして御指摘があったわけでございますが、銃砲、刀剣類というふうにしぼりましたのも、実はそこを主に考えたわけでございまして、銃砲、刀剣類の概念は、銃砲刀剣類等所持取締法によるいわゆる銃砲、刀剣類、すなわち言いかえてまいりますと、現在法的には何人も所持を許さないというものでございまして、御指摘がございましたように、許可を得てこれを持っておるという例外的な場合がございますが、全体から申しまして、そういった許可を得た銃砲、刀剣類によるこういった事犯ということは、ほとんど実は聞いておらないわけでございまして、大部分のこういった事件が、暴力団あるいはぐれん隊といったような人たちが不法に持っておるものを使っての傷害であるというような実態がございまして、かような立法が考えられたわけでございますが、御指摘のように、ごく偶発犯であるとか、あるいはその挑発を受けたとかいうような、情状に非常に気の毒な事情もあるというような場合でございますれば、おっしゃいましたように起訴猶予ということも考えられますし、あるいは起訴されました場合にも、酌量減刑ということも可能でありますし、執行猶予ももちろん可能であるということで、ある程度妥当な実際の処理ができるのではないか。この短期を撤廃いたしますと、せっかくねらっております暴力団のような、不法にこういうものを用いてやります傷害についての短期がなくなってくる。そのことは、結局そういったものの威嚇的な効力というものも弱まってまいる次第でございまして、さような観点から短期を置いたという次第でございます。
#10
○坪野委員 理屈になりますが、立証が困難だから求刑の引き上げに限界がある、こう言われますが、その罪体に対する立証だけじゃなしに、情状についての立証も、求刑をする以上は当然立証責任は検察側にあるわけですから、立証困難であれば、もちろん求刑の引き上げに限界があることは当然のことであります。しかし、銃砲、刀剣類を用いて人を傷害した、その傷害の動機とか、あるいはその犯人が暴力団の構成員であるかどうか、おそらく立証の困難をそこへ持ってきておられるだろうと思いますが、暴力団員であろうとなかろうと、その手段方法が非常に凶悪な手段方法だ、特に集団的な傷害だということであれば、それはなるほど犯人の主観的な条件というのですか、暴力団員である、組員であるという場合は、常習的な要素を持っておるということでもっと重くなりましょうが、そうでなくても、数人共同した町のチンピラであっても、刃物を絶えず不法に所持しておって、それでけんかの際に人に傷害を加えた、しかも結果が非常に重大だったという場合の求刑が、従来の傷害罪に対する判決あるいは求刑が低かった。その低かったものを相当程度――私、何も最高十年の求刑にせよというわけじゃないのですが、ものによってはあり得るということを申し上げておるだけで、そういう意味で立証困難だから求刑に限界があるんだということは、これは論理的に私は通らぬと思います。立証困難なものはもちろん主張できないわけです。主張しても、これは証拠がないのですから。ですから、情状に関してもやはりそれ相当の立証をして、その事実に即した求刑が当然なされるわけであります。暴力団とは何ぞやというようなめんどうなことは――この法律の主としたねらいが暴力団にあるということはよくわかる。率直に認めるけれども、法律の中でそういう規定というものは技術的に非常に困難なわけですからできない。何もこれは暴力団だけを対象にしているわけじゃなしに、やはりこういう危険な凶器を用いた特殊な傷害の刑を引き上げようということで、大量的には暴力団に適用することをねらっておるということはわかるわけです。ですが、立証が困難だから求刑の引き上げに制限があるということは、私は言えないと思う。ですから、幾ら検察官が求刑を高めても、現在の裁判所の裁判官の意識と言いますか、あるいはこういった傷害事犯に対する認識から、刑が軽きに失しているのだ。だから、検察官が幾ら求刑を高めても、裁判官が厳しい重い判決をしてくれないのだという、裁判官に対する不信の感がそこにあるのじゃないか。裁判基準の最下限を定めて裁判の一応の基準にするのだ、こう言われますけれども、私は、検察官が悪質な傷害犯に対して求刑を引き上げていくという一貫した態度をとられたら、一回、二回は、なるほど裁判官にもいろいろ考えがあって低いかもしれないけれども、検察官の求刑にほど遠い判決があれば検事控訴をする。交通事犯なんかにはずいぶん行なわれておりますが、そういうことで、あるいは世論喚起の中で、私は、一度にはね上がって三倍の求刑ということは、かりに困難であっても、相当厳しい求刑基準というものを検察当局で一貫した指導のもとにやられたら、そう制限というものはないと思うのです。いまの検察官の求刑というものは、最高検がそこまで指示するということじゃなしに、おそらく高検で管内の各検察庁に、具体的な、特殊な犯罪に対する求刑の引き上げということを、あるいは最高検の指令で各高検がそういう方針をとっておるのだと思いますが、そういった検事一体の立場から求刑引き上げの指導をされたら、私は相当厳しい判決が期待できるのじゃないかと思うのですが、その制限があって、限界があって、求刑の引責上げだけではどうにもならないのだ、どうしてもこの程度の引き上げが必要なんだと言われる合理的な根拠を、もう少し明快に御説明願いたいと思います。
#11
○長島説明員 御指摘のとおりでございまして、証拠がございませんのに、その求刑をむやみに重くするということは、もちろんできないわけでございます。私が申し上げましたのは、あるいはことばが足りないかもしれないと思いますが、こういった法律によりまして、刑の幅が、一般の場合と違いまして特別にこういうふうに短期がきめられてくるというふうになってまいりますと、そのことによって国家の法的な意思と申しますか、そういった行為に対する刑罰的な評価というものが条文自体から出てくるわけでございまして、そのことが、先ほど仰せられましたように、実際に求刑をいたします場合に、悪質な情状の立証をするというための努力はもちろんやっておるわけでございますが、そのことと、それから法的な国家意思がそこにあらわれてまいりますことと、両々相まちまして適正な科刑が得られるというふうに考えられるわけでありまして、もちろん、先ほども申し上げたのでございますが、全国の検察庁におきまして、昨年あたりから非常に求刑基準を引き上げておりまして、現に鋭意そこは努力をしておりますし、検察庁におきましては、こういった暴力団のカードというようなものもつくっており、常習的な行為の立証にも使い得るような資料を整えてきているわけでございますが、一方さような努力を積み重ねながら、一方法的に、また国家意思といたしまして、こういった客観的に危険な傷害罪であるとか、あるいは常習的な傷害というものについての刑の基準をきめておるという、二つのことが両々相まちまして、この法律が通りました場合には、一そう効果があがってくるというふうに考えておるわけでございます。
#12
○坪野委員 いまの御説明でちょっとわかってきましたが、そうすると、刑事局長の答弁にあった求刑の引き上げには限界があるという考え方は誤りであって、限界はないのだ、現行法のもとでも求刑の引き上げによってきびしい重い判決を期待できるのだ、もちろん裁判は独立ですから求刑どおりというわけじゃないですよ。ですけれども、現行法においても求刑の引き上げによって相当の効果を発揮し得るのだ、必ずしも最下限の引き上げということによって裁判官に対して科刑の基準を強制しなければならないというものでもないのだ、だから現行法でもと足りるのだ。ただし、暴力事犯に対してきびしい態度で臨むのだという国家意思と申しますか、政府の決意をこの最下限を引き上げたということによってPRするというか、政府の暴力事犯に対する国家意思を表明する、そういう意味を込めて、求刑の引き上げその他と両々相まって刑罰強化による暴力事犯の取り締まりを一そう進めていきたい、こういうことになるのでしょうか。両々相まってはわかりますが、前段の点は現行法で十分できる、政府の決意なりあるいは検察当局の決意また努力によってできると思うのです。あるいは国民世論を喚起するいろいろな努力によってできると思うのですが、それと同時に、ただ最下限であっても、とにかく刑罰を現行法よりも強化することによって政府の意思と決意を表明し、あるいは威嚇的な効力が期待できるのだ、その両様に理解していいのかどうか。
#13
○長島説明員 検察官といたしましては、先ほども申し上げましたように、ここ二年ほど極力実は努力してまいっておるわけでございまして、その効果がどのようにあらわれてきたかということが、まだ最近の統計が十分に出てきておりませんのでわからないわけでございますが、たとえば殺人罪等につきまして東京地検で調べたところによりますと、求刑の引き上げの結果、最近科刑が一般的にやや重くなってきておるというような実績があらわれてきておるようでございまして、もちろん検察官の努力によりまして悪質事犯に対する刑罰が適正に重くなるということは期待し得ると思うのでございますが、局長が限界があるとか、私もさような言葉を申したわけでございますが、これは実際にいままで検察庁で努力をしてまいりました実績から考えまして、そこには非常に努力が要るわけでございまして、このような法律が通りましたならば、それが一つの裏づけになりまして、先ほども申し上げましたように、これと両々相まちまして私どもの期待できるような適正な裁判が得られるというふうに考えた次第でございます。
#14
○坪野委員 その点はそのように了解しておきます。
 そこで、いまの下限を引き上げるということの意義をそのように理解されるといたしましても、反面、さきに私が言ったように重い傷害、軽い傷害、また動機においても偶発的な動機、そういう一切の情状からして、かりに銃砲、刀剣類使用の傷害罪であっても、情状によっては罰金刑を相当とするような事案もあるのじゃないかということを考えるとき、その量刑の幅を縮めるということは私はどうかと思う。やはり裁判官の具体的事案に対する裁量にまかしておいていいのじゃないか。一方検察官も、具体的裏案によって起訴猶予なり罰金なりを求刑される場合もあり得ると思うので、私はむしろ、これの主としたねらいが暴力団ということであれば、長期を引き上げることによって国家意思をきびしく表明するということもあり得ると思う。むしろ刑期の幅を広げておいて、裁判官の具体的な事案における量刑にまかせておいていいのではないかというように考えるわけで、いまの偶発犯なり、あるいは比較的軽い傷害事犯に対して罰金刑を科する場合もあり得るという私の考え方、これについて銃砲、刀剣類を用いて傷害をした場合は、そういう罰金相当の事案なんというものはあり得ないというお考えかどうか、これをもう一度お尋ねしておきます。
#15
○長島説明員 先ほども申し上げたわけでありますけれども、実際問題といたしますと、銃砲刀剣類はすべて一般に所持を禁止されておるものでありまして、これを持っております者は、特に許可を受けた者でございますとか、あるいは職務上これの携帯が許されておるような場合でございまして、一般の方が許可を得て正当に持っておられるという場合はきわめて少ないのでございます。また過去の実例からいたしましても、そういった適法に所持しておられる方がそれを使われて傷害事件を起こされたというような例はほとんど聞いておりませんので、実は先ほども申し上げたのでございますが、過去の実例から言いますと、大部分が暴力団、ぐれん隊というようなものによってこれが使われておるわけでございまして、そういう関係から短期を一年というふうにしておるわけでありまして、ただいま御指摘のようなまれに偶発犯的な非常に情状の軽いというものがあるかと思いますが、さような事案につきましては具体的に要当な、たとえば起訴猶予の道もございましょうし、あるいは起訴いたしました場合にも、酌量減刑いたしますれば、これは刑は六ヵ月まで下がりますし、もちろん執行猶予の道もあるわけでありまして、罰金の青い渡しができないということになるのではございますが、しかし他面考えてみますと、いずれにいたしましてもその罪質自体が銃砲、刀剣というような危険なものを用いておるわけでございまして、先ほどもおっしゃいましたように、普通殺人の未遂というふらな、殺人の未必の行為とでもとれそうな事案でありまして、殺人未遂ということになりますと、これは御承知のように三年以上の懲役というのが一番低い刑でございます。そうなりますれば、先ほどもおっしゃったのでございますが、これは殺人未遂になりますから要らないのではないかということでございますが、実際問題といたしますと、なかなか未必の殺意が立証できにくい場合があるわけでありまして、お手元にございます統計資料にも銃砲、刀剣類を用いての傷害事例というのが年間約一千件近くにのぼっておるわけでありまして、さような罪質ということも考えあわせますと、やはり罰金刑はなくてもいいのじゃないかというような考え方で立案なされておるわけであります。
#16
○坪野委員 お尋ねしますが、この暴力事犯特に傷害ですね。傷害事犯の中で、外国の立法例では、軽い傷害、重傷害と普通の障害という分け方、あるいは危険な傷害というような概念もあるようですが、外国のその種の暴力団あるいは暴力的な犯罪の中で、傷害に限って、傷害事犯で軽い傷害の場合の――重い傷害と軽い傷害の限度はどの程度か私は外国のことはよく知りませんが、欧米あたりで裁判の結果どの程度の量刑がなされておるか、そういう点、統計を調べてみたことがありますか。
#17
○長島説明員 実は役所の部屋のほうにはございますので、見た記憶がございますが、正確にただいま覚えておらないわけでございますが、大ざっぱに申しますと、相当重い刑が青い渡されておるという印象を私は受けた記憶がございます。
#18
○坪野委員 正確でなくてもいいのですが、たとえばどこの国でどういう数字が出ているからということで重いという印象を受けたか、その根拠をお尋ねいたします。
#19
○長島説明員 私がいまさしあたり記憶に浮かびますのは、法務総合研究所の武安研究官が発表されております欧米各国における殺傷事犯の量刑の研究でございますが、題名が正確でございませんが、さような論文が出ておるわけでございます。これなんかによりまして見ましても、なお、それから法務省から出しております犯罪白書の中に、欧米各国の量刑と日本の量刑というものをある程度比較したものが出ておったと思いますが、これらを見まして私の受けました印象では、欧米各国におきましてこういった身体あるいは生命に対する罪についての科刑は、一般にわが国に比べまして非常に重い実情にあるというふうに記憶いたしております。
#20
○坪野委員 その点ですが、私が国会図書館で調べてもらった資料によりますと、西ドイツの暴力関係犯罪の刑種、それから刑期別一覧、これは一九五七年二十一歳以上の成人の犯罪ですが、その中で傷害だけに限って言いますと、軽傷害それから危険な傷害、重い傷害、傷害致死、傷害に関してこういう種類が統計上出ておりますが、これはドイツ刑法のそういうような条文があるのでございます。この中で軽傷害は判決総数一万六十件、そのうちで軽懲役が千九百三十七件です。こま丸いことは抜きますよ。そして一方罰金のみの判決が八千百十七件ということは、八分通りは罰金で済んでおる。これは西ドイツの例であります。危険た傷害の場合は判決総数八千八百二十人件、このうち軽懲役三千六百五件、号して罰金のみというのが五千二百二十件、ここでも半数以上、六割くらいは罰金で済んでおる。軽傷害といまの危険な傷害ですね。重い傷害の場合は、判決総数六十三件、非常に少ないわけですが、軽懲役が六十一件ということで、重い傷害には罰金はないようであります。かわりに自由刑と併科がありますけれども、そういうことで、重傷害は抜きにしまして、軽傷害、危険な傷害という障害犯罪で、半数以上あるいは八分通りが罰金で済まされておるということは、西ドイツにおいても情状によっては罰金で済まされておる事案が相当あるという例を示しておると思うのです。
 また、いま一つイギリスの暴力関係犯罪の第一審有罪者の刑種刑期別一覧、これは一九六〇年の統計であります。ここで重傷害というのが三百七十五件が拘禁を受けておるという統計が出ております。ただ、この統計の中で、重傷害三百七十五件のうち六ヵ月以下二十三件、一年以下八十四件、二年以下百三十八件、三年以下六十三件、四年以下二十五件、五年以下三十一件、七年以下七件、十年以下二件、十年をこえるもの二件。重傷害の場合重い長期の刑期もあるようですが、軽い傷害の場合は、やはり四百十六件のうちで六ヵ月以下が七十三件、一年以下が百四十六件、二年以下百四十八件、あと三年以下は四十一件、四年以下四件、五年以下四件というように、この統計には罰金刑はなしに、拘禁刑の場合だけしか統計に出ておりません。罰金がないのか、あるいは罰金刑で処理されている例があるのか、そこは私はイギリスの刑法は知りませんが、この二つの統計から見て感じられることは、西ドイツの刑法では、裁判では、罰金刑で済まされている事犯が相当多いということであります。そうしてイギリスの例では、いまの軽傷害の場合は、やはり日本と同じように比較的低いところでおさまっているということのようでありまして、必ずしもいまあなたがおっしゃるように、外国の例ではこの傷害事犯に対して重いと一がいには言えないのではないか。ですから、私がさきに言うように刑罰の幅を、法定刑の幅を広くしておかなければ、具体的事案で、罰金相当程度の偶発犯による傷害、銃砲、刀剣類という一般には所持を禁止されている重例でありましても、例外的に許可を受けているものもあるわけでありますから、具体的事案で罰金刑をなくするということはどうかというように私は感ずるわけです。しかし、普通不法な所持を禁止されている銃砲、刀剣類による傷害の場合に、罰金で済んでいるという事案は非常に特異の場合であろう。ですから一年以上というのが一つの基準として、必ずしも重きに失するというようには私は感じないわけである。
 また、暴力対策上刑の強化ということもその必要は認めるわけですが、下限の引き上げをやって事を済ませようということでは十分の効果は期待でき得ない。現行法で十分運用よろしきを得れば取り締まりできるけれども、同時に一方国家意思を表明するということであれば、なぜ長期についてきびしい態度を示さなかったのかどうかについて疑問を持っているわけですが、この点についてもう一度ひとつお尋ねしておきたいと思います。
#21
○長島説明員 先ほどのイギリスあるいは西ドイツあたりの量刑の実情について御教示をいただきましてありがとうございました。御承知のように西ドイツでも、軽い傷害と危険な傷害と重い傷害という三つの区別がございまして、軽い傷害の場合は、名前が示しておりますように軽い傷害でございますので、その法定刑自体が何か非常に軽くなっているわけでございまして、お手元にお配りしてございますと思いますが、暴力犯罪関係統計表というのをごらんいただきますと、わが国の傷害罪の科刑の実情がわかるわけでございますが、この統計表は、実は検察官が公判を請求いたしました事件についての統計でございまして、御承知のように、罰金を請求いたします場合には略式命令でやっておりまして、このほかに略式命令によって日本で罰金になっておる傷害罪の数は非常に膨大な数にのぼっておるわけでございまして、そういう意味では、その軽いほうを見ました場合には、やはりどの国でももちろん軽いわけでございまして、重いほうの危険な傷害でありますとか、重傷害とかいうような事案につきましては、先ほど申し上げましたように、西ドイツとかあるいはイギリスとかいうような国でも、やはり相当重い刑が盛られているというような印象を私は受けたというわけでございます。
 それから刑の上限の点でございますが、これは先ほどもちょっと申し上げたのでございますが、今度刑法の全面改正が法制審議会で審議されることになったわけでございますが、これにつきまして一つの問題になります点は、生命、身体に対します罪についての法定刑と、それから財産犯罪に対します法定刑が、日本ではある程度アンバランスなのではないか。生命、身体に対する刑が、刑法としてはもっと重くていいんじゃないかという意見も前から相当強くあるわけでございまして、さような点も当然に議論になってくると思うのでございますが、さしあたり現在の刑法を前提といたしますと、傷害致死罪でございまして、これは相手方が死んでおるわけでございますから、傷害自体としても相当に重いものでございましょうし、あるいは凶器を用いるというような傷害の結果そういうものが起とることが多いと思うのでございますが、そういう場合でございましても、現在の刑法では有期懲役ということでございまして、長期が十五年に実はとどまっておるわけでございまして、傷害のみならず、ほかの各種の罪の法定刑とやはりいまの刑法を前提といたしまして比較してまいりますと、どうもここで有期懲役というところまで実は現在のままでは踏み切れないような状況がございます。これは刑法の全面改正というような作業の一環といたしまして、その機会におきましては、なおこの法定刑についての考え方もまた考え直す余地があり得るのではなかろうかというふうに現在考えておるわけでございます。
#22
○坪野委員 その点はその程度でとどめまして、次に、銃砲又ハ刀剣類一ということの解釈でありますが、これもたびたび同僚委員が質問もし、また刑事局長も答弁されたわけであります。
 そこで私がお尋ねしたいのは、銃砲または刀剣類というものであるかどうかということを認定するのは裁判官であるわけですね。警察官なり検察官は、別にこういう手段のいかんを問わず、傷害事犯があれば検挙して起訴に持っていけるということであります。ただ検察官の場合は、この一条ノ二で起訴しますと、当然に権利保釈の制限を受けるということでありますから、検察官によって乱用される場合は保釈制限という危険はありますが、警察官はただ検挙するだけですから、この条文はなくても一般傷害でやれる。検挙して立件するところまではできるわけですが、問題は、裁判官が銃砲または刀剣類という解釈をする場合に、竹内刑事局長のような優秀な法律家が、ここで、こういうものは刀剣類に入りません、ああいうものは刀剣類に入りませんということを明言されて、われわれも刑事局長の答弁だけを聞いておれば、まずまずそう非常識な認定はなかろうというふうに考えられますが、数ある裁判官の中には、刑事局長が国会答弁で非常に合理的な制限的な解釈をされるそのとおりの判断をするかどうかという点に一まつの危惧を持つわけであります。裁判官はみな資格を持ったりっぱな人ばかりであると信じたいのでありますが、現実には飲守裁判官というような非常に困った人物もおるわけであります。理屈を言えばどんな解釈もできるということもあって、法を運用する裁判官をどの程度信用していいかどうかという点でわれわれは危惧を持つわけであります。しかし、といって非常識な解釈を、幾ら日本の裁判官の中にどんなお粗末な人がおっても――まさかと思う解釈もあるわけでありますし、一部の新聞の中には、こういうものでも銃砲刀剣類と解釈され得るというような説をなす者もありますので、ほんとうは刑事局長に聞いておきたかったのですが、たとえば竹やりですね、竹やりはあれはやりだ――銃砲または刀剣類云々というとは取締法の中にも定義があるわけでありますけれども、竹やりが刀剣類いうように解釈されるおそれは絶対にないかどうか。私はないと思うのでけれども、そういう非常識な裁判官日本におるかどうかということでひとつお尋ねしてみたいと思います。
#23
○長島説明員 ただいまの御質問の点でございますが、実は最高費判所の判例が、竹やりじゃございませんがございまして、それは陸軍の指揮刀でございますが、これの中に刃のついておらない、ただサーベルでございますかがありまして、それが当たるかどうかという事案がございまして、その判例によりますと、その刀剣類といいますのは、はがね製のもので刃のついているものをいうのだという最高裁の判例がございますので、ただいま仰せになりましたような竹やりは入らないという判例の解釈になるというように存じております。
#24
○坪野委員 私も、日本の裁判官にそういう非常識なのはおらぬと思うのですけれども、心配をする向きもあるわけです。たとえばプラカードの柄だけが残って、柄についておるくぎですね、このくぎがやり、刀剣類だというような認定を受けるおそれがあるのじゃないかという説をなすというか、心配をする向きもあるのですけれども、いまの論からいうと、日本の裁判官にはそういうものを刀剣類と解釈するような非常識な人はおらぬと私は思いますが、そういう解釈の余地があるかどうか、これもひとつお尋ねしておきたい。
#25
○長島説明員 昭和三十六年の三月七日の最高裁判所の判決でございますが、それによりますと、刀剣類というのは、社会通念の上で刀、剣、やり及びなぎなた並びにあいくち等の類型に当てはまる形態の実質を備える刃物を指称するものと解すべきであるというふうに言っておるのでございまして、したがいまして、いま御指摘の棒の先にくぎがあるというようなのは、これに当たらないということがはっきりしておると存じております。
#26
○坪野委員 たとえば組合旗とかあるいは各種団体の優勝旗ですね、あの旗の先にとがったのがありますね。鋼鉄ではないと思いますが、鋳物か何かのとがったものですね。ああいうものをもし大衆運動の混乱の中で用いて軽微な傷害があったという場合に、あれをやりというような認定をする根拠があるかどうか、これを最後に聞いておきたい。
#27
○長島説明員 ただいま御説明申し上げました同じ判例でございますが、そのあとのほうに参りまして、かように申しております。刀の形態を備えておりまして、切っ先が鋭利で容易に人を殺傷し得る危険性があるものであっても、刀としての実質、すなわち鋼質性の材料をもって製作された刃物、そういった実質を備えないものは刀剣類には当たらないということを言っておるわけでございまして、この判例の趣旨から申しまして、ただいまの例は当たらないというふうに考えております。
#28
○坪野委員 私も、もちろんそのように解釈いたしますし、また、そういう非常識な拡大解釈をする裁判官や検察官がないことを信じたいし、またそれを期待するわけであります。
 そこで、この「銃砲又ハ刀剣類」ということはすべて判例の解釈にまかすんだ、一方銃砲刀剣類等所持取締法第二条に定義があり、それとほぼ同じだ、あるいは最終的な統一解釈ではずばりそのものだというような国会答弁がありましたが、私は、この法律が成立すれば、必ずしもその局長の答弁が裁判所でそのまま通用するものとは考えないわけで、やはり裁判所は独自の解釈で刀剣類を解釈されると私は思うのです。ですから、大体は乱用のおそれがないようでありますけれども、この法案の中でやはり「銃砲又ハ刀剣類」というものの一応の定義を書き加えることが私は必要だと思うし、それに対して局長がそういう普通の取締法には定義を設けるけれども、この種の刑法の特別法、刑罰法の中にそういう定義規定を設けるのは形式上、ていさい上おかしいんだということで設けないことにしたような答弁があったのですが、私も、いやしくも治安立法、刑罰法令の立法は非常に慎重でなければならぬということを常々言っているわけです。大正十五年にできた文語体の法文とていさいを合わせるためには若干のていさいも必要でありましょうけれども、戦後の立法は、国民に非常にわかりやすく疑義を残さない、拡大解釈をさせないという立場から立法されているのが多いと思うので、私は、あまり形式にこだわらずに、純粋の刑罰法令だからといっても、これは刑法のような体系をなした法律ではないので、臨時の――臨時であるかどうかは別として、少なくとも特別法でありますから、そういう中でそういう定義規定があってもちっともおかしくない。この法律が、ただ暴力団だけに使われるのじゃなしに、もろ刃の剣でだれにもひとしく適用されるわけですから、「銃砲又ハ刀剣類」の解釈にいま若干の疑義は、私は竹やりだとか、そんなものが刀剣類と認定されるというようなことはあり得ないと思いますけれども、やはり限界へくると、相当疑義を生ずる場合もあって、裁判官の一人、一人によって、最高裁の判決が出るまでは個人差によって相当違った解釈も出てくる可能性があると思うので、やはり一応定義を設ける、ていさいにこだわるべきじゃないと思うのです。その点の御見解はどうですか。
#29
○長島説明員 原則論を申しますと御指摘のとおりでございまして、注文がだれにもわかるようにわかりやすく書くということが理想でございます。この暴力行為等処罰に関する法律は、御指摘のとおり刑法そのものではございませんで、付属法典でございますが、従来刑法学をやっております学者とかいうような方々のお考えでは、この暴力行為等処罰に関する法律が、刑法には規定してございませんが、ほぼ刑法に準ずるような基本的な一つの法典というふうな考え方をとられておるわけでございまして、現に今回の刑法改正準備草案でございますか、それにおきましても、暴力行為等処罰法の中の条文が準備草案の中に取り入れられてきておるわけでございまして、そういう意味で、将来はこれは刑法の中に取り入れられていくべき運命を持った法律だというふうに考えておるわけでございます。一般の行政取り締まり法規にももちろん罰則がある場合が多くございますが、そういう場合は、いわゆる特別法と申しまして、ある程度条文のていさいなどをかまわなくてやってきておるわけでございます。いまの暴力行為等処罰法はそういった特殊な性格を持っておりますので、法制審議会等におきましても、そういう専門の方々の感覚からいたしますと、ここへ長々とした定義を入れるというのは非常にていさいがそぐわないというような、直観的な印象と申しますか、さようなお考えを持たれるようでございます。結局問題は、この案のように「銃砲又ハ刀剣類」というような表現をいたしまして、それほど解釈上疑義がないのだということが言えればいいということでございまして、実は法制審議会では、大体専門の方々が皆さんこれでだいじょうぶだというお考えのようでございまして、この案になった、かような次第でございます。
#30
○坪野委員 法制審議会では学者、専門家ですから、それほど問題がないということで、大体は意思統一されておるようでありますけれども、しかし、この法律の適用を受けるのは国民でありますから、これは国民の中に若干の疑義を残すということでは困るので、私は、ていさいにそうこだわらず、できるだけていさいを整えて定義を盛り込んだ方が明快になると思うのであります。ただ最初、銃砲刀剣類等所持取締法の二条を準用するということは、なるほど刑事局長の言われたように、そのつど取締法の改正によって刀剣類の解釈が変わる、あるいは範囲が変わるということで、これはちょっとなるほどぐあいが悪いということでありますが、本法における刀剣類と取締法における刀剣類と解釈に若干差異があっても、立法の目的が違うわけでありますから、私はちっとも差しつかえないと思うのです。そういうことで、私は定義を設けたほうがいいという考えを持っておるわけであります。ただ、いろいろ問題はありますが、もう一つ、じゃ出刃で刺した場合はどうだとか、あるいは刀剣類の十五センチ未満の刀ならどうだというようなことで、その間における刑の均衡を失するというような心配をする向きもありますけれども、これは大体暴力団が主として用いる手段を規制しようという特殊な立法目的でこういう規定を設けて、これから少々はずれても、暴力団がこういう刀剣類を用いずに、今度はこん棒を用いてやるとか、あるいは大体は隠し持つということになるから、出刃をふところに入れるというような傷害事犯が起こってきても、それは実際裁判の運用上、一方刀剣類であればこういう科刑を引き上げた程度ですから、たいしたことはないと言えばないでしょうが、実際の量刑が引き上げられてくる裁判の実情ということであれば、私はこの刀剣類からはずれておっても、やはり同種の悪質な危険な傷害に対しては相当の量刑の引き上げがなされてくるということは期待できるわけでありますから、その意味であまりこれからはずれた場合のことを心配されずに、規定をはっきりしておかれたほうがよいのではないか。それで十分暴力団なりあるいは危険な傷害の取り締まりの実をあげ得る。そういうことで、私はていさいにこだわらずに刀剣類あるいは銃砲の定義をこの法律の中に書き加えることが適当だ、書き加えなければ困るという私の意見を申し添えておきます。
 そこでもう一つの問題について、これもそう多くを論ずることもないかと思うのでありますが、常習暴力行為ということで大審院の判例等では、暴行、脅迫、器物損壊、この三つの暴力事犯の間に包括的な暴力行為の常習性認定の資料にするというような大審院の判例以来の、大体それが固まった常習性の解釈だ、こういうように局長も答弁しておりますけれども、ここに一枚傷害が加わってきておるわけであります。そして刑事局長は、刑法二百四条の傷害と暴行その他との間の関連性において、たとえば暴行の常習犯と目される者がたまたま傷害事犯を起こしたというときに、それを傷害の常習犯として、重きに従ってこの一年以上十年以下という刑を受けるのかどうかという質問に対して、消極に解して、その場合は傷害常習犯じゃないんじゃないか、こういう答弁を、脅迫の例だったと思いますが、刑事局長はされたと思うのです。脅迫の常習犯がたまたま傷害を起こした、その場合にそれは傷害常習犯じゃないのじゃないか、かつ単純傷害犯になるじゃないかという解釈をされたのですが、しかし、暴行と傷害との間では罪質が同じと言いますか、結果的加重犯と言えば罪質は同じなんであります。私は刑事局長のその解釈は正しい解釈だと思いますが、そういう解釈がはたして現実の裁判官、一審、二審、最高裁判所も含めて、裁判官の解釈の中で確立されるかどうか、そういう保証がどこにあるのかという点に非常に疑義を持つのです。刑事局長は自分の法的な見解として、私もそれは正しいと思いますが、むしろ大審院の判例の傾向が少し拡大解釈をし過ぎているのではないかという気もするのです。その脅迫の常習犯人がたまたま傷害をやった場合に、これは単純傷害罪だという解釈の保証、刑事局長はここで言っても、これは別に法律じゃないのです、単なる国会答弁ですから。裁判官がそういう解釈をするという保証はどこにあるのかという点を重ねてお伺いをします。
#31
○長島説明員 結局、保証と申しましても、刑法理論しかないわけでございます。この常習性と申しますのは、局長もしばしば御説明申し上げたと思いますが、一つの習癖のあらわれというふうに考えられておるわけでございまして、前に脅迫ばかりやっておったという人が、今度は傷害をやった場合に、前の脅迫から傷害の習癖が出るというふうにはなかなか認めにくいわけでございまして、脅迫というものと、それから実際になぐるとかけがをさせるとかというのは、行為の性質がやはり違っておるわけでございますから、そういうことから言いまして、脅迫を何回本常習的にやっている者が、今度暴行なり傷害なりをした場合に、すぐそれで常習者だというふうには認定できないというのが刑法の理論的な結論であろうかというふうに存ずる次第でございます。
#32
○坪野委員 理論はそうですが、脅迫の常習犯で、手はかけない、おどし専門だという者が、たまたま傷害をしたという場合には、純粋理論として、それは傷害常習犯でないという解釈は私は正しいと思うのです。刑事局長もそういう答弁をされたと思うのです。ですが、裁判官の中に、いまの大審院判例で暴行、脅迫、器物損壊の間に包括的な暴力常習性の認定をしているわけです。ですから、暴行と傷害と、新しい立法によって四つの暴力的犯罪が列挙された場合に、裁判官によっては、脅迫の常習犯であって、そしてたまた主傷害をやった場合にでも、傷害の常習という認定をする。ほかの要素がない場合――ほかになるほど起訴はされていない、あるいは判決を受けていないけれども、絶えず人に暴行を加えたり、あるいは軽微な傷を負おしたりというように、警察でいったら札つきだといったような別の常習の認定の資料があれば別ですが、脅迫程度の資料、証拠しかない場合に、それが今度この立法ができた場合に、傷害の常習犯という認定を受けるおそれがないかどうかという点で、私は刑事局長の答弁は正しいと思うが、裁判官に、この常習性認定の場合にやはり個人差があるのではないか。裁判官でも優秀な裁判官あるいはわれわれ程度と言っては失礼ですが、われわれ程度以下の裁判官も数ある裁判官の中に――私は実際に裁判に関与しておって、粗末た裁判官だなと感ずる人もあるわけです。ですから、いまの刑事局長の答弁が日本の裁判所の裁判官において通用する普通の解釈かどうか、あるいはそういう拡大した常習認定をされるおそれがないかどうかという点をひとつお尋ねしておきます。
#33
○長島説明員 まず御指摘の判例でございますが、これの基礎になりましたものは、資料でお手元にまいっております「参考判例・立法例」にございます昭和二年の大審院の判決でございます。この事案は、実はその現場で器物を損壊するということと、それから暴行する、そういったことをその場で引き続いて実はやっておるわけでございまして、本人がまたそういった暴行もやれば器物損壊もやるという習癖を持っておる者が、その場で器物損壊と暴行を同時にやった、その場といいますか、引き続いてやっておるわけでございますが、そういった事案についての判決でございまして、この判決をよく見てまいりますと、三つの罪でございますが、それを包括した暴力行為というものがあって、その中のいずれか一つの罪が前にあれば、ほかの罪についても常習が認められるというところまでこの判決は言っておると見られないわけでございます。よく読んでまいりますと、暴力行為をなす「習癖ヲ有スル者二於テ前掲刑法各条項所定ノ罪ノ数種ヲ犯シタルトキ」、こういうふうに言っておるわけでございまして、いま犯しましたその罪につきまして性癖が認められるということが前提になるわけでございます。ですから、これからすぐ御指摘のような一部の誤ったと申しますか、広がった解釈をするのは、この判例の正しい読み方ではないというふうに私は考えるわけでございます。
 なお申し添えますと、現在の暴力行為等処罰法の一条二項を適用しました具体的事例につきましてずっと調べたわけでございますが、その事例を見ますと、先ほど御指摘の刑事局長の答弁をしておりますような趣旨に沿いまして判決が実際になされてきておるわけでございます。実はみだりに拡張された事例はなかったわけでございまして、実務的な感覚もまたそういうふうに運用されてきておるというふうに考えております。
#34
○坪野委員 最高裁判所までいって、法律知識の相当専門家の、しかも合議を尽くした上で統一的な判例ができるということであれば問題ないわけでありますが、そこへいくまでの間に、第一線の裁判官の中には、やはりこの常習性の解釈を非常に厳格に解釈する裁判官と、あるいはこれを非常にルーズに、あるいはこれを乱用して解釈する裁判官がないとは限らないわけでありますから、そういう立場からわれわれは特に傷害という行為――重い傷害だけじゃなしに、暴行と紙一重の軽微な傷害、しかもそういった軽微な傷害が行なわれた場合に、外国の立法例でも相当罰金で済んでおるわけであります。この場合は常習犯であるとは言いながらも、別に危険な凶器を用いての傷害ではないわけでありますから、そういう軽微な傷害事犯の常習という認定を軽々しく受ける、その結果一年以上十年以下という相当重い刑罰を受けるということは、これは非常に重大な問題だと思うわけでありまして、そういう意味で私はこの一条ノ三の常習傷害犯あるいは常習暴行犯、この四罪の間の関連性、そういったものをきびしく検討した場合に、もし政府の意図が暴力団、あるいは暴力団構成員、あるいはその仲間といった悪質な暴力事犯の常習犯を大体対象にしたものだということであれば、そういった人たちは大体罰金なりあるいは懲役の執行猶予なりあるいは懲役の実刑を受けたという前科者が多いのではないか、そういった前科者にしぼって、過去五年以内に二回以上有罪判決を受けたというようなしぽり方をすれば、大体暴力団の常習者に対する刑罰強化という趣旨にはかなうわけですが、この常習規定が乱用されるとなると、だれかも質問しておりましたけれども、労働運動に際して団体交渉で少し荒げた交渉をやる、それが経営者に対する脅迫行為だ、脅迫の常習犯だというようなこと。そして暴行といっても、これもだんだんあるわけでありますから、軽微な暴行事犯が偶発的に起こったというような場合に、暴行、脅迫の形の中でこれが常習犯という認定を受け、しかも罰金、科料というものはないという中で非常に過酷な――軽微な傷害は傷害、あるいは暴行は暴行、それ自体は悪でありますけれども、しかし刑の均衡という点からいって非常に過酷な量刑なり、あるいは過酷な起訴を受ける。国家公務員あるいは公労協の組合員の場合には、起訴されるだけで休職をされるというような身分上の制裁も受けるわけでありまして、もしそういうものにまで対象が及ぶということであれば、やはり相当程度の罰金刑というものも残しておかなければ、具体的な量刑の妥当性ということが期待できないのじゃないか。そういう意味で私たちは必ずしも日本の裁判官がすべて正しい法解釈をするという保証がない限り、現に一審の裁判官の法解釈の誤りを二審、三審、最終的に最高裁が――いずれが正しいかは別にいたしまして、有権解釈としては最高裁で解釈が統一されておるということから見ても、裁判官の中にも法解釈が個人によって若干のニュアンスがあって違うということもありまして、私はこの一条ノ三が必ずしもいわゆる暴力団をねらったものでなしに、そうでないものが警察、検察当局の弾圧あるいは間違った解釈をする裁判官によって間違って認定を受けるということが皆無であるとは言えないと思うわけでありまして、そういう意味で一条ノ三は、われわれ暴力団取り締まりは必ずしも反対するわけではありませんが、これがもろ刃の剣として一般の民主団体あるいは労働組合運動の越軌行為にこれが適用される、あるいは大衆運動の弾圧にこれが乱用されるというおそれがなきにしもあらずという見解から、との一条ノ三をそのままわれわれはここで認めるわけにいかないのであります。
 これらの点につきまして法務大臣にお尋ねしたいのでありまするが、いまの銃砲、刀剣類にいたしましても、あるいは常習暴力犯にしても、この政府案に対して、その案がなければどうしても困るのだ、あるいはこの法律がなければ暴力取り締まりは困難なんだということで、どうしてもこの原案のままでなければ困るのだという強い決意をお持ちなのかどうかをお尋ねしたいと思います。
#35
○中垣国務大臣 お答えいたします。政府を代表しておるわけでありますから、原案を政府みずからが積極的にこの内容につきまして、ただいま御指摘のような銃砲、刀剣類等とか、常習性の問題であるとか、そういうことに何らかの明らかな規定を設けたらどうかということにつきまして、積極的に私が賛成を申し上げるわけではございません。この法案は、御承知のとおりに法制審議会の議を経まして、最も完全に近いものとして私が提案をいたしたものであります。しかし、いろいろ本委員会におきまして御議論の結果、これが私どもの暴力取り締まり、特に銃砲、刀剣類を用いた傷害であるとか、常習的な脅迫、傷害等の取り締まりの法目的が達せられるという範囲のものであれば、これは私は別にこれに固執する考えはございません。しかし、どこまでも暴力犯罪を憎む国民の世論にもこたえるというこの趣旨だけは、私はどこまでも失いたくない、かように考えております。
#36
○坪野委員 大臣の立場はそういうことであると思いますが、もう一点、参事官にお尋ねしておきたいのですが、この第一条ノ三で常習暴力事犯に対する刑罰強化の規定が盛り込まれたわけですが、現行法のもとにおいても常習犯に対しては権利保釈の制限を――もちろん常習の認定に資する資料を添えて検察官が主張、立証すれぱのことですが、現行のもとにおいても、常習犯の認定をして、そうして常習犯の権利保釈を制限するということは可能なわけで、この法律ができたから権利保釈を制限することができるということにはならないと思うのですが、その点はどうですか。
#37
○長島説明員 御指摘のとおりでございまして、この法律は常習者というものが非常にいま危険でございまして、常習的にまたこういった暴力行為をやるという性癖を持っておるものを考えておりますので、非常に危険なものでございます。これは刑を重くするということによりまして、それを一般予防と申しますか、とめようという趣旨もございますが、もう一つは、各国の刑法でそうでございますように、常習者に対しましては相当期間改善更生ということを考えなければいけないわけでありまして、短期間入れて出ますとよけい箔がつくと申しますか、そういうことになるわけでございまして、たとえば刑務所で処遇いたすにいたしましても、相当刑期が長ければ、現在地に離れました適当な刑務施設に入れまして、従来の環境から離れたところで処遇をする。また仮出獄になりました場合も、その事前に十分に環境を矯正しておきまして、仮出獄後も相当期間保護観察もできるということになりますれば、従来の環境あるいは団体から足を洗うということを助けることも可能になってまいるわけでありまして、こういう含みでこれは立案をされておりまして、権利保釈の問題は全くねらったものではないということをはっきり申し上げられるわけでございます。
#38
○坪野委員 いまの答弁で大体わかりましたが、第一条ノ三の規定は、全くこれは裁判官によって運用される法律であって、警察官が、あるいは検察官が直接この第一条ノ三の改正によってその権限が強化される、あるいは解釈を乱用して弾圧するという余地はない。主として裁判官の問題だと思うわけでありまして、その限りにおいては、専門的な観点から相当のしぼりをかける必要があるというふうに私も考えておるわけであります。まだいろいろ専門的な観点からお尋ねしたい点もあるわけでございます。あるいは刑事政策的な立場からの政府の暴力対策といったことについてもお尋ねいたしたいのですが、またこの法案自体に直接間接関連してもう少しお尋ねしたい点もありますが、一応今日はこの程度にして、私の質問を終わりたいと思います。
#39
○林委員長代理 次会は来たる二十七日午前十時理事会、十時三十分委員会を開会することとし、本日はこれにて散会いたします。
   午後四時十分散会
ソース: 国立国会図書館
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