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1962/10/10 第41回国会 衆議院 衆議院会議録情報 第041回国会 法務委員会再審制度調査小委員会 第1号
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1962/10/10 第41回国会 衆議院

衆議院会議録情報 第041回国会 法務委員会再審制度調査小委員会 第1号

#1
第041回国会 法務委員会再審制度調査小委員会 第1号
本小委員会は昭和三十七年八月二十一日(火曜
日)委員会において、設置することに決した。
八月二十一日
 本小委員は委員会において、次の通り選任され
 た。
      池田 清志君    上村千一郎君
      林   博君    赤松  勇君
      坪野 米男君
同日
 林博君が委員会において、小委員長に選任され
 た。
―――――――――――――――――――――
昭和三十七年十月十日(水曜日)
   午前十一時一分開議
 出席小委員
   小委員長 林   博君
      池田 清志君    上村千一郎君
      赤松  勇君    坪野 米男君
 小委員外の出席者
        検     事
        (刑事局参事
        官)      長島  敦君
        判     事
        (最高裁判所刑
        事局長)    樋口  勝君
        参  考  人
        (弁護士)   磯部 常治君
        専  門  員 小木 貞一君
    ―――――――――――――
十月四日
 小委員赤松勇君九月一日委員辞任につき、その
 補欠として赤松勇君が委員長の指名で、小委員
 に選任された。
    ―――――――――――――
本日の会議に付した案件
 再審制度に関する件
     ――――◇―――――
#2
○林小委員長 これより再審制度調査小委員会を開会いたします。
 再審制度に関する件について認否を進めます。
 本日は本件について参考人より意見を聴取いたします。
 御出席の参考人の方をご紹介いたします。弁護士の磯部常治君でございます。
 磯部参考人には御多忙中のところ御出席いただきまして、まことにありがとうございます。本件について忌憚のない御意見を承ることができれば幸いと存じます。
 議事の順序は、まず参考人より御意見を承り、御意見の開陳が終わった後、参考人に対する質疑を行なうことといたします。なお、時間の都合上、御意見の開陳は三十分程度にお願いいたします。磯部参考人。
#3
○磯部参考人 参考人の磯部でございます。単刀直入、再審に関する規定の改正については、これはぜひとも改正しなくてはいかぬということを私は強く陳述する次第であります。
 と申しますのは、まず第一に、わが刑事訴訟法の再審の規定を見まして、欧米各国の法規、再審に関する制度を調査いたしてみますと、実に日本の再審制度は旧態依然たるものがあって、他の外国の再審制度よりもはるかにおくれておるのであります。いわゆる非民主的であり、かつ憲法の人権擁護の立場から考えましても非常におくれておるのであります。この意味におきまして、私はぜひとも、日本も独立したことであるし、他の自由国と同じように民主憲法のもとに刑事制度は行なわれておるのでありますから、他の欧米各国の再審に関する規定と同様に進歩した再審制度に改正しなければいかぬということを深く思うのであります。
 次に、改正しなければならない点は、私は、いわゆる帝銀事件平沢貞通の再審に関する件を、法務省人権擁護委員としまして、昭和二十六年以来今日に至るまでその弁護に当たって身をもって体験しておるのでありますが、この実際の帝銀事件を扱った体験からして、ぜひともこれを改正しなければ、平沢氏はこのまま死刑執行の確定判決によって、基本的人権、生命を奪われなければならぬという立場に至っておると思うのであります。そういう観点からして、ぜひともこの再審制度は改正しなければいかぬと深く信ずる次第であります。
 抽象的ではありますが、簡単にその必要を申し上げておきます。
#4
○赤松小委員 法務委員会は、人権擁護のためにいわゆる再審制度改正の必要性を痛感する委員の提案によりまして本小委員会ができたわけでありますけれども、本小委員会は、さきに去る三月、例の吉田事件、巌窟王事件を契機としまして学識経験者を本小委員会に招いていろいろ調査を行ないました。本日が第二回目でございますが、ただいま磯部参考人のお話を聞きまして、再審制度に関する調査の中で特に帝銀事件いわゆる平沢貞通の人権擁護に関する問題が非常に重要なウエートを占めておるというように私は考えるのであります。すなわち、さきにただいま陳述されました磯部参考人が平沢事件に関する人権擁護について日弁連に対しまして上申書を提出されておる、この上申書の中で、磯部参考人が次のように述べられておるのであります。すなわち、被告は無罪である、そしてその無罪の実証として、
 一、昭和二十二年十月十四日(安田銀行荏原支店に於ける未遂事件の日)のアリバイ
   措信される平沢マサ、伊藤カメ、の両氏の証言の綜合より断ずれば被告人は殆んど終日自宅にての絵画に没頭し、若し道を教える為めに伊藤カメと同道外出したにしても其前日も翌日も画筆に執着しながらなんで突如多数人の毒殺を用意し企画し実行し且実行後平然と従来通りの行為を続け服装の変更の気ぼらいも無いのに之を為したと考察し得るであろうか。
 二、昭和二十三年一月十九日(三菱銀行中井支店に於ける未遂事件の日)の動勢
   当日も平常通りの行動を為し絵画の会合に外出した外物珍らしい行動を取った事は全く考えられないのは平沢マサの証言で明らかである。
 三、帝銀殺人事件日即ち昭和二十三年一月二十六日午後三時から四時のアリバイ
  A 仮りに強制自白及び偽造の第六〇、六一、六二回の聴取書記述を通して当日の行動を起算するとするも、午後二時には船舶運営会に於て親族山口伊豆夫不在にて之が帰社して対談後被告人が右事務所を辞したのは、二時二十分前後であり電車の時間徒歩の時間を併せて現場に現れ得るのは、午後三時二十七分頃となり、実際の犯人は、三時三分頃巳に出現したのであるからアリバイは成り立つ。
  B 実際には運常会辞去後山口伊豆夫の宅に寄って、タドンを受取ったアリバイと其後四時頃自宅に帰って三女の許婚エリー氏の出迎を受けたアリバイがある、この事実は平沢が懸命に絶叫している。
  C 判決に於けるアリバイの考察には衣替えの事が考えられて居らず、右は別の場所も必要であり時間も相当入用であるから、裁判官のアリバイの判定は全く欠陥があるのであります。
そうしてそのあとに、小切手の引き出しの際の問題、すなわち住所の筆跡について、眼鏡の使用について、ひげそり落としについて、ニトリールを青酸カリと称して疑わなかった点、その他幾つかの反証をあげられまして無罪を主張しておられるのであります。
 委員長にお願いしておきますが、今私が読み上げました点は非常に重要でありますので、これは読み上げる繁雑を省略しまして、以下私の希望に従ってぜひ速記録に加えていただきたいということをお願いしておきます。
 次にアリバイの問題としまして、アリバイ立証の証拠といたしまして、これまた非常に明確にいろいろな点で立証されておるのであります。
 さらにもう一つ重要な点は、これはおそらく本件が有罪か無罪かの決定的なきめ手になるわけでありますけれども、当時この取り調べに当たった出射検事は、虚偽の公文書を作成したということがいわれておるのであります。これは法の威信の上から申しましても、また社会常識から申しましても、非常に重大な問題である。しかも、これは単に弁護人が私語されておるだけでなしに、公然と告発をされておるのであります。すなわち
    告発状
   千葉市汐見丘町二九宿舎
      被告発人 出射義夫氏
 右の者昭和二十三年十月八日及び翌九日虚偽の公文書を作成の罪を犯し之を行使するの罪を昭和三十年四月六日迄犯しましたから刑法第百五十六条及び第百五十八条に依り御起訴下され度告発仕ります
  昭和三十七年三月十四日
   東京都中央区銀座東七丁目二番地
    告発人 弁護士 磯部常治
    告発人 弁護士 柳瀬 存
そして、その告発の理由としまして、
 (第一)被告発人の事情に就て
  出射義夫氏は永く検察官の職に在り現在は千葉地方検察庁検事正として職務を遂行して居る人物であります。
  然れども人には一生一、二回の過あるものらしく、昭和二十三年九月末頃氏が東京地方裁判所主任検事の職に在る時部下より帝銀事件の犯人は平沢貞通であるとの報告を受け起訴不起訴の決定を為すに当り起訴するには従来の聴取書が誠に不備(其理由はあれど検察官として起訴せんとの態度を変更するの勇気が無かった)なるを見て之にては起訴しても無罪となるべし宜しく完備せる三通の聴取書を補完すべし固より何人が其衝に当るも斯かる難事件の起訴に値する完備な聴取書は勝手に作成するの外なしと決断し或は他の検察官又は上司に協議せしや否や不明なるも責任上同年九月末若くは十月初に当時の書記官をして三つの拇印を被告人平沢が警視庁の拘留所内にて押捺した三枚の用紙を用意作成せしめ置き、愈々起訴の時過去に実際作成したる五十九通の聴取書に六十回、六十一回、六十二回の聴取書三通を添加して起訴を断行し、他に有力なる犯罪証拠殆んど無きに不拘此三通の聴取書にて被告人の自白を合理的に補綴するを得、第一審を死刑という検察官希望通りの判決に導いたのでありました。控訴審及上告審も同様であります。
 (第二)刑法第百五十六条該当の証拠
 一、第六十、第六十一、第六十二回の平沢事件聴取書は既に警視庁に於ては愈々離庁の間ぎわ迄第五十九回迄の聴取書が出射氏部下の検事に依り作成されて居り若し事実作成に、被告人平沢をして口述せしめたとしたら右被告発人の主張する通り東京拘置所にて作成せしめたもので無ければならないところ、同所にては出射検事が出張取調をした事実を肯定することが出来ないこと左の通りであります。
  (イ) 昭和三十二年十二月十三日東京拘置所長大井久氏より法務省磯部人権擁護委員に宛てたる在監者に対する照会事項についてと題する回答
  (ロ) 翌年同所長より発送された訂正書
   尚事実出射検事の影を拘置所内の平沢附近で認めたことは無い旨の証人は多数あります。
 二、三通の聴取書には論理整然真情充満の説明が長々と口述されて居ますが其作成日と称する昭和二十三年十月八日と九日とは勿論被告人平沢は疲労困憊と落胆とにて精神状態病的であり誰とも口もきけぬ有様にて当時の附添弁護人も面会を差控えた事実があった。
 三、従来の五十九通の聴取書の中過半は犯行否認であり、後自供しだしてからは常に被告人の信仰する観音、又はあみだの出現を口実としつつ自白して来たのに当該三通の聴取書には全く右仏様の蔭が無い。
 四、第六十回は八日、第六十一回と第六十二回は九日に作成されたとあるのに拇印の鑑定に依れば三つは同一の時間に次々と押捺されたことが確かであり、其中第六十回に押捺された拇印は第六十一回と第六十二回との拇印の一つより後に押捺されたものであることが確かであるから拇印を所定の日の口述の直後押捺させた事実、即ち口述があったという事実を認め得ない。
   又署名の筆跡も書記官が平沢の筆跡らしく書入れたもので、被告人の筆跡署名でないことは確実である。
 五、本問題は既に世上に流布されたとき被告発人が証拠として反駁したところは同行した書記官の記載した日記のみで本人としては何等の証拠を持たない。
 (第三)刑法第百五十八条に該当する所以
   以上の証拠により刑法第百五十六条に該当するところ出射氏は此公文書を利用し被告平沢を第一審、控訴審及び上告審まで追及したことが事実であるから刑法第百五十八条の罪に該当し、従って刑法第百五十八条の罪は昭和三十年四月六日の最高裁の判決の日迄実行されているので刑法第百五十六条の罪に就ては兎も角第百五十八条の偽造公文書の行使の罪は刑事訴訟法第二五〇条に依り昭和三十七年四月六日迄は未だ時効に罹って居ないのであります。
 (第四)本件起訴を求める理由
 一、告発人は出射氏が職務の立場を守る意思を以て本件犯罪を犯したことを認め氏に対して大いに同情を寄せるのであるが、一方被告人たりし平沢は此件偽造の文書行使に依り完全に死刑囚となり目下は幾つかの再審の訴審理中にて露命を繋いでいる。併し若し本件犯罪が確定すれば法律所定の再審の理由が完成され再審の決定疑うべくも無い告発人は無罪の死刑囚を救い有罪の軽微犯罪人を告発して以て我国律法の幾分にてもの是正良化を計る目的を以て愈々時効完成の直前に当って此告発を為すものであります。
 二、平沢事件が再審の場合其死刑の取消となるべき理由は真犯人と思考される故人が発見されたことで、此人は野田市在住の病院長であり筆跡其他有力な証拠物が存在して居ります。此点御参考迄に申添えます。
   東京地区検察庁御中
 このように磯部弁護士から告発状が出されておるのであります。その後、この告発状につきましては、時効完成という理由をもって取り上げなかったということを聞いておるのでありますけれども、この告発状にも明らかなように、すでにアリバイも明瞭であるし、それから筆跡鑑定が学者によって非常に客観的に行なわれたのでありますけれども、その鑑定によりましても、この文書偽造の行為が非常に明らかに出ておるのであります。さらにこの最後に、真犯人と目される人が野田市にあって、病院長をしておる、その有力な証拠物があるということも指摘をされておるのであります。
 しかも、この再審の請求に際しましては、裁判所の方では一顧だにも与えないというようなことも聞いておるのでありますけれども、これは平和憲法、民主憲法のもとにおきましては、まさに怪事件と言わなければならないのであります。従いまして、われわれが再審制度を改正する上については非常に重要な資料になりますので、この点について磯部参考人からきわめて明確にその間の事情を明らかにしていただきたい、こう思います。
#5
○磯部参考人 お答えいたします。
 まず第一に調書偽造の問題、調書偽造の問題は、ただいまお述べになりましたように、私と柳瀬弁護士と二人で告発しましたところ、検察庁が時効完成の理由をもって不起訴処分、それに対してさらに検察審査会へ平沢本人から異議の申し立てをしました結果、第二検察審査会におきましては、二日間にわたって初めて弁護人の意見を聴取してもらいました。六時間半にわたってしさいに申し上げましたが、その結果、やはり法的に時効完成の不起訴処分は妥当だということで、やはり異議の申し立ては立たないことにきまりました。以下平沢氏は、この上は日弁連をたよるより方法がない。同時に法務委員会に訴えてというので、本人から当法務委員会にしさいに相当多数の意見を陳情されていることと思うのでありますが、私は、その後日弁連の方では僕を代理人としてすべてを上申しろということで、第四にわたる上申書を出して、今、日弁連の人権擁護委員会に、この処置をすがっておるのであります。
 それは大体の経過といたしまして、この調書偽造の問題につきましては、ただいま赤松委員からお述べになりました通り、相当有力な公文書までが出て、二十三年の十月八日、刑務所に送られた日であります。その日に二十五枚のいわゆる自由調書は東京拘置所において出射君が出張してつくったことになっておるのでありますが、かかる出張して調べた事実はない。翌九日、約二十枚ずつ四十枚の調書ができておるのでありますが、これも来てつくったことはないということが刑務所長の大井さんから法務省人権擁護委員の磯部常治あてに公文書が来ているにかかわらず、これが取り入れられないで棄却になっておるのであります。もとよりその公文書については、いろいろの奇怪な点がありまして、ちょっと年号は忘れましたが、十二月十三日付の公文書で、検事は来たことはない。同時になお他の項については、監獄から外へ、房から外へ平沢を出した事実もないという項の証明もあるにかかわらず、翌年の多分四月だったと思いますが、四月になりまして、数カ月後に大井所長は出射検事あてに、入所後数日内に検事及び事務官が来て調べたことはないという回答は、それは不可能であった、不可能と回答すべきを誤って回答したのだ。不可能というのはどういうことかとしさいに申しますと、刑務所としては、諸種の帳簿によって、これは監獄法に基づいて、平沢が外出する場合は、その事実を記入するのであります。そういう諸帳簿を調べても、検事が来た事実、記載した事実はないから、そう答えたのであって、事実は不可能と答えるべきであったのだという訂正が来ておるのでありますが、これが私はまことに奇怪なことで、私がその照会を求めもしないのに、大井所長からそういう回答がまた私のところに来たのであります。その回答公文書を裁判所は取り入れて、前の回答、検事が来て調べたことはないという公文書についての調査は一つも裁判所はしないで、却下をしているのであります。こういう裁判所のあり方は、弁論を開いて、そうして再審を許すやいなやを決定する規定になっておれば、こういう不可解千万な決定は決して出てこないのであります。しかるにこの事件は不幸にして旧刑訴によってすべてが取り扱われるようになりまして、旧刑訴における再審の規定は、新刑訴における再審の規定よりもなお旧態依然たるいわゆる封建的な規定であって、そういう規定の災いから、裁判所は自由なる商量によって書面審理で、弁護人には一言も尋問もせず、却下されたのであります。こういう意味において、この具体的平沢事件についてはなおさらのこと、再審に関する規定を改正しなければ、とうてい救い得られない状態であります。
 同時にアリバイの問題についてもまたしかりであります。これは再審に関する規定において、再審を開始すべきやいなやにつき、もっと具体的に審理を進めた後に決定するという規定になっておれば、こういうことは起こらないのでありますが、遺憾ながら、ただいま申し上げました通り、書面審理においてすべて再審を開始するやいなやを決定するという非常に狭苦しい厳格な規定であるがために、これも調べられずに、ついに平沢氏の不利な決定を得るようになったのであります。
 なお、調書偽造の問題につきましては、告発をしました内容は、今お読み上げの通りでありますが、お読み聞けの通り相違なきことを述べて、平沢氏はこれを署名、拇印をしたのでありますが、これは偽造なのであります。署名についても、裁判所の許可を得て、大村博士に記録を閲覧してもらって鑑定した結果、六十回は本人では書き得ないものと認む、六十一回、六十二回の調書は調査不可能だという鑑定が出、かつまた一歩進んでその下における拇印といえども中に三つの白い輪がある。非常に奇々怪々なので、写真をとって、さらに裁判所の許可を得て大村博士に鑑定してもらう。この拇印は白い輪の波紋から写真を拡大して、写真科学によって鑑定した結果、日時を異にする調書が一度に押したものだという鑑定まで出ておるのであります。こういう科学的証拠が出ておるにかかわらず、これさえも採用されず却下されておるのであります。これは私は規定の不備というよりも、あまりにも裁判官が専横な審理、私をして言わせれば不可解、怪奇千万な審理だと思うのであります。この署名と拇印については、一言も再審申し立ての事由について答えもなし、説明もなしに、ついに却下になり、この却下の決定については、即時抗告をなしたところが、最高裁は、第三小法廷で一年有余の調査をした結果、管轄権がないのだ、憲法違反を理由としないからというので却下になって、ついに確定しておる次第でありますが、これはこの規定の改正とはちょっと違った点へ飛躍せざるを得なくなるのでありますが、いずれにしてもこの再審に関する規定の改正は、かくのごとき明瞭な科学的証拠まで出ておる事案について、何ら弁論の審理もせず、自由に書面審理によって却下することのでき得るこの再審の規定はあくまでも改正しなければいかぬ。どこに人権の擁護があるのかという結果になって、平沢の絶叫するがごとく、法律によって裁判官に私は殺人されるのだ。むしろ殺人犯はそちらにあるのだと彼は豪語しておるのでありますが、事実、これが調書の偽造、アリバイの問題、これらが事実を調べて結果がその通りだということになれば、平沢の言うことは無理もないことだと思うのでありまして、いずれにしましても人権擁護の立場から、憲法の趣旨に沿う再審規定の改正を切に要望する必要が大いにあると思うのであります。
#6
○赤松小委員 ある週刊雑誌によりますと、あなたが大井という拘置所の所長に面会をされまして、監獄法で囚人を監房から外へ出すときは一々明記しなければならないのである、そこで出射検事がこの拘置所に来て、そして平沢を取り調べたことがあるかということをお尋ねになりました。そういたしますと大井という拘置所の所長は、事はきわめて重要なので、もう一度詳細に調査をして回答したいから、人権擁護部から公文書にして正式に依頼してほしいということをあなたに答えた。そこであなたはその手続をとった。そうすると六日目に、法務局の人権擁護部あてに速達便の公文書回答が届いた。それによると、平沢は「一、入所後四、五日中に身柄を他所に移監した事実はない。二、右期間中に、検事および事務官の取調べをうけた事実はない。」というきわめて明確な回答が、公文書として法務局の人権擁護部あてに届いたというように書いてございますけれども、この点は事実でございますか。
#7
○磯部参考人 間違いありません。ここに公文書を写真にとってありますけれども、明瞭に今おっしゃった通りに回答を得ております。
#8
○赤松小委員 これは検事が聴取書を偽造したということは、先ほどから何度も申し上げますように、これが事実であるとしたならば、法の威信を傷つけるばかりでなしに、検察庁の存在を疑われる非常に重大な問題であると思うのです。きょうは法務省の参事官が来ておられますけれども、よく聞いておいていただきたい。それから最高裁の刑事局長もお見えになっておりますけれども、事は人の命に関する問題、いつ死刑が執行されるかもわからない。しかも、こういう数々の疑惑の中に死刑執行が行なわれるということになりますならば、疑惑を千載に残して、そして法の汚点になるのでありますから、どうぞ一つ十分聞いておいていただきたいと思うのでありますけれども、平沢の死刑判決の唯一のきめ手となったのは、いわゆる自白書である。その中で最も強い価値を持つ聴取書は、第六十回、第六十一回、第六十二回の三つのものであるが、この三つの聴取書は平沢が警視庁から小菅拘置所に移監されたその日にとられているのである。六十回は昭和二十三年十月八日、二十五枚、その翌日の九日に六十一回、六十二回の二度に計四十枚の聴取書が作成されていることになっておる。当時平沢はほとんど失心状態で面会不能。監獄医の診察治療を受けていた実証もあり、三回にわたる聴取書をとられた事実は全くなかったという。五十九回までの聴取書は全部警視庁で高木検事がとっていたのに、この三回に限ってI主任検事がS事務官とともに出張し――これはおそらく先ほどの出射という検事だと思うのでありますけれども、出張し、みずから書き取ったことになっておる。高木検事からI主任検事にかわったのはそこに何か事由がある。そうして五十九回までの聴取書の中には、いかにも平沢らしい言葉や、ちょっとした所感めいたものが出てくる。ところが、この出射検事の聴取書の場合、そのような言葉は一つも現われないばかりか、とうとうと優秀な作文のようなものが出てくる非常に整った聴取書になっておる。磯部さんはこれを見られて、これはおかしいということから小菅に平沢をたずね、そうして君は小菅拘置所に入所以来、検事や事務官の取り調べを受けたことがあるかと聞いたら、私は一度もありませんと言った。そこで礎部参考人は、その問題の聴取書を読み聞かせると、平沢はびっくりして、それは全く知りません、とんでもないことですとぼう然自失するありさまだった。そこで磯部参考人が、平沢が小菅拘置所に入った当時つき添っていた酒井寅夫という看守に聞いたら、「平沢の身柄を引き取って以来、検事が来たこともないし、取り調べられた事実はありません。まして入所後の四、五日間は、房から出したことはありません。」こういうように答弁をしておる。そういたしますと、先ほど大井という拘置所の所長が法務局の人権擁護部あてに公文書として回答した、つまり入所してから身柄を他に移監したことはないし、検事及び事務官の取り調べを受けたことはないということが明瞭であるにもかかわらず、そこで聴取書がとられておるということは一体どうしたことであろうか。これが事実とするならば、もし虚偽の報告をしておれば大へんだと思いますが、おそらく私は拘置所の所長が虚偽の報告をするわけがないと思います。であるとすれば、つき添いの看守の言葉も、それから大井という拘置所の所長の回答も全く一致しておりまして、その間取り調べを受けたことがない。それにもかかわらず聴取書が出てきておるというのは一体どうしたことか。まことに不思議な事件と言わなければならぬのであります。
 それからいま一つ、私が先ほど読み上げましたように、アリバイが非常に明瞭になった。このアリバイが明瞭になって、そうして平沢の一番末の娘のいいなずけのアメリカ人のエリーというのは、その当時彼の家におったようであります。従いまして、このエリーというアメリカ人が証言しなくても、いろいろな立証をする証拠はあるわけでありますが、このエリーというアメリカ人がそれを立証すれば、事件は全く無実であるということが明瞭になるわけであります。このエリーというのをなぜ裁判所は喚問しないのであるか、なぜ検察庁は彼のアリバイの事実を究明しないのであるか、それは一体できないものであるか、またそういう努力をしようとしたのかどうか、その辺のところを法務省の方にも、それから磯部さんの方にも、一つ知っておられる限りのことを明らかにしていただきたいと思います。
#9
○磯部参考人 申し上げます。私の調査したところによりますと、当時の弁護人、なくなられた山田義夫君でありますが、当時の弁護人らはエリーをぜひとも証人にということで申請したということを聞いております。が、裁判所は遂にこれを許さなかった。その許さなかったということは那辺にあるか、私は想像で申せとおっしゃれば申し上げますけれども、事実はよく知りません。同時にエリーは平沢の娘と一緒にアメリカへ行ったということでありますので、何とかこの点をと思って私も弁護人の立場からずいぶんと努力したのでありますが、遺憾ながらエリー氏に会うことができず、かつ最近の調査によれば、エリー氏は飛行機事故のために死亡したということが確実に入手されて、今はいかんともすることができ得ません。私はその程度しか今のこのエリーのアリバイ関係については知っておりませんということをお答えしておきます。
#10
○赤松小委員 最高裁わかりませんか、どうして証人を呼ばなかったか。
#11
○樋口最高裁判所長官代理者 今の点については、よくお話を伺いまして、よく調査して、お答えできるところがあればお答えしたいと思います。
#12
○赤松小委員 突然私も質問するので今すぐここで答えろと申しましても無理だと思うのであります。いわんや、これはおそらく東京高等裁判所じゃありませんか、証人申請などやったのは。
#13
○磯部参考人 そうです。東京高等裁判所へ山田君らが申請をしたということを聞いております。
#14
○赤松小委員 わかりました。それでは次会にこれを詳細報告していただくということにしまして、原本の鑑定については、これは大阪市立大学の法医姫教授の大村律三博士が鑑定に当たっておられるわけです。大村さんは平沢の利益を代表する人でもないし、また検察庁の利益を代表する人でもないわけであります。純粋の学者でありまして、これは非常に客観的な立場から鑑定に当たられたと思うのであります。昭和三十四年の一月にその鑑定書ができ上がった。そうしてこの結論は、これら三部のサインの筆跡から推測すると調書偽造の疑いが濃厚である、さらに拇印について、三部とも平沢の左手親指拇印に相違ないが、三部とも同じ個所に同じ直径で同じ太さのまるい輪が二つ交差して現われている、こういう奇妙な符合を指摘されておるわけであります。この三つの調帯は、十月の八日、九日の二日間にわたってつくられたわけでありますけれども、時間を違えて三回にわたって押された拇印に、そっくり同じ白い輪が現われるというのは全く帯妙である。そして大村鑑定書はこう結論しておる。この三つの拇印は一つの朱肉から一度につけられたもので、六十二、六十一、六十回の順で押されておる。六十、六十一、六十二回でなしに、逆に六十二、六十一、六十回の順で押されている。この偽造を裏づけるよ4に、平沢は、私がまだ警視庁にいたとき、高木検事と書記からそれぞれ白紙に拇印を押せと強要されて、一度に三枚拇印を押しました、こういうように言っております。そういたしますと、大村鑑定書の結論と、この平沢の告白が期せずして一致するわけです。聴取書というものは順を追うて一回、二回、三回というようにつくられるのに、六十二回から六十一回になり、さらに六十回になっておるというような聴取書をとった経験のある検事はおそらくかってないと思うのです。しかも、この調書のほかに何も証拠がありません。この調書だけが平沢の死刑を決定した証拠でありまして、彼はこの奇妙な調書のためにいよいよ断頭台に上らなければならないということになって参りますと、事はきわめて重大であると思うのであります。そうしてこの偽造の問題については磯部参考人が出射検事を告発した。聴取書の偽造という告発は前代未聞じゃないかと私は思うのでありますけれども、あまり聞いたことはありません。これは検察庁にとりましては不名誉この上もないのですね。これはあらゆる努力を傾注してそうでないということを立証しなければならぬ。これは片々たる法律の問題ではありません。検察庁の威信にかけて明確に、そうでないならないということを明らかにしなければ国民は不安で仕方がない。突然逮捕されて、そして勝手な調書を別につくられて、そうして勝手に白紙に拇印を押させられて、それでもってお前死刑だ、こうやられたのではとてもたまったものではありません。いつ何どきそういう目にあうかわからないのですから。しかもモンタージュ写真でどうも似ておるわいということだけでもって逮捕をされておるのでしょう、最初の動機は。そうすると、似ているのはたくさんありますよ。たまたまどうも彼が犯人によく似ているらしいということになりますと、今お見えになっておる法務省の参事官さんも、あるいは犯人によく似ているからあれじゃないかなんていって、あるいはあなたの身辺危うい場合もあるかもしれません。これは人権の問題で、笑いごとではありません。非常に重要な問題であって、モンタージュ写真だけで犯人と認定して、しかも今のような偽造された調書を証拠として死刑が執行されるということになりますならば、事はきわめて重大であると思うのであります。そのときに検察庁はすでに時効が完成している、それから検察審査会も時効完成が妥当なりという結論をもってこれを却下しているわけですね。私がもし検事ならば、逆に検察庁の威信にかかわる問題でありますから、単に時効の完成というような抽象的なそういう法文にとらわれる態度でなしに、われわれはかくのごとき科学的証拠があるんだ、もし証拠があればそれを明示して、もって天下の疑惑を解く、国民の疑惑を解く、そういう態度に出るのがほんとうだと思うのでありますけれども、ただ一片の時効完成ということで、十分な説明がなされない。出射検事自身も、いや実際おれはとったんだ、こう言うだけで、どこでどのようにとったかということが明らかになっておりませんね。それは小菅の拘置所の中でとったんだ、こう言われても、現に小菅の拘置所の所長が、検察官は来たことはありません、公文書で、法務省の人権擁護部へ、来たことはありません、こう言っておるのです。つき添いの看守も、検事は来たことがありません、こう言っている。ところが疑惑をかけられている検事は、いや、おれはあそこでとったんだ、こう言われても、これは水かけ論――水かけ論でなしに、むしろ拘置所の所長が、来た事実はないということを公式文書で回答しておるのでありますから、いよいよ検察庁があやしい、こういうことになってくるわけであります。この点について磯部参考人と、検察庁というよりも法務省の参事官の御意見をお伺いしたいと思うのです。原本の鑑定ですね。私は週刊雑誌でこういうように読んだのですけれども、これは事実であるかないか。
#15
○磯部参考人 お説の通り事実です。鑑定しました結果、大村博士はその通りな鑑定をしております。これは裁判所にも出て、再審記録にもついております。すべては今赤松委員のおっしゃった通りな事実であるにかかわらず、再審は却下されている。不都合な、説明のできないところは説明をしないで却下している。これがこの生きた事案の真実なんであります。これを再審規定と対比して、救済できるように改正するか、または責任者は問責して、この真実を黒白をはっきりしていただかない限り、平沢氏の基本的人権擁護は是々非々がはっきりしない状態が現実なんであります。簡単にお答えしておきます。
#16
○長島説明員 私、立法関係を担当しておりますので、再審平沢事件の詳しい内容について存じ上げておらぬわけでございまして、従いまして、御指摘の点につきまして、今直ちにその反証をあげてどうこうということはできないわけでございますので、詳細調査をいたしまして、あらためまして申し上げたいと存じますが、ただ、御指摘の判決は、昭和三十四年の一月三十一日の東京高裁判決であると存ずるのでございますが、これを見ますると、先ほども御指摘がございましたのですが、拘置所長の回答は、要するに拘置所にございます本人の身分帳簿等関係書類を調査しても、ちょうどそういった事項の記載がなかって、また他に右事実を記載した文書がなかったために、調査不能と記載すべきであったから訂正するという、訂正の趣旨の回答が後に参っておるわけでございまして、御承知のように、検事が拘置所に行って被疑者を調べます場合には、そういった普通の面会手続をとるわけでございませんので、帳簿その他には、検事が拘置所で被疑者を調べたという事実が記載がないのが普通でございまして、そういうようなことを判決はここで言っておるわけでございまして、そういう帳簿に記載がないという事実だけから、平沢を取り調べた事実がないとは断定ができないというふうに、この高裁判決は言っておるわけでございます。
 なお、調書偽造の鑑定人の件につきましても、この判決は、緒論自体聴取書の供述内容が偽造であると主張しているとは解せられないし、といたしまして、カッコの中で、大村鑑定人の鑑定書も、同聴取書の偽造たるの資料にはならいというふうに認定をしておるわけでございまして、私は、ただ判決書だけしか手元に持っておりませんので、先ほど申し上げましたように、詳細な内容を存じないわけでございますので、なお詳細調査をいたしまして、どのような経過になっているかを調査した上で、先ほど御指摘がございましたように、もし検察官が調書偽造というようなことをやっておりましたら、まさしく検察庁の威信に関することでありますから、十分そこは調査いたしたいと思います。
 なお、一点申し上げたいことでございますが、磯部参考人の方からございました告発につきまして、時効完成ということで不起訴処分をしたという点の御指摘がございましたのでありますが、検察庁の事件処理といたしまして、ちょうど裁判所と同じなんでございますけれども、時効完成というのは一種の訴訟条件になっておりますので、時効完成というような事情がございますと、ほかのことに優先いたしまして、実態についての判断をいたさないで、そういう事情で不起訴処分の理由にするというのが一般の取り扱いになっておるわけでございます。おそらく本件も、その一般の取り扱いに従いまして、理由として時効完成というふうに掲げたのではないかと考えるわけでございますが、その点も、どのような調べをしたのか、どのような事情であったかを調査いたしました上で、後日お答えをいたしたいと思います。
#17
○赤松小委員 ここに「白い輪の波紋」という本が出ておりまして、岩沢克という人が書いておりますね。これも国民の声の一つだということを考えておいていただきたいと思うのですね。この人の書いた本の中に「大村鑑定の結果『調書偽造の疑いが濃厚になって来た事実を』そう簡単に棄却しても、果してよいものであろうか。その大村鑑定が高裁に提出されたのは、三十四年一月八日の事である。そして、棄却は同月三十一日付で決定されている。」つまり一月の八日に大村鑑定が提出をされて、そして同月の三十一日に棄却が決定された。「この間、二十三日間の短期間に大村鑑定について、裁判所は慎重に鑑定結果を検討したであろうか。裁判所は、更に他の鑑定人にサイン、拇印の鑑定を依頼し、その結果を照合して、大村鑑定に対する信憑性の検討を行なう必要はなかったろうか。筆跡の鑑定だけにしても、最短一カ月の月日が必要であると言われている。すると、棄却理由にあるよう大村鑑定は全く無視されてしまったのであろうか。裁判所は再審の是非を決定するにあたり、もっと慎重に審理を行なうべきが妥当であり、又我々の常識としてもそれは当然の事と思う。」こういうように指摘をしておるわけであります。事は一人の生命に関する問題でありますから、私は、この本の著者と同じような感じがするわけであります。その点についてどのような努力を裁判所が払ったかということもあわせて調査の上で明らかにしていただきたい。裁判所の威信のためにも一つ明らかにしていただきたい。
 しかも、すでに当時真犯人と目される人が出てきておるわけです。これは先ほど磯部参考人の日弁連にお出しになったもの、及び告発状の中にも指摘をしてありますけれども、私は、これが兵犯人であるかどうかわかりませんから、軽々しくかかる席上において指摘をすることを本意といたしませんけれども、すでにこのことは公文書によって明らかに指摘をされておりますし、法曹界におきましても、これが一般的に常識化しておるし、それから週刊雑誌にも載っておりますから、私はここでそれを引用しながら発言することは一向差しつかえないように思うのでありまして、その非礼をお許し願いたいと思うのでありますが、これは野田市で北総病院という大病院の院長をしていた張谷燗一郎が真犯人であるというように一般にいわれております。彼がしからばどういう動機でそういう犯罪を犯したかということについては、第一は、当時百人ほどおった患者に対して非常に過酷な取り扱いをして、最後に入院患者は一、二名だった。そして非常に経済的に行き詰まった。それから診療費や薬代の払えない農民から、その代価として田畑、山林を取り上げるという非常に過酷な措置をとった。そして二十数年の間に八十六町歩の大地主になった。ところが、その土地は農地改革で没収されて、国に対しては非常に深い恨みを持っていた。それから椎名町附近の江古田というところに愛人がおり、自家用車を乗り回して東京中の地理は非常に明るかった。それからモンタージュ写真で平沢よりもこの男の方がはるかに似ている。それから毒殺に使用された薬品は、平沢が使用した青酸カリではなく、かって日本軍の特務機関などが使ったアセトン・シアン・ヒドリン、これは軍の名前でニトリールというのだそうですか、私は医者じゃありませんからわかりませんが、軍名でニトリール、アセトン・シアン・ヒドリンという特殊な薬であり、張谷氏には近くの柏市の陸軍病院から入手できる可能性があった、それから犯人と同じ鳥打帽を事件の前二十二年秋ごろ彼がかぶっていたのを見た人がある。これは自殺しております。その死因は脳溢血となっているが、自殺と見られる節がある。当日朝、めかけにしていた看護婦の木村某女に対して、遺書を書いてやろうかと語っている。麻薬を常時携帯していた。家族が全部外出した午後三時ごろ、急に吐き気がするといって、看護婦に洗面器と新聞紙を持ってこさせ、その新聞紙で顔を隠すようにして死んでおった。その死亡診断書を書いたのは、二人のむすこを含む同病院の三人の医者である。
 なお、あとに彼が真犯人であるところの証拠とおぼしきものをずっと書いてございますけれども、しかし、これは私はここで問題にすべきことではないのであって、これは検察庁なりあるいは裁判所が問題にすべきことでありますから申し上げませんが、私は、すでにこういうように、平沢以外に帝銀事件の真犯人だというように一方において疑われておる人物が存在しておるにもかかわらず、なぜ検察庁はそれに対して取り調べを行なわなかったのであるか。一たん平沢を真犯人だといって起訴した以上は、何が何でも彼を殺さなければ検察庁の威信が保てないんだというような間違った考えでもし平沢を真犯人に追い込んでいったとするならば、私は、ゆゆしい問題だと思うのであります。まだ私は不幸にいたしまして、この張谷という人が検察庁に呼ばれたということは聞いたことはありません。この点は正木ひろし弁護士のところに犯人が送った手紙、その手紙のサインなども、正木ひろし弁護士自身がおっしゃっておるようでありますけれども、そのサインから見ましても、帝銀の小切手を引き出したときのサインが張谷の方が平沢よりもはるかによく似ているということが指摘をされておるのであります。現に平沢は私のところに手紙をよこしましたが、その手紙とあの小切手のサインというものを比較しましたけれども、私のようなしろうとでも、これは同一筆跡ではないということがはっきりわかります。当時の写真がここにありますから、何でしたら参考のためにあなたたちごらんになればわかるのでありますけれども、このようにこれは全く平沢のそれと字が違う。平沢とそれから真犯人といわれる人の筆跡と両方そこに載っておりますから読んでいただきたい。
 それから、委員長、この際私はぜひ国会の記録に、これを再審制度の改正の参考意見として記録をしておいていただきたいことは、さっきのアリバイの主張の問題であります。これは磯部参考人と柳瀬という弁護士が人権擁護に関する上申書を出しておられます。日本弁護士連合会人権擁護部へ出しておられまするので、これをちょっと読み上げて記録にとどめておきたいと思います。簡単であります。「アリバイの主張に就て 昭和二十二年十月十四日の荏原安田支店の実行者は翌二十三年一月二十六日の帝銀事件の犯人と同一人であることは疑ありませんが其頃平沢は長男の結婚を二日前に控え進物の絵を数日書き続けたこと明瞭であり斯かる心の喜を感じて居る中間に二時間位の頭の切り替え計画の作成、服装の着替等が為し得べきでしょうか又其直後平然として又々絵筆に没頭し得る心理が人聞にありましょうか判決は平沢に神業を認めたものであって決して真面目な事実の研究が果されては居らぬと思われるのであります。又其日の午後二時二十分迄平然として船舶運営会に居坐し午後四時過きには其の前に長女の宅を訪ねタドンを受取ったうえ帰宅して末女の許婚者米人エリー氏と歓談会食して居ります此事実は殆んど官憲も裁判所も認定され単に第六二回聴取書が船舶運営会を出た時刻を悲しくも午後一時十五分とかに偽記して居る丈けであります。然らば其の前後の様子が何で殺人行為のアリバイとならぬでしょうか普通の旅行なら丁度間に合う時刻でアリバイは不成立と言えますが殺人のような悲しい暴行をしたあとやその前には服装の準備が入用なこと等を考案すれば相当の時間の余裕が無ければ殺人後の平静行為は成立し得ないのではありますまいか、若しアリバイの法律規定を造るなら単に時間丈けで無く犯人の心情の変化に伴い殺人の時は相当之に要する時間がなければ此の人は殺人はしなかったというアリバイが成立する規定が作られて至当と存じます。」こういうように磯部参考人からアリバイの問題につきましては日弁連に上申書が出ておるわけであります。
 私は、ここでは第一に、その聴取書に疑問がある、これは非常に重要です。彼を死刑に追いやった唯一の証拠でありますから、その聴取書が出射検事によって偽造されたものであるということになりますならば、平沢は明らかに無罪であります。第二に、これは今再審を請求しておりますけれども最高裁の方は憲法違反の問題以外に事実問題については取り上げない、こういう理由から却下したのでありますか、それを聞いておきましょう。最高裁の方どうですか。
#18
○樋口最高裁判所長官代理者 御承知の特別抗告ということになりますと、憲法違反、判例違反、この二点だけが正式の上告ということになっておりますが、最近は、なおそれに加えまして、御承知の事実誤認等に関する四百十一条、それもやはり場合によっては職権によって審査し得る、こういうような立場になっております。
#19
○赤松小委員 これは検事が聴取書を偽造したということになると、これくらいの憲法違反はないのであって、明らかに最高裁として率先取り上げるべき性質のものだと私は思うのです。しかし、もし私の主張に若干でも無理があると最高裁がお思いになるならば、やはり事実誤認の問題について、かつは検察庁の立場も、あるいは東京高等裁判所の立場も国民の前に明らかにするという意味において、再審を受理して、そうして時間をかけて十分な裁判をやる。その結果、彼が真犯人であるというところの結論が出れば、これはやむを得ないでしょう。世間は納得するでしょう。しかし、そういう十分な調査がなされない、あるいは検察庁に対する疑惑は依然として残っているという中で、平沢に対して死刑を執行していくということは、いかなる意味においても私は許されないと思います。そこで、この点につきましては、ぜひ最高裁の方で十分に一つ御考慮をお願いしたい、こういうように国民の一人としてぜひ最高裁の御考慮をお願いしておきます。
 それから、先ほどおっしゃいましたように、なお東京高裁及び東京高検のいろいろな取り扱いにつきまして、その間の事情を十分調査して後日本委員会に報告するということでありますから、委員長にお願いしておきますが、ぜひ来月でも再びこの小委員会を開いていただいて、そうして調査を続行していただくということを希望しておきます。
 同僚諸君の中で質問があると思いますから、私はこの程度でとどめまして、なお質問を留保しておきます。
#20
○林小委員長 上村千一郎君。
#21
○上村小委員 一点だけ磯部参考人に御意見がございましたらお漏らしを賜りたいと思うわけです。
 実はこの再審制度の小委員会が法務委員会の内部に設けられまして、そして熱心な検討が行なわれておるわけでございますが、磯部委員におかせられては、いわゆる帝銀事件を通じて長い期間何かと人権問題について御努力、御苦心をされたことについて深く敬意を払うわけでございますが、先ほど冒頭に意見陳述がございました際にもお触れになっておったようだが、わが国の再審制度について、どういうふうな点で、これが改正をする方が妥当であるのか、あるいはもちろん磯部参考人は弁護士として法律の専門家であるわけでございますので、再審制度というものがいかなる立場の制度であるかということは十分御案内の通りです。要するに、規在裁判においては三審制度を採用しておって、そしてそれがいつまででも確定しないということであってはならない。こういう点と、しかしながら、ある特定の場合におきまして、実際上の真理、事実というものを発見しなければならないという要請と、そういういろいろな要請のもとに再審制度が一つの制度として設けられておるわけでございまするが、帝銀事件を通じられて、そしてわが日本の再審制度にどういう点を改正する方がいいのか。またわが刑事訴訟法は、その再審事由としまして四百三十五条、四百三十六条並びに確定判決にかわる証明の規定として四百三十七条を規定してございますが、その再審事由の点についても何か御意見があるのか、その点を一点お尋ねをいたしたい、こう思うわけであります。
#22
○磯部参考人 実はまことに私としてはありがたい質問なんで、この研究に相当私は努力したのでありますが、一応私が本日までに研究した結果、そこが要点だと思うので申し上げます。
 再審制度の改正に関する要点としましての私の意見は、まず第一に現行刑訴法の第四百三十五条ないし第四百三十七条は再審の理由となる確定判決以前の証拠となった証拠書類または証拠物の不真正、偽造または変造に確定判決の証明を条件としている。かかる規定では再審の実行性がさらにないので、確定判決を条件としないことに改正してほしい、これが私の第一点なんであります。実は今、上村委員から御質問になった通り、この四百三十五条ないし四百三十七条の規定は再審の理由に関する規定なんであります。このうちにただいま帝銀事件にも出てきました証拠の偽造または変造が出た場合には、確定判決によって証明をしなければ、それが条件にならなければ再審を許さないというのが本条文なんであります。これはまことにけっこうなことでありますけれども、実際弁護士として事案に携わった場合に、こういうことがあっては、これはすべて再審は受理されないのであります。告訴されても、おそらく検事は取り上げてくれない、不起訴処分でありましょうし、実は出射検事のこの事件も時効完成、この時効完成については、私は法務省の人権擁護委員としてすべてあずかったので、単なる弁護士としてあずかったのではないということを御銘記願いたいのであります。ゆえに出射君を告訴するやいなやは人権擁護局部においても相当議論したのであります。しかし、人権擁護部か、人を傷つけるようなことをしなくても、公文書が出ればこれで十分じゃないか、必ず再審になるというので、告訴しなかった。それがついつい今日になって、時効が完成するやいなやのせとぎわになってしまったので、私と柳瀬先生はやむを得ず告発した。それが牽連犯だというので、時効完成と解釈されて出射氏は不起訴処分になったのであります。そこでその第一は、この条文中を確定判決しないということに御改正下されば事は済むのです。裁判所は審理せざるを得なくなるのです。
 次に第二点、明らかな証拠で新たに発見された有罪者の利益となるものの再審への利用は第一審のみに限られて、第二審及び上告審の確定判決では許されていない。これは刑事訴訟法第四百三十六条第一項第一号に明記してあります。かかる狭い規定は実に悪い制限であるので、この条文はぜひ御撤廃願いたい。と申しますのは、これは前の第一は第一審に関して適用される条文で、その後の条文は上告審、控訴審によって確定判決を受けた、ことに平沢でいうならば死刑の判決を受けた場合には、これはまことに明らかな証拠であるので、新たに発見された有罪者の利益になるものの再審への利用は適用されなくなってくるのであります。そうすると、これはやはり平沢としては泣きの涙で死刑を執行されざるを得ない結果になるのであります。この点、詳細に申し上げますと時間をとりますから省略いたします。
 第三に、旧刑訴法による確定判決の再審も新刑訴法によって再審ができるように改正していただきたい。これは現実としましては平沢帝銀事件で申し上げるのでありますが、不幸にして平沢は旧刑訴法適用のほとんど最終といってもいいくらいで事件にひっかかったのであります。ゆえにすべては封建時代における――と言うと言い過ぎかもしれぬが、旧刑訴における不利益な再審規定の適用によってすべてが処理されているのであります。これは新法よりもなお非民主的で不利益なんであります。ゆえに、旧刑訴によって処罰される事件も新刑訴によって処罰される事件も、それは臨時処理法はありましたけれども、確定判決後に、本件でいえば最高裁が棄却したその以後において出たすべての再審理由の証拠なんでありまして、こういう事件を新旧に区別する必要が那辺にありや。少なくも基本は新憲法のもとに、民主憲法のもとに、人権擁護憲法のもとにつながっているのでありますから、その趣旨からかんがみてこれは区別する必要はない。ぜひともこの旧刑訴法による確定判決による再審は新刑訴法によって再審ができるように御改正願いたいと思うのであります。これについては裁判所の裁判はまちまちで、いや、それはそんなことをしなくても新刑訴に基づいて再審ができるんだというので、その判決をした例もあります。ゆえに過日新刑訴に基づいて地方裁判所へ再審の申し立てをしたところが、地方裁判所は、やはりこれは旧刑訴によるのだから高裁の六部に行けと却下してよこしたのであります。裁判所の中においても、こういうまちまちのために非常に不利益な運命、あっちにやられこっちにやられてめちゃめちゃになり、平沢の人権は擁護されていないのであります。ゆえにこの点をはっきりしていただきたい。
 最後にもう一点、第四、その他の改正については、法務委員会再審制度調査小委員会会議録第一号所載の後藤参考人の述べられた改正点を援用すること。これはこの記録を見ますと八項にわたって述べられているのでありますが、しかし私に言わせると、日弁連が出しましたこの改正は手続に関する改正点が多くて、実質再審の理由にあまり触れていないので、第一、第二、第三を申し上げた次第であります。
 なおつけ加えて一言申さしていただきたいのでありますが、上村委員に対しては以上のごとく実は改正してほしい、そうすると諸外国、欧米と日本の再審規定が非常に同調してくるということを一言申し上げたいと思うのであります。左に欧米各国の再審の趣旨、すなわち許可される範囲について私の研究の結果を要約して申し上げて御参考にしたいと思うのであります。
 A、ドイツ刑訴法の再審の範囲、第四編、確定判決をもって完結したる手続の再審。これはドイツ法なのであります。第三百五十九条、有罪判決を受けたる者の利益のためにする再審、確定判決をもって完結したる手続の有罪の判決を受けたる者の利益のためにする再審は左の場合になすことを得、一、公判において有罪の判決を受けたる者の不利益において真正なるものとして提出せられたる証書が、不真正または変造にかかるものなりしとき。二、以下省略。これは条文の要旨なんであります。ドイツ法はかくのごとく非常に寛容なんであります。これを要するに、新証拠によって旧証拠を基礎とする有罪の心証が動揺または撹乱させられる場合には再審を許すというのがドイツ法なんであります。
 次にB、フランス法、新事実によって有罪被宣告者の無罪であることが確からしくなれば十分としている。すなわち、旧証拠よりも新証拠による無罪の証明の方が勝つと思える場合は再審を許す。これがフランス法の規定なんであります。
 C、アメリカ法、新証拠の実質性が、もう一度審理をすれば異なった結果を生ずるであろうことを蓋然的ならしめるほどに強くなれば再審を許す。
 D、イギリス法、イギリス法はアメリカ法にほとんど同じだと見てよいと思います。
 以上申し上げた通り、これは私の研究で間違いないと思いますが、外国法はかくのごとく、確定判決によって証拠が偽造、変造等でなければ再審はできない、こんなことを言ったら、おそらく実は体裁よく日本の刑訴は再審を許すがごとく装って、実際の仕事においてはでき得ないような状態が日本の再審制度なんです。どうぞこの点をおくみ取り下さって、それではたして三分の二も規定しておる日本民主憲法、人権擁護に関する憲法の趣旨をくんだ刑訴と言い得るでしょうか、御考慮願いたいと思うのであります。
 大要私の研究はその程度でございます。
#23
○赤松小委員 本日は忙しいところを参考人に来ていただきましてありがとうございました。
 磯部さんは法務省の人権擁護委員として非常な努力を払っていただきました。その間、私聞きますと、平沢事件などでほとんど報酬などは一銭もございませんけれども、私財数百万円をなげうって人権擁護のために非常な努力を願っておる。その間、聞けば非常に不幸なことがありまして、奥さんとか娘さんが強盗のために殺された。そういう不幸にもめげずに人権擁護のために戦っていただいておる、まことに感謝にたえません。
 今も貴重な意見をいただいたわけでありますが、これを私ども熟読翫味いたしまして、もってこの参考人の主張なさろうとする点につきましては、十分に国会で生かしていきたいと考えておりますので、御多忙のところどうもありがとうございました。
#24
○林小委員長 お諮りいたします。
 赤松勇君御要求の帝銀事件に関する磯部弁護士の上申書の一部を小委員会議録に掲載することに御異議ありませんか。
  〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
#25
○林小委員長 御異議なしと認め、そのように取り計らいます。
 以上で参考人に対する質疑は終了いたしました。
 磯部参考人には御多忙中長時間にわたって貴重な御意見を述べていただきまして、まことにありがとうございました。
 次会は公報をもってお知らせすることといたしまして、本日はこれにて散会いたします。
   午後零時二十四分散会
     ――――◇―――――
ソース: 国立国会図書館
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