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1947/08/02 第1回国会 衆議院 衆議院会議録情報 第001回国会 司法委員会 第11号
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1947/08/02 第1回国会 衆議院

衆議院会議録情報 第001回国会 司法委員会 第11号

#1
第001回国会 司法委員会 第11号
昭和二十二年八月二日(土曜日)
    午前十一時二分開議
 出席委員
   委員長 松永 義雄君
   理事 石川金次郎君 理事 荊木 一久君
   理事 鍛冶 良作君
      井伊 誠一君    池谷 信一君
      石井 繁丸君    安田 幹太君
      山中日露史君    中村 俊夫君
      中村 又一君    八並 達雄君
      吉田  安君    北浦圭太郎君
      佐瀬 昌三君    花村 四郎君
      明禮輝三郎君    大島 多藏君
 出席政府委員
        司 法 次 官 佐藤 藤佐君
        司法事務官   奧野 健一君
    ―――――――――――――
本日の會議に付した事件
 國家賠償法案(内閣提出)(第四号)
 形法の一部を改正する法律案(内閣提出)(第
 六号)
    ―――――――――――――
#2
○松永委員長 會議を開きます。
 これより國家賠償法案を議題とし、質疑を繼續いたします。鍛冶良作君。
#3
○鍛冶委員 政府委員にお伺いいたしますが、先日も承つたのでありますが、公證人法第六條竝びに不動産登記法第十三條、民事訴訟法第五百三十二條、この三つを全部削除せられた理由について、いま一度承りたい。
#4
○奧野政府委員 この前にちよつと御説明申しましたように、憲法で官吏あるいは公務員の不法行為によつて國家が賠償しなければならないという憲法の要請に基いて、この法律はつくられましたので、表向きは國家の賠償責任ということを取上げて規定しておるのでありまして、公務員の個人の賠償責任がどうなるか。すなわち外部に對する賠償責任がどうなるかという點につきましては、觸れていないのであります。その意味でこれは立法の際いろいろ議論がありまして、結局それはこの法律では國家の賠償責任だけ規定すればいいのであるから、公務員の個人責任は解釋に委ねようということにいたしまして、この点觸れていないので解釋に任したのであります。しかしながら解釋によつて、公務員個人が責任あることになるか、あるいは全然ないことになるか、いずれにしましても、戸籍吏員とか、あるいは公證人とか、あるいは登記官吏とか執達吏というふうな特殊な人々だけについて責任があるというふうになることは、いやしくも公務員全般の問題として考える場合におかしいのではないか。いやしくも公務員の不法行為について國家が賠償責任をもつということになつた以上は、これはその公務員の責任についても差別待遇ということはおかしいのではないか。いずれにしましても、全體が責任なしということになるか、全體の公務員が責任があるということになるか、これは解釋の問題にいたしまして、現在あるでこぼこの公務員自體の責任の規定は削除するということにして、要するに國家賠償によつて大體目的を達し得るから、そういうふうな意味で、實質的意味においてもほとんどもう要らないであるというふうな考えから削除したわけです。
#5
○鍛冶委員 舊來他の公務員についてかような規定がなかつたにもかかわらず、そのほかに朝鮮とか満州は別といたしまして、特にこういう規定を設けておつたのはいかなる理由で設けておつたものと思われるか。それをやめて、今日ここにするということになれば、舊來との關係上に不均衡が現れてこないか。その點をお伺いしたい。
#6
○奧野政府委員 これはおそらくおのおのの法規におのおのの理由があろうかと思いますが、これは直接民衆に接觸することの點を考えて、おそらくこれらのものについての直接責任を設けられておるのではないかというふうに考えております。
#7
○鍛冶委員 してみれば、今日においてもなおさらその點が必要であつて、いつも私申すように、賠償をとろうと思つての議論ではないので、できるだけ處分を慎重にしてやつてもらう、そうしてそういうことのないようにということが、これらの法律のできておるすべてのねらいと心得ておりますから、そういうことであるならば、今日この憲法ができたからといつて、この三つのものが第一次の責任を免れて第二次にしなければならぬ理由はないように考えますが、いかがでしよう。
#8
○奧野政府委員 今度は國家が直接に賠償の責に任ずるということになります結果、こういう個々的な公務員の賠償責任よりもなお強い補償を與えることになる結果、ほとんど實質的の意味からいたしましても、より強く賠償されることになるので、これは特に實質上からもわざわざ存續する必要もないではないかという考え方です。
#9
○鍛冶委員 それならばむしろこの規定を殘しておいて、そうして公證人法の規定、不動産登記法の規定及び執達吏の規定に、この法律と平仄を合わせるように、重過失をやめて過失に改める方が、かえつて法律の精神にも合い、舊來からできておつた趣旨にも副うではないでしようか。これができたから、こつちが重いからこつちが輕いというぐあいに、あべこべにこつちを輕くして平仄を合わせるのが本則だと思う。
#10
○奧野政府委員 そういう考え方も成り立ち得るかと思います。ただ、もしそういたしますならば、ここに掲げてある公證人とか、あるいは執達吏とか、登記機關以外の公務員の個人の責任がまずないという反對解釋がほとんど公權的に確立されることになると思います。
#11
○鍛冶委員 わかりません。もう一ぺん伺いたい。
#12
○奧野政府委員 そういう公務員の個人責任を、公證人あるいは執達吏、あるいは不動産登記法を扱う官吏、戸籍吏員というふうに、結局限定したことになつて、その反對解釋として、他の公務員については個人責任がない、従つて國家賠償だけやるという解釋がほとんど公權的に確立する結果となると思います。
#13
○鍛冶委員 それだから、さつき聴いたので、舊來ほかのものにはなかつたのに、何ゆえこの四つのものにやられたかということは、公衆に常に接觸していろいろ關係があるからと言われたその點は變りがないのですから、今この法律ができたからといつて、これをのせるという議論は當らぬと思います。特別のものなるがゆえにやつたといつても、今この法律ができても、この特別の事實は變りはないのではないか。これは意見ですがそう思います。
#14
○荊木委員 ちよつと關連質問ですが今の解釋から、御意見を伺つておりますと、鍛冶さんの言われることもわかるし、政府委員の言われることもわかりますが、解釋に委ねると言われるのは何の解釋ですか。たとえば國家賠償法の解釋ということでしようか。もとより民法の不法行為の規定が適用にならぬことは明瞭でありますけれども、解釋の余地があれば今の議論は成り立ちますが、解釋の餘地がないとなれば今の點は逸脱してしまいますが……。
#15
○奧野政府委員 従來は公權力の発動の場合は國家に全然責任がないという建前で、従つてこれを行使する個人たる公務員にも責任がないという理論で一貫しておつたのでありますが、今度は國家賠償の責任があるということになりますれば、それの執行に當る公務員にいつても變つてくるではないかという意味で、解釋を委ねることになつております。
#16
○佐瀬委員 關連した點でありますが、結局公務員個人についても、民法七百九條に基いて損害賠償の責任の問題が發生するように解釈されることになるのでありましようか。
#17
○奧野政府委員 要するに、この規定によつて、國の公権力の行使の場合、純然たる民法上の不法行為の責任を負うことになつたのだということに解釈いたしますれば、その事実行為をやる公務員についてもそういうことになるわけであります。
#18
○鍛冶委員 そうなるとこれは執達吏の場合だけではなくて、いつでもやれるということに聞えますが、それでよろしいのですか。この新しくできる法律によつてやることと竝行してやり得る。やれるかやれないかは解釈に委せると仰しやるが、やり得るという議論は立ち得るのですが……。
#19
○奧野政府委員 解釈いかんによつては、すべてそうなろうと思います。要するに国家もその意味において、一般私人と同様、公権力の行使についても責任を負うのである、いわゆる民法上の責任を負うということになつてしまえば、その実行する者も行為者としてやはり責任があるという解釈が成り立つという意味になると思います。
#20
○佐瀬委員 大變政府の御解釈は明白になつたと思います。ただそれに關連して一應念を押してお尋ねしておきたいのは、公権力の行使ということは、行政法の從来解釈されておつた公法的行為の全部を含むことになるのでありますかどうか。もし含むものとすると、権力的行為でないものでも、鍛冶君が心配されたような戸籍法上の戸籍吏の行為とかいうものについても、公法的行為として、これが本法の第一條の解釈の對象になる。しかして戸籍吏個人については、今政府委員の御説明の通り、すべて責任を負うということになるならば、結局被害者たる國民は、常に第一條によつて国家公共團體に損害賠償を求めることができると同時に、公務員個人に對しても漏れなく賠償を求められるということになつて、被害者の救濟上萬全を期し得られる結果になるのでありますが、その關係をもう一應お伺いいたします。
#21
○奧野政府委員 公権力の行使と申しますのは、やはり命令服從の關係の強制力を含んだ行政作用を考えているわけでありまして、この點については、從来国家に責任がなかつた點を撤廃といいますか、責任を認めたのがこの第一條であります。そうすると、公法關係の中で、公権力行使以外の公法關係についてはどうなるかという問題になりますが、これは民法の一般原則で、やはり国家が責任を負うということに解釈し得るのではないかと考えております。
#22
○佐瀬委員 その御説明で全體的に非常に明白になつたと思います。
#23
○松永委員長 速記を止めてください。
    〔速記中止〕
#24
○松永委員長 速記を始めてください。次にこれより刑法の一部を改正する法律案を議題とし、質疑を進めます。佐瀬昌三君。
#25
○佐瀬委員 今まで質問された事項になるべく重複しないような一般の點についてお尋ねしたいのであります。政府は、刑法を全面的に改正することについて、いかなる見通しをおもちになつておりまするか、その點をまずお伺いしたいと思います。
#26
○佐藤(藤)政府委員 刑法の全面的改正につきましては、御承知のように、これは大正十五年に、臨時法制審議會の決議として、刑法の改正要綱が發表せられました。この刑法改正の綱領を基本として、刑法竝びに監獄法の改正調査委員會が組織せられまして、刑法改正調査委員會において、長年の間刑法全般の改正について慎重に、審議を重ねておつたのであります。しかして昭和十五年に、刑法改正の假案というものが、刑法改正調査委員會の總會の決議として發表せられたのであります。しかしながら、この改正刑法の假案の中には、刑法改正調査委員會としても決議の留保せられた點が数點あるのであります。殊に刑法の總則の點について、しかも刑法の根本理念について、相当對立した意見がありましたので、むしろ解決しにくい問題が幾多保留されて發表せられたのであります。その後、昭和十五年に刑法假案が發表せられました後も、なお刑法改正調査委員會が引続き行われまして、慎重調査研究をいたしておつたのでありますが、大東亜戦争の最中に、一應この調査委員會は打切らうということになつて中絶してしまつて、今では終了の形になつておるのであります。かようにして刑法改正の事業が、長年調査研究せられたにかかわらず、法律として見ることなく中止いたしましたことは、はなはだ遺憾に存ずるのでありますけれども、その当時の事情としては、またやむを得なかつたことであろうと察せられるのであります。しかしながらこのたびの刑法改正案についても、長年の間研究されたこの刑法改正の假案の趣旨は十分参照し、これを尊重して取り入れてあるのであります。かようにして刑法改正の假案はすでに發表せられておりまするけれども、その後も急激なる時勢の變化に會いまして、今後刑法改正の假案をそのまま法律にするということはもちろんできませんので、新しい時代にふさわしいようにしかも新憲法の精神を十分に體した、新たなる刑法をこれから編纂しなければならぬ立場になつておるのであります。今後司法省の中に刑法改正についての委員會を設けまして、その委員會はもちろん朝野の法曹、学識、經験者を網羅いたした専門の委員會を組織しまして、その刑法調査委員會において十分改正案を練つていただいて、それから法律の立案に著手したい、かように考えております。
#27
○佐瀬委員 一應刑法改正假案は御破算にして、新たに全面的な改正案を調査研究して提案されるという趣旨のように承つたのでありますが、それは一體いつごろに豫定されておりまするか。もしここで言い得るならば、その點をお伺いしておきたいと思います。
#28
○佐藤(藤)政府委員 本年度の刑法改正についての調査事業の豫算として、一應豫算を計上してありますが、この豫算の数字は記憶いたしておりませんけれども、すでに豫算もとつてあることでありまするから、今議會のすみ次第に、早速著手いたしたいと考えております。
#29
○佐瀬委員 刑法改正假案の審議中から、大變刑法の基本問題、特に刑罰理念について論争が繰返されたのは周知の事実でありますが、この一部改正にあたつて、それらの點が具體的にどう處理されたかの點をお伺いしたいのであります。執行猶豫の制度、あるいは連続犯、前科の抹消とか、累犯制度にこの改正案は触れているようでありますが、これらの點についていかなる指導理念のもとに臨まれたかということを明らかにしておくことは、この際きわめて必要ではないかと思うので、この點についてお尋ねをいたしたいと思います。
#30
○佐藤(藤)政府委員 仰せのように、刑法改正調査會におきましては、長年の間刑法の根本理念について激しい論争がありまして、一部まだ解決に至つていない點があつたのであります。このたび刑法の一部を改正するにあたりましては、さような根本理念、殊に從来学者、実務家において相当論議されておつた根本理念については、何ら今囘の刑法一部改正案には触れておらないのでありまして、今度の刑法改正案は、先日も申上げましたように、新憲法の実施に伴つて、新憲法の精神に即してとりあえず改正を適当と思う部分だけを改正いたしたのであります。なるほど刑法總則の中にも改正をいたした點はありますが、これはもつぱら刑事政策的な意味において改正したのでありまして、いわゆる刑法の根本理念の解決という點には触れておらないつもりであります。
#31
○佐瀬委員 これから各逐條ごとに審議する際に常に問題になると思うのでありますが、もし刑法の全面的改正が近いうちになされるということであるならば、ただいま政府委員の御説明の通り、この際は新憲法の施行に伴つて緊急やむを得ざる最小限度の刑法の一部改正に止めておくということが必要ではなかろうかと思うのであります。しかるに實際の案を見てみますと、それ以上に、しかも刑法の根本理念に觸れた改正點が多々散見されるように思われますので、その點を私は一應留意しておきたいと思うのであります。
 問題を轉じまして、政治と刑法の関係でありますが、従来政治的要請に伴つて、新しい刑罰法規が多數立法されてきたというのは、東西古今を通じて刑事立法の特色にされております。特に全體主義國家觀なり、あるいはフアツシヨ的な思想が跋扈してからは、刑法をもつて政治の道具にするという現象が出たのであります。もちろん厳正に見て間違いのない政治であるならば、厳正に見て間違いのない刑法と一致すべきでありますけれども、とかく政治はその時代の政治家の政策的な面にのみ堕して、それがために刑法が武器としてその偏狭な政治的要求に奉仕せしめられるということになりますと、きわめて國を紊すもとになつてくるのであります。刑政の重大性はそこに存するものと私は思つておるのであります。そこで今回の一部改正案を見てみましても、不敬罪、あるいは外患罪、あるいは七章ノ二の廃止、つまり安寧秩序に對する罪の問題というようなものも、現在の政治的な面とかなり関連のある改正のように見受けるのであります。もちろん憲法の至上命令であるところの刑法改正はやむを得ませんけれども、誤つた政治觀に基いて刑法をこれに順應させていくということになりますと、これは取返しのつかない、後世史家の糾弾に値すべき立法にならざるを得ないのであります。この點について政治と刑法という面で政府委員はいかような御見解をおもちになつておるか、その點をお伺いいたしてみたいと思います。
#32
○佐藤(藤)政府委員 刑罰法規の基本となる恒久法たる刑法を編纂するにあたりまして、刑法がその時代時代の政治の考え方に影響されないように、慎重にこれを取扱わなければならぬという御意見は、まつたく同感であります。このたび刑法の一部を改正するにあたりましても、個々の政治觀によつて影響されないように、さような點は十分慎重な態度をもつて改正案を作成いたしたのであります。ただこの改正をしなければならぬ理由は、先ほど来申し上げましたように、新憲法の實施に伴つて、その新憲法の精神に副わざる點を改正しようというところに目標があるのでありますから、その意味において新時代の政治のあり方に副うような改正になつたということはもちろんであります。しかしながらこれは私ども一個の政治觀に基いて刑法の一部を改正するというのではないのでありまして、全國民が新時代を指導すべき憲法としてその基礎を定めたのでありますから、この新憲法の精神に副うように刑法を改正するということは、これは当然立法に従事する者としてなさなければならない責務ではなかろうかと存するのであります。ただいま御指摘になりました皇族に對する罪、外患に對する罪、安寧秩序に関する罪、これらの點に相当削除をし、また改正をいたしておりまするが、これはやはり私ども一個の政治觀に基く改正ではないのでありまして、新憲法の精神に副うがためには、かような改正をすることが適当であろうと考えのもとに改正をいたしたのでありまして、決してこの改正に名をかりて、個人の政治觀をもつて左右したというふうに言われるようなおそれはないと確信しております。
#33
○佐瀬委員 正しく政治を把握して、その要求される公益を刑法によつて保全するということには私も何ら異議をはさまないのであります。ただこれから審議される個々の犯罪等については、その點から多少遺憾に思われる節があり、いわば政治的刑法に走る憂いなしとしないものがありますので、一應その點を明らかにしておきたいと考えて、ただいまの質問をした次第であります。
 それから現在の犯罪現象をみますと、青少年犯罪が非常に多いようであります。敗戦後の社會の動揺に基いて、思想の定まらないこれらの人たちが、勢い犯罪に走るというのはやむを得ない現象かもしれませんが、日本の前途にとつてきわめて憂慮すべき青少年犯罪が現在跋扈しておるということを見てみますと、この一部改正の際に、当然これに對する刑事政策的な顧慮のもとに、あるいは既存の法律制度を改正するなり、あるいは新たに刑法にその對策規定を設けるなりすることが緊急のことではないかと思うのでありますが、この點に對する御所見はいかがでありますか。
#34
○佐藤(藤)政府委員 終戦後、思想の混亂また経済生活の窮迫に基きまして、またさらに遡れば戦時中青少年に對する教育指導が適切に行われておらなかつたというような、いろいろな原因に基きまして、終戦後青少年犯罪が非常に殖えているのであります。これは各國の歴史においても示されているのでありまするが、最近においては殊に青少年犯罪の數が激増しているばかりではなく、その罪質が非常に凶悪な犯罪が多いのでありまして、この點は識者の非常に憂えているところであります。殊に将来のわが國を擔うべき青少年の責任を思いますると、まことに寒心にたえないのでありまして、この青少年犯罪の予防防遏ということにつきましては、これは政府全體として非常な関心をもつていろいろな對策を講じているのであります。司法省といたしましては、少年法あるいは矯正院法等を活用いたしまして、青少年犯罪の保護善導に極力努めているのでありまするが、しかしながら既存の少年法及び矯正院法あるいは司法保護事業法等では不十分であると認めまして、目下この改正事業に著手いたしておりまするので、できれば今議會にその一部の改正案を御審議願いたいと存じているのであります。遅れましてもこの次ぎの議會には、ぜひ少年法、矯正院法及び司法保護事業法の改正について御審議をお願いしたいと思いまして、その改正事業に鋭意努力いたしておるのであります。立法事業はさうでありまするが、立法に関係なく、司法省の保護課を中心といたしまして、関係各方面の協力を得て、青少年犯罪の防遏予防のために街頭に進出して、それぞれ努力いたしておるのであります。しかしながら刑法の一部改正案には何らその點は取扱いはいたしておりませんが、かような青少年犯罪に對する對策としては、今申し上げましたように、少年法、矯正院法及び司法保護事業法等の改正、竝びにこの議會に提案されようとしておりまする厚生省所管の児童福祉法のような立法によつて十分その目的が達せられるのではないかというふうに存じております。
#35
○佐瀬委員 治安確保の上からは、姦通罪の問題より以上に少年犯罪が重大であるということは、何人も認めるところであると思うのであります。どうかそういう意味で速やかに政府は具體的な對策を願うことを望んでこの點は終ります。
 次に各則的な問題に若干この際觸れておきたいのでありますが、まず不敬罪の點であります。先般もこれは刑法上の天皇制否定ではないかという質問もあつたようであります。政治学上あるいは憲法学上日本の國體が變革されたのであるか、具體的にいつて君主制になつたのか、共和制になつたのかといつたような問題については相当論議の對象にもなつているように存じております。私はあえてこれに對する内閣なりあるいは司法省の政府委員にその御認識いかんを問わんとするものではありません。しかしながら率直に憲法第一條の解釋をいたすならば、天皇は國家の象徴であり、國民統合の象徴であるという點において、単なる國民としてより以上の憲法上の地位を保持されておるということは自明の理であります。しかも従来のごとき主權の範圍は限定されておりますけれども、なお國事に関する重要な機能をおもちになつておるのが現在の憲法の規定に明白にされておるのであります。しかるにこの地位に逆行するような刑法を規定するということは、はたして刑法の目的に副うものであるかどうか、私は疑わざるを得ないのであります。単に國民感情や伝統的觀念からさように申し上げることではありません。純法理論としましても、憲法に指示された重要な法域を刑法によつて保護するというのは、刑法の重大なる職能でなければならぬと考えるのであります。しかるに新憲法がすべて國民は平等であるということを十四條で謳つておるからといつて、この天皇の特別な地位を否定さるというわけにはまいらぬのであります。かような形式的平等觀からいうならば、あるいは君主も天皇も一國民である。法の前には平等であるというような觀察も出ないではありませんけれども、しかし天皇と天皇の地位を継承さるべき特別の皇族とは、今申し上げましたような國權の帶有者あるいは主權の主體という觀念は容れられませんけれども、國事に對する重要な法的地位をもつておられるのであるから、本質的差別をするならば國民と違つた地位にあり、従つて特別な法域の對象となるというのは、國内法からみても当然の理でなければならぬと考えるのであります。しかるに全面的にこの天皇に對する危害罪ないし不敬罪を廃止するということは、まつたく形式的平等觀にとらわれた改正でなければならぬと私は非難せざるを得ないと考えるのであります。もちろん天皇も個人としての御性格をおもちでありましよう。しかしこれは従来刑法学においていいますように、不敬罪にしてもそれはいわば帝王誹毀罪であります。単なる個人の名誉を誹毀するというのではないのであります。公人としての特別な帝王に對する誹毀罪として、単なる個人に對する名誉侵害罪とは、格別な意義をもつておる。この犯罪感に基いていくならば、私は今日なお不敬罪等を存續するのが合法的ではないかと考えるのであります。現に刑法のこの改正案を見ましても、尊属殺の規定は廃止されないように見受けるのであります。親と子の間においても、子の区別は認められておるのであります。親權をもつて封建制の遺物であるというふうに考えるならば、まずこの尊属殺の加重規定も抹殺するのが当然ではないかと思うのでありますが、これをやはり存續するというところに、私は日本の、固有とは申しませんけれども、淳風美俗があり、しかもそれは今後の新しい社会においてもなお保存さるべきものであつて、それに立脚した尊属殺はやはり存續の価値があると考えておる一人でありますが、この規定の比較から見ましても、天皇の特別な地位に對するさような規定、危害罪、不敬罪といつた規定は存續するのが当然ではないか。刑法それ自體の比較からしても、そういう結論になるのではないか、こう考えます。すでに不敬罪等については、政府委員の御説明もあつたようでありますが、私はさような觀點から、なおそれに對する御意見を承つておきたいのであります。
#36
○佐藤(藤)政府委員 新憲法において天皇の特別なる地位すなわち日本國の象徴であり、日本國民統合の象徴であらせられる特別の地位を憲法で認められておるのであります。われわれは、新憲法に認められておるその規定は、古今變りはない。われわれ日本國民が傳統的にそう信じている考え方であると信じております。この憲法において認められている天皇の特別なる地位を刑法において否定しようというものでは決してないのであります。これは前にもたびたび繰返したことでありますが、刑法においてこの天皇の特別なる地位を否定するのではない。ただ刑法においてこの天皇の特別なる地位を保護するがために、特別なる刑罰法規を設ける必要があるかどうかという點に、見解の相違があるだろうと思うのであります。特別なる地位はどこまでも認めておるが、その特別なる地位を保護するがために、刑法上特別なる刑罰法規を置く必要があるかどうかという點に歸著するのであります。なるほど現在の、これまでの刑法におきましては、この天皇の特別なる地位を保護するがために、特別なる刑罰法規としていわゆる「皇室ニ對スル罪」の一章を設けられておるのであります。天皇に危害を加えた場合には、一般國民に危害を加えた場合よりも重く處罰する。天皇の名誉を毀損した者は、一般の國民に對する名誉毀損罪よりも重い不敬罪の刑をもつて處断される。また神宮皇陵等に對して不敬の行為があつた場合に、普通の神祠、佛堂、教会、墓所等に對する不敬の行為よりも重く處罰するというような、いろいろな規定があるのでありますが、これらの天皇の地位を保護するために設けられた特別なる刑罰法規を、今回の刑法の一部改正案においては全部削除いたしたのであります。この削除するにつきましては、前今申し上げました通り、刑法改正の事業に著手して以来、私どもの最も腐心し苦慮いたした點でありまして、慎重にこれは取扱つたつもりであります。その考えの過程を申し上げますと、最初のうちは君主國である各國の立法例を見ますと、君主帝王の特別なる地位を保護するがために重い大逆罪あるいは不敬罪の規定があるのであります。イギリスにおいても、現在は廃止のような形になつておりますけれども、歴史を見ますと、厳としてさような規定が存在しておつたのであります。わが國は民主的な平和國家としてこれから再建するにあたつて、新憲法が制定されたのであるが、新憲法において、その劈頭において天皇の特別なる地位を認めておるのであるから、現行刑法において、その特別なる地位を保護するがために認められた「皇室ニ對スル罪」その他をそのまま存置そても、何ら差支えないのではないかというふうに考えておつたのであります。ところが、その立法事業に従事しております途中において、だんだん考えてみますと、現在の國際情勢というものを、過去におけるよりもなお鋭敏にこれを觀取しなければならない立場に立つておるのであります。諸外國おきましては、わが國が新憲法において民主的な國家となつたと、こう稱えておるけれども、はたして日本が民主的な國家として進んで行くだろうかということについて、一點の疑いをさしはさんでおる向きもあるやに想像されるのであります。そういう見方をする諸外國におきましては、日本がこの天皇の特別な地位を保護するがために設けた刑法の「皇室ニ對スル罪」を、刑法の改正にあたつていかように取扱うであろうかということに、重大な関心をもつて見ておるように、私どもには觀取せられるのであります。この國際情勢を思いめぐらして考えますると、また他面において、わが國においては、天皇の特別なる地位は、新憲法の規定があるから特別な地位があるということをわれわれは考えておるのではないのであります、永年の歴史の示す通り、また最近の現象といたしましても、陛下が各地に行幸あそばされましたときに、その地方々々の國民がこぞつて熱狂的な歓迎をなさる。あの事實を見ましても、これは新憲法の冒頭において、特別なる地位を規定したから、國民が特別なる地位を認識しておるのではない。伝統的に天皇の特別なる地位を國民が認めておるのである。これは刑法に特別なる刑罰法規を置こうと置くまいと――天皇の特別なる地位に對する見方はありますけれども――變りがないものであろうというふうに考えられますのるで、かれこれ考え会わせて、この際は刑法の改正にあたつては、思い切つて第一章の「皇室ニ對スル罪」を削除することが適当であろうという結論に到達したために、さような改正案が提出されるに至つたのでありまして、御意見のように、國民の中には、あるいは全國民がその感情においては、かような規定を一挙にして削除することにはあるいは不満の意を表せられるかも存じませんが、私どもの事務当局の考え方としては、さような經過のもとに、かような結論に到達したのでありまするので、どうぞこの點につきましては、委員各位におかれましても、慎重に御觀察の上、善處せられるようにお願いいたしたいのであります。
#37
○佐瀬委員 これまでに刑事統計上、危害罪、ないし不敬罪について、何か司法省において調査されたことがございましようか。
#38
○佐藤(藤)政府委員 その點につきましては、前に参考資料としてお手もとに御配布申し上げました統計表の中に、皇室に對する罪及び皇居または神宮侵入の罪つき第一審裁判のありたる犯罪事件調という表がありまして、これによりますと明治四十一年から最近までの件数が集計されております。
#39
○佐瀬委員 ただいま御説明の中に、刑罰的規定をもつて天皇制を保護する必要性があるかどうかということに基いて考えなければならぬという點がありましたが、これは私もとよりごもつともだと思うのであります。ところが刑事統計の上からみますと、判決に現れたものというだけを基礎にしたのでは、なかなか犯罪の実體がつかめないのであります。先ほど英國の例の話があつたようでありますが、私もかつて英國のハイコートで、一體英國にはどのくらい不敬罪があるかということを尋ねたところが、この通り何もないと言つて統計表を出されたことがあります。見れば零であります。しかしながら、それは裁判に現われたところが零であつて、社會の実際において不敬罪がなくなつているのではないのであります。おそらく司法省の統計に現れたところも、ただ有罪として確定されただけのものであつて、それ以外に相当の数があるのではないかと考えるのであります。刑法の全體を眺めてみますと、厳正な意味で、きわめて少しばかりの犯罪に對して、相当厳罰規定をもつているものがあるのであります。いわんや他に質的にも重大であり、しかも数においても相当数に思われると思う。かような不敬罪等に對して罰則を缺くということは、刑法内部の比較から見まして、その點においても、私は一考を要すべき問題ではないかと考えております。
 次に國際情勢から見て日本の民主化をはかるバロメーターとして不敬罪の存廢が注目されているという御意見は、私もまた認めるに吝かではございません。しかしながら、眞に日本が新憲法のもとに民主化されたか否かというのは、かような刑罰規定だけの問題ではないのであります。むしろ政治面なり、あるいは行政面なり、あるいは経済機構なり、あるいは國民生活の上において、ほんとうに民主化されたかどうかという尺度が、発見されなければならぬと思うのであります。私の最も恐れるのは劈頭に申し上げましたように、刑法は断じて政治的刑法に堕落してはならぬ。國際情勢ににらみ合わして、政略的に考えたところの刑法であつてはならぬと思うのであります。日本の民主化は、この規定の有無にかかわらず、私どもは堂々と決定的に行うていかなければならぬ。國民ひとしく臍を固めているのでありまして、これを重大な意義ある不敬罪の存廢問題にかかわらして考えることはいかがかと考えているのであります。さらに天皇制の基礎は憲法の條文に基かずして、わが國の傳統的観念の上に維持されているという御意見ももとより私賛成でございます。これこそ不文憲法として確率された點でございましよう。國民の総意もまたそこにあると考えているのであります。はたしてしからば、私はこの不敬罪をおくかどうかということも、國民の総意に照して決定するということが、本然的なきめ方ではないかと考えているのであります。しかし以上は私の政府委員から受けた御説明に對する感想を述べておくに止めておきます。
 次に時間もございませんので、二、三の點を確かめておきたいのでありますが、刑法九十條及び九十一條の廢止の點でございます。これはすでに外國の元首あるいは外交使節に對する不可侵權を認めるかどうか、そうしてそれに相呼應して刑法上特別な保護法益の主體としてこれを認めるかどうかという點が問題の焦點であり、政府委員の御見解によれば、それは別に國際法上確定されたものではない。そこに九十條及び九十一條の廢止の根據があるのだというふうに承つておつたのでありますが、私はやはり憲法九十八條の二に規定しておりますように、この不可侵權は、從つてこれに對する國内刑法上の保護は、國際慣習法上ですでに確立したものである。いわば國際法規上の制度である。從つてこれを無視して廢止するということは、九十八條二項のいわゆる國際法規に違背する疑いがあるという信念をもつておるものであります。しかしさらに私は新たな理由からも、その點を考えてみなければならぬと思うのであります。現在犯罪人引渡條約というものが各國間に締結されております。この共通した原則は、いわゆる政治犯罪人不引渡という點にあるのであります。その政治犯罪の概念規定なり範圍なりについては、若干疑いもあり、議論もあり、現にベルギー條款主義あるいは一名加害條款主義と申しておりますが、その立場から言いますと、元首に對する危害罪等は政治犯罪から除外して、犯罪人引渡しの對象にするということになつておるようでありますけれども、英米法系統のものでは、すべてこの加害條款主義を排撃して、これらをも政治犯罪の範疇に組み入れ、しかしてこれに對してはその犯罪人を引渡さずに、各國が保護するという國際條約を多く締結しておるのであります。國内法もこれに相まつて、元首等に對する犯罪を特別な立法的地位を與えて規定しておるのであります。現に日本がロシアと締結した日露犯罪人引渡條約第四條、及びアメリカと締結した日米犯罪人引渡條約第四條においては、これに關連した規定をもつておるのであります。日露條約はすでに第一次大戦の結果自然廢止の形になつておりますけれども、日米犯罪人引渡條約第四條は現存しておる規定でございます。從つて私はひとり米國に對する関係ばかりでなく、これらの條約を基礎にして発達した国際法の上から見ましても、かように国際法上の元首に對する犯罪を特別に設ける、國内法もこれに相呼應していくというのが、現在の法秩序の上の一大原則になつておりますから、もし日本が不敬罪を廢し、さらに外交に關する罪としての九十條及び九十一條を廢して、外國の元首に對する保護規定をも缺くに至つたならば、かような國際條約の上から見ましても、違反になるおそれが多多あるのではないかと私は考えておるのであります。この點に對する御意見を承れれば幸であると思います。
#40
○佐藤(藤)政府委員 本改正案におきまして、刑法第九十條及び九十一條を削除いたしましたのは、前回にも申し上げましたように、決して外國の君主、大統領、使節に對する特權を否定したのではないのでありまして、外國使節が國際法上不可侵權を認められておるということはお説の通りであります。ただその不可侵權を認める方法なり、その程度でありますが、刑法において、すなわち特別なる刑罰法規をもつてその不可侵權を認めなければならぬ。言いかえれば、一般國民に對する刑罰法規よりも、外交使節に對しては、特に重い刑罰を科し得るような、特別な刑罰法規を制定しなければならぬという程度に、國際法上外交使節の不可侵權が確立しているものとは考えておらないのであります。各國の法規において、外交使節の特權を保護するのに十分な規定を設けなければならぬという原則はあるのであります。外交使節の特權を保護するのに十分な規定があれば、それ以上設ける義務はないのではないかというふうな考えから、他の刑罰規定を法定刑を高めました結果、特段に九十條や九十一條のような規定を存置しなくても、外交使節の特權を保護するのに足りる、こういう考えから削除いたしたのでありまして、決して國際法上確立されている外交使節の特權を無視するというような考えは毛頭ないのでありまして、この點は誤解のないようにお願いいたしたいのであります。ただ削除いたしますと、一見それを否認したようにとられるおそれはあるのであります。先ほどの皇室に對する罪についても、その規定を削除することによつて、天皇の特別なる地位をあたかも否認したかのごとく誤解されることは、まことに遺憾に存ずるのであります。
#41
○佐瀬委員 この點は簡単に御説明願つておけばよいと思うのでありますが、國家の元首に對する犯罪は、一體政治犯罪としてお考えでございましようか、普通犯罪としてお考えになつておりましようか。
#42
○佐藤(藤)政府委員 犯罪について政治犯なりや、普通犯なりやという區別は、非常にむずかしいのでありまして、人によつてその限界が明瞭ではないのであります。また區々であります。一國の元首に對する犯罪が政治犯なりや、普通犯なりや、その元首に對する犯罪を處罰する規定そのものが、元首の特別なる地位を保護するために設けられた規定であるならば、その規定に違反することは政治犯である、かように考えております。
#43
○佐瀬委員 先ほど申し上げましたように、國際條約ないしは國際法規上、政治犯罪人の不引渡しの原則というものは確立されておるのであります。日本は将来國際的平和國家として立つていくからには、いきおい外國との交渉が多くなければならぬと考えるのであります。その觀點に立つて、かかる犯罪を政治犯人として處遇していくということは、やあり國際團體における一つの任務であると考えておるのであります。元首の特別な地位を認めることが、普通の人に對する場合より刑罰が重いか、輕いかによつてその區別をするというのではなくして、かように性質上普通犯罪であるか、政治犯罪であるかという區別が必要になつてくるのであります。ただいま御説明の通り、そういう元首という地位に對する犯罪としていくならば、政治犯罪であろうという御解釋をおとりになり、私もその解釋を當然と認めるのでありますが、そういう解釋からまいりますと、どうしてもこれは普通犯罪と區別した刑法上の地位を與えて、特別にそれを規定する刑罰の輕重はあえて問わぬのでありますが、そういう地位を特別に規定上も認めるということが當然に必要とされることになると、私は信じておるのであります。しかしそれはこの際私の一つの意見として提出しておくに止めまして、最後に安寧秩序に對する罪の全面的廢止の件でありますが、なお新憲法から見れば、日本は戦争權を放棄し、平和國家として立つていく現在においては、戦争は一應終つたということになつておりまする以上、戦時における一船人心惑亂罪とか、あるいは経済攪亂罪を廢止することは當然であると考えるのであります。しかしながら、平時において一般人を惑亂し、あるいは経済秩序を攪亂するような犯罪は、今日及び将来において、やはり重大な犯罪として私は刑法上存置する必要があると考えておるのであります。これを廢止した考えを忖度してみますると、一體安寧秩序に對する罪の本質をいかに把握するかという問題にも関連してまいるのでありますが、戦時中に立法された戦時刑事特別法あるいは國防保安法あるいは準戦時體制下において制定された不穏文書取締法とか、それらの一環の法規は、すべて國家の全體主義的な思想に基いたところの戦時色豊かな立法であつたのであります。かような系列に属する安寧秩序に對する罪は、國家に對する罪として、あるいは政治に對する罪として認識されたのであります。しかしながら、私どもはさような本質觀から脱却して、社會の恒常的な一般的な秩序、経済的秩序というものを保持することは、社會本位の自由主義的刑法として、きわめて重要性をもつものであると考えておるのであります。安寧秩序に對する罪はさような意味において新しき本質を附與されて、そうしてこれからの日本の社會経済の健全な秩序を擁護する立法として、やはり十分なる必要性をもつものと認めるのであります。従つてこれを戦時平時両者にかかわる犯罪を全面的に廢止するということについては、私はいささか反省すべきものがあるのではなかろうかと考えておるのであります。この點に對する政府委員の御説明を求めたいのであります。
#44
○佐藤(藤)政府委員 御意見はまことにごもつともに存ずるのであります。この安寧秩序に對する罪を設けましたのは戦時のさなかでありまして、この規定自體が戦時色の濃厚な規定であります。その意味において新憲法においてわが國が戦争を放棄し、将来絶對に戦争のないことを期待しておるのでありますから、戦時に関するこれらの法規は全然無用となつたのであります。これを削除いたしますと、ただいま仰せのように平時における安寧秩序に對する罪において、その取締りが缺けるのではないかという御意見はまことにごもつともなのであります。そこでこの第七章の二安寧秩序に對する罪を改正して、平時における社會の安寧秩序を保全するために何らかの取締規定を設ける必要があると考えまして、いろいろ改正案を考究いたしたのであります。この點は御承知のように刑法改正の假案の中にも、内容な違いますが、安寧秩序に関する罪として一章がありますので、平時における安寧秩序に對する罪をいろいろと考究いたしたのでありますが、どうも早急の際に間に合うような適當な規定を編むことができなかつたのであります。いろいろ意見もありまして、なかなか意見のまとまりが見出せませんでした。そこで一應戦時色豊かな一章を全面的に削除して、来るべき刑法の全面的改正の際に平時における社會の安寧秩序を保護するに必要な規定を列挙しようと考えたのであります。
#45
○佐瀬委員 劈頭にお伺いしたのもその意味をもつてしたのでありますが、要するに刑法の全面的改正が近く行われ、しこうしてその中でこの安寧秩序に對する罪も適當に處理されていくということであるならば、私どもはもつて安心してかなりでありますけれども、そうでない限り、この動亂期においては、特にかような犯罪の鎮壓上規定も必要ではないかと考えたので、一應政府の御意見を承つた次第であります。私の總括的な質問はこれをもつて終ります。
#46
○松永委員長 これにて午後二時まで休憩いたします。
    午後零時五十六分休憩
     ――――◇―――――
    午後三時一分開議
#47
○松永委員長 休憩前に引續き會議を開きます。
 本日はこれにて散會いたします。次會は明後四日午後一時より開會いたします。
   午後三時二分散會
ソース: 国立国会図書館
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