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#1
第033回国会 本会議 第5号
昭和三十四年十月三十日(金曜日)
    ―――――――――――――
 議事日程 第四号
  昭和三十四年十月三十日
    午後一時開議
 一 日本国とヴィエトナム共和国との間の賠償協定の締結について承認を求めるの件及び日本国とヴィエトナム共和国との間の借款に関する協定の締結について承認を求めるの件の趣旨説明
    ―――――――――――――
○本日の会議に付した案件
 東北開発審議会委員の選挙
 米価審議会委員任命につき国会法第三十九条但書の規定により議決を求めるの件
 日本国とヴィエトナム共和国との間の賠償協定の締結について承認を求めるの件及び日本国とヴィエトナム共和国との間の借款に関する協定の締結について承認を求めるの件の趣旨説明及び質疑
    午後二時三十九分開議
#2
○議長(加藤鐐五郎君) これより会議を開きます。
     ――――◇―――――
 東北開発審議会委員の選挙
#3
○議長(加藤鐐五郎君) 東北開発審議会委員が一名欠員となっておりますので、この際、その選挙を行ないます。
#4
○天野公義君 東北開発審議会委員の選挙は、その手続を省略して、議長において指名せられんことを望みます。
#5
○議長(加藤鐐五郎君) 天野君の動議に御異議ありませんか。
    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
#6
○議長(加藤鐐五郎君) 御異議なしと認めます。
 議長は、東北開発審議会委員に菅家喜六君を指名いたします。
     ――――◇―――――
 米価審議会委員任命につき国会法第三十九条但書の規定により議決を求めるの件
#7
○議長(加藤鐐五郎君) お諮りいたします。
 内閣から、米価審議会委員に参議院議員白井勇君を任命するため、国会法第三十九条但書の規定により本院の議決を得たいとの申し出があります。
 右申し出の通り決するに御異議ありませんか。
    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
#8
○議長(加藤鐐五郎君) 御異議なしと認めます。よって、その通り決しました。
     ――――◇―――――
 日本国とヴィエトナム共和国との間の賠償協定の締結について承認を求めるの件及び日本国とヴィエトナム共和国との間の借款に関する協定の締結について承認を求めるの件の趣旨説明
#9
○議長(加藤鐐五郎君) 日本国とヴィエトナム共和国との間の賠償協定の締結について承認を求めるの件及び日本国とヴィエトナム共和国との間の借款に関する協定の締結について承認を求める件の趣旨の説明を求めます。外務大臣藤山愛一郎君。
    〔国務大臣藤山愛一郎君登壇〕
#10
○国務大臣(藤山愛一郎君) 去る五月十三日にサイゴンにおきまして、わが国とベトナム共和国の全権委員の間で署名いたされました日本国とベトナム共和国との間の賠償協定及び借款に関する協定の締結について御承認を求めるの件に関し、趣旨の説明をいたします。
 ベトナムは、昭和二十六年九月にサンフランシスコにおいて平和条約に署名し、翌昭和二十七年六月には同条約の批准書を寄託いたしました。この平和条約の第十四条に基づいて、わが国がベトナムに対し賠償支払いの義務を負うこととなったことは、御承知の通りであります。よって、わが国といたしましては、べトナムとの賠償問題の解決をはかり、もって戦後のアジアにおける平和外交を推進するため、昭和二十八年の沈船引き揚げに関する中間賠償協定交渉以来、ベトナムと交渉を重ねて参ったのであります。交渉は幾多の紆余曲折を経ましたが、本年四月末に至り、双方の意見は一致し、賠償協定及び借款協定草案が完成いたしましたので、五月十三日にサイゴンにおいて双方の全権委員により署名調印が行なわれた次第であります。
 わが国は、賠償協定によりまして、三千九百万ドルにひとしい円に相当する生産物及び役務を五年の期間内に賠償としてベトナムに供与することを約束いたしたのであります。賠償の実施方式は、従来の賠償協定と同様に、直接方式、すなわち、ベトナムの賠償使節団と日本人業者との間で直接に結ばれる賠償契約によることを原則とし、わが国は、その賠償契約に基づく支払いの額を負担することによって賠償義務を履行するものとなっております。その他、使節団に一部の外交特権を認めること、賠償契約に関する紛争の解決について最終的には日本の裁判所に提訴し得ること、協定の実施についての協議機関として合同委員会を設置すること等につきましても、ビルマ、フィリピン、インドネシア三国との賠償協定と同様に定められております。
 また、借款に関する協定は、ベトナム政府等がその必要とするわが国の生産物及び役務を調達し得るために、日本輸出入銀行との契約に基づいて、同銀行から七百五十万ドルにひとしい円の額までの貸付が三年の期間内に行なわれることを定めており、政府といたしましては、日本輸出入銀行が前記の貸付のための所要資金を確保できるように措置をとることを約束いたしております。
 前記の二協定のほかに、経済開発借款といたしまして、九百十万ドルを目標額とする民間の商業借款につきましても、交換公文の形式により取りきめを行ないましたが、その内容の実現は、フィリピン及びインドネシアの二国に対する経済開発借款と同様に、もっぱら日本側民間業者の通常の商取引として行なわれるものであります。
 なお、賠償協定の署名にあたりまして、両国全権委員は、賠償協定の実施が両国間の友好関係と経済関係をますます緊密ならしめるものであること及び両国政府がすみやかに通商航海条約締結のための交渉を開始することの二点について共同宣言を発表いたしております。
 今次の賠償協定は、わが国が条約上賠償義務を負っているアジア諸国との間の賠償協定として最後のものでありますが、わが国が平和条約上の義務をできる限りすみやかに果たしますことは国際信義の上からも望ましいことであるとともに、他方、この賠償の実施は、前記の借款と相待って、ベトナムの経済建設と民生安定に寄与し、共同宣言にもあります通り、両国間の友好親善関係を強化し、政治・経済・通商・文化の各般にわたる両国間の協力を一そう緊密にするものと確信いたすものであります。
 以上が日本国とベトナム共和国との間の賠償協定及び借款に関する協定の締結について御承認を求めるの件についての趣旨でございます。(拍手)
     ――――◇―――――
 日本国とヴィエトナム共和国との間の賠償協定の締結について承認を求めるの件及び日本国とヴ
  ィエトナム共和国との間の借款に関する協定の締結について承認を求める件の趣旨説明に対する質疑
#11
○議長(加藤鐐五郎君) ただいまの趣旨の説明に対して質疑の通告があります。順次これを許します。
 松本七郎君。
    [松本七郎君登壇〕
#12
○松本七郎君 私は、日本社会党を代表し、ベトナム賠償に関して首相並びに外務大臣に質問いたします。
 われわれの憂国的警告と強い反対にもかかわらず、政府はついに調印を強行し、批准を求めて参りました。ベトナム賠償は、時の経過とともに、ますますその不当性が明らかになってきております。日本社会党といたしましては、今後、予算委員会、外務委員会その他の関係委員会におきまして、確実な根拠に基づき、その不当性を暴露しつつ、微に入り細にわたり、克明にその疑惑を究明する方針でございます。(拍手)従って、ここでは、きわめて原則的な問題の若干についての質疑にとどめておきたいと思います。
 まず第一は、賠償に対する基本的な態度についてであります。賠償が戦争被害の償いであるということは政府も認めているところでございまするが、その戦争がいかなる性質のものであったか、この点についての理解と反省の仕方によって賠償に対する基本態度にも相違が出てくるのは当然なことでございます。岸首相の言動は、この点から、すでに疑惑に満ちておるのでございます。一体、岸首相は、過去において御自身積極的指導に当たられた中国に対する戦争、あるいは太平洋戦争の本質を、どう理解されておられるのか。これらの戦争は、元来聖戦であったにもかかわらず、力及ばずして敗戦のうき目を見たものなのか、それとも、日本の帝国主義侵略戦争であったことを認められるのかどうか、この点を明らかにされたいのであります。(拍手)この大切な点のあいまいさが、すべての誤りの根源となっておるのであります。
 日本国の犯した過去の戦争が帝国主義侵略戦争であったということは、これはポツダム宣言や極東軍事裁判等によって国際的に明らかにされております。この前提に立つ限りは、わが国として、戦争の償いをするに最も重要なことは、日本国みずからが再び帝国主義に陥らないように努めるばかりではなく、他の国の帝国主義や植民地主義に加担することなく、むしろ、これを阻止すべく努力することにあります。(拍手)これこそ、賠償支払いの大前提でなければなりません。この態度を堅持しつつ、ベトナムの成立過程や、あるいは現在の実態を正しく見ますならば、岸政府の調印いたしましたベトナム賠償が帝国主義犯罪の上塗り以外の何ものでもないことが明瞭になるはずであります。(拍手)岸首相は、これから私が指摘いたします若干の事例を事実として認めた上で、なお賠償を強行されようとするのか、それとも、これらの事実を否認されるのか、はっきり御説明を願いたいのであります。
 ベトナムは、一八六二年以来フランスの植民地であったが、一九四〇年九月に、日本軍がいわゆる平和進駐の名のもとにベトナム侵略の第一歩を踏み出し、実際には戦闘を行なったのであります。これに対し、翌一九四一年ごろからベトナム独立同盟、すなわち、ベトミンが反帝国主義、抗日運動を組織しておりました。
    〔議長退席、副議長着席]ところで、一九四五年に至り、時の小磯内閣は、最高方針にのっとり、ドクー総督に最後通牒を突きつけまして、ここにバオダイ皇帝の擁立によるかいらい政権を樹立したのが、同じ四五年の三月九日でした。日本からは、当時公使であった横山正幸氏がベトナム帝国最高顧問として入り込んだのであります。この間の事情は、現在自民党所属の衆議院議員、当時の仏印駐在大使であった松本俊一氏が、生き字引のごとく、よく知っておられるはずであります。首相は、この歴史的事実をいかように評価されているのか、所見を明らかにされたいのであります。(拍手)
 しかし、その年の八月二十五日に至りまして、バオダイ帝は退位をいたしておりまするが、そのときの退位宣言は、バオダイ政権のかいらい性を端的に白状いたしております。すなわち、こういうことを言っています。「かいらい政権の元首たるよりも自由国の一平民たらん」、こう宣言しているのであります。(拍手)しかしながら、日本軍の降伏を機会に、ベトナム民主共和国が一九四五年九月二日に独立をかちとって以来、香港に亡命しておりましたバオダイは、再びフランス植民地主義の手先となりまして、ベトナム民族を裏切って、一九四七年に、今度はフランスのかいらい政権の元首となったのであります。
 岸政府は、法理論一点張りでもって、サンフランシスコ条約の調印者ということを理由に、バオダイ政権を正統政府なりと得意げに宣伝いたしているのであります。しかし、実際は、フランスのかいらい政権として植民地主義のために利用され、ベトナム民族主義抑圧のために利用されて、調印のお供をさせられたにすぎないのであります。(拍手)フランスは南ベトナムの軍事権を完全に奪い取っておりまして、これを南ベトナム政府に委譲いたしましたのは、やっと一九五四年二月十日のことであります。
 これらの事実に明らかでありまするように、バオダイ政権は、あたかも汪兆銘政権あるいは満州国と同様に、日本の帝国主義侵略戦争の協力者であったのであります。賠償に取り組むにあたって一番大切なことは、一片のこじつけ的法理論というようなものに論拠を置くのではなしに、現実の事実関係を重視すべきであると思います。戦争の償いを戦争協力者に支払うとは、前代未聞の罪の上塗りといわねばなりません。(拍手)首相は、この不合理を何と釈明されるのか、ここに明らかにされたいのであります。
 ベトナム賠償とは、こう見てきますると、帝国主義戦争の指導者であった岸首相と、その協力者であったバオダイとの間の取引により、日本国民の血税をまき上げて、これを反共軍事力の強化に役立てんとするものであります。現在の南ベトナムのゴ・ディンジェム政権もまた、反共の戦士として、アメリカによって一九五四年七月に擁立されたかいらい政権であることは、外務省アジア局の説明でも明らかにされているのでございます。(拍手)ここに外務省アジア局から出しております「アジア諸国便覧叢書」の十六号、昨年の二月号に、「ヴィエトナム共和国便覧」というのが出ております。この中にも、このことは、はっきり書いてある。「バオダイ政権は形式的には全ヴィエトナム領域における主権を主張していたが、事実は北ヴィエトナムに主権はほとんど及ばず、南ヴィエトナムすらも完全には把握していなかった。……バオダイ政権は、仏連合軍の武力と、これら封建勢力との妥協により、その権力を維持していた。反共戦争の立場からバオダイ政権を支持し援助を与えていたアメリカは、こうしたバオダイ政権のあり方に強い不満をもち、一九五四年七月、フランスとバオダイ元首を説得し、……ゴー・ディン・ジェム元内相をヴィエトナム国首相に就任ざせた。」、こういう事実を外務省は明らかにいたしているのであります。外相は、この事実並びに外務省の見解を否定されるつもりかどうか、ここに明答をいただきたいのであります。(拍手)
 翌年の一九五五年十月二十三日に、ゴ・ディンジェムがバオダイにかわっも、当時、二百万ドル程度、この沈船引き揚げはできるだけその範囲内でやっていこうということでやったわけであります。しかし、沈船引き揚げにつきましては、協定が成立いたしましたけれども、ベトナム側においてこれを承認いたしません。そうして、今日に至っておるわけでございます。沈船引き揚げというものは、主として中間賠償に当てられたものでございまして、現在、フィリピンの賠償におきましても、中間賠償としての沈船引き揚げは六百五十万ドルにすぎないのでありまして、全賠償額から見ますれば、フィリピンの場合でも、ベトナムの場合でも、その割合はほとんど変わらないくらい小さい状態になっておるわけでございます。その後、なぜ二億五千万ドルになったか、あるいはそういう要求になったかと申しますると、御承知の通り、ベトナムは、最初に、自分たちの損害あるいは人命の損傷その他を加えまして二十億ドルもあるという査定をいたして参ってきたわけであります。しかし、その後に、実際の要求額としては二億五千万ドルが出て参ってきたのでありまして、われわれといたしましては、その二億五千万ドルを、交渉によりまして、現在締結しましたような三千九百万ドルにいたしたわけでございます。そうして、その間におきます交渉は、他の賠償と同じように、賠償によってベトナム側が優先的にどういう順位をきめていくか等も参照いたしまして、そうして、現在の額まで切り落としたのでありまして、そういうようにして賠償の交渉は妥結に至りましたことは、御承知のごとくであります。そういうことで、今日賠償交渉が決定をいたしたのでありまして、その間に何らの不正もないことは申すまでもございません。(拍手)
 それから、東洋精機の輸出の問題でございますが、三十二年の五月五日に、塚本総業というのが、通産省に対して機械等の輸出を申請いたしました。通産省は、通常輸出として、これを輸出承認をいたしております。その後、何かこれが銃弾工場になったとかいうようなことで問題にされておるのでありまするけれども、ただいま御指摘のように、ジュネーブ協定には日本は参加をいたしておりません。従って、日本がジュネーブ協定に違反するという状態ではございません。なお、ジュネーブ協定におきましては、新しく持ち込むことにはなっておりませんけれども、リプレースすることは許されておりますので、そういう状況下にあると存じております。(拍手)
    ―――――――――――――
#13
○副議長(正木清君) 堤ツルヨ君。
    〔堤ツルヨ君登壇]
#14
○堤ツルヨ君 私は、社会クラブを代表いたしまして、岸総理、佐藤大蔵大臣、藤山外務大臣に質問をいたすものでございますけれども、わが社会クラブは、賠償そのものをすべからずという論議を持っておりません。誠意をもって賠償をしなければならないと思っておりますが、しかし、この協定に対しましては強く反対をしなければなりませんので、誤解のないようにお聞き取りをいただきたいと思うのでございます。(拍手)
 なお、私は、戦時中、日本が軍隊を徴発いたしまして、当時百万人に上るところの餓死者を出しましたことに対しまして、非常に遺憾の意を表するとともに、私たちは、この方々の冥福を祈りたいと思うのでございます。
 そこで、この問題が、今、国会の重要課題でございまして、幾たびか今日までも論議がなされておりますけれども、依然として明らかでない点がたくさんある。この点を明らかにしていただかないと、税金を納める国民の立場として納得しがたいと思うのでございます。
 そこで、まず第一に、私は、賠償総額について、政府が五千五百万ドルと決定しておるのでございますけれども、この数字の算定根拠が明らかでないのでございます。日本円に換算いたしまして実に二百億円を上回る金でございます。この金額は戦争被害に対して支払うのでありましょう。今日まで、国会の予算委員会や外務委員会で審議を通じて明らかになった点は、何らベトナム賠償の数字的根拠を政府が持ち合わせておらないということでございます。かかる不明朗な事態にもかかわらず、政府は協定の調印を急いできたのでございます。このことは、国民の間に限りない不信と疑惑の念を深めております。なぜなら、二百億円に及ぶ総額は、言うまでもなく、国民の血の出るような税金であり、納税者として、いかなる根拠に基づいてかかる金額が支出されるのか、どのような用途に使われるのか、重大な関心事であることは当然でございます。
 かつて、戦時中、日本軍が仏印進駐を行なった際に、ベトナムの北から進駐し、戦争被害の大部分はハノイを中心とした北ベトナムが受けたのでございます。ところが、南ベトナムの被害は、実にわずかであったことは、歴史的事実であります。にもかかわらず、この賠償協定は、南ベトナムのみを対象として、北ベトナムを全く無視いたしておる。これは、あたかも、わが家の左隣を焼いて右隣へ弁償するようなたぐいであります。(拍手)日本国民が戦時中ベトナム国民に与えた損害に対しては、賠償を実施して、両民族の友好と提携を、外務大臣がおっしゃるごとく、実現すべきことは、決して否定するものではありませんけれども、でたらめにこれを支払うことは、国民は全く絶対に許しておらないのであります。(拍手)従って、大蔵大臣は、いかなる数字的根拠をもって五千五百万ドルの総額を決定したかを明確にして、国民の疑惑にこたえていただきたいと思うのでございます。
 第二に、大蔵大臣にお尋ねいたしたいのは、南ベトナムを対象としたこの協定が実施された場合には、従来続けられて参りました北ベトナムとの貿易関係は途絶することが予想されるのでございます。単に経済関係のみではありません。文化的な、人的な交流も断絶することが考えられるのでございますが、かかる事態を招致することは、貿易立国を建前とし、今後いずれの国とも経済交流を拡大することによってのみわが国の繁栄をはかろうとする方針と、全く逆の結果をもたらすのでございます。この点について、大蔵大臣の見解をお尋ねいたしたいと思います。
 次に、外務大臣にお尋ねをいたします。今回のベトナム賠償は、南ベトナムに対する支払いであって、南北両ベトナムに対する支払いにならない点に、私どもは大きな不安を持つものでございます。すなわち、一九五四年のジュネーブ会談の最終宣言におきまして次のように言っていることを想起するのでございます。ベトナムの政治的諸問題の解決は、独立、統一及び領土の保全の諸原則を基礎として行なわるべきであるとして、すみやかに南北ベトナムの統一が行なわるべきことを決定しておるのでございます。しかるに、日本政府が南ベトナムを唯一の正統政府としてこれと賠償協定を結ぶことは、南北に分かれておるベトナムの現状を固定化し、ジュネーブ協定によるベトナム統一の原則に違反するものであります。そのことは、また、全ベトナムに対する戦争被害を賠償によって償おうとする日本国民の意思とも相反するものといわなければなりません。(拍手)
 さらに、また、藤山外相が常日ごろ唱えておられるところの、アジアの一員としての日本の立場とも大きく矛盾するものであります。何となれば、藤山外務大臣は、一九五五年のバンドン会議の際に、当時商工会議所の会頭として代表団に加わって出席し、いわゆるバンドン十原則を承認して帰っておられるのでございます。その際の共同声明の中に、統一ベトナムを実現するために努力することがうたわれておるのでございます。しかるに、今回藤山外相がこの十原則に違反する態度と方針をもって南ベトナムとの賠償を進めることは、アジア・アフリカ諸国民からも不信を買い、ひいては日本の国際的信用を失墜することになるといわざるを得ないのでございます。(拍手)藤山外務大臣の明確なる御答弁をお願いするゆえんでございます。最後に、私は、岸総理大臣に質問をいたします。今回の賠償を政府が決定し、調印いたすまでに、実に七年にわたる長き年月を要しておるのでございます。しかも、その間わが国内外からきわめて激しい非難が上がって参り、賠償交渉が難航をきわめたことは、周知の事実でございます。その非難の根源は、さきにあげました諸点について日本政府が何ら具体的な数字的根拠を持たず、また、ジュネーブ協定との関係についでも明確なる見解を表明し得なかったことに由来しておるものと思います。それゆえ、民間では、さまざまな取りさたが行なわれ、いやが上にも疑惑を深めております。たとえば、賠償総額の決定にあたって、五千五百六十万ドルの内訳は、何ら戦争被害の調査算定に基づくものにあらずして、南ベトナム側の要求してきたダニム・ダムの建設費用と、わが国の資本家がベトナムに建設しようとする工場建設費用を、そのまま賠償総額に充てたとさえいわれておるのでございます。(拍手)この点、外務省にいろいろと探ってみますると、あたかも箝口令がしかれておるようでございます。お役人の方々は口を慎んでおられるのでございます。また、その筋の言によれば、ダニム・ダム発電所建設の第一期、第二期工事費用三千七百万ドル、工業センター建設費用二百万ドル、計三千九百万ドルを基準にして純賠償の総額を決定し、さらに、尿素工場建設費用に九百十万ドル、加えてダニム・ダム建設費用中に七百五十万ドルを割り当て、それを経済借款の算定に充てているとも言っているのであります。しかも、これらの工場建設は特定の日本側企業家が請け負っているともいわれ、この辺に岸内閣が疑いを持たれる理由があるのでございます。このような形で、賠償の実施前に使用方途がすでに決定しているがごときは、今までの各国との賠償協定の中でかつてなかったことであります。(拍手)私は、もとより、日本国民の血税がかかる方法によって使用されることは、いかに岸首相といえども容認されないこととは信ずるのでございますが、岸内閣の諸政策に対する国民の不信は、今回の賠償協定問題を契機にして一そう大きなものとなりつつあるのでございます。従来の汚職や、不明朗な岸内閣にまつわるもろもろの事件が、かかる民間の取りざたを招来したものといわなければならないと思うのでございます。(拍手)
 さらに、今回の南ベトナムに対する賠償は、両ベトナムの統一以前に、南に対してのみ支払う結果となり、北ベトナム、ホー・チミン大統領は、すでに、この調印が行なわれたときに、ベトナム民主共和国としては、つまり、北ベトナムは、日本に対する賠償の請求権を留保すると表明いたしておるのでございます。従って、将来、南北両ベトナムの統一後には、わが国がまた賠償を支払らという、二重払いの可能性が出て参るのでございまして、二、三日前の一般質問の中にも、これが尋ねられておるのでございます。この点について、岸総理を初め、政府当局の今日までの答弁は、将来南北が統一すれば当然一つの国家となるのであるから、再び賠償請求を受けることはないと思う、どの、日本政府の一方的な解釈による希望的観測を述べているのにすぎないのであって、統一ベトナムが賠償を再要求しないという保障は何一つないのであります。この点について、岸総理は、二重払いが将来とも絶対にあり得ないと確言できる根拠をいずれに見出しておられるのでありましょうか。御確答を願いたいと存じます。(拍手)
 さらに、従来岸内閣のとって参りました向米一辺倒の外交が、今度のベトナムとの賠償協定にあたっても国民に不安を与えておることは、いなめないのであります。すなわち、ベトナムあるいはラオスなどにおきまして、いまだに軍事的な衝突あるいは緊張状態が続いており、南ベトナムは、共産圏に対抗するため国内に軍事的な諸施設を増強し、軍事力の増大をはかっておることが伝えられておるのであります。これに対してアメリカが大きな援助を行なっていることもまた明々白々であります。かかる状況において、岸内閣が南北べトナムの対立を激化するような賠償協定を結ぶことは、賠償あるいは経済借款に名をかりて軍事緊張を挑発する政策をとっていると断ぜざるを得ないのであります。このことは、わが国民が岸内閣に対して抱いている不安、すなわち、日本みずからが国際緊張を激化し、アメリカの極東政策に迎合して、その一翼をになおうとしておることにほかならないと見るものでございます。(拍手)このことは、いずれの陣営にも属せず、国際緊張を緩和して真の平和を達成しようと念願する日本国民及びアジア・アフリカの諸国民の熱望と逆行する政策でございまして、わが国の自主独立の立場をもくずしてしまうのでございます。(拍手)もとより、私どもは、容共派の人たちのごとく親ソ反米でもなければ、また、その逆に、親米反ソでもありません。そのようなイデオロギーに片寄った立場では真の外交は成り立たず、国家の方向を誤るものだと信ずるからであります。私どもは、わが国がいずれの陣営にも片寄らない自主独立の態度を基本にし、国民の利益の上に立ってわが国の進むべき道を決定する方針であります。
 時あたかも、岸内閣の安保改定をめぐって、国民世論は大きくゆらいでおるのでございます。真に世界平和を保ち、日本国土の安全を保障する唯一の道は、特定国との軍事同盟にあらず、はたまた、軍備の増強でもありません。その根本は、わが国が必要以上に特定国と深入りすることによって敵視国家を作らないということにあると思います。この意味から見ましても、南ベトナムに友好的であって、北ベトナムを無視して何らの話し合いをも行なわず、賠償協定を一方的に締結することは、いたずらに北ベトナムに悪感情を抱かせる結果となるのではないでしょうか。これらの問題を考慮し、今回のベトナム賠償問題について冷静な判断を下すなら、不明確な内容と疑惑の的になっている賠償協定が時期的に不適当であることを考え、一方的な外交路線に乗ることをやめて、締結するととを延期し、政府は、その間、国民の前にはっきり疑点を解消し、同時に、北ベトナムの了解を求めるべく努力を払ってもしかるべきであると確信をいたすのであります。この点、首相はいかがお考えでございましょう。もちろん、最善の方法としては、言うまでもなく、両ベトナム統一後に賠償協定を結ぶべきが当然であります。それまでこの問題を延ばすことをお考えにはなれないでしょうか。政府が、いたずらに、すみやかにという名目のもとに急がれることは、なぜ急がなければならないか。急がなければならない理由はほかにあるのではないかと考えるのであります。この際、総理は、以上の諸点を明快に答えられるとともに、この問題に対しての決断を望んでやまないものでございます。
 失礼いたしました。(拍手)
    〔国務大臣岸信介君登壇〕
#15
○国務大臣(岸信介君) お答えをいたします。
 今回のベトナムとの間の賠償協定の問題は、申し上げるまでもなく、サンフランシスコ条約第十四条に基づいてわが国が負うておる義務の履行にかかるものでございます。従って、できるだけ早く賠償の義務を果たすことは、国際信義の上から申しましても、特にわれわれとして将来に非常な重要な関係を持っております東南アジア諸国との友好親善関係を進める上から申しましても、必要であると思うのであります。ただ、今御質問の要点になっております、南ベトナムというものをベトナム全体の正統政府と認めることが正しいかどうかという御議論でございますが、このことは、しばしば申し上げているように、世界各国のうちにおきましても四十九カ国という圧倒的多数の国がこれを正統政府として認めており、また、サンフランシスコ条約においても署名されて、日本との間の友好関係を作っておるというこの事実から見ましても、われわれは、このベトナム共和国政府を正統政府として全ベトナムに対する賠償を行なうのが建前であります。将来、二重払いであるとか、いろいろな議論がありますけれども、そういうことは絶対に起こり得ないと思います。南北ベトナムが統一された後におきましても、この正統政府が国際法上負うておるところの義務が、当然それを継ぐととろの政府によって受け継がれるということは、これは国際慣行であり、国際上の原則でございますので、私どもは、将来別の要求が出てくることは全然考えておらないのでございます。
 また、この協定に関しまして、何らか不正があり、何らか業者との間に特殊の関係があるような疑惑を持っているような御質問でありますが、絶対にそれはないのでありまして、この協定の内容につきましては、先ほど外務大臣がその趣旨を具体的に御説明申し上げた通りであります。これで御了承を願いたいと思います。(拍手)
    〔国務大臣藤山愛一郎君登壇〕
#16
○国務大臣(藤山愛一郎君) 答弁を申し上げます。
 ただいま、堤議員は、賠償総額五千五百万ドルというお話でありましたけれども、純賠償は三千九百万ドルでございまして、借款協定が七百五十万ドル、これは世銀並みの利子をつけまして、三年据置の七年償還でございまして、返ってくる金額でございます。なお、経済開発借款が九百十万ドルでございまして、これは民間商業ベースによって行なわれるのでありまして、政府は何ら関与いたさない協定でございます。
 なお、三千九百万ドルにいたしました経緯と申すものは、先ほど申しましたように、全ベトナムの損害を二十億ドルと算定し、それに対して二億五千万ドルの要求をいたして参ったのであります。中間賠償以来、鋭意努力して、三千九百万ドルに最終的に妥結をいたしたのであります。
 それから、そうした戦争の被害についてでございますけれども、全ベトナムを対象としてわれわれは払っております。御承知の通り、ベトナムに対しては百万の飢餓者があったともいわれておりますが、百万あったとは考えられませんけれども、相当の被害があったことは事実であります。そうして、サンフランシスコ条約十四条の規定によりまして物的、精神的損害を賠償することになっておりますので、その基礎の上に立ちまして、私どもは、その他の物的損害と加えてこれを計算して交渉して参ったわけでございます。
 それから、何か、今お話しの、工場施設等から逆算したのではないかということは、そうでないわけでありまして、御承知のように、賠償協定をやります過程におきましては、賠償を受ける国が、優先的にどういう仕事をやりたいかということを相談して参ることは、フィリピン賠償においても、インドネシア賠償においても、他の賠償を見ても同じでございまして、そういうことをわれわれは勘案してやるということはむろんでありますけれども、何か特定の商社に対してどうするというようなことは考えておりません。たとえば、ダニム・ダムの問題にいたしましても、御承知の通り、日本工営の久保田君が、ベトナム政府の要請によりまして見積もりをいたしました。これは、フランスの請負業者と同じように見積もりをして、その後、ベトナム政府といたしましては、そのどちらをとるかということについて、国際連合の委員に委嘱いたしまして、日本工営の方が技術的に優秀だという結論を出しております。従って、将来賠償でそういうものをやりたいと言って参りましても、それをだれが請け負うかということは全然別個な問題であることを、御承知願いたいと思います。
 今後北ベトナムとの経済関係がどうなるかという御質疑がございました。賠償協定を調印いたしまして、従来ございました民間協定につきましては破棄して参りましたけれども、しかし、現在北ベトナムとの貿易関係は依然続いておるのでありまして、昨年は、日本の輸出が百四十四万ドル、輸入が六百八十八万ドルでありましたが、本年一月から七月までの数字を見ますと、昨年一年に、百四十万ドルに対して輸出は二百七万ドルになっておりますし、こちらが輸入しておるものは四百十九万ドルでございます。そういうようなことで、現在のところ何らの影響もございません。
 また、ジュネーブ協定に違反し、南北両ベトナムの分裂を固定させるものではないかというような御質問があったと思います。私どもは、ジュネーブ協定によりまして、できるだけ一日も早く統一されることをむろん希望いたしておりますし、また、それらに対してわれわれとして努力いたしていかなければならぬことは当然でございます。しかしながら、そうかと申しまして、われわれとして全ベトナムを代表する南ベトナムの政府を認めておりますし、それに、サンフランシスコ条約にも署名をいたしておりますので、これを実行して参りますことは当然のことだと思います。
 なお、私がバンドン会議に出席いたしましたときの決議の十原則にいたしましても、これはそれに違反しておるわけではございませんし、特に当時の宣言におきましても、あの宣言の中で直接言及いたしております問題は、日本をくるめて、統一ベトナムが将来国連に入ることを希望するという決議をいたしておるようなわけでございます。
 以上のような次第点でありますから、不明朗なうわさが賠償に立っておるというようなこと、その他のことはございません。
    〔国務大臣佐藤榮作君登壇〕
#17
○国務大臣(佐藤榮作君) お答えいたします。
 賠償額につきましては、ただいま外務大臣が御説明いたしました通り、これは三千九百万ドルが賠償額でございます、その金額が決定を見ました経過は、申すまでもなく、わが国の支払い負担能力、さらにまた、他の賠償求償国との振り合い等を十分考えまして、また、ベトナムが必要と考える事業計画、これを取り入れて、話し合いの上、最終的に決定いたしたものであります。ベトナムの要求しております金額は、先ほど申し上げたように、非常に多額なものでございます。
 また、貿易の点につきましては、詳細に外務大臣からただいまお答えをいたされましたが、この賠償協定調印後も、貿易の面におきましては、伸展こそしておれ、ちっともこれが縮小というようなことはございません。従いまして、今後の貿易状況も、従前同様、あるいはそれより以上に発展するものだと、かように期待いたしております。(拍手)
#18
○副議長(正木清君) これにて質疑は終了いたしました。
     ――――◇―――――
#19
○副議長(正木清君) 本日は、これにて散会いたします。
    午後三時四十一分散会
ソース: 国立国会図書館
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