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1958/02/04 第31回国会 衆議院 衆議院会議録情報 第031回国会 社会労働委員会 第5号
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1958/02/04 第31回国会 衆議院

衆議院会議録情報 第031回国会 社会労働委員会 第5号

#1
第031回国会 社会労働委員会 第5号
昭和三十四年二月四日(水曜日)
    午前十一時十八分開議
 出席委員
   委員長 園田  直君
   理事 大坪 保雄君 理事 田中 正巳君
   理事 八田 貞義君 理事 藤本 捨助君
   理事 小林  進君 理事 五島 虎雄君
   理事 滝井 義高君
      亀山 孝一君    川崎 秀二君
      河野 孝子君    齋藤 邦吉君
      田邉 國男君    中山 マサ君
      二階堂 進君    古川 丈吉君
      伊藤よし子君    大原  亨君
      岡本 隆一君    堤 ツルヨ君
      中村 英男君    八木 一男君
      山口シヅエ君    吉川 兼光君
 出席国務大臣
        労 働 大 臣 倉石 忠雄君
 出席政府委員
        労働政務次官  生田 宏一君
        労働事務官
        (大臣官房長) 澁谷 直藏君
        労働基準監督官
        (労働基準局
        長)      堀  秀夫君
 委員外の出席者
        労働事務官
        (大臣官房労働
       統計調査部長)  大島  靖君
        専  門  員 川井 章知君
    ―――――――――――――
二月三日
 中小企業退職金共済法案(内閣提出第二六号)
は本委員会に付託された。
    ―――――――――――――
本日の会議に付した案件
 最低賃金法案(内閣提出第一三号)
 最低賃金法案(勝間田清一君外十六名提出、衆
 法第一一号)
 家内労働法案(勝間田清一君外十六名提出、衆
 法第二一号)
     ――――◇―――――
#2
○園田委員長 これより会議を開きます。
 内閣提出の最低賃金法案並びに勝間田清一君外十六名提出の最低賃金法案及び家内労働法案の三案を一括議題とし、審査を進めます。
 質疑に入ります。滝井義高君。
#3
○滝井委員 では最低賃金法案について、抽象的なことでございますが、二、三お聞きいたしておきたいと思います。
 現在のこの資本主義の社会では、賃金を決定をする要因というものは、いろいろなものがあると思われます。特に今度の最低賃金の決定をする原則としては、政府の方では、労働者の生計費とか、類似の労働者の賃金及び通常の事業の賃金支払い能力を考慮して定めることになっております。
    〔委員長退席、田中(正)委員長代理着席〕
しかし客観的に見てみますと、一応こういうものは非常に重要な決定上の科学的な原則にはなると思いますが、しかし究極においては、やはり当事者の力関係と申しますか、力量によって、直接的な、具体的な労使双方の一つの競争と申しますか、そういう力関係を通じて決定をせられていくと思います。そうすると、現在われわれが普通常識的に考える最低賃金というのは、やはりこの原則にあるように、労働者の生計費というようなものが相当重要なポイントとして考えられなければならぬと思いますが、最低賃金を実施をしなければならない企業というものは、労使双方の力関係を見ると、何せ現在の千五百万から千七百万に及ぶ日本の雇用労働者の中で、組織労働者の数は、多分労働組合にして三万五、六千くらいで六百七、八十万だと思います。そうしますと、千万をこえる雇用労働者というものは、そこに組織を持たないという弱点がある。従って業者間の協定をやっていこうというような場合においては、その力関係がいずれに軍配が上るかということは、も弔われわれがここに論議をするまでもないことではないかと思われる。一体政府は賃金決定の要因と申しますか、そういうものをどうお考えになっているのか、私は一番大事なものは結局両者の力関係だ、こう思うのですが、あなた方が今回最賃を出された、決定の原則では、最初申しましたような生計費とか、類似の労働者の賃金とか、企業の支払い能力なんかを考えておられますが、現実における賃金決定の要因をどうお考えになっていらっしゃいますか、大臣の御見解をお伺いしたい。
#4
○倉石国務大臣 賃金問題について一番大切な問題を指摘しておいでになると思うのでありますが、それぞれの国の労働事情等によって違うと思いますが、たとえば先般日本に参りましたドイツのDGBの副会長などは、賃金問題についてこういうことを言っております。西独では、法律で賃金をきめるというふうな考え方は、われわれ労働者としてはとらないのだ。そこでそれぞれの産業に従事している人々――御承知のようにドィツなどでは産業別労働組合というようなものが発達しておる関係もありましょうけれども、需要供給の関係できまる賃金というものについて、われわれの、今滝井さんのお言葉をかりて言えば力関係と言えるかもしれませんが、そういう立場に立って、必要とする労働力を要求する事業家との間に需要供給の関係で賃金というものはおのずからきまっていくのであって、政府はそういうところヘタッチすべきものではない。しかしそういうような力を持ち得ない、たとえば一軒の家に働いておるサーヴァント、召し使いでありましょうか、そういうような人々は、もし雇用しておる者がこれに対して理解を持たなければ、その労働に対して相当なる対価を与えることをしない者もやはりあるかもしれない、そういうような者を救済する必要があるという見地に立って、ドイツではそういう人々にのみ特に政府が保護の手を伸べて最低賃金というものを考えておるわけである。しかし大きな産業等においては、先ほど申し上げましたように、需要供給の関係で自然に労働側と雇用者との間に話がついていって、賃金というものはさまっていく。もちろんその賃金というものはドイツの立っておる国際経済競争力、そういうものと見合って、ドイツの産業を維持しながら、ドイツ産業界において労働賃金というものはどの産業についてはどの程度であるべきかということについて自主的にきまっていくのだ、こういう説明をいたしておりましたが、私は一つの現実の説明でもありますし、りっぱなものの考え方であると思っております。わが国においては御承知のように、労働組合というものの発達した沿革が企業別組合ということで発達して参りまして、従ってその企業採算のワク内においておのずから限界もありましょう、それからまた滝井さんのお言葉にあった力関係というものももちろん大きなウエートを持ってくるでありましょうが、そこで私ども基本的には、賃金というものはなるべく高い方がいいのだ、労働者のふところに購買力がよけいに出るということは、そのこと自体はわが国の景気を維持していく大きな原動力になるのでありますから、それはもちろんけっこうなことである。同時にまたふところに入った購買力というものは全部が消費に回るというわけでもありませんし、その五割ないし六割というものは貯蓄に回って参りましょう。従って働く人々のふところに購買力がよけい入るということ自体は非常にけっこうなことであって、そういうふうにあるべきだと思いますが、ただそのことによって生ずる他の経済的影響というものもやはり産業を経営している面においては考慮されることが必要であろう。たとえばいたずらにかりに賃金が上って生産コストが上回ってきたということになりますと、従ってそれによる消費の増大がインフレの要因にもなり、西独や英国でコスト・インフレーションということを言い出しておるのもそういうことだと思いますが、同時にまたそういうことによってコスト・アップしたときに日本の経済上の国際競争力も考慮しなければならぬ。同時にまた大産業の製造品というものが、価格がそのためにかりにうんと上昇したとすれば、それによって生存しておる副次的な立場に立っておる中小企業者及び労働者というものに経済的影響を及ぼしてくる、そういうことでありますから、賃金というものについては、私はやはりわが国の実際の経済力というものに見合いながら企業者というものも賃金の決定について考えていってもらいたい。労働者もまたそういうことを念頭に置いてこの賃金の問題を論議してもらいたい。ただ、今御指摘のように六百数十万といわれておる組織労働者は、自己の従事しておる産業について自分の分配を要求し得る力というものについては、組織力をもってある程度の要求を貫徹することができるでありましょうが、組織を持たない面は滝井さんのおっしゃったように、なんとかこれは政治の面でもやはり考慮をしてあげる必要があるのではないか。ことに最近の賃金の状態を見ますと、大産業といわゆる中小企業、なかんずく零細企業の従業員との間には賃金格差というものがだんだん開いていく、そういうことは決して労働者そのものから考えましても、日本の産業全体から考えても喜ぶべき現象ではありませんからして、そこで政府は、労働者保護といったような社会政策的な立場ももちろんありますが、経済上の立場からも、やはり先ほどドイツの労働者の話を引例いたしましたが、自分の力で割合に自分の要求を満たし得る立場を持っておらない人々のためには、まず最低賃金というふうなものを政府においてあっせんをしてきめてあげる。そうして徐々に一つそういう零細企業に従事しておられる従業員の生活改善をはかってやる、こういうふうにすることが妥当ではないか、こういう立場に立って政府は最低賃金法というものを提案いたしておるようなわけであります。
#5
○滝井委員 そうしますと大臣の御答弁は、できれば需要と供給のこの経済の原則というものは大方針として認めていく。しかしその需要供給の関係の中で、どうしても労働の正当な対価を払えないというような企業、そういうものを一つ政治的に最低賃金というようなものでカバーしながらもやっていくというように今のお言葉はとれたんです。この賃金を決定するについて、資本主義のもとにおける一番民主的な方法は、今大臣の言われたように、需要と供給の力関係できまっていくということ、あたかも取引所で一つの商品の価格が決定をせられ、株の価格が決定をせられると同じように、そういう原則は、私は、厳としてあると思っております。しかし、同時にまた、個々の賃金を見てみると、その産業なり企業なり職種なり、あるいは個人的な条件と申しますか、そういういろいろなもので賃金がきまっております。しかし、それらのものを達観をしてみると、平均的な考えでそこに賃金水準というものを決定をせられておるだろうと思います。しかし、その平均的な賃金水準というものが、労働力の順当な再生産をするだけのものでないところに、日本のいわゆる最低賃金制度をわれわれが実施する場合の社会保障的な側面と申しますか、社会政策的な側面と申しますか、もちろん賃金は社会政策的な側面と、労働政策的な側面と、産業政策的ないろいろな側面、大ざっぱにいってそういう側面を持っておると思いますが、日本においては、一千万円をこえる組織のない、弱い、しかも零細企業なり農業労働に従事しているたくさんの雇用労働者がある。こういう観点から考えてみると、私は社会保障的な側面というものを非常に重視しなければならぬと思います。あとでも触れますが、よく言う、憲法二十五条の精神や、労働基準法にうたわれておるような労働条件というものは、労働者が人たるに値する生活を営むための必要を満たすべきものでなければならぬという、いわば資本主義の正常な観点のもとにおける需要と供給の関係以前の面というものが、日本の最低賃金を決定する場合においてはどうしても考えられなければならぬと私たちは思います。そういう意味において、類似の労働者の賃金とか、通常の事業の賃金の支払い能力ということの前に、やはり何としても人たるに値する労働者の生計、こういうものが問題になってこなければならぬと思います。そうでなくして、産業政策、労働政策の面、別な言葉でいえば、企業政策的な面、これを非常に強調をしますと、日本の最低賃金制度というものは、今大臣の言われたような、政治的な力で労働者の賃金を保障をしていこうということの面が強く出ずに、むしろ中小企業を保護するというような面が強く出て、その背後に労働者自体、いわゆる人間としての労働大衆の姿というものが埋没をしてしまう、こういうおそれがあるんです。そこで、十年の長い日本の保守党の政治の中における、いわば今後の日本の社会保障の、これは完全雇用とともに非常に重要な支柱だと私は考えておりますが、それが倉石さんの時代にできようとしておるわけです。従って、今需要と供給の関係に刺身のつまのような形で、労働者を何とかうまく保護するために政治的な手を加えようという、そのいわゆる社会保障的な重点をもっと強く出すことが必要ではないか。そうだとすれば、生計費というようなものについて、やはり科学的な態度を労働省に打ち出してもらわなければならぬと思う。こういう点をどうお考えになっているか、もう少し具体的に御説明願います。
#6
○倉石国務大臣 政府の考えております最低賃金の頭の中で、今日の日本の経済のもとにおける働く人々の生活、こういうようなことを決して度外視して考えてはおらないわけでありまして、滝井さんもすでによく御承知のように、たとえば人間一人生きていくために、現在生活保護費等を計算いたしますについても、それぞれのデータに基いて決定いたしておるわけでありまして、そういうことを頭に入れておることは当然でございますが、日本は、御承知のように、ドイツや英国に比べてみますと、労働側がいわゆる売り手市場でありまして、完全雇用が行われておるような国と違います。従って、力関係ということで言えば、大産業など、今のような組織を持っておるのは別として、いわゆる中小企業、零細企業の従業員が比較的力の弱いのが現実の姿であります。さればこそわれわれ最低賃金というふうなものを考えて、そして大産業従業員と零細企業従業員との間の賃金格差をなるべく縮めるようにやっていきたい。これは経済上の考え方もありますけれども、社会政策的な意味も多分にあることはおわかりの通りであります。今資本主義のお話がありました。私ども基本的には自由経済の立場をとっておるわけでありますが、今日は、もうすでに昔の野放図な自由経済というものは日本でも行われてはおりません。このごろ言われておりますマネージド・エコノミー、管理経済という言葉が当てはまるではないかと思われるように、保守党の内閣においでもそういう経済政策、経済計画をやっておりますのは、長期経済計画等によっても御承知の通りであります。そういう見地に立って、ただいまお話のありましたような賃金政策については――もちろんどの程度が最低生活であるかということは、今申し上げました生活保護等の計算のデータの基礎になるもので、滝井さんおわかりの通りでありますが、私どもは、今提案いたしておりますような最低賃金制を長く持続していこうということを言っておるのではないのでありまして、現状に即してこの程度がまずいことで、徐々にお互いに検討して理想的なものに近づけていこう、こういうことであります。われわれの法案提案の底に流れておる思想も、経済政策はもちろんのことでありますが、社会政策的な意味も多分に伏在しておる、こういうことを一つ御了解願いたいと思います。
#7
○滝井委員 社会政策的なことも当然最低賃金の側面としては含まれておりますし、労働政策あるいは産業政策的な側面も含まれていると思います。日本で長い間最低賃金制度ができなかった。大正十一年か十二年ですか、十五年だったですか、メーデーが初めて行われたとき、やはり最低賛金というものが一つのスローガンに掲げられておった。そして三十年以上の年月が経過するまでこれが具体的に政治の日程に上らなかった。こういう点から考えてみても、これは、私は何かそこに政治の日程に上らなかった客観的な理由はあると思いますが、それが現在、ようやくいろいろの最低賃金制度を阻止する条件を乗り越えて、生産年令人口と申しますか、人口学的に見ても、一つの人口問題の転機が来ようとしておるむずかしい時代、非常に就業を希望する人口のふえる段階で登場してきたというのは、やはり三十年前にまいた種を保守党がみずからの手で刈らなければならぬという段階に国際的にも追い込まれてきておるからです。そういう意味から考えても、重点を一体どこに置くかということになれば、社会保障的な側面というものが強く取り上げられなければならぬのじゃないか。それは現在最低賃金が問題になるとともに、アメリカ等で問題にされておる品目を見てみますと、たとえば一ドル・ブラウスとか、ベニヤ板、陶磁器とか、マグロのカン詰とか、あるいはおもちゃとか、あるいは洋食器とか、検温器、こうもりがさの骨というようなもの、これらのものは全部いわば中小企業の作っているものなんです。こういうところの労働者の賃金なり生活の実態を見ると。まきに人間以下の生活なんです。二百四十六万世帯のボーダー・ライン層がおる。その数は千百十三万人だということを昨年の厚生白書は指摘をしておりましたが、まさに今言ったような、アメリカからそれらの品物を輸出をしてくることに何か文句をつけられた企業がそういうものであったという、こういう反省なんです。これはやはりどうも資本主義の需要と供給の関係だけでこれを貫くわけにはいかないと思うし、それからしかもこの前エアハルトがやってきて、第一に指摘されたものが低賃金であった。これはまあエアハルトのものの考え方なり、日本経済に対する分析の仕方等が、いろいろ見るところに必ずしも正鵠を得ていなかったかもしれないけれども、そういう日本の輸出の主たる大きな原動力が低賃金であるという、そういう印象を外国の有名な経済学者なり政治家に植え付けておるという、この客観的な現実はやはり無視することはできないと思う。それは同時に日本における苦汗労働が一般的に普及しているということを外国に植え付けておることだと思うのです。そういう意味で、やはり政府としては、この際一体労働者の平均的な賃金水準がきまるということは、そこに平均的な所要の生活費というものがあるからこそ、私は平均的な賃金水準というものが決定されておるんじゃないかと思うのです。従って労働省としては、当然この際労働者の平均的な生活費というものを一体日本の客観的な情勢のもとで幾ら要るんだということ――生活を落そうと思えば幾らでも落し得ます。たとえば現在日本の九千万の国民の中の三割に当る国民諸君というものは何らかの形で栄養上の欠陥があるということは、すでに栄養問題の専門家が指摘している。ここに八田博士もおりますが、指摘しているところなんです。そういう点からいうと、これは国民の三割というものが何らかの形で生活をしていくための所得を得ていないということにもなり得るかもしれません。しかしやはりそこに業者間の協定を政府が指道をしていくについても、一体どの程度が科学的に見て、労働者が生きていくための最低のものだという線ぐらいは、労働省の公式見解として出すことを、もう私は再三にわたって要求をしておるわけです。ところがなかなか言を左右にして、それを言わないのです。私はこの際やはり天下に、労働省が自信を持って、そういう点は明白にしておく必要があると思うのです。一番これは私は大事なところだと思うのです。この点があなたの方とわれわれの方との間に話がつけば、この最低賃金というものはそう私は問題でないと思うのです。そこに、これを隠して問題にせずに、何か業者だけでやらせようとするならば、それは資本主義における需要と供給の関係になってしまう。そうではなくて、日本の最低賃金制度というものが社会保障的な側面、憲法二十五条なり、労働基準法の精神というものをまず前面に打ち出そうとするならば、私はこれを明白に打ち出す必要がある、これが一番大事なところだと思うのです。その点一つ、きょうは大臣明白にしてもらいたいと思うのです。
#8
○倉石国務大臣 ただいま輸出産業とアメリカにおける批判等のこともお話がありました。総評の出しております賃金白書等にもそういうことをいろいろうたっておられますが、私は日本の労働賃金それ自体が為替換算率で換算してみて、アメリカや英国より多いとはもちろん思っておりません。しかし国民所得及び生活水準等を比べてみますと、たとえばアメリカの九・六九でありますか、日本の一に対してそういうことになっておる、そうするとやはり賃金も一と九の比較である、こういうことを総評の賃金白書にもいっておる通りであります。そこで日本の労働賃金というものが一般国民生活水準に比較して、あるいは国民所得に比較して、特段にその平均率が落ちておるということであれば、これはやはりわれわれとしても大いにそういう点を考えていかなければならないのであります。アメリカに出て参ります日本の輸出品の値段が安いということそれ自体は、やはりアメリカの事情等においてそれぞれわが国の輸出品を批判する理由はありましょう。またエアハルトのお話もありましたけれども、御承知のように西独と日本というものは今海外マーケットにおいて輸出の有力なる競争相手であります。私はエアハルトの日本における意見の発表を見て、さすがにやはりドイツ人の商魂のたくましさを感心いたしたのであります。エアハルトも初めのうちは、ただ日本の労働賃金ということを言っておりましたけれども、しまいの方にきてだんだん日本の事情もわかるようになりましてからは、生産性の伴わない購買力の刺激というものは間違っておるというふうなことも言い出しております。本日はその資料を持っておりませんが、たしか日本経済新聞の十一月幾日かの、もう木国へ帰るころの談話、あるいはまた上智大学における講演等を拝見しても、日本の今日の輸出品の貸金については相当な理解をお持ちになったようであります。私はそういう面で、先ほど来申し上げておるように、基本的に労働者の購買力がふえて、それが刺激材料になって日本の経済の拡大強化に役立つということを否定するものではありませんけれども、今アメリカやエアハルトのお話をお出しになりましたそういうことについては、私は今申し上げましたような考え方を持っております。
 そこで労働省でも滝井さんの御指摘になりましたことを非常に重要な問題だと存じまして、私前に労働省におりましたときも、ことに今回は三十四年度予算にもお願いをいたしまして、賃金についての基本的な研究調査というものが、日本においてはまだ十分であるとは申されませんことは、滝井さん御承知の通りであります。そこで一つこの点にうんと力を入れて研究をしよう、こういうことを言っておるようなわけでありますが、現在のところ私どもが最低賃金法案を提出する基礎にいたしましたものの考え方は、やはり先ほど私が申し上げましたような生活保護関係、その他中央賃金審議会等において審議の途中でいろいろ論議されましたような事柄、つまり日本の一般の人々の生計費というものを一応計算をして、そういうものの上に立ってものの考え方をきめておることは間違いないことであります。
#9
○滝井委員 私は具体的にそこらの標準的な生計費、平均的な所要の生活費というものは一体現段階では幾ら要るんだということをはっきり出してもらわなければいかぬと思う。厚生省は生活保護の基準をきめる場合にそれを出しておるわけです。あとでこの関係も触れますが、生活保護者としての基準を出している。労働者は、健全な一個の労働者として一体最低生活はどの程度要るんだということが出てこなければならぬ。それに今度はプラスの文化的な経費というものが要るだろうと思うのです。あなた方はそこをどういう程度に考えているのか。きょうは少しはっきりしてもらいたいと思うのです。
#10
○堀政府委員 生計費につきましては、ただいま政府機関において各種の調査を行い、あるいは行政の基準になるべき指標を定めておるところでございます。たとえば生活保護法による保護基準あるいは人事院の勧告によります東京における労働者の標準生計費の資料あるいはその他家計調査等の統計調査があるわけでございます。これら地域により、あるいはその労働の態様により、あるいは業態によりましていろいろの違いが出てくるわけであります。そこで最低賃金法の実施に当って、具体的に生計費をどの程度のものとして考慮していくかということにつきましては、これらの資料をもとにいたしまして、中央最低賃金審議会あるいは地方最低賃金審議会等にはかり、その御意見を十分尊重して決定して参りたいと考えておるわけでございます。そこでなおもう少し具体的に申し上げますと、これはもちろん参考となる資料でございますが、たとえば生活保護法の保護基準によりますと、東京では現在成年男子の単身者の月額は三千五百十円になっておることは御承知の通りでございます。ただしこれはもとよりきわめて経度の労働をするという場合の月額でございまするから、非常に低いものであるということは言うまでもないところでございます。また人事院で調査いたしました昨年の資料によると、満十八才の成年男子労働者の標準生計費は、東京では月額七千五百六十円という計算をいたしておるのであります。これは最低生計費ではなくて標準の生計費でございます。そういうような意味で、いろいろ特色がございまするけれども、われわれといたしましてはこれらの資料を十分参考といたしつつ、具体的には中央あるいは地方の最低賃金審議会において、労、使、中立、各般の専門家の方に集まっていただきまして、これらの資料等をもとにし、あるいは具体的に実態調査を行う等の方法も併用して、最低生計費が幾らであるかということをきめて参るようにしたいと考えておるわけでございます。
#11
○滝井委員 少くとも最低生活をやるのについて、それが業種とか職種とか年令で最低生活にそう大きな開きはない。従って最低賃金の有力な一つの基礎になる労働者の生計費を出すためには、科学的なものが他の部門において出ておるわけなんですから、労働省で出ないはずはないと思う。一つこういう点は少し検討をして決定をしていただきたいと思う。これが出てこなければいろいろの点で論議が起ってくると思う。実は現在の税法でいきますと、二十七万円程度までは非課税なんです。そうすると二万円程度の労働者の家計は一体赤字か黒字かということは、お宅の方でも調べておると思うのですが、大体一般的には赤字だといわれている。その標準家計は四・五人程度ですが、三十一年くらいの数字を見ても、その一人当りの消費内容は、牛肉は一週間にこま切れ十・四匁、卵は五日に一個、牛乳は十日に一本、映画は二カ月に一回、新聞は一種類を完全にとれぬ。二宮金次郎は勤倹貯蓄の元祖ですが、おそらく二宮金次郎の勤倹貯蓄でも、こういう献立から家財道具の検討はあの時代はやらなかったろうと思う。現在日本では、所得税を納めている階層は御存じの通り千百万程度しかない。そうしますと、二十四、五万の所得が常にある層というものはざらです。そういうところの消費内容というのがこういうことになるとすれば、日本国民の中の三割というものは何らかの形で栄養的な欠陥があるということは私は当然のことだと思うのです。そういう意味で、労働省はこういう労働基準法なり憲法二十五条における人間たるに値する精神というものを十分考えてもらいたいと思う。もう少し根本的の問題は時間の関係があるからあとに譲りまして、そういう安い賃金というものがあるために、日本の社会保障を全国的に総合一元化するというのですが、そういうことがこれを阻止する非常に大きな要因になっておるということです。これは大臣が御存じの通り、大臣所管のもとにおける失業保険も、昨年ようやく五人未満では組合を作ってやる、こういう形になったが、これは強制的にはできていないという形があるわけです。いま一つは日本における社会保障の重要な一環である公的扶助、生活保護法というものが現在予算をうんと食ってだんだん拡充されていきつつあります。賃金で最低の生活を保障しないために、生活保護というものが賃金の上に上積みをされていっているわけです。そのことは一体何を意味するかというと、結局それは事業主を安易なところに追い込んでいるわけです。自分のところが安い賃金を払っておっても、あとは生活保護で見てくれるのだ、こういう形なのです。従って企業における自分の使っている労働者の、人たるに値する賃金を払う責任感というものが希薄になってきつつあるわけです。最低賃金問題は今後の日本の社会保障を私たちが考える上にきわめて重要なポイントをなしてきている。その具体的なものは日雇い労務者諸君に現われてきている。ニコヨンといわれて二百四十円、それがニコ八、二百八十円になり、最近は三マル、三百六円となってきた、しかし三マルというのは平均であって、実際には等級があって二百六、七十円。一体二百六十円や七十円で人間たるに値する生活ができるか。できない。できないからその上は一つ生活保護ということになっておるわけです。そうしますとあなた方の労働政策、雇用政策というものは、三マルであるならば、これは完全だとはおそらく思っておられぬだろうと思うけれども、まあこれだけあれば食えるのだということでやっていることになっておるのだと思うのです。そうすると、あにはからんや一方では食えないで三百億をこえる生活保護費をわれわれの税金から出さなければならぬという事態です。これは結局零細企業、日本の中小企業に自分の使っている労働者の生活を保障していくのだという責任体制の欠除を促進する結果になるのです。こういう点については、やはり私は考えなければいかぬと思うのです。と同時に、低賃金というものは日本の社会保障における保険料の支払いを不可能にしている。今度あなたの方では社会保険の統合の問題、いわゆる総合調整の問題が起りました。失業保険を三分の一か四分の一に下げるというのはあなたの方の問題ですが、そのほかに厚生省における厚生年金なり健康保険の切り下げもやろうとしています。あるいは船員保険というような四つ五つの社会保険が、総合調整ということで国庫補助を減らしたりふやしたり、料率を上げたり下げたりしていますが、こういう点についても出す方のふところは一つなのですから、各省割拠の弊というものを断ち切って一本化するということになれば、予備費も大幅に倹約になり事務費も大幅に倹約になってくるのです。そこで保険料というものがどういう形で勤労者、事業主のふところから出てくるかということが一目瞭然となってくるのですが、各省にばらばらにやっておるためにその実態が明白でない。しかもこれは特別会計でやられておるという関係があって、日本の社会保障の進展に大きな妨げになっておる。しかもそれは結局五人以上というものが、いわゆる氷山の上だけが出て、あとのより多い五人未満の七、八百万の勤労者というものは、下に隠れて見えなくなってしまった。しかもそれらの者は低賃金で保険料が実際出せない。官庁からいえば保険料がとれないから、それには施策が行われていない。最も施策を必要とする層に施策がいかずに、まあ施策を緊急にやらなくてもいいというところに施策が非常に厚くいく、こういう状態です。しかも一千億減税、一千億施策から、五百億減税、千六百億施策、こうなったのです。五百億の減税というものは、今云ったような二十七万円以上の層にはいくかもしらぬが、それ以下の層にはいかない。最低賃金の必要なのは二十七万円以下だ。こういうところにいかない、こういう実態である。こういう点から考えても、最低賃金制度というものをすみやかにやって、一つかっきりとした線を出すこと以外には、社会保障の計画も立たない、こういう事態に追い込まれているわけです。こういう点について、今申しましたように、結局明白な賃金体系が確立をせられないために、中小の事業主は安易についておる。そうしてしかもその生活の半分の荷を社会保障に負わしている。こういうところは日本の労働政策というか、賃金政策の貧困を如実に私は物語っておると思うのですが、この点あなたはどうお考えになりますか。
#12
○倉石国務大臣 社会保障の問題について非常に大事なお話がありました。私も日本の各社会保険制度につきましては、かねがね滝井さんと同じような考えを持っておりまして、終戦後大いに始まって参りました社会保険というのは、そのときどきに応じていろいろな制度があとからあとから出て参りましたものですから、お説のように非常にまちまちであります。私ども政府部内におきましても、三十四年度予算編成に当りまして、こういう日本の乱雑な社会保険制度について根本的に一つ再検討しようではないかという意見も、私どもから出しておるようなわけでありまして、こういうことはぜひ必要なことだと思います。
 同時にまた、ただいまの働く人々の生活費の問題でありますが、私は最低賃金法を提案いたします場合に、これは滝井さんもよくおわかりの通り、私どもは計画経済論者ではないのでありまして、もちろん自由企業という立場を尊重する見地に立ってものを考えますが、今お話のように、一定の最低賃金というある程度のレベルがきめられれば、その上にあぐらをかいて、いわゆる中小企業の企業主は楽な気持になってしまうんではないか、払えない者は仕方がないんだというふうなことであっては、政府の考えておる目的も到達されないではないか、全くその通りであります。そこで私どもは日本の産業構造のうち、大体九割近いものがいわゆる中小企業、しかもわれわれが最も必要としておるのは零細企業に対してどうするかということであります。輸出産業をとってみましても、いわゆる零細企業に属する面も非常に多い。そこでしばしばわれわれが申し上げておりますように、最低賃金制というものを一方において考えていく。そうして経済政策、社会政策の面から最低賃金制というものを決定すると同時に、それと並行して中小企業に対して、最低賃金すら守れないようなことであっては困る、従って中小企業、なかんずく零細企業というものの存立に対して、どうやってこれを育成していくかということを並行してとっていくにあらざれば、私は最低賃金制というものは画龍点睛を欠くと思っております。従って政府も、中小企業に対してどのようにしてあるいは税の面で考えてあげることができるか、あるいは一番窮屈な金融の面において考えてあげることができるかということで、並行して中小企業の保護育成ということに手を打っておることは御承知の通りであります。もちろん現在の日本の経済状態で十分なことはなおできておりませんけれども、これはやはり敗戦ということによる日本の特殊な事情、しかもドイツや英国と違って、すでに完全雇用ということを目標にいたしておりましても、なおかついわゆる不完全就業者も数百万と考えられるようなこういう国情でありますから、そこで、滝井さんのおっしゃっておられるお気持は私どもと全く同じでありまして、目標とするところはそういうところにありますが、一歩々々われわれの考えておる目標に近づいていきたい。そういう面で、まず第一に私は零細企業を保護育成することと並行してこういう最低賃金制度――しかも御承知のように、この最低賃金制についてすら商工会議所の中にある、いわゆる中小企業の業者のグループにおいては、なおまだいろいろ異議を言っておられる者も多いという状態であります。それは、これらの人々は、あなたが指摘されましたように、決してそのきまった最低賃金の上にあぐらをかいて、安易な気持で人を安く使っていくのだという気持ではないと私は思います。なぜならば、だれでも自分の経営している企業がかわいいのであって、それを発展させていこうという向上心はみな持っておるのでありますから、そういう意味で、政府の施策と相待って最低賃金制というものが実施されることによって労働賃金が向上していく、もちろん今この法律ができない間にでも業者間協定というものがだんだん進んで参りまして、約一、二割程度の賃金アップを見ておるような状態でありますからして、こういう制度ができることは、一方において零細企業の経営者もその気持になって企業の健全化に努力して、そうしてできるだけ最低賃金制が普遍的に行き渡るように努力してもらえることをわれわれは期待し、またそういうふうに仕向けて参りたい、こう思っております。
#13
○滝井委員 私の申したい点は、大臣同感だそうでございますが、業者間協定というものになりますと、政府の方で最低の基準はこうだということをきめずに、野放しの業者間協定ということになりますと、その企業がそれ以上出せないのだ、だからこれで、ということになりまして、そのあとは、食えなければ一つ生活保護にいってくれ、こういう、いわば低賃金を温存することになるということなんです。そういう点、業者間協定ではどうも今の日本の客観情勢というものがいかぬと思う。それは、一千万をこえる未組織の労働者がわんさとおり、しかも今後の日本の人口動態を考えてみても、大臣がさいぜん御指摘になったように、労働者側が売手市場なんですから、そこに経済の厳粛な需要と供給の原則を貫いていくと、相当の食えない者が出てくる。だから厚生白書が、昭和四十年になりますと一つの爆発的な事態が起るということを指摘するのは、結局昭和四十年が一つのピークになるからなんでしょう。こういう点から考えても、いずれ私は時間があればこれは予算審議会でやりたいと思うのですが、日本の人口問題は一つの転機にきておると思うのです。そういう意味から、雇用政策と人口の関係なりあるいは日本における低貸金と雇用問題、あるいはそれに連なる社会保障というような点は、もっと真剣に科学的に、計画経済でない資本主義の政党といえどもやはり国民に方向を与えなければならぬと思うのです。いっか財界の進歩的なグループである経済同友会の諸君が、警職法のあの混乱が終ったあとに、岸内閣は国民の向うべき方向を示していない、岸内閣にわれわれがついていけない状態が出てきつつあるというのは、岸内閣が一体何をなさんとするのか、国民の向うべき方向はどこかということを岸内閣が示していないところに根本的な問題があるのだということを言っておる。経済同友会の諸君でさえも言っておる。だとすると、これは計画経済をやる必要はないと思うのです。しかし、ここ二、三年の保守党の政治の方向はこういうものだということは示してもらわなければならぬ、こう思うのです。そういう点を、内閣の中でも進歩的なグループに属される倉石労働大臣にぜひお願いをいたしておきたい。
 そこで、さいぜんからいわゆる労働の生産性の問題が出て参りました。賃金と労働の生産性との関係です。普通常識的には、労働の生産性が向上すると賃金が高くなる、生産性が低いならば賃金は安いということが言われておりますが、文字通りそうではない。生産性が高くても賃金が安い場合もある。生産性が低くても賃金の高い場合もあり得るわけです。賃金と労働の生産性とは見合うという主張――大臣はどうもそういう主張をときどきされておるようなニュアンスが、黙って聞いていると非常に強いのです。私は必ずしもそうじゃないと思うのです。まず労働の生産性というものは、労働者が非常によく働くということで一体労働の生産性が上るかというと、今私は現在の客観的な日本の生産機構の中で見ていくと、もちろんそれも一つの重要な点であります。重要な点でありますが、それよりもっと大事な点は、私は技術の改善だと思います。技術の改善というものは一体何によってもたらされるかというと、現実の日本においては、やはり生産設備の改良あるいは機械の性能の向上、それから原材料の質の選び方、こういう点が非常に大きな影響をしております。もちろんその場合における労働者の質の問題という点もあります。そうしますと生産設備の改良とか機械の性能の向上、原材料の選び方というものは、これらのものをひっくるめた技術の改善ということは、経営者の能力、資本家の力に大きく影響してくるのです。そういう点から考えると、この賃金と労働の生産性の問題を、賃金を上げたかったら労働の生産性を上げたらいいとよく大臣が言われておるのを聞きますが、そういう点はもう少し突っ込んだ大臣の御意見を聞かしてもらいたいと思います。
#14
○倉石国務大臣 滝井さんのうんちくを傾けられたお話で、われわれもこういう委員会でしたら何日でもお願いしたいと思うのでありますが、私は生産性が上っていくことが賃金上昇の唯一の原動力であるということを言っておるわけではありませんで、御存じのように総評で発表されました賃金白書など拝見しても、やはり労働生産性のうちから、いわゆる付加価値のうちから労働者に対する分配率がこういうふうに欧米に比べてきわめて低いということを指摘しておりますので、そういうことについての私の見解を述べておったところでありますが、御指摘のようにやはり労働生産性の向上を伴わなければ、賃金を動かすということも非常に困難である、このことも逆な面から言えると思うのです。そこで今お話のように、労働生産性が割合に上っておっても質金がその割合に上らない、こういうことについてのお話もございました。さっきちょっと私が触れましたように、日本は底が浅い経済だということをしばしば多くの人から言われておりますが、私どものように、やはり自分が事業をマネージする側に立ってみた経験から申しますと、日本という国はとにかく徹底的に戦争によってたたきつけられた。それがいろいろなファクターが加わって復興してきた、しかし、現実にちょっと大風が吹けばがたがたゆれるといったような不完全な日本の建築、これはちょうど日本の経済の構造に当てはまることだと思います。部分的には鉄筋コンクリートで直したところもありますけれども、その多くの部分はまだバラック建も残っている。そういうことでありますから、日本である程度の生産が向上された、その生産の向上は、一に労働者の勤勉努力はかりではないのであって、今御指摘のように、ことに最近のような科学技術の発展に伴って、そうして国際競争力を維持していくためにはどうしても新しい設備をしなくちゃならぬ。そういうことに対して、御承知のように日本の資本構造というものは、たとえば百のうち六十は借入金で、四十が自己資本ということでありますから、アメリカなどの産業に比較して金利負担が非常に多い。同時にまた法人税などを比べてみても、日本の特殊事情であって非常に税が高いことは御承知の通りであります。そういう面の負担が非常に多いところへ持ってきて、おくれまいとするために近代的設備を導入して、そうして国際競争に立ち向うために建設費が多くかかって、従って償却も多くならざるを得ない。そういうわけでありますから、やはり配当ももちろんしなくちゃならない、その以前に賃金をある程度上昇しなければならぬ、こういうようないろいろな苦しいファクターが積み重なっておりますので、日本の底の浅い産業においては、やはりまず第一に私どもは何よりも国際競争力を維持していって、ちょっとぐらいの風にはぐらぐらしないというようにするためには、ここしばらく資本の蓄積をやって、そうして賃金を生み出すべき源泉である企業の内容を堅実にさせることが必要だ。上った利潤はすべて投資しておる株主が分配してしまうということであるならば、これはわれわれはとらざるところでありますけれども、現実の日本の産業構造の実態を見て、私は必ずしもそうは言えない、こういうような見方をいたしておるわけであります。
#15
○滝井委員 生産性の向上をやるためには企業自体、経常自体が非常な力を入れてもらうが、同時に労働者も力を入れてもらう。それらの二つのものをひっくるめて一応技術革新をやる、こういうことで生産性が上っていくわけですが、われわれが経験をしたところによると、勤労階級というものはやはり一つの肉体をもって生産性の向上の結果を体識したわけです。どういう点を体験をしたかと申しますと、たとえば大きな火力発電所ができます。そうしますと、技術革新によりていろいろの新しい機械が外国から輸入されて据え付けられる。今までは石炭は手でかまに入れておった。ところがそういうものはもうベルトで全部運ばれちゃうということになって、大きな発電所が、本来ならば五百人も八百人も使うところだが、実際に発電所ができてみたら、発電所を作ることに協力をしたその地区の住民なり、その付近の労働者というものは、できてみたら、もうその発電所は五十人しか雇用しないのだ。そうしてしかも雇用する人はどこから雇用するかというと、その発電所のできた村や、あるいはその地区の、かつて電力に経験のあった労働者でなくして、どこかえらい労働者がよそからやってきて、そうしてその機械の前にすわってメーターを読むだけになっちやったのだ、エレベーターなんか何も要らなくなった、こういう姿、これは結局技術革新というものはわれわれを失業に追い込み、あるいは配置転換をせしめるものだという、そういう体験を日本の多くの労働者はやったわけです。そうして同時にそういう技術革新というものは、なるほどそこに就労した労働者個々の諸君にとっては高い技術を持っておるために高い賃金を保障されました。しかしその犠牲において、五百人とか八百人とか使うであろう残りの六、七百の人というものは、ちまたにほうり出された。ところが、ほうり出されてみたところが、日本の新しい、十五才になって雇用労働力になる雇用生産人口が潮のごとく百万をこえる者があとからあとから押し寄せるという、こういう状態です。いわば技術革新と、日本における新しい人口構成の転換における労働力というものがここに出てくる。こういう二つの矛盾が現在の日本ではあるということなのです。しかもその技術革新をやるところの十分な設備というものが日本自体で作られていないということ、その新しい設備というものが外国から作られてくる。いわば外国の技術でできた品物の植民地に日本がなっている。それは今問題になっている兵器産業においてもそうなんだ。だからこういう点は、アメリカではなるほど生産性が向上をして、そしてどんどん技術が進んでいけば、その生産性を向上するための機械というものを作るべき別な工場ができてくるから、そこに雇用が吸収されてくるが、日本ではそれがないということです。もし新しいダムの機械を持ってき、新しい電力の機械を持ってくるならば、そこで使われておった労働者というものがほっぽり出されて、配置転換の必要のうき目を見なければならぬ。うき目を見た労働者は、より新しい技術を持っている労働者――もう今は高等学校を出ておる、昔の小学校ではありませんから、新しい知識を持っておる者がどんどん出てくる。いわゆるヒューマン・リレーションズの関係においても、職場内部においても大きな亀裂ができ始めた。いわゆる昔からの技術と経験を持ったうんと古い職長や職工の年をとった人と新しく出てくる近代的な労働者との間に、人間関係にいざこざができてくる。こういう問題が労働自体の内部において起りつつあるということです。こういう点から考えてみると、これは賃金問題と申しますか、最低賃金の問題というものは、私は日本においては非常にむずかしい事態というものになりつつあるのではないかという感じがするのです。もう少しここらあたりの解明、すなわち当面の日本の廃業の場における最低賃金の問題だけでなくして、将来の日本経済の展望なり、日本の雇用情勢の展望の上に立って、一体われわれは最低賛金をどういう程度に持っていくことが将来の日本の産業の躍進になり、あなたの言われるように貿易立国としての国策が立つかという、こういう点ではないかと思うのです。そういう見通しをやはりはっきりしておいた上の議論でないと、どうもこれは、何と申しますか、議論が迷路に入って、そのときそのときの答弁になってしまうという私は感じがするのです。もう少し労働省当局においてもそこらあたりの技術革新と新しい過剰労働人口、こういうものの上に立った賃金というものを一体どうしたらいいのか。需要と供給の関係ならば賃金は必然的に下げられていきます。それは新しい老人人口というものがふえてくる、女子の職場がなくなるということになれば、一家の主人の生計費というものが十分でなければ、これらの者が全部雇用の面にいかなければならぬ。最近いわゆる六十才以上の雇用というものは依然として、年金ができようとしても、減っていません。これは二割五分か多分三割くらいの就業状態になっておるのではないかと思うのですが、減っていないと思うのです。ずっと昭和二十五、六年ごろから最近の統計を見ても、私は六十才以上の老人の就業が減っていないと思う。そうなりますと、老人は仕事につく、女子も仕事につくという、こういうことではどうにもならぬ。それは需要と供給の関係だけを考えていったら、これはもう業者間協定を置く限りにおいては、ほんとうの意味の食えるだけの最低賃金というものは百年河清を待ってもできない、これが私の言いたいところなんですが、こういう点一つ、これは数字その他もありますが、統計調査部長の方で何かそれの方で、こういう工合にやったらいいだろうという御意見があればお聞かせ願いたいと思います。
#16
○大島説明員 ただいま滝井先生から生産性の向上あるいは技術革新と賃金ないしは雇用との関係についての御意見でございましたが、生産性と賃金の関係につきましては、御承知の通り単に一つの企業とか、あるいは一つの産業の生産性の向上と賃金の増大、この相関をとることはちょっとむずかしいし、また意味も少かろうと思うのであります。従って全般的な賃金水準と生産性との関係、さらにごく短期的に見るよりも長期的に相関関係を見る、この意義の方が重大であろうと思います。たとえば日本におきまして生産性と賃金との関係を見てみますと、もっとも生産性と賃金を比較する場合におきましても、物的生産性、価値的生産性、債金にいたしましても名目賃金と実質賃金をどう比較するか、御承知の通り非常に理論的にもむずかしい問題でありますが、たとえば一国全体の生産性の向上を一人当りの国民所得の増大率で見る、あるいは物的生産性に物価をかけたもので一応価値的な生産性を見るというような形で見てみますと、二十六年から三十一年くらいまでの五カ年で一人当りの国民所得の増大率は約一〇〇から一五九、それから生産性の向上が一七三、賃金の増大は一六五、大体こういうふうな数字になっておるわけであります。ただ生産性の向上の結果が、それではどういうふうになればいいのかという問題なんでありますが、御承知の通り経済理論的には生産性の向上の成果は利潤と賃金とそれから価格の引き下げ、この三者に配分されて経済的な均衡を得る点で配分が決定する、こう言われておるわけなんですが、現実にはその企業が、たとえば独占企業かどうかでも非常に違って参りまするし、また発展産業かどうか、すなわち生産性が上っても必ずしも価格を切り下げなくても売れるという産業かどうかという点でも違いましょうし、また一国の経済構造、比重構造等の点においても違いましょう。たとえばILOの生産性に関するリポート等にいたしましても、三つ、四つの原則をあげておるのでありますが、まず社会的な価格公正の原則、社会的に公正な配分であるべきである、それから経済全体の安定的な成長をはかり得るような配分であるべきである、あるいはまた労使が十分納得のできるような線であるべきである、こういうようないろんな原則を立てておるのでありますが、全般といたしまして、やはり賃金の向上の基礎にある生産性、特にわが国のような規模別の賃金格差の大きいところにおきましては、やはり規模別賃金格差と規模別の生産性の確保というものがほぼパラレルになっておる。そういうような状況におきましては、やはり一方においては最低賃金制を施行すると同時に、また中小企業の、零細企業の生産性を上げていく、これがやはり並行しなくてはならないのではないか。そういうようなことによって全般の経済の生産性の向上に伴って国民全般の生活水準が上っていく、こういう形になるでありましょうし、また生産性の向上と雇用の関係につきましても先ほど滝井先生おっしゃいましたように、アメリカ等におきましても生産性の向上、技術の革新、オートメーション、これが必ずしも長期的に、ないしは産業全般としては雇用の減少を来たすよりもむしろ増大を来たす、こういうふうなことが言われておるのであります。何しろわが国におきましてはまだオートメーションの進展も十分ではございませんが、しかし少くとも技術革新によって、全般的に、長期的に雇用が減少するという形はまだ見られないのではないかと思うのであります。ただ滝井先生の御指摘の点は、おそらくある企業、ある産業に技術革新が起ったときに、そこから現実に出ます失業――摩擦的失業と申しますか、あるいは技術的失業と申しますか、そういう問題についての対策というものを怠ってはならないわけなんであります。その点について十分戒心を要しますと同時に、また御指摘のような、技術革新が雇用構造に及ぼす影響、すなわち労働力の質的な変化、そこからくる賃金問題もありましょうし、また技術訓練、職業訓練の問題もありましょうし、こういうふうな点に十分留意すべきでありましょうが、しかし総体的に申しますと、やはり生産性の向上によって全般的な雇用をふやす、また生産性の向上によって賃金を上げて生活水準を確保していく、この二つの柱が何と申しましても、経済の安定的成長の大きな二つの柱になると思うのであります。そういう意味合いにおいて政府の長期経済計画も立てられておるように、私ども了解しておるわけであります。
#17
○滝井委員 その技術革新と雇用構造との関係なんですが、最初に私は六十才以上が二割ちょっと言いましたが、あれは女性です。六十才以上の男性の方は昭和三十年では六六・二です。大正九年当時においては七五・三ですが、六六・二。女性が二六・三です。従って、六十才以上の女性でさえも相当労働戦線に入ってきている。それで日本の経済の成長というものは、技術革新と非常に大きな関係を持ってくるわけですが、現在の経済成長率というものを一体幾らに見るか。ことしは五・五彩の成長と見ておりますが、五・五というのは、大体日本経済の過去の歩みをずっと見ると、少し高いという見方が強いです。まあせいぜい四、よくて五だ、こういうことなんです。そうしますと、今の日本の人口状態から考えて、もし経済成長が四%で平均してずっとここ四、五年歩むとしますと、日本の総労働力が昭和四十年には五千万程度です。それに有効稼働労働力は三千八百三十万程度です。過剰の労働力が千百七十万になります。これが経済成長がずっとここ三、四年六%持続をしていくと、これは三百七、八十万程度になるのですが、六%をこえるということは、社会的な経済の状態あるいは日本の人口のふえ方その他から見て、とてもあり得ないのじゃないか。統計や経済をやっている人は、みんなそういう見方をしております。僕らしろうとだからよくわかりませんが、まあまあ四から五というところだと思うのです。五%にして九百十万の過剰労働力ですよ。そういう労働力が別にありまして、なお技術革新がこれから進んでいくということになると、賃金が急激な上昇過程をたどるということはあり得ない。しかも今まで最低貸金をはばんできたものは何であったかというと、それはいろいろなものがあります。われわれも公聴会でいろいろ聞いてみましたが、九大の先生だったと思いますが、明白に言ってくれた。最低賃金を阻止した条件四つをあげて、二重構造といろいろな産業なんかの賃金格差、それから過剰労働力と企業分野、こういう四つの阻害条件をあげてくれたのです。あげてくれましたが、これらのものが、現在日本の状態の中で急激に解消していくという姿はございません。むしろ二重構造は、中山先生等によれば三重構造になりつつある。企業もいわば系列化されて、そうして系列外にもう一つ弱い層が大量にできてきつつあるんだという三重構造論さえも出てき始めているということになれば、日本経済の構造はますます複雑になり、しかも今までの二重構造の下にもう一つ弱い属というものが出てきつつあるということです。そういうことになると、これは経済の自主的な運動法則にまかしておいて、そうして業著聞協定でおやりなさいということでは、どうもならぬと思うのです。
 そこで私はお尋ねしたいんだが、たぶん去年私がお尋ねしたときに――最低賃金の業者間協定を、最近は労働基準監督署あたりで相当勧めておりますが、当時、四十八業種、四千七百十三事業場で、適用労働者は三万六千六百人だ、そうして賃金の上昇率は一割から一割五分だという御説明が、堀さんからあったと思うのです。あれから相当期日がたって、もう半年以上もたっておる。そのうち、これがどういう工合に伸びていっているかということです。
#18
○堀政府委員 その後の業者間協定の締結状況について御説明申し上げます。昨年の十二月末までに締結されました業者間協定の件数は、八十件であります。協定参加事業所数は五千九百四十八、協定参加事業場の所属労働者数は九万六千八百五十五、このような状況に進んでおります。なお、これと並びまして、現在協定を締結したいという機運ができまして、そのため賃金分布その他の実態を調査して、業者間協定締結のための準備を行いつつある事業場が七十件ございます。以上のような状況でございまして、昨年報告申し上げました当時から比べまして、業者聞協定はその後も順調に進展しておるように見受けられます。
#19
○滝井委員 その場合における賃金の額を御説明願いたい。
#20
○堀政府委員 賃金の纈は、業種、業態によりまして、それぞれまちまちでございますが、これをただいま御説明申し上げましたものから得られました大体の数字を申し上げますと、満十五才の労働者の初任給につきましては、高いもの、低いものないし平均的なものを申し上げますと、低い方では――これは協定賃金分布を見まして第一四分位をとったものでございますが、四千二十二円でございます。それからやや高い方、すなわち第三四分位をとりますと、四千八百十七円でございます。それからその平均的な中位数をとりますと、四千三百二十九円でございます。次に満十八才の労働者の初任給についてでありますが、同じような方法で計算してみますと、第一四分位は四千五百七十五円、第三四分位は五千二百六十三円、中位数は四千九百十九円、以上のような状況であります。なおこれに関連いたしまして、従来協定賃金以下の労働者が、業者間協定締結によってどの程度賃金が増加したかということでございますが、三〇%以上増加したものが四件、二〇%以上増加したものが六件、一〇尾以上が五十三件、五%以上が十三件、五%程度が四件、合計八十件でございます。
#21
○滝井委員 大臣、今お聞きのように、満十八才で、高いところで五千二百六十三円、平均で、中で四千九百二十九円。人事院調査で東京の標準生計費が、十八才では七千五百六十円。まあ四千九百二十九円ですから、五千円と見積っても、二千五百六十円の差があるわけです。やはり問題のメスは、この満十八才の約五千円程度、業者間協定で平均としてきまったその額が、真に十人才のその青年諸君がみずから今後りっぱな日本国民となっていくに足るだけの賃金であるのかどうかという点です。これがもし家計補助的な、出かせぎ的な、一時的なものであってはならぬと思うのです。もしそういう状態で業者間協定がだんだんと進行していくならば、これは大きなことを言うようですが、日本民族の三分の一程度が永久に栄養失調状態を続けるということです。やはりこれは民族的な体質改善の問題からも非常に大事だと私は思う。そういう意味で、次会でけっこうですから、その内容を今度はもう少し分析して御説明願いたいと思います。
 午前中はこれだけでけっこうです。
#22
○田中(正)委員長代理 二時まで休憩いたします。
    午後一時二分休憩
     ――――◇―――――
    午後二時五十八分開議
#23
○園田委員長 休憩前に引き続き、会議を開きます。
 内閣提出の最低賃金法案、勝間田清一君外十六名提出の最低賃金法案及び家内労働法案について質疑を継続いたします。
#24
○滝井委員 さいぜんの御説明で、昨年以来業者間の協定が非常に進んでおることがわかりました。しかもその額は大体満十八才で五千円前後であるということが説明ざれたんですが、その五千円前後にきまる、いわゆる業者がそれをきめるには、何かそこに科学的な根拠がやはりなければならぬと思う。それは一体どういうものを参考にし、基礎にして五千円という額を出しているのか、これを御説明願いたいと思います。
#25
○堀政府委員 ただいま御説明申し上げました通り、未経験の満十八才の労働者の初任給の平均は五千円程度でございます。それから申し落しましたが、勤続三年で十八才になった者、要するに十五才で新制中学を卒業して働きまして三年経過して十八才になった者の協定額の平均は六千二百円程度になっております。そこでこれらのものを算定する場合に、どのような作業をやったかというお尋ねでありますが、これはその地方におきまする同種の労働者の賃金というようなものを計算いたしまして、それとの比較を行うという作業をやっております。それからその産業、企業におきまするところの労働者の賃金分布を出しまして、そうしてその中で相当低い水準にある労働者の賛金を排除して、一定の線に引き上げるということを目標にいたしました。いろいろな方法がございますが、一、二の例を申し上げますると、賃金分布を基礎にいたしまして、標準偏差を測定して標準偏差方式によって最低線を引くというような作業をやる、あるいは並み数をとりまして、その並み数程度のところで線を引くというような作業をやっておるわけでございます。そうしてただいま申し上げましたように、結局その地方における同種の労働者の賃金、それからその産業、企業におきまするところの同種の労働者の賃金の分布を計算いたしまして、そうして相当低位にあるものを排除していく、こういう方法で計算をしておるようでございます、なおそれとあわせまして、その地方におけるところの生活保護法による保護基準等の金額等も参考にし、それらのものもあわせて業者が相互に話し合って協定を行なっておる、こういう実情でございます。
#26
○滝井委員 今の満十八才五千円の賃金をきめるのに、同種の労働者の賃金の比較や、労働者の賃金分布標準偏差、それから並み数、そういういろいろなものをおとりになって、平均五千円前後をおきめになっておるようですが、一応大ざっぱにいって、この法案にあります労働者の生計費というものを一体幾らに見ておるのか、それから類似の労働者の賃金というものをどのくらいに見る、通常の事業の賃金の支払い能力、これはいわば産業の支払い能力だと思うのですが、そういうものをどういうように見ておるのか、やはり私は少くとも基準監督署がそういうものを奨励するからには、出た法案というのは今度は三回目なんですから、従ってやはりこれが一つの目標になって指導が行われておると思うのです。できた九万余の労働者が、一体こういう生計費や類似の労働者の賃金というものをどういう工合に見られて五千円というものが出たのか、それを一つ具体的にどこか一つの地域をとって御説明願いたいと思うのです。たとえば静岡県なら静岡県のミカンのカン詰めをやるところのこの業界においては、こういう工合に最低賃金決定の原則というものにのっとってやっているのだという、ちょっとモデルをお示し願いたいと思います。
#27
○堀政府委員 ただいま各地で行われております業者間協定に対する基準局側の態度といたしましては、これは法律制定前のことでございまするので、あくまでも業者の自主性を尊重するということにいたしまして、われわれの方は資料の提供等を求められれば、それに必要な資料を提供する、あるいは実態調査を求められれば、それに必要な実態調査を援助して行う、このような態度で進んでおるわけでございます。そこでそのただいまお話しの同種労働者の平均賃金等でございまするが、これは地方でやっております地方毎月労働統計、それから各地の基準局でやっております随時の調査等を併用して、その地方の同種労働者の賃金を算定するというような作業をやっております。それから生計費等につきましては、これはいろいろございますが、たとえば先ほど申し上げました厚生省で算定しておりまする生活保護法による保護基準という金額がございます。東京で申しますれば、東京は三千五百十円程度でございますが、これを四級地で見ますれば二千五百円程度でございます。これは各地によってそれぞれ算定されておりますので、こういうようなものを参考にして、賃金をその生計費の一つの参考資料にするというようなことをしておるわけでございます。
 それから次に支払い能力でございますが、これはやはり具体的な業者間協定が行われております地方におきまする産業の付加価値等をできるだけ調べ上げまして、その中で労務費に回るものはどのくらいあるというような調査をやっておるわけでございます。法案が成立いたしますればこれらの資料、そのほか支払い能力の方から考えてみますれば、大蔵省の法人企業統計、通産省の工業統計等も参照にするわけでございます。そのほか各種の資料を参考とし、これに労、使、中立三者からなるところの賃金審議会の御意見を十分お聞きいたしまして、それによってその該当の業界におけるところの最低賃金を決定する、このような作業を行う予定でおります。
#28
○滝井委員 法案が通れば当然最低賃金審議会の諮問によって業者間協定も効力を発生することになるわけですが、すでに九万余の労働者諸君が業者間協定というものの恩典を現実に受けておるわけです。従って私はやはり五千円なら五千円が出て参りますならば、それが何かわからぬようなものの基礎では困ると思うのです。やはり説明はあなた方の最低賃金決定の原則である生計費をそのときは一体幾らに見たんだ、それから同種の労働者の貸金は大体どの程度に見て五千円が決定されたんだということが明白でなくてはならぬと思う。だからどこか一カ所でもいいですが、そういう大まかな三つの分類によって説明をしていただきたいと思う。それから排除された低賃金というもの、これは今後最低賃金を決定する上に、一体その排除されるようなものにも業者間の協定というものは最終的に法律がきまれば、その地域全般に拡大していくことになるわけですから、一体どの程度のものが排除されておるのか、こういう二点について、どこか一つの地域でいいですから、わかりやすい東京付近の有名なところ、ミカンのカン詰めが一番有名だと思うのですが、焼津とかあの辺のところで一つ御説明願いたい。
#29
○堀政府委員 ただいまのお話の静岡のカン詰め産業の協定賃金は、これは労働基準局では正式に援助をいたさないものでございます。その最近の実情を勘案いたしまして、業者の間で協定をもう少し内容を改正しようという研究会を作っておられます。これらについてはわれわれの方としても今後積極的に御援助申し上げたいと思っておりますが、そのような事情でございますので、東京で近いところで申しますれば、たとえば神奈川の手捺染業について、神奈川の基準局の援助によりまして協定が締結されておりますので、それを申し上げます。神奈川の手捺染業の業者間協定に参加いたしました企業者数は百七でございます。所属労働者は二千四百四十七名、うち協定対象になる労働者は千六百四十六人でございます。これにつきましてはいろいろ作業をいたしましたが、まず第一にその地方におけるところの同種労働者の平均的な賃金を算定いたしました。それから次に先ほど申し上げました人事院の勧告の材料に使いました標準生計費七千五百円というものを一応の参考にいたしました。それからこの場合は住み込み労働者が全部でございますので、その費用約千五百円を引きまして、約六千円程度がまずあの地方において標準的な生計を営むのに必要な費用であろう、このような推定をいたしたわけでございますが、それと、今のようなことで果してその賃金を支払える能力があるかどうかということを業者同士の間で相談をざれまして、結局満十八才、一日二百四十円、これを二十五日稼働といたしますると、一カ月六千円ということになります。大体一日二百四十円、一カ月に換算いたしまして六千円というような初任給を協定いたしたわけでございます。そういたしまして、これによって従来の協定賃金以下の賃金をとっておりました労働者は大体五百人程度がこれに該当する、そうしてこれらの労働者がこの協定締結によって賃金がどのくらい上ったかと申しますると、約一五%上っておる、このような結果になっておるわけでございます。
#30
○滝井委員 まあ神奈川県の手捺染は、業者間協定でもいろいろな書物に書かれておる有名なケースなんです。それで人事院の勧告の標準的な生計費七千五百円から、住み込み労働者だから千五百円を引いて六千円という標準的のものができて、それを基礎にして支払い能力を勘案しながら、二百四十円の二十五日分で六千円、大体社会党の十八才、八千円、当分二カ年は六千円でいこうというのが空理空論でないということがこれではっきりしたのです。実はこれで安心なわけです。社会党の論がどうも最近は階級政党だ、国民政党だというような空理空論だからだめだということが新聞等に書かれますけれども、実はわれわれはある程度科学的にやっておるつもりだということを、政府当局にも、与党の皆さんにも、国民にも、やはり明日にしておく必要があろう、こういうことなんです。
 そこで問題は、今度は利潤との関係なんですが、利潤が大ならば賃金は大だ、それから利潤が小さいときには賃金は低い。それならば利潤がちっともないときには賃金は引き下がるか。まあ常識的にはそういうことがどうも行われそうですが、賃金と利潤との関係を考える場合に、やはり問題は、社会的な条件を考えて、その社会的条件にふさわしい、そうしてしかも必要とされる労働者の生計費というものが基準になって賃金が決定されるのだと私は思うのです。そう利潤によって賃金、特に最低賃金というものは左右されるものではないと考えておるのですが、この点大臣はどうお考えになりますか。
#31
○倉石国務大臣 お話のように、賃金は幾らでも人は雇えるというものではないわけでありますから、そこにある程度の限界があることは当然であります。そこで今だんだんと業者間協定というものが各所に結ばれていくようになりまして、一定の標準らしきものがその同種の協定等によってぼつぼつできてくるということになりましたならば、同種産業でそれ以下の事業所には従業員が集まりにくいわけでありますから、やはり私は一つの協定ができて、その同種産業で業者間協定が結ばれて最低賃金というものができれば、それが大体の平均になるではないか、われわれもまたそれを見込んで、政府としてもなるべく勧めて、そういうものが普遍的に行われていくようにしたい、そういう考えでありますから、従って業者間協定というものは賃金のくぎづけになるのだということは、実際の面から判断してそういうことにはならないということは理解していただけると思うのです。
#32
○滝井委員 賃金と利潤との関係は、やはり組織力というものが非常に大きく影響すると思いますが、この企業の利潤というものは景気の変動によって非常に左右されます。それから同時に企業と企業間の競争によっても利潤というものは非常に左右されます。もちろんある程度独占化が非常に進んでくると企業間の競争というものはある程度ゼロになりますけれども、それにしても景気変動というものが非常に大きな影響を賃金にも与えると思うのです。一体この業者間の協定というものが現実に九万幾らかの労働者にきめられたわけなんですが、この物価の変動とその関係というものをどういう工合にごらんになっているか。たとえば石炭とか肥料というようなものは、今度の神武以来の好景気から神武以来の不景気に転落することによって、なべ底からさらに二段階のなべ底に陥るというような事態にある。繊維にしてもそうですが、その場合に業者間協定をやっておって、物価が変動になれば、非常に利潤が狭められる、企業が危機に直面するといった場合、この業者間協定というものは一体どういうことになるのかということなんですね。いわばこれは業春闘協定に限らない、最低賃金一般に通ずることになると思いますが、特に現在行われておる、九万余の労働者を支配をしておるその業者間協定のもとにおいて、まだ法律のできる前に自主的にやられておるその業者間協定は、不況という景気変動によってどういう影響を受けたかという点ですが、これを一つ御説明願いたいと思います。
#33
○堀政府委員 ただいま実施されております業者間協定によってどのような影響が生じておるかということは、先ほど申し上げましたように、賃金は大体一割ないし二割、あるいは三割以上のものもありますが、影響を及ぼしておるわけでございます。なおこれに伴いまして労務費に及ぼす影響は、やはり一・一%ないし一・五%程度の影響になっておるということが報告されております。これがコストにどの程度増加を及ぼしておるかということになりますと、これはものによって区々でありまして、弔う少し実態を分析、把握してみなければならないと思いますが、労務費に対する影響よりやや下回る程度ではないかと思うわけでございます。
 そこでその場合に、今後物価が著しく変動したような場合、あるいは不況が訪れました等の事情の変更がありました場合に、どのような措置がなされるかという問題でありますが、これは現在事実上行われております業者間協定によりますれば、そのようなことはまだ期待できないわけでございます。これはあくまでも業者間の自主的協定である関係上、かりに非常に不況になったためにもう最低賃金が守れないということになりますれば、その協定を解除するというようなことがやはり自発的になされるわけであります。しかしながら今度の最低賃金法案が成立いたしますれば、その業者間協定に基く申請を受けまして、賃金審議会で三者構成の代表が審議をされまして、それを政府が最低賃金として決定する、それも期限をつけないで決定するということになるわけでございますので、決定されました以上は、不況になったからということ、あるいは工合が悪くなったからやめようというようなことはできなくなるわけでございます。ただしその場合に著しい事情の変更がありますれば、その申請により、あるいは政府が必要と認めたような場合には所要の措置が講ぜられるような配慮はしてございますけれども、最低賃金法が実施されました暁には法的な裏づけもただいまのようにつきますので、この業者間協定による最低賃金の安定性というものは確保されることになるのではないか、このように考えておるわけでございます。
#34
○滝井委員 実は最賃ができたあとは当然そういう手続がなされると思うのですが、現実問題として、すでにここ六、七カ月の間に相当の業者間協定ができておるわけです。そうしますと、われわれが昨年以来経験をしておる不況というものは、戦後二十四年と二十九年の不況と今回の不況と、三回目の不況なんです。しかも今回の不況はもちろん指数的には雇用その他に現われてくることは二十九年より少いと言われております。そういう中で今までやらなかった業者聞協定というものを、一割ないし最高三割程度の賃金の引き上げをやっておるという企業というものは中小企業なんです。そうすると現在中小企業が一番不況のしわ寄せを受けておるのだ、こう言われておるわけです。その中で一体業者間協定をやる勇気のある企業というものに、その後その業者間協定を低くするような事態が起らなかったかどうか、こういうことなんです。
#35
○堀政府委員 ただいままで業者間協定によってきめられた最低賃金を、不況というような事情でやめた、あるいは引き下げたというような報告は受けておりません。そこで、なぜ賃金の増加を相当来たしておるにもかかわらず、これらの中小企業がそのような最低賃金をきめて、そしてよくそれを存続させているじゃないかという御質問になるわけでございますが、これは業者間協定による最低賃金を実施しました結果、第一に賃金の上昇という労働条件の改善の面をもたらしたことは、まだ第一義的に評価されなければならないと思うのでございますが、これと並びまして業者の相互の間におけるところの過当競争が、この協定締結によって防止された、あるいは組合や商社等の買いたたきの防止に資するところがあった、あるいは賃金が上昇したために労働異動率が少くなった、あるいは良質の労働力が確保できるようになった、あるいは最低賃金をきめたために機械の近代化その他企業の合理化促進の意欲が向上した、このような、単に労働面だけでなしに、企業経営の面からいいましてもいろいろなよい効果がもたらされた、このように報告されておるのでありまして、これらの総合的なよい効果があります関係上、最近の業者間協定の進展は順調に進んでおるのではないか、このように推定しておるわけでございます。
#36
○滝井委員 こういうなべ底景気と言われるような不況のもとにおいて、六千円の最低賃金をして、なおこの不況に耐え得るというそういう状態がはっきり出ていることは、これはやはり業者間協定でなくとも・六千円なら六千円の一律をやっても、相当のものはやっていけるということが、ますます今の説明で裏づけられるわけです。今最低賃金のいい面をほとんど全部局長さんはあげてくれたわけですが、だからこのいい面をずっと強調していくと、そういうことが可能だという、こういう証言を得たと私は思うのです。
 そこでそういう場合になおわれわれが心配になりますのは、六千円をなるほど手捺染のある一つの業種はやれたかもしれぬが、同じような業態でなお業者間の協定に入れずに切り落された業種があるわけです。この企業の格差の問題です。賃金の格差は、いろいろ熟練度の格差や何かありますが、大ざっぱにいって企業内の格差と企業間の格差だと思うのです。その場合に、最近の労働の状態を見ると、労働の強度というものは大体均等化されつつあります。だんだん強度が均等化される傾向があるけれども、その場合に格差がつくというのは、私はやはり労働の種類と生産設備だと思うのです。労働の種類と設備というものがやはり賃金の格差というものを生む大きな要素になっておると思う。そのほかいろいろこざこざしたものはありますが、大きなものはそこだと思う。そうしますと、強度というものはある程度均等化されておるということになりますと、やはりどうしてもここから賃金の下限、下の限界というものがきめられて、その上に労働の種類と設備による格差というものが起ってきてもいいのではないかと私は思うのです。どうもそうなると、やはり一定の賃金というものがそこに保障されるという形が出てこないと、アンバランスが、同じ労働の強度、それから労働の質も――戦後における労働の質というものは、戦前よりもずっと均等化されてきております。質と強度が均等化されてくるということになると、あとは種類と設備だけ。これは労働者自身のものよりか、むしろ経常的な、資本的な要素が加わってくるということになる。そういった分析をやっていきますと、やはりここに一定の下限を持った賃金、それが八千円であるか、六千円であるか、五千円であるかわからないけれども、いわゆる生活費を考慮した下限というものがどうしても私は必要になってくるのではないかという感じがするのですがね。メーデーで最低賛金の実施ということを掲げてからすでに三十四、五年くらいになるのですが、その中でこれを妨げておった大きな隘路は、この格差の問題だったと思うのです。ところが最近は労働の質と強度というものが均等化されてきておるという、この客観的な労働情勢の変化というものは、やはり最低賃金をきめる場合に見落してはならぬところだと思うのですが、その点、大臣はどうお考えになりますか。
#37
○倉石国務大臣 私どもが本案を提案いたしております最初から申し上げておりますことは、現在の政府提案であります本案が、永久的に理想的なものであるということを申し上げておるのでないことは御承知の通りであります。本案の基礎になりました、審議会等において論議されましたものを拝見いたしましても、だんだんといいものに仕上げていくように希望するのだと言っておるのでありまして、先ほど午前中のお話にもありましたように、現在の日本のいわゆる中小企業中の零細企業が、かつて賃金審議会から当初最低賃金についての話し合いが出ましたときに、例の絹織物、人絹、あるいは手すき和紙等の四業種を取り上げました。ああいうようなものを見ますと、現在の最低賃金というものでも、業者間協定を結ぶことについてすらなかなか困難が伴うという実情でありますから、そこで中小企業、ことに零細企業の今日の経営の実態、それから現実の姿等を勘案いたしますというと、やはり地域別に、それから産業別に、業種別に、そういう零細企業の支払い能力等も勘案して、そして不可能なことをしいるのでなくて、順次理想に近づけていくという思いやりのある態度をとるということが、実際政治の面においては必要ではないか。こういうことがわれわれが最低賃金について業者間協定という現実にあるものをまず取り上げていこうという考えを持つように至った理由であります。そこでもちろん先ほど来質疑応答にごさいましたように、現在結ばれておる業者間協定でも、いわゆる十八才で八千円程度のものが行われております。そういうふうなところに近づけていくためには、政府も中小企業保護育成等の対策を講じつつ、だんだんそういう方向にいこうという努力は継続いたすわけでありますけれども、現在の段階においては諸般の事情を総合して、やはり支払い能力等も勘案して、政府案のようなやり方が一番実情に即しているのではないか。こういう経営体の方と従業員の両方の立場を十分考慮して、私ども考え出したことでございます。
#38
○滝井委員 地域別、業種別、産業別に徐々にやっていかれるということも私はいいと思うのです。しかし地域別、業種別、帝業別にやられるについても、やはり一定の基準というものを示しておく必要があると思う。何らの一定の基準も示さずに、抽象的な原則だげをきめて、経営者のときどきの任意的な恣意にまかせる、こういう形では、すでにそういう形がいかに悲惨な結果をもたらしておるかということは、現在の日本のこの労働の状態を見ると、明らかにこれは超過労働であるということは、万人が認めておるわけです。一方においては十九時間以下の基準労働時間で賃金をもらっておる大きな層がある。一方の極においては、六十時間以上働くいわゆる超過労働の大きな層がある。そして一番まん中の中核でなければならぬ、いわゆる労働基準法の四十八時間で働いて食えるという労働者の属というものが、最近は減りつつあるという実態なんです。従ってこれは明らかに恣意にまかしておった結果がそういう超過労働という実態が現われてきているということは、もう過去の統計がいやというほどわれわれに示してきておるところだと思うのです。従ってそういう客観的な、現実に日本にある労働の姿というものを是正しようという、一歩でも二歩でも是正をしようとするならば、私は業者の方も、いわゆる資本家側の、企業家側の恣意的な業者間協定というものは、きわめて恣意的な要素が多いのですが、そういうことでなくて、何かやはり政府が社会保障的な考えを持っててこ入れをして、一つの基準をこういう面からも――格差をなくすということは――労働の実態が、質や強度の面において、あらゆる労働において最近は非常に似通ってき始めた。それは技術革新がますますそれに拍車をかけつつあるという客観情勢から考えても、やはり国家の方でやることが必要ではないかという感じが私はするのです。それからもう一つ企業間の格差なんですが、企業間の格差というのは、その企業同士の労働者の組織力、これによって企業間の格差というものが非常に大きな影響を受けております。それからいま一つは、その企業の利潤率です。利潤によって大きな開きができてきております。それからもう一つは、質のいい労働者が大企業に殺到するということです。最近は中小企業にもある程度質のいい労働者が行き始めました。それはたとえば健康保険法なんかの審議を通じて、われわれはその標準報酬がだんだん上ってきている姿を見ても、ある程度うなずけるところがあると思うのです。しかし大局的に見ると、いわゆる優秀な質の労働者というものは、大ざっぱにいって大企業に集まっております。そのほかにいわゆる資本家の腕前、企業経営の能力というものもありましょう。しかしまあ組織力、利潤率、それから質のいい労働者が多く来る、こういう面があります。ところがここで非常に質のいい労働者がたくさんその企業に押しかけるということは、これは同時に賃金の上昇をセーブする一つの作用になりつつあるということです。この点は日本における新しい生産年令人口、いわゆる高等学校や今後新しくできる専科大学、そういう職業的な要素を身につけた新しい労働群が、ここ三、四年のうちにはどんどん出てきますが、そういうものが出ることによって、いわば質のいい労働者の賃金をくぎづけするという一つの要素にも働く状態が出てくる。というのは、需要と供給の関係をもって、優質労働者のせり合いが激しくなって、そういう面が必ず出てくると思うのです。それはヨーロッパのように全就業人口の中の八割程度まで雇用労働者が占めておるという事態ならば、そういうことが非常に少いので薄められると思うのですが、日本は大まかにいって自営業が三分の一おって、雇用労働者が三分の一、三分の一は家族従事だというような状態のもとにおいては、どうしてもそういう傾向が出てくるのです。そうしますと、そういう優質な労働者は、やはり自分が雇用にありつくためには低賃金でもよろしい、こういう契約が雇用関係の中に成り立ってくる。そうしてそれが同時に長時間労働を――低賃金ですから長く働かなければ食えないのだということで長時間労働を生む、こういう低賃金、長時間労働という超過労働の悪循環というものがどうしてもつきまとってくるのです。こういうことが結局企業間の格差を断ち切ることができないという事態を生むのです。この企業間の格差と企業内の格差、これらのものが結局積み重なって、最低賃金制度というものを政府が思い切って――日本経済がどうもそれは困るのだ、それじゃつぶれてしまうのだといって、企業のみの生きることを考えて、そこに働く人間の生きることを考えないという矛盾した人間無視の労働政策というものが極端にいうと生まれてくる可能性ができてくると思うのです。こういう点は悪循環になっておる、一体これはどこでどういう工合にして断ち切るつもりなのかということなんです。
#39
○倉石国務大臣 だんだん滝井さんのお話を承わっておりますと、日本経済の現状の客観情勢の把握の仕方においては、大体われわれと同じだと思います。そこでこういう現状において、しかも労働力がある程度余っておる、従って需要供給の関係で劣悪な労働条件でも甘んじて現金収入を得ようとして働かなければならない。そこで政府の方で考えているのは、企業の支払い能力というふうなことに重点を置いている。滝井さんのお立場は、それもそうであるが、何とかして一定の生活保障はまず政府が考えて、それを前提に賃金政策というものを考えていけ、こういうふうな御意見のように受け取れるのでありますが、私はごもっともなことだと思います。滝井さんの御意見にもある程度われわれは賛意を表し、また今日の実情においては、ことに労働大臣というふうな立場からは、いろいろ考えるべき点が多いのでありますが、先ほども私が申し上げましたように、これは日本人の宿命であって、とにかく敗戦ということの結果、海外進出をいたしておった者も全部四つの小さな島に閉じ込められて、そしてたたきのめされた産業をここまで立て直してきた。そこでなおその中間過程にあるわけでありますから、やはり労働力においても十分にこれを吸収することができない、この現状であります。そこで私どもは、もし一定度の最低賃金というものをあらゆる職場の者に限定してきめてしまったということになりますと、自由経済のもとにおいてその不足分はだれがこれを負担するかということであります。政府がそういうものの全部のめんどうを見るということになれば、御承知のように数百億の資金を要する。しかし支払い能力のないところに法文化した最低賃金法というもので、これ以下に人を使ったら処罰されるということになりましたならば、小さな企業が成り立たない、そういうジレンマに陥るわけであります。そこで私どもといたしましては、やはり滝井さんのお考えのようなことも十分考慮に入れながら、現在の段階においては、一方においてパラレルに中小企業ことに零細企業に対してできるだけこの経済基盤を強化するように、政府の施策として努力すると同時に、ある程度の実情に即した最低賃金制というものを設けて――それですら先ほど政府委員から御説明申し上げましたように、すでにだんだんと多く協定も結ばれ、賃金のベースも徐々に上ってきておるという段階でありますから、支払い能力、協定能力があり得るものはできるだけそういうことでやっていってもらう。同時にまた一方において、それにマッチできないもの、先ほど御指摘になりましたことは非常に私は重大な問題だと思いますが、厚生白書などを見ましても、いわゆる労働生産年令人口というものは、相当数しばらくの間上昇過程をたどっていく。私ども雇用、失業問題を担当する者としては、一番頭の痛い時期が今後さらに数年続くことでありますが、その間においてもだんだんと技術的なことを身につけた者が新卒業生として社会に出ていき、今までの古い者はそれに圧迫を受ける。そういうのもやはり不完全就業者ということで町に出てくる。これをどうするかということでありますが、率直に申しまして、これは私どもとして政治の面においては一番頭痛の種であります。全くその通り。そこで私どもが先ほど来申し上げておりますような、一方においてできるだけこれを助けて支払い能力を増強し得るような立場をとりながら、一方においては不完全就業者をどうやって少くしていくか、これはいわゆる社会保障の問題もそこに出て参りましょう。われわれはそういうことについても力を入れなければなりませんが、今のいわゆる中小企業、なかんずく零細企業の中において最低賃金制をどうとるべきかということを考えてみましたならば、現在の段階においてはやはり政府の考えておりますようなことを実行して、そしてこれをなるべく早く、比較的理想的な方向に近づけていくように、一方において中小企業を助けて、同時にまた企業者も、この最低賃金制というものが各地に取り上げられるようになれば、それに立ちおくれたような経営をしておったんでは、やはりいい従業員も確保することはできないのでありますから、そういういい従業員を確保し自分の仕事を繁盛させるためにも、どんどんこういうものは取り入れなければだめだということがわかってくるのでありますから、現実の社会においては今のような政府の方針を強力に推し進めていくことが一番現在の段階としてはいいんではないか、こういうように私は考えておるわけであります。
#40
○滝井委員 中小企業にできるだけ経済的な基盤を与える、それから当面実情に即した最賃をやっていく、私はそれはよくわかると思うのです。しかし企業の中における労働力というものをもしマルクス流に一個の商品だと見てみますと、企業が買う原材料というものと、労働の価値をそのまま買うということは、これは一応企業から見れば本質的に同じなんです。その場合に原材料を、おれのところは小さいからこれを大企業よりかまけてくれということができるかというと、できないわけなんです。ものを買うときには、中小企業であろうと大企業であろうと、これは全部平等でしょう。ところが労働力だけを買うときは、大企業は高く中小企業は安くということは、実際これは受け取れないことになるのです。論理を煮詰めてみると、そういう論理になるわけなんです。そういう点、私はやはりものの考え方が資本主義経済的な考え方をされておる、きわめて冷厳な需要と供給の関係にさ
れておるけれども、ただそこに何せ日本は人口が多いんだ、昔の戦時中の言葉で言えば、人的資源があまり多過ぎるということのために、冷厳な経済原則で安くたたかれる、こういうことなんです。だからそれを政策でてこ入れをしよう、政治でてこ入れをしよう、そこにあったかい太陽の当る政治を、こういうことになれば、これは何もわれわれの言うようにそれが八千円でなくてもいいと思うのです。政府がこれならば企業がつぶれないという一線があればそれを出して、その上にそれぞれの企業の格差というか、あるいは企業の自主性というか、そういうものをやはり積み重ねて、そうして最低賃金をそれぞれの業者がきめるということならば話がわかると思うのです。そうでなくて、ただそういうものをきめずにまかせるというところにわれわれは問題がある、こういうことなのです。違うところは紙一重です。紙一重だけれども、山の頂上から流れていくせせらぎも、太平洋のまん中にいよいよ川が流れ込む段階になると、もう手の届かないことになるのです。それと同じように、私はここらあたりが一番大事なところだと思うのです。今倉石さんはパラレル――平衡的に中小企業の基盤を強化する、それから同時に実情に即した業者間協定をやるのだ、こういうことだけれども、私はどうもだんだん議論していくと、大して議論は違っていない、いわば山の頂上から分水嶺で分かれていって、せせらぎのときは左岸と右岸にあっても手が届いて、あまり変っていないが、だんだん一番下の河口にいくと大きく開くと同じような状態が、だんだん議論をしていくと出るような感じがするのです。私たちはどうもやはり、今いろいろ質問をした日本経済の構造の実態から考えても、やはり一律の――それはたとい額が小さくても一律の最低賃金というものをまずしかなければ、社会政策的な見地から考えても、日本経済の合理化もできないし、生産性の向上もできないのじゃないか、こういう結論に達するのです。だからそこらあたりがどうも紙一重の違いのようにあるけれども、だんだん先にいくと非常に大きな違いになってくるという感じがするのです。これは議論をしておっては並行になりますから……。
 そこでそういうわれわれのものの考え方なのですが、一体最低賃金を実施した場合に、雇用というものにどういう影響を及ぼすとお考えになっておりますか。雇用というものは、あなた方は業者間協定をおやりになればどんどん雇用が促進をされ、増加をするとお考えですか、減少するとお考えなのですか、最低賃金をやられた場合にどちらですか。
#41
○堀政府委員 最低賃金が業種、産業の実態に応じまして適切に制定されましたならば、これは大局的に見ましてやはりその産業における労働生産性を伸ばし、同時に企業の合理化、近代化を伴うものでありますから、大局的に見ますれば雇用にも好影響をかえってもたらすものである、このように考えております。
 しかしながら最低賃金が産業、企業の実態に即しないで制定されまするならば、やはりこれは局所的に摩擦を生じ、そのために企業の倒産あるいは解雇というようなことも生ずるのでありまして、このような見地からいたしまして、私どもは日本の実情では、産業別あるいは職種別あるいは地域別に適切な最低賃金を決定し、それを漸次拡大していく、この方向でいくことが望ましい。これによりますれば、やはり雇用の面では究極においては好影響をもたらすものである、このように考える次第であります。
#42
○滝井委員 そういたしますと、政府の見解では、大局的に見ると大体雇用は増加する、こういうことなんです。私も実はそうありたいと思うのですが、いろいろ読んでみると、どうも雇用が増加するのか、減少するのか、両論があって、実は私にははっきりつかみきれないから質問しておるのですが、政府の見解が最終的には企業をだんだん刺激をして雇用が増加する方向に向くという、そういう御確信をお持ちのようでありますから、ぜひそういう考えを持ってもらいたいと思います。
 それからさいぜん最低賃金と物価変動との関係をいろいろお尋ねしたのですが、最低賃金を実施した場合に、物価にはどういう影響を及ぼすとお考えになりますか。
#43
○堀政府委員 これも最低賃金のきめ方でございますが、最低賃金が産業、企業の実態に応じて適切な額で業種、職種別に決定されて参りますならば、物価に対するはね返りというものはそれほど考えないでいいのではないか、このように思っております。一、二の例を申しますと、現在まで業者間協定によりまして、賃金は一割ないし二割程度は上昇しておるわけでございますが、その上昇によるコストの増加率は割合に低いのでございまして、一%程度にとどまっておる場合が多いのでございます。さらに協定によりまして、協定領以上の労働者の賃金上昇、間接的な影響がありますから、このコストの増加率はややこれよりも高くなるとは思いますけれども、協定に伴いまして良質労働力が確保され、あるいは労働能率が向上する、あるいは企業の近代化、合理化による生産の向上があるというようなことを考えてみますると、結局これは生産性の向上ということによって吸収されると思うのでありまして、適切に最低賃金が決定実施されていきますならば、これによって物価を高騰させるおそれはない、このように考える次第でございます。
#44
○滝井委員 最賃が実施されれば、おそらく、私も物価の騰貴はむしろ非常に抑制されるのではないかという気持を持っております。というのは、今までるる述べたように、それぞれの企業家が全国的に最賃を実施する段階がやってくると、やはり相当ヒューマニズム的なものの考え方を持たなければならぬと思うのです。ある程度企業がやはり利潤を削り、犠牲的な精神がなければとても日本のこの零細な――八割五分か九割二、三分もある零細企業がやる段階が来るときには、相当人間改造、いわゆる事業主の人間改造が行われなければならぬと私は思うのです。そういう意味では、新しい技術をどんどん積極的に導入するというようなことで、勇猛果敢というか、そういう企業経営をおそらくやるだろうと思う。何かこういうのはショック論だ、最低賃金で一つのショックを受けて企業がむしろ立ち直るというような論で、物価には影響が少いということを書いている人もおりましたが、そういう関係で、その見解は私と同じでございますので、ぜひそういう方向に導いてもらいたいと思います。その場合に、最低賃金がいよいよそういうもので実施された場合に、国民経済が伸展をしていく、ここ数年は私はせいぜい四%か五%だと思いますが、同時に国民所得もそれだけ伸びていく。そうすると公務員や大企業の賃金水準が上ってくるわけです。最近賃金でベース・アップあるいは定期昇給がいろいろ問題になっておりますが、とにかく賃金が確実に上っていくことはもう当然なんです。その場合に最低賃金の引き上げを一体どうするかということなんです。国家公務員にベース・アップが行われ、大企業にベース・アップが行われるという場合に、その最低賃金の引き上げに対してあらかじめの原則をやはりきめておかないと、業者間協定というものになると、われわれ業者間で協定したのだからとほおかぶりをされる可能性がある。この場合に一定の原則をもって、人事院が何パーセント物価や民間の給与が上った場合には勧告をするのだというようなことがあるのと同じような原則というものを考えておく必要があると思うのです。これはもう日本のようなおくれた企業経営のもとにおいては、特にその必要が私は痛感せられると思うのです。これをあなた方は一体どうお考えになっているか。
#45
○堀政府委員 業者間協定等をもとにして最低賃金が決定されました場合におきまして、その後におけるいろいろな物価の変動、生計費の変動その他の事情がありましたような場合には、ただいまのような必要性も出てくる場合があるだろうと思うのでございます。そのような場合におきましては、やはりこれは当事者間の自主性を尊重する考え方からいたしまして、当事者間の協定の内容の改正の申請を求める、そしてそれによって最低賃金を改正していく、このような措置が必要ではないかと思うのであります。今回の法案の中にも、必要な場合にはそのような勧告ができるというように法文もなっているわけでございます。またそれとあわせまして、著しい変動がありまして、事情が著しく変化したというような場合においては、行政官庁の側においても、これは必要と認めた場合には最低賃金審議会等に諮問をいたしまして、そしてすでに決定した最低賃金についても改正を行う余地を設けることが必要であると考えまして、最低賃金法案の中にもそのような条項を設けておるわけであります。
#46
○滝井委員 私は事情が著しく変った場合には、それは常識になると思うのです。しかし国家公務員の給与が上り、大企業の給与がだんだん上っていくようになった場合に、単に勧告だけでは力が弱いと思うのです。やはりこういう場合には業者間協定でもこういう工合になるのだという点を明白にしておかないと、それがくぎづけになる。私らが一つのスタンダードを示せというのはここなんです。国民所得が伸び、あるいは所得が拡大してくればわれわれの生活内容もある程度変ってくるのです。そうすると人間が生活するだけの経費に少くともある程度文化的な経費が加えられてくるわけです。そうすると、最低生活というものは、ある程度物価をコンスタントにしておれば変らないにしても、文化的な経費というものはある程度変ってくる。これはベース・アップその他をやるについてもそういう点がやはり当然考慮されているのだから、従ってその分についても自動的に何か基準を作って上げるようにしておかないと、業者間協定というものは固定的な、ほとんど半恒久的なものになる可能性がある。そういう点で、やはり一定の基準を示して、その上にプラス・アルファというものが国民経済の伸展とともにやられるということが考えられなければいかぬと思うのです。そうしないと、どうも零細企業であればあるほど組織力がないのだから、そのまま置き去りを食うおそれがある。その基準を一体どうするかということです。これはあなた方だけが、上ったらあとは業者間協定で業者の御自由になさいということではやはり受け取れぬと思うのです。何かそこに、これだけぐらいはプラス・アルファとして上げるべきだというものがなければならぬと思うのです。賃金審議会で勧告をしたりいろいろ決定をするといっても、賃金審議会にも確たる標準、基準というものが持たれておらなければ、やはりいろいろ議論が起ってくると思うのです。そういう場合に一体どうするかというおよそのところでも御説明願いたいと思うのです。
#47
○堀政府委員 法文の中に一定の基準を設けるということも一つの考えだとは思います。しかしわが国のように業種、職種、企業規模、地位等によりまして経済力あるいは業態等につきまして著しい差異がある、多種多様な中小企業が並存している、このような事情におきましては一率な基準を法案の中に盛り込むというようなことは困難なことではないか、このように考えるわけでございます。しかしながら業者間協定をもとにいたしまして決定をされました最低賃金が、いろいろな事情の変更があってこれを改正しなければ社会通念上不適当である、このように思われるにもかかわらず、改正がないというようなことでは、これはまた企業保護の見地から申しましても適当でないと考えるのであります。われわれといたしまして、この場合に中央最低賃金審議会あるいは地方最低賃金審議会等において、常時このような事情は検討されているわけでございますから今回の法案の十四条等によりまして最低賃金審議会の意見を尊重して協定の改正等の勧告をすることができる余地も設けてございますし、またその勧告があった場合に、なお社会的にこの改正が必要であると認められるにもかかわらず、どうしても当事者がそのようなことをしないと思われる妥当な理由があります場合に、十六条の職権決定に基く最低基準の条項を発動する余地もあるわけでございます。さらに三十六条の第二項等によりまして著しく不適当であった場合には、職権で労働大臣が地方の基準局長にその改正の決定をすることを命令することができる、このような根拠規定も設けているわけでございます。われわれといたしましては中央最低賃金審議会、地方最低賃金審議会等の活用によりまして、ただいまのようなことをいたすことが適当になりましたような場合におきましてはいろいろな手が打てるような根拠を開いているわけでございます。
#48
○滝井委員 事情が著しく変るとか、著しく悪いというようなときはわかるのですよ。しかし国家公務員がべース・アップを行われた、大企業が行われたという場合に一体どうするかということなんです。実は著しくというのは臨時石炭鉱害復旧法、いわゆる臨鉱法にこういう条文があるのです。著しくその支払いが困難な場合というのがある。こういう場合には国が鉱業権者にかわって鉱害復旧をやる。そうすると著しく支払いが困難なというのは何なんだということなんです。著しく支払いが困難とは、われわれは破産の前だと思うのです。破産ではないと思うのです。ところが大蔵省の解釈ではそれが、著しく支払いが困難とは破産ですと、こう言う。われわれは著しく支払いが困難が破産ならば、なぜそこに破産だと書かないかというと、いやそういう支払いが著しく困難なというのはいろいろ段階があって困るから破産以外はだめですと、こういうことになるのと同じなんです。だからそういう表現は最後になると非常にシビヤーなものになってしまう。もう企業がのるかそるか、つぶれるかどうか以外は、今のままだ、こういう形になり得るのです。それじゃ国家公務員は上る、大企業は上ったのに、同じ種類の中小企業だけが最低賃金が上らぬというのは困ったことなんです。それはさいぜんから私が申し上げますように、もう少しやはり科学的に労働の質、労働の強度というものを全国的に御検討になっていただく必要があると思うのです。最近はずっと昔に比べて、坑内労働にしても昔の状態ではありません。ずいぶん変ってきております。従って労働の強度や質というものが非常に変ってきておるわけですから、そういう点ではものの考え方も私は変っているんじゃないかと思うのです。そこら辺あたり、どらもベース・アップや何かが行われた場合に、自動的にとまではいかなくても、やはりそこにある程度の基準というものを示す必要が私はあると思うのです。それなくしてやれば、業者間協定をやらしておって、業者の自主的な状態に待っておる、そうして非常に著しくその事態が変ったというときだけだということでは、これはやはり水かけ論になると思うのです。そういう点、一つぜひ明白にしておいてもらう必要があると思う。
 それからたくさんな労働者諸君が今後最賃のもとに入ることにおそらくなるのだと思うのですが、まあ日本においては十四才から十九才までの若い層の労働力率というものは男性ならば四四・九、女性で四一・八ぐらいか、この程度です。約半分程度が労働戦線に参加をしてきさておるわけですが、当然これらの新しい労働力のにない手の諸君も今後雇用関係につく限りにおいては、厚生年金とか健康保険とかというような社会保険に入ってくるわけです。そうしますと、今度中小企業の退職共済法も出ますが、これは任意加入ですからそのときにお聞かせを願いますが、労働者の給料の中から社会的な諸立法に対する負担というものが非常に増加をしてくるわけです。今でも多分千分の百十一ないし百十三ぐらいでなかったかと記憶しておりますが、相当のものが出ていくわけです。当然その最低賃金の中には、千円について百円前後のものがやはり払われる形というものが考慮されておらなければならぬと思う。手捺染その他で最低賃金はできておるわけですが、平均五千円、十五才程度では四千円ちょっとだったのですが、そういう人たちが千円について百円もの社会保険の保険料を払っちゃうわけです。そういう点は最低賃金をきめる場合にどういう工合に考慮をせられておるかということです。
#49
○堀政府委員 ただいまのように社会保険料等の負担も相当存在する実情でございますので、今後におきましても最低賃金法に基く最低賃金を決定する際の考慮の中にはそのような事実も当然考慮されなければならないと考えます。
#50
○滝井委員 考慮されなければならぬことは当然ですが、今までできた業者閥協定の中では一体どういう実態になっておるかということなんです。
#51
○堀政府委員 たとえば具体的に申し上げまして、神奈川の手捺染業の協定におきましては、社会保険料の負担もこの程度あるということを考慮いたしまして、月額六千円という最低賃金協定が行われたと聞き及んでおります。
#52
○滝井委員 実は午前中に御質問申し上げました通りで、最低賃金制度が確立をせられないために、日本の五人未満の事業所には完全に健康保険もできていないし、それから失業保険は任意だし、厚生年金もできていないという状態なんです。その上に今度は中小企業の共済法ができて事業主が出しますが、それらの国民保険は何もないという状態です。今度国民保険ができた、それから国民年金ができていくというように、業者間の協定の中からできる賃金からたくさんの社会保険の金を払わなければならぬという実態があるわけです。ところがそれが実際には出せないために、日本の零細企業には社会保障が進展をしない、こういう矛盾が起ってきておるわけです。こういう点は、労働省の所管には失業保険と日雇いの一部の関係ぐらいしかないために、労働省ではあまり重きを置かれないかもしれませんけれども、何せ賃金というものはやはり労働省の所管だ、一切の政策を生むもとはこの賃金なんです。国家の一般会計の財源も、実に源泉徴収の約九百万の諸君の納める税金によってまかなわれる、こういうことを考えると、やはり日本の労政というものはほんとうにバツク・ボーンを持って、そして労働省本来の目的に向って、ちょうど資本がおのれの目的を貫徹するために作用するように、やはり労働省ができたその本来の目的に向って作用をするということが、日本の労働階級を幸福にするし、同時にそれは日本の産業の発展にも非常に役立つものではないか、私はこう考えているわけです。あまり業者間協定ということでなくて、われわれも今度は労働組合その他とも十分話し合いまして、そうしてでき得べくんば、すみやかに日本に保守、革新、意気相投合をした最賃を作って、日本経済の基盤を確立したいという気持になりつつある。もう一日か二日でなってしまうのですが、そういう状態であるので、従って大臣の方も、やはりもう少し調子を落して、もっと政治の方向というか、日経連の中のチャンピオン、進歩的なグループである経済同友会が、岸内閣はどうも国民の向うべき方向を示していない、こう言っているのだから、一つ方向をともどもにこの問題について示すということで進んでもらいたいと思うのです。これで私の質問を終りますが、大臣の所見を一つお伺いしたいと思います。
#53
○倉石国務大臣 滝井さんの高邁なお話を承わりまして、非常によくわれわれもわかり、また参考にもなりました。ことに皆さんの方のお立場で、最低賃金法をこの国会で成立させたいということにしていただくことはまことにけっこうなことでありまして、もう一歩進めていただいて、政府案に御協力願うようになお一つこの際お願いをいたしまして、われわれもさらに勉強いたしたいと思います。
#54
○園田委員長 次会は明後六日午前十時より開会することとし、本日は、これにて散会いたします。
    午後四時十一分散会
ソース: 国立国会図書館
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