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1947/11/20 第1回国会 衆議院 衆議院会議録情報 第001回国会 司法委員会 第57号
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1947/11/20 第1回国会 衆議院

衆議院会議録情報 第001回国会 司法委員会 第57号

#1
第001回国会 司法委員会 第57号
昭和二十二年十一月二十日(木曜日)
    午前十時四十一分開議
 出席委員
   委員長代理 理事 石川金次郎君
   理事 荊木 一久君
      井伊 誠一君    石井 繁丸君
      榊原 千代君    打出 信行君
      中村 又一君    八並 達雄君
      山下 春江君    吉田  安君
      山口 好一君    大島 多藏君
      酒井 俊雄君
 出席國務大臣
                鈴木 義男君
 出席政府委員
        司 法 次 官 佐藤 藤佐君
        司法事務官   奧野 健一君
 委員外の出席者
        專門調査員   村  教三君
    ―――――――――――――
十一月十八日
 戸籍法を改正する法律案(内閣提出)(第一〇〇號)
十一月十九日
 訴訟費用等臨時措置法の一部を改正する法律案(内閣提出)(第一〇四號)
 家事審判法施行法案(内閣提出)(第一〇九號)
の審査を本委員會に付託された。
    ―――――――――――――
本日の會議に付した事件
 戸籍法を改正する法律案(内閣提出)(第一〇〇號)
 裁判官の待遇に關する問題について、政府の意見聽取の件
  請願
 一 伊東警察署警察官の職權濫用竝びに住居侵入に對し公正なる司法權發動の請願(高橋英吉君外四名紹介)(第四五六號)
 二 借地借家法の一部改正その他に關する請願(中村元治郎君紹介)(第一〇一〇號)
  陳情書
 一 東北辯護士會決議事項實現要望に關する陳情書(東北辯護士會連合會)(第五七號)
 二 借家人保護の法律制定に關する陳情書(横濱市山田秀作)(第五九號)
 三 札幌高等裁判所の支部を函館市に設置の陳情書(函館市長坂本森一)(第七二號)
 四 最高裁判所の裁判官選定に關する陳情書(全國司法部職員組合中央執行委員長平本東平)(第一一九號)
 五 同居借家人の權利保護に關する陳情書(會社員伊藤義一)(第一五二號)
 六 簡易裁判所設置に關する陳情書(茨城縣猿島郡境町長沼田安兵衞)(第一七八號)
 七 民法の一部を改正する法律案修正に關する陳情書(全日本辯護士會第一東京辯護士會)(第二〇三號)
 八 法曹一元制度實現に關する陳情書(浦和辯護士會長會田惣七)(第二八二號)
 九 犯罪の捜査取調等に關する陳情書(長野縣北安曇郡松川村柳田瀧澤脩之助)(第二九六號)
一〇 松江地方裁判所に廣島高等裁判所支部設置に關する陳情書(松江辯護士會長吉田亥市)(第二九九號)
    ―――――――――――――
#2
○松永委員長 會議を開きます。
 戸籍法を改正する法律案を議題といたします。まず本案に對する政府の説明をお願いいたします。奧野政府委員。
#3
○奧野政府委員 戸籍法を收正する法律案につきまして、提案理由を御説明申し上げます。
 日本國憲法の施行に伴い、民法の親族編及び相續編が全面的に再檢討され、その改正が行われることとなりましたが、かかる人の身分關係に關する實體法規が變更されてまいりますと、身分關係を登録する戸籍の制度についても、必然的にその改正を要するに至ることは、申すまでもありません。殊に民法から戸主、家族その他家に關する規定が全部削除されますと、家を單位に、かつ戸主をもととして編成しておりました現行の戸籍は、その編成そのものの根本からこれを改めてまいらなければならぬこととなります。よつて政府は民法の改正事業と併行して、戸籍法改正につき所要の準備を進めてまいり、また民法改正案中親族、相續編の條文が國語體に書き改められたことに對應しまして、本改正案も、その條文全部を口語化し、國民一般の理解を容易ならしめることに努めたわけであります。
 以下本改正案の重要なる諸點について、簡單に御説明申し上げます。
 まず第一は、さきに一言いたしました通り、これまで家を單位として編成されておりました戸籍の編成方法を改めた點であります。從來戸籍は各家ごとに編成され、いわば家の登録とも申すべきものでありましたが、民法の改正によつて、この家の制度が廢止されることとなりますと、戸籍を編成する基本的な基準が、まつたく失われることになります。しかしながら、戸籍を各個人ごとに編成することにいたしますと、各個人問相互の續柄が不明瞭となり、國民一般に非常な不便を感ぜしめるとともに、他方戸籍事務の取扱上、豫測すべからざる困難を招來することとなります。從つて他にその編成の基準を求めなければならぬわけでありますが、その基準としては、夫婦親子を單位とする以外に、他に適當なものを見出しがたいのであります。よつて本改正案では、その第六條において、戸籍は夫婦及びこれと氏を同じくする子をもつて編成することにいたしました。そしてこの編成方法は、戸籍をして、ある程度現實の親族共同生活體に即應せしめることにもなろうかと存じます。かようなわけでありますから、子が婚姻いたしますと、その夫婦について新たに新戸籍を編成することとなるのでありまして、第十六條がその規定であります。また夫婦親子を單位として、戸籍を編成いたします關係上、祖父母と孫とは戸籍を同一にすることはないのでありまして、そのため第十七條で戸籍の筆頭に記載した者またはその配偶者以外の者が自己と同一の氏を稱する子または養子を有するに至つたときは、別に新戸籍を編成することにいたしております。右のように、戸籍の編成方法を根本的に改めることといたしましたが、しかし經過的には、現行法の規定による戸籍全部を、ただちに編成替えいたしますことは、無用の混亂と煩雑を來すのみでありますから、第百二十八條によつて、かかる戸籍はこれを本改正案の規定による戸籍とみなし、ただ今後十年を經過したときに、これを改正することにいたしました。また轉籍の場合も、第百三十七條により、從前の戸籍によつてそのまま同じ戸籍を編成することといたしております。
 第二は、從來戸籍を表示するには、戸主の氏名及び本籍でいたしておりましたが、本改正案では、戸籍の筆頭に記載した者の氏名及び本籍で表示することに改めました。そして戸籍の筆頭には、夫婦が夫の氏を稱するときは夫、妻の氏を稱するときは妻を記載することにいたしております。なお從前は戸主が死亡その他の事由によつて戸籍から除籍されたときは、他にこれと戸籍を同じくする者があつても、家督相續届により、新戸籍を編成しておりましたが、これを改め、他に同籍者がある限り、戸籍の筆頭に記載した者が除籍されても、その戸籍はそのままとし、ただ全員除籍になつて初めてその戸籍を除籍簿に移すことといたしております。從つてかかる戸籍の表示は、その筆頭に記載した者がたとい除籍となつても、その者の氏名及び本簿でこれを表示することといたしました。第九條、第十二條、第十四條等がこれらに關する規定であります。
 第三は、現行戸籍法では、いかなる場合に一定の戸籍に入り、または新戸籍を編成すべきかは、一に民法上の入家または一家創立に關する規定によつておりましたが、民法上かかる規定が削除されます結果、本改正案では入籍、新戸籍編成または除籍の事由は、それぞれ戸籍法上これを列擧的に規定いたしました。第十六條ないし第二十三條がそれでありまして、大體民法上の氏が改まれば、これに應じて、その者の戸籍を改めることにいたしております。
 第四は、新憲法の施行及び民法の改正に伴い、現行戸籍法から隠居、家督相續、推定家督相續人の廢除、家督相續人の指定、離籍、復籍拒絶、廢家、絶家、分家、廢絶家再興、族稱の變更及び襲爵に關する規定を全部削除するとともに、他方後見監督人、姻族關係の終了、推定相續人の廢除及び分籍に關する諸規定を、新たに設けることにいたしました。分籍については、戸籍の筆頭に記載した者及びその配偶者を除いては、成年に達した者は自由に分籍できることにいたしております。
 第五には、わが國の人口動態統計は、從來より戸籍上の出生、婚姻、離婚及び死亡の届出に基いて集計されておりましたが、昨年七月以降この人口動態統計が、連合軍總司令部の指令に基いて畫期的に改善され、これに即應して戸籍法も數次の改正を見たのでありますが、さらにまたその要請にこたえるため、本改正案第四十八條、第四十九條等で、出産届に醫師、助産婦その他の者の出生證明書を添附させ、出生の年月日等に關する不實な記載を防止し、他方又届書等につき、ある程度その公開を制限する等の處置を講ずることといたしました。なお、昭和二十一年司法省令第四十七號で、出生または死亡届をそれぞれ事件發生地で届け出さすこととなつておりますが、本改正にあたり、これを戸籍法中に織りこみ、右省令は廢止することにいたしました。第五十一條、第八十八條、第八十九條及び第百三十八條等が、これに關する規定であります。
 第六は、子の名には、常用平易な文字を使用せしめて、もつて常用漢字表制定の趣旨に副うため、新たに第五十條の規定を設けてあります。またさらに、この趣旨を徹底するために、明治五年太政官布告第二百三十五號、改姓名に關する件を廢止して、家事審判所の許可のもとに改姓名を比較的容易ならしめることに改めました。第百七條及び第百三十八條がその規定であります。なお、明治六年太政官布告第百十八號御歴代の御諱及び御名の文字の使用に關する件は、新憲法の精神に反しますので、この際これを廢止することといたしました。
 最後に、戰時立法たる昭和十五年法律第四號、委託または郵便による戸籍届出に關する法律を廢止するとともに、同法中郵便による届出で死亡後到達したものの效果を認めている規定は、本改正案第四十七條にこれを織りこむことといたしました。なお、國籍法を改正する法律案は、諸種の事情のため、この法律案とともに本國會に提出することが困難となりましたので、戸籍法中國籍得喪の届出に關する規定は、本法律案では一應これを現行法通りといたしておきまして、近く御審議を願うべき國籍法を改正する法律案において、この部分につきさらに所要の改正を試みる所存であります。
 以上が本法律案の大要であります。何とぞ愼重御審議の上、速やかに可決せられんことをお願い申し上げます。
#4
○松永委員長 本日は政府の説明に止めます。
    ―――――――――――――
#5
○松永委員長 次に請願の審査にはいります。日程第二、借地借家法の一部改正その他に關する請願、中村元治郎君紹介、文書表第一〇一〇號は、紹介議員中村元治郎君より取下げの申出でがありますが、これを許可するに御異議ありませんか。
  (「異議なし」と呼ぶ者あり)
#6
○松永委員長 それでは本件は取下げに決しました。日程第三は紹介議員が見えておりませんから、次會に讓ります。
 暫時休憩いたします。
    午前十時五十五分休憩
     ――――◇―――――
    午前十一時二十一分開議
#7
○石川委員長代理 休憩前に引續いて會議を開きます。
 陳情書の審査に移ります。新國會のもと陳情書の審査は請願の審査に準じて取扱うことになつておりますので、請願に準じて審査を進めたいと存じます。御異議ございませんか。
  (「異議なし」と呼ぶ者あり)
#8
○石川委員長代理 それではそのように審査を進めます。
 日程一、東北辯護士會決議事項實現要望に關する陳情書、東北辯護士會連合會呈出、文書表第五七號を議題に供します。まず專門調査員に御説明を願います。
#9
○村專門調査員 一、刑事被疑者の辯護人選任は起訴後も有效とするよう取扱い及び立法について考慮せられたし。二、仙臺高等裁判所管内各地方裁判所本廳所在地に急速に高等裁判所支部を設置せられたし。三、重大なる事實の誤認竝びに量刑のはななだしき不當を上告理由とすることを新刑事訴訟法に規定せられたし。四、新憲法その他の司法關係法規の趣旨を一般國民に徹底せしめるために朝野法曹一致協力して適切なる啓蒙運動を開始すること。五、新設の簡易裁判所及び區檢察廳の職員の充實、廳舎その他施設の整備を迅速に進捗することを講ぜられたし。六、當局に對し國民の住居の安定に關する急速なる立法を要望す。なお緊急的措置として借家法を左のごとく改正せられたし。
 (イ) 家主が貸家を賣渡す場合は借家人に對し優先買取を認むること。
 (ロ) 家主の賃貸借契約の解約の豫告期間はこれを二年とす。七、速やかに陪審法を改正し眞に民主的なる陪審制度を確立してこれを實施すべし。八、新法令廢布ごとに司法省は必ずこれが印刷物を各辯護士會に配布するよう取扱はれたし。九、刑事訴訟法の民主主義的運用につき格段の留意せられたし。
 (イ) 罪證を湮滅しまたは逃亡のおそれなき限り不拘束のまま起訴すること。
 (ロ) 拘束起訴の被告人は逃亡のおそれなき限り遅くとも事實審理終了と同時に保釋すること。
 (ハ) 刑の執行猶豫の言い渡しありたるときは刑事訴訟法第三七一條第一項に則り確定を待たずして即時放免すること。十、裁判官の報酬はその體面の保持及び職務遂行に十分なるよう決定せられたし。十一、最高裁判所における辯護士竝びに訴訟代理人の資格の制限に反對す。以上であります。
#10
○石川委員長代理 この際政府の御意見があれば承りたいと思います。
#11
○佐藤(藤)政府委員 それではただいまの陳情の各項についてお答えいたしたいと思います。
 第一は刑事被疑者の辯護人選任の效力の問題でありまするが、刑事被疑者が辯護人を選任する場合に、起訴後もなお選任の效力があるかどうかということについては議論がありまして、ただいまのところ司法省としては、起訴前の辯護人の選任は、起訴まで效力がある、起訴せられた後は、新たに辯護人選任の手續をしなければならぬという解釋をとつておりまするけれども、さような解釋によつて運用する場合の御不便もいろいろ、生じまするので、近く刑事訴訟法の全面的改正の際には、その點について、明文をもつて解釋いたしたいと思いまして、その解決案について考慮いたしておるのであります。
 第二は仙臺高等裁判所管内各地方裁判所所在地に高等裁判所支部を設置せられたいという件でありまするが、裁判所の支部の設置に關する事項は、裁判所法の規定によりまして、最高裁判所の權限に屬しておりまするので、近く最高裁判所の陣容が整い最高裁判所が括發に活動を始めるようになりました際には、必ずや御期待に副うようにできるだろうと存じまするが、司法省といたしましても、趣旨はよく了承いたしましたので、最高裁判所に對して、その旨を至急傳達いたしたいと存じております。
 第三は重大なる事實の誤認竝びに量刑のはなはだしき不當を上告理由とすることを新刑事訴訟法に規定せられたいという點であります。昨年の法制審議會の方針に基きまして、現在新しい刑事訴訟法の立案に從事いたしておるのでありまするが、法制審議會の答申によりますれば。重大なる事實の誤認竝びに量刑のはなはだしき不當な理由をもつて上告することを認めないということになつておりまするので、この點は最近立案せらるべき新刑事訴訟法においては、御趣旨に副うことはできないと思うのでありまするけれども、今後さような點については新刑事訴訟法の實施後においてさらに檢討いたしたいと存じておるのであります。
 第四は、新憲法その他司法關係法規の趣旨を一般國民に徹底せしめるようにせられたいという點であります。御趣旨のほどは、まつたく同感でありまして、これからの司法は、國民一般の深い理解と力強い協力がなければ、正しい運營が期待しがたいのでありまして、司法省におきましても、この點については、いろいろと一般國民に徹底せしむるように計畫を立て、また努力いたしておるのであります。しかしながら、この啓蒙運動につきましては、何分豫算も伴うことでありますので、とりあえずこのたびの議會に提出されました重要法案、たとえば刑法、民法、その他すでに實施されておる應急的刑事訴訟法の普及から手始めをいたしておるのでありまして、この普及徹底に關する具體案については、目下考究中でありまするから、今後かような普及宣傳をなすについては、一般國民も心からなる御協力を願いたいと存じておるのであります。
 次は、第五の、新設の簡易裁判所及び區檢察廳の職員の充實、廳舎その他の整備進捗に關する點であります。簡易裁判所及び區檢察廳の職員を充實し、かつ廳舎その他の施設を整備することにつきましては、御承知のごとく、最高裁判所の内容が、まだ十分に整つておらぬ關係から遅延いたしておりまして、各方面に御不便御迷惑をおかけしておるのでありますが、近く最高裁判所も全部整備することと思われますので、簡易裁判所の職員廳舎等もおいおい充實整備せられることと存じておるのであります。また區檢察廳の方も、これに從いまして、鋭意職員や施設の充實整備に努力いたしたいと存じまするから、さよう御了承の上何分の御援助をお願いいたしたいと存じます。
 次は第六、國民の住居の安定に關する點でありまして、その中の(イ)として、家主が貸家を賣渡す場合は、借家人に對して優先買取を認めること、(ロ)家主の賃貸借契約の解約の豫告期間はこれを二箇年とすることという點でございます。御承知のように、住宅が極度に拂底いたしておりまするので、現在の國民の住宅問題は、一日もゆるがせにできない問題であります。政府も種々對策を講じておるわけでありまして、借家關係の法令の立法が、その解決の一助となりまするならば、政府といたしましても、かかる措置を講ずるに、何らやぶさかでないのでありまして、これに關しては種々研究を續けている次第でありますが、しかしながら、借家人保護に關する限りは、現行借家關係の法令におきましても、相當程度考慮が拂われているのでありまして、要するに、これに對する借家人の態度、すなわち借家人が積極的に法律の保護を求めるかどうかという問題であろうかと存ずるのであります。借家法改正の御意見につきましては、(イ)の點について申し上げますと、借家人は、家主の交替には關係なく、正當の事由がある場合でなければ、借家法上家屋明渡しの要求に應ずる必要はないことになつておるのであります。その正當の事由の解釋につきましても、現在の住宅事情に即して解決せられているのでありますから、さらに借家人に對して優先買取權を認むるの必要はなかろうかと存じております。次に(ロ)の點について申し上げまするに、借家法上家主の解約申入は、次上のように正當の事由のある場合に限つてなし得るのでありまして、しかもその事由が現在の住宅事情に即して解決せられております以上は、かかる事由に基いてなさるる解約の申入について、さらにその豫告期間を二年延長するということは、善良なる家主をいたずらに苦しめる結果となろうかと存ぜられます。
 次は、第七、陪審法を改正して眞に民主的なる陪審制度を確立せられたいという點であります。これについては、裁判所の廳舎その他の施設との關係を十分に考慮しなければなりません。現在全國の裁判所の廳舎が戰災をこうむつておりまして、法廷のみならず、陪審員の宿舎等も使用にたえない所が多いのでありますので、これらの施設を十分に整備しなければ、とうてい陪審法を實施することができませんので、一面においてその施設を整備すると同時に、他面において、現在の陪審法をさらに檢討して、御趣旨に副うように、十分研究してみたいと思つております。
 次は第八の、新法令發布ごとに司法省は必ずこれが印刷物を各辯護士會に配付せられたいという點であります。御承知のように、印刷の用紙が昨今極度に逼迫しているために、司法省の確保できまする用紙も、必要量に對してはなはだしく不足しておりまして、印刷物の發行も部數も思うようにいかない状態であります。從つて、御趣旨のほどは十分了解いたすのでありますから、部數の許す限り御希望に沿うようにいたしたいと存じております。
 次は第九、刑事訴訟法の民主主義的運用につきまして、(イ)として罪證湮滅しまたは逃亡のおそれなき限り不拘束のまま起訴すること。(ロ)拘束して起訴した被告人は逃亡のおそれなき限り遲くとも事實審理終了と同時に保釋すること。(ハ)刑の執行猶豫の言渡しありたるときは刑事訴訟法第三百二十一條第一項に則り確定を待たずして即時放免することという點であります。御意見のように、刑事訴訟法の民主主義的運用につきましては、政府といたしましても、格段の留意をいたしておりまするので、その線に沿うて目下刑事訴訟法の全面的改正を立案いたしておるのでありまして、御趣旨に沿うように民主主義的な刑事訴訟法の實現竝びにその運用について、さらに努力いたしたいと存じます。
 次は裁判官の報酬についてであります。裁判官の待遇につきましては、その職務の性質上、十分の考慮を拂わなければならないと存じます。特に憲法の改正によつて、裁判官の地位と職責は、きわめて重要なものになつたのでありまするから、その待遇を向上し、これに適材を得まして、その職責の遂行に遺憾なからしめることが必要であります。司法當局におきましても、將來裁判官の待遇の向上に努力はしておるのでありまするが、今後も十分その方面に努力いたしたいと存じます。裁判官の報酬は、裁判所法によつて別に法律で定めることになつておりまして、現在は裁判官の報酬等の應急的措置に關する法律によつて定められておるのであります。この法律によりますれば、最高裁判所長官の報酬は内閣總理大臣の俸給と同額であり、最高裁判所判事の報酬は、國務大臣の俸給と同額である。高等裁判所長官の報酬は、國務大臣の俸給と次官の俸給の間で、最高裁判所が定める額となつております。さらに高等裁判所判事の報酬は、一級の官吏の俸給、地方裁判所判事の俸給は、一級及び二級の官吏の俸給、判事補は二級の官吏の俸給、簡易裁判所判事は二級の官吏の俸給の範圍内で、それぞれ最高裁判所が定める額ということになつておりまするが、このたび議會を通過いたしました裁判所法及び裁判所法に伴う裁判官の報酬に關する法律の改正によつて、地方裁判所の判事の報酬が、全部一級の官吏の俸給、それから簡易裁判所の判事は一級または二級の官吏の俸給というふうに改正せられて、その待遇が向上するようになつたのであります。なお本年度豫算における裁判官の報酬については、これは省略いたしたいと存じます。
 最後に最高裁判所における辯護人竝びに訴訟代理人の資格の制限に反對であるという點でございます。憲法第七十七條には「最高裁判所は、訴訟に關する手續、辯護士、裁判所の内部規律及び司法事務處理に關する事項について、規則を定める權限を有する。」と規定しておるのでありまして、この最高裁判所の規則制定權は、最高裁判所が獨立して行うものでありまして、これに對する政府の干渉は、もとより許されないところであります。しかして最高裁判所の辯護士に關する規則は、最高裁判所の裁判官が任命された後、新憲法に定められた最高裁判所の權限に基いて制定されることになるのであります。かように最高裁判所の規則の制定につきましては、政府はもちろんこれに關與すべき限りではないのでありますが、最高裁判所において、將來この規則制定權に基いて辯護人竝びに訴訟代理人の資格について何らかの制限を加えるかどうか、その點は政府としてまつたく承知いたしておらないのでありまするが、御希望の點については、十分最高裁判所の方に連絡をいたしたいと存じております。以上陳情の事項について、簡單に御答辯いたした次第であります。
#12
○石川委員長代理 本案について御質疑ございませんか。
#13
○打出委員 一、二の點をさらに御質問申し上げたいと思います。拘束せられておる被告に對しまして、逃走もしくは證據湮滅のおそれがなければ、民主主義の本則に則つて拘束を解くべきであるという意味の陳情書でございましたが、私どもはまつたく同感であります。しかし中には裁判官の中で、誤つて拘束をするのは、その被告に對する懲罰の意味も十二分に附加してある、こういうような意味からいたしまして、りつぱに家ももつておるし、妻子もあるし、又證據も揃つて、自白も十分完全にいたしておる。こういうような被告を拘束いたしておるという事實は、全國においてはおびただしき數に上ると思うのであります。さいわいに司法大臣も御出席になつておりますからして、原則的に逃走のおそれのない者、たとえば第三國人のごとく、住所不定というような者は別といたしましても、家族もあるし、相當な生活もいたしておるし、社會的の地位もあるし、逃走ならびに證據湮滅のおそれがないというものに對しては、公判前においても保釋を許していただくように、各裁判所の方に内訓をしていただきたいと思うのですが、これに對してどういうお考えをもつておられるか承ります。
#14
○鈴木國務大臣 御質問の件は、私どもとしては、至極贊成でありまするが、ただ裁判所が保釋を許しますので、司法省としては、直接干渉はできない。檢事の態度としては常に勾留を短縮し、逃走、證據湮滅のないものはできるだけ保釋を許すことに同意するように、また解除するように訓示いたしております。その趣旨は十分徹底しておると信ずるのでありますが、なおこの上ともこの點は努力いたすつもりであります。裁判所に對しましても、間接ではありますが、そういうふうに努力いたすつもりであります。
#15
○打出委員 なお御承知のように、今日のごとく非常に犯罪人が多いという場合に、私は熊本の例しか知りませんが、おおよそ全國の例もそうかと思いますが、未決監の不足のため、共犯の關係にある被告でも、同房に拘禁するというようなことで、證據湮滅というようなことは、ほとんど口頭禪でありまして、實際においては行われてないのであります。證據湮滅のために拘束するという建前であるならば、思い切つて未決監の増築、増房といいますか、そういうものに努力をしていただきたいと思います。戰争前においては、熊本の例を申しますると、未決監に呻吟する被告が五十名、六十名もありますれば、大入り繁昌の様子であつたのが、今日參つて見ますと、四百十數名の被告が、狭い部屋に拘禁せられておるというような状態であります。檢事はお話のように、拘束して公判に臨むということが、あるいは檢事の建前としてしかるべきかと思いますが、私どもは何も一定の住所を有し、家族も有し、職を有しておる人を、懲戒の意味において、そういうところに拘禁する必要は毛頭なかろうと思うのであります。これに對しても、善處をお願いいたしておきたいと思います。
 なおもう一つは、近來新憲法の實施に伴いまして、ややともいたしますると、被疑者がすべての直接間接の證據は完備いたしておるにもかかわらず、自白をしなければ無罪になるのだというような誤つたる觀念からいたしまして、極力自白をいたさない、否認をいたす。またそれに相呼應しまして――呼應というと語弊がありますけれども、ある裁判所においては、證據のいかんにかかわらず、本人が自白をしないというので、新憲法に則つて無罪の判決をしたというような新聞記事も拝見するのであります。新聞記事が間違つておるのかどうか存じませんけれども、そういうようなことになりますれば、これはゆゆしき問題でありまして、いわゆる新しき法律を國民に周知せしむるということは、私ども贊成いたしますけれども、そういう誤つた觀念を植付けるということは、これはいかがなものであろうかと、私どもは痛感するのであります。その點につきましても、司大臣といたしましては、それに對して善處していただきたい。これは希望を申し上げておきます。
#16
○石川委員長代理 他に御質問がありませんか――なければ陳情書で審査中であります裁判官の待遇問題について司法大臣に對する質疑の申出がありますので、この際特にこれを許します。大島多藏君。
#17
○大島(多)委員 私は元東京地方裁判所判事故山口良忠氏の悲壮なる餓死事件につきまして、司法大臣に御意見を質してみたいと思うのであります。
 先日私は所用のため、郷里佐賀に歸つたのでありますが、たまたま私が佐賀におりますときに、山口判事の榮養失調による死を、大阪朝日新聞の記事によつて知つたのであります。山口判事と私とは別に面識があるわけではありませんが、同判事の厳父にあたる人は、多年教育界に盡瘁をなさいまして、教育界の長老であり、教育界引退後は、郷土神社の神官を勤め、現に佐賀縣神社廳の副廳長をしておられる人格高邁なる佐賀縣における最も尊敬すベき人士の一人であるのであります。この父にしてこの子あり、故山口判事は、郷土の中學校、高等學校を通じて、ともに抜群の成績をもつて卒業し、東大法科に進み、卒業後司法界に入り、若手判事として令名錚々たる人でありまして、郷土の人は同判事の將來に對して非常なる期待をかけておつたのであります。身を持することきわめて厳、しかも他に對しては寛容、稀に見る高潔な人格の所有者でありましたことは、司法官として最適任者であつたのであります。たまたま無謀なる今次大戰の結果、食糧事情緊迫により食糧管理法の施行を見たのでありますが、同法の施行はかえつて一般大衆の食糧事情惡化に拍車をかけることになり、食糧のやみ取引はあらゆる階層の人々の常識となり、やみ買いなくしては生存を續けることは不可能の状態にまで立至つたのであります。すなわち國家の法律たる食糧管理法に牴觸することなくしては、一週といえども生存を續けることかできないということは、遵法の精神に富める正直者の生存を許さないという一大矛盾を惹起することになつたのであります。世の一般の人々は、すべて予盾の前に遵法の精神と正直さとを犠牲に供することによつて、今日まで生存を續けてきたのでありますが、故山口判事は、神聖なる司法官としての立場上、國法を犯さんよりも、むしろ死を選ぶ決意をなしたのであります。この遵法の精神は、まさに鬼神を泣かしめるものがあるのであります。世のいわゆる常識論者中には、この山口判事の悲壮なる死を目して、かたくななる變質者のごとく、冷やかなる論評途を加える者なきにしもあらざる状態でありますが、まことに痛憤のきわみであるのであります。まさに故山口判事こそは、遵法の神であり、かの惡法と知りつつも、國法なるがゆえにわれこれを護ると叫んで、國法の前に從容として毒杯を仰いだソクラテスにも比すベきものだと思います。あるいはまた刻々に迫りつつある死を直前にして、後世の潜航艇の改善のために、尊い死の記録を殘した軍神佐久間艇長の死と、まつたく同一のものであると思うものであります。私は何も故山口判事と同様の行為を現在の司法官にこれを求めるものではありません。なぜならば、かかることは神のごとき人でなければ行い得ないからであります。一般人に神の行為を求むるは、これ無理であります。私が強調いたしたいのは、故山口判事のその遵法の精神であります。この尊い遵法の精神ありてこそ、新日本の秩序は保たれ、道義の高揚は可能であり、司法の尊厳は護られ得ると思うのであります。もし山口判事が司法官でなかつたならば、おそらくこの悲壮なる死から免れ得たでありましよう。司法官なりしがゆえに、かかる死を選ばざるを得なかつたことは、殘された遺書によつても明らかであります。遺兒二人には、決して司法官たらしめるなと遺言をされておりますのを、司法大臣はいかなる感慨をもつてみられるのでありますか。故山口判事の死は、まさに悲壮なる殉職であります。私は先日歸省した折に、故山口判事の厳父に車中でお目にかかつたときに、いろいろ故判事のことに關しまして伺つたのでありますが、司法大臣から弔電をもらわれたというようなことは、遺憾にして、私は聞かなかつた次第であります。かかる尊い部下の殉職に對し、當然相當の弔意をお拂いになるということは、部下職員をして、眞に職務に挺身する氣持を起さしめることになると思うものであります。もちろん大臣は非常に多忙であられますから、そこまでは手が届かなかつたかもしれませんが、そのことは今でも遅くはないと思う次第であります。なおそのときに承りましたことによれば、故山口判事の夫人も榮養失調のため、目下容態が危險に瀕しているということでありました。私はこの山口判事の殉職を契機として、臺閣に列しておられる司法大臣から、國法を犯さなければ生存が不可能であるというような事態が、一日も早く解消されるように、適當なる處置を講ぜられんことを望む者であります。同時にまた後顧の憂いなくして司法事務に專念できるように、司法官の待遇を改善されんことを望むものであります。また故山口判事の悲壮なる死をいかにお考えになるか。私は殉職なりと思うものでありますが、司法當局はいかなる見解をもつておられるのであるか。またその遺族に對しては、いかなる處置を講ぜられんとするものであるかも、併せて私はお尋ね申し上げたい次第であります。
#18
○鈴木國務大臣 お答えいたします。山口判事の神のごとき死につきましては、非常に社會全體に感激と衝動を喚び起しまして、いろいろ問題になつておることは、仰せの通りでありまして、私も國會外の他の機會において、幾たびか質問を受けて、お答えをいたしております。先日もラジオの、大臣に聽く會におきましても、その問題に觸れまして、崇高なる山口判事の死に對して深く慶弔の意を表しておいた次第であります。ただ弔電を出し、あるいは弔慰金を贈るというようなことについての點は、多少大島委員に誤解があられるのではないかと存ずるのであります。司法省は新憲法實施の五月三日から、裁判所と別れてしまつたのでありまして、裁判所の職員に對しましては、何の監督權も、管轄權もないわけであります。これは最高裁判所長官がおもちになつておられるのでありまして、最高裁判所長官から相當の弔意を表し、弔慰金のようなものも贈つてあることと信ずるのであります。從つて私が山口判事についてお答えをいたしまするのは、ただ國務大臣の一人として他の大臣の場合と同じように、山口判事の死に對して感想を申し上げるということに相なるのであります。私、部下の同じような問題、あるいは殉職の問題等につきましては、十分鄭重な處理を常に講じておりますので、そのことは御了承おきを願いたいと思います。
 それから山口判事の死を招來するような配給機構の不完備、物資を十分に配給することかできない經濟體制を招來いたしておりますことは、確かに政治の貧困でありまして、私どもの責任であり、深く恐縮に存じ、恥じ入る次第であります。このことにつきましては、委員各位も御承知のように、現内閣といたしましても、何とかしてやみをやらずに生きていけるような經濟體制を樹立したいというばかりに、いろいろな經濟對策を提出し、またいろいろな方面からこれを促進するように努力いたしておるのであります。イギリスの國民のように、非常な窮乏であるが、斷じてやみはしない。自分だけ抜けがけの功名式に物を買うというようなことをしないような、道義が徹底しておる國においては、經濟對策も非常にやりよいと思うのでありますが、遺憾ながらわが國におきましては、そういう道義心が十分に發達しておりませんために、政府があらゆる施策をいたしますにもかかわらず、その裏をくぐり、その裏をくぐるという傾向が強いために、政策が十分に效を奏さないことは、遺憾に存ずるのであります。しかしながら、あらゆる手を打つて、という希望をもちまして、數日前の閣議におきましては、生鮮食料品、蔬菜その他主食物以外の生活必需食糧品の横流れを絶對に防ぐ、こういう方策を立てました。各省の協力を得て、司法省も檢察陣をひつさげてこれに參加することはもちろんでありますが、ほとんど内閣全體の各省の助力を得て、一物といえども横流れをさせないというふうに、ひとつやつていこう。じやないか。こういうことを申し合せ、その要綱も議決いたしまして、それぞれ關係方面に指圖をいたしまして、いよいよやるという腹をきめておるような次第でありまして、今後できるだけひとつ御期待に副うようにいたしたい。待遇改善の點は、たびたび申し上げてありまするし、またこの委員會におきましても、裁判官の待遇改善のために適切な議決をくださつたのでありまして、裁判官の方はその通り實行されことに相なつたのであります。これにならいまして、私の方の管轄にあります檢事、檢察補佐官等は、同じような率において優遇されるということになつたわけであります。但し金錢的報酬を殖やしただけでは、今日の生活難、榮養失調は解決されない問題でありますから、實は私も司法省部内の人々に、消費組合のようなものを擴大強化いたしまして、せめて副食物のようなものから、いろいろなものを合理的にもつと廉價に手に入れることができるような組織をつくり、同時に實行をいたしたい。それに必要な資金等も銀行等から借入れまして、そうして増額せらるる俸給等を擔保にしてやりたいと實は考えて、實行の著手までいたしたのでありますが、遺憾ながらやみでないものを買うということは、非常にむずかしい。司法省が率先してやみのものを買つたということでありましては、遵法心に反するばかりでなく、國民道義の點にも惡影響がありますので、絶對にそういうことはしないという方法のもとにということになりますると、現在の状況では、不可能に近いということで、行き悩んでおる次第でありまするが、とにかく待遇改善につきましても 眞摯なる努力をいたしておるということだけを申しまして、お答えにいたしたいと存じます。
#19
○大島(多)委員 ただいまは山口判事に對する弔意の件に關しましては、私の方が從來の考えから錯覺を起しまして、失禮申し上げました。それからその他のことにつきましては、御懇切なる御答辯をいただきまして、感謝する次第であります。
 それから簡易裁判所の權限についてお伺いしたいのでありますが、簡易裁判所の權限が、あまりに過少に過ぎる結果、その必要性さえも疑われてくることになるのであります。せつかく設置されるとなれば、現在のように五百圓以下の罰金刑までに止めるということではなくて、相當範圍を擴張いたして、三年以下くらいの懲役刑に相當する犯罪事件をも、簡易裁判所で取扱うようにならぬものだろうかということを、各地方では大體要望しておるようであるわけであります。現在では懲役に値いする罪は、すべてこれを地方裁判所で取扱う結果、地方裁判所は、非常に繁忙をきわめておりまして、悲鳴をあげておるような現状であります。その上、第一審に不服の場合は、高等裁判所へ控訴などをするとなれば、大抵の場合、相當遠距離まで出かけなければならないということになつて、その當事者は、その點からも非常な不便を感ずるわけであります。それが簡易裁判所の權限を擴張すれば、大抵の事件は地元の簡易裁判所で濟まされるということになつて、第二審の控訴審の場合も、近くで濟むということになりますから、この簡易裁判所の權限擴張希望は、一般の世論となつておるわけであります。この簡易裁判所權限擴張に關しまして、司法大臣はどういう御意見をもつておられるか。その點につきまして、ちよつとお伺い申し上げたいのであります。
#20
○鈴木國務大臣 ただいまの御質問は、非常に適切な御質問でありまして、司法省といたしましても、その問題を大島委員と同じように考えております。簡易裁判所に委ねられる限りの事件は、なるたけ委ねなければ、仰せの通りにいろいろの不都合が生ずると考えております。それで實は刑事事件におきましては、懲役に處することは重大なことでありますから、單獨判事で簡單にやつてしまうことは弊害がある。できるだけ愼重の手續をもつて、会議制の裁判所でやつていくことが、やはり人權を尊重するゆえんであると考えますので、その基本的な考え方はかえるわけにいかないのでありますが、しかし實はその刑事事件の大部分が、窃盗であります。窃盗の數が實に多いのでありまして、これは審理をいたしますにも、そう困難ではありませんので、簡易裁判所で單獨判事でいたしてもよかろう。これを簡易裁判所に委ねますれば、非常に刑事事件の數が減ります。この地方裁判所で扱う範圍が減ります。それでそういうことにいたしまして、窃盗事件は大體簡易裁判所でやれ、そういうふうに直し、かつ罰金刑につきましても、もつと大きい罰金刑の事件まで簡易裁判所でやれ。こういうふうに直すことに決意いたしたのでありまして、そういう法律案を國會に提出いたしたのであります。まだお手もとにまわらぬかもしれませんが、二、三日中にお手もとにまわるはずでありますから、ぜひ御贊成くださいまして、早く通達させていただきたいと思います。
#21
○石川委員長代理 午前中はこの程度にいたしまして、殘餘の日程は、午後に引續き審査を進めることにいたします。
 それでは午後一時半まで休憩いたします。
    午後零時二十分休憩
     ――――◇―――――
    午後二時二十分開議
#22
○石川委員長代理 休憩前に引續き會議を開きます。
 陳情の審査を繼續いたします。日程第二、借家人保護の法律制定に關する陳情書、横濱市山田秀作君提出文書表第五九號を議題といたします。調査員から説明願います。村調査員。
#23
○村專門調査員 借家人施行の法律としては、從來借地法、借家法があり、また地代家貸統制令等もあるが、これでは不十分である。さしあたり二つの事項を陳情する。一つは立退の猶豫期間を六箇月よりも長くしてもらいたい。二は、家賃については、家主も納得のできるような適正な家賃額を定めるようにしてもらいたい。
#24
○石川委員長代理 政府の御意見をお伺いいたします。
#25
○奧野政府委員 主要都市における住宅難の問題は、すこぶる深刻な問題でありまして、これが根本的な解決策は、一に住宅の増加にかかつておるわけでありまして、政府といたしましても、鋭意これが對策に腐心をいたしておる次第であります。一面法律的にも、現に他人の家屋に居住しておる借家人の地位を十分保護し、もしも法律の不備から正當な借家人が家主の意思の犠牲になり、その居住する家屋から放り出されて、路頭に迷うというようなことが、もしあるとするならば、それはまことにゆゆしき問題であるのでありまして、ただちに立法的措置を講ずベきはもちろんでありまして、政府もかかる措置を講ずることについて、やぶさかではないのであります。しかしながら、現行法制を見まするに、陳情のうちにも述べられてあります借家法あるいは地代、家賃統制令等の借家人保護の規定があるのでありまして、特に借家法によりますれば、建物の賃貸人は、正當の事由がなければ、家屋の明渡しを要求できないことになつております。しかもこの正當の事由ということは、現時局と照し合せて、すこぶる厳格に解釋されておるのでありまして、その意味で借家人の利益は、十分考慮されておるわけであります。もしかかる正當の事由に基かない家王の明渡し要求には、借家人は斷じて應ずるの必要はないのでありまして、この點はその家屋が他人に賣却されて家主が變つた場合も同様であります。なお家主が家賃を受取らないというようなことであれば、それは家主の勝手でありまして、これがために明渡し要求が正當化されるというようなことは、全然ないのであります。かかる場合には、家賃を供託しておけば、後に問題を殘すことがないのであります。
 以上のごとく現行法制の上におきましても、借家人保護につきましては、すこぶる意を用いておるのでありまして、要は借家人は法律上の權利を正當に主張するか否かの問題でありまして、與えられた權利を十分主張しないならば、百の立法も一片の反古に歸するわけでありまして、要するに現行法の上におきましても、結局借家法第一條等の正當の權利の主張によつて、借家人が相當に保護されておるというふうに考えておるわけであります。
#26
○山口(好)委員 關連しまして――ただいまの説明はよくわかりましたが、最近私が扱いました明渡し事件で、目下の情勢ではなかなか空家もないのでありますが、その明渡しの訴訟において、第一審の訴訟において被告がたまたま缺席をいたしましたときに、そのままで第一囘の公判で家屋明渡しの判決を下した事例があるのでありますが、このほかに、訴訟はともかくといたしまして、明渡しの訴訟については、ただいまの陳情の趣旨などを見ましても、かような場合には、少くとも裁判所におかれては、第二囘の呼出しをしまして、すなわち公判を續行せられて、少くとももう一囘は喚出しして被告の事情を聽く、こういう手續をいたすのが妥當ではないかと思うのでありますが、この點について政府の御所見を伺いたいと思います。
#27
○奧野政府委員 住居の問題は、ただいまお示しのように、きわめて重大な問題であります。殊に明渡しを命ずる判決をするというような場合には、殊に愼重に審理すべきものでありますことは、ただいまお示しの通りと考えます。具體的な事案についての裁判のことに關しては、政府としてとやかくの批評はいたしかねますが、要するに裁判所において家屋の明渡しという問題につきましては、從來よりも非常に愼重に、しかも深刻に考えて民事裁判をしているものと考えます。一囘の缺席でただちに明け渡しの判決を下すという御事例でありますが、これは何か特殊な事情もあるのではないかと推察いたされるのでありますが、具體的な問題については、司法權の獨立のために、政府としてはいろいろな批評あるいは意見は差控えたいと思います。概括的に申しますと、住居の問題についての裁判は、十分愼重に審議せらるべきものであるというふうに考えているわけであります。
#28
○石川委員長代理 もう一點政府にお尋ねしたいと存じます。最近家主が家屋明け渡しを暴力的な方法によつて借家人に求めるような傾向がありますが、もし暴力等の行為の疑いのあつた場合には、司法警察官、もしくは普通の行政警察官に救濟せしめるお考えはないか。またそういう訓令を發しておられるかどうかを伺います。
#29
○奧野政府委員 家屋の明け渡しは必ず判決に基いた執行吏による強制執行の方法によるにあらざれば、強制的に暴力的な明け渡しを強いるということはできないわけであります。もしそういう正規な手續によらないで、暴力あるいは脅迫等によつて立ちのきを強制するような場合には、犯罪を構成することになろうと考えます。そういつた住居侵入あるいは暴行脅迫といつたようなことに對し、告訴等によつて救濟を求めるならば、十分に救濟されると考えておりますが、警察官に特に訓令を出しているかどうかという點については、今ただちに申し上げるだけの資料はもつておりませんが、要するに法律上そういう家主あるいは所有權者という理由でもつて、強制的に明け渡しをなさしむることはできないということだけは、申し上げておきます。
#30
○石川委員長代理 御質疑はございませんか。
    ―――――――――――――
#31
○石川委員長代理 次に移ります。日程第三、札幌高等裁判所の支部を函館市に設置の請願。函館市長坂東森一君提出。文書表番號第七二號を議題といたします。村專門調査員の御説明を求めます。
#32
○村專門調査員 裁判所法その他附屬法令によつて高等裁判所の支部を設置することができるようになりましたが、當函館市には、元控訴院があつたこともあり、現在の札幌高等裁判所とは二百八十六キロの遠距離で、交通難の今日、なおこのままでは訴訟費用はかさみ、公正な裁判を受ける權利もやむなく放棄するようなことになつて、せつかくの民權尊重も、司法の民主化も、有名無實になるおそれがある。さいわい函館地方裁判所には、支部を置くために特別の施設をする必要もないようであるし、管内五十萬の住民は、これが實現を心から熱望しておるから、御當局においては、この點に十分留意せられ、札幌高等裁判所の支部を當函館地方裁判所に併置していただきたい。
#33
○奧野政府委員 政府といたしましても、御不便の事情はよく了承いたしておりますが、裁判所支部の設置は、最高裁判所の權限になつておりますので、最高裁判所にもよく御趣旨の點を傳達いたしまして、何分の考慮を願うことにいたしたいと存じますから、さよう御了承願いたいと思います。
#34
○石川委員長代理 御質疑はありませんか。
    ―――――――――――――
#35
○石川委員長代理 それでは次に日程第四、最高裁判所の裁判官選定に關する陳情書、全國司法部職員組合中央執行委員長平本東平君提出、文書表第一一九號を議題といたします。村專門調査員の御説明を願います。
#36
○村專門調査員 要旨は最高裁判所の裁判官を任命するにあたつては、國民の公僕として奉仕するの信念のもとに從來の慣例や序列にとらわれることなく、情實を排し厳正に選出すべきであつて、その對象としては、單に法律の素養や經驗のみを重要視することなく、特權意識をもたない人格高邁の士で、しかも國民の要請である民主化の實現に熱意と實踐力のある人材を廣く全國から、求めるべきであつて、それがためには、一部のためにするような政治的策動に乗ぜられることなく、斷固として、妥協を排し、憲法の定むる司法の使命達成に邁進する士を任命していただきたい。
#37
○石川委員長代理 政府の御意見を承ります。
#38
○奧野政府委員 おそらくその陳情書は、今囘の最高裁判所裁判官任命前の陳情にかかるものと考えますが、すでに最高裁判所長官竝びに裁判所判事が任命を見おてりまして、しかもその任命はいわゆる最高裁判所任命諮問委員會という委員會の愼重審議の答申を得て、さらにその答申の中から政府においてただいま陳情の趣旨にありまするような精神をくんで任命し、あるいは天皇の任命によつて長官竝びに判事もすでに就任しておるわけであります。今後おそらくさらに最高裁判所の判事の任命ということについては、ただいまの陳情の趣旨と同様の精神をもつて、政府が任命することになろうというふうに考えております。
#39
○石川委員長代理 御質疑はございませんか。
    ―――――――――――――
#40
○石川委員長代理 次に日程第五、同居借家人の權利保護に關する陳情書、會社員伊藤義一君提出、文書表第一五二號を議題といたします。村專門調査員の説明を求めます。
#41
○村專門調査員 要旨は、所有權の移動によつて現在の家主から明渡しを強制され、かつ調停裁判によつて、來る十月明渡しをしなければからないことになつたが、戰災地としては他に家もなく困窮している。ついては二家族以上同居している借家人は追い出さないこと、竝びに現在すでに調停裁判の判決を受けている者の追出も失效とすることによつて同居借家人を保護していただきたい。
#42
○石川委員長代理 政府の御意見を承りたいと思います。
#43
○奧野政府委員 家屋の一部分の借家人でも、一般の借家人と同様、家主は先ほど申しましたように、正當の事由がなければ右の同居者を追い出すことは許されないというように解釋いたしております。從つて一つの家屋に二家族以上同居している場合にも、やはり正當な事由がなければ、家屋の一部分からこれを追い出すことはできないのであります。ただいまの陳情の後段にあります現在すでに調停裁判の判決を受けている者の追出も失效とすることという部分があります。その趣旨は、いささか明瞭を缺くのでありますが、その趣旨がもしすでに家屋明渡しの事件について調停ができて、しばらく同居をして、ある一定の期間が過ぎてから、その同居者か出るといつたような調停が、すでにもう一旦成立しているという場合でありますれば、調停は確定判決と同一の效力のあるものでありますから、何らの事由もないのに、そういう條項をただちに失效せしむるというふうな措置をとれというのは、やや問題でありまして、ただちに贊成をいたしかねるのであります。元來調停は双方が納得の上成立いたしたのでありまして、もし不當でありますれば、最初調停の際にそういう納得をしなければいいわけでありますが、一旦調停が納得ずくで成立しておつた後に、ただちにその條件を失效せしむることはできないと考えるのであります。もちろん新たなる事情がある場合においては、一應成立した調停といえども、新しい事情のもとに再調停を申し立てるというふうなことが考えられますが、何らの事情の變更等ないのに、前の調停を失效せしむるという措置をとるということの陳情には、贊成を申し上げかねる次第であります。
#44
○石川委員長代理 御質疑はございませんか。
    ―――――――――――――
#45
○石川委員長代理 それでは次に移ります。日程第六、簡易裁判所設置に關する陳情書、沼田安兵衛君提出、文書表第一七八號を議題といたします。村調査員の御説明を願います。
#46
○村專門調査員 茨城縣猿島郡を管轄する簡易裁判所は郡の中央なる境町に設定されることが最も適當であると信じて、この點を陳情いたします。理由といたしましては、この郡は三町二十二箇村であつて、境町は、地理上の中央にあり、簡易裁判所を設置する利便の地として、現在地方事務所、税務署その他役所の所在地であるところから考えましても、ほかにこれよりよい土地は見當らないと思う。しかるに今囘古河町に右裁判所を設置しました。この古河町は郡の西北端にありまして、郡の東南部の三村のごときは、實に三十六キロの遠距離にあつて、その不便は想像するに餘りある次第であります。境町は右遠距離の村からわずかに二十キロにすぎません。多數郡民の利便を考えまして、境町に新設せられるよう陳情いたします。
#47
○奧野政府委員 ただいまお申し述べになりました境町に簡易裁判所設置方の陳情の御趣旨は一應ごもつともと存じます。簡易裁判所の設置につきましては、最初一警察署に對して一つの簡易裁判所を設ける方針でありましたが、豫算の關係から大體二警察署に對して一簡易裁判所という割合になつたわけであります。古河、境兩警察署に對して一つの古河簡易裁判所が設置された結果となつたのでありまして、從いまして、境町寄りの町村に、非常に御不便をおかけしておることは、十分に察しておる次第でありまして、政府といたしましては、最高裁判所ともよく協議いたしまして、財政その他の事情の許す限り、なるべく御希望に副うよう努力をいたしたい、こういうつもりでありますので、さよう御了承を願います。
#48
○石川委員長代理 質疑はありませんか。
#49
○山口(好)委員 ただいまの陳情は、茨城郡境町に簡易裁判所をということでありますが、これは地理的その他の立場から、最も必要なところであると思います。このほか、これは政府委員の方で御調査になつておるかどうか知りませんが、栃木縣の佐野市でありますが、足利に簡易裁判所がありまして、佐野市にないので、佐野市としてぜひ簡易裁判所をという要望があり、これは司法省の方へも、早くから陳情がまいつておつたことと思います。今の古河町につくられて境町につくられなかつた、こういう事情と同じく、栃木縣の佐野市に簡易裁判所を設けるということは、從來の事件の數やその他の關係から申しまして、ごく必要であります。簡易裁判所については、最初一警察官轄につきまして一つ、こういうことであつたのを、豫算の關係で、二つの警察官轄について一つということになつた、こういう御説明でありますが、さような二警察について一つの簡易裁判所ということは、近い將來においても動かすことのできない方針でありましようか。それとも來年あたりはこれを改めて、それにとらわれずに、必要にして適切なところには、さらに簡易裁判所を増設する、こういう方針でございましようか。その點をお伺いしたいと思います。
#50
○奧野政府委員 ただいまの佐野の問題につきましても、すでに陳情書等も出ておるようでありますが、最初申し上げましたように、二警察について一つの簡易裁判所の割合になつたことは、これは豫算の上からやむを得ずいたしたわけで、われわれといたしましては、豫算が許す以上は、一警察署ごとに一簡易裁判所を設けたいという方針で、そういう方針は今後とも變らないわけでありまして、今後豫算が得られますればできるだけ多くの簡易裁判所を設けて、廣く人民の利便をはかりたいというふうに考えておる次第でありますから、ただいまのお話の點につきましても、できるだけそういう御希望に副うよう努力いたしたいと考えております。
#51
○石川委員長代理 質疑はありませんか。――それでは次に移ります。
    ―――――――――――――
#52
○石川委員長代理 日程第七、民法の一部を改正する法律案修正に關する陳情書、全日本辯護士會、第一東京辯護士會提出、文書表第二〇三號を議題といたします。村專門調査員の御説明を願います。
#53
○村專門調査員 修正案に關する陳情の第一は「第一條を左のごとく修正す。私權は憲法の保障に依り個人の幸福のために存す。」理由は私權の本質につきまして誤解を來すような規定を改めて、適切なる規定にしたいという點であります。
 第二、七百三十九條の二として「慣習に從つて婚姻の式を擧げた後ち一月以内に前條第二項の届出をしないときは、當事者の一方は家事審判所の許可を得て婚姻の届出をすることが出來る。前項の届出には、家事審判所の許可を證する書面を添える外證人を要しない。」理由は事實婚を認めて内縁の妻を救濟したいという趣旨であります。
 第三、「相續に付左の趣旨の規定を設け單純承認及び限定承認の規定を削除し相續財産分離の規定を調査して其の制度を活用すること、一、相續人は總て相續に因り得たる財産の限度に於てのみ被相續人の債務及び遺贈を辯濟すべき義務を負うものとすること、二、相續開始の時より相續財産分離に因る配當加入の申出公告期間内は相續財産の處分竝に被相續人の債務及び遺贈の辯濟を禁ずること。
#54
○石川委員長代理 政府の御意見を願います。奧野政府委員。
#55
○奧野政府委員 第一條の修正案に對しましては、この修正案は私權が個人の幸福のために存することを規定せんとするものでありますが、私權が直接には私益を目的とすることは論をまたないところで、規定すべき實益がない。なお問題は私權と公共の福祉との關係いかんでありますが、さきに衆議院で修正されました第一條第一項は、この關係を適切に表現しておるのでありまして、政府といたしましても異論のないところであります。これを單に權利行使、義務履行の面だけに限定して規定しようとする修正案は、問題の本質全部に觸れているとはいいがたい難點があると思います。
 次に本修正案の理由書は、主として政府原案第一條を攻撃するもののようでありますが、しかりとすれば、すでに衆議院で同條が修正された現在では、その攻撃は當らないというふうに考えます。
 次に第二の修正に對する意見でありますが、修正案は事實婚に對して當時者の一方が後日家事審判所の許可を得て届出をした場合に、婚姻の效力を認めようにするものでありますが、右は婚姻成立の時期が不明瞭でありますこと、さらに重婚禁止問題等が後日家事審判所の許可を受けるときまでは看過されるということ、及び擧式後届出前の法律關係が不安全であること等の缺點があると考えます。從いまして事實婚を制限し、婚姻の届出その他何らかの公示方法を定めることは、わが國のみならず、世界各國の立法上の趨勢であると存じます。すでに家の廢止に伴いまして、婚姻の法律上の障害が減少し、内縁發生の原因が少くなつた現在では、國民の慣熟した届出制度を勵行せしむるにしくはないというふうに考えますので、この第二の點につきましても、御贊成を申し上げることはできないのであります。
 第三の修正案につきましては、修正案のごとくいたしますならば、相續の都度相續財産の清算を行うことになつて、遺産の有機的な財産行政を破壊するおそれがあると存じます。また相續債權及び相續債務の處理は、單純承認の方法によることが最も簡明でありまして、相續人がそれに異議がない場含には、これを認めない理由はないと考えます。要するに相續の都度清算手續をやることは、いろいろ相續ごとに争いを伴うことになり、また一々清算をやるということになりますれば、家業を繼續していくというようなことにも支障がありますので、この點についても御贊成を申し上げることかできない次第であります。
#56
○石川委員長代理 御質疑はありませんか。――それでは次に移ります。
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#57
○石川委員長代理 日程第八、法曹一元制度實現に關する陳情書、浦和辯護士會長會田惣七君提出、文書表第二八二號を議題といたします。村專門調査員。
#58
○村專門調査員 法曹一元の制度は、司法部民主化の最も手近かなしかも有效な方法であると考える。當局はこの際思ひ切つて多數の司法官を在野側から擔當の地位に採用し、法曹一元制度の實現に邁進せられたい。
#59
○石川委員長代理 政府の御意見をお伺いいたします。
#60
○佐藤(藤)政府委員 本陳情の御趣旨にはまつたく同感でありまして、從來司法省といたしましては、できるだけ多數の司法官を在野側から採用したい考えのもとに實行いたしておるのであります。新憲法施行後、なお一層この方針を推進していきたいと考えておるのであります。しかしながら、現實の問題といたしまして、第一線に優秀な在野出身者を迎えることは、なかなか困難な事情があるのであります。それは一に待遇の問題でありまするので、この點を是正して優秀な在野法曹を司法部に迎えたいと思つて極力努力いたしておるのであります。本省としては、この陳情の趣旨が貫徹せらるるように、在野の方面においても、よろしく御協力をお願いしたいと存じておるのであります。
#61
○石川委員長代理 御質疑ありませんか。――それでは次に移ります。
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#62
○石川委員長代理 日程第九、犯罪の捜査取調等に關する陳情書、瀧澤修之助提出、文書表第二九六號を議題といたします。村專門調査員。
#63
○村專門調査員 第一、犯罪の捜査取調等に關する陳情、東京都においては警察署、警視廳及び檢事局が、おのおの獨自の立場において、厳密な捜査取調ベをしておりますがゆえに、その犯罪の眞相を十分に捕捉し得る。しかるに當地においては、檢事は最初の捜査取調べを全部警察署に一任しあるごとくであつて、その書類の送局をまつて處置するものと推知せられる。かく警察官一本建にて告訴、告發事件を進めるにおいては、その眞相の把握は十分徹底せず、かつ狭い農村のこととて、種種雑多の誘惑もあり、物資不足に悩む現在、私情をさしはさんで取調べ捜査に勝手氣ままな寛厳を加え得る場合があると思われる。
 第二、質權、抵當權その他物權の設定について、假装不完全な登記をなしておる場合がある。これらの詐害行為を防止するについて、適切な方法を講じてもらいたい。
 第三、現行刑法においては、十三歳以上の婦女に對する暴行脅迫をもつて姦淫したものとありますが、暴行脅迫だけでなく、「または詐言を用いて」このような文字を入れてもらいたい。
#64
○石川委員長代理 政府の御意見を承りたいと存じます。
#65
○佐藤(藤)政府委員 第一の最近刑事事件は、一應警察官が取調べて、その取調べたものを檢察廳が取調べるという方法をとつておるが、それが不適當であるということの陳情でございますが、この點につきましては、現在の檢察廳の陣容をもつてしましては、すべての事件について檢察官が初めから捜査に關與するということは、とうてい不可能であるのであります。そこで初めは警察官の取調べに大體任せておりまして、ただある事件によつてその事件の内容、態様等に照らして、警察官を捜査に著手せしめることが不適當な場合に、檢察官が當初から取調べに著手するという方法をとつておるのでありまして、すべての最初の取調べを警察官に任せるといたしましても、檢察官におきましては、一定の方針を授けて、取調べに著手せしめるのでありますから、その間に別に不當な取扱いもないものと考えておるのでありますが、もし具體的な事例について檢察官が關與しなかつたために、警察官の方で不當な取扱いをしたというようなことがございますならば、檢察廳の方に直接御連絡くだされば、さような不適當な取扱いがなくなるのではないかというふうに考えておるのであります。
 それから第二の質權、抵當權その他物權の設定、假装不正登記による詐害行為防止に關する陳情でございますが、現行の不動産登記法によりますと、登記官吏は登記の申請書によつて申請が適法か否かを形式的に審査し得るに止まつておるのでありまして、登記原因たる法律行為が有效かどうか、または登記が眞實の權利關係に合致しておるかどうかということを實質的に審査する權限をもつていないのであります。從つて現實になされた登記は、必ずしも客觀的に眞實な權利觀係に合致するとは限らないのでありまして、この點に本陳情に言われまするような弊害を生ずる原因があるだろうと思われるのであります。現行法が實質的審査主義を採用しなかつたのは、この主義による場合は登記手續が遅延しまして、また制度維持の上に莫大な費用を要するためであろうと考えられまするが、假装行為を登記原因として登記することによつて第三者を害するごとき事態を生じますることは、努めてこれを避けなければならないのでありまして、政府としてもなお考慮を要するものがあろうと考えられるのであります。しかしながら、登記官吏に實質的審査權を與えて、登記が眞實の權利關係に合致する建前といたしまするには、登記法上の權利關係を信頼して取引を行うものをどの程度まで保證保護すべきか、すなわち登記に更新力を認むべきか否かという民法上の根本問題にまでさかのぼつて解決する必要があるのでありまして、不動産登記法も部分的改正のみによつて急速に解決することは困難であろうと考えられますので、本問題につきましては、さらに民法、登記法を通ずる今後の問題として、なお研究を續けたいと考えておるのであります。それから第三の詐言による強姦罪の規定を刑法に挿入することの陳情でございまするが、この點は御意見のように、從來もかような刑法改正意見をしばしば聞くのでありまして、將來刑法の全面的改正の場合に、この點について研究いたしたいと思います。
#66
○石川委員長代理 御質疑はありませんか。
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#67
○石川委員長代理 それでは次に移ります。日程第一〇、松江地方裁判所に廣島高等裁判所支部設置に關する陳情書、松江辯護士會長吉田亥市君提出、文書表第二九九號を議題といたします。村專門調査員。
#68
○村專門調査員 陳情の要旨は、高等裁判所所在地である大廣島市が廢墟と化し、宿舎の拂底、あるいはまた島根、鳥取の兩縣より廣島に至る交通の困難などその他幾多の障害は、あまた控訴を切望してやまざる人々をして、心ならずもついにこれを斷念せしむるのやむなきに至つておる。かくのごときは、國民の一部をしてひとしく控訴審判の惠澤に浴し得るの機會を失わしめる結果となり、聖代の一大根事と言わなければならない。よつて事情御配量の上、松江地方裁判所に廣島高等裁判所支部設置方につき陳情に及ぶ。
#69
○石川委員長代理 政府の御意見を求めます。佐藤政府委員。
#70
○佐藤(藤)政府委員 松江市に廣島高等裁判所支部設置方の陳情の御趣旨は一應ごもつともに存ずるのであります。政府といたしましても、地理的關係等より、御不便の事情はよく承知しておりまするが、裁判所支部の設置は、最高裁判所の權限に屬しておりまするので、御趣旨のほどは、最高裁判所によく連絡いたしまして、御期待に副うようにいたしたいと思います。
#71
○石川委員長代理 御質疑はありませんか。――それでは今日日程となりました陳情書について一應の審査は終りました。なお盡しません點は、適當の機會に取上げることにいたしまして、本日はこれにて散會いたします。明日は午前十時より開會いたします。
   午後三時十四分散會
ソース: 国立国会図書館
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