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1947/06/18 第2回国会 参議院 参議院会議録情報 第002回国会 司法委員会 第43号
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1947/06/18 第2回国会 参議院

参議院会議録情報 第002回国会 司法委員会 第43号

#1
第002回国会 司法委員会 第43号
昭和二十三年六月十八日(金曜日)
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  本日の会議に付した事件
○刑事訴訟法を改正する法律案(内閣
 送付)
  ―――――――――――――
   午前十時十三分開会
#2
○委員長(伊藤修君) それではこれより司法委員会を開催いたします刑事訴訟法を改正する法律案について審議を前回に引続き継続いたします。
#3
○政府委員(宮下明義君) 前回百九十三條の檢察官の司法警察職員に対する一般的指示権、一般的指揮権及び個別的な指揮権を御説明申上げましたので、本日は百九十四條以降を引続き御説明申上げたいと思います。
 檢察官が百九十三條によりまして一般的な指示、一般的な指揮、或いは個別的な指揮をいたすことができるわけでありまするが、この指示又は指揮に正当な理由がなく、司法警察職員が從わなかつた場合において、必要があるときは檢事総長、檢事長、檢事正は、それぞれの公安委員会、又は特別司法警察職員を懲戒、罷免する権限を有する者に懲戒、罷免の訴追をすることができるというのが百九十四條第一項の規定でございます。警察官は多くの場合には都道府縣國家地方警察に属しておりまするので、警察官につきましては、それぞれの都道府縣公安委員会に懲戒又は罷免の訴追をすることになろうと思つております。ただ警察官の中にも各都道府縣國家地方警察に属しませんで、國家地方警察本部又は國家地方警察管区本部に所属いたしておりまする警察官がありますので、それらの警察官については國家公安委員会に訴追をするということを予想いたしております。警察吏員につきましては、それぞれの市町村公安委員会又は特別公安委員会に訴追をするということになるわけでございます。特別司法警察職員につきましては、例えて申しますれば、鉄道職員で司法警察権を持つておりまする者につきましては、これを懲戒、罷免する権限を有する者に、森林官吏で司法警察権を持つておりまする者については、これを懲戒、罷免する権限を有する者に、それぞれ訴追をするということになるわけでございます。第一項によりまして懲戒又は罷免の訴追がありました場合は、それぞれの公安委員会び特別司法職員を懲戒罷免する権限を有する者は、その訴追が理由あると認めるときには、別に法律の定めるところにより訴追を受けた者を懲戒又は罷免しなければならないという規定を第二項に設けたわけでございます。第一項及び第二項におきまして、特に訴追という言葉を使いましたのは、單なる勧告とは違いまして、この訴追がありますれば、当然に法律の定めるところによりまして懲戒手続又は罷免手続が開始されるという意味でございます。而してこの懲戒手続、罷免手続につきましては、第二項の規定によりまして、他の法律でこれを定めるということになるわけでございます。本來公安委員会自体は警察官又は警察吏員に対しまして懲戒、罷免権を持つておらないのでありまするが、この刑事訴訟法改正案百九十四條第二項によりまして、特別の懲戒罷免権が與えられたものと、こう考えております。
 次に、百九十五條を御説明申上げます。本條は現行法二百五十二條に相当する規定でありまするが、現行法においては檢察官のみではなくて、司法警察職員も又事実発見のため必要がある場合には、管轄区域外に出て職務を行うことができるという規定になつておるのでありまするが、警察官又は警察吏員につきましては、新たに制定されました警察法五十七條、五十八條、五十九條の規定がございまして、警察官又は警察吏員の管轄区域外における権限行使につきまして特別な規定がございまするので、それと相矛盾する規定を刑事訴訟法に設けるのも警察法の精神と矛盾すると考えまして、百九十五條におきましては、檢察官及び檢察事務官についてのみ管轄区域外における権限行使の規定を設けたわけでございます。檢察官及び檢察事務官はその属する廳の管轄区域の外に出まして、捜査のため必要があるときには職務を行うことができるという規定を設けたわけでございます。現行法のごとく事実発見のためといたしませんで、捜査のためといたしましたのは、現行法の事実発見のためという表現では、例えて申しますれば、管轄区域外において逮捕行爲までなし得るかということについて、解釈上疑問ががございますので「捜査のため必要があるときは」と改めまして、証拠蒐集のみではなく、管轄区域外において逮捕行爲もなし得るという趣旨に改めたわけでございます。
 次に、百九十六條を御説明申上げます。檢察官、檢察事務官及び司法警察官並びに弁護人その他職務上捜査に関係のある者につきまして、特に被疑者その他の者の名誉を害しないように注意しなければならない。又捜査の妨げとならないように注意しなければならないという規定を設けまして、捜査に從事する者が、被疑者その他の者の名誉を傷つけないように、又捜査に関係する者が、捜査の妨害となるような行爲をしないようにという趣旨の規定を設けたわけでございます。
 次に、百九十七條を御説明申上げます。この規定は、現行法と趣旨において同樣でございまして、捜査については、その目的を達するために必要な各種の取調をすることができる、いろいろな任意の捜査をすることができるということを原則に掲げまして、改正案におきましても、捜査の原則は、任意捜査であるという建前を明らかにいたしたわけでございます。而して但書において、強制の処分は、この法律に特別の定めのある場合でなければこれをすることができないと規定いたしまして、強制処分というものは、例外であるという趣旨を明らかにいたしたわけでございます。第二項の捜査について、公務所又は公私の團体に紹介して、必要な事項の報告を求めることができるという規定は、現行法と同樣でございます。
 以下、百九十八條以下におきまして、捜査手続を詳細に規定いたしておるわけでございまするが、その根本の考え方を申上げますると、憲法第三十三條及び第三十五條の線に副いまして、捜査機関が強制捜査を行いまする場合には、すべて現行犯の場合を除いて、権限のある司法官憲の令状によらなければならないという原則を貫きまして、現行犯の捜査以外の場合においては、すべて裁判所のジュディシアル・チエックを掲げまして、捜査機関の捜査活動が、法に適つて正しく行われるように配慮いたしたわけでございます。司法官憲の意義につきましては、日本國憲法を審議いたしました当時の議会におきましても、いろいろ論議があつたわけでございまするが、当時の政府は、司法官憲の中には、檢事及び司法警察法を含むということを主張いたしたのでありまするが、基本的人権に重大な関係がある事項でありまするので、解釈論は別といたしまして、政府といたしましては、この改正案におきましては、憲法のいわゆる司法官憲は、裁判所及び裁判所の職員に限るという建前を取りまして、檢察官及び司法警察職員に令状発布の権限を認めなかつたのは、應急措置法と同樣でございます。これによつて捜査というものが、裁判所の司法的チエックを受けまして、正しく行われることを期待いたしておるわけでございます。
 次に、百九十八條の規定は、檢察官、檢察事務官又は司法警察職員が、被疑者の取調をする場合の規定でございます。檢察官、檢察事務官、司法警察職員等は、必要がある場合には、被疑者の出頭を求めて、これを取調べることができる。併しながら被疑者は逮捕又は勾留されておる場合を除いては、出頭を拒み又出頭後何時でも退去とすることができるという規定を設けまして、檢察官、司法警察職員等の被疑者の取調は、任意的なものであるという趣旨を明らかにいたしたわけでございます。第二項におきまして、その取調に際しては、被疑者に対して、予め供述を拒むことができる旨を告げなければならないという規定を特に置きまして、憲法三十八條第一項において、何人も自己に不利益な供述を強要されないという趣旨に則つて、被疑者の取調についての準則を掲げたわけでございます。從來の刑事訴訟法の実際の運用におきましては、可なり自白を偏重いたしまして、捜査機関も、被疑者の取調に際して、自白を得ることに極力努力した傾きがあつたわけでございますが、今後の捜査においては、この百九十八條の規定によりまして、被疑者は出頭も拒むことができまするし、又出頭後退去することもできまするし、取調側においても、予め供述を拒むことができる旨を告げなければならないということになつておりまするので、今後の捜査は、被疑者の自白を求めることよりも、他の傍証を極力捜査するという方向に変つて行くものと期待いたしております。第三項、第四項、第五項の規定は、被疑者の取調に際しての調書についての規定でございます。調書につきましては、裁判所については、裁判所の規則によつて適当に定め得るわけでございまするが、捜査段階の檢察官又は司法警察官の調書について、裁判所の規則で定め得ないという考え方を持つておりまするので、特に百九十八條第六項乃至第五項の規定を設けたわけでございます。
 次に、百九十八條の規定でございまするが、これは普通逮捕状による逮捕、或いは通常逮捕と呼んでおる規定でございまするが、應急措置法第八條第一項の規定を更に敷衍いたしまして規定いたした規定でございます。即ち檢察官、司法警察職員等は、被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があるときは、予め裁判官の発する逮捕状によつて、これを逮捕することができる、こういう規定を設けたわけでございます。應急措置法におきましては、とにかく刑事手続きが憲法に即應するように應急な措置を講じまして、原則的な簡單な規定を設けました関係上、百九十九條第一項但書に相当する規定がなかつたのでありまするが、現行犯についても軽微な罪については除外規定がありますが、権衝を考えまして、本條につきましても五百円以下の罰金、拘留又は科料に当る罪については、被疑者が住居不定の場合、又は正当な理由がなく、出頭の求めに應じない場合に限て逮捕状によつて逮捕することができるという規定にいたしたわけでございます。これによつて軽微な犯罪について徒らに逮捕状によつて身体を拘束するということのないように配慮いたしたわけでございます。第二項は逮捕状の請求は檢察官又は司法警察員の請求によつてこれを発するということを明らかにいたしたわけであります。檢察事務官は自己の判断によつて裁判所に直ちに逮捕状の発付を請求することはできないから、一應自己の捜査によつて或る被疑者に対して逮捕状を得たいと考える場合には、その事情を檢察官に報告いたしまして、檢察官を通じて裁判所に請求する。司法巡査につきましても同樣、司法巡査が捜査によつていろいろな資料を得るわけでありまするが、これらの資料を司法警察員に報告いたしまして、司法警察員の判断を通しまして、その上で裁判所に令状の発付を請求するという規定にいたしたわけであります。これによつて檢察事務官又は司法巡査等が直接に裁判所に不確かな謙疑によつて令状を請求するという幣を避けようといたしたのであります。第三項は檢察官又は司法警察員は、逮捕状の請求をする場合に同一の犯罪事実について、その被疑者に前に逮捕状の請求があつた、或いは逮捕状が発付されたことがあつたという場合においては、その旨を裁判所に通知しなければならないという規定を設けたわけであります。これによりまして裁判所は前に逮捕状の請求があつたけれども、その請求を却下したという場合には、今回の逮捕状の請求につきましても、十分愼重な考慮をいたすのでありましようし、又前は逮捕状の発付があつたというならば、その発付された逮捕状によつて何故に逮捕しなかつたかというような事情を十分考慮いたされるであろうと考えております。改正案につきましては、同一の被疑者に対して二回以上逮捕状が発付されるということを予想いたしております。それは逮捕状の有効期間がございますので、有効期間内に逮捕状によつて逮捕することができない場合もございまするし、又場合によりましては逮捕後一旦公訴を提出いたしましたが、その起訴状の謄本を二ケ月以内に被告人に送達することができない場合には、公訴の提起が無効となりまするので、その後新たに被疑者の所在を追及いたしまして、逮捕状を得て更に逮捕して、公訴の提起をするという場合も考えておりまするので、一回以上同一の犯罪事実について、同一被疑者に対し逮捕状が発付せられることがあるということを予想いたしておるのであります。
 次に、第二百條の規定は逮捕状の記載要件に関する規定でございます。これらの規定は應急措置法におきましては明確な規定がございませんで、解釈上勾引状に関する規定を準用するものとして運用して参つたわけでございまするが、今回の改正案におきましては逮捕手続のみならず、捜査手続全般につきまして、可なり詳細な規定を設けてその明確を期したわけでございます。逮捕状の記載要件の内、特に新らしいものといたしましては、有効期間及びその期間経過後は逮捕することができないで、その令状はこれを発した裁判官に返還しなければならないということを特に記載しなければならないという規定を設けたわけであります。これによつて一旦発せられた逮捕状というものがいつまでも檢察官等の手にありまして、或いはそれが濫用されることを防ごうといたしたわけでございます。
 次に、二百一條以下の規定は逮捕状による逮捕についての規定でございまするが、先ず二百一條においては、逮捕状によつて被疑者を逮捕するのには、逮捕状を被疑者に示さなければならないという規定を設けたわけでございます。而してその第二項におきまして、第七十三條第三項の規定を準用いたしまして、逮捕状が発せられておりますれば、たまたま被疑者を発見した際に逮捕者を所持しておりませんでも、緊急を要する場合には逮捕状が発せられておるということを被疑者に告げまして、そのまま被疑者を逮捕することができる。併しながら逮捕状はその後速かに被疑者に示さなければならないという、第七十三條第三項の規定を準用いたしたわけでございます。これは七十三條第三項の御説明の際にも申上げましたように、憲法の趣旨から申しましても、逮捕状がすでに発せられておりますれば、たまたま逮捕の際に逮捕状を持つておりませんでも、逮捕状によつて被疑者を逮捕したということになりまするし、必ず逮捕の際に逮捕状を所持していなければならないということを、嚴格に要求いたしますると、非常に沢山の逮捕状を発しなければならないという、実際上の不便もございますので、このような規定を設けたわけでございます。
 次に、二百二條の規定は、檢察事務官又は司法巡査が逮捕状によつて被疑者を逮捕したときは、直ちに、檢察事務官はこれを檢察官に、司法巡査はこれを司法警察官に引致しなければならないという規定を設けたわけでございます。これは應急措置法第八條第四項におきまして、現行法の現行犯逮捕後の規定を準用いたしておりまするが、應急措置法の規定は、何と申しましても、簡單な規定でございまして、明確を欠く点もございまするので、特に詳細な規定を設けたわけでございます。
 次に、二百三條の規定は、司法警察員は、逮捕状によつて被疑者を逮捕したとき、又は逮捕状によつて逮捕された被疑者を司法巡査から受取つたときは、直ちに犯罪事実の要旨及び弁護人を選任することができる旨を告げた上、被疑者にその犯罪事実について弁解の機会を與え、留置の必要がないと思料するときは、直ちにこれを釈放し、留置の必要があると思料するときは、被疑者が身体を拘束されたときから四十八時間以内に、書類、証拠物と共にその身柄を檢察官に送致する手続をしなければならないという規定を設けたわけでございます。これも趣旨においては應急措置法と変りのないところでありまして、被疑者を逮捕した後、或いは司法巡査から被疑者を受取つた場合に、直ちに犯罪事実の要旨及び弁護人を選任することができる旨を告げなければならないというのは、憲法の趣旨によりまして、このような規定を置いたわけでございます。
 次に、二百四條の規定は、檢察官自身が逮捕状によつて被疑者を逮捕したとき、又は逮捕状によつて逮捕された被疑者を檢察事務官等から受取つた場合の規定でございまするが、この場合におきましても、二百三條の規定とほぼ同趣旨の規定を設けたわけでございます。而して二百四條の場合におきましては、檢察官が用い得る時間は四十八時間といたしてございます。應急措置法の下におきましては、二百四條に相当する場合において、檢察官が用い得る時間は二十四時間でございましたが、如何にも実情に合いませんし、又檢察官が檢察事務官から受取る場合もございまするし、この場合においては、檢察官はとにかく四十八時間以内に起訴するか勾留の請求をするということを決定いたすわけでございまするから、四十八時間の余裕を置くことが相当ではないかと考えまして、應急措置法の二十四時間を四十八時間に延長いたしたわけでございます。
 次に、二百五條の規定でございますが、檢察官が二百三條の規定によつて司法警察員から送致された被疑者を受取つたときは、弁解の機会を與え、留置の必要がないと思料するときは、直ちにこれを釈放し、留置の必要があると思料するときは、被疑者を受取つた時から二十四時間以内に、裁判官に被疑者の勾留を請求しなければならないということにいたしたわけでございます。而して二十四時間の時間の制限は、第二項によりまして、被疑者が現実に身柄を拘束された時から七十二時間を超えることができないといたしましたのは、應急措置法と同樣でございます。第三項によりまして、この時間の制限内に公訴を提起したときは、勾留の請求をすることを要しないと規定いたしましたが、これは二百八十條第二項によりまして、この場には、檢察官から勾留の請求をいたしませんでも、公訴を受けた裁判所の方で、勾留の必要があるかないかということを決定するということにいたしておりまするので、檢察官側から、必ずしも勾留の請求をする必要がないという規定を設けたわけでございます。
 次に、二百六條の規定でございまするが、これは應急措置法第八條第三号後段の規定を、そのまま本案におきましても採用いたしたのでありまして、檢察官又は司法警察員が止むを得ない事情によつて前三條の時間の制限に從うことができなかつたときは、檢察官は裁判官にその事由を疏明して被疑者の勾留を請求することができる、裁判官は、その遅延が眞に止むを得ない事由に基く正当なものであると認める場合には勾留状を発しまするが、その他の場合においては勾留の請求を却下いたしまして、被疑者を釈放するということになるわけでございます。
 次に、二百七條の規定は、前三條の規定によつて勾留の請求を受けた裁判官に、総則の勾留の規定を準用いたしたわけでございます。併しながら起訴前の勾留につきましては、保釈に関する規定はこれを準用しないことにいたしまして、起訴前においては保釈ということを考えなかつたわけでございます。これは起訴前の勾留即ち搜査のための勾留という特質を考えまして、特にこの勾留には保釈ということを考えなかつたわけでございます。
 次に、二百八條の規定でありまするが、前條の規定によりまして被疑者を勾留した事件については、勾留の請求をした日から十日以内に公訴を提起しないときは、檢察官は直ちに被疑者を釈放しなければならないといたしまして、これは應急措置法第八條第五号の規定を、本案においても採用いたしたわけでございます。この十日の期間は勿論勾留の請求をした日、その日から起算するわけでございます。應急措置法においては起訴前の勾留は嚴格に十日と限つておつたわけでございまするが、應急措置法実施後の運用等に鑑みまして、実際の必要においてはその十日では十分な処理をなし得ない場合もございまするので、特に第二項におきまして例外を設けて、檢察官の請求によつて裁判官は、止むを得ない事由があると認めるときは前項の期間を延長することができる。裁判官は実際の必要を考えまして或いは三日、或いは五日、或いは七日という適宜な期間を延長いたすわけでございますが、この期間の延長は通じて十日を超えることができないということにいたしました。從いまして起訴前の勾留は如何に複雜困難な事件でございましても、二十日以上には延びないということになるわけでございます。
 次に、二百九條の規定は、被疑者を逮捕した場合にその護送の際必要のあるときは一時監獄に留置することができる。被疑者を逮捕してこれを引致して後に必要があるときは一時監獄に留置することができる。又逮捕された被疑者が弁護人選任の申出をすることができるという勾引、勾留に関する規定を逮捕にも準用いたしたわけでございます。
 次に、二百十條の規定は應急措置法第八條第二項にございましたいわゆる緊急逮捕の規定を、本案におきましてもそのまま採用いたしたわけでございます。即ち檢察官、司法警察職員等は「死刑又は無期若しくは長期三年以上の懲役若しくは禁錮にあたる罪を犯したことを疑うに足りる充分な理由がある場合で、急速を要し、裁判官の逮捕状を求めることができないときは、その理由を告げて被疑者を逮捕することができる。この場合には、逮捕後直ちに裁判官の逮捕状を求める手続をしなければならない。」という規定を設けたわけでございます。この規定が憲法第三十三條に照しまして果して合法かどうかという点につきましては、應急措置法を御審議の際においても問題になつた点でございまするが、政府の解釈といたしましては、逮捕には或る幅がありまして、現実に身体を掴んでから一定の場所まで連れて來る、その幅のある行爲である。その逮捕行爲の継続中に直ちに逮捕状の発行を請求いたしまして、その逮捕状によつて裏付られる逮捕であるから、憲法のいわゆる逮捕状による逮捕であるという解釈を採つて、憲法の趣旨に副う逮捕であると、こう考えておる次第でございます。
 二百十一條の規定は、二百十條の規定によりまして緊急逮捕をいたしました場合において、その後の手続はすべて第百九十九條の規定による通常逮捕後の規定を準用いたしまして、その場合と同樣に手続を進めることといたしたわけでございます。
 次に二百十二條の規定は、現行犯及びいわゆる準現行犯に関する規定でございまするが、先ず第一項におきまして「現に罪を行い、又は現に罪を行い終つた者を現行犯人とする。」と規定いたしまして、第二項において、從來現行法の百三十條第二項に規定してございました準現行犯の範囲をやや狭めまして、本案においても採用いたしたわけでございます。即ち從來の現行犯につきましては、犯行時と逮捕状の時間の経過ということが可なり間を置きまして長い経過を辿つた後であつても、準現行犯と認められておつたのでありまするが、現行犯の趣旨から考えますると、犯行時と逮捕時との或る程度の接着ということを必要とすると考えまして、本案におきましては「左の各号の一にあたる者が、罪を行い終つてから間がないと明らかに認められるときは、これを現行犯とみなす。」ということに改めまして、從來の準現行犯人の観念をやや狹めたわけでございます。而して第一号乃至第四号につきましても、その第二号においては、從來は「兇器、臓物其ノ他ノ物ヲ所持シ」とございまして、やや不明な点がありましたので「臓物又は明らかに犯罪の用に供したと思われる兇器その他の物を所持しているとき。」と規定したしまして、その他の物も明かに犯罪の用に供したと思われる物でなければならないということにいたしたわけでございます。
 次に二百十三條は、憲法第三十三條を承けまして「現行犯人は、何人でも、逮捕状なくしてこれを逮捕することができる。」という規定を置いたわけでございます。而して現行犯人を逮捕した後の手続も二百十六條の規定によりまして百九十九條の逮捕状によつて被疑者が逮捕された場合の規定を準用して、それと同様な手続で逮捕後の手続が進行するわけでございますが、現行犯人については特に檢察官、檢察事務官、司法警察職員以外の一般常人がこれを逮捕することがございますので、その場合の特別規定を二百十四條と二百十五條に置いたわけでございます。二百十四條におきましては、常人が現行犯人を逮捕したときは、直ちにこれを檢察官又は司法警察職員に引渡さなければならないということにいたしまして、二百十五條におきましては「司法巡査は、現行犯人を受け取つたときは、速やかにこれを司法警察員に引致しなければならない。」その場合に司法巡査は逮捕者の氏名、住居及び逮捕の事由等聽き取り、必要がある場合には逮捕者に対し共に官公署に行つて呉れということを求めることができるという規定を設けたわけでございます。
 次に二百十七條の規定は、現行法の百三十二條と趣旨においては同様でございまするが、現行犯につきましても、五百円以下の罰金、勾留又は科料に当る罪の現行犯については、犯人の住居又は氏名が明らかでない場合又は犯人が逃亡する虞れのある場合に限つて現行犯逮捕ができるということにいたしたわけでございます。從いまして五百円以下の罰金、勾留、科料等に当る軽微の事件につきましては、犯人の名前が分らない、或いは住居不定、逃亡の虞れがあるというような場合でなければ現行犯逮捕ができないということを明らかにいたしたわけでございます。これによつて軽微な事件について重い強制力を使いまして、人権蹂躙の非難を受けることを避けようといたしたわけでございます。
 以上が逮捕状による逮捕、緊急逮捕及び現行犯逮捕に関する規定でございまして、次に二百十八條以下押收、捜索、檢証等に関する規定でございます。二百十八條は「檢察官、檢察事務官又は司法警察職員は、犯罪の捜査をするについて必要があるときは、裁判官の発する令状により、差押、捜索又は檢証することができる。」という規定を設けました。これは憲法三十五條に則つた規定でありまして、應急措置法七條第二項の規定は余りにも不明確な規定でございましたので、改正案におきましては、檢察官、司法警察職員等が裁判官の発する令状によつて差押、捜索、檢証することができるという趣旨を明らかにいたしたわけであります。而してこの場合において、檢証のための身体檢査をいたします場合は、特に身体檢査令状によらなければならないという規定を設けたわけでございます。從いましてこの場合の令状は、差押状、捜索状、普通の檢証状及び身体檢査令状という四種の令状が発付されるわけでございます。この差押、捜索、檢証等の令状は、檢察官、檢察事務官又は司法警察員の請求によつて、これを発するという規定を第二項に設けました。これは必ずしも逮捕ほど嚴格な判断と必要といたしませんし、又檢察事務官が差押、捜索、檢証等をするについても、すべて檢察官を通さなければならないということにいたしますると、実際上の不便もございまするので、この令状の請求権は、檢察事務官にも亦これを認めたわけでございます。次に檢察官、司法警察員等が身体檢査令状の請求をする場合には、特に身体檢査を必要とする理由及び身体檢査を受ける者の性別、健康状態その他裁判所の規則で定める事項を示さなければならないというように規定を設けまして、特に身体檢査が適正に、妥当に行われまして、身体檢査を受ける者の名誉を害さないように配慮いたしたわけであります。末項におきましても、「裁判官は、身体檢査に関し、適当と認める條件を附することができる。」という規定を設けました。
 次に二百十九條の規定でございますが、これは前條の差押、捜索、檢証、身体檢査等の令状の記載要件に関する規定でございます。これらの令状につきましても、有効期間及びその期間経過後は差押、捜索、又は檢証に着手することができず、令状はこれを返還しなければならないということを特に記載しなければならないことといたしました。
 次に第二百二十條の規定でありますが、これは二百十八條の裁判官の発する令状によつてする差押、捜索、檢証の例外規定でございまして、應急措置法第七條第二項但書の規定を更に合理化いたしまして明確ならしめたのであります。檢察官、檢察事務官又は司法警察職員は、通常の捜捕状によつて被疑者を逮捕する場合、又は現行犯人を逮捕する場合、又は緊急逮捕をする場合におきましては、令状を持たないで人の住居、又は人の監視する邸宅、建造物、若しくは船舶の中に入つて被疑者を捜索することができる。又逮捕の現場におきましては、令状を持たないで差押、捜索、又は檢証をすることができるということを特に規定いたしたわけでございます。これは憲法第三十五條におきまして「第三十三條の場合を除いては、」とございまして、現行犯の場合に限らず、権限のある司法官憲の発する令状によつて被疑者を逮捕する場合においても、亦差押、捜索等の令状を持たないで、差押、捜索をすることを憲法自身が許しておりまするので、二百二十條の規定を設けたわけであります。これが又実際の捜査の実情にも合致する所以と考えておるのであります。第四項の規定は本案の第百二十六條と吻合する規定でございます。百二十六條は起訴後勾引状、勾留状を執行する場合に、被告人の捜索をすることができるという規定でありまして、二百二十條末項の規定は、檢察事務官又は司法警察職員が、勾引状、勾留状を執行する場合に、その執行の現場で差押、捜索又は檢証をすることができる。又起訴前の被疑者に対して発せられた勾引状、又は勾留状を執行する場合においては、人の住居などに入りましてその被疑者を捜索することができるという趣旨を明かにいたしたわけであります。
 次に二百二十一條の規定でありますが、これは檢察官、司法警察職員等が、被疑者その他の者が遺留した物又は所有者等が任意に提出した物を領置することができるという、領置の根拠規定を設けたわけでございます。遺留物又は任意提出物等につきましては、必ずしも強制力を以て差押をする必要もございませんので、二百二十一條によつてこれを領置することができるということにいたしたわけであります。
 二百二十二條は大変に長い條文でございまするが、これは只今御説明申上げて参りました檢察官、檢察事務官又は司法警察職員が、捜査中にいたしまする押收、捜索について総則の裁判所のいたしまする押收捜索の規定を準用し、檢証につきましても総則の裁判所の檢証の規定を準用するという規定でございます。二百二十二條の第二項におきまして、二百二十條によつて令状を持たないで被疑者の捜索をする場合において、急速を要する時には第百十四條第二項の規定によることを要しないといたしまして、特に隣人等の立会を必要としないということを規定いたしましたが、これは現行法百七十四條第三項にある規定を受けて参つたのでございまして、このような二百二十條のような場合におきましては、急速を要する場合でありまするので、必ずしも隣人等の立会を必要としないということにいたしたわけでございます。
 次に、二百二十二條第四項の規定は、裁判所のいたしまする檢証については、特に百三十條の規定がございまするが、この場合において、檢察官、司法警察職員等が、裁判所の発する令状によつて檢証する場合においては、その令状に夜間でも檢証することができるという記載が特にございませんと、日出前、日沒後には人の住居等に入ることができないという規定を設けまして、押收、捜索等との釣合を取つたわけでございます。
 次に、二百二十二條第六項の規定でございまするが、檢察官、檢察事務官又は司法警察職員は、裁判官の発する令状によつて差押、捜索又は檢証をするについて必要があるときは、被疑者をこれに立会わせることができるという規定を設けましたのは、裁判所のいたしまする差押、捜索、檢証につきましては、百十三條、百四十二條の規定がございまして、被告人及び弁護人はすべて立会権を持つておるのでありまするが、先にも御説明申上げましたように、捜査段階における差押、捜索、檢証等にすべて被疑者が権利として立会権を持つておるということにいたしますると、捜査の性質とも合致いたしませんので、檢察官、檢察事務官又は司法警察職員等が必要があると認めて被疑者を立会わせるという場合に限つてこれに立会うことができるという百十三條、百四十二條の特別規定を設けたわけでございます。
 次に、二百二十三條の規定でございまするが、この規定は、檢察官、檢察事務官又は司法警察職員は、犯罪の捜査のために必要がある場合に、被疑者以外の者の取調又は鑑定、通訳若しくは飜訳の嘱託をすることができるという規定でありまして、この場合についても檢察官、司法警察職員等には、いわゆる強制権は認めませんで、これらの捜査はすべて任意な捜査ということになるわけでございます。第二項において、第百九十八條第一項但書及び第三項乃至第五項の規定を準用いたしまして、証人に相当するところの犯罪事実について或る知識を有する者を、檢察官が出頭を求めて、いろいろ事情を取調べるという場合におきましても、その者は出頭を拒むことができまするし、出頭後退去することもできる、この場合においてその者に檢察官等が特に供述を拒むことができるという旨を告げるという規定を準用いたしませんでしたが、これは被疑者については憲法上特に不利益な供述を強要されないという規定がありまするので、特に百九十八條第二項の規定を設けましたが、証人に相当する者につきましては、必らずしも憲法上の要求でもありませんし、又一般証人に相当する者は捜査にも協力して頂かなければなりませんので、百九十八條第二項の規定はこの場合に準用いたさなかつたわけでございます。
 次に、二百二十四條の規定でありまするが、前條の規定によつて鑑定を嘱託する場合において、百六十七條第一項の規定は被疑者の留置を必要とする場合におきましては、檢察官等は裁判官にその処分の請求をしなければならない。裁判官はその請求を正当と認めるときは裁判官自身が留置の手続をしてやるという規定を設けたわけでございます。
 次に、二百二十五條の規定でありまするが、同樣二百二十三條の規定によりまして鑑定の嘱託を受けた者が、身体の檢査、墳墓の発掘、物の破壞等の処分を必要とする場合には、裁判官の許可を受けまして、これらの処分をすることができるという規定を設けたわけでございます。
 次に、二百二十六條の規定でありまするが、これは二百二十三條によりまして、檢察官の証人に相当する者の取調は任意の取調ということになりまして、これらの者は出頭を拒否することもできまするし、出頭後退去もできまするので、そのようなことでは捜査に事欠く、こともございまするので、犯罪の捜査に欠くことのできない知識を有すると明らかに認められる者が檢察官等の取調に対して出頭又は供述を拒んだ場合には、裁判官にその者の証人尋問を請求することができる。これによつて捜査の円滑を期しようといたしたわけでございます。
 次に、二百二十七條の規行は檢察官等の取調に対して任意の供述をした者が、その後公判期日においては他から圧迫を受けまして供述を飜えすという虞れのある場合であつて、而もその者の供述が犯罪の証明に欠くことができない場合には、同樣檢察官から裁判官にその者の証人尋問を請求いたしまして、その証言を確保して置くという制度を設けたわけでございます。而して二百二十八條によりまして前二條の請求を受けた裁判官については総則の証人尋問に関する規定を準用するということにいたしました。但し二百二十八條第二項にありまするように、これは捜査中の証人尋問の請求でありまするので、総則の百五十七條のごとく原則として立会権があるわけではございませんで、裁判官が捜査に支障を生ずる虞れがないと認めるときに限つて立会をさせるという特定規定を設けたわけでございます。
 次に、二百二十九條の規定は現行法百八十二條に相当する変死体の檢視に関する規定でございます。趣旨においては現行法と変りございませんが、現行法のごとく檢視に引続いて「檢証」という規定は設けませんで、檢死に引続いて檢証をする場合にも、やはり改めて裁判官の令状を得まして檢証をしなければならんということになるわけでございます。
 二百三十條は現行法二百五十八條に相当する規定で、内容は同樣であります。而して二百五十九條及び二百七十條を削除いたしまして、尊属に対する告訴、告発の禁止を撤廃いたしましたことは、提案理由の説明において触れましたので省略いたします。
 二百三十一條は現行法の二百六十條に相当する規定であります。この場合において現行法におきましては、夫が妻のために独立告訴権を持つておりましたが、新憲法の精神によりまして、夫のみが妻のために独立告訴権を持つということは、憲法の精神に合致いたしませんので、夫を特に削除いたしたわけでございます。
 次に、二百三十二條の規定は、現行法二百六十一條と全く同樣であります。二百三十三條は現行法二百六十二條に相当する規定でありまして、現行法の遺族又は後裔という言葉を死者の子孫という言葉に改めましたが、内容においては変りないと考えております。二百三十四條は現行法の二百六十三條に相当いたしまして、内容においては変りございません。現行法二百六十四條を削除いたしましたが、これは姦通罪が廃止されました結果当然のことでございます。
 次に、二百三十五條は現行法の二百六十五條に相当する規定でございまするが、第一項但書に特に外國の代表者が行う告訴又は外國の使節が行う告訴について、六ケ月の期間に対する例外規定を設けました。
 二百三十六條は現行法の二百六十六條に相当する規定でありまして、趣旨においては変りございません。
 二百三十七條は現行法二百六十七條に相当し、現行法におきましては、告訴は第二審判決があるまで、これを取消すことができるということになつておりましたのを、改正案におきましては、すでに告訴がございまして、公訴の提起がありました以上、その事件は國家の手に移つておりまするので、これを告訴人の意思によつて第二審判決があるまでその手続を止めるということは適当でないと考えまして、改正案におきましては、公訴の提起前に限つて告訴の取消ができるということに改めたわけでございます。
 二百三十八條は現行法の二百六十八條に相当し、二百三十九條は現行法の二百六十九條に、二百四十條は現行法の二百七十一條に相当いたしておりまして、内容においては変りございません。
 二百四十一條は現行法の二百七十二條と二百七十三條を一緒に規定しただけでありまして、これも趣旨においては変りございません。
 二百四十二條は現行法の二百七十四條に相当する規定でございます。
 次に、二百四十四條は新たな規定でありまして、刑法二百三十二條第二項の規定によつて外國の代表者が行う告訴又はその取消は、勿論檢察官等に対してこれをすることもできるのでありまするが、外交上の関係を考慮いたしまして、この場合には外務大臣に対してこれをすることができるという特別規定を設けたわけでございます。外務大臣はその告訴を受けました場合には、これを檢察官の手に移して、その後の捜査がなされるということになるわけでございます。日本に派遣された外國の使節が行う告訴又はその取消についても、同樣外務大臣にこれをすることができるということにいたしたわけでございます。
 二百四十五條は現行法と同樣、自首についても告発の規定を準用いたしたわけであります。
 二百四十六條は新らしい規定でありまして、司法警察員が犯罪の捜査をいたした場合には、速かに檢察官に書類、証拠物と共に事件を送致せよ、但し檢察官が特に指定いたしましたところの軽微な事件については、從來通り微罪処分を許しまして、この場合には必ずしも檢察官に送致しなくてもよろしいという規定を設けたわけでございます。
#4
○委員長(伊藤修君) 以上、第一章、捜査に関する説明に対して御質疑がありましたら、この際御質疑をお願いいたします。
#5
○松村眞一郎君 この章の規定を通観して考えられますことは、いろいろな條件があつて、檢察官なり裁判官の行動が発動するわけであります。その原因である條件が、客観的に考えられる方のものであるか、主観的に考えられるものであるかという点をお尋ねするのであります。それは憲法の第三十五條を見ますというと、正当な理由に基いて発せられたる令状がなければ、侵されないということが書いてあります。この正当な理由に基くということは、それは主観的のものでないと私は思うのです。客観的に眺めて、正当な理由がなければいけないのであつて、ただ裁判官とか檢察官が正当な理由があると認めたからといつて、それは正当なる理由に基くものでないと私は思うのです。ところがこの規定を見ますと、裁判官が認めればいいのだというような工合に私には感じられる。客観的なそういう理由がなければいけないのであつて、主客的に裁判官なり檢察官が認めさえすれば、それで発動していいというような工合にお考えになつておるかどうか、その点が私の質問の要点であります。この刑事訴訟法を起草される場合に当つては、主観的の考えで進まれてはならないものと私は考えております。この規定を見ますと、裁判官は、認めるときは、認めるときは、という規定が非常に多く繰り返されていて、裁判官が認めさえすれば、客観的にはそうでなくてもよろしいのだという工合に考えられるのでありますが、その点は如何ですか。
#6
○政府委員(宮下明義君) 例えて申上げますると、普通、通常逮捕と呼んでおります百九十九條の規定を御覧願いますると、「被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があるときは」と規定いたしております。それから二百十條の「死刑又は無期若しくは長期三年以上の懲役若しくは禁錮にあたる罪を犯したことを疑うに足りる充分な理由がある場合で、」と規定したしております。從いましてこの改正案におきましても、ただ單に主観的に認めるというだけではありませんで、これを裏打ちいたしまするところの資料を必要とする、その資料に基きまして、これを疑うに足りる相当な理由或いは充分な理由がある場合に逮捕状の発付ができる、こういう考え方を取つております。その他の場合も大体そのような考え方を取つておるわけであります。
#7
○松村眞一郎君 大体では困るのです。そういう主義であるかどうかということを私は伺つておるのです。如何なる場合でもそういう思想であるか。大体それであるが、他の場合は例外があるのだという考え方であるというのはいけないと思います。それは例えば二百十二條を題ますると、準現行犯の場合、それは第二項にどういうことが書いてあるかというと、「罪を行い終つてから間がないと明らかに認められるときは、」とあります。それは「認めるときは」ではないのです。認められるということは、客観的事実をいうて、ただ檢察官が認めたからといつて、それは許されない。客観的情勢から見て認められなければならない。私は大体これを通観いたしまして、檢察官の場合には、そういう工合に読まれる規定の方が多い。裁判官の方は認めるときは、と書いてある。私は裁判官と雖も、認められるときは、という二百十二條の二項のごとき用意を以て條文は解釈されなければならないものであると考える。先程申上げました憲法の第三十五條は、そういう趣旨なんですから、正当な理由に基いて発せられなければならない。正当な理由があると認められるときに発せられるということは、決して委任していない。憲法は決して裁判官に委任しておりません。國民全体が考え、客観的に見て正当な理由があるときは、初めて令状が発せられる。ところが裁判官は、大抵皆、認めるときは、認めるときは、と書いてある。そこでこれを起草されるに当つて、裁判官と檢察官とは違うという見解から御起草になつたかどうかということを先ず伺いたい。
#8
○政府委員(宮下明義君) 捜査の章に規定してございます令状の発付も、或いは期間の延長等も、すべて裁判所の判断は裁判でございまするので、この決定乃至命令の裁判をいたしまする場合には、その認定をする根拠となる資料を必要とするものと考えております。從いまして、ただ裁判官が、何ら資料なしに、これを認めるということは許されないものと考えております。
#9
○松村眞一郎君 それでありますと、裁判官も雖もやはり客観的に考えて、理由があると認められるときは、というお考えでありますか、どうですか。
#10
○政府委員(宮下明義君) お説のごとくなると考えております。
#11
○松村眞一郎君 それであると、例えば二百八條の第二項におきまして「裁判官は、やむを得ない理由があると認めるときは、」というのは、私はおかしいと思う。これは「裁判官が認めるときは、」ということになると、それはいけないのであつて、「やむを得ない事由があると認められるときは、裁判官」云々と、こうならなければならないと私は思う。檢察官の場合は、多くそういうことが書いてある。例えば二百十條におきまして、「禁錮にあたる罪を犯したことを疑うに足りる充分な理由がある場合で、」と書いてあります。これは客観的に認められなくちやいかない。「檢察官は、疑うに足りる充分な理由があると認めるときは、」じやないのです。檢察官にそういう認定は許してない。こういう理由があるということが、客観的に見て明瞭であるという場合に、初めて檢察官はそこで発動するわけです。併し自己の判断でやりますのですから、一應は自分で判断して、そういう事実がありと考えて行動するでしよう。併しながらそれが理由がないということになれば、その檢察官の発動が不法だつたということになるわけです。それと同じく、裁判官と雖も、私は同等であると思う。裁判官も又「認められるときは」でなければならないのであつて、その個々の裁判官が認めさえすれば、他の裁判官が認めない場合でもよろしいという考ではいけないと思う。事件に当面しておる裁判官が認めれば、他の裁判官が適当ならずと認めた場合でもよろしいということではないと思う。凡そ裁判官が皆適当なりと認めた場合でなければいかないと私は思うのですが、どうですか。
#12
○政府委員(宮下明義君) 二百八條第二項の、「裁判官は、やむを得ない事由があると認める」場合におきましても、勿論その認定の根拠となる資料を必要といたすわけであります。而してその資料は、請求をいたします檢察官が、これを裁判官に提供するわけでありまするが、この場合において、その資料に基いて、その裁判官が「やむを得ない事由があると」認定いたしまするならば、この期間の延長ができると、こう考えております。
#13
○松村眞一郎君 私のお尋ねする要点は、先程の政府委員の御答弁で明瞭でありますが、客観的の理由がなければならないということは、お認めになつたわけですね。客観的でなくちやいかん。その裁判官は、個々の主観で許すものではない。それはよろしいのでしよう。その点は如何ですか。
#14
○政府委員(宮下明義君) 裁判官は、自己に提供された資料に基きまして、法律の命じ又は許しまする裁判をする職員を持つておりまするので、その裁判官が具体的提供された資料によつて、適当であるか或いは適当でないかという判断をすることは、裁判官の專権であろう、こう考えております。
#15
○松村眞一郎君 それでは先程の答弁と私は矛盾すると思います。客観的に適当なりと認めなければ裁判官は発動してはならないのであるという大体のことをお認めになつておる。大体と申しません。原則を、私はこういうことを申すのです。只今個々の事柄によつて、或る部分は裁判官に私は認めてもよかろうと考える。私の考えはですよ。全部客観的理由でなければならんということを私は結論するつもりじやないんです。併しながら原則としては裁判官はやはり客観的に理由がその間において発動させるということにして置いて、或る事柄については主観的に認めてもよかろうと、こういう私は区別を考えておる。そういうような区別を以て立案されておるかどうかということをお尋ねするのであつて、あなたの御答弁のごとく、全部原則的にお認めになるというと、私は場合によつて困るのじやないかと思うのです。全部主観的では勿論いけません。大体において、全部客観的でなくちやならんと思いますが、或る場合には主観的に認定権を認めてもよくはないかということを私は考える。そこでこの刑事訴訟法の議論になつております章を通観しますというと、大体においてそういうような思想に解釈して立法して行つた方がよいんじやないかという心持はよく分るのであります。何故かと申しますと、これは偶然の結果かも存じませんが、檢察官の場合には、そういうような客観的の場合に解釈する方がよいような書き方になつておる。裁判官だけには認定を認めておる、ところが、裁判官には独立の判断があるからといつて、個々の裁判官に客観性までも否認するがごとき認定権を認めることは、先つき申しました憲法の規定に反すると思う。その点を十分お考えになつて各條文について区別して頂きたい。そういう区別をして立法になつておるということは今の答弁で私は明瞭に分るんです。この部分々々としては客観的に考えて見る、この部分は主観的でよいということを私は区別してお考え願いたいということを要望いたします。私の考え方と政府委員の考え方とはどういうところに相違があるかということを御答弁願いたい。
#16
○政府委員(宮下明義君) お説の通り、檢察官、司法警察職員等が或る行動をいたしまする場合の條件につきましては、認められる場合という言葉を特に使つておりまして、客観的なものを要求しておることは御指摘の通りであります。裁判官につきましては先程もお答えいたしましたように、裁判官に提供されました資料に基いて裁判官に許されておる裁量権、認定権を行使いたしまして、正当な判断をいたすことを法律自身が予定しておるものと考えております。而してその裁判官の判断が正いかしどうかということは、更に上級審によつて再批判されるわけであります。
#17
○松村眞一郎君 私は大体におきまして、やはり司法官、裁判官にはその程度の主観的認定を認めておると考えておる。その範囲を何とか考えて立法に対する用意が必要である。そういうことを申しますのは、私はこの司法委員と治安委員とに、今合同の審議をいたしております檢察官に関する問題でありますが、職務に関する問題、その規定を見ますと客観的の思想が余程なくなつておる。主観的のような態度で規定してあることが私は考えられますので、その方の合同の委員会で質問しようと思つております。まだ質問しておりませんが、その点についてどういうような用意をされて警察に関する規定を司法省としては考えるか。刑事訴訟法によると警察の場合とやはり同じ考えを以ていたさなければならんのみならず、警察の職務の方が尚更主観的の行動をされることは危險であると私は考えておる。現行犯なであつて進みます場合には、余程積極的でありますけれども、警察官の発動します場合にはもう少し愼重に主観的の考慮よりも客観的の考慮に非常なる重点を置かなければならんと思いますが、その点についてどういうような考えになつておりますか、伺いたいと思います。
#18
○政府委員(宮下明義君) 御質問の点は現在審議中の警察官等の権限に関する法案を御覧になつた上の御質問でございますか。
#19
○松村眞一郎君 それは司法省と会議の上での法律案を考えます。司法省といいますか、法務廳といいますか、檢察廳、そういう関係から御考慮になつておると私は考えますが、警察官の場合と檢察の場合と私は異ることはないと考えます。大体において客観的の思想で一貫すべきものであるというお考えと私は受取つておる。先程からの答弁で……。
#20
○委員長(伊藤修君) 連合委員会で審査しておるのですよ。
#21
○政府委員(宮下明義君) 承知しております。御説の通りと考えております。
#22
○委員長(伊藤修君) 他に御質疑は………。
#23
○松井道夫君 逮捕状を請求する裁判官はどういう裁判官ということになつておりますか。
#24
○政府委員(宮下明義君) 第百九十九條、第二百十條等にはただ單に裁判官とございまして、その裁判官がどの裁判所の裁判官であるかということは法律の上では特に規定してございません。從いまして法律といたしましてはすべての裁判所の裁判官に百九十九條による請求、又は二百十條の規定による請求等がなし得るわけでございます。而してこの法律といたしましては裁判所が、最高裁判所が、裁判所の内部規律といたしまして適当な裁判所の規則を定めるということを予定いたしております。
#25
○松井道夫君 次に百九十九條の逮捕の関係でありますが、但書を見ますと「五百円以下の罰金、勾留又は科料にあたる罪については、被疑者が定まつた住居を有しない場合又は正当な理由がなく前條の規定による出頭の求めた應じない場合に限る。」ということになつております。そうしてこの正当な理由がなく、喚び出しに應じないという場合に、逮捕できることになつておるわけにありまするが、これを引続いて後に出て來る條文で、勾留までもできるというようになつております理由を伺つて置きたいと思います。ちよつと質問の意味が分らなければ、附加えますが、六十條によりますと、裁判所が被告人を勾留する場合については、五百円以下の罰金、勾留又は科料にあたる事件については、被告人が定まつた住居を有しない場合に限つております。そういつたことから対照いたしますと、出頭に應じないので出頭させる、それで逮捕するということは、結構なんでありますが、その後勾留することができるように読める、或いは、これはできないという趣旨かも知れないが、その点をお伺いいたします。
#26
○政府委員(宮下明義君) 百九十九條第一項但書によりますると、五百円以下の罰金又は科料にあたる罪については、住居不定の場合と出頭に應じない場合には、逮捕状の請求をして、逮捕することができる、こう規定してございます。御指摘のように、六十條の但書によりますると、五百円以下の罰金、勾留又は科料にあたる事件につきましては、住居不定の場合に限つて勾留ができるのでありまするから、百九十九條第一項但書き後段の出頭の求めに應じない場合は、逮捕はできまするが、勾留はできない。こういう解釈になるわけであります。
#27
○松井道夫君 そうすると、この被疑者の勾留も亦六十條の被告人の勾留の條件によるという工合に了承いたします。
#28
○政府委員(宮下明義君) 二百七條第一項の規定によりまして、起訴前の被疑者の勾留につきまして、総則の被告人の勾留の規定を原則として準用いたして、ただ保釈についてだけ除外例を設けておりますので、総則の規定がすべてかぶつて参りますわけでございます。
#29
○松井道夫君 次に、やはり今の百九十九條の二項でありますが、同一の犯罪事実について、逮捕状が数回発付されることがあるということを予見しておるというお話でありましたが、それについては何らかの條件を附ける必要がないか、この点についての御意見を伺います。
#30
○政府委員(宮下明義君) 最前御説明申上げましたように、同一の犯罪事実について、同一の被疑者に対してはただ一回しか逮捕状の発付を許さないということにいたしますると、有効期間の関係或いは起訴状の謄本の発達が不可能になつて公訴提起が無効になる、或いは一旦起訴いたしましたが、その后公訴を取消しまして後に新たな証拠を発見して再起訴をするというような場合におきましても、尚且つ二回以上の逮捕状の発付が許されなくなりまして、実情に副いませんので、この案といたしましては、二回以上の逮捕赤の発付を容認いたしておるわけでございます。而して只今御説明申上げましたように、実際の必要に基きまして妥当な場合に二回以上の逮捕状が発付されるということは許されなければならないことでもあり、又必要なことでもありまするが、御心配のように、この起訴前の捜査の時間というものが嚴格に制限されておりまする趣旨をくぐる意味において、引続いて二回、三回と起訴前の捜査期間を脱法的な手段によつて得ようという趣旨において逮捕状の請求をするということは、法の濫用でございまして、そのような場合には、百九十九條三項の規定によつてその通知がございまするので、裁判官の方で適当に考えまして、その制限をする、そういう場合には、逮捕状を発付しないということによりまして是正ができる。從いまして、法律の明文上必ずしも再度の発付について條件まで附ける必要はないのではないかと考えております。
#31
○松井道夫君 その点でありまするが、法律では、殊に憲法の趣旨からでございます。今の被疑者の勾留ということを非常に制限しておるのでございます。それで運用の適正に讓るという御意見でありまするが、この第百九十九條の第三項によりまして、二回以上発付される場合があることは明白に分るのであります。それで実際の運用によりまして、これがどうも紊れ勝ちになるという虞れもあるのであります。先程いわれた期間を相当の理由でもあるために満了してしまつた、或いは被告人が逃げておつたために起訴状の謄本が送達ができない、或いはそれに類した場合に、條件を限つて再発付ができるということにしても、何らそれによる弊害というようなものはないと考えられるのであります。その点について重ねてお伺いいたします。
#32
○政府委員(宮下明義君) 政府といたしましても、勿論法の濫用は絶対にこれを禁止する、又今後の運用におきましても、通牒等によりまして御心配のないように嚴重に注意を加えまして、適正な運用をして参りたいと、こう考えておるのでありまして、只今御説明申上げたような、絶対に必要な場合であつて、又妥当な場合にのみ再発付というものを考えておりまするわけで、法律上明文の條件が規定してございませんでも、そのような運用をして参りたいと、こう考えておるわけであります。
   〔委員長退席、理事岡部常君委員長に着く〕
#33
○松井道夫君 次に二百七條、二百八條の関係で、只今松村委員からお尋ねがあつたことと関連いたすのでありますが、二百七條では「但し、勾留の理由がないと認めるとき、」勾留状を発しない。それから二百八條の第二項では「やむを得ない事由があるときは、」云云と、こういつたことがあるのでありますが、二百七條の「勾留の理由がないと認めるとき、」というのはどういうことを指すのでありますか。それから二百八條の方の「やむを得ない事由があると任めるとき、」というのはどういう事由を指すのか、この点を一つ……。
#34
○政府委員(宮下明義君) 勾留の理由は本案の六十條に規定がございまするように、「被告人が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由がある」ことでありまして、これが二百七條第一項の規定によりまして、起訴前の勾留にも準用されまするので、被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由がございまするならば、裁判官が勾留状を発するということになるわけでございます。而してその理由があるかないかということは、檢察官が提供いたしまする捜査に基く資料によつて裁判官が判断をいたすわけでございます。二百八條第二項の「やむを得ない事由」と申しまするのは、具体的な事例といたしましては、いろいろな場合があろうかと存じまするが、一例といたしましては、被疑者が非常に多数の事件、共犯が非常に多数の事件でございまして、手も少ない檢事局において一時に多数の被疑者を勾留いたしまして、十日間にその処理ができ得ない、例えて申しますれば、生産管理等の事件について沢山の被疑者を一時に勾留したというような場合、或いは例えて申しますれば、小平の事件のごとく非常に沢山の強姦、殺人等を犯しておる、これを十日内に捜査を遂げるということは、実際不可能の場合もございまするので、そのような場合には裁判官が実際十日内に捜査を遂げることができなかつたかどうか、止むを得ない事情を判断いたしまして、その期間を延長するということになろうと考えております。
#35
○松井道夫君 二百七條の今の「勾留の理由がない」ときということが、六十條の今の「罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由」、即ち罪を犯したということであるということになつて参りますると、檢察官がいろいろ証拠等に亘つてその理由があることを裁判官に申出なければならないことに相成る。先程の御答弁で檢察官が資料を提供するのであると言われたのはその趣旨に相成るかとも思うのでありまするが、この裁判官が刑事訴訟の管轄裁判所の裁判官ということになりますると、それが例の起訴状一本主義、先入感を與えないという要請と矛盾して來るように思うのであります。勿論裁判官の除斥とか忌避とかいう理由には、かかる場合は入つておらない、忌避の場合は別でありますが、除斥については入つておらないのであります。その点問題があると存ずるのであります。例えば現行法の勾留原因、逃げるとか、或いは証拠堙滅の疑いがある、そういつたことに相成りますると、又別個の資料でよろしいのであります。事件の内容に入つて資料が必ずしも必要でないのでありますけれども、この改正法の建前から行きますと、さような事由ではないのであります。起訴状一本主義と差支えるのでありますが、その点について……。
#36
○政府委員(宮下明義君) その点は立案者といたしましても十分に考慮いたした点でございまして、御指摘のように勾留の請求を受けまして、勾留の理由があるかないかという判断をいたすことによつて、その裁判官は或る程度の証拠を見、或る程度の先入感を持つということは誠に御指摘の通りであろうと考えます。從いましてこの場合においては、二百七條においては受訴裁判所がこの勾留の決定をいたすのではございませんで、單独の裁判官が勾留をするという建前を採りまして、必ずしも現行法のように受訴裁判所が勾留をするというようなことは考えなかつたわけであります。而して二百八十條の第一項に特別の規定を設けまして、「公訴の提起があつた後第一回の公判期日までは、勾留に関する処分は、裁判官がこれを行う。」という規定を設けましたのも、只今御心配のありました趣旨を十分考慮いたしまして、起訴状一本主義との調和を図る趣旨において、このような規定を置いたのでありまして、起訴後におきましては、受訴裁判所が勾留に関する処分、例えば勾留の理由の開示の請求がありまして、その開示の手続をする、或いは保釈の請求がありまして、保釈をするかどうかという決定をするのは、すべて事件が係属いたしました受訴裁判所がいたしませんで、他の裁判官がするという規定を設けまして、起訴後においては起訴状一本主義との調和を図つたわけであります。而して起訴前においては、二百七條の規定によりまして、これも又受訴裁判所ではないところの單独の裁判官が起訴前の勾留を定めるわけでありますが、これらの裁判官がすべて二十條の規定によりまして除斥されるということにいたしますと、現在の実際の裁判官の陣容においてはその運用が付きかねる心配もございまするので、勾留に関與した裁判官をすべて除斥するという建前は取らなかつたのであります。二十一條によつて、当事者から忌避の申立をされることは予想されておりますが、除斥までは考えなかつた。而して起訴前の勾留をいたしまする裁判官も、起訴後勾留に関する処分をする裁判官も、必ずしも受訴裁判所ではないということを考えて、起訴状一本主義との調和を図つておるわけでございます。
#37
○松井道夫君 それから二百十七條でありまするが、これは先程の百九十九條の際の御説明で問題は解決したと思いまするが、尚念を入れて伺つて置きたいと思います。住居、氏名が明らかでない、又は逃亡する虞れがあるということで逮捕された被疑者、現行犯人、これについてはやはり勾留に関する限り、今の住居不足の場合だけが勾留できるのであるというふうに了承いたしたいと思うのであります。尚続いて二百二十條でございますが、その末項によりますると、檢察事務官又は司法警察職員が勾引状又は勾留状を執行する場合、これは被告人に対するものか、或いは被疑者に対するものか、この勾引状、勾留状はいずれのものであるか、はつきりしないのでありますが、その点御説明願いたいと思います。
 次に後段の方に、「被疑者に対して発せられた勾引状又は勾留状を執行する」ということでありますが、以前御説明を伺つたところによりますると、被疑者に対しては勾引状という制度はなくなつて、それに代つて今の逮捕という制度によつて、召喚に應じなかつた場合を保障したのであるというように聞いておつたのでありますが、ここには「被疑者に対して発せられた勾引状」と書いてありますが、その辺の御説明を願いたいと思います。
#38
○政府委員(宮下明義君) 第一点の二百十七條に関する御質問の点は御趣旨の通りでございます。
 次に、二百二十條の末項の前段の勾引状、勾留状は被告人に対する勾引状、勾留状と、被疑者に対する勾引状、勾留状と両方を含んでおります。
 後段の被留者に対して発せられた勾引状というものはないのではないかという御質問に対しましては、この場合僅かに予想しておりまするのは、改正案におきまして二百六十二條以下に、檢察官が人権蹂躙事件について公訴を提起しない処分をした場合に、これに対してその事件を裁判所の審判に付することを請求する制度を認めておりますが、この場合に被疑者に対して勾引状が発せられることがあるということを予想いたしておりまするので、これが僅かの例外になろうかと思います。本則といたしましては、被疑者に対しては勾引状というものは考えておりません。逮捕状で参いりまして、裁判所の被疑者に対して勾引状を発するのは二百六十二條の場合だけであるということになるわけでございます。
#39
○松村眞一郎君 先程百九十九條の末項の再度逮捕状を発付する場合についての説明が政府委員からあつたのでありますが、裁判所はよく考えて発付しないことがあるだろう。だから再度の発付、三度発付というようなことがあつても弊害がなかろうというような御答弁でありましたが、発付しないということについては何らかのそこに判断の材料がなければならないと思います。で、前に請求をした、又は発付したというだけの通知では裁判官は判断し得ないと思います。更に再発行を否認するという原因はそこに何ら示してないのであります。私はこういう再度発行を請求するならば、單に前に発付したということを通知するのみならず何故に再度なり三度も逮捕状を発付しなければならんかという事由ぐらいは、併せて示していいのじやないかと思いますが、先程仰せになりました発付しないことあるべしということの判断は、何によつてやるのでありますか、單の通知だけでは私分らんと思いますが如何でしよう。
#40
○政府委員(宮下明義君) 立案当局として予想いたしておりまするのは、勾留状を発するか、或いは勾留の請求を却下するかということも裁判官の裁判でございまするので、四十三條第三項の適用がございまして、決定又は命令するについての必要がある場合には、事実の取調をすることができるということになつておりまするので、裁判官が若しこの通知によりまして、而も引続いて二度三度と逮捕状の請求をしているような場合であつて、確かに法の濫用と認められる場合にはこの四十三條の規定によつて調査をし事実の取調をして、その判断を下すということを予想いたしているわけでございます。
#41
○松村眞一郎君 私はこの事実を取調べる前に、單に通知だけでなくて、何か出させた方がいいのじやないかということを申している。單純なる通知だけでなく、再発行をする、三度も発行するということになれば、こういうわけでというようなことを何か書かせた方がいいのじやないかということの方面から申しているのでありまして、ただ二度來たからというので、一々事実の取調をするというのは非常に煩鎖であるから、非常に弊害を生ずる虞れがあるのでありますが、請求する方も或る程度の愼重な処置をした方がいいという考から申しているのでありますが、そういうようなことは立法の際にはお考えにならなかつたのですか、どうですか。請求の際に何らかの申入をさした方が便利であるという御考慮があつたかどうか。
#42
○政府委員(宮下明義君) 立案に際しましてその点も考慮いたしましたが、立案当局といたしましては、必ずしもそれまでの必要はないのではないかというところから、百九十九條の第三項のごとく、單なる通知という形に規定を設けたわけでございます。
#43
○松村眞一郎君 私は文字論をかれこれ申すのではありませんけれども、元來そういつた逮捕状を、二度以後の逮捕状は、第一項の逮捕状といういい方でなくて、第三項の逮捕状という方が私はむしろいいと思います。そうでありますから、第一項の逮捕状を請求する場合においてということになると、逮捕状の再度、三度発行するということを第一項の初めから想像しているというような書き方でなく、むしろそうでなく第一項は初めて発行する場合の規定をしているのでありまして、二度目の時には、これは二度目の考えとして例外的に考慮するという立法をするのが当然で、初めから二度三度出すことは当然入つておるのだという考え方の立法は私はよろしくないと思います。第一項は率直に初めて発行する場合のことを書いて、第三項において初めてそういう二度も重複の発行を考えるのだということの方が私はいいのじやないかと思います。立法する場合において、第百九十九條を書く時に、二度も三度も発行することを考えて、第一項を起草したという考え方であるならば、これは甚だよくないことである。逮捕状というのは一遍しか発行しないものであるという頭から進んで、例外として、二度、三度発行するという考え方をするのが当然で、初めからそれが第一項の逮捕状に入つているという立法のやり方は甚だ当を得ないと思います。第二項の場合は「前項」という字は要らない、第三項に至つて投捕状はこういうものだと例外に的に書く、こういう考え方の方がいいので、第三項を読んで見ると、再発行はやはり第一項の逮捕状だという考え方を以てできるというのは、これは普通の立法のやり方ではないと思います。それを御考慮を煩わしたい。これは我々の方で修正するときに考えるべきであるかも知れないが、こういうふうに私は考えます。
#44
○政府委員(宮下明義君) 百九十九條第一項につきましては、第一回目の逮捕状の請求、第二回目の逮捕状の請求というような回数のことは考えませんで、ただ逮捕状の請求についての條件を規定したわけでございます。御指摘の点は十分研究して見なければならん点かとも考えておりまするが、現在私共の考え方といたしましては、必ずしもその必要はないのではないかと、かように考えております。尚本案におきましては、逮捕状というものは、有効期間が過ぎますと無効となりまして、裁判所にその都度返すものでありますので、逮捕状を貰いましても、十日或いは二週間という期間を限ぎられた逮捕状が出まして、その期間内で被疑者を探すわけであります。必ずしも捕えられない場合は引続いて貰うということが予想されすので、一回、二回ということを別に考えずに、抽象的に百九十九條第一項の規定を設けたわけでございます。
#45
○松井道夫君 二百二十六條、二百二十七條、それと関連しまして二百二十八條、この規定は公判中心主義と牴触するような例外の場合であるのでありますが、殊に二百二十七條の場合は不当でないかと思います。更に「裁判官は、搜査に支障を生ずる虞がないと認めるときは、被告人、被疑者又は弁護人を前項の尋問に立ち合わせることができる。」ということになつておるのであります。これは憲法に規定してあります刑事被告人は、すべての証人に対して審問する機会を充分に與えられるという趣旨からいたしましても、不穩当ではないかと思います。この点についての御意見を伺います。
#46
○政府委員(宮下明義君) 二百二十六條、二百二十七條は確かに御指摘の通り公判中心主義の例外をなす規定であると考えます。つまり二百二十七條は、檢察官、司法警察職員等の証人に相当する者の取調は全く任意になりまして、檢察官、司法警察職員等がそれぞれの者の出頭を求めましても、出頭を否むことができ、或いは出頭後随次退去もできるということになつております関係上、搜査をいたすものといたしましては、この人の言うことを聞いたならば実際の眞相が分ると考えるのに拘わらず、その人の言うことが分りませんと、起訴、不起訴の判断もできない、或いは証人の申請をしてもいいかどうか分らないというような場合も考えられますので、二百二十六條の規定を設けまして、このような場合には裁判官に証人尋問を請求することができるということにいたしたわけでございます。二百二十七條の方は、例えば兇惡の恐喝事件等で、その被告人が証人等にいろいろな圧迫を加えまして、後の公判期日において証人が正しい証言をしない虞れがあるというような場合に、その証言を適当に保全いたして置きませんと、有罪に爲し得るものも有罪とすることができない、殊に被告人は終始默秘権を持つておりますので、この二百二十七條のような規定がございませんと、犯罪の証明にも事欠くという点からこの規定を設けたわけでございます。而して憲法との関係において証人を十分に尋問する機会を與えないのは、憲法違反の疑いがあるのではないかという御議論でございますが、後に御説明申上げますように三百二十一條第一項第一号の規定によりまして、この二百二十六條、二百二十七條の規定によつて裁判官が証人尋問をいたしましたその書面というものは、供述者が死亡、心身の故障、所在不明、又は外國にいる等のために、公判準備、若しくは公判期日において供述することができないとき、又は供述者が公判準備、若しくは公判期日において前の供述と異なつて供述をしたときにおいて始めて証拠能力を得るわけでありまして、この二百二十六條、二百二十七條によつて取られました証人尋問調書というものがすべて証拠能力を持つておるわけではございませんので、その点は十分に説明が付くと、こう考えております。
#47
○松井道夫君 今の御説明了承するわけでありますが、ただ証人尋問に被告人、弁護人を立会わせないことができるという、その点について御意見を聽きたい。
#48
○政府委員(宮下明義君) 三百二十一條の前段の死亡、心身の故障等の場合には、改めてその証人を公判で取調べることができませんので、憲法の要求する証人を十分に尋問する機会を與えることが事実上できないわけでありまするが、後段の場合においては、その供述者を改めて公判に喚びまして証人尋問をいたしておるのでありまして、この場合には被告人が公判におりまして、その証人に対して反対尋問をいたしておるわけであります。而してその公判における証人の供述と二百二十六條、二百二十七條によつて取りました証人尋問の書面の内容とが違つておるわけでありまするが、その両者のいずれを採るかということを裁判所の裁量に委せまして、両方の証拠能力を認めたというわけでありまして、憲法の要求する十分に証人を尋問する機会を與えなければならないという要求は充たされておるものと、このように考えておるわけであります。
#49
○理事(岡部常君) それでは本日はこの程度で散会いたします。
   午後零時三十五分散会
 出席者は左の通り。
   委員長     伊藤  修君
   理事
           鈴木 安孝君
           岡部  常君
   委員
           大野 幸一君
           中村 正雄君
           水久保甚作君
          池田七郎兵衞君
           鬼丸 義齊君
          前之園喜一郎君
           宇都宮 登君
           來馬 琢道君
           松井 道夫君
           松村眞一郎君
           宮城タマヨ君
           星野 芳樹君
  政府委員
   法務廳事務官
   (檢務局刑事課
   長)      宮下 明義君
ソース: 国立国会図書館
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