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1947/06/22 第2回国会 参議院 参議院会議録情報 第002回国会 司法委員会 第44号
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1947/06/22 第2回国会 参議院

参議院会議録情報 第002回国会 司法委員会 第44号

#1
第002回国会 司法委員会 第44号
昭和二十三年六月二十二日(火曜日)
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  本日の会議に付した事件
○刑事訴訟法を改正する法律案(内閣
 送付)
  ―――――――――――――
   午前十一時十八分開会
#2
○理事(岡部常君) これより司法委員会を開会いたします。前回に引続きまして、刑事訴訟法を改正する法律案の質疑を続けます。
#3
○松井道夫君 二百三十七條でありますが、告訴は、公訴の提起があるまでこれを取消すことができるというふうになつております。併し現行法は二審の判決があるまで取消すことができることになつておるのでありまして、その立案の主旨は、大体想像できるのでありまするが、併しこれを一審の判決があるまで、或いは証拠調べに入るまで、或いは事件について陳述、請求するまでというようにすることも考えられると思うのであります。証拠調べに入るまで、或いは事件について請求、陳述するまで、これならば、敢て國家機関のいろいろの行爲、努力を無駄にする、被判所の訴訟行爲を無駄にするというようなことがないわけでありますし、第一審の判決があるまでということにいたしますのも、また從來の制度の趣旨と、新らして立案の趣旨の或る程度妥協する意味で考えられると思うのであります。公訴の提起があるまでということにしなければならない理由が御説明願いたいと思います。
#4
○政府委員(宮下明義君) 二百三十七條につきましては、お説の通り、現行法の二百六十七條におきましては、第二審の判決があるまで告訴の取消ができるということになつておりますのを、改正案におきましては、公訴の提起があるまでこれを取消すことができるというふうに改正いたしたわけでございます。而してこの告訴取消をなし得る時機をいつに限るかという点につきましては、御議論のように、或いはその事件について請求又は陳述をした後は取消をすることができないとか、又は証拠調が開始された後は取消すことができないとか、又は第一審の判決があつた後は取消すことができないとか、いろいろな立て方はあろうと存じまするが、本案におきましては、告訴がございまして、檢事がその告訴を受けまして捜査を遂げて、改正案二百四十八條に相当いたしまする起訴便宜主義の規定によりまして事案を檢討した後、公訴を提起すべきものと考えまして起訴いたしました以上、その事件はすでに國家の手に移つておるのでありますので、これを單に告訴人の意思によつてその手続を中断してしまう、止めてしまうということは、如何にも告訴人本位、或いは被害者本位という感じが強い点を考慮いたしまして、改正案におきましては、公訴提起前に限つて告訴の取消ができる。一旦公訴の提起がありました以上は、告訴人の意思によつて手続を中断することができないというふうに改めたわけでございます。
#5
○松井道夫君 それから二百四十條でありますが、告訴は代理人によつてすることができる、これは結構なのでありますが、從來告発についても代理人名義で告発いたしまして、それを有効に取扱つていたようでありまするが、二百四十條で告発も入れまして、その点を明かにした方が適切ではないかとも考えられるのであります。その点について御意見を伺いたいと思います。
#6
○政府委員(宮下明義君) 告訴は、二百三十條によりまする被害者であるとか、二百三十一條によりまする被害者の法定代理人等でありませんと、告訴をすることができないわけでありまするが、告発は他人に犯罪があると考えた人は何人でも告発が自己の名前においてすることができるのでありまするので、必ずしも代理人によつて告発をする必要はないというところから、告発については改正案においても代理人による告発を認めなかつたわけであります。この考え方は現行法においても同樣でございまして、苟も他人の犯罪を発見した人は、その本人の名義において告発をして頂く、こういう考え方を改正案はとつておるわけでございます。
#7
○星野芳樹君 只今松井委員から御質問の二百三十七條ですな、政府委員のお考えは、法の建前としてはそうでしようが、もう少し具体的にですね、この告訴を取下げられないためにいろいろできる不便があると思います。例えば名誉毀損とか、或いは横領とか、そういうもので、示談で済んでも、一旦告訴しちやつたので、もう取下げられないというので、問題を複雜とする点が多い弊害が大分あると思うのですが、そういう具体的な功罪をもう少し考察した答弁を願いたいと思います。
#8
○政府委員(宮下明義君) お説の通り、改正案二百三十七條によりまして、公訴提起後告訴の取消をすることができないという規定を設けました関係上、少くとも親告罪につきましては、一旦公訴の提起がありました以上、その告訴を取消すことができませんので、從來は第二審判決があるまで告訴の取消ができまして、その場合には公訴棄却の判決があつたわけでございまするが、今後の改正案によりましては、そのような親告罪につきましても既に告訴によつて公訴の提起があつた以上は、有罪の判決をする以外に途がないということになろうと思います。親告罪以外の事件につきましては、從來と雖も、公訴提起後に告訴の取消がありましても、被判所といたしましてはその事実を勘案いたしまして、或いは執行猶予にするとか、或いは被害者が満足しておる事情を考えまして、軽い刑にいたしおつたわけでありまするが、この点は今後と雖も告訴の取消ができないということにいたしましても、実際の運用はさして違いはないのではないかと考えております。ただ御指摘のように、親告罪については從來と可なり裁判の結果が違つて参るということになるわけでございます。で、どちらがよいかという問題でございまするが、刑事裁判というものを單に被害者個人の満足に重点を置くか、或いは法規の権限と申しますか、刑罰法令の適正な適用実現ということを主に考えるかということによつて結論が違つて参るのではないかと考えます。この場合におきましても、必ずしも被害者の一個人の意思だけを考えませんで、やはりこのような場合においても、一旦國家がその事件を引受けて手続を始めた以上は、やはり刑罰法令を適正に適用実現しなければならないという、この考え方を強くとりまして、この改正案二百三十七條ができておるわけでございます。
#9
○星野芳樹君 今の政府委員の御説によると、個人より何というか、法律を重く見るという行き方ですが、結局法律というものは社会の安寧と民衆の福祉にあるのだと思うのです。そういう意味から言うと、單に告訴を採上げるというのも決して個人的な問題というよりも、その方が解決し得る問題を、犯罪にまで持つて行かないでも解決し得るという点で、社会安寧という点でも効果があるようであります。今だけの御説明では、どうもこういうふうに改めた法の害の方が多くて、効の方が少いように思われるのですが、如何でしようか。
#10
○政府委員(宮下明義君) この点に関しましては、結局二つの要請を如何なる点において調和するかという問題でございまするので、それぞれの立場によつて結論或いは議論が違つて参ると考えまするが、從來の実際の刑事裁判の運用、告訴によりまする刑事裁判の運用というものを考えますると、起訴されました被告人がいろいろに手を盡しまして、告訴人でありまするところの被害者側をいろいろな手段によつて納得させて、その告訴を取消さして軽い裁判によつて事を済ませたという事例が多いのでありまして、その裁判の結果を社会全体が必ずしも納得していなかつたと考えるのであります。この場合におきましては、被害者である告訴人の利益というものと、被告人の利益と、それから社会全体の公益の回復というまあ三つの問題が絡まつておりまするので、改正案二百三十七條の改正は妥当であると、こう考えておるわけでございます。
#11
○星野芳樹君 只今の政府委員の説明によると、告訴されると被告の方がいろいろ手を打つという弊害があるという、そういう点だつたら、やはり告訴をしてから公訴の提起の間に期間があるので、やはり同じく手は打つだろうと思います。一方相当時間を経過させるということは、本人間の感情を融和して冷靜に考えるという期間を與えるので、その方が問題を公正にできるのではないでしようか。
#12
○政府委員(宮下明義君) 勿論公訴提起前においても、被告人側、即ち被疑者側がいろいろ手を盡すことは考えられるのでありまするが、その場合においては、まだ公訴官、即ち國家側におきましてはその事件を國家が引受けて、刑事裁判に掛けるのだという意思表示をいたしておらない時期でありまするので、公訴の提起があるまでは当事者間の示談等にやつて告訴の取消を可能ならしめて少しも差支ないと考えるのでありまするが、一旦國家が、事件の重要性、或いは被告人の惡性等、諸般の事情を考えまして、その事件を起訴いたしました以上、やはり國家といたしましては、勿論將來の裁判において被害者側の満足感というものも裁判の中に、考慮に採入れられることは申すまでもございませんが、やはり一旦公訴の提起があつた以上は、その事件を進めまして終局判決を得るというのが妥当であるという考えに立つているわけでございます。
#13
○大野幸一君 私は二百三十九條の第二項と、百五十一條と百五十條との関係について疑問の点があるのでお聞きいたしたいと思うのでありますが、二百三十九條に、「何人でも、犯罪があると思料するときは、告発をすることができる。」それは分りますが、第二項に「官吏又は公吏は、その職務を行うことにより犯罪があると思料するときは、告発しなければならない。」そこで、この官吏の中には当然裁判官も含むわけであろうと思う。そこで百五十一條に、「証人として召喚を受け正当な理由がなく出頭しない者は、五千円以下の罰金又は拘留に処する。」こういうことが裁判の審理の過程においてあつた場合に、その裁判官は必ず告発をしなければならないかどうかという点であります。それと、前條の百五十條は、これは過料罰として裁判官が自ら決定でできるということに解釈できますが、その百五十一條の方は告発を待つて、檢事の公訴の提起を待たなければならないと思うのであります。そういう場合に、百五十條で自ら過料の決定をし、更に官吏として告発をしなければならないか。こういう点をお尋ねしたいと思うのであります。
#14
○政府委員(宮下明義君) 二百三十九條第二項によりますと、官吏、公吏がその職務を行うに当つて犯罪を発見した場合には、告発をしなければならないという告発義務を負わしておるのであります。併しながら百五十條の場合におきましては、裁判所に、すべて決定で過料に処する権限を認めておりまするので、この場合におきましては、裁判所の過料を以て事足りると考える場合におきましては、百五十條で過料に処し、且つ費用の賠償を命じますれば、必ずしも告発を必要としないと、こう解釈いたしております。百五十一條の場合は、御説の通り裁判官の告発により、或いは立会檢事自身が認知いたしました正式の公訴提起がありまして、通常の刑事訴訟によりまして罰金又は拘留という刑が科せられるのでありますが、この場合においても裁判官は百五十條の過料では十分でないと考えた場合には、自分みずからが過料の裁判をいたしまする場合であると否とを問わず、尚進んで刑罰を科する必要があると考える場合には、百五十一條の発動を促す意味において告発をする。こういうことになろうと考えております。
#15
○大野幸一君 そこで、その場合におきまして、裁判所が「正当な理由がなく」ということの判断に基いて告発をするのです。告発しまして更にその告発によつて檢事が公訴を提起する、告発者自身が裁判をしなければならない、こういうことになるのです。まあ東京の裁判所では他の者がなすことも考えられるけれども、地方においては裁判所の構成上、告発者自身たる判事みずからが裁判をしなければならないということができて來ると思いますが、そういうことで一体裁判の公正が期せられるかどうか、刑事裁判の法の精神に合うかどうかという疑問があるのですが、その点についてどうお考えでしようか。
#16
○政府委員(宮下明義君) 改正案第二十條の除斥事由といたしまして、裁判官が事件について告訴又は告発をしたときという規定はないのでありまするが、問題になつておりまするような場合におきましては、実際問題といたしましては裁判官が忌避等の手段をとりまして、自分みずからが告発をした事件を、進んで自分が有罪の判決をするというような処置はとらないであろうとこう考えております。
#17
○理事(岡部常君) 大体一章の御質問がなければ次に進みたいと思います。どうぞあと御説明願います。
#18
○政府委員(宮下明義君) 第二編第一審第二章公訴の章を御説明申上げます。第二百四十七條は現行法二百七十八條と同樣の規定でございまして、本案におきましても、國家訴追主義を現行法通り維持いたしまして、公訴は檢察官がこれを行うという規定を設けたわけでございます。併しながら現行法と非常に違いまする点は、現在國会において御審議を願つておりまする檢察審査会法によりまして、檢察官の不起訴処分の当否を檢察審査会というものが審査をするという制度を新たに設けることといたしました点が一つ、それからもう一つは二百六十二條以下に、いわゆる人権蹂躪事件について檢察官の起訴処分を不当といたしまする者は、裁判所にその事件を裁判所の審判に付する請求をすることができるという規定を設けてございまするので、この点は從來の國家訴追主義に対する大きな制約となるものと考えております。次に二百四十八條の起訴便宜主義の規定でございまするが、これは現行法二百七十九條と殆んど変つておりません。ただ現行法と異なります点は、犯罪の情状のみでなく、犯罪の軽重、即ち犯罪の罪質も十分考えなければならないということにいたしました点が異つているだけでございます。次に二百四十九條は、いわゆる公訴の主観的同一性に関する規定でございますが、「檢察官の指定した被告人以外の者にその効力を及ぼさない。」という規定でございまして、これは現行法二百八十條と同趣旨でございます。
 次に二百五十條の一号乃至五号は現行法と同樣でございまするが、現行法第六号の單純賭博に関しまする短期時効の制度を削除いたしました。現行法第七号の拘留又は科料にあたる罪については、六ケ月の時効期間とあるのを一年と改めました点が異なるだけでございまして、その他の点は現行法第二百八十一條と変りございません。單純賭博についての短期時効を削除いたしました理由については、單純賭博についてのみ六ケ月という短期時効を規定いたしまする根拠が乏しいというところから、これを削除いたしまして、普通の罰金にあたる罪と同樣、その時効期間を三年というふうにいたしたわけでございます。拘留又は科料にあたる罪を一年といたしましたのは、從來の六ヶ月という時効期間が余りに短か過ぎるという点を考えましたのと、今後捜査手続というものがいろいろ制約を受けまして、可なり捜査が困難になりまする事情をも考慮いたしまして、拘留又は科料にあたる罪についての時効を一年と改めたわけでございます。次に二百五十一條、二百五十二條、二百五十三條は現行法と全く同趣旨の規定でございまするので、御説明を省略いたしたいと思います。
 次に二百五十四條の規定でございまするが、現行法におきましては、時効はその事件についての公訴の提起又は裁判官の処分によつて中断するという形になつておつたのであります。中断と申しますのは、その時までは進行した時効がすべてなくなりまして、中断後新らしき時効が進行する。又更に中断があればそれまでに進行した時効の利益というものは全部なくなつてしまう。この時効の中断を繰返して参りますと、永久に時効の利益を受けることができないという制度でありましたので、改正案におきましてはこの中断の制度を改めまして、その事件について公訴の提起があつて、その事件が裁判所に係属しておる間は時効の進行は停止するという考え方を採つたわけでございます。而してその事件について有罪の裁判が確定いたしますと、すでに公訴時効の問題はなくなりまして、その後には刑の時効という問題に移るわけでありますが、有罪の裁判でなくして、管轄違い又は公訴棄却の裁判があつた場合には、その裁判が確定した後再び時効の進行が始まる。言い換えますと、公訴の提起まで進行して参つた時効に管轄違い等の裁判があつた後の時効期間というものがプラスされるということになるわけでございます。而して但書において、起訴状の送達が二ケ月以内にできなかつたために起訴の手続が無効になつた時は、最初から時効が進行しないということを規定してあるわけでございます。二百五十四條第二項は、現行法と同様「共犯の一人に対してした公訴の提起による時効の停止は、他の共犯に対して」も「その効力を有する。」という規定を設けたわけでございます。次に二百五十五條の規定でございまするが、先に御説明申上げましたように、改正案におきましては、刑事訴訟から公示送達という観念を排除いたしまして、刑事訴訟におきましては犯人の所在が分らない場合におきましても、公示送達ということはできないということにいたしました関係から、犯人が日本「國外にいる場合又は犯人が逃げ隱れているため有効に起訴状の謄本の送達ができなかつた場合には、時効は、その國外にいる期間又は逃げ隱れている期間その進行を停止する。」という特別規定を設けまして、公示送達の廃止と施行との調和を図つたわけでございます。而して第二項におきまして、犯人が日本國外におる事実及び犯人が逃げ隱れておるために、有効に起訴状の謄本の送達ができなかつたという事実の証明に関しましては、特に裁判所の規則でその証明に必要な事項を規定するということにいたしまして、これらの事実についての証明方法を特に嚴格にしようといたしたのであります。
 次に二百五十六條の規定でございまするが、この規定は今回の改正案におきましても最も重要な改正の一つでございまして、公訴提起の手続に関して、重大な変更を加えた規定でございます。その第一の点は、公訴提起を、從來のごとく、ただ單に裁判所の審判の範囲を特定するという意味に限りませんで、公訴の提起を以て審判の範囲を特定すると同時に、被告人側に防禦の範囲を知らしめて、被告人の利益を図るという考え方を取入れました点と、二百五十六條の末項におきまして、いわゆる起訴状一本主義を採用して、「起訴状には、裁判官に事件につき予断を生ぜしめる虞のある書類その他の物を添附し、又はその内容を引用してはならない。」といたした点であります。この二百五十六條末項の規定は、政府といたしましては最も嚴格に解釈いたしたいと考えておる規定でございまして、若しこの規定に違反して起訴状等に裁判官に予断を生ぜしめる虞れのある書類等を添附いたしました場合には、公訴提起の手続そのものが無効となりまして、公訴棄却の裁判を受ける、このように解釈いたしております。而して改正点の最初の部分の御説明でございまするが、被告人に防禦の範囲を知らしめて被告人の保護を図るという趣旨から、公訴の提起は必ず書面によらなければならない。從來のように口頭又は電報の起訴ということは一切認めないことといたしたのであります。而して起訴状には被告人の氏名、若し被告人の氏名が分りませんときは、これを特定するに足りる事項、第二に公訴事実、第三に罪名を記載することといたしまして、公訴事実は、特に「訴因を明示してこれを記載しなければならない。」ということにいたしたのであります。訴因と申しまするのは社会的事実としての犯罪を法律的に構成いたしました訴訟の理由、こう定義することができると思つております。今一例を採つて申上げますると、或る甲という人が乙から物を奪われたということは社会的な事実でありまするが、その場合に若し暴行、脅迫を伴つておりますれば強盗罪となり、暴行脅迫が伴つておりませんければ窃盗罪となるわけでありまするが、この甲が乙に物を奪われたという社会的な事実を強盗と構成いたし、或いは窃盗と構成いたしたのが訴因と、こう考えておます。これは後に公判の章で御説明いたしまするように、裁判所は訴因に拘束されまして訴因の範囲以外の認定をすることができないという拘束を受けまするので、特にこの訴因の観念を挿入いたしますことによつて、被告人側に防禦の範囲を知らしめ、被告人側の利益を図ろう、このようにいたしたわけでございます。尚罪名を表示いたしまするのには、「適用すべき罰條を示してこれを記載しなければならない。」ということにいたしました。而して罰條の記載というものは訴因の記載程は重要視いたしておりませんで、たとい罰條の記載に誤りがございましても、その誤りが「被告人の防禦に実質的な不利益を生ずる虞がない」場合におきましては、その誤りを無視いたしまして、裁判所は正しい罰條を適用することができると、こう考えております。これが二百五十六條第四項但書の意味でございます。而してその訴因及び罰條は「数個の訴因及び罰條」を「予備的に又は択一的にこれを記載することができる。」といたしまして、而してこの数個の訴因を書き得る範囲は、勿論社会的事実としての犯罪事実の同一性の範囲内におきまして、檢察官が適当に訴因を構成いたしまして、二個又は三個の訴因を予備的に又は択一的に記載いたすわけでございます。例を挙げますると、殺人罪として起訴いたしまして、若し殺人が成立たないとすれば、傷害致死の認定をして頂きたいというのが予備的記載と考えております。甲は詐欺に非ざれば恐喝をしたものであるという記載は、択一的な記載と考えております。
 次に二百五十七條でありまするが、これは現行法二百九十二條と全く同様の規定でございます。而してこの規定も、今回の改正案に採用されておりまする二百六十二條以下の、いわゆる人権蹂躪事件について、裁判所が審理の結果、管轄裁判所の公判に付しました事件については、檢察官も公訴の提起をすることができないと、このように解釈しております。
 二百五十八條の規定は現行法二百九十三條の規定と全く同趣旨でございます。
 次に二百五十九條は新らしい規定でございます。從來、檢察官は事件について不起訴処分をいたしましても、何らその被疑者に対して通知をしなかつたのでありますが、これでは不親切でもあり、人権尊重の趣旨に合致いたしませんので、今回の改正案におきましては被疑者の請求があつた場合に、速かに不起訴処分に付した旨を告げなければならないという規定を設けたわけでございます。この規定につきまして必ずしも被疑者の請求を待つ必要はないのではないか、すべての事件についと檢察官は不起訴処分を通知したらばよいのではないかという御疑問があろうと思いますが、場合によりましては、何も葉書等で通知を受けることを欲しない被疑者もありましようし、又現在の実際の檢察局の人員等を考慮いたしますると、すべての不起訴事件について不起訴の通知をすることが実際問題としてもいたしかねる実情もございますので、取敢えず被疑者の請求がある場合に限つて不起訴処分に付した旨を告げる規定を設けたわけでございます。將來檢察廳の陣容が整備いたした場合におきましては、すべての不起訴処分について通知するということも適当ではないかと、このように考えております。次に二百六十條でございまするが、現行法二百九十四條においては單に告訴人にのみその書類通知をすることになつておつたのでありまするが、改正案におきましては、告発人及び請求人に拡張いたすことにいたしました。次に二百六十一條も新らしい規定でありまして、檢察官は、告訴、告発又は請求のあつた事件について不起訴処分をいたしました場合に、告訴人、告発人又は請求人の請求があるときは速かにその理由を告げなければならないという規定を設けたのであります。
 二百六十二條以下の規定は、いわゆる人権蹂躪事件につきまして告訴又は告発をした者が檢察官の不起訴処分に不服があるときは、その檢察官所属の檢察廳の所在地を管轄いたしておりまする地方裁判所にその事件を裁判所の審判に付することを請求することができるという一連の手続を規定した規定でございます。改正案におきましても檢察官が公訴を独占いたしまして、いわゆる國家訴追主義を貫いておるのでありまするが、この人権蹂躪事件につきましては檢察官も又一般司法警察職員を指揮いたしておりまする関係から、司法警察職員に人権蹂躪がありました場合にこれを不起訴処分にしたのではないかという疑念を持つでありましようし、又檢察官に人権蹂躪があつた場合に、これを不起訴処分にいたしますると、同じ身内の檢察官であるから不起訴処分にしたのではないかという疑念を持つのも尤もと思われまするので、特にこの事件につきましては再審査を裁判所に請求いたしまして、裁判所がこの事件は公訴を提起するのが妥当であると認めまする場合には、管轄裁判所の審判に付するという決定をいたしまして、その決定によつて二百六十七條にありまするように公訴の提起があつたものとみなしまして、而もその事件の公訴の維持は、二百六十八條にございまするように、弁護士の中から指定した者が特にその事件の公訴の維持に当るという建て方をいたしたわけでございます。二百六十二條乃至二百六十九條の一連の規定は細かい手続規定もございますので、以上の御説明によつて詳細の説明を省略いたしたいと考えます。
 次に二百七十條の規定でございまするが、檢察官は公訴提起後、訴訟に関する書類及び証拠物を閲覽謄写することができるという規定を特に設けたわけでございます。
#19
○理事(岡部常君) 本日はこれを以て散会いたします。
   午後零時九分散会
 出席者は左の通り。
   理事
           岡部  常君
           鈴木 安孝君
   委員
           大野 幸一君
           中村 正雄君
           遠山 丙市君
           水久保甚作君
           來馬 琢道君
           松井 道夫君
           松村眞一郎君
           星野 芳樹君
  政府委員
   法務廳事務官
   (檢察局刑事課
   長)      宮下 明義君
ソース: 国立国会図書館
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