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1956/11/16 第25回国会 衆議院 衆議院会議録情報 第025回国会 本会議 第3号
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1956/11/16 第25回国会 衆議院

衆議院会議録情報 第025回国会 本会議 第3号

#1
第025回国会 本会議 第3号
昭和三十一年十一月十六日(金曜日)
    ―――――――――――――
 議事日程 第二号
  昭和三十一年十一月十六日
   午後一時開議
 一 国務大臣の演説
    ―――――――――――――
●本日の会議に付した案件
 鳩山内閣総理大臣の所信についての演説
 重光外務大臣の国際情勢についての演説
 日本国とソヴィエト社会主義共和国連邦との共
  同宣言の批准について承認を求めるの件、貿
  易の発展及び最恵国待遇の相互許与に関する
  日本国とソヴィエト社会主義共和国連邦との
  間の議定書の批准について承認を求めるの件、
  北西太平洋の公海における漁業に関する日本
  国とソヴィエト社会主義共和国連邦との間の
  条約の締結について承認を求めるの件及び海
  上において遭難した人の救助のための協力に
  関する日本国とソヴィエト社会主義共和国連
  邦との間の協定の締結について承認を求める
  の件の趣旨説明
   午後五時三十四分開議
#2
○議長(益谷秀次君) これより会議を開きます。
     ――――◇―――――
 国務大臣の演説
#3
○議長(益谷秀次君) 内閣総理大臣から所信について発言を求められております。また、外務大臣から国際情勢について発言を求められております。順次これを許します。内閣総理大臣鳩山一郎君。
  〔国務大臣鳩山一郎君登壇〕
#4
○国務大臣(鳩山一郎君) 第二十五回国会の開会に当りまして、ここに所信の一端を表明する機会を得ましたことは、私の欣幸とするところであります。
 私は、河野、松本両全権とともにモスクワにおもむきまして、去る十月十九日、日本国とソビエト社会主義共和国連邦との共同宣言並びに貿易に関する議定書に調印をして参りました。これによりまして、終戦後十一年間も継続した日ソ両国間の戦争状態は終結いたしまして、外交関係は回復され、日本の国連加盟への支持や、抑留者の送還、漁業条約の発効等も確定いたしまして、さらに、両国間の平和条約についても今後引き続き交渉することになりました。歯舞、色丹両島は、平和条約締結の後、わが国へ引き渡されることになったのであります。
 これらの交渉に当りまして、わが全権団は、国民の期待に沿うべく渾身の努力を傾けました。日ソ復交こそは、わが内閣成立以来の最大公約でありまして、同時に、世界平和へのわが国民の悲願に直結すると考えたからであります。(拍手)
 交渉の成果は、必ずしも十分満足すべきものとは思っておりません。しかしながら、私は、国際関係の現実を冷静に見詰めながら、わが祖国と国民の将来を深くおもんばかりまして、意を決して妥結の道を選んだのであります。
 翻って世界の情勢を見まするに、今や、中東及び東欧方面の事件を中心として、各地に大きな国際的紛争を生じておりますことは、戦争の防止と世界の平和を念願するわが国としては、まことに憂慮にたえないところであります。しかし、幸いにして、最近これら戦火も次第に終息を見ようとしていることは、御同慶に存ずるところでありまして、私は、この際、まず、世界に、正常な、そうして合理的な雰囲気と精神が立ち返ることを祈願してやみません。(拍手)
 しかも、一方、米国におきましては、世界の平和確保について確固たる信念を持つアイゼンハワー氏が、国民の輿望をになって大統領に再選され、また、世界の世論が、国連中心の活動を要望いたしまして、戦争回避の方向に動いていることは、心強く感ずるところであります。(拍手)
 今後の国際情勢の推移については、安易な楽観と予断を許さないものがありますが、わが国といたしましては、あくまでも世界情勢の変化を見きわめつつ、平和外交政策の方針を貫き、平和愛好諸国と提携をしながら国際緊張の緩和に努め、世界平和の建設の中に、わが国運の隆昌をはかっていくことが大切であると存じます。(拍手)
 しかして、これがためには、特に国際貿易の伸長に意を用いまして、広く世界各国とともに相互に経済活動の範囲を広げていく政策を推進しなければなりません。貿易の拡大こそ平和の根底をなすものであり、さらに国際的地歩と発言力増進の基礎であると信ずるからであります。
 さて、わが国経済の現状を見まするに、昭和三十年以後、ここ一両年における経済の発展が、まことに目ざましいものであることは、国民とともに喜びにたえません。(拍手)試みに昨年暮れに決定した経済自立五カ年計画と比較してみますると、国民所得の上昇率は、計画の五%に対しまして一〇%と急増し、また輸出は八・七%に対して三一%という飛躍的な増大を見たのであります。しかも、その間、物価はおおむね安定を続けたのでありまして、経済の拡大が、このように国際収支の改善と物価の安定という理想的な形で行われたことは、まことに少い事例であります。
 このような経済好転をもたらした原因を考えますると、世界経済の好況とか、引き続いた豊作というようなこともあずかって力あったでありましょうが、より基本的には、二十九年十二月、第一次鳩山内閣成立とともに経済自立六カ年計画を策定し、以来、これを基準とした健全財政方針を堅持し、さらに企業家並びに勤労者の努力と国民各位の理解ある協力のもとに、引き続きこれら長期経済計画を実施してきたことにあると思うのであります。(拍手)
 しかしながら、われわれは、決してこの成果におぼれてはなりません。激動する世界情勢の中にあって、わが国のゆるがない地歩を確立するため、この経済事情の好転を契機として、一段の努力を払う必要があると考えます。(拍手)今こそ労使一体となって生産性の強化をはかり、貿易をさらに増進して、国民の生活安定と国家繁栄の基礎を築くときであると信じます。(拍手)
 戦後久しくうっくつしたわが民族の前に、今や広く東西の窓は開かれんとしております。世界の趨勢と新しい時代の要求に順応しつつ、わが日本民族が、広い視野に立って、一致団結、雄渾な精神をふるい起して、国運の発展と世界の進運のために活躍せんことを期待してやみません。
 私の政治的生涯において、最も感慨深きこのときに当り、一言所信を申し述べ、国会を通じて国民諸君の御賛同を求める次第であります。(拍手)
#5
○議長(益谷秀次君) 外務大臣重光葵君。
  〔国務大臣重光葵君登壇〕
#6
○国務大臣(重光葵君) 第二十五回臨時国会の開会に当りまして、最近の緊張したる一般国際情勢について、いささか所見を申し述べますことは、私の最も光栄とするところであります。
 本年初めの通常国会において、私は、国際情勢の動向について述べ、今後の推移に対しては特別の注意を払う必要のあることを警告した次第でありますが、最近の世界の形勢はまさに容易ならぬもののあることを認めざるを得ないのであります。言うまでもなく、これは中東及び東欧における異変に基くものであります。
 中東アラブ界におきましては、民族主義はすでに最高潮に達し、本年七月エジプト政府がスエズ運河会社の国有化を宣言したのを契機として、英仏とエジプトとの間に重大なる紛議をかもし、国際関係はとみに緊張を加えたのであります。これが対策として、本年八月、ロンドンにおいて、関係二十二カ国会議が英国政府の提唱によって開催せられ、日本もこれに列席したことは、御承知の通りであります。
 元来、スエズ運河に関する紛議は一運河の問題ではないのであって、エジプトにおける拠点の喪失は、英国にとっては世界的地位の動揺を意味し、エジプトの指導するアラブ民族思想の勝利は、北アにおける仏国の運命を左右することとなる次第であるのみならず、ソ連の新積極政策がエジプトに対する武器供給による援助政策となって現われていることは、明らかに西欧側の対アラブ政策と相いれぬ次第でありまして、問題の根本は、スエズ問題が重要なる国際政治問題を包蔵する点にあるのであります。日本としては、運河の自由航行を国際的に確保することについては、もとより協力を惜しむものではないのでありますが、これより生ずる紛争については、関係国間の交渉によって平和的に解決すべきものであって、もしそれが困難なるときは、直ちに国際連合の処理にゆだぬべきものであるとの主張をもつて、終始本問題に対処してきたのでございます。(拍手)
 さて、ロンドン会議は、エジプトの出席がないために、一方的のものとなって、妥協の端緒を得ずして終り、引き続き開かれました運河使用国会議なるものも、事態の改善に資するところなきまま、スエズ問題に関する紛争は、当事国の提訴によって、わが国の希望した通りに国際連合の爼上に上ることと相なった次第でございます。
 およそ、民族主義の勃興は人類解放運動の自然の帰趨であって、日本としては、他国の民族主義的要望に対しては常に同情を表して参ったのでありまして、スエズ問題の処理に当っては、常に、大国に対しては寛容を、小国に対しては謙譲を勧説して、米国と密接なる連絡のもとに協力して、事を破綻に導かぬよう鋭意努力してきた次第でございます。国際連合においては、安保理事会は、たびたび会合して、一たん交渉の基礎条件作成に成功したのでありますが、現地情勢の悪化によって、事態は急変するに至りました。
 アラビア諸国とイスラエル国とは、イスラエル立国以来の紛争が絶え間なく、エジプトはイスラエルの船舶に対してスエズ運河の通行を禁止しておるありさまでありますが、イスラエルは、にわかに本年十月末軍を動かして、エジプト領シナイ半島に侵入して、スエズ運河に向って進撃するに至りました。
 ここにおいて事態は急を告げ、安保理事会は直ちに開かれ、イスラエルの行動を阻止すべしとする米国の提案を討議しましたが、これに対して、英仏は、拒否権を発動して理事会の決議を不能ならしめると同時に、みずからエジプトに出兵して、運河を両国の軍事行動より守り、さらに占領の意図を表示して、エジプトに対し最後通牒を発するの非常手段に出ました。エジプトは、直ちに英仏と国交を断絶し、軍事行動に対しては全面的に反撃するの態度に出たので、中東地域は全く戦雲に包まるることに相なりました。
 安保理事会においては常任理事国が拒否権を使用し得るため、国際連合はこれまで幾たびかその本来の機能を発揮することができなかったのでありますが、今回、その中心勢力ともいわれる英仏二大国が、米国初め一般連合国の意思に反して拒否権を行使し、直接軍事行動に出たことは、国策の遂行のために武力を使用せずという多年培養せられた国際通念を無視するものであって、国際連合の精神をじゅうりんし、その存立をも危うくする行為であるとして、英仏に対する非難は至るところごうごうたるありさまとなり、英仏両国政府は内外よりする世論の圧力のもとに置かれたのでありますが、国際的に見ても、英仏と米国との政策の背反は、結局NATO陣営の破綻を意味するので、冷戦のいまだ全く解消せざる今日、その間隙は必ずやソ連側の見のがすことのないものと思われておりましたが、十一月五日、ブルガーニン・ソ連首相は、アイゼンハワー米大統領に対し、英仏の行動を許すべからざる侵略行為であると非難し、これを阻止するために米ソ両国が武力をもって干渉すべきものであるとの趣旨の提案をなすと同時に、英仏首相に対しては、英仏のかかる侵略行為はまさに第三次世界戦争を誘致するものであると痛論して、ソ連は何どきにても近代武器をもって侵略行為を阻止する用意があるということを激しく警告いたしました。かくして、あたかも第三次世界戦争の勃発するやもはかられずとの印象を与えて、世界を戦慄せしめたのであります。
 この際、国際連合はすみやかに行動を起さなければなりません。危機を脱するためには、まずエジプト現地における戦闘行為の停止が必要であります。日本政府が、中東方面における形勢を重視し、国際連合が今後なお事態の平和的解決のため有効な措置をとることに成功せんことを希望してやまないと声明したのも、このときでありました。国際連合は、必死の努力によって国際警察軍を作り、これをもって英仏軍にかわり運河地帯の確保に当らんとする案を立てて採決に付し、直ちに国際警察軍の組織に着手いたしたのであります。この国際連合の措置については、英仏も、エジプト、イスラエルもともに異議なく、いずれも戦闘行為を停止するに至り、ここにスエズ問題はようやく危機を脱し得たのであります。国際連合が、よく大局を収拾し、世界的平和機構としての任務を果しつつあることは、真に賞讃に値するものといわなければならぬと思います。
 民族主義の勃興は単にアジア、アラビア地域に局限されたものでないことは言うまでもありません。ソ連は、久しく民族主義を高調し、植民地主義を攻撃し、これをもって西欧諸国に対する非難の好題目といたしていたのでありますが、本年二月に開催されました第二十回共産党大会を契機として、抑圧政策より転じて広範なる非スターリン化政策を実施するに至った結果として、東欧衛星国においては、民族主義に基く自由独立の風潮が起り、ソ連の勢力を排除せんとする機運が台頭し、まずポーランドにおいてチトー主義による政変が成功し、その傾向が直ちにハンガリーに波及するに至りました。ハンガリーにおける国民運動は、ポーランドにおける政権交代が比較的平穏裏に行われたのに比し、チトー主義を越えた反ソ反共的なものとなりましたので、スエズ問題が危機に際会すると同時に、ソ連は、巨大な軍隊を動かして、ハンガリーの全領域にわたって国民運動を徹底的に弾圧するに至ったのであります。これがためソ連のハンガリーに動かした兵力は、師団数十個と戦車数千を数うるといわれておる。ハンガリー国民の犠牲者は数万をこえ、惨たんたる光景を呈していると報道せられておるので、現地に近き欧州各地においては、至るところハンガリー国民に対する同情の示威運動が起っておるありさまであります。
 国際連合は、直ちにハンガリー問題をも取り上げ、内政干渉の中止、政治的独立の許容、軍隊の撤退、調査団の派遣、救援物資の送付等を骨子とする決議を採択いたしました。これに対して、ソ連は、ハンガリー問題は一国の国内問題であって、国際連合の関与すべきものにあらずという態度に出ております。しかし、ハンガリーの独立は、ソ連をも含む各国のすでに承認するところであって、現にハンガリーは国際連合の一員でもあるので、ハンガリー問題が国際連合の関心事であることは当然のことといわなければならないのであります。
 そもそも、民族自決主義は国際的にもすでに認められた原則であって、第一次、第二次世界戦争もそのために戦われたと言っても過言でないのであります。さらに、内政不干渉や主権尊重の原則に至っては、国際間の基礎的観念であって、国連憲章の骨子をなすものであります。アジア・アフリカ会議において採択せられたバンドンの平和十原則においても、また、いわゆる平和五原則においても、その中に掲げられておる基本原則であって、単に自由陣営の主張たるにとどまらず、共産陣営においてもひとしく重要視せられておるところであり、さらにまた、これらの原則は、今次の日ソ共同宣言においても、互いにその順守を約束しておるところであります。わが国といたしましては、ハンガリー国民の叫びに対しては深甚の同情を表する次第であります。(拍手)私は、日本の指導者と面識あるソ連首脳部に対し、理解と寛容とをもって、ハンガリー国民の声に耳を傾け、国際連合決議の趣旨を尊重し、事態の緩和をはからんことを訴うる次第でございます。(拍手)
 スエズ運河を中心とする中東における事態は幸い緩和されてきたのでありますが、なお幾多の危険なる問題を包蔵いたしております。事態の改善は一に今後の発展にかかり、困難なる問題の処理は、ひとえに国際連合の活動に待たざるべからざるありさまであります。他方、東欧ハンガリー問題に関する一般の感情はきわめて深刻でありまして、形勢はいまだ明確を欠くものがあります。世界平和の基礎をために不安ならしめておる次第であります。
 かくして、本年前半に認められました東西両陣営間の、いわゆる雪解け状態は、再び逆転して、冷たい戦争はさらに激化することなきを保しがたき国際情勢と相なりましたことは、まことに遺憾とするところであります。このときに当りもアメリカにおいては、アイゼンハワー大統領が米国民の絶対支持を受けて再選せられ、国際緊張緩和のため、はつらつたる指導力を発揮せられることが期待せられるのは、まことに意を強うする次第であります。わが国といたしましては、将来、平和外交の方針を堅持して、他国の紛争に介入することはあくまでこれを避けつつ、国力の増進をはかり、国際的地位の向上と発言権の強化とを期し、もって世界平和に一そう寄与するよう前進を続けたいと念願しておる次第であります。
 以上であります。(拍手)
     ――――◇―――――
 日本国とソヴィエト社会主義共和国連邦との共同宣言の批准について承認を求めるの件、貿易の発展及び最恵国待遇の相互許与に関する日本国とソヴィエト社会主義共和国連邦との間の議定書の批准について承認を求めるの件、北西太平洋の公海における漁業に関する日本国とソヴィエト社会主義共和国連邦との間の条約の締結について承認を求めるの件及び海上において遭難した人の救助のための協力に関する日本国とソヴィエト社会主義共和国連邦との間の協定の締結について承認を求めるの件の趣旨説明
#7
○議長(益谷秀次君) この際、日本国とソヴィエト社会主義共和国連邦との共同宣言の批准について承認を求めるの件、貿易の発展及び最恵国待遇の相互許与に関する日本国とソヴィエト社会主義共和国連邦との間の議定書の批准について承認を求めるの件、北西太平洋の公海における漁業に関する日本国とソヴィエト社会主義共和国連邦との間の条約の締結について承認を求めるの件及び海上において遭難した人の救助のための協力に関する日本国とソヴィエト社会主義共和国連邦との間の協定の締結について承認を求めるの件の趣旨の説明を求めます。外務大臣重光葵君。
  〔国務大臣重光葵君登壇〕
#8
○国務大臣(重光葵君) 本年十月十九日モスクワで署名されました日ソ共同宣言及び貿易に関する議定書並びに本年五月十四日に同じくモスクワで署名されました漁業条約及び海難救助に関する協定の四案件につき、提案の趣旨を一括御説明申し上げます。
 わが国はサンフランシスコ条約によって諸外国との平和状態を回復したわけでありますが、ソ連はこの条約への調印を拒否しましたので、日ソの間にはいまだ平和関係が回復されていないのであります。かような不自然な状態はなるべくすみやかに終息せしめることが、両国間のみならず、東亜の安定、世界平和のために必要でありますので、鳩山内閣は、成立以来、一貫して日ソ国交の正常化を方針として来ましたことは、御承知の通りであります。交渉に当っては、わが方はサンフランシスコ平和条約及び日米安全保障条約体制はこれを変更せずとの方針を堅持し、ソ連側も同様の方針のもとに国交の正常化をはかることに異存がなかったので、客年六月一日以来ロンドンにおいて交渉が開始せられたのであります。
 日ソ交渉に臨むに当り、政府は、国交回復の方式としては国際間の通則に従い、平和条約を締結して国交を樹立し、外交使節を交換する方針をとりました。ソ連側も同様の考え方でありましたので、ロンドンにおける交渉は平和条約を締結する目的をもって行われた次第であります。この交渉において平和条約に規定する必要のある各種の問題が討議され、領土問題以外の諸問題、すなわち、戦争状態の終了、国際連合憲章の尊重、内政不干渉、戦争請求権の放棄、通商貿易、漁業、戦前条約の取扱い等についてはおおむね合意を見るに至りましたが、領土問題の交渉は妥結を見ないままに、本年三月休会を宣するのやむなきに立ち至ったのであります。その直後、ソ連は北西太平洋方面の公海における漁業の制限措置を一方的に発表いたしました。これはわが北洋漁業に重大なる影響を与えますので、政府は河野農林大臣等をモスクワに派遣し、交渉の結果、公海における漁業資源の保存ないし漁猟の規制等を内容とする条約及び海難救助のための協定の締結を見るに至ったのであります。しこうして、これら条約は、将来締結せらるべき平和条約の効力発生の日または外交関係の回復の日に効力を発生することになっております。と同時に、この交渉の任に当った河野農林大臣と先方イシコフ漁業大臣との間に、これら条約をすみやかに実施するため、最も近い時期、おそくも本年七月三十一日までに日ソ間の関係正常化に関する交渉を再開する旨の合意が成立し、その旨発表されたのであります。
 そこで^政府としては日ソ国交正常化の交渉を七月三十一日までに開始することになりまして、私は松本全権とともにモスクワにおもむきました。交渉は約束通り七月三十一日に開始せられたのであります。この交渉は、従来の方針、すなわち、平和条約の締結を目途として進められたことは言うを待ちません。前に申し述べました通り、ロンドン交渉においてすでに領土問題以外の諸問題については大体の合意が成立しておりましたので、この交渉においては、これらの問題については、全部にわたり条約文の起草をも完成したわけであります。しかし、領土問題については双方の合意に達することができませんでした。すなわち、日本側は、日本の固有の領土たるいわゆる南千島は当然日本に返還さるべきものであると主張したのに対し、ソ連側は、歯舞、色丹は日本に引き渡す用意があるが、国後、択捉の両島はすでにソ連領として確定的にソ連に編入されたものであるから日本側に引き渡す意向のないことを明らかにし、かつ、平和条約においてこれを確認すべきである、ソ連としては日本側の承諾のあるまでこれを待つことができると主張しました。日本側としては、わが固有の領土はいかなる国に対してもこれを譲渡し得ないとの主張に立っているので、とうていソ連側の要求に応ずることができないままに、交渉地はスエズ運河の国際会議地であるロンドンに移されましたが、妥結を見るに至らずして、私は東京に引き揚げることになりました。
 モスクワ交渉において領土問題に関するソ連の最終的な意向が判明して、領土問題に関する妥協が不可能なる以上、従来とり来たった平和条約の方式をもってしては妥結をはかることは不可能であると認め与れるに至りました。ここにおいて、政府は、領土問題に関する交渉はこれを将来に残して、その他の問題について話し合いをまとめて直ちに国交を回復するという暫定方式をもってすることが適当であるという観点に立って、この趣旨を鳩山総理大臣から直接ソ連ブルガーニン首相に通報をいたしましたところ、先方より右のような方式で交渉を再開する用意があるという回答があったのであります。
 ここにおいて、鳩山総理大臣は、みずからこの交渉を主宰することを決意し、河野農林大臣を伴い、十月十二日モスクワに到着し、先着の松本全権とともにこの交渉に当りました。この交渉においても、領土問題以外の問題については、従来交渉済みの線に沿い、きわめて順調に進捗し、妥結を見るに至りました。特に政府が最も重要視していた抑留者の送還も、国交が正常化されれば直ちに実行に移されることになり、また、消息不明者の調査にもソ連は応ずることに相なりました。さらに、わが国が久しく待望いたしておりました国際連合への加入についても、ソ連側は何ら故障を構えざることが明らかとなりました。そのほか、両国の基本関係をなすべき国際連合の趣旨尊重及び内政不干渉の原則についても合意に達し、また、前に述べました漁業条約及び海難救助に関する協定は、規定通りに国交正常化とともに効力が発生するわけであります。その他これまでの交渉ですでに合意に達した問題、たとえば戦争請求権の相互放棄等の事項も、これを網羅することに相なりました。ただ、領土問題については、歯舞、色丹の引き渡しはこれを認めるけれども、他日正式の平和条約が締結され、領土問題の全部について解決がついたときに、その引き渡しを実施することとなったのであります。
 今次のモスクワ交渉では、以上のような諸点につき合意が成立し、旧ソ共同宣言の内容として織り込まるるに至ったのであります。右のほかに、通商貿易に関する最恵国待遇を盛り込んだ議定書が共同宣言に付属することになっております。かくて、日ソ国交の正常化は、この共同宣言が日ソ双方によって批准され、その批准書が東京において交換されるときに実現されることに相なっておるのであります。
 戦争終結以来十有余年を経て、今日国際情勢は非常な進展を見せつつあるのでありまして、国家間の関係は利害関係によって動き、思想的背景のいかんによってこれを律することは、もはや国際関係の実体に即しないようになっており、現に共産主義に対する取扱いと国家間の関係を律する準則とはおのずから異ならざるを得ないのであります。今日、世界の国際的重要問題の多くは国際連合のワク内で取り扱われており、その国際連合には、世界の諸国が、思想的背景のいかんにかかわらず、平等に、相互に協力しておるのが現状であります。日本としては、すみやかにこの国際舞台に上って発言権を強め、各国と協力してわが平和政策の推進をはかり、世界の平和及び繁栄に寄与するように前進していかなければならぬと思うのであります。
 幸いに、ただいま御説明申し上げた日ソ国交回復に関する四つの文書について国会の承認を得られますならば、終戦以来十余年の長きにわたる戦争状態は終止し、多年辛苦にあえいだわが抑留同胞の帰還は実現し、漁業は確保され、国際連合加盟によるわが国の国際的地位の向上は期して待つべきものがあり、わが国は歴史の新たな局面に立って、世界の平和と安全のため、一そう貢献の実をあげうることを信じて疑いません。
 よって、ここに日ソ関係四案件につき御承認を求める次第であります。何とぞ、慎重御審議の上、本件につきすみやかに御承認あらんことを希望いたす次第であります。
     ――――◇―――――
#9
○長谷川四郎君 国務大臣の演説並びに趣旨の説明に対する質疑は延期し、明十七日定刻より特に本会議を開きこれを行うこととし、本日はこれにて散会せられんことを望みます。
#10
○議長(益谷秀次君) 長谷川君の動議に御異議ありませんか。
  〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
#11
○議長(益谷秀次君) 御異議なしと認めます。よって、動議のごとく決しました。本日はこれにて散会いたします。
  午後六時十七分散会
     ――――◇―――――
 出席国務大臣
        内閣総理大臣  鳩山 一郎君
        法 務 大 臣 牧野 良三君
        外 務 大 臣 重光  葵君
        大 蔵 大 臣 一萬田尚登君
        文 部 大 臣 清瀬 一郎君
        厚 生 大 臣 小林 英三君
        農 林 大 臣 河野 一郎君
        通商産業大臣  石橋 湛山君
        運 輸 大 臣 吉野 信次君
        郵 政 大 臣 村上  勇君
        労 働 大 臣 倉石 忠雄君
        建 設 大 臣 馬場 元治君
        国 務 大 臣 大麻 唯男君
        国 務 大 臣 太田 正孝君
        国 務 大 臣 正力松太郎君
        国 務 大 臣 高碕達之助君
        国 務 大 臣 船田  中君
 出席政府委員
        内閣官房長官  根本龍太郎君
     ――――◇―――――
ソース: 国立国会図書館
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