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1955/05/09 第24回国会 衆議院 衆議院会議録情報 第024回国会 法務委員会 第31号
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1955/05/09 第24回国会 衆議院

衆議院会議録情報 第024回国会 法務委員会 第31号

#1
第024回国会 法務委員会 第31号
昭和三十一年五月九日(水曜日)
    午前十時五十六分開議
 出席委員
   委員長 高橋 禎一君
   理事 池田 清志君 理事 椎名  隆君
   理事 福井 盛太君 理事 猪俣 浩三君
   理事 菊地養之輔君
      犬養  健君    世耕 弘一君
      眞鍋 儀十君    横井 太郎君
      横川 重次君    神近 市子君
      戸叶 里子君    福田 昌子君
      松尾トシ子君    武藤運十郎君
      山口シヅエ君    吉田 賢一君
      志賀 義雄君
 出席政府委員
        法務政務次官  松原 一彦君
        検     事
        (刑事局長事務
        代理)     長戸 寛美君
        厚生事務官
        (社会局長)  安田  巖君
 委員外の出席者
        議     員 片山  哲君
        専  門  員 小木 貞一君
    ―――――――――――――
五月八日
 委員坂本泰良君、木原津與志君及び細田綱吉君
 辞任につき、その補欠として片山哲君、風見章
 君及び勝間田清一君が議長の指名で委員に選任
 された。
同月九日
 戸塚九一郎君、片山哲君、風見章君、勝間田清
 一君及び古屋貞雄君辞任につき、その補欠とし
 て眞鍋儀十君、松尾トシ子君、福田昌子君、山
 口シヅエ君及び戸叶里子君が議長の指名で委員
 に選任された。
    ―――――――――――――
五月八日
 売春防止法案(内閣提出第一七一号)
の審査を本委員会に付託された。
    ―――――――――――――
本日の会議に付した案件
 売春防止法案(内閣提出第一七一号)
 売春に係る処罰、保安処分及び更生保護に関す
 る法律案(片山哲君外十四名提出、衆法第二八
 号)
 売春に係る処罰、保安処分及び更生保護に関す
 る法律の施行に伴う裁判所法等の一部を改正す
 る法律案(片山哲君外十四名提出、衆法第三四
 号)
    ―――――――――――――
#2
○高橋委員長 これより法務委員会を開会いたします。
 売春防止法案、内閣提出第一七一号を議題とし、提案理由の説明を聴取することといたします。松原法務政務次官。
#3
○松原政府委員 ただいま議題となりました売春防止法案につきまして、その提案理由を御説明申し上げます。
 終戦後の世相の混乱と道義の頽廃並びに性道徳の低下によって、売春を行う女子の数が著しく増加いたしましたばかりではなく、そのすこぶる露骨となって参りましたことは、すでに御承知の通りと存じますが、さらに、最も遺憾にたえないことは、日本国憲法が侵すべからざる基本的人権の存在を確認し、個人の自由と尊厳とを明らかにし、その奴隷的拘束を除去すべきことを宣言しているにもかかわらず、売春に関連してこれに反する事態のますます増加の傾向にあることであります。このような状況を黙過することは、善良の風俗の維持、保健衛生、女子の基本的人権の確保等の観点から、とうてい許されないところであって、すみやかにこれが対策を樹立してその実効を期さなければならないものと考えるのであります。
 しかして、これが対策といたしましては、国民一般の民主主義的自覚、道徳観念の高揚、衛生思想の普及向上を要請されることはもとよりでありますが、これと同時に、売春を助長する行為等を処罰する諸規定を整備強化するとともに、社会政策的見地から、その性格、行状または環境に照らして売春を行うおそれのある女子に対し、保護更生の措置を講ずべき総合的文化立法制定の必要が痛感される次第であります。
 従来のこれに対する立法措置といたしましては、ポツダム宣言の受諾に伴い発する命令に関する件に基く法務府関係諸命令の措置に関する法律による婦女に売淫をさせた者等の処罰に関する勅令、刑法、児童福祉法、労働基準法、職業安定法、風俗営業取締法、性病予防法等があり、さらに地方公共団体が各地の状況に応じそれぞれ制定した取締条例があって、それらの運用によってこれに対処して参ったのでありますが、これらの法令は、その制定の時期、立法目的等を異にしているため、これを総合的、統一的に運用することには事実上少からぬ困難があって、十分その実をあげているとは申せない状態であります。そのため、かねてから総合的立法措置の必要が叫ばれていたのでありますが、ついにその実現を見ず、咋昭和三十年第二十二回国会においては、売春等処罰法案が重ねて衆議院において提出されましたが、同年七月十九日の同法務委員会において否決され、その際、いわゆる売春等に関する諸問題につきすみやかに抜本的総合施策を樹立しこれを実施する必要があり、政府としては、内閣に強力なる審議機関を設け、その議を経て行政措置、立法的措置、予算的措置等総合対策を策定し、国会の審議を要するものについては次の通常国会に提出すべきである、との決議がなされたのであります。
 他方、政府としましては、昭和二十八年十二月当時の内閣の閣議決定により設けられました売春問題対策協議会から、昨年九月二日、内閣にいわゆる売春問題対策について答申がなされ、さらに、上述いたしました衆議院法務委員会の決議もありましたので、緊急に法律案を立案する必要があるため、十月二十八日閣議決定をもって内閣に売春問題連絡協議会を設け、前記答申内容を検討する一方、法律案作成の準備を進め、次いで、売春に関する諸問題がきわめて重要であり、かつ複雑な問題であることにかんがみ、内閣総理大臣または関係各大臣の諮問に応じ売春対策に関する重要事項を調査審議するための恒久的機関として、新たなる構想のもとに売春対策審議会を設けることとし、今国会に総理府設置法の一部を改正する法律案を提出し、その成立後、同法律に基く審議会の発足と同時に、立法措置を含めて総合対策を諮問いたしましたところ、去る四月九日答申第一号として売春等の防止及び処分に関する立法措置について適切な答申を得ましたので、これに基いて関係各機関相協力して慎重に立案に当り、ここにこの法律案を提出する運びに至ったのであります。
 次に、この法律案の骨子ともいうべきものにつき御説明申し上げます。第一、この法律案におきましては、法律の目的を明らかにし、売春の反社会性を明確にするとともに、これが防止の対策としましては、売春を行うおそれのある女子に対する保護更生の措置を講じ、他方単なる売春行為それ自体はこれを刑罰の対象とせず、主として、売春の周旋、困惑等による売春、売春をさせる契約、場所の提供、対償の収受、前貸し、いわゆる管理売春、資金提供など、売春を助長する各種の行為を刑罰をもって取り締ることとし、第二、保護更生措置としましては、既存の公共の福祉に関する施設の活用、現行法令の適切な運用をはかるほかに、新たに都道府県に、性格、行状または環境に照らして売春を行うおそれのある女子及びその家庭につき必要な調査指導を行い、あるいは相談に応ずるための婦人相談所を設置することとし、このような女子を発見し、その相談に応じ、必要な指導を行う婦人相談員を、都道府県には置くこととし、市には置くことができることとし、なお、都道府県は、右の要保護女子のうち必要と認める者につき収容保護を行うための婦人保護施設を設置することができることとし、第三、婦人相談所、婦人相談員あるいは婦人保護施設の設置その他都道府県または市の支弁する所要費用については、国が一定額を負担または補助することとし、第四、この法律の適用に当りましては、国民の権利を不当に侵害しないように留意すべきことを明らかにし、第五、最後に、いわゆる売春婦あるいは売春業者の保護更生または転廃業のため、一定の猶予期間を設け、保護更生に関する規定を刑事処分に関する規定より先に施行するものとし、また、売春に関する地方条例との関係を明確にいたしました。
 以上立法の趣旨及び本法案の要点につき御説明申し上げました。もとより、法律のみをもって直ちによく売春防止の目的を達成し得るものとは考えておりませんが、関係行政措置の推進と国民の協力のもとにこの法律の適切な運用を行うならば、必ずや見るべき効果をあげ得ることと確信いたす次第でございます。何とぞ慎重御審議の上すみやかに御可決あらんことを希望する次第でございます。
#4
○高橋委員長 以上で売春防止法案の提案理由の説明は終りました。
 本法律案の補足説明を求めます。長戸政府委員。
#5
○長戸政府委員 逐条的にただいま提案されました売春防止法案の御説明を申し上げます。
 第一条はこの法律案の目的を掲げたものでございます。ここに掲げました目的を達成するためにこの法律がとろうとする方法は二つございまして、その一つは、売春を助長する行為その他売春に関係のある行為で特に悪質なものに刑罰の制裁を加えようとするもので、第二章刑事処分の規定がそれであります。処罰の対象となるのは、主として売春に介入して不法な利益を得ようとする行為その他売春を助長させるおそれのある行為であり、第六条から第十五条までに規定されております。その趣旨は、売春環境を粛正することによって女性の売春環境への転落を防止し、ひいては、女性の人権をできる限り保障しようとするところにあるのであります。このほか、女性みずからが売春の勧誘をする行為は、一般公衆にも迷惑を及ぼし、社会の風紀にも悪影響を及ぼしますので、第五条におきましてこれを処罰し得ることといたしております。その二は、売春を行うおそれのある女子に対しまして保護更生の措置を講じようとするのであります。これは第三章に保護更生の規定を置いておるわけであります。売春を防止するためには、単に刑罰の制裁を課するだけでは不十分でありまして、適切な社会政策を同時に実施する必要がありますので、都道府県に婦人相談所等を設置し、既存の公共の福祉に関する施設の活用など、現行の社会福祉行政の強化と相待って、女子の転落防止及び更生援助を行おうとする趣旨であります。売春という現象も、わが国、ことに農村における貧困な経済的条件や根強い封建的意識と結びついておるのでありまして、これらの原因を完全に除去するための経済政策なり教育政策が同時に実施されなければならないことは申すまでもないのでありますけれども、この法律の施行によりまして、わが国社会の不明朗な空気が相当程度まで浄化され、さらに適切強力な措置を積み重ねていく礎石が置かれることとなると考えておるわけでございます。
 第二条は売春の定義を掲げたものであります。こまかいことになりますが、対償と申しますのは、売春をすることに対する反対給付としての経済的利益であり、対価ないし報酬と同義であります。この対償は売春の相手方自身から直接に受ける必要はなく、第三者から間接に受けても、あるいは相手方にかわってこれを負担する第三者から受けても売春である、かように考えております。不特定の相手方とは、性交するときに不特定であるという意味でなく、不特定の人間の中の任意の一人という意味でありまして、大ざっぱに申しますならば、対償さえ受ければ不特定な範囲の中から相手を選ばないで性交するのが売春であるということになるわけであります。めかけとか、オンリーとかは原則的にはこれに当りません。それから、いわゆる性交類似行為はここにいう売春の中には含まれておりません。その実態は必ずしも明らかではありませんけれども、わが国においては、その数も必ずしも多くはなく、従って、その害毒が非常に大きいというふうには思われませんし、また、その定義等に困難な面もある、こういうふうなところから、今後の研究課題とすることにとどめまして、この法律からは除外しておるのであります。また、売春の主体は必ずしも女性に限らず、男性であっても差しつかえありません。男性による売春の実態は必ずしも明らかではありませんけれども、社会の善良の風俗を乱すという点では女性の場合と変りがないというところで、特に主体を制限しなかったわけであります。従いまして、本条においては、婦女が売春をしという言葉を使わず、単に「売春をし」と、こういうふうにいたしておるわけであります。
 第三条は、「売春をし、又はその相手方となってはならない。」というように、売春をし、またはその相手方となる行為の禁止、制限をしたものであります。ここに倫理規定のみを置き、これに対する罰則を設けなかったことにつきましては、先ほど提案理由の説明にございましたので省略をいたします。
 第四条は適用上の注意であります。罰則を有するすべての法律の施行に当りまして人権の尊重をすべきことは当然でありますけれども、本法につきましては特にそのような問題がありますので、第四条におきまして、この法律の適用に当りましては国民の権利を不当に侵害しないように留意する旨の注意規定を設けたわけでございます。
 第二章の刑事処分でございますが、第五条は、この主体は売春者自体でございます。売春をしようとする者がみずからその相手方を勧誘する行為等のうち、社会の風紀を害し一般市民に迷惑を及ぼすものを取り締る趣旨であります。これによって、常習として売春をする悪質な者は、売春行為それ自体を罰しないでも、これによりましてかなりの程度まで処罰することができる、かように考えております。第一号は、売春をする者がみずから勧誘をすることを規定しております。勧誘と申しますのは、特定の人に対して積極的に売春の相手方となるように勧めることであります。言葉によって勧誘するのが普通でありますけれども、身振り、動作によって行う場合も考えられるわけであります。「公衆の目にふれるような方法で」と申しますのは、第二号の「道路その他公共の場所で」というよりもやや広くて、たとえば室内から路上の人を勧誘する、卑俗な言葉で申しますれば呼び込みをする場合もこれに当る、かように考えております。第二号は、勧誘の準備行為のうち特に公衆の迷惑になる行為を規定したものであります。公共の場所と申しますのは、刑法におきまして公共の危険という文字を用いております。また軽犯罪法の第一条第五号に「公共の会堂、劇場、飲食店、ダンスホールその他公共の娯楽場」という言葉を使い、また第一条の第十三号には「公共の場所において多数の人に対して著しく粗野若しくは乱暴な言動で」云々という言葉を用いておりますように、公衆の利用し得る場所を意味するわけであります。広場とか公園等はもとより、興行場のようなものもこれに該当する、かように考えております。第三号は、勧誘のように積極的に人に勧めるのではないけれども、みずから売春をする意思のあることを多数の人に表示し、相手方となる者の申し込みを待つ行為を規定したものであります。ここに誘引という言葉を使ってありますが、誘引という言葉は、民法学上は契約の申し込みを誘うことに使われておるのでありますが、必ずしも不特定または多数の人を相手にすることを意味しておりません。ただ、本号で「広告その他これに類似する方法により」という制限がありますので、事実上は不特定または多数の人に対する場合が本号に当る、かように考えられます。勧誘の方は不特定の人に対するものでありますが、誘引の方は必ずしも不特定の人を問題としておらないわけでございます。
 第六条は周旋等の禁止規定でございます。これは、売春者ではなくて、第三者の客引き、ポン引きと称するものを処罰する規定でございます。周旋というのは、申すまでもなく、売春をする者とその相手方となる者との間で売春行為が行われるように仲介をする行為でございます。第一号から第三号までは前条の第一号から第三号までとおおむねパラレルになっております。
 第七条は困惑等による売春であります。この第一項の「人を欺き、若しくは困惑させてこれに売春をさせ」というのは、現在の勅令九号の第一条と同じ文言でございます。これに関連いたしまして、第二項の「人を脅迫し、又は人に暴行を加えてこれに売春をさせた」というのは、刑法の強要罪の特別罪として規定しているものでございます。第一項の後段は、親族の情誼を利用しましてやむを得ず売春をせざるを得ないようにしむける場合を規定したものでございます。このような行為を特に処罰の対象といたしましたのは、従来の実情から見まして、これによって売春の行われることが非常に多く、しかも親族関係という人倫関係を悪用して売春という不法な行為をさせることは社会道徳上特に強く非難さるべきことと考えられたからであります。第三項は、勅令九号にもございますように、その未遂罪を罰することにいたしております。売春をさせるため前二項に規定する不法な手段を施したが、被害者が売春をする決意をするまでに至らなかった場合、または、決意はしたけれども実行しなかったときの処罰規定であります。
 第八条は対償の収受等であります。売春によって得られた利益の分け前にあずかる場合の処罰規定であります。第一項の方は前条の罪を犯した者に関する場合であって、前条の罪の加重犯を言うことができると思います。第二項は、売春行為自体は、これは言葉は妥当ではないと思いますけれども、いわば自由意思によって行われました場合でも、親族関係による情誼を悪用して売春の対償を要求し、その結果として売春を続けることとなることを防止するためにこれを処罰することといたしたわけでございます。
 第九条は前貸し等の禁止規定でございます。本条は売春をさせる目的で人に財産上の利益を供与する行為の処罰規定であり、このような行為は、経済的な利益によって人の自由を拘束し、心ならずも売春をさせるおそれが多い上に、従来も売春と密接な関係を保っておりましたので、本条によってこれを防止しようとしておるわけであります。売春をさせる目的というのは、財産上の利益を供与すれば売春をするかもしれないという未必の故意があるだけでは足らずに、売春が行われることを希望し、または意欲しなければならないという趣旨に私どもは解しております。供与する財産上の利益には何らの制限もありません。金銭、動産等を交付することはもとより、債務を免除すること、その他金銭に見積りのできるあらゆる利益を包含しております。供与と申しますのも、有償無償を問わず利益を相手方に移転する一切の行為を申すわけであります。ただ、前貸しその他の方法によりというふうな制限が置いてありますので、売春をする意思のある者とする経済的取引がすべてこれに当るわけではなく、利益の供与によって相手方に対して何らかの事実上の影響を及ぼし、相手方に売春をする意思を生じさせ、またはこれを強めるような方法を用いることが必要と思うのであります。それから、利益の供与は、売春をする者に対してするときだけでなく、第三者に対してする場合であっても、その第三者に対してする場合をも含む趣旨でありまして、従いまして、子供に売春をさせるために親に前貸しをするという行為は本条によって処罰されるわけでございます。
 第十条は売春をさせる契約の禁止でありますが、これは勅令九号の第二条、第三条と同一でございます。売春をさせようとする者と売春をする者の父母などとの間ではもとより、売春をさせようとする者と売春をする者との間でも本条の契約が成立すると解しております。ただ、前の場合にはその双方が処罰されますけれども、後の場合には売春をさせようとする者だけが処罰されるという趣旨であります。女自身は売春をさせられる対象でありますので、処罰から除外されるというふうに考えております。第二項で未遂罪を罰することといたしましたので、契約の申し込みまたは承諾の段階で処罰することができる、かように考えております。
 第十一条は、売春を助長するおそれのある行為のうち、最も行われやすい場所の提供を処罰する規定であります。第一項は単純な場所の提供であります。売春を行う場所と申しますのは、売春行為に使用される場所でありまして、主として建物とかその一部がこれに当ると思いますけれども、その他の建造物や自動車などの交通機関もこれに入る場合がある、かように考えます。提供と申しますのは、売春に利用し得る状態に置くことと解しております。貸与その他の処分をする権限のあるものが占有権を移す場合はもとより、場所を事実上占有しておる者が一時的に使用を許可するような場合をも含む。利用し得る状態に置くだけで提供があったということになりますから、提供を受けた者が実際にその場所で売春行為をしたかどうかは本条の罪の成立に直接は関係がない、かように思っております。建物等を貸しまして、当初そこで売春が行われることを知らなくて、後になりましてその貸与した場所で売春が行われることを知ったという場合におきまして、これを理由に賃貸料の引き上げをしたり、あるいは容易にその部屋の返還を求めることができますのに賃貸期限後契約の更新をしたりするなど、実質的に見て新たな契約があったと認められるときは本項の罪が成立する、かように考えております。第二項は業として場所の提供をする場合の処罰規定であります。私どもといたしましては、これは一個の業態としてする必要があるというように考えております。従いまして、旅館業等を営む者がたまたま売春の場所を提供したというときは、ただその回数が多いだけでは本項には当らず、前項の単なる場所の提供になります。もちろん、建物の全部を全く売春のためにだけ提供する程度に至らない場合でも、売春を行うための特別の設備を備え売春を行う場所を提供することが営業の重要な一部となったような場合はやはり本項が成立する、かように考えております。
 第十二条は業者処罰の規定であります。この法律中最も重い罰則が定められております。この種の行為は売春を助長する行為の中で最も悪質であり、最も被害の大きなものでありますから、これを重く処罰することにいたしているわけでございます。自己の占有する場所と申しますのは、所有権、賃借権その他の権利に基いて占有する場所をいいまして、管理する場所とは、必ずしもこれを占有する権限を有するわけではないけれども、事実上その場所の使用につきまして相当程度の発言権を持っている場合、たとえば、みずから賃借人とはなっていないけれども、賃借人との間の特殊な関係によりまして、その場所にだれが居住するかについてある程度指図ができる、こういう場合にはその場所を管理することになるのでありますが、これらの場合に人を居住させこれに売春することを業とすれば本条の罪が成立する。いわゆる従来貸し座敷と呼ばれておったようなもの、あるいは娼妓置屋というようなものは、おおむねこれに入るというように考えております。アパート業者と一定の契約を結びまして、そこに人を居住させ、呼び出し等の方法によってこれに売春をさせる場合は、管理する場所に居住させることになる、かように思っております。そうして、自分ではアパート等の賃貸借には関与せずに、ただ売春をする者を容易に連絡のとれる一定の場所に指定してこれに居住させる、それが自己の指定する場所に居住させる場合に当る、かように考えております。今後あるいは女子を分散して居住せしめるというふうなことも考えられますので、特にこの自己の指定する場所というものを入れたわけでございます。ところが、本条には売春をさせる場所については制限がございません。従いまして、売春を自己の占有する場所で行わせる場合でも、他の場所で行わせる場合でも、本条の成否には影響いたしません。従いまして、自分の店で売春をさせる場合も、他の場所に派出して売春をさせる場合も本条に該当する、かように考えております。
 第十三条は、第十一条第二項、それから前条の業に要する資金、土地または建物を提供した者の処罰規定でございます。資金の提供は、主として賃貸借によって金銭を貸し付ける場合でありますけれども、必ずしも営利の目的でする場合に限らず、贈与、使用貸借による場合も含まれるのであります。提供のときに営業資金となることを知っていなければ本条に当りませんけれども、提供した資金が売春に関する営業に用いられることを知った後、容易に回収できるのに手形の書きかえ等をした場合、自主的に新たなる提供があったというふうに認められる場合は本条の対象となる、かように考えておるのであります。
 第十四条は両罰規定でございます。第十五条は併科の規定。
 第三章は厚生省の御説明に譲りまして、附則の方に飛びます。
 第一項は施行期日を定めたものであります。この法律は本来直ちに実施いたしまして一挙にその目的を達することが望ましいわけでございますけれども、第三章に規定する保護更生の措置を講ずるには施設、人員、配置その他の面で相当の準備を必要といたしますので、第一章及び第三章は昭和三十二年の四月一日から実施することにいたしました。また、第二章の刑事処分に関する規定は、売春に関係している者が自発的に転業その他の措置を講じ得るための猶予期間を設ける趣旨で、昭和三十三年の四月一日から施行することといたしておるのであります。
 第二項は勅令九号の廃止規定であり、第三項はその経過規定でございます。
 第四項は地方条例との関係を規定しております。この第四項は、この法律の施行が地方公共団体の条例に及ぼす効力を明らかにした宣言的な規定であります。現在この種地方条例は五十五、六あると思われますが、従来国としては売春防止のための統一的な取締り規定を置かず、児童または女性の人権保護という面から部分的な処罰規定を設けるにとどめておりましたので、法律の趣旨に反しない限り地方公共団体が売春防止のため条例に罰則を設けることは差しつかえなかった。事実多数この種条例が制定されておるわけであります。しかしながら、この法律は売春を助長する行為を初め売春をする者の勧誘行為等を広く処罰することにいたしましたので、これによりまして、この法律に規定する行為はもちろん、売春をしまたはその相手方となる行為その他売春に関係する一切の行為は、すべてこの法律によって取り締まろうとする国の意思が明らかになるわけでございます。従いまして、この国の意思に反することとなる売春条例の規定は当然無効となる、そういう趣旨を宣言的に表わしたものでありまして、いわゆる創設的な意味は持っておりません。ただ、昭和三十三年の三月三十一日までは勅令九号及びこの種条例は生きておるわけでございます。それから、もう一つは、地方条例の中で性交類似行為を取締りの対象とするものがございます。そういう個条につきましては、この法律の施行によって何らの影響を受けないというふうに私どもは考えております。
 第五項はその条例に関する経過規定でございます。
 私の説明を終ります。
#6
○安田(巖)政府委員 第三章の保護更生の第十六条から御説明申し上げます。
 第十六条は婦人相談所の規定でございます。婦人相談所の対象になりますものは、性行または環境に照らして売春を行うおそれある女子の保護更生に関する事項となっておりますが、これは、売春を行いました婦女、それから、そういうふうなところで環境または性行に照らして売春を行うおそれのある者の事前の防止も含んだ仕事をいたす機関で、ここに掲げてありますように「要保護女子に関する各般の問題につき、相談に応ずる」、「要保護女子及びその家庭につき、必要な調査並びに医学的、心理学的及び職能的判定を行い、並びにこれらに附随して必要な指導を行う」、それから、「要保護女子の一時保護を行う」、――これは第四項の「婦人相談所には、要保護女子を一時保護する施設を設けなければならない。」ということと対応するものでございます。要約して申しますと、各都道府県に婦人相談所を必ず一カ所置かせまして、いろいろそういった問題になる婦女子について、そこでなるべくふるい分けをいたしまして、婦人相談所で、あるいは郷里に帰らせるとか、あるいは保護者を呼んで引き渡すとか、あるいはそこで病院に送るとか、ないしは他の機関に渡すことによって就職がきまるとか、そういうことをできるだけやる。そうして、それでどうしてもいけない者は、一時保護施設の中に入れておいて、そういうことをやっております間にうまくいかない者は、あとに出て参ります婦人保護施設の方に収容しようという考え方であります。
 第十七条は、これは婦人相談員の規定でございまして、これは非常勤の職員で、そこの四項に書いてありますように、婦人相談員の職務を行うに必要な熱意、識見を持つ者のうちから都道府県知事または市長が任命する。これは、県には必ず置きますが、市の方は置くことができるということになっております。と申しますのは、市はそれを置く必要がないところもございますし、あるいはまた大きい都市等で置かなければならぬところもございますので、法律の規定といたしましては、「置くことができる。」というふうな表現にいたしたわけであります。
 それから、第十八条の婦人保護施設でございますが、これは、十六条の婦人相談所でいろいろふるい分けをいたしまして、なお行き場所がない、あるいはまた、その要保護女子の環境、性行に照らしまして、しばらくの間は婦人保護施設の中に入れまして、そうしていろいろ社会的な訓練もする必要があるというような人は、この婦人保護施設の中に入れるわけでございます。
 それから、第十九条は民生委員等の協力でございますが、民生委員法の民生委員、児童福祉法に定める児童委員、保護司法に定める保護司、更生緊急保護法に定める更生保護事業を営むもの及び人権擁護委員法に定めるところの人権擁護委員、これらは今の婦人相談所なりあるいは婦人相談員に協力しなければならぬということを規定したわけであります。なお、国の機関あるいは地方の機関等といたしまして、たとえば福祉事務所でありますとか、あるいは公共職業安定所でありますとか、婦人相談室でありますとか、そういうふうな機関がございますが、これは当然協力するものであるという考え方に立ちまして、あらためてこの法律には書くことを省いたわけでございます。
 それから、二十条以下は、これは費用の支弁のことでございます。第二十条、二十一条、二十二条を要約して申しますと、婦人相談所、それから婦人相談員、それから婦人保護施設、そういったようなものに対しましては国が二分の一の負担または補助をするという考え方でございます。それから、婦人保護施設の中に収容いたしますために要ります事務費でありますとか、管理費でありますとか、あるいは一時保護収容施設に入っております間に要ります食費でありますとか、その他の費用というのは、国の方で十分の八の支弁をする、こういう考え方であります。
 それから、二十一条は、市町村または社会福祉法人が婦人保護施設を施設することができますから、そういった場合には四分の三以内を都道府県が補助することができる。
 二十二条は、先ほど私の申しましたように、婦人相談所、婦人相談員、そういったものに対とまして国が二分の一の補助をいたし、また、保護施設でありますとか、一時保護施設に入れましたその管理費、食費等につきましては十分の八を負担する、こういうような規定であります。
 なお、附則といたしまして、保護更生の部分につきましては、刑事処分の方の規定が昭和三十三年四月一日から施行されるのに対しまして、一年前の三十二年四月一日から施行することにいたしております。
 以上簡単でございますが御説明申し上げたわけであります。
    ―――――――――――――
#7
○高橋委員長 次に、売春に係る処罰、保安処分及び更生保護に関する法律案、片山哲君外十四名提出、衆法第二八号、及び、売春に係る処罰、保安処分及び更生保護に関する法律の施行に伴う裁判所法等の一部を改正する法律案、片山哲君外十四名提出、衆法第三四号の両案を一括議題とし、提出者より提案理由の説明を聴取することといたします。片山哲君。
#8
○片山委員 ここに議題となりました売春に係る処罰、保安処分及び更生保護に関する法律案につきまして、その提案理由及び本法案の要点につき御説明申し上げます。
 売春対策の問題ははなはだ重要な問題でありまして、立法の必要性につきましては、過去五回に及び売春等処罰法案が政府または議員から国会に提出されたこと、及びそれらの法案の提案理由の説明中に述べられたことで十分に尽されていると存じますが、この際あらためて簡単に述べさせていただきます。
 終戦を境として著しく目立って参りました売春婦の数は、散娼を含めて昭和三十一年四月には約二十万と称されております。この売春婦の存在は、その原因が政治の貧困、社会保障制度の欠陥等に求められるにせよ、健全な性道徳を破壊し、善良な風俗を乱し、かつ、おそるべき性病を蔓延させる原因となりますほか、婦女の基本的人権をはなはだしく無視するものでもありまして、今日売春撲滅の叫びはようやく日本国中を風靡するようになりました。そして、その現われは、前にも述べましたように、過去五回に及び売春等処罰法案が国会に提出されたこと、昭和二十八年十二月十七日の次官会議で売春問題対策協議会が諮問機関として内閣に設置することが決定され、翌年二月六日から会合が開かれるに至ったこと、昭和三十年十月七日、最高裁判所がいわゆる前貸し無効の判決をしたこと、昭和三十一年三月七日、総理府設置法の一部改正により総理府に売春対策審議会が設置されたこと、及び、東京都下北多摩郡調布市の特飲街が、町の風紀のためにも、子供の教育のためにも、特飲業を廃業しようと、昭和三十一年四月限りで自発的廃業の声明をし、次いで福岡県八幡市の特飲街も五月限りで転業することを申し合せたこと等によって、次第に強くなってきているのであります。
 よって、この際、われわれは、この売春撲滅の世論にこたえるべく、従来の売春等処罰法案の構想から一大飛躍をした構想のもとに売春撲滅の立法を試み、売春及び売春をさせる行為等に対する刑罰規定並びに売春をしまたは売春をするおそれのある者に対する保安処分または更生保護に関する規定を定めることによって、風紀の紊乱の防止並びに売春をしまたは売春をするおそれのある者の改善及び更生保護をはかり、もって婦女の基本的人権を擁護するとともに健全な社会秩序の維持に寄与しようとするのであります。これが本法案の立法の趣旨であります。
 さて、このたびは、従来の売春等処罰法案から売春に係る処罰、保安処分及び更生保護に関する法律案と題名を変えて提案いたしましたのでありますが、まずその点につきまして御説明申し上げることにいたします。
 去る第二十二回国会におきまして神近市子君外数名から提案されました売春等処罰法案は、皆様も御承知の通り、昭和三十年七月十九日法務委員会で否決され、次いで同年七月二十一日本会議において否決されたのでありますが、いろいろとありました否決の理由の中で最も大きなものと考えられましたのは、売春等処罰法案は売春婦女に対する保護更生施策を伴わぬことに最大の欠陥があるということでありました。そこで、その点につき種々考究を重ねました結果、婦女の売春婦への転落の防止といいますか、売春をするおそれのある婦女等の更生保護に関する規定を設け、さらに、売春等を行なった婦女に対しては単に刑罰処分を課するのみであった従来の考え方を改めて、売春または売春の勧誘をした婦女に対しては選択的に保安処分の制度を採用することができることとし、制裁というよりはむしろ保護によって婦女の更生をはかるという道を開いたのであります。これらの規定を設けましたことが、このたび法案の題名を変更いたしました理由であります。
 次に、本法案の内容につき、その概略を簡単に御説明申し上げます。
 第一章は総則でありまして、目的、定義及び本来の目的の逸脱の禁止の規定が設けられてあります。このうち、第一条の目的は、本法案の精神、趣旨を冒頭にうたったものでありますが、第三条の本来の目的の逸脱の禁止の規定は、第二十二回国会の当時におきましてもその必要を強調されたものでありまして、本法案の成立及び施行に際して、いやしくも人権じゅうりんの問題が発生しないようにとの注意規定であります。
 第二章は罪に関する規定であります。このうち、第四条の売春等、第六条の売春の周旋等、第七条の売春をさせる行為、第八条の売春をさせる契約、第十条の売春施設の経営等、第十一条の資金等の供与、第十二条の両罰及び第十三条の併科につきましては、大体第二十二回国会に提出された売春等処罰法案の規定と同じでありますが、第五条の勧誘、すなわち、婦女が売春の目的をもって公衆の目に触れるような方法で自己の相手方となるように人を勧誘する行為、及び、第九条の前貸等、すなわち、売春をさせる目的で前貸しその他の方法により人に金品その他の財産上の利益を供与する行為につきましては、今回新しく規定を設けたものであります。また、第十条の売春施設の経営等中第一項の規定は、売春を業とする婦女を常時居住させ、これに売春をさせることを業とする行為を律しているものでありまして、今回新しく規定を設けたものでありますが、いわゆる置屋営業も売春を行う場所を供与することを主たる目的とする施設の経営と本質的に何ら異なることがないことにかんがみ、売春等処罰法案における従来の不備をこの際補填したものであります。
 第三章は売春の罪を犯した婦女に関する事件に関する規定であります。この章の内容は次のようなものであります。
 まず第一に申し上げなければならないことは、第四条(売春等)または第五条(勧誘)の罪を犯した少年は少年法の規定に従って処分されるということであります。これは、別に本章には規定されてありませんが、売春行為及び売春の勧誘行為がいずれも罪となりましたので、少年法第三条の「罪を犯した少年」、「将来、罪を犯し、又は刑罰法令に触れる行為をする虞のある少年」等の規定により、少年法で処分されることになるわけであります。
 次に、第四条または第五条の罪を犯した成人である婦女についてでありますが、これが本章に規定してあるのであります。簡単に述べますと、第四条または第五条の罪を犯した成人である婦女は全部家庭裁判所に送られます。(第四条、第十八条)。そして、事件の送致を受けた家庭裁判所は事件について調査をいたします。(第十九条)。その調査の結果、更生保護にかかる措置を相当であると認めるときは、決定をもって当該事件を権限を有する都道府県知事に送致し(第三十条)、審判に付することができずまたは審判に付するのが相当でないと認めるときは、審判を開始しない旨の決定をし(第三十一条)、その罪質及び情状に照らして刑事処分を相当であると認めるときは、決定をもって当該事件を管轄裁判所に対応する検察庁の検察官に送致し(第三十二条)、審判を開始するのが相当であると認めるときは、審判を開始する旨の決定をするのであります(第三十三条)。さて、審判をした結果、家庭裁判所は、更生保護にかかる措置を相当であると認めるときは、決定をもって当該事件を権限を有する都道府県知事に送致し、その罪質及び情状に照らして刑事処分を相当であると認めるときは、決定をもって当該事件を管轄裁判所に対応する検察庁の検察官に送致し(第三十五条第一項)、保安処分に付することができずまたは保安処分に付する必要がないと認めるときは、その旨の決定をするのでありますが(第三十五条第二項)、それ以外の場合には、保護観察所の保護観察処分または婦人矯正院への送致処分のいずれかの保安処分の決定をしなければならないのであります(第三十六条第一項)。
 そこで、その保安処分についてでありますが、保護観察所の保護観察処分は、売春に係る処罰、保安処分及び更生保護に関する法律の施行に伴う裁判所法等の一部を改正する法律案第七条の犯罪者予防更生法の一部改正により、犯罪者予防更生法の規定によって行うことになっております。婦人矯正院への送致処分は、六カ月以上三年以下の範囲内において当該保安処分に付すべき期間の短期と長期を定めて言い渡すいわゆる相対的不定期刑的保安処分の制度をとっております(第三十六条第二項)。婦人矯正院につきましては第四章に規定してありますが、仮退院(第四十二条)、仮退院期間の終了(第四十三条)、競合する処分の調整(第四十四条)、刑の執行と保安処分(第四十五条)、保安処分の決定の取り消し(第四十六条)、報告または意見の提出(第四十七条)等、保安処分に関し必要な規定は本章中に設けられてあります。なお、本章は、少年法における少年の保護事件及び刑事事件の手続と同じ構想をとっておりまして、前に御説明申し上げました規定のほか、たとえば、呼び出し及び同行に関する規定、観護の措置に関する規定、費用に関する規定、抗告に関する規定、刑事手続に関する特例に関する規定及びその他の規定がそれぞれ設けられてあります。
 第四章は婦人矯正院及び婦人鑑別所に関する規定であります。本章は、少年院法における少年院及び少年鑑別所に関する構想を取り入れたものでありまして、大体において婦人矯正院は少年院に、婦人鑑別所は少年鑑別所に準じております。ただ、婦人矯正院の在院者に対する矯正教育の方針に関する規定(第六十六条)に売春婦に対する特殊の矯正教育を盛り込んだ点、及び婦人矯正院送致が前にも御説明申し上げましたように相対的不定期刑的保安処分の構想をとっております関係上、収容継続に関する規定(第七十三条)、退院の申請に関する規定(第七十四条)及び仮退院の申請に関する規定(第七十五条)等において、相対的不定期刑的保安処分の特徴を織り込んだ点が注意を要するところであります。
 第五章は更生保護に関する規定でありまして、今回の立案におきましては、保安処分とともに重点が置かれた部分であります。この法律の第三十条の規定または売春に係る処罰、保安処分及び更生保護に関する法律の施行に伴う裁判所法等の一部を改正する法律案第五条の規定により改正された少年法第十八条第一項の規定により家庭裁判所から決定をもって都道府県知事に送致された者及び行政機関または社会福祉に関する施設によってその性行または環境に照らして売春をするおそれのある者であることを発見された者に対し、医療または保健指導を必要とする者に対しては医療保健施設に紹介すること、職業補導または就職あっせんを必要とする者に対しては公共職業安定所に紹介すること、心身または環境の状況にかんがみ婦人保護施設への収容を必要とする者に対しては婦人保護施設に収容しまたは収容のあっせんをすること、その他の更生保護の措置を定めるとともに(第八十七条)、都道府県は婦人相談所を設けなければならないこととし、婦人相談所では、要保護者、その家庭その他からの相談に応ずること、要保護者及びその家庭につき必要な調査、鑑別、指導を行うこと、要保護者の一時保護を行うこと、要保護者が帰住旅費または相当の衣類を持たないときに旅費または衣類を給与すること、及び売春の防止のため世論の啓発に努めること等の業務を行うものとしたのであります(第八十八条)。以上が、本章の骨子でありまして、それに従いまして、たとえば、婦人相談所の職員に関する規定、一時保護の施設や婦人保護施設に関する規定、費用に関する規定及びその他の規定が設けられているのであります。
 以上、まことに簡単でございましたが、立法の趣旨及び本法案の要点につき御説明申し上げました。何とぞ慎重御審議の上すみやかに御可決あらんことを希望する次第であります。
#9
○高橋委員長 猪俣浩三君。
#10
○猪俣委員 ただいま議題となりました売春に係る処罰、保安処分及び更正保護に関する法律の施行に伴う裁判所法等の一部を改正する法律案について、その提案の理由を御説明申し上げます。
 この国会において別に提出いたされました売春に係る処罰、保安処分及び更生保護に関する法律案におきましては、売春及び売春をさせる行為等に対する刑罰規定を定めておりますとともに、売春をしまたは売春をするおそれのある者に対する保安処分または更生保護に関する規定をも定めているのでありますが、同法が成立して公布された場合において、同法を施行するに当っては、これに伴い、裁判所法その他若干の関係法律につきまして、それらの一部を改正する必要がありますので、ここに、これらの法律の一部の改正を行うため、この法律案を提出いたした次第であります。
 この法律案の内容の概略について申し上げますと、売春に係る処罰、保安処分及び更生保護に関する法律案によれば、同法第四条に規定する売春の罪を犯しまたは同法第五条に規定する売春の勧誘の罪を犯した成人である婦女は、まず家庭裁判所に送致せられ、同裁判所の調査及び審判に付せられることに定められておりますが、従来の裁判所法の規定によりますと、家庭裁判所に右のような審判に関する権限が認められておりませんので、このたび、この法律案の第一条により、裁判所法の一部を改正して、新たに家庭裁判所の権限として前記の婦女の保安処分にかかる事件の審判を加え、かつ、これに伴って家庭裁判所調査官の所掌事務の範囲をも拡張することにいたしました。ところで、このように家庭裁判所の権限に新たなものを加えますと、当然に取扱い事件数も増加することとなり、おのずから裁判官その他の裁判所職員の人員の増加を必須といたしますので、この法律の第二条により裁判所職員定員法の一部を改正することにいたしました。
 次に、売春に係る処罰、保安処分及び更生保護に関する法律によりますと、前記売春等の罪を犯した婦女は、家庭裁判所において調査をされた結果、同裁判所の審判に付された場合においては、保安処分の言い渡しを受けることになったのでありますが、その結果、同法においては、新たに婦人矯正院及び婦人鑑別所の制度が設けられ、これに関する詳細な規定が置かれることと相なりましたところ、婦人矯正院及び婦人鑑別所に関する事項は、法務省矯正局の所掌事務とするのが適当と思量いたされますので、これに関する規定を設け、またそれらの名称及び位置を定め、その他それらに関し所要の規定を置く必要がありますので、第三条により法務省設置法の一部を改正することにいたしました。また、婦人矯正院及び婦人鑑別所の設置は、これに伴って当然にこれらの施設に配置すべき相当数の職員を必要とするのでありますが、さらに売春または売春の勧誘行為が罪となりました関係上、これらの罪によって少年院に収容される者が相当数増加することが予想されますので、少年院及び少年鑑別所の職員の増員も必要とされますので、これがためには法務省の職員の定員を増加することが必要とされ、この法律案におきましては、第四条により行政機関職員定員法の一部を改正することにいたしました。
 次に、この法律案の第五条に規定する少年法の一部改正及び第六条に規定する少年院法の一部改正について申し上げますが、売春に係る処罰、保安処分及び更生保護に関する法律案によりますと、同法第四条の売春の罪または第五条の売春の勧誘の罪を犯した婦女にかかる事件のうち、同法の規定の適用がありますのは成人である婦女にかかる事件に限り、少年である婦女にかかる事件については、もっぱら少年法及び少年院法の規定が適用されることに相なりますところ、少年法の規定の適用がありますところの少年である婦女のうち、前記売春または売春の勧誘の罪を犯した婦女につきましても、婦人保護施設に収容する等売春にかかる処罰、保安処分及び更生保護に関する法律の規定による更生保護の措置を相当と認める場合があり、かかる場合には家庭裁判所は決定をもって事件を権限を有する都道府県知事に送致することができるように少年法第十八条を改正いたしました。また、売春等の罪を犯した女子である少年の拘置監及び少年院における処遇につきましては、これを他の少年と分離して収容するのを適当といたしますので、少年法第四十九条に新たに第四項を加え、また少年院法第十四条の三の新規定を設けることにいたしました。
 次に、売春に係る処罰、保安処分及び更生保護に関する法律案第三十六条第一項によりますと、家庭裁判所は、売春等の罪を犯した成人である婦女にかかる事件について審判を開始した場合には、同法第三十五条の場合を除いて、保安処分の言い渡しをしなければならないことになっているのでありますが、この保安処分に関連して、この法律の第七条におきましては犯罪者予防更生法について所要の改正をいたしました。すなわち、前記の婦女に対する保安処分といたしましては、これを保護観察所の保護観察に付するか、または婦人矯正院に送致するか、二つの場合が認められているのでありますが、これに伴って、まず、犯罪者予防更生法第三十三条が保護観察の対象及び期間について規定しておりますので、新たに保護観察の対象となるべき者として、売春に係る処罰、保安処分及び更生保護に関する法律第三十六条第一項第一号により保護観察所の保護観察に付する旨の保安処分を受けた者と、同項第二号の婦人矯正院に送致する旨の保安処分を受けた者で後に婦人矯正院から仮退院を許された者とを加え、また、前者の保安処分については保護観察の期間を二年とする等の改正をいたしました。次に、売春に係る処罰、保安処分及び更生保護に関する法律案第三十六条第二項により、婦人矯正院に送致する旨の保安処分は六箇月以上三年以下の範囲内において当該保安処分に付すべき期間の短期と長期を定めて言い渡すことになっており、これは少年法に規定する不定期刑と類似しておりますので、同法に規定する仮出獄制度に準じて新たに婦人矯正院からの仮退院の制度を認めるとともに、仮退院中にその保安処分の期間の短期が経過した場合において、保護観察中の成績から見て相当と認めるときは、地方更生保護委員会は保安処分を終了したものとする処分を行うことができることや、さらに、婦人矯正院の在院者につき婦人矯正院の長からなされた退院の申請に対する許可につき新たに規定が設けられたこと等が重要な改正となっております。
 この法律の第八条による刑事補償法の一部改正は、無罪の裁判を受けた者が売春に係る処罰、保安処分及び更生保護に関する法律によって未決の抑留または拘禁を受けた場合にも刑事補償を請求することができるようにする必要があるためであり、また、第九条の公職選挙法及び第十一条の精神衛生法の各一部改正は、いずれも今回婦人矯正院及び婦人鑑別所の制度が置かれることになったことに伴う必要な改正であります。
 次に、売春に係る処罰、保安処分及び更生保護に関する法律案においては、第五章として更生保護に関する諸規定が設けられておりますが、これに関連して、この法律におきましても必要な規定が設けられました。すなわち、まず、この法律の第十条によりまして、厚生省に婦人保護施設の監督に関する権限を与え、同省社会局の所掌事務に売春に係る処罰、保安処分及び更生保護に関する法律に規定する要保護者の更生保護事業を実施し、その助長及び監督を行うことを加える等、厚生省設置法の一部を改正し、また、第十二条によりましては、売春に係る処罰、保安処分及び更生保護に関する法律案に規定する婦人保護施設を経営する事業を集一種社会福祉事業とする等、社会福祉事業法に所要の改正を加え、さらに、第十三条によりましては、地方財政法の一部を改正いたしまして、同法第十条に規定する国がその全部または一部を負担する法令に基いて実施しなければならない事務に要する経費として、売春に係る処罰、保安処分及び更生保護に関する法律に規定する要保護者の更生保護に要する経費を加えることにいたしました。
 以上、簡単ながら、売春に係る処罰、保安処分及び更生保護に関する法律の施行に伴う裁判所法等の一部を改正する法律案につきまして、その提案の理由を御説明申し上げました。何とぞ慎重御審議の上すみやかに御可決あらんことを御願い申し上げます。
    ―――――――――――――
#11
○高橋委員長 以上三案に対する質疑は次会にいたしたいと存じます。
 なお、本日の理事会において、しばらく連日委員会を開会することの申し合せをいたしておりますから、その点を御了承願います。
 本日はこれにて散会いたします。
    午後零時十二分散会
ソース: 国立国会図書館
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