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1955/12/09 第23回国会 衆議院 衆議院会議録情報 第023回国会 外務委員会 第6号
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1955/12/09 第23回国会 衆議院

衆議院会議録情報 第023回国会 外務委員会 第6号

#1
第023回国会 外務委員会 第6号
昭和三十年十二月九日(金曜日)
    午後一時五十四分開議
 出席委員
   委員長 前尾繁三郎君
   理事 石坂  繁君 理事 北澤 直吉君
   理事 須磨彌吉郎君 理事 福永 一臣君
   理事 山本 利壽君 理事 穗積 七郎君
   理事 松本 七郎君
      伊東 隆治君    大橋 忠一君
      菊池 義郎君    高岡 大輔君
      並木 芳雄君    稻村 隆一君
      和田 博雄君    岡田 春夫君
 出席政府委員
        外務政務次官  森下 國雄君
        外務事務官
        (アジア局長) 中川  融君
        外務事務官
        (欧米局長)  千葉  皓君
        外務事務官
        (国際協力局
        長)      河崎 一郎君
 委員外の出席者
        検     事
        (法務省参事
        官)      勝尾 鐐三君
        外務事務官
        (条約局第二課
        長)      西堀 正弘君
        文部事務官
        (社会教育局
        長)      内藤譽三郎君
        文部事務官
        (社会教育局著
        作権課長)   大田 周夫君
        専  門  員 佐藤 敏人君
    ―――――――――――――
本日の会議に付した案件
 万国著作権条約の批准について承認を求めるの
 件(条約第一号)
 万国著作権条約の条件附の批准、受諾又は加入
 に関する同条約の第三附属議定書の批准につい
 て承認を求めるの件(条約第三号)
 無国籍者及び亡命者の著作物に対する万国著作
 権条約の適用に関する同条約の第一附属議定書
 の批准について承認を求めるの件(条約第四
 号)
 ある種の国際機関の著作物に対する万国著作権
 条約の適用に関する同条約の第二附属議定書の
 批准について承認を求めるの件(条約第五号)
 国防情勢等に関する件
    ―――――――――――――
#2
○前尾委員長 これより会議を開きます。
 万国著作権条約の批准について承認を求めるの件外三件について質疑を許します。
 並木芳雄君。
#3
○並木委員 一つだけ私質問しておきたいのですが、実は著作権の条約関係の問題は、これは異存がないものとばかり思ってみておりましたところが、やはりなかなか問題が多いようです。きょうの読売新聞を政府委員もごらんになったと思いますけれども、中野実氏の作品の「明日の幸福」というのが米国で上演されることになっておりましたが、それが急にストップになったという記事が出ております。契約先であるNBCの極東支配人のトーマス・フォルスター氏から、日米間の著作権問題が不安定なので、クリスマスはもちろん今後の上演の見通しがっかなくなったという返事で、せっかくの取りきめが取り消されたという報道であります。これを見ると今まで政府が調印をしておきながら批准を怠っておった、それが非難されております。果してそういう実態であったのかどうか、なぜ調印してから今日まで、こんなに批准をするのに長引いたか、その実相を知りたいわけなのであります。今ここに山田三良博士も見えて陳情がありましたが、お伺いするところによると、この著作権問題というのは将来非常に大き一な禍根を残すこともあるから慎重にしてもらいたいという要望でございました。これなど私なんかの常識からいうと意外であったわけなのですが、しかく著作権問題というのは複雑な内容を含んでおるのかどうか、今までのいきさつ、どうして今日までおくれたのか、それから今後どういうふうにしていく方針であるか、日米間の利害関係はどうなのか、他の諸国との間はどうなのかというような点について答弁をしていただきたいと思います。
#4
○内藤説明員 この条約の批准がおくれましたことは大へん遺憾に思いますが、著作権という問題は私権に関する重安な問題でございますので、慎重審議を重ねておった関係で今日までおくれたわけであります。そういう意味で、この臨時国会で御審議の上批准されるようにお取り運び下さることを、私どもは強く希望しておるのであります。
#5
○並木委員 それじゃ私がせっかく聞いたことに対して非常におざなりな答弁なのですけれども、どういういきさつで今までそういうふうにおくれてきたか、おくれたのには理由があるだろう、遺憾の意を表されちゃっては困るわけなのです。今も山田三良博士が見えて、慎重にしてくれというので私どももびっくりしたわけなのです。これなどはすぐ批准して差しつかえないものと思っておったのですけれども、どうしてそういう利害が対立して今日まできたのか、同時に、きょうの読売新聞を、こらんになったでしょうけれども、今申し上げましたように、一方においては、せっかく外国に輸出をされようとする著作権というものの契約が取り消された。この実情はどういうところに原因があったのか、政府が非難されているのだから、それに対して答弁をしてほしい、それが私の要点なのです。だれかほかの人でもいいですよ。
#6
○内藤説明員 私ちょっとおくれて参りましたもので、並木先生の御質問の趣旨が十分理解されなかったかと思いますので、それではもう少し詳しくいきさつを申し上げたいと思います。実はこの万国条約ができましたのは二十七年でございますが、それ以来日本がこの条約に加盟すべきかどうかということを検討して参ったのでございます。ところがアメリカは従来登録、納本というような非常に煩瑣な方式主義をとっておったわけでございます。日本の著作権はアメリカではほとんど保護されないし、アメリカの方はベルヌ同盟国で、たとえばイギリスとかカナダで同時発行いたしますとこれが保護されるというようなことで、アメリカの方は別に痛痒を感じないわけです。ところがそれでは非常に困るので、このたびその万国条約で方式主義を一歩譲りまして、マルCというコピーライトのCにまるをかいて、それに発行年月日と氏名を書けば簡単に保護されるという道が開かれたことと、いま一つは、アメリカが発行後二十八年であればこもらも二十八年しか保護しなくてもいいという著作権の保護期間の相互主義、こういう点から考えて、私どもとしてはこの面が利点でございます。それからいま一つ、反対される点は、著作権が従来翻訳の場合にはわが国では十年で、あとはただで翻訳ができた、いわゆる十年たてば翻訳自由ということになっておりますが、これが今度の法案では十年たって翻訳が自由になるということが認められなくなった。ですから、発行後二十八年の保護期間が翻訳の場合にもあるわけなのです。そこで今度の万国条約では、決定許諾によって七年たてばある一定の料金を払ってだれでも翻訳できるという道が開かれているわけであります。そこで論議の中心は、翻訳は十年たてばただになるというのが従来のベルヌの同盟国の規定であったし、日本の著作権法はそれを受け継いで翻訳は十年たてば消滅するということでございまして、この点が一番大きな問題点であったわけであります。ところが実際的に見ますと、翻訳権は著作物が出まして十年たつと――ほとんど大部分は十年以内に翻訳されるわけです。特に学術書あたりはほとんど全部十年以内、それから若干全集もの等が十年後に発行されるものもあり得るのです。従来の統計をとりますと、終戦後でございますから非常に混乱した時期ではございますが、十年間に翻訳されないものは大体一割程度でございます。ですから、今後独立国になって正常化されてくるし、一方交通機関が非常に発達して参りますので、そこで今後さらに十年間に翻訳されないものは少くなるだろうという見通しを立てているわけです。一方日本が文化輸出国という立場をとる場合に、特にアメリカの場合にはGIその他たくさん日本に駐留しておりますので、アメリカにどんどん翻訳されるものも相当多いのでございます。こういう点から文化の輸出国という点を考えれば、この際この条約に入ったらいいだろう、こういう二つの意見が対立しておりまして、著作権審議会でも十数回にわたって審議を重ねてなかなかきまらなかったので、今日までおくれたことは非常に遺憾ではありますが、来年の四月二十七日で今の日米暫定協定が切れますので、三カ月前にこの条約を寄託しませんと無条約状態になるおそれもございますので、この臨時国会に批准をお願いいたした次第でございます。
#7
○並木委員 そうすると、読売新聞に出ておりますこの問題が取り消されたということは、政府としては政府に責任のあるものと感じておりますか。著者権問題が四月二十何日以降不安定になるという先方の不安に対して、政府は怠慢であって的確なる回答を与えることができなかったためにこういう取り消しが起った、こういうふうに感じておられるかどうか。こういう問題がほかにもあったのではないかと思われるのですが……。
#8
○西堀説明員 御説明申し上げます。私もけさほどこの新聞を見たのでございますが、ここで向うのフォルスターその他が理由としてあげておりますのは、「もし日米の著作権関係が無条約状態になったら、契約できめた興行収入の六%を著作権料として支払う取りきめもむだになる」、こういうように言っておりまして、向うの方で、そういう不安定な状態では困るから、だからクリスマスの上演を計画しておったにかかわらずこれを取り消した、こういう理由になっておりますが、この点が若干われわれには了解しがたい点があるのです。そこで実情がどのようになっておるかという点につきまして、さっそく在米大使館にけさほど電報いたしまして調査中でございますけれども、われわれといたしましては、このような場合には、ただいま内藤局長が御説明申し上げましたように、方式を踏みますと向うの国内法でもって保護されるわけでございます。もちろん理屈を申しますと、それも無条約になってしまえば、向うでは義務といたしましてその国内法に基く保護を取り消そうと思えば――そういうむちゃなことはいたしませんと思いますけれども、一応理屈としてはなり得るわけでございます。従って向うの方でもしもこれがほんとうの理由であるといたしますと、今まで明年の四月二十七日で切れます暫定協定のあとをどうするかという点について、はっきりしなかったという点が一応問題になり得るわけなのでございますが、その点につきましては政府といたしましては、各業界の方方に対して、無条約ということは絶対に避ける、どういうことになっても無条約ということはあり得ない、最悪の事態の場合には、現在のこの暫定協定の延長ということは少くともいたしますということは言明しておったわけでございますから、ここにいっておりますところのこの理由は、われわれとしては承服しがたいところがある、先ほど申し上げたのはそういう意味でございます。
#9
○前尾委員長 松本七郎君。
#10
○松本(七)委員 アメリカと日本の間では、先ほど内藤局長の御説明があったように、戦前においては翻訳が自由になされておったそうでございます。それが今度のこの著作権の条約を結ぶと結局七年間――自由にできておって、その後十年間たてば自由にできるというふうになって、それから今度は七年間たてば非常に安い価格でこれがなされるというふうに変遷してきておる。そうするとこれは本来の建前からいうと、日米の関係だけについていえば、だんだん窮屈になってきたという実情ですね。これは一体ユネスコ関係のそういう万国のあれに基いてやる以上はやむを得ない、せめて米国との間には戦前のように自由に翻訳をやるというふうには絶対にできないものなのかどうでしょうか、伺いたい。
#11
○内藤説明員 一九〇五年の条約では今お話のように翻訳は自由ですけれども、同時にこちらの方の日本のものがアメリカで保護される道もないわけなのです。暫定協定ができましてから、これは内国民待遇でございますから翻訳は十年たてばただになる、こういう道はあるわけですけれども、しかしながら、日本の著作物が向うでどんどん出版されるような場合に、日本では方式主義をとっておりませんので十分な保護はされない。そこで今度はマルCで簡単に保護してもらう、こういう点なのです。そこで、問題点は今お話の十年の問題なのです。少くとも今まで日本はベルヌ同盟国間では十年の留保をしておった、これを日米間では――主としてユネスコ条約は、米国その他近くイギリス、ドイツ、フランス等も入るようでございますが、米国が中心でございますので、アメリカとの関係は、今原則としてはアメリカ政府はユネスコ条約を基準にしておりまして、二国間の条約を結ぶ意思がございませんので、無条約状態を回避するための最良の方法は、万国条約を批准するしかないのではなかろうか、かように考えているわけでございます。
#12
○松本(七)委員 マルC条項は、一応はそういうものがあっても実際にアメリカが保護するかどうか、よく守るかどうかということについて、一まつの不安があると思うのですが、どうですか。
#13
○西堀説明員 その点につきましてはこれはもう一部の方々はマルC条項というものをつけましても、実際に問題になった場合には――問題になると申しますか、訴訟事件になった場合には、このマルC条項だけではだめなのだ、納本、登録をしなければだめだという規定があるから、それは一つのまやかしじゃないかというような反対の方々の議論もありますけれども、われわれといたしましては、今までのアメリカがとって参りました方式をこのマルC条項というものによりまして、非常な譲歩をした、それでマルCをつけるということによりまして、著作権の発生それから存在が確約される。従って、それについて訴訟事件になりました場合に、納本、登録を要求しているのは単なる訴訟手続にすぎないとわれわれとしては考えております。その点御心配のようなマルC条項だけでは十分に保護されないのではないかという懸念は、われわれとしては毛頭ないものと考えております。
#14
○松本(七)委員 それから、元来文化交流という建前からいうと、また特にユネスコの精神からいえば、やはり自由に交互に翻訳するという建前がほんとうじゃないかと思う。このユネスコの精神にかんがみて、今度の著作権の規定の仕方というものを、日本政府はどのように考えるか、もう少しこれを前進させて、将来そういうふうな方向に持っていく可能性があると考えられるでしょうか。
#15
○内藤説明員 この条約はその年限の短縮の方に非常に重点をおいているわけなのであります。ですから発行後二十五年が最短期間でございますけれども、両方かち合う場合には短かい方をとるということになっておりますので、著作権の保護期間はできるだけ短かい方に努力しているわけなのであります。現在のベルヌの体制ではもう少し長いので、日本の場合には死後三十年を保護しております。ベルヌ条約でもブラッセルの規定でも五十年というふうになっておりますが、これには日本は加盟しておりません。今の日本の著作権の関係では死後三十年、今回の場合にはアメリカが発行後二十八年でございますから、日本の場合はアメリカの著作物については、発行後二十八年しか認めないということで短かくなるわけであります。現在ですと日本の著作権法は死後三十年は保護しなければならぬのですが、今度の条約では発行後二十八年に切り得るようになっていますから、むしろこの条約の方が進歩しているとも言えるのです。今後ユネスコとしてはできるだけお話のように保護期間を短かくしようという努力は続けると思います。ただ個人の財産権の問題でございますから、一面個人の財産を保護するという点と同時に、今お話の文化交流という公益的な見地との調和の問題になると思うのであります。
#16
○松本(七)委員 それから、第五条の二項に「自国語にこれを翻訳し、かつ、その翻訳を発行するため、自国の権限のある機関から」云々と規定してあります。この「自国の権限のある機関」というのは日本においては一体どういうものをさしておりますか、またそれはいかように整備されますか。
#17
○内藤説明員 この条約から見ると、文部省が今著作権行政を担当しておりますので、文部省が許可することになっております。
#18
○松本(七)委員 そうすると、一部で、どうも国内体制が整備されておらないからしばらく待ってほしいという声があるのは、どういうものとして政府は理解されておるのか、それに対してどのような考えを持っておられるのか、この「自国の権限のある機関から」ということと何か関連があるのか、そういうことについてお聞きしておきたい。
#19
○内藤説明員 それはないと思います。ただ私も、どういう意味でおっしゃったのか、今おっしゃった意味がはっきりしませんけれども、この条約は新しい条約でございますので、運営上二、三問題点があるわけです。この問題につきましては、たとえば遡及効の問題とかあるいは保護期間をどういうふうにきめるとか、ベルヌ同盟国とユネスコ関係の国との調整をどうするかというような問題がありまして、今アメリカ政府との間では大体日本に有利なような解釈を、外務省は取りつけていただきましたが、さらに来年の二月ごろ万国条約に関する政府間会議できめることになっております。ですから、そういうような問題もあるから、しばらく体制が整うまでという意味なのか、私もその意味が了解しかねておるのですが、あるいはそういう意味かとも存じます。
#20
○松本(七)委員 そうすると、そういった意見なり声は、政府の方には全然詳しく伝わっておらないということですか。
#21
○内藤説明員 この点は、文部省の著作権審議会におきまして十数回も論議を重ねたときに、二つの意見が分れたわけなのです。一つは例の、今の翻訳権十年を含めれば万国条約は全部のんでよろしいという意見と、とにかく二国間の条約というものは無理だから、それは万国条約を即時批准すべきだという二つの意見が分れて、国内の調査会の意見は遺憾ながら全会一致を見なかった。全会一致をみたのは無条約状態を回避するという一点だけだったわけです。そこで、二国間条約でいくべきだという意見と万国条約を批准すべきだという意見が分れたので国内の体制が整わない、そういう意味かとも思うのでございます。
#22
○松本(七)委員 それからソビエト、東欧諸国の著作権はどういうようにして保護されておりますか。
#23
○西堀説明員 ソ連並びに東欧諸国でございますが、これは著作権につきましては外国との間に全然取りきめを持っておりません。従いましていわゆる海賊版というようなものも出ておるやに聞いておりますけれども、これに対して何ら処置することはできない状態でございます。
#24
○松本(七)委員 そうすると、それらの国々の間で相互に自由だということですね。
#25
○西堀説明員 その通りでございます。
    ―――――――――――――
#26
○前尾委員長 ほかに御質疑はございませんか。――それでは、国際情勢に関する件について緊急質問がありますのでこれを許します。穗積七郎君。
#27
○穗積委員 行政協定ができましてから、二十八年、一九五三年の九月に裁判権の管轄の問題について改訂が行われたわけでございます。当時外務省は岡崎外務大臣だったと記憶いたしておりますが、それによって非常にアメリカ側の理解ある態度と、今後の日本の司法権の独立の問題について国民に宣伝をいたしました。その後駐留軍が日本に多数おりますために、公務執行中以外の米兵の犯罪事件というものが相当ございまして、裁判権の所属の問題については国民のひとしく関心を持っておったところでございます。
 そこで二十八年の改訂によりまして原則的には裁判権は公務執行以外の事件につきましては日本裁判所にあるということが確定され、しかも報告されたわけですが、たまたま最近われわれ新聞報道によって知り得たところでございますが、今年の九月五日でございますか、群馬県前橋市におきましてノーダイクという伍長外三名のアメリカの兵隊どもが深夜酒に酔っぱらって善良なる商店の窓ガラスをぶちこわしたり乱暴ろうぜきを始めて、それに対して前橋市署の警官六名がこれを取り押えようといたしましたら、この警察官六名に対しまして無法なる暴行を加えまして全治三週間の重傷を負わしめた事件ができたわけです。そこで日本の検察当局はこれを起訴いたしまして、十一月二十六日から前橋地方裁判所において第一回の刑事事件の公判が行われた。第二回がこの月の四日に行われますと、その堅頭にアメリカ側の弁護士でありますスコリノフとかいう弁護士がこの裁判の公訴棄却の申し立てをいたしておるのです。報道するところによりますと、理由は二、三あるようですが、第一は行政協定十七条の二十八年の改訂というものは、アメリカの上院の批准をまだ得ていないから、これは無効であるということ。従って日本裁判所に米兵の公務執行以外の行為の犯罪事件についても裁判する権限はないはずだというのです。第二の理由は行政協定十七条に規定いたしております米兵に対する法規定が列挙的に七つばかりあったと記憶いたしますが、それはアメリカの憲法で米兵が保護されておるよりははるかに範囲が狭過ぎるから、アメリカの憲法に違反するものであるということを申し立ての理由といたしておるようであります。それから第三の理由は、暴行を行いました前橋の地元においては駐留兵に対します市民の反感が非常に高ぶっておる。そういう環境の中で前橋地方裁判所で裁判をするということは、その地方の世論に動かされて裁判官の判決が不当に行われる危険があるというようなことを列挙しておるのです。
 その中の第二、第三につきましては、これはわれわれは全く弁護士の無恥厚顔なる言いがかりにすぎない。日本におきましても裁判所の所轄というものはきまっていることであって、しかも日本の法治国における裁判の権威については、国際的に何ら恥ずるところのないものであるとわれわれは信じている。そういうところに対して世論に動かされて云々というようなことは、いやしくも今までの法治国である日本を信頼し、しかも日本の裁判の実績を見るならば、無恥というか、厚顔というか、こういうものは言いがかりにすぎないと思うが、この異議申し立ての理由の中で重大なことは、実は行政協定の二十八年度におきまする改訂が無効なりという理由を申し立てていることです。そこで平井検事はこれに対してノーという答えをいたしまして、その理由たしということを申し立てているようですが、裁判長――山口裁判長としるされておりますが、果してそうであるかどうかしらぬが、山口裁判長はその申し立ての一部を聞いて、そうして十一日に予定されておりました第三回の裁判を中止いたしまして、十六日に延期するというような手続をとって、いささか日本人に対しましては、長い毛のには巻かれろ、強いものには屈しろというような印象を与えているようでございまして、地元の世論は非常に日本の法治国の権威に対しまして、疑義を生じているような事実にわれわれは接しているわけです。
 そこでこれについてはもうすでに外務省並びに法務省はこれらのことはつぶさに調査され、報告を受けておられると思うが、まずその経緯の説明、そうして今までとられた措置、並びに今後の方針等について最初に一括して説明していただいて、それから逐次質問をいたしたいと思います。
#28
○森下政府委員 ただいま穂積さんの提議にかかる前橋における日米裁判の問題は、きわめて重大なる問題であることはもちろんでありますが、ただいま法務省の方からお見えになっておりますので、まず法務省の方からお聞き取りを願うのが順序かと思いますので、法務省の方から説明をいたさせます。
#29
○勝尾説明員 最初に事案の概要を御説明申し上げます。
 事件は本年の十月五日に前橋地方検察庁から前橋地方裁判所に起訴されました、J・O・F・ノーダイク外三名に対する公務執行妨害並びに傷害被疑事件であります。事案の内容は先ほど御質問の中にもありましたように、今年の九月四日の夜おそく、前橋市内の飲食店街で酒に酔っぱらって飲食店のガラスをこわす等の乱暴を働いたので、前橋署の警察官がかけつけまして、それを制止しようとしたところが、これに対して反抗して五名の警察官に対して治療五日ないし三週間の傷害を負わして警察官の職務執行を妨害した被疑事件であります。
 公判は第一回の公判が十一月二十六日に開かれまして、第二回が十二月三日でございます。この十二月三日にただいまお話がございました弁護人側からの意見の提示があったのであります。
 弁護人の意見の要旨を申し上げますと、第一点は行政協定十七条は一九五三年九月二十九日付議定書により改訂されたが、いまだ上院の批准を受けていない。米合衆国において憲法上条約は、すべて上院の批准を必要とするから、上院の批准を受けない木議定書は違憲であり無効であるというのが第一点の要旨でございます。第二点の要旨は、議定書に書いてある米軍人に対する裁判、検察上の保護の規定が不十分であるから、本事件を軍事裁判に付するために合衆国側に移送されたい。右については弁護人の方から合衆国に対して、本件が合衆国に移送されて軍事裁判に付されるように要請をしてある。まだ両国間においてその点について話し合いはないようであるけれども、話し合いがあるまで公判の審理を停止していただきたいというのが第二点であります。第三点は、先ほどもお話申し上げましたように、本件は前橋市民に非常なセンセーションを起した事件であるから、前橋における裁判というのはどうしても一般の意見に災いされるおそれが多い。従ってこの事件をわが国の刑事訴訟法の十七条ないし十九条によって、東京の地方裁判所に管轄を移転してもらいたい。この三点が弁護人側の要求の要旨でございます。
 これに対しまして検察官側がとった態度は、第一点につきましては、有効な安全保障条約第三条に基くものであるから、行政協定十七条を改訂する議定書は有効であり、本件について日本側が裁判権を有する点は明白である。第二点については、検察官は現在まで米軍当局から裁判権放棄要請というような要請は全然受けていない。従ってこの点も問題にならない。さらに第三点の、わが国の刑事訴訟法に基く管轄移転の請求については、弁護人の述べるような理由は、刑事訴訟法の十七条ないし十九条に規定するいずれの理由にも該当しないから、この請求も理由がない。以上三点について、検察官側はただいま申し上げたような意見を述べまして、弁護人の要求はいずれもこれを受け入れることは妥当でないから、直ちに審理を促進していただきたいという要求をしたのでございます。
 それに対しまして裁判所側がとった態度でございますが、裁判所は第一点のこの行政協定の改訂が有効であるか無効であるかという点につきましては、もちろん検察官と同じ見解をとっております。さらに第三点の、刑事訴訟法に規定する管轄移転の理由があるかないかという点についても、検察官側と同じ意見をとっておられる。第二点のいわゆる米軍側からの裁判権放棄要請の問題についてでありますが、この点について裁判所としては、あるいはそれでは米軍側から放棄要請があるということを弁護人がいわれるならば、若干の日を延ばしてその点を確かめてみてもいいのではないか、こういう趣旨に受け取られるのでありますが、そういう点を考慮いたしまして、第三回公判予定期日の十二月十日を十六日に変更した。以上が現地の前橋地方検察庁から法務省に入った報告でございます。
 従って検察官側の見解といたしましては、裁判権がわが国にあるとかないとかいう問題については、裁判所は疑義を持っていないというように私たちの方には報告がきております。以上がただいまの事件の概要でございます。なおこの事件につきましては、十六日、二十三日と続けて公判に入るように期日の予定が立っております。
#30
○穗積委員 法務省並びに外務省にお尋ねいたしたいのですが、まず順を追うて法務省からお尋ねいたします。この第一の問題が一番大事でございますが、この検事がとり、しかも裁判長が解釈をいたしました行政協定の改訂は有効なりという判断については、法務省は同様の御見解をとっておられますかどうか、お尋ねいたしたいと思います。
#31
○勝尾説明員 法務省は現地の検察官と全く同意見でございまして、行政協定は安全保障条約第三条の委任に基いて両政府間において締結されたものであり、このような一般的委任を含む安全保障条約が国会の承認を経た以上は、その行政協定については、さらに国会の承認は必要でなく、という工合に私たちは解釈いたしております。
#32
○穗積委員 御答弁についてはわれわれ満足いたします。第二点の要請が、まだ事実ないと思うのです。これは後に外務省にお尋ねしますが、アメリカ側から裁判権移転の要請がないということに対して、弁護士側が、アメリカ政府に要請をして、アメリカ政府から近く日本政府にそのことを申し入れるつもりであるから、予定の裁判の継続を延期または中止してもらいたいという申し入れに対して、検事は、その必要なし、そういう問題は事実があってから後に検討すべきことであって、ないのに弁護人の希望的な申し立てを根拠として、その裁判の予定を変更する必要はないという正論を吐いておると思うのだが、それに対して、裁判長が、今申しました予定日を、十日か十一日のやつを十六日まで延ばして、向うから何かあるというなら待ってみようというようなことを理由として、延ばされたことに対しては、これが他の理由なら別でございますが、そういう理由によって延ばすということは、われわれとしては納得がいかないのですが、法務省はそれに対してどういう解釈をとっておられますか。
#33
○勝尾説明員 私の言葉が足りなかったことをおわび申し上げますが、現地の検察官から私の方に参った報告には、裁判所は弁護人申し立て中の第一次裁判権不行使要請がなされることをも考慮して変更したとなっております。これは第一次裁判権不行使要請がなされるから延期をしたという趣旨でなしに、公判の円滑な進展と申しますか、ここで裁判所が直ちに審理を始めるということは可能でありますが、また検察官としては直ちに審理を進行すべきであるという意見を申し立てたのでありますが、そこでまた弁護人との間に公判の進行の問題でいわゆるやりとりがあって、円滑を欠くというような点は、むしろ全般の裁判の円滑化ということから考えて、おそらく裁判所としてはこの際若干の日を延ばしてみよう、このように全く裁判所の独自の裁判の進行と申しますか、審理の円滑という点から考えたものだというように理解しております。
#34
○穗積委員 私のお尋ねしたのはそういうことではございません。もし裁判長が裁判の予定を変更し延期したということが、今申しました通りに、アメリカ側からその申し入れがあるかもしれないということを仮定して延ばしたとすれば、そういうことが理由となっておるとすれば、それは法の厳正を守るべき裁判所の取扱いとしては私は不当だと思う。もしそうであるとするならば私は不当だと思うが、それに対して法務省は一体どういう法理的な解釈なり態度をおとりになっておるか、それを聞いているのです。
#35
○勝尾説明員 単に裁判所がそのための理由で延期をするとすれば、私は不当であると思います。従って、この公判で現地の検察官が審理の進行を促したという態度は、全幅的に私たちは同じ意見であります。
#36
○穗積委員 御答弁には満足いたします。
 そこで続いてこの問題に対してもう一点お尋ねしたいのは、あなたの先ほどの総括的な説明の中においては、米側からの申し入れがあるかもしれないというので、それをも考慮して変更したということが、御説明の中の主要なる理由になっておりました。他に理由があったかもしれないが、そういうことが理由であったと思うのです。それは違うのですか。ほかに理由があったとすれば、それも説明していただきたいと思う。いかなる理由によって、裁判の予定を変更しまたは延期されたか。法務省の態度ではない、山口裁判長がとられた説明なり事情なりを、もう一ぺん正確に報告し直してもらいたい。最初のあなたの説明では米側からの申し入れがあるかもしれない。それを考慮して延ばすというふうに私は聞き取った。私の聞き違いであったかもしれないが、その点はっきりしておいてもらいたい。
#37
○勝尾説明員 裁判所が延ばしました理由は、審理の円滑な進行ということを考慮する際に、この裁判権不行使要請がなされるかもしれないということも一つの要素として考えたというように私どもに報告が参っております。
#38
○穗積委員 そうすると私は非常に不当、だと思うのです。そういうことは事実米側から正式に日本政府に申し入れがあって、あってからそういうことを考慮すればいいのであって、弁護士、しかもアメリカの弁護士が言ったからといってそういうことに左右さるべきではない。しかも先ほど言った通りこの事件は一に被害者である警察官六名の権利を、人権を保護するだけではございません。そうではなくて日本の裁判権のアメリカに対する独立性の問題でございますから、そういう意味で地元民のみならず、または被害者当事者のみならず、全国民が関心を持って今まで見守ってきたところでございますから、そういう状況の中で判断されて、そういうことが理由になっているとするならば、はなはだしき不当だと思うのです。そういうことに対して法務省としてもしかるべき御措置をとるべきだと思うが、どういうお考えでございますか。
#39
○勝尾説明員 この事件につきましては、私の方で現地の検察庁に対して、高等検察庁を通じて事実上検察官のとった措置についてはすべて妥当であるから、今後のことについては考慮することなしに活発な審理を進めてもらうように、検察官として努力をするようにという指示をしております。
#40
○穗積委員 そうしますと、もし予定いたしました十六日までに米政府から正式な申し入れもなく、また申し入れがあったとしましてもそれに対する協議が確定しない場合、その場合におきましては当然予定通り継続するのが当然だと私は思いますが、そういうふうに理解してよろしゅうございますね。
#41
○勝尾説明員 御答弁にならないかもしれませんが、この事件について先方から裁判権不行使要請がなされるような気配は私どもの方では全然ないと考えております。
#42
○穗積委員 法務省にもう一点だけお尋ねいたしますが、われわれ寡聞にして全国におきますこういう事件をすべて聞き取っているわけじゃございませんが、例の十七条の協定改訂以来こういう事件が他にもございましたかどうか、念のためにお伺いいたしておきます。
#43
○勝尾説明員 行政協定が発効して間もなく八王子で強盗の事件が起きた際に要請がございましたが、これは日本政府としてその要請には応じませんでございました。その他にはこうした要請は一件もございません。
#44
○穗積委員 わかりました。それでは最後にもう一点お尋ねしておきたいのは、今度の事件に対しまして米側から申し入れがあったときにこれに応ぜられるつもりであるかどうか。事件の性質等をお考えになりましてあらかじめそのおつもりをちょっと伺っておきたい。
#45
○勝尾説明員 正式の要請がもしありました場合には、もちろん私どもとしましては、その要請の理由につきまして十分検討いたしました上で態度を決定いたしますが、今までのたとえば先ほど申し上げました一件でございましたようにそれは却下いたしております。私の方で反対しておりますので、その点で一つ御了解を願いたいと思います。
#46
○穗積委員 わかりました。外務省にお尋ねいたします。今の法務省の態度はさすがに理の通った御答弁であったと私は思うのです。それで特に外務省にお尋ねいたしたいのは、行政協定改訂の有効性の問題でございますが、これに対しまして同様の見解をおとりになっておられるかどうか。またはこの事件に対しまして、今までに行政協定十七条の改訂が無効なりという申し立てなり何なりが正式にあったかどうか。もし批准が行われていないという事実が今度の事件を通じて初めて知らされたというような場合があったといたしましても、それは改訂が有効なり、無効ではないという法務省と同様の解釈をおとりになっておられるかどうか。条約協定上の問題でございますから、外務省にも念のために伺っておきたいと思います。
#47
○千葉政府委員 行政協定の効力の問題については法務省と全く同一の見解であります。第二の御質問の米国側からこの事件について何か申し入れがあったかどうかということについては全然申し入れはございません。
#48
○穗積委員 以上でこの事件は終ります。
    ―――――――――――――
#49
○前尾委員長 これに関連した御質疑はありませんか。
 それでは前の著作権の条約承認を求める件について質疑を続行します。松本七郎君。
#50
○松本(七)委員 著作権の条約について補足して……。万国条約の解釈について相当専門家の間に意見の相違があったやに聞きますが、どういうことですか。
#51
○西堀説明員 何分にも著作権と申しますのは私権に関します重要な問題でございますし、それから利害関係が非常に錯綜しているという関係がございまして、文部省に設置いたされました著作権審議会におきまして先ほど内藤局長から御説明申し上げましたように十数回にわたりまして協議をいたしました。その場合にいろいろな解釈が生じたのは無理からぬことだと私ども存じますが、その点につきましては先ほど内藤局長から御説明申し上げましたように、日米間につきましては少くとも解釈を確定いたしまして、しかも来年の二月に予定されておりますこの条約の第十一条に規定されている政府間の委員会におきましてその解釈を確定いたしたいとわれわれとしては考えております。御質問のどういう点がそれでは問題になったかという点につきまして、一番大きな点はこの条約が遡及効を有するのかどうかという点なのでありますが、その点ちょっと御説明申し上げますと、要するに、たとえば去年なら去年アメリカで本が出された、その著作権が発生している。それがこの条約が発効する際に、それではこの条約に切りかわって適用されるかどうかという点なのです。それはこの条約は遡及効を有しない。すなわちこの条約が、わが国の場合で申しますと、日本とアメリカの関係において効力を生じた後に、日本なりあるいはアメリカなりにおいて著作される発行されるといったものにのみ適用される、こういった問題が一番重要な問題として論議されたわけでございます。そのほかにも数点問題点として論議はされたのでございますが、非常にテクニカルなこまかい問題になりますので、もしもさらに御質問がありましたならば、御説明申し上げたいと思います。
#52
○松本(七)委員 これは相当問題があるようでございますので、委員長から政府に資料の提出を求めていただきたいと思います。それは第一は文部省著作権制度調査会での日米関係特別委員会議事録の要旨、同じ調査会の日米関係特別委員会の中間報告書、それから文部省著作権制度調査会総会答申、この三つを出していただきたいと思います。
#53
○前尾委員長 それではさよう取り計らいます。
    ―――――――――――――
#54
○前尾委員長 それでは、一般の国際情勢等に関する件について質疑の要求がありますから、これを許します。菊池義郎君。
#55
○菊池委員 アジア局長にお伺いしたいと思いますが、李ライン内で日本の漁船が漁撈に従事しても、これを射撃しないという言質がどこかで得られたようなことを外務大臣が話しておられます。それはどこと折衝され、だれからその話を受けられたのでございましょうか。
#56
○中川(融)政府委員 先月十七日に発表されました先方の声明の中で、日本の漁船が引き続き李ラインの中に入ってくる場合には攻撃し、場合によっては撃沈するという声明の真偽については問い合せ中でありますが、まだこれに対する正式の回答はないのであります。その間におきましても政府といたしましては、いろいろの方法を通じまして先方の考え方の把握に努力してきたのでありますが、その方法といたしましては、たとえばここの代表部の人と非公式に接触するという方式、あるいは米当局に接触いたしまして、それから向うの態度をいろいろ聞き出すという方法とあるわけであります。それらの方法によって得ました印象といたしまして、日本の方で武装防衛して、李ラインの中に入っていくというような措置がとられる場合には別といたしまして、従来通りの非武装の格好で漁船が入るような場合に、すぐさまこれに目がけて発砲するというような措置はないであろうというふうに大体見ておるのであります。正確にどういう経路でどうということは、ただいまちょっと申し上げかねるのでございますが、そういうふうな大体の見通しをつけておるというわけで、外務大臣があるいは話されたのではないか、こういうふうに考えております。
#57
○菊池委員 射撃しないという見通しがつくと同時に、拿捕せられないという見通しはどうでございましょうか。それはあり得るでありましょうか。
#58
○中川(融)政府委員 李ライン内におきまして日本の漁船を拿捕しないということが、われわれとしては一貫して主張しておるところでありますが、この点につきましては李ライン問題の根本的解決というのがない間は、韓国側は引き続き入る漁船につきましては、これを拿捕するという措置が継続すると見ざるを得ないと思うのであります。
#59
○菊池委員 外務大臣は韓国との全面的交渉をやると言っておりますが、全面的交渉をやるとなりますと、大へんな日子を要して急場の間に合わぬと思うのでございますが、これについてどういうお考えを持っておられますか。
#60
○中川(融)政府委員 政府の李ライン問題に対する対策につきましては、鋭意協議しておるのでありますが、目下のところの考え方といたしましては、日韓問題――全面的な問題をももちろん推進する必要があるのでありますが、当面の急務である李ライン問題について、まずできるだけこれを促進して解決をはかるという方法でいきたいと考えておるのであります。しかしながら韓国側の態度は、李ライン問題だけを取りはずしまして、これだけ切り離して先に討議するということには、従来一貫して反対しておりますので、あるいはその日本側の希望にもかかわらず、李ラインだけ切り離すことができない場合も想定されますので、これらの場合のことをも考え合せまして、日韓間の諸懸案を全面的に推進することをもあらためて決意するということが必要であろうということは考えております。しかしながら当面の問題としてはできるだけ李ライン問題を切り離して推進したいというような考えには変りがないのであります。
#61
○菊池委員 外務大臣の閣議の話を新聞で見ますと、大村の収容所におる殺人、傷害、脅迫、そういったような悪質の鮮人までも釈放せんければならぬということに対して、司法当局は絶対反対しておるということでありますが、その辺の事情はどうなのでありますか。
#62
○中川(融)政府委員 日韓間の問題を話し合います際に、まずまっ先に解決しなければならぬ問題として考えておりますのが、向うに抑留されている日本人漁夫の救出問題であります。これはもちろん多くの意味におきましては李ライン問題の一環になるわけでありますが、しかしこれは当面寒い冬を迎えまして、漁夫の人たちは非常に苦しんでおられるので、何とかしてこの問題だけは人道上の問題として一番先に片づけたいというのが政府の考え方であります。そのためには法理論、純粋の理論のみに拘泥しておりましては、韓国側の従来の態度にかんがみまして、所期の目的を達成することが困難であるとも考えられますので、そういう事態がありました際には、ある程度の政治的な考慮を大村収容所の問題についても考える必要があるのではないか、こういうことをきのうの関係大臣の懇談会で話が出たというふうに聞いております。従いまして決してそういう措置をわれわれは希望するのではないのでありますが、この急を要する漁夫の救出という問題に関連しては、若干理論を離れたことも考えなければならぬのじゃないか、こういう考え方をしておるわけであります。
#63
○菊池委員 そうすると大村収容所にいる悪質鮮人までも国内に釈放するということも考えているのですか、これは私絶対反対ですが……。
#64
○中川(融)政府委員 今までにきめておりますことは、場合によっては純粋の法理論を離れたこともある程度は考える必要があろうということでありまして、具体的に大村収容所に収容されている人をどうするかという点につきまして、具体的なことまではきめてないのでありまして、これは今後韓国側との折衝の模様によりまして、具体的なことがきまっていくことになろうと考えております。
#65
○菊池委員 社会党あたりは韓国に直接政府当局者が乗り込んでいって折衝をすべきであるということを言っておりますが、われわれもそれは当然であると考えます。それからアメリカにもこの問題については議員団でも派遣するぐらいのことは、気をきかしてやってもらいたいと思うのでありますが、そういうことについて外務省としてお考えになったことはございませんか。
#66
○中川(融)政府委員 日韓問題の解決につきましては、一つには韓国側との交渉を強力に進めるということでありますが、もう一つは、アメリカに対してやはり強くあっせん、協力を求める、こういうことであります。従ってこの二つの目的を達成するための手段といたしましては、あらゆる措置を考えたい。効果があると考えますれば、ただいま御指摘になりましたような方法についても、これは当然考えていきたいと考えております。
#67
○菊池委員 政務次官にお伺いしたいのでありますが、政務次官は前に参与官をやられて、相当の練達堪能の人でありますが、われわれモスクワに参りまして、ドイツのアデナウアーの一行が乗り込んで激論を戦わせて、わずか五日でもって独ソの国交樹立に成功し、ドイツの戦犯を帰すこと、それから大使を交換することを約束して帰った、あの手ぎわのいいやり方を見て、まことに感心したのでありますが、ロンドンにおいて四カ月、いやもう六カ月になります。今までは民主党の内閣でやったのでありますが、これからは保守が合同して新党の強力な内閣に切りかわったのでありますから、外交の方針も変って差しつかえない、これは当然であると思うのであります。それから日ソ交渉の場所にいたしましても、ロンドンよりはむしろ東京の方がいいということをわれわれは常に考えておるのですが、外務省におきましては、交渉の場所を東京に変えるという考えを持たれたことはないでしょうか、どうでしょうか。またこれまでせっかく東京でもいい、あるいはモスクワでもいいというてソ連の方で申し込んできたのに、何ゆえ東京にしないでロンドンにきめたのか、そういうような事情をお伺いしたいと思うのです。
#68
○森下政府委員 菊池さんの仰せの通り、わが国の政局の安定ができまして、これから強く本腰を入れて、そうした安定勢力の上に立った国策を立てて参ります上において、御承知のように私どもは党から外務省に入りまして、そういうごもっともな意見でこれから行きたい、そういう考えで臨んで一ります。またロンドンと東京との問題でありますが、終戦後占領政策が続いておりまして、ようやくロンドンに外交の店を開いたような次第でありますのみならず、そういう中にあってわれわれ自由民主主義の陣営の中に立って参っておる立場上、やはりロンドンは決して悪くない。私の考えでは、東京もけっこうではあるが、今のところはさらにロンドンの方がいいのではないか、私はそういう考えをもって、ロンドンを今すぐ変えみかどうか、これは考えていない。やはりロンドンの方がいいのではないか、私はさように考えております。
#69
○菊池委員 東京でやらないでロンドンにきめたというそのいきさつですね、それをお伺いしたいと思うのです。前のことですけれども……。
#70
○森下政府委員 御承知のようにイギリスはああいう立場で割合に中立的な、向うの情報もきはめてよく入るし、それから日本側の立場から見ましても、ロンドンは決して悪くないのじゃないか。話を円満に進めていく点においては、かえってある場合にはいい雰囲気もあるようにも自分は考える。最後まで話し合って参ります。ことに今度の日ソ交渉のごときは最後まで真剣に取り組んでいかなければならない。そういう意味でロンドンの地でいいのじゃないか、かように私は考えております。
#71
○菊池委員 どうも松本全権など、交渉の結果が直ちに新聞にばれてしまうというので、ばれることを非常に心配しております。秘密を守るためにも外国よりは日本の方がはるかにいいと考えておる。あらゆる便宜を考えても、ロンドンよりは日本の方が何倍もいいと考えるのですが、これはアジア局長でもどなたでもよろしゅうございますから……。
#72
○中川(融)政府委員 日ソ交渉を開くことを決定いたしました際に、その開く場所をどこにするかということは、政府として非常に慎重に研究いたしました結果ロンドンにきまったのであります。これがきまります経緯におきましては、ただいま政務次官が御説明になりました通り、やはり中立的な雰囲気の中で事を進めるのが、いろいろな意味におきまして外部からの影響力がこれに及ぶことをできるだけ少くするという意味におきまして、――もちろん東京でやれば日本の影響力は大きいでありましょうが、それと同時にまた先方のことも考えなければならない。と同時に東京であまりまた外部がいろいろの動きをするということになりますと、交渉の円滑なる運営にも支障を来たすおそれもありほしないか、いろいろなことからやはり中立的に比較的ほかからの影響を離れてできるということで、ロンドンが選ばれたものでございます。
#73
○菊池委員 そうすると、シベリア出兵の後においても交渉の場所は四カ所ばかり変ったぐらいでありますが、今度は一貫してロンドンでやるつもりですか、どうなのですか。
#74
○中川(融)政府委員 目下のところ政府といたしまして、ロンドンの場所をほかに変えるという考えはないようでございます。
#75
○菊池委員 きのうお伺いしたのですが、どうもさっぱりはっきりした御答弁が得られなかったのでありますが、ヤルタ協定の中には、当時の協定国が言っておるクーリール・アイランズの中には、南千島とか歯舞、色丹とか、そういう島もみな含んであるのですかどうですか。
#76
○中川(融)政府委員 クーリール・アイランズといいました場合にどういう島を含むかということは、これは島の名前が列挙してあればわかるのでありますが、島の名前が列挙してない場合には、事実上の問題としてこれを考えなければならぬのでありますが、日本から考えてみまして、明治の初めに日露間で協定ができました際には、これは島の名前は列挙してあったのでありますが、その際にはクーリール・アイランズと書いてありましたが、カッコをして書いてある島には、南千島は入っていないのであります。従ってわれわれは、ロシヤとの法律関係、条約関係におきましては、クーリール・アイランズという場合には、南千島は入っていないと解釈しておるのであります。その立場から日ソ間の交渉を続けておることは御承知の通りでございます。
#77
○菊池委員 サンフランシスコ条約において日本が放棄したのは、南樺太とウルップ以北、つまり南千島、歯舞、色丹は含んでいないというわけでございますか。サンフランシスコ条約のときに、その島の名前ははっきり明示して放棄したのですかどうですか、その点ちょっと……。
#78
○中川(融)政府委員 御承知のように、サンフランシスコ条約には島の名前は書いてないのでありまして、先ほど申しましたように、事実上の解釈によってきめることになるわけであります。日本としては、伝統的な日露間の協定に基くクーリール・アイランズには南千島は入っていない、こういう解釈をただいまとっておるわけでございます。
#79
○前尾委員長 ほかに御質疑はありませんか。――なければ、次会は明十日午前十時より開会いたします。
 本日はこれにて散会いたします。
   午後三時十一分散会
ソース: 国立国会図書館
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