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1953/07/21 第16回国会 参議院 参議院会議録情報 第016回国会 法務委員会 第18号
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1953/07/21 第16回国会 参議院

参議院会議録情報 第016回国会 法務委員会 第18号

#1
第016回国会 法務委員会 第18号
昭和二十八年七月二十一日(火曜日)
   午前十一時十二分開会
  ―――――――――――――
 出席者は左の通り。
   委員長     郡  祐一君
   理事
           加藤 武徳君
           宮城タマヨ君
   委員
           小野 義夫君
           楠見 義男君
           中山 福藏君
           棚橋 小虎君
           一松 定吉君
  政府委員
   法務政務次官  三浦寅之助君
  事務局側
   常任委員会専門
   員       西村 高兄君
   常任委員会専門
   員       堀  真道君
  説明員
   法務省刑事局参
   事官      下牧  武君
  ―――――――――――――
  本日の会議に付した事件
○参考人の出頭に関する件
○刑事訴訟法の一部を改正する法律案
 (内閣送付)
  ―――――――――――――
#2
○委員長(郡祐一君) 只今より委員会を開きます。
 お諮りいたしますが来たる二十三日の刑事訴訟法の一部を改正する法律案の参考人として清瀬一郎君、海野晋吉君、島田武夫君、団藤重光君、この四君から意見を聴取することにいたしたいと思いますが、御異議ございませんか。
   〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
#3
○委員長(郡祐一君) 然らばそのように委員長において取扱うことにいたします。なおこの四人の方のうち、早速交渉いたしますが、都合の悪い方が中でございましても、二十三日には都合のつく方だけで聞くようにいたしたいと思いますから、その点を御了承願いたいと思います。
 昨日に引続いて、刑事訴訟法の一部を改正する法律案について質疑を続行いたしますが、昨日百九十九条の改正条文まで質疑をいたしましたので、本日は二百八条から御質疑を願いたいと思います。改正法律案の二百八条の二であります。そして大体進み方は、二百八条の二から三百四十五条、十一頁のしまいでございますが、第一審に当る分を一括して適宜御質疑を願いたいと思います。
 ちよつと私から起訴前の勾留の問題で政府当局にお尋ねいたしますが、これは参考人の御意見の中にもあつたことでございますけれども、一体この種の事件が五日の延長で処理がし切れるものかどうか、又長期三年以上の事件と申しますると、殆んどすべての事件を含むことになつて、制約をかけた意味が少いと思うのでありますが、短期のほうで更に制約するというようなことを言う必要はないのでございますか。その点について一つ伺いたいと思います。
#4
○説明員(下牧武君) この点は、法制審議会の議論の経過をお話申上げるとよくお分りと存じますが、検察庁側におきましては、この種事件には少くとも十日の延長を希望したわけであります。ところが何分人身の拘束に関することでありまするから、弁護士、在野法曹及び学者の方面におきましては、できるだけこれを短縮する、或いは全面的にこれに反対ということで意見が交わされたのであります。それでその際の大体の考え方としては、根本的には解決いたしましたが、真に必要止むを得ない場合があるならば、それに応ずるだけの手当は何とかしなければならないであろう。併しながらいやしくも人身を拘束して取調べをするに当つて、如何にその事件が複雑であり、又関係人が多数であろうとも、一人一カ月以上もかけて拘束して置くということは如何なものであろうか。言い換えますれば、逮捕の日から起算いたしまして現在は二十三日でございます。それに、もう十日ということになりますと、三十三日になりまして一ヵ月を越える。一カ月を越えるということが、果して国民の納得を得るかどうか。これはやはり一カ月以内できめなければいかんということで、まあ五日ならまあまあというところ納まつたわけでございます。でございますから、この種の事件はこれはその事件によりましては慾を言えば限りがないのでありますが、そういう意味におきまして、まあ最小限度の五日という線が出て参つたわけでございまして、これで必ず処理できるということは申上げられないとは存じますが、検察庁が十日必要とするというのであれば、これを五日に短縮したことによつて十日分働いてもらうと、夜でも検察官に働いてもらうという頭で、とにかくこの限度でおやりなさいという結論になつたわけでございます。
 それからこの長期三年以上の事件というと、非常に多くなり過ぎはしないかという御疑問、これも御尤もでございまするが、実際この種の事件として非常に大掛りな事件が現われているわけでございまして、例えばこの岩国で行われました密貿易、これは関税法違反の事件でございますが、やはり関係人が四十名ぐらい。ございます。単なる関税法違反というのでございますけれども、それを調べるのに、やはり相当複雑な対外、外国人関係もございまして、甚だこれはなかなか手数の混んだだ事件でございますが、こういう事件がございます。又御存じの埼玉県の飯能町で起きましたところの、分村問題に絡むところの暴行事件は、これは罪名といたしましては、暴行公務執行妨害、仲居侵入、暴力行為等処罰に関する法律違反、こういう罪名で処理いたしておりまするが、これも検挙人員が二百八十四名というようなことになりましてこういう事件につきましては長期短期を限るということでは賄えない事件が相当あるわけでございます。こういう際の手当をいたすために事件の種類としては相当な幅を持たせ、ただ内容的においてできるだけ絞りをかけて濫用を防止するということで行つたら如何なものかと、こういうことに落着いたわけでございます。
#5
○委員長(郡祐一君) それから言葉の点のようなことでありますけれども、「証拠物が多数であるため」ということを言つておられますが、ここに証拠物というのは、客観的に存在する証拠物を指すものか、或いは現実に押収されている証拠物を指すのか、恐らく客観的に言う証拠物じやなくして、現実に押収されている証拠物であるかと思うのでありますが、若しそうだとすれば、多数というのはどういう基準でお考えになるのでありましようか。その点について言葉がやや明瞭を欠くと思いますが、その点を明らかにして頂きたいと思います。
#6
○説明員(下牧武君) この証拠物多数と申しますのは、必ずしも現に押収されている証拠物ということには限りませんで、客観的に存在、取調べによつて、こういう証拠物が存在するということが、すでに取調べ間に明らかにたつている場合、単なる想像では言えません。そういうことではなくして、取り調べの経過において、非常に多数の証拠物が存する。若し、言い換えますれば、例えば二十日間一生懸命調べます。そうすると十八日目に非常に大きな多数の証拠物を押えなければならそというような事態が発生いたしました。そういう場合に、客観的に存在すると認められるところの証拠物もこの中に含むものと、かように解釈いたしております。それで、その多数ということは、これはどの程度で線を引くかという、甚だ文字自体としては漠然といたしておりまするが、この条文全体といたしまして、証拠物が多数であつて、二十日の間にとても調べができなかつた、終ることができない。而もそれを釈放してしまつたら、もうどうにも手が付けられないというような、客観的な事情がある場合ということから、おのずからその多数というのは相当数のものであることを要するということは、解釈として出て参るかと存じます。
#7
○楠見義男君 この起訴前の勾留期間の延長の問題は、先般八人の参考人の方々から意見を伺いました際も、特に裁判所側、或いは検察庁側のような立場の方を除いては、殆んど例外なく反対であつたと思うのですが、それは新らしくこの改正をする場合に、検察庁側の立場、或いは裁判所側の立場から、できるだけ従来の経験に徴して不便の点を除こうと、こういう観点からの改正は、その立場からすれば、或いは必要かも知れませんが、同時に一面から見れば、人身拘束、人権擁護という立場から、できるだけこれを避けたい。こういうような全く反対的な立場からの反対論で、これを、反対の理由も私は相当の理由があると思うのであります。そうしてその中で、例えば検事の数を殖やすとか、そういうようなことで、できるだけ賄うようにしてもらいたいというのが、小野博士の御意見でありましたが、それ以外に一つお伺いしたいことは例えば団藤教授が言つておられた点ですが、こういうふうに起訴前の勾留を延長する場合には、今申上げましたように、できるだけ人権擁護というような立場からして、現在の刑事補償法を拡張してやるような準備をする。そう変更する必要があるのじやないか。原則としては反対だけれども、若し真にどうしても公益擁護の立場からやらなければならんという、真に止むを得ざる理由ありとすれば、未決の場合でも、この補償制度の拡充というものを伴つてやることが至当であるということの御意見があつたということを聞いております。私はこれは一ツの首肯すべき意見であると思うのでありますが、その点に関しての政府側の御意見を伺いたいと思います。
#8
○説明員(下牧武君) 誠にこの人権保障の面から申しますれば、御尤もな御意見だと存じます。それで刑事補償法を作ります当時も、同じような問題が起きまして、それを含ませるかどうかという点について、十分議論を尽したのでございますが、検察庁で不起訴にいたします場合に、その犯罪の嫌疑なしで撥ねる場合もございますし、いろいろその理由があるわけでございます。その場合の区別を客観的に確定するということが、これは非常に、或る程度の捜査はいたしますけれども、ものにならない事件は、これは簡単に処理している場合もある。それをとことんまで犯罪を犯したかどうかということをはつきりさせるというところまで進めるということになりますると、その当然不起訴にしてもいい事件でも、非常な手数をかけることになるわけです。それで一応の見当はつけますけれども、いずれにしても、これは起訴ができないという場合は、或る程度の見通しをつけまして、これで以てこれは罪とならずとか、或いは犯罪の嫌疑なし、又多少の疑問はあつても、どうも筋としては犯罪が成立するものではないというような場合には、起訴猶予というようなことで処理いたしておるわけであります。これを厳密に刑事補償ということになりまするというと、全く公判における審理と同じ程度のところまでやらなければいかんのではないか、これが勿論検察官の人員とか、そういうものとも関係いたしますし、現在のところは一応裁判所に行つてからのものだけに限つたらどうだろうということで、現行の刑事補償法ができたのでございます。ただそれでは捜査中に罪なくして勾留されたものを放つておいていいかというと、決していいのではございませんので、その点はなお研究問題として残されておるわけであります。ただこれを解決いたしますには、その筋だけでは、現実の問題としてなかなか割切れない面がございまして、只今申上げましたように検察官の陣容、それから不起訴事件に対する捜査の手続、それから国家財政の面、そういう面とも総合的に考慮いたしませんと、簡単には割切れない問題でございます。そういう事情がございますので、追々研究はいたしておりますけれども、ちよつとそこの踏切りを今すぐということは、困難であろうと思います。
#9
○楠見義男君 さつきおつしやつた何条までまとめてあると言つたのは、何条ですか。
#10
○委員長(郡祐一君) 三百四十五条でございますね。十一頁です。
#11
○楠見義男君 三百四十五条まで……。
#12
○委員長(郡祐一君) そこまでが第一審になつておりますので。
#13
○一松定吉君 それは、逐条説明書ですか。
#14
○委員長(郡祐一君) 私の今十一頁と申しましたのは、法律案でございます。逐条説明書で行きますと、どうでございますか、三百四十五でありますから。
#15
○一松定吉君 逐条説明書ですか。
#16
○委員長(郡祐一君) 法律でございます。刑事訴訟法の一部を改正する法律案でございます。
#17
○楠見義男君 これですか。これでわかりました。
 それからもう一つ、二百十九条の二の場所看守の問題、これについて憲法三十五条のものを個別的に指示するという趣旨から考えて、その憲法の規定に違反する虞れがあると、特に逐条説明では、出入禁止もできることになつておるが、一層そうなれば憲法上疑義があるという団藤教授の参考意見の陳述でありましたが、この点に対する御意見を伺いたいと思います。
#18
○説明員(下牧武君) 団藤先生のおつしやつた趣旨は、憲法三十五条でございますが、何人もその住居、書類及び所持品について侵入、捜索及び押収を受けることのない権利は第三十三条の場合を除いては、正当な理由に基いて発せられ、且つ捜索する場所及び押収する物を明示する令状がなければ、侵されない。こうございます。従つて差押え令状には、その物が明示されていなければならんのじやないか。この明示の仕方は個別的にもつと具体的に明示すべきである。これは憲法の趣旨九ら申しますと、この差押えをすべきものをできるだけ詳しく明示すべきでありますが、その証拠品が大体こういう証拠品があるということはわかつておりましても、その形状名称そういうものを一々具体的に把握することはできない。そこで現在の解釈といたしましては、その物を特定し得る程度において示せば足りる。こういう解釈になつたわけであります。そこで場合によつては或る程度包括的に、例えば何々の誰と誰との取引に関する書類というようなことで特定する方法も講ぜられておるわけであります。でございますから、そういう趣旨で参りますが、現にその差押えに行つてその物がないという場合に、それはただその家の中にある書類とか何とかという漠然たるものであれば、これはやはり憲法の精神に違反するということは言えると思いますが、現にこの場合には、差押えるべきものというものは、一応何らかの形において特定しておる場合を指しておるのでございまして、その場合にその脇が例えば隣の家に移つているということが明らかな場合、単なる想像じやいけないのでありまして、それを現認したとかそれから明らかな証拠によつてこの家を移つたとかいうことが明らかな場合には、その家を遠まきにしておく。こういう趣旨でございます。そこで憲法問題は、その場合にその物自体を押えるというようなことになれば、これは令状なしにその物を押えたということになりまして、憲法違反の問題が起きまするけれども、この場合はそうじやございませんで、その証拠品が、居宅なら居宅の周囲を遠まきにいたしまして、と申しますのは、令状に場所を記載する場合に、例えば或る家の知人の宅に行つてそれを押えるという場合には、誰と誰の居宅ということを指定するわけあります。その中のどの部屋とか何とか言う指定は細かくはいたしません。でございますから、ここにあるその場所というのは、その令状に記載された場所を言うわけでございます。故にその家全体を指すわけでございます。その場所を遠くから取まいてそれを見守つているという程度のことで、なるほど或る程度住居権の侵害はございますが、この点は公共の福祉との関係において、まあまあ是認される調和点じやなかろうかというので、そこへ踏みこんでその物を押えるという処置には出ないで、遠まきにして見ている。ここに出入りを禁止すると書きましたが、これは逐条解説書のほうで少し説明が足りなかつたと思いますが、例えば出入りするものについて、「どういうことで君やつて来るんだ。」というくらいの何で、「いやそれでもぜひおれは入るんだ」ということになりますれば、これは強制力を用いてそれを禁止することはできない。ただその場合に、その者が家へ入つて、あたかも何か証拠品を狙つている。証拠品のようなものを持ち出すというようなことがはつきりいたしますれば、これは証拠湮滅の現行犯と相成りまするから、その意味で強制力を加えることは、逮捕することもできまするし、これは又別問題といたしますが、その出入りの禁止というのも事実上取まいて、そしておかしいと思えば、「君、ちよつとおかしいじやないか」というようなところで押えるということができると、こういう趣旨でございます。
#19
○委員長(郡祐一君) ちよつと私から質問いたします。この二百十九条の二のようなことが若し必要があるといたしますならば、裁判所による差押えについても、このような緊急処分の必要はあるようには考えられませんか。
#20
○説明員(下牧武君) この点は理論的には考えられる問題だと思います。併し実際上裁判所が捜索差押えをいたします場合は、やはり公判廷において証拠決定をいたしまして、そしてその上で乗り込んで行く。緊急性の点においていわばあらかじめ堂々と行くような形もございますし、それから関係人にそれが知れておるような場合もあるのでございまして、その本人自身は知らなくても、そういうことで捜査の場合と緊急性において多少のニュアンスがあるわけでございます。特に裁判所の場合にここまでやる必要はなかろう。捜査の場合にやはり現に差押えに行つたところが、その物が隣の家にあるという場合に何とも手がつけられんのじや困るじやないか。すぐ踏み込めば憲法違反の疑いがあるから、家を遠まきにしてじつと見ている。その場合に新らしく令状を貰つて来て、そうして新たに令状によつて差押える。一時的な手あての応急処置というように考えております。
#21
○楠見義男君 今の令状の問題と関連して、令状を所持しない場合の緊急対策のほうにありましたね。これは、併し令状は持つておらなくても、英語のアポンという原語をお引きになつて、それはすでに令状が出ているのだから、必らずしも令状そのものを見せなくても、令状に基いてということで憲法の三十四条でしたかとの調和が成り立つ。こういう御説明でありましたが、この場合は三十五条で捜査する場所及び押収する物という、場所及び物を明示する令状がなければ侵されない。こういう規定が憲法三十五条にありまして、この二百十九条の二の規定で行くと、令状に差押えられるべき物の所在する場所が記載されており、且つその場所においてこれを発見することができない場合、従つて令状で明示されている場所にない場合、そうなつて行きますと、この三十五条の場所及び物を明示する及びということで結んでおるこの令状とは違つたいわば令状のない場合に該当するようなことになりはしませんか。
#22
○説明員(下牧武君) ここは争いのあるところでございまして、この差押えの令状には、とにかく物を押えるのだから、その物さえ特定してそれを明示しておれば、場所の如何を問わずという令状で押えるんじやないかという議論もございますが、明らかに憲法には、場所及び物と書いてございます。而も令状にその場所を書かれてしまうというと、それを隣で押えるということは場所が違うということでその令状無しに押えるということにならざるを得ないわけであります。ですから本来ならば、もう一度令状を書替えてもらつて、そうして押えなくちやならんわけであります。その書替えるいとまが、その間にそれを持ち出されるというようなことがあつちや困るから、一応まあ遠まきにしておきましようという規定でございます。
 それともう一点、前回刑事局長が回答いたしましたのは、これは逮捕に関する緊急措置、逮捕の場合は、間違つてもそれを放す、緊急逮捕の要件がなすということで放すという回復の途がございます。一体物を押えてしまつて、そして緊急に押えた。押えたら、押えられつきり、それを返したところが果して捜索とか或いは押収というものについて逮捕の場合と緊急性も問題になりますけれども、原状回復の意味が違つて来るのじやなかろうかというようなこともございまして、緊急差押え或いは緊急捜索はこれはやはり憲法の趣旨から言つて必要止むを得ないということを言えないんじやないかと思います。ちよつと人を逮捕する場合と少し違う点があるのじやないかというので、緊急逮捕は憲法上許されても、緊急の差押え或いは緊急の捜索というものは許されないという学説もあるわけでございます。その点大事を取りまして我々としてはそこまで踏み込むのはよそうということで一応遠まきにしておくというところで止めたわけでございます。
#23
○楠見義男君 そうすると今の出入りを禁止するということは、これは逐条説明でお書きになつていることは間違いとしてよろしゆうございますか。
#24
○説明員(下牧武君) 間違いと申しますか。少し言葉が行き過ぎたということになると思います。それで全然それは傍観していなければならんかというと、そういうものではなくして看守という面は或る程度、どういうわけで何の用事があるか。今こういうわけでここを看守しているのだというようなことを言つて、禁止と言いますか、強制力によらないところの禁止ということはなし得ると思います。ただそれを捕まえて放さんとか、或いは絶対に本人の意思に反してやるというようなことは、別途例えば証拠湮滅をすることが明らかなような場合には、これは警察官等職務執行法によつて事前の措置ができますし、又証拠品を持出すというような場合は、これは証拠湮滅の現行犯というようなことで、そういう場合は別としてこれは強制力を用いることはできますが、正面の解釈としては、強制力を以て禁止するということは間違いでございます。
#25
○楠見義男君 そうすると、単なる看守であるならば、こういう規定がなくても看守はできるのじやないですか。
#26
○説明員(下牧武君) 御尤もだと思いますが、ただその看守の仕方が、やはり家の前を警察がうろうろしておつたり、或いは場合によつては、それを取まくということは、一つの住居権の侵害になると思います。でございますから、普通の場合なら家のまわりを取まくのは止してくれということは権利として十分言えると思います。その場合に、ただその取まき方が、広い道路で、そしてその反対側のところでじつと見ているというような場合は、これは当然できますけれども、すぐ玄関のところを露骨にやるということになりますと、やはり問題がございます。その点を慮りまして、この程度のことならば合法化される。これは規定がなくても或いは正当性の、違法性の点につきまして、問題にはならないかと存じますけれども、又疑問もございますし、或いは又行き過ぎもあつても困りますので、一応この点でとめるということを表わしております。こういう気持でございます。
#27
○楠見義男君 御趣旨はよく分つたのでありますが、ただ住居権の侵害になる虞れがあるということで本条を設けるということになれば、その点で実は三十五条の令状というものはない。こういう点で又ひつかかつて来る虞れが出て来て、一方理窟ずけようとすれば、一方のほうでは違憲の問題が出て来るというふうになつて来るのではないかと思います。
#28
○説明員(下牧武君) 御尤もなお尋ねでございます。それで、ただこれはやはり公共の福祉と基本的人権との調和の問題でございまして、この程度であれば、その調和点としてそういうものこそ行き過ぎでもなく社会的に是認される線じやなかろうかというので、厳密に憲法の三十五条を読みますれば、お説の通り違憲という説も出て来る可能性がございます。公共の福祉との関係においてバランスをとつて、まあままこの線なら、こういうところへ納まる線じやなかろうか。こういうわけでございます。
#29
○中山福藏君 これは二百十九条の二の「検察官、検察事務官又は司法警察職員」こう書いてありますが、副検事、副検察官というのは、どういうわけで入れられなかつたのですか。
#30
○説明員(下牧武君) 検察官の中には副検事も含んでおりますので……。
#31
○中山福藏君 そういう意味で、お書きにならなかつたのですか。
#32
○説明員(下牧武君) さようでございます。
#33
○中山福藏君 そこでちよつとお尋ねしておきますが、百九十九条の第二項のうちの「司法警察員は、第一項の逮捕状を請求するには、検察官の同意を得なければならない。」という規定のときに、法制審議会では、この副検事というものが非常に議題になつておるようです。検察官のうちには副検事を含ませるということが、非常に問題になつておる。これはやはり副検事は、この中に入つておりますか。
#34
○説明員(下牧武君) お説の通り、法制審議会では、副検事及び検察官の事務を取扱う検察事務官を除いてもらいたいという希望がございました。我々としても、その趣旨誠に御尤もと思つたのであります。ただ現状といたしまして、検察官のいない検察庁も相当ございます。それで副検事を今すぐここから除くということになりますれば、どうも逮捕状の請求というものを十分賄い切れない面もありますのでその実情を申上げましたところ、然らば副検事についてはできるだけ人員配置、その他によつて副検事をその検察官の中から除くように希望するという希望決議がつきまして、そうして法制審議会が通つたわけであります。我々といたしましては、この副検事制度そのものを又再検討いたしておりまして、現在の傾向といたしましては、この副検事の定員を検事の定員に代えて、だんだん検事のほうに切換えて行くというような、これは程度は全部廃止するということは考えておりませんけれども、そういう方向に向つて努力いたしておるわけでございます。できるだけ早く逮捕状の請求の場合には、法制審議会における希望決議のごとく、副検事をこれから除きたい。かように考えております。
#35
○中山福藏君 そうすると、只今私が最初お尋ねした二百十九条の二の検察官といううちには、その二つを含めてこれはお書きになつておるということに解釈していいわけですね。
 私は、今お尋ねした法制審議会の副検事問題が、非常に論議されておりますので、これは特に法文上からいつてはつきりしておるのですが、念を押しておきたいという気持になつたわけでございます。
#36
○説明員(下牧武君) この二百十九条の二の場合は、いわゆる法律的判断を必要とするというよりも、むしろ執行面が現われておりまするから、二百十九条の二の場合は、これは検事であろうと、副検事であろうと、検察事務官であろうと、全部含ませていいんじやないか。ただ逮捕状の請求をこれがするのが妥当であるかどうか、或いはこの段階においてやるのがいいかどうかというような判断になりますと、これは相当の経験を経た検察官じやないと、その判断がなかなかむずかしい問題であります。而も逮捕状が濫用される、逮捕状かどうかという裏をみるということになりますと、これは相当の経験を経た検事じやございませんと、なかなか見にくい事情もございます。それで変な副検事なんかに、それを持つて行つてすぐ盲判を押されちや困るというのが在野法曹の希望であります。その辺のところの事情から、括弧のようなことが結論に出て来た。こういうわけでございます。
#37
○中山福藏君 そこでお尋ねが逆転するようでありますが、一点、「百九十九条第二項の次に次の二項を加える。」「但し、検察官があらかじめ一般的に同意を与えた事件については、」一般的というのはどういう場合を想定しておられますか。
#38
○説明員(下牧武君) これは検察官が、全部の逮捕状を一つもあまさず見るというのは、陣容の関係から申しましても、なかなか困難でございます。そこで濫用が行われると思われるような事件、或いは特に身柄の拘束について慎重を期さなければならないような事件、そういうものを指定いたしまして、その他は特に検察官を経由しなくてもいい、こういうふうに持つて行きたいという趣旨でこれはできたわけでございます。
 そこでそれではどういう事件をこの枠の中に入れるかと申しますると、これはもう少し具体的に各地の検事正の意見も徴して、きめなければならないと存じますけれども、一応逐条解説にも書いておきました通り、選挙違反とか涜職とか或いは破防法の事件とか、そういうような重要な事件、それから告訴事件でございます。これなんかにも逮捕状の濫用が認められますから、告訴事件、それから小さな細かい事件について逮捕状が濫用されるという非難がございますので、或る程度の線を引きまして、例えば財産犯については被害額が幾らく以下の事件について逮捕状を請求するというような場合も、検察官の目を通す枠の中に入れる。こういうわけで、全部が全部を検察官が見るわけじやなくて、特に濫用が行われ、又注意しなければならんと思われるようなその事件を指定し、その他の事件は、これは一般的に通さなくてもいいというふうにはずしたいという趣旨でございます。
#39
○中山福藏君 そうすると犯罪の例えば窃盗罪であるとか、賭博罪であるとか、いろいろ、選挙違反というものがありますが、その犯罪の種類というものは、大体あらかじめ、これはあらかじめという字をここに使つてありますが、予定しておきめになつておくわけですか。
#40
○説明員(下牧武君) 犯罪の種類で限る場合もございましようし、それから犯罪を限らずに、先ほど申上げましたように、小さな事件で逮捕状を出すというようなことが行われちや困りますから、今度は、被害金額を限るとかいうことで、指定する場合もございます。それから理論的には、実際こういうことはあり得ないこととは存じますが、仮定論といたしますと、或る警察のやりかたが、どうも全部非常に危いという場合には、場合によつては、その警察から逮捕状を請求する事件というような指定のし方も、理論的には考えられるかと思います。その辺のところは今少しく、各管内によつおのおの傾向がございますから、地方検察庁の検事正程度の意見を徴して、適当なところで枠をきめたい。かように考えております。
#41
○中山福藏君 そうすると、全国的に一律に検事総長が、あらかじめ一般的に同意を与える事件もあるでしようし、又検事正が各地方の状況によつてあらかじめ一般的に同意を与える場合もあると思いますが、これはどうなんですか。検事総長がやるのですか。検事正がやるのですか。或いは府県の上席検事がやるのですか。どうなんですか。
#42
○説明員(下牧武君) 理論的には、検察官であれば誰でもできるということにはなつておりますが、実際問題といたしましては、恐らく検事正が主体になるんじやないか。検事総長が出す場合も予想されんことはないと思いますが、これは特別の場合に限つて、大体一般的に同意を与えるという、この事件の指定は、検事正がすることになると考えております。検察庁の検察官にやらせる意思はございません。
#43
○中山福藏君 そうすると、仮にこれは、窃盗或いは賭博罪というような極くありふれた事件についても、ところと、ときによつて或いは事件の実態において軽重の差があると思いますが、その都度、御都合主義と申しますか、その都度主義で、区切つてそれを指定して行かれるわけなんですか。そこはどうなんですか。
#44
○説明員(下牧武君) 大体は、予想されるところを広く拾いまして、こういう事件についてはこういうところで、一般的にあらかじめ、同意を与えておく。それからどうも、それでは工合が悪い。この面をもう少し手当しなければならんという事情が出ますれば、その際に又事件を追加するというようなことで、実情に合うように調整することになると思います。
#45
○中山福藏君 そうすると、一般的に一種の罪名というものを指定して、こういう犯罪については、あらかじめ一般的な同意を与えておくということになりますれば、結局この規定がないのと同じ結果になるのですか。只今、例えば警察官が判事に対して逮捕状を要求する。それについて非常に弊害があるというので、先ず検察官の同意をあらかじめ得たらよかろうということになつておりますが、一つの線を引いてその線内にある、枠内にあるところの罪状については、検察官があらかじめ承認を与えておるのだから、どんどん判事に対して逮捕状の請求をするということになれば、この規定を設けた趣旨というものは没却されることになるのじやないでしようか。そこはどうですか。
#46
○説明員(下牧武君) その点は、本当に逮捕状の濫用を防止しようと思いますれば、これは検察官が一々全部目を通すというのが理想的だと思つております。在野法曹のほうからも、その面の強い要望があつたわけでございます。ところがこれをやるということになりますと、これは検察官の負担というものが非常に増加いたします。その点の調整をいたしまして、普通に警察官に任しておいても大体間違いがないような場合においては、これは一応任して、そこで弊害が出れば、又その面を押えることを工夫する。一応こういう種類の事件については、検察が目を通しておく必要があると思われるものを一応枠をきめて、その枠内で賄つて行きたい。これは濫用防止の面から言いますと、甚だ微弱な生ぬるいことになるのでありますけれども、現実の問題として、全部やりきれるかやりきれないかというのが問題でございまして、その点を緩和する。それで警察が段々捜査が良くなりまして適正に行なわれるということになりますれば、一般的に同意を与えるという面が広くなると思います。そしてそれでも、ほかにこの一般的に同意を与えた事件について、なお逮捕状の濫用があるということになりますれば、それをもつとせばめて、そうして同意を要する事件の中に入れて行く必要があるということになります。
#47
○委員長(郡祐一君) 速記をとめて。
   〔速記中止〕
#48
○委員長(郡祐一君) 速記を始めて。
#49
○中山福藏君 その点ですね、大体この規定の設けられるという理由は、微罪の場合に逮捕状が出る。而もこれは濫発されるというので、その弊を矯正される意味において、これは設けられたのでありますが、そうすると、一々検事さんが目を通すということができない場合に、同意をあらかじめ与えておきさえすればその心配はないということになりますると、結局の濫発という状況というものは、永久に継続して行くんじやないかということになると思いますが、この点は、どういうふうに救済されるおつもりですか。
#50
○説明員(下牧武君) 先ほどちよつと申上げました通り……でございますから、いわゆる非常に軽微な犯罪でございますね、窃盗とか詐欺とかいろいろございましようが、或いは形式犯について逮捕状を請求する場合、それから非常に被害金額の少いような事件について逮捕状を請求するような場合、それから民事的な両者の被害者と本人との間に争いがあつて、そういうことについて逮捕状を請求するような場合、こういうふうに事件を横に限つて、それを枠の中にはめるということもできるかと思います。そういうふうなやり方において軽微な事件について逮捕状が濫用されるのを防止するということは考えなければなるまいと存じます。その点の説明は、逐条説明なんかに十分じやございませんでしたけれども、そういうやり方もあるので、ございまして、その辺は今少しく各検事正とも相談いたしまして、現実に合うようにできるだけ逮捕状の濫発が防止されるように工夫したいと思つております。技術的に工夫の余地はあると存じます。
#51
○中山福藏君 できるだけ技術的にこの欠陥を矯正するという処置を取つて頂かなければなりませんが、どうもこの規定の文言から測定して参りますと、我々の心配しておりました原因を除去するということにはまだまだ相当の距離があるように考えられますが、これは一つ、百九十九条第二項という附加条項は、一応もう少し検討して頂くほうがいいじやないですか。それでなくては只今の御説明だけでは、どうも納得できんように私は考えますが、これは結局あつてもなくてもいいんじやないかという気がいたしますが、どんなものですか。
#52
○説明員(下牧武君) そういうようになつては、これはもう意味のない規定でございまして、或る程度、技術的な工夫によつて、軽微な事件でも押えるやり方があると存じますから、先ほど申上げましたように、例えば被害金額二千円なら二千円以下の事件について逮捕状を請求するという場合は検察官の同意を得よというふうにいたしておきますれば、軽微な事件についてその濫用が防止される。それから告訴事件のようなものについてそれを指定しておきますれば、それを枠内に入れれば、又一面告訴人の言い分だけ聞いて頼まれ事件を防止するということにもなると考えております。いわゆる民事的な紛争を原因として発生した刑事事件というようなことに指定いたしますれば、それは、やはり頼まれ事件をそれによつて防止する。その指定の仕方は、技術的に工夫をいたしますれば、いろいろございますが、そういうことを工夫いたしましていろいろやります。
 ところが、その上なお弊害が出るということになりますれば、その事件の枠を変えて、それに応じて行けば賄えると思います。その実情に応じて弊害が少いように、而もこれは、全国一律にやるわけには参りません。各々地方検察庁の管内によつて事情が違いますから、それぞれに応じて大体検事正が、その判断をして押えて行くということになるかと存じます。
#53
○中山福藏君 そこで、又二百十九条の二というものにつきましてお尋ねするのですが、これは「令状に差し押えるべき物の所在すべき場所が記載されており、且つその場所においてこれを発見することができない場合において、その物の所在する場所が明らかとなつたときは、急速を要する場合に限り、処分を受けるべき者にその事由及び被疑事件を告げてその場所を看守することができる。」と、こうありますが、そこでその物の所有者に対して看守する事由、被疑事件を告げることはできるわけであります。
 ところが、たまたま第三者の家屋の中にその物が所在しておつた場合において、何も知らない第三者が、自分の家を看守されたということによつて、或る悪意を持つた新聞記者などが、れいれいしく向うの家は何月何日に看取されたと、いうようなことを針小棒大に書き立てて、そうして非常に迷惑を蒙むる場合が、まま地方で見られますが、そういう場合においては、第三者は、国家に対して民事上の賠償要求というようなことができると私は考えるのでありますが、そういうことはお考えになつておりましようか。
#54
○説明員(下牧武君) その記事によると思います。
 それで新聞なんかの名誉毀損の事件で、そういう記事を書いた。その場合に、事実の証明を許すかどうか。これは刑法上の問題としちや条文がございますが、民法上も同じように、やはりその事実の証明を許す範囲においては、損害賠償の責任を許される限りにおいては、損害賠償の責任がないというふうな解釈になつておるように記憶いたします。でございますから、その記事が、どれたけ事実に反して針小棒大になつたかというところが問題だろうと思います。
 それから、果してそういう場合があり得るかと申しますと、ちよつと私疑問に思いますのは、何も知らない第三者という場合は、例えば或る家に差押えに参ります。ところがその家のものが証拠品なら証拠品を塀越しに隣の家にぽいと放りこんだような場合、その家に警察官が参りまして、「そういう証拠品を放り込んだというがちよつとそれを見さしてくれないか」ということになれば、そういう第三者であれば、「どうぞ庭で御らんなさい」ということになりまして、それを仰々しく取巻くということは事実上あり得ないんじやないか。でございますから、これはやはり、その物が移転してそこにあるということが明らかになつたけれども、放つておいたら危ないという時の手当でありまして、その家の人が警察に協力いたしまして、「どうぞ十分御らん下さい」ということになれば、二、三人家へ入つて待たしてもらつていいので、大体そういうことで片がつくんじやないか、かように考えます。
#55
○中山福藏君 私どもは、政党の対立とかいろいろの関係で、事実無根のことをあたかも共犯関係があるように書き立てられることはままあります。これは自分の体験を申上げるので、決して無稽のことを申上げるわけではないのであります。
 これは対立意識が職業意識などである場合においては、向うの家は、何月何日看守された。そうしてどういう人間が逮捕された。あの人間と、この物のあつた家の人間とはグルになつて、こういう悪いことをしたという。そういうことを書きたてることがないということを保証することがこれはできないのですがね。だから私が考えますには、こういう場合には、看守の理由というものをその翌日か翌々日くらいに新聞に発表するか何かの方法をお取りになるほうが、その物の所在しておつた家の人間の人権を擁護する上において必要ではないかということを一応考えますが、これは法律をお作りになる時は、何とかして通したいという期待を持つておられますから、まあまあこれはうまく説明しなければならんという思召もあつて、私ども納得行くような説明をここでは聞きますが、併しあなたがおやめになつて検事総長か何かになつた時には、ほかの検事さんがおやりになるかも知れませんから、そういう場合も一応考えて行かなければならんと思います。
#56
○説明員(下牧武君) そういうようなことで、思わざる第三者が非常な迷惑を蒙むつたということは、検察庁といたしましても、或いは警察といたしましても、いや、あの家はそういう関係じやないということの声明くらいは当然やるだろうと思います。このへんのところは、まあ勿論個人によりますから、そうなるとは申上げられませんけれども、大体常識のあるものであれば、適当な処置を講ずるのじやないか。又それが当然だと思います。ただ、官庁の義務としてそこまでしなければならんかという点にしぼりをかけますと、これは非常に窮屈になります。その点はいわゆる健全な常識に任してやるということで大体間違いないと思います。
#57
○中山福藏君 それでは私は、今日はこのくらいにしておきます。
#58
○委員長(郡祐一君) それでは、午前中はこの程度を以て休憩いたしまして、午後一時半から再開いたします。
   午後零時十六分休憩
   ―――――・―――――
   午後二時三分開会
#59
○委員長(郡祐一君) 只今より委員会を再開いたします。午前に引続き、質疑を続行いたします。
 それでは私から、ちよつと伺いますが、二百五十四条の時効の停止の規定で、改正案では策一項但書を削つておりますが、これについて先般参考人をよびましたとき、団藤教授から、改正案の三百三十九条、公訴棄却の決定の改正案は、一般の公訴棄却と違う特殊なものであるから、この場合は一項の原則に戻ることは、被告人の不利益になりはしないか、やはり但書を置くべきではないか、送示不能の場合における手当は別に規定を設けてなすべきであるという趣旨の陳述がございました。
 これについてお考えを承わりたいと思います。
#60
○説明員(下牧武君) その点は、この二百五十四条の第一項だけを読みますと、或いは団藤先生のような御議論が出るかとも存じますが、実際問題といたしまして、その公訴棄却の裁判の送達ができない、告知ができないという場合は、これは逃亡しておる場合、特殊な場合だろうと存じます。その場合には、やはり二百五十五条の第一項によりまして、「犯人が国外にいる場合又は犯人が逃げ隠れているために有効に起訴状の謄本の送達ができなかつた場合には、時効は、その国外にいる期間又は逃げ隠れている期間その進行を停止する。」というふうになつておりまして、結果において結局同じことになるのじやないか。特に団藤先生のおつしやるような断り書をするのも無意味じやないかというふうに考えるわけでございます。
#61
○委員長(郡祐一君) 次に二百八十六条の改正の、被告人の公判出頭拒否に対する措置について、これにも参考人の幾人かのかたから意見があつたのでありますが、判決の言渡しは、この規定から除外すべきものではないだろうか。出頭の義務の関係から見ても、そのように考えまするし、又冒頭陳述の場合は、この規定に含まれるものでありましようか。現在の訴訟法の規定との関係から、御説明願いたいと思います。
#62
○説明員(下牧武君) この新設の二百八十六条の二の規定における「その期日の公判手続を行うことができる。」というのは、冒頭陳述から判決の宣告まで全部できるという趣旨であります。勿論それはその期日に冒頭陳述から始まつて判決の宣告をするという場合に限られまして、期日が別になつて、その期日に又出て来ないという場合には、「その期日の公判手続を行うことができる。」こういうふうになつておるわけであります。それで判決の宣告の場合を除外したらどうかという意見がございますが、現在の三百四十一条、これは法廷の秩序の維持に関する裁判長の命令に違反して退廷を命げられたような場合、この場合には、やはり判決の宣告までできることになつているわけでありまして、本条の趣旨はそういう、あばれてどうしても出て来ないものを無理に連れて来ても、又公判廷であばれて退廷を命ぜられることになることは必至である。そういう状況の下にわざわざ無理をして連れて来なくても、そのまま公判手続を行うことができるということでいいのでけないかというわけでございますから、三百四十一条との関係においては、同様な考え方で見ていいのじやないかと思います。
 それから法制審議会に最初私どもが出しました原案は、判決の宣告は別としても、少くとも最終陳述ぐらいは認めたらどうだろうか。期日の都度本人が出て来ないというのを、一遍の弁解もさせずして、そのまま判決まで行くのは、如何なものであろうかという配慮から、一応最終陳述だけはさせたらどうだろうかという意味で、この趣旨の案を出したのでございますが、法制審議会における審議の結果、そんなことももう無意味じやないか。現に本人が裁判を受けない、受ける権利というものをこういう場合は放棄しているので、この際はやはり思い切つて公判廷の手続は、行かないものでもできるので、退任を命ぜられたと同じように考えていいのじやないか。ただその公判期日ということについて、次におとなしく出て来る場合には、それは普通にやらなければいかんという点を抑えたらいいのじやないかと、こういう趣旨で、この原案に落着いたわけでございます。
#63
○中山福藏君 ちよつとお尋ねしておきますが、勾留されている被告人という立場だけの措置をここに現わしてあるのですが、一般の不拘束のままで或いは保釈になつておる被告人が公判期日に召喚を受けた場合は、と書いてないのはどういうわけですか。
#64
○説明員(下牧武君) その点は、前にもお尋ねが、ございまして、本来の筋とすれば、被告人が勾留されておる場合であると否とにかかわらず、同じように取扱つていいのじやないかということになるかと存じますが、成るべくこういう規定は、現実の必要のある場合だけに限つて手当をいたしたいという気持がございましたので、本当にあばれるのは、勾留されておる被告人があばれてどうにも手がつけられないという事例がございましたので、その分だけを取あえず手当をする。こういう結果になつておるわけであります。
#65
○中山福藏君 これは、公判期日に召喚を受けて出ないときには、裁判を受ける権利を一部放棄したというような建前で、一般論から言えば、平等にこういう場合は取扱うのが至当じやないかと思われるのですが、単に勾留中の者だけにこれを限るということは、これは如何なものでしようかね、一般の場合においても、召喚を受けても応じない人が相当あるのですが、例えば逃亡した場合には、これはやはりみずから公正な裁判を受ける権利を放棄したというような建前になると思うのですが、どうでしよう、その点は。
#66
○説明員(下牧武君) ただ一人が抵抗するというような場合に、まあ実力で以て、或る程度監獄官吏が連れて行こうとする場合に、そこに非常な抵抗をして引致を著しく困難にするという事例は少くないのでありまして、こういう場合は、集団的に勾留されておる場合だろうと思います。そこで勾留されておる被告人と言つてしぼつてございませんが、こういう場合が起きるときには、同じような被告人が相当同じ監獄に勾留されておりましてこうして、わあつと気勢でやるという場合でございまして通常の被告人が個々別々にかたまつておらないところから連れて来るという場合は、実際問題としても余りないのじやないかと思いますし、又現にそういう場合は少いのでございます。殆んどそれで困つたという、召喚しようとして、拘引しようとしても、そこを抵抗してどうにもできなかつたという事例は、普通の在宅の場合はないのであります。実際こういう場合に、こういう事件が起きたから、その手当をするという最小限度にとどめたい。こういう趣旨でございます。理論的にはおつしやる趣旨の通りでございますが、成るべく少い手当で済ませたい。こういう趣旨でございます。
#67
○中山福藏君 これは「勾留されている被告人が、公判期日に召喚を受け、正当な理由がなく出頭を拒否し、」或いは「監獄官吏による引致を著しく困難にしたとき」ということを謳つてありますが、これは「監獄官吏による引致を著しく困難にしたとき」というのは、大体一つの拘置所に留置する人間の数というものは、定員数というものは前以て一応きまつておるわけですから、勾留されておる人間を引致するに適当な監獄官吏は置いてあると私どもは解釈するのが妥当だということを考えております建前から、監獄官吏による引致を困難にするという意味がどうも解しかねるのです。これはどういうわけでしよう。定員数と監獄官吏の数というものは、始終バランスを保つて、大体これだけの監獄官吏がおれば、これだけの留置されておる人間は、一応手玉にとつてそれを処理することができるという考えの下に、人員数なんかはきめてあるのじやないですか。どうなんですか。
#68
○説明員(下牧武君) おつしやる通りでございます。でございますから、この場合に、あばれておる被告人を監獄官吏が公判廷へ連れて来ようと思いますれば、実力を以てやろうと思えば、やれないことは、ございません。例えば一人あばれておるのに、三人かかつて担架にくくりつけて無理に持つて来れば来れないことはないのでありまするが、そういうやり方をすること自体が、監獄官吏に期待することが果してできるかどうか。又どうしても動かない者を無理矢理にひつかついで来るというようなことをさせるのがいいかどうか、非常に疑問だと思います。監獄官吏の人情といたしましても、やはり或る程度の強制力は加えましても、無理に歩かないものを後ろ手に縛つてかついで来るというようなことをやらせる、無理なことを期待するというような場合、そういう場合に限つてという趣旨であります。でございますから、そういう場合は、理論的には在宅の場合にも考えられないことはないのでありますが、そういう気風が出る根拠は、やはり大勢そこらに勾留されておる、その気勢によつて、わつとあばれるという気持が被告人のほうに出て来る。普通の在宅の場合に、自分の家へ三、四人来られるということになれば、おとなしく、嫌々ながらもついて来るという形になるだろう。それだけの差があるのじやないか、かように考えるわけであります。
#69
○中山福藏君 これは事前において只今御説明のような点は、一応察知することができると思うのですから、それを分散して別個の場所に留置する。従つてそういう集団的な暴行とも見るべき行為をなすというようなことは、一応阻止することができるような建前を前以ておとりになれば、こういう憂いというものは事前に解消されるのではないかと実は思うのですが、そういう措置をおとりになることはできないものでございましようか。
#70
○説明員(下牧武君) その点はメーデー事件その他におきましても、監獄を分離いたしましてそうして二ヶ所なり三カ所に、二カ所に分けたこともございます。併しその一人々々を分散させるということは困難でございまして、二、三人が組んでおる場合は恐らく問題がないのであります。やはり相当数のものが団結しておるような場合に、初めてこういう事態が起る。それを半分に割りましても、被告人が多い場合にはやはり半分に割つたものが四十名、五十名ということにもなります。その間、然らばその者自体に監獄官吏が何人かかれるか。全部あばれます場合には、一人について少くとも三人か四人かからなければ、なかなか無理に連れて来るということはできない。でございますから、その被告人のわつという気勢これがこの根本だろうと思うのです。
 それでは。ぺちやんこに気持が参つてしまうような分散の仕方ができるかと言いますと、実際問題としてそこまでやるのは困難でございますし、それから又余りそれをいたしますと、そのためにやつたのでありましても、それ自体やはり勾留しておるということ自体が、何かあとの審理に期待するものがあるのじやないか。いわゆる審理に及ぼす影響、そういう面においての弊害も出て参るのじやないかと思います。やはり分けるにいたしましても、限度があると存ずる次第であります。
#71
○中山福藏君 二行目に「正当な理由がなく出頭を拒否し」とありますが、正当な理由があれば、これは出頭を拒否してもいいという半面解釈が浮んで来るように思うのですが、これはどうですか。
#72
○説明員(下牧武君) これはもう、当然なことだろうと存じます。やはり出頭拒否についても、本当に病気で俺は出られない。それを監獄官吏が無理に連れて行こう。こういうのなら、これはやはりいけないのでございまして、正当な理由がない場合と断らなくても、そういうことになると思いますけれども、これは当然のことだろうと思います。
#73
○委員長(郡祐一君) 私から、二百九十一条の二についてちよつと伺いま“が、政府の説明では、この簡易公判手続の決定について、審理の中途から酷易手続に移すということが、手続的に複雑になる虞れがあるという工合に説明されておられますが、どうも私は、必ずしも複雑とはならないで、却つて便利なことも考えられるので、裁判所の裁量によつて結審までは、いつでも簡易手続に移行の決定ができることにしたほうが便利じやないかと考えますが、この点について意見を聞かして下さい。
#74
○説明員(下牧武君) 御尤もな御議論でございまして手続そのものを見れば、却つて簡易になるわけであります。併し、手続全体としての過程において、まあ中途でくるくると変るという、そういうやり方自体がこれはその面から見ますると複雑と、まあこの逐条説明の書き方が舌足らずで申訳ございませんが、まあそういう趣旨の複雑ということでございます。
 然らば、簡易で始めたものを元に、今度は正式に直してやるというのは、これは複雑じやないかと言いますと、やはり複雑になりますけれども、これはやはり人権の保障の面から、その手続はとらなければならない。
 それからもう一点、初めにもう、全部その通り間違いありませんと言つておつて、そうして罪状も全部自認しておるというのが、中途でひつくり返つてこれはどうしても何しなければならんと、初めに否認しておつたものが中途でもうそれは恐れ入りましたから、もう何も、あとはもう御随意にというのは、実際問題として殆んどそういう場合がないのでございます。成るほど、まあ厭々ながら認めざるを得なくなつたというような事態はございましようけれども、罪状全部自認してもうどうされても異存はございませんという態度に出るというのは、実際問題として考えられないというような面から、この逆の場合は、これから考えなかつた。こういうわけになるわけであります。
#75
○中山福藏君 この訴因について有罪である旨を附する場合に、例えばその訴因が五つも六つも十箇もある。或いは故売犯のような場合においては、百件もある場合があります。その一部を認めてその一部をまあ何にも有罪であるという陳述をしなんだときには、半分だけを簡易公判手続にやるような場合があり得るのですか、どうですか。
#76
○説明員(下牧武君) 理論的には可能なわけでございます。で、本人は、これは事実相違ありませんと言つて認めた訴因についてはできるということになりますが、まあ実際問題として幾つも訴因がある。そのうちほんの一つだけ認めてあとはやはり証拠調べをやらなければいかんということになりますれば、これはその訴因だけ分離するのは却つてややこしいことになりまするから、恐らくそういう場合は、もう簡易公判手続は御一緒に全体一括して通常手続でやるような運用になるのではないか。かように考えております。
#77
○中山福藏君 それは、その訴因が極めて明瞭である場合においては、つまり他の犯罪部分と索連関係にない場合においては、分離して一部を簡易公判手続によるというほうが却つて簡単になると思われる節もあるのですがね。それは場合々々によつて決定したほうがいいんじやないかと思われるのですが、どうですか。
#78
○説明員(下牧武君) そういうことになると思います。
 それで、まあ特に簡易公判手続とやらんでも、普通のやり方で調べられるような場合もございましようし、又本人は、とにかく自認しているのでありますから、その分は簡易公判手続できめてしまつて、そうして争のある部分について正式の手続でする……。本来の法律の趣旨はそういう趣旨で出ておるわけであります。
#79
○中山福藏君 結構です。
#80
○委員長(郡祐一君) 三百四十五条の改正まで、第一審の部分について何か御質問がございましようか。三百四十五条の改正がございますね。第二篇第一審の部分であります。
#81
○中山福藏君 大体、私のほうでは、なさそうに思うのですがね、これは。
#82
○委員長(郡祐一君) 三百五十九条以下の上訴、再審、非常上告、略式手続、裁判執行、これらの部分については、先般の参考人の意見の陳述のときも、さして多くの意見の開陳も、ございませんでしたので、三百五十九条以下は一括して、一つ御質疑のあります部分について御質疑を願いたいと思います。
#83
○中山福藏君 三百六十条の二という規定ですね、「死刑の判決に対する上訴は、前二条の規定にかかわらず、これを放棄することができない。」この死刑の場合に、これを特例をここに認めるわけですね、これはまあ死刑ということは、誠に、人間の生命を絶つという大きな問題ですから、こういう規定が一応ここに浮んで来たと思うのですが、これを特例を設けるというのは、何ですか、やはり生命が尊いというだけの理由ですか、これは。
#84
○説明員(下牧武君) 上訴の放棄をいたしますというと、すぐ判決が確定いたします。そこでまあ有期の懲役又は禁錮であれば、まあそれでも一応本人が異議がないということであればよろしいと思いますが、どうも死刑ということになりますと、これは余ほど本人も放棄したと言いましても、あとでどんなに気が変るかも知れませんし、その点、まあ十分再考の余地を与えておいたほうがよかろう。而も死刑の判決ということになりますと、本人が希望して一日も早く出たいという、その上訴取下げ放棄したいという本人の気持ち、そういう場合も、これは実際的にはないわけでありまして、そういう理由もないわけでありまして、この点は特に慎重を期したとこういうことでございます。
#85
○中山福藏君 現在行われております死刑執行というものは、判決確定後、大体平均どれぐらい日にちが経つておるのですか。経つた後に死刑執行になるのですか。大体どういうふうな平均日数になつておるのでしようか。
#86
○説明員(下牧武君) 細かい数字は記憶しておりませんが、大体一年くらいはかかつているように見ております。それで死刑を、中には二年以上かかつているのもございます。と申しますのは、死刑の判決が確定いたしますと、それに対して再審を三回くらい申立てたのがございます。そういうのは、もうその都度調べてその再審は通つていないのでありますが、やはり出て参りますと、一応それを聞くということになりまして、そして二年以上かかつているのもあるはずでございます。
#87
○中山福藏君 こういう点についてですね、再審の求めをやるのもありましようね、二、三回。併し或る場合には非常上告という手段をとるのがありませんか。そういう場合はありませんか。
#88
○説明員(下牧武君) 死刑の判決があつたものについて非常上告をしたという例はないと存じます。
#89
○中山福藏君 ああないですか。これは或る場合には二本建てでやり得る。これはあると思うのですけれども、私は丁度十年ほど前に、これは統制違反の小さい問題ですが、非常上告と両方やつてみた。結局これは再審というものは成り立つたのですけれども、結果において。併しまあ非常上告は取下げました、私のほうで……。その結果、そういうような場合があるので、まあそれはこれに直接の関係はありませんが、特例をここに掲げるということも結構でございましようが、大体死刑の判決が確定した後に二年ぐらい、或いは短いところで一年ぐらいそのまま生存しておるということになりますれば、幾分頭も冷静になると思うのです。そうするとその間に、若し上訴というものをするかしないかということについて、本人が自分の意思を翻えして、あの時どうもこういうふうなことを申上げましたけれども、自分はやはり上訴するほうがよかつたというような気持に、今おつしやつた通りにならんともこれは限らんのですが、それでまあいろんな場合をここに考えられるので去りますが、やはりこれは死刑とはいうものの、一応放棄することができるということに、これは直したらどうですか。これは余りひど過ぎますか。
#90
○説明員(下牧武君) さつき、ちよつと申上げましたが、一年以内というのは、これは事実上再審があつたりいろいろ文句が出たりしたような場合で、通常の場合は六カ月以内に法務大臣から死刑執行の命令を出さなきやならんことになつておるわけであります。その時期が非常にむずかしいのでございまして、大体六カ月から一年ぐらい、現行法の六カ月というのが短か過ぎて、六カ月から一年ぐらいの間に執行いたしますと、本人も冷静になつて落着いて死刑の執行を受けられるというような状態のように聞いております。その関係で、この死刑ということは、これはよほどの問題でございますから、すぐ本人の上訴の取下を認めても、する者があるかどうかが先ず疑問でございますし、法制として死刑について上訴の放棄を認めるという、それもちよつと行き過ぎのように考えるわけでございます。
#91
○中山福藏君 私どもは、死刑のない社会をつくるために努力するということが最も必要であると思うのです。ところが実際刑務所に行つて見ますと、死刑になるまでの被告人の苦痛というものは並大抵ではないようなふうです。殊に死刑台上に上ります時の状況というのは、もう殆んど心神喪失しておる。これは監獄吏が両方から腕を支えておらなければ歩けないのです。実際その台に上るまでは。実に気の毒なものなんです。従つてこの死刑という極刑が一日も早くこの世からその姿を没するということを私どもは非常に期待しておるのでありまするけれども、これはものは考えようでございまして、集団生活の社会というものを対象として、この社会というものをどういうふうにすれば正常な世の中にすることができるかということを考えまするときに、一人に対する同情を以て社会の腐敗というものを看過するということはできないということが頭に浮かんで来るのです、或る半面から。
 私は、この間ルーズベルト婦人が、広島の状況についてどう考えるかという質問を受けたときに、被女の答はどうであつたかというと、三十万人の生命を救う代償として数百万人の生命が絶たれるということは実に恐るべきことであるということを新聞で述べておつたのです。
 私はその場合をこれに引用するということは幾分無理かとも思いまするけれども、とにかく敗戦の日本というものを立派な正常な社会によりを戻すということにつきましては、これは何人もその努力というものを惜しまないところでありまするけれども、人間の最も恐れ最も重大な問題としてのこの生命を絶つということは、これは何ものにもまさる私は一つの社会に対する警鐘であると実は考えておるのです。従つてその時と所と人によつてこの状況というものはおのずから異なつた見方をして差支えないんじやないかということを考えておるわけであります。死刑は絶対に私は反対であるし、又死刑の制度というものができるだけ速かにこの刑法上の規定の中から影を没するということは希望いたしまするけれども、余りに滔々として世の中が混濁に傾いて参りまする時には、これもやはり限局せられた時間という観点から言えば、相当の考慮を払つていい場合があるのじやないかと実は考えておるのです。これが本当の菩提心というものじやないかと、実は私は考えておるのですが、そういう点について、御答弁を求めるということもどうかと思うのですが、こういうことは一応法務省の関係のかたも、私はお考え置きを願わなきやならんと思うのでございますが、中山という男は、あれは死刑を非常に好んでおるというようなことを言われてもこれは困る。そういう意味じやなくて、時代をどういうふうにして生かすか。日本国民の精神というものを如何にして原状回復せしむるかということを一つ考えてみなければならん場合が、或る時にはあるんじやないかと思うのです。殊に戦後非常に強盗が多くなりまして、良家の子弟というものが我も我もと先を競うて強盗に早変りをした時代があつたのです。その時には、相当の厳罰を以て裁判所としても臨まれて、今では漸くその影を没するようになつておるのでございまして、私どもも非常に喜んでおる次第でございますが、この規定についても単に絶対的の規定を設けるということは、これは私は強いて反対はしませんが如何なものでございましようか。絶対的の規定でいいというおぼしめしでありますか、その一点だけを聞いておきたいと思います。
#92
○説明員(下牧武君) 絶対的と申しますか。死刑に対して、上訴放棄の申立をしても、それは効力がないという意味において、絶対的になる。こういうことでございます。
#93
○中山福藏君 私は、もうそれだけ伺えば結構です。
#94
○委員長(郡祐一君) 加藤委員に申上げます。
 三百五十九条の上訴の部分からしまいまでを一括いたしまして今御審議願つておりますから……。
 私から、ちよつとこの三百八十二条の二の改正について承わりたいのでございますが、この控訴審の構造に関しますこのたびの改正規定というものは、控訴審の事後審的な性格というもの、新刑訴の根本とする一つの建前に反するものとお考えになりませんでしようか。殊にこの改正の規定の第二項については、先般の参考人の多くからも反対意見を聞いたのでありますが、これらの点について御意見を承わりたいと思います。
#95
○説明員(下牧武君) 厳密な意味における事後審の性格というものは、これでやはり傷つけられておると存じます。本来の事後審と申しますれば、第一審の判決の当時、その訴訟状態においてその判決が正しかつたかどうかをあとから振り返つて見るというのが、これが事後審の根本的建前であります。ところが今度の改正の第一点といたしまして、原判決が、判決当時の弁論終結前に、止むを得ない事情によつて公判に出すことができなかつた事実関係が、これがやむを得ない事情によつてできなかつたという意味で、あとからそういうことがわかつて来た場合に、これは控訴趣意書に援用して、そして控訴審で判断をつける。これが事後審の範囲だろうと思いますが、第一審判決後に被害の弁償をいたしましたようなことは、何と言いましても、それを控訴審において考慮できるということは、事後審の範囲を出ることだろうと思います。観念的に、控訴審は事後審であるべきであるということを貫きますれば、その理論に反するわけでありますが、実際問題として、成るほど第一審当時は、被害の弁償をできなかつたけれども、その後弁償ができたという事情は、これはやはり刑の量定においては考慮されべきことで、これは人情でございまして、その点は被告人の身としても、立場としても当然でありましようし、又逆に控訴審の裁判官がその事実を認める場合には、これはやはり考えてやらなければいかんということになるわけでございます。その間の調整をとりまして、全面的に控訴審が自由にやれるということであれば、事後審の性格を根本的に崩すことになりますけれども、基本的の性格は飽くまでも維持しながら、それをはみ出てこの程度の手当はいたしておいたら如何なものかというのが、この控訴審の構造に関する今度の改正案の狙いになつておるわけでございます。
#96
○中山福藏君 この控訴審は、いろいろ四つ、五つぐらい新たにその理由というものを明示して、審理を求めるということになつておる。どうしてこれだけの改正をなさるなら、覆審制度を復活なさらなかつたか。只今聞いておると、事後審の基本方針だけを堅持しつつ、こういう制度を設けた。これだけの改正要綱でありますれば、殆んど覆審制度というものを復活したのと何ら結果において変りはないのではないかという気がします。相当大幅に改正が行われたように思うのですが、どうでしようか、今の点は……。
#97
○説明員(下牧武君) 規定が非常に複雑になりまして、そしてこれの関係する面でいじらなければならん面が大きいものでございますから、大改正のように一応見えますけれども、狙いといたしますところは、従来第一審で本来は出し得べかりし証拠を、それがやむを得ない事情によつて出されなかつたという場合、その証拠が発見されたからそれを一応見てやろうという点と、それから事実関係を全部調べ直すのでなくして、第一審で認めた事実はそのまま認めて、その後、例えば被害を弁償したとか、何とかというような場合に、その弁償の点を考慮して、刑の量定を考慮する。この二点だけでございます。でございますから、全面的にもう一度全部を調べ直すというのではなくて、第一点について申上げますれば、第一審の判決に対して、その新たに援用された事実、この事実を考慮したであろうならば、この判決がどうなつておるであろうという点を控訴審で考える。それから弁償の事実につきましては、犯罪事実は第一審通り認定して行く。これに被害の弁償の事実を考慮したならば、刑の量定をどうすべきであろうか。そのままでいいか、ちよつといじるべきかという判断をするというのでございますから、この基本的な事後審の性格を根本的に覆すというのでなくて、或る程度、この枠をはみ出したという程度に止まると思います。
#98
○中山福藏君 これだけの規定を見ますと、これは弁護人がしつかりしておれば、殆んど覆審の場合と同じような立場をとり得る場合が多々あると私は考えます。
 それで大体裁判制度というものは、被告人のための裁判制度であつて、裁判官のための裁判制度でない。それだから、従つて手続はどうであろうと、如何にその取扱いが煩瑣になろうとも、これが被告人に対して有利だという場合には、裁判制度というものはその線に沿わなければならんというのが至当な考え方じやないかと実は思うのです。
 然らばどういうことが一番被告人に対して有利であり、又妥当なものであるかということになるかと申しますると、大体覆審をやつてもらうのが一番被告人には有難いことだと思う。そこで私の考え方は、覆審を申出た場合には、上訴権を放棄するという条件付で覆審を許すということが一番いいじやないかと、実は私個人は考えておつた。事後審だけで二審までやる。そういう人には、勿論三審上告ということを申出るそこに余地を置いておいて、これに反して覆審を求める場合には、上訴権を放棄するという特別の制度を刑事訴訟の中に表わすということが一番被告のために有利じやないか。又これを最も喜んでおる。被告人は一審において有罪であつても、我々の立場で経験したところによるというと、多くはこの控訴審でこれは旧刑事訴訟法では、大概執行猶予になつたという経験を持つておりまする関係上、これを単に事後審の、その基本方針は動かせないというだけで、果して被告人が満足するかどうかということ、これは私は満足しないと思う。
 成るほど、今度の改正の点を見ますと、今おつしやつた通り、私読んで見ましたが、その通りなのです。こういう場合、控訴の趣意書にこれを書けば、それは殆んど覆審に近い事実の審理というものを或る場合にはやつてくれると思いますけれども、それだけでは、被告人は満足しませんですよ。やはりこれは上告はできなくても、覆審によつて一つ御同情を仰いで、何とか本人の顔を見たり、本人の素振りを見たりして、そしてその情にあずかろうというのが普通の被告人の心理だと私は見ておる。だから、そういう点は、法制審議会で何も議論はなかつたですか。ちよつとお尋ねしておきます。
#99
○説明員(下牧武君) これは法制審議会でも、勿論在野法曹の面から覆審制度を強く主張されたかたもございます。それで根本的な今度の改正の建前といたしまして、この刑事訴訟法の基本構造に触れるような改正は、差当りそれには手を付けないで、当面何とか手当をしなければならん面をやりやすいように改めて行こう。こういう考えのものですから、基本的な事項というのは、これはもう一つ、しつかり腰を据えて練ることにしたらどうだろう。こういう考えで、証拠法などにつきましても、手を付けなかつたわけであります。その意味で、控訴審の基本構造をどういうふうにするかという点は、一つの大きな問題でございますから、これは厳密に刑事訴訟法全体を検討する立場において考えようということで、この際は留保になつたわけでございます。
 それじや何もしないのかと申しますと、決してそういうわけではございませんので、これは最高裁判所の在り方とも関連いたしまして、最高裁判所をどういうふうに持つて行くかということと関連して、現在法制審議会の中に司法制度部会というものを設けております。それによつて新旧制度全般に亙ることを検討いたしております。殆んど月一遍ぐらい集つてやつておるようなわけでございます。そういうことと、それと今度民事訴訟、刑事訴訟というような訴訟の面の考え方を調和さして、その全体の考え方をきめて行こうじやないか。こういう方向で現在進んでおるわけでございまして、今度の改正の時は、只今申上げたような全体の趣旨が、そういう趣旨でございますから、基本的な問題に触れないようにして、差当り何とかしなければならん問題を手当てした。こういうわけであります。
#100
○中山福藏君 これは臨時措置的な改正であつて、今の刑事訴訟法よりも数歩これは進歩したものだということを私看取することができるのでありますけれども、これだけの改正をおやりになるとすれば、只今申上げたような点も、一応はこれは考慮して頂くということが至当じやないかと実は考えております。
 その点が一番大事なところで、私どもも被告人も、共に常にそういう、この点については多大の関心を実は持つておるのです。殊に上告審において御承知の通り今五千件とか六千件とか事件が堆積しておるわけでございまして、その理由というものは、やはり事後審であります控訴審に、多くは不服を持つております連中が、全面的に殆んど例外なく上告をするという傾向を帯びておる。だから最高裁判所を救済する意味においても、これは必要なんです。だから私は、先般あなたに旧刑訴の場合におけるところの控訴審に満足して服罪した人間の数と、現在の刑事訴訟上の控訴審に服罪した人間の比較を見てみたいと言つたのは、そこなんです。恐らく全部に近いくらい、これは上告しております。そうすると、これは殆んど神経衰弱の最高裁判所判事を製造する以外に、これは何ものでもないのです。だからこの点に留意して、こういうところは、これは臨時的な措置に属する改正だからというような塩梅で済ましておる問題じやなくて、先ずどういうふうにして現在の上告審の数を減らすかということが、これは一番大事なことなんです。そして而も一方において、被告人が自分が受けた裁判に満足して服罪するということを考えるということが、これは大事なことだと思うのですから、一応聞いたのですが、あの統計はお持ち下すつたでしようか。
#101
○説明員(下牧武君) ちよつとまだ、参事官が手分けして国会に出ておるので。事務のほうに申付けただけで……。至急出しますから。
#102
○中山福藏君 非常に大事なことだと思うのです。本人が喜ばない裁判をしてはいかんのです。
#103
○説明員(下牧武君) わかると思います。控訴率と上告率でございます。これは旧法時代と区別すればできると思いますから、至急お出しいたします。
#104
○委員長(郡祐一君) 私もお調べがついておれば、控訴審における原判決と差戻しの率がどれくらいになつておるかお伺いいたしたいと思います。
#105
○説明員(下牧武君) これは、昭和二十六年度における簡易裁判所の裁判に対する控訴率でございますが、これが一一%、それから地方裁判所が二二%一になつております。それから二十七年度が、簡易裁判所が一二%二、それから地方裁判所が二四%八、大体地方裁判所において二割五分、それから簡易裁判所において一割二、三分というところであります。
#106
○委員長(郡祐一君) 三百九十七条までの上訴の所あたりは、別に御質疑ごございませんでしようか。
 そうしますと、四百五十一条の再審の所の規定、四百六十条の非常上告、四百六十一条以下の略式手続の規定。
 ちよつと伺いますが、四百六十五条の正式裁判の請求で、略式命令発布前の異議申立期間は置かなかつたということで、銘々の異議申立期間を延長しておられまするけれども、この両方の期間は、性質が違うので、大した意味のある改正のようにも思いませんけれども、御事情があればお聞かせ願いたい。
#107
○説明員(下牧武君) おつしやる通りでございます。ただ前の発布前の異議申立期間、これが本当の有名無実になつて、ただその期間を過しておるというだけで、その間に異議を申立てた件数は一件もございません。非常に無駄でございます。その無駄の代りに、これを省きまして、今までは正式裁判の申立期間は七日になつておりましたが、折角前をとつたのだから、その考慮の期間はあとのほうに廻したほうがいいのではないかというので、これが十四日にしなければ賄い切れないという性質のものでないと存じますが、考え方として成るべく考慮の期間を長くしたのは被告人のため有利だということもございますにので、どうせ前と後を合せまして現在十四日になつておりますから、それなら、うしろを十四日にしようと、こういうふうに思いついたわけであります。
#108
○委員長(郡祐一君) それから裁判の執行の所の、四百八十二条の自由刑の任意的な執行停止でございますね、これは検事総長なり検事長直りの許可を得なければならないという但書を削つておられますが、これは何か特に手続を簡略にする必要があるのでありましようか。現行法通りにおきましては、何か支障があるのでございましようか。これについて御説明願います。
#109
○説明員(下牧武君) これは、ここに並べてありますような場合は、一般にそういう必要も、全部が全部あるというわけじやございませんけれども、例えば急に病気になつたというような場合、これは現在規定がございますから、無理に一応検事長の指揮を受けてやつておるのでありますけれども、これは現地の検察官に任せていい場合、又そうして早く出してやるのがいい場合が間々ございます。そういう場合に、現在はとにかく一応電話でやるとか何とかいたしておりましたけれども、そこまでいたさなくても、特にそれで刑の執行がルーズになるようなこともないだろうというわけで、その点の急場に間に合わない場合に対処するために現行法の但書を削つた。こういうわけでございます。
#110
○委員長(郡祐一君) これは統計上の実例等では、どんな工合になつておるのですか。相当の数が出ておりますか。
#111
○説明員(下牧武君) この点は、ちよつと今調べさしておりますので、まだ統計が出て参りませんので、まとまり次第提出することにいたします。
#112
○委員長(郡祐一君) どうぞ、これらの部分から附則に関する部分も含めまして、御質疑のおありのかたの御質疑を願います。若しございませんければ、一応逐条についての質疑は、この程度で終ることにいたします。
 更に今までの全体につきまして御質疑がありますれば、如何なる部分についてでも、どうぞ御自由に御質疑願いたいと思います。
#113
○中山福藏君 ちよつとお尋ねしますが、これは、いつ頃討論採決なさる予定ですか。
#114
○委員長(郡祐一君) ちよつと速記を止めて。
   午後三時二分速記中止
   ―――――・―――――
   午後三時三十四分速記開始
#115
○委員長(郡祐一君) それでは速記を始めて。
 本日の委員会は、これを以て散会いたします。
   午後三時三十五分散会
ソース: 国立国会図書館
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