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1953/07/08 第16回国会 衆議院 衆議院会議録情報 第016回国会 法務委員会 第8号
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1953/07/08 第16回国会 衆議院

衆議院会議録情報 第016回国会 法務委員会 第8号

#1
第016回国会 法務委員会 第8号
昭和二十八年七月八日(水曜日)
    午前十一時二十五分開議
 出席委員
   委員長 小林かなえ君
   理事 鍛冶 良作君 理事 佐瀬 昌三君
   理事 田嶋 好文君 理事 吉田  安君
   理事 猪俣 浩三君 理事 井伊 誠一君
      江藤 夏雄君    押谷 富三君
      星島 二郎君    三木 武夫君
      古屋 貞雄君    佐竹 晴記君
 出席政府委員
        法務政務次官  三浦寅之助君
        検     事
        (刑事局長)  岡原 昌男君
 委員外の出席者
        専  門  員 村  教三君
        専  門  員 小木 貞一君
    ―――――――――――――
七月七日
 英国エリザベス女王陛下戴冠式に伴う戦争犯罪
 受刑者恩赦に関する請願(原茂君紹介)(第二
 八八六号)
 舞鶴拘置支所廃止反対に関する請願(大石ヨシ
 エ君紹介)(第二八八七号)
 植田町に簡易裁判所設置の請願(高木松吉君紹
 介)(第二八八八号)
の審査を本委員会に付託された。
    ―――――――――――――
本日の会議に付した事件
 逃亡犯罪人引渡法案(内閣提出第一〇二号)
    ―――――――――――――
#2
○小林委員長 これより会議を開きます。
 逃亡犯罪人引渡法案を議題といたします。この際本案の内容について政府委員より説明を聴取することにいたします。岡原政府委員。
#3
○岡原政府委員 今回御審議を煩わすことになりました逃亡犯罪人引渡法案の内容を簡単に御説明申し上げます。
 提案理由の際にも述べられました通り、平和条約の第七条に基きましてアメリカから日米犯罪人引渡条約の発効についての通告がございましたのが本年四月の二十二日でございます。条約によりまして三箇月後の七月二十二日からこれが発効と申しますか効力が復せられることになりましたことにつきましては、従来逃亡犯罪人の引渡しに関する国内法としてわが国にありました古い条例の形を近代的なものに改め、現在の憲法の精神並びに一般訴訟法の建前に合致させようというのが今回この法案をお願いする趣旨でございます。全文三十三条、附則五項ございまして、かなり大部なものになつておりますが、技術的にこまかくその手続を規定しております関係上、さような大きい条文になつたものでございまして、その骨子はいずれ逐次申し上げますけれども、序論といたしまして一応総説的な点から御説明申し上げたいと存じます。なおこの法案の御説明の便宜にもと思いまして先般解説書をつくりましてお手元にお配りした次第でございます。それでその解説書にのつとりながら重要な点だけを触れて行きたい、かように存ずるのでございます。解説書の二ページの冒頭につきまして、日米間の犯罪人引渡条約の明治十九年の条約、非常に古いものでございましてこれが今回の戦争の結果、その効力が一時停止しておつた、かようなことになつたわけでございます。そこで先ほど申し上げました平和条約の七条の(a)によりまして、四月二十二日にアメリカからの通告があり、七月二十二日からこれが完全な効力を発すると同時にその停止されたのが解ける、かようなことになつたのでございます。ところで先ほど申し上げましたように、この条約に基く国内法としての逃亡犯罪人の引渡条例というものが明治二十年八月十日の勅令でございまして、その制定の年月において古いのみならず、実質内容等におきましても今の考え方とはかなり相反するものがあるのでございます。
 三ページの三のところにつきまして申し上げます。現在条約がありますのは日米間だけでございますが、いずれこの引渡条約というものがほかの国との間で結ばれることになりますれば、その引渡しに関する手続はやはりこの法案の線にのつとる、かようなことになるわけであります。
 飛ばしまして四ページの第二章に入ります。この法律はただいま申した通り条約に基いて具体的な引渡しの際の手続を規定してあるものでございますが、その要点を一応条文に入る前に概括的に申し上げます。五ページの三にその順序が書いてございます。まず引渡しの請求は、条約に基く手続によつて締約国の外交機関からわが国の外務大臣になされて参ります。そこで外務大臣はその引渡しの請求の方式が条約に適合するという場合には、必要な書面を添付して法務大臣に書類をまわしてよこす。法務大臣がその書類を受取つたときにはもう当然、引渡しができない場合を除きまして、東京高等検察庁の検事長に対して東京高等裁判所に対する審査の請求をなさせるという手続をさせるわけでございます。東京高等検察庁の検事長は、逃亡犯罪人がきまつた住居を特つて、逃げないというふうな場合以外には、原則としてこれを拘禁許可状によつて拘禁させるという手続をとります。この拘束は東京高等検察庁の検察官、あるいは検察事務官、警察官等々によつて執行されるわけでございます。検察官においてその身柄を受取ることになりますと、まず人違いでないかどうかということを確めて、人違いでないということがはつきりした場合に、これを一定の監獄に送ります。そして監獄の中においてその身柄が拘禁を続けられる、かようなことになるわけでございます。そこで東京高等裁判所におきましては、東京高等検察庁からの審査請求に基きまして審査を開始するわけでございますが、一定の期間内にその決定をいたします。決定には三種類ございますが、その手続といたしましては、あとでこまかく書いてあります通り、おおむね刑事訴訟法の手続による。決定によつてこれを引渡すものといたしました場合には、その旨東京高等検察庁の検事長から法務大臣に逆に今度は報告が参るわけでございます。そこで法務大臣が、さらにその認定において、これは引渡すべきが相当であるという場合には引渡し命令というものを出します。それには一定の引渡しの場所と期限が定められておりまして、これによつて東京高等検察庁の検事長から監獄の長に対して、今度は引渡しの具体的な指揮が出て参るわけでございます。そこで国内的にはさような手続が進むと同時に、引渡しを要求しました外国に対しましては、外務大臣を通して受領許可状というものが参りますつまり身柄を引受けに行くときの受取りみたいなものでございますが、それでこれが一定の手続によつて、外国の機関から今度はこちらの監獄の長に現実に引渡しを頼んで来る。そこで初めて引渡しが行われる、かような順序になつて来るわけでございます。なおこの法案の二十三条以下に仮の逮捕、仮の拘禁状による拘禁という規定がございますが、これは外国の外交機関から確かに引渡しを請求するからという緊急の要求があつた場合に、仮にこれを逮捕して手続させるという特例のものがここにあるわけでございます。なおこれに付随いたしまして若干の諸規定がある、大体これが本文三十二条の構成でございます。
 第九ページの法の特質でございますが、今回の法案の従来の引渡条例と違うところはどういう点かと申しますると、そのおもなる点は、身柄を拘禁する場合において、原則として裁判官の発する令状によるものとしたことでございます。その二つは引渡しをすることができる場合にあたるかどうかという裁判所の判断を受けさせることにした。つまり行政機関のみで判断しないで、裁判所の判断を仰ぐということにした点、この二点が従来のと違う点であります。身柄を拘禁する場合に、裁判官の令状によるべし、この精神は憲法の全体を通ずる精神でございますが、ただ厳密に申して、これが行政手続でございますので、憲法をまつこうからかぶるという点については疑問があるわけでございますけれども、その精神にやはりのつとるべきであるという点から、従来検察庁、検事局において出しました令状を裁判官の発する令状というように切りかえたわけであります。もう一つは、司法機関の判断を受けしめるという点は、最近の文明諸国、たとえば、アメリカ、イギリス、カナダ、フランス、イタリア、ドイツ、スエーデン、スイスというふうな諸国において、いずれもそのような構成をとつておりまして、行政機関のみでかつてに身柄を連れて行くというふうな手続は、別に資料でお配りしてございますが、割合に少ないのみならず、いわゆる一流の国にはない次第でございます。そこでわれわれといたしましては、この最も新しい文明国の代表的な立法のあり方を参酌いたしまして、その法制に従つてかようなことに建前をかえたわけでございます。
 なお司法機関の判断といたしまして、東京高等裁判所の審査を経ることといたしましたのは、事件が全体としてそうたくさんもございませんでしようし、またこれを各地に分散して事務を行わせるというのも、なかなか手続上困難な場合もありましようししますので、東京高等裁判所に全国管轄を持たせまして、外交機関あるいは司法律関、行政機関との連絡が割合に緊密に行くような方途を講ずるために、かようなことにいたした次第でございます。
 次に十ページの第四章は、この法案とちようどうらはらの場合を御説明申し上げたのでございます。つまりわが国から諸外国に対して、現在条約のあるアメリカに対して、逃亡犯罪人の引渡しを要求した場合に、どういう手続になるだろうかという点に触れてみたわけでございます。この点は、アメリカの連邦法典第二百九章、これに詳しい条文がございまして、これも参考資料としてお配りしてございますが、ちようど日本の引渡法案と似たような、ちようど逆になるわけでございますが、規定があるわけでございます。つまりこちらから外交機関を通して向うの外交機関に請求いたしますと、向うの司法機関が一応判断して逆にまたこちらに送つてよこす、こちらからとりに行く、こういうふうな建前になつております。こちらからとりに行く手配は、刑事訴訟法の逮捕状という手続がございますから、その逮捕状をもらつて向うにとりに行けば、そこから完全に日本の刑事訴訟法に乗つかつてしまう。結局この点については、こちら側としては何らの法的措置を要せずしてすでに手続ができておるわけであります。そこで一応今回の条約の国内的な手配といたしましては、日本側に身柄の要求があつた場合だけを考えればよろしい、かようなことになつたわけでございます。
 それではただいまから要点だけを拾い読みいたしまして、逐条の解説を試みたいと存じます。第一条は定義の規でございまして、一応重要な条文だけは読みたいと思います。第一条この法律において「締約国」とは、日本国との間に犯罪人の引渡に関する条約(以下「引渡条約」という。)を締結した外国をいう。
 2 この法律において「引渡犯罪」とは、引渡条約において締約国が日本国に対し犯罪人の引渡を請求することができるものとして掲げる犯罪をいう。
 3 この法律において「逃亡犯罪人」とは、引渡犯罪を犯し、その犯罪について締約国の刑事に関する手続が行われた者であつて、引渡条約により締約国が日本国に対し引渡を請求することができるものをいう。これは「締約国」「引渡犯罪」「逃亡犯罪人」この三つの概念を定義いたしたものであります。先ほども申しましたように締約国といたしましては、現在、日米、つまりアメリカだけでございます。形の上では日露、ロシヤとの間の日露逃亡犯罪人引渡条約、明治四十四年のものがございますが、これは国際情勢、政治情勢の変遷によりまして、現在においては、ほとんど無意味ということになつておりますので、とりあえず問題になるのは日米犯罪人引渡条約関係、かようになるわけであります。引渡し犯罪につきましては、十五ページの二行目でございます。その内容を条約に一任いたしました。と申しますのは、今までの国際間の諸条約を見ますると、引渡しの犯罪についての各国の考え方がかなりまちまちなものがございます。共通なものももちろんございますけれどもまちまちでございます。そこでこの内容を一つずつ法律をもつて規律するわけに行きませんので、条約に譲るというようなことにしたわけでございます。大体の傾向といたしましては、罪名別であげる主義と刑期であげる主義と二つございます。アメリカの関係は罪名別でございます。ロシアとの関係は刑期をもつて定められておつた。かようなことでございました。次にただいまのアメリカとの関係は、それでは罪名はどれくらいあるか、これはやはり資料に条約の全文が載つてございますが、十五項目現在あるように承知いたしております。それから逃亡犯罪人の定義に関しても、一応参考に書いてある通りでございまして、そのこまかい点につきましては、条約に譲つた面がかなりあるわけであります。
 第二条に移ります。第二条は引渡しをしない場合の、つまり制限的な規定でございます。
 第二条 の左の各号の一に該当する場合には、逃亡犯罪人を引き渡してはならない。但し、第六号又は第七号に該当する場合において、引渡条約に別段の定があるときは、この限りでない。
 一 逃亡犯罪人の犯した引渡犯罪が政治犯罪であるとき。
 二 引渡の請求が、逃亡犯罪人の犯した政治犯罪について審判し、又は刑罰を執行する目的でなされたものと認められるとき。
 三 逃亡犯罪人の犯した引渡犯罪に係る行為が日本国内において行われ、又はその引渡犯罪に係る裁判が日本国の裁判所において行われたとした場合において、日本国の法令により逃亡犯罪人に刑罰を科し、又はこれを執行することができないと認められるとき。
 四 逃亡犯罪人の犯した引渡犯罪について締約国の有罪の裁判がある場合を除き、逃亡犯罪人がその引渡犯罪に係る行為を行つたことを疑うに足りる相当な理由がないとき。
 五 逃亡犯罪人の犯した引渡犯罪に係る事件が日本国の裁判所に係属するとき、又はその事件について日本国の裁判所において確定判決を経たとき。
 六 逃亡犯罪人の犯した引渡犯罪以外の罪に係る事件が日本国の裁判所に係属するとき、又はその事件について逃亡犯罪人が日本国の裁判所において刑に処せられ、その執行を終らず、若しくは執行を受けないこととなつていないとき。
 七 逃亡犯罪人が日本国民であるとき。これは一号から五号までは引渡してはならない場合でございます。六号、七号は条約に別段の定めがある場合には引渡してもいい、かような場合でございます。一号はいわゆる政治犯罪について引渡ししないという国際間の一つの原則がございます。ただ政治犯とはいかなるものかという点についてはいろんな学説がございますが、要するにこれは引渡しの要求を受けた国の判断によつてこれを決する。日本でいえば日本国の方で引渡しすべからざる政治犯人であるというように認定すれば引渡してはならない、かようなことになるわけであります。それから第二号は、いかにも政治犯罪でない者を要求するような顔をしながら、実際には政治犯を処罰したいという腹が見える、そのような場合に断わる規定でございます。第三号は双方処罰の原則と申しておりますが、その行為がこちらでも裁判すれば、有罪の判決が下りる場合、刑の執行ができる場合、要するに日本でもやれるような場合でなければ困る。日本では何でもないやつを向うの法律に違反するというだけで引渡しをしてはいかぬ、かような趣旨でございます。第四号は実質的に、内容的に疑うに足りる相当な理由がないとき、たとえば向うからの資料ではどうもそれらしくないといつたような場合がこれでございます。第五号は事件が日本国の裁判所に係属し、あるいはすでに裁判所において確定判決を経ておる、つまり日本の裁判所においてこれは取上げているというような場合には向うに引渡しをやらぬ。六号はその事件でないほかの事件、向うからたとえば甲の罪について引渡しの要求があつた、しかし日本では乙の罪について裁判が進行しておるというような場合には、条約に特別に定めがあるときは、乙の事件の裁判が済んでから向うに引渡してもよろしい、かようなわけでございます。第七号は自国民は引渡せないというような原則の規定でございます。これも条約に別段の規定があればそれによるということでございます。
 第三条はいよいよ今度は具体的に向うから引渡しの請求が参りました後の手続きの進行状況を規定したものでございます。
 第三条 外務大臣は、締約国から逃亡犯罪人の引渡の請求があつた場合において、その方式が引渡条約に適合すると認めるときは、引渡請求書又は外務大臣の作成した引渡の請求があつたことを証明する書面に関係書類を添附し、これを法務大臣に送付しなければならない。
 外務大臣においてこれを法務大臣に必要な書類とともにまわしてよこすわけでございます。その際に引渡し方法その他が条約に違反しておるというような場合には、たとえば経由官庁が違うというような場合には、これは、外務省ではねることができるわけであります。その適合しておる場合においてはこれを法務大臣にまわしてよこす、かような趣旨であります。第四条は二十七ページにございますが、第四条法務大臣は、外務大臣から前条の規定による引渡の請求に関する書面の送付を受けたときは、左の各号の一に該当する場合を除き、東京高等検察庁検事長に対し関係書類を送付して、逃亡犯罪人を引き渡すことができるかどうかについて東京高等裁判所に審査の請求をなすべき旨を命じなければならない。
 一 明らかに逃亡犯罪人を引き渡すことができない場合に該当すると認めるとき。
 二 第二条第六号又は第七号に該当する場合には逃亡犯罪人を引き渡すかどうかについて日本国り裁量に任せる旨の引渡条約の定がある場合において、明らかに同条第六号又は第七号に該当し、且つ、逃亡犯罪人を引き渡すことが相当でないと認めるとき。これは法務大臣が書面の送付を受けまして内容を一応見るわけでございます。ところが先ほどの第二条の関係で引渡しをしてはならないということが明らかであるような場合には、それではねるわけでございます。なお六号、七号に該当する条約において別段の定めがあり、引渡してもいいというような場合については、これを東京高等検察庁の検事長を通じまして、東京高等裁判所に審査を請求させる、かような手続でございます。
 第五条 東京高等検察庁検事長は、前条の規定による法務大臣の命令を受けたときは、逃亡犯罪人が仮拘禁許可状により拘禁され、又は仮拘禁許可状による拘禁を停止されている場合を除き、東京高等検察庁の検察官をして、東京高等裁判所の裁判官のあらかじめ発する拘禁許可状により、逃亡犯罪人を拘禁させなければならない。但し、逃亡犯罪人が定まつた住居を有する場合であつて、東京高等検察庁検事長において逃亡犯罪人が逃亡するおそれがないと認めるときは、この限りでない。
 2 前項の拘禁許可状は、東京高等検察庁の検察官の請求により発する。
 3 拘禁許可状には、逃亡犯罪人の氏名、引渡犯罪名、引渡を請求した締約国の名称、有効期間及びその期間経過後は拘束に着手することができず拘禁許可状は返還しなければならない旨並びに発付の年月日を記載し、裁判官が記名押印しなければならない。この第一項は、あとで申し上げます第二十三条以下の仮拘禁許可状による手続の場合を除きまして、拘禁許可状というものをもらつて拘禁しなければならない、かような趣旨を規定したものでございます。但書は身柄がちやんとしておつて、逃げるおそれがないという場合の在宅の例外規定でございます。二項、三項はその拘禁許可状の請求の手続並びに記載内容の規定でございます。
 第六条がその拘禁許可状の拘束の手続、つまり執行の手続でございます。この点は技術的にこまかい点でございますから、省略いたします。
 それから第七条には、いよいよ拘禁許可状により、逃亡犯罪人を拘束いたしました場合に、それをどういうふうに監獄に連れて行つて入れておくかという順序が規定してございます。つまり東京高等検察庁の検察官が身柄を受取つた場合に、人違いでないかどうかを取調べて、人違いでないという場合にはこれを監獄に送致する、さような手続であります。
 第八条は審査の請求の手続でございます。ちよつと読みますと、これは重要な条文でございますが、第八条東京高等検察庁の検察官は、第四条の規定による法務大臣の命令があつたときは、逃亡犯罪人の現在地が判らない場合を除き、すみやかに、東京高等裁判所に対し、逃亡犯罪人を引き渡すことができる場合に該当するかどうかについて審査の請求をしなければならない。拘禁許可状により逃亡犯罪人を拘束し、又は拘禁許可状により拘束された逃亡犯罪人を受け取つたときは、拘束した時又は受け取つた時から二十四時間以内に審査の請求をしなければならない。事を迅速に処理するために、二十四時間以内に審査の請求の手続をしなければならない、かような規定を設けまして、その手続は二項、三項に規定してございます。東京高等裁判所の審査についての規定は九条にございます。
 第九条 東京高等裁判所は、前条の審査の請求を受けたときは、すみやかに、審査を開始し、決定をするものとする。逃亡犯罪人が拘禁許可状により拘禁されているときは、おそくとも、拘束を受けた日から二箇月以内に決定をするものとする。
 2 東京高等裁判所は、前項の決定をする前に、逃亡犯罪人に対し、意見を述べる機会を与えなければならない。但し、次条第一項第一号又は第二号の決定をする場合は、この限りでない。
 3 東京高等裁判所は、第一項の審査をするについて必要があるときは、証人を尋問し、又は鑑定、通訳若しくは翻訳を命ずることができる。この場合においては、その性質に反しない限り、刑事訴訟法第一編第十一章から第十三章まで及び刑事訴訟費用に関する法令の規定を準用する。これは審査の際の順序それから手続の準拠規定を規定したものでございます。これによりまして、高等裁判所におきましては決定をするわけでございます。
 決定には三種類ございまして、その一つは第十条の一項一号、審査の請求が不適法であるときは、これを却下する決定、その二は、逃亡犯罪人を引渡すことができない場合に該当するときは、できないという棄却の決定、その三は逃亡犯罪人を引渡すことができる場合に該当するときは、今度はできるという決定、さような三種類にわかれるわけでございます。この決定は、第二項によつて東京高等検察庁の検察官に通知をします。
 そうして第十一条におきまして、例外的な場合といたしまして、審査請求命令の取消しの手続が規定してございます。これは一旦外務大臣から一応適式なものとして法務大臣に書類の送付があつた後に、当該の締約国から引渡し請求撤回の申出があつたという場合の手続で、二項、三項にその撤回後の手続を規定してございます。
 第十二条は、逃亡犯罪人を釈放する場合の規定でございます。これは先ほどの第十条一項一号または二号の、つまり却下または棄却する場合の決定がありますと、当然これはそのまま放つて行くわけに行きませんので、拘禁許可状により、拘禁されている逃亡犯罪人はをこれ釈放しなければならない、かようになるわけでございます。
 それから十三条は大したことはございません。いよいよ十四条に引渡し関係の重要な条文が出て参ります。解説書で申しますと五十ページでございます。
 第十四条 法務大臣は、第十条第一項第三号の決定があつた場合において、逃亡犯罪人を引き渡すことができ、且つ、引き渡すことが相当であると認めるときは、東京高等検察庁検事長に対し逃亡犯罪人の引渡を命ずるとともに、逃亡犯罪人にその旨を通知し、逃亡犯罪人を引き渡すことができず、又は引き渡すことが相当でないと認めるときは、直ちに、東京高等検察庁検事長及び逃亡犯罪人にその旨を通知するとともに、東京高等検察庁検事長に対し拘禁許可状により拘禁されている逃亡犯罪人の釈放を命じなければならない。この第一項によりまして、第十条一項三号の、引渡すことができるというふうな決定をされました後に、法務大臣がその裁量によりまして、これを引渡すべきものとする場合にはその旨、引渡すべからずとする場合には釈放の命令を下す、かようなことになるわけでございます。
 2 東京高等検察庁の検察官は、前項の規定による釈放の命令があつたとき、又は第十条第三項の規定により同条第一項第三号の決定の裁判書の謄本の送達を受けた日から十日以内に前項の規定による引渡の命令がないときは、直ちに、拘禁許可状により拘禁されている逃亡犯罪人を釈放しなければならない。これはせつかくその決定がありましても、引渡しの命令が出ないという場合には、いつまでもぐずぐずする性質のものでございませんので、十日以内に引渡しの命令が出ない場合は、ただちに釈放しなければならない、かような趣旨でございます。
 3 法務大臣は、第一項の規定により逃亡犯罪人を引き渡すことができず、又は引き渡すことが相当でないと認める旨の通知をした後は、当該引渡請求につき逃亡犯罪人の引渡を命ずることができない。但し、第二条第六号の場合に関し引渡条約に別段の定がある場合において、同条同号に該当するため逃亡犯罪人を引き渡すことができず、又は引き渡すことが相当でないと認める旨の通知をした後同条同号に該当しないこととなつたときは、この限りでない。これはその手続の安定をはかる意味におきまして、一旦引渡さないというふうなことにいたした後には、あらためてこれを逆の措置はできない。ただ第二条の第六号の甲の罪で請求があつたところが乙の罪について日本で裁判進行中であるといつたような場合、この場合で必要があればこの限りでない、このような趣旨でございます。
 次は第十五条に引渡しの場所及び期限に関する規定がございます。これはちよつと条文を読みますと、第十五条前条第一項の引渡の命令による逃亡犯罪人の引渡の場所は、逃亡犯罪人が拘禁許可状により拘禁されている監獄とし、引渡の期限は、引渡命令の日の翌日から起算して三十日目の日とする。
  但し、逃亡犯罪人が引渡の命令の日に拘禁されていないときは、引渡の場所は、拘禁状により逃亡犯罪人を拘禁すべき監獄又は拘禁が停止されるまで逃亡犯罪人が拘禁されていた監獄とし、引渡の期限は、逃亡犯罪人が拘禁状により拘束され、又は拘禁の停止の取消により拘束された日の翌日から起算して三十日目の日とする。つまりすでに入つている者についてはその引渡し命令の翌日から起算して三十日目、一旦出ておる者等につきましては入つてから三十日目、かような趣旨でございます。場所はその者の入つている監獄あるいはこれから入る監獄、さようなことに相なるわけでございます。
 五十六ページに第十六条関係がございますが、これはいよいよ引渡しの命令をする具体的な措置でございます。
 第十六条第十四条第一項の規定による引渡の命令は、引渡状を発して行う。引渡状というものを出すわけでございます。これは第二項によりまして、東京高等検察庁の検事長に交付されることになります。これと同時に対外的な関係において第三項で3法務大臣は、引渡状を発すると同時に、外務大臣に受領許可状を送付しなければならない。
 身柄の受領許可をするわけであります。第四項には引渡状及び受領許可状の記載用件等が規定してございます。
 第十七条はいよいよ引渡すことになりますと、これを監獄の方にも指揮しなければならない。その間の手続が十七条の一項に規定されてございます。すでに入つておる者あるいは拘禁停止された者については、入る監獄のその長に対しまして、こういう身柄を引渡せということを具体的に指揮をいたします。この際まだ身柄がとつてないという場合があるわけでございますが、その場合にはどういう手続によるかということが問題になります。第二項において2前項に規定する場合を除き、東京高等検察庁検事長は、法務大臣から引渡状の交付を受けたときは、東京高等検察庁の検察官をして拘禁状により逃亡犯罪人を拘禁させなければならない。かような新しい手続をとつたわけでございます。この拘禁状というものは第三項によりまして「東京高等検察庁の検察官が発する。」ここにおいて検察官から発する拘禁状というものが出て参るわけでございます。これは建前といたして従来の裁判官から出す令状というものと違うのじやないかという御疑問が出るかと思うのでありますが、これはすでに事件そのものについて東京高等裁判所の判断がありまして、これは引渡すべきものということに特定された事件でありますので、すでにさような判断が下された以上はその手続については検察庁にやらせてよろしい、かような考え方であります。それから四項、五項はいずれもこまかい手続規定であります。
 第十八条もこまかい規定でございます。
 第十九条は、対外的な関係を規律したものでございまして、先ほどの十六参項の規定によりまして、受領許可状を外務大臣が受取りましたら、ただちにとれを締約国の方に送付してやる。それで締約国はその通知を受けて、第二十条によりまして受取りに参る、かようなことになるわでございます。これはすべて簡単な条文でございます。
 第二十一条は、逃亡犯罪人の身柄を受取つてから締約国の方に持つて行くその手続につきまして、その身柄が日本国内で拘禁されたまま連れて行かれるという条文が一つ生ずるわけであります。そこでこれに対してこの法律で護送というものの権限を与えた。かような根拠規定でございます。これはアメリカの法律の中にも、ちようどこれと逆の場合が規定されてございます。
 第二十二条は、拘禁の停止に関する規定でございます。これは一旦拘禁を開始いたしましても、いろいろな事情でもう停止した方がよいという場合が出て参るだろうということを考えましてこの例外的な規定を置いたわけであります。条文が長いのですけれども、ちよつと読んでみます。
 第二十二条 東京高等検察庁の検察
  官は、必要と認めるときは、拘禁
  許可状により拘禁されている逃亡
  犯罪人を親族その他の者に委託
  し、又は逃亡犯罪人の住居を制限
  して、拘禁の停止をすることがで
  きる。
 2 東京高等検察庁の検察官は、必
  要と認めるときは、いつでも、拘
  禁の停止を取り消すことができ
  る。第十七条第一項の規定により
  法務大臣から東京高等検察庁検事
  長に対して引渡状の交付があつた
  ときは、拘禁の停止を取り消さな
  ければならない。これはすでに引渡状の交付があつてすでに確定的になつて参りましたので拘禁停止を取消す、かような趣旨でございます。三項は拘禁取消しの場合の拘束の執行手続、四項はその場合の監獄に引致の手続、五項は緊急に執行する場合の手続、これは御承知の刑事訴訟法七十三条三項でございましたか、勾引状等について類似の規定がございます。六項はその後の報告の規定でございます。七項は停止されている拘禁が当然効力を失う場合の規定でございます。
 次に第二十三条以下第三十条までは、仮拘禁に関する手続でございます。仮拘禁と申しますのは、条約の第六条に仮逮捕という表現で書いてございますが、その規定であります。どういう場合かと申しますと、
 外務大臣は、引渡条約に基き、締
 約国から逃亡犯罪人が犯した引渡犯
 罪についてその者を逮捕すべき旨の
 令状が発せられたことの通知があ
 り、且つ、当該締約国の外交官が締
 約国において引渡条約に従つて逃亡
 犯罪人の引渡の請求をすべき旨を保
 証したときこれでございます。つまりもうすでに向うの方で令状が出ている事件として固まつた事件である。必ず逃亡犯罪人の引渡しの請求を正式にやるから、その間かりにつかまえておいてくれ、かような趣旨でございます。その場合の手続が二十四条以下にあるわけでございます。法務大臣が、外務大臣からの書面の送付を受けまして、仮拘禁の手続を東京高等検察庁検事長に命じますと、第二十五条によりまして、東京高等裁判所の裁判官があらかじめ発する仮拘禁許可状というものによつてこの拘禁が行われるわけであります。
 それから第二十六条は、ちよつと読んでみますと、これは釈放を命ずる場合の規定でございますが
  法務大臣は、仮拘禁許可状により
 拘禁されている逃亡犯罪人につい
 て、外務大臣から第三条の規定によ
 る引渡の請求に関する書面の送付を
 受けた場合において、第四条各号の
 一に該当するために同条の規定によ
 る命令をしないときは、東京高等検
 察庁検事長及び逃亡犯罪人にその旨
 を通知するとともに、東京高等検察
 庁検事長に対し、仮拘禁許可状によ
 り拘禁されている逃亡犯罪人の釈放
 を命じなければならない。先ほど第四条のくだりで申し上げました通り、法務大臣がこれは引渡すべきではないというふうな場合があるわけでございます。さような場合においては釈放を命ずるというような手続きをとるわけでございます。
 それから二十七条は、今度は通に仮拘禁許可状が発せられておる逃亡犯罪人について、正式の手続がされて来る場合でございます。
  東京高等検察庁検事長は、仮拘禁
 許可状が発せられている逃亡犯罪人
 について第四条の規定による法務大
 臣の命令を受けたときは、直ちに、
 東京高等検察庁の検察官をして、逃
 亡犯罪人に対し引渡の請求があつた
 旨を通知させなければならない。これで知らせまして、
  前項の告知は、逃亡犯罪人が仮拘
 禁許可状により拘禁されている場合
 には、その監獄の長に通知して行
 い、拘禁されていない場合には、逃亡犯罪人に書面を送付して行う。さような順序になつて来るわけであります。そこで第三項におきまして、仮拘禁が拘禁に移りかわる段階を明らかにしたわけでございます。第三項を読んでみますと、
 3 仮拘禁許可状により拘禁されて
  いる逃亡犯罪人に対し第一項の規
  定による告知があつたときは、そ
  の拘禁は、拘禁許可状による拘禁
  とみなし、第八条第一項の規定の
  適用については、その告知があつ
  た時に東京高等検察庁の検察官が
  拘禁許可状により逃亡犯罪人を拘
  禁したものとみなす。ここで初めて性質が仮拘禁から本拘禁にかわつてくるわけでございます。
 第二十八条は、今度はそれに基いて引渡しの請求があつた場合の手続であります。そしてこれを請求しない場合には釈放するというような手続が二十八条の二項、三項に規定してございます。
 二十九条、三十条は、この仮拘禁許可状に関連して諸般の準用規定がございますが、そういうような手続あるいは準用規定について規定してあります。
 第三十一条は「この法律に定めるものの外、東京高等裁判所の審査に関する手続及び拘禁許可状又は仮拘禁許可状の発付に関する手続について必要な事項は、最高裁判所が定める。」という根拠規定を置いたわけであります。
 第三十二条は、先ほども申した通り、東京高等裁判所が全国管轄を持つことになるので、その根拠規定を入れておいたのでございます。
 第三十三条は、今後他の国と引渡条約が締結される場合において、この法律はどういうふうに働いて来るかという点に関しまして問題が生ずると思いますので、今後新しい条約ができた場合に、その効力発効前に犯された犯罪についても、この請求手続がこのまま乗つて来る、かようなことを明らかにしたものでございます。
 附則は第一項が七月二十二日から施行する、これは先ほど申しました通り、ちようど七月二十二日から条約が停止された効力を復活して参りますので、法律的にはやはり国内法律もそれから新しいものに乗り移るのが正当である、かような考え方でございます。二項はもとの条例の廃止、三項は手続規定でございますから、犯罪としては前のものでも法文に乗つて来るということ、第四項は拘禁の根拠を改正いたしましてはつきりさせる、第五項は注目すべき改正でございますが、
 刑事補償法の一部を次のように改正
 する。
  第二十五条の次に次の一条を加え
 る。
  第二十六条犯罪の引渡に関する条
 約により、日本国が締約国に対し逃
 亡犯罪人の引渡を請求した場合にお
 いて、締約国が当該逃亡犯罪人の引
 渡のためにした抑留又は拘禁は、刑
 事訴訟法による抑留又は拘禁とみな
 す。これは日本から締約国に対しましてすでに逃亡犯罪人の引渡しを請求して向うで身柄が拘禁されておる。そしてそれがこちらへ引渡しを受けて、こちらの裁判所で審理したところが無罪不起訴になつた、かようなときに向う側で拘禁された日数をこちらの刑事補償法の関係では拘禁の日数に加算する、かような趣旨でございます。今回の改正に際しましてさような場合の手当を本人の有利のために加えた、かような趣旨でございます。
 以上が、たいへん急いで恐縮でございますが、逃亡犯罪人引渡法案の概要でございます。なお詳細の点につきましては一応解説書にも書いてございますが、御質問に応じまして順次お答えいたしたいと思います。
#4
○小林委員長 これにて説明は終了いたしました。
 これより本案に関する質疑に入ります。質疑の通告がありますから、順次これを許します。猪俣浩三君。
#5
○猪俣委員 大体日本国民に大した関係がある法律でもございませんので、詳しく質問する必要もないかと存じますが、二、三お尋ねいたします。
 日米逃亡犯罪人引渡条例が実施されましてから、今日までこの条例に従いまして引渡しいたしました者は一体何人くらいあるのでありますか。
#6
○岡原政府委員 お手元に差上げました逃亡犯罪人引渡法案参考資料(一)というものがございますが、それの二十三ページ以下にございます。念のために簡単に申し上げますと、日本国から犯罪人の引渡しを要求した国及び件数が、アメリカ二件、英国一件、ドイツ一件、中華民国二件、それから逆に日本国に対して犯罪人の引渡しを要求した国及び件数は、アメリカ二十二件、ロシヤが十六件、英国十二件、あとはこまかい数になりますが、フランス、ポルトガル、スペイン、ポーランド、スイス、ゾールウエー、ドイツ、オーストリーハンガリー、オランダ、イタリア、デンマーク、メキシコ、中華民国、朝鮮、これは古いことでございますからそういうふうな数が出ております。計八十三件、その結果日本国から犯罪人の引渡しを要求して引渡しを受けた件数が、米国二件二名、中華民国一件一名、諸外国から犯罪人の引渡しを受けなかつた件数が英国一件、ドイツ一件、中華民国一件、逆に諸外国から犯罪人の引渡しの要求があつた事件について、引渡しをした件数はアメリカ十件、ロシヤ三件、英国二件、ポルトガル一件、スペイン一件、中華民国、ドイツ各一件、朝鮮二件、計二十五件で、あとは五十五件というものは断つております。大体さような状態であります。
#7
○猪俣委員 今お示しになりました参考資料の(一)を見ますと、たくさんの国が関係国となつてありますが、これは前にみなこういう国と引渡条約が締結されておつたのでございましようか。
#8
○岡原政府委員 ただいま申し述べましたような諸国との間には、アメリカとロシヤを除いては条約はなかつたのでございます。ただその間国際法に認められました一つの行き方、あるいは国際礼譲と申していいかと思いますが、それによりまして各国間にそれぞれ引渡し礼譲に従つてやる場合がある、さような場合がその他の場合に当るわけでございます。
#9
○猪俣委員 ソ連との関係ですが、先ほどの御説明によると、国際情勢がかわつたので、日露逃亡犯罪人引渡条約というのがあるのだけれども、これは効力がなくなつたのだという御説明ですが、この国と国との条約の効力がなくなつたということの説明がちよつとはつきりいたしません。どういう理由でこれが効力がなくなるのでありますか。その御説明を願います。
#10
○岡原政府委員 これは二つの点があるわけでありますが、一つはロシヤの内部事情が、政体の変革によりましてかなり根本的にかわりまして、その間さような条約についてこれを引継ぐということについての明確な国際的に認められたような形跡がないというのが一つ。それからもう一つは、日本とロシヤとの関係は、現在国交回復ということになつておりませんので、従つてその関係でもこの条約は動き出さない、かような趣旨でございます。
#11
○猪俣委員 現在国交が回復していないということはあるいは理由になるかもしれませんが、ロシヤ帝国がソ連邦にかわつたということ、それは理由にならぬと思うのです。日本はその後ソ連邦とも外交関係を締結したのですから、こういう条約を破棄しようという両者の合意があるならば、破棄されたことになるかも存じませんが、ただ国家組織が、政権の所在がかわつたというだけで国際条約が自然消滅するというようなことはどうもぼくは考えられないのですが、これはなお御研究願うことにいたします。と申しますのは、たとえば中華民国、露国というものは、この資料を見ましても、こういう条約の及ぼす影響と申しますか、アメリカに次いで件数が多いのであります。それでこういう条約の相手国といたしましてアメリカに次いで影響のあるのは、ソ連あるいは中華民国じやないかと思うのですが、これがアメリカだけの条約だということになりますと、これはどういうものであろうかと考えられます。しかしこれは法務省の管轄外になるかも存じません、外務省の管轄になるかも存じませんが、なお御研究願いたいと存ずるのであります。
 それから先ほどの犯罪人の引渡しに関する制限、第二条ですが、この政治犯罪は説明でもよく説明されておりますので、これは問題のあるところだろうと思うのであります。ことに日本のように、ソ連あるいはアメリカというような資本主義国と共産主義国の中間にはさまつておる国におきましては、この政治犯人の定義がなかなかむずかしいのぢやないかと思はれる。それを今ここで論議してもしかたがないと思うのですが、ただ一点お聞きしたいことは、今御説明にありましたいわゆる双方処罰の規定ですが、日本には軍機保護法その他軍機を保護する法律がない。鹿地事件におきまして、まるでスパイ犯罪を処罰するがごとき宣伝が行われたのでありますが、軍機保護法というのはない。刑法の間諜罪も削除されておる。そうしますとアメリカの軍機の秘密を犯したということで日本に逃亡して来たとしても、政府としてはこれは引渡す義務がないのか、あるのか、それをお尋ねいたします。
#12
○岡原政府委員 軍機保護法違反といつたような事件は現在日本に処罰規定がありませんし、それから従来の解釈から申しましても、軍機保護に関する犯罪というものは政治犯とも見られているので、いずれにいたしましても引渡すべからざるものになるわけでございます。
#13
○猪俣委員 そうすると先般電気いすにかけられたローゼンバーグ、ああいう人が日本に逃亡して来た場合には引渡さないでもいいということになりましようか、
#14
○岡原政府委員 ローゼンバークの事件につきましては、私も詳しいことは知りませんが、伝えるところによりますと、単純なスパイ事件のようでございます。従つて結論としてはさようになると思います。
#15
○猪俣委員 なおお尋ねいたします。今アメリカではマッカーシー旋風というものがあつて、自由主義国ではなくなつておると私は考えている。日本の東条内閣時代より以上ではないかと考えられますが、そこでああいう思想犯罪人が日本へ逃亡して来て、つまり赤の思想1このごろのアメリカの法律はよく知りませんが、何か日本における治安維持法のようなもの、マッカラン法とかなんとかいうようなものがありまして、ああいうものの違反として日本へ逃亡して来た者があるならば、これは一体政治犯になるのでしようか、一般の普通の犯罪になりましようか。
#16
○岡原政府委員 いわゆるマッカーシー旋風に関連してだれか逃げて来たという場合を仮想いたしまして、その犯罪をどういう形でやつたかということについて若干関係はあると思いますが、おおむね政治犯と認定する場合が多いかと存じます。
#17
○猪俣委員 それからなおこういうものの経費はどういうことになるのでしようか。引渡しに要する、たとえば留置したり、連れて行つたり、いろいろの金がかかると思うのですがこういうことはどうなるのでございましようか。
#18
○岡原政府委員 この点につきまして条約に根拠がございまして、それぞれの費用は引渡しを請求した政府においてこれを支弁するということが第八条にございます。ちよつと読んでみますと、「被告人ノ逮捕監禁訊問及ヒ送致ノ費用ハ其引渡ヲ請求シタル政府二於テ之ヲ支弁スヘシ」かようなことになります。
#19
○猪俣委員 それは平和条約ですか。
#20
○岡原政府委員 引渡条約です。なおこの原則は各国間に認められたほぼ国際法上の原則になつております。
#21
○猪俣委員 最後にお尋ねいたしたいことは、本法と多少の関係があると思いますが、犯罪者が日本ヘ入つて来た、つまり入国して来た。これに関連いたしまして私は入国監理局に対しまして幾多質問しなければならぬ事案があるのであります。これは本日お呼出しをいただいておりませんので、次会に私はお呼出しを願いたいと思います。こういう犯罪人その他が日本に入つて来る。この前私が質問いたしましたマンダリン・クラブの人たち、これはいずれも札つきの博徒でありまして、日本から追い払われたが三べんも日本へ入つて来た。ルーインなどというものは有名な人物であります。四回も日本に入つて来た。実にふかしぎ千万であります。これは一体どういうことで入つて来るか、実情を調べないと日本の治案保てないと思うのであります。これは法務省の管轄だと思いますが、その直接の係官である入国監理局の方がおいでになりませんので、私はこの質問は次会まで留保いたします。次会には委員長から入国監理局の人をお呼び出し願つて入国の径路について詳しくお尋ねいたしたいと思います
#22
○鍛冶委員 関連して承りたいのは、日本で引渡すべからざるものだ、向うの方では引渡すべきものだという論争が起ることは多々あると思いますが、そういうことはあつたかなかつたか。あつたとすればどのくらいの数字でどういうものか伺いたい。
#23
○岡原政府委員 その点私どもも大分古い記録を探してみたのでございますが、それがもとで紛争が非常にはげしくなつたという事案は記録に残つておりません。
#24
○鍛冶委員 これは重大だと思いますからできるだけ調べてください。そこで紛争はどうしても尽きないとすれば、その解決はどういう方法でやりますか。
#25
○岡原政府委員 さような問題につきまして、両国間の、つまり一つの条約適用についての争いになるわけでありますが、争いがはげしくなりますと、外交交渉が何回も進められるわけであります。そこでどうしても片がつかぬという場合は、最後は国際司法裁判所でこれを取上げる、かようなことになろうかと思います。
#26
○小林委員長 ちよつと私から御質問いたします。そうするとこの法案のできる根拠はやはり明治十九年の条約がもとになるのですが、これは大分古い条約ですが改正する必要はないのですか。
#27
○岡原政府委員 お尋ねの点まことにごもつともでございます。私どもも今回この条約を見まして、ずいぶん古くさい条約だなという感じを抱きながら立案したような次第でございまして、たとえば罪名だとかあるいは実際に適用すべき範囲とかいうものについては整理をいたすべき余地があると存じますので、この点は外務当局とも連絡の上善処いたしたいと考えます。
#28
○小林委員長 この法案が通つた場合には、日本人が外国に引渡される場合があり写るでしようか。
#29
○岡原政府委員 日本人がアメリカ側に引渡されるというのは日米引渡条約の第七条に「締約国ハ本条約ノ条款ニ因リ互ニ其臣民ヲ引渡スノ義務ナキモノトス但其引渡ヲ至当ト認ムルトキハ之ヲ引渡スコトヲ得ヘシ」というので、義務はないけれども、どうも事情として向うに引渡すのが当然だという事案の場合には特別な考慮が払われる、そのようなこともあり得るということであります。
#30
○小林委員長 もう一つお伺いしたいのですが、在日米軍人が日本で罪を犯してアメリカへ帰つてしまい、アメリカで民間人になつて、向うで犯罪によつて判決を受け、まだ執行にならぬうちにまた日本え入国して来た、そういう場合に、前の犯罪に対して日本で裁判できますか。それからまた向うから刑の執行のために引渡しの請求があつたときはどういうふうになりますか。
#31
○岡原政府委員 この点につきましては若干問題のあるところでございます。と申しますのは、引渡条約の前文のところに、「両国内並ニ其管轄内ニ於テ司法事務ヲ益周到ナラシメ及ヒ犯罪ヲ防止センカ為メ」云々、それから第一条に「締約国一方ノ管轄内ニ於テ第二条ニ掲クル犯罪ニ付有罪ノ宣告若クハ告訴告発ヲ受ケタル者他ノ一方ノ管轄内二於テ発見セラレタルトキハ」とありますが、その「管轄」という文字につきまして若干疑問がございます。これを領土的な、つまり国内というふうに狭く読むか、あるいは司法裁判権の行われる管轄、司法管轄全体に及ぶかという問題でございますが、泉二さんなどはこの点につきまして、その国の領土内に限るという学説を立てておられるようであります。従いましてただいまのような場合には当らないということになります。
#32
○小林委員長 それでは質疑は一応この程度にいたしまして、午後二時からまた引続いて開きます。
 休憩いたします。
    午後零時三十八分休憩
     ――――◇―――――
    〔休憩後は開会に至らなかつた〕
ソース: 国立国会図書館
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