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1953/09/25 第16回国会 衆議院 衆議院会議録情報 第016回国会 法務委員会 第34号
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1953/09/25 第16回国会 衆議院

衆議院会議録情報 第016回国会 法務委員会 第34号

#1
第016回国会 法務委員会 第34号
昭和二十八年九月二十五日(金曜日)
    午後零時四分開議
 出席委員
   委員長 小林かなえ君
   理事 鍛冶 良作君 理事 佐瀬 昌三君
   理事 古屋 貞雄君 理事 井伊 誠一君
   理事 花村 四郎君
      荒舩清十郎君    大橋 武夫君
      押谷 富三君    林  信雄君
      牧野 寛索君    山崎 岩男君
      渡邊 良夫君    池田正之輔君
 出席国務大臣
        法 務 大 臣 犬養  健君
 委員外の出席者
        法務政務次官  三浦寅之助君
        検     事
        (刑事局長)  岡原 昌男君
        検     事
        (矯正局長)  中尾 文策君
        外務事務官
        (参事官)   三宅喜一郎君
        判     事
        (最高裁判所事
        務総局事務次
        長)      石田 和外君
        判     事
        (最高裁判所事
        務総局人事局
        長)      鈴木忠 一君
    ―――――――――――――
八月十日
 委員高橋英吉君、高橋禎一君、古屋貞雄君及び
 飛鳥田一雄君辞任につき、その補欠として林讓
 治君、三木武夫君、伊藤好道君及び鈴木茂三郎
 君が議長の指名で委員に選任された。
同日
 委員伊藤好道君辞任につき、その補欠として古
 屋貞雄君が議長の指名で委員に選任された。
九月二十五日
 委員木村文男君、田嶋好文君、林讓治君、星島
 二郎君及び木村武雄君辞任につき、山崎岩男君、
 渡邊良夫君、大橋武夫君、荒舩清十郎君及び池
 田正之輔君が議長の指名で委員に選任された。
同日
 古屋貞雄君が理事に補欠当選した。
    ―――――――――――――
八月十日
 接収不動産に関する借地借家臨時処理法案(吉
 田安君外五名提出、衆法第八二号)
 裁判所の司法行政に関する件
 法務及び検察行政に関する件
 国内治安及び人権擁護に関する件
 法廷秩序維持に関する件
 交通輸送犯罪に関する件
 駐留軍及び国連軍の裁判管轄権に関する件
 戦犯服役者に関する件
の閉会中審査を本委員会に付託された。
    ―――――――――――――
本日の会議に付した事件
 理事互選
 裁判所の司法行政に関する件
 行政協定に伴う刑事裁判管轄権に関する件
 法務行政に関する件
    ―――――――――――――
#2
○小林委員長 これより会議を開きます。
 東京拘置所の汚職事件について調査を進めます。発言の通告がありますから、これを許します。古屋貞雄君。
#3
○古屋(貞)委員 過ぐる八月の六日に岡田委員から拘置所の汚職事件についての御質問が相当ございまして、当時これは徹底的に捜査して禍根を取除くようにするという御答弁がございましたが、その後の状況並びにどんなぐあいに発展いたしておりまするか、御報告を願いたいと思います。
#4
○中尾説明員 その後既定方針に基きまして徹底的にこの事実を明らかにして禍根を断つというような方針をとつておりまして、引続き検察庁の方面におきまして捜査中でございますが、相当広範囲にわたりまして捜査が進められた模様でありまして、大体もう終りに近づいたようなふうに聞いております。しかし最終段階に来たようではありまするが、まだ捜査は継続中でありますので、その段階に関する限り、全部詳細に御報告申し上げるというような段階には至つておりませんが、今日までのところを申し上げますると、先般の委員会のときに御報告申し上げましたが、看守四名の被疑事件につきましては、この四名は全部起訴されております。八月の終りごろになりまして起訴になつております。
 その後、最近、たしか九月十七日だつたと思いますが、やはり元拘置所の看守で、昨年の四月ごろにタバコの反則事件がありましてやめさせました看守、これが起訴になりました。現在のところでは、起訴になつております者は五名であります。やがてこの結論も近く出るごとと思いますので、その場合にはなお詳細御報告申し上げることができると思います。なお拘置所当局といたしましては、ただいまのところは検察庁の方で捜査をいたしておりまするので、その方にまかせておりまするが、事件が最終的に打切りになりました上は、その方から報告を聞きまして、そうして職員につきましてはそれぞれ処置をいたしたいと思つております。なお最近のある新聞紙上に、この拘置所のことにつきまして、汚職事件といたしまして記事が出ております。私の方も責任上それにつきまして調査をいたしました。つけ加えてそのことにつきまして御報告を申し上げたいと思います。これは九月十八日の毎日新聞の朝刊でありますが、これに「小管刑務所の乱脈」という見出しで記事が出ております。このことにつきまして私の方で調査いたしましたことを御報告申し上げたいと思います。これによりますと、囚人につきましては全国的に三百数十名に上る者が調べられておるということになつておりまするが、私たちの方で検察当局から聞いたところによりますと、まあ大体百名程度らしゆうございますが、しかしそれにいたしましても、相当広い範囲にわたつて調べられておることは事実であります。新聞紙上では職員は現職者五十数名と書いてありまするが、これは十六名の現職者が調べられております。その調べられましたものの内容につきましては、まだ私たちの方ではその内容をはつきり聞くことができませんが、いずれこれがはつきりいたしましたならば、適当な処置をとるつもりであります。但しこのものは、ただいまのところではまだ起訴になつておるものはございません。
 それから麻薬のことが出ております。ヒロポン、ヘロインが入手されて、そうして中の収容者が常用しておるということが出ております。これは検察庁の方へ聞いてみますと、これにつきまして話の出ておるのが二件あるそうでありまするが、しかしその関係職員が否認をいたしておりますために、ただいまのところではまだこの点ははつきりいたしません。
 なお台湾人の蔡三鵬というのが麻薬中毒のために死亡したというように書いてございます。これは収容者でありまするが、この死因について調べてみたのでありまするが、これは麻薬中毒のためではなく、蜘蛛膜下出血という病気で死んでおるそうでありまして、本人は昨年の十二月三日に入つておりまするが、当時の健康状態は普通でありまして、別に中毒の症状はなかつたわけでありまして、入りましてしばらくたつてから痔の切除手術を行いまして、その後予後が悪くなりまして、そして二月二十二日に死亡しておるというわけでありまして、中毒ということが死因というのではないようであります。
 それから米の六十七俵分の横流しということがございますがこの方はもう絶対ないということが断言できると思います。この点につきましては現に私の方で巡閲官が参りまして、そして徹底的に巡閲をいたしております。その巡閲をいたしましたときに、いろいろそういう聞き込み、投書などがございましたので、この点は徹底的に調査いたしまして、そして決してこういう事実がない、私たちの調べました当時は、この六十七俵というよりもつと数量が多かつたのでありますが、いずれにいたしましても、こういう横流しの事実というものはないということに、私どもでは結論がなつております。
 なお砂糖、野菜、この横流しもこれは事実ございません。
 それから豚の密殺ということが出ておりますが、これは実は今年の六月に豚が出産をしたそうでありますが、その出産のために何かの故障で死んだ豚がございました。その豚をそこに埋めたのだそうでございますが、これはもつたいないからというので、それで収容者がそれを一部分を切り取つて食べたという事実がございますが、しかしそのことについて、ここに書いてございますような密殺処分にした、それからまたそのための口どめ料として囚人に与えたというようなことはないようであります。
 それから長石仙太郎という収容者に看守が暴行したということがございますが、これは暴行の事実はございません。ただいろいろ手違いから口論がございまして、そしてそのために激論になつた、そして肩をつついたということをいつておりますが、その程度でありまして、重解禁にしたとか、食事の分量を減らしたとかいうようなことはないのでございます。なお現にこの長石というのは、その後九月になりましてから仮釈放になつております。以上のような状態であります。なお捜査がすつかり終了いたしましたら、詳細に御報告申し上げることができると思います。
#5
○古屋(貞)委員 ただいま御報告がございました、起訴されました五名の起訴事実はどういうようなものでしようか。それからその原因はどこにあるかというような点を……。
#6
○中尾説明員 先般八月六日の委員会で被疑事実として御報告申し上げましたことと大同小異でありますが、これを全部申し上げてみたいと思います。
 鈴木敏夫、これは元看守であります。これは昭和二十七年三月から二十八年三月下旬までの間に、二十八回にわたりまして、在監者金廷福、これは被告人でありますが――のほか二人から頼まれまして、タバコを差入れてもらいたいという旨したためた親書をその内妻露木静江外二人のところに持つて参りまして、その報酬として現金一万五千円を受取つております。
 それから昭和二十八年四月中旬、やはり在監者の被告人でありますが、菊田健之助というのから千代田本社の取締役社長高松栄次郎あての親書の持参方を頼まれまして、同所に持参いたしまして、その報酬として現金三千円を受取つております。
 それから中田順久と申しますが、元看守でありますが、昭和二十八年五月初旬に在監者吉野功という者から依頼を受けまして、やはり前回趣旨の親書を内妻藤沢つかのところに持つて参りまして、報酬として現金一万一千円を受取つております。
 それから市川洋、やはり元看守でありますが、昭和二十八年一月下旬、在監者から依頼を受けまして前と同様な趣旨の親書を水野二郎というところに持つて参りまして、水野からその報酬として現金一万円を受けております。
 それから昭和二十八年二月初旬から三月初旬までの間に九回にわたつて在監者山本俊一または井上辰美の両名からタバコの差入れ方を依頼されまして、その都度その報酬として郵便小為替九通、合計一万三千二百円を受取つております。
 四番目は濃野耕治と申しますが、これは昭和二十八年三月中旬及び四月中旬の二回に在監者吉野功から依頼を受けまして、前回趣旨の親書を内妻藤沢つか方に持参いたしまして、その報酬として藤沢から現金一万円を受取つております。
 また昭和二十八年四月中旬ころに二回にわたつて右の吉野からタバコの差入れ方を依頼されまして、その報酬として現金千円及び金の指輪一個を受取つております。
 それから幸尾正道、これは昨年やめさせられ、つい最近起訴された看守でありますが、昭和二十六年十二月下旬から昭和二十七年二月ころまでの間に三回にわたりまして在監者小林進から依頼を受けて、在監者藤川四郎ほか五名のしたためました親書を神戸いくほか二名のところに持つて参りまして、神戸などから報酬として現金一万一千円を収受しております。
 また昭和二十七年一月、右の藤川に対しまして小林を介して金銭借用方を申し込んで拒絶せられたのでありますが、それにもかかわらず藤川の内妻神戸いくに対しまして、藤川から金二万円の借用について承諾を得たというような虚構の事実を申し述べまして、貸借名義のもとに現金五千円を騙取しております。
 これが現在私たちのわかつている犯罪事実でありますが、こういうことがどうして行われたかということにつきましては、結局私たちの方の当事者の監督不行届きという点に帰するわけでありまして、たいへんその点申訳ないわけでありますが、これらの看守が十分に教養を受けておらなかつた、あるいは意思が弱かつたというようなこと、あるいはまた生活に非常に困難を感じたというようなことからいたしまして、つい誘惑に勝てなかつたということが原因であろうと思います。そういう原因に対しまして、あとになつてこういうことがわかつて――ただ原因がわかつただけでは何にもなりませんので、私たちといたしましては、できるだけその原因を断つということに努力をしなければならないわけでありまして、そういう点につきましてはいろいろ拘置所当局の方でも力を入れておるのでありまして、もう少し私生活についてこつちでよく関心を持ちまして、困つておる者についてはできるだけお互いに助け合うようなことを考え、あるいはまたいろいろな困つておることがありましたならば相談に乗つてやるようにするということはもちろん考えなければならないことでありますが、また同時に一面勤務上の訓練、研修ということにつきましても相当力を入れなければなりませんので、現にそういう点につきまして拘置所当局では相当力を入れることにいたしまして、いろいろの日課を組んで研究会あるいは研修というようなこともやつているようであります。いずれにいたしましても、私たちの方の全職員の志気を振興するとか、綱紀を厳粛にするということが非常に大事なことでありまして、一層この点につきましては努力いたしたいと考えております。
#7
○古屋(貞)委員 ただいまの御報告で大体事件の全貌はわかりました。原因もわかつたのですが、これを承りますと、いずれもこれは在監者と看守の関係なんですが、外から物が入つたという事実、たとえばヒロポン、ヘロインなどが外から刑務所の中に入れられたことがあるかどうか。ただいまの御報百では死因は違う、こういう御報告でございますが、さようなものが入つたよりな事実があつたかどうか、その他マツチその他の禁じられている品物が在監者の手に入るような事実があつたかどうか、この点はいかがでしよう。
#8
○中尾説明員 残念ながらそういう事実はあつたようであります。ただ麻薬の点につきましては、先ほど申し上げましたように、そういうものを入手したという――片方はいい、片方ではそういうものを否認いたしておりますので、その点につきまして、今のところはつきりと断言はできませんが、ただマツチが入るとか、タバコが入るとかいうようなことは、今のような径路、方法によりまして、職員が外から本人に持つて来て渡すということが実際行われておりましたわけで、遺憾ながらそういう事実はあつたわけであります。
#9
○古屋(貞)委員 なお受刑者に対しましては食糧の配給がある場合に減つておるというようなことが新聞にも書いてありますが、かような点の御調査が出ておるかどうか。なお米の横流しが行われたというようなことは、何かさようなことが新聞に出るような、疑われるべき筋合いの事件があつたのかどうか、そういう点はいかがでございましようか。
#10
○中尾説明員 食糧の点につきましては、ただに東京拘置所だけではなくて、全国的なこういう刑務所に入つておる受刑者に対しまして給与されます食糧の質それから量というものにつきましては、たいへん私たちの方では厳重に監督いたしておりまして、いろいろ手続、支給の方法というようなことにつきまして、相当詳細にきめられておりましてまたいろいろ係が関係いたしておりますので、単に一人や二人の職員がそういう分量をごまかすというようなことは、これは絶対と申してもいいほどできないような仕組みになつております。なお私たちの方でいろいろ向うでは現品を調べたりあるいは食糧を支給いたしました書類というようなものも調べましたりし、それから毎日の出し入れの様子も調査いたしまして、そういうかつてに減らしたという事実はないということを確かめております。
 なおこういうことを疑わせる事実があつたかというお尋ねでございますが、そのことにつきましては多分こういうことが疑いを招いておるのではないかということの報告を受けております。それはあすこの職員は職員会というものをつくつておりまして、そうして昼飯なんかはその職員会で飯をたきまして、そうしてお互いに加配米とか持ち寄つた主食なんかで食事をつくりまして、昼飯あるいは夜勤者に対しまして弁当を出しております。そのためにやはりあすこの倉庫の一部分を借りまして職員会の持つております主食を保管しておるのでありますが――そこは正確ではありませんが、取引の魚屋か野菜屋か何かに払いをするのにさしつかえができたというような事実があつたそうであります。これは職員会のことでありますが、そういうことのために職員会が持つておりました粉を十俵か十何俵かしらぬ、それをかわりに今の商店に払つたそうであります。そのためにその倉庫からそれを持ち出したという事実があるそうでありますが、それは監のものではなく、職員がお互いに出資いたしまして、買つて持つておつたところの職員会の食糧なのでありまして、あるいはそういうことが今の横流しというような誤解を招いたのではないかというような報告が来ております。
#11
○古屋(貞)委員 なお何か受刑者及び在監者の中で、食事を減すような罰をやつておるようなことはありませんか。新聞によると詳しく書いておりますが、さような事実があるかどうか。
#12
○中尾説明員 食事を減らすというのは、現在監獄法で在監者の懲罰という規定がございまして、その懲罰の一つの方法といたしましてこれは一番重い方の懲罰でありますが、減食という処分がございます。しかしこの減食という処分は刑事被告人には科してはならないことになつております。既決の受刑者にはやつてもいいが、少年と刑事被告人とにはやらないことになつております。でありますから、おそらく――おそらくというより、私たちの調査いたしました限りでは絶対そういうことはやつておりませんが、また事実といたしまして、全国的に見まして減食処分というものはあの食糧不足なんかございました関係上、また人道的な見地から申しまして、最近はこの適用がほとんどないといつていいくらい制限を受けておりますので、そういう合法的手段によりますところの減食処分ということは行われておらぬと思います。なお非合法に私憤を晴らすというようなことに、そういう減食をやるというようなことは、私たちちよつと考えられないことでございまして、おそらくそういうことはないということを申し上げてさしつかえないと思います。
#13
○古屋(貞)委員 最後ですが、新聞を拝見しますとただいま御答弁にあつたようですが、長石仙太郎という人の言が非常にわれわれに大きな疑惑を投げかけておるようですが、この長石仙太郎という人は、ただいまの報告によると元看守か何かやつた。これによりますと相当刑務所の中で規則に従わずに特別な生活をしておる者があるように考えられておるのですが、さような事実があるかどうか。さようなことがいろいろ不正事実の原因になつておるのたと想像されますが、さような事実があるのかないのか、この点を伺つておきます。
#14
○中尾説明員 この長石というのは、元職員ではございませんで、これはただ聞いただけでありますが、どつかでかつて新聞記者をやつたことがあるというようなことを聞いております。相当気のきいた男で、仕事はよくできたようでありまして、非常に便利でありますのでこういうふうな保安課の仕事を手伝わせるとかあるいは監房の掃除の手伝いをさせるとかいうようなことをやらしておつたようであります。これは私たちの目が届かない、われわれの知り得ないところにいろいろの秘密があるということになりますと、私たち一言もないわけでありますが、さつきから御報告申し上げましたように、私たちといたしましては少くともそういうことをやらせないつもりでおりますが、なおまたこういうふうに少しでも外部からそういう事実を疑わすような事実につきましてうわさが出ました場合には、徹底的に調査をいたすわけでありますが、このことにつきましても現に二回私たちの方では調査に行つておりまして、私たちの方といたしましては徹底的に調べたつもりでございますが、そういうふうな全然規則を無視したかつてな生活をやる、そういう者がおるというようなことは私はないということを信じております。
#15
○古屋(貞)委員 大体報告を受けましたのですが、私どもといたしましては希望だけを申し上げますが、刑務所の中が非常に紊乱しておるということを長い間私ども聞かされておりました。特に親分が入り、ボスが入りますと相当のかわつた生活をしておるということを実際に聞かされておりまして、ほんとうに初犯で入つた人たちが驚いて帰るような事実があつたということを聞かされておりますが、さようなことが、今日のこの問題を引起した原因となつておるようですが、どうかこの点につきましては、申し上げるまでもないのですが、十分今回は徹底的にお調べを願つて、一切合財洗つていただいて、多少でも原因がございますような問題は一掃されまして、抜本的な処置をとつていただくことを希望いたしまして、私の質問を終ります。
#16
○小林委員長 本件について他に御質疑はありませんか――それでは次に移ります。
    ―――――――――――――
#17
○小林委員長 次に裁判所の司法行政に関する件について調査を進めます。
 お諮りいたします。本件について最高裁判所より発言したいとの要求があります。これを承認するに御異議ありませんか。
    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
#18
○小林委員長 御異議なしと認め、さよう決定いたします。
 発言の通告がありますから、これを許します。押谷富三君。
#19
○押谷委員 この休会中に国政調査のために、大阪を中心とする関西一円で調査をいたしたその途上、調査線に浮び上りました問題で、特に裁判所関係で重要な事柄がありますから、この機会に最高裁判所の方々にお尋ねをいたしたいと思います。
 まず大阪の佐々木裁判官、ただいま時の人として吹田事件をめぐつて大きな話題を投げかけておる人でありますが、この佐々木裁判官の係でいろいろな調査の途上現われたことに、裁判所の書類調製という関係で大きな疑義があるのですが、これを具体的にお尋ねをする前に、まず裁判所としての公判調書調製、あるいはその裁判所の管理等の基本的な考え方を伺いたいと思うのであります。公判調書は裁判所の立会い書記官がつくるものだと思いますが、その公判調書の作成の責任者と、これに対する当該裁判官の監督の責任、こういうようなことについてどういうようなお取扱いの方針であるかを伺いたいと思います。
#20
○石田最高裁判所説明員 申し上げるまでもなく、調書の作成は一応立会いの書記官が職務上の義務を持つております。それに対しまして、裁判長も調書に署名はいたしますが、これは実質的には認証するという意味だろうと思います。それで法定の期間内にできるだけ調書が間に合うように絶えず監督はしているはずでございますが、非常に複雑な事件、あるいは事務が渋滞しておるというふうなこと等によつて、遅れる場合もないではございません。できるだけ早く調製するようにふだんから心がけておるということは、申し上げられると思います。
#21
○押谷委員 書記官の作成義務はわかりましたが、当該裁判長のその公判調書作成に関する責任は、いま少し明確にしてもらいたいと思いますが、どういう責任がありますか。
#22
○石田最高裁判所説明員 責任と申しますと、結局内容的には、内容を検討して、公正に事実が録取され、記録されておるかどうかということを検討するということです。
#23
○押谷委員 刑事訴訟法四十八条は、申すまでもなく、「公判期日における訴訟手続については、公判調書を作成しなければならない」とあり、そうしてこれをいつ作成するかということにつきましては、少くとも「公判調書は、各公判期日後速かに」これをつくり、「遅くとも判決を宣告するまでにこれを整理しなければならない」。こうあるのですが、この責任は書記官に対する責任ですか、裁判官に対する責任ですかを伺いたいと思います。
#24
○石田最高裁判所説明員 第一次的には書記官の責任と思いますが、しかし包括的には裁判官も責任があると思います。但し今のことは、いわゆる訓示規定というわけで、なるべくそうしなければならぬように心がけておりますが、先申しましたような事情で、ときに遅れることもあります。なるべくその訓示規定の趣旨に従つて努力はするというわけでございます。
#25
○押谷委員 訓示規定と言われますが、調書の内容なり、あるいは期日なりが、多少の間違いがあるということは一応考えられましようけれども、この調書が全然つくられないというようなことが想像されて、そうしてある事件についての調書がなかつたというようなことが事実あつたならば、これは裁判官として大きな職務上の責任が果されておらないという問題が起ると思うのですが、これに対する考え方を伺いたい。
#26
○石田最高裁判所説明員 そういう事態が発生しますれば、それは一応裁判官も責任があると思うのですが、ないとは否定できないと思います。
#27
○押谷委員 そういう基本的な事実を伺いまして、これから具体的な問題についてお伺いをいたしたいと思います。これは大阪地方裁判所の佐々木哲蔵裁判官の係で審理をせられ、すでに判決のあつた事件でありまして、この当時の立会いの書記官は、目下逃走中で行方不明になつております福井弘という書記官です。その事件は、昭和二十七年七月十七日に言い渡された事件です。今から一年二箇月ばかり前に言い渡されたこの事件は、検事が控訴をいたしております。日本紡績貝塚工場のレッド・パージの問題から派生をいたしました事件でありますが、この事件の控訴が、この判決の言い渡し後ただちになされまして、今事件は大阪高裁に係属いたしております。ところが、この事件の記録が大阪高裁にまわつて来ません。なぜ記録がまわらないかというと、一審の公判記録が調製されておらない、あるいは一部調製の部分がありますが、それが非常に不備であるというような事柄から、高裁でこの事件の審理ができないという状況にあるのですが、こういうことについて、最高裁判所は御調査になつておられるか。なつておられるならば、その事実の有無、並びにこれに対する裁判官としての責任をお伺いしたいと思います。
#28
○石田最高裁判所説明員 実は、はなはだ遺憾でございますが、その事実は調査をまだいたしておりません。と申しますのは、そういう事実がありましても、報告がありませんというと、こちらではわかりませんので、調査はいたしておりませんが、しかしさようなことが事実といたしますれば、特別の必要な事情でもない限りは、一応責任問題が起ると思います。
#29
○押谷委員 報告がなければ調査をしないというお話でありますが、最高裁判所は、何と申しても下級裁判所に対する一つの監督の地位にあられるのでありまして、私がお尋ねをいたしました問題は、すでに新聞などに報道をされているところでありますが、そういうことはお気づきございませんか。
#30
○鈴木最高裁判所説明員 調書の作成が遅れておるというようなことは新聞に載つていたかと思いますけれども、それが吹田事件の公判調書の作成が遅れておるというように読んだものですから、私どもとしては特に調査をしなかつたのであります。吹田事件の調書に関する限りは、最近調べましたところが、みんなできておる、そういうほかに立会いの書記もあつて、現在は全部完全にできておる、こういうことでしたので、一応安心しておつたのです。
#31
○押谷委員 御調査になつておらなければこれは御調査を願いたいと思います。なおこういうことが事実であれば、相当責任問題が残るという御意見はよくわかりました。
 次にお尋ねをいたしたいことは、同じく佐々木裁判官係で、やはり立会い主任書記は福井弘だと思いますが、昨年の六月十日に言い渡された事件であります。坂井昭夫――これは保険金詐欺の被告事件でありますが、これもまた検事が控訴をいたしておりまして、ただいま大阪の高等裁判所に事件は係属をいたしております。これが同様に一審の公判記録ができておりません。従つて高等裁判所では審理をする方法がつかない。一審記録がまわつて来ませんから、高裁に係属されて一年三箇月あるいは一年四箇月にもなろうという今日において、なお公判の期日を指定することもできないという、だらしない姿を大阪には現わしているのでありますが、こういうことについて最高裁判所としては御調査になつておりますか。もしなつておらなければ、こういう事実があつたならば、裁判官としていかなる責任を負うべきであるかを伺いたいと思います。
#32
○石田最高裁判所説明員 さつそく調査をいたします。
#33
○押谷委員 責任はどうですか。
#34
○石田最高裁判所説明員 全部とります。
#35
○押谷委員 責任があることをお認めになれば、そういう建前において御調査を願いたいと思います。
 それから問題の吹田騒擾事件についての調書でありますが、これは三月十一日の十一回公判、四月八日の十四回公判、五月六日の十七回公判の調書が、私どもの調査の途上においてはできておらなかつたのです。また、ただいまはたしか三十一回の公判を終つたと思いますが、二十四回から三十一回までの公判調書は全部できていなかつたと思います。こういうことについては、今お調べになつたということでありますが、お調べになつたならば、そういう事実があるかないか。また調書がつくられたならば、だれの手によつていつつくられたかということを、お聞かせ願いたいと思います。
#36
○鈴木最高裁判所説明員 最近大阪の裁判官が二名、最高裁判所に用務がありまして連絡に参つたわけでありま了。その節、吹田事件の公判調書の作成が遅れているということが新聞に出ておつたが、現在どうなつておるかと言つて、これは当該吹田事件の係の裁判官ではございませんが、尋ねたのでのります。いや、現在はできておる、佃井は現在所在をくらましておるけれども、そのほかに二名の書記官がおる、そうして公判の開廷ごとに録音をとつておる、この二名の書記官によつて、現在は遅れていない程度に作成をしてある、こう申しておりましたのれ 一応私らも了承しておつたのであります。なおその点については、正式に最高裁判所から大阪地裁にあて、現在どうなつておるかということはさらにはつきりいたすつもりであります。
#37
○押谷委員 目下係属中の吹田事件についての調書、ありますから、まず事実を事実として記載した公判調書の早くてきることを熱望いたします。なお公判調書の証明力につきましては、すでに刑事訴訟法にも明確になつておりまするように、公判における訴訟手続は公判調書のみによつて証明するという大切なものであります。公判調書のみによつて証明をしなければならぬ。こういう重要な調書ができておらなかつた、しかも判決を言い渡してから一年近くもできておらぬという事実があることは、日本の裁判の威信のために重大な問題だと考えます。また現在係属中の事件でありまして、私が今指摘いたしましたように、この吹田事件は公判が何回も継続されておつて、しかもその間にわれわれが調査に乗り出して、われわれが発見してもなお裁判官の方てはお気づきかないような状況において事件か審理されているというようなことも、同じくこれは裁判の威信のために憂慮すべきものだと思いますから、特にこういうことを御考慮いただきまして、こういうような問題には将来とも善処せられんことを望みます。
 次にお尋ねをいたしたいことは、裁判所の司法職員に対する人事権のあり方なのでありますが、現在裁判所において書記官などの人事はどういう形において行われておるかを一般的に伺いたいと思います。
#38
○鈴木最高裁判所説明員 裁判所の職員は、裁判官を除きましては、御承知のように大別しまして、書記官、一般の事務官、それからそれ以外に家庭裁判所の調査官というようなものがおもな職員であります。それ以外に雇というようなものもございますが……。それでこの職員の任命について申し上げますと、書記官は全部最高裁判所において任命をしております。それから書記官以外であつても、俸給が九級以上の職員は、その働き場所がどこであるとを問わず、最高裁判所で任命をしております。従つて書記官補というようなものであつても、九級以上の書記官補であれば、最高裁判所で任命をしておるわけであります。ですから書記官は級のいかんにかかわらず最高裁判所で任命をしておりますが、そうでないところのものは、九級以上の職員は最高裁判所で任命をし、八級及び八級以下の職員はそれぞれの各勤務庁が任命権を持つておるというわけであります。従つて多くの場合、雇いであるとか、それから事務官の低い方であるとか、係長でない、課長以下の者であるとか、それから書記官補であるとかいうような者は、それぞれ下級裁判所が任命権を持つておるわけです。従つて免ずる方の権利も任命権と一致をしておるわけです。任命権者が免ずる方の懲戒権もあるわけです。こういうことになつております。これが大体であります。
#39
○押谷委員 この任免の手続の処理をせられる役所等はわかりましたが、裁判所の職員の監督は一体だれがやつておられますか。
#40
○鈴木最高裁判所説明員 裁判所の職員の監督はやはり広い意味の司法行政の中に当然入りますので、裁判所の職員に対する監督は、下級裁判所においては裁判官会議、それから最高裁判所においては裁判官、そのほか調査官等を除きましては事務総長が監督をしておる、こういうことになります。
#41
○押谷委員 この書評官の係を変更するというような職場転換といいますか、配置転換、こういうようなことはだれがやることになつておりますか。
#42
○鈴木最高裁判所説明員 たとえば地方裁判所、高等裁判所等の例を申し上げますと、係の書記官をやめさせるというような場合には、結局裁判官会議できめるわけです。当該自分の部に属しておる書評官をかえてもらいたいというような理由があり、希望がある場合には、それを正式に申せば、裁判官会議の議に付して配置転換をするということになります。それから常置委員というようなものがあつて、当面の緊急でない問題を常置委員でまかなつておる場所もありますが、そういう場合には裁判官会議にかけないで、常置委員会で処理するということになろうかと思います。
#43
○押谷委員 この書評官その他裁判所の職員の政治運動はどういうようにお考えになつておりますか。
#44
○鈴木最高裁判所説明員 裁判所の書記官のみならず、日本の国家公務員は、国家公務員法及びそれに付属する人事院の規則によりまして、いわゆる政治運動というものは禁止をされておるわけです。従つて裁判所においても、書記官のみならず事務官であつても、政治運動をするということは公務員たるにふさわしくないということで禁止されておることは言うまでもありません。
#45
○押谷委員 大阪の司法職員組合の人たちで政治運動と思われるような行動があつたのでありますが、その一つ、三つを申し上げて御意見を伺いたいと思います。
 職員組合の中の同じく職員でありますが、この職員が、内灘問題で大阪の裁判所の職場を放棄して内灘へ出張してあの運動に携わつておつたという事実がはつきりいたしておりますが、これは御調査になつておりますか、またまだ御調査になつておらないとするならば、そういうことは政治運動として禁止さるべきものであるかどうか、また禁止されておる内容であるならば、それに対してはいかなる処置をおとりになることが妥当とお考えになつているかを伺いたいと思います。
#46
○鈴木最高裁判所説明員 ただいま御質問のありました内灘へ出かけて、一種の政治運動をしたという事実は、これは大阪の検察局で裁判所の職員に暴行事件があつたというのを契機にいたしまして、その暴行事件の調査をした際にさような事実があつたことが判明いたしているわけです。それは今年の六月の二十七日に裁判所の大阪の支部の組合の職員数名が現地に参つて、すわり込み中の男女約九十名の村民に対して激励文を朗読をして、演説をし、接収反対運動のために村民代表に資金を贈与した、検事局の調べにはそういうことになつております。それはしかしこの事実が確実といたしますれば、確かに政治運動になつて、職員たるにふさわしくないことは当然であります。ただ組合関係の方をいろいろ調査して会すと、わざわざ行つたのでなくて、二十八日か九日――三十日でしたかに新潟で裁判所の職員組合の大会があつたものですから、それに参加する途中に内灘に寄つて、それに行つたという事実は事実らしいのでございますけれども、ただ内灘に行つて、ただいま申し上げましたような政治的な行動をしたということも、検察局の報告によりますと、否定できないような事実であります。この点は、さいぜんも申し上げましたように、結局任命権者がその権限に基いて、その行動をどういうように判断をし、どういうように処置をするかということは、任命権者がなすべきことでありますけれども、最高裁判所も司法行政上の最高の監督をするというような意味において、この点は非常に注意はいたしております。ただ今現地とどういうように連絡をしているか、どういうように最高裁判所が具体的に考え、その考えを現地に伝えているかどうかというような詳細にまでわたつて申し上げられないのでありますけれども、最高裁判所としても亡の事実は重要視して考えてはおります。現地の方ではもちろんこの事実はいろいろ考えているようであります。
#47
○押谷委員 いま一つ、これは私も関係がある一人でありますからちよつと言いにくいのでありますけれども、訴追委員会の決議に基いて訴追委員の調査団が佐々木裁判官の法廷におけ子処置についての当否を調査するために大阪に参つたのですが、大阪の司法職員の団体がこの問題について調査を中止してもらいたいというような申出をやつたのですが、それはある意味においてはデモをかけたというような形になりておりまして、相当乱暴な処置にも出たのでありますが、かようなこともやはり政治運動と見られるように考えるのですが、どういうようなお考えをお持ちですか。
#48
○鈴木最高裁判所説明員 御質問の事実も確かにあつたことは、地元の裁判所から報告を受けていますが、これが政治運動になるかならないか、考え方によつては確かになるとも思いますが、私どもの方としては、裁判所の職員が当該裁判所に係属しておる事件の被告及びその外郭団体というようなものと一緒になつて、そして訴追委員会の委員が調査に来られたのを、実質的にいつてこれを妨害をし、一時調査を不能に陥れたというような事態を惹起したということは、裁判所の職員としての名誉、信用を決して維持したものではなく、むしろ公務員法の職員としての信用、名誉を失墜したものに当るんだというように考えております。
#49
○押谷委員 名誉を著しく失墜をするとか、あるいは私はこれは一つの政治目的を持つてやつているものと考えるから政治運動だと考えますが、とにかくよろしからざること、不当な処置であることはお認めになつておるようですが、そういう者に対する処置はどうお考えになつておりますか。
#50
○鈴木最高裁判所説明員 ただいまのような問題を惹起しておる職員は、実はその数から言いますとわずかなものでありまして、裁判所の職員、ことに大阪の裁判所の全職員が、ただいま申し上げたようないろいろな行為をいたしておるわけではなくして、そのうちのわずかな人数の者がやつておることにすぎないことは、これは押谷委員も直接ごらんになつておるからおわかりのこととは思います。しかし今申し上げたような行為は、裁判所の職員としてもふさわしくないことでありますし、信用を失墜しておる点もありましようし、それから裁判所の内部でいえば、勤務時間中にそういうことをしたというような点も問題になろうかと存じます。これも任命権者たるところの現地の裁判所かおそらくしかるべき処置をするであろうということを最高裁判所は期待しておるわけであります。
#51
○押谷委員 現地まかせということであるようでありますが、こういうことが司法行政の一部であり、こういうことは直接監督の責任にあられる最高裁判所でありますから、別に処罰を望むとか、処分を望むとかいう意味でなくて、かようなことは日本の裁判の威信のためにも、また司法職員のあり方に対する一つの指針、指導をせられる上からも適当に善処せられんことを要望いたします。
 なお大阪の裁判所の構内の一部に吹田事件の被告が寝とまりしておるということは御承知ですか。
#52
○鈴木最高裁判所説明員 存じております。これは吹田事件の被告になつてから寝とまりをさせたわけではなくて、被告になる前から、実は住居の困難というようなことから、若い職員をかりに地方裁判所のガレツジの二階に住ませていた。ところが吹田事件の被告になつてしまつたというようなことになつたわけであります。その後も裁判所といたしましては、それをほうり出さないで、住居制限の場所としてガレヅジになつていたわけでありますが、つい最近またその被告がほかの刑事事件にも関与して起訴をされるというような事態になりましたので、これは本人が留守中でありますけれども、実兄を裁判所に呼んで荷物を引取らせて、本人は退去させた。現在はですから住居になつておらないという実情にあります。
#53
○押谷委員 大体明らかになりましたが、このほかに当該吹田事件の大きな問題については、以前法務委員会で質問をし、また意見等も伺つておりますが、これは適当な機会においてこの法務委員会で佐々木裁判官などにおいで願つて調査を進めたいと思います。本日はこの程度で私の質問を打切ります。
#54
○鍛冶委員 先ほどから押谷委員の質問に対する裁判所側の答弁を聞いて、はなはだわれわれとしてふに落ちぬところがありますので、二、三聞きたいと思います。
 裁判は、先ほど押谷氏が指摘されたように、裁判上における一切の基礎は記録に基きます。その記録が完全にできておらぬとすれば、裁判そのものも完全に行われなかつたものとわれわれは考えるが、記録ができぬで裁判、判決言い渡しをしてもその裁判は十分のものと考えておられるか、これをまずお聞きしたい。
#55
○石田最高裁判所説明員 もちろん記録ができていないということは、その事件処理について非常な問題がございますが、しかし裁判は直接法廷における口頭弁論に基いて行われる。いわゆる十五日以上たつとか、あるいは係がかわると全部更新をいたします。更新した結果、最も新しい認証に基いて裁判をするという見地からいえば、必ずしも記録ができていなくても結論を出すことは何らさしつかえはないというように考えます。
#56
○鍛冶委員 刑事訴訟法第五十二条を読みますと、公判調書の証明力として、「公判期日における訴訟手続で公判調書に記載されたものは、公判調書のみによつてこれを証明することができる。」そこで裁判をする場合に、かくかくの事実があつた、これこれの証拠によつてこれをやつた、こう裁判をすると思いますが、そこで調書がない、それは事実が違う、こういうことを被告なり弁護人から言つたら、それに対して裁判所はどう取扱うのですか。
#57
○石田最高裁判所説明員 さようなことが問題になりますのは、結局控訴審へ行きまして、控訴の段階でそのことが問題になるので、その一審においては問題にならないと思います。
#58
○鍛冶委員 控訴審まで行かずに、その裁判審では問題にならないのですか、あなたの言われることはわれわれの聞いておつた事実と違います、ここで証明された証拠とあなたの言われるのは違います、こういうことはあり得ると思う。そんなことはどうでもいい、控訴審へ行つてから言え、そんなことはないと思う。あなた方は全国の裁判所を監督される最高裁判所として、責任ある答弁を伺つておるのです。
#59
○石田最高裁判所説明員 今説明が簡略に過ぎたのであるいは誤解があるかもしれませんが、先刻の鍛冶委員の御質問は、記録なしで、調書ができていなくても判決やつてもいいのかということでございましたから、それに対してお答えいたしました。結局五十二条の問題が判決をしてしまつてから起るのは控訴審へ行つてからの問題だと思います。
#60
○鍛冶委員 第一審で起つたらどうします。
#61
○石田最高裁判所説明員 そのときはもちろん調書ができていなければいかぬわけです。
#62
○鍛冶委員 そうすれば、裁判するときは調書があるべきことが原則じやないですか、それが第一。そこで裁判所はその調書がないということに対して、あるべきものがないのであるから、調書をつくることの事務的のことは書記官の責任ではありまするが、調書ができておるか、できておらぬか、そして裁判が適正に行われるか、行われぬかということは、当該裁判長の責任であるとわれわれは考えますが、しかし記録に関することは書記官だけの責任だ、こう言われるのですか。その点を明瞭にしてもらいたい。
#63
○石田最高裁判所説明員 裁判官に責任がないとは申しておりませんので、最終的には裁判官も責任はあるというふうに考えます。
#64
○鍛冶委員 そうすると、記録は整備しておらなかつた、もしくは記録は不確実なものであるというようなことになりますると、裁判官に責任あるものと私は考えますが、その通りですか。
#65
○石田最高裁判所説明員 その限度においてはその通りと考えます。
#66
○鍛冶委員 そこで書記官として不適当なる者を書記官として使つて裁判をしておつた、こういうことになりますと、さような書記官を使つておつた責任はどこにありますか。
#67
○石田最高裁判所説明員 結局、任命が悪いか、配置が悪いかというふうな問題になつて来るかと思いますが、厳密に理論的にいえば、あるいは実質的には任命を誤つたというふうな場合もあるかもしれませんし、あるいはそれに基いての監督が行き届かなかつたということにもなるでしよう。
#68
○鍛冶委員 任命が悪かつたこともありましようが、私が言うのは、現に書記官を使つて裁判をしておつたのですから、その使つて裁判をしておる裁判長に責任があるかどうか、こういうことを聞いておる。
#69
○鈴木最高裁判所説明員 これは裁判所としましては、どの裁判官にどの書記官が配置されるかということは、必ずしも当該裁判官の希望によつてきまらない場合があるわけです。どういう書記官を希望ずるといつても、書記官の間におのずから優劣がありますから、希望通りの書記官を自分の部に配置せしめられない場合があるわけです。そういう場合に、自分の部に配置された書記官が無能である、なまけ者であるというようなことを、もし当該裁判官が認識した場合は、これは当然の問題として書記官の配置がえをしてくれということを、裁判官会議に持ち出すということになるだろうと思います。ところが、実際問題としては、各どの部でも自分のところにいい書記官を置きたいものですから、自分の使つておる書記官の配置がえを裁判官会議に持ち出しても、なかなかそれが通らない場合があろうかと思います。そういう場合に、なまけで者あつた、無能であつた書記官の責任を私は裁判官に負わしてしまうということはできないのじやないか、こう思います。ただ実際無能であり、それから書記官としても適格でないということを現実に認識しておりながら、裁判官会議にもそれを持ち出さず甘んじておつたという場合に、裁判官としてはやはり責めらるべき責任があるのではないかというように考えます。
#70
○小林委員長 それではこの程度で、午後二時半まで休憩いたします。
    午後一時十五分休憩
     ――――◇―――――
    午後三時三分開議
#71
○小林委員長 休憩前に引続き会議を開きます。
 この際理事の補欠選任についてお諮りいたします。すなわち古屋委員は理事であつたのでありますが、去る八月十日に一旦委員を辞任せられておりますので、理事が欠員となつておつたのであります。理事の補欠選任につきましては、先例に従いまして委員長において御指名いたしたいと存じますが、御異議はありませんか。
    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
#72
○小林委員長 御異議なしと認め、理事には従前通り古屋貞雄君を御指名いたします。
#73
○小林委員長 裁判所の司法行政に関する件について調査を続けます。発言の通告がありますからこれを許します。林信雄君。
#74
○林(信)委員 先刻来裁判所の審理の過程における記録の問題等が取上げられておつたのでありますが、私も似通つた問題につきましてお尋ねをしておきたいと思います。どうもこういう問題の起る場所は、何となく裁判所が一定せられる、私の問題は鹿児島の地方裁判所における公判記録関係の問題であります。日時のほどは、前後はわかりませんが、先般私ら鹿児島地方に調査に参つたのであります。当時の新聞紙上によつて見ました事実、あるいはその後に知り得ましたものについて、二個の同様の似通つた問題を発見しておるのであります。
 一つは政令第三百二十五号違反事件、中村兼久という被告人に関する事件であります。記録が紛失いたしまして、検察庁の方では記録の閲覧も謄写もできないところから、訴訟の進行が困難になりました。しかるに裁判所は検察庁側の意向をしりぞけまして、強引といいますか、訴訟を進行しようという事実があつたということを伝え聞くのであります。どういうわけでその記録がなくなつたのであるか、あるいは一部裁判長の自宅から出て来たといつたような事実も伝えられております。はなはだつまびらかでございません。
 いま一つは、同じく政令第三百二十五号違反事件ではありまするが、事件自体は別件のもののようであります。これが判決になつたあと、何でも新聞記事の伝えますところによると、その直後に検察側の控訴を妨害するため、まだ署名もしてない判決文その他公判記録一切を持逃げしておつた。持逃げの事実がはつきりしたのはその後七月二十二日といいますから、持逃げの事実はその前でございましよう。最高裁の免訴の判決が出た間もなくにおいて、その一件記録を東京都内の持逃げした者の潜伏先から鹿児島地裁あてに送り返す事件があつたというのであります。かようにいたしまして同一裁判所で、その前後はつまびらかでありませんが、比較的同様な時期におきまして記録が紛失したという事実、しかも被告人は異にいたしまするといたしましても、同様な種類の事件関係においてさようなことが起つたということは大体事実のようであります。従つてその詳細の報告が、御当局にはすでにもう来ておるはずなのであります。正確にしてさしつかえない程度の詳細な御説明が願いたいと思うのであります。すでに概要を知り得ましたところによつても、われわれはその受ける示唆はまことに多いのであります。この点における御説明を願います。
#75
○鈴木最高裁判所説明員 ただいま御質問になりました鹿児島地方裁判所における記録の紛失の事件であります。ただいま御指摘になりました被告人が中村兼久という事件は、昭和二十七年の鹿児島地方裁判所のわの第三十八号、政令第三百二十五号違反の事件でございます。この事件は昭和二十七年の二月九日に起訴になりまして、それ以来約八回の公判を経て証拠調べも終了をして結審近くになつておりましたが、昭和二十七年の十一月の四日にその記録を倉庫から出して、被告人の保釈の制限の住居を見て被告人にあてるための期日の変更謄本と、それから次回の公判期日の召喚状を発送したのであります。それが十一月の四日、このときには記録を倉庫から出して裁判長が見たわけであります。ところがその後十一月の十二日に、翌日の公判の準備のために見ようと思つて探したところが、その記録が紛失をしておつたのであります。それで裁判所としては、すぐにその記録のありかをいろいろ探しましたけれども、どうも出て来ない。それ以前にやはり同じ種類の三百二十五号事件の記録が紛失をしておつたので、これは何か思想的な関係でもあるのじやないかというような邪推で裁判所としては、あまり騒ぎ立てない方がいいだろうというような気持で、警察と検察局の方には内々に連絡をしたのだそうであります。して、しばらく静観しておりますと、さいぜん御指摘になりました岩元という鹿児島地方裁判所の雇をしておつた者で、やめて東京に来ておつた者の手元から、友人の会計課の雇のところに、二十八年の七月二十七日に、三百二十五号の違反事件の記録を、これは被告人が島津久美という人ですが、その記録を送つて来たのであります。その島津久美の事件は、控訴の申立てがあつて、本来ならば福岡高裁の宮崎支部へ送付すべきはずのものが、所在がわからなかつたので送付ができなかつたのであります。しかも七月二十七日に会計課の田代という友達あてに送つて来たときには、すでに三百二十五号に関する最高裁判所の判例が出たあとなんです。従つて、そのことを鹿児島の裁判所の方はすぐに検察局に連絡いたしましたところが、検察局も一応これは怪しいとにらんで、その東京の渋谷におりました岩元というのを逮捕して、――なお中村兼久に対する紛失した記録も岩元と関係があるのではないかということで、岩元を逮捕して調べたのであります。ところが調べた結果は、岩元が送つて来た事件の記録の紛失を鹿児島の地方裁判所で問題にして騒いでおつたので、本人は実は記録を出すのが出し遅れてしまつて、東京へ一緒に持つて来た。別に思想的な関係も何もないのだが、出ししぶつてしまつて東京へつい持つて来てしまつた。そして三百二十五号の判決が出たので、これはこうしてはおれないということで送り返した、こういう弁解なので結局中村兼久、もう一件の事件の詳録は、岩元という男はあずかり知らたいということになつたのであります。しかし岩元に対しては、送り返した事件の記録を隠蔽したという点で鹿児島地方裁判所に起訴になりましたけれども、中村兼久についての記録は結局山て来ないわけであります。記録が出て来ないのでありますけれども、当時事実の取調べは、証人の取調べも大体終りまして、ほとんど判決の近くになつておつたわけであります。しかるに詳録がないということは、さいぜんも問題になりましたが、法律上は記録に基いて判決をするのでなくして、裁判所の口頭弁論の審理に基いて判決をするわけでありますから、正式な起訴があつたということの認定ができれば、第一審裁判所としては裁判をしてかまわないわけであります。ただそれが控訴になりますと、一体正式な起訴があつたかどうかという点が問題にたりますので、一応裁判所としては、起訴のあつたことは、記録は紛失を現在の段階ではしておるけれども、起訴があつて、証人手続も非常に進めて、判決になるまでの段階になつていたということは裁判所の方にわかつておるはずですから、形式を整えるためには、結局検察官から起訴状の謄本をもらつて、正式な起訴があつたのだということが記録上わかれば手続として判決をしてもかまわないし、控訴があつた場合にも、正式な起訴があつたということがそれによつて証明できますものですから、それで裁判所の方としては、記録のなくなつたことを検察局の方に通じて、そうして検察官から起訴状の謄本を提出をしてもらい、そうして裁判を審理を終結した。審理の終結と申しましても、すでに事実の審理は終つているから、さらにそれを繰返す必要はないということで、起訴状の謄本をもらつた後はほとんど審理をしないで、事実上公判を開いて終結をしたらしいのですが、そうして七月の二十一日に免訴の判決をいたしております。それで新聞によりますと、裁判所が、いかにも記録がなくなつたのをほおかむりをして、そうして検事にも記録を見せないで裁判をしようとしておつたというように書かれておりますけれども、私の方に参つた鹿児島地方裁判所からの報告によりますと、さいぜん申し上げましたように、記録のなくなつたことは警察べも通じ、検察局の方へも通じて、むしろその記録の捜査に尽力を願つておつたのだ。ひた隠しにしておつて、そうして最後に来てほおかむりを脱いだというような関係では決してないので、その間の、記録がなくて審理をしているという関係は検察局の方でも十分承知しておつたということであります。以上の通りであります。
#76
○林(信)委員 事実の全貌は大体わかるのでありますが、そういう事態も時によりいろいろな事情によつて起り得ることであります。なかんずく記録も時に火災等によつて焼失したり、あるいは大風水害によつて流失するということもあるのですから、人の問題だけでなくて記録がなくなるということは絶対にあり得ないわけにいかないから、実際問題としてもう少しく検討しておかなければならぬと思う。
 最後に御答弁で触れられました記録がなくて判決をなし得る、こういう問題については、なるほど私のお尋ねいたした中村兼久当該事件については、たまたま政令三百二十五号事件でそれが最高裁の判決によつて免訴せらるべきものだというような方向に相なつたので、あるいは御説のようなことでさしつかえないとも見られ、あるいは一般も承服するかもしれないけれども、その他の事件関係を想像いたしますと、およそこれは乱暴しごくなもののように存ずるのであります。なかんずく判決にはやはり証拠をあげて事実の認定を説明しなくてはならないと思うのですが、それらの記録が、証拠がないのにどうして判決にそれが記載せられるのであるか。往年の大岡裁判のごとくに、ただ事実を示してその結論を出せばいいというわけには、近代刑事訴訟手続としては行かないと思う。どうも御説明のようなことではそれは無理だと思うのでありますが、それでもとにかく起訴された事実がそこにあつて結論さえ出せばよろしい、いかなる事件関係においてもそれでよろしいとお考えになるのでしようか。あるいはそうしなければその他にこれは方法がないのだ、しいて起訴状の謄本なんかとらなくても、一切がなくなることによつて起訴を生じ得ないという意味で、何らかのそこに訴訟上の処分がなされて、あらためて捜査をし、その結果による起訴を求めるということもあり得る。どうも一応起訴したという事実が頭にこびりついておれば、どこまでもそれをそのままに審理を続けて行かなければならぬというお考えははたして適当であるかどうか。実際問題として証拠もなく情状の証すべきものもなく、単なる法律問題だけでしたら、あるいは起訴状一本で何とかできるかもしらぬが、裁判というものの複雑性を思いますときに、答弁のようなことではまつたく乱暴だと思うのでありますが、それでもやはりそうなのでございましようか。
#77
○鈴木最高裁判所説明員 ごもつともな御質問だと思います。記録がなぐて判決ができると申しましたのは、正式な本来あるべき記録がなくても判決ができるという意味でございました。でありますから、本件のような場合にも、全然記録なしにやつたのではございませんけれども、本来の起訴状がなくなつたような場合、そしてそれに引続いて公判調書、それから証人尋問調書等がなくなつたような場合には、振出しにもどりまして、少くも起訴状の謄本その他、起訴が有権的に証明ができる書類が必要でありますし、それからことにどうしても有罪の判決をしなければならぬというような場合には、やはりあらためて審理をし直さなければならない、それが正式の手続でございます。ただ本件の場合は、記録の体裁としまして、起訴状を整え、それから従来の審理の中で、審理の記録はおそらく整つていない部分がありますけれども、中途からは記録がありますから、その記録に基いて法律点でただ結論を出したために、実際は証人尋問等を繰返さなかつた。こういう結論になりますけれども、本来はやはり記録を整えて、そして上訴審に行つた場合のことを考えれば、当然証拠調べをもう一度繰返して、そして判決ということにならざるを得ないと存じます。
#78
○林(信)委員 それなら大分わかるのですけれども、何だかさつきの説明では、なければなくて、起訴状の謄本をとつて、それですぐ判決がなされると仰せられたものですから。大体わかります。結局言いかえれば、判決をなすに熟する程度のそこに審理があらためてなされて、一応の記録ができ上ればそれで判決ができる。これならわかると思うのです。必ずしも検察庁の捜査の段階からやりかけなくてもやり得る場合があるだろうと思います。一応了承しておいてもいいだろう一思います。しかし研究問題が多い思います。
 これに関連いたしまして、そういうふうに記録がなくなるということの原因ですが、まあ役所といえば申し上げるまでもなく補助的な書記官、職員であろうと思いますが、そういうものが軽々に記録を、役所内において取扱うということは別にいたしましても、持ち出し得るかどうか。持ち出し得たから先刻の例のごときは実現したのでありましようけれども、そういう点について在来考えられてはおつたかと思うのでありますが、こういう問題によりて示唆されて、何か御考慮になつているのでありましようか。ひつくるめて申し上げますならば、記録保存の実際といいますか紛失防止の措置、そういうものが重要な問題としてこの際取上げられなければならない一思う。そういう制度の問題とともにひつくるめて伺つておきますが、先刻来の説明でも出ておりましたように、指摘いたしましたような案件が、事案の性質上どうもその背景に思想的なものがあるのじやないかということで調べられたという話がありますように、思想の面は別にいたしましても、注意力の面また教養の面からいたしまして、実際それらのものを取扱います者の人事権の問題、これは十分注意をしておられていることだけはおよそわかるのですけれども、立て続けにかような問題が起つてみますと、思想の問題はもちろん重要でありますが、その他本人の素質の問題等があらためて特に取上げられなければならないと思う。特にこの際かような制度並びに人の問題についてすでに結論が得られておりましようか。あるいはしからざればどの程度御考慮になつているか。あるいは欠員の補充、そういつたものを特にお伺いしておきたい。
#79
○鈴木最高裁判所説明員 記録の作成と保管は法律的に申し上げますと、これは書記官の責任でございます。書記官の方が厳重に、正確に保管をすべき責任があるわけでございます。ただ書記官に保管の責任ありと申しても、その保管に適するような場所、施設等を裁判所ですべき義務のあることは当然でありまして、大体例を申し上げますと、記録は裁判所の倉庫に納めてあるが、進行中の記録は鉄でできた金庫のような箱、ああいうケースの中に納めてかぎをかけて部屋に置く、そのほかきわめてプリミテイヴな場合には、簡素な例といたしましては木の箱に納めておくというような例もございますけれども、これらはいずれも進行中の記録でありまして、確定した記録、それから大事な記録というようなものは特に倉庫の中に納めて、使用する場合に出して来る、あるいは書記官が調書を作成する場合に出して来るというように扱つております。ただ書記官の中には雇等に書類の記録の一部を整理などさせる関係あるいは作成などをさせる関係で、場合によつて書記官、雇等がその整理のために自分の荷物と一緒に自宅に持ち帰つて整理をする、そうして翌日持つて来るというようなこともなきにしもあらずであります。裁判官の方としましてもいわゆる宅調の日に自宅に持つて帰つて記録を読むというために、記録を自宅に持つて帰ることもございます。そういう場合にも記録の取扱いということは、きわめて注意深く各自がやつておるのが実際でありますけれども、ときたま今申し上げましたように家へ持つて行つたまま書記官がしまい忘れたということが今までにも例がないわけでないので、岩元の場合も悪意はなかつたらしいのでああますけれども、荷物の中に入れて自分が引越してしまつた、これは外部から見ますと非常にべらぼうなことのように思いますけれども、自宅へ持つて帰つて整理をするという面が、ある点から見て非常に稀有のことではないのであります。しかし物的な面から申しましても、なお記録の保存については裁判所として完璧を期すべきでありますから、この点は将来とも十分研究をして、かような記録紛失というようなことがないように、できるだけ防げるようにいたすべきものと考えております。
 それから人事の面でございますが、御承知のように終戦前と終戦後とでは官庁における職員の実態というようなものも、裁判所のみならず非常に違つておりますし、終戦後初めて裁判所に入つた職員というものが、今は七、八十パーセント以上、ほとんど九〇パーセントと申してもいいかもしれませんが、そのくらいの人数を占めておるだろうと思います。従つて終戦前のように裁判所で子飼いに育つた職員というものが比較的に少い面がありますので、裁判事務の面から申しましても、終戦前の職員と終戦後の職員とを比へますと、若干の相違があることも認めざるを得ないのでありますが、終戦直後は裁判所としても非常に人が足りなかつたために、身元調査等も必ずしも完全を期して採用しておらない、そういう面が反省してみると確かにあつたのですが、この数年来は新たに採用する際にはできるだけ身元調査、素行調査そのほか面接試験等によりまして素質の点も十分吟味して採用をいたしておりますので、将来はその線を一層強くして、思想の方面、素質の方面、能力の方面等にわたつてできるだけ完全を期して職員の採用に当りたいと考えております。
#80
○林(信)委員 大よそわかるのであります。前提として申し上げておりますように、かような点は特別の熱意をもつて御考慮を賜わりますよう、重ねてその熱意のほどを希望申し上げておきます。
 なお最後に一点伺つておきたいと思いますことは、私ども今まで聞いた他の方面よりの話によりますと、御答弁のありました事実で、重要な点について裁判所側と検察庁側との意見の食い違いがあるのではないか。先刻お話のようにその後の審理の経過によつて一通りの記録ができ上り、判決熟するに至ればそれで判決さしつかえなし、一応記録が紛失をいたしましてもさような審理の過程に移行して行くのだ、こういうのでありますけれども、検察庁側はあらかじめ提出した証拠の価値等を特に信頼いたします関係にあるか、とにかくその裁判所の行き方は不当なんだ、むしろ違法だという正反対の意見をもつて対立した時期が少くともあつたかのように聞いておるのであります。その調節は結局できたのでありましようか、そのままなのでありましようか。
#81
○鈴木最高裁判所説明員 その点は私の方も若干疑問に思つておることは、鹿児島地方裁判所の報告によりますと、記録の紛失したことは検察局、警察の方にも連絡をしてその捜査をお願いしてあつたんだ、だから記録紛失のことは検察庁の方にも十分わかつておつたので、裁判所がそれを検察局に対して祕密にしておつたのではない、こう言つてありますけれども、八月十三日付で鹿児島地方検察庁の有村検事から鹿児島地方裁判所にあてて従前の起訴状、従前の公判調書及び証拠書類等はどうなつておるか回答をしてくれというような書面を出してございます。それに対して裁判所の方が回答をしないらしいので、さらに九月七日に従前の起訴状及び従前の公判調書、証拠書類等がどうなつておるかを照会したところが何ら回答を受けないが、もし従前の公判記録が紛失しておるものとすれば、検察官として公訴事実を再立証する必要があつて、その準備をもいたさなければならないので回答をしてくれるように重ねてお願いをする、そういう二度目の書面を今度は当該担当裁判官にあてて出しておるのであります。それに対して担当裁判官は、八月三日と九月七日付の書面に係る首題の件については、二十七年の十一月十三日ごろ記録の紛失を発見して、目下調査中であるけれども、発見に至らず今日に及んでいる。従つて、従前の公判調書、及び証拠書類等はなく、ただ証拠物たる新聞の四部があるのみである。本年八月三日及び十四日の公判期日には起訴状の写しをもつて開廷をしたけれども、審理の都合上必要があるから、認証のある起訴状謄本を至急送つてもらいたい、こういうことを裁判所の方から検察局にお願いをした結果、謄本が渡つて判決になつたのだろうと思います。ですから、これを見ますと、若干行き違いがあつたようでありますけれども、私どもが――これは想像でございますけれども、八月十三日の有村検察官の裁判所にあてた書面を見ますと、「この被告事件に関しては、本月三日米原裁判官が」――米原裁判官というのはこの事件の担当裁判官です。「未原裁判官が事実の審査十分なりとされ、当職の意見を求められたので、当職は本件は証拠十分であり、先月二十二日の最高裁判所の免訴判決に該当せざる事件につき、被告人を懲役一年六箇月に処することを相当とする旨の意見を述べたのであつたが、」こういうことを言つております。ですから検事の方の意見としては、最高裁判所の方も三百二十五号事件の場合には当らない事件であるというふうに考えておられたのだろうと思います。しかるに結果から申しますと、裁判所としてはその事件に当るのだということで免訴の判決があつたのでありますから、おそらく裁判所の審理のぐあいから見て検察官の方は裁判所の結論というものを予想しておつて、その結論に対しては不服があるのだというふうな心持が動いておつたのではないだろうか。そのために、この記録の紛失という点について照会状を発したのでありますけれども、その照会状を発したことからして、今まで検察局の方で知らなかつたのだということは、この照会状だけからは言えないのではないか、こういうふうに私の方は想像しておるわけであります。
#82
○林(信)委員 現地の事件が、とにかく判決になつて一応のけりがついていることはわかるのですけれども、これはいわば中央の問題に取上げられて、最高裁の事務総長のところへ裁判所のやり方はけしからぬということを、検察庁側から申し出られて、そういうことでこちらも何か意思表示をされたのではないかと思いますし、新聞によると、検事総長あたりも、遺憾の意を表されたような意見を発表されておる。どうも法務省関係において、ちよつと一般民衆に直接するような、――無関係ではありませんけれども、法律の解釈自体の学説とでもいつて取上げられるような大きな問題ならば別なんですけれども、大体において事務取扱い上に直接する面の多いこれらの問題が、意見の調節ができれはけつこうだが、できないままになつておるんじやないかと思いますが、そのままでもやむを得ないものか、何とか調節できるものなら、調節した方がいいんじやないか、調節されておりますれば、その結果、いわば訴訟の経過でなしに、中央におけるその結論を最後にお伺いをしたわけであります。
#83
○鈴木最高裁判所説明員 この事件が私どもの方にわかりましたのは、つい最近で、新聞に載つておりましたけれども、別に事務総長の方に最高検察庁ないしは法務省の方かから申入れがあつたというのではなくして、私の方の刑事局長に対して、最高検察庁の某検事から口頭でこういうことがあつたのだという話があつたのであります。それで、その話の様子を聞きますと、記録がなくなつたのを裁判所の方が検察局に対して祕密にしておつて、そうして審理を進めて、検察官の方が記録の閲覧を求めても見せない、そういうような言い方で私の方に伝わつたので、もしそういうことが事実とすれば、これはむしろ裁判所の方が手落ちではないか、なくなつたものなら、なくなつたといつて、謄本なり、しかるべき書類を求めて、そうして審理を進めるべきだ、こう考えて現地へ照会したところが、さいぜん申し上げたようなことになつたのであります。でありますから、結局私の考えとしては、手続面で記録がなくて進行したということは、結局起訴状の謄本を検察庁から出してもらい、そうして一応審理をして結審をしたということによつて、手続面では問題が解消していると思いますけれども、ただ裁判所のした免訴の判決がはたしていいか悪いかということについては、これは法律問題として検察局側の意見がおそらくおありだろうと思うので、結局は控訴ということによつて、上訴の方法で争われるということになるだろうと考えております。
#84
○林(信)委員 終ります。
#85
○小林委員長 本件について他に御質疑はありませんか。――それでは次に、行政協定に伴う刑事裁判管轄権に関する件について調査を進めます。まず本件についての今回の交渉経過の説明を政府側より聴取することにいたします。三宅参事官。
#86
○三宅説明員 行政協定の刑事裁判権条項の改訂につきましては、すでに御承知のように本年四月十四日にわが方からアメリカ政府に対しましてNATO協定の線に沿つた改訂をしたいということを正式に申し入れたのでございます。そうしてNATO協定の米国上院における承認を鶴首して待つておつたのでございますが、このNATO協定は七月十五日にアメリカの上院を通過いたしまして、二十四日に大統領の批准を得て、八月二十三日から、アメリカについていよいよ発効することになつたのでございます。そこでアメリカ政府は、八月十四日にわが方に対しまして、NATO協定がいよいよ八月二十三日から発効することになつたから、かねての日本政府の申入れに基いて日本側の提案弄基礎として行政協定十七条をNATO方式に改訂する交渉を開始したいということを申して参りました。今回の改訂は要するに行政協定十七条をNATO協定の相当規定と同様なものにかえるものでございますから、新協定の規定なり原則なりにつきましては、特に問題はないのであります。ただ新協定が発効しました場合に、軍隊の軍事的効率を妨げないように、できるだけ両国の間に紛糾が起らないように、円滑に実施すために双方の間で実施事項につきまして十分な打合せ協議をしておく必要があつたのでございます。そこで八月下旬以来外務省は法務省の御協力を得まして、アメリカ側との間に非公式な会談を十数回にわたつて開きました。たとえば施設区域内における選捕、捜査、差押えの手続の問題でありまするとか、また刑事訴訟手続における人権の保護であるとか、あるいけ第一次裁判権行使、不行使の通告の手続の問題、あるいは第一次裁判権放棄の手続の問題、それから犯人の身柄の取扱いなど、種々起り得べき問題につきましヤ慎重に交渉を進めて参つたのでございますが、交渉は友好的な雰囲気のうちに順調に進みまして、九月中旬にはすべての問題につきまして非公式会談の双方の代表の間には意見の一致を見ました。先方では本国政府の承認を目下求めておる段階でございます。そうしてごく最近の情報によりますれば、先方の回訓はごく近いうちに当地のアメリカ大使館に参るということが予測せられておるのでございます。このアメリカ側の回訓が参りますれば、ただちに正式会議を開きまして、最後的の仕上げを行い、そして署名をするという段取りになつております。
 内容につきましては、署名の済み次第正確な公表をいたすことになつておりまするが、要するに、新協定はNATO方式の線に沿つたものであります。同時に運用の円滑をはかるということにも十分な考慮が払われておりまして、皆様方の御期待に沿うような協定ができるものと確信いたしております。先方との間に正式会談を開きました後に公表するもの以外は、署名までの間は公にしないという打合せになつておりまするので、最近新聞にも出ませんし、また出ても予測的な記事が多くて必ずしも正確でないのでありまして、皆様方におかれましては、あるいは御懸念なり疑惑をお持ちかと存ずるのでございますが、実情は右の通りでございまして、御安心をいただくことができるのではないかと存じております。
#87
○小林委員長 発言の通告がありますから順次これ表許します。花村四郎君。
#88
○花村委員 ただいま議題と相なつておりまする刑事裁判権に関する行政協定改訂に関する問題でありまするが、外務大臣に質問をすべく通告をいたしておつたのでありまするが、外務大臣が出席せられませんので、法務大臣に御質問をいたしたいと思います。
 そこで、ただいま外務当局の報告によりますると、本行政協定改訂の経過推移を述べられたのでありまするが、その内容については公表凍せないということであるから、話すわけに行かぬような意味の説明に今器聞きしたのでありまするが、そういうことですか。
#89
○犬養国務大臣 お答え申し上げます。ただいま三宅説明員の述べられたようなわけでございますが、少し敷衍して申し上げますと、今お話のありましたように八月から十数回にわたつて、非公式でありますがきわめて友交的な会合が行われました。法務省としましては、あらかじめ並びにその都度法務省としての意見を、外務省の折衝せられる方に十分に伝えて、また非常によく御理解を得たのでありまして、この点外務省の代表の方に私は満腔の謝意を表している次第でございます。大体十数回後に双方の意見が一応妥結いたしまして、非公式の会合に出席していた先方の人が、今ワシントンに帰つて報告をしている最中なのであります。従つて、ワシントン政府の意見もありましよう、また折衝委員のこれに対する説明もありましよう。その最中に東京で内容を公表するということは――約束は私はその場にいなかつたから知りませんでしたが、国際関係の礼儀からいつてもまだちよつと早いように思うのであります。花村委員としては国の重大事でありますから、一刻も早く知りたいというお気持はよくわかるのでありますが、そういう事情でございますので、いましばらく御猶予を願いたいと思います。そういう向うでの折衝が済んでいよいよ調印ということになりましたならば、もちろん全部、できるだけ丁重に誠意を持つて報告をいたしたいと存じております。今のところ、法務省の立場といたしましては、このたびの一応まとまつた妥決にはおおむね満足をいたしておる次第であります。これ以上申し上げたいのでありますが、今のような事情でありまして、いましばらく御猶予を願いたいと存じます。
#90
○花村委員 これはまことにどうも意外な御答弁で驚き入つた次第であります。この協定はすでに行政協定の第十七条において規定せられておりまして、北大西洋条約の当事国間の協定が合衆国において効力が発生した以上は、日本との間において協定を結ぶということは、行政協定で明らかに規定せられておることであり、しかもその案件といたしましても、刑事裁判権がどちらにあるかというような事柄で、一向秘密を要すべき事項ではなく、むしろ当局は進んでこの種重大なる行政協定の改訂については、国民の意見に聞きあるいは立法府に十分にその経過並びに内容を明示して、そうして国民の輿論のあり方をその協定の中に織り込まなければならぬことは当然である。こういうわかり切つた事柄を秘密ずくめで行くというところに、吉田内閣の秘密外交の非難がある。これは非難されても弁解の辞がない。こんなわかり切つたこと、刑事裁判権が一体どちらにあるべきか、そうしてそのあり方がどうあつてほしいかというようなことは、何も秘密にする必要はごうもないじやありませんか。これこそ天下にはつきりと明瞭にして、そうしてその行き方を国民に示すということがむしろとるべき政府の態度である、こう私は申し上げてよいと思うのであります。でありますから、そういう約束があつたかなかつたかというようなことはあえて知る必要もなし、またわれわれの周知せざるところでありますガ、そういう旧来の秘密的な観念はもうきようこの場合に打捨てられて、そうして明朗な外交の線に沿つて進むという意味において、まあきようはざつくばらんに、今までの協定の内容についてひとつお話を願いたいと思う。そうは申しましても、政府当局の方からいえばこれはなかなか簡単には参りますまいが、そこはひとつかみしもを脱いで、きようはまあ秘密委員会でも開いたようなつもりで、大体の筋道だけはお話を願つてもしかるべきじやなかろうか。それが調印されて発表されることは、これは当然で、そんなことはわれわれは今日聞こうともしないし、そうして調印されてから発表せられることをわれわれは待とうともしない。今日調印せざる前にその内容を聞いて、そうしてわが国のこの行政協定の改訂に対して誤りなきを国民としてひたすら念願するためにわれわれは言うのでありますから、愛国の精神に燃えておられる当局の方々は、そういうお考えはきようはひとつさらりと捨てられて、かみしもを脱いで御答弁を願いたい、こう思います。
#91
○犬養国務大臣 ごもつともでございます。お心持はよくわかるのでございますが、御承知のようにこの協議の当事者は外務省でございます。私どもの立場としましては、今お話、ありました通りでありまして、当法務委員会でかねてより刑事裁判権に関する問題のいろいろの御意見を伺い、また御注意も伺い、ときにはおしかりも承つて来たのでありますが、その全部を私は体しまして、法務省としては言うべきことは全部外務省に申し上げてある。幸いに外務省はそのすべてについて御理解がありまして、この点私は非常に今度は気持よく思つておるのであります。十数回にわたつて協議があるくらいでございますから、双方の自分の言い分というものもあるわけであります。そこを両方で妥結するのが会議であろうと思います。これは花村さんよく御承知の通りであります。そこで、いまだ双方の政府に会議の結果一応の妥結を得た点について説明しなければならぬことがあるし、ワシントン政府でも説明を聞かないとわからない点もあるでございましよう。今ちようど説明している最中でありまして、その最中に日本の法務大臣が全部公表してしまうというのは、私は秘密外交はきらいでありますけれども、どうも国際間の礼儀として御遠慮をする。その辺まことに御趣旨に沿わないわけでございますが、御了承を得たいと思うのであります。但し、この委員会で花村さんからも伺いましたし、与党の諸君あるいは社会党の諸君からもいろいろお話を承つて、私はその大部分をもつともと思つている一人でありますが、その全部を外務省に伝えてあるということは申し上げ得ると思います。また外務省もそれについて、これは当然だというような考えで私どもの意見を聞いてもらつたことも御報告できるのでありまして、これだけ申し上げたらあとはひとつお察しを願いたいと思うのであります。
#92
○花村委員 犬養法務大臣のことでありまするから、万事御如才なくしかるべく折衝されておつてくださることであろうとわれわれはあくまでも信じております。でありまするから、しいて国際信義をまげてまでも御答弁を願うというような無理は申さぬことにいたしましよう。それで、大体わかり切つたようなことぐらいは御答弁なすつてもいいと思いまするから、こちらでもひとつそこのところをうまく調節して、答弁をなすつてもさしつかえのないようなことだけをお尋ねいたしたいと思います。まずその第一として、行政協定の第十七条の一項を見ますると、日米間におけるこの種協定は、日本国との間に北大西洋条約の協定の相当規定と同様の刑事裁判権に関する協定を締結するというように規定せられておりまするから、多分この北大西洋条約と同様な、つまり相当規定を設けられたことであろうとわれわれは信じておるのでありまするが、この北大西洋条約と何かかわつた点でもありましようか。かわつた点でもあるならば、その異なる点だけをひとつ指摘してお答えを願いたいと思います。
#93
○三宅説明員 先ほど来犬養大臣から仰せのように、内容の詳細は申し上げかねるのでありまするが、北大西洋条約の規定、つまり北大西洋条約の第八条と同様の規定にするということに非公式会談では意見がまとまりました。
#94
○花村委員 ところが新聞紙上を見まするというと、これは北大西洋条約と異なりまして、何らか日本が屈辱的な立場に立つてこの協定が改訂せられるがごとき記事が載つております。すなわち、昨晩もラジオの放送でもあつたように思うのでありますが、もし日本が刑事裁判権を希望せられるということであるならば、米国がこれを与えてもよろしいと、何か米国が権利を日本に与えるがごとき口吻を米国の方で漏らしておるやの放送を聞いたのでありまするし、なおまた新聞紙上によつても米軍人、軍属が勤務外外犯罪を犯した場合、日本はその軍人軍属を日本の法廷でさばくか、または米軍当局に引渡して処断させるかのいずれかを選ぶ権利を保有する。これは当然日本が勤務外の犯罪に関する専属権を持つの竹なくして、米国の当局に引渡して処断させるか、あるいは日本でその裁判を進んでするかという選択権を保有するというようなことが書かれてありますのみならず、さらに米国は日本政府に対し、容疑者を米軍事法廷で裁判するため、日本側が裁判権を放棄するよう要求する権利を持つ、こういう、むしろ米国側に裁判権があつて、日本が希望するならば与えてやる、希望しなければこつちでやるのだというような、きわめて不対等的な規定が設けられるのであるというような新聞報道もあるのでありまするが、こういうことはありませんか、ありますか。どうですか。その点をお尋ねいたします。
#95
○三宅説明員 交渉中におきまして今御引用になりましたようなアメリカ側の主張と申しますか、要求というようなものは、一度も出されたことはございません。それから非公式会談の結論におきましても、そういうことは心然入つておりません。
#96
○花村委員 それからなおお尋ねしたいのですが、米国側では、日本側に刑事裁判権を北大西洋条約のように全面的にゆだねられないということは、日本の犯罪に関する刑罰規定が重きに過ぐる観があるということが一つ。あるいはまた刑事手続上の問題、すなわち人権擁護に関する点について、たとえげ日本の逮捕状の執行と、米国官憲の逮捕状の執行とは、おのずからそこに差異のありますことは御承知の通りであります。日本の逮捕状の執行は、前にも法務委員会で問題になりましたように、とかく常に人権蹂躙問題が伴つて行くという、そこに欠陥を持つておりますことは、争われざる事実であります。しかるに米国等におきましては、犯罪容疑者を逮捕して参りますまでには、すべて犯罪に関する証拠を固め、しかも裁判官の前においてその被疑者を取調べて、逮捕状を出すというような、丁重な取扱いをいたしております関係かち、人権蹂躙に関する問題等は、ほとんど起きておらない。こういう米国の逮捕状執行に関する手続等から参りましても、どうも日本の今日の手続にまかしておいたのでは、人権擁護の上からすこぶる危険であるというような、いろいろの点を指摘いたしまして、結局日本の官憲のこの刑事裁判権執行に関する行動に対しては、信頼するに足らぬというような意見が相当強く、従いましてただいま申し上げましたような、日本の裁判権の保有を不対等の関係においてきめるというような問題が、醸成されておるという報知も受けておるのであります。この日米交渉の経過途上において、かくのごとき問題も論議せられたかどうか。論議せられたとするならば、その結果はどうなつたか。それをひとつお尋ねいたしたいと思います。
#97
○三宅説明員 御承知かと存ずるのでありますが、NATO協定が米国上院で審議せられました際に、アメリカの軍人が外国の法廷でさばかれる場合に、人権の保護については米国の上院は非常な関心を持つておる、であるからもし人権が侵されるような場合には、その駐在国に対して、裁判権の放棄を外交的手続で要請すべしという上院附帯決議まである次第でございます。またそういうことがございましたので、アメリカ側におきましては、この交渉の始まります前に、日本憲法、刑事訴訟関係の法令を逐一研究いたしまして、そのために、交渉の始まるのが実は遅れた一つの原因であるのであります。その結果、日本の法制としては人権の保護に十分であると認めまして、改訂のための交渉も開始されることになつたのであります。従いまして交渉の途中におきまして、この点は日本の法制が不備ではないかとか、人権の保護に欠くるところがあるのじやないかというような議論は、一度もなされません。従いまして、その面から来る制限というものは、この間非公式会談で妥結いたしました案には、何ら入つておりません。全然NATOの通りでございます。
#98
○花村委員 そうしますと、大体行政協定第十七条第一項の線に沿うて進められるという意味において、私どもも不安感を持ちつつ、安心感を持つていいと思うのであります。そうしますと、大体において本協定の原則としては、北大西洋条約の七条にありますように、軍人、軍属並びにその家族に関する犯罪としては、米国側においても軍事裁判権を持つ、それからさらにまた、日本の領土においてこの種犯罪が起きた場合においては、日本においてもその裁判権を持つという原則が打立てられて、そこで米国の裁判権と日本の裁判権とが競合した場合においては、業務執行中の犯罪については米国の軍事裁判所がその専属管轄であり、しからざるものは日本において裁判権を持つという、大体この線に沿うて協定が進んで来たことは、これは了承しておいてようといですか。
#99
○三宅説明員 大体その通りでございます。若干今おつしやつたのは、こういつては失礼ですけれども、全部は尽しておりませんけれども、その線でございます。要するにこのNATOに書いてある通りでございます。
#100
○花村委員 それでは次にもう一点伺いたいのは、施設並びにその区域内における公務外の軍人、軍属並びに家族における犯罪に関する刑事裁判権はどちらで持つておりますか。
#101
○三宅説明員 施設区域内におきましても公務外の犯罪は、日本が第一次の裁判権を持つことになつております。
#102
○花村委員 それでは最後にもう一点。行政協定の第十七条四項に、日本人が合衆国の軍事裁判所によつて処分を受けたる場合においては、日本国当局に米国側から通告するという規定がありまするが、この通告を受けた件数はどのくらいありましようか。
#103
○岡原説明員 今正確な数をちよつと記憶しておりませんが、ほぼ三百件前後と記憶いたしております。なおこの前、今から二月ばかり前の国会の委員会で、やはりその点の御質問がありまして、若干それを敷衍した数、犯罪の内容等を御説明申したことがあつたように記憶いたしております。
#104
○花村委員 その通告を受けた事案に関して適当に処理せられておるかどうかという点については十分調査研究せられて、しかるべく処理せられておりますかどうでしようか。そうしてそのうちには不条理であると考えられる問題は一つもなかつたかどうか、その点をお尋ねいたします。
#105
○岡原説明員 この点につきましても、先般具体的な事件を若干あげまして御説明いたしたのでありますが、特に取立てて数十件だけは、犯罪事実と刑を盛つた判決の結果と申しますか、それなどを印刷してお配りしたように私記憶いたしております。それによりますと、まあこんなものであろうかなあといつたようなところでございます。ところが中には、私どもが考えましても、これを証拠不十分として片づけたのは、訴訟法の違いはさることながら、どうもふに落ちぬというのもございました。中にはこの程度の犯罪事実で、日本ならば懲役ニ、三年のところを、六、七年いつておる、案外重いのだなあという感じを受けた事件もございました。相当まちまちでございました。しかし全体として、向うの方の軍事法廷におきましても、かなり誠意をもつて事件を片づけておるというふうな印象は受けております。
#106
○花村委員 私はこれで質問を終りますが、こいねがわくは、こういう問題は調印をする前に発表していただくことがしかるべきことであろうと思いますので、今度は秘密にするというような協定はおやめになつて、向うでそういう意見を吐いた場合においては、むしろこちらでその意見を是正して、そうして明朗に、秘密外交を打破した行き方で行つていただくことを希望して私の質問を終ります。
#107
○林(信)委員 関連質問。三宅参事官の御説明の中に、アメリカ側では本国の方に回訓を求めて、しかもその回訓近しといつたようなお話がありましたが、われわれの受ける感じはそうではく、報道機関によつて知り得ますところによつては、かなり紛糾しておるのじやないかというような印象を受けるのであります。たとえば好意的な意見か出まして、日本の裁判に対する信頼感、われわれはこれを相当厚く受取つておる。また人権保護の面からいつても信頼するに足るにかかわらず、裁判権が従来通りであるということは、国際礼譲といつたような面からも考えられるといつたような趣旨の意見が述べられておるということことむしろ反対の強い意見を私はまた聞かないのでありますけれども、好意的なそういう意見が強く打出されておるというようなことが報道されておるにかかわらず、いまだ結論が出ないということは、そり反対論の強いものがあるのじや左いか、こういう杞憂を持つのでありますが、そんなのじやないのでありましようか。
 それからもう一点、この改訂がアメリカの国会できまれば、それで改訂の効力が発生するのでございましようか。あるいは条約ですから、日本の国会にその承認が求められなければならないのであるか。効力発生時期はいつになるのでございましようか。
#108
○三宅説明員 第一点についてまずお答えを申し上げます。アメリカの政治家の一部に、米軍がその受入国の安全保護のために行つておるのに、そのような国の裁判所で自分たちの子弟がさばかれることは感情として忍びない、かわいそうだ、だからアメリカの軍隊当局が専属的裁判権を持ちたいというような気持を抱いておる人があることは事実のようでございます。しかしながら日本の法制が不備だから、日本の裁判所が信用できないから、日本については、日本に裁判権を与えることはいやだというような議論は私どもは一度も聞いたことはございません。そうして先ほど申し上げましたように、私どもが最近得ております情報では、アメリカ側の回訓は近いうちに来る、こういうことになつております。
 それから第二点でございますが、これは御承知のように安全保障条約の実施協定であります。行政協定の改訂でございますので、日米いずれの側におきましても、批准条項というものはついておりませんで、署名後三十日にして効力は発生するということに案文はなつております。
#109
○林(信)委員 先刻来花村委員からもかなり詳細な御答弁を求めんとせられつつあつたのでありますが、いろいろな関係で聞くな、さとれといつたようなお話で、これも了承せざるを得ないと思うのでありますが、事務御当局の岡原さんにお答えを願つたから、幾らかさしつかえない範囲で了承し得る点があるのではないかと思うのです。すぐにわかることですが、表から言わずに裏から聞いても同じだと言わればそれだけなのですが、先刻三宅さんの言われたように、米軍の施設区域内における事件すら裁判権を持つ、従つてそこで被疑者の逮捕あるいは証拠物件の差押えの問題が起る、ましていわゆる施設区域外のもので起つた事件なら、当然裁判権を持つ、捜査の面において立ち入つて逮捕あるいは証拠物件の差押え等のことがあろうと思う。そういう際における国内的な細則がなされるための諸準備があろうと思う。それで人権保護の面から見ますと、在来の施設のみで足るのか、あるいは別種の施設を必要とするのか、少くとも逮捕の面において規則的なものが出されなければならぬ、そういつたようなことが大体あらかじめ措置されておるのでありましようか。少くともやがてしなければならぬということで準備されておるのでしようか。どうかその辺くらいは、説明願える面がありましたら、一応伺いたい。
#110
○岡原説明員 行政協定の十七条がかわつて参りますと、これに伴いまして一部手続がかわつて来るところがございます。従いましてそれが国内法的には例の行政協定に伴う刑事特別法、これの一部の条項の改正という形で国会の御審議を仰ぐことになるのではないか、かように存じておりますが、ただその動く面は、御承知の通り現在の行政協定に基く刑事特別法も大綱をきめてあるだけで、あとは刑事訴訟法に載るような建前になつておりますから、そう根本的な動き方でなくて済むように考えております。準備は大体いたしつつあるわけでございます。
#111
○小林委員長 他に御質疑はございませんか。――それでは本日はこれにて散会いたします。
    午後四時三十四分散会
ソース: 国立国会図書館
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