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1947/06/19 第2回国会 衆議院 衆議院会議録情報 第002回国会 司法委員会 第36号
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1947/06/19 第2回国会 衆議院

衆議院会議録情報 第002回国会 司法委員会 第36号

#1
第002回国会 司法委員会 第36号
昭和二十三年六月十九日(土曜日)
    午前十時五十一分開議
 出席委員
   委員長 井伊 誠一君
   理事 鍛冶 良作君 理事 石川金次郎君
      岡井藤志郎君    花村 四郎君
      松木  宏君    明禮輝三郎君
      山口 好一君    石井 繁丸君
      榊原 千代君    中村 俊夫君
      中村 又一君    吉田  安君
 出席政府委員
        檢 務 長 官 木内 曽益君
        法務廳事務官  野木 新一君
        法務廳事務官  宮下 明義君
        法務廳事務官  岡咲 恕一君
        法務行政長官  佐藤 藤佐君
 委員外の出席者
        專門調査員   村  教三君
        專門調査員   小木 貞一君
    ―――――――――――――
本日の会議に付した事件
 刑事訴訟法を改正する法律案(内閣提出)(第
 六九号)
 民事訴訟用印紙法及び商事非訟事件印紙法の一
 部を改正する法律案(内閣提出)(第一一九
 号)
 裁判所職員の定員に関する法律の一部を改正す
 る法律案(内閣提出)(第一五三号)
 少年法を改正する法律案(内閣提出)(第一五
 六号)
    ―――――――――――――
#2
○井伊委員長 会議を開きます。
 裁判所職員の定員に関する法律の一部を改正する法律案及び少年法を改正する法律案の両案を一括議題といたします。両案について提案の説明を願います。岡咲政府委員。
#3
○岡咲政府委員 ただいま議題となりました裁判所職員の定員に関する法律の一部を改正する法律案の、提案理由を御説明申し上げます。
 本法律案におきましては、判事補の定員を現在より五十五人増加し、司法研修所教官は現官一級一人、二級五人と定められているのを、一級十人に改め、さらに裁判所事務官の定員を、現在より二級において四十八人、三級において二百四十一人、それぞれ増加しようとするものであります。
 その理由は、最近地方裁判所における令状関係事務の激増に伴い、その迅速、適切な処理をはかるためには、新たに判事補五十五人を増員することが、緊急やむを得ざることと認めた次第でありまして、また家事審判所における事務は繁忙を極めているのでありまして、右事務の迅速、適正な処理をはかり、もつて一般の要望に副うためには、新たに裁判所事務官を二級において四十八人、三級において二百三十六人増員することとが、やむを得ざる必要と存ずるのであります。
 次に裁判官及びその他の裁判所職員の研修制度の重要であることにつきましては、いまさら申し上げるまでもないことでありますが、司法研修所の重き使命を達成するためには、この際その機構の強化をはかることが適切かつ肝要でありまして、これがためには、現在司法研修所教官は一級一人、二級五人とあるのを、一級教官十人に改め、なお三級の裁判所事務官五人を増員することは、これまた眞にやむを得ざる最少限度の必要と存ずるのであります。
 何とぞ本法律案につきまして愼重御審議の上、速やかに御可決あらんことをお願いいたします。
#4
○井伊委員長 佐藤政府委員。
#5
○佐藤政府委員 ただいま上程になりました少年法を改正する法律案の提案理由について、御説明申し上げます。
 最近少年の犯罪が激増し、かつその質がますます悪化しつつあることは、すでに御承知のことと存じます。これは主として戰時中における教育の不十分と、戰後の社会的混乱によるものでありますが、新日本の建設に寄與すべき少年の重要性に鑑み、これを單なる一時的現象として看過することは許されないのでありまして、この際少年に対する刑事政策的見地から、構想を新たにして少年法の全面的改正を企て、もつて少年の健全な育成を期しなければならないのであります。
 今回の改正のおもなる点は、第一に、少年に対する保護処分は裁判所がこれを行うようにしたこと、第二に、少年の年齡を二十歳に引上げたこと、第三に少年に対して保護処分を科するかまたは刑事処分を科するかを、裁判所自身が判断するようにしたこと、第四に兒童福祉法との関連に留意したこと、第五に法護処分の内容を整理したこと、第六に抗告を認めたこと、第七に少年の福祉を害する成人の刑事事件に対する裁判権について、特別の措置を認めたこと等であります。以下順次御説明申し上げます。
 第一は家庭裁判所の設置であります。新憲法のもとにおいては、その人権尊重の精神と、裁判所の特殊なる地位に鑑み、自由を拘束するような強制的処分は、原則として裁判所でなくてはこれを行うことができないものと解すべきでありまして、行政官廳たる少年審判所が、矯正院送致その他の強制的処分を行うことは、憲法の精神に違反するものと言わなければなりません。從つて少年裁判所を裁判所に改め、これを最高裁判所を頂点とする裁判所組織の中に組み入れるのは当然のことでありまして、このことは法務廳設置法制定の際、政府の方針としてすでに確定しておるところであります。なお当時は少年裁判所の設置を予定していたのでありますが、その後種々研究をいたし、また関係方面の意向をも参酌して、これを現在の家事審判所と併せて、家庭裁判所とすることにいたしたのであります。これは少年の犯罪、不良化が、家庭的原因に由來すること多く、少年事件と家事事件との間に密接な関連が存することを考慮したためであります。そうしてこの家庭裁判所は、地方裁判所と同一レベルにある独立の下級裁判官ということになつておるのでありますが、この裁判所の組織に関する点は、裁判所法の中に規定されるところでありますから、詳しいことは、裁判所法の改正法律を提案する際に、御説明申し上げたいと存じます。
 第二は年齡引上げの点であります。最近における犯罪の傾向を見ますると、二十才ぐらいまでの者に、特に増加と悪質化が顯著でありまして、この程度の年齡の者は、未だ心身の発育が十分でなく、環境その他外部的條件の影響を受けやすいことを示しておるのでありますが、このことは彼等の犯罪が深い悪性に根ざしたものではなく、從つてこれに対して刑罰を科するよりは、むしろ保護処分によつてその教化をはかる方が適切である場合の、きわめて多いことを意味しているわけであります。政府はかかる点を考慮して、この際思い切つて少年の年齡を二十歳に引上げたのでありますが、この改正はきわめて重要にして、かつ適切な措置であると存じます。なお少年の年齡を二十歳にまで引上げるとなると、少年の事件が非常に増加する結果となりますので、裁判官の充員や少年観護所の増設等、人的物的機構の整備するまで一年間、すなわち來年一ぱいは從來の通り、十八歳を少年年齡とするような暫定的措置が購ぜられておるのであります。
 第三は保護処分と刑事処分との関係であります。現行少年法においては、原則として檢察官が刑事処分を不必要として起訴猶予にしたものを少年審判所にまわして、これに保護処分を加えておるのでありますが、今回の改正においては、少年犯罪の特殊制に鑑み、この関係を全然轉倒し、一切の少年の犯罪事件は、警察または檢察廳から家庭裁判所に送られ、家庭裁判所が訴追を必要と認めるときは、これを檢察官に送致するようにしたのであります。しかもこの檢察官への送致は、十六歳未満の少年については絶対に認められません。そして送致を受けた檢察官は、送致された事件について犯罪の嫌疑があれば、原則としてこれを起訴しなければならないのであります。なお、事件が家庭裁判所に送致されるまでの過程において、檢察官の手を経るか、それとも警察から直接に送致されるかは、大体において、それが禁錮以上の刑にあたる罪の事件であるかどうかによるのであります。この点は今回の改正中最も重要なものの一つでありまして、少年に対する刑事政策上、まさに画期的な立法と申すべきであります。
 第四は、兒童福祉法との関係であります。昨年兒童福祉法が制定公布され、これが今年の四月一日から全面的に施行されることになりました。この法律は、兒童の福祉に関する基本的法律でありますが、この法律で行う福祉の措置は、犯罪少年と虞犯少年には及ばず、またそれず行政機関によつて行われる結果、強制力を用いることができないのは当然でありますから、これらの点については、家庭裁判所が関與し、少年保護の各機関が相互に協力しつつ、少年の福祉をはかり、その健全な育成を期そうというわけであります。今回の改正では、この点について、いろいろと意を用いているのであります。
 第五は、保護処分の内容であります。從來少年審判所は、ある程度において保護処分の執行に関與するのでありますが、これが裁判所となつた以上、むしろ決定機関として止まるべきであり、執行の面に関與するのは適当でないとの見地から、今回の改正においては、決定と執行とを分離し、一度裁判所が保護処分の決定をしたら、その後の執行は全部執行機関に一任することにしたのであります。その代り、決定に愼重を期するため、從來軽い処分として規定されていたものを、多少内容を修正して、決定前の措価に切りかえたのであります。さらに先述の兒童福祉法との関係が、この保護処分の内容としても考慮されており、またいわゆる環境調整に関する措置も講ぜられております。
 なお、この保護処分の中に、地方少年保護委員会に補導を委託するというのがありますが、これは別に提出する予定になつております法律の中に出てくる委員会のことでありまして、少年法との関係においては、委託を受けた少年について、主として観察を掌るのであります。
 第六は、上訴の制度であります。現行の少年法では、保護処分に対しては、本來の不服申立の方法がないのでありますが、今回は人権尊重の趣旨に則り、特に高等裁判所に対して抗告を認めたのであります。その抗告の理由は、決定に影響を及ぼすべき法令の違反、事実の重大な誤認、及び処分の著しい不当の、三つに限られているのでありますが、これは改正刑事訴訟法案における控訴の理由とにらみ合わせて規定したものであります。そして高等裁判所においては、單に原決定の当否を審査するだけで、みずから保護処分の決定を行わず、原決定を不当と認めるときは、事件を原裁判所にさしもどし、または他の家庭裁判所に移送するのであります。また違憲問題等を理由として最高裁判所に再抗告をする途も開かれております。
 第七は、少年の福祉を害するような成人の刑事事件を、家庭裁判所が取扱うことであります。少年不良化の背後には、成人の無理解や、不当な処遇がひそんでいることがきわめて多いのでありますが、このような成人の行為が犯罪を構成する場合には、その刑事事件は、少年事件のエキスパートであり、また少年に理解のある家庭裁判所がこれを取扱うのが適当であり、またかかる成人の事件は、少年事件の取調べによつて発覚することが多く、証拠関係も大体において共通でありますから、この点から申しましても、この種の事件は、家庭裁判所がこれを取扱うのが便宜なのであります。なお家庭裁判所は、これらの成人に対して禁錮以上の刑を科することができず、禁錮以上の刑を科すべきときは、これを地方裁判所に移送するのでありますが、これは本來少年事件を取扱うべき家庭裁判所が、成人に対してあまり重い刑を科すことは適当でないとの趣旨によるものであります。
 以上は改正の要点でありますが、なおこのほかにも、たとえば十八歳未満で罪を犯した少年に対しては、絶対に死刑を科さないとか、その他重要な改正が少くないのであります。そして、この法律案は量的には必ずしも大法典とは申せないのでありますが、少年不良化の問題が、國家の切実な関心事となつております今日、この問題解決のため必要な幾多の根本的改正を含んでいる点において、質的にはきわめて重要な法律であると申さねばなりません。何とぞ愼重御審議の上、御可決あらんことを希望いたします。
#6
○井伊委員長 ちよつと速記を止めてください。
    〔速記中止〕
#7
○井伊委員長 では速記を始めてください。
 両案について爾後の審査は次回に讓ることといたします。
    ―――――――――――――
#8
○井伊委員長 次に民事訴訟用印紙法及び商事非訴事件印紙法の一部を改正する法立案を議題といたします。
 本案は印紙税額引上げの單純な内容でありまして、別に問題の点はないと存じますが、御質疑のある方は、この際御発言を願います。
 別にございませんですか。それでは別に御質疑の向きもないようでございまするが、簡單な事案はなるべく早く処理したいと存じますので、本案について質疑がなければ、ただちに討論に移りたいと存じますが、御異議ありませんか。
    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
#9
○井伊委員長 御異議なしと認めまして、討論にはいります。石川金次郎君。
#10
○石川委員 社会党所属委員を代表いたしまして、本案に賛成するの意を表明します。
#11
○井伊委員長 打出信行君。
#12
○打出委員 民主党を代表いたしまして、本案に賛成いたします。
#13
○井伊委員長 松木宏君。
#14
○松木委員 民主自由党を代表いたしまして本案に賛成をいたします。
#15
○井伊委員長 討論は終局いたしました。これより採決いたします。本案は原案通り決するに賛成の諸君の御起立を願います。
    〔総員起立〕
#16
○井伊委員長 起立総員。よつて本案は全会一致をもつて、原案の通り可決いたしました。
 なお本案に対する委員会報告書の作成、並びに爾後の取扱は、委員長に御一任願いたいと存じますが、御異議ございませんか。
    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
#17
○井伊委員長 御異議ないと認めます。それではさよう決します。
    ―――――――――――――
#18
○井伊委員長 次に刑事訴訟法を改正する法律案について、逐條審議の方針についてお諮りをいたしたいと存じます。ちよつと速記を止めて……。
    〔速記中止〕
     ━━━━◇━━━━━
    〔午前十一時二十一分懇談会に入る〕
    〔午前十一時三十三分懇談会を終る〕
     ━━━━◇━━━━━
    午前十一時三十四分開議
#19
○井伊委員長 それでは午後刑事訴訟法を改正する法律案の審議を進めることにいたしまして、午前中はこの程度にして、午後一時まで休憩いたします。
    午前十一時三十五分休憩
    ━━━━◇━━━━━
    午後一時四十八分開議
#20
○井伊委員長 休憩前に引続き会議を開きます。刑事訴訟法を改正する法律案の質疑を続行します。
#21
○明禮委員 私はこの改正刑事訴訟法の法案について、大きな点を二、三お伺いとしてみたいのであります。
 大体この刑事訴訟法の立て方からいきまはすと、現有の刑事訴訟法とは、大分異なつているところが多いのでありまして、この根本的に改正されたような部門たとえば起訴ごとき点におきまして、いろいろな改正に伴う費用、どのくらい見積られておるのでありましようか。人的物的の費用が相当かかるのじやないかと思うのでありますが、一應この点についてお伺いいたします。
#22
○木内政府委員 この点につきましては、いろいろ目下調査いたしておる次第でありますが、どのくらいというはつきりした数字を得るまでにまだ至つておりませんので、この点につきましては、來週早々お答えいたしたいと思いますから、それまでお待ちを願いたいと思います。
#23
○明禮委員 そこで今の刑事事件の数からいきまして、大阪の地方裁判所関係の檢察廳で取扱つている事件が、一箇月約二万件と聞いておりまするが、ほかのところも、それに相應したたくさんの事件があるのではないかと思います。現在の制度ですら、まことに事件がたくさんあつて、判檢事の人々は、非常に困つておられると私は思うのでありまするが、いわゆる手不足、あるいは部屋の不足、いろいろな方面において、非常にやりにくいのであります。今度これが改正されまして、どのくらい人員は増す御予定でありますか。それともこのままでやつていかれるおつりでありましようか。
#24
○木内政府委員 御心配のように、これを実施する場合には、相当の人員あるいは設備等についても、十分考慮しなければならぬとは思つておるのでありまするが、しかしながら、そのために実施期間を約六箇月おいてあるわけでありまするから、その間にできるだけの、むろん欠員を補充する等いたしまして、あるいは設備等につきましても、十分考慮をいたす考えでおります。ただ大体どのくらいの人を増さなければならないか、あるいはどの程度に設備を拡充しなければならないかという、こまかい正確な点につきましては、これまた数字的になお檢察廳並びに裁判所側とも交渉しておりまして、近く大体その見透しについて、その人数等も出ると思つておりまするが、とにかく私どもにおきましては、ちようど刑事訴訟法應急措置法の実施の場合のときと同じように、あの際におきましても、ああいうような方法でやると、とうてい現有の手不足等ではやれないというわけで、いろいろの意見が出たのでありまするが、しかしながら、もつとも大事な、憲法の命ずる基本的人権の保障ということを実際に動かしていくのは、刑事手続もその重要な一つであると考えておるのでありまして、そのための万難を排して、應急措置法を実施いたした次第であります。なるほど應急措置法を実施した当時におきましては、一、二箇月ぐらいは、多少の手違いも生じたりいたしましたが、やつてみますると、とにかく今日までさしたる不便もなくやつてこれておるのであります。しかしてこの改正案は、大体が應急措置法の線に沿うて、これを條文化したものでありまして、從つてむろん御心配のようにいろいろの困難は起きることも予想されるのでありまするが、やはり應急措置法の場合と同じように、とにかくこれを実施しなければならぬ段階にあるのでありますし、さらに、これを十分運用していけるだけの確信をもつておる次第であります。
#25
○明禮委員 私の聽きましたところによりますと、今度の刑事訴訟法を改正いたしましても、なかなかこれを実施されるのには、相当の日数が要るのみならず、人員も相当に増加しなければやつていけないという見透しのもとに、裁判所側のある人もこの意見を述べておられるのを聽いたのであります。なお東京に弁護士会が三つありますが、三つの弁護士会の連合会の当事者として聽いたわけではありませんけれども、三つの弁護士会の会長あたりの御意見を聽いたところによりますと、なかなかこれは、今すぐに実施するということは容易ではないから、もう一回先へ延ばしてやつてもらわなければ、十分に準備が整わないのではないか、近くその進言をするというようなことを、実はきのう聽いたのでありますが、多分連合会長の名前をもつてか、あるいは弁護士会の名前をもつてか、この刑事訴訟法の実施方について、根本的問題もありますけれども、こういう建て方になるときには、かりにこれが通つても、延びるよりほかはないであろうということを言つておるようでありますが、六箇月先にこれを実施するだけの御自信があるのでありますか。それを承りたいと思います。
#26
○木内政府委員 いろいろ御心配になつておる点につきましては、私も一々ごもつともと存ずるのであります。なお裁判所側におきましても、員数の点等において、一部にいろいろの議論もあるということも承知いたしております。しかしながら、私の傳え聞いておりますところでは、裁判所側におきましても、公式にいろいろ会議を開いて相談をいたしておられるようでありますが、その判事の増員等についても、さしたる数を早急に殖やさなくても、何とか動かしていけるというような方向で、御相談し得るように承つておるのであります。なお裁判所の書記の点につきましては、私は相当の増員が必要だろうと考える次第であります。
 それから檢察官の方におきましても、同樣に相当の数の増員を必要とすることはもちろんであると思うのでありますが、先ほど申しましたように、この六箇月間におきましても、できるだけこれを補充いたし、そして最もとりやすい檢察事務官を増員いたしまして、檢察官の補佐として、十分の活動をさせるようにいたしたいと考えておるのであります。さような点等を考慮いたしますと、十分これは六箇月の期間で私どもは実施できると考えておる次第であります。ただ全部の設備が整い、すべての手が十分に整わなければ実施できないのだ、こういうことでありますと、一体半年どころか、はたして一年になつてもそういうことが充足できるか、今日の日本の國家財政の状態においては、二年後においてできるか、三年後においてできるか、見透しがつかないのではないかと思うのであります。そして先ほども申し上げましたように、憲法の要請している基本的人権の保障という問題に関連いたしまして、憲法附属の最も重要な法典は、刑事訴訟法であろうと思うのであります。この憲法の要請するような刑事訴訟法が、一日も早く実施されることが、日本のために最も仕合せなことでありまして、私どもも万難を排して、これを一日も早く実施いたしたい、かように考えておるのでありまして、應急措置法の実施の場合のときと同樣に、全力をあげて、その足りないところを努力と熱意によつてこれを補つて、そうして実施に遺憾ないようにいたしたい、かように考えておる次第であります。
#27
○明禮委員 私初め各委員とも最も新憲法に即したるところの刑事訴訟法、これが基本人権を擁護する手続でありまするから、でき得る限りその線に沿うたものができることは賛成するわけでありまして、これを何とかしてやり止げるには、少くともそれに伴うところの、今申した費用とか人員並びに建物等の設備が、やはり伴わなければ、やるにやれない実情になる場合がある。急ぐことはよろしいのでありますけれども、ただ急いでみても、実際において行えないような実情になつたのでは、遺憾であると思うのであります。從つてこれを実施されるのにつきましては、私ども決して反対するわけではありません。要するに今日は國費多難の時代でありますから、大体これに要する予算がどれだけかかり、人員はどれだけ殖やして、建物についてはどうするこということが、先ず前提でないかと思うのであります。しこうしてそういうことが、まだ算定ができておらぬということで、私は遺憾に思うのであります。予算の見透し、人件費、建物その他設備について、大体方針と申しますか、基礎を明らかにされたいと思うのでありますが、何日くらいの予定でそれをお示し願えましようか。
#28
○木内政府委員 ただいま私どもの方として、その点についてはいろいろ準備をいたしておるのでありますが、各方面の資料を集めるのに遅れておるわけでありまして、遅くとも來週の火曜日くらいまでには、この問題につて資料を提出することができると考えております。
#29
○明禮委員 それではいずれ二十二日項に、その点拜見いたすことにいたします。とりあえずきようは大あらましなところを承つてみたい。そこでこの法案によりますと、木内政府委員の説明にもありました通り、起訴状には証拠物を添付しないのであるということでありましたが、起訴状に証拠物を添付しないで提出いたしますときに、檢察廳側では、証拠物の点については、十分に取調べができておるはずでありますけれども、弁護士の方の立場といたしますと、被告人に聽けるでもありましようけれども、どんな取調べがあつてどういうふうになつておるという内容に至つては、わからないのが常であります。また裁判官といたしましても、公判期日までそれを見ないで、そのときに見てそれから進行するというようになるといたしますと、裁判官の方でも――なるほど白紙で臨むという御説明でありまするから、予断を抱かないということは、あるいは言い得るかもしれませんけれども、ただ起訴状だけでは十分にわからない。大岩の筋だけでありますから、私どもは証拠物を附せないということは、取調べの公平の原則を第一破つておるのでないか、殊に期日の変更等についても十分に考慮されているように法案で見まするが、この点については、私ども何がゆえに証拠物を出すことができないのか、それを出したがために、何がゆえに予断を抱くか、私にはちよつと考えられないのでありますが、この点について御説明を伺いたい。
#30
○木内政府委員 お答えいたします。起訴状だけてまず公判へ起訴をするわけでありますが、先ほども仰せられましたように、これは裁判所に対して事件に予断を抱かせないというためでありまするか、しかしながら起訴状一本だけで裁判所に審理をしてくれということであれば、これははなはだ無理な注文だと思うのであります。それがために二百九十七條によりまして、まず証拠調べの範囲、順序、方法等をきめることになつております。その前に申し落しましたが、二百九十四條で檢事が起訴状を朗読したあとで、檢察官の冒頭陳述と申しますか、檢察官の方では、この事件についてかような証人、かような証拠物があるということを、まず述べることになつているのであります。しかしながら、どういう証人はこういうことを言つているとか、あるいはこの証拠書類にはこういうことが書いてあつて、本件は事件が明瞭だというようなことまで述べることが許されないのであります。起訴状だけを公判にもつていくという建前に反しまして、裁判所に対しまして、一つの意見を出して予断を抱かせるということになる。しかしながら、ただ起訴状一本では困るので、こういうふうな事件について何々という証人がある、何という証拠書類があるという、いわゆる名前あるいは題名だけを述べて、裁判所の審理の資料にするわけであります。そして二百九十七條によりまして、そけぞれ檢察官あるいは被告人弁護士の意見を聽いた、それではどういう範囲で証拠調べをやり、どういう順序方法で証拠調べをやつているかということを、まずきめることになつて、そして審理を進めていくわけでありますから、裁判所がかりに尋問をされる場合には、捜査記録がなくても困るようなことはないという建前になつているわけであります。それから捜査記録は、檢事の手もとにあつて、被告人、弁護人側の方にこれを知ることができないのは、どういうものかという御趣旨の御質問のように思いましたが、公判廷へ証拠を出すには、非常な制限がありまして、檢察官の聽取書は、從來のごとく全部法廷へ提出することはできないのであります。從つて檢事の手もとに、どういう聽取書なり、あるいは証拠物があるかということを、全部被告人側が知る必要もないわけであります。檢事の手もとには調べたものが全部ある。弁護人の方は被告人に聽けばわかるが、しかし空手で法廷へ臨むのでは、非常に公平の原則に反するのではないかという御質問の点につきましては、当事者訴訟主義は、原則として公判以後の問題であります。捜査につきましては、檢事の方はさような事件については、何ら白紙で知られないわけでありますそれを言葉は悪いかもしれないが、暗中模索をやつて、檢事はいろいろ資料を集めるわけであります。ところが弁護人の方、被告人の方は、その被疑事実については、自方が一番よく知つておることでありまして、この問題については、だれに聽いてもらえばどういうことがわかるというようなこと、またどういう書面を見てもらえば、こういう点が明らかになるというようなことは、一番被告人が知つておることでありまして、弁護人の方は、被告人によつて十分の調査ができるわけであります。なお捜査はやはり原則として密行すべきものであります。これは要するに公共の福祉、被告人保護主義とこの問題をいかように調和していくかということの問題にかかつておるわけであります。なお捜査は敏速にやらなければならぬ。さような点も十分考慮の中に入れなければならぬので檢察官の捜査につきまして、できた資料を弁護人が全部調べる必要も起きてこないのじやないか。檢事の方で証拠を公判に提出する場合におきましては、これは訴訟法の改正案の規定にも明瞭に規定しておりますが、一應被告人なり弁護人に、その提出すべき証拠物を見せるなり、あるいは証人の申請をする場合においては、証人の氏名、住所その他のものを弁護人に知られなければならぬというわけでありまして、法廷へ出る前に、弁護人の方が十分知り得る機会を與えておるわけでありますから、決して捜査記録を弁護人の方において全部見なければならないという必要もないと考えるのであります。
#31
○明禮委員 これは私ども実際に弁護をやりました実驗によつて申し上げてみたいのでありますが、弁護を頼まれて起訴状というものを読むことは読んでみますが、はたして今まで起訴したことについて、どのくらいの根拠があつて起訴したのかということは、すぐにわれわれに映ずるところであります。從つて証拠物についての、とるものととらないものとはいくらありましても、一應こういう事案については、どれだけ調べておるか。そうして調べておるのが足りないところがあるかどうか。それについて反証を出さなければならぬということを、すぐに受認をすると同時に、これは考えられることであります。往年民事事体におきましては、準備手続という期間をおいて、準備手続においては、公判廷を開かないで、対座的な原告から請求の原因を陳述し、被告がこれに対して答弁をし、互いに立証にはいつて証拠物を提出していただき、公判を開くというときになつて開廷をするという順序のやり方をやつたことがあるのであります。民事事件においても、そういつたやり方をやりましたが、ほんとうに日時がかかりまして、結局そういう準備手続というものは、意味をなさぬものだということになつて、最近は自然止めてしまつて事務手続をとられるようになつたのであります。この冒頭陳述というようなやり方は、アメリカからの法制を受けてしると思いますが、これは準備手続というようなことでいくのですか。やはり初めから公判を開くものではありませんか。そこの点よく理解しかねるので、ちよつとお伺いします。
#32
○木内政府委員 これはもう準備手続ではなくして、公判手続であります。
#33
○明禮委員 公判手続でやるとすれば、その証拠物がない場合に初めて公判手続でありまして、公判手続の説明を聽き漏しまして十分にわかりませんが、公判手続においては、証拠なしで事実調べをやるのでありますか。
#34
○木内政府委員 いわゆる被告人尋問という制度が今度はなくなつたわけであります。
#35
○明禮委員 そうすると、被告人でも交互に見ておるところに、陳述を拒まなければ述べてもよいということになつておるのでありますから、これは弁解と申しますか、被告の証拠となるべき陳述は見ないということにして、ある程度それで自白があつたようでありますが、自白をした場合、ちよつと條文にあつたと思うが、とにもかくにも被告は調べないかもしれないけれども、被告が弁解とか陳述に対しては調べる機会があるようでありますから、そういう場合を一應通過して、それから証拠調べにはいるのであります。そうすると、証拠調べにはいつた場合に、証拠申請をするということは、初めからどういう証人を調べるか、今調べてあるものが、冒頭陳述で輪廓が出たばかりで、あとどういう証人を調べるかということは、そのときはきまらないで、次回にきめることになりましようか、どういうことになりましようか。
#36
○木内政府委員 最初にお話の被告人尋問の点につきまして、言葉が足りなかつた点がありますから補足いたします。從來のように、最初からまず被告人の尋問を求めて、それから証拠調べにはいるという形でなくして、むしろ証拠調べが主であつて、被告人が陳述をしたいという場合には、むろん被告人に陳述をさせますし、またその被告人の陳述も、從來のようにまず最初に陳述しなければならぬというのではなくして、いつでも述べたいというときに述べ得る建前になつておるわけであります。
#37
○明禮委員 証拠調べにはいるときどういうふうにして証拠調にはいつてまいりますか。期日の点はどうなんですか。
#38
○木内政府委員 そこで最初に全部をきめてしまわなければならないというわけではないのであります。
#39
○明禮委員 それもそうに違いない。何もそのときに全部きめなければならぬことはありませんが、こういうやり方のために、たとえば弁護人という立場から申しますと、全然わからないで、その日に出まして、そういう証拠調べの段階にはいりましても、どういう人を調べて、どういうふうにしていくということは、檢察官側はわかるかもしれませんが、弁護人側はわからない。また裁判所も、ただ檢察官の言うところだけで、自分の方ではどういう証人を調べたらよいかということはわからないわけでありますが、ただ檢察官だけの証拠調べの申請でやつても、弁護人の方の証拠に調べについては、次に延ばしてずつといくという方針ですか。
#40
○木内政府委員 その点はむろんルールで詳細に規定されるものと思いますが、これはむろん檢察官の申請した証人だけを調べるというようなことではありませんで、檢察官側が提出する証拠書類等については、先ほど申し上げました通りに、弁護人側は、それが法廷に現われる前に、弁護人にこれを見せなければならないということになつておりますので、さようなものは法廷に出る前に、弁護人は十分閲覧することができ、また証人もどういう証人が出るということは、あらかじめ被告人または弁護人の方へ知らせなければならないことになつておるのでありますから、その点は十分弁護人の方でもあらかじめ承知されて、これに対する対策を講ずるだけの準備期間は十分あると、かように考えるのであります。
#41
○明禮委員 これはそういう建て方でいきますと、現在やつておりますように、数件の事件をもつておる人が、数件を交互に入れていくというやり方でなく、刑事事件をやり始めましたら、そのときにもう着手してた、ずつとこの事件だけやつてしまおうというやり方になるのじやありませんか。
#42
○木内政府委員 この改正案の建前は、原則としてはとにかく、なるべく今までのように、次回期日までの間に長い期間をおかずに、接着して進めていきたいという考え方になつているわけでありますから、原則としては、今御質問のようなことになると思うのであります。
#43
○明禮委員 そうしますと、どうもそこに証拠を出しておいて、証拠が見れぬことはないかもしれませんが、初めから起訴状についていけないために、かえつてどういうところで予断を抱くのでありましようか。私どもはこういうものが全部ついておつて、それを見て初めてやる。たとえばそれがいつも出てくるから申し上げるのですが、弁護人としてやりますと、なかなか接着した期間にどんどん入れてやれず、一月、二月、三月先へはいつてくるというなら相当余裕もありますが、一週間や三日、あるいは極端に言えば今日開廷をして、またすぐあさつてという場合に、どんどん原告官である檢察廳の方は、証拠調べが済んでいきますけれども、弁護人側の証拠は場合によつては遠方から聽き合わせたり調査したりしなければならぬ事実が相当あるのでありまして、事件を早く進ませる意味においては、証拠物を出しておくことが早く進むのであつて、そうすれば公判の期日の変更も許されないということもできるし、証拠物の出し遅れも許されないということができますけれども、こういうふうな状態で進みますと、公判期日の変更も当然に相当許されなければならぬし、從つて証拠物の出し遅れも相当に予期しなければならぬと思うのであります。証拠物をつけておくことのために予断を抱くというのは、どうしても解せないのであります。その点をひとつ詳しく御説明願いたい。
#44
○木内政府委員 今明禮委員のおつしやつたように、現在のように起訴する場合に、檢事なり搜査官の搜査記録が全部ついておつて、それを公判開廷前に裁判官が読むということは、かえつてこの事件に予断を抱くことになると考えるのもおかしくないかという御趣旨のように思われるのでありますが、私はさように考えていただく人があるということを、非常にありがたいと思うのであります。むしろ從來事件に現われまして、弁護人が事件を見られる場合において、常に檢事等の搜査記録を、裁判所が土台にして事件を審議することがよくないという攻撃を、実は私の方は常に開いておりましたし、またこの委員会におきましても、さような御発言もあつたように記憶いたしておるのであります。なお今回の改正案におきまして、搜査記録を裁判所へ提出しないというのは、ただ裁判官に予断を抱かせないということは、主要な目的でありますけれども、そのほかに搜査官の調べた聽取書等におきましても、先ほど御説明申し上げました通り、公判廷へ証拠として提出できないものも相当あるのであります。今回の改正案によりますと、警察官の聽取書というようなものは、法廷へ証拠としと提出する場合は、ほとんどないと言つていいくらいに限定されておるわけであります。それで從來のように記録をつけて出すことになりますと、証拠能力のないものさえも、裁判所の目に入れることに相なるわけでありますから、從つて公正な裁判をする上において、むしろ障害になるのではないかと、かように考える次第であります。
 それからもう一つは搜査記録が全部出ていないために、かえつて公判が延びる場合があるのではないかという御心配であります。そうしてなお檢事の手もとには証拠がいろいろあるが、弁護人の方はから手で法廷へ臨むわけであるから、その準備のためにも、いわゆる公判期日を接着してきめられることは、非常に困るのではないかという御心配でありますが、この点につきましては、とにかく大体第一回の公判期日において、おそらく檢察官は最初の冐頭陳述の場合において、もつておる必要な証人、調べてもらいたい証人、あるいは提出すべき証拠物等について、そこで述べておるだろうと思うのであります。それに基いて弁護人の方が準備の期間は十分與えられて、次の公判期日が定められることになるだろうということを私どもも考えておるわけであります。
 なおもう一点、先ほども申し上げました通りに、公判中心主義でありまして、その公判をむしろ原則として、証人を公判延に直接喚んで尋問するということが、この訴訟法の建前になつておるのでありまして、証拠物が法廷へ出るという場合は、むしろ附属的なものになつておるわけであります。それからなおいわゆる法廷に出たものは、すなわち証拠能力があるわけでありまするが、その証拠能力のあるもののみによつて、裁判所が判断をしていくということになつていくわけでありまするから、御心配のような点はなくなるのではないかと考える次第であります。
#45
○明禮委員 どうもそういうやり方でいきますると、私どもが実際法廷に立つた場合に、現在の刑事訴訟法のやり方ですから、期日の変更というものは、相当免れないのであります。それから被告人からいろいろなことが聽けるじやないかということでありまするけれども、実際においては刑務所へ会いに行くといたしましても、一日を要するというようになつてきておるのであります。朝も早く行かなければならぬというような実情であります。しかも相当遠い辺鄙なところに刑務所があるというところは、ずいぶんあるわけでありまして、かえつて事件の進行を妨げるのである。また証拠物にならないものがかりにありましても、事件を観察する上において、犯人をとらえたときの調書にいたしましても、そのときの事情を調べた被害者からの陳述書といいますか、調書等にいたしましても、すべてやはり事件がどういう成立ちから起つているかということを知るために、事件を処理するために見ておかなければならぬ書類でありまして、私どもが事件を頼まれましても、忙しい場合は、現在の制度といたしましては、被告人に極端に言えば会わなくても、裁判所にある記録を全部写させれば、その記録によつて全部を知ることができるのであります。事件の起つた時分から、証拠となるとならざると全部見ることができる。そうして被告本人の事件の関係を聽けばこれで十分に処理ができる。裁判官も私はそうだと思う。そういうものを見ておいて、初めてその証拠はどういうふうにいくか、これを採用するかしないかということも、そういうものがわかつていなければ裁判官としてもわからない。どうしても私はむりにこういう制度をやらなくても、つけておいて予断を抱くと言つても予断の抱きようはない。事件を見て、なるほどこういう事実があつたかということで、それに疑念があつたら、その疑念を一層堀り下げて調べるという態度に出るのでありまして、私どもはどうしても公平の原則に反しない証拠物、あるいは陳述書、被害者の申出、聽取書等もつけておいてしかるべきだと、私は考えるのでありますが、この点については、どうしてもこういうやり方でないと、当局は新しくないのだという御意見でありましようか。
#46
○木内政府委員 私は御説ごもつともと思うのであります。現行法は大陸法の法系を継いでおり、改正案は英米法の法系を継いでおるのであります。私はいずれも一長一短があると思います。殊に私どもは從來から大陸法になれているために、一層大陸法に非常な執着をもつている次第であります。從つて私どもが昨年末につくり上げた刑事訴訟法の原案は、どうも古い頭というか、從來のなれた制度に重きをおいて原案ができたわけでありまするが、しかしながら、いろいろ折衝の結果、この改正案のような案になつたわけであります。私どもこの改正案ができ上りまして、これをいろいろ見ますると、私は現行刑事訴訟法の方が、むしろ欠陷が多いのではないか、改正案の方が基本的人権を擁護する上において、はるかに至れり盡せりのものであると考えている次第であります。
#47
○明禮委員 それはあなたはおつくりになつたのだから、悪い法案だとはおつしやらないでしよう。これくらいいい法案はないと考えられるかもしれませんが、私どもは実際を尊ぶのでありまして、空理空論、理想論ではいかぬのであります。これは実際やつてごらんになつたら、二、三年もすると、あんなつまらぬことをこしらえておいていけなかつたなということが、おわかりになるのであります。どうしてもこれは実際に合うように、ぜひお願いしたいと思うのであります。その点はもう少しお互いに研究することにいたしまして、次に二百五十六條の起訴状には、訴因を明らかにしなければならぬ。こう書いてあるようでありますが、この訴因という言葉は、わかつているようでわからないような氣がいたしますが、どういう意味に承つたらよろしいのでありましようか。
#48
○野木政府委員 訴因というのは、新しい言葉でありまするけれども、要するに一つの社会的事実としてのある犯罪現象がある。それを一つ法律的に構成しまして、たとえば刑法二百三十五條窃盗をやつたとかいうように法律的に構成した事実、それを訴因。ですからある物をとられたという場合におきまして、あるいは暴行を伴えば強盗、暴行を伴わなければ窃盗となるのであつて、しかも社会的には一つの同一性がある事実であります。今まではそれをたとえば強盗罪として起訴しておれば、あるいは窃盗罪として起訴しておれば、事実の同一性の範囲内では、裁判所はあるいは強盗罪にする、あるいは窃盗罪にするということができたわけでありまするが、それでは被告人に防禦の心構えを得させる点において欠ける点がありますので、すなわち二百三十五條の窃盗に該当する事実として起訴したならば、それを訴因というが、そういう訴因をあげて起訴したならば別な訴因、たとえば強盗という認定はその訴因を変更しなければできない。そういうことを現わすために、訴因という観念を入れてきたわけであります。
#49
○明禮委員 もう一つここで大きな問題は、控訴の問題だと思うのでありますが、これを少し伺いたいのであります。控訴の場合は、事後審であつて、覆審を採用していないということでありますが、一体改正法から見ますると、体裁よく二審という今までの事実調べが取除かれたように思われるのであります。この一審の場合の調書の作成は、書記に取調要領を書かせるようになつておるようであります。そうすると要領といいましても、これはいろいろあるのでありまして、事件の要点を書いたものをとつておくだけでありますが、事実調べを実際やらないとするならば、この場合には裁判所の書記の書いたものが基本となつて動かすべからざるものとなつて、將來その点についての問題が覆審せられない結果、結局控訴審というものが事実上はなくなるようなふうにも見えるのであります。破棄する場合もあるし、いろいろ書いてはありますけれども、事実審理がないという点において、一審の方の書記の記録というものは止めて速記録にでもなさるならば、あるいはどうかと思うのでありますが、この点については、費用等がかかるので、これは事実審が再審されない結果の用意はどういうふうにお考えになつておりましようか、その点を伺いたいのであります。
#50
○木内政府委員 御質問の点は、これはいろいろ誤り傳えられている点があるのではないかと、私どもは実は考えるのでありますが、とにかくこの改正案は事実審理は一審だけだ、もう控訴で事実審理をやるということはやらないのだというふうに、いろいろ誤解が傳わつておるのではないかと思うのであります。ただ問題は從來のような覆審制でない、このことは事実でございます。それは第一審では從來の訴訟手続とは違いまして、先ほど來御説明申し上げます通りに、非常に丁重になつている次第であります。そこで從來のごとき手続とは違つておるのであつて、それで同じような手続をまた二審でやるということは、まず第一の問題といたしましては、先ほども申し上げましたが、この公判において判事にあらかじめ予断を抱かせないようにしようというのが、建前になつておりますのに、控訴審にいきますと、全部記録になつておるわけでありまして、二審と一審と同樣な審理方法は、今日意味をなさぬということになつてくるわけであります。それからまた從來の覆審制でありますと、また公判中心主義で、しかも証人を公判において直接調べるということが建前になつておるために、控訴したために、非常に遠方から関係者を呼ばなければならないというようなことにもなつてまいつて、非常な手数と迷惑をかけることにもなるのであります。さような点も考慮いたしまして、しかも裁判それ自体を誤りのないようにさせたいという建前から考え出したのが、この改正案の控訴審であります。ところが変つています点は、從來はただ控訴すれば控訴しつぱなしで、それからあらためて裁判所が審理するわけでありますが、今度はその前に控訴趣意書を提出しなければならないわけであります。ところが必ずしも控訴趣意書にとらわれておるわけではないのでありまして、三百九十二條をごらんいただけば、まずこの点が明瞭になると思いますが、「控訴裁判所は、控訴趣旨書に包含された事項は、これを調査しなければならない。」これはもちろんであります。第二項は「控訴裁判所は、控訴趣意書に包含されない事項であつても、第三百七十七條及至第三百八十三條に規定する事由に関しては、職権で調査をすることができる。」この三百七十七條以下をごらん願いますれば、三百八十一條のごときは「刑の量定が不当であることを理由として控訴の申立をした場合には、控訴趣意書に、訴訟記録及び原裁判所において取り調べた証拠に現われている事実であつて刑の量定が不当であることを信ずるに足りるものを援用しなければならない。」ということが規定してありますが、結局量刑不当の問題も、控訴趣意書に書いてなくとも、この点についての調べができるということになつておりますし、それから三百八十二條は事実の誤認の場合も、控訴趣意書に書いてなくとも、職権でこれを調査することができる。あるいは三百八十三條の場合のごとく列挙してある場合においても、職権で調査ができる。少くとも控訴趣意書に限定したという趣旨ではないのであります。それからまた三百九十三條をごらん願いますと、「控訴裁判所は、前條の調査をするについて必要があるときは、職権で事実の取調をすることができる。」ということを規定しておるのであります。そこでかような規定の運用を考えてみますならば、決して事実調べは一審だけだという趣旨でないことも御了解できると思いますし、なお控訴趣意書というものを出させるから、控訴趣意書の範囲内だけしか控訴審ではやらないのだというのではないんだ。ただ從來と違うところは、控訴すればそのまま事件が控訴審に移つて、初めからやり直すというのではなくしてまず控訴趣意書を提出して、その点を明らかにして裁判所が記録を調査する上において、その便宜を與えるということが、一つ中へはいつてきたということが、変つているだけでありまして、控訴審になつたら事実調べは何もやらないのだ。ただ控訴趣意書に書いてあることだけの範囲で調査して、控訴棄却をやるとか何とかいうふうなものではないのだということの御了解ができると思うのであります。
#51
○明禮委員 そうしますと、三百九十二條の第二項に「控訴裁判所は、控訴趣意書に包含されない事項であつても、第三百七十七條乃至第三百八十三條に規定する事由に関しては、職権で調査をすることができる。」とあるのは、調査することを要すと解釈するものであります。「ができる。」と書いてあるが「を要す。」と解釈するのだということなら、それでもよろしいんですが、「することができる。」ということは、やつてもやらぬでもいいということだと思うのであります。
 それから第三百八十一條の規定は、「刑の量定が不当であることを理由として控訴の申立をした場合には、控訴趣意書に、」云々とありますが、これは第一審の取調べの段階そのものを基礎として、刑の量定がどうであるかということを考えるべきものである。今の制度ならば、そういうふうに刑の量定が不当かどうかという問題があつた場合には、再取調べをして、初めて刑の量定が不当かどうかという問題が起つてくる。この刑の量定が不当かどうかということは、今のように調べ直してみなければわからぬのじやないですか。一審でやつた、今までやつたことをそのまま考えて、刑の量定が不当か不当でないかということを考えるのでは、意味をなさないと、私は思うのでありますが、その点はいかがでございましようか。
#52
○野木政府委員 ただいまの点についてお答え申し上げます。まず刑の量定が不当であるかどうかという点につきましては、この案の考えといたしましては、第一審に全訴訟の重点を集中するということが、一つの建前になつております。現行法のように一審で事実を取調べる。控訴審へ行つてまた再度詳しく調べる。控訴審へ行つてまた取調べをやり直すというようなことは考えておりませんで、一審を主審場としてそこで十分に審理を盡すという建前をとつているのであります。従いまして控訴審において刑の量定が不当であるかどうかということを判断するのも、やはり原則としましては、一審裁判の当不当を判断することになるのでありまして、一審当時の事情を基礎とするわけであります。従つて三百八十一條におきましては、被告人、弁護人側から原裁判所に、いろいろの証拠取調べを請求しまして、その取調べた証拠に現われている事実を、一應基礎として判断するわけでありますけれども、なお裁判所の記録に現われているところだけでは、どうも当不当がわからない。いま少しよく調べてみなければわからないということがあり得るわけです。その場合には、三百九十三條において「職権で事実の取調をすることができる。」ということでありまして、あるいは起りないところを証人を喚んで補充的に調べることができる。そういうことを調べた上で、なお原判決が正しいと思つたならば公訴を棄却することができる。しかしその取調べた証人によつてどの程度の刑がよいかということがぴたつとすぐわかればよいが、しかしもつと調べなければわからないということであれば、原判決はとにかく刑が不当だということで一審へ差戻して、一審は別の証人を調べて、正しい刑を盛るという考え方になつております。
 なお三百九十三條で職権で事実を取調べることができるとなつておりますが、実際の運用としては、弁護人側から、裁判所の職権の反省を促すために、自分でいろいろ調べたものを書類にして出せば、裁判所は多少それらも斟酌して、なるほどこれらの証人を調べたならば、原判決がもつと妥当であるかどうかということがわかる。そういう心証に達すれば、それを職権で調べてみようということになつて、運用上は非常に適切にいくものと考えております。
#53
○明禮委員 なるほど御説明はそうですが、一審で取調べた点について、こういう改正法のやり方では、一審の取調べだけで、それを基礎にして控訴へいつた場合に、今までの調査というものを基礎としてすべていくのであつて、それから後の問題は、今のような事実調べを要するような場合には、さらに事実調べができるということがはつきりここに伺われるものが欲しいのであります。今の御説明によると、刑の量定というような場合には、必要に應じて控訴裁判所は職権で事実の取調べをすることができると言われますけれども、ある條件を伴う場合が相当多いのでありますから、刑の量定不当と認むる場合においては、控訴審においては職権において取調べることを要すとありますならば、あるいはそういうことは考え得ないかもしれませんが、することができるということで、やつてもやらぬでも、見方でありましようから、いろいろの疑問が起つてきやしないかと思う。それで一般に事後審という今の改正法のやり方からいくと、事実調べというものは、一回やれば受付けられないように、一般にどうも解される余地があると思います。
#54
○野木政府委員 先ほどの説明にいま少し補足いたします。刑の量定の点で議論が続いておりますが、例にあげて申しますと、控訴裁判所で原記録、すなわち原裁判所において取調べた証拠をずつと調査してみて、それだけで刑の量定が不当でないと確信した場合には、もうそれで上訴は棄却になります。しかしどうも不当であるかどうかいま少し調べてみなければわからないと疑いをもつた場合、はたして妥当であるかどうかと疑いをもつた場合には、必ず事実調べをしなければならないことになります。いやしくも控訴審は事実の誤認ということがある限りは、三百九十二條の「控訴趣意書に包含された事項は、これを調査しなければならない。」ということで、必ず疑いをもつた場合には調査しなければならぬ。従つて調査の方法としては、証人を喚問する場合もある。しかし証人を喚問する目的としては、原判決の刑の量定が正当なものであるかどうかというその心証を得るために喚問するのであります。ところがその証人を喚んで調べてみたところ、はつきり不当だということがわかれば、それで原判決は破棄されなければならぬことになります。さらに進んでその証人を調べた結果、原審の刑の八箇月というものは間違いであつて、さらに積極的に六箇月が相当だということがその証人を調べただけではつきりわかりますれば、破棄裁判もできます。しかしながら、不当であるということもわかり、他の証拠を調べてみなければ、どの程度の刑が積極的に妥当であるという点がわからない場合は、原審に差し戻す、原審は別の証人を調べて妥当な刑を決定する。そういう考え方に立つておるのでありますから、不当だと思つたならば、必ず証拠を調べるなり何なりしなければならないことになります。不当であるかどうか疑わしい場合は、証拠を調べなければならないことになるわけであります。
#55
○明禮委員 そこら私らの考え方が違う。不当だと思つたら調べなければならないと今言われるのでありますが、調べてみて、初めて不当か不当でないかがわかる場合が多いのでないかと私は思う。実際は書面でとつてもなかなかこれは問題のあることでありますが、裁判所がそういう考えをもつて判決するのであつたら、こういう証人があるのだという場合が相当多いのであります。そのときには、この証人を調べてもらいたいということが、実際に行われるのでありますが、今申したように、刑の量定が不当だと思えば調べるというが、調べてみなければほんとうはわからぬ、そこで本末轉倒してくるわけです。事実調べということは、原則として控訴審においてしておかぬと、量定が不当かどうかということはよくわからぬのが多いのである。ところがこれによると、結局刑の量定が不当と思えば調べることができるし、思わなければ調べぬでもよいのだ、今まで調べたことによつてやつてみたところ、どうも不当か不当でないか、実際よくわからぬわけでありますね。前提としてわからぬから調べることができる。調べぬことにしようということは、よくありがちであつて、かわいそうなのは被告である。私どもが事実審理が拔けておる、大事なことが拔けておるというのはそこにある。逆に考えていただきたい。
#56
○野木政府委員 そこがひとつは根本的には現行法と違いまして、第一審は訴訟に全重心をもち、従つて控訴審の重要性というものは、今の訴訟法よりも多少重量を減じたということは、一應言えるかと思います。それからなお三百八十一條におきまして、訴訟記録に現われておる事実であるという点におきまして、たとえば原審の弁護人が甲の被告人の刑の量定に必要だから喚んで調べてみると言つたところで、原審裁判所が必要なしとして却下してしまつた、そういう場合におきましてはこの法案においては大体弁護人が尋問事項を裁判所に出す、それが記録に止められるわけです。これは控訴審においては控訴された場合に、原裁判所にこの証人を調べてくれと言つても、原裁判所は調べつこない、ところが控訴審で証人を調べたら刑の量定がわかつた、こういうようい言うて攻撃することもできるのでありますが、運用上そう不当な結果になることにはならぬのでないかと思つております。
#57
○明禮委員 これはみな当局の方も裁判をおやりになつた方々でありましようし、あるいは檢察事務をおやりになつておるから、よくおわかりだと思いますが、判決を受けるときの心理状態というものは妙なものでありまして、大体檢察側の方の考えも、弁護人の方の考えもある程度熟したと思えば、これで大抵いいのだというので、結審にしましようということで結審にする。あるいは証拠を申請しても却下されれば仕方がないのでありますから結審にするという実情であるが、実際において事実取調べは控訴審においてもできるのだという考え方と、また控訴審ではなかなかできないのだという考え方と、大分違つてまいります。裁判所側あるいは檢察廳側の立て方としては、なるたけややこしいことを言わせないように、なるたけむずかしいことにならぬように規定をこしらえておいて、そのわくにはめて、そうして自然に、やむを得ないというようになるような法制が好ましいかもしれません。しかし被告人あるいは弁護人の立場になつて考えますと、少くとも一審で誤判ということは、ないとは言えないと思います。今まで数あると思います。事実調べは三百九十二條のような規定によつてやれぬことはないとおつしやいますけれども、実際においては、刑の量定が、今申しました通り不当かどうかということを言われるのだつたならば、こういう証人があつたのだからこれを出すというので、それを調べてもらつて、こういうことはなかつたという事実を明らかにするというような点の調べがあつて、初めてこれは無理であつたというようなことがよくあるのでありますから、量定が不当であるからといつて、再調べをするというように、すつかりくだけてもらえればいいが、こういう條文の立て方だと、刑の量定が不当かどうかということは、原審で調べられて、それだけの範囲で見てやられるのでありましたならば、非常にこれは誤りがあるということに断定するものであります。そういうふうに考えております。この点もう一遍お伺いいたします。
#58
○野木政府委員 この訴訟法の建前といたしましては、先ほども申し上げたように、現行刑事訴訟法よりも、一番に非常に重点をおきまして、一審で檢察官側の証拠を出しきり、弁護人側も証拠を出しきる。今までのように、一審である程度やつておいて、それから控訴審へ行つてさらにやるという考えは捨てたわけであります。從いまして、弁護人側といたしましても、刑の量定に必要な証拠を、全部原裁判所にできるだけ提出する。こういうようにして、原裁判所で採用になつたものにつきましても、先ほど申しましたように、記録に尋問事項が止められるわけでありますので、三百八十一條によつてそれを採用して刑の量定が不当であるということを爭うことができるわけであります。またかりに弁護人が何かの理由で重大な証人をうつかり出し忘れた。非常に誠意を盡して証拠を集めたけれども落ちたというような場合であつて、しかもその証拠を調べれば、刑の量定も変るかもしれないというような場合には、職権の発動を促すために、そういうことを書きまして、甲裁判所に申し立てる。権利としてはないけれども、職権の発動を促すために申し立てる。そうすると、裁判所は合理的に判断して、なるほどこれを調べれば量定は変つたかもしれないというような場合には、さらに事実を取調べて、その者を証人として喚問する。そういたしまして、刑の量定が原判決が正当であつたかどうかということを判断する。いやしくも不当であると思つたならば、その証人だけで裁判ができる場合においては、原裁判所へ差もどすということになつておるわけであります。その点におきまして、現行法の控訴審のように、今までの判決が一應御破算のような形にしまして、全部取調べを初めから始めるという点とは異なつてくることは事実でありますけれども、今申し上げたように、刑の量定の点でも、技術の点でも、ともかく爭い得る、控訴審で調べ得るという点におきまして、現在の訴訟法の大審院の上告審とまつたく違うということは、はつきり言えると思います。
#59
○明禮委員 一体控訴審では、一審で証拠調べが足りなかつたが、刑の量定が非常に不当である。あの証人を調べてもらえばよかつたという場合に、その証人を控訴審で当然証人申請をすれば無條件で調べてくれるということになるのでしようか。今のお話によると、刑の量定がこういう者を調べてもらえば不備だということがはつきりわかるんだからと言つて申請をすれば、証人を採用するということになるのですか。そうでなく、刑の量定が不備だとかどうとかいうことは、今までの調べたものだけを参考としてやるんだということになると、これは調べられぬことになると、私は思うのでありますが、その点ちよつと明瞭を欠くのですが、どこでございましようか。一つ例をとります。私が事実取扱つた問題ですが、こういうことがあります。ある学生が学校の先生から、自分は生活に困つておるのだが、君おれのペンネームを使つて廣告をしてくれ、それは名前は申しませんけれども、何々大学の卒業生と同一の地位を與える通信教授をする。その通信教授の規則書は二十円送つてくれれば送るという廣告をさせたことが最近あります。そうすると、その学生は先生から頼まれたことであるから、あり地方に行つてその廣告をした。ところが二十円ずつ入れたのをたいへん送つて來る。初めは何々という看板を出しておけということであつたので、先生の言うた通り出しておいたところが、たくさん來る。九百通から千通までは自分で破つて見たが、使いはしなかつた。どうもたくさん來るから、今度はこわくなつてやめて、交番に行つて実はこういうことを言つて頼まれてやつたが、大分廣告で金がはいつてくるのだがというようなことを話をしたら、それは頼まれた先生を探し出して、早くその人に了解を得たらどうかというような話で、規則書を早く送らなければならぬということで済んでおつたが、遂にそれが事件になつて、その先生というのは一生懸命探しておりますが、どこへ行つたかわからぬ。本人の方は廣告によつて詐欺というので、起訴され收監されておりまして、いつまでも放つておかれては困るから、遂に判決を受けてやることになつた。ところが先生は逃げておるので、先生が出てくればその学生は無罪になるかものれぬ。いつまでもここにおるなら判決を受けた方がよいではないかというので、判決を受けることにして、きよう言渡しがありますが、そういう事犯で一番明瞭だと思うのです。そういう場合に、実際はその人間が出てきたらひつぱり出してきて尋問してもらえばよいが逃げていない。逮捕状はまわつているが、逮捕状は空まわりしているという実情である。そういう場合には、どうしますか。逃げおおせて、終つてしまつてから出てきてもうまく立証できて、この子は私が利用しただけでまことにすまないということになれば無罪になる。ところが逃げおおせたということになれば、さつぱりできない。この法律はまことによくできていてよいけれども、残念なことに、事実審をやり返せないという前提に立つておるので、そこが非常に不安であります。どうも御説明ではわかりませんので、もう少しわかるように、御説明を願いたいと思います。
#60
○野木政府委員 説明が委曲を盡せないので、非常に恐縮に存じます。まず原裁判所の刑量では、不当であると思つた場合に、初めて事実の取調べをするのではないかという点につきましては、そうではありませんので、原判決刑の量定が正当でない、あるいは不当であるという疑いをもつたら、はたして不当であるか、正当であるかということを決定するために、事実の取調べをすることになるわけであります。証拠を調べてみて、不当であるかどうかということが決定されることになるわけであります。
#61
○明禮委員 御説明によると、そういう疑いがある場合には、証拠申請をして、それが許可されるべきものだという根拠ですか。そうしたらそれはどの條文でそういうふうなことになるのですか。それをはつきり指示していただきたい。そうなれば、そういうふうに私どもは考えていきますが、そこがないということになると、問題になる。
#62
○野木政府委員 まず條文的に申しますと、三百八十一條におきまして「刑の量定が不当であることを理由として控訴の申立をした場合には、控訴趣意書に、訴訟記録所び原裁判所において取り調べた証拠に現われている事実であつて刑の量定が不当であることを信ずるに足りるものを援用しなければならない。」ということになつております。これに基きまして、刑の量定が不当だという趣旨が控訴趣意書に出てくることになるわけであります。そうしますと、この三百九十二條で「控訴裁判所は、控訴趣意書に包含された事項は、これを調査しなければならない。」ということになつて、裁判所としては、刑の量定がはたして不当であるかどうかということを、必ず調査しなければならない義務を負うわけであります。そこで原訴訟記録及び原裁判所の取調べた証拠などを全部精細に調べてみて、しかも刑の量定がまつたく正当であるという確信に到達したときには、公訴を棄却するということはあります。そうでなくて、どうも不当であるという疑いをもつた場合には、はたして不当であるかどうか、本当であれば破棄しなければならないのですから、それを調べるために三百九十三條において「控訴裁判所は、前條の調査をするについて必要があるときは、職権で事実の取調をすることができる。」ということになりまして、職権で事実の取調べをする。要するに裁判所としてはいやしくも疑いをもつたならば、はたしてそれが不当であるかどうかということを確定しなければならないわけでありますがしかもその確定をするためには、原調査だけでは足りない、何らか他のものを調べてみなければならないという場合には、事実の取調べをして不当であるかどうかということを確定する。そういう目的のもとに証人を取調べるということもできます。ただこの場合において、被告人側としましては、原審理において、少しも申立をしなかつた、何にもしなかつた。新しい証拠物取調べを檢事として請求するということは、この法案では考えておりません。ただ裁判所で職権の発動を促すという意味において、新しい証拠、全然証拠申請をしなかつたというようなものについては、別に控訴趣意書に書くなり、適宜な方法で職権の発動を促すということはできます。裁判所が見まして、原審理においては、それを調べてみなければ、原判決の当不当はわからない、そういうように認めた場合には、その証人を当然調べる。そういう運びになると思いなすそれからなお、先ほどの証人の逃げておるというような場合においては、ただ時の問題でありまして、現在のような控訴審の判決をするときも結局その証人で出てこなければ同じことになるのでありまして、それはある時の区切りの問題で、同じような問題が現在でもやはり生ずるのですないかと存じます。
#63
○明禮委員 ただいまの三百八十一條の御説明を聽きますと、これは今まで調べたことを基礎として、刑の量定が不当であることを理由として、控訴の申立をした場合という、そこに続いて書いてあります原裁判所において取調べた証拠に現われておる事実であつて、「刑の量定が不当であることを信ずるに足りるものを援用しなければならない。」と書いてあるのを見ると、今まで調べたことを基礎として、そうしてそれで刑の量定が不当かどうかということを書いてあるので、それを援用しなければならぬということだけでは、この書いてあるところをすなおに見れば、三百九十二條によりましても、「控訴趣意書に包含された事項」ということがありますが、包含された事項は、これを調査しなければならぬ。こういうこと、その次に「控訴裁判所は、控訴趣意書に包含されない事項であつても、第三百七十七條乃至第三百八十三條に規定する事由に関しては、職権で調査をすることができる。」これは新証拠を提出することができるといつたものがないのであります。三百九十三條でも「控訴裁判所は、前條の調査をするについて必要があるときは、職権で事実の取調をすることができる。」この今までの控訴趣意書ということを、三百九十二條にもちやんとうたつてあるので、そうすると、今まで調べたことに基いて、極端に刑の量定が不当だということがはつきりしておる場合がないとは言えません。極端にひどいということもあるかもしれませぬが、それよりもこれは一應陳述したことを聽いてみるとどういう証人があり、どういうことがありますというて書いてきたことろを見ると、なるほどこの事実があれば、量刑が不当である。たとえば今申しました事案のような場合に、そうようことだけで新証拠を採用するということでありましようか。それはどこに書いてあるというのでありますか。そこのところがわからぬというのであります。
#64
○野木政府委員 お説のように、三百八十一條におきましては、原裁判所で全然証拠の申請をしない、原裁判所の訴訟記録に全然その片鱗さえも現われていなく、そういうような意味の新たな証拠というものを正式に控訴趣意書に援用して刑の量定が不当であるということは、三百八十一條の関係では言えませぬ。從つて控訴審に事件がいく途は、割合狹くなつておりますところが一つその関門を通り越して中へはいりますと、非常に部屋が廣く開いている、そういう形になつております。從つて今申し上げたように、たまたま新証拠的のものでも、それを裁判所が見まして、なるほどこれを調査すれば、新判決の当不当がはつきりする、はたして不当であるかどうかということが決定できるというような場合になりますれば、三百九十二條、三百九十三條によつて、職権でその取調べをすることができる。しかし被告秀側は権利として、第一審においてすでに十分盡すべきものであつたのでありますから、権利としてはその取調べを請求することができない、そういうことになります。もつとも再審の自由とか、そういうような場合とは別となりまして、刑の量定の関係においては、ただいま申し上げましたような関係において、この案はなつております。
#65
○明禮委員 どうもこの点は野木政府委員から説明を十分していただきましたが、納得がいきませぬから、これは一つ縣案として、たとえば今申し上げました事例におきましても、証人が逃げておつて判決がきようあるのですが、その判決の控訴期間中に帰つてきたといつた場合、逮捕されたといつた場合に、事実は話をしてありますけれじも、おそらくこういう人間があつてこういうことをしたのだということは書いておりますけれども、証拠申請はしておりません。逃亡して実際いないのですから……。逮捕されつつあるということも、檢察廳との間に話はして、事情は明らかになつておりますけれども、記録にはそんなことは書いてありません。証拠申請もしてありません。これは一例ですが、そういう場合に、趣意書に第一審の記録そのものをもつてくるならば、これはどうにもしようがない。そういつた例ですが、ほかにもいろいろの場合に控訴審として方証拠を出すことができぬということになりますと、これはこの法案の一大欠陷ではないかと思います。
#66
○野木政府委員 ただいまの御設例のような場合は、たれ某ということがわかつておる場合でありますから、その場合には一審でそのものを証拠申請をしておけば、それが結局記録に現われますから、当時いなければ調べることができないといつても、記録に留まつているから、控訴審でそうを援用することはできると思います。
#67
○明禮委員 そういう場合もありましようが、ふつうのときには困ると思います。これは懸案にしておきましよう。どうも今まで承つた御説明では不十分に思います。
 もう一つ承りたいのは、三百七十六條に「控訴申立人は、裁判所の規則で定める期間内に控訴趣意書を控訴裁判所に差し出さなければねらない。」と書いてある。この裁判所の規則で定める期間というのは、どういうことになるでしようか。控訴趣意書を出さなければ棄却されたりいろいろする條文が後に出てくるようですが、控訴趣意書を土台として、上告趣意書と同じような取扱いを受けるとすると、裁判所の規則で定めるというのは、どういう意味になつておりましようか。
#68
○野木政府委員 その点は、控訴の提記の期間の方は、控訴提起の書面を出せばそれで簡單でありますから、これは十四日とはつきりきめてよいわけでありますが、控訴趣意書の方は、裁判所が充実してしまへば、記録が早くできるし、書記なども充実していないと作成も遅くなる。そういう点がありますので、憲法の規定に從つて、裁判所の規則が合理的に定められるということを予定しまして、「裁判所の規則で定める。」といたしたわけであります。
#69
○明禮委員 その裁判所の規則が合理的に定められるというのは、どういうことですか。そこにどういうものが出てくるのか、私ども一つの腹案もないのでありますが、腹案を示していただきたい。ただ裁判所の規則が合理的にできるだけではちよつとわかりかねる。
#70
○野木政府委員 ただいま私どもの承知しておるところでは、最高裁判所におきましては、規則制定委員会というものがありまして、学者、弁護人、裁判官、檢察官、たしか國会の方も加わつておられまして、規則制定委員会というものができております。そこに案を示しまして、そこで答申になつた案を尊重してルールをきめる、そういう仕組になつておりますので、裁判所がまつたく独善的に自分だれできめるということはない仕組になつておりますから、その点はあまり御心配になることはないと思います。
#71
○明禮委員 心配要らぬとおつしやるが、私ども大変御心配になるのであります。というのは、どういうわけかというと、一定の期間の長短によつては間に会わないことがある。ですからどういうようなものを定めてどういうふうにおやりになるか。出しても出さぬでも、少しくらい遅れてもいいというような廣い期間になるのでしようか。どういうことになりますか。後の方で趣意書を出さなければというので、いろいろな問題があるようですが、どういうふうにお取扱いになりますか。
#72
○野木政府委員 その点は何分規則制定委員会できめることでありますから、あらかじめここでこうなるにきまつておるということまでも申し上げられませんけれども、ことを合理的に考えてみますと、一應の法定期間でありまして、おそらく今の交通事情などを考えまして、非常に特殊な場合に、その汽車が遅れたというような場合には期間回復というような規定も役けることになるのじやないかと思います。というのは、現に最高裁判所におきまして、今の訴訟法のもとにおきましても、ぴたりと上告趣意書を提出する期間がきまつておるわけでありますけれども、それを何とかして救済しておるという部もあるようでありますから、実際決定するところは、おそらくそういう方法になつていくのではないかと思います。
#73
○明禮委員 これはあまり穿ち過ぎた話でありますが、法定期間というものができまして、これを出す場合に、出なかつたらば、これに対する不利益な問題が起る條文がある以上は、この点についてはこの法案をもし急いでおやりになるとするならば、およそどういうものをつくるのであるという腹案は、お漏らしになる必要があると思いますから、どうかそれまでにどのくらいな猶予期間を與えられるようなものができるのか、ぜひその内容をお示し願いたいと思うのであります。
 もう一つ、公判期日の変更は、なかなかむつかしいように書いてあるようですが、どういう意味になるのでありましようか。公判期日を変更するときのやり方については、二百七十六條に「公判期日を変更するには、裁判所の規則の定めるところにより、」と書いてありますが、これはどういうところがねられておるのでありましようか。それをひとつ御説明を願いたい。
#74
○野木政府委員 この二百七十六條に、公判期日の変更について嚴重な規定が設けられました趣旨は、本案におきましては、証人の尋問ということは、今の訴訟法よりもずつとたくさんになるということを予定しまして、一旦期日をきめてそれが自由に変更になると、証人などに非常に迷惑をかける場合も多くなつたりしますので、それらの点を考慮して、一旦きめた期日は丁重な手続によらなければ変更できないというようにしたわけであります。ところでこの第二項の「裁判所の規則の定めるところにより、あらかじめ、檢察官及び被告人又は弁護人の意見を聽かなければならない。」というところの裁判所の規則、これはたとえば意見を聽く方法、書面によるとか、そういうような方法などもこれできめる。この規則な要するに細則的の点になると思います。一例をあげればそういうことになると思います。
#75
○明禮委員 要するに診断書か何かあれば変更をするということになるのかもしれませんが、弁護人なんか制限されておつて、複数弁護人の場合には、だれか出るのだから変更しないというようなことにもなりましようし、また診断書によつても、よく行われておるいい加減な診断書じやいけないということになるのか。これは私が先ほど申しました控訴の問題、あるいは一審の起訴状の問題、すべてに関連して、この公判期日の変更はなるだれしないように弁護人側もすべてが協力しなければならぬ問題でありますから、これは私ども非常に嚴格にやる必要もあると思うのです。また嚴格にやり過ぎて融通がきかなくても、まことに困りはしないかという点もありますから、この点も裁判所の規則というものはどんなようなことを考えられるとか、これを上げられる時分までにも漏らしていただきたいと思うのであります。ほかにも質問される方があるようですから、私は総括的の質問を一部留保いたしまして、これできようは打切ることにいたします。
#76
○井伊委員長 石川金次郎君。
#77
○石川委員 一編八章の被告人の勾留について質問いたしたいと存じます。被告人を勾引いたす勾引状の執行と勾留状の執行でありますが、被告人を勾留いたしますときに、六十一條に、被告事件を告げてしなければならぬと記載してあります。それから勾留状には公訴事実の要旨を記載しなければならぬ、そうして勾留状の執行にはこれを示さなければならない、こう言つておりますが、公訴事実の要旨を記載するということ、それから被告人に対して被告事件を告げる、これはどういう必要で、これをやるのでありますか。現行法にあるからやると言われるのでありますか。
#78
○野木政府委員 これはもつぱら趣旨といたしましては、被告人の利益のためで、被告人が自分は一体どういう事実について取調べを受け身体を拘束されるのかということを知らなくては、その防禦を盡すことにもなりませんので、被告人にその点をあらかじめ知らしておく、そういう被告人保護の趣旨に出ておるのであります。
#79
○石川委員 そうするとこれらの規定は、勾留されている被告人が、何ゆえに勾留されるかという理由を示すためでありましようか。
#80
○野木政府委員 どういう犯罪を犯したという嫌疑に基いて起訴されるか、その犯罪事実を示す、そういう趣意であります。
#81
○石川委員 犯罪事実を示すということは、君はこういう事実で勾留するのだという、勾留理由を示すことにならないのですか。勾留理由を示すものでないならば、ないでもよろしゆうございますが、勾留理由を示すためにこれを記載してあるとおつしやるならば、それでもよいので、どちらでもよい。これを明瞭にしていただきたい。実はあとの勾留理由の開示と、憲法三十四條の問題を含んでまいりますから、これをはつきりお伺いしておきたい。
#82
○野木政府委員 この点は憲法に「理由となつてゐる犯罪を明示する令状によらなければ、逮補されない。」という規定がありますので、この規定を承けまして犯罪事実を示す。たとえば六十四條などは、公訴事実の要旨を書く。そういう趣旨であります。
#83
○石川委員 さらにお聽きいたしますが、憲法三十三條に「犯罪を明示する令状」とある。こういう意味で、今の規定はでき上つておるのか、三十四條の規定に基いてこれを示しておられるのか、この点をひとつお聽きしておきたいのであります。
#84
○野木政府委員 この勾引状、勾留状の記載要件としての勾留事実を書くという点におきましては、これは「理由となつてゐる犯罪を明示する令状によらなければ、逮捕されない。」ことになつておるので、これによつておるわけであります。次に「何人も、理由を直ちに告げられ、且つ、直ちに弁護人に依頼する権利を與へられなければ、抑留又は拘禁されない。」という規定を受けましては、あとの方の七十六條、七十七條等の規定があるわけであります。
#85
○石川委員 そうすると第六十一條の「被告人の勾留は、被告人に対し被告事件を告げこれに関する陳述を聽いた後でなければ、これをすることができない。」これは勾留であります。勾留を例にとりますと、第六十一條というのは、被告人に被告事件を告げるということの理由であります。どういう理由でこれを告げるのか、お前はこういうことで勾留されたのであるという理由を示すために告げるのか、そうでなく、現行刑事訴訟法にもこの趣旨の規定がございましたから、それを受けついでおるのか、これをまずお聽きしておきたいのであります。
#86
○野木政府委員 勾留につきましては、六十一條と七十七條、これを合わせて憲法の三十四條の要件を充足する、そういう趣旨に考えております。
#87
○石川委員 ところがこの規定でありますならば、すでに前の現行刑事訴訟法にも記載されてあるわけであります。ところで憲法三十四條でこれをきめました理由は、新しい理論に基かなければならないと思うのであります。そういう点についての御配慮はどこに現われておりますか。また必要なし、これで十分足りるとお思いでしようか。
#88
○野木政府委員 勾引状、勾留状に勾留事実を書くということは、現行法にはございませんで、應急措置法も、明文でははつきりしておりませんけれども、運用上はそうしておりました。六十四條でその点ははつきりしました。なお勾留につきましては、六十一條と七十七條、それから勾引につきましては七十六條、これで憲法の「何人も、理由を直ちに告げられ、且つ、直ちに弁護人に依頼する権利を與へられなければ、抑留又は拘禁されない。」すなわち勾引の方は抑留、勾留の方は拘禁、一應そういうふうにあてはめまして、この規定で憲法三十四條の前段の方は賄い得る、そういう趣旨であります。
#89
○石川委員 そうすると今おつしやつた條文で何ゆえに勾留されるかという理由を告げたということになりましたならば、その八十二條の勾留の理由の開示の請求でありますが、これはどういう必要に基いてなされたのでありますか。すでに勾留の理由がわかつております。わかつておつてさらに勾留されておる被告人の請求によつて勾留の理由を示さなければならぬとされました根拠は、何でございますか。
#90
○野木政府委員 それは憲法三十四條後段におきまして、「直ちに本人及びその弁護人の出席する公開の法廷で示されなければならない。」ということがありますので、公開の法廷で示せという憲法の要求を満たすために、八十二條以下の規定を置いたわけであります。
#91
○石川委員 そこで問題になつてくるのでありますが、憲法三十四條の「何人も、理由を直ちに告げられ、」これは第一番の理由、「且つ、直ちに弁護人に依頼する権利を與えられなければ、抑留又は拘禁されない。又、何人も、正当な理由がなければ、拘禁されず、要求があれば、その理由は、直ちに本人及びその弁護人の出席する公開の法廷で示されなければならない。」ということは、勾留せられた場合をいうのでありますか。勾留前において、すでに弁護人がついて、要求があつたならば、公開の法廷においてこれを示されなければならぬというのでありませんか。拘禁勾留前において、この制度を確立しておかなければならぬということになりはしませんか。
#92
○野木政府委員 憲法三十四條の後段は「拘禁されず、」とありまして、これは勾引の場合は一應含まない、勾留の段階に入つてからということに解しております。それから「要求があれば、その理由は、直ちに本人及びその弁護人の出席する公開の法廷で示されなければならない。」というのは、拘禁前に公開の法廷で示されなければならないという趣旨でなくして、拘禁後でもよろしい、要求があつたときにこれを示せばよい、そういうふうに解しております。
#93
○石川委員 そうすると、勾留の理由を聽くことは、二度聽けるということになるのですか。二度聽いて、片方は公開の法廷で聽けるから、特別の意味があるということになるのですか。
#94
○野木政府委員 後段の方は、公開の法廷で示すという点に、非常に大きな意味があるのじやないかと思つております。
#95
○石川委員 当初の御説明によれば、勾留するとき犯罪事実を告げるということが三十四條を受けての規定であるこう言われておる。さらに後段として、すでに勾留されてからさらに開示する必要がある。これはどういう利益があるだらうか、憲法の予測しておりますところは、これは三十四條の読み方でありますが、まず抑留及び拘禁の條件といたしまして、理由は直ちに告げられること、弁護人を依頼する権利が與えられること、そうしてそのときに、もし要求があつたならば、公開の法廷でこれを示さなければならないのだということが條件になつておるのでありますが、そうではなくして、あなたの御解釈の通り、勾留されてあるのだ、勾留せられてから、その理由を明らかにしてもよいという主張だとすれば、どういう利益があつて公開の席上でさらに開示しなければならないか、その点伺います。
#96
○野木政府委員 被告人をあるいは勾引し、勾留するその段階のつど一應告げておりますけれども、それだけでは一般の公開された場合でなくして、はたして告げたと言つても法廷に告げたかどうかということがわからないのみならず、被告以外の者にもわからない、そういう二つの意味におきまして、一つは公開の方で、まつたく何人でも出席できる公開法廷で示すことは、被告にとつては非常に保障になるし、また被告人以外の者も、どういう理由で本人が勾留されておるか、そういう理由を公開の法廷で知るという点は、非常に被告人の人権を保障する点において、格段の相違があるのではないかと存じております。
#97
○石川委員 今度は保釈の点について聽きたいのですが、八十八條の保釈の規定によりますと、保釈をしなければならない原則を立てておるようですが、その通りでありましようか。八十九條の特別の場合を除いた以外は保釈は絶対にすべきものであるという考え方に立つておるようでありますが、そう承知して差支えないでしようか。
#98
○野木政府委員 さようであります。
#99
○石川委員 実際問題といたしまして、勾留せられまして、ただちに保釈請求もなし得るのでありますが、その場合であつても、保釈は絶対にしなければならぬという原則に立つのでありますか。
#100
○野木政府委員 公訴提起後のつまり被告人になつてからの保釈については、お説の通りであります。ただ公訴提起前のいわゆる被疑者時代の勾留につきましては、念のために申しおきますが、保釈の規定を適用しないということになつておりますので、保釈ということはなく、檢察官の裁量処分で、必要がなかつたら隨意釈放するという規定になつております。
#101
○石川委員 そこで八十九條の四でありますが、これは「被告人が罪証を隠滅する虞があるとき。」とありますが、「虞があるとき。」ということの考え方は、裁判官に許されたことでありましようが、これがどういうことを意味するか、ほとんどそう罪証隠滅のおそれがあるのだと、こうしてしまえば、いつでもできないことになるのでありますが、立案者として、この場合を考えられたことを、ひとつ御説明を願いたいと思います。
#102
○野木政府委員 この点はもつぱら裁判所の認定にかかるものであることは、お説の通りであります。ただこの規定をおきました趣旨といたしましては、結局は裁判所の健全なる合理的の運用にまつところ、非常に多いことになるわけでありますが、いやしくも罪証を隠滅するおそれがあると認めた場合には保釈は許さない、そういう結論になります。その場合といたしましてはたとえば他に共犯関係があるとかいうような場合が、実際問題としては多くあるのではないかと思います。それからなお被告人に黙秘権があるというこの訴訟法の建前から言いまして、罪証隠滅というようなことが、実際の運用においては、現行法と大分変つてくるのではないかと考えております。
#103
○石川委員 それではまず今日はこれで終つておきます。
#104
○井伊委員長 本日はこれにて散会したします。
    午後四時四分散会
ソース: 国立国会図書館
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