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1951/05/08 第13回国会 参議院 参議院会議録情報 第013回国会 法務委員会新刑事訴訟法の運用に関する小委員・民事訴訟法改正に関する小委員連合小委員会 第1号
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1951/05/08 第13回国会 参議院

参議院会議録情報 第013回国会 法務委員会新刑事訴訟法の運用に関する小委員・民事訴訟法改正に関する小委員連合小委員会 第1号

#1
第013回国会 法務委員会新刑事訴訟法の運用に関する小委員・民事訴訟法改正に関する小委員連合小委員会 第1号
昭和二十七年五月八日(木曜日)
   午後二時十四分開会
  ―――――――――――――
 委員氏名
  新刑事訴訟法の運用に関する小委
  員
   委員長     伊藤  修君
           加藤 武徳君
           長谷山行毅君
           岡部  常君
           中山 福藏君
           吉田 法晴君
           齋  武雄君
           一松 定吉君
           羽仁 五郎君
  民事訴訟法改正に関する小委員
   委員長     伊藤  修君
           長谷山行毅君
           中山 福藏君
           齋  武雄君
           一松 定吉君
           羽仁 五郎君
  ―――――――――――――
 出席者は左の通り。
   委員長     伊藤  修君
   委員
           岡部  常君
           中山 福藏君
           一松 定吉君
           羽仁 五郎君
  政府委員
   法務政務次官  龍野喜一郎君
   法務府検務局長 岡原 昌男君
  事務局側
   常任委員会專門
   員       長谷川 宏君
   常任委員会專門
   員       西村 高兄君
  ―――――――――――――
  本日の会議に付した事件
○刑事訴訟法の一部を改正する法律案
 (内閣送付)
  ―――――――――――――
#2
○委員長(伊藤修君) それでは新刑事訴訟法の運用に関する小委員会並びに民事訴訟法改正に関する小委員会の連合委員会をこれより開きます。
 先ず刑事訴訟法の一部を改正する法律案を議題に供します。本案につきまして政府の提案理由の御説明をお願いいたします。
#3
○政府委員(龍野喜一郎君) 只今議題に上りました刑事訴訟法の一部を改正する法律案の提案理由について御説明申上げます。
 現行刑事訴訟法は、旧刑事訴訟法に対し根本的な改正を加えたものであることは周知のところでありますが、当時の情勢上比較的短時日の間に企画立案し施行するのやむない次第でありましたため、実施後三年有余を経た今日修正を要する点もかなり多く見られるのであります。
 そこで、昨年一月法制審議会に対し、「刑事訴訟法運用の実情に鑑み早急に同法に改正を加えるべき点」の有無につき諮問いたしましたところ、同審議会におきましては、昨秋以来、総会二回、刑事法部会十回、小委員会十三回を重ね、その間裁判所、検察庁、弁護士会、学界その他各方面の有識者から選ばれました委員及び幹事の間において慎重審議の上、本年三月二十日に至り、取りあえずその一部、二十二項目を挙げて答申を寄せられましたので、この答申に基き、法務府におきまして鋭意立案に努め、ここに刑事訴訟法の一部を改正する法律案として御審議を願うこととなつた次第であります。なお、今後も法制審議会を継続し、その答申を待つて逐次所要の改正を施して参る所存であります。
 そこで本案の内容について御説明申上げることにいたします。本案は次の四つに大別することができますので、これにつき順次主な改正点を御説明申上げることにいたしたいと思います。
 先づ第一は、被疑者及び被告人に対する身体の拘束に関する規定の改正であります。現行法は起訴前の勾留期間を一応十日以内とし、止むを得ない事由のある場合に限り更に最大限十日の延長を許しているのでありますが、終戰以来現在までの犯罪の動向について考えますると、事件の規模はいよいよ大きく且つ複雑となつて参り、捜査機関が如何に努力いたしましても現行法の認める最大限二十日の期間を以てしては到底起訴不起訴を決定するに至らない場合が少なくないのであります。そこで、これに対処するため、極めて特殊の事情のある場合に限つて、嚴重な要件の制約の下に最大限七日だけ延長し得ることといたしたいのであります。この期間の延長につきましては、法制審議会における審議の経過を仔細に検討し、且つ、現下の捜査の実情を愼重に考慮した結果七日の延長を相当と考えたのであります。起訴後の勾留期間につきましても、現行法はその更新を原則として一回に限つておりますため、起訴から判決の確定までの勾留期間は、三カ月となり、審判及び刑の執行に著しい支障を来しているのであります。かかる実情を考慮し、本案においては、禁錮以上の実刑の宣言があつた後の勾留期間の更新につき、これを形式的に制限せず、裁判所の裁量に委ねることといたしました。
 次に、いわゆる権利保釈につきましては、その除外事由が狹きに失し事案の性質上当然拘束の継続を要する場合にも保釈が許され、訴訟の進行に著しい支障を来しておりますばかりでなく世の一部に非難の声すらあるのであります。よつて今回この除外事由を一部拡張することといたしたのであります。その一は、従来除外事由の一となつていた被告人が死刑又は無期の懲役若しくは禁錮に当る罪を犯した場合を短期一年以上の刑に当るいわゆる重罪を犯した場合にまで拡張したこと。その二は、戰後における犯罪の新らしい傾向に鑑み、被告人が多衆共同して罪を犯した場合及び保釈されるといわゆる御礼廻り等をして脅迫がましい態度をとる危險が多分にある場合を加えたことであります。而して、この御礼廻りにつきましては、これを保釈の取消事由にも加えることといたしました。以上の諸点は、こと人身の自由に直接関係いたしますので、政府におきましては、今後の運用に特に愼重を期する所存であります。
 第二は、被告人が公判廷において有罪である旨を自認した場合には、簡易な公判手続による審理を進めることができることとした点であります。公判において審判を受ける被告事件の八割までが、犯罪事実について争わない場合であるという現在の刑事手続の実情に鑑み、この簡易公判手続の採用によつて、審理の促進と事件の重点的処理を期することができると思うのであります。被告人が公判廷において有罪の答弁をした場合に英米法ではそれのみで直ちに被告人を有罪とすることができることとなつておりますが、かかる制度をそのまま採用することには憲法上疑義のある向もありますので、本案では従来通り補強証拠を要することとしつつ、その証拠能力に関する制限を多少緩和し、且つ、証拠調についても、裁判所の適当と認める方法によることができることといたしたのであります。なお漸進的に実施する意味におきまして、この簡易公判手続は差当り死刑無期又は短期一年以上の懲役若しくは禁錮に当る事件以外の比較的軽い罪の事件につき当事者の意見を聞いて行うこととすると共に裁判所は、一旦簡易公判手続による旨の決定をいたしました後でも、この手続によることを相当でないものと認めるときは、何時でもその決定を取消し、通常の手続により審判することができることといたしました。
 第三は、控訴審における事実の取調の範囲を拡張いたした点であります。御承知のごとく現行法は、旧法のような覆審の制度を廃し、控訴審を專ら第一審の判決の当否を批判するいわゆる事後審とし、第一審判決後に生じた新たな事実は、控訴審においては、これを考慮することができない建前をとつているのであります。併しながら運用の実際は必ずしもこの建前通りではなく、裁判所によつてその取扱が区々になつているのみならず、少くとも刑の量定に関する事実についてはこの建前を緩和すべきであるという意見が各方面に強いのであります。よつて、この要望に応えるべく、第一審判決後の被害の弁償その他の情状に関する事実については、控訴審においてもこれを考慮することができることとすると共に、第一審の当時から存在しながら止むを得ない事由によつて公判審理の過程において法廷に頭出されなかつた事実も、控訴趣意書に記載して控訴申立の理由を裏付ける資料とすることを認め、裁判所の調査義務の範囲を拡張することといたしたのであります。
 第四は、その他の細かい諸点に関する改正であります。これには現行法の技術的な不備を補正いたすのが多いのでありますが、その中でも捜査機関のいわゆる供述拒否権告知について、運用の実情に鑑み、その内容に修正を施したこと、訴訟促進の要請に応えるため死刑以外の判決に対しては書面によつて上訴権の放棄をすることができるものとしたこと、起訴状謄本の送達不能の場合には、その法律関係を明確にするため公訴棄却の裁判によつて訴訟を終結すべきものとしたこと、更に略式手続に関する規定に改正を加えてその適正迅速な進行を図つたことなどは、注目すべきものと存じます。
 以上を以ちまして、簡單ながら刑事訴訟法の一部を改正する法律案の概略を御説明申上げた次第であります。何とぞ慎重御審議の上速かに御可決あらんことを御願いいたします。
#4
○委員長(伊藤修君) 次いで本案に対しまして逐條の御説明をお願いいたします。
#5
○政府委員(岡原昌男君) 今回の刑事訴訟法の改正法律案は、その関係する條文が約五十カ條に亘りまして、中には只今提案理由において説明がございました通り、相当技術的に細かい面もございまするので、それらの点をまとめまして一応私のほうでこの法律案の解説書を作成いたし、これをお手許まで御配付いたした次第でございます。詳細はそれに讓る次第でございますが、最も問題となりますと思われます諸点につきまして、これから逐條的に御説明申上げたいと思います。最初は八十九條関係でございます。八十九條の改正は数点ございまするが、先ず第一号の「無期の懲役」とありますのを、「無期若しくは短期一年以上の懲役」に改める。第五号中の「氏名及び住居」とありますのを「氏名又は住居」に改める。更にこれに加えるに、「被告人が多衆共同して罪を犯したものであるとき。」それから「被告人が、被害者その他事件の審判に必要な知識を有すると認められる者の身体若しくは財産に害を加え又はこれらの者を畏怖させる行為をすると疑うに足りる充分な理由があるとき。」、この二つの号を加えるという改正でございます。かように改正を必要とする趣旨は、先ず第一号の改正は、例えば刑法犯のうちで強姦、営利誘拐、人身売買、強盗等の比較的重いと思われる事件がこれに当つておりませんために、同條列挙の他の事由に該当しない限りは保釈を許さなければならないという結果になりますので、この不都合を是正しようという趣旨でございます。
 次に新たにできました第四号、いわゆる集団犯罪の際の取扱でございますが、いわゆる集団犯罪の事件におきましては、犯罪自体がその性質上集団的である場合、例えば騒擾罪、内乱罪といつたようなもののほか、集団強盗などのように集団的に行われた犯罪に対して、かような犯罪は従来の経験上非常に通謀乃至罪証隠滅の危險が多い。それでこれに対して無條件に保釈を許すということは不適当であろうというので除外事由に加える趣旨でございます。
 次に新たに第六号に加わりますいわゆるお礼廻り等に対する対策でありますが、例えば恐喝事件等の被告人が保釈によつて釈放されますと、被害者その他の関係人を歴訪いたしましていやがらせをやるという事例が大変多いのでございます。そこで被害者は後日公判において証言するに当りまして、後難を恐れて十分自分の信念を吐露することができない。そのため証拠の收取や審判の目的を確保することがむずかしくなつて来るという事件が多いのでございます。この不都合を防止しようというのがこの追加理由でございます。新らしく直りました第七号は現行法の第五号でございますが、現行法で住居と氏名と両方わからないものについて、権利保釈の除外というふうにしておりますものを、どちらか一方でもいいということに改正したのでございます。これは、例えば氏名はどうやらわかつておるけれども、行先が、住所がわからんというような場合につきまして、保釈を許しますると、後日公判期日における出頭を確保することが極めて困難になるということが改正の趣旨でございます。なお、権利保釈の除外中といたしましても、勿論その次の九十條によりまして、いわゆる裁量保釈が與えられるのは勿論でございまして、一応権利保釈にはならんけれども、保釈の事由が発生した場合に、裁量的に與えることは勿論妨げない、かような趣旨でございます。なお、現在保釈人員のうち、簡易裁判所では二二%前後、地方裁判所では三一%前後が裁量保釈になつておるというのが統計でございます。
 次は九十八條関係でございます。現行法の九十八條におきましては、保釈若しくは勾留の執行停止を取り消す決定があつた場合におきましては、「勾留状の謄本及び保釈若しくは勾留の執行停止を取り消す決定の謄本又は期間を指定した勾留の執行停止の決定の謄本を被告人に示してこれを收監しなければならない。」さような規定に相成つておるのでございます。ところが実際に書面を持つていない場合におきましても、すでにその取り消しの決定がありますれば、これを緊急に收監手続をすることもあえて不当ではなかろう。又、実際上さような場合にぶつかつて、あれは保釈を取り消された者であるということがよくわかつていながら、たまたまその手許になかつたということで、見失つて、そのまま公判に出頭が確保できなかつたという事例もたくさんございますので、さように改正をしたい、かような趣旨でございます。次は百九十八條第二項関係、いわゆる供述拒否関係でございます。現行法の百九十八條の第二項は、検察官、検察事務官又は司法警察職員は、被疑者の取調に際しては「被疑者に対し、あらかじめ、供述を拒むことができる旨を告げなければならない。」さような規定に相成つております。ところがこの制度の実際の運用を見ますと、被疑者が犯罪事実に関する供述をしないのはともかくとしまして、犯罪事実とは全く関係のない氏名、住居、年齢等のいわゆる人別事項の供述すら拒否する、或いは捜査機関の取調に対して一言も発しない。これを以てあたかも一種の独立した権利であるというふうに考える風潮がかなり広まつておるようでございます。これはいろいろな点から決して正しい傾向とは考えられません。併しこれを今すぐに全部何もかにも強制しようというのではありませんが、かような風潮を馴致した原因の一つが百九十八條第二項において捜査機関の告知の義務を課しておる、その告知の内容にあるものと考えます。今回その告知の内容を改めよう、かような趣旨でございます。新たに変えました告知の内容は、憲法第三十八條第一項の規定と同じでございます。本来捜査機関をしていわゆる供述拒否権を告知せしめるのは、被疑者に対して憲法上の保障を十分知らさせて、又捜査機関にはみずから反省する機会を與えようということであろうと思います。そこで拒否権告知の内容は、憲法第三十八條第一項の趣旨からいつて、無理に言わさない、又無理に言わせられないということであればよいと、かように考えておるのであります。そこでいわゆる供述拒否権というものは、自已の刑事責任を問われるまでに至るような供述は何人からも強要されないという消極的なというか、反射的なというか、一種の権利である、この本質を明らかにいたしまして、かような供述拒否権の告知の内容を変えてみたいという趣旨でございます。かような改正をいたしましても、もとより憲法上保障された被疑者の地位には何らの変更はないのでございまして、今後といえども捜査機関が供述を強要してならんことは勿論でございます。又被疑者が全面的に供述を拒否してもこれ又何らそのために法律上の不利益を受けることはない、かような趣旨でございます。なお御参考までに申上げますと、これに関連して刑事訴訟法第二百九十一條第二項の公判における黙秘権告知の問題がございますが、これについては改正を加えない。というのは、理論的にも被告人は被疑者と違いまして、公判においては完全な当事者的な地位を有するのでありますからして、その告知の内容を起訴前と変えてもあえて差支えない、かような趣旨でございます。
 次は二百八條関係でございます。二百八條の現在の規定は、起訴前の勾留期間につきまして先ず最初十日間の勾留を認め、次にそれを更に十日まで延長させることができるという建前になつております。これを特殊の事件につきまして特別の要件の下に更に七日以内の再延長を認めようとする趣旨でございます。と申しますのは、現行法の起訴前の勾留期間最大限二十日を以てしましては、公訴を提起すべきか否かを決定することができない。特殊の事情のある場合に限りこれを最大限合計二十七日まで許そうという趣旨でございます。例えば集団暴力犯罪のとき、又は特殊の大規模な詐欺事件、若しくは偽造事犯等の捜査につきまして従来の実績に鑑みますに、なかなか二十日間ではいずれに決していいのか判断がつかないという場合が頻発いたしたのでございます。そこでこれを延長したいという希望が出たのでございまするが、さてこれを延長いたすといたしましても、これは人身の拘束に対する重大な制限でございまするので、十分な搾りをかけようということで、これから述べまするような諸般の條件をつけたのでございます。
 先ず勾留の再延長を事件の種類によつて制限しようと試みました。即ち「死刑又は無期若しくは長期三年以上の懲役若しくは禁錮にあたる事件」について捜査をする場合ということでございます。次は場合を具体的に限定しております。即ち第一に「犯罪の証明に欠くことのできない共犯その他の関係人又は証拠物が多数である」ということ。第二はそのために検察官が起訴前の勾留期間を二百八條の現行のままではまだ不十分である、更に関係人又は証拠物の取調を続けて見なければいずれとも決しがたい、さような場合。第三には被疑者の身柄を釈放したのではさような関係人又は証拠物の取調が非常に困難になる、さように認められる場合。この三つの條件をつけたのでございます。この犯罪の証明に欠くことのできないというのは現行法二百二十七條にもございまするが、單に捜査に欠くことのできないということとは異なりまして、更に狹い犯罪の証明自体について欠くことのできないという趣旨でございます。なお「共犯その他の関係人又は証拠物が多数である」というのは、現にさような証拠物又は関係人が客観的に多数存在するということがはつきりしておる場合でございます。而もそれらのものは犯罪の証明に欠くことのできないものでなければならない。かような制限が附加されております。
 それからちよつと飛びましてその項目の十一、二十四頁になつております。なお本條は法制審議会の答申の第一に基くものでございますが、ただ再延長の日数については答申は五日というのが主文になつております。本條が七日に改めましたのはこの延長の期間を五日とするか、七日とするか、或いは十日とするかということにつきまして法制審議会において非常に議論が戰わされました。このために実質的には十数回会議をやつております。それで結局割合に多数であつたのが五日の議論でございますが、一方十日という議論も相当多く、いずれがいずれとも言えない程度でございましたので、答申にも別にお手許に御配付申上げました通りその点が明確に附記してあるのでございます。そこで立演は妥協だと申しまするので、丁度中をとりまして七日というふうにいたした次第でございます。勿論この七日という日の延長を以てすべての事件を将来賄い得るということは勿論言い得ないことでございまするが、他面何日も勾留の期間を延ばすということは、人権の保障を害するのでございますからして、この捜査の不可欠の要請と、それから人権の保障という二つをこの程度に斟酌してまとめたというふうな事情でございます。
 次は第二百九十一條の二以下のいわゆる公判における簡易手続の点でございます。法制審議会の答申第十八に基きまして、簡易公判手続を新たに認めようとするのがこの改正でございます。かような制度を取入れようとする由来は、被告人において事実を全く争わないというふうな事件につきまして公判審理手続を簡素にして、その審理の促進を図ると共に、その結果多少なりとも生じたこの裁判所の余力を、複雑困難な事件の審理に向ける、そうして刑事裁判全体としてより以上の迅速化と適正化を図ろうというのでございます。周知の通り英米におきましてはアレンメントという制度が採用されておりまして、審理の促進に非常に寄與をしているということでございます。併し英米のアレンメントのように、被告人の有罪答弁があればそれだけで被告人を有罪とするということは、我が国の憲法の解釈上疑問があるというふうな見解もあります。又実際問題としても、被告人の虚偽の有罪答弁ということで、架空の犯罪を認める虞れも絶無とは言えないのであります。そこで本法案におきましては被告人が有罪の陳述をした場合において、必ず公判廷で他の証拠を取調べなければならんということにいたしまして、その結果裁判所が、有罪の陳述、即ち自白と補強証拠を得て有罪の判決をする。そういうような建前にいたしたのでございます。即ち本案における有罪の陳述は英米における有罪答弁或いは民事訴訟法における請求の認諾とは全くその性質を異にするのであります。従いまして本案の簡易公判手続は、アレンメント制度をそのまま我が国に取入れるべきものではないということを、先ず明らかにしておく次第であります。本法案における公判の簡易手続が、一般の手続とどのように違つておるかという点を概略御説明申上げます。第一に伝聞証拠に関する証拠能力の制限が緩和されておるということでございます。即ち検察官、被告人又は弁護人が証拠とすることに異議を申述べた場合を除いては、現在の三百二十條いわゆる伝聞法則の規定でございますが、その適用がないこととしたのであります。これは有罪の陳述をした被告人は、一応犯罪事実に関する被害届、参考人の供述調書その他の証拠の取調に同意しているものと推定することもあながち無意味ではないと思われますので、特に異議の申立がない限りこれらに関する証拠能力の制限を撤廃し、これらの証拠を自由に取調べることができることとしたのでございます。第二に証拠調の手続を全般的に簡略にしたのであります。即ち検察官の証拠調の初めに行う冒頭陳述を省略し、証拠書類の取調は裁判所が、公判期日において、適当と認める方法においてこれをすることができることとしたのであります。勿論当事者には証拠調の請求権がございます。又証拠調に関し異議を申立てることも許されておるのでありますが、当事者に異論のない場合においては、証拠書類の朗読等を省略し、又は朗読に代えてこれらを展示する等の適当な方法で証拠調ができる、関係書類が厖大であるような場合には、これによつて著しく時間の節約が図れるものと考えます。次に有罪の陳述があつた事件について、右に述べたような一般の場合に比し比較的簡易な公判手続を行う結果、被告人が錯誤によつて、又は他人の身代りとなつて有罪の陳述をする場合には、無実のものを処罰する虞れがあるのではないかという懸念もあるかと思います。そこでこの点につきましては、第一には被告人が有罪である旨を陳述しても、直ちに簡易公判手続に移るのではなく、あらかじめ検察官及び被告人又は辨護人の意見を聞き、その陳述が被告人の真意によるものである、且つ虚偽の陳述でないということを十分に検討した上で、初めて裁判所が簡易公判手続によつて審判をする旨の決定をすることとしたのであります。勿論被告人又は検察官が簡易公判手続によつて審判することに異議を述べた場合には、通常の手続になるわけでございます。第二にこのような慎重な手続によつて決定をしても、その後傍証を取調べた結果、裁判所が事案の真相について疑いを抱くに至つた、或いは被告人から有罪の陳述が真意でなかつた旨の申出があつたという場合で簡易公判手続によることが相当でないと認めるときには、簡易公判手続によつて審判する旨の決定を取り消して、公判手続を更新して通常の手続に乗り移る、かような建前にいたしました。第三にはいわゆる重罪事件については、簡易公判手続により得ないものといたしまして、被告人の有罪陳述があつても、必ず通常手続によらなければならないものとしているのであります。なお被告人に対しましては、あらかじめ起訴状の謄本が送達されることとなつているばかりではなく、公判期日には検察官が起訴状を朗読し、裁判長が黙秘権を告げた後において、初めて有罪の陳述をすることができることとするものであるとされているのであります。又簡易公判手続により得る事件については、裁判長から被告人に対してその訴因の内容をわかりやすく説明し、且つ簡易公判手続というものは、こういう趣旨のものであるということをこれ又わかりやすく説明するということになるだろうと思います。この点は裁判所においてルールで規定することに相成つております。なお最後に簡易公判手続によつて審判する事件においても、一般の公判手続による場合と同様に公判廷で刑の量定に関する証拠調を行うことは勿論でありまして、簡易公判手続によつて審判を受けた者も一般の場合と同様事実誤認を理由として控訴の申立をすることができるのでございます。
 次は三百四十四條関係でございます。現行法の三百四十四條におきましては、禁錮以上の刑に処する判決の宣告があつた後は、第八十九條の規定はこれを適用しない旨規定をしてございます。それは單にその場合においていわゆる権利保釈が許されないというに過ぎず、勾留期間の更新の制限は依然として存在するわけであります。併し第六十條第二項の但書を改正するのと同趣旨でございまするが、第一審における審理期間は現在の運用の実情によれば、三カ月以上要するものがかなりの数に上つているのであります。即ち右のような判決がありましても、上訴の申立等があつて、判決が確定しない場合には、控訴審又は上告審に事件が繋属中被告人を釈放するほかないという場合が生ずるのでございます。而もすでに有罪判決の宣告がありまして、一応被告人が無罪であるという推定は覆えされておるのでありまして、而もその判決は禁錮以上の実刑に処する判決であるということから考え、又右述べたような裁判所の審理期間の実情を考慮いたしますと、さような場合にこれも放つて置くわけには行きませんので、これが本條の改正をいたした趣旨でございます。
 次は三百五十九條以下の関係であります。これはいわゆる上訴放棄の制度を認め、これに伴う條文の整理をいたしたのでございます。上訴放棄の制度は旧法時代にはあつたものでありますが、新法においてはこれを廃止したのでございます。その廃止の理由は、軽軽に上訴を放棄する場合があり得る、さようなことでは本人の権利を保護するゆえんではないというだけだつたと思いますが、併し実際の運用を見ますると、判決に不服のないかたまでが十四日間の上訴期間の経過を待たなければならないというのでは、審理の促進を阻害するのみならず、他面被告人の本意にも反しまして利益の保護に全からざるものがあるのであります。よく被告人の中には即日執行願いますというのが多いのでございますが、この上訴放棄の制度がないために、それができないという実情でございます。よつて今回この制度を復活いたし、ただ軽軽しくその放棄が行われないようにするために、必ず放棄は書面によつてしなければいかんということを明らかにし、更に死刑の判決のあつた場合においては、勿論上訴権の放棄は認めないというふうなことにいたしました。
 次はいわゆる控訴審における取調の内容の拡張でございます。この点については條文はいろいろ細かく書いておりまするが、大体改正は二点に分れておるのでございます。その第一点は第一審裁判所の審判の過程に現われなかつた資料でも、一定の條件の下に控訴趣意書に援用できるものとした点でございます。従いまして控訴趣意書に真正面から取上げられて、三百九十二條によりまして当然調査ができることと相成るわけでございます。その第二点は控訴審が第一審判決後の刑の量定に影響を及ぼすべき情状を考慮して、原判決の量刑の当否を判断することができることとした点でございます。各條文の内容につきましては大分技術的に細かくなりますので、控訴審の関係は大体それでとどめておきます。
 次は略式手続についての改正規定でございます。五十六頁であります。略式命令について諸般の改正をいたしましたが、今までの統計によりますると、略式命令によつて処罰されるものは全有罪人員の約七割に達しております。従いましてこの略式手続を合理化して事件の迅速な処理を図ることはすべての刑事事件の審理促進に大変寄與することとなろうと思います。現在の略式手続の欠陷とされる点は次の二点でございます。その一つは検察官が被疑者に対し略式命令の請求をすることを告げた後、被疑者に異議がない場合においても一週間の猶予を置かなければ、略式命令を発することができないということになつております。すでに被疑者において異議がないのでありますから、かような猶予期間を置くというのは如何なものであろうか。又その第二点は被告人の所在が不明なため略式命令の告知ができない場合の事件の処理に関して従来規定が不備でありまして、いろいろ疑問が生じて来たのでございます。この二点を中心としてこの是正を図つたというのが略式手続に関する改正でございます。その他は冒頭に申上げました通りおおむね技術的な面の改正でございまして、なお詳細の点につきましては御質問に応じまして逐次御説明を申上げたいと思います。
#6
○中山福藏君 私この逐條審議の問題に関せずに、是非とも改正しなければならんという眼目の一つとしてこういうことはお考えになつていなかつたかということを聞いておきたいのであります。それは控訴審というものは覆審制というものを廃して事後審というような性格を帶びるということに大体なつて、今度控訴審における取扱を緩和するというふうに改正するという趣きでありますが、併しこれは私は旧刑事訴訟法のほうが非常に新法よりもいい。大体弁護士会の空気なんかそうそつておるようであります。これで新らしい証拠とか、事後の状況の変化を控訴趣意書の中に掲げて控訴趣意書を提出するというような、誠に不十分な改正ではないかという感を私どもは受けるのでありますが、これはやはり元の覆審制のほうがいいんじやないかというようなことを考えているんですが、そういう点はどうでしようか。
#7
○政府委員(岡原昌男君) 御質問の点は誠に御尤もでございまして、いろいろと訴訟の全般的な形をどういうふうに持つて行くべきかということで、法制審議会でも相当錬つたのでございます。ところで現在の訴訟法の建前が、只今御指摘の通りいわゆる事後審の形を取つておりまして、最初の捜査の段階から最後の上訴、再審の段階に至るまでその形でずつと一貫して整理してあるわけでございます。そこで一カ所これを従来の覆審的な訴訟構造に変えてしまいますると、最初から最後までこれを統一的に又練り直さなければいかんということに相成りますので、殆んど根本的な訴訟法の改正ということになるわけでございます。そこでいろいろこの訴訟の運用の実際に鑑みまして、従来の訴訟法の欠陥その他が出て参りましたので逐次改正したいと存ずるのでありまして、法制審議会におきましても先ず取りあえず割合に早く直し得る、そうして皆さんの御異存のなさそうなところというのを改正の最初に取上げましたので、さような根本的な問題につきましてはなおほかに、例えば証拠法の問題とか陪審の問題とかといつたような非常に大きな問題がございましたけれども、いずれも相関連して一つ一つ簡單には片付けられない問題であるというふうなことから実はかようなことに相成つたわけでございます。これは最高裁判所の性格その他とも関連いたしまして、なかなかむずかしい問題なのでございますから、今回はまだ結論に達していないというふうな点を御了承願いたいと思います。
#8
○委員長(伊藤修君) ちよつと速記をとめて下さい。
   〔速記中止〕
#9
○委員長(伊藤修君) 速記を始めて。
 それでは本日はこの程度にいたしまして、次回は公報を以てお知らせいたします。それでは本日はこれで散会いたします。
   午後三時十二分散会
ソース: 国立国会図書館
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