2015/06/19 第189回国会 参議院
参議院会議録情報 第189回国会 経済産業委員会 第19号
#1
第189回国会 経済産業委員会 第19号平成二十七年六月十九日(金曜日)
午後一時開会
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委員の異動
六月十八日
辞任 補欠選任
安井美沙子君 石上 俊雄君
柳澤 光美君 浜野 喜史君
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出席者は左のとおり。
委員長 吉川 沙織君
理 事
磯崎 仁彦君
滝波 宏文君
宮本 周司君
加藤 敏幸君
倉林 明子君
委 員
阿達 雅志君
岩井 茂樹君
高野光二郎君
松村 祥史君
渡邉 美樹君
石上 俊雄君
直嶋 正行君
浜野 喜史君
佐々木さやか君
浜田 昌良君
東 徹君
松田 公太君
中野 正志君
荒井 広幸君
事務局側
常任委員会専門
員 奥井 俊二君
参考人
一橋大学大学院
国際企業戦略研
究科教授 相澤 英孝君
一般社団法人日
本経済団体連合
会知的財産委員
会企画部会部会
長代行
NTTアドバン
ステクノロジ株
式会社顧問 澤井 敬史君
日本労働組合総
連合会総合政策
局長 川島 千裕君
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本日の会議に付した案件
○特許法等の一部を改正する法律案(内閣提出、
衆議院送付)
○不正競争防止法の一部を改正する法律案(内閣
提出、衆議院送付)
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#2
○委員長(吉川沙織君) ただいまから経済産業委員会を開会いたします。委員の異動について御報告いたします。
昨日、柳澤光美君及び安井美沙子君が委員を辞任され、その補欠として浜野喜史君及び石上俊雄君が選任されました。
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#3
○委員長(吉川沙織君) 特許法等の一部を改正する法律案及び不正競争防止法の一部を改正する法律案の両案を一括して議題といたします。本日は、両案の審査のため、三名の参考人から御意見を伺います。
御出席いただいております参考人は、一橋大学大学院国際企業戦略研究科教授相澤英孝君、一般社団法人日本経済団体連合会知的財産委員会企画部会部会長代行・NTTアドバンステクノロジ株式会社顧問澤井敬史君及び日本労働組合総連合会総合政策局長川島千裕君でございます。
この際、参考人の皆様に一言御挨拶申し上げます。
本日は、御多忙のところ本委員会に御出席いただきまして、誠にありがとうございます。
参考人の皆様から忌憚のない御意見を拝聴し、両案の審査の参考にさせていただきたいと存じますので、よろしくお願い申し上げます。
それでは、議事の進め方について申し上げます。
まず、相澤参考人、澤井参考人、川島参考人の順にお一人十五分以内で御意見をお述べいただき、その後、各委員の質疑にお答えいただきたいと存じます。
御発言の際は、挙手していただき、その都度、委員長の許可を得ることとなっておりますので、御承知おきください。
なお、参考人、質疑者共に御発言は着席のままで結構でございます。
それでは、まず相澤参考人にお願いいたします。相澤英孝参考人。
#4
○参考人(相澤英孝君) 本日は、先生方の貴重な御時間をいただきまして、参議院経済産業委員会で参考人として意見を述べさせていただく機会を与えていただき、ありがとうございます。特許法改正案及び不正競争防止法改正案について若干の意見を述べさせていただきます。
特許法改正案は、職務発明に関する特許法第三十五条の改正案と、特許法条約及び商標法に関するシンガポール条約の加入に伴う国内法的整備を含んでおります。特許法条約及び商標法に関するシンガポール条約につきましては、グローバル化した現代における多数国による特許権の取得等の特許権及び商標権の管理というものが向上すると考えられますので、これについては異議のないところだというふうに理解をしております。
そこで、職務発明に関しまして意見を述べさせていただきたいと思います。
現在の特許法第三十五条は、従業員の職務上の発明につきまして、使用者である企業等に勤務規則等の使用者の決定により特許権を取得させるということを認めつつ、使用者にその対価を従業者に支払う義務を課しております。これは、従業者の発明に関して、その発明からの利益を踏まえた対価を支払うとするいわゆる成果主義的なものが採用されているものでありまして、通常の従業者の職務の成果に関する一般的な取扱いとは異なっているものであります。
その理由は発明の奨励にあるわけでありますが、企業その他の研究開発組織におきまして技術開発がなされる過程は多種多様にわたっております。一義的に成果主義、結果を伴う報酬を求めることが妥当しない場合があるのではないかというふうに考えております。円滑に研究開発が行われるためには、それぞれの企業や研究組織が自らの研究開発投資を踏まえて、職務発明の取扱いについて自由に決めて研究開発を促進するということが究極としての研究開発の促進につながるというふうに考えております。
改正案は、従業員等の発明者が引き続き相当の経済的利益を受ける権利を有するとすることで、これまでの職務発明規程を踏襲しながら、相当の利益の決定について、より柔軟な取扱いを可能とすることを目的とするものと理解されます。これによりまして、使用者である企業その他の研究組織と発明者との協調により円滑に技術開発を進めるという日本の課題解決についての改正であるというふうに理解することができると思います。
なお、今回の改正では、現在の特許制度が抱えている大きな課題であります特許権の侵害に対する救済のための制度的な整備については含まれておりません。今後、技術開発の成果を十分に保護し、知的財産の価値を高めていくためには、知的財産制度の国際的な整備による日本産業の国際的展開という目的を踏まえ、国際的な交渉の基礎となる日本の特許制度の保護を充実させていくための紛争処理システム、その改善をしていかなければならないというふうに考えております。
そのための手段としましては、例えば侵害者に偏在する証拠を開示させ、侵害に関する事実を隠蔽することを阻止するための制度を充実させること、侵害者に侵害による利得を保持させず、むしろ侵害をすることによって損失を受けるような、侵害を抑制する賠償制度のような法制度を整備を急がなければいけないという状況にあるものと考えております。
次に、不正競争防止法の改正案について若干申し上げさせていただきます。
近年、日本企業の営業秘密が国外において不正に使用され生産された製品が各国を流通するという状況が明らかになっていることは先生方御了知のところであると思います。グローバル化した現代社会において、国際的に活動する日本企業の技術開発の成果であります技術が十分に保護されなければ、技術開発投資からの収益が得られないことになり、日本の経済発展にも影響を及ぼすおそれがあります。
技術開発投資を保護するためには、特許権の保護のみならず、営業秘密の保護を含めた知的財産の全般にわたる保護が重要であります。知的財産の侵害の立証では、一般に証拠が侵害者側に偏在するということがあります。特に営業秘密に関しましては、製造方法等の侵害過程は侵害者によって隠されるということが多いので、その場合には不正使用者に証拠があることから立証ができない、したがって営業秘密の侵害が認められないというおそれがあります。したがいまして、この立証の困難を除去することが重要になるというふうに考えます。
また、営業秘密の不正使用によって生産された製品の流通を放置すれば、不正使用者はそこでその流通によって利益を得ることになります。この利益を得ることを阻止するために、不正使用によって生産された製品の流通を抑止することも必要です。さらに、不正使用によって得た利益を剥奪し、不正使用によって利益は得られず、かえって損失を受けるかもしれないということが、そういう賠償制度ができることによって営業秘密の不正使用を抑止することができると思います。
改正案は、不正使用に関する推定規定を設けることによって、権利者の立証負担を一定程度軽減し、不正使用者による証拠の不提出による侵害の不成立ということを和らげる効果を有しています。また、不正使用によって生産された製品の輸入を阻止するために、不正競争の範囲を拡大させることも含んでおります。さらに、インターネット等を使った産業スパイ等、言わば新しい時代の情報環境における営業秘密の保護というものも踏まえた刑事罰規定の整備なども盛り込んだものとなっておりまして、現代における営業秘密の保護に関して意義のあるものであるというふうに考えております。
今後、侵害の立証のための証拠の提出義務を拡大する制度等の充実、今回の改正で侵害とされた、外国において不正使用により生産された製品の輸入を税関で阻止するための関税法の改正、不正使用により利得を得られない賠償制度などの制度整備が進められるべきものであるというふうに考えております。
知的財産の改革は、今回の特許法の改正案、不正競争の改正案で完結しているものではないと考えております。今後の日本の成長を支える知的財産の価値を高めていくためには、先生方のお力によりまして、更に知的財産の保護を充実させるための紛争処理システムの整備、更にグローバル化時代に即した日本による通商交渉等が進められることが必要であるというふうに考えております。どうかよろしくお願いいたします。
私の意見はここまでです。ありがとうございました。
#5
○委員長(吉川沙織君) ありがとうございました。次に、澤井参考人にお願いいたします。澤井敬史参考人。
#6
○参考人(澤井敬史君) 経団連の知的財産委員会企画部会長代行の澤井でございます。本日は、このような機会をいただきまして、誠にありがとうございます。さて、本日、二つの法改正についての参考人ということでありますので、まず総論的なお話をさせていただいてから、特許法、次いで不競法という順で、それぞれについて簡単に意見を述べたいと思います。
まず総論ですが、イノベーション創出をめぐるグローバル競争が熾烈化しておりまして、知財に関する国の政策、制度が従来にも増して重要な時代となっています。
こうした中、個々の企業においても知財が経営戦略と密接に結び付くようになってきており、戦略の多様化、複雑化が進行中です。それを象徴するキーワードはオープンイノベーションです。企業は、自前主義の時代から多様なプレーヤーと様々な形で連携して新しい知を生み出す時代に入っております。
その際に重要なことは多様性だと思います。いろいろな選択が可能なように、柔軟な制度が用意されていることが必要です。そして、どのような制度であっても、生み出された知が侵害されることのないようにしっかりと保護され、安心して活用できる抑止力ある仕組みになっていることが大切です。
例えば、特許化については権利取得が法的安定性を持って行われることが重要ですし、秘匿化については、合理的な秘密管理をしていれば不正取得、使用した相手に対して相応のペナルティーが科されることが重要でございます。
その観点から我が国の現在の法制を見ると、特許化あるいは秘匿化というどちらの選択肢を取るにせよ、やや不十分な点がまだ残っています。
そこで、経団連ではそれぞれについての改正を要望してまいりました。今次の法改正によって、オープンイノベーション時代にふさわしい多様性と抑止力を確保する環境整備ができるものと思っております。それによって、我が国企業の知財戦略の機動力が高まり、イノベーション創出につながることができると大いに期待しております。
したがって、いずれの法案においても経済界の総意として早期の成立、施行を希望いたします。
それでは次に、二つの改正法案に関しての意見を簡単に述べたいと思います。
まず、特許法の改正についてでございますけれど、ここは職務発明制度の見直しについて焦点を当ててお話しさせていただきたいと思います。
まず、現行の特許法の職務発明制度の問題点でございます。
先ほど相澤参考人からもお話ありましたように、我が国の職務発明制度は従業者帰属と称される形になっております。従業者帰属では、職務発明に関する特許を受ける権利がまず発明者である従業者に発生します。企業は、その権利を相当の対価をもって従業者から譲り受けた上、企業として特許出願をするという形になります。この制度では、相当の対価を通じた権利譲渡によって帰属が従業者から企業に変更するというものであり、構造上大きな問題点を抱えています。
その問題点を簡単に御紹介いたします。
まず、企業から見て大きな問題は、従業者から譲り受ける構図となるために、権利が安定的に取得できないという点です。例えば、従業者が、その特許を受ける権利を勤務している会社に報告することなく第三者に勝手にあるいは意図的に譲渡し、その第三者が先に特許出願をした場合には、会社は権利者になることができません。いわゆる二重譲渡問題というものです。
この点は今まで実はほとんど公になっていない問題点ですが、人の流動化が激しくなり、またグローバルで企業がしのぎを削るようになってくると、このような根本的な不備を抱える制度では海外などからもいろいろと付け込まれる隙を与えることになると危惧しております。
また、相当の対価をめぐって訴訟で争える仕組みが取られていますが、相当の対価を算定することは大変な困難を伴います。特に近年、製品の高度化、複雑化が進んでおりまして、一製品に数百あるいは数千の特許が使われているものも増えており、個別の特許の価値の算定は実に難しいものでございます。事実、相当の対価をめぐる裁判例においても、裁判所の算定価格も乱高下しており、地裁と高裁で二桁近く異なる算定をされる例もあります。しかも、企業におきましては、退職後であっても十年以上にわたり退職者をトレースして、その対価のお支払をしなきゃいけないという実態もございます。
平成十六年改正の後の判例が少ないというのは御案内のとおりでございますけれども、衆議院の経済産業委員会でキヤノンの長澤参考人が自社では十年間で十数億円ぐらいと発言されているように、訴訟にならないようにかなり膨大な労力やコストを掛けている現実が企業にはございます。これらのコストは、本来はイノベーション創造に向けるべきリソースを効果的に使えていないということを是非御理解いただきたいと思います。
それから、研究開発のスタイルも相当変わっておりまして、個人からチームへ移ってきているということも付言したいと思います。特に製薬業界はこれが顕著だと聞いております。さらに、重要な点は、イノベーションという観点から見ますと、イノベーションは個人の力でなされるものではなく組織で行われるものであるという点です。
ソニーの創始者のお一人である盛田昭夫氏の言葉がそれを如実に語っていますので、御紹介します。発明とか技術だけではビジネスは成り立たない、その技術を使ってどんな製品を作るかを考える際にもう一度知恵を絞る必要がある、売り広めるときにも更に知恵が要ると。すなわち、イノベーションにつながる製品の販売には発明部門以外に多数の部門の貢献があるのが現実であり、発明者のみに多額の対価を認めるということは、インセンティブ施策を従業員の間で公平に講じたいと願う立場から見ると実に扱いにくい側面を含んでおります。そこで、我々経済界としては、従業者帰属を法人帰属に転換することを要望してまいりました。
ここで、ちょっと補足的に一言申し上げたいことがございます。
法人帰属ということで我々はお話ししたんですけど、その法人帰属と法人発明というのをちょっと混同されている向きもあるので、法人発明という言葉を使うときには法人そのものが発明者になるというもので、法人帰属はあくまでも特許を受ける権利を最初から法人のものにするだけでありますので、したがって、法人帰属となっても、発明者は従来どおり発明した従業者であって、特許証にはきちんと発明者の氏名が掲載されます。そもそも、発明は会社と従業員とが各々の役割を果たし、全体として生み出すものでございますので、二項対立では語れないものであると現場では痛感しております。
今般、最初から法人帰属になるという考え方を採用することになれば、従業者から会社への譲渡ということがなくなるので、潜在的に大きな危険性をはらんでいる、先ほども申し上げました二重譲渡等の問題が根本的に解決されると期待しております。
改めまして今回の特許法の改正案を眺めてみますと、権利の帰属に関しては極めて柔軟性に富んだ制度設計がなされていると我々は感じております。すなわち、従前の従業者帰属を採用したい意向を有する中小企業あるいは大学、研究機関等は、これまでどおりの対応ができることが認められております。その一方で、法人帰属を望む企業は、意思表示によって最初から法人帰属とすることができる制度となっております。要は、法人の意思によって帰属を選択できる柔軟な制度として設計いただいたものと理解しております。
また、相当の利益という規定になりまして、金銭以外の報奨でも認められることになることから、留学などの多様な方策を自由に企業は設計できるようになります。やる気を引き出す施策が仕事の内容に応じて多様かつ柔軟に行われるようになることは、労使双方にとっても望ましい結果を生み得るものと考えております。
なお、法人帰属に転換することによって海外に人材が流出するとの批判が一部にあるようですが、ドイツ以外の欧州を始め、ほとんどの国が法人帰属を採用しており、米国も契約によって事実上の法人帰属であることを考えれば、多分杞憂にすぎないでしょう。ちなみに、経団連では、昨年二月に職務発明の法人帰属化に向けた声明を公表し、企業における自主的な取組を促しているところでございます。
イノベーションの創出に向けて人材獲得にしのぎを削っている企業の観点から見れば、魅力的な処遇を用意すべく創意工夫を施しております。そうでなければ、グローバルな競争原理の中で中長期的には淘汰されることは誰よりも企業自身が認識していることを強調しておきたいと思います。
経営陣としましては、自社の特性を踏まえ、研究者はもとより、他の従業員も含めた形でモチベーション向上策を考え、最大限の効果が上がるインセンティブ施策を自由に設計したいと考えております。今回の法改正によりインセンティブ施策の自由化が認められることは、企業にとっても有益であることのみならず、そこで働く個々の従業員のためにもなると考えております。
それで、あと、改正法を踏まえたちょっと要望でございますけれども、イノベーションの実効が上がるためには、今後定められる指針が重要になってくると考えて我々はおります。指針は、企業と従業者の間の手続を明示することで、双方の納得感を高める効果や企業にとっての予測可能性の向上が期待できるものと理解しております。今回の職務発明の制度の改正は、さきにも言いましたように、柔軟性を重視した設計になっているので、指針の策定においても是非その精神にのっとり、使用者と従業者との自主的な取決めの多様性を尊重して、かつ実務に即した現実的なものを定めていただきたいと願っております。
次に、不正競争防止法については簡単にお話しさせていただきます。
不競法については、近年、海外競合企業による我が国企業の技術情報、営業秘密の不正な取得の問題が顕在したことを受けて改正をお願いしたところでございます。また、日本成長の要がイノベーション創出にあり、そのキーが、企業が長年にわたる研究開発で蓄積してきた知にあることに鑑みれば、営業秘密の保護は一企業の問題であるだけでなく、国益にも直接結び付く最重要の課題と認識しております。
現行の不競法は、これまでも罰金の上限引上げ等何度かの法改正を行ってきており、そのたびに抑止力の向上が図られてきたと理解しております。他方、実際には、営業秘密が漏えいした際、立件においては、その秘密がしっかり管理されているかが企業実務の実態を超えて厳しく問われます。民事における損害賠償請求においても、営業秘密が使われても、具体的な被害を受けたことを被害を受けた側が証明するように求められるなど、被害側のハードルが極めて高いと思われます。
こうした実情は、抑止力が実質的には機能しているとは必ずしも言い切れず、結果として犯罪のやり得や被害者の泣き寝入りを生んでいる可能性が高いのではないかと考えております。特に、海外企業によって時に組織的な形で営業秘密の不正取得、使用が図られるケースは極めて深刻ですし、国の成長につながるイノベーションの源泉が侵されるという形で国益が阻害されているとも言えます。諸外国では、国益の確保という視点も加味して内外で罰則等に軽重を付け、国家としての姿勢を示していると理解しております。
我々としては、最近顕在化してきた事態の深刻さに鑑み、抜本的な改正を要望してまいりました。今回、そのほかに、法改正と併せて、実際の営業秘密管理指針の改定を通じ合理的な秘密管理の在り方を明確にし、さらには、営業秘密漏えいに関する情報や危機感を官民で共有するためのフォーラム設置等も御提案いたしました。これらがセットとなることによって我が国の営業秘密強化がなされるものと認識しております。
今回の法改正に関しましては、国益を守るという視点も入って、刑事、民事共に従来の考え方では難しいと思われるところまで踏み込んだ極めて野心的なものとなっており、従来に比して格段の抑止力向上が図られるものと理解しております。あわせて、営業秘密指針につきましても抜本的と言えるスリム化、簡素化を図っていただいたことも大きな成果と言えます。同指針は警察当局も参考としており、その書きぶりは極めて大きな影響があるものと理解しております。さらに、本年一月、官民戦略会議において官民フォーラムの設置が決定され、七月にも開始すると聞いております。こうした具体的な成果が着実に見えてきていることも頼もしい限りでございます。
今後は、法改正と同時に、法執行に係る体制の強化充実が図られることを大いに期待しております。また、企業におきましても、営業秘密保護の強化に向けた体制づくりが必要です。職務発明と同様、地方、中小企業に対しては知財総合支援窓口等を通じた包括的な支援が講じられることが望ましいものと考えております。
最後でございますけど、今回のこの二つの法改正により、多様性と抑止力の向上が図られ、我が国のイノベーション創出環境は大きく前進するものと思います。この先は、多様性や抑止力をどう生かすかという点で、規模の大小を問わず、企業の知恵と力量が問われているものと覚悟しております。日本の発展に向けて、産業界としても精いっぱい努力したいと思います。
どうもありがとうございました。
#7
○委員長(吉川沙織君) ありがとうございました。次に、川島参考人にお願いいたします。川島千裕参考人。
#8
○参考人(川島千裕君) ただいま御指名いただきました連合の川島と申します。本日は、私たち連合の意見を表明する機会をいただきまして、まず感謝を申し上げます。
特許法等改正法案の中の職務発明制度の見直し及び不正競争防止法改正法案について、働く者の立場から意見を述べさせていただきます。
本日は、お手元に発言要旨をA4一枚お配りしておりますので、この内容に沿って御説明を申し上げます。
まずは、特許法改正法案に対する受け止めについてであります。
職務発明制度の見直しについては、連合も参加しました産業構造審議会特許制度小委員会において、立場の異なる委員による様々な議論の積み重ねを経て報告書が取りまとめられました。本法案は、小委員会で確認された報告書の内容を適切に反映したものであり、また、その中で連合の意見も反映されていることから、妥当な内容であると受け止めております。小委員会での議論経過や報告書の趣旨が十分反映された法律となるよう、国会での審議においてこれらの趣旨が確認されることを強く求めるものでございます。
また、今回の法改正は、我が国における職務発明の促進、産業の発展につながることが重要でありますので、法改正後の運用についてもしっかりと調査、検証が行われる必要があると考えております。
次に、国会で御審議、確認いただきたい事項として四点申し述べます。
一点目は、職務発明に関する権利の帰属に関してであります。
法案では、職務発明に関する特許を受ける権利を初めから法人帰属とすることを可能としております。この法人帰属化については、マスコミなどでも大きく取り上げられたところでもありますし、研究者の関心も高い論点であります。
法案では、法人帰属とするためには、契約、勤務規則等であらかじめ定めることを要件としております。したがいまして、契約、勤務規則等で法人帰属とすることを定めない会社については従業者帰属のままであり、現行法と変化はありません。また、現行法の下で、大企業のほとんどは職務発明に関する規程を設け、その中の多くの企業は規程において特許を受ける権利を従業者から承継するようにしております。
小委員会の報告書の段階では、この法人帰属とする際の前提条件が必ずしも明確にはなっておりませんでした。どのような法案になるのか若干心配をしておりましたが、特許を受ける権利の取扱いについての変更は実質的には小幅にとどまるものと受け止めております。
いずれにしましても、国会審議において、特許を受ける権利の帰属を見直すべきとした立法事実、法人帰属を可能とすることの意義、さらには、これが従業者のインセンティブ確保にどのように寄与するのかという点について確認をお願いしたいと思います。また、職務発明は全て無条件に法人帰属となるといった誤ったメッセージが伝わらないようにする必要があると考えております。
二つ目は、相当の利益を受ける権利に関してであります。
従業者に対し、相当の金銭その他の経済上の利益を受ける権利を法定化することは、初めから法人帰属とした場合でも従来の法定対価請求権に相当する従業者のインセンティブを確保するものであり、妥当と考えます。
小委員会の報告書には、これにより、従業者には現行の職務発明制度における法定対価請求権と実質的に同等の権利が保障されることとなる旨が記載されております。従業者のインセンティブがそがれることがないよう、この趣旨を十分に踏まえた法律、運用となるよう確認をお願いしたいと思います。
三点目は、指針の策定に関してであります。
法改正後、相当の利益の内容を決定するための手続の指針が策定をされます。現在でも特許庁において手続事例集はありますが、今回、法により指針を定めることが明記されたことを評価しております。
指針の具体的な中身は産業構造審議会で検討されることとなっておりますが、検討に当たっての留意点として三点申し上げます。
一つ目は、相当の利益を定める際に、従業者の関与の必要性をより重視するような手続ルール、また苦情処理の在り方について指針に盛り込むという点であります。
相当の利益の内容は、使用者と従業者の協議や意見聴取などが適切に行われ、その結果を十分に踏まえたものでなくてはなりません。また、社内に苦情、異議申立ての仕組みや相談窓口、問題解決を行う場を設けること、その場には労働者代表や研究者代表を含めた形で構成するなど、より従業者の納得性を高めるような内容が盛り込まれることが重要であります。
二つ目は、相当の利益の内容に対する考え方を指針に盛り込むべきという点であります。
法案では、相当の金銭その他の経済上の利益と定めておりますが、金銭以外にどのようなインセンティブがふさわしいのかなど具体例を示し、インセンティブの切下げにならないことを担保する必要があると考えます。
三つ目は、現在、職務発明に関する規則がない企業に対して、規則制定の促進となるような指針とすべきであるという点であります。
特に、中小企業の規則制定を促進するための一助となるような工夫を凝らす、分かりやすく実効性のある指針となることを求めます。
そして四点目は、法改正後の調査、検証についてであります。
今回の法改正が今後従業者のインセンティブにどのような影響を与えるのかは現時点では分かりません。法改正前後で企業の職務発明規則が変わったのかどうか、変わったとすればどのように変わったのか、従業者のインセンティブに変化があったのかなど、法改正後の運用に対する調査、検証を行うべきと考えます。
次に、不正競争防止法改正法案について説明をいたします。
不正競争防止法の見直しについては、連合も参加しました産業構造審議会の下での営業秘密の保護・活用に関する小委員会において働く者の立場から意見を述べてまいりました。
連合としても、営業秘密の漏えいが後を絶たないことを大きな問題だと捉えております。企業及び労働者の努力の結晶とも言える技術情報などが不当な形で窃取、使用され、結果として企業の健全な発展や労働者の雇用、労働条件に悪影響を及ぼすようなことがあってはならないと考えております。
今回の改正案の内容は、営業秘密の侵害に対する抑止力の強化や処罰範囲の整備など、罰則強化を含めた法整備を講ずるというものであり、評価をしております。
続いて、国会で御審議、御確認いただきたい事項として二点申し上げます。
一点目は、事業者、労働者への周知徹底についてであります。
不正競争防止法の保護対象である営業秘密と、企業が自社で定め運用している機密情報の関係性が不明確なケースも多いと思われます。労働者の萎縮防止の観点からも、悪意のない労働者が罪に問われることがないよう、業務を遂行する上で何が営業秘密に当たるのか、労働者における正しい理解と納得が必要不可欠であると考えております。
そのためにも、処罰範囲の拡大などの法改正点、また営業秘密管理指針について、事業者、労働者に周知徹底を図るとともに、刑事罰の対象となる具体的な行為類型を明確にし、周知することが必要であると考えます。また、企業内における営業秘密の取扱いに関する規程などについての労使協議を促すことが重要だと考えます。
二点目は、発明、技術を営業秘密としてクローズした場合における研究者に対する適正な処遇についてであります。
営業秘密漏えいの原因の一つに、研究者の処遇への不満があるということも聞くところであります。営業秘密漏えいに対する抑止力の強化も重要でありますが、同時に、研究者の適正な処遇の確保に向けた取組も必要であります。
発明、技術をオープンにするのかクローズにするのかは企業が戦略的に判断することではありますが、どちらの場合においても、企業がその発明者たる研究者に対して適正な処遇を行うことが重要であると考えます。今後策定される職務発明制度に関する指針や営業秘密管理マニュアルなどにおいてこのことを明確に示し、実効性のあるものとする必要があると考えます。
以上、これらの点についての御審議、御確認をお願い申し上げ、発言といたします。
#9
○委員長(吉川沙織君) ありがとうございました。以上で参考人からの意見の聴取は終わりました。
これより参考人に対する質疑を行います。
質疑のある方は順次御発言願います。
#10
○阿達雅志君 自由民主党の阿達雅志です。本日は、参考人の皆様、改正案につきましての非常に具体的な御意見表明をいただき、ありがとうございました。これからの審議でも十分に参考にさせていただきたいと思います。
やはり我が国の発展にとって、この知的財産、非常に大事なものだという御意見が皆さんからあったと思うんですけれども、そういう中で、まずちょっと相澤参考人にお聞きをしたいんですけれども、この知的財産権というのを考えたときに、今回の改正案では、特許権、それから営業秘密、この二つが問題になっているわけですけれども、知的財産権として、通常の財産権とやはり大分違うのではないかと、こういう気がするんですけれども、この知的財産権というものと通常の財産権とどういう点に違いがあるのか、また、その中で、この特許と営業秘密、財産権として見た場合にどういう点に違いがあるのかをちょっと教えていただければと思います。
#11
○参考人(相澤英孝君) 今御指摘のとおりでありますが、有体物、いわゆる物と違いますのは、情報は物理的存在を有しないということでございます。物は物理的存在を有するので、その物を物理的に管理、支配することによって利益を享受できます。しかしながら、知的財産は情報でありますので、法律で守ってあげなければ利益が享受できないということになります。ここが知的財産とその他の有体物、不動産であるとか動産であるとかという財産と大きく異なっている点だと思います。現代社会におきましては、この情報というのが極めて重要な要素になっております。その中で、今日申し上げました特許と営業秘密というのは、実はこの両方があって技術開発が行われるということになります。
例えば、今日お話に出ています営業秘密を秘密にしようと思っても秘密にできないものがあります。例えば、製品を売ってしまえば、これを購入した人は、これはどういうふうなものからできているかということを解析することができます。解析すれば同じものを作れます。そういう同じようなものを作れるようなものを営業秘密で守ろうと思っても、そうはいきません。反対に、もしこの、これは水ですが、この物が何らかの原液で薄められて作っている、その原液は何だか分からないという状態であれば、原液を秘密にしておくことによってそれをずっと売り続けることができます。これが営業秘密と言わば特許のもの、使い方、製品に応じて使い分けていかなければいけないということになります。
時間を取って恐縮ですが、更にビジネスはその先を行っておりまして、特許とか営業秘密で言わば技術を囲い込んでいる自分たちが有利な間に、今度は商標、ブランディングをすることによってブランド価値が高まると。前は中身が欲しかったんだけれども、この中身を買うならこのブランドだということになればそのブランドで物を売ることができます。国際競争の時代にあってはそれが非常に重要なことになります。
そういう意味で、知的財産というのはそれぞれいろんな制度がありますが、それを組み合わせて企業が利益を上げていく、その企業の利益が社会に還元され、経済の発展につながっていくというふうに考えております。
少し長くなりました。
#12
○阿達雅志君 どうもありがとうございます。非常に今、知的財産について分かりやすく御説明をいただいたわけですけれども、やはりそうなってくると、これをどういう形で保護していくか、これは非常に大事だと思うんですけれども、今日のお話の中でも、不正競争防止法の改正案についての御意見の中で、営業秘密を侵した、そういう商品の輸入をこれを防ごうというお話がございました。
今回の法律案の中では日本への水際規制というのは入っていないわけでございますけれども、ただ、これを、将来水際規制というのを入れたとしても、例えばアジアのどこかの国がこういう営業秘密を使って作った、これを日本に入ってくるのを防ぐだけで済むんだろうかと。むしろ、マーケットとしてのヨーロッパ、アメリカ、そういったところでの流通を防ぐ、あるいはこれを侵害したその国における流通を防ぐ、そういったことをしていかないと実はこれ実効性がないのではないかと思うんですが、この辺りについてはどういうお考えでしょうか。
#13
○参考人(相澤英孝君) それはまさに必要なことです。アメリカは既に制度がありますけれども、例えばアジアの国に対してそういう制度をつくるということをこれから通商交渉で働きかける場合にも、日本にその制度がないものを外国につくるということを交渉で求めるということはなかなか難しいことであります。つまり、日本でこういう制度をつくって、お互いに制度を守りましょう、お互いに知的財産を守りましょうということであって、それであって通商条約における知的財産の保護というのが成り立っていくわけですから、そこは日本がまずきちっとするということがあって、それからこれから国際交渉でそれをアジアの各国に勧めていく。
もちろん、交渉に応じない国もありましょう、それから原産国の一部には交渉に応じない国があるとしても、流通するところで止まっていけば、徐々に国際流通性のないものを作るということは私は少しずつ収まっていくのではないかというふうに期待をしております。
#14
○阿達雅志君 ありがとうございます。そうしますと、これ知的財産というもの自体も、今現在、特許権、特許というのは各国によって違うわけですね。国によって特許が認められる認められないがある。だけれども、こういう知的財産をいろんな各国で保護していくように、そういう通商協議をしていくということを考えると、知的財産そのものについてもやはりハーモナイゼーションが要るという、そういうお考えでしょうか。
#15
○参考人(相澤英孝君) これまで、実は十九世紀の終わりからずっと努力を続けてきて、一九九四年のWTO・TRIPS協定で言わば知的財産の全分野、ほぼ全分野に当たるミニマムスタンダードがつくられております。しかし、それをこれより進めていくことによって、私は更なる日本の知的財産の保護が図られるのではないかというふうに考えております。#16
○阿達雅志君 ありがとうございます。今のお話、非常によく分かりました。次は、澤井参考人にちょっとお伺いをしたいんですが、最近よくオープン・クローズ戦略ということが言われますし、今回の参考人の資料もそれを意識して、企業戦略で特許としてオープンにする場合、営業秘密としてクローズにする場合、こういう絵を描いていただいているわけですけれども。このオープン、クローズをこうやって分けていくようになった背景なんですけれども、こういう分け方、特に議論をされるようになったというのは割と最近のことのような気がするんですね。
それには、やはり一つは、先ほど相澤参考人のお話にもありましたように、ある技術、これをまねをする国がいろいろ出てきて、昔はそのまねをする国というのは割と限られた国だった。それが、最近はどこの国もある程度そういう技術が発達してきたために同じようにまねをし出した。そういう中で、特許にして本当に公開するのがいいのかどうか。
特許にした場合にやっぱり問題になってくるのは、特許というのが国によって違うと、保護されるかどうか。先ほど相澤参考人がお話ししたとおり、法律で守られている権利だということの裏返しで、結局、日本で特許を取っていても、それ以外、アメリカでも特許を取らないといけない、中国でも取らないといけない、ヨーロッパでも取らないといけない。これは、PCT国際出願ないしは各国移行ということでまとめていくということになると思うんです。これがやっぱり全ての国でそういう特許を取り切れないと。
そういう中で、特許で、例えばの話、日本だけで全部技術を公開してしまって、それをほかの国が特許情報を見て、それでまねされるのが嫌だと、そういう部分もあるんじゃないかなというふうに思うんですけれども、このオープン・クローズ戦略を取る背景、日本の企業がなぜ最近こういう議論をよくするようになったか、その辺もし御意見があればお聞かせいただけますでしょうか。
#17
○参考人(澤井敬史君) 私が御説明するより今先生がおっしゃったとおりの背景で、やはり日本の企業は、本当にどんどん伸びていたときはいろんなことができたんですけど、やっぱり近隣諸国が力を付けてきて、ある技術をトレースしてやれると。そうすると、やっぱり特許の場合は、御案内のように一年半たつと自動的に情報が公開されてしまいますと、そこから読み取れるものが相当あって、多分、それまでは日本はどちらかというとアメリカ、欧米を中心にして見ていて、追い付け追い越せの時代でやってきたからそれでよかったんでしょうけど、今度、後から追っかけてくる人たちがどんどん力を付けてきたときに、確かに、企業でも出願をすると、結果的にもうその翌日には、例えば雑誌なんかにある技術を載せればすぐ翌日にはもう全部その情報が向こうで翻訳されているとか、そのキャッチアップのスピードがすごく高まっているのと、さっき相澤先生がおっしゃったように、何を見せていいのかどうかということを相当企業がやっぱりいろいろ考えるようになったわけですね。先ほど先生がおっしゃったように、リバースエンジニアみたいなものでやってみて分かるものをわざわざ出して、特に製造方法で隠しておけば全然分からないものをそこまで出しちゃうと、ああ、こういう作り方あるいはこういう成分でやればいいんだなというところまで全部手のうちをさらけ出しちゃうと、もうそれを、そこの情報を得たら、そこから先に行けばいいわけですから、そこの時間が途端に短縮されちゃうので、そういうことをやっぱり我々もあるところで失敗しながら学んできて、アメリカなんかでオープン、クローズだということが言われて、さっき、冒頭お話ししたように、オープンイノベーションということはどこかと組むわけですね。組むときも、じゃ、自分たちのアドバンテージというかストロングポイントが何で、向こうのものは何かといったときに、それをどうやって守るかということをやらないと、素っ裸で行くわけにはいかないので、だから、そこら辺がすごくいろんなことの事例を積み上げてきて企業が考えるようになった結果じゃないかと思いますね。
#18
○阿達雅志君 ありがとうございます。ちょっと時間も限られていますのでこれを最後の質問にしたいんですが、今、澤井参考人おっしゃられたいろんなところと組むと、これを考えると、特許というものがやはり単なる発明者のものだけであってはなかなか困ると。これがやっぱり今回の職務発明の原始帰属の議論にもなっていると思いますし。
また、そういう中で、特許をつくる過程においても、やはりそういう技術をつくるエンジニアを育てるためにいろんな学会へ行かせたりいろんなことをやった結果、技術ができて、それをまた企業が権利を持っているからそういう提携もできる、そういういろんな展開もできると。こういう、特許自体が、昔と違って一つの発明で一つの製品ができる時代でなくなったという、こういう背景があるんじゃないかと思うんですけれども。
そういう中で、例えば職務発明の対価を考えるときに、どういうことを考慮して対価というのを考えていけばいいのか。それは、単なる発明というのが非常に評価をしにくくなっている中で、やはりどういう、何らかの基準というのは、例えば指針に織り込むとして、考えられるものなのかどうか、その辺ちょっと御意見があればお聞かせいただけるでしょうか。
#19
○参考人(澤井敬史君) 分かりました。今おっしゃったように、今回の法改正によれば対価ではないので、相当の利益というところをどう考えるかということなんですけど、我々企業としてはやっぱりいいものを生み出してほしいと。だから、そのためにどういう環境なり条件を研究開発者に与えればいいかということが多分最大の眼目になると思うんですよね。
だから、その与え方はすごくバラエティーに富んでいるので、一律に何か指針の中でこうやればいいというふうにはむしろいかなくて、こういう類いのものがある、こういう類いのものがありますと、金銭以外の、先ほどちょっとお話しした留学の機会とか、あるいは、私のところでも経験あるんですけど、非常にトップクラスの研究者がいると、その研究者と交流してその人が持っている暗黙知みたいなものを取り入れて自分も研究のステージを上げたいと、そこへ人が集まってくるんですよね。
だから、そういう、研究者が本当に自分たちが研究開発していいものを生み出したいという環境をどうやって企業が整えるかというところは、本当にこれから企業同士のそこの知恵の競争になるんじゃないかなという感じはしています。
ちょっとお答えになっていないかも分かりませんけれども、以上でございます。
#20
○阿達雅志君 どうもありがとうございました。#21
○直嶋正行君 民主党の直嶋でございます。三人の参考人の皆さん、今日はどうもありがとうございました。先ほどのお話も大変私どもにとって参考になったと思います。
それで、私の方からは、ちょっと時間の関係もありますので、今回の特許法の職務発明制度に関わる部分を中心に御質問させていただきたいと思います。
今回の職務発明制度において、先ほどお話ありましたように、いわゆる特許を受ける権利の帰属について、従来からの発明者個人に対する帰属を残すと同時に、企業にその帰属を、最初から企業の帰属にすると、その両立を図ったものだと。言い換えますと、発明者個人に対する特許制度に対するインセンティブと企業の投資に対するインセンティブの、この両立を図ると、そういう発想に立っているというふうに思うんですが。
そこで、まず企業に対するイノベーションのインセンティブということで申し上げますと、例えば、我が国の民間企業の研究開発投資というのは大体年間十二兆円強。リーマン・ショックの前はこれが十三兆円から十四兆円近い金額もあったんですが、少し減っています。対GDP比で見ると三%弱というんですかね、二・七、八%ぐらいで、ただ、これはかなり世界でもレベルが高い方であります。
例えば政府の方針なんかを見ますと、今後これを三%以上になるように一生懸命後押しをしていこうと、こういう構想になっていまして、私なんかはもっと政府が金出せと、こう言っているわけですけど。そのことはちょっと別にして、政府もそう言っていることもあってということなんでしょうが、例えば企業に対して研究開発・投資減税とかあるいは様々な予算措置を付けて、企業に対する投資への意欲喚起を一生懸命取り組んでいるわけですね。
今回のこの特許をめぐる議論を聞いていまして、私、むしろ企業に対するインセンティブということで申し上げると、特許で帰属をどうするかということより、むしろこういう政府の税制や予算含めて、さっきの知財立国の話じゃありませんが、やはり国家の一つの大きな目標として、知財、技術のレベルアップのためにしっかり開発投資をやるんだと、こういうコンセンサスですね、こういうことをしっかり保つ方がはるかに効果が大きいんじゃないかというふうに思っています。
そういう意味でいいますと、今回の改正によって、企業じゃなくて、むしろ発明者個人というんですか、そこで研究開発されている方へのインセンティブがもし低下するようなことになれば、逆に社会的に見るとマイナスになるんじゃないかと、そういうふうに思っていまして、その点に関してちょっとお三方の御意見を頂戴したいんですが、今申し上げたように、今回のこの権利の帰属の変更によって個人の研究者に対するインセンティブ力が低下をするおそれがないのかどうか。それから、その個人のインセンティブを確保するために、じゃ、どういう寄与ができるのかということについて御所見を賜りたいんです。
特に、例えば経団連の澤井さんのお話さっき聞いていますと、既に多くの企業では契約やあるいは勤務の規程においてもううたわれているんだと。ただ、今度、対価から利益に変わったからこれ変えようということになると、今私が申し上げたようなことになりかねないということを私はちょっと危惧するわけでありますが、この点についてコメントをいただければと思います。
#22
○参考人(澤井敬史君) インセンティブは低下しないのかという御質問に端的に答えると、僕は低下しないと思うんですよね。というのは、実は私、NTTの研究者、数千人のいろんな発明を見ていた時期があるんですけど、それで、彼らが職務発明制度の何かお金を当てにして研究開発やっているわけじゃないんですよね。多分、こういうお仕事をされている方も皆さん、やっぱりお金のためだけに仕事をやっているのかというとそうじゃなくて、ある志があって皆さんお仕事をされていて、結果として何かお給料をいただくとかいろんなものが入ってくるんですけど。
特許庁さんがアンケートを取っていただいた、ずっといろんな項目でやった中で、これはちょっと出典、後で確認しますけど、研究開発を行う上で一番重要だと思うことは何かという質問に対して、一番多かったのは、知的好奇心を満たす仕事に従事することの満足感というのが断トツで一番。それから、現実的な問題を解決したいと思う願望が二番目。それから三番目は、所属している組織の業績の向上。これらが三〇%以上あって、そのほかに、プロジェクトチームの成果の貢献とか社会困難解決に役立っているとかいうのがあって、職務発明に対する金銭的な報酬への期待感みたいなのが七番目ぐらいで、相当下がっているんですよね。下がっているというか、そんなに高次のレベルじゃなくて。
これは日本だけじゃなくて海外でも同じような話なので、今回こういう法改正があって、別に、企業、我々は当然いい人材を確保するためにインセンティブいろんなことを考えますから、その施策は変わらないので、余りそれによって、法律によってどうのこうのということはまず私は起きないんじゃないかなというふうに考えております。
それで、もう一つあるのは、じゃ、そのインセンティブ確保という話が、先ほどちょっとお話ししたように、組織としていろんなことをやっていって、研究開発の成果だけでは最終的なものができるわけじゃないので、いろんなそこに、設計に関わるやつとか営業する人とかいろんなセクションが関わって最終的なものができてくるわけなんで。
我々、会社で仕事をやっていて非常につらかったのは、何で発明者だけそんなに報奨金を与えるんだという逆の質問が出ることがよくあったんですよね。同じ会社で同じ製品を世に出していって事業功績を、事業に貢献しているときに、何でそんなに発明者だけと。そうすると、我々が答えなきゃいけないのは、いや、これは一応特許法で決まっていて法律で強制されているから、これをやらなかったらイリーガルになっちゃうんでやりますというような話なので。
だから、そういう意味で、それがなくなればもっと公平にいろんなことができるんじゃないかなと。
ちょっと済みません、長くなりました。
#23
○参考人(川島千裕君) 今回の法改正が従業者におけるインセンティブの切下げにつながりやしないかといった点についてまず申し上げたいと思います。一つには、審議会の報告書の中で全体として確認された内容が、インセンティブの切下げであってはならないと、これによって従業者の受ける利益を確保することができるというような取りまとめがされました。今回の法案はそれを受け入れた形で、この条文の内容、構成自体が法改正前、法改正後、ほぼ同じ内容であるというようにも考えておりますし、また、今、澤井さんもおっしゃったように、やはり多くの経営者の方々も、切り下げるということであればいい人材が逃げていくんだというような声もよく聞くところであります。
したがいまして、この法律の内容そのものから直ちに従業者のインセンティブの切下げにつながるということはまだ読み取れないというように考えております。
望むべくは、この相当の利益が現行法におけるものと同等のものとして確保されることを前提に、今回、金銭以外の部分で、それぞれの企業の労使が知恵を出し合いながら、どうしたらみんなやる気を持ってより良い発明が生まれるのか、そういった議論が尽くされる、それを、大企業だけでなくて中小企業においてもそうした取組がされることによって、法目的であります特許、職務発明の振興につながればというように思っております。
ただ、一つだけ申し上げますと、これはやってみないと分からない部分がございますので、本日、冒頭皆様にお願いいたしましたように、法施行後のやはり事後の検証というものが非常に重要だというように思っておりますので、必ずそれについては実施していただきたいというようにお願いをいたします。
#24
○参考人(相澤英孝君) この法改正によって従業者の発明に対するインセンティブが下がるかどうかという、例えばアメリカではこの対価の請求権というのはないわけで、アメリカ企業における発明のインセンティブが低いかというとそうではないわけでありまして、企業にとってみれば、これから技術開発をしていかなければこの国際競争を生き残っていけないわけですから、そこはきちっとつくっていくと。そうしなければその企業が駄目になっていくわけですから、そこは私は企業を信頼していいんではないかと。その中で、今度の規定でも、従業者とよく、言ってみれば、発明者と企業というのが対立軸に立つものではなくて、やはり一緒になって発明をつくっていくわけですから、その中で協議をする、開示をするという現行法の規定はそのまま残っているわけですから、それがきちっと履行されることによって従前と異なるようなことが起きるということはないというものと理解をしております。
#25
○直嶋正行君 ありがとうございました。企業と研究者は目的は同じですから、そこは共有できると思うんです。ただ、処遇ということになると立場の違いが出てくる部分もあるんじゃないかと思うので、さっき川島さんおっしゃった、後のフォローというのも非常に重要なことかなというふうに思います。
時間がないので、もう一点、これは相澤先生と澤井さんにちょっとお伺いしたいんですけど、実は日本の一番今大きな問題点は、これ特に中小企業の方中心にそうなんですが、いわゆる起業、業を起こすとか、それから開業する、これがすごく少ないですよね。開業率を見ましても、もう欧米の大体半分以下で、今五%切っているぐらいです。
例えば、特許法の第一条は何て書いているかというと、「この法律は、発明の保護及び利用を図ることにより、発明を奨励し、もつて産業の発達に寄与する」と、こういうふうに書かれているんですね。こういう観点から見ると、ちょっと私思い出すのは、例の青色発光ダイオードの中村先生がインタビューで、アメリカでは、発明したらもうすぐそれで、自分で業を起こして、その会社にはいなくなって自分でやるんだと、こういうことをおっしゃっていたのを思い出すんですけど。
やはり、本来特許法というのはそういう要素を持っていたと思うんですが、この特許法の今の、現状の運用を見ていると、必ずしもそういう目的につながっていないような気もするんですけれども、この点についてもし御所見があれば簡単にコメントをいただけると有り難いんですが。
#26
○参考人(相澤英孝君) ありがとうございます。今おっしゃられた例えば起業、ベンチャーというようなものに対する投資を成立させるためには、投資家からすると、研究開発成果しか投資対象がないんですね。そうすると、そこがやっぱりきちっと特許権で保護されていないと、投資家は何もないところに投資をするということになってしまうと。
そういう面でいうと、特許権をきちっと保護してあげるということがやっぱり投資の前提になる。もちろん金融も、そういう特許、ベンチャーの開発した新しい事業に投資をするという投資家も必要です、投資制度も必要だと。例えば、政府系の投資でいうと、産業革新とか政策投資とか、そういうことも努力も必要でしょう。ただ、特許権をきちっと保護してあげないと、どうしてもそこの投資価値がなくなってしまうので。
そういう意味でいうと、日本とアメリカと比べれば、アメリカの方が特許権をきちっと保護しているという側面があります。
#27
○参考人(澤井敬史君) 今の質問はすごく難しくて、どうお答えしていいか分かりませんけれども、昔に比べると相当発明あるいはそれをどうやって事業化していくかというのは組織的に行われるようになっているので難しい側面があって、多分、アメリカはすごくダイナミックに動くところで、エンジェルなんかがいて、割と本当のアーリーステージのところにお金をやるようなことがあって、すごくそこはいい仕組みがあるのかなと思います。経団連では、ちなみに、今年の六月に起業・中堅企業活性化委員会という委員会を立ち上げまして、ベンチャー企業等とのマッチングイベントなどを実施し始めておりまして、今後更にこういうのを強化していく。
だから、いろんな形で大きな企業が持っているものをうまく中小企業とやれるようなことになってくるといいんじゃないかなと思います。
ちょっとお答えになっているかどうか分かりませんけれども。
#28
○直嶋正行君 終わります。ありがとうございました。#29
○佐々木さやか君 公明党の佐々木さやかでございます。今日は、参考人の皆様、お忙しい中、貴重な御意見をいただきまして、本当にありがとうございます。
早速でございますけれども、まず澤井参考人に御質問させていただきたいと思います。
先ほど、お話の中で、特許を受ける権利の帰属、これが従業員から現行制度の下で使用者に承継化されて、それで相当の対価について紛争となった場合に、仮に裁判所で判断をするとしても非常に算定も困難でありますし、また、そうした訴訟の予防のためといいますか、それを避けるための企業の負担というものも現行制度では非常に大きいと、こういうお話があったかと思います。
今回の改正がなされた場合に、改正によりましても最終的に裁判になる可能性があるという点は変わらないと思いますけれども、違うところといたしましては、相当の対価というところから相当の利益ということで、必ずしも金銭に限らないと、また、どういう形で相当の利益を付与するかというところについて、現行制度でも使用者と発明者の話合いですとかそういうことはされますけれども、政府がガイドラインを定めると、こういうことになっております。
こうした改正によって、冒頭申し上げました企業の訴訟を予防するための負担、訴訟に至るような危険ですとかそういう不合理な負担というものがどの程度軽減されるとお思いか、その点について評価を教えていただければと思うんですけれども。
#30
○参考人(澤井敬史君) 分かりました。今のところは、まだこれ、皆さんに審議していただいて、法ができて、その後指針ができて、その指針がどういう形のものになって、それを会社がどういう形で運用していくかというちょっとアンノウンのファクターがあるので、今の時点でどうなのかというのは必ずしも即答はできないんですけど。
今回の法改正の狙いが、すごく職務発明制度を柔軟に設計したわけですね、従業者帰属でもいいし法人帰属でもいいよ。だから、そういうことによって相当会社の意思が反映して自由にできるということになっているので、多分、その精神にのっとると、指針も少しミニマムリクワイアメントみたいな、最低限の手続的なものを決めてある程度柔軟性を持つようになってくれば、今よりは負担は定性的にいうと軽くなるんじゃないかな、なってほしいなというのが正直なところでございます。
#31
○佐々木さやか君 そうですね、自由度が増すと、また、仮に裁判所がそれが相当かどうか判断する場合に、より困難になるというようなおそれもないことはないかなと思ったりもするんですが、この点は私も今後とも注目をしていきたいなと思っております。それで、現時点での私が思っていることとしては、どちらかというと、そういう企業と発明者との間での話合い、インセンティブの付与の手続が適正になされているかどうかというところをより裁判所も注目するようになるのかなというふうに感じております。ですので、これまでもそうではありましたけれども、これから更にやっぱり相当の利益を定めるに当たっての手続が重要になってくるんじゃないかと思います。
これに関連して、澤井参考人とあと川島参考人にもお聞きをしたいんですけれども、ガイドライン、これから検討となりますが、やはりこの適切なインセンティブの付与となるように発明者と企業が話し合っていただく。ただ、やはり発明者というのは従業員ですので、立場が使用者に比べると弱いかと思います。適切な発明者側の意見を反映をさせていくためにどういう仕組みが必要か、例えば社内での手続とか現行での課題とか、そういうことも含めて御意見を伺いたいんですが、よろしくお願いいたします。
#32
○参考人(澤井敬史君) その手続の対象者が今ちょっと、佐々木委員がおっしゃったように、何か従業者と言うと単なる働いている人のような感じがするんですけど、特許法で言う従業者等というのはやっぱり役員なんかも入っていたり、いろんな発明に関わる人が入っているんですよね。だから、そういうものをどういうふうにして決めていくかというのはそれぞれの企業の特性とか構成によって種々様々だと思うので、それを全てきれいに指針の中でこの場合はこうしろというふうには決め切れないので、それぞれの、やっぱり発明をする、これだけの人がいるねということをそれぞれの企業が考えながら手続を組み上げていくんだろうなと思いますけどね。
ちょっとそこら辺のところはその程度で、抽象的で申し訳ないんですけど。
#33
○参考人(川島千裕君) お答えいたします。まず、私ども労働組合という立場で来ておりますので、企業において労働組合がある場合、さらに、それがその従業員の過半数を超える、代表するような労働組合であるといった場合には、やはり労使、従業者と事業者の協議の中心になるのは労働組合になると思います。
ただし、澤井さんもおっしゃったように、役員だとか、組合員とは別の人たちも研究者に入ってまいりますので、そこの人たちの立場に立った意見をどうくみ上げていくのか、その点は今後の指針の中でどういった内容を織り込んでいくのかということが非常に知恵の出しどころだというように思っております。
また、そもそも労働組合がない企業においてどうするのかといったところも、労働組合がある場合といったものも参考にしながら検討を深めていくということが必要だと思っております。
法改正後におきまして、やはり指針の策定に当たって、企業、会社あるいは労働者を代表する立場の委員が参画する審議会の中でその点について議論を深めさせていただけたらと考えております。
#34
○佐々木さやか君 ありがとうございます。次に、不正競争防止法の改正について相澤参考人にお聞きしたいと思います。
この改正の項目の中に営業秘密の侵害があって、また、これも侵害行為について排除をするような訴訟が提起された場合に、これまでは非常に立証というものが難しかったということで、立証の負担を軽減する、そうした改正が盛り込まれております。
これが、改正では技術上の秘密に限るというような形になっておりまして、具体的には、生産方法その他政令で定める情報に限るということで、私、その技術上の秘密というものが具体的にどういうものなのかとか、またそのほかにどんな営業秘密があるのかとか、それから技術上の秘密に限った趣旨というものが余り明瞭に分からないところもあるのでちょっと教えていただきたいなと思いまして、きっと営業秘密というのはいろんなものがあると思いますが、これを今回改正で技術上の秘密に限って立証責任の軽減をしたということについての評価といいますか御意見を伺えればと思います。
#35
○参考人(相澤英孝君) 今回、技術上の言わば製造方法等に限ってやったということは、まず製造方法というのは、製品が出てきたときに必ずしもその製造方法を使っているかどうか分からないと。つまり、営業秘密を不正に使用した人が使っているものが、売っているものがそのものかは分からない、それを立証することが非常に難しいと。一番難しいものを取り上げてやっている。立証の問題は、実は技術上の営業秘密だけではなくて、特許でもあるし、ほかでもあるわけですが、まず営業秘密の場合には非常に問題が大きいと。そこで、実はここでも、審議会でも議論があったんですが、文書提出命令をもっと拡大しようとかいう議論もあったんですが、その中で、今回は推定規定を入れると。これは言ってみればファーストステップだというふうに私は思いました。
この場合、最も問題の多いところについて立証責任を軽減することを考えたということであって、これ以外の問題に立証責任の負担の問題がないかというと、そうではないと。ただ、生産上の秘密というか、そういうものについては製品からは必ずしも分からないということが多いと。製品が売られていれば製品から分かるという、その製造方法でなければ、製品の特許であれば分かると。そこのところが多分今回の改正の理由で、立証責任は製造上の技術に限定されたというふうに理解をしております。
#36
○佐々木さやか君 ありがとうございます。やはりもう一つこれに関連して心配に思うのは、逆に訴えられた場合、特に本当は理由がないんだけれども訴えられた場合に、立証責任が、転換というふうな言葉も使われているところでございますけれども、反証が難しいということになると弊害もあるのではないかと思うんですが、この点についてはいかがでしょうか。
#37
○参考人(相澤英孝君) 現在の規定では限定的な書き方をされているので、その心配は私はないのではないかと。つまり、一般的な、先生御存じのディスカバリーというものを認めた場合には先生御指摘の御心配というのはあるかもしれませんが、今回の立証責任の言わば限定的な転換の中ではそこまでの問題は生じないのではないかというふうに私は理解をしております。#38
○佐々木さやか君 ありがとうございました。以上で終わります。
#39
○荒井広幸君 荒井でございます。こういう場合はどうなるのか、ちょっとお尋ねしたいんですが、福島原発事故でセシウムの除去をしたいと。セシウムの除去をしたいんですけど、セシウムを除去する決め手というのはなかなかなくて、汚染水が漏れただけじゃなくて、なかなか稼働しなかったんですね。それで、国はこれを公開入札にしたわけです。セシウム除去の、水の場合ですね、水を除去していくという、セシウムのみならずですけど、汚染水と言ったらいいんですか、そういう仕組みを、なかなかいいのがないので、特に塩分、塩を使ったこともありますし、鉄などが溶け込んでいるので、核種だけの問題ではなくて、なかなかうまくいかないというんで、最後には東芝が取ったんですけれども、ちょっと記憶違いかあれですが、東芝ですね。しかしながらうまくいかなかったんですけれども、世界でそうやって技術を評価して採用したということです。
そもそもの核種、核の種類ですね、核種の部分についてはアメリカ等々の技術を入れて、塩分とか鉄の部分で東芝さんが独自なんでしょうかね、それでパッケージにして汚染水をできると言って何とかシステムというのでやったわけです。私もこれを研究開発のときに川崎に見に行って、これが決め手だという自信満々のお話いただいたんですが、なかなかそうでもなかったんですね。
例えば、こういう場合に、それが革新的な技術、発明に当たるかどうかは別として、そういう難題があるときにある発明をした人がいると。その発明者が、これが会社に帰属しているという場合に、私は、これをうちの会社の事業力では、もう福島原発の早くしてくれ、早く収束してくれ、早く帰りたいというのには間に合わないと、だから事業化する上では別の会社にこれを提供した方が、そして我々も一緒になって研究した方が実効性が上がるものの段階に、高みに行けるんじゃないかと、こういう場合も私はあり得るんじゃないかというふうに思っているんですね。
国際的に人類共通の難題とか課題にどう対処するかというときに、今のようなケースではどういうふうになるものでしょうか。
私の技術が結構いいはずだよね、社長と。あるいは、チームで相談した、だけど会社にそれはある、会社は事業化してこれで何とかいきたい、しかしそれを待っていたんじゃ福島原発なんてもうみんなが帰れない、だからこれもうどんどん発明者としては使ってもらいたいんだと。その上にまた知見を乗せたりして更なる開発、発明でもいいし、うちの会社じゃ申し訳ないけど事業力弱いんだ、時間掛かるんだと、機械でいったら精緻な動きするのはあっちの会社の方がここはいいんだよなというような場合に、どういうふうにこれはなっていくのかなというふうに思うんですが。
漠然とした話で大変申し訳ありませんが、澤井参考人、相澤参考人、こういう場合はどういうふうに扱うものなんですか、扱えるんですか。
#40
○参考人(相澤英孝君) 多分、同じ問題は、例えばどちらに権利を持っていても、例えば先生御指摘のように、企業が持っていて発明者が持っていない場合に発明者が使いたいと、反対に、発明者が持っていて企業が権利がないと、今度は企業が使いたいと思っても使えないということが起きるわけですね。この問題というのは、知的財産権の中で誰かが持っていると使えないという問題が生じるのでよくあるんですけれども、これはそういうナショナルエマージェンシーとかそういう問題に対する、特別の問題に対しては特別の処理をするということを考えるほかはないと思うんですね。これは、例えばよくあるのは、公共の利益のための、日本も公共の利益のための裁定実施権がありますし、アメリカでは政府が発明を実施する場合には企業は差止めを請求することはできません、補償しかもらえません。そういうふうに、公共の利益を実現するための仕組みというのは別に考えられるべきものなのであって、一般にビジネスでやっていくものとはやはり違うものだというふうに私は理解をしております。
#41
○参考人(澤井敬史君) 私も相澤先生と全く同じ感じですね。だから、やっぱり本当に、今おっしゃったように、国のためにこれはどうしても汚染除去みたいなのをやらなきゃいけないねと。今のお話はちょっとそういうのがもう権利として存在しているかどうか分からないけど、それを今度拾い上げてやろうとしたときには、やっぱり何かある種の国の意思みたいなのがどこかに働いて、それを政治家の皆さんがうまく拾い上げてどういうふうにステージに乗っけるかというのはありじゃないかなという感じがしますけど。
ちょっとお答えになっているかどうか分かりませんけど。
#42
○荒井広幸君 突拍子もない話で恐縮ですが、働いている皆さんとしてはどういうふうに映るものでしょうか、川島参考人。#43
○参考人(川島千裕君) お答えしようと思うのですが、なかなか適当な考えを持ち合わせておりませんので、申し訳なく思っております。ただし、今のような課題に対してどのように対処していくのかというのは、まさに各界の有識者の方々、そうした中では、働く私どもの立場もそうした議論に参画をさせていただく中で知恵を出し合って対処していくということで何らかの貢献をさせていただけたらと思います。
#44
○荒井広幸君 そうすると、まあこれは学術的にいった方がいいのかも分かりませんけれども、相澤先生また澤井先生も先生でありますが。例えばISOがありますね、これ標準化の国際組織ですね。そういうところには、こういう緊急なときの対応あるいは国際連携みたいなものの協力ルールとか協力をつかさどるような仕組みというのはあるんでしょうか、相澤先生。先ほどの話ではやっぱりちょっとないように。#45
○参考人(相澤英孝君) ISOというのは技術標準をつくるところでありまして、そういう、言ってみれば国家的な事態に備えるという組織ではありませんから、そこは各国の置かれた、まさに例えば日本でいえば日本政府がここの制度をどうするかということで考えていきます。そのときにいろんな、国が何かをやる場合もあるし、民間があるいはジョイントベンチャーをつくってやった方がうまくいくかもしれないし、そこはそのときの政策の問題だと思うんですね。ただ、国際的な標準機関でそれをやると、私、済みません、詳しいこと、もし間違えていたら申し訳ありませんが、そのナショナルエマージェンシーに対してISOが対応しているかというと、私はそういう認識は持っておりません。
#46
○荒井広幸君 確かにそれはそういうことなんだろうと思いますが、これ、この間から私の質問のテーマの一貫した流れでございまして。日本こそがそういうものを、身近にこれだけ苦しんでいるわけですから、特許も含めまして、公開も含めまして、やっぱり共通してその問題解決に当たっていこうという何がしかの働きかけが日本ができるんじゃないかと。そういうものが私は日本のいわゆる原発の教訓を得ているということだろうと思うんですね。そういう整理なしに、例えばIAEAとか、ただ単に言われただけで、WHOがどうのこうの言っているというだけで、そしてまた再稼働していくという、ちょっと早過ぎる、私は反対ですけれども、そういうことをしてもいないのに再稼働とはいかにと、こういうふうに思っているんです。そういう観点でお聞かせをいただいたわけです。
最後でございますが、では、会社は、その方の、発明者の名前は残ります、そして対価も得られていくということですが、それによって、先ほどの三人の参考人からもありましたように、例えば投資する基準として、企業が評価され、自分も生きがい、やりがいの場をその企業に求めていくということになるという非常にいい好循環ができるようなことになるんだろうと思うんですね。しかし、同時にそれは、先ほど来からあるように、チームとか様々なところからの知見や経験、失敗があってこそ成り立っている発明でもあるんですね。
そうすると、チームとかある程度の幅の広い形で顕彰をするという仕組みは企業の中に持っているところもあるんでしょうか。発明者だけに限ってそういうことなんでしょうか。チームなんでしょうか。あるいは、事業化するということで、企業としては実際にはそれで、特許を売らない限りは収益になりませんから、事業化するところまでの、川下から川上までの形で、人々と言ったらいいんでしょうか、評価するという、そういう仕組みみたいなのは普通にあるものなんでしょうか。澤井参考人、いかがでしょうか。
#47
○参考人(澤井敬史君) 本当にやっぱり企業にとって人が財産ですから、その人たちが本当に働きがいがあってやってもらうためには、今お話があったように、川上から川下までいろんな人が関わるから、やっぱりそれに対してどうするかということは常に考えていると思いますけれども。#48
○荒井広幸君 そうすると、余りなさそうですよね、そういうの。私はこれ、何を申し上げたいかというと、何と言ったらいいんですかね、非常に難しい問題なんですが、顕彰みたいなものが企業にもあり、NPOか国がリードするかは別としても、そういう顕彰制度が、発明者だけするんじゃなくて、そういうものにならないとずっとその裾野が広がらない、分厚さが出てこないんじゃないかななんて思ったものですから、これはどんなものでしょうか。
#49
○参考人(澤井敬史君) まさに今、荒井委員がおっしゃったのは、ある意味じゃ正鵠を得ているところはあると思うんですよね。一企業だけでできる話と、やっぱりいろんな企業が知恵を持ち合って今の汚染処理みたいな話をやらなきゃいけない。そうすると、それはやっぱりやってくれて社会に役に立つわけですから、それに対する顕彰をどうするか。先ほどのちょっと話に戻りますけど、もし汚染水の除去みたいなものを、一企業が持っている持っていないじゃなくて、やっぱり国としてこういうのをやるよと、そのためにいろんな人が集まって共同開発やりましょうねというのをフラグ立てていただいて、そこでいろいろ出た特許については、基本的に集まるときに、これはこういうために使うんだからなるべく低レートの形で使いたいという人にライセンスしますとか、もっと、みんなが集まってやることを、あるテーマによってはすごく積極的にやって、その成果に対して今先生がおっしゃったような顕彰をするようなことを考えるというのは私は大事だと思いますね。
#50
○荒井広幸君 共同でということを澤井参考人からいただきましたけれども、相澤参考人、そこまでいかないものでも、チームとかそういうものに参画した人を社会的に評価するという仕組みはあるんですか。#51
○参考人(相澤英孝君) ちょっと、私、済みません、先生のお話をきちっと理解していないんで申し訳ないんですが、言ってみれば、特許法というのは、発明をどうするかというのが特許法の枠組みでありまして、それから、知的財産法全体というのが言わばそういう情報の投資といいますか、それに対してどうやって利益を上げて社会的に活力を出していくかという、そういう制度でございまして、そういう意味でいいますと、例えば個人を表彰することによってその個人の意欲を高めようという仕組みとはやや違っているものでございますから、知的財産法を専門とする私としましては、ちょっとそれは何か違う仕組みかなというふうに理解をしておりますが。#52
○荒井広幸君 全く、本当にお三方、どうもありがとうございます。最後になりますけれども、アメリカの場合ですと、若干、秘密漏えい防止を含めて、国の経済が危ないというふうになると、アメリカの場合はエクソン・フロリオ条項で対応して、我が国は外為法ですよね。今度は不正競争防止法とかいろんなものが当然入ってきますが、広い意味では国家の安全保障としてエクソン・フロリオと。これ、エクソンさんとフロリオさんです。日本に一つないのは何かというと、閣法が専らなものですから、個人立法で、大勢の方に各党に了解をもらって、その苦労の挙げ句法律を作ったというものは余りないんですが、アメリカみたいにもう自分たちが苦労しながら、いろんな人の知見をもらいながら形にしていくと御褒美に名前が付くんですね。
これ選挙区的に言うと、橋に造った人の、建設大臣の名前があったというのは昔の話でございますが、そういうものではなくて、やっぱり例えば法律、それから、例えば少子化社会で非常に今困っているんですが、少子化対策で有効な仕組みや政策を打ち出したといったら、私は、国会のルールを作って、正式名称とは別に何たら立法という、例えば川島立法、通称ですね、そういうふうに呼んでおかしくないんだろうと思うんですね。
ですから、今回の話というのは、ある意味において、行政の方の皆さんのそうした政策の発案も含めて、政治の方の発案、立法、立法者、こういったものをやっぱりどういうふうにまた評価するかということをやらないと、我々政治の方も、極めてやっぱりどう人材を集めるかという意味において課題があったかなというふうな印象を持ちまして、終わります。
#53
○倉林明子君 日本共産党の倉林明子です。今日は、三人の参考人の皆さん、お時間を取っていただきまして、ありがとうございます。
早速、今日は不正競争防止法に絞って質問させていただきたいと思います。
澤井参考人にお聞きいたします。
営業秘密の保護強化のためということで、野心的で抑止力が働くという評価を意見陳述でもされていたかと思うわけですが、今後に向けてなんですけれども、国に対して求められるもの、また企業自身に求められる課題ということでどういうことをお考えなのか、まずお聞きしておきたいなと思います。
#54
○参考人(澤井敬史君) 国に求めるものというのは多分あれだと思うんですよね。これ法律ができるわけですから、それをどういうふうに本当に実効あるものにしていくかというところの仕組みと運用の部分をどうやっていくのかなという点が一つ。そのときに、多分、企業のある実態に合わせたいろんな意味での情報交換を積極的にやらせていただけるような場をつくりながら、起こっている事案で、えっ、こんなのがあるんじゃやっぱり大変だよねというところも含めて、お互いに意識が共有できるようになるのが必要なのかなというのが、ちょっと抽象的で申し訳ないんですけれども、それが一つ。
それから、もう一個は企業におけるというお話でしたですかね。企業におけるというのは多分二つ側面があるんだろうなと思うんですけど、これ営業秘密の保護の話ですから、こういうものは企業ではちゃんと営業秘密にしているんだよ、だからちゃんと、皆さん、こういう法律もできたし、きちんと会社のものは持ち出さないようにとか、そういう意味でのいろんな啓蒙が一つあるのがありますし。
今度は、逆に言うと、企業ですからいろんなプレーヤーと一緒に共同開発をしたりいろんな情報交換をするわけで、やっぱりその中に相手様のものもあるわけですよね。だから、それをきちんと尊重しなきゃいけないということも含めて、より一層従業員がそういうことにも気を配って仕事ができるようにということをやっぱり社内でいろんな場を通じて教えていく必要があるんだろうなというふうに思います。
これもちょっと抽象的で申し訳ありませんけれども。
#55
○倉林明子君 相澤参考人と川島参考人にお聞きしたいと思います。営業秘密の流出が増加しているということで、その背景について経産省が小委員会の中で提出した資料を見せていただいたんですけれども、その背景の一つに、我が国電機産業におけるリストラで技術者の海外企業への転職が増えている。二つ目に、我が国企業の海外への生産拠点の移転による技術流出が増えている。三つ目として、サイバー空間の拡大がある。四つ目、我が国企業の営業秘密の管理水準の低さということで挙げておられていて、なかなか私適切な背景分析ではないかと思ってお聞きしたんですね。
営業秘密の流出が増加しているということについて、それぞれ、相澤参考人、川島参考人の率直なところ、踏み込んで御発言いただけるようであればあえて踏み込んでお聞かせいただければ有り難いと思います。
#56
○参考人(相澤英孝君) 申し訳ございません、ここは、先生の御指摘でございますが、増えているという数量的把握をしておりませんので、そういう面でいうと増えているというかどうかにつきましては明確でない。ただし、御存じの、著名のケースが、訴訟が起きておりますように、顕在化しているということは明らかに言えるというふうに理解をしております。顕在化の理由としては、先生御指摘の点もありますし、特に新しい問題であれば、サイバーの問題というのは今までにはなかった問題でありますし、まさにもう一つそこで言えますのは、サイバーに対する問題であると個別企業がどこまで対応できるのかという問題もあると思います。つまり、企業がどうやっても、言ってみれば、国がある面でいうとサイバーアタックを受けて情報が流出させられるというおそれがあるというような状況で各個の企業がどこまで守れるかということがありますので、やっぱりそれは国家的な問題だろうというふうに思います。
それから、管理水準につきましては、これはちょっと千差万別で、なかなか企業を十把一からげに、言葉、済みません、こんなところで十把一からげなんて言っては失礼ですが、一律に管理していないとか管理しているという、きちっとやっていらっしゃるところもあるので、そこは必ずしもそうとは言えない。ただ、全般として営業秘密を管理していくということに対する関心というのは今の方が大きくなっているということは言えるんではないかというふうに思います。
長くなりまして恐縮です。
#57
○参考人(川島千裕君) お答えをいたしますが、定量的なデータなり分析をしているわけではありませんので、私個人が先ほどの御質問に対して感じた点について申し上げます。調査などで拝見しますと、どういったところから営業秘密が漏れるのかといった中では、中途退社をした人から漏れるというのが全体の半分ぐらいだったと思いますが、占めているというデータがございます。仮にリストラなどによって、円満退職をするのではなく、途中で退職をするという数が増えれば、中途退社の割合も増える可能性があると思いますので、そうしたようなことが関わりがあるのかもしれないというのが私個人としての印象であります。
一番大切なのは、仮に中途退社するにしても、そもそもこの従業員に対する処遇がどうであったのか、そこでの、辞めた後においてもですね、そのような、営業秘密の侵害というのは犯罪を犯すわけですから、そういうことにならないような、これは企業側におけるそうした留意も必要だというように思っております。
以上です。
#58
○倉林明子君 ありがとうございます。まさに、電機産業のところでこの間行われたリストラというのは二十五万人規模になっているというふうに伺っているわけで、優秀なエンジニアも数多くやっぱりリストラの対象になっていたと。国内で再就職がかなわないという状況がある中で、海外に転出したという労働者も少なくないという実態があると思うんですね。海外への生産拠点の移転ということも、企業が自らのこれ戦略で行っているものだというふうに認識しているわけですね。
営業秘密流出、顕在化していて、増えているのかどうかということについては検証必要だと思うんですけれども。それから、顕在化しているこういう秘密流出の原因ですよね、背景となるものを拡大してきたのは企業自身でもあったんじゃないかと私は思うんですね。
本来、営業秘密というのは企業の資産だと、企業にきちんと管理する責任、これはあるものだというふうに思うわけで、企業に対して、営業秘密を守るという点から何が欠けているのかということで、相澤参考人、川島参考人に改めて聞きたいと思うんです。労働者の処遇面も含めて少しお触れになったんだけれども、お考えをお願いします。
#59
○参考人(川島千裕君) お答えします。冒頭御説明を申し上げたときにも、やはり研究者、従業者に対する適正な処遇が重要だということを申し上げました。ただ、今おっしゃられた海外への生産拠点の移転などの状況変化に伴いまして営業秘密が流出をする、そのリスクなり、結果としてその可能性が高まるということについて、やはり様々な側面からの企業としての防衛策が重要ではないかというように考えております。
これも個人的な見解になりますけれども、やはり、出ていくことによるリスクが高まれば、それによって守る管理の基準も高めるということが重要だと思いますし、また、その管理するものも、日本の国内においては基本的には日本語でマニュアルですとか管理基準ですとか、それを伝えれば済むものが、海外においては現地の言葉でそれを決めたりだとか、様々難しくなってくるところあるように思います。
したがいまして、備えあれば憂いなしという言葉にもありますとおり、そうした事業の展開を行っていく際に、より営業秘密を管理する水準をどう高めていくのか、そうした検討がやはり求められているのではないかというように考えております。
#60
○参考人(相澤英孝君) 御指摘のように、人的流出の中にそういう例えばリストラに伴うものが含まれている。これにつきましては、各企業が人事管理をきちっとするということと、退職時の情報管理をきちっとするということが当然の前提になるんだろうと思います。退職時に情報を持っていってしまうと、例えばデータを持っていかれてしまうと、そこをきちっと管理しないでおいて営業秘密の管理というものは成り立たないわけですから、やはりそれは当然に、企業さんが営業秘密の管理をしてきちっとやられるということは私は当然の前提だというふうに思います。もちろん、先生御指摘のように、これがリスク要素にならないかといえば当然になるわけですから、リスク要素は当然企業は認識をして、営業秘密の管理をきちっとすべきものだと思います。
それから、海外への生産拠点というものについても、もちろんこれ情報が流れていくおそれはあるわけですが、これは例えば生産工程の中で一部を日本で生産をして営業秘密が漏れないようにするというようなことも考えられるわけですね。これ、一部は外国で作るが、全部外国で作ると情報が全部漏れてしまう。
あるいは、実は例としてあるのは、企業、海外拠点つくったんだけれども、たまらないから帰ってきてやっぱり日本から輸出しているという会社さんもあるわけで、これは各企業さんが自分の営業秘密、あるいは、これは特許も含めて生産をどうやってやっていくかの中で営業秘密もきちっと管理をされていくものだというふうに私は理解をしております。
#61
○倉林明子君 秘密を職員、従業者も守りたいと、そういう処遇をすることもとっても大事だと思うんですね。最後、相澤参考人にお願いしたいと思うんですけれども、今回、法改正で刑事罰が厳罰化という方向が明確に打ち出されたわけですけれども、新興国との関係で厳罰強化、先進国が踏み込んでいくということに対しての影響、どんなふうにお考えか、お願いします。
#62
○参考人(相澤英孝君) 私は、日本では適正な刑事手続が行われていると思いますし、先進国ではおおむね適正な刑事手続が行われているものというふうに理解をしております。ただ、同じ制度が発展途上国、新興国で使われた場合に、これは日本は百数十年を掛けて刑事制度をきちっとしてきたわけでございます。そういう面でいうと、刑事制度に不備があって問題が起きる可能性はないとは言えないと。したがって、発展途上国における、あるいは新興国における営業秘密に対する刑事制裁というものについては丁寧に見ていく必要があるのではないかというふうに理解をしております。
#63
○倉林明子君 ありがとうございました。終わります。
#64
○松田公太君 日本を元気にする会・無所属会の松田公太でございます。昨日も質問に対政府で立たせていただいて、そのときに私の気持ちを冒頭お話しさせていただいたんですが、実は私、元々経営者をやっておりまして、会社側の利益、それに対して従業員、使用者にどのくらいの還元をするべきか、帰属させるべきかということは、ある意味経営における永遠のテーマかなというふうに思っておりまして、非常に悩ましく今回の法案についても考えているところなんですけれども。
この資料を今読ませていただいていて、これは相澤参考人が提出された資料だと思うんですけれども、升永弁護士との、その両サイドの物の見方というものが、失礼しました、これ澤井参考人ですね、出ているわけですね。ここに書いてあるものを読んでいますと、例えば升永弁護士なんかは、皆さん御案内のとおり、青色ダイオードの中村教授の弁護人であって、非常に個を重んじるといいますか、たまたま私も昨日イチロー選手の言葉を引用させていただいたんですが、ここにそのイチロー選手の話であったりダルビッシュ選手の話であったりが書いてあって、一人一人がこうやって頑張って高い報酬を得ることができるから組織としても発展するんだというような考え方なんだろうと思います。それは分かる部分もあるし、そうじゃないんじゃないかと思う部分も正直私の中には両方あって、今いろいろ考えているところなんですけれども。
海外の例というのをやはり一つ参考にするべきだろうなというふうに考えておりまして、いろんな資料を見ている中で、例えば日本、ドイツ、米国、イギリス、フランス、スイス、職務発明における特許を受ける権利の帰属、これがどっちにあるかというものの一覧なんですけれども、例えば日本は現状においては従業者に帰属しています、ドイツもそうです、アメリカもそうですと。イギリスは使用者に帰属する、フランスは使用者に帰属する、スイスは使用者に帰属すると。また、対価・補償等に関する法律上の規定の有無ということは、日本があって、ドイツがあって、米国はありませんと。イギリス、フランスはありますよということだと思うんですけれども。
これいろいろ調べる中で、日本は果たして元々これを考えたときにどこの国を参考にしたんでしょうかというような質問もさせていただいたんですが、そのときの政府側からの答弁が、いろんな国を参考にしたんだということだったんですね。
お三方にお聞きしたいんですけれども、お三方それぞれお考えがあるでしょうから、どの国のものを例えば一番参考にして日本は進めていく、その方向性に進んでいくべきだというふうに思っているかというのがあれば、是非お一人ずつ教えていただければというふうに思います。
#65
○参考人(澤井敬史君) 私、個人的には参考にするよりもまず自分で考えろというタイプなので。それで、そういう意味では、今回の制度は割と面白いというか柔軟にできていて、法人の意思を尊重して法人帰属を取るのか、従来どおり従業者帰属を取るのかというチョイスの問題になっているわけですよね、チョイスと言うとちょっと言い方がおかしいですけれども。そういうものは今までの各国にはある意味じゃ例がないところで。そういうふうになったのを見ると、我々産業界としては原始的に法人帰属にしてくれというふうに主張したんですけど、そのときには、多分、プレーヤーとしての大学さんはちょっと違うからとか、中小でも何かベンチャーは違うからと、それぞれの立場があるので。
今我々が言っているのは、大体こういうことをやっている企業ですよということでお話ししたのを、多分特許庁さんがうまくいろんなそしゃくして今回の制度設計してくれたので、むしろこういうのが日本発で広まっても面白いなとか。あるいは、オープンイノベーションになっていくと、どういう形でその権利が帰属しているかというのはその先々のビジネスにやっぱり影響してきますから、じゃ、その中で、ああ、やっぱりこのベンチャーさんはちゃんと企業サイドにしているなとか、これは優秀な発明者がいるけど個人帰属になっているからちょっと危ういなとか、そういうところは物すごく我々も情報を得たり知恵を絞ったりして組合せを考えていくということになっていくので、むしろそこでいろんな知恵を出す一つの源になるので、今回の柔軟なこういう制度設計は私はいいんじゃないかなというふうに思っています。
ちょっとお答えになっているかどうか分かりませんけど。
#66
○参考人(川島千裕君) お答えします。結論から申し上げますと、現時点で他の国の制度で参考にすべきというような考えは今持ち合わせておりません。
私ども、今回の法改正の議論を審議会で始めたときにまず主張しておりましたのは、現在の法律を変える必要はないということでありました。二〇〇四年の法改正で、それまでの特許をめぐる高額訴訟などの状況を踏まえて、この相当の対価について、当事者、事業者と従業者の話合いですとかそうしたことを重視するという改正がなされまして、実際にそれ以降目立った訴訟も起きていないということもありまして、そうしたことを考えますと、現在の法律自体が従業者と事業者の利害調整、利益調整をうまくバランスさせている制度ではないかというように考えております。
以上でございます。
#67
○参考人(相澤英孝君) 私は、企業、研究開発にはいろいろな形態があるので、これを法律で規制するということにはなかなか無理があるだろうと。したがって、アメリカのように、この点については規定を置かないということが好ましいというふうに考えております。それから、平成十六年に改正してまた議論が出てきていると。ルールの決め方そのものにも十年で議論が起きてきているということは、まさにルールがぴたっと当てはまっている場合、どう決めても皆さんにいろんな議論があるならばお互いに決めてくださいというのが効率的ではないかというふうに考えております。
ただ、今回の改正そのものは、前回の改正の言ってみれば不足分といいますか、議論のところを補うものでありますから、そういう意味でいうと一歩前進するのであって、一歩前進することを否定するものではないと。ただ、私は、これを改正してまた議論になるようであれば、もう今度は三十五条をどけた方がいいというふうに申し上げたいと思います。
#68
○松田公太君 ありがとうございます。それでは、引き続き相澤参考人にお聞きしたいんですけれども、今大学が職務発明規程、これを置いていこうじゃないかということで進んでいると思うんですけれども、それだけではなくて、私、知財本部みたいなものを置いて、例えば大学が持っている特許とか知的財産をよりオープンに、より有効活用していくべきじゃないかなというふうに思っているんですね。それに向かって私は経産省とか文科省が連携してそういう仕組みをつくっていくべきなんじゃないかなというふうに思うんですが、それについてはどのように思われますでしょうか。
#69
○参考人(相澤英孝君) 大学は、そういう面でいうと研究開発もしているわけで、知的財産もあるんですが、しかしながら、大学というのは、言ってみれば、企業さんと違って、それをビジネスにつなげることを目的として研究をしているわけではないので、やはりそこについては本当は企業さんとのコラボレーション、どういうものが言わば商品化できるか、製品になって社会に流通できるかということを考えていかなければいけないわけで、やはりここをうまく産学連携ができるように。そういう意味でいうと、ただし、やっぱり産学連携のときには産の方が考えてくれないとできない問題っていっぱいあるんですね。基礎研究はそれは大学は得意ですと、しかし応用研究になってくると必ずしも得意ではないと。それから、技術だとすると、売れる技術といい技術は別のものなので、やっぱりこれは非常に技術的にいい、すごい高度だといっても、これ作るのに物すごいお金が掛かりますと生産化できない。その辺のやっぱりマッチングということを考えて、ここは、実を言うとどうやって政府がうまく生かしていくか。余り今度ガイドラインを作って縛ってしまうと、みんな泳げなくなって沈んでしまうので、その点については、先生、十分御配慮して御指導いただいた方がよろしいんではないかと思います。
余計なことを申しました。
#70
○松田公太君 それでは、澤井参考人にお聞きしたいんですけれども、我が国の知財収支であります。技術貿易収支は二〇一三年に過去最高だったということで、二兆二千億円ぐらいですかね、の黒字だったわけですけれども、そのうち八割ぐらいが日本の親会社と海外の子会社間の収支になったわけです。私は、外国資本といいますか、他国の企業からこの技術貿易収支というのをどんどん増やしていきたいなと、こういうふうに思っている次第なんですけれども、それは現状におきましては十数%ということで、非常に低い割合になっているわけですね。
今回の法改正によって、果たしてこの増加というものが見込めるようなところが出てくるのか、経団連としてどのようにお考えかということを教えていただければというふうに思います。
#71
○参考人(澤井敬史君) 非常に難しい質問で、お答えは多分できないだろうなと思っているんですけれども。多分あれでしょうね、やっぱり日本発の、結局技術といってもその技術が、さっき相澤先生もおっしゃっていたように、使える、使いたくなるものなのかどうかとか、あるいは技術だけじゃなくて、企業でやっていると、技術はベースにあるんですけれども、やっぱり最終的に製品あるいはサービスという形に変えて収益を上げるわけですから、そういうところまで、何というのか、ビジネスをやって回しているのが本来の姿なんで、いわゆる技術貿易収支だけを見るのか、本業のところのいろいろのビジネスのところで見るのかというのがあって、仮に今おっしゃったような、ある技術貿易収支でやっぱりライセンスをしてお金が入ってくるというのを期待していたときに、それをやってしまったら自分のところの商品が売れなくなるんだったら何のためのことですかということになっちゃいますから、そこら辺はどういうふうにそのフレームを見るのかということがあって。
今のお話の中であった親会社に海外の子会社から来ますというのは、やっぱりトータルで企業体として動くための、どこで生産拠点を置いた方が利が出るかなとかいうのを考えて、その中での、じゃ分かっているからこれは渡して、その代わりお金来ます。そういう形の構造を取っているんで必然的に今の部分が膨れ上がっていて、それを全く、外パイというんですか、完全な関係のない、資本関係もないところにライセンスをしながら収益を上げようとすると、冒頭どこかでありましたけれども、オープン、クローズみたいな話をどうやってやっていくかとかいろんなファクターがあって、一足飛びには直に効いてくるようなものとしてはまだいかないんじゃないかなという感じがしますけれども。
#72
○松田公太君 確かにおっしゃるとおり、親子間でのやり取りというのは実際はどこで利益を発生させるかというその話で、そういう意味では二兆円以上日本に入ってきているというのはいいことだともちろん思うわけですけれども。海外に、要は積極的に他国に知的財産を私はオープンに使わせていくというのは、日本にとってやはり長い目で見てもプラスになるんじゃないかなというふうには思っているんですね。ですから、そこをどうやって増やしていこうと思っていらっしゃるかというところは。
#73
○参考人(澤井敬史君) それは一つのいわゆる標準化戦略というような話がございますよね。だから、日本発のある種の規格的なものを世の中で認知させるようにして、なおかつそこにあらかじめ日本の特許がビルトインされていて、それを、標準化を使うんであればそのライセンスをある程度プール的なものでもいいからお金を払ってもらうようにするとか。今先生がおっしゃったような、どういう形でお金のフローをつくっていくか、そのためには単なる知財だけじゃなくて、その知財の周辺にある標準みたいなものをどうするかとか、あるいは標準だけじゃなくて、じゃ認証をどこがどうやってイニシアチブを取るかとか、多分一つのパラメーターじゃなくて、幾つか今おっしゃったような技術貿易収支を増やすためのファンクションを総合的にやるような話を考えて、そうすると一社だけではできないので、そこで何か企業連合みたいのを組んでやるとか、やっぱり総合的な政策を企業間同士も、あるいは先生方とか国も含めて考えていくようなことがよりもっと重要になるんじゃないかなという感じがいたしますけれども。
#74
○松田公太君 ありがとうございました。#75
○東徹君 維新の党の東徹でございます。今日は、三人の参考人の皆さん、本当にお忙しいところ、ありがとうございます。
では、まず最初に、相澤参考人からお伺いをさせていただきたいと思います。
今日の中で御発言にもありました、今回の改正では特許権の侵害に対する救済のための制度的な整備は含まれなかったというふうなことで、今後、技術開発の成果を十分保護するためには、これからの国際的展開を踏まえて、特許権の保護を充実させるための紛争解決システムの改善が必要だということで、侵害者に偏在する証拠を開示するための制度を充実して、侵害者に利益を得させない損害賠償などの法的整備を急がなければならないということでありました。
相澤参考人も御存じだと思いますけれども、今経済産業省の方では、知的財産推進計画で、侵害した企業側が負担する損害賠償額を増やすことを明記する方針を固めたということで、現在は賠償請求する被害企業が特許侵害の影響を立証しなければなりませんけれども、加害側に侵害の有無や影響額の立証責任を負わせるように切り替える見通しだというふうなことで、これは報道でもあったんですが、この点についてはどのようにお考えでしょうか。
#76
○参考人(相澤英孝君) 済みません、その報道、申し訳ございません、確認をしておりませんが、私は今のような損害賠償、つまり侵害をしたら利得が残ると、侵害をした方がもうかるという仕組みは、それでは絶対に侵害はなくならない。これはもう経済的なものなので、善意とか悪意とかという問題で、もうかるからするという人に対してはやっぱりもうからないようにするということが必要だと。そこのためには、損害賠償というか賠償制度をきちっと改めていくということが必要だろうというふうに思っております。#77
○東徹君 ありがとうございます。続けてちょっと質問を何点かさせていただきたいと思っておりまして、これは相澤参考人、そしてまた澤井参考人にもお伺いをしたいと思うんですが、今回、不正競争防止法の改正で、営業秘密侵害罪について非親告罪という形になるわけですけれども、非親告罪となった場合に、それを取り締まる側の警察の体制が本当にこれ十分になっていくのかなというふうに思っておるんですが、この取り締まる体制について、何か、こういうふうに強化していかなければならないとか、そういった御意見がございましたらお聞かせいただきたいと思います。
#78
○参考人(澤井敬史君) 済みません、私、警察の御厄介になったことないのでよく分からないんですけれども。いや、まあそれは冗談で。実際、そういう取締りの側がどういう組織体制でやられるのかというのは存じ上げませんけれども、今度この不競法でこういう営業秘密も、先ほどちょっとお話ししたように、国益の観点も含めてやろうとすると、もうそれなりに多分いろんなことを御準備されているんじゃないかと思うんですよね。確かに、我々のところにも、経団連にも一回御説明に来ていただいたりいろんなことをしていますので。
官民フォーラムみたいなものが立ち上がっていくと。だから、そういう中で、是非、我々の企業の実態を聞かれたときに、こういうのがあるからやっていってくださいよということで、いろんな働きかけをして、あとは多分向こうの組織論としてのいろんな役割分担とかあると思いますので、そこでやっていただけるんじゃないかなと思って期待しております。
ちょっと答えになっていなくて済みません。
#79
○東徹君 いえいえ、ありがとうございます。#80
○参考人(相澤英孝君) 私は、民事上の財産の保護に関する民事と刑事の役割ということがあるんだと思います。財産的利益を保護するためには当然企業は自助努力をすると。ですから、そういう不正使用をしている企業に対して当然民事の訴訟をしていただくというのが前提になると思う。ただし、言ってみれば民事では取り締まれない、まあ産業スパイのような場合もあるし、技術情報を盗み出す、あるいは特にサイバー空間から情報を盗み取る、これは十分には民事では対応できない問題でありますから、やはり将来的には民事と刑事がバランスを保って保護していく、もちろん刑事のリソースというのは、資源がありますから、営業秘密だけを守るわけではないわけで、ほかのものも刑事で守っていかなければいけないので、適切な資源配分というものが当然あるというものだというふうに理解をしております。
#81
○東徹君 ありがとうございます。相澤参考人に、もし御存じでしたら、御存じというか、もし御意見がありましたらお聞きしたいと思うんですが、証拠を集めていくということは非常になかなか難しいと思うんですけれども、アメリカではFBIがおとり捜査なんかも行ってやっておったりとかするんですけれども、日本もやっぱり本当にこういう営業秘密侵害罪というものをどんどん取り締まっていこうと思ったらそういったことも考えないといけないのではないのかなとか、それからまた、これはもう現実的に今、国会の方では刑事訴訟法を改正する中で司法取引の導入をこれは検討もしておるんですけれども、この点についてはいかがでしょうか。
#82
○参考人(相澤英孝君) 済みません、刑事の専門でない私がこれを申し上げるのはいかがかと思いますけれども、これは営業秘密だけの問題で考えるべきものではなくて、やっぱり刑事手続全般の中でおとり捜査というのが、例えば営業秘密は認めるのか認めないのか、どの範囲でおとり捜査を認めるのか、それから、特に経済犯罪ですから司法取引を認める余地は私はあると思うんですけれども、どの範囲で司法取引を認めるのかというのは、全体のバランスというものがありますので、この営業秘密だけこれをやったらどうかという御質問は、申し訳ございません、なかなか答えにくくて、全体のバランスの中でもちろん営業秘密についても考慮をしていただきたいし。そういう意味でいうと、営業秘密ばかりでなくて、他の知的財産に対する刑事の中でも必要なものについては考慮をしていただきたいというふうに思っております。
#83
○東徹君 ありがとうございます。では、最後に川島参考人にお伺いをしたいと思うんですが、非常にここは一番よく議論になるところでありまして、今回の特許法等の改正案の中で、川島参考人も言われました従業者のインセンティブ確保というところ、そして相当の利益を受ける権利として現行の法定対価請求権と実質的に同等の権利が保障される、これ何かいい、妙案というか提案というか、そういったことはありますでしょうか。
#84
○参考人(川島千裕君) お答えします。まず、第一に申し上げることというのは、やはり今回の法律の内容、また、まさに今先生方が国会において御議論をしていただいている中で、まず、インセンティブの切下げではないんだというような立法趣旨ですとか法改正の趣旨ですとか今後の運用においての留意点について様々な角度から御議論いただくといった中で、現状のインセンティブ確保は当然のこと、これをいかに従業者あるいは企業、双方のインセンティブ向上につながるように持っていけるのか、その点は是非御議論いただきたいと思っております。
私どもの領域のところでは二つございまして、一つは、法改正後において指針の策定、この指針の中身が非常に肝になると思っておりまして、その中での検討の議論に参画をさせていただきたいというのが一点目です。
もう一つは、法改正後、じゃ実際にその指針に基づいて、それぞれの企業の中において、労使の協議も含まれますけれども、いかに企業の中で議論が行われるのか。私どもも加盟する構成組織、あるいはそれを構成する労働組合の中においてしっかりとした議論が行われるように、私ども労働組合の立場からも働きかけ、取組を行っていきたいと、このように考えております。
#85
○東徹君 ありがとうございました。ちょっと時間が早いですが、これにて終わらせていただきます。ありがとうございました。
#86
○委員長(吉川沙織君) 以上で参考人に対する質疑は終了いたしました。参考人の皆様には、長時間にわたり貴重な御意見をお述べいただきまして、誠にありがとうございました。委員会を代表いたしまして厚く御礼申し上げます。
本日はこれにて散会いたします。
午後三時十分散会