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2015/07/03 第189回国会 参議院 参議院会議録情報 第189回国会 本会議 第30号
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2015/07/03 第189回国会 参議院

参議院会議録情報 第189回国会 本会議 第30号

#1
第189回国会 本会議 第30号
平成二十七年七月三日(金曜日)
   午前十時一分開議
    ━━━━━━━━━━━━━
#2
○議事日程 第三十一号
  平成二十七年七月三日
   午前十時開議
 第一 特許法等の一部を改正する法律案(内閣
  提出、衆議院送付)
 第二 不正競争防止法の一部を改正する法律案
  (内閣提出、衆議院送付)
 第三 特定船舶の入港の禁止に関する特別措置
  法第五条第一項の規定に基づき、特定船舶の
  入港禁止の実施につき承認を求めるの件(衆
  議院送付)
    ━━━━━━━━━━━━━
○本日の会議に付した案件
 一、農業協同組合法等の一部を改正する等の法
  律案(趣旨説明)
 以下 議事日程のとおり
     ─────・─────
#3
○議長(山崎正昭君) これより会議を開きます。
 この際、日程に追加して、
 農業協同組合法等の一部を改正する等の法律案について、提出者の趣旨説明を求めたいと存じますが、御異議ございませんか。
   〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
#4
○議長(山崎正昭君) 御異議ないと認めます。農林水産大臣林芳正君。
   〔国務大臣林芳正君登壇、拍手〕
#5
○国務大臣(林芳正君) 農業協同組合法等の一部を改正する等の法律案の趣旨につきまして御説明申し上げます。
 政府においては、農林水産業・地域の活力創造プラン等に基づき、需要フロンティアの拡大、需要と供給をつなぐバリューチェーンの構築、生産現場の強化等の農政改革を進めてきたところでありますが、これらの改革が成果を上げるためには、政策を活用する経済主体等が積極的に活動できる環境を整備していくことが必要不可欠であります。
 こうした観点から、平成二十六年六月に閣議決定された規制改革実施計画及び日本再興戦略改訂二〇一四を踏まえて、農業協同組合、農業委員会及び農業生産法人に関する制度の一体的な見直しを行うこととしたところであります。
 次に、これらの法律案の主要な内容につきまして御説明申し上げます。
 第一に、農業協同組合法の一部改正であります。
 まず、農業協同組合の事業運営原則を明確化し、農業協同組合が事業を行うに当たって農業所得の増大に最大限の配慮をしなければならないこととするとともに、農畜産物の販売等の事業の的確な遂行により利益を上げ、その利益を事業の成長発展を図るための投資や事業利用分量配当に充てるよう努めなければならないこととしております。
 加えて、自主的組織としての運営を確保する観点から、農業協同組合は、事業を行うに当たって、組合員及び会員に利用を強制してはならないこととしております。
 さらに、農業所得の増大に資する責任ある経営体制の確立を図る観点から、農業協同組合の理事の過半数を、原則として、認定農業者又は農産物販売、法人経営に関し実践的な能力を有する者でなければならないこととしております。
 また、農業協同組合及び農業協同組合連合会は、その事業を対象者のニーズに応じて適切に運営する観点から、必要な場合には、その選択により、新設分割や株式会社、一般社団法人、消費生活協同組合及び社会医療法人への組織変更ができることとしております。
 昭和二十九年に農協の経営指導により農協組織を再建するために導入された農業協同組合中央会制度については、これを廃止して自律的な制度に移行することとし、都道府県農業協同組合中央会は農業協同組合連合会に、全国農業協同組合中央会は一般社団法人に、それぞれ移行することができることとしております。
 また、一定規模以上の信用事業を行う農業協同組合等は、今後、安定的に信用事業を継続できるようにするため、公認会計士又は監査法人による会計監査を受けなければならないこととしております。
 第二に、農業委員会法の一部改正であります。
 まず、農業委員会の事務として、農地等の利用の最適化の推進に重点を置くことを明確にしております。
 次に、農業委員の選出方法について公選制を廃止し、市町村長が市町村議会の同意を経て任命する方法に改め、農業委員の過半数は、原則として、認定農業者でなければならないこととしております。
 さらに、農地等の利用の最適化を推進するため、農業委員会は、担当区域において農地等の利用の最適化の推進のための活動を行う農地利用最適化推進委員を委嘱することとしております。
 また、都道府県知事又は農林水産大臣は、農業委員会相互の連絡調整等の農業委員会の支援業務等を適正かつ確実に行うことができると認められるものを、都道府県又は全国に一を限って、農業委員会ネットワーク機構として指定できることとしております。
 第三に、農地法の一部改正であります。
 農業の六次産業化を促進する観点から、農地を所有できる法人の要件のうち、役員の農作業従事要件について役員等のうち一人以上の者が農作業に従事すればよいこととするとともに、議決権要件について農業者以外の者の議決権が総議決権の二分の一未満まででよいこととしております。
 このほか、農水産業協同組合貯金保険法及び農林中央金庫及び特定農水産業協同組合等による信用事業の再編及び強化に関する法律を改正するとともに、農業倉庫業法を廃止する措置を講ずることとしております。
 政府といたしましては、以上を内容とする法律案を提出いたしましたが、衆議院におきまして、農業協同組合法等の一部を改正する等の法律案に対し、政府は、この法律に基づく農業協同組合及び農業委員会に関する制度の改革の趣旨及び内容の周知徹底を図るとともに、組合の事業及び組織の在り方についての当該組合の構成員と役職員との徹底した議論並びに農地等の利用の最適化の推進についての農業の担い手を始めとする農業者その他の関係者の間での徹底した議論を促すことにより、これらの関係者の意識の啓発を図り、当該改革の趣旨に沿った自主的な取組を促進するものとする規定を追加する修正が行われております。
 以上、農業協同組合法等の一部を改正する等の法律案につきまして、その趣旨を御説明申し上げた次第であります。(拍手)
    ─────────────
#6
○議長(山崎正昭君) ただいまの趣旨説明に対し、質疑の通告がございます。順次発言を許します。野村哲郎君。
   〔野村哲郎君登壇、拍手〕
#7
○野村哲郎君 自由民主党の野村哲郎でございます。
 自由民主党を代表いたしまして、ただいま議題となりました農業協同組合法等の一部を改正する等の法律案について質問をいたします。
 私は、昭和四十四年から平成十六年まで、三十五年間にわたって鹿児島県農協中央会に奉職し、地域農業の振興、農家組合員の経営安定、農協経営の健全性確保に携わってまいりました。そのような自らの経験と農業現場の実態を踏まえて、さらには、日本の原風景である農村の情景を思いながら、幾つか質問をさせていただきます。
 そもそも、農業協同組合は、その名のとおり組合員の相互扶助組織であり、協同組合の発祥は、世界においては、イギリスで設立されたロッチデール公正先駆者組合やアメリカのニューハーモニー平等村、そしてドイツのライファイゼン信用組合、フランスの労働者協同組合などであると言われております。我が国においては、二宮尊徳の指導で生まれた報徳社、大原幽学が主導した先祖株組合が協同組合の発祥と言われております。そして、私の地元鹿児島県沖永良部島では、当時流刑されていた西郷隆盛公の指導に基づいて、明治三年に島民の相互扶助組織沖永良部社倉が設立されております。
 これらの組織に共通する思想は、独り勝ちするのではなく、みんなで分かち合うことであり、まさしく協同組合の理念である、一人はみんなのために、みんなは一人のためにという考え方であります。
 こうして誕生した協同組合は、時代の変遷を経て、戦後の農地解放とともに、小規模農家の相互扶助組織として農業協同組合が誕生いたしました。現在、農協に対する様々な御意見があることは承知しておりますが、少なくとも地域においては、相互扶助の精神の下、協同組合として組合員の農業経営を支え、地域のインフラとしてその役割を果たしてきたことは紛れもない事実であります。
 経営規模が小さく経済力の弱い農家が集まって農協を組織し、その農協が集まって県組織、全国組織となり、農産物の販売や農業資材の購入において、企業やメーカーとより対等に近い関係で交渉ができるよう取り組んできたのが農協の歴史であり、総理が国会で述べておられた、目をみはるような美しい棚田の風景を支えてきたのは、一人の大農家ではなく、その地域で農業を営む一人一人の農家の皆さんであり、その農家の皆さんとともに歩んできたのが農協なのであります。
 そこで、林農水大臣は、農業協同組合が歴史的に果たしてきた役割をどう評価されているのか、さらに、今後に期待する農協像について御所見をお伺いしたいと存じます。
 次に、衆議院での委員会質疑等を見ますと、農協改革がどのように農業者の所得増大に結び付くのか、また、全中の一般社団法人化など、単に組織いじりではないか、さらに、職能組合への純化ではないかとの指摘も出ております。
 そこで、林大臣から、これらの疑問や懸念について、丁寧に、納得のいく説明をお願いいたします。
 次に、改正内容について御質問申し上げます。
 今回の改正案では、第七条第二項において、「組合は、その事業を行うに当たつては、農業所得の増大に最大限の配慮をしなければならない。」との規定を新たに設けてあります。もちろん、農業協同組合である以上、農家組合員の農業経営の安定と所得向上のために最大限の努力をするのは至極当然のことだと思います。
 一方で、農村地域においては、農業分野だけでなく、信用、共済事業や生活資材の供給、医療福祉などの分野で地域住民の暮らしを支える役割を農協は果たしております。今回の法改正で、その役割がどうなるのか大変心配する声が地方にはあります。特に、過疎化や高齢化の進展で、企業の撤退や廃業によって農協の提供するサービスが最後のとりでとなっております。
 今回の改正で新たに設けられたこの七条第二項の規定は、あくまでも農協事業運営の原則を明確にしたものであり、これまで農協が地域に提供してきた様々なサービスを制限するものではないと理解しておりますが、農村地域で不安を感じておられる皆さんの心配を払拭するためにも、農水大臣の明快な答弁をお願いいたします。
 次に、中央会制度の廃止についてお伺いをいたします。
 今回の改正案では、農協法上の中央会制度を廃止し、都道府県の中央会は農業協同組合連合会へ、全国農協中央会は一般社団法人へ組織変更し、監査部門は別法人に移行することとされております。昭和二十九年の中央会制度発足以来、中央会は農協の事業や経営についての監査や指導、農協や連合会を代表する機能や総合調整など幅広い役割を果たしてきています。
 このような中央会の果たしてきた役割を考えるとき、今回の農協法改正でどうしても理解できない点があります。それは、都道府県中央会は農協法に定める法人となり、一方、全国農協中央会は農協法に根拠を置く法人でなく一般社団法人となりますが、この改正内容が組織的にも法体系上も整合性が取れるのかという点であります。このことについて、納得のいく合理的な説明を林大臣に求めます。
 次に、農業委員会等に関する法律の一部改正についてお尋ねします。
 今回の改正案は、農業委員の公選制を見直し、農業者等からの推薦者や公募に基づいて市町村長が任命することとするほか、新たに農地利用最適化推進委員を設置し、これまで農業委員が行っていた農地利用状況調査等の業務を担わせる、さらには、都道府県農業会議、全国農業会議所を農業委員会ネットワーク機構に移行する等となっております。
 この法案についても、衆議院の審議の過程で様々な疑問や懸念が指摘されました。したがって、現場で混乱が生じないよう、きめ細かな対応を行う必要があると思いますが、林農水大臣の所見をお伺いします。
 最後に、一言申し上げたいと思います。
 脱皮できない蛇は滅びるとのニーチェの言葉があります。社会や経済の進展とともに、改革への取組は必要かつ重要なことであります。
 このため、JAグループでは、自己改革の確実な実践を図るため、十月には全国農協大会を開催し、向こう三年間の取組を組織決定すると聞いています。こうした取組によって、農家の所得向上や地域住民の暮らしを支える組織として、今後ますますJAグループがその役割を果たせるよう、政府も自らのこととして一体となって取り組むことを切にお願い申し上げ、私の質問を終わります。
 ありがとうございました。(拍手)
   〔国務大臣林芳正君登壇、拍手〕
#8
○国務大臣(林芳正君) 野村議員の御質問にお答えをいたします。
 農協が果たしてきた役割と今後期待する農協の姿についてのお尋ねがありました。
 農協は、組合員の相互扶助を理念とする農業者の協同組合であり、昭和二十二年に農協法が制定されて以降、小規模で多数の農業者が共同して事業を行うことにより、農産物流通や生産資材の供給などにおいて大きな役割を果たしてきたと考えております。
 ピーク時である昭和六十年には、農協の農産物取扱高は農業総産出額の約六割、また、農薬の取扱高は出荷金額の約八割を占めておりました。しかしながら、社会経済情勢が変化する中で、農協の農産物販売や生産資材購入における取扱いのシェアは大きく低下してきており、農業者、特に担い手農業者のニーズに十分に応えられているとは言い難い状況にあります。
 このため、今回の農協改革では、農協が農業者の協同組織であるという原点に立ち返って農協システムの見直しを行うこととしております。こうした改革により、地域農協が担い手農業者と力を合わせて農産物の販売力強化等に積極的に取り組み、農業所得の向上により、担い手を始めとする農業者から評価される組織となっていただくことを期待しているものであります。
 農協改革と農業者の所得増大との関係についてのお尋ねがありました。
 安倍内閣においては、農業を成長産業とし、地方創生の核としていくため、農林水産業・地域の活力創造プランに基づき、需要フロンティアの拡大、需要と供給をつなぐバリューチェーンの構築、生産現場の強化を産業政策の柱とする農政改革を進めてまいりました。
 こうした政策が成果を上げるためには、これらの政策面の見直しと併せて、経済主体が政策も活用しながら自由に経営を展開できる環境を整えていくことが必要不可欠です。特に、農協改革については、地域農協が意欲ある担い手と力を合わせて創意工夫を発揮し、自由な経済活動を行うことにより、農産物の有利販売に全力投球できるようにすることで農業所得の向上につなげていくことにしております。
 このため、改正法案では、責任ある経営体制を確立するため、理事の過半数を認定農業者などにするとともに、農業所得の増大に最大限配慮するなど、経営目的を明確化し、選ばれる農協とするため、農業者に事業利用を強制してはならないことを規定しているところです。
 また、連合会、中央会については、地域農協の自由な活動をサポートする観点から見直し、特に中央会については自律的な制度に移行することとしたところです。
 今回の改革を契機として、農業者や農協の役職員が徹底した話合いを行い、役員体制をどうするか、販売方式をどうするか等を検討し実践していけば、農協はその力を十分発揮し、農業所得の向上につなげていくことができるものと考えております。
 農協法第七条第二項の規定の趣旨についてのお尋ねがありました。
 今回の改正により新たに規定することとした第七条第二項は、農協は農業者の協同組織であることから、事業を行うに当たっては農業所得の増大に配慮することを求めるものです。一方で、第七条第一項では、従来と同様、農協は准組合員を含めて組合員のために最大の奉仕をすることを目的とすることを規定しております。したがって、第七条第二項を規定したからといって、農協が実際上果たしている地域のインフラとしての機能を制約するようなことにはならないと考えております。
 中央会の組織変更についてのお尋ねがありました。
 中央会制度については、地域農協の自立と自由な経済活動を促し、これを適切にサポートするという観点から、自律的な新たな制度に移行することとしたところです。
 この中で、都道府県中央会については、地域の農協を直接の構成員とする組織であり、また、会員の意思の代表、会員相互間の総合調整といった機能のほかに、経営相談、監査といった会員農協が利用する事業を行うことから、農業協同組合連合会に移行することとしたところです。
 一方で、全国中央会については、基本的に都道府県中央会を束ねる組織であり、また、全国監査機構を外出しして監査法人を設立することとしていることから、組織変更後の役割は、会員の意思の代表及び会員相互間の総合調整ということになります。このため、全国中央会については、農協連合会ではなく、会員の相互の支援、交流、連絡などの活動を行う団体の法人形態として一般に広く活用されている一般社団法人へ移行することとしたところであります。
 農業委員会法の改正についてお尋ねがありました。
 農業委員会法の改正については、衆議院の審議の過程で、公選制を廃止すると地域の代表性が失われてしまうのではないか、農業委員と新設する農地利用最適化推進委員との役割分担はどうなるのかといった指摘があったところです。
 農業委員の選出方法については、今回の改正で、公選制から市町村議会の同意を要件とする市町村長の選任制に改めることとしておりますが、この際、市町村長は、あらかじめ地域から推薦を求め、また募集を行い、推薦を受けた者及び募集に応募した者に関する情報を整理、公表し、その結果を尊重して委員を任命しなければならないこととしております。このため、今回の改正後も、農業委員は地域の農業者の代表としての側面を持っており、農業委員会の活動に地域の特性や地元の事情を適切に反映していくことが可能と考えております。
 また、農地利用最適化推進委員は、現在の農業委員の機能が、委員会としての決定行為、委員の各地域での活動の二つに分けられることを踏まえ、二つの機能それぞれが的確に機能するようにするため新設するものです。
 改正後は、農業委員は合議体としての意思決定を行うこととしており、具体的には、農業委員会に出席して議決権を行使し、農地の権利移動や農地転用の許可に当たって具申すべき意見等を審議することとなります。
 これに対し、推進委員は、自らの担当区域において、担い手への農地利用の集積、集約化や、耕作放棄地の発生防止、解消といった農地等の利用の最適化の推進に関する活動を行うことになります。具体的には、出し手農家に対して農地の貸出しを積極的に働きかけ、農地中間管理機構と連携しながら担い手への集積、集約化等を進めていただくことになります。
 衆議院の御議論では、今回の改正内容が現場でよく理解されていないとの御指摘もあったところであり、法案を御審議いただき、成立させていただいた暁には、現場への周知徹底をしっかりと行ってまいります。
 以上でございます。(拍手)
    ─────────────
#9
○議長(山崎正昭君) 徳永エリ君。
   〔徳永エリ君登壇、拍手〕
#10
○徳永エリ君 民主党・新緑風会の徳永エリです。
 私は、会派を代表いたしまして、ただいま議題となりました農業協同組合法等の一部を改正する等の法律案について、林農林水産大臣に御質問させていただきます。
 私の地元北海道のおいしいお米、ゆめぴりか、ななつぼしはテレビコマーシャルでもすっかり有名になりましたが、二十年ほど前までは、北海道のお米はおいしくないと言われ、道産米の道内食率も三〇%台でした。ところが、今は、稲作農家の皆さんの長年の苦労が実り、特A品種の北海道ブランド米は全国的にも大変に人気があります。さらには、業務用米、酒米、モチ米まで何でもそろう北海道は、味も品質も収量も日本一の米どころとなりました。
 しかし、これまでの北海道農業は、国策に翻弄され続けてきた歴史があります。一九六一年、農業基本法が制定され、国は零細な農業の規模拡大による生産コストダウンを目指しました。都府県に先駆けて大規模化を進めた北海道は基本法農政の優等生と言われましたが、その一方で、規模拡大に伴って五十四万人の農業人口が十年で三十三万人まで減少いたしました。大量の離農が生まれ、町や村の人口減少にもつながりました。そして、一九七一年には稲作、一九七九年には酪農の生産調整が始まると、大規模化した北海道農業は身動きができなくなり、今度は劣等生扱いを受け、四九%という厳しい減反率を国から押し付けられました。
 しかし、苦しい中で、北海道の稲作農家は、おいしいお米を作るんだ、そのことを諦めずに、国がやろうとしないので、農業協同組合が、組合員である農家から拠出金を集めて道立農業試験場の品種改良のための研究費を支え続け、その結果、きらら三九七が誕生し、次々とおいしい道産米の生産に成功していきました。
 さらに、民主党の農業者戸別所得補償制度により、生産コストと販売価格の差額、恒常的な赤字を補填する交付金が大規模層に手厚く交付され、農地の集約が進み、所得も増えたことにより後継者や新規就農者も増え始め、緩やかな構造改革が進み、北海道の農業の現場では着実に政策成果が上がっていたんです。
 しかし、安倍政権に交代以降、TPP交渉参加、農地中間管理機構による企業参入の加速化、農業者戸別所得補償制度の廃止、そして、昨年の史上最悪の米価の下落、北海道だけではなく全国各地の稲作農家は所得が大きく減少し、規模拡大に伴う投資による借金返済の見通しも付かず、将来を悲観して自死者も出ています。さらに、今度は、食用米は余っているからと、飼料用米、牛や豚の餌を作らせ、一方で、米国からTPPで食用米を大量に追加輸入しようとしています。そして、今回の法改正では、小規模家族経営農家を守ってきた農家のセーフティーネットである農業協同組合、農業委員会、さらに農地まで財界、企業にコントロールさせる仕組みをつくろうとしています。
 農業、農村に新自由主義を持ち込み、戦後の民主的改革を壊そうとしている安倍総理の描く戦後レジームからの脱却農政は間違っています。農業、農村の所得倍増、息をのむような美しい田園風景、どんなに耳当たりの良いスローガンを並べても、農家の皆さんの心には総理の言葉は響きません。安倍政権による企業参入を軸とした農政改革では、農業、農村の明るい未来は全く見えません。
 食管法時代の米行政に代表されるように、国や地方公共団体は、これまで農協系統を生産調整政策の推進に使ってきた側面があり、行政の代行的業務を行わせてきました。米の集荷を一手に地域農協が引き受け、その頂点に立って監査や指導を行ってきたのがJA全中であります。総理は、全中の強力な指導、監査の下で単位農協の自由な経営が制約されており、中央会制度をなくすことで、単位農協が経済活動を活発に行い、農業者の所得向上につながると説明しておられますが、これまでの国会審議の中で、JA全中によって単位農協が自由な経営を阻害されてきたという具体的な事例が全く示されておりません。
 そもそも、何の根拠もないのになぜ法改正をしなければならないのか、全く理解することができません。全中の監査・指導権をなくすことで、なぜ単位農協の活動が活性化され、農業者の所得向上につながるのか、大臣の納得いく説明を求めます。
 今回の法改正で、全中を二〇一九年九月末までに一般社団法人とし、全中監査や指導権限が廃止されます。さらには、組合に関する事項について行政庁に意見を述べる建議権もなくなります。となると、一般社団法人となるJA全中は、法改正後、どのような役割を担うことになるのでしょうか。また、JA全中を、なぜ都道府県中央会と同じ農業協同組合連合会ではなく一般社団法人に転換する必要があったのかについても御説明をお願い申し上げます。
 農協は、農業者のための協同組合であると同時に、地域のための協同組合でもあります。厚生病院、Aコープ、ガソリンスタンド、高齢者福祉施設、葬祭場。人口の少ない地方の町では、採算の取れない事業を農協が引き受け、地域の生活インフラを支えています。准組合員になり利用している人もいますが、病院などは一般の方々も利用しています。
 一定の員外利用割合の規制があり、規制に違反しないで利用するには、当面は准組合員になってもらうことになると思いますが、一方で、改正案は、准組合員の事業の利用状況を法施行後五年掛けて調査、検討するとしています。その結果、組合員よりも准組合員の利用率が高いのだから、組合員でない人も広く利用できるようになどとして、政府は、改正案の規定にもあるように、農協の株式会社化を求めかねません。株式会社になれば、採算が取れない事業や支店はいずれ撤退、閉鎖となり、地域の生活インフラ、命綱が失われてしまうことになります。
 そもそも、なぜ農業協同組合をその目的、理念が全く異なる株式会社にする道を開いたのか、その理由を伺います。
 さらに、改正案は、現行法第八条における組合の目的について、営利を目的として事業を行ってはならないとの文言を削除するとともに、改正案第七条第二項では、組合は農業所得の増大に最大限配慮すべきとの規定を新たに設けています。この改正は、農協は農業者の職能組合に純化し、農業所得の増大に集中せよとの趣旨と思われます。
 しかし、農協が組織体として持続する上で適切な利益を求めることは当然の責務であり、現行法の、農協は営利を目的とせずの文言があっても、これまで何の支障もありませんでした。そして、農協は正組合員と准組合員から構成されており、農業所得の増大を最大の目的とわざわざ規定することは、農協の地域社会への貢献という大きな役割を薄めるとともに、いずれ准組合員制度を廃止するとの考えを示すものではありませんか。
 農業委員会についてお伺いいたします。
 農業委員は、農地の権利移動についての許認可や、農地転用の業務を中心とした農地行政の執行という極めて重要な機能を担っていることから、公選制を維持してきました。法改正により、公選制を廃止し、市町村長による選任制に変更するとしています。
 政府は、これまで農業委員の多くが無投票で当選し、選挙が形骸化してきたことを理由としています。しかし、それは地域の農業者がこの人ならと信頼していることのあかしであり、公選制をやめる理由にはなりません。選任制で市町村長が適切な人物を選任することはどのように保証されるのでしょう。
 さらに、改正案では、地域に住んでいない人も委員になることができますが、地域との結び付きがない農業委員が地域からの信頼を得ることが果たしてできるのでしょうか。農業者等から推薦及び公募による候補者を求めるとしていますが、定数を超える推薦又は公募があった場合、最後は市町村長の裁量となります。市町村長の恣意的な選任が行われる可能性は排除できません。市町村長に何らかの圧力が掛かる場合も考えられます。恣意的な選任が行われれば、農地を守るという農業委員会の使命を果たすことができなくなってしまいます。
 公選制を維持するべきだと考えますが、大臣の御見解をお伺いいたします。
 改正案では、農業委員を半減し、新たに農地利用最適化推進委員を農業委員会が委嘱するとしています。推進委員は現場の活動を担い、農業委員は合議体の決定行為を行うと説明しています。また、推進委員は農地中間管理機構と連携して農地集積業務を行うことが規定されていますが、農業委員にはそうした規定はありません。
 なぜ今まで農業委員一本でやってきたことを二つに分けるのか。政府は推進委員に何を期待しているのでしょうか。農業委員と推進委員の役割分担は明確になっているのでしょうか。法改正により、現場がぎくしゃくとし、混乱が生じる懸念があります。農業委員と推進委員の関係や役割分担がどうなるのか、それぞれの人数はどう決めるのか、分かりやすく御説明ください。
 また、推進委員の委嘱に当たっては、農業委員会が農業者に対して、候補者の推薦を求める、また募集を行うということですが、具体的にどういう人について推薦を求め、募集するのか、経歴や経験など選ぶ基準は定めるのか、女性の積極的な登用の仕組みは考えるのか。また、推進委員は、どこからの指示で、どういう方法で農地集積のための地域での交渉や調整を行うのかということが非常に重要です。
 極端な話、バブル期の地上げ屋のような人やディベロッパーのような人が農村に入ってきては大変です。政府のイメージする農地利用最適化推進委員はどんな人なのか、具体像をお伺いいたします。
 農業生産法人の要件の緩和についてお伺いいたします。
 今回の農地法改正により、農地を所有できる法人、農業生産法人を農地所有適格法人と改め、要件を緩和し、企業の農業参入を一気に進めようとしています。二五%まで限定されていた一般企業の出資比率は五〇%未満まで緩和されることになります。このことによって、資本力のある企業が農地を大規模に買い占める可能性は否定できません。そうなると、農地を奪われた農業者は、企業に雇われなければ農業を続けられないということになりかねません。我が国の農村から農家、農民がいなくなり、農業者は企業の一労働者として、サラリーマンとして働く時代がやってくるということなのでしょうか。
 大臣は、利益確保を最優先する企業が農業に参入することで我が国の食料生産と農地を維持できるとお考えですか。企業は農民と違って、もうからなければやめてしまいます。やめてしまえば農地は荒廃します。荒廃した農地は簡単に元には戻らないんです。農業生産法人の要件緩和は、総理がおっしゃるような、息をのむような美しい田園風景を壊してしまうことになるのではないでしょうか。
 官邸主導の農業改革、そして今回の法改正の狙いは明らかです。五年後、農協はどうなっているのか、農業委員会はどうなっているのか、農村コミュニティーはどうなってしまうのか。政府は、農協組織や農業委員会がこれまで果たしてきた役割を無視し、悪者に仕立て上げ、農民のこれまでの苦労や努力を踏みにじり、日米の財界の要求に応え、結論ありきで独善的に法改正を行おうとしています。農業、農村に競争と効率、利益最優先の経済至上主義を持ち込もうとしている、この法案が成立すれば、地方創生どころか地方解体、農村崩壊、民主主義の破壊につながります。
 我々民主党は、地域、そして農民を守り、日本の食料安全保障を確立するために全力で必死で戦い抜くことをお約束し、私の質問を終わらせていただきます。
 御清聴いただきまして、ありがとうございました。(拍手)
   〔国務大臣林芳正君登壇、拍手〕
#11
○国務大臣(林芳正君) 徳永議員の御質問にお答えいたします。
 全中の監査権限廃止と農業者の所得向上の関係についてお尋ねがありました。
 今回の農協改革は、地域農協が自立して、自由に経済活動を行い、農産物の有利販売など、農業者の所得向上に全力投球できるようにすることを中心に据えて、農協システム全体の見直しを行うこととしております。
 昭和二十九年に導入された、行政に代わって農協の指導、監査を行う特別認可法人である中央会制度についても、地域農協の自由な経済活動を適切にサポートするという観点から、自律的な新たな制度に移行することとしております。この一環として、全中監査の義務付けも廃止することとしておりますが、こうした中央会制度の見直しにより、地域農協の役員が従来以上に経営者としての責任を自覚して、農業者のメリットを大きくするよう、創意工夫して取り組んでいただくことを期待しているものであります。
 こうした農協改革と農林水産業・地域の活力創造プランに基づく各種の政策が連動することによって、農業の成長産業化に道筋が付き、農業者の所得向上につながるものと考えております。
 中央会の組織変更についてのお尋ねがありました。
 中央会制度については、地域農協の自立と自由な経済活動を促し、これを適切にサポートするという観点から、自律的な新たな制度に移行することとしたところです。
 この中で、都道府県中央会については、地域の農協を直接の構成員とする組織であり、また、会員の意思の代表、会員相互間の総合調整といった機能のほかに、経営相談、監査といった会員農協が利用する事業を行うことから、農業協同組合連合会に移行することといたしました。
 一方で、全国中央会については、基本的に都道府県中央会を束ねる組織であって、また、全国監査機構を外出しして監査法人を設立をすることとしていることから、組織変更後の役割は、会員の意思の代表及び会員相互間の総合調整ということになります。このため、全国中央会については、農協連合会ではなくて、会員の相互の支援、交流、連絡などの活動を行う団体の法人形態として一般に広く活用されている一般社団法人へ移行することとしたところであります。
 農協の株式会社への組織変更についてのお尋ねがありました。
 農協は、農業者が自律的に設立する協同組織であり、農業者が農協を利用することでメリットを受けるために設立されるものであります。一方で、農協は、過疎化、高齢化等が進行する農村社会において、実際上、地域のインフラとしての側面を持っているのも事実であります。しかしながら、農協という組織形態のままでは、員外利用規制等により、農業者でない地域住民に対し、地域のインフラとしてのサービスを提供していくことが難しくなることも考えられます。
 このため、今回の改正案では、農協がその選択によって、生活購買、ガソリンスタンドなどの事業を分割して、株式会社へと組織変更できるようにすることとしております。株式会社への組織変更を選択すれば、農業者であるか否かにかかわらず、誰でも事業利用をできるようになり、また、従来の准組合員も株主として議決権を持って運営に参加できるようになるものと考えております。
 農協の目的についてのお尋ねがありました。
 農協法第一条は、農協が農業者の協同組織であることを明記しており、農協は、農業者が農産物の販売や生産資材の調達などの事業を利用することでメリットを受けることを主目的として設立する、農業者の職能組合であります。
 しかしながら、現在の農協は、信用事業や共済事業に力を入れる一方で、農業者、特に担い手の農業者のニーズに十分応え切れておらず、結果的に、農協の農産物販売や生産資材購入における取扱いのシェアも低下傾向にあるといった問題があります。
 このため、今回の改正により新たに規定することとした第七条第二項では、農協に、農業者の協同組織として、農産物の有利販売や生産資材の有利調達等に積極的に取り組むことを求める意味において、農業所得の増大に配慮することを規定したものであります。一方で、第七条第一項において、准組合員を含めて組合員のために最大の奉仕をすることを目的とすることを引き続き明確に規定をしており、第二項を追加したからといって、准組合員制度を廃止するようなことにはならないものと考えております。
 なお、准組合員の利用規制の在り方については、五年間調査を行った上で検討し、結論を得ることとしております。
 農業委員の選出方法についてのお尋ねがありました。
 農業委員会は、農地に関する市町村の独立行政委員会であり、担い手への農地利用の集積、集約化、新規参入の促進、耕作放棄地の発生防止、解消など、地域農業の発展を積極的に進めていくことが期待をされております。
 一方で、農業委員会の活動状況については、地域によって様々であり、平成二十四年のアンケート調査によれば、農業委員会の活動を評価している農業者は三割にすぎず、農地集積などの農家への働きかけが形式的である、遊休農地等の是正措置を講じないなど、農業者から余り評価されているとは言い難い状況も見られるところであります。これは、農業委員の四割が兼業農家であり、担い手など農業経営に真剣に取り組んでいる方が主体となっていないことに起因する面があると考えております。
 これらを踏まえ、今回の法案では、適切な人物が確実に農業委員に就任するようにするため、公選制から市町村長の選任制に改めることとしているところであります。その際、市町村長は、市町村議会の同意を得ることに加えて、あらかじめ地域からの推薦を求め、また募集を行い、推薦を受けた者及び募集に応募した者に関する情報を整理、公表し、推薦及び募集の結果を尊重しなければならない、こういうふうにしておりまして、市町村長が合理的な理由なく恣意的に委員を選任することが困難な制度にしているところであります。
 農地利用最適化推進委員についてお尋ねがありました。
 現在の農業委員会の機能は、委員会としての決定行為、委員の各地域での活動の二つに分けられますが、この二つがそれぞれ的確に機能するようにしていく必要があります。このため、今回の法改正では、農業委員とは別に農地利用最適化推進委員を新設することとしております。
 改正後は、農業委員は合議体としての意思決定を行うこととしており、具体的には、農業委員会に出席していただいて議決権を行使し、農地の権利移動や農地転用の許可に当たって具申すべき意見等を審議することとなります。
 これに対して、推進委員は、自らの担当区域において、担い手への農地利用の集積、集約化や、耕作放棄地の発生防止、解消といった農地等の利用の最適化の推進に関する活動を行うことになります。具体的には、出し手農家に対して農地の貸出しを積極的に働きかけ、農地中間管理機構とも連携しながら担い手への集積、集約化等を進めていただくことになります。
 農業委員及び推進委員の定数については、政令で基準を定めることとしておりますが、農地利用の最適化の成果を上げることのできる人数を確保できるよう、今後、適切に検討をしてまいります。
 どのような者が農地利用最適化推進委員になるのかとのお尋ねがありました。
 現場において農地利用の最適化に向けた推進活動を行っていくためには、地域の農地所有者や農業者の信頼を得て、農地利用の調整を公正かつ円滑に実施していく能力が必要になってまいります。このため、そのような能力を有する者が推進委員となることが望ましいと考えているところでございまして、地域からの候補者の推薦や募集により、こういった方が推進委員となるよう工夫をしているところであります。
 企業の農業参入と農業生産法人の要件緩和についてお尋ねがありました。
 企業の農業参入については、平成二十一年の農地法改正でリース方式での参入は完全に自由化をされておりまして、法改正前の約五倍のペースで参入が進んでいるところであります。このように、リース方式での企業参入については、農業界、産業界が連携して前向きに推進していける状況にあり、特に担い手の不足する地域において企業がリース方式で参入していただくことを期待をしておるところであります。
 また、農地を所有できる法人である農業生産法人については、今回の改革で六次産業化を行いやすくするため、役員の農作業従事要件及び議決権要件の見直しを行うこととしております。
 今回の見直しを行ったとしても、法人の総議決権の過半数は農業者が保有するとともに、役員の過半が加工、販売を含めた農業に常時従事するという要件は維持されることから、農業者による経営支配は確保されており、企業が自由に農地を買い進めるということにはならないと考えております。
 以上でございます。(拍手)
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#12
○議長(山崎正昭君) 若松謙維君。
   〔若松謙維君登壇、拍手〕
#13
○若松謙維君 公明党の若松謙維です。
 私は、公明党を代表して、ただいま議題となりました農業協同組合法等の一部を改正する等の法律案に対し、林農林水産大臣及び関係閣僚に質問いたします。
 現在、主業農家の農業所得は勤労者所得に比べて約三割低く、農業から所得が生まれないという多くの農家の方々の声が聞かれます。我が国の農業は大変厳しい状況に置かれていると断言いたします。こうした状況を打開し、農業者の所得向上と営農の継続を確保するためには、農業の成長産業化を図る大胆な農業政策の改革を断行し、併せて農業関係組織の改革を行う必要があります。
 まず、福島県会津地方の農家の方々からの実際の声に触れながら質問をいたします。
 昨今の米価下落や急激な円安による肥料の高騰などにより、米生産農家の収入は大きく減少するなど、生活環境は大変厳しい状況にあります。全農は、二十七年産の飼料用米について、二十六年産の三倍強となる六十万トンを目標に挙げていますが、食用米から飼料用米への転換を中心とする政策で米価安定が確保できるか不透明です。
 また、米価が下落した際には収入を補填する、いわゆるナラシ対策制度に加入する際の規模要件を廃止するなど、加入要件が緩和されたのであれば、加入を促進し、農家の収入減のリスクを減少させるべきと考えますが、農林水産大臣の御見解を伺います。
 さらに、農家のほとんどが農協に加入しており、農家は、信用、共済に熱心な現在の農協の姿に不安を持ちつつも、現実問題として農協を頼りにしています。こうした状況で、今回の農協改革の趣旨が現場の農家に十分に伝わっておらず、不安を感じているとの声が多く聞かれます。農業者の不安を解消するため、今回の改革の趣旨及びその内容を現場に丁寧に説明すべきと考えますが、農林水産大臣の御所見を伺います。
 次に、農業の成長産業化について伺います。
 安倍内閣では、農業を成長産業と位置付けており、農産物の流通、加工、そして輸出の流れを良くすれば成長産業としての可能性を引き出すことができます。その観点から二点伺います。
 まず、農地中間管理機構の活用についてであります。
 この二十年間で、耕作放棄地は約四十万ヘクタール、滋賀県の面積とほぼ同じ規模に倍増し、担い手農家の農地利用は全農地の約五割程度にとどまっています。そのため、農地中間管理機構を利用して農地の集積、集約化を進めることは極めて重要です。そのためには、今回の農業委員会改革で新設した農地利用最適化推進委員が現場で重要な役割を果たすべきであり、そのために必要となる複数以上の人数を確保すべきと考えますが、農林水産大臣の御所見を伺います。
 さらに、農業所得の向上のためには、農業者を始めとする農業の現場が経営感覚を向上させ、高付加価値化、六次産業化、輸出等に取り組むことが必要であり、これらの実現のためには経営の基本である毎月の予算実績管理を実行することは不可欠です。今回の農協等の改革を進める際には、農協自身が予算実績管理を実行すべきです。
 国は、農協に農業経営指導力を向上させるためにはどのようなサポートをするお考えでしょうか。同時に、昨今の世界的な和食ブームを捉え、日本の農業を成長分野へとつなげるための輸出オールジャパン体制を強化すべきと考えます。農林水産大臣のお考えを伺います。
 次に、農協監査について伺います。
 地域農業の経営力、国際競争力を高めていくためには、農業者に一番近い農協が適切にリスクを取りながら、農産物販売力の強化、輸出の拡大などで農業者に所得向上の機会を創出していく必要があります。このような事業活動となるためには、農協経営におけるガバナンス強化が不可欠です。このため、農協の事業に精通し、ノウハウを蓄積してきた農協監査士を活用していくことが重要と考えます。農林水産大臣の御所見を伺います。
 また、監査費用は、これまでは農協や連合会が負担する賦課金で賄われていましたが、公認会計士監査に移行することで、農協から直接、監査法人に支払うことになります。政府として、今回の監査制度の見直しの中で、農協の実質的負担が増えないよう何らかの措置を講ずるべきと考えますが、農林水産大臣のお考えを尋ねます。
 最後に、福島の農業復旧・復興についてお尋ねいたします。
 東京電力福島第一原発事故から四年が経過しましたが、汚染水対策等の未解決により、福島県農産品に対する風評被害が一向に改善せず、避難指示区域以外でも、福島県内で農業を続けざるを得ない農業従事者にとって非常に厳しい経営環境が続いています。
 先日、地元の食材を使って会津料理を提供する貴重な情報発信の場であった都内の店が風評被害に勝てず、閉店を余儀なくされました。風評被害対策は大変重要であり、平成二十七年度以降も継続すべきと考えます。復興大臣及び農林水産大臣の答弁を求めます。
 また、風評被害を受けた農業者の経営は厳しい状況にあるため、農業者への融資と既存借入金の返済については、農業者の個々の事情に応じて柔軟に対応すべきと考えますが、農林水産大臣の答弁を求めます。
 以上、農業者の声を交えながら、農協法改正について幾つかの質問をさせていただきました。
 私ども公明党は、農業現場を元気にするにはどうしたらよいか、常に現場目線で政策を考えてきました。本法案の成立によって農業の成長産業化がますます前進することを期待し、私の質問を終わらせていただきます。
 御清聴ありがとうございました。(拍手)
   〔国務大臣林芳正君登壇、拍手〕
#14
○国務大臣(林芳正君) 若松議員の御質問にお答えいたします。
 ナラシ対策の加入促進についてのお尋ねがありました。
 米価等が変動した場合のセーフティーネットとしては、収入減少影響緩和対策、いわゆるナラシ対策を措置しているところであります。
 このナラシ対策については、昨年の通常国会で担い手経営安定法を改正し、二十七年産から、対象となる担い手について、認定農業者、集落営農に認定新規就農者を加えるとともに、いずれも規模要件を課さないこととしておりまして、これにより、担い手であれば幅広く対策に加入できることとしたところであります。
 こうした制度の改善点を周知し、ナラシ対策への加入促進を図るため、昨年来、都道府県段階、市町村段階での説明会を開催するとともに、個々の農業者に対する分かりやすいチラシの配布などの取組を行っているところであります。
 農協改革の現場への説明についてのお尋ねがありました。
 農協は、農村地域において、信用、共済事業を始め様々なサービスを提供しておりますが、特に農産物販売等の農業関連事業において農業所得の増大につながるようしていくことが最も重要であると考えております。
 このため、今回の農協改革においては、地域農協がそれぞれの地域の特性を生かして創意工夫しながら自由に経済活動を行い、農産物の有利販売など、農業者の所得向上に全力投球できるようにすること、連合会や中央会は地域農協の自由な経済活動を適切にサポートしていくこととしております。
 地域農協が農業者の所得向上に向けた活動を進めていくためには、農業者や農協の役職員が徹底した話合いを行い、役員体制をどうするか、販売方式をどうするか、六次産業化や輸出拡大にどう取り組むかなどを検討していくことが必要です。
 このような観点からも、農協改革の趣旨や内容を農業者の方々などに周知し、理解を深めていただくことが重要であると考えており、今後も現場に対して丁寧に説明してまいります。
 農地利用最適化推進委員についてお尋ねがありました。
 現在の農業委員会の機能は、委員会としての決定行為、委員の各地域での活動の二つに分けられますが、この二つがそれぞれ的確に機能するようにしていく必要があります。
 今回の法改正では、委員会としての決定行為を行う農業委員とは別に農地利用最適化推進委員を新設し、担い手への農地の集積や耕作放棄地の発生防止といった各地域における現場活動を農地中間管理機構と連携して積極的に行っていただくこととしたところであります。
 推進委員の定数については、政令で基準を定めることとしておりますが、農地利用の最適化の成果を上げることのできる人数を確保できるよう、今後、適切に検討してまいります。
 農協による経営指導力の強化についてのお尋ねがありました。
 今回の改革は、地域農協が担い手農業者と力を合わせて農業所得の向上に全力投球できるような環境を整備しようとするものです。
 したがって、地域農協においては、担い手農業者と農協の役職員が農業所得の向上に向けた農協の業務の在り方等について徹底して話し合い、実践していただきたいと考えております。この中で、担い手農業者の要望があれば、農協が農業者の経営管理を支援していくといった取組を行うことも重要であり、実際に記帳代行や経営分析、経営指導等に取り組んでいる事例もあると承知をしております。
 いずれにしても、政府としては、今回の農協改革の趣旨を十分に周知徹底していきたいと考えております。
 農林水産物の輸出促進についてのお尋ねがありました。
 平成二十五年の和食のユネスコ無形文化遺産登録を追い風に、更に輸出を伸ばしていくため、米や牛肉などの品目別にオールジャパンの輸出体制を確立したところでありまして、このような体制を積極的に活用して、平成三十二年の輸出額一兆円目標の前倒し達成を目指してまいります。
 公認会計士監査への移行に関する農協の負担及び農協監査士の活用についてのお尋ねがありました。
 今回の農協改革においては、会計監査については、農協の信用事業をイコールフッティングでないといった批判を受けることなく安定して継続できるようにするため、信用金庫、信用組合と同様、公認会計士による会計監査を義務付けることとした上で、改正法附則第五十条において、公認会計士監査への移行に関して、政府は農協の実質的な負担が増加することがないよう配慮することなどを規定しているところであります。
 この配慮規定の具体的な内容については、法成立後に検討していくことになりますが、まずは、これまでの農協の負担がどれくらいかなどを確認し、公認会計士監査となった場合の負担がどの程度になるかを検証していくことから着手することになるものと考えております。
 また、新たに農協に対する監査を行うこととなる公認会計士や監査法人においては、これまで全中監査に従事してきた農協監査士のノウハウを活用することが有効であると考えておりまして、改正法附則第五十条においては、農協監査士の活用についても、政府は適切な配慮をするものと規定しているところであります。
 福島県産農産品の風評被害対策についてのお尋ねがありました。
 農林水産省においては、風評被害対策として、福島県が行う福島県産農産物等についての広報活動に対して、復興庁と連携し、平成二十七年度予算額で約十六億円の支援を行っております。
 なお、六月二十四日に開催された全閣僚がメンバーとなっている復興推進会議において、農林水産物等の風評被害対策に必要な事業は、平成二十八年度以降も復興特会で実施する事業と位置付けられたところであります。
 今後とも、関係省庁等と連携し、風評被害の払拭に取り組んでまいります。
 原発事故による風評被害を受けた農業者への対応についてのお尋ねがありました。
 風評被害を受けている農業者に対しては、日本政策金融公庫による低利の農林漁業セーフティネット資金を活用し、その経営維持に必要な資金繰りを支援しているところです。また、既往の債務についても、被災農業者に対し償還猶予などの措置を適切に講じるよう関係金融機関に要請するとともに、農業者の経営状況に応じて、公的な借換え資金の活用により既往債務の負担の軽減を図っております。
 引き続き、これらの措置を活用し、風評被害の影響を受けている農業者の経営状況を踏まえて適切に対応してまいります。
 以上です。(拍手)
   〔国務大臣竹下亘君登壇、拍手〕
#15
○国務大臣(竹下亘君) 若松議員より、福島県産の農産品の風評被害対策についてのお尋ねがございました。
 平成二十六年六月に策定をいたし、先月フォローアップした風評対策強化指針に基づきまして、関係省庁が一丸となって、福島県産米の全袋検査等の放射性物質検査の徹底や、消費者等に分かりやすい情報発信といった取組を行っております。
 また、先ほど農水大臣から答弁のございましたとおり、先日、六月二十四日の復興推進会議におきまして、農林水産物等の風評被害対策に必要な事業については、平成二十八年度以降も復興特会で実施するとしたところでございます。
 引き続き、関係省庁と連携をいたし、農産物等への風評被害の払拭に取り組んでまいります。(拍手)
    ─────────────
#16
○議長(山崎正昭君) 紙智子君。
   〔紙智子君登壇、拍手〕
#17
○紙智子君 私は、日本共産党を代表して、農業協同組合法の一部改正案について質問いたします。
 本題に入る前に、緊急の課題である北洋サケ・マス漁についてお聞きします。
 ロシア二百海里内のサケ・マス流し網漁を禁止する法案がロシアで成立しました。水産業は北海道の基幹産業です。道東地域の根室市は損失額を二百五十億円と発表、北海道経済にも重大な影響が出ます。日ソ漁業協定があるのに、操業の一方的な禁止を容認するのではなく、今後も操業が継続できるよう日本政府は外交努力を尽くすべきです。官房長官、農水大臣に答弁を求めます。
 安倍総理は、就任後の施政方針演説で、世界で一番企業が活躍しやすい国にすると宣言し、昨年は、四十年以上続いてきた米の減反を廃止します、民間企業が障壁なく農業に参入できる時代がやってきますと演説しました。
 戦後レジームからの脱却、岩盤規制の打破を掲げる安倍総理は、今年、六十年も変わらずに来た仕組みを抜本的に改める、農協、農業委員会の改革を断行すると繰り返しました。
 施政方針演説の第一に農政改革を掲げてきたわけですから、本来、この本会議にも総理自ら進んで出席し、説明すべきです。一言申し上げておきます。
 まず、農産物の輸入自由化路線について林農水大臣に伺います。
 総理は、アメリカ議会上下両院合同会議で、二十年前の農業の開放に反対した、ところが、日本の農業は衰えたと述べました。開放しなかったから農業は衰退したのでしょうか。
 一九八〇年代、ガット・ウルグアイ・ラウンド交渉が始まり、日本はアメリカの圧力に押されて牛肉、オレンジなどを開放しました。九〇年代以降、日本農業の総生産額や農業所得のみならず、兼業所得も加えた農家所得すら低落の一途をたどり、食料自給率も下がり続けました。
 既に日本は十分開放された国です。しかも、価格支持など農業保護政策からの撤退を強引に進めたため、日本農業の成長分野である畜産、果樹、稲作は大きな打撃を受けました。昨年は米価暴落で、所得倍増どころか半減だとの悲鳴が農家から上がっています。こうして日本農業を衰退させた歴代自民党農政の責任をどう考えているのでしょうか。その反省もないまま、更に開放を進めるTPP交渉の早期妥結を図ろうとしています。
 大統領貿易促進権限法、いわゆるTPA法が米国議会で可決されると、総理は、大きな前進だ、日本とアメリカのリーダーシップで早期妥結に力を尽くすと述べました。TPA法の可決を手放しに喜んでいいのでしょうか。TPA法では、農産物貿易について、交渉相手国の関税を合衆国の当該産品と同じかそれより低い水準まで削減する、また、合衆国を不利にするような諸手法を撤廃、例えば遺伝子組換え技術に影響を与えるような表示や制限義務の撤廃を求めています。つまり、アメリカははっきりした目標を示して妥結を迫ってくるのです。現に、米国通商代表部のフロマン氏は、議会はTPAを通じ高い水準のルールを定めることを期待していると、日本などを牽制する発言を行っています。
 これで農産品重要五品目を除外するとした衆参両院の農水委員会決議を守ることができるのですか。自民党の六つの政権公約を守ることができるのですか。甘利TPP担当大臣並びに林農水大臣の答弁を求めます。
 TPP交渉は、一部の多国籍企業のために各国のルールを変えさせ、主権を脅かすものだからこそ反対世論が広がっているのです。日本農業と地域経済を破壊するTPP交渉からの撤退を求めます。
 次に、農政改革について農水大臣にお聞きします。
 衆議院では、審議するほどに、参考人からも、地方公聴会でも、政府の答弁は分からないし、実情にかみ合っていないと疑問が膨らみ、批判が噴出しました。今回の農政改革は、誰のための何のための改革でしょうか。
 規制改革会議が昨年五月に公表した農政改革案が出発点になっています。農業への参入を求める財界は、規制改革会議を足掛かりに、農業関係者の意見も聞かずに改革案をまとめたため、JA全中は抗議の決議を上げました。片や、農協金融の規制緩和を求めるアメリカの在日商工会議所は、日本政府及び規制改革会議と密接に連携し、成功に向けた支援を行うと表明しました。背景に財界とアメリカの要求があることは明らかではありませんか。しかも、全中が自己改革案を発表すると、当時の農水大臣は、政府の考えとずれがあると圧力を掛けました。農業組織を変える今回の改革案は、日本の農業の土台を破壊するものではありませんか。答弁を求めます。
 農協法の改正について質問いたします。
 政府案では、組合は営利を目的として事業を行ってはならないとの規定を削除し、農業所得増大に最大限の配慮、高い収益性を実現に変えました。収益性を上げるために、利益は少なくとも農業の将来に必要な分野を切り捨てることになりかねません。協同組合の性格を形骸化させ、営利企業化を求めるものではありませんか。お答えください。
 なぜ農協改革が農家の所得を増やすことになるのか、いまだに誰も納得していません。安倍総理は施政方針演説で、農家の所得を増やすための改革だと強弁しましたが、林農水大臣は、この改革だけで農家の所得が増えるとは考えていないと私に答えました。参考人からも、中央会制度を改正すれば農業所得が向上するというのは理解に苦しむと言われています。農水大臣、なぜ農家の所得が増えるのか、改めて具体的に示してください。
 准組合員の事業の利用規制の問題も重大です。
 地域の銀行や商店、病院が減り、農産物の直売所、信用、共済事業、ガソリンスタンド、福祉事業などを行う総合農協が地域住民の生活の支えになっています。准組合員は農協経営や地域経済の支え手となっているのです。利用を規制すれば総合農協の経営は成り立ちません。五年後の見直し規定を入れたのは、財界や大企業が信用、共済事業をビジネスチャンスとして狙っているからではありませんか。明確にお答えください。
 農業委員会の公選制の廃止も重大です。
 農地は複雑な歴史と利害、権利関係など重層性を持っています。どこを、誰が、どのように利用するのが一番適切かを最も把握しているのは農業者自身です。だからこそ、耕作する農家の声を反映させ、地域をまとめる合理的な在り方として、農業者自らが代表者を選ぶ公選制という仕組みを取ってきました。公選制から市町村長の任命制に変え、定数も半減すれば、農地の番人である農業委員会の役割が後退するのは明らかです。農業委員会を行政の下請機関に変質させるものではありませんか。答弁を求めます。
 また、法律で保障された農業委員会の農業、農民に関する意見の公表を削除することは、JA全中の社団法人化や建議規定の削除と軌を一にしたものであり、TPP反対の先頭に立ってきたJA全中とともに農業委員会の弱体化を狙ったものではありませんか。答弁を求めます。
 このほかにも解決されていない問題が山ほどあります。出口先にありきではなく、納得できるまで時間を取って質疑を行うように強く求めて、私の質問を終わります。(拍手)
   〔国務大臣林芳正君登壇、拍手〕
#18
○国務大臣(林芳正君) 紙議員の御質問にお答えをいたします。
 ロシア水域における流し網漁業の禁止についてのお尋ねがありました。
 本件については、我が国漁業者が操業を継続できるよう、安倍総理からプーチン大統領に対して再三にわたって働きかけを行うなど外交努力を尽くしてまいりましたが、結果的に法案が成立したことは極めて残念であります。
 流し網漁業の禁止により、北海道の道東地域を中心に地域経済への大きな影響が懸念されますので、直ちに担当官を派遣して、現地の状況と関係者の意向を把握し、関係府省と連携しつつ万全の対策を講じてまいる所存です。
 総理演説の趣旨及びこれまでの農政の責任についてのお尋ねがありました。
 総理は、農産品の市場開放が不十分であったことが農業が衰退した原因だと述べたということではなく、この二十年の間に、農業従事者の減少、高齢化が進展したことを申し述べたものと承知しております。
 農政については、これまで、その時々の農業を取り巻く状況に応じて必要な施策を講じてきたものと考えておりますが、近年、生産者の所得の減少や農業従事者の減少、高齢化、耕作放棄地の増加等が進展していることは事実であります。
 その要因として、国民の食生活が大きく変化する中で、例えば米のように、需要が減少する作物の生産転換が円滑に進められていなかったこと、稲作のような土地利用型農業の部門においては、担い手への農地集積が遅れたこと、農産物の価格が低迷する中で、農作物の高付加価値化が実現できなかったこと等の事情があったと認識しておりますが、こうした状況を一つ一つ克服し、国内農業の活性化を図っていくことこそが農政を預かる者の責任であると認識をしております。
 TPP交渉における農林水産委員会決議及び公約の遵守についてのお尋ねがありました。
 TPP交渉においては、平成二十五年二月の日米共同声明において、我が国の農産品にはセンシティビティーがあること、TPP交渉参加に際し、一方的に全ての関税を撤廃することをあらかじめ約束することを求められないことが確認されました。これを受け、安倍総理はTPP交渉参加を決断したと承知しており、平成二十四年十二月の衆議院選挙で掲げた公約をたがえないよう交渉しているところであります。
 衆参両院の農林水産委員会においては、重要五品目などの確保を最優先することなどが決議されております。TPP交渉に当たっては、この決議が守られたとの評価をいただけるよう、政府一体となって全力を尽くしてまいります。
 TPP交渉からの脱退についてのお尋ねがありました。
 現在、厳しい交渉を行っている中で、交渉からの撤退について言及することは不適切であると考えております。
 今回の改革案は誰のための何のための改革なのかについてのお尋ねがありました。
 今回の改革のポイントは、農業者の協同組織であるという農協の原点に立ち返り、地域農協が自由に経済活動を行い、農産物の有利販売など、農業者の所得向上に全力投球できるようにすることであります。
 このため、地域農協について、農業者のメリットを大きくできるよう、組合の事業運営原則を明確化し、事業を行うに当たっては農業所得の増大に最大限配慮をしなければならないものとすること、理事の過半数を認定農業者や、農畜産物の販売や法人の経営に関し実践的な能力を有する者にすること等の改正を行うこととしたところであります。
 また、連合会や中央会については、地域農協の自由な活動をサポートする観点から見直すこととしたものであります。
 こうした農協改革の検討過程では、与党の検討の場などにおいて、JAグループの関係者のみならず、個人経営、法人経営を問わず多様な農業者からヒアリングを行ってきたところであり、また、本年二月には、JAグループとも協議を重ね、最終的にJAグループの合意を得た上で農協改革の法制度等の骨格を取りまとめたところであります。
 今般の改革は、地域農協が農業者のメリットを大きくするよう、創意工夫して取り組んでいただくことを期待しているものであり、アメリカからの要求によるものであるとか、日本の農業の土台を破壊するものといった指摘は全く当たりません。
 現行農協法第八条の改正の趣旨についてのお尋ねがありました。
 現行第八条の、営利を目的としてその事業を行ってはならないとの規定は、農協は協同組合であるので、株式会社と異なり出資配当を目的として事業を行ってはならないことを意味しているものであります。この趣旨については、現行法第五十二条で出資配当に上限が設けられていることによって担保されており、この点は今回の法改正においても変更しておりません。したがって、農協の協同組織としての性格には何ら変更はございません。
 一方で、現在の、営利を目的としてその事業を行ってはならないとの規定は、そもそも利益を得てはならない、もうけてはいけないとの誤った解釈もされがちでありました。このため、今回の改正では、この規定を削除し、農協が農産物の有利販売等に積極的に取り組むことを促すため、組合は、事業の実施に当たり、農業所得の増大に最大限の配慮をしなければならないこととするとともに、組合は、農畜産物の販売等において、事業の的確な遂行により高い収益性を実現し、その収益で事業の成長発展を図るための投資又は事業利用分量配当に充てるよう努めなければならない旨の規定を追加したところであります。
 高い収益性は、外部の経済主体との関係で極力有利に販売したり、有利に調達したりすることを意味しており、利益の少ない分野を切り捨てることを促しているものではありません。
 農協改革と農業者の所得増大との関係についてのお尋ねがありました。
 安倍内閣においては、農業を成長産業とし、地方創生の核としていくため、農林水産業・地域の活力創造プランに基づき、需要フロンティアの拡大、需要と供給をつなぐバリューチェーンの構築、生産現場の強化を産業政策の柱とする農業改革を進めております。
 こうした政策が成果を上げるためには、これらの政策面の見直しと併せて、経済主体が政策も活用しながら自由に経営を展開できる環境を整えていくことが必要不可欠であります。特に、農協改革については、地域農協が意欲ある担い手と力を合わせて創意工夫を発揮し、自由な経済活動を行うことにより、農産物の有利販売に全力投球できるようにすることで農業所得の向上につなげていくことにしております。
 このため、改正法案では、責任ある経営体制を確立するため、理事の過半数を認定農業者などにするとともに、農業所得の増大に最大限配慮するなど、経営目的を明確化し、選ばれる農協とするため、農業者に事業利用を強制してはならないことを規定しているところです。
 また、連合会、中央会については、地域農協の自由な活動をサポートする観点から見直し、特に中央会については自律的な制度に移行することとしたところです。
 今回の改革を契機として、農業者や農協の役職員が徹底した話合いを行い、役員体制をどうするか、販売方式をどうするか等を検討し実践していけば、農協はその力を十分発揮し、農業所得の向上につなげていくことができるものと考えております。
 准組合員の事業利用規制についてのお尋ねがありました。
 農協は、あくまでも農業者の協同組織であり、正組合員である農業者のメリットを拡大することが最優先です。したがって、准組合員へのサービスに主眼を置いて、正組合員である農業者へのサービスがおろそかになってはならないと考えております。一方で、過疎化、高齢化等が進行する農村社会において、農協が実際上、地域のインフラとしての側面を持っているのも事実であります。
 こうした状況を背景として、准組合員の利用規制について議論がされてきたところですが、これまで規制がなかったこともあって、正組合員と准組合員の利用実態が把握できていないこと、今回の農協改革によって農業者の所得向上に向けた成果がどの程度出るか見極める必要があることから、准組合員の利用規制の在り方については、五年間の調査を行った上で決定することとしたところであります。
 准組合員の事業利用規制の在り方について調査、検討するのはこのような背景によるものであり、財界や大企業が信用、共済事業をビジネスチャンスとして狙っているからではないかとの御指摘は当たりません。
 農業委員の公選制の廃止についてお尋ねがありました。
 農業委員会は、農地に関する市町村の独立行政委員会であり、担い手への農地利用の集積、集約化、新規参入の促進、耕作放棄地の発生防止、解消など、地域農業の発展を積極的に進めていくことが期待をされております。
 一方で、農業委員会の活動状況については、地域によって様々であり、平成二十四年のアンケート調査によれば、農業委員会の活動を評価している農業者は三割にすぎず、農地集積などの農家への働きかけが形式的である、遊休農地等の是正措置を講じないなど、農業者から余り評価されているとは言い難い状況も見られるところであります。これは、農業委員の四割が兼業農家であり、担い手など農業経営に真剣に取り組んでいる方が主体となっていないことに起因する面があると考えております。
 これらを踏まえ、今回の法案では、適切な人物が確実に農業委員に就任するようにするため、公選制から市町村長の選任制に改めることとし、この際、市町村長は、あらかじめ地域から推薦を求め、また募集を行い、推薦を受けた者及び募集に応募した者に関する情報を整理、公表し、その結果を尊重して委員を任命しなければならないこととしております。
 また、今回の法案では、委員会としての決定行為を行う農業委員とは別に農地利用最適化推進委員を新設し、担い手への農地の集積や耕作放棄地の発生防止といった各地域における現場活動を農地中間管理機構と連携して積極的に行っていただくこととしたところです。
 これらの改革は、農業委員会が農地利用の最適化の推進をよりよく果たせるようにするために行うものであり、農業委員会を行政の下請機関とするものではありません。
 農業委員会の意見公表の廃止及び中央会の社団法人化等の趣旨についてのお尋ねがありました。
 農業委員会は、農地に関する市町村の独立行政委員会であり、その主たる任務は、担い手への農地利用の集積、集約化や、耕作放棄地の発生防止、解消といった農地利用の最適化の推進ですが、耕作放棄地が拡大するなど、必ずしも十分に機能していない面があります。
 こうしたことから、農業委員会がその主たる業務である農地利用の最適化の推進業務に集中して取り組むことができるようにするため、今般の法案では、意見公表等は法令業務から削除することとしたところです。
 また、全国中央会については、地域農協の自由な経済活動を適切にサポートするという観点から、自律的な組織形態である一般社団法人へ移行することとしたところであり、これに伴い建議の規定もなくなります。
 法的根拠がなくても農業委員会や全国中央会は意見公表等を行うことは可能であり、したがって、今回の改正はTPP反対勢力の弱体化を狙ったものではありません。
 以上でございます。(拍手)
   〔国務大臣菅義偉君登壇、拍手〕
#19
○国務大臣(菅義偉君) ロシアにおける流し網漁を禁止する法案についてお尋ねがありました。
 本件につきましては、日本政府として、我が国漁業者が操業を継続できるよう、安倍総理からプーチン大統領への電話を含め、これまでロシア側に累次にわたり働きかけてきたにもかかわらず、この法案が成立したことは極めて残念であります。
 この法律が発効する二〇一六年一月一日以降、ロシア水域での日本漁船によるサケ・マス流し漁はできなくなりますが、日ロ間では日ロサケ・マス協定は引き続き有効であるとの認識であります。すなわち、引き続き我が国水域内におけるロシア系サケ・マスの操業は可能と考えております。
 日本政府としては、同協定に基づく操業を始めとする日ロの漁業協力につき、引き続き適切に対応してまいります。(拍手)
   〔国務大臣甘利明君登壇、拍手〕
#20
○国務大臣(甘利明君) TPP交渉についてのお尋ねがありました。
 米国においてTPA法が成立をした現在、TPP交渉は最終局面を迎えておりまして、国益と国益がぶつかり合う厳しい交渉が続いているところであります。
 衆参の農水委員会の決議をしっかりと受け止め、いずれ国会で御承認をいただけるような内容の協定を早期に妥結できるよう、引き続き全力で交渉に当たります。
 また、さきの衆議院選挙におきまして自民党は、交渉力を駆使して、守るべきは守り、攻めるべきは攻め、我が党や国会の決議を踏まえ、国益にかなう最善の道を追求するという公約を掲げておりまして、この方針に従って全力で交渉中です。
 交渉が最終局面を迎えている中、交渉からの脱退について言及することは国益の観点からも不適切と考えております。(拍手)
#21
○議長(山崎正昭君) これにて質疑は終了いたしました。
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#22
○議長(山崎正昭君) 日程第一 特許法等の一部を改正する法律案
 日程第二 不正競争防止法の一部を改正する法律案
  (いずれも内閣提出、衆議院送付)
 以上両案を一括して議題といたします。
 まず、委員長の報告を求めます。経済産業委員長吉川沙織君。
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   〔審査報告書及び議案は本号末尾に掲載〕
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   〔吉川沙織君登壇、拍手〕
#23
○吉川沙織君 ただいま議題となりました特許法等の一部を改正する法律案及び不正競争防止法の一部を改正する法律案につきまして、審査の経過と結果を御報告申し上げます。
 まず、特許法等の一部を改正する法律案は、知的財産の適切な保護及び活用により我が国のイノベーションを促進するため、発明の奨励に向けた職務発明制度の見直し及び特許料等の改定を行うほか、特許法条約及び商標法に関するシンガポール条約の実施のための規定の整備を行おうとするものであります。
 次に、不正競争防止法の一部を改正する法律案は、事業者が保有する営業秘密の漏えいの実態及び我が国産業の国際競争力の強化を図る必要性の増大等に鑑み、事業者が保有する営業秘密の保護を一層強化するため、営業秘密の刑事的保護について、営業秘密侵害罪の罰金額の上限の引上げ、その保護範囲の拡大等の措置を講ずるとともに、民事訴訟における営業秘密の使用に係る推定規定の新設等の措置を講じようとするものであります。
 委員会におきましては、両法律案を一括して議題とし、参考人から意見を聴取するとともに、職務発明制度の見直しを行う必要性及び見直しにより期待される効果、職務発明に係る相当の利益の内容の決定手続に関し経済産業大臣が定める指針の具体的内容、同指針の策定に当たり産業構造審議会に労働者側代表者を参加させる必要性、営業秘密侵害事案に対する捜査体制及び関係省庁間の連携を強化する必要性、今般の法改正による営業秘密侵害行為の抑止力向上に関する効果、法改正の趣旨及び内容について広く関係者等に周知徹底を図るための政府の具体的な取組、中小企業・小規模事業者に対する職務発明規程の整備及び営業秘密の流出防止に関する具体的な支援策等について質疑が行われましたが、その詳細は会議録によって御承知願います。
 質疑を終了し、討論に入りましたところ、日本共産党を代表して倉林明子理事より両法律案に反対する旨の意見が述べられました。
 次いで、順次採決の結果、両法律案はいずれも多数をもって原案どおり可決すべきものと決定いたしました。
 なお、両法律案に対してそれぞれ附帯決議を行いました。
 以上、御報告申し上げます。(拍手)
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#24
○議長(山崎正昭君) これより採決をいたします。
 まず、特許法等の一部を改正する法律案の採決をいたします。
 本案の賛否について、投票ボタンをお押し願います。
   〔投票開始〕
#25
○議長(山崎正昭君) 間もなく投票を終了いたします。──これにて投票を終了いたします。
   〔投票終了〕
#26
○議長(山崎正昭君) 投票の結果を報告いたします。
  投票総数          二百三十  
  賛成            二百十四  
  反対              十六  
 よって、本案は可決されました。(拍手)
    ─────────────
   〔投票者氏名は本号末尾に掲載〕
    ─────────────
#27
○議長(山崎正昭君) 次に、不正競争防止法の一部を改正する法律案の採決をいたします。
 本案の賛否について、投票ボタンをお押し願います。
   〔投票開始〕
#28
○議長(山崎正昭君) 間もなく投票を終了いたします。──これにて投票を終了いたします。
   〔投票終了〕
#29
○議長(山崎正昭君) 投票の結果を報告いたします。
  投票総数          二百三十  
  賛成            二百十三  
  反対              十七  
 よって、本案は可決されました。(拍手)
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   〔投票者氏名は本号末尾に掲載〕
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#30
○議長(山崎正昭君) 日程第三 特定船舶の入港の禁止に関する特別措置法第五条第一項の規定に基づき、特定船舶の入港禁止の実施につき承認を求めるの件(衆議院送付)を議題といたします。
 まず、委員長の報告を求めます。国土交通委員長広田一君。
    ─────────────
   〔審査報告書及び議案は本号末尾に掲載〕
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   〔広田一君登壇、拍手〕
#31
○広田一君 ただいま議題となりました承認案件につきまして、国土交通委員会における審査の経過と結果を御報告申し上げます。
 我が国の平和及び安全を維持するため、特定船舶の入港の禁止に関する特別措置法に基づきまして、平成十八年十月以降、北朝鮮船籍の全ての船舶の入港禁止措置が講じられてきました。
 本件は、去る三月三十一日の閣議決定により、平成二十九年四月十三日までの二年間、引き続き入港禁止措置が講じられたことについて、同法に基づき、国会の承認を求めるものであります。
 委員会におきましては、国土交通大臣より趣旨説明を聴取した後、採決の結果、本件は全会一致をもって承認すべきものと決定をしました。
 以上、御報告申し上げます。(拍手)
    ─────────────
#32
○議長(山崎正昭君) これより採決をいたします。
 本件の賛否について、投票ボタンをお押し願います。
   〔投票開始〕
#33
○議長(山崎正昭君) 間もなく投票を終了いたします。──これにて投票を終了いたします。
   〔投票終了〕
#34
○議長(山崎正昭君) 投票の結果を報告いたします。
  投票総数          二百三十  
  賛成            二百三十  
  反対               〇  
 よって、本件は全会一致をもって承認することに決しました。(拍手)
    ─────────────
   〔投票者氏名は本号末尾に掲載〕
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#35
○議長(山崎正昭君) 本日はこれにて散会いたします。
   午前十一時三十七分散会
ソース: 国立国会図書館
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