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2015/08/21 第189回国会 参議院 参議院会議録情報 第189回国会 本会議 第36号
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2015/08/21 第189回国会 参議院

参議院会議録情報 第189回国会 本会議 第36号

#1
第189回国会 本会議 第36号
平成二十七年八月二十一日(金曜日)
   午前十時一分開議
    ━━━━━━━━━━━━━
#2
○議事日程 第三十七号
  平成二十七年八月二十一日
   午前十時開議
 第一 中小企業における経営の承継の円滑化に
  関する法律等の一部を改正する法律案(内閣
  提出、衆議院送付)
    ━━━━━━━━━━━━━
○本日の会議に付した案件
 一、刑事訴訟法等の一部を改正する法律案(趣
  旨説明)
 以下 議事日程のとおり
     ─────・─────
#3
○議長(山崎正昭君) これより会議を開きます。
 この際、日程に追加して、
 刑事訴訟法等の一部を改正する法律案について、提出者の趣旨説明を求めたいと存じますが、御異議ございませんか。
   〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
#4
○議長(山崎正昭君) 御異議ないと認めます。法務大臣上川陽子君。
   〔国務大臣上川陽子君登壇、拍手〕
#5
○国務大臣(上川陽子君) 刑事訴訟法等の一部を改正する法律案につきまして、その趣旨を御説明いたします。
 刑事手続については、近時、捜査、公判が取調べ及び供述調書に過度に依存している状況にあるとの指摘がなされています。このような状況を改めて、刑事手続を時代に即したより機能的なものとし、国民からの信頼を確保するため、証拠収集手続の適正をより一層担保するとともに、取調べ以外の証拠収集方法を整備するほか、犯罪被害者を含む刑事手続に関与する国民の負担の軽減や被告人の防御活動への配慮等を通じ、公判審理をより充実したものとすることが喫緊の課題となっています。また、国民が安全で安心して暮らせる国であることを実感できる、世界一安全な国日本をつくるという観点からも、その基盤となる刑事手続の機能の強化が求められています。
 そこで、この法律案は、刑事手続における証拠の収集方法の適正化及び多様化並びに公判審理の充実化を図るため、刑事訴訟法、犯罪捜査のための通信傍受に関する法律、刑法その他の法律を改正し、所要の法整備を行おうとするものであります。
 この法律案の要点を申し上げます。
 第一は、取調べの録音・録画制度の創設であります。すなわち、裁判員制度対象事件及びいわゆる検察官独自捜査事件について、逮捕、勾留中に行われた被疑者取調べ又はいわゆる弁解録取手続の際に作成された供述調書等の任意性が公判において争われたときは、検察官は、原則として、その被疑者取調べ等を録音、録画した記録媒体の証拠調べを請求しなければならないこととした上で、検察官、検察事務官又は司法警察職員が、逮捕又は勾留されている被疑者の取調べ等を行うときは、一定の例外事由に該当する場合を除き、その全過程を録音、録画しておかなければならないこととするものであります。
 第二は、証拠収集等への協力及び訴追に関する合意制度の創設であります。すなわち、一定の財政経済犯罪及び薬物・銃器犯罪を対象として、検察官と被疑者、被告人とが、弁護人の同意がある場合に、被疑者、被告人が他人の刑事事件について証拠収集等への協力をし、かつ、検察官がそれを考慮して特定の求刑等をすることを内容とする合意をすることができることとするものであります。
 第三は、犯罪捜査のための通信傍受の対象事件の拡大及び暗号技術を用いる新たな傍受の実施方法の導入であります。すなわち、現行法上薬物・銃器犯罪等に限定されている対象犯罪に、殺人、略取誘拐、詐欺、窃盗等の罪を追加するとともに、暗号技術を活用することにより、傍受の実施の適正を確保しつつ、通信事業者等の立会い、封印を伴うことなく、捜査機関の施設において傍受を実施することができることとするなどの措置を講じるものであります。
 第四は、被疑者国選弁護制度の対象事件の拡大であります。すなわち、現行法上、同制度の対象となるのは、死刑又は無期若しくは長期三年を超える懲役、禁錮に当たる罪について勾留状が発せられている被疑者であるところ、これを拡大して、勾留状が発せられている全ての被疑者とするものであります。
 第五は、証拠開示制度の拡充であります。すなわち、公判前整理手続又は期日間整理手続において、検察官請求証拠の開示後、被告人又は弁護人から請求があったときは、検察官は、その保管する証拠の一覧表を被告人又は弁護人に交付しなければならないとする手続の導入等の措置を講じるものであります。
 第六は、証人等の氏名等の情報を保護するための制度の創設であります。すなわち、証人等の氏名等の開示について、証人等の身体又は財産に対する加害行為等のおそれがあるときは、防御に実質的な不利益を生ずるおそれがある場合を除き、検察官が、弁護人に当該氏名等を開示した上で、これを被告人に知らせてはならない旨の条件を付することができ、特に必要があるときは、弁護人にも開示せず、代替的な呼称等を知らせることができるとする制度等を創設するものであります。
 このほか、所要の規定の整備を行うこととしております。
 政府といたしましては、以上を内容とする法律案を提出した次第でありますが、衆議院において一部修正が行われております。
 第一に、証拠収集等への協力及び訴追に関する合意制度について、検察官が合意をするか否かを判断するに当たって考慮すべき事情として、合意に関係する犯罪の関連性の程度を明記するとともに、合意のための協議の際に弁護人が常時関与することとしております。
 第二に、犯罪捜査のための通信傍受に関する法律について、傍受記録に記録されている通信の当事者に対する通知事項として、傍受記録の聴取等及び傍受の原記録の聴取等の許可の請求並びに不服申立てをすることができる旨を追加するとともに、通信傍受についての国会報告事項を追加し、暗号技術を活用する方法により傍受の実施をしたときはその旨を国会に報告しなければならないこととしております。
 第三に、附則の検討条項を次のように改めることとしております。
 一、政府は、取調べの録音、録画等が、被疑者の供述の任意性その他の事項についての的確な立証を担保するものであるとともに、取調べの適正な実施に資することを踏まえ、この法律の施行後三年を経過した場合において、取調べの録音、録画等の実施状況を勘案し、取調べの録音、録画等に伴って捜査上の支障その他の弊害が生じる場合があること等に留意しつつ、取調べの録音、録画等に関する制度の在り方について検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に基づいて所要の措置を講ずるものとする。
 二、一のほか、政府は、この法律の施行後三年を経過した場合において、この法律による改正後の規定の施行の状況について検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に基づいて所要の措置を講ずるものとする。
 三、政府は、この法律の公布後、必要に応じ、速やかに、再審請求審における証拠の開示、起訴状等における被害者の氏名の秘匿に係る措置、証人等の刑事手続外における保護に係る措置等について検討を行うものとする。
 以上が、この法律案の趣旨でございます。(拍手)
    ─────────────
#6
○議長(山崎正昭君) ただいまの趣旨説明に対し、質疑の通告がございます。順次発言を許します。熊谷大君。
   〔熊谷大君登壇、拍手〕
#7
○熊谷大君 自由民主党の熊谷大です。
 私は、自由民主党を代表して、ただいま議題となりました刑事訴訟法等の一部を改正する法律案について、上川法務大臣に質問いたします。
 本法案は、時代に即した新たな刑事司法制度の構築を目指して、取調べの録音・録画制度の導入を始め合意制度の導入など、我が国の刑事司法の大きな転換点となる内容も含まれております。
 本日は、国民に対して丁寧な説明が求められる点、そして、今後更に検討すべき点を中心に質問させていただきます。
 本法案は、法制審議会新時代の刑事司法制度特別部会で三年以上にわたる議論が行われた後、与党審査等を経て法案化されたものであります。衆議院では、約六十八時間という長時間の審議が行われ、法案の修正も行われました。このように、大変な熟議を経て参議院に送られてきた法案ですので、まずは上川法務大臣に、これまでの衆議院における審議と法案の修正について御所見を伺います。
 さて、先ほどの趣旨説明でも、大臣から、取調べ及び供述調書への過度の依存を改めるというお話がありました。しかし、そもそも諸外国では、取調べの位置付けが我が国とは異なっています。アメリカ、イギリス、フランス、ドイツなどの例を見ても、取調べは大体一時間から二時間、多くても数時間。イタリアでは、被疑者が自白することはほとんどないので、取調べはほとんど行わないということです。いずれも、取調べ段階ではなく公判廷で事実を明らかにするという姿勢なのでしょう。こうした国々と比べれば、確かに我が国は取調べに依存しています。しかし、それを是正するには刑事司法制度の大転換が必要となります。
 そこで、取調べ及び供述調書への過度の依存の問題点とは何か、そしてこれはどのように改めていかれるのか、大臣に伺います。
 今回の改正の中で、これまでにない制度として目を引くのは合意制度です。
 振り込め詐欺などの特殊詐欺、組織的な薬物・銃器犯罪、会社ぐるみの不正行為など、組織の末端を検挙するだけでなく、組織犯罪の全貌を解明するために有効な手段だと考えます。こうした司法取引的な仕組みは、海外では広く行われていますが、我が国ではまだなじみがありません。したがって、国民への丁寧な説明が不可欠です。
 そこで、本制度の意義や目的について、一般の国民にも分かるように大臣から御説明を願います。
 また、アメリカなどでは、自分の犯罪も司法取引の材料になっていますが、本法案では他人の犯罪に限定しております。その理由についても併せて伺います。
 次に、合意制度と併せて導入される刑事免責制度について伺います。
 「何人も、自己に不利益な供述を強要されない。」という憲法三十八条一項の規定は、一見すると、刑事責任に限らず、あらゆる不利益を含むようにも読めます。しかし、今回の刑事免責制度は、証言を証人の刑事事件で不利益に用いないという免責を与える代わりに、証人にとって不利益な事項についても証言を義務付ける仕組みです。この制度で、刑事上の免責が得られたとしても、その証言を行ったことで、後に損害賠償など民事上の責任を問われたり、海外の捜査当局から刑事責任を問われたりする可能性は否定できません。
 そうしたリスクは、憲法三十八条一項の不利益に当たらないと考えてよいでしょうか、また、当たらないとしても、そうしたリスクに留意しながら制度の運用を行っていく必要があると考えますが、いかがでしょうか。大臣の御見解を伺います。
 今回の改正で、通信傍受の対象拡大や実施方法の合理化が図られたことは、ますます巧妙化する組織犯罪の解明のために大きな役割を果たすと考えます。
 これに加えて、電話などの通信ではなく、室内での会話を傍受する会話傍受も、捜査のためには大変有効な手段です。これは、法制審の特別部会では検討されましたが、今回の法案には盛り込まれませんでした。検討されたのは、振り込め詐欺、暴力団の対立抗争、薬物の密輸という三つの場合に限った会話傍受です。これらの場合には、室内での会話を傍受することで効果的な捜査が可能となる一方で、プライバシーを侵害するとの指摘もあります。
 私は、会話傍受も将来的に導入すべきだと考えますが、今回なぜ導入が見送られたのか、また、今後導入を検討する予定はあるのか、伺います。
 もう一つ、今回の法案に盛り込まれなかった重要事項に証人保護プログラムがあります。暴力団のような組織犯罪について重要な証言を行った証人は、組織から報復されるおそれがあります。そうした証人を保護するため、名前を変える、住所を隠す、生活を保障するといった制度です。
 海外では導入事例があり、法制審の特別部会でも検討されましたが、最終的には、民事、行政関係にわたる課題が多いこと、つまり刑事司法だけにとどまらない問題であるということで結論が出されなかったものです。しかし、制度の必要については一定の認識の共有がなされたとされています。
 衆議院での修正案にも盛り込まれましたが、民事や行政も含めた幅広い観点から検討を行い、早期に制度化を行うことが必要だと考えます。今後の方針について大臣に伺います。
 冒頭にも述べましたが、今回の法案は、関係者の英知を結集して取りまとめられた刑事司法制度改革の第一歩であります。国民の理解を得ながら着実に運用を重ね、今後も第二歩、第三歩と歩んでいかなければなりません。三年後の見直し規定もありますが、ただいま述べたような検討課題も含め、常により良い制度となるよう改善を続けていただくことをお願いいたしまして、私の質問を終わります。(拍手)
   〔国務大臣上川陽子君登壇、拍手〕
#8
○国務大臣(上川陽子君) 熊谷大議員にお答え申し上げます。
 まず、衆議院における本法律案についての審議と修正に関する所見についてお尋ねがありました。
 本法律案については、衆議院において長時間にわたる充実した審議をいただきました。その上で、審議において指摘された御懸念等を踏まえ修正がなされたものであり、それによって多くの方々の賛同を得て可決されるに至ったことは、大変意義のあることと受け止めております。
 次に、取調べ及び供述調書への過度の依存の問題点と、これをどのように改めるのかについてお尋ねがありました。
 取調べは、適正に行われる限り、真実の発見に寄与するものであり、刑事司法において取調べ及び供述調書は重要なものであります。しかし、現在の捜査、公判は、取調べ及び供述調書に過度に依存した状況にあり、このような状況は、取調べにおける手続の適正確保が不十分となったり、事実認定を誤らせるおそれがあると考えられます。そこで、本法律案は、このような状況を改めるため、証拠収集手段の適正化、多様化と公判審理の充実化を図り、より適正で機能的な刑事司法制度を構築しようとするものであります。
 次に、合意制度の意義、目的及び捜査・公判協力型の制度を導入する理由についてお尋ねがありました。
 合意制度は、一定の財政経済犯罪等を対象として、被疑者、被告人が他人の犯罪を明らかにするための協力をし、検察官がこれを考慮して被疑者、被告人の事件につき特定の求刑等をすることを内容とする合意ができるとする制度であります。
 この制度は、組織的な犯罪等について、手続の適正を担保しつつ、首謀者の関与状況等を含めた事案の解明に資する供述等を得ることを可能にするものであり、証拠収集に占める取調べの比重を低下させ、取調べ及び供述調書に過度に依存した状況の解消に資すると考えています。そして、我が国の刑事司法制度に協議、合意の要素を有する制度を初めて取り入れることなどに鑑みますと、まずは、証拠の収集方法として特に必要性が高い捜査・公判協力型の合意制度を導入するのが相当であると考えています。
 次に、憲法第三十八条第一項における不利益の意義及び民事上の不利益等を踏まえた刑事免責制度の運用についてお尋ねがありました。
 憲法第三十八条第一項が保障する自己負罪拒否特権の対象は、証人が刑事上の責任を問われるおそれのある事項であるとされており、民事上の不利益等に係る事項は含まれておりません。そのため、刑事免責制度により証言を義務付けられた際に、証言により御指摘のような民事上の不利益等を被るおそれがあったとしても、証言を拒むことはできません。もっとも、そのような不利益等が存するとの事情は、運用上、検察官が証人尋問や刑事免責の決定を請求するか否かを判断するに当たり、考慮され得るものと考えています。
 次に、会話傍受の制度化が本法律案に盛り込まれなかった理由及び今後の検討についてお尋ねがありました。
 会話傍受の制度化については、法制審議会においても議論が行われましたが、組織的な犯罪の捜査の際に、犯人間の謀議内容や犯意に関する証拠を収集する有用な捜査手段となり得るとの意見が示された一方で、通信傍受以上にプライバシーに対する制約が大きいものとなりかねないとの懸念を示す意見もあり、意見の集約に至らず、今後の課題とされたものであります。
 したがって、その制度化については、これらの御意見を踏まえつつ、必要に応じ、考えられる制度の在り方について検討していくのが適当であると考えています。
 最後に、証人保護プログラムの制度化についてお尋ねがありました。
 証人保護プログラムの制度化については、衆議院における修正により、必要に応じ、速やかに検討を行うこととされたところですが、御指摘のとおり、多岐にわたる諸課題に併せて対処することが必要です。制度の必要性については一定の認識が共有されているものと考えていますので、今後、関係する諸制度との調整等、制度の在り方について検討を行いたいと考えております。(拍手)
    ─────────────
#9
○議長(山崎正昭君) 小川敏夫君。
   〔小川敏夫君登壇、拍手〕
#10
○小川敏夫君 民主党・新緑風会の小川敏夫です。
 会派を代表して、刑事訴訟法等の一部改正案について質問いたします。
 本法律案は、通信傍受法、いわゆる盗聴法の拡大、司法取引の導入、取調べの一部可視化など、十分な議論を尽くすべき重要な項目が複数あります。例えば、平成十一年に当院で行った通信傍受法の審議の時間は四十四時間余りを費やしています。司法取引制度の導入や取調べの可視化についても、導入の是非や手続の在り方については多様な観点から十分な議論を尽くさなければならない事項であります。一方で、これらの項目は、併せて審議しなければならない相互の関連性は特段ありません。
 最近、政府提出の法案で、このように本来各個別に審議するべき法案が一括にまとめた形にして提出されることが目立つようになっています。その結果、一つ一つの課題に対する審議が十分に行われなかったり、法案に対する個別の対応ができなくなるなどの弊害が生じています。国会は政府御用達の便利屋ではありません。国会の存在意義を踏まえた対応がなされるべきであると思いますが、今回の刑訴法改正案について、各個別の法律案としないで一括法案とした理由について、法務大臣にお尋ねします。
 今回の刑事司法制度の検討は、平成二十二年秋に、いわゆる郵便不正事件の中で無罪となった厚生労働省元課長に係る捜査において、検事が証拠品を改ざんしたことが明るみに出たことなどを契機として、冤罪の発生を防止するための仕組みを構築することを目的として始められたものであります。
 ところが、今回の法案では、冤罪の防止のために必要な取調べの可視化は不十分な内容でしか採用されない一方で、司法取引を新たに採用し、通信傍受、いわゆる盗聴捜査を拡大するなど、捜査手法が拡大されています。これでは、冤罪防止の検討にかこつけて、ていよく捜査手法を拡大する検討にすり替えたように思えてなりません。しかも、他人の犯罪をしゃべれば自分の罪が免除あるいは軽減されるという司法取引制度の導入は、自分の罪を逃れたいためにうそをついて他人の犯罪をしゃべることを誘発し、新たな冤罪を生むおそれがあるのではないでしょうか。
 前述の郵便不正事件では、虚偽の証明書は実際に作成されていました。元課長の無実が明らかになりましたが、その裏には、無実の元課長が虚偽証明書の作成を指示したという虚偽の供述をして罪を元課長に押し付けて自己の罪責を免れた者がいたということになるのではないでしょうか。こうして、他人に罪を押し付ける供述がなされた結果として生まれた冤罪事件の反省から出発した検討の結果が、冤罪を生みかねない司法取引の導入というのは悪い冗談としか思えません。
 本法案の成立によって冤罪防止の目的が達成されるのか、法務大臣の所見を伺います。
 司法取引制度の導入ですが、本法案では、他人の犯罪を供述した場合に自分の罪が軽減される制度が導入されていますが、自己の犯罪を認めた場合の制度は設けられていません。この点について、立法の趣旨を法務大臣にお尋ねします。
 ところで、本法案は、修正がなされ、供述に係る他人の犯罪と供述者との関係性が認められる場合にのみ司法取引が適用され、供述者と他人の犯罪との関連性がない場合には適用されないと説明を受けましたが、法文上はその事情を考慮事情としただけで適用除外にはなっていません。
 そこで、法務大臣にお尋ねします。供述者と他人の犯罪との関連性がない場合には司法取引は適用されないのでしょうか。事情によっては適用されるのでしょうか。
 法案に関する説明では、司法取引は経済事犯等の犯罪に限定したと聞きました。その限定適用される犯罪の中に贈収賄が入っています。これまで多くの贈収賄事件で贈賄側の供述の信用性が争われ、贈賄者の供述の信用性が否定された裁判の例も多くあります。中には、県知事等の政治家を追い落とすための陰謀ではないかとの指摘がされた例もあります。司法取引によって贈賄側が免責されることになりますと、政治家や行政担当者を追い落とすための陰謀に利用されることにはならないでしょうか。議員の皆様にも重大な問題意識を持っていただきたいと思います。この点について、法務大臣の所感をお尋ねします。
 次に、通信傍受、いわゆる盗聴捜査についてお尋ねします。
 通信の秘密は、憲法二十一条二項に通信の秘密は侵してはならないと規定してあるように、基本的人権の主要なものの一つです。このため、犯罪捜査のために通信の秘密を侵してもよいのか、あるいは、制限できるとしても許容される範囲はどこまでかについて十分な議論を積み重ねる必要があります。仮に、捜査の必要性によって通信の秘密を制限できるとしても、捜査上その必要性が高いという条件だけではなく、他にこれに代わる適切な方法がない場合、そして必要最小限の範囲で行うという三条件を満たすことが必要だと考えますが、法務大臣のお考えをお示しください。
 平成十一年に強行採決で成立した通信傍受法の審議においては、濫用防止策が不十分なため通信の秘密が侵害されるのではないかという議論が主要な論点となっていました。今回の法改正に先立つ法制審議会の議論では、通信傍受の範囲の拡大に議論の中心があったように見受けられますが、濫用防止をより確かにするための議論はどのように行われたのでしょうか、法務大臣に説明を求めます。
 例えば、通信傍受が実施された場合、傍受された当事者は、傍受された事実を知らないまま強制捜査により通信の秘密を制限されたことになります。秘密裏に行われる傍受の性質上、事後的にならざるを得ないとしても、傍受を受けた当事者は、強制捜査によって自身の通信が傍受された事実を知らされるべき立場にあります。
 しかし、通信傍受法は、傍受を必要とした犯罪に関する通信だけを記録する傍受記録というものを定め、傍受記録の当事者のみに通知することとしています。そうすると、違法、濫用により傍受してはならない通信の傍受が行われた場合、傍受を受けた者は犯罪に係る通信をしていませんので傍受記録の当事者にはなりません。その結果、通知は不要となります。
 このように、違法、濫用に及ぶ通信傍受が行われた場合にこそ、特に傍受を受けた当事者に通知がなされる必要があるのでありますが、その場合には通知が不要という摩訶不思議な仕組みとなっています。要するに、適正に傍受した場合だけ通知し、不都合な場合は通知しなくてもよいというのが通信傍受法の規定です。
 今回の改正によっても、こうした欠陥は何一つ改められずに、単に適用範囲が拡大されるだけに終わっています。ただいま示した通知制度の欠陥を含め、濫用防止策の充実についてどのように検討してきたのか、そして今後どのように取り組む方針であるのか、法務大臣に説明を求めます。
 現行法では、濫用防止の観点から、傍受の際には通信事業者の立会いが義務付けられています。しかし、本改正案では、新たな傍受装置の導入により、捜査機関施設において通信事業者の立会いをなくして行うことができることと改められています。これでは、濫用防止の充実どころか、濫用防止の空洞化へ後退したと言わざるを得ません。
 この点について、捜査担当者とは別の警察官による部内監視を行うとの法案修正協議がまとまったとの話を聞きましたが、法案には何も盛り込まれていません。警察において、この監視の仕組みについて、具体的にどのように構築し、運用して濫用防止の充実を目指していくのか、国家公安委員長に説明を求めます。
 あわせて、これにとどまらず、警察において通信傍受の濫用防止全般についてこれまでどのように取り組んできたのか、そして、今後どのように取り組むのかについても説明を求めます。
 ところで、立会人を不要とした新たな傍受装置による傍受は、その仕組み自体が通信の秘密を侵害する構造にあります。
 現行法の傍受の仕組みは、犯罪に関わる会話だけ傍受し、それ以外の会話の場合は会話が犯罪に関係しないと判明した時点で直ちに傍受を中止するというものでした。しかし、改正案による新傍受装置は、傍受装置により全ての会話を自動的に収集録取した上で、その後、捜査官が会話を聞いて犯罪に関するものとそれ以外とを判別するという仕組みです。立会人は廃止されました。
 現行法では、犯罪に関係しない会話は傍受しないという構成によって通信の秘密は侵害しないとしてきたものですが、本改正案では、犯罪に関係しない会話も一旦収集してしまうのです。収集すること自体で通信の秘密を侵害しているのではないでしょうか。そして、犯罪に関係するか否かを聞いて判定する作業の場には立会人はいません。これでは、犯罪に関係しない会話が取り放題、聞き放題にされてしまいます。判定後、犯罪に関係しない会話の記録は廃棄あるいは封印するといっても、秘密というものは知られてしまうことで全てが終わっているもので、秘密を記録した記録媒体が廃棄等されるかどうかの問題ではありません。
 このように、犯罪に関係しない会話まで全てを記録してしまう仕組みと、判定作業に立会いがないために犯罪に関係しない会話が聞かれてしまうことを防止できない仕組みでは、通信の秘密を侵害し、これを保障した憲法に違反するのではないでしょうか。その上、不正に傍受された者は、前述のように傍受が行われた通知を受けませんので、そのような不正な傍受を受けたことを知り得ません。この点について、法務大臣の見解を求めます。
 取調べの可視化を導入することは評価しますが、しかし、その範囲は裁判員裁判対象事件及び検察官独自捜査事件だけとされ限定的であり、なおかつ例外も緩やかに認められています。十分な可視化とは言えませんが、今後可視化を更に進めて充実していく方針の下で、最初は小さく導入したということなのでしょうか。法務大臣の所感を伺います。
 今回、即決裁判手続の申立て後に、被告人側の対応状況により検察官は公訴を取り下げ、再捜査の上で再度起訴手続を取ることができる制度が導入されています。これにより、争われたらやり直せばいいという考えで、弁解の聴取や捜査をいいかげんにして即決裁判の申立てをするような事例を誘発することにはならないでしょうか。法務大臣の所感を求めます。
 皆様は、米国に、FBI長官の座に四十八年の長きにわたって居続けたフーバーという人物がいたことを御記憶のことと思います。盗聴など捜査権限を濫用して多くの政治家など要人の秘密を握り、盾突く者を黙らせたと言われています。
 我が国の法務・検察や警察は、諸外国との比較において信頼できる捜査機関と評価されています。我が国が諸外国と比較して良好な治安が保たれていることも評価しましょう。
 しかし、一方で、かつて警察による共産党幹部宅の組織的盗聴事件がありました。警察官が、虚偽の証拠を捏造の上、これを基に捜索令状等の発付を受けて強制捜査を行うなどの不正捜査事件が繰り返されています。検察においても、検事が証拠を改ざんした郵便不正事件の例があります。
 捜査の在り方を考えるに当たっては、警察や検察を信頼するかしないかという情緒的な発想でその仕組みを考えるのではなく、不正や不心得な意図を有する捜査官が現れたとしても、権限の濫用や逸脱、不正行使などができない仕組みを構築することが適正捜査の実現の基本であることを述べて、私の質問を終わります。
 なお、答弁が不十分な場合には再質問をさせていただきます。(拍手)
   〔国務大臣上川陽子君登壇、拍手〕
#11
○国務大臣(上川陽子君) 小川敏夫議員にお答え申し上げます。
 まず、本法律案に掲げる諸制度を一括法案とした理由についてお尋ねがありました。
 本法律案は、現在の捜査、公判が取調べ及び供述調書に過度に依存した状況にあるとの認識の下、このような状況を改めるため、証拠収集手段の適正化、多様化と公判審理の充実化を図るものであります。
 本法律案に盛り込まれている諸制度は、それぞれがこの目的のために必要なものであり、それら全てが一体として刑事司法制度に取り入れられることによってこそ、取調べ及び供述調書に過度に依存した状況が改められ、より適正で機能的な刑事司法制度を構築することができると考えています。そのため、本法律案に掲げる諸制度につきましては一括して御審議いただく必要があり、一本の法律案として提出させていただいたものであります。
 次に、本法律案によって冤罪防止の目的が達せられるのかとのお尋ねがありました。
 本法律案は、現在の捜査、公判が取調べ及び供述調書に過度に依存した状況を改め、適正な手続の下で十分に事案の真相が解明される刑事司法制度を構築するため、捜査段階で、取調べを含む捜査の適正を担保しつつ、取調べ以外の適正な捜査手法を整備するとともに、公判段階では、必要な証拠ができる限り直接的に顕出され、それについて当事者間で攻撃防御を十分に尽くすことができるようにしようとするものであって、誤判等の防止にかなうものであります。
 次に、捜査・公判協力型の合意制度を導入する趣旨についてお尋ねがありました。
 合意制度は、組織的な犯罪等について、手続の適正を担保しつつ、首謀者の関与状況等を含めた事案の解明に資する供述等を得ることを可能にするものであり、証拠収集に占める取調べの比重を低下させ、取調べ及び供述調書に過度に依存した状況の解消に資すると考えています。そして、我が国の刑事司法制度に協議、合意の要素を有する制度を初めて取り入れることなどに鑑みますと、まずは、証拠の収集方法として特に必要性が高い捜査・公判協力型の合意制度を導入するのが相当であると考えています。
 次に、被疑者、被告人の事件と解明の対象となる他人の事件との間に関連性がない場合に合意をすることができるのかとのお尋ねがありました。
 衆議院における修正により明記された「当該関係する犯罪の関連性の程度」は、検察官が合意をするか否かを判断するに当たっての考慮事情の一つとされており、両事件の間に関連性がない場合に合意をすることが制度上否定されるものではありません。もっとも、一般に、両事件の間に何らの関係もない場合には、被疑者、被告人が当該他人の事件について信用性が認められるような具体的で詳細な供述をすることができるとは考えられません。
 したがって、基本的には、被疑者、被告人から無関係の他人の事件に関する供述等を得るために合意をすることは想定されないものと考えます。衆議院における修正により、このことがより明確に示されることになったものと理解をしております。
 次に、贈収賄事件を合意制度の対象とすることについて懸念があるのではないかとのお尋ねがありました。
 合意制度については、いわゆる巻き込みの危険が生じないようにするため、協議、合意の過程に弁護人が常に関与する仕組みとすること、合意に基づく供述が他人の公判で用いられるときは、合意内容が記載された書面が当該他人にも裁判所にもオープンにされ、供述の信用性が厳しく吟味される仕組みとすること、合意をした者が捜査機関に対して虚偽の供述等をした場合について罰則を新設することといった制度的な手当てをしています。
 検察においては、これらの趣旨も十分に踏まえつつ、常に法と証拠に基づき、厳正公平、不偏不党を旨として合意制度を適正に運用していくものと考えており、何らかの政治的意図に基づいてこの制度を利用するなどということはないものと考えています。
 次に、通信傍受を行い得る要件についてお尋ねがありました。
 通信傍受法による通信傍受は、御指摘のとおり、単に捜査上の必要性が存するというだけでなく、別表に掲げる重大な犯罪についての高度の嫌疑があり、他の方法によっては事案を解明することが著しく困難であると認められるときに、傍受すべき通信が行われる蓋然性のある特定の通信手段に限り、裁判官の発する傍受令状により行うことが許されるものとされており、通信の秘密の制約は必要やむを得ない範囲に限定されています。また、傍受の実施の際に行われる該当性判断のための傍受も必要最小限度の範囲に限定されているところです。
 次に、法制審議会において、通信傍受法の改正との関係で、通信傍受の濫用防止に関しどのような議論があったのかとのお尋ねがありました。
 まず、通信傍受の対象犯罪の拡大との関係では、詐欺や窃盗など、通信傍受の活用が必要な犯罪をきめ細かく抽出する方法による検討が進められるとともに、新たに追加する対象犯罪については、組織的な犯罪に適切に対処するという通信傍受法の趣旨を全うするため、一定の組織性の要件を加えることとされたものと承知しています。
 また、立会いや封印の手続を合理化することとの関係では、暗号等の技術的措置を活用することにより、従来の方法と同様に、傍受の手続の適正を担保しつつ傍受を実施する新たな仕組みを採用することとされたものと承知しております。
 次に、通信傍受が適正に行われることを確保するための方策に関する検討状況等についてお尋ねがありました。
 通信傍受法においては、極めて厳格な傍受令状の発付要件を定め、捜査官が傍受をした通信は全て記録媒体に記録されて裁判官が保管し、傍受をされた通信の当事者等には裁判官が保管する記録の聴取や不服申立て等が認められるなど、適正確保のための様々な制度的措置がとられています。捜査機関においては、今後とも、当然、このような法で定める厳格な要件と手続を厳守した運用が行われるものと考えています。
 なお、該当性判断のための傍受をしたものの、傍受すべき通信等に該当しなかった通信の当事者については、通信の一部を断片的に傍受するにとどまり、その記録は捜査機関の手元にも残されないこと、通知を行うだけのために犯罪と関係のない通信の当事者を特定する捜査を行うことは、かえってそのプライバシーを侵害するおそれがあることなどから、そうした者に対してまで通知を行う制度とするのは適当ではないと考えています。
 次に、特定電子計算機を用いる通信傍受の手続は憲法第二十一条第二項に違反するものではないかとのお尋ねがありました。
 この手続において、捜査機関がその内容を知り得る通信の範囲は現行通信傍受法による傍受の場合と変わらず、通信の秘密に対する制約の程度に実質的な差異は生じません。また、捜査官が傍受又は再生をした通信は、全て自動的に暗号化をされて改変不可能な形で記録媒体に記録され、捜査官が傍受等をした通信の範囲はこの記録媒体を通じて全て客観的に検証可能となり、立会人がいる場合と同様に傍受の手続の適正が担保されることとなります。したがって、この手続は、現行法と同様に憲法第二十一条第二項に反するものではないと考えています。
 次に、取調べの録音・録画制度に関する今後の方針についてお尋ねがありました。
 本法律案における取調べの録音・録画制度の対象事件は、制度の対象とならない事件についても、検察等の運用による取調べの録音、録画が行われることをも併せ考慮した上で、録音、録画の必要性が最も高いと考えられる類型の事件としたものです。制度と運用とを併せて見ると、取調べの録音、録画の範囲は必ずしも狭いものではないと考えています。
 他方で、本法律案の附則においては、本制度について、施行後三年が経過した後に必要な見直しを行う旨の検討条項を設けております。見直しの方向性については定められていませんが、運用によるものを含め、取調べの録音、録画の実施状況等を勘案しつつ、制度の趣旨を十分に踏まえて検討を行うことが重要であり、これまでの経緯等を踏まえると、取調べの録音、録画についての取組が後退するようなことはないものと考えています。
 最後に、公訴取消し後の再起訴制限の緩和がいいかげんな捜査等を誘発しないかとのお尋ねがありました。
 本法律案による再起訴制限の緩和は、即決裁判手続を利用する簡易な自白事件について、公判段階で否認される可能性に備えての、言わば念のための捜査を遂げなくとも、早期に起訴する動機付けを与え、捜査、公判の合理化、迅速化を図ろうとするものです。しかし、もとより即決裁判手続であっても、有罪の認定に当たっては合理的な疑いを差し挟む余地のない程度の証明が必要です。また、被告人の自白以外に、いわゆる補強証拠が必要であることにも変わりはありません。したがって、御指摘のような懸念は生じないものと考えています。(拍手)
   〔国務大臣山谷えり子君登壇、拍手〕
#12
○国務大臣(山谷えり子君) 小川敏夫議員にお答えいたします。
 警察施設で通信傍受を行う場合の部内指導の在り方についてお尋ねがございました。
 警察施設で通信傍受を行う場合であっても、全ての傍受結果を機械的かつ確実に暗号化処理をして記録するなどの特定電子計算機の有する機能により、現行法で立会人が果たす役割は漏れなく代替されることから、傍受の適正性は確実に担保されるものと考えております。もっとも、新たな方式による通信傍受では、技術的に高度な機器を使用することなどから、その適正かつ効果的な実施を担保するため、専門的知見を有する職員が必要な指導を行う体制を整えることを検討をしております。
 体制や指導方法を含むその具体的な運用の在り方については今後検討することとなりますが、例えば、警察本部の適正捜査の指導を担当する警察官等で通信傍受を実施する事件の捜査に従事していない者に、必要に応じ、傍受の実施の現場等において法令、手続や技術面の指導を行わせることなどを想定をしております。
 次に、警察における通信傍受の適正実施のための取組についてお尋ねがございました。
 通信傍受法には極めて厳格な要件、手続が定められており、裁判官の発付する令状に基づかなければ傍受を実施することはできず、恣意的な運用が行われないよう制度上の手当てがなされております。
 警察としても、平素から適正実施のための捜査員の教養を行うとともに、傍受の実施に当たり、令状請求は警察本部長の判断を必要とするなど組織的かつ厳格な運用に努めてきたところであり、法施行以来、裁判で違法な傍受が行われたと判断された事例も把握されておらず、これは警察が通信傍受を一件一件慎重かつ適正に実施してきた結果と考えております。
 新たな制度の下でも、法の趣旨を踏まえ、引き続き慎重かつ適正な運用がなされるようしっかりと警察を指導してまいります。(拍手)
#13
○議長(山崎正昭君) 小川君から再質疑の申出があります。これを許します。小川敏夫君。
   〔小川敏夫君登壇、拍手〕
#14
○小川敏夫君 ただいま答弁いただきましたけれども、この通信傍受実施後の対象者に対する通知が対象者全員になされるわけではない現行法の仕組みということについて質問いたしました。
 これは、趣旨は、先ほどもお話ししましたように、本来、傍受をしたわけですから、強制捜査で、ですから、傍受をした対象者に、傍受が終わった後全員に通知すべきだというのが基本の考えでありますが、今の通信傍受法の立て付けは、傍受をした対象者全員に通知をするのではなくて、傍受をした中で犯罪に関する会話があった場合には、傍受記録なるものを作成して、犯罪に関係する会話をした者についてだけ通知しなさいという仕組みになっております。
 ですから、ここが大事なところなんですが、犯罪に関係しないで濫用して聞いてしまった場合、あるいは、最悪の場合には、不正な意図で、犯罪にかこつけて不正に傍受をしてしまった場合には、そもそも犯罪に関係する会話がないんですから、犯罪に関係する当事者じゃないから通知をしなくていいという仕組みになっているんです。だから、警察が適正に会話をした者については通知をするよと、だけど、警察が濫用や違法に不正に傍受した場合には通知しなくてもいいという仕組みになっている、これをお尋ねしたわけですが、法務大臣の御答弁は、何か、傍受をした者に、全員に通知するかのような答弁でありました。もしそういう趣旨でありますと、これは法の規定の趣旨と違いますので、その点の確認を求めます。
 そして、そもそも法務大臣の答弁の趣旨は、一部しか、つまり犯罪に関わらない通信と分かった段階でやめるからというふうにお話ししていました。それは、適正に傍受が行われた場合のことであります。濫用の防止というのは、濫用がされた場合には濫用が発覚するという仕組みがなくちゃいけないわけであります。すると、聞かないからもういいんですというんではなくて、聞いてしまった場合にはどうなんですか。そのときこそ、聞かれてしまった傍受の対象者に通知が必要なんじゃないですか。しかし、現在の通信傍受はそうはなっていません。ですからお尋ねしたわけであります。この点について明確に御答弁をいただきたいと思います。(拍手)
   〔国務大臣上川陽子君登壇、拍手〕
#15
○国務大臣(上川陽子君) ただいま小川議員から再度の御質問がありました点でございます。
 該当性判断のための傍受をしたものの、傍受すべき通信等に該当しなかった通信の当事者に対しての通知の在り方ということの御質問であったというふうに思っております。
 この、対するその通知につきましては、検討をした上で、先ほど答弁申し上げましたとおり、通信の一部を断片的に傍受するにとどまり、その記録は捜査機関の手元にも残されないこと、また、通知を行うだけのために犯罪と関係のない通信の当事者を特定する捜査を行うことはかえってそのプライバシーを侵害するおそれがあること、こうした理由におきまして、そうした者に対してまで通知を行う制度とするのは適当ではないと考えたものでございます。
 第二点目でございますが、通信傍受の濫用防止の措置ということでございますけれども、通信傍受法におきましては、極めて厳格な傍受令状の発付要件を定め、また、捜査官が傍受をした通信は全て記録媒体に記録されて裁判官が保管をし、傍受をされた通信の当事者等には裁判官が保管する記録の聴取や不服申立て等が認められるなど、適正確保のための様々な制度的措置がとられているところでございます。その意味で、いずれにせよ、適正な対応をしていくということでございます。(拍手)
#16
○議長(山崎正昭君) 理事が協議中でございますので、しばらくお待ちください。
 小川君から再質疑の申出があります。これを許します。小川敏夫君。
   〔小川敏夫君登壇、拍手〕
#17
○小川敏夫君 ただいま再答弁いただきましたけれども、私の質問の趣旨を理解していただけていないのではないかと。
 すなわち、法務大臣の御答弁は、聞かないから大丈夫ですと、こういうようなお話でした。それは法の立て付けでしょうけれども、しかし、濫用とかあるいは不正に傍受された場合の防止というのは、濫用された場合、不正に傍受された場合にしっかりとした手だてを講じてくださいということですので、そういう濫用や不正がないから大丈夫ですというのでは私の質問に答えておりません。
 ですから、そういう濫用や不正がなされた場合にどうなのですかという観点で質問していますので、是非そういう観点から直接答弁をいただきたいと思います。よろしくお願いいたします。(拍手)
   〔国務大臣上川陽子君登壇〕
#18
○国務大臣(上川陽子君) ただいま再々質問をいただきました件でございますけれども、該当性判断のための傍受をしたものの、傍受すべき通信等に該当しなかった通信の当事者に対しての扱いということでございました。
 今後とも、当然、このような法律で定める厳格な要件と、そして手続を厳守した運用が行われるということでございます。
 通信の一部を断片的に傍受するにとどまり、その記録は捜査機関の手元にも残されないこと、また、通知を行うだけのために犯罪と関係のない通信の当事者を特定する捜査を行うことはかえってそのプライバシーを侵害するおそれがあるということなどから、そうした者に対してまで通知を行う制度とするのは適当ではないと、こうした判断の上で考えているところでございます。
 あくまで濫用と、そして適正の配慮ということについて、この法律の中でも明示しているところでございます。(拍手)
    ─────────────
#19
○議長(山崎正昭君) 矢倉克夫君。
   〔矢倉克夫君登壇、拍手〕
#20
○矢倉克夫君 公明党の矢倉克夫です。
 会派を代表し、ただいま議題となりました刑事訴訟法等の一部を改正する法律案につき、上川法務大臣並びに山谷国家公安委員長に質問いたします。
 十人の真犯人を逃すとも一人の無辜を罰するなかれとは刑事裁判における原則ですが、人権保障と真実発見の双方を目的とする刑事訴訟法の制度設計に当たり、私たち立法府に課された使命とは、無実の罪を根絶しつつ真実を明らかにし秩序を保つことであり、まさに十人の真犯人を逃すことなく一人の無辜を決して罰しない、この点にあると考えております。
 本改正案はこの難しい課題に向けた一歩である、このように評価をいたします。その上で、大事なことは、いかに適切な運用を図るかです。
 以下、お尋ねいたします。
 今回の法改正案に至る出発点は、従来の捜査が過度に取調べに依存し、裁判においても供述調書、すなわち犯罪捜査の取調べ過程における被疑者等の供述を記録した文書が結果的に重視される傾向にあった点を正すことにあると理解いたします。
 密室での取調べを経て作られた供述調書は、違法な取調べが行われた場合はもちろん、いかに適正な取調べを経た場合であっても、その内容が真実か否かは慎重な対応を要します。裁判における供述調書への過度な依存を改めることは、真実は公開の公判廷で明らかにすべきものであるとの原則につながり、被疑者、被告人の裁判を受ける権利の確保にもつながります。
 法務大臣より、取調べに依存した従来の刑事司法の在り方を変える今回の改正の狙いについて御答弁いただきたいと思います。
 今回の改正案の最大のテーマは、捜査の可視化、見える化であると理解いたしております。
 録音、録画による取調べの可視化がもたらす効果は主に二つ。まず、見られているという緊張感が捜査の適正化につながる点、そしてもう一つは、供述調書の任意性の立証が容易となる点、つまり、可視化された状態で取得された供述調書であれば被疑者、被告人を威圧し供述させたものではないだろうとの推測が働くため、供述調書の内容である供述は任意になされたものであることの立証が容易となる点であります。
 しかし、仮に可視化によりこの任意性の立証が容易となったことをよしとして供述調書がより偏重されるようなこととなれば本末転倒です。可視化の趣旨は、どこまでも捜査の適正化であり、供述調書の任意性を補完する手段ではないとの原則に立ち条文解釈や運用をなすべきであると考えますが、法務大臣の御見解をいただきたいと思います。
 改正案は、可視化されるべき対象事件を裁判員対象事件と検察独自捜査事件といたします。ただ、法制審による平成二十六年九月十八日付け答申では、その附帯事項において、法制化の対象とならない事件についても、実務上の運用において、可能な限り、幅広い範囲で録音、録画がなされることを強く期待する旨の記載がなされており、事実、検察、警察双方において、運用上、裁判員対象事件と検察独自捜査事件を超える範囲の事件について取調べの録音、録画をする努力がなされております。
 今回の法改正案提出を契機として、更なる可視化の拡大について、法務大臣の御見解をいただきたいと思います。
 供述調書偏重は是正すべきものである一方、被疑者、被告人の供述から共犯者や首謀者の存在その他が明らかとなる事実は否定し得ません。従来、取調べが時に過酷なものとなった要因として、共犯者や首謀者等の存在に関する供述を得る手段が取調べによる説得しかなかったという事情もございます。
 改正案が導入を目指す合意制度は、いわゆる司法取引類似の制度として、捜査全体における取調べの比重を減らす意味で評価できます。他方、既に衆議院でも議論されているとおり、合意制度は、自らの刑事責任を逃れるため他人を巻き込む、いわゆる引っ張り込みの危険がございます。
 そこで、二点お尋ねいたします。
 法制審や衆議院での議論にもありましたとおり、合意制度における合意に基づく証言の信用性は低いものであり、法曹三者のうち、とりわけ検察は、この供述を立証に用いるに当たり十分な裏付け証拠を確保する必要があります。検察が、既に収集されている証拠に沿う形で合意に基づく供述をつくり上げ、その上で既に収集されていた当該証拠を裏付け証拠と提出することのないよう、裏付け証拠の信用性に関しても厳格な運用を求めるべきと考えますが、この点に関して法務大臣の御所見を伺います。
 巻き込みの危険を回避するためには、合意が適正になされたか、被疑者、被告人が無関係の第三者を巻き込んでいないか、検察側から不当な誘導等はなかったのか等、合意の形成過程を巻き込まれた可能性のある他人の刑事事件の公判において検証する必要があります。そのために、合意の経緯を示す記録を保管することは重要であり、保管期間を含め適切にルール化する必要がございます。この点に関し、法務大臣の御所見を伺います。
 次に、通信傍受について、今回、いわゆる振り込め詐欺などによる深刻で組織的な財産犯罪や、暴力団やテロ組織による人の生命、身体への重大な危険を及ぼすであろう組織犯罪、あるいは通信技術の発達とともに被害が深刻かつ回復し難いほど拡大しつつある児童ポルノを念頭に通信傍受の対象事件を拡大したことは、犯罪の重大性や傍受の必要性を勘案し、妥当と考えます。
 他方、濫用によるプライバシーへの過度な侵害を避けるべきことは当然であり、特に、従来認められていた立会人による立会いを、事業者の負担や傍受への事実上の障害を勘案し、なくした点がいかなる影響を及ぼすか、慎重に議論されるべきものであります。従来の立会人の果たした役割を今回の改正案は制度的にいかに代替、担保しているか、法務大臣より御答弁いただきたいと思います。
 また、立会人がその場に存在したことが捜査側に心理的プレッシャーを与え、濫用を抑止していたという御意見もあります。立会いがいない状況で、果たして通信傍受が適切になされたかを事後的に検証することを含め、濫用を防止する仕組みが重要となりますが、その運用を含む在り方について、制度を主に運用する警察のお立場から、山谷国家公安委員長より御答弁をいただければと思います。
 法案が、被害者を始めとする証人の負担軽減や安全確保のため、ビデオリンク方式による証人尋問の拡充や証人に関する情報の保護を規定した点を評価いたします。他方、とりわけ犯罪被害者保護については、このような裁判制度における負担軽減という側面のみでなく、精神的また経済的支援が重要であることは言うまでもありません。
 犯罪被害者保護は全省的に取り組むべき問題でありますが、内閣の一員として法務大臣は、この犯罪被害者保護に向け、今後どのように取り組まれるのか、決意をお尋ねしたいと思います。
 冒頭申し上げましたとおり、我々立法府に課された使命は、無実の罪を根絶しつつ真実を明らかにし秩序を保つことであります。その意味で、今回の法改正は重要な一歩でありますが、まだ出発点です。委員会における充実した審議を通じ、適切な運用を担保することにより、人権保障と真実発見を共に満たす刑事司法実現に寄与することをお誓い申し上げまして、私の質問といたします。
 ありがとうございました。(拍手)
   〔国務大臣上川陽子君登壇、拍手〕
#21
○国務大臣(上川陽子君) 矢倉克夫議員にお答え申し上げます。
 まず、従来の刑事司法の在り方を変える本法律案の狙いについてお尋ねがありました。
 現在の捜査、公判は、取調べ及び供述調書に過度に依存した状況にあり、このような状況は、取調べにおける手続の適正確保が不十分となったり、事実認定を誤らせるおそれがあると考えられます。本法律案は、このような状況を改め、より適正で機能的な刑事司法制度を構築するため、証拠収集手続の適正化、多様化と公判審理の充実化を図ろうとするものです。
 次に、取調べの録音・録画制度の趣旨及び運用についてお尋ねがありました。
 取調べの録音、録画には、被疑者の供述の任意性等についての的確な立証に資する、取調べの適正な実施に資するという有用性があり、これらはいずれも重要なものであると考えています。本制度は、これらの録音、録画の有用性を我が国の刑事司法制度に取り込むことによって、より適正、円滑かつ迅速な刑事裁判の実現に資することを趣旨とするものであり、真犯人の適正、迅速な処罰とともに、誤判の防止にも資するものと考えています。
 本制度の運用に当たっては、以上のような趣旨を踏まえて、条文の規定に従って適正に録音、録画を行うべきものと考えています。
 次に、取調べの録音、録画の今後の拡大についてお尋ねがありました。
 検察においては、平成二十六年十月から、運用による取調べの録音、録画を拡大し、事案の内容や証拠関係等に照らし、被疑者の取調べを録音、録画することが必要と考えられる事件については、罪名を限定せず、録音、録画の試行の対象としています。今後とも、本法律案の録音・録画制度の対象とならない事件も含めて、積極的に録音、録画に取り組んでいくこととしているものと承知しております。
 そして、本法律案の附則においては、本制度について、施行後三年が経過した後に必要な見直しを行う旨の検討条項を設けています。見直しの方向性については定められていませんが、運用によるものを含め、取調べの録音、録画の実施状況等を勘案しつつ、制度の趣旨を十分に踏まえて検討を行うことが重要であり、これまでの経緯等を踏まえると、取調べの録音、録画についての取組が後退するようなことはないものと考えています。
 次に、合意制度の下での合意に基づく供述の裏付け証拠の収集の在り方についてお尋ねがありました。
 合意に基づく供述については、裁判所に警戒心を持って評価されることから、裏付け証拠が十分にあるなど積極的に信用性を認めるべき事情がない限り、信用性は肯定されないと考えられます。そして、既にある証拠に合わせて供述を求めることは可能であることから、合意に基づく供述が既に収集されている証拠と整合するというだけでは足りず、合意に基づく供述を得た上で更に捜査をしたところ、捜査官の知り得なかった事実が確認され、あるいは供述中の重要部分について裏付け証拠が新たに得られたなどの事情がなければ、積極的に信用性を認めるべき事情があるとは言えないと考えられます。
 検察においては、これらを踏まえ、合意に基づく供述について十分な裏付け捜査を行うこととなるものと考えています。
 次に、合意の経緯を示す記録の保管の在り方についてお尋ねがありました。
 一般に、捜査において重要な事項については適切に記録がなされるのが当然であって、現になされているものと承知しております。合意制度における協議についても、自由な意見交換などの協議の機能を阻害しないとの観点をも踏まえつつ、その過程で重要なポイントとなる事項については当然に記録がなされ、これが適切に保管されることとなると考えています。この点については、御指摘をも踏まえて、検察内部の指示文書等により周知徹底がなされるようにしたいと考えています。
 次に、特定電子計算機を用いる通信傍受の手続において、現行法で立会人が果たしている機能がどのように確保されるのかについてお尋ねがありました。
 この手続では、立会人の役割のうち、傍受のための機器に接続する通信手段が傍受令状により許可されたものに間違いないか、許可された期間が守られているかをチェックする点は、通信事業者が、傍受令状により許可された通信手段を用いた通信を、許可された期間に即して特定電子計算機へ伝送することにより担保されることとなります。
 また、傍受が適正に行われたかどうかを事後的に検証できるようにするため、傍受をした通信等について全て録音等の記録がなされているかや、該当性判断のための傍受が適正な方法で行われているかをチェックし、裁判官に提出する記録媒体の封印を行う点は、特定電子計算機が、傍受をした通信を自動的に、かつ改変ができないように暗号化して記録することによって担保されます。
 このように、立会人がなくても通信傍受の適正を担保できる手当てがなされています。
 最後に、犯罪被害者保護に向けての取組についてお尋ねがありました。
 犯罪の被害に遭われた方々やその御家族、御遺族の方々の声に真摯に耳を傾け、その保護、支援に取り組むことは極めて重要であると考えています。犯罪被害者等基本法の理念にのっとり、犯罪被害者やその御家族、御遺族の方々に寄り添い、その権利利益の保護を図るための各種制度を適切に運用し、きめ細やかな対応に努めてまいります。(拍手)
   〔国務大臣山谷えり子君登壇、拍手〕
#22
○国務大臣(山谷えり子君) 矢倉克夫議員にお答えいたします。
 警察における通信傍受の適正実施のための取組についてお尋ねがございました。
 法務大臣から答弁があったとおり、新たな方式による通信傍受においては、特定電子計算機の有する機能により、現行法で立会人が果たす役割は漏れなく代替され、傍受の適正性は確実に担保されるものと考えております。もっとも、新たな方式による通信傍受では、技術的に高度な機器を使用することなどから、その適正かつ効果的な実施を担保するため、例えば、警察本部の適正捜査の指導を担当する警察官等が、必要に応じ、傍受の実施の現場等において法令、手続や技術面の指導を行うなどの所要の体制を整えることを検討しております。
 加えて、警察においては、平素から通信傍受の適正実施のための捜査員の教養を行うとともに、傍受の実施に当たり、令状請求は警察本部長の判断を必要とするなど組織的かつ厳格な運用に努めてきたところであり、新たな制度の下でも引き続きこのような取組がしっかりとなされるよう警察を指導してまいります。(拍手)
    ─────────────
#23
○議長(山崎正昭君) 真山勇一君。
   〔真山勇一君登壇、拍手〕
#24
○真山勇一君 維新の党、真山勇一です。
 ただいま議題となりました刑事訴訟法の改正案について、会派を代表して質問いたします。
 少し前まで戦後最強と言われていた安倍政権の支持率がこのところ低下しています。なぜこんなことになってしまったのでしょうか。私は、国民の皆さんの心に広がる疑心暗鬼が最大の原因ではないかと思っています。安倍政権に今、ノーを突き付け始めた国民の多くが、安倍政権は何をやるか分からないと警戒し始めているように私には思えるのです。
 無論、安保法制の論議は重要です。確かに、外敵から攻撃されることはとても恐ろしいことです。私たち維新の党は、自国をしっかり防衛できるよう法整備の充実を訴えてきました。
 しかし、人類の歴史を振り返ってみると、外敵の侵入と同じか、あるいはそれ以上に恐ろしいのは、自国の政府が暴走し、国民の基本的人権を踏みにじったり、制限することではないでしょうか。ソ連もナチス・ドイツも中国共産党も、自国の人々に過酷な弾圧を加え、大きな災いをもたらしました。戦争の世紀となった二十世紀、戦争で他国から殺された人は数千万にもなりますが、その一方、自国の政府によって殺された人もまたそれに匹敵する数に上っているのが事実です。
 だからこそ、イギリス、フランス、アメリカといった民主主義の先進国は一様に、権力者に暴走を許した過去の歴史を教訓として、政府に厳重な縛りを掛けています。我が国もまた、戦前、戦中の一時期、国民の基本的人権がないがしろにされた重苦しい時代を経験したからこそ、日本国憲法によって厳重な上にも厳重に政府の行為に縛りを掛けているのです。
 たとえ政治家や官僚の一人一人がいい人であったとしても、権力というのは、自己保身、組織の論理、その場の空気といったものでどう暴走するか分かりません。つい最近だけでも、薬害エイズ、福島原発事故、年金記録、新国立競技場など、政府が迷走と暴走を繰り返し、国民の基本的人権が制限されたり、国民の財産が不当に侵害されたりしても、当局は責任を取ろうとしなかったではありませんか。だからこそ、権力を行使する側にフリーハンドを与えてはならないと多くの国民が考えているのです。そして、それが、私たち立法府の構成員、わけても良識の府と言われている参議院議員が最も肝に銘じておかなければならない点ではないでしょうか。
 時の政権の都合で憲法解釈をどうにでも変えるようになったら、それは薄暗い世の中と言わざるを得ません。権力者が法的安定性は関係ないと言ったり、戦争に行きたくないというのは利己的と決め付けたりすれば、いつ基本的人権の定義まで解釈変更されるか分かりません。こうしたことを目の当たりにすれば、国民の不安は高まり、国民の心に疑心暗鬼が広がるのも当然ではないでしょうか。ただいま議題に上がった刑事訴訟法改正案の審議においても、注意すべきはそこではないかと私は思います。
 私たち維新の党は、衆議院において修正の上、本法案に賛成しましたが、参議院においても法律の中身、そして運用を厳密にチェックすべきと考えますので、以下、政府にお尋ねをいたします。
 まず、上川大臣、立憲体制を堅持すると改めてお約束ください。憲法は、言うまでもなく、権力者にフリーハンドを与えないように国民が政府に課した制約です。時の権力者に都合のいい形で基本的人権の解釈などを変更していいものではないということを、上川法務大臣、改めて御確認ください。そして、その上で、捜査、起訴、公判は全て法と証拠に基づいて行われ、不偏不党で一切の政治性や恣意性を排除するとお約束ください。国策捜査、政治裁判を許さないという立場に今も変わりはないか、お答えください。
 そもそも、今回の改正は、取調べを全て録音、録画する、いわゆる可視化を全面的に取り入れることによって冤罪を防止し、国民の基本的人権を守ることが目的でした。しかし、本改正案には、通信傍受や司法取引の導入など、捜査当局の力を増大させる内容が随分と盛り込まれており、かなり逆行する印象を受けます。
 せっかくの取調べ可視化も、本法案では取調べ全体のうちの僅か三%で認められるにすぎません。可視化の対象は、将来的には必ず拡大されると改めてお約束ください。
 また、当然ながら、取調べの最中に捜査当局に都合よく機械が故障することなどあってはなりません。私は、録音・録画機器が故障した場合は調書自体が無効になるくらい厳密にやるべきだと思いますが、大臣の見解はいかがでしょうか、お聞かせください。
 司法取引も、捜査当局に有利な制度です。司法取引の協議の過程で生じた重要な事項について記録、保管されることが附帯決議で盛り込まれましたが、これは法文に直接書き込むべきではないでしょうか。また、司法取引の事実関係は、義務として裁判官に示されるべきではないでしょうか。さらに、衆議院での修正によって、司法取引捜査の対象は同一事案の共犯関係に限定されたと理解してよろしいのでしょうか。違うのであれば、どこまでが捜査範囲なのか、お答えをください。
 通信傍受も、同じように捜査当局に大変有利です。やはり、警察署以外の場所、そして第三者の立会いの下で行うのが公正なやり方のはずです。できない理由は何なのでしょうか。基本的人権を守るためであれば、必要な人件費を通信事業者などに支払ったり、弁護士会など法曹関係者の協力をお願いしたりしてでも、客観性、検証可能性を担保すべきと考えます。まさか、人権よりお金の方が大事などと考えてはいらっしゃらないでしょうが、いかがでしょうか。
 通信を傍受する際、どうしても第三者の立会いが不可能というのであれば、捜査当局内ではどのように客観性を担保するのでしょうか。私は、基本的に身内のチェックは当てにならないと思っていますが、それでもせめて、警察の監察官など監察部門を充実して、通信傍受の全過程を検証する体制を整備するつもりはないでしょうか。これは山谷国家公安委員長にお伺いします。
 そして、どうしても第三者がチェックできないのであれば、通信傍受によって得られた証拠が捏造、改ざん、編集されていないことを裁判官や弁護人はどう確認できるのでしょうか。上川法務大臣、その確認ができる技術的な方式について御説明ください。
 また、証拠リストが開示されるのは裁判の公正性を確保する上で一定の前進であるとは考えますが、リストを作った段階で捜査当局に都合の悪い証拠が破棄されている懸念はないのでしょうか。
 さらに、もう一つ政府に伺いたいことがあります。証拠の中に特定秘密が係ったものがあれば、それはどのように取り扱われるのかということです。テロ組織や外国勢力、反国家組織が絡む事件も本改正案の対象になります。政権にとって都合の悪い人物に嫌疑が掛けられ、捜査も裁判も特定秘密というベールで覆ってしまえば、簡単に冤罪がつくり出されてしまうということを、特定秘密保護法の審議のときから私たちは問題提起し、懸念を表明してきました。そのため、捜査、裁判の信頼性を担保するべく、刑事訴訟手続全般における特定秘密の取扱いについて政府には検討をお約束いただいていたはずです。現在の状況を御説明ください。
 法律、特に憲法をめぐってよく引用される言葉に、ドイツの哲学者ニーチェの次のようなものがあります。怪物と戦う者は、自らも怪物とならぬように心せよ。政府にかみしめていただきたい言葉だと思います。
 犯罪は当然ながら憎むべき怪物です。その怪物を退治するために国民は政府に強大な力を与えています。しかし、その政府自身が強大な力を持った怪物になってしまっては困るのです。強大な力が決して時の政権の都合などによって無実の国民に向けられるようなことがあってはならないということを確認させていただいて、私の質問を終わります。
 ありがとうございました。(拍手)
   〔国務大臣上川陽子君登壇、拍手〕
#25
○国務大臣(上川陽子君) 真山勇一議員にお答え申し上げます。
 まず、基本的人権に関する憲法の規定の解釈の在り方についてお尋ねがありました。
 憲法を始めとする法令の解釈は、当該法令の規定の文言、趣旨等に即しつつ、立案者の意図や立案の背景となる社会情勢等を考慮し、また、議論の積み重ねのあるものについては全体の整合性を保つことにも留意して論理的に確定されるべきものです。基本的人権に関する憲法の規定の解釈についても同様であり、政府が自由に解釈を変更することができるという性質のものではないと考えています。
 次に、捜査、起訴、公判は全て法と証拠に基づいて行い、不偏不党で一切の政治性、恣意性を排除し、国策捜査、政治裁判を許さないという検察の立場に変わりはないかとのお尋ねがありました。
 検察は、常に法と証拠に基づき、厳正公平、不偏不党を旨として、刑事事件として取り上げるべきものがあれば適切に対処しており、何らかの政治的意図に基づいて捜査、公判を行うなどということはないものと承知しており、今後もその立場に変わりはありません。
 次に、取調べの録音・録画制度の対象事件について、将来的に拡大されるのかとのお尋ねがありました。
 本法律案における取調べの録音・録画制度の対象事件は、制度の対象とならない事件についても検察等の運用による取調べの録音、録画が行われることをも併せ考慮した上で、録音、録画の必要性が最も高いと考えられる類型の事件としたものです。制度と運用とを併せて見ると、取調べの録音、録画の範囲は必ずしも狭いものではないと考えています。
 他方で、本法律案の附則においては、本制度について、施行後三年が経過した後に必要な見直しを行う旨の検討条項を設けております。見直しの方向性については定められていませんが、運用によるものを含め、取調べの録音、録画の実施状況等を勘案しつつ、制度の趣旨を十分に踏まえて検討を行うことが重要であり、これまでの経緯等を踏まえると、取調べの録音、録画についての取組が後退するようなことはないものと考えています。
 次に、取調べの録音・録画制度について、機器の故障があった場合の取扱いについてお尋ねがありました。
 本制度においては、記録に必要な機器の故障その他のやむを得ない事由により記録をすることができないときを取調べの録音・録画義務の例外事由としています。機器が故障して修理に相当の時間を要し、他の機器も使用中であるなどのやむを得ない事情がある場合にこの例外事由に該当し得るものと考えられます。このような場合にまでなお録音、録画を義務付けるとすると、機器が使用できるようになるまでの間、およそ取調べができないことになり、限られた身柄拘束期間の中で機動的に行われるべき捜査に支障が生じることとなりかねません。したがって、この例外事由を設けることは不可欠であると考えています。
 次に、合意制度における協議の記録の作成、保管に関し、規定を設けるべきではないかとのお尋ねがありました。
 一般に、捜査において重要な事項については適切に記録がなされるのが当然であって、これを義務付ける明文規定がなくとも、現に適切になされているものと承知しています。
 これと同様、合意制度における協議についても、自由な意見交換などの協議の機能を阻害しないとの観点をも踏まえつつ、その過程で重要なポイントとなる事項については当然に記録がなされ、これが適切に保管されることとなると考えています。したがって、協議の過程についての記録につき、特に法律上明文で規定する必要はなく、適切でもないと考えています。
 次に、協議、合意についての事実関係を裁判所に示すことを義務付けるべきではないかとのお尋ねがありました。
 合意制度については、いわゆる巻き込みの危険に対処するための制度的な手当ての一つとして、合意に基づく供述が他人の公判で用いられるときは、検察官に対し、当該他人の公判で合意内容書面の取調べを請求することを義務付けることとしており、合意の内容は裁判所に示されることとなります。
 これにより、合意に基づく供述の信用性は厳しく吟味されることとなる上、協議、合意の経過が供述の信用性等に関連する場合には必要に応じてその立証がなされることとなりますので、御指摘のような義務付けまでは必要ないものと考えています。
 次に、被疑者、被告人の事件と解明の対象となる他人の事件との関連性についてお尋ねがありました。
 衆議院における修正により明記された「当該関係する犯罪の関連性の程度」は、検察官が合意をするか否かを判断するに当たっての考慮事情の一つとされています。この修正により、合意制度が利用される場合として基本的に想定されるのが、被疑者、被告人の事件と他人の事件との関連性が認められる場合であることが示されることになったと考えていますが、必ずしも被疑者、被告人と他人とが共犯関係にある場合に限られるわけではないと考えています。
 例えば、被疑者、被告人が同一の組織内の異なる犯行グループに属する他人の刑事事件について証拠を提供することができる場合なども考えられ、被疑者、被告人の事件と他人の刑事事件との関係性の内容や程度は事案によって様々であると考えています。
 次に、立会人を置かずに通信傍受を行う手続を導入する必要性等についてお尋ねがありました。
 現行の通信傍受法においては、通信事業者にとって立会人や傍受の実施場所の確保が大きな負担となっており、そのことが通信傍受を迅速に行う上での障害ともなっている事情があります。新たに導入する特定電子計算機を用いる通信傍受の手続は、こうした通信事業者の負担を軽減するとともに、捜査状況に応じた機動的な傍受を行うことを可能とするものであります。
 この手続では、捜査官が傍受又は再生をした通信は、特定電子計算機により全て自動的に暗号化をされて、改変不可能な形で記録媒体に記録され、裁判官に提出されます。そして、捜査官がどのような傍受を行ったかはこの記録媒体を通じて全て客観的に検証可能となりますので、立会人を置かなくても傍受の手続の適正が担保されることとなります。
 次に、立会人を置かずに傍受をした通信の記録が改ざんされていないことを確認できるための措置についてお尋ねがありました。
 新たに導入する特定電子計算機を用いる通信傍受の手続においては、捜査官が傍受又は再生をした通信は、全て特定電子計算機により暗号化をされて、改変不可能な形で自動的に記録媒体に記録され、裁判官に提出されます。この暗号化の技術により、立会人が封印を行う場合と同様に、記録に改変等がないことを担保できることとなります。
 次に、証拠の一覧表の交付制度に関し、捜査当局が恣意的に証拠を破棄する懸念はないかとのお尋ねがありました。
 証拠の管理、取扱いは適正に行うべきであり、これをみだりに破棄すると犯罪となり得るものであり、許されないことは当然です。この点は、証拠の一覧表の交付制度を導入するしないにかかわらず、当然のことであると考えています。
 次に、証拠が特定秘密に係るものであった場合の取扱いについてお尋ねがありました。
 本法律案の証拠の一覧表については、証拠が特定秘密に係るものであるかどうかによって取扱いを区別することとはしておりません。本法律案においては、証拠の一覧表に記載しなければならない事項を規定した上で、例外として、これらの事項を記載して交付することによって、例えば供述者に対する加害行為がなされるおそれがあるときなど、一定の事由に該当するときに限って当該事項だけを記載しないことができることとしており、これらの規定に従った取扱いがなされることとなります。
 最後に、刑事手続全般における特定秘密の取扱いに関する現時点での政府の検討状況についてお尋ねがありました。
 刑事手続における特定秘密の取扱いについても、憲法、刑事訴訟法等に定める適正手続の保障の下で行われることは当然のことであり、検察当局においては、通常の刑事手続制度の枠内で適切に対処することとなると考えています。(拍手)
   〔国務大臣山谷えり子君登壇、拍手〕
#26
○国務大臣(山谷えり子君) 真山勇一議員にお答えいたします。
 警察施設で通信傍受を行う場合の部内指導の在り方についてお尋ねがございました。
 警察施設で通信傍受を行う場合であっても、全ての傍受結果を機械的かつ確実に暗号化処理をして記録するなどの特定電子計算機の有する機能により、現行法で立会人が果たす役割は漏れなく代替されることから、傍受の適正性は確実に担保されるものと考えております。もっとも、新たな方式による通信傍受では、技術的に高度な機器を使用することなどから、その適正かつ効果的な実施を担保するため、専門的知見を有する職員が必要な指導を行う体制を整えることを検討しております。
 体制や指導方法を含むその具体的な運用の在り方については今後検討することとなりますが、例えば、警察本部の適正捜査の指導を担当する警察官等で通信傍受を実施する事件の捜査に従事していない者に、必要に応じ、傍受の実施の現場等において法令、手続や技術面の指導を行わせることなどを想定しております。(拍手)
    ─────────────
#27
○議長(山崎正昭君) 仁比聡平君。
   〔仁比聡平君登壇、拍手〕
#28
○仁比聡平君 私は、日本共産党を代表して、盗聴法の大改悪など刑事訴訟法等改定案について、関係大臣に質問いたします。
 本法案は、我が国の刑事司法に問われてきた根本問題である冤罪の根絶を、取調べ及び供述調書への過度の依存からの脱却とか世界一安全な日本創造などとすり替えて、盗聴法の大改悪と司法取引導入を柱にした憲法違反の治安立法というべきであり、その本質をいささかも変えるものではない修正によって成立を図ることは断じて許されません。
 今回の刑事司法改革の直接の契機となった厚生労働省村木厚子さんの事件では、特捜部主任検事自ら、関係者に虚偽の自白を強要し、証拠を改ざんした重大な違法捜査が明らかとなりました。静岡県警の自白強要と証拠捏造、検察による無罪証拠隠しによって死刑囚とされた袴田巌さんへの歴史的な再審開始決定は、国家機関が無実の個人を陥れ、四十五年以上にわたり身体を拘束し続けたことになり、刑事司法の理念からは到底耐え難いことと言わなければならないと厳しく断罪をいたしました。
 まず、法務大臣と国家公安委員長に伺いたい。冤罪は、偶然の不幸だとか刑事司法に内在的に付きまとう弊害などではありません。違法捜査によって、つまり、憲法と刑事訴訟法に反する警察と検察の違法捜査によって生み出されてきたという認識がありますか。
 なぜ冤罪が後を絶たないのか。そこには、捜査機関に都合が悪ければ、客観的証拠を隠してでも、描いたストーリーに従ってまず被疑者に自白を強要する根深い自白偏重主義があります。その温床となってきたのが、長時間、密室の取調べと、長期の身柄拘束を可能とする人質司法、代用監獄制度、調書裁判など、我が国刑事司法の構造的問題です。
 志布志事件で、鹿児島県警は、多数の被疑者に自白を強要し一致させていきました。無罪判決は、あるはずもない事実がさもあったかのように自白をさせたたたき割り、追及的、強圧的な取調べを厳しく指摘しています。
 法務大臣、政治に迫られているのは、捜査機関から独立した第三者機関を設け、繰り返されてきた数々の冤罪事件とその原因を検証、究明し、刑事司法の構造的問題を抜本的に改革することではありませんか。
 違法捜査を厳格に禁止し行えないようにする大きな一歩、喫緊の課題として、冤罪被害者と多くの国民が求めてきたのが、捜査全過程の録音、録画による可視化であり、捜査機関の手持ち証拠の全面開示の導入でした。
 ところが、法案は、可視化の対象事件を全事件の僅か三%にとどめ、しかも取調べ官の裁量的判断による広範な例外を認めるものです。これはなぜですか。修正後の法案附則九条も、「取調べの録音・録画等に伴って捜査上の支障その他の弊害が生じる場合がある」としていますが、密室取調べへの反省はないのですか。
 さらに、法案は、可視化を刑事裁判の証拠にできるかどうかの要件としていますが、証拠にしなければ違法な取調べがあってもいいのですか。専ら都合の良い調書だけを認めさせる手段として録音、録画を利用させることにもなりかねません。こうした濫用はどのように防止されるというのですか。二度と違法捜査を許さないという立場に立つなら、取調べの可視化は、憲法三十八条の黙秘権の実効性を保障するものとして、全事件、全過程の録音、録画を捜査機関に対して直接義務付けるものとするのが当然ではありませんか。
 布川事件の元被告人桜井昌司さんは、警察も検察も何も反省しないのに、冤罪をつくらないなんてあり得ないではないかと述べています。法務大臣、国家公安委員長、こうした冤罪被害者の怒りの声にどうお応えになりますか。
 次に、司法取引は、自らの罪を免れようと他人を罪に陥れ、引っ張り込む危険を本質的に持っています。衆議院における参考人質疑では、長く司法取引を行ってきた米国で、取引に応じた密告者の供述によって重罪とされながら、後にDNA鑑定によって無実が判明する事件が相次いでいるという深刻な実態が明らかになりました。
 法務大臣、米国ではこうした害悪の実証的究明と見直しが進んでいます。これをどう捉えているのですか。にもかかわらず、我が国に導入しようとするのはなぜですか。そもそも、反省や悔悟もないのに刑事処分を減免する法理上の根拠は何ですか。結局、自らの罪を免れんための虚偽供述の危険を高めるだけではありませんか。
 続いて、盗聴法の大改悪について聞きます。
 盗聴の本質は、犯罪に無関係の通信をも根こそぎつかむ盗み聞きです。人々の電話やメールなどの通信、会話は、生のプライバシーを含む語り合いであり、その内容は縦横に発展していきます。その盗み聞きは当事者の内心を深く無限定に侵害するのです。
 法務大臣、憲法二十一条二項が保障する通信の秘密、十三条が保障するプライバシーの権利は、盗聴によって一たび損なわれれば取り返しが付かないという重大性をどう認識しているのですか。
 また、憲法三十五条は、強制捜査の対象を特定した司法審査、すなわち令状主義を求めています。ところが、盗聴は、その性質上、事前に特定の当事者間や特定の犯罪関連事項に対象を限定することは不可能です。これは、同条及び三十一条の適正手続の保障を侵害する明白な憲法違反ではありませんか。
 通信の秘密を絶対的に保障する憲法二十一条二項は、戦前の治安維持法の下、特高警察を始めとした、国民の思想、良心、内心の自由の侵害と弾圧に対する深い反省に立つものです。
 現行通信傍受法は、一九九九年、厳しい国民的批判に国会が包囲される中、対象を四種の組織犯罪に限定し、通信事業者の常時立会いを求めるという与党修正によって強行されました。それを、捜査機関にとって使い勝手が悪いからと取り払い、対象犯罪を一般的犯罪にまで拡大し、常時立会いをなくせば、重大な人権侵害を更に広げ、盗聴を日常的な捜査手段とする盗聴の自由化につながりかねません。
 法務大臣、現行法のこうした限定をも取り払う大改悪は、盗聴の違憲性を更に重大にする憲法違反ではありませんか。また、修正により、通信事業者の常時立会いに代えて警察官の立会いを検討するといいますが、身内の立会いは何の歯止めにもなりません。明確な答弁を求めます。
 盗聴が更に拡大されるなら、犯罪に無関係の一般市民生活の通信やプライバシーも、刑事裁判の証拠とされなければ、盗聴されたことの通知さえないまま丸裸にされます。
 国家公安委員長に伺いたい。戦前の反省に立った憲法の下、政治警察は廃止され、発生した犯罪を捜査する司法警察活動と犯罪予防の行政警察活動は厳密に区別されることとなりました。ところが、未発生の犯罪の事前捜査という性格を持つ盗聴の日常化は、この区別を崩壊させ、両者を融合することになるのではありませんか。刑事事件の捜査のためとして盗聴で取得された情報が警備公安警察活動に利用されない法律上の保障がありますか。
 日本共産党国際部長宅盗聴事件の被害者、緒方靖夫元参議院議員の衆議院における参考人陳述は、重大な権力犯罪をあえて行う警備公安警察の卑劣さを党派を超えて共有させるものとなりました。今もその事実を認めず謝罪もしない警察に盗聴の自由を認めるなど、断じて許すわけにはいきません。国家公安委員長の認識を改めて伺います。
 最後に、七月末、ウィキリークスの公表で発覚した、米国家安全保障局、NSAによる経済産業大臣や官房長官秘書官、財務省など日本政府、日銀総裁、大手商社などを対象とした盗聴問題は、憲法二十一条二項に明白に反する非合法の盗聴を米国家機関が行ったのではないかという重大問題です。安倍政権にその認識はありますか。
 総理は、八月五日、バイデン米副大統領との電話会談を行ったとのことですが、抗議したのですか。その際、米国に求めたという調査と説明はどうなっているのですか。官房長官の明確な答弁を求め、質問を終わります。(拍手)
   〔国務大臣上川陽子君登壇、拍手〕
#29
○国務大臣(上川陽子君) 仁比聡平議員にお答え申し上げます。
 まず、冤罪は、憲法と刑事訴訟法に反する警察と検察の違法捜査によって生み出されてきたという認識があるのかとのお尋ねがありました。
 犯人でない人を処罰することはあってはならないことと認識しています。無罪判決が言い渡される理由は様々であり、その原因を一概に述べることは困難ですが、いずれにしましても、検察当局においては、今後とも、法と証拠に基づく基本に忠実な捜査、公判の適正な遂行に努めることが必要であると考えています。
 次に、誤判の原因を検証、究明するための第三者機関を設置することについてお尋ねがありました。
 個別の事件につき第三者機関が裁判所による誤判の原因究明等をする制度については、裁判官の職権行使の独立性の観点から問題が生じ得ますし、原因究明の過程で刑事事件の記録や証拠を第三者が使用することは、関係者の名誉、プライバシーの保護の観点から問題を生ずるおそれもあります。したがって、御指摘のような第三者機関の設置については慎重な考慮を要するものと考えています。
 次に、取調べの録音・録画制度について、密室での取調べへの反省を踏まえると、捜査上の支障が生じるなどとして、対象事件を限定したり録音・録画義務の例外事由を設けるのは不当ではないかとのお尋ねがありました。
 本制度は、裁判員制度対象事件及び検察官独自捜査事件を対象としています。これは、本制度が捜査機関にこれまでにない新たな義務を課すものであり、捜査への影響を懸念する意見もあることなどから、制度の対象とならない事件についても運用による取調べの録音、録画が行われることをも併せ考慮した上で、録音、録画の必要性が最も高いと考えられる類型の事件を対象としたものです。制度と運用とを併せて見ると、録音、録画の範囲は必ずしも狭いものではないと考えています。
 また、本制度においては、原則として取調べの全過程の録音、録画を義務付けつつ、録音、録画の拒否等の言動により、録音、録画をすると被疑者が十分に供述できないと認められる場合などを例外事由としています。本制度については、録音、録画により、取調べで供述が得られず、真犯人の検挙、処罰ができなくなることがないようにするとの観点も重要であり、このような例外事由は不可欠であると考えています。
 次に、冤罪を生み出す危険のある恣意的な録音、録画は防止されるのかとのお尋ねがありました。
 本制度においては、対象事件について、原則として取調べの全過程の録音、録画を義務付けた上で、先ほどお答えした理由から一定の例外事由を設けることとしていますが、公判で例外事由の存否が問題となったときは、裁判所による審査の対象となり、捜査機関側の責任で例外事由を立証する必要があります。そのため、捜査機関としては、例外事由を十分に立証できる見込みがない限り、例外事由に当たると判断して録音、録画をしないことはできません。したがって、取調べの録音・録画制度が恣意的に運用される余地はなく、御指摘のような懸念はないものと考えています。
 次に、黙秘権の実効性を保障するものとして、全事件、全過程の録音、録画を義務付けるべきではないかとのお尋ねがありました。
 先ほどお答えした理由から、本法律案の取調べの録音・録画制度においては、対象事件を裁判員制度対象事件及び検察官独自捜査事件とし、原則として取調べの全過程の録音、録画を捜査機関に義務付けつつ、一定の例外事由を設けることとしているところであり、その内容は適切であると考えています。
 次に、冤罪の防止には不十分であるとの声にどう応えるのかとのお尋ねがありました。
 取調べの録音、録画には、被疑者の供述の任意性等についての的確な立証に資する、取調べの適正な実施に資するという有用性があります。本制度は、このような録音、録画の必要性が最も高い類型の事件を対象として、一定の例外事由を設けつつ、原則として取調べの全過程の録音、録画を捜査機関に義務付けるものであり、真犯人の適正、迅速な処罰とともに、誤判の防止に資するものと考えています。
 次に、米国の司法取引の運用上の問題点をどのように捉えているかとのお尋ねがありました。
 米国においては、誤判事例の中に、司法取引に基づき犯行告白を聞いた旨の供述を同房者から得た事例が存在することや、司法取引の事実が陪審に開示されていないという問題があることなどを指摘する民間団体の報告があるものと承知しています。
 しかしながら、米国と我が国では刑事司法制度や事実認定の在り方などが異なる上、本法律案の合意制度の下では、一般に、被疑者、被告人の事件と他人の事件との間に何らの関係もない場合には、被疑者、被告人が当該他人の事件について信用性が認められるような具体的で詳細な供述をすることができるとは考えられないため、基本的に合意をすることは想定されないと考えています。また、合意に基づく供述が他人の公判で用いられるときは、合意内容が記載された書面が当該他人にも裁判所にもオープンにされ、供述の信用性が厳しく吟味される仕組みとしています。
 これらのことなどから、米国の司法取引の実態と言われるものが我が国の合意制度にそのまま当てはまるものではないと考えています。
 次に、合意制度を導入する趣旨についてお尋ねがありました。
 合意制度は、組織的な犯罪等について、手続の適正を担保しつつ、首謀者の関与状況等を含めた事案の解明に資する供述等を得ることを可能にするものであり、証拠収集に占める取調べの比重を低下させ、取調べ及び供述調書に過度に依存した状況の解消に資すると考えています。
 次に、合意制度の理論的な根拠についてお尋ねがありました。
 合意制度は、現行法上、検察官に広範な訴追裁量権が認められており、被疑者、被告人が他人の刑事事件の捜査、公判に協力したことをも、刑事訴訟法第二百四十八条の犯罪後の情況として被疑者、被告人に有利に考慮し、これを訴追裁量権の行使に反映させることができることを根拠とするものです。
 次に、合意制度の下での虚偽供述の危険についてお尋ねがありました。
 合意制度については、いわゆる巻き込みの危険が生じないようにするため、協議、合意の過程に弁護人が常に関与する仕組みとすること、合意に基づく供述が他人の公判で用いられるときは、合意内容が記載された書面が当該他人にも裁判所にもオープンにされ、供述の信用性が厳しく吟味される仕組みとすること、合意をした者が捜査機関に対して虚偽の供述等をした場合について罰則を新設することといった制度的な手当てをしています。したがって、御懸念は当たらないものと考えています。
 次に、通信傍受が通信の秘密等を制約するものであることに関する認識についてお尋ねがありました。
 通信の秘密を侵されないことは、憲法で保障された重要な権利であると認識しています。通信傍受は通信の秘密等を制約するものでありますが、犯罪捜査という公共の福祉の要請に基づいて、必要最小限度の範囲でこれを制約することは許されると考えています。最高裁判所も、通信傍受法制定前に実施された検証許可状による電話傍受について、一定の要件の下では、捜査の手段として憲法上全く許容されないものではないと解すべき旨判示しています。そして、通信傍受法による通信傍受については、厳格な要件の下で裁判官の発する傍受令状により行うことが許されるもので、通信の秘密の制約は必要やむを得ない範囲に限定されていることなどから、通信の秘密等の保障に反しないものであると考えています。
 次に、通信傍受は、あらかじめ強制捜査の対象を特定し得ず、憲法第三十五条等に反するのではないかとのお尋ねがありました。
 先ほどもお答えしたとおり、最高裁判所も、電話傍受が憲法上およそ許されない捜査手法であるとの考え方は取っていません。憲法第三十五条の特定性の要請の趣旨は、捜索する場所及び押収する物を令状に明示することにより、裁判官が捜索や押収によりプライバシー等の権利利益を制約する正当な理由があると認めた場所や物を明らかにし、それ以外の場所や物について捜索や押収の処分が行われないことを保障することにあります。通信傍受の場合には、令状に捜査機関がその内容を知ることにより通信の秘密を制約することが許される通信を明示することが要請されますが、この点は、傍受令状に傍受すべき通信が記載されることにより明らかにされます。したがって、通信傍受は憲法第三十五条等に反するものではありません。
 最後に、通信傍受法改正案が対象犯罪を拡大し、立会人を要しない傍受の手続を導入することの合憲性等についてお尋ねがありました。
 本法律案において通信傍受の対象犯罪に追加することとしている罪は、いずれも通信傍受に伴う通信の秘密への制約に見合う重大性を備えたものであると考えています。さらに、これらの罪については、傍受令状の発付要件として、現行通信傍受法の厳格な要件に加えて、一定の組織性の要件を満たすことを要することとしています。また、捜査機関の施設において立会人を置かずに通信傍受を行う場合でも、特定電子計算機の機能などにより、立会人がいる場合と同様に、傍受の手続の適正が保障されることとなります。
 これらのことから、本法律案は、現行通信傍受法と同様に、通信の秘密等を保障する憲法の規定に反するものではないと考えています。
 なお、警察において、通信傍受の実施に関し、当該事件の捜査に従事していない警察官等による必要な指導が行われることは、手続の適正について万全を期する上で望ましいものと考えています。(拍手)
   〔国務大臣山谷えり子君登壇、拍手〕
#30
○国務大臣(山谷えり子君) 仁比聡平議員にお答えいたします。
 警察の捜査といわゆる冤罪との関係についてお尋ねがございました。
 警察においては、当然のことながら、憲法や刑事訴訟法を始め、法と証拠に基づき、緻密かつ適正な捜査を遂行することとしていますが、裁判において捜査上の問題を指摘され、無罪判決を言い渡された事案があったことも事実であります。こうした事実を重く受け止め、この種事案の再発防止を図るため、引き続き、緻密かつ適正な捜査が推進されるよう警察を指導してまいります。
 次に、いわゆる冤罪の被害者の方の声にどのように応えていくかとお尋ねがございました。
 犯人ではない人を犯人と誤認して、その人が刑に服するようなことはあってはならないことは当然であります。捜査に重大な問題が認められた場合などには、その原因を明らかにし、これを教訓として全国警察に対して指導することにより、同種事案の再発防止を期することが肝要と認識をしております。
 次に、通信傍受の刑事手続以外の目的での使用についてのお尋ねがございました。
 通信傍受は、裁判官の発付する令状に基づき、具体的な犯罪の捜査として行うものであり、過去に具体的な犯罪が何ら発生していない場合に、情報収集等を目的として通信傍受を行うことはできません。また、捜査上の必要がないにもかかわらず、捜査のためであるとして通信傍受を行い、それを情報収集活動に使用することは通信傍受法上認められていないものと承知しておりまして、現にそのような運用は行っておりません。
 最後に、いわゆる緒方宅事件と警察による通信傍受の是非についてお尋ねがございました。
 お尋ねの事件については、国賠訴訟の控訴審判決では、警察官である個人三名がいずれも県の職務として行ったものと推認することができると判示されておりますが、組織的犯行と断定した判決ではなかったものと承知をしております。
 また、通信傍受法には、極めて厳格な要件、手続が定められており、裁判官の発付する令状に基づかなければ傍受を実施することはできず、恣意的な運用が行われないよう制度上の手当てがなされております。警察としても、法の定める厳格な要件を満たすかどうか厳しく吟味した上で令状を請求しており、裁判で違法な傍受が行われたと判断された事例の報告もないと承知をしております。
 新たな制度の下でも慎重かつ適正な運用がなされるよう、私としてもしっかりと警察を指導してまいりたいと考えております。(拍手)
   〔国務大臣菅義偉君登壇、拍手〕
#31
○国務大臣(菅義偉君) 米国国家安全保障局による通信記録の収集問題についてお尋ねがありました。
 この問題については、先般の安倍総理とバイデン副大統領との電話会談において、安倍総理からバイデン副大統領に対し、仮に日本の関係者が対象となっていたことが事実であれば、同盟関係の信頼関係を揺るがしかねないものであり、深刻な懸念を表明せざるを得ない旨を述べました。米国において調査の上、結果を日本側に説明するよう強く求めるところであります。
 バイデン副大統領からは、オバマ大統領共々、日本政府に御迷惑をお掛けしていることを大変申し訳なく思う旨の発言があり、二〇一四年にオバマ大統領が発出した大統領令を踏まえ、現在、米国政府は日米同盟の信頼関係を損なう行動は行っていない旨の説明がありました。
 政府としては、本件は日米同盟の信頼関係に関わる重要な問題であると認識しており、そのためにも適切な対応が必要であることから、米側と今後とも議論を継続していきたいと考えております。(拍手)
#32
○議長(山崎正昭君) これにて質疑は終了いたしました。
     ─────・─────
#33
○議長(山崎正昭君) 日程第一 中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律等の一部を改正する法律案(内閣提出、衆議院送付)を議題といたします。
 まず、委員長の報告を求めます。経済産業委員長吉川沙織君。
    ─────────────
   〔審査報告書及び議案は本号末尾に掲載〕
    ─────────────
   〔吉川沙織君登壇、拍手〕
#34
○吉川沙織君 ただいま議題となりました中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律等の一部を改正する法律案につきまして、審査の経過と結果を御報告申し上げます。
 本法律案は、中小企業における経営の承継をより円滑化するため、後継者が贈与を受けた株式等を関係者の合意により遺留分の算定の対象から除外等する制度において、後継者の範囲を拡大するとともに、小規模企業共済制度において親族が事業を承継した場合に共済金の支給額を引き上げる等の措置を講ずるなど、三法律について改正を行おうとするものであります。
 委員会におきましては、中小企業における事業承継の現況及び課題、遺留分に関する民法特例制度の利用実績及び評価、民法特例制度を周知徹底する必要性、小規模企業共済の加入者増加に向けた取組、共済財政の現状及び今後の見通し、個人事業主等に対する事業承継税制の在り方等について質疑が行われましたが、その詳細は会議録によって御承知願います。
 質疑を終了し、採決の結果、本法律案は全会一致をもって原案どおり可決すべきものと決定いたしました。
 なお、本法律案に対して附帯決議を行いました。
 以上、御報告申し上げます。(拍手)
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#35
○議長(山崎正昭君) これより採決をいたします。
 本案の賛否について、投票ボタンをお押し願います。
   〔投票開始〕
#36
○議長(山崎正昭君) 間もなく投票を終了いたします。──これにて投票を終了いたします。
   〔投票終了〕
#37
○議長(山崎正昭君) 投票の結果を報告いたします。
  投票総数         二百二十八  
  賛成           二百二十八  
  反対               〇  
 よって、本案は全会一致をもって可決されました。(拍手)
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   〔投票者氏名は本号末尾に掲載〕
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#38
○議長(山崎正昭君) 本日はこれにて散会いたします。
   午後零時九分散会
ソース: 国立国会図書館
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