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2010/04/08 第174回国会 参議院 参議院会議録情報 第174回国会 法務委員会 第9号
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2010/04/08 第174回国会 参議院

参議院会議録情報 第174回国会 法務委員会 第9号

#1
第174回国会 法務委員会 第9号
平成二十二年四月八日(木曜日)
   午前十時開会
    ─────────────
   委員の異動
 四月六日
    辞任         補欠選任
     外山  斎君     前川 清成君
     姫井由美子君     石井  一君
     古川 俊治君     山崎 正昭君
 四月七日
    辞任         補欠選任
     千葉 景子君     平山  誠君
 四月八日
    辞任         補欠選任
     前川 清成君     植松恵美子君
    ─────────────
  出席者は左のとおり。
    委員長         松 あきら君
    理 事
                今野  東君
                松岡  徹君
                松村 龍二君
                風間  昶君
    委 員
                石井  一君
                植松恵美子君
                中村 哲治君
                平田 健二君
                平山  誠君
                簗瀬  進君
                浅野 勝人君
                丸山 和也君
                森 まさこ君
                仁比 聡平君
   事務局側
       常任委員会専門
       員        田村 公伸君
   参考人
       中央大学法科大
       学院・法学部教
       授        椎橋 隆幸君
       日本弁護士連合
       会前副会長
       弁護士      細井 土夫君
       全国犯罪被害者
       の会(あすの会
       )代表幹事
       弁護士      岡村  勲君
       被害者と司法を
       考える会代表   片山 徒有君
    ─────────────
  本日の会議に付した案件
○刑法及び刑事訴訟法の一部を改正する法律案(
 内閣提出)
    ─────────────
#2
○委員長(松あきら君) ただいまから法務委員会を開会いたします。
 委員の異動について御報告をいたします。
 昨日までに、古川俊治君、姫井由美子さん、外山斎君及び千葉景子さんが委員を辞任され、その補欠として山崎正昭君、石井一君、前川清成君及び平山誠君が選任されました。
    ─────────────
#3
○委員長(松あきら君) 刑法及び刑事訴訟法の一部を改正する法律案を議題といたします。
 本日は、本案の審査のため、お手元に配付の名簿のとおり、四名の参考人から御意見を伺います。
 本日御出席いただいております参考人は、中央大学法科大学院・法学部教授椎橋隆幸君、日本弁護士連合会前副会長・弁護士細井土夫君、全国犯罪被害者の会(あすの会)代表幹事・弁護士岡村勲君及び被害者と司法を考える会代表片山徒有君でございます。
 この際、参考人の方々に一言ごあいさつを申し上げます。
 本日は、御多用のところ本委員会に御出席を賜りまして、本当にありがとうございます。
 参考人の皆様から忌憚のない御意見を伺いまして、今後の審査の参考にしたいと存じますので、どうぞよろしくお願いいたします。
 議事の進め方について申し上げます。
 まず、椎橋参考人、細井参考人、岡村参考人、片山参考人の順に、お一人十五分程度で御意見をお述べいただきまして、その後、各委員からの質疑にお答えをいただきます。
 なお、意見の陳述、質疑及び答弁のいずれも着席のままで結構でございますが、御発言の際は、その都度、委員長の許可を得ることとなっております。また、各委員の質疑時間が限られておりますので、御答弁は簡潔にお願いをしたいと存じます。
 それでは、椎橋参考人からお願いをいたします。椎橋参考人。
#4
○参考人(椎橋隆幸君) 私は、中央大学法科大学院・法学部教授で、刑事訴訟法を担当しております椎橋隆幸でございます。本日はこういう機会を与えていただきまして、大変光栄に存じております。どうぞよろしくお願いいたします。
 簡単なレジュメを用意させていただきましたので、このレジュメに沿ってお話をさせていただきたいと思います。
 私は、公訴時効制度の改正に関する法制審議会刑事法部会、公訴時効関係部会に委員として参加しておりました。本日は、部会における議論も踏まえまして、基本的には今回の法案に賛成するという立場から意見を述べさせていただきたいと思います。
 まず、平成十六年改正との関係についてお話をするべきだというふうに考えます。そこでは、十六年に改正があって何で今回改正が必要だということが問題になりますので、十六年改正後の国民の意識の変化と、それから平成十六年改正のねらいと今回の改正のねらいとの違い、この辺りをお話しさせていただきます。
 今回の法案に盛り込まれました公訴時効の改正につきましては、平成十六年の改正に続いてということになりますけれども、現在、人の生命を奪った殺人などの犯罪につきましては、時間が経過したからといって、一律に裁判をすること自体をやめてしまって、結果として犯人が明らかな場合ですら処罰されなくなってしまうというのはおかしいのではないかと、こういう意識が国民の間で広がっているというところは、これは動かし難い事実ではないだろうかというふうに思われます。
 そういう意味で、平成十六年改正の後の、更に国民の意識の変化が出てきたと思いますけれども、特に人を死亡させた犯罪につきましては、起訴をして裁判によって刑事責任を明らかにすることができる現行法の時間的な範囲と、それが必要だというふうに国民が求めている範囲との間に依然かなり大きなずれがあるというふうに思われます。これは、政府で行われた世論調査、あるいは国民からの意見募集、パブリックコメント、あるいは各新聞社の調査等によって明らかであるというふうに思われます。そういうずれがある以上はこれを埋めるべきだということが当然でありまして、これが一つの立法動機となり得ます。そういう意味で、公訴時効という制度を国民の意識に近づけるという意味での第二章、十六年改正が第一章であれば今回はその第二章というような言い方もできるのではないかと思います。そういう意味で、法整備をするのは正しい方向だというふうにまず思います。
 こういう制度と国民の意識とのずれとしてどういうところから出てきたかといいますと、犯罪被害者の遺族の方々を中心に、主として殺人等の凶悪重大な犯罪の公訴時効の在り方を見直すことを求めるという声が近時高まっているということが大きいと思いますけれども、この点をとらえて、被害者の意見で刑事司法の在り方を変えるのかと、そういう御批判も耳にするところでございます。
 しかし、それだけではございませんで、前回の平成十六年の改正法と同じ日に犯罪被害者基本法という法律が国会の御努力によりまして、これは全会派の賛成によって成立しております。この法律の基礎にある考え方は、刑事に関する手続も含めて、被害者の尊厳を守った、国民の納得も得られるような制度にしていこうというものとして理解できるものでありまして、そういう延長線上でいわゆる被害者参加制度というものもできたわけでございます。
 そういうような視点は、被害者が直接に関与する手続に限られるかというと、そうではなくて、手続全体を通じて刑事司法が被害者を含めた国民全体から支持を得られるようにするということが極めて重要だというふうに思われますので、そういう大きな視点から眺めますと、今回の改正もその一環として積極的に評価することができるのではないかというふうに思われるわけであります。
 次に、十六年改正と今回の法律案との違いを申します。
 平成十六年度に、長期十五年以上という重い法定刑が定められた犯罪について、公訴時効期間を延長するという改正がなされております。先ほど、国民の意識に公訴時効制度を近づける第二章だというふうに申しましたけれども、今回の改正につきましては、平成十六年度の改正も踏まえて、更なる見直しの必要性や今回の改正の位置付けについての考え方を整理しておくことが必要だというふうに思われます。
 この点につきましては、平成十六年の改正といいますのは、凶悪重大犯罪の増加傾向を踏まえて、これに適正に対処するために罰則を強化することの一環として行われたものでありまして、言わば将来に向けて凶悪重大犯罪に対する効果的な刑事政策を実施することを主眼としたものでありました。これに対しまして、今回の改正は、先ほども申しましたけれども、人の生命を奪った殺人などの犯罪については、時間の経過によって犯人が処罰されなくなってしまうのはおかしいと、従来公訴時効制度の趣旨とされてきたところが果たしてこれらの犯罪について妥当するのか疑問だと、そういった意識が被害者遺族の方々を含めた国民の間で広く共有されるようになってきたということを受けて行われるものだということができると思います。
 そうして、そういった問題意識は、これから発生する事案のみに向けられたものではなくて、過去に発生した事案に対する訴追の可能性についても向けられたものであるということからしましても、平成十六年改正とは違った新たな意味合いがそれ以後の情勢の変化によって出てきているということですから、平成十六年の改正を踏まえてもなお公訴時効を見直す必要性がある、いわゆる立法事実があるというふうに考えられると思います。
 これに対しまして、よく批判がなされますように、犯罪発生後、長い期間が経過した後に起訴がされると、証拠が散逸し被告人の防御が難しくなって誤判が増えるとか、そういうようなことが言われます。私は、そういうことは現実には起こらないだろうというふうに考えております。
 確かに、時間の経過によって証拠は減っていくわけでございますが、その意味で、法廷における弁護人の立証に使える手段は限られてくるとは言えると思います。ただ、証拠の散逸というのは、これは両当事者に働くわけでありまして、検察官の側にとっても立証の点で不便が生ずるということは同じでございます。それに加えて、訴追者、立証者とそれから防御側ということを考えると、ある意味ではむしろ検察官の方にそのハードルは高いということが考えられることでございます。
 他方で、それでは刑事裁判の制度が時間の経過とともに機能しにくくなっていくのかということになると、それは基本的にはそういうことはないだろうというふうに思います。それは、検察官が立証責任を負って、疑わしきは被告人の利益にという大原則がございますし、そのほかにも証拠裁判主義等、被告人の人権を保障して適正な裁判を行うための様々な仕組みというものが設けられております。これを正しく運用できるかどうかということは、犯罪のときから時間がたっているかどうかには無関係でございます。
 昔の出来事については裁判そのものをやってはいけないということになると、極端に言えば再審もできないということにもなりかねません。むしろ、昔の出来事であるということで、本当にそんなことがあったのかというふうに見るのが、そういう疑いの目で見るのが通常なのではないか。やっぱり、そういう場合は慎重に見なければならないということでありますし、慎重に実際にも関係者は対応するだろうというふうに思われます。
 したがいまして、一定以上の重大犯罪について公訴時効の対象としないということとしたとしても、これによって被疑者、被告人の防御権が不当に侵害されるとは言えないだろうというふうに思われます。かえって、先ほど申し上げましたような国民の意識を前提にしますと、殺人等の罪で確実な証拠により真相を正しく認定できる事件についてまで一律に訴追をあきらめて裁判を行わないことによって、真相が分かる事件の犯人の処罰まで免れさせるということによって、真相が分かる事件の犯人の、そういうことになりますとこれは妥当ではないという判断の下で、これらの犯罪について公訴時効制度の対象としないという立法政策を採用することには十分な合理性があるというふうに思われます。
 次に、今回の法案の公訴時効の内容について簡単に申し上げます。
 これは、まず、人を死亡させた犯罪のうち法定刑として死刑が定められているもの、すなわち殺人罪や強盗殺人罪が既遂に至って被害者が死亡している場合などでございますが、これらの犯罪については公訴時効を廃止するということになります。
 それから、人を死亡させた犯罪であって懲役刑又は禁錮刑が法定刑として定められているものについては、法定刑の重さに応じて、無期刑が定められているものは現行の十五年から三十年に延ばす、それから有期刑の上限である二十年の刑が定められているものは現行十年の公訴時間を二十年に延長するということになっております。このカテゴリーに属するのは、故意の犯罪行為を犯して結果として人を死亡させた犯罪の既遂犯でございまして、無期刑が定められているものとしては強姦致死罪、二十年の有期刑が定められるものとしては傷害致死罪や危険運転致死罪などがございます。
 それから、人を死亡させた犯罪のうち、これ以下の懲役・禁錮刑が定められているものは、例えば自動車運転過失致死罪などでございますが、これについては現行五年の公訴時効期間を十年にするということとされております。
 次に、今回の法律案をどういうようなものにするかということになりますが、そういう今まで申し上げた前提に立って考えた場合に、次の三つが考えられます。公訴時効の廃止、それから時効期間の延長、それから個別の事件ごとに公訴時効の進行について特別な扱いをするという、そういう三つの案が選択肢としては考えられるということでございます。
 これにつきましては、それぞれ理由があるわけでございますけれども、特に三つ目の、個別の事件ごとに特別の取扱いをするというものとしては、DNA型の情報で被告人を特定して起訴して時効の進行を止めるという考え方とか、あるいは一定の証拠がある場合に検察官の請求に基づいて裁判官が決定して公訴時効の進行を停止又は中断させるというものがございます。
 これはこれで大変興味深い考え方でございますけれども、何といってもこれは、例えばDNA型情報が残っているかどうかなど、特定の時点で一定の証拠があるかどうかという偶然の事情によって左右されるということがあって、それはたまたま証拠があれば時効が停止される、中断される、そうでなければ時効が進んでそして完成してしまう。そうすると、被害者にとっては非常に不公平な対応になるということでございます。そういうような難点があるということでございます。
 今回の法案は、公訴時効の廃止と、それから公訴時効期間の延長ということでございますけれども、これにつきましては、先ほど申しましたように、現在の公訴時効制度について国民の意識との間で乖離があるのでそれを埋めようと、逃げ得を許してはいけないという考え方が根本にございます。そういう観点を基礎として、それから一律に公訴時効制度というのは決めるものだという趣旨から考えて、人を死亡させた公訴時効についてはその他の犯罪とは違った特別な取扱いをすることが適当かつ合理的だということで、先ほど言いましたような内容の法律案になっているわけであります。
 それで、この内容は、諸外国に比べましてもそう違いはないという、どちらかというと中間、いろんな国の中間にあってバランスが取れているというふうに、ちょっと大ざっぱに申しますとそういうようなことになっているのではないかというふうに思われます。
 次に、改正案の適用範囲ですけれども、よく問題になりますのは、訴訟法、現在進行している時効について、それを廃止したり延長したりするというのが遡及適用で憲法三十九条との関係で問題なのではないかということが言われますけれども、これは、まず訴訟法の原則は、新しい法律ができた場合には新法を適用するというのが原則でございます。それから、憲法の趣旨につきましても、事後的な立法による遡及処罰や刑の加重を禁止したというのがその趣旨でありますので、今回の場合にはそれには当たらないということでございます。
 それからさらには、刑の時効の改正との関係について申しますと、これは、一度犯罪があるということが認定されて確定したものについて逃げているというような場合に、それとの関係で、公訴時効を見直すために、刑の……
#5
○委員長(松あきら君) 参考人に申し上げます。
 お時間過ぎておりますので、おまとめいただきたいと思います。
#6
○参考人(椎橋隆幸君) 分かりました。もう一言で。
 整合性を取る必要があるということで、時効を見直せば刑の時効も見直す必要があるという考えでございます。
 どうも申し訳ございません。
#7
○委員長(松あきら君) ありがとうございました。
 それでは、次に細井参考人にお願いをいたします。細井参考人。
#8
○参考人(細井土夫君) 私は細井と申します。
 この三月まで日弁連の副会長でありました。その関係でこの時効の廃止の問題も担当委員会を含めて検討してまいりました。また、私は、昭和五十二年、一九七七年に弁護士登録しまして、三十数年弁護士をしております。その過程で殺人事件を含めて相当数の刑事弁護をしましたので、あるいは、今抱えておる事件もあります。そういうことで、その体験を踏まえて意見を述べたいと思います。
 今回は時間も限られておりますので、まず第一に遡及適用の可否、それから二番目に公訴時効廃止、延長の可否、それから、もしこのような立法をするのであれば立法過程においてこのようなことは検討すべきじゃないかと思われる点、その三点を主に申し上げたいと思います。
 それで、今の流れでいきますと、残念なことでありますけれども、民主党、自民党、公明党さんはすべてこの立法に賛成やに聞いておりますので、そうするとこの立法が通るという可能性が強いわけですけれども、そうであれば、我々として、立法が通るのであれば、その通ったことによる弊害、そういうものを少しでも少なくするにはどういうことをしなければいけないかということについて要望を述べたいというふうに思います。ですから、四点について述べたいと思っています。
 まず、遡及適用の可否の問題でありますけれども、今回の立法の大きな問題はこの点であります。
 現在、公訴時効の廃止の対象となっておる事件は、平成十六年以前の法律の適用が現在はされておりまして、十五年の時効ということになっておるわけです。しかし、その平成十六年の立法当時においても、一定数の事件が時効になることは当然これ予想されていたわけです。すべて十五年の時効の範囲内で、当時、今時効になりつつある事件が解決されるなんということはだれも考えていなかったわけでありまして。
 ところが、今回、椎橋参考人のような御意見もありまして、もう状況は変わったんだというふうに言われるわけでありますけれども、これはやっぱり違うんじゃないかと思っております。当時の立法が誤りであったとか、その後本当に大きな事件が未解決で、それが当時の立法事実ではないことが次々に判明してきたというようなことは私はないと思います。それから、現在の立法は、十五年ではなくて、今起こっておる事件は二十五年の時効が適用になります。ですから、二十五年で何でいかぬのだということについての検証がないまま今のような形での遡及立法をするというのは私は少し乱暴過ぎるというふうに思いますし、拙速に過ぎるというのがまず申し上げたいことであります。
 それから、遡及適用については、憲法三十九条との関係がありまして、違憲の問題は起こらないんだという意見があることは私も承知はしておりますけれども、刑法等の実体法の関係でこれ違法であるというだけではなくて、やはりいつまでこれが処罰できるんだということは、これは非常に重要な問題であります。これが一つの法体系としてできておるわけでありますので、訴追期間を事後的に変更するということは非常に大問題でありまして、これはやっぱり違憲の問題を生ずるというふうに私は考えております。それから、日弁連の弁護士の多くはそう考えておるんじゃないかと私は考えております。
 それから、時効を迎える事件が時効にならないということになりますと、殺人罪の関係だけでも大体年間で五十件ぐらい今時効によって終了するとされています。これが時効にならなくなります。さらに、多くの事件が時効延長の対象になりますので、時効の延長によって、今までは時効になっていた事件が時効にならないということになるわけです。
 そうすると、捜査機関はまず、いずれにしましても今事件は起こるわけでありまして、今日起こった事件あるいは昨日起こった事件、これをまず処理していただかなければいけませんし、さらに、捜査が継続している重大な事件、これを捜査していただかなければいけないわけで、常に不起訴、不起訴、不起訴、あるいは起訴したら正式な裁判で適正な手続において処罰されるかされないか決めていただくと、こういうわけであります。そうであるにもかかわらず、捜査困難な十五年前に発生した事件、あるいは今後は二十年、三十年というような前に発生した事件をどうして捜査するんでしょうか。多分、捜査機関の本音を聞いていただければ、実際捜査するのは難しいと、こういうふうに言われるんじゃないかと私は思います。
 是非、この立法過程において捜査に当たる警察、検察の本音の意見を聞いていただくということがどうしても私は必要じゃないかというふうに思っております。
 今回、時効を迎えようとしている遺族の方々の強い御要望は、これは私どもも別に否定するわけではありませんけれども、じゃ、実際、真犯人が逮捕、起訴され有罪に至る事件が今後どれほどあるかということになると、これは、今申し上げたようなことで、かなり難しい問題であろうと私は思います。
 それからもう一つ、これは私、何度も申し上げたいと思うんですけれども、難事件が十五年の時効を迎えていくわけです。それで、そういう難事件は、十五年の間に多くの人がその捜査線上に浮かんできます。これは、その中に真犯人がおる場合もありますし、複数の人たちが捜査線上に浮かびますので、多くの人は無罪です。その容疑者たちは、時効が廃止になりますと、ずっとその捜査線上に浮かんだままになります。これは非常に大きな問題で、私も実はそういう事件を今抱えております。それから、一度時効になった殺人罪の事件もやりました。
 それで、この人たちをいつまで捜査をし、それからその人たちを起訴できるのかということは非常に大きな問題で、裁判やって無罪かどうか確定すればいい、検察官はそのときに立証が非常に難しくなるんだから、それは裁判でそういう人は起訴されても無罪になるからいいじゃないかと、こういうお考えがあるかもしれませんけれども、実はその前が問題なんですね。その前の段階でその人たちが本当に捜査されないようになるのかどうか、この部分が今までの議論は抜け落ちておるんじゃないかというふうに私は思います。遡及適用にそれは典型的に現れてくるだろうと思います。
 それから、次に時効の廃止の関係で少し申し上げます。
 私は、真犯人の逃げ得を許すような制度が時効制度であるというふうなことが今回議論されておるわけですけれども、結果的にそうなることはあるんですけれども、それは時効制度の中の負の部分の一部なんですね。ところが、時効制度というのは多様な要請に基づいて、いろんなバランスの中でできておる制度でありまして、この公訴時効の存在理由というのは一つに限っておるわけではありません。
 証拠の散逸ということは先ほどいろいろな方も述べられていますのでもう繰り返しませんけれども、後で弁護側の立場から証拠の保管ということについては意見を申し上げます。
 それから、処罰感情の希薄化ということも言われています。これは、被害者の方で非常に処罰感情が強い方がおられる、これは認めます。それは我々否定しません。しかし、実際の多くの殺人事件は家庭内のようなところで起こっています。それから、けんかのような形で起こっていて、被害者にもそれなりの落ち度があるという場合も非常に多いわけです。全く無関係の方が殺されるということも、これもあります。しかし、それはやっぱり全体の中では多くないんですね。ほとんどの殺人事件がかなり起訴され逮捕されるというのは周りで起こっているからです。無関係な事件もあることは否定しませんけれども、それはやっぱり少ないです。そういうこともやっぱりよくお考えいただければと思います。
 それから、ですから、そういう家庭内で起こったような事件は、やっぱり被害者、加害者が両方一致しまして、それなりに、兄弟で殺人したという場合、親は被害者であり加害者であるというようなことになりまして、その方たちはやっぱり感情は一つのけじめをどこかで付けるということも必要かもしれません。
 それから、一般社会の記憶だとか処罰感情は、やっぱり最近起こった事件の方が強いわけでして、三十年、四十年前の事件はそれなりに社会も一つのけじめを付けていくということが必要じゃないでしょうか。
 それから、長期間の時間の経過に伴う事実状態を尊重しろと、こういうことです。これはおかしいと言う方がいらっしゃいます。ところが、これは必ずしもそうじゃありません。例えば、女性の方で、子供を産んでしまって、だれにも言わずに、処置に困ってそういうことを、殺してしまうというふうに、そうしたときはだれにも言わずに更生してもこれは永久に時効になりません。そういうようなことも起こります。
 それから、医者の方なんかは、介護疲れの家族に頼まれて、例えば今後、生命維持装置を外すというようなことが起こるかもしれません。これも殺人なんですね。そういう方が、医者としては立派な医者になっていても、何十年後にもこれはこの法律が成立すれば起訴可能であります。
 それから、時効は、そういうことにとどまらず、捜査機関の合理的な配分という面では非常に大事なことで、これは立法当事者としてこの点の検討なくしてこの法律を通すことは、それはおかしいと私は思います。是非、どれぐらいの件が、この時効廃止あるいは時効期間の延長によって捜査機関が負担になるのか。その問題を議論しないでこの問題を通されるとしたら、それは私は立法の怠慢であるんじゃないかというふうに思います。これは捜査機関を格段に拡充するという問題とセットでないと、これはない。それは新しい事件に割かれる捜査機関の力を落とすことになるだろうと私は思います。
 それから、先ほど申し上げたことと同じなんですけれども、複数の容疑者が浮かんでおる事件の無罪の人たちを解放するという機能については是非御検討ください。これは本当に深刻な問題です。
 それからもう一つ、日本の社会は犯罪が増加しておるというふうに言われる方がいらっしゃいます。これは誤りです。是非司法統計をよく御覧ください。五十年前は殺人死亡事件は約千二百件ぐらいありました。今六百件を切っています。ですから、こういう状況の中で刑罰の範囲を広げていくということがどうして起こるのかというのが問題であります。
 それから、業務上過失致死罪のようなものも、昔は一万人以上の方が交通事故で亡くなっておられたのが、今は四千人を切っておられるんですね、死亡事故だけでいくと。そういう点もやっぱり立法前提というような事実が足りないんじゃないかというふうに思っています。
 それから、立法の経過の中で、先ほど幾つか申し上げたので繰り返しませんけれども、やっぱり慎重にいろんな範囲を広げて御審議いただきたいと思います。
 それから、時間がありませんのであと大急ぎで、立法するのであればこのことは是非お願いしたいと思うのは、証拠の保全、管理の体制の問題です。私どもは、これ、立法必至という残念な結果になると私なんかは考えておりますけれども、証拠をどのように保管していくかということについては、是非立法するのであればセットでお願いしたいと思います。捜査機関の内部規則では駄目です、これは。何十年もきちっと保管することはできません。それで弁護側が、それでその何十年もたった事件、すべての証拠を開示してください。証拠の標目を全部開示してください。それで、それについてチェックできるシステムをつくってください。
 それから、重要なDNA鑑定のような基礎資料は、弁護側も利用できるように第三者機関で保管するようなシステムをつくってください。これ、外国では、もうかなりこの時効の問題とは別にできています。そういうようなことがない限りは、非常に将来、何十年も先に時効に掛からない事件が起こった場合に弁護できません。有利な証拠、一定の証拠だけ保管されることは非常に危険です。
 それから、何十年もの事件あったときに、例えば本当に二十年前の事件が今起訴され、あっ、こいつが犯人かもしれないというときに、可視化も、これから取り調べられます、だから可視化の問題も是非、そういう難事件になりますので、これもやっぱりセットで私どもはやってもらいたいと思います。
 時間がありませんので余り意を尽くせませんけれども、時効は多種多様な機能の中での制度でありますので、逃げ得を許さない、真犯人を逃していいのだという議論をされますと私ども非常に不利なんですけれども、そうではなくて、時効制度とはいろんな多様な機能を持ってそれなりに機能してきた制度だということを御理解いただいて、是非多様な議論を尽くしていただき、最後に申し上げましたような、証拠の保管、利用、それから弁護ができるような形、あるいは取調べの状況の合理化、そういうようなもの等含めて是非立法過程において御審議いただき、これが仕方がないのであれば、その点についてだけは一度同じところで同じ時期に、宿題でじゃなくて、このときに立法化していただきたいというのが日弁連の最低限の要求であります。
 よろしくお願いいたします。
#9
○委員長(松あきら君) ありがとうございました。
 次に、岡村参考人、お願いいたします。岡村参考人。
#10
○参考人(岡村勲君) 全国犯罪被害者の会代表幹事の岡村勲でございます。
 本日は、こういうところで意見を述べる機会をお与えいただきまして、誠にありがとうございます。
 私も法制審議会の委員の一人で、部会委員の一人でございましたが、そのときは日弁連側の委員や幹事が猛烈に反対しました。猛烈に本案に反対した。ところが、今の細井参考人の話を聞きますと、もうこれはできることは当たり前で、それに対して注文を付けるというような立場でのお話がありましたので、日弁連の態度も大分変わったなと思っている次第でございます。
 そこで、私たちがよく言われるのは、平成十六年改正のときにどうしてあすの会は声を上げなかったのかということであります。しかし、平成十六年当時は、私たちは犯罪被害者等基本法の制定に全力を尽くしておりました。そして、当時は法制審議会においてもヒアリングをするという文化がありませんでした。そして、私たちの知らないところでこの十六年改正は行われたのであります。知っておれば当然反対をするところでございました。
 私たちは、昨年、この問題につきまして会員にアンケート調査をしてみました。百四十三名から回答をいただきまして、資料の一、二、それから三というのに付けて、資料の一、これを見ますと、二百八十六名の会員に発送して、回答が百四十三人ございました。殺人罪については九五%が公訴時効の廃止に賛成であります。あとの五%は、どうやら家族内の犯罪であったように思います。そして延長は、殺人罪についてはわずかに五%、殺人罪以外の犯罪につきましては、罪名はいろいろありますけれども八四%、次の円グラフには八三・九%となっていますけれども、それだけ賛成があるということであります。遡及適用につきましては、第二のところにありますように九九%が賛成でございます。一目で見るのが資料の一―二でございまして、ここの円グラフを御覧いただければお分かりになることと存じます。
 そして、私も弁護士でありまして、むしろ平成九年に家内が理不尽な犯罪によって殺害されるまでは加害者側の立場に立った弁護士でございました。被害者のことは全く意に介しませんでした。それが被害者になってみて、あっ、こんなに被害者というものは苦しいのかということに気が付いたわけであります。そうでなければ、今の細井参考人と同じようなことを言っていたかもしれません。私は、弁護士として、被害者の立場も加害者の立場も十分に分かっております。分かった上で、被害者の言うことの方が正しいと思って今まで代表幹事を務めてまいりましたが、加害者が不利になるようなことは一切私はやらないつもりでございます。
 先ほども細井参考人が言われましたように、時の経過によって被害者感情が薄れる、これはおっしゃいませんでしたかね、よく日弁連がおっしゃるんですけれども。これは、絶対そんなことはないですね。もう時がたつにつれて、あの加害者はどこでどんな生活をしているんだろうと思うと、もうたまらなく憤りを感ずるんです。時とともに憤りが増える、増加してくる。どこかで結婚して幸せな家庭を営んでいるんじゃないかと思うと、もうたまらないわけであります。そしてまた、そういう被害者の、逃げ得を許すということは、被害者だけでなく一般国民の素朴な正義感からいっても、倫理観からいっても、許されないことだと思っております。
 そしてまた、未解決事件の被害者の話を聞きますと、いつ加害者がまた近づいてくるのではないかという恐怖感を皆持っております。公訴時効の期間内であるならば、これは警察の保護下にある。いざというときには警察が守ってくれるであろうという安心感もありますが、公訴時効期間が切れますと、もう荒野に一人でほうり出されたような気になりまして、その不安は想像に絶するものがあるのでございます。
 また、時の経過によって証拠が散逸し、訴追や正しい裁判が行われなくなるという話がございますけれども、しかし、時間がたったために、科学技術の進歩によって、今まで証拠価値がないとされたものが、証拠が確実なものであるとされる例もあるわけでございまして、時の経過によって証拠がなくなるということは言えないのでございます。
 そしてまた、証拠の散逸によって弁護が難しくなるという話もありますけれども、例えば有力なアリバイ証人が亡くなるという場合でしょう。しかし、証拠が散逸するということであるならば、それは検察官にとっても同じような問題が生じます。有罪の立証は、検察官が一〇〇%有罪であるということを証明しなければなりませんので、その負担は検察官の方がはるかに大きいのであります。
 そしてまた、日弁連が従来言ってきたのは、公訴時効を、時効期間を延長すると冤罪を生ずる、冤罪のもとになるということでございました。
 そこで、データベース等によりまして、私は冤罪事件を調べてみました。これが資料、お手元にある資料の三でございます。これ見ますと、このブルーのマークは、事件発生から三か月以内に逮捕されたものであります。そして、一年以内に逮捕されたのがこの黄色でありますけれども、この黄色というものの数であります。それから、二年以内というのがピンクで表示しております。これが三件。それから三年以内、正確には二年六か月以内でありますけれども、これが一件だけでございます。
 そして、二、三日前に、ブドウ酒に毒を入れたと、こういう事件がございました。これは、事件発生から七日目の逮捕でございます。また、菅家さんの足利事件でございますけれども、これは事件発生から一年七か月目の逮捕であります。三年以上たって冤罪事件として扱われたものはございません。
 そうなりますと、今の、二十五年の時効でも冤罪を生む可能性があるということは科学的には言えない。また、これを廃止したからといって冤罪を生むという科学的な立証も全くできていなくて、ただ頭の中で想像して言っているものだと私は思います。
 そして、先ほど細井参考人から、いろいろとこの法律が成立した場合の問題点を指摘されました。
 まず、訴追官が大変ではないかということでありますけれども、捜査官が事件が発生すると特捜本部をつくりますが、私どもはこの特捜本部の体制をそのまま時効期間中維持してほしいと言っているのではございません。これは常識的に言って、一応の捜査が終わりましたならばそれは縮小していくのが当然であります。しかし、新たな証拠が出たときには、直ちに捜査をし、事件を事件として持っていく体制は残しておいてほしいということであります。
 以前、二十六年目に自宅の下から白骨が出てきて、それを観念して自首した人がおりました。これは時効完成後の自首でありますから、もはや処罰することも訴追することもできませんでした。こういうふうに、ほかにもそういう事件がありましたが、時効が完成したからせっかく現れた加害者さえも処罰されない、こういうことでいいのかと、この遺族の悔しさはどうにもならないものでありまして、また、それを国民は支持しているわけでございます。
 そして、先ほど、犯罪の数は、殺人事件なんかの数は減っているというお話がありました。減っているのならなおさらのこと、捜査を続けてもそう負担にはならないはずでありまして、それは理由にならないと思います。確かに身内の犯罪も多いでしょう。しかし、訳の分からない事件が多発しております。例えば通り魔事件であるとか、そして理由なく殺される、強盗をやって逃げる、こういうふうな犯罪はやはり依然としてあるわけでございまして、広い意味での凶悪犯罪はむしろ増えていると私は思うわけでございます。
 日本弁護士連合会は、公訴時効の中断公告制度を唱えておられます。これは、確実な証拠のあるものについて検察官が裁判所に申し入れて、そして裁判を経て公告をして時効を中断すると、こういう制度でございますが、これは確実な証拠とは何であるかということについてのまず争いがあります。DNA、指紋、あるいはたなごころの紋、これはいいとして、目撃証人であるとか、あるいは二メートルを超す大男とか、こういうような証言はどうなるのでしょうか。検察官の腹一つで時効が中断したり中断しなかったりするということになり、被害者はそれに対して異議を述べることもできません。
 更に重要なことは、この確実な証拠が残っているかいないかということは被害者にとっては何の責任もないことであります。初期の捜査ミスによって証拠が集められなかった場合もあるでしょう。あるいは、こうかつな加害者が十分準備して証拠を残さないように逃走したこともあるでしょうが、これは被害者の責任では全くありません。それを、ある被害者については中断をし、ある被害者については泣き寝入りさせる、こういうことは被害者を平等に扱わないことでありまして、被害者としては絶対に承服できないところでございます。差別しないでほしいということでございます。
 また、被害者の問題につきまして、時がたつと被害者感情が薄れるということ、それはないということを申しましたけれども、中には、時がたつことによって被害者は次第に忘れていくだろう、そして、新たな幸せな生活をつくるであろう、その機会を失わせることだと、こう言う人がおります。これは全く被害者の心情を理解しない方であり、もし被害者の中でそういう人がいるとすれば、これは既に加害者が捕まったりした恵まれた被害者であろうと思います。
 私どもは、この点についてのアンケートも取ってみました。時の経過とともに気持ちの整理が付いて、そしてやっと新しい生活に入れると思ったのに、またゴールを先延ばしされて苦しみが続くようになっていいのかという説があるけれども、おっしゃる方がいるけれども、どう思いますかといったのがこの資料一―一の最後にあります特定の被害者団体と称する団体の意見についてということで、その意見をそのまま書いてアンケートを取りましたら、百三十七名から回答があって、一〇〇%そういうことに反対であります。同意したものは一つもありません。ないだけでなく、極めて怒りの言葉がそれには添えてありました。
 時間がございませんので、あすの会の立場をここで申し上げたいと思います。
 一年間で三十件ないし四十件の公訴時効が満了していると言われております。刻一刻迫る時効期間の満了におびえている殺人被害者の遺族等の心情を思いますと、一日も早い再改正が必要であって、今回の法制審議会の答申に賛成し、速やかに法律案の立法化を望むということにした次第であります。
 本当を言いますと、私たちはこの……
#11
○委員長(松あきら君) 参考人の方に申し上げます。
 時間が大分オーバーしておりますので、おまとめいただきたいと思います。よろしくお願い申し上げます。
#12
○参考人(岡村勲君) はい。
 そういうことで、私どもの廃止を求めたのはもっと多くの犯罪でありましたけれども、先ほど言いましたような事情で、この法案に賛成をして一日も早い成立を求める次第でございます。どうかよろしくお願いいたします。
 ありがとうございました。
#13
○委員長(松あきら君) ありがとうございました。
 次に、片山参考人にお願いいたします。片山参考人。
#14
○参考人(片山徒有君) 片山でございます。
 私は、被害者と司法を考える会の代表をしております。自分も、息子を九七年の十一月に交通事故で失った被害者遺族でございます。
 先ほどからいろいろな被害者という言葉が出てきておりますけれども、多くの場合、被害当事者は亡くなっているのであり、今回の法案にあります公訴時効についての諸問題を考えているのは多くが遺族ではないか、そういうふうに考えております。
 今日は資料としてお配りいただいておりますものを中心に幾つかお話をさせていただきたいというふうに考えておりますけれども、まず、被害者は多くは普通の人だということです。普通の人が被害に遭ってしまって、悲嘆に暮れる、困り果てる、悲しみに暮れる、そしてやがて回復をしていくということが考えられるのではないかなというふうに思います。
 今回、法案となっております刑事裁判にかかるかどうかの期間を定めております公訴期限というものですけれども、私どもは、犯罪の種類によって、公訴期間の長い短いによって被害者遺族の悲しみは軽くなったり重くなったりするものではないので、むしろ被害回復にどちらがプラスであるだろうかということを中心に話し合って意見をまとめてみました。
 よく刑事裁判にかかることが被害者の望みであるというふうに伝えられております。私どもの中にもそういう意見はございます。しかしながら、刑事裁判がすべてではございません。判決が出て、被告人は刑罰を受け刑務所に行く、あるいはいろいろな形で社会内処遇をする。被害者は一方で、時間を掛けてゆっくりとではありますけれども元の生活に戻っていくと、こういうプロセスがあるのではないかというふうに考えております。
 そのためにはどういう情報が必要なのか。例えば、真実を知りたい、本当のことを理解したい、どうして自分の家族が被害に遭わなければならなかったのかその理由を教えてほしい、誠意ある謝罪が欲しい、いろんな求めがあるかと思いますけれども、ひとえに被害者遺族の回復に寄与するからということではないかなというふうに考えております。
 今回の法案について、私たちはいずれも反対の立場を取っております。被害者なのにどうしてだというふうに思われることもあるかもしれませんけれども、まず今の公訴期間で十分できることはあるのではないかというのが私たちのまず大きな理由です。平成十六年に改正になって、重大凶悪事件については非常に長い期間捜査ができるようになりました。その検証もまだ十分ではないというふうに思います。
 この間どういう変化があったかと申しますと、非常に大きなことは、情報伝達の非常に速やかな速度と、それから様々なデータの共有化、公開化というのが進んできたんではないかと思います。指名手配の写真にしても、だれもがインターネットで容疑者の写真を見ることができ、場合によっては動画まで見ることができるようになったのは大きな進歩ではないかというふうに思います。それにより、今までは警察官が足で聞き回らなければならなかったことが、非常に短時間で情報が多く集まるということも可能になってきたものだというふうに思っております。
 そのようなことから、被害者が膨大な情報を前に、一定の期間、中間総括をしてもらいたいというふうに思うようになると思います。今でも現状そうだと思います。被害者とはいえ、被害者から聞けることもあるから参考人扱いになり、度重なる事情聴取を受けることも多いというふうに聞いております。一定の期間を掛けて捜査をしたけれども捕まえることができなかったというのが時効だとするならば、今一体何をやっているのかしっかりと被害者に説明するのも捜査の一環ではないかなというふうに私は考えております。
 そのようなことも含めて、被害者側は捜査期間が長引けば長引くほど負担が増えていくというのも、これは事実としてあるのではないかというふうに思います。どうしたらいいのかというふうに考えますと、やはり被害者は一定の目安を基準に考えて、それまでに自分自身の立ち直りを目指すのが一番いいのではないかというふうに思います。
 被害者支援にもいろいろありますけれども、精神的な支援、肉体的、健康的な支援、もう一つ回復するのは、社会とのつながりとの意味で刑事裁判がきちんと終わることではないかというふうに思います。不幸にしてそれがなされなかった場合どうするのかという多分問いが、この公訴時効なのではないかというふうに思うのですけれども。もしそうなった場合には、この国全体がその事実を受け止めて被害者に対しても一定の責任を取る、これだけの捜査をしたけれども被疑者検挙に至らなかったという説明をすることが一番いいのではないかなというふうに思っております。
 もう一つ、遡及ということがあるかと思います。今回の法案の中では、既に遡及が、進んでいる事件について新たな法律を適用して実際に公訴時効を延長する、あるいはなくすということも盛り込まれているようですが、私は、法治国家の原則として、やっぱり憲法三十九条を考えますと、事件発生のときに決められた法律が適用されるのではないかなというふうに思っております。
 被害者側としますと、処罰してほしい、いや、どうして明日からは捜査してくれないんだという希望があるのは重々承知をしておりますけれども、じゃ、一体いつまで捜査を続ければいいのか、またほかの犯罪被害者に対する影響はあるのかないのかということも考えますと、一定のバランスポイントというものは持っておかなければいけないのではないかなというふうに考えております。
 被害者が被害者としての悲しみを受け止めて回復に向かう道というものは決してなだらかなものではないのですけれども、その一つとして時間というものが大切だというふうに思います。被害者はその被害後の時間をも奪われてはならない、そのためにも、一定の期間を置いて回復に向かって歩いていく時間も取っておかなければいけないというふうに思います。
 私は、自分の被害者経験も含めまして、いろんな被害者の御支援をさせていただいておりますけれども、その中に長期捜査事件の支援もございます。強く事件解決を望まれる御遺族もおられる一方で、同じ事件の御家族でありながら、長期間これが続くのは正直言ってつらい、就職や結婚、様々な御自身のことも踏まえて、そっとしておいてほしいと直接言われたことが何度かございます。もちろん、悲しみの余り処罰感情が薄れたというふうには決して思いませんけれども、様々な幸福あるいは回復の方法はあるのではないかというふうに重く受け止めました。もちろん、一緒になって事件解決に向かって歩んでいくということは変わりはないわけですけれども、相当なストレスを背負って私に対してそのようなことをおっしゃった御遺族は時間を過ごしておられるなということを感じたわけでございます。
 また、交通事故、私は交通事故の経験しかないわけですけれども、少なくなったとはいえ年間五千人あるいはもっとの方が亡くなる事件の種類が交通事故でございます。私どもの会は、交通事故のほかにも殺人や性犯罪、いろいろな事件の種類の被害者がおられるわけですけれども、悲しみというものはそれぞれであり、回復もその人によって違うのではないかというふうに考えております。
 犯罪被害者等基本法によりますと、一人一人が立ち直りに近づけるようこの国は支えてくださるということでございますので、公訴時効についてもゆっくりと議論をしていただき、また検証も加えながら審議をしていただければというふうに考えております。
 どうも意見を聞いていただきましてありがとうございました。
#15
○委員長(松あきら君) ありがとうございました。
 以上で参考人の意見陳述は終わりました。
    ─────────────
#16
○委員長(松あきら君) この際、委員の異動について御報告をいたします。
 本日、前川清成君が委員を辞任され、その補欠として植松恵美子さんが選任をされました。
    ─────────────
#17
○委員長(松あきら君) これより参考人に対する質疑を行います。
 質疑のある方は順次御発言を願います。
#18
○今野東君 ありがとうございます。民主党の今野東でございます。
 参考人の皆様、大変貴重な意見をちょうだいいたしまして、ありがとうございました。二、三質問をさせていただきます。
 私は、子供のころ、よく親に悪いことをしたって絶対捕まるんだからというふうに言われて育ちました。平成二十一年の犯罪白書を見ますと、かつて刑法犯全体で検挙率は七〇%前後で推移していたと。そういうところから、市民の感覚としては悪いことをしたって捕まると、親も子供に対してそういう言い方ができていたのではないかと思いますけれども、しかし、平成十三年には刑法犯全体で三八・八%、一般刑法犯では一九・八%と低下いたしました。これ、若干回復しまして、二十年は、前年よりわずかに低下はしておりますけれども、刑法犯全体で五〇・九%、一般刑法犯で三一・六%。回復はしているものの、検挙率は一時期よりは非常に低くなっているわけですね。
 この公訴時効の廃止、延長というのは、実はこうした検挙率が下がっているということの先に出てきた意見ではないかと思っております。検挙率を高める、それから冤罪を生まないというのが国民の皆さんの本当の意思ではないかと思います。
 本当に大事なのは、精度の高い初動捜査と、何より刑事警察の捜査能力の向上なのではないかと思います。さらには、今十分ではない被害者の方々の遺族に対する支援、救済策、これをしっかり講じなければならないのではないか、正直言いますと、それが先じゃないかと私は実は思っているんですが、公訴時効の廃止、延長に踏み込む前に、そうした足らざるところをきちんと議論して、法整備もしなければならないところはしていくというのが本当なんじゃないかなと思っているんですけれども、その辺りについての御意見をそれぞれの参考人の方々から伺いたいと思います。
#19
○委員長(松あきら君) それでは、椎橋参考人からよろしくお願いいたします。
#20
○参考人(椎橋隆幸君) 今の今野先生のお考えについては、私は基本的に賛成でございます。検挙率を下げない、冤罪を生まないと、これ非常に刑事司法においても重要なことであります。そのためには、初動捜査、捜査能力の向上というのも大事だと、これもまさにおっしゃるとおりだというふうに思います。
 ただ、今度の重大犯罪についての公訴時効の廃止、延長の問題につきましては、そのことと矛盾することではないというふうに考えておりますので、特に人の生命を害する犯罪、重大犯罪についての公訴時効の廃止、延長につきましては、数は多くなくても、やはり数十人の人の事件について未解決で終わっている。これはやはり法治国家にとっては極めてゆゆしきことでございますし、それから、やはりそのために泣いている被害者遺族の方がおられるということで、これについて、たまたま後にそういうことが分かるということ、そしてそれが問題なく有罪が立証できるということもないわけではございません。そういう場合を救済するということでありますので、そういった意味では、先生言われたことをむしろ補完するような役割を果たすのではないかと、今回の法案は、そういうふうに考えております。
#21
○参考人(細井土夫君) 今、今野先生がおっしゃったことにつきまして、私は同意見であります。
 この法律との関係でいきますと、捜査能力あるいは捜査機関に対して国家予算がどんどんつぎ込まれたりすればこれは別でありますけれども、現状維持あるいはいろんな財政の問題からいってこれ以上捜査機関を強化するだけの余裕がないと、仮にそういう前提で考えますと、この時効の延長は今の理想に反するだろうと私は思います。
 それから検挙率を高める、当たり前の話なんですけれども、じゃ、手持ちの証拠の保管だとか、あるいは過去の事件も捜査本部は一定期間維持しなければいけないのは明らかでありますので、そういう中で考えれば、新しい事件、これに振り分けられる捜査資源は、これは減少すると見ざるを得ないわけですので、私は、検挙率を高める、これとは多分反するだろうと思います。
 捜査能力の向上ということは、これはもちろんやっていただかなきゃいけないことであります、これは当たり前の話なんですけれども。それも、やっぱりこれはいろんな中での考えられることでありますので、私は、皆様が政治的な決断をされて、刑事だとかそういう人たちを五割増やすんだと、それとセットでやるんだと言われれば、これは私はもうありませんけれども、そういうのがなくてこの立法化されることはマイナスに働くだろうと。
 それから、冤罪を生まないということの関係では、これはやっぱり、いろんなまだ、私今少し申し上げましたけれども、言いたいことはたくさんありますけれども、これは時効の延長とはやっぱり矛盾するだろうというふうに思っております。
 それから、遺族への支援は、これはもっとやっぱり私どももやっていただきたいと思っております。ここをされないで刑事司法の場が被害者の方との闘いの主戦場になっておるというところが私は一番残念に思いまして、ここのところを是非やっていただきたい。
 全体的に言いますと、公訴時効の延長、それもそういう御判断されることはあるかもしれませんけれども、それじゃなくて違うところ、優先順位でいけば違うところだろうし、それから、特に廃止というような問題と今の先生の御指摘とは反するだろうというのが私の今考えていることであります。
 以上です。
#22
○参考人(岡村勲君) 基本的には今委員のおっしゃったことに私も賛成でございます。ただ、これが整備しなければ時効の延長、廃止は要らないではないかということについては同意しかねるわけでございます。
 検挙率を高める、これは是非そうしていただきたいと思いますが、ただ誤解がないように申しますのは、私どもは、先ほど言ったように、時効の満了になるまで捜査官を同じように張り付けろということを言っているわけじゃないのでありまして、今の捜査体制を見ますとだんだんに少なくなっていく、これは当たり前のことだと思いますが、時効期間がなくなるということがたまらないし不安であるし、また期間満了後に自首をしたりほかの証拠で捕まったときにもう時効だから何もできない、こういう制度が誠に情けないと、こう思っているわけでございます。
 それから、冤罪につきましては、私どもも冤罪は絶対に困るんです。というのは、真犯人が笑うんです。どこかで笑っているということを思いますと、絶対冤罪は起こしてほしくないと、こういうふうに考えております。幸いにして、先ほどの数字で申しましたように、公訴期間が延びたからといって冤罪は増えるおそれはないであろうと、そういうふうに思っております。
 それから、被害者への支援、これも大いにやっていただきたいんですが、基本法は平穏な日が来るまで途切れることなく支援を行わなければならないということを国や自治体の責務として書いてくださっております。がしかし、保障したからといって、保障されたからといって、被害者の苦しみ、もう加害者を捕まえなくてもいいやということには絶対ならないんでございまして、保障は保障としながら、是非とも捜査は続けていっていただきたいと、こう思っている次第でございます。
#23
○参考人(片山徒有君) 私どもは長期捜査事件につきましての捜査について話し合ったことがございます。
 十年、あるいはその近くになりましたときに中間総括を行うということを先ほど御提案をさせていただいたわけですけれども、その折に、同じ情報でも違う視点で見ればまた違った答えが出ることがありますので、是非とも警察庁直轄で捜査をしてもらえないかなということは考えてみたことがございます。今、都道府県ごとに捜査本部がしかれているのが普通だと思いますけれども、これ、一定の期間を置いた後にはやはり違う視点で見ていくというのも一つは大事なポイントではなかろうかというふうに考えております。
 あと、被害者支援でございますが、長期捜査事件の被害者支援というのは、この国ではなかなかまだなじみがないところだと思います。各地で被害者支援センターみたいなところがいっぱいできてきましたけれども、まだ設立後間もないところが多いですし、早期支援というものはあるわけですが、極めて長い事件ずっと支援を続けるということは現状大変難しいことと伺っておりますので、是非こういった面に向けても関心を持っていただきたいなというふうに思っているところでございます。
#24
○今野東君 ありがとうございます。
 時間がありませんので、あと一問だけ、これは細井先生にお伺いしたいと思いますが、最高裁の第三小法廷で五日に、岡村先生もお触れになりましたが、五日付けで一九六一年の名張市の毒ブドウ酒事件を高裁に差し戻すという決定をいたしました。弁護側の別な農薬が使用されたのだという主張に対して、再鑑定の必要性を指摘したものですけれども。
 さて、この時効廃止は、時間の経過で無罪を証明する証拠や証人が得られなくなって冤罪を生みかねないという懸念の声が上がっておりますけれども、冤罪の防止と、それから今回の改正、これはどのように考えたらいいのかと思っております。お考えをお伺いします。
#25
○参考人(細井土夫君) 今野委員の御質問にうまく答えられるかどうかはちょっと分かりませんけれども、私は、今の冤罪事件の多くは、客観的な証拠に乏しい、かつ非常に長期、厳しい、あるいは極端に言うと拷問に近いような取調べ、しかもそれが密室で行われるということによって起こっておる事件が非常に多いと私自身は理解しております。
 名張の事件、私、今たまたま愛知県弁護士会に所属しておりまして、あの弁護団長をやっておる連中だとか、そういった親交があります。今であれば、名張の事件は、もうとても許されないような逮捕前の取調べ、それから逮捕後の本当に長期にわたる取調べ、そういうものが行われて自白に至るわけです。それは現在も変わっておるのかどうかという点は大きな問題です。
 だから、冤罪が、証拠というものはつくられるんですね、一定期間つくられます。布川事件の二人の人たちも自白しているんですよね。それで、同じことを毎日毎日やられると、同じことを本人の言葉のようにしゃべれます。
 それから、調書を見れば裁判官分かるといいますけど、作る方もばかじゃないものですから、ずっと書いていって、後で本人がここを訂正したなんてちょっと付け加えて、いや、本人にきちっと聞きましたと、最初からそういうストーリーを作っておるわけですので、それは調書からは分かりません。
 ですから、私は、この問題を考えるときには、裁判そのもののやり方だけではなくて、捜査の在り方、ここが変わらない、あるいはここのところが変わらない限りはそう簡単な問題じゃない。
 申し上げますけれども、これ三十年たった事件は三十年後に調べられるんです、被告人はあるいは被疑者は。そのときに非常に厳しい取調べをされて自白した場合に、これを覆すことはまず無理です。私はそう思っていまして、どのような冤罪が起こっておるかについて是非ここの法務委員会の先生方に検証するような場所を設けていただき、それと、どうしてこんな三十年後に起訴されたときに冤罪が起こらないのかということについて取調べとの関係を含めて検証していただければなと、ちょっと答えになっておるかどうか分かりませんが、よろしくお願いいたします。
#26
○今野東君 ありがとうございました。
 終わります。
#27
○丸山和也君 丸山でございます。
 三点ほどに絞ってお聞きしたいと思うんですけれども。
 まず一つは、公訴時効の今回殺人罪等に関して廃止をすると、これはある意味でもちろん犯人をいつまでたっても逃がさないということで、気持ちは十分分かるんですけれども、どうなんですか、じゃ、ほかの重大犯罪についてはやっぱり時効制度がある、殺人に関してはないと。ここら辺のまず、命を奪われたのだけを特別扱いにするということの、そういう被害者間の公平性という観点から考えてもかなり問題があるんじゃないかと思います。生きている、しかし本当もう寝たきりになっている、手足がない、日々それをずっと命のある限り養っていかなきゃならない、こういう毎日見るのと、消えてしまった、こういうのとどちらが苦しみが多いかといっても、これはやっぱり一概に言えない問題があると思うんですね。これが一つと。
 それと、大きな時効制度そのものを考えたら、やはりこれは功罪両方結構危険な面があると思うんですよ、私は。というのは、捜査する担当者にとっては非常に難しい事件だと、なかなか展開できない、でも時効もないから、二十五年たとうが五十年たとうが百年たとうが後のやつがやると。役所的ですから、ある意味じゃ捜査の後送りといいますかね、これになっていく危険性が僕は非常に高いと思うんですよ。
 やっぱり一つの物事というのはけじめがあるから、期限が例えば二十五年だと、何としてもこの間に解決しないと真犯人を捕まえられない、摘発できないと、こういう一つの物事のけじめがあるという中にすべてが進んでいくんじゃないかと私は思うんですね。これが永遠だとなると、一見すばらしいように思うけれども、本当にだれがやるんだと、どの時期に、また将来有力な証拠が出てくればやればいいんじゃないかというような形になりかねない。この点が結構僕は現場の問題としては大きいんじゃないかと思うんですよ。逆にだから、本当に真剣に捜査をやってそれを裁判に持っていくということがむしろ甘くなってしまう危険がありはしないかと、こういう危惧をしています。
 それから、これはかなり内面的な問題にもなるんですけれども、やはり、これは古い話で時代が違うんですけれども、江戸時代とかああいう時代にもやっぱりあだ討ちという制度があったんですね、藩に届け出て許可をもらって。このあだ討ちというのは、討つ方も討たれる方も生涯を懸けた延々とした人生レースなんですよ。それで、五年、十年ぐらいは頑張るんだけれども、二十年、三十年になると、年は取っていく、討つ方も討たれる方もそれですべての人生が終わってしまうという不毛な人生を延々と続けるんですね。それで、これはやっぱり当時の中でも非常にこの制度は問題だなということも指摘されている。
 こう考えますと、今度時効制度が撤廃された、永遠だという中で果たして、被害者の会の一部の方もおっしゃっていましたけれども、本当に新しい人生設計とかけじめを付けた再スタートというのがむしろ妨害、妨げになるんじゃないかという危惧もあるんですね。ここら辺についてお聞きしたいんですけれども。
 その前に、やはりこのアンケート、岡村先生のアンケート、私も分かります。私も一般の、素人と言っては変ですけれども、庶民として受ければ、殺人を犯したやつは逃げてもいいのか、こういったやつが二十五年たって無罪放免になっていいのか、とんでもない、けしからぬ、必ず見付けてやってくださいよと、普通そう思いますよ。でも、やっぱり司法全体のバランスとかいろんなことを深く深く考えた回答では必ずしも僕はないと思うんですよ、こういうのはね。だから、これが九〇%だ、八〇%だ、これ世論がこう言っていますというのは、ちょっと僕は、やや誤導といいますかね、があるんじゃないかと思うんですよ。気持ちは分かりますけれども。
 ここら辺を、日弁連もおとなしくなっているとおっしゃっていますが、僕は昨日、日弁連から時効撤廃制度に反対しましょうという呼びかけの文書が来ましたよ。だからそこら辺も、やっぱり本当に信念のある見解であれば、世論が九〇%がこう言っていると、やっぱり世論操作に、操作かどうかは知りませんよ、やっぱり世論をリードする、指導するという立場も日弁連にあるんですから、そこら辺をもっとやっぱり態度を取ってもらいたいと思うんです。
 それで、私の基本的な考えは、これはやっぱり時効制度の延長という観点で、例えば今二十五年になっているのを五十年にするとか、こういう形でけじめをどこかで付けなきゃならないというのを私、思うんですよ。それで、物事で変わらないことはない。日本って、外国はこうだといろいろ言われますけれども、恐らく日本的、日本人的感覚とすれば、あるいは心理かもしれないですけれども、唯一の真理は、変わらないものはないということですよ。それが唯一の真理だと思うんですよ。だから、永遠にこれはできますよということは、気休めになってしまって、かえって捜査の妨げになるんじゃないかという危惧をしているんです。
 こういう三点なんですけれども、これについて、まず細井先生。
#28
○参考人(細井土夫君) ありがとうございます。丸山先生にエールを送っていただいたと理解しています。
 というのは、私どもはこの問題は反対してきたんです、申し上げますけれども。ところが、政党の意思決定のようなのがもうされつつあるというのが誠に残念なんですね。
 民主党がインデックスであのようなのを書いておきながら、どこでどういう党議決定をされたか私分かりませんけれども、突然、私どもにすれば突然今のような案にまとまっていたと。それから、自民党も、もちろん前森法務大臣が呼びかけられたと理解しますけれども、あのような諮問、内部的な委員会をつくられて、私どもも行きました。そのときも反対しました。自民党政権が終わったので終わりになるのかなと思ったらこのようになって、何なんだというのが偽らざる気持ちです。それから、公明党さんのところにも行きました。公明党さんのところも、まあ私どもも大体賛成です、大体党議決定されていますと、こうおっしゃったから今日のような発言になっちゃって、本当に今思うともっと強く言わないかぬかったなと反省しております。
 それで、申し上げますけれども、日弁連の立場は反対であります。これは意見を言えと言われればまたいろんな機会に申し上げます。
 それで、丸山先生のおっしゃったのを順次申し上げますと、私どもは、重大、凶悪重大という切り口は今の法定刑に合わせ、罰条に合わせていっちゃったものだから非常におかしな状況になっておりますし、多分実質的には世界で一番広い時効廃止になっておるんじゃないかと。例えば、老老介護で殺しても時効廃止です、それから嬰児を殺しても廃止です、だから殺人で人を殺せば時効はないと、こういうことになります。
 それから、それ以外の問題でも、今のバランスでいいのかという問題については大きいので、私は、もし時効を殺人罪で廃止するのであれば、やっぱり特別な法定刑をつくって、そのものについては、計画的な例えば保険金殺人のようなああいうようなもの、本当に凶悪な事件とか、複数の、何というんですかね、人を殺したような特別な事件とか、そういう切り分けをすべきだと私どもは思っていますので、今の切り分けでいいのかという問題では、重大、凶悪重大というのが非常に片面的にとらえられておるということで私どもは今非常に反対であります。
 それから、捜査の後送りになるんじゃないかという先生の御指摘は、私もそのような気はせぬでもないんですけれども、これは是非捜査機関の方たちをここに呼んでいただいて捜査の実態を調べていただかぬといかぬと思います。それが立法者の責任だろうと私は思うんですね。
 それで、その人たちが今どんな捜査で、彼らは暇であるわけではないんです。私どもが告訴状を持っていくとなかなか受け取ってくれないとかそういう問題もありまして、暇ではない人たちの中で本当に捜査がどうなるかというのは、やっぱり実態に合わせた検証をしていただいて、その上で立法をしていただきたい、するのであればですね。
 多分、時効を延長あるいは廃止しても、長期未済事件の検挙率が高まるとは実は私は思っていないんです。これはもう私どもが言える立場にありませんので、私どもはそう思いますとしか言えません。
 それから、あだ討ち云々、これは片山参考人の方にお聞きいただいた方がいいかもしれませんけど、私どもはやっぱりどこかでけじめを付けにゃいかぬというふうに思っています。
 特に申し上げたいのは、今思っているんですけど、我々が弁護しておらないで犯人でない可能性のある人の方こそ問題なんです。その人たちが残されている。重大な、凶悪重大な事件で未解決の事件は、捜査線上に場合によったら何十人も浮かびますよ。それから何人も残っていますよ。だけれども決定的な証拠がないということでずっと、また取調べされるんじゃないか、また取調べされるんじゃないかと、こういうことでおびえているわけで、やっぱりそういう人たちをもう国家の訴追から一定期間たったら外してあげる。
 それから、しかも、もう一度申し上げますけど、公訴時効が二十五年です、今は。二十五年の以後にそういう人たちが、その事件が、本当に真犯人が現れるというようなことはかなり少ないと、そういうことであります。
#29
○丸山和也君 同じ質問なんですけど、やっぱり当事者でも御家族でもあられた岡村先生に。この問題のリード役でしたから、世論に関しても。やや私は批判的な意見を今申し上げたんですけれども、やはり当事者としてのいろいろ御意見、今私が述べました諸点について、どれからでも結構ですけど、是非お聞かせいただきたいと思います。
#30
○参考人(岡村勲君) 第一点の、重篤な障害なんかの方がこれこそ大変ではないかというお話がありました。私も実は同感です。例えば殺人事件ですと、これはもうそのときに終わります。私が殺人事件の被害者だから言えるんだと思いますけれども、そのときに実はいろんな問題を抱えながらも終わります。ただ、重篤な障害を受けた人の苦しみというのはそれからが大変なんですね。
 実は、私たちの幹事の奥さんが看護師さんでしたが、お医者さんに恨みを持った患者から医者の身代わりに刺されて、そしてもう寝たきり。その御主人は、年長の子供と小学校一年の子供をずっと育ててきました。大変な苦労をしてきました。その方が、今年の一月になって、当時、犯人の遺留した紙袋から指紋が出なかったんですが、技術が発達しまして指紋が出たんです。そうすると、二年前の傷害罪で捕まった男との指紋が一致したんです。それでもう一生懸命警察が捜査してくれましたけれども、一月二十四日に時効になってしまいました。もうこれは私は悲しくて、もう見ておられません。
 そういう例も挙げまして私どもが最初法制審で申し上げたのは、もっと広く時効の廃止をしたいと思いましたけれども、だけどこれは、傷害罪というと、ここを、ほっぺたをたたいて赤くなったのも、それから寝たきりにしたのも同じ傷害罪の規定にあるわけです。これはやっぱり刑法改正から進めませんとなかなかできないだろうと。
 ほっぺたをたたいたのも、罪名でやりますといつまでも公訴期間が満了しないかというと困る。刑法改正になる。刑法改正というと、前に刑法改正の問題があって、五百回もやって立派な刑法改正案作りましたが、これは日弁連が反対でできませんでした。それを韓国がすっぽり持っていって、もう韓国の刑法にしております。これ、危険運転致死罪なんかはできましたけれども、なかなか実体法の改正というのは無理なところがあるので、それを待っていたらこれは公訴時効の問題は進まないということで、私ども、これは今回はあきらめたと、こういうことでございまして、先生のその点はおっしゃるとおりでございます。
 それから、けじめということですけれども、これは人によって、やっぱり時効があってもなくてもけじめは付けていく、生きていく上に、やっぱり付ける人は付けています。再婚する場合もあるでしょう。だけど、これは人が、各人が決めることであって、法律でいつまでに決めなさいよというべき問題じゃないと思うんです。だから、法律はあくまでも探してやるよと、だけど生き方はそれぞれの人が決めればいいと、こういうやっぱり制度に私はするべきじゃないかと思っております。
 それから、警察の能力の問題もありました。いろいろこれもありますが、要は時効期間中、警察は全部当たるということはないし、我々も期待はしておりません。ただ、やっぱり時効という制度があることによって被害者が守られている場合もさっき言ったようにありますし、それから後で出てきたときに、犯人が出てきたときに指くわえて見なきゃいかぬ悔しさと、こういうものがあるわけですね。この間の国松長官なんかも、これはこの後出てきてももう捕まらないんですよ。これは大変なことですね。廃止にはなりませんけれども、延長にはなりますが。
 そういうことがあって、警察がどこまでやるかということと、やれる期間を持っているということは必要じゃないかと思っております。
#31
○丸山和也君 でしたら、ここからが本番になってくるので、時間がありませんのでほかの方、是非言うことがあれば一言おっしゃっていただいて、なければ……
#32
○委員長(松あきら君) もう時間ですので。
#33
○丸山和也君 時間ですね。じゃ、私の方はこれで終わります。ありがとうございました。
#34
○風間昶君 公明党の風間ですけれども、今日は四参考人、ありがとうございます。
 先般の委員会でも政府側にお伺いした件で御意見いただきたいと思いますけれども、強制わいせつ致死、強姦致死については、強盗殺人や強盗致死に比べて比較的法定刑軽いわけで、そういう意味で、公訴時効の廃止の対象にならないのは極めておかしいというか、納得できないという女性の方々の御意見が非常に多いことを承知しております。
 そのことを伺いましたら、千葉法務大臣は、総合的検討課題の中で議論していく課題だというふうに、すっと答弁をされたわけでありますけれども、是非この部分について、廃止に反対の御意見を持っている方もおいでですけれども、この強制わいせつ致死、強姦致死、確かに十五年が三十年に延長になりましたけれども、これでは駄目だという声について、それぞれ四参考人に御意見いただきたいと思います。
#35
○参考人(椎橋隆幸君) 風間先生の御質問ですけれども、強制わいせつ致死、強姦致死、これについても大変重い犯罪であるということは間違いないと思いますけれども、例えば強姦致死の場合でいいますと、致死という、死という重い結果についての故意はないということで、今回の場合は重い犯罪の中でも特に人の生命を害するような重大な犯罪について対象にすると。これは、被害について回復が不可能であり懲罰感情も高いということで、そういう例外的な取扱いをすることに正当な理由があるだろうと。
 やはりその重い死という結果について故意がないというものについてまで廃止ということをする、やっぱりその間には一段階、溝があるというか、少し差があるので、そういう差を設けてもおかしくないのではないかと、そう考えております。
#36
○参考人(細井土夫君) 今、風間委員がおっしゃった点については、やっぱり私どもも、まず法定刑の関係でいきますと、強盗致死の場合と強姦致死の場合のバランスは良くないだろうというふうにそもそも思っています、この点は。
 でありますけれども、それと時効廃止の問題と結び付けられますとちょっと私どもはつらいと。これはやっぱり、長期にわたって、じゃそういう事件が四十年後、五十年後に本当に解決されるのかという問題になりますと別の問題でありますので、そもそも私ども、致死、いわゆる殺人についての故意がない場合について時効を廃止する方がおかしいというのが私どもの意見であります。
#37
○参考人(岡村勲君) 先ほど椎橋参考人がおっしゃったように、今回は故意犯に限られているわけですね。致死になりますと、今度は罪名で公訴期間を決めるというようなことになってしまうわけですが、そうなると今の仕組みを完全に壊してしまうことになって、新たな時効制度ということになってしまうわけでありまして、そこまで手を付けるとどうにもならないということで今回はまとまったわけであります。
 もっと言わせていただくなら、私は、親が小さな子供を虐待して殺す、これは私は公訴時効を廃止する、これは大抵捕まってしまいますけれども、許されないと思って憤りを感じているんですね。
 そんなようなことでございますけれども、時間の関係で。
#38
○参考人(片山徒有君) 私どもは公訴時効の延長、廃止に反対しておりますので、廃止というのはちょっと想定をしていないわけですけれども。
 ただ、公訴期間がどのぐらいあったら事件を捜査し尽くせるかということを考えました場合、強姦あるいは女性が被害に遭った事件の場合はまだまだ視点が不足している部分もありますので、今よりは少しは長く取った方がよろしいのではないかなという印象は持っております。
#39
○風間昶君 十五年以上ということですか。
#40
○参考人(片山徒有君) そうですね。そういうことです。
#41
○風間昶君 分かりました。
 もう一点、済みません。
 今回、公訴時効について非常に議論になっているんですけれども、同じように刑の時効についても、やはりバランスを取っていくならば刑の時効の改正も、この法案ではくっついているんですけれども、公訴時効の見直しと刑の時効の対象範囲を同じにすべきという意見があります。このことについて、この今回の時効の見直しと刑時効の見直しの整合性を保つべきだという椎橋参考人、また、これは切り離すべきだという片山参考人の御意見、今いただきましたけれども、全くこれ反対、両者が対立する御意見なんですけれども、もうちょっとこのことについてそれぞれの御説明を簡単にまとめていただければ有り難いと思いますが、委員長、よろしくお願いします。
#42
○参考人(椎橋隆幸君) 私も、公訴時効と刑の時効の見直し、両者は整合性を保つべきだという考え方でおりますけれども、それはどうしてかといいますと、例えば、そうしないと、整合性を取らないと非常に不都合な結果が出てくる場合があり得るということでございます。
 例えば、今回の法律案によって最も重大な殺人等については公訴時効が廃止されるということにした場合、それは公訴時効は廃止されたのでいつでも起訴できると、こういう状態にあります。ところが、刑の時効を見直さないということになりますと、現在、裁判で死刑を宣告されるということになって、例えば逃走するという場合に、三十年で刑の時効が完成するということになります。
 したがって、公訴時効、起訴することはできるんだけれども刑の時効は完成してしまっているというような、そういう不都合な事態が生じますので、そういうことがないように、やはり同じように刑の時効も合わせようということが必要だろうと思います。
#43
○参考人(細井土夫君) 私どもは、刑の時効の問題はほとんど、罰金刑とかそういうものはしょっちゅうそれはあり得ると思うんですけれども、そうでない事件というのはほとんど今実際問題考えられないんですね。適用になった例はほとんどないんじゃないでしょうか。
 それで、私どもはもう今の時効期間で十分だと思いますので、あえてここで延ばす意味はほとんどなくて、抽象的な議論にすぎないと思っております。
#44
○風間昶君 片山さんでしたか、に伺いたいんですけれども。
#45
○委員長(松あきら君) 片山さんですか。
#46
○風間昶君 はい。切り離すべきだという御意見を持っていますようですから。
#47
○参考人(片山徒有君) 刑の時効と公訴時効は全く違う話だと考えておりますので、別々の議論で進めていただくのがいいのではないかと思っております。
#48
○風間昶君 先ほど、法案が成立した場合の弊害の一つとして、証拠の保全管理体制と証拠の保管について法案とセットでという細井先生の御意見でしたけれども、これは予測するに、役所としては運用上できるんじゃないかというふうに思っている可能性もあるんですけれども、私は、細井先生が今おっしゃったのは、立法化も必要だという意味合いでおっしゃったんでしょうか、そこをちょっと詳しく教えていただければと思うんですけれども。
#49
○参考人(細井土夫君) 私どもは立法化が必要だと思っています。というのは、もっと極端に言えば、もしきちっと保管されなかったような場合には、やっぱりそれ相応の制裁まで必要じゃないかというふうに私どもは思っております。
 なぜかというと、運用でやるということになると、我々の目に触れないところで運用が変わったりする可能性は常にあるわけです。これは、例えば本当に何十年も保管しなきゃいけない問題ですので、これを運用でやられてはもうたまらない。それから、保管しなければいけない範囲も含めて、あるいはどういう証拠があるんだということをリストを作っていただくまで含めてやっていただかないと分からない、大きな事件は本当に分からなくなってくるんじゃないかということを恐れています。是非それはお願いしたいと思います。立法でなければ意味がないと私どもは思っています。
#50
○風間昶君 その際、ちょっと関連しますが、先ほど片山参考人でしたか、証拠の部分についてのDNAの話を出されて、第三者が保管できるといったようなお話をされましたけど、これも結局は証拠保全のための第三者委員会なのか何かちょっと分かりませんけど、どのようにお考えなのかを伺いたいと思うんですけれども。
#51
○参考人(片山徒有君) 第三者委員会が一番いいというふうに考えております。
 具体的には、弁護士会であるとか裁判所であるとか、もう公的にある程度認められているところが証拠を全部保管するというものが一番いいのではないかというふうに思っております。
#52
○風間昶君 それから、済みません、片山参考人にお伺いしたいんですけど、比較的軽い刑期の事件については時効が短い、あるいは短過ぎるという印象が強いというふうにおっしゃっていましたけど、この比較的軽い刑期というのはどういったものを想定されていらっしゃるんでしょうか、お伺いします。
#53
○参考人(片山徒有君) 交通事故とか、強制わいせつ等の性犯罪の事件についてです。
#54
○風間昶君 ということは、十五年では駄目で、もう少し延長した方がいいということになるんですね。
#55
○参考人(片山徒有君) いや、そうではなくて、自動車運転過失致死罪のようなものはもっと、公訴時効が短いわけですので、これについてはもうちょっと長くてもいいのではないかなというふうに考えているところです。
#56
○風間昶君 ああ、そういうことですか。
 終わります。
#57
○仁比聡平君 日本共産党の仁比聡平でございます。
 今日は、参考人の皆さん、本当にありがとうございます。
 まず、公訴時効の存在理由について椎橋参考人にお尋ねをしたいと思うんですけれども、時効を今回の改正によって廃止しようとする構成要件について、これまでに議論をされてきた公訴時効の存在理由はこれはなくなったということになるのか。椎橋参考人は廃止に賛成をしておられるわけですが、廃止する構成要件についての従前のその存在理由の考え方、こことの関係をちょっとまずお聞かせください。
#58
○参考人(椎橋隆幸君) 時効の存在理由でありますけれども、これは非常に歴史的に形成されてきたもので、言われるように、処罰感情が薄れる、それから証拠が散逸する、それから事実状態を尊重すると、こういう三つのものが複雑に絡み合ってできてきていると。これはいろいろな国でもそういう理由が挙げられております。ですから、それはそれで、一般的な存在理由としてはそれでいいと思っておりますけれども、ただ、どの理由がどの犯罪にとって大きな影響力を持つかというのはそれぞれ違いもあると。
 その中で、その存在理由については、その根拠が最近相当弱まってきているということが明らかになってきつつあると。
 例えば、処罰感情が薄れるということにつきましては、被害者にとっては処罰感情が薄れるものではないと、むしろ時効期間が迫ってくるとより処罰感情が高まってくるということをお聞きしておりますので、特に重大犯罪の場合にはそういう理由は当てはまらないのではないか。
 それから、証拠の散逸があって、それによって正しい裁判ができないという理由につきましても、例えばDNA鑑定が精度が向上されてきたという段階になりますと、それについても、時間がたっても正しい裁判ができないわけではないと。
 それから、事実状態を尊重するということにつきましても、犯罪をして逃げている、それによってつくられた事実状態というものがどの程度尊重に値するのかというと、それはそんなに尊重に値するものではないだろうと。特に、凶悪な犯罪を犯したというような場合について逃げ得を許すのかということになると、それは第三者の利益というものを考えた上でも、やはりその重大な犯罪を行った者を起訴して裁判にかけて犯罪を犯したかどうかということを審理する、そういうような利益の方が勝るだろうと、はるかに勝るだろうということで。
 そういう意味で、存在根拠がない、場合によってはその一部がないかあるいは極めて弱くなってきたというためにこの見直しがされる根拠が出てきたというふうに考えております。
#59
○仁比聡平君 今のお話を伺いましても、例えばDNA鑑定が問題とならないような事件というようなことについてどういうことになるのかもよく分からないんですけれども、議論にわたっても失礼ですから。
 細井参考人に、この公訴時効の存在理由について、遠い過去に起こった出来事について突然関与を疑われて身柄拘束を受けたり、起訴をされて応訴の負担、危険にさらされるという、そういうことはないんだという国民一般、これは現実の刑事訴追においては被疑者、被告人ということになるんだと思いますけれども、その被疑者、被告人が遠い昔に起こった出来事について突然関与を疑われて訴追されることはないというこうした利益というのは、この公訴時効が果たす一定の役割といいますか、あるいは中心的役割というようなものもあるのではないかと思いますけれども、参考人、いかがでしょうか。
#60
○参考人(細井土夫君) まさに私どもそのように考えておりまして、多分、私の想像で答えますけれども、ある犯人が一人捕まった、この事件もおまえがやっただろうというようなときに、あの人と一緒にやりましたと、こういうようなケースは十分あるんですね。もちろんそれは、三十年、四十年前の事件で真犯人が出るというのはめったにないことですけれども、巻き込まれというのは非常に多いです、共犯との関係ですね。
 だから、国民の皆様は、自分とは関係ない、真犯人の問題だというふうに御理解なのかもしれません。私どもは、そうじゃなくて、違うんだと。時間があればもっと詳しくお話ししたいですけれども、突然容疑者で浮かび上がるということはないわけではないと、めったにない話ではありますけれども、ということであります。
#61
○仁比聡平君 前回の私どもの委員会で審議というか話題になりました茨城県の牛久の事件などは、そうしたことにもかかわることかなと思うんですが。
 少し先に進みまして、先ほどの、これまでの御意見の中で椎橋参考人と岡村参考人から、証拠の散逸の問題は両当事者に働くのであって、決して被告人側に不利益にはならない、むしろ検察官の立証責任というのは厳しいものがあるので御心配には当たらないと、そういった趣旨の御発言があったわけですが、この点について細井参考人はどうお考えでしょう。
#62
○参考人(細井土夫君) これは、やっぱり弁護してみないと分からないというところがありますけれども。
 今の証拠の構造、どういうことになっているかというと、参考人、いわゆる証人の検面調書あるいは、検面調書というのは検察官が取った調書という意味です、それから警察官が取った調書、それは本人が、その証人らしき人が死んじゃうと、これいきなり証拠能力を持つんですね、現在では。それについて、その反対尋問をする機会はありません。それで、もちろんそういう証拠は反対尋問の機会がないから信用しないですよと言っていただければいいんですけれども、私どもが経験するのは、生きておって、ところが証言へ出てきていただくと違うことを言うことがあるんですよ。ところが、現在の裁判所はそういうときにどう言うかというと、昔の方が新鮮な証拠、新鮮なときに取られた証拠だから、法廷よりも昔の方が信用できると言って、調書を信用して有罪にするというケースがあるんです。これ現にあります。もう裁判をやっていると常にそういう問題が起こります。
 だから、私ども、反対尋問が成功したんだと思ったら失敗しちゃっておると、そういうことが現に起こりまして、しかも三十年後や四十年後にはそういうことがあり得ますので、私は証拠構造を全部見直していただくことも含めてやっていただかぬと、検察官は一定の証拠を持っておる、それから弁護人はそれに対する反証の手段がないということは十分起こり得るんで、証拠構造からいろいろ考えていただかないとまずいんじゃないかと私どもは思っております。
#63
○仁比聡平君 ちょっと話題を変えまして、どんな制度改正の設計にするのかと。今回は、提案されているのは一律の廃止という提案なんですけれども、椎橋参考人の冒頭の御意見でも、生命侵害犯については、時の経過によって一律に犯人が明らかな場合の処罰の可能性をなくすことは相当ではないのではないかという御趣旨の御発言があったかと思うんです。
 ここにかかわるのかなと思うんですが、細井参考人からも、多くの容疑者が捜査線上に浮かぶ、うち多くの人は無罪になる、この方々を解放する機能をどうするのかと。これ、仮に廃止という今回の改正が通るとするとしても、多くの容疑者を、時効がもうなくなるわけですから、ずっと追いかけられ続けるという危険が、追われ続けるという状況から解放する必要があるのではないかと。ここについての、まあこれ向かっている方向、逆のことをおっしゃっているのかもしれないんですが、具体的な制度設計として何かお考えの部分があれば細井参考人に伺いたいと思います。
#64
○参考人(細井土夫君) 無罪の立証というのは、もうよっぽどのケースでないと駄目なんですね。本当にアリバイが成立するというのは、希有な事例はあり得ます。ですけど、何十年も前のことについてアリバイ立証なんて、究極不可能です。ですから、その方法は私どもはないと思っているんですね。そういうところにこの公訴時効は機能を有しておって、非常に国家としても全体的なバランスの中に機能する場面があると思っているわけです。
 もう一度繰り返しますけど、そういう人たちを解放する制度設計を私はつくることは時効制度以外にはないと思っています。あったら教えていただきたいというのが私どもの意見であります。
#65
○仁比聡平君 そこで、椎橋参考人にお尋ねしたいんですが、犯人が明らかな場合という場合の処罰の可能性を残す仕組みとしては、これは廃止以外にもあり得て、二つほどの案が法制審でも検討されたというふうに考えるんですけれども。つまり、公訴時効を維持したままで、その時効期間の完成によって著しく不正義な事態が起こるという場合を例外的に処罰の対象にするような仕組みということを考えるのは、これはあり得ないことなんでしょうか。先ほど来、公訴時効の一律に取り扱うという本質からすると、これは不適合だと、廃止するか、それとも存置するかしかないという御趣旨にも聞こえるんですが、いかがでしょう。
#66
○参考人(椎橋隆幸君) その事件の重さによって、廃止、延長ですよね、そういうふうに一律に行うか、それとも個別に行うかと、こういう問題として受け止めてよろしいでしょうか。
 個別に、事件ごとに著しい不正義を正すために一定の取扱いをして、それによって時効が完成するのを防ぐと、これも一つのアイデアだとは思われますけれども、先ほども触れましたけれども、どうしても、どういう具体的なその場合に制度設計をするかということになりますけれども、結果的にはいいようでいて余り良くないと。それはどういう意味で良くないかというと、たまたまその当時に証拠があるものしか起訴できない、というか、時効を停止させるということができるにすぎない、残っていないものについてはこれはそれができないということになります。
 それから、どういう方法でやるかということになると、例えば法制審議会の刑事法部会でも御提案ありましたけれども、例えば逮捕とかがあった場合に、一定のそういう逮捕するだけの証拠があったので、それを検察官が請求して裁判官がそれを認めてということになるわけですけれども、その場合には後の裁判に対する予断を裁判官が抱くということもありますし、それから、逮捕程度の証拠で果たして時効が停止、中断するというような効果を認めていいのかという問題もありますし、それから、検察官とそれから裁判官、そういう法曹の中での運用によって果たしてそういう時効停止の効果を認めていいのか、もうちょっと適正な手続というものを踏むべきではないかというような、結構いろいろな難点がございますので、そういう意味では、やはりうんと重い犯罪については一律に廃止ないし停止という方法の方が、それで、さっき言いましたのは、何といっても難点は、真犯人が出てきたと、あの足立区の小学校の先生が殺害された事件のように殺害犯人が自首してきたと。それは心から自首してきたわけではないんですけれども、そういう場合に、犯人が明らかになったというような場合にも、そういう場合にはそこまでは分からないわけですから、結局時効が完成してしまっている、はっきり犯人であるということが容易に証明できるような場合にでもそれは時効が完成ということ、その事態を救えないという難点がございます。
#67
○仁比聡平君 今参考人がおっしゃられた件については私はいささか疑問を持っておりまして、例えば足立区の事件は、いずれにしろ公訴提起が不可能なのではないか、可能なんだろうかというような思いも持っているんですが、この点はちょっとおいておきます。
 最後になってしまって恐縮なんですけれども、岡村参考人に、先ほど御説明をいただいた戦後の冤罪と言われた主な事件という資料の中で、無罪が確定をした事件、途中、死刑判決のあった事件を冤罪として紹介をしておられるんだろうと思うんですけれども、私、前回の委員会でも佐賀県の北方事件という事件を取り上げました。
 これ、一審、二審無罪、これで上告断念をされた事件なんですが、これによって四年九か月の身柄拘束と応訴の負担を受けているんですね。これは時効完成間際、あと六時間で時効が完成するというときに起訴をされたという事件なんですが、福岡、佐賀、弁護士会挙げて取り組んだ事件です。
 こうした、たとえ無罪になったとしても、その応訴の負担を受ける、身柄拘束を受けると、これはやはり被害者の皆さんの立場から見てもあるべきではない権利侵害であり、真犯人を逃すことになると思うんですけれども、いかがでしょう。
#68
○委員長(松あきら君) 岡村参考人、時間ですので、少し短めにおまとめいただきたいと思います。よろしくお願いいたします。
#69
○参考人(岡村勲君) はい。
 その事件は、判決が確定をした事件で、そして再審請求をしているという事件でしょうか。
#70
○仁比聡平君 無罪ですから、それで無罪のまま確定しております。
#71
○参考人(岡村勲君) 時効間際に逮捕されて、無罪になったと、そういうこともあるかもしれませんが、しかしそれは、やっぱり無罪、そこまでというケースは極めてレアケースだろうと思うんです。私どもの調査では余りそんなようなケースは出てこないので、冤罪といった場合は確定した場合を言うので、無罪の推定がある段階では私どもは考えておらないんですけれども、そういう場合は極めてレアケースであろうと思うんですね。別の形で防げないものかなと思います。
#72
○仁比聡平君 終わります。
#73
○委員長(松あきら君) 以上で参考人に対する質疑は終了いたしました。
 参考人の方々に一言ごあいさつを申し上げます。
 本日は、大変お忙しいところ貴重な御意見をお述べいただきまして、本当にありがとうございました。本委員会を代表いたしまして厚く御礼を申し上げます。(拍手)
 本日の審査はこの程度にとどめ、これにて散会をいたします。
   午後零時十三分散会
ソース: 国立国会図書館
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