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2007/11/22 第168回国会 参議院 参議院会議録情報 第168回国会 厚生労働委員会 第7号
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2007/11/22 第168回国会 参議院

参議院会議録情報 第168回国会 厚生労働委員会 第7号

#1
第168回国会 厚生労働委員会 第7号
平成十九年十一月二十二日(木曜日)
   午後一時開会
    ─────────────
   委員の異動
 十一月二十日
    辞任         補欠選任
     青木  愛君     森 ゆうこ君
     吉川 沙織君     足立 信也君
 十一月二十二日
    辞任         補欠選任
     津田弥太郎君     轟木 利治君
    ─────────────
  出席者は左のとおり。
    委員長         岩本  司君
    理 事
                家西  悟君
                谷  博之君
                蓮   舫君
                衛藤 晟一君
                渡辺 孝男君
    委 員
                足立 信也君
                大河原雅子君
                風間 直樹君
                小林 正夫君
                櫻井  充君
                轟木 利治君
                中村 哲治君
                森 ゆうこ君
                石井みどり君
                岸  宏一君
                坂本由紀子君
                島尻安伊子君
                中村 博彦君
                西島 英利君
                山本 博司君
                小池  晃君
                福島みずほ君
   事務局側
       常任委員会専門
       員        松田 茂敬君
   参考人
       日本労働組合総
       連合会総合労働
       局長       長谷川裕子君
       社団法人日本経
       済団体連合会専
       務理事      紀陸  孝君
       東京大学大学院
       法学政治学研究
       科教授      荒木 尚志君
       全国労働組合総
       連合副議長
       全日本金属情報
       機器労働組合(
       JMIU)中央
       執行委員長    生熊 茂実君
       働く女性の全国
       センター(AC
       W2)代表    伊藤みどり君
    ─────────────
  本日の会議に付した案件
○労働契約法案(第百六十六回国会内閣提出、第
 百六十八回国会衆議院送付)
○最低賃金法の一部を改正する法律案(第百六十
 六回国会内閣提出、第百六十八回国会衆議院送
 付)
    ─────────────
#2
○委員長(岩本司君) ただいまから厚生労働委員会を開会いたします。
 委員の異動について御報告いたします。
 本日までに、青木愛君、吉川沙織君及び津田弥太郎君が委員を辞任され、その補欠として森ゆうこ君、足立信也君及び轟木利治君が選任されました。
    ─────────────
#3
○委員長(岩本司君) 労働契約法案及び最低賃金法の一部を改正する法律案の両案を一括して議題といたします。
 本日は、両案の審査のため、五名の参考人から御意見を伺います。
 本日御出席いただいております参考人の方々を御紹介申し上げます。
 日本労働組合総連合会総合労働局長の長谷川裕子参考人でございます。
 社団法人日本経済団体連合会専務理事の紀陸孝参考人でございます。
 東京大学大学院法学政治学研究科教授の荒木尚志参考人でございます。
 全国労働組合総連合副議長・全日本金属情報機器労働組合(JMIU)中央執行委員長の生熊茂実参考人でございます。
 働く女性の全国センター(ACW2)代表の伊藤みどり参考人でございます。
 この際、参考人の方々に一言ごあいさつ申し上げます。
 本日は、御多忙中のところ、当委員会に御出席をいただき、誠にありがとうございます。
 参考人の皆様から忌憚のない御意見をお述べいただきまして、両案の審査の参考にさせていただきたいと存じますので、何とぞよろしくお願いいたします。
 次に、議事の進め方でございますが、まず、参考人の皆様からお一人十五分以内で順次御意見をお述べいただき、その後、委員からの質疑にお答えいただきたいと存じます。
 なお、参考人、質疑者ともに発言は着席のままで結構でございます。
 それでは、まず長谷川参考人にお願いいたします。長谷川参考人。
#4
○参考人(長谷川裕子君) 連合の総合労働局長の長谷川です。
 本日は、最低賃金法及び労働契約法について私どもの意見を述べる場を与えていただきまして、ありがとうございます。
 まず初めに、今回の最低賃金法の改正について述べさせていただきます。
 現在の雇用労働者をめぐる状況を見ますと、正規と非正規労働者、地域間、企業規模間、世代間、男女間などにおける格差の拡大、二極化が大きな問題となっております。とりわけ、働いても働いても貧困から抜け出せないワーキングプアの問題を私たちは真摯に受け止めなければなりません。
 労働基準法は、その第一条で、労働条件の原則で、労働条件は、労働者が人たるに値する生活を営むための必要を満たすものでなければならないとしております。その趣旨を踏まえて、最低賃金制度でも、すべての労働者の労働条件の下支えとして機能させることが必要であります。しかし、現在の地域別最低賃金の水準は、一般的な労働者の生活水準と比較しても、また労働の対価としても、余りにも低いと考えます。これは労働の尊厳を否定するものであり、社会的セーフティーネットとしての機能を果たしているとは言い難いのではないでしょうか。
 最低賃金の決定に当たっては、通常の事業に期待することのできる賃金経費の負担能力や必要最低生計費の実態を十分に考慮して、賃金の底支え機能を強化すべきと考えております。今回の改正により、賃金の最低限を保障するセーフティーネットとしての機能強化を図ることができると受け止めております。
 一方、地域における団体交渉を補完し、事業の公正な競争の確保と公正な賃金決定ルールの確立のために、産業別最低賃金が果たす機能と役割は極めて重要であります。今日まで制度をはぐくんできた労使や関係者の努力を高く評価すべきであります。また、今回の改正により、産業別最低賃金の枠組みを継承することができたことを評価しております。さらに、水準の改善はもとより、機能の拡充を図り、使いやすい制度とすべきであると考えております。
 今回の改正を踏まえて、連合は、生活できる最低賃金水準への引上げを目指す、水準を重視した取組を行ってまいりたいと考えております。
 次に、労働契約法についてであります。
 近年、グローバル化、企業間競争の激化、技術革新の進展など、企業経営を取り巻く環境は変化しております。こうした変化を受けて、企業組織の再編や人事処遇制度の見直しが行われ、また、パートタイム労働者、有期契約労働者、派遣や請負労働者の増加など、雇用就業形態の多様化も進んでいます。これらの変化を背景に、解雇や雇い止め、労働条件の引下げなど、労働契約に関する個別的労働紛争が大きく増加しております。
 例えば、都道府県労働局に寄せられた労働相談の件数は、二〇〇六年度では約九十五万件と、百万件に迫る勢いで増加し、そのうちの約十八万七千件は、解雇、労働条件の引下げ、いじめ、嫌がらせなど、民事上の個別的労働紛争に関するものであります。また、二〇〇六年四月にスタートした労働審判制度も、二〇〇六年度は千百六十三件、二〇〇七年四月から九月までの半年間には七百七十六件と、前年を超えるペースで申立てが行われております。連合が各都道府県の組織で行っている労働相談に持ち込まれる労使紛争の数も増加する一方であります。
 このような労働契約をめぐる労使の紛争は、これまでは民法などの規定をよりどころとした裁判所の判断が積み重ねられて解決が図られてきました。しかし、個別的労働紛争の解決には、紛争処理の仕組みを整えるだけではなく、その解決の基準となる実定法が必要であります。さらに、こうした個別的労働紛争を未然に防止するためにも、労働契約の成立、展開、終了の全ステージについて包括的に労働者と使用者の権利義務を規定する基準として、法律として労働契約法が必要だと考えております。
 連合は、労働契約法が必要であるとの認識から、二〇〇一年十月の定期大会で労働契約法案要綱骨子を確認し、その実現を求めてまいりました。その内容は割愛いたしますが、どのような労働契約法が必要と考えているのかについて簡単に触れておきます。
 一点目は、労使の実質的な対等性を確保するものであるべきということであります。
 労働契約の基本は労使合意であります。労働者と使用者の間には情報量でも経済力でも交渉力の面でも格差があり、決して対等ではありません。高度な専門的能力を持つイチローや松井のような労働者は例外中の例外であり、普通の労働者にとっては圧倒的に使用者の方が強いのが現実であります。こうした労働者と使用者の力の非対称性を補正し、実質的な対等に近づける仕組みを組み込んでいくことが必要です。
 二点目は、判例の規範となり、労使の行動、行為規範にもなるものであるべきだということであります。
 労働関係の法律では指針やガイドラインが多用されますが、こうしたものは、労使の行動規範となる面があったとしても、裁判規範とはならないでしょう。紛争解決の基準であり、かつ紛争の未然防止に資するものであることが重要であります。さらに、手続規制と実体規制を適切に組み合わせたものであること、強行規定を基本としたものであることが重要であると考えております。
 連合の労働契約法では、これらの考えを基本に、労働契約の入口から出口まで、すなわち募集、採用から採用内定、試用期間、労働条件の変更、転居を伴う配置転換、出向、転籍、そして解雇や有期労働契約などについてのルールを整備するものとしております。
 さて、次に、今回の労働契約法案について述べます。
 労働契約法の制定が本格的に議論の遡上に上るきっかけとなったのは、二〇〇三年の労働基準法改正ではないかと思います。二〇〇三年の改正では、労働基準法第十八条の二として解雇権濫用法理が明文化され、国会審議では、衆参両院で、労働契約について包括的な法律を策定するため、専門的な調査研究を行う場を設けて積極的に検討を進め、その結果に基づき、法令上の措置を含め必要な措置を講ずることという附帯決議が付されました。その後、二〇〇四年四月に、厚生労働省が研究者による今後の労働契約法制の在り方に関する研究会を立ち上げ、その報告が二〇〇五年秋にまとめられ、労働条件分科会での議論が開始されました。
 私は、公労使、三者で構成される労働条件分科会の労側委員として労働契約法の議論に参加したわけですが、労働契約法の議論は様々な面で大変に難しいものでありました。厚生労働省の研究会でも一年半の時間が掛かったように、その内容が高度に専門的であるということであります。また、厚生労働省の研究報告だけでなく、日本労働弁護団の労働契約法立法提言、連合総研の労働契約法試案などの立法提言がなされたり、シンポジウムが相次いで開催されたり、研究者、弁護士などからの提言が活発に行われるなど、どのような労働契約法を作るべきなのかということをめぐっては、正に百家争鳴の状態でありました。
 このような状況で行われた労働条件分科会で議論し、労使が合意形成するのは大変な難しさがあり、二〇〇六年六月からは審議会が二か月間ストップするという事態にもなりました。二〇〇六年六月二十七日の労働条件分科会に提出された中間報告では、研究会報告をベースにして、常設の労使委員会を就業規則の変更の合理性判断に活用することや、解雇の金銭解決の仕組みや変更解約告知のような制度など、労働者にとっては問題をはらんだ項目が検討項目に並んでいました。
 しかし、労働法が適用されるのは正に職場であります。労使が合意し納得したものでなければ職場で適用されるルールとはならないでしょう。この認識は労使ともに一致し、労使で合意できるものを法制化しよう、どのような項目と内容であれば合意ができるのか整理して議論しようということで審議会が再開し、議論を重ねてまいりました。
 そして、二〇〇六年十二月末には労働条件分科会としての報告をまとめました。報告では、労働契約の原則とともに、労働契約の成立、変更、終了について、判例として積み重ねられ定着したものを法文化するということになりました。
 当初、就業規則の変更の合理性判断に常設の労使委員会の決議を活用するとか、過半数組合との合意があれば個別の労働者と使用者の合意を推定するとか、過半数組合がない場合は過半数代表者との合意に法的効果を与えるなどの提案がなされていました。確かに、三六協定など、労働基準法などでは、過半数組合があれば過半数組合、過半数組合がない場合は過半数代表者との労使協定を締結される規定はあります。しかし、法定労働時間を超えて労働させることができるとか就業規則の作成変更の意見聴取の相手としての機能であります。労働契約は労働者と使用者の合意が原則ですから、幾ら過半数組合と合意したからといって、それを労働契約にするのはどうなのかとの疑問はぬぐえません。ましてや、労使委員会というものに労働条件変更の協議、就業規則変更の推定など、労働組合と同等若しくはそれ以上の機能を認めることはできません。連合のこうした主張により、この項目は報告から落とすことができました。
 また、解雇の金銭解決制度や労働者に重い訴訟負担を強いる変更解約告知についても報告から落とすことができました。年明けの二〇〇七年一月と二月の審議会では、この報告に基づいて法案要綱が判例法理どおりになっているのかどうか、判例法理を足しも引きもしないものになっているかどうかを議論し、その確認をいたしました。
 ところが、二〇〇七年三月に閣議決定し、第一六六通常国会に提出された法案には、審議会で審議した法案要綱と比較して六つの点で懸念がありました。
 第一は、第一条に目的で、労働契約と就業規則との関係等を規定するとなっていたこと。第二に、第四条で、労働者に提示する労働条件及び締結し、又は変更した後の労働契約の内容について、労働者の理解を深めるようにするものとするとなっていたこと。第三に、第五条、労働者の安全への配慮では、使用者は労働契約により必要な配慮をするものとするとなっていたこと。第四に、第七条で、就業規則を労働者に周知させた場合にはとなっていたこと。第五に、第十四条、出向では、第二項の出向の定義の表現ぶり。第六に、第十七条、期間の定めのある労働契約の規定による立証責任の問題の六点であります。
 連合は、これら六つの懸念を示し、その修正を求めてまいりました。衆議院での法案修正により、これらの点は解消され、審議会で労使が合意した内容での法案になったと認識しております。さらに、衆議院での修正により、第三条、労働契約の原則に均衡考慮や仕事と生活の調和が追加されましたし、第四条に、労働契約の書面確認では、期間の定めのある労働契約に関する事項との表現が入りました。
 雇用就業形態が多様化する中で、正規と非正規の格差、ワーキングプアなどの問題が生じています。こうした中で求められているのは、非正規から正規への転換を促進することと同時に、雇用形態の違いによる格差の是正であります。我が国においても、ヨーロッパ諸国のような均等待遇原則を確立することが必要だと考えております。また、労働者のワーク・ライフ・バランスをいかにして実現するのかが我が国の重要な課題であることはだれの目にも明らかであります。このような現状において、均衡考慮や仕事と生活の調和などが盛り込まれたことは大変意義のあることだと受け止めております。
 もちろん、今回の労働契約法案に私どもが一〇〇%満足しているかといえば、そうではありません。雇用就業形態の多様化においては、パートタイム労働者や有期契約労働者だけでなく、派遣労働者や請負労働者も増加し、あいまいな雇用と言われるような形態で働く人たちも出てきております。これら適切に対応するよう、経済的従属関係にある労働者も労働契約法の対象にすることや、有期労働契約に対する保護、均等待遇原則などが必要であると考えております。
 また、冒頭に申し上げましたように、労働契約は労働者と使用者の合意が原則であります。しかし、労働者と使用者の力関係は対等ではありません。ですから、労働契約では対等な立場での合意にどのようにして近づけていくのかということは重要であります。消費者契約法なども参考に、契約の締結や変更の過程における情報提供や説明などについても盛り込むべきだと考えています。
 その他の項目面でも今回の労働契約法ではまだまだ十分ではありません。しかし、労働契約法は全く新しい法律です。私たちは、行政の指導監督によって履行を確保する実定法に慣れてきたわけですから、労働契約法は司法上の効果を規定する法律であります。判例法理を知っている使用者や労働者はほんの一握りという状況でしょうから、多くの人が労働契約法の性格やその内容を理解することには一定の時間が掛かると思われます。こうしたことからも、労働契約法は、今回非常に小さかったわけでありますけれども、小さく産んで大きく育てていかなければならないのではないかと考えております。
 以上で最低賃金法及び労働契約法に関する私の意見陳述を終了いたします。御清聴ありがとうございました。
#5
○委員長(岩本司君) ありがとうございました。
 次に、紀陸参考人にお願いいたします。紀陸参考人。
#6
○参考人(紀陸孝君) ありがとうございます。座ったままで恐縮であります。日本経団連、紀陸と申します。本日は労働契約法案と最低賃金法の改正案に関する見解を述べさせていただく機会を賜りまして、冒頭に御礼申し上げます。
 初めに、労働契約法案につきまして総論的な観点から今回の立法に関する基本的な考え方を述べた上で、個別事項や今後の検討課題についても意見を述べさせていただきたいと存じます。
 労働政策審議会におけるこの労働契約法案に係る審議につきまして、我々使用者側といたしましては、紛争解決のルールの明確化及び弾力的な対応の両立を図る、これを目指して論議に臨んでまいりました。これまでの総論的な主張は、以下述べます二点に集約できるかというふうに存じます。
 まず第一でございますけれども、労働契約は契約当事者の自主決定が基本であるということから、労使の自治を最大限尊重するということであります。したがいまして、契約法は自主決定、労使自治を促進、補完する、そういう位置付けであることが望ましく、法律で一律的な要件を設定してそれを満たさなければ無効である、すなわち労働条件の設定ができないというような契約実態を過度に規制することは避けるべきだというふうに考えております。
 第二は、最初から雇用の全ステージを網羅する一律の法律的な規制ありき、そういう観点ではなくて、個別労働紛争の増加への対応としてどのようなルールが必要か慎重に検討し、真に必要な項目に絞り込むことは十分な仕組みではないかというふうに思います。法体系として精密あるいは精緻であっても、中小企業あるいは零細企業を含めて一般的な企業の実務の観点から乖離してはいけませんし、とりわけ円滑な法遵守や活用が望めないと、仕組みの改定というのは全く無意味になってしまいます。あくまで煩雑な手続規定を極力排除したシンプルな仕組みを求めてまいったつもりでございます。
 このような観点から、改めて今回提出されました法案を拝見いたしますと、まず第一条におきまして、労働者及び使用者の自主的な交渉の下で、労働契約が合意により成立し、変更されるという合意の原則がうたわれております。労使自治を第一に置いて基本的なルールを定めていく、そういう原則が極めて重要でありまして、その点が配慮いただいているものと理解しております。
 次に、この契約の法案の特に核心となる部分でございますけれども、労働契約と就業規則との関係におきまして、就業規則による労働条件変更法理、これを明らかにした点でありまして、ここに大きな意義があるかというふうに評価いたしております。
 現行法制では、労働基準法に就業規則の記載事項や制定、変更等の手続規定、就業規則に達しない労働契約の効力にかかわる規定はございますけれども、就業規則が労働契約の内容となる効力、あるいは労働契約を変更する効力などについては規定はございません。就業規則による集団的な労働条件の設定というのが非常に企業実務において重要であること、また、最高裁判例で積み重ねられた判例法理をきちんと確立していること、さらに個別労働紛争の実態として、労働条件の不利益変更をめぐるトラブルが多いことなどを踏まえますと、労働契約と就業規則の関係をきちんと整備する必要がある、また、その点が一番大事な課題ではなかったかと思っております。
 今回、就業規則の不利益変更にかかわる合理性の判断要素につきまして、第四銀行事件判決、その七つの要素を四つに整理、集約した上で、何を総合的に考慮し、合理性判断が行われるかが明確にされましたので、労使双方で一定の理解が進むものと期待しております。
 なお、就業規則による不利益変更の法理を法制化することによって、例えばでございますが、就業規則によれば一方的に労働条件の切下げが行われる、それが可能になるという誤解があったり、あるいは法制化によってそのような企業行動が助長されるんではないかというような懸念があることは承知をいたしております。
 しかし、そもそもこの法案の第九条で、変更には当事者合意が必要である、その原則を前置きした上で、第十条で例外的手続として不利益変更にかかわる規定が置かれまして、さらにこの判断要素も列挙されております。したがいまして、使用者側にとりましても、就業規則による労働条件変更の合理性判断のハードルの高さ、これを改めて認識することになりますので、安易な労働条件の変更という行動につながることはないと考えます。
 なお、今般の衆議院における審議によりまして法案が一部修正され、第三条の労働契約の原則に、均衡考慮、さらに仕事と生活の調和への配慮という規定が追加されました。労働者の均衡考慮又は均等待遇を契約行為に盛り込むか否か、かつての労働政策審議会の中で検討されましたけれども、労使間の見解が大きく隔たったまま今日の検討課題になったという経緯がございます。
 一般的にでございますが、平等とか同一を求める均等という概念とバランスを取る意味での均衡、その意味するところは大きく異なるんではないかというふうに私ども考えております。
 長期雇用を前提とする労働者と有期契約の労働者との間で、採用形態であるとか賃金決定、あるいは職務内容、人材活用の仕組みが異なっております。長期雇用を前提とする労働者の賃金、言うまでもないですけれども、一時点の労働量に応じて決定するだけではなくて、職務内容、責任、成果、貢献度、長期キャリアを前提として、将来の期待も含めて設定しております。他方、有期の労働契約者の方々の賃金は、労働市場あるいは需給バランスによる影響が大きく、雇用形態によって賃金決定要素あるいは賃金水準、そういうものに差異が生じるのは必ずしも不合理ではないというふうに私ども思っております。それゆえに、均等あるいは均等待遇の原則というのは、均衡待遇の原則、対象者が明確であるパート労働法、こういうところできちんと対応すべきものではないかというふうに考えております。
 今般の修正案は、使用者に一方的な義務を課すものではなく、労使がともに均衡とは何かをよく考え労働契約の締結や変更を行うことが理想であるとの理念を訓示した規定であるというふうに考えております。
 また、仕事と生活の調和への配慮、これが盛り込まれましたけれども、この点につきましていろいろ論議がございます。その概念のとらえ方自体いろいろ差異がございますけれども、この点につきまして、契約の締結とか変更、変えてしまうというようなものではない、あくまで理念的な規定だというふうに理解をいたしております。
 最後でございますが、契約法については最後でございますけれども、雇用関係は契約関係である、当然のことでございますけれども、そういうことを労使当事者間で改めて共有することによりまして、いわゆる契約概念の浸透が図られて紛争の未然防止につながるという点が大きく期待されます。新法が労使の行為規範として十分に役割を発揮するために国民への啓発を図っていく必要があると思います。国におかれては法の周知に努めていただきたいというふうにお願い申し上げさせていただきたいと存じます。
 次に、最低賃金法の問題に移らせていただきたいと存じます。
 この最賃法の改正法案、二〇〇五年四月に厚生労働大臣から労政審に諮問がなされまして、以来二〇〇六年十二月まで公労使の三者構成の委員によって真摯な論議を重ね、全会一致でまとめられたという経緯がございます。さきの衆議院での御審議において一部修正がございましたけれども、大枠の趣旨が変わったものではないと認識しておりまして、改正法案を支持する次第でございます。
 日本経団連、かねてからでございますけれども、すべての労働者に対する賃金のセーフティーネットとして最低賃金の役割の重要性を主張してまいりました。そういう意味で、法案が地域別最低賃金をセーフティーネットと位置付けて、すべての地域における地域別最低賃金の決定を義務付けたことにつきましては何ら異論を持つものではございません。
 一方、地域別最低賃金が機能している中で、屋上屋を架す形で産業別最低賃金が設定されております。法案では特定最低賃金と称することになっておりますけれども、この産業別最賃の廃止を訴えてまいりました。改正法案では、それが廃止になってはいませんけれども、産業別最低賃金を労使のイニシアチブによって設定すると、そういうことを明確にされており、かつ民事効によって履行を担保する形になっております。今回の法改正でもって産業別最低賃金の役割が大いに減退するというふうな受け止め方はありますけれども、罰則が科されなくなったということではありますけれども、従来どおり労働基準法上の賃金不払の対象になっておりまして、法の担保はある、使用者側に対して決してその運用が緩くなるというふうなものではないというふうに受け止めております。日本経団連といたしましては、産業別最低賃金が民事効になるということによりまして、審議会において労使の主体的な話合いで決められる、そういう言わばあるべき姿に向けて一歩前進するものだというふうに理解しております。
 さらに、地域別最低賃金につきまして、私ども日本経団連といたしましては、各地域の現状を踏まえて決めていく、現行の方式が維持されることになっておりますので、この点も評価させていただきたいというふうに存じます。
 当然ですが、最低賃金を決定する際に、各地域における労働者の生計費あるいは類似の労働者の賃金、通常の事業の支払能力、これを勘案して総合的に決めることになっております。これに関連いたしまして、特に労働者の生計費を考慮するに当たりまして生活保護に係る規定との整合性に配慮する、そういうことが付け加えられたわけでございます。この生活保護というものは社会保障あるいは福祉政策でありますから、労働の対価と言われる賃金とはそもそも領域が異なるわけでありまして、本来これは単純に比べられるものではないというふうに考えております。
 しかしながら、労働政策と社会保障政策との連携がより求められているという現状にありまして、最低賃金制度につきましても、社会保障政策との整合性を考慮することが必要になってきているというふうに理解しております。このような観点から、生計費を考慮するに当たりまして、生活保護に係る施策との整合性に配慮する、これが改正法に盛り込まれていることはやむを得ないというふうに考えております。
 最後でございますが、これは改正法案の内容に直接関係することではございませんけれども、この最賃の引上げの及ぼす企業経営への影響という点でございます。
 一つだけ統計データの紹介で申し訳ございませんが、法人企業の収益実態、これを平成十七年度の税務統計から見ますと、今現在、十七年度現在でございますけれども、全法人の実に六七%が欠損企業であります。七割弱の企業が全法人レベルで欠損法人であります。とりわけ資本金五百万円未満の法人企業で七四%、五社のうち四社が欠損法人になっております。このようなのが実態でございます。
 仮に、企業の生産性を無視して最低賃金が引き上げられてまいりますと、特に中小企業の経営を圧迫し、企業の雇用維持、多くの方々が雇用維持を望んでおられますので、その雇用維持に極めて困難な状況を招きかねないということを大変危惧いたしております。この点を改めて御認識賜れば幸いかというふうに存じます。
 以上で陳述を終えさせていただきます。ありがとうございました。
#7
○委員長(岩本司君) ありがとうございました。
 次に、荒木参考人にお願いいたします。荒木参考人。
#8
○参考人(荒木尚志君) 東京大学大学院法学政治学研究科の荒木と申します。
 私は、労働法の研究者といたしまして、二〇〇四年四月以降、一年半にわたって開催されました今後の労働契約法制の在り方に関する研究会、いわゆる労働契約法制研究会のメンバーとして、あるべき労働契約法についての議論に参画いたしました。また、二〇〇五年十月からは、労働条件分科会の公益委員といたしまして、今般提出されております労働契約法の立案にも関与いたしました。したがいまして、以下では労働契約法を中心に意見を述べさせていただきたいと存じます。
 今般提出されております労働契約法ですが、これは労働条件分科会における公労使が一致した答申に沿った内容のものでございます。また、研究者の視点から見ますと、雇用を取り巻く環境が大きく変化している現在、新たな時代の新しいタイプの労働立法として是非とも成立させるべき価値のある法案というふうに考えております。
 まず、労働契約法の必要性についてでありますけれども、大変現在、個別労働紛争が増加しております。一九九〇年当時は裁判所に提起される労働事件というのは千件程度でございましたけれども、二〇〇二年になりますと、その三倍の三千件にまで増加しております。また、都道府県労働局の総合労働相談コーナーに寄せられます民事個別労働紛争に関する相談件数は、二〇〇六年には十八万件にも上っております。
 これらの個別労働紛争の多くは、労働基準法といった最低労働基準を決めた法律を適用して解決される、そういう紛争ではございません。すなわち、解雇や有期契約労働者の雇い止め、労働条件の不利益変更、配転命令や出向命令、懲戒処分、こういったものの法的な効力が争われております。
 この解決ルールは、労働基準法と伝統的な労働法の中には定められていないわけであります。そこで、裁判所が労働契約法理とも呼ばれるような判例法理を形成してこれまで処理してまいりました。しかし、この判例法理といいますのは、法文の形になっていない判例の積み重ねのルールでございますので、一般の労働者や経営者が知るところとはならない、そういうルールでございます。したがって、その紛争解決のルールを知ることもできませんし、当事者の行為規範となることもできない。そのことがこれらの問題についての紛争を惹起しているということの原因ともなっております。
 したがいまして、契約ルール、契約を切り捨てるルールの透明化のために、これら判例で形成された重要な契約ルールを立法化する必要性が極めて高いというふうに考えております。
 加えまして、昨年四月からは労働審判制度という新しい紛争処理システムが開始されました。この労働審判制度と申しますのは、原則三回の期日、すなわち三、四か月でその事件についての一定の結論を下すという制度であります。そして、この労働審判をつかさどるのは職業裁判官だけではありませんで、その両隣に労働団体、使用者団体から推薦された労働関係の専門家が座って三人で判定をする、そういう制度であります。そして、この職業裁判官ではない労働審判員という方々は法律家ではございません。この方々が当該契約紛争について一体判例法はどうなっているのかということから議論していたのでは、到底適正迅速な判定を下すことはできないわけであります。この労働審判制度という新たな重要な任務を負った紛争処理制度が適正迅速に運用されるためにも、労働契約法という判例法を成文化した制定法が必要となってくるというふうに考えるものであります。
 次に、労働契約法の内容についてでありますけれども、二〇〇五年九月に研究者から成る労働契約法制研究会が労働契約法の内容について提言した報告書が出されております。これはA4で七十四ページにも及ぶ大変大部なものでございました。そこで提案されている詳細で包括的な労働契約法の構想と比較いたしますと、今回提案されている労働契約法案は大変シンプルなものとなっているのは事実でございます。しかしながら、労働基準法のような労働条件の最低基準を定めた伝統的な労働法とは異なる、契約ルールという民事規範のみから成る新たな時代の新たな労働立法としてこの労働契約法案を見ますと、その内容は十分に及第点を与えることができるものに達しているというふうに考えております。
 まず第一に、この労働契約法案は労働者、使用者の定義を置き、労働契約を支配する労使対等原則、信義誠実の原則、権利濫用の禁止原則等を確認し、さらに、今回の衆議院の修正では均衡考慮や仕事と生活の調和という新しい理念もうたったものであります。
 第二に、労働契約の成立、展開、終了という労働契約の全体について、シンプルながらも基本ルールを規定しております。すなわち、成立については成立要件について定めるという形で事実上労働契約の定義を行い、また労働契約成立時の就業規則と労働契約の関係について判例法理に従った整理を行っております。また、労働契約の展開については次に述べます労働条件変更法理のほか、安全配慮義務、出向権の濫用、懲戒権の濫用に関する基本的なルールを定めております。さらに、労働契約の終了については解雇と有期契約の中途解約について規定を置いているところであります。
 第三に、労働法上の最大の難問とも言われてきた労働条件変更の問題について、労働契約における合意原則、これを踏まえつつ、判例法理として確立している就業規則の不利益変更法理について判例法理に忠実に立法化を行い、労働条件変更法理を体系的に整理したものであります。この第三点は非常に重要だと考えますので、若干敷衍させていただきます。
 私は、日本の雇用システムを支える最も重要な二つのルールは何かと考えますと、その一つは、安易な解雇を制限し雇用を尊重する解雇権濫用法理、これが一つだと考えます。そして、もう一つの重要なルールは、雇用保障を裏から支える就業規則の合理的変更法理、すなわち就業規則の不利益変更は合理性がある場合に限って労働者を拘束する、そういうルールだというふうに考えております。二〇〇三年の労働基準法改正では解約権濫用法理が立法化されました。そして今回、就業規則の合理的変更法理が労働契約法に明文化されようとしております。これによりまして、雇用を重視した日本の雇用システムのルールが法律上きちんと定められるということになるというふうに考えているところであります。
 就業規則の不利益変更には合理性が必要であるという確立した判例法理が法律上明示されることによって、不合理な就業規則変更を行っても拘束力がないというルールが明らかにされることになります。これは、しばしば合理性が要求されるというルールを知らない経営者が不合理な就業規則変更を行い、労働者の利益を侵害するといった事態が起こることを未然に防止し、紛争の防止にも資するところになると考えるものであります。
 なお、今回の労働契約法十条の規定ぶりについて現在の判例法理に変更を加えたものか否かが議論されておりますけれども、この点について私自身は、十条の規定は現在の判例法理に忠実に書かれたもので、変更を加えたものではないというふうに理解をしております。
 さらに、労働契約法十条で私が重要だと考えておりますのは、十条のただし書でございます。これからの雇用社会では労働者個人が自分の職業生活をワーク・ライフ・バランスを取りながら自己決定していこう、そういう時代になってくるというふうに考えております。そこでは個別労働契約で例えば自分の勤務場所や職務内容、これを特定し、使用者の一方的な業務命令では変更されない、そういう個人の利益を重視することがより重要となってくるというふうに考えております。
 こうした労働者の個別契約で定めた労働条件について、これまでの就業規則の不利益変更法理は適用されるのかどうか、これは必ずしも明確ではありませんでした。私の判例の分析では、統一的、画一的労働条件変更法理としての就業規則の合理的変更法理は個別特約で定められた労働条件変更には及ばないというふうに観察をしておりました。そして、今回の労働契約法十条のただし書は、労働契約において、労働者及び使用者が就業規則の変更によっては変更されない労働条件として合意していた部分については、就業規則の変更が合理的であっても変更はできないということが明らかにされております。労働者の自己決定を尊重する新しい時代の労働契約法として非常に重要な意義を持った規定だと考えております。
 以上のような点を踏まえますと、今般の労働契約法案は、非常にシンプルなものとなってはおりますけれども、労働契約の成立、展開、終了の全般にわたって労働契約の基本原則を確認し、雇用システムのかなめとも言える解雇ルールと労働条件変更ルールについて判例法理に従った規定を整備したものであり、重要な意義を持つものというふうに考えております。
 もちろん、このようにシンプルな労働契約法で十分かどうかというと、十分ではないということになろうかと思います。しかしながら、従来の労働条件の最低基準を定めた労働保護法とは異なり、新しいタイプの民事規範から成る契約ルールを定めた労働契約法、そういう受皿ができるということ自体、今後の契約ルールの大きな発展の基盤が提供されるということを意味します。この点においても、現時点において労働契約法を制定する必要性、重要性は極めて高いというふうに考えております。
 最後に、最低賃金法について一言述べさせていただきます。
 今回の最低賃金法改正は、従来存在した三つの最低賃金制度のうち、ほとんど利用されてこなかった協約拡張方式による最低賃金を廃止し、地域別最低賃金と産業別最低賃金に再編するものであります。そして、これまでふくそうしておりました地域別最低賃金と産業別最低賃金の関係を整理し、また地域別最低賃金については罰則を強化し、そして近時議論となっておりました生活保護との逆転現象について両施策の整合性に配慮することを規定したものであります。
 雇用形態が多様化する中で、最低賃金のセーフティーネットとしての役割はますます重要となっていくというふうに考えられます。今般の改正提案は、そうした要請にこたえるべくなされたものというふうに理解しております。
 以上で、私の意見陳述といたします。
#9
○委員長(岩本司君) ありがとうございました。
 次に、生熊参考人にお願いいたします。生熊参考人。
#10
○参考人(生熊茂実君) 御紹介いただきました、全労連副議長、JMIU中央執行委員長の生熊と申します。
 本日の参議院厚生労働委員会で参考人として意見を述べる機会をいただきましたことに、まずお礼を申し上げたいと思います。
 最初に、現在、当委員会で審議されております労働契約法案について意見を述べます。
 本法案は、労働者の保護を図りつつ、個別の労働関係の安定に資することを目的とするとされています。本法案が本当に労働者の保護に役立つかどうか、労働者の置かれている実態を十分に把握されて、慎重な審議をお願いしたいというふうに考えております。
 私はまず、実態を中心に述べていきたいと思います。
 思い出すのは、別件の法律ではありますけれども、二〇〇〇年に当時の商法改正による通称会社分割法が成立をしました。それと同時に、会社分割の場合の労働者の保護を図ることを目的として、会社分割に伴う労働契約の承継等に関する法律、通称労働契約承継法も成立をいたしました。
 労働契約承継法によると、会社分割法による承継される事業に主として従事する労働者の転籍については承継会社に承継されるとして、民法六百二十五条を適用せず、本人の同意なしで転籍させることができるようになりました。私は当時の参議院法務委員会で、会社分割法で不採算部門や先の見通しが悪い部門を切り離して、会社の経営破綻とともに労働者の解雇が起こる危険があるとして、会社分割法による労働者の転籍においても本人同意を維持することが必要であることを強調いたしました。このことは、いわゆる泥舟論として、会社分割法案や労働契約承継法案の審議で重要な問題になりました。これについて、政府参考人は、いわゆる不採算部門というようなものについて会社分割を行うことは許されていないと答弁をして、両法案は成立をいたしました。
 ところが、私たちが心配したとおりに事態は進みました。二〇〇一年に会社分割法によって日本IBMとセイコーエプソンによる野洲セミコンダクターという会社がつくられ、労働者は、同意がなく、問答無用で転籍されました。野洲セミコンダクターは、最初の説明とは全く異なって、業績悪化が続き、本年三月には一部をオムロンに譲渡し会社を解散、多くの労働者が退職に追い込まれました。このような事例はほかにもあり、またその心配のある事例も多く生まれています。
 このような法案は超党派での見直しが必要であると考えておりますけれども、私がここで強調したいのは、本当に労働者保護に資するかどうか、このことを実態に基づいて十分な審議をお願いしたいということであります。
 現在審議されております労働契約法案には幾つか見過ごせない問題があります。最大の問題は、一定の条件付きではありますが、就業規則の変更によって労働条件不利益変更することができる、このことを定めた第九条ただし書以降と第十条であります。これは労働条件の不利益変更ができるということを経営者にメッセージして送ることになるというふうに思います。二〇〇三年の労働基準法改正のときに、解雇ができるというふうにあった政府原案を、現在の労働基準法第十八条の二のように、社会通念上相当でないものは、その場合は無効とするというふうに修正した、与野党全体で修正をした、このことを今想起すべきではないかというふうに考えております。
 この条項を、第七条、労働契約の内容はその就業規則で定める労働条件によるとともに削除することを求めたいと思います。現在の労働基準法第一条二項は、この法律で定める労働条件の基準は最低のものであるから、労働関係の当事者は、この基準を理由として労働条件を低下させてはならないことはもとより、その向上を図るように努めなければならないと、労働条件向上のために労使の努力義務を定めています。労働条件の不利益変更ができる、このことを労働関係法に書き込むことはかつてなかったことです。歴史上初めてのことだと思います。このような重大な法案をこのまま成立させることには反対です。
 どのような事態が生じているか、実例を挙げて説明します。
 蛇の目ミシン工業の営業社員の労働者が裁判に訴えている事件です。二〇〇〇年に東京新宿のハローワークから営業職の正社員として紹介され、三か月間は見習として委任契約販売員とされ、その後、期間の定めのない営業社員になりましたが、二〇〇五年七月に、営業社員の資格審査基準によって、売上高が三か月間で二百四十万円未満に当たる、そのため自動的に退職、このような就業規則に該当するとして解雇された事件です。しかも、解雇通告のときに初めて就業規則を見せられたのです。新宿ハローワークは、ハローワークでは委任契約などという形態は認めていないと言っております。
 この事例にも見られるように、現実には就業規則は採用に当たって見せられることはほとんどなく、通常、その後も閲覧することはないと言って過言ではありません。また、就業規則の周知といっても、実務上は職場にぶら下げておくだけでよいのです。さらに、労働基準監督署への就業規則届出については、現在は電子メールによる送付でもよく、その内容のチェックは全くありません。また、就業規則の制定や変更に当たっては、過半数労働組合や従業員代表からの意見を聴くことは求められていますが、反対であっても、あるいは意見書を付けなくても、それは労働基準監督署に届出されれば成立してしまうのです。このような実態にある就業規則がそのまま労働契約とされては、劣悪な労働条件を強いられるばかりでなく、労働者の雇用さえ脅かされます。
 この事例から分かる重要な点は、就業規則の変更は、賃金や労働時間の悪化だけでなく、一定の条件の下では、期間の定めのない雇用から有期雇用や個人請負に追い込まれる危険さえあるということです。
 同様の事件が東武鉄道の子会社である東武スポーツでも起きています。実際には、実態は変わらないからと労働者をだますとともに、これを認めないと解雇になると脅して、正社員から一年ごとの有期社員にし、賃金などを大幅に引き下げた事件です。東武スポーツは、これを就業規則変更によるものとして、有期雇用への変更や労働条件引下げは正当であると主張しています。現在でも、中小零細企業ではなく、大企業やあるいは大企業関係企業でさえこのような状態ですから、この法案が成立すれば、同様のことを考える経営者が大幅に増えることは想像に難くありません。
 また、労働契約法に違反するものは裁判で決めろというのがこの労働契約法の立場です。裁判に訴えることはよほどの勇気が必要で、かつ費用と時間が掛かるものです。また、裁判で決着が付く、これは最高裁まで行くこともあるわけですが、その間はその就業規則が適用されるということになります。結局は、不当だと思っても泣き寝入りする労働者が増え、不正がまかり通る事態が広がることになりかねません。
 不利益変更について最高裁判例で歯止めをしているという議論がありますが、そう考えることはできません。この法案にある不利益の程度や変更の必要性、内容の相当性などの水準が極めてあいまいです。第四銀行最高裁判決によれば、受忍させるための高度の必要性やあるいは代償措置その他関連する他の労働条件の改善状況などがありますが、そういうものは盛り込まれていません。最高裁判例からは大きく後退しているものであり、歯止めにはならないと思います。このままでは、次々にハードルが引き下げられる危険は目に見えています。
 このような危険を引き起こす就業規則による不利益変更の部分が削除されない限り、私は労働契約法案の廃案を求めたいと思います。
 次に、最低賃金法案について意見を述べます。
 修正された最低賃金法案は、第九条二項で、地域別最低賃金は、地域における労働者の生計費及び賃金並びに通常の事業の賃金支払能力を考慮してとされ、三項で、労働者の生計費を考慮するに当たっては、労働者が健康で文化的な最低限度の生活を営むことができるよう、生活保護に係る施策との整合性に配慮するとされています。
 しかし、働いているのに生活保護より低い最低賃金、こういう批判を受けたものと考えられますけれども、まだこれでは不十分だと思います。職業に就いて労働するためには職業や通勤にふさわしい費用が掛かります。そのような職業関係費用は生活保護の中にありません。労働者の生計費という場合にはそれらを考慮しなければならない、このように思います。そのような修正と支払能力についての削除を求めたいと考えます。
 また、今年の地域別最低賃金は、ここ数年になかった平均で十四円という引上げがありましたが、地域別の格差は広がりました。これでは地域の経済格差が一層広がります。今多くの労働者と労働組合が求めているせめて時給千円をという全国一律の最低賃金を定めた上で、産業別、地域別の上乗せを図る方式が求められており、この点での抜本的な修正を求めたいと思います。
 最後になりますが、私は二〇〇三年衆議院厚生労働委員会で労働基準法改正についてやはり参考人として意見を述べました。その中で、労働法制に関する規制緩和が次々に行われていけば、それは今問題になっている少子化やあるいは年金の崩壊、こういうものが一層ひどくなるのではないか、そういう心配を申し述べました。今正に私たちが心配したような方向で事態は進んだのではないでしょうか。
 今社会的にワーキングプアや貧困と格差、地方と都市の格差が大きな問題になり、これらに対する国民の意思が七月の参議院選挙の結果に反映したと思います。現段階での労働二法案では、残念ながらワーキングプアや貧困と格差はなくせません。民意は国民や労働者状態の改善を強く望んでいます。民意に沿った方向での大幅な修正が行われるように求めたいというふうに思います。
 なお、最低賃金の引上げについて、中小企業の経営としてはとても負担できない、このような議論がありますが、私はそうは思いません。今、日本の大企業は、先日、日本経済新聞六月十四日付けで報道されたように、四年連続最高益で三十一兆八千八百億円もの利益を上げております。しかし、中小企業は厳しいという実態があります。私は、大企業は利益を上げているけれども、なぜ中小企業の経営が厳しいのか、このことについて指摘をしておきたいというふうに思います。
 私たちの実態でも賃金が上がって倒産をした企業というのはありません。それは大企業から大幅な単価の切下げがあったり、あるいは無理な仕事を押し付けられたり、こういう中で経営が困難になる、この実態が進んでいるんです。私は、下請振興法の振興基準、ここでも明確にされておりますように、親事業者が下請中小企業に対して適正な利益と下請中小企業で働く労働者の労働条件の改善ができるようなこのような価格を決める、このことこそが今求められているというふうに思います。
 中小零細業者の中には、旋盤を回す下請機械屋さんがおりますけれども、時間単価が今千六百円と、このように言われています。労働者の賃金と余り変わらない、あるいはそれよりもひどいと、こんなことまで生まれています。なぜこのようなことが起こるのか。これでは借り工場の家賃を払ったり、あるいは機械の減価償却を図ることもできません。これは、今申し上げたような親事業者による下請中小企業に対して、この単価の決め方、一方的な引下げや、あるいは納入について無理な納入をさせる、このようなことに原因があるのではないか、このように考えております。
 是非民意に沿った方向での本二法案に対して大幅な修正が行われるように求めることを申し上げまして、参考人としての意見表明とさせていただきたいと思います。
 ありがとうございました。
#11
○委員長(岩本司君) ありがとうございました。
 次に、伊藤参考人にお願いいたします。伊藤参考人。
#12
○参考人(伊藤みどり君) 御紹介いただきました、働く女性の全国センターの伊藤みどりです。本日の国会質疑に参考人として陳述できることを大変光栄に思います。
 プロフィールで皆さんにお配りしているように、私のライフワークは女性の労働問題であり、三十年近くの間、現場の働いている人たちの悲鳴のような生の労働相談を聞き、問題の改善、解決に力を尽くしてきました。その数はおおよそ、現在でも私一人で毎日数件の労働相談を受けていますので、延べにして五千件以上になると思います。
 私は、今年一月、北は北海道から南は九州まで、女性のためのユニオンとNGOの仲間たちとともに、全国をつなぐ働く女性の全国センターを立ち上げました。働いている人たちの現場に最も近い立場で活動してきたところから、今国会で審議されています労働契約法について、ポイントを絞って意見を述べていきたいと思います。
 初めに、舛添厚生労働大臣は、就業形態、就業意識の多様化に伴い個別労使紛争が増加しているという状況下で、労使双方が安心、納得した上で多様な働き方が実現できるルールの整備が重要と法案趣旨説明で述べられました。しかし、現実に起きている労使紛争の多くは、使用者が労働基準法を守らない、労働組合との団体交渉を誠実に行わないという法律違反によるものが増えているのです。
 まず第一に、労働基準法の労働条件最低基準が今回の労働契約法によって規制緩和されてしまう危険性について強調していきたいと思います。
 労働基準法第一条では、ここに定められた労働条件は労働者が人たるに値する生活をするに足りるものでなくてはならない、労働基準法は零細経営者も守らなければいけない最低基準である、使用者も労働者あるいは労働組合も、これまでせっかく定めた良い労働条件を労働基準法の最低基準まで低下させてはならず、むしろそれを上回る労働条件を定めるように努力しなければならない。かつ、第二条では、労働条件は労使対等の立場で決定されるという内容が書かれています。
 ところが、現実はどうでしょうか。この基準に反して、労働条件の低下がまかり通っているのです。労働契約法案の第九条、第十条ただし書は、この労働基準法第一条、二条の精神に反するものです。最低基準の逸脱を判例法理の一部導入で合法化するものです。
 戦後、我が国は、労働力を商取引の道具にした結果、労働者の人権が破壊され悲惨な状況が増大したことを反省し、国が使用者と労働者の間に介入して、労働条件の最低基準を守るために労働基準法と労働組合法を法制化しました。それは、戦後に作られたすばらしい法律です。格差社会が社会問題になる中で、私たち労働者が六十年間守り続けてきた労働法の必要性と意義はますます大きくなっています。
 かつて、松下幸之助さんや本田宗一郎さんは、国の労働基準法の精神に沿って、法律で明記される以前から週四十時間労働を実現してきました。その考えは、働く者があっての企業なのだという精神がまだ経営者の中にあったと思います。労使がこのルールを遵守することで、労使関係の安定があったと思います。
 ところが、最近では、労使自治であるべき団体交渉に弁護士や社会保険労務士が介入するケースが半数以上になり、労働基準法違反をただし、労働基準法を知らない経営者を諭し、紛争を円満解決するのではなく、労働者にわずかな金銭を払って黙らせる、又は、こじらせて事件を長引かせ、紛争処理と称して営業利益を上げるために労使紛争を利用する者まで現れています。
 また、ある経営法曹会の関係するセミナーでは、パート労働法改正に当たり、個人加入ユニオンや労働局に駆け込まれても、法律に罰則規定がない、強制力がないので要求をのまなくても大丈夫、また、労働局のあっせんは強制力がないので拒否できるという指導まで行っています。また、その旨の解説を書いた経営者向けの書籍も堂々と販売されているのです。
 第二に、個別紛争の多くは、就業規則の過半数代表に選ばれない人たちの雇用問題、労働条件をめぐったものが多いという点です。
 そこで強調したいことは、過半数代表制度では、パートや派遣、女性や若者の意見は就業規則に反映されないということです。労使紛争の半数以上は、過半数代表に一〇〇%選ばれないパートを始め、非正規労働者の労働現場で起きています。
 独立行政法人労働政策研修機構の調査、統計にもあります。過半数代表に選ばれた人のうちパート、非正規労働者〇%、係長以上の管理職は合わせて五四%という結果です。これではパートや非正規労働者の声が全く届いていません。非正規雇用労働者のうち七〇%が女性で、女性労働者の半数が非正規雇用です。少子高齢化が問題になっているのに女性の声が届いていない現状を認識してください。
 過半数代表制度の下で起きている事例を述べます。
 残業代未払を使用者に請求したら、会社は過半数代表制度を使って、会社が勝手に指名した代表者と協定して変形労働時間制へ就業規則を変更する、夏は暇だから労働時間は短く、冬はその分加算して長くする、そういった変形労働時間制の就業規則変更がまかり通っています。働いている人は、冬は労働時間が長くて睡眠が短くてよいわけではありません。企業の都合だけで人のライフスタイルまで規制されているのです。
 有給休暇の一斉取得制度も、過半数代表制度の下、最低半年で十日間のうち五日間を夏休みに一斉取得した企業が多くあります。しかし、育児、介護を抱えた多くの女性たちはそのことによって有給休暇の自由取得が減らされ、欠勤となり、欠勤を理由に退職勧奨までされてきました。
 育児休業にも除外規定があります。それも過半数代表が協定を結べば一定労働者の育児休業申出を拒むことができるようになりました。ある女性は、派遣社員で二年働き、その後念願の直雇用で正社員になったので育児休業を申し出たところ、知らないうちに除外協定が結ばれていました。労働局に訴えても、労使協定があるのだから無理だと門前払いされました。
 こうした弊害は一九八七年の労働基準法改正によって変形労働時間制などの導入に当たって過半数代表制度が取り入れられて以降、過半数代表制の立法化が拡大し、最低基準である労働基準の逸脱を合法化したことに始まりました。
 労働契約法の新設は更に推し進めることになります。労働契約法を新設する以前に、労使紛争を未然に防ぐためにも労働基準法の過半数代表制が多様の雇用形態、多様な働き方にマッチしていない現状こそ見直すことが先決ではないでしょうか。過半数代表が本当に民主的手続に沿ってやられるかのチェックもされていないことも強調しておきたいと思います。
 再度強調しておきたいことは、労働契約の成立によって過半数代表に選ばれない多数の労働者の多様な意見は反映されず、労使紛争の円満解決がますます困難になるということです。本日お配りした就業規則の現状の資料も併せて参考にしてください。
 第三に、労働契約法第七条の政府案、民主党修正案も就業規則の周知、合理性について書かれております。現状は、周知も、合理性について労働基準監督署が確認していないという現実があります。現在、就業規則は使用者が一方的に作成し、従業員過半数代表の意見を聴取した後、労働基準監督署に届ければよいということになっています。就業規則が労働基準法や国の法律その他に照らして合理的か否かチェックされておりません。使用者が合理的な就業規則を周知させていたとき、労働契約の内容はその就業規則で定めるものとするとするならば、全国のすべての事業所の就業規則の合理性と周知について厳重にチェックされる必要があります。
 周知についてですが、私たちがインターネットアンケート調査した結果でも、就業規則を見ることができない人が三〇%もいました。就業規則があることは知っていても全く見ることができない人が二五・二%もいました。就業規則をいつでもどこでも見られるように書面交付が義務付けられていないので、一度見せただけで周知したとなっている企業が大部分です。周知徹底させるためにはまず労働基準法の改正をやるべきではないでしょうか。
 労働基準監督官の数は、二〇〇七年度三千十一人、全国でとなっております。全事業所を臨検するのに二十年掛かると言われております。就業規則に合理性があるか確認もできない状況で労働契約法を成立させることがどうしてできるのでしょうか。また、個別紛争が増加しているのに、なぜ監督官の数が増えないのでしょうか。
 私が扱った事例でも、ある大手都市銀行はこれまで吸収と合併を四度も繰り返し、そのたびに就業規則の変更をしました。しかし、社外出向社員にはその就業規則の周知もされず、監督署に申告したら、事業所に一台あるパソコンのイントラネットで見れると言うのです。そのパソコンは他の仕事にも使用されているのでいつでも見られるわけではありません。少数組合との団体交渉では、就業規則は社外秘なので会社の労働組合には見せても社外の労働組合にはコピーも渡せない、団体交渉中だけは見せるという立場を変えませんでした。会社の労働組合に手渡せるものを、労働条件の不満を述べる会社の従業員には見せられないというこのような事態が放置されています。労働基準監督官の数を増加しないのであれば、この先二十年掛けても就業規則に合理性があるかどうか確認作業をすべきだと思います。
 第四に、判例法理を法律で明記すればよいという考えは使用者に労働条件の変更を容易にさせるもので、誤っていると思います。
 一部の労働条件不利益変更の判例を固定化し、就業規則の労働条件全般にかかわる労働契約法に明記することは、裁判官が差別の実態は日々変わるものであることに目をつぶり、逆に現実を判例に合わせて切り取り、それ以外の不合理な現実を見ないで済むようにさせてしまうものです。
 第五に、個別労使紛争の増加を防ぐためには、使用者への労働基準法、労働組合法遵守こそ必要です。
 労働局の全国の労働相談件数約九十万件の労働相談のほとんどは膨大な時間と人材を使って相談を聞くだけで、あっせんを受理したケースの中のわずか二千六百八十九件のみが合意成立しているにすぎません。労働局のあっせんを受理しないケースが余りにも多過ぎ、労働局の人材が無駄に使われているのです。労働契約法を新設すれば、労使紛争がスムーズに解決できるどころか、紛争が拡大することは確実です。
 最後に、この雇用の多様化の中で集団的労使関係が時代遅れとなっている認識について、本当にそうなのかということについて述べたいと思います。
 ナショナルセンターを自負する連合を始め、多くの労働組合は大いに反省すべきです。組織率は全体で二〇〇六年度一八%、パートの組織率は四・三%、派遣の組織率は八・三%にすぎず、労働組合が雇用の多様化に対応できていないという現状があります。パートや派遣に組合員資格を与えていない労働組合が大多数です。若者たちは労働基準法も労働組合法も知りません。公教育で教えていないからです。また、多くの経営者も知りません。現実は厳しく、派遣労働者やフリーターと呼ばれる若者たちが生存権を懸けてユニオンの結成をしています。この活躍は最近新聞紙上でも見ることができるようになりました。
 労働政策研修機構の調査では、経営者は労働組合がない方がいいとするものが五八・四%もいるのに対して、厚生労働省の調査では、労働者の側が労働組合が必要だと思う人、一般労働者五八・四%、パートタイム労働者は六三%と高い水準です。労働組合が期待されているのに組合の側がこたえ切れていないのです。集団的労使関係が雇用の多様化の中でこそ求められているのです。そのためには、労働基準法の周知徹底、法令遵守を厳しく経営者にさせなければなりません。
 また、労働者には労働者になる前の義務教育及び高等教育で労働法の学習を重視すべきです。労働基準法も知らないで就業規則が合理的かどうか判断することはできません。パートや派遣で働いている人は一人の力で会社と交渉できないことを身にしみて知っています。労働現場では労働者同士が競争させられ、職場で相談できる仲間もできづらい環境にあります。それでも個人加入のユニオンに加入し、元気を取り戻して働き続ける意欲を維持しているのです。しかし、労働契約法は個人加入のユニオンの存在を消し去ります。個別紛争の対応は、企業のコスト削減のために利用されるべきではなく、働く人たちの自己尊重を取り戻し、ともに協力し合え、仕事でも助け合える仲間をつくれるものでなくてはならないと思います。
 私は、今国会に提出された労働契約法の政府案、民主党修正案ともに労働者保護の立場に立つものではないと思います。
 昨年十二月、日本労働法学会の歴代の理事会メンバー多数による声明が出されました。その中で、契約原理に死を宣告する契約法になりかねないと指摘されました。この判断は今修正案でも同じであると呼び掛け人代表の大学教授から懸念のメールをもらいました。
 国会議員の皆さん、どうか労働者の労働条件向上のために尽力してください。労働条件の不利益変更を容認する労働契約法を廃案にしてください。
 民主党の議員の皆さん、七月の参議院選挙で国民の期待を背負って野党第一党になった責任があると思います。今こそその責任を最大限果たしていただきたいと切に要望し、私の意見陳述とします。
#13
○委員長(岩本司君) ありがとうございました。
 以上で参考人からの意見の聴取は終わりました。
 これより参考人に対する質疑を行います。
 質疑のある方は順次御発言願います。
#14
○轟木利治君 民主党・新緑風会・日本の轟木利治でございます。
 参考人の皆様方、本日は大変貴重な時間をいただきまして、本当にありがとうございます。早速でございますけれども、質疑に入らせていただきたいと思います。また、今ほど御意見をいただきましたけれども、私の質問も一部ダブるかと思いますけれども、再度御発言をお願いしたいと思っております。
 まず、労働契約法についてお聞きしたいと思います。
 一番目の質問は、お三方の方から御意見をいただきたいと思います。伊藤参考人、そして生熊参考人、そして長谷川参考人の方から順次お伺いしたいと思います。内容は、労働契約法は衆議院でかなり修正されましたけれども、この修正内容についてどう評価されているか、お聞きしたいと思います。
#15
○参考人(伊藤みどり君) 私は、民主党案の最初の修正案も見ましたけれども、やはりこの就業規則の、使用者が合理的な、周知させていて合理性があるならばそれを判例法理に従って変更できるというその条文そのものを設けることがとても危険であり、この労働契約法は当初言われていたものとは全く異質な就業規則法案と言っても過言ではないと思っています。ですから、こういった法律について今国会で成立させてしまうということは、更に立場の弱い派遣やパートや女性たちが労働条件の不利益を強いられるというふうに認識しております。
#16
○参考人(生熊茂実君) お答えをいたします。
 私が考えている労働契約法の問題は、先ほども、いろんな問題ありますけれども、最も中心的な問題は就業規則の変更によって労働条件の不利益変更を図ることができると、この問題です。そこが最も大事な問題だというふうに思っています。そういう面でいうと、幾つかの修正はありましたけれども、それはこの労働契約法の最大の問題の本質に全くそこに迫っていない、そういう面ではこの法案の性格を変えたものではない、このように認識をしております。
#17
○参考人(長谷川裕子君) 私は、法案要綱のときに、そもそもこの労働契約法のときに基本的には労働契約というのは使用者と労働者の合意が労働契約だと。そういう中で労働条件の変更というのはよく起きてくるわけですけど、職業生活が長いわけですから、三十五年とか四十年という長い時間の中で労働条件の変更って起きてきまして、そのときに労働組合などは団体交渉をして労働協約で締結するわけですけれども、昨今、就業規則による労働条件の変更というのはよく行われたわけですね。
 審議会の中でもそのことをどう扱うかという議論になって、最終的には、先ほど荒木先生がおっしゃっていましたように、労働条件の変更については就業規則法理なるものが非常に定着していると、秋北バス事件、それから大曲農協事件、それからずっとあって、第四銀行のところまでずっとあって、判例法理が確立していって、ほぼそれが実際は使われているというふうな状況の中で、その判例法理が足しも引きもしないで法文化したときにどうなるかというのが審議会の最終的な確認だったわけです。で、法案要綱ではほぼこれで判例法理がどちらにも動かないというところで確認したんですが、一六六通常国会に出された法案を見たときに、これは違うと、動いているというふうに思いました。
 特に、就業規則を周知させていた場合とさせた場合では時間が違うんですね。させていたというのは、既に就業規則を周知させていて、それで労働条件があって、それで働いていたわけだけど、させたという場合には、時が動く。そうすると、審議会では、新しい就業規則を作って労働条件の変更については、判例も固まっていないし、それは駄目だということだったわけでしょう。ところが、この法律を読むと、新しく就業規則を作って労働条件の変更はできるというふうに読めちゃうと。これは問題だということになって、非常に私どもそこを懸念していたわけですけれども、衆議院の修正によって、そこは法案要綱と同じになったということで安堵をしております。もしこの修正がなかったら、新しい就業規則を作って労働条件の不利益変更はできるというふうになっちゃって、それこそ、今皆さんから御指摘されているように、大きな問題になったのではなかろうかというふうに思っています。
#18
○轟木利治君 ありがとうございます。
 次も、同じく労働契約法に関してでございますけれども、お二方にお聞きしたいと思います。紀陸参考人と長谷川参考人にお聞きしたいと思います。
 政府は労働契約法案の提案理由説明で、就業形態の多様化や就業意識の多様化が進み、個別労働関係紛争が増加しているという状況の下で、労働契約に関する基本的な事項を明確にするとともに、紛争の解決や未然防止に資するために、体系的で分かりやすいルールを整備することが重要であり、労働契約を策定したと説明しておりますけれども、労使の皆さんの御意見として、また職場で真に役立つと思われているかどうか、お聞きしたいと思います。お願いします。
#19
○参考人(紀陸孝君) お答えをいたします。
 御質問ありがとうございました。私ども、この法律が、冒頭にも申し上げましたけれども、非常にシンプルで、かつ就業規則及び労働契約の関係、これをはっきりさせた。そういうことによって、就業規則の徹底を通じて、従業員及び会社の運用者、担当者の間に法律の理念、精神が徹底することによって、いわゆるトラブル回避とかそういうものにつながっていくというふうに評価をいたしております。
#20
○参考人(長谷川裕子君) 私は、この法律が成立することによって、施行されることによって何が職場の中で風紀が変わるかといいますと、私がちょっと労働相談に応じている一例ですけれども、北の方ですけれども、ある社会保険労務士の方が、就業規則で変えれば、労働条件の変更を書けばできると、何でもできるんだというふうなことを、事実、交渉の席でも言いましたし、ある雑誌にも書いて。で、そういうことが本当にできるのかというと、いや、それは違います、できませんよと。就業規則の内容が合理的であるかどうかという、訴訟になれば必ずそのことが問われるわけで、何でもできるというのはうそです。
 ただ、就業規則というのは、皆さん、先生方も御存じのように、何でも書けることは何でも書けるんですね。基準法は、就業規則にこういう労働条件を書きなさいというのは基準法で言っているんですが。したがって、だからその就業規則の内容が本当に合理的であるかどうかということは、最終的には訴訟の場で判断されると思うんですが、社労士の中で就業規則よく御存じのない方が時々中小企業のところに行ってそういうことをおっしゃって、混乱を、職場の無用な紛争を起こしていることも事実でありまして、もし今回この法律がきちっと出てくれば、まず一つは労働条件の変更は労働者と使用者の合意がなければできませんよと、もし就業規則でやるとすれば、それは合理的でなければできませんよという、で、合理性とは何かということについていろいろと、この間の判例だとかこの条項だとかを基にしてできると思います。
 そういう意味では、判例法理というのは、私は解雇の十八条の二項のときも言いましたけれども、法律家とか厚生労働省の労働相談やる人しか知らないわけですよね。判例法理って、じゃ中小企業の人に判例法理知っているかと言ったら、八〇%が分からないと言ったぐらい判例法理って分からないんですね。たまたま私もこういう仕事をしているから解雇権濫用法理なんて言いますけれども、恐らくこの仕事をしなかったら解雇権濫用法理って何だか分からなかったと思うんですね。
 そのように、今回、法律化することによって、そういうふうな無用な紛争は予防できるのではないかというふうに思います。そういう意味では紛争予防効果は持つと。ただ、現実に、現場では今の状況で何も変わらないことは事実です。変わらない。何か判例をいじったわけではありませんので変わりません。しかし、予防効果はあるというふうに思っています。
#21
○轟木利治君 ありがとうございます。
 同じく労働契約法についてお聞きしたいと思います。今回も長谷川参考人にお聞きしたいと思います。
 労働契約法は審議会でも多くの時間が費やされたようでございますけれども、それは労働契約法に対して様々な御意見があるからだろうと想像しております。労働契約法についてのお考えをお聞きしたいと思いますし、またどのような労働契約法が理想かと思われているかをお聞きしたいと思います。
#22
○参考人(長谷川裕子君) 労働契約法に関しては、先ほど冒頭に申し上げましたように、研究会、先ほど荒木先生もおっしゃっていましたけれども、膨大な項目があるわけですね。それから、労働弁護団のやっぱり労働契約法提言もそうでしたし、連合総研の労働契約法試案でも膨大なやっぱり、雇用の入口から出口までですから、すごい中身があるわけであります。だから、今回、シンプルで本当に数少ない条項であって、私はそういう意味ではこれで全部満足されたというふうには思っておりません。
 例えば、連合でいえば、差別の禁止、あらゆる差別の禁止だとか、使用者の保護義務規定だとか、労働契約における期間、有期の問題とか、募集、採用、採用内定、試用、労働条件の変更、配置転換、出向、転籍、昇給昇格、評価、制裁、懲戒、解雇、雇い止め、いじめ解雇、辞職など、いろんなステージがあるわけですけど、そういうことが本当は全部網羅されるといいというふうに思います。
 それともう一つは、先ほど申し上げましたように、労働者と使用者の契約締結時というのは確かに対等じゃないんですよ。圧倒的な情報も交渉力も使用者が持っているわけでありまして、そういう情報の非対称性だとか交渉力量の非対称性をどのように補強していくのかというのはもう少し私、研究が必要なんだと思います。
 最近、いろんな研究者が契約時におけるそういう力の対等性をどう補強するかという研究が進んでいるというふうに聞いておりますので、次のやっぱり法改正のときはそういうものを盛り込むことが必要なのではないかということと、非常に残念でしたけれども、今回の労働契約法の中の対象労働者が労働基準法の労働者なわけですね。しかし、現在、雇用就業形態の多様化の中で、あいまいな雇用というふうに私たちは言いますけれども、ILOでは経済的従属関係にある労働者という言い方もしていますが、そういう人たちが入らなかったわけですね。やっぱり雇用就労形態の多様化に対しては、このあいまいな雇用とか、経済的従属関係にある労働者なんかも対象にすべきだというふうに思っております。
 是非、そういうものが入った労働契約法を、理想とする労働契約法を今後も引き続き作ることが必要なんではないかと考えています。
#23
○轟木利治君 ありがとうございます。
 では、最低賃金法改正についてお聞きしたいと思います。
 第一点目は、お二方の参考人から御意見を伺いたいと思います。荒木参考人と長谷川参考人にお聞きしたいと思います。
 最低賃金法は、第九条第一項の地域別最低賃金はあまねく全国地域について決定されなければならないと、三項の労働者が健康で文化的な最低限度の生活を営むことができるよう、生活保護に係る施策との整合性に配慮するものとすると、これにつきましてどのようなお考えをお持ちか、お伺いしたいと思います。お願いします。
#24
○参考人(荒木尚志君) 最低賃金法では、今回、労働者は健康で文化的な最低限度の生活を営むことができるようにという文言が入っております。これは最低賃金法の理念を実は議論しないと難しい問題だというふうに思っています。
 最低賃金法は、労働条件、人たるに値するような生活を営むための最低賃金という問題と、実はその産業に公正な最低賃金という二つの理念が実は混在しているんだというふうに思います。現在問題となっておりますのは、言わば憲法二十五条の基準にも達しないような最低賃金が設定されている、最低賃金の設定になっていると、その問題が最近クローズアップされまして、その点でのまず整合性を取ろうということだと思います。その点ではこれは意義があると思いますが、さらには、余り議論がされていないのかもしれませんけれども、当該産業に公正な賃金というのをどう考えるかと、これについても今後議論を詰めていって、最低賃金の性格について考えていくことも必要ではないかというふうに考えております。
#25
○参考人(長谷川裕子君) 今回の改正の九条で、あまねく全国各地域について決定されなければならないということについてでありますけれども、これまでの最低賃金法では、地域別最低賃金も産別最低賃金も、厚生労働大臣又は都道府県労働局長が必要があると認めるときに決定をすることができるとなっていたわけですが、今回の改正で、要するに全国どこでも決めなければならないとなったことは非常な評価だというふうに思っております。
 それから、九条の二項で、地域における労働者の生計費及び賃金並びにというのと、通常の事業の賃金支払能力を考慮して定められなければならないとあるわけですけど、この点について言えば、やはり地域における労働者ということは地域における労働者全体を指すことは当然でありますので、比較する対象もやはり適用対象者全体とするということが必要なのでは、当然ではないかというふうに考えております。
 それと、通常の事業の賃金支払能力ということでありますけれども、正常な経営をしていれば、事業経営をしていれば通常に払えるはずでありますので、そういう意味では賃金経費の負担能力があるというふうに思いますので、通常の労働者に、事業に対する労働者への賃金支払能力は十分にあるというふうに考えることができるのではないかというふうに思います。
 それから、九条の三項で、労働者の生計費を考慮するに当たっては、労働者が健康で文化的な最低限度の生活を営むことができるように、生活保護に関する施策との整合性に配慮するということは、そういう意味では、生活保護との調整というのはあくまでも相互考慮の一つでありまして、その考慮する中で、生計費の一つの要素として生活保護があるという趣旨で書かれているというふうに思いますので、今回の、そういう意味では、改正は非常に良かったのではないかというふうに思っております。
#26
○轟木利治君 最後に御質問させていただきます。
 長谷川参考人にお聞きいたします。
 この最低賃金法に最もどういったものを要望等されるかについてお聞きいたしたいと思います。
#27
○参考人(長谷川裕子君) 私は、最低賃金というのは本当に、ワーキングプアのことですね、格差のことを考えればとっても重要な法案だと思っています。
 今年度の最低賃金がどのぐらい寄与したかということを自分で計算してみました。例えば東京では、七百十九円から七百三十九円に今年上がったんですね。そうすると、一日八時間、二十日働くと、以前は十一万五千四十円だったのが今年は十一万八千二百四十円ですけど、ちょっと上がったわけですよ、やっぱり。これまでの最低賃金というのは一円とか二円で労使の攻防戦が行われておりましたけど、今年は十四円でした、平均で。で、この法律が本当に施行されると、これよりもっと上がるんではないかというふうに思います。そういう意味では、最低賃金に対する期待は大きいんですね。
 いろんな賃金を決めるときに、最賃プラス幾らというのがほぼ賃金の相場です。最賃プラス十円なのか最賃プラス百円なのかということで働く人々の賃金が非常に決定されていきますので、この最低賃金法がこういうふうなことで改正されるとすれば、今年の十四円よりは来年は上がるのではないかというふうに思います。
 そういう意味では、是非この法律案を成立させていただきまして、法施行を速やかにやっていただいて、来年の最賃にはこの法案が反映されるような、そういう支援を、是非国会はエールを送っていただきたいというふうに思います。そのことによって、本当に格差が拡大している、確かに微々たるものですけれども、格差解消の一つにはなるのではないか。ただ、この金額ではまだまだ不満ですので、もっとやっぱり大幅に上がることが必要だと思います。アメリカの最賃法、それからフランスの最賃法を見たって最近上がっているわけですから、是非この法の改正の趣旨が最賃の委員の人たちのところに、中賃の皆さんのところに反映されるように、立法府としても御支援をお願いしたいと思います。
#28
○轟木利治君 終わります。ありがとうございました。
#29
○坂本由紀子君 自由民主党、坂本由紀子でございます。
 今日は、五人の参考人の皆様、お忙しいところを貴重な御意見を伺いまして、心から感謝を申し上げる次第でございます。
 荒木参考人がおっしゃいましたように、現実に様々、労働条件あるいは解雇等をめぐって紛争が生じております。かつてはそのような個別紛争が監督署等に持ち込まれても、基準法違反とかそういう明確に所掌している法律違反でなければ何も手が出せないといいますか、裁判所で解決してもらう以外手がなかったのが、様々、個別労働紛争であるとか、あるいは労働審判の制度ができて、そういう意味で解決の道筋がつくられてきたことというのは、社会のニーズに合っていいことだと思います。そして、その上に、今般そのためのルールとも言える労働契約法が正に国会で審議され成立しようとしているということは、大変大きな意味を持つものだと思います。
 そういう意味で、荒木参考人が契約法制研究会メンバーとして、あるいは審議会の公益委員として大きな役割を果たしてこられたのは、大変これからの労使による適正な労働契約の締結、遵守等に大きな意義を持つものだと思います。
 先ほど御説明の中で、特に今回議論をされておりますところで、就業規則による労働契約の内容の変更についてでございます。変更には合理性が必要であるということを事前に知らしめるという意味で、この条文の意義が大きいわけでございます。長谷川参考人がおっしゃったように、これは判例法理に足しても引いてもいない非常に忠実に作られたものだという御意見もございました。この法律の条文の中に判例法理として示されているものが具体的にどのように盛り込まれているのかということを少し具体的に御説明をいただけますでしょうか。
#30
○委員長(岩本司君) どなたに御質問ですか。
#31
○坂本由紀子君 荒木参考人です。
#32
○参考人(荒木尚志君) 就業規則法理というのは、秋北バス事件判決という昭和四十三年の大法廷判決で出されたものですけれども、これは二つのことを言っております。まず第一は、現在の労働契約法の七条に反映されているんですけれども、使用者が合理的な労働条件が定めてられている就業規則を労働者に周知させていた場合には、労働契約の内容は、その就業規則で定める条件によるものとするというこの部分が一つ、秋北バス判決の前半部分で述べた点でございます。
 それからもう一つ、労働条件の不利益な変更に関する部分が最高裁で判示されましたけれども、それは労働契約法の十条でありまして、使用者が就業規則の変更により労働条件を変更する場合において、そこにいろんな考慮事項を述べておりますけれども、それが合理的なものであるときは、労働契約の内容である労働条件は、当該変更後の就業規則に定めるところによる、こういう趣旨が秋北バス判決で示されたところであります。
 その後、最高裁は約四十年間にわたってこのルールを何度も何度も確認して、完全な判例法理として確立しているところであります。これが今回、七条と十条に反映されているというふうに考えております。
#33
○坂本由紀子君 ありがとうございます。
 紀陸参考人にお伺いをいたします。
 今般、この労働契約法が審議会等で議論されるに当たって、それぞれ労使での様々な御意見が交わされたかと思います。経営者側の御意見として、個別の労働関係の安定のためにこの労働契約法に盛り込まれることが望ましいと考えられる事項がおありでしたら、御意見をお述べいただきたいと思います。
#34
○参考人(紀陸孝君) 細かい点はともかく、一番大きな点は、私ども、解雇の金銭解決のルールでございますね。
 実際問題で、解雇事件に至ると紛争が長期化して、被解雇者の方と企業の間の関係が非常に円滑でなくなる。仮に会社が敗訴して被解雇者の方が会社に戻られても、決して就業の場で、かつての就業の場で円滑に就労ができるかというと、実際はそうではない。そういうケースが非常にたくさんありまして、その場合にどういうような、会社も被解雇者の方も関係が良くなるかというと、やっぱり一つ金銭の解決で処理をするというルールがあってもいいだろうと。決してこれは、よく言われる解雇をお金で買うとかそういうことではなくて、被解雇者のためにもあるいは会社関係者のためにも、両方にいい関係であろうと、そういう選択の余地を広げてほしいという、そういう意味のルールをこの中に設けていただければという点が一番大きかった点であります。
 あと細かい点は幾つかありますけれども、一つ、技術的には難しい点が多々ありますが、そういったような点が私ども要望して残念ながら落ちた点かというふうに思っております。
#35
○坂本由紀子君 紀陸参考人に重ねて伺いますが、現実問題として、長期間にわたって解雇について裁判等で争われてきた場合に、結果としてその解雇について無効である等というような結論が出た場合であっても、その後労使の話合いによって金銭的な解決で職場関係の円満な決着を見るという事例が現実には多いんでしょうか。
#36
○参考人(紀陸孝君) 非常に多いと思いますですね。
 今現在、今年の春から新しい労働審判制度が運用されておりますけれども、その中でも今先生の御指摘のような事象がたくさんあるというふうに伺っております。
#37
○坂本由紀子君 ありがとうございます。
 それでは、重ねて紀陸参考人にお伺いいたします。最低賃金法についてでございます。
 最低賃金は、法で定められた賃金額以上を事業主は支払わなくてはならないというものでございますが、現在、異常な原油高であるとか、あるいは中小零細企業にとってはなかなか原材料費を価格に転嫁できない等々の困難があるやに伺っております。そういう中で必要な賃金の引上げを行わなければいけないというケースが出てくるかと思います。そのような場合に、企業として必要な対応を行うためにはどのような対策が考えられるでしょうか。また、それについて、行政等に対しての要望するような支援等の施策がありましたらお述べいただきたいと存じます。
#38
○参考人(紀陸孝君) お答えいたします。
 現実に、最低賃金の場合に、適用の対象者になられる方というのは、中小企業さんあるいは零細企業さんにおいて雇用されている高齢者の方あるいは女性の方々が多いんだというふうに思うんですね。その場合に、大企業さんと比べて、いわゆる企業における付加価値とか利益の幅が非常に少ないのが現実かというふうに思います。就業の幅も企業の経営の幅も非常に限られておりますし、簡単に、いわゆる大企業みたいに、様々な設備投資をしたりあるいは税制上の恩恵を受けているという場合がございませんので、経営改善の手だてというのが限られてしまっている中小零細さんが多いと思うんですね。そういう中で、わずかでも賃金が上がるということは、企業経営にとって非常に大きい打撃がある。
 先ほどちょっと欠損法人の例申し上げましたけれども、五百万円以下で、さっき私、五社に四社と申し上げましたけど、もう少し厳密に言うと、四社に三社が赤字にならざるを得ないという。先ほど、十七年度の数字でしたけれども、恐らく十八年度、十九年度においても同じような収益の実態だというふうに思います。
 そういう意味で、いろいろなコスト等の転嫁を売値の方にできるかというと、それが容易でないわけでありまして、その状況は今現在も、あるいはこれからもそんなに大きく変わるわけがない。そういう意味で、そのコスト負担の影響が大きいこと。
 それをどうやって改善していくかというと、幾つか手だてがあるんでしょうけれども、一つは、私ども、中小零細さんにおいても企業経営は自助自立でいくべきだというふうに思っておりますけれども、それがどうしてもできない場合にどういう手があるか。様々な、例えば税財政の面で御支援をいただく、あるいは、特に人の確保がままならないという企業さんが多いものですから、そこの人材確保とか、あるいは官民連携して人材の育成という点で、特に中小零細さんに目を向けた人的支援の措置を、今でもいろいろございますけれども、もう少し細かい点まで手の行き届くような効率的な施策をお願いできれば有り難いと思っています。
#39
○坂本由紀子君 ありがとうございます。
 続きまして、長谷川参考人にお伺いをいたします。
 最低賃金法につきまして、先ほど産業別最低賃金が維持されたということは大変意味のあることだという御指摘でした。今度の改正で地域別最低賃金がくまなく、今でもありますが、法律的にも制定されることになりましたが、産業別最低賃金については、賃金の実態は恐らく職種別にかなりその賃金水準が違うのではないかと。そうすると、産業別で一本で賃金を決めることよりも職種別に、その人の職に合った賃金水準がきちっと、今回のような民事効力のあるような最低賃金であれば、示されるような仕組みの方がむしろ、つくるのであれば実態に合うんじゃないかと思うんですが、その点はいかがでいらっしゃいますか。
#40
○参考人(長谷川裕子君) 先生、やっぱり、雇用就業形態の多様化が進んできたときに、一方で今日私も契約法で述べましたけれども、要するに均等待遇などを考えていくときに、やはりこれから能力の評価とかそれから職務評価だとかその賃金というものが本当は連動させていかなければならないんだと思うんですね。そういう意味では、先生が今おっしゃったように、職種別賃金というのは重要な一つの課題だというふうには思っています。
 それはそれといたしまして、産業別最賃が果たしてきた役割はやっぱりこの間大きかったと思うんですね。最低賃金があって、それから産業別にやはりそれぞれ異なったものがあったわけですから、産業別最賃の方がやっぱり最賃、産業別最賃という形で残っていたわけで、そういう意味では、これは労使の努力の反映だったわけですけれども、今これを、産業別最賃を廃止したときに、じゃ地域最賃だけでいいかとなると、それはちょっと、今のとき、労働組合は、それはちょっと待ったということでありました。
 したがって、今回、冒頭に申し上げましたように、産業別最賃が残ったというのは非常に良かったと思っていますが、将来の課題として、先生言ったことについては今後どういうふうにしていくのかというのは検討課題だというふうには思います。ただ、すぐ直ちにできるかどうかというのはなかなか、物すごく難しい課題だというふうには思っています。
#41
○坂本由紀子君 私は、地域別最賃が生活保護への配慮というような形でかなり上がってくるとすれば、今の産業別最賃と地域別最賃との違いがそんなに大きなものじゃありませんので、今の産業別最賃の意義ほど意義を有しなくなるのではないかと。そういう意味で、必ずしもこの制度が今までと同じような役割を果たすのかなというとやや疑問かなと思いまして、伺った次第です。
 次に、長谷川参考人にまた重ねて伺いたいのですが、最低賃金については生活できる水準であることが必要だということで、誠にもっともな意見だと思います。と同時に、企業がそれが支払えるという、企業の支払能力というのもまた大変大事なことだと思うのでございますが、その点について、例えば全国一律千円というような最低賃金のような水準を企業が果たして払えるものとお考えかどうかということ、それから連合は大きな組合組織でございますので、そういう意味で、労使と様々な局面で賃金交渉に当たっておられますので未組織労働者への賃金波及の影響力を大変大きくお持ちだと思います。そういう意味で、連合のような労働組合のこの問題についての果たす存在意義というものをどのようにお考えになっていらっしゃるか、お伺いしたいと思います。
#42
○参考人(長谷川裕子君) 連合は、昨年の〇七春季生活闘争のときも、千円で頑張ろうということで千円千円といって、すべて構成組織でも賃上げ交渉を非正規のところは千円頑張ろうということで努力してまいりました。
 そういう意味では、連合はやはり我が国の労働組合の中である一定影響力を持つ組合ですので、どういう賃上げ交渉をしていくのかというのは重要だと思うんですね。率先して賃上げ交渉をしながら、それをいろんな、最賃だとかそういうものに反映させていくという大きな役割を担っていると思います。
 私どもは、千円というのは、やはり千円掛ける八で八千円で、二十日で、二、八、十六、十六万ですよね。そういうふうなことを考えたわけでありまして、何としてでも今非常に低賃金の労働者をどうやって引き上げていくのかということで、千円と〇七も申しましたし、恐らく〇八もそれで頑張ると思うんですけれども、そういう意味では労働組合として労使交渉を強化しながら日本の労働者の賃金を引き上げていくという、そういう先頭に立たなければならないと思います。
 ただ、もう一つ考えなければいけないのは、最近労働分配率が非常に落ちていまして、労働分配率が落ちているということは、そういう意味では企業の中での労働者に対する賃金が手厚くなくなってきているんだと思うんですね。そういう意味では、もっとやはり労働分配率を上げていく、そういう努力は連合は率先してやらなければならないのではないかというふうに思っています。
#43
○坂本由紀子君 参考人御承知だと思いますが、労働分配率、確かにおっしゃったとおり下がっていますが、中小零細の企業では労働分配率は決して下がっていなくて、収益が下がっているのに人件費はむしろ増えたりしているので、最低賃金の対象になるところはむしろそういう非常に経営的にも大変なところでありますので、この辺は十二分に考慮をする必要があるのかなと思います。
 先ほど来御議論いただいているワーキングプアは、これは、まあ最低賃金というところもあるかもしれませんが、非正規労働者の問題という側面もあるかと思いますので、そういう非正規労働者について、仕事に見合った処遇がどうなされるかというようなことをまた改めて労使でお話合いをなさり、また国会の場でも議論をしていくことが大事なのかなと思いました。
 紀陸参考人に最後お伺いいたしますが、そういう意味で賃金水準というのは、労使で自主的に、それぞれ仕事の成果として適正にお決めになるものかと思いますが、そういう賃金水準の在り方について御見解がありましたら、最後にお伺いしたいと思います。
#44
○参考人(紀陸孝君) 坂本先生おっしゃられるとおりでありまして、賃金というのは労働の対価でございますから、労働の価値とかいうものをどういうふうに評価するか、労働の密度ですとか、あるいは会社に対する貢献度、そういうものを労使の間できちんと測る物差しをつくって、適正に処遇、報酬に結び付けていかないと労使の納得度が高まりませんので、先生の御指摘のところはもっともでございます。そのように多くの労使が努力しているというふうに私ども理解しております。
#45
○坂本由紀子君 終わります。ありがとうございました。
#46
○渡辺孝男君 公明党の渡辺孝男でございます。
 参考人の皆様には、貴重な御意見をお聞かせいただきまして、心から感謝を申し上げたいと思います。
 私からは、今までもいろいろ質問の中でも出てまいりましたことを少し省いて、違う形の質問をさせていただきたいと思います。
 まず、派遣労働者の方々が多くなってきているわけでありますが、今回の最低賃金法の改正では派遣先の地域の最低賃金を適用とするというような内容になっておるわけでございますけれども、この点に関しまして、長谷川参考人、紀陸参考人、荒木参考人に御意見を伺いたいと思います。
#47
○参考人(長谷川裕子君) 済みません、もう一度。
#48
○渡辺孝男君 最低賃金の場合は派遣先の地域の最低賃金が適用されるような形になっておるわけでございますけれども、この点に関しましての御意見をいただければと思います。
#49
○参考人(長谷川裕子君) 失礼いたしました。
 当然だと思います。例えば北海道の労働者が東京に来て働いたのに東京の最賃が適用されないで北海道の最低賃金が適用されるなんというのは、そういうことは本当におかしい話でありまして、今回の、そういう意味では派遣先に、働いている場所のところに適用されるというのは非常に当然で、よかったと思っています。
#50
○参考人(紀陸孝君) 雇用契約の場所と実際に労働する場所と離れている場合がある、そうした場合にはどちらを基準に物を考えるかということだと思うんでございますが、非常に当然で当たり前ということでもないんでしょうけれども、まあ極端な話で今東京と北海道とかというような話がありましたけれども、例えば逆になったような場合ですね、いろんな場面場面で実は答えが違ってくる場合もあり得るかというふうに存じますが、就労の現場にいる期間の方が派遣の方々も多いというような観点から、さっき申し上げた、働くその対価が賃金ですから、そこで得られるものだというふうな理解でそういう法の組立てになったというふうに思っておりまして、私どもやむを得ない措置かなというふうに結果的には理解をいたしております。
#51
○参考人(荒木尚志君) 今、紀陸参考人がおっしゃったのと同様な感じでありまして、これはいずれに整理するかということだろうと思います。
 原則からいたしますと、派遣労働者というのは派遣事業者に雇用されているものですので、そちらを重視するのか、それとも就労の実態、労働関係をどこで展開しているかを重視するのかというので、今回は実際に労働関係を展開しているその現場における最低賃金を適用しようという整理をしたということでありまして、これは一つの整理の在り方として考えられるところだというふうに考えております。
#52
○渡辺孝男君 同じ質問で、生熊参考人、伊藤参考人の方はどのようにお考えでいらっしゃいますか。
#53
○参考人(生熊茂実君) 今現実に起こっている事態というのは、例えば北海道や青森や秋田などの地場賃金は六百五十円ぐらいという非常に最低賃金に近いものなんですね。それが、そういうものでは生活ができないからということで逆に都市部へ来るというふうなものが圧倒的に多くなっているわけですね。
 そういう面でいいますと、今のそういう現実的なものを見ましても、やはり実際上就労先での最低賃金が適用されるというのが望ましいのではないかというふうに思っています。
#54
○参考人(伊藤みどり君) 派遣労働者の場合、当然その就労先に適用されるべきだと思いますけれども、そもそも派遣業というのが高度の専門性に基づく職種に限られていたものが、製造業が解禁されて、そのことによってどんどん賃金が引き下げられてきたという現状があります。
 そして、今朝のテレビでも、沖縄の失業率が高いので愛知に派遣労働者として誇大広告にだまされて夫婦二組が来たところ、広告とは全く違う実際の賃金で、生活ができなくなって、沖縄にも戻ることができない、戻ったとしても失業率が高くて生活できないという実態が今朝テレビで放映されているのを見たんですけれども、そういった派遣労働という働き方そのものが私は最賃以前のというか、雇用主と働いている現場が違うというこの矛盾が広がっている現実にすごくメスを入れなければいけないんではないかというふうに、ちょっと最賃の問題からそれますけれども、認識しております。
#55
○渡辺孝男君 次に、最低賃金法の減額の特例に関してちょっと質問をさせていただきたいと思うんですが、現在の法の八条を改正法案では七条として減額の特例を設けたわけでありますけれども、この点に関してどのようにお考えなのか、障害者の雇用という観点でどのようにお考えなのか、長谷川参考人、紀陸参考人、荒木参考人にお伺いをしたいと思います。
#56
○参考人(長谷川裕子君) 障害者の方々が、最近、福祉から就労へということで町の中で働いている風景が非常によく見られてきたと思います。
 障害者の方々は、やはり自分たちも一人の人間として働いて生活していきたいという意欲も非常に高まっております。そういう意味では、障害者の方々にも最賃をちゃんと適用させていくということが私は重要なのではないかと思いますし、それから障害者の人たちもそのようにしてほしいという要望もありますので、私は、早く障害者の方々についてもきちっと適用させていくことが重要ではないかというふうに考えております。
#57
○参考人(紀陸孝君) 基本的には長谷川さんと同じ意見でございますが、特に減額の措置、内容でございますね、これにつきましてはこれから論議をされる。特にその場合に障害者の方々のいろいろ御意見を聴く、あるいは実態をきちんと把握する、そうした上でどういうような減額率にしたらいいのか、今後審議が行われるかと存じますので、そちらの審議の内容に期待をいたしたいというふうに考えております。
#58
○参考人(荒木尚志君) 最低賃金の決定に当たっては、その該当者がきちんとした就労機会を得られるかどうかと、そういうマーケットの中での就労機会というものとの整合性を取りながら考えなければいけない問題があるというふうに考えております。
 障害者につきましては、これまでは就労支援という形で雇用政策としてやってきておりましたけれども、世界の趨勢は障害者を差別を禁止するという方向で議論が展開してきているところであります。したがいまして、最低賃金についてもそのような観点からの見直しという方向を考える、これが今後は一つの課題になってくるのではないかというふうに考えております。
#59
○渡辺孝男君 ここで減額率というようなことを考えていかなければいけないと、もし法案が通ればですね。こういう、どのように障害者の皆さんの働く能力を評価して、万一の場合、特殊な場合は特例として減額率を考えるということになりますが、この点はどのように障害者の方々にお働きをいただくという、賃金も適切な賃金をいただけるようにする場合の配慮といいますか、どういうふうに減額率というものを考えていったらいいのか、もし御意見があれば、長谷川参考人あるいは荒木参考人にお伺いをしたいんですけれども。
#60
○参考人(長谷川裕子君) 具体的に持ち合わせておりませんけれども、ただ、今厚生労働省の審議会で障害者分科会で障害者の雇用促進についての意見交換が行われています。
 やはり障害者の方々は働きたいということ、非常に意思が強いです。働きたいということと、その働いたことに対する正当な評価としての賃金ということに対しても恐らくきっちりと支払ってほしいという、そういう要望は強いんだと思うんですね。どういうところで減額するのか、どういう減額の仕方がいいのかというのは、もう少しやっぱり障害者の方々の意見だとか、それから研究者の意見だとかを聞きながらきっちりとつくっていくことが必要なのではないかというふうに思います。
 今、具体的にこういうふうなものがいいのじゃないかというのは私は持ち合わせていませんけれども、ただやはり働いた人に対しては、一時間当たり最賃が七百十円だとすれば七百十円をちゃんと適用させると。障害者の雇用の支援はまた別の形で、それぞれの事業所で障害者の障害に応じた支援の仕方ってあるのではないかというふうに思うんです。だから、賃金の支払と、それと支援というものをもう少しきっちりと整備していくことは必要なのではないかというふうに思います。
#61
○参考人(荒木尚志君) 私も具体的な考えを持っているわけではございませんけれども、日本はこれまで障害者という方というふうにカテゴライズして、その方の実際の労働能力というものには余り着目してこなかったというふうに思います。しかし、障害者差別を禁止するようなアメリカとかEUでは、その方は例えば障害があったとしても労働能力では全然普通の方と変わらないということがあります。
 その障害者の方が適切な便宜を提供してあげればちゃんと就労できるということがあるわけでありまして、そういう障害者の方をカテゴライズしたアプローチから、その人の本当の能力、個人の能力を見るという方向での施策が今後は望まれるのではないかというふうに考えております。
#62
○渡辺孝男君 障害者の雇用というのは大変重要な課題でありまして、雇用もきちんと確保していく、そしてまた働いていた場合には適切な賃金というものをやはりお決めいただくということが大事でありまして、今のところ、研究をされている参考人の皆様からも、これからの課題ということでありましたので、これはまた後日御意見をお聴かせいただく機会もあるのではないかと、そのように思っております。
 今、少子高齢化でやはり若い方々が給与の面で特に結婚できないというようなこともあるわけでありまして、最低賃金というのはやっぱり少子化の問題考えるにしても大事な観点ではないのかなというふうに思っておるわけでありますけれども。若い方々が結婚するに適切な賃金といいますか、そういうものを確保するために、地域によってまだまだ最低賃金の格差があるわけでありますけれども、そういう地域で、特に秋田の方は私も行くことがあるわけでありますけれども、なかなか最低賃金の額も低いと。秋田の方は一番少子化も進んでいるということでありまして、何らかの関係があるのではないかというふうにも考えておるわけでありますが。
 そういう特に少子化が進んでいる、しかも最低賃金の額がやっぱり低いというようなところに対して、特に何かこういうことをして対策を講じていったらいいのではないかというもし御意見がございましたら、長谷川参考人、紀陸参考人、荒木参考人にお伺いをできればというふうに考えております。
#63
○参考人(長谷川裕子君) 最低賃金も格差がやっぱりあるわけですね、秋田だとか九州の方で一番低いランクになっているわけですけど。私は、日本国民がどこで暮らしてもやっぱり人間として幸せに家庭生活も営めて暮らせるような、そういう社会をつくることだというふうに思っています。したがって、秋田で暮らしていたら秋田でちゃんと生活をできるように、人間として幸せな生活をできるように、最低賃金とはセーフティーネットですから、これよりは下回ってはいけないというものですから、それをきっちりとやっぱり確保することが必要なのではないかと思います。
 先ほど最賃千円になったら大変じゃないかというふうなことも御指摘ありましたけど、今やっぱり企業は非常に景気がいいわけですね。でも、それが中小企業にまでなかなかその景気の良さが下りてこない原因は何なのかということなどもいろいろ検討していただきまして、中小企業にももっとお金が流れるような、そういうのをやっぱり政治の政策の中で補強することが必要なのではないかと思います。
 北海道で暮らそうが、宮城県で暮らそうが、秋田で暮らそうが、沖縄で暮らそうが、やはり日本国民であったらば、働けば、健康で働けない人もいますけれども、働いたらばちゃんと暮らせるというようなものをきっちりと保障する、そのセーフティーネットが最賃だということでありますので、是非この辺は立法府である先生たちの中でも議論していただいて、最賃がもう少し上がりながら、私たちが本当に健康で文化的な生活を営めるような、そういうもののセーフティーネットとしてちゃんときっちりとつくっていくことが必要なのではないか。是非、この法案が成立いたしまして速やかに実行されるような、そういうエールを送っていただければというふうに思います。
#64
○参考人(紀陸孝君) 渡辺先生、私どもの組織にも一応の経営者協会なるものがありまして、その下に地域の中堅企業さんがいっぱい会員さんとしておられます。そういう意味で、地域の経済の活性化というのは私どもにとっても非常に関心の強いテーマでありまして、現実具体的に、例えば秋田ならどうするか、逆に沖縄とか北海道ならどうするか、非常に難しい問題ございますけれども、それぞれの地域の特性に応じて活性化の施策をどういうふうに打っていくかということになっていくんだと思うんですね。現実に雇用の場がないと働くこともできませんし賃金を得ることもできませんので、どういう形で雇用機会を拡充していくかというのが非常に大事なテーマだというふうに思っております。
 産業集積の形も様々に違いますし、秋田でもかつてのような商業中心の地域からだんだんと地域によっては製造の拠点になり得るところも出てきておりまして、そういうものを、ちょっと極端ですけれども、日本海を越えて、ロシアですとかほかのアジア地域とどういうような連携を取ったらいいか、そんな論議も実は地元ではされておられるようでして、旗振り役をちゃんとつくってそれを支援する形、さらにそれを産官学がいろんな形でサポートする仕組みをどうやってつくっていくかという、そういうことはすぐできないかもしれませんけれども、できるところからやっていって、みんなで努力しようという機運が、様々に地方分権の論議とも絡んでいるんでしょうけれども、行われておりますので、私どももそういうものにできる範囲で関与もしていきたいというふうに思っております。
 余りきちんとしたお答えになっておりませんけれども。
#65
○参考人(荒木尚志君) 最低賃金というのは非常に国によって制度が違っております。例えばスウェーデンとかドイツはそもそも最低賃金法というのは存在しません。その代わりに協約、産業別の協約が最低賃金の代わりはしております。それからイギリスは、かつては団体交渉が機能しない分野にのみ賃金審議会が最低賃金を設定しておりました。しかし、現在は全国の統一的な最低賃金を設定する最低賃金法ができております。
 日本はこのように産業別での最低賃金という制度は根付かなかったわけですね。今回、協約拡張方式というのは廃止されました。これは、日本の労働組合というのは企業別組合でありますのでその限界もありまして、最低賃金法は拡張適用ができないという中で非常に企業間格差が広がってきている。そこで最低賃金に依存するといいますか、部分が非常に強くなってきている。ところが、企業間の格差がありますので、最低賃金が設定するのは非常に一番下の部分に張り付いてしまっていると、そういう問題があるというふうに思います。
 しかし、この問題はそもそも企業の賃金設定をどうするかということとも関係しておりますので、すべてを最低賃金法だけで解決するというのもなかなか難しい。そういう複合的な要因を考えて対処しないといけないのかなというふうな気がしております。
#66
○渡辺孝男君 就労規則の周知ということも先ほど多くの方から質問があったわけでありますけれども、この周知のやり方を本当に労働者の皆様に分かるようにしていくための工夫といいますか、こうすべきだというような御意見がございましたらば、長谷川裕子参考人にお伺いをしたいんですが。
#67
○参考人(長谷川裕子君) 本来は、就業規則は我が国の非常に特徴的な制度だというふうに言われています、こんなふうに就業規則が発達した国も珍しいと言われているわけですけど。
 ただ、私は本当は、労働者が職場に入ってきたとき就業規則をちゃんと渡せばいいんだと思うんですよ、こんなふうに就業規則はなっている。ところが、まずそういう事例はないです。本当にないです。大体、事業所の見えるところに何か掛けてあるとか、どこかの机の引き出しに入っているとかって結構あって、あと後生大切に金庫の中にしまっているという例もあるわけですけど、本来は、就業規則というのは誰でも労働者が見れるようにしておくことが必要なんで、私は、入ってきたときにきちっと渡すのが一番いいのではないかというふうに思っています。
#68
○渡辺孝男君 ありがとうございました。
#69
○福島みずほ君 社民党の福島みずほです。
 今日は、参考人の皆さん、本当にありがとうございます。
 まず、紀陸参考人にお聞きをいたします。
 労働法制の規制緩和と労働契約法との関係について、どうお考えでしょうか。
#70
○参考人(紀陸孝君) 私ども、基本的に労働をする上で一番労使が納得度を高めるとか満足度を高めることが必要だというふうに思いますんで、そこはやっぱり労使の自治というのが基本にあるべきだと思うんですね。そういう意味で、規制というと、細かい点まで配慮をよく加えずに、どちらかというと一律的になされる場合が多いと思いますので、そうすると、できるだけ最低のところだけ規制してあとは基本的に労使に任せていくという、そういうのが基本的な関係ではないかというふうに思っております。
#71
○福島みずほ君 労働契約法案は労働法制の規制緩和の趣旨に合致するとお考えでしょうか。
#72
○参考人(紀陸孝君) 基本的にこのねらいは、労使間、特に個人の問題でトラブルを回避しようというねらいに趣旨があると思っておりまして、その範囲での新たな法規制を織り込んだもの、あるいは焦点になります就業規則と契約の関係の法理を明らかにしたものと、そういうようなものというふうに理解しております。
#73
○福島みずほ君 紀陸参考人に、個別事件の解決とおっしゃいましたが、今の日本の社会で個別事案の解決がうまくいっているという認識でしょうか。
#74
○参考人(紀陸孝君) 個別事案の解決で一番望ましいのは、会社の中で本当の意味で納得ずくで解決が付く、それが一番望ましい形だと思っております。
 ただ、現実には、先ほど荒木先生からお話がございましたように、様々な分野でADRの活用だとか正に新しくできた労働審判の活用とかという面で個別労働紛争の事案が増えている。そこはやっぱり、会社の中で十分に解決できない部分も増えている、あるいは本当はもっとその会社の中で解決事例が増えているのかもしれませんけれども、それはちょっと把握しようがないので、ただ、結果から見ると、事案が増えている、外に出ている事案が増えているという点から見ると、会社の中で完全に対応し切れていない問題も出てきているのかなと、そういうような、大ざっぱですが、観測をしております。
#75
○福島みずほ君 伊藤参考人にお聞きをいたします。
 非正規雇用労働者からの労働相談の実例や、特に最近の格差が拡大されたと言われている中での不利益変更の実情などを教えてください。
#76
○参考人(伊藤みどり君) 今日皆さんにお配りした資料の中の非正規雇用の場合という、こういうペーパーを配っていると思いますけれども、これ、私どもが今年の五月のホットラインをしまして、そのときの統計を取ったものです。
 これによりますと、正規雇用よりも非正規雇用労働者の労働条件の不利益変更が多いという、そういった結果が出ました。例えば、ちょっと幾つか事例を言いたいんですけれども、販売員の場合、六時間パートで十年間働いてきたが、退職しても人が補充されない。四人体制が三名体制となり、仕事が過密で上司に改善を申し入れたが、対応してくれない。二のところで見ますと、九時半から十二時半の勤務時間を三十分短くされ、十二時にタイムカードを押してから残業しろと言われる。就業規則を勝手に作って、無期契約から有期雇用に変更された。八百五十円で七時間でパートで働いてきたが、三月から午前十時から午後六時勤務を午後一時半から夜八時半の遅番勤務にされて、時間も三十分短縮され、夜が家事に響くので、食事代もカットされ、同僚がたくさん退職した。その後は学生アルバイトがやっているというような、挙げたら切りがないほど労働条件の、ただでさえパートタイムの人たちは労働条件悪いのに、その上にまた更に労働条件を引き下げられるという実態がたくさんあります。
#77
○福島みずほ君 長谷川参考人にお聞きをいたします。
 先ほど周知性の件でお話をしてくだすったんですが、合理性についてお聞きをいたします。
 この委員会の中でも、厚生労働省は、合理性のチェックは労働基準監督署ではしていないということを明言をしたわけですが、結局裁判しか救済の対象はないんですねと言ったら、そうですというお答えだったんですが、労働就業規則に合理性があれば労働契約の中身になる、就業規則の不利益変更は一定の要件で合理性があればいいとした場合、最終的に裁判しか救済の対象がないわけですが、合理性の担保というのはどういう形でなされ得るのかとお考えなのか、教えてください。
#78
○参考人(長谷川裕子君) 先ほど私が申し上げましたように、今の現状が何ら今回の契約法で変わるものでないと言ったのは、正に先生がおっしゃったように、労働条件の変更をやるときには、一つは基本的にはやっぱり労働者と使用者の合意がなければ変更はできませんね、契約変更はできないわけですよね。それから、それを就業規則でやる場合がいろいろ起きてきて紛争になるわけですけれども、労働条件の不利益変更をやると。そのときに、就業規則による労働条件の不利益変更をやったときに、それがどうなのかというのは全部訴訟で争われてきたわけですね。訴訟で争われてきた判決が出て、だから、先ほど言われた秋北バス事件から第四銀行事件までずっとあるわけですけれども。
 ただ、具体的にじゃ職場の実態で何があるかというと、賃金が四割下げられて六割になったと、六割になったんだけれども、でもこれはおかしいというふうに労働者は思いますよね。そういうときに、労働者は、一回目は会社でやると思うんですよ、おかしいおかしいと。それでも会社は曲げないと。それで、そのときに労働相談に行くと思うんですね。労働相談に行ったときにどうしましょうかねと言って、会社うんと言ったんですか、どうですかと言われて、いや、私はこれは納得しませんと。じゃ、これは、まあこれだと訴訟で争いますかどうですかと言って、訴訟で争ってきたのが現状だと思うんですよ。そういうのが何ら変わらないことは事実だと思うんですね。
 納得して、労働条件がこんなふうに四割カットされて六割になるということを納得すれば、それはそれで働いているんだと思うんですけれども。その合理性の判断というのは、ある意味では訴訟の場面に行けばこういうことですよということで、訴訟以外で話し合って解決する場合もあるだろうし、例えば都道府県の労働局に行って、労働局があっせんでやる場合もあるだろうし、それから労働組合に来たときに労働組合の相談された人が会社といろんな協議やることがある。その場面はいろいろだと思うんですよね。
 ただ、今回のやつは、その合理性の判断はじゃ最終的にはどこですかと言われたら、それは訴訟の場ですよねということは、私も同じだというふうに思いますけれども。
#79
○福島みずほ君 伊藤参考人にお聞きをいたします。
 就業規則の不利益変更の裁判例は、いずれも残念ながら労働者の側が負けて合理性があると認められたケースであること。第四銀行の最高裁判決の要件を三つ減らしている、中身を今回の法案の中に盛り込んで三つの要件が落ちていると一見見れることなどあると私は考えているのですが、判例を積み上げてきたものを労働契約法案に盛り込むと、判例以上にはいかない、判例以下になってしまうという危惧を感じているのですが、判例は個別解決でよく獲得することができる。今回までは負けたけれども次は勝つかもしれない、それがこの労働契約法案が上限になってしまうという問題を考えているのですが、現場で判例が優先されていくことをどのように考えていらっしゃるでしょうか。
#80
○参考人(伊藤みどり君) 私は、もう判例法理を盛り込んだからいいんだという、この考え方自体に反対です。
 そもそもパートタイムや派遣の人たちが裁判を起こすということはとっても大変なことです。女性たちは、例えばセクシュアルハラスメントの判例を何回も何回も裁判をやって負け続ける中で、少しずつ改善してきました。だから、判例というのは常に変わるものでなくてはならないと思うんですね。それを固定化したら、今度はその使用者が、じゃその要素を満たせば不利益変更ができるんだということを、すぐそこを悪用する人たちがとても増えてくるというのは、私は、現実でも今でもそういったことがほかの法律でも起きていますので、更にこの判例を使った使用者側の不利益変更が増えると思っています。
#81
○福島みずほ君 生熊参考人にお聞きをいたします。
 今回、最低賃金法案の修正案に関して、産業別最低賃金に係る違反については罰則の対象から除外をしているわけですが、失礼、もっと正確に言い直します。今回の最低賃金法案は、産業別最低賃金に係る違反について罰則の対象であることを除外しているわけですが、これについて問題があると考えますが、いかがでしょうか。
#82
○参考人(生熊茂実君) 最低賃金が法律で決まるというのは、言ってみれば賃金を強制力を持っている法律ってこれしかないわけですよね。それが、産業別最賃だろうが地域別最賃だろうが、それを違反した者に対して罰則を行わないということは、それは強制力のある最低賃金法とは言えなくなる。そういう面で私は、除外するというのは間違いではないかというふうに思っています。
#83
○福島みずほ君 長谷川参考人にお聞きをいたします。
 過半数代表制度の中で民主的な選挙が十分に確保されているのかという地方連合からの声も上がっていたと書かれておりますが、この修正案でどうやって透明性や正当性を担保をしていくのかということについてどうお考えか、教えてください。
#84
○参考人(長谷川裕子君) 先生、まず、今回のこの労働契約法には、当初、六月二十七日の段階までに盛り込まれた過半数代表による合意だとか、それから労使委員会の合意によって合理性を推定するという項目は削除されていますので、もし、先生の今のおっしゃる御質問は労働基準法の過半数代表の話でしょうか。
#85
○福島みずほ君 はい。
#86
○参考人(長谷川裕子君) だとすると、私どもは今の過半数代表には問題があるというふうに思っています。過半数代表をどのように選ぶのかということについて明確でありませんし、それから、一人だけというのが本当にいいのかというふうなことも問題だと思っていますので、私は、最近の雇用就業形態の多様化の中で、我が国にも労働者代表制を取り入れて多様なる労働者の意見を聴くという、そういう仕組みをつくった方がいいのではないかというふうに考えております。既に連合は労働者代表制法案骨子も出しておりますので、多様なる労働者の意見を聴く、そういう仕組みを日本でもつくるべきだというふうに考えています。
#87
○福島みずほ君 では、長谷川参考人にお聞きをします。
 今回の労働契約法案ではそこまでいっていないので、今後とすれば、様々な、本当は労働組合の合意が必要だというふうに私はした方がベストだとは思いますが、どういう人の、どういう労働組合のどういう意見聴取をしたかどうかということについて、今後検討の余地が大いにあるのではないか、正当性や透明性の担保をするために必要ではないかという点についてはいかがでしょうか。
#88
○参考人(長谷川裕子君) 今回の労働契約法には、さっき言いましたように、合理性の推定に労働者代表の関与がございませんので、この話は別にして、現在、広く労働法の世界に登場している過半数代表ですね、まず三六協定の過半数代表から始まって、直近では高齢者雇用安定法の労使協定のときに、過半数代表など六十、七十項目ぐらいあると言われているわけですけれども、その過半数代表についての選び方については、私はやっぱり、ドイツなんかは四年に一遍に労働者代表選挙を全国的に展開するわけですけれども、そういうふうに従業員代表をいろんな分野から選ぶような、そういう選挙制度を、労働者代表制をつくるということが必要なんではないかというふうに見ます。
 是非、機会があったらば、連合の労働者代表制について御披露させていただける機会があればいいと思います。私どものやつは、正規の労働者も、それから契約の労働者もパートタイム労働者からも、物によっては、要するに内容によっては派遣労働者とか請負労働者からの意見も聴取できるような、そういう仕組みにしてあります。そうすればいろんな方の意見を吸い上げることができるというふうな形にはしてあります。是非我が国でそういう制度をつくるべきだというふうに思っています。
#89
○福島みずほ君 長谷川参考人に再びお聞きします。
 この労働契約法の就業規則の不利益変更の条文では労働組合等というふうになっているわけですが、その部分についての解釈についてはどうお考えでしょうか。
#90
○参考人(長谷川裕子君) 審議会の中で議論したときは、恐らく今回の参議院のこの委員会の中でも、前回の委員会で質問に対する答弁にも出ていると思うんですけれども、第四銀行事件の労働組合とのという、そういうところを引用しました。だから、労働組合等というのは、労働組合といったって一杯あるわけですからね。労働組合及び従業員の意見を聴くというふうなことだというふうに私は理解しておりますけれども。
#91
○福島みずほ君 荒木参考人にお聞きをいたします。
 例えば、届出でない就業規則は労働基準法違反であるものも入っているでしょうし、合理性の担保は労働基準監督署に届けられているものについても、合理性があるというものも、でないものも多く含まれていることは御存じのとおりだと思います。だとすると、合理的なものが労働契約の中身になるというのは非常にやはり現実的に難しいのではないか。というのは、合理的でないものもたくさんあるわけで、先ほども私が言いましたように、裁判でしか争えないわけですよね。ということについてどうお考えでしょうか。
#92
○参考人(荒木尚志君) 現在、裁判所で通用しているルールが、合理性のある就業規則は労働者を拘束するというルールでございます。それが裁判にならない限りは分からないではないかと、そういう御質問だというふうに考えます。しかし、現実に裁判所を支配しているルールはそういうことでありまして、私はより問題なのは、合理性があると、合理性がなければいけないということが周知されていないことの方がより重大な問題だというふうに思います。
 たまたま、先ほど東武スポーツの事件が話題になりましたのでその関連でいいますと、これは正に無期契約を就業規則で有期契約に変えると、そういうような事案でした。ところが、これが訴訟になりましたところ、使用者の方は就業規則の一方的不利益変更は有効であるという主張はしないというように主張を撤回しているわけです。
 すなわち、今大事なことは、就業規則の不利益変更には合理性が必要なんだということが国民に知らされることが大事でありまして、そうでない限りは同じように不合理な就業規則を変更してそれを事実上労働者に押し付けるような状況が改まらない、そういうことになってくるというふうに考えますので、現状を改善するためにもこの契約法のようなルールを定めることの必要性があるというふうに私は考えています。
#93
○福島みずほ君 私は就業規則の不利益変更には合理性が必要だというキャンペーンを厚生労働省がやればいいのではないかと個人的には思っております。
 生熊参考人にお聞きをいたします。
 もし本当に労働者の権利を守るということであれば、労働契約法が一般的に必要であることは私も認めますが、むしろ、労働基準法を強化する、あるいはその労働基準法のキャンペーンをきちっとする、あるいは労働基準法違反の就業規則は認めないというふうにするということなどで労働者の保護をすべきではないかというふうに考えますが、いかがですか。
#94
○参考人(生熊茂実君) 私も、労働契約は労働者の保護というふうな面、まあ目的がそうされていますけれども、実質上はそうはならないという非常に懸念を持っています。そういう面で、今おっしゃられたように、労働基準法の強化あるいは抜本的改正によって労働者を守るということが大事なんだろうというふうに思います。
 ちょっと申し訳ないですが、合理性の問題、先ほどお話ありましたけれども、やっぱりいろんな形で、例えば経営が本当に厳しければ労使で十分に話し合って賃金を下げるということもあり得るわけです。それはやっぱり本当の意味で労使で十分に協議とそれから合意がなされれば、それがある面では本当に合理性ということになるんではないか。法律で一律的に合理性というふうなことを簡単に決める、そんなことはできないでしょうし、就業規則によって合理性があるものは変えてもいいんだと、こういうふうにすることは許されないんではないか、そういうふうに思っています。
#95
○福島みずほ君 私はあと一分しか、三十五分までなので、では伊藤参考人に一分間だけ、現状のワーキングプアや女性の現状について一言お願いします。
#96
○参考人(伊藤みどり君) 最近、貧困の問題が言われていますけど、貧困の質がもうかつてとは全然変わってきた。例えば、パートタイムの人たちは、以前だったら賃金が安くても労働時間が短いということがあったと思うんですけれども、今賃金が安い上に責任が重い、残業もある、有休も取れない、配転もある、責任を持たされる、そして、貧しくて生活できない、労働時間も長い、本当に働いても働いても生活できないという。だから、貧困の質が全く変わってきたということをもっと強く皆さんに認識してもらいたいというふうに思います。
#97
○福島みずほ君 終わります。ありがとうございました。
#98
○小池晃君 日本共産党の小池晃です。
 最初に長谷川参考人に最低賃金法についてお伺いをしたいんですけれども、先ほど千円以上という話もありましたが、連合の当初の要求ということに比べると、やや不十分さが残る法案になっているんではないかと思うんです。更なる改善を求めるとすればどのような点なのか、お話しください。
#99
○参考人(長谷川裕子君) 最賃のこの法律ができますと、その後恐らく規則を作る審議会が開催されて規則制定されて、その後、中賃で、中賃の後、部会で、目安というのが大体そういうふうなことになっていくと思うんですけれども、やはりそのときにこの法律の趣旨ですよね。
 今回の法改正がされたわけでありますけれども、この九条の改正の趣旨がきっちりとそういう審議会の中に生かされて、公労使でこれに沿ったようなものがつくられていくことと、地方の中で、地方の三者構成の中で地域最賃が決められていくと思いますけれども、その中できっちりと、私は何回も言いますけれども、この法の趣旨が生かされることが重要だというふうに思って、そして、元々最賃というのは非常に小さい金額から徐々に積み上がってきたわけですけれども、本当にこの最低賃金法がセーフティーネットになっているわけですから、本当に地域、先ほど秋田の話も出ましたけれども、地域の中でこの最低賃金が労働者の賃金を考えるときのセーフティーネットになっているかどうかという視点で、きっちりと労働者の生活という、健康で文化的な生活をするときのセーフティーネットになっているのかどうなのかということを視野に入れながら、審議会をきっちりやって金額を決めていくことが重要なのではないか。
 私は、この、やっと十万台になったわけですね。一日八時間働いて、二十日働いてやっと十万。十万で十二か月ということは百二十万ですよ。そうしたら二百万以下の話なわけですよ。だから、もっとそういう意味では最賃がもう少しやっぱり頑張って引き上げていくことは、私は我が国の労働者が健康で文化的な生活を進めていくときのセーフティーネットの機能として果たすためには、もっと上がることが重要なのではないかというふうに思っています。
#100
○小池晃君 ありがとうございました。
 生熊参考人にお伺いしたいんですが、全労連も最低賃金せめて時給千円にというスローガンを掲げて、労働団体を超えた共通の要求になっているというふうに思うんですが、先ほどから中小企業の経営を圧迫するという議論があるので、この点についての見解をお願いします。
   〔委員長退席、理事家西悟君着席〕
#101
○参考人(生熊茂実君) 共通認識として言えるのは、大企業はかなり今大きな利益を上げている。しかし、中小企業の経営状況は厳しいということだろうと思うんですが、なぜそういうふうな状況にあるのかということがやっぱり一番問題だろうというふうに思うんです。
 私、先ほどの意見の陳述のときにも申し上げましたように、残念ながら日本の場合、大企業と中小企業の力関係というのは物すごく違うものです。ある社長さんに私聞きました。材料費込みで一〇%下げろと言われた。私はその仕事を断ったけれども、一晩寝られなかったと言っていました。二日、三日たって、もう一回、あれ、じゃやってくれないかと言われて本当にほっとしたと、こういう実態が私あると思うんです。
 とするならば、先ほども申し上げたんですが、下請代金法では、いわゆる一方的な値決めは違法とされています。しかし、もう一つは下請振興基準、これには強制力はないわけですが、下請中小企業の適正な利益やあるいは労働者の労働時間短縮と労働条件の向上ができるように決める努力を求めています。この下請振興法の振興基準を具体的に強制力のある法律にしていけば、非常に日本の中小企業の経営実態は改善されていき、多くのところでこういう支払能力が問題にならないようなことが起こるのではないだろうかというふうに思っています。
#102
○小池晃君 続いて生熊参考人、伊藤参考人にお伺いしたいんですが、労働契約法について。
 判例法理を立法化したんだということが繰り返し出てくるわけですね。足しも引きもせずという話あったんですが、現実には七つの項目が四つに整理されている。これ十分に立法化されたというふうにお考えかどうか、お話しください。
#103
○参考人(生熊茂実君) 七つの項目すべて挙げることはいたしませんけれども、非常に簡略な言葉になっていて、その水準や何かが全くあいまいになっているというふうに思います。実際の第四銀行の判決では変更する場合も高度の必要性と、高度のというのが入っているわけですね。やっぱりそれが単なる必要性とは大いに違うと思います。ハードルがうんと低くなる危険はあるというふうに思いますし、そのほか代償措置やその他関連する他の労働条件の改善といわゆるバーターで一部の不利益変更というのが認められてきた、こういう経過があると思います。
 そういう面で、私は、この最高裁判例を、足しても引いてもいないということになっていないと思いますし、またこれ先ほどお話ありましたように、これが上限になる、法律で決まった場合には今後の判例がこれ以上にすることが非常に厳しくなる、こういう面でも重大な問題ではないかというふうに思っています。
#104
○参考人(伊藤みどり君) 私も、繰り返しになりますけれども、判例がやっぱり上限になるということが一番危険で、やっぱり働いている人たちの今現状が、非正規雇用でさえ労働条件の不利益変更が起きているという状況の中でこの判例を明文化したら、使用者側はそれを盾にますます労働条件の不利益変更がやりやすくなるというふうに考えております。
#105
○小池晃君 それから、合理性の判断については、この間、結局裁判なんだということが議論されてきているわけですね。これも生熊参考人、伊藤参考人にお伺いしたいんですが、伊藤参考人から先ほどそういう趣旨の御発言もありましたけれども、やっぱり労働者の現状の実態から見て裁判なんてとても簡単にいかないという実態があるだろうと。私は、労働契約法というのは、本来作るとすれば裁判しなくても済むようなやっぱり労働者保護の法案であるべきだというふうに考えるんですが、裁判で合理性というこの議論についてはどのようにお考えか、お話しください。
#106
○参考人(伊藤みどり君) 今現実には個人加入のユニオンが就業規則を不利益に原則変更できないというところで、労働組合が一生懸命会社と交渉してそういった不利益変更を防いでいるという現実があるわけですね。だから、そのことが、合理性があればというような、判例を満たしていればというような文言が出てしまうと、せっかく今現実にそのことを使用者側と話合いで円満解決できたものが、今度はこの文言を理由にしてできなくなるんではないかと。
 だから、裁判というのは本当に最後の手段だと思うんですね。だから、現実には労使が本当に円満に話合いで解決するということが一番なんであって、やっぱり変更できるということを文言に入れてしまうというのは本当におかしいと思います。
#107
○参考人(生熊茂実君) 先ほど二つの事例を挙げました。東武スポーツとそれから蛇の目ミシン工業の話ですが、これもやっぱり私たちの労働組合に加入をして、それで初めて裁判ができるんですね。やっぱり、さっきも言いましたように、お金も掛かる、時間も掛かる、社会的ないろんな目もある、そういう中で裁判でこれを争うというのは大変一人一人の普通の労働者にとってはきついことです。そういう面では、様々な不利益変更があったとしても泣き寝入りをしてしまう人たちが非常に多いんではないか。個別紛争事件が増えているという話がありましたけれども、その陰には紛争になっていないものが物すごく、何倍、何十倍とあるだろうというふうに私は思っています。
 そういう点で、裁判で争うというのは大変やっぱりきついことだと思いますし、改めてこの労働契約法が本当に強行的な法規として、それで実際に守らなければならない、そういう強制力のあるものになることを願いたいというふうに思っています。
   〔理事家西悟君退席、委員長着席〕
#108
○小池晃君 それから、続いて生熊参考人にまたお聞きしたいんですが、就業規則の取り扱われ方、周知という話がありますが、伊藤参考人からリアルな実例かなり示されたんですけれども、これが実態どうなっているのか。せめて文書配付義務のようなものがあるべきではないかというふうに思うんですが、その現状の実態とあるべき姿についてお考えをお聞かせください。
#109
○参考人(生熊茂実君) まず、入社のときに就業規則を渡されるというのはごく一部にしかないんじゃないでしょうか。実際には労働条件の明示についても、それを文書で渡されるということもほとんどなくて、口頭で行われるということが多いと思います。就業規則は、その後職場に入ったとしても、とりわけ中小企業などでは、先ほど申し上げましたように、大体職場に一冊置いてあるのがいい方だというふうに思います。本当に見えないような状況も実際にあるわけですけれども、あってもぶら下げられているということで、ほとんど見る機会がないというのが実態だと思います。
 そういう面では、先ほど他の参考人からもお話ありましたように、当然入社のときには、すべて入社する労働者には文書で就業規則を配付する、これがやっぱり最低望まれることであり、そして初めて周知ということが言えるんではないだろうか、このように考えています。
#110
○小池晃君 労働契約法についてはいろんな問題点があると思うんですが、やっぱり格差と貧困、格差社会急激に広がっているというときに労働条件を一方的に変更できるような仕組みを立法化するということが、何でこんなことをやらなきゃいけないのかという、根本的に私疑問に思います。そのことを申し上げたいと思います。
 それから、最賃の問題、ちょっと一点追加して生熊参考人にお伺いしたいんですが、全労連の方では最賃の決定の手続の問題について、労働者委員の問題で、労働団体から広く公募して民主的手続によって毎年改選されるようにという要請も出していらっしゃいますけれども、この問題での実態と改善すべき点、あったら教えてください。
#111
○参考人(生熊茂実君) 私たち全労連には、商業サービス関係とか中小零細企業の労働組合がかなり多いところがあります。そういう面でいうと、本当にやっぱり最低賃金を必要としている、あるいは最低賃金の改善を本当に望んでいる、そういう仲間たちの声を何とか代表したいということで、私たちは最低賃金の審議会に私たち全労連の組合員の任命を求めているわけですけれども、いまだに一人として任命されておりません。
 私は、そういう面でいいますと、やはり本当に多くの労働者の実態を反映する、そしてその声を聞きながらこれを改善させていく、そういう行政の流れの中ではそういう公正な任命ということが必要なんではないか、このように考えています。
#112
○小池晃君 ありがとうございました。
 それから、労働契約法、今回問題になっているわけですけれども、労働契約と言われる以前に今の労働者の置かれている実態といいますか、私も偽装請負の問題なんかを国会で取り上げてきて、偽装請負をただして正社員化を求めるという闘いを応援してきているんですが、現場ではちょっと信じられないようなことが起こっているというふうに思っているんですね。
 その点で、生熊参考人もいろんな闘いに取り組んでおられると思うんですが、ちょっとこの機会にそういった現状と問題について是非お話をしていただきたいというふうに思っておりますので、よろしくお願いします。
#113
○参考人(生熊茂実君) 先ほどからワーキングプアあるいは貧困と格差という言葉の中で、これは非正規労働者の増大がその要因なのではないか、こういう議論がされておって、私もそうだと思うんです。
 そういう中で、とりわけ、偽装請負という違法な働かされ方をされていた労働者が多くの大企業の製造現場を始めとして多くありました。私たち、その問題に取り組みまして、昨年、光洋シーリングテクノという、徳島にあるんですが、これはトヨタの孫会社になります。そこで、労働局に告発をして、その上で交渉をしながら直接雇用を実現することができました。
 私は、その中で思ったことですが、第一次の直接雇用、その次に第二次の直接雇用を求めたんですが、経営者との団体交渉の場ではこういう話を聞きました。経営者としても、よく相談した結果、技術の継承をちゃんとしていくためにはやっぱり直接雇用の方がいいという結論に達したということで、第二次直接雇用に踏み切っていただきました。私は、これは日本の企業に、とりわけものづくり企業にとって非常に大事な考え方だというふうに思っています。私たちは第二次の直接雇用もしながら、正社員化の今直前に来ている、こういう状況をやってまいりました。
 一方、そういう中で、この近くにあります日亜化学という同じ徳島の工場があるんですが、いわゆる青色発光ダイオードの発明で有名になった会社です。会社としては非常に大きな利益を上げているところですが、ここでも偽装請負がありました。
 私たちはこの問題についても、徳島県の仲介の下で日亜化学と交渉いたしました。そして、その場で、私自身がその交渉に出た当事者でありますけれども、これまで三年間働いてきた労働者については直接雇用を図っていくと、しかも、学校を出て何年もたっているんだから筆記試験零点ということもあるだろうと。言ってみれば、よほどのことがない限り直接雇用をする、こういう約束をして私たちは合意をいたしました。
 ところが、その合意が踏みにじられて今大きな問題になっています。その仲間たちは、本当に直接雇用になることができる、そのときに本当に喜んで、一生懸命仕事をやろう、物すごいモチベーションを上げて、会社のためにも自分の生活のためにも頑張ろうというふうな気持ちを持っていたわけですが、それを裏切られたことによって本当に愕然として、それでも今頑張っておりますけれども、そういう実態があります。
 私は、こういう本当に非正規雇用の仲間たちが安定して働いて、労働条件についても将来展望が持てるという働き方が、独り労働者の問題だけではなくて、企業の経営にとっても、企業の活力を生む上でも大変大事な問題じゃないかと、このように考えて取り組んでいるところです。
#114
○小池晃君 ありがとうございました。
 私も実際、徳島の阿南市まで行って労働者等の話聞きましたけれども、本当にひどい。朝日新聞の一面で大々的に正社員化、直接雇用って出たんですが、それが裏切られるというような事態が起こっていて、本当にその非正規雇用の労働者の不安定さというのはもうとても大変な状況にある。その上、今度労働契約法で正社員の労働条件も一方的に不利益変更できるような仕組みが盛り込まれてくるということに対しては、やはり重大な懸念を持たざるを得ないというふうに改めて今日のお話もお聞きして思っております。
 以上で質問を終わらせていただきます。ありがとうございました。
#115
○委員長(岩本司君) 以上で参考人に対する質疑は終了いたしました。
 参考人の方々には、長時間にわたり貴重な御意見をお述べいただきまして、誠にありがとうございました。委員会を代表いたしまして厚く御礼を申し上げます。(拍手)
 本日はこれにて散会いたします。
   午後三時五十二分散会
ソース: 国立国会図書館
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