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2007/06/05 第166回国会 参議院 参議院会議録情報 第166回国会 法務委員会 第17号
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2007/06/05 第166回国会 参議院

参議院会議録情報 第166回国会 法務委員会 第17号

#1
第166回国会 法務委員会 第17号
平成十九年六月五日(火曜日)
   午前十時開会
    ─────────────
   委員の異動
 五月三十一日
    辞任         補欠選任
     前川 清成君     辻  泰弘君
 六月一日
    辞任         補欠選任
     辻  泰弘君     前川 清成君
    ─────────────
  出席者は左のとおり。
    委員長         山下 栄一君
    理 事
                岡田  広君
                松村 龍二君
                簗瀬  進君
                木庭健太郎君
    委 員
                青木 幹雄君
                山東 昭子君
                陣内 孝雄君
                谷川 秀善君
                江田 五月君
                角田 義一君
                前川 清成君
                松岡  徹君
                浜四津敏子君
                仁比 聡平君
                近藤 正道君
   事務局側
       常任委員会専門
       員        田中 英明君
   参考人
       中央大学法学部
       教授       藤本 哲也君
       九州大学大学院
       法学研究院教授  土井 政和君
       全国保護司連盟
       副会長
       東京都保護司会
       連合会会長    宮川 憲一君
       弁護士
       元更生保護のあ
       り方を考える有
       識者会議委員   堀野  紀君
    ─────────────
  本日の会議に付した案件
○更生保護法案(内閣提出、衆議院送付)
    ─────────────
#2
○委員長(山下栄一君) ただいまから法務委員会を開会いたします。
 更生保護法案を議題といたします。
 本日は、法案の審査のため、四名の参考人から御意見を伺います。
 御出席いただいております参考人は、中央大学法学部教授藤本哲也君、九州大学大学院法学研究院教授土井政和君、全国保護司連盟副会長・東京都保護司会連合会会長宮川憲一君及び弁護士・元更生保護のあり方を考える有識者会議委員堀野紀君でございます。
 この際、参考人の方々に一言ごあいさつを申し上げます。
 本日は、御多用のところ本委員会に御出席いただきまして、誠にありがとうございます。
 参考人の皆様方から忌憚のない御意見をお述べいただき、今後の審査の参考にしたいと存じますので、どうぞよろしくお願い申し上げます。
 議事の進め方について申し上げます。まず、藤本参考人、土井参考人、宮川参考人、堀野参考人の順に、お一人十五分程度で順次御意見をお述べいただきまして、その後、各委員からの質疑にお答えいただきたいと存じます。
 なお、意見の陳述、質疑及び答弁のいずれも着席のままで結構でございますが、御発言の際は、その都度、委員長の許可を得ることとなっております。また、各委員の質疑時間が限られておりますので、御答弁は簡潔にお願いしたいと存じます。
 それでは、藤本参考人からお願いいたします。藤本参考人。
#3
○参考人(藤本哲也君) おはようございます。ただいま御紹介いただきました中央大学法学部教授の藤本でございます。
 私は犯罪学と刑事政策を専攻しております。御承知のように、刑法学は刑法典の解釈を主たる任務とし、刑事訴訟法学は適正な刑事手続を遂行するための学問ですが、刑事政策学は刑法の刑罰論を始めとしてすべての特別法がその射程範囲に入ります。したがって、更生保護法案は正に刑事政策立法であると言えると思います。
 ところで、更生保護という言葉は広狭様々な意味で使われておりますが、一般的に言って社会内処遇をその主たる内容としていると言ってよいかと思います。我が国の現行更生保護制度が整備されましたのは比較的新しいことでありまして、戦後の一連の立法によってであると言えます。
 まず、一九四七年に恩赦法が制定され、恩赦を犯罪者の改善更生その他の刑事政策的観点から運用する道が開かれました。翌一九四八年には全面的に改正された昭和少年法によって少年に対する保護観察処分ができ、一九四九年には犯罪者予防更生法が制定されました。また、一九五〇年には司法保護事業法に代わるものとして更生緊急保護法が制定され、一九五四年には執行猶予者保護観察法が制定されております。
 こうした一連の更生保護法制によって我が国の更生保護の実務は飛躍的な充実を見ましたが、最近における社会情勢や内外における刑事政策思想の変化に伴い、社会内処遇の新しい方策の確立と一層の充実が要請されるようになっております。
 昨年六月に法務省で開催されました更生保護のあり方を考える有識者会議の報告書が提出されたと承知しておりますが、保護観察官について、就労の確保や生活習慣の改善等により生活の安定を図ることを保護観察の主目標と考え、対象者の円滑な社会復帰を支援するということを重視する一方、対象者による再犯の防止として社会を保護するという意識が不十分である、再犯が発生したときには国民に重大な被害を与えることになるという意識が必ずしも十分ではなく、そのために再犯の発生を何としても防止するという強い責任が不足しているといった指摘がなされておりますが、保護観察中の再犯防止は刑事司法の一環としての社会内処遇であると位置付ける以上、これは当然求められることであると思います。また、保護観察中の再犯を許してしまえば、対象者にとっても改善更生が一層困難になります。いずれにしても、再犯の防止のための指導や監督を二の次にして生活の安定を図るということは、社会内処遇としては不十分であると言えるかと思います。
 更生保護法案は、有識者会議の指摘、提言を踏まえて立案されたものであり、現在、犯罪者予防更生法と執行猶予者保護観察の二法に分かれている更生保護に関する基本的な法律を整理統合して一本化しつつ、更生保護の機能の充実強化を図るものであると私は理解しております。この法案により、更生保護が抱えている問題点が改善され、より実効性の高い社会内処遇が実現されるとともに、更生保護制度がより分かりやすいものとなり、更生保護に対する国民の理解がより一層醸成されていくものと期待している次第です。
 この法案の論点は多岐にわたると思いますので、そのうちの主要なものについて意見を申し上げたいと思います。
 有識者会議の報告書は、その人が改善更生すれば再犯には至らず、逆に、その人が再犯に至ってしまえば改善更生の道は遠くなり、改善更生と再犯防止は、正に不即不離の関係にあると指摘した上で、今後の更生保護制度は、刑事司法制度の一翼として、犯罪や非行をした人の改善更生を助け、再犯を防止し、社会を保護するとの目的を明確化する必要があると提言しております。
 法案第一条はこのような提言を踏まえたものと思いますが、先ほども申し上げましたように、再犯の防止が目的の中に取り上げられていることは、社会内処遇の基本を定める法律としては妥当なことであると考えます。
 なお、この点につきましては、法案第一条が再犯防止を最初に掲げているのは問題であるとして、社会内での指導、援護によって対象者の改善更生を助けるという目的を第一に掲げ、その結果として再犯の防止がもたらされ、さらには社会の保護、個人及び公共の福祉を増進することを目的とするというように改めるべきであるとする意見もあると承知しておりますが、刑事司法の一環としての社会内処遇について、処遇中の再犯防止は当然求められることであり、また保護観察中の再犯を許してしまえば対象者の改善更生にとって致命的な後退や障害となることは明らかであり、保護観察においては、改善更生の結果として再犯、再非行が防止されることを待つだけではなく、その過程でも常に再犯、再非行の防止を図らなければならないと思います。したがって、法案第一条はこの点において妥当なものと思われます。
 また、法案では、遵守事項が整理され、内容も充実されており、保護観察の機能を強化する上で誠に望ましいことと考えます。例えば、法案第五十条第二号は、保護観察官、保護司の呼出し又は訪問に応じ面接を受けることや、保護観察官、保護司から求められたときには生活実態を示す事実を申告し、又はこれに関する資料を提出することを一般遵守事項としておりますが、これは保護観察を受ける者にとっては当然の義務であるといえ、これらを遵守事項として明記することにより、対象者との接触や生活実態の把握がより実効性を増すことが期待されます。
 また、第五十一条第二項は、特別遵守事項は、これに違反した場合に仮釈放の取消し等のいわゆる不良措置をとることがあることを踏まえ、対象者の改善更生のために特に必要と認められる範囲内において具体的に定めるものとした上で特別遵守事項として定め得る事項を列挙しており、これにより、特別遵守事項の法的規範性がより一層明確になるとともに、特別遵守事項として定めることのできる類型も相当明確になっております。こうしたことにより、遵守を義務付けるべき実質のある特別遵守事項が定められるようになるとともに、保護観察対象者において特別遵守事項の重みが増し、指導監督の実効性が増すことが期待されます。同時に、遵守事項違反に対し、適時適切に仮釈放の取消し等の不良措置をとることにも資するものと思われる次第です。
 さらに、法案第五十二条は、保護観察の途中における特別遵守事項の設定、変更を可能としているほか、法案第五十三条は、必要がなくなった特別遵守事項は取り消すものとしており、これらにより、保護観察対象者の改善更生の状況等に応じたより一層弾力的な処遇が可能になるものと期待されます。
 社会内処遇に関しては、就労支援を始めとする社会復帰のための援助に、施設内処遇では果たせない役割が期待されておりますが、再犯を防ぐための指導監督面も同様に重要な役割を期待されていることは言うまでもありません。実社会の中で再犯を犯すことのないようにこれを律することは、畳の上の水練と言われることもあります矯正施設内での指導とは異なる効果が期待されるものであり、社会内処遇の積極的な意義と考えられるものであります。その中核は遵守事項であり、必要な遵守事項を定めてその遵守を十分に義務付け、その違反に対して不良措置を含め毅然とした対応を取ることにより、社会内処遇としての保護観察の実効性が増すものと期待されます。
 また、我が国の社会内処遇の特徴として、五万人弱の保護司と約千百人の保護観察所職員による官民協働を挙げることができます。
 保護司への過度の依存は、従来から更生保護制度の問題点として指摘されているところであります。この問題の解決として、保護観察官と保護司が適切に役割分担をすることが考えられますが、その場合、あらかじめ役割の領域を区分し、責任を持って関与する範囲を線引きすることが考えられる一方、個々の事案に即し、保護観察官、保護司の立場や適性を考慮しつつ分担を図っていくことも考えられます。このうち、前者、すなわち保護観察官と保護司の役割の領域をあらかじめ明確に区分することは、保護司が対象者と深い信頼関係を構築し、人間対人間的に対応することで効果を上げてきたという官民協働の歴史と実務の現状に照らしますと困難が多いと考えられ、これをあえて行うと、保護観察の在り方、官民協働の在り方を根本的に変容させることになりかねないと思われます。
 この問題の現実的な解決としては、保護観察官の、保護司任せにせずに、例えば、処遇上難点のある対象者に対しては直接面接をしたり、保護観察を実施する保護司に対して手厚く助言するなどのバックアップを十分に行うといった地道な運用改善と、そのための体制整備によって対応することが考えられます。
 法案第六十一条第一項は、適切な役割分担が法律上要請されることを明らかにしつつ、具体的には適用によって実現されるように規定されたものと考えられ、今後の運用改善と体制整備に期待したいと思います。
 刑事司法の分野において犯罪被害者のための施策が論議されるようになったのはそう古いことではありませんが、今日、刑事政策においても重要度を増しております。私は、刑事司法制度の運用上、被害者に配慮することは当然のことであろうと思っております。
 法案は、平成十七年に制定された犯罪被害者等基本法を受け、その翌年に制定された犯罪被害者等基本計画を踏まえ、仮釈放等の審理において被害者等の意見を聴取する制度と、保護観察対象者に対して被害者等の心情等を伝達する制度を導入することとしたものと理解しております。いずれの制度の導入も妥当と考えますが、後者、すなわち被害者等の心情伝達制度については、犯罪被害者のための施策として、また犯罪者処遇としてどのような効果をもたらすか、その運用が期待されるところです。
 また、法案では、仮釈放の取消しに関し、保護観察対象者に告知、聴聞の機会を保障する旨の規定は置いていません。この点については、告知、聴聞の機会を保障すべきであるという意見もあると承知しております。しかし、仮釈放の取消しは、元々裁判によって刑罰として刑事施設へ拘禁を命ぜられていた者について、保護観察を実施して改善更生を図るという行政目的により刑の執行形態を変容させ緩和していた状態を、本来の裁判どおりの刑の執行形態に戻す措置であり、対象者本人にとって不利益な処分ではあるものの、新たな不利益処分を課すものではありません。したがって、告知、聴聞の機会を保障しなければそうした処分を取り得ないというわけではないと思います。
 もっとも、実務上は、仮釈放の取消しの申請を行う保護観察所において、保護観察官が対象者に会って質問調査を行い、遵守事項の有無に関する認識、その理由、経緯等について聴取した上で申請の要否を判断しており、この聴取結果は仮釈放を取り消すべきか否かを判断する地方更生保護委員会にも提出されている上、事実関係に争いのあるなどの問題事案については、必要に応じ、地方更生保護委員会においても本人に面接し、その意見を聴取しているものと承知しております。
 我が国の更生保護制度の有効性が今日問題とされていることは確かでありますが、更生保護制度は、初めにも申し上げましたように戦後構築されたものであり、物的、人的な不足を抱えながら、官民協働体制の下、様々な努力の積み重ねで制度として機能するようになり、社会内処遇として相応の成果を上げてきたことを評価すべきであると私は思います。
 今回の法案も、これまでの更生保護の伝統を否定したり根本理念を変えるものではなく、国民にとって有効な制度として存続し、発展するために必要な見直しをするものであり、ある意味では、更生保護の原点に戻り、当然のことを明示するとともに分かりやすい内容に整理し直したものということができると理解しております。
 我が国の更生保護制度については、有識者会議の報告を一つの契機として、法令の整備のほか、運用、組織体制などの広範な改革が行われつつあると承知しておりますが、この法案は、今後の更生保護制度の基礎として意義のあるものと思料いたします。
 最後になりましたが、私は、刑事司法制度の入口に位置する警察段階での交番制度と、最終段階に位置する更生保護制度は、世界に誇り得る制度であると確信しております。どうぞ、更生保護制度の充実のためにも、一日も早く更生保護法案が制定されますよう、よろしくお願いいたします。
#4
○委員長(山下栄一君) ありがとうございました。
 次に、土井参考人にお願いいたします。土井参考人。
#5
○参考人(土井政和君) 九州大学の土井でございます。
 本日は意見陳述の機会を与えていただきまして、誠にありがとうございます。時間の関係で、私は特に重要だと思われる四つの論点についてお話を申し上げたいと存じます。
 まず第一は、法律の目的規定に関してでございます。
 法案は再犯の防止と改善更生を目的として併記していますが、私は、目的には基本的人権の尊重の文言を入れ、対象者の主体性を尊重しつつ、生活再建への社会的援助を提供することにより自立更生を支援することを規定すべきだと考えます。再犯防止は、更生保護の直接目的ではなく、反射的効果として位置付けるべきだと思います。
 犯罪者予防更生法は再犯防止を直接の目的とはいたしておりません。むしろ、保護観察を戦前の監視を中心としたものから社会復帰援助のための更生の措置へと再構成しておりまして、実務家はケースワークをその中核に置いてまいりました。ところが、更生の措置の中心となる保護観察は、指導監督と補導援護という二つの任務を持っておりました。しかも、この二つの任務が監視と援助、言い換えると、対象者に対するある意味での不信と信頼という相矛盾する要素を内包していたために、その両者をいかに調和させ、ケースワークへと近付けていくかが課題とされ、実務家による真摯な努力が積み重ねられてまいりました。
 この努力は、補導援護を充実させていくこと、すなわち、できる限り非権力的援助を通じて対象者の更生を促進し、その反射的効果として再犯が防止されるという方向を追求することによって、この矛盾を事実上解消しようとしてきました。それによって対象者との信頼関係の構築を図ってきたわけですが、私はこの努力は今後も維持発展させられるべきものだと思っております。
 法案では、再犯防止目的が規定されるとともに、遵守事項が具体化、詳細化、規範化され、遵守事項違反による不良措置がとりやすくなっておりますが、監視機能を強化し、猶予処分や仮釈放の取消し、再収容を増加させれば、日本の刑務所の過剰収容は更に深刻化することになりましょう。また、施設収容は社会的ハンディキャップを加重し、受刑者の社会復帰を一層困難にし、ひいては再犯による新たな被害者を生み出すことになりかねません。したがって、遵守事項違反に対して形式的に不良措置をとることがないようにすべきだと思われます。
 また、この目的規定に関しましては、更生保護法案と刑事被収容者処遇法の目的規定との間に落差があるように思われます。と申しますのは、刑事被収容者処遇法は、受刑者の基本的人権の尊重と社会復帰の促進を目的として掲げ、社会との連携、保護機関等との緊密な協力を目指しているのに対し、更生保護法案第一条は、対象者の再犯、再非行防止をまず規定し、次に自立及び改善更生への援助を規定しているからであります。そのことにより、対象者の監視、監督による統制機能の強化が前面に出され、対象者の生活再建のための福祉的援助の提供が後退させられることになりはしないかと危惧されます。
 確かに、監獄法改正と更生保護法改正の契機となった事件の背景や、施設内処遇と社会内処遇における人権制限の程度に差があるとはいえ、今、更生保護が目指すべき改革の方向性は、刑事被収容者処遇法で規定された基本的人権の尊重と社会復帰の促進という目的を更に推進し、対象者が人間としての誇りと自信を持って更生を果たし、再び社会の担い手となれるように生活再建に向けた援助を提供することであると考えます。遵守事項違反によって不良措置がとられ施設収容の可能性が広がっているわけですが、それは刑事被収容者処遇法の目的規定の方向とは逆行するように思われるのであります。
 第二の論点は、適正手続の保障についてであります。
 憲法第三十一条の保障する適正手続の保障は、刑事司法手続のすべての段階に及ぶものであって、更生保護にも当然妥当するものであります。保護観察によって課せられる制限や条件が、遵守事項という形で多かれ少なかれ人権制約的な性格を持ち得ることを否定できない以上、対象者の人権が不当に侵害されないように、課せられる制限及び条件は適法かつ合理的なものでなければならず、またその制限について、適切な情報が提供され異議を申し立てる機会等の手続保障がなされなければなりません。
 第一に、比例の原則が適用されなければなりません。法案第三条は、改善更生のために必要かつ相当な程度において行うものとすると、その趣旨を規定しております。そこで、例えば、一般遵守事項あるいは特別遵守事項を設定する際に、いかなる根拠でいかなる程度の権利制約が可能なのか、またいかなる手続で設定されるべきかが検討されなければならないと思われます。
 第二に、対象者への情報の提供と情報の管理が必要であります。遵守事項や更生保護における手続保障について十分な情報の提供が行われることは、対象者との信頼関係を形成していく前提であります。この点で法案は、対象者の情報の収集と状況把握について詳細な遵守事項を定めていますが、逆に対象者の主体性を尊重した説明責任についての規定が少ないように思います。
 第三に、遵守事項違反に対する形式的対応の抑制であります。遵守事項の明確化が遵守事項違反による不良措置の形式化を招くものであってはなりません。猶予や仮釈放の取消しに直結させるのではなく、代替的措置を考慮し取消しによる施設収容は最終手段とすべきだと思います。
 第四に、引致はもちろんのこと、留置手続についても裁判所に不服申立てができる手続的保障が必要だと思います。法案第八十条三項では、刑の執行猶予の取消しの決定の告知があるまで継続して通算二十日の留置を認め、同条四項で、口頭弁論を経る際には裁判所は更に十日間の留置継続をなし得ることとなっており、加えて、同条五項では、刑の執行猶予取消しとなる場合の決定確定までの継続留置を定めています。同条四項の裁判所による決定に対しては、抗告可能であるという解釈もあり得ますが、そうでなければ、検察官への申出の可否の審理に始まり刑の執行猶予取消しの裁判が終結するまでは、法案六十三条二項の引致状の効力が継続することとなり、司法審査なしの身体拘束が続くことになります。行政手続で極めて長期間身体拘束を行い得ることは大きな問題であり、行政不服審査法による救済策が講じられるべきであるとともに、留置開始、継続更新の際には、当該保護観察所の管轄に対応する裁判所に、準抗告等により身体拘束の当否を迅速かつ簡便に争う機会を保障すべきであります。
 第五に、不服申立て権が保障されなければなりません。法案九十二条は、地方委員会が決定をもってした処分に不服がある者は審査請求をすることができることになっております。しかし、規定によると、審査請求の対象となる範囲があいまいであると同時に狭過ぎると思われます。この法案において決定をもってなされる処分は非常に少なく、しかも対象者にとって、仮釈放の不許可決定のように非常に重大な処分が審査対象である地方委員会の決定という扱いになっていないため、審査請求の対象となっておりません。
 適正手続に関連し、第三の論点として仮釈放制度を取り上げたいと思います。
 仮釈放制度は、受刑成績の良い受刑者に恩恵として与えるものではなく、身体拘束がもたらす弊害を除去し、生活を再建するための援助措置と位置付けるべきであり、本来すべての受刑者に仮釈放の可否が審査される機会を保障すべきであると考えます。
 また、受刑者本人に仮釈放申請権が認められるべきであります。仮釈放申請権を認めると、地方更生保護委員会の審査を義務付け、国の裁量権を否定することになるとの説明もありますが、仮釈放請求権ではありませんので、直ちにそのような義務を負わせることにはならないと思います。
 法案第三十四条一項は、仮釈放の基準について法務省令にゆだねておりますが、たとえ行政的裁量だとはいえ、受刑者の身分の変更を伴う重要な過程であることを考慮すれば、本来法律に規定すべきだと考えます。
 法案は、仮釈放の申請権も審理における聴聞手続も認めておりません。地方委員会による事実上の仮釈放不許可決定を不服申立ての対象である決定にも含めていないために、受刑者は事実上の仮釈放不許可決定に対して何らの不服申立てもできない構造になっております。
 その理由として、受刑者は刑務所で服役する義務を負っているのであるから仮釈放の不許可決定は不利益決定ではないとされています。しかし、受刑者は委員面接によって既に自分に関する仮釈放の手続が進められていることを知っており、所長により申請されれば高い確率で仮釈放になり得ることから、その期待を抱いているわけであります。したがって、不許可の場合にはその理由を告知し、不服申立ての機会を与えるべきだと思います。この点、受刑者に仮釈放申請権を認めれば不服申立てもできることになりますので、大きな改善につながるかと思います。
 第四の論点は、保護観察についてであります。
 法案第三条が、法の運用について個別的処遇と比例原則を規定していることは評価できます。さらに、対象者の主体性を尊重し、対象者との信頼関係を構築することが更生保護の形成原則とされなければならないことを明記すべきだと思います。
 法案には、対象者の権利や主体性の尊重に関する規定が余り見られません。しかし、保護観察対象者の社会復帰が成功するかどうかは、保護観察の担い手と対象者との間に協力関係が築けるかどうかに懸かっています。対象者の協力を得るための基礎は、対象者がその人権や尊厳に対して適正な敬意を持って取り扱われることです。これが実現できなければ、対象者は自己に課せられ要求されていることに公正さや正義を見出すことはできないでありましょう。
 法案第三条は、対象者の主体性の尊重に関する規定を置いておらず、第一条に規定する再犯防止との関係で強制的処遇を前提としているように思われます。しかし、それは対象者との信頼関係の構築を困難にするばかりか、処遇効果の点でも疑問があります。そのため、更生保護機関と対象者との間には、社会的援助を提供する場合であっても、更生緊急保護の場合は本人の申出、保護観察の場合は助言、説得と、同意、納得の関係が前提とされなければならないことを明記すべきだと思います。
 法案では、一般遵守事項の内容が大きく書き換えられております。言わば、遵守事項が社会復帰に資するものとしてではなく、再犯防止のための監視に資するものとして構成されており、対象者にとって権利制約の強いものになっております。
 法案第五十条一項では、再犯、再非行しないようにする文言が加えられていますが、健全な生活態度は社会復帰ないし生活再建のための目標とされるべきであり、単に再犯防止意識を植え付けようということであるならば不適当ではないかと思われます。
 また、同条では、有識者会議提言に沿って、呼出し、往訪受入れ、来訪受諾義務、生活状況報告義務、住居設定、届出義務、居住義務などが規定されておりますが、保護観察の対象となるすべての者にこれらの義務を課すことが果たして適当か、権利制約の範囲として妥当なものかについてはなお精査が必要だというふうに思われます。
 また、法案第五十二条及び五十三条では、遵守事項の設定、変更、取消しについて規定されています。この点について、保護観察の対象となっている本人からの申請が可能なのか、本人において手続中どのような関与ができるのかが明らかでありません。本人の意向を参酌する規定を置くべきだと思います。
 最後に、自立更生は本人の自覚に訴え、信頼関係を築きながら、その協力の下に援助的処遇を行うことが必要ですから、本人の主体的な関与を必要とする旨の規定を置くべきだということを強調して、私の意見とさせていただきたいと思います。
 どうも御清聴ありがとうございました。
#6
○委員長(山下栄一君) ありがとうございました。
 次に、宮川参考人にお願いいたします。宮川参考人。
#7
○参考人(宮川憲一君) 全国保護司連盟副会長の宮川でございます。
 このたびは更生保護法案の審議に当たり、私ども現場の意見をお聞き取りいただける機会をつくっていただきましたことを大変感謝いたしております。誠にありがとうございます。
 私事で恐縮でございますが、私は保護司を拝命いたしまして本年で三十四年になります。この間、数多くの対象者の方々と保護観察を通じてお付き合いをさせていただきました。また、組織では、様々な方面の方と連携し、更生保護を通じて犯罪予防の活動に従事させていただいております。
 御案内のとおり、このところ続発しました重大再犯事件によりまして、更生保護とりわけ保護観察が最近の激しい社会環境や犯罪情勢の変化に十分対応できていないのではないかという厳しい世論の批判を受けて以来、私どもは戦後再出発して六十年になろうとするこの制度と実態を官民一体となって真摯に総括をし、制度疲労や組織疲労を是正して更生保護の再出発のための改革に取り組もうとしているところでございます。
 御存じのこととは存じますが、我が国の更生保護は、明治以来、金原明善のような実業家や池上雪枝のような宗教家、さらには多くの矯正や保護のOBの方々の人道主義的あるいは宗教的情操に基づいた慈善事業として出発をいたしました。後に国の近代化に伴って刑事政策の一環、しかも社会復帰という最後の仕上げの仕事として組み込まれ、官民が力を合わせて維持、発展させてきたものであります。
 したがいまして、その歴史的経緯から官と民のすみ分け、役割分担が、当初以来、若干あいまいで、相互に甘えがあったかもしれませんが、またそのことが我が国更生保護の大きな優れた特徴でもあり、有効であった時期もあったと私は思っております。しかしながら、ここ数年、減少傾向にあるとはいうものの、相変わらず高い水準で推移している我が国の犯罪情勢にあって、少しずつ現実にかみ合わない大きなほころびが見えてまいりました。
 折しもこのたび法務省で更生保護を考える有識者会議を立ち上げ、今日の更生保護全般に対する御検討をいただき、その提言を受けて、このたびの更生保護法案の上程の運びとなったわけであります。
 私どもは今日までよりどころとしてまいりました犯罪者予防更生法と執行猶予者保護観察法、これらは戦後間もない昭和二十四年と二十九年に各々当時の事情があって別々に施行されたと聞き及んでおりますが、相互に同じ目的を持った似たような法律であり、私どもも常々この二法の整理統合を期待いたしておりましたので、このたびの一本化によりまして更生保護はより分かりやすくなったものと喜んでおります。
 また、第一条の目的において、従来私どもは保護観察の完成が再犯防止、犯罪予防に資するものであると認識しておりましたが、この法案で改善更生と再犯防止が不即不離、表裏一体のものとして明示されたことは更生保護の更なる正確な理解に役立つものと考えております。
 次に、さきの提言でも更生保護がいまだ十分な国民の認知を受けていないということが更生保護を脆弱なものにしているとの指摘がございました。このたびの法案では、第二条に国の責務としての支援や啓蒙が、また二項では地方公共団体の協力が明示されております。第三項には、国民が地位と能力に応じて寄与するよう努めなければならないと明示されております。私ども民間人保護司の仕事は、間違いなくこの国民の責務の一端を担うことであり、この位置付けを自覚して更に一層啓蒙、宣伝に努めなければならないと思っております。
 犯罪が起きるのも私どもの住むこの社会であり、また彼らが帰ってくるのも私たちの住むこの社会をおいてはありません。更生保護、わけても保護観察が社会内処遇である限り一定のリスクはありますが、これを共有してそのリスクを限りなく少なくするために今何がなされなければならないかを社会に問い掛けて、学校、協力雇用主、また更生保護施設の方々に定住、就労、就学を始め具体的な提案をしながら、ともに生きる再チャレンジを支援する、温かい大きな受皿をつくっていかなければならないと思っております。
 私たちは、このような運動の呼び掛けとして、本年五十七回を迎えます法務省主唱の社会を明るくする運動を続けてまいりました。
 お手元に運動のパンフレットを差し上げておりますが、今年のキャッチコピーは「おかえり。」、メッセージは「あなたに信じてもらう。それだけで、歩き出せる人がいます。あやまちから立ち直ろうとする決意を、どうかまっすぐに受け入れてください。更生への道のりには、あなたの温かい支えが必要です。」としました。今までと違って、真っすぐに更生保護を社会に訴えたいと思っております。
 さて、このたびの法案の大きな改革の一つに、保護観察における遵守事項の整理及び充実があります。
 今日、私どもがかかわる対象者には実に様々なタイプがあります。一般的には、自己中心的で規範意識の乏しい社会性に欠ける者が多く、その原因には、本人の資質によるものも若干ありますが、おおむね身近な環境、特に幼少時の生育歴に問題のある場合が多く、今日のように地域共同体が崩壊し、核家族化が進み、家庭や学校の教育力の低下が著しい社会にあっては実に是正が難しい状況にあります。かつて、地域社会や家庭、学校が担っていた人格形成の大きな役目が失われ、問題が大きく顕在化した後に保護観察という形でずしりと私ども更生保護関係者の肩に掛かってくるというのが実情でございます。
 しかも、彼らの生活する社会では、相変わらず過剰な情報や悪質な射幸心をそそる様々な勧誘が横行し、テレビを始めマスメディアの影響で、若者の意識の中では虚構と現実が混乱し、メールに象徴される無機質な人間関係に慣らされて、彼らは非常に危険な環境にさらされております。それらが今日の不条理で凄惨な凶悪犯罪や性犯罪の大きな原因になっていると思われます。
 最近の対象者の若者は、おしなべて無口でせつな的、投げやりで希望がない疲労感を漂わせて私どもの前に現れます。これらの深く傷付いている対象者に対して、従来の、私たち保護司が寄り添って激励を専らにしてきた指導だけでは十分に対応できない現実があります。
 かつて私は、先輩の僧職にある保護司に、保護観察の要諦の一つは諸行無常だと教わりました。それは、この世の中に変わらないものは絶対に存在しないという真理であり、対象者とて良くも悪くも絶対に変わる、問題は良好に変わるために何が必要かが問われているだけで、それが更生保護の可能性であり希望だと説かれました。そして、処遇に当たっては、保護司は鬼面仏心、鬼の顔に仏の心、甘えることなく、相手にゆめゆめおもねてはいけない、それは相手を駄目にする失礼な行いであると言われましたが、長い保護司生活の中で、最近やっとその言葉の重みを感じております。
 このたびの遵守事項の見直しとそれに基づく処遇については、正にこの鬼面仏心の処遇でなければならないというふうに思っております。一般遵守事項の厳密な履行や、対象者に合わせた特別遵守事項の柔軟な設定と運用や専門的な処遇は、観察官と保護司の役割分担を明確にすることで、対象者に対しても親切できめ細やかな処遇ができ、処遇に当たる観察官や私ども保護司にとっても具体的で明快な指針となり、力強い支えとなるものと期待をいたしております。
 めり張りのある保護観察が今後は必要だと思いますので、対象者の面接義務、生活報告義務、誠実に指導監督を受ける義務、加えて、決められた遵守事項に違反した場合の不良措置についても時宜を得た判断だと思っております。
 保護観察の実践は、対象者がまだ施設に収容されている折から始められますが、観察官の依頼で対象者が身元引受人の下に帰住する環境が十分であるかを調査し、対象者とも面接して調整して仮釈放に備えますが、さきに述べましたように、社会、家庭環境の崩壊によりまして、今日、この環境調整の仕事は追って難しくなっております。しっかりした身元引受人があり、生活、とりわけ就学、就労に希望が持てれば、そこそこ保護観察は成功いたします。
 保護観察は、基本的には仮釈放後の対象者との定期的な往来訪を軸に進めます。保護観察の基準評価は普通の生活を継続することでありまして、取り立てて立派なことや人一倍頑張ることを期待しておりませんが、そのことが実は大変難しく、対象者本人の自覚もさることながら、支援する身元引受人や保護者の責任の自覚も当然必要であり、先日の少年法改正で盛り込まれたところでありますが、このたびの法案にもこのことが明示されたことを是と考えております。
 次に、このたびの法案の大きな課題に犯罪被害者の方々に対する更生保護からのアプローチがあります。
 私どもは、従来から、対象者に対して自らの犯した罪が社会や被害者にどれほどの迷惑や苦痛を与えたかについて話し、反省をさせて本人の更生に役立ててまいりました。特に、恩赦の完成という点では、御遺族の方々にも本人の改悛の状を伝達して慰謝に努めてまいりましたが、今後は、可能な限り被害者の視点を取り入れた、より効果的で社会性のある贖罪指導を進めなければならないと志を新たにいたしまして、既に研修を始めております。
 いつの日にか、加害者が許しを請い、許しを得て、被害者と和解することを期待し、修復的司法とも言うべきものとして成功させることこそ、私ども更生保護の理想であり仕事ではないかと思っております。
 私も、長い保護司生活で様々な経験をさせていただきました。いまだに、担当する一件一件がそれぞれ今日の社会を象徴する新鮮な課題を背負っておりまして、私を刺激してくれ、おかげさまで元気をもらっており、つくづくと保護司になって良かったと思っております。
 最近のことでいえば、おれおれ詐欺の手先になった青年が売れない怪しげなホストになり、全く来訪がありません。再三往訪しましたが留守で、やっと駐車場で寝起きをしている車を発見しまして、窓越しに話をしているうちに急発進をしてミラーで胸を強打し転倒してしまいましたが、その場にうずくまっていましたら、五分もしないうちに引き返してきて、心配そうに横に立っていました。何度も夜半にサラ金の取立てが来て、そのたびに呼び出されたりもしましたが、それを契機に、以来欠かすことなく往来訪が続き、やっと保護観察を終えることができ、保護者と一緒にお礼に参りました。今も時々町で顔を合わせますが、苦笑いをして目であいさつをし、照れております。
 また、このお正月には、ギャンブルによる家庭崩壊で中国人ピッキングの手先になった成人対象者が、やっと他県で料理人として立ち直り、わざわざ来訪をしてくれたり、四月には、対象者と両親のたっての要望で結婚式に招待されまして、突然媒酌人にされて困ってしまったというような体験もいたしました。
 もちろん、失敗もたくさんありました。しかし、圧倒的多数の立派に更生した人々を一番よく知っているのも私たち更生保護関係者であります。
 このたびの更生保護法案は、今後の更生保護の屋台骨であり、強靱な保護観察を実現する大黒柱であります。強靱という言葉には、強いという意味としなやかで粘りのあることという意味がありますが、私たち保護司が伝統的に対象者との信頼関係を軸にして実践してきた、諦めないしなやかな活動を更に強めて、官のハードな対応にソフトな味付けをして、更生保護を完成させたいというふうに思っております。
 いずれにしても、問うべきは、法律によって何が変わるかではなくて、法律を使って何をどう変えていけるかだというふうに私は考えております。全国五万の保護司並びに二十万の更生保護女性会会員を始め、更生保護関係者がこぞってこのたびの更生保護法案の一日も早い成立を待望いたしておりますので、何とぞ、本院においてもよろしくお運びくださいますようにお願いを申し上げます。
 最後になりましたが、私どもが今一番懸念していることは、これからの様々な改革の前衛であり私どもの良きパートナーであるべき第一線の観察官が余りにも少な過ぎるということであります。有識者会議の報告にもありましたように、今後官民協働の実を上げるためにも、是非相当の増員をお願いいたしたいと思います。御配慮をよろしくお願いいたします。
 以上、意を尽くせませんが、私の陳述とさせていただきます。ありがとうございました。
#8
○委員長(山下栄一君) ありがとうございました。
 次に、堀野参考人にお願いいたします。堀野参考人。
#9
○参考人(堀野紀君) 私は、更生保護のあり方を考える有識者会議の一員といたしまして、我が国の更生保護が抱える問題点と目指すべき方向について議論を行い、二〇〇六年の六月二十七日に有識者会議として法務大臣に対して提言をいたしました。
 有識者会議では、野沢座長を始めとして、それぞれバックグラウンドや専門領域の異なる十名の委員が、本日の参考人であられる宮川先生など、多数の更生保護にかかわる方々をお招きしてのヒアリング、それから現場の視察、現場といいますのは民間の更生保護施設であるとか、あるいは地方更生保護委員会の現場、これらの視察を数回にわたって行い、約一年間、十七回にわたる真剣でかつ濃密な論議の末、この最終提言という形で取りまとめをいたしたものであります。
 議論の過程は、座長の御努力もあって、少数意見も考慮されながら極めて民主的に行われ、そしてそれぞれの気持ちがほぼ一つになった形でこの提言が行われたということをお伝えしておきたいというふうに思います。私は、この有識者会議に参加できたことを心から感謝するとともに、最終提言に込められた委員の思いが法案に反映されることを、またその運用と実践に反映されることを衷心から期待するものであります。本日はこうした立場から意見を述べたいと思います。
 まず、更生保護の目的と意義についてでありますけれども、提言においてまず指摘したのは、社会内処遇とも呼ばれる更生保護の意義についてであります。提言にはこのように記載しました。社会内処遇は、犯罪や非行をした人を指導監督し、必要な援助を行って改善させ、犯罪や非行の原因となった性格、習慣、生活態度の悪いところを改めて良くするとともに、更生させ、改善された状態が客観的にも安定し、再犯の危険がなく、実社会の健全な一員として復帰した状態になることを目指すものであります。その人が改善更生すれば再犯には至らず、逆に、その人が再犯に至ってしまえば改善更生の道は遠くなり、改善更生と再犯防止は、正に不即不離の関係にあると、こういうふうに述べております。
 今回の法案には、第一条に、再び犯罪をすることを防ぐということが目的として明示されました。更生保護において再犯の防止は正に改善更生と車の両輪であることには私も異論はありません。しかし、有識者会議での議論を総括いたしますと、改善更生への取組を現在以上にシステムの上でも、またその運用の面でもより一層徹底し、有効化することを通じて再犯防止機能を強化するのだという方向性を明白に持っていたというふうに理解しております。
 歴史的に形成されてきた更生保護の理念は、外部からの監視や規則による束縛といった外在的力によって更生させるのではなくて、むしろ対象者の社会に対する適応力を養い、人と人との信頼関係を醸成して、人間の内部に存在する回復力によって社会人、家庭人として再生させようというものであったと思います。この精神を軽視して、目先の数字だけを追うといった偏った意味での再犯防止の方向に傾くとすれば、それこそ二十一世紀における社会の安全、安心を損なうおそれさえあるというふうに考えます。
 両輪であるという趣旨は提言で述べたとおりであり、改善更生を忘れ、再犯防止の方に過度に意識が向けられると、更生保護の意義が失われてしまいます。法案一条の文面からは直ちに提言において意図した内容が明らかになったとは考えられませんが、このことは残念ではありますけれども、この規定は更生保護の在り方を方向付ける重要なものですので、少なくとも解釈や運用におきましては最大限、改善更生を徹底化、有効化していくという方向についての御配慮を希望いたしたいというふうに思います。
 その次に、国の責務についてのこの法案の取扱い方でありますけれども、提言では更生保護制度に関する様々な問題点を指摘して、改革の方向性を掲げております。中でも我が国の更生保護制度における最大の問題点として、民間に依存した脆弱な保護観察実施体制というのを挙げております。すなわち、更生保護制度は本来、国の責任において充実強化すべきところ、戦後間もない時期から目立った改革がなされることなく、日の当たらない分野にとどめおかれておりました。余りにも国の関与が乏しかったことに委員は驚きの声を上げたものであります。更生保護が民間主導で発展したという我が国の歴史的な経過もあってのことですが、保護観察所は民間の保護司に余りにも依存しており、官に期待されている役割を果たしていないということが指摘されました。
 こうした問題意識から、官民協働の在り方を見直し、保護観察官の専門性と意識を高め、更生保護を担う人的、物的体制の大幅な拡充を提言いたしました。
 法案の第二条に国の責務が掲げられていますが、第一項で国民の自発的活動の促進やこれらのものとの連携協力に向けた努力が記載されておりますが、これを見る限り、民間に依存してきたこれまでの更生保護制度を根本的に変えようとしているのかどうか、疑問が生じるところであります。
 国の責務でいえば多々あるでしょう。第二条で言われることも一つの重要な側面であることを否定するものではありません。しかし、何となく他人事のように聞こえるのは私だけでしょうか。
 いきなり刑務所から出てきた人たちの定住先の確保、就職先の確保が再犯防止に当たってどれだけ大切なことか、数字の上からも明らかなことであります。また、これらの人たちは、事の性質上、直ちに社会に喜んで受容される人たちではありません。国民や社会の意識を変えていく、すなわち、国民との間にともに生きる共生の意識をはぐくんでいくということがどうしても必要であります。
 障害のある人たちについては一定数雇用する義務が企業に課せられております。定住先、就職先もないまま、民間の更生保護施設が幾ばくでもない当面の生活費を、更生施設から少々のお金をもらって社会に放たれていく人たちに健全な生活を送れよと声を掛けるだけの実態が続くようであってはなりません。
 新しい法の下での更生保護制度の実施に当たっては、国民の理解と協力を得る努力をするのはもちろんでありますが、まず国が当事者として更生保護官署の体制強化を図るとともに、社会福祉行政、労働行政、住宅行政など、省庁間の壁を越えて関係機関が有機的な連携を図り、責任を持って政策に当たるべきこと、また、長い目で見た美しい国づくりに向けての重要課題であるということを確認し、財政上の格段の配慮が要請されるところであります。これにはもちろん、保護観察官の倍増を提言しました目標についてのできるだけ速やかな時期での実現をお願いしたいということも含めております。
 その次に、保護観察の充実強化についてでありますけれども、提言では、保護観察が十分に機能していない現状から、実効性の高い強靱な保護観察の実現を目指すべきだということが当面の中心課題とされております。ヒアリング、現地視察の中でこのことを痛感いたしました。絶対数が満たないまま、また制度的手当てが十分でないまま、日夜身を削って、時には無力感に陥っている保護観察官や、また使命感に満たされつつ、報われぬ民間保護司の方々の献身的な努力に敬意を表しながらも、有効な指導上の指針が欠けていたのが従前の状況であります。
 今回、提言に掲げたこの強靱という表現は、ある意味では今回の議論を集約する重要な象徴的表現であります。強力にすることは必要、しかし、強力であるのみならず、しなやかで柔軟な側面を併せ持つという意味で採用されたものであります。
 法案では、一般遵守事項及び特別遵守事項の内容が整理されました。特に特別遵守事項の設定変更の弾力化が図られたこと、また、生活行動指針という遵守事項とは別のルールが設けられることで、個々の対象者の事情に配慮した柔軟な保護観察が可能になると期待しております。
 他方では、遵守事項に対する不良措置については、当然、その具体的行動からリスクが強まったというふうに見られる対象者に対して適切に行われるべきでありますが、伝家の宝刀は運用において慎重な姿勢が求められるところであります。
 提言では、不良措置に至るまでの過程においては、対象者自身の社会復帰の努力を周囲が十分に支援する必要があるとしています。すなわち、不良措置は必要な努力を尽くした後の最終的な手段であるということです。また、あわせて、保護観察が有効に行われ、改善更生が図られた場合には適切に保護観察の解除、仮解除を行う必要があるとも指摘しました。
 一部の報道で、本法案が不良措置等の積極化によって対象者により厳しく接する方向性を示すものであるかのように言われておりましたが、あくまでも臨機応変に柔軟な対応を行い、保護観察の充実強化を目指すということでありまして、ここでも強靱の強ばかりが強調されてはならないと考えます。制度上、強の措置を準備しながら、しなやかさを運用の上でどう実施していくかということが課せられた課題ではなかろうかと考えます。
 続いて、仮釈放制度です。
 提言のもう一つの眼目が仮釈放制度の有効な活用についてであります。
 仮釈放直後の重大事犯の発生など、制度そのものに対する、つまり仮釈放そのものに対する社会の逆風が論議を複雑なものにいたしました。仮釈放制度について、提言でも実に様々な問題点を指摘し、具体的な提言を行っております。
 一つは、制度全般の運用の改善でありますけれども、有識者会議が設置された直接のきっかけは、この仮釈放中の者を含む保護観察対象者による重大再犯事件でありましたけれども、こんな者を釈放してよいのかという議論はともすれば流されがちな中で、私たちは、仮釈放制度が適切な保護観察制度とセットになることで対象者の改善更生、社会復帰を促進する有用な制度であるということを再確認しております。
 仮釈放直後の再犯事件が即仮釈放制度若しくは運用上の問題であると短絡させて考えてはならないと考えます。ハイリスク、そして仮釈放なし、そして満期出所する、こういった人たちの高度な再犯リスクこそ解決されなければならない重大な問題であります。つまり、刑期中に段階を追って徐々に社会に適応させていく仮釈放の運用が決して萎縮することがあってはなりません。いきなり満期出所者が社会に放り出されるという状況よりも、むしろ社会内処遇の充実によって、つまり仮釈放を積極化することによってむしろ再犯リスクを少なくしていくという方向、これはもちろんハイリスク者とそうでない人との間のめり張りの付いた運用も求められるところであります。
 次に、仮釈放については、許可基準の問題がございます。許可基準につきましては、こうしためり張りの付いた運用を可能にし、また仮釈放の基準が不明確であるとの批判にこたえるためにも、許可基準の改正を提言いたしました。具体的には、悔悟の情及び更生の意欲が認められ、保護観察に付することが本人の改善更生のために相当であると認められるときは仮釈放を許可することができることとし、そして再犯のおそれが高いと認められるとき、また社会の感情が仮釈放を是認していないと認められるときにはこの限りでないとする方向を示しております。
 この点は、残念ながら今回の法案では、法案上は手当てがなされておりません。すべて法務省令にゆだねられておりますが、提言では運用マニュアルの策定なども提言しておりますけれども、少なくとも省令において是非とも提言内容を具体化していただければというふうに希望いたします。
 それから、先ほどからも議論が出ておりますが、地方更生保護委員会は仮釈放制度について重要な役割を持っております。この、しかし、地方更生保護委員会につきましては、一般に保護関係者あるいは矯正関係者のOBが委員を務めているというケースが多いようでありまして、これでは内輪のしかも密室の中での議論ということになりがちであります。適正な仮釈放制度の運用を行うためには、是非とも民間出身者、例えば精神医学、臨床心理、あるいは社会福祉関係者、法律家なども地方更生保護委員会に参加させること、そして事務局が非常に多くの事務処理をしなければならないということからも、事務局体制の強化ということも考えていただきたいというふうに思います。
 それから、仮釈放に当たっての被害者意見の取扱いでございますけれども、これにつきましては、そのこと自体を否定するつもりはもちろんございませんけれども、被害者意見を一方的にただ機械的に仮釈放制度の判断に反映させるということには十分慎重であるべきだというふうに思います。これは、加害者自身、これも矯正施設の中で、また時間がたつ中で変化していっているわけでありまして、その改善更生の実態を被害者に伝えるという双方向的な情報の交換がない限り、適切な判断の基礎にはならないだろうというふうに思います。
 それから、仮釈放についての受刑者本人の関与についてでありますけれども、私自身は申請権までは少し無理かなというふうには考えますけれども、しかし申請を権利として認める、職権発動を求める意味での申請権、つまり私はここまで自ら改善更生のために自ら努力してきたという例えば上申書を付けて、そして刑事施設の長に差し出し、そしてそれが地方更生保護委員会に伝えられる、少なくとも職権発動を促す程度の申請の仕組みはつくるべきではないかというふうに考えております。
 最後に、更生保護の実施は実に多くの困難を伴うものであります。先日も、私たちが提案した自立更生促進センター構想が早くも地元住民の反対によって暗礁に乗り上げたというふうに報道されております。改めて改革の困難さを痛感いたしております。確かに、社会内処遇には再犯のリスクが伴います。しかし、そのことを含めて、更生保護制度の意義が理解されなければ、更生保護制度の円滑な運用を期待することはできないと思います。国民に理解を求めることは一方的に受容を求めるのではなくて、その前提として更生保護制度の実情を国民に示さなくてはならない、このように提言には記載しました。これは委員全員の共通の思いです。一人一人の対象者とそして保護関係者との信頼関係、そして周りの社会との信頼関係を基にした内部からの改善更生をまず主要な眼目としつつ、この制度を運用、実施していただきたいというふうに思う次第でございます。
 ありがとうございました。
#10
○委員長(山下栄一君) ありがとうございました。
 以上で参考人の意見陳述は終わりました。
 これより参考人に対する質疑を行います。
 質疑のある方は順次御発言願います。
#11
○谷川秀善君 どうも皆さん、おはようございます。私は、自由民主党の谷川秀善でございます。座らせていただきます。
 ただいまは、四人の参考人の皆さんには、大変本日お忙しい中をわざわざお越しをいただきまして、また貴重な御意見を賜りました。我々法案を審議する者として大変有り難く、御礼を申し上げる次第であります。
 若干御質問をさせていただきたいと思いますが、時間が往復で十五分ということですから、ほとんどお伺いする時間も少ないわけでございますけれども、どうぞよろしくお願いを申し上げる次第であります。
 現在のこの更生保護制度、参考人の皆さん方も御存じのように、大体法施行後五十年以上もたっているわけでございまして、いろいろその間社会も変わってまいりましたし、また犯罪体系もいろいろ変わってまいっておりますので、何となく最近では、この更生保護制度、機能麻痺一歩手前に来ているのではないかというようなことが言われてきたわけであります。
 そこで、一年間にわたりまして更生保護制度の見直しを検討していただき、堀野先生もその委員になっていただいたわけでございますが、有識者会議が一年間いろいろと検討をしていただきまして、十八年の六月に最終報告をお出しをいただいたわけでございますが、その中でも、保護観察の対象者が本当に最近引き続いて重大事件を起こすということが続きましたために、何といいますか、保護観察の目的というのはなかなか理想でございますが、社会復帰をいかにうまくさせるかということが本来の目的で、それがひいては再犯の防止につながると、こういう、これはどっちが先なのかということがありますけれども、基本的な考え方としてはまず社会復帰を促すんだと、再犯防止はその結果として生まれてくるという考えを我々はしておったんですけれども、なかなか今度は再犯が前面へ出てきて、非常に重大犯罪を犯すということになったんで、何とか再犯を防止をしなきゃいかぬと、これが何となく今度の法では前面へ出てきたような感じをいたすわけです。
 それで、私は、やっぱり保護制度の信頼を取り戻していかなきゃいかぬ、改めてですね。そのためには、いろいろ問題があろうと思いますけれども、なかなか一挙に解決をするということも難しいんだろうというふうに思いますけれども、今回、法案として法務省の方がまとめまして提案をされました。この法案につきまして、それぞれの先生方、いろいろただいま御意見をお伺いをいたしましたけれども、全般として世界のそれぞれの国々の法案と比較し、今回の法案というのは本当に前進をするのか、皆さん方がお考えになって、もっとこの辺を重点的に改正すべきではないかというようなことがございましたら、それぞれ改めて、時間も余りございませんが、お一人ずつお伺いをまずいたしたいと思います。
#12
○参考人(藤本哲也君) お答えいたします。
 今の御質問でございますけれども、残念ながら、世界の情勢を見ますと、一九七五年を中心として、我が国のように改善更生・社会復帰モデルを取っている国は少なくなりました。既にアメリカでは刑罰モデルに移って、社会復帰モデルは捨てております。そういう意味では、どちらかといえば閉じ込めておけばそれでいいんだという形で最近の動きがありますので、我が国は伝統的に明治以来百年間、犯罪者を改善更生し社会に復帰させるというシステムを持っているすばらしい国だと思います。
 そういう意味では、皆さん方、すべてを改善更生を更生保護で考えていますけれども、実はそうではなくて、刑務所に入れた段階で我々は既に改善更生、社会復帰を目指して努力しているわけでして、その改善更生、社会復帰で刑務所でした処遇というものを更に受け取って社会内処遇でどう展開していくかというこの連携が大切なものですから、そういう点では改善更生というのは実は矯正の基本的な理念でもあり、保護の基本的な理念でもありますので、その辺りのことを考えますと、やはりどうしても保護の方は再犯防止ということももう一つの特別予防目的として掲げてくる必要があるんだろうと思うんですね。
 そう考えますと、今議員さんおっしゃいましたように、結果的に、犯罪者予防更生法というのを見てみますと、犯罪者の更生と犯罪の予防というのを目的としているんですね。言い換えれば、犯罪者の更生という特別予防、本人に働き掛けるということとそれによって犯罪を防止するという一般予防が考えられているわけです。
 今回の法律の場合にも、本人に働き掛けるという意味で、再犯の防止という特別予防目的ともう一つこちらに改善更生という特別予防目的というのを置いて、この特別予防目的は車の両輪のように働いて一体化すれば最終的に社会の保護という一般予防目的が達成できるんだと、そのことが個人や社会の福祉につながるんだと、こう考えているわけですから、当然、今回の法律は矯正との流れの中で考えていけば目的規定そのものも問題ありませんし、世界の情勢が刑罰モデルに動いている中において、日本独自がこういうすばらしいシステムを持っていることは世界的にも評価されていると私はそう考えています。
#13
○参考人(土井政和君) 御質問、ありがとうございます。
 私自身も、犯罪や非行を犯した人たちが社会に戻ってきて再チャレンジをし、そして希望を持って生きていける、そういう時代が来ることを心から願っております。その点で、先ほど藤本先生の方からもお話ございましたけれども、世界的には確かに厳罰化の傾向が非常に強くて拘禁というものがより加速するような状況が見られるわけでございますけれども、我が国においては、むしろ社会の中で民間の人たちの協力も得ながら社会復帰に対して努力をするという、そういうすばらしい制度を持っているということでございまして、これはこれまでの保護観察官あるいは保護司の方々、あるいはその他関係者、協力者の方々による協力のたまものであるというふうに思っております。
 それで、一つだけ申し上げたいところは、本人にやはり希望を持って社会に復帰してもらうという点では、本人が戻ってくるということを保障する精神的な支柱として主体性の尊重ということを法案のどこかにやはり盛り込んでいただきたいというふうに思います。本人のやる気というものをいかにして引き出すかと、非常に難しい問題ではございます。社会の荒波の中でこれをどういうふうに維持していくか、非常に難しい問題でございますけれども、是非、あくまでも帰ってくるのは本人であるということを尊重するという、そういう趣旨から主体性の尊重ということを盛り込んでいただければというふうに思っております。
#14
○参考人(宮川憲一君) 状況については先ほど藤本先生がおっしゃったようなことで私どもも全く同感でございますが、特に、先ほど申し上げましたように、やはり我々が対象者に対しましたときに感じますのは、幼少期の生育歴に原因があるということを痛感するケースが非常に多いわけでございまして、そういう意味で申しますと、犯罪者になる以前に地域社会なり家庭でその対象者に対してどういう処遇がされているのかということが今は我々の大きい課題でございまして、犯罪予防の面からいいますと、学校との連携であるとか家庭、地域との連携とかいうことで積極的にやっていくことこそが本来の更生保護の一つの柱だというふうに思っております。事が起こってからの処遇ということは、先ほど申し上げましたように、いろんな事情で厳しい大変な条件がありますが、それはそれとして、それに至るまでの犯罪予防活動の中でそういうことを考えていかなきゃいけないということを痛感いたしております。
 にもかかわらず、現在の社会の状況は非常にそういう意味では難しい環境にありますので、更生保護についての啓蒙といいますか、更生保護というのは基本的にだれもがみんなが共有し合うような共生の考え方だということがまず受け皿としてベースにありませんと、地域での活動も、家庭も、それから対象者に対する処遇も全くうまくいきませんので、そういう意味での大きな運動にしていかなきゃいけないというふうに私は考えております。
#15
○参考人(堀野紀君) 我が国の制度は、これまでも民間の保護司さんと対象者との間の密接な信頼関係の中でつくられてきたという特殊な制度で、外国との単純比較は多分できないだろうと思います。
 私は、これまた非常にある意味で優れた制度であろうと思います。ただ、外国の方で大いに進んでおりますのは、例えば性犯罪であるとかあるいは麻薬、薬物関係のこの改善更生プログラム、これを制度の中に取り入れて、そしてそれを単に刑務所に入れて出すというだけの話ではなくて、やはりそれをむしろ刑の執行に代えてプログラムを受講させるといった実効的な措置が取られているといったような優れた経験が今、日本の制度の中にも取り入れられつつあると。今度の法案の中にもそれを記載されておりますけれども、明らかにそういう点において従前の制度よりも優れたものになっているというふうに思います。
 ただ、先ほど土井先生も言われましたように、やはり本人の自発性、それから保護司あるいは保護観察官に対する信頼関係、あるいは社会に対する信頼というところから自らを改善しようというそういう制度である以上、やはり本人の主体性というものをどこかで生かす、そういったステージが必要なんじゃないだろうか。一つは、さっき言いました仮釈放制度による本人関与、それからむしろ刑事施設の中においても自らをどう改善更生していくかということについての本人の主体的ないろんな関与の仕方、こういったものの訓練をしていかないと、やはり出てきたときには受け身の人間として出てきて、そしてしかも、そうすると監視される人間、隔離される人間というふうに、そのままで終わってしまう。だから、本人の関与ということは、ある意味では本人の学習という意味においても非常に重要じゃないかと。そういう観点が今回の法案には若干欠如しているんじゃないかなというふうに私は思います。
#16
○谷川秀善君 ありがとうございます。
 あと時間がございませんが、最後に一問だけ宮川参考人にお伺いをいたしたいと思いますが、大体、官民協働と、こういう保護観察制度になっているんですけれども、官民協働やないですわな。実際、考えてみたら保護観察官何人おりますか、これ。いろいろな関係、全部調べても、せいぜい全部は、事務官もみんな合わせて千四百二十九人ぐらいですよ。保護司さんがざっと五万人ですね、四万八千人。そうすると、全然違いますわな。だから、もう保護司さんがなければ、この保護観察制度なんというのは明治以来ずっとこれ成り立っていってませんね。そういう意味で、私は保護司さんが大変なお力添えをいただいて、現在の日本の保護観察制度、世界に冠たる制度が成り立っていると思うんです。
 ところが、そろそろ限界に来たんではないか。保護司さんの定年制もしかれたようでございますし、なかなかその定員一杯には来ていない。同時に、六十歳以上が大体保護司さんで全体の七割ぐらいを占めておられるわけですからね。そういう意味で、非常に保護司さんに私は負担が掛かっていると。それに対して処遇はほとんどできていないと。本当にボランティアですよね。その点について、保護司さんの会長さんとして、今後我々どうあるべきであるかということを一言お伺いをしておきたいと思います。
#17
○参考人(宮川憲一君) 実際に我々が観察官として官民協働で一緒にお仕事をする職員は六百人か七百人しかいないというのが実情でございます。しかも、従前に比べますと非常に観察官の仕事が煩雑になって、大変な仕事だということを我々常に見ているんですが、そういう意味では、もう今先生がおっしゃるように全く少ないという実感を持っております。
 ただ、一生懸命やってくれておりまして、こういうことを言うと以前の先輩には申し訳ないんですが、今の観察官は若い人で専門官が結構増えておりますので、個々には非常に頑張ってやっていただけるんですが、いかんせん量的には非常に少ない。五万人の保護司に対するのに六百人の観察官では、これはもうだれが考えてもおかしいんですけれども、今の国の状況の中で大幅な増員というのが難しいかもしれませんけれども、発生したいきさつからすると、どうしても観察官を増やしていただきたいというのが私どもの民間人の要望でございます。
 それから、保護司の問題につきましても、従来のような選び方では駄目だということで、今全国で保護司の選考のやり方を全く新しいやり方でやろうということで、透明性のある保護司の選任ということで、モデルケースで実験をやっているところでございます。
#18
○委員長(山下栄一君) 時間が参っておりますので。
#19
○谷川秀善君 どうもありがとうございました。
 どうぞよろしくお願いを申し上げます。
#20
○江田五月君 四人の参考人の皆さん、今日は本当にありがとうございます。
 実は、今回のこの法案は私どもも賛成でございます。ただ、いろいろ言いたいところはあるんで、衆議院の方で私どもなりの考え方をまとめて修正案も出したりいたしました。藤本参考人が衆議院の方の我々の質疑も参照されながら今日の意見を述べていただいたことに大変敬意を表します。
 その上で、しかし議論を深めていかなきゃならぬので、ありがとうございますと言っているだけでは質疑になりませんので、あえて若干問題点を述べてみたいんですが、まず藤本参考人ですね。最後に、刑事司法制度の入口に位置する警察段階での交番制度と最終段階に位置する更生保護制度は世界に誇り得る制度であると確信しておると、こういうお話で、前にお配りをいただいた「更生保護」という法務省が編集をした雑誌の中でも同じようなことを書いておられます。もっとも、「更生保護」という雑誌の方は更生保護制度というよりもむしろ保護司制度に焦点を当てておっしゃっているようですが。
 私は、おっしゃっていることの揚げ足を取るように聞こえるといけないんですが、やはり今の日本の更生保護制度は問題大ありだと。それは、先ほど堀野参考人が言われました、満期で出所をした場合、保護観察がないんですよね。そのまま社会に出される。しかも、満期で出てくるというのは、これは社会に適応していけるかどうかが非常に心配される人たちですよね。こういう制度がそのままになっていて、世界に誇り得ると言えるんだろうかどうだろうかと。いかかですか。
#21
○参考人(藤本哲也君) お答えいたします。
 私が世界に誇り得ると言っていますのは、少なくとも再犯というレベルで考えれば、日本のいわゆる警察段階から検察、裁判、矯正、保護という一連の刑事司法過程の中で、犯罪者をもう一度社会の有用な人材として輩出するというシステムとしては最高のものを持っていて、しかもそれは交番制度によってまず第一に我々は、社会内のコントロールが行き渡っている。少なくとも我々は駐在所と交番所を一万五千か所持っていますから、これをある意味での社会防衛、社会の犯罪を抑止するためのセンターにしていけば、もう少し私はいい、安全、安心の町づくりができると思うんですね。
 今の警察は、今おっしゃいますように、今の警察の実態を見れば、それは、どちらかといえば事件を処理した方に評価が高くて、犯罪を予防した人は、予防した数字は見えませんから、結果的に予防には定数が少ない。それは、システムが幾らすばらしくても実務が伴わなければいけないわけでして、私が言っているのは、システムそのものは、今のように一番社会内処遇で根幹にある部分において、少なくとも民間ボランティア、この二十七万のボランティアが関与をしているというシステムは世界にはどこにもないだろう、そういう意味ですばらしいシステムを持っていると言っているんですが。
 ただ、残念ながら、今はコミュニティー、地域社会の自浄能力がなくなっていますから、昔は刑務所から出して、満期でも仮釈放でも出せば、社会で何とかしてくれたんです。ところが、これがもう完全になくなってしまっているんですよ。保護司さんたちも、この辺りであっせんするのも非常に難しくなっていますから、そういう現実を考えるときに、幾らシステムがすばらしくても、結果的に社会情勢が変わってくれば、それに応じた法体制を我々はつくらなくちゃいけない、それが今回の皆さん方が立案されている更生保護法案であると私は思っています。
#22
○江田五月君 交番制度についても監視が行き届いてすばらしいと言っていいのかどうか、そもそも監視が本当に行き届いているのかどうか、空き交番が山ほどあると、まあこれをなくするとやっていますが、これも問題ありますし、それから制度としても、今のような満期出所者に対するケアのシステムがないというのは欠陥だろうと私は思っております。
 実は、私は、もう今から四十年前になるんですけど、死刑判決を起案したことがあるんですよ。裁判官としてではないんですよ、修習生として、これは勉強ですから起案をしてみたんですが。殺人を犯して長期服役して、満期で出てきて、そしてどこも行き場所がないと、親族も相手にしてくれない、このやろうと社会に思い知らせるというので、道を歩いていた、税理士さんかだれかでしたかね、ぷしゅっと刺し殺したと。これはもうどうにもならない、法定刑で死刑があれば、裁判官としては死刑の選択をせざるを得ないという。そのときに、量刑の事情の中で書いたんですが、そういう刑を終えた人に対する社会の対応をどうするかというのは重大な課題だと、にもかかわらず死刑を選択せざるを得ないと、まあ練習ですから書いたんですが、以来四十年、いまだに直っていない。刑務所の中の処遇も、もちろん刑務所の中で一生懸命矯正教育をしていきますが、それでも直っていない。まだまだ課題は大きいということを是非御理解いただきたい。
 昨日、何か藤本参考人にばかり聞くんですが、美祢刑務所の件について、社会復帰何とかセンター、あの話がテレビで出ておりまして、先生お出になっていました。興味深く拝見させていただきましたが、ああいうものができてくれば、私ども以前は、短期の実刑判決というのは百害あって一利なしだと、入って悪いことだけ覚えて出てくるだけだからと言っておったんですが、しかし、こういう社会復帰促進センターというものができてくれば、短期の懲役刑でも、それでもあえて実刑を言い渡して、そのうち短期間だけ矯正のスタートのところの動機付けをして、あと社会内に戻していくというようなことも可能ですよね。
 それから、私はもっとこの保護観察付執行猶予、これももう裁判所は、どうしようもないと、しかし刑務所にぶち込むのは何とも、こんな、大根を一本盗んだぐらいでというようなときに、もうしようがないから、絶対これはまたやるだろうと覚悟をしながら保護観察付執行猶予を付けたりするんですが、もっとその保護観察が十分できるようになっていけば、この活用もできますよね。そのためには保護観察所、保護司さん、今も谷川先生のお話もございましたが、もっと保護観察官も人を増やして、あるいは能力ももっと格段に増やして、保護司さんももっと、宮川参考人、本当にもう、私もこういう、「おかえり。あなたに信じてもらう。」、こういうのを見ると涙が出るほどうれしいんですね。しかし、そういうことをやっていらっしゃる保護司の皆さんがもっともっとやりやすくするようにしなきゃいかぬので、制度として世界に誇り得ると言われると、内心もうじくじたるものがあるんですね。
#23
○参考人(藤本哲也君) 申し訳ございません。
 先生のおっしゃるとおりなんですね。ただ、先生も御理解いただけると思うんですが、我が国の現行刑法は刑罰一本で処遇をすることとなっておりますので、なかなか難しい。そうかといって、今のように例えば満期釈放者の場合でも、外国では五年間、エクステンデッドスーパービジョンといいまして、保護観察を延長するというシステムがあるんですね。ところが、我々はこれをつくれないわけです。それは、国会議員の先生方が作っていただければ我々は運用できますけれども、その辺りのところにどうしても刑罰だけで対応するという我が国の現在の刑事政策に限界が来ているということを是非御理解いただきたいと思います。
#24
○江田五月君 それは私も分からないではありません。家庭裁判所というのは戦後随分社会的裁判所としていろんなことをやる努力をしてきて、しかし今これでいいのかという問題はあるんですが、私は刑事裁判所ももっといろんな意味で社会化していく余地はあるのかなと思ったりはいたしますが、まあこれから先の課題で。
 もう一つ、不服申立ての関係ですが、私はやはりこれ、行刑というのは、もう無期なら別ですが、有期懲役の場合は期間が定まっているわけですから、その定まった期間の中で何をするかということなので、やっぱり受刑者といえども人間、人はそれぞれいろんな個性を持っていろんな経歴を持って今に至って、様々、全部別々、その全部別々の人間がそれぞれ人間関係をつくりながら社会を動かしていく、その基本はやっぱり法なんですよね。法じゃなくて裁量が社会の基本になったのではこれはおかしくなるので、法が支配する社会にしていくということになれば、やっぱりどういう状況の下に置かれてもそこに法が基盤にあるんだと、そして自分も法によって守られているし、法は自分を助ける道具に使えるんだという、そういうものがあって初めて法というものが記銘力を持つ、感銘力を持つ。これがやっぱり社会に出ていっても法の下で自分は生きていこうというそういう意欲を持たせることになるんじゃないかと思うんですね、堀野参考人が言われました、人がそれぞれ回復していこうというその気持ちを大切にという。
 昨日、実は石塚伸一という、これは龍谷大学の人から突然速達で本を送ってもらいまして、「日本版ドラッグ・コート」というんですが、厳罰主義で失敗したアメリカ薬物対策の二の舞を踏んではいけない、薬物依存からの回復は自分が依存症だと認めることから始まる、司法関係者には気付いてほしい、「ダメ、ゼッタイ。」だけでは薬物は止められない、回復しようとしている人たちを閉じ込めておくだけではなく援助してほしいという。そのためには、法に基づいてやっぱり不服申立てもできるんですよと、あなたの言い分は聞いてもらえるんですよという、そういう制度が大切だと思うんですが、藤本さん、いかがですか。
#25
○参考人(藤本哲也君) なかなか難しい質問ですけれども。
 今のお答えになるかどうか分かりませんが、もしもそれが仮釈放で、例えば申出権、申請権等も考えるという趣旨でだったらまた話は別でございますけれども、その趣旨でよろしいんですか。
#26
○江田五月君 はい。
#27
○参考人(藤本哲也君) 実はアメリカでは受刑者に対して申請権を認めております。そして、自分たちはこれだけ一生懸命努力したんだから、それに対して自分たちは仮釈放を申請するから何とか審査してほしいという権利を認めているんです。初めの運用段階ではかなり受刑者たちもその制度そのものに感服しまして従っていたんですが、残念ながら、毎年一人ずつ申請しますとこれが数万件の数になっていきます。そうしますと、アメリカでも仮釈放委員会というのがございますけれども、これが我が国の地方更生保護委員会ですが、仮釈放委員会は形骸化していきまして、初めから受け付けても九〇%は却下するという運用になっていきまして、結果として何が起こったかといいますと、一九七〇年代に刑務所暴動がアメリカでは頻発したんです。
 その大きな原因が、仮釈放というものは我々がどんなに申請してもいつも却下されるじゃないかと、その理由たるやどうもはっきりしないと、これじゃ何をやっているんだということで暴動が起こりまして、結局ジョージ・ジャクソンというのが暴動を起こしますけれども、この遠因、一つの原因、全部とは言いませんが、一つの原因になったのが、この仮釈放を申請権を認めてそれが形骸化してしまって実質的に不満をもたらしたということがありまして、慌てて一九七七年に仮釈放制度を全部やめてしまったというケースがありますので、我が国にそうした、もちろん先生はすべて御存じだと思いますけれども、一応裁判官が言い渡した刑期の中で刑務所で執行するのか社会に出すのかの相違ですから、その辺りのことを考えて、不服申立て制度というものもそれと連動して考えていかなくちゃいけないだろうと私は思っております。
#28
○江田五月君 議論していても仕方がないので、最後に、ごめんなさい、土井参考人、それから堀野参考人、ちょっと時間がなくなったので宮川参考人に一言だけ聞いておきたいんですが、長い保護司の経験をなさって、今保護司の年齢も随分高くなってきましたね。日本のこういう更生保護、戦後、確かに時代が動いていきますから前へ進んでいる面もありますが、私は、いろんな場面で保護という、社会内でいろんな困った人たちを救済していくという社会的リソースといいますか、保護司さんもそうですし、そのほかのいろんなボランティアの皆さん方の体制が脆弱化していると、こういうことを痛感をするんですが、宮川さんの率直な実感をお聞かせいただければと思います。
#29
○参考人(宮川憲一君) 先生が今おっしゃるように、やっぱり地域社会がもうそういう力を失っています。かつての我々の父や何かの代の保護司の選ばれ方と現在は非常に違うんですね。
 そこら辺を我々考えまして、地域社会に対する批判をしていてもしようがないわけですので、逆に我々が地域社会に呼び掛けるという形で、この際、保護司を従来我々の仲間内から選んできた保護司のやり方を改めて、地域の各組織の代表に集まってもらって委員会をつくる、そこで推薦委員会をつくって検討していこうというようなことで、今までの従来の自ら望んでボランティア活動をやるということではなくて、地域でやはり透明性のある中で選ばれてきたそういう保護司がやっていくという新しい体制に組み替えていかなきゃいけないんじゃないか。むしろ、この仕事は国民全員がやらないといけない仕事でございますから、当番で自分はやっているんだというぐらいの意識の人がこれからは保護司になっていただきたい。そうすれば保護司の若返りも十分期待できるだろうなというふうに思って、実際に今全国で展開している最中でございます。
#30
○江田五月君 終わります。
#31
○木庭健太郎君 専門の立場から、また現場の立場から、四人の参考人、御意見をいただきましてありがとうございます。
 私からも若干皆さん方に質問をさせていただきたいと思います。
 まず、藤本参考人にお伺いしますが、藤本参考人、御意見は保護観察官の任務、第一義的に再犯防止ということの御意見のようですが、この更生保護のあり方を考える有識者会議の報告書を見ましたら、保護観察官の現状について、就労の確保や生活習慣の改善等により生活の安定を図ることを保護観察の主目標と考えて、対象者の円滑な社会復帰を支援する一方、対象者による再犯を防止して社会を保護するという意識が不十分であるというような指摘があったのは御存じのとおりだと思います。
 こういう現状になっているその原因は何だとお考えになられるのか、もし再犯防止ということを第一にするというんであれば、正に保護観察官の意識改革というのが必要になってくるんだろうと思いますが、原因を教えていただくとともに、どうやってこれ意識改革をさせていくべきなのか。例えば、今は保護観察官が対象者と直接会うというようなことはなかなかないようですが、そういったことを取り入れることでそういうものができるのか、つまりそういう原因、並びに今後どう意識改革をさせればいいのか、この点について御意見を伺っておきたいと思います。
#32
○参考人(藤本哲也君) お答えいたします。
 一般的な意見として申しますと、残念ながら我が国の社会が終身雇用制は崩壊しましたし、それから我々の年功序列制はなくなりました。我々は、昔我々の社会において安定した志向というものを目指したという、大きな社会変革が起こってしまいましたので、ある意味では我々が自浄能力を持ってすべての犯罪者をコントロールするというシステムそのものが崩壊していったと見ていいと思うんですね。
 実を言いますと、御存じだと思いますが、警察段階では二百十四万人の犯罪者が検挙されているんです。刑務所に入るときは三万三千人に減っているわけですね。言い換えれば、この二百十一万という数の犯罪者は、もちろん多くは道交法違反ですけれども、多くはまた罰金刑ですけれども、ほとんど社会内において今までは処遇されてきた。実際にそのときに社会内処遇として何らかのプログラムがあったかというと、なかったんですよ。全部保護司さんにおんぶにだっこなんです。結局、更生保護施設が百一か所ありますけれども、これも昔は民間の人たちが自分たちのポケットマネーでやっていたと。ところが、実際今は、ほとんどが委託費を払わなければ百一の更生保護施設も動かなくなってしまっている。すなわち、ここに大きな社会的な構造の変化があるわけです。
 そうすると、我々もその社会の構造の変化に応じて犯罪者の改善更生、社会復帰を考えなくちゃいけないと思いますが、そのときに一貫して言っていることは、矯正の現場においては犯罪者を改善更生し、社会復帰をさせるんだと言っているんです。社会復帰のために出したときに、今度は何が更生では大切なことか、やはり再犯の防止ですよ。もし再犯を犯しますと、たちまちに刑務所で二百七十万のお金が掛かるんですよ。これは警察で金が掛かり、検察で金が掛かり、裁判所で金が掛かる。この費用を考えれば、恐らく一千万ぐらいの税金の無駄遣いなんですよ。
 そうすると、矯正が改善更生、社会復帰を考えるならば、保護は何ができるか。再犯防止ですよ。そう考えれば、当然、鶏が先か卵が先かの論争ではなくて、再犯の防止と更生保護という二つのものが車の両輪のようになって動いていく。この特別予防目的を完成すれば、結果として社会の保護という一般予防目的が完成できる。そして、その上で、個人と社会福祉の増進というものが果たせるんだというのが、今回の更生保護法案の作られた本来の意味ですよね。
 ほかの省庁は、官から民へ、官から民へと言っていますが、今回は民から官へという動きなんですよ。だから、民から官へ動いて、更生保護法案を作る以上は、ある程度の厳格なスタンダードな法的根拠を作らざるを得なくなってくるんです。それが駄目だと言われれば、元の更生保護法に変えればいいんですが、そのときは国家の責務は完全に後退するだろうと思うんですよ。それで駄目だから、今法律を作っているんですよ。
 法律を作る以上は、保護観察官がどう動くかという根拠を示さなくちゃいけませんし、保護司さんたちが、今社会が変わって処遇困難者が増えていると、そして、そのためにはやっぱり遵守事項をきちっと決めておいて、使いませんけれども、ほとんどは、保護司さんでも保護観察官でも、これならもう本当は取り消してもいいのにと思われるようなことも一生懸命カバーして、いや、何とかもう少し、何とかもう少しと、事実として彼らは一生懸命取り消さない方向で頑張っているんですよ、現場を見ますと。
 その中で、やっぱり少なくとも、いざとなれば遵守事項で取り消されるんだよということが大切なことになりますし、もちろんおっしゃるとおり、わずか今のところ八百人ぐらいの実働部隊しかありませんので、全員が、七十名から八十名の保護司さん、対象者百名の面倒を見れませんけれども、処遇困難な事例の場合には、やはりケースワーカーとしてのプロである保護観察官が直接担当するというシステムを今回も更生保護法案の中に入れたわけですから、そういう意味でも一歩前進したと私はそう考えています。
#33
○木庭健太郎君 宮川参考人にお伺いしたいんですけれども、今お話があったように、遵守事項違反の問題ですね。これについて、では、仮釈放者については仮釈放を取り消す、少年院の仮退院者に対しては差戻しになっていくということになるわけですね。
 ただ、こういう不良措置を積極的にとるということになってくると、実際現場にいらっしゃる保護司の皆さん方、その対象者との間に構築してきたこれまでの信頼関係との問題、とても難しいことになるんじゃないかという指摘はあります。私も、その点は危惧する一面はあります。
 この点について、実際現場で携わっていらっしゃる宮川参考人の御意見を伺っておきたいと思います。
#34
○参考人(宮川憲一君) 先ほど堀野先生からもお話がありましたが、提言の中でもその話が出たときに我々は非常に危惧をしました。
 その結果、今我々が考えておりますのは、警告ぐらいまではまだ保護観察の対象の枠内ですが、その過程で我々がそれ以上のものを要求するようになれば、その際もう我々は保護司としての、何といいますか、仕事がなくなるわけですね。いわゆる保護観察はもう終わってしまうわけなんです。結局それは対象者に対して保護が負けたということになるだろうと。保護司としてはそこでもう役に立たなかったということになるんじゃないかということで、最後のとりでとして、そうならないように、最悪ならないように、いわゆる先ほどお話がありました伝家の宝刀としてそれはあるのであって、それを使ったときにもう既に保護司は保護司でなくなるというぐらいの気構えで、この不良措置については対応しようというふうに考えております。
#35
○木庭健太郎君 すばらしい決意というか、そういった視点で今までもやっていただきましたし、これからも取組をしていただきたい。ただ、そういう伝家の宝刀をつくることも必要なんだという藤本参考人の御意見なんだろうと思います。
 そういったことが相まって、江田先生は厳しく指摘されましたが、私は日本のこの保護観察制度というのはある程度評価してもいいんじゃないかなと。世界がやっぱりどっちかというと厳罰化の方向の流れでしかない。でも、日本はあくまで民間の方々も合わせた形でのこの一つの仕組みを新たな形で構築していこうということについては評価してやってもいいんじゃないかなと。どうこれをきちんと運用できるかということは確かに大切ですけれども、そんなことをちょっと感じておるんで。
 そして、土井参考人に伺っておきたいんですけど、仮釈放審理の現状の問題についてちょっとお伺いしたいと思うんです。
 仮釈放審理の在り方、内輪でやっていらっしゃって、これ分かんないんじゃないか。つまり、職業上の経験と勘に依拠して判断が行われて、詳細な理由も示されず決定が行われており、判断過程も透明性を欠き、判断の正当性の担保も十分とは言えないというのが更生保護のあり方を考える有識者会議の中間報告でございました。これについて、土井参考人、この御批判に対する見解、是非伺っておきたいと思います。
#36
○参考人(土井政和君) 仮釈放審理が、まず委員の構成において偏りがあるのではないか。それから、仮釈放の審理そのものが関係者が直接その場で意見を述べ合うという、そういう仕組みにもなっていない。事前に、その対象者につきましては保護観察官が刑務所に出向いて事情を聴取し、そして、社会環境等を調査した上で、最終的には委員の主査委員が面接をして、そして合議にかけて決定をするという構造になっているわけですけれども、実際に仮釈放の審理に掛けられる一件当たりの時間が極めて短い。そういう中で、果たして公正なその決定が行われるんだろうかという、そういう懸念が表明されているんだろうというふうに思います。
 その点で、私自身も、基本的にはやはり委員の数が非常に少ないわけで、一件当たりに掛けられる審理というものも、もうほんの数十分しか掛けられないという状況がある。もう少しその構成、出自も含めても数を増やしてその対応をする必要があるのではないかというふうに思います。
 それから、仮釈放の審理そのものとちょっと関連しますけれども、今回、法案を読みますと、取消しとかいうような場合も増えてくる可能性がございます。そういったときに、それをどういうふうに審理するのかという辺りも含めて地方更生保護委員会の任務というのは非常に増えていくだろうというふうに思いますので、その点についても是非構成あるいはその人数等について御配慮をいただきたいというふうに思っております。
#37
○木庭健太郎君 堀野参考人にお伺いをいたします。
 正に更生保護、最後、その実効性を高める一番大事なものは何かというと、これ、堀野参考人が有識者会議への意見という、見解ということでおっしゃっているように、正に社会の受容性を拡大すべきであり、その意味で、定住と就労の機会を拡大することが必須の条件という、もう正にこの御意見のとおりだと私も認識をいたします。
 ただ、具体的に、これどんなふうにしてこのことを実現、必須の条件を可能にしていくのかというのは、なかなか知恵があるようで難しい点もあると思うんですが、この点をかみ砕いて、やっぱり理解と協力必要なんですけど、具体的、どんな方策を取っていけばいいのかと、この辺を御意見を伺いたいと思うんです。
#38
○参考人(堀野紀君) 現在行われていることで、出所間近になったときに官の側で調整をやります。そこで、就職先とかあるいは定住先について、本人の事情を調査しながら、できる限り本人が自助努力で、あるいは本人の家族の自助努力、そういったもので、そういう定住先、それから就職先、これを事前に調査し、そして、出たときにそこへ住み、そして就職することができるようにしようというのは、これが今やられていることではあるんですが。
 問題は、私どもは、定住先、それから就職先について、それでもなおかつ、恐らく多くの対象者は非常に孤独な生活を送ってきた人たち、親友がいればこんな犯罪を起こさなかっただろうといったような人たちだし、家族がもっと温かければ犯罪を起こさなかったろうと思われる人たちだったろうと思うんです。そうすると、やはりこれは第三者の力でというか、主として国あるいは公の力、地方公共団体の力で何とかならないかと。
 就職先については、一つは今、協力事業主制度があって、全国で一千程度でしょうか、そういった人たちの就職を受け入れている事業所があるけれども、大体おしなべて言えば、三K企業の方が多いだろうというふうに思います。土木だとかそういうところだと思いますけれども、そうすると、そこの仕事がなくなれば寮から出てしまう、これではいけないと。
 そうすると、例えば、まず就労という点でいえば、さっきちょっと私、口を滑らしたんですけれども、障害者の場合、この方々も障害のある方々もやはり社会的にはマイノリティーだと。しかし、そのマイノリティーの方々にもやっぱり一定の自ら働いて生活できる場を確保しようということで、一定の企業、あるいは公もそうでしょうか、官もそうでしょうか、一定のパーセントで就職させる制度があると思いますけれども、そういったことが同じマイノリティーであるこの人たちに考えられないのだろうかということと、それから今行われている協力事業主制度をもっと大きく広げていくということが必要なんではないかと。まだ全国で千程度だと、これはほとんどないに等しいというふうに思います。そういうことが具体的には考えられる。
 それから、定住先につきましては、これは例えばアパートに入るについても、保証人がない人たちですね、この人たちは、保証人がだれがなるんだと。まさか保護観察所が保証人になるわけにもいかないし、とにかく大家さんがそういう人たちを入れるのを迷惑がる、要するに社会から受容されないマイノリティーですから。そうすると、その民間アパートに入るについても何らかの方策が、具体的方策、これは私はちょっと悩ましい問題で何とも言えませんけれども、何らかの方策はないだろうか。それから、公営住宅の一部を各地方自治体、公営住宅の一部をこの人たちに低家賃で貸せるようなところはないだろうかと、貸せるような施策を全国的に展開するということはできないだろうかというようなことを考えているところです。
#39
○木庭健太郎君 終わります。
#40
○仁比聡平君 日本共産党の仁比聡平でございます。
 今日は、四人の参考人の皆さん、本当にありがとうございます。
 まず、現場の実情を宮川参考人からお尋ねをしていきたいと思うんですけれども、有識者会議に宮川参考人が御意見を述べられたときに、多くの保護司の皆さんにとって、自分の担当するケースにもっと保護観察官がかかわってほしい、対象者に直接会ってほしいと望んでおられる。さらに、昼夜、休日を分かたずに働いている保護司に対し、二十四時間必要な助言、指導を提供できる組織としての保護観察所の対応を望んでおられると、こういうような要旨のお話をされたかと思うんですけれど、先ほども大幅な増員の、保護観察官のですね、要望というのが強いとおっしゃられましたし、現状は余りにも少な過ぎるというお話もございました。
 私も現場の実情を少し調べますと、保護司さんと御一緒に、一人の保護観察官が百人を超える、中では百三十とか百六十とかそういう対象者の観察に携わるとともに、一方では、環境調整や調査のためにほぼ同数の対象者の調査を続けているとか、ただでさえ大変な状況があるかと思うんですね。
 保護司さんの目から見て、具体的に保護観察官はこんなふうにあってほしいのにというお話がもう少しございましたら、まずお聞かせください。
#41
○参考人(宮川憲一君) 実情につきましては今先生がおっしゃったとおりでございまして、そのことをどういうふうに是正していくかということで少し改革が進んでおります。
 観察官も立て直しを内部的にもやっていただいておりまして、できるだけ我々に対応をスムースにするようにということで、二十四時間の対応もそれなりにできるような、完全ではありませんが進めてくれておりますが、いかんせん先ほどから申し上げましたように、人員の不足というのがもう極端でございまして、そういう意味ではとても我々に対応できない。我々、多少ベテランといいますか、経験のある保護司は遠慮をして、若い、これはもう自分でやっておこうと、観察官に頼むのは、これはかわいそうだというふうなシーンの方が多いわけなんですね。若い保護司さん、新しい保護司さんは自分一人でやっていくのは非常に頼りないので、何かあればすぐ、特に対象者のトラブルというのは夜間、早朝に起こることが多いんですね、ですから、そういうときに観察官と直接連絡が取れたらいいのになという不満が非常に多いわけです。それから、特に最近は女性の保護司さんが増えましたから、そういう意味ではなおさら事件について専門の観察官に相談に乗ってもらいたいという要望が非常に強いというのが現実なんですね。
 ただ、今観察官がもうそういう意味では大変多忙でございまして、我々見るのもちょっと。これ先ほど申し上げたように、我々ぐらいになるともうこれは、ここは我々でやっておこうというようなことでやってしまうこともあるんですが、やはり何とか人員を増やしていただきたい。こういう時節ですので、倍増ということをあの提言には書いてありますが、それは無理としても、漸次少しずつでも増やしていって、我々五万人の保護司に対応する組織というふうに観察官もなっていただかないと前へ進まないんじゃないかなというふうに思っております。
#42
○仁比聡平君 今、見るもという、言葉を途中で切られましたが、これは見ても気の毒だというような御趣旨でしょうかね。
#43
○参考人(宮川憲一君) まあそうですね。
 若い観察官がたくさんおります、専門官、最近は。我々が初任のころはかなりベテランのといいますか年配の観察官が多かったんですが、最近若い観察官たくさん多くなりました。やる気も十分あるし、それからキャリアも、専門官、心理学のだったり教育学の専門家の観察官がおります。しかし、いかんせん量が圧倒的に多いものですから、それで三年ぐらいで異動するわけですね、その間に百件、二百件の件数の具体的な中身まで全部分かって我々に対応するというのは、ちょっと我々常識的に考えて至難の業なんですね。にもかかわらず、実際現場ではよくやってくれています、よくここまで分かっているなと。その立場に立って二、三か月のうちに対象者全部大体知っていますからね、観察官が。
 ですから、そういう点ではベテランといいますかプロだなという意識を持っていますが、いかんせんその努力が、やはり我々見ていて、大変だと思うよりも遠慮しがちになってしまうといいますか、現状ではそういう状況です。したがって、何としてでも増やしていただきたいというのがあります。
#44
○仁比聡平君 あと一つだけ、宮川参考人に。
 その観察官を間近に仕事を通じて見ておられて、保護観察官の一人一人を見たときに、この人は再犯防止ということについて気持ちがないんじゃないかというようなことを感じることはありますですか。
#45
○参考人(宮川憲一君) いや、それはないですね。
 先ほどからお話がありましたように、更生保護と再犯防止というのは、当然結果として再犯防止になるんだというのはずっと昔からの伝統的な我々の考えですから、表裏一体のもので、それは観察官の場合も我々もそういう更生保護の理念というものについては食い違いはないというふうに思っております。
#46
○仁比聡平君 堀野参考人に今の保護観察官の実態というテーマで、同じテーマなんですけれども、先ほど有識者会議の中で委員の皆さんが実情を知って驚きの声が上がったと。有識者会議の報告としてはもちろん思い切った提言だと思うんですけど、倍増を、それも速やかにという提言をされているわけですね。
 どんな実態をお知りになって驚かれたのか、堀野先生の御感想も含めてお話しいただけましたら。
#47
○参考人(堀野紀君) 二つあります。
 一つは、もうこれは机の上で分かることですけれども、先ほど出ていた一人が百人以上の者を担当し、今ほとんど認知されているというお話だったけれども、実情を伺ってみると、ほとんど対象者については最初に面接したぐらいで、あとは全く分からないという方も多かったと思いますけれども、机の上で分かるのは、そういう数字の上でもうこれは到底一人の内心にまで入って信頼関係を構築するというのは不可能な数字だと、少なさだということが一つ。
 それからもう一つは、現場でいろいろお話を直接伺いましたし、それから保護観察官からのいろんなアンケート調査に対する回答書を全部読ませてもらいましたけれども、その中でやはり、非常に思いは持っていながらも、中にはもう本当に投げやりの人もいるんですね、調査意見書の中で、やれっこないと、増やしてくれなきゃおれは嫌だと。ところが、やる気のある人は、増やしてくれればやれるよと、こういう意見が出てきているわけですね。そして、やれないことの悔しさみたいなものが一杯出てくるわけです。
 それがやはり、例えば今でも戻しをやろうと思ったらできなくはないと思うんですけれども、そこまで深く知らないんですよね。ハイリスク、リスクが増大してきた人について、もう認識できないという状況ですから、当然結果として再犯防止につながらないということで、とてもじゃないけどやはりこれは増やさなきゃ駄目というんで、有識者会議の中でも数を出そうと、とにかく、どれぐらい増やさなきゃいかぬのかと、最低を出しましょうということで一致したのが倍増なんですね。そういう経過でした。
#48
○仁比聡平君 最低でも倍増だというお話は大変重く受け止めなきゃいけないと思います。今回の法案でも、特に保護観察官の責任がより重くなるし、あるいは社会内処遇のプロとしてのかなめの役割を大きく期待されるということになっていくのではないかと思うんですけれども。
 研究者、藤本参考人に、先ほどもお話の中で、ケースワークのプロとしての保護観察官というような御表現もありましたけれども、この社会内処遇、更生保護の中で保護観察官が今後果たしていくべき役割と、一方で、その保護観察については信頼関係を基礎としてというお話が一貫して語られているわけですけれども、この辺り、藤本参考人、どうお考えでしょう。
#49
○参考人(藤本哲也君) お答え申し上げます。
 宮川先生からもお話があったと思いますけれども、実際の百人余りの処遇計画を作るのは、これは保護観察官でございます。この処遇計画に従って、実際に七十人から八十人保護観察官の下にいます保護司さんたちにそれぞれのケースワークを担当してもらう。したがって、少なくとも保護観察官はその処遇計画を作ったプロとして、どのように保護司さんたちが活動していただけるかという点では監督する立場にあると思うんですね。実際にいいますと、我が国におります四万九千の保護司さんたちが一対一の関係で対象者と人間関係をつくって改善更生を果たしているわけですね。しかし、基本的に最後の責任はおれが取るんだという保護観察官がいなければ、最後の責任は国が取るんだというシステムがなければ動かないのは当然なんですね。そういう意味では、保護観察官はプロの意識を持ってほしいと思っているんです。
 ところが、余りにも、百以上のケースになりますと、先ほどお話がありましたが、百六十というケースもありますので、これはもう保護観察官の能力としてはもう限界に達している。
 だから、私はもちろん増員してもらうのは何よりもだと思いますが、やはり国家公務員のT種試験で採用した人たちでかなり能力のある人たちですから、この人たちをどのように実際の処遇困難な、特に性犯罪者であるとか、あるいは放火犯の場合にはなかなか地域社会で受け入れてくれるところがないわけですよ。そういうところはやはり、プロの保護観察官が直接に対応することを直担制といいますが、こういう制度をやっぱりこれからもう少し広げていくべきではないか、そう考えています。
#50
○仁比聡平君 今の保護観察官の現状については、この法案を通じてはよくこの委員会でも議論するべきことなのではないかなと思っているんです。
 最後、土井先生に、今のテーマでも結構ですし、それから、私の時間、十二時二分までなんですが、その時間使っていただいて結構ですので、特に仮釈放の運用にかかわって、この仮釈放の現状の運用がどういう否定的な影響をもたらしているのかということについて、先ほど来お話ありますけれども、より御存じの現場の実態などが御紹介いただければ、あるいは受刑者の心理や更生に与える影響ですね、こういうようなものについてお話しいただければと思います。
#51
○参考人(土井政和君) お答え申し上げます。
 現在、仮釈放で出る者の割合が大体半数くらい、受刑者の半数くらいだと思いますけれども、このすべての人たちに具体的に出た後どのように生活を立て直していくかということが非常に重要な問題ではないかというふうに思います。実際、先ほどからお話ございましたように、就労の支援であるとか、あるいは様々な負債を抱えている者もおりまして、そういう負債に対する解決の方法とか、もう一歩先に、一歩社会に出ると困った状態が一杯出てきているわけでございます。
 ですから、そういうものを見越した上で施設の中でどのような処遇を行っていくのか。特に、釈放前におきましては、これから社会に戻っていくわけですから、その準備をきちんとしていくということがやはり何よりも大切ではないかというふうに思います。
 そういう意味で、そういう社会的な準備状況が最もうまく整った時期に仮釈放になるということがやはり重要で、そのためには、その受刑者本人の意欲もさりながら、そういう社会的状況を社会の中で準備していくと同時に、やはり本人もそういう準備状況が整ったということを伝えるという、そういうことも必要なのではないかというふうに思います。そういう意味で、外部交通というか、そういうものも一層密にやっていく必要があるかと思います。
 その上で、仮釈放の申請権についてちょっと先ほどから議論がございましたけれども、実は、戦後直後、犯罪者予防更生法ができたころには、受刑者の出願権、仮釈放の出願権というものを認めておりました。これは文字どおりの申請権ということでは必ずしもございませんで、むしろ職権的な審理の開始を求めるという、そういう程度のものですけれども、しかしながら、応当日といいまして、刑期の三分の一が経過した時点でそういう出願を認めるということがございました。それに対しては刑務所長の方から意見を付けて地方委員会の方に送るという運用であったわけですが、残念ながら、地方委員会の委員の数も限定されておりましたので、そのすべてについて、それを時間を掛けて審査するというのがなかなか難しいということもございまして、二年間ぐらいでやめてしまったわけです。
 ですから、我が国でも、先ほど申し上げましたように、不服の申立てをもう少しきちんと保障するためにも、何らかの形で受刑者自身が仮釈放を申請するか、あるいは仮釈放についての申出をするか、そういうことを踏んまえた形で、本人がその結果を知って、そしてもし不許可であった場合はその理由を示していただいて、それに対して自分なりの不服がある場合は申立てができるという、そういう制度を是非私はつくっていただく必要があるんじゃないかと思います。それが本人の更生の意欲にもまたかかわってくる、具体的な目的ができるということになるのではないかというふうに思っております。
#52
○仁比聡平君 ありがとうございました。
#53
○近藤正道君 社民党・護憲連合の近藤正道です。
 今日は、四名の参考人の皆さん、大変貴重な御意見、問題提起をいただきまして、ありがとうございました。大変参考になりました。
 それでは、皆さんに質問をさせていただきたいというふうに思いますが、最初に藤本参考人に二点ほどお尋ねをいたします。今までの議論の中でもう出てきておる問題でございますが、改めてお尋ねをしたいというふうに思っています。
 受刑者の中の半分ぐらいが仮釈放で出ているという現状があるわけでございますが、仮釈放についてはより積極的に認めるべきという意見がございますが、この仮釈放の積極化ということについて藤本参考人は基本的にどのような御見解をお持ちなのかということを一点お聞かせください。
 もう一つなんですけれども、藤本参考人にお尋ねをいたしますが、仮釈放の実務、事務を担うのが地方更生保護委員会なんですが、この地方更生保護委員会の委員については委員の大半が保護関係行政官のOBで占められていると。第三者機関なんだから、もっと民間人を大量に登用すべきだという意見が一貫してございます。先ほどの藤本参考人のお話の中にこの点がございませんでしたので、この点についてどういう御見解をお持ちなのかということと、もう一つこれに関連をいたしまして、事務局のやっぱり増強という話も、これは地方更生保護委員会の事務局の増強という話もありましたんで、大きく言ってこの二つについて御所見をお聞かせいただきたいと思います。
#54
○参考人(藤本哲也君) お答えいたします。
 今御質問のあった点でございますけれども、まず仮釈放の運用についてはどうかという御意見でございます。
 実を言いますと、我が国の場合、警察段階で微罪処分で二五%の犯罪者はそのまま社会に出されるわけですね。検察段階では約半数近くの者、四八%近くが社会に出される。執行猶予で六〇%が出される。こうして少なくとも各段階において、これ我々はダイバージョンと言いますけれども、各段階で社会に出していく、これはできるだけ早く社会復帰をさせるためにはいつまでも施設とか司法制度の中に取り込んでおく必要はないだろう、そういうことを考えますと、私も犯罪者の処遇の基本というのは社会復帰にあると考えています。そのためにそれぞれの刑事司法の各段階で今のような形でダイバージョンで社会に出していくというシステムは必要だと思いますし、刑務所へ入れたとしても刑期の三分の一を経過した場合には出してもいいということになっていますので、積極的に運用すべきであると思っています。
 残念ながら、今の世の中の体感治安というのがありまして、どうしても厳罰化傾向に進んでいます。そうしますと、実際問題として今の仮釈放の段階で、五五%近くの人、約一万六千人が仮釈放になっていますけれども、これ以上仮釈放したときに世論等がどう動くか。本来は三年という懲役にしておいたのに、何で二年で出すんだよという意見も世の中にはあるはずなんですよ。それじゃ、二年で出すための理由というものを我々はきちっと根拠付けなくちゃいけませんので、私は早く出してなるべく烙印を押さないで、レッテル張りをしない方が社会復帰に資すると思っていますから、基本的には仮釈放を積極的に運用、賛成です。しかし、その辺りとの世論とのバランスも考えながら国の政策を展開するそれぞれの機関としてどこまでが許容範囲なのかと、まさか全部を仮釈放しちゃえということもできませんでしょうし、今のように満期に釈放する、どうしても出せないやくざ、暴力団なんかがそうなんですね、そうするとこの満期釈放をどうするかというのはまた違った形で我々ディスカッションしなくちゃいけませんので、今は仮釈放に限定しての話だったら私の意見は積極的にやるべきである、しかしその限界というものもやはりチェックしなくちゃいけないだろうと、こう考えています。
 それからもう一つは、地方更生保護委員会なんですが、これは私自身がいわゆる学問的な立場からクレームを付けるような立場にはないと思います。ただ、少なくとも地方更生委員会は中立の機関として設定されていますので、そこに今のようにどうしても更生保護関係者が多いということがあるようでしたら、それはこれからの運用で改善していかなくちゃいけないだろうと思います。ただ、そのときに考えなくちゃいけませんのは、やはり仮釈放のいわゆる審査委員といえども、この受刑者のプライバシーにかかわるものですから、やはり守秘義務をきちっとした上での検討が必要になりますので、ある程度のそうした相手が受刑者であって、その人権を十分に保障しながらどこまで審査ができるか、すべての資料が出てきますから、その辺りのことも考えて、だれでもいいというわけにはいきませんので、ある程度の絞られた形でやはり地方更生委員会のメンバーは必要になるだろうと思います。
 そこで、今の五十六人が果たしてこれで十分かといえば私は足らないだろうと思います。今この五十六人の人で一万六千人やっているわけですから、これでは到底、一人が四百から五百件担当していますので、そんなに書類を読んで一年に消化できないと思いますから、少なくともこれも倍増とは言いにくいですけれども、人員としては増やすべきだというふうに思います。よろしいでしょうか。
#55
○近藤正道君 ありがとうございました。
 土井参考人にお尋ねをいたします。
 先ほど、仁比議員の質問の一番最後のところで仮釈放審理の本人関与についてお話をされました。私も前回の質問の中で仮釈放審理における本人関与のことについていろいろお聞きをしたんですが、今世界は厳罰化の方向に来ておりますけれども、この仮釈放審理の本人関与の世界の流れというのはどういう状況にあるんでしょうか。教えていただけますか。
#56
○参考人(土井政和君) 私も全世界というふうにはなかなか難しくて一概に申し上げられないんですけれども、例えばイギリスでは、基本的には仮釈放申請について認められて、そして不許可になった場合についてはきちんとした理由が示され、そしてそれに対する不服がある場合にはそれを申し述べる機会が保障されております。これもいろんな議論があった末に、やはりそういう方向に行くことが本人の主体性を尊重し、やはり社会復帰するのが自分自身であるという、そういう意欲の喚起というものにもつながってくるという、そういうことで認められたんだろうというふうに思います。
 したがいまして、私自身も先ほどから申し上げておりますように、仮釈放についての本人の主体的参加、それは是非実現してほしいと思っておりますし、それからその全体、更生保護を貫くものとして私は、やはり本人の意欲というものを引き上げていく方法というものをやはり保障していくようなシステムというものが必要なのではないかと。そのためにはやはり自分自身がそういうものに積極的に参加していくということをやっぱりいろいろと認めていく必要があるので、例えば、仮釈放に限りませんけれども、例えば特別遵守事項を制定するというような場合にも、これはもちろん本人とは話し合っているんだろうと思いますけれども、ただそういうところについての法的な保障といいますか、そういうものも盛り込んでいただければというふうに思います。
#57
○近藤正道君 宮川参考人にお尋ねをいたします。
 三十数年の保護司の御奮闘、本当に敬意を表したいというふうに思いますが、私も宮川参考人の有識者会議に出された意見なども拝見をいたしまして、保護観察官をやっぱり増やさなければならないなというふうに思っておりまして、どういうときにもっととにかく増やしていただきたいというふうに切実にお考えになられるのかなということを今日お聞きしようかと思ったんですが、今ほど来の議論がございました。これでやめるのももったいないので、宮川参考人御自身の体験として、いや、もっとここで観察官がちゃんと充足されておられればこういう展開が可能だったのに残念だなというふうにもし思われた個人的な体験等ありましたら、御披露いただければ有り難いと思いますが。
#58
○参考人(宮川憲一君) 先ほどもちょっと申し上げましたけれども、三十年近い経験のある保護司ですとノウハウがある程度分かるんですが、私も若いときに処遇計画書をいただいても、そのことについて、じゃ、実際にどういうふうに展開していくかということを頻繁に連絡を取って指導を受けた方が良かったと思うんですね。そういうことからすると、今の若い保護司さんといいますか、新しい保護司さんはそういうことが十二分にできる環境にないんですね。昔よりも指導計画はしっかりしてきましたし、中身はいいんですが、そのことについて頻繁に連絡を取りながら、相互にいいチームを組んで観察官とやっていくというのはやはり乏しい。それはもう一にも二にも人員の問題だろうというふうに思うんですね。観察官もかなり意識改革をしてくれておりますから、努力はしてくれているんですけれども、いかんせんもう量的に無理だということがありますね。
 そうしますと、我々みたいなある程度経験のある保護司は、どうしても自分のかつての経験の中でやってしまうんですが、そのことはある意味では良くないといいますか、もう情勢がどんどん変わっている、対応も変わっているのに、どうしても古いノウハウでやってしまうということで、過ちを犯すということも逆にあるわけなんですね。そういう意味ではやっぱり専門官がきちんと我々に対応してくれるということは何よりも一番大切なことだと思います。
 特に、この際の更生保護法案が通りまして、中身がうんと変わりますから、そうしますと、そういうことを実際に我々の方に伝達してくれて指導してくれるのは観察官をおいてありませんから、そういう意味では観察官の充実というのはもう絶対必要なことだというふうに思っております。
#59
○近藤正道君 最後に、堀野参考人に一つお尋ねをしたいというふうに思います。
 冒頭のお話の中で、受刑者本人の関与ということで、せめて、申請権を付与するという点についてはともかくとして、職権発動を促す意味での申請権はつくるべきだというお話をされておりましたし、運用上実現することを希望するという、そういう趣旨のお話をされました。
 今度の法案の中で堀野参考人の今ほどの話はどの程度実現できるというふうにお考えでしょうか。
#60
○参考人(堀野紀君) 法案では、刑事施設の長が長年のその人を見ていて申請するという形になっておりますね。その長が申請するに当たって、何を参考にしてというか、要するに施設の長の一方的な観察記録が恐らく、一方的な観察記録と言うとちょっと語弊がありますけれども、要するに施設の中で作られたいろんな資料に基づいて長が判断して地方更生保護委員会の方に出すということなんだろうと思いますけれども、その過程の中で、どこにも本人の関与がないわけですね、法文上は。
 例えば、施設の長が適格者に、適格者といいますか、既に条件を備えた人について仮釈放が適当、仮釈放すべきかどうかについては本人の意見を聴取することができるとか、最低限、その程度は入ってもしかるべきかなと、法案上は、法文上は。そして、実際には、運用上は職権発動を促す申請書みたいなものを準備して、そしてそれには必ず、自分はこういう理由で今回申請しますよということを彼らに書かせるといったような本人の関与の仕方、いろんなこと考えられると思いますけれども、法文上も若干修正は可能かなという感じはしますけど、本人の意見をその際に聴取するということを一言入れれば、そこに本人がやっぱり、施設の側だけの資料ではなくて、本人の意見も含めた申請が実現する、それも一つの本人関与の場面だと思います。
 それから、さっき言いましたような職権発動を促す程度の申請権という書き方もあるでしょうし、それからもっと言えば、本当の意味での法律的な申請権というのもあるかと思うんですけれども、それはその中で、私は立法の専門家じゃありませんので、法文上どういうふうに表現できるかということについてはその程度のことしか申し上げられませんけれども、少なくとも運用上は何らかの形で本人関与をさせてほしいというふうに思っている次第です。
#61
○近藤正道君 終わります。
#62
○委員長(山下栄一君) 以上で参考人に対する質疑は終了いたしました。
 参考人の方々に一言ごあいさつを申し上げます。
 本日は、大変お忙しいところ貴重な御意見をお述べいただきまして、誠にありがとうございました。当委員会を代表して厚く御礼を申し上げます。(拍手)
 本日の審査はこの程度にとどめ、これにて散会いたします。
   午後零時十八分散会
ソース: 国立国会図書館
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