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2006/11/17 第165回国会 参議院 参議院会議録情報 第165回国会 本会議 第12号
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2006/11/17 第165回国会 参議院

参議院会議録情報 第165回国会 本会議 第12号

#1
第165回国会 本会議 第12号
平成十八年十一月十七日(金曜日)
   午前十時一分開議
    ━━━━━━━━━━━━━
#2
○議事日程 第十二号
    ─────────────
  平成十八年十一月十七日
   午前十時 本会議
    ─────────────
 第一 教育基本法案(趣旨説明)
    ━━━━━━━━━━━━━
○本日の会議に付した案件
 一、特別委員会設置の件
 以下 議事日程のとおり
     ─────・─────
#3
○議長(扇千景君) これより会議を開きます。
 この際、特別委員会の設置についてお諮りいたします。
 教育基本法案を審査するため、委員三十五名から成る教育基本法に関する特別委員会を設置したいと存じます。
 本特別委員会を設置することに賛成の諸君の起立を求めます。
   〔賛成者起立〕
#4
○議長(扇千景君) 過半数と認めます。
 よって、本特別委員会を設置することに決しました。
 特別委員は、追って議長において指名いたします。
     ─────・─────
#5
○議長(扇千景君) 日程第一 教育基本法案(趣旨説明)
 本案について提出者の趣旨説明を求めます。伊吹文部科学大臣。
   〔国務大臣伊吹文明君登壇、拍手〕
#6
○国務大臣(伊吹文明君) 参議院の御審議をお願いするに当たり、教育基本法案について、その趣旨を御説明申し上げます。
 現行の教育基本法については、昭和二十二年の制定以来、半世紀以上が経過いたしております。この間、科学技術の進歩、情報化、国際化、少子高齢化など、我が国の教育をめぐる状況は大きく変化するとともに、様々な課題が生じており、教育の根本にさかのぼった改革が求められております。
 この法律案は、このような状況にかんがみ、国民一人一人が豊かな人生を実現し、我が国が一層の発展を遂げ、国際社会の平和と発展に貢献できるよう、教育基本法の全部を改正し、教育の目的及び理念並びに教育の実施に関する基本を定めるとともに、国及び地方公共団体の責務を明らかにし、教育振興基本計画について定める等、時代の要請にこたえ、我が国の未来を切り開く教育の基本の確立を図るものであります。
 次に、この法律案の内容の概要について御説明申し上げます。
 第一に、この法律においては、特に前文を設け、法制定の趣旨を明らかにいたしております。
 第二に、教育の目的及び目標について、現行法にも規定されている「人格の完成」等に加え、「個人の価値を尊重して、その能力を伸ばし、創造性を培い」、「公共の精神に基づき、主体的に社会の形成に参画し、その発展に寄与する態度を養う」こと、「伝統と文化を尊重し、それらをはぐくんできた我が国と郷土を愛するとともに、他国を尊重し、国際社会の平和と発展に寄与する態度を養う」ことなど、現在及び将来を展望して重要と考えられるものを新たに規定いたしております。また、教育に関する基本的な理念として、生涯学習社会の実現と教育の機会均等を規定いたしております。
 第三に、教育の実施に関する基本について定めることとし、現行法にも規定されている義務教育、学校教育及び社会教育等に加え、大学、私立学校、家庭教育、幼児期の教育並びに学校、家庭及び地域住民等の相互の連携協力について新たに規定いたしております。
 第四に、教育行政における国と地方公共団体の役割分担、教育振興基本計画の策定等について規定いたしております。
 以上がこの法律案の趣旨でございます。(拍手)
    ─────────────
#7
○議長(扇千景君) ただいまの趣旨説明に対し、質疑の通告がございます。順次発言を許します。保坂三蔵君。
   〔保坂三蔵君登壇、拍手〕
#8
○保坂三蔵君 私は、自由民主党を代表いたしまして、ただいま議題となりました教育基本法案に関して総理並びに文部科学大臣に質問を行います。
 本案に対する質問の前に一言申し上げたいと存じます。
 さきの通常国会に提出されました本法案は、衆議院に設置された特別委員会で審議が既に開始され、継続された今臨時国会でも精力的に与野党による慎重な審議が続けられてまいりました。審議時間は百時間を超え、特別委員会としては戦後五番目の長さを費やしております。
 これを踏んまえて、与党は粛々と委員会の採決を行い、また河野衆議院議長も、委員会運営についての瑕疵はないとの判断で本会議を開会されたのであります。長時間の審議を経た上での採決は議会制民主主義の常道であり、自ら対案を出しながら採決に応じなかった民主党の無責任な対応には猛省を促すものであります。
 今、いじめによる自殺など、教育界は難問山積しております。ゆがんだ戦後教育を正常に戻すため、教育基本法改正は国会に課せられた喫緊の最重要課題であります。私ども与党は法案成立に全力を尽くすことを冒頭申し上げておきます。
 質問に入ります。
 まず最初に、明治以来の時代の流れと教育の基本方針の変遷を振り返りつつ、新たな教育基本法制定の基本的な考え方について伺います。
 さて、今回の教育基本法案は、近代国家日本となって以来、我が国の教育の在り方を規定するものといたしましては三番目のものとなります。
 最初は明治二十三年の教育勅語であります。
 当初の制定の目的は、明治維新後の行き過ぎた西洋文化礼賛、西洋の学術、文化の導入への反省でありました。日本古来の精神文化、思想を取り戻そうと、道徳、儒教教育を重視する教育の在り方を規定するものとして教育勅語が起草されたのであります。
 教育勅語は、学校などで挙行される式典の場で校長先生によって唱えられ、教員や生徒の暗唱するところとなり、多くの日本国民の精神的な骨格の形成に影響を与えたと言われます。ただ、昭和二十二年には現在の教育基本法が施行され、また、軍国主義を助長するものであったとの非難等もあり、昭和二十三年に失効をいたしました。
 今日の教育に関する多くの問題、例えばいじめ問題、自殺、教科の未履修等の精神的な背景を考えると、他人の考え方や趣味、趣向を受け入れない排他主義、自分さえうまく受験をこなせば他人や他の学校はどうでもいい自己中心主義等々バックボーンにあるのではないでしょうか。いわゆる日本的な和の精神、仲間を大切にする心が失われているように思えてなりません。
 我々が今成立を目指している新しい教育基本法が、こうした現在の教育問題を直ちに解決できるとは断言できないかもしれません。しかしながら、新しい教育基本法は、知徳体の健全な発展を促進し、特に心の持ち方や精神構造の形成に強く働き掛け、教育現場のみならず家庭、社会に規律、倫理観を醸成することが期待されます。また、教育勅語にもあったように、日本古来の精神文化を取り戻し、我が国と郷土を愛する和の精神をはぐくもうとするものでもありましょう。
 今回の新しい教育基本法を制定することに関してどのような思想が底流にあるのか、総理のお考えをまずお伺いしたいと思います。
 昭和二十二年の教育基本法の制定以来、既に半世紀以上が経過をいたしました。この間、教育を取り巻く社会環境は大きく変化を遂げております。構造的な変化として少子高齢化が進行し、家族や家庭の在り方が変容してきました。また、経済活動ではグローバル化が進展するとともに、産業・就業構造が第一次から第二次、そして第三次へと重点がシフトして、高度情報化や科学技術が日進月歩で発展し、国際社会全体としての環境問題への対応が急務ともなってまいりました。
 この間、高校、大学進学率が大幅に向上し、生涯を通じて学習する社会へと教育の在り方が多様化、重層化してきております。
 改めて言うまでもありませんが、教育現場ではいじめ、校内暴力、不登校、学級崩壊、基礎的学力の低下などが進んできました。ニートに代表される若者の就業意識の変化、青少年犯罪の凶暴化などの社会問題も深刻化しております。
 以上のように、現代社会においては、戦後間もなく制定された教育基本法、それに関連する学校教育法などではとても対応できない状況が生じているのであります。総理は、教育基本法が制定された当時と現在の社会環境の違いをどのように認識されておいでになるのか、また、今の教育基本法を改正しないといけなくなった教育環境の変化をどう判断されておいでになるのか、率直な御認識をお伺いしたいと思います。
 次に、国を愛する心の在り方について伺いたいと思います。
 今回の法案の教育の目標には、「伝統と文化を尊重し、それらをはぐくんできた我が国と郷土を愛するとともに、他国を尊重し、国際社会の平和と発展に寄与する態度を養う」と規定されております。
 国を愛する心をどう表現するのかについては、与野党の間のみならず、我が党と公明党さんとの間でもかつては認識の相違がありました。それが最終的にはこのような表現に落ち着いたわけですが、態度ではなく心にすべきなど、もう少し明確に国を愛する心を表現した方がよいのではないかとの意見は根強く残っております。この意見に関して、総理はどのように考えられているのか、そして、教育現場において自国を愛する教育がしっかりと進められるためにどのような対応を期待されているのか、御認識を伺いたいと思います。
 今回の全面改正で、新たに大学教育、家庭教育、幼児期の教育の在り方などが規定されました。これらはいずれも、社会情勢の変化を反映した今日的な問題であります。
 大学教育については、高等教育における国際競争の激化、将来の展開をにらんで、むしろもっと早くから主張されなければならない課題であったでありましょう。
 また、家庭教育において規定されている「父母その他の保護者は、子の教育について第一義的責任を有する」につきましては、今日の問題多き親子関係を考えるときに、しっかりと家庭の中にこの精神を浸透させることが、家庭を通じ学校教育の問題解決にも生きてくると考えます。国としては、親の第一義的責任という文言を法律に盛り込み、主張するだけではなくて、どうやって家庭にある親に責任の重大さを自覚させていくのかが重要であります。文部科学大臣はこの点に関していかが御認識でありましょうか。
 学校における宗教教育の在り方も重要であります。
 一般的に言って、身近な人間が生まれ生き死んでいく局面を体験することが、人間の存在や生き方を深く洞察する機会となり宗教的な情操が養われます。宗教に関する教養を身に付けることは、大人になる過程での人格形成の上で極めて重要な役割を果たすものであります。与えられた命をどう生きていくかと考えるとき、宗教が身近にあったかそうでないか、一人の人生の行方にも大きな影響があるのではないでしょうか。
 今回の新たな規定では、宗教に関する一般的な教養を教育上尊重するとされています。これによって学校現場においては宗教の大切さがしっかりと教えられるのか、また、宗教教育を通じてどのような人格の形成が促進されることになるとお考えになるのか、文部科学大臣にお聞きしたいと存じます。
 最後になりましたが、総理は、教育を中心とする改革の継続により「美しい国、日本」を実現すると提唱されておりますが、この美しい国の実現へ向けての政治的な構想力を確認しておきたいと存じます。
 総理が最も尊敬されている人物は吉田松陰と聞いております。
 私はこの夏、ペリー艦艇に密航を企てた松陰が宿泊した伊豆下田のやかたを訪れてみました。
#9
○議長(扇千景君) 保坂君、時間が経過しております。簡単に願います。
#10
○保坂三蔵君(続) その際、幕末維新の英傑の足跡に触れ、憂国の志がいまだに息づいているかのように感じてまいりました。
 山口県では、今もって先生と呼ばれるのは松陰先生だけという話があります。その松陰先生は、人生が正に極まらんとする最期のとき、次のような有名な句を詠んでおります。すなわち、「身はたとい武蔵の野辺に朽ちぬとも留め置かまし大和魂」というものであります。志半ばで倒れた彼の無念はいかばかりであったでしょうか。
 しかし、彼の大和魂は、その後、松下村塾の教え子たちに受け継がれてまいりました。
#11
○議長(扇千景君) 保坂君、簡単に願います。
#12
○保坂三蔵君(続) 長州きっての英傑で、総理も名前の一字をもらっております高杉晋作、総理としての大先輩である伊藤博文公など面々たる人物に伝承され、彼の教えが現実の政治活動に生かされ、近代日本の礎が築かれたのであります。安倍総理の体内にも、脈々と明治維新のDNA、遺伝子が受け継がれているに違いありません。
 その総理に、「美しい国、日本」の実現に向けて、教育改革を柱にして、英知を結集した政治的な構想力をこれから十二分に展開し、改革の継続、そして日本を力強く導いていくことの覚悟と意気込みをお伺いして、私の質問を終わります。
 ありがとうございました。(拍手)
   〔内閣総理大臣安倍晋三君登壇、拍手〕
#13
○内閣総理大臣(安倍晋三君) 保坂三蔵議員にお答えをいたします。
 教育基本法制定当時と現在との社会環境の変化や教育基本法改正の底流にある思想についてお尋ねがありました。
 戦後、国民のたゆまぬ努力によって教育水準が著しく向上し、教育は我が国社会の発展の原動力となってきました。しかし、その間、社会が豊かになっていく一方、地域コミュニティーの変質や情報のはんらんなど、我が国の社会や学校、家庭の姿など教育をめぐる状況が大きく変化する中で、道徳心、自らを律する精神、公共の精神、国際社会の平和と発展への貢献などについて、今まで以上に教育の基本として重視することが求められております。
 このため、教育基本法を改正し、新しい時代の教育の基本理念を明確にし、国民の共通理解を図りつつ、社会全体による教育改革を着実に進め、我が国の未来を切り開く教育の実現を目指すことが必要であります。政府としては、教育再生に向けた第一歩として政府提出法案の早期成立を期して取り組んでまいります。
 国を愛することに関する教育基本法案での表現ぶりと、教育現場における自国を愛する教育への期待についてお尋ねがありました。
 改正案の「我が国と郷土を愛する」こととは、我が国や郷土を愛し、さらに、その発展を願い、それに寄与しようとする態度のことであり、このように我が国と郷土を愛する心と態度は一体のものとして養われるものであります。このような我が国と郷土を愛する態度を養うため、学校教育では、我が国や郷土の発展に尽くした先人の働きや、我が国の文化遺産や伝統芸能などについて調べたり体験したりすることを通じて、我が国の歴史や伝統文化に対する理解と愛情をはぐくむ指導が今後より一層行われるよう努めてまいります。
 「美しい国、日本」の実現に向けた覚悟と意気込みについてお尋ねがありました。
 戦後六十年を経ました。還暦という言葉があるように、現在大きな意味で世代交代の時期に差し掛かっているものと思います。戦後体制が我が国の発展にこれまで大きく寄与してきたことは疑いの余地はありません。しかしながら、この六十年間で国内外をめぐる情勢は大きく変化しており、戦後体制を脱却し、新しい時代の価値観を再構築するときが来ております。
 こうした中、次の六十年、百年に向けた日本の国づくりを行うことが、初めての戦後生まれの総理大臣となった私と私の内閣に与えられた使命であると考えております。吉田松陰先生は、後に明治維新の原動力となった弟子たちに「天下後世を以て己が任と為すべし」と説きました。国の将来のために尽くすことを自らの任務として自覚すべきであるというこの言葉を胸に、子供たちの世代が自信と誇りを持てる「美しい国、日本」の実現に向け、全身全霊を傾けてまいります。
 現在御審議いただいている教育基本法の改正案は、志ある国民を育てることを目的とし、私の新たな国づくりの基礎を成すものであります。何とぞ、広く深い御議論をいただき、速やかな成立をお願いをいたします。
 残余の質問につきましては、関係大臣から答弁させます。(拍手)
   〔国務大臣伊吹文明君登壇、拍手〕
#14
○国務大臣(伊吹文明君) 保坂三蔵議員からは二つの御質問があったと思います。
 まず一つは、家庭教育についてであります。
 子供のしつけ、教育の原点は家庭にあるということは当然のことでございます。この家庭の責務は、祖父母から両親へ、両親から子供へ、子供から孫へと伝えられていくというのが日本の従来の形でございました。しかし、時代の変遷とともに核家族化が進み、三世代同居ということはすべての家庭で実現するということは難しくなってまいりました。
 このような現実を踏まえまして、今回御提出を申し上げております改正案の第十条におきまして、国及び地方公共団体は協力をして両親、保護者に対する学習機会や情報提供等の充実を実現していくということが述べられているわけでございます。具体的には、この法案を御可決いただきますれば、この法案の下位法でございます社会教育法等の改正、予算措置等を通じまして、御指摘のようなことに対して遺漏なきを期してまいりたいと考えております。
 次に、宗教教育についてのお尋ねがございました。
 宗教教育の基本は謙虚さであると思います。今に生きている我々が悠久の歴史の中でいかに短い期間を生きているのか、また、大自然の営みと比べると人間の考えていることはいかにちっぽけなものであるかということの謙虚さを自覚する、これがまず原点だろうと思います。この原点を実現していくために、各宗教は各々の背景を持ってその教義を定め、いろいろな布教活動が行われております。
 これらの宗教の教義の客観的な内容あるいは歴史的に果たしてきた役割、またそれと人間社会のかかわり、こういうものを学んでいただくことによって一番最初に申し上げたような気持ちをみんなが持つ、同時に、その中から、現在の世界情勢を見ても、宗教がいろいろな国際状況に果たしている影響というものを身に付けていく、そして、国際人として他国の文化あるいは芸術に触れていく、こういうことを中心に人間形成を図ってまいりたいと考えております。(拍手)
    ─────────────
#15
○議長(扇千景君) 山下栄一君。
   〔山下栄一君登壇、拍手〕
#16
○山下栄一君 私は、公明党を代表し、教育基本法案について安倍総理に質問をさせていただきます。
 明治の初めの学制発布より百三十余年、さらに、戦後六十余年が経過し、日本の教育、人の命をはぐくむことは、かつて経験したことがないほど機能不全に陥っているように見えます。公表されている児童虐待、そして、その半分以上が実母によると言われています。学校教育の機能不全とも言える不登校問題、中学校では平均ではどのクラスにも一人以上は存在する計算です。実の親による児童虐待、そして不登校問題もともに例外現象ではないというとらえ方が大事だと思います。
 家庭、地域社会、企業、そして学校、すなわち、日本の社会全体が人を育てることに関し大変な機能不全状態にあるという強い危機感に立ち、社会そのものの在り方を問い直すべきときに来ています。そして、日本社会の最重要課題は、学校の教育力だけではなく、社会全体の教育力をいかに回復するかにあると強く訴えたいと思います。
 安倍総理、この私の問題意識を共有していただけますでしょうか。
 まず、最近起こっている深刻な課題について質問いたします。
 一つはいじめ問題です。
 いじめが主要な原因と考えられる小中学生の自殺が連続しております。いじめられる側にも問題があるという考え方がありますが、この考えの中にいじめがなくならない原因があるように思います。いじめに甘い社会であってはなりません。いじめられる側が悪いのではなく、いじめる側が一〇〇%悪いという考え方に立つことこそ生きた道徳教育であると思います。
 孤独地獄に陥っているいじめの被害者の心のやみに光をともす環境づくりが政治の仕事ではないでしょうか。子供の人権を断じて守るという強い決意に立っていじめ対策を取るべきです。
 学校内のいじめの情報を共有するための教員間の連携体制が恒常的にできていることが第一です。
 その上で、文科省、教育委員会、学校というラインの外に子供や保護者が相談できる第三者機関を地域につくる必要があります。分断された家庭と教育をつなぐ第三者的な相談機関と言ってもよいでしょう。例えば、兵庫県川西市や神奈川県の川崎市などに数年前から設置されている子どもの人権オンブズパーソン制度があります。また、茨城、兵庫、香川、大阪等で広がりつつあるスクールソーシャルワーカーの配置です。これは福祉と教育の連携という視点です。
 身近な地域で心の悩みを相談できる体制づくりについての総理の所見をお伺いいたします。
 次に、全国の高校の一割を超える学校で起きた未履修問題です。
 今や大半の中学生が高校に進学する時代です。その高校は、普通科、専門科、総合学科、また別の分類では全日制、定時制、通信制、また学年制と単位制など、高校の多様化が各県で著しく進んでいます。すべての高校生が学ぶべき必履修科目の在り方、履修時間の在り方を、継ぎはぎではなく高校教育の在り方を含め抜本的に見直すべきです。
 さらに、高校学習指導要領の弾力的運用についてです。国の基準は大綱にとどめ、具体的基準作りやその運営責任は設置者に任せるべきと考えますが、総理の御所見をお伺いいたします。
 次に、教育基本法案の主要な論点について確認したいと思います。
 我が党は、現行基本法の理念の骨格は堅持すべきだと主張しています。法案前文の「日本国憲法の精神にのっとり、」については、その精神の根幹は個人の尊厳の理念であると考えますが、いかがですか。
 次に、付け加えるべき理念としては生涯学習の理念です。
 人はだれも、いつでもどこでも学び、自身の人格を磨き、成長していく権利があるという考え方です。学ぶ側を重視する考え方に立ち、教える側は学ぶ側をサポートする役割という考え方です。この生涯学習の理念の意義について御所見をお伺いいたします。
 付け加えるべき理念として重視したい次の視点は、国際人権保障の流れです。
 父母及びその保護者は我が子の教育について第一義的責任を有する、これは子どもの権利条約で確認されたものです。人間は、自身の成長だけでなく、後継者をきちんと育てることが必然の責務のはずです。物質文明の進展とともにこの点が危うくなっています。児童虐待はその最たるものです。親の子育て責任が大前提で、その上に公教育があるというのが正しい考え方だと思いますが、総理いかがですか。
 多文化共生の教育という考え方も国際人権規約で保障されています。これを反映したのが、法案の二条五項で規定されている「他国を尊重し、国際社会の平和と発展に寄与する」という部分です。我が国の伝統文化だけではなく、他国そして他国の伝統文化も尊重するという趣旨です。多文化共生の理念は、品格ある美しい日本、国際社会で信頼される日本をつくるための大切な理念と考えますが、いかがでしょう。
 次に、国を愛する態度についての考え方です。
 法案の方向性を示した中教審の答申で、国を愛する心を規定すべきと提言されました。我が党は、国家主義には反対、国という表現に統治機構は含まないと一貫して主張してまいりました。ナショナリズムではなくてパトリオティズムという考え方に立った表現として、伝統と文化を尊重し、それらをはぐくんできた我が国と郷土を愛しという規定になったと理解していますが、確認いたしたいと思います。
 また、国を愛する態度を教育評価の対象にすることは、基本的人権の柱である精神の自由を侵すおそれがあります。教育の評価の対象にしないことを明確にお答えください。
 自身が育った、また住んでいる町への愛着を感じない若者が多いと言われます。自身が育った郷土への愛着があって初めて国を愛する気持ちもわいてくるというのが自然の考え方ではないでしょうか。地域の歴史や生活、文化の学習を中心とした郷土教育の重要性は、現在、地域コミュニティーの崩壊が深刻な問題になっているだけに確認したい点です。郷土教育を充実させるための地域における様々な取組、特に自主的な郷土教材づくり、住民参加型の教材づくりは大変重要だと考えますが、いかがでしょうか。
 最後に、教員の在り方について確認したいと思います。
 教育、すなわち人を育てる行為は、医療や芸術と同様、文化的行為であり、自主性を重んじ権力から距離を置いて行われるべきものです。指揮命令という官僚統制は最小限に抑制すべきだと考えます。教育の自主性重視は教育行政において尊重すべきであります。
 教員の身分は、公務員の地位にある場合でも一般公務員とは趣を異にし、むしろ司法官の地位に近いものであると考えます。法案九条で、教員は自己の崇高な使命を深く自覚しとあり、また、教員はその使命と職業の重要性をかんがみ、その身分は尊重されとあるのはこのような視点からであると考えますが、総理の御所見をお伺いいたします。
 現在、教員を取り巻く環境は厳しさを増す一方です。二十一世紀に入り、教員の仕事は激増しているにもかかわらず、人件費削減の中で学校への人の配置は増える気配は現在ありません。子供にとって最大の教育環境が教員自身であるという観点から、私は今、教員に必要なのは教員を形式的な評価にさらすのではなく、しっかりとサポートすることだと主張いたします。
 教育再生のかぎは、教員の応援体制を財政支援を伴わせて強化することであって、締め付けることではありません。免許の更新制も大事ですけれども、大学教員養成課程を充実させることであり、教師という職業はしんどくてもやりがいのある職業として若者が職業希望の第一位に挙げたくなるような環境整備が必要であると考えますが、御所見を伺います。
 児童虐待、そして不登校、日本の教育の行き詰まりが日増しに大きくなっている今だからこそ、人を育てることの重みを国民が共有し、国家のための教育ではなく、教育のために国家があるという理念のベクトルの大転換が必要です。政治や経済というより教育の深さが日本の未来を、子供の未来を決めると確信いたします。
 教育基本法案の国会審議を日本が教育で世界をリードする流れをつくるための突破口にと訴え、質問を終わります。(拍手)
   〔内閣総理大臣安倍晋三君登壇、拍手〕
#17
○内閣総理大臣(安倍晋三君) 山下栄一議員にお答えをいたします。
 社会全体の教育力の回復についてお尋ねがありました。
 学校、家庭、地域社会は教育においてそれぞれ重要な役割と責任を担っており、社会全体の教育力の再生は極めて重要な課題であると認識しております。
 いじめ問題に対応した相談体制づくりについてお尋ねがございました。
 いじめ問題については、子供の訴えなどの問題の兆候をいち早く把握し、学校、家庭、地域社会が連携して迅速に対応することが重要です。現在、地域の実情に応じて第三者機関を活用した取組やスクールソーシャルワーカーのような専門家を活用した取組があることを承知をしております。政府としても、子供一人一人を地域で一体となって守り育てていくため、教育機関や福祉機関を始めとした関係機関が連携した取組がなされるよう推進してまいります。
 高校の未履修問題に関連して、高校教育の在り方についてお尋ねがありました。
 各地の高校で大学受験のため必修科目を履修させていないことが判明したことは極めて大きな問題と考えております。今後、大学入試の改善とともに、高校生にとって必要な幅広い知識と教養とは何かという観点から、高校教育の在り方を検討する必要があると考えております。
 高校の学習指導要領の弾力的な運用についてお尋ねがございました。
 高校の学習指導要領は、必修科目を除き学校の判断で生徒が履修すべき科目を設定できるとともに、学校独自の教科、科目を設けることができるなど、現在でも教育課程の編成の上で高校の裁量を大きく認めております。各高校には必修科目の履修などルールはしっかりと守った上で、特色ある学校づくりのために裁量を活用してもらいたいと考えております。
 教育基本法案に言う日本国憲法の精神についてのお尋ねがございました。
 現行の教育基本法は、日本国憲法に定める理念を具体化するための規定を多く含むなど、日本国憲法と密接に関連している法律であり、このような理念の骨格は今回の改正によって変わるものではないことから、教育基本法案において引き続き「日本国憲法の精神にのっとり、」と規定しています。また、前文における「個人の尊厳を重んじ、」や、第二条第二号の「個人の価値を尊重して、」など、憲法の精神を具体化する規定を設けているところであります。
 生涯学習の理念の意義についてお尋ねがございました。
 科学技術の進歩等により人々は絶えず新しい知識や技術の習得を求められており、また、人生をより豊かなものにする観点からも生涯にわたって学習に取り組むことが重要であり、また意義深いものと考えます。
 このため、だれもがいつでもどこでも自由に学べる社会の実現が必要であり、このような学習者の視点に立って教育に関する各種の施策を推進することが重要であると考えます。このような観点から、教育基本法案においても生涯学習の理念を規定したところであります。
 父母の第一義的責任についてお尋ねがありました。
 教育は学校だけで全うできるものではなく、何よりも大切なのは家庭であります。すなわち、家庭教育はすべての教育の出発点であり、家庭の教育力の向上に努めることが公教育の充実につながるものと考えております。今回の教育基本法案においては、このような家庭教育の重要性にかんがみ、父母その他の保護者が子の教育について第一義的責任を有することを明確に規定しているところであります。
 多文化共生の教育についてお尋ねがありました。
 今日、急速に国際化が進展する中にあって、自らが国際社会の一員であることを自覚し、日本人として異なる文化や歴史を持つ人々といかに共生していくかが重要な課題となっており、自国の、自分の国のみならず、他国の伝統や文化などを尊重する態度を養うことが求められております。そこで、本法案では、「伝統と文化を尊重し、それらをはぐくんできた我が国と郷土を愛するとともに、他国を尊重し、国際社会の平和と発展に寄与する態度を養うこと。」を規定しており、こうした教育を通じ、世界に信頼され、尊敬され、愛される国の実現を目指してまいります。
 愛国心についてお尋ねがございました。
 法案に言う我が国を愛するとは、歴史的に形成されてきた国民、国土、伝統、文化などから成る歴史的、文化的な共同体としての我が国を愛するという趣旨であります。この趣旨を条文上明確にするため、伝統と文化をはぐくんできた我が国と郷土を愛すると規定し、統治機構、すなわちその時々の政府や内閣等を愛するという趣旨ではないことを明確にしております。このことは自由と民主主義を尊ぶ我が国にとって当然のことであります。
 国を愛する態度の評価についてのお尋ねがありました。
 我が国と郷土を愛する態度の評価については、子供の内心を調べ、国を愛する心情を持っているかどうかで評価するものではありません。学習する態度を評価するものであり、内心の自由にかかわって評価するものではありません。
 郷土教育についてお尋ねがありました。
 子供たちが地域の伝統と文化を学び、自分の生まれ育った郷土や地域を大切にする態度を養うことは重要であります。このため、郷土の人物や文化財、自然、産業など、地域の様々な特色を生かした教材を地域の住民の協力を得て自主的に作ることは大切なことであると考えております。
 教員の地位、身分などの在り方についてお尋ねがございました。
 教育という営みにおいては、教育の機会や水準の確保のための全国的、共通的な一定の基準の下、児童生徒の実態に応じ、各学校における創意工夫を重視することが重要であります。また、教員の職務は専門的知識や技術の習得だけではなく、豊かな人間性、深い教育的愛情など全人的な資質、能力が求められるなど、一般の公務員等とは異なる特殊性を有しております。
 このため、このような教員の職務の重要性を改めて自覚する必要があることをより明確にする観点から、改正案においては「自己の崇高な使命を深く自覚し、」と規定しました。さらに、教員が安んじて教育活動に専念できるようにするためには、その身分が社会的、制度的に尊重されることが必要であるため、現行法を引き継ぎ教員の身分は尊重されるべきことを規定しております。
 教員の環境整備についてお尋ねがありました。
 学校教育の成果は教員の資質と熱意に負うところが大きく、教員に優れた人材を得ることは教育政策上の極めて重要な課題です。このため、教員免許更新制の導入だけでなく、学校における教員養成課程の充実等により質の高い教員の養成確保に努めるとともに、優秀教員の表彰や能力、実績に見合っためり張りを付けた教員給与体系の検討など、更なる環境整備に努めてまいります。(拍手)
#18
○議長(扇千景君) これにて質疑は終了いたしました。
 本日はこれにて散会いたします。
   午前十時四十六分散会
ソース: 国立国会図書館
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