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2005/04/12 第162回国会 参議院 参議院会議録情報 第162回国会 法務委員会 第11号
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2005/04/12 第162回国会 参議院

参議院会議録情報 第162回国会 法務委員会 第11号

#1
第162回国会 法務委員会 第11号
平成十七年四月十二日(火曜日)
   午前十時開会
    ─────────────
   委員の異動
 四月七日
    辞任         補欠選任
     前川 清成君     家西  悟君
 四月八日
    辞任         補欠選任
     家西  悟君     前川 清成君
 四月十二日
    辞任         補欠選任
     関谷 勝嗣君     末松 信介君
    ─────────────
  出席者は左のとおり。
    委員長         渡辺 孝男君
    理 事
                松村 龍二君
                吉田 博美君
                千葉 景子君
                木庭健太郎君
    委 員
                青木 幹雄君
                荒井 正吾君
                山東 昭子君
                陣内 孝雄君
                末松 信介君
                鶴保 庸介君
                江田 五月君
                前川 清成君
                松岡  徹君
                簗瀬  進君
                浜四津敏子君
                井上 哲士君
   国務大臣
       法務大臣     南野知惠子君
   副大臣
       法務副大臣    滝   実君
   大臣政務官
       法務大臣政務官  富田 茂之君
   事務局側
       常任委員会専門
       員        田中 英明君
   政府参考人
       金融庁総務企画
       局参事官     大藤 俊行君
       法務省民事局長  寺田 逸郎君
       法務省刑事局長  大林  宏君
       法務省保護局長  麻生 光洋君
    ─────────────
  本日の会議に付した案件
○政府参考人の出席要求に関する件
○船舶の所有者等の責任の制限に関する法律の一
 部を改正する法律案(内閣提出)
○刑法等の一部を改正する法律案(内閣提出)
    ─────────────
#2
○委員長(渡辺孝男君) ただいまから法務委員会を開会いたします。
 政府参考人の出席要求に関する件についてお諮りいたします。
 船舶の所有者等の責任の制限に関する法律の一部を改正する法律案の審査のため、本日の委員会に金融庁総務企画局参事官大藤俊行君、法務省民事局長寺田逸郎君、法務省刑事局長大林宏君及び法務省保護局長麻生光洋君を政府参考人として出席を求め、その説明を聴取することに御異議ございませんか。
   〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
#3
○委員長(渡辺孝男君) 御異議ないと認め、さよう決定いたします。
    ─────────────
#4
○委員長(渡辺孝男君) 船舶の所有者等の責任の制限に関する法律の一部を改正する法律案を議題といたします。
 本案の趣旨説明は既に聴取しておりますので、これより質疑に入ります。
 質疑のある方は順次御発言願います。
#5
○吉田博美君 自由民主党の吉田博美でございます。
 船舶の所有者等の責任の制限に関する法律の一部を改正する法律案についてお伺いいたします。
 元々、海運は非常に国際性が高いことから、十九世紀後半より主要海運国が中心となって灯台業務や海難防止、海難救助等に至るまで、海上の安全確保を目的とする国際条約などの取決めがなされてきたと聞いておるところでございます。
 一方、船舶の所有者、すなわち船主の海難事故等で生じた損害賠償債務については、民事責任の一般原則により無限の責任を負うべきところでございますが、世界の海運国では自国の海運等を保護、奨励するため船主の有限責任を認めてきたとも聞いております。しかしながら、その方式が国によって様々に異なっていたために、各国の制限を統一する努力が重ねられてきて現在の責任制限制度に至っていると承知をしておるところでございますが、本日はこのことを踏まえ、幾つかの質問をさせていただきたいと思います。
 まず、大臣、最初にこの船主責任制限法の目的とこの改正案の提出に至った背景及び経緯についてお伺いをいたします。
#6
○国務大臣(南野知惠子君) お答え申し上げます。
 船舶の所有者等の責任の制限に関する法律、いわゆる船責法は、船主が船舶事故等によって損害賠償責任を負った場合に、裁判所への申立てによりその責任を一定の限度額に制限することができるものといたしまして、その限度額の別や、またその手続等を規定した法律であります。
 現行の船責法は千九百七十六年の条約に準拠したものでありますけれども、この条約におきます責任限度額の引上げなどを行う千九百九十六年の議定書が昨年、これは平成十六年の五月十三日に発効いたしました。そのため、船舶事故などにおける被害者の保護の観点から我が国もこの千九百九十六年議定書を締結し、これに伴う船責法の整備を行うこととしたものであります。
#7
○吉田博美君 そこで、この船主責任制限法の対象船舶はどのようなもので、法律の具体的な仕組みはどのようになっているのでしょうか。また、この法律を法務省が所管する根拠をお聞かせいただきたいと思います。
#8
○政府参考人(寺田逸郎君) まずお尋ねのうち、どのような対象を規律の対象とするかということでございますが、櫓かい船、櫓でこぐ舟及び公用船、例えば海上保安庁の巡視艇のようなものがそうでございますが、それらのものを除くすべての船舶が対象となっておりまして、船籍がどこであるか、我が国であるかどうかということを問わないものになってございます。
 次に、法律の規定でございますが、一条、二条に趣旨、定義規定を置いておりますけれども、三条以後が実体規定でございまして、八条までの間に様々な責任の制限の具体的な規定を置いております。九条以下は手続規定になっておりまして、具体的に日本の裁判所でどのような責任制限手続を取るかということを明らかにしているわけでございます。
 三条から七条までについてざっと御説明を申し上げますと、まず三条では、船舶の所有者等がどういう債権について責任の制限ができるかということで、どのような債権についても責任の制限ができるわけではないわけでございまして、基本的には不法行為等に当たると思われますけれども、船舶上での事故等に関して生命・身体に損傷が生じた場合の損害に基づく債権、あるいは運送債権というようなものが対象になっていることが明らかにされているわけでございます。
 逆に、三条の三項、四項で責任の制限ができない場合が書いてございます。四条には、また責任の制限がおよそできない債権というのを掲げているわけでございます。六条では、その責任の制限がそれぞれどういう単位で行われるかということを五条を受けて規定しているわけでございまして、タイプといたしましては、旅客の損害というのが、これが一つの責任の制限の単位になります。それから、人の損害あるいは人と物の損害が両方生じた場合の責任制限がどう行われるか。最後に、物の損害だけが生じた場合の責任の制限はどうなるかということを規定しておりまして、それらがそれぞれ七条に具体的な額として規定されているところでございます。
 次に、法務省がなぜこの法律を所管しているかということでございますが、元々、先ほど大臣の御説明にもございましたとおり、民事責任の法制でございますので法務省の所管ということになるわけでございますが、具体的に申し上げますと、この船主責任制限というのは、元来は商法中に委付制度、委付主義として規定されていたものでございまして、それが昭和五十年の改正によりまして船主責任制限法を制定してこの委付主義を廃止したと、金額責任主義等に移行したと、こういうことになるわけでございまして、その意味で商法の特別法に当たるわけでございます。そのようなことから法務省が所管しているわけでございます。
#9
○吉田博美君 当たり前のことか知りませんけれども、船舶の所有者等、すなわち船主に対し責任の制限を認める趣旨はどのようなものでしょうか、お聞かせいただけますでしょうか。副大臣。
#10
○副大臣(滝実君) 基本的には、御案内のとおり、船は船そのものが莫大な投資を要するものでございますし、それから積荷も経済価値が大変大きい。そこへもってきて船員あるいは旅客、そういうものの経済価値を考えますと膨大な経済価値が海上に浮かぶわけでございますね。したがって、いったん事故が起きました場合には大変その損害額が大きい。しかし、それを保険でカバーしようと思っても保険がまた相当の膨大な金額になって、とても船主の負担に耐えられない。そういうようなことから、国際慣例上、ある程度船主の責任を制限していきませんとまともな海上交通、経済取引が保障されないと、こういうことでございますので、もう長らくの間、言わば国際慣行として船主の責任を制限する、こういうようなことが行われてきた歴史がございます。
 したがって、我が国におきましても、そういう国際慣行というものに乗っかって船主の責任を制限していくと、こういうようなことにずっと以前から続けてきているわけでございますし、この条約も昭和三十二年あるいは五十一年、それから今回というように、かなり頻繁に間を置いて変わってきているわけでございますので、今回もそれに従うと、こういうものでございます。
#11
○吉田博美君 ところで、この法律が適用される範囲はどこまででしょうか。例えば、責任制限制度は条約を締結していない国の船舶にも適用されるのでしょうか。また、逆に考えて、日本の船舶が条約を締結していない国で事故を起こした場合はどうなるのでしょうか。お聞かせいただけますでしょうか。
#12
○政府参考人(寺田逸郎君) まず、この法律の適用範囲でございますけれども、これはまず、その事故が起こるなりなんなり責任原因が発生いたしますと、どこの国で裁判の手続ができるか、あるいは行政である場合もありますけれども、手続ができるかということが問題になるわけでございます。
 この法律は、裁判所で行う手続でございますので裁判管轄ということになるわけでございますが、この裁判管轄上のルールの適用において、我が国に裁判管轄が認められるケースにおいてはこの法律が適用される。それは、どこの国の船であろうと同じことでございます。
 したがいまして、条約の締結を行っていない国、非締約国にとりましても、我が国においてこのことが問題になりまして裁判管轄が認められればこの法律が適用になると、こういう関係になるわけでございます。
 逆に、日本の船舶が条約を締結していない国で事故を起こした場合はどうなるかということでございますが、この場合は、この法律の適用ということは裁判管轄がなければ考えられないわけでございまして、逆に、その国で責任制限があればその国の責任制限制度に従うということでございます。
 ただ、もちろん、非常に例外的には、他国で事故が起こりましても、我が国に裁判管轄が認められる場合もあり得ますので、そういう場合にはこの我が国の裁判所でこの法律の適用をもって責任制限を申し立てることができると、こういう関係に立つわけでございます。
#13
○吉田博美君 この改正案で、責任限度額を引き上げる理由は何なんでしょうか。また、責任限度額を引き上げますと、法律の趣旨と矛盾することにならないでしょうか。副大臣、お聞かせいただけますでしょうか。
#14
○副大臣(滝実君) 現在の日本の法律は、昭和五十一年ですか、五十一年の条約に基づいて限度額が定められているわけでございますけれども、現在、その後のインフレといいますか、貨幣価値が変わってまいりました。この貨幣価値は、アメリカのドル、あるいはイギリスのポンド、日本の円、そういうものを加重平均して決められているようでございますけれども、これが下がってまいりましたもんですから、そういうことも兼ね合わせて、平成の八年、八年に改めて国際条約で限度額が上げられたわけでございます。したがって、我が国の場合にもその平成八年の条約に従って限度額を上げていこうと、こういうことでございます。
 その結果、この法律の趣旨といいますか、やっぱり反するというような御指摘もございましたけれども、基本的には限度額は通貨価値に従って上げていかざるを得ない。しかし、その反面で船主の責任というものもやっぱり上がってくるわけでございますけれども、やっぱり通貨の価値の下落に伴った部分、あるいはそのプラスアルファの部分というのは常に見直していかなきゃいけませんから、そういうものを今回この条約に従って改正しようと、こういうものでございます。
#15
○吉田博美君 そこで、大臣政務官にちょっとお聞きしますが、この改正案では旅客の損害に関する債権の責任制限を撤廃することにしていますが、これは被害者保護のためなんでしょうか。その理由をお聞かせいただけますでしょうか。
#16
○大臣政務官(富田茂之君) 今先生の方でもう理由を言っていただきましたけれども、現行法は、人命尊重の見地から、一九七六年の条約に反しない範囲で、内航船に限りまして旅客の損害に関する債権についての責任の制限を撤廃しておりますが、千九百九十六年の議定書では、外航船も含めて、同議定書の規定する限度額を下回らない限り、各締約国において独自に旅客の損害に関する債権についての責任限度額を規定し、又はその責任制限の撤廃をすることが認められました。
 そこで、この議定書の締結に伴い、人命尊重の見地をできる限り徹底させるために、旅客の場合に関する責任の制限の撤廃の範囲を外航船にまで拡張することといたしたものであります。
#17
○吉田博美君 千九百七十六年の議定書及び千九百九十六年の議定書について、それぞれ条約締結国の状況はどのようになっているのか、お聞かせいただけますでしょうか。
#18
○政府参考人(寺田逸郎君) 四月八日現在の数で申し上げますと、七六年条約の締約国は、これはIMOから我が国に通知がございましたわけでございますけれども、その範囲では四十六か国でございます。主要海運国と言われるものの多くが入っております。
 他方、九六年議定書の締約国は、これも四月八日現在でございますけれども、十五か国でございます。
#19
○吉田博美君 この数字を比較してみますと、九六年議定書は七六年の議定書と比べて三分の一ぐらいでございますよね。そうすると、条約締結国が少ないように思われますが、今締結いたしますと、我が国の船会社は締結していない国の船会社よりも不利な立場になるのではないでしょうか。その点についてのお考えをお聞かせいただけますでしょうか。
#20
○政府参考人(寺田逸郎君) これは、先ほども申し上げましたとおり、条約のスキームといたしましては、締約国、非締約国を問わず我が国で責任の制限が問題になる、そういう管轄が我が国にある場合にはこの九六年の議定書のスキームになるわけでございますので、そういう意味で、我が国の船会社だけが不利を受けるというようなことはございません。
#21
○吉田博美君 この改正案により、船主の責任は具体的にどの程度引き上げられるのでしょうか。また、被害者保護の観点から見て妥当な額と言える根拠はあるのでしょうか。
#22
○政府参考人(寺田逸郎君) これは資料にも別にお付けいたしておりますが、基本的に今回、九六年の条約の議定書を作って限度額を改定する際に目安になりましたのは、それまでの条約の限度額のおおむね二から三倍の引上げは必要だという認識で各国が対応したというものでございまして、大体そのようになってございますが、ただ、円換算でなりますと、この間にSDRの価額が変わりましたので、我が国にとりましては逆に相当の大幅な引上げになっているわけでございます。
 また、損害額が限度額を超えた事例でございますけれども、最近五年間における損害額が責任限度額を超えた代表的な事例、これ六例ございますけれども、そのうち四例が改正後の限度額を適用すれば全額がカバーされると、このような状況になっております。
#23
○吉田博美君 ところで、この改正法の施行期日は、九六年議定書が日本国について効力が生じる日からとなっていますが、それはなぜでしょうか。また、見通しをどのように立てているのでしょうか。
#24
○政府参考人(寺田逸郎君) これは、九六年の議定書が我が国について発効するのは、この議定書に加入をいたしまして、それを、加入書をロンドンのIMOの本部に寄託いたしまして、それから九十日後に発効すると、こういうことに条約上決まっております。
 他方、しかし、仮に今度の議定書に加入するということになりまして、現在入っております七六年条約の締約国のままだということになりますと、我が国は条約上、両方の条約について義務を負うという、誠に矛盾した立場に置かれるわけでございます。それは適当でないので、我が国といたしましては、当然のことながら、この九六年の議定書が我が国について効力を生ずるまでにこの七六年条約のスキームから脱する、つまりこの条約を廃棄して、それについて廃棄の効力を生ぜしめるということが必要になります。
 ところが、この廃棄の手続というのは、廃棄の手続を行ってから一年間の期間を置いて効力を生ずるということになりますので、したがいまして、我が国といたしましては、この議定書の効力を生ぜしめる日というのと、今申し上げた七六年条約の廃棄の効力が生ぜしめる日というののタイミングがうまく合うように調整した上でいろいろな手続を取るということになりますので、おおよそでございますが、一年後にこのような効果が生ずるようになろうかというふうに御理解いただきたいと思います。
#25
○吉田博美君 不測の事態のときに船主が全部責任を負うということになると、本当に経営にまで影響するということで、我々も車を買ったときには保険に入っていると同じの形の中で、ところで、船主の方々は損害賠償債務についてどのような保険を利用されているのでしょうか。
#26
○政府参考人(寺田逸郎君) これは、私ども実情を必ずしも全部承知しているわけではございませんで、基本的には、国土交通省あるいは金融庁の方でどういう保険があって、どういう保険の内容が適当かどうかというようなことをいろいろお考えになっておられるところでございます。
 現状を申し上げますと、この船につきましては、一般にPI保険という海上に特化した保険が設けられておりまして、船主はおおむねその保険に加入しているというのが実情でございます。これについて責任限度額が引き上がるということになりますと、当然、このPI保険の保険料についても何らかの引上げが必要ではないかということが検討されることになろうかと思いますけれども、このPI保険においては、事故の発生率あるいは再保険料等様々な要因を考慮した上でその保険料の決定がなされるということでございまして、単に責任限度額が引き上がったから当然それに見合っただけの保険料が引き上がるというわけではなさそうでございます。私どもの承知している範囲では、船責法の改正による責任限度額の引上げが行われましても海運業界がこの保険料の負担で困るというようなことはないというように承知をいたしております。
#27
○吉田博美君 先ほど来の答弁の中で、船主の責任は具体的に二、三倍ぐらいになるという、限度額が引き上げられるということでございますが、困ることはないということでございますが、この改正案が実施されますと保険料が引き上げられると考えますが、まずどの程度値上がりするのでしょうか。先ほども答弁いただいたわけでありますが、我が国の海運事業者の経営に影響がないのでしょうか。その点についてお聞かせをお願いします。
#28
○政府参考人(寺田逸郎君) これは、ただいま申し上げましたように、PI保険という保険でございますけれども、これは船主の共済組織のようなものでございまして、基本的には非営利団体のようでございます。保険料の方も、特にそれによってもうけるというよりは、どちらかというと実費ベースでお互いに保険を掛け合っているというのが実態のようでございます。
 実際には、先ほど申し上げましたように、再保険料あるいは事故率、様々なものを考慮した上で一般事業費を必要経費として組み込んで、それで保険料を決めているということのようでございまして、私どもが承知している範囲では、保険料が引き上げられるということは、これは否定できないところであろうかと思いますけれども、必ずしも憂慮するような引上げにはならないだろうと。したがって、日本のこの保険を掛けておられる船主の方々もそれほど御心配になられるようなことにはならないだろうというように伺っております。
#29
○吉田博美君 次に、PI保険の保険料についての何を基準にということでお聞きしようと思ったんですけれども、その辺については御答弁いただいても同じことだと思いますので次に移らせていただきますが、事故を起こした船主が責任制限制度の適用を受けるためにはどのような手続が必要なのでしょうか。
#30
○政府参考人(寺田逸郎君) これは先ほど御説明いたしましたこの法律の後半部分、つまり手続規定で、これは我が国独自に手続規定を設けているわけでございます。
 具体的に申し上げますと、まず責任制限の手続開始の申立てとその決定についての手続がございます。申立ては、船主の方で船籍港又は事故発生地を管轄する裁判所に責任制限手続開始の申立てをするということになっております。この申立てが行われますと、裁判所は船主に対しまして責任限度額相当額の供託を命ずるということで、この供託金がこの責任制限手続において基金と呼ばれるわけでございます。裁判所は、供託によるその基金の形成がされますと責任制限の手続の開始決定をすると、こういう順番で手続が進んでまいります。この開始が決定されますと責任制限の効果が生ずるということになりまして、制限債権者、つまり損害賠償をこれから船主に対して求めようとする人というのはその責任制限の基金からしか支払を受けられない、このような規定になっております。
 なお、手続的に申しますと、裁判所は、さらに開始決定と同時に管理人を選任し、届出期間と調査期日を決定して公告すると。それから債権の届出がございまして、その届出期間内に債権者が制限手続に参加する。で、調査期日において様々な債権について本当にその制限の対象になるような債権かどうかというような調査をいたしまして、その債権の届出が確定するということになりますと、裁判所が査定の裁判という形で裁判を行う。それから、さらに配当が管理人によって行われる。で、配当が行われますと、その余の部分について申立人は、つまり船主側はその責任を免れると、こういう形になりまして、まあ言ってみれば破産のような手続に非常に類似した手続というのが進行していくということになるわけでございます。
#31
○吉田博美君 近年の責任制限手続の申立ての事例はどのぐらいあるのでしょうか。そこで、損害額が責任制度、責任限度額を超えている場合で船主が責任制限の申立てを行わない場合、賠償額はどうなるのでしょうか。また、PI保険から支払われる保険金はどこまででしょうか。これについてお聞かせいただけますでしょうか。
#32
○政府参考人(寺田逸郎君) まず、最近の責任制限手続申立ての例についてお尋ねがございましたが、年間五件が一番多いぐらいでございまして、大体三、四件というのがここのところのペースでございます。もちろん、これは実際に裁判所に申立てがあったケースでございまして、多くは裁判所に申し立てたら責任制限がされるということを前提に保険会社が保険を支払うということで解決しているというように私どもは見込んではおります。
 具体的に責任制限手続の申立てがあった事例は、平成十三年の四月にパナマ船籍の一般貨物船、約九千トンの船でございますが、これが鋼材等を積んでアメリカに向けて太平洋上を航行中に、積付けの不備のために天気が荒れて衝突いたしまして沈没したというケースがございますが、荷主の貨物保険会社が船主に対して六十一億円余の損害賠償請求をしたところ船主側で責任制限を申し立てて、その結果、船主の責任が二・八億円に制限されたというものがございます。
 なお、責任制限手続が申し立てられたわけではございませんけれども、保険金の限度額での考慮に基づいて実際に支払われたのが制限された例といたしましては、平成十六年十一月の砂利運搬船の第十八明悦丸の事件がございます。これは、航海士が居眠りをいたしまして漁船にぶつけて、漁船の船長らが死亡したという事案でございますけれども、損害額の二・八億円に対しまして保険で二億円余りが支払われているということでございます。
 次に、損害額が責任限度額を超えていて船主は責任制限の申立てを行わない場合にどうなるかということでございますが、これは責任制限を行わなければ船主はもちろん全額を負担する、全額が損害賠償額ということで責任を負うという原則に戻るわけでございます。ただし、先ほど申しましたように、保険に入ってございます関係で、保険の約款には、組合員というのが負担する責任というのを限度としててん補するわけでありますけれども、そのてん補額というのは責任限度額だということが記載されておりまして、したがって船主が責任制限の申立てをしない場合でも保険会社と相手方との間で交渉が行われまして、その責任限度額を前提とした支払が行われるということであります。これは先ほども御説明申したところでございます。
#33
○千葉景子君 おはようございます。民主党・新緑風会の千葉景子でございます。
 今日は、船舶、よく分からないですね、船舶の所有者等の責任の制限に関する法律ということでございまして、その質問に入る前にちょっと一、二点、大臣の御認識等お聞かせをいただきたいというふうに思いますので、よろしくお願いをしたいと思います。
 記憶に多少遠くなってはおりますけれども、心神喪失者医療観察法、この施行が法によりまして今年七月十五日に予定をされるということになっております。この法律の審議経過等は、知っている方は知っている、よく委員会等にかかわらず御存じない方もあるかもしれませんけれども、大変な議論の結果成立をしたという法律でもございました。この七月十五日、もうあとそう時間はないわけですけれども、このところ新聞等を拝見をいたしますといろいろな報道がなされておりますが、どうもこの施行までに医療施設の準備が間に合わないんではないだろうか、こういう指摘がなされております。
 この施設の整備につきましては、元々、専用の国立の病院を八病院、そして都道府県立の病院十六病院程度新設をしてこれに対応していこうと、スタートのときにそれがすべて間に合うかどうかは別でございますけれども、そういう方向で準備をしていこうということだったんですが、どうも今のところは大変地元の反対があるとか、あるいはなかなかこの整備が進まないということで、本当に医療施設としてはまだ国立の三か所程度しか準備ができない、できていないと、こういう報道がなされております。
 これは法務省、そして医療施設等は厚生労働省ということにはなるんでしょうけれども、この法務委員会で、池田小学校の事件等を踏まえながら、犯罪の防止等々も念頭に置きながら心神喪失者の社会復帰等を図っていこうと、こういうことで作られた法律でございます。
 大臣、どうでしょうか。今こういう報道等がなされておりますけれども、一方の管轄をなさっている大臣として、この今の実情はこのとおりなんでしょうか。どういうふうにまず御認識をなさっておられるか、ちょっとお聞かせいただきたいと思います。
#34
○国務大臣(南野知惠子君) 本当に心配いたしております。先生も御心配いただいておりますが、この法律自身が難産であったかなというふうに思っておりまして、その後も、期限が七月十五日までということでございますので、なるべく安産に持っていきたいということでお話合いをさせていただいてはおりますけれども、御指摘いただいております心神喪失者等の医療観察法については、現在、期限である七月十五日までの、この施行に向けて鋭意準備をやっているということをまず御報告したいと思っております。
 厚生労働省が進めております指定入院医療機関の整備につきましては、その作業が難航しているものも少なくはないと聞いておりますが、法律の円滑な施行のための必要な数の病床数、これがなかなか難しいと。これも引き続き厚生労働省とともに十分協議しながら、この円滑な施行に向けて必要な準備を行ってまいりたいと思っております。
 先生が御指摘なられましたとおり、当面、段階的に約七百床程度が欲しいということでございまして、それを目指しておりますけれども、地域の住民の方々の御理解がなかなか得られにくいということでもございます。また、平成十七年度中に三病院、これは九十床程度を確保する見通しが立っているというところにとどまっているのかなと思っております。
#35
○千葉景子君 今のお話ですと、この新聞報道等がほぼ実情を誤りなく示しているのではないかというふうに思います。まあ、一生懸命といっても、もうあとそんなに時間はないわけでして、本当にこれがちゃんとスタートできるんだろうか、こういうことを本当に懸念せざるを得ません。
 実は、この法案の成立までというのは、今大臣がおっしゃいましたように、大変な難産でございました。私も一緒に審議をした者とし、この審議の経過をちょっと振り返って整理をさせていただきましたんですけれども、まず法律が、政府案が閣議決定されましたのが、これは二〇〇二年です、二〇〇二年の三月ですね。それで、国会に直ちに提出をされまして、衆議院の委員会から議論が始まったということです。これが二〇〇二年ですよね。それで、その後審議が百五十四通常国会で行われて、そこでの、衆議院では十六時間四十分の審議がなされた。それで、また今度はそれが引き続いて継続になって、百五十五臨時国会、ここでまた十五時間以上の審議がなされて、このときは、衆議院の方は欧州視察等もされて、この法案の、本当にいい法案にしようという議論がされた。これが参議院に、百五十五臨時国会の終わりに参議院に送られまして、その百五十五臨時国会、それから百五十六通常国会へと審議が移り、参議院でも大変長い審議時間、参考人の御意見を聴き、そして連合審査を重ね、そして、まあ私ども民主党はこれには反対の姿勢でございました。こういうやり方ではなくて、従来の精神医療をもっと充実させるということによって対応すべきだという、こういう姿勢は持っておりましたけれども、しっかりとこの審議に臨み、そしてできるだけの納得いくものをつくっていこうということで対応させていただきました。
 ただ、残念ながら、これは最終的には、参議院の場で審議が打切りの動議という形で打ち切られて、そして採決に至るということになったわけですね。これについては当時の委員長も大変御苦労をなさったと、もう本当私も心痛く思ったりはするんですけれども、本当にそういう経過を経て、大変これは重い内容を持った法案としてスタートをしようとしている。
 これだけ長い時間を掛けて議論をし、そしてそのためには、当然、この医療施設の充実といいますか、準備が必要だということもそのときから当然予測をされてきたわけです。にもかかわらず、ここへ来て、結果的には、周辺の賛成が得られないとかそういうことで医療施設の準備ができないというのは一体どういうことなんだろうかと。全く先の本当に見通しとか、それからそれに対する、本当に一生懸命に対応しようという、本当にそういうことがあったんだろうか。何かそのときの社会状況の中で、いや、これそういう医療施設を造って、心神喪失者、そしてそういう人の犯罪というものに対して、やっぱり何かしないと社会からの非常に批判が高まるということで何か行われてしまったのではないだろうかとも、結果的には懸念せざるを得ない。
 これ、こういう中でどうするんですか。このままじゃ大変無責任だと思うんですね。一体、その今準備というか、懸命にやっておられるとはいいながらも、これからもうあと限られた時間で一体どうされるのか。何にも準備ないままにスタートするのか、いや、そうじゃないのか。その辺については多分、厚生労働大臣とも今いろんな御調整なりあるいはお話をされておられる、当然のことだというふうに思いますけれども、一体これどう対処されるおつもりなのか。
 今頑張っておりますと、これだけじゃもうとても間に合いませんし、そんな無責任なやり方では、私たちはちょっともう本当に今後の審議、特にこの国会では、一方では刑事施設に関しての法案が審議をされる。一方ではそういう形で刑事施設の処遇によって犯罪を防止し、そして社会への新しい復帰を促していこう。片方では心神喪失という、そういう精神的な状況にある人については、この医療の中で犯罪に及ぶなどということを抑止して、そして社会復帰を果たしていこうと。まあ、ある意味では両方がやっぱりきちっと相まってこそ目的を達成するという部分もあるわけですので、そういうことを考えますと、この成り行きというのは非常に影響が大きいというふうに思うんですが、大臣としてはどういうふうに対処をすべきだというふうにお考えでおられるのか、御見解をお聞かせいただきたいと思います。
#36
○国務大臣(南野知惠子君) 先生御指摘のとおり、大変難航している課題であろうと思います。そういう意味では、指定入院医療機関の整備、これは厚生労働省の方で今懸命に努力されているものと承知いたしておりますので、更なる整備の方向の在り方ということも見定めていきたい。
 法務省といたしましては、厚生労働省とも十分協議をしながら、その法的な円滑な施行に向けて必要な準備をしてまいりたいと思っております。公立病院の協力、そういうことも視野に入れながら、しっかりとこのベッドの確保に向けて協力していこうというふうにも思っております。厚生労働省も取り組んでおられますので、法的な分野について我々は一生懸命頑張っていこうと思っております。
#37
○千葉景子君 今、もう再三申し上げますけれども、一生懸命頑張って、本当にできるんですか。そう、大臣、思っておられます。
 いや、それで、この報道などでは、医療観察法施行前の改正みたいなことを検討しているんではないかという、そういう報道などもされているわけで、もし施行前にまた改正などということになったらこれは本当にとんだことでしてね。いや、私は、本当にこれは明確に今後の方針をきちっと示していただかなければ、いや、頑張りますという、これだけではとても私は納得をするわけにはまいりません。
 是非、これはまたこの委員会、継続をいたしておりますから、その都度ぐらいに、一体どうするのか、どうするのか、どうなったのかと確認させていただかないことには、だって、国会としてもそういう意味では責任を果たせないわけですよね。法案を作り、そして施行しようということで、立法化を私どもも責任を負っているわけですので、そういうことを考えますときには大変私はもう懸念しておりますので、改めてまた聞かせていただく機会あろうかと思いますので、今日はこの程度にさせていただきたいというふうに思っております。
 さて、本題といいましょうか、の方に入らせていただきたいというふうに思います。
 既に吉田理事の方からも御質疑がございまして、多少重なる部分があるかもしれませんが、ちょっとお許しをいただいて、確認を含めて御質問をしたいというふうに思っております。
 心神喪失の関連の政府参考人の方は御退席くださっても結構でございます。
 さて、この船主責任制限法でございますけれども、これは私、一番ちょっと分からないのは、今なぜ、何で、どういう理由でこの改正なのかなということです、この国会でですね。
 というのは、大臣の提案理由説明をお聞きをいたしました。そこでは、この法律が成立後既に三十年近く経過をして、そしてその間のインフレーションの進行等によって現在の社会経済の実態にそぐわなくなる等の問題が生じていると。まあこれは確かに、分かったような分からないような文言でございます。もしそういうことであれば、別にこの国会ということではなくして、三十年の間にそういう動きというのは徐々に流れてきているわけですので、それが今やらざるを得なくなっているというのは一体どういうことなんだろうかということが一点でございます。
 それからもう一点の理由というのは、この今回の一九九六年の議定書、この締結の承認案件と併せてということになるんだろうというふうに思うんですけれども、この前の一九七六年の条約締結の際のこの責任制限法の改正は、割と条約締結とこの改正が非常にスピーディーにといいますか、いろんな背景があったと思うんですけれども、行われております。ところが、これに比べまして今回は一九九六年ですからね、議定書が。それから九年経過をしているわけです。そうすると、既に条約自体は二〇〇四年の五月に発効しているということで、採択から九年たっている。社会経済状況という実態にそぐわないというのは、まあそれは当たり前の話でして、そういう理由と併せても、何で今、どういう理由でこの改正に至ったのかなという思いがいたします。
 もっと早くやるべきだったのか、あるいはさほど、これだけ放置していて今になっているんだからそう改正するほどのものでもないのか、その辺の、この本法案の改正の理由と、それから今の時期にやっぱりやる意義、意味があるんだというところをちょっと分かりやすく御説明いただきたいと思います。
#38
○政府参考人(寺田逸郎君) 御指摘のとおり、この分野が仮に法律の規定として不合理であれば、スムーズにこれを直すというのが私ども政府の使命でございますので、常日ごろから、この船主責任制限法について限度額がどうかということは絶えず意識しているところでございます。
 ただ、この分野は、何と申しましてもこの五七年条約、その前に更に条約があったわけでございますけれども、国際協調というのが第一の観点でございまして、これを抜きにやはりこの問題の規律を改めるというのはなかなか難しいところが、これは実務上もございますし、また実際上も、政治上もいろいろ困難な問題になるわけでございます。したがいまして、私ども、どちらかと申しますと、この間、五七年条約が必ずしも、あっ、失礼、七六年条約ですね、七六年条約が必ずしも十分でないという意識は持っておりまして、この分野では、国際海事機関、IMOというのがこの問題を処理している国際機関でございますが、国際機関の場においても様々な努力をしていたわけでございます。
 実は今回、限度額の引上げと併せまして、旅客についての責任というのは責任制限の対象から外すということになりましたのも我が国の提案によるものでございます。そのように提案はいたして、いろいろ交渉はいたしていたわけでございますが、なかなか九六年までそれがまとまらなかったというのが実情でございまして、まとまった以上は私どもは、逆に申しますと、早くこの条約が発効してくれて、それに我が国も率先して締約国として入ろうという考えでおりました。
 しかしながら、これは、先ほど委員も御指摘のとおり、昨年まで実は発効がされなかったわけでございます。発効される前に、この前の七六年条約と同様に、この条約に入って前の条約を破棄するということも全く不可能ではないわけでございますが、七六年条約においてそれをしましたのは、やはり主要海運国、イギリスでございますとかあるいはヨーロッパの国がそういう七六年条約に入り、あるいは入りそうだということがもう既にその時点で決まっていたために、五十年代にそのようにあえて条約に先立って我が国が条約を締結して条約に、あのスキームに合わせて法律を切り替えたと、改正したということがあったわけでございますけれども、今回の九六年条約の場合にはなかなか主要海運国の状況が実はつかめませんで、最近まあしかし発効もいたしましたし、やはり我が国としては率先してそれに入ろうということで、このような、九年間掛かったわけでございますが、やや遅いとお感じになるかも分かりませんが、状況に立ち至ったわけでございます。
 我が国としては、逆にこういう九六年条約のスキームに多くの主要海運国が入るようにむしろ慫慂するというのが今後の使命だろうというふうに考えております。
#39
○千葉景子君 日本も海運国といいますか、そういう意味では、世界のある意味ではこういう分野ではリーダー役であらねばならないということもあると思います。今の経過というのはおおよそ理解はいたしますけれども、今後も是非積極的な国際社会への働き掛けというのが求められるものではないかというふうに思っております。
 さて、先ほどこれもちょっと関連がございましたけれども、この船主責任制限の額と、私は、実際の海難事故での実損額というのはやっぱりかなり乖離があるのかなという感じがいたします。過去の事例、ちょっと新聞記事で拝見をしたものですけれども、福岡県沖で外国船舶と漁船が衝突して、死傷者を伴う十数億円の被害が出るというふうな大事故が起きたけれども、この船主責任制限法という制限額というのがどうしても頭打ちになって、結局三億八千万円の損害賠償金で示談が成立をしたというような事例もあったようでございます。
 こういうことを見ると、どうしても実損は相当あるんだけれども、この責任額で頭打ち、その範囲で示談が成立をするという、そういう例が多いのかなと。ただ、零細な漁業者等は大変それによってつらい思いといいますか、厳しい条件を迫られるということになってしまうのではないかというふうに思いますけれども、その辺の実際の実損額と責任限度額との乖離みたいなものというのはどんな状況なんでしょうか。
#40
○政府参考人(寺田逸郎君) 先ほども吉田委員の御質問に対してお答えを申し上げましたように、実際にこの責任制限手続に申立てがあって入るケースは全体の、このような船の損害が問題になるケースのごく一部でございます。それで、圧倒的多数は、今委員も御指摘のとおり、保険会社との交渉によって決まるということでございますが、その場合の保険会社、先ほど申しましたようにこれはPI保険と申しております、具体的に日本の場合は日本船主責任相互保険組合が行っております保険でございますが、それの保険金の支払件数というのは全体で八千件から九千件ございます。そのうち、損害額が実際にこの船主責任制限法の定める限度額を超えているために保険金が制限されるというのは、ほんのわずかで〇・一%程度でございまして、圧倒的多数は保険の枠内でカバーされているということでございまして、ただ、非常に大きな事故、有名な事故になりますと、先ほども委員が御指摘になられましたように、実際に責任の制限の限度額に引っ掛かってくるというケースがあると、こういう実情でございます。
#41
○千葉景子君 やっぱりその実損額が大きいときになかなか、やっぱり保険でもどうしても保険金額の上限で切られてしまうというようなことになると、なかなか本当に零細な、あるいは小さな漁業者等などは大変厳しいことになるのかなという感じがいたしております。
 そういう状況の中で、先ほどもお答えがありましたけれども、これ、船主責任制限法で裁判による申立ての手続というのが作られているんですけれども、これはほとんど、何か余りこれに係る事例というのは少ないようです。結局、あれでしょ、ほとんどが保険と、それを使った示談交渉といいますか、和解というような形でこの船主責任というのは解決をされているというのが実態なんでしょうか。そうすると、一体この法律の意味というのはどこに本当にあるのか、なかなか今度は分からなくなってしまうんですけれども、実態としては、やっぱり和解交渉で保険という中で解決されているケースがほとんどというふうに受け止めてよろしいでしょうか。
#42
○政府参考人(寺田逸郎君) そのとおりでございます。
 実際は、この船主責任制限制度があるということを前提に保険が掛けられ、その保険の限度額がこれこれであるということを前提に当事者が和解交渉をなさって、その限度で大体和解ができるというのが多くのケースでございます。
 その場合に、なぜこういう手続をわざわざ設けるかというと、今のことから逆にお分かりになりますとおり、この限度額がなければそれは言ってみれば青天井ということでございますが、その場合には保険金額というのもやはり青天井を前提に掛けなきゃいけない、非常に莫大な保険料を支払うということになりかねないわけでございます。そのようなことからこのような責任限度額を設けているというのが国際的な一般的な理解でございます。
#43
○千葉景子君 この責任限度については責任制限阻却事由が設けられております。これについて具体的にどういうケースが適用例として挙げられるのか、具体的な例とかございますれば教えていただきたいと思います。
#44
○政府参考人(寺田逸郎君) この今の船主責任制限法の三条の三項は、七六年条約に入りました際にその七六年条約のスキームに合わせて規定していったものでございまして、具体的には、「損害の発生のおそれがあることを認識しながらした自己の無謀な行為によつて生じた損害に関するもの」ということになっております。これは我が国の法律の規定からしますとやや理解が難しい規定でございまして、無謀なというのは英語のレックレスリーということの翻訳でございますが、我が国に当てはめてみますと認識ある過失あるいは認識ある重過失に近い概念でございます。
 具体的には、損害発生のおそれの認識あって、その認識の下では普通の人ならそうしないことをあえて無謀にもやってしまうということでございまして、具体例はなかなか、裁判上問題になったケースが日本ではございませんので難しいことでございますが、非常に天候が悪い、もう普通ならば船を出さないのにあえて船を出してしまう、あるいは全く能力のないような船員というのを配置して航海に出てしまうというようなことが考えられるわけでございます。
#45
○千葉景子君 先ほどからこの責任制限、船主責任というのがなかなか裁判例には挙がってこないということもございますので、この責任阻却事由のようなことも、なかなかこれで裁判が争われるというふうな具体例は余り考えられないんだろうなというふうに推測はいたしますけれども、こういうものが適用されるようなことが逆に言えばあっては困るわけで、是非そういうことを望みたいというふうに思っています。
 今回は旅客に関する責任制限が撤廃をされました。これは、やっぱり人命ということを考えますときには大変重要なところだろうと思います。荷の方はいろんな今度は貨物に掛ける保険等も考えられますので補てんがしやすいかと思いますけれども、やっぱり人命ということになるとなかなかそれは重いものですので、こういう責任制限が撤廃をされるという意味合いは大きいと思いますが、この至った経緯といいますか、それから意義について改めて確認しておきたいと思います。
#46
○政府参考人(寺田逸郎君) これは元々、この旅客に関する損害というのは契約責任でございますので、その契約責任を責任制限するというのは、不法行為の損害を責任制限するというのはやや異例のことであろうというふうな認識はそもそも私どもは持っております。したがいまして、前回、七六年条約を締結した際に、せめて国内の旅客の海上運送による旅客の債権についてはこの責任制限の対象から外そうということで、現行法はそのようになっております。これは、条約上、もう全く国際的な要素がないことについては国内法で決められるということが決まっていたからそのようにしたわけでございます。
 しかし、国際運送、例えば日本から韓国なり日本からアメリカというような運送における旅客というのはほかの責任制限とは別個の責任制限ではございましたけども、しかし責任制限はできるという規定は、それは国際条約上決まったので維持せざるを得なかったわけであります。ところが、この七六年条約を締結した以後、様々な国際会議の際に、我が国といたしましては今のような我が国の立場も御説明して、せめて旅客については責任制限の対象から外そうということで様々交渉をいたしまして、その結果、各締約国において旅客の損害債権については独自に責任限度額を決められ、つまり普通より上の責任限度額を決められ、あるいは全く責任制限をしないということもこの九六年の議定書によって可能になったと、こういういきさつがあるわけでございます。
#47
○千葉景子君 私も不思議に思いますのは、その議定書によってそれぞれの各国でそういう取扱いをといいますか、そういう制度を取り得るということで、国際社会の中で議定書そのもの、あるいは国際社会全部が本当はこういう旅客に対する責任制限を撤廃をすると、責任制限はしないということになるのが本当は一番いいんだろうなと、人命を尊重するという意味ではですね、と思いますが、それでも我が国がきちっとこういう責任制限撤廃という方向を取られて、国際社会にもさらにその考え方を発信をしていくということでございますので、是非これからも頑張っていただきたいというふうに思います。
 さて、時間がなくなってまいりましたので。
 今、何点かお聞きをしてまいりました。この船主責任制限制度というのは、一体これからどういうこの法律というのは機能していくのかなと。先ほどくしくもお話があったように、これがあればこそそれを基準にした保険がつくられ、そしてそれによって損害が補てんをされる、救済をされていくということで、私も、何か保険制度もでき、そうなるとこの法律、それから裁判で損害賠償といいますか、責任が追及されるというようなケースもそう多くないと、申立て手続のようなものは余り何件もないということになると、この法律というのは一体今後どういう位置付けで、それからどういう機能を果たしていく法律になっていくのかなという感じがいたします。保険制度があればもうそれで十分なのかなと思いますけれども、先ほどのように、そうすると保険が青天井になってしまうというおそれもあるということですので、今後の、この船主責任制限制度の今後の方向性ですね、それについてはどんなふうにお考えでおられるのか。今度の改正そのものは私も是とさせていただきたいというふうに思っておりますけれども、大臣としてはどんなふうにお考えでしょうか。それをお聞きして終わりたいと思います。
#48
○国務大臣(南野知惠子君) 今回のこの船責法、これは単に責任限度額を定めるのみではないと、責任制限手続を定めている法律でもありますと。責任制限手続は、多数の被害者及び多様な損害賠償、これが関与してきます船舶事故におきましては、責任限度額相当の基金をそれぞれの被害者の債権額の割合に応じて公平に分配しようというような集団的な債務処理の手続でありますということでございまして、このような手続の存在意義というのは、これは現在におきましても従来と同様に存続していきたいものであるということにおきまして、実際に機能しているところでありますのでこの法律の改正と、これは大切にしていきたい課題の一つでありますので、是非この法案、船責法というのは改定していきたいものだと思っております。
#49
○木庭健太郎君 論点はかなりお二人の、吉田先生さらに千葉先生の話で出尽くしているような気もしますが、確認の意味もあって質問させていただきたい点もございます。
 今、千葉理事が御指摘なさった事故というのは、平成十五年七月に福岡県沖の玄界灘で巻き網漁船がパナマ船籍のコンテナ船に追突されて沈没したという事故がございまして、最初は乗組員一人が死亡し六人が行方不明ということになりましたが、最終的にこの行方不明者は見付からずに実質的には七人死亡というような非常に大きな事故になったものでございますが、この際に、被害者側の方、つまり漁船側の方の会社の方はこの事故に関して十三億円というのをこの事故の度合いから見て請求をしたんですけれども、正に今論議をしておりますこの船主責任制限の問題が一つの焦点になりまして、いわゆる相手側の方はこの責任制限を主張して、その結果どうなったかというと、結局、船主責任制限のほぼ上限に近いような形の、三億八千万というのが当時の限界でございますが、これで示談になったというような事例でございます。
 そういう意味では、この船主責任制限というものの問題、ある意味では被害者側にとって酷な結果を強いる結果にもなりかねないというのが、被害者側の立場に立てば、この法律というか、この制限制度そのものというものには大きな問題があるような気もいたします。そういう意味では、ひとつこの船主責任制限という問題に関しては、制度そのものの廃止ということもある意味では検討しなければならない一つの、こういう問題を論議するときの一つの視点だろうと思いますし、できることなら、被害者の立場に立つならば責任制限制度というものは廃止すべきではないかというような考えにも立つわけでございますが、まずこの原点のような論議について大臣のお考えを伺っておきたいと思います。
#50
○国務大臣(南野知惠子君) 今先生がお話しになられましたパナマ船籍の課題であろうかなというふうに思っておりますが、このような事例といたしましては、加害船の船主が船主責任相互保険に加入していたというところから物語が発生してくるというふうに思っておりますけれども、支払われるべき保険金が責任限度額に抑えられたものというところで要求とその支払とが大分違っているというような額になっているかと思っております。
 船主責任制限限度につきましては、船舶の航行を行う海運業が多額の資本を投下した危険性の大きい業種であるということにかんがみまして、古くから各国において認められてきた制度でありますことや、また海運業は国際的性格が強いものでありまして、我が国だけが船主責任限度の、制限の制度を一切採用しないとしますと、日本に入港する船舶についてのみ保険料が高騰してしまうと、また我が国の貿易のコスト高を招きかねないおそれがあるというようなことなどを考えますと、これを廃止するということは考えられないのではないかなと。そこで、今回の改正法によりまして責任限度額の引上げなどを行うことによりまして、この制度について一層の改善を図っていくということになると思います。
 これは、被害者保護を拡充するというようなものも含まれておりますので、御理解いただきたいなと思っております。
#51
○木庭健太郎君 その意味では今回の改正は廃止には至るわけではないんですが、大臣おっしゃるように改善はされているというような点はございます。
 ただ、ある意味では、我が国独自にそういう被害者の保護により厚い責任制限に関する制度ということをつくり得るというようなことはできないのかなというようなことも感じます。そういった点について副大臣から御答弁をいただきたいと思います。
#52
○副大臣(滝実君) 基本的に、今委員が御指摘になりましたパナマ船に追突、衝突された事件につきましては、多数の方が行方不明になっている、そういう意味で損害額が十分に補てんされなかったと、こういうような事件でございます。
 基本的には、やっぱり日本が、日本の法律だけが高い損害額を設定するということになりますと、何となくバランス、国際的な事業の中で日本の船主だけが高い負担をしょわなきゃならぬ、こういうことでございますから、やっぱり海運国としての日本は国際条約に基づいて物を考えていかなければいけないと、これは基本原則でございます。
 ただ、委員御指摘のように、今回の条約を適用することによって外航船の旅客については損害額の制限が撤廃されたわけでございますけれども、乗組員については従来どおりという域を出ていないわけでございます。したがって、今回の外航船の旅客の制限撤廃については日本が主張してきた事項で実現したわけでございますけれども、やはり今回のようなパナマ船のような事故を考えますと、今度は乗組員をどうするかということは次の課題として日本が取り組んでもいい課題のようには思われるわけでございまして、しかしいずれにしても、条約主義ということを前提に置いて努力をしていくべき課題だと思っております。
#53
○木庭健太郎君 今副大臣おっしゃったように、先ほどから議論しているように、旅客については日本の長年の努力があって一つの改善点が今回見られたわけでございます。そういう意味で、やっぱり人的問題と物的問題は別だという考え方に是非立っていただきたいし、その意味では日本がこれから、今副大臣が御発言なされたように、この乗組員の問題、是非とも次の課題として取り組んでいただきたい、こういうことを本当に心からお願いもしたいと思います。
 そして、現行のこの船主の責任法というのは七六年条約に準拠して、今度は九六年の議定書に基づいてと、条約に基づいた形でやっているんですけれども、七六年条約に今、日本の法律は基づいているということであれば簡潔にそれの御説明をいただきたいし、ただ各国見ますと、ある意味ではこの条約以外にもいろんな条約があってみたり法制があってみたりするようでございますが、その辺についても簡潔に御説明をいただければと思います。
#54
○政府参考人(寺田逸郎君) 七六年条約の内容でございますが、これはその前の千九百五十七年の海上航行船舶の所有者の責任の制限に関する国際条約、いわゆる五七年条約を改正するものといたしましてIMCO、政府間海事機関で作られて成立したものでございます。
 五七年条約と相当に違う点がございますが、主な点といたしましては、責任限度額を大幅に引き上げたこと、それから制限債権に救助者に対する債権というものを加えた、つまり救助者が海上企業ということで責任制限が認められるというようになったこと、それと、限度額の表示がそれまで金フランでございましたけれども、それがIMFの特別引き出し権であるSDRに切り替わったこと、この三つが特徴でございます。
 五七年条約も、実はその後も条約としての機能を持っておりまして、非常に多くの船を抱えておりますパナマなどは現在もこの五七年条約の下にあるということでございます。
 この一連の条約以外にも、もちろん船主責任制限には様々な法制がございまして、アメリカ等では船価責任主義、つまり原則として航海の終わりにおける船を中心とする資産の価額を限度として有限責任を負うということになっておりますし、そのほかにも様々な法制がございます。
 なお、中国と韓国は条約の中には入っておりませんけれども、七六年条約と同様の内容の国内法を制定しているわけでございますので、これらの国々が管轄権を持つ場合には七六年条約と同等の法律関係になるというふうに考えております。
#55
○木庭健太郎君 今お話があったように、結局その条約があり、いろんなものはあるんですけれども、この船主の責任制限制度というものを見た場合、まだ五七年条約の国もあれば、七六年条約の国もあれば、また違う考え方に立っている国もある。言わば、国際的になかなか統一されていないというのが今現状なんだろうと思いますし、そうなると、船主はどうするかというと、自分が有利に働くところで当然この責任制限手続を申し立てるというような弊害が起こってくるんではないかと思うんです。そういう意味では、日本は国際社会に合わせて海運ということに関しては平均的なところでやりましょうと、こう言ったとしても、ほかの国がそれをやらなければという、いろんな、こういう意味では問題がまだまだあるような気がするんですが。
 こういった国際的に統一されていない現状、私はこれは弊害であると思うんですが、その弊害を取り除くためにはどうすれば我が国としてはよいのか、どう取り組むつもりでいるのか、政務官に伺っておきたいと思います。
#56
○大臣政務官(富田茂之君) 船主責任制限手続は船舶事故につきまして国際裁判管轄が認められる国において申立てをすることができます。
 通常、事故を起こした船舶の船籍がその国に属している場合、事故がその国の領海内で発生した場合、また被害者が既にその国において損害賠償請求を提起している場合、債務不履行責任につきあらかじめ管轄の合意がある場合等、当該国が当該事故について何らかの関係がある場合でなければ国際裁判管轄は認められておりませんので、船主が全く自由に自己に有利な国で責任制限手続を申し立てることができるわけではございません。
 もっとも、木庭委員御指摘のように、弊害がなお存在することは否定することはできません。船主責任制限制度に関する法制の在り方が結局は各国の主権にゆだねられていることにかんがみますと、我が国の行い得る努力としては、一九九六年の議定書が定める制度がより普遍的なものとなるよう、多くの国が締結することが重要である旨を国際的に主張してまいるべきものと考えております。具体的には、IMO、国際海事機関の法律委員会でそのような主張をしていく必要があると思っております。
#57
○木庭健太郎君 ところで、先ごろ日本のタグボートがマラッカ海峡で海賊行為の被害に遭いましたが、海賊船が他の船に与えた損害、こういうものは責任制限の対象となるのか。どうなんですか、こういうのは。
#58
○政府参考人(寺田逸郎君) 先ごろの具体的なケースが今の日本の船主責任制限法の適用下に置かれるかどうかということ、これはもう具体的なケースですので分かりませんが、仮にあのようないわゆる海賊行為のようなものが責任制限の手続として想定された場合には、これは先ほど申し上げましたような責任制限阻却事由、つまり損失を生じさせる意図を持って、また無謀にかつ損失の生ずるおそれがあることを認識して行った作為によって損失が生じたことに当たると思われますので、責任の制限はできなくなるというふうに私どもは考えております。
#59
○木庭健太郎君 更にもう一点、近年我が国の近海では放置座礁船の問題が非常に問題になっておりますが、このような船舶の撤去費用についても責任制限ができるのか。もしできるとすると、船主が自分では撤去しなくなるという弊害が生ずると思うんですが、この点はいかがでしょうか。
#60
○政府参考人(寺田逸郎君) これは七六年条約に加入する際に論点になった一つでございます。
 我が国といたしましては、御指摘のような弊害が生ずるというおそれがありますために、この七六年条約の第十八条の1でございますが、難破船等の除去費用に関する債権というのが制限債権として掲げられておりますけれども、七六年条約の二条の1の(d)と(e)の規定、これが除去費用の債権そのものの規定でございますが、その規定について留保を行うということを十八条の1に基づいて行って制限債権から除外をいたしております。
 したがいまして、この座礁した船、これについての撤去費用は船主の立場から見ますと責任制限のできない債権ということになるわけでございます。
#61
○木庭健太郎君 今後、この九六年議定書の責任限度額、これを更に引き上げる必要が生じた場合にはまた改定議定書というのを作成する必要があるのかどうか伺っておきたいと思うんです。それをやるとまたかなりの時間が掛かるのではないかとも思いますし、この点について伺っておきたいと思います。
#62
○政府参考人(寺田逸郎君) これは、いろんな国際会議で近年、インフレに対処するためにどういう迅速簡易な手続でもって全体の金額が引き上がるかということが問題にされております。このIMOでも、この議定書を作成する際にそのことを問題として取り上げまして、その結果、今後の責任限度額の引上げの必要に対応するために、通常の条約の改正手続よりは簡易な手続をこの限度額について設けております。
 具体的に申し上げますと、締約国の二分の一以上の要請によりまして、IMOの事務局長が改正案というのを締約国に送付するということになっております。ただし、改正案における限度額の引上げというのは、この議定書の限度額を採択の日から年六%による複利による計算で増額させた額と限度額の三倍の額のどちらか低い方を超えることはできないという制限は付いておりますけれども、そのような改正案というのが送られます。
 それで、IMOの法律委員会における審議、採択が行われまして、IMOの事務局から締約国に仮にそれを採択するということになりますと通告が行われて、それから十八か月たちますと、仮にその十八か月以内に四分の一以上の国が、いや、自分のところはそれを受諾しないということになりますと別でございますが、そういうことがない限りは受諾したものと、すべての国が受諾したものとみなされまして、その後十八か月の経過でその引上げの効力が生ずると、こういう普通の条約改正の手続よりは簡易な手続が設けられております。
#63
○木庭健太郎君 最後に大臣に、やはりこの問題を論議するときに、今回限度額が引き上げられたわけですが、やっぱり大きな事故が起きると実損額とその責任限度額に差ができてしまうところに一番の問題があると思うんです。だから、この点に関して、やはり冒頭申し上げたように、私は、被害者の立場というのを最も大事にすべきだと思いますし、国際的な動向を見詰める必要はございますが、我が国として今後この被害者対策、保護というのをどう考えていかれるのか、この点を伺って、質問を終わりたいと思います。
#64
○国務大臣(南野知惠子君) 船主責任制限制度といいますのは、やはり損害が生じるときにはすべてこれを賠償責任の対象とするという、これは民事損害賠償責任に対する特則でございます。被害者保護の見地からいたしますと、その特則が認められる範囲はなるべく狭い方がいいのではないかと、それが望ましいわけでありますので、他方におきまして、船主責任制限制度というのは海運業の保護又は奨励というような見地から国際的に確立した制度であります。
 それで、我が国のみがこれを廃止するということは困難でございますが、そこで、我が国といたしましては、今後とも、条約による船主責任制限制度、これの国際的統一を図る枠組みの中で、なるべく被害者、先生がおっしゃるように、被害者の保護に厚い制度の実現に努めてまいりたいと思っております。
#65
○木庭健太郎君 終わります。
#66
○井上哲士君 日本共産党の井上哲士です。
 この船主責任制限制度については、今日も、被害者が多大な被害を受けながらも十分な補償を受けられない場合があるという問題が指摘をされてきました。その点、今回限度額の引上げなど一定の前進が見られますが、なおやはり問題があると思います。
 まず最初に金融庁にお伺いをするんですが、このPI保険について、組合員数と加入船舶数、それから支払保険件数及び金額がこの五七年の条約制定当時、そして現在、どのように推移をしているのか、いつごろがピークかも含めて、お答えいただきたいと思います。
#67
○政府参考人(大藤俊行君) お答えさしていただきます。
 日本船主責任相互保険組合のまず組合員数につきましてでございますが、一九五七年度、昭和三十二年度末で二百二名、ピーク時が平成四年度でございまして、平成四年度末で五千七百八十九名、それから直近の平成十五年度末で四千百八十名となっております。
 次に、加入船舶数につきましては、昭和三十二年度末で九百七十四隻、ピーク時の平成二年度末で九千六百三十九隻、平成十五年度末で六千百六十二隻となっております。
 次に、支払保険金件数につきましては、昭和三十二年度は二百七十八件、ピーク時の平成四年度には四千九百十一件、平成十五年度は二千六百六十一件となっております。
 正味支払保険金につきましては、昭和三十二年度は九千六百万円、ピーク時の平成九年度には百十二億三千四百万円、それから平成十五年度は七十七億八千万円となっております。
 以上でございます。
#68
○井上哲士君 今回、補償のこの限度額を引き上げるということで、どれぐらいの保険料の増加を金融庁としては見込んでいらっしゃるんでしょうか。
#69
○政府参考人(大藤俊行君) お答え申し上げます。
 本法律改正案が成立し、船舶の所有者等の責任限度額の引上げが行われることとなった場合、日本船主相互保険組合として責任限度額の引上げを反映した保険金額に改める方向で対応していくものと聞いております。仮に、その責任限度額の引上げ分をそのまま反映させて船主責任相互保険の保険金額も引き上げることとした場合、これは一般に保険料の引上げ要素となるものと考えております。
 しかしながら、具体的な保険料率につきましては、船主責任相互保険組合においてこれまでの保険事故、損害賠償の状況及び再保険市場における再保険料の動向等、様々な要素を勘案して検討、改定されていくことになりますので、当局としてその具体的な水準の見通しを申し上げることは困難であることを御理解いただきたいと思っております。
#70
○井上哲士君 先ほどの法務省の答弁では、実際にこの限度額を超える場合が〇・一%程度ということもありましたし、まあ保険料負担で困るようなことはないだろうと、こういう答弁もありました。
 それで、海上保安庁から資料をいただきますと、この間、日本船、外国船の合計した海難事故の数は、一九七五年以来、大体二千隻後半から三千隻ぐらいで、あんまり変化をしておりません。
 今答弁にありましたように、条約ができたころから比べますと随分保険の加入は増えまして、大半入っているという状況なんだと思います。ですから、実際には補償は保険会社が払っているという状況があります。
 そして、先ほど来の質疑にもありますように、法律自身は船主が自ら責任制限の額を超えた補償を払うことは排除してないけれども、実際には保険の定款でそれができないということになっているわけで、制限額以上の賠償というのは不可能だということになっております。そうしますと、どうも海運会社の保護というよりも保険会社の保護の制度に変わってしまっているんじゃないかという気もするわけですけれども、この点いかがお考えでしょうか。
#71
○政府参考人(寺田逸郎君) 今おっしゃいましたように、必ずしも責任制限制度というのがどういう機能を持つかということは保険制度と切り離して考えられないということは、御指摘のとおりであります。しかしながら、これを仮に責任制限がない状態ということを想定してみますと、保険ということを掛けることが本当に可能なのかどうかというところまで含めて、やはり相当大きな問題になるだろうということは、これは国際的に関係者間でほぼ共通の認識でございます。
 当然のことながら、限度額を引き上げると、私どもも、先ほど金融庁も御答弁になりましたように、どのぐらいの保険料に影響するか分かりませんが、しかし引き上げれば保険料は引き上がるということは事実でございまして、これを責任制限を認めないということになりますと、これは相当に難しい状況になるのではないかということは否定できない、このことはひとつ御理解いただきたいと思います。
#72
○井上哲士君 実際にはイギリスの保険会社に再保険を掛けていて、ここが責任制限以外、以上をやらないということになっている仕組みかと思います。ですから、やっぱり保険会社の利益というよりも、船主また特に被害者の利益ということを第一に改善ということが一層考えられなくちゃいけないと思うんですが。その点、今回の改正で旅客の死傷にかかわる損害については責任制限が撤廃になるということは大変前進かと思うんですが。
 一方、人損については制限が残ります。この旅客と人損の死傷というのはどういう区別になっているのか、そして、なぜそれにそれぞれ制限の違いを設けたのか、それについてお願いします。
#73
○政府参考人(寺田逸郎君) 今も、船主責任制限法上も既にそうでございますけれども、人の損害に関する債権、つまり生命・身体が害されることによる損害に基づく債権のうち旅客船の旅客が生命・身体を害される場合も、旅客船の船主に対する損害賠償債権、つまりこれは通常の契約責任と考えられるわけでございますけれども、それは別に扱われておりまして、別に船のトン数でない基準で責任限度額を決めるということになっております。で、今回、それを改めまして、旅客の損害については責任の制限の対象から外すと、こういうことになるわけでございます。
 その理由でございますが、これはもう先ほども申し上げましたように、旅客については契約責任でございまして、契約責任について、様々な運送手段があるわけでございますが、これらにおいて船だけ責任制限をするということはやや異例のことであろうというふうにかねてから認識をいたしておりまして、そういう意味で旅客の損害というのはこれまでも別扱いで責任制限をすることにはなっておりましたし、かつ、今回は責任の制限対象から外すということになっております。
 ちなみに、旅客の損害といいましても、例えば船が衝突した場合の相手方の船の旅客の損害、これは通常の人の損害になるわけでございます。他方、先ほども出ましたが、自分の船の従業員に対する契約責任、これは既に責任の制限から外れております。で、相手方の船の船員に対する責任制限、これは人の損害に関する債権として責任制限の対象になると、こういう構造になっております。
#74
○井上哲士君 そうしますと、先ほど来出てまいりました例えば二〇〇三年のいわゆる第十八光洋丸の事件で、パナマ船籍の船にぶつけられて乗組員一人が死亡し、六人が行方不明になった、三億八千万しか船責法の関係で賠償が出なかったというわけですが、こういう事態については今回のこの制限撤廃があっても事態は変わらないと、こういうことでよろしいんでしょうか。
#75
○政府参考人(寺田逸郎君) 責任限度額が相当引き上げられたということはそうでございますけれども、責任の限度が撤廃されたということの対象にはこの場合には入らないわけでございます。
#76
○井上哲士君 今回、上限が引き上げた部分で、かなりの部分の改善されるということも先ほど答弁もあったわけですけれども、しかし限度額を超えて被害を受けた方、数としてはわずかであってもその人にとっては大変な、甚大な被害になるわけですね。
 しかも、もう一つ矛盾がありまして、例えば大型客船とちっちゃい漁船がぶつかったと。客船の方に専ら責任があると。それぞれに人命の被害が出た場合に、この客船に乗っているお客については責任制限はないと。言わば、被害者である漁船の乗組員については責任制限が掛かってしまうと。お客に罪はないわけですけれども、言わば加害者側の船に乗っているお客については制限がなくて、被害者側についてはあると、こういうことになるわけで、どうも私はこれは矛盾だと思うんですけれども、この点いかがでしょうか。
#77
○政府参考人(寺田逸郎君) これは、同じ人の生命・身体でございますから、なるほど、そこにある種の居心地の悪さというのをお感じになることは、これは否定できないところでございます。
 ただ、自分の船の旅客ということになりますと、これは先ほども申し上げましたように契約責任でございまして、いつ、どういう形で、どういう人がどれぐらい乗せられるかということがあらかじめ計算できるわけでございます。したがいまして、これについての保険というのが、仮に責任制限ができないということを前提に青天井になりましても、そこにはおのずから、他の飛行機等の例もございますけれども、計算があらかじめ成り立つわけでございます。
 しかしながら、これに対しまして、海上企業特有の問題であります、つまり、どこに、どういう相手にどういう損害を与えるか分からないという中に相手船に乗っている人というのが入るわけでございまして、そういう意味では、相手船に乗っている人と自分の船に乗っている旅客との間に差が設けられるということも全体の法律の構造からするとやむを得ないことではないかなというふうに考えてはおります。
#78
○井上哲士君 私は、やっぱり被害者の立場、人命尊重という立場からいいますと、やむを得ないこととしてはちょっと割り切れないことだと思うんですね。局長も、人の命には違いがないと、こういうお話があったわけですから、むしろこの点は更に改善をすべき問題だと思うんです。
 今回のこの責任制限撤廃という問題については、日本が国際舞台でも積極的な提案もしてこられたということがあったわけですけれども、今後、やはり人の死傷にかかわる損害についてはすべて責任制限を撤廃をしていくと、こういう方向も必要かと思うんですけれども、こういう点で、私は是非、国際的な分野でも日本がイニシアチブを発揮するべきではないかと思っておりますけれども、そういう人命尊重という立場で大臣の御見解をお聞きしたいと思います。
#79
○国務大臣(南野知惠子君) やはり、先生がおっしゃるように、人命尊重という立場から国際的な場面におきましてもやっぱりイニシアティブを取ってやっていく方向がいいのかなと、そのように思っております。
#80
○井上哲士君 終わります。
#81
○委員長(渡辺孝男君) 他に御発言もないようですから、質疑は終局したものと認めます。
    ─────────────
#82
○委員長(渡辺孝男君) 委員の異動について御報告いたします。
 本日、関谷勝嗣君が委員を辞任され、その補欠として末松信介君が選任されました。
    ─────────────
#83
○委員長(渡辺孝男君) これより討論に入ります。──別に御意見もないようですから、これより直ちに採決に入ります。
 船舶の所有者等の責任の制限に関する法律の一部を改正する法律案に賛成の方の挙手を願います。
   〔賛成者挙手〕
#84
○委員長(渡辺孝男君) 全会一致と認めます。よって、本案は全会一致をもって原案どおり可決すべきものと決定いたしました。
 なお、審査報告書の作成につきましては、これを委員長に御一任願いたいと存じますが、御異議ございませんか。
   〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
#85
○委員長(渡辺孝男君) 御異議ないと認め、さよう決定いたします。
    ─────────────
#86
○委員長(渡辺孝男君) 刑法等の一部を改正する法律案を議題といたします。
 政府から趣旨説明を聴取いたします。南野法務大臣。
#87
○国務大臣(南野知惠子君) 刑法等の一部を改正する法律案につきまして、その趣旨を御説明いたします。
 人身の自由を侵害する行為の典型である人身取引については、国連において、国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約を補足する人(特に女性及び児童)の取引を防止し、抑止し及び処罰するための議定書、いわゆる人身取引議定書が採択されていますが、近年、我が国でも、人身取引やこれに関連する反社会的行為が発生していることがうかがわれます。
 政府としても、人身取引が重大な人権侵害であるとの認識の下、その防止・撲滅と被害者保護に向けた総合的な対策を進めており、平成十六年十二月には同議定書を早期締結すべきことも盛り込んだ人身取引対策行動計画を策定しております。
 加えて、人身の自由を侵害する行為としては、長期間の監禁事案や悪質な幼児略取誘拐事案、国境を越えた略取誘拐事案など、現行の罰則では適正な処罰が困難な事案も見られます。
 また、同様に国連で採択された国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約を補足する陸路、海路及び空路により移民を密入国させることの防止に関する議定書、いわゆる密入国議定書は、他人を不法入国させることを可能にする目的で行う不正な旅行証明書の製造等の犯罪化等について規定しており、我が国においてもこれに沿った国内法を整備する必要があります。
 なお、政府は、平成十六年十二月、テロの未然防止に関する行動計画を策定しましたが、その中でもテロリストを入国させないための対策の強化が求められているところです。
 この法律案は、両議定書の締結に伴い、また、近年における人身取引その他の人身の自由を侵害する犯罪の実情等にかんがみ、刑法、出入国管理及び難民認定法等を改正し、所要の法整備を行おうとするものであります。
 この法律案の要点を申し上げます。
 第一は、刑法を改正して、人身取引議定書の締結に伴い必要となる罰則の新設等を行うものであります。すなわち、同議定書が定める人身取引の処罰を可能とするため、人身売買の罪を新設するほか、臓器摘出目的を含む生命若しくは身体に対する加害の目的で行う略取等や、被略取者引渡し等の行為の処罰規定を整備することとしています。また、国外移送目的略取等の罪の構成要件を日本国外移送から所在国外移送に拡大するほか、逮捕及び監禁の罪並びに未成年者略取及び誘拐の罪の法定刑を引き上げることとしています。
 第二は、出入国管理及び難民認定法を改正して、人身取引議定書及び密入国議定書の締結並びにテロリストの入国防止のための規定の整備を行うものであります。
 まず、人身取引された者の保護に関し、これらの者につき、一部の上陸拒否及び退去強制の対象から除くとともに、上陸特別許可及び在留特別許可の対象となることを明示し、他方、人身取引の加害者につき、新たに上陸拒否及び退去強制事由を設けることとしています。また、不法入国等を容易にする目的で行う旅券等不正受交付等の罪を新設するほか、船舶等の運送業者に対する外国人の旅券等の確認義務や、外国入国管理当局に対する情報提供に係る規定の整備を行うこととしています。
 第三は、組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律を改正して、今回新設する罪等を犯罪収益等の前提犯罪とするものであります。
 その他所要の規定の整備を行うこととしております。
 以上がこの法律案の趣旨であります。
 何とぞ、慎重に御審議の上、速やかに御可決くださいますようお願いいたします。
#88
○委員長(渡辺孝男君) 以上で趣旨説明の聴取は終了いたしました。
 本案に対する質疑は後日に譲ることとし、本日はこれにて散会いたします。
   午前十一時五十分散会
ソース: 国立国会図書館
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