2004/03/23 第159回国会 参議院
参議院会議録情報 第159回国会 法務委員会 第4号
#1
第159回国会 法務委員会 第4号平成十六年三月二十三日(火曜日)
午前十時開会
─────────────
出席者は左のとおり。
委員長 山本 保君
理 事
松村 龍二君
吉田 博美君
千葉 景子君
木庭健太郎君
委 員
青木 幹雄君
岩井 國臣君
鴻池 祥肇君
陣内 孝雄君
中川 義雄君
野間 赳君
今泉 昭君
江田 五月君
樋口 俊一君
堀 利和君
井上 哲士君
国務大臣
法務大臣 野沢 太三君
副大臣
法務副大臣 実川 幸夫君
大臣政務官
法務大臣政務官 中野 清君
事務局側
常任委員会専門
員 加藤 一宇君
政府参考人
司法制度改革推
進本部事務局長 山崎 潮君
法務大臣官房訟
務総括審議官 都築 弘君
法務大臣官房司
法法制部長 寺田 逸郎君
法務省入国管理
局長 増田 暢也君
─────────────
本日の会議に付した案件
○政府参考人の出席要求に関する件
○弁護士法の一部を改正する法律案(内閣提出、
衆議院送付)
─────────────
#2
○委員長(山本保君) ただいまから法務委員会を開会いたします。政府参考人の出席要求に関する件についてお諮りいたします。
弁護士法の一部を改正する法律案の審査のため、本日の委員会に司法制度改革推進本部事務局長山崎潮君、法務大臣官房訟務総括審議官都築弘君、法務大臣官房司法法制部長寺田逸郎君及び法務省入国管理局長増田暢也君を政府参考人として出席を求め、その説明を聴取することに御異議ございませんか。
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
#3
○委員長(山本保君) 御異議ないと認め、さよう決定いたします。─────────────
#4
○委員長(山本保君) 弁護士法の一部を改正する法律案を議題といたします。本案の趣旨説明は既に聴取いたしておりますので、これより質疑に入ります。
質疑のある方は順次御発言願います。
#5
○松村龍二君 自由民主党の松村龍二でございます。このたびの弁護士法の改正につきまして法務大臣始め政府側に幾つかの御質問をいたしますので、よろしくお願いいたしたいと思います。
昨年の通常国会において弁護士資格の特例を拡充したわけでございます。私の地元でも、ある国会議員が、昨年、総選挙の前に勇退されたわけですが、かなりの御高齢でありますけれども、大学時代に司法試験の資格を取っておると、したがって国会議員を辞めて数か月の今度研修を受ければ弁護士になれるということで、世の中、人のためにひとつ弁護士になると言って準備しておられる方がおられますけれども、そのような弁護士資格の特例を拡充したわけでございますが、今回の改正の趣旨について、昨年行った弁護士資格の特例の拡充との関係も含めて御説明をいただきたいと思います。
#6
○政府参考人(山崎潮君) 弁護士の資格でございますけれども、原則は司法試験に合格をいたしまして司法修習を終えた者に付与されるということになるわけでございます。昨年の通常国会では、多様なバックグラウンドを持った法曹を育てるという観点から、その特例の拡充を法案としてお願いをしたわけでございます。その審議に際しまして、主に二つの観点から御指摘がございました。
今年の四月から始まります二十一世紀の司法を担うにふさわしい法曹を養成するための法科大学院、これがスタートするわけでございますけれども、これを中核とする新たな法曹養成制度がスタートするのであるから、その司法試験に合格していなくても法律学の教授等に対し在職経験のみで弁護士資格を付与する制度を見直すべきであるという御指摘がございました。それからもう一つは、特例が拡充された者については所定の研修を課すのであるから、既に特例とされております司法試験に合格した内閣法制局参事官等についても所定の研修を課すように見直すべきであるという御指摘がございました。
これらの点につきましては、衆参の法務委員会においても附帯決議に付されているわけでございます。
こういうような点を受けまして今回の改正案を提出させていただいたと、こういうことでございます。
#7
○松村龍二君 ただいま御説明ありました中で、一定の範囲の大学の法律学の教授等について司法試験に合格していなくても弁護士資格を付与する特例制度というのが今回廃止になるわけですけれども、司法試験といいますと非常に難しい試験で、難関を突破するために五年、十年の勉強の期間があって、それでも合格しない人がいるというふうなことで有名な司法試験ですけれども、法律学の教授等について司法試験を受けなくても弁護士になれるという特例制度のこの趣旨及び沿革をちょっとお聞かせいただきたいと思います。#8
○政府参考人(山崎潮君) この制度でございますけれども、帝国大学の法科教授ですね、法科の教授に対して弁護士資格を付与しておりました戦前の制度がございまして、これを引き継ぎまして、昭和二十四年制定の現行の弁護士法では、従前の帝国大学法科教授と同等の学識が認められると考えられます国公立及び私立大学の法律学の教授及び助教授に拡張するということがされたわけでございます。その拡張の趣旨でございますけれども、これらの者につきましては、その学識、識見等において法律専門家としてふさわしく、相当な範囲について実務家として必要とされる程度の知識を有すると考えられるため弁護士資格を付与したと、こういう内容によるということでございます。
#9
○松村龍二君 そのような制度によって弁護士登録をした者はこれまで何人ぐらいいるんでしょうか。また、現在、現に弁護士登録をしている者は何人くらいいるのか、お伺いします。#10
○政府参考人(山崎潮君) 日弁連の調べでございますけれども、正確な統計は昭和五十九年からのようでございますので、これ以後の点で申し上げますけれども、五十九年の四月から今年の二月末まで、約二十年間で二百六十七名でございます。現在、弁護士登録をしている者は、三月一日現在で二百五十八名という数字でございます。
#11
○松村龍二君 先ほど沿革を伺いますと、東京帝国大学の法学部、非常に数少ない権威ある方に特別に弁護士に、資格与えるよというのが、戦後、一応大学院のある大学ということに限るにしましても、大変な数の大学と教授、助教授がこの恩恵にあずかるというふうな仕組みになっていたように思うわけです。私どもも、国際法とかいろんな授業を聞きましても、国とは領土と国民と何とかがあるのが国家だというふうな、もういつも、毎年同じノートをしゃべってくれている先生もいたわけですけれども、あんな先生にも弁護士資格が与えられていたのかなというふうにも思うわけですが。
それで、今度、特例制度を廃止する理由を法務大臣、お伺い、それに踏み切った理由をお伺いしたいと思います。
#12
○副大臣(実川幸夫君) 今年の四月から、御承知のように、二十一世紀の司法を担うのにふさわしい法曹を養成するための法科大学院を中核といたしまして、司法試験、また司法修習と連携する新たな法曹養成制度がスタートをいたします。そこで、司法試験によります客観的な能力の検証を受けていない法律学の大学助教授、大学教授等に対します弁護士資格の特例制度は、新たな法曹養成制度を創設する趣旨に合致しないということから廃止することにしたものでございます。なお、先ほど事務局長からも申し上げましたとおり、昨年の通常国会におきまして法律学の大学教授等に対します弁護士資格付与の特例制度を速やかに見直すべきであるとの附帯決議がされたところでもありまして、今回の改正はこれに沿ったものでございます。
#13
○松村龍二君 この改正法の施行日までに既に五年以上法律学の教授等の職にあった者はどのように取り扱われることになるんでしょうか。#14
○政府参考人(山崎潮君) 経過措置の関係でございますけれども、もう現在、弁護士になる資格を有している者につきましては、権利保護の観点から従前の例によるということにしておりますので、これまでどおり弁護士となる資格を有するということになろうかと思います。#15
○松村龍二君 既に五年以上の資格を持っている方についてはそのようなことであるようですが、それでは、改正法の施行日までの在職期間が五年に満たない法律学の教授等はどのように取り扱われるんでしょうか。#16
○政府参考人(山崎潮君) これにつきましては、法の、この法律の施行日までの在職期間が一年以上の者につきましては、平成二十年三月三十一日まで、すなわちこの法の施行後四年間の間に五年の在職期間に達する場合、この場合については所定の研修を要件といたしまして弁護士となる資格を付与するということにしております。先ほど申し上げました、もう既に弁護士資格をお持ちの方、この方については従来の権利と同じでございますので、所定の研修は経ずに弁護士となれるということになりますが、こちらの関係の方はその所定の研修を経るということになるわけでございます。
#17
○松村龍二君 法律学の教授等の在職期間が五年未満の者についても経過措置を講じた理由をお伺いいたします。#18
○政府参考人(山崎潮君) 先ほど経緯のところで申し上げましたけれども、この制度、もう五十年以上経ているわけでございます。弁護士法の所定の法律学の教授あるいは助教授の職に就くためには、通常、大学院の修士課程あるいは博士課程を修了いたしまして、その後に助手や講師として長期間経験を経ることが必要になってまいります。そういうことから、在職期間が五年未満の者についても、五年以上の者に準じた法的素養をもう潜在的にお持ちになっているという実態だろうというふうに考えられます。
今回は、将来の法曹養成の考え方、これを大きく変更いたしましてプロセスによる教育と、こういうことを重視していこうということから、政策的に大学の先生方の法曹資格の取得、これを廃止するわけでございます。そうなりますと、やはり激変緩和の措置を講じる必要があるということになるわけでございますが、ここで一年未満の者ですね、この法の施行日までに一年未満の者につきましては、これはどうしても場合によっては駆け込みでその先生の職に就くということも考えられるわけでございますし、法的にも保護するところまでいくかどうかという問題がございまして、そういう方、一年未満の方については何らのその措置を講じませんけれども、一年以上在職している方については激変緩和のためにこのような経過措置を設けると、こういうことでございます。
#19
○松村龍二君 非常に重箱の隅をつつくような細かい質問で恐縮ですが、在職期間が五年に満たない教授等についての経過措置について、平成二十年三月三十一日までに五年以上の在職期間となる者については弁護士資格を付与することとしたのはどうしてでしょうか。国家草創期のころなら、明治時代から始まった草創期のころに大学の法学部の教授にそういう資格を与えるという、特権を与えるということもあれかと思いますが、特例制度廃止に踏み切ったのに平成二十年三月三十一日までの経過措置期間があるということは、何か踏ん切りが悪いというか、そんな感じもするんですけれども、弁護士資格を平成二十年三月三十一日までに五年以上の在職期間となる者について付与するということにしたのはどうしてでしょうか。
#20
○政府参考人(山崎潮君) ただいま申し上げましたけれども、この制度、それなり一定の、何というんですかね、役割を果たしてきているわけでございますけれども、今回、将来の法曹養成、こういう考え方について、プロセスを重視して、言わば法科大学院を中核といたしましたプロセスを経たそういう人たちを将来法曹に登用していこうというふうに政策変更をしているわけでございます。そこで、一定の役割を果たしたその制度ではございますけれども、それを政策的に変えるわけでございますので、そこでその途中にある方ですね、この方たちをどうするかということが当然に問題視されるわけでございまして、やはり政策的な変更によって一方的にやるわけでございますので、そういう途中の状態にある方についてはやはりその激変緩和の措置を講ずべきじゃないかということを考えたわけでございます。
ただ、一年未満の方につきましては、これは駆け込み的な、乱用的な形態ですね、これを許すことにもなりかねないことからそこは排除をすると、こういうふうに考えたわけでございます。
#21
○松村龍二君 おおむね分かりましたが、これらの経過措置の適用を受ける者を保護することといたしましても、これらの者が弁護士登録を申請することができる期限については制限がこの際設けてありませんが、制限を設けるという、設けるべきであるという意見もありますが、いかがでしょうか。#22
○政府参考人(山崎潮君) 確かにそのような御意見があることも承知をしておりますけれども、司法修習生を終えて弁護士となる資格を有する者、これにつきましても弁護士登録をするかどうか、それをいつするかどうか、全く本人の自由ということになっているわけでございます。この経過措置によって弁護士資格を認められる者につきましても、ルートは違っても資格者であることには変わりはないということになるわけでございます。そうなりますと、やはり弁護士登録をする時期についても、他の弁護士となる資格を有する者と同様に制限を設けるべきではないというふうに考えるのが相当であるというふうに思います。
#23
○松村龍二君 今回提出されました弁護士法の一部改正法案は、今般の司法制度改革の中で、弁護士制度改革については仕上げの法案であるというふうに伺っております。従来、我が国の弁護士については、欧米と比較した場合に、もちろん欧米の弁護士が、イギリス等においても法廷に出る弁護士とそれ以外の弁護士が区別されているとか、アメリカ等においては、もう法学部の卒業生は全部弁護士というぐらい非常に弁護士の数も多いと。また、訴訟の数も国柄によりまして、日本の場合非常に少なくあったというようなことで、戦後の司法試験の合格者も、私ちょっと聞いたところでは、明治時代においてはお医者さんの数と国家試験合格者と弁護士の数は一緒だったというような時代もあったようですけれども、今、お医者さんは年間八千人、司法試験合格者は四百人から始まって今ようやく数が増えていこうとしておる。
その間に、弁護士としては自分たちだけでその仕事を独占してきたというメリットはあったかと思いますが、一面、社会がこうやって複雑多岐にわたってきますと、法律、弁護士の仕事が広く必要になると。弁護士が足りない分をほかの士の行政書士とか司法書士とか、私あれですが、詳しくありませんが、そういうような方々がカバーしてきたというふうな社会の実態が出てきましたり、また昨今、外国との司法関係の争いが非常に激増すると、そういう中にありまして、日本の弁護士がそれに対応する能力がないと、少ないといったことが指摘されていると思いますが、今回の改革を通じましてこれらの問題につきましてどのような改革が行われたのか、最後に大臣にお伺いしたいと思います。
#24
○国務大臣(野沢太三君) 委員御指摘のとおり、今回の司法制度改革の中で、法曹人口の増加、いつでも御相談できる弁護士さんが身近にいるということ、これはもう極めて重要な前提でございまして、おかげさまで、これまで法科大学院の発足等によりまして、そのまず段取りができたことについては大変有り難く思っておるところでございます。法科大学院に対する志望者も大変な数に上っておりまして、恐らく優秀な学生が選抜され、期待にこたえていただけるものと、私どももこれは楽しみにしておるところでございますが。まず、その法曹人口の問題につきまして、平成二年まで司法試験合格者が五百人程度でございましたけれども、その後徐々に増加させまして、平成十四年には千二百人程度にいたしております。さらに、今年からは千五百人程度に増加させることといたしまして徐々にこの数を増やしておりますが、その後も新たな法曹養成制度の整備の状況等を見定めながら、平成二十二年ころには三千人程度とすることを目指すこととしております。
いわゆる弁護士過疎の問題、ゼロワン地帯などと言っておりますけれども、この解消問題につきまして、今、日本弁護士連合会による公設事務所設置などの取組も行われておるところでございますが、政府におきましても、あまねく全国に法による紛争の解決に必要な情報やサービスが受けられる社会の実現を基本理念とする総合法律支援法案、いわゆる司法ネットに関する法案を今国会に提出をしているところでございまして、また御審議をいただくことになろうかと思います。
このほか、弁護士制度につきましては、昨年の通常国会において、弁護士の活動領域の拡大、弁護士報酬の透明化、合理化、懲戒手続の透明化、それから国際的業務等への対応などについて所要の法改正をしていただいたところでございます。
今回お願いしている改正を御承認いただきますと、弁護士法改正による改革はいずれもこの四月一日から実施されることになりまして、法務省といたしましては、今後とも、制度改革の成果が着実に上がりまして国民の皆様が十分な法的サービスを受けられるようになるよう努めてまいる所存でございます。
#25
○松村龍二君 どうもありがとうございました。以上で終わります。
#26
○江田五月君 今日は、弁護士法の一部改正案についての質疑を行います。昨年の通常国会で司法制度改革のための裁判所法等の一部改正案によって弁護士法が改正をされ、これによって弁護士になる資格が整備をされました。
弁護士は、大原則は、これは司法研修所での修習生の修習を終了した者、つまり法曹資格を持っている者ということでございますが、そのほかに特例としていろんな弁護士資格取得の道筋があると。これを整備をしましたが、一部、大学の教授、助教授というものが残っていたわけで、これについての改正が残っていたわけで、昨年の附帯決議においてもその点を整備をするようにということが注文付けられておりましたが、今回はその部分についての整備と。さらに、経過措置、あるいは既にそういう特例によって弁護士になる資格を持っている人たちに対する手当てと、こうしたこともなされまして、これで弁護士資格に関する法整備というのはもう終了したと、こう考えてよろしいですか。
#27
○政府参考人(山崎潮君) 現行の弁護士法で定めております弁護士資格の特例制度の見直しについては、今回が法改正の仕上げと考えております。#28
○江田五月君 そのことをまず確認をしておきます。さて、そこで、この今の大学の教官という特例、これは一体なぜ今まであったんですかね。どういう理由かはお分かりでしょうか。
#29
○政府参考人(山崎潮君) 元々は、明治時代から帝国大学の法科の教授に対して弁護士資格を付与していたという制度がございました。もっと前では、国立大学ですか、旧帝国大学の法学部を卒業していれば弁護士資格がもらえる制度もございました。これは、やはり法曹人口が極めて少なかったという時代に設けられたものというふうに理解しております。その後、帝国大学卒業、法学部卒業者につきましては制度が廃止されましたけれども、その先生につきましてはそのまま残ったわけでございます。戦後、昭和二十四年の現在の弁護士法の改正のときにこれが拡充されまして、帝国大学の先生と同等の学識が認められるというふうに考えられます国公立及び私立大学の先生にもそれを拡充したと、こういうことでございます。
#30
○江田五月君 私も、弁護修習のときの教官は実務修習の弁護士さん、帝国大学の卒業生で弁護士資格を取ったという方でございまして、古い時代にはいろんな資格があったなというようなことを痛感するんですが。つまり、そういう国公私立大学の一定の教授スタッフについては沿革的な理由で弁護士資格があったと。何かそこに特別、弁護士資格を与える、どういいますか、論理的な根拠というものがあったんでしょうか、なかったんでしょうか。#31
○政府参考人(山崎潮君) これにつきましては理由もあったというふうに理解されます。すなわち、これら先ほど申し上げました学者等につきましては、その学識、見識等において法律専門家としてふさわしく、相当な範囲について実務家として必要とされる知識、必要とされる程度の知識を有すると、こういう理由によるものというふうに理解をしております。#32
○江田五月君 なるほどね。法律専門家としての知識、学識を持っていると判断されると、すなわち、そういう一定範囲の大学の法律学の講師という者が法律専門家を養成するまあ根幹の制度になっていたとみなされていたわけですね。しかし、今回の司法制度改革によって、法律専門家というものは法科大学院というのが主たるコースになってきた。法学部の人材養成というのは法律専門家というコースとはちょっと違うものになってきたと。まあ、そちらの大学の法学部というのがこれからどうなっていくのかというのは、これは大問題で、そのことはそのことで重要だと思いますが、それと別に、法律専門家を養う養成の仕方というものが大きく変わってきたので、大学で法律学を教えているということが法曹資格を有する論理的根拠を持たなくなってきたと、これが今回のこの改正の理由ではないかと思うんですが、いかがですか。
#33
○政府参考人(山崎潮君) 御指摘のとおりでございまして、従来の点による選抜、いわゆる司法試験による選抜のみという体制から、やはり法科大学院を中核といたしまして、司法試験、それから司法修習、これをプロセスとして一体としてその法律家を育てていこうと、こういう政策を取ったわけでございまして、そういう政策、考え方からいきますと、この大学の教授につきましては、従来の考え方とやはり異質なものになってくるんではないかということから廃止を検討しろということで、昨年附帯決議もいただきまして、今回提出をしたと、こういうことになるわけでございます。#34
○江田五月君 というわけで、今回は非常に小さな、言ってみれば重箱の隅のような場面ではございますが、大きく司法制度を改革する、法曹養成の制度も大きく変える、それと軌を一にするものであると、こういうことで今回、司法制度改革推進本部からこの法案が提出されているということだと理解をしております。しかし、既にその法律学の教授等を長年勤めていることによって一定のプロセスを経さえすれば弁護士になることができる、そういう期待権を持っておる方々も大勢おられるわけで、その皆さんについてはこれからもその道は残しておくということですが、どのくらい今そういう有資格者というのはおられるんですかね。
#35
○政府参考人(山崎潮君) これは現在登録している、弁護士登録している方は今年の三月一日現在で二百五十八名ということでございますけれども、先生方で潜在的にどのぐらい予備軍がおられるかというのはちょっとなかなか難しいのでございますが、文部科学省の方の平成十四年度の学校基本調査報告でございますか、これによりますと、法学部の教授、助教授の数が三千七十八名とされているわけでございますが、これがすべて該当するかどうかというのはまた違う問題でございますので、この中からの何割か、かなりの数は該当してくるのではないかというふうに考えております。#36
○江田五月君 今回の措置によって、これからは大学の先生の場合も司法試験の合格ということがありますよね。そして、経験要件、研修要件、さらに認定要件、法務大臣による認定、そして弁護士会による受付といいますか、ということになると。これがもう経験要件だけで弁護士会の登録によって弁護士になる部分がまだ三千人前後その資格を持っている人が残っているということになりますので、この弁護士会による登録ですね、これは制度がこれだけ変わってきますと、従来よりは多少チェックをきっちりしたことをやるということになるべきではないかという意見もありそうな気がするんですが、その辺りいかがですかね、ちょっと質問通告はしていないと思いますが。#37
○政府参考人(寺田逸郎君) 弁護士会の登録でございますが、これはおっしゃるとおり、従前は経験要件ということを主として見ていたわけでございます。今後は、しかし、どちらかといいますと、それは既に研修を受ける段階で一定の判断がされるということになりますので、この新しい制度の下におきましては、登録におけるややこしい問題というのは若干は緩和されるのではなかろうかというふうには思っております。
#38
○江田五月君 いや、そうじゃなくて、そうじゃなくて、その新しい制度でこの試験に合格して研修、経験要件、研修要件、法務大臣の認定要件をクリアして登録するのじゃない、今まで既に資格を持っていてすぐ登録で弁護士ができる人が残るわけです。その皆さんに対する弁護士会のチェックというものも、そうしたこれから新しく出てくる人たちはこれだけの審査が要るんだということを踏まえて、多少今までとは違ったチェックというものが、スクリーニングが厳しくなるのかなと、そういう質問なんですが。#39
○政府参考人(寺田逸郎君) その点は、これはもう事実の問題としてはともかく、理論上は全く同じ認定の仕方になろうかというふうに理解しております。#40
○江田五月君 日弁連のペーパーがございまして、その中には改正施行、改正法施行後も従前と同様の手続で、今の皆さんについてはね、審査が行われることになるが、現行五条三号が廃止されることにかんがみ、資格審査の在り方についても今後検討を要するところであると、日弁連の方ではそういう覚悟でおられるようなので、その辺りはひとつ十分な意思疎通をお願いをしておきたいと思います。さて、こういう特例によって弁護士資格が与えられる。これは法曹資格ではなく、したがって判事補とか判事とか検事への任命資格というものは、これはないんですよね。確認です。
#41
○政府参考人(山崎潮君) その点は別問題でございますので、御指摘のとおりでございます。#42
○江田五月君 ところが、一方で裁判所法では、一定範囲の大学の法律学の教授、助教授に十年以上あった者、これは司法試験合格とか研修とかということなく判事及び高裁長官任命資格は与えている。検察庁法では一定範囲の大学の法律学の教授、助教授に三年以上あった者については検事任官資格を与えている。これは一体どうしてなんですかね。これも何かの関係で残ってしまったんですかね。#43
○政府参考人(山崎潮君) 御指摘のとおり、裁判官の、裁判官というか判事ですね、判事の任命資格につきましては、大学の先生十年以上、それから検察官の場合には三年以上ということになっておりますけれども、これはやっぱり判事、検事の給源として多様な法律専門家を確保しようと、こういう趣旨でございまして、そういう趣旨からこれを残しているということになります。#44
○江田五月君 弁護士の給源の方は絞って、どうも判事、検事だけは残る。しかも判事は残るけれども判事補はなれないんですよね。何のことだろうかなと、ちょっとよく分からないですね。よく研究をしてください。そこで、これは判事とか検事とかはそういう資格要件のほかに任命行為というのがあるから、任命のところでちゃんとチェックできるので大丈夫なんですというような説明は受けたんですけれども、まあ次へ行きましょう。
司法制度改革審議会の意見書では、この法科大学院の教官、これは多様な給源から採用することが望ましいということを書いてあるんですね。同時に、法科大学院の教官は法曹資格を持っている者が望ましいということも書いてある。この二つは、法科大学院による法曹養成というのが制度が成熟すれば、それは多様な給源から出てきた者が法曹資格を持つ、そしてこれが教官もちゃんと占めていくということで完成するんですが、そこへ行くまでの間、つまり立ち上げの段階で多様な給源から採用する、そうすると必然的にこれは法曹資格のない教官ができる、その法曹資格のない教官に法曹資格を与えることが望ましいということになれば、その二つの条件を満たすには、少なくとも立ち上げのときの非法曹教官は一定の期間法科大学院で教官経験を持つことによって弁護士資格を付与する道を残すべきである。つまり、大学の法律学というのは、これは法曹専門家の養成のプロセスのわき役になっているけれども、主役の方で、一定期間教官をやっていれば、それは今まで法律学でずっと五年やっていれば弁護士になれたと同じように弁護士資格を与えてもいいんじゃないかという、そういう説があるんですが、いかがですか。
#45
○政府参考人(山崎潮君) 確かに、今委員がおっしゃられたような御意見があるということは承知はしております。ただ、この法科大学院の役割でございますけれども、法科大学院はこの中で理論的な教育と実務的な教育、これを両方やるということでございまして、そこを一体として教えていくというところに特徴があるわけでございます。基本的には相当実務経験の高い、実務能力を有する教員が多い方がいいわけでございますが、ただやっぱり理論教育も必要であるということでございます。
この法科大学院の実務家の教員のいわゆる専任教員の割合でございますけれども、これがおおむね二割以上とされているわけでございまして、その他のいわゆる研究者教員によるそれぞれの専攻分野における法理論的な教育も必要であると、こういう構成になっております。
したがいまして、法科大学院の教員のすべてが弁護士資格を有している必要はなくて、今回の改正によって法科大学院の教育に支障があるというふうには考えておりません。
#46
○江田五月君 どうも今の説明はよく分からないんですけれども、なるべくそういう資格にいろんな複雑なバイパスを残すのはやめようということであろうと思うので、その点自体は結構だと思いますけれども、しかし、今の説明は何だかよく、すとんと胸に落ちません。次へ行きます。
改正案での所定の研修、これは一体どの程度のことを考えておられますか、御説明ください。
#47
○政府参考人(寺田逸郎君) 既に昨年の法改正によりましてこの研修が行われることが決定をしておりますので、その準備を現在いたしているところでございます。研修を行う機関としては、これは日弁連を既に指定してございまして、今回の改正法が仮に成立いたしましても日弁連がそのまま研修の主体として維持されるだろうというふうに見込んでおります。
内容でございますが、現在そういう準備段階でございますので、日弁連といろいろとお話合いをさせていただき、また日弁連の方でも御準備をいただいているところでございますが、基本的には全員が集まりまして集合研修と申しましょうか理論的な研修を行う。これは、当然のことながら、準備書面というものはどういうものでどういうふうに書くかというような書類の書き方もございますし、それから、いわゆる要件事実、民事裁判における要件事実のような理論的なものもございますが、そういうところがまずございます。
しかし、実際にやはり弁護士実務を経験していただくというのも非常に大事ですので、それぞれ個別に弁護士事務所に配属をしていただきまして、そこでの実際の弁護士の方に付いた研修も行っていただく。トータルといたしましては約百九十時間程度を予定いたしておりまして、四分の三が個別の研修と、こういうプログラムで現在検討をしているところでございます。
#48
○江田五月君 最初の一週間の集合研修で準備書面とは何であるか、要件事実とは何であるか、一週間でやるというのはなかなか大変だろうと思いますが、まあ頑張ってください。この研修は、これは今回の大学の教授、助教授に対するものだけではなくて、すべての、企業法務もあります、国会議員もあります、いろんなところから来る人に対する研修なんですが、様々な過去の経験があるわけで、そうすると、研修も様々なカリキュラム、様々なコースで行われなきゃならぬのじゃないかという気も一方でする。しかし、そんなに細かく細かく分けてしまうと、それは、制度設計はとてもできないという気もするんですが、そこはどういうふうにお考えなんですか。
#49
○政府参考人(寺田逸郎君) おっしゃるとおり、従前の司法修習と比較いたしますと、多様なバックグラウンドをお持ちの方ということになるわけでございます。現在、先ほど申し上げましたようにプログラムとしては検討中でございますが、基本的な骨格としては、その方が、例えば行政官であった方、あるいは企業法務に従事されていた方、あるいは国会議員、今度新たに大学教授等も含まれるわけでございますが、そういう方々による差は設けないということで準備をいたしております。
ただ、先ほど申しました残りの四分の三の実務研修の中において個別の弁護士事務所に配属されるわけでございますけれども、どういう弁護士さんを選べばこの方にふさわしいか、あるいは弁護士さんと付いて実際に行われる実務のうち、どういうところに比重を掛ければこの方のいろんなバックグラウンドを足して実際の弁護士の活動の準備ができるかどうか、そういう考慮は当然のことながらいたす、こういう考え方でおります。
#50
○江田五月君 三月八日の法務省令で指定法人は日弁連と決めたということで、これはよろしいですよね。さて、そこで、この研修とそれから司法研修所による修習と、これはどのくらい違うものかということなんですが、機関の違いは当然ありますけれども、どういう違いがあるんですかね、機関の違い以外に。
#51
○政府参考人(寺田逸郎君) まず基本的な性格といたしまして、司法修習はそれを必須要件として、これまで学理的な基礎のある方、能力のある方を実務に適合させようということで行われるものでございます。実際には例外もございますけれども、しかし、大体はバックグラウンドも学生の方々ですので、行われる内容も当然のことながら相当画一的な内容になっております。地位の面で申し上げますと、この司法修習生は国の方から公務員ではございませんけれども採用されると、これは実際には最高裁に採用されると、こういう形を取っておりまして、その立場も、修習に当たっては知り得た秘密を漏らしてはならないということ、あるいは品位を辱めるということなどがありますと最高裁によって罷免がされるというような立場に置かれておられます。身分関係においては、したがいまして、公務員に準じた扱いでございますので、他方で、修習期間中には国から一定の給与を受けると、こういう立場にございます。
これに対しまして、研修の受講生においては全く地位という形で法律上の規定があるわけではございません。事実上研修を受けるという立場にあるわけでございます。したがいまして、法的な身分というものを特に決めてあるわけではありませんし、先ほど申しました守秘義務でありますとか、あるいは何らかの法的な制裁を国によって受けるというようなことは予定されていないわけでございます。
#52
○江田五月君 司法修習生はもちろん一般の公務員ではありません。しかし、たしか共済の短期、長期のいろんな掛金も取られたりしていたような、そんな気がしますけれどもね。いずれにしても、そこは言葉の問題かもしれませんが、一定の立場というものがあって、そして、例えば、民事、刑事の修習をするときには生の記録に触れることができるわけですね。あるいは、裁判所では裁判官と同じひな壇に並ぶようなことさえ、みんながみんなではないかもしれませんが、ある。あるいは、当事者のところへ修習するときには検察官の横に立って法廷で存在を示す。代理人のときにもその代理人の席に座って実際に代理人になったつもりでいろんな実感をするというようなところまでやるわけで、検察修習は、これは意見、議論はありますが、私なんかは平気で取調べの修習もやっておりましたけれども、取調べまでやる。調書は、それは確かに修習生が作った調書に証拠能力を与えるというわけにはいかないでしょうから、そこまではないでしょうが、接見にも一緒に行って接見の様子を自分で体感すると、そういうことまでやる。
しかし、この受講生は、これはどうなるんですか。例えば、記録について弁護士が持っている閲覧権以上のものがあるのかとか、そういうことはどうなりますか。
#53
○政府参考人(寺田逸郎君) 先ほど申しました立場上の違いがございますので、この研修を受ける方については、先ほど申しました秘密についての守秘義務ですね、そういったことがないことの反面、裁判所の合議の中に参加する、加わって傍聴すると、あるいは弁護士会に委託して行うという研修においても、接見でありますとかあるいは和解期日に直接立ち会うということはできないことでございます。ただし、先ほどおっしゃった生の記録でございますが、これは特別な措置はいたしておりませんけれども、その記録にどれだけ接することができるかということは弁護士会と現在協議中でございまして、できるだけ実務のエッセンスのようなものには近づいていただきたいというふうには考えております。
#54
○江田五月君 やはりあくまでこの研修というのは、弁護士事務所で弁護士さんがやっていることを傍らで見ながらなるべく、しかし傍らといっても中まで入れさせていただくという形のものだろうと思います。なぜそんな違いがあるかというと、やはり司法研修所の修習というのは、これは法曹資格というものを得させるために、言ってみればそういう社会的な要請で公的な制度として研修というものがあると。これは、したがってまだ法曹資格まで持ってはいないけれども、そういう資格を取らせるために、取らせるということが社会的な要請であるからいろんなそういう便宜を図りながら育てているということだと思うんですね。
そこに今の司法修習生の給費制と、つまり給料を払って養成をするという根拠があって、一方でこの弁護士会が行う弁護士資格のための研修というものは、そういう公的な面がもうないわけじゃもちろんありませんが、しかしやっぱりそういう資格を得ようとする者がその利益のために受ける研修だと、そこに大きな違いがあるので、片や司法研修所の修習生の場合は給費制になって、片やこの研修の場合には聞くところによりますと受講生から受講料を取ることが検討されているということのようですが、そこはいかがですか。
#55
○政府参考人(寺田逸郎君) 受講料を取るということで検討をいたしております。#56
○江田五月君 どのくらい考えておられるんですか。#57
○政府参考人(寺田逸郎君) まだ現在検討中で、失礼、まだ現在検討中でございますので確たることは申し上げられませんけれども、それほど、何といいますか、多額でこの研修を受けるのに困難が生ずるというような額は考えておりません。#58
○江田五月君 なるべく安い方がいいかとは思いますけれども、つまり、つまりこの受講生からはお金を取るんだから、だから司法研修所の修習生からも金を取ろうとか、あるいは司法研修所の修習生には、これはもう給費制にしないとかという、だからこうというその連関、関連性はありませんねと、そこのところを確認をしておきたいと思います。#59
○政府参考人(寺田逸郎君) これは先ほど委員の方からも御指摘ありましたように、司法修習生の場合は国で養成をする必要があるということでそういう立場に置き、そういう処遇もいたしているわけでございます。今回の制度は多様なバックグラウンドをお持ちの方に弁護士として御活躍いただく余地があるだろうということで検討されたもので、今度の措置が取られるから給費制の問題の議論にどういう影響を与えるかということと直接の関連はないものというふうに私は理解いたしております。#60
○江田五月君 間違っても、この今度の受講生から金取ることを口実に修習生の方の待遇に何かの変更を加えるような、これを口実に加えるようなことは考えていただかないようにお願いをしておきます。研修の内容について、これは日弁連の方でおやりいただくということなので是非お伝えをいただきたいと思うんですが、法曹は、これは言うまでもなく基本的人権に一番かかわる仕事をするわけですね。ところが、その法曹の人権感覚というのがどうも疑われる事例がいろいろと出てきているわけで、裁判官についてさえそうした事例があったということもあるので、是非この人権教育、人権関係の研修はしっかりと、わずか一か月少々という間ではあっても、やっていただくように、これはまずそういう人権関係の研修はしっかりやっていくべきものであるという認識があるかどうか、法務大臣。
#61
○国務大臣(野沢太三君) 人権を守るということは、司法に携わる関係者が最も基本とすべき資質であり前提であると私は考えております。先生も既に長年この御経験を積んでおられますが、日本の憲法もその基本的人権を守るということについては大きな柱ということになっておりますので、この点は、今後の教育制度がどうなりましょうとも、一番基本の問題として我々は取り組むべき課題と思っております。特に弁護士さんは、この司法制度の一翼の中で国民の人権を擁護しまして社会正義を実現するという重大な仕事、使命を持っておる専門家でございますから、人権に対する深い理解とこれを尊重する職業倫理を身に付けている必要があると考えております。
弁護士となる資格の特例の対象者といたしまして、今事務局からも大変るると御説明ございましたが、司法試験等の合格後に法律に関する実務経験を通じて既に優れた人権感覚を身に付けた方も多いと考えております。更に慎重を期するため、現在その内容を検討中でございますけれども、今後の研修では、集合研修において弁護士倫理に関する講義が行われる見込みでございますし、また実務研修におきましても、この特例の事件の処理を通して、弁護士の使命の一つである基本的人権の擁護の実践について様々な形で学んでいただけるものと見込んでおります。
#62
○江田五月君 法務大臣から御答弁をいただきましたので、是非その旨は徹底をさせていただきたいと思います。せっかく法務大臣にお立ちをいただきましたので、恐縮ですが、ちょっとこの弁護士法とは関係ないんですが、一つお伺いをしておきます。
昨年十一月二十六日の予算委員会で、私は法務大臣に、在日ビルマ人、キン・マウン・ラット氏御一家の強制送還の案件について、法務大臣の裁量による在留特別許可を認めるようにお願いをしました。小泉首相は強制送還やむを得ないと。あるいは法務大臣も、私の裁量で左右してはいけない案件だという答弁でございましたが、しかしその後、三月五日に法務大臣は家族全員にこれお認めくださいました。大変すばらしい裁量権の行使だと思っております。
そこで、そのほかに、例えば今、トルコ国籍のクルド人タスクン君とフィリピン人のベルトランさんという夫婦の間に三歳の子供がいるという、こういう家族についての案件とかいろいろあるんですが、この種の、難民に当たるかどうかは別として、ある種の難民的な配慮も必要な事例というのがいろいろある。これは、やはり法務大臣の在留特別許可で裁量で行うということであっても、やはりその裁量に一定のルールが見えてきた方が法的安定性も、あるいは当事者からの予見可能性も高まっていって一定のこの秩序ができてくるんじゃないかと思うんですが、そういう事例の積み重ねでそうしたルールを作っていくには、やはりその事例が公表されていかなきゃならない。そうやって一定のルールを作っていこうと、そんなことが必要かと思うんですが。
このキン・マウン・ラット氏の案件の細かな経過は結構ですけれども、そういうものを通じて、法務大臣、今こういう案件にどういう態度で臨もうとしておられるか、これをお答えください。
#63
○国務大臣(野沢太三君) キン・マウン・ラット氏一家の問題につきましては、委員大変御関心をお寄せいただきまして、私もこの件に関しましては私自身の取組としてしっかりやってきたところでございます。それで、御指摘のように、この御家族をどう今後扱うかということと今後どうするかと、二つ大きな課題があろうかと思いますが、このキン・マウン・ラットさんの対応につきましては、我が国の司法判断では既に国の措置としての帰国という、お帰しするという方向は認められてはおりましたものの、一家をばらばらにしたくない、御一家一緒に暮らせるということを私は大きな一つの条件として考えたわけでございます。そして、できれば一家がそろってどちらか、お父さんかお母さんの母国に帰れればいいかなと思いまして、外交ルート等も通してその道も探ってみたわけではございますが、なかなかその保証が得られない。ということになりますと、やはり一家そろって暮らすという人道上の配慮、これが一つの考え方として大事なルールではないかと思うわけでございます。
一方、我が国のいわゆる不法滞在半減という大きな方針はこれまた守っていかなければなりませんし、また特例措置が重なることによって不法滞在が増加するということもこれまたあってはならない。その中で熟慮を重ねまして、これから、私の判断といたしましては、人道上の配慮、それから個別、キン・マウン・ラットさんの個人的な家庭の事情その他すべて考えまして例外的な在留許可を認めたということでございます。
あくまで、その意味で、個別具体的な御家族の事情、それから日本の大きな方針、そしてまたそのときの社会情勢、それらを積み重ねた形で慎重に判断を重ねるべき課題と考えておるわけでございます。私といたしましては、そういった様々なルールと個別の事情を十分勘案して今回の決定に立ち至ったものでございますが、また別な御家族の問題等もございますので、これについては十分調査を重ねまして慎重に判断したいと考えております。
#64
○江田五月君 家族がそろって住む、特に子の福祉を優先する、これはもう国際社会の共通の大原則ですので、是非そこのところはよろしくお願いします。今日は裁判員制度についてもちょっと導入部分の質問したかったんですが、時間が参りましたので終わります。
#65
○木庭健太郎君 様々な議論がされておりますが、まず一番最初に基本的なことをお伺いしておきたいと思います。この四月から法科大学院を中核としたプロセスとして法曹養成制度が開始されるのに合わせて、これまで衆参の附帯決議でも指摘された、いわゆる司法試験に合格しなくても法律学の教授等に五年以上在籍していれば弁護士資格を付与するという制度を廃止すると。これはこれで当然のことだろうと思うし、評価をいたします。
その一方で、廃止する代わりにということになるんでしょうが、司法試験に合格した後、法律学の教授等に五年以上在職した者に対しては、所定の研修を修了すれば司法修習を経ることなく弁護士資格を付与するということに今回はなるわけでございますが、なぜ司法修習を経ることなく弁護士資格を付与することにしたのかという一番基本的なことをまずお尋ねしておきたいと思います。
#66
○国務大臣(野沢太三君) 御指摘のとおり、今回、法律学の教授等に対する現行の弁護士資格の特例制度は、今回取り組もうとしております新たな法曹養成制度を創設する趣旨に合致しないということで、国会の場からも衆参共々御指摘をいただきまして、これに沿って廃止の方向を打ち出したわけでございますが、これに対しまして、司法試験に合格した後、法律学の教授、助教授に五年以上在職した方々については、法曹となる既に能力を備えているということから客観的に担保をされているわけでございますので、これを前提として、五年以上勤めるということで弁護士になるのにふさわしい専門的な知識、法律的素養を習得することができると考えて今回もここは認めておるところでございますが、また企業関係でこの法曹の仕事をしていた方々につきましても、所定の研修を課した上で弁護士資格を付与するということでございまして、多様なバックグラウンドを持った弁護士を確保して国民の多様なニーズにこたえるということから、この特例制度の拡充と同時に、いわゆる大学だけでやってきたということについては今回打切りということで、ただし特例措置でそこは救済すると、こんな趣旨で固めたものでございます。#67
○木庭健太郎君 先ほどから議論になっているように、今回新たに法科大学院を作るということは、法曹界を構成する、ある意味では大学の授業のやり方そのものも変わっていくんであって、じゃ、大学、法学部という位置付けはどうなるのか、法科大学院という位置付けはどうなるのか。ある意味では、そういう整理を今回はしていった一つの経過だと思うんですよ。そういう意味では、今回その特例を作るわけですけれども、司法試験に合格した、で、法律学の教授等という話になるわけですけれども、そういう今回の改革の一連の意味合いを考えるならば、今回の特例措置というのは、大学の法学部全般、大学全般というよりは、法科大学院で教授等の在職、その経験に限定するというような在り方の方が本来の改革の筋ではなかったんじゃないかなと思うんですけれども、これ法科大学院と限定しなかった理由はどういうことなのか、御説明をいただきたいと思います。
#68
○政府参考人(山崎潮君) 確かに御指摘のような考え方あろうかと思いますけれども、で、法科大学院の先生をやられておるということがある程度中心になるという考え方も当然ございますけれども、ただ、ここで求められているのは、定型的に司法修習を修了した者と同等の高度の法律的素養を習得できると、こういうことが担保されているという、そういう趣旨でございます。そうなりますと、法律学の教授等といっても、法律学を研究する組織、体制が十分に充実していると、そういう担保がされているという大学であれば、やはり法律学を研究する、すなわち法律学を研究する大学院ですね、こういう大学、大学院が置かれている大学、こういう教授、助教授についてもこれを区別する必要はないのではないかというふうに考えたわけでございます。法科大学院に限らず、法律学を研究する学部、専攻科、大学院の法律学の教授、助教授の方もそれなりに相当の能力を備えている方もおられるわけでございますので、これは同列に扱うというふうに考えたわけでございます。
#69
○木庭健太郎君 そうなりますと、今おっしゃったように、今後は司法試験に合格して所定の研修を修了することをもって、要件ですけれども、その教授等が在職することにより司法修習を免除されることになるという今おっしゃった法律学というのはどんな分野が含まれているのかと。例えば知的財産法とか、どんなふうな、これどういう法律学がなるのか、その点についての御説明をいただいておきたいと思います。#70
○政府参考人(山崎潮君) この法律学についてでございますけれども、法律実務家である弁護士にふさわしい高度の法律的素養を習得できる法律学がこれに該当すると。これが抽象的な考え方でございますが、これをもう少し具体的に投影いたしますと、例を挙げて申し上げますけれども、憲法、民法、商法、刑法、民事訴訟法、刑事訴訟法、行政法、破産法、国際私法、労働法など基本的な実体法あるいは手続法と、それからこれらを前提とする実定法学、例えば今御指摘がございましたが知的財産法等の研究、これを研究の対象とする学問、こういうものについてもこの法律学に当たるというふうに考えております。#71
○木庭健太郎君 もう一方で、今回の改正では、司法試験合格後の衆参の法制局参事、内閣法制局参事官の職に五年以上あった者に対しても司法修習を免除されるためには所定の研修を修了することを必要としているが、それはどうしてですか。#72
○政府参考人(山崎潮君) 司法試験合格後に企業法務を担当した者等については、実際に弁護士業務を行うために必要な実務的能力、技能という点については必ずしも十分なものを備えているとは限らないということから、昨年の法改正でその実際に弁護士業務を行うに必要な能力を習得するための研修、これを要求したわけでございます。司法試験合格後に衆参の法制局の参事あるいは内閣法制局の参事官等に在職した者についてもやはり考え方は同様であろうということから、今回その所定の研修を経ることを要件にしたと、こういうものでございます。#73
○木庭健太郎君 そうすると、今お話があっているように、結局、国会議員、企業法務担当者ですか、これらの者と今回新たに規定する法律学の教授、内閣法制局参事官、それぞれに対する研修というのは、さっき江田先生のお答えで同じものをおやりになるのかなとは、こう思ったんですけれども、全くこの人たちについては同じ形の研修をおやりになるのかどうか、違いがどこかあるのかどうか。#74
○政府参考人(寺田逸郎君) 先ほども御説明申し上げたので繰り返しになりますが、現在検討中ということでございます。しかし、基本的な枠組みは同じ、つまり理論面を中心といたします集合研修、それから実務そのものを研修する実務研修、この二つの組合せから成っているわけでございます。ただ、内容面で申しますと、特にこの集合研修におきますカリキュラムというのは、これは基本的に同一のものを受講していただくということになりますが、実務研修においては、これは、どういう方にそもそも付いて、どういうところを中心にやるかということは、その当該弁護士の事務所といろいろ御相談をし、日弁連の方もいろんな形で指導されて決まるものでございますので、内容的には相当幅のあるものになる可能性がございます。
#75
○木庭健太郎君 では、ちょっと関連して、この法科大学院というものの発足後の司法修習の内容についてちょっとお聞きをしておきたいと思うんです。今年四月から法科大学院におけるプロセスの法教育の重視とか新司法試験とかいろんなものが、新たな一つの法曹養成がスタートをするわけでございます。この司法修習も、従来二年間でございましたが、平成十一年からは一年六か月になって、今後、法科大学院を卒業した者が新司法試験を受験するようになると研修期間は更に短縮されて一年間になるということになるわけでございますが、今回この法科大学院と新司法試験を経て行われる新しい司法修習、期間も短縮されるわけでございまして、内容自体も変化をしていくんだろうとは思いますが、ともかく二年から一年、ある意味で半分に短縮されるわけであって、従来とどういう点を違えながら新しいこの司法修習のやり方をお考えになろうとしているのか、この点もお伺いしておきたいと思います。
#76
○政府参考人(山崎潮君) 詳細につきましては今最高裁の方で検討されているという状況でございますけれども、大枠の考え方について申し上げたいと思います。まず、今回の新しい法曹養成制度につきましては、法科大学院、それから司法試験、司法修習、この三つをプロセスとして教育を完成させていくと、こういうことでございまして、現在、司法修習でやっております実務教育の一部を、これを法科大学院の方に移し替えるということをするわけでございます。したがいまして、その間、その分の期間は短縮できるということになるわけでございます。
何を持っていくかということでございますけれども、裁判を起こす場合に、請求する側についてはどれとどれの要件をちゃんと自分の方で主張、立証しなければならないかということ、あるいは相手方としてはどの要件とどの要件を主張、立証しなければならないかという、いわゆる要件事実と言われておりますけれども、この教育を現在司法研修所で行っておりますけれども、これを基本的なものについては法科大学院の方で教えると、こういうふうにしているわけでございます。
したがいまして、一応のことは分かって試験に受かるという前提になりまして、司法修習の関係は、現実に裁判に触れて、そこで応用力とかそういうものをきちっと身に付けてもらうと、これが中心になるわけでございます。ただ、それだけでは足りませんので、最後にやはりそれの総括的な教育をするという必要がございますので、大きく言ってその二つに分かれると、こういう考えでございます。
#77
○木庭健太郎君 そういう意味では一年間掛けて実務のような部分を基本としながらやっていくという教育になると思うんですけれども。もう一つ、是非この司法修習のことでお聞きしておきたかったのは、これは改革本部の方ではございませんが、全体のこの司法修習生への給与の問題でいろいろ今論議がなされているというようなこともお伺いをしております。
今は、これは裁判所法の規定で、司法修習生はその研修期間中一定の給与を受けるというふうに規定されていると。これは習得に専念させる配慮、秘密事項に関することがあるための配慮というふうになされているわけでございますが、これは総合企画改革会議ですか、これが規制改革推進三か年計画の中でこの司法修習の給費制の見直しを提言をし、財務省のこれは財政制度等審議会が昨年六月には給費制は早期に廃止して貸与制への切替えを行うべきとの提言をそれぞれ行っているわけでございます。この司法制度改革推進本部の、これ、養成検討会ですか、これも昨年の七月十四日には貸与制への移行という選択肢を含めて柔軟に検討するとの座長取りまとめが行われていると。
今、どうするのかということも、これについてはまだ一致はしていないというふうに伺っておりますが、これ、現状、どんなふうにお考えになり、どういう検討状況になっているのか、その給費制の見直しについて現状を御報告いただきたいと思います。
#78
○政府参考人(山崎潮君) この司法修習生の給費制の問題でございますけれども、今後における司法修習生の増加に実効的に対応するという面と、それから法曹人口の増加を実現するためにその見直しについて検討を加えているということでございます。御指摘の点についてでございますけれども、法曹養成検討会、私どもにございますけれども、そこで、新たな法曹養成制度の下における司法修習においても司法修習生が十分な修習の実を上げることができるようにする必要があるということなどから、給費制を廃止するとした場合にはその代替措置として貸与制度を設けることなどについて、その具体的な制度設計が検討されているという状況でございます。現在、いろいろな御意見がございまして、検討会の中でまだその検討を継続中という状況でございます。
今申し上げましたような観点から、最終的に修習生の給費制を廃止するのかどうか、あるいは廃止するとした場合にどういうような代替措置が必要なのか、これを今総合的に検討中ということで、もうしばらくお時間をいただきたいというふうに思います。
#79
○木庭健太郎君 私は、どちらかというと、これ、法科大学院ができることによりまして、そこも学ぶ期間かなりの費用が掛かるという問題がございまして、これは文科省にも御努力いただいて、そこについては奨学金制度の新たな仕組みも作らせていただいたり、ある意味では学ぶために金持ちじゃなけりゃできないみたいな制度になってはこれはいけないわけであって、そういう意味で一つの仕組みを作らせていただいたりして法科大学院の一つのスタートができると。もしこれ、司法修習、給与じゃなくて貸与というようなことになっていくとどんなことが起きるかというと、法科大学院のこの奨学金のその分をしっかりためて更に貸与、これ、弁護士なり何かをスタートするときは多分一千万以上ぐらい借金を背負ってのスタートになるんじゃないかなと。それが本来の在り方でいいのかどうかなということも感じますし、また司法修習の内容そのものも、ある意味では、先ほど江田先生御指摘なされたように、ある意味では検事と一緒になって、また裁判官と一緒になって、ある意味ではそういう部分では国家公務員的な役割も果たしながら、勉強ではございますけれども、そういった役割も果たしながらやっている部分もある。
それを考えると、確かに財政厳しいので、いろんな意見が出てくるのはそうだと思うんですけれども、ともかくこの今の給費制を改めるというような問題についてはいろんな意味で慎重に検討する必要が私はあると思っておりますが、大臣の意見を聞いて、質問を終わります。
#80
○国務大臣(野沢太三君) 御指摘のとおり、どんな経済事情にある学生であっても機会は均等にするということは非常に重要なことでございます。ただ、今回のこの司法制度の改革の中でのやっぱり学生を増やすということの中では大変な財政負担も伴う。そこで貸与制の問題が浮かんでいるわけでございますけれども、これからの研修生の勉学意欲、あるいは御指摘のような借金しょってスタートするということについての問題、それから検察あるいは裁判官、弁護士、様々な道が予想されるわけですが、それについてのまた違いがあってもいかがなものかと。公務員との見合いとの関係もあろうかと思います。それらをすべて勘案しまして、この検討会の中で適切な結論を得てしっかりした育成制度を確立したいと思っております。#81
○木庭健太郎君 終わります。#82
○井上哲士君 日本共産党の井上哲士です。本改正案の目的や趣旨については先ほど来答弁がございましたので、それを踏まえた上で、研修の具体的な中身についてまずお尋ねをいたします。
この研修は日弁連が行うことになるということでありましたけれども、その場所、それから、百九十時間ということでありましたけれども、実際にはどのぐらいの期間になるのか、それからそのうちのいわゆる実務研修はどれぐらいの期間になるのか、お答えください。
#83
○政府参考人(寺田逸郎君) あくまで検討中という前提でお話し申し上げますが、場所は基本的には集合研修を東京でするということでございまして、実務研修は今年度は少なくとも東京と大阪という二か所で行うという方向で現在検討中でございます。それから、全体の時間数でございますけれども、先ほどの、百九十時間程度と申し上げましたが、それを実際には一か月の期間に割り振って行う予定でございまして、そのうち実務研修と言われるものは約四分の三ということで御理解いただきたいと思います。
#84
○井上哲士君 実務研修も東京、大阪二か所ということでありますが、今後の課題としては、もう少し全国どこでも参加できるようなことも考える必要があるんではないかと思うんですが、その点いかがでしょうか。#85
○政府参考人(寺田逸郎君) これは今年初めてできる制度でございまして、やっぱり受入れ側の体制というものも考えなければなりません。そういったことで日弁連と御相談申し上げて、現在のところは東京、大阪ということで考えてございますが、将来の動向は、これによってどの程度の方がこの研修を受けられるかというようなことにも関連いたしますが、今後の実際の運用と受講生の動向というものを見てまた考えたいと、このように考えております。#86
○井上哲士君 せめて高裁がある全国八か所とか、それぐらいまで広げることは視野に入れていただきたいと思います。先ほど研修を受講しているときの身分の御議論がありましたけれども、具体的には日弁連と研修受講契約を結ぶということになるんだと思うんですが、具体的な身分としては結局どういうことになるんでしょうか。
#87
○政府参考人(寺田逸郎君) 先ほども御説明申し上げましたとおり、公務員に準じた司法修習生と異なりまして、特に法律上の決められた身分というものはございません。おっしゃるとおり、受講生ということで日弁連の方で研修を行う、その研修機関との約束で研修をさせてもらう、こういう立場になるわけでございます。#88
○井上哲士君 研修中の身分がそういうことになりますと、先ほども少しありましたけれども、弁護士の実務としての秘密交通権に基づく接見であるとか、それから公開法廷でない和解の現場に立ち会うとか、こういう現場の実務ができない者が出てくるかと思うんですが、それは具体的にはどういうことになるんでしょうか。#89
○政府参考人(寺田逸郎君) おっしゃるとおり、一定の立場、法律上の立場がありませんで、また守秘義務等もございません。そういった関係で、今御指摘ありましたような閉ざされた場所での活動、例として挙げれば、接見のときに同行して一緒に接見する、あるいは非公開の和解手続等に加わる、こういうことはできない、こういう理解でございます。#90
○井上哲士君 この研修を受けられる方は正にそういう一番の現場での経験がないという方なわけで、そういう人たちが弁護士になるそのための研修ということになりますと、そういう現場での研修を受けることができないというのは不都合ではないんでしょうか。#91
○政府参考人(寺田逸郎君) これは立案上の問題で、昨年の法改正でそういう形になりましたので私からお答え申し上げるのが適当かどうか分かりませんが、私どもの理解では、この制度というのは、あくまで、本来は相当の実務経験等を経ておられる方々に最終的に、実務の現場に入っていかれる最終段階として必要最小限の枠組みとしての研修を行うと、こういうことでございまして、また研修をお受けになる方々の便宜として、当然のことながらその職を離れずに一定の期間だけ研修に専念していただけると。その期間も極力御不便のないように取り計らって、先ほど申し上げましたように約一か月程度で何とか終わるように考えたわけでございます。そういう性格の研修でございますので、先ほど申し上げましたように、できるだけ実務のエッセンスというものは習得していただきたいとは思いますけれども、本来司法修習生でなければできないような接見への立会いでございますとか、あるいは和解期日への立会いというようなものはなくても何とかなるんではないかという御判断でこういうふうにされたというふうに理解をいたしております。
#92
○井上哲士君 相当な実務の経験を積んできておられる方だということでありますが、しかし最も行われていないのがそういう接見であるとか和解の場面に立ち会うというその現場のことだと思うんですね。私は、こういうものを例えば実際に身に付けていただくために、例えばみなし公務員のような身分保障をして、当然守秘義務も課すという形でそういう現場での研修もできるようにするということも考えられてもよいと思うんですが、そういうことは議論にならなかったんでしょうか。
#93
○政府参考人(山崎潮君) ただいま寺田部長の方から答弁があったと思いますけれども、私どもの検討会におきましても、やはり一定の地位を与えて、それで守秘義務を掛けたり、それから今言いましたような接見等を可能にするとか、そういう議論はされておりませんでした。やはりこれは、本来は司法修習生にちゃんとなって、それで行かれるのが原則でございまして、そちらの選択をするか、あるいはこちらの短期の研修ですね、所定の研修、これを選択するかという問題でございます。したがいまして、短期の研修は、実務に触れていただきますけれども、そのエッセンスですね、これについて触れるということになるわけでございますが、それ以上具体的に本当に身に付けたければ研修所の方に行っていただくと、こういうような考え方でやったわけでございます。
#94
○井上哲士君 本人が身に付けたいかどうかというよりも、そういうことを身に付けた人を弁護士として送り出していくことが必要かどうかということの議論かと思います。これはまあ今後も実際を見て是非御検討いただきたいと思うんですが。併せてお聞きしますけれども、このプロセス重視という大きな法曹養成の流れが出ていく中で、今後はどんどんロースクール卒業した人たちが弁護士にもなっていくわけでありますが、これ、既に五年の資格のある人については特例としてずっと残すということになりますと相当長期にわたってそういう方が出てくるわけですね。そうしますと、一方でプロセス重視の教育を受けた法曹がどんどん養成されると、一方で特例はかなり残るということになるわけでありますが、一定の段階でやはりその研修を課すというようなことも検討があったかと思うんですが、その点はいかがだったんでしょうか。
#95
○政府参考人(山崎潮君) この点につきましては、やはりもう現実に生じてしまっている権利について、それに新たなものを加えるという考え方は、法律の通常の考え方からいくと、それは取らないということでございまして、今後、新しい制度の下あるいは経過措置の下で入ってこられる方ですね、こういう方については当然受けていただきますけれども、もう既に生じて、権利が生じてしまった方については新たなものを遡及的に付加をしないと、こういう考え方でございまして、それについても研修を加えろという意見は余りなかったように私は記憶しております。#96
○井上哲士君 今回の法案は、司法の人的基盤を整備をしていく大きな一環かと思います。それによって、充実した審理を通じて公正で迅速な裁判を受ける国民の権利、保障していくということになろうかと思います。その点で、昨年成立しました裁判迅速化法にかかわって若干質問をいたしますが、私たちは、裁判長期化の原因の具体的な問題の改善なしに二年の期限を定めるということは、これは拙速化につながるということで反対をいたしました。
重大事件の中で長期化をしているものの一つが国賠訴訟であるとか行政訴訟でありますが、それが長期化している原因は証拠の偏在、国や自治体の応訴態度にあるんだということを指摘をいたしました。
当時の質疑で、この迅速化法によって国の応訴態度がどう変わるのかと質問いたしますと、審理の充実を損なうことなく、二年以内の判決という目標の実現に向かって誠実に対応してまいりたいと、こういう御答弁でありました。
その後、法務省としてはどのような対応をしてこられたんでしょうか。
#97
○政府参考人(都築弘君) 裁判の迅速化に関する法律が公布、施行されました昨年の七月十六日付けで法務事務次官から各府省事務次官あてに「裁判の迅速化に関する法律の施行に伴う訴訟遂行への協力について」と題する通知を発出し、協力方を求めております。また、その後、「民事訴訟法の改正等とその対応について」と題するパンフレットを作成いたしまして、関係省庁の担当者に迅速な対応の必要性について説明したところでございます。#98
○井上哲士君 そのパンフレット、私もいただきましたけれども、これ地方での訴訟もかなりあるわけでありますが、地方での徹底というのはどういうふうにされているのか。それから、これ自体どれだけ作られておられて、そしていろんな地方の弁護士の方とか地方自治体の方なども参考にされたいということがあろうかと思うんですが、部数の限りがあるとはいえ、そういうことにもこたえていただけるんですね。
#99
○政府参考人(都築弘君) まず、パンフレットの作成部数でございますけれども、一万五千部と承知しております。次に、地方への周知徹底の問題でございますけれども、私ども、地方支分部局であります法務局あるいは地方法務局というところがございますので、そこに対応方をゆだねておるというところでございます。
#100
○井上哲士君 だれでももらえます、もらえますか。#101
○政府参考人(都築弘君) 今余部がどの程度あるのか定かではございませんので、その辺り確認した上で、例えば公的な形で弁護士会等からもしそのようなお申出がございましたら、検討してみたいと思っております。#102
○井上哲士君 これ読ましていただきましたけれども、この中で、訟務担当者の心構えということが書いてございますが、ここではどのように強調されているんでしょうか。#103
○政府参考人(都築弘君) 御指摘のところでございますので、ちょっと御説明申し上げます。「訟務担当者は、国又は所管行政庁等の指定代理人として訴訟を追行しているわけですから、その訴訟を適正に処理しなければならないことは当然ですが、その結果、国民から裁判の迅速化に反するとの批判を受けるような行為は絶対に避けなければなりません。充実した訴訟対応の水準を維持するための努力とともに、積極的に裁判の迅速化に協力することが求められます。」と、このような記載をしております。
#104
○井上哲士君 国民から裁判の迅速化に反するとの批判を受けるような行為は絶対に避けなければならないと。大変重要かと思うんですが、具体的には各行政庁に何を求めて、どういうような効果を期待をされているんでしょうか。#105
○政府参考人(都築弘君) 訴訟の迅速化に国として協力できるように、所管行政庁等に対しまして訴訟の準備活動の適正迅速化を求めておるわけでございます。具体的に申しますと、準備の前倒しをする、さらには、審理計画を想定した計画的な準備の必要でございます。このような迅速な準備活動をしていただくという体制を充実強化させることによって迅速化の努力をしてまいりたいと考えております。
#106
○井上哲士君 訴訟の準備活動の迅速化など重要なことでありますけれども、やはり一番問題になっておりますのは、やはり国側が持っている証拠が裁判に出されないということでありまして、このことも我々問題にしてまいりました。例えば迅速化法成立前の例ですけれども、昨年の三月に新三種混合ワクチンの副作用を訴えた訴訟の判決がありました。これは、一昨年の五月にいったん結審をしたんですが、その後の七月にある衆議院議員が質問主意書を出しまして、それへの答弁で、この予防接種が開始された直後の三か月の間に児童三人が死亡又は重症となっているという新事実が判明をいたしました。これは、裁判所も審理に重要な影響を及ぼす事実だというふうになりまして、再審理がされて、その結果、原告側は勝訴したと、こういう裁判でありました。
ですから、国会で質問をされたら出されるような資料が法廷には出されなかったと、こういうことがありまして、こういう応訴態度こそ問題があるし、改善をされなくちゃいけないと思うんです。
これ、大臣に是非御決意をお伺いしたいんですが、先ほどのパンフにありました国民から裁判の迅速化に反するとの批判を受けるような行為は絶対に避けると、こういうことを打ち出されたことは大変重要でありますけれども、そうであれば、こういう応訴態度等についても一層踏み込んだ改善をしていくことが必要かと思いますが、その点での御所見をお願いいたします。
#107
○国務大臣(野沢太三君) 裁判の迅速化に関する法律ということで、昨年七月、これが公布されまして、大変これ画期的な、私、法律であると理解をいたしております。ただいま委員御指摘のような個々の具体的な事案について私から申し上げることは差し控えたいと思うわけでございますけれども、この司法制度改革の一連の仕事の中で、裁判の迅速化、それにまた必要な措置をそれぞれ手当てをするということは大変大事なことでございますので、国民の期待にこたえられるように、所管の行政庁の協力体制を確立しまして一層これから迅速な対応に努めてまいるつもりでおります。
#108
○井上哲士君 今後、行政訴訟法の改正案等についての議論もあろうかと思いますけれども、やはり国が持っている、非常にやはりこれが偏在しているということが問題なわけでありますから、こうした証拠の全面開示ということに踏み出していくということを改めて強く求めまして、質問を終わります。#109
○委員長(山本保君) 他に御発言もないようですから、本案に対する質疑は終局したものと認めます。本日はこれにて散会いたします。
午前十一時四十三分散会