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2004/04/27 第159回国会 参議院 参議院会議録情報 第159回国会 法務委員会 第14号
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2004/04/27 第159回国会 参議院

参議院会議録情報 第159回国会 法務委員会 第14号

#1
第159回国会 法務委員会 第14号
平成十六年四月二十七日(火曜日)
   午前十時開会
    ─────────────
   委員の異動
 四月二十二日
    辞任         補欠選任
     小川 敏夫君     江田 五月君
     木庭健太郎君     風間  昶君
 四月二十三日
    辞任         補欠選任
     西銘順志郎君     小野 清子君
     円 より子君     樋口 俊一君
     風間  昶君     木庭健太郎君
 四月二十六日
    辞任         補欠選任
     江田 五月君     大脇 雅子君
    ─────────────
  出席者は左のとおり。
    委員長         山本  保君
    理 事
                松村 龍二君
                吉田 博美君
                千葉 景子君
                木庭健太郎君
    委 員
                青木 幹雄君
                岩井 國臣君
                鴻池 祥肇君
                陣内 孝雄君
                野間  赳君
                今泉  昭君
                大脇 雅子君
                角田 義一君
                樋口 俊一君
                堀  利和君
                井上 哲士君
   国務大臣
       法務大臣     野沢 太三君
   副大臣
       法務副大臣    実川 幸夫君
   大臣政務官
       法務大臣政務官  中野  清君
   最高裁判所長官代理者
       最高裁判所事務
       総局民事局長
       兼最高裁判所事
       務総局行政局長  園尾 隆司君
   事務局側
       常任委員会専門
       員        加藤 一宇君
   政府参考人
       司法制度改革推
       進本部事務局長  山崎  潮君
       厚生労働大臣官
       房総括審議官   井口 直樹君
   参考人
       社団法人日本経
       済団体連合会司
       法制度労働検討
       部会部会長    小島  浩君
       UIゼンセン同
       盟会長      高木  剛君
       弁護士      石嵜 信憲君
    ─────────────
  本日の会議に付した案件
○理事補欠選任の件
○政府参考人の出席要求に関する件
○労働審判法案(内閣提出、衆議院送付)
    ─────────────
#2
○委員長(山本保君) ただいまから法務委員会を開会いたします。
 委員の異動について御報告いたします。
 去る二十二日、小川敏夫君が委員を辞任され、その補欠として江田五月君が選任されました。
 また、去る二十三日、西銘順志郎君及び円より子君が委員を辞任され、その補欠として小野清子君及び樋口俊一君が選任されました。
 また、昨二十六日、江田五月君が委員を辞任され、その補欠として大脇雅子君が選任されました。
    ─────────────
#3
○委員長(山本保君) 理事の補欠選任についてお諮りいたします。
 委員の異動に伴い現在理事が欠員となっておりますので、その補欠選任を行いたいと存じます。
 理事の選任につきましては、先例により、委員長の指名に御一任願いたいと存じますが、御異議ございませんか。
   〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
#4
○委員長(山本保君) 御異議ないと認めます。
 それでは、理事に木庭健太郎君を指名いたします。
    ─────────────
#5
○委員長(山本保君) 政府参考人の出席要求に関する件についてお諮りいたします。
 労働審判法案の審査のため、本日の委員会に司法制度改革推進本部事務局長山崎潮君及び厚生労働大臣官房総括審議官井口直樹君を政府参考人として出席を求め、その説明を聴取することに御異議ございませんか。
   〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
#6
○委員長(山本保君) 御異議ないと認め、さよう決定いたします。
    ─────────────
#7
○委員長(山本保君) 労働審判法案を議題といたします。
 本案の趣旨説明は既に聴取いたしておりますので、これより質疑に入ります。
 質疑のある方は順次御発言願います。
#8
○吉田博美君 自由民主党の吉田博美でございます。
 労働審判法について質問をさせていただきます。
 司法制度改革審議会は平成十三年六月に内閣に意見書を提出されましたが、その中で、国民の期待にこたえる司法制度構築の一環として、労働関係事件への対応強化や仲裁、調停等のいわゆるADRの活用等について提言がなされたと承知しております。
 本法案はこの提言を受けて立案作業が進められたと聞いておりますが、本日は、そのような経緯を踏まえ、幾つかの質問をさせていただきます。
 労働審判制度を導入する趣旨及び意義について、まずお伺いいたします。
#9
○国務大臣(野沢太三君) 労使関係の安定と健全な発展ということは社会の安定にとって欠くことのできない大事な制度と考えておりまして、今回のこの司法制度改革の中でも大変これは身近で利用しやすい制度として私どもは御提言を申し上げているわけでございますが、社会経済情勢の変化に伴いまして、解雇に関する紛争など個々の労働者と事業主との間での権利関係をめぐる個別労働関係に関する民事の紛争が増加をしているところでございます。
 そこで、個別労働関係紛争は継続的な労働関係について生じますし、労働者の生活や事業主の事業活動に大きな影響を及ぼすことから、事案の実情に即した迅速かつ適正な解決が求められているところでございます。個別労働関係紛争について、訴訟とは別の新しい紛争解決手続として、労働関係の専門的な知識経験を有する者が関与し、調停を試みつつ、当事者間の権利関係を踏まえまして事案の実情に即した解決に必要な審判を行う今回の労働審判手続を設けることとしたものでございます。
 このような労働審判制度の導入によりまして、個別労働関係紛争の実情に即した迅速、適正かつ実効的な解決を図ることが労働者及び事業主の双方にとって大きなメリットがあり、我が国社会の発展に大きく寄与できるものと考えております。
#10
○吉田博美君 今も大臣も触れられましたが、この法案が提出された背景として、個々の労働者と事業主との間の紛争が増加していることがあると思われますが、近年におけるこれらの事件の動向についてお伺いいたします。
#11
○政府参考人(山崎潮君) 近年の社会経済情勢の変化に伴いまして、個別労働関係紛争ですね、これを中心にいたしまして労働関係事件が急増しております。
 地方裁判所における労働関係の民事通常訴訟事件の新受事件のちょっと動きを見てまいりますと、平成四年には八百九十二件だったものが十年後の平成十四年には二千三百九件という、この十年間でもかなり増加をしているという数字が出てきております。
 また、このほかにも行政機関等にも多くの相談等が寄せられておりますけれども、ちなみに申し上げますと、都道府県の労働局では平成十四年には、民事上の個別労働紛争の相談件数でございますが、これが約十万件と伺っております。また、あっせんの申請件数も約三千件に上っていると、このように聞いているところでございます。
#12
○吉田博美君 現在、行政機関による紛争解決制度が既にあるわけでございますが、新たに司法の分野で労働審判制度を導入される理由をお聞かせいただきたいと思います。
#13
○政府参考人(山崎潮君) ただいま申し上げました都道府県の労働局で行政機関による紛争解決制度があるわけでございますけれども、これを中心に相談、あっせん等を行っているわけでございます。これらの手続は、比較的軽微な事案の簡便な解決には適するというものでございますけれども、事実やあるいは権利関係に争いがある比較的複雑な紛争の解決を図るということは手続的に難しいということでございます。
 これに対しまして、労働審判手続は、個別労働関係民事紛争を対象といたしまして、紛争の事実関係を審理をしまして、調停が成立しなければ、原則として権利関係を踏まえて労働審判を行うということにしております。それから、労働審判には労働関係の専門的な知識経験を有する者が評決権を持って直接に関与するということにしております。それから、労働審判手続で解決しなかった場合でも、終局的な紛争解決を迅速かつ容易に図るため、訴訟手続との連携を図るということにしているわけでございます。
 これによりまして、解雇事件等の比較的複雑な紛争も含めまして、紛争のより実効的な解決が可能になるというふうに考えておりまして、こういう観点から、新たな制度として裁判所において審判制度を設けるということには十分な意義があるというふうに考えているところでございます。
#14
○吉田博美君 労働審判手続の申立ては当事者のどちらか一方だけの申立てでよいとされておりますが、その理由をお聞かせいただきたいと思います。
#15
○政府参考人(山崎潮君) この申立てを相手方との共同の申立てにするということにいたしますと、もう相手方の一存でこの手続が利用できなくなってしまうと、こういう点がございまして、やはり紛争の実効性、紛争解決の実効性が損なわれるおそれがあるということがございます。
 じゃ、その相手方の不利益はどうかということでございますけれども、労働審判はこの異議申立てによって効力を失うということにしておりますので、相手方の意向にかかわらず手続を進行するということにいたしましても相手方に不利益になるものではないと、こういうような両方の要素を考えまして申立人側の申立てで開始をすると、こういうふうに政策決定をしたものでございます。
#16
○吉田博美君 労働審判員の果たす役割は大変大きいと思うわけでございますが、労働審判員は労働関係に関する専門的な知識や経験を有する者から任命することになっていますが、具体的にはどのような人たちの中から選ばれるんでしょうか。
#17
○最高裁判所長官代理者(園尾隆司君) 労働審判員には、労働者又は使用者の立場から、実際に個別労働紛争の処理等に携わった経験があって、そうした中で個別労使関係についての実情や慣行、制度等の知識を身に付けた方を選定するということが想定されております。
 具体的には、現在、これから鋭意検討をしなければいけないということでございますが、これまでの検討過程で出てまいりました具体例を幾つか挙げさせていただきますと、使用者側の労働審判員といたしましては、企業の側の人事事務に通じていると認められる者でありまして、例えば企業の人事部長や人事担当取締役などがその例として挙げられると思います。
 それから、労働者側の労働審判員といたしましては、労働者の立場での賃金、解雇等の実情に通じた者でありまして、例えば労働組合で賃金、解雇等についての相談業務に当たった経験のある労働組合の役員などが挙げられるというように考えております。
#18
○吉田博美君 労働審判員は全国の地方裁判所に配置されることになると思いますが、全体でどのぐらいの人数が必要となるのでしょうか、お聞かせいただきたいと思います。
#19
○最高裁判所長官代理者(園尾隆司君) これは全く新しい制度でございますので現段階で具体的な予想を立てるということは難しいわけでございますが、ただ、大ざっぱなところということで今の検討しておるところを申し上げますと、全国に五十の地方裁判所がございまして、この地方裁判所のすべてに労働審判員を配置するという必要があります。しかも、一件について二人、労使双方の労働審判員が必要だということがございます。それから、個別労働紛争というのが増加しておる傾向にございますので、事件数も相当あるだろうというように考えられますところから、これは大ざっぱに申し上げまして、少なくとも千名程度の労働審判員というのは是非とも確保しなければいけないというように考えておるところでございます。
#20
○吉田博美君 千名というのはかなりの人数だと思うわけでございますが、それだけの人数を確保するのは大変な作業だと思いますが、人材確保の見通しは付いているのでしょうか。また、選任方式は公募方式とか推薦方式などが考えられますが、いかようになるのでしょうか、お聞かせいただきたいと思います。
#21
○最高裁判所長官代理者(園尾隆司君) 大変難しい問題でございまして、現在いろいろな団体の方々などから御意見を伺って研究中でございますので確たる方針ということが申し上げられる段階ではないわけですが、ただ、この制度に関しまして、良い制度であるから是非協力をしたいというようなお申出がたくさんございます。使用者の側からも労働者の側からもそのようなお申出がありますので、そのような団体の御意見などを聞きながら適切な人材の確保の作業をしていこうというように考えておるところでございます。
 選任方式についても検討中というところでございますが、ただいま御説明をしましたように、全国で少なくとも千名程度の人材を確保しなければならないということになりますと、やはり団体からの推薦をいただくというような仕組みを考えていかなければこれだけの人数を円滑に確保するということが難しいのではないかというように考えておるところでございます。
 細かな詰めに関しては、いろいろ更にその後研究をするということになってこようかと思っております。
#22
○吉田博美君 詰めがかなり必要だと思いますので、取り組んでいただきたいと思います。
 労働審判員は、ところで、だれが任命するのでしょうか。また、身分や手当等はどうなるのでしょうか。
#23
○最高裁判所長官代理者(園尾隆司君) 労働審判員の任命方法については、法律が成立した後に最高裁判所規則で定めるということになります。
 その規則の内容ということになりますが、既に裁判所には調停委員あるいは専門委員というように、民事関係の非常勤の国家公務員を選定して裁判所の手続に関する助力をいただくという仕組みがございますが、そこを参考にして規則を作るということになります。
 それらの調停委員あるいは専門委員につきましては、これは最高裁判所が任命する、任期は二年ということで、手当については非常勤の国家公務員という身分から手当を支給するというようなことでやっておりますけれども、このような先例に準じたような規則を制定していくということになるのであろうというように考えております。
#24
○吉田博美君 労働審判員の構成については適正を確保するよう配慮しなければならないとされていますが、その趣旨は何でしょうか。
#25
○政府参考人(山崎潮君) この規定の趣旨でございますけれども、個々の労働審判員が中立かつ公正な立場で職務を行うと、これは当然でございますけれども、それだけではなくて、労働審判員、委員会ですね、委員会全体としてもその事件の適正な解決を図ることができるよう、その備えるべき知識経験に偏りがないようにするということが必要であると、こういう趣旨でございます。やはり、審判を受ける側から、公平を欠いているというようなことにはならないようにと、そういう注意規定でございます。
#26
○吉田博美君 期日を三回で終結させる、させた場合、申立てから審議終了までおおむねどのぐらいの期間が掛かると予想されているのでしょうか。
#27
○政府参考人(山崎潮君) まだこれ個々の事案によっていろいろ違ってくるかと思いますが、大ざっぱな形で申し上げますと、仮に、月に一回程度期日を入れるということになりまして三回ということになりますと、おおむね三、四か月ということになろうかと思います。
 その間、何でその間を置くのかということでございますが、それなりの準備もいろいろ必要でございますので、大体そういうようなイメージで行っていくというふうに承知をしていただければと思います。
#28
○吉田博美君 一定期間内に適法な異議の申立てがあった場合に労働審判は効力を失い、申立てのときに訴えがあったものとみなすとしていますが、その趣旨は何なんでしょうか。また、このことは紛争解決にどのような効果を期待されているのでしょうか。
#29
○政府参考人(山崎潮君) この労働審判に対しまして、適法な異議の申立てがあったという場合には労働審判はその効力を失うということにしております。
 ただ、その効力を失うという、そのままにしておきますと、紛争状態が解決されないまま残ってしまうということになりまして、この労働審判手続を経たことの意味が失われてしまうということになる。そしてまた、労働審判手続で紛争が解決しなかった場合でも、当事者としては速やかに最終的な解決が図られるということを望んでいるものと通常は考えられるわけでございます。また、訴訟手続へと進むことは当事者の通常の意思にも合致しているだろうというふうに考えられるわけでございます。
 そこで、この法案では、その異議の申立てがあったときに訴えの提起があったものとみなしまして、労働審判手続と訴訟手続との連携を図るということにしたわけでございます。これによりまして、労働審判手続が申し立てられました事件につきましては必ず何かの形で最終的な解決に至るということになるということになります。訴訟手続が後ろに控えるということによって労働審判手続での紛争解決も促進されるという、また逆の効果も考えられるわけでございます。迅速で実効的な紛争解決が図られるということになるということを期待しているわけでございます。
#30
○吉田博美君 この法律は、公布から施行までに二年程度の準備期間を置いていますが、その理由をお聞かせいただきたいと思います。また、その間の具体的な準備作業としては何をなさるのでしょうか。
#31
○政府参考人(山崎潮君) これは、まずどういうことを行うかということでございますけれども、この法律のもう少し細かい決め方を最高裁判所の方の規則で定めなければならないということでございますので、まずその準備が必要であるということ、それから、先ほど最高裁からも答弁ございましたけれども、労働審判員の確保、これ千名単位ということになりますと、時間をいただかないとなかなか確保ができないということ、それとともに、この方たち、必ずしも訴訟に慣れているかというと、そうでない場合もあり得るわけでございますので、その方たちの研修等、こういう点も十分に踏んだ上でこの委員会に入っていただくということが必要になります。それから、これを大いに利用していただかなければならないわけでございますので、これの周知徹底を図るということ、この三つが大体大きな準備行為だというふうに理解をしておりまして、これを大体トータルで行うためには大体二年近くは掛かるだろうということで、二年を超えない範囲で政令で定めると、こういうふうに考えたわけでございます。
#32
○吉田博美君 終わります。
#33
○大脇雅子君 私は、まず総論的に、この労働審判法がどのように運用され、どのような形で労働者の権利や紛争の解決に寄与するかという観点からお尋ねをしたいと思います。
 ただいま、労働訴訟は八百九十二件のうち現行では二千三百二件に上ってきたと、そして、労働局の個別相談も十万件に達し、あっせんが三千件に達しているというふうに言われたわけですけれども、大体、こうした個別紛争の増大の原因は一体どういうところにあるとお考えでしょうか。そして、その紛争の特色といいますか、傾向をお述べいただきたいと思います。
#34
○最高裁判所長官代理者(園尾隆司君) 個別の労働紛争というのが大変増加しておるということでございまして、御指摘のような増加の状況なわけですが、その原因については、これは様々な要素があるというように考えております。
 特に、近時、雇用情勢が大変厳しいというようなことからこの労働紛争が基本的には増加しているというような傾向にあるというように認識をしておるわけでございますが、それぞれの事件についてそれぞれの実情がございますので、大ざっぱに申し上げてそのような状況にあるというふうに考えておるところでございます。
#35
○大脇雅子君 紛争の原因については例えば変化があるのでしょうか。解雇の事件とかあるいは労働基準法違反等々、どのような傾向があるというふうに把握しておられるでしょうか。
#36
○最高裁判所長官代理者(園尾隆司君) 傾向としましても裁判統計上把握できるということではないわけですが、現状までの裁判所のその事件を審理した状況から見てみますと、その内容に関しまして大きな変化があるというようには認識をしていないわけでございますが、数が増えておるというのが特徴であるというように考えております。
#37
○大脇雅子君 そこで、労働審判員を裁判所としては一千名をめどにこれから選任をしていかれるというふうに言われるのですが、大体千人というふうに割り出されたには、本来、この労働審判にかかっていく件数というものが大体どの程度の予測がされているかということが前提になるのではないかと思います。その点で、事件数の予測というものは一体どのように割り出されているのでしょうか。
#38
○政府参考人(山崎潮君) これは、やや推計的なところがある点をお許しをいただきたいと思いますけれども、私どもが大体その頭、イメージを持ったのは、まず、都道府県の労働局の個別労働紛争解決制度、先ほど申し上げましたけれども、この平成十四年の個別労働紛争のあっせん申請数が約三千件と先ほど申し上げましたけれども、これで解決しているものもございますので、そこで解決がされないで打ち切られた事件を考えますと、これが約千四百件ぐらいあるということ、まずこれが一つの固まりであるということでございます。それから地方裁判所で平成十四年の労働関係の民事通常訴訟事件ですね、この新受件数が約二千三百件ということでございます。それから仮処分命令事件のその申請、新受事件ですね、これが約七百六十件ぐらいということでございます。
 これを全部足したのが最大限ということにはなろうかと思いますが、全部来るとも限らないわけでございまして、これは必ずこのルートを通らなければならないということではございませんので、いきなり訴訟の提起ということもできるわけでございます。それから、あるいは仮処分事件で解決をしてしまうというものもあるわけでございますので、それを大体最大限で、それからそれの何割程度が来るかと、こういう事件予想だというふうに御理解を賜ればと思います。
#39
○大脇雅子君 さて、その中で労働審判が行われるわけですが、まず、裁判官は、現在は裁判所には労働部というのがございまして、労働事件を専門に取り扱う部が設けられているわけですけれども、この労働審判というのは、大体この労働部との関係から考えますと、どのような形で裁判官を選任されていくのかお尋ねします。
#40
○最高裁判所長官代理者(園尾隆司君) 労働審判という新しい制度ができるわけでございますが、その審理の仕方、それから進行の特色ということを考えてまいりますと、やはり労働事件を現に担当しておる裁判官に併せてこの新しい種類の事件も担当してもらうのが最も円滑な進行に資するということになるのではないかと考えております。したがいまして、東京地裁あるいは大阪地裁などのように専門部を設けておるというところでは、その専門部の裁判官に併せてこの労働審判事件を担当してもらうということになるであろうというように考えております。
 それ以外の大きな裁判所では、労働事件の集中部というのがございまして、他の事件も処理しますが、労働事件は専らその部で集中するというような体制を取っているわけですが、その裁判所については、同様に労働事件の集中部の担当裁判官に担当していただくという方向が出てくるであろうというように考えております。
 その他の裁判所ではそのような体制まで取っていないということでありますが、そこではやはり通常の労働事件と同じような、その担当裁判官に担当していただくということになっていくであろうというように、そのように予測をしておるところでございます。
#41
○大脇雅子君 そうしますと、申し立てる側から見れば、裁判官はいわゆる労働審判裁判官というような形で外部からはっきり分かるということになるでしょうか。
#42
○最高裁判所長官代理者(園尾隆司君) 労働事件を担当している裁判官が順次この事件を担当するということになりますので、御指摘のとおりに、労働事件を担当しておる裁判官が労働審判官に当たるというようなことが当事者の側からも見えるというように考えておるところでございます。
#43
○大脇雅子君 さて、労働審判員の方でございますが、最も重要なことは、その専門性をいかに確保し、質の高い労働審判員を選任するということであろうかと思います。したがって、その選任手続も、先ほどいろいろ述べておられましたけれども、その任命方法というのは、推薦を基本とするのでしょうか。あるいは、例えば家庭裁判所の調停委員などでいいますと、裁判所、あるいは書記官あるいは調査官の知り合いが順次名簿に指名されていくという方法が取られているわけですけれども、これはどのようにお考えなのでしょうか。
#44
○最高裁判所長官代理者(園尾隆司君) ただいまの労働審判員の選任の方法につきましては、この法律の施行のための検討の最も重要で最も難しい課題であるというように認識をして、現在検討中でございます。
 労働関係に詳しい学者の方々あるいは労使の団体の方々、あるいは弁護士で労働関係事件について堪能な方々というような多数の方々の御意見を伺いながら、現在、どのような方法を取れば最も公正で、しかも質の高い労働審判員を多数確保できるのかということを研究中であるということになります。
 現在までの様々な御意見を総合いたしますと、やはりこれだけの多数の人材を全国に配置するということになりますと、既にその人材についての認識のある団体、これは使用者それから労働者双方の側の団体からの推薦を得るというような方法で人材を認識していくというのが最も現実的な方法ではないかというように考えているわけでございますけれども、今後、更にその点については研究を重ねていかなければいけないというように考えているところでございます。
#45
○大脇雅子君 そこはやはり各種団体の意見を十分聞かれまして、質の高い労働審判員を確保できるかどうかがこの制度の命であろうかと思います。
 さて、具体的な労働審判が行われますときに、代理人というのは通常の訴訟では弁護士に限られ、特殊な場合にのみその他の人が代理人になられるわけですけれども、本件のこの労働審判においては、この代理人選任というのは訴訟とはどのように違うのでしょうか。
#46
○政府参考人(山崎潮君) この労働審判手続におきましては代理人となることができるのは原則として弁護士でございますが、この四条で規定を設けておりまして、労働者の「権利利益の保護及び労働審判手続の円滑な進行のために必要かつ相当と認めるときは、弁護士でない者を代理人とすることを許可することができる。」という規定を設けております。
 この要件に当たるか否かの問題でございますけれども、当事者本人が有する法的な知識、あるいはその当事者本人による手続遂行の困難性とか、あるいは代理人になろうとする者が有する法的知識あるいは当該事案についての理解、こういうものを総合勘案をいたしまして個別の事件ごとに具体的な判断がされるということになるわけでございます。特に具体的な者がその代理人として想定されているわけではございませんけれども、例えば例として申し上げれば、労働組合の専従者等であってもこの要件を満たすということになれば許可されるという対象になり得るということでございます。
 なお、これは当たり前の話でございますけれども、弁護士でない者が報酬を得る目的で業として代理人になるということは、これは弁護士法七十二条に反することになりますので、そういう態様の代理は許されないということになろうかと思います。
#47
○大脇雅子君 さて、これは非公開が原則とされておりますが傍聴はいいというふうな手続になっておりますが、この傍聴の範囲とかそういったものはどこで決まるのでしょうか。
#48
○政府参考人(山崎潮君) 原則としてはこれは非公開だということになるわけでございます。
 非公開ではございますけれども、これはなぜかということでございますけれども、この審判手続は、事件を審理しながら調停を試みまして、その解決に至らない場合に労働審判を行う、そういうような手続でございます。そういうような非訟事件手続であるということから非公開にしているということでございます。
 この中で、非公開ではございますけれども、傍聴を可能にする場合も、その事件関係に深く関与している者等、そういう事案事案を考えまして裁判所の方でその傍聴を許可をするということになるわけでございますので、単純にただ傍聴ができるということではございませんで、その事件関係についてある程度関与をして、事件の内容についても把握しているような方、そういうような方について傍聴を許すと、こういうようなことでございます。
#49
○大脇雅子君 集団的な労働事件を担当する労働委員会では常にこの傍聴をめぐって労使の対立というかトラブルが発生をして、傍聴の人員が制限されたり、あるいは労使の比率で議論がされたりして、なかなかにこれは実務的にはこの非公開と傍聴の問題というのは大きな問題を将来生むのであろうかと思いますので、やはり非公開を原則とするとしても、この傍聴については十分な留意が必要ではないかというふうに思います。
 次に、それぞれの労働審判員を例えば会社の人事の係の人、そして労働組合の相談担当者というふうに選任した場合に、どうしても労働事件というのは労使対立ということが本質的な事象でございまして、それを調停なりなんなり、審判なりで統一していくということは簡単に、法違反がある場合は別といたしまして、なかなか難しいところだと思います。
 例えば労働委員会では、労働委員あるいは使用者委員というのは参与として加わって、判定を下すのは公益委員という形でその中立性が担保されているわけですけれども、本件の労働審判では過半数で評決をするということになっておりますが、この意味は、それでうまくいくのでしょうか。どういうふう、なぜ過半数というふうに決まったのか。これは裁判所の評決は過半数、裁判官の過半数であることは間違いないわけですけれども、こうした労使の対立性の中でのこの過半数評決の意味、そのように取り決められた経過について御質問します。
#50
○政府参考人(山崎潮君) 確かに労働事件を考えますと対立が激しいという問題が起こってまいりますけれども、先ほど来答弁さしていただいておりますけれども、この委員に選任される方につきましては、労使それぞれから現場の経験者等、そういう知識をお持ちの方に入っていただくと、こういうことになりますけれども、ただこれは利益代表ではございませんで、やはりきちっとした労働関係のそれぞれの有識者ということでございまして、そういうような公平なやっぱり判断ができる方、そういう立場で入っていただくということでございます。
 したがいまして、裁判官とともに評議を行いまして最終的な結論を出す、その場合の裁判のルール、どこでもみんな過半数になっておりますので、それと同じに考えたということでございます。
#51
○大脇雅子君 さて、この今回の労働審判が訴訟との連携ということを重視しておりまして、三回という期限を設けて迅速に処理するということですが、まずその申立てが簡易にできなければならないということが絶対要件であろうかと思います。書面であっても簡略なフォームを作るなどして、申立てについてそうした簡易な方法というものを作っていかなければいけないと思いますが、その点についてはどのようにお考えでしょうか。
#52
○政府参考人(山崎潮君) ちょっと、私の方からちょっと制度的な手当てをしまして、あと最高裁の方から運用上の問題をお答えいたします。
 まず、これは若干運用にわたるかもしれませんけれども、申立て書につきましては定型的なものを用意していただくとか、そういう運用上の工夫をまずしていただくということ。それから、事案の内容に応じて、厳格な証拠調べのみならず、参考人等からも事情を聞いたりするなどしてその事実の調査をすることもできるということにしておりまして、簡易迅速に事案の解明を行うことができる、こういうシステムを導入しております。
 そのほか、労働審判書につきましても、理由はその要旨を記載することで足りるということにしているほか、労働審判委員会は、相当と認めるときは、所定の要件の下に口頭で労働審判を行うこともできるというような、そういう制度を導入いたしまして、その簡易迅速な手続の進行に配意をする、こういう手続を設けているということでございます。
#53
○最高裁判所長官代理者(園尾隆司君) この制度は全く新しいものですので、やはり新しい制度に入ってきやすいというようなことについて配慮しなければいけないというように考えているところでございまして、ただいまの御指摘のようなフォームを作るということに関しましても、これは裁判所でもそのような定型的な書式を何らかの形で準備をしていくということが必要であるというように考えております。
 当事者の方々の御意見を伺っても、この制度を使っていこうというような意欲を示していただいておりますので、様々な類型の申立てがありますから、当事者の側でもそのようなフォームについて研究をして発表するというようなことが大変多く行われるのではないかというように期待しておりまして、そのような裁判所側それから当事者側の動きが一致していってこの手続が大いに利用されていくというようなことが図られるように努めたいと思っております。
#54
○大脇雅子君 その審尋、審判といいますか、いわゆる証拠調べでございますが、通常、労働訴訟ないしは労働委員会の審判におきましても、証拠というのは会社側に偏在をしているという例が多く、あるいは労使側で参考人がなかなか出にくいというような状況が審理を遅延させる一つの原因となっておりますが、いわゆる証拠調べというもの、そして当事者の出す証拠、それから職権の証拠調べ、こういったものは一体どのようなものとして考えたらよろしいのでしょうか。
#55
○政府参考人(山崎潮君) この法案では十七条の規定を設けておりまして、労働審判委員会は民事訴訟の例による証拠調べをすることができるというふうにされております。これは例によるということでございますので、これは民事訴訟の法律だけではなくて規則で決められているもの、こういうものも全体として例によるということで、その方式に従って行うということを意味しているわけでございます。
 したがいまして、典型的な例で言えば、証人尋問、あるいは当事者あるいは参考人の審尋とか、それから調査嘱託、文書送付嘱託、こういうものが制度上可能とされているわけでございます。当然、文書の提出という問題もあるわけでございます。
 これをどのように行っていくかということでございますけれども、労働審判手続、原則として三回以内の期日において審理を終結するという手続でございますので、その証拠調べがどの程度行われるということになるかというのはそれぞれ事案事案に応じて変わってくるということでございまして、いろいろ手段はありますけれども、それをどのように使っていただくかはこれからの裁判の運用いかんである、こういうことでございます。
#56
○大脇雅子君 民事訴訟の例によるということになりますと、結局その労働審判に携わる者の心構えというか、争訟のイメージというのは仮処分の審尋のようなものをイメージしておけばよろしいのでしょうか。この点、お尋ねいたします。
#57
○最高裁判所長官代理者(園尾隆司君) この手続は、双方に異議がないという形で受け入れられて終了していくということで効果を発揮するということでございますので、双方にできる限り受け入れられやすい手続ということで、証拠調べに関しましてもそのようなことを念頭に置いて進行していくということになろうかと思っております。
 そういう意味では、民事訴訟に定められた厳格な証拠調べの手続よりも、ただいま御指摘のような保全処分で行われておるような審尋、あるいは調停手続で行われておるような双方の審問の手続、そのような形で、できる限り実態が自然なような形で審判廷に出てくるという工夫をしていくことになるであろうというように考えておりますので、ただいまの御指摘のような柔軟な審理方法が取られることになっていく事件が一般的ではないかというように考えております。
#58
○大脇雅子君 そうしますと、いわゆる証拠収集というのは原則として当事者主義になり、文書提出命令その他というのは職権で行われるというふうに考えられると思いますが、それではこの訴訟に今度は移った場合は、その証拠等については訴訟ではどのように取り扱われるのでしょうか。例えば、審判の資料というのは取り寄せあるいは閲覧その他、自由にその訴訟の中で使えるのでしょうか。
#59
○政府参考人(山崎潮君) これは、労働審判の手続はまず調停的な部分もかなり持つわけでございますので、その調停の成立に向けていろいろな資料を提出するといった場合に、それをそのままその訴訟で使っていいのかどうかという問題も、当事者の意思に反する場合もあり得るということを考えまして、直ちにその証拠が全部その訴訟の証拠になるという構造にはしておりません。
 また、この審理手続でございますけれども、労働審判手続は非訟事件手続でございまして、労働審判委員会もその職責において資料の収集を行う職権主義が取られているというところもございまして、訴訟になりますとこれは当事者主義でございますので、そこでちょっと手続の違いが生じます。そういう点を考えまして、当然に証拠になるということではございません。
 ただ、この審判が係属していた地方裁判所に訴えの提起があったとみなされることになりますので、当事者は容易にその審判手続の資料あるいは労働審判等を謄写することができるわけでございまして、そこで入手したもので必要なものを訴訟で出していただければと、こういうことで考えているわけでございます。
#60
○大脇雅子君 そこは順次運用面で様々な問題点が出てくると思われるわけですが、この制度がどう動くかということは、先ほどからも言われておりますように、労働審判員の人材の豊富さと専門性ということだろうと思いますが、こうした労使関係の専門性を高めるための研修についてはどのようにお考えなのでしょうか、お尋ねいたします。
#61
○最高裁判所長官代理者(園尾隆司君) 研修の内容に関しましては、どのような人材が労働審判員に得られるかというところと大変密接に関係をしておりまして、レベルの高い労働審判員を多数確保するという目標で現在研究を重ねております。そういうことでレベルの高い労働審判員が確保されるということになりますと、まず労働関係の専門的な知識経験に関しましては既にこの労働審判員が習得をしておられるということになりますので、裁判所が担当する研修といたしましては、労働審判手続の流れについてしっかりと理解をしていただく、それから公平公正に行動するという服務規律、これは非常勤の国家公務員としての服務規律のほかに、裁判体の構成員としての公平な行動の仕方というような規律もございますが、そのような研修を行っていくということになるであろうというふうに考えまして計画を練っているところでございます。
#62
○大脇雅子君 時間が参りましたので第一回の質問はこれにて終わらせていただきますが、大体、労働審判法の枠組みがどのようなものとしてこれから運用されていくかということは理解できました。
 どうもありがとうございました。
#63
○木庭健太郎君 今回の法案というのは、正に労働の紛争、長期化してなかなかうまくいっていない現状をどう打開していくかというような問題から成っている問題だと思います。
 ただ、先ほどから議論になっていますが、確かにバブル経済崩壊後、この経済不況でリストラ、企業再編、個々の労働者の解雇や賃金をめぐる紛争そのものが急増しておる、先ほど御報告あったとおりですけれども、確かに私も調べさせていただいて、労働関係の民事事件というのは平成四年は八百九十二件ぐらいだったのが、平成十四年には二千三百九件、確かに二・六倍急増しております。
 その中で、先ほどちょっと要因についても最高裁から少し話はありましたけれども、事務局としてこの辺をどうとらえて今回の法案につながっているのかと。特に、その中で個別労働関係紛争というのがどうこの全体の中で推移しているのかということも含めて、まず現状認識のために教えていただければと思います。
#64
○政府参考人(山崎潮君) 先ほど最高裁の方からも答弁がございましたけれども、要因をちょっと分析をしてみますと、確かに、近年の厳しい経済状況に伴う企業の組織の再編あるいはリストラ等、こういう事態が生じているということで、従来の社会とはかなり大きく変わっているということが前提にございます。
 それから、これ以外に、やはり産業構造の変化が進む中で、企業の人事労務管理の個別化とか多様化、こういうものも進んでいるわけでございます。昔であれば、あるところに勤めて、ずっと一生そこで勤め切って終わるというようなことが典型的に考えられていたわけでございますけれども、どうも現在はそういう状況には大分なくなってきている、そういう意識がかなり強くなっているという状況の中で、企業の方も、順次、雇った者について定期的に昇給していく、こういう考えではなくて、能率給とかいろいろなシステムを入れているわけでございます。そういう意味では、今までの人事管理と相当に変わってきているところがあるわけでございまして、これに伴ういろいろなトラブルが生じてくるということにもなります。
 それから、あとは、就業形態の意識、これも多様化しているわけで、先ほど申し上げましたけれども、終身雇用からパートの形態が多くなっておりますし、あるいは派遣をするというような態様も増えているわけでございまして、そういうような態様の複雑化、多様化に伴った紛争も増えていくと、こういう状況にあるわけでございます。
 この中でどのぐらい増えているかというのが、これ、先ほど最高裁から件数の、あっ、私の方から申し上げました。件数の推移は分かるんですけれども、この中で具体的にこれが個別労働紛争で、これが増えているというちょっと統計がございませんけれども、実感的には、昔は集団紛争事件がかなり多かったわけでございますが、最近は余りそういう事件が多くなくなって、かなり個別の紛争に推移していると、こういう状況にあろうかというふうに認識をしております。
#65
○木庭健太郎君 とにかく、労働事件というのはその労働者の生活基盤にもう直結しますから、ほかの事件と比べてもとにかく迅速な解決というのが求められておるのはそのとおりだと私も思いますし、したがって、諸外国で、今回も審議の過程の中で随分議論されたようですけれども、海外では労働参審制、特別の訴訟手続が準備されて迅速な効果を上げているところもあるようでございます。
 現状、我が国の労働裁判、時間が掛かっていると思いますし、したがって利用もされにくいという現状になっているなと思うんですけれども、そこで、我が国の労働事件の訴訟の審理期間、今どのようになっているかを一応確認をしておきたいと思います。
#66
○政府参考人(山崎潮君) これは最高裁の統計でございますけれども、労働関係の民事通常訴訟事件の平均審理期間でございますけれども、平成四年には十八・五か月ということでございましたが、これが十年後の平成十四年には十二・〇か月ということで、一年で終わる状況になってきたということで相当迅速化してきていると、こういう実績があるということになろうかと思います。
 労働関係紛争につきましては、労働者やその家族の生活に重大な影響を及ぼすおそれがありまして迅速な解決が必要であると考えられますけれども、やはり他方、労働関係紛争においては、やっぱり事案が複雑で対立性がすごく強いというために解決困難な紛争について訴えが提起されるということが多いことから、迅速な解決が困難になっているという事例もあるという状況でございます。
 ただ、最近は、民事訴訟法の改正などによりまして、計画審理等を前提といたしまして、双方代理人の協力を得ることなどによりまして更に訴訟手続の迅速化が期待されているところでございます。また、今後とも最高裁判所の方で運用で努力をされていくということになろうかと思います。
#67
○木庭健太郎君 それでもやっぱり一年という期間がどうなのかを考えれば長いなという気持ちもするわけでございまして、その辺が今回の法案の背景だとも思っておりますが、訴訟でやっぱり時間が掛かるということで、今、解雇事件なんかでは、特に仮処分のこれが本案化現象というんですかね、言わば仮処分で、この制度を多用しているというふうにお聞きをしておるんですけれども、その実態、どうなっているのか、また、こうした現状にどう考えていらっしゃるのかもお聞きしておきたいと思います。
#68
○政府参考人(山崎潮君) 平成十四年の事件数で申し上げますと、先ほど申し上げましたけれども、訴訟事件の新受事件、これは正確に言うと二千三百九件ということのようでございますが、それから仮処分事件ですね、この新受件数が正確に言うと七百六十八件ということになろうかと思います。
 このような相当数の仮処分申請が行われていると、これが実態でございますけれども、これはやはり当事者が仮処分手続によって早期に一定の紛争解決への道筋が付けられるということの期待の表れであろうというふうに思っております。労働紛争関係における迅速な処理、紛争処理の必要性の高さ、これを示すものというふうに理解をしております。
#69
○木庭健太郎君 もう一つ、個別労働関係紛争を簡易迅速に解決するために、最近、これは行政機関による個別労働紛争解決制度が導入されたとお聞きしておりますが、まだ課題が多いという指摘もございます。
 厚生労働省に、これまでの実施状況を伺うとともに、これまでの運用を踏まえて、現状の問題点、課題について、これも所見をお伺いしておきたいと思います。
#70
○政府参考人(井口直樹君) お尋ねの個別労働紛争解決制度につきましては、労働条件その他労働関係に関します事項につきましての個々の労働者と事業主との間の紛争につきまして、紛争調整委員会によるあっせん、あるいは都道府県の労働局長の助言・指導等の制度を設けることによりまして、その実情に即しました迅速かつ適正な解決を図ることを目的といたしまして平成十三年の十月より施行している制度でございます。
 そういうわけで、まだ制度から発足して短い期間でございますが、平成十四年度の一年間で見た場合には、労働に関するあらゆる相談を含む総合労働相談件数というのが六十二万五千五百七十二件、それから労働関係法上の違反を伴わない民事上の個別労働紛争相談件数が十万三千百九十四件、それから助言・指導申出受付件数が二千三百三十二件、それからあっせん申請受理件数が三千三十六件というような状況でございます。いずれも十三年度を平年度化した場合の数字と比べますとかなり増加を示しているわけでございますので、今後とも、制度発足から間もないわけでございますけれども、制度の趣旨であります迅速かつ適正な紛争の解決というような趣旨に沿いまして、運用に努力をしてまいりたいというふうに考えているところでございます。
#71
○木庭健太郎君 その他の労働紛争解決システム、様々考えられるんですけれども、現状について、これもお伺いしておきたいと思います。
#72
○政府参考人(山崎潮君) ただいま答弁ございましたけれども、まず都道府県の労働局における相談、助言・指導、あっせん、こういう個別労働紛争解決制度がまずあります。これ以外に、行政機関で地方労働委員会の一部あるいは都道府県の労政事務所等においても相談やあっせんが行われているというふうに聞いております。それから民間でも、弁護士会等の弁護士団体による仲裁、相談、あるいは労働組合等による労働相談等が行われているというふうに承知をしております。これ以外に当然、裁判手続があると。こういうものを利用しながら解決を図っていると、こういう状況でございます。
#73
○木庭健太郎君 そういう現状を踏まえての今回のこの制度の導入、ある意味では一つの大きな形の進歩だと私は認識をしておるんですけれども、もうこれ、一番のやっぱりこの新たな労働審判の問題でのポイントは、もう言うまでもなく、どんな人がこの審判員という人になるか、この人たちがどうきちんとした仕事ができるのかという、制度の運用の意味でいけばここが一番の今回の法律のポイントだと。もうこれ皆さん、各委員が御指摘になっているとおりだと思います。
 人数の確保も千人程度という人の問題、これは大変な人数の確保だと思っておるんですけれども、いずれにしても、一番この制度を導入する上で大事な問題はこの審判員の人材確保の重要性だと私は思っておるんですが、そういう認識は、これは制度改革推進本部としては御認識はお持ちの上でのお話だろうかと確認をしておきたいと思います。
#74
○政府参考人(山崎潮君) 正にこの手続が動くかどうか、人によるというところがかなり大きいということでございます。この労働審判手続には審判員の方に入っていただくわけでございますけれども、この点は先ほどもちょっと答弁をさせていただきましたけれども、基本的には労使の実務にたけた方ということをベースにいたすわけでございますけれども、それにいたしましてもやっぱり中立公正な判断をできる者ということでございまして、利益代表ではないという、そういう有識者として入られるわけでございます。
 訴訟手続にも理解があり、かつ実務慣行についても十分理解があると、こういう方に入っていただかないとやっぱり紛争が円満に解決をしないということになりますので、ここに最大限の努力をつぎ込まなきゃならないということで、最高裁からもございましたけれども、各、いろいろ団体の方にもいろいろお願いをして、そこのところに遺漏なきように今準備中であるというふうに伺っております。
#75
○木庭健太郎君 今お答えをいただいたわけで、どういう人たちをやるかと、推薦なのか、それともどういう形で募っていくのかと。先ほど最高裁も答弁されていたようでございますし、やはり、そういう団体なり長年やってきたところ、利害団体になってはいけないわけであって、ただ少なくとも知識についてはそういうところがお持ちのことも事実でございまして、そういったところへの推薦の問題も含めて、是非幅広く人材確保できるように御検討もいただいておきたいと思いますし、また、これも先ほどちょっと御答弁があったので重複になるかもしれませんが、私も、やっぱりそういう人たちが千人近く来たとしても、じゃその人たちが担当するときにその人たちに対する教育の問題というのは本当に、ちょっとどんなふうにしていかれるんだろうかということは心配な部分もございますし、やっぱり事前に、それはその問題の専門家であったとしても、先ほど御指摘があったように、例えばこの手続の流れ、裁判の流れになればまたこれは別の問題もあるわけであって、そういったところはしっかりやってもらいたいと、こう思っているわけでございまして、そういった問題も含めて、先ほど若干御答弁ありましたが、この審判員の教育、研修体制というものをどんなふうに一応確立されようとしているのか、改めて答弁をここだけお伺いしておきたいと思います。
#76
○最高裁判所長官代理者(園尾隆司君) ただいまの御指摘の審判員の研修の体制は大変重要な課題であるというように考えて、検討中でございます。
 裁判所内では幸い民事、家事の調停制度というのがございまして、双方で数万人規模の調停委員を選任いたしまして、これは歴史的にも長い伝統があるということで、その研修のノウハウなども蓄積がされてまいっております。
 そういうようなことを参考にしながら計画を立てていきたいというように思っておりますが、その勘どころとなるのがどの点かということについて御説明をいたしますと、まず調停委員の研修などを見てみましても、先ほど御指摘のような手続の理解というのは大変必要なわけでございまして、特に訴訟との連携をどのように考えていくのか、労働審判ではどの範囲を担当して、それで難しければその後どのようになっていくのかということについてのきっちりとした理解が必要であるというように考えているところでございます。
 もう一つは、中立性、公正さという点についてのしっかりした理解ということでございまして、これは一般の社会でそれほど意識がされるということはないわけでございますが、裁判所の手続ではこの点について細心の注意を払っていかなければいけないということがございますので、この点についても厳格な規律、それから行動規範、それからこのように行動したらより公正らしく、より中立性を保って行動できるというような助言、そのようなものも含めて研修体制を整えていきたいというように思っております。
#77
○木庭健太郎君 今回の法案では、審判で解決しなかった場合には最終的な解決を図るため訴訟に移行するということが定められていると。訴訟に移行すると当然長期化、したがって審判での早期解決へというふうになるわけですね。そのためには、労働審判というのが国民にとって利用しやすく身近なものとならなければならないと思うわけでございます。
 諸外国の例では、いわゆるこの訴訟の前の審判という問題については無料としている国もあるようですけれども、まず本制度を利用するに要する費用というものはどんなふうにお考えになっていらっしゃるのか、この点確認をしておきたいと思うんです。
#78
○政府参考人(山崎潮君) これ基本的には、この審判制度、まず調停的な機能を有するわけでございまして、それが解決をしない場合に解決案を示すと、こういう手続でございますけれども、その似たものの制度といたしまして民事調停手続がございます。この調停の手続に係る費用、申立て費用でございますけれども、これと同じ発想で考えているというところでございます。
 確かに期間は短いと、一般の民事調停の方がもう少し時間を掛けてやる場合もあるわけでございます。そういう意味では、三回が原則ですから、期間は少ないんでその分減らしたらどうかという考え方もあろうかと思いますが、ただこれは解決案を示すまでやるわけでございまして、資料も相当出てくる、判断も難しいものもあるということになりますと、それなりに今度また負担も重いということがございます。これ両方を合わせますと、大体また調停と同じような考え方になるのかなと、こういうことで、それに準拠して考えているということでございます。ちなみに、訴訟で起こした場合の手続の半額でその調停が行っているということでございます。
#79
○木庭健太郎君 あと、この利用者のアクセスを考えると、地裁の支部レベルまでということもお考えになる気はあるんでしょうか。一言だけ御答弁いただければ。
#80
○最高裁判所長官代理者(園尾隆司君) この点につきましては、この制度を立案されました司法制度改革推進本部の労働検討会でも検討がされたというように承知をしておりますが、やはり新しい制度ですので、まず本庁できっちりとした運営を確立していくということが重要であるというような指摘であったというように聞いておりますが、裁判所といたしましても、この新しい手続は大変将来にも可能性を秘めた手続でありますので、この施行の段階からしっかりとした運用していかなければいけないという気持ちが大変強いということでございまして、やはり本庁からまずしっかりと運営をしていきたいというように考えておるところでございます。
#81
○木庭健太郎君 最後に大臣に、この問題、例えばこの労働審判も、審判でなく参審制の問題も含めていろんな論議がなされた上での法案提出でございます。その上で、この新しい制度へ向けての大臣の決意を伺って、質問を終わりたいと思います。
#82
○国務大臣(野沢太三君) 今般の司法制度改革におきまして、労働関係事案への総合的な対応強化ということで、個別労働関係に関する民事の紛争が増加している現状にかんがみまして、制度の導入を図り、参審制についても様々な議論を重ねたところでございます。
 このために、労働審判制度を結果的に導入するということにしたものでございますが、この運営につきましては、実際は裁判所がやってまいりますけれども、法務省といたしましても、利用しやすく国民の信頼を得られる制度として円滑に実施され、個別労働関係紛争の迅速、適正かつ実効的な解決が十分に図られていきますよう必要な努力を重ねてまいるつもりでございます。
#83
○木庭健太郎君 ありがとうございました。
 終わります。
#84
○井上哲士君 日本共産党の井上哲士です。
 増加する労働紛争の解決として、私たちは労働参審制ということを求めてまいりましたが、今回の労働審判については簡易、的確、迅速、低額等々、個別労働紛争の解決に大きな力を発揮をするものだと思っております。
 ただ、今、先ほど来議論ありましたけれども、既に個別労働紛争の解決については都道府県の労働局等での処理制度もありますし、また裁判制度もあるわけですね。そういうものがある中で、新たにこういう制度を創設した理由、そしてそれらの制度と違うこの制度の特性ということについて、まず大臣からお聞きをしたいと思います。
#85
○国務大臣(野沢太三君) 都道府県労働局等で行っております行政機関による紛争解決制度では、相談、あっせん等は行っておりますが、これらは比較的軽微な事案の簡便な解決には適するわけですけれども、事実や権利関係に争いのある比較的複雑な紛争の解決を図ることは手続的に難しいと、こういう状況にございます。
 これに対しまして、この労働審判手続は、個別労働関係民事紛争を対象といたしまして、まず第一に、紛争の事実関係を審理し、調停が成立しなければ、原則として権利関係を踏まえて労働審判を行うことができる、二つ目に、労働審判には労働関係の専門的な知識経験を有する者が評決権を持って直接に関与すること、三つ目に、労働審判手続で解決しなかった場合でも、終局的な紛争解決を迅速かつ容易に図るため、訴訟手続との連携を図ることを特性とする手続になっておるわけでございます。これによりまして、解雇事件等の比較的複雑な紛争を含めまして、紛争のより実効的な解決が可能となると考えておりまして、こうした観点から新たな制度として裁判所において労働審判制度を設けることとしているところでございまして、この労働問題の円滑な解決のためには画期的な制度と自負をしております。
#86
○井上哲士君 事案の複雑さ等に対応してこういう新たな制度が作られたわけですが、本当にこれをうまく利用して迅速、的確に解決をするということが大事だと思うんですね。都道府県の窓口に行ってあっせんが不調になって労働審判に来て、そこでまた審判も受けられずに裁判になると、こういうケースも結果としては起こると思いますけれども、やはりこの裁判、そして労働審判、そして行政ADR、ここらをそれぞれの事案にあって当事者が的確に選べるように、こういう新しい制度ができたということをよく周知徹底をすることも必要ですし、それから、窓口でこういうケースについてはこの制度を使った方がいいんじゃないかという的確なアドバイスということも大変大事だと思うんですね。その辺の体制、手だて、こういうことについてどうお考えか、まず厚生労働省からお聞きをいたします。
#87
○政府参考人(井口直樹君) お尋ねの件でございますが、民事調停制度等につきましては、既に都道府県の労働局の相談窓口におきましてリーフレットを配る等のことを行いましてその周知を図っているところでございます。新しく労働審判制ができた場合におきましても、同じように相談窓口等を通じましてその周知を十分に図るというようなことに最大限努力してまいりたいというふうに考えております。
#88
○井上哲士君 同じ問題、最高裁にお聞きをします。
#89
○最高裁判所長官代理者(園尾隆司君) 紛争が複雑化してまいりまして、その解決手段についても法律の手当てがされて多様化しておるということで、これは紛争解決のためには大変良いことでございますが、御指摘のように大変複雑になるということで、その手続選択というのが大変重要な位置を占めるということになるというように認識をしておるところでございます。
 裁判所の手続といたしましても、地方裁判所の通常訴訟に加えてこの労働審判という制度ができますし、簡易裁判所の少額訴訟、通常訴訟、それから調停というような選択肢もございます。そのような中で何を使うのが最も適切かということに関しましては、これはよく情報を提供するということが重要だというように考えておりまして、手続選択に関しましては裁判所の窓口での何らかの説明をこれからも検討していくということで現在研究中でございます。
 そのほかに、特に弁護士会での相談ということに関しまして、これは大変相談者が多いということですので、よく連携を取って、手続教示、手続選択ということについて情報ができる限り正しく流れるように協力をし合ってやっていきたいというふうに考えております。
 ただいまの都道府県の労働相談に関しましても、これともよく連携を取っていくというような必要がございまして、これは紛争解決に当たるという職責を負っておる者が十分に連携をしながら検討していく課題だというように認識をしております。
#90
○井上哲士君 推進本部は十月末までという期限になっておるわけでありますけれども、そういう今の例えば厚生労働省、最高裁などなどを通じて、この周知徹底や相談での仕分けというんでしょうか、ということのコーディネート、全体の責任というのは、これはどこが、法務省が取っていくということになるんですかね。
#91
○政府参考人(山崎潮君) 確かに十一月三十日までの期限でございますので、その間は私どもの方でいろいろなコーディネートの関係もやらしていただきますけれども、この本部が終わった以降はこの法律の所掌は法務省になりますので、それは法務省の方にお願いするということになろうかと思います。
 いずれにしましても、今厚労省の方とそれから裁判所の方からございましたけれども、もう一つは、やっぱり労働組合あるいは使用者団体、そういうところを通じてもこの制度のPR、周知徹底が必要かというふうに考えておりまして、特に民事訴訟法で少額裁判、これを導入して今爆発的にこの利用が増えているわけでございますが、先ほどちょっと件数は申し上げましたけれども、これも使い勝手がいいものだということになればどんどん件数が増えていくことになろうかというふうに認識をしておりまして、その辺のPRはしっかりやりたいと思っております。
#92
○井上哲士君 いい制度ができても知られなければ使えませんので、是非それをお願いをしたいと思います。
 その上で、これも本当に各委員からありましたように、この制度の命は正に適切な労働審判員を十分に確保できるかどうかということかと思います。労働関係に関する専門的な知識経験を有する者のうちから任命すると九条でなっているわけですが、先ほど最高裁から答弁もありましたが、推進本部としては、例えば法文上は弁護士や学者等も排除されないかと思うんですが、どういうような選任を想定をされているんでしょうか。
#93
○政府参考人(山崎潮君) これにつきましても、先ほど最高裁の方から答弁がございましたけれども、基本的に考え方は同じでございまして、労働者あるいは使用者の立場で実際に事件の処理等に携わった経験がある者、そうして、中でその労働関係についての実情や慣行、制度等の知識を身に付けた者、こういう方がまず原則として想定をされるということになります。こういう方を中心に選任をしていくということになろうかと思いますが、ただこれに限定をしているわけではございません。
 したがいまして、可能性といたしましては、これ以外の方、例えば弁護士、学者等、こういう方ももちろん選任の対象になる。ただし、実務的な問題、そういうところについて知識経験がちゃんとあって中立的に判断ができる方ということは、それはかぶりますけれども、別にそういう方についても排斥はしていない、これからの運用の状況の中で決められていくと、こういうことでございます。
#94
○井上哲士君 要するに、労働法学者であっても、法律に詳しいだけじゃなくて具体的なそういう現場の労使関係等に、いろんな紛争解決に携わったりそういう経験がある人と、こういうことでよろしいんですか。
#95
○政府参考人(山崎潮君) 別に全部決め付けるわけではございませんけれども、基本的に、ただ学者で知識を持っているというだけではなくて、やっぱり現場のことについてよく御存じの方という方が一番適任であるということでございます。
#96
○井上哲士君 これに基づいて最高裁がこの労働審判員の選任についての規則を定めることになっております。施行までに推薦も受けてその人たちの研修もするということも必要なわけですから、早くこれを決めるということが必要かと思うんですが、その辺の検討状況というのはどのようになっているでしょうか。
#97
○最高裁判所長官代理者(園尾隆司君) この法律の施行のためには二つの最高裁の基本的な規則を制定するという必要がございまして、まず手続の細則に関する労働審判規則というように呼ばれるであろう規則を制定するという必要がございます。それからもう一つは、労働審判員の任命等に関する事項について定める労働審判員規則というふうにでも呼ばれるであろう規則を制定するということでございます。
 これは、現在も準備作業ということでいろいろ研究を重ねておりますが、法律が成立いたしましたら直ちにこの制定作業に入っていくということになります。施行までに二年というようなことが最大限の規範として示されておりまして、そのようなことも考えまして、いずれも一年内外というようなところで規則の立案をしていきたいというように考えております。
#98
○井上哲士君 労働審判員について現場での経験を持っていらっしゃる方と、こういうことだと思いますが、そうしますと、検討会でもいろんな議論がされております。使用者でいいますと、中央レベルでは日本経団連とか地方の商工会議所等々が推薦母体になるんではないかとか、労働側でいいますと中央、地方の様々なナショナルセンターなどが人材の供給源や推薦の母体になるんじゃないかと、こういうような議論もされておりますが、大体こういう考えでよろしいんでしょうか。
#99
○最高裁判所長官代理者(園尾隆司君) この多数の人材を確保するために推薦を得るという必要があるであろうというような検討をしておるところでございますが、その推薦をいただく方法について、公平さ、公正さを確保するのにはどのようにしたらよいのかということが現在の最も大きな検討課題ということになっております。これにつきましては、労働検討会でこの制度を立案された法律学者、それから弁護士、あるいは労使の関係者の方々、あるいはその他の団体の御意見でこのような希望があるというような方々の御意見についても現在伺っておるところでございまして、できるだけ広く御意見を伺って最終的な立案の方針を立てたいというふうに考えておるところでございます。
#100
○井上哲士君 この制度と似た制度で労働委員会の制度があります。この選任については、昭和二十四年に第五四号通牒というのが出ておりますが、労働者委員の選考に当たっては、産別、総同盟、中立等系統別の組合員数に比例させるとともに、産業分野、地域別等を十分考慮することと、こうしております。こうしたものも考慮をしながら、やはり公平公正な選任基準で職務を担うにふさわしい方を選んでいくということが必要でありまして、例えば特定の労働組合組織の違い等による排除などはあってはならないと思うんですが、この辺は確認してよろしいでしょうか。
#101
○最高裁判所長官代理者(園尾隆司君) 公平公正という形で認められるというような選任方法ということで、具体的には、今様々な御意見を伺って検討しておるところでございますので、そのような研究を続けたいというように考えておるというところで、現在の段階での御説明としてはこの程度にさせていただきたいと思います。
#102
○井上哲士君 地労委の労働者側委員の任命ということは様々な問題もありまして、昨年七月に福岡地裁で判決も出ております。この労働者側委員の任命で特定の潮流を排除するということは知事の裁量権の逸脱だと、こういう判決も出されております。こういうことを踏まえた中立公正な選任が本当に必要だと思いますし、そのことが新しい制度への信頼感にもつながっていくことかと思います。そのためにも、本当に幅広く意見を聞くことをやっていただいているわけですが、労働側でいいますと、すべてのナショナルセンター等の意見を聴取をすると、そういうことでよろしいんでしょうか。
#103
○最高裁判所長官代理者(園尾隆司君) その意見の聞き方についても、現在もう既に意見を述べたいというようなお申出のところもございまして、そのような様々な意見を順次聞くというような考えで作業をしておるということでございます。
#104
○井上哲士君 是非、幅広く意見を聞いて中立公正な選任をお願いをしたいと思います。
 それから、先ほどもありましたように地裁本庁からまず始めるというお話でありました。ただ、大都市圏には、八王子とか川越とか、地方の地裁よりも随分大きな規模の支部もありますし、そうしたところにはこうした個別労働紛争などもかなりかかっているということがあります。例えば、そういう大規模支部などはできれば地裁と同時に、少なくとも早い段階で立ち上げていくということも必要かと思うんですが、その辺のお考えはいかがでしょうか。
#105
○最高裁判所長官代理者(園尾隆司君) この労働審判制度、立案がされて、この段階で法律についての審議がされておるということでございますが、裁判所としてはこの施行を迎えてとにかく最初にきっちりとした立ち上げを行うということに全力を尽くしておるところでございまして、そういう意味で、まず地方裁判所の本庁というところで手続が円滑に進むような研究をしておるところでございます。
 御指摘のような大規模支部がございます。東京地裁の八王子支部、あるいは関西でいいますと堺支部、九州でいいますと小倉支部というように大規模な支部がございます。ここの辺りについてどうするのかというようなことの御指摘でございます。事件数も相当数あるというのは全くそのとおりでございます。これについてどのようにするかにつきましても、そのような支部の交通の便などを考えまして、現在のところ、まず本庁についてしっかりと整備をしていくというような、そういう基本的な方針の下に研究を重ねておるという段階でございます。
#106
○井上哲士君 当面は本庁だけということになるようですが、ただ代理人が付かない場合などは当事者の方が支部に申立てをされるということも予想されます。特に、労働紛争の最中の労働者の方などは、なかなか休みを取ってもう一回出直すということも困難な場合が多いわけなので、そういう支部に申し立てられた場合、それから、先ほど少額訴訟の関係でこういう労働問題も簡裁等に来るということもございました。そういう際に、ここは駄目だからということで門前払いをして、ちゃんと本庁に行ってくださいということではなくて、例えば回付をするなど、できるだけ申立人の意に沿うような運用が必要かと思うんですが、この点はいかがでしょうか。
#107
○最高裁判所長官代理者(園尾隆司君) まずもって、この手続の内容、管轄の内容ということについてよく情報をお知らせをして、できる限り過ちのないような申立てがなされるように努めたいというふうに思っておりますが、万が一、例えば郵便で申立て書が送られてきた、あるいは、ある裁判所の窓口に来られたけれども、自らその本庁に持っていくということについては、その事情でもってこれは裁判所で何とかしてくれないかというようなこともございます。そのような場合には、裁判所といたしましては本庁に回付するという手続を取ることになります。
#108
○井上哲士君 終わります。
#109
○委員長(山本保君) 午前の質疑はこの程度にとどめ、午後一時まで休憩いたします。
   午前十一時三十一分休憩
     ─────・─────
   午後一時開会
#110
○委員長(山本保君) ただいまから法務委員会を再開いたします。
 労働審判法案を議題といたします。
 本日は、本案の審査のため、お手元に配付の名簿のとおり、三名の参考人から御意見を伺います。
 御出席いただいております参考人は、社団法人日本経済団体連合会司法制度労働検討部会部会長小島浩君、UIゼンセン同盟会長高木剛君及び弁護士石嵜信憲君でございます。
 この際、参考人の方々に一言ごあいさつ申し上げます。
 本日は、御多用のところ本委員会に御出席をいただきまして、誠にありがとうございます。
 参考人の皆様方から忌憚のない御意見をお聞かせいただきまして、今後の審議の参考にいたしたいと存じますので、どうぞよろしくお願いいたします。
 議事の進め方でございます。まず、小島参考人、高木参考人、石嵜参考人の順に、お一人二十分程度で御意見をお述べいただきまして、その後、各委員の質疑にお答えいただきたいと存じます。
 なお、念のため申し添えますが、御発言の際は、その都度、委員長の許可を得ることとなっております。また、各委員の質疑時間が限られておりますので、御答弁は簡潔にお願いいたします。
 なお、参考人の方の意見陳述、質疑及び答弁とも、着席のままで結構でございます。
 それでは、小島参考人からお願いいたします。小島参考人。
#111
○参考人(小島浩君) 日本経団連の司法制度労働検討部会の部会長をしております小島と申します。どうぞよろしくお願いいたします。
 御高承のとおり、司法制度改革という一大国家プロジェクトの中で労働関係事件の迅速かつ適正な処理についても多くの議論がなされてまいりました。私どもは言わば当事者の一方であるという立場から、これまでいろいろ議論に参加させていただきました。
 他の多くの分野と同じように、労働関係につきましても、裁判のための時間が掛かり過ぎるのではないかというような批判がよくございます。しかしながら、ここ数年、裁判所の御努力によりまして審理期間の短縮が進んできておりまして、初審の審理期間は平均十二か月というところまで下がってきているというふうに理解しております。高裁レベルなどでは相当速くて、こんなに速いのかと驚くほどのスピードで審理が行われております。
 一方、裁判の質というような観点に立ちますと、勝ち負けについてはいつの時代でも不満は当事者からあるわけでございますけれども、しかし、プロセスの公正さとかあるいは中立性とかいうようなことに関しましては、職業裁判官による裁判に対する信頼性は相当高いのではないかというふうに考えております。したがいまして、労働関係に関する限り、裁判所を批判するようなことは余りフェアな議論とは思えないわけでございます。
 しかしながら、特にここ数年の集団的労使関係から個別的労使関係への大きな流れの中で、いわゆる個別労使関係事件と言われているものが急増しておりまして、その受皿を整備するということが緊急の課題となっております。
 私どもは、このような要請にこたえるため、できるだけ多様な解決ルートを用意することが大切であり、特に日本人になじみやすい調停制度を充実させるということが重要ではないかということを主張してまいりました。もちろん、その前提として、労使の現場によく通じた調停委員が言わば人生の達人のような立場で問題解決のため助力する新しい労働調停制度を地方裁判所はもとより簡易裁判所レベルにも創設してはどうか、こういう主張をしてきたわけでございます。このような方法によって、裁判所は近づきにくいとか親しみにくいとかいうイメージも相当程度払拭されるのではないかというようなことを考えたわけでございます。
 一方、職業裁判官とともに労使の代表が言わば素人裁判官として審理に加わる労働参審制度を導入すべきではないかというような有力な御意見があったことも承知しております。しかし、日本には、戦前のごく一期間を除いて陪審制度の伝統というものがございません。子供のころから陪審制度のようなものに親しんできている国とはなかなか一緒にできない。特に労働事件だけを対象にして参審制度を設けるというようなことについてはかなり強い違和感がございますし、何よりも信頼の厚い職業裁判官に匹敵するような公正さを実現できる保証があるのかというような疑問が出ました。そんなわけで、私どもは、性急な参審制の導入には反対せざるを得ないという立場を取ってまいりました。
 そのほか、労使の裁判官は評決には加わらないという参与制度の御提案もありましたし、専門委員制度を活用する方法など、いろいろな議論があったわけでございます。
 そのような過程を経まして、このたび法案化されました労働審判制度は、職業裁判官である審判官と労使関係の専門的知識経験を持つ審判員二名の合計三名がチームを組んで、調停を基礎としつつ、調停が成立しない場合には三名の合議で労働審判を行うという非常に新しい制度でございます。裁判のように権利義務を確定させることを目的としている制度ではございませんが、しかし、権利義務を踏まえつつ、かつ労使の審判員が参加することによってより事案の実情に即した解決案を示すことができるのではないかと、そういう期待で作られている制度でございまして、調停と参審の折衷的な制度と言うこともできそうでございます。
 調停とは違いまして、相手方当事者の同意がなくても手続が進行いたしますが、審判が出ました場合、一定期間内に異議が申し立てられないときはその効力が失われることになっております。しかし、効力は失われても、その場合には労働審判の申し立てられた日にさかのぼって訴訟の提起があったものとみなされるということですので、理論的に大変整然としておりまして、よくできた仕組みではないかというふうに思っております。
 正直なところを申し上げると、経済界の一部には、なおこれは事実上参審制ではないかというような危惧の声が残っていることも事実でございます。しかしながら、私どもとしましては、政府の労働検討会で立場の違う委員の方々が全員一致で合意したという事実は非常に重いというふうに受け止めておりまして、基本的にこの法案に賛成するという立場を取っております。
 幸いにして法案が成立いたしました暁には、私どもも制度の一翼を担うという自覚を持って、その普及、活用に努めてまいりたいと考えております。全く新しい制度でございますから、やはりみんなで作りみんなで育てるという姿勢が何よりも大切だというふうに確信しております。
 先走るようで恐縮でございますけれども、この法案が成立し施行されました場合、これをいかに定着させていくかということが大きな課題となってまいります。この制度が成功するかどうかのかぎを握るポイントが三つあると考えております。
 第一は、制度についての国民の理解であります。
 再三申し上げますように、全く新しい制度でございますので、法施行の前はもとより、施行後においても啓蒙啓発活動を相当大々的にやる必要があると思いますし、そのための予算措置も講じていただかなければならないと思います。国民の理解と支持なくしてこの制度の成功はあり得ないと考えております。
 第二は、この制度の中で重要な役割を果たす労使審判員の確保と育成でございます。
 労使関係の知識と経験を現場で十分身に付け、かつ中立公正な立場で紛争解決に当たることができるというような条件に当てはまる人は、そうざらにいるものではございません。労使の現場の知識経験を反映するのが主目的とはいえ、いやしくも法律的判断に加わるわけですから、審判員に求められる資格要件は相当高いというふうに思っております。私どもといたしましても、傘下の都道府県にございます地方経営者協会を中心に、業種の経営者協会など、組織の総力を挙げて適材の発掘、推薦とその研修に努めていきたいと考えております。その過程では、商工会議所や中小企業中央会など、他の経済団体の御協力も受けることになるだろうと思っております。研修につきましても、本当は最小限で済むような人を労使審判員に選ぶべきでありましょうが、現実の問題としましては、新しい制度だということもあって法施行までの間に相当念入りな教育が必要になろうかと思っております。これにつきましても予算措置がどうしても必要になります。
 三番目のポイントは、簡易迅速というこの制度の趣旨を貫くことであります。
 原則三回以内の期日でということは、せいぜい三、四か月のうちに解決案が出てくるということでございますから、これは正に画期的なことと言ってよろしいかと思います。万一この原則が崩れるというようなことになりますと制度の意義が半減してしまいます。もちろん、現在二年も三年も掛かっているような複雑な事件がこの制度を使ったから三、四か月で片付くとは到底考えられません。制度の利用者はその辺もよく考えて紛争解決手段を選択していくというようなことが大切ではなかろうかと考えております。
 この制度を普及させるためには、簡易な申立て書を用意するということが利用者のために絶対必要であります。逆に言うと、その簡易な申立て書ではとても賄い切れないというような大きな問題は通常の訴訟など別の解決手段を求めるというようなすみ分けの発想が大切になるのではないかと考えております。
 最後に、将来の問題としまして、労働参審制導入の当否を再び議論する段階が来るかもしれないと考えております。しかし、そのタイミングは恐らくこの労働審判制度が成功を収め、あるいは刑事の方の裁判員制度が定着したというようなときになるのではなかろうかというふうに考えております。
 以上、簡単ではございますが、私の意見陳述とさせていただきます。
 御清聴ありがとうございました。
#112
○委員長(山本保君) ありがとうございました。
 次に、高木参考人にお願いいたします。高木参考人。
#113
○参考人(高木剛君) UIゼンセン同盟の高木でございます。
 本日は、参議院法務委員会におきます労働審判法案の御審議に当たり意見陳述の機会を与えていただき、大変光栄に存じております。
 私自身、司法制度改革審議会の論議に続きまして、司法制度改革推進本部の下に設けられました労働検討会にも参加をさせていただき、労働審判制度に関する論議にもかかわってまいりました。今次司法制度改革に関する議論が開始されて以来四年九か月、現在、本国会におきまして労働関係事件への総合的な対応強化の一環として労働審判法案の御審議をいただくところまで多くの皆さんの御努力のかいあってたどり着くことができましたこと、誠に感慨深いものがございます。
 さて、労働審判法案についてでございますが、参議院法務委員会及び本会議において御審議の上、是非御可決いただきたいと思っております。
 以下、労働審判制度について、数点にわたり意見を申し述べさせていただきます。
 第一点目は、審判員の推薦、任命手続についてでございます。
 御審議いただいております労働審判制度は、裁判官である審判官と労働関係に関する専門的な知識経験を有する審判員二名が労働審判委員会を組織し、事件を審理し、調停による解決も試みながら、当事者間の権利関係を踏まえて事案の実情に即した解決をするために必要な審判を行うという手続でありまして、労働関係に関する専門的な知識経験を持つ審判員がいかにこの手続による紛争解決に貢献できるか、そのことが制度の成否のかぎを握っていると思います。この審判員を推薦し、裁判所による任命を受ける手続やルールがどのように設定されるのか、法案の可決後、可及的速やかに御検討を加えていただき、結論を出していただく必要があるのかと思っております。
 ところで、労働審判制度が施行されましたらどれくらいの件数が各地の地方裁判所に申し立てられるのか、そしてそれらの申立て件数に対処していくためにはどれぐらいの人数の審判官、審判員が必要なのか。衆議院の法務委員会の審議の中で、司法制度改革推進本部の山崎事務局長は、労働関係事件の全国の地裁における新受件数や仮処分事件の状況、各地の労働局における個別労働紛争解決制度によるあっせん件数の動向等から推測し、少なくとも審判員について労使双方合わせて千人程度の人数を確保する必要があると答弁をされていると伺っております。
 取りあえず、この答弁の中の数字千人を前提に、労使それぞれが責任を持って推薦する審判員の数を五百人程度と想定し、施行へ向けての準備を進めていかなければならないのではないかと思っております。五百人余の審判員を一定のレベルを確保しながら責任を持って推薦し、裁判所から任命を受けるという準備作業は大変な作業だと思いますが、労働団体といたしましても全力を尽くしていきたいと考えているところでございます。
 審判員は、労働関係に関する知識経験を生かし、中立公平な立場に立って労働審判手続に関与するというわけでございますから、労働側といたしましても、知識や経験について審判員を推薦するに当たりましての推薦基準を明確にし、後ほど申し上げさせていただきます研修の仕組みとも連動させて労働側推薦の審判員を確保していかなければと思っておるところでございます。
 なお、労働側推薦の審判員の推薦基準や手続の透明性の確保、あるいは一連の手続やらルールについてのアカウンタビリティーといった面にも留意していかなければならないと考えているところでございます。
 次に、労働関係に関する知識経験を有する者という審判員に課せられる要件をどのようにクリアするのかという点に触れたいと思います。
 まず、経験についてでございますが、一定年数の労働組合活動の経験等を通じて、労働現場の雇用や人事労務管理、労使関係等に関するいわゆる現場の常識を備えていることが求められているわけでございまして、経験というファクターにつきましては、経験年数という物差しがやはり中心になるんではないかなと思っております。
 また、知識という面につきましては、労働法や判例に関するベーシックな知識や、訴訟法あるいは調停に関する法律及び労働審判手続などに関する基礎的な知識も求められるんではないでしょうか。こうした審判員に求められるベーシックな知識については研修で習得していただく、そしてそのためのスキームを早急に作り上げる必要があると考えております。
 そして、この労働審判員のための研修の受講を審判員推薦の要件とする、そのことをルール化する必要があると考えております。研修の受講を審判員推薦や任命の要件化するという、そういった観点から言えば、この研修を公的にオーソライズしていただき、審判員に関する社会的なアカウンタビリティーを高めるという、そういう要請にもこたえていくという、そんな配慮も加えられるべきだと思います。この公式にオーソライズするということの意味は、審判員の研修に関しまして、労使団体に加えまして裁判所や厚生労働省、法務省、日弁連等にも関与をしていただき、研修経費についても公的な拠出をある程度お願いするという、そういった形が考えられると思います。
 いずれにいたしましても、来年の秋までに審判員の推薦、任命を終えていただかなければならない、そういう施行へのステップが考えられておりますわけでございます。時間的な余裕は余りないと思っております。早急に研修に関するスキームを固めていただきたい、このことも要請させていただきたいと思います。
 この研修は、審判員は、使用者側推薦の審判員の皆さんも含めて、公正中立な立場で労働審判に参画するという、そういう仕組みになっておるわけでございますから、一緒に合同して同じ研修を受講するということでよいのではないかと考えております。なお、別途に、更にアドバンストな研修等を労使団体等が付加して実施するといった場合は、それぞれが別途の研修コースを設けること、そのことを否定するものではもちろんございません。
 労働審判員の労働側推薦の給源といたしましては、現役の労働組合の役員等に加えまして、OBの皆さんにもお力をおかりしなければならないのではないかと考えております。
 労働審判員の選任方法につきまして、一部に公募制はどうかといった御意見もございますが、想定される審判員の必要人数がかなり多数に上りますこと、あるいは労働関係の知識経験のレベルをどういう形で検証するか、その方法論などを現実的に考えました場合、公募制は難しいと判断せざるを得ないと考えておるところでございます。
 第三に、審判手続の進行のイメージについて若干申し上げたいと思います。
 労働審判法案によりますと、労働審判制度は原則三回以内の期日において審理を終結しなければならないと規定されており、調停を行いつつ同時に主張の整理や簡易な証拠調べを行い、第二回目あるいは第三回目の期日に審判を終結させ、解決案を示すことを求めていると思います。したがいまして、第二回目の期日までに主張や疎明資料が提出され、証拠調べもほぼ終え、審理に一応のめどを付けることが要請されている、そんな手続ではないかなと考えて理解をしているところでございます。この労働審判手続のイメージを前提に審判の進め方に関する運用が行われますよう、規則や運用ルールが形成される必要があると思っております。
 また、労働関係紛争の最大の特徴はいわゆる証拠の偏在問題にあると言われておりまして、労働審判を行うに当たりましては、職権による事実の調査等の過程で必要な証拠が確保されるよう、その点に留意した手続の進行が求められると思っております。
 なお、労働審判法第四条は、裁判所が当事者の権利利益の保護及び手続の円滑な進行のために必要かつ相当と認めるときは、弁護士でない者を代理人とすることを許可することができるというふうに規定しておりまして、ケースによっては労働組合の役職員等が代理人を務めることもお認めいただきたいと思っておるところでございます。
 第四点目としては、これは先ほど小島さんにも少し触れていただきましたが、労働審判制度と将来の労働参審制への移行の問題に触れさせていただきたいと思います。
 御高承のとおり、司法制度改革審議会の意見書は、「労働関係事件への総合的な対応強化」と題する項目の中で、ヨーロッパ諸国等で広く行われている労働参審制の導入の当否を司法制度改革推進本部の下に設けられました労働検討会で検討するよう促しておりまして、同検討会におきましてもかなり突っ込んだ議論が行われてきた経緯がございます。議論の詳細を御紹介する時間はございませんが、結論のみ申し上げますと、労働審判制度の実績等を検証しながら、将来労働参審制への移行を検討しようという方向で取りあえず議論が整理されたと認識をいたしているところでございます。
 衆議院法務委員会におきましても、全会一致で御決議いただきました附帯決議におきまして、将来の労働参審制の導入問題について書き込んでいただいております。参議院におきましても、同趣旨の附帯決議を是非御決議いただきますようお願い申し上げる次第でございます。
 なお、今回御審議をいただいております労働審判制度は、経営側が強く求められました労働調停の導入の問題と、私どもがというか、労働側が参審制の導入を強くお願いを申し上げましたわけですが、その議論を折衷し、ドッキングした制度として今回の労働審判法案が作られているという趣があるんではないかと認識をいたしております。
 最後に、広報活動の重要性に触れさせていただきたいと思います。
 この労働審判制度が広く国民の皆さんの理解を得、幅広く利用していただける制度としてスムーズにスタートをし、定着していくためには、国民の皆さんに対する広報活動が極めて大切でございます。私どもも労働団体として、労働組合等に対して精一杯制度の内容等について説明をし、周知をしてまいりたいと考えております。政府や裁判所、日弁連等におかれましても、国民に対する広報活動に万全の対応をしていただきますようお願い申し上げたいと存じます。
 個別労使紛争の増加が続く中で、裁判所を舞台にする労働審判制度が新設される意義は、労働者の権利の実現という意味でも大変大きな意義があるものと認識をいたしておりまして、どうぞよろしく御審議の上、御可決くださいますよう重ねてお願いを申し上げ、意見陳述を終わらせていただきます。
 どうもありがとうございました。
#114
○委員長(山本保君) ありがとうございました。
 次に、石嵜参考人にお願いいたします。石嵜参考人。
#115
○参考人(石嵜信憲君) 弁護士の石嵜です。
 本日、意見を述べる機会をいただきまして、ありがとうございます。
 私は現在、日本弁護士連合会に設置されております労働法制委員会の副委員長の職にあります。この労働法制委員会とは、平成十四年八月に設置された委員会で、そのメンバーは、労働事件の使用者側代理人弁護士、労働者側代理人弁護士及び中立の立場で業務を進めておられる先生、この三者構成になっております。
 従来、労働事件は、御存じのごとく、労使対立が激しくて、主義主張の違いがありまして、このような立場を異にする弁護士が一つの会に集まって議論し、一つの結論を得るということは少し考えられませんでした。その意味で、この委員会は日弁連にとっても画期的な委員会だというふうに自負しております。そして今回、この労働審判法案につきましても、労働法制委員会において互いの意見を十分に闘わせてきております。
 加えて、自分、私事のこと、私のことになりますが、私は弁護士歴二十六年で、一貫して労働事件の使用者側代理人でやってまいりました。したがって、この分野で仕事をします弁護士の仲間で作る経営法曹会議のいわゆるメンバーです。この関係では日経連といわゆる業務をタイアップしてまいりますので、先ほど参考人としてお話をされました小島先生が座長を務められる日経連の司法制度労働検討部会のメンバーですので、その場所でも私自身の意見を述べてまいりました。
 そして、労働事件を担当する使用者側の代理人という立場で日弁連の推薦を受けて司法改革制度推進本部の労働検討会のメンバーであり、この検討会でも左におられます高木先生と一緒にこの労働法制案、これについて検討してきておりまして、その立場からこの労働審判法案をどう考えているのかと、こういうことを少し述べさせていただきます。
 これは、弁護士の立場かつ日弁連というサイドから見た場合に、この労働審判法案は、その労使のそれぞれの代理人が構成する労働法制委員会で十分議論して、その結果、一定の結論、その結論が一致した、その一致した結論をいわゆる生かしていただいていると。したがって、我々は十分に、この労働審判法には弁護士サイドの意見を十分取り入れてもらっているものと理解しております。
 特に、労働検討会において労使の立場が激しく対立した部分があります。それは手続の進行について当事者の同意が要るかどうか、それと解決案の効力問題をどうするか、この二点は非常に対立いたしました。その点について、労働法制委員会で互いの立場を弁護士同士がいわゆる議論をし、そしてこの当事者の同意論、手続進行についての当事者の同意論については、労働審判の申立てがあれば相手方の意思にかかわらず手続を進行させ、原則として調停による解決か、審判による解決の案の決定まで進むものとすると。ただし、当該事案の性質上、審判制度によることが適当でないと認められた場合には解決案の決定をしないことができると。こういたしまして、そして出口論と申しました解決案の効力問題については、解決案の効力について不服のある当事者が異議を述べることにより失効すると。しかし、その際、訴訟との適切な連携のための仕組みを工夫すべきであると。こういう意見を骨子案としてまとめました。
 その骨子案を、僕は使用者側の代理人として、この日経連の労働検討部会に出ましてこの部会の御理解をいただき、かつ経営法曹会議のメンバーの先生たちにも御説明をして理解を得た上で、労働側の先生は先生で連合や労働弁護団の先生たちに御説明するという枠を通して、この日弁連案として労働検討会に提出をしたという経緯があります。そして、法案を見ていただければ分かりますように、こういう日弁連の労働法制委員会のこの骨子がいわゆるこの法案に生かされていると。
 したがって、我々としては、今後、労働法制委員会のメンバーも労使それぞれの立場を超えて、この労働審判法が法制化されたならば、その制度が十分機能するようにやはり弁護士会としても最善の努力をしたいと、このように考えております。これが、この労働審判法に対する日弁連ないし労働法制委員会の思いです。
 加えて、この審判法について二つ、二点、弁護士サイドからの意見を述べさせていただきますと、一つは、個別労働紛争、これを適正にいかに処理していくか、適正な解決を見付けていくかと、こういう観点から議論をいたしております。それについては労働関係に関する専門的知識経験を有する労使双方が労働審判に裁判官とともに関与する、こういうことが実現できたことを非常に大きな意味としてとらえております。
 社会が急激に変化し、かつ多様化している中で、適正かつ実効性のある解決案を実現するためには、やはり当該具体的事情、つまりその紛争の具体的事情下における使用者と労働者の利益の均衡点、ここを見いだす作業が一番大事だと思います。特に、これ、個別労働紛争はこういう形になろうかと思います。
 したがって、この点に関し、確かに弁護士から考えて日本の裁判官は非常に有能であり、かつ僕は勤勉だと思っております。しかし、どんなに有能で勤勉であったとしても、この社会の急激な変化の中でこの労使の均衡点を見いだすことはやはり難しいと思いますし、今後もっと難しくなっていくだろうと思っております。その意味で、この労働紛争の解決に裁判官だけではなく、労働関係に関する専門的知識経験を有する労使が審判員として裁判官と対等な形で評決権を持ち、そして事案に即した紛争解決を見いだす、こういう制度ということですから、僕は非常にいい、はっきり言えばこれはよく考えたと思っております。
 次に、個別労働紛争を考える場合には、適正ともう一つ迅速という問題が残っております。迅速にこの事件を解決するということで三回、大体三回で、大体三、四か月、この中で解決しようということにしてあります。
 この点については、弁護士サイドからいきますと、非常に自分たちの業務、首を絞めることだという、こういう思いが本当はあります。ただし、弁護士は、国民サービス、つまりユーザーの、この審判を利用されるユーザーのいわゆるその希望、ニーズにこたえることだと思っております。
 その意味では、本日持ってまいりました資料で一枚、個別労働紛争解決制度の運用状況という、こういうものが資料に、一つお手元にあると思うんですけれども、今回、労働審判、こちらの方に流れてくると思われておる件数は、この4の紛争調整委員会によるあっせん、ここで解決できない、こういうものが恐らく審判に上がってくるんではないだろうかと。
 とすると、やはり件数から見ていただければ、解雇事件、そして労働条件の引下げですから、やっぱり賃金問題だということになります。そうしますと、やっぱり解雇、賃金、即労働者の生活にいわゆる直結いたします。したがって、労働者側からいけば、これは迅速な解決、救済が必要だということになります。
 加えて、使用者側、二十六年ずっとこちらの方で仕事をやってまいりましたが、使用者側の認識も僕は現在変わったと思っております。というのは、これだけ時代の流れが速いですから、やっぱり時間ロス、コスト、もうやはり時間がコストになっております。したがって、使用者も一定の紛争解決案があればそれを早期に解決していただきたい、そういういわゆる要請が十分使用者側にもあると思っています。
 したがって、こういう両者のいわゆるニーズにこたえるべく、弁護士はやはりこの三回で、三ないし四か月で解決するということについて、自分たちの今後の認識を掲げていわゆる業務に当たるべきだというふうに、労働法制委員会もこういうふうに考えております。
 したがって、これから先、日弁連としてどうするかということはありまして、まだ具体的に決まっているわけではありませんが、日弁連としても労働審判法の啓蒙活動を通して迅速解決のための協力を各弁護士にお願いするつもりでおりますし、できれば、日弁連下部組織である関東弁護士連合会などの全国八ブロック、そして最終的には、いわゆる労働審判所が置かれます、委員会が置かれます五十庁の単位弁護士会、ここにいわゆる通じて各弁護士への啓蒙活動を実施していかなければいけないんだろうと、このように副委員長の立場で個人的には考えております。したがって、この審判法の適正かつ迅速と、こういう問題についてそれなりのいわゆる手当てがしてあることもこの労働審判法のいわゆる有意義なところだろうと思っております。
 そして、この労働審判法が現実に社会に定着し、そして機能し出したら、これがどういうふうな効果を上げるんだろうということをひとつ弁護士なりに考えておりますのは、労使問題、特に使用者と労働者の個別労使紛争の問題は、これは本来企業内で労使が自主解決する、これが基本だと思っております。また、これから先急増していくだろうというこの紛争問題を外部のADRとか労働審判にすべて持ち出したのでは、すべてがパンクしてしまう。これは、もうイギリスがいい例だろうと思います。したがって、今後この労働審判法の活用、そして有意義な展開に尽力するとともに、労使は自主解決、企業内における自主解決能力を高めていく必要がありますと。これが、今、日本の労使に一番失われつつあるところだろうと。
 その意味で、この労働審判法が実現し、労使がその審判員として代表を送り、その中で各自が勉強してもらう、加えて、当事者もいわゆる労働審判を通じて労使の均衡点の見方を覚えていく。こういうことをすれば、今度は労働審判に持ち出すまでもなく、そういう人たちが企業内に帰り、そして自主解決に努力していく、そしていわゆる自主解決の能力の回復につながるのではないかと。いや、そうしないとこの個別労使紛争の増大には耐えられないのではないかと、このように考えております、個人的には。
 そして最後に、両参考人からも出てきました労働参審制の導入問題についてですが、これは、使用者側の代理人の先生方がやはり消極論が多いです。ただ、僕自身は、一九九〇年、それから二〇〇〇年、ドイツ・ベルリンで労働裁判所を見てきましたし、二〇〇二年にイギリスで雇用審判所を訪ねておりまして、やはり労使の専門的知識を生かしていくことが一番大事だという意識を持っておりました。しかし、やはり労働参審制についてはまだ十分な理解を国民にも得ておりませんし、したがって、また専門家がこうして関与することによって個別労使紛争の解決に本当に実績が上がっていくか、これも実証、検証されておりません。この中では、やはり現時点でこれを導入という話はやっぱり難しい、時期尚早と言われても仕方ないという気持ちを持って発言してまいりました。
 したがって、この労働審判制のいわゆる実施によって、本当に労使の専門家が関与して個別労使紛争を解決し、適正かつ迅速に処理できる実績が上がれば、これは労働参審制の議論の導入の当否に結び付くものであろうと僕自身も考えております。
 最後に、日弁連、そして労働法制委員会においては、この労働審判制度の成立を希望しております。したがって、本案の通過について御尽力いただけるようにお願い申し上げます。
#116
○委員長(山本保君) ありがとうございました。
 以上で参考人の意見陳述は終わりました。
 これより参考人に対する質疑を行います。
 質疑のある方は順次御発言願います。
#117
○吉田博美君 自由民主党の吉田博美でございます。
 参考人の先生方におかれましては、大変お忙しい中を法務委員会にお越しいただき、また貴重な意見陳述をしていただきまして、ありがとうございます。
 私は、労働関係の紛争は、長引けば長引くほど会社や従業員ばかりでなく地域経済にも大きな影響を及ぼすものと言われておりまして、そうした中での労働審判制度は、国民の期待にこたえる司法制度を構築する一環として、紛争の実情に即した迅速、適正、かつ実効的な解決を図ることを目的として提起されたものと承知をしておるところでございますが、参考人の先生方におかれましては、まさしく労働問題には熟知をされておりまして、エキスパートであろうと思うわけでございますが、そうした中で、基本的なことについて、繰り返しになるか分かりませんけれども、質問をさせていただきたいと思います。
 労働関係紛争につきましては、裁判所や行政機関における解決制度が既に現存するわけでありますが、今般、新たに創設する労働審判制度の位置付けを参考人の皆様はどのように考えていらっしゃるのか、お聞かせをいただきたいと思います。小島参考人、高木参考人、石嵜参考人、それぞれお聞かせいただきたいと思います。
#118
○参考人(小島浩君) 私は、この新しい制度というのは、どちらかというと小さめな身近な労働紛争というものをたくさん扱うというような機関になっていくんではなかろうかというふうに考えております。世の中には、残業代の不払だとか、退職金の計算がどうもちょっと違うんじゃないかとか、賃金が切り下げられたけれども理由が分からないとかいうようなことがたくさんございます。これまで、こういうものは、もし裁判所へ行きますと大きな問題の中へ入りますので、三か月で済むはずのものが結局一年掛かるとかいうことになっていたわけでございますね。これからは、この制度が比較的使いやすい制度、持っていきやすい制度として定着していくんではなかろうかと、そんなような位置付けを頭の中へ描いております。
#119
○参考人(高木剛君) 現在、労働紛争の解決のシステムとして裁判、あるいは各地の労働局におきます個別労働紛争のあっせん制度、あるいは地方労働委員会も個別労働紛争を扱ったりしておりますし、それ以外にも、弁護士会等々がいろいろ御相談を受ける中で解決されているとか、いろいろな仕組みがありますが、特に裁判外の紛争解決システムというのが、その機能性いうか実効性という意味でもう一つ解決を得るのにまだるっこしいというか、なかなか解決に至らないケースも抱えておる。例えばあっせんという仕組み、もう一つ解決という意味で有効性がいかがなもんだろうかという面がやっぱりあった、あるんだろうと思っております。
 そういう中で、この労働審判制度が今回スタートいたしますれば、従来の労働局のあっせん制度等に比べ、よりスピーディーかつ両当事者の関与の度合いも高めて解決が得られていくではないかなと。そういう意味では、機能的にもこの制度は、多くの方々に多分きちっと制度を御理解いただければ使っていただける頻度の高い制度になるんではないかなと。そういう意味では、裁判と調停あるいはあっせんのあいのこ、ちょうど中間みたいなポジションを持っている制度かなと、そんなふうに認識をしておるところでございます。
#120
○参考人(石嵜信憲君) 今回の制度のポイントは、個別労働紛争の解決に裁判官が関与するところだと思っております。これはどういうことかといいますと、使用者側から考えた場合に、現在のADRで中心となっておりますこの地方労働局における紛争調整委員会のあっせん、これが一番多くなっておりますが、やはりその地方労働局は元々労働基準法、つまり国が使用者に対して刑罰をもっていわゆる労働条件を遵守させるという、こういう権限下のところにあるという。したがって、使用者は元々、やはりここについては対等な立場で物を考えられるとは思っておりません。
 加えて、労働委員会でも個別労使紛争について調整をしておりますが、これも元々は集団労使関係において労働者救済システムです。また、各地方、都道府県で行われている労政事務所を中心としたこういう救済・あっせん機関も、やはりその職員、つまり公務員の職員の方々の対応であるという意味では、正直言いますと使用者側からそのいわゆる制度に対する信頼性は低かったと思っております。そういう意味では、裁判所という労使対等の民法、司法の世界でこの問題を解決させていただける、加えて、使用者側は裁判官の関与した形での解決案であればやはりこれはのみやすい、素直にそう思っております。
 そういう意味では、私としては使用者側の立場からいけば、この労働審判法による個別労使紛争の解決は、従来のADRのような形とは全く違って、いわゆる利用されかつ信頼された形で受け入れられるんではないか、これは使用者側の立場で申し上げましたけれども、そのように考えております。
#121
○吉田博美君 ありがとうございました。
 労働審判員制度の円滑な実施のためには、特に労働審判員となる、先ほど来、研修のことも小島参考人、高木参考人、お触れになりましたが、私は特に人材の確保が重要であると考えておるんですが、参考人の先生方はこの点についてどのようなお考えでいらっしゃるのか、お聞かせいただけますでしょうか。
#122
○委員長(山本保君) 順番でいいですか。
#123
○吉田博美君 はい。全員にお願いいたします。
#124
○参考人(小島浩君) おっしゃるとおり、審判員の確保が最大の課題でございますが、私どもは、最初にねらいますのは企業の人事部長とか労務部長とかいうような仕事をしている人でございます。しかしながら、三か月間で決着を付けるというようなことになりますと、いつでも日にちが入るというような状態になっていないとなかなか機能しなくなってくるわけでございますね。ですから、猛烈に忙しい人というのがそれほど大勢確保できるかということが問題になってまいります。そこで、先ほど高木参考人もお話しになっておりましたが、そういうステータスとかポジションも大事でございますが、同時に人事、労務の経験を相当長く専門的にやってきている、こういうような人たちを推薦するということが一つ考えられます。
 それからもう一つは、OBでございますが、このOBも非常に立派な人たちがおりますから是非活用はしたいんでございますが、しかし元々の制度の趣旨が、労働の現場にいて言わば世の中の最先端の動きを知っている、そういう人に協力をしてもらおうという考え方でございますので、ちょっと五年前とか十年前に退職したというような人は対象にはしづらいんではないかなというふうに思うんですね。したがって、現職及び退職して間もないような方で、元気で立派な経歴を持っている、力があるというような方を中心に何とか、先ほどの五百人ということになるのか、もうちょっと少なめなのか多めなのかよく分かりませんが、相当の数を確保するということで今もう既に内々動き始めているところでございます。
#125
○参考人(高木剛君) 労働団体が推薦する形を想定しましたときに、五百人あるいは若干それより多いのかなということを想定しながら考えているところでございますが、そうたやすくはないと思いますけれども、十分私どもは対応できるんじゃないかと思っております。
 もちろん、地域性、例えば東京地裁だと恐らく百人近い方々が関与しなきゃいかぬのではないか。ただ、事件の非常に少ない地方裁判所ではせいぜい片側五人ずつぐらいで回していけば対応できるんじゃないかとか、その辺の地域ごとの要請される人数等々も見ながら、地域における対応体制あるいは全国横断的な対応体制、それを両方クロスさせていきながら人を選んでいただき、研修を受けていただいて御要請に、少なくとも労働側がどじだったからこの制度うまくいかなかったと言われることのないように努力をしていきたいと思っております。
 十分対応できると思っています。
#126
○参考人(石嵜信憲君) 弁護士の立場からいくと、給源問題になるともう日経連と連合のお力をと、こういうことなんですけれども、労働側よりは使用者側のいわゆる審判員を確保することの方が難しいのではないだろうかというのは、これは実感しております。特に、これほど競争が激しくなっておりますので、企業として人を出せるかという問題はあるだろうと思います。出すからには企業の方にもメリットがあるという形を考えなければなりません。
 そういう意味では、今各会社と議論しておりますのは、十年目ぐらいで人事、労務を経験していて、そして任期は一回二年、この二年間をいわゆる出していただく。その中で、この審判制度の中で審判員として経験を積んでいく。そういう意味でも、帰ってくれば企業内にその今身に付けたものをいわゆる発揮できるというような、こういうつながりが企業に理解していただけるかどうか、こういう意味はやはり我々としては企業に御理解いただくような努力をすることが必要だろうというふうに今僕自身は考えております。
#127
○大脇雅子君 貴重な御意見をありがとうございました。
 ただいまの日本の訴訟手続による労使紛争の救済というのは非常に長期化し使い勝手が悪く、したがって信頼性も少ない、したがって他国と比べて非常に紛争件数もだんだんと低下してくるという中で、いわゆる権利関係を確定する司法という場を使って非訟手続で調停とか和解的な機能で迅速な解決を図る新制度という点では確かに非常にユニークであろうかと思います。しかし、時代は非常に様々な、雇用も就業形態も多様化し、新しい問題点も現場では様々に生まれつつあるわけですから、これは対応する裁判官も含めて、労働審判員がいかに新しい知識を吸収して新しい時代に対応する研修制度が機能していくかどうかということだと思います。
 これは、やはりこの制度を生かすためには、権利関係で黒白を付けるというよりは、むしろ対話と説得の技術というのが重要になるのではないかと思われますので、小島参考人、高木参考人には、企業としてあるいは労働組合として、研修に対してどういう形で取り組まれるのか。そして、周知徹底をする言わば仕事としてどんな形で参加していけると思っておられるのか、お尋ねします。
#128
○参考人(小島浩君) 先生御高説のとおり、非常に教育研修というのが大事だと思っております。
 先ほど高木参考人からもお話がありましたが、審判員に共通して行える教育あるいは行うべき教育というものがあると思います。これは多分国が中心になって行っていただくということになろうかと思いますけれども、しかし労使双方にもやはり責任を持って推薦をするということが課せられているわけでございますから、私どもでも当然研修をしなければいけないと考えております。やはり、非常に基礎的な法律の知識、それから人事、労務関係の制度の動き、こういうものは、先生御指摘のように日々のように変化をしておりますから、やはり最新の状態というのを常につかむことが大事だと思うんですね。
 私どもは、恐らくそういうことを中心にした教育研修を開いて、一方、国の方は手続面であるとか心構えのようなこと、倫理であるとかいったようなことを中心にした教育になるんではなかろうかなというふうに考えております。
#129
○参考人(高木剛君) これから研修の内容とか方法論についていろいろな場で検討していただくことだろうと思っておりますが、私の私見めいたことを申し上げさせていただければ、できれば、当然裁判所にも関与していただき、厚生労働省あるいは法務省もあるんかもしれませんし、日弁連にもいろんな意味でかんでいただき、また労使団体も一緒になりまして、先ほど申し上げましたように、できたらこの研修は公的にオーソライズされ、この研修を受けたことが一つは裁判員になる推薦要件になっていくという意味も含めまして、今申し上げたような方々がお集まりになられて研修運営委員会みたいなものを取りあえず作っていただいて、そこでカリキュラムをどうするか、あるいは研修の手法をどうするか、あるいはテキストが必要ならそのテキストをどういうふうに編集、作成するのか等々、早急に詰めていただいて、その内容にもよりますが、いろんな仕事を抱えておる人たちに出てくれと言うわけですから、私は、研修といいましても、いわゆるベーシックな研修は長くて一週間ぐらいが限度かなと思っておりまして、それぐらいのボリュームの中でベーシックな研修をどうしたらいいんかということを早急に研修運営委員会等、これ名前はどうなるんか分かりませんが、その場で御検討いただいて早急にスキームを作っていただきたいと、そんなふうに考えておるところでございます。
#130
○大脇雅子君 確かに、研修を公的にオーソライズするというようなところまでいけば、そういう審判員の社会的なステータスも一定の説得力ある地位になるのではないかと思いました。貴重な御意見、ありがとうございます。
 さて、石嵜先生にお尋ねをいたしたいと思います。
 先生は経営法曹として長くやっていらっしゃったということですが、私は一貫して、対立する労働弁護士として一貫して今まで司法の場でやってまいりましたんですが、今、石嵜先生がおっしゃった御意見の中で、個別紛争に裁判官が参加する形で、司法の場で言わば労使のバランスというか均衡点を見付けることによって解決の道を探るという、そういう優れた点がこの制度にはあるという御意見に対しては、なるほどというふうに実は思いました。
 しかし、やはり先ほど申し上げましたように、説得と対話力というのが労使の紛争の場でいかにして生まれるのかということが、長い間労働弁護士をしておりますと、現場の状況を知らないとか、あるいは証拠が使用者に偏在しているのになかなか出してもらえないとかという形で紛争が長引いてきたという経験を持ちますと、やはり証拠ですね、その出し方というか、あるいは裁判官の職権の在り方というのは何か御意見があるでしょうか。
#131
○参考人(石嵜信憲君) 先生がおっしゃったように、歴史はそのように動いてきたと思っております。したがって、使用者側の弁護士も、この制度そのものについてもやはりいろんな意見はあるんだろうと思いますが、ただ、使用者側の弁護士、一言これで御説明させていただければ、集団労使紛争ではないと、この事案は。主義主張ではなくて、自分が雇用する労働者とのいわゆる個別労使紛争にあると。その意味では早期に解決したいというふうに考えておりますので、我々も、今回三回のいわゆる手続で解決します以上、今、一回目でできる限り主張、証拠、疎明資料すべて出そうと。ただし、一回目で出せるかといいますと、これは実務でいきますと、どうしても相手方には企業側が多くなるであろうと。そうすると、一回目は、その企業は弁護士探しという事実上の時間もあるものですから、一回目にできなければ二回目、これで集中審理やろうと。その一回目と二回目の間に、いわゆる主張と疎明、証拠資料はすべて出して判断を受けると、こういうふうに我々も考えておりまして、そういう話を今内部でしております。
 ただ、弁護士の世界、いろいろ意見があることは先生のおっしゃるとおりです。しかし、我々はやるつもりでおります。
#132
○大脇雅子君 まあ、新しい地平が労使紛争で開けるかもしれません。そう思いますが、ただ、先生がおっしゃった点で、二つの点で御意見を伺いたいのですが、本来、企業内の自主解決が本旨であって、ここへ出る前に企業内の紛争の手続が必要ではないか。しかし、苦情処理の手続というのは、企業の中にはあっても、働く者にとっては紛争を封じ込める役割を今まで果たしてきて、なかなか、企業内のそういう苦情処理機関というのは働く者の味方にはなかなかなり得なかったという点については、本来、企業内の自主解決とおっしゃる意味で、そこがちょっとどういう御趣旨かというのをもう一度お聞きしたいのと、もう一つ、この事件というのが、ずっと弁護士会、多くの弁護士が、労働事件についてはそういう専門的な人が審理に参加する形の労働参審制を使うことによって適正な解決が図られるのではないかということですが、この労働審判制度が労働参審制へのやはりワンステップになるんだという考え方があるという点についてはどのようにお考えでしょうか。
#133
○参考人(石嵜信憲君) まず、自主解決、それが労使の基本であることは、それは互いにやっぱり外で持ち出して時間掛けるということ自体、それからいわゆる問題を外にお願いするというのは、やっぱり使用者にとってはこれはやっぱりアブノーマルだと考えております。
 確かに、先生がおっしゃる苦情処理手続がいわゆる十分に企業で機能したかという、これは歴史上の問題はあるにしても、今後やはりそこで解決する。そして、特にもうこの時代、コンプライアンスといって法手続をいかにちゃんとやっているかどうか、法を遵守しているか、こういうこと自体が企業の社会的信用ないし企業のいわゆるランク付けにまで影響する時代ですので、確かに過去といわゆる今後考えている現在は僕は分けて考えるべきだろうというふうに自分は思っております。
 その意味でも、やはり自主解決で、もちろん労側を封じ込めるという意味ではなくて、そこにいわゆる労使の利益の均衡点を見いだして解決することだというふうにお答えしたいと思っています。
 もう一つは、労働参審制への道というのはいろいろ考え方あるだろうと思いますが、僕自身は、やはり本当に専門的な知識を持った人たちがこの個別紛争の解決に関与して、本当に迅速、適正な解決につながるか。やっぱりこれは実績を残し、これを国民の皆さんに見てもらう。この実績が出れば僕は労働参審制につながるものだろうというふうに、僕自身は考えております。
#134
○大脇雅子君 労働参審制に対する御意見で、小島参考人は、まあそういうのは賛成できないと、陪審制度がない日本では難しいからこの労働審判制に落ち着いたというふうに解釈されましたし、高木参考人は、参審制への移行ということが第一段階として何か取りまとめの方向として見えたんじゃないかと、相反するようなお答えがあったと思うんですが、労働参審制について一言ずつ御意見伺えるでしょうか。
#135
○参考人(小島浩君) 大変難しい御質問でございますが、私も格別高木参考人と今現在違うことを申し上げたつもりはないんでございまして、これまでの議論の経過で労働参審制には賛成できないという立場を取ってきたということでございます。
 確かによその国でうまくいっている国もございます。特に、ヨーロッパではかなり普及しているようでございますが、しかしオランダのように全くやらないという国もございます。それから、同じイギリス系といってもオーストラリアではやっておりませんし、ニュージーランドのように、いったんやったけれどもやめたというような国もあるようでございます。やはり長い歴史とか慣習とか文化とかいうものの中で育ってくるものかと思いますので、繰り返しになりますが、今回の制度がうまくいって、そして裁判員制度のようなものも国民に理解されるというような段階になりましたときに、これが参審制に移行していくという可能性は十分考えられるというふうに思っております。
#136
○参考人(高木剛君) 私は、労働検討会の中でも、労働参審制を今回の司法制度改革を機に是非実施すべきだという立場で意見を一貫して申し上げてまいりました。しかし、今、小島さんがおっしゃるように、あるいは石嵜さんもおっしゃったように、特に経営側の皆さんの中にはいきなり参審型の裁判に移行するのはある意味では心配な点が多過ぎると。ついては、まず参審制にいきなり行くということについては反対だという御議論が非常に強くございまして、長い間、賛成だ、反対だといって行ったり来たり議論がしておりましたが、そういう中で、一方で労働調停の導入、これはADRといいますか、裁判外の紛争処理手続の多元化、チャンネルの多元化という意味で、私どももそう目くじら立てて反対することでもないということで賛成の立場で議論に参加しておりましたが、結局、先ほどもちょっと申し上げましたように、労働参審制を入れましょう、一方で労働調停もやりましょうという議論の中で、参審制をめぐる賛否を、何というんでしょうか、ドッキング、その両論をドッキングさせてというか、足して二で割って、労働調停と一緒に混ぜてついたもちが労働審判制度だと、そんなことかなと思っております。
 小島さん、あるいは石嵜さんも言われましたように、私どもそれなら、少し練習期間が要るというなら練習期間も少しなら取ることについても致し方ないかと。ただ、余り長いこと練習ばっかりやっていたら肩も疲れちゃいますし、ほどほどのところで将来の参審制導入の可否についての議論の場を設けていただきたいと。もちろん、そのためにはこの審判制度をそこそこうまくやれているじゃないかというふうに社会から御評価いただくことがなければなかなかそういう議論もやりにくいんかなと、そんなふうに思っておるところでございます。
#137
○大脇雅子君 ありがとうございました。
#138
○木庭健太郎君 公明党の木庭健太郎でございます。
 今日は参考人から貴重な御意見をいただき、心から感謝を申し上げます。
 まず、小島参考人にお尋ねをしたいと思います。
 これは石嵜参考人がおっしゃっていましたように、もちろんこういった形で紛争なり個別行為事案の処理、いろんなバリエーションができてやれることは確かに大切なことだと思うんですけれども、やっぱり本質論でいうと、私も石嵜参考人がおっしゃるように、それは企業内で処理できればそれが一番いいんであって、そこの問題が非常に大事な問題だろうと私は思っておりますし、そういった意味で、企業として、とにかく今この個別労使紛争というのはあらゆる意味で急増していることは間違いないんであって、それなりに会社は苦情処理制度というのは持ちながら整備はされていると思うんですけれども、企業として、こういった自社内というか企業内で対応する問題にどう現在お取り組みいただいているのだろうかと。また、各国、小島参考人よく御存じでございますので、各国の状況も、そういったものも含めてその辺の取組について、まずはお話しいただければと思います。
#139
○参考人(小島浩君) 企業内対応、非常に重要だと思います。お説のとおりでございます。
 先ほど石嵜参考人からもちょっとお話がありましたが、実はこの労使関係以外の面でも、コーポレートガバナンスであるとか公益通報制度だとかいうような観点から企業内の苦情処理機関あるいは苦情受付機関というようなものの必要性がますます高まっているわけでございます。今、ほとんどと言っていいと思うんですが、多くの会社がこの苦情処理の充実ということに大変な力を入れております。
 これまでの日本の企業というのは年功序列の社会でございましたので、ある意味では非常に分かりがいいんですね。人より昇進がちょっと後れたと、しかし自分は一年後に入社したんだから仕方ないと、給料がちょっと低いけど自分の年の方が若いから仕方ないということで割と分かりやすかったわけでございますが、年功序列というのがもう通用しない時代になりましたので、やはり一人一人の従業員を納得させるということが大変難しい状況になってきております。
 それからもう一つは、労働組合の組織率が高い場合には労働組合に御協力願って苦情処理は是非組合を通じてというようなことが通用したんでございますが、だんだん組織率低下しまして、組合に所属しない人が増えてきちゃったということになりますと、これまた苦情が出やすい世の中になってきているわけでございますね。ということは、会社の責任がそれだけ強まっているということでございますから、私ども経営者団体としても一層こういうものの充実ということを会員企業に要請をしていきたいと考えております。
#140
○木庭健太郎君 高木参考人にお尋ねをします。
 今、本法案に対する評価という意味で、やむを得ない、これでしようがないかなと、一言で言えばそういう御評価なようにも聞こえますが、もちろん高木参考人、あくまでこの労働参審制の導入というのが究極の目的であって、そこへ向かってというお気持ちがあるということでございますし、そういう思いとともに、それであってもその途中段階としての、余り長くこれが続くと良くないというお話なのかどうか、まずは私は、こういう一つの新しい形、日本は日本なりの形としても生み出し、形になり得るのかどうか分かりませんが、この労働審判法というのをまずは成功させることが大事だと思っているし、そういう意味ではこの審判法そのものについてどう評価をされているのか、その評価、いいところはこういうところあるよと、ただし問題こういうところあるから今後こうすればいいというような課題をどうお考えになっていらっしゃるのか、その辺をお聞かせ願いたいのと。
 もう一つは、研修の問題で先ほど高木参考人がおっしゃいましたが、先ほど、午前中ちょっと議論をこれは法務省とやっておりましたら、最高裁の方で考えていらっしゃる研修というのは、先ほど小島参考人がちょっとおっしゃった言わば裁判形式を取るものですから、手続の問題であるとか公正さの問題であるとか、その辺をやればいいんじゃないかと。ある程度推薦していただくのは専門家の方だからというような認識をちょっとお持ちのような気がしたんで、ちょっと高木参考人がおっしゃっているのと差異がありましたんで、これは我々もそういう参考人の御意見を届けるのが役目ですからやっていきますが、ちょっと差があるんで、やっぱり研修についてのそういう考え方、推薦して出す以上、やはり研修というやり方についてはこういうものをということを是非、これは何か御助言みたいになりますが、もうちょっとこれ法務省に伝えてやらないと、これちょっと誤差が起きているなという感じをちょっと抱きましたので、そのことも含めて御答弁いただければと思います。
#141
○参考人(高木剛君) まず最初のこの審判法の評価といったお尋ねでございますけれども、率直に申し上げまして、私自身はいきなりというか、今回、労働参審制の導入までいければそれが一番いいなと思ってまいりましたが、それ、私どもの主張だけで世の中動いているわけじゃございませんで、いろんな方の御意見もありますので、労働検討会の座長の菅野先生等のお知恵も出していただき、あるいは裁判所なり法務省でもいろんな知恵を出していただいてこの審判制度を考案していただいたと、そういう意味ではその御努力等を多とするものでございます。
 ただ、せっかく作るんなら、これだけ労働者の泣き寝入りと言われることもたくさんあるわけでございますから、できるだけ有効な、使い勝手のいい仕組みにしてほしいと。例えば、かつて男女雇用機会均等法によります調停という仕組みがありましたが、調停を受けたいというふうに労働者が言っておりましても経営者の同意がなきゃ調停が始まらないなんという、そんな仕組み作ってくださって、駄目でしょうと。
 だから、この制度を議論する過程で、入口論、出口論、真ん中論といろいろありまして、入口はかなりきつい入口の入り方にしてくださいと、ですから出てこなくても審判は始めますよと。あるいは、出てこない場合は過料の制裁を科しますよというような仕組みにしていただいたり、出口も何もなく、簡単に、はい、さようならというわけにはいきませんよと。もし不服言われるなら、いわゆる審判廷への提起があった時点に訴訟を提起したものとみなすという擬制論等も入れていただいたり、できるだけ仕組みが、参審型に近いと言うとまた石嵜さんから文句言われるんであれでございますけれども、有効性の高い制度にかなりしていただいたという意味で、先ほど冒頭の意見陳述のときにも申し上げましたように、是非この法案お通しいただきたいというふうに申し上げた次第でございます。
 それから、研修の関係ですが、これも、この法案通していただいた後、具体的な論議が始まるお話かと思いますけれども、裁判所の方でお考えの研修というのは、審判制度とはこういうものですよとか、あるいは、どちらかいうと、制度及びその運用論に関する研修等を恐らく半日とか一日というオーダーでお考えのことなんじゃないかなと。
 私どもとしましては、労働に関する知識経験を持っている者という要件をいただいておりますので、それなりにやはりあるレベルを持った人に審判員になっていただくにこしたことはないという立場で、労働法あるいは判例、あるいは一部は簡単なレベルかもしれませんが、訴訟法なり調停に関する法律等についても、どういうことを勉強していただくかというのはこれから詰めていかなきゃいけないと思いますが、そういうものはかなり事前に必要で、そういうものを研修を受けることによって、特に知識の部分がちゃんと担保された人をお送りしているんですよというふうに社会的に評価をしていただく、認めていただけることが大切じゃないかなと、そんなふうに思っているわけでございます。
 もちろん、裁判所の公での研修を重ねて付加されるのは、多分任命前に、あるいは任命後にそういう研修があるだろうということは私どもも想定をしておるところでございます。
#142
○木庭健太郎君 石嵜参考人、先ほどこの運用の仕方いかんによっては、この法律でございますが、悪くなると、ちょっと、イギリスがいい例だというお話をちょっとされたようでございます。そういうイギリスの例というのを少し御紹介かたがた皆さんにしていただきたいのが一つと、もう私の持ち時間はそれぐらいで終わりますね、そういったものを少し御紹介いただければと思います。
#143
○参考人(石嵜信憲君) 労働参審制を最初に導入したのはドイツで、それを倣ったのがイギリスなんですけれども、イギリスも最初は雇用審判所で迅速かつ適正、この二つを目的として進んだんですけれども、差別事件とか何か、膨大ないわゆる時間が掛かる事件が入り出しまして、今はもう迅速に解決する場所ではないと言われております。それはやっぱり事件数に負けたということになります。また事案の複雑性もありますから。
 ただ、そういう意味で、やはり今イギリスがそのためにやっていることは、社内アピール制度といいまして、事前に社内でその苦情処理をアピールしろと、しないでそのままその外部のものに持ち出した場合は、そこで認められたその救済の内容をいわゆるへずると、まず金額だったら四分の一まで、二分の一とか削られるとか、そういう形でやはり社内で自主的に解決機能を高めようという、こういう形を考えておりますと。そういう意味では、やっぱり、事件数がやはり増大していき、それが労働審判に一気に流れたら、やっぱりそれも審判自体も動かなくなるんじゃないかと。そういう意味で、やっぱり基本は自主解決というふうな話をしてみたということです。
#144
○木庭健太郎君 ありがとうございました。
#145
○井上哲士君 日本共産党の井上哲士です。
 今日は三人の参考人、本当にありがとうございます。
 まず最初に、小島参考人にお聞きをいたします。
 事前にいただいた資料を見ておりますと、企業内で個別労働紛争が発生した場合にどういう機関が適当なのかということをアンケートを取られた結果を紹介されておりまして、大変興味深く読んだんですが、それを見ますと、企業の経営者の場合に、一番適当なのが民事調停を挙げる人が四割、それから全く駄目なのが労政事務所、労働委員会に関しても支持が低い、こういうようなことが言われておりまして、弁護士会の仲裁センターというのは割と支持が高いと、こういうことが紹介をされております。
 それぞれどういう理由でこういう結果になっているのか、そして、こういう今の現状からいいました中で、今回の労働審判という制度がどういう意味を持っているかと、その辺をまずお願いいたします。
#146
○参考人(小島浩君) 民事調停は、私、先ほどの意見陳述の中で、ちょっと学問的ではありませんが日本人になじみやすいというふうに申し上げましたが、やはり親身になって相談して、そして現実的な解決策を出してくれるというような意味で、全体的に調停のようなものに対しては好意的な回答が多いわけでございまして、たまたま今回選択肢に民事調停というのを挙げたものですから民事調停へ丸を付ける人が非常に多かったということではないかと思っております。
 それから、労政事務所とか労働委員会ということになってきますと、だんだんこれ、集団的労使関係の問題に特化されてくる傾向がございます。そうすると、これはどうしても対立が激しい。個別的な労使関係の問題とは性質が大分違ってまいりますから、個別的労使関係を扱う場としてはふさわしくないというような意味で選択をする人が少なかったんではなかろうかなというふうに考えております。
 で、これから、この法案となっております制度につきましては、先ほど石嵜参考人もお話しされましたように、裁判所の場で、なおかつある程度柔軟な解決案が提示される、そして労使の経験者がその過程の中に入ってくるというようなことでございますから、割と支持する人は多くなるんではないかというふうに思っておりまして、これ、今後の啓蒙、PR次第でございますけれども、究極的には相当高い支持が労使ともに現れてくるんじゃないかというふうに考えております。
#147
○井上哲士君 同じようなことを高木参考人にお聞きをするわけですが、私、この法案の質問を準備するときに厚生労働省にもいろいろお話を伺ったんですが、都道府県の労働局がやるあっせんに際しても、こういう制度も今後できたということをよく窓口で徹底をしてほしいということを言いますと、いや、今はこれは大変うまくいっているので、まずはこれをやらせていただくということを大変強く言われたんですね。大変制度は利用も多いとは思うんですが、それぞれにやっぱりいろんな限界もあろうかと思うんですね。
 今ありました調停や、そしてそういう都道府県の労働局がやっているような個別紛争の解決、それぞれの現状についてどのようにお考えで、それとの関係でこの労働審判をどのように評価されているか、お願いします。
#148
○参考人(高木剛君) 都道府県の労働局でいろんな事件につきまして、というか紛議につきましてあっせんが行われておりまして、ただ、あっせんで解決を得られない事件もかなりの件数、比率であると承知をいたしております。
 それから、そもそもあっせんですから、あっせんの場に出てきてくれない経営者、使用者というんでしょうか、そういう方々もいろいろなケースでかなりおられるというようなことも聞いておりまして、そういう意味じゃ、あっせんで解決されたものはやっぱり労働局のあっせんの仕組みが機能したということなんでしょうが、解決に至らない、あるいは、これはあっせんという制度の限界もあると思いますけれども、それからもう一つは、出てきてくれぬ人を相手にどうするんだというような面も含めまして、労働局のあっせんが持っております限界みたいなものを労働審判制度はある部分クリアできるんじゃないかと。労働局のあっせん不調事件なんかは労働審判にかなり私は上がってくるんじゃないかなと。これ、実際に回ってみなきゃ分かりませんけれども、そんなふうに思っております。
 ただ、ADR全般にはいろんな制度があっても私はいいと思いますが、使い勝手が良く有効に解決が得られる、そういう制度ごとの制度間競争というんでしょうか、おのずと出てくるでしょうし、いい制度だ、使い勝手のいい制度だということだったらたくさん使われるでしょうし、そういう中で、あるというか、あっせん制度と審判制度が併存するということも当然あるんだろうと思います。
#149
○井上哲士君 先ほど来、本来企業内で自主的解決すべきだけれどもその力が落ちているんじゃないかという石嵜参考人の御指摘もありまして、それについて経済界としてはどうお考えかという話もありましたけれども、これは労働運動にも問われることかと思うんですが、その問題については高木参考人はどのように評価をされて、どうすべきかとお考えでしょうか。
#150
○参考人(高木剛君) 小島さんからは、組合の組織率が落ちてきておって、おまえら世界が狭いから駄目だって言われましたが、労働組合のある職場で労働組合が組合員の苦情処理という機能を担うのは当然ですが、最近その苦情処理を担う力が落ちているんじゃないかと。組合に対するみんなの信頼感なり糾合感が落ちているんじゃないかという御指摘もあり、これは労働組合にかかわる者として、そういう御指摘はそのまま何もしないでほっといていいというわけじゃないとは思っております。
 そういう中で、これも最近よく言われます内部告発だとか公益情報通報だとか、それから企業のコーポレートガバナンスあるいはコンプライアンスとの関係、最近はそういうものを総称してかどうか知りませんが、CSRなんという議論をみんながするようになっておりまして、そういう中で正当な苦情といいますかリーズナブルな苦情が抹殺されるような職場はもう恐らく許されないんだろうと思うんですね。
 逆に、先ほど大脇先生がおっしゃった、どういう表現でしたか、紛争の封じ込めの手段だという、時には労使一緒になって封じ込めの手段化しているんじゃないかという御批判もいただいたこともかつてはありましたりね。だから、そんなことも含めて労働組合として苦情処理機能をどうするかというのを、これ、ひどいレベルのままほったらかしておきましたら労働組合はますます地盤沈下します。そういう認識しています。
#151
○井上哲士君 次に、研修について石嵜参考人と小島参考人にお聞きをするんですが、これも先ほど来議論になっておりまして、法務省などの認識と高木参考人が提案をされたようなものとは少しレベルが違っているなというお話もありました。
 一定のやっぱり水準を確保するという点での研修の重要性と、それから余りハードルを高くしますと出にくいということもあろうかと思うんですね。一週間程度の研修を受けて、それを推薦の条件にするというのが高木参考人からはあったんですが、石嵜参考人や小島参考人などは、そういう研修の形式とか条件、内容についてはどのようにお考えでしょうか。
#152
○参考人(石嵜信憲君) 基本的には推薦、これを推薦責任を持ってもらう、つまり専門性がある人を労使の団体で推薦してくるということですから、その労働事件に関する経験問題については一定のレベルがあるというふうに僕らは考えておりました。したがって、必要なものは法手続に対する研修だろうと。これは最高裁はちゃんとやると言っていると。
 ただ、そうはいっても、その推薦母体にすべてを任せるわけにいきませんので、いろんな研修、それを日経連でその費用を持ってやるかという、これは大議論になると思うんですが、結局は費用論であると思うんですけれども、その予算をどこから持ち出すかということはあるんですけれども、やはり一定程度、やはり三日ないし五日、これは僕らが議論した中なんですけれども、こういう形では、一定程度の研修をやった後、そしてそれを踏まえた形で任命していただくというふうには考えております。ただ、そこをどの機関でどういう形でやるかが今議論になるところだと思っております。
#153
○参考人(小島浩君) 私も石嵜参考人と基本的には同じでございまして、推薦する団体が専門的な知識経験のところの部分を責任を負わなければいけないだろうというふうには考えております。
 ただ、高木参考人のおっしゃることも非常に一理あるわけでございまして、その部分もかなり労使で共通するところがあるはずだから、国とか裁判所とか総力を挙げて権威のある研修をやって、その研修に合格すると、修了するということを委員任命の条件としたらどうかというようなお考えかと思うんですね。これは、法案が成立しましたら早速具体化をして、そういうことが可能であるかどうかということを議論する必要があるんではなかろうかなと思っております。
 教育の期間ということからしますと、私ももう五日が限度だと思います。それ以上の教育に出るような時間的余裕があるという人は、ちょっと私どもが考えている推薦対象とは違ってくると思うんですね。一週間、五日が恐らく限度で、それ以上の教育に掛かりっ切りになれるような時間が取れる人というのはまずいないんじゃないかというふうに考えております。
#154
○井上哲士君 最後に、小島参考人にお聞きしますが、先ほど石嵜参考人から、こういう紛争の証拠が非常に使用者側に偏在をしているという問題で、今コンプライアンスなどが重視される中で、そういうものもちゃんと出していくようにすべきだということが弁護士の立場から主としてありました。そういう点などが経済界の中ではどんなふうな御議論がされているのかお願いをいたします。
#155
○参考人(小島浩君) これ、もちろん一般論としては、会社の透明性とか情報の公開性ということと密接に関係してまいりますから、時代はそういう方向へ動いているということは間違いないと思うんですね。
 ただ、訴訟の技術とかプロセスとかいうことになってまいりますと、どういう証拠をどういうタイミングでどういうふうに出すかというのは基本的に訴訟当事者が決めることでございまして、証拠を出さなければ不利益を受けると、こういうような関係もあるわけでございますから、個別の事件に応じて個別企業が決めるということにならざるを得ないんではないかなと思います。しかし、方向としてはより情報を公開するということであることは間違いないです。
#156
○井上哲士君 終わります。
#157
○委員長(山本保君) 以上で参考人に対する質疑は終了いたしました。
 参考人の方々に一言御礼のごあいさつを申し上げます。
 本日は、大変お忙しいところ貴重な御意見をお述べいただきまして、誠にありがとうございました。当委員会を代表して厚く御礼申し上げます。ありがとうございました。(拍手)
 それでは、速記を止めてください。
   〔速記中止〕
#158
○委員長(山本保君) 速記を起こしてください。
 これより質疑に入ります。
 質疑のある方は順次御発言願います。
#159
○大脇雅子君 今までの日本の労働訴訟というのは、非常に長期化をし使い勝手が悪かった。人生を懸けて労働訴訟を行うということの決断は、なかなか労働者にとっては大変な重荷になるというのが現状で、だんだんと労働裁判の例、争訟事件が少なくなってきたのが日本の現状であろうかと思います。私自身も労働裁判で長期、十四年という訴訟事件を担当したことがございまして、それはもう筆舌に尽くし難い当事者に労苦を負わせるということでございました。
 今度、簡易迅速なということをキーワードにいたしまして労働審判制度が発足するわけですけれども、日本でこの制度を発足させるについて、外国の事例の比較検討をなさったと思うんですけれども、どのような国のどうした制度があるのかと、そしてそれに対して、日本から見て参考になり得ると判断されたような制度はどこの国のものであったのでしょうか、お尋ねします。
#160
○政府参考人(山崎潮君) この議論につきましては、出発点としては労働参審について導入すべきかどうかという議論がかなり長期間行われたわけでございます。そういう関係からは、労働参審につきましてはヨーロッパの国々が採用しているところもございますので、その辺を比較法的に参考にしたということでございますが、最終的に私どもの労働検討会で、皆様方の意見の趨勢というんですかね、それは、労働参審を今直ちに導入するということは非常に難しい状況にあると。そうだけれども、じゃ現実に個別労働紛争についてなかなか解決ができないで困っている方についてどのような手だてをすべきかという実質の議論を経まして、最終的には、この労働審判制度、それほど世界でこれが典型的だというものがあるわけではなく、実務の知恵というか、みんなが議論をしながら、それではこういうものを作ってその救済をしていったらどうかと、そういう発想から生まれてできたものということでございまして、特にこの点につきましては、労使の実務界からこのような声が上がってまいりまして成案を得たと、こういう状況でございます。
#161
○大脇雅子君 例えば、ドイツなどでは約六十万件が労働裁判所に係属するというような事例があり、アメリカの連邦地裁では三万七千余件というような事例があるわけですが、そうした各国では今その労働裁判というのはどのような状況にあると把握しておられるのでしょうか。
#162
○政府参考人(山崎潮君) 今二点、二か国について御指摘ございましたけれども、確かにドイツは、これは労働事件を専門的に扱う労働裁判所が設けられておりまして、この労働裁判所への申立て事件の数でございますけれども、二〇〇一年に約六十万件ということは今委員御指摘のとおりでございます。
 フランスも、労働事件を専門的に扱う裁判所として労働審判所というのが設けられておりまして、こちらで扱っている申立て事件の件数がやはり二〇〇一年で約十七万件という状況です。
 イギリスにおきましては、簡略にちょっと制度を申し上げますと、労働事件を扱う裁判所として雇用審判所というのが設けられております。これ以外にもその扱うところあるようでございますが、ここの申立て件数が二〇〇一年でやはり十一万件ということでございます。
 アメリカは、労働事件を扱う特別の裁判所は設けておりませんで、この事件は連邦でも州でも通常裁判所で扱われているようでございます。申立て件数はやはり同じ二〇〇一年で約三万七千件と、こういう状況でございます。
#163
○大脇雅子君 そういたしますと、その労働審判を申し立てるというところに障害があってはならないということになると思います。
 私は、基本的に踏まえなければならないのは、使用者と労働者のところにはもう現実的に圧倒的な力の差があるということではないかと思います。訴訟の中では、証拠が使用者側に偏在をしている。それ以前に、やっぱり法律争訟にするというところで、そのアクセスをするということに関する働く側のためらい、経済的にどうなんだろうかとか、あるいはその期間は長く掛かるだろうかとか、まあ賃金でしか食べられないというそういう労働者の弱い立場というものがあって、申立て自体に非常に大きな障害があるのではないかと。したがって、制度設計をする場合には、そうした現実に立脚した制度設計が必然的に必要になるのではないかというふうに思います。
 さて、今その申立て、紛争等の相談事例に当たっている各部局の問題点をお尋ねをしたいのですが、まず、厚生労働省のいわゆる労働局が受けているその個別紛争はもう年々増大をしているわけですが、その数、まあ他の方もお尋ねになりましたが、大体どういう紛争事例が増えていて、助言・指導、勧告、あっせんと、こう分かれているそれぞれの割合についてお尋ねします。
#164
○政府参考人(井口直樹君) お尋ねの個別労働紛争解決制度、これは十三年の十月からスタートしてございます。したがいまして、まだ全体で流れをしかと把握するところまでの実績がございませんけれども、十四年度で一年間見ますと、労働に関するあらゆる相談を含みます総合労働相談件数が六十二万五千五百七十二件、それから労働関係法上の違反を伴わない民事上の個別労働紛争相談件数が十万三千百九十四件、それから助言・指導申出受付件数が二千三百三十二件、それからあっせん申請受理件数が三千三十六件ということでございます。
 これは十三年度の実績と直接比べることが難しいものですから、これは平年度化した場合の数字ということで十三年度分を一年分ということで比較をいたしますと、例えば相談件数が二四・三%の増、それから個別労働紛争の相談件数が二五%増、それから助言・指導件数が六三・三%、あっせん申請が九八・七ということで、非常に大きな伸びを示しているんではないかというふうに考えてございます。
 内訳は、大体全体の相談件数でいいますと、解雇の関係、労働条件の引下げの関係、その他もろもろでございます。この全体的な割合はあっせんその他も大体同じような順番で様々な案件がこの制度の対象になってきていると、こういうふうな状況でございます。
#165
○大脇雅子君 その中で、指導とか勧告まで行った事例というのは何件ぐらいあるんでしょうか。
#166
○政府参考人(井口直樹君) 指導の件数が、先ほども、ちょっと重複をいたしますけれども、二千三百三十二件、それからあっせんの申請まで行っているものが三千三十六件ということでございます。
#167
○大脇雅子君 勧告は幾らぐらい。
#168
○政府参考人(井口直樹君) 勧告というのは直接ございません。指導あるいは助言・指導のことを先生おっしゃっておられるとしますと、ちょっと重複をいたしますが二千三百三十二件ということでございます。
#169
○大脇雅子君 そうすると、六十二万件ある中で助言、あっせんというのは合わせて五千ないし六千件ということですけれども、あとの事件はどのような解決で落着しているんでしょうか。
#170
○政府参考人(井口直樹君) これは相談件数でございますので、相談に応じましてその中でおおむね納得ということで御了解をいただいているんではないかと。その中で十分納得いかないところが助言・指導と、あるいはあっせん申請まで行っているんではないかというような理解をいたしております。
#171
○大脇雅子君 カウントの仕方ですけれども、これは相談は一事件やっぱり一件と解決するのか、一事件でも何回か相談してきたら五件とか六件とかといって解決、数えるのか。雇用機会均等法の相談事例では、一事件一件ということではなくて、同じ事件でも何回やったこと、ここ全部入れて件数をカウントしていたという事例があるんですけれども、その個別紛争事例の六十二万件というのはどういうカウントをしているんでしょうか。
#172
○政府参考人(井口直樹君) 厳密に申し上げますと、例えば相談窓口を複数設けておりますので、同じ方が複数のところに行った場合にどういうちょっと処理をしているのかというところまでは残念ながら私ども把握をしてございません。
#173
○大脇雅子君 そうしますと、今度労働審判制度ができた場合に、労働局としてはどのような対応をなさるわけでしょうか。一見して、カウントの方法はともかく、六十二万件というのが五、六千件というところに落ちた場合に、その間のものというのは一体どうなったのかというのは、フォローアップもしておられないと思うんですけれども。そうすると、紛争解決のための助力というものは絶対不可欠だと思うんですけれども、労働審判へ行けますよというようなことはどのような形で行われるつもりでしょうか。
#174
○政府参考人(井口直樹君) 恐らく助言・指導の申出の件数あるいはあっせん申請の件数、特にあっせんの事案の中でまだ十分これでは納得いかないと、あるいは解決に至らなかったという事例がこの新しい制度の方の対象になる可能性が非常に高いんではないかなというふうに認識をいたしております。
 したがいまして、窓口としてそれぞれの労働局等の相談窓口があるわけですけれども、そこで御相談をいただいたときに、例えば民事調停手続や何かのときにもやっておりますけれども、必要なパンフレットをお渡しする等々の手続をやっておりますが、それに準じたような形で、新制度ができた場合にはしかるべくそういうような御相談にも応じるような形で新しい制度とのつなぎを図っていくというふうなことで努めてまいりたいなと、そんな気持ちでおります。
#175
○大脇雅子君 都道府県の法律相談とかになりますと、例えば労働側の立場に立った相談員とあるいは使用者側の立場に立った相談員と、行く日によって相談が逆転をするという苦情をよく聞きます。簡易裁判所については、裁判官というか調停委員が中小企業の事業主であったり専業主婦であったり書記官のOBであったりしますと労働事件が全く分からないということで、利用されていないというのは実はそこにあるのではないかというふうに思います。
 弁護士会の仲裁センターはある程度機能していると思うんですけれども、少なくともそうした今受皿になっているところの窓口でどのように労働審判制度について周知徹底、PRが行われるかということがまず最初、生かす殺すの入口でなかろうかというふうに思いますけれども、こういう点についての周知徹底についてどのように法務省はされる予定でしょうか。
#176
○政府参考人(山崎潮君) これは法務省、あるいは私ども本部、十一月まででございますので、ここでできるものはやるということになろうかと思いますけれども、まずこの制度が非常に使い勝手がいいものだということですね、で、知っていただかなければ来ていただけないということにもなるわけでございますので、いろんなところと提携して、あらゆるこういうようなADR機関とかあるいは公的な機関のところにいろいろな分かりやすいものを置くなり、あるいは労働団体それから経済団体、こういうところも通じて内部的にも周知徹底をお願いをすると。
 こういうようなことをやっていかざるを得ないだろうということで今のところ考えておりますけれども、まだ具体的にどのような周知の方法を講ずるかということはまだ決まっておりませんけれども、私どもとしてはまたそういう点を詰めてまいりたいと。それから、また裁判所の方ともいろいろタイアップをしてやっていかざるを得ないと、こういうふうに考えております。
#177
○大脇雅子君 推進本部は十一月三十日に終わるということになると、後は法務省に掛かって推進ということになると思うんですが、大臣はこの周知徹底についてどのように取り組まれるのか、お尋ねをいたします。
#178
○国務大臣(野沢太三君) 労働審判制度は、個別労働関係紛争の増加に対応しまして迅速かつ適正な解決を図るために新しい使いやすい制度であることから、国民に対してその旨広く十分に周知を図ることが必要でございます。
 私といたしましても、国民に広くこの制度が周知され、利用されますよう必要な努力をしてまいりたいと考えておりまして、先ほど委員からお尋ねございましたように、欧米の水準にできるだけ近付くような努力を重ねてまいりたいと考えております。
#179
○大脇雅子君 今国会ではその労働委員会の制度も改革をされるわけですけれども、個別紛争でもいわゆる多数当事者で集団性を帯びてくるものがありまして、労働審判は個別紛争だということで、労働委員会は集団的争議というか紛争ということになりますと、しかしこの境界というのは結構グレーゾーンがありまして、そこの腑分けはどのようにして行われるのでしょうか、お尋ねします。
#180
○政府参考人(山崎潮君) 制度の建前といたしましては、集団紛争については労働委員会の方でお願いをいたしまして、そこから裁判所の方へ来るルートということでございます。私どもの方が今考えておるのは個別労働紛争、これは都道府県の労働局も同じでございますけれども、その一応仕分は仕分でございますけれども、じゃ個別紛争といっても、じゃ単に一人の紛争かと。そこら辺の概念にもよるわけでございますが、それが個人個人で、複数の方がおられるというものについてもこれは個別労働紛争の範疇でございますので、それについてはやっぱりこちらの制度の中でも利用することができるというふうに考えております。
 要するに、組織対組織の大きな紛争と、こういうことになれば、これはこの労働審判の役割ではないだろうと。しかし、そうでないものについて、たまたま複数になったといっても、これはこちらの制度の中で射程距離であろうというふうに考えております。
#181
○大脇雅子君 三回の期日でその争点と証拠整理と、いろいろな職権の取調べが行われるということになりますと、これは当事者とも体力勝負みたいな感じになるんじゃないかなと私は思うんですけれども。
 裁判所で言う準備手続のようなものの活用とか、あるいは事前の調査ですね。例えば多重債務の事件なんかですと、税理士とか公認会計士が事前調査して論点整理して一日で終わるというようなことが行われているわけですし、今訴訟の促進ということで準備手続も裁判所では非常に厳しくなっておりまして、遅れた抗弁は取り上げないぞというような強い姿勢で臨んでおられるわけですけれども、この三回の期日についての準備手続や事前調査みたいなものは考えておられないんでしょうか。それはその三回の中に入るんでしょうか。
#182
○政府参考人(山崎潮君) 運用の面はまた別でございますけれども、制度の建前で申し上げたいというふうに思いますけれども、この労働審判の期日でございますけれども、この期日の中で準備をする、何をするというのは、これはまあその委員会が決めることでございますから、その特別な決まりはございませんけれども、少なくとも、準備をするために期日の指定をするということになって当事者を呼び出すということになれば、これ一回にカウントをされるということになろうかと思います。
 まず申立てがあって、一回目はまずお集まりいただかないと双方の事情がまず分からないんだろうと思いますね。そこで聞きまして、それからいろいろ資料等の交換等が行われまして、そこで、委員会の方もそこで少し整理をしながら、じゃ、こういうものを準備してほしいということになろうかと思いますが、それで次回の期日が少し先になる、仮に先になるとしても、その間で、当事者間でいろいろその書証の往復をしたりそういう準備をしていただいて、次回にはまたきちっとした整理ができるように、あるいは判断ができるようにしていくという期日間の事実上の準備ですね、これを大いに利用をしていただかないと、なかなか三回で終わるというわけにはいかない、こういう建前になっておりますので、期日指定をいたしますと一回にカウントと、それ以外のやり方をやっていただければそれで十分準備の実質が保てると、こういうふうに考えておるわけでございます。
#183
○大脇雅子君 この審判法の十五条によりますと、特別の事情の場合を除いては三回の期日ということになっております。この特別の事情というのはどういうものを考えたらよろしいのでしょうか。
#184
○政府参考人(山崎潮君) これは、原則としてはなるべく時間を掛けずに解決できるものは解決するという制度でございますけれども、これを全部三回ということになると、かなり硬直的な運用になる可能性もございます。
 そこで、ここで考えているのは、その続行する期日ですね、四回目の期日です。そこで実施をする予定の内容だとかあるいはその重要性、それから手続を続行することによって紛争の解決に至る見込みがあるのかどうかと、こういう点を総合判断をいたしまして、もう一回延びても解決の見込みがあるというような事情があれば、それは、裁判所は紛争解決のためにお手伝いをするわけでございますので、それはある程度柔軟にそこでやっていただきたいと。
 しかし、そうではない事例で、ただ四回目を双方が望むからやるということではないということでございまして、そういう特別の事情はやっぱりある程度解決の見込みがあるというような場合に開いていくと、これは具体的にどういうことかは、また運用上の解釈の問題であるということでございます。
#185
○大脇雅子君 労働紛争でも、賃金の未払事件あるいは残業の未払事件、明らかに労基法違反の場合と、いわゆる経営上の必要があるのかどうかという解雇とか配転の事件では、全然その重みというか、が違うのではないかと。したがって、異なった制度設計が必要ではないかというふうに感じられますけれども、この点について、その特別の事情で配慮するということはあり得るのでしょうか。
#186
○政府参考人(山崎潮君) これは、ただいま申し上げましたように、見込みとの関係だろうと思いますけれども、やっぱり解雇等の事件については相当主張も対立する関係もございますし、間接的な事実からいろいろ判断をしていかざるを得ないということになろうかと思います。
 そういうことで、見込みがある、しかし三回で終わり切らぬということになれば、それはやはり特別な事情としてやっていくということになろうかと思いますけれども、ただ、一般的にその事件が複雑であるからとか、証拠が大量であってその整理が付かないからというだけでは四回目になるということではないという御理解を賜りたいと思います。
#187
○大脇雅子君 最高裁判所の方にお尋ねしますが、規則をこれから制定されるということで、一年以内に行われる。そうすると、これは審判員の規則と、それから通常の労働審判手続の規則と、二つ作られるわけでしょうか。そして、それは一年以内に行われるということで、この諮問委員会というのはもうできているんでしょうか。どんな人たちが参加しておられるのでしょうか。
#188
○最高裁判所長官代理者(園尾隆司君) 二つの規則を一年程度の期間で作るということを目標にして、現在、規則の立案についての検討作業中ということになります。
 この諮問委員会は、この法律が成立いたしますと、その後、委員の任命、招集というような手続がそれに続いてまいるわけでございますけれども、この委員につきましては、主にこれまで労働検討会において制度設計に当たられた方々について委員として加わっていただいて、それに裁判所の一般的な規則の制定の委員の方々も加わってもらって、議論をして決めていくというような手順を考えております。
#189
○大脇雅子君 労働審判員については除斥の理由はありますけれども、審判官が評決に参加するんだけれども、忌避の条項がないのはなぜでしょうか。これは、一体、例えば差別発言があった場合とか、適格性を欠いて、除斥理由以外だけれども当該事件を担当するのに非常な偏見的な発言をしたということで忌避をしたいというときには、これはどうなるんでしょうか。
#190
○政府参考人(山崎潮君) これは調停でも、民事調停ですね、家事調停でも同じでございますけれども、事件関係者はやっぱり困りますので、除斥の規定はございますけれども忌避の規定はないということでございます。最終的には話合いで解決をしていく、そういうような調停の場でございますので、そういう中で本当にそれができないということになればもう不調にするということですね。
 それも考えられますし、場合によっては裁判所によって調停委員と同じような形で審判員が何人か候補者がおりまして、どうしてもなかなか事件の当事者と本当に信頼関係が保てないというような状況が出るということも考えられないわけではございませんが、そういう場合には任務を替えて別の方をお願いするとか、これは運用上の問題として行えば足りるだろうということから、わざわざ制度として設けるようなことはしなかった、こういうことでございます。
#191
○大脇雅子君 しかし、当事者にとっては実際上忌避の権利がないというのはかなりのプレッシャーになるわけで、運用上の問題だというと、最高裁判所はどのようにお考えでしょうか。
#192
○最高裁判所長官代理者(園尾隆司君) そもそも、この手続は、異議が出ると失効して訴訟に移行するという手続ですので、審判をする側とそれから当事者との信頼関係がどう築けるかということが大変重要な手続になります。したがいまして、この忌避というような厳重な不信の関係があるものについて手続を進めていくというのは一般的に大変困難になってくるというように考えております。
 具体的な事例の対処の仕方というものは、その事例が出てきてのそれぞれの対処だというふうに思いますが、一般的に言いまして、そのような関係が生じるということはむしろこの制度上本来的には余り予定をしていない事態であるというように考えております。
#193
○大脇雅子君 雇用機会均等法にはセクシュアルハラスメントの規定があるんですが、雇用機会均等法の調停にはなじまないということで調停の申立ての理由にはなっていないと、私は、今増大している個別的なセクハラの事例がこの労働審判の方にも行くのではないか、そうした場合に男性、男性の審判員ではとてもそういう審判は信頼性を欠くと思うんですね。
 家庭裁判所は、どんな場合でも男性の審判員と女性の審判員とやはりちゃんとジェンダーバランスがあるので、離婚事件その他家庭事件ではその信頼性を保ち得るということがあると思うんですが、そういうセクハラのような場合には労働審判官のこういうジェンダーバランスを考えられるのでしょうか。運用上の問題だと思いますが、いかがでしょうか。
#194
○最高裁判所長官代理者(園尾隆司君) まだ事件の内容に関して具体的に様々なことを想定して検討するという段階にまで検討が至っておりませんが、そのような問題点についての御指摘もあるというようなことも研究の題材といたしまして、今後のこの運用について更に研究を重ねていきたいというように思っております。
#195
○大脇雅子君 そういう点では、派遣の労働者も九〇%近くが女性でありますし、パートタイム労働者も七〇%近くが女性であります。有期雇用の人たちも契約社員の人たちも女性が多くて、最も差別を受けているのは非正規の雇用の人たちで、そういう人たちがなかなか適正な紛争処理についてのそうしたシステムに乗らないというのが現状でありますが、そういうためには労働審判員のジェンダーバランスをきちんと考えて対応していただくということが紛争解決の成功例につながるのではないかと思いますので、是非御検討をいただきたいと思います。
 さらに、それに加えまして、研修についても、労働法の科目が司法試験から落ちて、裁判官自身もOJTで労働事件をやりながら現場の声や状況を耳にするということにもなっておりますし、そうしたら女性問題についての研修も是非入れていただいて、女性労働問題の特殊性ということも是非研修として労働審判員の人には行っていただきたいと思うのですが、いかがでしょうか。
#196
○最高裁判所長官代理者(園尾隆司君) 具体的な点についての検討はまだまだこれからというところでございますが、そのような重要な御指摘も踏まえまして、今後もどのような体制を取っていくのか、研修についてどのような内容にしていくのかというようなことについて更に研究を重ねたいというように思っております。
#197
○大脇雅子君 法務大臣にお尋ねをしたいのですが、各企業とか団体、あるいは裁判所などの研修以外に、法務省としてはこうした労働審判に関する研修というものは考えていらっしゃるでしょうか。
#198
○政府参考人(山崎潮君) 大臣への御質問でございますけれども、ちょっとこれは運用上かなり裁判所の方で行われることになろうかと思いますので、ちょっと法務大臣の方からお答えするのが適当かどうかということでございますので、私の方から答弁をいたしますけれども、これは、現実の研修についてはいろいろコーディネートとかそういう問題は法務も絡むかもしれませんけれども、現実にいろいろ行っていただくのはやっぱり裁判所でございますので、そちらの関係でまた運用上いろいろお願いをしていくということになろうかと思います。
#199
○大脇雅子君 非訟事件の中で公平性や中立性をどうやって確保していくのかというのが実は制度の信頼性の根底になるという非常に困難な問題が横たわっているかと思います。泣き寝入りを少なくするために、是非、審判員の任命、選任については公平で透明性を持っていただきたい。どういう基準で選任するのかというようなことについて、透明性の確保ということが各界から要望されておりますけれども、裁判所はどのようにお考えでしょうか。
#200
○最高裁判所長官代理者(園尾隆司君) 労働審判員の選任に関しましては、この制度ができた場合の最も難しい、最も力を入れて検討しなければならない課題であるというように認識をしておるところでございます。中でも、ただいま御指摘のように、どのようにして公平公正な労働審判員を選任するのかということは大変大きな課題でございます。
 多数の労働審判員を選任しなければならないということで、しかもレベルの高い者が要求されるということですので、推薦をいただくということになりますが、そうなりますと、どのような仕組みを作って公平公正な選任に結び付けていくかということについて、これは現在も鋭意意見聴取をして制度設計をしておるところでございますが、今後とも更に広く意見聴取をして、ただいまのような点について何とか公平公正な仕組みができ上がるというようなところまで努力をして施行を迎えたいというように現在は考えておるところでございます。
#201
○大脇雅子君 今まで議論されてきた労働訴訟に専門家を参加させるという労働参審制というものに対して、この労働審判法がどっちを向いているのか。一つのここでの帰結なのか、あるいはこれから更にステップとしてそちらの方に入っていくのかというのは、訴訟当事者あるいは法曹関係者を超えた国民的な関心事であろうかと思います。
 裁判員制度も法案としてこちらに回ってきたところで、法務大臣にその労働参審制についての法務省の立場というものをお尋ねいたしまして、私の質問といたします。
#202
○国務大臣(野沢太三君) 大事な御質問でございます。司法制度改革推進本部の労働検討会での議論におきましては、労働参審制の導入の討議につきまして、労働関係訴訟の今後の状況、労働審判制度における労働審判員の関与の実績などを踏まえまして、将来の重要な課題として取り組むべき問題と承知をいたしております。
 したがいまして、労働参審制につきましては、検討を行うとしても、これから導入される労働審判制度の実施状況をまず踏まえた上で、必要な場合に改めて検討していくことが適当ではないかと考えております。この場合、労働事件のみならず、民事訴訟一般における専門的な知識経験の導入の在り方の論点とも関連いたしますので、極めて大きな視点からの検討を要する問題と考えております。
#203
○大脇雅子君 終わります。
#204
○井上哲士君 日本共産党の井上哲士です。
 昼から参考人質疑を行いました。実は、衆議院では参考人質疑はなかったんですが、大変新しい重要な制度の審議に当たって、これは良識の府参議院としては参考人もやろうということを野党から申し上げましたら、良識の府らしい与党の対応をいただきまして、参考人質疑も実現をいたしました。私は、大変理解が深まってよかったと思っております。
 そこで、少し参考人質疑の中で出てきたことについて、まず幾つか確認的に質問をしておきたいんですが、研修の問題が随分議論になったんですね。やはり、労働審判員の適切な選任をしていく上でこの研修が非常に大事だと。
 例えば、高木参考人からは、きちっとオーソライズされた研修が必要だということがありました。これは、最高裁が研修主体だということでよろしいのか。そして、衆議院の答弁を見ておりますと、各地裁単位での研修ということもあるわけですけれども、それも含めて最高裁が基本的に研修主体になるのか。そして、その際の費用とか、これも基本的に最高裁が責任を持つと、こういうことでよろしいんでしょうか。
#205
○最高裁判所長官代理者(園尾隆司君) 最高裁判所やあるいは地方裁判所が実施をいたします研修は、これはただいまの御指摘であれば、いずれも公的なものですからオーソライズされたものというように言えようかと思います。この点については、当然のことながら費用は最高裁判所で確保して行うということになります。
 このオーソライズされた研修というのは、もう一つ現在、検討課題としていろいろ研究をしておりますのは、推薦をいただく際に、各種の団体から何らかの形でオーソライズされた研修機関のようなものを設けて、そのようなものについて一定期間研修を受けて、その中から裁判所に対して労働審判員の候補者として推薦をするという、そのような意味でオーソライズされた研修ということも一つの研究のテーマになっておるというように認識をしておりますが、そのようなものが将来的に検討していけるかどうか、このようなことも含めて検討課題であるというように認識をしておるところでございまして、そのような意味で、これから研修に関しても検討すべき課題は大変多くに上るというように認識をしております。
#206
○井上哲士君 研修の期間についても、七日間とか最大でも五日とか、こんなお話もありました。
 今の件なんですけれども、要するに、推薦をする上での条件としてこの研修を受けているというものにして、それは例えば、労働側、使用者側、それぞれそういうものを作るということなのか、それとも、やはり最高裁がやる公的な研修を事前に受けておくということが推薦の条件になるということをお考えなのか。それから、例えば年に一回そういう研修を常時開いておいて、言わばライセンス的にそこを持っておけば、将来、労働審判員としての資格、資格というんでしょうか、条件としてやるというような形もあろうかと思います。それから、推薦を受けた上で実際の任務に就くに当たっては、この研修を受けるという義務付けというやり方もある。それぞれどういうふうな検討がされているんでしょうか。
#207
○最高裁判所長官代理者(園尾隆司君) 最高裁あるいは地方裁判所において行う研修といいますのは、これは労働審判員の候補として任命した後の研修ということになります。
 そういう意味で、候補者を裁判所に推薦をするための研修というような、これは現在議論がされておるということでございますが、そのような研修とは違ったものということになります。推薦をするための研修というものに裁判所が直接関与していくということは、現在の議論では出ていないところでございまして、これは労働者側あるいは使用者側から何か良い仕組みはないものかということで、いろいろと研究をされておるテーマであるというように承知をしておるところでございまして、直接にその点について裁判所がかかわっておるというわけではございません。
#208
○井上哲士君 労働審判員の選任方法については広く意見を聞いているというお話がありましたが、こういう研修の在り方、位置付け、内容等についても併せて意見を広く聞くと、こういうことでよろしいでしょうか。
#209
○最高裁判所長官代理者(園尾隆司君) 御指摘のとおりでございまして、そのような点についてはこれからも鋭意、もう意見も聞きますし、議論もしていって、良い仕組みができ上がるということに努めていかなければいけないというように考えておるところでございます。
#210
○井上哲士君 是非よく意見を聞いていただいて、良い研修制度を作っていただきたいと思います。
 それからもう一つ、守秘義務にかかわって推本に聞くんですが、参考人のお話で、こういう労働審判員になって労働審判に携わった方がまた労働組合やそして使用者側の現場に戻って、そのことがいろんな現場での解決の力になっていくに違いないと、こういうお話がありまして、私も、なるほどなと思って聞いておりました。そうしますと、労働審判員が労働審判にかかわったときのいろんな経験、内容というものを、やはり交流をしたり現場に返していくという作業が大変大事だと思うんですね。その際にこの守秘義務ということが掛かってまいります。
 三十三条で、正当な理由なく評議の経過又は労働審判官若しくは労働審判員の意見若しくはその多少の数を漏らしたときは三十万円以下の罰金と、三十四条は、やはり正当な理由がなく職務上取り扱ったことについて知り得た人の秘密を漏らしたときも一年以下の懲役又は五十万円以下の罰金ということになっておりますが、この正当な理由ということがどういうことなのか。
 先ほど言いましたように、現場でこうした労働審判で得た経験などを返していく、いろんな研究もしていくということの妨げになるとまずいと思うんですが、この点はいかがでしょうか。
#211
○政府参考人(山崎潮君) これは、またいずれ裁判員制度の御審議をいただくわけでございますが、そこの審議とかなり似通ったところがございまして、まず評議の秘密の関係は、これが外へ出てしまうということになれば、後でそのどっちに賛成したんだか反対したんだとか、そういうことになりますと、もう後、自由に物が言えなくなるおそれがございます。特にこの労働の関係での委員は、審判員は、一件一件だけではなくてある継続した期間でやっていくわけでございますので、その途中で、あの事件の評議が漏れた、どうだったこうだったというと後の事件も非常にやりにくくなるということですね。その点をかなり考慮しているわけでございまして、そういう点から、その正当な理由なくその評議の秘密を漏らした場合、これは三十万円以下の罰金ということになりますが、もう一つは、人の秘密を漏らすということになりますと、これはプライバシーの問題でございますから、どういう場合であってもこれはやっぱり人の秘密は守らなきゃいかぬということから懲役が付いていると、こういうようなことになっております。
 御指摘の点につきましては、これは将来この制度の発展のためにいろいろな御提言をいただくとか、こういうことだろうと思いますが、これは裁判員制度も同じでございますが、制度の将来の発展のために制度についていろいろ意見を言われるということについては、この評議の秘密とかその内容にかかわらない問題に関してはそれはもう自由であるということでございます。
 したがいまして、そういう関係からはこの規定が置かれましても将来の制度の発展のためにはいろいろな御意見を賜りたいというふうに思いますし、それからある意味ではその抽象化をする必要があろうかと思うんですね、物を言うときにはですね。そういうのは、ストレートにこの評議の秘密にわたるようなことを言われてはそれは困りますけれども、抽象化をしながら将来につながる発展をする、議論をすると、こういうような形になります。ただ、それは自己判断でやりますと、ここでその正当な理由があるかないかというところに絡んでまいりますので、それは慎重を要するということになろうと思います。
#212
○井上哲士君 それでは、幾つか運用の問題についてお聞きをいたしますが、申立ての際に定型的な申立て書なども作る必要があるのではないかということが言われておりますが、大体、統計を見ますと、解雇、不払というものが大変多いと予想もできるわけですが、こういう言わば類型に沿った形で何種類かの定型的なものないしはガイドライン的なものを用意をしていくと、こういうことでよろしいでしょうか。
#213
○最高裁判所長官代理者(園尾隆司君) これは、定型書式の対象といたしますのは最も典型的なものということになっていくだろうというふうに思います。ただ、それぞれの紛争を見てみますと、それでは十分に意のあるところが尽くせないということが多々あるものでございまして、それにつきましては、これは期待あるいは予測でございますが、弁護士会の方々も様々な書式を作って発表してくださるであろうというように予想しておりますし、また、それぞれの裁判所での工夫というものもあると思います。そのようなもので、最高裁判所として統一的にやっていけるものというものにつきましては、これは最高裁判所が主導でもって定型の書式を作るというようなこともやれる可能性もあるのではないかというように思っております。
#214
○井上哲士君 先ほどの参考人質疑でも入口論とか出口論というのが大分議論になったということが言われておりました。相手方が同意しなければ手続を開始できないとか、それから出頭しない場合に手続を進行しないとか、こういうことになると十分機能しないんじゃないかということが議論になったということでありますが、この点は仕組みとしてはどのようになっているんでしょうか。
#215
○政府参考人(山崎潮君) これにつきましては、かなり時間を掛けて私どもの検討会でも議論した問題でございます。最終的にはここに今御提案をさせていただくような形になっているわけでございますけれども、まず、共同の申立てにするということになりますと、その相手方の一存でこの手続が利用できなくなってしまうおそれがあると、ここが一番のポイントになるだろうと。せっかく作っても利用されないものでは困るということから、この関係では一方の申立てで開始をするということにしております。
 ただ、相手方の利益の問題もございます。ここの相手方の利益をどこでバランスを取るかということでございますけれども、最終的にその審判が行われましても、異議を申し立てればその異議の効力は消えるということで、あと裁判の方でがっぷり四つでやっていただきたいと、こういう形になるわけでございますので、本当に意に沿わないものであればそこで異議を申し立てていただくというところでバランスを図ると、こういうような手続にしたということでございます。
#216
○井上哲士君 そうしますと、片方の当事者は訴訟をし、片方の当事者が労働審判手続というふうに並立するということも可能性としてはあるわけですね。
 二十七条を見ますと、「労働審判手続の申立てがあった事件について訴訟が係属するときは、」「労働審判事件が終了するまで訴訟手続を中止することができる。」と、こうなっております。ですから、並び立った場合は労働審判が優先をするということのわけですが、ただ、この中止するじゃなくて「することができる。」ということにもしてありますが、この辺の考え方はどうなっているんでしょうか。
#217
○政府参考人(山崎潮君) 確かにそれを、このような事態を想定して二十七条の規定を置いているわけでございますけれども、「中止することができる。」でございますので、仮に申立てがあっても、到底今の裁判の状況から、そこで話合いあるいは何らかの解決ですね、それが行われて円満に解決するかどうか、それが非常に疑問がある場合もあり得ます。ですから、そこは必ずしも中止をしなければならないということにはしていないわけでございまして、そちらでまずやってみて、うまくいきそうなものについてはそれは中止をしてまずそちらで解決した方がいいだろうということになりますが、必ずしもそういう事案ばかりではないということから「できる。」と、こういう規定にしているわけでございます。
#218
○井上哲士君 そういう事案の場合などは、多分この労働審判を経ないで手続を終了する場合ということにもなってくるんだと思うんですが、この労働審判を経ないで手続を終了するというのはどういうことが想定をされているんでしょうか。
#219
○政府参考人(山崎潮君) これにつきましては、例えば、様々なポイントがあるかと思いますけれども、争点が非常に多数である、あるいは多数の当事者が関与しているというような非常に複雑な事案というような場合、これが一つの典型で考えられます。それから、これは三回の期日でやるわけでございますので、そういう関係で、この短い期間で紛争の解決をゆだねるということがかえってそれでは当事者間の紛争を逆に激化させるおそれがあるような事件とか、そういうようなことを考えまして、ここの手続を強行することによってかえってその先々も含めて両者の対立が激しくなると、こういう点を考慮いたしまして、そういうものについてはもう終了手続を経まして、それはもう裁判の方でがっぷり四つでやっていただきたいと、こういうようなルートを設けたということでございます。
#220
○井上哲士君 そういうケースの場合など、結果として訴訟まで行くということであれば、長期化を避けるということからいいましても早めにこの手続終了の決定を行うということも考えられると思うんですが、この三回の期日までやった上でこの終了ということにするのか、それとももっと早い段階でこれは到底無理だということになればそういうこともやり得るのか、その点はどうでしょうか。
#221
○政府参考人(山崎潮君) 御指摘のとおりでございまして、これはもう事案から見て、第一回期日の前でもこれは難しいというものもあろうかと思います。ただ、運用上は、裁判所はそう思っても、あるいはその委員会が思っても、やっぱり一応は確かめるだろうというふうに思いますけれども、少なくとも、でも第一回期日を開く前にも難しいというものもあり得るということになろうかと思います。
#222
○井上哲士君 その場合に、当事者はしかしちゃんとやってほしいという場合もあろうかと思いますが、その辺の運用はどういうふうにされるんでしょうか。
#223
○政府参考人(山崎潮君) 特に申立て側だと思いますけれども、それはですから、こういう状況で本当に大丈夫なのかどうかと意見を聞く、こういうことで総合判断をするということになろうかと思います。これに対しての不服申立てという手続はございませんので、あとはもう裁判でやっていただくと、こういうことになります。
#224
○井上哲士君 そうなりますと自動的に訴訟手続に移行するわけでありますが、この審判の手続で行ってきた証拠調べとか、そして労働審判、失礼しました、ですから終了じゃなくて審判が出た場合、審判が出た場合に、これは異議の申立てが行われますと自動的に訴訟になりますわけですが、その際のそれまでの証拠、それから審判そのもの、これはその後の訴訟手続ではどのように生かされるんでしょうか。
#225
○政府参考人(山崎潮君) これは異議が出ますと、通常、民事事件として係属するということになろうかと思いますけれども、この審判制度につきましては、これは非訟事件手続法でございますので職権主義が採用されている手続でございまして、裁判の方については当事者主義の構造になっておりますので、その職権でいろいろ調べたものもそのまま全部出すということになったときに、やっぱり当事者の手続の構造から当然にそうあっていいかどうかという問題もございますので、当然には資料にはならないということでございます。
 ただ、これについてはいろいろ閲覧とか謄写もできるような手続になっておりますので、当事者の方でそれを取って必要なものは裁判の方へお出しをいただくと、こういうような自主性にお任せをすると、こういうシステムで考えております。
#226
○井上哲士君 最初にも申し上げましたけれども、私たちはやはり労働参審制というものの実現ということを求めてまいりました。この審判手続が本当に使い勝手の良いものになって大いに活用されることによって、そういう労働参審制の道が開かれていくという点での運用を心から期待をいたしまして、質問を終わります。
#227
○委員長(山本保君) 他に御発言もないようですから、本案に対する質疑は終局したものと認めます。
 これより討論に入ります。──別に御意見もないようですから、これより直ちに採決に入ります。
 労働審判法案に賛成の方の挙手を願います。
   〔賛成者挙手〕
#228
○委員長(山本保君) 全会一致と認めます。よって、本案は全会一致をもって原案どおり可決すべきものと決定いたしました。
 この際、千葉君から発言を求められておりますので、これを許します。千葉景子君。
#229
○千葉景子君 私は、ただいま可決されました労働審判法案に対し、自由民主党、民主党・新緑風会、公明党及び日本共産党の各派共同提案による附帯決議案を提出いたします。
 案文を朗読いたします。
    労働審判法案に対する附帯決議(案)
  政府並びに最高裁判所は、本法の施行に当たり、次の事項について格段の配慮をすべきである。
 一 労働審判制度が、近年の個別労働関係事件の増加に適切に対応し、労使関係の専門的知識経験を生かした迅速・適正な紛争解決の促進を図る見地から導入されたことにかんがみ、制度の目的、内容、手続等について広く国民に周知徹底し、その利用促進に努めること。
 二 労働審判員の任命については、公正性と中立性を確保し、労使関係に十分通じた適任者を選任するとともに、その資質・能力の向上を図るため適切な教育・研修が行われるよう必要な措置を講ずるよう努めること。
 三 労働審判手続の実施については、労働審判員の確保の状況及び労働審判手続の状況等を見極めつつ、国民の制度利用に支障を生じないよう、必要な体制整備に努めること。
 四 労働審判制度の実施状況等を踏まえ、将来、関係者の意見を聴きつつ必要に応じ、訴訟手続に労使関係の専門家が参画する労働参審制に関し、導入の当否について検討すること。
   右決議する。
 以上でございます。
 何とぞ委員各位の御賛同をお願いいたします。
#230
○委員長(山本保君) ただいま千葉君から提出されました附帯決議案を議題とし、採決を行います。
 本附帯決議案に賛成の方の挙手を願います。
   〔賛成者挙手〕
#231
○委員長(山本保君) 全会一致と認めます。よって、千葉君提出の附帯決議案は全会一致をもって本委員会の決議とすることに決定いたしました。
 ただいまの決議に対し、野沢法務大臣から発言を求められておりますので、この際、これを許します。野沢法務大臣。
#232
○国務大臣(野沢太三君) ただいま可決されました附帯決議につきましては、その趣旨を踏まえ、適切に対処してまいりたいと存じます。
 また、最高裁判所にも本附帯決議の趣旨を伝えたいと存じます。
#233
○委員長(山本保君) なお、審査報告書の作成につきましては、これを委員長に御一任願いたいと存じますが、御異議ございませんか。
   〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
#234
○委員長(山本保君) 御異議ないと認め、さよう決定いたします。
 本日はこれにて散会いたします。
   午後三時四十五分散会
ソース: 国立国会図書館
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