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2004/05/18 第159回国会 参議院 参議院会議録情報 第159回国会 法務委員会 第17号
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2004/05/18 第159回国会 参議院

参議院会議録情報 第159回国会 法務委員会 第17号

#1
第159回国会 法務委員会 第17号
平成十六年五月十八日(火曜日)
   午前十時開会
    ─────────────
   委員の異動
 五月十三日
    辞任         補欠選任
     小野 清子君     愛知 治郎君
     野間  赳君     小泉 顕雄君
     堀  利和君     小川 勝也君
 五月十七日
    辞任         補欠選任
     愛知 治郎君     小野 清子君
     小泉 顕雄君     野間  赳君
     小川 勝也君     堀  利和君
 五月十八日
    辞任         補欠選任
     樋口 俊一君     岩本  司君
    ─────────────
  出席者は左のとおり。
    委員長         山本  保君
    理 事
                松村 龍二君
                吉田 博美君
                千葉 景子君
                木庭健太郎君
    委 員
                青木 幹雄君
                岩井 國臣君
                鴻池 祥肇君
                陣内 孝雄君
                野間  赳君
                今泉  昭君
                岩本  司君
                江田 五月君
                角田 義一君
                堀  利和君
                井上 哲士君
   衆議院議員
       修正案提出者   与謝野 馨君
       修正案提出者   佐々木秀典君
       修正案提出者   漆原 良夫君
   国務大臣
       法務大臣     野沢 太三君
   副大臣
       法務副大臣    実川 幸夫君
   大臣政務官
       法務大臣政務官  中野  清君
   最高裁判所長官代理者
       最高裁判所事務
       総局刑事局長   大野市太郎君
   事務局側
       常任委員会専門
       員        加藤 一宇君
   政府参考人
       司法制度改革推
       進本部事務局長  山崎  潮君
       警察庁刑事局長  栗本 英雄君
       法務省刑事局長  樋渡 利秋君
    ─────────────
  本日の会議に付した案件
○政府参考人の出席要求に関する件
○派遣委員の報告
○裁判員の参加する刑事裁判に関する法律案(内
 閣提出、衆議院送付)
○刑事訴訟法等の一部を改正する法律案(内閣提
 出、衆議院送付)
○総合法律支援法案(内閣提出、衆議院送付)
    ─────────────
#2
○委員長(山本保君) ただいまから法務委員会を開会いたします。
 政府参考人の出席要求に関する件についてお諮りいたします。
 裁判員の参加する刑事裁判に関する法律案及び刑事訴訟法等の一部を改正する法律案の審査のため、本日の委員会に司法制度改革推進本部事務局長山崎潮君、警察庁刑事局長栗本英雄君及び法務省刑事局長樋渡利秋君を政府参考人として出席を求め、その説明を聴取することに御異議ございませんか。
   〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
#3
○委員長(山本保君) 御異議ないと認め、さよう決定いたします。
    ─────────────
#4
○委員長(山本保君) 裁判員の参加する刑事裁判に関する法律案、刑事訴訟法等の一部を改正する法律案及び総合法律支援法案を一括して議題といたします。
 昨十七日、当委員会が行いました委員派遣につきまして、派遣委員から報告を聴取いたします。
 まず、第一班仙台班の御報告を願います。吉田博美君。
#5
○吉田博美君 第一班につきまして、御報告を申し上げます。
 派遣委員は、山本委員長、愛知委員、小川委員、角田委員、井上委員及び私、吉田の六名で、昨十七日、宮城県仙台市において地方公聴会を開会し、五名の公述人から意見を聴取した後、委員から質疑が行われました。
 まず、公述の要旨について、御報告申し上げます。
 最初に、仙台検察審査協会副会長兼総務部長松田謙一君からは、早期に裁判員制度を導入することを望むこと、裁判員制度施行までの期間においてより良い改革をしていく必要があること、法改正は国民一人一人の改革につながることを忘れてはならないこと、国民は法に生かされていることを認識する必要があること、子供たちに裁判員制度を知らしめていきたいと考えていること、裁判員制度の導入により司法が国民に近づくことが期待できること、日本司法支援センターは現代の駆け込み寺の役割が期待されること等の意見が述べられました。
 次に、弁護士・宮古ひまわり基金法律事務所長田岡直博君からは、過疎地域で公設事務所を開設している体験から、総合法律支援法案を高く評価すること、全ゼロワン地域に総合法律支援の拠点を整備する必要があること、その裏付けとなる十分な予算措置を講ずることによって、日本司法支援センターが地域住民の期待にこたえる機関となることを切望すること等の意見が述べられました。
 次に、宮城県情報公開審査会審議委員遠藤香枝子君からは、裁判員制度を義務として国民に負担を押し付ける印象を与えるのではなく、定着させるため積極的に広報活動や国民意識の喚起を行う必要があること、裁判員の守秘義務の範囲を分かりやすく、具体的に明らかにすべきであること、証拠の全面開示と取調べ過程の透明性を図る必要があること、裁判員が意見を言いやすくするために合議体の裁判官の数を減らすべきであること、嫌がらせなどから裁判員の不安を取り除くために、裁判員の法的保護を図るとともに任務終了後の相談窓口を設置すべきであること等の意見が述べられました。
 次に、主婦天野清子君からは、市民が司法参加することは、国民主権の視点から大変望ましいこと、だれもが裁判員として参加しやすくするため、託児所や託老所の整備などが重要であること、裁判の仕組みを分かりやすくし、取調べ過程を録画するなどの措置を講ずることが市民の常識を生かすことに通じること、裁判官と裁判員の評議が深まる合議体構成とするとともに、裁判官も国民の目線に合わせることが必要であること、市民の司法に対する知識や意識を高めるために、法教育を充実させる必要があること、制度の発足後、裁判員経験者も参加して制度の施行状況を検証する必要があること等の意見が述べられました。
 最後に、弁護士佐藤正明君からは、裁判員制度が被告人の自由や人権を侵すことのないような制度とすべきであること、捜査の可視化、証拠の全面開示など刑事司法を改革する必要があること、裁判官が裁判員に審理の内容等について分かりやすく説明すべきであり、裁判官は裁判員の意見をよく聴くことが重要であること、国民から信頼される司法とすべきであること、日本司法支援センターを創設するに当たっては弁護士会の意見を取り入れ、そのノウハウを生かした制度を実現すること等の意見が述べられました。
 公述人の意見に対し、委員より、裁判員制度の意義、裁判員制度の導入によって期待する事項、国民が日本司法支援センターを利用しやすくするための工夫、裁判員の責任についての考え、裁判員の守秘義務に対する意見、取調べの可視化の問題点と捜査手法全体の検討との関係、公述人の裁判員への参加意欲の有無、裁判員制度に関する公述人周辺での議論や受け止め方の様子、裁判員制度における捜査の可視化の重要性、公設事務所における待遇及び日本弁護士連合会からの援助の内容、日本の伝統の下での裁判員制度の在り方、裁判所が改革すべき具体的事項、司法ネット構想における過疎地域での弁護士確保のための方策など、多岐にわたる質疑が行われました。
 会議の内容は、速記により記録いたしましたので、詳細はこれにより御承知願いたいと存じ上げます。
 以上で第一班の報告を終わります。
#6
○委員長(山本保君) 次に、第二班大阪班の御報告を願います。松村龍二君。
#7
○松村龍二君 第二班につきまして、御報告申し上げます。
 派遣委員は、木庭理事、小泉委員、陣内委員、江田委員、樋口委員及び私、松村の六名で、昨十七日、大阪市において地方公聴会を開会し、六名の公述人から意見を聴取した後、委員から質疑が行われました。
 まず、公述の要旨について、御報告申し上げます。
 最初に、日本司法書士会連合会常任理事山本一宏君からは、地方における法的支援については相談先の分かりにくさや相談内容の深刻化が問題になっていること、問題解決のためには自治体等との連携と司法ネットの実現に期待していること、司法書士会が簡裁訴訟代理、司法アクセス支援、民事法律扶助事業、成年後見など様々な活動をしていること、司法ネットの制度構築に向けた協力体制が必要であること等の意見が述べられました。
 次に、主婦・開かれた裁判を求める市民フォーラム事務局員大東美智子君からは、裁判員法案は、市民が参加できる裁判制度の実現という意味で評価できること、裁判官三名と裁判員六名の構成には疑問があり、社会の様々な意見を反映させるためには裁判員は十名は必要と思われること、評決は過半数では不十分であり、原則全会一致とするか若しくは四分の三以上とすること、裁判員への守秘義務違反に対する罰則は裁判への市民の参加意欲を失わせるものであり、守秘義務に関しては市民の良識にゆだねるべきであること、裁判に参加しやすくするための社会体制作りとして、特に女性が裁判に参加しやすいよう裁判所内に保育室の設置を要望すること等の意見が述べられました。
 次に、大阪府更生保護協会常務理事・三和住宅株式会社代表取締役前田葉子君からは、裁判員制度は司法判断への国民の信頼向上に資するものと期待していること、経営者としては、社員が裁判員としての義務を果たせるよう十分な配慮が必要と考えていること、刑事訴訟法の改正は、刑事裁判の充実、迅速化を求める国民感情に配慮した時宜にかなったものであること、総合法律支援法案は、一般国民にとって法律による紛争解決がしやすくなるものと期待していること等の意見が述べられました。
 次に、弁護士・日本弁護士連合会副会長宮崎誠君からは、総合法律支援法案について、国民の司法アクセスを確保する体制の整備が国の責務であることを認めた画期的な法案であり積極的な評価をすること、要望事項として、第一に弁護士の職務の独立性が目に見える形で実現されること、第二に支援センターが機能するためには十分な予算措置が必要なこと、第三に自主事業が従来どおり行える柔軟な運用が確保されること、第四に業務範囲については法案成立後も引き続き拡充を検討すること等の意見が述べられました。
 次に、検察審査協会関西連合会専任理事・大阪検察審査協会常任理事遠藤一清君からは、検察審査員を経験した後は審査活動を成し遂げた充実感、連帯感等が醸成されること、検察審査員についてはこれまで守秘義務が問題になったことはなく職務で培った正義感を持ち続けている以上、裁判員について守秘義務がなくても支障はないと思うこと、裁判員と検察審査員の経験者が日本の社会を変えていくのではないかと期待していること、裁判員経験者が体験談を語ることが重要な広報活動になること等の意見が述べられました。
 最後に、弁護士・日本弁護士連合会司法改革実現本部事務局次長西村健君からは、裁判員制度の導入は民主主義の観点から及び刑事手続を改革する契機になることから重要な意義があること、裁判員の守秘義務については市民が参加しやすい制度となるように範囲を狭く、運用は慎重にすべきであること、刑事訴訟法の改正については結論的には支持したいが、証拠の全面開示がされていないこと等危惧している点があること、開示された証拠の目的外使用の禁止に関しては特に被告人の防御権を害さないような解釈、運用をすべきであること等の意見が述べられました。
 公述人の意見に対し、委員より、裁判員制度の意義、合議体の構成人数の相当性、裁判員の適正な男女比、裁判員の守秘義務違反に罰則を設けることの是非、国民が参加しやすい環境整備の具体的措置、裁判員裁判に対する国民の信頼性の確保、裁判員が量刑を決めることについての所感、総合法律支援法案に対する評価、犯罪被害者の支援業務の具体的内容と日弁連の取組、相談窓口業務についての国民のアクセスを更に容易にするための措置、国選弁護人制度と当番弁護士制度との関係など、多岐にわたる質疑が行われました。
 会議の内容は、速記により記録いたしましたので、詳細はこれにより御承知願いたいと存じます。
 以上で第二班の報告を終わります。
#8
○委員長(山本保君) 以上で派遣委員の報告は終了いたしました。
 なお、地方公聴会速記録につきましては、これを本日の会議録の末尾に掲載することといたします。
    ─────────────
#9
○委員長(山本保君) 裁判員の参加する刑事裁判に関する法律案及び刑事訴訟法等の一部を改正する法律案について質疑を行います。
 質疑のある方は順次御発言願います。
#10
○吉田博美君 自由民主党の吉田博美でございます。
 地方公聴会での報告をさせていただきましたが、昨日仙台に行ってまいりまして、公述人の五名の皆さん方からそれぞれ貴重な意見を賜ったわけでございますが、その折に私の方から、裁判員制度もメディア等でもしばしば取り上げられて、かなり浸透してきたという発言をいたしましたところ、公述人から、まだまだ国民の皆さん方には理解に乏しい面が多々あるということをお聞きいたしまして、改めて周知、国民の皆さん方にこの裁判員制度自体を周知徹底させることが必要ではないかということを感じたところでございます。
 また、刑事訴訟法の改正につきましても、当委員会の審議を通じて内容がかなり明らかになってきたと考えておりますが、本日は、これまでの審議の経緯を踏まえまして、確認の意味も含め、重要と思われる点について幾つかの質問をさせていただきたいと思います。
 まず、裁判員制度について質問をさせていただきたいと思います。
 裁判員に選任される場合の欠格事由として、「心身の故障のため裁判員の職務の遂行に著しい支障がある者」とありますが、何らかの心身障害のある人は裁判員になれないということでしょうか。
#11
○政府参考人(山崎潮君) 裁判員制度の趣旨にかんがみまして、心身に何らかの故障を持っておられる方も含めまして幅広い国民に裁判員となっていただくということは大変重要でございます。したがいまして、心身に障害を持っておられる方でありましても、裁判員の職務の遂行に問題がないと認められる場合には裁判員の職に就いていただくということになるわけでございます。また逆に、職務の遂行に著しい支障があると認められた場合、この場合についてのみこれを欠格事由としていると、こういうことでございます。
 被告人の権利の保障、こういうものを含めました裁判の公正を確保するためには、具体的な障害の内容や程度を考慮して、職務の遂行にどうしても著しい支障があるという場合については裁判員となることができないとすることはやむを得ないものというふうに考えているわけでございまして、この点は御理解を賜りたいというふうに思います。
#12
○吉田博美君 裁判員を選任する手続において、裁判員候補者に対して質問をされるとのことですが、どのような質問をなされるんでしょうか、お聞かせいただきたいと思います。
#13
○政府参考人(山崎潮君) 裁判員の候補者に対しましては、この法案における条文で申し上げますけれども、十三条でまず、その裁判員の選任資格、裁判員となれるかどうかという点。それから、十四条で欠格事由というものがございます。これは、事件関係等でございますけれども、それに当たるかどうか。それから次に、十五条で就職禁止事由という、一定の方は就職できませんという事由がございますけれども、これに該当するかどうかということ。それから、十六条で辞退の申立てができることになっていますが、この辞退事由があるかどうかということ。それから、事件に関係する不適格事由でございますが、これ十七条にございますけれども、事件関係に該当するかどうかという、こういうことでございます。先ほど、欠格事由というのを事件関係と申し上げましたが、これちょっと違う欠格事由でございますが、いずれにしましても、こういうもの。それからもう一つ、不公平な裁判をするおそれがないかどうかという点も、これも対象になるわけでございまして、こういうことを、その判断するために必要な質問をすると、こういうことになるわけでございます。
 その具体的内容については、その個別具体の裁判員等の選任手続ごとに裁判長がこの判断をするために必要な質問を適切に行っていくということになるわけでございます。例えば、被告人や被害者などの事件関係者と知り合いであるかどうかとか、そういうような質問をしていくと、こういうことになるわけでございます。
#14
○吉田博美君 例えば、裁判員候補者の思想、信条にかかわる質問をすることは、その人の思想、信条の自由を侵害することになるのではないでしょうか、その点についてお聞かせいただけますでしょうか。
#15
○政府参考人(山崎潮君) 思想、信条の自由に基づくその辞退という問題についても、その十六条でうたわれておりますその政令で何らかの形でそういうものを設けていくということを予定はしているわけでございますが、この思想、良心の自由というものは、本人から言ってこなければ分からないことでございますので、裁判所の方からこの辺についてどうですかと言うことではない話でございます。
 したがいまして、本人からそういう事由が出てくる、理由が出てくるということでございますので、裁判所としては、それがどういうことに基づくのかというその必要な範囲ですね、それを判断するために必要な範囲、この質問をすることができるということは、ある意味では当然でございます。ただ、それを限度を超えて、その内心の自由にわたるようなことの質問、これは厳に避けるべきだろうというふうに思われるわけでございます。
 いずれにしましても、その裁判員の候補者の方は、正当な理由があればその陳述を拒むことができるというふうにしているわけでございまして、その裁判員候補者に対する質問が、その思想、良心の自由やあるいは信教等の自由ですね、これを侵すことになるというふうには考えられないというふうに思っているわけでございます。
#16
○吉田博美君 極めて重要なことですので、よろしくお願いいたします。
 次に、裁判員になられた場合に守秘義務を課すことにした趣旨は何でしょうか。
#17
○政府参考人(山崎潮君) 守秘義務につきまして様々な議論がされているわけでございますけれども、大きくやはりこの守秘義務がこの制度の言わばかなめであるということの理由が二つございます。
 一つは、この守秘義務を課すのは、やはり他人のプライバシーを保護するということがまず一つであります。それからもう二つ目でございますけれども、裁判の公正さ、あるいはその裁判への信頼、これを確保するということ、これとともに、評議におけるその自由な意見表明を保障すると、こういう理由が二つあるわけでございます。
 このうち、評議における自由な発言を保障するということにつきましては、裁判員が後に批判されることを恐れたりして自らの意見を開陳することを差し控えるということがないようにして、その自由濶達に様々な意見交換がされ、充実した評議が行われるようにしようとするものでございます。このことは、裁判において適正な結論が得られるようにする上で非常に重要な意味があるわけでございます。
 その評議において述べたことが公表されず、事後的に、また追及それから報復されるようなおそれを少なくすると、なくすという点で、裁判員の負担を軽減するという意味もあるわけでございます。
#18
○吉田博美君 そこで具体的に、どのようなことが守秘義務の範囲外になるのでしょうか、お聞かせいただけますでしょうか。
#19
○政府参考人(山崎潮君) 職務上知り得た秘密に該当しない事項、これは守秘義務の対象外になるということでございます。したがいまして、例えば公判廷でのやり取りあるいはその判決の内容、これについては、これはだれでも知り得る形になっているわけでございますので、これは守秘義務の範囲に含まれないということになるわけでございます。したがいまして、これらのことについて他人に話をしたとしても守秘義務違反にはならないと、こういうことでございます。
 それから、秘密に及ばない範囲で裁判員の職務についての感想等を述べることも許されるということでございます。守秘義務に、守秘義務というか評議の秘密ですね、これにわたらない、そこに、それに触れない形の一般的な感想等、それから制度に対する感想、こういうものについては述べても差し支えないと、こういうことになるわけでございます。
#20
○吉田博美君 そのような中で、守秘義務の範囲については国民に分かりやすく説明し、理解してもらう必要があると思いますが、その点についてはいかがでしょうか。
#21
○国務大臣(野沢太三君) 法律上、守秘義務の範囲は明確に規定されているものと考えております。ただ、委員御指摘のとおり、裁判員として参加する国民の負担を軽減し、またその不安を取り除くために、どのようなことは話してはならず、どの範囲であれば問題がないのかということはきちんと理解してもらえるようにすることが極めて重要であると思われます。
 その具体的な方法につきましては政府としても今後検討してまいりたいと思いますが、例えばパンフレットにおいて守秘義務に反する行為とそうでない行為を分かりやすく解説をいたしまして、趣旨の徹底を図ってまいりたいと考えております。
#22
○吉田博美君 やはり分かりやすくパンフレット等で説明して、図解等も示しながらこうしていただかなければ、なかなか国民の皆さん方には分かりにくいんじゃないかと思いますので、大臣の方、よろしくお願いしたいと思います。
 次に、諸外国には陪審員や参審員の守秘義務違反に対して罰則が科されている例はあるのでしょうか、その点についてお聞かせいただきたいと思います。
#23
○政府参考人(山崎潮君) 典型的な国でちょっと申し上げたいと思いますけれども、イギリス、フランス、それからイタリアでございますけれども、これにつきましては、評議の内容を含め、秘密を漏らす行為に対しては拘禁刑を含む罰則を定めた規定があるということでございます。拘禁刑でございますから懲役等の関係でございますけれども、そういうものを、罰則規定を持っているということでございます。
 それから、アメリカでございますけれども、公判終了後について、一般的な規制はございませんけれども、一部の州で報酬を受けての取材等を処罰する規定があるもの、こういうものもあるということを承知しているということでございます。
#24
○吉田博美君 そこで、私どもの、この守秘義務違反に対しまして懲役刑を科すのは重過ぎるのではないかという意見がありますが、法定刑に懲役刑を設けた理由は何なんでしょうか、お聞かせいただけますでしょうか。
#25
○政府参考人(山崎潮君) この守秘義務違反に対します罰則につきまして、衆議院において一部修正がされているわけでございます。ただ、最終的には懲役刑が残っているわけでございます。それについて、どうしてかということでございますけれども、多額の報酬を得た上で評議の内容を明らかにしたり、あるいは重大なプライバシー侵害を生じさせるような非常に悪質なものというものも想定されるわけでございまして、このような事案も含めて、一定の場合にはその犯情に応じて適切な処罰が可能になるよう、罰金刑だけではなくて懲役刑も選択することにできるとすることが適当であると考えたわけでございまして、こういうことがあっては本当はならないわけでございますけれども、制度の担保としてそれを存置しておくという意味があると、言わばそのかなめに当たるところでございますので、これが必要だというふうに考えておるわけでございます。
#26
○吉田博美君 昨日の地方公聴会におきましても、公述人の方に、もしあなたが死刑を伴うような判決に伴う裁判員に選ばれたときどうしますかというとき、できることなら選ばれたくないというのが国民の皆さん方のある意味では不安だとか問題点じゃないかと思うんですけれども、一般の国民は刑事裁判に関与することに不安を感じると思いますが、この法案では裁判員となる国民の不安を解消するためにどのような処置を講じているのでしょうか、お聞かせいただきたいと思います。
#27
○政府参考人(山崎潮君) 確かに裁判員の方は、裁判に関与することを職業とする裁判官とは異なるわけでございまして、言わば無作為に選ばれた一般の国民であるということでございます。それから、裁判員となることを自らは希望しない場合であっても、法律上の義務としてその職務を行わなければならないというふうにされているわけでございます。したがいまして、裁判員の保護には十分に意を用いなければならないということが前提になるわけでございます。
 その関係で、この法案でその点で手当てを加えている点について若干御紹介をいたしますけれども、まず七十二条、法案の七十二条がございまして、これは裁判員あるいは裁判員候補者等、その氏名それから住所等、その個人を特定する情報を公にしてはならないということにしているわけでございます。
 そして、これとの関連で八十条という、その法案の八十条という規定がございまして、裁判員の氏名等の漏示罪を設けておりまして、正当な理由がなく、裁判員候補者の氏名など裁判員選任過程で知った個人情報などを漏らす行為、これを禁止しているということになります。
 それから、法案の七十三条では、裁判員等に対して接触を禁ずるということで、生活の平穏、これを保護するということをしております。
 それから、裁判員に対する不当な働き掛けを防ぐという措置、そういう措置として、法案七十七条では、裁判員に対する請託罪ですね、それから七十八条では威迫罪、これを設けているということでございます。
 また、もう一つちょっと違う観点からでございますけれども、その裁判員あるいはその親族等に対する加害行為がなされるおそれがあるというような事件、こういう事件で裁判員の関与が非常に困難と認められるようなごく例外的な事案でございますけれども、これにつきましては、裁判員制度の対象事件から除外をいたしまして裁判官の合議体のみで行うという、こういうことができるようにしていると、こういうような手だてを加えているということでございます。
#28
○吉田博美君 ただいまは裁判員制度の対象から除外される事件ということをおっしゃったわけでございますが、被告人が暴力団員である事件などはすべて除外されるのでしょうか、その点をお聞かせいただけますでしょうか。
#29
○政府参考人(山崎潮君) これにつきましては、単に暴力団あるいは暴力団員が関係している事件であるからといって、そのすべてが対象から除外をされるということではございません。それは想定はしていないということでございます。例えば、被告人がかつて裁判官への加害とか報復を行ったことのある組織のリーダーであるとか、あるいはその組織が被告人を有罪にした場合には担当の裁判官あるいは裁判員に対して報復する旨の声明を発している場合とか、それから被告人の所属する組織の構成員によって裁判員の一人に対する危害が加えられる、あるいはその他の裁判員が怖がってしまっているというような場合、こういうような場合に除外をするということでございまして、単に暴力団員であるということではないということでございます。
#30
○吉田博美君 裁判員制度の対象から除外されるのは、手続のどの段階で行われるのでしょうか。例えば公判審理が開始された後となるのでしょうか、お聞かせいただけますでしょうか。
#31
○政府参考人(山崎潮君) これにつきましては、公判が始まる前にそういう事由が分かる場合もございます。こういう場合にはもう当初から除外をするということになろうかと思います。
 ただ、そういう最初の段階でそれが分からずに、公判に入ってからそういうおそれが出てきたということも当然考えられるわけでございます。したがいまして、その公判が始まった以後でもこの手続を取り消して裁判官だけでやるということもあり得る、両方あり得るということを前提にこの法案はできているということでございます。
#32
○吉田博美君 もう裁判員制度の問題について最後になりますが、これまで何度もお伺いしましたが、大臣の裁判員制度の実施に向けた決意のほどを改めてお伺いしたいと思います。
#33
○国務大臣(野沢太三君) 裁判員制度の導入は、国民参加の裁判制度としまして、司法に対する国民の理解の増進とその信頼の向上に大きく資するものでございまして、大変重要な意義があるものと考えております。
 このような裁判員制度の意義を踏まえまして、国民の皆様の理解を得るように努力しまして、裁判員となることが名誉ある仕事として誇りに思えるようなPRを私どもも心掛けまして、その実現に向けまして全力を尽くしてまいりたいと考えております。
#34
○吉田博美君 次に、刑事訴訟法の関係に質問を移らさせていただきたいと思います。
 公判前整理手続において十分に争点を整理した上で、連日開廷することによって刑事裁判の充実、迅速化を図るとのことですが、単に連日開廷によるスピードアップとどう違うのでしょうか、お聞かせいただけますでしょうか。
#35
○政府参考人(山崎潮君) 確かに、この連日開廷の問題は、これだけでは本当に有効な手だてになるかという問題はございまして、その前提として争点等がきちっと整理をされているということがどうしても必要になってくるということでございまして、この改正法案の中でも公判前整理手続というものを設けているわけでございまして、これと一体となって、充実してかつ迅速な裁判が確保されていくと、こういうことになろうかと思います。
 例えば、公判の審理の途中でその事件の争点が明らかになって、その争点に関する証拠調べの準備のために公判審理を中断するというようなことになれば、それだけそこで時間を食ってしまうということになって審理がスムーズに流れないと、こういうことになるわけでございます。そうなりますと、やはり事前に争点を明らかにして、どういう証拠調べをどの程度行っていくかということをきっちり定めた上で連日的に開廷をしていくということが必要になるということになるわけでございます。
 特に、裁判員制度の対象事件につきましては、公判前整理手続を行うことによって明らかとなります審理予定期間ですね、これを前提として各裁判員が仕事の予定などを調整して審理に臨むということになるわけでございます。事前に公判整理手続を行わないと、審理予定期間が明らかにならず、裁判員に過重な負担を強いることになるということで、協力をしていただけないおそれもあるということでございますので、特にこの裁判員対象の事件につきましては公判前整理手続が必要的に行われるということでございまして、それをやった上で連日的に開廷をしておる、これが必要になってくる、こういうことでございます。
#36
○吉田博美君 公判前整理手続では十分な争点整理とともに明確な審理計画を立てるとのことですが、具体的にどのようなことが決められるのでしょうか、そのイメージを説明していただけますでしょうか。
#37
○政府参考人(山崎潮君) 観念的でちょっと難しい、説明が難しいので、ちょっと事例を出しながらということでお話を申し上げますけれども、例えば、被告人が被害者を包丁で刺して殺害したという事例、事案を例にして、大ざっぱなイメージを申し上げたいというふうに思います。
 これにつきまして、例えば、被告人側において、検察官が明らかにした証明予定事実のうち、被害者が公判事実の日時に包丁で刺されて死亡した事実ですね、あるいは、その行為の態様からして犯人に殺意があったということについては争わないけれども、被告人は犯人ではなくて、被害者が殺害されたとされる日時には知人Aの家にいたという主張をしているという場合をちょっと想定をしたいと思いますけれども、まず、争点の整理につきましては、主要な争点は、被告人が被害者を刺した行為者であるかどうか、さらには、Aという家にいたというアリバイの成否であるということになります。そういう点をまず確認をするということにいたします。
 それから、証拠の整理でございますけれども、被告人が刺殺の行為者であるかどうかという争点につきましては、検察官が犯行の目撃者Bの証人尋問を請求し、それからアリバイについては弁護人が被告人のアリバイを供述する知人Aですね、これの証人尋問を請求しているという場合には、それらの証人の取調べをするということを決定をするということになります。
 それから、犯行の態様やその被害者の死因、あるいは争点でない事項については、実況見分調書とか鑑定書あるいは供述調書等の検察官請求の書証を取り調べるということによってそれを賄うと、こういうようなイメージになるわけでございます。
 それから、審理計画でございますけれども、それぞれの証拠の取調べにどれほどの時間を要するかを見込んだ上で、取調べの順番、それから、それぞれ証拠を取り調べる公判期日の日時等を決めまして審理計画を策定をする、こういうことになるわけでございまして、これを実効的に行っていく、こういうことになるわけでございます。
#38
○吉田博美君 公判前整理手続は公判審理を担当する裁判所以外の裁判所が主宰すべきだとの意見がありますが、そうしなかった理由をお聞かせいただけますでしょうか。
#39
○政府参考人(山崎潮君) この公判前整理手続において行われる争点整理、あるいは証拠調べ決定、審理計画の策定などにつきましては、公判における審理、証拠調べの在り方を決定付けるものでございますので、公判の運営に責任を負う、公判を担当する裁判官がこの手続を担当する必要があるというふうに考えたわけでございます。
 公判を担当する裁判官以外の裁判官が公判前整理手続を主宰するということといたしますと、必要な証拠調べの範囲について公判を担当する裁判官と判断が異なるような場合、こういう場合には、公判において再度証拠決定をし直すということになってしまうわけでございまして、せっかくこの手続を行った意味が失われかねないということで、実際上の問題も生ずるということから、実際に公判の担当をする裁判官が公判前整理手続を行う、こういうふうにしたわけでございます。
#40
○吉田博美君 公判前整理手続での実効性を担保するため、この手続終了後は新たな証拠調べ請求が制限されることになっておりますが、そのことで真実の発見が妨げられるおそれはないのでしょうか。その点についてお聞かせいただけますでしょうか。
#41
○政府参考人(山崎潮君) これにつきましては、原則として証拠調べの請求はできないということになりますけれども、ただ、事情の変更が生ずる場合もございます。当時全然証拠として分からなかったものもある、それが新しく発見された、それから、分かってはいたけれどもその状況の中では現実に証言を求めることが難しかった、しかしその後に可能になったとか、そういう事情の変更がございます。こういうものは許すことになるわけでございますし、それから、裁判所は、最終的には真実をきちっと発見して、きちっとした裁判をしていくという責務を負っているわけでございますので、必要な場合には職権で証拠調べもすることができるという、そういう手だてを加えておりまして、何が何でもこれで全部終わりというわけではございませんので、そこは権利防御のためにきちっとした手当てはしているということで御理解を賜りたいと思います。
#42
○委員長(山本保君) よろしいですか。
#43
○吉田博美君 はい。
#44
○松村龍二君 自民党の松村議員でございます。吉田議員に続きまして質問をさせていただきます。
 昨日、大阪の地方公聴会に私も参加させていただきまして、大変心強かったことは、公述人の六人が六人ともこの裁判員制度について前向きな姿勢を持っておられたということです。それから、私が、弁護士が二人出ておられましたので、弁護士はいろいろな法廷を経験しているだろうけれども、刑事裁判において、立法、行政のように民の力が入るということを必要と感じることがありますかと、まあはっきり言いますと、裁判官が常識外れの人がいるというようなことを感じられますかとお聞きしましたところ、しょっちゅうですと、こういう御返事がございまして、ああ、なるほどな、この裁判員制度が、ああ、必要なんだなということを昨日感じたことをまず御報告申し上げます。
 それから、その前の夜、私は、中学時代の同級会が三重県で、温泉でありまして、七十名近い同級生と会ったわけですが、私が中学校を卒業するころは三割ぐらいが高校へ進学しまして、七割は中学だけで就職その他になったわけですね。そういうことから、有識者が参審制度というふうなことで参加することと公職選挙法の選挙人名簿から抽出されることの意味について考えていたわけですが、ある意味では、中学を卒業して社会に入って苦労をしてきたという人たちは、常識という点、あるいは人情が分かるという点において非常に優れているわけです。かえって、大学を出てエリートコースに乗って偏った、まあ上役の御機嫌だけ取って出世してきたという人に比べるとかえって常識が豊かであるというふうにも見れるわけでありまして、いみじくもこの制度が選挙人名簿から無作為で抽出するという仕組みにしておるということの意味といいますか、炯眼に対しまして、なるほどなと思った次第でございます。
 本日は、裁判の捜査の可視化という問題に焦点を絞りまして御質問したいと思います。
 初め捜査の可視化と聞いたときに、お菓子の菓子かなと。非常に分かりにくい言葉ですけれども、結局、昨日の公聴会でも、裁判員制度を行う際には、裁判員に証拠を、書面でなくて、分かりやすく生で教えた方がいいと。そのためには、今の時代、捜査の過程を録画しておいてその録画を示すというようなこと、あるいは弁護人が捜査の過程で横におって客観的な捜査の状況を伝えると、こういうことを是非裁判員制度に取り入れた方がいいということを皆さんおっしゃるわけです。しかし、本当にそうだろうかということを今、この三十分間検証をいたしたいと思います。
 我々、テレビを毎日見ておりまして、テレビがいろいろな捜査の状況を報告してくれると。しかし、ビデオで録画された画面なら信頼できるかといいますと、例えば犯罪を自供といいましょうか、供述するにしても、本当に悪かったと、申し訳ないと言って改心する瞬間の映像なのか、その後一時間ほどして気持ちが落ち着いて、私はこういうことをしましたとさらさらさらと述べるところの画面なのか、あるいは二、三日して完全に整理された後で言うところが役に立つのか。時間によって映像というのはいかようにも変化もいたしますし、どの画面を使うことが、またそのどの部分を、よく今言われますけれども、政治家がいろいろな発言をして、一部分だけとらえて、これだ、これだと言われるととんでもない誤解だということがありますように、まあビデオなら完全であるとも言えないんじゃないかなというふうにも思うわけです。それと、やはり捜査を録画するということが、真実追及で治安を全うするという点に役立っていることまで犠牲にするということになりますと、これは大変なことだなと。
 それから、後ほど御説明あろうかと思いますが、諸外国においては、アメリカなどは、戦後二十一年たったミランダ判決というので、適正な捜査手続を経たものでなければ証拠にはしてはいかぬというような最高裁の判決もあったわけで、戦後の我々は、日本の捜査、司法はそれを金科玉条のように言っているわけですけれども、現にアメリカにおいては、司法取引とかいろいろな抜け道、あるいは捜査の時間が長く確保されておるとかいろんなことがありまして、日本のように捜査手法も非常に厳格にしながら、しかもそこまで要求するということになりますと、治安を全くすることができないということにもなりかねないというふうにも思うわけでございます。
 そこで、警察庁にとりましても、犯罪の現場の責任を負っておる刑事の意見もこの委員会においてしっかり反映されなければならないんではないかなというふうに思います。
 そこで、まず警察庁にお伺いしますが、我が国の犯罪捜査において被疑者の取調べはどのような機能、役割を果たしているか、お伺いします。
#45
○政府参考人(栗本英雄君) お答えいたします。
 今委員お尋ねの被疑者の取調べの機能、役割についてでございますが、これはある意味では非常に多岐にわたっておりますが、例えばということで次の点を御説明申し上げたいと存じます。
 まず、取調べは事件の真相解明、また立証するために重要な機能を果たしております。例えば組織犯罪におきまして、指示者や首謀者を解明、検挙するためには、実行行為者の供述を得ることが極めて重要でございます。また、供述以外の証拠の収集におきましても、殺人事件における死体や凶器のように、それを知っている唯一の人間である犯人の供述を得て初めて発見に至ることが少なくないなど、取調べが極めて重要な機能を果たしているところでございます。
 また、事件の真相を解明するためには、犯人の内心、例えば殺人罪等でございますと、殺すつもりで刺したのか、脅かすつもりで振り回したらたまたま刺さったのかと。あるいは贈収賄罪につきましては、その渡した金が賄賂なのか単なる貸借なのかといったことなどを解明することが重要でございますし、そのためには、取調べによりまして被疑者の供述を得ることが極めて重要となっているところでございます。
 また、犯行の動機も、犯人の内心の情でございますが、犯行の悪質性を判断し、適切な量刑を科するに当たって重要な要素になるものでございます。その解明が極めて大切であると承知をいたしているところでございます。
 さらに、被疑者の取調べは、他の重要事件、他の重要事件の端緒を入手いたしたり、更なる犯罪を防止するためにも重要でございます。例えば暴力団犯罪や企業犯罪では、取調べにおきまして被疑者が所属する組織内部の違法行為に関する情報を得ることが少なくないのであります。また、身代金目的誘拐事件などでは、逮捕した犯人の一味から被害者の監禁場所を聞き出すことが一刻を争うなど、被疑者の取調べが極めて重要な機能を果たしているところでございます。
 そういう一例を申し上げましたが、このようなことから、現在の刑事手続におきまして取調べの果たす機能、役割というのは極めて重要なものであると認識しておるところでございます。
#46
○松村龍二君 次に、犯罪を行った者から自白を得ることは簡単なことではないというふうに思います。和歌山カレー事件のように一切言わない、またオウム事件のように一切供述しないといった例もあるわけです。自白することによって自分が死刑になるかも分からないといった立場にある者がそう簡単に供述をすることはないというのが常識かと思いますが、犯罪を行った者から自白を得ることは簡単なことではないと思いますが、警察ではどのようにして被疑者から供述を得ているわけですか。
#47
○政府参考人(栗本英雄君) 正に委員御指摘のとおり、被疑者の取調べとは、言わば他人に知られたくない事実の告白を受けるための活動とも言えるわけでございます。そうした告白を受けるためには、告白をする者から人間的にも信頼をされることが重要であります。そこで、取調べを担当いたします警察官は、多くの事件捜査を通じまして地道にかつ粘り強く被疑者とのコミュニケーションを重ね、人間的な信頼関係を構築することにより、少しずつ被疑者から真実の供述を引き出しているものと承知をしているところでございます。
 一つの例を申し上げたいと存じますが、これは平成七年に発生をいたしました地下鉄サリン事件を始めとする一連のオウム真理教事件も、数人の枢要な被疑者の自供を得て初めてその組織の全容が明らかとなり、犯行の全貌が解明されるに至ったものであります。そうした極めて重要な供述を行った被疑者の一人が事件後に手記を発表いたしておりますが、その中で、取調べにおいて当初は事件についての供述をしなかったにもかかわらず、やがて担当者への人間的な信頼を抱くようになり、自らの心を立て直していく、またありのままの真実を供述する、こういう過程を詳細に記述しているところでございます。
 警察といたしましては、こうした我が国におきます被疑者取調べの特質を十分踏まえまして、今後とも被疑者から真実の供述を引き出すよう努力をしていきたいと考えているところでございます。
#48
○松村龍二君 その場合に、取調べの録音、録画又は取調べへの弁護人の立会いを制度化すると、自己顕示欲の強い刑事が、いやもうビデオで撮ってくれと、もうそれではビデオが映らぬとどうも調子が出ないという刑事もそれは将来出てくるかも分かりませんけれども、一般的にはそのような制度化が取調べにどのような影響があるかということを心配するわけですが、その辺についてはどのように考えたらよいのでしょうか。
#49
○政府参考人(栗本英雄君) ただいま御説明を申し上げましたとおり、被疑者の取調べにおきましては、正に被疑者と取調べ官との人間的な信頼関係を築くことが極めて重要になっているところでございますが、取調べの状況を第三者に知られることを被疑者が意識するようになりますと、そうした人間的な信頼関係を構築することが極めて困難になると考えているところでございます。
 取調べでは、先ほども御説明いたしましたように、犯罪の組織的背景を聞き出したり内部告発的な供述を得ることも重要ですが、取調べの状況を第三者に知られることを被疑者が意識するようになれば、被疑者は仲間からの報復や組織内での信用の失墜を恐れるようになり、そうした供述を得ることも極めて困難になるところでございます。
 したがいまして、警察といたしましては、被疑者の取調べ状況の録音、録画、あるいは弁護人の取調べへの立会いなどの制度を導入することにつきましては、取調べの機能を大きく阻害するものであると考えておるところでございます。
#50
○松村龍二君 同じことを伺うわけですが、取調べで得た供述は、結局は供述調書に記録され公判廷で明らかにされるのであるから、取調べを可視化したからといって被疑者が言いづらいことを言えなくなることはないはずであるという主張もあるわけでありますが、その点についてどのようにお考えですか。
#51
○政府参考人(栗本英雄君) 通常、初めから自らの犯罪行為を進んで供述するような例外的な被疑者であればともかく、通常は被疑者の取調べにおきまして、最終的に供述調書に記載されるような被疑事実に関する内容だけでなくて、先ほど来御説明申し上げているとおり、取調べ官と被疑者との人間的な信頼関係を構築するための種々のやり取りが行われているわけでございます。取調べの状況を第三者に知られることを被疑者が意識することになれば、そうした信頼関係の構築が困難になる、これは先ほど御説明したとおりでございます。信頼関係が構築されなければ、そもそも被疑者から自白や共犯者を裏切るような供述を得ることもできず、またそうした内容の調書の作成に至ることもないこととなってしまうわけでございますから、御指摘のような主張につきましては、我が国におきます被疑者の取調べの実態と懸け離れたものと考えているところでございます。
#52
○松村龍二君 今の日本は職人の技というのを非常に軽く見る傾向がありますけれども、やはり刑事が真実を追及する、日本の裁判、日本人の性格として非常に供述を尊ぶと。外国のように、供述はなくても情況証拠でもう全部有罪なんだから有罪と、あるいは陪審制度で心証を得ながら判断するというのと違いまして、供述調書そのものがもう大事だという日本において、やはりそういう職人的な技というものを大切にしなければならないと。
 私、あえて申しますが、かつてある県の治安を責任持っておりましたときに、名刑事十人を集めまして苦労話を聞かせろということを言いましたら、捜査員の喜びって何か知っていますかと、本部長知っていますかと、こう言われたんで、いや僕は分からぬけどと言いましたら、非常に世間の注目を浴びてもう今か今かと犯人が真実を語るのを待っている中で、自分が犯人と全力でぶつかって供述を得て、この供述内容を捜査一課長、やきもきする捜査一課長、刑事部長、本部長も世間もみんな知らぬのに自分だけが知っているなと思ってたばこを一服吸うときが一番刑事の喜びであるということを聞いて、はあ、なるほどと思ったこともあるわけでございます、余談でございますが。
 次に、警察のみならず検察にとっても取調べによる真相解明は重要かと思いますが、検察庁のお考えをお聞かせいただきます。
#53
○政府参考人(樋渡利秋君) 委員御指摘のとおり、検察にとりましても取調べによる真相解明は極めて重要であると承知しております。
 警察庁の御説明にもありましたとおり、我が国の捜査におきましては、真相解明のために物証等の客観的証拠の収集と並んで被疑者、参考人取調べが重要な役割を果たしております。組織的、密行的に行われる事件や物証の乏しい事件、犯人だけが事件のかぎとなる重要な事実を知っている事件など、被疑者らが真実を語らなければ犯人の検挙や起訴すら困難となる事件も少なくないというふうに思っております。
 そして、起訴に至りました事件につきましても、取調べで真実が語られていなければ公開の法廷でそれが語られることは望みが薄く、公判において事案の真相解明に困難を伴う場合も多くならざるを得ないだろうというふうに思います。
 裁判員の裁判におきましても、真相を解明し適正な刑罰が科されるようなものでなければならないのでございまして、このような取調べの意義、機能が変わるものではないというふうに考えております。
#54
○松村龍二君 裁判員に分かりやすい裁判を実現するためには、取調べの録音、録画をすべきであるとの意見があるわけですが、そのために真相解明という取調べの機能が害されるようでは元も子もないと、繰り返し申し上げますが考えております。また、録音、録画をすれば本当に裁判員に分かりやすい裁判が実現されるのかという点についても疑問に思うわけであります。
 さはさりながら、裁判員裁判において取調べ状況を分かりやすく迅速に立証すること自体は必要であると考えますが、そのための方策としてどのようなものを考えておられるのか、お伺いします。
#55
○政府参考人(樋渡利秋君) 委員御指摘のとおり、裁判員裁判におきまして取調べ状況を分かりやすく迅速に立証することは極めて重要であると考えております。
 法務省を含めました関係省庁におきましては、被疑者の取調べの適正を図るとともに、取調べに関する客観的、外形的な証拠資料を提供することにより、公判審理の充実、迅速化に資するための方策として、平成十六年四月一日から、身柄拘束中の被疑者、被告人の取調べ過程・状況に関する事項につき書面による記録の作成、保存を義務付ける取調べ過程・状況の記録制度を実施しているところでございます。
 この記録制度を適正に運用して、取調べの客観的、外形的状況を明らかにすることに加えまして、現在御審議中の刑事訴訟法等の一部を改正する法律案により導入予定の公判前整理手続により、取調べ過程のどの点に争いがあるのか、具体的に争点を絞り込んだ上で取調べ官の証人尋問や被告人質問を効果的に行うようにすること、捜査段階の自白の任意性担保に関する資料を整えることなどによりまして、これまで以上に取調べ状況を分かりやすく迅速に立証することが可能になるものと考えております。
#56
○松村龍二君 諸外国の中には取調べの録音、録画や弁護人の立会いなどが義務付けられている国もあると聞いております。しかし、各国の刑事司法は様々な捜査手法や被疑者の権利あるいは実体法の在り方等が全体として機能しているのでありまして、被疑者の取調べの機能、役割を考えるに当たっては、様々な捜査手法等を含む刑事手続全体を考慮しなければならないと考えております。
 そこで、取調べの録音、録画、弁護人の立会いなどを義務付けている諸外国の捜査手段についてお伺いします。
#57
○政府参考人(樋渡利秋君) まだすべての諸外国の例について調査が済んだわけでもございませんし、承知をしているわけではございませんが、例えばアメリカでは、取調べにおける弁護人の立会いや一部の州で録音・録画制度が導入されていると承知しておりますが、他方で刑事免責や司法取引といった取調べ以外の方法により供述を獲得する捜査手段等が認められておりますほか、大陪審において事件関係者を証人として召喚し、偽証罪の制裁の下に尋問することなども認められていると聞き及んでおります。
 また、イギリスでは、弁護人の立会いのほか、取調べの録音が義務付けられておりますが、他方で被告人が黙秘した事実から適当と思われる推論を行える旨の規定があり、一定の場合に被告人が黙秘した事実から不利益な方向に推認することも認められているというふうに承知しております。
 さらに、アメリカやイギリス、ドイツなどの諸外国におきましては、おとり捜査や潜入捜査、あるいは通信傍受といった、供述に頼らずに事件を解明し犯人を検挙するための捜査手法が広く認められているものと承知しております。
#58
○松村龍二君 ただいまの御説明で分かりましたが、過般、九月十一日、一昨年のアルカイダのアメリカの貿易センター、世界貿易センターその他への攻撃を踏まえまして、アメリカでは大統領が命令を発しまして、もう手紙の検査、通信傍受、もうほとんど野方図と言っていいほどですね、時限立法でしょうけれども、範囲を広げて何でもありの捜査手法を認めているというふうな話も聞いておりますが、そのようなことについてお聞きでしょうか、調べてありますでしょうか。
#59
○政府参考人(樋渡利秋君) 米国におきましては、平成十三年九月十一日の同時多発テロ事件を受けまして同年十月に通称愛国法と言われる新たなテロ対策法が制定されております。その力点はテロ行為の防止ということにあるのでございまして、そのため、行政傍受制度等の情報収集活動の強化、出入国管理体制の強化などの行政上の措置が中心でありまして、捜査の判断手段の強化という観点での措置は必ずしも多くはございません。
 しかしながら、一つには通信傍受の対象犯罪にテロ関連犯罪が含まれることを核に、さらに捜索差押令状の執行について、本人への通知が捜査活動の支障となる場合において当該通知の遅延を許容ということなどの捜査手段の強化を図るための措置も盛り込まれていると承知しております。
#60
○松村龍二君 最後に、法務大臣にお願いいたしますが、取調べ状況の録音、録画や弁護人の立会いについては、刑事手続全体の在り方について検討する中で慎重に議論しなければならないと考えますが、その点について見解をお伺いします。
#61
○国務大臣(野沢太三君) 委員御指摘のとおり、取調べ状況の録音、録画等につきましては、司法制度改革審議会意見におきましても、刑事手続全体における被疑者の取調べの機能、役割との関係で慎重な配慮が必要であることなどの理由から将来的な検討課題とされているところでありますが、現在、法曹三者で検討をこれ続けておりますし、また国会でも衆参両方の委員会におきましてしばしばこの問題が取り上げられておりますので、それらの意見を十分私どもとしてもそんたくしながら、更に引き続きの検討を重ねてまいりたいと考えております。
#62
○松村龍二君 以上で終わります。
 どうもありがとうございました。
#63
○千葉景子君 前回に引き続きまして質問させていただきたいと思います。民主党・新緑風会の千葉景子でございます。
 今日は、刑事訴訟法等の一部を改正する法律案を主に聞かせていただきたいと思いますので、よろしくお願いをしたいと思います。
 まず最初に、被疑者国選弁護に関する質問をさせていただきたいと思います。
 今回、これまでの被告人に対する国選弁護にプラスして、被疑者段階での国選弁護制度ということが導入されるということになりました。ただし、この被疑者国選弁護につきましては、資力要件といいましょうか、それを明確にしていくという方向でございます。
 この資力の要件で、資力の基準額、これについては政令事項ということになりまして、今後決定されていくということになるかというふうに思います。資力要件を設定するということは、被疑者段階から国選弁護、国民の税金をもって弁護活動に充てるということになりますので、一定、やはり基準を設けることは私も適切なことであろうというふうに思っておりますけれども、資力基準額の設定いかんによってはこの国選弁護制度がやはり被告人の、被疑者の真の意味で権利擁護、あるいは真の意味で裁判を受けていく基準、基盤作りということにつながっていかないということにもなりかねませんので、この資力の基準額設定に当たってどんな考え方を持っているかということをお聞かせをいただきたいと思っております。
 漏れ聞くところによりますと、おおよそ私選での弁護に必要な一応最低の額といいましょうかね、そういうものがおおよそ三十万ぐらいでないかと。それにプラスして、一定の生活を保持する、そういう額といいましょうかね、生活費みたいなものがおよそ二十万程度プラスして、五十万辺りが一つの資力の基準になるのではないかというような考え方もあるようでございます。
 ただ、本当にそれでいいのかどうか。今の社会の情勢、それから他の法律での様々な基準の取り方等を考えてみますと、例えば差押禁止がされる額がこのところ、やはり一定引き上げられているということがございます。
 それから、この委員会でも先般、破産法の審議をさせていただきました。この破産法の場合にも、最終的に手元に残せる自由財産の範囲、これもかなり引上げがなされているということもあり、やはり基本的な生活の保持というようなことになりますと、従来、二十万程度かなと言われていたようなこととはやっぱり状況も違っているのではないかと、こんなことも考えられます。
 また、一定の資力がありましても、被疑者ということによって仕事を失って、これから先はもうほとんど見込みがない、収入の見込みがないとか、あるいは私選の弁護といいましてもすべて三十万程度というわけでもなく、いろんな複雑な条件によっては額も相当高いということも考えられます。
 こういう情勢などを考え合わせ見たときに、この資力の基準というのをどの程度の辺りで検討されようとしているのか、是非この辺りの動きなども踏まえて、これから政令等検討いただきたいと思いますが、その点についてはどんなお考え方で臨もうとなさっておられるのでしょうか。あるいは、どういう考え方が適切だというふうに御認識されておられるでしょうか。お願いをいたします。
#64
○政府参考人(山崎潮君) ただいま御指摘の点につきましては、国選弁護人の選任請求をする前提でございますけれども、その前提として、資力が一定額以上である被疑者、被告人については、あらかじめ弁護士会に私選弁護人の選任の申出をしなければならないということにしているわけでございます。
 この資力の基準額について、今、ただいま御指摘のとおり、その標準的な生計費を勘案して一般的に弁護人の報酬及び費用を賄うに足りる額として政令で定めると、こういうようなシステムを取っているわけでございます。
 具体的な額についてはこれから詰めるということになろうかと思いますけれども、まず生計費の考え方につきましては、従来、大体二十万円前後で固定をされて長年やってきたという状況から、最近いろいろな見直しが行われているということも私ども承知をしております。そういうような傾向もある程度頭に入れながら、その最終的な額を定めざるを得ないだろうということが一つの視点だろうと思います。
 それから、あともう一つは、弁護士に係る費用でございますけれども、この辺のところも、その実態をちょっと弁護士会の方からもお伺いしなければならないだろうというふうに思いますけれども、一般的に着手金だけで終わるのか、成功報酬的なものがあるのかどうか、その辺の全体的な動向、こういうものも考えながら最終的な額を決めていくということになろうかと思いますけれども、いずれにしましても弁護士を必要とするという被疑者が、あるいは被告人がいるわけでございますので、その防御のために支障のないような、そういう点を頭に入れながら最終的な数字を定めていくということになろうかというふうに考えております。
#65
○千葉景子君 さて、この被疑者の国選弁護でございますけれども、資力の基準額を超えるような場合には、まず私選弁護を弁護士会の方に申し出ると。それを、手続を取って、それが可能であれば私選弁護ということになりますし、それが駄目だということであれば国選弁護ということになるわけで、こういう幾つかの手続をできるだけ短期間のうちに、そして捜査活動、そして防御活動が支障ないようにスムーズに行われなければいけないというふうに思っております。選任手続が何かうまくいかなくて、遅れれば遅れるほどやっぱり捜査にも支障を来すということにもなろうかというふうに思いますので、そういう意味では、この手続をスムーズに進めるため、いろいろな手だてを講じておく必要があるのではないかというふうに思います。
 特に、勾留段階からということになりますね、今度の被疑者の国選弁護。ただ、勾留段階になってあたふたと、こりゃ大変だとあれこれあれこれやって遅延をするというようなこともやはり手続の遅延を招きますので、そういう意味では、でき得る限り捜査のスタートの段階で、こういう制度がありますよと、自分の防御のためにこういう手続も取れますよというようなことをきちっと告知、そして理解をしておいてもらうということも必要であろうというふうに思います。
 今も弁護人選任権のようなことは告知をされているものだというふうに思っておりますけれども、更にこういう国選弁護という形で弁護士を選任できるということでもあり、それをできるだけ遅延なく進めるという意味でどんなことが考えられるのかなというふうに思っております。
 例えば、やはり逮捕をされて被疑者というところでできるだけ説明をするというだけでなく、後からいつでもそれを読んだり見直せば、すぐにでも手続を取ろうということができるような、例えば説明書というんでしょうか、説明票みたいな、そういうものを例えば被疑者にそれぞれに手渡す、手渡しておくと。手元控えみたいなものでしょうか。そういうことによって、いつでも弁護人の選任の手続を取ることができると、こういうようなことも一つ考えられるのではないかというふうに思いますし、あるいは、いろいろな取調べの場所とか、いろいろな被疑者が目に留まるところ、そういうところにきちっとした説明の表示板のようなものも置いておくとか、いろんなことがあると思います。
 そして、何よりも、それは冒頭、逮捕時などに当たって、きちっとしたこの国選弁護の手続、そしてそれが活用できるということを説明をしておくことが何よりも肝心だというふうに思っておりますけれども、その辺のいろいろ知恵、巡らせていく必要があると思いますが、何かお考えがおありでしょうか。
#66
○政府参考人(山崎潮君) これ、運用にわたることでございますので、本当に私の方からお答えをするのが適当かどうかという問題がございますけれども、いずれにしましても、今委員御指摘のとおり、逮捕された段階でその手続の教示をするという教示制度を設けておりまして、これを速やかに行って手続的な遅れがないようにするということ、大変重要でございまして、これを行うについてどのような工夫をしていくかということは、それぞれその運用に当たられるところでこれから定めていくわけでございますけれども、例えば今委員が幾つか例を出されたようなこと、こういう点も当然視野に置きながら、いかにしてやっぱり分かりやすいものにするか、それから理解をしてもらえるか、これをその中心にいろいろな方法を考えていかざるを得ないだろうと思います。
 ただ、口頭で説明しただけで常に覚えているかという問題もございますので、その辺は視野に置きながら、運用に当たる当局にいろいろお願いをしてまいりたいというふうに考えているところでございます。
#67
○千葉景子君 是非、これの施行に当たりまして、私が指摘をさせていただいたようなことも知恵の一つに加えていただきまして運用を図っていただきたいというふうに思っております。
 さて、この国選弁護につきまして、今度は解任の方の、選任ではなくて解任の方の問題点について聞かせていただきたいというふうに思います。
 今回の法案で国選弁護人の解任事由、この法定化がなされております。これ従来も解任というのがなかったわけではございませんで、運用されてきたわけですけれども、今回の解任事由の法定化というのは、従来の運用を整理をしたと、運用を整理したというのもおかしいですけれども、そういう実情を踏まえて、それをきちっと分かりやすく法定化したというふうにとらえてよろしいんでしょうか。それとも、これまでのことを考えて特段新しいことが、何か指摘をすべきところがあるというふうに考えた方がいいのでしょうか。従来の運用が前提になっているのではないかというふうに受け止めさせていただいておりますが、それで考え方としてはよろしいのでしょうか。
#68
○政府参考人(山崎潮君) この点につきましては、従来から解釈で解任ということが行われてきたということ、この点はもう委員当然御承知のことだろうと思いますけれども。
 そこで、行われている事例ですね、こういうものを整理をいたしまして、そして裁判所あるいは裁判官の解任の権限、あるいは解任の事由、これを明確化することによって手続の紛糾を防止するためにこれを設けたということでございまして、そういう意味では、これまで実務で行われてきた解任に関する事例を網羅的に整理をしたというものでございまして、そういう意味では限定的に列挙をしているということでございまして、抽象的に申し上げれば、裁判所の解任権限ですね、これに従来のものについて変更を加えたものではない、従来のを整理してここに明確化したと、こういうことでございます。
#69
○千葉景子君 そこで、この解任理由なんですが、ここで、三十八条の三でこう列挙をされております。ただ、これ解任の際に特段にどうして解任されるのかという理由を示すという規定は特段に設けられておりません。
 それぞれの項目を見ますと、例えば第一号ですか、三十条の規定により弁護人が選任されたことその他の理由により弁護人を付する理由がなくなったと、こういうことは別段、これに記載されるとおりですから分かります。あるいは、三号のように、心身の故障などで、病気などで職務を行うことができないというようなことも特段に理由が付かなくても分かるということでもございます。しかし、例えば四号のように、「弁護人がその任務に著しく反したことによりその職務を継続させることが相当でないとき。」というような、これ理由もあるわけですね。
 正直言いまして、やはり弁護人の任務とそれから裁判所等の見解というのが、ある意味では弁護人は被告人の立場でということになりますので、対立的になるというようなことも当然予測もされます。どうもあれは対立ばっかりしていてちゃんと裁判所の指揮にもなかなか従わないというようなことで解任するなんということはあり得ないわけですけれども、ただ、こういう「任務に著しく反したことによりその職務を継続させることが相当でない」みたいな抽象的な理由というのは、なかなか弁護人にとっても納得し得ない、あるいは、被告人にとっても何でだろうと、せっかく一生懸命やってくれていた弁護士さんなのにというようなことにもなる。そういうことも全くないわけではない。そうなりますと、やっぱり解任をする以上はその理由をきちっと説明をしていただくということも必要なのではないかというふうに思います。
 どうも法律の構造上、不服申立てをする、できる構造になっておりませんので、そういうものについて理由を付すというのは法律の構成上余りなされないものだとも伺ったりはしておりますけれども、理由を付すことが決して、じゃそれに反して法的に、何というのでしょうね、違法になるわけではありませんし、ある意味では、やはり納得できる防御権そして弁護権ということを考えますときには、理由を、説明をきちっとしていただくということも大事なことではないかというふうに思いますが、その点についての御見解をお聞かせいただきたいと思います。
#70
○政府参考人(山崎潮君) 確かに、法の建前では、上訴を許さない決定あるいは命令ですね、これには理由を付することを要しないというふうにされているわけでございまして、この解任の決定に関しまして上訴ができないということからこの適用を受けるということになるわけでございます。
 ただ、裁判には理由を付するということは、やっぱり裁判が恣意によるものではなくて、合理的、客観的に根拠に基づくものであるということを担保するということとともに、訴訟関係人の納得を得るということ、これに資するものであるということでございますので、法律上、その理由を付することを要しないというものについても理由を付する取扱いをするという例も少なくないという状況でございます。
 私どもはその運用にある程度ゆだねていることになるわけでございますけれども、やはり訴訟関係人の納得を得る等の観点から、例えば改正法案の三十八条の三の第一項の各号のどういう理由に該当するのかと、どこに該当するのかというような点とか、それを若干基礎付ける理由等、これを事案事案によって考えて付していくというような、そういうような運用が行われていくということを私どもも期待しておりまして、これを運用の段階でその趣旨をきちっと把握して行っていただければというふうに考えております。
#71
○千葉景子君 是非そこは納得できる、関係者が、そして防御権が損なわれない、そういう形で運用されるということを是非期待をしておきたいというふうに思っております。
 さて次に、公判前の整理手続ということが今回のまた法案での大きなポイントでもあろうかというふうに思っております。
 裁判員制度が片方で導入をされ、そして被告人の防御権、被告人の権利と、こういうことも損なわないということを考え合わせたときに、公判前の整理手続というのは大変重要な、そこでどういうことが行われるかということが大変重要であろうというふうに思っております。
 そこで、一つお聞きをしたいのは、三百十六条、何か大変、何か条文が難しくてよく分かりにくいんですけれども、三百十六条の五、七号ですね、ここで公判前整理手続において行われることが記載をされておるんですけれども、この証拠調べ決定、この前提として行われる事実の取調べの範囲ですね、それについてもう一度確認をしておきたいというふうに思うんですけれども、ここで、例えば自白の任意性というようなことなどは証拠の信用性とか証明力と不可分にかかわっているわけですよね。こういう問題については、やはり本来公の公判廷で行われるというのが防御権からいっても当然のことではなかろうかというふうに思いますが、この点についてはどのようにこれは考えたらよろしいんでしょうか。この公判前整理手続において自白の任意性などまでについても調べちゃう、こういうことではないだろうというふうに思いますけれども、その点について確認をさせていただきたいと思います。
#72
○政府参考人(山崎潮君) ただいまの御指摘の点については大変重要な問題でございます。特に、自白調書の任意性に関する取調べ官の証人尋問等の証拠調べがポイントになるわけでございますけれども、その任意性という、証拠能力の有無という訴訟手続に関する判断のための証拠調べ、これは同時に、その調べであるとともに、当該自白調書が採用された場合に備えまして、その調書の信用性という本来公判で行われるべきその事実認定ですね、これに関する証拠調べという側面、両方持っているわけでございます。まず、そういう特徴を備えているということが前提になります。
 この場合、それは論理的に考えれば、まず公判前整理手続のところで、この証拠能力を判断をするために取調べ官の尋問を一回行うということで、それからそれを判断した上で、仮に任意性がありということで、それを今度、信用性があるかどうかは今度公判廷の方で行うわけでございますが、そうなりますともう一回同じ尋問をやるということになります。これも論理的な可能性としてはあり得るんですけれども、こういうことは非常に無駄なことでもございますし、それから非常に負担にもなるということでございます。
 それから、最終的にこの裁判員の方が入ってそこできちっとした判断をするわけでございます。したがいまして、やはりこの自白の証拠能力については、公判のその公訴事実の立証の成否、これを大きく左右するものである、こういう性質のものでございますので、こういう点についてはやはり公判において行ってその採否を決定をするというのが通常であるというふうに私どもは考えておるわけでございます。
#73
○千葉景子君 分かりました。
 論理的には、公判前整理手続でも取調べをやって、そしてまた本来公判廷でやるべきことをもう一度やるということも確かに論理上はあるんだろうと思いますけれども、実質的なやはりことを考えますと、二度手間をするようなことは余り実務としてはあり得ないのかなというふうに思います。是非、ここの自白の任意性など、やはり公判廷で行うべきことがきちっと裁判員の前で、そして公の場で執り行われるように、そこはきちっと確認をして、趣旨を確認しておきたいものだというふうに思っております。
 さて、その次に、証拠の開示、これも今回の刑訴法で一定の言わば前進をすることになりました。私たちもそれは評価をさせていただいております。また、それで一〇〇%十分かという辺りがまだまだ議論の残っているところであろうかと思いますが、この今度の改正法の下での確認点を幾つかお聞かせをいただきたいというふうに思っております。
 まず、三百十六条の十五ですね。三百十六条というのはたくさんあるものですからよく分からないんですけれども、三百十六条の十五の第二項二号、ここで、被告人又は弁護人は、開示請求において、事案の内容そして特定の検察官請求証拠に対応する証明予定事実云々かんぬん、ずっと書いてありまして、「その他の被告人の防御の準備のために当該開示が必要である理由」ということで記載がなされております。このずっと幾つかの要件が書いてありまして、そして、その他の被告人の防御の準備のために当該開示が必要であるという理由ということの書きぶりですから、この書いてある幾つかの要件というのは例示というふうに受け止めてよろしいのかなというふうに思います。
 例示があって、その他、少なくとも被告人の防御の準備のために開示が必要であるものと、こういうまとめですので、この前段のところはずっと例示、ほぼ普通の、何というんでしょうね、ときに考え得る、それから実務上予測されるものを例示的に並べてあるんだということで認識をしてよろしゅうございましょうか。
#74
○政府参考人(山崎潮君) 確かに、この三百十六の十五の二項の二号でございますが、非常に長く書いてあって分かりにくい点はお許しをいただきたいと思いますけれども、確かに、今御指摘の点で、その他の被告人の防御の準備のために当該開示が必要である理由というふうに言っておりますので、その他のと言っておりますので、その前が全部例示になるわけでございまして、包括的な理由は、やっぱり被告人の防御の準備のために当該開示が必要である理由、ここに掛かってくるわけでございます。
 したがいまして、例示が前に挙がっておりますけれども、これに限られるわけではなくて、被告人の防御のために必要であると、こういうような、そういうような範疇に入るかどうかということを理由を明らかにして請求をしなさいと、こういうことを言っているわけでございますので、そこはその御指摘のとおりでございますので御理解を賜りたいと思います。
#75
○千葉景子君 分かりました。
 それから今度は、そのちょっと前に戻るわけですけれども、三百十六条の十五の今度は一項の方ですね。一項の方で、この開示の、するべき、何というんでしょうね、証拠物とかあるいは書面の種類が記載をされております。これは、証拠物というのは分かるわけですけれども、この書類ですね、証拠物以外の書面、この種類というのは言わば形式的に考えるのか、それとも実質的に評価をして、こういうものに該当するかどうかということで判断されるのかどうかということを確認をしておきたいというふうに思います。
 例えば、捜査報告書というのは一つの類型でございます。そうなると、もし、形式的に考えると、捜査報告書というふうになっていないとそれに該当しないんだということになってしまうわけですけれども、例えば、表題は違っても、通話の記録とか、それから金銭を出し入れしていた様々な記録とか、そういうことを捜査して記録したものというものも考えられるというふうに思います。そういうことになりますと、それは必ずしも、通話記録となっていたりしますけれども、実質的には捜査報告書に準ずるといいますか、実質を持っていると、こういうようなことも考えられるわけで、そういう意味では、これは単なる表題で判断をするのではなくて、その中身、実質的な中身で判断をされるべきであろうかというふうに思っておりますが、その点についてはどのようにこの規定は考えればよろしいのでしょうか。
#76
○政府参考人(山崎潮君) 確かに、この三百十六条の十五、一項の各号に掲げました証拠の類型でございますけれども、これは一般的にあるいは類型的に証拠の証明力を判断するためにその検討が重要であると考えられるものを明示したものでございます。これに当たるかどうかという点につきましては、当該証拠に記載された表題によって判断するのではなくて、その証拠の実質的な内容によって判断すべきであるというふうに考えているわけでございます。
 ただいま、今、捜査報告書の話が例示で出されましたけれども、これでいいますと、表題はそうなっているといたしましても、その内容が、捜査官が犯行現場の状況を見分した結果が記載されているということになれば、これは実質的には実況見分調書と言えるような内容になるわけでございますので、そういうような場合には、そこで、三号で、三百二十一条三項に規定する書面と言っているわけでございますが、これに該当をしていくと、こういう判断をするということでございます。
#77
○千葉景子君 ありがとうございます。
 ちょっと、私の先ほどの言い方がちょっとまずいところもあったかと思いますけれども、今お話しいただきましたように、実質的な形で何に該当するかということを判断いただけるものだというふうに思っております。これは司法制度改革検討委員会などでも、その点、これは実質的な判断がされるものであるというようなことも検討会で議論をしていただいているようでもございますので、是非そこは今確認をさせていただきましたように判断をされていくように考えておきたいというふうに思っております。
 さて、この三百十六条の十五で、「必要と認めるときは、開示の時期若しくは方法を指定し、又は条件を付することができる。」ということになっております。これ、条件を付するということも当然あるだろうというふうに思いますけれども、この条件ですね、三百十六条の二十六というところになりますと、この三百十六条の二十六、これで何が問題になるかというと、これに対して、これが三百十六条の二十六第一項、開示をすべき証拠を開示していないとき、そのときには、決定で、当該証拠の開示を命じなければいけないと、こういう規定が、即時抗告によって、規定があります。
 開示されていないということで即時抗告するというのは分かるんですけれども、例えば条件が先ほどの規定で付せられていて、それが条件がなかなか成就をしないと、そういうことによって開示が即時に行われない、あるいは一定の、長期間経過をしても開示が行われないというようなときに、この条件というのがこの三百十六条の二十六、ここに該当するのかどうか。その点について裁定の対象になってくるのかどうか。そこはどんなふうに考えたらよろしいのでしょうか。
 条件が成就すれば開示されるんでしょうけれども、それがなかなか条件が厳しい、あるいは成就が困難というような形で開示がなされないというようなケースについてはここの条文の関係はどんなふうになるのでしょうか。
#78
○政府参考人(山崎潮君) ただいま御指摘の規定は、裁判所が証拠開示の裁定に当たりまして、ここで定めている所定の開示の要件の有無、これを審査をいたしまして、その開示の要否あるいは条件等を決することになるということでございますので、そういう意味では、すべてのことについて裁判所の審査が及ぶということを前提に考えております。
 したがいまして、改正法の三百十六条の十五あるいは二十に基づいて検察官が開示をする場合におきまして、その付した条件が不当であると判断した場合は、裁判所は無条件で開示を命じたり、あるいは別途の条件、もう少し緩い条件を付けるとか、そういうようなことで条件を付することができるということになりますので、ここではすべてのものが対象になって裁判所が最終的に裁定をしていくと、こういうことでございます。
#79
○千葉景子君 条件の当不当といいましょうか、そういうところも含んで裁定の対象になるというふうに考えさせていただけるのかと思っております。
 さて、刑訴についてもまだお聞きをしなければいけないところがあるのですけれども、ちょっと前回、裁判員制度の方を中心にお聞かせをいただいて、何点かもう少し聞かせておいていただきたいものがございますので、よろしくお願いをしたいというふうに思っております。
 一つは、この裁判員制度、新しく導入をされていこうという制度でございますが、これについて運用状況というのを公表していくということになるかというふうに思います。この運用状況の公表の具体的な内容というのはどんなところまで掛かっていくものなのでしょうか。ちょっとそこいらをお聞かせをいただきたいというふうに思っております。と申しますのは、衆議院の修正等でも、この運用に当たっての様々な環境整備ということも大事だということで修正が施されました。この環境整備が十分に本当に行われて、裁判員がその職務を全うされているのかどうかというようなことも運用の大変重要なポイントになっていくのだろうというふうに思っております。
 そういう意味では、例えばこの運用状況の中で、介護や育児等が理由で辞退をするというような人が本当にいたのかいないのかとか、それからそういう介護や育児をしながら出頭した人が例えばそのためにどんなサービスを利用したり負担を自ら負っているのかとか、あるいは裁判所によって十分な情報が提供されていたかとか、いろいろなものがやっぱりその後の運用を更に改善していく意味で大変重要なことだろうというふうに思っております。
 そういう意味で、そういう点についてもやっぱり具体的に公表し、そしてまた議論に供して更なる環境整備や運用の改善を図っていくという、そういう趣旨を認識をした上でなされるものなのかどうか、その辺を聞かせていただきたいということと、それから今回、裁判官と裁判員の構成ですが、三人、六人。しかし、裁判官一、裁判員四の合議体ということも可能性として存在をするわけで、この裁判官一、裁判員四の合議体がどのように、どんな場合に開かれて、そして運用されているのかというようなこともやはり公表をし、そして今後の制度の更なる改革などにもつなげていくということが重要だというふうに思いますが、その辺り、この公表の具体的な中身等はどんなふうにお考えになっておられるのでしょうか、お聞かせをいただきたいと思います。
#80
○最高裁判所長官代理者(大野市太郎君) 裁判員制度につきましては、多くの国民の皆さんに参加をお願いするという全く新しい制度でありますから、実際に制度をスタートさせた後に必要なデータを取りまして、それを踏まえて制度の運用状況等を十分把握して検証していくということが重要であるということは委員御指摘のとおりであろうと思います。
 法律も、この法案の七十四条も、最高裁判所に毎年対象事件の取扱状況ですとか、裁判員及び補充裁判員の選任状況、あるいはその他この法律の実施状況等に関する資料を公表するものとしております。
 この規定に基づきまして、具体的にどのようなデータを集積して公表していくかというのは、まだ、例えば対象事件の数とかいったようなこと、あるいは出頭率、裁判員がどの程度の数出頭したか、あるいはその出頭率がどの程度であったか、あるいは裁判体の構成として委員御指摘のような一対四の構成がどの程度利用されたかといったような辺りはデータとして集積していくことになろうかと思いますが、更にそれ以上、具体的にどのようなデータを集め、そして公表するかということにつきましては、その情報の資料としての有用性、収集や集計の方法等を考慮しながらこれから検討していきたいというふうに思っております。
 議員御指摘のような点も踏まえて更に検討してまいりたいと思っております。
#81
○千葉景子君 そこで、アイデアというか、提案みたいなものでもあるんですけれども、最高裁の方でもいろいろこれまで諸外国のいろんな陪審の制度等の研究や調査なども当然なされているものではないかというふうに思うんですが、この公表に当たって、いろんな材料をやはり収集をし、そしてそれを集積をして公表したり、あるいはそれからの制度の運用に生かしていくということが必要だというふうに思います。
 それについて、諸外国、アメリカなどの陪審制の下などで、大変なかなかこういうものをやっぱり具体的にしたらいいなと思いますのは、裁判員になった人たち、裁判員として職務を終了した後、言わば質問票というか調査票、こういうものに記入をしてもらって、そしてその裁判の実情、それからその環境整備がきちっとなされているかというようなことを意見を聞くというようなことがなされているようでございます。
 当然、最高裁の方も十分御存じであろうというふうに思っておりますが、何点か私もちょっと手にすることができましたので、ちょっと二、三、紹介をさせていただきたいと思いますけれども。
 一つはサンディエゴの裁判所でございます。ここで、陪審の出口調査票というものが陪審員に配られるようでございまして、これの中には、陪審員の選定手続に当たって、何回当たりましたかとか、こういうことあるんですけれども、職務を終えて陪審員の義務に対する印象などを聞いているんですね。肯定的であるとか、否定的だとか、前よりも肯定的になった、前よりも否定的になったというような質問があったり、あるいはいろんな事項について、良い、普通、悪いと、こういうチェックをする欄があって、例えば裁判所の最初のオリエンテーションがどうだったか、あるいは職員の対応はどうだったか。それから、あとは物理的な方ですけれども、陪審員の控室はどうだったかとか、そういうこと。それから、今度は負担の方ですね。陪審員の義務を果たしている間、雇用者から給料の支払は受けたか否かとか、その場合に何日間ぐらいはちゃんと保障されているかとか、そういうことなどが調査票で聞かれるということになっています。こういうことによって環境の整備が、やっぱり満足されているのか、あるいはどうも不足をしているとか、裁判のやり方にどうも問題があるのではないか、こういうことが分かってくるのではないかというふうに思います。
 それから、フロリダ州のセントルーシー郡。ここ、巡回裁判所のようでございますけれども、ここでもやっぱり陪審出口調査票というものが配られて記入をされるようになっているようです。今のものとやはり重なり合っていきますけれども、やっぱり最初のオリエンテーションは良かったかとか、面白いのは、それぞれプロとして、そこに携わっている裁判官とか、ちょっとアメリカの制度ですから裁判所保安官とか裁判所事務官、こういう皆さんのプロとしての対応はどうかと、こういうことに対する評価を聞く、こういうものもありますし、先ほど言ったように収入の問題とか、あるいは陪審の義務を果たした後、どう思いますか、印象はどうだったですかと、こういうようなことなどがやはり聞かれておりまして、これもやはりこれからの評価、あるいは検証に大いに役立つ形になっているのではないかと思います。
 もう一つ、ニューヨーク州。これも質問票ということで様々な項目が聞かれるわけですけれども、やっぱり同じように、陪審のためにどのぐらいの時間を費やしましたかとか、それから、オリエンテーションはよく分かったでしょうか、そして、オリエンテーションのビデオなどを見ましたかと、こういうふうなこと、それから、ビデオが有益でしたかというようなことが聞かれておりますし、また、裁判所関係者に対する対応、これも先ほど申し上げましたように、プロとして大変適切であったとか礼儀正しかったとか親切だったとか、いろんなことが聞かれております。また、自分のプライバシーとか身の安全、こういうことが損なわれることはなかったかと、こういうことも聞かれております。
 そして、私はここで非常に印象に残りましたのは、陪審の全体的に、義務について、義務を果たす前よりも肯定的になったかどうかというようなこと、それから、自分は陪審員として貢献することができて大変良い時間を過ごすことができたと感じたかどうかと。これはこの間も議論されましたように、義務だからもう嫌々なんではなくて、やっぱり義務を果たしたことによって大変満足をし、そして、自分でも大変良い経験と時間を過ごしたというようなことをやっぱり率直に聞いていると、こういうような調査票がやっぱり活用されております。当然のことながら、経済的な負担、雇用の問題などについても質問票に記載がございますけれども、こういうようなことなども是非活用をいただくというか、参考になるものではないかというふうに思います。
 是非そんな形で、この運用状況調査票なども使いながら積み重ねていくということなども検討してみたらどうかと思いますけれども、もし御意見がございましたら、最高裁、いかがでしょうか。
#82
○最高裁判所長官代理者(大野市太郎君) 委員お話しのように、アメリカ、それからほかの国でも、随時のアンケートのところが多いようですけれども、制度的に、一般的に行っているところよりはむしろある期間を限って、ある事項に限ってやっているというところがどうも私どもの把握では多いような気がいたします。
 ただ、委員御指摘のように、陪審員あるいは参審員となった後とそれから前との印象の違いとか、それは司法に対する評価の違いといったようなもの、あるいはその各手続における感想等も聞いているものといった、種々があるようでございます。
 こういった諸外国の例も参考にさせていただきながら、私どもとしてもどういったデータが必要であるかというようなことをこれから考えていきたいと思っております。委員の御指摘のようなアンケートというのも一つのアイデアであろうかというふうに思っております。さらに、いろいろな問題点等も含めて考えさせていきたいと思っております。
#83
○千葉景子君 是非、大変私も興味深く、手に入りましたこの質問票拝見をいたしましたので、こんなことも参考にしていただきたいというふうに思います。
 そこで、大臣にちょっと御意見を伺いたいと思うんですけれども、ちょっと追加をした御質問もありますが、そちらは今日は残念ながらちょっと省かせていただきたいというふうに思いますが。
 これから、この裁判員法も五年という期間の中で施行に向けていろんな準備が進められてまいります。やっぱりまだまだ一般の市民の皆さんにとっては遠い話でもあり、そして現実味の少ない、そういう話でもあって、なかなか実感としてわいてこないという状況だということは、もうこれはやむないところじゃないかというふうに思うんですね。
 前回、江田委員だったでしょうか、日弁連がそういう中でも努力して作った「裁判員」という映画、大臣も残念ながら見ておられなかったのではなかろうかと思いますが、日弁連が努力をしたということは、これはその話として、やっぱりこれから、参考人からもお話があったように、模擬裁判のようなものを、やっぱり裁判員が加わった裁判というのはこういう形なんだというようなことを是非積極的に進めていく必要もあるんじゃないかと、こんな御意見もありました。
 私も、それも大変必要なことだと思うんですけれども、なかなか、模擬裁判といっても、そこに参加できる人、そしてその場に居合わせる人というのはやっぱり限られてくるだろうというふうに思うんですね。だから、それは一つの手段として、やっぱりこれも教育、広報、こういう意味で大事。
 ただ、私、一番いいのは、やっぱり映画のようなものを作ることもいいんじゃないかと思うんですね。日弁連が作ったからというわけではなくして、やっぱり映画みたいなものですと幅広くいろんな人が見ることができる。そしてイメージが何かやっぱりそれによってわいてくるというようなことも言える。それによって関心が持てるし、身近なものになっていく。市民にとっても、おお、なかなか裁判員というのは、自分がもしやるようなことになったら、なかなか面白いものだな、関心深いものだなという、そういうことにもつながっていくのではないかというふうに思いますので、そういう意味で、どうでしょうか、これからいろんな予算もやっぱり十分に取っていただかなければいけませんけれども、政府で映画を作ってみるとか、そういうことなどもこの裁判員制度をスムーズに施行していくということの一つの大きな力にもなるのではないかというふうに思いますが、そんなところ、どうでしょう、大臣も少し知恵をお働かせいただけたらどうかと思っておりますが、いかがですか。
#84
○国務大臣(野沢太三君) 委員から大変具体的に御提言をちょうだいいたしておりまして、大変私自身も啓発をされております。
 先日、江田議員からも御指摘のありました日弁連作製の「裁判員」、あなたも裁く人という、あなたが決めると、こういう副題が付いておりましたが、私、早速見まして、大変またこれも参考になったわけでございます。今のルールとは少しルールが違ってはおりますけれども、一人と七人でございましたか、裁判員の方々が、全く見ず知らずの者が集まって、そして評議を重ねるうちに、当初有罪という心証の方が多かったにもかかわらず、その議論を本当に真摯に重ねている中で結果的に全員無罪という、あれはたしか無記名投票で最終的に決まったと、裁判官自身もその裁判員の方々の話を聞く中で意見が変わっていったという、大変内容的に、私もこれは大変立派なというか意義ある内容のビデオであるな、こういう種類のビデオを含め、それからパンフレット、今お話しの映画、こういったものを、あらゆる手段、メディアを活用、動員しまして国民の皆様にまず理解をしていただくことが大事かな、こう早速思ったわけでございます。
 今日はまた、大阪、仙台におきます公聴会の結果が簡潔に御報告されておりますが、またこの詳細の議事録できました暁には私も拝見をさせていただきまして、どうしたらこれを趣旨徹底し、理解していただけるか、法務省を含め、これ全省庁の取組ではございますが、とりわけ我が法務省はその点では責任もございますから、しっかりと取り組むように考えてまいりたいと思っております。
 何よりもまずこの広報活動が大事ですが、もう一つ大事なのが私は法教育ではないかなと。残念ながら、今の文部省のカリキュラムの中には、小中高を含めまして、ほとんど法律に関する教育が行われていない状況にございますけれども、今文部科学省と協力しまして勉強会を作っておりますので、この中での御議論をいただきながらしっかりした法教育を重ねる、そして同時に、社会教育といいますか成人の方々にも、この問題についてはどういうところがいいかはこれから皆さんの御意見聞きながら考えたいと思いますが、早速くじを引いたら当たるという方々にも分かっていただくことが大事ではないかなと思っております。
 そして、こういったPRと教育の両方を軸といたしまして、この制度について国民の皆様がよく習熟し運用していただきますれば、当初から御提言のときに申し上げておりますように司法制度が国民に身近なものになる、そしてまた、より公平なものとして、さらに迅速なものとして、本当にこの国民の役に立つ司法制度としてこれが発展していく可能性があるということを大変私も期待をし、また責任も感じておるところでございます。
 また、国会における御議論というのは、その意味で大変多面的、多角的に御意見ちょうだいしておりますので、こういった御意見も十分、普及、教育の中には生かしていかなきゃいかぬかなと、こう思っておるところでございます。
 引き続きのひとつ御意見、御指導、よろしくお願い申し上げます。
#85
○委員長(山本保君) 午前の質疑はこの程度にとどめ、午後一時二十分まで休憩いたします。
   午後零時八分休憩
     ─────・─────
   午後一時二十分開会
#86
○委員長(山本保君) ただいまから法務委員会を再開いたします。
 休憩前に引き続き、裁判員の参加する刑事裁判に関する法律案及び刑事訴訟法等の一部を改正する法律案を一括して議題といたします。
 質疑のある方は順次御発言願います。
#87
○角田義一君 民主党・新緑の角田でございます。
 先ほど地方公聴会の御報告がございましたとおり、私ども、大阪と仙台に二班で分かれて行ってまいりまして、大変有意義な地方公聴会だったというふうに思っております。私は、私どもの理事さんに、できれば高裁管内八か所ぐらい思い切って委員が二人一組になって行ったらいかがかというようなことまで申し上げたんですけれども、人がいないそうですから。いずれにしても、二か所できたということは本当によかったと思っております。
 大臣、どうですかね、これからこの制度を国民の間に理解、定着を図るためには、国会が法案が通っちまえばなかなか国会主催の公聴会というわけにいきませんけれども、かなり法務省なりが思い切った公聴会というようなものを、各地域でこれなんかかなり細かくいろいろ工夫しておやりになって、国民の要望なり意向というものを吸い上げるということが極めて大事だということを痛切に感じてきましたけれども、どんなお気持ちですか。
#88
○国務大臣(野沢太三君) この制度が定着するにはまだこれから五年という長い準備期間を要するわけでございますので、その間に、先ほどからも御議論がございますようなPR、あるいは教育の工夫を含めまして、直接国民の皆様からの御意見を聞く機会についてもひとつ工夫をしまして、どういう姿で、どういう形でこの国民の御意見が反映されるか、具体的に実行していくためにはまだまだいろいろ考えなきゃいかぬことがあろうかと思いますので、これからこの委員会における御提言等も踏まえまして、しっかりひとつ検討を進めてまいりたいと思います。
#89
○角田義一君 私は、仙台に限って言えば、皆さんが裁判員制度に大変関心を持っておられて、しかもかなり意識が高いといってはちょっと語弊があるかもしれませんけれども、そういう方々で、この制度の意義についてもよく理解をされて、自分がもしそういうことになれば当然それをお引受けをすると、こういう立場を鮮明にしておられたわけでありますが。
 御案内のとおり、裁判員は無作為で選挙人の中から選ばれるということになりますと、いろいろな方がたくさんおられるわけで、それがまた裁判員制度のある意味では持ち味というか意義になってくると思うんですけれども、この公聴会をやるときに、言うならば、これから法務省がお進めになるときに、必ずしも世間で言う有識者というか、そういう人ばっかりを相手にして意見を聞くというのではなくて、今余りそういう言葉は使わないけれども、私の大好きな言葉で、庶民、大衆というか、そういう庶民、大衆の意見をどうやって吸い上げるかと。私の支持者の中にもいろいろいますけれども、八百屋の御主人とか、酒屋のおっさんとか、床屋の主人とか、いろいろおりますがな、庶民代表みたいな人が一杯。そういう人たちからも率直にこの裁判員制度というものについてどう考えておるのかということを吸い上げることが私は大事だというふうに思っておるので、余り従前のような堅苦しいことじゃなくてやっていただいたらいいんじゃないかというふうに思いますけれども、大臣、いかがですか。
#90
○国務大臣(野沢太三君) 確かに有識者だけではこの制度は成り立たないわけでございますから、今委員御提言のような形で一般の皆様の御意見をどうやったら伺うことができるか、これは、私もこれまで幾つか委員会の運営等につきまして、この参議院におきましても工夫をした経験がございます。それぞれの地域ごとに選ぶとか、年齢別に選ぶとか、あるいは男女別に考えるとか、さらには各党御推薦でということで、いろんな立場の方が入るような工夫をしたこともございます。
 今後どういうチャンスが一番適切であるか、いずれ今後の議論に任されるわけではございますが、今委員が御指摘のとおり、普通の方が率直な御意見が言えるような場も考えていくことが大事ではないかと思いますので、ひとつ今後ともそういった意味での御提言、御趣旨、よろしくお願いいたしたいと思います。
#91
○角田義一君 恐らく大阪でも出たお話だと思いますけれども、国民の皆さんにかなりの御負担を掛けるわけですが、特にやはり先ほど、午前中でも議論になりましたけれども、秘密の問題ですね、秘密。これが、秘密を漏らすと懲役まで科せられるということについて、やはりそこまでやるのかという御意見もありました。やはり、裁判員になった人が、その体験談というか、実際に自分の経験したことをある程度しゃばに帰って、しゃばに帰ってなんておかしいな、しゃばに住んでいるんだけれども、戻ってですね、やっぱり周りの人に話をして聞かせるというか、そういうことによって理解を広めることもできるわけなんですけれども。秘密でぎりぎり縛られると口も利けないということになりゃしないかと、こういう心配ですよね、公述人の人の話だと。だから、何が秘密になるのか、どこまで言っていいのかということについてはある程度具体的に、こういうのは別に差し支えないんですよというようなことを例示的に明らかにしてもらうということが公述の中から希望として出てきておりました。
 私は、ある意味ではもっともだなというふうに思います。この点については、事務局長、どのように考えていますか。
#92
○政府参考人(山崎潮君) 確かに、御指摘の点、非常に重要なポイントだろうというふうに私ども認識をしております。そういう関係から、やはり国民の方々にその負担をお願いするわけでございますので、なるべくその負担が少なくなるようにという観点から、やっぱり不安がいろいろある、それを取り除く、そういうようなことを明確にしていく必要があるということでございます。したがいまして、どの範囲であれば問題がないかということをきちっと理解をしてもらえるということが重要だろうと思います。
 そこで、具体的な方法でございますけれども、これから詰めてまいりますけれども、例えばパンフレットにおいて、守秘義務に反する行為とそうでない行為ですね、こういうものを分かりやすく説明するなり、あるいは図式をするとか、そういうふうな工夫をして、そこで迷いがないように、不安がないように、そういう運用上の工夫はいろいろこれから考えていきたいというふうに思っております。
#93
○角田義一君 こういう情報化社会でもあるし、メディアもうんと発達しているわけですから、あらゆるメディアを動員して、国民が精神的な負担がないように、少なくとも、例えば死刑とか無期とか自分の判断によって決めていかにゃならぬということですから、大変な心理的な負担を裁判員になる人は負うわけです、背負うわけですよね。その上更に秘密どうのこうのというと、やっぱり懲役まで行くのかというのは私は大変なことだと思いますので、そこはよほど自由、ある程度自由に物が言えるようなやっぱり雰囲気作りをしていただきたいと思うし、そうすべきだということを重ねて申し上げておきたいというふうに思います。
 それから、やはり弁護士さんも出てこられておりましたし、それから冤罪事件にかかわったジャーナリストの方もおいででございました。そこで、先ほどの松村先生のお話じゃないですけれども、可視化、可視化というんで何のお菓子かというような笑い話も出ましたけれども、これ、やはり裁判員制度を円滑にあるいは本当に実際に転がしていく上では、証拠の開示とそれから可視化の問題というのはやっぱり避けて通れないということが弁護士さんあるいはそのジャーナリスト、冤罪を扱ったジャーナリストの方からも提起をされました。
 可視化については先ほども議論もありましたし、私は、日本の警察なり検察庁の今までの伝統的な手法ということについて全く無理解というわけではありません。それはそれなりの伝統もあるし、それから言わば被疑者という人との人間的な関係の中で自白が得られて、その人が文字どおりそこから改心をするというようなことは決して悪いことではないと思います。それはそれでいいことなんであるけれども、しかしそれが本当に、何というか、素直に言っているのならいいけれども、そこに問題のように、任意性の疑義が挟まれるような、脅迫であるとか、あるいは脅しであるとかどなるとか、いろんなことがあって、そして重大な事件になるほどこの任意性の問題が問われて、その任意性を争って公判が長引くというのが被疑事件では趨勢でしょうがね。そうなりますと、この裁判員制度も争う事件で、争わない事件ならともかく、争う事件で任意性が問題になったときに、やはりそのプロセスがどうなっているんだということが客観的に担保される制度というのは私はどうしても必要じゃないかと思う。
 法務省の刑事局長の昨日、おとついからのお説、御説明をじゅんじゅんと講義調で聞かされて、分からぬではないけれども、果たしてあなたのようなその感覚でずっとこれでいってうまくいくかなという気持ちを私は率直に持って帰ってきた。どうですか、刑事局長、もうちょっと前向きになれぬのかね。
#94
○政府参考人(樋渡利秋君) 先日来説明させていただいておりますように、現在、最高裁判所、日弁連、法務省・検察庁で協議会を作りまして、その可視化の問題も含めて今後慎重に検討しようとしているところでございまして、法務・検察といたしましても、虚心坦懐にその協議の結果をも踏まえつつ、今後慎重に検討してまいりたいというふうに思っております。
#95
○角田義一君 あなたの頭の中には、あれですか、可視化という中で、例えばビデオを撮るとか録音を取るとかというようなことはもう全然頭の中にない、意識の外。どうなんですか。
#96
○政府参考人(樋渡利秋君) 私の頭の中にあるかどうかとは全く別問題でございまして、それをこれから検討していこうというところでございます。私自身も、その検討というものを十分踏まえて、その考える一員になりたいというふうに思っております。
#97
○角田義一君 それはあなた、ないと思うんだよ、あなたは刑事局長で一番偉いんだから。協議するときには、あなたの頭の中にビデオとか録音を取るとかというのは、全くあるのとないのとでは、土俵に乗るときにどういう素材を出すかということになるんじゃないの。法務省の側からはその協議の場にビデオとか録音とかということは一切今の段階では出さないというお気持ちですか。それとも、それらの問題についても出すと、問題提起として出してみる、出すということなんですか。
 私はその協議の中に立ち入りたくはないけれども、法律でそれは決められないんだから、そこはみんなこれから運用を任していくぐらいうんとある、あるわけなんで、これはやっぱり聞いておかなきゃなりませんな。
#98
○政府参考人(樋渡利秋君) これは委員も前から御存じでありますように、司法制度改革審議会の意見書、その意見書を出す前の意見の協議の中からもずっと問題にされてきていることでございまして、意見書では司法、刑事司法制度全体の問題として、全体の中で考えていくべきだというふうに言われておるところでございます。
 私たちも、それに基づきまして、この協議会の検討課題の一つにそれをあえて出している、それを了承してみんなで議論をしていこうという態度でございますので、そこから御推察を願えればと思います。
#99
○角田義一君 これは私ども民主党の党内の部会で、この可視化の問題については相当議論もありましたし、それから学者さんを呼んでいろいろ教えてもいただきました。民主党の修正案の中には、この可視化、附則の中に可視化の問題について法律の中にきっちりと明記をしたい、附則の中に入れたいということで自民党さんと衆議院の段階で談判したようですけれども、どうも衆議院の民主党は弱いのかな、おとなしいのかな、説得し切れなくて、衆議院段階ではその修正が附則の中に入らないで附帯決議ということで我慢させられたんだ。私は我慢したくないんだけれども、我慢させられちゃっておるんですが。
 私どもの立場とすると、これは法律の中に、附則の中に可視化の問題についてきちっと入れたいぐらい、そういう強い要望は、気持ちはあるんですよね。それだけに、やはりこの問題については、局長、相当深刻、真剣に考えてもらわないといけない。
 私は、日本の伝統的な捜査のことを全く否定するつもりはないんですよ。ないんですけれども、裁判員制度というものができて、運用になってきた場合に、特にこの任意性の問題について争いがあったときにどう立証するんだと、どう分かりやすく立証するんだと。そして、その証拠能力を速やかに決定をしなければ先へ進まないわけですから。そういうことを考えると、これはよほど、ひとつ深刻、真剣に考えてもらわなくちゃならないということを申し上げたい。
 そして、最高裁の方にもお願いをいたしたいんだけれども、最高裁もこの可視化の問題については相当やっぱり真剣に考えてもらわぬと、せっかくの裁判員制度というものが回らなくなるというおそれが私はあるように思いますので、再度、くどいようだけれども、刑事局長と、両刑事局長な、偉い人二人に御答弁願いたい。
#100
○最高裁判所長官代理者(大野市太郎君) 私どもといたしましても、裁判員制度における任意性、裁判員が判断しますのはその後の任意性が肯定された場合の信用性という問題になりますけれども、裏腹の問題ということになろうかと思います。
 こういったことが争いになった場合に、裁判員の方々にその点について十分な適正な判断がしていただかなくてはいけないと思います。そのためにどのような立証が行われるべきかということについては、第一次的には立証すべき検察官の問題であろうかと思いますが、その立証の一つの在り方として、問題とされているような録音、録画ということもそれはあり得ることであろうというふうに思っておりますので、それについて検討していきたいというふうに思っております。
#101
○政府参考人(樋渡利秋君) 現時点では、繰り返すようでございますが、慎重に検討していきたいと言う以外にないんでありますけれども、しかし、今、大野刑事局長がお答えになりましたように、その任意性を含めまして立証責任は検察官にあるわけでございますから、その点は十分検察官、法務・検察としては認識しておりますので、そういう問題を含めて、司法制度全体の問題として慎重に検討していきたいというふうに考えております。
#102
○角田義一君 ひとつ大いに検討してもらって、協議会でいい結論が出るようにお願いをいたします。
 それからもう一つ、やっぱり問題になりましたのは証拠開示の問題ですね、検察官の手持ち証拠の開示であります。私のつたない経験で言いますと、今の刑事訴訟法、今の刑事の事件の運用でいくと、相当審議が進んでいく中で、被告人質問やら、いろいろの関係者から、検察がこういう例えば供述調書を持っているんじゃないかと、あるいはこういう捜査報告書があるのではないかということが分かってきて、審議の途中でかなりのところで分かってきて、そしてそういうものはあるんじゃないかと、出しなさい、出さないということでえらい騒動になっていくわけでしょう、今のところ。
 今度は、最初からお互いが自分の持っている証拠を、手のうちを明らかにするということですから、今までの刑事訴訟法なり刑事手続とはちょっと質が違うんじゃないかなというふうに私は思っておるんです。
 そこで、お尋ねしますが、この手持ち証拠の開示、弁護側、弁護士出身の公述人の方は、すべて出してもらいたいと、持っているものはすべて出してもらいたい、それが標目という形になるのかどうか分かりませんけれども、検察官が持っているのはすべて出してもらいたいと、こういうのが非常に強いんですけれども、これについてはどういうふうに考えておられますか。まず、事務局長から。
#103
○政府参考人(山崎潮君) 確かに、そういうような御指摘があるということを私ども承知はしております。ただ、例えば検察官が取調べ請求をした証拠の証明力を判断をするために重要でないというもの、そういうものも全部を出すということ、これが仮に膨大にあったというような場合に本当にかえってそこの整理で時間を食ってしまうとか、そういう問題もあるわけでございます。それからまた、被告人の主張とも関連しない、あるいは開示の必要性も認められないような証拠が大量にあるというようなこともあるわけでございます。それともう一つは、その証拠の中には他人のプライバシーを含むものもあるわけでございまして、こういうものについてもすべてお出しをするということにして本当にいいのかどうかという点からは、やはり全面的な開示ということはなかなか難しいだろうと。
 しかしながら、やっぱり被告人の事件の防御のために必要になっていくもの、こういうものについてはできる限り多くを出して、それでその準備が十分にいくようにということから今回のような法案を考えたわけでございまして、これを御利用いただければ、かなりのものは証拠としては重要なものは出ていく、こういうシステムでございますので、その限度で、今回はそれ以上はしておりませんけれども、その限度で十分にお出しをするということで御理解を賜ればというふうに考えているわけでございます。
#104
○角田義一君 そこで、お尋ねしますけれども、仮に私が弁護人になった場合に、検察官にどういう証拠があるのかすべて分かるわけじゃないんです、立場が違うんですから。その場合に、弁護側とすればどの程度のことを言えば、あるいはどういうものを出してほしいと言えば出せるのか。ちょっと細かい話になって申し訳ないけれども、皆さんに分かるように、どの程度のことを弁護士が言えば、検察官とすれば自分の手持ち証拠を少なくとも開示するんだというふうに説明してくれませんか。分かるように説明してくれませんか。
#105
○政府参考人(山崎潮君) 確かに、弁護人から検察官がどういうものを持っているか、これは全部分からないわけでございます。そういう中で有効にその証拠を出していくというためにはいろいろな仕掛けが必要でございまして、まず今回考えておりますのは、どのような類型の証拠をどの範囲で開示をすること、これを求めるのかということ、これが識別できるだけの、そういうような特定をすればいいということにしているわけでございます。
#106
○角田義一君 具体的には。
#107
○政府参考人(山崎潮君) 具体的には、例えば、従来その問題になるのは、何月何日付け、それからだれだれの検察官に対する供述調書とか、こういうような特定をややもすると求められるわけでございますけれども、今度の考え方はそういうことではなくて、例えば犯行の目撃者の供述調書というような概括的なくくりでございます。その中には複数あるかもしれません。いろんな態様のものがあるかもしれません。これを全部そういう形で特定をしてもらえば結構でございます。
 それから、犯行現場から押収された証拠物というもの、これは検察官は直接その罪証の立証のためにある証拠物を出すといたしましても、それ以外に物証があったとしても、必要がないというので持っているのもあるわけですね。これをこういう形で特定していただければ、その立証に必要なものについてはその証拠物としてお出しをするということになります。
 それから、それ以外では、被害者の死因に関する鑑定書とか、こういうような特定で足り得るということを言っているわけでございますので、こういうことぐらいは言っていただければ必要なものはお出しをすると、こういう形になろうかと思います。
#108
○角田義一君 当然そのときはあれですね、そういう今あなたが説明してくれたような類型で弁護側が証拠開示を迫ると、そのときは当然検察官の方は具体的に証拠の標目じゃないけれども、これとこういうものがあるということで特定をして、出すものは、出せるものは全部出すと、こういうふうに理解してよろしいですか。
#109
○政府参考人(山崎潮君) 例えば犯行の目撃者の供述調書というふうに特定をされて、それで請求をするということになれば、検察官としてはそれに関するもので、それでやっぱり出す必要性の問題、要件もありますけれども、そういうものを勘案して、それの対象になるものはお出しをするということになります。
 仮にその範囲についていろいろ争いがあるということになれば、これは最終的には裁判所の方でその裁定をして、この範囲のものについては出しなさいというようにそれを決定をしていただくと。仮にそれについて不服があるという場合には、不服申立てとして、即時抗告ですか、これをすることもできるというようなことを考えておりまして、ただ当事者に任せるだけではなくて、中立的な裁判所がその判断もする、それから不服があれば上訴もできると。こういうことで全体の安定を図っていきたいと、こういうことを考えているわけでございます。
#110
○角田義一君 それから、公述人のお話ですと、いろいろやっぱり切実な問題がありますね。要するに、あれですね、合議というか、評議というか、裁判になったときの裁判官と裁判員のコミュニケーション、あるいは議論の仕方、これらも相当公述人の方から指摘がありましたな。
 裁判官も国民の目線に合わせることが必要であるというようなことで言われましたけれども、要するに、裁判官が三人、それから裁判員が六人という形で新たな合議体を結成をするわけですが、裁判官三人は職業裁判官ですからプロであります。今の裁判制度を取ると、最高裁の局長さんに聞きたいけれども、部制を取っていますな、部制。そうすると、部制を取っていると、徒弟制度じゃない、裁判官は全部独立はしているんだけれども、あの中で、裁判長がいて、右陪席、左陪席というので、飯を食うのも一緒、お酒を飲みに行くのも一緒、人間関係というのはできているわけだよ、もう三人でちゃんと。いい悪いは別にしてできている。私はそのことを否定しているんじゃないんですよ、いいことだと思っているんだ。
 そうすると、非常に人間関係が濃密になっている三人の裁判官と、片一方は選ばれてくる六人と、話し合ったってこれなかなかうまくいかないよ。この裁判、三人の裁判官にみんなやられちゃうんじゃないかと。やられちゃうというんじゃちょっと語弊があるかな。説得されちゃうんじゃないか。説得されちゃって、こっちはどうも無罪じゃないかなと思っていても、こういう証拠はこういうふうにこれは見るべきだとか何とか言われちまえばもう歯も立たないということになって、肝心の裁判員たちが刺身のつまのようになっちゃうんじゃないかと、こういう心配ですよね、昨日の公述人のあれを聞いていると。
 そうすると、これ裁判官も相当国民の目線に合わせるというか、修行を積んでもらわないと、自分たちだけが今までやってきた、偉いんだというような発想でいたんじゃ、これはとてもじゃないけれども、この裁判員制度、私は回らぬと思うんですね。これは最高裁の刑事局長さん、どんな考えでおるんですか。
#111
○最高裁判所長官代理者(大野市太郎君) 今、問題点、二つあるのかもしれません。一つは、いつも一緒にいる裁判官、部の方に三人でいる裁判官のところに事件を配てんするのがいいのかという問題と、もう一つは、裁判員の方々にどれだけきちっとした意見を言ってもらえるようにしたらいいのかということだろうと思います。
 前者の方につきましては、裁判所におきまして裁判官三人から成る部というのが構成されておりまして、そこに事件が配てんされるという、こういう基本的な構成を取っているわけです。裁判員事件につきましてもこのような事件の配てん方法は変わりはないだろうと思っております。
 ただ、御心配のような、三人一緒にいるからいつも同じことになるんではないかということですけれども、合議をやってきた経験からいいますと、合議になって個々具体的な事件になればそれはそれで別でありまして、それぞれの考え方をぶつけ合うと。それがやはり合議の良さということでありまして、みんなが最初から同じ結論になっていたんでは、ある意味では三人寄っても知恵は出てこないということですから、その中で一つ一つの問題点について、それぞれの見方、あえて違う見方を言ったりしながら合議を尽くすというようなこともあります。そういう合議をやっておりますので、その点について、三人一緒にいるからいつも意見が一緒になるというようなことは決してないわけで、私ども裁判官三人でやっている場合でも、今言いましたように、それぞれが意見が十分言い合えるように工夫してやっているところであります。
 もう一点、裁判員の方々からどれだけ自由闊達に意見を言っていただけるかということですけれども、その前提といたしましては、やはり裁判員の方々が意見を言うということは、自分でやはり一つの判断、迷いながらにしろ一つの意見と判断というものを持たなくてはいけないんだろうと思うんですね。そのためには、この事件の争点がどういうところにあって、そしてどういうところが証拠で問題になっているのかといった辺りをきちっと理解しておる必要があるでしょうし、場合によっては、その前提となる法律解釈をやはりきちっと分かっておいてもらう必要があるんだろうと思います。当事者の方々にはやはり争点をきちっと明らかにしていただいて、争点に即した分かりやすい証拠調べをしていただかなくてはいかぬでしょうし、裁判所からしてもそういったことができるように訴訟運営を図っていく必要があるでしょうし、裁判員の方々には、今申し上げたようなところを懇切丁寧に説明していくということを図っていくだろうと思います。
 その上で、裁判官としてはやはりコミュニケーション能力というのはこれから非常に重要視されてくると思います。そういったことにつきましても、裁判官の研修等を踏まえて、更にそういう能力を磨いていきたいというふうに思っております。
#112
○角田義一君 どうなんでしょうかね。例えば、事実の有無とかですね、そういうものについて最初からあれなんでしょうか、裁判員と裁判官というのは対等、平等の立場なんだから、事実の認定について九人でやるのか、それとも、素人さんだけに先に事実の問題について議論してもらって、玄人の裁判官はじっとそこのところを聞いておるのか、そういう細かいところというかな、そのやり方ですね、事実の認定についての合議のやり方。三人の裁判官で、職業裁判官でやるときと違うと思うんですよ、僕はね。同じようにその九人でやっていいのかどうかという素朴な疑問を僕は持つわけ、イメージすると、この九人がどうやると。その辺についてはどんなふうに考えているんですか。
#113
○最高裁判所長官代理者(大野市太郎君) 個々具体的な事件の中で評議をどうするかというのは、これは千差万別かなと思いますけれども、恐らく私どもが、私がイメージしているところでありますけれども、やはり裁判員の方々から意見を出していただく、疑問点にしろ質問事項にしろ、あるいは自分の意見なりというのを十分出していただいて、それについて裁判官も加わりながら議論を進めていくというやり方になっていくんだろうと思います。裁判官が最初から、意見はこうですよ、この事件はこうですよと言うようなことには決してならないんだろうというふうに思っております。
#114
○角田義一君 実際、これ運用に当たって非常にデリケートな問題があるので、その辺はやっぱり、裁判員が法律についてはやっぱり素人であるということ、そして裁判員制度ができた意味、目的というものをよく考えていただいて、職業裁判官とすれば、ある意味では一歩下がるというか、そういう態度も必要だと思うし、それから適切に評議ができるように、文字どおり適切な、説示というのは余りいい言葉じゃないと思うんだけれども、教示、説示というものをやらなきゃいかぬと思うので、これは今までの職業裁判官がやっておったのと全然異質な一つの裁判だというふうに意識を根本的に変えてもらわないと私はいけないんじゃないかというふうに思うんですけれども、刑事局長、どう思いますか。
#115
○最高裁判所長官代理者(大野市太郎君) 御指摘のとおりの面があろうかと思います。今までは、当事者もプロですし、裁判所の中でもプロといいますか、それを職業としている者ですから、それが分かっているということがある意味では前提として議論を進めてきたところがあろうかと思います、もちろん審理も含めてですけれども。そこをやはり国民の視点といいますか、要するに、全く法律的に素養のないというか、教育を受けていない人たちに分かってもらって、そして自分たちの意見としてまとめていけるような、そういったことについてやはり十分な配慮を払っていかなければいけないだろう。これは裁判官はもとより法律家、法律三者にこれはもう課せられた重要な課題であるというふうに思っております。
#116
○角田義一君 是非その辺はよく研究していただきたいというふうに思います。
 それから、前回ちょっと聞き落とした点が若干ありますのでお尋ねしますけれども、連日的開廷とかいうふうに言われていますね。必ずしも連日的開廷というのは毎日やるということではないと思うんだけれども、原則的にはあれなんですか、毎日ぶっ続けで三日、四日やるというふうにイメージとしては理解しておいていいのか。それとも、公判廷の調書というか、速記録とかいうものができるのをにらみながら、一日ぐらいずつ間を置いてやるのか。その辺、ちょっと技術的な質問で申し訳ないんだけれども、どういうイメージでいくのか、連日的開廷というのは、文字どおり連日やっていくのか。
 その場合に、毎日毎日の公判調書なり速記録というふうなものはどういうふうに整備されるのか。さらには、それらは裁判員というのはもう一遍、どこでそれを目を通すことができるのかというようなことについて、局長から説明していただきたい。
#117
○最高裁判所長官代理者(大野市太郎君) 連日的開廷という言葉を使っておりますけれども、事件によって恐らくその密度というのは違ってくるんだろうと思います。これはいわゆる公判前の整理手続の中で大体どの程度の証人等が必要になるかといったようなこと、あるいは被告人質問でどの程度掛かるかといったようなことのおおよその概要が分かってくると思いますので、それを踏まえた上で期日を指定していくという形になります。
 そこで大体決まることになりましょうけれども、やはり数日程度で終わる事件であれば場合によっては連日やってもいいかもしれませんしということもあるでしょうし、それから相当回数掛かるという場合には本当に連日ではとてもできないこともあるでしょう。その辺りを踏まえながら、どの程度の間隔を置いていくかということについては、事案の性質やら当事者の都合等を確認しながら期日の指定が行われていくんだろうと思います。
 ですから、どの程度の間隔になるかということについてははっきりしたことは申し上げられませんが、今のように週一回でもかなり速いペースだと言われていますけれども、それよりはもう少し詰まった形になってくる、ある程度時間が掛かる事件でももっと多くの期日指定がされることになるんだろうなというふうに思っております。
 その際における調書等の在り方のこともありますけれども、今申し上げましたように、連日的開廷ということで裁判員の方々が入ってきていただくということになりますと、先ほど申し上げたように、ある程度争点も絞って、争点に即した証拠調べということになりますと、主尋問を終えた後に反対尋問を行っていく、原則として行っていくということになるだろうと思います。そうでないと裁判員の人たちは、主尋問と反対尋問、間が空いてしまいますとなかなか反対尋問の持つ意味というのは薄れてくる可能性もありますし、それが効果的かというところも考えていかなくちゃいかぬだろうと思います。裁判員の負担や理解ということを考えますと、やはり即日反対尋問と、こういうことになってくるだろうと思います。
 そうしますと、今、供述調書等、裁判所でやっている調書の録取事務について、反対尋問のために必要だということでその間隔を置くというようなことが考えられていたこともあるわけですけれども、そういった事態は大分そのウエートは下がってくるんではないかと思います。ただ、裁判員の方々が、あのときに供述をどういうふうに言ったのか確認したいというようなことはもちろんあるでしょう、あるだろうと思います。それについては、裁判官のメモを利用するなり、場合によっては録音テープ等を利用して確認するというようなことはこれから考えていくということになろうかと思います。
#118
○角田義一君 大体イメージがだんだん分かってきましたが、あれなんですか、非常に実務的なことで申し訳ないんですけれども、今の速記能力、速記官の速記能力というか、そういうものはどうなんですか。裁判の記録を幾日ぐらいあればできる、その日のうちにいろいろ工夫すればできちゃうんですか。
#119
○最高裁判所長官代理者(大野市太郎君) 端的にどうこうということは私どもちょっと承知しておりません。それはどの程度の時間、速記の時間を受け持つかということによっても違ってくるわけですので、一般的に非常に時間が短ければその日のうちにすることも可能であろうかと思いますが、ある程度長ければそこはなかなか難しいということになろうかと思います。
 ただ、今後、今裁判所の方では音声入力システムについて検討を進めているところ、音声入力システムですね、進めているところでもありまして、こういった技術の進歩との関係で、今後どういった裁判所の調書を作っていく、あるべき姿は何かということをちょっとこれから考えていく、検討していくということになっております。
#120
○角田義一君 それで、今、有罪、無罪ですね、事実の有無は当然対象になるわけだけれども、量刑についてもなるわけですね。裁判員と裁判官で量刑について決めていくわけでしょう。これ、量刑というのは、ある意味では非常に難しい要素が一杯あって、これ決めるのは私、大変容易じゃないと思うんですが。裁判員が陪審と違って事実の有無だけでなくて量刑まで踏み込んでいくというかな、そういう制度にした趣旨というのをまず山崎さんの方から答弁していただいて、そして最高裁の刑事局長からは、量刑についてどういうところがやっぱり裁判員として問題になってくるのか、そこを説明していただきたいんですね。
#121
○政府参考人(山崎潮君) 今回の制度の検討に当たりまして、まず、国民に最も関心の高いこういう事件について裁判員制度を導入していこうと、こういうことで考えをスタートさせたわけでございますけれども、その場合に、やはり国民が参加をして自分も裁判に参画したんだというためには、そこの事件の有罪、無罪、これは当然でございますけれども、有罪、無罪だけではなくて、仮に有罪とした場合に、それがどのぐらいの刑をもって処するのが国民的な感情から見ていいのか、ここまでやっぱり判断をしていただきたいと。その上で、やはり自分が裁判にきちっと参加をして司法に対する理解をきちっとしていくというためには、やっぱりそこの両方が必要だと、こういうことからこれを導入していったということでございます。
 これにつきましてもいろいろ議論ございましたけれども、これは委員の方に御説明を申し上げるまでもなく、裁判の現場では検察官の求刑がございます。それから、弁護士の弁論もございます。こういう点で一応の、何といいますか、目標というんですか、考え方の目標というのは提示されるわけでございます。それ以外にも判例の動向等いろんな問題がございますけれども、こういう点も加味しながら、国民の方々のその考え方も導入してやるということで十分やれることではないかというふうに我々も判断をいたしましてこの制度を導入したと、こういうことでございます。
#122
○最高裁判所長官代理者(大野市太郎君) 量刑の問題ですけれども、これも事実認定と並んで裁判員制度が入ってきたときになかなか困難な問題といいますか、いろいろな問題が出てくるんだろうと思います。
 量刑といいますのは、事実認定の方はある程度証拠をきちっと検討をしていくということでそんなに大きな違いが出てくるというふうには、ことには余りならないのかなという、これは淡い期待かもしれませんけれども、期待をしておりますけれども、量刑の方につきましては、これはかなりばらつきがあるというか、そのそれぞれの感覚によって相当違います。
 これは、私、司法研修所で教官をやっておりましたけれども、いわゆる司法試験を受かって研修所に入ってきますけれども、いわゆる前期という最初の数か月間いる間の、具体的な素材を与えて起案をしてもらいますと、窃盗の事件でも懲役五年、六年という刑から、一方は懲役一年で執行猶予三年というようなところまで開きがあるというようなことで、それが実際の実務へ行く中でいろいろな先例なり、それから量刑というのはこういう因子といいますか、こういうところを考えて今までの量刑は考えていたんですよという説明を受けたりする中で、まあ、ある程度の幅の中に収まってくるんだろうと思います。
 ただ、今度、量刑につきましても裁判員の方々に入っていただくというところにつきましては、量刑についての国民の健全な感覚というものもできる限り反映すべきであろうということであろうかと思いますので、そういった意見も尊重しながら、かつ余りに大きなばらつきがありますと、これは裁判に対する信頼そのものにも影響してくることになろうかと思います。
 したがいまして、その辺りをどうやって調和していくかということは、これから我々課された課題であろうと思っていますが、やはり先ほど申し上げたような一つの例として、先例がこんなところを考えながらこの程度の量刑をしているんですよということは適切な形で説明していくことも一つの方法であろうかと。それから、山崎事務局長から話がありましたように、検察官、弁護人からそれぞれ意見も出されると、こういうことですので、それも一つの参考にしながら検討していくんだろうというふうに考えておりますけれども。
#123
○角田義一君 今局長がおっしゃるとおり、これは裁判員のやっぱり生い立ちというか、それまで生きてきた自分の経験とかキャリアとか物の考え方、ちょっと言葉は硬いけれども哲学だとか、いろいろなものがあると思うんですね、特に六人の人は。ある意味では社会の縮図みたいな形で出てくるわけですから。そして、一方では例えばマスコミがあるわけで、そうすると、マスコミに出てくるような重大犯罪になると、どっちかというと、何というか、極刑に処すというか、あるいは重い罪でいけというような、そういう風潮も全くなくはないと。それを冷静に、そういうのに余り左右されないでクールに対応するというのは非常に私は難しいような気が、難しいように思うんだけれども、しかし裁判員制度になればそれを乗り越えてもらわなきゃなりませんわね、裁判員の皆さんにも。
 そうすると、その合議の中での裁判官の、今までの歴史的ないろいろな量刑のいろいろの因子なり判例なりというようなものを説明するのも、よほど考えて考えて説明しないとこれはいけないわけで、この辺も非常に工夫が要るところであるし、難しいところだというふうに私のつたない経験でも思うわけですが、その辺はどうですか。
#124
○最高裁判所長官代理者(大野市太郎君) 今おっしゃられたようなところが間違いなくあるわけでして、私どもとしましても、そういったところでどういう量刑をしたらいいか、あるいは合議をしていったらいいかということについて、国民の人の意見なり感覚なりというのをやっぱりどこかで吸収する必要があるだろうというふうに考えておりまして、実を申し上げますと、司法研究という形で、国民のアンケート等も取った上で量刑の問題について検討するという研究を現にもうお願いして、これは裁判官だけでなくて学者の先生にも入っていただきまして今作業を進めているところです。
 そういった結果をも踏まえて、今後、量刑についてどのような考え方、どのような資料といったものを考えていくべきなのかということを今検討しているところでございます。
#125
○角田義一君 それともう一つ、裁判の評議というか、あるいは裁判自体、公判廷における裁判員の発言についてちょっと気になるので私申し上げたいんだけれども、裁判員の方も証人に対して質問する権利というのはあるんですね。ちょっと、それは明文でありますか。
#126
○政府参考人(山崎潮君) 御指摘のとおり、裁判員の方も証人、被告人に尋問するということも可能でございます。
#127
○角田義一君 私のつたない実務でいうと、検察官の質問に対しては、それは誘導であるとか誤導であるとかいって弁護人がまず止めると、異議を述べて止めることができるわけですね。そして、裁判長の適切な指導に従って尋問が進んでいくということなんだけれども、こんなことを言うと刑事局長に申し訳ないけれども、裁判官の中には、職権で誘導尋問もへったくれもねえ、それは黙秘権があるから被告人は黙っていればいいというようなものだけれども、どんどんどんどん聞いては困るようなことを平気でやる裁判官もいるんですよ。そうすると、弁護人としてははらはらするし、そうかといってこれは一々裁判長にいちゃもん付けるわけにもいかないし、本当に弱ったものだなという気持ちでおったことも随分私はつたない実務経験でもあるんです。
 今度は裁判員の人も質問できるから、その人たちに対して、例えば何聞いてもいいというわけにもいかないと思うんです。やっぱり誘導尋問のような、あるいは誤導尋問のようなことをどんどんやられてもこれは困るし、そうすると、これ、権利があるんだけれども、裁判長の許可というか訴訟指揮には従って質問するんだと思うんだけれども、事前にこういうことを聞いていいんでしょうかということを耳打ちしながらやるんですか。それとも、そんなことは構わずストレートにすとんと本人から質問できるんですか。実際はどうなの、イメージちょっと分からないんだけれどもね。
#128
○政府参考人(山崎潮君) この法文の中では、裁判長に告げて尋問をすることができる。ただ、いきなりやるというのでなくて、質問をさせてくださいっていう、そういうことをちょっと言うわけですね。特段のことない限りは、特段のことなければ、普通はそのまま許されるということでございます。これも訴訟の指揮というんですかね、その法廷の指揮全体は裁判長が負っているわけでございますから、そこへ告げてやるということは仁義だということでございます。
 仮に裁判員の方がそういうものにも従わずに勝手にいろいろ質問をしてしまうと、それから、あるいは非常に問題のある質問をするというような場合には、これは裁判長の訴訟指揮権が全体に及んでおりますので、裁判長はそこでその指揮権で止めるなら止めさせる、是正をさせると、こういう構造になっておりますので、そういうような不測な事態は通常は考えられないだろうと。それでも制止しても聞かないといった場合には、本当に裁判員としての適格としていいのかどうかという問題までに発展するおそれがあると、場合によっては解任ということもあり得るということになろうかと思います。
#129
○角田義一君 ちょっと刑事局長、どうですか、何か付け加える点ありますか、最高裁。
#130
○最高裁判所長官代理者(大野市太郎君) 今、あれですけれども、山崎局長からありましたように、裁判員が発言する際には裁判長に告げてということですから、裁判長は一応どうぞという、原則そうなるんだと思いますが、その前にやはり、裁判員になったときに、当然証人尋問あるいは被告人質問というのがあるわけですから、やはり尋問のときにはこういうところは注意してくださいと。やっぱり誘導尋問、要するに、法令でこういう尋問はいけませんよと、誘導尋問ですとか誤導尋問ですとか侮辱するようなあれですとか、いろいろ書いてございますね。そういうことは尋問としては適切ではありませんから、そこは聞くときには十分注意して聞いてくださいということを説明しておくんだろうと思います。
 現実にそれでもそういった尋問が行われた場合には、裁判長が引き取って、趣旨を踏まえて引き取って聞くというようなこともあるでしょうし、その質問はちょっと注意してくださいと、私の方でじゃ聞きましょうかというような形を取っていくんだろうと思います。極端な場合は、今申し上げたような、山崎局長からありましたように、訴訟指揮権に基づいて制止するというようなこともあろうかと思いますけれども、その辺りは臨機応変な対応がこれから求められていくことになるんだというふうに思っております。
#131
○角田義一君 時間が来ましたので、ちょっとあと二つばかりお尋ねします。
 先ほど、午前中に同僚の千葉議員から弁護人の選任、解任の問題について御質問がございました。
 この法文を見ますと、弁護人がその任務に著しく反したことによってその職務を継続させることが相当でないということになると、弁護人を首にすることができるんですね。私はこれ見て、これはえらいことだなと思うんですな。
 基本的には、弁護士というのは裁判官と対立するところもあるんですよ、協力するところもあるんだけれども。被告人のためにはそれは裁判官とけんかすることも必要なんでね。そういう、ちょっと言葉はきついけれども、戦う弁護士とかっていうのは余り裁判官に好ましくないからといって首切られりゃ、私なんか、もう七十になって国へ帰って弁護士になりゃ、一発で首になるわな。好ましからざる弁護士というんでやられそうなんでね。
 この解任を法文の中に入れて、しかも首切ったって別に理由は告げなくてもいいんだから、これはえらいことですな、運用によっちゃ。少なくとも、あれじゃないですか、首切ったときには、何のためにあなた首切ったということを、先ほど運用でやるんだということを言うけれども、刑事訴訟規則ぐらいではっきり文章で、あなたここが悪いから首切るんだということを言ってもらわにゃ、これは弁護人だって名誉の問題ありますよ。どうなんですかな。これだけ最後ちょっと聞いておきたい。私は気になってしようがないんだ。夜も寝られなくなっちゃうよ、これ。
#132
○政府参考人(山崎潮君) 確かに、弁護人の役割、ただいま委員が御指摘されましたようなその役割というものもあろうかと思いますけれども、ここで申し上げておりますのは、例えば国選弁護人が訴訟指揮権の行使に従わないというような場合、これまでも、事案によっては解任すべき正当な理由があるとして解任をすることができるというふうに今までの運用でもされていたものでございます。
 それで、このような事案に関しまして、改正法案におきましては……
#133
○角田義一君 よく聞こえない。
#134
○政府参考人(山崎潮君) 済みません。
 そういうような事案に関して、この改正法案におきましては、その解任を正当とする事由を明確にするという観点から、弁護人の任務違反の程度が著しいこと、それから弁護人の職務を継続させることが相当でないということを要するという、こういう厳格な要件にしているわけでございます。そして、その解任権の行使が適正になされるようにということから、「弁護人を解任するには、あらかじめ、その意見を聴かなければならない。」ということにしているわけでございます。
 したがいまして、被告人あるいは被疑者の権利を不当に制限することのないようにしなければならないということもその法文の中に規定をしておりまして、そういうことで、そういうその今の解任権の行き過ぎということがないようにという手配をしているわけでございます。
 また、理由につきましても、書かなくても分かるような理由もこの中にはあるかと思いますけれども、やはり、どこのどういう理由に当たるかというのは、現実に今までの実務の中でも、必要なものにはその理由はちゃんと付されてきているという慣行がございまして、今後も、ここの何号かによって違いますけれども、そういうような非常にやっぱり訴訟関係人の説得という観点から、記載すべきものは記載を付していると、理由をですね、こういうような運用がなされていくものというふうに理解をしているわけでございます。
#135
○角田義一君 時間だから最後の質問しますけれども、少なくともね、首切るんですよ、人のね。弁護士、首切るというのはえらいことですよ。
 だから、当然それは弁護士本人の、弁護人本人の意見を聞くのは私は当然だと思うけれども、首切った理由はやっぱりはっきりさせにゃいかぬですよ。それは刑事訴訟規則か何かではっきりさせたらどうですか、今まで運用があるんなら。規則の中にきちっと入れて、理由を告げなければならないと。裁判官は解任をしたときにはその理由を告げなければならないというようなことを刑事訴訟規則で、私はむしろ法律で書いた方がいいと思うぐらいだけれども、なかなかちょっと修正も難しいということになれば、刑事訴訟規則できちっとやってください。
#136
○最高裁判所長官代理者(大野市太郎君) 法律でその理由について全く触れられていないというか書かれていないのは、不服申立ての方法がないものについては法律上理由を付す必要がないといいますか、そういった法律の整合性みたいなものが前提になっているんだと思います。
 したがいまして、それを規則で書くということについては、やはり同じように法律の整合性という観点からは、法が規定しなかったと同じような扱いになるんだろうというふうに私どもとしては理解しておりますが。
#137
○角田義一君 あなた、相当優秀な局長だけど、頭固いね、言っちゃ悪いけれども。
 やられる立場になってみたら、別にいいんですよ、不服申立てできなくたって。何でおれ、首切られたんだということの理由だけはっきりさせてもらいたいんでね。それが世の中なんですよ。
 法律なんて世の中のためにあるんだからね、余り、その整合性も大事なんだけれども、特別な法律これ作るわけですよ、初めてこれ入れるわけだから。もうちょっと頭柔らかくして考えて直してくれませんか、それが最後の質問。
#138
○最高裁判所長官代理者(大野市太郎君) お答えとしては、今お答えしたのと同じ答えにならざるを得ないというふうに思っております。
#139
○角田義一君 じゃ、今日はこれだけにして。
 終わります。
#140
○木庭健太郎君 公聴会を終えて、また質疑に戻っているわけでございますが、私も大阪参加させていただいて、公述の方々がそろって本法案の成立を望まれるという御意見を言っていただいたことに、あっ、それなりに少しは国民への理解というのも広がりつつあるのかなというようなことも感じながら公聴会を参加させていただきましたし、是非十分な議論をした上でこの法案、そろそろ成立の時期に来ているなというようなことも感じながら来たということをまず報告をし、本法案で幾つかいろんな議論を、もういろんな議論なされていますが、ひとつ今日お聞きしておきたい第一点は報道機関の問題でございます。
 今回は、この法律、本法案は報道機関に対する配慮義務等、いわゆるメディアに対する法的規制は行わないとしたことということなんですけれども、メディア側には、やっぱり法律そのものを読むといろんな懸念を持っているような点もあるようでございます。その観点から見ると、まず裁判員や裁判員であった人に対する接触の規制に関する規定というのが本法案の中にありますが、それが問題だというようないろんな指摘もなされているようでございます。
 そこで、まず、これ基本の基本ですので法務大臣に、この法案が第七十三条第一項、第二項、規定をしておりますが、この趣旨を含めて、そういった懸念に対するお考えを聞いておきたいと思います。
#141
○国務大臣(野沢太三君) 裁判員等に対する接触規制を規定しました法案の第七十三条につきましては、裁判の公正及びこれに対する信頼を確保するとともに、裁判員の生活の平穏を保護して、その負担を軽減することをその趣旨としておるわけであります。
 法案における禁止の主体につきましては、何人ということでありまして、特別に報道機関を対象としたものではございませんし、裁判の終了後は裁判員等が職務上知り得た秘密を知る目的での接触に限定して規制していることなどからしましても、これが報道規制に当たるとは考えておりません。
 なお、法案では、報道の自由や国民の知る権利に配慮するという観点や、報道機関において自主的な取組の努力がなされていることを十分考慮しまして、事件の報道に関する規定は特別に設けないこととしておるところでございます。
    ─────────────
#142
○委員長(山本保君) この際、委員の異動について御報告いたします。
 本日、樋口俊一君が委員を辞任され、その補欠として岩本司君が選任されました。
    ─────────────
#143
○木庭健太郎君 じゃ、具体的にどういうものなのかとお聞きしたいんですけれども、例えば法案の第七十三条一項は、被告事件に関し接触してはならないと、こう規定しているわけですね。そうすると、この被告事件に関する接触というのは具体的にはどのようなものが考えられるか、具体例で少し示してください。
#144
○政府参考人(山崎潮君) この中で、典型的には、その評議の内容、あるいはその裁判員の心証ですね、これを聞き出すために接触をするという対応が一つございます。それから、裁判員の職務に関して請託をする、こういうことをお願いしたいというような、そういうような接触。それから、事件に関する意見を述べたり情報を提供するための接触、実はこういう裏があって、それでこういう状況になっているんだということを教えるとか、こうすべきだと、こういうようなものを全部含むということでございます。
#145
○木庭健太郎君 そうすると、今度は、裁判員の職にあった者について、今度は第七十三条の二項によると、裁判員などが職務上知り得た秘密を知る目的での接触のみが禁止されているということになるわけですよね。事件に関する接触であって禁止されない接触というのが、どんなものが実際あり得るのか。これについても具体的に提示をしていただきたいと思うんです。
#146
○政府参考人(山崎潮君) 基本的な考え方は、裁判員の方がその職務に就いている間につきましてはその接触を一律に禁止をしないと、もう近づいたことによって場合によっては疑われる、内容について疑われるおそれもあります。ですから、そこは一律に禁止をするということでございますけれども、その任務が終わった後についてはまた若干違う様相も、面もあるということからこういう規定を置いているわけでございます。
 ここでは、職務上知り得た秘密を知る目的での接触を禁止するということでございますので、それに当たらない、職務上の秘密に当たらない、例えば裁判員として職務に従事した感想を聞くと、こういう場合ですね。それから、その裁判員としての経験を踏まえまして、司法制度に対してどのような改善点があるかとか、そういう意見を聞くとか、そういう点について聞くために接触をするということについては禁じられていないと、こういうことでございます。
#147
○木庭健太郎君 それで、今度は、もう一点今度聞きたいのは、メディアとの関係ということで、大臣、明確にこれは別に報道規制その他という問題とは違って、ある意味じゃ裁判の公正を担保するためのいろんな問題なんだという御趣旨だろうと思うんですけれども、ただ、このメディアとの関係がなり得る問題としては第、今度は七十二条ですね。七十二条を見ていただくと、氏名など裁判員を特定するに足りる情報を公にしてはならないという規定が考えられる。この規定、どういう意味で置かれたのか、御説明をいただきたいと思うんです。
#148
○政府参考人(山崎潮君) この法案の七十二条でございますけれども、裁判員の氏名、住所等、その他の個人を特定するに足りる情報、これを公にしてはならないとしているわけでございますけれども、これによって裁判の公正さを担保するという、確保するということにするとともに、裁判員のプライバシー等を保護しようと、こういうものでございます。
 裁判員の氏名、住所等の個人を特定するに足りる情報が公になりますと、当該裁判員に対するいわゆる請託、威迫、その他事件に関連した接触が行われやすくなるということになるわけでございます。そうなりますと、その結果として裁判員が公正な判断を行うことが妨げられるおそれがあるということにもなります。あるいは、その原因となる情報を公にする、そういうような理由がありますので、その原因となる情報を公にする行為を禁止することが相当であると考えたわけでございます。
 また、裁判員は裁判に関与することを職業とする裁判官とは異なるわけでございます。いわゆる無作為に選ばれた一般の国民でございます。自ら希望をしていない場合でも法律上の義務としてこれを行うということになるわけでございます。したがいまして、その裁判員のプライバシー、あるいは生活の平穏、極力これを保護するということが重要であるということからも、この個人を特定するに足りる情報を公にすること、これは適当でないと、こういうふうに考えたわけでございます。
#149
○木庭健太郎君 そうなると、今度は七十三条の方では、裁判員であった者、本人が公にすることを同意をした場合を除外しているということになる、七十三条ではですね。これは七十二条と七十三条と違いが出てきているわけですけれども、その辺の趣旨をお伺いするとともに、逆にそのことを伺うことは現職の裁判員については本人の同意があってももちろん公にしてはならないということになっているわけで、その理由も重ねてお尋ねをしておきたいと思うんです。
#150
○政府参考人(山崎潮君) ただいまの法案、多分七十二条の二項だろうと思いますけれども……
#151
○木庭健太郎君 七十二条です。済みません。
#152
○政府参考人(山崎潮君) はい。裁判員がその職をのいた後に、第一審の判決、宣告後でございますけれども、その後においては審理が行われている間に比較して、裁判員の氏名等の情報を公にしないこととした趣旨のうち、裁判員等であった者に対する接触が行われることによって裁判の公正が妨げられる、こういうおそれは少なくなるというふうに認められるわけでございます。
 他方、裁判員等であった者のプライバシー等を保護する必要性については変わりはございませんけれども、これは本人がこれを公にすることについて同意した場合にまでその禁止の趣旨を貫く必要はないだろうということからこういうような考え方を導入したということでございます。
 裁判員であった者については、その本人がしたがいまして公にすることに同意した場合についてはこれを禁止しないということにいたしました。
 また、現に裁判員が職務を行っている段階においては、裁判の公正さを確保すべき要請から、裁判員等の氏名を公にしないことが強く要請されているわけでございますので、仮に裁判員本人がこれを公にすることを同意したといたしましても、これを公にすることは相当でないというふうに考えられるわけでございまして、そこにやっぱり違いがあるということからこのような規定を設けたということでございます。
#153
○木庭健太郎君 そして、名前の問題もそうなんですけれども、その次になると、裁判員になった方の守秘義務の問題が一つの大きなテーマになるんですけれども、実は私も昨日の公聴会行ってみて、この守秘義務の問題については結構御意見が出まして、しかもどっちかというと、どちらかというと、この守秘義務の問題については、これを規定すること自体が厳しいんじゃないかというような御意見もあってみたり、例えば検察審査会を経験された方が、自分の経験では検察審査会の委員についてこれまで守秘義務が問題になったことはないんだと。ある意味では、これきちんとやり出せば、正義感を持ち続けていけば裁判員としての守秘義務がなくても支障はないんじゃないかと。そういう意味では、この規定を設けること自体がどうなんだろうかというような御意見を述べられたり、またもうお一人の方は、やはり裁判への、特にこれは守秘義務もそうなんですけれども、違反に対して罰則を設けていることに対して、やはり裁判への市民の参加意欲を失わせるものだというような御意見があって、だから守秘義務というのは、ある意味では市民の良識にゆだねるということの方が今回は大事だったんじゃないだろうかというのが、これは大阪の公聴会で聞いたときの意見でございまして、仙台の方でも同じように、そういう守秘義務の問題がお一人から取り上げられて、やはりこの規定そのものの在り方、どうなんだろうかという指摘もあったわけでございまして、その意味では、なぜこの法案に守秘義務を課すというような趣旨が、ある意味ではどこまで理解されているのかなという気もしたわけでございます。
 事務局長、一生懸命おっしゃっているように、この守秘義務を課す理由というのは、何ですか、裁判の公正さやこれに対する信頼を確保する、更に評議における自由な意見表明を保障することであるというようなことであるようでございますが、例えば、じゃ、評議の秘密について守秘義務を課さないとなぜ裁判の公正さやこれに対する信頼が確保できないのか、なぜ守秘義務を課さないと自由な意見表明を保障することができないのかという点について、もう何回か御答弁をされている面もありますが、この際、そういう公述人からいろんな意見があっておりましたので、議事録に残りますので、国民に分かりやすく、なぜ今回守秘義務という問題、その守秘義務と裁判の公正さ、自由な意見表明の保障、そういったものについての関連性についてきちんと説明をしていただいておきたいと思うんです。
#154
○政府参考人(山崎潮君) この評議の秘密でございますけれども、評議の秘密が後で外に出る、あるいはまだ仕事をやっているうちに出るということになりますと、これはどういう議論がされているかということが外に明るみに出るわけでございますので、そうなりますと、あそこでああ言ったこう言った、あるいはこちらの意見に賛成した、あるいはこちらの意見に反対したと、こういうことなどがすべて出るわけでございます。
 そうなりますと、仕事は、やっている最中でもいろいろ圧力が掛かる可能性がございます。それから、終わった後でも、何であんなことを言ったんだと、いろんな批判も巻き起こる可能性もございます。そうなりますと、結局、裁判員の方は、後でそんなことを言われるならば、仕事をやっているとき、評議をやっているときにもう黙っていた方がいいじゃないかというような選択をされるおそれもございます。そうなりますと、自由濶達に意見を言っていただいて、その上で結論を出していくという評議の、何といいますか、公正さ、自由さ、これが失われかねないという点があるわけでございます。
 これについてやっぱり大きな問題点でございまして、この点を自由にするということになると、仮にある裁判員の方がそういうことを話したといってその人が不利益を受けるならばそれはまだいいのかもしれませんけれども、いいとは言えませんけれども、それはまあ本人が甘受しろということになっても、他の裁判員に迷惑掛けることも当然あるわけでございまして、これはやはり制度として一律にやっぱりきちっとしたものを設ける必要があるだろうということでございます。
 それからもう一点、評議の秘密以外に、職務上知り得た秘密という中には、証拠物の中にはいろいろ事件関係者のプライバシーが含まれていることもございます。これに関しまして、裁判、任務が終わった後にこれをすべて暴露するということになればその人のプライバシーは一体どうなるのかということにもなるわけでございまして、これはもう、ひいては裁判に対する信頼、それからあるいは捜査に協力をするとか、こういうことをもう控えるということにもなりかねないわけでございまして、やはりこれは、そういうことはあってはならないわけでございます。
 確かに検察審査会制度でも守秘義務はありまして、罰則も罰金、現在は罰金でございますけれども、それがあるということでございますが、それが現実に例に、問題になったことはないと、そのとおりだろうと思います。御指摘のとおりだと思いますけれども、だからといって、そういうことだから何も要らないか、要するに最低限の担保が要らないかということになりますと、そうはいかない。そういう担保があるからこそ何も起こらないというふうに逆に考えられることもできるわけでございまして、これは制度としてどうしてもやっぱり置いておかざるを得ないものであるということでございます。
 ただ、これに関しましては、いろいろな立法趣旨等を勘案して、ある程度きちっとした柔軟な対応をしていくということが必要になろうかと思いますけれども、ただやはり制度としてはこれがなくてはまずい、いわゆる制度のかなめであるということで御理解をいただきたいというふうに思います。
#155
○木庭健太郎君 それを理解したとして、検察審査会もこの守秘義務に関して今おっしゃったように罰金というものは確かにある。でも、今回新たに作るときに、新たな制度を始めるときに、守秘義務というものはきちんと守らなくちゃいけませんよという精神的規定は置いたとしても、なぜ罰金まで付けてしまうんだ、かえってそれでいろんな意味で萎縮になりはしないかという御意見もあるわけです。
 罰金まで付けたということについて、これはこういう意味で罰金をやっぱり一つの担保として付ける必要があったのか、その辺の説明も、守秘義務、そして守秘義務に対して罰金の仕組みが、きちんとそれを作ったということについても御説明をいただいておきたいと思います。
#156
○政府参考人(山崎潮君) これは、守秘義務を義務として課して、それであと何にもないということであると、それは本当に担保になるかという問題もあるわけでございまして、やはり義務だと。義務に関してはそれを怠った場合のペナルティーということですね、これはやっぱり用意をせざるを得ないということになります。
 その場合に、この規定の中で懲役刑と罰金というふうに両方あるわけでございますけれども、その程度によってでございますけれども、やはり場合によっては人のプライバシーを暴いてしまうということもございますし、それから裁判の信頼性を失わせるということにもなるわけでございますので、これはいろいろ大きな迷惑が掛かる話でございます。
 いわゆる出頭を命じて、それに対して出頭しなかった場合に、秩序罰として過料という問題がありますけれども、そういう秩序罰というような程度にとどまらず、もう少し大きないろんな害を与えるおそれがあるわけでございます。したがいまして罰金も置かしていただいておりますけれども、それから、中身によっては、程度によっては相当に重たいものもあり得るわけでございますね。これを暴露することによって何億円の収入を得るという場合もあり得ます。悪質なのもあり得ます。したがいまして、懲役も選択としては置いておかざるを得ないと、こういうことで罰則を設けさせていただいたということでございます。
#157
○木庭健太郎君 先ほども少しおっしゃっておりましたけれども、被告のプライバシーの問題等でおっしゃっておりましたが、これは接触規制のところでもお尋ねいたしましたが、職業上知り得た秘密というのは、もう一度ここで確認しておきたいんですけれども、職業上知り得た秘密、具体的にはどういった、裁判員が加わった裁判の中で職業上知り得た秘密というのは具体的にどのようなものを指すのか、御例示を願いたいと思います。
#158
○政府参考人(山崎潮君) 先ほども一つ例を申し上げまして、ちょっと繰り返しますけれども、例えば証拠物として取り調べた日記に記載された内容でありまして、公判廷で朗読された部分以外のページに作成者のプライバシーにかかわる事項が記載されているような場合、こういうことが典型的に考えられます。
 この証拠物一体でございますから、証拠として出されます。ただ、その中で本当に犯罪の証明に必要な部分はある部分といたしましても、ほかも見ることができるということになるわけでございます。そこからそこにある秘密が全部出てしまうということが考えられます。
 それから、個人のプライバシー以外でも、例えば企業の営業秘密、こういうものが記載されているという場合にこれが表に出てしまう、あるいは個人じゃなくていろんな団体ですね、こういうようなところのいろんなノウハウ、秘密、こういうことが出る可能性もあるということでございまして、これは大きなやはり権利の侵害になるおそれがあるということでございます。
#159
○木庭健太郎君 御説明をいただいた限りは、結局、評議の秘密につき守秘義務を課す目的は、究極においては裁判の公正の確保、つまり被告人が公正な裁判を受けることを保障することにあるというふうに理解すべきなんだろうと思いますし、その解釈でいいのかどうかをお尋ねするとともに、もちろん裁判員となる国民の負担を軽減するということも非常に大切だとは思っておりますが、そのために裁判の公正さを犠牲にすることは本末転倒だろうと、こう判断すべきなんだろうと法案の趣旨を思いますが、この点について改めて局長から答弁をいただいておきたいと思います。
#160
○政府参考人(山崎潮君) 確かに御指摘のとおり、評議の秘密について守秘義務を課す趣旨は、裁判の公正さ、あるいはこれに対する信頼を確保するということと、評議における自由な意見表明を保障することにあるということで、御指摘のとおりでございます。
 それから、もう一点の御質問でございますけれども、確かにこの裁判員制度においても裁判が法に従って公平に行われなければならないということは言うまでもございません。裁判員制度の導入に当たりましては、裁判員となる国民の負担を過重なものとしないようにすること、これが必要でございますけれども、御指摘のとおり、この制度の導入によって裁判の公正が損なわれることがあってはならないということになるわけでございます。
 したがいまして、この法案においては、裁判が公正に行われることを確保するために、例えば事件関係者等を裁判員から除外する制度とか、あるいは理由を示す不選任請求、あるいは理由を示さないで行う不選任請求のそういうような制度を設けることなどいたしまして、冷静に判断することが期待できない者は裁判員となることができないというような手当ても加えております。
 あるいは、裁判官と裁判員とが十分に評議を行うことで双方の有する知識経験、これを共有して、その過程を通じて適正な結論を出していく。あるいは、法令の解釈については裁判官のみがその判断の権限を有しまして、裁判員はその判断に従うということにされている。それから、あるいは両方の意見が出て、その中で双方の意見を含む合議体の過半数の意見によって行うというような手当てを加えているわけでございます。
 裁判員の秘密についても、守秘義務についてもこれらと同様に裁判の公正を確保するための必要な手当てというふうに御理解を賜りたいというふうに思います。
#161
○木庭健太郎君 質問通告はしてないんですけれども、局長、こういう仕組みの中でやっていかなければいけない、守秘義務も非常にこれはこの制度を構築していくのに大事な問題だと、こう認識はしているんです。ただ、やはりこの裁判員制度が国民に理解されるようになるためには、一体裁判員を入れた裁判というのがどうなっているのか、それを知らせることが国民にとってみれば、ああ、こんな裁判があってこうなんだということが分かるようになることが一つは大事な面もあるんですよね。
 そうすると、先ほどおっしゃっていましたが、裁判員としての感想、経験を踏まえて司法制度についてどう思うかというようなことは言えるんだとは言いながらも、守秘義務が掛けられ、いろんなことがあると、経験した人たちが、じゃ、その後そういう情報を国民に伝えるということがなかなか難しい面と考え、勘違いされても困るわけであって、是非ここは、私は裁判員が経験したことということを国民に周知、体験を語っていただくということは逆に大事なことだと思うんですよ。守秘義務はきちんと大事なことで守り抜く、ただ、裁判員で経験したことについてそれを国民一般へ向かって言えるようないろんな要素を作っていくこともこれは大事だと思うんですよ。
 その辺は、何が守秘義務であって何が守らなくちゃいけないことであるということと同時に、その経験について逆に今度は国民に向かって語ってもらいたいということも出てきていいんだろうと思うんですが、その辺の立て分けをしていただきながら、是非、裁判員やったことについてどんどん、ある意味じゃ逆に、それは法務省主催して意見発表の場でも作ってあげることも大事だし、それくらいのことまで気構えてやった方がいいと思うんですけれども、言わば裁判員の制度を国民に周知徹底するために裁判員の経験を大いに語るようなことをお考えになっていらっしゃいますか。
#162
○政府参考人(山崎潮君) 私、先ほど来答弁させていただいておりますけれども、守秘義務ですね、これに触れない形のいろいろな将来にわたる意見、感想、これは述べていただいても差し支えないというふうに申し上げております。これはやっぱり将来の制度の改善等に結び付けるためには必要なことだろうというふうに私どもは理解をしております。
 これについては、まず、国民の方は、じゃ、どこまで話をしていいのか、いけないのか、これが分かりやすいように、もうちょっと分かりやすいいろいろなパンフレット類を作って、そこは不安がないようにしていかざるを得ないというふうに我々は思っております。
 それ以上に、今後に結び付けるためにどういうようなことをやっていくかということにつきましては、まだ今私ども具体的には考えておりませんけれども、いろいろな御提言がございますので、それを踏まえながら、可能なものについてなるべく広く取り入れてやってまいりたいと、そのようにまた実務的にもお願いをしていくということを考えております。
#163
○木庭健太郎君 今度は、職業を持った国民が裁判員となりやすくするために、例えば会社に勤められている方については、今この法律には法案の第七十一条で不利益取扱いの禁止の規定がありますが、これだけでは十分ではないというような御意見も結構ございまして、具体的に例えば裁判員になるため裁判員休業制度を創設すべきであるというような意見もございますが、この点に関しての御所見を伺っておきたいと思います。
#164
○政府参考人(山崎潮君) 確かに、今御指摘ございました七十一条、規定を置いております。これは労働者が裁判員となった場合の保護のための措置として法案で不利益取扱いの禁止を規定しているものでございますが、これだけではなくて、労働者が裁判員としてその職務を行うにつきましては、現在、労働基準法七条という規定がございまして、これによりまして、労働者が裁判員の職務を行う場合には労働時間中であってもそのために必要な時間は職場を離れることができるということになっているわけでございまして、正にこの裁判員制度の場合もこの適用があるということでございます。
 これ以外に、御指摘は多分、これ以外に裁判員休業制度を創設するということですから、あるいは有給にするとかそういうような御提言だろうと思います。
 私どもは、こういう議論が検討会も踏まえましてあったことは間違いございませんけれども、ただ現在、じゃ、事業者側の負担等もこれは当然あるわけでございますので、そういう点で、現在みんな大方の理解が得られているかということでございますが、これはまだ得られてない状況でございまして、やはり負担を伴うものであるということでございますので今後慎重に検討はしていかざるを得ないだろうということでございます。
#165
○木庭健太郎君 そういうことは、一言で言えば、裁判員休業という特別の制度を創設しなくても今おっしゃったように労働基準法の第七条の規定によって現行制度の下でも法律上、裁判員の職務を行うことに支障はないものと、こう理解しているんだということでよろしいのかどうか。
 あわせて、仮に使用者が、この労働基準法の第七条、つまり公民権の行使のこの規定に違反して労働者が裁判員の職務を執行するために必要な時間を与えなかった場合はどうなるのか、これもちょっとお尋ねしておきたいと思います。
#166
○政府参考人(山崎潮君) 前段の御質問につきましては、労働基準法七条、この適用によって、ほかに規定を置かないでも労働時間中であってもそのために必要な時間は職場を離れることができるという体制になっているということが第一点でございます。
 それから、もしその時間を与えなかったときにどうするかということでございますけれども、労働基準法上は、この七条の規定に反した場合は、使用者が裁判員の職務を執行するために必要な時間を与えることを拒んだ場合には六月以下の懲役又は三十万円以下の罰金に処せられると、こういう規定がございます。これが一つの担保であるということになります。
 それからあるいは、この規定に反しまして、法案の七十二条に反しまして解雇処分とかそういうことが行われたということになりますと、これは無効になるということでございますので、必要で、あるいは必要になれば民事裁判等を起こして無効ということで判決をもらうと、こういうことが可能になるということでございます。
#167
○木庭健太郎君 昨日、大阪でこの問題、事務局長ね、会社の経営者の方がたまたま一人いらっしゃったんで、大阪でですよ、裁判員の休業制度というようなものもあるけれどもどうだという話をしたんですよ。どなたでしたかね、前田葉子さんという方にお聞きしたら、そうしたら、会社の代表取締役、社長さんなんですけれども、この方が、裁判員休業制度とか、その制度の問題じゃないんだと、何が一番この裁判員のことについて大事かというと、経営者の意識変革をさせるように裁判員の制度の重要性とか、そのことを徹底する方がいろんな新たな仕組みを作るよりはきちんと参加しやすいというか、従業員がですよ、従業員が参加しやすくなるためにはどうなのかというと、経営者の意識改革だというようなことをおっしゃっていたんですよ。ああ、これは大事な観点だなとちょっと思いましたし、それは何につながっていくかというと、どれだけこの裁判員という制度が国民の皆さんに義務として理解されるかという問題なんです。その理解させるのをどこに理解させるかというと、もちろん一般国民に理解させることも大事だけれども、会社の経営者辺りに対しては特に早目に逆に言えばそういうことを周知徹底する必要があるのかなとも感じましたが、御感想があれば一言聞いておきます。
#168
○政府参考人(山崎潮君) 今のちょっと御質問にお答えする前に、先ほどちょっと七十二条と申し上げましたが、七十一条でございますので、訂正させていただきます。
 それから、ただいまの御質問でございますけれども、正に今後この導入に当たりましては、国民の理解を得るということも大変重要でございますけれども、逆にまた経営者の側の理解を十分に得て、やはり気持ちよく送り出してもらうということですね。場合によってはいろんな形の協力もしてもらう。金銭的な協力も場合によっては、企業によってはやっていただけるかもしれません。
 そういうようなことをやはりいろいろ団体を通じながらきちっと分かっていただく、そういう方向の努力もしていかざるを得ないというふうに我々も意識はしております。
#169
○木庭健太郎君 あと一つ、この法律、法案の第七十四条なんですけれども、これ運用状況の公表というのがございますよね。この運用状況の公表という条項を設けた趣旨を伺っておきたいと思います。
#170
○政府参考人(山崎潮君) これは、裁判員制度に対する国民の理解と関心を深めるとともに、この制度の運用の改善などのための検討に資するため、その対象事件の取扱状況あるいは裁判員の選任状況など、この制度の運用状況に関する資料を一般に明らかにすることを最高裁判所の方に求める規定でございます。これは将来の改善にどうつながっていくかという点で非常に重要であるということで、裁判所の方にお願いをしていると、こういうものでございます。
#171
○木庭健太郎君 最後に、最高裁判所にお尋ねしておきますが、今お話しあったみたいに最高裁判所にお願いする項目になってくるわけですけれども、この法律の実施状況に関する資料、幾つ、どんなものがどうあるのかと、これだけではちょっと分かりにくいんで、どのような資料を公表する予定でいるのか、まだ検討中かもしれませんが、分かる範囲でお話をいただいて、私の質問を終わりたいと思います。
#172
○最高裁判所長官代理者(大野市太郎君) まだ具体的にどこまでというところまで詰まっていないところもありますが、例えばこんなこともあるだろうということで、対象事件の取扱状況として、対象事件の数、それから平均審理期間、それから平均開廷回数、こういった審理期間あるいは開廷回数との関係で自白、否認の別、それから裁判の結果といったようなこと。それから、裁判員及び補充裁判員の選任状況といたしまして、裁判員、補充裁判員の選任された数、裁判員候補者の呼び出した人数あるいは出頭率といったようなことを公表しようかというふうに考えております。
 まだ、その具体的などこまでの範囲、どのようなことについて行うかといったその詳細につきましては、情報の有用性の問題、先ほど申し上げた改善のための資料という、検証のための資料といったような観点から何が必要かというようなこと。それから一方では、裁判員のプライバシーとの関係で裁判所が情報として収集あるいは公表できる情報は何かといったような問題もございますので、そういった問題を踏まえて考えていきたいと。現段階ではまだ確定的なことまでは申し上げられない状態です。
 以上です。
#173
○木庭健太郎君 ありがとうございます。
#174
○井上哲士君 日本共産党の井上哲士です。
 私も昨日、仙台の地方公聴会に参加をいたしました。大変充実した公聴会になりまして、それぞれの公述人の方がこの裁判員制度への期待を述べられると同時に、是非いい制度にしてほしいということで、いろんな要望などが出されました。法案を修正しなくちゃいけないこと、それから運用にかかわること、また施行までに手当てをすべきことなど、様々なことがあったわけでありますが、公聴会でこういうことをお聞きした以上、やはりこれを生かしていくということが私どもの責任でありますから、今日、私は三回目の質問になりますけれども、是非引き続く充実した審議をお願いをしたいと思います。
 今日、やっと刑訴法の改正に入りたいと思うんですが、その前に一点だけ、裁判員制度にかかわって解任の問題について何点かお尋ねをいたします。
 裁判員等の解任という規定があるわけでありますが、理由がある場合に被告人や弁護人、検察官が解任の申立てを行えると、これは当然だと思います。さらに、法案では、裁判所の職権による解任というのを認めております。いろんな模擬裁判などをお聞きしておりますと、この裁判所による職権解任が濫用されるんじゃないかという懸念をお持ちの方がかなり多いんですね。
 そこで、何点かお聞きするんですが、まず四十一条の七号で「不公平な裁判をするおそれ」、これを職権解任の対象にしておりますけれども、これはどういうことを想定した規定なんでしょうか。
#175
○政府参考人(山崎潮君) この法案の四十一条一項七号でございますけれども、これは、この法案に十八条の規定がございますけれども、ここでやはり「不公平な裁判をするおそれ」があるという、そういう同趣旨の規定を設けておりますけれども、これと同じ意味でございます。すなわち、特定の裁判員が第十七条の各号に掲げます事件に関する不適格事由、これに該当しない場合でありましても、これ以外の要因によって公平な裁判を期待することができない場合、これを抽象的には言うわけでございます。
 例えば、具体的に言えば、ある裁判員が担当事件の当事者と親友であったりとか、あるいは金銭的な利害関係があるというような特別な関係があるとか、そういうことから訴訟手続以外のところで既に事件について一定の判断を持っているため、その事件については公平な審判を期待できないと認められる、こういうような場合を言っているということでございます。
#176
○井上哲士君 分かりました。
 さらに、職権解任の対象としては四十一条九号というのもあります。ここでは、裁判員又は補充裁判員が、公判廷において、裁判長が命じた事項に従わず又は暴言その他の不穏当な行動をすることによって公判手続の進行を妨げたときと規定をされております。
 先ほどもこの点についての質疑があったわけですが、先ほどのこととは逆に、裁判員が疑問に思ったり納得がいかないという場合に尋問をすることができるわけですが、これを不当に妨げるような形になるんじゃないかと、こういう疑問もあるわけですが、この点はいかがでしょうか。
#177
○政府参考人(山崎潮君) これはこの法案の中でも、あるいは証人、被告人に対して質問をする場合、裁判長に告げてその質問をすることができるということで、きちっとそこは当然できるんだよという権限を設けているわけでございます。
 ここで、今、四十一条一項九号で言っている場合は、これについて相当に暴言その他不穏当な言動をすることによってでございますので、通常に、若干、何というんですかね、ややくどく、あるいは詳細にわたって聞くという程度、これはもう大いに、間々、大いにと言っちゃおかしいですけれども、間々あるわけでございますので、その程度のことを言っているわけではございません。そこで議事の進行が余りうまくいかないということであれば、これは裁判長がある程度整理をしてお聞きをするということもできるわけでございます。
 ここで言っているのは、ただ、それにも従わずに相当な行動をするというような場合には、これはもう、なかなかもう裁判としてやっていけないという状況にもなりますので、そういう場合には解任の手続をすることができるという非常にレアケースの場合を言っているということで、通常は御心配にならずに大丈夫だということでございます。
#178
○井上哲士君 この点で最後、大臣にお聞きをするんですが、これもよく心配の声があるのは、例えば合議体の評議で裁判官の意見に強硬に反対する少数者がいると、そういう人でなかなかまとまらないというときにこの職権解任が使われたり、そういう濫用がありますと、裁判の公正さも損なわれるし、信頼も損なわれるという懸念が出されております。そのためには、この職権による解任というのが公正で透明な手続で行われる必要があると思いますが、法案はこの点はどういうふうな手当てがされているのか、お願いします。
#179
○国務大臣(野沢太三君) 裁判所の職権による裁判員の解任につきましては、解任の判断の公正さに疑念が抱かれることのないようにすることが必要であると考えておるところでございます。
 そこで、法案第四十三条におきましては、合議体を構成する裁判官が判断しても、その判断の公正さに疑念を抱かれるおそれがないと認められる客観的な解任事由、例えば出頭義務に違反したことや、裁判員となる資格がないことが判明したことなどについてのみ合議体を構成する裁判官が直接解任の判断を行うことができることとしておるわけでございます。
 そして、それ以外の解任事由につきましては、解任事由に該当すると疑うに足りる相当な理由があるときには、裁判長がその所属する地方裁判所に対してその理由を示して通知を行うこととし、その通知を受けた地方裁判所におきまして別の裁判官によって新たな合議体を構成することとして、改めて解任すべきかどうかの判断を行うこととしております。
 客観的にその点が取り運ばれると、こういうことでございます。
#180
○井上哲士君 ちょっと確認しますけれども、そういうことは、この決定には構成裁判所は関与をしないと、こういうことでよろしいわけですね。
#181
○政府参考人(山崎潮君) 大臣が申し上げたのはそういう趣旨でございます。
#182
○井上哲士君 じゃ次に、刑事訴訟法の改正について質問をいたします。
 先日の裁判員法の質疑のときにも、刑事司法制度のどこを改革するのかと、この現状への評価なしにこの法案の審議はできないということを申し上げました。今回の法案で言いますと、刑事訴訟法で言いますと、様々指摘をされてこられた、いわゆる自白偏重、そして人質司法とも言われる長期勾留の問題、ここに改革の手が入っていないということを言わざるを得ないわけです。それで、そういった問題を議論をまずしたいわけですが、今日は修正案の提案者にも来ていただいておりまして、様々な事情もありますようですので、まず先にこの目的外使用の問題についてお聞きをしたいと思います。
 先ほど申し上げましたようないろんな現状の問題が放置をされる一方で、被告人の防御権を侵しかねない問題を含んでいるということを大変重大だと思っております。開示証拠の目的外使用の禁止ということが盛り込まれているわけですが、この二百八十一条の四で、この手続又はその準備に使用する以外禁止と、こうなっているわけですね。この手続又はその準備に使用というのはどこまでが含まれるのかということをまずお聞きするんですが、実質的に弁護活動や訴訟活動のために使用するのであれば、その開示証拠に触れる人物が当該事件の被告人や弁護人の範囲を超えていてもこれは構わないのか、それとも被告人、弁護人の範囲を超えれば目的外使用になってしまうのかと、こういうことなんです。
 これが駄目だということになりますと、例えば弁護人の側が開示された証拠の鑑定を専門家に依頼するいわゆる私的鑑定など、こういうものが不可能になってくるわけで、この点はどのように考えているんでしょうか。
#183
○政府参考人(山崎潮君) ただいま御指摘のその弁護人が自ら鑑定を依頼した鑑定人に開示証拠のコピーを渡すというような場合だろうと思いますけれども、これにつきましては、その鑑定が当該事件における検察官の主張事実のその真実性ですね、これを調査することを目的とするということなど、自ら担当する被告事件の審理の準備のためであるという場合には、その鑑定のための資料として開示証拠のコピーを交付すること、これは禁止されるものではないということでございます。
#184
○井上哲士君 分かりました。その上で修正案の提案者についてお聞きをいたします。
 この目的外使用の禁止につきましては、衆議院で修正が加えられました。前項の規定に違反した場合の措置については、被告人の防御権を踏まえてとした上で、「その取調べの方法その他の事情を考慮するものとする。」という条項が追加をされたんですが、ここで言う「前項の規定に違反した場合の措置」、この「措置」というのは、例えばどういうことを言われているのか。いかがでしょうか。
#185
○衆議院議員(漆原良夫君) この「措置」というのは、刑事訴訟法第二百八十一条の四第一項の規定に違反する違反行為に対して取られる法的措置のことでありまして、例えば具体的には、弁護士が同項の規定に違反する行為に及んだことを理由に弁護士の品位を失うべき非行があったものとしてなされる弁護士法上の懲戒処分、あるいは被告人等が刑事訴訟法二百八十一条の四第一項の禁止規定に違反する行為に及んだことによって損害を受けた者による民法上の損害賠償請求権、そういうものがこれに当たるというふうに考えております。
#186
○井上哲士君 この目的外使用の禁止については、被告人の防御権を不当に侵すものだとか弁護活動を困難にするという様々な批判の声がありました。その中で、衆議院でも様々な議論も行われ、また院外での議論もあります。その議論の中で、これ、被告人の防御のために必要な開示証拠の使用というのは審理の準備だけには限定されないではないかとか、それから関係人の名誉等を害さない場合には実質的には違法性がない場合もあるんじゃないかとか、また、公開の法廷で取り調べられた証拠についてまで目的外使用を禁止すべきでないなどなど様々な議論がありましたが、今回の修正はこういう議論を踏まえたものなのか、そしてどういうことを期待されたものなのか、その点お願いします。
#187
○衆議院議員(漆原良夫君) 正に衆議院においてもそういう議論がなされてこの修正に及んだわけでありますが、新設の刑訴法の二百八十一条の四第一項は、被告人、弁護人又はこれらであった者による開示目的の目的外使用を一般的に禁止するものであります。ただし、当然のことながら、同じく同項に違反する行為であったとしても、違反に係る複製等の内容やあるいは違反行為の目的、態様など、同条第二項に掲げたものを始めとするいろんな事情によって違反の悪質性の程度は相当に異なるものがあるというふうに思われます。
 例えば、違反に係る証拠が被害者の日記等のプライバシー性の高いものであるかどうか、あるいは営利目的によるものかどうか、さらにはインターネットで広く公開するなど不特定多数の者に対して提供をするものであるかどうかなど、事情によって悪質性の程度は大きく違うというふうに思われます。そこで、二百八十一条第二項として、被告人らが同条第一項の規定に違反した場合の措置を取るに当たっては、同条第二項に例示したものを始めとする諸事情を考慮すべきであるということを注意的に明らかにすることとしたものであります。
 したがいまして、例えば二百八十一条の四第一項に違反する行為によって関係人の名誉を害したかどうかなどを始めとする諸事情を考慮した上で、関係人の名誉が害されていないということが有利な事情の一つとして勘案し、当該違反行為に対して懲戒処分等の措置までは必要がないというふうに判断される場合が十分あり得るというふうに考えております。
#188
○井上哲士君 ありがとうございました。
 その上で再び法務省に、推本にお聞きをいたしますが、目的外使用を禁止する証拠に係る複製等についてということの解釈でありますが、複製その他の証拠の全部又は一部をそのまま記録した物及び書面と、こうなっておりますが、これどういうものを指すんだろうかと。
 例えば供述調書のような書面の場合に、固有名詞、それから日時、これを黒塗りをするなど、こういう処理をした物というのは、この全部、一部をそのまま記録した書面ということに当たるということになるんでしょうか、いかがでしょうか。
#189
○政府参考人(山崎潮君) これは具体的な事案に照らして判断する必要があるというふうに考えております。ただ、一般的に言えば、開示された供述調書の記載を加工、修正した物については一部をそのまま記録した書面に該当する場合もあり得ますけれども、それ以外の場合にはその証拠の複製等には該当しないということでございまして、抽象的でちょっと分かりにくいわけでございますけれども、例えば一つ例示的に言えば、被告人の自白調書におきまして固有名詞をすべて修正、加工したとしましても、被告人以外の者が登場しないような物について、あとは被害者ぐらいですね、そういうような物については、その場面についてその供述内容がそのまま残っているような場合、そのような場合には一部をそのまま記録した書面に該当し得る場合もあるということになります。
 あと、それからもう一つ、それに当たらないというような場合につきましては、登場人物が複数ある、それから場所もいろいろ複数あったり、日時もあるということで、そこを全部墨塗り等をするということによって、その具体的なストーリーというんですかね、それがどうも分かりにくくなっているというようなことになれば、これはもう複製としてそのまま外へ出したということにはならないということになりますので、その事案事案によって具体的に判断がされるということでございます。
#190
○井上哲士君 逆に、文章としては要約をしてあるけれども固有名詞等は残っていると、こういうこともあろうかと思うんですけれども、こういう場合はどうなるんでしょうか。
#191
○政府参考人(山崎潮君) ここで禁止しているのは、複製がそのまま出るということを禁止しているわけでございまして、その全体を概要をまとめて出すということについては禁じているわけではないということでございます。
#192
○井上哲士君 その場合に、固有名詞が残っている場合であっても禁じているわけでないと、こういうことでよろしいわけですね。
#193
○政府参考人(山崎潮君) 要約している場合には、固有名詞が出てもそれは仕方がないということでございます。
#194
○井上哲士君 再審請求などをされているいろんな支援運動の方からもこの目的外使用についてのいろんな批判の声が出ておりますが、その確定した事件の場合に、刑事確定訴訟記録法によって記録を謄写をしているという場合があります。これに基づいてこの再審請求の準備を行ったり、この記録の謄写を用いて宣伝活動をするという場合があるわけですが、こういう確定記録に含まれる開示証拠、これを目的外使用した場合というのはこの法の対象にはならないと、こういうことでよろしいでしょうか。
#195
○政府参考人(山崎潮君) 改正法案の二百八十一条の四の証拠の複製等の目的外使用の規制でございますけれども、これは検察官において被告事件の審理の準備のために開示した証拠を対象にするという、そういう趣旨でございます。
 今御指摘がございました刑事確定訴訟記録法の規定によって記録を閲覧、謄写した場合、この場合につきましては、先ほど申し上げました二百八十一条の四による目的外使用規制の禁止対象とはならないということで考えております。
#196
○井上哲士君 分かりました。
 それでは、もう一回戻りまして、この刑訴法の審議をする上で今の刑事裁判の現状ということについて議論をしたいんですが、先日は被告人、疑わしきは被告人の利益にということが本当に裁判の中で貫かれているんだろうかということを提起をいたしました。今日は、裁判手続、司法の手続がどうなっているんだろうかということについて議論をしたいんです。
 前々回に、この点で可視化の問題を質問した際に、我が国の捜査においては自白が重要な位置を占めていると、こういう答弁がありました。問題は、自白に偏重していると、こういう批判なわけですね。
 その点で、今日はまず、二〇〇〇年の五月二十六日に松山地裁で無罪判決が行われた宇和島の事件というのを例に取り上げたいんです。一九九八年に宇和島市内で発生をした事件で、窃盗や詐欺などの罪で五十一歳の男性が起訴されたものですが、まずちょっとこれ、法務省に事実関係を確認しておきますが、この裁判で検察側は自白と客観的な証拠があるとして起訴したが、現段階では男性は本件に全く関与してないことは明白で無罪判決を求めますと、こういう異例の陳述をしておりますが、検察から無罪判決を求めたと、こういう事実関係についてよろしいでしょうか。
#197
○政府参考人(樋渡利秋君) お尋ねは、平成十二年五月二十六日、松山地方裁判所宇和島支部において被告人に無罪判決が下された窃盗等被告事件に関するものと思いますが、そのような論告を検察官が述べたことは間違いございません。
#198
○井上哲士君 検察が起訴しながら無罪判決を求めるという非常に異例な事件だったわけですが、これ、うその自白をしたけれども公判中に真犯人が分かったというケースなんですね。
 この宇和島支部での判決は、この自白についてこういうふうに述べております。被告人の自白は、自らの弁解が取調べに当たった警察官に信用してもらえないとのあきらめの思い、また、たとえうそでも自白をすれば家族や勤務先の会社に迷惑を掛けずに済むとの思いから、自らはしていない犯罪について、想像を交えながら真実に反する供述をしていったものと言うべきであって、被告人の自白は信用することができないと、こう判決で述べておりますけれども、最高裁、これ確認したいんですが、これで間違いないでしょうか。
#199
○最高裁判所長官代理者(大野市太郎君) 先ほど来指摘のありました平成十二年五月二十六日の松山地裁宇和島支部の判決において、委員御指摘のような記載があるということを承知しております。
#200
○井上哲士君 なぜこのうその自白をしてしまったのかという問題なんですね。
 報道によりますと、起訴前に検察官からは、この方は、本当はやってないんだろうと言われたというんですね。しかし、そのときは、いや、やってますと答えたと。それは、否認をすれば署に帰ってから刑事さんの取調べが厳しくなると思ったからだと、こういうふうに報道で言われているわけです。先ほどの判決は、被告人と犯人の同一性については、自白以外の証拠による裏付けを欠くというふうに述べているわけであります。
 この経過から見ますと、この自白を得ることに全力を挙げる厳しい取調べが行われて、そこからうその自白が生み出されると、そして自白が得られますと、十分な裏付け調査が行われないままになって起訴までされたと、こういう経過が浮かび上がってくるんですが、検察当局としては、この事件について具体的にどのような反省をされているんでしょうか。
#201
○政府参考人(樋渡利秋君) 前回も申し上げましたけれども、無罪に至る理由にはいろいろとございます。
 検察当局におきましては、従来から、信用性のある供述の確保とその裏付け捜査の徹底、証拠物やその他の客観的な証拠の十分な収集及び検討に意を用いて事件の適正な捜査処理に努めておりますが、お尋ねの事件につきましては、御指摘のような事実関係で無罪になったということでございます。
 もとより、検察当局におきましては、無罪の判決が確定した事件につきましては、裁判書や訴訟記録等を精査するなどして、捜査及び公判の具体的経過に照らしながら、供述の変遷や裏付け証拠の有無等の供述の任意性、信用性に係る捜査の観点等から問題点を吟味し、これにより把握した問題点を踏まえ、更に客観証拠の収集に努めるとともに、取調べに当たっては自白の任意性や信用性の確保に努めるなど、捜査が適正に行われるように努力しているものと承知しておりまして、お尋ねの事件の判決を受けても種々検察で検討をしているものと承知しておりますが、このような事態が起こったこと自体は検察としても重く受け止めているものと思います。
#202
○井上哲士君 検察としても重く受け止めると、こういう答弁でありました。
 一件たりとも本来起きてはならない事態だと思いますけれども、この事件だけではないんですね。例えば二〇〇〇年十月の十九日に大阪地裁で無罪判決があった、これは痴漢問題の事件でありますけれども、阪急の車内で女子高生に痴漢行為をしたということで男性が強制わいせつ罪で起訴をされますが、否認をしたために、逮捕されて保釈されるまで六十九日間の勾留がされております。無罪判決では、警察は勾留すればいずれ自白するであろうと安易に考え、被害者供述の信用性を吟味せず、裏付け捜査を尽くさなかったと、こういう判決もこの場合も出ているわけです。
 このように、この自白偏重というのが長期勾留と結び付いていると。この否認事件であれば、長期間勾留をして自白を強要するということが横行しているんではないかと思うんです。これは、二〇〇一年六月十二日に東京簡裁で無罪の言渡しがされた痴漢容疑の事件というのがありますが、これは勾留は二十日間で、起訴後三日間の勾留です。それから、同じく痴漢容疑で二〇〇〇年四月十二日に東京簡裁で無罪言渡しがされた事件は、二十八日間勾留がされております。
 こういう痴漢行為は、東京都の迷惑防止条例違反ですけれども、その法定刑は五万円なんですね。五万円の法定刑なのに二十日とか二十八日間の長期勾留がなぜされなくちゃいけないか、常識的には非常に理解に苦しむわけでありますが、先ほどの大阪の地裁の判決が、勾留すればいずれ自白をするだろうと安易に考えたんじゃないかと、こういう指摘もしているわけで、自白を得んがための安易な長期勾留が行われているんではないかと、この批判についてはどうお考えでしょうか。
#203
○政府参考人(樋渡利秋君) 捜査段階における被疑者の勾留は検察官の請求を受けて裁判官が判断することとされており、公判段階における被告人の勾留も裁判官又は裁判所の権限でありますので、お尋ねにつきましては法務当局としてお答えする立場にはないと思うのでありますが、しかしながら、被疑者の勾留につきましては検察官の請求を受けて始まるものでございますから、勾留請求について申し上げますと、勾留請求につきましては、犯罪を犯したことを疑うに足りる相当の事由があることに加え、罪証隠滅あるいは逃走が疑われる相当な理由があることなどが要件とされておりまして、検察官におきましては、個々の事件についてこれらの勾留の要件の有無を検討し勾留請求を行うかどうかを判断しているものと承知しておりまして、安易に請求しているというふうには思っておりません。
 また、起訴後勾留されている被告人につきまして保釈請求がなされた場合には、検察官におきましては、保釈の除外事由の有無を検討した上、保釈請求に対する意見を述べるなど、適切に対応しているものと承知しております。
#204
○井上哲士君 本当に適切な対応がされているんだろうかと思うんですね。
 これ、最高裁にお聞きをいたしますが、五月の十日に東京地裁で無罪が言い渡された痴漢事件、先日の委員会でも紹介しましたけれども、これは四か月の求刑に対して五か月に及ぶ勾留となっております。
 二〇〇二年の六月五日に出ている最高裁の判決がありますが、これは痴漢行為で東京高裁で有罪が出たもので、最高裁の判決自身は有罪を維持をしたわけですけれども、この人の場合も未決勾留が九十三日間、起訴後も七十八日間の勾留がしております。最高裁判決はこの長期勾留についてはどのように判決で述べているでしょうか。
#205
○最高裁判所長官代理者(大野市太郎君) 委員からあらかじめ御指摘がありましたのは平成十四年の六月五日の第二小法廷の決定だろうと思いますが、その決定書のうち、御要望のありました部分を読み上げさせていただきますと、改正前の前記条例による本罪の法定刑は五万円以下の罰金又は拘留若しくは科料というものであった。ところが、被告人の未決勾留期間は九十三日間、起訴後の勾留期間に限っても七十八日間に及んでいるのであり、前記の審理経過に照らすと、このような法定刑の軽微な事件について、身柄拘束の不必要な長期化を避けるための配慮が十分であったとは言えない上、上記の未決勾留期間のすべてが本件の審理にとって通常必要な期間であったとも認め難いと、このように述べております。
#206
○井上哲士君 最高裁判決もそう述べたわけでありますが、この公訴事実を認めない場合に、この法定刑や求刑にかかわらずに勾留を請求し、そして安易に認めているんじゃないかと、こういうことが言われているわけで、やっぱりこういうやり方は改められるべきだと思いますけれども、もう一回最高裁、お願いをいたします。
#207
○最高裁判所長官代理者(大野市太郎君) 否認をしていれば保釈を認めないといったような態度で審理に臨んでいるということはあり得ないと思いますし、またあってはならないというふうに思っております。
 現場の裁判官は、個々の具体的な事案の内容に即しまして、保釈ということであれば刑事訴訟法八十九条各号の定める保釈の制限事由があるかどうか、あった場合に、制限事由があるとしても裁量で裁判所が保釈できるのかどうかといった、そういう相当性について慎重に検討して判断しているものと思われますし、また勾留につきましても、刑事訴訟法六十条各号に定める事由があるかどうかについて慎重な検討をした上で判断しているものというふうに思っております。
#208
○井上哲士君 私、ごく一部の例を挙げたんですが、慎重な検討をされたものと思えないような事例がいろんな形で出ているわけで、こういう長期勾留、その下での自白の強調やそして自白偏重という現状にこそ私はメスを入れる改革が今求められていると思います。
 そこで、大臣にお聞きをしますけれども、今回の法改正で即決裁判手続が盛り込まれております。
 先ほど紹介しました二〇〇〇年四月に痴漢容疑で無罪になった事件では、報道によりますと、被告人であった方は、警察から、罰金四万でも五万でも払ったら家族や会社に言わないよと、こう言って容疑を認めるよう説得をされたと、こう言われております。
 それから、昨年の一月に千葉地裁で、これは強姦罪に問われた二十三歳の男性の公判が、判決がありましたが、これは裁判所は自白の任意性を否定して検事調書の証拠採用をしておりません。報道によりますと、取調べの際に検事が、自白したら三年、否認したら八年と書いたメモ用紙を見せて、容疑を認めたら刑が短くなるという形で自白を促したと、こういうことがこの任意性を否定した理由だと言われておりますが、この事件の場合は検事も証人として出廷して、一般論として量刑を説明したんだと、こういうことを述べてメモを示したことを認めております。
 こういう長期勾留の中での自白の強要というようなことがある中でこの即決裁判手続が行われますと、むしろ自白強要になるんじゃないかと、こういう懸念があるわけですけれども、この点、大臣の所見を伺います。
#209
○国務大臣(野沢太三君) まず、即決裁判手続におきましても、通常の事件と同様に、証拠によって犯罪事実が認定されなければならず、被告人の自白以外の補強証拠が必要とされるのも通常の事件と同様でございます。
 また、即決裁判手続の申立てがあった事件につきましては、必ず弁護人が選任され、弁護人が即決裁判手続によることに同意しなければ即決裁判手続の決定をすることはできないとされておるわけでございます。
 さらに、裁判所は、例えば被告人の自白の任意性や信用性に疑問がある場合など、事実認定上の問題がある場合には、即決裁判手続によることが相当ではないものとして同手続の決定を取り消すものとしています。
 このように弁護人及び裁判所によって当該事案が即決裁判手続によることが相当かどうかにつきましてチェックが行われることになっておりますので、即決裁判手続の申立てに至る過程で自白の強要が行われる危険はないと考えておるわけでございます。
#210
○井上哲士君 様々な手当てはされているわけですが、先ほど幾つか挙げましたように、警察の取調べ段階での様々な問題があるわけで、その時点からの弁護人がきちっと付くという制度の手当てが是非私は必要だと思います。その上で、証拠の開示の問題についてお尋ねをいたします。
 まず、大臣に基本的認識をお聞きをするんですが、捜査当局が集めた証拠というのは一体だれのものなんだろうかと。で、警察、検察が集めたものなんだから、これは有罪判決のために使われるものだ、当事者主義の下にこういうことを言う考えがあるんじゃないかということが指摘をされます。本来、国民の税金を使って集められた証拠というものは、言わば有罪を得るためではなくて、真実発見のためにこそ使われるべきだと思うんですけれども、ここの基本的認識についてまず大臣にお聞きをいたします。
#211
○国務大臣(野沢太三君) これは大変明確でございまして、検察官が収集した証拠は、「公共の福祉の維持と個人の基本的人権の保障とを全うしつつ、事案の真相を明らかにし、刑罰法令を適正且つ迅速に適用実現すること」ということで、これはもう刑事訴訟法第一条の大原則でございまして、この刑事訴訟の目的が的確に果たされますように用いられるべきものであると考えておるところでございます。
#212
○井上哲士君 捜査当局が税金使って集めた証拠は正に真実発見のために使われるものであるということでいいますと、できるだけ開示する、全面的に開示することが必要だという結論に私はなると思うんですね。
 今回の法案でそれではどれだけ広がるんだろうかということをただしたいんですが、検察官の手持ち証拠の開示については一九六九年の最高裁の判例がありますが、被告人の防御のために特に重要であり、かつこれにより罪証隠滅、証人威迫等の弊害を招来するおそれがなく、相当と認めるとき、これは裁判官が訴訟指揮権に基づいてこれを開示すべきだと、こういう判例があるわけですが、今回の法案で新たに設けられるこの証拠開示手続というのは、この六九年の判例と比較してどこがどう違っているのか、まずお願いします。
#213
○政府参考人(山崎潮君) 何点か違う点がございます。
 まず、公判前の証拠開示の拡充という点でございます。この判例では、証拠調べの段階に入った後に証拠開示の申出をすることができるということになっておりますが、今回は公判前整理手続というものを導入するわけでございますので、その段階で開示を求めることができるという点が時期的にも違うと。
 それから、その内容でございますけれども、まず検察官が取調べを請求した証人等の供述調書等、これを開示しなければならない、これが一つでございます。それから、検察官が取調べを請求した証拠の証明力を判断するために重要な一定類型の証拠、これも開示しなければならないと。それから、被告人、弁護人が明らかにした主張に関連する証拠ですね、これについても開示の必要性と弊害、これを勘案しながら開示をしなければならないというふうにしているわけでございまして、かなり開示すべきものの範囲を明確にしているということでございます。
 それからもう一つは、その開示請求のその特定性の緩和という問題でございますけれども、この判例では一定の証拠についてその申出をする必要があるというふうにされておりますけれども、ここのこの新しい今私どもの御提案している制度では、当該証拠を識別するに足りる事項、すなわちその証拠の類型及びその範囲を明らかにすれば足りるということにしておりますので、例えば犯行現場で押収された証拠物、犯行の目撃者の供述調書とか、こういうような特定で足りるということにしているわけでございます。
 それからもう一点ございますけれども、現行の制度では、裁判所に開示命令の申出をいたしまして裁判所が開示命令を発しなかったという場合も、職権発動を促したにすぎないということから不服申立てをすることができないというのが現在のものでございます。これに対しまして、今回の制度では、これに対して、検察官が開示をしなかった場合には裁判所に対して裁定を求めることができるということでございまして、裁判所がこれで裁定をしない、開示をしないということであればその不服申立てをすることができるということで、即時抗告も可能にしているということで、かなり判例上の運用でやるものとは大きく違っているということを御理解賜りたいと思います。
#214
○井上哲士君 ただ、この三百十六条の十五第一項、それから同じく三百十六条の二十の第一項、これで証拠を開示をする要件を定めているんですが、やはり非常に厳しいと思うんですね。これで前進と評価できるんだろうかというふうに思うわけですが、これは相当やはり今回の法改正の趣旨からいいますと柔軟に解釈をしていくという運用が求められているかと思うんですけれども、その点いかがでしょうか。
#215
○政府参考人(山崎潮君) この全体の趣旨を見ていただければお分かりかと思いますけれども、開示の必要性と弊害の有無、これを双方を考えるわけでございますけれども、これ、弊害のあるものについてはそれは出せないということはあるかもしれませんけれども、その弊害のあるというもの、そう多くあるわけではございません。したがいまして、それに当たらない限りは、被告人の防御にとって重要なものであるということであればそれをお出しをしていく、それで準備のために支障がないようにと、こういうことでございますので、そこは拡大をしていく、そういうつもりで作っているということを御理解賜りたいというふうに思います。
#216
○井上哲士君 今度の改正で概括的な開示請求で足りるという説明が先ほどありました。実際に本当にそう広がっていくかというのは正に運用次第ということになっていくと思うんですが、刑事裁判の充実、迅速化の法案が通るのに伴いまして、最高検が刑事裁判の充実・迅速化に向けた方策に関する提言というのを出しておりますが、この中でも、証拠開示については、「審理の充実・迅速化の観点から、その申出に相当の理由があり、かつ、開示による弊害のおそれが認められない限り、できるだけ柔軟に対応すべきである。」ということで去年の七月に出されているわけでありますが、なかなか、現場の話を聞きますとそう柔軟になっていないと、こういう御意見があるわけですね。ですから、今までも開示請求を申し立てますと、それでは範囲が不明確なのでより特定せよと言われているということが、果たしてこの改正で本当にそうなるんだろうかと、こういういろんな疑問があるわけですね。その点どうでしょうか。
#217
○政府参考人(山崎潮君) 検察の方もこの法案の趣旨を先取りしてそのようないろいろ指針を出しているということだろうと思いますけれども、これにつきましては、やはり最終的にはどういう証拠が本当に検察庁にあって何が必要かということについて、被告人として何が必要であるかということについて争いが生ずるということになれば、これは裁判所に裁定を求めることができるわけでございます。裁判所といたしましては、検察官に、どういうものを持って、一体どういう支障があるのかということから、現実にその標目でどういうものを持っているか、これを知ることもできますし、あるいは場合によってはその現物に触れて本当にそれが必要かどうかと言うことも可能であるわけでございますので、こういう制度をきちっと利用することによって必要なものは開示がされていくという運用になっていくだろうということを期待しているわけでございます。
#218
○井上哲士君 それは弁護側が必要だといって検察の方がこれを出したら弊害があると、こういった場合に、裁判所の判断としては、要するに弊害があるということを検察の側がしっかり実証しない限り開示をすると、こういうことになるんですか。そこはどういう判断になるんですか。
#219
○政府参考人(山崎潮君) これはそういう要件あるかどうかきちっと裁判所は判断するわけでございますけれども、裁判所がそれについて主張だけでは分からないというような場合には、その証拠の提示命令を掛けて、その上で裁判所が客観的に判断をすると、こういうシステムになっているわけでございますので、これによって、仮に検察官が自らの意思で駄目だということであっても、客観的に判断されて必要なものは提示がされると、こういうことになるということでございます。
#220
○井上哲士君 これはちょっと逆の問題になるわけですけれども、今度の法案でいきますと、弁護側の方もその主張に係る証拠を早い段階で開示をするということになりますが、例えば補充捜査という名目で証拠つぶしが行われるんじゃないか、こんな懸念もあるわけですが、この点についてはいかがでしょうか。
#221
○政府参考人(山崎潮君) これは捜査機関の捜査によって弁護側の証人の証言内容が変わったりとか、あるいはその証言の信用性を減殺させる証拠が収集されるということ、こういうことが仮にそれであったとしても、それは弁護側が公判前整理手続においてその弁護側の請求証拠の開示をせず、公判の段階で開示をした場合でもこういう問題というのは起こり得る話でございまして、それが正当な捜査の結果である限りその点は問題にすべきではないのではないかと、こういうふうに考えているわけでございます。
#222
○井上哲士君 午前中にも議論になりました三百十六条の十五第二項二号のことについてお聞きをいたします。
 被告人又は弁護人が証拠開示の請求をする場合に明らかにすべきこととして、被告人の防御の準備のために当該開示が必要である理由というのを挙げていますが、その前に、その他として様々な事項が書かれております。これは例示という解釈なんだと、こういう答弁が午前中ありましたが、確認ですけれども、ということは、この条文で挙げられている様々な項目をすべて挙げる必要はないんだということ、それから、この項目以外にも当然必要な理由というのはあり得るんだと、こういうことでよろしいんでしょうか。
#223
○政府参考人(山崎潮君) 基本的には今御指摘になった考え方でいいということになります。
 ただ、午前中、千葉委員からの御指摘でちょっとお答えをしたところで若干申し上げたい点もございまして、この中の今の二項の二号で、その後段の部分でございますけれども、「当該開示の請求に係る証拠が当該検察官請求証拠の証明力を判断するために重要であることその他の被告人の防御の準備のために当該開示が必要である理由」というところでございまして、ここのところで「その他の」とございますのはこれは例示だというふうに申し上げました。
 このこと自体は変わりがないわけでございますが、ただ、その重要であるという点について、「検察官請求証拠の証明力を判断するために重要であること」というのは、これは一項にも、この条文の第一項にも同じ文言が規定をされておりまして、これは要件、開示をするための要件にもなっておりますので、少なくともこの点についてはきちっとやってもらいたい。これ以外にも、例示でございますから、それ以外の事情もあり得ると。そういうものも必要があればちゃんと述べてもらいたいと、こういうことでございますので、例示でございますのですべて言わなければならないということでもございませんし、それ以外の場合もあり得るということでございます。
#224
○井上哲士君 もう一つ、いわゆる弁護側が私的な鑑定をする場合がありますが、手続で行うもの以外は裁判所から問題視されるようなケースもあるようですが、いわゆるこういうものについても、私的鑑定と言われるものについてもこの法律の目的の範囲と考えてよいのだろうかということですね。検察側の鑑定に対する弾劾を目的とする私的な弁護側の鑑定に用いるための証拠開示請求と、これは当然認められると、こういうことでよろしいでしょうか。
#225
○政府参考人(山崎潮君) ただいま御指摘のあったような、例えば被告人側は、検察官が請求した鑑定書の証明力を争って、それでこれを弾劾する目的で独自に鑑定を依頼しようというような場合があり得ると思いますけれども、これらの規定に従った上で、三百十六条の十五、二十でございますけれども、これに従った上で、その鑑定資料として用いるための証拠の開示を請求するということはこれはできるという解釈でございます。
#226
○井上哲士君 最初にも申し上げましたけれども、我々は全面開示というものが必要かと思っておりますが、今回の法案の中では多々前進面も、今ありましたように、あります。ただ、これは正に運用に懸かっていると思うんですね。
 先ほども紹介しましたように、最高検は既に刑事裁判の充実・迅速化に向けた方策に関する提言というのを昨年の段階でも出されているわけですが、この改正案が成立した場合に、今回の立法の趣旨、できるだけ開示を広げていくと。そして、本来、証拠が真実発見にある、こういうことを徹底をするという上で、最高裁、それから法務省、それぞれどのように考えていらっしゃるのか、まず最高裁からお願いをいたします。
#227
○最高裁判所長官代理者(大野市太郎君) 証拠開示に関する運用の問題は各裁判体の判断すべき事項、委員御指摘のとおりでありますが、そういった事柄でありますが、私どもとしましても、法の趣旨に沿った適正な運用がなされるように、その立法趣旨等の周知を図っていきたいというふうに考えております。
#228
○委員長(山本保君) ちょっと、大臣はいいですか。
#229
○井上哲士君 大臣。
#230
○国務大臣(野沢太三君) 検察官は公益の代表者でありますので、法改正により新たな証拠開示の制度が設けられれば、その趣旨、内容を十分に理解して適切に運用することを期待できるものと考えております。また、研修の機会を設けるなどといたしまして、新たな制度の趣旨が各検察官に徹底されますよう努めてまいりたいと思います。
#231
○井上哲士君 終わります。
#232
○委員長(山本保君) 本日の質疑はこの程度にとどめ、これにて散会いたします。
   午後三時五十三分散会
     ─────・─────
   〔参照〕
   仙台地方公聴会速記録
 期日 平成十六年五月十七日(月曜日)
 場所 仙台市 江陽グランドホテル
   派遣委員
    団長 委員長      山本  保君
       理 事      吉田 博美君
                愛知 治郎君
                小川 勝也君
                角田 義一君
                井上 哲士君
   公述人
       仙台検察審査協
       会副会長兼総務
       部長       松田 謙一君
       弁護士
       宮古ひまわり基
       金法律事務所長  田岡 直博君
       宮城県情報公開
       審査会審議委員  遠藤香枝子君
       主婦       天野 清子君
       弁護士      佐藤 正明君
    ─────────────
   〔午後一時開会〕
#233
○団長(山本保君) ただいまから参議院法務委員会仙台地方公聴会を開会いたします。
 私は、本日の会議を主宰いたします法務委員長の山本保でございます。どうぞよろしくお願いいたします。
 まず、座ったままで失礼しますが、私どもの委員を御紹介いたします。
 私の右隣、向かって左側でございます。自由民主党の吉田博美理事でございます。
 同じく、自由民主党、地元の愛知治郎委員でございます。
 次に、私の左隣でございます。向かって右でございます。民主党・新緑風会の角田義一委員でございます。
 同じく、民主党・新緑風会の小川勝也委員でございます。
 日本共産党の井上哲士委員でございます。
 次に、御出席いただいております公述人の方々を御紹介申し上げます。
 仙台検察審査協会副会長兼総務部長の松田謙一さんでございます。
 弁護士で宮古ひまわり基金法律事務所長の田岡直博さんでございます。
 宮城県情報公開審査会審議委員の遠藤香枝子さんでございます。
 主婦の天野清子さんでございます。
 弁護士の佐藤正明さんでございます。
 以上の五名の方々でございます。
 この際、公述人の方々に一言ごあいさつを申し上げます。
 当委員会におきましては、現在、裁判員の参加する刑事裁判に関する法律案、刑事訴訟法等の一部を改正する法律案及び総合法律支援法案の三法案を審査を行っておりますが、本日は三案について関心の深い関係各界の皆様方から貴重な御意見を承るため、当仙台市及び大阪市においても公聴会を開会することになった次第でございます。
 本日は、御多用のところを御出席いただきまして、誠にありがとうございます。公述人の皆様方から忌憚のない御意見をお聞かせいただきまして、今後の審査の参考にさせていただきたいと存じますので、どうぞよろしくお願いします。
 次に、議事の進め方でございますが、まず、松田公述人、田岡公述人、遠藤公述人、天野公述人、佐藤公述人の順に、お一人十分程度で御意見をお述べいただきまして、その後、各委員の質疑にお答えいただきたいと存じます。
 なお、念のため、御発言の際は、その都度、委員長の、私の許可を得ることとなっておりますので、御合図をお願いいたします。また、各委員の質疑時間が限られておりますので、御答弁は簡潔にお願いいたします。
 なお、公述人の方の意見陳述、答弁とも、そのまま、座ったままで結構でございます。
 それでは、松田公述人からお願いいたします。松田公述人。
#234
○公述人(松田謙一君) 紹介あずかりました松田でございます。
 私は、昭和五十三年三月に仙台検察審査会、六か月のお招きを得て協会に入会され、現在は副会長兼総務部長として協会の方に立たされております。
 生年月日は十四年ですが、白石に住む者で、自分で自営業、家業を継いでいる、白石温麺製造元、また最近はうーめん番所、食べる場所として、地場産の繁栄のためにという形でやっているさなかでございます。
 それで、この席に、裁判員の参加する刑事裁判に関する法案という、これに、裁判所の方から電話がありまして、是非なってくれないかねという話が参りました。最初はどういうものかなという感じ持っておりましたが、資料などをいただいてみますと、実際私が経験した検察審査員としての内容がよく分かるような感じすると。それで、私も協会員の一人として、ではこれ、もしあれだったら参加して、まあ自分たちの普及のためにも、またより良い法ができ上がるようにという形で挑みました。
 で、資料の中、ここにちょっと箇条書、資料ですが、箇条書に書いていますが、これは全く同じものでございます。こんなことを、ずっと資料を読ませていただきましたが、本当にプロの世界というか、違うものだなという感じを受けました。私はめん作りだったら相当やれるんですが、やはりこういうことになってくると、どうもおっくうになっちゃうと。でも、確かに間違いはないという形。この裁判員が、五年の、五年後に履行されるような話もちょっと聞いていますが、その間にまたより良い改革などもできてくるのかなと。とにかく、でき上がるということを早くもうやっていただきたいなという感じは持っています。
 それには、自分も大分携わることがありまして、この刑事訴訟法等の一部改正する法律案、下の方に検察審査会法の一部改正。自分がやはりやってみて、審査員として参加したときは本当に顔から火の出るような感じだったんですが、六か月間の間に、前三か月、後三か月とあるんですが、大変慣れるというか、なじみが出てくるというか、すると、その席上でやはり真剣に正当な判断をしなくちゃいけないという感じが相当感じられるようになりました。満期になってしまうと、何かちょっと名残惜しいような感じもしましてね。本当にこれでよかったのかなと。でも、ほかに協会員としてまた何かが、機会が、できることがあるんじゃないかなという感じを持っていました。
 それで、資料と一緒に世論調査も拝見いたしましたが、私、審査員をやったせいか、またその後、協会員として裁判所によく出入りして法に触れているせいか、この世論調査というのは、どこまでが取ることができるかなという感じ、よく受けます。それはやはり、調査する対象の方になってくるかと思うんですが、この辺、もう少し違う角度、またこんな角度という形で押すと、相当違った意見も出るんじゃないかなと、そういう感じがあります。
 こんな形で、法の改革、国民一人一人がやはり、何というか、よく感じ、突っ込んでいかなくちゃいけないと。
 それで、一般に、私なりに思っていることは、この法の改正ということは、やはり自分が生きていく、自分のためのものじゃないかと。これをやはり守るのが当然であって、そうすると、今の状態ではどうも法そのものがちょっとずれがあるんじゃないかなと。今回は五十年からの改正という形ありますが、本当に何か相当後れているような感じがするんじゃないかなという感じを受けました。
 資料としてこの二枚目なんですが、そんなことから自分も、仕事をやりながら、ほかに農業普及員、協力者とか、そんな形で今知事さんの方から招集を受けてたまたま出るんですが、生きていくということには本当に大切なことがあるということは、特に日本、ドイツ、世界大戦ですか、その後に、同じ敗戦国が、ドイツと日本に関してはこんな開きになってしまったと。ドイツはもう九六%の自給率があるんですが、日本は四〇%を割っている、三八・何%というふうに言っていました。こんな開きになってしまったと。何がこういうことにしたのかなと。
 今、イラク戦争だ、何々戦争だといろんなことで派遣団いろんな形で行っていますが、これも実際、日本の国としてこのくらいの力があるのかどうかという感じを受けます。上辺だけでどうも本当に国民の下々の人たちは相当泣き寝入りするような形があると。武力戦争は駄目だよと、こう、野蛮な話もよくありましたが、こんな批判の陰にも、やはりこの経済戦争というものが出てきている。
 これは本当に、自分、白石におっていろんな形、あちらで倒産、こちらで破産、夜逃げだ、自己破産だ、何だかんだとよく聞きますが、本当に今となっては、金のむすり合いをやっているということが感じられます。本当にこの景気の低迷という、そのせいか、人間が本当に卑しくなっている。
 自分が店を開いて、大分、日本、各国からいろんな方が観光地として寄ってきます。余裕のある方は本当においしく楽しく食べていきますが、中には、やはり、もう何というか、がつがつしていると言った方がいいか、そんな形で試食ばかり荒らすような形があると。試食で言えば、よくデパートに行って物産展などもやってきましたが、最近の物産展の出店ということは相当考えなくちゃいけないということは、土日大変混みます、でも、財布はその家族のたった一人だけであると。その子供とか、じいちゃん、ばあちゃん辺りは試食荒らしにすぎないような形もちょっと出ていると、これが現状でございます。
 本当に、では、その家族はどこでどのようにストレスを解消するような、またいろんな憩いの場というのはつかむのかということは、やはり景気の低迷のせいか、なかなかこれができない。
 こんなことが、最近では白石でもよく感じられることが家庭の崩壊があります。離婚とか親子別れとか、それから非行に走ってしまうとかと、それからまた発生するのが知能犯であるという形があります。
 裁判所に足を運んで、ある判事さんから話を聞いたんですが、八月まで、去年の八月までは一日六十件ぐらいの調べ物があったと。でも、九月、十月、年明けてから八十件から九十件という件数に上ったと。それで、当人同士の、会わせると言うとあれですが、調停の中で話を出して会わせてしまうと、話というよりいがみ合いの感じを受けてしまって、本当に神経が疲れますというのが現状。そんなことを聞くと、いや、これはほうってはおけないというのが自分もよく感じます。
 それも、このストレスを解消するような場所というのが日本にもうなくなったんじゃないかなと。よく、昔の言葉では駆け込み寺ということがよく聞かれますが、これは、困ったときそこに駆け込むと。それで、住職さんとかそういう知恵のある方から生き方を学ぶと。今はこれが本当に見掛けられない。
 この間も河北新報に上がりましたが、立派な本堂、庫裏造ったものの、金が払われなくて、なかなかそれに住むことができないということを聞いています。すると、駆け込み寺に行っても、相談するより金の請求が来てしまうという形がございますので、私もちょっと感じとしては情けないなという感じ。この点、駆け込み寺ということについては、法務省でなされる今度の情報センターですか、こういうところをうまく活用する形が出るんじゃないかなと、相当期待しています。
 親としては、トンビがタカを産むというのが今はぜんそくのカラスになってしまうんじゃないかなという感じもあるので、なかなか情けないと。
 まあ、実を言うと、私、ここに来るまで、一週間の間、ちょっと点滴をやりました。随分過労もあるんです。だけれども、自分はこういうものに生かされているという責任を持って、協会のために、また家族、住民のため、皆さんのためにと思って、とにかく先生方にお会いして、現状がこういうので、法はまだまだうまくやっていただきたいと。
 それから、最後に、子供にこの法をどうにか植え付けたいなという感じを持っているんですよ。アメリカ辺りは特にこれは進んでいます。それが何年かすると、ちょうど子供を育てるころが山場になってしまうので、ここをよく考えていただきたいと。
 以上でございます。
#235
○団長(山本保君) ありがとうございました。
 次に、田岡公述人にお願いいたします。田岡公述人。
#236
○公述人(田岡直博君) 岩手県宮古市で弁護士をしております田岡と申します。
 いわゆる日本弁護士連合会、日弁連が設立しました公設事務所の所長としまして、本年三月一日から、現在のところ、ようやく二か月と半ばを経過したところでございますけれども、公設事務所、正に司法過疎地域の最前線でおる者といたしまして、どれだけ司法過疎地域において困った人がいるか、需要があるのかといったところを、正に今審理されております総合法律支援法案の中で司法過疎地域における総合法律支援ということが目的としてうたわれておりますけれども、この審理に当たりまして意見を述べさせていただきたいというふうに思っております。
 お手元に配付しております資料の方をごらんいただきたいんですけれども、いわゆる公設事務所というのが何なのかということについては、もちろん御承知の方もおられるかとは思うんですけれども、日本弁護士連合会が支援をして、全国の弁護士が一人又はゼロの地域、これをいわゆるゼロワン地域と呼んでおりますけれども、そこに公設事務所という名前で法律事務所を設置し、そこに若手の弁護士、あるいは希望する中堅どころの弁護士を派遣しております。
 現在のところ、私が二十二番目でしたので三十一、高知の安芸市まで三十一の事務所が設置されており、着々と公設事務所の設置進んでおりますけれども、それでもまだまだ弁護士が一人又はゼロの地域というのがかなりの数残されておるというのが現状でございます。
 また、公設という名前を打っておりますけれども、実際には弁護士会が内部で自助努力といいますか、月千円一人ずつ出し合って、それで支援しているというのが実情でございまして、正に本来的には国又は公共団体の方でやっていただけると非常に助かるといいますか、やってもらわないといけないところがなかなかそういう状況になっていないので、弁護士会の方でやっておるというのが現状ではなかろうかと思っております。
 具体的に岩手県の宮古市、どういうところにあるかというのが二枚目でございますけれども、管轄としては、宮古市のほかに下閉伊郡の大半を含んでおりまして、二千六百七十二平方キロメートル、十万五千人の人口を抱えております。二千六百といいますと、大体東京都とかあるいは大阪府と同じぐらいの規模かと思いますけれども、ここに弁護士が二人しかおりません。私が十三年の、本年ですね、十六年の三月に来るまでは弁護士一人しかおりませんでした。
 さらに、問題になりますのは、次のページの地図を見てもらいたいんですけれども、北の方に二戸あるいは久慈という地域があります。この二戸の管内には弁護士がゼロでございまして、南の釜石、遠野、大船渡に至っては、釜石にお一人、遠野に同じひまわり基金の公設事務所が一つありますけれども、ほとんどおりませんで、沿岸全体合わせましても四人しかいない。そのうち高齢の先生もいらっしゃいますから、実働で動けるのは二人しかいない。その中で、この岩手全体が大体四国と同じ面積がありますから、大体香川県と徳島県ぐらいを二人ないし四人でカバーしておると。人口的には三十万人ぐらいをカバーしておるというのが実情でございます。
 この二か月間でどれだけ相談があったかということを申しますと、その四枚目をごらんいただきたいんですけれども、二か月で百五十二人、百五十二件の法律相談を受けました。一日平均すると三・七人ということになります。これがどのくらいの数かといいますと、大体全国の公設事務所を見ても、北上や遠野、岩手県のほかの公設事務所でも大体年間五百件の相談を受けています。大半は、しかもその中が、債務整理あるいは家事、離婚、相続ですね、あるいは不動産となっておりまして、特に債務整理の問題についてよく言えますのは、個人ではどうしようもないというところでございます。
 確かに、借りたお金は返さなければならないということはよく言われますけれども、返せなくなったときにその取立てをどうやって止めるのか、どうやって返すような計画を作るのか、あるいは本当に返せない人についてはどういうふうな処理をして、その後の立ち直りを支援するのかということが問題になっておるんだろうと思います。
 実際に私が経験しました中で、例を挙げると幾らでも挙げられるところですけれども、東京の、いわゆるやみ金融業者、これは都知事登録業者でございますけれども、それに、家族、親類、あるいは近所、会社、さらには保育園まで脅迫電話が掛かってきた。あるいは、家族がサラ金の取立てによる借金苦でやはり自殺してしまった。これは大阪で報道されたケースありましたけれども、やはり沿岸でも同じようなことが起きております。あるいは、岩手県の登録業者に、返済が遅れたということで雨の降る中で道路で土下座するように強要され、その場で頭を殴られたと、そういうようなケースもあります。
 さらに、私自身も、いかに無法地帯かということを示す好例として挙げておきたいんですけれども、やみ金融業者にこういった違法な取立てをやめなさいと抗議したところ、私名義の、架空名義の偽造文書を作られまして、私の名義で多数のファクスをばらまかれるというようなこともありまして、正に無法地帯という名にふさわしい状況が正にここにはあるということになります。
 さらに、相談だけではございませんで、刑事事件ももちろんかなりの件数があります。当番弁護に関しても、一か月平均で二・五件ですから、年間で三、四十件、一人当たりが、派遣しておりますし、このほかに、当然私選ということで、あるいは法律扶助協会からの紹介によって受任する事件もあるわけです。一般民事事件、債務整理事件、合わせても二か月で百件を超える状況でございまして、これだけの事件を処理するのにどれだけ時間を取られておるかといいますと、実際は土曜、日曜、祝日なしで朝から晩まで働いても到底処理し切れず、現在相談が一か月待ちという状況です。実際、私は朝の九時から夜の一時まで働いておりますけれども、それでも処理し切れない。要するに、需要があるという程度ではなくて、本当に法律が行き届いていない。現状では全く地方のいわゆる司法過疎地域における住民のニーズにはこたえられていないというのが現状であります。
 これについて、本来であれば、やはり国ないし地方公共団体の方の公的な資金による援助というのがもっと早く検討されてよかったんだろうと思いますけれども、やはり今まで放置されてきたというのが実情であり、また日本弁護士連合会の方でも対応がここまでちょっと手後れといいますか、後れてしまったというところがあって、今になって公設事務所ということで私どもが実際に出向いて相談を受けておるというところです。
 そして、このたび総合法律支援法案ということで、総合法律支援センター、そういった具体的な構想が立ち上がってきたこと、これを私としては、もう画期的な法案であって、非常に高く評価したいというふうに思っております。正に地域の人にとって必要なのはそういった相談窓口でありまして、その後の具体的な解決が受けられるような、どこに行けば相談ができるのか、そしてまた、そこで具体的に解決してもらえるのかという正に差し迫った切実な問題なのでありまして、抽象的に需要があるとかないとか、あるいはその法をあまねく行き届かせるというようなところではなくて、正に今自殺しようかどうか悩んでいる人がその取立てを止めてもらえるのかどうか、あるいは実際にはもう払い過ぎていて、利息制限法に従えば百万円、二百万円の過払いになっているのにまだ二百万円残債がありますよということで請求されている。それを法に従って解決できるかどうかというところだと思います。
 利息制限法という法律があっても、それを使う方法を知らなければ全く何の役にも立たないのでありまして、せっかく国会議員の先生方が法律を作っていただいても、それを使う方法を知らなければ何の役にも実際立っていないわけです。それを、実際、地元の住民の方、国民の方に届けるというのがこの法案に期待されている役割ではなかろうかというふうに思っております。
 したがいまして、今後の法案の中で、ほとんどは方法書にゆだねられるということにはなるんでしょうけれども、やはり具体的にその問題を解決するのに見合っただけの十分な体制、人的、物的な体制というものが整えられなければならないだろう、また予算措置というものが講じられなければならないだろうというふうに考えております。
 実際、法律扶助協会が現在のところ支援を行っていただいておりますけれども、これにもやはり限度がありまして、盛岡の方でしか扶助協会の支部がなく、地方の過疎地域で援助を受けるのになかなか手続的にも、あるいは距離の面でもアクセスが容易でないということが実際あります。また、週に一回しか審査が開かれないために、例えば現実困っている人が一週間、十日待ってくれといっても、今、正に保育園の方に、子供のところに脅迫電話が掛かってきているのに、これを一週間、十日待ってくれというのはさすがに酷であろう。
 そういうわけで、私はどうやっているかといいますと、実際には報酬をほとんどもらわないで受任して事件の処理を始めたり、あるいは扶助協会が実際に援助決定になれば、普通、弁護士の報酬基準から見て半額ぐらいの基準で恐らく援助決定がなされると思うんですけれども、もうそれと同じ基準でいいですよということで受けてしまったり、実際には私自身がほとんど公的な役割を担っておると、そういうふうな現状でございます。
 ここのところを、少なくとも今の法律扶助協会のやっている制度以上のところを、やはり更に必要性があるんだというところで拡充する方向でこの制度を構築していただければ、こちらとしても大変有り難いというところです。
 実際にはいろいろと公的な資金を投入するということで、なかなか償還についても、お金のない人にはお金を出せないということもあるのかもしれませんけれども、実際に必要なのはやはりお金のない人でして、破産をするのにも残念ながらお金が掛かると、そういう制度になっております。そういうところでございますし、実際、私も相談を受けたときに、全財産六百円しかありませんという相談もやはり受けます。そのときに、六百円しかないんだったらばもういいですと、ただ郵便切手は掛かるので切手ぐらいありませんかと言って切手代もらって実際事件処理しているようなところあります。
 そういう現状を是非御認識いただき、そのためのやはり十分な予算措置がなければ何もできません。そういった予算をやはり十分に取っていただいて、その上できちんとした制度にしていただきたい。それで、センターを設置するに当たっては、是非、都道府県庁所在地だけではなくて、各ゼロワン地域に拠点を設けるとか、そこに相談を受ける弁護士との契約関係で弁護士がきちんと処理できるように、そこまで責任を持って紹介していただくとか、そういうふうな制度にしていただければ意味のあるものになるのではないかというふうに考えております。
 勝手な意見ではございますけれども、是非この法案が意味あるものとなることを切望しております。
 ありがとうございました。
#237
○団長(山本保君) ありがとうございました。
 次に、遠藤公述人にお願いいたします。遠藤公述人。
#238
○公述人(遠藤香枝子君) 一般市民として宮城県情報公開審査会審議委員を務めておりますが、本日も一般市民としての意見を述べさせていただきたいと思います。何分にも不慣れでございますので、本日は原稿を読むという形を取らせていただきたいと思います。
 閉ざされがちだった司法の場に一般市民が参画する裁判員制度の導入に当たって、まず我が国の一般市民の司法に対する意識の現状について考えてみたいと思います。
 一般市民の大方の人は、裁判所は遠い存在であり、裁判は専門家の行うものであり、別世界のことであると考えているのが現状ではないでしょうか。そこに降ってわいたように突如持ち上がったのが今回の裁判員制度ではないでしょうか。この制度が国民に受け入れられるためには、公権力によって一方的に押し付けられたとの印象を与えることなく、国民が自ら司法に参加できるような制度にしなければならないと思います。そのためには、国民の立場に立った制度の整備と、国民に対する十分な説明が必要であると思います。
 この裁判員制度は、市民の良識が審理過程や判決に生かされ、身近で開かれた司法が期待されますが、日本人は日常生活における法意識が薄く、議論にも不慣れであり、さらにマスコミ報道の影響も受けやすいことなどから、この制度の導入に当たっては慎重な検討がなされなければならないと思います。国民に開かれた裁判制度としてこの裁判員制度を定着させるためにも、積極的に広報活動を行い、国民の関心を喚起し、議論を沸き起こす努力をしなければならないと思います。
 法案では、守秘義務を始め公判期日の出頭、宣誓、誠実な職務、評議においての意見陳述などの義務が課されていますが、過剰な制約を付して義務という名の下で強制的に国民に負担を押し付けることのないように努めなければならないと思います。
 次に、法案について幾つかの問題点を考えてみたいと思います。
 出頭要請に対する辞退についてですが、例えば既に制度化されている年休にあってもその取得率は非常に低く、また自分たちが必要である育児・介護休業でさえなかなか取りにくいのが現状であります。これは、事業者、労働者、それぞれに理由があります。どうしても抜けられない仕事、他の人に代わることのできない仕事などもあります。また、給与補償の問題もあります。
 このような状況下で、国民の義務だから辞退できない、しかも罰則付きであるとしたら、国民にとって重過ぎる負担となり、どんなにすばらしい制度でも国民の支持は得られないと思います。辞退を認める範囲を広げ、罰則をなくし、また延期制度などを設けるなどして、徐々に快く引き受けられる制度に育てていく努力が必要であろうかと思います。
 自分たちの意見が審理過程や判決に生かされることの充実感を味わえる環境、裁判員になって良かったと思えるような制度になるよう、整備すべきであります。小学校高学年ぐらいから法律や政治に関心を持てるような教育やディベートの訓練をすることによって、国民の法意識や政治に対する意識の高揚を図り、成熟した市民社会を構築していく必要があると思います。
 次に、守秘義務についてですが、守秘義務は事件関係者のプライバシーなど個人情報に関することや評議の内容に関することがありますが、守秘義務の範囲の判断が極めて難しいと思います。例えば無意識で漏らしてしまうこともあり得るし、逆に罰則を恐れて必要以上に口を閉ざしてしまい、本人を萎縮させることにもなります。漏らしてはいけない内容の範囲、あるいは処罰対象になる具体例を示して、それが良識的な範疇であることを理解してもらい、無用な負担と不安を取り除かなければならないと思います。
 次に、取調べ過程の透明性についてでございますが、素人の裁判員が客観的に適切な判断ができるように、証拠の全面開示と取調べ過程の透明性が求められると思います。密室で作成される自白調書ではなく、自白の任意性や信用性が明らかで分かりやすいものとなるように、取調べ過程の透明性は不可欠のように思います。これが取りも直さず司法に対する国民の信頼と理解につながり、裁判の迅速化にもつながると思います。
 次に、合議体の人数についてですが、専門家の前で素人の裁判員がどれだけ自分の意見が言えるかが問題ですが、法案では裁判官三名と裁判員六名の構成になっており、これでは裁判官の数が多過ぎて、裁判員はなかなか自分の意見が言えず、裁判官に誘導されてしまうことが懸念されます。裁判員の確保が難しく増やすことが困難であれば、裁判官の数を減らした方がよいと思います。
 評決については、合議体全員の過半数で、裁判官、裁判員各一名以上の賛成を要するとありますが、少なくも有罪無罪の評決については全員一致とするべきだと考えます。人の一生を左右する問題に関与するのは避けたいとする国民の意見も多く聞かれますし、確かにそうであります。一票の違いで有罪無罪になることを避けるためにも、全員一致にするべきだと考えます。また、避けなければならない誤審の可能性をなくすためにも、全員一致にして、審理を丁寧にするべきだと考えます。
 最後に、任務終了後の裁判員の保護に関する措置についてですが、事件関係者からの報復に対するおそれなどの不安から量刑を軽くしたりすることのないように、また、このような裁判員の不安を取り除いて安心して引き受けることができるように、裁判員の法的保護及び任務終了後に嫌がらせ等の後難を受けた場合の相談窓口の設置を提案したいと思います。
 現状では、法案の議論の過程が一般市民にはなかなか見えてきません。具体的には、新聞、テレビなどを利用して法務委員会や国会の様子などを常に報道して、政治や法律を国民に身近なものにしなければならないと思います。三権分立の中で最も遠い存在であった司法が、今回の改革によって最も身近な存在になることを期待しています。
 また、司法制度改革の一つとして司法ネット構想が挙げられていますが、これは正に私たちが必要としていたものでしょう。これまで、突然事件に巻き込まれたときなど、だれに相談したらよいのか皆目見当が付かず、右往左往することが多かったのではないでしょうか。そのために事件の解決が遅れたり、悩み続けるというケースが多かったと思います。最近の社会構造等の変化に伴って、これまで予想も付かなかった事件やお年寄りがねらわれる事件が増えています。事件の当事者になることが避けられない時代になりつつあります。一本化した窓口の設置によって解決への道案内を受けることができるようになれば、安心して日常生活が送れるようになると思います。一日も早い司法ネットの実現が望まれます。
 以上でございます。
#239
○団長(山本保君) どうもありがとうございました。
 次に、天野公述人にお願いいたします。では、天野公述人。
#240
○公述人(天野清子君) 天野でございます。
 私は、市民が司法に参加することは、国民主権を一歩進める意味から望ましいと考えておりますので、その立場から申し上げたいと思います。
 欧米、G7各国ばかりでなく、多くの国が国民が何らかの形で裁判、司法に参加する制度を持っております。日本の後れは明らかで、司法改革の必要性というのを特に感じております。
 裁判制度、今回の裁判員制度がですね、主権者である国民の責務としてすべての人が進んで参加できるような、そして実効あるものにするためには、この裁判員制度に関してと、もうちょっと広く総合的に見て裁判の在り方全体の改革も一緒に進めていただきたいと思っております。
 まず一つは、だれでもが参加しやすいような制度にするためのバックアップ体制といいますか、支援を是非作っていただきたい。子育て中の人も介護のお年寄りを抱えている人も、様々な幅広い年代の人が参加できるように、だれでもが利用できる託児所、託老所、これは欠かせないと思います。また、介護のヘルパーを家庭に派遣する制度なども作っていただきたいと思います。
 これらは、利用者の立場に立った運営をしていただきたい。例えば、選任手続の期日という一番最初のところで出頭を求められたときに、ここで何の手だてもできなければシャットアウトされてしまいます、そういう方は。ですから、利用者の立場に立ってお願いしたいと思います。
 それから、雇用労働者の場合には、七十一条に雇用労働者が出ることに対して不利益扱いをしてはいけないという禁止の事項がありますけれども、これでは不十分だと思います。裁判員休暇・休業制度を是非設けていただきたい。これは、新しく作る場合には、裁判員休暇を労働者が請求しても与えない場合のペナルティーも設けていただきたいと思っております。
 また、だれでもが参加するという立場に立ちますと、第十五条の就業禁止事項、裁判員になれる人の制限があり過ぎると思います。もっと、これから司法を目指す人であるとか、司法書士、弁理士、あるいは自衛官、こういう人を制限する必要があるのだろうか、裁判員の立場でやっていただいた方がいいのではないかと思っております。
 また、各所に見られます不公平な裁判をするおそれのある者というのが裁判員になれないというふうになっておりますものは、大変不明確であると思います。これがその人の持っている思想とか良心とか、そういうものが関係するのかどうか、そういう点をはっきりさせていただければと思います。
 また、裁判員になった人、あるいは経験者、そういう方々の守秘義務についてですけれども、職にある者と終わってからを分けたり、職務上の知り得た秘密と評議の秘密を分けたり、改善の手だてがなされているようですけれども、まだまだ、いつまで、どういうことを漏らしてはいけないのかということが不明確です。裁判員を経験した人が職場や家庭に帰って感想を述べること、これは制度を多くの人に知ってもらうために大変有効だと思います。また、マスコミが取材をしてこれを報道すること、これも制度の趣旨を広める役割には大きいものがあります。必要以上に制限を加えたり禁止することがないように願いたいと思います。
 次に、だれにでも分かりやすい裁判制度にしてほしい。市民が判断を下しやすい制度でなければこれは生かされないと思います。大きな事件の裁判では、証拠として出される自白が本当なのか、あるいはうその強制されたものなのかということで、その任意性をめぐって争われることがよくございます。免田事件、財田川事件、松山事件、島田事件と、死刑囚の冤罪事件が日本では続いておりました、続いております。ここ宮城県では、昭和三十年に起きた松山事件というのがございます。犯人とされた斎藤幸夫さんという方が無実を晴らすのに、逮捕されてから二十九年掛かっております。そのきっかけとなりましたのは、二十年後にやっと法廷に出されてまいりました検察側の手持ち証拠、この開示、それと犯行の様子を述べた自白のテープが持ち出されたことでした。
 当時、マスコミとして取材に当たりましたけれども、犯人でなければ知り得ない状況を供述していると有力な死刑の決め手となった自白は、テープで聞きますと全くの作り物であることが手に取るように分かりました。テープのクレジットに、これは本人が自発的に述べたもので、何ら加除修正したものではありませんというクレジットが付いておりましたけれども、聞きますと、文章を読むとき特有の棒読みの棒読み調、また文章を読むときのとちり、それから時々、いいですかという取調べ官に対して意向を伺う声、さらに取調べ室に掛けてあります柱時計、バックに聞こえているその振り子の音が均等には時を刻んでおりませんでした。とちっているような録音でした。本人が言っているように、うその自白をさせられ、それを基に作り上げた調書を読まされ、何遍もテープを止めてやり直したという方が本当であることがはっきり分かりました。
 今、裁判員制度を導入して、これまでの裁判の在り方を変えようとするならば、この冤罪事件からの教訓を是非生かしてもらいたい。最初に検察に証拠の全面開示を義務付ける法の改正も行わせてほしい。また、捜査段階からの取調べは全部ビデオに録画、録音をして目で見ることができるように、この制度は一日も早く作っていただきたいと思います。一般の市民が裁判員として、常識、体験、生活からの判断を下すことができる、この制度を生かす道にこれはつながると思います。
 また、市民が直接裁判に参加するだけで裁判制度は本当に良くなるんだろうかと思いますと、裁判官と市民の合議で決めるこの裁判員制度、裁判官の数は三人は多過ぎて二人、裁判員は六人ではなく七人から八人ぐらいがよいのではないかと思います。また、その上に、裁判官の方も市民の目線に立って考える裁判官になってもらわないと、市民を形式的に参加させたというだけになってしまいます。この裁判員制度がそういう意味で裁判の迅速化、効率化にだけ目が行かないように、裁判所の体質まで変えて、本当に国民の人権が守れる司法、人権のとりでとしての司法になってもらうようにと思います。そのためには、裁判官も一般社会の常識が育つような、そういう裁判官の任用制度と人事制度の透明化など、この改革を進めることが裁判員制度導入に是非必要であろうと思われます。
 そのほかに様々ございますけれども、検証制度、この初めての、日本にとって初めての制度が導入された後、どのように効果があったのか、あるいは悪いところがあったのかということを検証する場合に、専門家の方がするのではなくて、裁判員を経験した方が入る、市民も参加した第三者による検証制度というのを設けていただきたいと思います。
 また、学校あるいは社会教育あるいは企業の場、様々なところを通じて、この裁判員制度の持つ意味を広く国民に知らしめていただきたいと思います。今、この裁判員制度が突如として出てきたような感覚を国民に与えておりますので、その不安から拒否反応が強く出ています。私は、国民が直接裁判に参加することによって、より開かれた市民社会が日本にできていくその第一歩であろうかと思います。
 国民主権に無関心な社会であってはならない。制度の後れは国民の意識の後れにつながります。そういう意味で、この悪循環を断ち切るためにこの制度をより良いものとして伸ばしていきたいと。そのための手だてを十分にしていただくようにお願いいたします。
#241
○団長(山本保君) どうもありがとうございました。
 最後に、佐藤公述人にお願いいたします。どうぞ。
#242
○公述人(佐藤正明君) ただいま御紹介いただきました佐藤です。現在、弁護士をしております。
 この公聴会の公述人ということで発言の機会をいただいたことに感謝をいたします。
 既に御案内のように、本公聴会の対象になっておりますのは三法案でありますけれども、これはいずれも私は密接不可分なものというふうに考えております。
 私たちは弁護士として日夜行動しておりますけれども、やはり刑事裁判において被疑者、被告人の権利というものをどう守るかということは、国民一人一人がその権利を害されるという危険を持っているわけですから、我々はそれに重大な関心を持ってやらなければいけないというふうに思っております。
 刑事裁判を国民のための司法にするという観点からすると、裁判の構成ということをどうするかということを論ずるのがいわゆる裁判所法案、国民の司法参加という問題でありますし、被疑者、被告人の人権あるいは弁護の在り方を含めた刑事訴訟法の改正という問題が本件の俎上に上っております。また、国民に公的弁護の機会を被疑者段階から広めようということを背景にして、総合法律支援法案といういわゆる支援センターの在り方の問題というものが提起されていると思います。
 国会議員の先生方は、政党の中で政府の人たちあるいは官僚の人たちとは付き合いの深いことだと思いますが、私たち日本弁護士連合会あるいは国民の一人一人の意見ということを取り上げていただいて、この制度が本当に国民に受け入れられる、それで、国民は分かったということを、やはり受け入れられていくことによって国民主権というのが実現されていくのではないかというふうに思いますので、是非ともその辺の配慮をお願いをしたいというふうに思います。
 この三法案につきましては、既に御案内だと思いますけれども、国民の自由と人権を規制、抑圧するものだということの批判が一方では強くあります、御承知のとおりだと思いますけれども。私たちは、かかる批判のないように、やはりこの法案をしっかりと根差して議論をしていかなければいけない。
 私はかつて、平成十一年度、日本弁護士連合会の副会長という仕事をいたしまして、その中でこの法案の出発というところを経験いたしました。また、刑事事件ということも担当しておりますけれども、先ほど天野公述人からもありましたいわゆる松山事件の弁護人の一人として活動いたしました。私たちが日弁連の執行部としてこの制度改革ということを思った思いというものをやはり国会議員の先生方にももう一度思い起こしていただいて、原点からこの刑事司法あるいは司法をどう改革するのかということを是非大きな視点で論じていただきたいというのが私の希望であります。
 この司法改革制度審議会が設置される前の私たちは執行部でありますけれども、そのときにやはり一番大きく考えたのは、やっぱり国民主権ということだと思います。
 御存じのように、司法が国民から、司法制度の中に国民を取り込んでいくという制度がない。そういう制度の中で本当に三権が国民の基礎の上に置くというためには、どうしても国民が司法参加していくということが必要だということを私たちは考えまして、いわゆる陪審制度ということを導入してほしいということと、もう一つは、今言った法曹一元ということを実現したいということを申し上げました。これはやはり、法曹が同じ国民の基盤の中から構築されるということが必要だという発想でありまして、この視野ということはどうしても必要だというふうに私も今でも考えております。こういう視点をやはり今後の審議の中で取り上げていただければというふうに考えております。
 当時、私たちは元東大の教授の平野龍一先生から、今の刑事裁判は閉塞状況だと、もう死んでいるというふうに言われるような状況の中で刑事弁護というのをやってきたわけですし、先ほどの天野公述人からありました松山事件そのものも、実に二十五人の裁判官は死刑を支持するという事件だったわけですね。一審、二審、最高裁と、三、三、五ですから十一。二回繰り返していますので、第一次再審やっておりますので。それから、第二次再審の一審段階がやはり棄却されている。こういう無辜の人間が処刑をされるという事態の中で、今の刑事裁判どう改革するかという思いを私たちはこの司法改革の中に期待したということでありまして、やはり重要な問題として、一方でやっぱり代用監獄問題、代用監獄問題といいますか、代用監獄の中で自白が取られているということを視点にこの改革を進めていきませんと、やっぱり小手先で、裁判員の数をどうするか、裁判体をどうするかというのは、今の御意見でもお分かりのように重要な問題ですし、それはそれとして私もそうだと思うんですが、やはりこういう自白の温床、自白の温床とされる代用監獄をどうするかということも含めて大きな視点で議論をしていただかないと、やっぱり刑事司法が良くならないというふうに私は考えております。
 また、私たちが証拠を扱うという場合に、事前に証拠を開示するという制度がどうしても必要です。これは、警察あるいは検察が集めた証拠というものを当事者主義というそういう名の下に、弁護人、被告人は自分で集めろというようなこういう議論が一方であるということは御存じだと思うんですが、これはやはりこの刑事裁判制度を国としてどうするかということを観点として持っているわけですから、同じ国あるいは地方公共団体の任務として集めた証拠をやはり国民が広く利用する。先ほど、裁判員の人たちもやはり見るということはどうしても必要なのでありまして、これが真実発見という、我々、刑事訴訟法の大目的にやっぱり合致するというふうに私は考えております。
 そういう意味では、今回の刑事裁判記録を国民に見せるか見せないかという議論、あるいは証拠を集めたものをどの程度開示するかという問題も、これも大問題でありますけれども、そういう大きな視点を背景にして今回のいわゆる証拠開示ということをどう考えるかということを是非とも御議論をいただきたいというふうに思います。
 裁判員制度で一言だけ申し上げたいと思いますのは、先ほどの、衆院の段階で大変政府原案に対する修正ということが行われたことは御存じのとおりだと思いますけれども、私はこの裁判員制度の中でやはり裁判員は六名ないし七名、それに対して裁判官をどうするかという問題は、やはり二名というのが一つの限度ではないか。
 私は、犯罪被害者の関係でイタリアに行ってまいりましたけれども、イタリアでも、あれは参審制なんですが、裁判官二人で参審員が六名ということですので。その中で私が感心したのは、やっぱり裁判官が参審員という国民と言葉が通じないといけないんですよね。私の言葉も恐らく面倒くさいことを言っているんですので国民に恐らく通じていないかもしれません。でも、裁判になったらそれはもう許されないんですよね。本当に参審員、あるいは裁判員の人たちが裁判官と話をして通じる、言葉が通じるということでなければどうしようもありませんので、やっぱりそういう制度の構築ということをどうしてもやっていただきたいというふうに思います。
 その意味で、三人の裁判官と六名の裁判員という人たちを考えた場合には、どうしても力のバランスが取れない。おまえたちは素人だからと、分からないんだという意識がどうしてもやっぱり抜けないというふうに考えられると思うんですよね。これではやはり信頼される司法ということはできないのではないかというふうに私自身は考えております。
 また、証拠の可視化という問題があります。先ほどもお話ありましたけれども、証拠を開示し、あるいは証拠を可視化するということは、集中審理をしていくという意味でも重要なことです。
 調書を読むというのは、恐らく裁判員の人たちには大変な作業だと思うんですよ。我々でも調書を読むのに、あれだけの膨大な資料をどんと渡されて読みなさいと言われたんでは、これはもう嫌気を差す。だから、できるだけ集中をして審理をするということはあり得るとは思うんですが、やっぱりその中でもできるだけ多くの事実、これは裁判員の人たちの意見もよく聞いて裁判体を運用しませんと、やはり変わらないねと、従前と同じ玄人の裁判官がやっていると、国民は付け足しだけじゃないかというふうに言われかねないというふうにも思いますので、その点は十分に御検討いただきたいというふうに思っております。
 私たちは、もう一言だけ申し上げますと、やはり国民から信頼される司法ということをどう作るかということが大目的でありまして、国民の代表、市民の代表が法廷の中に入ったというだけではやはり足りないわけですし、裁く側の論理だけが優先をするような刑事訴訟法ということを作っていったのではどうしようもないというふうに私自身も考えております。
 最後に、総合支援法案との関係で一言申し上げたいというふうに思いましたのは、先ほどもお話ありましたように、被疑者国公選ということが実現をされていくということが、今、目の前にあるわけですが、一定の限定があるとはいえ、これから被疑者段階でも公的な弁護人が付けられるということは、国民にとって大きなやはり権利の確保ということに私も思います。そういう意味では、支援センターの中でやっぱり実質的に弁護を受ける、そして弁護の経験というものを本当に国民が享受できるというためには、言うのはあれですが、やっぱり弁護士会、今までやってきた弁護士会、日弁連、各単位会の弁護士会、この意見を聞かないと、今までの実績が物すごくあるわけですから、やっぱりそれを重視する形で支援センターというものを作っていただいて、その中で、ノウハウというものを大変持っております。それから、弁護士会の関与ということを実現するような制度作りということをお願いをしたいというふうに思います。
 時間ですので、以上で終わらせていただきます。
#243
○団長(山本保君) どうもありがとうございました。
 以上で公述人の方々の御意見の陳述は終わりました。
 これより公述人に対する質疑を行います。
 質疑のある方は順次御発言願います。
 なお、質疑及び御答弁は御着席のままで結構でございます。
#244
○吉田博美君 自由民主党の吉田博美でございます。
 公述人の先生方におかれましては、大変お忙しい中を参議院の法務委員会の地方公聴会にこのように御出席いただきまして、それぞれのお立場から貴重な御意見、御提言を賜りまして、ありがとうございました。
 裁判員制度につきましては、最近はメディア等でも度々取り上げられておりまして、司法制度改革の柱として国民の皆さん方にも、万全とは申せませんが、かなり浸透してきたことも事実ではないかと思っておるところでございますが、そうした中で、また刑事訴訟法の一部を改正する法律案につきましては、裁判の充実あるいは迅速化の機運も高まってきておるところでございますし、また総合法律支援につきましては、先ほど来、田岡公述人がお話しになったように、まさしく司法の過疎地におきましては大きな期待が寄せられているところだと思います。そうしたことを踏まえた中で、限られた時間でございますが、幾つか質問をさせていただきたいと思います。
 まず最初に松田公述人と遠藤公述人にお伺いいたしますが、先ほど来、裁判員制度の導入に当たってのいろいろな問題点については御指摘されまして、なるほどなと、これが国民の皆さん方の声だなということを肌で感じたところでございますが、この裁判員制度導入に当たっての意義と、そして最も何を期待されているかということを、この点についてお二人方、お聞かせをいただきたいと思います。
#245
○団長(山本保君) では、松田公述人。
#246
○公述人(松田謙一君) 私も裁判所に通ったということは、裁判用語というか、どうも話をしていることがちょっと違う世界にあるんだなという感じがありました。でも、その審査員になってからいろいろとこう、かみ砕けるというか、分かるようになってきました。これが、やはり自分たちはもうあなた任せというか、法的なものは全部そういう法務省とか裁判所の方に行っているんじゃないかなという感じを持ったんですが、先ほど話しましたように、だれが自分を守るということを思っていくと、やはり法が守るということになってきますわね。すると、この裁判員にたまたま選出されたとなったら、本人も、もうこれは、何というか、犠牲心というわけじゃないんだけれども、大いにこの法に、法のために、国のためにという形で取り組んでいきたいと、勇気を持って裁判員になっていただきたいなと。これらの関心が、取り巻く人たちには相当いい普及が出るんじゃないかなと、その輪を広げていくのが当然じゃないかなという感じ持っているんですが。
#247
○団長(山本保君) では、遠藤公述人、よろしいですか。
#248
○公述人(遠藤香枝子君) 最近の選挙は、行われるたびに投票率が低かったり、国民の意識の低さが顕著であると思います。自分たちが参加するという裁判員制度の導入によって、自分たちが社会を支えているんだという、政治に対する、そして法に対する意識を高めることによって、人任せでない、自分たちが社会を作っていくんだということの意識を高めるためにも必要であろうと思います。
 それから、今、吉田先生おっしゃられたんですが、国民に大分浸透しているとおっしゃられましたが、ぼんやりとした形で、みんなが出なければいけない裁判員制度があるんだってよというようなことは私たち主婦の間でも話はあるんですが、きちんとした形で伝わってこないんですね。マスコミ報道も部分的な報道がありまして、断れないんだって、断ると罰則なんだってという非常に部分的に強調された形で広まっておりまして、きちんとした形で浸透していないということが一つの問題であろうかと思います。
 先ほども、ちょっと陳述の中で申し上げましたが、そういう裁判員制度の中身に対して、公権力とかそういうことではなく、自分たちが支えなければいけない社会を作るために必要なものだということが分かるような教育が必要ではなかろうかと考えます。
 以上です。
#249
○吉田博美君 先ほど来お話ございましたように、やっぱり教育という問題の中で、これは文科省もひとつある意味では絡んでくる問題もあるんじゃないかなと思っておるところでございます。
 そこで、私は、田岡公述人にお伺いいたしますが、総合法律支援制度について、これはもう完全に必要だということは私も認めているところでございまして、実は私は長野選挙区でございまして、私はその中の、南信地区といって下伊那郡というところの町の出身なんですけれども、ここも面積が、同じように、下伊那郡だけで香川県あるいは大阪府と同じだけあるんですけれども、人口が少ないものですから、飯田市という中核の市には弁護士さんはいらっしゃるんですが、一人もいないという、私が記憶している限り一人もいないというのが現状でございまして、いろいろな問題点が起きておりまして、先生、御就任されて二か月で百五十二件でございますか、そうした相談事があって、もう朝九時から一時ごろまでお働きになってもなかなか取り上げてもらえないと。しかも、先ほど来お話の中ございましたように、保育園の方まで取立てが来て脅迫があると。現実的に、今、先生に対しましてもそういうようなことが現状としてあるわけでございますが。
 そうした中で、やはり私は、司法の過疎化というものをいかに脱却するかということは、国民ひとしくみんな自分の人権を守っていくという点では極めて重要な法案ではないかと思うんですけれども、その総合法律支援の中核となります日本司法センターについて、それが利用しやすいものにするためにどのような工夫が必要だと先生はお考えでしょうか。お聞かせいただけますでしょうか。
#250
○公述人(田岡直博君) まだ司法支援センターの中身自体が明確でないところ、正直あろうかと思いますし、また、今後の方法書の方にどの程度ゆだねられるのかということもあるんでしょうけれども、是非私が、こういう制度になればよいなと私個人が考えているところは、現実に今どこに困った市民の方が相談に行っていらっしゃるかと申しますと、市役所、それから警察、それから生協、特に岩手ですと、岩手に信用生協という組織がありますから、恐らくそういったところだろうと思うんです。いきなり最初に法律事務所に相談に行く方というのはほとんどいらっしゃらない。
 そうしますと、今まで、市役所、警察ですと、ほとんど、まあ門前払いとは言わないまでも、ああ、そういうことがあるんです、困ったねということだけで終わってしまっていた。あるいは、実際何か力になりたくても、それ以上どうしようもない、自分たちでは、そこまでの権限がないということになっていたと思うんです。
 そうしますと、そういった関係機関との連携ということが一つ問題になろうかと思います。実際に、市役所の方が割と市民に近いところにあって、正に私どもに比べて更に前線にある、正に相談の窓口になっていると思うんです。そういうところに来た人を、そこで追い返すんではなくて、きちんと窓口まで紹介する、連れていくと。そこの総合支援センターの方で、更に具体的な解決が図れるような弁護士、司法書士、あるいは場合によってはそういったところじゃなく、もう直接裁判所というところを紹介して、そこにつなげていく、そういった連携が取れるようになりますと、その地方の中でのネットワークといいますか、具体的な解決までの道筋がはっきり示される、役に立つ組織になるんではないかなと思っております。
 二点目に、どこまでの権限がセンターの方にできるか分かりませんけれども、やはりある程度柔軟に、広いニーズをくみ上げられるようなものになっていないといけないんだろうというふうに思います。
 今、法律扶助協会の行っている扶助の制度とほぼ同じようなものが恐らくセンターの方でも行われるんだろうと思いますけれども、やはり扶助協会が現在行っているものでも十分ではないところあります。
 例えば、扶助で認められる範囲が必ずしも広くない。犯罪被害者支援に関しても、単なる助言だけではなくて、恐らく、証言に付添いとか、あるいは損害賠償とか、そういった一連のものを含んだ形での援助ができないと、ここまではできますけれどもここまではできませんよという形になってしまうんではないか。
 さらに、その扶助協会の援助に当たっても、先ほど申しましたように、盛岡まで行かなければいけないのかとか、審査に一週間も何日も待たなければいけないのかとか、そういったことございます。そういったところをより柔軟に、できる範囲でですけれども、もちろん、拡張する形で、より利用しやすいような制度というものを作っていただければなと。
 そしてまた、それを市など、公共団体などが恐らく広報ということで広く市民の方に知らせるように広報、教育ということも含めて、先ほど法教育という話もありましたけれども、そういうことも、できれば若い世代のところからやっていただけると大変有り難い、意味のあるものになるんではないかというふうに考えております。
#251
○吉田博美君 ありがとうございました。
 次に、天野公述人と佐藤公述人にお伺いいたします。
 捜査段階でのいろいろな物的証拠だとかいうようなものを全面開示をする必要があるということと、先ほど来お話が出た録音、録画の可視化のことでございますが、この点について、より分かりやすく裁判員がするために必要だということでございますが、一方、捜査機関からは、取調べ状況を録音、録画すると取調べが余りうまくいかなくなり、特に物的証拠のないような事件や、共犯事件で後ろに黒幕がいるような事件では困ることになるという声があるわけでありまして、これに対してはもちろん異論があるんではないかと思いますが、少なくともそのような懸念がないとは言い切れないと思うわけでございます。
 そうだとすると、特に治安著しく悪化している現在の状況の下で、そのような懸念のある方策を導入し、懸念されたような事態になると、取り返しが付かないことになるのではないかというような心配もあるわけでありますし、先ほどG7のお話ございまして、諸外国ではもう既に取調べ状況を録音、録画しているというのが常識化しているような現状なんですけれども、そのような国では、例えば、おとり捜査だとか潜入捜査だとか司法取引だとか録音、録画あって、そうしたものが、何と通信会話の傍受などが、取調べ以外に証拠を集めたり真相を解明する手段が広く認められているわけでございますよね。
 そうした中で、取調べ以外の真相を解明するための手段を広く認めないまま、取調べの録音、録画制度というか、可視化を導入すると、こういうことについていささか問題点があるんではないかと思うんですけれども、その点についてお二方からお聞かせいただきたいと思います。じゃ、佐藤公述人の方から。
#252
○公述人(佐藤正明君) じゃ、佐藤からお答えします。
 今の問題は、恐らく、私の方で考えていました供述の任意性という問題で先ほど言いました可視化という、被疑者あるいは被告人、被疑者段階ですよね、の任意性の確保ということの観点から可視化ということを我々は一つ大きく求めているんですが、任意性担保の方法というのは、確かに可視化でなくてもいろいろ方法はあるだろうというふうには思うんですけれども、やっぱり争われている事件、それから、自分が犯人でないと、それから、そこにある証拠は自分のものでない、これが捜査段階で詰め切れていないという、こういう捜査が一番私たちは問題だというふうに思うんですよね。
 つまり、自白に頼って事件を解決していくというこの姿勢が捜査段階にある限り、やはり私は冤罪というのはより広がるというふうに思うものですから、今先生おっしゃられた、捜査がきちんとされる、それは端的に言いますと、犯罪をきちんと捜査をして、一定の証拠に基づいて警察、検察が国民に対して、あなたは有罪であるということを立証していく作業ということをきちんとすれば、必ずしも自白だとかそういうものに頼るということでなくてもいいのではないか。今の警察あるいは検察の捜査の仕方、大変いろんな問題あるだろうと思うんですが、やはり、その姿勢がなくてと言うと大変語弊あると思いますが、やはり自白に頼り過ぎるというところが問題点としてあって、どうしてもやはり可視化という問題が、被疑者、被告人の立場からすると問題にせざるを得ないだろうと。
 それから、先生がおっしゃったその捜査の手段。確かに、これから刑事裁判をどのようにして運営していくかという問題では、捜査手段の多角化。
 私も民暴事件というのをやっておりまして、いわゆる盗聴の問題だとかおとり捜査の問題だとか、日弁連の中でもいろんな議論をして、一定の限られた重大犯罪というものについてどうするかという議論は、十分議論に堪え得るものだというふうに思います。しかし、それを一般的に、おとり捜査はしていいだとか、あるいは今言った盗聴していいだとか、これを一般的に広げれば、これはもう国民たまったもんじゃないというのが他方にあるものですから、やっぱり合理的な捜査、あるいは限定をしていく必要性。
 これは国際的にも、麻薬だとかけん銃だとか、そういう重大犯罪についてどうするかということは制度化されてきておりますし、日弁連での議論でもかなり前向きにその辺考えていいんじゃないかということもあるとは思いますので、その辺のバランスを取って捜査手段の拡充ということは必要であろうと私は考えておりますが。
#253
○団長(山本保君) では、天野公述人、簡潔にお願いします。
#254
○公述人(天野清子君) そうですね、いろいろなほかのこととの絡みでこの可視化というのを危ぶむ声というのがあることは承知しておりますが、その持つ重要な、効果の大きさということを考えますと、これは、そういうほかの様々なことは、別なところでしっかりと捜査を適正にやる手段は取っていただいても、その自白をしている取調べの中を見るということは大変意味が大きく、違うと思うんですね。
 それが一つ分かりましたのが、メルボルン事件というのがございまして、オーストラリアの方に観光に行った観光客が麻薬の運び屋というふうに利用されて、その罪を晴らせなかったというので、十五年の刑が四人、二十年の刑が一人、それで十年向こうに入れられて十年目に保釈して帰ってきた。
 それについて、これは冤罪だと言っているものがあったのですが、それをテレビの、ビデオで捜査段階のものを見ました。もうこれは明らかに通訳の不備というのがあったのですが、日本語がそのまま通訳されておりません。日本語をしゃべる人も日本のしゃべり方としての習慣に従ってただ言っているだけと、それを全く通訳できないという場面が明らかに見えておりました。それはどういうことかといいますと、あなたは荷物の中に麻薬が入っていたということを知っていたのではないですかという質問に対して、その女の人は、そんなことがもし分かっていたらとっくの昔に言っていますと、こういう答えしか言わない。ちょっと分からない、もう一度言ってくださいと。もしそういうことが分かっていたらとっくの昔に話していますと、こう言っても、それが自分の身の潔白を立証することになっていなかったと、そういうことが明らかに見えておりました。
 可視化というのの重要性というのを大変私は重く見ております。
#255
○団長(山本保君) ありがとうございました。
#256
○愛知治郎君 自由民主党の愛知治郎と申します。
 公述人の皆様におかれましては、本日、お忙しい中をわざわざ足を運んでいただきまして、そして貴重な意見を賜りましたことを、まずもって御礼を申し上げたいと思います。
 我々、一生懸命この国のためにということで、国会の場でいろんな法律、政策等を議論しておりますけれども、我々の範囲だけで議論していてもなかなか視点が狭くなってしまうことがあったり偏ってしまうことがあるので、皆様のようなそういう忌憚のない意見を伺うことというのは非常に貴重な時間でもございますので、どうか遠慮なく御意見をこれからも述べていただければ幸いかと思います。
 また、時間も限られておりますので、早速質問をさせていただきたいと思うのですが、先ほど吉田委員の方から、松田公述人、遠藤公述人に対しましてこの法律の意義ということをお伺いしたんですが、天野公述人と佐藤公述人にも同様な質問をしたいと思うんですが、お二人に関しては、少なくとも司法、国民の皆さんが参加をして、その意識を持つことによって司法がどんどん普及していくだろうというのが基本的な視点だと思うんですけれども、もしそれ以外に御意見として、この法律の意義を感じている部分がございましたら、御意見を伺いたいと存じます。
#257
○公述人(佐藤正明君) じゃ、佐藤の方から申し上げます。
 愛知先生も御存じのように、この司法改革の中で、裁判員の問題とそれから刑事訴訟法の改正、それから支援法案ですけれども、これは、国民が司法から遠い、合い言葉としては身近な司法という、よく利用しやすい司法というふうに私らも思ってこの司法改革というのはやっていかなければいけないというふうに思っているんですね。だから、国民が司法に参加していくということは、私たちの制度だと、この司法は私たちのものなんだというふうに思ってもらうその一歩だというふうに思って、私はこの司法改革は前向きにともかくとらえるというふうに思ってやってきました。
 やはり、そうですね、警察だとか市役所だとか、それと同じ程度とはいくのかどうか分かりませんけれども、そばにやはり医者と弁護士といるということが、やっぱり社会の安全というのはそうやって保っていくんだろうと思うんですよね。平和という問題も、戦争ばっかりの問題じゃなくて、日常的に私たちの安全が守られている、どこに行けばこういうことが解決できるのかというのが分かっているということに社会が作られていきませんとけんかになるんですよね、戦争になるんだと思うんです。そういう社会的インフラという言葉の表現いいかどうか分かりませんが、私たちの合い言葉としては、身近な司法だとか利用しやすいという、そういう意味での司法をどう作っていくかと。だから、公述人の方々もおっしゃっているように、本当に国民の分かりやすいようにしてくれというのはやっぱり使命だと思うんですよね。
 だから、この裁判員法案というのは、司法に参加していくということで司法に信頼を寄せ、ああ、私たちのものだというふうに考えていただくということと、それから、何かあったときはあそこに行けばいいんだよということで国民の人たちが利用できるという、そういうことを観点としてやってきたんだと思うんで、そういう意味で、この司法、今度の国会で議論されているのは、これが全部かと言われれば私もそうじゃないだろうと思うんですが、非常に重要な法案だというふうに思っています。
#258
○公述人(天野清子君) 大きくその意味というのは先ほど述べたとおりでございますが、もう一つ考えられますのは、今だんだん増えてはいますけれども、司法の場に女性の参画が少ないです。女性の判事の今、数、一二・二%という、そのほかに弁護士も、あるいは判事補と言われる方も検察官も、司法の場で女性が参画するということは大変少ないんですね。
 そうしますと、今いろいろな問題があるときに、やはり女性の立場がもう分かるという、子育て中の方であるとかそういう方も、裁判員としてはアトランダムに集められてその中から選ばれるわけですから、そうしますと、女性の数というのが裁判員の中では、やはり今の裁判所の公廷の中に、法廷の中にいる割合よりももっと多くなってくるんじゃないかなと、そういうふうな効果といいますか、そういうものも期待できるのではないかと思っております。
#259
○愛知治郎君 ありがとうございました。
 今、天野参考人から女性のというお話が、公述人から女性ということございましたけれども、私自身も司法試験をちょっとチャレンジした経験があるんですけれども、実を言いますと、あの試験は合格率からいうと女性の方が圧倒的に高いという話を聞きまして、これからどんどん皆さん参加されるんだろうなというふうには思いますけれども、また、やはり参加をしてどんどん司法への意識を高めるということ、これすごく重要なことだと思いますし、公述人の皆様はこういうことに非常に参加意識を持たれて、問題意識を持たれて今日もここにいらっしゃっていますし、傍聴に来られている方々もこのように関心を持たれているということだけでも本当に有り難い話なんですけれども、まだまだこれからだと思いますし、それから問題もたくさんあると思います。
 一点、私自身も、これ個人的なことで大変恐縮なんですけれども、裁判員ということで裁判に参加をするその責任の部分、これを非常に危惧するというか、憂えている部分でもあるんですが、といいますのも、実は私の個人的な話で恐縮なんですけれども、私の祖父が法務大臣というのを経験しておったのですが、そのときに、小さいころに聞かされた話ですけれども、やはり死刑という判決が下った者、これに対して許可を与えるというか、判こを押すんですね、最後に。それだけは嫌でしようがなかった、手が震えて。しっかりとした議論を踏まえた上での判決だけれども、その仕事だけが私にとっては本当に重荷だったという話を聞きました。
 本当にこうやって参加していただけるのは有り難いんですが、やはり重大な決断をしなければならない、人の命が、天野公述人もおっしゃっていましたけれども、間違いがあるともちろんいけないですし、重要な判断をしなければならないその責任について、責任の重さについて、これはできるだけ負担がないようにしなくてはいけないんですが、どのようにとらえているかということを遠藤公述人また天野公述人に御意見を伺えれば幸いかと思います。
#260
○公述人(遠藤香枝子君) 責任の重さを強調されてしまいますと、なかなか、素人の裁判員が拒否してしまいたいという気持ちはだれしも感じるところかと思いますが、確かに、人の一生を左右することということに対する責任は重要であると考えますが、先ほども述べましたように、裁判員の数をちょっと多くしまして、その話合いの中で、素人であるけれども忌憚のない意見を出し合える、それで、先ほどから皆さんもおっしゃっておられるように、きちんとした証拠とかそういうことが出されて、話合いの証拠などがそろった段階で、それで素人でも責任を持って話合いをできる。これは、こんなことを言っちゃいけないんじゃないか、裁判官の人はそう言っているんだからこうじゃないかということではなしに、一般市民として、国民として、責任のあることというのはみんなで議論を重ねることによって果たせていけるのではないかと信じております。
#261
○公述人(天野清子君) 人の人生を左右するような重大な事件に自分がかかわるということは本当に身の引き締まる思いがするかもしれません。しかし、それは、裁判官であれ裁判員であれ同じだと思います。そこで、本当にその人の罪に合ったものかどうかという議論が徹底的になされて、みんなの合意ができるということが大事なのであって、そのときに、裁判員だから、裁判官だからと、裁判員もその責を分かち合うというその覚悟はしなければならないと思います。
#262
○愛知治郎君 ありがとうございます。
 そのような高い責任感というか、お持ちでおられるのは本当に頭が下がる思いであります。
 ただ、そういうことでありますから、今度は守秘義務について私の意見と、皆さんの御意見を伺いたいと思ったんですが、少なくとも、それだけの責任を負われた方々をこれはどうしても守らなくちゃいけないということで、私自身はその評決それから量刑の判断に関しては、これは守秘義務をしっかりと課していくべきだと思います。
 というのは、本人の問題というもの以上に裁判員の、ほかの裁判員の方々を守らなくてはいけない。例えば、あの人はこういう判断をしていたということが表に伝わってしまいますと、事件の関係者の方々に恨みを買ってしまったり、何か被害を受けるという可能性がありますので、それはどのような判断を一人一人が下したかということだけはどこまで行ってもしっかりと守っていかなければ、怖くて判断ができないということになりかねませんので、その点、私はしっかりとその点の守秘義務だけは守るべきだというふうに思うんですが、この点についても、遠藤公述人と、また今度は佐藤公述人にも御意見を伺いたいと思います。
#263
○団長(山本保君) じゃ、佐藤公述人、よろしいですか。
#264
○公述人(佐藤正明君) そのとおりだと思います。
 評議の秘密というのは、これは守らなければいけない。裁判体の中でどういうことを、証拠に基づいてどういうふうに判断し、その結果こうであったということは、これはもうある意味でその参加する人たちの自由なる判断というのが基になっているわけですから、それが、いや、表に行って知られるかもしれぬというんでは、これはもう裁判になりませんので、評議の秘密というのはもう私はそのとおりだと思います。賛成です。
#265
○公述人(遠藤香枝子君) 守秘義務に関する罰則はある程度やむを得ないかと思います。
 それで、守秘義務ということが一般市民にとって、守秘義務に関して、何ですか、守秘義務ということで非常に重い責任ということが負担になってくるかと思いますが、それが、先ほど述べましたが、どういったことがいけない、いけないというか、話してはいけないんだよというようなことを具体的に、こんなことは分かっているんじゃないかということではなくて、もうだれが裁判員になるか分からない制度ですので、本当に具体的にこういうことはいけないんだよというようなことを子供に教えるということではないんですが、具体的に話すことによって一般良識そのものが育っていくような気がするんですね。
 考えてみますと、守秘義務の範疇というのは本当に良識的なところだと思いますが、しかし様々な人がなり得る可能性がある制度ですので、こんなことは当たり前だよということではなくて、守秘義務の範疇というか、その判断の仕方みたいなものをですね、具体的に知らしめていくことが、今回の制度だけではなくて、一般市民のそういった、人のことを言うことがどういうことにつながるかということにもつながっていくのではないかと思いますので、暗に守秘義務は、駄目だよ、罰則が科せられるよということを、簡単にそういう意識を植え付けてしまうのではなくて、守秘義務の内容といいますか、それが本当に一般市民の良識的な範囲であるということの理解を求めていくことが必要ではないかと思います。
#266
○愛知治郎君 ありがとうございます。
 ちょっと時間の関係上、田岡参考人にも総合法律支援法案について伺いたかったんですが、時間が来てしまいましたので、最後に松田公述人に一点だけ、いろんな経験をされてきたということではありますけれども、この裁判員制度を導入されたときに、これは感想で結構ですので、松田公述人は参加をしたいと思うか、今までの経験踏まえてやってみたいと思うかどうか、率直な御意見を聞かせていただければ幸いかと思います。
#267
○公述人(松田謙一君) これは参加します。
 それで、いろんな責任問題も出ていますが、参加すればそれなりの努力、また人を裁くという、相当な位の立場に就かなくちゃならないと思うんですよ。これはなってからの努力だと思います。そこに至らなければその裁判員として却下してもいいんじゃないかなという感じを持っています。そのぐらいの厳しさを持たなければ人を裁くということはできないと思います。やはり、人格者になるということがいかに大切であるか、こんな感じを持っています。
#268
○愛知治郎君 ありがとうございました。
 時間が限られていますので、今の御意見は、この時間内でしかないんですが、機会があれば是非どんどん、我々、より良い制度を作ろうと思ってまた勉強してまいりますので、御意見をいただければ幸いかと思います。
 ありがとうございました。
#269
○角田義一君 民主党・新緑の角田義一と申します。
 公述人の皆さんから大変貴重な御意見をいただきまして、心からお礼申し上げます。
 まず、遠藤、天野、両女性の公述人に是非お尋ねをいたしたい。別に女性だからというんじゃないんですけど、お尋ねしたいんですが。
 私も今回の裁判員制度というものについては、国民が従前、司法の分野においては、どちらかといえば統治の対象、統治される側という、それが今度は統治する側といいましょうか、社会秩序を自ら作っていかなきゃならぬということですから、これは日本の民主主義の質の変化という、長いスパンで見た場合に、大変大きな私は画期的な意義のある制度改革、ある意味で司法革命だというふうに私自身は思っております。
 ただ、いろいろな世論調査等を見ますると、まだまだ余り浸透していない。裁判員制度そのものも浸透していないと同時に、一番私が心配しておるのは、じゃ、あなた裁判員になった場合に、裁判員としておやりになりますかということについては約八割ぐらいの人が嫌だと、やりたくないというふうにおっしゃっている。大抵の統計、まだ現時点はそういう統計ですね。これ、八割近い人が嫌だと、裁判員になりたくないということは非常に私は深刻な事態だと思っておりまして、特に女性の皆さん方がいろいろお集まりのときにこの裁判員制度についてどういうようなことが会話で出てくるのか。そして、もし嫌だというのはどこに嫌だと、何が嫌なんだというふうにお二人は思われますか。そのことについて率直に、こういう機会ですから、お話しいただければ有り難いと思います。
#270
○団長(山本保君) では、遠藤公述人、お願いします。
#271
○公述人(遠藤香枝子君) できれば人の一生を左右することに携わりたくないということが本音であろうと思います。
 それから、子供の時代を考えますと、受験勉強一本やりで、法意識やら政治に関する関心を持てるような教育というのは皆無に近かったように思います。
 少し離れるかもしれないんですが、イギリスにちょっと滞在していたときの話を申し上げますが、どこのチャンネルをひねっても、ディベートで政治に関すること、法に関することがなされておりまして、中学生ぐらいの子供たちでも自分の意見というものがあるんですね。政治や法律のことだけではなくて、すべてのことに対して自分の意見があって、話合いができると。その辺の主婦の人でも、ちょうど湾岸戦争のころだったんですが、御自分の意見を話されて、私はもう困ったことでノーアイデアだというような意見が日常茶飯事で話されているというのが一般市民の生活のありようでした。それに比べまして私たち日本人は、悲しいかな、そういうことに対する意識が薄かったように思います。
 昨日、ちょうど同じような仲間と出会うことがありまして、裁判員制度のことを私が持ち出したのではなかったのですが、裁判員制度が何だか私たちにも来るみたいだけど、どうなるんだかねというような感じでおりました。しかし、その中にはやってみたいよという方も確かにおられましたので、少しほっとしたところもございます。
 それで、御質問にちょっと離れるかもしれないんですが、辞退できる制度、項目として七十歳以上の人、それから学生、生徒ということが挙げられていたように思うんですが、できるだけ辞退を認める範囲を広める代わりに、辞退できる人の項目を増やすことによって、先ほど、昨日お話を聞いた人は、私は七十過ぎているからもうやらなくてもいいんだけどねというような意見がございましたので、できる項目として具体的に挙げる項目では、今私が申し上げた少なくとも二つの項目に関しては具体的に挙げなくてもいい項目ではなかろうかと思います。
 済みません、長くなりましたが、以上でございます。
#272
○団長(山本保君) では、天野公述人。
#273
○公述人(天野清子君) そうですね、女性だからというふうに特定して嫌な人が多いのではないと思います。ですから、女性の場合、どうやったら参加しやすいのかと、そこを考えていただきたいと思います。
 今みんな、皆さん、市民が出たくないというのは、やはり前の方も、遠藤公述人もおっしゃいましたように、議論をする日本人の習慣がないであるとか、あるいはこれまでのずっと為政者の在り方によって、国民は言ったってしようがないんだ、何にもならないんだというような意識が蔓延しているというようなこと、そういうことが一つネックになっています。それは女性も男性も変わりはないと思います。
#274
○角田義一君 佐藤先生にお尋ねいたしますが、参議院で今この法案いろいろ議論していますけれども、裁判員制度を本当にきちっとした制度にするためには、証拠開示だとか、あるいは可視化ですね、取調べの可視化というのがもう大変重大だ、重要だと思いますけれども、必ずしも今までの検察なり警察の長年の伝統からすると、この可視化ということ、特に可視化ということについてはすごい抵抗がある、ありますよ、答弁聞いておっても。回りくどいことを言っていますけれどもね、抵抗がありますよ。
 これ、抵抗されて、このまま行ったんでは私は裁判員制度というのは成立しないと思いますね。それは、裁判員の皆さんに証拠の任意性、要するに供述が本当に何のあれもなく任意にできたかどうかというようなことまで一々全部今度は法廷でやるなんということになったら、これはお巡りさんに来てもらう、あるいは検事さんに来てもらって、そこであなたはどういうおしゃべりしたなんということまでやったら、これはもう大変なことだと私は思うんですね。
 先生の御経験で、このやっぱり可視化ということについて、非常に今抵抗がありますよ、まだ。いろいろ協議会を設けてやるようだけれども、抵抗があると。これは何とかしなければ私はこの裁判員制度というのは機能しないというふうに思っていますけれども、いかがですか。
#275
○公述人(佐藤正明君) 先生おっしゃるとおりだと私も思うんですね。
 私が考える裁判員の人たちが、つまり国民が司法に参加してきたときに、今の法廷というのは、極めてプロの集団が言葉を、何をしゃべっているのか分からない法廷を国民に見せているわけですから、これはもう国民の方でも、法廷に行きますと、何やったかという、終わったんですかという質問が弁護人の方にも来るほどよく分からない。その可視化というのは、やはり今のここの裁判で何が行われているかということを明らかにする作業、それを通じて真実を発見するということだと思うんで、むしろ裁判員の人たちが、まあ予想ですけれども、要求すると思うんですよ、むしろ可視化してくれと。このまま、調書を読みなさいだとか、あと、これはあっちと関連している、こうしなさいだとか裁判官から言われて、それはそうなんだというんではなくて、やっぱり私が現にどう捜査は行われているのか見せてくださいというふうに言われたときに、それに堪え得ないような捜査、やっていませんだとか、また警察官が出てきていろいろしゃべるような制度では、その警察官が問題だといって裁判員の人たちも問題にした場合は、やっぱりきちんとして私たちに見せるような、公正なんだと、これが公正に証拠化されているんだということをむしろ私は裁判員制度ができることによって促されていくんじゃないか。
 しかも、先生がおっしゃるように、裁判員になったら、それがなければ判断に狂いが出てくるし、何のために自分たち、まあプロの集団の後追いだけしているんじゃないかというようなことになると思うので、自ら裁判員の人たちが裁判をして判断をしていくというためにはやっぱり是非とも必要だと思いますし、警察あるいは検察の方で大変だというふうには確かにおっしゃる向きもあるんですが、他方では、そうだね、やらなきゃいけないねという法務省、検事の人も警察の人もやっぱりいると思うんですよね。これは時代の流れですから、是非とも先生方のお力でといいますかお声掛けで、それはもう変えていくんだということを言っていただきたいというのが私の希望ですね。
#276
○角田義一君 あともう一遍、裁判員と裁判官の数でいろいろ御意見がありましたんですけれども、今御案内のとおり、ちょっと専門的な話になって申し訳ないけれども、刑事とか、刑事の裁判官というのは部制というのを取って、三人の裁判官がいつも一緒でしょう、大体朝から晩まで。御飯も食べ、会話もし、お酒も飲みとやっているわけだよ。そういう三人の裁判官が人間関係できちゃっているわけですよ、いい悪いは別にして。
 今度六人来るわけだ。三対六ですよ、極端なこと言って。この三人が六人にお説教、あれですよ、説明し、もし、がっと掛かられたら、これは容易でないと思うんです。私は、だから、仮に三対六にしても、この部の制度というかな、朝から晩まで三人寄っ付くらっている裁判官じゃない、ばらしちゃって、せめてそういうふうにしなきゃ、とてもじゃないけれどもど素人さんは耐えられないんじゃないかと思うんですけれどもね。佐藤公述人に。
#277
○公述人(佐藤正明君) 何だか私、初めて聞く議論ですのでちょっとあれですが、確かに裁判所は三人常に一緒になっていますから、ほかから云々言っても言うことを聞かないという部分は必ずあると思いますし、先生おっしゃるとおり、裁判員の人たちが議論をしようと思っても、既にこうなっているんですがというふうに押し付けられるということはそのとおりだと思うんですね。
#278
○角田義一君 そういう危険があるということですね。──そういう危険があるということですね。
#279
○公述人(佐藤正明君) 危険があるんです。それで、そうですね、それをばらせというのが、私も直ちに答えられません、それがばらしていいかどうか。
 やっぱり、一つ一つ、裁判体というのは、裁判官自体も事件をしっかり見て、裁判員の人たちと話ができる努力というのをしていくことが私重要だと思いますので、その一環としてばらすのも必要であれば、それはそれでいいんだろうというふうに思いますが、ちょっと私分かりません。
#280
○角田義一君 最後に、田岡先生にお尋ねしますが、大変御苦労されているようで、頑張っておられますけれども。わずかの期間で御奮闘されておるんですが、二つちょっとお聞きしますけれども。
 これは大変御無礼な質問でお許しいただきたいと思うんですが、どういう御身分で来ておられるわけですか。日弁連からはどういう御身分で来ておられるかというようなことと……
#281
○公述人(田岡直博君) 本日、本日ですか。
#282
○角田義一君 そうそう、そうそう。
 それから、もし当たり障りがなければ、およその待遇というか、そういうものはどんなことになっておられるのか。基礎的なものを日弁連で保障されるのか、生活の基礎とかいうのをね。そういう問題と。
 あと、先生の御経験で、例えばこの宮古の地で何人おれば、先生は今お一人で大変な御奮闘されておるけれども、何人おれば何とかこのニーズにこたえるというか、満足できる対応ができるというふうにお考えですか。その三つ、三点。
#283
○公述人(田岡直博君) 本日は私、日本弁護士連合会を代表しておるわけではありませんで、公設事務所の弁護士として意見を申し述べておるという次第でございます。もちろん、お誘い自体は日弁連の方から公設事務所ということで派遣されておりますので、だれか公設事務所の実情というものを、最前線でどうなっているかということを話せる者がおらぬかというところでお声を掛けていただきまして、是非私の方で報告したいというふうに申し出て、本日こちらに参った次第でございます。
 待遇につきましては、こちら公設事務所というふうにはなっておりますけれども、基本的には、私が事業主で、完全な自営業です。自分で売上げを上げて、経費を差し引いて生計を立てるということになっておりますけれども、ただ、それではさすがに、例えばもうからなかった場合どうするのかと。当然、私もまだ二十六なんですけれども、若いので不安に思うだろうということで、日本弁護士連合会の方から最低保障といいますか、仮に仕事を頑張ってやっても所得が一定水準に満たない場合は、そこは日弁連が保障しますよと、そういうこともありますし、あるいは開設のときに、開設、事務所を作りますときに、もちろん選挙事務所と同じでして、賃貸借契約を結んで、備品を買って、コピー機やファクス機を入れて、いすを買って、応接セットをと、そういうふうになりますとかなりの金額のお金が必要になりますから、それについては援助を受けると。
 日弁連の方からは、具体的には五百万円までは援助しますよと、それは弁護士会の方で一人千円ずつ月積み立てたお金をそのまま出しますよと、それから運営に困った場合は貸付けもできますよと、そういうような援助を受けてやっておりますが、収支決算でどのぐらい、要するにもうかるかもうからないかというのは私個人の裁量でして、そういう意味では、具体的な委任を、幾らで受けるかというのを私の裁量にゆだねられているところありますから、困った人にはなるべく安い金額でやりますし、ある程度払える人にはそれなりのというふうにやっております。
 具体的に何人おればよいかということですけれども、一つ、恐らく日弁連の方で少なくともというところで挙げていらっしゃるのは、三万人いれば弁護士一人は経営は成り立つだろうと、そういうふうに恐らく現時点では言われていると思うんです。
 ただ、私はもっと必要なんではないかと思います。というのは、私、相談をたくさん受ければ件数はもっと減るかと思っていたんですけれども、実際にはどんどん増えていきます。なぜかといいますと、潜在化されている需要がその都度掘り起こされますから、相談者が相談者を連れてきてしまうんですね。ですから、二か月で百五十件受けたから総需要が減るかといいますと、かえって増えている状況にありまして、あなたも相談に行きなさいよというふうにうわさが広まって、どんどんどんどん増えて、今一か月待たないと相談を受けられない、そういう状況なんです。
 ということになりますと、実際には、少なくとも各支部には一人必要でしょうけれども、宮古ですと十万人おりますから、あと一人二人来ても全く生活には困らない、もちろん司法支援センターができても恐らく仕事が手一杯になるだろうと、そういうふうには考えております。
#284
○角田義一君 ありがとうございました。
 終わります。
#285
○小川勝也君 民主党・新緑風会の小川勝也でございます。
 大変貴重な公述人からの参考意見を伺いまして、大変勉強になりました。四人目の質問になりますので、本当は人はいいんですけれども、ちょっと曲がった質問などもさせていただきたいと思います。
 まず最初、松田公述人にお伺いをしたいと思いますが、司法制度改革で片付けることのできない昨今の私たちの国が抱えている様々な問題に言及をいただきましたこと、同じ共通認識を持つ者としてなるほどなというふうにうなずかせていただきました。
 この裁判という考え方でありますけれども、様々な書物で勉強したところによりますと、欧米の契約社会に対しまして、日本の伝統文化が裁判とか訴訟とか契約を慣れ親しんでこなかったということも今日に結び付いているんだろうというふうに思います。私は、例えば地方でいいますと裁判ざたという言葉があって、一般市民はなるべく裁判所や弁護士さんにお世話にならないで一生を終えたいと思っていたのではないかなというふうに思っています。
 しかしながら、最近は治安も悪化しています、犯罪の質も多様化しています。そして、刑務所が満杯になっているという問題も抱えています。そして、松田公述人からのお話がありましたとおり、何か世知辛くなってしまった、人間の卑しい面が出てきたんではないかというふうに言われています。日本のいい面をまた取り戻すことは本当にできないんだろうか、私たちの国が今までの日本のいい部分を捨て去って、欧米の裁判制度、司法制度に学ばなきゃいけない、本当にぎりぎりのところまで来てしまったのかどうか、そのことについて松田公述人、そして佐藤公述人の御意見をお伺いしたいと思います。
#286
○公述人(松田謙一君) 法的なことに関しては確かにこれぞという答えはございませんが、今海外、特にアメリカそれからソ連の方ですか、日本のすし、これが大ばやりである。私もこの件についてある病院の院長先生にちょっとお尋ねしたことがあったんですが、日本人が賢くてどうして長生きするかという形がこの辺に絡んでおるというわけなんですね。
 それで、今、小川先生の方から話ありましたように、伝統的な形というのは、日本の場合は古典、技術というか、そういうことを大事にしていたと。法的には難しいことがあるという形で受け入れなかった点は確かにあるかと思うんですが、当時と違って、今、私は白石に住んでおっても東京を日帰り二回できる時間になっているんですよ。そうすると、終戦後に法がちょっと改革されて、それが投げっ放しで今日まであるということは、時代の流れに沿った法になっているかどうか、この辺の見直しが相当強いと思うんです。それがすべて、経済においても、いろんな私生活の私たちについても、これがもうひずみが来ていると。
 本当に、確かに裁判員という形のこの改革だけであるんですが、ほかにまだまだもうやらなくちゃいけないことが相当あると。さっきも話したように、本当に子供のうちからこういうことを意識させるというような形でいかないと、このままほっておいたら大変なことになります。確かに、この法は改革しなければもう日本は壊滅しちゃうんじゃないかなというような感じも、そんな懸念さえも感じるという形なんで、是非その辺は改革すべきことは改革しなくちゃいけない。ただし、国民も、もう生き返るというか、そのぐらいのやっぱり気持ちにならないと、これで満足だからいいわという時代じゃないと思うんですよ。ここを強く追求したいと思います。
 なお、やはりその立場になったらもう真剣に、私も法を守ってあげるんだ、作ってあげるんだというような気持ちにならないと、国というのはもっていけないんじゃないかと、そんな感じもあります。
#287
○公述人(佐藤正明君) 大変難しい問題だと思うんです。
 裁判ざたというのは、こういう職業していますけれども私も余り好きではありませんし、やっぱり先生言われた、日本伝統のという意味で大切にしなきゃいけない技とか美徳だとかお互いに思いやりを持つ心だとか、これは大変そのとおり必要だと思うんですが、私はもういや応なしに、今、世界の情勢の中で契約あるいは法的な紛争解決、これはもう避けて通れないというふうに思うんですね。
 それで、今までの解決基準というのは私たちどう考えたかというと、やっぱり人の支配から法の支配へという、これも大きな理念だと思うんですが、やっぱりその社会作りというのをここからしていくというふうになると、そうですね、裁判所に日常的に出入りせいというふうに私も言っているわけじゃありませんけれども、やっぱり身近にそういう人がいる社会を作っていくということは私は重要だと思うんですよね。
 その中に一番やっぱり重要に考えなきゃいけないのは、もう人という、和というのが、どう考えるかいろいろあると思うんですが、人ということで非常に重要な部分を解決していくんですが、どうしてももう紛争起きるんですよね。貧富の差もありますし、力も違いますし、訳の分からないことを言われたり、いろいろしますから。そういう人間関係というのが、そういうふうにして一つのくくりでできないやっぱり社会というのが世界的にも生まれてきているというときに、やはり私たちは法の支配、これはもう支配というとちょっと押し付けるようであれなんですが、やっぱり人と人との関係を法律に従って規律していこうという法意識というものが私たち社会を作るときに必要なんだと私は思って、残念かもしれませんけれども、そう思っていますね。
#288
○小川勝也君 続いて、いろいろな質疑の中で名前の出てきました裁判官、これ職業的な判事さんのことでありますけれども、実は角田委員は佐藤公述人や田岡公述人の先輩に当たりまして、我々の民主党・新緑風会の中にはいわゆる裁判官を経験した仲間も二人おります。すばらしい仲間でありますけれども、テレビやそのほかのメディアを通して、私も実際その二人以外は知らないものですから、裁判官というのは概して石頭、世間知らずという印象を持っています。
 可能な範囲で佐藤公述人、田岡公述人から見た裁判官というのはどういう方々なのかということを簡単に一言教えていただきたいのと同時に、先ほど佐藤公述人から法曹一元化の問題も併せて御提起をされました。もし、法曹一元化の問題、これも古い課題でありまして、もし過去にその一元化がなされておった場合に、いわゆるところの裁判員制度の必要性がどのぐらい軽減されていたのか、これは仮説で申し訳ありませんけれども、併せて佐藤公述人にお伺いをしたいと思います。
#289
○団長(山本保君) では、田岡公述人からお願いします。
#290
○公述人(田岡直博君) なかなか裁判官がどういった人かというのは難しい質問なんですけれども、個人ではなくて、その役職といいますか、に就いている人が一般的にどういうふうに見えるかという御質問だろうと思うんですけれども、どうしても私どもが見ますところでは、私も刑事事件たくさんやっておりますし、もちろんいや応なしに、宮古に行きますとその地域で起こる刑事事件一手に引き受けるわけですけれども、裁判官というのは、裁判所の中で基本的にはでき上がった調書を読んで、そこから被告人を見て判断すると、そういうふうな地位に立たされるわけですから、やはりそこの地位、役職に就く人というのはそれなりの発想方法というのがどうしてもでき上がってしまうものなのかなと。
 具体的には、私も東京で争うような事件、何件かやりましたけれども、どうしても自白してしまう人の心理というのが理解されない。私も自白の任意性争いましたけれども、だって署名捺印しているじゃないですかと、そう言われてしまいますと、それは署名捺印するんですと。するんですけれども、それには何日間もそこに閉じ込められて家族と面会できなかったり、あるいはもういいやというふうな投げ出すような気持ちになってしまったり、いろんな気持ちがあってそうなるんですというふうな説明をしてもなかなか分かってもらえない。あるいは、弁護人に対してもこういうふうに話されたんでしょうとか、弁護士さんも接見されたときに当然アドバイスしていますよねと言われるんですけれども、残念ながら接見をできる時間も恐らく三十分、一時間。毎日というわけにもいかないというのが通常だと思いますから、その中で幾らアドバイスをしてもなかなか、普通、初めて逮捕された人というのは自分に権利がある、黙秘権があるということも理解できない、取られた調書が後の裁判でこんなに決定的になるというのは理解されない、そういうところだと思うんです。
 ところが、裁判官、幾ら話してもなかなか分かってもらえないというところありまして、これはもうやはり個人の問題というよりは制度的な問題なんだろうなというふうに私も考えております。ですから、法曹一元の話が出ましたけれども、もし弁護士あるいは検察官、いろんな立場のことを経験することによって、それによって立場を変えて見るということができるようになれば、これはもう個人の裁判官の問題ではなくて制度的に裁判官としての物の見方というのがもう少し視野の広いものになるんではないかというふうに考えております。
#291
○公述人(佐藤正明君) 私は、裁判官、私もかつては志望したことがありますし、非常に良心的で優れた人たちがやっぱり裁判官になっていくというのはあると思うんですね。法曹感覚、法律家として勉強もできますし、何というんですかね、素養も非常にいい人たちが多いと思うんです。私も同期、そう思いますけれども、やっぱり入っていって自分が良心的に裁判をしたいというときに、その環境が裁判所自体にあるかということを私は経験から考えたですね、あそこに行って私は耐えられないと思ったですね。やっぱり忙し過ぎるし、もう朝から晩まで記録を見て、人間的な、社会的な生活が一体できるのかということを懸念したり、あとは予算のことを言って申し訳ないんですけれども、〇・四%ぐらいの、国家予算の中でね、限られた予算しかないんだということで、本当にすべての重圧をその裁判官、あなたやるんだということを、使命感と思ったらもう耐え切れないんだろうと思うんですよね。
 やっぱりインフラをきちんと整備をして裁判制度をやっていくということであれば、これは私の尊敬する樋口陽一先生は、職業的裁判官の方がいい裁判するんだという、かつて私聞いたことあるんです。その要素というのはやっぱりあるんだろうと思うんですが、今の現状で、今の日本でそれを望めるかというとそうではないものですから、やっぱり国民の司法にするために国民が裁判所の中に入っていく、で、裁判官とともにやることによってもう一度裁判官が活性化するというふうになるんではないかということを期待しているのが私の気持ちですね。
 それから、法曹一元と今の裁判員制度というのは、かつては陪審員という制度を明治の時代に私たちが持っていて、これは作って実施したわけですよね。その中で、やっぱり素人であろうとできると。この感覚は、やっぱり事実認定ということについてはいろんな人の目で見た方がいいということがありましたものですから、法曹一元というのはやっぱり、同じかまの飯を食うというんじゃ変ですが、今の司法研修所というのはその発想で作られていると思うんですけれども、やっぱりお互いに共通の理念を持って司法を運営していく、そのものができればもう少し、そうですね、裁判所自体がもっと風通しのいいものになったんじゃないかと、対立的でなくても済んだんじゃないかというふうに思います。
 そういう意味では、法曹一元の理念はもっと高いだろうと思うんですが、俗っぽく私はそういうふうに考えて、いい制度だと思いますので、是非実現をしていただきたいというふうに思っています。
#292
○小川勝也君 時間も限られていますが、ちょっと難しい質問を遠藤公述人と天野公述人に一言ずつお答えいただきたいんですが。
 裁判員制度、いかに国民に理解を得るかというのが今後の課題だろうというふうに思います。それと、我々の立場において言いますと選挙がありまして、投票率がまあ一部特異な市町村で八〇%を超えるほか、補欠選挙になりますと二〇%台という例もあります。司法に参加をしていただくということも国民の理解ならば、投票に行っていただくということも国民の理解が必要なことであります。
 その投票と司法参加、二つを併せまして何か妙案があったら教えていただきたいと思いますが。
#293
○団長(山本保君) それでは、遠藤公述人、お願いします。
#294
○公述人(遠藤香枝子君) まず大事なことは意識を持つということだと思います。
 選挙をした結果、自分たちがどうなるかということは、そうですね、自分たちが選んだ人たちによっていろいろなことが決まっていくのですけれども、自分たちが何を言っても余り反映されないというような意識が広まっていきますと、投票率にも反映しない、であると思います。ですので、この裁判員制度をはなから強制するということではなくて、自分たちに必要なものだよということを分かってもらった形で広めていくことによって、自分たちの意見が反映することによって自分たちの住みよい社会になれるんだということを身をもって分かってもらえるように、時間は少し掛かるかもしれませんが、強制的に国民の義務だからということだけはしないでいただきたいと思います。
 以上でございます。
#295
○公述人(天野清子君) いずれにいたしましても、キーワードは情報の公開だと思います。情報の公開をしないでおいて、国民に関心を持て持てと言われてもこれは育ちません。それだけです。
#296
○井上哲士君 日本共産党の井上哲士です。
 今日は、公述人の皆さん、本当にありがとうございます。
 裁判員制度の何と言っても意義は、国民の皆さんの当たり前の常識を司法に反映をすることでありますが、それを審議をする私たちが国会の中に閉じこもっていていいんだろうか、参考人質疑も国会にお呼びするような形でいいんだろうかということがありまして、こうやって仙台と大阪で直接出向いてお話を聞く機会を持ちました。大変、本当に参考になる御意見をいただいて、今後の審議に生かしたいと思っております。
 特に、日本の刑事司法を考える上で松山事件というのは避けて通れない問題でありますけれども、その現地で、そして関係された方のお話もお聞きできたということは大変意義深いことかと思うんです。
 そこで、まず佐藤公述人に証拠開示の問題でお聞きをいたします。
 天野公述人から、この松山事件における証拠の開示の経過を挙げられまして全面開示が必要だというお話がありました。私ども、検察の手持ち証拠の全面開示を繰り返し求めているんですが、なかなか固いというのが今の政府の状況です。そういう中で、今度の法案で証拠開示の一定の範囲が広がるということになるわけでありますが、果たしてどのような運用がされるかなどいろんな疑問もあります。
 そこで、あの松山事件当時に今回の法案のような証拠開示になっていたら、例えばあの諏訪メモがきちっと出てきたんだろうかどうかという辺りをどのようにお考えか。もし、そしてそこに疑問があるとすれば、どういう法の手当て、また運用上の手当てが必要とお考えか。それをまずお願いいたします。
#297
○公述人(佐藤正明君) 私は松山事件で、先ほどずっと申しましたように、いわゆる最高裁判所の白鳥決定というのがありまして、法制度としてもし証拠開示の制度があったならば、というのは昭和三十年代、つまり第一審の判決から証拠開示というのがなされていたのであれば、議論は全く違った方向に行ったというふうに思います。
 これは一応、青木弁護士も恐らくそう言うと思うんですが、彼は主任でずっとやってきて私はお手伝いをした立場なんですが、斎藤幸夫さんというのは高飛びをしたというふうに言われているんですよね。ところが、開示された証拠の中を見ますと、本人は東京に行っていて、ここに住んでいますよと手紙を家族にやるんです。そういう証拠が出てくるんですね。しかも、同級生だったか、また先生だったか、汽車で上京するときにちゃんと見送りしているという証拠が出てくるんですよ。これはもう高飛び説は全く崩れちゃうんですよね。そうすると、当時それが出てきたのであれば、もう証拠開示の影響なんというのは言うまでもなく、しかも自白というのが取られているんですけれども、その中の例えば堤でシャツを洗いましたというふうになるんですけれども、あんな寒い中で堤で洗えるのかという疑問がなったときに、いや、そこにはそういうものがあって、堤が、上の、堤としてちゃんとした堤があってこういう管理をしていたんだという、いろんな証拠が出てくるわけですよね。
 それではもう、裁判というのはそれでもう全くがらっと変わってしまうというのが私の経験なんですね。この経験からすると、今の開示証拠というのを、あるいは裁判員という関係で事前にいろんな証拠を開示する、お互いに見るということになっているんですが、制限され過ぎていると私は思います。全面証拠開示というのがやっぱり必要だというのは、何を検察官、警察官恐れるかというふうに私は逆に言いたいんですよね。やっぱりきちんとした、先ほど先生からもありましたように、あらゆる証拠を開示して、プライバシーだとかそれを侵害するようなことは当然いけないと思いますけれども、一定の合理的な制限外においては、犯罪の立証を尽くしますという側が公益の代表者として選ばれているわけですから、やっぱり全面証拠開示というのも必要だと。今のところは制限が多過ぎるというふうに私は思います。
 それから、開示された証拠の目的外使用という問題はあるんですけれども、私の経験からすると、松山でも松川でも、ほかの再審事件でも同じだと思いますけれども、やっぱりみんなとこの事件をどう考えていくかということで証拠を検討し合うという、そういうことは国民の目線で事件を見るということで必要ですから、裁判の記録というのは広くやはり国民と一緒に見れるように、少なくとも取調べ済みの証拠についてはよく見れるような制度、それについて罰則を科するというようなことはもう被疑者、被告人の方の権利制限と私自身は思います。
#298
○井上哲士君 同じく松山事件にかかわられた天野参考人にお聞きをしますが、公述の中で裁判所の体質を変える必要があるということを言われました。いろんな報道などを通じてこういう事件にかかわられる中で、変えるべきその体質の中身ですね、具体的な体験などございましたら併せてお願いをいたしたいと思います。
#299
○公述人(天野清子君) 裁判官も人間ですから、やはり様々な思惑があってずっと勤めていくんだろうと思います。そんな中でやはり──ちょっと済みません、もう一度何を聞かれたか……。
#300
○井上哲士君 裁判所の体質を変えなくちゃいけないと言われましたけれども、その変えるべき体質とは何か。
#301
○公述人(天野清子君) 体質、そうですね。はい、分かりました。
 そのときの裁判官の評価なんですけれども、裁判員制度が導入されますと、やはりその目線に立って一生懸命考えて、裁判官ではない市民感覚から出てきた疑問を大切にし、そしてそれについてじっくりと自分もその目線まで下りて考えてみるというような裁判官を育ててほしいのですが、今のままですと、松山事件に見られましたように、二十数人の裁判官はその裁判、法廷に出てきた証拠だけで判断をするのでございます。そうしますと、本当に人間的でない、人間的でないんですね。
 裁判所の体質がやはり一般の市民と同じようになるために、ならないと、そういう二十数人もの裁判官を育ててきてしまっているのが今までの裁判制度でございますので、これは改めていただきたいと思うわけです。
#302
○井上哲士君 ありがとうございました。
 次に、遠藤参考人に、いわゆる裁判員の守秘義務との関係でお尋ねをいたします。
 県の情報公開審査会の審議委員をされているわけでありますが、守秘義務の問題で国会で議論しておりますと、もちろんプライバシーや名誉を守ることは必要ですが、その審議の経過などが外に出ると裁判への信頼性が崩れてしまうという議論が大変あるわけですね。ただ、今行政でいいましても、むしろその経過を明らかにする、透明性にすることこその方が行政への信頼性を高めるということではないかと思うんです。
 その点で、守秘義務で、むしろ経過などがしゃべれることと裁判の信頼性ということについてどうお考えか、お願いします。
#303
○公述人(遠藤香枝子君) 私どもにも罰則は科せられているんですが、一般市民が裁判員にいつなるか分からないというところに守秘義務の難しさ、それで今おっしゃられたように両サイドからのジレンマがあると思います。
 確かに、漏らされてはきちんとした裁判ができないのではないか。しかし、守秘義務を重んずる余り、裁判員になることを拒んだり裁判員として本人が萎縮してしまうというようなことも懸念されますので、非常に私はこのことでジレンマに陥る、私自身がジレンマに陥っていますが、先ほども申し上げましたとおり、やっぱり良識的な人間としてこれを漏らしてはいけないというような範囲があると思うんです。それをやっぱり理解してもらうように、広く国民の人たちに理解してもらうしか方法はないのかなと思いますし、また、マスコミなども興味本位に裁判員であった人からいろいろなことを聞き出して報道したり、そういうことが真摯な立場ではなくて興味本位であったりしますと、やっぱり人間ですので、裁判員になった人も、これは言っちゃいけないんだよと思いつつも、何か誘導尋問に掛かるようになってしまったりすると思うんですね。
 ですから、やっぱり裁判という、神聖な立場で裁判員として加わるわけですから、その辺のところの、良識と言ってしまっては非常に問題なんですが、言ってはならないこと、それから終わった後までも家族の中にその経験談を話すということも非常に苦痛な負担になろうかと思いますので、その辺の具体的にこういうことはいけないんだよというようなことを一般市民に分かるような説明といいますか、が必要であろうかと思います。
 うまく返答できたかどうか分かりませんが、以上でございます。
#304
○井上哲士君 ありがとうございました。
 次に、田岡参考人にお聞きをします。
 司法過疎の中で本当に奮闘されている姿を大変頼もしくお聞きをいたしました。私も吉田山のふもとでかつて学んだものですから、そういう意味でも大変頼もしくお話を聞きました。
 司法ネットができましたときに、こうした司法過疎を対策する上でのそういう意味では受皿、枠はできると思うんですが、日弁連のこの公設事務所の一覧見ましても、枠はあっても弁護士がいないというのがまだあるわけですね。結局は、そこでやる弁護士をどう確保していくかということが一番大きな問題になってこようかと思うんですね。
 いろんな財政上の問題とか手当てがされていくわけでありますけれども、今度司法ネットができたときに、そうした弁護士の確保という観点でどこが前進したか、そして何がまだ足りないか、その辺はいかがお考えでしょうか。
#305
○公述人(田岡直博君) 正にそこのところを私も一番関心を持っているところでございます。
 ちょうど先週の土曜日、ついおとといですけれども、日本弁護士連合会の方の主催で司法修習生を対象にした公設事務所のシンポジウムがございました。そこにセンターの方の説明ブースというのもありましたけれども、そこに来ていた修習生が百四十人ぐらいいたと思います。要するに、今一年間に千人、司法修習に入るわけですけれども、そのうちの百四十人ぐらいは何らかの形で過疎地で働きたい、あるいはそういうことを考えているということだと思うんです。
 何を彼らが求めているか、私も同じ立場なんですけれども、といいますと、やはり同じ弁護士として仕事をするのであれば、やりがいを持って必要とされている地域で働きたいと、そういう志を持った人というのはたくさんいるんです。
 ただ、どうしてまだこれだけ、三十しか公設事務所が埋まっていないかというと、それには一つには受皿の問題。受皿というのは、地方の受皿ではなくて、まず東京の方でやはり基礎的な修行、研修を受ける機関とかあるいは経験を積む機関というのが恐らく必要なんだろうと。
 この表を見ていただいても分かりますけれども、最近は若い五十二期、三期、四期、五期といった、ここ数年のうちに弁護士になられた方がどんどん出ていっていますけれども、やはりいきなり地方に行けというのは一人で仕事をする上で不安がある。そういう意味で、東京できちんとした研修を受けた上でそこから派遣されるということであれば行っても構わない、そういう人はたくさんいまして、実際この一年間で十人ほどが派遣されているわけです。そういう意味では、司法センターにおいても、まずはそういった新人の弁護士をきちんと研修して一人で不安なく仕事できるようにすれば、また生活の面での不安もないようになれば、そこで働きたいという人はもう幾らでもいると思うんです。
 もう一つの問題は、公設事務所と違って、司法センターの場合はその仕事自体の魅力というものをやはりこれから作っていかなきゃいけないんだろうと思うんです。
 公設事務所は言ってみればベンチャービジネスのようなものですから、自営業者ですので、自分の好きなようにやってみて、失敗したら失敗したで日弁連が最終的には財政上の責任取りますよと、そういう制度になっているわけですから、やる気のある人であればどんどんチャレンジしようと、そういうふうな気持ちになります。ところが、司法センターの場合はまだ、取扱業務の場合も恐らくある程度法定されてしまいますし、待遇面、要するに具体的に収入が幾らぐらいになるのかというところも判事補と同程度というような話も流れておりまして明らかでありませんけれども、それで十分かというふうな疑問があるところではございます。
 というのは、判事補ということであれば後々裁判官として出世して、言ってみれば少しずつ給料が上がっていくという制度になっているんでしょうけれども、弁護士であれば、やはりそこに何年かいた後はまた弁護士に戻る、一時的なポストとして考えることが多いんだろうと思いますから、そうするとその期間の待遇として判事補と同程度というのでは恐らく魅力を感じないのではないかな。私の周りでも、実際、公設事務所に行く人間が司法センターの方に行かないかと言われて一番ちゅうちょするのは、その待遇面の問題と、仕事自体が法定されていてどこまでやれるか分からない、随分制限されているようだと、こういうあれでは手足縛られて、待遇も十分でないからちょっと魅力を感じないねと、そういうふうな話になると思うんです。
 ですから、いかに魅力ある制度にしていくか。アメリカのパブリックローヤーのように、そこに行ったことがある程度のキャリアとして評価されたり、あるいはそこで十分なスキルアップが図れると、そういうようなことがあれば、自己実現の場所としても弁護士の側からとっても非常に魅力的な制度になるんではないかなというふうに考えております。
#306
○井上哲士君 ありがとうございました。
 終わります。
#307
○団長(山本保君) それでは、私、委員長をやっておりますとふだんは質問ができませんので、今日は久しぶりに質問をしてもいいということなので少し、補足的にと思ったんですが、大変多様な話出ましたので、ちょっと、少し状況をお話ししてから、今日の感想と、できれば私ども国会議員、これからこの委員会で審議、今始まったところですし、あと一週間二週間かもしれませんですけれども、非常に柔軟に対応していただいているような気がするので、に対する希望のようなものを言っていただこうかなと思っているんです。
 今、衆議院の方で、御存じだと思いますが、少し修正がありまして、全会一致という形で参議院に来ました。私が委員長になりましたときには、この大法案はとても参議院まで今年は回ってこないよと言われていたんですけれども、与野党の本当に努力によりまして今のところ順調に、うまくいけばこの国会で成立するのではないかというふうになってきました。
 そこで、参議院としては、修正をもう一度という話もあるかもしれませんけれども、御存じのように、例えば裁判員制度にしましても五年後ということになりますし、また法律というのは骨組みを決めるものでありまして、実際に運用していくその中身というのはこれから役所が行いますけれども、国会議員がある程度それについて議論をきちんとしていけば、最近特に附帯決議というような形も与野党ともに非常に重視しておりますし、政府の方も大変重視しているんじゃないかなと私自身思っておりますので、これからこの審査の中で皆様から出たお話を本当に生かしていきたいと思っているんです。
 今日お聞きになってというか、私どもが本当は質問をしたわけなんですが、御質問のような話もありました。実は、たくさん今日は役人の人も来ていますのでそこで答えてもらってもよろしいんですけれども、そういう形になっておりませんので、正に私どもがそれを今日お聞きして、国民の代理としてこれからその審議の中でそのことを代わりにお聞きして、又は注文を付けていくという、こういうことをしていきたいと思っております。
 私も、ですからこれは今日は委員長というよりは、愛知県選出の公明党の国会の参議院議員でございます。今日はひとつそういう形でちょっとお聞きしたいと思いますが、まず今日の御感想とか、一緒で結構でございます、もう時間もあれですから、若しくは何か言い足りなかったということがありましたらそれも含めまして、そして私どもにこうしてほしいというのがございましたら順番にお聞きしたいと思います。まあ時間のこともありますので二分ぐらいの、一分から二分ということでお話ししていただきたいと思いますが。
 じゃ、松田公述人、お願いいたします。
#308
○公述人(松田謙一君) 公述人の皆様、ここでおいでになります、そしていろんな意見も出ましたが、もう本当に聞いてみると、いやこれは厳しいなという感じを受けているんですが、案ずるより事はやすしという言葉もあるんですよ。
 実は、仙台検察審査協会でこのような本を発行しました。これ、委員長さんに差し上げますが、どうぞごらんになってください。
 この内容として、今日の話されたことが相当入っています。これは、県知事さん始め仙台市長さん、また裁判の、会長さんとか、それから調停の方の会長さんとか、あと大学教授の、法学博士の言葉とか、いろんな角度で自分たちがやったことをそれに上げると同時に、地方のそういうことも吸い上げているんですよ。
 どうしてこのようになったか、そのいきさつですが、仙台検察審査協会は二百人おったんですよ。バブル崩壊後、大分厳しくなってきた、最近になってより厳しくなって、百名になっちゃったと。何だか老人会の固まりみたいな感じだという形で、会の運営ができないような状態になったんです。四年ほど前に、松田、もうおまえやれという形で、副会長、それから総務部長ということで、それではこの会は魅力ある会にしたいということで、たまたま祝辞並びにいろいろと講演をいただいた裁判所のある方にお話ししたら、ではそれは応援しようということで、今は会員が明るくならなくちゃいけないと、充実しないと幾ら不自由しても寄ってこない、敬遠されるという話まで出てしまって、それで会員の困っていること、これは全部内密ですが、相談しようという形でじかに相談するような形がありました。本当に、ここにいろいろ弁護士さんの方がおるんですが、それを乗り越してという形じゃないんです。
 それで、その内容に応じては、これはこういう形ですから弁護士さんの方にこういう形で進めばいいですよと、では、こっちは調停の方に持っていくとか、そういう割り振りまでやってくれるような、本当に裁判所は固いところだと言われても、私にとってはこんなに身近にあって便利なところはないという感じがありました。たまたま刑事局長さんの手元にもそれが行きました。大変えらいことをやってくれた、すばらしいとお褒めの言葉をいただきました。
 こんな形があるもので、とにかく案ずるより事がやすし。また、その立場になれば本当に一人一人努力していけばいいんじゃないかなと。その能がなければこれしようがないと。それには、家庭的なこともあるし、経済的なこともあるし、体の状態にもよるし、これはしようがないなと。
 そんなことで、いち早く充実した法をもう上げていただきたいと、これは私の願いです。
 以上です。
#309
○団長(山本保君) ありがとうございました。
 委員の皆さん、仙台検審協会報「谺の環」というものを今いただきましたので、後でまた見ていただければと思います。
 それでは、田岡公述人、お願いします。
#310
○公述人(田岡直博君) 本日は、大変貴重な機会をいただきまして、ありがとうございました。
 私、最後に申し上げたいのは、繰り返しになりますけれども、やはりどんなにすばらしい法律ができても、それを国民が知らなければ、あるいは使う方法が分からなければ全く役に立たない、絵にかいたもちになってしまうということなんです。
 具体的な例で申しますと、やみ金融の対策の規制法が最近新たに制定されましたけれども、まあ改正という形取っておりますが、あれによって東京都あるいは大阪などの都市部でのやみ金融による被害は随分減ったというふうに聞いております。ところが、地方でのやみ金被害はかえって増えています。岩手県下でのやみ金被害は大変なもので、私のところには毎日のようにやみ金融からの脅迫の電話があるという相談が来ます。すべて東京の業者です。東京で都知事登録を受けていますけれども、岩手県下で告発しようにも、被害届を持っていっても、岩手県警は岩手県のことしかやれませんので東京都で逮捕することはできません。こういうふうに立法の不備というのはあります。
 さらに、岩手県の登録を二十年ぐらいやっている登録業者さんでも、いまだに四〇%の利率で堂々とやっておられるところもあります。これは出資法に違反しておりますけれども、違反しても警察が実際上証拠がないといって目をつぶったり、あるいはどこに相談しても結局まあまあそういうふうなものなんだよということで、結局救済がなされない、そういうふうな現状があるわけです。これでは、せっかくすばらしい法律ができても、結局隅々までは行き渡っていない、その地域の人にとっては法律は意味のないものになってしまっている、これは非常に残念なことだと思います。
 ここのところの現状を認識していただいて、正に根本のところだと思います。国会で審理されていることは、あるいは司法にかかわることについて、国民にとってより身近なものになるための非常に大事な法案であるというふうに思いますので、是非今後、国会の方で審理され、そこのところ、なるべく司法過疎地の実情に見合った十分な措置が取られるようなことを希望しております。
 今日はありがとうございました。
#311
○団長(山本保君) ありがとうございました。
 それでは、遠藤公述人、お願いします。
#312
○公述人(遠藤香枝子君) 一般市民として意見を話す機会を与えていただきまして、ありがとうございました。
 二点ほど申し上げたいと思います。
 例えば、労働基準法などで年次有給休暇制度などが決まっていますが、平成十三年の一年間の取得率は四八・四%ぐらいで、その程度なんですね。ですので、例えば裁判員休暇制度なるものが作られたとしても、制度があるからそれでいいのだよということではなくて、実のある内容にならなければいけないかなと思います。
 先ほどもちょっと触れましたが、現状では法案の議論の過程が私どもには本当に見えてきていないです。議論の過程がです。国民が知らない間に法案が決まってしまうというのではなくて、特に国民に義務が課されるというような法案にあっては、その過程が、法案ができる前のその過程が、過程の段階から国民の意見を取り入れていただけるような内容であってほしいと思います。そして、国民の、そうすることによって、時間は掛かるかもしれませんが、国民の法意識、政治意識が高まり、一般市民の人の、市民社会といいますか、みんなで支える市民社会が作られていくのではないかと思います。
 先ほども話したんですが、具体的に新聞、テレビなどの報道を通して一般市民に近いものであってほしいと思います。決まったから、決まってしまったからあなた方は従わなければいけないんだよではいけないと思います。
 以上でございます。
#313
○団長(山本保君) ありがとうございます。
 では、天野公述人。
#314
○公述人(天野清子君) 意見を述べる機会を与えていただきまして、ありがとうございました。
 そして、私自身、ここに来てほかの公述人の方々の意見を聞くことができたことは大変ためになるといいますか、知識を広げることができました。一般の国民の方々にもこのくらいのことは本当に分かってほしいなというところですので、やはり国民への意識啓発、それから周知徹底、広報、こういうものは通り一遍でなく何か工夫を凝らしながらやっていただきたい。私も、ここに出た経験がどこかで生かすことができればと、このように思っております。
 先ほど、裁判所の体質改善をどうしたらという意見に、余り、とんちんかんな意見を申し上げたと思いますのでちょっと補足させていただきますと、やはり裁判官が本当に常識ある一般市民と同じレベルの人間になってほしいというために、裁判官の職場の環境がどうなっているんだろうか、そういうところに合理化、効率の良い裁判官がどんどん上に行くというようなことのないような透明性ある人事制度も欲しいし、また法曹一元化といいますか、それが実のあるものになる、もっと広げた制度にもなってほしいと思っております。
 以上でございます。
#315
○団長(山本保君) ありがとうございました。
 佐藤公述人。
#316
○公述人(佐藤正明君) ありがとうございました。私も、こういう機会を与えていただいて、大変ありがとうございました。
 法曹三者でともかく司法を今まで担ってきたというこの枠組みのところは、もう少し広い目で司法を見ようということで、弁護士の方も大変努力をしなければいけないというんで改革をしますし、裁判所も検察もそれぞれ改革をしていかなければもう、司法に対する信頼ということを私たちは求めて活動をしてきているつもりなんですね。
 どこでも、国会議員の先生方だって信頼というのは非常に大切にしますし、それから我々司法でもやっぱり国民の信頼ということを非常に大切にするわけですよね。だから、弁護士会の中では懲戒制度をきつくするのはおかしいじゃないかという、こういう議論も確かにあります。ありますけれども、本当に国民の負託にこたえて、国民が弁護士にはこうあるべきだという、いろんな意見あると思うんですが、やっぱり負託にきちんとこたえるということも私たちも努力をしてやってきているということなわけなんで、この裁判所の、裁判員の司法参加、それから刑事訴訟法の改正というのは、裁判所も検察も警察も大変な痛みを伴うんだろうと思うんですが、やっぱりこれは日本の根本を変えるといいますか、先ほど日本の司法制度、百年に一回だと言われるぐらいの大改革だというふうに私も思っていまして、それぞれの権益というのがあるのかもしれませんが、先生方のお力で、それを、それはやっぱり全体、進め方としてどうかということを見ていただいて、是非改革の方向、目指すはやっぱり国民が自分の司法だと、司法制度は信頼に足りると、私も行ってみようという、こういう制度をどう作れるかという問題だと思うんですね。だから、抽象的かもしれませんが、そんなことを今日は伝えたくて先生方の方に意見を述べたく思って来ました、ということです。
#317
○団長(山本保君) ありがとうございました。
 まだまだお話を伺いたいところですけれども、時間が来ましたので。ただ、今日はマスコミの方も来られておりますので、今御注文があったような情報開示については我々も努力しておりますけれども、またやっぱりこれはマスコミの方が専門ですから、是非我々のやっている仕事をもっともと知らせていただきたいなと思っております。
 以上で公述人に対する質疑は終了いたしました。
 では、最後に、公述人の方々に一言ごあいさつ申し上げます。
 本日は、大変お忙しいところを御出席いただきまして、貴重な、本当に多様な、また鋭い御意見をいただきました。誠にありがとうございます。派遣委員を代表しまして厚く御礼申し上げます。ありがとうございました。
 また、本地方公聴会のため種々御尽力を賜りました関係者の皆様にも厚く御礼を申し上げます。
 私ども、これからしっかり今日の御意見を生かしまして、すばらしい法案の、また、ひな形というんですかね、最初のモデルというんですか、それを作っていけるということを本当に私ども感謝しております。頑張りますので、どうぞこれからもよろしくお願いします。ありがとうございました。
 本日はこれにて参議院法務委員会仙台地方公聴会を閉会いたします。
 ありがとうございました。
   〔午後三時三十二分閉会〕
     ─────・─────
   大阪地方公聴会速記録
 期日 平成十六年五月十七日(月曜日)
 場所 大阪市 新大阪ワシントンホテルプラザ
   派遣委員
    団長 理 事      松村 龍二君
       理 事      木庭健太郎君
                小泉 顕雄君
                陣内 孝雄君
                江田 五月君
                樋口 俊一君
   公述人
       日本司法書士会
       連合会常任理事  山本 一宏君
       主婦
       「開かれた裁判
       を求める市民フ
       ォーラム」事務
       局員       大東美智子君
       大阪府更生保護
       協会常務理事
       三和住宅株式会
       社代表取締役   前田 葉子君
       弁護士
       日本弁護士連合
       会副会長     宮崎  誠君
       検察審査協会関
       西連合会専任理
       事
       大阪検察審査協
       会常任理事    遠藤 一清君
       弁護士
       日本弁護士連合
       会司法改革実現
       本部事務局次長  西村  健君
    ─────────────
   〔午後一時開会〕
#318
○団長(松村龍二君) ただいまから参議院法務委員会大阪地方公聴会を開会いたします。
 私は、本日の会議を主宰させていただきます法務委員会理事の松村龍二でございます。よろしくお願いいたします。
 まず、私どもの派遣委員を御紹介いたします。
 私の右隣から、自由民主党の陣内孝雄委員でございます。
 同じく自由民主党の小泉顕雄委員でございます。
 次に、私の左隣から、公明党の木庭健太郎理事でございます。
 民主党・新緑風会の江田五月委員でございます。
 同じく民主党・新緑風会の樋口俊一委員でございます。
 次に、本日御出席いただいております公述人の方々を御紹介申し上げます。
 日本司法書士会連合会常任理事の山本一宏さんでございます。
 主婦・「開かれた裁判を求める市民フォーラム」事務局員の大東美智子さんでございます。
 大阪府更生保護協会常務理事・三和住宅株式会社代表取締役の前田葉子さんでございます。
 弁護士・日本弁護士連合会副会長の宮崎誠さんでございます。
 検察審査協会関西連合会専任理事・大阪検察審査協会常任理事の遠藤一清さんでございます。
 弁護士・日本弁護士連合会司法改革実現本部事務局次長の西村健さんでございます。
 この際、公述人の方々に一言ごあいさつを申し上げます。
 当委員会におきましては、目下、裁判員の参加する刑事裁判に関する法律案、刑事訴訟法等の一部を改正する法律案及び総合法律支援法案の三案の審査を行っておりますが、本日は、三案について関心の深い関係各界の皆様方から貴重な御意見を承るため、当大阪市及び仙台市において公聴会を開会することとなった次第でございます。
 皆様には、御多用のところ御出席をいただきまして、誠にありがとうございます。皆様から忌憚のない御意見をお聞かせいただきまして、今後の審査の参考にしたいと存じますので、どうぞよろしくお願いいたします。
 次に、議事の進め方でございますが、まず、お一人十分程度で順次御意見をお述べいただき、その後、委員の質疑にお答えをいただきたいと存じます。
 なお、念のため申し添えますが、御発言の際は、その都度、団長である私の許可を得ることとなっております。
 また、各委員の質疑時間が限られておりますので、御答弁は簡潔にお願いいたします。
 なお、公述人の方の意見陳述及び答弁とも、着席のままで結構でございます。
 それでは、山本公述人からお願いいたします。山本公述人。
#319
○公述人(山本一宏君) はい、よろしくお願いします。
 私は、日本司法書士会連合会常任理事の山本と申します。よろしくお願いします。
 私からは、総合法律支援法につきまして、意見陳述の要旨に従って述べさせていただきます。
 まず、地方に、地域における現状というところから入らせていただきます。
 私は、三重県の四日市市という地方のところで開業をしております一司法書士でございますけれども、ここ数年、相談件数が相当増加してまいりました。これは、県民センターとか消費者センターなどで受けられたその相談の中でも、センターで対応がし切れない、あるいは困難だという事案につきまして私の方が相談を受けるという、まあセンターとの連携を図っているということでございます。
 しかし、現在、その相談の多くは、早期に相談を受けていれば比較的簡易に解決が見込める事案が多うございます。また、相談が遅れたばかりに事態が非常に深刻になり、あるいは感情的になり、解決に向けても時間や労力を多く負担しなければならない、また、それどころか解決が見込めないというようなものも少なくありません。
 例えば、私が実際に経験した事例、一つ申し上げます。消費者センターの方で多重債務の方が相談に来られた。その方は、暴力団関係の金融業者に食い物にされている、思い悩んでセンターの方に相談に来られたという方です。そこで、私の事務所の方が紹介を受けたということです。その方とは電話連絡を取りまして、相談日時等を決めました。しかし、この方は将来を悲観されて自殺に至ったというものでございます。そのために、当然に私のところへ相談に来るということはあり得ない、なかったということです。この相談がもっと早い段階でどこかの司法の窓口に達していれば自殺に追い込まれることというのはなかったであろう、そして法的な措置も受けられたのではないかというふうに考える次第です。
 私は、相談に来られた方がいつも言われるんですけれども、もっと早い段階で相談に来ればよかったということを必ず言われます。また、その後で必ず言うことが、法的な助言やアドバイスを受けたい、けれども、どこへ行っていいのか分からないということもおっしゃります。そうこうしているうちに、もういいやなんという考えであきらめてしまう、泣き寝入りをしてしまうということが相当に多いということもここで申し上げます。
 そこで、私どもの有志で早い段階で相談を受けようということで、自治体等が行っております毎週一回の相談会に直接に参加をしようということで参加をしています。しかし、この相談会につきましても、毎回盛況で相談の枠が足りなくなるほどで、今現在ではその対応に苦慮しているというのが現状でございます。
 以上から、私どものような専門家がボランティアなどによってこの問題を解決するにはやはり限界が来ているというふうに考えます。特に、地方では司法へのアクセスをもっと容易にしなければなりません。また、法的な紛争解決のための情報がだれにでも得られるような制度を作らなければならないということです。そこで、総合法律支援法による司法のネットワークへ掛かる期待はすごく大きいものだというふうに思い、また、早期にこの司法ネット構想が実現あるいは整備していかなければならないというふうに考えています。
 次に、司法書士会、私どものリーガルサービスの実情ということを御説明いたします。が、これは資料を提供しておりますので、簡単な説明とさせていただきます。
 法務大臣から、今回、簡易裁判所の訴訟代理能力に対する認定を受けた司法書士が、現在、全国で六千三百六十六名、達しています。これは近い将来一万人を突破するというふうに我々は考えております。
 それから、司法アクセス支援の活動につきましては、法律相談会、常設相談所あるいは巡回相談というものにつきましては、地域の実情に合わせまして全国各地で工夫をしながら活発に取り組んでいるということでございます。
 次に、少額裁判サポートセンター、これは国民の裁判を受ける権利を擁護しよう、あるいは司法への道案内をしようということで、全国の都道府県に一つ以上、要するに今現在五十以上が、このセンターが開設をして活動を行っているという現状です。
 司法過疎地域への対応につきましては、我々が行っている訴訟等に関する問題につきましては、簡易裁判所を管轄する部分につきまして司法が過疎地域になっているところというところでこのセンターを開設しております。これは巡回相談等を繰り広げながら展開をしているということでございます。
 次に、法教育、これにつきましては、子供さん方が社会に出る前に最低限度知っておかなければならないというような契約等の知識につきまして、我々司法書士が高等学校へ赴きまして、消費者教育というような観点で授業を持たせていただいております。これにつきましては、前年度、全国で五百校以上が我々のところへ依頼をしてきているという現実がございます。
 次、民事法律扶助事業につきましては、先ほどの簡易訴訟代理認定を受けた司法書士は、代理援助、法律相談援助という新たな民事法律扶助の事業が加わり、また書類作成援助につきましては、資料を参照していただけるように、着実にその件数は増加しているということでございます。
 次に、成年後見制度、これにつきましては、司法書士を正会員とする社団法人成年後見センター・リーガルサポートをいち早く設立をしました。ここにおきましては、地域との連携を図りながら、この制度の啓蒙活動や、あるいは後見人、保佐人、補助人などを就任できるような体制を取り、人材の供給源として今後も活発に取り組んでいくこととなります。
 最後に、司法ネットと司法書士というところでございますが、私どもの先ほどのリーガルサービスの実情から、結果から、国民はあらゆる場所で同じような法律問題を抱えているということがよく分かります。そして、その解決へ向けての道筋を求めています。しかし、司法サービスの現状においては、リーガルサービスを提供している機関あるいは組織の連携が不十分、そういうことが指摘されています。
 そこで、司法ネットでは、従来の縦割り行政の枠にとらわれることなく、司法書士会、弁護士会、行政機関などが有機的なあるいは横断的な連携を取る必要があります。この意味で、司法ネットの総合調整機能としての働きが最も重要になるというふうに考えています。
 しかし、留意すべき点としまして、既存の団体、機関やあるいは各資格者の独立性については最大限やはり尊重されるべきであり、これらの活動を不当に制限、制約することのないような配慮が必要であろうと考えます。
 最後になりますが、司法ネットが国民の司法へのアクセスを容易にし、自己責任、事後救済型の基本的なインフラとして機能するためには、地域に根差した制度として広く地域住民に利用されなければならないです。そこで、形だけのネットワークではなく、血の通ったネットワークとするために、総合法律支援法による日本司法支援センターが掲げる業務、そして設置を予定している司法アクセスポイントと十分な連携を図らなければならないと思います。そこで、私ども日本司法書士会連合会では、リーガルサービスはもとより、全国に多くの司法書士によるアクセスポイントを設けて、この制度構築に向けて協力体制を進めていく予定であります。
 最後に、司法ネットが真に国民の司法へのアクセスの拡充に役立つものとするため、私どもは積極的に対応していくということをお約束して、私の意見とさせていただきます。
 以上です。
#320
○団長(松村龍二君) ありがとうございました。
 次に、大東公述人にお願いいたします。大東公述人。
#321
○公述人(大東美智子君) 皆様、こんにちは。
 ちょっと、ずっと声をからしておりますので、お聞き苦しい点があるかと思いますけれども、御辛抱願います。
 私は、一九九一年から二〇〇二年まで十年余り、京都で、「開かれた裁判を求める市民フォーラム」、通称裁判フォーラムと言いますけれども、市民フォーラムという市民運動を通して、裁判をより分かりやすく、市民が参加できる裁判の実現をと、模擬陪審裁判、影の陪審など様々な活動を行ってまいりました。
 今回、国会で審議されている裁判員制度については、私たちの活動の一つである市民が裁判に参加するようになったという点では、私たちの目標に一歩近づいたと評価しております。これから、その制度の内容について私なりの意見を述べたいと思います。
 まず、裁判官と裁判員の構成についてですが、裁判官三名に対し裁判員六名というのには疑問があります。広く一般の市民の意見を裁判に反映させるには、様々な職業、年代の人たちの参加が必要と思われます。そして、当然、裁判員は男女半分ずつというのが私の頭の中にはありますので、二十代から六十代まで、男女一名ずつにしても十人にはなります。裁判官は一人か二人でもいいのではないかと思います。そして、評議のときには、裁判官は市民が自由に自分の意見が言えるような雰囲気作りに努めていただきたいです。できれば、法服は裁判長だけにしていただいて、あとの二人は平服で、市民と同じような立場で意見を述べていただきたいと思います。
 次に、評決の仕方についてですけれども、今回の法案では、裁判官及び裁判員双方の意見を含む合議体の過半数の意見によるとありますが、私は、原則として全員一致、それが無理なら四分の三以上の一致が必要だと思います。この法案では、裁判官三人、裁判員六人の合計九人で採決することになります。そうすると、九人のうち五人が一致すればよいことになります。もし、裁判官三人の意見が早々に一致すれば、あと裁判員二人の意見が一致すればよいことになって、あとの裁判員四人の意見はどうでもよいことになってしまいます。それでは十分に審議を尽くしての採決とは言えないと思います。評決には、少なくとも九人のうち七人の意見の一致が必要と思います。また、五対四で評決するということになりますと、一人だけの意見で、一人の意見が変わればそれで結果が変わってしまうという可能性もあり得ます。そういうことで、私は、評決には四分の三以上の人の意見の一致が必要だと思います。
 そうして、裁判員が参加する裁判ですから、裁判を迅速にする必要があります。裁判員をいつまでも拘束するわけにはいきませんので、後から証人の申請とか証拠の提出などがないように、すべての証拠開示はもちろんですけれども、裁判が始まるまでに入念な準備が必要だと思います。
 私たち裁判フォーラムが一九九三年から九七年まで行った影の陪審というのがありますけれども、それは、一般市民十二名が一つの刑事事件をずっと傍聴し続けて評決するといったものでした。それほど重罪な事件ではなかったのですが、論告求刑までに丸四年も掛かったという苦い経験を持っています。裁判は長く掛かるというのは、今までの裁判に対しての市民のほとんどの人が持っている感情だと思います。なるべく迅速な裁判にしていただけるよう、努力をお願いしたいと思います。
 それから、本案では、裁判員への秘密漏えい罪が盛り込まれていますが、評議の場で知り得たプライバシーやほかの人の意見に対して守秘義務があるのは当然で、守秘義務違反に対して懲役とか罰金を科すのは、裁判への市民の参加意欲を失わせるものであると思います。最高裁長官も先日、感想を述べるくらいならいいのではというふうな談話が新聞に載っていました。守秘義務については、裁判員の選定のときとか評議に入る前の裁判官の説示をきちんとして、あとは裁判員の良識にゆだねた方がよいと思います。
 次に、市民が裁判員として裁判に参加しやすくするために社会の体制作りが必要だと思います。各企業は、従業員とか雇用主が裁判員に選ばれたら進んで裁判に参加するよう、裁判所側も啓発する必要があると思います。裁判員裁判が施行されるまでに、国や都道府県の協力はもちろんですが、学校教育の場でも、裁判を受ける権利とか裁判員になる義務などを教える必要があると思います。
 それから、女性の立場で言わせていただくなら、子育て中のお母さんとかお年寄りを介護している主婦の方が安心して裁判員になれるよう、ベビーシッターの派遣とかホームヘルパーの派遣とか、裁判所の中に保育室を設けるなど、ハード面、ソフト面での整備が必要だと思います。
 次に、裁判員になるのは素人なのですから、聞いていて分かりやすい裁判をしていただきたいです。私は何度も裁判の傍聴に行きましたけれども、訳の分からない裁判が多いです。あれでは市民が裁判所に行きたくないと思うのは当然で、自分たちだけで分かる用語のやり取りが多かったです。裁判傍聴は専門用語が多くて何を言っているのか分からない、それと非常に聞こえにくいというのが私たちの感想で一番に挙がったものです。専門用語を極力控え、私たちにとって分かりやすい裁判を心掛けるよう、検察官、弁護人、裁判官は努力していただきたいと思います。
 最後になりましたが、この制度が施行されて三年を経て検討を加えるとありますが、この間に裁判員になった人の意見を聞いたり、不備な点はそれぞれのところを見直すなど、この裁判員制度がより良い制度になるよう検討されることを希望します。そして、市民の間に裁判員になって良かったという気持ちが根付くよう期待して、私の意見発表を終わります。
 御清聴ありがとうございました。
#322
○団長(松村龍二君) ありがとうございました。
 次に、前田公述人にお願いいたします。前田公述人。
#323
○公述人(前田葉子君) 前田でございます。
 大阪市内で不動産関連の会社を経営いたしております。法律におきまして私は全くの素人でございまして、このような立場でここにおりますのが少し場違いの感はしておりますが、本業の傍ら、大阪府更生保護協会の常務理事の立場におり、あわせて、地元で幾つかの地域振興のための役職を仰せ付かっていることなどから、市民の一人としての位置付けで発言の機会を賜ったと理解しております。
 それでは意見を述べさせていただきます。
 まず、裁判員の参加する刑事裁判に関する法律案について述べます。
 今回、司法制度改革の大きな柱として、裁判官と市民が対等に合議して有罪無罪を決め量刑を出すという、世界にも例のない裁判員制度を創設するということでございますが、参加による司法に対する国民の理解増進、民意の反映による司法への信頼の向上、裁判の迅速化という意義やねらいの実現に大きな期待を寄せております。
 多様化し変化することが常態化した時代の中で、発生する各種事件については、その背景や事情、関係者の意識といった判断材料を的確に理解することは、法律を学ぶだけではなく、幅広い知識や経験が必要であろうと思います。そういう意味で、新たな裁判員制度が実施され、国民が司法判断に参加することにより、信頼性がより一層高まることになると期待しております。
 一方で、選挙人名簿から無作為抽出された素人の裁判員が公正な判断を下せるかどうか、また法律の専門家である裁判官に伍して期待される役割を果たせるかどうかという点につきましては、簡単なことではないだろうという気がいたします。
 法案審議中で気の早い意見になるかもしれませんが、実施に当たっては、計画段階で予想されたこととは異なることもいろいろ起きてくることと思います。新しい制度を実効あるものとし、その大きなねらい、意義を実現していくために、制度に携わる現場の方々の真摯な御努力だけでなく、制度を定着させ育てるという、制度発足後の関係機関の継続的な努力も必要かと思います。
 テレビや小説といったフィクションではなく、実際の犯罪事件に裁判員として、当事者としてかかわる国民が増えることは、犯罪事件の悲惨さや、加害者、被害者双方の現実に触れることであり、裁判員の方々の御心労、御負担も大変なものになると思います。
 他方、更生保護に関与する者として、昨今の犯罪事件の増加、低年齢化、再犯者の増加という問題に頭を痛めており、本制度の実施により犯罪事件への国民の当事者意識が高まり、犯罪発生の抑止等への一定の副次効果が期待でき、加えて地域社会における犯罪意識の向上にもつながると考えております。
 また、経営者としては、自社の社員が裁判員として指名を受けた場合の対応も考えておく必要があります。私のような中小企業経営者にとりましては、タイミングによっては困る場合もあると思います。しかし、裁判所からの呼出しに恐らくは驚いている社員に対して、国民の義務を適切に果たせるように指導、支援することが経営者の義務だと考えます。
 以上のような観点から、今後は裁判員制度に対する国民の理解を促進し、国民が裁判員に選ばれることを前向きに考え、国民の側からも制度を定着させ育てようという機運が高まっていくことが重要と考えます。
 続きまして、刑事訴訟法等の一部を改正する法律案について述べます。
 刑事裁判の充実及び迅速化を図る目的での改正であり、オウム事件や和歌山カレー事件といった国民の関心の高い重大事件の裁判が結論を得るまでに大変長い時間を要していることに疑問を抱く国民感情に配慮した、時宜にかなったものと思います。
 また、裁判員制度の実効性を担保し、刑事裁判の充実及び迅速化を図るための方策として、公判審理に先立ち、十分に争点及び証拠を整理するため、公判前整理手続等を創設、連日的開廷の確保、即決裁判手続の創設等の改正が織り込まれており、刑事裁判の充実及び迅速化に資するものと期待しております。また、公的弁護制度の整備等、人権面における前進という意味でも意義あるものと理解しております。
 次に、総合法律支援法について述べます。
 紛争社会と言われる時代の要請にこたえ、中核となる日本司法支援センターの創設により、一般国民にとって、弁護士、司法書士など専門家のサービスをより受けやすくなり、法律による紛争解決がしやすくなるものと期待しております。
 以上のように考え、三法案の意義の大きさを理解し、賛同いたします。
 最後に、一言所見を述べさせていただきます。
 このような機会をお与えいただいたことで、法案についての御説明を承り、短時間ながら勉強することで、法や制度の趣旨、意義などについて理解することができました。
 しかしながら、地方公聴会のお話があるまでの私の理解程度は、誠にお恥ずかしい次第でありますが、新聞、テレビからの情報やアンケートの結果を見て、裁判員制度というものが新しく始まって一般市民が裁判官の役割を担うということになるらしいけれども、素人が、例えば私に本当にそんなことができるのだろうかといった程度のものでした。
 法律は国の根幹を成すものであり、国民として法律を知らないでは済まされないという原則の一方で、法律は難解で専門知識がないとなかなか理解しにくいというのが一般国民の現実かと思います。
 今後、素人でも理解しやすい、参加しやすい形で広く国民に知らしめることができれば、関心を持って国民としての義務等を考える時間が増えるように思います。ひいては、法秩序は国民みんなで支えていくものであるという公共精神が醸成されるのではないでしょうか。
 専門家の皆様にとりましては、意見というよりは恐らく感想程度の内容にとどまるものであったこと、また理解不足の点が多々あったかもしれません。至らぬ部分につきましては、団長様始め皆様方の御指導をお願いしたいと存じます。
 以上で発言を終わります。
 ありがとうございました。
#324
○団長(松村龍二君) ありがとうございました。
 次に、宮崎公述人にお願いいたします。宮崎公述人。
#325
○公述人(宮崎誠君) 私は、大阪弁護士会の会長並びに日弁連副会長を兼務しております。日弁連では日本司法支援センターを担当しております。
 本日は、総合法律支援法案、支援センター構想について意見を述べる機会を与えていただき、大変名誉なことであり、感謝しております。
 本法案は、事後規制型社会へかじを切りつつある我が国において、法による紛争解決を重視し、国民の司法アクセスを確保する体制の整備が、公共性の高い民間の事業という観点から、はっきり国の責務であることを認めた画期的な法案であり、さらに被疑者国選の導入を図る極めて重要な法案であります。
 本法案には、財団法人扶助協会の経験や、これまでの日弁連における検討が、すべてとは言えませんが、ある程度取り入れられた内容となっています。例えば、日本司法支援センターが非公務員型とされ、民間人たる弁護士などが、扶助協会と同様、運営に参加できる体制となること、検察と対立する刑事弁護、国を相手とする行政訴訟などを扱うがゆえに不可欠である弁護士等の職務遂行の独立性が法文上明記されたこと、独立性担保の機関として中立的な審査委員会が設置されること、事業に地域の声を幅広く反映させるため地方協議会が設置されること、公的団体からの委託により自主業務を行うことが可能となること、さらに衆議院で、二十九条、三十五条中の弁護士に対する懲戒文言が削除されたことも、誤解を生まない重要な修正であったと考えます。
 私としても、本法案については積極的な評価をし、今国会での成立をお願いするものです。
 その評価の上で、与えられた貴重なこの機会に、今後の御審議の中で是非検討いただきたい課題の中で、四点に絞り要望を述べさせていただきたいと考えます。
 第一に、本センターが法務省所管法人であることから、本部組織においても支部においても弁護士の職務の独立性が目に見える形で実現され、弁護士の独立性について国民の信頼が揺るがない体制とされるべきことです。
 業務方法書、国選弁護人との契約約款、事務取扱規程などに職務の独立性の観点が反映されることは当然ですが、それらは内部的な運用であり、例えば理事や支部長を始めとする人事その他の運営において国民に目に見える形での弁護士会の関与が確保される必要があります。
 大阪支部でも、現実の業務を担うのはほとんどが弁護士です。大阪支部の運営についても、大阪弁護士会が関与する仕組みこそが多くの弁護士の協力を得、かつ永続的に独立性を担保する上で必要ですし、職務の独立性なくしてセンターに対する大阪府民の信頼は得られません。
 最高裁の関与は、実に法文上十一か所も記載されているにかかわらず、残念ながら弁護士会の意見を聞くとの規定は一か所もありません。法務大臣は、衆議院における御答弁で日弁連の意見に配慮すると明言されていますが、貴院の審議を通じ更に明確にされることを希望しています。
 第二に、このセンターが機能するためには、言うまでもありませんが、十分な予算措置が不可欠です。
 法案の第十一条では、国は必要な法制上又は財政上の措置を講じなければならないとされました。日本では、民事法律扶助予算が国選弁護を含めても百十億円程度にすぎず、国民一人当たり九十円弱という金額は、アメリカ、イギリスの一人当たり数千円の予算規模と比較し、余りに貧弱であることは国際的に有名です。
 しかも、困ったことに、日本ではサラ金のコマーシャルがテレビにはんらんしています。無防備な若者や過疎地の気の良いお年寄りが悪徳商法のえじきになっています。窓口に来る多くの市民は法律相談だけでかなり救済されています。少しの予算で多くの国民が悪徳商法で丸裸にされたり一家離散の憂き目に遭うことから救済されるわけです。制度に魂を入れるため、是非予算獲得への応援をお願いいたします。
 第三に、自主事業が今後とも本部で行われるもの、支部独自で行われるもの、いずれもが従来どおり行える柔軟な運用が確保される必要があります。
 法的サービスは国民の需要とともに流動的、可変的であり、今まで弁護士は、社会のニーズにこたえ臨機応変かつ積極的に取り組んできました。日弁連は全国的に当番弁護士、少年付添いなどの自主事業を展開してきましたし、大阪支部独自の自主事業としては、犯罪被害者支援、過労死などの労災保険請求支援、高齢者障害者出張法律相談、ホームレス支援など先進的な業務に取り組んできました。自主事業がまず先行し、それが熟した段階で本来業務に取り込まれる道が何とか確保できたことは喜ばしいと考えています。
 しかし、今回、自主事業は本来業務に支障がないことが要件とされました。これを硬直的に解釈されると自主事業ができず、かえって司法アクセスを阻害する結果となりかねません。
 さらに、資金的な面も看過できません。日弁連の自主事業は贖罪寄附あるいは弁護士らの扶助協会への直接寄附による資金約九億円を利用してきましたが、直接寄附は今後は本来業務にのみ充てられるため、その寄附を弁護士会にいったん誘導する必要があります。しかし、弁護士会は特定公益増進法人でないため、弁護士会への寄附は税務上のメリットがなく、日弁連も、さらに大阪弁護士会も寄附を集めることができるか、今までどおり自主事業が継続できるかの不安を持っています。法律の施行までに周辺の法整備が望まれます。
 第四に、業務範囲について、本来業務の範囲については、仮に法案が成立しても引き続き拡充が検討される必要があります。
 司法改革審議会意見書も、平成十四年三月に閣議決定された司法制度改革推進計画にも、民事法律扶助については、対象事件、対象者の範囲、利用者負担の在り方、運営主体の在り方について、更に総合的、体系的な検討を加えた上で一層充実すべきであると述べています。さらに、司法制度改革推進計画では、本部設置期限、今年の十一月ですが、所要の措置を講ずると述べています。
 対象業務でいえば、例えば今の時代、民事扶助業務を裁判業務に限るのは余りに狭過ぎるのです。少なくとも行政不服手続に拡大すべきですし、社会的弱者については厳し過ぎる資力要件の緩和も不可欠です。現在、与野党で検討されている犯罪被害者支援の充実、さらに当番弁護士、少年付添いについても本来業務としての拡充が検討されるべきです。
 最後になりますが、日弁連はもちろん、大阪弁護士会としても、新たな被疑者国選を近畿圏のどこでも円滑に実施できる体制、過疎地での法的支援サービスを充実させるための体制など、支援センターの業務の円滑な発足とその後の業務の充実を目指し、全面的な協力を惜しまないつもりですし、既に会内ではその体制作りを検討中であることを併せ申し述べ、本日の私の意見といたします。
 御清聴ありがとうございました。
#326
○団長(松村龍二君) ありがとうございました。
 次に、遠藤公述人にお願いいたします。遠藤公述人。
#327
○公述人(遠藤一清君) 私は、検察審査員を経験したOBとして、今回の裁判員制度と検察審査会制度について少し、ちょっとお話をしたいというふうに思っています。
 私は、かねがね裁判員制度と検察審査会は車の両輪であると。検察審査会制度が先に先行したわけでございますが、その実情を少し知っていただくと、これから発足するその裁判員制度がこういう形になるんではないかというのがかなり見えてくるというふうに考えております。
 そこで、まず最初に、より身近に検察審査員というのはどういうような活動をしてどういうふうに思っているかということで、別添の資料の一に検察審査員を終了後のレポートをまとめたものを、私が勝手に要約したんですが、付けております。後ほどごらんいただきたいんですが、実は、このレポートを付けた意味は、選任届を受け取ってからと、それから検察審査員は六か月ですが、半年間を過ぎてその後どういうふうに変わったかと、その変化と成長を見ていただきたいということでございます。
 それで、第一項でございますが、この成長は、市民感覚での法律の尊守や社会のルール、人権を守ることの大切さ、言わばこれは小学校や中学校で私たちが習ったことなんですが、それを審査会で審査を行うことによってそれを再認識をしたと、こういうことが一つと、それからその基盤に立った、その基盤に立った審査活動を通じることによって各自の達成感とか自信とか、それから審査員同士の連帯感が醸成されてきた、そういう喜びから生まれてきたのがこの半年間の成長であろうというふうに考えております。
 次に、今度導入される裁判員制度と検察審査会制度は、審査から決議に至るプロセスは私は基本的な部分では一緒だというふうに考えております。ということは、審査会制度の動きを見れば裁判員、先ほど申しました裁判員制度が予測されるということですが、それを一部ちょっと、現実問題としてちょっとお話をしたいというふうに思っております。
 まず、裁判員制度を報道されるときに、最近ネガティブな質問が少し多いように思っています。例えば、素人にできるんだろうかとか、仕事はどうなるんだとか、それから専門用語は分からないんじゃないか、プロの裁判官と対等に話ができるんであろうか、守秘義務違反は罰則規定があるよ、こういうような報道がなされるわけですが、これは実は審査員が選任されたときに持った心配であったり不安であったりと全く同じだということです。
 そういうレベルの審査員が、実は平成十四年度までに十四万九千件の申立て案件を処理をいたしております。その中で一万六千件の起訴相当等の決議を行っており、私たちが最も注目しているのはここ三、四年の起訴率でございます。これが三〇%に上がっております。これは、取りも直さず司法参加の原点である民意の反映というのが実際問題になされてきておると。発足してから五十六年になりますからちょうど半世紀、やっと民意の反映が出てきたというふうに理解をしております。
 裁判員の方が仮に五年後に卒業されて、終了されて感想文を書かれると、多分冒頭の感想文のような内容になるというふうに理解をしております。重要なことは、裁判員のこういう真摯な活動が裁判に反映されることと、それが積み重なっていく、これが、そういう行為が真の国民参加であるというふうに私は理解をしております。
 次に、審査法の一部改定の決議に対するいわゆる法的拘束力の付与でございますが、これは実は私たちが非常に大歓迎をしている大改正だというふうに私たちは位置付けをしております。これで頼りがいのある分厚い検察審査法になったというふうな理解をしております。
 そこで、一つお願いがあるんですが、平成二年の十月に検察審査法に関する世論調査というのを実施をしております。これは、犯罪の発生とその後の経過、それから認知、もし検察審査員に選ばれたらどうしますかというような三つのセクションに分かれた質問だったと思うんですが、今回はこれだけやはり法的拘束力の付与という条項が加わって非常に分厚くなったわけですから、是非利用していただきたい、国民に是非利用していただきたい、そういう意味においての調査、どういうふうにしてこれを認知させていく、広報、知らせていくかという、そういう活動を行うための調査を是非お願いをしたいというふうに思っています。
 それから、守秘義務の問題ですが、今回、検察審査会制度も裁判員制度と同じような守秘義務に格上げされたわけですが、発足以来五十六年間、私たちの知る限りにおいては検察審査会で守秘義務違反というのは発生をしていないというふうに思っています。これは、その任務を遂行してきた人たちがその間に培った正義感みたいな、法の尊守というか、正義感というか、そういうものをいまだに持ち続けている、そういうことだと思います。ですから、守秘義務が別になくても、全然心配することは、あっても守秘義務違反を犯すことはまずないと思うんですが、裁判員制度が導入されますと、扱う事件が非常に予期もせぬ大事件を扱うということにもなりかねないわけですから、被疑者や被害者の人権はもとより、私たちは裁判員とか審査員の人権を守る意味においても、この守秘義務というのはあった方がいいです。少し、弁護士会の先生方とはちょっと意見が違うかも分かりませんが、私はそういうふうに思っております。
 それから、私が一番期待しておるのは、裁判員が将来日本を変えていくんではないかという期待を実は持っておる一人でございます。
 昨年の十一月の九日に日経さんのコラムがちょっとございまして、その中で、「NEWSな数字」という毎週日曜日に出る小さなコラムなんですが、そこに「百七十四人に一人」という記事が載っておりました。これは日経さんの試算による、将来五十年間で、法律施行から五十年間で何人の人が裁判員に当たるかという確率です。百七十四人に一人という記事が載っておりました。今回、総事件数が二千八百、裁判員が六、補充員が二と仮にした場合、その当たる確率というのは、日経さんのベースで計算しますと七十九名に一人、五十年間で当たるということになります。
 私は、問題にしておりますのは、期待をしておりますのは、この裁判員をされる年間の人の数でございます。これから計算していきますと、約二万二千四百名の方が一年間で裁判員の経験をされます。それに検察審査員の終了者を入れていきますと約三万一千人の方が、いわゆる法をきちっと守っていこうやないか、それから社会のルールを大切にしていこう、人権を尊重していこう、そういう活動を続けた人たちが三万一千人ずつ世の中に出てくる、こういうことでございます。
 私たちの社会は、地縁、血縁、上下社会というような関係の中で生活をしてきたわけです。それがだんだんだんだん、少子化であったり、住宅事情がマンションになって変わったり、それから年功序列型の賃金が崩壊したり、いろいろなリストラ、いろんな問題が積み重なってきて、結局、やはり今現在は自分若しくは自分たち中心主義の社会になってきておると思います。そういう中で、そういう司法を、きちっとだれかのためにそういう正義を行ったという人たちが三万一千名ずつ出てくるということになりますと、これだけ地域ボランティアが全く発達していない日本の社会でも、そういうものも生まれてくる可能性もあるし、犯罪件数も減ってくる可能性もあるわけで、そういう面で新しい世の中が生まれるのではないか、そういうことを期待をしております。
 それから、最後になりますが、司法参加を実感として国民全体が共有していくためには、やはり裁判員をされた方がその自分の経験を話をしていく、これは守秘義務とかに当たる項目を話せと言っている意味ではないんですよ。体験したことを話していく、それから自分が感じた改善を、こういうふうに改善をすべきだという点が感じられたものはどんどん発言していく、そういう民間のボランティア団体みたいなものを作っていく必要があるんではないかなというふうに思っています。
 個人ベースであれ行政であれ企業であれ、そういうところをサポートしていくサポーター的な活動ができるような環境整備も是非お願いをしたいと思います。サッカーのサポーターはフィールドでプレーをすることはありませんが、裁判員制度のサポーターは必ず、フィールドでプレーをすることになる可能性が非常に高いわけでございますので、そういう面で、発足後にはそういうような活動もやはり彼らに是非期待をしたいと思うし、私たち協会もそういう人たちのやっぱりサポーターでありたいというふうに思っております。
 以上でございます。
 ありがとうございました。
#328
○団長(松村龍二君) ありがとうございました。
 次に、西村公述人にお願いいたします。西村公述人。
#329
○公述人(西村健君) 弁護士の西村健といいます。
 本日は地方公聴会で意見を述べるという貴重な機会を与えていただき、ありがとうございます。
 私は、一九八八年に大阪弁護士会の調査団の一員としてアメリカの陪審制度を調査して以来、裁判への市民参加制度に強い関心を持ってまいりました。いずれも短期間ですが、アメリカ以外にも複数の国の陪審・参審制度を見てまいりました。市民参加や刑事手続に造詣の深い学者や実務家からの話も聞いてまいりました。そのような者として、今回の裁判員法及び刑訴法改正について意見を述べたいと思います。
 私個人としましては、結論的には、幾つかの制度を比較してみますと、現在の日本においては陪審制度が最も望ましい制度と考えています。今回の裁判員法はこれとは異なっておりますけれども、主に二つの観点から、基本的に支持しております。
 第一には、民主主義という観点です。
 多くの民主主義諸国においては、形態は様々であるにせよ、裁判への市民参加がごく当然であると考えられ、実施されています。選挙制度と裁判への市民参加が多くの民主主義諸国の車の両輪となっております。
 最近では、この三月に韓国に訪問させていただきました。韓国でも、現在司法改革が進められていますが、その一環として、裁判への市民参加、特に陪審制度の導入の是非が重要課題とされていました。公聴会も開催されていましたし、公聴会では司法への市民参加の必要性が熱く議論されていました。
 私たちが生きていく社会の問題は私たち自身が解決していくというのが民主主義だと思います。裁判員制度は、司法に市民が参加することによって、そのことを改めて確認し、実現するものとして重要な意義が認められると思います。
 第二は、手続の改革につながるという点です。
 市民参加が実現している諸国の裁判手続では、数多くの見習うべき点があります。例えば、分かりやすい法廷活動です。裁判のプロではない市民が参加する以上、プロの言葉でなく、できる限り分かりやすい言葉で裁判を進めなければなりません。また、法廷で見て、聞いて、分かる裁判にするために、直接主義、口頭主義が徹底され、それを実現する様々な工夫がなされています。
 さらに、集中した裁判を行うための十分な証拠開示など、諸制度も整備されています。日本ではこれらの制度やその運用が不十分でしたので、裁判員制度の導入を契機として手続改革が着実に進んでいくと思いますし、そのように期待しております。
 このような観点から、私は、今国会での裁判員法の成立を望んでおりますが、三点ほど危惧している点を指摘したいと思います。
 第一点目は、評議の在り方です。
 一般の国民が裁判官とともに議論する制度においては、国民が十分に意見を述べることができるのかが懸念されています。各国では、例えば若い人から話す、裁判官は最後に意見を述べるなど様々な工夫がなされていますが、それらを参考にすべきです。
 また、全員一致が目指されるべきと思います。アメリカの陪審研究では、全員一致、十二人中十人、十二人中八人の三つの多数決制あるいは制度を比較したものがありますが、全員一致制において最も議論が充実して行われ、参加者の満足感も高かったとされていますので、それらも参考にすべきだというふうに思います。
 裁判員制度で危惧している第二点目は、守秘義務です。
 守秘義務については、衆議院で一定の修正を経た点は評価しております。しかし、いまだにその範囲が明確になっておらず、不安視されております。
 裁判員に守秘義務を設ける立法趣旨は、一、他人のプライバシー保護、二、裁判の公正さや裁判の信頼を確保する、三、評議における自由な意見表明を保障することにあると衆議院法務委員会で法務大臣が答弁されておられます。とすれば、その立法趣旨が阻害されない事項は守秘義務の対象外とされるべきと考えます。
 具体的には、他人のプライバシー、発言した他人を特定する形で意見を紹介すること、これは守秘義務の対象とはなり得るでしょうけれども、それ以外については基本的には守秘義務の対象外とすべきです。殊に、評議の進行状況や雰囲気などは、話しても問題ないとされている感想との区別がとても困難ですし、また多くの場合、話しても問題ないと思います。
 さきに述べましたように、裁判官と市民の評議の在り方が問題とされていますが、評議の進行状況や雰囲気などが明らかにされませんと、より良い評議の在り方の工夫が困難になるかと心配しております。
 第三点目は、裁判員制度実施までの間の準備、殊に、実施後、国民が裁判員として主体的、実質的に参加しやすい諸制度の準備が十分行われるかどうかということです。
 裁判員法廷や裁判員控室の設置など裁判所設備の充実、裁判員が参加しやすい諸制度の整備、連日的開廷を前提とした裁判員に分かりやすい裁判を実現するための立証方法の整備などが必要です。これらの実現のためには、国民の声を十分に聞くとともに、相当額の予算確保が必要であると思います。その際、戦前の陪審制導入における予算措置を参考にしていただきたいと思います。その準備を精力的に行う何らかの部署の創設、そしてそれを検証する国民も関与した検証機関の設置なども必要だと思います。
 次に、刑訴法の改正ですが、連日的開廷を前提とする今回の法案について、結論的には支持したいと思います。しかし、被告人の防御権の確保が重要であると思います。現在の実務では、不十分な証拠開示や人質司法などと言われているように、被告人の防御権は必ずしも十分に保障されていないと私は考えます。連日的開廷になれば、これらの実務を改善する必要が特に高まります。改正刑訴法の解釈、運用も被告人の防御権という観点が重視されなければなりません。この観点から三点ほど指摘したいと思います。
 第一点目は、証拠開示です。
 私個人としては、検察官手持ち証拠のリスト開示が必要であると考えています。そこで、今回の制度では不十分だと思いますが、一定の場合に検察官に開示義務を認め、裁判所が開示について判断し、不服申立てもできるということで、現行法よりは進んでおります。ただ、条文の解釈、運用次第では、全面的証拠開示に近いものになる可能性と、他方、狭い証拠開示になる危険性の双方を秘めております。証拠開示が起訴後早期に十分に行われなければ、争点整理が進まず、連日的開廷もできません。十分な証拠開示となるような解釈、運用とすべきです。
 第二点目は、開示証拠の目的外使用の禁止規定です。
 法文を形式的に解釈すれば、現在全く問題ないとされている使用方法も禁止することになりかねません。その意味で、衆議院で二百八十一条の四の二項という条項が追加されていますが、被告人の防御権を重視し、現に弊害が生じたかどうか、公判期日で取り調べられたかどうかなどの点を重視した解釈、運用とすべきです。
 第三点目は、被告人の防御権の確保という点から見た連日的開廷を行うための諸条件の整備です。
 十分な証拠開示がなされ、十分な準備期間が保障されることはもとより、被告人と弁護人の間の十分な打合せ、すなわち接見が可能となるような制度の運用や環境整備、公判での証言記録の即日交付、取調べの可視化、すなわち録画、録音など新たな立証方法の整備、公判での証言のビデオ化などが必要です。これらの中でも、保釈制度及びその運用の見直し、土日・夜間接見や裁判所内での接見の確保、取調べの録画、録音が重要だと思います。
 被告人の主張や反証を十分最大限行うためには、弁護人と被告人間の打合せが十分行えることは不可欠です。国の政策の一環として連日的開廷を行う以上、国の人的体制の制約などを理由とした接見の制限は不合理だと考えます。
 また、取調べの録画、録音は、遅くとも裁判員制度実施までの間に実現すべきだと思います。そのことを通じて、不要な争点が減って、迅速化に役立ち、争点になった場合も裁判員の判断も容易になると思います。取調べの録音は、欧米諸国だけのものではございません。台湾では弁護人立会いや録音が実施されています。韓国でも弁護人立会いが認められていますし、録画についても試験的に実施される予定と聞いております。今や、可視化は世界の常識だと考えます。
 最後に、裁判員法に関して一言述べたいと思います。
 私を含め、今を生きるほとんどすべての日本人は、選挙制度が存在することをごく自然に受け止めています。しかし、終戦直後の六十年前まではそうではなかったと思います。戦前の普通選挙制度導入に際して時期尚早だという意見もあったように思います。また、現在の選挙制度にはいろんな問題点が指摘されています。しかし、現在、選挙に行かない人も含めて、選挙制度そのものをなくそうという意見の人はいないと思います。
 今回、司法参加制度が議論されていますが、それに対して否定的な意見も存在しています。また、様々な問題点も危惧されています。しかし私は、近い将来、市民が参加する裁判制度も選挙制度と同じくごく自然に受け止められ、改善は図られていくけれども、廃止することはおよそ考えられない社会になると信じております。
 以上で私の意見とさせていただきます。
 ありがとうございました。
#330
○団長(松村龍二君) ありがとうございました。
 以上で公述人の方々の御意見の陳述は終わりました。
 これより公述人に対する質疑を行います。
 質疑のある方は順次御発言を願います。
 なお、質疑及び御答弁は御着席のままで結構でございます。
#331
○陣内孝雄君 自由民主党の陣内と申します。
 今日は、公述人の先生方、大変御多用の中に貴重な陳述をお聞かせいただきまして、感謝申し上げますとともに、敬意を表したいと思います。
 我が国の経済社会を取り巻く環境、これは、規制緩和が進み国際化が進む中で、これまでの事前の規制とかあるいは調整、そういう形から事後のチェックあるいは救済型に進んできたと、こういうことで、司法の果たす役割というのは極めて重要になってきておるわけでございます。
 政治改革とか行政改革にやや後れてこの司法制度改革というのが始まったわけでございますが、ここでしっかりと国民が参加し、国民が利用しやすいような制度を確立していかなければならないというふうに思うわけでございます。
 ただいま御意見をいただきまして、大変、司法制度について御見識を伺い、これまで法科大学院もスタートしたし、これからいよいよ司法、裁判員制度を含めた大きな改革の段階に至って、大変参考になりました。
 せっかくの機会でございますので、それぞれの先生方に少し補足的にお尋ねをさせていただきたいと思います。よろしくお願い申し上げます。
 まず、山本先生に対してでございますけれども、法教育の必要性についてお触れくださいました。
 やっぱり裁判員制度の導入については、まず多くの国民が進んで参加できるようにすること、それから重い責任を十分果たすことができたと、こういうふうに思えるようにすることが大事だと思います。
 この関係では、まず裁判員制度を国民に周知徹底させるための措置、これは学校とか社会とかいろんな場における法教育の大事さがそこにあろうかと思いますが、この点について改めて御所見を更にお聞かせいただければと思います。
#332
○公述人(山本一宏君) 私どもの方で十五年ほど前からこういうことをやっていこう、要するに主権民たる国民をどういうふうに育成するのかという前提で、初等中等教育というところから法教育を始めたということでございます。
 今後につきましても、やはり法教育というものを今後の一つの司法へのアクセスの拡充という部分から考えても必要であろうというふうに考えております。
 以上です。
#333
○陣内孝雄君 この司法ネット法案というのもまた別な意味で大変大事だと思います。既に多くの取組をしておられて、早期にどこでもこの司法ネットを通じて支援できるようにすることが大事だという御指摘がございました。そのとおりだと思います。
 これから更に総合調整機能を発揮する上で、加えてどういうことが望ましいのか、御発言お願いしたいと思います。
#334
○公述人(山本一宏君) 司法ネットの中におきまして、当然、予防司法の観点というものがございます。これにつきましては、予防司法と言われましてもすぐにどうのこうのできるわけではございません。それであれば、理想から言いますと、小学校低学年辺りから法教育というものをなじませていくというのが現在の一番いい方法であろうというふうに考えています。
 ただ、我々につきましては、高等学校の社会科あるいは家庭科におきまして、その授業の一環として今後も司法ネット等含める形の方がより良いネットになっていくようなふうには考えております。
 以上です。
#335
○陣内孝雄君 ありがとうございました。
 次に、大東先生にお願いしたいと思います。
 裁判員制度、これは豊かな経験を持ち、あるいはまた的確な判断力を持った国民が主体的に参加していただくということでもって国民の司法に対する理解と支持が得られるということでございますが、一方、最近、二月に行われたNHKの世論調査によりますと、導入に賛成される方が四六・五%、反対が三四・一%で、裁判に参加したいかという問いに対しては、できれば参加したくないが四二・五%、絶対参加したくないが一九・八%、こういうふうに数字が出ておるわけでございます。
 参加したくない割合が六二・三%にも上がっているということでございますが、この裁判官と裁判員の構成について、より多くの裁判員が自由に発言できるように、そういう構成が望ましいというふうに御発言くださいましたけれども、この辺の国民の意識についてどういう具合にお考えでございましょうか。
#336
○公述人(大東美智子君) 今までの裁判に対する国民の意識は、なるべく裁判は起こしたくない、裁判所は敷居が高いというのが一般的な人の感覚だと思うんですね。
 それで、裁判というものは、裁判を受ける権利があるということが国民の中にそういう教育として徹底されてなかったということが非常に重要なことだと思います。学校教育の中で裁判所を見学に行ったことがあるとか、そういうことがほとんどの人が皆無で、私も、この裁判フォーラムに入って裁判傍聴とか模擬陪審裁判とかするまで傍聴とかも行ったことありませんし、なるべく行きたくないという感覚の方が強いので、これからの教育の中でやっぱり裁判傍聴をするとか、それから今まで模擬陪審裁判を私たち七回してきたんですけれども、一般公募で、それで、陪審員を経験した方はもうみんなやっぱり熱心で、非常にちゃんと討論ができるんですね。だから、自分はそんなのできないとか、そういうのは裁判官に任せればいいという、今までの風潮をまず変えていかなければならないと思います。
#337
○陣内孝雄君 更にお尋ねさせていただきたいんですが、裁判官の判断の方が信頼できるというふうな答えをした人が全体の一七・八%、誤った判決につながるからというふうな懸念を持っている方が四五・九%と、こういうふうに裁判員制度への信頼に疑問を投げ掛けるような調査結果も出ているわけでございますが、そういう点についてどのようにお考えでございましょうか。
#338
○公述人(大東美智子君) 裁判員制度そのものを余り深く理解していないということがまず第一点。外国の陪審裁判とかを余り、ドラマとかテレビでしか知らないという方がほとんどだと思うんですね。それで自分に自信がないと。
 裁判官は偉い人。まず、裁判官は偉い人、非常に難しい司法試験を通って裁判官になった人だから絶対的な信頼が置けるというふうに考えている方が多いと思うんですけれども、戦前の陪審裁判が、戦前、昭和三年から十八年まで十五年間、陪審裁判が実際に日本でも行われていまして、その間の冤罪率が非常に低かったというふうな統計が出ているんです。
 それで、今、ほとんど有罪率が九九・九%というふうなことから考えて、陪審裁判を行えば冤罪率がやっぱり低くなるんじゃないかなというふうに私は考えておりますので、裁判官の方が私たち一般市民よりも信頼ができるということはちょっとどうかと思っています。
#339
○陣内孝雄君 ありがとうございました。
 引き続いて、前田先生にお願いしたいと思います。
 国民が司法判断に参加することにより信頼性がより一層高まることになるというふうに期待していらっしゃるということでございますが、そういう点で国民の参加を促すにはどのようなことに留意した方がいいのか、更にお考えがありましたらお聞かせいただきたいと思います。
#340
○公述人(前田葉子君) 先ほどからもいろいろお話が出ておりますが、まず国民の皆さんに分かりやすい方法で広く知らしめて、そして裁判員制度というものの理解ができるようになれば、それによって、犯罪をすればこういう結果になるという意識が高まってきて、犯罪の抑止にもなってくるかなと思っております。
#341
○陣内孝雄君 ありがとうございました。
 時間もなくなってまいりましたので、次は宮崎先生にお尋ねさせていただきたいと思いますが、司法支援センターの業務について、弁護士あるいは弁護士会のお立場から大変貴重な御意見をいただきまして、よく分かりました。
 なお、この際、法曹のみならず、広く人材を求めた体制がこの司法支援センターの機能を十分発揮する上には必要だというふうな意見もございますが、先生のお立場からそういうことについてどのようにお考えになっているのか、お聞かせいただきたいと思います。
#342
○公述人(宮崎誠君) 今おっしゃったとおりだと私どもも考えております。
 やはり、最近の法律の領域あるいは紛争の広がり、さらに様々な法際、法律の、法律と法律の間の様々ないろいろな業務がございますし、またさらに行政手続でありますとか、そのようなことの支援もやはりしていかなければならないと、このように思っております。
 したがって、私どもも、地方自治体あるいは消費者相談センターなど、幅広い方々との情報交換並びに支援が必要だと、このように考えております。
#343
○陣内孝雄君 ありがとうございました。
 遠藤先生にお願いいたします。
 私も検察審査協会の方から話を伺う機会がありました。今日、遠藤先生がおっしゃった、いろんな認識をこれまで持ってきておったわけでございますが、検察審査会というのは六か月の任期をもって、しかも三か月で半数が交代していくという中で、最初の考え方が次第に理解が深まってすばらしい業績を上げていかれるような形になっておられるということで、使命感を十分に達成しておられ、満足しておられるように聞いておるわけでございます。
 そういう意味で、一言だけお尋ねさせていただきたいのは、この裁判員制度を定着するためには、罰則によってそういう裁判員になっていただくような措置を講じようということになっておるわけでございますが、そうじゃない、積極的な参加を促す意味でどんなことがあり得るのか、お考えがおありでしたらお聞かせいただきたいと思います。
#344
○公述人(遠藤一清君) まず、私が、過去、調査に関しましては何件かの調査が発表されております。実はその数値が基本的には私は決して低くない、悪くないという理解をしております。
 先ほど、平成二年に、十月に内閣府の政府広報がされた世論調査では、今からですから十四年前、ですから五十二年ぐらい、ちょうど半世紀を過ぎたぐらいのときの調査ですが、検察審査会ということを知っていますか、見たり聞いたりしたことがありますかという答えに対しては、三一%ぐらいの方がイエスという答えが出ております。しかしそれは、その検察審査会というのが検察官が不起訴にした事件を扱うということを知っていますかというレベルまで審査会が知っていますかとなりますと、八・一%にすとんと落ちます。その当時で、例えばそういう審査会にあなたが選ばれたら参加しますかという質問に対しては、一七%ぐらいは是非参加したい、参加してみたい、あとはううんというような回答でございます。
 今回、まだこれから五年間を掛けていろいろ法が国民全体のものになるように、なじむように今から調整していくわけですから、今、単に新聞報道でなされているだけの情報でこれくらいのスコアというのは非常に私は高いと思います。ですから、特にこの五年間が非常に大切な時期であろうと。いろんな規定を設けるんじゃなしに、真に理解をしていただく、そういうような広報、政府広報のやり方が、是非うまくやっていただければ、全くすんなり、検察審査会で何も問題ないわけですから、すっと入るというふうに私は確信をしております。
#345
○陣内孝雄君 ありがとうございました。
 終わります。
#346
○小泉顕雄君 自由民主党の小泉と申します。どうぞよろしくお願いをいたします。
 先生方には、大変お忙しいところをお出ましをいただきまして、これまでの大変貴い御経歴に基づいて貴重な御意見を賜りまして、本当にありがとうございました。
 本日のこの公聴会のテーマは多岐にわたっておるわけでありますけれども、時間もありませんので、特に私が関心のあります一点について、これは私だけではなしに、今回の国会では司法制度改革関連の法案が十本ほど提出をされておるわけですけれども、その中でも一番関心の高い、あるいは制度改革の目玉とも言われているのがこの裁判員法案でありますので、この点について先生方の御意見をちょうだいをしたいというふうに思います。
 裁判所というのは、近寄りたくない建物の最右翼、代表格のように今言われました。また、裁判官というのは、どちらかというと純粋培養をされて世間の常識を欠いておられる方が多いとかいうような評価がある中で、国民の感覚というものが裁判の内容に反映されることによって、司法に対するこういった国民の偏見といいましょうか、というものを解消するとともに、更に信頼を深めるということで、また裁判の迅速化とか、あるいは国民にとって裁判そのものを分かりやすくしていくということでこの裁判員の法案というのができたわけでありますけれども、先生方は既にただいまの御意見でこの制度についての肯定的な見解を持っておいでになるということはよく分かったわけでありますけれども、しかし、先ほども議論がありましたけれども、一方では、この制度に対しまして、裁判にかかわる方についてはやはり公正中立で、しかも豊かな見識、あるいは専門的な知見を持っておられる方ということがどうしてもイメージされるわけでありまして、そういう中で、適正な裁判を行っていく上で裁判員という方の信頼性をどう確保していくのか、それらについての心配は非常に多いように聞いております。
 私も京都の弁護士会の方から、事前に勉強しなさいということで、弁護士会が作られたビデオを見せていただきました。非常にすばらしく編集をされておる内容で、きれいにまとめられておるわけでありますけれども、納得、改めて納得した部分であるとか、あるいはいささか疑問が大きく、不安が大きくなったような印象も持ったりしたわけでありますけれども。
 そこで、ここでは、裁判に対する信頼性というものを確保という、そういう観点からこの裁判員制度というものをそれぞれの先生方がどういうふうにおとらえになっているのかをお聞かせをいただきたいと思います。
 前田公述人は先ほど、裁判員というのが期待される役割を果たせるかどうかという点については簡単なことではないだろうというふうにおっしゃっておるわけですけれども、とすれば、その辺はどう克服をしていくのかということについても併せてお話をいただきたいと思います。
 また、遠藤先生は、先ほどもありましたけれども、検察審査員の制度についても非常に深くかかわっておられるということで、この方々も一般の国民から選ばれるという点で今度の裁判員と同じ仕組みで選ばれてこられるわけでありますけれども、同じような、やはり審査員の方々がいかに信頼性を確保していくかということについてもいろんな御議論があったかと思うんですけれども、その辺も併せて、この裁判員の方々についての御見解というものを御紹介をいただけると有り難いと思います。
 お一人ずつ、よろしくお願いいたします。
#347
○団長(松村龍二君) それでは、全員の公述人からそれぞれお願い申し上げます。
#348
○公述人(山本一宏君) 裁判員制度における信頼性ということでございます。
 先ほど、少し観点が違うかも分かりませんけれども、今回行われる裁判員制度につきましては、やはり裁判員に対して分かりやすいという部分がなければならないと思います。そして、今言われているような守秘義務等々につきましての信頼性というのも当然必要になってきます。
 ですから、一つ違う観点から、やはり今後、法教育というものをどんどん取り入れて、そこでのレベルアップといったらおかしいですけれども、きちんとした形の国民による裁判員というものを構築していく必要があるというふうに考えます。
 以上です。
#349
○公述人(大東美智子君) 裁判員というのは、普通の、一般の市民を選挙人名簿で選ぶわけですから、特別な人じゃないわけですね。ですから、やっぱり初めの裁判官からの説示とかそういうのをきっちりするということ。それと、裁判所をもっと身近なものにするように、やっぱり裁判所側の方から寄っていくという努力が必要だと思います。
 裁判官は、私たちが今までの傍聴で感じるのでは、非常に高い壇の上に立って、法服を着て、余り要らぬことはしゃべらぬというような、そういうかしこまった存在であるんですけれども、裁判官も一人の人間だということで、フラットに話ができるということをやっぱり努めていただきたいと思います。そうすると一般の市民も裁判官も同じような壇上で話ができると思いますので、裁判官、先ほども純粋培養されたとかおっしゃっていましたけれども、今は割と裁判官も裁判官ネットワークとかでどんどん発言をされてきていますので、やっぱり私たちともっと交流をするような機会を持っていただきたい。
 そして、一般の人たちがどういう感覚で、やっぱり被害者に対してどういう意識を持っている、加害者に対してどういう意識を持っているという、一般の人の気持ちをより酌むという意味では、裁判官だけの裁判よりは裁判員が中に入って裁判をした方がより信頼性はあると思っています。
#350
○公述人(前田葉子君) 一般の二十歳以上の方が無作為に抽出されて、そこに裁判員として出廷しましたときに、やはり裁判、法律というものに対して無知であるということがまず頭にありますので、そういう点で非常におっかなびっくりという点が出てくると思います。
 ただ、裁判官だけで判断しておる今の裁判よりも、やはり裁判員で出ましたそれぞれの方が、各々の仕事の分野においては専門家の方が出てくると思いますので、判断の仕方が非常に幅の広いものになると思います。そこに、裁判員制度は非常に信頼性が高まってくるんではないかと思います。
 ただ、やはり出る方のフォローというのを十分にしないと、やはり引っ込み思案だけが残ってくると思っております。
 以上です。
#351
○公述人(宮崎誠君) 今まで言われたような意見というのは、私の方も共感いたします。法教育でありますとか分かりやすい裁判でありますとか、そのようなことを推し進める必要があろうかと思います。
 今回の法律でも三十六条で理由を示さない不選任の請求という形があって、検察、被告人それぞれ四名までが理由を示さないで裁判員を排除できると、このような規定がありまして、一応、ある程度問答した上でとんでもない人は排除するというのか、そのような一応法律上の規定も設けられているのではないかと思います。
 また、法廷に本当に呼び出された裁判員につきましては、裁判官が適切な指示、あるいはそのような分かりやすいビデオにしろ、いろいろな教示方法を工夫しなければならないと、このように思っています。
 またさらに、分かりやすい裁判を心掛けなければならないと思います。もちろん、弁護人がテクニカルタームばかりを並べる、裁判官がテクニカルタームばかりを並べる、こういう裁判はやはりやめていただかなければなりません。もちろん、素人でできるかということはありますが、アメリカでも高度な特許裁判を陪審裁判でやっている。このような場合は、やはり模型を使ったりビデオを使ったり、このような形でいかに素人に分かりやすく説明するかということが弁護士の腕であり、あるいは検事のこれからの腕になろうかと思います。我々法曹関係者も、このためには今後とも更に大分努力をしなければならないなと、こう考えております。
 以上です。
#352
○公述人(遠藤一清君) まず、素人で裁判員が務まるかという、その議論を正しいというところからスタートすることに私は少し問題を、抵抗を感じておるわけです。
 基本的には、争点がはっきりし証拠がはっきりしたものをどう判断するかと、一言で言えばそういうことです。専門的な、量刑の何ぼがいいかとかいうようなことはやはりある程度裁判官に任せていかなくてはならないということは発生するにしても、一番大切なのは、物事の、一つの事案、事件に対して、それのお互いの弁護人、検察官からの聴取なりを見て、それが果たして国民が、レベルで判断できないかといったら、そんなことは決してないと思います。
 ただ、できないのは、余りにも法律用語が難しかったり、法解釈が余りにも多岐にわたっていたり、それを、前例がどうだったかとか判例がどうだったかというたぐいの議論は非常に難しいということだろうと思います。
 特に、例えば、明日GDPの発表がありますが、実質で何ぼだというような、それが裁判の世界だと思うんです。それで、私たちは名目で生活しているんやというような世界であろうと。一言で言うたらそういうことになろうかなというふうに思いますが、まず、やはり民意を反映をしていくということが一番大切で、先ほど宮崎先生もおっしゃったように、素人で大変やということに立脚するならばアメリカの陪審制度なんというのは元から成り立たなくなってくるわけですから、そういう面では全く私は心配をしていなくて、もう、よりやはりきちっと、広報活動をきちっとやっていけば、皆さんはそれは分かってくる。
 裁判というのは難しいということが一つは前提にあると思うんですね。先ほど検察審査員の卒業レポートの中に、最後に、二行目に、大阪地裁という言葉には親近感を感じますと、半年間したら。今先生がおっしゃったように、裁判所というのは一番嫌いな言葉や。違うんですね、検察審査員をやった人は、大阪地検で何々の案件が持ち込まれたと、もう親近感を持つんですね。それくらいということですから、そんなに私は難しくは考えていません。
 以上です。
#353
○公述人(西村健君) 私は、今回の裁判員が選任が無作為抽出である、そこから一定の関係者が除外していくと、そういう制度に基本的にそもそもの信頼を置くことができるんではないかと思います。例えば、選挙制度におきまして国民一人一人が一票を持っている、それと似たような形で裁判員制度が実施されるというところに基本的な信頼の源があるというふうに思います。
 ただ、信頼をより増していくということはいろいろ必要だと思います。それにつきましては二つほどあると思いまして、一つは、今までいろんな公述人が話しされていますように、分かりやすい裁判をするということです。法廷でプロの言葉ばっかりしゃべっていて本当に裁判員が分かるんだろうかという疑問を持たれては、これは若干信頼性を害していくということになると思いますので、分かりやすい法廷活動をしていくことによって裁判員裁判の信頼性を高めていくということが必要だと思います。これは主に当事者である検察官、私も含めた弁護士の責任だと思っております。
 もう一つは、評議の方法です。裁判官と裁判員が一緒に評議していくわけですけれども、裁判官が例えば自分の意見を強引に押し付けるとか、あるいは裁判員の意見を聞かないというようなことがもし起きるとすれば、それは裁判員の意見が十分に反映されないということで、信頼性を欠いていくということになっていくと思いますので、そういう意味からすれば、裁判官の役割というのが重要で、そのことが信頼性を高めていくということになっていくんではないかと私は思います。
#354
○小泉顕雄君 ありがとうございました。
#355
○江田五月君 民主党・新緑風会という会派の江田五月でございます。
 今日は、六人の公述人の皆さん、参議院における法案審査のために貴重なお時間を割いていただきまして、本当にありがとうございます。
 今日、テーマになっておるのは、もう御承知のとおり、裁判員法案と刑事訴訟法改正案と総合法律支援法案の三つで、山本公述人と宮崎公述人はこの総合法律支援法案についての御意見、そのほかの皆さんは主として裁判員法案について御意見をいただいたと思っておりますが、しかし、今お聞きしまして、前の委員の方からの質問に、山本公述人も宮崎公述人も裁判員法案についてもプラスの評価をいただいているということでございまして、大変心強く思っております。
 ただ、これ不思議な、不思議なといいますか、面白いことに、裁判員法案、先ほど陣内委員の御質問のときにも御紹介ありましたが、国民の意見はまだ疑問の声がかなり強いんですよね。国会の中でも、それぞれの政党、与党の中でも、私ども民主党の中でも、裁判員法案については非常に多くの疑問も出されました。しかし、最終的に、衆議院においては全党派、全議員、だれ一人反対なく、全員の賛成で可決をされたということになっているんで、その辺りの、ひょっとしたら国民の今の気持ちと私ども審議をしている者との間に多少の食い違い、隔たりがあるのかなと思いながら今日は公述人の皆さんの御意見を伺いに来たわけですが、皆さんそろって前向きのお答えなので、ある意味では大変心強くも思いながら、しかし、それでこちらが安心していてはいかぬなというような思いも持っているわけでございます。
 最初に一つ伺いたいんですが、実は日弁連が、今でき上がった法案の形とはちょっと違うんですけれども、「裁判員」という映画を作って、どのくらいでしたか、一時間ぐらいでしたかね、もうちょっと短いですかね、これをビデオにして大いにみんなに見てもらおうとやっているわけですが、六人の公述人の皆さん方、ごらんになったかなってないか、別に答えはどちらでも構わないんですが、それだけまず聞かせてください、順番に。
#356
○公述人(山本一宏君) きちんと見たということではないんですけれども、見させてはいただいております。
#357
○公述人(大東美智子君) 私も、できてちょっとして、京都弁護士会の方で見せてもらいました。
#358
○公述人(前田葉子君) 残念ですが、見ておりません。
#359
○公述人(宮崎誠君) 見ております。
#360
○公述人(遠藤一清君) 大阪の弁護士会館で見ました。
#361
○公述人(西村健君) 繰り返し見させていただいています。
#362
○江田五月君 いろんな鑑賞の仕方があるようですが、見ておられない前田さん、是非ごらんになってみてください。いろんなことを、どういいますか、学べる。ただ、もちろん、現実の裁判員の裁判というのは、あそこで石坂浩二さんが演ずるような裁判官ばかりじゃない、いろんな裁判官が恐らくおるので、問題はいろいろ出てくると思うんですがね。
 陪審の場合にも言われる一つの哲学というか物の基本的な考え方なんですが、先ほどからもお話出ていますが、裁判官と一般の国民と。もちろん、裁判官は法律についてはそれはちゃんと勉強しているので専門家です。普通の国民は法律について専門家ということでは当然それはありませんよね。ただ、事実の認定という仕事は、法律をしっかり勉強した人なら的確にできて、そうでない人なら的確にできないのか、全然違うだろう。法律を勉強を幾らしていたって、事実認定というのは法律の論理でできるものじゃないんで、ある意味で、ある意味で素人の、もちろん論理的に考えるところはきっちり考えますが、それでも直観的な判断、これが大勢集まって、そしてある一つの集合体がこうだという認定をする方が、少数の人間の論理的な思考から得られる結論よりも正しいという場合があるんじゃないかと。したがって、陪審というのは、決して専門裁判官の論理的な帰結による事実認定よりも間違いが多いなんてことはない、むしろ逆の面も多いんじゃないかというようなことが言われます。
 そういう意見、遠藤公述人の先ほどの話はむしろそういう意見を是認される意見かと思うんですが、公述人の皆さん方で、いや、しかしそれはちょっと違うという御意見がもしあれば、ちょっと手を挙げてお答えいただければと思うんですが、どなたかおられますか。──挙がらなければ、じゃ、それはもうそういうことでということで、次へ行きます。
 順次、余り時間がないので簡単に伺いますが、山本公述人に伺います。
 先ほどちょっと御紹介ありました簡裁の訴訟代理能力認定の人数ですね。同時にお配りいただいた資料によると、全国の簡易裁判所の数が四百三十八あって、そのうち簡裁訴訟代理能力認定司法書士所在の簡易裁判所の数が幾つということになっていますか。お答えください。
#363
○公述人(山本一宏君) 四百十二ということですね。
#364
○江田五月君 九四・一%。
#365
○公述人(山本一宏君) 九四・一%。
#366
○江田五月君 したがって、今も恐らくこの簡裁の数のうち弁護士のいない簡裁が非常に多いと思いますが、その訴訟の代理能力を認定された司法書士は大部分の簡裁の管轄内にいるということになりますね。
#367
○公述人(山本一宏君) はい、そうです。
#368
○江田五月君 そうすると、この司法ネット、いわゆる総合司法支援センターの業務は、弁護士さん方がもちろん独立の機能を持ってこのセンターに関与することは当然必要なことですが、むしろ実際の仕事としては、司法書士の皆さんに相当頑張っていただかなきゃならぬ。それだけの司法書士の皆さんのある種の仕事についての気概を持ってもらわなきゃならぬと思いますが、今、司法書士の皆さんの中にそうした、これをやるぞという気概は横溢しているんでしょうか。
#369
○公述人(山本一宏君) 我々の方の日司連、日本司法書士会連合会の方でこの司法ネットに対する対策部というのを作らせていただきまして、各都道府県に、そこにおけるリーダーというものを作らせていただいております。それはリーダー一人だけではございませんで、要するに司法ネットに対する、あるいは我々の簡裁代理業務に対するチームという形で編成させていただいております。
 そこで、一番分かりやすいのが、先ほども説明をさせていただきました少額裁判サポートセンター、これは元々、要するに裁判関係、法律関係等々の道案内という役割を考えています。ですから、我々のところで今現在ですと百四十万円という範囲ですけれども、これを超えるものにつきましては弁護士さんに、あるいは税務相談については税理士さんにというような形で振り分けも行っているような現状でございます。
#370
○江田五月君 同じく司法ネットについて宮崎公述人に伺いますが、先ほどのお話で、これちょっとよく分からないんですが、民事法律扶助予算が国選弁護を含めても百十億円程度と。国選弁護はもちろん刑事ですよね、これは。
#371
○公述人(宮崎誠君) 民事法律扶助予算と国選弁護合わせてという趣旨でございます。
#372
○江田五月君 という趣旨ですよね。
#373
○公述人(宮崎誠君) そうです。
#374
○江田五月君 大阪の支部の独自の自主事業として犯罪被害者支援事業をやっておられると。これを、簡単で結構ですけれども、どういう仕事をされているのか、お教えください。
#375
○公述人(宮崎誠君) 犯罪被害者の方々からの相談に応じる、あるいは警察への事情聴取に付き添う、裁判所への証人調べに立ち会う、裁判手続を教える、検察官への事情聴取に立ち会う、その他いわゆる民事的な損害賠償等のアドバイスを行う、このような業務を行っています。
#376
○江田五月君 犯罪被害者支援というのは、そういうある種の法律手続の中での支援ももちろん大切だし、被害の回復などの場面での支援もあるけれども、あわせて、どういいますか、心の傷をいやしていくというような、寄り添って、その人が負った毎日の生活上の、日々の生活がうまくできなくなるという、そういったところをどういうふうにサポートするかということも大変大切な、むしろそれが非常に大きな仕事になるかと思うんですが、そうしたことはどういうようにお考えですか。
#377
○公述人(宮崎誠君) そういう面が極めて重要であるということは江田委員がおっしゃるとおりでございまして、大阪弁護士会でもそういう犯罪、支援に取り組むNPOの方々と協力して、そういう面は一緒に作業をしていると、こういうように聞いております。
#378
○江田五月君 なるほど。そうすると、そうした仕事はむしろNPOのそうした皆さんが例えば大変ダメージを受けた被害者の方に常に付き添ってということはやっておられて、そういうところへ法律専門家として連携を、そういうところと連携を持ってサポートしているという、そういう理解でよろしいですか。
#379
○公述人(宮崎誠君) そういうスキームに間違いないと思います。
 ただ、やはり犯罪被害という特殊性にかんがみまして法的な側面が結構多い、先ほど申し上げましたように、という形で、弁護士の果たす役割は大きいと考えています。
#380
○江田五月君 ありがとうございました。
 前田公述人にちょっと伺うんですが、この更生保護協会、これはどういう仕事なんですか。
#381
○公述人(前田葉子君) 更生保護事業をバックアップするといいますか、保護司がいろいろ活動をするについて資金面ですね、資金面を管理したりとか、あるいは犯罪を犯して出てこられた方の金品の支援とか、そういうものを主として更生保護法人更生保護協会として行っております。
#382
○江田五月君 じゃ、検察審査協会の方は、これは検察審査会の委員の皆さんのまあOBの会ですよね。それとちょっと同じような関係かなと思ったんですが、そうじゃなしに、むしろ更生保護事業をいろいろとやっていらっしゃる、例えば更生保護法人とか、あるいは保護観察中の皆さんを受け入れている企業であるとか、そういう皆さんのお集まりというように理解していいんですか。
#383
○公述人(前田葉子君) はい、そうです。
#384
○江田五月君 なるほど、分かりました。
 さっきの遠藤公述人の、素人に裁判できるだろうかというもう前提自体が実は違うんだ、もう裁判なんというのは素人がやることなんだと、法律の、というようなお話だったんですが、前田さんのは、本当にそんなことができるだろうかと思っていたけれども今はできると思うというようなことですが、もし裁判というのは素人がやるんですよと言われたら、どう思います。
#385
○公述人(前田葉子君) 先ほど検察審査会のお話を、二ページ目見せていただいて、やはり素人の方ができるということを言っておられますので、いろいろとフォローがあれば素人の方でも選ばれればできるようになるのかなと思っております。
#386
○江田五月君 フォローはもちろんなんですが、フォローをして素人の人にやってもらう方が実は裁判というのは面白くなるよという、そんなことだと思います。
 遠藤公述人に最後に伺いますが、先ほどのこれ確認ですが、五十年間やってみると、国民、二十歳以上ですかね、七十九人に一人が裁判員を経験することになると、そういう数字でしたかね。
#387
○団長(松村龍二君) 遠藤公述人、時間が来ておりますので、簡潔にお願いします。
#388
○公述人(遠藤一清君) そのとおりでございます。
#389
○江田五月君 裁判員あるいは検察審査会ね。裁判員又は検察審査会、裁判員だけ、どちらですか。
#390
○公述人(遠藤一清君) 三万一千人の件でしょうか。
#391
○江田五月君 はい。
#392
○公述人(遠藤一清君) 三万一千人は裁判員プラス検察審査員。
#393
○江田五月君 で、五十年で七十九人に一人というのは裁判員だけか……
#394
○公述人(遠藤一清君) 裁判員だけです。
#395
○江田五月君 だけ。ああそうですか。
#396
○公述人(遠藤一清君) 二千八百件として、それから裁判員が六の補充員二という計算でいけばそうなりますよということです。
#397
○江田五月君 終わります。
#398
○樋口俊一君 江田五月委員と同じ民主党・新緑風会に所属させていただいております樋口俊一でございます。どうぞよろしくお願いを申し上げます。
 実は私は、一月に行われました大阪府知事選挙、江本孟紀参議院議員が御出馬されて参議院議員を自動失職され、繰上げ当選をさせていただいたのが私でございまして、まだ五か月しかたっておりません。一生懸命いろいろと勉強をさせていただいておりますが、的外れなことを質問するかもしれませんけれども、どうぞよろしく御容赦いただきまして、お答えいただければ有り難いなと、かように思っております。
 それでは最初に、山本公述人にお伺いをいたします。
 小泉総理がよく改革というときにおっしゃるのが、官から民へと、こういうことをおっしゃっておられます。この裁判員制度を含め、あるいは司法ネットも含め、正に司法の大改革と、こういうふうに言われているわけでありますけれども、その中で、今回の司法ネットの中枢となります司法支援センター、この位置付けが独立行政法人ということで、いわゆる法務大臣の監督管下にあるということでありますけれども、これについてのお考えをお聞かせいただければと思います。
#399
○公述人(山本一宏君) 本来、独立行政法人というものは、今までですと行政の切り出し機関のような形を取られていたと思います。ですが、今回のこの日本司法支援センターというのは、現場を持つ、要するに独立行政法人に準じた法人という形になります。
 当然、そうなれば、準じたという言葉が入るのもよく分かるんですが、今後はやはり現場を持つというこの独立行政法人に準じた法人という考え方、要するに新たな法人ができるんだという考えの下、この制度を構築していくというふうに考えております。
#400
○樋口俊一君 ありがとうございます。
 それでは、大東公述人にお伺いをいたします。
 今日は、国会議員、松村団長始め六名参加させていただきました。すべて男性であります。公述人の皆様方は六名のうちお二人が女性と、こういうことでございます。
 世の中、半分は女性、半分は男性。最近は男女参画社会を構成していかなきゃならないと、こういうふうにも言われています。そういう意味では、いろいろな意味で社会的な支援、働く女性のための支援ということが考えられていっているわけなんですけれども、先ほど大東公述人の方からも、女性が裁判に参加しやすいように裁判所内に保育室の設置を希望すると、こういうふうな御意見もちょうだいをしました。
 法曹界の男女比も若干事前に調べさせていただいたんですが、裁判官あるいは検察官、弁護士の方々、日本の女性の比率というのは一〇%台ということで、まだまだ低いというふうな感じを持っているんですけれども、今回のこの裁判員について、男女比どのぐらいが適正なのかというふうにお考えでしょうか。
#401
○公述人(大東美智子君) 当然、半分ずつだと思っております。
 今まで私たちが陪審、模擬陪審とかそれから影の陪審とかを、模擬陪審は全部で七回、影の陪審は二回、それから模擬裁判員裁判を二回ほどしましたけれども、すべて男女同数で審議をしております。女の人だからってもう最近は全然遠慮しませんので、特に女性の方の発言が活発なような感じがしております。
#402
○樋口俊一君 ありがとうございました。
 それでは、前田公述人にお伺いします。
 私も中小企業の経営者なんですけれども、先ほどお話ございました、中小企業、日本の九五%、法人の数があるということでありますけれども、今、経済は、政府の発表では大分持ち直しているとはいえ、中小企業はまだまだ厳しい環境下にあると思うんですね。そういう中で、やはり人を切り詰めながらお仕事をなさっておられる企業もある。
 そういう中で、突然裁判員に社員さんが指名されたということで、経営者としても大分悩ましい部分があると思うんですが、この辺に関しての御意見と、中小企業に対して特別の何か助成的なものをお考えなのかどうか、お聞かせいただけますでしょうか。
#403
○公述人(前田葉子君) 後の問題ですが、特に中小企業に働く方に裁判員が当たりましたときに特別の考えが要るかということは、これは大企業であろうが中小企業であろうが同じに考えてよろしいかと思います。
 それからもう一点、私も、企業をやりながら大阪市中央区関係のいろいろな町内会長とか女性会の会長とかそういうのをやっておりまして非常につくづく感じますのが、皆さん、公のそういう場にはもう出ないという方、もう自分の生活さえあればほかのことはどうでもいいという方が非常に多くなってきておるように思います。ですから、こういう裁判員制度ができまして、やはり民間が公のことにもタッチしていくというような考えが進んでくれば非常にいい方向に進んでいくのではないかという、そういう感がしております。
#404
○樋口俊一君 ありがとうございます。
 それでは、宮崎公述人にお伺いをします。
 先ほど民事法律扶助事業のお話が触れておられました。景気の話、先ほどさせていただきましたけれども、まだまだ厳しい環境下にあるわけでありまして、言わば自己破産事件も相当あるんではないかな、経済事案も多いんではないかなと、こういうふうに思っているわけであります。それに伴って扶助の申請件数も増大していくと。
 今回の法案では、実施主体が支援センターに統合されるわけでありますけれども、今後の扶助事業の在り方についてのお考えをお聞かせいただければと思っています。
#405
○公述人(宮崎誠君) 在り方といいますのか、現在の扶助事業、やはり予算がないために、多くの自己破産をしたい、例えば自己破産のお話が出ましたけれども、という方も法律扶助が受けられずに夜逃げをするとか、そういうような形で随分法的救済を受けられずに悲惨な思いをされている方がいらっしゃいます。
 したがいまして、法律扶助業務につきましては、予算の面で十分配慮をしていただくということが何に増しましてもまず一番肝要かと思います。またさらに、先ほども私の話を引用しましたけれども、審議会意見書でも、法律扶助を裁判業務に限るのではなく、対象事業を拡大すべきだと。行政手続であるとか、あるいは先ほどの犯罪被害者保護の事業でありますとか、あるいは生活保護の受給が分からない高齢者、障害者の方の支援等に事業範囲を広げていくべきではないかと我々も痛切に思っています。
 今回の審議会意見書、多くは取り上げられましたが、民事法律扶助の拡大だけはすぽっと抜け落ちて改革から取り残されています。今回のいわゆる扶助事業、司法支援センターの発足を機にこの点についても見直しが図られればと思っております。
#406
○樋口俊一君 ありがとうございます。
 それでは、遠藤公述人にお伺いします。
 遠藤公述人は、検察審査員ですか、私も初めてその言葉を耳にしたんですけれども、もっとやっぱり司法についていろんなことを学ぶべきだなというふうに思っていますし、逆に言えば、やっぱりPRもなかなかされていないんではないかなと、こういうふうにも思っています。
 今回の裁判員制度については、相当マスコミも取り上げておられますし、それなりの意識は国民の皆さん方に徐々に醸成されつつあるとは思いますけれども、一般市民から選ばれた検察審査員という経験をされておられるわけでございますので、そういった経験を踏まえてちょっとお聞かせいただきたいんですが、一般の方々というのは、最近いろんなところで情報を得る機会はあります。しかし、一番大きいのはやっぱりテレビの影響というのが結構大きいんじゃないかと。いろんな事件が取り上げられます。その中で、どちらかというと一方的なセンセーショナルな取上げ方をしているマスコミもなきにしもあらずということが考えられるんですが、そういう意味で、裁判員の方に対するそういった影響度というものをどのような感じでお考えでしょうか、お聞かせいただけますでしょうか。
#407
○公述人(遠藤一清君) 一つの事件があって、それがいろんな報道がされてくる、それはもう既に裁判員に選ばれた段階でいろんな情報が入っている。先ほど江田先生の、「裁判員」、映画の「裁判員」を見たかという御質問がありましたが、正にその中に出てまいります、そういうシーン。ですから、極端な、そういう既にもう情報で、もう自分としてこいつはもう犯人、殺人間違いなしという人まで裁判員に選ぶというわけにはいかないと思うんですね。ですから、それぞれ検察官や弁護士が自分の、どの程度裁判員としてこの人であれば適切かどうかということは、これは選んでいかないかぬと思います。
 審査会は、一件の事案審議に大体五時間から十二時間ぐらいで一件を処理いたします。裁判員となりますと、一週間って、そんな終わる裁判もあるんでしょうけれども、大きな事件になるとやはり一か月、二か月、場合によっては三か月というふうにならざるを得ぬのと違うかなと思います。ですから、そういうすべて、くじで当たったからそれを適正とみなすんではなしに、その人たちのやはりそういう、事裁判員についてはそういう審査、聞き取りというのは是非やらなくてはならないと。
 検察審査員は、入ってから今日この事案を審議しますということで、ぽっとその日に出てくるわけですから、全くそういう自分で先入観を持つということはあり得ないわけですから、その辺がきちっと機能してもらえればいいんではないかなというふうに思っています。
#408
○樋口俊一君 ありがとうございます。
 済みません、もう一点だけ。西村公述人に、あともう一分しかありませんので。
 西村公述人のお話では、今回、裁判員制度のお話なんですけれども、陪審制のことを結構触れておられましたし、それがどちらかといえばベターなことではないかなというお話でした。また、戦前の陪審制を若干参考にした方がいいよという御意見もありましたので、その点について最後、お聞かせいただければと思います。
#409
○公述人(西村健君) 私が陪審の方が望ましいと思っていたのは、陪審の方が手続的にピュアなものになっていくこと、それから手続の改革がより進むだろうと、この二点から陪審制度の方が望ましいというふうに考えていました。
 手続的にピュアというのは、裁判上の手続を進行していくプロの裁判官と事実認定をしていく市民とがきちんと手続が分かれて問題なく行えるだろうということからです。
 もう一つの手続改革が進むというのは、分かりやすい裁判とか分かりやすい言葉などについては陪審制度の方がより進むんではないかなというふうに思う観点から、陪審制度の方が望ましいと考えていました。
#410
○樋口俊一君 ありがとうございました。
#411
○木庭健太郎君 公明党の木庭健太郎でございます。
 今日は、六名の公述人の方々、貴重な御意見をありがとうございます。
 まず、山本公述人にお聞きをしたいと思います。
 一つは、今回の司法ネット構想の中核は、もう言うまでもなくこの支援センターの問題でございます。先ほどから御指摘あっているように、特にこの支援センターが行う相談窓口業務、これについては皆さん方、司法書士の皆さんにもいろいろお願いすることも多くなると思うんですけれども、例えばこの司法支援センターの相談窓口業務について、更に国民のアクセスを容易にするために、例えば夜間とか休日利用を実現した方がいいんじゃないかとか、具体的な訴訟費用に関する情報提供をもちろんそこで行うんですけれども、また各アクセスポイントですね、これについては専任職員を数名配置するなど、体制整備を図る必要があるといったような指摘がいろんなところでもあるんですけれども、こういった指摘についての御所感を伺うとともに、よりもっと具体的な御提言があれば伺っておきたいと思います。
#412
○公述人(山本一宏君) 窓口という形での御質問だと思います。これは、支援センターの方ではアクセスポイントというものを、これは財政上の問題でどれぐらいできるのかということがちょっと私らには分かりませんけれども、それプラス司法過疎への窓口という問題も出てくると思います。そして、これは一つの問題としまして、利用できなければ意味がないというところで、夜間あるいは休日という問題が出てきているんだと思います。
 そこで、我々が考えているアクセスポイントというものは、司法支援センターの方から振り分けを待つというような考えではございません。我々自身で、先ほども言いましたように、全国に相当数のアクセスポイントを作って、そことの連携強化を図っていく、そのような考えでいるというのがまず一点です。
 それから、司法過疎につきましては、我々のできる範囲におきまして、先ほども江田委員の方から言われましたように、簡易裁判所管轄におきましては相当数の認定者が出ておりますので、そこの部分からどういうふうな形でアクセス、司法アクセスの過疎地域ですかね、過疎地域の方へ協力をしていくかというのは、今後の我々にとっての大きな検討課題だというふうに考えております。
#413
○木庭健太郎君 次は、大東公述人にお伺いしますが、先ほど御意見の中で、裁判員というのは少なくとも十名ぐらいというのが良かったんじゃないかという御意見を申されておりました。我々も、この裁判官と裁判員どうするか、もうさんざんいろんな論議をやってまいりました。その中で、この十名という御意見もいろいろあったんですけれども、やはり十名というと少しこれ多過ぎて、いざいろんな評決するなりやるときに個々の意見をきちんと言えるだろうかというような御意見、もっと絞った方がいいという御意見があったことも事実です。その一方で、裁判官の人数の問題についても、先ほどどれくらいかなというお話をし掛かったような感じもありましたが、御意見は多分お一人なんだろうと思いますが、今回は三人になっておるんですけれども、そういったことについても併せて御意見があれば伺っておきたいと思います。
#414
○公述人(大東美智子君) 今回の裁判官が三人で裁判員が六人というのには非常に不満を持っております。私たちは、やっぱり陪審制がベターというかベストだと思って、ずっと陪審裁判の復活をというのを目標にしてきておりまして、それで司法制度改革審議会の地方公聴会のときも、陪審制の早期復活、戦前、実際に陪審裁判が行われていたんですからね、今陪審法というのがあるんですから、それは、まだ陪審員になるのは三十歳以上の男子だとか、税金を幾ら納めている者とか、そういうふうな規定がありましたので、それを今の憲法に照らし合わせて、それで民主的に改革をすればいいわけで、何も新しく裁判員法というのを作る必要はないというふうには思っていたんです。
 それで、陪審裁判では基本的に十二人の一般市民が評議するということが原則になっておりまして、それで十二人だと、いろんな職業の方、年代の方、それぞれがいろんな評議をするということで、いろんな意見が多分出尽くすと思うんです。そういう意味で、十二人を基本に思えば、裁判員は私は、裁判員の人数比のことをいろいろ検討をされていたときに、東京で市民の裁判員制度つくろう会というところがパネルディスカッションとか公聴会とか開いたときに、私は裁判官一人、裁判員十一人というのを主張しました。裁判官はあくまでも司会進行とかいろんな人の意見をまとめるというふうな役に徹して、評議そのものは市民に任せるべきだというふうに今も考えておりますので、それで、基本的に十二人を基調にすれば、十一人と一人。
 だけれども、男女を半々にするなら、それと、さっきも言いましたけれども、二十代、三十代、四十代、五十代、六十代、本当は七十代の人も入っていただきたい。だけれども、七十代の人は何か自分から断ることができるというふうな法案がありましたので、せめて六十代までの人はみんな義務がある。それで、男女一人ずつだと最低十人にはなるということで、十人を主張させていただきました。
#415
○木庭健太郎君 前田公述人に。
 先ほどから、参加しやすいようにどうしていくかという、整備もしていく。これは衆議院で実は附則で少し法律を修正したんですよね。その中で何かというと、やっぱりみんなが、国民がより参加しやすいようにということで、国は積極的に環境整備を努める義務があるということを明確にしているんです、今度の法案は。そこで、例えば雇用関係の問題でいえば、今、一つの提案、そこまで至ってはありませんけれども、裁判員の休業制度、こういうものを創設してあげれば企業との関係としてもやりやすいとか、幾つかの意見が既に出てきております。
 だから、前田公述人、そういった参加しやすい、こんなことをちょっとやってみるとよりやりやすいけれどもなというような御意見あれば、お伺いをしておきたいと思うんですけれども。
#416
○公述人(前田葉子君) 参加しやすいようにするには、やはりその雇用主の頭の改革がまず第一だと思います。
 経営者が、これは国民の義務であり、やはり公の裁判を国民が一緒に持ち上げていくという考えを持つようになると、やはり出る方にも、どうぞ、御苦労さんです、行っていらっしゃいと言えるんでしょうが、そんなの当たって勝手やから、もう給料はその日減らすよというようなことになるとちょっと大変になるかと思いますので、やはり経営者に対するアピールも必要かと思います。
#417
○木庭健太郎君 本当は、制度作りよりも意識改革が本当にある意味では一番大事なんじゃないかなと御意見聞きながら思いましたが、宮崎公述人にお伺いをしたいんですけれども、今度、支援センターの業務の中にいわゆる犯罪被害者の支援ということも行うことになりますね。これは具体的なまだ施策内容、決められていません。定めありません。
 要するに、犯罪被害者の支援関係の団体とか警察と連携も強化することも想定されますけれども、これ、どんな具体的に業務を行っていくべきか、この犯罪被害者支援のですね。どうお考えになっているかということとともに、従前、当番弁護士制度ありますよね、この関係。公的弁護の問題もこれから体制整備が図られるわけで、この当番弁護士制度の問題とどんなふうに整理していけばいいのかなと、そんなことも含めて御意見をいただいておければ有り難いと思います。
#418
○公述人(宮崎誠君) 犯罪被害者の支援につきましては、今、日弁連でもいろいろ協議会を設けて、どのような形が望ましいのかということで意見をまとめようとしています。
 具体的な業務としましては、私が先ほど江田委員のお尋ねに対して答えさせていただいたような内容、さらに、NPOその他、周辺のそういう援助団体との関連等が問題になっていくのかと思いますし、また、こういう犯罪被害者、もう一種の社会的な弱者として、余り厳しい無資力要件を付けないで、やはり間口を広げてあげる、広げて受け入れるというような対応を検討していただきたいなと、このように思っています。
 それから、あと、当番弁護士の件ですが、これは、当番弁護士が犯罪被害者支援としても被害者のところに行く制度はどうかということの御提案と、もう一つ、本来の当番弁護士の役割ということの二つのお尋ねがあったかと思うんですが、被害者支援につきましても、今ボランティアでやっている弁護士は、できるだけ早く犯罪被害者のところに駆け付けると、ほとんど手弁当で活動しています。このようなシステムが広がることを、今回の司法支援センターの本来業務に、を改正していただいて、是非こういうようなこともできるようにしていただきたいと、このように思っています。
 それから、当番弁護士の、従来の当番弁護士でありますが、これから公的弁護につながります、被疑者段階への公的弁護につながります。そのつながるときに、いろいろ制度を説明したり権利を説明したりするために今まで以上に当番弁護士の役割が重要になってくるのではないかと、このように考えておりますので、これにつきましても、できれば本来業務に取り入れるなり、もっとやりやすいような形で御支援をお願いしたいと考えております。
#419
○木庭健太郎君 さらに、今回、被疑者に、被疑者段階から弁護士付けられますよね。ただ、今政府から出している法案というのは、その弁護士さん、対応がなかなか難しいだろうから、ある意味では重い罪からということに今なっているんですよね。体制さえできれば全体にという、もう全部できるようになればいいなと思うんですけれども、やはり現実の問題として、今そこまですぐに、ロースクールができ、弁護士が増え、体制ができないとなかなか難しい状況ですかね。済みません。
#420
○公述人(宮崎誠君) やはり我々の対応体制が苦しいというのは一部ございます。大阪などは問題がないわけですけれども、やはり旭川、具体的な地名を挙げて悪いのですが、あるいは稚内、この辺り、警察まで片道五時間掛かるとか、このような地域があります。
 したがって、これらについては、過疎の事務所を設置するなどして、やはり今後、三年間の間に我々としても精一杯頑張って枠の拡大に広げたいと、このように思っております。
#421
○木庭健太郎君 遠藤公述人に。
 今度の裁判員というのはどんな評決を下すかというと、有罪無罪ということだけでなく、その量刑まで一応決めるわけですよ。それで、検察審査会で御経験のとおり、検察審査会がやる仕事というのは、事件に対して不起訴不当ということも起きる、不起訴相当を出すときもあるでしょうし、一つの判断をするわけですよね。
 そういう意味では、裁判員の方にそういう量刑までさせるということについてどうお考えかなと、一言、御意見あれば聞いておきたいと思います。
#422
○公述人(遠藤一清君) 非常に難しい御質問だと思うんですけれども、基本的には、その量刑の判断というのはある程度裁判官にイニシアチブを取ってもらって、ただ民間の感覚として、民間の感覚としてそれはもっと厳しくていいんじゃないのとか、もう少し軽くてもというような、その民間のレベルを評決の中に組み込んで、協議の中に組み込んでいただければそれで十分やというふうに思います。
#423
○木庭健太郎君 一問だけ。
 同じ質問、西村公述人からも、その裁判員が量刑まで決めることについてどうでしょうかと。今度は専門家の意見から一言だけ伺って、終わりたいと思います。
#424
○公述人(西村健君) 私は、基本的には量刑に関与するというのも賛成でございます。
 全く量刑についてどうなるだろうかという不安視、確かに私たち専門家の間でも議論をされておりますが、ただ、基本的には裁判は当事者主義というシステムを取っております。ですので、例えば検察官が求刑を何年というふうに言いますので、それが一つの目安になってくると思います。それに対して、弁護士の方が現段階ではどのぐらいの量刑が正しいのかというのがやや不十分な状態にありますので、そこは私たち弁護士がしっかりこれからやっていかなきゃいけないと思っています。
 そして、それ以外に、裁判官が判決のこれまでの例とかいうのを持っておりますから、検察官の求刑、弁護人の意見などを踏まえて、前例などを参考にしながら決めていくので、ある程度妥当な判断になっていくんではないかなというふうに私は思っております。
#425
○木庭健太郎君 終わります。
#426
○団長(松村龍二君) それでは、最後に私、松村が質疑を行わせていただきます。
 本日は、裁判員制度という、戦前、陪審員制度があったということですが、事実上立ち消えになっていた、しかし法律そのものは生きておるというような陪審員制度に関係するような、また、新しい時代の行政、立法、司法、それぞれに民意が代表されることでなければならないということで、司法制度改革推進本部におきまして検討した結果、このような裁判員制度を取り入れようということで、今法律として具現化しようとしておる。また、それを遂行するために刑事訴訟法も改正する必要があるんではないか。また、司法制度全体を検討している中で、司法ネットワーク、これを国も関与して作った方がいいというようなことで、今その法案を審議しているわけです。
 参議院といたしましては、衆議院では地方公聴会等も行わなかったようですが、参議院の独自性といいましょうか、より専門的な突っ込んだ審査をするという観点で、今日、大阪と仙台で公聴会を行っているわけですが、せっかくの機会でございますので、またあしたも委員会が行われまして審議が行われますので、それに参考にする、したいという意味でお伺いいたします。
 三人寄れば文殊の知恵ということで、もう幅広く意見を集めた方がいい知恵が出る。そして、専門の裁判官では、一つ一つは現在の法律につじつまが合っているようでありながら、オウム真理教の事件とか和歌山のカレー事件とかですね、いつまでも結論が出てこないということになりますと、国民、日本人の法的秩序というか法感覚からしますと何か逸脱したものを感じるわけで、そういう意味で今度の裁判員制度というのは非常に面白い制度だなというふうに思います。
 それから、参審制度、ドイツとかフランスとかは、有識者、例えて言いますと、ちょっと恐縮ですが、今日公述人が来られまして、それぞれの有識者の方々でございます。そのような方に裁判に参加してもらって裁判するのがいいのか、あるいは全く抽せんで出てきていただいて裁判に参加していただくのがいいのかということの差があるわけです。しかし、今の時代、だれが有識者かということは、神様でない人が選ぶということはできない。
 また、私も昨日、中学時代の同級会があったんですけれども、そのころは高校へ進学する人が三割ぐらいしかいなかった時代でしたけれども、そういう中学だけ出た人の同級会へ出ますと、やっぱりそれだけ世の中の辛酸というか実情、実態に触れているわけですから、単に一流会社すっすっと行ったとか公務員やった人に比べると、世の中の常識というものをよく身に体しておられるなというような感じもするわけでして、そういう意味で抽せんによる裁判員の選任ということも意味があるのかなというふうに思うんですが。
 そこで、時間も限られておりますのでお聞きしますが、宮崎公述人、大阪弁護士会の会長もしておられるというようなことでお伺いするんですが、今の裁判官がちょっと、民意が十分反映しない、こういう制度ではちょっと、専門、プロの裁判官ではちょっとまずいなと、刑事事件裁判においてそういうことを感じられたことがあればお聞かせいただきたいと思います。
#427
○公述人(宮崎誠君) 具体的な事件でということでこれこれの判例ということを挙げるわけにいきませんが、私がやはり裁判に携わっておりますと、やはり世の中の事情について疎い、裁判の法律のことは大変よく知っておられますけれども、世の中の経済の仕組みであるとかあるいは会社の仕組みであるとか、意思決定、民間の意思決定の仕組みであるとか、そういうことについて大変疎いということはもう再三感じるところであります。
 したがって、そういう意味で、日本の職業裁判官は清潔であるとか、そういうメリットがあるということは認めつつも、やはり幅広い判断あるいは世情にたけた判断というためには、やはりこのような制度導入が必要ではないかと考えています。
#428
○団長(松村龍二君) あしたから審議する中で、私どもは、裁判官というと完璧かなと。時々、憲法裁判なんかで、せっかく高速道路はできたのにこれは憲法違反だみたいなのが出るとどうかなと思いますけれども。まあこれは私の独り言ですが、今の宮崎公述人のお話聞いて、大変心強く思うわけです。
 それから、西村公述人にお伺いするんですが、この陪審制度というのがアメリカとかイギリスで定着している制度であると。キリスト教的な風土と、あるいはアメリカにおいては、もうしょせん西部において寄せ集めの人しかいなかったというような中において、ともかく有罪か無罪か判断して、それで地域を回る裁判官が具体的に量刑とかなんかを決めようというようなことから発足があったんでないかなというふうに思いますが、日本人の特性とか、それから、先ほど大東公述人も、アメリカのような制度が理想的な制度なんだとおっしゃいますけれども、日本人は非常に完璧性、完璧性を追求する国民でありますので、やっぱり無罪判決が出たりすると、決して、陪審だからかえって出ないんだと、こういうことになろうかと思いますけれども、無罪事件が出たりするともうすべて否定してしまうというような潔癖性があるわけですけれども、早くからアメリカの陪審制度等をごらんになりまして、日本人の国民性とか日本の在り方と比較しまして、何か感じられたことはございませんか、西村公述人。
#429
○公述人(西村健君) 日本人の国民性が何かということについてはなかなか難しいところがあるかと思いますが、私が先ほどの陪審制の方が望ましいということは、樋口先生の方から御指摘いただいた二つの理由からでございます。
 それで、アメリカでキリスト教と陪審制と結び付いているか、そこは必ずしもはっきりしてないとは思いますが、まあ民主主義諸国で陪審とか参審とかを導入されていて、その制度のどちらが望ましいかといったときに、私は、先ほどの二つの制度で陪審制度の方が望ましいということを考えております。
 日本人の国民性に合うかどうかということでございますが、戦前の陪審も定着、導入されて一定の成果を与えております。これがだんだん事件数で減ってきたというのは戦争が原因でありまして、当時の政府は、戦争終了後にこれを再施行するものとするとわざわざ法律で書いております。そして、戦後もその条文を変えているとかいうところもあります。
 これから考えますと、少なくとも当時の政府は、陪審制度は望ましい制度で、日本人にとってもいい制度であったというふうに考えていたと思います。現在の日本でも私はそれは当てはまるんではないかなと、私自身は考えております。
#430
○団長(松村龍二君) 大東公述人に今の問いに関してお伺いするんですが、私どもも、今の日本において女性が非常に、もう就職試験、公務員試験等を見ましても、もう非常に優秀であるというふうなこと、それから、それぞれ社会に参画しておられる女性が立派であるということは十分承知するんですが、ただ、私ども、北陸の福井県ですけれども、隣近所での町内会のような集まりありまして、男の人も交じっているところで何か政治について意見がありませんかといいますと、周りに男の人がいる場合ですね、絶対に発言しないというようなことを最近経験しまして、女性が裁判員になったときに、土地柄その他、若さとかによると思いますが、その辺については保証していただけますでしょうか。
#431
○公述人(大東美智子君) 今までの日本の風土が非常に強く残っていると思うんですね。それは、やっぱし女のくせにだとか女が出しゃばるんじゃないとか、そういう、女の子は女の子らしくという育てられ方、それはやっぱりジェンダーハラスメントだとは思っています。そういう、今の若い人にそれを言うと、何のことかよく分からないと思うんですね。
 だから、私たちの世代より上になると、ほとんど、PTAの役員で会長さんは男の人とか、副会長は女の人なるけれども、会長さんは肩書は男の人でとか、町内でも取りあえず何とか委員長は男の人というふうに、男の人を立てるようなそういう習慣がずっと、あしき習慣だと思うんですけれども根付いてきていますので、やっぱりそれを打ち破っていくには、やっぱり国会議員も女の人をもっと出ていただきたいし、委員の皆さんも女性どんどん入っていただきたい。
 それと、職場でも今非常に就職難で、特に女子学生の就職率が非常に悪いんですけれども、かえって就職活動をしているのは女子学生の方が非常に活発なんですね。優秀な学生が非常に増えておりますので、各企業も女性をどんどん取り入れていただきたい。いい意見持っている女性たくさんおります。ベンチャー企業とかも女性が立ち上げているのもたくさんありますので、そういうのは評価していただきたいと思います。
 それと、今までの男性の中にあるそういう女性べっ視みたいなものをもう取りあえず取り除いていただきたいというふうに思います。
#432
○団長(松村龍二君) どうもありがとうございました。
 以上をもちまして公述人に対する質疑は終了いたしました。
 公述人に一言御礼を申し上げます。
 本日は、大変お忙しいところ貴重な御意見をお述べいただきまして、誠にありがとうございました。もっと時間をいただいてお聞きしたいというような気持ちでございます。派遣委員を代表して厚く御礼を申し上げます。
 また、本地方公聴会のため種々御尽力を賜りました関係者の皆様に厚く御礼を申し上げます。(拍手)
 これにて参議院法務委員会大阪地方公聴会を閉会いたします。
 どうもありがとうございました。
   〔午後三時三十三分閉会〕
ソース: 国立国会図書館
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