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2004/01/23 第159回国会 参議院 参議院会議録情報 第159回国会 本会議 第3号
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2004/01/23 第159回国会 参議院

参議院会議録情報 第159回国会 本会議 第3号

#1
第159回国会 本会議 第3号
平成十六年一月二十三日(金曜日)
   午前十時一分開議
    ━━━━━━━━━━━━━
#2
○議事日程 第三号
  平成十六年一月二十三日
   午前十時開議
 第一 国務大臣の演説に関する件(第三日)
    ━━━━━━━━━━━━━
○本日の会議に付した案件
 一、日程第一
 一、新議員の紹介
     ─────・─────
#3
○議長(倉田寛之君) これより会議を開きます。
 日程第一 国務大臣の演説に関する件(第三日)
 昨日に引き続き、これより順次質疑を許します。浜四津敏子君。
   〔浜四津敏子君登壇、拍手〕
#4
○浜四津敏子君 私は、公明党を代表して、ただいま議題となりました小泉総理の施政方針演説を中心に、総理並びに関係大臣に質問をいたします。
 今、私たちを取り巻く状況を見ると、内外に様々な課題が山積しています。今こそ、こうした諸課題に迅速果敢に挑戦する指導力、先見性、判断力、実行力が政治に問われています。公明党は、連立政権に参画して以来四年三か月、一貫して連立の信頼を構築しつつ、責任を共有して様々な改革を推進し、数多くの政策を実現してまいりました。連立五年目の今年も、生活者の目線に立った生活与党公明党、政策実現政党公明党として、皆様の負託にこたえるべく総力で取り組んでまいります。
 初めに、イラク支援問題について伺います。
 外交政策の決定に当たって最も大事なことは、一国平和主義などという時代後れのエゴではなく、世界の多くの国々との協力及び協調を重視すること、そして、その決定が日本と世界の平和と安定及び社会の繁栄並びに人々の幸福に資するかどうかという観点であります。
 そこでまず、国際協調の点ですが、昨年五月、国連は加盟国に対し、イラクへの人道復興支援をすべきことを全会一致で採択いたしました。そして、現在、既にデンマーク、ノルウェーなどの北欧諸国を始め、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド、韓国、タイ、モンゴルなど三十七か国がイラクで積極的な支援活動に取り組んでおります。
 こうした中、日本も日本としてできる支援が求められています。このたびの自衛隊派遣の目的は、平和憲法に合致した人道復興支援であり、戦争や戦闘を目的とするものでないことは論をまちません。まず、この点について総理の御認識を確認させていただきます。
 次に、とはいえ、自衛隊の派遣決定については、その時期、規模、地域などについて慎重な判断が求められることは当然であります。なぜなら、イラクは現在、国が崩壊して秩序が失われており、治安の悪さと危険度は地域によって様々であり、たとえ非戦闘地域であっても危険性がゼロとは言えず、その見極めに細心の注意を払わなければならないからであります。数回にわたり、政府派遣調査団が現地の実情を調査したのもそのためです。我が党の神崎代表もイラクのサマワに行きました。日本にとって重大な判断を迫られている中、与党の責任者の一人として、現地での治安状況、人道復興支援の具体的ニーズを自分の目で確かめるためでした。短時間の現場視察で十分に分かるのかとの声もありましたが、しかし現場を見るのと見ないのとでは正に天と地の差があります。現場を見、直接関係者の声を聞き、現地の状況を皮膚で感じ取れば、少なくとも的外れの机上の空論や国際的に全く通用しないおかしな議論に走ることはありません。
 公明党が国際問題についても国内問題についても常に現場第一主義を基本としているのは、真にニーズに合った誤りなき判断をするためであります。
 ともあれ、こうした現場の調査で分かってきたことは、サマワの治安状況はバグダッド周辺とは異なって、テロ攻撃ではなく失業に対する不満からの抗議行動が散発していること、フセイン政権時代の冷遇と弾圧により住宅は破壊され、多くの住民が不自由で不衛生な生活を余儀なくされていること、川の水を飲み水代わりにしていること、学校や病院などが破壊されていること、失業率が七〇%を超えていることなどであります。
 こうした状況下で、自衛隊の活動のニーズは高いと言えます。なぜなら、自衛隊は汚染された泥水も瞬時に飲み水に変える能力を持っています。また、学校、病院、住宅などの復旧作業も、訓練された自衛隊には難しいことではありません。のみならず、雇用創出策として、瓦れきを片付けたり、建物の建設作業を現地の方々にしてもらうことを予定していると伺っています。こうして、現場視察により、自衛隊のできる人道復興支援の具体的活動や日本としての支援の在り方が少しずつ見えてきております。
 また、亡くなられた外務省の奥克彦さんも、昨年末、ある雑誌にこう書かれています。バグダッド市内で一人の女性教師が近寄ってきて、私たちは今とても苦労しているけどサダムの政権がなくなったことだけは本当にうれしいと話し掛けられたことが今でも忘れられませんと。
 そこで、総理にお伺いいたします。
 第一に、イラクへの自衛隊派遣の目的と必要性などにつき国民の皆様に十分に御説明をし、御理解いただくように最大限の努力をすることは当然のことであります。しかし同時に、イラク及びアラブ社会の方々に対しても日本の考え及び姿勢を丁寧に説明し、理解していただくことが安全確保の点からも大変に大事なことであります。
 すなわち、自衛隊は戦闘のためでなく、イラクの人道復興支援のために来たこと、治安回復後は日本の民間人主導の復興支援になること、特に自衛隊はイラク国民の働く場を作り、一日も早くイラク人自身による政府を作り、安全で安心で豊かな生活ができるための支援に来たこと、自衛隊は攻撃を受けない限り決して武器を使うことはしないことなど、自衛隊派遣の目的と役割をイラク国民やアラブ社会に対し明確に語っていただきたいと考えますが、いかがでしょうか。
 第二に、イラク国民の雇用創出に総力を挙げるべきと考えますが、具体的にどのような対応策を進められるのか、お伺いします。
 失業中の住民に現場での仕事の機会を作ること、また技術教育、職業訓練の支援をすることも大変大事なことです。と同時に、できるだけ多くのイラクの人々を日本へ招いて、国づくりに必要な様々な技術及び知識の習得や職業訓練をしていただいてはどうでしょうか。既に受入れの用意があると申し出ている民間企業もあります。政府としてその後押しをすべきと考えますが、いかがお考えでしょうか。
 さらに、特別枠を設けて日本へのイラク人留学生の受入れを行ってはいかがでしょうか、お伺いします。将来の両国間の相互理解と友好親善のために、必ずやすばらしい結果をもたらすものと思います。
 第三に、イラク南部のメソポタミア湿原の復元事業について伺います。
 イラク南部の民主化指導者リカービ氏は、昨年末、総理に対し、イラク南部の民衆が最も望んでいる振興策はメソポタミア湿原の再生であると言われたと伺っております。
 メソポタミア湿原は、長い間、農業、漁業の盛んな大自然の恵みあふれる地域でした。それが、旧フセイン政権により、シーア派住民弾圧のための徹底した破壊政策が行われ、そのため多くの住民がこの地を追われ難民となっております。
 私は、昨年三月、イラン・イラク国境地帯の難民キャンプに行き、直接難民の方々の声を聞いてまいりました。その国境付近一帯には湿原から追われた難民が多数生活しております。一日も早く故郷に帰り農業をしたい、漁業で生計を立てたい、子供たちを故郷の学校に行かせたいと切実に望んでおられる難民の方々の願いにこたえてあげたいと思いますし、日本はそれができるはずであります。
 このまま放置すると、あと三、四年でこの大事な湿原は完全に消滅してしまうと言われています。国連環境計画も、昨年四月、湿原の復元と生物多様性の保全を求めています。
 総理、今こそ日本が強力なリーダーシップを発揮して、国連機関等の協力を受けてこの壮大なメソポタミア湿原の復元事業に取り掛かるべきではないでしょうか。日本は土地改良技術もかんがい施設建設技術も世界一流の水準にあり、実績もあります。この復元事業は地域住民に百万人単位の大きな雇用を生み出すこともできます。失業からくる不満も大幅に解消され、治安も良くなることが十分に期待できます。総理の御決意をお伺いします。
 行動する平和学者として世界的に著名なガルトゥング博士は次のように言っています。頭は徹して現実主義であれ、胸には理想主義の炎を燃やし続けよと。我が党は、これからも行動する平和の党として、胸には平和、人道、人権の時代を作る理想を燃やしつつ、すべての課題に徹して現場に立ち、現場の目線から現実の解決策に挑戦してまいる決意です。
 次に、拉致問題についてお伺いします。
 拉致問題の解決には、北朝鮮が拉致を国家犯罪と認め、家族を無条件で即時帰国させるとともに、拉致事件の全容を明らかにすることが不可欠です。ところが、一昨年十月に帰国された五人の方々は、その後、北朝鮮に残された御家族の帰国がいまだ実現しないまま二度目のお正月を迎えられました。政府は第二回目の六か国協議の開催に向けて努力されていますが、北朝鮮の対応にも変化の兆しが見受けられます。政府として、強力に、断固たる姿勢で拉致問題解決に全力で当たっていただきたいと思いますが、具体的にどのような取組をされるのか、お伺いいたします。
 次に、景気、雇用及び中小企業支援策について伺います。
 日本経済は、国民の皆様の懸命な取組と諸施策によって、一年前の最悪な事態からは何とか脱しつつあるように見えます。株価も回復基調にあり、GDPも連続六期プラスに転じてきています。しかし、業績回復の多くは大企業が中心で、中小企業、非製造業、地域産業への広がりはまだ不十分であります。
 現実に、全国各地を回る中で、日本の経済の屋台骨である中小企業経営者の皆様の、貸し渋り、貸しはがしに苦しむ悲鳴や、不本意にも倒産に追いやられたとの無念の声をいまだに数多く耳にいたします。そうした声を受け、私どもの提案により昨年二月十日にスタートした資金繰り円滑化借換保証制度は、おかげさまで大変に好評で、既に保証承諾件数は三十三万七千件にも達しております。二〇〇四年度も引き続き運用されますので、中小企業の皆様には今後も是非積極的にこの制度を活用していただきたいと思います。
 この借換保証とともに中小企業の方々からの御要望として多かった声の一つが無担保無保証融資の拡充です。
 そこで、この声におこたえするため、公明党は、さきの総選挙の際に掲げたマニフェストで中小企業への金融支援策を具体的に三点提言いたしました。それは、一つには無担保無保証の新創業支援制度を拡充することであり、二つには金融機関が中小企業に対して個人保証を求めない融資を推進すること、三つには売り掛け債権等の証券化、流動化等、金融機能の多様化を図ることであります。
 この公明党の三つの主張は、おかげさまで二〇〇四年度予算案の中で具体化し、政府系金融機関による支援の枠組みが大きく拡充することになりました。
 一点目については、国民生活金融公庫による無担保無保証の新創業融資制度の貸付限度額を現行の五百五十万円から七百五十万円に引き上げました。この制度は不動産担保に乏しい創業者を支援する施策であります。二〇〇三年二月からは、公明党の提言を踏まえ、女性や中高年者、ITを活用した新規開業者に対して金利の低い融資制度も実現させました。この制度も多くの方に喜ばれ、利用されて順調に実績を伸ばしています。今回、貸付限度額を七百五十万円にまで拡充することによって、百万単位の企業の開業を後押しする効果が見込まれると確信しています。
 二点目は、中小企業金融公庫と商工組合中央金融公庫による個人保証を必要としない新融資制度の創設であります。これまでは、倒産すると、保証人である経営者が個人財産まで失い、再起不能になるという大変過酷なケースも多々ありました。そこで、経営者の重い個人負担を軽減して、一度失敗しても再びチャレンジできるように支援するという制度であります。
 三点目の売り掛け債権等の証券化、流動化等、金融機能の多様化も大きく前進することになりました。
 これら三点にわたるきめ細かい中小企業支援策で、かなりの景気浮揚効果、雇用創出効果が期待できると考えますが、総理の御見解を伺います。
 次に、若者の雇用支援策について伺います。
 厚生労働省の調査によると、昨年高校を卒業して働いている若者の約三割がパートです。高卒のフリーターも増加しています。こうした事態を未然に防ぐため、福島県や高知県では、就職促進支援員を採用し、企業を回って採用枠を掘り起こして、昨年より就職率を大幅に引き上げた実績があります。各県が同様の取組ができるよう、国として支援すべきと考えます。
 一方、この春卒業予定の大学生の就職内定率も約七割と大変に厳しい状況にあります。このような中、企業で就労体験をするインターンシップ制度を導入する大学が増えています。これは学生にとっては掛け替えのない社会実習体験であり、地に着いた職業観を育て、卒業後の就職のミスマッチを防ぐ意味からも、大変に有効な取組であります。今後も、更にインターンシップ制度の充実を国として支援すべきであります。
 また、我が党は、学校での職業知識の習得と企業での実務訓練の二つを並行して行う日本版デュアルシステムをマニフェストで提案しました。それが二〇〇四年度予算案で実現の運びとなり、その効果に大きな期待が寄せられています。さらに、ワンストップサービスセンター、通称ジョブカフェの早期整備、キャリアコンサルタントの拡充、電話やメールで質問に応じるキャリアヘルプデスクの設置などを関係省庁及び地方自治体並びに企業などの協力によって実現するなど、総合的な若者の就職支援対策を進めるべきと考えます。総理のお考えを伺います。
 次に、高齢者の雇用支援策について伺います。
 定年と年金制度を連動させて、定年延長や継続雇用の推進などにより、厚生年金支給開始年齢までの経済的不安を解消するよう、法的措置も含めて対応すべきだと考えます。高齢者の豊富な経験を有効に活用し、生きがいあふれる生活を送っていただくためにも欠かせません。厚生労働省など関係省庁、地方自治体、企業などが協力して高齢者の総合的な雇用支援対策を進めるべきだと考えますが、総理の決意のほどをお伺いします。
 次に、年金改革について伺います。
 二〇〇四年度予算案では、年金改革への確かな道筋を付けることができました。政府、与党間で、給付と負担、財源の骨格部分で合意しました。また、厚生年金の給付水準も現役世代の平均収入の五〇%以上を確保することに決まりました。
 今回の年金改革の大きな目的は、国民の皆様の年金に対する不安を解消することにあります。そして、将来にわたって年金制度は決して破綻することなく継続されること、また、決められた年金を払い続ければ老後の安心な生活を送ることができることを納得していただき、安心していただくことにあると思います。是非この機会に、国民の皆様に対し厚生労働大臣から年金安心宣言をしていただきたいと思いますが、いかがでしょうか。
 次に、高齢者施策について伺います。
 介護保険制度がスタートして本年四月で満四年を迎えます。スタート当初問題の多かった介護保険制度も、低所得者への配慮やサービス内容の充実等、種々の改善がなされ、現在では多くの皆様から評価を得ております。反面、高齢化が進み、制度が定着することにより、施設の待機者やサービス希望者の数も予想以上に増加しております。高齢者の自立と安心の老後を保障するには、介護保険制度に対する信頼性を更に高め、確固たる制度とする必要があります。
 被保険者の拡大や障害者との統合などの課題とともに、特養ホームの待機者ゼロ、低所得者の負担の軽減、グループホームや小規模多機能拠点の配置、介護予防の強化など、より高齢者のニーズにこたえられる制度にすべきと考えますが、厚生労働大臣の御見解を伺います。
 また、高齢者への虐待問題が大きな社会問題となっております。介護が必要な高齢者が家族に放置されたり、殴られてけがをしたり、経済的に搾取されるなど、広範にわたる虐待問題が起きています。アメリカでは、虐待防止のための法制度が整備されて的確に運用されています。それに対し日本ではどうでしょうか。在宅介護で虐待を発見したケアマネジャーやヘルパーは、相談する場所もなく、独りで問題を抱え込んでいるのが実態ではないでしょうか。家族に介入したくても権限もありません。事実、あるケアマネジャーの方はこう言っておられます。アメリカとは違い、日本には公的機関による高齢者虐待の定義もなければ、児童虐待のような専門窓口もなく、虐待の被害者は置き去りにされているのが現実ですと。
 ある学者も、法律がなければ予算も人も制度も付いてこないと言っておられますが、私も全く同感です。これからますます高齢社会が進展する日本においても、まず、仮称「高齢者虐待防止法」の制定に向けて積極的に対応すべきではないかと考えますが、総理の御見解をお伺いします。
 次に、総合的な子育て支援策についてお伺いします。
 子育て支援の充実に一貫して取り組んできた公明党の主張により、二〇〇四年度予算案でも子育て支援は重要課題に位置付けられ、大幅に拡充されることになりました。児童手当の小学校三年生までの拡大や、保育所待機児童ゼロを推進するため新たに五万人の保育所受入れを増やす、小児救急電話相談を始めとする小児医療体制の整備、不妊治療の経済支援制度がスタートするなど、様々な支援策が盛り込まれております。また、共働き家庭だけでなく、専業主婦の方からも要望が強かった幼稚園での預かり保育が大幅に拡充され、早朝や夜間、休日、長期休暇中などにいつでも安心して子供を預けられるようになります。
 今後とも、国、地域、企業等が協力し、子育てが楽しい社会を実現するために、更なるきめ細かな支援策を粘り強く行う必要があります。特に、育児休業、介護休業の対象労働者の拡大や、保育所に入所できないなど特別の事情がある場合に一定期間育児休業の延長を認めること、また子の看護休暇の権利化などを盛り込んだ育児・介護休業制度の改善が強く求められていますが、いかがでしょうか。厚生労働大臣にお尋ねいたします。
 次に、自閉症やADHD、LDなどの発達障害や知的障害、さらに、近年大きな問題になっている引きこもりなどへの支援について伺います。
 これらの支援について、日本は欧米に比べ十年以上後れていると言われております。先日、引きこもりの青年たちの支援に取り組む民間のグループホームを視察いたしました。そこでは、長く引きこもりだった青年が多くの人に支えられながら仕事をして収入を得たり、次のステップを目指して学校に通い始めるなど、大きな成果を上げております。その献身的な取組に頭が下がる思いでした。発達障害や引きこもりの子供たちが将来、社会で自立して生活できるよう、国として、専門家や民間の力をかりながら、早期発見、相談支援、教育支援、生活支援、就労支援など、省庁の壁を乗り越えて幅広い横断的な支援に取り組む必要があります。
 これらの支援について、厚生労働大臣の御所見を伺います。
 次に、医療、保健関連について四点伺います。
 白血病や再生不良性貧血等の有効な治療法である骨髄移植及び臍帯血移植の推進を我が党としてこれまで全力を挙げてまいりました。おかげさまで移植件数も増え、多くの白血病等の患者さんの命が救われるようになりました。一方で、それぞれのバンク事業の財政状況が厳しく、このままでは患者さんへの負担増につながりかねません。骨髄液、臍帯血そのものへの医療保険の適用など、国としてバンク及び患者さん等への支援体制を強化すべきと考えますが、厚生労働大臣のお考えを伺います。
 次に、乳がんは死亡率及び患者さんの数が年々増え、今や女性の三十人に一人がかかる病気となっています。現在の問診及び視診並びに触診による検診では、どうしても見落とされるケースが多いと言われております。マンモグラフィー検診によれば、より正確に乳がんの発見が可能ですが、これを実施している市町村は全国で五割に満たない状況にあります。また、乳がんにかかる年代は四十歳代に最も多いという結果が報告されています。こうした実態も踏まえ、四十歳以上の女性を対象に市町村でマンモグラフィー検診を導入するなど、早期発見、早期治療のための検診体制の充実が急務だと考えますが、厚生労働大臣に伺います。
 次に、高齢者のインフルエンザ予防接種への公的支援については、我が党として積極的に推進してまいりました。一方で、乳幼児への予防接種には公的支援がなされておりません。乳幼児がインフルエンザにかかった場合、肺炎や急性脳症を発症する危険性も高く、また医療費負担の軽減という観点からも公的な支援が必要と考えます。あわせて、接種効果に関する研究結果を十分に踏まえながら、対象疾病の見直しなど法改正に向けた検討を行うべきと考えますが、厚生労働大臣のお考えをお聞かせください。
 次に、終末期医療措置支援及び尊厳死立法化について伺います。
 我が国においては、死期が迫ったとき、安らかに自然な死を迎えたいという本人の希望にもかかわらず、死期を延ばすだけの延命措置が多く行われております。欧米諸国では、尊厳ある死を迎えるための終末医療が充実し、さらに、死の在り方を選ぶ権利として尊厳死に関する立法が多く見られます。日本としても真剣に検討すべきときに来ているのではないかと考えますが、厚生労働大臣にお考えを伺います。
 次に、参議院選挙における格差是正について伺います。
 先般、最高裁が二〇〇一年七月の参議院選挙をめぐる判決で、最大五・〇六倍となった選挙区選挙の一票の格差について合憲と判断しました。
 しかし、十五人の裁判官のうち六人が違憲の反対意見を述べ、合憲とした九人のうち四人も、格差是正の措置を取らずに漫然と今の状況が続いたまま次の選挙が行われれば、違憲判断をする余地があると指摘しています。そこで、我が党の草川参議院会長らが倉田参議院議長に早急に各会派の代表者による協議会を開くよう、要請したところであります。
 この議会制民主主義の根幹にかかわる格差是正の問題について、総理の御見解を伺います。
 最後に、教育について伺います。
 発展途上国や難民キャンプなどを訪ねると、どんな劣悪な環境下にあっても、子供たちは勉強したい、学校に通いたい、学校が楽しいと、ひとみを輝かせて語ってくれます。教育は知識を教え込むというより本来子供たちが持っている学習への意欲を動機付ける、正に子供の心に灯をともすことが大切です。そのために我が党は、セカンドスクールや職業、ボランティアなどの体験学習を推進してまいりました。自然体験や自らの行動が社会に役立っていると実感する経験は子供たちの自信となり、心の成長の確かな礎となります。また、様々な職業を知り、実際に体験することで将来の夢や希望がはぐくまれ、それが学習に反映されることは間違いありません。
 また、我が党が強力に推進してきた子ども読書運動が大きな広がりを見せており、朝の十分間読書運動を実施している学校は一万五千校を突破しております。実施した学校から、子供たちが落ち着いていじめや暴力がなくなった、不登校がなくなったという声とともに、学習意欲が高まった、自ら学ぶ姿勢が出てきたという報告が出ています。遠回りのように見えても、子供たちの心に語り掛け、豊かな心をはぐくむことが着実な成果を生みます。国としてこれらの施策を更に支援するよう強く希望いたします。
 教育の目的について、アメリカのある大学の学長は、我々が育てるべき人間は公私にわたって信頼できる誠実な人間であると語っています。私たちが育てるべき人材は、偏狭な国家主義者や利己主義者ではなく、人々のため、社会のため、世界の平和のために貢献したいと願うような開かれた人格の人であると思います。いかなる人間を育てるかにより、国の将来が決まってまいります。正に日本の将来を決するのは教育をおいてほかにありません。国としての最重要の事業が教育と言えます。
 そこで、教育の目的についての総理の御見解と教育に掛ける総理の御決意をお伺いし、質問を終わります。(拍手)
   〔内閣総理大臣小泉純一郎君登壇、拍手〕
#5
○内閣総理大臣(小泉純一郎君) 浜四津議員にお答えいたします。
 自衛隊派遣の目的についてでございますが、まず、自衛隊は戦争に行くのではありません。武力行使をするものでもありません。イラクの復興支援、人道支援に赴いていただくということであります。
 イラクの国民によって一日も早くイラクに安定した民主的な政権を作る、これは国際社会の責任でもあると思っています。イラクの安定というのは、日本のみならず、全世界が今しなければならない、そのために国連は、すべての加盟国に対してイラクに対して復興支援を要請しております。それに日本も私はこたえるべきだと思っております。
 こういう中で、イラクに自衛隊を派遣すると、イラク人から日本は敵視されるのではないかという反対論が一部にあります。しかし、最近の報道を見ても、むしろイラク人の中に、イラクの国民の中にも、自衛隊の支援活動に期待を寄せ、復興支援に協力してくれという動きも強く見られております。
 そういうことを考えますと、私は、自衛隊の諸君が、一般国民にはでき得ない、困難な状況の中で訓練を積んで、そして能力を生かして、イラク人から評価される支援活動ができると信じております。また、それを期待しております。そのような任務が果たせるように、日本政府としても万全の対策を講じていきたいと思います。
 このような活動というものは、国際協調という日本の大事な基本方針に合致するものであり、同時に、憲法の掲げる理念にも沿うものであると私は考えております。
 自衛隊派遣について、イラク国民やアラブ諸国に対する説明についてでございますが、私は、このイラクに対して日本はどのような活動を行うかということについて十分な理解と協力を得ることが極めて重要なことであると思いまして、アラブ関係の報道機関におきましても、心して十分日本の立場なり日本の支援活動の説明を行ってまいりましたし、これからも機会があればするつもりでございます。昨年もアル・ジャジーラ衛星テレビを通して私はインタビューに応じまして、イラク国民に対して、またアラブ諸国に対して説明を行ってまいりました。
 今後、各国政府へ特使や閣僚レベルで説明しまして、理解を求める努力を行っていきたいと思います。
 イラクにおける雇用対策でございますが、我が国は既にバグダッドで雇用創出を目的としたプロジェクトを実施したほか、今月十六日に決定した国際機関経由の学校、住宅及び公共施設の再建事業支援でも事業実施地域の住民の雇用拡大に寄与できると考えております。今後とも、イラク国民の生活基盤の再建に資する支援をODAを活用して行うことも検討しております。このような支援は現地の雇用拡大にもつながるものと思います。
 メソポタミア湿原の回復につきましても、イラク側とも調整の上、関係国際機関等とも連携しながら、可能な限りの支援を検討してまいります。
 北朝鮮に対しましては、誠意ある対応を求め、早期に政府間協議に応じるよう働き掛けておりまして、今後とも拉致問題の一刻も早い解決のためにあらゆる機会を通じて最善を尽くしてまいります。
 中小企業金融につきましては、我が国は、経済の再生を考える際、中小企業の振興、発展は不可欠であります。景気浮揚と雇用創出には中小企業への円滑な資金供給の確保が欠かせないとも思っておりますし、政府は、担保や第三者保証人等に依存しない融資の拡大、売り掛け債権の担保化の促進など、多様な手法により中小企業金融対策の強化に積極的に取り組んでまいりました。企業倒産件数が十六か月連続で前年同月比で減少するなど、その成果は私は着実に現れ始めていると考えております。
 今後とも、やる気と能力のある中小企業は十分にその力を発揮できるよう積極的に支援をしてまいります。
 若年者の就職支援対策でございますが、政府としては、昨年六月に策定した若者自立・挑戦プランに基づき、御指摘されたような就職支援相談員のハローワークへの配置や都道府県との連携等による新規高卒者への就職支援、インターンシップの職業体験、キャリア教育の推進、企業実習と教育訓練を組み合わせたいわゆる日本版デュアルシステムの導入などの若者の就職支援対策を地方自治体とも連携しながら総合的に推進してまいります。
 高齢者の雇用支援でございますが、六十五歳までの定年の引上げ、継続雇用制度の導入など、高齢者の雇用を確保するための法案を今国会に提出するとともに、政府、地方自治体、経済団体などが連携して高齢者の雇用を支援する取組を引き続き推進してまいります。
 高齢者の虐待防止でございますが、御指摘の高齢者虐待については、これまでも老人福祉法に基づき、施設に保護することなどにより対応しておりますが、虐待の態様や発生要因は様々であります。その実態把握を急ぐとともに、その結果を踏まえ、必要な対策を講じてまいりたいと考えております。
 参議院選挙の一票の格差是正についてでございますが、これは私は、必ずしも衆議院と参議院の一票格差是正が同じでなければならないとは思っておりません。アメリカにおきましても、上院と下院については違う制度を取っております。下院は人口比例、上院は、どんなに小さな州でも、人口が少なくても人口が多くても定員は同じであります。そういうことを考えまして、もちろん参議院の中で、今の制度を考えると人口の要素を加味した制度になっておりますので、アメリカと一緒である必要はないと思いますが、やはり衆議院と違った一票の格差是正があってもいいのではないかなと思っておりますが、これは本来、参議院自身の問題であります。そういうことを考えますと、一票の格差是正については、参議院改革の一環という意味で、まず参議院において十分議論していただきたいなと思っております。
 教育の問題についてでございますが、正に日本が発展した原動力は教育を重視してきたからだと私も思っております。資源のない日本がここまで発展してきた。これからも日本は教育を重視していかなきゃならないと思います。
 今後、教育を国政上の最重要課題の一つと位置付けまして、どうしたら子供一人一人が必要な能力を身に付けるか、これは学校も地域も家庭も一体として取り組む問題でありまして、学校におきましては、習熟度別指導や、御指摘のあった体験学習、読書活動を推進しまして、確かな学力と豊かな心の育成を目指した学校教育の改革などを進めるなど、人間力、その向上を目指した改革に全力を尽くしてまいります。
 残余の質問については、関係大臣から答弁いたします。(拍手)
   〔国務大臣坂口力君登壇、拍手〕
#6
○国務大臣(坂口力君) 年金改革についてのお尋ねがございました。
 今回の年金制度改革につきましては、将来の負担が過大とならないよう極力抑制してその上限を国民に明らかにする、それとともに、少なくとも現役時代の平均的収入の五〇%の給付水準を維持しながら、急速な少子高齢社会が進行する中で年金を支える力と給付の均衡を取ることのできる仕組みに転換をする、こういうことを中心にいたしまして、課題でありました基礎年金の国庫負担割合の二分の一への引上げにつきましても、引上げの道筋を明らかにしたところでございます。
 なお、持続可能な制度の構築に向けた根幹にかかわる部分を含んだ改革に取り組むこととしたいというふうに思っております。
 年金制度は経済の生産活動によって生み出される所得を高齢者に移転するものでありますので、年金制度を支える経済が、例えば実質賃金上昇率が年率一・一%以上というように健全に発展するための施策も必要と考えております。
 年金安心宣言と、こう言われましたけれども、何をもって安心とするかは人によって違うというふうに思いますけれども、今まで経験したことのない少子高齢社会という厳しいこの現実を前にして、将来ともに年金制度を持続できるようにすることが安心の中核であると考えております。
 介護保険制度の見直しについてのお尋ねがございました。
 平成十二年四月に制度がスタートしまして以来、在宅サービスを中心に利用者が大きく伸びてきておりまして、国民生活に深く定着していると考えております。こうした中で、実施後五年目に行うというふうにされております介護保険制度の見直しでございますが、高齢者の自立支援の観点から、より良質なサービスの提供を目指しまして、将来にわたって制度を持続可能なものにするように改革を行っていきたいというふうに思っております。
 御指摘の被保険者の拡大や障害者施策との統合は、法律の制定当初からの課題になっていたものでございまして、これらのことも併せて、介護保険制度を実施して見えてきた問題も含めて、制度全体にわたって検討していきたいというふうに思っております。
 また、周辺の年金と介護、あるいは医療と介護、こうした関係につきましても見直しを行っていきたいと考えているところでございます。
 省内におきましても、介護制度改革本部をこの一月に立ち上げたところでございます。
 育児・介護休業制度の改善についてのお尋ねがございましたが、急速に少子化が進みます中で、次世代育成支援対策において大きな課題となっております仕事と子育ての両立支援を一層推進したいというふうに思っております。今国会に法案を提出させていただきたいと思います。
 具体的には、一定の要件を満たす期間雇用者について、育児休業及び介護休業の対象労働者に加えること、一定の場合に子が一歳六か月に達するまで育児休業を可能にすること、介護休業につきましては、介護を要する同一の継続する状況ごとに取得を可能とすること、子供の介護休業制度を創設すること等、御指摘のことを中心に制度の充実を図ってまいりたいというふうに思っております。
 このほか、児童手当の拡充を図る児童手当法、そして児童虐待防止法等の充実等を図る児童福祉法の改正法案も提出をさせていただきたいと考えているところでございます。
 引きこもりの問題につきましての御指摘がございました。
 自閉症、学習障害等の発達障害を有する方々に対します支援につきまして、これまでの保健福祉施策で必ずしも十分に対応できていなかったというふうに認識をいたしております。平成十四年度から自閉症・発達障害支援センターの整備を行いまして、支援を進めてまいりたいというふうに思っております。
 今後、早期発見の診断、相談支援、治療・教育支援、地域生活支援、就業支援などの諸課題につきましても、幼児期から成人に至ります、継続して支援できるようにしたいというふうに思っております。文部科学省とも十分に連携を取らせていただきたいと考えております。
 引きこもりの状況にある児童や青年に対しまして、保健所、精神保健福祉センターによる相談支援、大学生を家庭に派遣して支援する支援、就業支援等を実施しているところでありますが、今後とも関係省庁と連携を密にして、この事業を更に推進してまいりたいと考えております。
 骨髄液、臍帯血への医療保険の適用につきましてのお話がございまして、事業実施に必要な経費につきまして国庫補助を行っておりまして、さらに、平成十五年度よりこの患者負担金についての医療費控除を適用いたしまして、患者負担の実質的な軽減を図ることといたしております。
 骨髄・臍帯血移植の重要性につきましては十分に認識をいたしております。現在、中医協におきまして診療報酬改定の進んでいるところでございますので、その中で十分に経緯を見ていきたいというふうに思っておりますし、その議員のお気持ちも伝えたいと思っております。
 それから、乳がんの問題でございますが、四十歳代に最も多く発生をしておりますのはもう御指摘のとおりでございます。平成十五年十二月に専門家によりますがん検診に関する検討会を設けまして、現在五十歳以上を対象としておりますマンモグラフィーによる乳がん検診につきまして、対象を四十歳以上とすることを含めて、検討の在り方について、検討を今進めているところでございまして、四十歳以上になるように努力をしたいと思っております。
 インフルエンザの問題にお触れでありましたが、高齢者に対します問題は、発病・重症化防止効果が認められておりまして、予防接種法の対象疾患として加えております。一方、乳幼児につきましても、過去に蓄積されたデータが乏しく、予防接種の効果についての知見が確立されていないことから対象とされておりません。乳幼児にかかわるインフルエンザ予防接種の効果につきましては、現在検討が行われているところでございまして、その推移を見たいというふうに思っております。
 尊厳死につきまして最後にお尋ねでございました。
 終末期医療に関する国民の関心が高いことは十分に承知をいたしておりまして、望ましい終末期医療のための環境整備を促進していきたいと考えております。一方で、終末期医療の在り方やその法制化につきまして、国民の間では判断が分かれている難しい問題があることも事実でございます。
 終末期医療に関する調査等検討会を設けまして、国民、それから医療従事者、介護施設職員の意識の調査を行いまして、それらを踏まえて、今後この問題をどのようにしていくか、十分に検討を重ねていきたいというふうに考えているところでございます。(拍手)
    ─────────────
#7
○議長(倉田寛之君) 西山登紀子君。
   〔西山登紀子君登壇、拍手〕
#8
○西山登紀子君 私は、日本共産党を代表して、小泉総理の施政方針演説について質問いたします。
 政府は、昨日、航空自衛隊の本隊をイラクに派兵し、陸上自衛隊は今月中にも本隊を派兵しようとしています。重火器で武装した自衛隊を戦争状態が続いているイラクに派兵することは、憲法の平和原則を根本から踏みにじる歴史的暴挙であり、絶対に許すことはできません。
 世論調査でも過半数の国民が自衛隊の派兵には反対し、八割以上の人々が政府は十分に説明していないと答えています。日本の軍隊がわざわざ外国に出掛けていって他国の国民を殺し、戦死者が出かねない戦後初めてのこの暴挙に対して、多くの国民が心の底から不安と怒りと悲痛な思いを募らせつつあります。総理、あなたは国民のこの切迫した気持ちが分からないのでしょうか。
 自衛隊の派兵計画の具体化に伴って浮き彫りになってきた重大問題についてお聞きします。
 まず第一に、そもそもアメリカのイラク戦争とそれに続く軍事占領の大義についてです。
 元々、この戦争は、国連憲章を踏みにじる先制攻撃の侵略戦争でした。国連憲章は武力行使を厳しく禁じています。例外は二つ、自国が武力攻撃を受けたときの自衛の反撃と、国連安保理事会が認めたときだけです。今回は、アメリカがイラクから侵略を受けたわけでもないし、国連が武力行使を承認したわけでもありません。
 ところが、アメリカはイラクが大量破壊兵器を持っていると決め付け、それを最大の理由としてイラク戦争を強行しました。あなたの戦争支持の理由もそうでした。しかし、大量破壊兵器はいまだに見付かっていません。アメリカのCIAを中心に作られた大量破壊兵器調査チームも、何も発見できずに責任者は辞任しています。一体、この戦争のどこに大義があるというのですか。国連憲章違反の侵略戦争そのものではありませんか。
 第二に、総理が金科玉条にしている国際協調とは何かという問題です。
 国連のアナン事務総長は、昨年九月の国連総会で、アメリカの先制攻撃戦略を国連憲章の原則への根本的挑戦と厳しく批判しました。そして、国際社会と国連は、今になってもこの戦争を追認していません。
 総理は、まるで世界じゅうが軍隊を派兵しているように言いますが、イラクへ軍隊を派兵しているのは、国連加盟国百九十一か国中、わずか日本を含め三十八か国のみで、安保理事国のフランス、ドイツ、中国、ロシアなども派兵していないのです。今、世界は、国連中心の平和の秩序回復をと声を上げています。総理、あなたの言う国際協調とは、アメリカ言いなりの国際的孤立の道ではありませんか。
 総理、今あなたがなすべきことは自衛隊派兵ではありません。平和憲法を持つ国の首相として、復興支援を国連中心の枠組みで行うように外交努力を徹底して強めることです。そして、一日も早くイラク国民の手に主権を返還し、米英の不法、不当な占領をやめさせることではありませんか。これこそ、世界が期待する日本政府が取るべき真の国際協調ではないでしょうか。
 第三に、自衛隊の米軍支援の問題です。
 今イラクでは、連日米兵などが攻撃され、戦闘状態であることはだれの目にも明らかです。あなたは施政方針演説で、自衛隊は戦争をしに行くのではない、武力行使はしない、給水など人道復興支援に行くのだと言っています。しかし、基本計画や実施要領には自衛隊が安全確保支援活動を行うと明記されているではありませんか。しかも、我が党の質問に対し、航空自衛隊の任務には占領軍支援のための輸送業務もあるし、武装した米兵を対戦車砲や迫撃砲と一緒に輸送することもあると明確に認めています。自衛隊が武力行使はしない、人道復興支援しか行わないかのように言うのは大変なごまかしではありませんか。
 総理、イラクでは航空自衛隊も陸上自衛隊も米英占領軍の一員として行動するのではありませんか。そして、あなたも認めているように、米軍による武装勢力への掃討作戦の支援、米軍によるイラク人の攻撃、抵抗運動への鎮圧作戦の支援を行うのではないのですか。これがどうして憲法が禁ずる武力の威嚇にも武力の行使にも当たらないと言えるのですか。はっきりお答えください。
 しかも、米英占領軍は鉄のハンマー作戦やゲリラ掃討作戦などによって、ゲリラ勢力の会合や武器保管に使われたとされる民家を破壊し、女性や子供まで犠牲にしています。どんな理由があってもテロは許されません。しかし、こうした野蛮極まりない無法、無謀な殺りく、破壊の軍事占領支配がテロに口実を与え、またイラク国民の怒りと憎しみを呼び起こし、イラクの泥沼化を日々深刻にしているのではありませんか。この事態を総理はどう受け止めているのですか。
 そもそも国連のアナン事務総長は、占領と復興は両立しないと断言しています。しかも、自衛隊の人道復興支援も、事実上、米英占領軍の指揮下で行われるものです。米英軍による占領こそ、国際社会による人道復興支援の最大の障害になっているのではありませんか。
 第四に、自衛隊の派兵は、どこから見ても明白な憲法違反であるということです。
 総理は、憲法前文の「われらは、いづれの国家も、自国のことのみに専念して他国を無視してはならない」を引用し、自衛隊の派兵を正当化しています。憲法の前文は、過去の我が国の侵略戦争の痛苦の反省から、国際ルールを無視した勝手な行動を強く戒め、恒久平和を誓ったものです。そして、何よりも憲法の前文は、「国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。」と明記した憲法九条と固く結び付いたものです。憲法違反の自衛隊派兵の暴挙を正当化する理由に憲法を持ち出す、これほど恥ずべきことはないではありませんか。憲法第九十九条は、天皇及び国務大臣、国会議員は、憲法を尊重し擁護する義務を負うとしています。
 小泉総理、今回のあなたの行動には侵略戦争への反省も憲法を守る意思もみじんも感じられません。あなたの行動は憲法九十九条に明白に違反するものであり、日本の国民を代表する総理の資格に欠けていると断ぜざるを得ません。
 次に、国民生活と日本経済についてです。
 小泉総理は、発足のとき、構造改革をやれば二、三年で景気が良くなると言いました。間もなくその三年がたとうとしています。しかし、あなたの進めた構造改革によって国民の暮らしと日本経済はどうなったでしょうか。
 景気回復の兆しは見えたというのも、一部の大企業がリストラと下請たたきで業績を上げているのにすぎません。このことは、日本経団連の奥田会長も、リストラによって実現したコスト削減した分だけ業績が良くなったと認めています。リストラなどによる失業率は五%台の高水準であり、不況型倒産は過去最悪です。実収入の減少に加え、健康保険の改悪、年金の給付引下げ、介護保険料の引上げなど、社会保障の改悪と庶民増税で家計消費は圧迫されています。貯金ゼロという世帯は二割、自殺者も五年連続で三万人を超えており、生活保護世帯は九十四万と過去最多を更新しています。小泉構造改革の破綻は、これらの動かし難い事実が証明しているのではありませんか。
 あなたの構造改革は国民には耐えられない激痛を与えたのです。得をしたのは国民ではなく、社会保障や税金の負担を軽くしてもらい、リストラを応援してもらった大企業だけではありませんか。
 今求められているのは、大企業応援の構造改革ではなく、日本経済の六割を占める家計を温め、中小企業を応援するなど、国民生活を守る方向に経済政策を転換することではありませんか。答弁を求めます。
 今、最も国民の不安をかき立てているのは年金制度の改悪です。
 政府及び与党が示している計画は、保険料だけでも毎年一兆円近くの負担増を二〇一七年度まで毎年続けるものです。厚生年金の保険料は平均的サラリーマンで毎年一万円も引き上げられます。その一方で、給付水準はモデル世帯で収入の六〇%から五〇%へと引き下げられます。この給付減は年間約四十四万円にもなります。しかも、五〇%の給付を保障すると宣伝していますが、共働きや単身者では現役時代の収入の三割台に引き下げられることになります。その上、給付水準の引下げも国会には諮らないまま自動的に行う仕掛けになっています。正に踏んだりけったりとはこのことです。国民から怨嗟の声が起こるのは当然ではないでしょうか。
 さらに、深刻なのは、今でさえ給付が低い国民年金の引下げです。自営業者など、国民年金だけ受給している人の平均は約四万五千円です。この三年間で介護保険や医療費の値上げで苦しめられている上に、三万円、四万円といった低水準の年金を更に二割もカットされたら、一体どうやって生きていけばいいというのでしょうか。
 まず、政府が行うべきことは、基礎年金への国庫負担率を現行の三分の一から二分の一に引き上げることです。これは法律の附則で来年度までに引き上げると明記され、国民に約束していることです。必要な財源二兆七千億円は、増税ではなく歳出の見直しで生み出すべきです。例えば、無駄な道路を造り続ける仕組みになっている道路特定財源の一般財源化です。道路特定財源だけでも、毎年、国に入ってくるお金は三兆五千億円もあります。世界でも突出した五兆円もの軍事費や無駄な公共事業を削れば、財源は十分にあるのではありませんか。
 第二に、雇用と所得を守り、年金の支え手を増やすことです。二〇〇一年だけでリストラなどの影響で厚生年金加入者が政府の予想より二百八十二万人も減り、保険料収入が三兆円も見込みを下回っています。乱暴なリストラを抑え、雇用を確保する政策に転換することこそ年金財政立て直しのための第一歩です。
 第三は、厚生年金だけでも百七十五兆円にも上る積立金を計画的に活用することです。日本のように巨額な年金積立金を保有している国はありません。株式などのリスクのある運用は直ちに中止し、積立金を計画的に取り崩し、給付に充てるべきではありませんか。リストラ応援と積立金の運用の失敗で年金財政を掘り崩してきたことを反省することなく、国民だけに負担を押し付けることは絶対に許されません。
 日本共産党は、今まで述べてきたような改善に着手するとともに、将来的には基礎年金部分を発展させて厚生年金、共済年金、国民年金などの土台として、年金加入者全員に一定額の年金が支給される最低保障年金制度を提案しています。その上に、それぞれの掛金に応じて年金が上積み給付されるようにすべきです。歳出の見直しと併せて、大企業や高額所得者にヨーロッパ並みの応分の負担を求めれば財源は確保できます。このような方向こそ安心できる年金制度への道ではないでしょうか。
 さらに、重大なのは、年金の財源不足を口実に、年金控除の見直しや定率減税の廃止と消費税の増税が計画されていることです。
 あなたは施政方針演説で、与党税制改革大綱を踏まえ、税制の抜本的改革に取り組んでいくと言いました。その税制改革大綱では、消費税を含む抜本的税制改革を二〇〇七年度をめどに実施すると明記しています。
 消費税は所得の低い人ほど重くのし掛かる最悪の不公平税制です。政府税調が言うように、消費税率が一〇%以上に引き上げられたら国民一人当たり十万円、四人家族で年間四十万円以上の負担が新たに増えます。庶民の生活は破壊的な打撃を受けるでしょう。国民生活を破壊させる消費税増税は絶対に許されません。消費税率引上げ計画は撤回すべきです。
 次に、中小企業と地域金融についてです。
 まず初めに、日本経済の再生を言うならば、家計を温めること、そして全事業所の九九%を占める中小企業の活性化が不可欠です。
 総理は施政方針演説で、中小企業予算の増額を強調されました。しかし、増えたのはわずか九億円です。総額の千七百三十八億円は、条約上義務付けられていない米軍への思いやり予算二千四百四十一億円の四分の三以下でしかありません。思いやる方向が間違っているのではありませんか。中小企業予算をもっともっと大幅に増額すべきです。
 また、昨年二月から実施された資金繰り円滑化借換保証制度は、実績は三十四万件、保証額は五兆円を超え、地元京都の業者を始め、全国で借金返済が楽になったと歓迎されています。しかし、昨年度の補正予算で導入された制度なので、業者や自治体から三月末で終わるのではないかとの心配の声が上がっています。不況下で必死に頑張っている中小企業、業者の資金繰りを支援するために、この制度を来年度以降も継続させ、制度を拡充することを求めます。
 次に、差し迫った四月一日からの消費税の免税点引下げについて伺います。
 免税点一千万円への引下げは、一日の売上げ三万円の零細業者を含め、新たに百四十万を超える業者を納税業者とするものです。今でも身銭を切らざるを得ない実態なのに、このようなことをすれば倒産、廃業が増えることは明らかです。免税点引下げの実施は凍結すべきです。
 第二に、足利銀行問題に見られる地域金融破壊の問題です。
 昨年十一月に足利銀行が破綻しました。本院の参考人質疑で明らかになったのは、足利銀行が過去の不良債権の処理に努力しているさなかに、金融庁の従来のやり方とは違う大手銀行並みの格段に厳しい検査によって破綻に追い込まれたということです。
 この問題は、足利銀行だけの問題ではありません。ただでさえ、不良債権最終処理方針の下で、中小企業向け貸出しはこの三年間で四十五兆円も減少しました。貸し渋り、貸しはがしが横行、中小企業に対する資金の流れが急激に縮み上がっているときです。今後、こういう検査が地域金融機関全体で横行することになれば、破綻金融機関が更に生まれ、中小企業に対する貸し渋り、貸しはがしも一層深刻になるのは目に見えています。
 総理、我が党が提案しているように、金融機関が地域経済を支援するために、中小零細業者への融資拡大を保障する制度、地域金融活性化法案こそ確立させるべきではありませんか。
 次に、農業と食の安全についてです。
 日本の農業の自給率は低下を続け、家族経営の多くは存続すら危ぶまれています。今こそ農業を基幹産業として位置付け、家族経営を支えるために、価格・所得補償を充実させるべきです。欧米諸国では、価格・所得補償の予算が農業予算の五割から七割を占めています。我が国では三割以下にすぎません。せめて、今の一・五倍、一兆円程度は確保すべきです。
 今年は、国連が呼び掛けた国際コメ年です。世界的な米増産への援助と併せ、我が国の米の完全自給を実現させるべきです。そのためにも、WTO協定を改定し、最低限の輸入量を決めたミニマムアクセス米制度の撤廃を求めます。
 BSE問題では、アメリカの圧力で食の安全をないがしろにすることなく、全頭検査を始め日本国内と同等の安全対策を実施させるべきです。あわせて、輸入禁止で打撃を受ける業者の経営を救済すべきです。
 また、京都城陽市で起こった半年前の卵の日付を偽って出荷、販売していた事件は、重大であり、厳重に対処すべきです。消費者の知る権利、選択の権利を保障し、食品の安全性を確保するためにも、今こそ製造日の明記を義務付けるべきです。答弁を求めます。
 次に、雇用の安定、子育て支援、男女平等の三つの課題について伺います。
 まず、雇用問題、中でも若者の雇用についてです。
 昨年七月の党首討論で、我が党の志位委員長が、大企業ほど若者の正社員の新規採用を抑制している問題を取り上げた際、小泉総理は「看過できない大事な今後の問題」と言いました。
 しかし、大学生の就職希望者の内定率は史上最低で、高校生の四割が十二月になっても就職が決まらない状況です。仕事のない若者があふれている一方、就職できた若者には長時間労働や違法なサービス残業が押し付けられ、過労死、過労自殺にまで追いやられています。二十二歳の息子さんを過労死で亡くした京都のお母さんは、月百時間を超えるサービス残業はざらだった、これ以上私たちのような悲しみを味わう家族を増やさないでと訴えています。若者が、夢も家族の団らんも持てないと嘆く、このようないびつな社会を続けていていいのでしょうか。
 民間調査機関でも、違法なサービス残業をなくすだけでも百六十万人の新規雇用が生まれると試算しています。大企業などの一人で二人分働くような過重・長時間労働と違法な不払労働、サービス残業を直ちに是正させ、若者の雇用を拡大すべきです。
 第二は、子育て支援についてです。
 乳幼児医療費無料化に向けての助成制度は、すべての自治体で実施されてはいるものの、その内容には大きな格差があります。
 日本のどこに住んでも、子供の命と健康はひとしく守られなければなりません。わずか千百億円あれば、日本じゅうどこでも就学前までの医療費を無料にできるのです。財政難を理由に先送りすることは許されません。乳幼児の医療費無料化を国の制度に発展させることを求めます。
 待機児童ゼロ作戦について伺います。
 小泉総理、あなたは、最少コストで最良、最大のサービスをと、営利企業にも保育所経営を認める規制緩和をしました。その一方で、肝心の認可保育所はわずかしか増えておらず、公立保育所は小泉内閣の二年間に三百三十四か所も減っています。定員の弾力化と称して今ある施設に定員を超える子供たちを詰め込み、都市部の保育所はどこでも一杯です。廊下で御飯を食べています。お昼寝の布団は重なり合っています。しかも、待機児童は一昨年十月時点の厚労省調査で六万人を超えています。政府の待機児童ゼロ作戦の破綻は明白ではありませんか。
 こうした状況にもかかわらず、あなたは、地方分権、三位一体改革だと称して、公立保育所予算を千六百六十一億円も削減し、一般財源化しようとしています。子供が人間らしく全面発達をすることを保障することは国の責任です。予算を削減して地方任せにすることはやめ、この保育関係予算を抜本的に拡充すべきです。
 第三は、男女平等についてです。
 昨年七月、国連の女性差別撤廃委員会から日本政府は二十二項目もの懸念と改善勧告を受け、是正の措置を厳しく求められました。
 女性への昇格・賃金差別を訴えた芝信用金庫の女性や住友ミセスたち、今年一月の住友電工の勝利和解は、長い裁判の上に女性たちの主張が認められたものです。しかし、これらは、国の立法、対策の遅れを示すものにほかなりません。
 総理、国連の勧告を真摯に受け止め、コース別や昇格差別など実質的な女性差別の是正に着手すべきです。パート労働法を改正し、パート労働者への差別的取扱いの禁止、均等待遇の原則を明記すべきです。妊娠、出産に伴う解雇や不利益扱いという違法行為をやめさせるために、監視監督体制の強化や必要な法令整備を進めるべきではありませんか。
 以上、答弁を求めます。
 最後に、政治とお金の問題です。
 昨年の衆議院選挙では、自民党の二人の現職議員が買収容疑で逮捕されたのを始め、悪質な違反者が続出しました。逮捕、辞職した新井正則前衆議院議員の買収の原資は政党助成金でした。
 新井氏が支部長を務める自民党埼玉八区支部の中核である所沢支部では、国政選挙前から、活動費名目で政党助成金のばらまきが常態化していたと報道されています。この新井前議員を選挙中熱心に応援した小泉首相の政治的、道義的責任が厳しく問われます。
 それなのにあなたは、施政方針演説で、政治家一人一人が襟を正さなければならないと、まるで他人事のように言ってのけました。自民党総裁として、近藤前議員を含む一連の買収事件の原資に国民の税金が使われていなかったのか、これらの事件の全容を解明すべきではありませんか。
 今、政党と政治の資金の在り方が改めて問われています。あなたが総理になって以来、金権腐敗事件は後を絶ちません。そして、今回の事件は、政党助成金制度の弊害を改めて浮き彫りにしました。そもそも、政党助成金制度は、憲法の定める思想、信条の自由に違反するものです。年間三百十七億円もの国民の税金を政党が山分けする政党助成金制度は廃止すべきです。
 また、日本経団連は献金のあっせんを再開しようとしています。お金の力で政治をゆがめる企業・団体献金は、この際、政治家個人だけでなく、政党に対するものも一切禁止すべきではありませんか。
 日本共産党は、創立以来、企業・団体献金も政党助成金も一切受け取ったことのない党として、国民とともに清潔な政治を目指します。
 今、日本は歴史の大きな曲がり角に立っています。今こそ、アメリカ言いなりでなく、本当の独立をかち取り、世界に輝く平和の宝、日本国憲法を守り抜くとともに、財界主役から一人一人の国民が大切にされる国民が主人公の政治に切り替えるために全力を尽くすことを誓って、私の質問を終わります。(拍手)
   〔内閣総理大臣小泉純一郎君登壇、拍手〕
#9
○内閣総理大臣(小泉純一郎君) 西山議員にお答えいたします。
 自衛隊のイラク派遣についてでございますが、自衛隊は、戦争に行くのではありません、イラクの復興支援に赴くのであります。反対の立場を取る方の多くは、自衛隊がイラクで戦闘に巻き込まれたり、あるいはテロの襲撃を受けるのではないかという、そういうことを心配されているのだと思います。そういうことのないように、政府としては万全の対応をしていきたいと思います。
 今後とも、このような政府の方針というものを国民の多くの方々に理解いただけるように、国会審議等その他あらゆる機会を通じて、私も国民に対して、このような立場、方針を理解していただくよう努力してまいりたいと思います。
 イラクの大量破壊兵器問題でございますが、イラクはかつて実際に大量破壊兵器を使用しており、その後も大量破壊兵器の廃棄を立証しておりません。米国等によるイラクに対する武力行使は、安保理決議に基づき、イラクの武装解除等の実施を確保し、その地域の平和と安定を回復するための措置として行われたものであり、国連憲章にのっとったものであります。我が国がこれを支持したことは正しかったと考えております。
 現在、イラク監視グループが引き続きイラクの大量破壊兵器を捜索しており、我が国としてもこれを注視していく考えであります。
 国際協調に対する認識でございますが、イラク国民が自国の再建に希望を持って努力することができるように、日本としても国際社会の一員としてできるだけの協力をしていきたいと思います。
 こういうことにつきましては、私は、アメリカのみならず、各国、国際社会と協力してやっていくことが重要でありまして、このイラクの復興につきましては、イラクが安定した民主的な政権を作るということは、日本の国家利益にとりましても、世界の平和と安定にとりましても、極めて重要なことでありまして、こういうことによって日本が国際的に社会から孤立するということではなく、むしろ国際協調体制を口だけでなく行動で示すことになるのではないでしょうか。
 イラク復興支援における国連の役割とイラクへの統治権限移譲についてでございますが、私は、イラク復興支援については、国連の役割というものは十分になされるべきだと考えております。また、我が国は、政治プロセスが着実に進展し、イラク人による新しい政府が樹立され、統治権限の早期移譲が実現するように期待しております。
 今後とも、このような考えに基づきまして、関係国や国連へ働き掛け等を行ってまいります。
 イラクにおける米英等による暫定的な施政は国連安保理決議一四八三に従って行われておりまして、不法、不当な占領であるという指摘は当たらないと考えます。
 安全確保支援活動の実施についてでございますが、自衛隊の部隊は人道復興支援活動を中心にするという方針の下に、人道復興支援活動を行う区域に限って、復興支援活動に支障を及ぼさない範囲で医療や輸送、修理又は整備、補給といった安全確保支援活動を行うこととしております。人道復興支援活動にせよ、安全確保支援活動にせよ、イラク特措法に基づく自衛隊の活動は、非戦闘地域においてイラクの再建を支援するために行われるものでありまして、御指摘は当たらないと思います。
 自衛隊の活動と憲法の禁ずる武力行使との関係ですが、自衛隊は戦争に参加するんではありませんし、武力行使をするために行くわけではありませんということは先ほど申し上げたとおりであります。自衛隊が行う安全確保支援の活動も、国連安保理決議第一四八三において、国連は加盟国に協力を呼び掛けております。人道復興支援を行う地域において、また人道復興支援に支障のない範囲でそのような活動を行うことが私はあり得ると考えております。
 いずれにせよ、自衛隊は占領軍の一員として行動するというようなことはなく、憲法違反との御指摘は当たりません。
 イラク内の米英の存在が人道復興支援の障害になっているのではないかというお尋ねであります。
 イラクにおいて、フセイン政権の残存勢力や国外から流入していると見られるイスラム過激主義者がイラク国内を混乱させ、イラク人による民主的な政府樹立を妨げる目的でテロ活動をしていると見られております。現在も、米英軍に対する攻撃だけではありません。イラク人に対してもテロリストは攻撃を加えております。
 テロはイラク国民や国連など人道復興支援に尽力する人々に向けられているということは、テロリストにとってはイラクを何とかテロリストの温床にしたいという思惑もあるのではないかと思います。こういう思惑に乗ってはならないと私は思っております。今後とも、テロに屈することなく、イラクの再建に向けたイラク国民の努力を支援していくことが、日本としても国際社会の一員として必要だと私は考えます。
 イラクの自衛隊派遣は憲法違反ではないかということでありますが、私は、これは先ほども申し上げたように、憲法九条には違反しません。第一、国権の発動たる武力行使と、自らの身を守るために使用する武器使用というものとは違うと思っております。そういうことから、私は、このイラク支援、自衛隊派遣は憲法九条に違反するとは思っておりませんし、むしろ、復興支援に赴く今回の自衛隊のイラク派遣は憲法前文の掲げる理念に沿うものであると考えております。
 小泉内閣の経済運営についてでございますが、日本経済はようやく企業収益が改善してきており、設備投資も増加しております。倒産件数は減少しております。国主導の財政出動に頼らなくても、民需が主導する形で着実に回復傾向に入ってきたなと私は感じております。さらに、不良債権処理の進展も着実に進んでおります。動き出した構造改革特区、最低資本金特例を利用した起業の活発化など、多くの国民の努力によって改革の成果は着実に現れてきたなと思います。これまでの改革の成果を地域中小企業や生活の現場にも浸透させるとともに、引き続き改革を進めて、民間需要主導の持続的な経済成長の実現を図ってまいります。
 年金保険料と給付水準についてでございますが、今回の年金制度改革案は、将来の負担が過大とならないよう極力抑制して、その上限を国民に明らかにするとともに、標準的な年金の世帯で少なくとも現役世代の平均収入の五〇%の給付水準を維持しつつ、急速な少子高齢化が進行する中で、年金を支える力と給付の均衡を取ることのできる仕組みに転換するものであります。これによって年金制度の持続可能性が高まることで、安心できる年金制度となると考えております。
 自営業者の年金でございますが、御質問では年金額が二割引き下げられるかのような御発言をされましたが、今回の改革では、受給者共通に賃金、物価が伸びていく中で、名目額は確保しながら、時間を掛けて給付水準の調整を行うこととしており、年金受給者の生活にも十分配慮した調整の仕組みとなっております。
 基礎年金の国庫負担割合の引上げ、また最低保障年金制度でございますが、基礎年金に対する国庫負担割合については、平成二十一年度までに二分の一に引き上げることとし、平成十六年度からその引上げに着手するなど、その道筋を明らかにする改革案を取りまとめたところであります。
 共産党の提案する税財源と事業主負担のみで賄う最低保障年金制度については、自律自助という社会保険のメリットを放棄するとともに、年金給付と生活保護との関係をどう整理するのか、また巨額の税財源というものをどう賄うのかという大きな問題があると私は考えます。基礎年金の費用は高齢化の進展に伴い増大していくことから、これに見合う安定した財源を税制改革により確保していかなければならないと思います。
 なお、共産党は、基礎年金の国庫負担の財源として歳出削減を挙げておりますが、同時に、大量に国債発行をするなということも提唱されていると思います。私は、現在の財政状況の中では歳出削減分は国債発行額の縮減に充てた方がいいのではないかと考えております。
 リストラを抑制すべきだというお尋ねでございますが、政府としては、様々な政策手段により雇用の創出、維持、確保に努めるとともに、離職を余儀なくされた方に対する早期再就職の支援を推進するなど、雇用対策に全力を挙げてまいります。
 年金積立金についてでございますが、今回の年金制度改正案では、既に生まれている世代がおおむね年金受給を終える百年程度の期間について、給付と負担の均衡を図ることとし、おおむね百年後に積立金の水準を給付費の一年分程度に抑制する財政計画となっております。
 消費税についてでございますが、政府としては、国民の将来不安を払拭し、公正で活力ある経済社会を実現するため、与党大綱を踏まえ、社会保障制度の見直しや三位一体の改革と併せ、経済社会の動向を勘案しながら、中長期的視点に立って税制の抜本的改革に取り組んでまいります。
 私は、その一環として、消費税を私の首相在任中に上げる環境にはないと見ております。だからこそ、私の在任中は消費税を上げる必要はないし、私はその考えはない。しかし、消費税という税というものはどうあるべきかについて議論を妨げる意思は全くありません。どういう税制改革が必要という中で消費税の議論が行われることは当然のことであり、このことについては大いに議論していただきたいと考えております。
 中小企業予算と資金繰り円滑化借換保証制度についてでございますが、中小企業予算につきましては、厳しい財政事情の中にあって増額しております。千七百三十八億円を計上しております。金融セーフティーネット対策、再生支援策、新たな事業に挑戦する中小企業支援策などに重点化し、今後とも中小企業を支援してまいります。
 資金繰り円滑化借換保証制度については、昨年二月の創設時から現在までに三十四万件、総額五兆円の保証実績を上げております。中小企業の資金繰りの円滑化に大きな成果を上げておりますので、来年度も本制度を円滑に実施していく予定であります。
 消費税の免税点の引下げでございますが、消費税の免税点の引下げは、消費税に対する国民の信頼や制度の透明性を向上させる観点から行ったものであり、着実に実施することが必要であると考えます。
 金融検査に当たりましては、信用秩序の維持、預金者保護等の観点から、すべての預金等受入れ金融機関に対し共通の会計基準やルールに基づき検証を行っており、足利銀行に対してだけ従来のやり方と異なる格段に厳しい検査を行った事実はございません。
 また、金融検査においては、中小企業の経営実態を十分に勘案し、財務内容のみならず、業種の特性や代表者の資産内容等について十分に配慮しており、中小企業に対する貸し渋り、貸しはがしを招くものではないと考えております。
 なお、地域における金融の円滑化は極めて重要でありますが、地域金融活性化法案は、基本的に自主的な経営判断にゆだねるべき多様な金融機関の業務を都道府県が画一的な基準に基づいて評価し公表するものであり、問題があるのではないかと考えます。
 農政についてでございますが、やる気と能力のある経営の支援など、競争力強化に向け積極的な農政改革に取り組んでいるところでありまして、食料・農業・農村基本計画もこの方向に沿って見直しを進めてまいります。
 ミニマムアクセスにつきましては、ウルグアイ・ラウンド交渉の中で、すべての加盟国の合意の下に設定されたものであり、それ自体の撤廃は困難ではないかと考えております。
 BSEについては、米国産牛肉の輸入再開の検討に当たりましては、消費者の安全、安心の確保の観点から、国産牛肉について講じているBSE全頭検査及び特定危険部位の除去と同等の対策が必要と考えております。また、輸入の停止により経済的影響を受ける中小企業者に対する金融措置を講じており、今後とも適切に対応してまいります。
 半年前の卵が販売された件でございますが、本件については、京都府が本年一月二十日、食品衛生法違反として、卵生産業者に対し七日間の営業停止処分とし、厳正に対処したところであります。
 食品の製造日表示の義務付けについてでございますが、食品の安全性を確保するためには、現在、食品衛生法に基づき、欧米と同様に、食品を安全に摂取できる期限の表示を既に義務付けております。製造日の表示については、必要はないと考えております。
 長時間労働やサービス残業の問題ですが、これらの是正等が若者の雇用の拡大にどの程度つながるかは単純に推し量れるとは思いませんが、ゆとりある国民生活を実現するため、政府としては引き続き、いわゆるサービス残業の解消に努めるとともに、所定外労働時間の削減や年次有給休暇の取得促進を通じた労働時間の短縮に取り組んでまいります。
 乳幼児医療無料化についてでございますが、医療費は受診者に一定の負担をいただくのが原則であります。
 なお、少子化対策の重要性にかんがみまして、平成十四年十月より、三歳未満の乳幼児に対する一部負担を三割負担から二割負担に引き下げたところでございます。
 保育所の待機児童についてでございますが、待機児童問題の解消を図るため、政府としては、平成十三年当時の待機児童数を前提として待機児童ゼロ作戦の目標を掲げまして、平成十四年度から平成十六年度まで毎年度五万人の受入れ児童数の増大を図ることとし、これを現在、着実に実施しております。平成十五年四月現在で、なお約二万六千人の待機児童が存在しておりますが、政府としては、待機児童解消のため、保育所の整備など更なる施策の推進を図ることとしているところであります。
 なお、公立保育所につきましては、地方自治体が自らその責任に基づいて設置していることにかんがみ、その運営費を一般財源化することといたしましたが、引き続き、保育所の公設民営を推進するなど、質の高いサービスが効率的に提供されるよう努めてまいります。
 女性労働者及びパートタイム労働者についてでございますが、女性が性別により差別されることのない雇用環境を整備するため、男女雇用機会均等法に基づき適切な指導を行うとともに、事実上の格差を解消するための企業の積極的な取組を支援してまいります。
 また、パートタイム労働者については、改正パートタイム労働指針により、正社員との均衡処遇の確保に努めてまいります。
 衆議院選挙における選挙違反についてでございますが、さきの総選挙に関し現職の衆議院議員が公選法違反容疑で逮捕されるなど、政治の信頼を揺るがす一連の選挙違反事件が起きたことは、誠に遺憾であります。司法当局によりまして、事実の解明を見守ってまいります。政治に対する信頼を回復するためにも、政治家一人一人が襟を正していかなければならないと思います。今後とも、政治改革を更に進めてまいりたいと思います。
 政党交付金を廃止すべきということでございますが、民主主義のコストというものをどのように負担していくか、政党の政治活動の経費の一部を国民全体で負担していこうということで政党助成金が設けられたと思います。政党の政治活動の経費を政党助成金のような公費、献金、あるいは政党自体の事業収入のいずれかに頼るべきかというのは、それぞれの党の事情があると思います。どれがいいか、どれにするべきか、それぞれの党の事情もありますので、各党においてよく議論していただきたいと考えます。
 政党交付金の総額については、国勢調査により確定された人口数に二百五十円を乗じた額と法定されておりまして、平成十六年度予算案においては約三百十七億円が計上されております。
 企業・団体献金についてお尋ねでございますが、企業・団体献金は政党に対する支援活動として過去の最高裁判決でも認められております。
 いずれにしても、政治資金の透明性を確保しながら、どのような政治資金を提供するか、また政党が受けるかということについては幅広い国民の理解が必要でありますし、各党間で今後とも十分な議論を深めていただきたいと思います。
 お互い民主主義をいかに健全に発展させていくか、それぞれが、国民がどのようにそのコストを提供するべきかについては更なる議論を皆さんの間で、各党各会派の間で真剣に議論をしていただきたいと思っております。(拍手)
#10
○議長(倉田寛之君) これにて午後一時まで休憩いたします。
   午前十一時四十二分休憩
     ─────・─────
   午後一時一分開議
#11
○議長(倉田寛之君) 休憩前に引き続き、会議を開きます。
 この際、新たに議席に着かれました議員を御紹介いたします。
 議席第二百五番、比例代表選出議員、樋口俊一君。
   〔樋口俊一君起立、拍手〕
#12
○議長(倉田寛之君) 議長は、本院規則第三十条の規定により、樋口俊一君を法務委員に指名いたします。
     ─────・─────
#13
○議長(倉田寛之君) 国務大臣の演説に対する質疑を続けます。小川勝也君。
   〔小川勝也君登壇、拍手〕
#14
○小川勝也君 私は、民主党・新緑風会を代表し、総理の施政方針演説に対し、質問をいたします。
 総理の施政方針演説を聞くのも三度目となりました。相変わらず改革という言葉をちりばめながら、国民に力強く訴える総理の政治家としてのすばらしいアピール力に心から敬意を表させていただきます。しかし、残念ながら、総理がこの国をどんな国にしたいのか、総理の話される改革の先にどんな暮らしや未来があるのか、私には全く理解することができません。国民も、総理のアピール力と結果のギャップを認識し、厳しい視線で小泉内閣を見詰め、真の改革を実現するために、新たな政権の担い手を真剣に模索し始めています。
 第二次世界大戦が終わり、今年で五十九回目の新年を迎えました。イラクへの自衛隊派遣、回復の兆しが見えない経済、将来を見通せない不安、我が国にとって戦後五十九回目の新年、そして小泉内閣が誕生して三回目の新年は、希望に満ちた新年というよりも閉塞感が漂う新年だったのではないでしょうか。
 まず、財政と景気の問題からお伺いいたします。
 平成十六年度予算編成では、歳出削減の跡は見られるものの、来年度の公債発行額は三十六兆五千九百億円となり、過去最高となっております。総理及び谷垣財務大臣は、二〇一〇年代初頭には基礎的財政収支を黒字化にすることを目指すとして、順調なスタートを切れたと自負しているようであります。
 しかしながら、財務省によると、二〇〇七年度には新規国債発行額が四十二兆八千億円になるとの試算をまとめ、さらにデフレ脱却が遅れた場合、二〇〇七年度には国債発行額が税収を超えると試算しています。更にデフレが続き、長期金利の上昇が重なった場合には、二〇一七年度末には総国債発行残高が九百兆円にも上るとの見方がございます。
 財政規律にはひときわ厳しい見方をしておられ、かつて国債発行額を三十兆円に抑えると公約をしておられました総理に伺います。
 日本の国債が国際的に厳しい評価を受ける中で、これ以上の国債の積み増しを余儀なくされるような財政運営が、綱渡りの財政運営と呼ばれているように、大変危険な姿が予測されています。このような状況が我が国や日本国債、さらには円の信用にどのような影響を与えかねないと認識しているのか、総理の御所見をお伺いいたします。
 先ほどの試算にもあるように、短中期的な財政上の課題としてデフレからの脱却、税収増につながる景気対策は不可欠だと考えます。しかるに、十五年度補正予算には、いずれの分野においても効果的な対策は盛り込まれておりません。このような効果のない補正予算、そして大変厳しい財政予測の中、二〇一〇年代初頭に目指すとされている基礎的財政収支を黒字化とする目標を本当に実現できるのか、その根拠をお伺いいたします。
 デフレについても、ここ数年定着した感があるので、かつてのようにデフレ対策、デフレの克服という文言を目にすることが減ったように思いますが、変わることなく大変重要なテーマだと認識しています。政府にはデフレ克服のための施策があるのか、デフレ克服のその時期がいつかという見通しをお伺いしたいと思います。
 次に、雇用について伺います。
 近年、雇用の情勢と雇用の実態が大きく変化し続けています。かつて日本は農業国でした。農村から都市の工場へ労働力が移動し、さらに雇用の大きな受皿であった工場の多くが生産拠点を海外に移しました。そのほかにも終身雇用制、年功序列型の雇用体系が薄れていく中で、能力給の導入などによる実力主義も浸透してまいりました。企業は先を争うかのように、人件費を削減すべく、コンピューター化、社内業務のアウトソーシング、さらに、不景気を理由にリストラが進み、正規職員を減らし、派遣社員、パート、契約社員、アルバイトなどで補充する動きが広がっています。
 衆議院本会議でも議論になりましたように、雇用が増えるということは、創出される職場の数がリストラなどで減っていく正規雇用者の数を上回るということなのです。更に申し上げると、日々倒産する企業、リストラされる人をしのぐ雇用創出がなければ雇用の絶対数は増えないのであります。
 このように、大きく情勢が変化していく中での厳しい雇用状況を本当に総理は御認識をされているのか、総理にお伺いをいたします。
 現下の厳しい経済不況下において、高いスキルや特殊なスキルがある人に対する求人はあるかもしれませんが、それ以外の人たちにとって新たな仕事を見付けるのは容易ではありません。更に深刻な社会問題となっているのは若年層の雇用状況です。
 かつて日本は終身雇用型の社会であり、多くの企業が中学、高校や大学から来る真っ更な新入社員に長期の比較的安定した雇用を保障し、会社にふさわしい人材に育て上げるため、能力開発や配置転換を企業内で行ってきました。しかし、こうした長期安定的な日本型終身雇用制が崩れ、先行き不透明な時代となった現在、大企業といえども、二、三年を待たずに途中で辞めてしまう新人教育に十分なコストを掛けることができなくなっています。
 今や、いわゆるフリーターと呼ばれる若者が二百万人とも四百万人とも言われています。更に付け加えれば、若年層の完全失業率は高年齢層同様高い状況にありますが、求職活動をしていない若者が失業者にカウントされていないことは言うまでもありません。
 日本の将来を担う若者が自分の職業や人生のイメージを抱くことのできない社会、自らのキャリアを磨くチャンスのない社会が豊かであるはずはありません。今、政府が本気で雇用を作り出し、職業教育や能力開発システムの抜本改革を図らなければ、この国は根底から大きく変質することになるでしょう。教育、保育、福祉、環境、食の安全などの分野で思い切った雇用創出をするべきではないでしょうか。総理はいかがお考えでしょうか。
 不安定なフリーターの人たちにも国民年金に加入する義務があります。この中には当然未払の人たちもいます。政府は、この人たちから、若者に人気がある有名女優をポスターに起用し、ほほ笑み掛け、更に取立てを厳しくするとの方針を固めています。政府の失政で安定した職に就けない若者に何てむごい仕打ちをするのでしょうか。さらに、政府を信用せず、高い収入があるにもかかわらず払わない人たちも増えています。我が国の年金制度は完全に破綻しています。小手先の数字合わせでその場しのぎの愚を犯してよいわけはありません。
   〔議長退席、副議長着席〕
 基礎的な部分を間接税で賄い、だれもが給付を受けられる、安心できる新たな年金制度に抜本的な改革をするべきではないでしょうか。総理の答弁を求めます。
 総理は選挙などで全国各地を回られております。人が大勢集まるところには多く出掛けられているでしょうが、地方都市のシャッターが下りた商店街や、かつてにぎわった盛り場を歩いたことがありますか。
 私は、新年に当たり、ある経済人の方に二〇〇四年、今年の景気動向について話を伺いました。その方は簡潔に私に示してくれました。東京が勝ち地方が負ける、大企業が勝ち中小企業が負ける、零細企業は生きていくだけだ。
 総理は、様々な経済指標を用いて景気が上向いていると指摘していますが、東京以外の地ではほとんど実感が伴わないのではないでしょうか。東京が景気の牽引車となり地方を引っ張っていく、それが望ましい日本経済の姿だと考えます。
 しかし、現状では、東京は地方を牽引せず、地方は自治体財政の悪化と相まって大変苦しい状況の中にあります。かつて国土の均衡ある発展という言葉がもてはやされました。それは、社会資本の整備を誘導するための方便だったとしか思えない有様です。
 総理は、東京と地方との格差の広がりをどのように認識しておられますか。東京だけ元気であればそれでいいと思っているはずはありません。私は、地域経済の発展なくして日本経済の安定なしと申し上げたい。総理の御認識をお伺いいたします。
 総理は、中小企業中心の地域経済をどのように活性化するおつもりかをお伺いいたします。
 さらに、地域経済や中小企業が元気にならない理由があります。総理は、不良債権処理は着実に進んでおるとしておられますが、金融機関は融資を拡大するどころか、むしろ資金の回収を進めています。この五年間、銀行貸出しは五百二十兆円から三百九十兆円にと百三十兆円減り、小泉内閣直前から見ても六十兆円も減っています。端的に言いまして、地方経済に流れている資金量は大幅に収縮しています。これでは間接金融に頼らざるを得ない中小企業が活性化するはずはありません。
 まず大事なことは、不良債権比率の数字を下げることだけしか考えない金融行政を改め、金融機関が前向きな融資を拡大することができる、すなわちお金を貸せる銀行を作る金融行政に転換すべきではないでしょうか。とりわけ、メガバンクよりも地域金融機関の方が問題は深刻です。ペイオフが完全に解禁される来年四月までに地域金融機関の健全化を急ぐべきではないでしょうか。総理の御認識を伺います。
 さらに、地域金融機関の評価については、世界を舞台に活動する都市銀行とはその役割が大きく異なることにかんがみ、自己資本比率だけではなく、地域経済にどれだけ貢献しているかという視点も必要ではないでしょうか。民主党は、そのような考え方の下、地域金融円滑化法、いわゆる金融アセスメント法を作るべきだと主張してまいりました。与党の一部にも理解が得られつつありますが、総理のこのような法律の必要性についての御見解を伺います。
 東京一極集中の問題も提起をしたいと思います。
 ここ数年、地域経済が疲弊している中で、東京では丸の内、品川、汐留、六本木などの再開発ラッシュに沸いていました。首相官邸も完成し、国会の周りにも大きなビルが建ち並び、首都機能移転の話はいつの間にかさたやみとなりました。人、物、金、すべてが集中している東京及び首都圏は一層の人口の増大が進むと見込まれています。首都機能の移転が問題提起されたころよりも、東京への集中は更に進んでいます。この東京一極集中に対する総理の問題意識をお伺いいたします。
 多くの生命を奪った阪神・淡路大震災から九年が経過をいたしました。さらに、昨年は北海道において十勝沖地震が起きました。大きな地震が起きるたびに、もしこの地震が東京で起きた場合の被害の想定や議論がなされています。東京及び首都圏で発生が危惧されている地震への対策についても総理にお尋ねをいたします。
 バブル経済が絶頂期を迎えるまでは、日本的経営が注目を浴びるなど、世界第二位の経済大国として私たちの国民は誇りと自信に満ちていました。しかし、バブル崩壊から経済がなかなか立ち直れない中で、市場経済万能主義や過度な競争社会というグローバルスタンダードが我が国を覆い、大変なストレス社会が到来しました。
 将来不安の増大、生活・雇用の不安、貧富の差の拡大、治安の悪化、少年犯罪や凶悪な犯罪も激増いたしました。そんな社会情勢の中で誕生した小泉総理と小泉政権に国民は一度期待をいたしました。ところが、その期待はほとんどかなえられず、痛みだけが直接国民に及びました。総理には、国民に対して、いつまで我慢すればどんな社会になるのか、明確なメッセージを発する義務があるのではないでしょうか。ここでしっかりとした説明責任を果たしていただきたい。
 産業の空洞化が懸念されています。製造業は我が国の基幹産業でした。国際競争力の観点から多くの工場が国内から海外へ拠点を移す中で、国内でも高い技術力がある企業は今でも厳しい経済事情の中で健闘しています。特殊な技術を持つ企業や世界シェアを維持している企業でも円高の影響で苦しんだりしています。政府には製造業を下支えしていただきたい。金融やバーチャル経済が幅を利かせる中で、日本は製造業の伝統の灯をともし続けるべきだと考えます。政府の製造業分野で頑張る企業への支援について、総理のお考えをお聞かせください。
 IT化に引き続きユビキタス化が進む中で、我が国の行政対応が心配です。二十世紀から続いた経済産業省と総務省との間の省益の対立から、情報通信網のインフラ整備やユビキタス化が後れたり、海外市場における競争力低下につながらないようにしなければなりません。情報通信省構想も出ていますが、改めて総理の見解をお尋ねいたします。
 我が国は、高度経済成長の中で二度の石油危機を経験しましたが、先人の努力により乗り越えてまいりました。石油依存を低くすることが我が国の経済基盤を安定させる上で重要な課題であると認識しています。技術開発は産業基盤の強化にもつながります。科学技術を生かし、代替エネルギーの開発、別な資源への転換など、クリーンエネルギーの開発に力強く取り組むべきではないかと考えますが、総理の御見解をお尋ねいたします。
 さらには、サハリンで開発が進んでいる天然ガスを我が国にパイプラインで輸入するという構想について、いかが考えておられますでしょうか。
 ちなみに、先進国中でパイプラインを持たない国は日本だけであり、将来的に考えても社会資本としてとらえることも可能だと考えます。あらゆる観点からガスパイプライン構想、ガスパイプライン整備についての政府の考え方を総理にお尋ねいたします。
 経済基盤を確かなものにし、国際競争力を高めるために政府があらゆる対応をするのは当然のことですが、政治は、グローバルスタンダードにしっかり対応する分野と市場原理に依拠し過ぎてはいけない分野を使い分ける必要があると考えます。
 経済効率だけで論じてはいけない分野の最たるものが農業であります。農業は産業ではなく、国の礎です。独立国であるならば、自給率を一〇〇%に近づけようとするのが当然の姿だと考えます。ましてや、食の安全が大きな関心事となり、国民は国内で安心、安全な食糧を供給されることを望んでいます。自給率が極めて低い我が国が、食糧自給率を高めるためにどのような政策を取ろうとしているのかをお尋ねいたします。総理の答弁を求めます。
 WTO交渉の中でも、農産物貿易ルールに関しての大変厳しいやり取りが行われていることを承知しております。輸出産業に大きな影響を与えずに自給率向上をなし得ようとすれば、耕作地に環境保全の考え方から直接支払を導入するしか道がないと考えます。直接支払制度導入に対しましての政府の考え方及びWTO交渉に臨む総理の考え方を改めてお尋ねいたします。
 民主党が指摘していたとおり、米国においてBSE感染牛が発生いたしました。この感染牛は肉骨粉由来のえさが与えられていたとの報告も受けています。
 ヨーロッパからBSEが我が国に及んだときに、肉骨粉をめぐって、草をえさとする反すう動物に本来口にすることのない同種の牛由来のえさを与えることが神様のげきりんに触れたのだろうという学者の話を聞いたことがあります。人間は、人間の暮らしのために、効率を上げるために何をしてもいいというわけではないということを改めて痛感をさせられたことを覚えています。
 ちなみに米国では、OIE基準の検査体制が確立されておらず、日本で義務付けられている全頭検査も実施されていません。現在のところ考えられるアメリカからの牛肉輸入再開基準について、明確な総理の御答弁をいただきます。
 京都で鶏卵の虚偽表示という信じられない事件が起きました。事件のことに言及するつもりはありませんが、私は以前から日本の鶏卵生産現場に大きな疑問を抱いていました。
 卵は物価の優等生と言われてきましたが、余りにも安過ぎます。現在の養鶏の大部分は大きな鶏舎で数十万羽が小さなゲージに閉じ込められて、小さな体で大きな卵を数多く産むように品種改良され、夜もこうこうと電気がともる中で飼われています。大変な病気になると全頭処分になるので薬が投与されているとも伺っています。卵の例はやや情緒的な感想ですが、北米から来るかんきつ類や中国大陸からの野菜やシイタケがいつまでたっても腐らないなどという報告もあります。
 地産地消、身土不二、スローフードなどという言葉も広く認識されておられますが、総理御自身の食あるいは食文化に対する考え方をここでお伺いしたいと思います。
 農業と同じように、経済効率だけで測れないのが森林の整備です。
 かつては森林は、建築土木の資材を供給することや、燃料として高い価値を有していました。木材が高値で取引される時代には日本の森林はきれいに整備されていました。しかしながら、外材との価格競争に敗れて以来、森林の整備はおざなりにされてきました。
 森林が持つ多面的な価値は、木材供給という価値以外にも、空気・水の浄化、治山治水、農業や漁業への貢献、さらには地球温暖化対策における森林吸収源の目標達成や雇用の創出など、時代のニーズは最高に高まっています。森林整備に大きな予算を振り向けると同時に、国産材の、あるいは間伐材の利用に政府としてインセンティブを与えるなど、思い切った施策が求められています。総理の答弁を求めます。
 我が国では、経済を優先し環境を犠牲にしてきました。大きな意味での環境とは、我々が経済的利益を享受するために犠牲にしてよいものであってはなりません。どの世代に生きる人も良い形で環境を後代に残していく義務を負っています。
 かつて参議院議員であった萱野茂氏は、私にアイヌの英知を教えてくれました。太陽と森と大地があれば生きていくことができる。私たちは、太陽の光を地球温暖化ガスで変質させ、森の木々を営利をむさぼるために切り倒し、手を加えることなく森を荒廃させ、大地を化学物質で汚染してきました。経済活動と環境保全を両立させるためにも、環境に負荷を与えることにペナルティーを科し、環境を維持回復することにインセンティブを与えるための環境に依拠する税制の創設が望まれていると考えます。総理のお考えを伺います。
 だれもが安心して暮らせる社会を作るのが政府の大事な使命です。少子化現象が続いていることに大きな懸念を感じざるを得ません。育児休業の万全な対応をお願いすると同時に、保育所の充実、児童福祉手当の拡充には一定程度の評価をいたします。
 しかしながら、少子化の原因を様々な観点から探ってみますと、経済的な理由のほかにも、社会的な要因もあると思います。子供が生まれない社会は健全とは言えません。様々な方法を駆使して原因を分析し、中長期的な施策対応が必要ではないでしょうか。総理からの御答弁をいただきます。
 子供をめぐる状況も悪い方向に変化しています。児童虐待を含め、子供が被害者や加害者になる事件が増大しています。心を病み、不登校になる子供たちも増えています。子供の安全対策、精神的な安定を図るためのカウンセリングの充実など、子供政策への対応をお伺いいたします。
 さらに、DV法が本院参議院の調査会の議論からスタートして成立して三年がたとうとしています。今国会でも、各党が協議機関を設置し、有意義な改正を行われようとしています。ストーカー規制法への対応を含め、DV法に対しても一層の取組と決意についてお伺いをいたします。
 二〇〇二年、二年前になりますが、札幌でDPI、障害者インターナショナル世界大会が開かれ、多くの市民ボランティアの協力を得て有意義な大会となりました。既に四十か国以上が制定している障害者差別禁止法を望む声が様々な市民団体から沸き上がってきています。議員立法の動きも出てきているようでありますけれども、総理の考え方をお尋ねいたします。
 治安テロ対策に関し、入国管理業務が煩雑になってきていると認識をしています。政府が今国会で特定外来種の規制法を準備していることや、食の安全に対する期待が高まっていることにも関係して、検疫や防疫対策の充実にも万全に臨んでいただきたいと考えます。
 ちなみに、我が国の入国管理業務は大変厳しいチェックの下に行われているとの認識を私も持っておりますが、それでもなお多くの不法滞在外国人が日本国内にいると聞いています。現在把握しておられる不法滞在者の数と、なぜ増大しているのか、総理に説明をいただきたいと思います。
 かつて江戸時代は、交通も整備されていなかったこともあり、地方に独自の文化が花開いていました。しかし今は、どこの駅前に降り立っても同じ看板が並ぶ。全国に独自性のある文化が生まれるための思い切った地方分権をすべきだと考えます。
 中央主導の画一的な全国の町づくりが必要な時代は終わりました。特区という小出しの分権ではなく、一日も早く地方が権限を持ち、地域からその特色や様々な工夫を生かせる地方主権型の国に変わることが望まれます。思い切った地方分権、地域主権の考え方に対する総理のお考えをお伺いいたします。
 さらに、その試金石となるかもしれない道州制特区として北海道を取り上げておられましたが、政府はどのような内容を考えておられるのか、お伺いをいたします。
 恐らく、北海道がどのような提案をしてくるのかという受け身でおられることとは思いますが、例えば北海道が日本とのあるいは一時間の時差を要望した場合、あるいはカジノを認めてほしいと要望した場合は、政府はどう回答なされるおつもりか。私自身の個人的な考えではありますけれども、石原都知事が東京にカジノを建設することに大反対です。もしカジノを認めるとするならば、国への財政的依存度が高く、地域経済の自立が最も望まれている北海道と沖縄県に限定すべきだと考えています。
 冷戦が終わり、アメリカ合衆国が世界の中で唯一の超大国となりました。日本が様々な関係において友好協力関係をアメリカとの間で保っていかなければならないことは言うまでもありません。
 しかし、十九世紀から二十世紀初頭まで欧米の国々だけで世界の覇権を維持してきたその中にあって、二十世紀の日本が敗戦国であるにもかかわらず、世界経済の一翼を担う地位に上り詰めたことには欧米以外の国々の共感と信頼を得ていると確信をしています。さらには、ヨーロッパ諸国も、超大国アメリカと協調しながらも、ヨーロッパ共同体を発展させ、ついにEUとして欧州統合を成し遂げました。日本は、アメリカとの関係を維持しつつも、アジアの一員として、アジアとの共同体作りに心血を注ぐべきであると考えますが、総理のお考えを伺います。
 もしアジアとの共同体作りが重要だとするならば、総理が一月一日に靖国神社に初もうでをなさったことは国益に反することだと思いますけれども、総理の御認識をお伺いをいたします。
 以上、様々な観点から質問をさせていただきましたが、私は、元気の出ないこの私たちの国日本を元気にする方策はさほど難しくないと考えています。
 一つは雇用を創出すること、二つ目は中小企業にお金を貸せるようにすること、三つ目は安心して稼いだ金を消費に回せる安心と信頼の社会保障制度を確立すること、四つ目は市場原理にゆだねる分野と経済効率にそぐわない分野を明確に区別すること、この四つが重要であろうと考えています。いずれの観点からも総理の施政方針演説からは日本が元気になる要素は感じ取れませんでした。日本をどの方向性に進ませたいのかが伝わってきません。
 もし立場が違っても、小泉総理大臣も私たちも国民を幸せにしたいという思いが共通だとするならば、総理大臣にとっての幸せ観がどのようなものなのかお伺いをして、私の質問を終わらせていただきます。(拍手)
   〔内閣総理大臣小泉純一郎君登壇、拍手〕
#15
○内閣総理大臣(小泉純一郎君) 小川議員にお答えいたします。
 我が国の財政運営についてでございますが、財政状況極めて厳しい状況にあるということは御承知のとおりだと思います。一方では、現在の景気対策においてもっと国債を発行しなきゃ駄目だという意見がある一方、四〇%以上国債に依存している、これは問題だという相反する意見がございます。それだけ現在の財政状況は厳しいんだと思います。また狭い道だと思います。
 そういう中にあって、私は、国債に対する信認をいかに確保していくか、同時に、経済対策、デフレ克服を目指すためにはある程度国債に依存せざるを得ない、こういう狭い道でありますが、両面をよく考えながら現在の厳しい状況を克服していかなきゃならないと思っております。景気対策をしてもっと国債を増やせばいいという意見もありますが、同時に、長期金利とか為替市場に与える影響というものもよく考えなきゃいけない問題だと思っております。これからも、景気と経済と財政と、国債どの程度発行すべきか、税収はどうあるべきか、そういう面から問題意識を共有する面も多いと思いますので、慎重に考えていきたいと思います。
 基礎的財政収支の問題でございますが、これは、ようやく私は改善の兆しが見えてきたと思います。企業収益も改善してまいりましたし、設備投資も増加しておりますし、十四年ぶりに国債の増加発行なく編成したのが十五年度補正予算でございます。国主導の財政出動に頼らなくても民需が主導する形で回復してきたのではないかなと。名目成長率も過去半年間においてプラスとなっております。物価の下げ止まりの傾向も見えてまいりました。依然として緩やかなデフレ状況が続いておりますが、平成十六年度予算においても一般歳出は実質的に前年度の水準以下に抑制いたしました。こうした努力などの結果、国、地方を通じた基礎的収支は改善が見込まれまして、黒字化に向けた一つの手掛かりを作ることができたと考えております。
 二〇〇六年度までの間、GDP比で見た政府の大きさが二〇〇二年度の水準を上回らない程度とする努力は必要だと思っております。引き続き財政構造改革を推進するとともに、民需主導の持続的成長を実現するための構造改革を加速し、二〇一〇年代初頭における基礎的財政収支の黒字化を目指していく考えであります。
 デフレ克服の問題につきましては、デフレは一因ではなくて複合的な要因によるものであります。その克服には即効薬とか万能薬、特効薬はあるとは思っておりません。政府としては、金融、規制、税制、歳出の改革を今後も加速しまして、金融仲介機能の回復による資金供給の円滑化、創造的な企業活動の促進による新規事業の創出、国民の将来不安の解消を通じた消費、投資の活性化などを図っていく考えであります。
 同時に、デフレ克服のためには、金融面での対応も重要であります。日銀においては、引き続き実効性ある金融政策運営を行っていただくよう期待しております。
 こうした政府、日銀一体となった取組を通じ、デフレ圧力は徐々に低下し、二〇〇四年度までの集中調整期間の後にはデフレは克服できると見込んでおります。
 雇用状況でございますが、厳しい状況にあるのは事実でございます。しかし、最近、求人も増加しておりますし、持ち直しの動きが若干見られます。政府としては、経済社会を取り巻く状況が急速に変化する中で、雇用の安定を図るべく、民間需要主導の持続的な経済成長の実現を図るとともに、サービス分野を中心とした新たな雇用の創出やミスマッチの解消、早期再就職の支援を促進するなど、雇用対策に全力を挙げます。
 こうした中、失業者が増加傾向にある若年者対策として昨年六月に策定した若者自立・挑戦プラン、これに基づきまして、新たな人材育成システムとして、企業実習と教育訓練の組合せにより一人前の職業人を育成する日本版デュアルシステムを導入するなど、総合的に取り組みます。こうした新たな対策を産業界とも連携しつつ推進し、サービス分野など新たな若者雇用の見込まれる分野を始めとした雇用の創出に努めてまいります。
 年金でございますが、未納者の増加により年金制度は破綻しているという御指摘でありますが、国民年金を支える被保険者七千万人に対しまして、未納者、未加入者は現在のところ約五・五%であります。破綻しているといった状況にあるとは考えておりません。
 基礎的部分を間接税で賄う制度に抜本的に改革すべきだとの御提案ですが、自助自律という社会保険のメリットをどう考えるか、また年金給付と生活保護との関係をどう整理していくかという問題、また巨額のこの税財源、全部間接税でやった場合、どれほど消費税引き上げなきゃならないかという問題があります。こういう大きな問題がありますので、今後ともこの点についてはよく議論する必要があると思います。
 政府・与党の改革案は、将来の負担が過大とならないよう極力抑制して、その上限を国民に明らかにするとともに、少なくとも現役世代の平均的収入の五〇%の給付水準を維持しつつ、年金を支える力と給付の均衡を取ることのできる仕組みに転換するものであります。また、課題であった基礎年金の国庫負担割合についても引上げの道筋を示しております。持続可能な制度の構築に向けた根幹にかかわる大きな改正であると私は考えます。
 基礎的部分を間接税で賄うことが安心につながる抜本的な改革と果たして言えるんだろうか。長期的な制度の基本論については、法律案の国会審議に当たって大いに議論をしていただきたいと思っております。
 私としても、私の在任中、消費税を上げる環境にないと思っていますから、消費税は上げませんが、こういう議論の中で消費税の議論が出るということは歓迎いたしたいと思います。
 東京と地方の格差についてですが、日本経済、民需が主導する形で回復の傾向を見せておりますが、その状況には、地域の産業構成や輸出競争力の違いなどを背景として地域差が見られることは事実だと思います。
 一方、地域の所得格差を見ると、バブル期に拡大した後、九〇年代はやや縮小し、また近年、都道府県別失業率の格差も広がっていないなど、東京と地方の格差が広がっているという認識は一概には当たらないのではないかと考えます。
 しかし、東京にどんどんどんどんすべてが一極集中的に、過大に、何でもかんでも東京にという傾向は余り好ましいとは私も思っておりません。
 地域金融機関の健全化についてですが、平成十六年度までの集中改善期間中に中小地域金融機関の機能強化を進め、中小企業の再生と地域経済の活性化を図ることで、不良債権問題も同時に解決していくこととしております。平成十七年四月のペイオフ実施を控えまして、引き続き地域金融機関の健全性の確保に万全を期してまいります。
 民主党の主張する金融アセスメント法についてでございますが、地域における金融の円滑化に向けて不断の取組を行っていくことは極めて重要であると考えます。しかしながら、いわゆる金融アセスメント法は、基本的に自主的な経営判断にゆだねるべき多様な金融機関の業務を政府が画一的な基準に基づいて評価し、公表するものであり、問題があるのではないかと思っております。金融機関の評価は利用者、投資家などの市場によってなされるべきものであり、政府としては、各金融機関の地域貢献に関する自主的な情報開示が行われるよう取り組んでいるところであります。
 東京一極集中についてのお尋ねでありますが、先ほども答弁いたしましたように、国土全体が発展していく観点から、安心、安全を確保する危機管理の観点からも、一極集中を更に加速させるということは好ましいものとは考えておりません。
 この状況を打開するため、地方が自助と自立の精神の下に、多様な資源を生かして、知恵と工夫でそれぞれの魅力、個性を発揮できるよう、国としても地域の再生を積極的に支援してまいります。
 首都圏の地震対策についてですが、首都圏で心配されている直下型の地震に備え、東京湾臨海部に広域防災拠点を整備するとともに、政府機関、地方自治体、ボランティアなどが連携して総合防災訓練を実施など、地震対策の充実に努めております。
 さらに、現在、首都圏が持つ政治、経済の中枢機能を地震発生時にも確保する方策などについて中央防災会議で検討しているところであり、今後とも首都圏の地震防災対策を強化してまいります。
 構造改革について、いつまで我慢すればいいのかということではございますが、私は就任時に、二、三年の低成長は我慢していただきたいと申し上げてきたところでありますが、ようやく三年が経過しようとしている現在、上昇の兆しといいますか、業績についてかなり明るい兆しが見えております。こういう明るい兆しを本格的なものにするために、今まで進めてきた改革を着実に進めていって、民間主導の活力を発揮できるような、潜在力を生かすことができるような日本経済に持っていきたい、そして一度や二度の失敗でくじけないで、また挑戦してやろうという、そういう意欲を持てるような社会にしていきたいと思います。
 言わば、改革の種をまいてまいりましたけれども、その種に芽がようやく出てきたなと。この芽を皆さんの御協力によって木に育てていくのが小泉内閣の責任だと思っております。
 今後とも、国民一人一人、また地域、企業、そういう方々の努力が報われるような社会を築いていきたいと思っております。
 製造業に対する支援でございますが、我が国製造業は、GDPの約二割、輸出の約九割を占めるなど、日本経済の基盤となる産業であり、日本経済の再生に向けて一層の競争力強化が重要と考えます。
 このため、有用な技術や人材を企業の競争力のある分野に集中させるために産業活力再生特別措置法を改正するなど環境整備を行うとともに、IT化の促進や研究開発に対する支援を実施しております。
 今後とも、我が国製造業の中長期的な国際競争力の維持強化に向けて、物作り人材の育成や知的財産戦略の推進などの施策を積極的に推進してまいります。
 情報通信行政に関してでございますが、IT政策は多くの府省にまたがる重要な政策であり、各府省の縦割りを廃し、連携を一層強化して取り組んでいかなければならない課題であると思います。
 先日、どこかの新聞で情報通信省を創設するという記事が出ておりましたけれども、私が言っていることはそういう新しい組織を作るということではなく、各省にまたがりますから、重複とか無駄な投資を省くためにも内閣が一体となって連携していかなきゃならないと。そして、内閣に設置したIT戦略本部の下に世界最先端のIT国家の実現を目指すために、各府省が縄張意識にとらわれないで、政策を総合的に一体的に政府が一丸となってこのIT政策を進めていかなきゃならないという趣旨を述べたところでございます。
 クリーンエネルギーについてでございますが、風力発電、燃料電池等の新エネルギーや天然ガス等のクリーンな代替エネルギーについては、地球温暖化問題への対応やエネルギー供給源の多様化を図る観点から、引き続きその導入、促進に大いに努力をしてまいります。
 サハリンの天然ガスパイプラインでございますが、我が国近隣に位置しまして大規模な埋蔵量が確認されているサハリンの天然ガスをパイプラインを通じて経済性のある形で輸入できれば、資源の安全供給、石油依存度や中東依存度の低減等に役立つため、現在、実現に向けた環境整備等を積極的に行っているところであります。
 国内のパイプライン網の整備については、昨年、ガス事業法を改正するなどしたところであり、その効率的な整備を図ってまいります。
 食糧自給率でございますが、政府としては、平成二十二年度までに食糧自給率四五%との目標の下に、関係者と一体となって食生活の大切さを教える食育を進めるとともに、支援の重点化、集中化などにより農業の構造改革を進め、安全と安心を確保しつつ、消費者の需要に即した国内生産の増大を図っていく考えであります。
 直接支払制度とWTO農業交渉でございますが、農家への支援の在り方については、諸外国の直接支払制度も視野に入れつつ、やる気と能力のある経営を支援する政策体系の構築による競争力強化に向け、農政改革を進める中で展開方向を見定めてまいります。
 また、WTO農業交渉については、世界各国における多様な農業の共存を基本理念として、食糧安全保障、国土保全等の非貿易的関心事項に配慮し、柔軟かつ改革のための継続性のある農産物貿易ルールが確立されるよう交渉に尽力していく考えであります。
 BSEについては、米国産牛肉の輸入再開の検討に当たっては、消費者の安全・安心の確保の観点から、国産牛肉について講じているBSE全頭検査及び特定危険部位の除去と同等の対策が必要と考えております。
 食文化に関するお尋ねであります。
 私も食生活については極めて大きな関心を持っておりまして、施政方針演説でも今まで余り使われていなかった食育という言葉を使っております。知育、徳育、体育という言葉は盛んに今まで使われておりましたけれども、新たに食育、食生活は人間の健康にとって基本であると同時に、食生活は文化の面においても極めて重要なものであります。そういう考えから、食に関する知識の提供、地域における地産地消、スローフードの取組への支援等、食生活の大切さを教える食育を推進していきたいと。
 特に、小川議員が触れられました卵とか養鶏場の問題、私も養鶏場を視察したことがありまして、非常に小川議員が持っている懸念を共有している面が多いと思います。
 なぜならば、あの養鶏場へ行って分かりますけれども、あの養鶏場の鶏は生まれてから死ぬまで土を歩いたことがない、太陽の光を浴びたことがない。これで果たして本当に健康な親鳥と言えるのかどうか、非常に心配、懸念の面を持ちました。
 そういう点から、安くする努力は必要でありますが、安ければ安いほどいいというものと、やっぱり人間全体の健康を考えた食品の在り方、これは十分今後検討する価値がある問題だと思っております。
 森林の整備について、国土の七割を占める森林は、国土保全や地球温暖化防止など、多面的な機能を有しており、その整備を図っていくことは重要な課題であります。このため、緑の雇用により、森林整備の担い手の育成と地域への定住促進を図るなど、多様で健全な森林の保護育成を推進するとともに、公共施設の木造化など、木材利用の拡大にも努めてまいります。
 環境に関する税制についてですが、経済的措置については、環境を保全する上での有効性が期待されている面もあります。このため、環境に関する税制面での対応については、環境施策全体の中での具体的位置付けやその効果、また国民経済に与える影響、諸外国における取組の現状を踏まえまして、国民、事業者などの理解と協力を得るよう努めながら総合的に検討していくべき課題だと思います。
 少子化対策につきましては、これの要因は一様ではない。結婚や夫婦についての考え方の変化、出産や育児に対する親族や地域の協力支援の希薄化、さらには、仕事と子育ての両立負担の大きさなどが考えられると思います。こうした要因も踏まえまして、昨年成立した少子化社会対策基本法に基づく施策大綱を本年五月を目途に策定し、政府一体となって少子化対策を推進してまいります。
 子供の安全対策でございますが、児童虐待や不登校などの子供をめぐる深刻な状況を踏まえ、児童虐待防止対策などの充実を図る児童福祉法の改正法案を今国会に提出いたします。また、子供を犯罪から守るため、家庭、警察、学校等が連携した取組を進めるとともに、スクールカウンセラーなどの教育相談体制の充実を図り、子供の安全、心身の健やかな成長を確保してまいります。
 いわゆるストーカー、DV法、これについてのお尋ねでございますが、政府としては、これまでのDV法の施行状況を踏まえ、ストーカー規制法の一層の活用を含め、配偶者からの暴力の防止と被害者の保護について積極的に対応してまいります。
 障害者差別禁止法につきましては、障害者の権利を尊重し、社会参加の機会を確保することは重要なことでありまして、こうした観点から障害者基本計画等に基づく施策の推進に努めます。
 障害者差別禁止法の制定については、現在、国連において行われている関連する国際条約案の作成に向けた取組なども踏まえつつ、慎重に検討すべきものと考えます。
 現在把握している不法滞在者の数と増加している理由についてでございますが、関係当局においては、現在、国内に約二十五万人の不法滞在外国人がいるものと見ておりまして、私としても、最近における国内治安の悪化に対する国民の不安要因の一つになっていると認識しております。
 これら不法滞在者は近隣諸国との賃金格差やブローカーの暗躍等を理由として増加しておりまして、平成五年のピークには約三十万人に達していましたが、その後、取締りの強化などにより、過去十年間、少しずつ減少しております。
 政府としては、今後とも関係当局による水際対策や摘発を強力に推進し、五年間で半減するよう努力をしていきたいと思います。
 地方分権ですが、地方にできることは地方にとの原則に基づきまして、三位一体の改革を進め、地方が自らの創意工夫と責任で政策を決め、自由に使える財源を増やし、自立できるようにしてまいりたいと思います。
 あわせて、昨年、地域経済の活性化と地域雇用の創出を強力に進めるため、地域再生本部を設置いたしました。元気のある地方、特色ある地域作りを進めるため、地域の自主的な取組を政府を挙げて支援してまいります。
 道州制特区ですが、北海道の取り組む道州制特区につきましては、昨年十二月の経済財政諮問会議において、北海道知事から北海道経済の活性化と自立へのステップや三位一体の改革や規制改革を加速する試みを目指したアイデアが紹介されたところであります。
 政府としても、北海道が地方の自立、再生の先行事例となるよう支援することとし、内閣府に担当の窓口を設けることといたしました。現在、北海道においてより具体的な提案に向けて検討を進めているところであり、政府としても、北海道と緊密な連携を図りつつ、具体的成果が上がるよう適切に対応してまいりたいと考えます。
 対米関係とアジア諸国との関係でございますが、日米関係は日本外交のかなめであります。国際社会の諸課題に日米両国が協力していくことは我が国にとって極めて重要であります。同時に、アジア地域の平和と繁栄を確保することは我が国にとって不可欠でありますし、このため、様々な地域協力を重層的に推進し、共に歩み、共に進む東アジアコミュニティーを構築してまいりたいと考えます。このような考え方は、総理就任以来、様々な機会に表明し、昨年十二月の日本・ASEAN特別首脳会議の際にも確認したところであります。
 私の靖国神社参拝についてでございますが、引き続き中国、韓国に対しても理解を求めていきたいと思います。中国と韓国は日本の重要な隣国であり、今後とも幅広い分野において両国との未来志向の関係の発展、さらに東アジアのいろいろな課題について協力関係の進展に努めてまいります。
 幸せ観についてのお尋ねがございましたが、幸せというのは人それぞれ違うと思います。豊かになればなるほど幸せになるかというとそうでもない。逆に、恵まれない境地にあっても希望と意欲を持って充実した生活をしている方々もいる。なかなか何が幸せかというのは、人間、非常に難しい問題だと思います。やはり、一人一人が将来に向かって希望を持って、この社会の一員として何か役に立ちたいなと、そういう意欲のわくような社会を実現するということが前提でありますが、同時に、それぞれの個人が、自分の今日あるは自分だけの力ではないと、むしろ多くの方々の支援に支えられている、自然との恵みに感謝しながら、自分は一人で生きていくというよりも、多くの方の協力、また自然の恵みを受けて生かされているんだという気持ちを持つことも大事ではないかと思っております。
 そして、人間には、欲望には限りがありません。足るを知るということも大事じゃないかと。昔の方はいいことを言っています。楽は苦の種、苦は楽の種。苦しいときも、この苦しいときをしのげば、いずれ少しは楽になることもあるだろうと思って努力していく、そういう気持ちを持つことも大事じゃないかと。多くの人がやはり幸せ観を持って、それぞれの国づくり、企業づくり、人づくり、自分の力を、能力を発揮できるような社会にするために、私も微力ではございますが、全力を尽くしてまいりたいと思います。(拍手)
    ─────────────
#16
○副議長(本岡昭次君) 加藤紀文君。
   〔加藤紀文君登壇、拍手〕
#17
○加藤紀文君 私は、自由民主党を代表して、施政方針演説に対し、総理及び総務大臣に質問いたしたいと思います。
 まず、社会保障や年金改革等について基本姿勢を伺いたいと思います。
 言うまでもなく、我が国の社会保障制度は、戦後から高度成長期にかけて、安定した経済成長やピラミッド型の人口構成を前提として構築されてきました。近年、その前提が崩れ、少子高齢化が予想以上に進む中で、社会保障において給付と負担の不均衡が拡大し、若年世代を中心に社会保障制度の継続性や将来の負担増に対する懸念が強まっております。また、平成十四年の我が国の出生率は一・三二と過去最低を更新し、経済活力や国力の低下につながるもので、深刻な事態として受け止める必要があります。
 このような状況を踏まえ、小泉総理は、社会の安定的発展のためには、いかなる理念、展望の下で社会保障改革と少子化対策を推進されるのか、基本的な考えをお伺いいたします。
 昨年末にかけ、政府・与党の間では年金制度改革に関する検討が精力的に進められてきました。結果として、給付水準は現役世代の所得水準の五割以上を確保し、負担は当面の上限を一八・三五%とする、そして基礎年金の国庫負担割合を平成二十一年度までに二分の一に引き上げるとの方針が固まりました。
 今回の改革に関しては、負担水準等に関して経済界から企業の競争力を低下させかねないと強く引き下げる声が出されたところでありますが、悪化する年金財政から見てもやむなき水準に落ち着いたものと思います。
 そこで、総理には今回の年金制度改正に関し、いかに評価し、どのように今後の法案化作業を進め、国会審議に臨んでいかれる所存なのか、お伺いいたします。
 年金問題は複雑で分かりにくいと言われます。また、過去に年金改正に携われた実務者の方々も、年金に解なしと言われています。これは制度設計上ある程度仕方のないことですが、分かりやすい説明の努力が不可欠と考えます。年金制度改革の内容はもちろんのこと、家計に与える影響、経済効果やこの新しい制度がいつまで持続できるのか、国民の将来不安を軽減するために具体的に総理に御説明いただきたいと思います。
 今後、年金を始め社会保障改革を進める裏打ちとして、何よりも国民理解の上での安定した財源確保が必要であります。その際、消費税率引上げといった国民生活に直結する問題については、国民の十分な理解が必要であります。歳出構造の全般的な見直しだけで財源が十分捻出できるものではありません。年金改革など社会保障制度改革の中での財源、特に税制はどうあるべきかについて総理にお伺いします。
 次に、国と地方の税財政の仕組みをも大きく変えることになり、地方分権を進める三位一体の改革についてお伺いします。
 今まで地方は、いわゆる三割自治と言われるように、地方税で歳出の三割しか賄えないため、受益と負担の関係が希薄とならざるを得ず、同時に国依存体質が長年続いてきました。この改革の目的は、国の関与を廃し、地方にできることは地方で、自らの創意工夫の下で行政サービスを行うことにあります。
 我が党の政権公約は、二〇〇六年までに四兆円の国庫補助金の廃止、縮減、交付税の見直し、税源の移譲を行うこととしております。
 来年度予算では国庫補助金は義務教育費の退職手当等で一兆円の一般財源化が行われますが、今後もっと地方の考え方や裁量が反映できるような補助金の一般財源化に取り組む必要があります。税源移譲については、今後、消費税の配分、基幹税の移譲について本格的な議論を早急に開始すべきものと考えます。さらに、地方交付税交付金も計算方法や留保財源率等について抜本的な見直しには至っておりません。また、団体間にある財政力格差をどのように調整していくのか、難しい問題についても方向性が示されておりません。
 以上の点について総理の基本的な考えをお聞かせ願うとともに、十六年度の予算、税制面における改革においてどの程度三位一体の改革が進捗すると見られているのか、お伺いいたします。
 三位一体改革の期間はあと三年間しかありません。それだけ総理の責任は重いものがあります。リーダーシップがなければ中途半端に終わるおそれさえあります。この改革に取り組まれる総理の御決意を披瀝していただきたいと存じます。
 地方分権の先には地域再生があります。地域再生は、地方や民間が主体的かつ積極的にかかわり、様々な知恵を出し、それをどのように生かすかが成功のかぎと言えます。高速道路でのインターチェンジや新幹線の新駅の設置だけで地域再生の大きなインパクトになり、中央では考えられない地域に根差した活性化策がたくさん生まれることが期待できるのであります。
 正に、地域再生は、国の権限や補助金等での関与を必要最小限度にとどめ、地方の実情に応じたプランニングの道を開き、民間の力も積極的に活用するものであります。
 このような国と地方と民間の三位一体の協力をどのように構築していくかが大切になります。
 一方、三位一体の改革は、政策の選択、決定について具体的な説明責任や情報開示が地方団体に求められます。さらに、財政のやりくりや財源確保にはいろいろな工夫、努力が要請され、政策の結果責任も大いに問われることになります。
 この点について、国としてどのように協力、対応していかれるのか、また、地域再生にどのように取り組んでいかれるのか、総務大臣にお伺いします。
 次に、道路公団の改革について伺います。
 道路公団の民営化については、いろいろな議論と経過をたどりましたが、今通常国会に関連する法律案が提出されることになりました。
 まず、民営化の目的として、民間にできることは民間にゆだねるとの基本原則に基づき、約四十兆円の債務の確実な返済、真に必要な道路の早期にかつできるだけ少ない国民負担での建設、弾力的な料金設定や多様なサービスの提供等が掲げられております。
 高速道路建設に関しましては、新直轄方式と有料道路事業のまま継続する道路に分け、その事業方法等を見直しております。
 加えて、有料道路事業費の縮減として、建設費は当初計画に対し半減して約十・五兆円に、管理費を平成十七年度までに三割のコスト縮減を図ることとしております。
 さらに、新規建設における会社の自主性を尊重し、国からの一方的命令の枠組みを廃止して、会社の自主的な経営判断に基づく申請方式を導入することになりました。
 従来の高速道路事業の大転換であります。一日も早い関係法案の成立を望むものであります。
 この枠組みを決めるに当たって、国土交通省は都道府県及び十三の政令指定都市の六十の自治体に意見照会を実施しております。三十七の自治体で高速道路は国民共有の財産であり私有財産化は認めない、二十七の自治体が料金収入を最大限活用して必要な道路整備を行うべき等々の意見が表明されております。
 道路は公有物であり、国が建設するものである、この道路についての総理のお考えをまず御披瀝いただき、今回決定いたしました民営化に向けた具体策についてどのような評価をされておられますか、お尋ねいたします。
 次に、郵政民営化についてお伺いします。
 総理は、郵政公社の民営化について、構造改革の重要な柱として特に強調されております。このことにつきましては、既に総選挙の政権公約におきまして、郵政事業を二〇〇七年の四月から民営化するとの政府の基本方針を踏まえ、日本郵政公社の経営改革の状況を見つつ、国民的論議を行い、二〇〇四年秋ごろまでに結論を得るとなっており、先日開かれた我が党の党大会での運動方針におきましても再確認いたしております。
 しかし、御案内のとおり、郵政三事業につきましては、昨年四月から日本郵政公社を発足させ、民間的な経営手法を取り入れた改革が進められているところであります。公社がスタートしてまだ一年もたっていません。その成果がまだ全く明らかでないのに、民営化の経営形態等について、政府においてかなり具体的な検討が進んでいるかのような報道が見られるのは大変理解に苦しむところであります。
 政権公約にも明らかなように、郵政民営化についての国民的な論議は正にこれからであり、国民各層、各地域の意見を積み上げて、いわゆる万機公論に付することが是非とも必要であります。
 郵便局は、高齢化や過疎化が進む地域や条件に恵まれないところでの地域に密着した一番身近な頼りになるサービスを提供しており、広域市町村合併が急速に進んでいく中で、行政のワンストップサービスの末端拠点としても大いに期待されております。
 このような民間の営業ではカバーされにくい恵まれない地域の意見をいかに反映していくか、これから幅広く公聴会等を各地で開催して真剣に論議されなければなりません。
 これらの肝心なところを十分に踏まえ、総理の今後の検討方針をお聞かせいただきたいと思います。
 以上、小泉改革の中心である、社会保障改革、三位一体の改革、道路四公団・郵政事業の民営化についてお伺いいたしました。改革も道半ばでありながら、改革の痛みがあらゆる方面で出てきております。有能な外科医のように、小泉改革の必要性を総理自身の言葉で丁寧に国民に説明し、納得していただくことが肝要であります。小泉改革の意義とこれまでの成果を最後にお伺いして、私の質問を終わります。(拍手)
   〔内閣総理大臣小泉純一郎君登壇、拍手〕
#18
○内閣総理大臣(小泉純一郎君) 加藤議員にお答えいたします。
 社会保障改革と少子化対策でございますが、社会保障制度というのは、これは政府として、年金、医療、介護、これを今後とも持続可能な制度にしていかなきゃならない、こういう視点から、将来を踏まえながら、国民の理解と協力を得ながら進めていかなきゃならない問題だと思っております。
 全体的に取り上げまして、特に少子高齢化社会、今までの時代と違ってまいりましたので、若者と高齢者がお互い対立せずに支え合っていくんだという、そういう気持ちを持ちながら、この社会保障全体を考えながらそれぞれの改革に取り組んでいきたいと思います。
 あわせて、少子化対策でございますが、子は社会の宝と言います。子供を学校、家庭、地域一体となって健全に育成するために総合的な施策が必要だと思います。同時に、男女共同参画時代であります。男も女も家事、育児、仕事を分かち合う時代でありますので、そういう観点からも少子化対策について総合的に、着実に取り組んで改革を進めていきたいと思います。
 年金改革についてでございますが、全体の改革、基本的な考え方につきましては、今申し上げましたように、持続可能な制度にしていくと。同時に、最近は生き方も働き方も多様であります。人様々であります。終身雇用の時代とは違ってまいりました。会社も次々に替わる方も増えてまいります。パートの方も増えてまいります。そういう現在の生き方、働き方に対応した制度の見直しが必要ではないかと。
 具体的な内容についてどうかというお話でございますが、今国会におきましては、年金の給付水準について少なくとも現役世代の平均的収入の五〇%の水準を維持すると。そして、高齢者の消費支出と現役の可処分所得を比較すると大体五割程度となっておりますので、これが安心できる水準ではないかなと。
 また、保険料については一八・三五%程度まで引き上げてまいりますが、急激な負担増となるのを避け、毎年小刻みに引き上げることとしております。平均的な勤労者では、前年に比べて毎月支払う保険料の増加が約月六百五十円程度と見込んでおります。決して小さくはありませんが、負担可能なものと考えております。
 今般の制度改革は、このような形で将来の過重な負担や急激な負担増を避けながら安心できる給付水準を確保していくことで、社会経済の活力の維持の基盤となるものにしていかなきゃならないと考えます。
 社会保障の安定した財源確保のための税制についてでございますが、先般の与党税制改正大綱において、持続可能な社会保障制度の確立、地方分権の推進という課題に対応するため、個人所得課税や消費税を中心に今後数年間の税制改革の道筋が示されました。
 政府としては、将来不安を払拭し、公正で活力ある経済社会を実現するため、与党大綱を踏まえ、社会保障制度の見直しと三位一体の改革と併せ、中長期的視点に立って税制の抜本的改革に取り組んでまいります。
 その際、徹底的な行財政改革を引き続き断行しなければなりません。経済社会の動向を勘案しながら国民的な議論を進めていくことが必要と思います。
 三位一体の改革でございますが、国による地方に対する関与を減らし、地方の自立性を高めるものであり、一言で言えば、地方が元気になる、地方の裁量権を拡大していこうという改革であります。そのため、平成十八年度までに補助金について約四兆円の廃止、縮減等を行うとともに、交付税を見直して地方へ税源を移譲することとしております。なお、地域間の財政力格差を調整し、一定水準の行政を確保する仕組みは今後とも必要であると認識しております。
 平成十六年度においては、補助金一兆円の廃止、縮減を行うとともに、地方の歳出の徹底的な抑制を図り、地方交付税を一兆二千億円減額いたします。また、平成十八年度までに所得税から個人住民税への本格的な税源移譲を実施することとし、当面の措置として所得譲与税を創設し、四千二百億円の税源を移譲いたします。
 こうした取組についても、改革の大きな一歩であります。知事会や市長会からも評価をいただいておりまして、今後とも地方の声も聞きながら、地方にできることは地方にとの原則の下に来年度以降も改革を加速してまいります。
 道路に対する基本的認識についてでございますが、道路は無料自由走行を原則とする極めて公共性の高い社会資本であります。特に、利用者の負担により早期整備を行うための特別の措置として有料道路制度が設けられております。その整備に当たっては、厳格な評価を行った上で、国、地方公共団体及び利用者の適切な負担の下で、国民にとって真に必要な道路を整備すべきであると考えます。
 道路公団の民営化の問題につきましては、加藤議員が既にかなり具体的に御指摘いただきました。この御指摘のとおりでありまして、これは戦後の有料道路制度の大改革です。よくこの道路公団改革、民営化の名に値しないのではないかという批判がありますが、とんでもないことであって、これほどの改革は恐らく私の総理大臣就任する前は想像できなかったことだと思いますよ。初めて抜本的に改革するものであります。必要な道路は造らなきゃならないんです。しかし、民間会社となった有料道路では採算性も考えなきゃならない。できない道路があるでしょう。しかし、民間会社ができない道路でも地域の住民がどうしても必要な道路というのが出てくるんです。その場合は、将来負担を考えないでどんどんどんどんツケを先送りしちゃいかぬというので、どの程度の負担だったらばできるかということを考えて必要な道路は造る。と同時に、民間会社は自主性を持っていろんなサービスを展開して考えていただかなきゃならない。
 今回の民営化案は、私は民営化委員会の意見を基本的に尊重したものであり、大改革であると自負しております。
 郵政民営化につきましても、これも長年大きな問題でありましたけれども、自由民主党、公明党、与党の皆さんは民営化には賛成していただきました。郵便局をなくすものではありません。いかに今までの郵便局というものを活性化し、より良いサービスを展開するためのどのような民営化案がいいかということを今年秋ごろまでに取りまとめることとしております。その際には、いろんな各方面の意見を聞いてより良い民営化案を作っていきたいと思います。
 郵政公社が発足いたしましたが、まだ時間があります。平成十九年に郵政民営化を実現期すということになっておりますので、まだ時間的余裕があります。そういう中で、より良い民営化案を今年中に策定いたしまして、来年には法案を国会に提出して、平成十九年に民営化実現していきたいと思いますので、今年、各方面から、また自民党におきましても与党におきましても、いろいろな意見を、議論をしていただきまして、お互い協力しながらより良い民営化案をまとめていきたいと思います。
 小泉内閣の意義と成果についてでございますが、私も、この二、三年、低成長を我慢してくださいといって苦しい中にも多くの私を支持してくれていただく自民党、公明党の皆さん方、我慢しつつ協力していただきまして、ようやく明るい兆しも出てまいりました。これからこの改革の成果を深め、いよいよ改革を本格的な軌道に乗せて、改革の芽を大きな木に育てていって、民間需要主導の本格的な経済活性化に結び付けていかなきゃならないと思っております。
 小泉内閣は何もしていないじゃないかということでありますが、これは見当違いの批判でありまして、要するに、企業の業績が上がってきた、地方がそれぞれ特区構想を出してきた、再生の案を出してきた、人にもやる気が出てきた、ここが大事なんですよ。小泉内閣は何もやっていないんじゃない。余計なことは何もしなかったんです。不必要なことは何もしなかったんです。
 一番大事なことは、個人においても企業においても地域においても、自らやる気を出して、能力を発揮しよう、潜在力を生かしていこうという、そういうやる気を出してもらえるような政治環境を作ることが政治で一番大事なんです。統制経済社会がいいか、市場経済、自由主義経済がいいか、歴史が明らかであります。国がやらなくていいことまでどんどん余計なお節介を出すと、経済は発展しません。
 人のやる気、企業のやる気、地域の意欲を引き出していく、こういう環境を作るということが政治で極めて大事なことであり、だからこそ、自由民主党、公明党の安定した基盤に立って、このそれぞれの潜在力、可能性を大きな、可能性を引き出していくことが小泉内閣の責務であると思いますので、今後とも自由民主党、公明党の皆さんの格段の御協力をお願い申し上げます。(拍手)
   〔国務大臣麻生太郎君登壇、拍手〕
#19
○国務大臣(麻生太郎君) 加藤議員からの御質問は二点。
 一点目は、三位一体の改革におきますいわゆる地方団体、地方公共団体の工夫とかまた努力等々、それらに対して国の協力対応はいかがかというのが第一点だったと記憶をいたしますが、基本的には今の流れは、地方分権、地域主権という流れに沿って、少なくとも歳入、歳出の両面にわたって、御指摘にありましたように、三割自治だからやる気がないという点等々を考えて、地方の自由度を高めるため、自由な裁量権を高めるためには、受益と負担の関係は明確にして、ある程度財源というものをきちんと地方に移譲して、そういった形で、地方にとって本当に必要な行政サービスは自分のことは自分でやるというような方向でやるべきというのが今の流れでして、廃藩置県以来長いこと続きました中央集権から、物すごく大きくこれは地域主権に事の流れは移っておるというのが多分今の流れなんだと存じますので、そういったのにいかに対応できるかというのは、やっぱりこれは昨年末の税制改革又は予算編成のときにも地方の声をどれぐらい聞けるかという観点は非常に大事な観点だったと思いますが、地方六団体、知事会、市町村長会等々からの御意見を拝聴させていただき、総理また財務大臣、私ら全員出席の下に地方の声を聞かせていただいて、延々、何時間でしたでしょうか、知事会は多分三回ぐらいやらせていただいたと思いますが、そういったのを聞かせていただいた上でああいう形をやらせていただいておりますので、少なくとも今回のことに関しては地域から大きな、全部は大満足なわけではなかったと存じますが、痛みはある程度伴ったことも確かですが、同時に税につきましてはある程度基幹税等々の税源移譲の道筋がはっきりしたという点におきましてはそれなりの評価はいただいたと思っておりますし、私どもも、今総理の答弁にもありましたように、今後ともこういったことを基本に置いてやってまいります。
 また、地域や、これは基本的に権限を移譲された分はその分だけ地方間同士で競争が起きることになろうと思いますので、うまくやっておられる県等々の、またうまくやっておられた市町村の例などは努めて、広報といたしましては、他のやっておられないところに、こういったやり方、方法について広報等々には努めたいと思っております。
 もう一点、地域再生に対する取組に対しての御質問がございました。
 基本的に地域が元気が出るというようにしないといかぬということなんだと思いますが、全国三千二百市町村長、いろいろございますけれども、いわゆる夢のあるものにしていかねばならぬと思って、今既に地域再生計画というのを既に政府として進めさせていただいております。
 その中にあって、民間の意見等々を積極的に取り入れるべきではないかという御指摘だったと思いますが、私どもも基本的にそう思って、PFI、プライベート・ファンド・イニシアチブ、PFIという方法等々も導入を図っておりまして、既にそういったことで動き始めております。
 各地域から既に提案として上がっておりますものが六百七十、案が出されております。そのうちで、民間主導で出されておりますものも百十件ございますので、そういったものを精査いたしまして、二月までにはきちんとした方法でやらせていただき、地方、政府一丸となって地域の再生を図ってまいる所存であります。(拍手)
    ─────────────
#20
○副議長(本岡昭次君) 福島瑞穂君。
   〔福島瑞穂君登壇、拍手〕
#21
○福島瑞穂君 私は、社会民主党・護憲連合を代表し、総理の施政演説に対する代表質問を行います。
 戦後初めて自衛隊が地上戦を行うかもしれない、そのような事態が発生しています。これは明らかに憲法が禁止する武力攻撃につながるものです。殺すな、殺されるな、戦争の被害者にも加害者にもなりたくない、戦争はしないということは戦後の日本の多くの国民の強い願いであったはずです。戦争をしない国から正に戦争をする国へ、誤った政治の判断に対して強く抗議をします。
 まず最初に、イラク戦争の大義の問題について質問します。
 イラク戦争の理由とされた大量破壊兵器はいまだに見付からず、イラク戦争に大義がなかったことは既に明らかです。総理は大量破壊兵器がいずれ発見されると繰り返してきましたが、それは間違いでした。世論をミスリードした責任をどう考えられるのでしょうか。
 総理が米国の正当性のない武力攻撃を直ちに支持し、米英軍の占領行政に協力し、加担していくことは、平和国家日本がイスラム世界に対する中立的な立場をかなぐり捨て、加害者の立場に立つことです。そのことは、日本の社会にも日本の人々にとっても決していいことではありません。
 イラクの治安はむしろ刻一刻と悪化をしています。
 政府は、国又は国に準ずる組織による組織的、計画的な国際紛争を戦闘行為と定義し、テロ攻撃は戦闘行為ではない、攻撃を受けても撤退しないとしていますが、これは正に詭弁であり、このような詭弁が成り立つのであれば、イラクでは戦闘は起こり得ない、何があっても自衛隊は撤退しないということになります。
 イラクで想定される戦闘とはどのようなものなのか、どのような条件なら撤退することがあり得るのか、明確に答えてください。
 二〇〇三年度補正予算では、イラク復興支援経済協力費として千百八十八億円が計上されています。しかし、この内容は極めて不明確です。援助すべき政府が存在しないイラクの現状の中で、その執行の公正さをどのように担保し、どのようにチェックをしていくのでしょうか。
 また、自衛隊への取材・報道自粛要請や幕僚長会見の廃止の提起は、報道の自由、国民の知る権利に対する挑戦であり、かつての大本営発表を思い起こさせる大問題です。総理はどのようにお考えですか。
 イラク戦争では多くの劣化ウラン弾が使用されました。日本政府はなかなか認めようとしませんが、既に米軍も記者会見で認め、自衛隊が駐留する予定のサマワでもオランダ軍によって劣化ウラン弾が発見されています。
 核医学の第一人者で元米軍大佐のドラコビッチ博士は、サマワ周辺も劣化ウラン弾による高濃度の放射能汚染が予測され、イラクに派兵される自衛隊にもウラン汚染が及ぶ危険性があると語っています。この対策は一体どうなっているのでしょうか。
 医療活動や劣化ウラン弾の除去など、被爆国日本こそが貢献できる課題が山積をしています。自衛隊の派兵よりも、日本はこのような平和的活動で国際的な貢献をすべきです。総理の見解を伺います。
 大量破壊兵器の確証のないままイラクを攻撃したブッシュ政権の一国主義的政策は世界から批判を集めています。対米関係を重視することに異論はありませんが、一つの政権との関係に依存し、軍事的関係を深めるべきではありません。
 憲法の平和主義の理念を前提に、軍事力への依存を断ち切り、人間の安全保障の理念に即した平和政策を再構築すべきであるということを強く訴えます。
 さて、総理は、この千日間、平和と憲法を壊すだけでなく、国民の暮らしをもまた壊してきました。小泉構造改革の下で所得や資産の格差は拡大をしています。そして、総理は、医療や介護、年金、雇用保険などで給付削減、保険料引上げなどの国民負担増を繰り返してきています。その結果、社会的支援が必要な人ほど生活が困窮し、老後に不安を覚える中高年が激増し、ほとんどの若者が公的年金制度に不信を抱くようになりました。
 だれでもお金の心配なく、保育や教育、医療、介護を受けられ、住むところも確保できる、それがだれでも安心して暮らしていける社会ではないでしょうか。
 ところで、防衛関係費は四兆八千七百六十四億円と二〇〇三年度予算より一%のマイナスとなっていますが、弾道ミサイル防衛にまず千六十八億円が計上されるなど極めて問題です。そして、四十二兆円の税収の中で約五兆円の防衛費は余りにも多額です。昨年、イラク派兵の準備のためだけに二百四十一億円を使いました。復興支援の名目で合計約五千五百億円、五十億ドルを支出することになっています。
 防衛費や戦争のために多額の税金を使い、福祉を切り捨てていく今の政治の在り方は国民に不安を与え、生活を破壊しています。社会保障の充実こそが国民の将来不安を解消し、経済情勢に対する解決策となると思いますが、いかがでしょうか。
 年金制度改革についても、総理の施政方針演説ではほんの少ししか述べられていません。今回の政府案は、国民に対して安心を与えるものでは全くなく、年金制度に対して不信感を増幅させるものです。なぜ抜本改革を先送りにするのですか。
 次に、地方財政の三位一体改革についてお聞きをいたします。
 今回の改革では、裁量の余地が少ない義務的補助金の分ばかりが地方に移譲され、改革とは言えないものです。国と地方の役割分担に基づき、自治体の自主財源を充実させ、独自の施策を実施しやすくすることが本来の三位一体改革であるはずです。国の歳出削減を目指すための改革、負担を自治体や住民に押し付ける改革ではあってはなりません。どのようにお考えでしょうか。
 特に、総理が指示した一兆円の補助金改革の中で公立保育所運営費が一般財源化されました。一体、この一兆円の中身はどのような基準によって選ばれたのでしょうか。
 この間、障害者施策の一部などが一般財源化されてきましたが、その分の税源手当てが不十分で、地方の財政状況が苦しい中でそれがそのまま福祉の切捨てになっています。自治体も住民も悲鳴を上げています。これは非常に大きな問題ではないでしょうか。
 ところで、先日、環境に配慮した先進的な林業経営を意欲的に行っている三重県の民間林業の現場を視察してきました。しかし、経営は容易ではないということでした。
 森林・林業は、環境、地方における雇用創出、地方経済の活性化などに大きく寄与するものです。森林・林業対策を継続的に重要政策と位置付け、予算や税制上の優遇措置の抜本的な強化を図っていくべきと考えますが、総理の見解を伺います。
 次に、女性政策に関してお聞きします。
 選択的夫婦別姓の導入や婚外子差別撤廃を盛り込んだ民法改正の実現を待ち望んでいる人が多くいます。一九九六年に法制審議会が答申を出してちょうど丸八年にもなります。国会にも、自民党を除く各党が幾度となく法案を提出しています。
 総理、民法改正を今か今かと待っている人々のためにも、是非実現に向けた決意をお聞かせください。
 配偶者暴力防止法の改正案を、今、参議院の共生社会に関する調査会で超党派で作っています。被害者の保護のために地域で活動しているシェルターへの財政支援は不可欠です。シェルターへの財政支援を含めたDV被害者の保護について、総理のお考えをお聞かせください。
 三月一日から派遣法の対象業務が製造業に拡大され、派遣労働者の更なる増加が見込まれます。一方で、育児・介護休業法の改正で、有期契約労働者についても対象としながら、契約期間を一年を超えるとするなどの制約が課されると言われています。このままでは、派遣労働の実態からも、実際には多くの派遣労働者は対象外となるおそれがあります。この点についてどうお考えですか。
 国連から勧告を受けたにもかかわらず、均等待遇も進んでいません。安心して子供を産み、女性も男性も育児をしながら働き続けられる権利を総理は一体どのように実現していくつもりなのでしょうか。
 最後に、司法制度改革と行刑改革についてお聞きします。
 裁判員制度の導入の前提としては、証拠開示の事前的全面開示と捜査の可視化が不可欠ですが、総理の見解をお聞きします。
 また、行刑改革会議について、昨年十二月、答申が出ました。その中には画期的な提言も含まれています。この提言にこたえて行刑改革に取り組んでいただきたいと考えますが、総理の決意をお聞きいたします。
 以上述べてまいりました。
 総理は、先ほど……
#22
○副議長(本岡昭次君) 福島君、時間が超過いたしております。簡単に願います。
#23
○福島瑞穂君(続) 分かりました。はい。
 以上述べてきたように、国民生活と憲法を踏みにじる小泉内閣の退陣を強く求め、私の質問を終わります。(拍手)
   〔内閣総理大臣小泉純一郎君登壇、拍手〕
#24
○内閣総理大臣(小泉純一郎君) 福島議員にお答えいたします。
 イラクの問題でございますが、大量破壊兵器と武力行使についてのお尋ねでございます。
 イラクはかつて実際に大量破壊兵器を使用しており、その後も大量破壊兵器の廃棄は立証されておりません。米国によるイラクに対する武力行使は、安保理決議に基づきイラクの武装解除等の実施を確保し、この地域の平和と安定を回復するための措置として行われたものであり、国連憲章にのっとったものであります。我が国がこれを支持したことは正しかったと考えております。現在、イラク監視グループが引き続きイラクの大量破壊兵器を捜索しており、我が国としてもこれを注視していく考えであります。
 自衛隊撤退の条件でございますが、戦闘行為に当たるか否かについては、計画性、組織性、継続性等の観点から、攻撃の主体、対象や態様などを総合的に勘案して個別具体的に認定するものであります。自衛隊は、これまでの調査や各種の情報を踏まえ、非戦闘地域の要件を満たす区域において活動を行うものであります。万が一活動する場所で戦闘行為が行われるようになるなど、この要件を満たさない状況が生じた場合には任務を終了することになると考えます。
 イラク復興支援の適正な実施に関するお尋ねですが、我が国による支援に際しては、例えば十分な知見及び実績を有する専門機関を案件管理に活用することや、資金協力の供与先に報告書や会計報告を提出させることなどにより、我が国の供与資金が適正に活用されるようにしてまいります。
 イラクに関する取材の件についてですが、自衛隊の活動に対しては国民も大きな関心を有していると思います。これを正確に国民に理解していただくことが重要であります。そのためには、自衛隊員と取材者双方の安全を確保しつつ、一方、現場において混乱を来すことがないよう適切な取材、広報活動が行われる必要があると考えます。いずれにせよ、御指摘の取材、報道の自粛や定例会見の見直しについては、報道の自由や国民の知る権利を不当に制限するものではありません。防衛庁当局において、趣旨や目的について報道機関や国民の十分な理解を得ながら進めるべきものと考えております。
 劣化ウラン弾については、その有害性に関し、政府としては、これまでのところ劣化ウラン弾の影響により健康への被害が増加した事実を確認する情報は有しておりません。いずれにせよ、イラクへの自衛隊の部隊等の派遣に際しては、現地の具体的な状況に応じて、隊員の健康及び安全の確保には特に意を用いてまいるつもりでございます。
 イラク国民の要望と自衛隊派遣についてでございますが、自衛隊がイラクで行う復興支援活動は、イラク国民の要望にこたえ、その生活の改善と向上に直接貢献する人道復興支援活動であります。自衛隊は、そういう面につきまして十分今までも訓練なり研修をしてまいりましたし、また危険を回避する能力も持っております。また、既に世界各地の平和構築努力に積極的に参加した経験を有しており、地元イラク人からも評価を得られることができると私は考えております。
 社会保障についてでございますが、十八年度予算において、防衛費のことを云々されましたけれども、社会保障関係予算が一般会計予算の中で一番多いんです。増やしている部分も、社会保障関係予算と科学技術振興予算と中小企業対策予算だけです。あとは全部減額しているんです、防衛予算も含めて。そういう中で、社会保障関係費は対前年度比プラス四・二%の伸びを確保しております。
 年金改革につきましても、将来の負担が過大とならないようどうやって給付と負担の均衡を図っていくか、そういう持続可能な制度にしていかなくてはならないと思います。この具体的な案につきましては、その上限を国民に明らかにしていく、負担の上限ですね。そして、少なくとも給付の面におきましても、現役世代の平均的収入の五〇%の水準を維持していく。やはり給付と負担の均衡をどうやって図っていくかという仕組みが大事だと思っております。課題であります基礎年金の国庫負担割合についても引上げの道筋を示しております。持続可能な制度の構築に向けた大きな改正であると私は考えております。今後、この法案を本国会に提出することとしておりまして、その早期成立を是非ともお願いしたいと思います。
 三位一体の改革でございますが、一兆円の補助金改革と福祉の補助金についてのお尋ねがございました。平成十六年度に補助金については一兆円の廃止、縮減を行うこととしておりますが、これは国、地方を通じた行政のスリム化を推進するだけでなく、国の関与を縮小して地方の権限、責任を拡大することを目的とするものであります。地方にできることは地方にという原則の下に、数次にわたる閣僚折衝や政府、与党間での協議など、関係者の十分な議論、検討を経た上でその内容を決定したものであります。これは改革の第一歩として地方公共団体からも評価されております。
 公立保育所運営費については一般財源化したところですが、政府としては、待機児童ゼロ作戦を着実に推進しております。今後とも、公設民営の推進など、供給主体の多様化を図ることを通じ、質の高いサービスの効率的な提供を進めてまいります。
 なお、自治体が実施する障害者に対する相談支援事業については、地域の実情に即した弾力的な実施を促す観点から、十五年度予算において一般財源化したところですが、事業を実施する箇所数は一般財源化前と比較して増加しております。
 森林・林業でございますが、森林の整備を進めていくことは、地球温暖化を防止する上で、また山村地域の雇用促進等の観点からも重要であります。このため、緑の雇用により、森林整備の担い手の育成と地域への定住促進を図るなど、多様で健全な森林の育成に努めてまいります。
 選択的夫婦別氏制度の導入でございますが、これらの問題は、婚姻制度、また家族の在り方と関連する重要な問題であります。様々な議論が今までもございました。社会の変化を踏まえ、国民の意識動向に注目しつつ、各党の御議論をいただきまして、今後も対処していく必要があると考えます。
 DV被害者の保護についてでございますが、配偶者からの暴力による被害者の保護は、男女共同参画社会の重要な課題であります。今後とも、政府としては、民間シェルターに対する必要な財政措置を講じるほか、必要な情報提供や相談業務の充実など、被害者の保護のための施策を一層充実させてまいります。
 育児・介護休業法でございますが、この育児・介護休業制度は、育児、介護を行う労働者の雇用の継続を図ることを目的とした制度でありまして、今回の改正に当たっては、派遣労働者を含め、有期契約労働者のうち、相当期間雇用の継続が見込まれる者を育児休業、介護休業の対象に追加することとしております。
 このほか、待機児童ゼロ作戦の推進などにより、仕事と子育ての両立支援を総合的に推進してまいります。
 裁判員制度についてでございますが、裁判員に分かりやすく迅速な審理をするには、事前の十分な争点整理と、そのための証拠開示の拡充が必要であると考えます。いずれにせよ、捜査を始めとする刑事手続の在り方全般に影響する問題でありますので、専門家の間で十分な検討がなされるべきものと考えます。
 行刑改革についてでございますが、政府としては、御指摘の提言の趣旨を最大限尊重し、受刑者の人間性を尊重し、真の改善更生を図るとともに、刑務官の過重な負担を軽減し、国民に理解され受け入れられる行刑施設を作るべく、法改正も視野に抜本的な行刑改革に取り組んでまいりたいと考えております。(拍手)
#25
○副議長(本岡昭次君) これにて質疑は終了いたしました。
 本日はこれにて散会いたします。
   午後二時五十分散会
ソース: 国立国会図書館
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