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1950/12/01 第9回国会 衆議院 衆議院会議録情報 第009回国会 法務委員会 第3号
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1950/12/01 第9回国会 衆議院

衆議院会議録情報 第009回国会 法務委員会 第3号

#1
第009回国会 法務委員会 第3号
昭和二十五年十二月一日(金曜日)
    午後二時二十五分開議
 出席委員
   委員長 安部 俊吾君
   理事 押谷 富三君 理事 田嶋 好文君
      角田 幸吉君    鍛冶 良作君
      佐瀬 昌三君    高橋 英吉君
      花村 四郎君    牧野 寛索君
      松木  弘君    眞鍋  勝君
      山口 好一君    吉田 省三君
      大西 正男君    石井 繁丸君
      田万 廣文君    上村  進君
      梨木作次郎君    世耕 弘一君
 出席国務大臣
        法 務 総 裁 大橋 武夫君
 出席政府委員
        法務政務次官  高木 松吉君
        法務府事務官
        (法制意見第四
        局長)     野木 新一君
 委員外の出席者
        最高裁判所事務
        総局民事局長  關根 小郷君
        最高裁判所事務
        総局刑事局長  岸  盛一君
        專  門  員 村  教三君
        專  門  員 小木 貞一君
    ―――――――――――――
十二月一日
 裁判所職員の定員に関する法律等の一部を改正
 する法律案(内閣提出第二二号)
 訴訟費用等臨時措置法の一部を改正する法律の
 一部を改正する法律案(内閣提出第二四号)(
 予)
の審査を本委員会に付託された。
    ―――――――――――――
本日の会議に付した事件
 裁判所法の一部を改正する法律案(内閣提出第
 二二号)
 刑事訴訟法施行法の一部を改正する法律委(内
 閣提出第一四号)
 民事訴訟法等の一部を改正する法律案(内閣提
 出第一五号)
 裁判所職員の定員に関する法律等の一部を改正
 する法律案(内閣提出第二二号)
 訴訟費用等臨時措置法の一部を改正する法律の
 一部を改正する法律案(内閣提出第二四号)(
 予)
    ―――――――――――――
#2
○安部委員長 これより会議を開きます。
 本日の議題について最高裁判所より発言を求めておられますので、国会法第七十二條第二項の規定により随時これを許すことにいたしたいと思いますが、御異議ありませんか。
    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
#3
○安部委員長 御異議なしと認め、さようとりはからうことにいたします。
#4
○安部委員長 この際日程追加についてお諮りいたします。本日裁判所職員の定員に関する法律等の一部を改正する法律案が本委員会に付託され、また訴訟費用等臨時措置法の一部を改正する法律の一部を改正する法律案が予備審査のため本委員会に付託されましたので、両案を本日の日程に追加し、提案理由の説明を聽取したいと思うのでありますが、御異議ありませんか。
    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
#5
○安部委員長 御異議なしと認めまして、以上二案を日程に追加し、これを議題とし、順次政府より提案理由の説明を聽取いたします。大橋法務総裁。
    ―――――――――――――
#6
○大橋国務大臣 ただいま議題となりました裁判所職員の定員に関する法律等の一部を改正する法律案につきまして、その提案の趣旨を申し上げます。
 本年十月十八日付の連合国最高司令官の覚書第二一二七号によりまして、去る十一月一日から連合国人に対するわが裁判権が拡張されたことに伴いまして、高等裁判所以下の裁判所に通訳等の事務に従事する裁判所事務官及び裁判所技官を増員する必要が生じたのであります。また検察庁及び刑務所等におきましても、新しく連合国人にかかる犯罪事件の処理に当るため検察官及び通訳等の事務に当る検察事務官または法務府事務官を窓速に増員する必要が生じましたので、ここにこの法律案を提出いたした次第であります。
 次に同じく議題と相なりました訴訟費用等臨時措置法の一部を改正する法律の一部を改正する法律案につきまして、提案の理由を申し上げます。
 現在一般公務員につきましては、昭和二十五年法律第百八十四号の恩給法等の一部を改正する法律によりまして、昭和二十五年一月分以降は、その給與事由を生じた時期を問わず六千三百七円ベースに基く恩給が支給されております。執行吏につきましては、訴訟費用等臨時措置法第五條及び第六條によりまして、その手数料に対する国庫補助基準額を俸給額とみなして恩給年額を算定いたすことになつておりますが、この基準額は昭和二十四年一月一日以降六千三百七円べースの七万一千円に引上げられ、その当然の結果といたしまして、同日以降給與事由の生じた執行吏は、六千三百七円べースによる恩給が支給されておりますが、昭和二十三年十二月三十一日以前に給與事由の生じた執行吏の恩給は従来のままにすえ置かれておるのであります。従つてこれらの者につきましても、昭和二十五年一月分以降七万一千円を俸年額とみなして、算出した恩給を支給するように改定する必要がありますので本案を提出いたした次第であります。この改正によりまして、執行吏につきましても一般公務員と同様、給與事由の生じた時期に関係なく、昭和二十五年一月以降は一律に六千三百七円べースによる恩給が支給されることになる次第であります。
 以上簡單でありますが、提案の理由を御説明申し上げました。何とぞよろしく御審議のほどをお願いいたします。
#7
○安部委員長 これにて両案の説明は終りました。
    ―――――――――――――
#8
○安部委員長 次に裁判所法の一部を改正する法律案、刑事訴訟法施行法の一部を改正する法律案及び民事訴訟法等の一部を改正する法律案は、いずれもいわゆる訴訟促進に関する法律案でありますので、以上の三案を一括して議題に供します。
 これより質疑に入ります。質疑の通告がございますからこれを順次許します。田嶋好文君。
#9
○田嶋(好)委員 私は三法案につきまして概括的な政府当局の説明をお願いしたいのでございます。
 まず第一は、訴訟促進という現在の国家的立場はよく了承できるのでありますが、これに対しましてはいろいろな面からいろいろな批評も出ておるようでございます。またいろいろな意見も出ておるようでございますので、訴訟促進に関するこの三法案をどういう根本的事情のもとに提出されましたのか、それをなるたけ詳細にわたつてここで御説明が願いたいと思うのであります。
#10
○野木政府委員 ただいまの御質疑に対してお答え申し上げます。お手元に差上げてある若干の資料を参照しながら御説明した方が便宜だと思いますので、そういたしたいと思います。
 まず訴訟が全体として著しく遅れがちであるということは、しばしば申されておることでありますが、ことに現在一番問題となつておりますのは、いわゆる刑事の旧法事件――新刑事訴訟法が施行せられてからそろそろ二年になろうとするわけであります。この旧法事件は新刑事訴訟法以前に起訴された事件でありまして、もう二年たてば大体片づいてもいいではないかと思われますのに、現在各裁判所に係属しておるのを見ますと、相当多数の数に上るわけであります。お手元に差上げてある資料の二十九ページによりますと、現在旧法事件で係属しておるのを裁判所別に申し上げますと、昭和二十五年九月末の調べによりますと、最高裁判所には旧法事件が一千二十四件係属しております。高等裁判所には旧法事件の控訴事件が一万一千六十一件、同じく上告事件が三百六十七件、地方裁判所には旧法事件の一審事件が三千六百七十五件、控訴事件が千五十六件、簡易裁判所には旧法事件が六百七十五件、合計いたしますと約一万八千件ぐらいになるわけであります。
 次に新法事件との比較を申し上げますと、本年九月末現在におきましては、最高裁判所では新法事件が千八百九件でありまして、やや新法事件の方が八百件ほど旧法事件より多くなつておるわけであります。高等裁判所では新法事件の控訴事件が一万七百二十件でありまして、これは旧法の方がやや多いという勘定になつております。地方裁判所におきましては一審事件は、新法は三万五千七百二件でありまして、旧法は三千六百七十五件でありますから、地方裁判所は新法事件が圧倒的に多くなつて来ております。この表でごらんになりますと、旧法事件については高等裁判所に旧法事件が非常にたまつておるということになるわけでありますが、裁判所といたしましては、旧法、新法両方使いわけをしなければならないので、事務的にもなかなかたいへんであります。また裁判官の数その他から申しましても、旧法事件を処理するにはまだ相当の年月を要するわけであります。これをこのままほつておきますと、これが順次控訴あるいは上告をするわけでありますが、その将来の見込みはどうであるかと申しますと、その表の裏の方に出ております。これを旧刑事訴訟法のままにしておきますと、将来上告して行くのが四千七百一件ほどになるわけでありますが、この改正法によつて若干そこを調整いたしますと、約二千二百七十四件くらいになるわけであります。その算出の根拠はその表の四以下に詳しく説明しておきましたから、ここでは省略いたします。大体旧法のままにしておきますと、今後最高裁判所に四千件の旧法事件が行つてしまう。最高裁判所の事務処理能力を考えてみますと、昭和二十四年の統計によりますと、十五人の判事で一箇月に三百件くらい刑事事件を処理できることになります。従つて現在の最高裁判所の新旧合せた未済二千八百二十三件を処理するにも九箇月かかることになるわけであります。旧法事件の千二十四件、あるいは旧法事件から考えて、今後最高裁判所に上告して来る、旧法によつて上告するならば四千七百一件、これを合せて考えてみると、今後相当の年月を要することになるわけであります。このほかになお最高裁判所には新法事件、民事事件などいろいろの事件が順次起きますので、結局最高裁判所の現在の処理能力では行きどまりの事件が多くなつて、事件全体の処理がそれだけ遅延するということになりまして、国民のためにも不利益になるのではないかと思われるわけであります。こういうわけでまず刑事につきましては新法事件についての審理の促進も一応問題になりますが、まず第一に旧法事件の処理について手をつけなければならぬということから、今回は旧法事件の処理について緊急な措置を講ずることになつたわけであります。今申し上げたように、最最裁判所の負担を調整するためには、結局旧刑訴の上告理由を新刑訴の上申理由に振りかえることによる以外に手がないのではなかろうかと思われますので、そのような方法を用いたわけであります。なお高等裁判所に係属中の旧法事件は、御承知のように高等裁判所は旧法においては覆審制度になつておりまして、新法の事後審に比べれば丁重になつておるわけでありますが、ここにおきましても審理の促進を考える必要があるわけであります。これにつきましては裁判所の創意くふうにまつようにいたす考えで、この案では裁判所の規則である程度の手当ができるように、規則制定の余地を現在よりも一層ゆとりを持たせるという構想に従つております。この規則は事務当局で考えておられるところでは、大体控訴審につきましては、当事者にどこに不足があるかということを述べさせて、不服のある点に審理の重点を集中してやつて行きたいというようなことを考えておられるようでありまして、それに関する規則を定めることを一応考えておるわけであります。こういうことによつて刑事の方につきましてはまず旧法事件をこの際早く片づけてもつぱら新法事件の方に專念したい。そのためには最高裁判所の負担を調整し、またあわせて高等裁判所についても若干審理促進のための規則制定をやることができるゆとりを持たせるという構想であります。
 次に民事につきましては、これも終戰後事件がどんどんふえる一方でありまして、しかも勢い遅延しがちになりますので、今までと構想をかえまして、安心できる方法と申しましようか、要するに準備手続というものを一層活用いたしまして、準備手続におきまして当事者双方の抗議の方法、証拠の申出などをはつきりさせまして、準備手続に十分の時間と余裕とを置いて、ここで論点を明確にして、一たび公判に移つたならば、いわゆる集中審理と申しましようか、連続的に開廷をして一挙に黒白を決するというようなシステムに持つて行つて、今までの民事訴訟のやり方をこの際かえてやつてみようというような構想に基きまして、その手当といたしましてこの案では、現在準備手続は合議裁判所だけができることになつておりましたのを、合議裁判所のみならず、單独裁判所でもできるということにいたしました。なおこまかいところは最高裁判所の規則の定めるところに譲る仕組みにいたしまして、しかして準備手続を経た事件につきましては、最初の口頭弁論の期日の変更については、準備手続を経ない事件などよりも一層厳重にその期日の変更を許さないことにする、そういう構想にいたしまして、この民事訴訟法の一部を改正する法律案の純訴訟法的の点はそれが主眼になつておるわけであります。
 なお話は多少前後いたしましたが、事件が迅速に処理されるためには、各裁判所の権限の分配が適正でなければならぬということはもちろんでありまして、その見地から今の各裁判所の権限の分配を考えてみますと、どうも地方裁判所の負担が少し重過ぎはしないか、いま少し簡易裁判所に事件を負担させてよいのではないか。そういたしますとそれが結局最高裁判所の、ことに民事について申しますと負担の調整にもなるわけであります。その見地から第一審事件の管轄の分配を考えてみましたところ、民事につきましては裁判所法制定当時の事情を勘案して一応五千円未満ということになつておりますが、その後の物価の情勢その他地方裁判所と簡易裁判所との事件のにらみ合せということを考えてみますと、この際どうしても民事につきましてももう少し管轄を広げた方が適当であろうということでその額が問題になりましたが、一応三万円といたしたわけであります。三万円とすることによりまして、地方裁判所と簡易裁判所との間に事件の分配がどの程度かわつて来るかと申しますと、これもお手元に差上げてあります資料に出ておりますが、民事につきましては現在五千円を越え三万円までの事件は、全地方裁判所の民事訴訟事件の中の約三二%に当つておるわけでありまして、これが簡易裁判所に移るわけであります。簡易裁判所の数は全国的に見ますと地方裁判所に比べて多いわけでありますが、一つの裁判所に負担を負わせると簡易裁判所としてはそれだけ重くなるというわけのものではないのであります。
 なお簡易裁判所の民事の管轄を引上げることにつきましては、今の簡易裁判所の裁判官の質などから考えてどうだろうかという議論も一応考えられるわけでありまして、それならば簡易裁判所の裁判官の構成は一体どうなつておるかということを最高裁判所の事務当局と連絡して調べてみましたところ、これもお手もとに差上げてあります統計二十六ページに出ておりましたが、現在の簡易裁判所の判事六百十二名のうち、いわゆる選考による任命者と俗に申しておりますが、これが二百五十九名、残りは判事から任命された者、判事補から任命された者、検察官から任命された者、弁護士から任命された者、その他で占めておるわけであります。民事事件のうち多いのは大体どういうものであるか予想されるわけであります。こういう弁護士の資格のある人から任命された簡易裁判所判事はおおむね都会地のような裁判所におるようでありますので、こういうことから考えてみますと、民事の五千円を少くとも三万円にふやすということによつても、そう危險はないものと存ぜられるわけであげます。なお最高裁判所事務当局といたしましては、このほかに現在判事補のうち三年以上五年未満の者、また一人前の裁判官としての職権の行使を許されていない者で、しかも簡易裁判所の判事の資格のある者は簡易裁判所の方に兼務なり、あるいはそちらの方へまわるなりして、民事の事件を見ておる、あるいは場合によつては今度の措置で認められた代行制度を活用して、むずかしい事件があつた場合には代行制度を活用しよう。いろいろの措置を講じて、ただいま申し上げたような――また特任の裁判官による民事事件の取扱いに対するある方面の不安の点は除去しようと考えられておるわけであります。なお特任の裁判官につきましては、最高裁判所事務当局におきましても、しばしば研修ですか、研究が行われておるようでありまして、二十七ページ以下に今までどの程度やつたか、また将来どの程度やるかという計画を調べてあります。こういうようなかれこれの処置を考えてみますと、ただいま申し上げた簡易裁判所の裁判権の拡張という点も、そう不安を覚えるものではないと存ぜられる次第であります。なお刑事の簡易裁判所の管轄権の拡張につきまして考えてみますと、これは民事の管轄権を広げたというよりも、むしろある意味ではよすぎるといつてもよいかと思われるわけでありますが、大体今度簡易裁判所の管轄権の中にふやしましたのは、窃盗罪と密接な関連のあるもの、もしくはこれと同様な、ごく簡單な事件を主眼にして考えたわけであります。その罪名と刑期、罰金額等につきましては、お手もとに差上げてありまする資料の一ページ以下に全部載つておるわけであります。そうしてこれだけの手当をすると、どの程度忙しい地方裁判所の手が省けて簡易裁判所に移るかという点につきましては、四ページ以下の表に明らかにいたしておるわけであります。人数にいたしますと、昭和二十三年の刑事統計を基礎として算定いたしますと、約一万四千二百六人ほどが地方裁判所から簡易裁判所へ移動して行きます。昭和二十三年度におきまして簡易裁判所の通常第一審の終局人員は十万九千五百五十五人でありましたが、これに対して一万四千二百六人、すなわち一二%が簡易裁判所に増加するという見込みであります。これに伴いまして地方裁判所の側から見ますと、昭和二十三年における地方裁判所の第一審終局人員は十二万七千七百九十人でありますが、このうち一万四千二百六人が減るわけでありますから、すなわち一一%ほど地方裁判所の負担が減るわけであります。こういうように簡易裁判所と地方裁判所の事件の分配を再調整いたしますと、結局簡易裁判所に行く事件は比較的軽い事件、または額の少い事件でありますから、どつちかといえば簡單な手続でやつてよろしい。その代り地方裁判所はその浮いた余力をもちまして、むずかしい事件を一層適正に、じかも迅速に処理できる。そうして全体として考えてみますと、これによつて審議の促進がはかられる、そういう構想であります。それから審議の促進という点につきましては、提案理由の説明にも述べましたように、国際的にも非常な関心を持たれておりまして、どうも日本の裁判所は適正ということはともかくとして、審議の迅速という点においては非常に欠けておるという非難をしばしば受けておる次第でありまして、審議の促進のためには今度とります方法で全部だと考えておるわけではないのであります。しかし徹底して考えようといたしますと、裁判所の事務制度、訴訟手続全部について根本的の変革を要する次第でありまして、そうなりますと、相当の年月を要しなければできないわけでありますから、今回差当つて必要と思われる点にだけ手当をしてみようということで、この三案をつくつた次第であります。
#11
○田嶋(好)委員 今の説明でわかりましたが、そうすると、結局根本の事情としては事件がたくさんだまつたのを、何とか早く処理する方法として考えられたということになると思うのでありますが、その促進方法として今お答えの中に集中審理というようなお言葉がありましたが、これはいかような立法的処置によつて具体化しようとしておられるか、おわかりになりましたら、お答えを願いたいと思います。
#12
○野木政府委員 集中審理につきましては、今度の手当だけで完全にその目的を達するかという点につきましては、必ずしも十分ではない。多少不足の点があるのではないかと存じておる次第でありますが、この点は運用面としまして、現在のところ最高裁判所の民事局で研究しておられますので、裁判所側からお答えを願つた方がよろしいかと思います。
#13
○關根最高裁判所説明員 ただいまお話の集中審理、言葉をかえて申しますと、継続審理ということになろうかと思いますが、現在民事事件を例にあげて申し上げますと、一日に大体公判廷でいたします事件が十五件ないし十七件指定しております。従いましてその事件全部を審理いたしますと、一件について一人の証人あるいは二人の証人を調べるということになりまして、一件をその日に終らせることができないやり方をやつております。これはいろいろな事情から生れ出たことかと思いますが、そういたしますと、いわゆるこま切れ審理あるいは歯医者裁判というような言葉で譬喩的に申されておりますが、こま切れ的に事件を審理いたします関係から、どうしてもその事件を早く耳新しいうちに終らせるというわけに参りません関係から、どうしても延びやすい。しかもまた、たとえば今日公判になりました事件で、証人が十人くらいあるといたしますと、それのうちの二人を今日調べて、あとの八人をいつ調べるかと申しますと、事件が多い関係から三箇月、あるいは二箇月先くらいに次の期日が指定される。そういたしますと、こま切れ式の審理がこま切れの間が非常に長くなるわけでございまして、これはどうしても改革しなければいかぬということから、何とか弁護士各位の方と、それから裁判所側が協力して、今度は一日に一件ないし二件、一件一殺主義と申しますか、要するに一件ずつ処理を終るような方式で行こう。そういたしますと、一日に四、五人の証人を調べるといたしますと、十人の証人を要する事件ですと二日で行く。それから四人くらいの証人で終ります事件、あるいは五人くらいで終ります事件については、一日で終る。そういつたぐあいにやつて行きたいという考えでございます。
 それでは立法的な措置を講ずるのかというお問いもあつたかと思いますので、お答えいたしますが、立法的な措置は、あるいはこれは法務府側からお答え願つた方がよいかと思いますが、便宜私の方から御説明申し上げます。現在の民事訴訟法におきましては、百五十二條におきまして、口頭弁論期日がきまりましても、最初の期日だけは、当時者が双方で延ばしてくれという相談ができ上りまして、それを裁判所に持つて参りますと、裁判所は、今日はひとつ意気込んでやろうと思つておりましても、延ばさざるを得ないことになつております。それでは、継続的に審理をしようという最初から出鼻をくじかれるという関係から、いやしくも準備手続を経た事件に限りましては、最初の口頭弁論期日に当事者の合意がございましても許さぬ、特別のやむを得ない事由がなければ許さぬといつた改正を法律案でお願いしているわけでございます。
 それからルールの方におきましては、それに伴いまして期日の変更などにつきましてかなり例を上げまして、期日を延ばさないようにしていただくといつた考え方の規則案を立案中でございます。
#14
○田嶋(好)委員 これらの問題に関しましては、新しい行き方でありまして、われわれ国会といたしましても、新しい行き方に対する十分な知識経験がほしいと思つているのであります。つきましては、これらについて最高裁の方では長官初め二、三の方々が渡米されて、実情を御調査されているようでございます。本来ならば立法府のわれわれが行つて調査して、この法案の審議にあたれば非常に理想的である、まあ時期を失したわけでございますが、これは今ここでできないことでございますから、できましたならば、相当議論のあることでございますから、この集中審理に対して、アメリカあたりでどういうようにやつているかということを、特に政府委員でありません裁判所に対して、ここへ来て説明しろということはできませんが、できれば向うから進んでそうした資料を提供し、この法案立案に対しまして、円滑に審理が進み、すみやかにこれが本委員会を通れるようにごあつせんしていただくことが適当な方法じやないかと思います。一応要望をいたしたいと思います。
 次にもう一つ質問いたしたいのですが、この法律適用の原則から申しますと、旧法の事件に対して、新法の一部を適用するというのは、一時的の例外であろうと思います。もちろんこれに対しては法理論の問題も起きて参りますが、法理論的な見地からどういうようにお考えになつておるか、これも一応はつきりさせておきたいと思います。できるだけひとつお答え願いたいと思います。
#15
○野木政府委員 御質問の点は一応ごもつともな点と存じます。ことに旧法事件の上告理由等を制限するのは、言つてみれば被告人の既得権の侵害になるのじやないかという議論も出るものとば思いますが、私どもはそういうことにはならないという考えのもとにこの案を立案したわけでございます。と申しますのは、この刑事訴訟法施行法の一部を改正する法律案では、将来下級審の判決があつて、上告しようとするものについてだけ上告理由を制限しようとするものであります。現在上告審に係属しているものはもちろん、改正案の施行当時上告期間中のものについては旧法で行く、そういうように附則をおいておりますので、この改正案が適用になるのは、この改正案が法律となつたあかつき、施行されて後に上告される事件だけであります。旧法によつて将来上告なし得るであろうという、抽象的な一般的な期待が裏切られるということにはあるいはなるかもしれませんが、それがただちに既得権の侵害になるということにはならないと思うわけであります。このことは刑罰不遡及の原則、すなわち訴訟手続不湖及の原則は必ずしも確立されているわけではありませんので、その点はいわゆる刑罰と違うかと存ぜられるわけであります。
 なお改正案によつて必ずしも被告人に不利益な点ばかりでなくて、利益な点もありますので、その点を附言しておきたいと思いますが、おもに上告審について例をとりますと、利益となる点といたしましては、上告の提起期間が五日から十四日になつた。それから上訴費用のある場合には補償が受けられる。それから訂正判決の制度が認められておること、また新法の立て方をある程度取入れました。この改正案におきましては、こういう事由がある場合には上告審の審査の対象になる、もしこういうことがあつて著しく正義に反するという場合には、原案が破棄されるということになるわけでありまして、これは旧法及び応急措置法のもとでは認められないことであります。それから法令の解釈に関する重要な事項を含むものと認められる事件に関しては、上告審を認めてその事件を受理することができるという点も新法の方が利益となつている点であります。ただ不利益となつた点は、旧法に比べますと上告理由が制限されて、一応原判例停止ということになります。そうして旧法によりて認められておりました法律によつて、判決裁判所を構成しない、除斥せらるべき裁判、審判、その他絶対的上告理由がとれてしまつたという点では不利益になつておりますが、これとて著しく正義に反する場合には、判例の対象となるわけであります。
 それから書面審理によつて上告を棄却し得ること、これも見ようによつては旧法よりも被告人の不利益な改正ということになろうと思うのでありますが、上告審は法律審であつて、大体上告審の趣意書に基いて陳述していることでありますので、最高裁判所の適正な運用によりまして、あまけ問題のない事件につきましては、この際書面審理を認め、事件の迅速処理に役立たせるのも適当であろうと思われるわけであります。
 こういうふうに、利益、不利益合せて考えまして、この辺が妥当であろうということで、この案を持ち出したわけであります。
#16
○安部委員長 田嶋君にちよつとお諮り申し上げますが、先ほど田嶋委員より要請がありましたので、最高裁事務当局の岸刑事局長より、本案に関連してアメリカの事情をお話したいという申出がありますから、田嶋委員の御発言前にそのお話を聞くことにいたします。さしつかえございませんか。
#17
○田嶋(好)委員 簡單にちよつと一言だけ……。今の御説明でほぼ納得はいたしましたが、新法施行の場合にも、当然にこうした事件起訴のことは予想せられるのであります。といたしますれば、これが施行法について研究すれば、本問題は解決ができておつたのじやないかと思います。それが解決を予想されながら今日まで参りました。今日新しい総司令部からの指令によりましてやられるという関係になつて参りました以上、新法の一部改正によつて適用するというような方法で行かずに、これはやはり前国会で行いましたように、独立立法で行つた方がいいというようなお考え、これはいかようにお考えになりますか。
#18
○野木政府委員 ただいま御質問の点はまことに痛いところをさわられたようでありまして、まことに恐縮に存ずる次第でございます。実は新刑事訴訟法施行当時、私もその立案の末端に関係いたしまして、その施行法をどういうように立案するかいろいろ考えたわけでありましたが、初めのころはあえて今度の法律と同じように、まず一般訴訟手続法の施行法の立案の普通の考え方であろうと思いますが、あるできる段階から逐次新法の規定によらしめて、新法の趣旨によつて行くというような施行法を立案したこともありますが、何分新刑事訴訟法は、旧刑事訴訟法に比べますと非常な改正でありまして、ただいまのような立案の仕方にすると、切りかえが混乱してしまうのじやないかというような、非常な懸念もありましたので、とりあえず移りかわりをすみやかならしめる意味におきまして、旧法の方は施行当時、すでに起訴になつた者は旧法で判決する。新刑事訴訟法施行後起訴された者は、新法で行くという立て方をとつたわけでありまして、当時も実は最高裁判所の構成、それから裁判官の数等に対して、事件の圧倒的多数というようなことを考えますと、全体としての刑事事件の審理が遅延するのじやないかというような心配がないわけではございませんでしたが、私どもの考えが足りなかつたせいか、あるいは勇気が足りなかつたせいか、どうもそこまでの措置を立案できなかつたのはまことに申訳ないと存ずる次第でございます。
 ところでこの施行法の一部改正の行き方でなくて、この前の民事事件の上告の特例の方のような行き方にしたらどうかというような点でございますが、民十事件の方は全部の事件に適用されるわけでありますが、今度の刑事事件は旧法事件だけでありまして、いわば経過的なものであり、旧法事件がなくなつてしまえば、当然この法律もなくなつてしまうという関係にありますので、民事との場合と多少考え方を違えてもよかろうということで、技術的にいいましても、この際施行法の一部改正で行つた方が簡單にもなりますし、わかりやすいのではないか。ことに立案を急いだ関係もありますので、このような形式で立案いたした次第でございます。
#19
○安部委員長 岸局長。
#20
○岸最高裁判所説明員 それではたまたまここにおりましたから、先ほどのことにつきましてごく簡單に申し上げたいと思います。いずれ長官初めその他の各裁判官が、直接お目にかかつていろいろお話申し上げる機会もあろうかと思いますから、私の説明はごく概略にとどめておきたいと思います。
 アメリカの刑事裁判は非常に迅速に行われており、それに引きかえて日本は非常に審理が遅延しておるということは、かねがね言われておりました。事実向うへ行つて見ましたところ、やはり向うの方は非常に事件の裁き方が早いのであります。しかしアメリカの刑事手続は、御承知のように州と連邦によつて手続が違いますし、また州ごとに手続が違う部分もありますので、私どもの見て参りましたその一部分のものが、アメリカの全体であるということは申されないことをまずお断りしておきます。たとえばアメリカで一番裁判が理想的に行われておるといわれますニューヨーク州の刑事裁判を見ますと――アメリカ全般そうですが、アメリカの刑事裁判では審理の冒頭にいわゆるアレインメントの制度、つまり罪状を認めるかどうかという手続をとりまして、八割以上九割までの事件は自分が有罪であるということを被告が認めます。認めますと直ぐ軽い者は即座に判決の言い渡しがあり、処分について考慮する者についてはいわゆるプリペンシヨン・オフイツサーという制度を使いまして、プリペンシヨン・オフイツサーによりまして被告人の個人的な事情や環境等を調べ、その被告をプリベントする、言い渡しを猶予する、刑の執行を猶予する、プリペンシヨン・オフイツサーに調査させる。その報告書を参考として裁判官が刑の言い渡しをする。ちようど私どもが参りましたときには、一日に五十九件の事件をさばいておつた。そのときには証人も調べますが、向うの証人調べは検事と弁護人がお互いに十分な準備をして来て、そしててきぱきと進めて行く。三人や五人、ないしは十人くらいの証人調べを五十九件の審理をやつておる間にやつて行くわけであります。調書の方は速記タイプ、あるいは速記者を使つて証言の内容を一々速記して行く。そのかわり裁判所書記というものはただ法性に臨んでいて、手続の進行を見ているだけのものでありますから、証人を調べない事件ですとほとんど調書というものはでき上らない、数枚のカードにその手続の事件を受理したとき、アレインメントの答弁があつたとき、最後に判決があつたとき、そういうようなカードに記入してそれを袋に入れてブリーフ・ケースにしまつておく、それが大部分の事件の記録であります。日本のように大小の事件を一様に大幅儀式な調書をつくつておるのとは非常に違うのであります。そのかわり被告人が無罪の答弁をし、証人調べをするときや、陪審の手続になりますと、証人の調書は一々全部一言一句残らず速記でとられておる。その事件が控訴されますと、むしろ日本の調書よりもこれは全体として厚くなると思いますが、そういう速記調書のコピーがつくられる。これは州によつて違いますが、当事者の方の負担になつておるところが多いようであります。そうして控訴裁判所はその記録を全部見て審理するというふうに簡略にできるものは非常に簡略にするかわりに、鄭重にすべきものは極端に合理的に、機械を使つてやつておるという点が非常に特異性があると思うのであります。それからニユーヨークばかりではありませんが、刑事裁判について申しますと――民事でも同じであろうと思いますが、第一審の審理というものを非常に重く見ておる。裁判というものは事実というものが基礎である、であるから第一審のトライアルがうまく行かなければならぬというふうに、第一審の審理を重視し、尊重するという気風が非常に強いのであります。御承知のように七十、八十近くなつてもゆうゆうとして第一審の裁判官をしておるというふうなわけであります。従いまして第一審かそういうふうに裁判官を優遇してどつしりりつぱな裁判官がゆうゆう七十、八十になつても裁判をやつているというような制度でありますから、上訴ついての観念がわれわれの場合と非常に違うのであります。アメリカでは正当な裁判をただ一回だけ受ける権利があるのだということが基調をなしておる。上訴というものはほんとうに被告人の本質的な利益を害した場合に、過誤を訂正するためのものであるという考え方であります。連邦の場合をとつて申しますと、連邦裁判所の第一審の事件が全部で昨年の統計では十一、二万件であります。そのうち最高裁判所でオピニオンを、すなわち判決の意見書を書く事件が年に百五十件という程度であります。そういう点が日本の場合と比べて非常に著しく目についた点であります。その他いろいろございますが、法案の御審議の妨げになりますから、この程度にとどめておきたいと思います。
#21
○鍛冶委員 私ちよつと田嶋君に関連して野木さんに聞きたいと思います。今まで旧法で取扱つておつたものを、上告審に行つて新法で取扱われるならば被告人には不利益ではないかという問題ですが、多少あるかもしれないが、大したことはないではないかと言われますが、私はそうとは考えられないのであります。旧刑事訴訟法に基いて一審、二審をやつたものは調べ方が違う。旧刑事訴訟法に基いた審理と、新刑事訴訟法に基く審理と、審理が違うわけであります。だから新刑事訴訟法に基いて一審、二審をやつたならば上告理由は制限してもよいかもしれませんが、旧法によつて一審をやつたものを、新法と同じような上告措置をすると、私はたいへんに被告人は不利益をこうむると思う。そう軽々に認められるものではないのじやないかと思いますが、この点はいかがでありますか。
#22
○野木政府委員 ただいまの点まことにごもつともな御答弁と思う次第であります。私どももその点は御質問のような疑問を出しましていろいろ考えてみたわけであります。ところが結論といたしまして、新法の構造によりますと、アメリカの考えを入れまして非常に一審を鄭重にする、そのかわり控訴審は事後審になる。ところが旧法の一審は新法ほど強制弁護の範囲は広くないという点などで丁寧でないと言われるかもしれませんが、控訴審は新法と違いまして覆審である、二度調べ直すということになつております。今度の改正案の建前も覆審の構造はそのままに存置しておるわけであります。これらの点は立案の過程において、控訴審のところまでも新法に切りかえたらどうかという有力な意見もありました。そうしますと今鍛冶委員がおつしやつたように、説明がつかぬことになると思います。その点は私どもも極力その案にはさようなことのないようにいたしまして、現在のような案におちついたわけでありますが、要するに旧法の覆審をそのまま維持する。そうすると新法と旧法と比べて、必ずしも旧法の方が一審、二審あわせて考えてみると、被告のため著しく不利益とは言えないのであります。一応とんとんくらいに考えられはしないか。そうなつて来ると上再審のところを新法にすげかえてみても、被告人にとつて重要な点で不利益な点が出て来たというようには言えないのであります。こういうような点で一応結論に達しまして、最高裁判所の負担を調整する意味におきましては、またそれも涙を飲んでやむを得ない措置じやないかというような点でこの案におちついた次第であります。
#23
○鍛冶委員 その点はどうも私は重大なところが食い違つておるように思うのです。現に係属しておる事件は旧法でやるわけですね。それから最高裁判所の上告の提起期間内にある事件については、その上告審に限り第三條の二の規定は適用しない、上告の提起期間内にある事件、これはどういうことになりますか、それからまずお聞きしたい。
#24
○野木政府委員 附則の立て方でございますが、この改正案の施行になつたときに、すでに最高裁判所に係属しておる事件はもちろん旧法の手続をしておる。それから施行になつたときに、すでに上告提起期間内にあるもの、すなわち下級裁判所の判決が言い渡されていたもの、それも旧法で行く、施行後言い渡されるものだけについて逐次切りかえて行くという考えであります。
#25
○鍛冶委員 そうしますと大したことはないとおつしやいますが、きのう言い渡されたものは広い上告理由が適用されるが、施行になつたその日に言い渡されると、たつた一日の違いで被告人にとつてたいへんな違いができますか、これに対してはどう説明したらよろしゆうございましようか。
#26
○野木政府委員 まことにおつしやるような差異が出て来るわけでありますが、これは手続法のような改正を行う場合におきましては、いつも生ずる問題でありまして、たとえば旧刑事訴訟法、新刑事訴訟法切りかえのときにおきましても、公訴の提起の前後によつて区別いたしたわけでありますが、昨日起訴になつておれば旧法で行く、一日起訴が遅れると新法で行くというような場合もすでに生じておるのでありまして、これはこういうような手続法を立案する場合には、まことにやむを得ない結果ではないかと存ずる次第であります。
#27
○鍛冶委員 そういう場合は常に法律の改正にありますが、被告人にとつて利益に改正されるなら問題ありませんが、不利益に改正されるということになると、相当問題じやないかと思います。それ以上は議論になりますから……。
 この訴訟の促進ということでありますが、訴訟の促進は今に始まつたことでない、昔からやらなければいかぬじやないかと言つておつたことであります。そういうことをやるのはもちろんよいことであつて、よろしゆうございますが、被告人にとつて不利益なる結果を生ずるようなことを今日ただちにやらなければならぬという特別の理由がどこにあるか、その点を納得の行くように御説明をしていただきたい。
#28
○野木政府委員 法律の改正に際しまして国民の利益になるようにする、ことに手続法におきまして、そういうことはまことに愼重に考慮しなければならぬということはまつたく同感でございます。しかし今度の際は別の要請からやむを得なかつたわけであります。その理由は先ほども統計の数字を申し上げましてちよつと触れましたが、新法施行になつて二年になろうとするのに、なお旧法の控訴事件が高等裁判所に係属しておるものが一万一千件くらいある、新法も一万件くらいですから、今高等裁判所は新法、旧法相半ばしておる。ところがこの旧法事件が旧法の上訴率によつて計算してみますと、将来どのくらい最高裁判所に行くかということを考えてみますと、四千六百件くらいなわけであります。そういたしますと現在でも最高裁判所が十五人の裁判官をもちまして、非常に重大な使命を持ちながら事件がどんどんたまつて行つて、最高裁判所まで来て、そこで事件がすべて停滞してしまつて、訴訟全体としてはいつ片づくかわからないというような結果になりますと、また別の面から国民全体の非常に不利益になるのではないかと思います。審理促進のためにはほかにもいろいろ考えられる点があると思いますが、まず当面の問題としては新法を適用し、いつまでも旧法を適用するという並行状態をまず除くという点に重点を招いたらどうか。そうしてこの点がまた国際的にも一番関心を持たれて特に指摘されていた点のようでございます。先ほども申しましたように、すでに新法である程度最高裁判所への上訴の規定ができておりますので、新法の一審、二審の構造と、旧法の一審、二審の構造とは、先ほど鍛冶委員がおつしやいましたのと相異りまして、はるかに新法の方が被告に有利であるというような見方から申しますと、新法の上告審を旧法にすげかえるということは非常に不利益であるということになるわけでありますが、また別の見方からいたしまして、旧法は覆審である。それでありますから、一審、二審は見方によつてはあまり大した差異はないじやないか。そうしてみますと、すでに最高裁判所への上告審の構造をして新法通りの制度にすげかえるのも、被告人の一種の既得権とは言えないにしろ、漠然たる一種の期待権みたいなものといいましようか、そういう点において不利益を生ずるということがあつても、他の最高裁判所の事務を調整するという点から考えてみますと、かれこれ考えてその点はやむを得ないではないかというような結論に達したわけであります。
#29
○鍛冶委員 私の質問は一応終ります。
#30
○安部委員長 山口好一君、
#31
○山口(好)委員 私はこの訴訟促進に必要な法案としましてできました三つの中で、刑事訴訟法施行法の一部を改正する法律案につきまして二点ほどお伺いしたいと思うのです。
 第一点は、今の鍛冶委員などの質問と相関連するのですが、この刑事訴訟法一部改正法案の提案理由書の終りの方に、「今回の改正案は多少被告人の利益に影響するところもありますが、他面著しく正義に反するものであれば刑の量定事実誤認についても原判決を破棄することが認められる等従来よりも被告人に利益となる面もあり決して被告人の重要な利益を害することはないものと存ぜられる次第であります。」こう書いてあります。ただいまの政府委員のるる説明せられたるところから見まして、旧法によるがよいか、新法によるがよいかということについては、考え方によりまして違いがあると思いますが、まだ私としましては大体ここに現われております訴訟促進の法案に上ることは、やはり被告人の不利に帰する、こういうふうに思うのであります。しかしこの事情種々やむを得ないものがありますので、私はその不利益を是正する一番大事な点はやはりここにあげられております「著しく正義に反するものであれば刑の量定事実誤認についても原判決を破棄することが認められる」この点であろうと思うのであります。そこでこの提案理由の説明が、ただこの場合の儀礼的な言葉であつてはならない、作文であつてはならない、こういう意味でお伺いをするのであります。この改正法によりましても、かかる点で被告人の利益が害せられないように十分注意をする。こういうのでありますれば、この点について特に裁判所としてこういう具体的な手続をもつてこの点についての被告人の利益を確保いたします、こういうものがなければならないと思うのであります。その点についてはどういうことを具体的にお考えになつているか、それを御質問いたします。
#32
○野木政府委員 ただいまの御指摘の点は新法の四百十一條、この規定の運用になろうと思いますが、この規定がどの程度新法以外について運用されておるかという点につきましては、詳細は後ほど最高裁判所から御説明願うといたしまして、現在ではそう数はないように聞いているわけであります。しかしながら旧法の上告事件に四百十一條を適用することと、新法の上告事件に四百十一條を適用するのとではやはりおのずから運用について多少の差異も期待せられるのではないかと考えられるわけでありますが、具体的にこの点について現に最高裁判所の事務当局あたりでどういうように考えておられるかということについてはまだはつきりと承つておりませんが、あるいは最高裁判所側から御説明願うようにいたしたいと思います。
#33
○岸最高裁判所説明員 この新法の四百十一條を適用した事例といたしましては、今年の九月末までにただ一件あるだけであります。それは審理に關與しなかつた裁判官が判決について署名しておつたというので破棄されたということであります。先ほど政府委員が説明されましたが、新法の四百五條は旧制度に比べますと、非常に上告理由が制限されます。しかし新制度によつても事実問題と量刑問題については上告理由とはされていない。ただ新制度と旧制度とのギヤツプは、新法の四百六條に基いて最高裁判所規則で出しております事件受理の申立て、その他の申立てによつてできる。その事件受理の申立てというのは、裁判所の方から積極的にやるのではなしに、裁判の通告を受けた被告人、弁護人あるいは検察官が積極的にやらなければならぬわけであります。従来新法施行直後はその点が非常に看過されておりましたが、その後四百六條に基く事件受理の申立というものも次第にふえて来ておりますので、訴訟の当事者もよく御注意願いたいと思いますが、そういうことになればこのたび上告理由を制限したからと言つて、著しく差異が生ずるとは言えないのではなかろうかと思います。
 なお四百十一條の適用については、旧法事件について、とにかく今までは旧法でやつて来ようということでやつて来たのを、この際いろいろな事情からこういう改正をする以上は、最高裁判所としてもその点は十分注意するであろうというふうに考えております。
#34
○山口(好)委員 その点は刑の量定に著しく不当とか、事実誤認について裁判所が特に弁護人の方から上告理由として記載がなくても職権で調査をするということはないのですか。
#35
○野木政府委員 四百十一條によつて職権で調査し得るわけであります。ただ当事者がそこを指摘すれば裁判所が気がつく率は多いだろうと思いますが、言わなくても職権で調査し得るわけであります。
#36
○山口(好)委員 職権で調査できるとすれば、被告人のためにこういう法律の変更もあつて不利益を来しますし、また裁判所には特に調査官も設けられていることでありますから、さような調査官を特にこの面で動員して、幾分でもその不利益を是正して行くというような考え方はありませんか。
#37
○野木政府委員 その点はひとつ最高裁判所側からお答えいたします。
#38
○岸最高裁判所説明員 上告された事件につきまして調査官がどのようにして調査しているかということ、これは外部には知られていないのでありますが、多年刑事裁判にあたつていたような判事から選ばれた調査官が、記録を隅から隅まで読んで非常な苦心をして調査しているのでありまして、もし四百十一條に該当するような場合が発見されれば、当然職権発動が見られることは期待されるのであります。
#39
○山口(好)委員 これがただいまの御説明のごとくほんとうに行われておれば、まずあやまちはないと思うのでありますが、特にこの法案を成立せしむるにつきましては、私はさらに一段と今申し上げましたような面に向つての裁判所の御努力をお願いしたいと思う。
 それから第二点としましては、この刑事訴訟法施行法の一部改正の提案理由の第一となつております裁判所規則によつて訴訟促進に関する必要な特則を設けることができる、この点であります。提出された資料によりますと、目下のところ考えられているのは、一、二、三というふうになつておりますが、一が、「旧法事件の控訴審において、第一審判決に対する不服の事由をたしかめるための手続を定めること。」第二は「控訴審の審理は、不服の点に重点をおき、不服のない事項については審議を省略することができるものとすること。」第三、「判決の記載事項を簡略化すること等。」こういうふうにわけられております。これらの訴訟促進に関しまする裁判所規則ができるとすれば、やはり相当被告人の不利益に帰すると思うのであります。そこで今後裁判所規則でこの施行法に関係のありまする訴訟促進の規則をつくられるにつきましては、いかような点でもこの訴訟促進については規定ができるものでもあるまいと思います。それは一応のリミツトがある。この裁判所規則で訴訟促進に関しまする必要規定をつくり得る限界というようなことをどういうふうにお考えになつているか御説明願いたいと思います。
#40
○野木政府委員 現在の施行法におきましても、十三條である程度最高裁判所の規則で経過措置をとり得るように立案されているわけでありますが、表現が必ずしも明確でないので、先般もこの点に対して重大な疑義が生じた次第もありますので、今度の改正案では一つはその点をはつきりさせるために、第十三條を削除して、別の條文で最高裁判所の規則に定めるものを除くといたしたわけでありますが、立案の当初の考えといたしましては、大体お手元に差上げた資料に載せてある程度のことで、被告人にどの点が、たとえば控訴審で申しますと、どの点が不服であるとか、どの点が不利であるかどいうことを確かめる、これは必ずしも被告にそう不利益になることはないと存じますし、またその不服のある点に重点を置いて審理をやつて行くということもむしろ被告人の利益になるのではないかとも思われるくらいでありまして、必ずしも不利益になるのじやない、そう思われるわけでありまして、大体最高裁判所の規則できめるということもまた最高裁判所の事務当局で一応お考えになつている、大体そんなような見当のところであることを御了承を願いたいのであります。
#41
○山口(好)委員 御説明は大体了承しましたが、私の考えるところでは、やはり刑事事件については、被告人が気づかない点で違法な点が相当存在すると思うのであります。また旧法事件につきましては、控訴審において弁護人が主張することを怠つておつたと言いましようか、気がつかないでおつたというようなことで、やはり違法な点が存在し得ると思うのであります。先ほど職権調査の問題も出ましたが、この刑事事件につきましては、特にこの事件の性質から、やはり職権をもつて適法、不適法を決定することに対する裁判所の努力を願わなければならないと思うのであります。この裁判所規則によつて目下計画されている規定はかようなものであるということが示されておりますが、これについてはさような考え方を加味せられまして、必ずしも被告人から強い不服は出ないでも、裁判所としても調査すべきものは調査して、深く審理すべきものは審理をいたす、こういうような態度をもつてお進み願いたいと思うのであります。
#42
○野木政府委員 ただいま御指摘の点はまことに重要な点をついているものと存じます。私どもが考えますのに、旧法は新刑事訴訟法と違つて、一層職権主義的色彩が強いのでありまして、先ほど申し上げました裁判所規則で不服の点についてたけ審理を重点的に行うといたしましても、私どもが聞いているところでは、不服の点だけを審理して、ほかは審理してはいけないというような義務的なものではございませんで、裁判所はそういうことができるというだけでありまして、裁判所の職権活動というものは十分残つているわけでありますから、それが適正に運用せられますならば、御指摘のような心配は万々ないのではないかと存じます。
 なお規則の内容についてただいままで進んでいるところを最高裁判所から御説明いたすそうですから御了承願います。
#43
○岸最高裁判所説明員 法案第二條に基いてどういう規則が考えられているかということは、この法案の御審議にあたつて非常に重大なことでございますから、ただいま最高裁判所で考えている規則案の内容を申し上げておきたいと思います。
 まず法案の第三條の二に基いて新法の上告審の手続が適用されることになりますので、それに付随する刑事訴訟規則中の規定、これは昭和二十四年のさ月一日から施行されているものでありますが、その規則が全部こちらの方にも取入れられるということは御理解願えると思います。問題は旧法事件の控訴審の審理についてどのようなことが考えられているかということであります。それは一言にして申しますと、旧法の覆審の性格はあくまでもくずさずに、しかもそれをもつと合理的にやろうという方法を考えているのであります。それでまず控訴審においては、この公判期日において人定質問がありました後に、控訴申立人に対して控訴申立理由を問うという手続をきめまして、控訴申立の理由は控訴申立人が第一審の判決に対してどの部分が不服であつたかということを具体的に示して答弁しなければならないというふうにいたしたいと思います。その次に裁判長は控訴申立の相手方に対して必要に応じてはその答弁を求めることができるというふうにしまして、第一審の判決の一体どういう部分が争われているか、そういう不服の限度をはつきりさせる、公判の冒頭においてそれをはつきりさせるという手続を置くわけであります。
 それから事件によりまして公判期日でさような手続をすることが不便な場合には、公判期日外のいわゆる準備手続のようなものを開いて争点を整理することになるのであります。そしてそれによつて不服である部分が限定されますと、裁判所はまずその点について審理を集中する、たとえば事実の認定を争うような場合になりますと、事実の認定、刑の量定に不服であるということになれば、昔通りの覆審になるのでありますが、事実の認定に不服はないが、刑の量定に不服があるという申立になると、その情状についてもつばら審議を途げることになります。ですから不服の申立のない部分については裁判所は被告人尋問、証拠調べを省略することができることになります。しかしながらあくまでもやはり覆審的な性格を残すということと、刑事裁判の本質から考えまして当事者に不服がないといつて、それをそのまま真実と認めることが必ずしも適当ではないのでありますから、控訴申立人に不服のない事項についても事案の真相の発見と、被告人保護のため必要と認めるときは裁判所は従来通りの被告人尋問及び証拠調べをやらなければならないという規定をはつきり置いております。従つてこの手続を怠りますと新法の四百十一條によつて最高裁判所により職権破棄の理由になることがあるわけであります。これが控訴審における審理の手続についてただいま最高裁判所で考えております案の内容でありまして、そのほか判決書等につきましては、もし事実関係について不服がないということになつて、裁判所にしてもその通りでよいということになりますと、あらためてまた事実及び証拠説明をするのはむだでありますから、控訴申立人に不服がないということを控訴審の判決においてその分については説明すれば足りるということにいたしたいと思います。
 それから判決書の簡易化という点につきましては、新法の線に沿つて控訴審においても、有罪の言渡しをする場合においても証拠により罪となるべき事実を認めた理由を説明し、法令の適用に示すには証拠の標目及び法令を掲げれば足りるということにいたしたい。これは新法でこういうことになりましたが、それについて別に実務的に不都合があるという非難も起きておりませんし、かえつて審理の促進のためには非常に役立つと考えておりますので、これもぜひ取入れたい。それから控訴審におきましても、上告の申立てがなく、かつ判決宣告の日から五日以内に判決謄本の請求がない、つまり確定してしまつたような事件については調書判決の制度を認め、判決の簡略化をはかつて行きたい、大体そういうことを考えております。
#44
○鍛冶委員 ただいまの裁判所の規則の点ですが、これは前からずいぶん問題になつておりますが、一体裁判所の規則はどこまで行くものか。法律でどうしても定めなければならぬものと、裁判所の規則でやつていいものとのけじめ――これはずいぶん何べんも言つておることですが、今の話を聞くと、どうもわれわれの考えておるのよりか大分進んで来たようですが、刑事局長はどういうふうにお考えになつておるか承りたい。
#45
○岸最高裁判所説明員 これは私個人の考えになりますが、私は前から規則と法律とは同等の力を持つておる、両者は両法後法の関係にあるという考えを持つております。しかし最高裁判所の裁判官会議は必ずしもそうではありません。それから本件の場合には、施行法改正案第二條によつて規則を定めることができるということが規定されております。いわば法律の委任がある、こういうふうに思います。
#46
○鍛冶委員 今の御意見だと、裁判所がいいと思つたら、法律にあることを規則で変更してもいいということになりますが、そういう御見解ですか。
#47
○岸最高裁判所説明員 まず規則をもつて規定すべき事項は、刑事手続については刑事裁判の手続に関する点でなければならぬということであります。次に規則をもつて法律をかえ得るかどうかということにつきましては、これは法律が優位であるという説からいうと当然できないことでありますが、逆に規則が優先であるという有力な学説、意見もありますし、また同等説等によりますと、規則をもつても法律を変更することができるということになるのはやむを得ないと思います。ただ、どういう場合に規則をもつてどんどん法律を改正するかどうかということは、これは政策の問題であろうと思います。
#48
○鍛冶委員 われわれは法律を規則で改正できるとはどう考えても考えられないのですが、そうすると刑事訴訟法というものは裁判所の規則が原則のものだ、こういう意見ですね。
#49
○岸最高裁判所説明員 これは非常に重大な問題で、最高裁判所の判例が、この点に触れたのが一つ出ましたけれども、まだそこまではどつちとも解決しておりませんから、ここで私の個人的な意見を申し上げることは、これ以上は差控えたいと思います。ただ一つ御参考として、この間向うへ行つて見て来ました点を申し上げておきたいと思います。ニユージヤーシーという州がございますが、そこは最近憲法を改正しまして、同時に非常に強力な司法改革をやつたのであります。そこのシユープリーム・コートに参りましたが、ちようどそのときニユージヤーシーのガバナー、すなわち向うの州知事、行政官の最高の知事、その人が主となつて憲法の改正、司法制度の改革をやつたのであります。そのときの話によりますと、そこの最高裁判所が一九四七年に刑事訴訟規則案を制定した。そうしてそれを刑事手続として公布施行しようとしたところが、そこの州議会では、それはよくないというので立法でやるということになりました。すなわちこの刑事訴訟規則できめた條文全文をそのまま立法化しようとしたそうであります。そこでその州議会は通過して、州のガバナーがそれにサインをすれば、そのまま法案となるというところまで行きました。ところがそのガバナーの見解は、刑事手続は最高裁判所の規則できめるべきである、そのために憲法で規則制定権をきめたのである、自分がこれに署名すればそのまま法律になるが、自分はこれを拒否して、そのために法案としては流れてしまつた。そして元の最高裁判所の規則が刑事訴訟手続の規則として現在も行われておる、そういう話を聞いて来たのであります。そのことだけを申し上げておきます。
#50
○鍛冶委員 これはよほど重大なことで、たびたびわれわれも疑問を起す問題として承つてもおるし、考えてもみたいのですが、憲法第四十一條には、「国会は、国権の最高機関であつて、国の唯一の立法機関である。」と書いてある。この規定が現存しておつて、唯一の立法機関である国会できめたものを、最高裁判所はどれだけの権限があるかしらぬが、規則でかえられるとは、われわれはいまさら思いもつかぬのですが、これ以上議論はいたしません。私はさようなことがあつたらたいへんだという前提のもとで承るのです。これはまたいずれ研究しておいてもらつて、法律の通るまでにはもう一ぺん承るかもしれません。そこで問題は、今改正せられようとする判決の記載事項を簡略化するということですが、これは刑事訴訟法では、判決にはこれこれのものを書かなければいかぬと書いてあるが、それを書かぬでもいいということを規則でやろうとする。そのつもりであろうと思いますが、まずそれを聞いておきたい。
#51
○岸最高裁判所説明員 その点は、規則と法律との効力問題は別としまして、刑事訴訟法施行法の第二條によつて、規則に委任しておるという見解に立てば問題はないと思います。
#52
○鍛冶委員 それは今そういうふうに改めようとされるのでしようが、前からあつたのですか。
#53
○野木政府委員 ただいまの点に関連いたしまして、政府側から御説明いたします。法律と規則との関係につきましては、現在でもいろいろの説がありまして、岸局長の言われたような状態であります。最終的には、最高裁判所判決で憲法の解釈問題としてきまることになるとは思いますが、私どもの新刑事訴訟法立案当初の考えといたしましては、政府の見解として、やはりただいま鍛冶委員がおそらく考えておられると同じような見解に立つて新刑事訴訟法を立案いたしまして、そういろ趣旨のもとに国会で御審議をしていただき、通過したと承知しておるのであります。新刑事訴訟規則も、いろいろな学説はとにかくといたしまして、最高裁判所側も実際問題といたしましては、つとめて法律と抵触するような規則は嚴に避けまして、大体法律の範囲内で現在の訴訟規則はできておるようであります。規則と法律とどつちが優意かということは、理論的ないろいろの論議は別として、実際の問題といたしましては、今申し上げたように最高裁判所の規則は、現在のところ、すべて法律と抵触するというような事態を避けるような範囲でつくつておりまして、この施行法改正法案に関する規則も、おそらくそういう立場であろうと思います。ただこの施行法の改正案におきましては、一応ルールに、法律である程度のことは委任するという頭で立案しておりますので、本来ならば最高裁判所独自の規則制定権のやや程度が越えるというようなものは、見方によつては法律によつてきめなければたらないというような点、この境目の点ははなはだはつきりしないと思う点があります。そういうやや規則からはみ出すようなことになりはせぬかというような点も、この法律で、特に裁判所の規則で定めるものとして除いたという形で一種の委任をいたしておりますので、ただいま最高裁判所の岸局長も申されたような程度のことならば、本中のルール事項に属するかどうか、本来の法律事項に属するかどうか。この根本的論議はしばらくおきまして、この施行法の改正法案の建前といたしましては、見方によれば、あの程度のことは法律事項でやるという前提をとるならば、法律である程度はまかせてあるということで解釈ができるのではないかと思います。従来の施行法におきましても、十三條におきまして一種の委任の規定を設けておつたわけでありますが、現在の十三條は、「この法律に定めるものを除く外、新法施行の際現に裁判所に係属している事件の処理に関し必要な事項は、裁判所の規則の定めるところによる。」ということで、一応規則で定める一種の委任制の規定を置いておつたわけでありまして、この規定を置いた趣旨は、旧法と新法とは非常に移りかわりがはげしい。しかも新刑事訴訟法施行当時は社会状態の変遷が非常にはなはだしかつたので、一応旧法事件については旧法の原則に従うというものの、いろいろやつておるうちに、どうもやはりいろいろの情勢に適さぬことになる点が生じはせぬかというような心配がありましたので、しかも旧刑事訴訟法におきましては、ほとんど最高裁判所の規則で本来きめていいのだ――法律の委任がなくても規則できめていいのじやないかと思われるような事項までも詳細に立ち入つて規定しておりますので、そういうような軽い点は、この十三條の規定によつて適宜多小のモデイフアイをしてもいいのじやないかという頭で十三條を立案したのでありますが、何分書き方が不十分であつたせいか、しかも第二條で、旧法事件については旧法及び応急措置法によるとしてある。そうすると、この法律の定むるものを除くのほかということになるともうほとんど旧法を放棄することになつて、十三條で規定する余地はないというような見方もできますので、これが過般非常に議論になつた次第もありまして、そういうような疑義も除き、しかも経過規定でありますから、最高裁判所の創意くふうを尊重するという意味で、ある程度根本的の法律事項、被告人の利益に非常に重大な関係のある事項、そういうものは委任ということも予想いたしませんが、何分規則と法律との境目がはつきりしない点もありますので、やはりある程度の委任という形にしておいた方が非常にスムースに行くのではないかという考えのもとに、今度の案では第二條におきまして「新法施行前に公訴の提起があつた事件については、新法施行後も、この法律及び裁判所の規則に特別の定があるものを除いては、なお旧法及び応急措置法による。」というような形にいたしまして、委任の趣旨でこの規定を置いたわけであります。ただ規定の形が、「裁判所の規則に特別の定があるものを除いては」という、この委任の趣旨がはつきりしないのではないかという御議論も成り立つかと思いますが、この規則で特別の定めがあるものはできるということにすると非常に強くなるので、このようにやわらかい字句で、みずから規則で制定するものもそうたくさんのものを委任するものではない、そういう気分も多小出したいというつもりでこういう表現をいたした次第であります。なお立案の考えか言いますと、先ほど岸局長が指摘せられたような程度のことならば、法律事項か規則事項かという根本議論は別問題として、この改正案の建前から言えば、あの程度のことは規則でもあるいはさしつかえないのじやないかというぐらいに思つておる次第であります。
#54
○鍛冶委員 私もこれはまことに重大なところへぶつかつておると思うのです。これはひとり私ばかりでなしに、これはわれわれの信念ですが、規則というものは法律に定められた以外に、この法律を適用する上において便宜なものをきめるものだ。われわれは絶対にこの信念はまげられません。あべこべに規則をもつて法律をかえていいのだということになつたら、憲法四十一條は何のためにあるものだかわからない。そこで先ほど言われた十三條などでも、この法律に定めてないほかにこまかい施行に必要なものがあれば、これは規則できめていい、これはさしつかえないのです。ところがこれを逆に持つて来て、規則に定めていないものはいいが、規則に定めてあるものは訴訟法にどういうことがあつても規則に従つて行け、こういうことが第二條の御説明であり、またそうでしよう。こう書かれるのは、訴訟法上定めてないものは規則で定めて、適用を円滑にするのだ。これが今おつしやつた十三條です。これはそうじやないですか、「この法律及び裁判所の規則に特別の定があるものを除いては」、多少訴訟法にいかようなものがあろうとも、規則をきめた以上は規則が優先するのだ、そういうふうに改正しようとせられる。これは国会にとつては非常に重大なることでありまして、さようなことがさしつかえないというお考えであるならば、いま少しく法律上の根拠をお聞きしないとわれわれは何としても納得することができません。今私の言うような趣旨でしよう。そうであるのかないのか伺いたい。
#55
○野木政府委員 規則で法律を改正するという意味ではございませんで、第三條という法律で、旧法事件については原則は旧刑事訴訟法を生かしておつて、それによつて行くのだ、だからある程度の、たとえば新刑事訴訟法と旧刑事訴訟法と比較してみますと、旧刑事訴訟法には本来の裁判所の規則で規定し得る事項と思われるようなことまでも非常に詳しく規定してある点がありますので、これをはずして規則の方で規定し得る分野を開放して、少くとも新刑事訴訟法に対応する規則程度の余裕は残したい。なお先ほど申しましたように、規則と法律との関係については、分野に非常にはつきりしない点がまだまだ現在のところではあります。多少そこにゆとりを設けまして、ある程度のものは二條という法律の委任によつて規則できめよう。それでその規則とこの二條の規定によつて生かされておる旧刑事訴訟法の規則とをあわせて、訴訟手続を進行したいという趣旨でありまして、規則で法律を変更するというような形に言い表わしますと、多少気持が違つて来るのじやないかと存ぜられる次第であります。
#56
○鍛冶委員 あなた方のお気持はそうであろうけれども、これを読めば、この規則で定めぬものは訴訟法で行け、この規則で定めたならば、訴訟法がそれだけ規則にへこまされることになる。これはたいへんなことです。きようは私はこれ以上は議論しませんが、もつとお互いに研究してもらつて、おそらくこの法律は議会と正面衝突になる。これはよく研究して、納得の行くようにやつてもらいたい。
 それからもう一つ申し上げたいのは、私はこれを見て、先ほどの説明を聞いていてぴんと来たのです。私は覚えておるが、たしか長島さんが司法次官の時であつたと思いますが、これを出された。そして弁護士会と正面衝突をしまして、なかなか聞かなかつた。とうとう全国弁護士大会を開いてその是非を問うて、司法省が負けてこれを下げられた。それからまた十年たつてからまたこれをやられた。そのときもこれが大問題となつて、さようなことはやるべきではないということで引つ込んでおつた、それはとうとう実現できなかつたのであります。長島さんがこれを企ててから二十年以上もたちます。大正の終りか昭和の初めだつたと思いますが、そういう大改革なんです。それを訴訟法をそのままにしておいて規則でそれをやろうということになると、おそらくこれは大問題になると思います。これは後刻もう一ぺん根本的にお互いに研究してみなければならぬと思いますが、きようのところは御注意として申し上げておきます。
#57
○岸最高裁判所説明員 法律と規則、これは新憲法ができて以来学界でもまた実際の分野においても議論されておる非常にむずかしい問題であります。そしてその問題についてそれぞれの説が立つておるのであります。今までの最高裁判所の規則制定の実際をごらんいただけばおわかり願えると思いますが、いろいろの学説、意見が立つにしても、規則によつて被告人の本質的な権利に関する事項をかつてにきめたり、あるいはそれによつて法律を変更したりすることはないのであります。このたびの法案におきまして判決書の簡易化ということで先ほど申し上げた内容のことは、なるほどこの規則によつて旧刑事訴訟法の規定は改正されておりません。しかしこの行き方は新刑事訴訟法が取入れておる規定の通りのものであります。ですから、新法がやつた程度のものは規則でもよかろうというので、こういう案を考えたのであります。そういうわけでありますから、こういう本質的な問題について大きな議論をここでやることはありませんが、規則を制定し、その運用を考えれば、最高裁の規則制定がどういう方向になつておるか、御理解願えると思います。
#58
○鍛冶委員 今新法だつて、三百三十五條に「有罪の言渡をするには、罪となるべき事実、証拠の目標及び法令の適用を示さなければならない。」これもやらなくてもいいことになるのですよ、これができたら……。
#59
○岸最高裁判所説明員 これは旧法の規定を新法の三百三十五條のようにするので、全然省略するという意味ではありません。つまり旧法の規定によりますと、一々その事実を認めた証拠、それから法令の適用も一つ一つやつておつた。非常に法令の適用なんかは事実証拠の説明よりも長い紙数を費す。そういうようなことを新法で改めましたので、この規則もそれを考えたのです。
#60
○鍛冶委員 それにいたしましても、どうも規則をもつて法律をかえるということは、何といつても納得が行きませんが、今日はこの程度にいたします。
#61
○安部委員長 本日はこの程度にとどめて次会は明二日午後一時より開会いたします。
 本日はこれにて散会いたします。
    午後四時二十六分散会
ソース: 国立国会図書館
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