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1950/12/02 第9回国会 衆議院 衆議院会議録情報 第009回国会 法務委員会 第4号
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1950/12/02 第9回国会 衆議院

衆議院会議録情報 第009回国会 法務委員会 第4号

#1
第009回国会 法務委員会 第4号
昭和二十五年十二月二日(土曜日)
    午後一時四十六分開議
 出席委員
   委員長 安部 俊吾君
   理事 田嶋 好文君
      鍛冶 良作君    佐瀬 昌三君
      古島 義英君    牧野 寛索君
      松木  弘君    眞鍋  勝君
      山口 好一君    吉田 省三君
      大西 正男君    石井 繁丸君
      田万 廣文君    上村  進君
      梨木作次郎君    世耕 弘一君
 出席政府委員
        検     事
        (法務府法制意
        見第四局長)  野木 新一君
 委員外の出席者
        参  考  人
        (最高裁判所判
        事)      眞野  毅君
        判     事
        (最高裁判所事
        務総局民事局
        長)      關根 小郷君
        専  門  員 村  教三君
        専  門  員 小木 貞一君
    ―――――――――――――
十二月二日
 委員角田幸吉君辞任につき、その補欠として武
 藤嘉一君が議長の指名で委員に選任された。
    ―――――――――――――
本日の会議に付した事件
 参考人招致に関する件
 裁判所法の一部を改正する法律案(内閣提出第
 一三号)
 刑事訴訟法施行法の一部を改正する法律案(内
 閣提出第一四号)
 民事訴訟法等の一部を改正する法律案(内閣提
 出第一五号)
 裁判所職員の定員に関する法律等の一部を改正
 する法律案(内閣提出第二二号)訴訟費用等臨
 時措置法の一部を改正する法律の一部を改正す
 る法律案(内閣提出第二四号)(予)
    ―――――――――――――
#2
○安部委員長 これより会議を開きます。
 まず昨日に引続きまして、裁判所法の一部を改正する法律案、刑事訴訟法施行法の一部を改正する法律案及び民事訴訟法等の一部を改正する法律案を一括して議題といたしまして質疑を行います。
 なおこの際お諮りいたします。今日の各法案の議題につきまして、最高裁判所より発言の要求があります場合には、国会法第七十二条第一項の規定によりまして、随次これを許したいと思いますが御異議ありませんか。
    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
#3
○安部委員長 御異議なければさようとりはからうことにいたします。
 それではこれより質疑に入ります。質疑は通告順にこれを許します。上村進君。
#4
○上村委員 私は民事訴訟法等の一部を改正する法律案について、一、二点ただしておきたいと思うのですが、まず第一にこの三万円という金の基準を出したその理由、それからして財産権上の訴訟物の価額を三万一千円と見なすというふうにしたその根拠、この点を明らかにしておきたいと思います。
#5
○野木政府委員 まず第一点の五千円を一万円にいたした根拠でありますが、裁判所法制定当時、すなわち昭和二十二年五月ごろに比較いたしますと、わが国の物価事情等は大分変動しまして、ほぼ六倍くらいに当つておる。正確な数字はお手元に差上げておきました資料のうち、二十ページに出しておきましたが、これらの数字を参酌し、なお地方裁判所から簡易裁判所に移る事件の分量なども参酌いたしまして、約三万円にいたしますれば、まあ三割見当の事件が簡易裁判所に移ることになるだろう。そうなりますと地方と簡易との権限の調整も大体相当なところであろう、そういうようなところから勘案して三万円といたした次第であります。
 次に訴訟物の価額を算定することができない訴訟、これは従前も簡易裁判所の管轄権が五千円のころには、簡易裁判所に属せしめないという意味で、地方裁判所の管轄に属する一番下のところをとつておつたわけでありますが、今度その五千円が二万円に上りますので、従前と同様の取扱いで、これは簡易裁判所の管轄に属せしめない、こういうような趣旨でこれも引上げたわけでございます。
#6
○上村委員 そうすると、つまり五千円の当時の物価が六倍くらい上つたから、三万円にするという簡單な理由であるわけですね、よろしゆうございます。
 それからその次は百五十三条の「準備手続ヲ経タル口頭弁論の期日ノ変更ハ已ムコトヲ得サル事由ノ存スル場合ニ非サレハ之ヲ許スコトヲ得ス」というのですが、このやむことを得ざるということは常識でありまして、その説明はむずかしいわけだが、この常識が奥際の場合には申請をする方と許す方で相当摩擦があるのではないかと思うのです。この際このやむことを得ざるということについてもう少し明確な規定にしたらどうかと思いますが、そのやむことを得ざる事由ということについて御説明を願つておきたいと思います。
#7
○野木政府委員 やむことを得ざる事由はどういう場合であるかということについては、御指摘のようになかなかデリケートな問題があると存じますが、要するに立案の趣旨といたしましては、従来口頭弁論及び準備手続における期日の変更は、最初の期日につきましてはその当時者の合意によつて、その後の期日につきましては顯著な事由があれば許されることになつておつて、しかも実際上はその顯著な事由は相当広く解釈されて、期日の変更は寛大に許されておるような状態であつたわけでございます。今度は訴訟の迅速処理をはかりますために、準備手続で十分準備し、口頭弁論は原則として準備手続において十分弁論の準備をした結果において継続的に集中してやりたい、そうして口頭弁論の方は比較的短時日内に終結するようにしたい、そういう見地からいたしまして、口頭弁論の期日の変更は従来通りにたやすく許しておつたのでは、その期日のための当事者の準備がむだになる。また裁判所はその日をむだに費すということになるばかりでなく、他の事件の期日の指定にも影響を及ぼすことになりますので、継続審理ということは実行できないことになるそこで準備手続を経た口頭弁論の期日の変更は、やむことを得ない事由があれば、これを許されるということになつたわけであります。従いまして顯著な事由が存する場合と、やむことを得ざる事由がなければということを比較いたしますと、やむことを得ざる事由という方が少し嚴格になる。そのつもりでこのことを選んだわけでございます。そうしてやむことを得ざる事由というのは、次の百五十三条にも期日ハ已ムコトヲ得サル場合二限リ日曜日其ノ他ノ一般ノ休日ニ之ヲ定ムルコトヲ得」というような場合にも適用せられてあるわけでありまして、従来の顯著なる事由があるという場合よりも少し嚴格である。しかもこの準備手続を経た口頭弁論の最初の期日の変更は、十分当事者双方の意見を聞いて定めるというように運用されているように承知しておりますので、この点は集中審理的方法をとる以上、従来よりもずつと嚴格になるというように御承知置き願いたいと思います。
#8
○上村委員 やむことを得ざる事由というのは、たとえば病気とかそういう顯著なる事由と同じようなものがたくさんあつて、そのことがやむことを得ざる事由になるのですか。たとえばわれわれ国会議員であつて、国会などがあつたときには、結局やむことを得ざることになるのかどうか、私どもそういう場合でもやむことを得ざる事由にしたいと思うことがあるわけです。ですから裁判所で国会なんかはやむことを得ざる事由などにはならぬ、そんなことなら、みな職務を持つておるのだからということでどんどん欠席審理をされて却下されるということになると、代議士の弁護士は相当迷惑をする。ですからやむことを得ざる事由を何とかもう少し具体化することができないかどうか、ここでたとえばこれこれというようなことを政府委員の説明として記録しておいて、争いの場合にはそういうことをはつきりさせておく必要があろうと思いますが、今の御説明ではちよつと納得ができません、もう少し…。
#9
○安部委員長 ただいま本会議があるので、ちよつと休憩いたします。
    午後一時五十八分休憩
     ――――◇―――――
    午後三時五十三分開議
#10
○安部委員長 休憩前にて引続き会議を開き、質疑を続行いたします。上村進君。
#11
○上村委員 先ほど私が質問をして、答えをしてもらうところで切れたと思うのですが、たとえば「已ムコトヲ得サル事由」というのが国会議員である場合に、ちようどその期日に、国会に重要な審議があるから出られないというようなことは、「己ムコトヲ得サル事由」に入るかどうか。それから本人訴訟の場合におきましても、本人は必ず職業を持つております。たとえば官庁の都合とか、あるいは会社の都合で出られないというような場合には、それが「已ムコトヲ得サル」に当るかどうか。これは訴訟を專門にやつている弁護士でも都合があるし、いわんや本人がやる場合には、本人の職務の都合は捨ててしまえといえばそれまでの問題でございますが、そういうものも「已ムコトヲ得サル事由」に入るかどうかということを明確にしていただきたいと思います。
#12
○野木政府委員 今後のやり方といたしましては、準備手続を経た口頭弁論の期日の指定につきましては、指定する前にあらかじめ当事者双方の意見を聞いて指定することにして行く予定になつております。たとえば国会議員で、しかも弁護士であるという方が、ある訴訟事件の弁護を依頼せられまして準備手続をしておつた、準備手続が終了して、さて口頭弁論の期日を指定しようという場合に、ちようど国会が、常会ならばいつから開かれるということが大体わかつておりますから、その期間は常会でどうもぐあいが悪いからということを裁判所に申し出る。また当事者もそれで納得するならば、おそらく裁判所はそれを尊重して、最初の口頭弁論の期日等を定めろということになりますので、最初きめるときは、十分それで尊重されるものと思います。なおその際に副代理人の選任で間に合う場合は、副代理人の選任ということも考慮していただきたいと思いますが、適当な副代理人の選任もないというような場合、しかもその事件は、その国会議員が取扱うのが一番適当であるという場合には、十分裁判所でも尊重すると思います。しかしながら国会議員の弁護士が、今会期中ではあるが、自分はその際何とか都合して出て来よう、そういうことで、国会会期中にまず口頭弁論期日の指定があつた、ところがいよいよ国会を開いてみますと、重要な問題があつて、その弁護士である国会議員が、どうしても国会の方に出なければならない、しかも適当な副代理人を選任する余裕がないという場合には、裁判所へ疏明して行けば、その期日のの変更ということも、やむを得ない事由として許される。立案者としては、その程度のことを考えております。また、たとえば国会の会期が終つた、常会は五月になれば終つているということで、五月に指定しておいてもらつた。ところがその後臨時国会を召集したといつた場合、その場合適当な副代理人の選任をして、刊代理人で間に会うというときには、なるべくその方法をとつて行きたいのでありますが、その事件は、その国会議員である弁護士がやつた方が適当である、しかもそれにかわる副代理人の選任がむずかしい場合には、その事情を疎明して裁判所に申し出れば、やむを得ない事由に該当することになつて、期日の変更ということになるものと思つております。
#13
○上村委員 そうしますと、私は今国会議員の例を引いたけれども、本人訴訟の場合には、本人が議員であるから同じですが、役所に勤めているとか、会社へ勤めておる、こういうことで最初きめた期日に、当事者にやむを得ない弔事ができて出られないということを私は言つているわけです。本人もしくは弁護士の職務上の都合が「已ムコトヲ得サル事由」になるかならないかを聞いておるのですから、今のお答えではちよつとはずれていると思います。
#14
○野木政府委員 たとえば当事者、本人であるような場合を考えますと、本人が裁判所の意見に従つて、それならばよろしいということで、最初の口頭弁論の期日がきまつた、ところがその日の前になつて突然病気になつた、あるいは公訴時効その他の事由で期日に出頭できない、しかも弁護人を雇うことができないという場合にも、やはり「巳ムコトヲ得サル事由」に該当するものと思います。
#15
○上村委員 そうするとこの「已ムコトヲ得サル事由」という言葉は非常に意味深長な言葉ですが、相当の理由あるいは正当の理由、もしくは十分の理由というような意味合いと同じように考えてよろしいかどうかということを確かめておきたいと思います。その点の御説明を願います。
#16
○野木政府委員 問題がこまかくなりまして非常にデリケートな点になつて参りましたが、「正当な理由」ということと「已ムコトヲ得サル事由」では、やはり「已ムコトヲ得サル事由」という方が、気持の上ではやや厳格ではないかというように考えておりますが、さて具体的の場合にはどうするかといいますと、具体的事件の場合々々について判断して行くことになろうと存じます。
#17
○上村委員 そうすると、「巳ムコトヲ得サル事由」というふうにしないで、相当の理由とか、正当の理由の存する場合にあらざればというふうに訂正されるお気持はないですか。その方がかどが立たないで、しかも弁護士でも本人でも正当の理由なくして期日を延期するというようなことはめつたにないわけでありますから、そういうふうなことに直した方が、これはかえつて訴訟の進行を円満ならしめる、そしてしかも延期策をするとか、あるいはいたずらに訴訟を遅延せしめるということを防止することには十分じやないかと思うのですが、その点御意見を承つておきたい。
#18
○野木政府委員 現在の法文におきましても、懸著なる事由の存せざるときは、当事者の合意ある場合においては口頭弁論における最初の期日の変更も許すというように、顯著なる事由というふうな文字も使つておりますが、これは先ほど申し上げたように非常にルーズになつて運用されて来ておりますので、これを締める意味には、やむことを得ざる事由というような言葉を使つた方がやはり適切ではないか、そう思つておる次第でございます。
#19
○古島委員 ただいまの政府委員の説明では、疏明書をつけて出せというお話でしたが、今の上村君のように、新潟におる、新潟におつて国会開会中であつて、しかも自分が出なければいかぬというような疏明は、事務総長から出た疏明でなければいかぬことになりますか。
#20
○野木政府委員 その点は別に将来裁判所の規則でこまかに細則でもきめれば別問題でありますが、おそらくそこまでの必要はなくて、裁判所が一応それで信用が置けるという程度の疏明であればよろしいのではないかと存じます。
#21
○古島委員 裁判所が認めればいいと思うというのだが、その疏明は、自分で勤めておる会社とか、自分で行つておる国会であるとかいうところの疏明でなくんばこれはいかぬことになる。ただ国会でこういうふうな仕事をしておるのだから、きようは都合が悪いという疏明では、これは裁判所はむろん認めないと思う。しからば自分で勤めておる会社なり、もしくは自分で行つておる国会の方の疏明ということになれば、越後から東京まで出て参つて、そうして疏明をとつてなくんば越後の裁判所に疏明は出せないということになつて、結局はこのやむことを得ざる事由ということに対して、やむを得ないのではないということで、いつも延期ができないということになると思います。
#22
○野木政府委員 たとえば常会のような場合でありますと、あらかじめいつから国会が開かれるということがわかつておりますので、それを考慮に入れて期日がきめられる。そして常会中でも都合をつけて裁判所に出頭して行くという意味合いで、常会の期間中に期日をきめてもらつた、ところが東京へ来ておりますと、いろいろのむずかしい問題が生じて、どうも国会の方が手離せない。しかもその事件はその国会議員である弁護士がやられたのが適切で、副代理人にも適当な人がないという場合には、東京におりますので、おつしやつたような疏明をとるということも比較的簡單に行くのではないかと存じますが、いかがでございましよう。
#23
○古島委員 いかがでございましようと私に聞かれても困る。実際問題として、今上村君は実際問題だけを言つておるようですが、疏明をとるのに、その疏明はどういうところに疏明させるか。そうしてあなたの方は副代理人を選任するのは適当でない、その弁護士かやることが適当であるということをお考えであるが、これはだれが適当か適当でないかきめるかといえば、依頼者である。依頼者がその人に依頼したのであるから、副代理人を頼むことはまことに迷惑である。いつでも依頼を受けた弁護士がやらなければならぬと思う。あなたの言葉をかりて言えば、弁護士を雇うというようなことを言われたが、雇うという言葉は不都合な言葉である。その依頼を受けた弁護士が適当なりと言われて依頼されたのだから、副代理人を頼む場合には、本人の同意を得るか、もしくは本人にあらかじめ示しておかなければ副代理人を頼むということはできない。そういう場合だつたら、いつでもやむを得ない事由ということが起つて来るのだが、しかも国会開会中ということは公知の事実である。国会開会中の場合は全部についてそういう問題が起つて来るが、国会開会中でもその日その日に疏明を出さなければならぬのか、それとも国会開会中ということは公知の事実だから、疏明を裁判所に出さぬでもいいのか、その点お聞きしたい。
#24
○野木政府委員 まず大前提といたしまして、期日をきめる前に、今後の行き方といたしましては、裁判所はそれぞれの弁護士がついておる場合には、原告、被告の弁護士の意見を聞いてきめる。ところが、一方の弁護士の方がたまたま国会議員を兼ねておられて、しかも依頼者から非常に信頼されておつて、事件も副代理人では適切でないというような場合には、まだ期日がきまつておるわけでありませんから、裁判所が国会の会期中に期日を入れようといたしましたら、それは国会の会期中で、どうも国会の方が非常にあれだから、国会の会期日に期日を入れてくれるなということで、当事者も納得するならば、おそらく裁判所は国会の会期中には期日を入れないで、その以外のところに期日を指定するということになろうかと存じます。ところが、当事者の方で、その弁護人の方で、国会開会中であるが、自分としては一日か二日、あるいはそのころならば、今のところでは大体国会に賜暇を願うなり、何なりしてやつて来られるということであれば、一応その日に入れてくれてよろしいということを承諾をして、期日を指定してもらつた、ところが、国会へ来て、いざ開かれて見ると、非常に重要な問題が山積して、国会議員としての職責を果すためにどうしてもその日に裁判所に行けなくなつてしまつた、しかも適切な副代理人も得られない、事件の性質上どうしてもその国会議員である弁護士がそれを担当した方がいいという場合は、やはりその後の事情の変更でありまして、ここに言うやむことを得ざる事由ということに該当するものと解してさしつかえないのではないかと存ずる次第であります。
#25
○古島委員 そこでだんだんわからなくなるのです。国会開会中で、その議員が出ねばならぬということが起つて来た場合には、それまでやむことを得ざる事由だということになるが、その議員が出ればならぬということは何人が知るかといえば、それはこつちの事務局へでも来て疏明をとらねばできぬことです。そうすると、疏明をとるということが非常に困難だと思うのですが、そういう場合には疏明をつけなくても、国会開会中は常にやむを得ざる事旧だということに解釈できぬか。もしできるというならば、この改正案が訴訟を促進するための改正だということならば、百五十日間の国会開会中であるから、百五十日向うに延期するということになれば、促進にはならぬと思う。また国会開会中であつても、それは一々疏明を必要とするということになれば、その疏明がとれないということになるが、これはどういうふうに解釈したらよろしいか。
#26
○野木政府委員 国会議員としての重要な職責とまた弁護人として被告人の人権を保護する、被告人の権利を擁護するというような重要な仕事がかち合うことになりまして、まことにむずかしい問題になるわけでありますが、この立案の趣旨といたしましては、單に国会の会期中というだけですぐにやむことを得ざる事由になるかというと、それだけでは、やはりおつしやつたように、たとえば被告人が国会議員である弁護士に事件を依頼すれば、国会会期中の百五十日だけはその期日を延ばせる、原告の方の理由が非常にはつきりしている場合でも延ばせるといつて、今度は原告の方の権利の伸張に非常に欠けるということにもなりますので、やはりそこは両方の調和になりますので、あらかじめ期日を指定する際によろしく裁判所なり相手方の当事表にも希望を述べまして、国会会期中を避けて期日を指定する。しかしまた別に国会会期中でも何とか都合して出られるということで期日を指定したならば、それはそれを尊重していただきたい。しかしまた一応そうきめたとしても、その後の事情の変化によつて、どうしても国会の方に重要な案件があつたりして、しかも副代理人の選任をすることを講じ得ないというような場合には、それはやはり両方の調和をとる意味で、このやむを得ない場合に該当するというように解すれば、両者の調和、バランスがとれ、訴訟の促進にも役立ち、また国会議員であり弁護士である方の国会議員としての職責も十分果せる、まず両者調和して運用できるのではないか、そう信じておるわけであります。
#27
○古島委員 結局そういたしますと、裁判所と交渉してやれということになつてしまうわけであります。裁判所と交渉してやれというならば、こういうふうな條項を置く必要はないと思う。従来からもかつてに裁判所と交渉して、裁判所がなるほどよかろうというので、延期の許可を與えればそれでいいのですから、別にこういうふうな條項を置かぬでも同様なことではないか。一々こうすれば、権利として延期ができる。これは疏明書をつけるのでありますから、当然延期できる。ところが、疏明書も何もなくて、ただ都合が悪いからといつて、交渉して裁判所の許可を受けるということになれば、なるほど両方の顔も立つことにはなるが、その顔を立てることをせずに、こつちは当然そういう疏明があれば延期ができるということで行かなければならぬのじやないか。一々交渉してやるというならば、こんな條項は置く必要はないと思うが、いかがですか。
#28
○野木政府委員 立案の趣旨といたしましては、今までよりも期日の変更を厳格にしようという趣旨でございまして、国会議員であり弁護士であられる方の国会議員としての職責の遂行と、弁護士としての、私権擁護、人権擁護という意味の職責の遂行との関係で、調和点といたしましては、やむことを得ざるという解釈論といたしましては、先ほどからるる申し述べておりますように、やはり国会会期中であるという、軍にそれだけでこういうやむことを得ざる事由に、あたるというように言つてしまうと、この法案の立案の趣旨にやや遠ざかるのではないかと存ずる次第であります。
#29
○鍛冶委員 これはずいぶんデリケートな問題ですが、もう一つ私は疑問に思うのは、今の点ですが、よくある問題でして、和解が成立しそうだから延ばしてもらいたいというときに、正当の理由と認めますか、いかがですか。やむことを得ざる事由と認めますか、いかがですか。
#30
○野木政府委員 今後の訴訟のやり方といたしましては、準備手続で十分論点を整理し、また和解などの機会があれば、準備手続で十分考える。どうしても和解できないというような場合には、論点を整理して行つて、それに対する証人を、この点にはこういう証人があるということを両方から申し出ておきまして、それで裁判所は、それならばこの事件は、たとえば打合せ後十日、十二日、十三日、十五日、この四日間に調べる。第一日にはこういう証人を呼ぶ、第二日、第三日にはこういう証人ということで、ずつと公判が開かれましたら、そういうふうに連続して開廷して、そこで勝ち負けを決するということになりますので、今までのように、途中で和解になるというような問題が起ることは、このやり方では今後はあまり予想していない。むしろ和解というようなものは準備手続を十分丹念にやつて、そこで和解のチャンスを見る。公判になつたならば、むしろもう法律的に判断して行くという点に重点を置いて運用されて行く、そういうふうなねらいを持つております。
#31
○鍛冶委員 これは実際訴訟をやつてみたら、そんなことはない。準備手続でやつて、いよいよ公判が始まろうというときに、証人をたくさん呼んで手数をかけるよりも、どうだひとつ和解しようじやないかという話が出るのが当然であります。われわれも長いことやつておつて、どうもこつちができるというのに、あなたできぬと言われるのは何ごとだということを言つたことがあるのですが、一体訴訟の促進ということを言われますが、根本的のわれわれの考えは、訴訟というのは紛議をなからしめるものだと考えておる、勝ち負けの判断をするというのが目的ではない。紛議がどうしても治まらないから勝ち負けの判断をするのであつて、紛議の治まらないのが目的ではないと考える。それを今当事者が和解できそうだから、待つてくださいと言う。いや和解はできぬ、勝ち負けの判断をしなければならぬというのでは、これは根本的な食い違いがある。これは私は今に始つた問題ではなくて、昔から考えている私の思想なんですが、これはこの機会に将来に対する裁判所の態度にも大きな影響かあると思うから、明確にしておきたいと思います。
#32
○野木政府委員 ただ真に当事者双方が和解するという話で、双方から期日の変更の申出をするという場合でも、全部がただちにこれに該当するかどうかという点につきましては、今後の運用としてはそういう運用を考えておらなかつたわけでありますが、なお研究してお答えいたしたいと思います。
#33
○安部委員長 ちよつとお諮りいたします。他に発言通告者が数人おりますので、関連質問はつとめて簡單にされまして、通告者の発言が済んでから別に御発言願つてはいかがかと思います。お了承願います。
 なおこの際、昨日提案理由の説明を終りました裁判所職員の定員に関する法律等の一部を改正する法律案、訴訟費用等臨時措置法の一部を改正する法律の一部を改正する法律案をも議題に供し、質疑に入ることにいたします。世耕弘一君。
#34
○世耕委員 私はごく総論的に二、三点お尋ねいたしたいと思うのであります。
 それはまず第一に、裁判所の文化的施設、言葉をかえて言えば、機械化ということについて裁判所は何か考えておられるかどうか。一例を申しますれば、裁判の記録等は速記によつて迅速をはかる必要があるが、最近は私の大学でも試みておりますが、録音機の使用であります。これはワイヤとテープの両方ありますけれども、一時間くらいの話は自由にとることができる。そして五十回くらいの複製ができる。不必要であればすぐ次の話を吹き込みさへすれば消えてしまう、石盤のような能力を持ち、しかもきわめて能率的であり、文化的なのです。こういう点を大いに活用なさると、今日問題になつておる訴訟の事務の促進と、係官の能力の冗費が非常に省かれるのではないか。昨日の政府委員の御答弁の中にアメリカの事務その他の取扱い、並びに今申し上げたような機械化問題が取扱われたようでありますが、日本の今日の経済から見て、ただちに飛躍的なそういうことは、慣習その他の関係上不可能かと思いますが、何かそこに新たな新機軸が考えられなくちやならぬはずだと思います。この点について一応御説明願いたいと思うのであります。
#35
○野木政府委員 政府側といたしまして、裁判所事務当局から聞いておりますところによりますと、最高裁判所の事務当局の側におきましても、御指摘のような点をやはり同じように考えまして、いろいろ創意くふうを考えておるようであります。詳細は裁判所の方から御説明願いたいと思います。
#36
○關根最高裁判所説明員 ただいまお話の点でございますが、まことにおつしやる通りでございまして、裁判所の文化的施設をよくするということは、とりもなおさず訴訟の処理を早くするということになるわけでございまして、特に調書の作成等におきまして、非常に日時を要します関係から、従つて次回期日も延びる、あるいはまた裁判調書の作成も延びるといつた結果か出ておりますので、調書を何とか機械化して行つたらどうか。ただいまお話のありました録音機の使用ということも実は考えておるわけでありまして、予算の面におきましても、要求をいたし、来年度におきましては、各裁判所に録音機を備えつけ、そうして録音機を使いまして出て参りましたその結果を調書の作成にかえるというところまで、できれば行きたいという考えでおります。それからなお機械化と申しますと、機械自体ではございませんけれども、御承知の速記者の利用、これも実は訴訟法におきまして、すでに裁判所で速記をつけることができるということになつておりますし、当事者の側から、連れて来た速記者を使うということを申し出た場合に、それを許すことにいたしまして、速記者がつくりました書面、普通文字に書きかえました書面も、よければそれを調書の一部にするというところまで進んだら一番いいのではないか、そういつたように、運用の面ではいろいろ考えております。お話の点まことにごもつともでございまして、われわれ全面的に賛成どころか、その趣旨で進んでおります。また予算の面などでは、いろいろ国会側のごやつかいを仰ぐことになろうかと思います。
#37
○世耕委員 なおもう一つお尋ねをしておきたいことは、訴訟準備に対する用意が、従来の行き方をもう少し改良すれば、時間の節約ができるのじやないかという点が感じられるのであります。たとえば、訴訟の始まるまでの準備行為、双方の弁護士が交渉するとか、あるいはそれを文書にするとか、そういうようなことで次第に訴訟の価値を見出して来て、最後に明快な判断を下す、その準備ということについて、従来の外国の例等から見まして、かなり遅れていはしないか。なぜそういうことを感じるかというと、私は最近証人に呼ばれて、数回実際にぶつかつてそれを痛感いたしました。おそらく多年御経験になつておられる政府側の諸公は、そういう点についての何か新しいお考えが当然お持ち合せにならなくちやならぬはずだ。その理由は、この重要な法律案を御提出になる趣旨も、多くはいかにして能率化し、簡易化してそうして正当な裁判をすみやかにしようというところに観点かあるようでございますから、この点について御説明願いたい。
 もう一点、交通地獄だと、繁忙な事務を取扱つて、押され踏まれながら家庭に帰り、朝はまた押され踏まれながら裁判所に来て、それでもう半分能力がつぶれてしまう。こういうようなことも、あまりたくさんの予算を要しないで改良して行く方法があるのじやないか。それはすなわち自動車等、いわゆる文化的な乘物をいい方法で活用する。幸いに最近は衆議院、参議院等も自動車の活用がかなり能率的になりました。この点についてもおのずから考案さるべきものじやないか、かように考えるのであります。この点はいかがですか。
#38
○關根最高裁判所説明員 ただいまのお話は、戰争で申しますと、戰いを始める前に書面審理でやつたらどうかというお話かと思います。これは実は民事の関係で申し上げますと、訴えが出まして、訴状が裁利所に提出になりますと、その訴状を被告側に送達する、そのときに、できればなるべく早く答弁書を出してくれということをつけてやりまして、答弁書が出まして、そして書面審理でうまいぐあいにお互いの争点が整理されれば、これが一番いいわけであります。そこで実はそういつた方法に行きまして、準備がお互いの書面どうしてできてしまえば、もう準備手続をするまでもなく、口頭弁論に行つてしまう。そういうぐあいになれば一番理想的でございます。それにはどうしても当事者の方で書面を出す用意が必要なので、それに対する、また書面をつくるに必要な調査が必要である。そういうことになりまして、実際上当事者の方の御協力を得ないとなかなかうまく行かないということはございますが、なるべくそういつた方向に行きたいという考えでおるのでございます。
 それからなおもう一つ、あまり予算のかからない方法で文化的な機関を利用したらどうか。これも今の日本の経済状態から申しまして、むやみやたらなぜいたくなことはできかねますけれども、できれば自動車の利用などは、お説の通り、考えられるわけでございます。戰前まだそう窮迫しない時代におきまして、記録を運ぶ自動車などは、東京などにおきましては、全部役所の自動車で運んでくれました。かなり記録が厚くなり、しかも事件が相当入つておりますと、その日の記録を前の日にその裁判長が見る必要がある。そのために記録を持ち運ぶのにかなり大きなふろしき包みになります。それを自分で持ち歩くということは非常に困難もありますし、交通が込んで参りますと、やはりその記録の紛失のことなどもある。そういうことから、自動車で運んでおりました。ただいままだそこまで行つておりません。奥は遠くから通つておる方もありますので、そこまで言つておりませんが、たとえば新宿なりあるいは澁谷なり、東京を例にとりますと、そこからおいでになる裁判官に一様に乘合自動車を用意する、そういつたことは考えておりまして、実は実行に移しております。これができて、また記録なども自分が持運びしなくていいようになりますればなお一層いいわけであります。そういうことは今後ますますお話の通り進めたいと考えております。
#39
○世耕委員 なお最後に一点お尋ねいたしたいのは、証人の尋問等でかなり時間を食うように私は察するのでありますが、ある場合においては書面で回答するとかいう方法はとられないものでございましようか。そうしてその書面で不十分な場合に、あらためて法廷に来させるという行き方も一つの方法ではないかと思います。あるいは従来やつておられたかもしれませんが、私の経験した範囲では、書面で十分いいものを、半日も一日もひつばりまわされるという点が多かつたのであります。この点最後に一点だけ伺つておきたい。
 それからもう一つは、今の録音機の使用でございますが、これは使用の方法によつては非常に能率が上るということで、しかも操作がきわめて簡單である、ほとんど各自の持つておる自宅のラジオのダイヤルをまわすだけの能力がありさえすれば、活用できる。証人調べとかあるいはその他の方法に用いる場合でも非常に効果的であり、しかも安くて、私の方で手に入れたのはアメリカで百ドルといいましたが、最新式のものであります。日本において十万円もかければ、おそらく五、六人の判事さんの仕事がほとんど要約されるのではないかとまで、私は過大的に考えておるのであります。この活用をぜひ積極的に御活用願いたいということを希望しておきます。
#40
○關根最高裁判所説明員 今最初にお話のございました証人を呼ばずして、書面でかえることはいかがかというお話かと思いますが、実はこれは現在の訴訟法におきましても、簡易裁判所におきましては尋問事項を証人のところに送りまして、来なくてもいいから、証言にかえてよろしいという制度がございます。これは実はあまり利用されておりませんが、今お話の趣旨に従いまして、証人が非常に信用できる方などにつきましては考えられ得るわけでございます。ただこの制度につきましての難点は、ただいまの新しい憲法になりましてからは、証人尋問というのは裁判所が尋問するのではなくして、当事者が尋問する、原告なりあるいは被告なり、あるいは検察官なり弁護人なりの方が証人を尋問するのを、裁判所か上から見るという行き方になつております。従いまして、両方が一人の証人を尋問して、正しい答えを得たいということになつておりますので、証言にかえて書面でやりますと、一方的になるわけでありまして、その点の困難かございます。それで実はお話の簡易裁判所に現在ございます簡易の手続を地方裁判所の手続にも広げようかという議論もございましたけれども、いろいろまだ研究の余地があるというので、今研究途上にあるわけでございます。それからなおそれに関連いたしまして、わざわざ裁判所の法廷まで来なくても、少くとも弁護士の方が証人に尋問する、あるいはほかのところで尋問して、その調書をとつて――証言調書と申しますが、それを書証に出していいではないかということは考えられます。この制度はアメリカなどにおきましても証言調書、あるいは宣誓口供書と申しまして、そういう制度があるようでございます。実はそういつた制度は至急に研究いたしまして、もしいいとなりますれば、やはり立法化の手続をとつていただいて制定したいという考えでおります。
 それから録音機の使用につきましては、先ほど申し上げましたようにまつたく同感でございまして、今後予算の許す限りにおいて利用して参りたい、こういう考えでおります。
#41
○安部委員長 この際お諮りいたします。訴訟促進に関する法律案は、当委員会といたしましては愼重に審議する必要を認められる法律案でありまするか、ついてはこの際、本法案に関連し、椴高裁判所判事眞野毅君に、米国における訴訟促進に関する実況について、参考人としてその御意見をお聞きし、当委員会の審査の参考にしたいと思いますが、御異議ありませんか。
    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
#42
○安部委員長 御異議なしと認めまして、その通りに決します。眞野毅君、
#43
○眞野参考人 訴訟促進をアメリカがどうやつているかということについて話をしろということでありますが、私どもがアメリカへ参りましたときには、公にスケジユールができておりまして、そのスケジユールによつて行動をするということでありますが、少くとも私の眼から見ますと、このスケジユールは完全なものでない、われわれの使命を達する上からいうと、相当の欠陥があるというので、われわれの使命、すなわちアメリカにおける司法制度の実際の動きを研究して、日本の司法制度改革に資するという唯一の目的から見ますると、もう少し裁判所に頻繁に行き、もう少し裁判の経験のあるジャツジ、ローヤーという人々から経験を聞く、質問をするという機会があればよろしかつたのでありますが、はなはだ、そういうことが、極端に申せば上すべりをしているような点が相当あるのでありまして、たとえて申しますれば、ワシントンにおきまして、カソリツクの大学に行く、そこで一時間半なら一時間半いろいろ講義を聞く。講義を聞くのでありますが、その講義をしてくれることがわれわれのまつたく知らぬことで、非常な経験に基く講義であるならば、これは有益であるかもしれませんが、單なる理論的のことならば、われわれが日本におるうちにアメリカ研究を相当いたしておりますから、もう十分知り拔いたことを、そのあらましを講義するというようなことでは、何ら得るところがない点があるわけであります。われわれが四十七日の間、きわめて短期間の間に、なる時を稼いでいろいろ調査をするという方面から見れば、非常に不完全なる点がありまして、十分なる成果を上げることは非常に困難な方法でありましたが、われわれも努めて公のスケジユールに従つて行動をするとともに、その以外においてわれわれが調査し、研究したり質問したりするチヤンスを求めました。そちらの方が非常に役に立つ、ただ表通りを素通りしたのじや何にもならない、かば焼き屋の前を走つたつてお腹は張らないというのと同じように、われわれが裁判所のいろいろな種類の人にいろいろな方面から質問をする、一たび質問をすると、甲の人はこう答える。翌日また同じ質問を試みると、また次の人が別のことを答える。そういうこともありますから、よほど愼重にやらぬと、軽率にやると非常な間違いを日本に伝える、間違つたことからいろいろな判断を下すということに相なるわけでありまして、私個人の考えから申しますれば、もつと裁判の実地について見学し、研究し、質問し、経験のある人々と談話をかわす機会の多いことが必要であると考えております。これはここで私が申し上げるばかりでなく、われわれが最後の視察を終えてシヤトルから日本に帰る前にアメリカ滯在四十七日の間のことについて忌憚なく批判をし、将来のためにサゼスチヨンを與えてもらいたいということでありましたから、私はそのことをはつきり書いて参りました。そういうようなあわただしい中に、不完全なスケジユールのもとに行動いたしたいのでありますから、いろいろな問題について徹底しないうらみはありますが、日本の裁判が非常に遅れておるということを一部の人が言いますか、裁判が遅れるということは、單に裁判官がなまけておるとかいうことではなく、戰争後非常に事件がふえた、そしていろいろむずかしい事件がある。法律もかわつた、憲法もかわつた、そういうかわつた法律を適用する裁判官は非常に従来より苦しい。従来の裁判官は四十年も五十年も伝統のある判例に従つて行動すればよかつたのでありますが、法律がかわつた、判例はない、判例を探すのに骨が折れるというような状態のもとに事件を処理するのでありますから、非常に裁判官が苦しんでおる。一つの事件のためにどのくらい裁判官が苦しんでおるかわからぬような事件もあるくらいでありまして、日本の裁判官が決して怠慢であるために裁判が遅れるのではなく、事件がふえたということと、憲法その他の法律制度がかわつたということ、それから戰後の生活状態が不十分であるというような、いろいろの要素からこうなつて来ております。アメリカに参りますと、そういう点は非常にうらやましい。物資豊富、設備は非常にゆたかである。法廷も広いし、判事の部屋も十分広くとつてある。各判事の部屋にはみなりつぱな書だながあつて、立つて行けばすぐとれる。大体地方裁判所の判事でこの委員室くらいの部屋におります。そしてまわりに書だながたくさんあつて、ぎつしり書物が詰まつておる。一地方裁判所の判事でもそうであります。最高裁判所の判事は別としまして、地方裁判所の判事の物的の設備がいいというばかりでなく、人的の、助ける手足が完全に整つておる。たとえばワシントンの地方裁判所の判事一人にロー・クラークという、日本で申しますと、最高裁判所の調査官に該当するようなもの、いろいろな法律の点について取調べを裁判官から命ぜられるとやる、ロー・クラークというものが一人ついております。それからタイプライターを打つ人間が一人ついておる。それから女の秘書が一人ついておる。そのほかにメツセンジヤーとして使い走りをするボーイのようなものがかついております。
 それからマーシヤルという、日本で申しますと、廷丁という言葉では十分表現することはできないが、マーシヤルの権限は相当広く、弁護士の資格を持つておるようなものがマーシヤルをやつていることもあります。そういうように一人の地方裁判所の判事にもそれだけの部屋の設備と、書物、人間のロー・クラーク、タイプライターを打つ人、秘書の女、メツセンジヤー、マーシヤル、これが地方裁判所の各判事にみなついている。判事が仕事をやる上において非常に能率的にやり得る物的、人的の設備が完備している。先ほどもどなたかからお話がありましたが、ステノグラフアーといいますか、録音機――録音機でも向うには高いのも安いのもありまして、私が見ましたのはハーヴアード大学の法科の副部長の家へ招待を受けて行つたときに、おもしろいものがあるからといつて見せてもらいましたが、それは向うではステノグラフアーと言わぬで、エレクトリツク・ヴオイス・ライター、電気で声を書くものであります。それはこのくらいの黒い色をした円筒でありまして、しやべるとこれがまわる。スイツチをちよつとひねりかえると発音をする。それで教授あたりが講義の原稿をつくりたいようなときは、それにしやべつて書いて、学校へ行つたときに秘書の女に渡すと、タイプライターで打つて原稿として目で見えるものになる。そういうものがあります。参考のために、いやしい話かもしれませんが、値段を聞きましたら百七十五ドルと申しました。それからシヤトルのボーグル、ボーグル・エンド・ゲーツという弁護士事務所、三十四人ばかり弁護士がおつて、タイプライターだけでも十二名使つている相当の事務所であります。そこにはそれとちよつと形式のかわつた、やはり吹き込むものでありますが、これは幾らするのだと聞いたら、三百ドルと申しておりましたしとにかくそのくらい出すとそういうものがあつて、すぐに自分の言つたことが聞える。日本でも近ごろそういうものを研究して、何か細い写真のフイルムのようなものに打つもので、GHQでやるからひとつ吹き込めということで、われわれアメリカへ行く前に吹き込んだが、うまく行かないのでこれは失敗でしたが、とにかく向うのはそれと違つて、こういう筒のようなもので、それへ言つたことが記載されるということで、非常に便利な機械であります。
 そういうわけでありまして、かりに事件が起きますとすぐ相手方に通知をします。そうして相子方に、たとえばワシントンでやつているような例で申しますと、被告の側の方に二十日以内に答弁書を出させる。答弁書が出て来ますと、原告側の書面、被告側の答弁書というようなものが、ある一定の職責を持つた機関のところに来る、これはワシントンではアサインメント・コミツシヨナー、つまり事件を割当てる委員といういうな言葉に当るわけでありますが、そこには四、五名の人がおりましたが、それはみんな女ばかりであります、その女が、地方裁判所の所長であろうと普通の判事であろうと、みな同じに割振つているようであります。それで日本でカレンダー・システムとか日程表とかいうようなことが言われておりますが、向うではそれに判事がちつとも関係しないで、アサインメント・コミツシヨナーが、しかもそれが女だけですが、そこで大体見当をつけて期日をきめろ。そして事件は進んで行くようにする、こういう仕組みになつております。刑事のことは岸さんがよく調べておりますから、刑事のことは岸さんにあとでしやべつていただいてもいいと思いますが、民事の方でわれわれが初めからしまいまで見た事件があります。つまり期日がきめられて、それから法廷の審理が始まる。それは都会ではなくワイオミングという州のシヤイアンという小さな首府ではありますが、そこの裁判所を見たときには、初めからしまいまで見ました。その事件はどういう事件かと申しますと、民事の事件で損害賠償です。女が自動車で、男がやつて来る四つつじのところへやつて来て、そうして左へ曲つた、男はこつちの方から自動車を運転して来た、そしてこの曲つたやつと衝突して自動車がこわれ、それから女もけがした。原告は男でありましたが、男から損害賠償の請求が出た、そうすると女の側からはまた反訴した、まあこういう事件であります。その事件では証人として原告である男の自動車を運転した人も証人に出ましたし、それから被告の側としてはその女の自動車を運転した人も出ました。それからまたその衝突した場所でその当時ほかの自動車を運転していた人も証人に出る。それからその当時調べた、日本でいつたら巡査ですか、そういうものも証人に出ました。そうして日本の裁判所の法廷ではあんなのろくさくやらぬと思いますが、やはり原告、被告の弁護士が同じようなことを質問をして、四時間か五時聞くらいかかつたのですが、われわれの見るところでは簡單だと思うのですが、結局これは女の方が悪いんだという印象が少くとも私には感じられました。また私と同じような感じを持つた人がほかにもありましたが、結局反訴のつまり被告の方が勝つて、反訴の請求がある程度認められ、そこで裁判所ではすぐにそういうことを審理が終つたときに言いました。そしてアメリカの人に聞きますと、判決文は書かなくてもあのままで終ることもあるんだ、それではどう始末して行きますかというと、ただ日本のように判決を書いて、判決の理由を書いてというんじやなく、向うは記録だけは詳しくとります。たとえば先ほども申しましたように、証人がしやべる、それから証人として証人台に立つたときには記録が速記されます、あるいはタイプライターのようなもので速記される。そしてそれが印刷されて記録になるわけですから、その記録は完全に行くけれども、裁判所の構成がどうだとか何だということはあまりやかましくなく、判決文にそう一一理由を書かぬで終りになる。これは各州によつて違うわけでありますから一概には申せませんかもしれませんけれども、私どもの見たシヤイアンの州の地方裁判所ではそのときに言い渡しのようなことを言つておりましたしそれですぐにきまりがついておる。それからそれよりもつと手つ取り早いのは、これはもちろんスケジユールにないところでありますが、皆さんも御存じのナイト・コート、夜の裁判所というものがどういうふうにやつているかということをかねがね疑問にいたしておりましたから、きわめて簡單にやるということを聞きましたから――始まるのは八時か八時半くらいですが、晩飯を近いところで食べてそこへ参りました。そうすると、もう片つぱしから判事がちよつと聞いてすぐに始末をつけて行く。そのナイト・コートは四時か四時半過ぎに起きた事件を、つまり警察へ四時半過ぎに来たような事件を始末をする。その日のことをその日に片づけるというくらいに手つ取り早い。たとえば罰金二ドルとか二ドル半とか三ドルとかいうようなことを言つておる。その場合に、相当りつばな服裝をした紳士が法廷をうろついている。ちようどここが裁判長の位置としますと、その辺のところをうろついている。何をやつているのかと思つて、あれは法廷のどういう役をやるのかということを聞きましたら、つまり金を貸す人、罰金が足りないとか保釈金が足りないとかいうときに貸す。そういう何か目ぼしい取引をしている。証文か何かとつて、その場で貸してしまう。そうするとその場で罰金を納め、保釈金のようなものを納めて保釈をされるというようにきわめて簡單で、われわれから見ろとちよつとこつけいに近いような感がいたします。それでは法廷の威信も何もないように思われるのですが、とにかく事件を片づけるということから言うと、相当そういう手続によつて片づいて行つております。二ドルや三ドルの金はたいてい持つていて拂いますが、ある事件で常習賭博のような者が二、三人ひつぱられておりましたが、そのときに二百九十ドル近い罰金をかけられて、その人からちよこちよこと金を借りて拂つて行く、そういうことできわめて即座に片づいて行くのであります。
 それから訴訟でも大体弁護士が民事なら原告と被告の弁護士がお互いにやり合うだけで判事はあまりやらない、ただ弁護士同士の中から、判事に対して片方の言うことがいけないと異議を出す、そうすると判事はその異議は理由ありとか、理由なしとかいうことで、はつきりとてきぱきと片づける。そういうことは即座に判断して行くのです。まあそういうことによつて非常に審理が早く行く。われわれが接触しました多くの判事は頭の毛がはげているか、あるいは向い毛の相当の年齢の人であつて、これは若いと思うような判事はきわめてまれでありましたが、ただシヤイアンのボリース・コートには三十一、二と思うような若い判事がおりましたが、他ではみな年とつた五十五、六から六十歳くらいの人ばかりでありました。連邦の裁判所は停年制がありませんから、連邦の裁判所では非常に長く勤めている。私どもが会いました判事の中で、一番年とつた人は八十のラーネツド・ハンドという判事で、この判事はわれわれがニユーヨークに着いた翌日のカクテル・パーテイで、アメリカの人が、あの判事は今八十だけれども、あれが今のアメリカにおける一番えらい判事だと言つて、弁護士会の人だとかその他の人で特に注意をしてくれた人が五、六人ありました、それで特にスケジユールにはありませんでしたが、法廷を見学するばかりでなく、個人的にも会つていろいろ話をしてみましたが、やはりわれわれの印象に残つているうちでは、やはりこの判事はえらそうな判事だなということが今でも残つております。それで晝休みにちよつとその判事さんをスケツチして来ましたが、こういう顔をしております。この中にたくさんいろいろの顔を描いて来ましたが、この人はえらいから描いてやれというので五、六分で描いたから十分でありませんが、そのうちに色紙にりつぱなものを描いて向うへ送つてやろうと思つておりますが、もう少しひまがあればやりたいと思つております。それから色を塗るのを失敗しましたが、アメリカで今非常に有名な判事でメヂーナという共産党の十一人を裁判した判事――上村君や梨木君はこれを知つているだろうが、この顔は少し赤過ぎるけれども非常に赤い顔をしている人です。この人はちようど私と同じように三十四、五年間弁護士をやつている。それから連邦の地方裁判所の判事になつてからちようど三年あまり、私とはほとんど経歴が似ておりますが、年は私より二つ若い六十だと言つておりましたが、非常に元気がよく赤ら顏をしている人です。この人と三時間ばかりいろいろ話をしました。
 まだいろいろ申し上げたいことはいくらもありますが、別にまとまつたことをお話しようと思つて参つておりませんから、一応委員会をお閉じ願つて、懇談会の形式でお願いできたらけつこうだと思います。
#44
○安部委員長 それでは参考人の御意見の聽取はこれをもつて終ることといたします。御多忙のところをまことにありがとうございました。
 それでは本日はこの程度にとどめまして、明後四日午前十時開会することにいたします。本日はこれにて散会することにいたします。
    午後五時九分散会
ソース: 国立国会図書館
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