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1992/04/16 第123回国会 参議院 参議院会議録情報 第123回国会 法務委員会 第6号
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1992/04/16 第123回国会 参議院

参議院会議録情報 第123回国会 法務委員会 第6号

#1
第123回国会 法務委員会 第6号
平成四年四月十六日(木曜日)
  午前十時一分開会
    ―――――――――――――
  出席者は左のとおり。
    委員長         鶴岡  洋君
    理 事
                野村 五男君
                林田悠紀夫君
                北村 哲男君
                中野 鉄造君
    委 員
                斎藤 十朗君
                下稲葉耕吉君
                中西 一郎君
                福田 宏一君
                山本 富雄君
                糸久八重子君
                八百板 正君
                橋本  敦君
                萩野 浩基君
                紀平 悌子君
   国務大臣
       法 務 大 臣  田原  隆君
   政府委員
       法務省民事局長  清水  湛君
   事務局側
       常任委員会専門
       員        播磨 益夫君
   説明員
       外務省条約局国
       際協定課長    山中  誠君
       大蔵省証券局資
       本市場課長    中川 隆進君
       運輸省海上交通
       局総務課長    西村 泰彦君
    ―――――――――――――
  本日の会議に付した案件
○国際海上物品運送法の一部を改正する法律案
    ―――――――――――――
#2
○委員長(鶴岡洋君) ただいまから法務委員会を開会いたします。
 国際海上物品運送法の一部を改正する法律案を議題といたします。
 本案の趣旨説明は既に聴取いたしておりますので、これより質疑に入ります。
 質疑のある方は順次御発言願います。
#3
○北村哲男君 北村でございます。
 今回の国際海上物品運送法の一部を改正する法律案についての質疑を行いたいと存じますが、まず、現行の法律は一九二四年、すなわち第二次大戦後の非常に古い条約に基づいてできている法律でございます。それは一般的にはハーグ・ルール・システムというふうに言われておるのでございますけれども、その特色である幾つかの点を挙げてみたいと存じます。
 それは、一つは、航海上の過失免責という原則があります。それから次に、火災免責という原則があります。それから、堪航能力、航海にたえる能力という原則というかルールがあります。さらに、延着責任、おくれたときの責任があります。さらに、除斥期間という五つの点を挙げてみました。
 この五つの点は、なぜ挙げるかといいますと、これは一般の民事のルールと極めて違うという点で特色があると思います。簡単に言いますと、普通、陸上でトラックで荷物の運送を頼んだときには、途中で運転手さんが電柱にぶつかって事故が起こって荷物が壊れた場合は当然運送主の責任になるところが、船の場合は、船長さんの責任で船が沈んだ場合は責任を負わないという原則、これは普通に考えたらとてもおかしなことです。そういう意味で、火災の場合あるいは延着の場合あるいは除斥期間だって、普通の陸上の運転手さんの場合は債務不履行であれば十年の時効、商事の場合でも五年の時効があるのに、わずか一年ぐらいしか責任を認めていない。
 そういう五つの原則がありますので、その点についての普通我々が考えている民事責任との比較において御説明をいただきたい、そして、その理由はどういうことなのかという点についての御説明をいただきたいと存じます。
#4
○政府委員(清水湛君) 御指摘のように、現行の国際海上物品運送法につきましては、幾つかの一般の民事責任と比較いたしますと異なる特色があると言っていいかと思います。
 もちろんこのような特色につきましては、一九二四年条約というのが、それまで海運国において免責約款という形で船荷証券に免責約款を記載することによって責任を免れる、これが非常に過度に行われていたのではないかというようなことと、それからやはり国際的に内容を統一する必要があるという観点から、それぞれの内容についての検討が行われてきたわけでございます。
 そういう状況の中で、先ほど先生御指摘の五つの問題点につきましては、我が国の一般の考え方とは恐らく若干違う点が規定された、国際間のこの法律を統一するという観点から、そのような特色ある内容が決められたというふうに私どもは理解しているわけでございます。
 まず、第一の航海上の過失免責でございますけれども、まさに先生御指摘のように、普通は運送人はその使用人である船長あるいはその他の使用人の過失につきまして、いわゆる履行補助者の禍失ということで運送人が責任を負うというのがこれは日本の商法の原則でございますけれども、この条約におきましては、船長など運送人の使用する者の過失のうち航行または船舶の取り扱いに関する過失、いわゆるこれを航海上の過失と呼んでおりますけれども、その損害については運送人は賠償責任を負わないというふうに法律で、あるいは条約で明記いたしているわけでございます。
 この趣旨につきましては、船舶の取り扱いは専門的、技術的なものであって、公的資格を有する船長その他の船員により非常に長期にわたる海上において行われるということ、陸上にいる運送人の監督が及びにくいというようなことが配慮されておるというふうに聞いているわけでございます。
 大体、この航海上の過失という概念は、イギリス法、イギリスは非常に歴史の古い海運国でございますけれども、そういうような国において発達した観念であり、これがそのまま条約に取り入れられたというふうに聞いているわけでございます。この点、我が国の商法、特に七百六十六条、五百七十七条等の規定とは異なる内容になっておるということが言えるわけでございます。
 それから、船舶における火災による損害についても、運送人は賠償責任を負わないということになっております。これは火災が発生いたしますと、それが積み荷全体にその損害が著しく拡大する、こういうようなことから、古くから一般の国際運送の慣行として免責が認められておるということでございますが、これがこの条約作成の際に条約の中に正規に取り入れられたということでございます。実際問題といたしましては、荷主は積み荷保険によりまして損害がてん補されるということになっておりますので、実際上の荷主の保護に欠けることはないということであるわけでございます。
 これらの二点は国際海上物品運送に特有の免責事由でございますし、陸上運送にはない免責事由でございます。陸上運送人の使用する者、履行補助者の過失につきまして、陸上運送人はこれは債務不履行責任を負うということに我が国の国内法ではなっているわけでございます。
 それから、堪航能力についてでございますけれども、運送人は発航の当時に船舶が航海にたえる能力を有することにつき注意を尽くす義務を負う、こういう規定が五条にございます。この義務の違反がありますと、運送人は賠償責任を負うわけでございますが、陸上運送についてはこういった種類の規定はないわけでございまして、運送手段であるトラックが安全に運送するという、そういう能力についての注意義務が一般的にあると言っていいわけでございます。
 それから、延着責任につきましては、この条約については何にも規定がないわけでございますけれども、我が国の国際海上物品運送法におきましては、商法の規定を参酌いたしまして規定を設けておるということになっているわけでございます。
 それから、除斥期間につきましては、これは一年以内に裁判上の請求がされないときは消滅するという特則を設けているわけでございますが、これも運送品に関する紛争の早期解決というような観点から、特に国際海上物品運送について特則が設けられておるという状況にあるわけでございます。
#5
○北村哲男君 ただいまの御説明で大体において言えることは、海上運送というのは陸上運送に比べて運送人の責任が極めて限定されておる、プロというか、専門的であるということもあるかと思いますし、あるいは慣行もあると思いますけれども、通常の我々の運送、物を頼んで送るということの考え方からいうと、極めて限定された責任というふうに見ることができると思うのですが、それは後ほど御質問しますハンブルク・ルールの出現ということと関連しますので、まずそういう点だけを言っておきたいと思います。
 それで、今の一九二四年条約が、約四十年後の一九六八年に一回改正されております。そしてさらに、約十年後の一九七九年にさらに改正されて、その改正議定書に基づく国内法の整備が今回という形になるのですけれども、今の諸原則が最初の一九六八年の条約の改正においてどのように、その責任の点だけで結構なんですけれども、どのように変更したのかという点についての御説明を願いたいと存じます。
#6
○政府委員(清水湛君) 先ほど先生御指摘の五点でございますけれども、一九六八年議定書の規定で改正されましたのは、最後に申し述べられました除斥期間に関する規定だけでございます。この議定書の一条二項は、一年間の除斥期間という原則は維持した上で当事者が損害発生後に合意するときはこの期間を延長することができる、こういう規定を置いたわけでございます。その他の点については特に変更はない。一九六八年条約というのは、この点は改定いたしましたが、その他の若干改定事項はございますけれども、他の四点についてはそのままそれを吸収するという形で一九六八年条約の中身になっているということでございます。
#7
○北村哲男君 そして、一九七九年条約に基づく国内法の整備というのが今回示されている諸点なんですけれども、それも今御説明あったように、一九六八年の除斥期間の改正も当然入ってくるというふうに理解しております。
 それでは、七九年議定書に基づいて変更しようとしている国はどこなのか、日本はまず当然なんですけれども、そのほかどういう国があるのか御説明をお願いいたします。
#8
○政府委員(清水湛君) 一九六八年議定書をヴィスビー・ルールと呼び、一九二四年条約をヘーグ・ルールと呼んで、両者を合わせましてヘーグ・ヴィスビー・ルールというふうに俗に呼ばれているわけでございます。このヘーグ・ヴィスビー・ルールをそのまま溶け込ませる形で一九七九年議定書というものがつくられているわけでございまして、一九七九年議定書を締約している国は、現在ベルギー、デンマーク、フィンランド、フランス、イタリア、オランダ、ノルウェー、ポーランド、スペイン、スウェーデン、スイス、イギリス、ルクセンブルクという世界の主要な海運国がその締約国となっているということが言えようかと思います。
#9
○北村哲男君 今、資料ページ三十九の締約国のお名前を世界主要国というふうに言われましたが、この中でアメリカあるいはオーストラリア、カナダという環太平洋の関係、それからドイツ等は入っておらないのですが、それで主要国というふうに言えるかどうかという点も若干、後々問題になると思いますけれども、一言言っておきたいと思います。
 ところで、今問題になりましたもう一つのルールであるハンブルク・ルール・システムという点についての御説明を願いたいと思いますが、一番最初に述べました五つの点、現在のハーグ・ルールあるいはハーグ・ヴィスビー・ルールによる五つの特徴点について、ハンブルク・ルール・システムというのはどういう態度をとっておるのかというのを簡単で結構ですが述べていただきたいと思います。
#10
○政府委員(清水湛君) 俗にハンブルク・ルールと言われておりますのは、一九七八年、昭和五十三年に作成されました海上物品運送に関する国際連合条約でございますけれども、この条約におきましては、先ほどの航海上の過失免責、これはヘーグ・ルールでは認められているわけでありますけれども、ハンブルク・ルールでは認められないということになっております。
 それから、火災免責につきましても、運送人の使用する者の過失による火災についても免責されない、運送人は損害賠償責任を負うと、こうなっております。
 それから、堪航能力に関する義務についての明文の規定は、そのハンブルク・ルールにはございませんが、この義務は運送品を運送するという一般的な義務に包摂されているという解釈であるというふうに言われております。
 それから、延着の場合の責任についても明文の規定を置いております。これはへーグ・ルールではございませんけれども、ハンブルク・ルールでは延着の場合についても明文の規定を置いております。我が国の国際海上物品運送法では商法の規定を考慮して、我が国の法律では延着についての規定を置いているということは先ほど申し上げたとおりでございます。
 それから、運送人に対する損害賠償請求権の出訴期間、これはヘーグ・ルールでは一年が原則でございますけれども、このハンブルク・ルールでは二年と、こういうことになっているというわけでございます。
#11
○北村哲男君 そうすると、このハンブルク・ルール・システムというのは、従来のヘーグ・ルール・システムが船主の責任が非常に限定されるというか責任が軽くなっているところを、陸上の一般の責任のように荷主が荷物を送るときに船主の責任をより重くしようという流れであるということは言えると思うの。ですけれども、それでよろしゅうございますか。
#12
○政府委員(清水湛君) これはハンブルク・ルールというものがつくられた経過にも関係することでございますけれども、世界の国際海上物品運送というのは非常に長い間、既にもう六十年以上にわたってへーグ・ルールあるいはヴィスビー・ルールによって規律をされてきたわけでございます。しかし、このヘーグ・ルールあるいはヴィスビー・ルールというのがイギリス等を初めとする主要な海運国のリードのもとにつくられているのではないか、そういう意味で海上運送人にやや有利になっておるのではないか、荷主側には不利益な面があるのではないか、こういうような意見が一部にございまして、そういう意見を持っている国、特に海運国ではなくて、主として荷主になる、荷物の運送は他国の海運会社に頼むというような国々が中心となりまして、そういった荷主側にもう少し有利な国際海上物品運送に対する新しいルールをつくろうというような動きが出てきだわけでございます。
 そういうような動きを反映いたしまして、国連のUNCTADあるいはUNCITRALを中心といたしまして、このハンブルク・ルールというものが一九七八年、昭和五十三年に作成されたということでございます。そういう意味では、このハンブルク・ルールというのが荷主側に有利な内容のものになっているということが言えるのではないかというふうに言っていいかと思います。
#13
○北村哲男君 そうしますと、国連の態度は、これはむしろハンブルク・ルールという荷主側に有利な条約というものをつくろうとする動きにあるのかどうか、その辺はどういうふうにお考えでしょうか。
#14
○政府委員(清水湛君) 国連の態度というものを一体どういうふうに私ども評価していいかわかりませんけれども、一応国連の主宰のもとでそういうようなハンブルク・ルールがつくられたということもございますので、国連としては恐らくそういった条約に入ることを当然のことながら推奨されるというふうに思うわけでございます。
 ただしかし、先ほど申し上げましたように、ヘーグ・ヴィスビー・ルールというのはもう既に数十年にわたって現実に作用している。アメリカもこのヴィスビーの方には入っておりませんけれども、ヘーグ・ルールには入っているわけでございまして、現実の世界貿易の圧倒的多数はヘーグあるいはヴィスビー・ルールによって規律されておるというような状況がございますので、将来もこのハンブルク・ルールというものがどういうふうなことになるのかということは、ちょっと国連の推奨とかなんとかという問題とは別に難しい要素があるのではないかというふうに考えている次第でございます。
#15
○北村哲男君 確かに、アメリカが初期のヘーグ・ルール・システムをまだとり続けておることはそのとおりなんですが、ただ、ハンブルク・ルールかヴィスビー・ルールか、いやヘーグ・ルールかということでは非常にもめているということは後ほど御説明願いたいと思いますが、今の点で、それではハンブルク・ルール・システムをとっている国というのはどういう国があるのか。ことし十一月にハンブルク・ルール・システムが発効するというふうに聞いております。それは二十カ国が締結すれば国際ルールとして発効するということらしいのですけれども、それはどういう国がこのシステムをとっているか、おわかりであったら御説明願いたいと思います。
#16
○政府委員(清水湛君) ハンブルク・ルールは二十カ国が締結した日から一年を経過した日の翌月の一日に発効する、こういうことになっているわけでございまして、昨年の十月に二十番目の国のザンビアが締結いたしましたので、本年十一月一日に発効するというふうに言われているわけでございます。
 この二十カ国の国名を申しますと、バルバドス、ボツワナ、ブルキナファソ、チリ、エジプト、ギニア、ハンガリー、ケニア、レバノン、レソト、マラウイ、モロッコ、ナイジェリア、ルーマニア、セネガル、シェラレオネ、チュニジア、ウガンダ、タンザニア、ザンビアということでございまして、二十カ国のうちアフリカ諸国が十五カ国という状況になっているわけでございます。
#17
○北村哲男君 確かに、今お聞きしますと余り聞いたことのないという国もありますし、途上国が多いということは確かでございますが、その国々から見て、現在のヘーグ・ルール・システムが送り主、すなわち自分たちの国から物を送るときに余り自分たちの利益でないということから発効したということは注目すべき流れではないかと思うんです。
 ところで、その二つの比較において言えるものかどうかわかりませんけれども、この条約の改正なんかに非常に興味を持って、また日本の主導的な立場でいらっしゃる東京大学の落合誠一教授が「国際海上物品運送法制の改革と将来」という著書に、一番冒頭ですけれども、
 極めて安定的であるかのようにみえる現在の個
 品運送に関する国際海上物品運送法制が、私か
 らみるところ、実は非常に深刻な危機の時代を
 迎えようとしているのではないかと大変色倶し
 ておりまして、早い時点でこういう危機がきそ
 うだという点を認識して適切な対応を打ちませ
 んと、国際的な物流にとって非常に困った事態
 が起きかねないと考えているからです。
 この論文は、昨年の、一年前のハンブルク・ルールに恐らく二十カ国が加入した前後の話だと思うのですけれども、そういう非常に警告を発しておられるのです。
 これは一体どういうことなのか、今二つのルールを説明願いましたけれども、こういうハンブルク・ルールが国際的に発効すると国際的な物流システムが非常に困った事態になるのだというふうなことなのか、その点について外務省なり法務省の御説明、御認識を聞きたいと存じます。
#18
○政府委員(清水湛君) 国際海上物品運送というのは国境を越えて各国間で行われる取引であるということでございますので、とにかくそれを規制する法律というのが国によってまちまちであっては困る、その内容が荷主の方に厚いか運送人の方に厚いかという問題はあるにせよ、とにかく内容が同じでなければ困る、統一されていなければ困るというのが一番の大きな要請だろうというふうに思うわけでございます。つまり、内容の国際的な統一、そういうことから従来、例えば非政府機関ではございますけれども、万国海法会というような国際組織があり、その下部団体としての日本海法会というような財団法人組織があって、昔からこの国際海商法の統一ということについて大変な努力を重ねてきたわけでございます。そういう状況の中から一九二四年条約、俗に言うへーグ・ルールあるいは一九六八年のヴィスビー・ルールというようなものがつくられてきたわけでございまして、世界の多くの国がこのヘーグ・ヴィスビー・ルールによって貿易取引をしているという状況にあるわけでございます。
 そういう状況の中で、ことしの十一月一日にハンブルク・ルールの一応条約としての効力が発生するということになりますので、世界に二つのルールがあらわれるということになるわけでございます。そういうことになりますとこの両ルールが衝突をするということが当然考えられるわけでございますけれども、果たしてこのハンブルク・ルールというものが一体世界の貿易量の中でどの程度のウエートを占めることになるのかという見通しの問題もございますし、逆に言うと圧倒的にヘーグ・ヴィスビー・ルールの方による貿易量が現実には多いという状況がございますので、私も落合教授の論文も拝見いたしましたけれども、大変な事態になるというようなことになるのかどうか、これは私ちょっと予測しがたいと申しますか、大変な事態ということにはならないのではないかというような感想を率直に言って持っているわけでございます。
 もちろん、ハンブルク・ルールの方がかなりまた勢力を増してきていろんな場面で両ルールが衝突するということになりますと、これはおのずから両ルールの統一ということが将来非常に重要な問題として浮かび上がってくるということは、観念論ではございますけれども想定し得るところでございます。しかしながら、このハンブルク・ルールがことしの十一月一日に発効して直ちに重大な事態が生ずるというふうには私ども今のところちょっと考えにくいのではないかと思っております。そういう問題点を指摘されるという意味において落合教授の論文については私ども大変教えられるところが多いわけでございますけれども、非常に困った事態、危機が来るということではないのではないかというふうな感じを率直に言って持っているわけでございます。
#19
○北村哲男君 落合教授は今回の改正案に非常に積極的な立場をとっておられる方でありますので、反対という立場ではもちろんありません。
 ところで、外務省の方は今の法務省さんと同じような御意見なのか、あるいは外務省の立場から国際物流システムに対するお考え方、認識の仕方はどういうふうにお考えでしょうか。
#20
○説明員(山中誠君) 基本的には、ただいま御答弁がございましたラインで外務省としても考えております。先ほどの先生の御質問とも関連するわけでございますが、主要国の動向との関連で申し上げましても、サミット国を見渡しますと、例えばイギリス、フランス、イタリア、これはもう既にヴィスビー・ルールに入っております。それからカナダにつきましても、最近の情報ではことしじゅうにはこの議定書を締結してヴィスビー・ルールに入るという話を聞いております。それからドイツにつきましては、先生も御承知のとおりヴィスビー・ルールには入っておりませんけれども、国内法の方でヴィスビー・ルールの内容を取り込んでおるという事情にございます。残るサミット国はアメリカということになりますが、アメリカにつきましては現在のところヴィスビー・ルールに入るという情報には接しておりません。
 そういったことから、基本的には大きな主要国の流れの中で日本の今進めようとしている方針というものも軌を一にするものではないかというふうに言えるかと思います。
#21
○北村哲男君 それでは、ただいまの点につきましては、そうしますと、非常に古典的な一九二四年条約のいわゆるハーグ・ルール・システムから今回の改正のハーグ・ヴィスビー・ルールに変更していこうということが、落合先生の言われている危機を回避あるいは乗り越えることができるというふうに考えていいものかどうか、それはどのように評価をされるでしょうか。
 私から見ますと、これは余り大きな変更ではなくて基本的には全くそれを踏襲している、少しずつ変更しているだけであって、余り大きな変化ではないように思えるのですけれども、その辺はいかがでしょうか。
#22
○政府委員(清水湛君) 落合教授は、先生も先ほど御指摘なさいましたように、ハンブルク・ルールとへーグ・ヴィスビー・ルールとの二つのルールの併存による問題点を指摘されつつ、我が国としては従来の線に沿って早くヘーグ・ヴィスビー・ルールに入るということを明確にすることが先進海運国として世界に対する正しい態度のとり方であるという趣旨の結論を先生は持っておられるわけで、そういうヴィスビー・ルールに早く入るということを進めるために、早く入らないと混乱が生ずるという趣旨の問題意識でそういうことを言われたのではないかというふうにも思うわけでございます。
 そういう意味で、私どもといたしましては、将来のハンブルク・ルールの動向は別といたしまして、従来の路線に沿ってヴィスビー・ルールに加盟し、そのための国内法を整備することが我が国の国際信義の上からも非常に重要な責任ではないかというふうに考えている次第でございます。
#23
○北村哲男君 それでは、先ほどからしばしば出てきていますアメリカの関係なんですが、世界貿易において最大の比重を占めるアメリカがこのヴィスビー・ルールの方法をとろうとしていない理由はどういうことにあるのだろうか。この点では日本はアメリカと、日米は同調しなくてよろしいのでしょうか。
 特にアメリカについては、むしろハンブルク・ルールとヘーグ一ヴィスビー・ルールがちょうどもう両方拮抗しているというか、荷主の立場、船主の立場が相反しているような感じがあるようです。そして、アメリカ独自のトリガー方式という両方まぜ合わせたような方式を、とっているのか、とろうとしているのか、ちょっとはっきりしないのですけれども、その辺を含めてアメリカの流れと日本の流れは違っているのではないかという感じもするのですがへその辺についてはいかがなことになっているのでしょうか。
#24
○説明員(山中誠君) 先生御指摘のとおり、アメリカの動向が極めて重要であろうかと私どもも考えております。ただ、最近の調査でも判明したことでございますが、アメリカにおきましては運送人と荷主の両業者間でいろいろ種々の意見の相違があるということでございます。そういったことから、当面ヴィスビー・ルールあるいはハンブルク・ルールともに締結する予定はないというふうに承知しております。
 このヴィスピー・ルールの締結自体につきましては、そのことをもってアメリカの経済的利益を損なうというようなことはないわけでございまして、我が国がヴィスビー・ルールを締結することによってアメリカとの関係で何か経済摩擦が起きるとか、そういったことは我々予想されないところではないかと考えております。
 なお、EC諸国は、先生御案内のとおり、フランス、イタリア、イギリス、オランダ、ベルギー等、こういう主要国が入っておるわけですが、こういう国がヴィスビー・ルールを締結したからといってアメリカとの関係で何か問題が起きたということは我々の承知している限りございません。
#25
○北村哲男君 今ちょっとECの関係がありましたが、ECの中では指令あるいは規則でこの問題についてどういう方針でいくのかということはやっておられるかどうかわかりますか。EC全体で一つの方針としてどういう方向にいこうかということはどうなっておるのでしょうか。
#26
○説明員(山中誠君) 確かに、ECが経済統合あるいは政治統合まで進めていくという流れの中で、いろいろな対外政策、経済政策を協調してやっていこうという動きにあることは事実でございます。しかしながら、私どもが承知している限りにおきましては、ヴィスビー・ルールあるいはハンブルク・ルールにつきまして何か統一的な動きがあるというふうには承知しておりません。
#27
○北村哲男君 ちょっと私十分に聞かなかったのかもしれませんが、アメリカのいわゆるトリガー方式という御説明はしていただけたのでしょうか。
#28
○政府委員(清水湛君) アメリカではいわゆるトリガー方式という方式が問題になっているというふうに聞いております。
 これは先ほど外務省の方からも御答弁がございましたように、アメリカは一九二四年のヘーグ・ルールには入っているわけでございまして、その延長としてのヴィスビー・ルールに入るかどうかということが問題になるわけでございます。しかし、その間にまた別のハンブルク・ルールというものが出てまいりまして、ヴィスビー・ルールかハンブルク・ルールかということで争いがあるというわけでございます。
 運送人の団体の方はヴィスビー・ルールに入ることを主張し、荷主の団体の方はハンブルク・ルールに入ることを主張しておる、こういうことで意見が非常に対立した。そういう意見の対立の妥協策といたしまして提案されたのがいわゆるトリガー方式だというふうに言われておりまして、その具体的な中身は、これは一九八五年、昭和六十年に出された案でございますけれども、まずヴィスビー・ルールを批准する、アメリカとしてはヴィスビーに入るということ。これに合わせて国内法を改正するけれども、将来、米国の海上貿易額につきましてハンブルク・ルールの締約国上の間のものがヴィスビー・ルールの締約国との間のものより多くなるということになれば、そのときに米国の行うすべての国際海上物品運送にハンブルク・ルールを適用する、こういうことにしようという妥協案のようでございます。
 現時点でございますと、私どもが聞いたところでは、アメリカの全貿易額の二十数%はヴィスビー・ルールの国との間に行われておる、わずか一・数%がハンブルク・ルールを締約した国との間において行われておるというような話でございますので、現状ではヴィスビー・ルールに従う国との貿易量が圧倒的に多いというような状況でございまして、いっハンブルク・ルールを適用する国との貿易量がヴィスビー・ルールを適用する国との貿易量より多くなるかというようなことについて、これはもう全く見通しがつかないというようなこともございまして、ハンブルク・ルールを採用すべきだという団体からも非常に強い反対を受けている妥協案であるというようなことを聞いているわけでございます。
 いずれにいたしましても、アメリカにおきましてはそういう対立が現在あって、先ほど外務省の方からお答えになりましたように、このトリガー方式も双方から非難されているわけでございまして、結局採用できないということになりまして、ヴィスビーかハンブルクかということについての決断がまだされていない、こういう状況であるというふうに聞いているわけでございます。
#29
○北村哲男君 諸外国の動きなんですが、先ほども若干御説明願いましたが、資本主義諸国とそれから旧社会主義諸国についての動きを聞きたいのですが、先ほどオーストラリアは言われましたけれども、ハンブルク・ルールは、場所がドイツということもあって、ドイツがまだはっきりしないという面がありますので、主要な国、オーストラリア、ドイツ、あるいはカナダ、出てこないのはイタリアですか、そのあたりの国、それからできたら、通告しておりませんけれどもインド、そのあたりの流れを、その中で特に原則はヘーグ・ルールだと思うんですけれども、ハンブルク・ルールなんかからの流れというか、そういうふうな主張が強いことがあるのかどうかという点についての御説明をお願いいたします。
#30
○説明員(山中誠君) それでは、先ほどの答弁と若干重複するかもしれませんが、順を追って御説明したいと思います。
 まず、オーストラリアでございますが、これはもともとのハーグ条約を一九五六年一月四日に締結しております。また、最近判明した事実でございますが、オーストラリラはヴィスビー・ルールにつきましても、昨年の十月三十一日に批准をしたという情報が入っております。ただし、我々締約国を数える場合には、条約の寄託国政府から、どこどこの国が締結しましたよという連絡を受けて、初めてその締約国として数えるわけでございまして、オーストラリアにつきましては、今のところ寄託国政府でございますベルギー政府から、批准をしたという通報がございませんので、今のところ冒頭で御説明がございました十三カ国ということで、オーストラリアは数えずにおります。
 ただ、そういう意味では非公式な情報ではございますが、オーストラリアが昨年の十月三十一圧に、正式には六八年改正議定書と七九年改正議定書、双方を締結したという非公式な情報を得ております。そこで、オーストラリアでは、その結果両議定書、ヴィスビー・ルールの内容に対応した国内法、それから一九九一年の海上物品運送法と言っておりますが、これが制定されていると承知しております。
 なお、オーストラリアにおきますハンブルク・ルールについての対応ぶりでございますけれども、今のところオーストラリアの議会が別段の決定を行わない限り、昨年の十月から数えまして三年後、したがって一九九四年の十月三十一日にハンブルク・ルールを締結して、国内法も右に合わせて改正をするというようなことが想定されているようでございます。
 次に、ドイツでございますが、これは先ほども若干申し上げましたけれども、ハーグ・ルールを一九四〇年に締結しております。ヴィスビー・ルールにつきましては締結をしておりませんけれども、その内容については一九八六年の商法その他の法律の改正に関する法律におきまして、その中身が取り入れられておるというふうに承知をいたしております。
 カナダにつきましては、ハーグ・ルールに準拠した一九三六年水上物品運送法が制定されておりまして、今のところ、先ほども申し上げましたけれども、本年内にこのヴィスビー・ルールを締結するための国内手続を進めるというふうに聞いております。カナダについては、ハンブルク・ルールについてどういう検討をしているかということにつきましては、一応カナダでは将来の問題として検討をしていくものだという姿勢をとっているようでございます。
 それから、最後にイタリアでございますが、イタリアはハーグ・ルールを一九三九年四月七日に締結しております。ヴィスビー・ルールにつきましては一九八五年八月二十二日に批准をしておりまして、その内容は、国内法としての効力を与えられている状況にございます。イタリアにおきますハンブルク・ルールの対応でございますが、イタリアについては今後ともこのハンブルク・ルールを締結する予定はないというふうに聞いております。
 以上でございます。
#31
○北村哲男君 よくわかりました。
 それでは、もう一つの流れの旧社会主義諸国、先ほどポーランドでしたかな、もう既にハンブルク・ルールに入っているというようなことも出ておりましたが、ちょっとその流れを、大まかで結構ですけれども、旧ソ連あるいは社会主義諸国についてはどうなっておるのでしょうか。
#32
○説明員(山中誠君) 特に、旧ソ連につきましてはなかなか全体像は必ずしも明らかになっておりませんけれども、私ども承知している限りでは次のような状況にございます。
 まず、旧ソ連でございますが、これはハーグ・ルール、それからヴィスビー・ルールとも締結をしておりませんでした。しかしながら、一九六八年に作成されましたソ連商船法がございまして、この商船法の中でハーグ・ルールあるいはヴィスビー・ルールの主要な原則が採用されておる。そして、この法律はロシア共和国になっても引き継がれて適用されているというふうに承知をいたしております。
 それから、ハンガリーでございますが、ハンガリーはハーグ・ルールを一九三一年六月二日に批准をいたしております。その後、ハンブルク・ルールを一九八四年七月五日でございますが、批准をしたというふうに聞いております。
 ルーマニアでございますが、ルーマニアはハーグ・ルールを一九三八年二月四日に批准をいたしました。その後、ハンブルク・ルールに一九八二年一月七日に加入したと承知を、いたしております。
 それから、ユーゴスラビアでございますが、ユーゴスラビアについてはハーグ・ルールを一九五九年四月十七日に批准をいたしております。このヴィスビー・ルールにつきましては、過去締結を検討したことはあるけれども、当面これを締結する見込みはないという情報を得ております。同様にハンブルク・ルールにつきましてもこれを締結する予定はないということでございます。
 それから、先生御指摘のございましたポーランドでございますが、ポーランドにつきましてはハーグ・ルールにもう一九三七年に入っておりまして、その後ヴィスビー・ルールにも入っておるという状況でございます。
#33
○北村哲男君 両方とも入っているというふうなことはあるのでしょうか。ちょっと私の聞き違いか、あるいはそういうことが法律上あり得るかどうかもわからないのですが、双方を締結しているということをちらっと聞いたことがあるのですが、そういうことはあるのでしょうか。
#34
○説明員(山中誠君) 確かに、両方の締約国を見比べますと、両方に入っておるという国は幾つかございます。例えばバルバドス、それからハンガリー、ケニア、レバノン、ナイジェリア、ルーマニア、セネガル、シェラレオネ、タンザニア、エジプトといった国々がハンブルク・ルールに入りながら、ハーグ・ルールあるいはヴィスビー・ルールに入っておるという状況でございます。
#35
○北村哲男君 それは法務省にお伺いすることなんですけれども、それはどういうことになるのでしょうか。両方入っているということは、どちらをとろうと選択的だということになるのでしょうか。荷主さんがこちらでやってくれ、あるいはこちらでと。ヘーグ・ルールでやるかハンブルク・ルールか、どちらかでやってくれと。両方できるという意味なのでしょうか。どういうことを意味しているのでしょうか。
#36
○政府委員(清水湛君) 私もそれぞれの国でどういう趣旨で二重に入っているかということはわからないのでありますけれども、あるいはどちらか古い方の条約を廃棄するというようなことを予定されているのか、あるいはハーグ・ルールに入っている国同士ではハーグ・ルールを適用し、それからハンブルク・ルールに入っている国同士、相手国がハンブルク・ルールに入りこちらもハンブルク・ルールに入ったという場合にはそれはハンブルク・ルールに従ってやるんだと、こういうことなのか、それはちょっとわからないわけでございます。もし後者だといたしますと、そういう相手国によって適用する国内法を二重につくっておかなければならないのではないかなというような感じもするわけでございはして、その辺の調整というか国内的な調整措置をどのようにされておるのか、ちょっと今のところ私どもにはわかりかねる状況でございます。
#37
○北村哲男君 もう一つの流れなんですが、外務省さんにお伺いします。
 この資料によりますと、アジアの国はマレーシア、シンガポールは確かに一九二四年条約に入っておりますけれども、そのほかの国はほとんど見当たらないですね、日本以外は。特に、大国インドもその中に入っておらないようなんですが、そのアジアの国の流れ。それから、両方に入ってない国なんかはどういうふうにするのかということについての御説明をお願いします。
#38
○説明員(山中誠君) 先生御指摘のとおり、アジアの諸国におきましては締約国は少のうございます。ハーグ・ルールに入っておる国としましては、日本のほかにはスリランカ、マレーシア、これがそれぞれ一九三一年六月二日よりハーグ・ルールの締約国となっております。それから、これも先生御指摘ございましたが、シンガポールが一九七四年六月十八日から締約国となっております。それから、イランがアジアに入るかどうかというのは論争があるかもしれませんけれども、イランは一九六六年十月二十六日からこのハーグ・ルールを締結をいたしております。また、これは締約国ということではございませんけれども、インドネシア、それから中国、この両国につきましてはハーグ・ルールに準拠いたしまして、おおむね運送人と荷主間の権利義務関係を国内法において規律しておるというふうに承知をいたしております。
 それから、先ほど御質問ございましたが、インドにつきましては、これはハーグ・ルールにもそれからヴィスビー・ルールにも、あるいはハンブルク・ルールにも入っておりません。
#39
○北村哲男君 入ってないということになると、この物品運送はどういう形でやることになるのでしょうか。船主の責任というのは全く自由契約ということになるのでしょうか。あるいは、どういう形で運ばれることになるのでしょうか。
#40
○政府委員(清水湛君) 我が国の場合で申しますと、条約を批准しで、しかも国内法として国際海上物品運送法という法律をつくるということになりますので、国内法で適用する法律は一つである、こういうことになります。
 したがいまして、国際間の海上物品運送でいろいろ紛争が起きた場合に我が国の法律が準拠法であるということになりますと、我が国では我が国の国際海上物品運送法を適用するということになります。ただしかし、例えばインドが入っていない場合に、日本とインドとの間の国際海上物品運送があって、その準拠法がインド法だということになったときに、我が国としては条約と同じような、つまり我が国はヘーグ・ヴィスビー・ルールに今度入るわけでありますけれども、それと同じ内容の保護をすべきであるということはこれはちょっと言えなくなってきてしまう、こういうことになるのではないかというふうに思います。
#41
○北村哲男君 ほぼ、世界の流れについてはお伺いしました。
 ところで、今回の改正点についての説明をいただきたいと存じますが、一番最初に五つの論点についての原則論の説明を受けました。今回幾つかの改正点がなされております。その中で、最初の趣旨説明の中でも三点ないし四点の骨組みについての説明を受けておりますけれども、いわゆる航海上の過失免責、それから火災免責、三番目に堪航能力、四番目に延着責任、五番目に除斥期間、この五点についての変化というか、それが一九七九年の議定書によってどのように変わっているのかについてはいかがなものですか。
#42
○政府委員(清水湛君) 一九七九年議定書では、先生御指摘の航海上の過失免責等の五点については内容は変えられていない、こういうことになるわけでございます。
 先ほどもお答えいたしましたとおり、一九七九年議定書は一九六八年議定書をのみ込んで一九六八年議定書の中身を一九七九年議定書の中身としておりますので、一九六八年議定書におきましては除斥期間についての改正をいたしておりますので、その部分が実質的な改正条項になる、こういうことでございます。つまり、一九七九年議定書の形式面だけを見ますと、これは運送人の責任限度額の計算単位を国際通貨基金の定める特別引出権に改めたということになるわけでございます。
#43
○北村哲男君 今回の改正の中で二つの流れがあると思うのです。
 一つは、責任の明確化というか、一般の船荷証券記載事項の善意の第三者に対する反証の禁止とか、あるいはコンテナ・クローズという制度の導入、すなわちコンテナとかパレットなどの中身の数が船荷証券に記載されているときはその数が責任制限の対象となるというふうに、今まで不明確であったものを明確にするという一つの流れがある、これは荷主保護という流れだと思うのです。
 もう一つの流れとしては、一年の除斥期間すなわち物品の滅失、損傷に対して適用されていたものの一切の責任に適用という流れ、これは逆に今までよりもさらに船主の責任を小さくするというか、私は大きくするのが一つの流れかと思ったらさらに制限するような流れがあります。その一つが今の除斥期間の問題と不法行為責任への適用、すなわち条約上の抗弁事由を不法行為にも適用することを明確にする。本来であれば、契約上の責任が追及できないときには一般の不法行為責任によって責任追及できるし、しかもその範囲は非常に広いのに、それを不法行為責任を制限して契約上の責任の中に押し込めてしまうという、荷主にとっては不利のような法律改正。
 三番目には、いわゆるヒマラヤ・クローズという制度の認知、すなわち条約上の抗弁事由を乗務員など使用人にも適用というふうな形をとっているという特徴があると思うのですが、今の非常にわかりにくい言葉ですけれども、わかりにくく、かつ興味深いヒマラヤ・クローズという制度の認知ということがあるのですが、これはどういうことなのか御説明を願いたいと存じます。
#44
○政府委員(清水湛君) 今回の改正の実質的な中身でございますけれども、これは提案理由説明にもございますように、船荷証券の効力を強化する、あるいは運送人の責任限度額の合理化あるいはその引き上げを図る、それからコンテナ、パレット等の現在の取り扱いに即した内容の明確化を図るということ、さらに三番目に先生御指摘のように、運送人及びその使用する者の不法行為責任の減免、こういう内容があるわけでございます。
 一九二四年条約というのは、これは契約責任だけについてまず適用するということになっているわけでございます。その結果、不法行為責任については、一体その責任限度とか免責というようなことが適用になるのかならないのかということが二つの意味で問題になってきたわけでございます。
 一つは、運送人に対する契約上の責任とそれから運送人に対する不法行為責任の追及、この面につきましては、債務不履行責任と不法行為責任というのは、これは法条競合であって二つの請求権はないんだという立場をとれば問題はないのかもしれませんけれども、請求権競合説をとりました場合に、同じ事実から、一方は債務不履行による損害賠償請求権、他方は不法行為による損害賠償請求権ということになりまして、債務不履行による損害賠償請求権については責任の限度とかあるいは免責があるけれども、不法行為についてはないということになりますと、これはいかにもおかしいということから、やはり運送人に対する不法行為責任についてもこのような責任の減免あるいは限定というものを認めるべきだ、こういうことになったわけでございます。
 それから今度はもう一つ、運送人の使用人が不法行為責任を負う場合、運送人の使用人、船長その他の使用人は、これは荷主に対して直接契約上の責任を負うわけではございませんけれども、故意、過失に基づく行為によって損害を荷主に与えるということになりますと、不法行為による損害賠償責任を負う、こういうことになるわけでございます。
 そこで、実はある事件が起こりまして、荷主の方で船長に対しまして不法行為による損害賠償責任を追及する訴訟をイギリスで起こしたわけでございます。その際、この船長の方では、この条約に従いまして、船長の不法行為責任もこれは免責されるんだ、あるいは責任の限定があるんだというような趣旨の主張をしたわけでございますけれども、イギリスの裁判所では、一九二四年条約というのはこれはもう契約責任についてだけの規定であって、運送人の不法行為責任あるいは運送人の使用人の不法行為責任については適用がない、こういう判断を示したわけでございます。
 そういうことになりましたので、海運会社ではこの船荷証券の特約といたしまして、そういうような不法行為責任についても免責されもんだということを約款で定めた、これが俗にヒマラヤ・クローズと言われるわけでございまして、ヒマラヤという言葉は、たまたまその事件になった船の名前が「ヒマラヤ」という船でございました。そこで、そういう運送人の使用人の不法行為責任を免責するという免責約款、これをヒマラヤ・クローズというふうに呼んだというふうに物の本には書いてあるわけでございます。
 そこで、今回の改正、つまりヴィスビー・ルールにおきましては、そういうような経過を踏まえまして、運送人に対する不法行為責任、それから運送人の使用人に対する不法行為責任の追及につきましても契約に基づく責任追及と同じような免責あるいは責任限度の限定ということを認めることといたしたわけでございまして、そういう意味ではヴィスビー・ルールはヒマラヤ・クローズの認知であると、こういうような評価もできるのではないかと思うわけでございます。
#45
○北村哲男君 一番最初の原則なんですけれども、航海上の過失免責は、船主が荷物を運ぶ際に船長の責任によって荷物がだめになった場合は免責されると、あれは船長がやったんだから私は知りませんという大原則があるわけですね。だから、そうすると荷主としては、船長が悪いんだからと船長の責任を追及すると、これはやむを得ませんのでやりますよね。そういう原則が今まであったはずなんです。そうすると、船長は責任があるならば、自分の過失であるならば免れないということがあると思うのですけれどもね。
 それで結局また、そういう抗弁を認めないで制限するような流れになるのではないか。そうすると、荷主にとっては非常に不満であるような感じがするのですけれども、これは荷主の方からこういうルールというか、さらにいわゆる責任追及の手段を封じるような形に対して批判というものはないのでしょうか。
#46
○政府委員(清水湛君) 航海上の過失という概念につきましては、これは非常に実は問題があるわけでございまして、イギリス法を中心にして発達した概念でございまして、航海上の過失に対応する概念がいわゆる商業上の過失というふうに言われているわけでございますけれども、果たして商業上の過失と航海上の過失というのが一体はっきり区別ができるのかできないのか、それがはっきりしない場合にはどちらのあれになるんだというような議論も生んでいるわけでございます。条約ではこのことがきちんと整理されておりますけれども、そのこと自体について全く意見がないわけではございませんで、それがハンブルク・ルールというようなものが生まれる一つの背景事情にもなっているのではないかというふうに私ども推測しているわけでございます。
 しかし、航海上の過失とはまた別に不法行為責任については別だということになりますと、例えば私どもの民事法の解釈に従いますと、運送人は契約責任についてはそういう減免なり免責はあるけれども、不法行為でこられるとこれは青天井である、これはいかにもおかしいんじゃないか、不合理じゃないか、こういうことになってくるわけでございます。
 それからまた、運送人の使用人についてはこの不法行為責任を今度は独自に追及することができるということ、しかもそれは青天井であるということになりますと、はっきり申し上げまして、そういう船主さんのところには私はもう雇われたくない、こういうことになるわけでございます。結局、使用人にその独自の責任追及を認めるということになりますと、その損害賠償義務を履行した使用人は、船主のところに行ってそれを埋めてもらうということになるわけでございまして、またそうしませんと、優秀な船長その他の船員を確保することはできないというのはこれは常識でございますから、結局この使用人を通して船主、運送人が結局また無限定の責任を負うのと同じことになってしまうというようなことが考えられるわけでございます。
 そういうようなことから、不法行為責任についてもやはりこれは限定する必要があるということでございまして、そのこと自体について非常に大きな批判があるというふうには私どもは考えてはいないわけでございます。
#47
○北村哲男君 不法行為についてはわかりましたが、先ほどから時々出てきております除斥期間の問題についての御説明をもう一回、現行とそれから改正案との違いについてお願いいたします。
#48
○政府委員(清水湛君) これは、現行法ですと十四条でございますけれども、現行法では除斥期間が一年ということになっているわけでございますが、ただし書きがございまして、「運送人に悪意があったときは、この限りでない。」ということになっているわけでございます。
 その結果どうなるかと申しますと、国際海上物品運送法は、これは商法の特則規定でございますので、商法の原則に戻るというのが我が国の国内法の解釈でございます。そういたしますと、商事債務の消滅時効の期間は五年ということになりますので、五年間で時効によって消滅する、こういうことになるわけでございます。現行法の一年というのは除斥期間でございますけれども、これが適用されない場合には五年間で時効によって消滅する、こういう結論になるわけでございます。
 改正法案におきましては、これは条約を受けてでございますけれども、運送人が悪意でありましても一年間の除斥期間を適用する、つまり運送人の善意、悪意を問わず除斥期間一年間でその権利は消滅する、こういうふうにいたしたわけでございます。このようにいたしたのは、一九六八年議定書の作成の過程におきまして、法律関係の早期安定それから無用の訴訟を防止するという観点から、運送人の主観的な事由のいかんを問わず一年間の除斥期間を適用すべきであるという各国の共通の了解というものがありまして、それに従うことといたしたものでございます。
 このほか、一九六八年議定書に基づきまして一年間の除斥期間を損害発生後の当事者の合意で延長することができるということになっておりますので、下請運送人など第三者の運送人としての責任の除斥期間を三カ月延長する旨の規定、これは十四条の三項でございますけれども、十四条の二項及び三項で合意による延長あるいは三カ月延長する旨の規定というものを設けているわけでございます。これも、いずれも議定書の批准に伴う改正でございます。
#49
○北村哲男君 これは、一年の除斥期間というのは、陸上運送なんかの場合に比べると非常に短い期間で、しかも時効でなくて除斥期間だとなると、延長は認められてないということはあるのですが、船の場合は特殊な世界であるということは十分承知の上ですけれども、片やハンブルク・ルールの方は二年にしろというふうに言われている。一般の耳にはごく普通何か当たり前のような、今の複雑な物流の世界で一年というのは極めて短いような気がするのですけれども、そういう形の延ばせというふうな批判あるいは意見というのはないのでしょうか。
#50
○政府委員(清水湛君) ハンブルク・ルールが二年になっているということについては、やはり一年では短いというような主張が一部にあるということを受けてのことだろうと思うわけでございます。しかし、国際海上物品運送につきましては、やはり法律関係の早期安定あるいは無用の訴訟を防止するというような観点から、これははっきりと一年という除斥期間にすべきであるというのが各国の完全な共通の了解事項であったということになるわけでございます。そういうような議定書作成の経緯を踏まえまして対応したということになるわけでございます。
 陸上運送についても運送人の責任は一年間で消滅するということになっておりますが、これは現在の商法では除斥期間ではなくて短期消滅時効であるというような違いがございます。しかしながら、そういう国内法、国内の陸上運送との関係における差異はございますけれども、条約としてこれに従うということになりますと、今回のような改正法案の内容にならざるを得ないということになるわけでございます。
#51
○北村哲男君 それでは、もう一つの体系である責任の明確化、まず船荷証券事項の善意の第三者に対する反証の禁止という条項、御説明の要点の第二の点ですけれども、これは今までの原則と新しい形の比較においてどういうふうに変わってきたのかという説明をお願いいたします。
#52
○政府委員(清水湛君) 船荷証券というのは、これは荷主から運送人が運送すべき荷物を受け取って船積みをしたときに、その受け取りの段階で祭行することもあり得ますけれども、一般論で申しますと、船積みをしたときに発行する証券でございまして、これは有価証券であるというふうに言われているわけでございます。そして、この船荷証券は積み荷を化体すると申しますか、積荷そのものをあらわす、一種のそういう権利を書面上にあらわしており、しかもこれが裏書等によりまして転々と流通をする、こういうことになるわけでございます。
 したがいまして、船荷証券が第三者の手に渡った場合におきましては、これによって第三者は積み荷についての権利を取得するわけでございますけれども、第三者といたしましては、船荷証券に記載してある事項を信じて、当然記載とおりの荷物がある、あるいは記載どおりのものが積み込まれておるということを前提にそういう船荷証券の譲渡を受ける、こういうことになるわけでございます。
 そういう非常に有価証券として重要な機能を持っているわけでございますが、現行法は船荷証券の記載が事実と異なる場合には、運送人がその記載をするについて過失がない、十分注意をしてそういう船荷証券の記載をしたんだけれども、しかし事実と違うものを書いてしまったということでありますと、善意で船荷証券を譲り受けた第三者に対しまして、船荷証券の記載が事実と異なみ、だから記載どおりの責任は負わないんだということを主張することができるというふうに現行法の九条はなっているわけでございます。
 これを一九六八年議定書におきましては、運送人に過失がなくてももう書いたどおりの責任を負うと。船荷証券には例えば積み荷は何個と書いてあるけれども、現実にはそれだけなかったとか、あるいは違うものが載っていたというようなことがあるわけでございますが、そういう場合に、船荷証券の記載について運送人に過失がなくても善意の船荷証券の所持人には対抗することができない。つまり、記載どおりの責任を負わなければならない。自分に過失がなかったんだから、記載と事実が違う場合には事実に即してだけしか責任を負わないというようなことが言えないというふうにいたしたわけでございます。つまり、運送人は善意の船荷証券の所持人に対しては船荷証券に記載されているとおりの義務を負い責任を負うと、こういうふうに改めたわけでございます。実は、これは我が国の陸上運送についての貨物引換証もそうなっているわけでございまして、その規定を準用する我が国の国内運送についての船荷証券についてもそうなっているわけでございまして、そういう意味では国際海上物品運送法における船荷証券の方の効力が国内法に比較して弱かったという面があるわけでございます。これはしかし、国際的に船荷証券の効力を統一するという見地からそのような内容が定められたわけでございますけれども、今回そういう善意の船荷証券の所持人に対しましては、もう船荷証券記載どおりの責任を負うということに改められました結果、そういう面での差異はなくなった、こういうこともまた一面において言うことができるわけでございます。
#53
○北村哲男君 船荷証券は有価証券であると大体考えておるわけですけれども、それが無過失で間違ったことを書いたら、善意の第三者に対抗でさないというのが今までのルールなんでしょうけれども、実務上はもう長い間、たとえ無過失であっても書いてあることについて責任を負うというふうになっておった。その実務上もう定着したものを今回確認したというふうな形なんですか、あるいはがらっと価値観を変えたというふうな形なんですか。
#54
○政府委員(清水湛君) 先ほど申し上げましたように、我が国では既に今回の改正法と同じような法制を商法ではとっているわけでございまして、そういうことで、この過失の有無を問題にしないという今回のヴィスビー・ルールの改定、これに全く異存があるわけではございませんし、諸外国におきましてもそのこと自体について大きな考え方の変更とかそういうようなことでこういうようなことになったのではないのではないかというふうに思うわけでございます。
#55
○北村哲男君 法務省の出された改正する法律案についてのメモの中で、要点として一番目に責任限度額の引き上げ、二番目に船荷証券の効力の強化、三番目に運送人等の不法行為責任の減免と三つの柱を立てておられますけれども、今回の大きな変化の中にコンテナ・クローズという制度の導入ということがあります。これも責任の明確化の一つであろうと思うのですけれども、この点についての御説明とその合理性という点についてお聞かせいただきたいと存じます。
#56
○政府委員(清水湛君) これは要するに、陸上でもそうでございますけれども、海上運送の運送技術が非常に発達いたしましてコンテナによって運送するということがかなり一般化してきたわけでございます。
 ところが、一九二四年条約におきましては、コンテナという概念が当時なかったものですから、運送品一個ごとに幾らというような損害賠償の限度を決めておりました。ところが、コンテナ運送の場合にはコンテナの中にそういう運送品が何個も入っているわけでございまして、そういう場合に一体何を基準にして損害賠償の限度を定めるのか。コンテナの中に例えば十個運送品が入っている場合に十個運送品について損害が生じたというふうに言えるのか、あるいはコンテナの中に何個入っているかということは正確にはわからないわけであるからコンテナを一個としてそれについての損害賠償の責任限度を定めるのか、こういうようなことについて解釈上の疑義が生じたわけでございます。つまり、一九二四年条約上はそのことがはっきりしなかったということでございます。
 そこで、今回の改正法におきましては、船荷証券の記載を基準とするということでありますけれども、個々の運送品の数が船荷証券に記載されている、つまりコンテナとしては一個なんだけれども、個々の運送品の数が十個として記載されるということであればそれはその十個の数を基礎にして限度額を算定するけれども、記載がなければコンテナがもし一個であればコンテナ一個として、運送品の数を一個としてその責任の限度額を算定するというふうに明らかにいたしたというのが今回のコンテナ条項でございます。
#57
○北村哲男君 次に、要点の一番目の責任限度額の引き上げという点についてお伺いしたいと存じます。
 ヘーグ・ルールから今回ヴィスビー・ルールに移るについてはSDR、特別引出権というふうな計算単位を用いておられるようですが、その説明を受ける前に、ヘーグ・ルールは百スターリング・ポンド、大体一単位で十万円ぐらいというものを、概算してヴィスビー・ルールの六百六十六・六七SDRというふうに変える。非常に言葉は難しいのですけれども、要するに一単位当たり今までは十万円であったのが十二万円ぐらいに値上げをする、責任限度額をわずか二割ぐらい値上げする、簡単に言えばそういうことだと思うのですけれども、まず第一に、もう随分古い条約で十万円ぐらいの単位だったものを、これもう何十年もたって、この間にいろいろあったかもしれませんが、今の二割の値上げというのはどういう意味を持つのか、その点について御説明を願いたいと思います。
#58
○政府委員(清水湛君) 実は、この一九二四年余約というのは運送人の責任限度額を運送品一包または一単位につき百スターリング・ポンドということで定めたわけでございます。当時スターリング・ポンドにしたのはいポンドが金と結びついている、金本位制を当時とっておったということが一つの背景にあったというふうに言われているわけでございます。
 我が国が昭和三十二年にこの条約を批准する際における一ポンドの為替相場、当時は固定為替相場でございまして、これが約千八円ということでございます。現在のポンドとの為替レートは三百円を割っているんじゃないかと思いますけれども、当時は千円だったということから、国内法を制定する際には、厳格に申しますと百ポンドでございますから十万幾らだということになるんでしょうけれども、これを丸めて十万円という形で限度額を定めたわけでございます。もしこれを、現時点で二四年条約をやるということになりますと恐らく三万円ぐらいになってしまうのではないか、こういうふうに思うわけでございます。
 ところが、そのイギリスはその後ポンドと金との結びつきが断たれたというようなこともございまして、一九六八年議定書では金フラン、当時のフランが金と結びついているということだったんだろうと思いますけれども、金フランに一たん改めました。このときにまた限度額を引き上げたわけでございます。しかしながら、その後アメリカで金とドルの交換を停止するとか、要するに金本位制というものがなくなってきてしまったというようなことから、何を基準にしてその責任限度観を定めることとしたらよろしいかということになったわけでございます。要するに、各国が金を基準とする固定為替相場制から変動為替相場制に移行したというふうなこと、それからまた金の価格が自由市場において大きく変動するということ、それからポンドとかドルという特定の国の通貨で責任限度額を決めるということは必ずしも適当ではないというようなことから、そういうものにかわる新たな尺度としてIMFが創設したSDRを計算単位として採用する、こういうことにしたわけでございます。
 SDRは、アメリカ・ドル、ドイツ・マルク、イギリス・ポンド、フランス・フラン及び円の加重平均値というふうに言われておりまして、特定の通貨の変動による影響を受けることが割合少ないというふうに言われているわけでございますが、そういうものを採用いたしまして一九七九年議定書におきましてはこれを明らかにいたしたというわけでございます。
 おっしゃるように、昭和三十二年に十万円で、現在の時点で条約所定のSDRの単位でこれを円換算いたしますと、今一SDRが大体百八十円前後でございますので十二万円程度のものになってしまう、こういうことでございます。しかしながら、例えば一九六八年当時ということになりますと恐らく一SDRは三百円をはるかに超えていたというふうに思うわけでございまして、その時点で計算すると相当の日本円になるということも考えられるわけでございますが、一つには、我が国かねにおける物価上昇というものがあって非常に金の価値が下がると同時に、国際的にはいわゆる円高によって非常に円が強くなってきたということもあるわけでございます。昭和三十二年の十万円との対比で申しますと十二万円程度ということでございますけれども、その間における円の強さと申しますか価値というものは国際的には大きく変わっておる、こういうふうに考えられるというふうに申し上げていいと思うわけでございます。
#59
○北村哲男君 業界の説明によりますと、今回の改正によって年間の業界の負担増は九千万円程度であるというふうな資料が出ておるのです。
 突然の質問なんですが、船は、私ども一般に考えますと昔と違って、昔の航海、特に一九二四年ころの船は出ていったらいつ着くかわからないとか、いつひっくり返るかわからないという状態から、今は極めて、陸上運送なんかに比べて一番安定しているように考えられるのですけれども、一つは、本当にその安全性、一番安全な運送手段なのかという問題と、それからもう一つは、日本で年間物品運送法による負担はどのくらいのものを船主協会というか船主は支出しているのだろうかという点について、もしわかりましたら教えていただきたいと存じます。
   〔委員長退席、理事中野鉄造君着席〕
#60
○政府委員(清水湛君) 私どもそういう面は、法律のことは少しぐらいわかるような気もするんですけれども、実際の海運の実情というのはよくは承知していないわけでございます。
 ただ、恐らく最低限申し上げることができますのは、こういう国際海上物品運送法なり商法なり、いろんなそういう規定を前提に保険システムと結びついている、こういうことになるわけでございます。つまり、こういう法律による責任というものを前提にして運送人である船主は船主責任に関する保険に加入する、それから荷主の方は、こういう法律でこの限度で損害賠償を請求することができるという前提で、それで足らざる部分は保険でカバーをするという意味で貨物保険と申しますか、荷物保険と申しますか、そういうものに入っておられる。荷主というのは大体これは輸出業者でございますけれども、恐らくそれに入っておられない方はおられないし、船主というのは大きな海運会社でございますから、これはもうすべて保険に入っているということになるわけでございます。そういう保険料の負担が責任限度がふえることによって若干ふえる、こういうことになるのではないか。
 正確な話は申し上げることができないんですけれども、例えば日本船主責任相互保険組合によりますと、この組合が一九八七年に船主に支払った保険金は六十三件で約二億二千万円というような話も、これは現実にそういう保険組合が船主に保険金を支払ったケースでございますが、恒常的にはやっぱり保険料の額に影響をする、それが恒常的なあるいは負担増ということにつながってくるのかなというふうに思うわけでございます。しかし、保険のシステムとそのリスクをどのように評価するかということについてはかなり専門技術的な問題がございますので、ちょっと私どももここで正確にお答えをするということはできないのでお許しをいただきたいというふうに思います。
#61
○北村哲男君 私の予定した質問が、ちょっと時間が余ったのですけれども、ほぼ終わりました。
 最後に、大臣にお伺いしたいのですが、今、私ども非常に何か難しい面倒なことを話し合ってきたのですけれども、今度の改正を見ますと、ある意味で船主の責任を明確にした、責任を重くした点もあるのですが、片や船主の責任を軽くしている部分が多くて、それは荷主の利益に反するのではないかという気持ちが一つありました。
 そして、それでその考えを裏づけるように、片や国際ルールとしてハンブルク・ルールが今出始めて、ことしの十一月には国際条約として発効しようとしている。そうなりますと、日本が今この条約を批准してこの法律改正することは、日本だけが突出して世界の流れの対立をますますあおり立てる一番の先兵になるのではないかという心配を少ししたのですけれども、どうも今までの話では必ずしもそうではないのですが、大臣のお立場から、今のこの改正についてどうお考えになるか御説明をお願いしたいと思います。
#62
○国務大臣(田原隆君) 国際的な話で長い歴史を持ってきておりますから、特に一九二四年からの話でのいきさつがずっとありまして、今のやりとりを私聞いておりましても、非常に海上輸送という特殊性というものが相当生かされている。そういうことであって、そのリスキーな部分といろいろなものを組み合わせると今のものが一番リーズナブルなものであるというふうな結論に達するような気がいたします、
 私も、この改正の実現によって我が国の海運業が国際社会において一層信頼が高まるのではないかというふうに逆に考えるわけでございますが、そうすることによって一層海運業が発展することを期待してこの改正法案を出させていただいておるということを御理解いただきたい、こう思うわけでございます。
#63
○北村哲男君 終わります。
#64
○理事(中野鉄造君) 午前の質疑はこの程度にとどめ、午後一時まで休憩いたします。
   午前十一時三十六分休憩
     ―――――・―――――
   午後一時開会
#65
○委員長(鶴岡洋君) ただいまから法務委員会を再開いたします。
 休憩前に引き続き、国際海上物品運送法の一部を改正する法律案を議題とし、質疑を行います。
 質疑のある方は順次御発言願います。
#66
○野村五男君 現行の国際海上物品運送法は、昭和二十二年に一九二四年船荷証券統一条約を批准した際にその国内法として制定されたものであります。その後、この条約は一九六八年議定書と一九七九年議定書によって改正されているところ、今般一九七九年議定書を批准することになったので、これに伴い国内法を整備するとのことでありますが、そこで、これらの議定書が作成された背景を説明願いたい。
 それに、一九二四年条約を改正する議定書は二本あるのに、一九七九年議定書だけを批准する理由をお伺いいたします。
#67
○政府委員(清水湛君) お尋ねのように、昭和三十二年に一九二四年船荷証券統一条約を批准しまして、現在の国際海上物品運送法が制定されたわけでございます。
 もともと、一九二四年条約というのは、それまで船荷証券に記載されていた過度の免責約款と申しますか、運送人の方に一方的に有利な免責約款を船荷証券に付してこれで契約をするというような、そういうようなものをチェックする必要がある、免責約款を制限する必要があるということと、それから、各国においてまちまちであった国際海上物品運送の私法的な側面に関する法制を国際的に統一する必要があるということで作成されたものでございます。これは大正十三年でございます。
 我が国におきましても、そのころそういう条約が作成されたという経緯を踏まえまして、昭和の初期にこの検討を行ったわけでございますけれども、間もなく戦争状態になりまして、そういうよつな国際的な海商法を統一するというようなムードではもう完全になくなってしまったということが起こったわけでございます。その後、戦後平和条約が発効しまして、我が国が本格的な国際社会に復帰をするというようなことになりまして、一九二四年条約の批准ということが問題になったわけでございます。ところで、一九二四年条約が制定されました後、もう既に相当の年数が経過しているわけでございまして、このようなことから一九六八年議定書、さらに一九七九年議定書というものが作成されたわけでございます。これらの議定書は、いずれもその後における社会経済情勢の変化に応じて国際海上物品運送の実情に適合するように改めるという趣旨でされたものでございます。
 ところで、一九六八年議定書におきましては、貨幣価値の変動に応じて運送人の責任限度額を引き上げる、限度額の単位の変更ということもございますけれども限度額自体を引き上げるということ。それから、船荷証券の効力を強化するということ。それから、運送人及びその使用する者の不法行為責任について、運送人の契約責任と同様の免除及び軽減を認めるなどの改正が行われたわけでございます。
 我が国におきましては、当時、一九六八年議定書に入るかどうかということが問題にはなったわけでございますけれども、当時の状況からいたしますと、現在のように円高等の状況ではございませんので、これに入りますと相当の額の責任限度額の引き上げになるというようなこともございまして、一九六八年議定書に入るかどうかというようなことについて関係方面において慎重な検討がされてきたわけでございます。
 しかしながら、一九七九年議定書がさらに作成され、これは責任限度額の計算単位をSDRに改めるという趣旨のものでございますけれども、この議定書が作成されまして昭和五十九年に効力が生ずるというようなことになりました。こういうような状況を踏まえまして、関係団体と申しますとこれは日本では船主の団体とそれから荷主団体、荷主の団体といたしましては荷主協会という社団法人がございまして、これは我が国の大手商社、大手メーカーあるいは輸出組合というようなほとんどの荷主グループが参加している団体でございますけれども、そういうような荷主の団体あるいは船主の団体におきましても、我が国の国際的な地位というものを踏まえましてこのような条約に早く参加する必要があるというようなことになったわけでございます。そういうようなことから、関係団体あるいは関係方面との調整を経まして今回この議定書の批准ということになったわけでございます。
 そういう背景でございまして、一九六八年議定書あるいは一九七九年議定書ともに国際海上物品運送の実情に適合するための合理的な改正であるというふうに考えられるものでございます。
 その次に、一九二四年条約を改正する議定書が二本あるのに一九七九年議定書だけを批准する理由は何かというお尋ねでございます。これは条約の方の論理でございますけれども、まず一九二四年条約というのはまだ現在厳然として効力が存する形で存在しているわけでございます。一九六八年議定書というのは一九二四年条約を改めた中身で一九六八年条約として独自に存在する、こういうことになります。それから、一九七九年議定書というのはそういうふうに改められた一九六八年議定書の中身自体をみずからの中身として独立して一九七九年議定書として存在する、こういう形になるわけでございます。したがいまして、国際海上物品運送に関する条約は現在三つ存在する、こういう形になるわけでございますから、私どもといたしましてはその最後の一九七九年議定書を批准すれば足りる。つまり、一九六八年議定書の中身を持った内容の一九七九年議定書を批准すれば当然一九六八年議定書を批准したことになる、こういうことになるわけでございます。
 そういうようなことから、これは外務省の方で御答弁すべき性格の問題かもしれませんけれども、今回一九七九年議定書だけの批准を外務省においては国会にお願いをしておるというふうに承知しているわけでございます。もし、これは別に一九六八年議定書も批准するということになりますと、我が国といたしましては二つの制度を持つということになりまして、それぞれについて国内法が必要になるというような難しい問題も出てくるわけでございまして、そういうようなことからも一九七九年議定書だけを批准するべきものである、このように考えている次第でございます。
#68
○野村五男君 既に一九七九年議定書を批准している国はどこか、具体的に説明を願います。
#69
○政府委員(清水湛君) 一九七九年議定書の締約国は、ベルギー、デンマーク、フィンランド、フランス、イタリア、オランダ、ノルウェー、ポーランド、スペイン、スウェーデン、スイス、イギリス及びルクセンブルクの十三カ国であると承知いたしております。
 これらの国はイギリス、北欧諸国など主要な海運国が含まれているというふうに言って差し支えないかと思います。
#70
○野村五男君 今般一九七九年議定書を批准し、これにあわせて国際海上物品運送法の一部を改正するに至った理由、背景を説明してほしい。
 また、この法律の適用を受けることになる運送人の団体である船主協会と荷主側の団体である荷主協会は法改正についてどのような意見を持っているのか説明願います。
#71
○政府委員(清水湛君) 先ほどもお答えいたしましたように、我が国は昭和三十二年に一九二四年条約を批准して、これに伴いまして現行の国際海上物品運送法を制定いたしました。
 一九七九年議定書は、先ほど申しましたように、一九六八年議定書の内容を含むものとして現在の国際海上物品運送の実情に応じて制定されたものでございます。既にこの条約につきましてはイギリスとか北欧諸国など主要な海運国がこれに参加しております。こういうような状況を踏まえまして、我が国もこのような先進海運国の一人として早急にこれを批准し加入することが国際的にも要請されておる、こういうような認識から、今回この一九七九年議定書の批准とあわせまして、これにあわせた国内法の改正をお願いすることといたしたものでございます。
 この改正法の適用を受けることとなる日本船主協会、日本荷主協会は、いずれもこの一九七九年議定書の批准にあわせて法改正を行うということを強く要望しているわけでございます。先ほど申しましたように、一九六八年の議定書の段階におきましては、その当時の情勢からいたしますと、責任限度額の大幅な引き上げという結果になるというようなこともございまして慎重な態度をとっていたというふうに私どもには考えられるわけでございますけれども、既に一九七九年の議定書が作成され、その効力も生じておるというような状況を踏まえまして、この二つの団体とも昭和六十三年にこの批准と法改正の要望を関係省庁に提出し、また同種の要望書を法務大臣にも提出しているわけでございます。
 午前中にもお話が出ましたけれども、アメリカなどでは荷主の団体と運送人の団体、つまり船主の団体の間におきまして見解の対立があるというようなことでございますが、我が国の場合におきましては関係団体が一致して、荷主の団体も船主の団体も一致して今回の法改正の実現を希望しているわけでございます。また、海商法の学者その他の方々も、この批准及び法改正に異論を唱える方はおられないというふうに私ども現在のところ認識している次第でございます。
#72
○野村五男君 この改正法案による改正の主要点は簡潔に言えばどのようなことか、お伺いいたします。
#73
○政府委員(清水湛君) 今回の改正は、一九七九年議定書の批准に伴いましてその内容を取り入れたものでございます。この内容の大部分は一九六八年議定書の中身をなすものでございますが、これが一九七九年議定書の中に取り込まれているということからそのような改正をすることといたしたわけでございます。
 その主要点は、これはまず第一に、船荷証券の効力の強化ということでございます。善意の第三者に対しましては船荷証券の記載どおりの責任を負うということ。
 それから、二番目は運送人の責任限度額の合理化、引き上げでございます。これは責任限度の単位をSDRに改めるということのほか重量制を導入する等の合理化を図っておるということ、それからその引き上げを図っておるということでございます。
 第三点は、運送人及びその使用する者の不法行為責任についての減免の規定を設けるということでございます。
 その他若干の、従来の解釈上疑義があったような点についての改正点はございますけれども、大きく申し上げますとその三点に尽きると言って差し支えないのではないかと思います。
#74
○野村五男君 今、説明のありました改正の主要点は三点であると思われますが、まず、そのうちの船荷証券の効力に関する改正の趣旨を説明願います。
#75
○政府委員(清水湛君) 船荷証券は、運送人が荷主から積み荷を受け取って船積みをしたときに一般的には発行される有価証券でございまして、これによってすべて積み荷の権利等の処分が行われる、こういうことになるわけでございます。そういう場合に、現実の積み荷と、それから船荷証券に記載された事項とが食い違う、そういうような船荷証券の記載が事実と異なる場合に、この船荷証券を発行した運送人はどういう責任を負うかということが一つの問題になるわけでございますけれども、現行法では運送人がその船荷証券を発行する際、その記載をするについて過失がなければ善意の第三者である船荷証券の所持人に対して船荷証券の記載が事実と異なるということを主張することができる。つまり、記載どおりの責任ではなくて、その事実に基づく義務だけを負うこととされているわけでございます。
 これを一九六八年議定書一条一項に基づきまして、運送人に過失がなくても善意の船荷証券の所持人に対抗することができないということ、つまり運送人は善意の船荷証券所持人、つまり船荷証券の記載が正しいと思ってその船荷証券の裏書譲渡を受けた第三者、そういう者に対しましては船荷証券に記載されているとおりの義務を負うということにいたしたわけでございます。例えば、船荷証券には積み荷の数が十個と書いてある。しかし、現実には九個しか積まれていないという場合でも、善意の船荷証券所持人に対しましては十個あるものとしての責任を負う。結局、九個しか渡すことはできませんので、一つについては損害賠償責任を負うということになるわけでございますが、船荷証券に記載されているとおりの義務を負うということにいたしたわけでございます。
 このように改めたのは、船荷証券の記載に基づいて運送品の取引をする善意の第三者を保護し、船荷証券の流通を確保しようとする趣旨でございます。船荷証券は、先ほど申しましたように有価証券でありまして、手形が転々流通するように、船荷証券自身も積み荷の売買という目的で船荷証券の譲渡が行われるということになっているわけでございまして、そういうことから、そういう船荷証券の記載だけを見て取引をする第三者というものを保護するという観点から、この証券作成者はその過失の有無を問わず記載どおりの義務を負うということにいたしたわけでございます。
 なお、この国際海上物品運送法については今回このように改められたわけでございます。これは条約に基づくものとしてそのようになったわけでございますけれども、もともと我が国の商法は運送人の過失の有無によって船荷証券の効力に差をつけるというような考え方をとっておりませんので、そういう意味では、この点に関する限り我が国の商法と同じような考え方に改められたということも言えようかと思います。
#76
○野村五男君 次に、運送人の責任限度額に関する改正の趣旨を説明願います。
#77
○政府委員(清水湛君) 運送人の責任限度額はこの条約の最も基本的な部分でございます。
 一九二四年条約は、運送人の責任限度額を運送品一包または一単位につき百ポンドと決めていたわけでございます。これを批准した現行の国際海上物品運送法では、一九二四年条約を批准した当時、ポンドと円との為替相場は一ポンドちょうど千八円でございました。これは固定為替相場でございましたので、それをそのまま日本円に換算いたしまして、法律で運送品一包または一単位当たり限度額を十万円というふうに決めて、現在法律の中に十万円という金額が書かれているわけでございます。
 今回の改正におきましては、一九六八年議定書及び一九七九年議定書に基づきまして、限度額の計算単位としての国際通貨基金の定める特別引出権、SDRというものを採用するということに議定書の上でなりましたので、これを法律の中に取り入れまして限度額の引き上げを図った、こういうことになるわけでございます。
 なお、限度額の計算単位につきましては、一九二四年条約は金の価値と結びついているイギリス・ポンドを単位としておりましたが、イギリスが金本位制を廃止したというようなことを背景といたしまして、一九六八年議定書は金フランに単位を改めるというようなことをいたしました。ところが、その後、アメリカで金とドルとの交換停止というようなこともございまして、各国が金を基準とする固定為替相場制から変動為替相場制へ移行するというようなことがございましたため、あるいはまた金の価額が自由市場において大きく変動するというようなことになりましたので、この安定的な単位としてのSDRを計算単位として採用するのが相当であるということで、条約上そのような改定がされたわけでございます。
 SDRにつきましては、御承知のように米国ドル、ドイツ・マルク、イギリス・ポンド、フランス・フラン及び円の加重平均値をもって定められるということになっておりまして、特定の通貨の変動による影響を受けることが少なく、比較的安定した価値を維持することができるとされているわけでございます。
 それからまた、限度額の計算単位のほかに限度額の引き上げということを考えているわけでございまして、一九二四年以降の物価変動や貨幣価値の低落という経済情勢の変化を受けまして、新たな限度額は運送品一包または一単位につき六百六十六・六七SDRとしたわけでございます。これは現在のSDRの価額、これは約百八十円でございますけれども、これで計算いたしますと十二万円ということになります。
 それとともに、自動車とか大型機械類といった重量が重く、価値の高い運送品が出てきたということから、損害を受けた運送品一キログラム当たり二SDRという重量制による極度額も併用することといたしております。これも条約でそうなっているわけでございます。この重量制による極度額と六百六十六・六七SDRとの関係は、いずれか高い金額が最終的な限度額となるということになるわけでございまして、例えば一トンの運送品の限度額はこの改正案によりますと三十五万円程度になるということで、そういうような意味でもその限度額の引き上げが図られているということになるわけでございます。
 そのほか、細かいことは――必ずしも細かいこととは申し上げられませんけれども、コンテナ運送の発達を受けまして、コンテナ運送の場合の限度額の算定方法を明らかにした。これは、これまで条約に規定がなくていろいろ疑義を生んでいたわけでございますが、疑義を明確にするという意味において非常に意味ある規定だというふうに私どもは考えているわけでございます。
 このような計算単位の問題、あるいは限度額の引き上げ、あるいは物品の方からの計算単位、つまりコンテナの場合における運送品の数え方等々につきまして明確な規定を置いた次第でございます。
#78
○野村五男君 改正の主要点の最後の点、いわゆる運送人及びその使用する者の不法行為責任に関する改正の趣旨を説明願います。
#79
○政府委員(清水湛君) これは、現在の国際海上物品運送法は運送人と荷送り人との間の運送契約のみについて適用される、こういうことになっているわけでございます。したがって、契約に基づかない債権債務関係である不法行為責任には適用がされないということになるわけでございます。
 ところが、同一当事者間の同一の事故でございましても、損害賠償請求権の法的根拠を契約とするか、あるいは不法行為とするかということによって、契約責任につきましては責任の限度や短期の除斥期間とかあるいは免除の規定がある、免除がされるということになっているのに、不法行為責任を根拠として損害賠償請求をいたしますと、そういうものについては、そのような責任の限度とか除斥期間とか責任の免除がないということになりますと、いかにも不合理であるというようなことが前々から指摘されておりました。
 そこで、一九六八年議定書が、運送人の不法行為責任についても契約責任の免除及び軽減を定めた規定を準用して、契約責任と同様の減免を認めることといたしたわけでございます。これに伴いまして、船長その他船員などの運送人の使用する者の不法行為責任につきましても、これは運送人についての不法行為責任の減免等を認めるのと同様に、この使用する者の不法行為責任についても減免等を認めることといたしたわけでございます。
 これは、いずれも運送人の不法行為責任につきましては、契約責任については減免等が認められるけれども、不法行為責任については認められないということになりますと、その減免を認めた実質的な意味はなくなるということ。それから、使用者について減免を認めませんと、結局被用者に対する責任追及は最終的には運送人のところへいくということから、運送人にその責任の減免を認めた趣旨が全うされないというようなことを理由とするものでございまして、非常にそういう意味では合理的な条約議定書であり、それに基づく法改正も極めて合理的なものであるというふうに私どもは考えている次第でございます。
#80
○野村五男君 最後に、大臣にお伺いいたします。
 今回の改正はかなり法技術的な要素が強いように思われますが、この改正によって国際海上物品運送に対する法的規律が現在の実情に応じたより適正なものになると考えられます。今回の改正の意義につき大臣の所見をお伺いします。
#81
○国務大臣(田原隆君) お答えします。
 今回の改正は、今るる民事局長から説明がありましたように、現在の国際海上物品運送の実情に合わせようとするものであります。そしてそれは非常に合理的である。なぜ合理的かというのは、今三点の御質問がありましたように、一つは船荷証券の効力を強化する、そして善意の第三者に対して保護する。こういうことを考えるとか、運送人の責任限度額を引き上げるということとか、運送人の、あるいは使用人の不法行為責任の問題を合理的にするとかというようなことで、主な点はそんな点でございますが、その他のコンテナの話も出ましたが、いろいろ合理化しているということでありますから、非常に有意義である。
 また、各国が法の統一を目的としておるわけでありますから、その目的に合うように今作成されておるし、世界でも我が国は有数な海運国でありますから、既に制定されている議定書の批准に伴い、国内法の整備を図らなければならないし、それを図るということもまた有意義である。そして、この分野における国際的な統一法に参加するという面でも、これは本当に有意義なものであるというようなことで、今回の改正というのは、我が国の海運事業が国際社会の中での地位を高め、信頼を高め、より一層適正な発展を遂げるものであるというふうに私は思っておりますし、それに期待しておる次第であります。
#82
○野村五男君 終わります。
#83
○中野鉄造君 この法案について二、三質問をいたしますが、もともと私どもは本法案に対しては賛成でございますので、質問の中身が極めて学習的なものになるかもしれませんけれども、その点よろしく御了承をお願いいたします。
 先ほどから質問があっておりますように、この条約及び両改正議定書、一九六八年と一九七九年の両改正議定書の各国の批准状況について御説明いただきたいと思います。
#84
○政府委員(清水湛君) 一九六八年議定書の批准状況でございますが、これは国の名前を申し上げますと、ベルギー、スリランカ、デンマーク、エクアドル、フィンランド、フランス、イタリア、レバノン、オランダ、ノルウェー、ポーランド、シンガポール、スウェーデン、スイス、シリア、エジプト、イギリス、トンガ、ルクセンブルクの十九カ国でございます。
 一九七九年議定書の方で申しますと、これはベルギー、デンマーク、フィンランド、フランス、イタリア、オランダ、ノルウェー、ポーランド、スペイン、スウェーデン、スイス、イギリス、ルクセンブルクの十三カ国でございます。
#85
○中野鉄造君 この条約は国内においてもこれは法的効力を持ちますから、条約によっては特に国内法を整備していないものもありますが、この条約に関しては国内法も整備され、また今回も改正しようとしているわけでございますが、その理由を御説明いただきたいというのが一点。
 それと、この条約と国内法とを見比べた場合に、条約が要求しているところよりも広く適用し、あるいは一歩進めている部分とそうでないものとがあるわけですが、どういうところがそうで、どういうところがそうでないのか、現行法及び改正法案の両方について御説明いただければと思います。
#86
○政府委員(清水湛君) この国際海上物品運送に関する一九二四年条約、あるいは一九六八年議定書あるいは一九七九年議定書、それぞれ三本の独立した条約という性格を持つものでございます。条約は、結局統一法条約というふうに俗に呼んでいるわけでございますけれども、お互いに条約に参加した国が同じような内容の国内法をつくるということを目的としたものでございます。
 例えば、我が国に手形・小切手法という国内法がございますけれども、この手形・小切手法はジュネーブ条約という条約がございまして、そのジュネーブ条約に参加している国はジュネーブ条約で定めているような内容の手形・小切手法というものをそれぞれの国独自の国内法として制定する。その結果として、それぞれの国の法律が全く同じになりますので、その条約に加盟している国の相互間でトラブルが生じましても出てくる結論は同じになる、こういうことでございます。
 そういうことから、この条約に参加いたしますと条約の内容に沿った国内法を制定する必要がある、こういうことになるというふうに私どもは考えているわけでございます。ただ、国によりましてはこの条約自体が国内法としての効力を持つというような簡単な法律を一本つくりまして特別に法律をつくらないというような国もあるようでございますけれども、いずれにいたしましても、国内法化をする必要がある、こういうことになるわけでございます。
 ところで、国際海上物品運送に関しまして国内法をつくるという場合に、条約で統一を図るべきとされた中身だけについて国内法をつくるということになりますと、同じ国際関係の運送に関する法律が商法の規定とそれからそのために特につくられた国際海上物品運送法という二つの領域にまたがることになります。つまり、そのために非常に複雑な問題が生ずる可能性がある。そこで、我が国の立法者、これは昭和三十二年の立法者でございますけれども、国際海上物品運送につきましては、条約で定められた事項はもちろんのこと、それ以外の事項でもこの国際海上物品運送法を見ればわかるように、条約とは関係のない事柄についても規定を設けた方がわかりやすいのではないかということから、条約では直接に触れられていない事項を商法の中に書いているというようなことがございます。例えば、午前中にもちょっと問題がございましたけれども、延着責任につきましては条約は何も触れていないし、二四年条約も一九六八年条約も七九年条約も触れていないわけでございますけれども、延着自体については既に商法の海商法の中に規定があるわけでございます。そのような商法の規定の趣旨を踏まえまして、この国際海上物品運送法の中には同じような規定を設けるという形で、およそ国際海上物品運送に関する法律問題は商法を見なくてもこの国際海上物品運送法を見ればわかるという一つの統一的な法体系としてこれを制定した、こういうことになっているというふうに理解しているわけでございます。
#87
○中野鉄造君 それでは、法案の主な改正点の内容についてお尋ねいたします。
 まず初めに、適用範囲で、内航船には本法を適用しない理由が那辺にあるのか、また、内航船には本法が適用されないために責任が外航船よりも重くなるという結果が生じておりますけれども、この両者の責任のバランスをどのようにお考えになっているのか。それと、これに関連しまして、内航船に適用されている商法の規定というのはこれはもう随分古いものなんですが、これは改正の必要はないのかどうか、この二点、お尋ねいたします。
#88
○政府委員(清水湛君) まず、第一番目の国際海上物品運送法の規定を内航船に適用しない理由でございますが、今回の改正は国際運送に関する一九七九年議定書の批准に伴う国内法の整備を目的とするものでございます。この議定書は、当然のことながら国際運送のみを目的として、国内運送への適用ということは予定していないわけでございます。
 こういうような議定書がつくられる背景というのは、やはり海上運送というのは国際間で行われる、その際に国ごとに法律が違っていたのではぐあいが悪いということから、それぞれの国がお互いに関係する国際運送については同じ内容の法律をつくろうという趣旨のものでございまして、つまり国際的統一の必要性というのが非常に高い、こういうことからこのような議定書がつくられているわけでございます。したがいまして、形式論で申しますと、国内運送への適用というものはこれは考えておりませんし、我が国もこの点に関する国際的な流れというものに沿ってそのようにいたしているわけでございます。
 そこで問題は、その結果といたしまして、先生御指摘のように、内航船の運送人の責任が外航船の運送人の責任よりも重くなるというような結果が現実に生ずることがあるわけでございます。例えば、午前中も議論がございましたけれども、運送人の契約責任につきまして、例えば船長とか船員の船舶の取り扱いについて落ち度があったというような、いわゆる航海上の過失という概念があるわけでございますけれども、こういう航海上の過失につきましても、内国船でございますと、これは運送契約上の一種の履行補助者、船長及び船員は履行補助者といたしましてその因果関係が当然問題になりますけれども、理論的にはそういう船長あるいは船員の過失による損害というようなものも運送人が契約責任として負うことがある、こういうことに国内法の上ではなるわけでございます。
 しかしながら、この航海上の過失という概念、これはイギリス――イギリスは海運国として非常に長い歴史、深い歴史を持っているわけでございますけれども、イギリス法等で形成されてきた航海上の過失という概念がこの条約に取り込まれまして、航海上の過失については運送人は責任を負わないというふうに、これは条約の上ではなっているわけでございます。
 それがいいか悪いかという問題は、また別の問題としてあるわけでございますけれども、いろいろと利害の衝突が激しい国際間の運送におきまして、各国が合意をし得る最大公約数として、この航海上の過失については責任を負わないということでこの条約がつくられたということでございまして、国際間の法律を統一するというところに非常に重要な要素があるわけでございますから、それはそれとして国際間ではそういうことでやると。航海上の過失については運送人は責任を負わないという形で、これは我が国もやらざるを得ませんし、我が国だけ航海上の過失については運送人が責任を負うということを諸外国に約束いたしますと、これは我が国の海運業の国際競争力を弱めるということにもつながりますので、これは国際間の約束はそういう統一した約束でやる、こういうことにならざるを得ないわけでございます。
 ただしかし、そのことを国内法に直ちに持ち込んでいいかどうかということになりますと、これは非常に問題でございまして、内航船については我が国の内航の実情というようなものを踏まえまして、それにふさわしいやはり規律をしていかなければならない、こういうふうに私ども考えるわけでございます。
 午前中、北村先生の方からも、陸上運送、貨物運送の問題との対比等についてのお尋ねがございましたけれども、我が国の内海における運送につきましても、非常に広大な海を前提として、しかも長期間にわたる国際海上運送というようなものとはかなり様相を異にするという問題がございますので、我が国の実情というものに応じた考え方をやはり持っていかなければならないというふうに思う次第でございます。
 それから三番目に、内航船に適用されている商法の規定を改正する必要はないかということでございます。
 実は、商法の海商法に関する規定は明治につくられまして、その後一度か、かなり改正がされているわけでございますけれども、ほとんど改正がされないまま推移をしているという状況にございます。昭和十年でございましたか、法制審議会におきまして海商法の見直しというようなことが議論されたわけでございまして、その際にこの船荷証券統一条約、一九二四年条約の取り扱いなども議論された経緯があるわけでございますが、その後戦争というような状態があって、海商法関係についての改正の熱意というかエネルギーというものはもう完全に消滅してしまったというような状況が実はあるわけでございます。
 今回、国際海上物品運送につきましては、こういう形で法改正をお願いするわけでございますけれども、海上運送という点だけに限りませず、海商法全体が非常に古臭いのではないか、中身はともかくとして条文も片仮名漢字まじりということで非常に難しい条文になっているわけでございまして、そういうようなものが現在の社会経済情勢というものに照らしていかがかというようなことも十分考えられるわけでございます。
 ただしかし、海商法の問題一般ということになりますと、これは相当いろんな面についての調査研究というようなものが必要だと思うわけでございまして、そういう観点から今後どうするかというようなことについて勉強してまいりたいというふうに思っているところでございます。
#89
○中野鉄造君 次に、今局長と言われましたが、本法の改正案の中にこれまた非常に、片仮名でこそありませんけれども相変わらず非常に我々素人から見ると難しい文言というか条文があるわけです。
 例えば、本法の中で不法行為責任の規定の仕方については、第一条やあるいは第二十条の二の規定の仕方にもあらわれておりますように、契約責任関係の条文とは分けて独立した形で扱っておられるが、このような形にしたその理由をお聞かせいただきたい。
 つまり、この改正案の第一条には、「この法律(第二十条の二を除く。)の規定は船舶による物品運送で船積港又は陸揚港が本邦外にあるものに、同条の規定は」――「同条の規定」というのは二十条の二と思いますけれども、「同条の規定は運送人及びその使用する者の不法行為による損害賠償の責任に適用する。」と、こうあります。それで、今も申しましたように、括弧の中に「第二十条の二を除く。」としているのに、これまた二十条の二にはこれを設けておるわけですけれども、したがって、一条にこういうようなことを言わないで、そのままでもいいんじゃないかと思うんです。そしてまた、仮に今度は逆に「除く」と言うならば、先に書かなくてもいいんじゃないかというような気もしてくるんですけれどもね。
 この辺が、先ほどからおっしゃっているように、非常にこの法律というのはわかりづらい。特に二十条の二なんて読むと、もう読んだだけで頭が痛くなってくるような、そういう感じがするんですけれども、何を言わんとしているんですか。
#90
○政府委員(清水湛君) 実は、この第一条の書き方というのは、もう最初からいろいろな案が出まして、最後までどういうふうに書くかということで、私ども考えに考え抜いて、最終的にこの改正案のように書くのが一番正確な書き方であろうということで、これは内閣法制局にもいろいろと御相談を申し上げながら、このような改正規定になったわけでございます。
 もともとこの第一条、この法律の適用範囲というようなものを法律の中に書いている法律というものもめずらしいわけでございます。特に、この改正前の現行法の規定第一条が、「この法律は、船舶による物品運送で、船積港又は陸揚港が本邦外にあるものに適用する。」と、こういうふうに書いた趣旨は、これは条約あるいは当時の立法の経緯からいたしましても、運送契約つまり契約責任だけについて適用するということを明らかにした規定である、こういうふうに理解されているわけでございまして、そういう理解は最高裁判所の判決によっても支持されているわけでございます。そういう前提で見ますと、この二十条の二という規定が入る前のこの国際海上物品運送法の規定というのは、すべて契約を前提とした規定である。つまり、不法行為というものを前提とした規定ではないということになるわけでございます。
 そこで、もしこの第一条を、先生のおっしゃるように、「第二十条の二を除く。」なんということにいたしませんで、この法律の規定は運送契約とか運送人あるいはその使用する者の不法行為責任に適用するんだというふうにすらっと書けばいいじゃないかという議論が出てくるわけですが、そう書きますと、この法律の中のある種の条文については、契約責任だかもこそ適用はできるんだけれども、不法行為責任だったら適用はできないというような条文が何条があるわけでございます。そうなってきますと、もともと契約責任を前提とした規定であるのに不法行為責任にも適用されるかのごときミスリードされるおそれがある、こういうようなことがございまして、そこで今回この条約の批准に伴いまして不法行為責任についての規定を入れるということになりますと、どの条文とどの条文が不法行為責任に適用になるんだということは、これは第二十条の二の方で明確に摘記すると。それで、この法律全体は不法行為責任には関係のない規定である、こういうことをやっぱりどこかで振り分けなければならない。
 そういうようなことから、この第一条で「この法律」とやりまして、第二十条の二というのは今度新しく不法行為責任に関する規定で入ったわけでございますけれども、その規定を除きまして、まずこの法律が物品運送契約に適用されると。しかし、除いたこの第二十条の二は、契約責任ではない運送人及びその使用する者の不法行為による損害賠償責任に適用すると、こういう形で、私ども大変苦心した条文であるだけに、先生の御指摘まことにもっともだというように感じ入るわけでございますけれども、そういうような背景でこういうふうに書かさせていただいたということを御理解をいただきたいと思う次第でございます。
#91
○中野鉄造君 この法律というのは、今おっしゃるように、非常にパズル的に、わかりづらいようにするところに重みがあるのかなとさえ思うんですけれども、やっぱりもう少し、案文をつくった者だけが何とかわかっていればいいというんじゃなくて、国民のためのものなんですから、だれが読んでも、ちょっと読めばわかるというように何とかならないものかなという思いしきりなんです。
 次に、第九条の船荷証券の効力強化というのが今回の改正の目玉になっているようですけれども、船荷証券の効力を強化した趣旨及び船荷証券の証拠力の及ぶ範囲がどのように変わったのか、その点をまず御説明いただきたいと思います。
#92
○政府委員(清水湛君) 第九条の規定は、これは船荷証券の不実記載の効力に関する規定でございますが、先ほどもほかの先生に御答弁申し上げたところでございますが、船荷証券の記載というのが事実と異なる場合、現行法では運送人がその記載をするについて過失がなければ善意の第三者である船荷証券の所持人に対して船荷証券の記載が事実と異なるということを主張することができる。しかも、その事実に基づく義務だけを負うこととされているわけでございます。
 船荷証券は、運送人が積み荷を船に積み込んだときに一般的には荷送り人、荷主に対して交付されるものでございまして、有価証券だというふうにされております。例えば、その積み荷の売買をするという場合に、船荷証券が発行されている場合には船荷証券の譲渡をするという形によって積み荷の売買が行われるというような非常に強い性格を持っているわけでございます。そういう場合に、例えば積み荷の売買が行われまして、荷主から第三者に船荷一証券の裏書譲渡がされるというようなことになった場合に、第三者といたしましてはこの船荷証券の記載に基づいて、記載どおりの荷物が船に積まれているというふうに信ずるのが当たり前であるわけでございます。しかし、そういう際に、この船荷証券に記載どおりのものが船には積まれていないということになった場合に、だれが一体その責任を負うのかということになるわけでございます。
 現行法では、船荷証券のそういう記載をするについて運送人の方でも注意を尽くした、自分は注意したんだけれどもそういう間違った記載がされる結果になってしまったというようなことの場合には、そういう事実を証明すればその記載が事実と異なるんだということをもって対抗することができると、こういうことになっているわけでございます。つまり、運送人の方の過失の有無によって善意の第三者に対する効力は違ってくるというのが現行法でございます。
 この点も今回の改正によりまして、運送人に過失があろうとなかろうと善意の第三者は船荷証券の記載を信じて運送中の荷物を買い受けたわけでございますから、その場合にはやはり善意であるということが必要でございますけれども、証券記載どおりの責任を運送人に対して追及することができると、こういうことにいたしたわけでございます。
 実は、現行法の第九条というのは、我が国の商法の規定に照らしますと、やや異色、異質でございまして、我が国の現在の商法では、やはりそういう運送人の過失の有無にかかわらず善意の第三者には事実と異なることをもって対抗することができないということになっていたわけでございますが、条約上は現行法の九条みたいな形でおさまっていたわけでございます。この条約が改められまして、今回のように事実と異なることをもって善意の第三者に対抗することができないというふうにされました結果、この国際海上物品運送法も我が国国内商法と同じようなものになってきたということになるわけでございまして、これも条約というものが各国の法律を統一するためにある種の妥協でされておるということからそのような結果が生じたわけでございますが、船荷証券の効力に関する限りその効果は同じになったということが言えるかと思うわけでございます。
#93
○中野鉄造君 次に、先ほどから申しております二十条の二の改正の主な柱の一つが不法行為責任の規定の新設でございますが、まず初めに、この条約において運送人等の不法行為責任についても契約責任のそれと同じ形で統一されておりますけれども、その理由は何かということ、あわせてこれを新設した理由ですね、これをお尋ねいたします。
#94
○政府委員(清水湛君) 一九二四年条約というのは、先ほどお答え申しましたとおり、荷主と運送人との間の運送契約、契約上の責任だけについて責任の限度とか責任の免除等を定める、こういうことになっていたわけでございます。しかし、それが実際にこの条約を運用してみまして非常に不合理であるということが各国から指摘されてきたわけでございますが、それが一九六八年議定書によりまして、運送人の不法行為責任及び運送人の使用人の不法行為責任についても契約責任と同様の責任の限度とかあるいは免除等の制度を取り入れる、こういうことになったわけでございます。
 考えてみますと、例えば運送人と荷主、運送契約の当事者でございますけれども、そういう同一の当事者間におきましてある種の事故が起きる、そういう事故の場合に法律構成の仕方によって運送契約上の損害賠償責任を追及するということも可能ですし、不法行為に基づく損害賠償請求権を行使するということも可能で、その法律構成をどうするかということによって、一方では責任の限度とか免除がされるけれども、一方ではそういうものがないということは非常にアンバランスではないかということでございます。国によっては、そういう同じ事故であるならば幾つもの種類の法律構成はできない、こういうことを言う国もあるわけでございますけれども、日本では通説として契約責任でいくか不法行為責任でいくか、どちらでもこれは構わないということになっておりますので、そういう国ではやはりそのアンバランスが非常に顕著なものになると、こういうことになるわけでございます。
 それからもう一つ、運送人の不法行為責任についてアンバランスを是正するということになりますと、運送人の使用人、船長とか船員の不法行為責任につきましても、これはやはり同様の責任の限度や免除ということをいたしませんと、運送人については責任が限定されるけれども、その従業員である、あるいは使用人である船長とか船員については、これは無制限の責任を負わせるということでは、これまた非常にアンバランスになりまして、船長その他の使用人にとっては非常に酷な結果になる、こういうことにもなるわけでございます。
 と同時にまた、そういう船長とか船員等の損害賠償責任というのは、いずれ結局これは運送人、つまり船主の方に、多くの場合は船主でございますけれども、船主の方に転嫁されるということになりますので、せっかく運送人について責任の免除を定めましても使用人を通じて結局また無制限の損害賠償責任を負わされるということに結果においてなる可能性があるということになりますと、この国際海上物品につきまして、一九二四年条約をつくった趣旨というものが没却されてしまうのではないかということから、一九六八年議定書ではそういった運送人及び運送人の使用者に対する不法行為責任につきましても、契約責任と同様の責任の限度や免除についての規定を設けるということとされたわけでございます。
 これを受けまして、二十条の二、これは先生が先ほど御指摘のように、契約責任に関する規定を準用いたしておりますので、私どもも一々条文を照らし合わせていませんとわかりにくい。まことに申しわけないことだと思いますけれども、現在の一応の立法スタイルに従いましてこのような規定ぶりにさせていただいたということになるわけでございます。
#95
○中野鉄造君 大体わかったような気がするんですが、要するに我々の素朴な考え方からいきますと、仮に一千万円の損害をこうむった、それは言うところの不法であったにせよ過失であったにせよ故意であったにせよ、いずれにしても一千万円の損害をこうむった。それはいわゆる契約不履行の範疇で処理されるのではないかというような考えが出てくるわけなんですけれども、一千万円の損害をこうむった、これは契約不履行である、安全に完全な形で物を運ぶという契約不履行である。しかし、不法行為論でいきますと、そのほかにもまた何かあるといったようなことはこれはもう当然ないわけです。その一千万が二千万とか千五百万とかなるということはこれはあり得ないわけなんですけれども、契約理論だけでは賠償してもらえなかったものが不法行為理論が入ったことによって賠償してもらえるというような事例はどういう場合が考えられますか。
#96
○政府委員(清水湛君) この法律でも契約責任、不法行為責任について同じような取り扱いをしているわけでございますけれども、もちろん運送品に関する損害が運送人の使用する者の故意、わざとった、あるいは損害の発生のおそれがあることを認識しながらした無謀な行為、そういう場合にはこれはもう責任の限度も免責もございません。例えば具体的に、あらしか来るということがわかっていながら、こういうところで出航すれば船が転覆するとか、積み荷が大変な損傷を受けるというようなことが常識的に見ればわかっていながら、あえて船を出させたとか、そういうようないろんなケースがあり得ると思いますけれども、無謀行為につきましては損害賠償の責任の限定とかあるいは免除ということがないということは、これは二十条の二の第五項にそういった趣旨の規定があるわけでございます。
 そういう無謀行為ではないちょっとした不注意とか――故意は問題外でございますけれども過失がある、不注意があったというような場合に、今の法律論で申しますと契約責任と不法行為責任が生ずる。例えば自動車事故なんかでは、故意にぶつければこれはもう問題外ですけれども、不注意で人を傷つけるというのはこれは過失でございます。そういうような過失による行為につきましては、契約関係があれば契約責任、契約関係がなければ不法行為責任、こういうことになるわけでございます。ところが、運送人と荷主の間には運送契約がございますので、運送契約でいこうと不法行為でいこうと実質的な違いは出てこない。ただ、理論構成の仕方として、契約責任追及か不法行為責任追及かということになるのではないかというような気がするわけでございます。
 しかし一方、船長とか船員は、これは契約の当事者ではございませんので、荷主に対して契約上の責任を負うことはございません。ただ、一般の理論に従いますと、船長とか船員は運送人である船主が負っている契約を履行するための補助者である、履行補助者であるというふうな位置づけになるわけでございますけれども、契約の当事者ではございませんから直接契約責任を負うということはない。しかし、不法行為、自分の不注意によって積み荷を損傷したということになりますと、契約関係はございませんけれども不法行為責任は負う、こういうことになるわけでございまして、そういう意味では不法行為責任を追及する道を与えるということは、これは非常に意味があるわけでございます。
 ただ、その場合に、不法行為責任を追及した結果、船員とか船長さんが無限定の損害賠償責任を負わされるということになりますと、これはいろいろ問題が出てまいりますということから、これにつきましても契約責任と同じような限定を付した、こういうふうに私ども考えているわけでございます。
#97
○中野鉄造君 そうすると、ちょっと参考までに聞きますけれども、これからこういうものを新設されようとしているわけですが、過去、今まではそういう場合はどういうことになっていたんですか。
#98
○政府委員(清水湛君) 理論的に申しますと、不法行為責任を船長について追及するということはあり得るわけでございます。
 ただ、我が国において具体的に訴訟等でそういうことが問題になった事例というのは私ども承知いたしておりません。恐らくこの海上物品運送につきましては、実は全部保険が絡んでいるわけでございます。貨物については貨物保険が課せられ、それから船主については船主の責任保険というものが課せられているわけでございまして、その場合に責任の限度が二足額に決まっているということになりますと保険会社の保険料も安くなる。ところが、責任の限度はいわば青天井であるということになりますと保険料も高くなる。こういうような関係で実際問題としては処理されておるというふうに私ども承知しているわけでございますが、具体的に青天井の請求がされたとか、そういうような事例は私ども聞かないわけでございます。恐らく、もしあったとすれば、大部分話し合いで解決されているということだろうと思います。
 ただ一点、午前中もヒマラヤ条項の話が出ましたが、一九二四年条約、これは現在イギリスは一九七九年条約に加入いたしておりますので一九二四年条約は廃棄いたしましたけれども、イギリスが一九二四年条約に入っている時期にヒマラヤ号という船で事故が起こったときに、イギリスの裁判所で船長等の使用人に対して不法行為に基づく損害賠償請求をしたわけでございます。ところが、船長の方では、船主である運送人についてはそういう責任の限度とか減免があるんだから、自分たちの責任についてもそういう減免あるいは限度というものが当然あってしかるべきだという主張をしたんでございますけれども、イギリスの裁判所は、一九二四年の条約は契約責任だけについてしか適用がない、船長については適用がない、こういう判断をいたしたわけでございます。
 そこで、イギリスの多くの船会社は、船荷証券の裏面に掲げます約款で、船長等の不法行為責任については責任を一定の限度しか負わない、つまり運送人と同程度の責任しか負わないという約款を付したわけでございます。これが俗に、ヒマラヤ号という船で起こった事件でございますから、それを契機としてそういう約款が生まれてまいりましたのでヒマラヤ・クローズということが海運関係者の間では言われるわけでございます。このヒマラヤ・クローズは一九六八年議定書の中に取り込まれまして、今回例えば我が国の国内法においてもそのことが明記されるわけでございますが、そういう一九六八年議定書で取り入れられる前のヒマラヤ・クローズの効力につきましては、これはまたいろいろな見解が実は行われていたわけでございまして、有効、無効説、いろいろあるわけでございますけれども、多くの場合はそういうヒマラヤ・クローズで海運会社は解決しようとしていたのではないかというふうに推測がされているわけでございます。
#99
○中野鉄造君 終わります。
#100
○橋本敦君 午前中局長の答弁で、いわゆるヘーグ・ヴィスビー・ルール、それからハンブルク・ルール、これとの違い、問題点等詳しく御説明がありましたので繰り返すつもりはないんですが、基本的な問題なので、若干これに関連をしてまずお尋ねをしておきたいと思います。
 局長の御説明がありましたように、アフリカ諸国を中心としてハンブルク条約が二十カ国の批准に達して近く発効する、こうなってまいりましたので、現実的には海上運送の責任原則が、二つの原則がいわば地球上で各国の間で存在するということになってくるわけですね。そういたしますと、どこかでこれの調整ということがなされるのか、あるいはまた国連あたりでそういった考え方での調整を具体的に手がけているようなところがあるのか、今後海上運送責任の問題について統一的な方向というのは出てくるのか、そこらあたりの見通しはどのようにお考えでございますか。
#101
○政府委員(清水湛君) これは私の方でお答えするのが適当かどうか、大変難しい問題だと私自身は考えているわけなのでございます。
 ハンブルク・ルールというのはことしの十一月一日に発効するということになるわけですが、まだ現実には適用されていないという状況にございます。ところが、ヘーグあるいはヴィスビー・ルールというのは、先ほど午前中もお答えしましたけれども、もう七十年近い歴史と伝統を持っている。特にヘーグ・ルールという点から申しますと、世界の海運貿易のほとんどはもう現実にはヘーグ・ルールで動いている、こういう実情にあるわけでございます。ですから、そういう状況の中でハンブルク・ルールによる貿易量というものがどの程度になるのかということについては、私は非常に見通しが困難なものがあるというふうに思います。
 ただしかし、アメリカあたりで荷主団体と船主の団体の意見の対立があって、アメリカとしては合いかんともしがたいような状況になっておる。日本では幸い、荷主団体も船主団体もとにかく日本の国際的な地位にかんがみて早く一九七九年議定書を批准せよ、こういう立場でございますから、その点は全く問題がないわけでございますけれども、いろいろそういう事情を勘案しますと、ある程度またハンブルク・ルールの適用国というものも出てくるのかなという感じはしないわけではございません。
 私ども、例えば先生もよく御存じだと思いますけれども、先ほどちょっとお話をいたしましたが、手形につきまして、ヨーロッパ諸国はすべてそうでございますけれども、日本はジュネーブ条約に入りまして、ジュネーブ条約の中身そっくりの手形・小切手法というのを持っているわけでございます。英米法諸国ではこれまた全く違う手形法を持っているわけでございまして、この手形について、ジュネーブ・カントリーとアングロ・アメリカン・カントリーの間の差を埋めて統一すべきではないかというようなことで、国連のUNCITRALが非常に熱心に動きましてその統一法条約なるものをつくったのでございますけれども、これが採用される見通しというのは非常に少ないのではないかというような意見もあるわけでございます。
 船荷証券も手形と同じような有価証券でございまして流通をするという面がありますから、どこかでいずれ統一を図るという動きは出てくるのではないかという気はいたしますけれども、現在のところは、とにかくヘーグ・ルールが優勢であり、しかも一九六八年議定書あるいは七九年議定書というのは、これは二四年条約の不備を直すという意味では合理的なものでございますので、とにかくこれは多くの国が結局最後には批准していくことになるであろう。しかし、ハンブルク・ルールというものがある程度根づいてきたときに、やはりその間の調整というようなことが、手形について言われているようにどこかで問題になる時期はあるのではないかというふうに、私はこれは個人でございますけれども、ある程度推測はいたしております。しかし、その時期がいつになってどういう動きになるかというようなことについては、ちょっと申し上げるだけの知識、能力は持ち合わせておりませんので、その点何とぞお許しいただきたいというふうに思います。
#102
○橋本敦君 それは将来の問題になるわけでございますから予測が難しいのはおっしゃるとおりでございまして、そういった将来の統一的な志向ということで、再びまた何らかの条約なりあるいは国内法の整備ということが必要になることがないとも限らないという状況を踏まえながら、今日このヘーグ・ヴィスビー・ルールを基本として我が国が議定書を批准し国内法を改正するというのは、今局長がおっしゃったように、一言で言えばこれが今日の現在における世界の大勢だという認識だというふうに伺ってよろしいですか。
#103
○政府委員(清水湛君) 国連の方の主宰と申しますか、国連の場でハンブルク・ルールというものがつくられたという経緯もございまして、国連としてはハンブルク・ルールの採用を推奨しているというような動きがあるというふうには聞いておりますけれども、現実の世界の姿はヘーグ・ヴィスビー・ルールで動いているという事実は事実としてこれは直視をして、それの合理化というものをやっぱり考えていかなければならないというふうに思う次第でございます。
#104
○橋本敦君 それでは、次に進んでまいりますけれども、今おっしゃったように、我が国では荷主及び船主双方の間で意見の対立がなくて、どちらも一致して本条約の批准あるいは国内法改正に賛意を表しているというお話でございました。その一つの問題として、一般に荷主側の主張としてハンブルク・ルールも言われているのに、我が国の荷主がそうではなくてヘーグ・ヴィスピー・ルールで結構だとおっしゃっているというその背景には、今日の損害問題については、先ほどお話がありましたように、ほとんど保険でカバーされているという、そういう実態が一つはあるのかどうかということが考えられるんですが、どうなんでしょうか。
#105
○政府委員(清水湛君) 結局、保険というものも非常に私重要な要素だろうと思います。
 先ほどから申し上げておりますように、船主につきましては船主の責任保険、荷主については貨物保険、荷物保険、そういった名称はともかくとして、そういった系統の保険制度があるわけでございますから、恐らく荷主の方の損害賠償請求権が広がれば荷主の保険料は安くなり、船主の方の責任が少なくなれば船主の方の責任保険料は安くなるという、理論的に考えますとそういう因果関係は出てくるんだろうと思いますけれども、しかし、現実のシステムの中では必ずしもそう単純な話ではないような話も伺っているわけでございます。
 それより何より、結局我が国は世界の有数の海運国であり同時に輸出国である、荷主の国であり同時に船主の国である、こういうような国際的な地位があるわけでございまして、そういう状況の中で世界の大勢がヘーグ・ヴィスビー・ルールというもので動いているという状況を踏まえますと、荷主がどうの船主がどうのというような自分たちの立場だけでやはり議論するということは適当ではないというふうにお考えになっているのではないかというふうに私自身は推測をいたしているわけでございます。
#106
○橋本敦君 局長の今の推測は推測として、実態を考えますと、運輸省からいただいた資料によりますと、救助を要した船舶の海難件数ですが、昭和五十七年が一千九百二十七件、それから十年間の資料をいただいておりますが、ほとんど横ばいで、平成三年が千九百三十件ですから全く同一と言ってもよろしいわけで、そういう意味では海難というのは船舶の近代化にもかかわらずなかなか減っていないという状況が見受けられるわけですね。その原因としては衝突が四百四十一件、乗り上げ、座礁等ですが三百六十七件、それから機関故障が二百八十五件、火災が九十九件、転覆が二百十八件というように重大事故がずっと出ております。こういう現状ともう一つは、大蔵省からいただいた資料、主な船舶貨物事故で過去十年間で支払い保険金十億以上合計を見てみますと、これもかなりの件数に上っておるわけですね。
 こういう現状ですから、海上運送の責任問題というのは依然として重要な課題であるということは、これはもう言うまでもないんですが、今私が指摘したような実態でほとんど保険でカバーされているというケースが多いように見受けられるということも、一つは近代的な責任のてん補の問題がそういう意味では進んでいる中での条約なり海上物品運送法のこれからの整備だというように思うわけです。
 そういうことを考えてみましても一つ問題になりますのは、実は遅延による損害という問題があると思うんです。この遅延による損害というのは、これは事故ではありませんから保険でどれだけきくのかということになりますと、これは問題がある部分なんですけれども、しかし海上輸送ではしばしば不可抗力による、嵐その他がございますから、遅延ということはしばしば起こりやすい。この問題は、へーグ・ヴィスビー・ルールでは遅延の損害というのは特に定めていない。それは私が今言ったような不可抗力による場合が多いということを考慮しているのではないかと思うんですが、その点どうお考えか、これが第一点の質問であります。
 ハンブルク・ルールではこの問題は取り上げているわけですね。しかし、局長の御答弁に先ほどもありましたように、ヘーグ・ヴィスビー・ルールそのものにはないけれども、我が国の国内法としてこの問題は商法上当然のこととして存在しており、今度の改正法案でもこの損害責任の問題は明記している、こうなっているわけですね。ここらあたりこの法案の考え方はどうなのかということと、その損害額の算定は海工事故と同じような考え方なのか、その点はどうなんでしょうか。
#107
○政府委員(清水湛君) ヘーグ・ヴィスビー・ルールにつきましては、先生御指摘のとおり、延着についての規定がないわけでございます。延着ということは当然あり得るわけで、その点について条約で特に規定を置かなかったというのは、規定を置くのを忘れたというのではなくて、国内のそれぞれ事情があって結局その部分については各国がそれぞれの立場で法律をつくみということについては、これはやむを得ないと申しますか、それに任せるという態度であったというふうに私どもは理解をしているわけでございます。現実に、我が国の商法におきましては延着についての規定があるわけでございます。
 そこで、この条約につきましては、これはもう昭和三十二年のときからでございますけれども、延着した場合につきましても運送品の滅失、損傷の場合と同じように運送人の損害賠償責任を認める、責任限度額や短期の除斥期間についても同様とするということにいたしているわけでございます。
 それから、賠償額をどうするかということでございますけれども、これも一般の運送品の滅失と同じように考えるわけですが、本来運送品が荷揚げされるべき地――ほかの港に着いてしまうということもあり得るわけですけれども、本来荷揚げされるべき他あるいは本来荷揚げされるべき時において運送品が有したであろう価格相当額と現実の荷揚げ時における当該運送品の現実の価格相当額の差である、こういうことになるものと解されているわけでございます。
 延着の場合には滅失と違って着くわけですから、遅く着いたことによって例えば価値が下がるということになりますと、その価値について損害としてこれを賠償する、しかしその額につきましては責任限度額の規定はかぶってまいります、こういう趣旨でございます。
#108
○橋本敦君 その場合、過失の有無等はどういう見当になりますか、延着することについての過失の有無。
#109
○政府委員(清水湛君) これは今回の改正条文の対象とはなっておりませんけれども、国際海上物品運送法の第四条で不可抗力等による事由によるものにつきましてはそもそも責任を負わないということになっておりますけれども、そういうものに該当しない限りこの責任は生ずる、こういうことになってございます。
#110
○橋本敦君 わかりました、
 それでは、ちょっと法案に則して中身に入りますが、三点ばかり質問をさせていただきたいと思います。
 一つの問題はSDRの採用の問題であります。SDRが、局長御説明のように、変動相場制、ポンドあるいは金本位制を脱した不安定な通貨に依存するのではなくて、ポンドにしろドルにしろ円にしろフランにしろ加重平均で安定性を持っている単位としてこれを使うということですから、それ自体は私は賛成であります。
 このSDRを採用するということと責任限度額の引き上げの問題ですが、SDRの採用の結果、必然的に責任限度額が上がるということになるのか、それとも責任限度額の引き上げとSDRの採用とはそれぞれ別個の法目的を持っているのか、この点はどうなんでしょうか。
#111
○政府委員(清水湛君) 責任限度額の引き上げというのは、実はこれは一九六八年議定書で実現をしているところでございます。その際に、例のポンドから金フランというふうに単位を変えておりますけれども、引き上げ自体は一九六八年議定書でございます。一九七九年議定書のSDRへの切りかえというのはこれは計算方法の改定である、こういうふうに理解いたしております。
#112
○橋本敦君 責任限度額の引き上げが問題になってまいりましたのは、局長も先ほど少し触れられたんですが、近年の輸送貨物は重量が多くなるというだけではなくて、価格の高いものが多くなっているという国際社会の一般的な傾向ではないかというようにお話しになりましたが、確かに先ほど指摘しました大蔵省からいただいた資料でも、保険の対象となって支払われた主要な貨物品目では、自動車とかあるいは家電製品だとかあるいはオートバイ、複写機その他、かなり高価なものが対象になっているということもわかりますので、ある程度これは引き上げということの意味もわかるわけですが、どこまで引き上げるかということは、これはなかなか国際社会としてコンセンサスが難しい問題だと私は思うんですね。
 だから、責任限度額をどのくらいまで引き上げるかということについては、それぞれの国の主権としての国内の法律で基本的に定めるのか、条約で一般的に限度額はこうだということを定めるのがいいのか、難しい問題だという気がするんですけれども、ここらあたりのお考えはどうですか。
#113
○政府委員(清水湛君) 責任限度額をどうするかということは大変な問題でございまして、実はハンブルク・ルールもこの点についてはヘーグ・ヴィスビー・ルールとは違った考え方を持っているわけでございます。結局、荷主側の立場に立つか船主側の立場に立つかというような立場による議論をするということもそれはあるのかもしれませんけれども、国際海運と申しますか、国際海上というものが合理的な形で適正に発展していく、つまり余り船主に責任をかぶせますと、最近非常にハイテクなんかで船舶の性能がよくなったり、技術がよくなったということはあるかもしれませんけれども、もともと、それでもやはり天候、天災には勝てないという要素があるわけでございまして、船主に対してどれだけの責任を追及するか、あるいは荷主としてはどの辺まで責任というか損害賠償の追及を我慢するか、こういうお互いにほどよい調和を保つということが、この国際海上物品運送に関する条約の最大の眼目だろうと私どもは思っているわけでございます。
 決して一方の立場を有利にするとか不利にするとかというのじゃなくて、これがスムーズに行われるような海上物品運送でなければならない、そういう観点から恐らくこれまでも、二四年条約もしかりでございますが、六八年議定書も当然のことながら議論されたというふうに思うわけでございます。
 今後、物価とか経済の情勢の変動に応じていずれかまたこの限度額の改定、これは引き上げになるのか引き下げになるのか、私わかりませんけれども、そういった話し合いというものはまたある時期には当然のことながら出てくるのではないか。それをどうするかということについては、とてもちょっと私どもの能力の範囲外でございますので、なかなか難しい問題だというふうに率直に言って思う次第でございます。
#114
○橋本敦君 御指摘の点はよくわかりました。
 それでは次の問題ですが、最近の運送方法としていわゆるコンテナ、パレット等の輸送手段の開発普及ということがございますが、それに応じて海上運送も港から港というだけではなくて、ある会社の倉庫から港、それから相手国の港から相手方会社の倉庫というように、こういったドア・ツー・ドアといいますか、そういうシステムが一般化しそうなんですが、そうなりますと全運送のプロセス全体を責任問題でカバーするとなりますと、海上だけではなくて国内の陸送も一部入ってくる、あるいは国内航路の内航船も入ってくるということで、そういった統一的な約款とかあるいは統一的な考え方に基づく責任原則、ルールの確立といった問題が新たに出てくるのではない分という趨勢を私は見逃せないと思うのですが、そこらあたりの展望はどういうようにお考えでしょうか。
#115
○政府委員(清水湛君) 現行は海上における運送ということでございますけれども、一応運送品の受け取りから引き渡しまでを規律はしているわけでございます。
 ただ、受け取りから船積みまでとかあるいは荷揚げから引き渡しまで、この間にトラックが入るかもしれないし、いろいろな要素が入ってくるということになるわけでございまして、そういうものについての取り扱いをどうするかということが確かに問題になろうかと思います。しかし、現在のところ、そういった複数の運送手段を用いてする、いわば複合運送契約というようなもの、そういうようなものについて法律的な規律をどうするかということにつきましては、まだ国際的に受け入れられるようなルールはないというふうに思われます。
 我が国の商法におきましても、陸上運送、内陸運送、海上運送というふうに、結局区分けをしてそれぞれの責任なりなんなりを考えていかざるを得ないということになるわけでございまして、その辺現在のようないろんなものを組み合わせて複雑な形で運送が行われるというような状況にマッチした法整備ということは、確かに重要な問題ではないかというふうに思います。ただしかし、国際間の問題ということになりますと、これはそれぞれの国の経済の発展の事情とか交通手段の発展の事情等によってすべて違ってまいりますので、相当難しい問題を含むのではないかなというふうに率直に言って思います。
#116
○橋本敦君 じゃ、最後に一点だけお伺いしておきますが、先ほども中野委員の御指摘の中で、二十条の二の無謀な行為の問題について御説明がございました。
 これは、いわゆる不法行為責任の免除の例外として全面的に責任を負わせるというわけでございますが、こういう条項を新設したというのは、その趣旨は、一つは、いわゆる契約履行責任と不法行為責任、これをやっぱり矛盾なく統一的にしていく中で不法行為責任を独自に追及しないようにしたということから出てきた規定がと思いますが、そういう趣旨なのかどうか。
 それから、これが出てくるまでにいわゆるヒマラヤ・クローズで諸国の方ではいろんな調整がなされていたように聞いておるんですが、そういうヒマラヤ・クローズを約款としてつくる場合に、例外としてこのような無謀行為についての責任は負わせるぞという、そういう考え方は存在をしておったのかどうか、実際の商行為として。その点おわかりでしたらお伺いして、質問を終わります。
#117
○政府委員(清水湛君) 御指摘のように、この二十条の二の第五項でございますが、無謀な行為によって生じたものについては不法行為責任の減免とか責任の限度についての規定の適用はしないと、こういうふうに定めた趣旨は、これは新たに不法行為による損害賠償請求についてのこのような制度を設けたことから、いわば今度はさらにその例外としてこのような規定を設けたという趣旨でございます。
 ヒマラヤ・クローズがあればこのような無謀行為でも責任の限定なり免除ができるのかというお尋ねでございますけれども、ヒマラヤ・クローズの中に具体的にこの無謀行為に関する規定があったかどうか、ちょっと私、記憶にございませ人けれども、恐らく英米法の論理からして、こういう悪意、あるいは悪意に準ずるような重大な過失、あるいは無謀行為というようなものについては、一般法律通念として、この責任の免除とか軽減ということは認められないということになるのではないか。英米法の一般理論からいきましてもそうではないかというふうに思います。
 また、我が国の民法の一般的な考え方に従いましても、恐らくこの種の行為について責任の免除とかそういうようなものを認めるということには我が国の裁判所でもならないのではないかというふうに思います。そういう意味では、この五項は、ある意味においては当然なことを規定したものというふうに評価することもできようかと思います。
#118
○橋本敦君 わかりました。
 終わります。
   〔委員長退席、理事北村哲男君着席〕
#119
○萩野浩基君 朝から同僚の委員の皆さんの質問、それからまた当局からの御答弁、それらを聞いて大体理解したつもりでおりますが、こういう国際海上物品運送法というような法律は一般の人にはなかなか理解しにくいと思いますので、重複する点もあるかと思いますが、より一層わかりやすくひとつ御答弁いただけたらと思います。
 貿易立国としましての日本は、やはり今の国際化時代に即応するために、このような改正を行うということにおいては、本貫は理解するものであります。
 けさ以来、質問またそれに対する御答弁等もありましたが、一九二四年の条約、それから一九六八年の議定書、それから一九七九年の今度は改正の議定書と、こういうのがなされてきたわけでありまして、私、ここでお尋ねいたしたいのは、午前中の答弁の中にもありましたけれども、日本とアメリカだけがその批准、それから国内法化を済ましていない。そこで、世界海洋先進国である日本が、こんなにも長い間批准また国内法の整備を行ってこなかったその理由というのはどういうところに端的に言えばあるのでしょうか、簡単に御答弁をお願いいたします。
#120
○政府委員(清水湛君) 一九二四年条約を批准しましたのは昭和三十二年でございまして、実は一九二四年から昭和三十二年まで大変な期間があるわけでございますが、これは第二次世界大戦というものが間に入っておるということで御理解いただけると思います。それから、一九六八年議定書によりまして責任限度額の引き上げとか単位をスターリング・ポンドから金フランに変えますとかあるいは不法行為責任について適用する等々の改定がされたわけでございます。
 しかしながら、一九六八年議定書が効力を生じましたのは一九七七年でございますけれども、当時これを批准するといたしますと責任限度額がかなり上がるという状況がございました。一九七七年当時ですと、当時はSDRではございませんけれども、SDRでも一SDRが三百円を超えるというような状況であったというふうに思いますので、日本円に換算しますと十万円ではなくて恐らく二十数万円の、十万円が二十数万円のような金額になるというような話もあったわけでございます。と同時に、そのころ既に金フランというものは、もうフランスでも金本位制がなくなっておりましたのでSDRに変える必要があるというようなことが問題になりまして、一九七九年議定書の作成の動きというものも既に始まっていたというようなこともございます。そういう二点から、日本の船主団体あるいは荷主団体というのは様子を見守るという態度でいたのではないかというふうに思うわけでございます。
   〔理事北村哲男君退席、委員長着席〕
 ところが、一九七九年の議定書がその後つくられまして昭和五十九年に効力が生じたということになりましたので、関係団体でも我が国の国際的な地位というものにかんがみましてこれは早期に批准する必要があるのではないかということでいろいろ研究を開始されました。昭和六十三年に初めて一九七九年議定書を批准してそれに伴う国内法を整備してほしいという要請を関係省庁にした、こういう経過になるわけでございます。
 その間、一九六八年から数えますと若干の時間があるわけでございますが、限度額の問題あるいは一九七九年議定書作成の動き等を踏まえての動きでございますので、それはそれなりに私どもとしては理解はできるというふうに考えておるわけでございます。そういうような状況で今回の批准及び法律改正ということになっているわけでございます。
#121
○萩野浩基君 アメリカについては。
#122
○政府委員(清水湛君) アメリカは、午前中にもお話がございましたけれども、一九二四年条約には入っているわけでございます。それを改正する一九六八年議定書あるいはそれを盛り込んだ一九七九年議定書についてこれを批准するということにつきましては、ハンブルク・ルールとの絡みで荷主の団体がハンブルク・ルールを推奨し、船主の団体がヘーグあるいはヴィスビー・ルールの採用を推奨しているということがございまして、この二つの団体の見解が対立をしているという状況にあるようでございます。
 私どもの聞くところでは、アメリカのABA、アメリカン・バー・アソシエーションというようなアメリカの弁護士の団体はヘーグ・ヴィスビー・ルールを早く批准すべきだということを主張しているようでございますけれども、現状では二つの団体の対立が激しくてどうもどういうふうに進むのか状況が私どもにはわからないという状況でございます。将来、ハンブルク・ルールを持つ国との貿易量がヘーグ・ヴィスビー・ルールを持つ国との貿易量よりも上回るというときにはすべてハンブルク・ルールにするというようなトリガー方式みたいなものが妥協策として提案されたということがあるようでございますけれども、これは両方の団体からいずれも不評でございまして採用されてない、今のところどういうふうに進むのかということが私どもにはちょっとわかりかねるという状況でございます。
#123
○萩野浩基君 今出ましたハンブルク・ルールなのでございますが、これは十数カ国の発展途上国といいますか、そういう国によっても批准されております。今回、この辺ちょっと午前中にも議論ありましたけれども、無過失責任に近い責任を課することは最終的には結局保険料の問題になっていくだろうと思うんです。この保険料の上昇というものが必然的に起こってくるのではないか、そのように考えられるんですけれども、最近の保険料値上げの状況についてもし簡単に説明できればお願いいたします。
#124
○政府委員(清水湛君) 海上物品運送につきましては、船主の方は、つまり運送人でございますけれども、船主責任保険に加入する、つまり責任を問われた場合に保険会社がその責任の限度に応じて保険金を払うということでございます。それから、荷主の方は貨物保険を掛ける、国際海上物品運送法によりますと運送人に請求する」とができる損害の限度というのは限定されておりますので、結局運送人からは取れない。しかし、実質的に損害を受けるわけでございますから、その損害は全部保険会社に支払ってもらうということで、現実には国際海上物品運送法で責任を制限いたしましてもそれぞれについて損害賠償責任はすべて満たされる、こういうことになるわけでございます。
 そこで、責任の限度をどうするか。つまり、責任の限度が非常に高くなりますと船主責任保険の方の保険料が高くなる。ところが、逆に貨物保険の方は、保険会社が保険金を荷主に支払った場合には、海上物品運送法で請求することができる限度においていわゆる保険代位をして請求することができるということになりますので、それだけ代位請求をすることができる幅が広がりますから貨物保険の方の保険料は低くなる。頭の中で考えますとそういうことになるわけでございますけれども、現実の保険実務の上において保険料がどういうふうな動きをするかということにつきましては、私ども保険会社の人に耳学問的に聞くんでありますけれども、それほど実質的な大きな影響は今回の改正程度では起きないのではないかというようなお話もあるわけでございまして、具体的な金額についてはちょっと承知をすることができないという状況でございます。
#125
○萩野浩基君 このハンブルク条約なんですけれども、よく言われますが、そのもとになっておる海上運送人と荷主との利害関係の対立というものを円満に解決ということが目指すところといいますか、理念であろうと思うのでございますが、海運業界においてこれについてはいろんな意見があるようでありますが、その現状についてもし御答弁できますればひとつ簡単に御答弁いただきたいと思います。
#126
○政府委員(清水湛君) ハンブルク・ルールとヘーグ・ヴィスビー・ルールという二つのシステムが今あるわけでございます。あると申しますか、ヘーグ・ヴィスビー・ルールというのはこれは七十年近い歴史と伝統を持っている、一九二四年から数えますとそういう伝統があるわけでございます。ハンブルク・ルールというのはこれはまだ効力が生じてない、ことしの十一月一日に効力が生ずるということになっている状況でございます。
 このハンブルク・ルールというものがつくられた経緯といたしましては、荷主団体と申しますか、海運国でない荷主国、つまりみずからの国では余り海運業はやっていない、したがって物を輸出するという場合には他国の海運業者に荷物の運送を頼まなければならないというような国の方から、今のヘーグ・ヴィスビー・ルールというのは運送人に有利であって荷主に不利ではないかというような疑念が出されて、それに対するいわば対抗策としてハンブルク・ルールがつくられたという経緯があることは先生御存じのとおりだと思うわけでございます。しかし、例えば責任の限度額がヘーグ・ヴィスビー・ルールに比べまして高いとか、その他航海上の過失による損害について免責を認めないとか、火災による損害について免責を認めないとか、いろんな特異点があるわけでございます。
 ただしかし、現在の海運界、世界的な実情というものを私ども承知しているわけではございませんけれども、少なくとも日本に関する限り、船主の団体である日本船主協会、これは我が国の有力な海上運送会社がすべて入っている団体でございます。それから荷主協会、これは我が国の大手メーカー、大手商社、それから各種の輸出組合等、およそ輸出に関係する団体がほとんどすべて加わっているという団体でございますけれども、いずれもやはりハンブルク・ルールではなくてヘーグ・ヴィスピー・ルールの早期批准を図るべきである、こういう立場でございます。その点について意見は完全に一致しているわけでございます。
 少なくとも、先ほど申しましたように、ヘーグ・ヴィスビー・ルールが現実に世界の貿易国の中で機能しており、しかもその中で日本が非常に重要な地位を占めておるということでございまして、一九六八年議定書につきまして先進海運国は、アメリカとかオーストラリア――オーストラリアは批准したそうでございますが、アメリカが抜けているというような問題はございますけれども、大部分の先進海運国がこれに加わっているというような実情を踏まえますと、これはやはり一日も早く日本としては加入すべきだと、船主の団体も荷主の団体もそういうふうにお考えになっているというふうに私どもは承知しているわけでございます。
#127
○萩野浩基君 大体了解いたしました。
 それで、一九六八年の議定書の四条と条約九条の関係についてお尋ねいたしますが、ここに原子力損害免責ということが出てくるわけですけれども、原子力の損害免責についてはどのように対応するのか。また、適用除外規定を設けるべきではなかったのか、私はこう思うんですが、この辺について明確なる御答弁をお願いいたします。
#128
○政府委員(清水湛君) 原子力損害の関係というのは、これは現行法上もある問題でございますけれども、この点はもう明確に解釈が確立しているというふうに言ってよろしいかと思います。すなわち、原子力損害につきましては御承知のように原子力損害の賠償に関する法律というのが特別法でもう現に我が国ではつくられておりまして、被害者の保護ということと、それから原子か事業の健全な発達を目的とするということから、まず原子力事業者への責任集中、それから無過失責任、それから損害賠償についての保険制度というものがつくられているわけでございます。
 この原子力損害賠償法というのは、これは損害賠償責任についての一般法に対する特別法に該当するということでございますので、我が国の原子力損害賠償法に特別の規定がある事項についてはその規定がまず優先的に適用される、その限りにおいて国際海上物品運送法の適用は排除されるということになるわけでございまして、この解釈について疑念の余地はないというふうに私ども考えております。今回の法改正に当たりましても、こういうような解釈を変更する必要はないということから原子力損害の関係についての規定は設けなかった、こういう経過になるわけでございます。
#129
○萩野浩基君 そのように答弁されれば、それなりに理解できるんですが、やはりこれから非常に原子力関係の問題は重要な問題になってまいりますので、やはりその辺には十分これからも留意されるよう希望を申し上げて、次の質問に移ります。
 今回の改正によりまして、荷送り人、荷受け人等に不利な特約は禁止される条項に変化はないようでありますが、ここで確認の意味で、特約禁止の趣旨及び禁止される規定についていろいろと聞いてまいりましたけれども、余り長い答弁していただくとこちらの質問の時間がなくなりますので簡潔にお願いしたいんですが、包括的な説明をお願いいたします。
#130
○政府委員(清水湛君) これはこの法律の十五条一項でございます。この規定については特に今回規定をいじるということはいたしていないわけでございますけれども、一九二四年の船荷証券統一条約三条八項に基づきまして、運送品に関する運送人の損害賠償についての諸規定に反して運送人が荷送り人、荷受け人または船荷証券所持人に不利益な特約をするということを禁止して、このような特約を無効とした」わけでございます。
 これは歴史的には、海上物品運送についてはかってはイギリスの免責約款というのが非常に猛威を振るって、逆に言うと、イギリスの海上運送につき運送人に非常に有利な契約が行われていたというようなことがあるわけでございまして、そういうものを踏まえて、それを制限するという意味で一九二四年条約はつくられたという経緯があるわけでございます。せっかくそういう条約をつくりましても、特約で荷送り人とか荷受け人とか船荷証券所持人に不利益なことを決めるということになりますと、このような条約をつくった意味がなくなってしまう、こういうことになりますから、過度の免責約款を制限して荷主の権利を保護するということのためにこのような特約禁止の規定を設けたわけでございます。これは条約に基づくものでございます。
#131
○萩野浩基君 改正案を具体的に質問する時間がなくなってしまいましたけれども、ちょっとお尋ねしておきたいのは、先ほど来第一条についてはいろいろと質疑がございましたけれども、第一条の中で「運送人及びその使用する者の不法行為」、このように書いてございます。時代の変遷と科学技術の進歩で今日はいろんな不法行為というようなことが考えられると思うんですが、不法行為として想定されておるのは一体どういうものであるか、お尋ねいたします。
#132
○政府委員(清水湛君) ここで申します不法行為というのは、民法七百九条に定める不法行為を念頭に置いているわけでございまして、故意または過失によって他人の権利を侵害する行為ということでございます。
 不法行為というと、何か道徳的というか社会的に非難されるべき行為と、こういうような意味で不法行為という言葉が使われることもございますけれども、法律的にはそうではなくて、不注意で他人の権利を侵害するというようなものを不法行為と言っているわけでございます。例えば運送人が、あるいは運送人みずからということはないでしょうが、運送人の使用人が積み荷を不注意に扱った、そのためにその積み荷が壊れたとかそういうようなもの、そういうものを典型的には不法行為による損害賠償責任、こういうふうに言っていいかと思います。
 無謀な行為は、これは先ほど申しましたようにこの法律の適用外、こういうことになるわけでございます。
#133
○萩野浩基君 十三条に関しても若干疑問点といいますか、説明を求めたいところがあるんですけれども、時間が来ましたので最後に一点だけ質問したいと思います。
 十三条一項の第二号の中で、「滅失、損傷又は延着に係る運送品の総重量」云々と、こうございます。いわゆる重量規定というのが入っておりますが、この「一キログラムにつき一計算単位の二倍を乗じて得た金額」としたその基準と、なぜそうしたかということについて最後にお尋ねいたしたいと思います。
#134
○政府委員(清水湛君) この重量制を導入したということにつきましては、最近の海上運送の実情にかんがみまして非常に重量が多くて高価な物を運送するということがふえてきたわけでございます。その場合、従来ですと、十三条一項の「一色又は一単位」で幾らということを決めるわけでございますけれども、やはり重量に応じた損害賠償の責任の限度というものを決める方が適当ではないかということからこの重量制を導入したわけでございます。
 その場合の単位を一キログラムというふうにしたということにつきましては、これは条約で一キログラムについて二単位というふうに定めたということからこのようになっているわけでございまして、あるいはもっと別な単位を決めても、それは計算上明確であれば差し支えないことだと思いますけれども、キログラムとかあるいはメートルとか、そういう国際計量単位というものに準拠したというふうに言っていいのではないかというふうに思う次第でございます。この結果、例えば一トンの重さがありますと二千単位ということで二千SDRになって約三十五万円の金額が責任の限度になる、こういうことでございます。
#135
○萩野浩基君 以上をもちまして質問を終わります。
 ありがとうございました。
#136
○紀平悌子君 同僚議員が次々と肝心な御質問もなさいましたので、持ち分は残り少なくなっております。
 何せ正直申し上げまして、私はこの法律に初めてお目にかかりました。それで、平生の普通の主婦というか特に女性にとってはかかわりは非常に遠い法律だと思いますが、それだけにやはりこれは基本的には国家経済、国民経済にも大いにかかわりのある問題だと思いますので、非常に基本的な問題も交えて初歩的な質問をさせていただきます。
 まず、法務省にお伺いしたいのでございますが、これは外務省、運輸省ともかかわりのあることでございますが、三省でいろいろ協議をなさったと思います。もしできましたら、時間の関係もございますので、法務省からこの法制化に際しての協議の経過、それから法制化について船主、荷主、これは必ずしも対立するものとかそういうことでとらえておるわけではございませんが、それぞれ関連業界の御意見があったと思います。簡略で結構でございますので、肝心のところをひとつ御説明をちょうだいしたいと思います。
#137
○政府委員(清水湛君) まず、昭和六十三年に日本船主協会とかあるいは日本荷主協会という団体が運輸省あるいは通産省にこの一九七九年議定書の早期批准及び国内法の整備を要望したということが具体的な動きの第一歩になるわけでございます。それからまた、平成二年には日本海法会が法務大臣あてに改正要綱試案を提出する、海法会で法律案の中身をつくりましてそれを試案として法務省に提出したというようなことがあるわけでございます。
 そこで、法務省といたしましては、平成三年の三月から法制審議会の商法部会の中にこの問題を審議するための国際海上物品運送法小委員会というものを設置しまして、小委員長に谷川久成蹊大学教授をお願いするということにいたしたわけでございます。以後、平成四年一月まで計六回にわたって小委員会の審議が尽くされたわけでございますが、その審議の過程におきまして、外務省あるいは運輸省、通産省の関係省から関係官にこの小委員会に参加をしていただく、あるいは船主協会、荷主協会からオブザーバーの参加をこの法制審議会の小委員会に得まして、そこで種々議論をいたしたわけでございます。
 議論の要点といたしましては、批准をする、国内法を改正するということについては全くの異論はなかったわけでございます。ただ、それを技術的にどういうふうな形で法律の中に盛り込むかというようなこと、あるいは条約の正しい解釈はどういう解釈なのかというようなことにつきましてかなり慎重な議論を重ねまして、最終的にこの法律案要綱の形で法制審議会の御承認をいただいた。これは法制審議会の答申ではございませんけれども、法制審議会の商法部会におきまして国際海上物品運送法の一部を改正する法律案要綱を全会一致で御承認いただいた。そういうものを踏まえまして私どもが今回の改正案を準備させていただいた、こういう経過になるわけでございます。
#138
○紀平悌子君 俗に言われます海上運送人と荷主との関係は円滑を欠く場合があるとやらで、円滑にいっている例が多いんだと思いますが、その円滑を欠く場合の事例、一般国民にもわかるような事例で教えていただきたいと思います。
#139
○説明員(西村泰彦君) ただいま御指摘の点につきまして、海上運送業界を所管しております運輸省の立場としてお答えを申し上げます。
 私ども海上運送業界からいろいろお話を伺っておるわけでございますが、先生御指摘のような事例が全くないということではございませんけれども、通常、海運業を行っております場合に、荷主さんとの間にいろいろなトラブルが起きる、そういうようなことでそれがさらに裁判に立ち至るというような大きな争いになるような事例というものはほとんどない、こういうふうに聞いておりまして、先生が今御指摘になりましたような事例につきましては、私どもとしてはほとんど承知をしておらない、こういうことでございます。
#140
○紀平悌子君 それは大変結構なことだというふうに思いますけれども、それでは円滑を欠く場合というのはほとんどないということで断言できるわけですか。
#141
○説明員(西村泰彦君) 全くあり得ないということを申し上げているわけではございませんけれども、そういうようなものが生じまして大きなトラブルになる、あるいは裁判に至る、そういうような大きな事例というものはほとんどないわけでございます。これは海上運送行為は非常に多量の荷物を一遍に運びますので、例えばアメリカヘテレビを届けるときに一部に傷がつくとか、そういうことはもちろんあるわけでございますが、そういうものは通常荷主と当初契約をします契約の中でいろいろ処理が決まっております。そういう中で処理されてしまいますので具体的に大きな争いに至るような事例はほとんど発生していない、こういうことでございます。
#142
○紀平悌子君 今度の改正に当たりまして、内航船の分野でも国内的な海上物品輸送が非常に活発化しているという状態ですので、国際海上輸送のルールの適用の拡大ということは考えていらっしゃるのでしょうか、法務省としてのお考えを伺いたいと思います。
 また、内航船に関する商法第四編の改正の必要性についてはどういうふうに判断されておりますでしょうか。
#143
○政府委員(清水湛君) 今回の改正は一九七九年議定書を批准することに伴う国際運送に関する国内法の整備を目的とするものでございまして、当然のことながらこの議定書は国際運送のみを目的としており、国内運送への適用ということは予定していないわけでございます。
 そういうことで、この国際運送に関する規定の適用を国内運送にも及ぼすようにしたらいかがかということでございますが、国際運送の面におきましてはその内容も大事ではございますけれども、もっと大事なことは内容が統一されているということにあるわけでございます。それぞれの国の事情もございますので、やはりある種の妥協と申しますか、各国が納得し得る線で国際運送に関する法律規制をするということになりますので、どうしても国内の内国運送とは違った要素が出てくるわけでございます。
 例えば、午前中から議論がございますけれども、国際運送についてはこれまでの伝統と申しますか、そういうものを踏まえまして、いわゆる航海上の過失については運送人の責任は問われないというような法制になっているわけでございますけれども、国内の海商法におきましてはそういうような航海上の過失についてはこれを当然免責することにはなっていないというような点がございます。つまり、ある意味におきましては国内の海商法の方が国際運送におけるよりも運送人の責任が重いというような面もあるわけでございます。これは先ほども申しましたように、国際運送についてはとにかく統一法をつくるというところに重点があり、そこに意味があるということからそのようなことになってくるわけでございます。したがいまして、国際運送に関する論理をそのまま国内運送に持ち込むということにはいささか問題があるというふうに私ども思っております。
 しかしながら、国内運送に関する海商法の規定が現状のままでいいかどうかということにつきましては、これはあるいはいろんな御意見もあろうかと思うわけでございまして、私どもも国内運送については我が国みずからの実情を踏まえた上での検討というようなことは、これは怠ってはならないというふうには考えているわけでございます。さしあたって、しかし国内運送について具体的にこういう点が非常に不都合だからというような問題の指摘はございませんけれども、しかし明治につくられた法律がほぼそのまま生きているというような状況でございますので、いず札適当な時期にその内容についての再検討というようなものもこれはやっていかなければならないというふうには思っているわけでございます。
#144
○紀平悌子君 具体的に改正案第一条の中で、「運送人及びその使用する者の不法行為」という言葉がございますが、使用者とはどのような範囲の者を言うのか。例えば、直接の契約関係がなければ範囲外であるのか、それとも孫請まで含まれるかなど、御説明をいただきたいと思います。
 また、先ほどと重なる質問になりますけれども、現在において具体的にどのような行為がこの場合不法行為として想定されるか。今、コンピューターの操作ミスとかいろんな例もあるそうでございますので、その辺のところを教えていただきたいと思います。
#145
○政府委員(清水湛君) 第一条で「使用する者」と申しますのは、抽象的に申しますと、運送という事業の執行のために運送人によって使用される者、こういうことになるわけでございます。つまり、運送人によって選任され、あるいはその監督を受ける関係にあるという者でございまして、民法七百十五条に「被用者」という言葉がございますけれども、それと同じ意味だということでよろしいかと思います。
 こういう使用関係は、通常は雇用契約に基づいて使用関係というのは生ずるということになるわけでございますけれども、直接の契約がございませんでも、実質的に運送人の方で選任、監督をするというような関係があれば足りるし、しかも有償、無償を問わず、かつまた一時的なものでもいい、こういうことになろうかと思います。下請、孫請という言葉がございましたけれども、その言葉だけでその当否、結論を申し上げるわけにはまいりませんけれども、要するに実質的に選任、監督関係があるということであればここに言う「使用する者」であると言っていいと思います。
 それから、不法行為の具体例といたしましては、先ほども萩野先生にお答えしたわけでございますけれども、船長が、例えば積み荷はこういう形できちっとやらなきゃいかぬということになっているのに、それに対する指示が不適切であったために航海中に荷崩れをして損傷が生じたというようなこと、これは過失によって、つまり十分に注意義務を尽くさずしていろんな行為をしたために荷主のいわば権利を侵害したと申しますか、積み荷に損傷を与えたわけでございますから荷主の権利を侵害したということになるわけでございますけれども、そういうようなものがいわゆる不法行為である。道徳的、社会的に非難されるべき行為という意味での不法行為ではございませんで、民法七百九条の要件に該当するような行為である――該当するようなじゃなくて、七百九条に該当する行為である、こういうふうに申し上げてよろしいかと思います。
#146
○紀平悌子君 重ね重ねありがとうございました。
 次は、同じく改正案第九条の「(船荷証券の不実記載)」というところでございますけれども、船荷証券の所持人は善意であれば保護を受けるのに十分なのかどうか。例えば、重過失がある場合にどうかということと、またその根拠はどこにあるんでしょうか。それから、運送人が善意の船荷証券所持人に対抗できないというのはどういう意味なのでしょうか、もう一回教えていただきたいと思います。
#147
○政府委員(清水湛君) 船荷証券の所持人がちょっと注意を尽くせば船荷証券の記載と事実が違っているということに気がついたではないかというような場合ということは考えられるわけでございますけれども、ちょっと注意を尽くせばわかったかどうかということはこれ自体非常に問題でございまして、重過失ということが果たしてあり得るのかどうかということもまた問題かと思います。したがいまして、一般的に申しますと、とにかく善意であれば、そういう事実を知らない、船荷証券の記載と現実の積み荷の実体が食い違っているという事実を知らないということでありさえすれば足りる、つまりそう解釈することが船荷証券を譲り受けた第三者を保護するゆえんでもあるというふうに私どもは考えているわけでございます。
 それから、「対抗することができない」ということは、これは法律用語でこういう言葉はしばしば使われているわけでございますけれども、船荷証券の記載が事実と異なる場合には、運送人は善意の第三者に対して記載が事実と異なっているということを理由に船荷証券記載どおりの義務を負わないことを主張することができない、こういう意味でございます。結局、端的に申しますと、船荷証券に記載してあるとおりの義務を負う。例えば数量が不足しているということでありますと、そのとおり義務を履行することができないわけですから、損害賠償責任を負う、こういうことになるわけでございます。
#148
○紀平悌子君 まだまだ十四条その他にわからないところがあるんですけれども、同僚の委員の御質問と余り重なることも避けたいと思いますので、この際、実は冒頭申し上げましたように、非常に国民一般に関心というよりも知識の薄いこの改正法律案でございますので、私と大臣とを同じレベルに置いて申し上げるわけでは決してございませんけれども、大臣として、非常に長いこと時間のかかった理由はいずれにあれ、この条約の批准そして法案の成立というものについて、一言御所存というか、どんなふうに考えていらっしゃるか、あるいはどんなふうに感じていらひしゃるかということで結構でございますので教えていただきたいと思います。
#149
○国務大臣(田原隆君) お答えします。その前に、先生のレベルにはとても及びませんけれども、お許しいただきます。
 これが長くなったというのにはそれなりの理由がありまして、最初は一九二四年条約が昭和三十二年に批准されましたですね。これはやはり戦争の影響なんかがあったんだと思いますが、その後いわゆる一九六八年を経て一九七九年という節目、節目を経てきておるわけですけれども、それなりに日本の経済社会事情がそれにまだ伴ってなかったとか、例えば円高一つとりましても、責任限度を計算してみると、終戦直後の一ドルは三百六十円だし、一ポンドは千八円というようなそういう時代でありますと、今十万円ぐらいのものが当時三十万円ぐらいしたというようなこと等がありまして、やはり一部のというか非常に荷主側とかその他の人たちのいろんな不満とか運送人の人の折り合いがつかないとか、いろんな話があるわけでありますが、どうやらそういうものも安定してきたわけでありますから、今度のこういうことになったわけでありますけれども、この際、非常に合理的な処置をしたということが言えるわけです。
 それはさっき先生が質問されましたように、船荷証券の効力の強化、善意の第三者に対する配慮ですけれども、そういう問題とか、運送人の責任限度額の引き上げとか等々盛り込むことによって非常に合理化されてきたということで、日本も世界に冠たる海運国でありますから足並みをそろえていこうということでありまして、国内法を整備し法の面でとやかく言われないようにしようというようなことで、私も素人ながら非常に有意義なものと思っております。素人と申しましても、担当の大臣でありますし、政治家でありますから、大局の判断は誤ってはいかぬと思って勉強している次第であります。
#150
○紀平悌子君 大変謙虚なお答えで恐れ入りました。ありがとうございます。
 最後に、本件とちょっと違うのを一つだけ、気になりますことをお伺いしたいと思います。
 大蔵省と法務省にお伺いしたいと思います。
 商事法の分野でございますけれども、現在、バブル経済の破綻と株の暴落に臨みまして企業の資本収集力を高めるために、自社株保有の規制緩和ということを新聞等で伺っておりますが、大蔵、法務両者の協議がされているというふうにお聞きしております。取得規制の緩和にはもちろんメリットもあるからそういうことを考えておられると思いますけれども、デメリットの面も大いにあるのではないかと思います。
 そのデメリットの分について、お時間の範囲内簡単で結構でございますので、現在、大蔵、法務両者のその件に関する、進行中でございましょうが今の時点での御見解を伺いたいというふうに思います。
#151
○説明員(中川隆進君) それでは先に大蔵省の方から答えさせていただきますけれども、自社株の保有の問題に関しましては、御承知のとおり、去る三月三十一日の政府の緊急経済対策で、「商法との関係も含め幅広い観点から検討する」というふうにされているわけでございます。
 この問題につきましては、御指摘のとおり、メリットもあり、あるいは問題もあるということでございますが、今御指摘ございました自社株保有規制の緩和を行った場合の市場における問題点ということになりますと、従来、インサイダー取引の問題、あるいは株価操作を誘引するおそれがあるという点が指摘されているわけでございます。この点につきましては、既に昭和六十二年に証券取引法が改正されまして、インサイド取引規制の整備が行われているわけでございます。また、株価操作禁止規定等の厳格な運用によりまして対応することができるし、またしなければいけないだろうというふうに考えております。
 また、今般、証券取引等監視委員会の設置を盛り込みました証券取引法の改正案を国会に提出させていただきまして、御審議をお願いしているということでございます。アメリカの例なんか見ますと、SEC規則で、自社株取得に伴います株価操作禁止、防止のために、いろんな規制を定めております。もちろん我が国におきましても、自社株保有規制が緩和される場合には、そのような方策についても検討していく必要は当然あるだろうというふうに思っております。
#152
○政府委員(清水湛君) 先ほど大蔵省の方から御説明ございましたように、今回の当面の緊急経済対策の中で、自社株保有規制のあり方について検討するということが定められたわけでございます。
 この自社株の取得規制の問題というのは、これは実はある意味におきましては、会社法の最も基本的な問題でございまして、現在の商法は一定の場合に限って自社株の取得を認めておりますが、それ以外の場合には、すべて株式会社が自己の株式を取得するということを禁止いたしておるわけでございます。
 この禁止をしております理由というのは、結局自社株取得というのは一種の資本の払い戻しになる。株主が資本を会社に出資して、そのかわりに株式を発行するわけでございますが、会社がみずから株式を買い取るということになりますと、資本の払い戻しに該当するということで、会社法の最も基本的な生命である資本充実の原則に真っ正面から触れることになると、こういう認識でございます。
 それから、先ほどもお話にもございましたような、自社株取得を安易に認めますと、株価操作、会社が株を取得することによって株を上げたり下げたりするというような操作に使われて、一般大衆が大変な被害を受けるというような問題。会社は一番会社の事情に明るいわけでございますから、その内容情報を利用して自社株を売ったり買ったりして利益を上げる。つまり、インサイダートレーディングをするというような弊害が指摘されているわけでございます。そういうようなことから、会社法におきましては、これを法律で禁止いたしますとともに、非常に重い刑罰をもってこの違反者に対する制裁を科すという仕組みになっているわけでございます。
 そういう会社法の根本法制を踏まえつつ、しかし一定の限度において自社株保有を認めるべきではないかというような議論は実はかなり前からいろんな面においてされているわけでございまして、法制審議会におきましても商法の改正案在作成するたびごとにいろんなそういった問題についての議論が過去たびたび繰り返されておるという実情にございます。私どもといたしましても、自社株取得の規制を緩和することによるメリット、デメリットいろいろ考えられるわけでございまして、御指摘のように、例えばアメリカのSEC、非常に厳しいコントロールのもとに自社株の取得を認めているわけでございますが、そのようなことが果たして日本で可能なのかどうかというような取得方法の問題をも含めまして、やはりこの問題については慎重にかつ真剣に検討する必要があるというふうには考えている次第でございます。
 この問題は、そういう意味におきまして法務省としてまだ具体的な結論とか具体的な方向というものが出ているわけではございませんけれども、目下のところ法制審議会の商法部会におきましてこの問題についても調査と審議をするということになっておりますので、そういうような経過をも踏まえまして適切に対応する必要があるというふうに考えている次第でございます。
#153
○紀平悌子君 ありがとうございました。
 終わります。
#154
○委員長(鶴岡洋君) 他に御発言もないようですから、質疑は終局したものと認めます。
 これより討論に入ります。
 御意見のある方は賛否を明らかにしてお述べ願います。――別に御発言もないようですから、これより直ちに採決に入ります。
 国際海上物品運送法の一部を改正する法律案に賛成の方の挙手を願います。
   〔賛成者挙手〕
#155
○委員長(鶴岡洋君) 全会一致と認めます。よって、本案は全会一致をもって原案どおり可決すべきものと決定いたしました。
 なお、審査報告書の作成につきましては、これを委員長に御一任願いたいと存じますが、御異議ございませんか。
   〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
#156
○委員長(鶴岡洋君) 御異議ないと認め、さよう決定いたします。
 本日はこれにて散会いたします。
    午後三時三十三分散会
     ―――――・―――――
ソース: 国立国会図書館
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