くにさくロゴ
1992/06/02 第123回国会 参議院 参議院会議録情報 第123回国会 法務委員会 第12号
姉妹サイト
 
1992/06/02 第123回国会 参議院

参議院会議録情報 第123回国会 法務委員会 第12号

#1
第123回国会 法務委員会 第12号
平成四年六月二日(火曜日)
   午前十時三分開会
    ―――――――――――――
  出席者は左のとおり。
    委員長         鶴岡  洋君
    理 事
                野村 五男君
                林田悠紀夫君
                北村 哲男君
                中野 鉄造君
    委 員
                加藤 武徳君
                下稲葉耕吉君
                中西 一郎君
                福田 宏一君
                糸久八重子君
                千葉 景子君
                深田  肇君
                橋本  敦君
                萩野 浩基君
                紀平 悌子君
   国務大臣
       法 務 大 臣  田原  隆君
   政府委員
       法務省刑事局長  濱  邦久君
       法務省矯正局長  飛田 清弘君
       法務省保護局長  古畑 恒雄君
       法務省人権擁護
       局長       篠田 省二君
       法務省入国管理
       局長       高橋 雅二君
   最高裁判所長官代理者
       最高裁判所事務
       総局刑事局長   島田 仁郎君
       最高裁判所事務
       総局家庭局長   山田  博君
   事務局側
       常任委員会専門
       員        播磨 益夫君
    ―――――――――――――
  本日の会議に付した案件
○刑事補償法の一部を改正する法律案(内閣提出
 、衆議院送付)
○少年の保護事件に係る補償に関する法律案(内
 閣提出、衆議院送付)
    ―――――――――――――
#2
○委員長(鶴岡洋君) ただいまから法務委員会を開会いたします。
 刑事補償法の一部を改正する法律案及び少年の保護事件に係る補償に関する法律案を一括して議題といたします。
 両案の趣旨説明は既に聴取いたしておりますので、これより質疑に入ります。
 質疑のある方は順次御発言願います。
#3
○北村哲男君 私は、まず新しくできました少年の保護事件に係る補償に関する法律案についての質疑を行っていきたいと存じます。
 まず、この法案の中身にかかわる問題についてはかなり前から制定が急がれてきたわけですけれども、その立法理由を聞きたいと存じます。
 簡単に申しますと、少年の保護事件について不処分などの決定がなされた場合に補償を行う制度がないことは以前からその不備を指摘されてきたところでありますが、このことは、国会においても前回の刑事補償法の改正の際、六十三年でしたか、そのときに西川潔さんがこの種の質疑をされておりますが、しかしそのときには立法化の動きはなかったというふうに聞いております。その後、昨年三月二十九日に最高裁の第三小法廷で判決がありました。これは非常に大きな波紋を呼び起こしまして、その直後の四月九日には当委員会で我が党の久保田委員並びに公明党の中野委員からもその点の質疑がなされております。
 これらのことが立法化の推進力になったことはあると思うのですけれども、まず、その立法に至った経過についてお聞きしたいと存じます。
#4
○政府委員(濱邦久君) まず、委員の一番最初のお尋ねは、少年の保護事件に係る補償に関する法律案、略して少年補償法というふうに申し上げさせていただきますけれども、その立法趣旨についてお尋ねでございます。
 少年が犯罪の嫌疑によりましてその身体の自由を拘束された場合において、刑事手続によって無罪となった場合、または罪を犯さなかったものとして不起訴処分にされた場合などでありますれば刑事補償または被疑者補償の対象となるのに対しまして、家庭裁判所における少年の保護事件手続におきましては、犯罪事実が認められないとして不処分等の決定を受けましてもこれに対して補償を行う制度はこれまでなかったわけでございます。この場合にも刑事補償及び被疑者補償と同様に、身体の自由の拘束を受けた少年に対しまして補償を行う必要がある、また犯罪以外の非行の嫌疑による身体の自由の拘束や保護処分と同時に言い渡された没取につきましても、後に非行が認められなかった場合にも同様に補償を行う必要があるということから、これらの補償措置を講ずるために少年の保護事件に係る補償に関する法律案を提出した次第でございます。
 委員の後段のお尋ねは、もう少し早くこの少年補償制度がつくられるべきではなかったのかという御趣旨のお尋ねだと思うわけでございます。
 そもそも現行刑事補償法が立法されました当時、すなわち昭和二十五年当時におきましては、家庭裁判所における少年の保護事件手続におきまして、非行事実が認められないことを理由に不処分等の決定を受けた少年に対しましても同様の補償を行うべきであるという議論は必ずしも見られなかったと思うわけでございますが、これは一つには現行の少年法が刑事司法的アプローチをとらずに、いわゆる国親思想のもとに専ら後見的、福祉的アプローチをとったことによるものと考えられるわけでございます。ただ、このような後見的、福祉的なアプローチに対しましては、その後少年の権利保障と事実認定、処分の適正の両面から問題が提起されたわけでございまして、現行少年法のもとにおきましても少年の権利保障ないし適正手続の保障を重視した解釈運用がなされるに至っておりますし、身柄拘束の目的、性質だけではなくて、身柄拘束の実質的不利益性をも重視する考え方が一般になってきているわけでございます。
 今、委員御指摘になられましたように、そういう状況のもとで、昨年三月二十九日の最高裁判所の決定におきましても、立法論として少年補償制度の創設が望ましいとの補足意見などが付されたところでございまして、現行の少年法のもとにおいて、でき得る範囲で速やかに少年補償制度を創設して、少年等の保護に十分を期する必要があるというふうに考えた次第でございます。
#5
○北村哲男君 今の立法の経過、趣旨はわかりました。
 立法形式の問題なんですけれども、単行法、一つの新しい法律としてこういう立法形式をとったのはどういうわけかという質問に入るのですが、いろんな理由もあると思うのですけれども、現在は、今まである法律としては刑事補償法というのが、いわゆる通常の刑事被告人が無罪になった場合には刑事補償法、これは前からありましたですね。これは刑事裁判にかかった被告人が無罪になったというのが一つの一番中心的な例ですが、それから、その前の被疑者段階では被疑者補償規程という、これまた普通の法律じゃない規程という形式の一種の法律があって、そうするとずっと被疑者段階から裁判までの人たちが無罪あるいはそれに近いものについては補償されるという制度がある程度整備ができている。さらに、今回の少年の保護事件に係る補償法で、今まで成人だけだったのが今度は少年までも補償されるということで、ほぼ全部網羅されるという形になると思うのです。
 これは、今までの刑事補償法あるいは少年法の改正ではだめだったのかという質問をしますと、これから質問するものは全部入ってしまうので、その面はひとつおいておきまして、ちょっと別の観点からなんですが、もう一つ法律を手繰ってみますと、刑事訴訟法の百八十八条の二に費用の補償という項目があると思うのですね。これは、これに対応する規定が少年法にも見当たらないし、今回の少年の保護事件補償法にも見当たらないし、それから先ほどの被疑者補償規程に関してもやはり見当たらないのですけれども、この点はどういうわけなのか。すなわち、身柄を拘束された場合には、それに対する補償といいますか、それは規定してあるのですけれども、それに普通の刑事訴訟法の場合は、無罪になったならばそのかかった費用までも補償しろ、そういう規定がわざわざ規定してあるのですけれども、今回の場合はないというのはどういうわけなのかということについて、簡単に御説明をお願いいたします。
#6
○政府委員(濱邦久君) 今、委員御指摘になられましたように、刑事訴訟法におきましては費用補償の制度が定められておるわけでございます。
 少年保護事件手続においても、費用補償の制度を設けるべきではないかというお尋ねだと思うわけでございますが、この費用補償制度を設けるべきかどうかにつきましては、少年保護事件手続における非行事実の位置づけと申しますか、非行事実認定のあり方というもの、例えば全部の事件について必ずその非行事実があるかないかということを判断することとすべきであるのかどうかということ、あるいは攻撃防御による訴訟構造をとった方がいいのかどうかというような問題、それからそれとの関係で付添人をどういうふうに位置づけるべきなのかどうか、あるいは国選付添人のような制度を導入する必要があるのかどうかというような問題とも関連しておるわけでございまして、今申し上げたようなもろもろの点についても検討をする必要があるというふうに考えるわけでございます。
 今申し上げましたもろもろの問題につきましては、少年法改正の議論の中でそれぞれ関連する事柄として検討していかなければならない問題であろうというふうに考えておるわけでございます。
#7
○北村哲男君 そうすると、今回については、特にそれは手を触れなかった。確かに、刑訴法百八十八条の二の費用の償還というのは、何も憲法四十条に基づいたものではなくて、もっと立法政策論的な問題であるというふうな見解は確かにあると思うのですが、そういう意味で、少年法改正の中で当然検討事項にされるというふうにお伺いしておいてよろしいのでしょうか。前向きに検討されるというふうにお伺いしてよろしいのでしょうか。
#8
○政府委員(濱邦久君) 先ほどお答え申し上げましたように、これに関連するほかのもろもろの問題とあわせて少年法改正の論議の中で検討していきたいというふうに思っております。
#9
○北村哲男君 あわせてもう一点申しましたけれども、被疑者補償規程というのがございますですね。被疑者の段階でいわば間違いてあったという点について費用補償がないのは、これはどういうわけなんでしょうか。
#10
○政府委員(濱邦久君) この点につきましては、捜査段階における費用補償制度というものをどういうふうにとらえるかということになろうかと思うわけでございます。
 もう委員御案内のとおり、刑事訴訟法で費用補償制度として定めておりますのは、公判段階における、被告人が公判準備あるいは公判期日に出頭するに要した旅費、日当、宿泊料等の費用、あるいは弁護人が出頭するに要した旅費、日当、宿泊科、それから弁護人に対する報酬という、ある意味では、当事者主義による対審構造における公判手続というものにおいて定型化されやすい費用を定型化して補償するという制度としてつくられているものと思うわけでございます。
 これに対しまして、捜査段階における費用となりますと、これは被疑者となった者のそれぞれの社会的地位、あるいは、もちろん被疑事実の事案にもよるわけでございますけれども、費用のかかり方というのは千差万別でございまして、必ずしも定型化されにくいものもあるわけでございます。したがいまして、今申しました、公判手続における定型化されやすい、被告人及び弁護人がそれぞれの公判準備期日、公判期日に出頭するに要した費用、あるいは弁護人にかかった報酬というようなものとは違って、定型化しにくいということも一つございます。それと、捜査段階における手続構造というものが、先ほど申しましたように、当事者主義というか対審構造ではできていないために非常に費用としてとらえにくいという点から費用補償をつくるときに捜査段階における費用というものは除かれたというふうに理解しているわけでございます。
#11
○北村哲男君 立法政策、あるいはそのときの事情もあると思うのですけれども、せっかく、すべての刑事裁判にかかった人たちが、少年も被疑者も被告人も同じように補償されるとなるならば、それはパラレルに考えていくのが当然の、いわゆる法の正当手続に乗った考えだと思いますので、やはり将来はそれについて検討すべき。問題である。幾ら今のように費用が非定型的であるといっても、被害者は国によって損害を受けた国民でありますので、国民を保護するという立場からは当然考えていっていいものであると私は考えます。
 ところで、先ほど一番最初に言いかけた立法形式なんですが、今回の法律が単行法であったことについては、おいおいこれからの質問の中で明らかになっていくからおのずとわかっていくことなんですが、今述べました被疑者補償規程というこれは、規程という形になっておるのですけれども、これは法律とどのように違うのか。そして、法律でなくてどうしてこういう形式になったのか、法律にした方がいいのかという問題。
 それから、この中を見ますと、附則として「この訓令は、昭和六十三年五月十七日から施行し、改正後の第三条一項の規定は、同日以後に行われた抑留又は拘禁に適用する。」というふうに、法律を指して「この訓令はこと言っているのですが、訓令ということとこの規程ということの差ということはどういうふうな形の法形式になっているのか、その辺の御説明をいただきたい。それと、一般法律との差、その点についての御説明をお願いします。
#12
○政府委員(濱邦久君) 今、委員御指摘になられましたように、被疑者補償規程と申しますのは、これは被疑者段階で不起訴処分になった者につきましてその抑留、拘禁の補償をしようとするものでございますが、この被疑者補償規程自体は法形式と申しますのはこれは大臣訓令でございます。法務大臣が検察官に対して被疑者補償に関する補償の内容あるいは補償の要件等を定めまして、検察官において具体的事情に応じてこの補償を決定していくようにということで定めたものでございまして、大臣訓令でございますから、そういう意味ではこの補償を判断する検察官に対してその権利と義務を課しているものということになるわけでございます。
 この規程という名称についてもお尋ねでございますが、今申しましたように大臣が訓令として定めるものでございますので、その法形式の上から、この被疑者補償規程だけではございませんが、ほかの法務省訓令につきましても同じ名称を使っているわけでございますが、規程という名称を使っておるわけでございます。
 あわせて委員お尋ねになっておられますのは、この被疑者補償規程は法務省訓令であるということはわかったけれども、立法化することは考えられないのかというお尋ねもあったかと思うわけでございます。この点につきましては、立法化することがいいのかどうか、あるいは立法化すべきであるというような点について御議論があることは承知しておるわけでございます。ただ結論から申しますと、被疑者補償規程、被疑者段階の不起訴処分になった者の拘禁補償を法律にするということは困難ではないかというふうに考えるわけでございます。
 その理由を申し上げますと、第一にその被疑者補償規程というものを立法化するといたしますと、例えば起訴猶予の場合を考えますと、起訴猶予の場合は補償請求権を認めるべきでないというふうに恐らく考えられると思うわけでございますが、こういう理由で不起訴処分が行われた場合におきましても本人から真実は無実であるということを主張して訴え出る、出訴することは、これは容認せざるを得なくなると思うわけでございます。そういたしますと、その結果すべての不起訴処分につきまして被疑者補償請求の審査ということで裁判所がその嫌疑の有無を判断することにならざるを得ないであろう。しかしながら、これはもう委員よく御案内のとおり、現行の刑事訴訟法は、公務員職権乱用罪についての準起訴手続の場合を例外といたしまして検察官が公訴権を独占する建前、すなわち検察起訴独占主義あるいは起訴便宜主義の建前をとっているわけでございまして、不起訴処分の当否が裁判所の審査の対象になるということはこのような刑事訴訟法の基本的性格から見まして問題があるということが一つの理由でございます。
 それから、第二の理由といたしましては、検察官の不起訴処分には刑事裁判手続における無罪の裁判のように確定力がないわけでございますが、もし検察官のこの「罪とならず」あるいは「嫌疑なし」というような不起訴処分に対しまして補償請求を認めることにいたしますと、無罪の裁判と同じような確定力を与えることにならざるを得ないと思うわけでございますが、そうなりますと法制的にやはり疑義があるということでございます。
 このような観点から今日に至るまで被疑者補償の立法化ということは行われておりませんし、立法化する必要性は認められないのではないかというふうに考えているわけでございます。
#13
○北村哲男君 そうすると、この被疑者補償規程というのは大臣訓令ということで、これは上級官庁が下級官庁に対して権限の行使を指揮するための命令でございますので、それと直接関係になるかどうかわかりませんが、いわゆる請求権という形の構成はとれないことになるのでしょうか、この規程によりますと。この被疑者補償規程による請求、いわゆる補償要求は。
 それと、これは全く検察官の判断で、本人が請求するとかしないとかは関係なしに、検察官がこれは補償すべきと思うものはする、全く検察官にそれは任されているのかという点についてはいかがなものでしょうか。
#14
○政府委員(濱邦久君) まず、前段のお尋ねの中で、確かにこの被疑者補償規程におきましては被疑者の補償の請求権という形で認めているものではないわけでございます。これはもともと、先ほど来御指摘がございましたように、刑事補償法につきましては、これは憲法四十条で無罪の裁判を受けた者について補償請求権というものを認めておるわけでございまして、この憲法四十条に基づいて刑事補償法が定められて、補償を請求する権利という形で構成されているわけでございます。
 それで、被疑者補償につきましては、今御審議いただいております少年補償についても同じでございますけれども、刑事補償の場合のように請求権という形はとらなかったわけでございます。まず、被疑者補償の方から申し上げますと、これは検察官が不起訴処分にいたしました者につきまして、この被疑者補償規程の第二条にございますように、「被疑者として抑留又は拘禁を受けた者につき、公訴を提起しない処分があった場合において、その者が罪を犯さなかったと認めるに足りる十分な事由があるときは、抑留又は拘禁による補償をするものとする。」ということになっておりまして、規程の上からは検察官の義務と申しますか、第二条の補償の要件がある場合には、検察官は「抑留又は拘禁による補償をするものとする。」ということで検察官の義務という形で構成しているわけでございます。
 したがいまして、言葉をかえて申しますと、先ほど申しましたように刑事補償とは違って請求権という形では構成しておらない。ある意味で検察官の職権と申しますか、法務省訓令によって検察官に対する権利義務という形で定められておる。したがって、補償を受ける立場にある被疑者についてはその反射的効果として補償を受けるということになっているわけでございます。
#15
○北村哲男君 今の被疑者補償規程と今回の少年の保護事件に係る補償に関する法律案を見ますと、構成が非常によく似ているのですね。むしろ今までの刑事補償法とは全然体系が違って、この補償規程に似ているのです。一言でいいのですけれども、大臣訓令ならばいつでもできるというか、法律案じゃないわけですから一方的にできるわけなんで、かつていろいろ少年に関して問題があったのに、こういう形でつくろうとされた、あるいはつくる機運とか、そういうものはなかったのでしょうか。
#16
○政府委員(濱邦久君) 今の委員のお尋ねの趣旨の中には、一つは、これは先ほど委員が御指摘になられましたこれまでの国会での御議論の中でもございましたが、例えば刑事補償法という中に取り込めないかとか、あるいは被疑者補償規程のような大臣訓令あるいは最高裁規則のようなもので立法できないかというような御議論もあったことはもう委員御案内のとおりでございます。
 先ほどお答え申し上げましたように、刑事補償は憲法の四十条から由来いたします補償請求権というものを刑事補償法がそれを受けて規定したわけでございます。他方、この少年保護事件補償法の方はどういう構成をするかということはもちろん立法政策の問題であるわけでございますが、こういう現在御審議いただいている法案の形で出しました理由は、一つには現行の少年法の枠組みの上で補償制度というものを構築すると申しますか、創設したいという考え方から出発したということが一つ理由にあるわけでございます。
 それは、もう少し御説明申し上げますと、現行の少年法は、先ほどちょっと触れましたように、保護を要する少年、要保護少年に対し国が保護育成を図ると申しますか、国が保護をする。言葉をかえて申しますと家庭裁判所ということになろうかと思いますが、国が後見的機能を果たしていくという観点から職権主義構造と申しますか、家庭裁判所が後見的立場から少年審判というものを行っていくという構造になっているわけでございます。したがいまして、現行の少年法の枠組みの上に少年保護事件の補償制度をつくり上げるということになりますと、今申しました国親思想に基づく職権主義の構造をとっております少年法と一貫させるという立場からは、むしろ少年に対する後見的機能を期待されている家庭裁判所が職権的にその補償の要否をも判断していくということにするのが適切ではないかということで、こういう補償の内容、要件になっているわけでございます。
#17
○北村哲男君 ほぼ今までで大体その辺の各法律の性格の違いも出てきたと思うのですけれども、もう一点だけ確かめておきたいのですが、この少年補償制度と刑事補償制度について、先ほど述べた平成三年三月二十九日の最高裁判決の中で、主文は別にしまして、園部意見というのがありました。その園部意見というのは次のように言っておるわけです。刑事補償法と憲法四十条との関係について、多数意見と違いますと。園部さんは違うと言っています。
 その内容はどう違うかというと、園部裁判官は、「憲法四〇条の規定の趣旨は、形式上の無罪の確定裁判を受けたときに限らず、公権力による国民の自由の拘束が根拠のないものであったことが明らかとなり、実質上無罪の確定裁判を受けたときと同様に解される場合には、国に補償を求めることができることを定めたものと解する」。したがって、憲法四十条の要請に基づいて少年の刑事補償をつくることが望ましいと。これは、多数意見が憲法四十条とは直接関係ないんだ、別の立法政策の問題だというふうに言っている趣旨とそこは違って、四十条に直接基づいているのだということを言っておられるわけですけれども、今回つくられたその立法の精神は、この憲法四十条の趣旨をそのまま外したという法的性格を持っているのか、あるいは違うのかという点について、そう詳しくなくて、今までいろんなことが出ていますので、その辺だけを明確に言っていただきたいと存じます。
#18
○政府委員(濱邦久君) 今、委員御指摘になられましたように、憲法四十条は、抑留、拘禁を受けた後に無罪の裁判を受けた者の刑事補償請求権を保障したものでございます。少年審判手続においていわゆる非行なし決定を受けた者は、この憲法四十条に規定されております無罪の裁判を受けた者には該当しない。でありますけれども、少年補償法は、憲法四十条の趣旨にかんがみて非行なし決定を受けた者にも刑事補償と同様の補償を行うこととするものでございまして、その意味におきましては憲法四十条の理念を一歩前進させようとするものであるというふうに御理解いただきたいと思うわけでございます。
#19
○北村哲男君 それでは、少しく、新しい法律でありますので各条文についての問題点を聞いていきたいと思います。
 まず、二条に入っていきたいと思いますが、保護手続の中には少年にとって行動の自由の制限を受けて事実上不利益となる処分あるいは措置というものはたくさんあるわけですけれども、今回、法案で補償の対象とするものを第二条で列挙された身体拘束に限って定めた理由というのはどういうところにあるのでしょうか、その点についてはいかがでしょうか。
#20
○政府委員(濱邦久君) 先ほど憲法四十条との関係でお話がございましたけれども、結局憲法の四十条で刑事補償を定めておりますのは、これは抑留または拘禁された場合の補償ということで規定しているわけでございます。先ほど御指摘になられました被疑者段階の被疑者補償につきましても同じ考え方をとっているわけでございます。したがいまして、この少年補償制度をつくるにつきましても、これとの均衡を考えまして、現実に身柄の拘束が行われた場合、抑留、拘禁に当たるものが行われた場合の補償ということで考えたということでございます。
#21
○北村哲男君 次に、二条の二項なんですが、ここで後半に、同法第二十四条の二の規定による没取を受けたものであるときも同様とするということが入っておるのですが、この没取を補償の対象としているのはちょっとほかの法律と比べてみますと、まず刑事補償法にはないようです、私の間違いかもしれませんが。それから刑訴百八十八条の二、被疑者補償規程についても出ておらないのです。
 それから、そもそもそれぞれの法律は、拘禁を受けたことによる身体の拘束に対するいわゆる補償であるにもかかわらず、ここだけ何か没取されたものについて補償するというのは――没取というのは少年法の没取と刑法の没収というのと中身は全く同じで、犯罪に使われたピストルだとかあるいは犯罪で奪ったお金だとかそういうものを指すのですが、それが無罪によって実は本人の大切にしている骨とう品であったということによって返すことは返すのですけれども、そういうものが入っているというのはどういうことなんでしょうか。身体に対する侵害を補償するのが共通なのに、ここだけ物に対して補償しているというのはどういうことなんでしょうか。
#22
○政府委員(濱邦久君) まず、刑法上の没収の執行による補償につきましても刑事補償法は規定をしているわけでございます。刑事補償法の第四条の第六項に、要するに没収の裁判が執行された後に後日無罪の裁判があった場合に「没収物がまだ処分されていないときは、その物を返付し」、返付というのは返還というふうに理解していただいていいかと思いますが、「返付し、すでに処分されているときは、その物の時価に等しい額の補償金を交付し、又、徴収した追徴金についてはその額にこれに対する徴収の日の翌日から補償の決定の日までの期間に応じ年五分の割合による金額を加算した額に等しい補償金を交付する。」ということで没収の執行による補償を定めているわけでございます。
 少年保護事件補償法で今、委員御指摘になられました第二条第二項後段の規定もこの規定と同じ趣旨でございまして、ただ、少年法上は没収と言わずに没取と言っておりますので、同じ趣旨で没収の執行による補償を定めたということでございます。
#23
○北村哲男君 失礼いたしました。私がちょっと不勉強でそこを見落としておりまして、性格が違うのでという質問になったわけです。
 ところで、この没取については第四条でその物の時価に等しい額の補償金を交付するという、これは今の刑事補償法でも同じ規定があるようですけれども、これは物にはいろんな価値があって、大変高価なものもあると思うのですけれども、補償金を交付するということは、身体拘束ならば一定の額、上限を決めてもそれはわかるのですが、「返付することができないときは、その物の時価に等しい額の補償金を交付する。」というふうに規定した場合は、とても今回の最高限一万二千五百円では貯えない場合も幾らでもあると思うのですけれども、この辺はどのようにお考えなんでしょうか。
#24
○政府委員(濱邦久君) 委員が御指摘になっておられますこの法案の第四条第二項の没取による補償について規定しております中で、「その物の時価に等しい額の補償金」と申しますのは、まさにその物の時価に等しい額を言っているわけでございます。先ほど御指摘になっておられます拘束の日数に応じて補償する拘禁補償の方につきましては、これは刑事補償法第四条第一項に定める一日当たりの割合の範囲内ということで、今回同時に御審議いただいております刑事補償法の一部改正法案によりますと「千円以上一万二千五百円」という範囲内で相当と認められる額の補償金を交付することになるわけでございまして、これは一項と二項は全く別のものを言っているわけでございます。
#25
○北村哲男君 どうも続けて私の方で間違いの質問しまして、失礼しました。
 それでは、第三条の「補償をしないことができる場合」の内容についての質問をしたいと思います。
 第三条では、補償しないことができる場合がほぼ刑事補償法に準じて列挙されているが、同法にないものとして三号で「本人が補償を辞退しているとき」が挙げられております。どんなケースで辞退があると想定しているのでしょうか。いかがでしょうか。
#26
○政府委員(濱邦久君) この法案三条三号によりまして補償の全部または一部をしないことができることとなる場合の具体的事例についてお尋ねかと思うわけでございます。
 少年が補償を辞退している場合のほか、例えて申しますと身柄拘束を受けるに至った帰責事由と申しますか、その責任が専ら少年にあると考えられるとき、例で申しますとシンナーの乱用癖を有する少年が密売人からシンナーを購入して吸入中に検挙されたけれども、たまたま当該シンナーにはトルエンが含まれていなかったというような場合、それからほかの例といたしましては、客観的な犯罪事実は認められるけれども責任能力が認められないとして非行なし不処分決定等がなされたとき、それからほかの例としましては、専ら虐待を受けている少年を緊急に保護する目的で保護観察がとられたというような場合、それから没取の場合について申しますと、没取物を返付することが少年の将来に悪影響を与える高度のおそれがあるとき、例えばその没取物が偽造物だとか覚せい剤、シンナー、わいせつ物等であるときというような場合が考えられるのではないかというふうに思うわけでございます。
#27
○北村哲男君 少年は自分で自分を主張する能力が成人に比べて劣っているというふうに言われているわけです。特に周囲の圧力などを受けないように慎重な配慮が必要だと思うけれども、その辺の意思を確認するにはどのような形でするのか。その辺の配慮というのはどういうふうにやるおつもりなのか、その辺についての御説明をお願いしたいと思います。
#28
○政府委員(濱邦久君) 今、委員御指摘になられましたように、この法案の三条三号では、「本人が補償を辞退しているとき」という例示が挙げてあるわけでございます。ただ、この趣旨は補償の辞退があったからといって直ちに補償の全部または一部をしないこととなるわけではないわけでございまして、家庭裁判所の健全な裁量によって補償の全部または一部をしないことができるにすぎないというふうに理解いただきたいと思うわけでございます。
 少年法におけると同じように、この法律案におきましても、家庭裁判所は本来十分な後見的機能を発揮すべきことが予定されておるわけでございます。一たん少年が補償を辞退する意思を表示したからといって直ちに補償しない旨の決定をするものではなくて、少年の判断能力や辞退の理由を十分考察、勘案いたしまして、必要に応じて保護者からも意見を求めるなどの措置を講じた上で補償の要否及び内容を定めるという運用が予定されているわけでございまして、そういう意味では、少年保護に欠けるところはないように運用とともに期待がなされているというふうに御理解いただきたいと思うわけでございます。
#29
○北村哲男君 それから、ここにもう一つ、「その他補償の必要性を失わせ又は減殺する特別の事情があるとき。」という規定がございます。その場合とはどういう場合なのかの説明をお願いします。
#30
○政府委員(濱邦久君) 今、委員御指摘になっておられます法案三条三号の「その他補償の必要性を失わせ又は減殺する特別の事情があるとき。」と申しますのは、先ほど申し上げたような例示の場合を想定しているわけでございますけれども、確かに一般的に言いまして、具体的個別的な要件で書く方が望ましいことは事実であろうと思うわけでございます。
 ただ、法案の三条三号が想定している場合をそのような方法で網羅して規定するということは立法技術上不可能であるというふうに思われますし、かと申しまして、そのような場合にまで必ず補償をしなければならないというふうにいたしますことはかえって少年の健全育成を害する、あるいは過剰補償となって少年補償の目的を没却する結果となるということも考えられるわけでございまして、そういう理由からこのような除外事由を設ける必要があるというふうに考えたわけでございます。
#31
○北村哲男君 もう一点、この点で刑事補償の場合と違う例として、心神喪失で責任能力がないような場合に刑事補償では補償しておるようですけれども、少年の場合はいかがなものでしょうか。
#32
○政府委員(濱邦久君) そもそも少年保護事件における審判条件としての犯罪の成立に責任能力が必要かどうかということについては議論があるところでございまして、実務の運用も分かれていると理解しているわけでございます。
 ただ、少年法が犯罪だけではなくて触法あるいは虞犯をも非行としてとらえておりまして、犯罪性のある少年の性格矯正等による少年保護を目的としていることに照らしますると、審判条件としての犯罪の成立には責任能力の存在を必要としないという解釈には十分な合理性があるというふうにも考えられるわけでございます。もしこのような解釈をとりますると、責任能力を欠く場合にも非行は成立するということになりますから、およそ補償の対象とはなり得ないということになるわけでございます。仮にその反対の立場に立って責任能力を欠くことを理由に非行なし決定をするというふうにいたしましても、裁判所の見解によって補償の対象となったりならなかったりするのは妥当ではありませんので、また責任能力だけを欠く場合に短い期間の身柄拘束に対する補償を行うことはやはり健全な社会感情にも反する面があるということから、責任能力がないことを理由とする非行なし決定の場合には、この法案三条三号によって補償しないこととすべきであろうというふうに考えるわけでございます。
 なお、つけ加えますと、責任能力だけを欠く場合には補償をしないという趣旨の明文の規定を設けることになりますと、今度は非行としての犯罪の成立に責任能力が必要であるということを立法的に肯定する結果ともなりますためにそういう方法はとらなかったということになるわけでございます。
#33
○北村哲男君 それでは続いて、四条の補償の内容ということについて、まず身体の自由の拘束による補償について、補償日額を刑事補償金と同じにしたということはなぜであろうか。成人と少年の場合の身体の自由の拘束の持つ意味、まあ同じといえば同じなんですけれども、しかし、今までの話を聞いておりますと、少年の処遇というのと成人とは随分違うようだし、しかも片や憲法上の強い要請である、明確な要請であるということがあるようですけれども、それを同じにされたということはどういうことになるのだろうか、その点についての御説明をお願いします。
#34
○政府委員(濱邦久君) 刑事補償や、それから先ほど御指摘のありました被疑者補償におきましても、少年に対する拘禁補償につきまして殊さら成人より低額の補償日額を定めるということはしていないわけでございまして、そのようなことも勘案いたしまして刑事補償と同額としたわけでございます。
 ただ、委員もお触れになられましたように、少年の保護事件手続の対象となる少年につきましては、一般的に申しまして刑事補償の対象となる成人に比べて身体の自由の拘束による経済的損害は小さい場合が多いとも考えられるわけでございますが、他方、年長少年の中には職業を持って妻子等の親族を養っている者もあると思われるわけでございまして、補償日額の上限を刑事補償のそれよりも低額にするということについては合理的根拠に乏しいのではないかというふうに考えるわけでございます。
#35
○北村哲男君 今の点なんですが、刑事手続の身柄の拘束ということは明確に刑事訴訟法で規定してあるのですけれども、保護手続による身体拘束というのはいろんな場面があるのですよね。ですから、そういう性格の違いというのはこういうところに反映はされる必要はないのでしょうか。
#36
○政府委員(濱邦久君) 確かに、委員仰せになっておられますように、例えば少年院送致というものを例にとった場合に、少年院送致は少年の健全育成を目的とする保護処分そのものでございまして、例えば教科教育とか職業教育等の矯正教育を本質とする点におきましてはかの身柄拘束とは異なっているというふうに言えると思うわけでございます。
 ただ、身体の自由の拘束による補償は、その身体の自由の拘束を受けたことによってこうむった財産的損害及び精神的損害を補てんしようとするものでありますから、その間に少年の利益となる処遇がなされたときに、当然それも考慮して現実にこうむった損害の程度を判断すべきであるということは委員御指摘になられたとおりだと思うわけでございます。
 具体的には、少年院における個別的処遇計画とその達成状況等を参考にするのが相当であると思われるわけでございます。そのような事情をも十分考量勘案した上で家庭裁判所が相当と認める額を決めるということを期待しているものというふうに考えるわけでございます。
#37
○北村哲男君 それから四条で、「刑事補償法第四条第一項に定める一日当たりの割合の範囲内で、相当と認められる額の補償金を交付する。」という形で「相当と認められる額」という文言が使われております。一方、刑事補償法の方では額についての根拠に、「拘束の種類及びその期間の長短、本人が受けた財産上の損失こ「精神上の苦痛及び身体上の損傷並びに警察、検察及び裁判の各機関の故意過失の有無その他一切の事情を考慮しなければならない。」というふうに明快に規定してあるのですけれども、少年の場合に「相当と認められる額」というふうに非常に抽象的に書かざるを得なかった、書いてある理由というのはどういうところにあるのでしょうか。
#38
○政府委員(濱邦久君) この身体の自由の拘束に対する補償は、身体の自由の拘束を受けたことによってこうむった財産的損害及び精神的損害を補てんしようとするものでありますから、その額は本人が現実に受けた財産上の損失、得べかりし利益の喪失、さらには精神的苦痛その他の非財産的損失並びにこれらを基礎づける一切の事情を考慮して決定すべきものであると思うわけでございます。刑事補償法に基づく身柄拘束による補償の場合と、その点では全く同様であろうというふうに理解しているわけでございます。
 このような、今委員も御指摘になられ、刑事補償法でも挙げておりますような考慮事項と申しますのは、少年補償の目附からも当然に導かれるものでございまして、あえて刑事補償法四条二項のような考慮事項に関する規定は設けておりませんけれども、そういうことをも十分考慮に入れた上で家庭裁判所が相当と認められる額を決めていくという構想になっているわけでございます。
#39
○北村哲男君 次に、五条の補償に関する決定の点についての質問をしたいと思います。
 まず、この第一項の「補償の要否及び補償の内容についての判断は、第二条に規定する決定をした家庭裁判所が、決定をもって行う。」ということは、これはどこの家庭裁判所というふうに理解すればよろしいわけでしょうか。
#40
○政府委員(濱邦久君) この「第二条に規定する決定をした家庭裁判所」と申しますのは、言葉をかえて言いますと、非行事実なしという理由によって審判不開始決定あるいは不処分決定をした家庭裁判所というふうに理解すべきものというふうに考えているわけでございます。
 ただ、委員お尋ねになっておられる御趣旨は、さらに審判不開始決定あるいは不処分決定をした当該家庭裁判所、言葉は適当かどうかわかりませんが、訴訟法上の裁判所を意味しているのかという御趣旨かもしれないと思うわけでございますが、これは例えば非行事実なしとして審判不開始決定あるいは不処分決定をした家庭裁判所が補償に関する決定を行うのが通例であろうというふうに思われるわけでございます。ただ、例えばその後家庭裁判所の裁判官が交代されたというような場合を考えますと、それは必ずしも不開始決定あるいは不処分決定をした家庭裁判所、訴訟法上の家庭裁判所ということにならない場合もあり得るわけでございますが、そういう場合には国法上の家庭裁判所を意味するというふうに理解すべきことになるかと思います。
 いずれにしろ、第二条に規定する審判不開始決定あるいは不処分決定をした家庭裁判所であるということを規定しているわけでございます。
#41
○北村哲男君 それで、第五条三項の再考制度というものがあります。補償に関する決定の変更をすべき申し出を少年側からなす制度になっておりますけれども、上級審に対して不服申し立てを認める方が少年の保護にかなうのではないかという考え方もあると思うのですが、不服申し立てを認めない理由というのはどういうところにあるのでしょうか。
#42
○政府委員(濱邦久君) 先ほど東お答え申し上げておりますように、現行の少年法は刑事司法的なアプローチをとらないで、専ら後見的、福祉的アプローチをとっている。国を保護を要する少年の親としてとらえる国親思想のもとに、家庭裁判所の専権的職権主義構造を採用しておると理解しておるわけでございます。観護措置決定あるいは補導委託を伴う試験観察決定、保護処分を伴わない没取決定等、少年に一定程度の不利益を及ぼす処分につきましても、現行の少年法は抗告を認めていないわけでございます。唯一、抗告を認める保護処分決定につきましても、抗告審である高等裁判所はみずからその終局決定をすることはできない建前になっておりまして、原決定を取り消す場合は必ず家庭裁判所に差し戻すか移送しなければならないこととしているわけでございます。
 このような現行少年法の後見的、福祉的アプローチに対しましてはいろんな御意見、御議論があるところでございますが、現行の少年法が前提としており、またこれまで家庭裁判所が果たしてきたこの後見的機能に照らしますると、上級審に対する不服申し立てを認めないからといって、直ちに少年保護に欠けるというふうには考えられないと思うわけでございまして、少年の申し出による再度の考案の制度、今御指摘になられました第五条第三項の規定を設けることによりまして、補償決定の適正は十分担保されるものというふうに考えているわけでございます。
#43
○北村哲男君 第六条に行きます。
 第六条の問題点としましては、刑事補償の場合との比較の問題なんですけれども、「特別関係者に対する補償」という制度の中で、特別関係者の中に相続人が入ってない点が大きい問題じゃないかと思うのですが、この点はいかがでしょうか。
#44
○政府委員(濱邦久君) 確かに、委員御指摘になられましたように、刑事補償法では補償請求権という構成をとりまして、その補償請求権を相続人が承継するという構成をとっているわけでございます。他方、この少年保護事件補償法案の方では、そういう刑事補償法のような構成をとらずに、第六条で「特別関係者に対する補償」という制度を規定したわけでございます。
 その趣旨は、少年の父母等の親族で少年と生計を同じくしていた者や、親族ではないけれども少年法二条二項に規定する「保護者」の立場にあった者も、少年が非行を犯したとされて身柄拘束等を受けたことによりまして、一般的に精神的、財産的損害を受ける立場にあると思われるわけでございまして、少年が生存していて補償を受けていたならば、これらの者の損害もその限度で間接的に回復されたものというふうに考えられる。そういうことから、少年がたまたま補償決定を受ける前に死亡した場合にも、家庭裁判所の判断によってこれらの者に対して、少年が生存していれば受けたものと認められる補償を行うということとしたものでございます。これらの特別関係者自身に対する一種の損害賠償であるというふうに御理解をいただきたいと思うわけでございます。
#45
○北村哲男君 特別関係者の中には、子供、それから父母、祖父母、もしくは兄弟姉妹となると、ほぼ相続人は網羅されていることになるわけですね、今ので理由はわかりましたけれども。
 それで、この六条は、特別関係者からの申し出を待つ形の法形式になっておるのですが、少年補償そのものは刑事補償のように本人の請求を待つのでなくて国の側から補償するものとするという形で、いわば必ずするという形になっておるのですが、この特別関係者の場合にも、国の側から補償する形にどうしてできないのでしょうか。
#46
○政府委員(濱邦久君) 少年本人に対する補償と異なりまして、特別関係者に対する補償、先ほどお答え申し上げましたように、特別関係者自身に対する一種の損害賠償というふうに理解しておりますから、特別関係者に対する補償におきましては格別、少年保護や、あるいは少年保護事件手続との一貫性を確保しなければならないという必要性はないというふうに思うわけでございまして、申し出を待って補償すれば十分であるというふうに考えたからでございます。
#47
○北村哲男君 立法理由についてはそのようにお伺いしておきます。
 それから、補償の額に関して、平成四年度の予算に計上されている少年補償金は五百九十三万一千円というふうにされておるようなんですが、その根拠についてまず説明していただきたいと存じます。
#48
○最高裁判所長官代理者(山田博君) 少年補償金につきましては裁判所の方で予算額を計上しておりますので、私の方からお答え申し上げますが、仰せのとおり五百九十三万一千円が予算上計上されているわけでございます。
 これは平成元年度の刑事補償法に基づく平均補償日額、具体的には八千五百十三円でございますが、この平均補償日額に今回の刑事補償法の改正案におきます値上げ率一六・五%を掛けて、基本となる平均補償日額を算出しまして、これに司法統計から推定されます身柄拘束を経て非行なしとなる少年の人数、具体的には二十三人でございます。これと実態調査の結果から推定されます平均身柄拘束日数二十六日を掛けて算出した、こういうものでございます。
#49
○北村哲男君 せっかくそういう二十三人という数、あるいは二十六日という具体的な数字が出ておりますので、関連で、最近の少年保護事件についての動向上いいますか、大体二十五、六万件というのはさまざまな記録では見ているのですが、どういう傾向にあるのか。そのうち、非行なしとされた事件数、あるいは不開始、不処分、処分取り消しというふうに本件の少年補償法の対象になるのは大体どのくらいになるのかという点について、あわせてお答え願いたいと存じます。
#50
○最高裁判所長官代理者(山田博君) まず、最近の少年保護事件の全般的な傾向を簡単に申し上げますが、少年保護事件の新受人員は、昭和五十年度から五十八年度までは増加を続けてまいりましたが、五十九年度以降減少傾向にございまして、平成二年度における新受人員で見ますと、全体では四十八万九百六件でございます。内訳としては、一般保護事件が仰せのとおり二十六万二千百九十八件でございまして、道路交通事件が二十一万八千七百八件、概括的な事件の概況はこの程度でございます。
 その中で、この少年補償法の対象になり得るような事件の数はどれくらいかという仰せでございますけれども、この点につきましては、この少年の補償に関する法律案の関係資料の末尾のところに参考資料として一応数字が載せてございます。ここにございますように、最近五年間で見ますと、平均的には非行なしで不処分になりました数は、五年間平均では二百五十五人程度、それから審判不開始になります数は百四十三人程度、全体として四百人前後、こういうのが非行なしになる不処分、審判不開始の総数でございますが、この中で、今申し上げました数字は身柄拘束を伴わないで不処分、審判不開始になる、こういうものもございます。
 具体的に補償法の対象になりますのは、身柄拘束を伴って非行なしの判断に帰着した、こういう事件でございまして、これが今の参考資料の第二表の方の数字が手がかりになろうかと思います。観護措置によって少年鑑別所収容の措置がとられた事件の中で、非行なしを理由に不処分決定、あるいは不開始決定がなされた人員等の数は、この表にございますとおり、五年間平均で見ますと、非行なし不処分が二十五人前後、それから非行なしを理由にして審判不開始となるものが二・二人程度でありまして、両方合わせましておおむね二十六人前後、こういう数字になっております。
#51
○北村哲男君 そうすると、この統計を通じて大体二十数人ということで計算されているというふうに理解いたします。
 ところで、ほぼ各条文の内容についての質問を聞いてまいったわけですけれども、附則で施行日というところがあります。これは、「この法律は、公布の日から起算して九十日を超えない範囲」において施行するという規定になっております。一方、刑事補償法の附則四項によりますと、これは随分前の話なんですが、「日本国憲法施行後この法律施行前に無罪の裁判を受けた者に係る補償については、この法律施行後一年以内に、この法律の規定により補償の請求をすることができる。」という規定があります。
 ということは、日本国憲法の施行は昭和二十二年五月三日、刑事補償法の施行は昭和二十五年一月一日ということで、約二年半後にできておるわけです。すなわち、刑事補償法では二年半以上もこの補償を遡及させておるわけですけれども、少年補償の場合は逆に三カ月も後から施行するということになっているのですが、少年補償の場合に刑事補償法と同様に遡及的な効果をつけることは法律上の障害があるのだろうか。
 特に今まで、去年の最高裁判決なんかで問題になった事案が契機になっているということで、その人たちが補償のらち外に置かれるということについてかなり問題もあると思うので、まあ日本国憲法施行まで戻るのは無理がというふうに思うのですけれども、一定の範囲では遡及させることが一体無理なんだろうかという点についてはどのようにお考えなんでしょうか。
#52
○政府委員(濱邦久君) まず、刑事補償法について委員御指摘になられたわけでございますが、この種の補償に関する制度で遡及適用を認めたのは、今、委員御指摘になられましたように、刑事補償法が昭和二十五年に立法された際に、新しい憲法の施行時までさかのぼって適用を認めたのが唯一の例というふうに思うわけでございます。そのほかの補償に関する法律につきましては、遡及適用を認めないというのが通例であるというふうに理解しているわけでございます。
 今、御指摘になられました刑事補償法が昭和二十五年に立法されたときに、唯一の例外として遡及適用を認めた理由を考えますると、旧刑事補償法におきましては、もうこれは委員御案内のとおり、刑事補償自体が国の恩恵的な制度というふうに構成されておったわけでございます。新憲法が施行されて新憲法の人権保障の趣旨を具体化するという一環として刑事補償法が補償請求権という形で憲法四十条に規定が設けられ、それを受けて刑事補償法が昭和二十五年に制定されたわけでございます。
 したがいまして、新しい刑事補償法は、旧刑事補償法とは全く考え方を転換して、新憲法に定められた人権の保障を徹底するという趣旨から立法されたものでありますから、そういう趣旨で新憲法の施行時までさかのぼって適用を認めるという方法をとったものではなかろうかというふうに理解するわけでございます。
 他方、少年保護事件補償法についてはどうかということになりますると、今申しましたように、旧刑事補償法の全面改正ということで成立した現行刑事補償法の例を除いて、証人等の被害についての給付に関する法律による給付、あるいは犯罪被害者等給付金支給法による支給など比較的近似する、あるいは類似する制度がいずれも遡及適用を認めていないわけでございます。また遡及適用を認めるとした場合に、どこかの時点で切るということにつきましてはなかなか合理的な説明が困難であるというふうに思うわけでございまして、逆に申しますと、その時点で新たな不均衡を生み出すことに結果としてなるのではないかと思うわけでございます。
 翻って考えますと、少年補償法というのは、いわば保護事件に関する手続の一環として、当該手続を担当した家庭裁判所の判断によって、当該手続において非行事実が認められるに至らなかった少年等を保護しようとするものでありますから、既に一定期間の経過した過去の保護事件に対して補償を行うということは、必ずしも今回の少年補償の枠内にあるというふうには考えられないのではないかというようなことも考えたわけでございまして、今申し上げましたようないろんな事情を考慮いたしますると、この法案が成立して、法施行後に非行なし不処分決定等を受けた者についてのみ適用するのが相当であるというふうに考えた次第でございます。
#53
○北村哲男君 それでは、もう少し細かい点なんですけれども、刑訴の百八十八条の二で費用償還の場合には、無罪の判決が確定した場合には手の法律の施行前に生じた費用についても適用するという条文がありまして、これは必ずしも遡及とは言えないのですが、無罪の判決があった、しかしそれより過去のものの費用償還するについて、まだその時点には法律はなかったという場合があるのですけれども、本件の場合は、この法律以前に生じた違法な勾留といいますか、そういうものについての補償は、施行後に不処分があった場合には適用があるかどうか、その点についてはどうなんでしょうか。
#54
○政府委員(濱邦久君) この少年保護事件補償法案の附則の一項で規定しておりますように、「この法律の施行後に第二条に規定する決定」、言葉をかえて言いますと、非行事実なしとして審判不開始決定または不処分決定があった保護事件についての拘禁補償に、拘禁あるいは没取について適用するということでございますから、この法律の施行後に審判不開始決定あるいは不処分決定がある事件については、さかのぼって施行前に行われた拘禁についても補償は行われるということは言えると思います。
#55
○北村哲男君 ということでは、百八十八条の二と同じ趣旨だと理解してよろしいわけですね。
 それでは、ほぼこの法案については一応網羅して聞いてまいったわけですけれども、少年法の問題については十五年前の少年法改正の中間答申以来大きな問題があると思いますし、それで問題点も多くあるのですが、一、二その問題についてお伺いしていきたいと存じます。
 まず、取り調べにおける保護者あるいは弁護人の立ち会い権の問題でありますけれども、一つは、犯罪が起こってその被疑者が少年だった場合に、取り調べの過程では保護主義の精神が貫かれていないということが言われておるわけです。少年事件で非行事実なしとなったものの中には、取り調べ段階で警察官による自白の強制とか暴行によってうその自白をさせられた事件なんかもあるというふうにいろいろ報道されておるわけですけれども、大人に比べてみずからを防御する力の弱い少年が警察官に振り回される、あるいはそういう雰囲気に押されてしまうということも少なくないと思われるわけです。
 警察庁次長通達の少年警察活動要綱というものがあるのですけれども、その中にも、警察官が少年と面接する場合には、やむを得ない場合を除き少年と同道した保護者等その他適切と認められる者の立ち会いのもとに行うことという定めもあるということ、特にその辺を注意をしなくてはならぬということは一般的にはわかるのですけれども、現実の取り調べでは保護者あるいは弁護人の立ち会いはほとんど認められないというふうに言われておるわけです。
 そういう点について実情といいますか、あるいは実情は警察の問題になるからおわかりにならないかと思いますけれども、法務省でおわかりになる限りの認識のもとで、弁護人や少なくとも保護者の立ち会いのもとで取り調べを行うことを法律上義務づける必要があるのではないかというふうにも考えられるのですけれども、その辺についてどのようにお考えでしょうか。
#56
○政府委員(濱邦久君) 委員御指摘になられましたように、少年の判断能力等が必ずしも十分ではないということは一般的に言えるわけでありますし、捜査段階において適正な手続の保障ということにつき、特に成人の事件の場合以上に捜査に携わる者として考慮を払わなければならないということは、もう委員が仰せのとおりだと思うわけでございます。
 それで、この運用についてまず申しますと、例えば検察庁の場合について申しますと、検察官、特に検察庁におきましては少年係検察官という係制度を設けておりまして、少年係の検察官が日ごろから少年事件について特に専門的と申しますか、一括して少年関係の事件を捜査処理するに当たりまして、今委員が御指摘になられましたように、捜査の過程で適正手続の保障というもの、一般的には判断能力が必ずしも十分でないということを念頭に置いて、その点に特に考慮して捜査処理に当たっているというのが実情でございます。
 それから、制度的なものとして、例えば少年法改正の御議論の中でございますけれども、少年の権利保障の一環として、例えば国選付添人の制度を設けるというような御意見もあるわけでございます。これらの制度面の問題につきましては、先ほど来お答え申し上げておりますように、少年法のほかの関連する諸問題、少年の権利保障の問題、あるいはそれとの関係で少年審判手続の客観化と申しますか、あるいは検察官関与の問題等々の問題とあわせて、関連するものとして少年法改正作業の中で検討していきたいというふうに思っているわけでございます。
#57
○北村哲男君 ただいま国選付添人制度について触れられましたけれども、関連してその問題について伺います。
 これも最高裁にお聞きすることになると思うのですけれども、一般保護事件というのは二十五、六万というふうに言われたのですが、その中で現実に付添人がついた件数はどのくらいあるのだろうか、そして、それは総事件数に比べて一体どのくらいの割合なんだろうかという点についてお調べがついているのでしょうか。
#58
○最高裁判所長官代理者(山田博君) 一般保護事件と申しますのは、少年保護事件全体の中で道路交通事件を除いたものになるわけでございますが、この一般保護事件の終局総人員の中で付添人がついた事件を見てみますと、昭和六十一年度は千六百三十九件でございまして、率にすると約〇・六%でございました。これが平成二年度では千九百七十五件でございまして、率で約〇・七%になっております。これら二千件弱の事件の中で大半は、約九五%前後が弁護士である付添人がつかれた事件でございまして、率自体としては弁護士である付添人がつかれる事件は非常に低いわけではございますけれども、近時漸増という形になっております。
#59
○北村哲男君 ただいまパーセントで言われて〇・六%、〇・七%というのは、二百人に一人、百五十人に一人とかということになると思うのです。一%以下ですね。極めて低い、もう本当にほとんどないに等しいぐらいというふうに理解するのです。
 それで、弁護士がほとんどだというふうにおっしゃいますが、この弁護士はどういう形でそれじゃついているのだろうかということのお調べはついているのですか。というのは、私は国選付添人制度との関連でお聞きしているので、今、国選制度はないわけですけれども、法律扶助協会の扶助事件として弁護人がついているかどうか、そのついている割合とかということについてお調べになっておれば、あるいはわかる範囲で結構ですけれども教えていただきたいと思います。
#60
○最高裁判所長官代理者(山田博君) まず、先ほどは全一般保護事件の中での付添人の数でございまして非常に少ないわけでありますけれども、もう少し具体的に事件の類型別で見てみますと、殺人事件だけを取り上げますと五五・二%の事件について付添人が選任されております。殺人が最も多いわけでございますけれども、その次に高いのが強姦事件でございまして、これは二四・五%。次が放火でございまして一八・九%、強盗が一四・八%、公務執行妨害が一一・九%、麻薬取締法等違反が九・一%、覚せい剤取締法違反が八・三%というような状況でございまして、凶悪犯や薬物事犯について付添人の選任される割合が高い、こういうような実情にございます。
 今仰せの法律扶助協会等の関係について申し上げますけれども、家庭裁判所で取り扱う事件の中におきましても、弁護士である付添人が必要であると思われるような事件、例えば罪質、情状、要保護性などに照らして刑事処分でありますとか少年院送致が予想される重大な事件でありますとか、あるいは少年が非行事実を争っているような事件、こんなものかと思いますけれども、こういう弁護士である付添人が必要と思われる事件でありながら、貧困などが原因でみずから付添人を選任できないという事件があるわけでございます。
 家庭裁判所としては、昭和四十七年ごろであったと思いますけれども、法律扶助協会に対して、こうした事件について家庭裁判所が特に認めた場合には扶助協会に付添人の扶助をお願いできるだろうかというような御照会を申し上げました。その結果に基づきまして、昭和四十八年以降、各地の家庭裁判所、弁護士会、法律扶助協会三者の合意によって法律扶助協会の扶助による付添人制度というものが運用上広まってまいったわけでございまして、平成四年の、本年の五月一日現在で私どもが把握しておりますところでは、全国の家庭裁判所のうち三十八庁でこの法律扶助による少年の付添人制度というのが運用されているように認識をしております。具体的には、昨年度の場合には三百一件がこれによる付添人の数であったというふうに記憶しております。
#61
○北村哲男君 今の統計でもわかるように、国選付添人制度、特に少年犯罪でも重要な犯罪については、今は多くは法律扶助協会に頼ってやっている場合が多いと思われます。したがって、これから国選付添人制度の方に移行していく流れにあると思いますので、今後の少年法改正に向けては当然その問題を実現できるように進めていくべきだと私は考えます。
 さて次に、現実の家庭裁判所の中の審判手続の中で、いわゆる所要事項の教示という問題があります。これは少年が審判を受けるに際して審判手続を理解させるために必要な事項、あるいは自己の手続上の権利を十分に行使するために知っておく必要のある基本的事項、例えばどういう非行事実であったのか、あるいは供述拒否権があるとか、付添人の選任権があるとかということを適切な機会に少年に教示することが必要と思われるわけですが、現行法にはそういうことをしろという規定はありません。少年法改正では当然問題にしてきたのですけれども、ある程度運用によって賄えるものがあると思いますし、少年の保護のためには必要であると思われますけれども、現状ではそういう点についてはどういうふうな方針あるいは運用で実施しておられるのかという点についてはいかがなものでしょうか。
#62
○最高裁判所長官代理者(山田博君) 申し上げるまでもなく、家庭裁判所の機能、大きなところでは司法機能と福祉機能の二つがあると言われておりまして、この調和の上で適正な運用を図るという精神で行っているわけでございまして、一面において少年自身の人権保障あるいは適正手続に対する配慮というのが非常に重要な問題であるということは現在各家庭裁判所で十分徹底をしておりますし、運用上も実質的には確保されているというふうに認識をしております。
 具体的にどのようなことをしておるのかということを申し上げますと、まず少年が家庭裁判所へ連れてこられまして観護措置をとる、この観護措置手続の段階でありますとか、それからその後の審判期日の場合には裁判官自身が少年に対してまず黙秘権を告知しております。そしてその上で、非行事実をわかりやすく説明をして弁解を聞くという運用が現実になされております。黙秘権を告知すると申しましても、ただ形式的に行うわけではなくて、少年の理解力に応じてその趣旨をわかりやすく説明しているというのが実情であると考えております。
 それからまた、付添人の選任権につきましても、裁判官が観護措置手続をする際には少年にわかりやすくこれを告げて説明をしていくというのが実情でございます。
 これは実際の少年自身が目の前に、裁判官の前に出てきた場合にとれを行っているわけでございますけれども、それ以前に、事件全体として家庭裁判所に事件が係属した際に、家庭裁判所では少年や保護者に対して「少年と保護者の皆さんへ」というような題をつけたパンフレットを郵送しております。この中で、一般的に家庭裁判所の手続がどのように行われるのかということを初めとして、処分が具体的にはどういうような内容として行われるのかということと同時に、付添人の選任権があること、あるいは黙秘権等についてもわかりやすく説明をする、こうした書面を個別に送付するという運用を行っております。
#63
○北村哲男君 運用についてある程度前進されているということはよくわかりました。ただ、これはいずれは少年の権利保護という面では立法化の必要があるものだと考えます。 ところで次に、少年の再審請求という問題について一つ指摘をしておきたいのですが、少年側からの不服申し立て制度としては、保護処分の決定に対する抗告とそれから再抗告という規定はありますけれども、再審に当たる非常救済手続はありません。
 現実に事件としては、草加の女子中学生の殺人事件という大きな問題となった事件がありました。この事件では、たしか無実を主張して、刑事裁判の再審に相当する処分の取り消しを求めていたのに対して、最高裁の第一小法廷は平成三年の五月九日に、少年は二十を過ぎて保護処分が終了すれば再審を求めることはできないという趣旨の判断をしておるわけです。
 この問題について、再審手続というのはいろんな今までの立法経過の中あるいは現行の少年法の立法の問題はあるのですけれども、最近の流れとしまして、この次に簡単にお伺いするのですが、子どもの権利条約の問題とか、あるいは一九八五年の十一月に国連総会で採択された少年司法運営に関する国連最低基準規則というものの中でも「少年の権利」というところで、再審という言葉は直接はないのですけれども、例えば今申しました国連最低基準規則の七条によりますと、「基本的な手続的保護―たとえば、無罪の推定、犯罪の事実の告知を受けるべき権利、黙秘権、弁護士依頼権、親や保護者の立会の権利、証人尋問権、より上級の機関に不服申立てする権利―は、手続のあらゆる場面で保護されねばならない。」となっている。これはまさに国際的な基準、今の日本の刑事手続の基本的な基準だと思うんですけれども、その上訴する手続、あるいはより別の形でさらに審査を求める権利というのは、当然再審ということも入っておると思います。そういう意味では、少年についても再審制度を再度考える必要があるのではないかと考えます。
 その点について、一つは、少年法改正のときに考えようという動きは当然あるのですけれども、もう一つは、単独の法律として再審法の中に少年を入れるということも考えられるのではないかというふうに思い良す。その辺についての法務省の御見解はいかがなものでしょうか。
#64
○政府委員(濱邦久君) まず、委員が前段の方でお触れになられました問題でございますが、現行少年法の二十七条の二によりまして保護処分の取り消しという制度が一応あるわけでございます。保護処分取り消し事由であるこの「本人に対し審判権がなかったことこ云々「を認め得る明らかな資料を新たに発見したとき」と申しますのは、これは例えば二十歳以上の者に対して保護処分決定をしたことがわかった場合など、審判条件が欠けていたことが事後的に明らかになった場合のほか、非行事実がなかったことが明らかになった場合も含まれるというふうに解されているわけでございます。
 言葉をかえて申しますと、保護処分取り消し決定は事後的に審判条件がなかったことが明らかになった場合と、それから非行事実がなかったことが明らかになった場合があるということになるわけでございます。ただ、少年法二十七条の二第一項は、保護処分の決定の確定した後に処分の基礎とされた非行事実の不存在が明らかにされた少年を、将来に向かって保護処分から解放する手続きなどを規定したものでありまして、この条項による保護処分取り消しは保護処分が現に継続中である場合に限って許されるものというふうに考えるのが一般的な考え方であるというふうに理解しているわけでございます。
 そこで、委員が今御指摘になられました刑事訴訟法の刑事手続における再審手続類似の制度を設けるべきではないかという点でございますけれども、この点につきましては先ほども若干申し上げましたように、昭和五十二年の六月に少年法改正に関する中間答申というのがございまして、これは法制審議会の中間答申でございますが、その中で「少年の権利保障の強化」という項目がございますが、これはもう委員、十分御案内のとおりでございます。その少年の権利保障の強化の一環として非常救済制度の規定を新たに設けるべきではないかという意見が出ているわけでございます。
 ただ、先ほど来お答え申し上げておりますように、この少年法改正作業につきましては、今申しました昭和五十二年の中間答申に盛り込まれております少年の権利保障の強化だけではなくて、年長少年の特別取り扱いあるいは検察官関与、保護処分の多様化等のそれぞれの事項と関連するところでございますので、これら全体の中で検討していくべき問題であるというふうに考えているわけでございます。この昭和五十二年の少年法改正に関する中間答申に盛り込まれている事項は現状においては必ずしも十分な意見の一致が得られていないわけでございますが、少年法自体がある意味では一種の基本法ともいっていい法律でございますから、できるだけこの内容について大方の合意が得られる形で少年法改正を実現していきたい、その中で今御指摘の点をも含めて検討していきたいというのが基本的な考え方でございます。
#65
○北村哲男君 ただいまの再審については、国連総会で採択された少年司法運営に関する国連最低基準規則というものを紹介したのですが、今既に国会に上程されております子供の権利条約、名前は児童の権利条約と子供の権利条約ということで今いろいろと問題になっているところなんですけれども、その条約の中でもやはり四十条では、特に今申しましたものと同じような趣旨で、少年の刑事手続については特に保障するように、すなわち少年が刑法に違反したと認められた場合には、この決定及びその結果に科せられる措置を上級の権限ある独立かつ公平な当局または司法機関によって法律に従って再審理をしてもらうことということが言われておりまして、そういう意味では再審という規定は少年法に欠けている規定だと思いますので、ぜひその辺の早期の制定を求めるものであります。
 もう時間もありませんので、子供の権利条約に関連して最後に一点だけ伺います。
 子供の権利条約は十八歳を境に成年と子供というふうに分けておるのですけれども、三十七条(c)項という条項について、日本の現行法の少年法が二十歳ということを基準に考えておるせいだと思うのですが、政府案で留保しておるという点があるわけで、それについて私どもははっきり言って留保する必要はないのではないかという考えてあります。
 なぜかということを言うと長くなるのですけれども、基本的には国際条約より低い基準で定める、十六歳というふうな形が成年と子供の区別であるならばこれはもう国際条約に反するわけですから、ぜひ変えなくてはいけないということで、すぐ変える力がなければ留保しておく必要があるが、しかし、保護を厚くしているものについてなぜ留保するんだろうかということが一つの疑問であります。
 もう一つは、ずっとこの国会で問題になっております拘禁二法に関する代用監獄の問題なんですが、そこでは拘置監における分離収容という問題の中で、一応形式的には子供と大人、少年と成年は区別して収容しなければならないという規定になっているけれども、現実には一つの警察の中の代用監獄の中で房が違うというだけで代用監獄の中に入っているじゃないかということで、いずれはそういう国際条約との関係で問題にならざるを得ないのではないか。その辺との絡み合いでどうもなぜ留保をつけたかという点の真意がわからない点があるので、その辺の御説明をお願いしまして、私の質問を終わりたいと思います。
#66
○政府委員(濱邦久君) 今、委員御指摘になられましたように、児童の権利に関する条約三十七条(c)項は、自由を奪われた児童と成人との分離を規定しているわけでございます。我が国の少年法におきましては、二十歳未満の者を少年として取り扱うこととしておりますから、二十歳未満の者と二十歳以上の者とを分離することとしているわけでございます。これは十八歳未満の児童に対する保護をさらに一歩進めて、二十歳未満の者にも広く対象としている制度であるというふうに一応理解できるというふうに思うわけでございます。
 仮に、少年の年齢に関しまして、この児童の権利に関する条約の児童のそれに符合させるように国内法を改正するということになりますと、現在の十八歳以上二十歳未満の者に対する保護ということが現状からは後退することになるのではないか。十八歳未満の児童と成人の分離を規定しているこの条約の条項には、そういう意味で留保を付きざるを得ないのではないかというふうに考えた次第でございます。
#67
○北村哲男君 一言疑問を申したいのですが、例えば最低賃金法で月々十万円以下の給与を出してはいけないという国際条約があるとしますと、八万円だったら国際条約違反ですが、十一万か十二万出したってちっとも構わないと思うのです。国際条約が十万円を最低基準とするというふうにした場合、それを超えているからといって留保するというふうなことをする必要はないし、保護を厚く、それよりプラスになっている場合は必要ないと思うのですけれどもね。そういうふうな考えで保護を厚くしているのであれば、それはそれでいいではないか。
 もう一つは、成年の定義において、成年と少年の定義という条項で、日本の少年法においては二十をもって成年とするというふうな形だけを一応一言断っておけば、それで済むような気がするのですけれども、それについての御見解はどういうことでしょうか。
#68
○政府委員(濱邦久君) 今の児童の権利に関する条約の三十七条。項をその文言どおり理解いたしますと、十八歳未満の児童と二十歳以上の成人だけではなしに、その中間の十八歳、十九歳の、我が国の少年法でいいますと少年ですけれども、少年をも分離して処遇しなければならないということになろうかと思うわけでございます。しかし、それが十八歳、十九歳の少年の処遇として少年の保護育成という観点からという前提に立っております現行の少年法の考え方からいって認められるかどうかということは一つの問題ではなかろうかというふうに思うわけでございます。そういう理由から留保を付することになったというふうに理解しているわけでございます。
#69
○北村哲男君 終わります。
#70
○委員長(鶴岡洋君) 午前の質疑はこの程度にとどめ、午後一時まで休憩いたします。
   午後零時五分休憩
     ―――――・―――――
   午後一時一分開会
#71
○委員長(鶴岡洋君) ただいまから法務委員会を再開いたします。
 休憩前に引き続き、刑事補償法の一部を改正する法律案及び少年の保護事件に係る補償に関する法律案を一括して議題とし、質疑を行います。
 質疑のある方は順次御発言願います。
#72
○千葉景子君 午後は、先ほど北村委員の方からお尋ねした続きといたしまして、私の方からは刑事補償法の改正案について主にお尋ねをさせていただきたいというふうに思います。
 そこで、ちょっとその前に、これは質問の通告もさせていただいておりませんし、それから私もまだつぶさに調査をしておりませんので、意見といいましょうか、ぜひ調査などもいただいて、今後適切に対応いただければと思いますので、一言だけ指摘をさせていただきたいと思います。
 というのは、けさの朝日新聞でございますけれども、「「外国人弁護団」に早くも壁」という表題で、タイのホステスの方と弁護士の接見が逮捕から十日たってもまだ一度も行われていないと、こういう記事が出ておりました。本人からも依頼がないというような内容も指摘をされておりますけれども、言葉の問題などを含めて本当にそういう状況なのかどうか、私も大変心配をいたします。
 そういう意味で、最近弁護活動あるいは逮捕、勾留などの際に言葉の障害、あるいは日本の手続を熟知していないなどの点で接見が十分にできない、あるいは防御権の行使がなかなか十分ではないというようなことも指摘をされております。
 そういう意味で、この事件そのものがどうかというのはちょっと私もまだ適切な評価はできませんけれども、大変外国人の皆さんも多くなっているところでもございます。PKO問題などで、日本も世界にいろいろな形で貢献をしていこうというような風潮が強くなっておりますけれども、国内にいる外国の皆さんともきちっとした対応関係を築いていかないことには、やはり信頼関係というのはつくられていかないんではないか、そういう気もいたしますので、ぜひこの問題の調査もいただくと同時に、今後引き続きまして、通訳を含めた言葉の問題あるいは現地の言葉などでの適切な説明などを含めて、この点については今後とも十分な措置をいただきたいというふうに思います。
 これは、ちょっと緊急な問題でしたので、私の方から指摘をさせていただくということにとどめさせていただきたいというふうに思います。
 さて、刑事補償法の一部を改正する法律案なんですけれども、これは私もたしか前回の改正のときにも質問をさせていただきまして、今回も多分そのときと重複する、あるいは同じような質問を重ねてさせていただくということにもなろうかというふうに思います。そこはぜひ御容赦をいただきたいんですけれども、やはり同じことを繰り返し質問せざるを得ないということは、何かどうもいま一つはっきりしない、よく基準としてわかりにくい、こういうところがあるから同じ質問をどうしても繰り返さざるを得ないということにもなろうかというふうに思うんです。そういう意味で、今回の審議などを通じて、ぜひこれから将来に向けて適切なまた措置を講じていただきたいというふうにまず、要望をさせていただきたいというふうに思います。
 前回の審議の際に、それを踏まえて今後検討すべき問題として四項目にわたるこの委員会での附帯決議がされました。きょう、その附帯決議のその後の実施状況あるいは検討状況なども含めながら質問をさせていただきたいというふうに思っております。
 まず、今回の改正ですけれども、前回その附帯決議において「政府は、被疑者及び被告人の人権の保障並びに適正手続の確保に一層の努力をなすべきである。」と、こういう決議をさせていただいたところでございます。多分こういう決議に基づきましでさまざまな検討などもしていただいていると思います。そういう中で、今回少年の保護事件に係る補償について法案化がなされたということは、ある意味での一つの御努力の結果ではなかろうかな、こういうふうに思います。そういう意味ではその点は評価をさせていただきたいというふうに思うんです。
 さて、それの基本となりますこの刑事補償法の問題ですけれども、これについてもやはり人権の保障あるいは適正手続の確保という意味ではいろいろな検討方がされたかというふうに思います。
 まず、この刑事補償法の改正について、どういう点でこの附帯決議に言われる人権の保障、適正手続の確保、こういうことを配慮され、あるいはそれに基づいた改正がなされたのか、その点についてお尋ねしたいと思います。
#73
○政府委員(濱邦久君) 刑事補償法の関係では、立法の面とそれから運用の面とについて申し上げるべきかと思うわけでございます。
 立法の面については私の方から申し上げますし、運用の面については裁判所御当局からお話があればありがたいと思います。
 まず、立法の関係で申しますと、今、委員御指摘になられましたように、昭和六十三年四月二十八日にこの刑事補償法の一部改正法案を法律にしていただきますときに参議院法務委員会で附帯決議をいただいたわけでございます。その中で四項目のことを決議していただいたわけでございますが、今回その刑事補償法の一部を改正する法律案を御審議いただくにつきまして、一つは拘禁補償の上限日額の改定をするについて、この補償制度を充実すをということがこの附帯決議をされた御趣旨だろうと理解いたしまして、今回のこの拘禁補償の上限日額を改定するに当たりましては、できるだけその附帯決議の趣旨に沿うようにと申しますか、附帯決議の趣旨にかんがみて拘禁補償の一層の充実を図らなければならないという見地から、上限日額の引き上げ額についてもその積算する根拠をどういうふうにするかについていろいろ苦心をしたと申しますか、私どもなりに工夫をさせていただいたということがあるわけでございます。
 それと、拘禁補償の上限日額の改定は今回で九回目になるわけで、前回六十三年の四月でございますから、その後の経済事情の変動等を考えますと、刑事補償についても前回までの八回の改正と同じように上限日額だけの改定、これは拘禁補償と死刑執行の場合の補償金額について金額の改定をお願いするわけでございますが、この附帯決議の趣旨に十分に沿ったかどうか、これはいろんな御意見があろうかと思いますけれども、私どもなりに工夫をさせていただいて、今度の刑事補償法の一部改正法律案として提案させていただいたという気持ちでございます。
#74
○最高裁判所長官代理者(島田仁郎君) ただいま法務省の刑事局長の方から御説明あった分に加えまして、裁判所の方で運用面で留意しております点は、何分にも刑事補償の請求権があるということを知らなくて、仮にも知らないために請求しないというような者があってはならないということから、無罪判決を宣告した際にはその請求権がある旨を十分にわかりやすく説明するというような配慮。それからまた、請求が出ました場合に余りに長い間決定が出ませんと、これまたなかなか請求権が実質的に補償されなくなりますので、その点についても十分配慮して、請求が出ればでき得る限り速やかに決定をするようにというような面で運用上の配慮を重ねてきておる次第でございます。
#75
○千葉景子君 それぞれ努力の跡が見受けられるような気がいたしますけれども、やはりこの法律の構造そのものというんでしょうか、システムそのものがいま一つ不明確、あるいは基準などがはっきりしないということが、結局また人権の保障、適正手続の確保を努力せいと重ねて言わざるを得ないことにつながるんじゃないかというふうに思います。その運用などで考慮をいただくことは当然でございますけれども、そういう基本的な法のあり方を含めて、きょう少し質問をさせていただきたいというふうに思います。
 そこで、ちょっと前段の材料というんでしょうか、それについてお伺いをいたします。法務省から関係資料をいただいておりまして、ここ数年の「刑事補償請求事件一覧表」、それから補償金額等についての一覧が出ておりますけれども、これは「刑事補償事件終局人員」「補償決定」とありますが、この補償決定がされる、無罪判決ですね、無罪裁判そのものの確定者数、これはそれぞれの年度についてどういうふうになりますでしょうか。
#76
○最高裁判所長官代理者(島田仁郎君) とりあえず昭和六十三年の分から申し上げますと、昭和六十三年地方裁判所における無罪確定人員六十五人、平成元年は百二十二名、平成二年は七十四名、これが無罪確定人員でございます。簡易裁判所の方は、昭和六十三年三十一名、平成元年四十六名、平成二年四十一名、こうなっております。
#77
○千葉景子君 そうしますと、その数からいうと必ずしも補償決定がされた人数というのはそんな高い割合ではないような感じがいたします。それと同時に、刑事補償と別な制度として国家賠償の制度がございます。刑事補償の足らない分を補うというようなところもあろうかというふうに思いますけれども、ただ国家賠償の方はこういう過失の立証など大変なかなか難しい面があります。
 そこで、刑事裁判で無罪となった場合で、国家賠償が認められたものはどのくらいあるか。それについてはお調べでしょうか。
#78
○最高裁判所長官代理者(島田仁郎君) 刑事補償を受けた者から何件程度の国家賠償請求訴訟が提起されているかという点につきまして、正確な数字は把握しておりませんが、公刊物等で知り得たところでお答えさせていただきますと、昭和四十八年から現在までの間にそのような事件が十四件ございます。そのうち今までのところ六件については判決がありまして確定しておりますけれども、その六件の内訳は二件が認容されております。四件は棄却であります。その他五件は現に係属中であり、またその余の三件は取り下げによって終局しておるわけでございます。
#79
○千葉景子君 昭和四十八年からですから、なかなか数としては少ないですし、認容されたのが二件ということになりますので、なかなか厳しい状況にあろうかというふうに思います。そういう意味から見ると、やはりこの刑事補償というのをきちっと確立をしておくということはどうしても必要なことではなかろうかというふうに思いますので、この刑事補償の基本的な認識というんでしょうか、その辺からお伺いをしたいと思います。
 今回の改正に至るまで何回かにわたって刑事補償、とりわけ刑事補償金の改正というものが行われてきております。前回が昭和六十三年ということになりますので、四年ぶりと。その前は五十七年から六十三年ということで、六年ばかり間がある。その前は二年とかですね、何か非常に、どういうときに改正がなされるのかな、そういう感じがしないでもないんですね。特に、何年ごととがいう基準があるわけでもなさそうでございますので、そういう意味では、いろいろな物価の値上がりなどもありますので、当然改正がなされていくだろうと思うんですが、このあたりについては何か基準というんでしょうか、そういうものをお持ちなんでしょうか。
 それから、例えば一定のシステムをつくって、あとは物価とかあるいは給与に応じてスライドをしていくとか、いろいろな考え方もあり得るんじゃないかと思いますけれども、この改正について、あるいは補償金額について基本的にはどんな考え方で対処をされているのか、ちょっとその辺についてお伺いをしたいと思います。
#80
○政府委員(濱邦久君) まず、従来この拘禁補償の日額につきましては、経済情勢や社会情勢の変動、あるいは裁判所において実際に決定される補償金額の動向等を見ながら、そのときの必要に応じて引き上げを行ってきたというふうに理解しているわけでございます。今、委員ちょっとお触れになられましたように、必ずしも画一的、機械的な基準があるわけではないというふうに思うわけでございます。
 委員が御指摘になられましたように、例えば毎年一定の経済指標にスライドさせて補償日額の引き上げを行っていくという考え方もあるのは承知しておるわけでございます。他方、この刑事補償法が昭和二十五年にできましてから九回目になるわけでございますが、過去九回の改正におきまして、徐々にではありますけれども、補償を少しでもより充実させる方向で引き上げ幅というものの算定方法を改善してきたという事情はあるというふうに思うわけでございます。例えば昭和五十七年には、それまで前回の改正時点を基準としておりましたのを、昭和二十五年の立法当時にさかのぼってこれを基準にするという方法によりました。また、今回は、逸失利益と慰謝料等の算定方法を分離するという方法によりまして、それぞれその補償の充実を図っているというふうに理解しているわけでございます。
 そういう意味で、委員がお触れになられました、例えば毎年一定の経済指標にスライドさせて補償日額の引き上げをしていくというのも一つの考え方だと思いますけれども、それがいつも保護に厚いとは必ずしも言えない面があるのではないかなというふうに思うわけでございます。要は、前回の改正時点での附帯決議、先ほど御指摘のありました附帯決議でも触れておられますように、刑事補償の一層の充実を図っていかなければならないということが重要なことであるわけでございますから、今、委員が御指摘になられたような御意見も含めまして、今後さらに十分検討していかなければならないというふうに思っているわけでございます。
#81
○千葉景子君 今回、上限額の引き上げなどに取り組んでいただいたという意味では、私も結構なことだというふうに思うんですけれども、例えばスライドということでなくても、六年ぐらい見直しかなくて今度は例えば二年ぐらいで見直しもあると、こういうようなばらつきもあります。そういう意味では例えば、じゃスライドはしないけれども二年あるいは三年ごとに見直しをしていくという。ような、何かちょっと基準をつくりませんと、これはそうするといつまでもほっぽっておいてもいいのかなということにもなりますし、適正な基準という意味では問題を残すのではなかろうか、こんなふうにも思いますので、そのあたりについてもぜひ検討を加えていただきたいというふうに思っているところでございます。
 さて、今お話に出ました、今回の改正では上限が引き上げられたということでございますし、その算出の基準もこれまでとは違った基準をとられたということでございます。そして、それは細かく説明をいただくことは必要ありませんけれども、要するに逸失利益の部分とそれから慰謝料の部分とを分けまして、そして逸失利益の部分については給与水準、そして慰謝料の部分は給与水準と消費者物価というこれまでのやり方、それを当てはめて今回の上限額を決定した。それによってある程度アップ率がこれまで以上になった、そういう評価ができるかというふうに思います。
 ただ、考えてみますと、これもこれまでは消費者物価と給与水準と両方の基準を使っていた。今回は両方使う部分と給与水準だけを使う部分になった。そうすると、次の改正のときにはまた違う基準になってくるのかな、これも何か一定のルールみたいなものがなかなか見出せない、こういうことにもなろうかというふうに思うんですね。
 その辺、もう一度とういう考え方で今回こういう基準にされたのか、あるいは今後またこういう基準を継続されていくおつもりなのか、その辺も含めてまず総論的にお伺いをしたいと思います。
#82
○政府委員(濱邦久君) 先ほどお答え申し上げましたように、この上限日額の改定に当たりましては、その積算根拠をどういうふうにとるかということについてこれまでの改正経過を見てみますると、先ほどちょっと申し上げましたように、やはりその都度補償を幾らかでも充実させる方向で引き上げ幅の算定を改善してきたという事情はうかがえるというふうに思うわけでございます。
 ただ、この上限日額の引上額を算定する際に、それまでの引き上げの方法を全くがらりと変えて引上額を算定するということはやはり一つの問題があるかなと思うわけでございます。それは引き上げについてある程度の経済実勢を考慮していくとともに、一種の継続性と申しましょうか、過去の引き上げと多少ともつながる形で継続性を持たせていかなければならないという必要性も片方にあるのではないかというふうに思うわけでございます。
 それでは、今回、現行法の九千四百円を一万二千五百円という上限額に算出した根拠はどういうことかということにつきましては、もう委員詳しいことは十分御理解になっておられるというふうに伺っておりますので詳しくは申しませんけれども、前回の附帯決議でもあるいは御議論の中に、財産的な損害については賃金水準の上昇率だけを考慮した方が保護としては厚いのではないかというような御議論がたしかあったかと思うわけでございます。もちろん物価の上昇率よりも賃金水準の上昇率の方が高いというか早い場合には、そういう賃金水準の上昇率だけを考慮した方が引上額としては厚くなるかと思うわけでございますが、逆に賃金水準の上昇率の方が物価上昇率よりも低いということになりますと逆の方向になる可能性もあるわけでございます。
 そこで、今回は、いずれにいたしましても前回の御議論の中にありましたように、物価水準の上昇率を考慮することによって賃金水準の上昇率だけを考慮した場合よりも引き上げが薄くなる点を何か改善する方法がないかというようなことを考えまして、今回は先ほどお話に出ましたように、逸失利益、すなわち財産的損害として得べかりし利益の喪失に当たる部分については賃金水準の上昇率だけを積算根拠とさせていただく。
 それから、精神的な損害と申しますか、慰謝料に相当する部分につきましては、経済実勢全般と申しますか、経済事情全般を反映させるという趣旨で、賃金水準の上昇率と物価水準の上昇率を均等に考慮させていただいたということになっているわけでございます。
#83
○千葉景子君 できる限り額を上げていこうという大変努力の跡のようなものが見受けられるような気がいたしますが、この逸失利益と慰謝料部分を分けたこの区分はどういう基準で行われておりますでしょうか。
#84
○政府委員(濱邦久君) ちょっと細かくなりますけれども、今、委員御指摘になっておられます逸失利益と慰謝料の部分、これはあくまでも観念的なものとして理解したわけでございますが、上限額の引き上げを行う際に、一つの目安として観念的には上限日額の中に、上限日額だけには限りません、要するに補償の日額の中には逸失利益の部分と慰謝料の部分があるであろう。そこで算定の方法としましては、昭和六十三年当時の逸失利益というものは比較的算出しやすい、逆に言いますと慰謝料の方はなかなか算出が難しいわけでございますので、まず逸失利益につきまして、この昭和六十三年当時の賃金日額から生活費等の日額を差し引いたものを逸失利益というふうに考えまして算出いたしました。それから、その残余の部分が観念的には慰謝料相当部分であるというふうに理解したわけでございます。
 それを今度は、昭和二十五年当時の上限日額が四百円でございますから、その四百円の中に占める逸失利益と慰謝料の部分というふうに比率で分けさせていただきました。そして、逸失利益に対しましては、昭和二十五年当時を一〇〇上した賃金水準の上昇率、いわゆる平成四年の賃金指数を使う、それから慰謝料につきましては、これは四百円を推計いたしますと、四百円のうちの二百七十一円が逸失利益の部分、それから四百円のうちの百二十九円、残りの部分が慰謝料部分というふうに推計したわけでございます。それに今申しました賃金指数と物価指数、逸失利益については賃金指数だけを考慮する、それから慰謝料部分については賃金指数と物価指数を均等に考慮するという計算をいたしまして、最終的に日額上限が一万二千五百円というふうに計算させていただいたわけでございます。
#85
○千葉景子君 その仕組みは御説明でほぼわかったわけですけれども、先ほどから申しましているように少しでも引き上げようという御努力は確かにわかります。そうなりますと、今回もそうですけれども、今後も例えば逸失利益の部分と慰謝料の部分、例えば慰謝料の部分も給与水準で考えますとさらにもう少し額が高くなるということも言えるわけですね。ですから、必ずしも逸失利益の分だけ給与水準で算定をする、そして慰謝料の分はこれまでどおり消費者物価も含めて算定をするということをせずとも、両方給与水準で評価をして、むしろ上限、この補償の額を厚くするということもこれは考えられないわけではないですね。
 この辺についてはどうでしょうか、今回とりわけてこういう形にしたこと、それから今後やはりこの形式を継続をされようとするのか、その辺についてはいかがでしょうか。
#86
○政府委員(濱邦久君) 今、委員御指摘になられましたとおり、この慰謝料相当部分についても物価指数を考慮に入れないで賃金指数だけで算定いたしますと、提案しております一万二千五百円よりはもう少し高い金額が算出されるであろうというふうに考えるわけでございまして、もちろんそれも一つのお考えであろうというふうに思うわけでございます。
 ただ、今回は先ほど申しましたように、慰謝料相当部分については経済実勢一般と申しますか全般と申しますか、経済変動全般を考慮するということで賃金と物価の双方の上昇率を基準とするという考え方をとらせていただいたわけでございます。
 今後、仮に経済事情の変動があって、この一万二千五百円という上限日額が低いのではないかという事態を仮定いたしました場合に、どういう方法でその上限日額の引き上げを算出するかということにつきましては、これは先ほど来委員から御指摘ございますように、刑事補償をできるだけ充実させていくという観点からその時点でまた検討しなければならないであろう、必ずしもこの一つの方法に固執する必要はないであろうというふうに思うわけでございます。
#87
○千葉景子君 せっかく頑張っていただいておりますので、素直にできる限り引き上げを図ろうというその意図を酌みまして、これからもぜひ頑張っていただきたい、適切なシステムを確立していただきたいというふうに思います。
 上限の方は努力をいただいたんですけれども、下限の方ですね、これは今回も据え置きということになりまして千円ということですね。これはたしか前回の法改正の審議の際も、この下限額の据え置きについては大分いろいろな議論やあるいは疑義が出ていた部分ではなかろうかというふうに思います。
 そういう意味では、また今回もこの部分は据え置きとけうことで、多分これも理由をお尋ねをすれば前回のお答えとほぼ同じお答えが出てくるのかな、こういう予測もされるんですけれども、まずその前提として、この刑事補償法というのは四条一項で補償額の上限と下限、これを定めております。そもそもこの上限と下限を定めている法の趣旨というのはどういうふうに考えたらよろしいのでしょうか。
#88
○政府委員(濱邦久君) 今、御指摘の上限だけではなしに下限も法律で定めることの意味合いということにつきましては、これは昭和二十五年に現行の刑事補償法が立法された当時の資料によって見ますると、上限だけを定めて下限を定めないということになりますと、下限の目安というものが全くないわけでございますから、補償金額を決定される裁判所としてもなかなか判断に難しい場合があるであろうというようなこと、あるいは全く下限を定めないということですと、結局補償をしないというような場合と区別がつかなくなる場合も考えられるのではないかというような御意見もあったように承知しているわけでございます。そうであれば、上限額を定めると同時に下限額についても裁判所の裁量の幅を一定の限度で決めておく方がいいんだということで、刑事補償法で上限額と同時に下限額をも定めることとしたというふうな経緯であったように理解しているわけでございます。
 現行の下限額千円につきましては、これはもう委員、十分御案内のとおり、昭和五十五年度以降の改正において下限の引き上げを行っていない、据え置きとなっているわけでございます。
 その理由につきましても、これは前回の改正のときの御議論を委員は十分御存じでございますので、もう詳しく申し上げるまでもないわけでございますが、やはり余り高額の補償金額を補償するということが、国民感情から見ていかがであるかと思われるような特別の事情がある場合、例えば責任能力がないと認められた者に対する補償のような特別の事情がある場合、高額の補償をすることは国民感情に反するのではないかというふうに考えられる事例があるわけでございまして、そういう場合に裁判所の裁量によって低い額の補償をすることができる余地を残しておくのが相当であるという考え方で、五十五年度以降下限の引き上げは行われていないわけでございまして、今回も同じ考え方をとったわけでございます。
#89
○千葉景子君 前回もお伺いをして、例えば責任無能力などで無罪になったような場合に高額の補償をするのはいかがなものか、こういうところが一番の論拠かというふうに私も受け取っています。
 ただ、これは確かに国民感情といいますか、そういうものがあろうかというふうに思いますけれども、それほど国民的にこれが感情を害するようなことにつながっているのかどうかというのは大変疑問ですし、それから、仮に責任無能力で無罪となったというケースであったとしても、犯罪事実はあったけれども責任無能力だ。しかし、それも無罪の一つとしては間違いのないことですし、それからそれをできる限り捜査段階などで早く解消するということが必要なので、それをしないままにある程度の期間拘束をされたということになれば、これが補償されるということは私は決して不合理なことではなかろうというふうに思います。
 そういう意味では、国民感情とかそういうもので基準をつくるのではなくて、一定の適切な基準あるいは額というものを法的に決めておく。その幅の中で、確かに裁判所による裁量の余地はあるかと思いますけれども、余り国民感情などということではなくて、もう一度適切な基準ということを真剣に考えていただきたいというふうに思っているところです。しかも、千円というのが大変長く続いております。これは実際に考えてみますと、据え置きなんですけれども、上限の基準、上限がやっぱり物価とかあるいは賃金の水準から見て上がってきたとすれば、下限の方は結局目減りをしているわけですね。実質的には引き下げと同じような意味を持っている。こういうことが本当に許されるのかどうか。
 しかも、この千円というのがさほど明確な基準でないとすれば、これを放置しておくというのは私は大変問題が残るのではなかろうかというふうに思いますが、その点についてはいかがお考えでしょうか。
#90
○政府委員(濱邦久君) ひとつ御参考までに、最近における下限、すなわち千円による補償決定事例があるかどうかということについて見てみますると、司法統計年報によりますと、昭和六十一年に二人、昭和六十三年に一人、平成元年に三人、下限の千円によって補償金額が算定されている事例があるというふうに理解しているわけでございます。したがいまして、現実の事例の中には、裁判所の裁量によって下限の千円の補償金額を補償するのが相当であるというふうに考えて補償された事例が現実にはあるということだと思うわけでございます。
 ただ、委員先ほどから御指摘になっておられますように、そもそも責任能力がないということで無罪となった場合に、補償をするのがよいのかどうかということは、憲法の四十条との関係でいろんな御意見があることはもう委員御案内のとおりでございまして、御意見の中には、むしろ責任能力がないということで無罪になった場合については、当該行為者、犯罪行為に当たる行為を行った行為者であることは間違いないのだから、そういう人に補償するのは国民感情からいって割り切れないのではないかという御意見も一方にあります。
 また他方、今委員が御指摘になられ良したように、責任能力がないという理由で無罪になった場合であっても、やはり結果的に理由がなかったということで、現実に理由のない拘禁による不利益を受けたことは間違いないのであるから、それを補償するのは決しておかしくないではないかという御意見ももちろん一方にあるわけでございます。いずれにいたしましても、現行の刑事補償法は、憲法四十条の無罪の裁判ということについて理由を区別していないわけでございますから、補償をするのが刑事補償法の建前でございます。
 ただ、金額の算定については、やはりその事案事案に応じて裁判所が相当な刑事補償金額を算定するに当たって、下限は千円、上限は今回ですと一万二千五百円の幅の中で、適切な裁量によって御判断いただくということにしておくのが一番いいのではないかというのが基本的な考え方ではあるわけでございます。
#91
○千葉景子君 先ほど千円で補償された例というのを挙げられましたんですけれども、これも現在の基準が最低千円になっておりますので、こういう事例だったらば余り高いのは補償はできないと、一番最低で補償しようということで千円になっているのかもしれませんので、この基準が少しでも最低が上がっていればその上がった段階での最低をとって、例えば千二百円かもしれませんし、これはわかりません。そういう意味では確かに裁判所でも幅を持って裁量の余地を残しておくということは必要であろうということはわからないではありませんけれども、だからといって千円がどうしても適切な額であろうということもどうも明確な答えも出そうにありません。
 そういう意味では、やはり下限が低くなっておりますと、それだけどうしても下を見るといいますか、基準をとるときも、下と上のじゃ真ん中とか、あるいはちょっと低目、こういう形で下に引っ張られるということもあるでしょう。それから、上が上がっていきますので大変裁量の幅が広くなってきております。そうなりますと、やはり本当に、最初に申し上げましたように人権の保障と、それから適切な手続といいましょうか、適正な基準という意味でもいかがなものかと、こういう感じもするところでございます。
 そういう意味では、この千円という下限、これは千円という今数字ですので千円ということになりますが、下限のあり方、これについても私は十分に御検討をいただきたいというふうに思います。
 そして、もしどうしても責任無能力の場合など、やはり普通の場合と違った国民感情もあるということであれば、ある意味では違った基準ということも考えられないわけではありません。やはり本来の補償をきちっとしていくということをまず考えていただきまして、そしてどうしてもここは少し考慮をしなければいけないという部分はまた違った基準を立てていただくなどして、補償に不十分さが残らないようにぜひ考えていただきたいと思いますが、いかがでしょうか。
#92
○政府委員(濱邦久君) 先ほどお答え申し上げましたように、下限の千円につきましては五十五年の改正以来据え置かれているわけでございます。
 今、委員御指摘になられましたように、上限が引き上げられていく中で下限が据え置かれたままでいいのかどうかということにつきましては、これは御指摘のような御意見もあるかと思います。今回の改定につきましては、上限一万二千五百円にしましても、下限千円で据え置くことは一応相当な金額であろうと考えて私ども提案しているわけでございますが、今後の検討課題と申しましょうか、刑事補償の中身を一層充実していくという観点から今後さらに検討を加えていきたいというふうに思っております。
#93
○千葉景子君 それから、ちょっと時間も限られておりますので、今回の改正のもう一つに死刑執行の場合の最高額、これの引き上げがされております。従来の二千五百万円から三千万円ということでこれもかなりのアップを図っていただいたということが言えるんではないかと思います。
 ただ、これは実際には本来あってはならないことでございますので、まずはあらぬことを希望するといいますか、それをまず大前提にするわけですけれども、この補償は従来からもほぼ自賠法と横並びで決められております。
 しかし、どうなんでしょうか。死刑執行による苦痛で、それで命を落としてしまうわけですから何とも言いようがありませんけれども、あるいはそれと死へ向かった恐怖などを考えましたときに、単に自動車事故などのようなものと並べて考えるのが本当にいいのかどうか、もう少しこの死刑ということの意味合いを含めてこの額を設定をすべきではなかろうかというふうに思います。それだけ命というものが重い、重さがある、それに対しては十分な配慮が必要だという、やはり決意といいますか、そういうことも含めて、この額というのは相当な高額に定められても私は決して不合理ではないし、異論が出ないところではなかろうかというふうに思います。
 この点については、今回引き上げされたということについては評価しないわけではございませんけれども、もう一度抜本的に考えていただくことができませんでしょうか、いかがでしょう。
#94
○政府委員(濱邦久君) そもそも死刑の執行に対する補償金額の基本額と申しますのは、これは慰謝料に相当するものと考えるわけでございます。その本来的性質から申しまして、もともとその金額を的確に算定するということはなかなか困難なわけでございます。従来から交通事故等による死亡事件の慰謝料額の動向、さらには今御指摘になられました自動車損害賠償保障法十三条一項等に定められております死亡の場合の保険金額等を一つの参考として改定されてきたというふうに思うわけでございます。
 この経過を見ますと、例えば昭和五十年の改正に際しまして、政府原案としては、死刑執行の場合の慰謝料の上限額を一千万円に引き上げるということで提案がなされたわけでございますが、自賠法による当時の死亡保険金の上限額が千五百万円に引き上げられたことから、死刑執行の場合も千五百万円に引き上げるのが相当であるということで修正されたいきさつがあったわけでございます。このような経緯から見まして、自賠法の死亡保険金の上限額は死刑執行の場合の補償金引き上げの一つの参考となっていると言えるわけでございますし、今回の改正案の三千万円は、そういう意味では現行の自賠法の死亡保険金の上限額と同額になっているわけでございます。
 ただ、しかしながらこの自賠法の場合は、これはもう委員十分御承知のとおり、財産的損害と精神的損害の両者を含むものでございます。両者を、死刑執行の場合の補償金額と自賠法の死亡保険金額とを同列に論ずることはもちろんできないものでございまして、両者が同じ額であるということから、この死刑執行の場合の慰謝料の上限額が低過ぎるというふうには必ずしも言えないのではないかというふうに思っているわけでございます。
#95
○千葉景子君 なかなか難しいところはあろうかというふうに思いますけれども、これは引き続きまして御検討をいただきたいというふうに思います。
 さて、前回の審議の際に、あと何点か附帯決議で指摘がされました。一つは身柄不拘束のまま無罪となった場合、それからもう一つは再審請求の手続に関する費用、これの補償についても今後十分に調査をし、検討せいと、こういう決議がされているところでございます。これは、それぞれ前回の質疑でも出ているところでもございまして、もうその内容というのは出尽くしているところがあろうかというふうには思うんですけれども、この身柄不拘束のまま無罪となった場合でも、それによるいろいろな精神的、経済的なさまざまなダメージというのは大変大きいものがございます。そういう意味では、やはり私はこの身柄不拘束の場合も当然補償のシステムがつくられるべきだ、こう考えているものでございます。
 それから再審費用、これも形式的に考えてみますと、公判期日における審理の準備というわけでは確かにございませんけれども、実質的にはそれと同じような機能を果たすわけですね。そういうところがきちっと補償されることによって再審というものの道も開けてくるという部分もあろうかというふうに思います。
 そういう意味では、前回に引き続いた質問ということになろうかと思いますけれども、少しは調査、検討あるいは将来に向けてこうしたいというような何か取りまとめなどができましたでしょうか。その辺をぜひお聞かせをいただきたいと思います。
#96
○政府委員(濱邦久君) 今、委員御指摘になられました身柄不拘束の場合の無罪補償、いわゆる非拘禁補償というふうに呼ばせていただきますが、非拘禁補償と、それからその次に御指摘になられました再審請求に係る費用補償についてその後の検討状況はいかがであるかというお尋ねだと思うわけでございます。
 まず、非拘禁補償の方についてでございますけれども、これはもう釈迦に説法でございまして、委員はもう十分御承知のとおりでございますけれども、国の公権力の行使による損害の補償はその本質が損害賠償でありますから、本来、損害の発生について当該公務員に故意、過失がある場合に限って行うものでありますから、無過失による場合を含む補償は、これを必要とするだけの特別の理由がある場合でなければならないというふうに思うわけでございます。
 刑事事件により起訴された場合に、身柄の拘束を受けた場合とそうでない場合とでは、これは無罪を言い渡された者の受ける損害の程度が著しく異なるということはこれはもう言うまでもないところでございまして、現行の刑事補償法が身柄拘束の場合においてのみ、前者の場合においてのみ補償することとしているのは、身柄の拘束が国の各種の公権力の行使の中で非常に特殊なものであること、言葉をかえて申しますと、身柄の拘束は刑事手続の性質上、その必要性が肯定されるものである反面におきまして、これを受ける側にとりましては不利益な処分でありまして、損害が重大であるということを特に考慮したものというふうに考えられるわけでございます。
 刑事事件により起訴された場合に、被告人が物質的、精神的な損害を含めまして現実に種々の不利益を受けることがあることは、これはもう否定できないわ付でございますが、ほかの行政処分等の場合における補償との均衡につきましても考慮する必要があるということ、また非拘禁者に対する補償は国家賠償法の手続により行うこともできるということ、それから国は当該事件の被告人であった者に対しまして、たとえ非拘禁者の場合でありましても、これは裁判に要した費用すなわち被告人であった者またはその弁護人であった者が、公判期日等に出頭するに要した旅費、日当、宿泊料等のいわゆる費用補償制度を、これは昭和五十一年の刑事訴訟法の一部改正で実現されているわけでございます。
 一部ではありますけれども、この費用補償制度というものがあるというようなことをあわせ考えますと、刑事補償法が身体の拘束を受けた者だけを対象としていることもこれはやむを得ないものがあるというふうに思うわけでございます。したがいまして、その非拘禁者補償につきましてはいろいろ検討はいたしてまいりましたけれども、現時点におきましては、今申し上げましたような理由で拘禁補償に限るという刑事補償の現在の立法が相当な考え方であるというふうに考えているわけでございます。
 それから再審請求に係る費用補償についてでございますけれども、これも委員先ほど御指摘になられましたように、再審請求手続自体は有罪か無罪かを直接判断することを目的とする公判手続とは異なっておるわけでございまして、対審構造をとっておりませんために被告人あるいは弁護人が公判期日等に出頭するというような費用は考えられないわけでございますし、再審請求の請求手続のために要した費用を補償するということは、その補償すべき費用の範囲をなかなか定型化しがたいといった立法技術上の困難な問題もございます。
 それから、もしこれらを一切合財算定して補償するというようなことを考えていきますと、本来現行の費用補償制度が客観的に定型化できる公判期日等への出頭のための旅費、日当等について、簡易な手続によって迅速かつ公平に補償することを旨としております制度の趣旨からも少し離れてくるのではないかというふうに思うわけでございまして、この点についてもなかなか難しい問題があるというふうに考えているわけでございます。
#97
○千葉景子君 もう時間になりましたので、お話をいただきましたんですけれども、御説明は確かにいろいろな法的な論理から言えばわからないわけではありません。
 ただ、個人一人一人の市民なりにとってはそもそも刑事手続なりそういうものにがかわらしめられるということ自体が大変大きな負担であり、そしてまたいろいろ社会的なダメージにもつながってくる。しかも、それが本来ならばかかわらなくてもよかったはずのものにかかわらさせられたという、いろいろなケースですから、そういう意味ではそういう論理立てということではなくて、やはり最初に戻って一人一人の人権あるいは生活ということを配慮をしたいろいろなこれからの補償というものを検討していく必要があるのではなかろうかというふうに思います。
 そういう意味で、本来なら大臣にもお聞きしようとは思いましたけれども、多分この質疑でいろいろもう頭に入れていただいたというふうに思いますので、そういうことを私の方から要望して質問を終わらせていただきたいと思います。
#98
○紀平悌子君 質疑に先立ちまして、本日は発言順位を変えていただきましたことを委員長を初め委員の各位にお礼を申し上げます。
 午前中からあるいはただいまの千葉委員の補償額の決め方、基準等々についていろいろ御答弁を伺っておりまして、大変勉強になりましたけれども、一つ感想のようなことを言わせていただければ、今回の刑事補償法の一部改正につきましては、その法律自身が非常に実務的な問題の法律だというふうに理解をいたします。
 この実務というのは、実務であるから数値だけでいいということではなくて、その中には基準というか、大げさに言えば哲学のようなものも、人権保障の問題でございますので基本的には必要であるかというふうに感じておりますわけです。
 そこで、千葉委員の方からも御発言がございましたけれども、死刑執行時における補償金の最高額、加算額が三千万円に引き上げられているという点ですが、本年五月十二日の衆議院の法務委員会の御答弁では、交通事故などによる慰謝料の最高額の推移と自賠責法第十三条の死亡者保険金額三千万円とが一応の比較理由であったということに承っております。
 ここで、その額もともかくなんですが、交通事故と誤判による死刑とは本質的に問題が違う事象であるというふうに思います。制度、趣旨も自賠責と死刑の刑事補償とは全く異なる事柄で、金額だけ比較してそろえて合わせるというのは、これは適切な改正理由あるいは内容とは言えないというふうに私は思うわけです。
 いきなりで恐縮でございますけれども、通告はしてございましたと思いますので、法務大臣に御感想をお聞かせいただきたいと思います。
#99
○国務大臣(田原隆君) ただいま紀平先生から御質問ありましたように、この三千万というのは交通事故等の死亡保険金の額を参考にして決めたことは事実でございますが、三千万が慰謝料の最高額になりますけれども、おっしゃるような哲学からいきますと、性質を確かに異にするものでありますから、一律に比較して死亡保険の額と死刑のあれとを一緒にするということは適当ではないかもしれません。
 しかし、こういうことはあってはいけませんけれども、万が一、万々が一死刑の執行が誤って行われたときにどの程度の補償をすべきかについて明確な基準はなかなかつくれるものではないのですけれども、従来やってきた考えに継続的に沿っだということですが、やはりこの点は大事な点でございますから、今後も補償の充実を図るという見地から検討してまいらなければならないことだと思うのです。
 ただ、方法を急に変えたりすると前からの、これは死刑の場合に限らずすべてそうですけれども、継続というものの公平さというものが失われるのもまた困るわけでございます。今、先生おっしゃったような考え方というのは大事な考え方でございますので、さらに深く検討させていただきたいと思います。
#100
○紀平悌子君 次に、新規立法でございます少年の保護事件に係る補償に関する法律案につきまして、まず、これまで規定の欠けていた未成年者の保護事件について、犯罪事実が認められなかった場合につき補償制度を設けるということで、このこと自体は、いわゆる子供の権利条約も批准が間近というふうに言われております今日、その国内法的反映の一環として大変喜ぶべきことだというふうにとらえております。
 人権上一歩前進ではございますけれども、本法案では、あると言われた非行事実が実はなく、審判不開始、不処分または保護処分取り消しかされた少年側からの請求権という構成をとっておりませんで、あくまでも家庭裁判所の職権で行う制度であるというふうに思います。また、賠償が行われなかったり、賠償額が不満だったりする場合、不服を申し立てる請求権もないので、やはりそこに問題があるというふうに感じます。人道的、人権的な視点から、本人側に請求権及び不服申し立ての余地を与えるべきと考えるのですが、これについて法務省はどんなふうにお考えでしょうか。
 また、実際に少年につき刑事訴訟法または少年法の規定により身体拘束を受け、犯罪事実なしとされた場合、これまではどう処理されてきたか、昭和六十一年以降のそのような事例が何件あったか、また、その例につき簡潔で結構でございますのでお答えをいただきたいと思います。法務省と最高裁にお願いいたします。
#101
○政府委員(濱邦久君) それでは、私の方から、法務当局からお答えできる範囲のことについてお答え申し上げたいと思います。
 確かに、委員仰せになられましたとおり、少年補償法案につきましては、家庭裁判所の職権により補償を行うこととされているわけでございます。また、少年の側に不服申し立ての道と申しますか、抗告等の制度は置かれていないわけでございます。
 そこで、なぜそうなっているかということについての理由を、考え方を御説明させていただきたいと思うわけでございますが、刑事補償の場合には、憲法四十条で定められておりますとおり、無罪の裁判を受けた者について拘禁補償を行うことが憲法上の権利として規定されているわけでございます。他方、少年補償につきましては、憲法四十条から直接発するものではございませんで、憲法の趣旨をさらにそんたくして、これを拡大して、少年保護事件における拘禁についても補償を創設しようという制度でございまして、すぐれて立法政策の問題になるわけでございます。
 それで、この立法政策の問題としてどちらがいいかということを考えますると、少年補償の目的及びそのよって立ちまする少年審判手続の目的、あるいは性格を考慮いたしまして決定すべき事柄であろうというふうに思うわけでございまして、次に御説明いたしますとおり、現行の少年法の枠組みを前提に考えますと、家庭裁判所の職権による制度とするのが相当であるというふうに考えたわけでございます。
 その第一の理由は、現行の少年審判手続はもともと専ら少年の保護を目的といたしまして、国を保護を要する少年の親としてとらえる国親思想のもとに、家庭裁判所の専権的職権主義構造を採用しております。その手続におきまして、非行なしと判断された者に対する補償につきましても職権によることとするのが制度として一貫するものであるということが一つでございます。
 それから、第二の理由として、逆の面から申しますと、請求権として構成するためには、その発生要件であります非行なしの判断がより客観化される必要があるというふうに考えるわけでございまして、例えばその非行認定の手続を十分整備した上で、非行なしの場合になすべき決定というものを設けまして、非行ありの認定自体に対して不服申し立ての道を設ける、あるいは非行の存在を前提とする保護処分決定に対しても処分終了後の再審を設けることなどの検討が不可欠であると考えるわけでございます。
 これら今申し上げました点は、いずれも少年法改正の中で議論されるべき事柄でございまして、今回の立法は現行の少年審判手続を前提とし、現行の少年法の枠組みを前提としたものであるということが第二の理由でございます。それで、その点は後段で委員が御指摘になられました抗告等による不服申し立てを認めるべきではないかという御意見とも関連するわけでございますが、現行の少年審判手続におきましては、今申しましたように、家庭裁判所が専権的な判断機関として位置づけられておるわけでございます。保護処分決定を除きまして、一定の程度少年に不利益を及ぼす処分に対しましても抗告は認められていないということと一貫しないわけでございます。
 また、非行ありの認定に対する抗告を認めないままで非行なしの判断がなされた場合の補償の要否あるいは程度についてだけ抗告を認めるということは一貫しないことになるわけでございまして、このような問題がありますために、抗告等による不服申し立てを認めることは相当ではないのではないかという考え方に立っているわけでございます。
 いずれにいたしましても、現行の少年法の枠組みを前提として、早急に少年保護事件補償制度を創設したいというのが、この基本的な考え方であるわけでございます。
#102
○最高裁判所長官代理者(山田博君) 家庭裁判所で従来、非行事実なしの判断をした事件がどれくらいあるのかという御趣旨の御質問だと考えますが、これにつきましては、この補償に関する法律案関係資料の末尾に参考資料というのがございまして、ここに一応の数字が載せてございます。
 これに基づいて御説明申し上げますと、この上の段の第一表は、一般保護事件における非行なしを理由とする不処分決定及び審判不開始決定の数でございます。ごらんいただきますように、非行なしを理由として不処分決定をされました数は、昭和六十一年以降の五年間を見てみますと、この表のとおりでございまして、平均をいたしますと二百五十五・六人ということになります。また、非行なしを理由として審判不開始決定がなされた数は、五年を平均いたしますと百四十三・四人になります。両方合わせますと、大体年間平均四百人前後という数になるわけでございます。
 もっともこれは身柄の拘束を受けた事件と、そうでない事件とを全部含めて、とにかく家庭裁判所で一般保護事件について非行なしと判断された数でございますが、今回の補償法案の対象となりますのは、現実に身体の自由等を拘束されたものが対象でございます。その正確な数字は必ずしもとりませんけれども、家庭裁判所の側から見ました場合には、観護措置決定によって少年鑑別所収容の措置がとられた事件が大きな手がかりになろうかと思われるわけでございまして、その数がこの参考資料の下の段の第二表に載せてある数字でございます。
 これで見ますと、非行なしを理由として不処分決定がなされました数は、五年間を平均いたしますと二十四・六人でございます。また、非行なしを理由として審判不開始決定をした数は二・二人ということになっておりまして、合計いたしますと大体年間平均二十六、七人、こういう数になっております。
#103
○紀平悌子君 今回の法律案で、午前中北村委員の御質問もございましたけれども、補償しないことができる旨の規定というものが置かれておりますけれども、少年という時代をお互い過ごしてきたわけでございますが、非常に多感な時代でもありますし、また成人よりも比較的、中には違う若い人もいるでしょうけれども、未熟であるというのが一応原則ではないかと思います。
 第三条の第一号、二号、これは過去の実例を念頭に置いて規定されたものでしょうか。それぞれ具体的にどのような場合が想定されるのか、実例があれば具体的なケースを示して御説明をいただきたいと思います。
 また、この本人辞退の規定の運用というのがございますが、事実上少年が関係機関によって辞退を勧められるというか、あるいはそういった勧めを強く受けるというか、そういう場合もあるかもしれませんので、少年保護の観点から何のために置かれたのか、また適切な運用がなされるかどうか、この疑問がございますので御説明を若干お願いをしたいと思います。恐縮ですが、簡潔で結構でございます。
#104
○政府委員(濱邦久君) まず、この法案の三条には「補償の全部又は一部をしないことができる。」場合を規定しているわけでございます。
 まず、三条一号の関係でありますが、例えて申しますと、少年が罪を犯した親族や友人等をかばうために身がわりとなって出頭し、みずからの犯行であるという虚偽の自白をしたことによって身柄拘束を受けた場合。それから、これは実際にそういう例があるかどうかわかりませんが考えられますのは、少年が少年鑑別所や少年院での生活を体験するために犯罪をでっち上げて、みずからの犯行である旨虚偽の自白をしたことによって身柄拘束を受けた場合等が一つの典型的な事例として考えられるかと思うわけでございます。
 これはあくまでも三条では、単に「虚偽の自白をし、その他審判事由があることの証拠を作る」ということだけではなしに、「家庭裁判所の調査若しくは審判又は捜査を誤らせる目的でこということで、特にこういう目的がある場合を事由として掲げている。これは刑事補償法の場合とほぼ同じ趣旨で規定されているわけでございます。
 それから二号の関係でございますが、例えば数個の窃盗の事実により身柄拘束がなされたけれども、審判の結果そのうちの一個が認められずに、ほかの事実によって少年院送致の保護処分がなされた場合。それから一個の窃盗の事実により身柄拘束がなされたけれども、審判の結果、当該その事実は認められないけれども、同時に審判されたほかの窃盗の事実によって少年院送致の保護処分がなされた場合などが典型的な事例として考えられるかと思うわけでございます。
 それから今度は三号でございますが、これは少年が補償を辞退している場合のほかに、「その他補償の必要性を失わせ又は減殺する特別の事情があるとき。」という包括的な書き方になっております。その例といたしましては、例えば身柄拘束を受ける占った責任と申しますか、帰責事由が専ら少年にあるとき。例えば、シンナーの乱用癖を有する少年が密売人からシンナーを購入して吸入中に検挙をされたけれども、たまたま当該シンナーにはトルエンが含まれていなかったときとか、それから客観的な犯罪事実は認められるけれども、責任能力が認められないとして非行なし不処分決定等がなされたときとか、それから専ら虐待を受けている少年を緊急に保護する目的で保護措置がとられたときというような例を挙げることができるかと思うわけでございます。
 委員のお尋ねの中で、少年が補償を辞退しているときの点につきましては、これは先ほどお答えの中で申し上げたと思うのでございますが、少年が補償を辞退したからといって直ちに補償しないということではなくして、少年に対する後見的機能を発揮することが期待されております家庭裁判所が、例えばその保護者から事情を聞くとか、その他いろんな観点から少年の保護育成のために補償をすべきかどうかを健全な裁量によって判断するということが期待されているわけでございます。
#105
○紀平悌子君 最後に、法務大臣にお願いをしたいのですけれども、今回の補償法の運用というものが頻繁に行われるようなことはむしろあってはならないということだと思います。少年の冤罪事件をなくしていくということは、当然そのようにお考え、またはおやりになっていることですけれども、根拠のない身体的拘束などを減らすために今後どのような方針あるいは措置でいかれますか、お伺いをしておきたいと思います。
#106
○国務大臣(田原隆君) お答えします。
 このような補償事件、補償が起こるということは、今おっしゃったように根拠のない身柄拘束をしたということが一番多いのだろうと思いますが、それを避けなければならないというのは、これは全く当然のことでありますから、これはもう普通の事件でもそうですが、少年事件においてはなおさらでありまして、成人の事件と同様、証拠をより多く収集し、収集された証拠の深い検討をし、自白がありましても自白そのものの裏の裏まで読むような吟味というようなものをやって、真相解明のために十分な調査、捜査を実施しなければならないと思っております。そしてその結果、的確な事実認定どこれに基づく適切な措置を行うように努める以外には何もないし、それがすべてであろうと思いますので、一生懸命そういうふうに励むように私は指示したいと思います。
#107
○紀平悌子君 ありがとうございました。終わらせていただきます。
#108
○中野鉄造君 私は、まず最初に刑事補償法の一部改正についてお尋ねいたします。
   〔委員長退席、理事北村哲男君着席〕
 先ほど来、同僚議員から補償金の日額の上限と下限についてのいろいろ質疑が行われておりますが、この算定の基準をどこに置くかということについてまず、お尋ねいたします。
#109
○政府委員(濱邦久君) 従来、拘禁補償の上限日額の算定に当たりましては、一般給与水準の上昇率と消費者物価の上昇率が等しく勘案されてきたわけでございます。拘禁補償は、申すまでもなく、抑留、拘禁による損害のすべてを補てんしようとするものではなくて、公平の観点から一定の限度で標準的な定型化された金額の補償を行おうとするものでありますから、上限日額を経済変動一般と連動させようとするこのような考え方には、それなりに十分な理由があるものと考えられるわけでございます。
 ただ、しかしながら今回の拘禁補償の上限日額の算定に当たりましては、前回改正、すなわち昭和六十三年の改正の際の附帯決議の趣旨を踏まえまして、拘禁補償の一層の充実を図るという観点から、拘禁補償の上限日額を逸失利益の部分と慰謝料の部分とに分けまして、前者すなわち逸失利益の部分につきましては専ら一般給与水準の上昇率を基準とする、後者すなわち慰謝料の部分につきましては経済変動一般、つまり一般給与水準と消費者物価の双方の上昇率を基準として引き上げを行うこととしたわけでございます。
 もう少し説明申し上げますと、前回改正、すなわち昭和六十三年時点での上限日額に占める逸失利益の割合から、昭和二十五年の刑事補償法制定時の上限日額四百円のうちに逸失利益が二百七十一円、慰謝料が百二十九円というふうに推計計算をしたわけでございます。そして次に、昭和二十五年の時点を基準といたしました平成四年における賃金指数及び物価指数を算出いたしまして、逸失利益に賃金指数を乗じたものと慰謝料に賃金指数と物価指数の平均を乗じたものの和ということで、一万二千五百円を今回の上限日額としたものでございます。
#110
○中野鉄造君 計数的な説明が改正のたびに変わるというようなことでは、まず幾らにするかという金額の結論があって、そしてその説明は後からついてくる、こういったような印象がぬぐえないんですけれども、例えば従来の計数的説明では、比較の基準を法制定時に置くかあるいは前回の改正時に置くかについてこれは異なる扱いがなされておりますし、常用労働者の一日平均給与額についても、月給を三十で割るのか出勤日数で割るのかといった点でこれは説明が変わってきております。
 補償を受ける者に有利だからという理由ではこれは説明が変わってしまって、今後の改正に当たっての基準とはなり得ないんじゃないか、そういう気がいたしますが、いかがでしょうか。
#111
○政府委員(濱邦久君) 今、委員御指摘になられましたように、上限日額の引き上げのための改正の都度その算定根拠が余りにくるくると変わるということでは、確かに仰せのとおり、困る面があることはそのとおりだと思うわけでございます。引き上げの算定根拠というものにつきましては、継続性と申しますか、そういうものをもある程度考慮しなければならないと思うわけでございます。
 ただ、他方、経済実勢に応じて引き上げを考えるのは、もともとは補償の内容をより充実させると申しますか、引き上げをできるだけ手厚くするという観点もその都度加えなければならないわけでございますから、継続性の原則をある程度維持しながら、なおかつその時点で引き上げ額を算定する考え方としては、できるだけ補償の充実を図っていくためにどういう根拠で引き上げ額を算定していくかということをも考えていかなければならないんだと思うわけでございます。
 それで、今回の刑事補償法の改正は、立法時から顧みますと今回が九回目でございます。これまでの改正の際の引き上げの算定基準あるいは算定根拠を見てみますと、その都度ある程度、今申しました賃金水準の上昇率あるいは物価水準の上昇率等をあわせ考慮した経済事情というもの全般を考慮して、その引き上げ額の算定をしてきたということでございまして、その都度それなりに引き上げとしてはできるだけ充実したものにしようという努力をして引き上げてきたものというふうに理解しているわけでございます。
 今回の引き上げの算出根拠につきまして、先ほど申し上げましたように、特に逸失利益の部分と慰謝料の部分とに分けて算出いたしました一つの理由は、前回の改正の際の附帯決議に御指摘がありましたように、財産上の損害の部分と申しますか、財産的損害については物価水準の上昇率を考慮するのでなしに賃金水準の上昇率だけを考慮して引き上げを考えるべきではないかという御指摘、御議論がございまして、今回はそれを取り入れたと申しますか、そういう御意見を踏まえまして、逸失利益と慰謝料の部分に分けまして、逸失利益の部分については賃金水準の上昇率だけを考慮して引き上げを考える、それから慰謝料部分については賃金水準の上昇率と物価水準の上昇率を合わせた経済事情の変動一般を考慮したということになるわけでございます。
   〔理事北村哲男君退席、委員長着席〕
 したがいまして、結論的に申しますと、従来の算定基準にある程度継続性を持たせながら、今回は前回の附帯決議を踏まえて少しく工夫をさせていただいたというのが実情でございます。
#112
○中野鉄造君 では次に、この刑事補償法の一番最低限が日額千円ということ、先ほどの同僚議員の質問でもございましたけれども、私は先般当委員会において、心神喪失を理由に無罪になった者に対する補償に関していろいろ問題を提起してきました。
 御承知のように、憲法第四十条には、「何人も、抑留又は拘禁された後、無罪の裁判を受けたときは、法律の定めるところにより、国にその補償を求めることができる。」、こうありますけれども、現行のこの刑事補償法では日額最低限が千円ということになっております。この千円という額がしかもずっと、先ほどから申されておりますように、据え置きになっている。これは言ってみれば、言葉をかえれば、責任無能力を理由とする無罪に関して補償することに対する裁判所の苦しい決断だというような見方さえも出てくるような気がいたしますが、その点いかがですか。
#113
○政府委員(濱邦久君) 裁判所におかれて刑事補償の決定をされみ際の現実の運用ぶりにつきましては、現実の運用面における御苦労なりにつきましては裁判所御当局からお答えをいただいた方がよろしいかと思いますが、まず私の方から今の御質疑に関連してお答え申し上げますと、確かに憲法四十条の刑事補償の規定につきまして、心神喪失等による責任無能力の場合に、無罪となった者に補償すべきなのかどうかということにつきましてはいろいろな御意見があることは、今、委員御指摘になられたとおりでございます。
 ただ、一つの例として、例えば精神障害や飲酒による異常酩酊のために責任能力がないと認められた者などの特別の事情がある場合であって、なおかつこれらの者に対して高額の補償をするということは国民感情に反するというふうに考えられる場合をも一つの場合として、この下限の千円の金額が今日までここ数回の改正では据え置かれてきているということは、一つの理由に確かになっているんだろうと思うわけでございます。
 したがいまして、今回この千円の下限を据え置くこととした理由につきましては、従来、五十五年度以降の改正と同じように現実にも下限の千円で補償がなされている事例があるというようなことをも考慮いたしまして、今回もこの下限の千円は引き上げる必要がないのではないかという考え方に立ったものでございます。
#114
○中野鉄造君 今申し上げましたように、そういう犯行時において心神喪失しておった、したがって裁判では無罪になった。ところが、刑事補償法の三条には、裁判所の健全な裁量によってその補償をしなくてもよろしいというような規定もありますね。そうしますと、先ほど同僚議員の説明にも答弁なされておりましたけれども、この一号、二号というのが刑事補償法三条にはついておりますけれども、その次に三号というようなものを加えて、そして今おっしゃったような国民感情からして、そういう殺人を犯した、人を殺したといったようなときには責任無能力者で無罪になったとしてもそれには補償しなくてもよろしいというような、憲法の四十条がひとり歩きしないようにそういうようなことをやってもいいんじゃないかというような気がするんですが、その点いかがでしょう。
#115
○政府委員(濱邦久君) 先ほどお答え申し上げましたように、憲法四十条には、「何人も、抑留又は拘禁された後、無罪の裁判を受けたときは、法律の定めるところにより、国にその補償を求めることができる。」というふうに規定されておりまして、無罪の裁判につきましてはその理由を区別していないわけでございます。
 したがいまして、今、委員仰せになりましたように、例えば刑事補償法の三条に一つの号を立てて、この責任無能力の場合には、責任無能力を理由として無罪の裁判を受けた者に対しては補償をしないということを規定いたしますことは、この憲法の四十条の趣旨から見ていかがであろうかというふうに考えるわけでございまして、現行の刑事補償法はそういう考え方ではなくして、憲法の無罪の裁判については理由を区別しないで無罪の裁判を受けた者に対する補償の権利を認めるという建前をとっているというふうに理解すべきであろうと思うわけでございます。
#116
○中野鉄造君 だから、この三条の中の「裁判所の健全な裁量により」ということを適用できないかということを私は申し上げているわけでして、確かに憲法というものがその大前提にあるわけではございますけれども、国民感情あるいはその被害者の遺族、そういったようなことを考えれば、そういうこともまた今後の課題として検討に値するのじゃないかなということをお尋ねしているわけです。
#117
○政府委員(濱邦久君) 委員御指摘の趣旨は非常によくわかるわけでございますが、先ほども申し上げましたとおり、憲法の四十条は無罪の裁判そのこと自体につきましてはその内容によって区別を設けていないわけでありますから、責任無能力を理由とする無罪の場合にも補償すべき旨を定めたものと理解されるわけでございますから、責任無能力を理由とする無罪の場合のみを補償の範囲から除外することができるというふうにすることは、憲法の趣旨から見てもやはり適当ではないというふうに考えられるわけでございます。
#118
○中野鉄造君 どうも非常に硬直したような議論に私は思えてなりませんけれども、今言うように、最近非常にそういったような事件が多くなっておりますね。そういう場合に、やっぱり殺されたり被害を受けた人の遺族の身になって考えれば、たとえ千円であってみてもそれが国民の税金の中からその者に支払われるというのは、どう見たって非常にこれはいかがなものか、こう思うわけです。憲法はもちろんこれは遵守しなくちゃいけないんですけれども、そのいうところの「裁判所の健全な裁量」という範疇に加えてもいいんじゃないかという気がしてお尋ねしたわけでございます。
 次に、少年の保護事件に係る補償に関する法律、この法律を提出されたその経緯についてまずお尋ねいたします。
#119
○政府委員(濱邦久君) 少年が犯罪の嫌疑によりましてその身体の自由を拘束された場合において、刑事手続によって無罪となった場合、または罪を犯さなかったものとして不起訴処分に付された場合などでありますれば、刑事補償または被疑者補償の対象となるわけでありますが、これに対しまして、家庭裁判所における少年の保護事件手続において犯罪事実が認められないとして不処分等の決定を受けましても、これに対して補償を行う制度はこれまでなかったわけでございます。
 このような場合にも、刑事補償及び被疑者補償と同様に身体の自由の拘束を受けた少年に対して補償を行う必要があると考えられますとともに、犯罪以外の非行の嫌疑によって身体の自由の拘束や、さらには保護処分と同時に言い渡された没取につきまして、後に非行が認められなかった場合にも同じように補償を行う必要があるというふうに考えられるわけでございまして、これらの補償措置を講ずるために少年の保護事件に係るこの補償法案を提出した次第でございます。
#120
○中野鉄造君 次に、この補償の内容についてお尋ねしますが、成人の場合と比べて、少年という理由から成人における額よりも減額されるというようなことはあるでしょうか、ないでしょうか。
#121
○政府委員(濱邦久君) この補償法案の第四条では、「その拘束の日数に応じて、刑事補償法第四条第一項に定める一正当たりの割合の範囲内で、相当と認められる額の補償金を交付する。」というふうに規定してあるわけでございます。したがいまして、原則的には刑事補償法と横並びという言葉が適切かどうかわかりませんが、刑事補償法の第四条第一項に定める金額、一日当たりの金額の範囲内で家庭裁判所が健全な裁量によって補償金額を定めることになっているわけでございます。
 少年の場合を成人と比較いたしました場合に、確かに職のない少年等もおるかと思うわけでございますが、また事例によりましては、成人と同じように収入があり、また妻子を養っている少年、特に年長少年の場合はそういう少年もあると思われるわけでございまして、一概に少年の場合は成人よりも低い金額でいいということは言えないのだろうと思うわけでございます。したがいまして、原則的には成人と同じように刑事補償法で定められた金額を引用している。ただ、家庭裁判所がその健全な裁量によって、少年の保護育成という観点から見て相当七認められる金額の補償金を決定するというのがこの法案の趣旨であるというふうに考えております。
#122
○中野鉄造君 次に、本法の適用についてお尋ねしますが、平成三年三月二十九日の最高裁決定があった事件のように、極めて長期間争われた事件があること等を思いあわせますと、本法についてある程度の遡及適用ができるのかどうか。また、刑事補償決が新たに制定された際には、新憲法施行時まで遡及させだということです。どこで区切るのか難しい面はあると思いますけれども、検討すべきだったと思いますが、現在この点について検討をなされているのかどうか、お尋ねします。
#123
○政府委員(濱邦久君) 今、委員御指摘になられましたように、現行の刑事補償法が制定されましたときには、制定されたのは昭和二十五年でございますけれども、新憲法の施行時までさかのぼって適用を認めることとしたことはそのとおりでございます。
 これは、昭和二十五年に刑事補償法が制定されましたのがそもそも旧刑事補償法の全面改正ということでございまして、特に旧刑事補償法は刑事補償を国家の一種の恩恵と考える思想に立っていたものでございまして、新しい刑事補償法はその考え方を基本的に変えまして、新憲法の人権保障の精神に基づく新たな性格の刑事補償というものを定めたものである、そういう理由から、刑事補償法が立法されたときには、新憲法の施行時まで遡及適用を認めることとする特別の必要があったものというふうに考えるわけでございます。
 翻って、今回の少年保護事件補償法についてそれでは遡及適用を認めるのがいいのかどうかということでございますけれども、今申しました旧刑事補償法の全面改正であります現行の刑事補償法の一つの例、唯一の例でございますが、これを除きますと、例えば証人等の被害についての給付に関する法律による給付とか、あるいは犯罪被害者等給付金支給法による給付等の比較的少年補償制度に近い補償制度につきましては、いずれも遡及適用を認めていないということ。それから、遡及適用を認めるといたしました場合にはどこの時点で切るのかということについてなかなか合理的な説明が困難でございまして、切った時点で新たな不均衡を生み出すことにもなりかねないというふうに思われること。さらに踏み込んで考えますと、少年補償は、いわば保護事件に関する手続の一環として当該手続を担当した家庭裁判所の判断によりまして、その手続において非行事実が認められるに至らなかった少年等を保護しようという趣旨に出るものでございますから、もう既に一定期間の経過をした過去の保護事件に関して補償を行うということは、少なくとも今回の少年補償の枠外にあるものであるというふうに考えられること。
 このような事情を考慮いたしますると、この法案の附則にございますように、法施行後に非行なし不処分決定等を受けた者についてのみ適用するということとするのが相当であるというふうに考えた次第でございます。
#124
○中野鉄造君 最後に、少年法の改正の動向についてお尋ねいたします。
 昭和四十年から少年法改正が議論されて、五十二年には中間報告も出されました。しかし、日弁連を初め関係者の方々の強い反対もこれあり、改正作業というものはストップしたままになっておるように聞いております。また、法務省自身も昨年の当法務委員会で、五十二年の中間答申時代と比べ少年犯罪が激増した、非行の状況が著しく変わってきた、こういったようなこと等を理由に、当時の刑事局長は「少年法をどのように改正するかというのは実はひとつ新しい問題として考えなければいかぬのかなということも考えるわけでございます。」と、こういう答弁をいたしておりますけれども、そこで現在どのような動きがあるのか、あるとすれば、当時の作業はほぼ白紙に戻して新しいスタートをするつもりなのか、その辺のところをお尋ねいたしたいと思います。
 また、最後に大臣に、この少年法の改正の将来のあり方についてもお答えをいただきたいと思います。
#125
○政府委員(濱邦久君) 少年法の改正につきましては、今、委員御指摘になられましたとおり、昭和五十二年の六月に「差し当たり速やかに改善すべき事項」について法制審議会の答申があったことを受けまして、これを中間答申というふうに申しておりますけれども、中間答申に即した改正を行うべく関係機関等との意見の調整を続けてきたわけでございます。しかしながら、今、委員お触れになられましたように、その間に少年非行の情勢にも相当の変化が見られるなどの事情もございましたし、また先ほどの中間答申に盛り込まれております少年法改正に対する意見につきましては、依然として反対意見も認められるところでございます。
 もとより、言うまでもないことでございますが、少年法の改正は、次の時代を担う少年の健全育成上極めて重要なことであることにかんがみますと、改正に当たりましてはできる限り大方の合意を得た上でこれを実現することが望ましいという観点から、反対意見につきましても十分な考慮を払いながら作業を進めているというのが実情でございます。
#126
○国務大臣(田原隆君) 昭和二十三年にこの法律ができたときは、少年に対する保護あるいは福祉的な観点が重視されて、少年に対する保護処分についても少年に対する後見的側面を重視するという議論が多かったわけでありますが、その後、少年犯罪が非常に変化してまいりまして、国民の権利意識の強化もまたあって、少年の保護事件手続についても少年の権利保護、適正手続の補償を重視するという議論が出てきた。すなわち、手続をよりきちんとしたものにする。今回提出された少年補償制度創設もこのときに話に出たようであります。
 そういうふうな中で、五十二年に法制審議会の答申があって関係機関との意見調整を続けるということになったのですが、今、刑事局長のお話がありましたように、その後少年の犯罪の情勢が再び変化して、非行が低年齢化したり凶悪犯罪の量的減少というようなことが起こったりして、逆に情勢が変わってきた。そういう情勢でありますが、少年法というのは次代の日本を担う少年の育成上極めて重要な法律でありますから、これを改正するに当たってはやはりおおむねのコンセンサスを得なければならないというのが私どもの考え方であります。
 国民の合意を得なければいかぬということになりますと、十分な意見を聞くのに結局時間がかかっておるというのが現状であろうかと思いますが、今後も以上申し上げたようなことを振り返りながら検討を続けてまいりたい、こう思っております。
#127
○中野鉄造君 終わります。
#128
○橋本敦君 少年の保護事件に係る補償に関する本法案が提出をされまして、この制度の確立についてはもちろん賛成という立場ではありますが、若干法案に即して二、三まず質問をさせていただきたいと思います。
 まず、この法案の第二条第一項関係でありますが、この第二条によりますと、「補償の要件」ということで「審判事由の存在が認められない」ということ、あるいは「保護処分に付さない旨の判断がされた場合」、この二つを要件として規定しております。この不審判という場合、それから不処分という場合、審判の不開始と不処分ですが、そういう決定がなされたこと自体が要件だということで、そうなされた理由には特段がかわらないという趣旨ですか。その点はいかがですか。
#129
○政府委員(濱邦久君) これは補償の要件といたしましては、第二条の最初のところで書いてございますように、「その全部又は一部の審判事由の存在が認められないことにより当該全部又は一部の審判事由につき審判を開始せず又は保護処分に付さない旨の判断がされた場合」ということでございますので、つづめて申しますと、非行事実不存在という理由で審判不開始あるいは不処分決定がなされたときというふうに御理解をいただきたいと思うわけでございます。
#130
○橋本敦君 その趣旨はわかりました。
 そういたしますと、非行事実がないということが審判の不開始決定あるいは不処分決定の中で理由として明示をされておることが客観的に必要ですか。あるいはそれは必ずしも明示されなくても、非行事実がないという趣旨の決定であることが全体としてわかれば、もちろんそれでよいということになりますか。その点はどうなりますか。
#131
○最高裁判所長官代理者(山田博君) この法律の立案の趣旨ということよりも、私どもの受けとめ方を申し上げたいと思いますが、このような第二条の「補償の要件」で「審判事由の存在が認められない」ということが一つの要件になっておりますので、今後は裁判官が非行事実なしという心証を得て不処分決定あるいは審判不開始決定をする場合には、何らかの形でその旨を決定文の中に明示をするという運用にしたいというふうに考えております。
#132
○橋本敦君 刑事局長、今のような最高裁の答弁、検察庁としてもそれで結構だという趣旨でございますか。
#133
○政府委員(濱邦久君) 今、最高裁御当局からお答えございましたように、この法律案のもとでは、身柄の拘束が行われた審判事由については実務上必ずその有無が判断されると、終局決定の中でその判断が示されているというふうに理解しております。
#134
○橋本敦君 私が提起したかったのはその意味でございます。まさに相手は少年ですが、付添人がついている数も極めて少ない、そういう事例の中で、決定自体から要件が明確になるようにしてやる必要があるという意味で申し上げたわけで、最高裁としても今の立場で今後の運用をぜひお願いしたいと思うわけであります。
 次の問題は、この補償についてそれでは第五条の関係でお尋ねをしたいのですが、第五条の関係でいいますと、今のような決定がなされた日から三十日以内に補償するようにしなければならないというように書いてあります。これは速やかに補償することによって法の目的を達成しようというわけですから、もちろんそれは結構なんですが、この場合この決定を三十日以内にするということのためには速やかに補償のための調査その他の手続を開始しなければならない。
 第七条関係では、補償に関する決定をするに当たっての必要な調査が決められているわけですね。これは自動的に家庭裁判所の方がその決定に基づいてやっていただくのか、それとも補償請求を当該要件で請求資格のある少年の方から申し出なければならないのか、その点は第五条を読んでみても明確でないんですね。この点はどういうように解するんですか。
#135
○政府委員(濱邦久君) この少年補償法案の補償制度と申しますのは、これは刑事補償の場合と違いまして、補償を受ける権利、請求権という形では構成してないわけでございます。したがいまして、言葉をかえて申しますと、家庭裁判所が職権で補償の要否を判断して補償の内容を決めるということになるわけでございます。およそ裁判一般が迅速になされなければならないことは申すまでもないことでございますが、職権による補償制度というふうにいたしましたために、迅速に決定すべき旨を特に定めて少年の保護を図ったという努力規定と申しましょうか、の趣旨でございます。
 なお、この補償の対象となる事件のうちかなりの割合のものにつきましては、非行なし決定と同時に補償決定をすることができるものというふうに思われるわけでございますが、なお調査を要するものも想定されるということから、この通常要すべき期間を考慮して一カ月という期間を定めたというのがこの趣旨でございます。
#136
○橋本敦君 よくわかりました。私は、この職権による補償決定ということがまさにこの法の運用として一般刑事手続と違って積極的に進められる必要がある、こう見ておるんです。
 そこで、最高裁にお願いでありますが、今、刑事局長がおっしゃったように、補償要件に合致したそういったケースの場合は、家庭裁判所の第二条関係の決定と同時に、もうこの補償の決定も同時的に行うということが理想的だというのは私もそうだと思うんですが、実際の運用として、最高裁としてもそういった方向で運用上心がけていただくという方向をおとりになるかどうか、この点はいかがでしょうか。
#137
○最高裁判所長官代理者(山田博君) この法律ができましたときに実際の運用がどのようになるかということは、必ずしも私どもの方で、一種の裁判事項でございますので、責任を持った御返答を申しかねますけれども、事案によって、本来の保護事件において非行なしを理由として不処分決定をするというような場合に、従来取り調べをした、審理をした資料から明らかにもう補償決定の判断ができるというような場合もあり得ようかと思います。そのようなときには、できるだけ早く補償をするという意味で、場合によっては不処分決定と同じときに、同じ機会に補償決定をするということもあり得るかとは存じますけれども、事案によってはいろいろ一切の事情を考慮して判断するというようなことがございますので、その場でできない事案も少なくはないであろうというふうに考えております。
 しかし、法律自身が三十日以内という精神でございますので、できるだけ別の機会になりましても早く判断を示す、こういう努力はしなければならないというふうに考えております。
#138
○橋本敦君 もちろん第七条関係で必要な調査を行うことができるようになったわけですから、すべてが同時的にというわけにいかないケース、これは当然だと思います。しかし、可能な限り同時に補償決定を行える場合はそうしていただくということで、最高裁としても努力していただくということを重ねて要望しておきたいと思います。
 そこで、そういった職権で補償が行われるということですが、少年の方としてはこういった知識は基本的にございませんので、同時的に行わない場合、調査をした上でという必要がある場合は、不処分決定の告知と同時に、あなたはこの法によって補償を受ける、そういうことが資格上、要件上ありますよと、そういう意味で本人に告知をしてやるという手続を裁判所がとれないものかどうか。とってやることが親切である。そしてまた、それを知っておきますと、申し立て権はないわけだが、職権の発動を促す意味において、補償してもらいたいという上申書を提出して職権の発動を促すことも可能になってくるわけです。
 そういう意味の調査が必要な場合は、そういう資格があるということの告知を裁判所としてやってやる、そういう方向で検討してもらいたいと思うんですが、いかがですか。
#139
○最高裁判所長官代理者(山田博君) 今回の法律が、補償の要否を判断することについて少年の保護に全責任を負っております家庭裁判所の職権にゆだねるという建前でございますので、少年に対して補償制度の趣旨その他については何らかの機会にはっきりと説明をするというようなことが運用上当然行われると考えております。
#140
○橋本敦君 第十条の関係では、最高裁は、この法律に定めるもののほか、補償の実施に関して必要な事項は最高裁規則で決める、こうなっておりますので、その規則の制定はこれからだと思うんですが、今私が指摘したような立場で、少年の保護に欠けることがないように、できる限りそういった方向に沿って規則の制定も工夫していただきたいというように思いますが、いかがですか。
#141
○最高裁判所長官代理者(山田博君) 仰せの御趣旨を十分考えてまいりたいと思っております。
 現在、私どもとしても、この法案が成立する場合に備えましてどのような規則をつくるのかということを内々検討中ではございますけれども、恐らく規則の内容としては、補償に関する決定書きの記載事項でありますとか決定の告知方法、あるいは調査の仕方、あるいはお金の払い渡しの手続というような比較的技術的な部分が多かろうというふうには考えております。
#142
○橋本敦君 次に、補償の内容に関してでありますが、先ほども中野委員から指摘があった点は私も一つは問題意識を持っておったのでありますが、一日最低額千円以上という問題です。
 これは長く据え置かれてきた。これはもう少年だけに限らず、一般刑事補償についても問題があるところなんですが、少年事件についていいますと、現に仕事を持っている少年ももちろんありますが、持っていない少年も多数あるわけです。そうしますと、逸失利益という問題について裁判所がどう考えるだろうかという問題が一つは出てくるわけです。それを一体どういうように考えるかということについては、何を基準に考えるのだろうか。そういう基準が明確でないと逸失利益が基本的には明確でないということから、つい一番低い一日千円というところに引き寄せられていって、少年に対する補償が多くのケースの場合に低いところへいってしまう。先ほど議論をされた心神耗弱等による無罪ということのケースじゃなくて、少年の不処分決定に関する補償として低い方がスタンダードになってしまうということになるのもいかがかなという気がするんですね。
 したがって、仕事を持っていない、明確な逸失利益がそれ自体客観的に算定できないような場合にどういうような判断でこれを考えたらよいと考えているのか、刑事局長及び最高裁のお考えを聞きたいと思います。
#143
○政府委員(濱邦久君) 今、委員御指摘になられましたように、法案の四条で「身体の自由の拘束による補償においては、その拘束の日数に応じて、刑事補償法第四条第一項に定める一日当たりの割合の範囲内で、相当と認められる額の補償金を交付する。」というふうに規定しているわけでございます。
 「身体の自由の拘束による補償」は、身体の自由の拘束を受けたことによってこうむった財産的損害と精神的損害を補てんしようとするものでありますから、その額は、本人が現実に受けた財産上の損失、それから得べかりし利益の喪失、それから精神的苦痛その他の非財産的損失、さらにこれらを基礎づける一切の事情を考慮して決定するということが考えられているわけでございまして、刑事補償法に基づく身柄拘束による補償の場合と同様であるというふうに考えるわけでございます。
 ただ、このような考慮事項はこれは少年補償の目的から導かれるものでもありましょうから、刑事補償法四条二項に定めてあるような考慮事項に関する規定はもちろん置いておりませんけれども、そういうものをも十分考慮した上、さらには特に少年の場合は少年の健全育成ということをも家庭裁判所が念頭に置いて、ここに定められております「相当と認められる額」を決めることになるというふうに思うわけでございます。
#144
○最高裁判所長官代理者(山田博君) この法律に基づいて私どもが現実に補償額を検討するという場合の心構え、あるいは恐らく今後予想される運用の基準につきましては、ただいま法務省の方からお答えになった線と同様の考えでございます。
#145
○橋本敦君 一応の説明は今伺ったんですが、具体的にこれからある意味では判例形成が行われていく、こうなるんですね。だから、それが合理的に、少年保護という観点からということと、それから一般の刑事補償との兼ね合い、社会的事情や相当性ということの中でどのように形成されていくかということは、これは非常に注目されるし、また裁判所として責任が重いことですね。そういう意味から考えますと、これの具体的な適用については、最低千円という基準があるわけですが、社会的に相当の範囲でどう少年の場合にやっていくかということについて、最高裁としてやっぱりそれなりの研究と検討をぜひお願いしておきたいというように思っております。
 私は、今、刑事局長がおっしゃったように、財産的損害とそれから精神的損害ということになれば、少年の場合は少年なりに精神的損害が成人に比べて大きい場合も多々ありますよね。そしてまた、財産的損害ということが目に見えた形で計算上不可能であっても、自由の拘束がなければ得られたであろうと考えられる社会的な少年の年ごろでの財産的取得の可能性もありますから、そういった社会情勢も踏まえて、本人が無職であったからということだけではなしに、適正な補償が行われるという考え方が合理的に確立されるということを希望しておきたいんですが、最高裁、いかがでしょうか。
#146
○最高裁判所長官代理者(山田博君) 私どもとしても、今仰せの趣旨を十分尊重しながら考えてまいりたいと考えます。
#147
○橋本敦君 ところで、この補償制度が確立されたことはよいのですが、同僚議員の議論にもありましたように、こういった少年のいわゆる冤罪事件と言われるような事件を起こさない、このことが基本的には私は何といっても大事だと思うわけであります。
 その点で、日本弁護士連合会が昨年の十一月に「国際人権規約の日本における実施状況に関する報告そのこというのを出しまして、これを国連の国際人権規約委員会に提出をしておるわけですが、それを拝見いたしますと百三十二ページに、「自白の強要などにより数多くの少年冤罪事件が毎年多発しており、その数は、政府統計によっても毎年二百ないし五百件位なのである。」、こういう数字があるんです。大体こういう数字に相当することは、最高裁の調査でも資料上明確なのではないでしょうか。
#148
○最高裁判所長官代理者(山田博君) 冤罪事件といいますか、いろんな場合があるかとは思いますけれども、非行なしを理由にした不処分決定あるいは審判不開始決定というものが年間二百ないし三百件前後平均しであるということは事実でございます。
#149
○橋本敦君 遠慮がちにおっしゃいましたけれども、三百件前後よりも、この資料の一番後ろについている数字を見ても四百件になっておりますので、三百件にとどまらないわけですね。
 「一般保護事件における非行なしを理由とする不処分決定及び不開始決定の件数」として、司法統計年報から提供していただきました数字によりましても、昭和五十七年度は両方合わせて六百五十五件、それから五十八年度は五百八十八件、五十九年度五百十二件、六十年度五百十五件、六十一年度から少し減りまして四百十三件、六十二年度四百二十一件、六十二年度四百十三件、平成元年度四百三十件、平成二年度三百十八件、同三年度三百二件、こういう数字を資料でいただいておりますが、これは資料ですから間違いございませんね。
#150
○最高裁判所長官代理者(山田博君) はい。
 ただ、先ほど二百ないし三百と申し上げたのは、非行なしを理由にして不処分決定をしたという数だけでございまして、今仰せの数は、審判不開始決定をも含めますと仰せのような数になるというふうに認識しております。失礼いたしました。
#151
○橋本敦君 ですからへその不処分と不開始決定、両方合わせますと三百ないし多い年では六百五十件ということですから、少年の事件についてこれを冤罪事件と言っていいと私は思うんですが、言ってみれば大変な数であるわけですね。このうち、身柄が勾留され自由を拘束されたという件で観護措置がとられた事件ということになりますと、これはまた数が減りますが、そうでなくてもかなりの数で、これはもう大変なことだというように思うわけであります。これだけ毎年三百ないし六百件という少年に関する冤罪事件が出ておるというのは、これはもう司法行政としては到底看過できない重大問題だと思うんですが、なぜこういうことになるのかという問題について若干議論をしておく必要があると思います。
 そこで、具体的な事件のケースをまず最高裁から御説明を二、三件についていただくことにいたしますが、一つは、昭和六十三年の九月ですが、大阪家裁で知恵おくれ少年について無罪に相当する不処分決定がございました。この件についてどういう判断を家裁がしたのか、御説明いただけますか。
#152
○最高裁判所長官代理者(山田博君) 仰せの事案は、昭和六十三年の九月に大阪家庭裁判所で審判がなされた事案だろうというふうに考えます。
 この事件につきましては、事案の内容を概略申し上げますと、大阪府の茨木市内の踏切で三十センチ程度の花崗岩を軌道の上に置いて電車往来の危険を生ぜしめたというような事案でございますけれども、二つ事案がございまして、そのうちの第二の事件について、少年が第二の事件を犯した時間帯に現場から自転車でも一時間はかかる自宅にいるのを見た人がいるという、こういうアリバイがあるというような理由。それから、少年は眼鏡をかける必要がないのに、目撃証言に合わせるように眼鏡をかけることもあるというような供述をしている。あるいは軌道上に置いてあったコンクリート製の排水溝のふたをブロックというような表現をしたりしていて、自白内容に疑問や矛盾がある。それから、少年は若干精神的に障害がありまして、他人との会話が十分にできない、自白に変遷があるというようなことによって、少年が捜査官の都合に合わせて供述をした疑いがある。こんな理由で自白の信用性を否定して、非行事実を否定したと、かような事案でございます。
#153
○橋本敦君 この件について今お話しのような判示があったということがわかりましたが、それじゃもう一つのケースを伺ってみましょう。
 これは平成四年の二月に起こったことですが、福岡高裁宮崎支部が審理のやり直しを命じた差し戻し審で、宮崎家裁延岡支部の決定が出ておるんですが、この少年事件はどのようなものですか。
#154
○最高裁判所長官代理者(山田博君) この事案は、宮崎家裁の延岡支部が平成四年の二月十三日に行った決定だと考えますが、事案の概要を申し上げますと、平成三年の十月に宮崎の理容店、理髪店かと思いますが、理容店から現金が盗まれた。警察の方は、犯行のあったころに少年が被害者の店の前に一人で立っていたという事実を聞き込みまして、取り調べをしたところ犯行を認めた、そこで逮捕したと、こういうことでございます。
 家庭裁判所の方は、窃盗の事実と無免許運転の事実をあわせて審判をしまして、少年を少年院に送致するという決定を一たんしたわけでございますが、少年から抗告がありまして、これが認められて破棄差し戻しになりました。差し戻し後の審判におきまして不処分決定がなされたわけでございますけれども、これは無免許運転の事実は認められるということでございまして、もう一つの窃盗の事実について一部非行なしという不処分決定になるわけでございます。
 この窃盗の事実について不処分に至った理由を若干申しますと、犯行時刻ころには少年は自宅でテレビを見ていたというアリバイの主張をしまして、少年が記憶している内容のテレビ番組が事件当日現に放送されている、したがってアリバイには一応の裏づけがあるという判断がなされております。それからまた、本件の窃盗において少年と犯行を結びつける証拠としては自白があるだけである。しかし、少年の捜査段階の自白は、予断を抱いた捜査官がやや強圧的な尋問をしたという影響のもとで述べられた疑いがある。それから、自白の中には客観的な事実と一致しないと思われる部分がある。差し戻し前の審判においても犯行を一たんは自白しているけれども、これも審判を警察の取り調べの延長と考えて事実を認めたということもあり得ないではないというような理由を書きまして、自白の信用性を否定して、窃盗を犯したと断定はできない、かように申しております。
#155
○橋本敦君 それじゃ、もう一つだけ具体的ケースで伺いますが、これは東京都の綾瀬のいわゆるマンション事件ということで三人の少年の不処分が決定をされた事件であります。これは親子強盗殺人事件ということでかなり社会の耳目を引いたケースでありますが、これの不処分決定について説明してください。
#156
○最高裁判所長官代理者(山田博君) 仰せの事案は、昭和六十三年の十一月に綾瀬のマンションで銀行員の奥さんと七歳の長男が絞殺をされたという事件でございまして、平成元年の五月に少年三人が強盗殺人等の疑いで逮捕、勾留され、家裁に送られてまいりました。少年たちは、当初その事実を認めておりましたけれども、その後事実を否認し、審理をした結果、強盗殺人等の事実は認められないということで不処分決定になったわけでございます。
 この事案におきましては、ただいま申し上げましたように、捜査段階とそれから最初家裁に送致された段階では強盗殺人等の事実を認めていたわけでございますが、調査官が調査の段階で事実を否認し始めた、そして第一回の審判において三人とも事実を否認いたしました。このために裁判所はアリバイ証人について尋問等をしまして、その後、数人証人尋問を行いまして審判を八回開いて証拠調べをした結果、家裁の方では、事件と少年らとを結びつける客観的証拠がない、あるいはまたそのうちの少年二人についてはアリバイが成立する可能性が大きい、そして少年らの自白にも信用性が認められない、こういうような理由から、強盗殺人等の事実については非行事実を認められないという理由で不処分決定をした事案でございます。
#157
○橋本敦君 それぞれのケースについて御丁寧な説明をいた。だいたわけですが、共通して言えていることは、自白の信用性がないという判断がなされて不処分決定に至っだということが明白であります。
 そこで、こういうような状況が少年の場合に、年間三百ないし六百件という数字全部というわけじゃありませんが、そういう傾向が出てくるということの原因を究明しなきゃなりませんが、その一つは、私は、北村委員も指摘されておりましたが、付添人がつくケースが極めて少ないという問題であろうと思うんですね。
 この点について最高裁の方は、付添人をつけているケースというのは〇・六%あるいは○・七%程度だ、一%もない、九九%が付添人なしのままいっているという状況であることをお話しになったんですが、例えば先ほど六十一年〇・六%とおっしゃいましたが、この千六百三十九件というのは、総件数はどれだけの場合なんですか。
#158
○最高裁判所長官代理者(山田博君) 昭和六十一年に付添人がついた千六百三十九件の事件、これは比率でいきますと〇・六%ということになりますが、これの母数は一般保護事件の総数でございまして、二十九万八百七十件でございます。
#159
○橋本敦君 ですから、本当に弁護士がつくあるいは付添人がつくのは極めてまれで、一%にも満たないということですから、言ってみれば、少年ということで本来アシスタントが必要なときに、付添人なしで警察の予断を含む一方的捜査で虚偽の自白をさせられることもあるという、誤判の典型的なケースになりがちなそういうケースが生まれてくるわけですね。
 この点について、先ほども議論がありましたが、付添人を法律上必要的につけるというこういう制度をぜひともつくる必要があるのではないかということを私は痛感をするわけでありますが、この点について国際的な状況はどうなっているか、刑事局長、御存じでしたらお話しいただけますか。ちょっとこれは通告してお調べいただくように言っておりませんでしたので、わかればの話ですが。
#160
○政府委員(濱邦久君) 付添人制度の例えば外国法制の状況についての今のお尋ねでございますけれども、ちょっと私どもの方、現時点ではつまびらかにいたしておりませんのでお答えいたしかねるわけでございますが、もしお差し支えないということであれば、後日また調査してわかる範囲でお答えをさせていただきたいと思っております。
#161
○橋本敦君 じゃ後日、わかる範囲でお知らせをいただくことをお願いしておきましょう。
 それで、制度的には私は、少年事件についてはまさに付添人を、法律上必要的弁護といいますか、そういう制度を確立する方向に向けてこれは早急に検討すべきである。先ほどの北村委員の質問での答えでは、少年法の将来の改正とも絡んで検討するというお話でございましたが、少年法という大きな問題とはかかわりなしに、毎年三百件から六百件という冤罪事件と見られる件数が徐々に減ってはおってもあるということですから、緊急の人権擁護処置としてこの問題について法務省としては研究検討を開始されることを強く要望したいんですが、刑事局長及び大臣のお考えはいかがでしょうか。
#162
○政府委員(濱邦久君) 今、委員御指摘の国選付添人制度の問題でございますが、これは先ほど来お答え申し上げておりますように、少年法改正に関する昭和五十二年六月の法制審議会の答申の中でも触れられている事柄でございます。
 改めて詳しくは申しませんけれども、この昭和五十二年六月の法制審議会の答申の中では、例えば一つは年長少年の特別取り扱いの問題、一つは少年の権利保障の強化の問題、一つは検察官関与の問題、一つは捜査機関の不送致権限の問題、それから一つは保護処分の多様化の問題、そのほか幾つかの事項があるわけでございます。その中で二番目に申しました少年の権利保障の強化の中に、国選付添人の制度を新設するかどうかという問題についても触れられているわけでございます。
 この少年法改正の問題につきましては、先ほどからお答え申し上げておりますとおり、五十二年の六月に法制審議会から示されました中間答申の中でも数多くの項目が盛り込まれておるわけでございます。しかも、その少年の権利保障の強化という問題だけにつきましても、今、委員が御指摘になっておられます国選付添人の制度を初めといたしまして、例えば手続の教示、教える問題とか、あるいは付添人の意見陳述権、証拠調べ請求権の問題、あるいは非常救済制度の問題、不服申し立て制度の拡充等の問題、各種の問題が取り上げられておるわけでございまして、これらはいずれも相関連する問題というふうに考えられるわけでございます。
 したがいまして、先ほど申し上げました五十二年六月の法制審議会の中間答申に盛り込まれております事項につきまして、できるだけ大方の合意が得られるように努めながら、その少年法改正をできるだけ早急に実現していきたいというのが基本的な私どもの考え方であるわけでございます。
#163
○橋本敦君 大臣のお答え、結構でございます。
 局長のその考えは変わらないわけで、私は少年法を早く改正せよということを言っているわけじゃなくて、毎年これだけの数の少年冤罪事件があるということに対する緊急処置として法務当局は真剣に何らかの対応が必要ですよと。そういう意味で、この問題の一つもそういった多くの問題の関連やパラレルの問題ではなくて、研究検討を開始するのが人権保障上大事じゃないかということを言っているわけでございます。
 日弁連のもう一つの指摘で、私は大事だと思うんですが、それはこういう問題です。「逮捕された少年について、成人と同様裁判官の勾留質問後は、前述の安易な逮捕・勾留の事例の多くにみるように、勾留するのを当然の扱いとしている。勾留される場所としてほとんど例外なく代用監獄を利用し、少年の防御力が弱いことを利用して、自白の強要が行われ、少年の冤罪事件発生の大きな要因となっている」、こういう指摘があるんですね。
 いわゆる拘禁二法に関連して代用監獄論をここで私は展開するつもりはないんですが、事、少年に関しては、警察の留置場、代用監獄と称せられるそこのところへの拘置期間を一体どう見るか。観護措置決定によって少年鑑別所へ送るというのはそれは少年法で決まっているんですから、そうなるまでのいわゆる警察での取り調べということが、付添人もない、そしてまた検察官の目が十分属かないというところで、裁判所の目が届かないところで行われるならば、その弊害は非常に大きいわけですね。成人でさえ大変なんですが、ましてや少年の捜査段階において、傷つきやすく、発達も未発達の程度で、精神的にも動揺の多い少年たちにとってはこれはもう大変なことですね。
 そこで、私はこの問題について、こういった多くの少年冤罪事件を解消するために、捜査段階における手続の問題としては、原則として警察の留置場への留置、勾留は、少年事件についてはこれは認めない方向で積極的に検討する必要があるというように思っておるんですが、この点について法務省のお考えはありますか。
#164
○政府委員(濱邦久君) もう改めて申し上げるまでもなく委員も十分御存じのとおりでございますが、少年の被疑事件につきましては、やむを得ない場合でなければ裁判官に対して勾留を請求することはできないという規定もございます。少年の刑事事件につきまして検察官が警察から事件の送致を受けて身柄の処置を考える場合に、この少年法の四十三条三項の規定をもちろん十分留意しながら、事件の身柄の処置について検討をしているものと思うわけでございます。
#165
○橋本敦君 勾留請求が乱発し過ぎるということを私は特に今言って、やむを得ない場合という、そのことを逸脱していると言っているんじゃなくて、勾留がなされる場所についてやはり特段のレギュレーションが必要ではないか。
 これは裁判所にもお聞きしたいんですが、裁判所は勾留する場所を決定で決めることができますね。だから、実際の運用上として、少年事件については、精神的未発達で傷つきやすい多感な少年ということを考えれば、警察への留置を勾留決定の際に特に認めなくて、しかるべき場所に留置することを決定の中で明示をするという方向での努力も私は法改正するまでもなしに今でもできる努力だ、こう思っておりますが、最高裁はこういう努力も、今おっしゃった大変な数字があるんですから、緊急の努力として検討さるべきではないかと思いますが、いかがですか。
#166
○最高裁判所長官代理者(山田博君) 現在も捜査段階における勾留につきましては、少年の場合はできるだけ少年にふさわしい、勾留にかわる観護措置をとるという措置が認められておりますので、あくまで少年の年齢、非行歴、性向、あるいは捜査の必要性、いろいろ勘案しながら、必要に応じて勾留にかわる観護措置として少年鑑別所に収容するということも現に行われているというふうに認識をしております。
#167
○橋本敦君 それでは、時間が参りましたのでこれで質問を終わりますが、この問題は補償制度確立とかかわって極めて重大な問題でございまして、国際的にもこれは問題になりかねないという重大な問題でありますから、少年冤罪事件をなくしていくために裁判所及び法務省の一段の努力を厳しくお願いして、質問を終わります。
#168
○委員長(鶴岡洋君) 他に御発言もないようですから、両案に対する質疑は終局したものと認めます。
 本日はこれにて散会いたします。
    午後三時五十二分散会
     ―――――・―――――
ソース: 国立国会図書館
姉妹サイト