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1990/02/20 第120回国会 衆議院 衆議院会議録情報 第120回国会 法務委員会 第3号
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1990/02/20 第120回国会 衆議院

衆議院会議録情報 第120回国会 法務委員会 第3号

#1
第120回国会 法務委員会 第3号
平成三年二月二十日(水曜日)
    午前十時開議
 出席委員
   委員長 伊藤 公介君
   理事 塩崎  潤君 理事 田辺 広雄君
   理事 星野 行男君 理事 山口 俊一君
   理事 小澤 克介君 理事 小森 龍邦君
   理事 冬柴 鉄三君
      赤城 徳彦君    奥野 誠亮君
      武部  勤君    中島源太郎君
      岡崎 宏美君    清水  勇君
      鈴木喜久子君    山花 貞夫君
      北側 一雄君    中村  巖君
      木島日出夫君    徳田 虎雄君
 出席国務大臣
        法 務 大 臣 左藤  恵君
 出席政府委員
        内閣法制局第一
        部長      大森 政輔君
        法務大臣官房長 堀田  力君
        法務大臣官房会
        計課長     木藤 繁夫君
        法務大臣官房司
        法法制調査部長 濱崎 恭生君
        法務省民事局長 清水  湛君
        法務省刑事局長 井嶋 一友君
        法務省矯正局長
        事務代理    堀   雄君
        法務省訟務局長 加藤 和夫君
        法務省人権擁護
        局長      篠田 省二君
        法務省入国管理
        局長      股野 景親君
 委員外の出席者
        総務庁長官官房
        地域改善対策室
        長       萩原  昇君
        外務省国際連合
        局人権難民課長 角崎 利夫君
        文部省生涯学習
        局青少年教育課
        長       遠藤純一郎君
        文部省初等中等
        教育局高等学校
        課長      辻村 哲夫君
        文部省初等中等
        教育局小学校課
        長       近藤 信司君
        労働省労働基準
        局監督課長   山中 秀樹君
        最高裁判所事務
        総局民事局長
        兼最高裁判所事
        務総局行政局長 今井  功君
        最高裁判所事務
        総局刑事局長  島田 仁郎君
        法務委員会調査
        室長      小柳 泰治君
    ─────────────
委員の異動
二月十四日
 辞任         補欠選任
  北側 一雄君     浅井 美幸君
同日
 辞任         補欠選任
  浅井 美幸君     北側 一雄君
同月十五日
 辞任         補欠選任
  北側 一雄君     市川 雄一君
同日
 辞任         補欠選任
  市川 雄一君     北側 一雄君
同月十六日
 辞任         補欠選任
  鈴木喜久子君     串原 義直君
同日
 辞任         補欠選任
  串原 義直君     鈴木喜久子君
同月二十日
 辞任         補欠選任
  中村正三郎君     武部  勤君
同日
 辞任         補欠選任
  武部  勤君     中村正三郎君
    ─────────────
二月十四日
 借地法・借家法改悪反対に関する請願(金子満広君紹介)(第九九九号)
 夫婦同氏別氏の選択を可能にする民法等の改正に関する請願(上田哲君紹介)(第一〇〇〇号)
 同(上田利正君紹介)(第一〇〇一号)
 同(金子満広君紹介)(第一〇〇二号)
 同(山原健二郎君紹介)(第一〇〇三号)
 同(上田哲君紹介)(第一〇二五号)
 同(上田利正君紹介)(第一〇二六号)
 同(上田哲君紹介)(第一〇三〇号)
 同(上田利正君紹介)(第一〇三一号)
 同(上田哲君紹介)(第一〇六九号)
 同(上田利正君紹介)(第一〇七〇号)
 同(金子満広君紹介)(第一〇七一号)
 同(辻第一君紹介)(第一〇七二号)
 同(正森成二君紹介)(第一〇七三号)
 同(山原健二郎君紹介)(第一〇七四号)
 夫婦同氏・別氏の選択を可能にする民法等の改正に関する請願(小沢和秋君紹介)(第一〇三二号)
 同(金子満広君紹介)(第一〇三三号)
 同(木島日出夫君紹介)(第一〇三四号)
 同(児玉健次君紹介)(第一〇三五号)
 同(佐藤祐弘君紹介)(第一〇三六号)
 同(菅野悦子君紹介)(第一〇三七号)
 同(辻第一君紹介)(第一〇三八号)
 同(寺前巖君紹介)(第一〇三九号)
 同(東中光雄君紹介)(第一〇四〇号)
 同(不破哲三君紹介)(第一〇四一号)
 同(藤田スミ君紹介)(第一〇四二号)
 同(古堅実吉君紹介)(第一〇四三号)
 同(正森成二君紹介)(第一〇四四号)
 同(三浦久君紹介)(第一〇四五号)
 同(山原健二郎君紹介)(第一〇四六号)
 同(吉井英勝君紹介)(第一〇四七号)
同月十八日
 夫婦同氏別氏の選択を可能にする民法等の改正に関する請願(金子満広君紹介)(第一一八三号)
 同(辻第一君紹介)(第一一八四号)
 同(山原健二郎君紹介)(第一一八五号)
 同(金子満広君紹介)(第一二三二号)
 同(辻第一君紹介)(第一二三三号)
 同(正森成二君紹介)(第一二三四号)
 同(山原健二郎君紹介)(第一二三五号)
は本委員会に付託された。
    ─────────────
本日の会議に付した案件
 裁判所の司法行政、法務行政、検察行政、国内治安及び人権擁護に関する件
     ────◇─────
#2
○伊藤委員長 これより会議を開きます。
 この際、お諮りいたします。
 本日、最高裁判所今井民事局長、島田刑事局長から出席説明の要求がありますので、これを承認するに御異議ありませんか。
    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
#3
○伊藤委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。
     ────◇─────
#4
○伊藤委員長 裁判所の司法行政、法務行政、検察行政、国内治安及び人権擁護に関する件について調査を進めます。
 この際、法務行政の当面する問題について、法務大臣から説明を聴取いたします。左藤法務大臣。
#5
○左藤国務大臣 委員長を初め委員の皆様には、常日ごろ法務行政の運営につきまして、格別の御尽力をいただき、厚く御礼申し上げます。
 法務行政の運営に当たる私の基本的姿勢につきましては、過日の当委員会において就任のあいさつをいたしました際に申し述べたところでありますので、ここでは、当面する法務行政の重要施策につきまして所信の一端を申し述べ、委員各位の御理解と御協力を賜りたいと存じます。
 第一は、治安の確保及び法秩序の維持についてであります。
 最近における犯罪情勢は全般的にはおおむね平穏に推移していると認められるのでありますが、政治、経済、社会その他あらゆる分野における著しい変容と国民の意識の変化を反映して、その手段態様は複雑多様化・悪質巧妙化・広域化・国際化の傾向を一段と強めており、その動向には厳に警戒を要するものがあります。
 私は、このような情勢のもとで、各種犯罪事象に的確に対処し、国民の期待と信頼にこたえるため、検察態勢の一層の整備充実を図るとともに、関係諸機関との密接な連絡協調のもとに、検察権が適正妥当に行使されるよう配意し、さらに、具体的事件を通じて刑事司法に関する国際協力を促進し、もって、時代の要請に即応した良好な治安の確保と法秩序の維持に努めてまいる所存であります。
 なお、これに関連して罰金の額等の引き上げについて一言申し上げます。
 刑法その他の刑罰法規に定められた罰金及び科料の額等につきましては、昭和二十三年に制定され、同四十七年に改正された罰金等臨時措置法によることとされておりますところ、同法が改正されてから既に約十九年が経過し、この間、消費者物価は約二・五倍に、労働者賃金は約三・五倍に上昇しており、このような状況のもとにおきまして刑法その他の刑罰法規に定める罰金・科料の額等を現行のままにとどめておくことは、これら財産刑の刑罰としての機能を低下させるばかりでなく、刑事司法の適正な運営を阻害するおそれも少なくない状況に立ち至っているのであります。
 そこで、罰金・科料の額等を現在の経済事情に適合したものに改定するため、罰金の額等の引上げのための刑法等の一部を改正する法律案を今国会に提出したところであります。
 第二は、犯罪者及び非行少年に対する矯正処遇と更生保護についてであります。
 犯罪者及び非行少年の社会復帰及び再犯防止につきましては、国民各層の幅広い参加、協力を求めながら、刑務所、少年院等矯正施設における施設内処遇と更生保護機関による社会内処遇を一層充実強化し、相互の有機的連携を図る等、社会情勢、犯罪情勢の変化に即応した、有効適切な処遇及び措置を実施してまいりたいと考えております。中でも、これら施設内処遇及び社会内処遇を通して、篤志面接委員、教誨師、保護司、更生保護会、更生保護婦人会等の民間篤志家、団体につきましては、犯罪者の立ち直りや犯罪のない明るい社会のために多大な貢献をされているのでありまして、その育成、助長についてさらに意を用いてまいりたいと考えております。
 なお、監獄法の全面改正を図るための刑事施設法案につきましては、第百八回国会に再提出されました後、継続審議の扱いとなっておりましたところ、第百十七回国会におきまして衆議院の解散に伴い廃案となったのであります。しかし、その早期成立を図る必要性はいささかも変わっておりませんので、今国会に法案を再提出いたすべく、所要の検討を行っているところであります。
 第三は、一般民事関係事務の処理、訟務事件の処理及び人権擁護活動についてであります。
 一般民事関係事務は、登記事務を初めとして量的に逐年増大するとともに、社会経済生活の多様化を反映して複雑困難の度を強めてきております。特に、登記事件は、経済規模の拡大、公共事業の活発化等に伴い増加の一途をたどっており、今後ともこの傾向はなお一層進むものと考えられるところであります。そこで、昭和六十年度に創設された登記特別会計の趣旨に即して、昭和六十三年十月、東京法務局板橋出張所において、コンピューターによる登記事務処理を開始し、以後、順次全国に展開を図っているところであります。
 しかし、コンピューター化を円滑に推進するためには、移行作業要員の確保が必要不可欠であり、またコンピューター化の完了までには相当期間を要すると考えられますので、その間、増加する登記事件を適正迅速に処理するための要員が必要であり、職員の増員を図るなど適正迅速な事務処理体制の確保を図ってまいりたいと考えております。
 民事関係の立法につきましては、法制審議会の各部会におきまして調査、検討を進めているところでありますが、民法部会における借地・借家法の改正につきましては、昭和六十年から審議が続けられ、本年二月、答申が得られましたので、改正のための法案を今国会に提出したいと考えております。
 次に、訟務事件の処理についてでありますが、最近の訟務事件は、近年における科学技術の進歩や、国民の権利意識の高揚などを反映して、集団化・大型化するとともに、最先端の知識・技術に関連するなど、複雑困難なものとなっております。また、これらの訴訟は、全国各地の裁判所に多数の原告団を擁して提起される傾向にあり、訴訟の結果いかんが、国の政治、行政、財政、経済等の各分野に多大な影響を及ぼすものが少なくありませんので、訟務事務処理体制の一層の充実強化を図り、もって適正・円滑な事件処理に万全を期してまいりたいと考えております。
 また、人権擁護行政につきましては、各種の広報活動によって国民の間に広く人権尊重の思想が普及高揚するように努めるとともに、具体的な人権に関する相談や人権侵犯事件の調査・処理を通じて関係者に人権意識を啓発し、被害者の救済にも努めているところであります。
 中でも、我が国社会の国際化に伴う人権問題、部落差別を初めとするもろもろの差別問題、子供をめぐるいじめ・体罰問題につきまして、法務省といたしましても、関係省庁と緊密な連絡をとりながら、一層啓発活動を充実強化してまいりたいと考えております。
 第四は、出入国管理事務の処理についてであります。
 在日韓国人三世の法的地位等の問題につきましては、かねてより日韓両国間において累次の協議が行われてまいりましたが、本年一月の海部総理大臣の訪韓の際、決着を見たところであり、この結果を踏まえて、出入国管理及び難民認定法の特別法案を今国会に提出したいと考えております。
 在日韓国人問題に関係する外国人登録制度につきましては、日韓両国間において今般決着を見たところに基づいて今後二年以内に指紋押捺にかわる措置を実施することができるよう、所要の改正法案を次期通常国会に提出いたすための準備を鋭意進めているところであります。
 また、我が国を訪れる外国人の数は著しく増大し、その在留の形態もますます多様化しつつありますが、このような情勢の変化に的確に対応するため、昨年六月一日から出入国管理及び難民認定法の改正法を施行したところであり、新しい法制度のもとにおける出入国管理行政の適切な運営について今後とも努力してまいりたいと考えております。
 改正入管法のもとで新たに規定された出入国管理基本計画につきましては、最近の外国人の出入国の動向を踏まえ、中・長期的な観点から検討を進めているところであり、本年秋ごろにはこれを策定し公表する考えであります。
 さらに、出入国管理体制につきましては、諸外国との間の人的往来が今後ますます活発化し、業務量の大幅増大が見込まれることから、今後の業
務量の増大に対処するための要員及び施設の確保等その一層の充実強化に努めてまいりたいと考えております。
 第五は、司法試験制度の改革についてであります。
 司法試験は、近年、その合格までに極めて長期間を要する現状になっており、その結果、法曹の後継者を適切に確保し、養成する上で、多くの深刻な問題を生じております。
 この現状を改めるため種々の検討及び関係方面との意見調整を行ってきましたが、昨年十月に、当面緊急の改革案について法曹三者の基本的合意が成立いたしました。その内容は、長期間の受験による合格の可能性を残しつつ、すべての受験者について、短期間の受験による合格の可能性を大きく拡大し、すぐれた、多様な人材を法曹界に適正に確保しようというものであります。この改革案は、司法試験制度の問題点を相当程度改善する効果があるものと考えており、これを可及的速やかに実現するべく、今国会において司法試験法の改正法案を提出したいと考えております。
 以上、法務行政の重要施策につきまして所信の一端を申し述べましたが、委員長を初め委員各位の御協力、御支援を得まして、重責を果たしたいと考えておりますので、どうかよろしくお願い申し上げます。(拍手)
#6
○伊藤委員長 平成三年度法務省関係予算及び平成三年度裁判所関係予算につきましては、お手元に配付いたしております関係資料をもって説明にかえさせていただきますので、御了承をお願いします。
    ─────────────
#7
○伊藤委員長 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。鈴木喜久子君。
#8
○鈴木(喜)委員 社会党の鈴木です。よろしくお願いいたします。
 今、大臣の所信をいろいろ伺いましたけれども、大体各論的に、これから法律が出てくるその部分についての御所信のように伺いました。ですから、出てきたその都度にそれぞれ伺ってまいりたいと思うのですが、ただ一点、まず伺っておきたいと思います。
 これは所信表明の中の五ページのあたりでございますけれども、訟務事件の処理というところに関係がございます。このいろいろと複雑そして多様化してくる訴訟というものに関して、非常に膨大な事務処理体制になるので、これを一層充実強化、そして適正円滑な事件処理を行いたい、そのようにおっしゃっておられるのですが、そこについての一つの事務処理手続について伺ってみたいと思います。
 裁判をやるときには訴訟代理人が、弁護士がつくことが多いわけです。その場合に、訴訟代理権というものを証明するために訴訟委任状というものを出すのが通例になっておりますけれども、この委任状の取り扱いについて、現実に裁判所は現行どのような形で取り扱っておられるか、伺いたいと思います。一審、二審そして三審という形での、各審級ごとにこの訴訟委任状というものを一々提出をされているわけでございましょうか。
#9
○今井最高裁判所長官代理者 お答え申し上げます。
 委員御承知のとおり、この訴訟代理人の代理権の範囲につきましては、民事訴訟法の八十一条に規定がございまして、原則としては審級代理ということで、各審級ごとに代理をするということでございます。ただ、この八十一条にも規定がございますように、いわゆる特別授権と申しまして、弁護士さんが代理をしておられる場合は大抵定型の委任状がございまして、そこにはこの八十一条の特別授権事項が書いてございますので、そういう場合には審級ごとの代理ではなくて、ここに書いてある、例えば控訴、上告ということについても代理権がある、このようになっておるわけでございます。
 ところで、この委任状の問題でございますけれども、これは、まず当初、第一審で訴訟する場合にもちろん出していただくわけでございます。その方が控訴をいたしまして、第二審のときに新たな委任状を出していただくかどうかという問題でございます。これは、理論的に民事訴訟法の理屈で申し上げますと、今申し上げたような特別授権があるような場合には、理屈の上では新しい委任状は要らないということになろうかと思います。
 ただ、実際の取り扱いといたしましては、第一審のときに委任状を出していただいてから第二審に至るまでにはかなりの期間が経過しておりますので、代理権というものは訴訟の根底になるものでございますから、その時点においても代理権があるということを確認するといいましょうか、そのために念のために委任状をまた第二審でも出していただくという取り扱いが現実の取り扱いとしては多いのではないか、このように考えております。
#10
○鈴木(喜)委員 そうしますと、原則は、本来は要らない場合も多いのだけれども、さっき民訴法の特別授権、受任ということがあるというふうにおっしゃいましたけれども、それであれば、本来は要らないけれども確認のために出しているというふうなことで、一審、二審についても、仮にその訴訟委任状が出されていなくても確認がされればいいということでしょうか。
#11
○今井最高裁判所長官代理者 今申し上げましたとおり、特別の授権がある場合でございますが、その場合には、理屈の問題としては要らないというふうに考えております。
#12
○鈴木(喜)委員 そうしますと、今特別の授権を見てみようと思うのですが、それのほかにこれについては、審級ごとの取り扱いということの中には、例えば上告審から差し戻された場合の差し戻し審、それも同様に考えられるわけでしょうか。
#13
○今井最高裁判所長官代理者 今の点でございますが、この点につきましても、恐らくそういう特別の授権があった場合には同じことではなかろうかというふうに考えております。
 ただ、特別授権がない場合にどうなるのかという問題があろうかと思います。これについては、いろいろ文献等を調べましたところいろいろ説があるということで、差し戻し前の原審における代理権が復活するのだという考え方、それから、いや、それは復活しないんだという考え方がありまして、これはいずれが定説ともちょっと今は申し上げられないような状況にあろうかというふうに考えております。
#14
○鈴木(喜)委員 学説等々でその説が分かれているのはいいのですが、実際上の事務の取り扱いとして、そういうことですと、これからも多くなってくる訴訟の中で、画一的な取り扱いが出されていない、民事局の方で一つのこうであるというようなものができていないとすると、訴訟が非常に混乱する場合も出てくるし、それだけのために、そこの部分だけのために、訴訟が一転、二転してまたぐるっと回ってくるというような、非常に長期化をしてしまう場合も出てくる。そういう混乱するということで統一的な裁判所としての取り扱いというものをされる、そういうふうなお考えはないのでしょうか。
#15
○今井最高裁判所長官代理者 今の点でございますが、確かにおっしゃるように、単なると申してはあれですけれども、手続の問題でございますから統一した方がいいのじゃないかという御意見、十分理解できるわけでございます。ただ、これは少しやかましく申し上げますと、今申し上げました民事訴訟法の解釈の問題にもなるわけでございまして、最終的には当該事件を取り扱う裁判体が判断すべき事項でありまして、それを、例えば司法行政の通達とかいうような形で統一するということには若干のちゅうちょを覚えているというのが偽らざる考え方でございます。
#16
○鈴木(喜)委員 大体わかりました。あと一点だけお聞かせください。
 実際実務上では、訴訟代理人に対して、例えば差し戻された、事件番号も当然皆違ってくると思うのですが、そういう場合には委任状を提出しろということを、書記官等々を通じていろいろとそ
うされているのでしょうか。
#17
○今井最高裁判所長官代理者 今の差し戻しの場合に限って申し上げたいと思いますが、実情を若干調査いたしました。そういたしますと、御指摘のように、出しておるところと出しておらないところと、両方あるというところでございます。これは、その裁判体のお考えによりまして、具体的事案に応じて、この場合は念のためとっておいた方がいいんだという考え方にお立ちになる裁判体の場合には出してほしいということになろうかと思いますし、そうではなくて、代理権がちゃんと復活してあるんだというお考えの場合にはあえてとるほどのこともない、もちろん出していただいてもそれは何ら差し支えのあることではございませんけれども、あえてとるほどのことはないということでとらない取り扱いもあるというふうに承知をいたしております。
#18
○鈴木(喜)委員 そうしますと、結局この問題は、最高裁か何かでその点についての判例が出て、それによって一つの画一的な形がとられるとかそういうことがない限り、裁判官の判断に任せる、職権探知事項であるというふうにお考えでいらっしゃると今理解いたしました。もし違っていたら後でおっしゃってください。時間になりますのでその次の問題に行こうと思います。どうもありがとうございました。
 次の問題は、法務委員会としては最も基本的な問題になると思いますが、憲法と法律と政令の関係について幾つか伺っていきたいと思うわけです。
 憲法の七十三条によって内閣がなし得る政令の制定ということについて考えますと、執行命令と委任命令という形が考えられるということですが、現在予算委員会等々で非常に問題になっております湾岸危機に伴う避難民の輸送に関する暫定措置に関する政令という、この長い名前の政令ですけれども、これは一体、執行命令なんでしょうか、委任命令なんでしょうか。法制局に伺います。
#19
○大森(政)政府委員 ただいま委員御指摘のとおり、憲法は、内閣が制定する法令といたしまして、いわゆる実施政令と委任政令という二つの性質のものを認めているわけでございますが、御指摘の湾岸危機に伴う避難民の輸送に関する暫定措置に関する政令、これは自衛隊法第百条の五第一項に規定する政令でございます。いわゆる委任政令でございます。
#20
○鈴木(喜)委員 この百条の五が制定された昭和六十一年当時、やはりこれに基づく政令が出ていると思いますが、その政令はどちらなんでしょうか。
#21
○大森(政)政府委員 御指摘の政令、これは自衛隊法施行令の第百二十六条の十六のことであろうと思いますが、これも同様に委任政令でございます。
#22
○鈴木(喜)委員 この委任命令というのは非常に問題が多い。各憲法学者等々が取り上げている命令、政令そして法律、そのような関係の中でも非常に問題が多い。憲法の認めている内閣の定め得る命令というのは、原則は委任命令ではなくて、ただ単に、文言からいっても法律を執行するために必要な命令、本来ならばそれだけに限るべきである。しかし、事実上それではいろいろ困難なことが多い、そこまで細かく法律の中で定められないからということで、例外的にそういう委任命令も必要やむを得ないものではないかというような議論から出発していると私は承知しております。そういった委任命令というものについては格別の歯どめがあると考えられるのですが、その点はいかがでしょうか。
#23
○大森(政)政府委員 格別の歯どめの有無に関する点でございますが、これも委員十分に御承知のことと思いますが、委任政令として規定できる事項、これにつきましては、もちろん法律の委任の範囲内にとどまること、これは事柄の性質上当然でございますが、憲法四十一条が国会は国の唯一の立法機関であると定めているところからいたしまして、この趣旨を否定し、いわば実質的に国会の立法権を没却するような抽象的かつ包括的な委任は許されないというふうに学説等でも論じられているところでございます。したがいまして、委任できる事項と言われるものは、大体類型的に論じられているところを紹介いたしますと、手続に関する事項、技術的な事項、そして事態の推移に応じ臨機に措置しなければならないことが予想される事項等に限られるというふうに考えられております。
#24
○鈴木(喜)委員 今の二つ目まではいいと思うのですね。手続的な事項、それから技術的な問題、それはいいと思うのですが、最後におっしゃった部分、要するにどういう場合を想定されているのか、もう一度ちょっと教えていただきたいと思います。
#25
○大森(政)政府委員 この点に関しましては、個々の法律の委任事項ごとにそれぞれ具体的な説明があるべきものでございまして、一般的にどうかと言われますと、やはり事態の推移に応じ臨機に措置しなければならないことが予想される事項というふうに申し上げる以外に言いようがないと思います。
#26
○鈴木(喜)委員 また後でお聞きいたしますが、この非常に長い名前の当該の政令をここでつくろうじゃないかというふうになったその経過、そこについて教えていただきたいと思うのです。一体、どういうところからこの自衛隊法百条の五に基づく政令をつくろうというお話になってきたのか、その辺の経過を教えていただきたいと思います。
#27
○大森(政)政府委員 この政令を制定するに至った経過という御質問でございますが、政策的に、今回の湾岸危機で生じました避難民を自衛隊の航空機で輸送するかどうか、これは政策問題でございまして、法制局自体がその政策決定に関与するわけではございませんので、私どもの方からお答えするのが必ずしも適当ではないのではなかろうかと思います。
 ただ、お尋ねの件が、そういう政策決定のもとで現行法上なし得るのかどうか、また、どういう法律の規定に基づきどのような方法でなし得るのかという検討につきましては、私どもの方で十分に検討した結果であるということでございます。
#28
○鈴木(喜)委員 十分に検討してこれはなし得るというふうに判断されたと言うのですが、法務大臣に伺います。
 法務大臣は、この閣議決定のときにはもちろんそこに列席されていたと思うのですけれども、そこで何か発言されましたか。
#29
○左藤国務大臣 特別に何も発言はいたしませんでした。
#30
○鈴木(喜)委員 それでは、閣議ではどんな点が問題になりましたか。
#31
○左藤国務大臣 このことにつきましては、特に大きな問題になったわけではございませんが、説明として、自衛隊機を中東派遣するということに関連して、自衛隊法の第百条の五に基づいた政令ということで法的根拠を持った政令であるという説明があったわけでございます。
#32
○鈴木(喜)委員 大変なことだと、今私びっくりしてしまいました。これだけ国会の中で紛糾し、今までの解釈というものをいわば根本的に覆すようなそういう問題が、閣議の中でさしたる問題でもなく大きな問題にもならずに、これは大丈夫なんだからすっといこう、そういう形で、その中でもみ合うというか、いろいろな議論を重ねた上で、そしてそこで生み出されたものではなくて、すっといってしまった。仮にそのときに、内閣の法制局の方からこれはこの条文で大丈夫でございますというようなお話があったのかどうかわかりませんが、要するに、そこではさしたる問題もなく、そういうふうなものが出るということで、ああそうですかと言って、内閣が、そこで皆さんが賛成されてしまうというのは非常に大変なことじゃないかと思うのです。特に、この委任の限界というものが非常に厳重なものである。さっき法制局の部長さんもおっしゃいましたけれども、こういうふうな一つ一つ非常な限界があるものである。その限界をチェックする機能というのは、現在のところでは合議体であるところの内閣しか実際には
ないわけです。行政がやろうとしていることを、もちろん行政でチェックするといっても内部的な問題ではありますけれども、そういうことをそのまますんなりとやるという内閣、これは私大変驚きなんですけれども、大臣はその点には疑問を感じられませんでしたか。
#33
○左藤国務大臣 このことについては、政令に委任されておるというその範囲内であるということで、私は特に疑問を持ちませんでした。
#34
○鈴木(喜)委員 この点も、非常に私もまた驚いております。法務大臣ですよ。法務大臣というのは、憲法を守り、法律を守り、そして人権、法秩序を維持しなければならない。本当に大事なそういう役割を果たされる大臣が、一体この問題について、これは憲法的な問題はないのかねとか、法律上これは委任の範囲内であることは大丈夫かねという念押しとか、そういうことも何もなさらず、特別一つも発言もしなかったということを堂々とおっしゃる。こういう内閣、こういう法務大臣のもとで一体法律が、ちょっと黙っていてほしいのですけれども、そういうふうなことについてできないか。私はこれは非常に大事なことだと思います。これから先も、憲法を守り、人権を守り、法秩序を守っていくための法務大臣であれば、その点については十分の御自覚があってしかるべきだというふうに思います。
 それで、またもとの問題に戻ります。ここでは、今法務大臣おっしゃいました、政令に委任された範囲だということで、その点は自分もそうだというふうに思われたということなんですが、政府の統一的な見解というのが出されておりますので、その点についてちょっと伺っていきたいと思います。
 法制局の方にもう一度伺いたいのですが、私の今申し上げました中で、委任の限界をチェックする機能というものが、内閣または法制局その他のところにはあるのでしょうか。
#35
○大森(政)政府委員 お尋ねの職責は、まさに私ども内閣法制局に課せられた職責であろうと思います。御承知のとおり、内閣法制局設置法の第三条によりますと、内閣法制局は、法律案、政令案及び条約案を審査することということを規定しております。したがいまして、私どもは、閣議請議されました今回の暫定措置政令について、あらゆる法律的観点から検討いたしまして自衛隊法百条の五第一項の規定による委任の範囲内であるという結論に達しましたので、その旨内閣に意見を述べたということでございます。
#36
○鈴木(喜)委員 ここで、審査をする役割が法制局にある、私もそう思っていました。これまでの問題でもたくさんの政令が毎日毎日出ていると思います。後で数もお聞きしたいと思いますけれども、そういった政令の数とか委任命令の数その他について。たくさん出てきたものについて、こういうものが出てきても、きっと法制局がしっかりとして、政府が何を言っても、そこでチェックをして、政令については法律の委任の範囲内でおさめてもらっているであろうと思うから、信頼してこれまでやってきたわけだと思うのですよ。今回のような問題が出たら、政令というものについてもうとても怖くて委任なんかできないのじゃないか、法律の中にそういった条項が入れられなくなってしまうのじゃないか、こうなったら法律の執行なんというのはもうほとんどストップしてしまうと私は思うのです。これは政府と国民、そういうものの信頼の中で出てくるものだと思うのです。ですから、この問題は、十分に審査した上にそれが百条の五の一項の委任の範囲内であるということが考えられるような、そういう法制局であったら、私はこれはもう本当にどうしたらいいのかわからない、日本が百何十年かやってきた法治国がここで崩れてしまうのではないかというようなおそれを持ってしまうわけです。
 それで、今聞いていきます。こういった今回のような政令がつくられたときの御答弁、統一見解というようなものについて、二月八日と十二日の法制局長官の発言が昨日取り消されたということを聞きました。その部分についての経緯を、簡単で結構ですから、ちょっとお知らせいただきたいと思います。
#37
○大森(政)政府委員 お尋ねの件につきましては、手元にその日の速記録、メモ等がございませんので、詳細な説明をしろと言われましても正確を期することはできないかもしれませんが、要するに結論としましては、法制局長官の答弁の中にやや言辞不明瞭な点があった、もう少し具体的に申し上げますと、今回の暫定政令と自衛隊法第百条の五第一項との関係につきましてその理由づけが二様にわたるかのごとき誤解を与える表現があった、したがってそのような不適当な部分は取り消すという趣旨で発言されたというふうに私は聞いております。
#38
○鈴木(喜)委員 それは、この統一見解の中の第一項の(二)というところにかかわる御発言だったのでしょうか。それはそれでよろしいのでしょうか。
#39
○大森(政)政府委員 ただいまのお尋ね、ちょっと正確には聞き漏らした点がございますが、先日の法制局長官の答弁に関する部分は、この(二)と過去の国会答弁との関係に関する部分であったろうと思います。すなわち、在外邦人の救出を自衛隊が任務として行うことと法改正の必要性との関係につきまして、過去の答弁と今回の取り扱いとの関係に矛盾があるのかないのかという部分に関しまして生じました紛議でございます。
#40
○鈴木(喜)委員 わかりました。それでは、要するに、ここに書いてある統一見解ということについて、このとおりでいいということで話をしていけばよろしいわけですね。
#41
○大森(政)政府委員 そのとおりでございます。
#42
○鈴木(喜)委員 それでは、一つ、二つ伺っていきたいと思います。
 百条の五第一項の授権の範囲内というところの(二)ですけれども、「前記の政令において、前記文言に代表列挙されたものとかけ離れたものを規定することは予定されていないが、」かけ離れているかどうかということを判断するときには、この百条の五第一項というのは「国賓、内閣総理大臣その他政令で定める者」となっているということから見て高位高官であるかのように見えるけれども、高位高官であるか否かという社会的地位にのみ着眼して判断するのではなくて、その者の置かれた状況とか国による輸送の必要性その他諸般の事情を総合して評価すべきである、このように書いてあります。これは、まさにこういうふうに思っておられるのだろうと思うのですが、それでは、この自衛隊法百条の五という規定はもともとどういう場合のものとして規定されたものなんですか。
#43
○大森(政)政府委員 実は、昭和六十一年に自衛隊法に百条の五を追加する改正がなされたわけでございますが、その立法の契機と申しますのは、東京サミットの際導入されたヘリコプター、スーパーピューマ三機による国賓等の輸送の恒常的な体制の整備ということが立法の契機であったことは間違いございません。ただ、当時の立法の契機はまさにそのようなものであったわけでございますが、その結果整備された体制、すなわち百条の五第一項、第二項、これの内容は、そのヘリコプター三機による輸送というものに限定した規定には決してなっていないわけでございます。
#44
○鈴木(喜)委員 決して限定していないということですと、一体どういうことになるというふうに思っておられるのですか。その規定が昭和六十一年に制定されるときの立法趣旨というものについてどのようなものになるか。最初の契機というものと立法趣旨というものと、私はそういう言葉を、その二つを使い分けるということはよくわからないのですけれども、立法趣旨というのと契機というのと、でき上がった法律がひとり歩きして違う意味を持ってしまうのと、そういうことをおっしゃっているのですか。
#45
○大森(政)政府委員 自衛隊法第百条の五第一項の規定をごらんいただきますと、「長官は、国の機関から依頼があった場合には、自衛隊の任務遂行に支障を生じない限度において、航空機による
国賓、内閣総理大臣その他政令で定める者」、これは「次項において「国賓等」という。」という略称を打っておりますが、このような者の「輸送を行うことができる。」そして第二項といたしまして、「自衛隊は、国賓等の輸送の用に主として供するための航空機を保有することができる。」という規定になっているわけでございます。そして、先般来議論になっておりますのは、ここの「国賓、内閣総理大臣その他政令で定める者」というものが、特に「政令で定める者」というものがどの範囲の者をその法律は予定しているのかという、これが唯一の争点と言えるものでございます。
 それにつきまして、今までも何度も引かれて身が縮む思いなわけでございますが、実は、六十一年十二月四日に参議院の内閣委員会で、当時私が自衛隊法改正案の審査部長をしておりまして、第二部長として答えたものがございます。すなわち、久保田真苗議員から、その解釈を示せ、こう言われまして答えました内容は、「先ほど防衛庁から答弁がございましたように、「その他政令で定める者」の内容はまさに政令で定めるわけではございますが、「国賓、内閣総理大臣」という例示、列挙がございます。したがいまして、この例示、列挙されたものとおよそかけ離れたものは予定してないという場合にこのような表現を使うわけでございます。」このように答弁したわけでございます。これはまさに私が答弁したわけでございまして、この「かけ離れたもの」に当たるかどうかということがまさに今回の争点であるということでございます。
 そこで、もう少し時間をいただきたいと思いますが、この「かけ離れたもの」に当たるかどうかという判断は一体どのような基準で行うものであるかということが、この政府見解の一の(二)に書いたものでございます。「前記文言」、すなわち「国賓、内閣総理大臣その他政令で定める者」、こういう「文言に代表列挙されたものとかけ離れたものを規定することは予定されていないが、かけ離れているか否かは、高位高官であるか否かという社会的地位にのみ」、この「のみ」という点を読み落とさずにお願いいたしたいと思いますが、こういう「社会的地位にのみ着眼して判断すべきものではなく、その者の置かれた状況、国による輸送の必要性その他諸般の事情を総合して評価すべきである。」このように考えているわけでございます。これは、かけ離れているかどうかという基準は私が示したわけでございまして、まさに私がこういう意味で使ったものであるというふうに御理解いただきたいと思います。
#46
○鈴木(喜)委員 そうおっしゃられるなら、もしそれが本当にそのとおり心底からそう思っておられるとするならば、これは大変ゆゆしき問題であると思います。ここで出てくる問題というのは、仮におっしゃるようにそれは高位高官であるか否かということのみに着目してやるものではないとしても、しかし、その者の置かれた状況とか輸送の必要性というものは何に照らして考えるのですか。これは立法の趣旨でしょう。まさにこの百条の五ができた趣旨から見て、その中から判断して高位高官であるとかその者の置かれた状況であるとか見るはずなのに、それが全然違う、人道的にあっちの方に飛ばさなければならないというような事情のところまで、日本が孤児になってしまったら大変だとかそういうふうなことから、全然向こうの方から引っ張ってきた理由、この百条の五の立法の趣旨というところとは全く違うものから持ってくる、こういうことが本当にあっていいものだと心の底から、御自分がおっしゃっているから間違いございませんと言われますけれども、本当に法律家として、大変尊敬している法律家であると私は思っています。その法律家として、これをそのとおりにそうなのだと、こういうときに立法趣旨に照らさないで、心の中はこうだったのだというようなことを私のようなぺいぺいの法曹にもおっしゃるのでしょうか。この点、本当に心の底からお聞きしたいと思います。
#47
○大森(政)政府委員 先ほど法制局の職責に関しましてお答えしたところでございますが、事柄が重要で国政に及ぼす影響が大きければ大きいほど、私どもは慎重に、そしてあらゆる観点から十全な検討を、時間を費やして行ってきているわけでございます。本件に関しましても、今述べましたような検討を経た上で可能であるというふうに判断するに至ったわけでございます。
 それは前置きでございますが、先ほど政府見解文書の第一の(一)を述べませんでしたが、この百条の五第一項を素直にお読みいただきましても、「国賓、内閣総理大臣その他政令で定める者」とのみ規定しておりまして、その文言上「政令で定める者」の範囲を限定していないということが、まず今回の検討の出発点なわけです。毎年、特に通常国会には法制局全体としましては百本に近い法律を審査するわけでございます。その中には政令委任事項を含んだ条項もたくさんあるわけでございますが、このような「国賓、内閣総理大臣その他政令で定める者」というように文言上限定をしない場合と、何々その他これに準ずるものとして政令で定める者という場合と、その他これに類するものとして政令で定める者という、いろいろな表現を使うわけでございます。その表現の使い分けによって政令委任の範囲をどこまでとするかということが、その文言上、やはりニュアンスとして違いを区別してきているということを一言申したいと思います。
#48
○鈴木(喜)委員 それでは私は非常に不満なお答えだし、これは問題じゃないかと思います。いろいろな場合がある、限定していない者の場合もあるし、少しずつ限定したような形の表現もある。この立法をされたときにお答えをされていて、ここの部分についてはこういうふうな限定がない「政令で定める者」であるということであれば、これから先無限定に今おっしゃったような形でばっと広がって、今回のあの自衛隊機をイラクに飛ばすというところまで入っているということについて国会でお答えされたのですか。そのときに、この「者」というのは随分広がる問題ですよということを内心に秘めながら、ここでおよそかけ離れたことは予定していませんというふうにもし部長がおっしゃったのなら、これは内心に反することを口ではおっしゃった。国民が信頼している法制局の方として、それは非常に私たちとしては心外で、これから先お任せできない、そういう気持ちになってしまいますけれども、この点どうなんですか。
#49
○大森(政)政府委員 先ほど読み上げました政府見解文書の一の(二)の中で「代表列挙されたものとかけ離れたものを規定することは予定されていないが、」と、「予定」という言葉を使っているわけでございますが、この「予定」という用語は、法改正時において特定の輸送対象が明示的に意識されたり議論されたという意味で用いたものではございませんで、政令委任の範囲内であるか否かについての一般基準としてはそのような考え方によるべきであるという意味で答えたわけでございます。
#50
○鈴木(喜)委員 ちょっと意味不明になってまいりました。予定されているかいないかということは、その前の法律が、自衛隊法の百条の五の改正があったときには予定されていなかったとおっしゃったんですか。おっしゃった意味がよくわからないから、済みませんけれども、もう一度ちょっと。
#51
○大森(政)政府委員 委員お尋ねのことは、昭和六十一年に法百条の五を追加改正した際に今回のような避難民を輸送することが予定されていたのかという御質問でございましたから、いやいや、当時、特定の輸送対象が明示的に意識されたり議論の対象とされたという意味で「予定」という言葉を使ったわけじゃございませんと、このようにお答え申し上げた次第でございます。
#52
○鈴木(喜)委員 ここで議論がされている問題はたくさんあります。自衛隊法を改正すべきじゃないかとか邦人救出はどうしたらいいんだとか、いろいろな議論があるので、ここでは全くサミットだけの問題だということではないと思いますよ。それももちろん違うと思いますけれども、ここで
そういうふうに予定されていないものが、法律ができ上がったらひとり歩きをするんだ、政令で何でもできちゃうんだというようなことになったら、今おっしゃったのは、「その他政令で定める者」と書いてあるんだから、海部総理大臣が素直に読めばと何回もおっしゃる、その素直に読めばというところが非常にひっかかるわけですけれども、素直に読んだら何でも広がってしまう、それが委任命令の一番恐ろしいところでしょう。そういう専制的な政治になり、これから先の法治国家を全部壊してしまうような、一番恐ろしい、危険なところであるという、そこは十分御承知だと思うのですよ。それにもかかわらず、この「政令で定める者」の内容に、立法趣旨にもなかった、予定もされていなかったものを、この(二)のときにはこういうものも入れたっていいんだとおっしゃるのは、非常に理屈に合わないし、それから正義にも反すると思うのですが、いかがでしょうか。
#53
○大森(政)政府委員 もう一度この百条の五第一項の規定の構造をごらんいただきたいと思うのですが、この百条の五第一項の規定の枠組みと申しますのは、決して、防衛庁長官が必要と認めたらその必要と認める者を輸送することができるというような、全くの白紙委任じゃございません。まず、国の機関の依頼を受け、こういうふうに限定しております。すなわち、私人とか地方公共団体からの依頼は排除いたしまして、国の正規の機関の所掌事務の範囲内で依頼が行われた場合に限るという限定をまず加えたわけでございます。
 その次に、その任務の遂行に支障の生じない限度で、こういう要件をかぶせております。すなわち、自衛隊の本来の任務であります我が国の防衛と公共秩序の維持に支障が生じることがあってはならないという歯どめをかけているわけでございます。
 さらに、航空機によりと、すなわち艦船とか車両によることを排除いたしまして、輸送の手段を航空機に限っているということでございます。
 そして、そのような上で、国賓、内閣総理大臣、これは法律で確定的な意思といたしまして、まずこれは輸送の対象とする、その他政令で定める者を輸送することができる、このように非常に限定的な枠組みをつくっておりまして、法律上、もう一度敷衍いたしますと、輸送開始を限定的、受動的なものにする、そして輸送の限度、輸送の手段等を明確に限定した、その上で国賓、内閣総理大臣以外の者は政令で定めることができるというふうにしているわけでございます。
 そして、先ほども申し上げましたように、委任文言は文言上特に制限をしてないわけでございますが、やはりこういう規定ぶりの場合には代表列挙されたものとかけ離れたものは予定してないものと解すべきであるという、解釈上の限定を加えているわけでございまして、そういう態度について何ら非難されるべきところはないんではなかろうかというのが私どもの考え方でございます。
#54
○鈴木(喜)委員 一体それは何を意味しているのか、さっぱりわからないお答えになっていると思います。非常に不思議な答えになっていると思いますがね。
 ここで言うのは、今さっき委任のときに、委任命令というものについての限界というものの中で、臨機に措置する必要が予想される場合ということがありますね。そういう場合でなければ委任できないというふうにおっしゃいましたよね。この問題について、そのときに臨機に措置する必要が予想されるということが立法当時にあったのか否か。これはなかったと今おっしゃったと思うのですよ。そして、そこで議論されたことについては、質問の中で出てきたものは、在留邦人を救出しなくちゃならない、そういうような場合にどうかというような形で来て、これを明確に否定されている。そういうことでしょう。それ以外に臨機に措置する必要が予想されるなんて、現在じゃないのですよ、立法の当時にそういうことが予想されてもいないものを、後になってから現在ということで考えるというのは、法律をひとり歩きさせるし、しかもそれについて後からどこまででも広がってしまう、その時の政府の考えによって広がってしまうという、非常に大きな問題を持っていると思います。
 ここばっかりやっていると時間がなくてあれなので、もう一つの方に進みます。しかしこの点、もうちょっと部長もう一度考え直していただきたいと思うのです。心の底で本当に法律家として良心に恥じないかどうか、この点考えていただきたいと思います。
 それでは、統一見解の二の「過去の国会答弁との関係について」という方でちょっと伺わせていただきたいと思います。
 ここで、過去についていろいろ避難民の輸送ということについてはどうだこうだということが書いてあるわけです。結局は、在外邦人の救出については明確に否定された。しかし、そうでなくて今回の場合には湾岸危機という問題だからだと、避難民というのはまた違う人道的見地があるんだとおっしゃっているわけですけれども、一つの方、明確に否定されている方は、一般的な自衛隊の任務として恒常的に行わせるためには、法律上任務を付与する明確な規定が必要であろう、そういうふうに答弁しているんだよと何回も何回もおっしゃっていると思うのです。それで、もう一個の方は、そうじゃないんだ、恒常的じゃなくて、臨時応急の措置だから、だからいいんだ、何かそんなようなことをこの統一見解というのは言っているんじゃないかと思うのですが、まず第一に、臨時応急の措置としての輸送というのは自衛隊の任務ではないのですか。
#55
○大森(政)政府委員 ただいま委員御指摘のとおり、政府見解文書におきましては、過去の、在外邦人の救出を自衛隊が任務として行うことと法改正の必要性との関係につきまして、自衛隊法に自衛隊機による国賓等の輸送の規定を加えるための同法改正案を御審議願う際等に、自衛隊に自国民の保護としての在外邦人の救出を一般的な任務として恒常的に行わせるためには、法律上任務を付与する明確な規定が必要であろうという趣旨の答弁が何度もなされていることは、これは間違いございません。
 ただ、一般的な任務として恒常的に行わせる、こういう言葉の意味をまず御理解いただきたいと思うのでございますが、これは、邦人救出という限りは、それぞれの場合については緊急事態の対応措置として行われることになるのでありましょうけれども、そういうことを予想いたしましてあらかじめ一般的にこれに対応し得るような仕組みを設けるという趣旨でございます。そのような一般的な仕組みをあらかじめ設けておくというようなことならば、やはり法律上任務を付与する明確な規定が必要であろう、すなわち、百条の五第一項の政令で在外邦人という規定をすることはできないんではなかろうかという趣旨でございます。
 それに対しまして、今回行おうとしております自衛隊機による避難民の輸送、これは、この文書でも書いておりますように、湾岸危機という我が国にとっても重大な緊急事態に伴って生じた避難民につきまして、国連の委任を受けた関係国際機関の要請を受けて、人道的見地から臨時応急の措置として行うものでありまして、このような避難民というものは、先ほどのかけ離れているかどうかという基準に照らしますと、国賓、内閣総理大臣とかけ離れた者であるということはできない。したがいまして、このような個別具体的な事態に対する臨時応急の措置としての輸送というものは、法百条の五第一項が予定する範囲内のもの、すなわち法律による授権の範囲内のものであるというのが私どもの考え方でございます。
#56
○鈴木(喜)委員 これはまた、本当にもし、部長おっしゃっているんだったら、それを文章に書いて、新聞にでも何でも公表されて、御自分の名前をつけて出せますか、法律家として。本当に私はそれはびっくりしてしまいますけれども、立法趣旨というものの中に、臨時応急措置を人道的見地からなんということで決めたということがあるのですか。もしあるんだったら、この六十一年の百条の五の改正のときの大綱なり案なりを見せてい
ただきたい。その中の立法趣旨というものにそういう言葉が一つでも二つでも出てくるものなのかどうか、これを見せていただきたいし、それを、今おっしゃったような形で、こういうふうにここはこれで範囲内だ、がばっとすぐに広がるんだ、人道と言えばいいんだ、国連と言えば何でも、何も国連は水戸黄門のこういうお札じゃないんですよ、そういうものじゃなくてそれを言えるということは、法治国家というものと人道上の問題だということと混同したような議論を法律家としてされるということ自身、一体どう思っておられるんですか。
#57
○大森(政)政府委員 お尋ねは、法百条の五第一項では、臨時応急の措置とかそういう文言はどこにもないではないか、しかも法改正の際にはそのような議論がなされていないではないかということであろうかと思いますが、私どもの申し上げているところは、法百条の五第一項で臨時応急の措置というようなものが書かれているからとか、当時そういうことが議論されたからということを理由にしているわけではございませんで、また政府見解文書に戻って恐縮でございますけれども、要するに「国賓、内閣総理大臣その他政令で定める者」というのは、国賓、内閣総理大臣とおよそかけ離れたものは予定してない、かけ離れてないものは予定されている、そのかけ離れているかどうかの当てはめとしまして個別、具体的な今回の避難民というふうに限定いたしますと、国賓、内閣総理大臣とかけ離れてはいないと評価できるんだというふうに申し上げているわけでございます。
#58
○鈴木(喜)委員 そんなふうなことでは、法律というものは、でき上がったときに、その立法趣旨というものに返って解釈をするものだと私は承知しています。そうしてその中で、ここのところは一体どういうもののためにつくられた法律なのか、その範囲から見て「政令で定める者」がこの範囲であるということを決めるのであって、おっしゃっていることの内容が、そこまでは大森さんもおっしゃっているのですよ。部長もそういうふうにおっしゃっているんだけれども、そこから先がもやっと違ってしまって、この統一見解の文章のとおりの読み上げになってしまわれる。これは、法制局の中でそういった意思統一で、これ以上のことがおっしゃれないというお立場があるのかもしれませんけれども、しかし、法律家の良心に私は訴えたい。法務委員会なんですからそのぐらいのことを私も言わせていただきたいと思うのですけれども、こういうふうなことでこの法律案というものを、法律家の、本当に専門の方がそうおっしゃり、しかも六十一年の立法当時に政府委員としてその回答をされて、そこの中で、そのままの言葉で言えば、「列挙がございます。」「およそかけ離れたものは予定してないという場合にこのような表現を使うわけでございます。」と言って、およそかけ離れているかかけ離れていないかの議論が、ここで言うような非常におかしな議論を今何回も申されました。こういうことをされるようでは、法治国家としての前途が非常に真っ暗になってしまうというふうに思います。これを司法の判断ということにゆだねるということになっても、事件性の原則、または裁判についても時間がかかる、そういうことで、現在の緊急には間に合いません。これをずっとやっていったとして、十年たったってそのときに海部内閣があるわけないわけで、そういうふうなときにこの問題に判断が出て、違憲だ違法だというのが出たとしてももう遅い、全部飛行機は飛んでしまう。そういうふうになってからでは遅いということです。
 私は、もうここでは法制局に申し上げます。この問題については、これを撤回してほしい。この政令については撤回を必ずしてほしいという要望を強く申し上げて、私、時間が来たので、ここで終わらせていただきます。
#59
○伊藤委員長 岡崎宏美君。
#60
○岡崎(宏)委員 社会党の岡崎宏美でございます。今回初めて法務委員会に所属をさせていただいて、皆さんと一緒に仕事をさせていただきます。どうぞよろしくお願いをいたします。
 きょう私は、大臣の所信表明の中でも触れられております、外国人労働者の問題に絞る形でお尋ねをしていきたいと思います。
 先ほどからも人権あるいは人道上の問題という言葉が飛び交っておりますけれども、ぜひそういう立場で率直な御意見を伺いたいと思っております。
 今、外国人労働者の問題というのは大変大きな課題になっております。受け入れをめぐりまして、非常に積極的な意見と逆に消極的ともいえる意見と、大きく二つに分かれて論議がされているように思うのですが、どちらにしましても、そのどちらの意見の中にも、今抱えている問題点が大変多く浮き彫りにされていると思うのですね。私はきょうは、いかにして外国人労働者の人権を保障をしていくのか、そういう点で、これはひいては我が国の労働者、日本人の労働者の人たちの保護にもつながっていくことになると思いますので、お尋ねをしていきたいと思います。
 まず、昨年の十二月に国連で、移住といいますか、移民労働者及びその家族の権利の保護に関する国際条約が採択をされました。新聞による報道でしか実は私たちその中身が余りわからないわけですが、その報道では、日本は、反対というところまでは言わないけれども、条約の内容には非常に問題点が多いので批准をしない方向である、こういうふうに出されておりました。この点、どうなのかということをまずお尋ねをしたいと思います。
#61
○角崎説明員 お答え申し上げます。
 移住労働者及びその家族の権利保護条約でございますが、日本政府としましては、その条約の理念そのものは評価できるというふうに考えておりますが、ただ、その目的を達成するために必要な限度で、既存条約との整合性、他の国民や外国人の人権、利益との調和、国家が有する正当な利益とのバランス、こういったものに十分配慮される必要があるということで、この条約の審議過程におきましては、雇用国側は今申しましたような観点からの問題点を指摘したわけでございますが、圧倒的多数の送り出し国側の要求に雇用国側が押し切られたような形になってございます。
 我が国に関しましても、やはり条約を締結する場合には、移住労働者が国民あるいは移住労働者以外の外国人よりもかえって優遇される結果となり、平等原則との問題が生ずる可能性がないか、あるいは我が国の基本的な労働政策、出入国管理政策等々国内諸制度との関係においても問題にならないか、こういうことを十分に慎重に検討する必要があるというふうには考えております。
#62
○岡崎(宏)委員 私お尋ねしたいのは、批准をしない方向であると新聞には書いてありました。今の中でもいろいろ、こういう点について考えていかなければならないという点はお話がありましたけれども、具体的にどんな問題点があるというふうに現在のところは考えていらっしゃるのか。私は国民以外の人たちの方が優遇されるというふうには考えませんけれども、そのあたり、具体的に問題点として掲げていらっしゃることをお聞きをしたいと思います。
#63
○角崎説明員 お答え申し上げます。
 問題点は、今指摘しましたようなところが幾つかあるわけでございます。具体的にどの条項がどうなのかということにつきましては、関係国内法令等さらに慎重に検討する必要がございますので、今ここで具体的に申し上げる段階にはございません。
#64
○岡崎(宏)委員 くどいようなのですけれども、私たちは、特に議員というのは、あらゆる資料をいただいて、そして問題点があるとすればどういうふうに改善をするのかということを考えるのは、これは省庁の皆さんと同じで、やはり仕事として持っております。外国人労働者の問題、いかに労働力を受け入れるかということも含めまして、今いろいろな方面から声が出ているわけですから、現在答えられる状況ではないということではなくて、それぞれの省庁で問題となっている主
な部分だけでも結構ですから、ぜひお答えをいただきたいと思います。
#65
○角崎説明員 お答え申し上げます。
 我が国が国連総会におきまして本条約を採択いたしましたときに行いました立場説明がございます。その中で我が国は、この条約につきまして、我が国は移住労働者及びその家族の権利保護を目的とする本条約の理念そのものは評価できる、しかしながら、移住労働者問題は各地の地域的状況や歴史的態様がさまざまであり、条約は、各国が、特に労働者の送り出し国のみならず受け入れ国も受け入れられるような現実的、弾力的な内容であるべきであるというコメントをしております。さらに、本条約には次のような問題を有する規定があるということで、以下述べております。移住労働者及びその家族に対する保護が、雇用国の国民あるいは他の一般外国人以上の待遇となる可能性を払拭できず、平等原則との関係で問題が生じる可能性のあるもの、二つ目に、国内の労働市場の健全なメカニズムを維持するための労働政策に抵触するおそれがあるもの、それから、違法に入国した者の地位を合法化する可能性を有する等、本来、原則として主権国家の裁量事項である出入国管理制度上問題のあるもの、それから、刑事手続、選挙制度、教育制度、社会保障制度等の法制度に抵触するおそれのあるもの、さらに、実現に国家の積極的施策を要するため、各国の行財政事情に大きな負担を与えるもの、こういったような点を指摘してございます。
#66
○岡崎(宏)委員 では、少し質問を変えてお尋ねをしてみます。
 実は、私たちまだ外務省から統一的なこの条約の日本語の全訳というものをいただいておりません。ですから、その一つ一つを取り上げて今問題だというふうに指摘をされた部分について、細かい論議ができない状態であります。ただ、お伺いをしている中でも、こちらから考えれば、国民以外の人の方が優遇されるとか、大きくは不法就労そのものを認めていくことになるのじゃないかとか、こんなことを挙げられておりましたけれども、そういう形にはならない、むしろ大変劣悪な労働条件を生まないための前提としてこの条約は生かされていくべきものではないかと思うのですが、そのためにも日本語の全訳というものをぜひお示しをいただきたいと思うのですが、今どういう日程になっているでしょうか。
#67
○角崎説明員 訳文の点でございますが、一般的に申しまして、条約の日本語訳というのは、条約の締結作業の過程で作成するということにしておりまして、現在のところ本件条約について訳文を政府として作成する予定はございません。
#68
○岡崎(宏)委員 予定がなければ、問題がありますと言われても、私たちはその問題点を細かく検討することができません。これは責任ある省庁として問題があるのではないかと私思いますけれども。
#69
○角崎説明員 今申しましたとおり、一般的に条約の訳文の作成、公表につきましては非常に慎重な態度で臨むということになっておりまして、訳文の公表につきましては、確定した訳文ができていない段階では公表を差し控えるというふうになっております。
#70
○岡崎(宏)委員 各省庁がそれぞれ勝手に訳文を出すと例えば微妙に解釈の違う訳ができるかもしれない、それを個別に検討するということであれば問題あるでしょうけれども、それを統一する形で外務省が、広く、例えば国会の中でも議論をしてもらうために、させるために統一的な訳文を出すということは何も問題がないと思いますけれども。
#71
○角崎説明員 お答え申し上げます。
 訳文の作成というのは、その解釈等にも絡むものでございまして、非常に慎重な配慮が必要でございます。したがいまして、訳文の発表というのは、そういう解釈等も十分固まった段階で、慎重にも慎重の上に考慮を払った後で発表するというふうになっております。
#72
○岡崎(宏)委員 しかし、現実に不法就労をしている外国人の方も含めて、特に外国人労働者の方が多いと言われる現場は、日本で言うところの三Kと言われるような職場です。非常に問題も起こっております。そのための改善策も要求をされております。そして、多く批判をされている点は、日本は経済的には非常に大国であるけれども、人権的には非常に小国である、こういうことが言われております。
 また、先ほど来いろいろな論議がありましたけれども、最近政府は事あるごとに、国連中心主義でやっていきます、こういうこともお話しをいただいております。国連が多くの国の賛成で採択をした、しかも人権にかかわる条約を、では我が国はどう対応するかということを論議をするまず一番の踏み台として訳文も出さないということは、どんなに説明をいただいても、最初から批准する気がないから出したくない、こういうふうに受けとられてもやむを得ないのではないでしょうか。
#73
○角崎説明員 また繰り返しになりますけれども、先ほど来申しておりますように、訳文の作成、公表というのは非常に慎重な配慮が必要でございまして、解釈等固めた上で訳文を出すということになっておりますので、今の段階で訳文をお出しすることはできないということでございます。
#74
○岡崎(宏)委員 法務大臣にお尋ねいたします。
 国民は、法務省あるいは法務大臣というものを見るときに、法を広く皆さんに知っていただく、そして法のもとでいろいろな治安をしていく、そういう仕事と同時に、広く人権を守っていく、確立をしていく役所であり、そしてその責任者である大臣である、こういうふうに受けとめております。それは日本の国籍を持たない人でも、日本にやってきて働く人から見ても、頼っていく場所はやはり法務省であり法務大臣ではないか、恐らくそんなふうに受けとめていると思いますが、この外国人労働者の人権を守るという立場から、大臣としても、外務省の方に日本語の全訳というものを早く出してほしい、こういうふうに働きかけをしていただけないものでしょうか。
#75
○左藤国務大臣 この条約というものに対しましては、これは日本の立場を国際的にそこでいろいろ意思表示をして、そしてそれに対して締約すれば、これは当然守らなければならない性格のものであるわけです。そういう意味での日本の立場というものを十分用意をしてから、今お話がありましたように公表をするとかいうような問題があろうかとも思いますけれども、今お話しのように、日本にはたくさんの外国人の労働者を初めとしてたくさんの外国人が居住し、また入国しておられるわけですから、そうした人たちの人権の擁護という見地から見ますと、今お話しのような問題をなるべく早い段階でひとつ日本の方向を決めて、そしてその上で対処すべきものだ、このように考えます。
#76
○岡崎(宏)委員 早く出してほしい、そういうことを言っていただいてありがたいと思うのですが、方向性を決めてから出すのではなくて、方向性を決めるために、その土台として人権というものを無視はできないから早く訳を出してほしい、これが私の希望でございます。それは、私だけではなくて多くの皆さんの希望であると思いますし、そういう意味で、人道上だとか人権だとかと言われる、それを裏打ちをしていただくためにも一日も早い日本語の全訳を出していただきたい、このことをあえて申し上げたいと思います。
 実を言いますと、それがないからというふうに言ってもいいんじゃないかと思うのですが、今特に問題になっております、不法就労をしていると言われる人たちの問題がございます。どうしても取り締まりが中心になっていて、いろんな摘発があったりしても結局は、言い方はよくないんじゃないかと思うのですが、いるべきはずでない人がいるんだ、そういうところで問題を終わりにして、強制的に退去させていく、そこでどうも終わりになっていってしまっているんじゃないかと思うのです。これは、外国人の不法就労者の場合であっても、一人の生きている人間として享有できる人権というものは享有をして当然である、享有して
いくことが当たり前である、私はこのことをいろんな積極的な対応策としてぜひお願いをしたいと思います。
 次に、お尋ねをいたします。これはいろいろな方から要望の声も上がっているんじゃないかと思うのですけれども、公務への外国の国籍の方の就労、あるいは参政権が今与えられていないことについて、おかしいのじゃないか、国籍条項を外していくべきではないか、そういう声があると思うのですね。特に今、年金だとかそういう社会福祉の関係の中では、国籍の要件を法律の中から外していく、そういう方向があります。ところが、いろいろ私たちも御意見いただいて調べてみますと、公務員への採用の要件の中に国籍が入っている。各県の教員の採用要件に国籍条項が入っているのは、どうやら後になってついたという部分が見受けられます。これはむしろ後ろ向きなのではないかと思うのですが、そこら辺はいかがでしょうか。教員だけに限らず。──それじゃ、ちょっと質問を変えます。
 公務員の場合は自治省ではないか、教員の場合は文部省ではないか、恐らくそういうことで悩んでいただいているのだろうと思いますが、それは一つ一つの詰めの段階でそういう問題があったとしても、国籍によって差別されることがあってはならないという、これは憲法の中にもきちんと位置づけられていることですが、その憲法に反するのではないかという声が、国籍によって例えば公務員、例えば教員という形でそれは採用されないというのはおかしいのじゃないかということに関してはどうでしょうか。──皆さんうちの主管じゃないからということで恐らくお答えにならないのだろうと思いますが、これは非常に、普通の国民の感覚といたしまして、国籍によって差別してはいけないという条項がある以上、それに反する部分があるのではないかという疑問に対してですから、法務大臣にお答えをいただきたいと思います。
#77
○左藤国務大臣 確かに憲法の十四条にそうしたことで人種というものも項目の一つに入っておりまして、それで差別があってはならないということが規定があるわけであります。このことにつきましていろいろと、今まで外国とのいろいろな関係とかというものがあったりしまして、まだそういう点で日本が完全に、今おっしゃったようなことで憲法のそのままを適用されておるということにはなってないという現状というのは確かにあると思います。そういうようなことで、いろいろ外国との交渉の段階とかそういうふうなものを含めまして、将来の問題として考えていかなければならないことではないかと思います。
 特に、今回韓国との間の問題につきましても、そういった点につきまして、教員の採用の問題とかあるいはまた自治体におきます公務員の採用の問題とかいうことについてそういった点を広げていったわけですけれども、今国内のいろいろな状況とか客観的な情勢とか、そういうようなものとの兼ね合わせでなかなか一挙にそういったところまで進んでいないというのが現状じゃないかな、私はこのように思います。
#78
○岡崎(宏)委員 今すぐにということではなくても、今お答えをいただいたような立場で、将来に向かって、できるだけ近い将来に向かって国籍による差別がなくなるように、ぜひ具体的な検討を進めていただきたいと思います。その過程の中で、私たちもやはりいろいろな意見を述べさせていただきたいと思いますし、つくり上げていきたいと思っています。
 次は、労働省の方にお尋ねをしたいと思うのですが、実際の問題として、多くの外国人労働者の方が現場に労働従事しています。最近マスコミの取材なども非常に多いのですが、非常に劣悪な労働条件の中で働いている、そういう様子が報道されています。監督官庁として職業安定所や労働基準監督署などがその現場をチェックをするということがあると思うのですが、どういう体制で違反の状態などチェックをされているのでしょうか。
#79
○山中説明員 私ども、不法、合法を問わず外国人の増加に対応するべく、労働条件等についていろいろな問題が起こっておりますので、労働基準監督機関、特に監督署あるいは安定所等で特に事業主に対する指導、労働基準法は不法就労であると否とを問わず適用がありますので、そういう問題について、私ども監督機関としては的確な監督指導を実施しておりますし、もし重大、悪質な事案については、厳正に対処をすることといたしております。
#80
○岡崎(宏)委員 実際日本人の労働者の問題に限っても、問題ありとされる職場について監督署や安定所はどんな体制でやっていますか、十分ですか、そういう質問をいたしますと、人員も非常に少なくてなかなかきちんとした摘発ができません、こういう答えをよくお聞きするのですが、外国人労働者の問題も含めてということになると、実際どうなんでしょう。
#81
○山中説明員 私ども労働基準監督機関ですので、監督官は一定の財源等の事情もありまして必ずしも十分に増員がなされているわけではございませんが、年々増員を図って、そういう労働者の労働条件保護という観点から全力を尽くして仕事をさせていただいております。
 特に外国人の問題については、私ども全国の主要な労働基準局に外国人労働者相談コーナーを設置いたしまして、外国語がしゃべれる専門の相談員を配置しておりますし、特に外国語のパンフレット、例えば英語、スペイン語、ポルトガル語、中国語、韓国語も含めたそういうパンフレットをつくって、外国人労働者の労働条件について相談に応じているというような体制にあります。今後とも、私ども外国人労働者についての相談、指導体制の整備については引き続き努力してまいりたいと考えております。
#82
○岡崎(宏)委員 そういう体制の中で今現在どのような実態をつかんでいらっしゃいますか。
#83
○山中説明員 具体的全容については私ども今ここに数字を持っておりませんが、例えば労働災害の問題につきますと、平成二年一年間で見ますと、労働災害で被災した外国人労働者は二百四十四件ございます。また、外国人労働者から賃金不払いということ等を理由として労働基準監督官に申告があった件数は百七十件、これは合法の人も含めての数でございます。そのような実態でございます。
#84
○岡崎(宏)委員 労災で二百四十四件、賃金不払いということで百七十件、まだ上がってこない数字も大分あるのだろうと思うのですが、上がってきたこの事実に対して、その後監督官庁としてどういう処理をされているのでしょうか。
#85
○山中説明員 例えば労働災害につきましては、この間栃木のイランの少年があれになったようなことで、一方で労災補償という形で補償をさしていただいておりますし、労働基準法違反ということで、厳正な処分をさしていただいておるというような形で事後処理をいたしております。
 それから賃金不払い等につきましても、事業主に対して賃金を払うように是正勧告等々を行って、実際上是正をさしております。
#86
○岡崎(宏)委員 不法就労だった人が対象の場合、どういうふうな処理になっているのでしょうか。
#87
○山中説明員 労働基準法は、合法、不法を問わず適用されますので、そこに差別はございません。
#88
○岡崎(宏)委員 実は私ちょっと気になったものがあるのですが、不法就労の人の場合、その摘発された事件が違法であればそれを是正するようにと言うことは当然なのですが、労働者本人に対して、その摘発をされた時点で不法就労であるということが明らかになるわけなんで、その後の手続としては、強制的な国外退去ということに一般的になると思うのですね。
 労働省で、一九八八年一月労働省労基局長、職安局長通達ということで「外国人の不法就労等に係る対応について」、また一九八九年七月二十五日の職安局長通達「職業安定行政における外国人労働者問題への対応について」、この中で、不法就労者に日本の労働法令は適用されるけれども、
しかし出入国管理当局の方に通報をする、こういうことが出されているわけですね。私は、さっきおっしゃった数字よりももっと多いものがあるのではないかと思う中で、不法就労と知りつつも働いている人がたくさんいる。さらに就労継続をしたい、こういう人たちの場合は、言っていくと不法就労であることが発見をされて戻されるので、ひたすら隠れているといいますか、泣き寝入りをしている、こういう状態があるんじゃないだろうかと思うのです。この通達というのは、人道上ということをおっしゃるならば随分問題があるのではなかろうかと思うのですが、どうでしょうか。
#89
○山中説明員 不法就労者の方から申告、相談等々、私どもいろいろな形で受け付けております。恐らくその場合、先生おっしゃるように、そこに行っちゃったら通報されて帰らなきゃならないのじゃないかということがあるかどうか、私もよく承知しておりませんが、いずれにしても私ども、出入国管理法に基づきます不法就労防止に努めなければなりません。
 ただ、私どもの、労働基準行政が中心でございますが、業務運営に支障を招く場合もあろうかと思います。具体的に私ども情報提供を行うかどうか、法務当局、出入国管理当局については、私どもの業務運営の影響と、それから出入国の不法就労防止という観点とを比較考量して、個別に判断して対処させていただいております。
#90
○岡崎(宏)委員 私は、これは公務員として、労働省の皆さんがつかんだ事実、今業務の運営上の問題もおっしゃっておいででしたけれども、実際に起きた事件について改善をさせていく、あるいはその補償をさせていく、最低限その部分に要する期間だけでもやはり該当する本人が安心していられるような、そういう状態をつくるために、ぜひここの部分は見直しを進めていただきたいと思うのです。
 それともう一つ、これは法務大臣にお尋ねしたいのですが、それを私、さっきのことがずっと気になって調べていて、入管法の中に、一般の人があの人不法就労じゃないかしらという、こういうちょっと変な人いるんだけどという、言い方は悪いのですが、そういう通報をした人に対して報償金が、何か大臣から出るとかどうとか、そういう部分があるということを私聞いたのですが、それは本当でしょうか。
#91
○股野政府委員 入管法の六十二条に、入管法の違反状態にある外国人を知った一般人が当局にその旨を通報することができるという条項がございまして、その関連でそのような通報をいたしまして、その結果として退去強制令書が発付をされたという場合には、法務大臣は法務省令で定めるところによりまして報償金を、これは五万円以下の金額ということになっておりますが、交付することができるという規定になっております。
#92
○岡崎(宏)委員 私はこの部分というのは、今横からもちょっと声がありますように、密告を奨励をするという、これは人権上の問題として、人の人権を切り捨てていく結果をもたらすような法じゃないかと思うのですね。非常に問題があると思うのですが、法務大臣、いかがでしょうか。──大臣にお答えいただきたいと思うのですが。
#93
○伊藤委員長 まず最初に……。
#94
○股野政府委員 法律の内容になりますので、事務的な点の御説明を申し上げたいと思いますけれども、ただいまのその通報の対象となる事項は、これは入管法上退去強制の該当者としての状況になった者、これを通報することができるということでございまして、したがってこの場合には、退去強制の条項には不法入国の者もあり、また不法上陸の者もございます。そういうような情報がございましたときに、現に例えば外国から日本に某夜密かに不法入国をした人が一般人によって発見されて、その結果この不法入国者が当局によって摘発ができるというような状態、これはやはり出入国管理行政上の非常に重要なポイントでございますので、その意味での退去強制にかかわるような法の違反状態を発見した場合に、一般人の協力を得る。特に出入国管理の場合には、日本の場合、例えば海岸線が非常に長うございまして、そういうところで某夜密かに不法上陸、不法入国をしてきたというような人たちについての発見があるということは、出入国管理の上からも意味のあることでございますので、そういう点を踏まえた条項でございます。したがって、この条項についてはそれなりの理由があっての運用、そしてまたその規定が設けられると御理解いただきたいと思います。
#95
○岡崎(宏)委員 大臣にもお答えいただきたいと思います。
#96
○左藤国務大臣 今のお話は、結局法秩序を確保するという一点と、それから人権との評価のどちらを重視するか、こう言いますか、そういうふうな問題じゃないかと思いますが、個人の人権というものは守られなくてはならなくても、やはり一つの法秩序というものの中で人権というものは守られなければならないということだろうと思います。そういう意味での一つの法律だと思いますので、今局長が御説明申し上げたような段階でまだあるわけなんでして、もしそういったことがなければ私はそういったことまでしなくてもいいのじゃないかと思いますけれども、現段階においてはまだそういった法秩序を確保するという基本的な問題が確保されがたい点があるからそういった規定があるのじゃないか、私はこのように考えています。
#97
○岡崎(宏)委員 法を守らなければならない、こういう問題と、その法は人の生きていくための権利を守る上でどうあるべきかという問題と、これは両方見ていかなければならないと思うのですが、私は、特に人権というものを考えていただくときに、人権を守るという立場で法を見直すということは忘れてはいけないことだと思います。やはりこの入管法の六十六条、報償金を出すというのは、今いろいろなところで不法に入ってきた人以外の外国人の人たちを見る日本の人たちの意識、あるいは昨年、前の法務大臣の発言なんかにもありましたように、やはり人種によって差別をする感覚というのは非常に強いですから、そういう中で、変な人がいるのじゃないか、こういう物の見方をなくしていくためにも、ぜひここのところは見直しをしていただきたいと強く要望をいたします。
 最後に、ちょっと別の問題なんですが、もう時間がありませんので、非常に気になっている問題がございまして、お尋ねしたいと思うのです。
 これはごく最近のニュースで見たわけですが、東京の綾瀬で母子の殺人事件があった。それで当時中学生の少年三人が逮捕されて身柄拘束をされた。しかし結果的に、無罪という言い方はしないそうですが無罪の結果が出た。その後、少年法で言う不処分決定ですか、そういうものを受けた者に対して、補償を請求したときにだめだという決定がされた。憲法四十条から具体的請求権が生まれるものではない、新聞ではこういう報道がされていますが、裁判でそういう決定がされたということを聞きました。ただ、私この部分余り自分でもよく承知をしませんので教えていただきたいとも思いますし、これからの少年の刑事補償について考えていく上でお答えをいただきたいと思うのですが、確かに身柄拘束をするということでは大人も子供も同じに扱われる、しかし後の補償の問題になると、大人の場合は刑事補償ということで請求できるけれども子供の場合にはそこにはまらないからできないということでは、法のもとみんな平等であるという考えからいくと随分ずれているのではないか、そんなふうに考えますので、ちょっと考え方を教えていただきたいと思うのです。
#98
○井嶋政府委員 お答えいたします。
 委員御指摘のとおり、同じように身柄を拘束されておるという実態を前提といたしますと、確かに奇異だというお感じをお持ちになるだろうと思います。ただ、大人と子供とで区別しておるというような言い方もされましたけれども、実はそうではございません。刑事補償法という法律によりましてこの補償をするわけでございますけれど
も、刑事補償法に書いておりますことは、要するに、これは少年の場合でも当てはまるわけでございますが、刑事裁判手続、つまり検事が起訴をし、立証をし、被告人、弁護人が防御をするという当事者構造の中において裁判所が、いわば俗な言葉で言えばシロクロをはっきり決める、そういう刑事裁判によって無罪という裁判がしかも確定をした、今後二度とこの事件については一事不再理という原則で処分ができない、こういうような形で終結したものにつきまして、その勾留についての補償をしようというのが刑事補償法の考え方であり、憲法四十条の考え方もそういうものだというふうに理解をされておるわけでございます。
 ところが、委員御案内のとおり、少年の家庭裁判所における審判と申しますのは、一言で言えば保護処分と申しまして、少年の保護を目的とする処分でございまして、実際に罪を犯した少年だけでなくて、将来罪を犯すおそれのある少年といったような者もこの審判の対象になるわけでございます。そういったところから考えますと、家庭裁判所において行っております少年の審判というのは、少年の育成の上でどういうふうにするのが一番いいのかという観点から、むしろ少年という人格を対象にして行っておる手続でございまして、その事実があったとかなかったとかいう、そのシロとクロを決めるという手続に向かって行われておる手続ではないわけでございます。
 ただ、御指摘のように、その中で審判不開始という処分がございます。これは非行事実なしといったような前提で行われる処分というふうになっておるわけでございますけれども、実はこの処分につきましては、今申しましたように刑事裁判におけるような当事者構造でやっておるんではなくて、あくまで裁判官が職権的にやっておるということで、検察官も関与しないという形の手続のもとで進められております。かつ、決定につきましては上訴もできません。またさらに、つまり確定がありませんから、したがって一事不再理という原則も働きません。将来また同じ事実で処分が行われることも可能であるという意味におきまして、最終的に非行事実がなかったということが法律的に確定されたわけでもない、こういう構造になっているわけです。そういったところの違いから刑事補償法上の補償ができないというのが現在の建前ではございます。
 ただ、そうは申しましても少年の人権保障に欠けるところがあるではないかというような御批判もございます。そこで少年法の改正問題の一環として、私どもの方でいろいろ過去に検討しております。現在少年法の改正問題として、昭和五十二年に中間答申をいただきまして、その中で少年につきましては、不開始という決定をした場合はその決定をするということをまず書こう、そうすることによって無罪という裁判と同じような形は公認される、公に認められるとすれば、それを受けて刑事補償法に乗っけることは可能ではないのかといった議論がございまして、少年法全体の改正の中で問題として検討されておるわけでございますが、少年法全体の改正問題がなかなか進まないというのはまたいろいろ説明に時間がかかりますけれども、いろいろ難しい問題がございまして、なかなか進んでいない。しかし私どもは、大事なことであるので少しでも前進させるべく努力をしたいと考えておるわけでございまして、そういった背景にその手続の違いと申しますか、その辺があるということを御理解いただきたいと思います。
#99
○岡崎(宏)委員 シロクロをはっきりさせないという状態というのは、逆に言うとその少年の時代の罪というものをそのまま何か引きずっていくような場面が出てくるんじゃないか、ちょっとそんな心配もするんですけれども、いずれにしても今回起きたこの出来事というのは、やっぱり国の機関で起きた出来事に対して、少年とはいいながら、しかし身柄拘束されることによって受けたいろんな痛みに対して国が補償をするということは、これは大人であれ少年であれ同じように考えていくべきではないかと思いますし、ぜひそこの視点で改正に向けて取り組みをいただきたいと思います。
 それと、私さっき質問の途中で劣悪な労働条件と言ったつもりが、劣悪な労働者というふうに言ったんじゃないかという御指摘がありました。劣悪な労働条件ということですから、よろしくお願いいたします。
 質問を終わります。
#100
○伊藤委員長 はい、わかりました。御苦労さま。
 午後一時に再開することとし、この際、休憩いたします。
    午後零時五分休憩
     ────◇─────
    午後一時開議
#101
○伊藤委員長 休憩前に引き続き会議を開きます。
 質疑を続行いたします。小森龍邦君。
#102
○小森委員 それでは、私の方から午前中に引き続きまして質問を申し上げたいと思います。
 まず、左藤法務大臣の所信表明をお伺いをいたしまして、従来の所信表明の型とは少し違いまして、大体やるべきことを隠さずに言われておることを、重点目標等も我々議員の立場からわかるような所信の表明をしていただきまして、従来とは少し、一味違ったものを感じ取らせていただいておりまして、その意味において敬意を表しておきたいと思います。
 まず、法務大臣が表明をされております事柄について、先ほどもその言葉は出てまいったわけでありますが、法の秩序の維持ということで、我が国の法秩序の維持ということでは何といいましても憲法の精神が本当に守られておるかどうかということが最大の問題でございますので、本日は後ほど、そういった問題につきましても私の考えておることを申し上げて、さらに所信を突っ込んでお尋ねをしたい、こう思っておる次第であります。
 まず冒頭に私のお尋ねしたいことは、その憲法問題に入ります前に、法務大臣の方からの考え方として出ております、最近の犯罪の状況について、非常に複雑となり、多様化し、悪質巧妙化し、広域化、国際化の傾向がある、こういう分析をされておるわけであります。それの分析に対しまして、いわばその原因ともいうべき「政治、経済、社会その他あらゆる分野における著しい変容と国民の意識の変化」ということを挙げられております。
そこで、私は、政治、経済、社会がそういう犯罪の悪質化につながるということになれば、これは政府としても非常に重大な責任を感じてもらわなければならぬわけでありまして、政治、経済、社会のいわば変化というものが国民の意識にどういう形で反映をしておるのか。
 私がこの点をここであえて取り上げますのは、これから人権問題を論ずるに当たりましても非常に大事な問題であると思いますから、基本的な認識としてまずその点をお伺いしておきたいと思います。
#103
○左藤国務大臣 犯罪の動向、これはその時代、時代の政治、経済、社会情勢、そうしたものの変化、そして国民の生活様式あるいは規範意識と申しますか、そういうものの変容を反映しているものだ、このように考えます。最近におきます犯罪情勢を見ますと、統計上は一応平穏に推移していると思われますけれども、例えば悪質な保険金目的の殺人、放火事件、それから不動産取引や株式売買に関連する大型の脱税事件、金融機関の役職員等による不正融資事件、過度な投機行為に起因する証券取引法違反、それから、にせブランド商品に係る知的所有権侵害事犯、そういったいろいろな経済事犯がある。それから、一般庶民を相手にした巧妙な悪徳商法というのですか、そういう事犯等が摘発されておりますほかに、薬物犯罪とか風紀犯罪も多種多様な事犯が依然として数多く発生しておるのでありまして、これらの事犯は、戦後におきます飛躍的な経済の発展と国民の生活水準の向上に伴って一部の国民の意識の中に醸成されつつあるように思われます、物質万能といいますか、金もうけ主義あるいは享楽を求める風潮、
こういったものの反映、そういうものが反映しているのじゃないか、このように思うのでありまして、御指摘の点はこのような趣旨で御理解いただきたい、このように考えております。
#104
○小森委員 いろいろと分析をされまして、現象面を言えばまさにそのとおりだと思います。そういう分析ができるということになれば、このことに対する対策というものは、やはり第一義的には政府の今日の社会の運営とかあるいは経済政策とか、そういうものと深くかかわるわけでありますが、その点について、単にお題目を唱えるようにこういう言い方では物事はよくならないわけでありまして、どうしてこんなことになるのでしょうか。
 つまり、単に経済が発展するという分析だけではだめなんでありまして、世界的な規模で言うと、先走った人は、体制というものが、今や自由主義経済体制の勝利ということが言われております。しかし私は、そこはそう簡単に言えるべきことではないのであって、例えばアメリカの大都市ニューヨークに行きましても、ホームレスの人が非常に多い。あの零下五度、六度というときに、ニューヨークの町のど真ん中で、宿のない人がそこに寝転んでおる、あすの朝までには凍死するのではないかというような、資本主義の高度に発達したアメリカにおいてそうであります。日本もアメリカに負けず劣らずの経済の発展を遂げて、今やある面では日本がそれをしのいでおる。そういう状況のときに、どうしてこういうふうなことになるのか。単に国民の一部に意識が反映すると言っただけではだめなんでありまして、どういう経済政策の、つまり手の打ちどころに政府としては間違いがあった、欠陥があったと認められるのか、その点をひとつお尋ねしたいと思います。
#105
○左藤国務大臣 これは私は、非常に幅の広い問題でありまして、一つだけの原因でそういったことにはならないと思います。いろいろ社会政策的な問題についての政府の手の打ちようが遅いとか適当でなかったとかいうふうな問題もありましょうし、それからまた教育の問題もありましょうし、いろいろそういった幅の広いところに私は原因があるんではないか、こう思います。そういったことについて、これは内閣全体の問題として対処していかなければならないので、単に法務省の仕事のそういった法秩序の面だけを幾ら改善に努力しましても追いつかない、非常に幅の広い問題ではないかな、このように考えております。
#106
○小森委員 もちろん私は、内閣全体の問題としてこれを取り上げていただきたい、こういう気持ちを持ってお尋ねをしておるわけでありますが、当面議員小森龍邦とすれば、その所属する委員会が法務委員会であり、しかも法務大臣が法秩序ということを述べられて、最近の犯罪の悪質化傾向についてそれと取り組むという気持ちを表示されておるわけでありますから、法務大臣を通じて内閣全体にそのことを反映させていただかなければならぬ、かように思います。
 そこで、私の方から一、二具体的な法務大臣の見解をひとつ承りたいと思いますが、例えば保険金の殺人を伴うような詐欺的行為、あるいは株式の操作によって一獲千金を夢見る。この資本主義経済と言われる自由主義経済の、言うなれば非常に暗い面、欠陥の面というようなものがもろにあらわれた犯罪であると思うのであります。
 要するに、その一つをとってみましても、例えば株式の操作に政治家が大変なかかわりを持っておる。これなんかは、政治家自体がそんなかかわりを持っておって、その政治家が集まって政党をつくり、そして議院内閣制でいろいろな手を打っていくということについて、どうして国民に本当に心に響くような政策がとれるのか、こういう問題がございます。
 例えば、最近は土地政策の欠陥として、私は九段の議員宿舎に住まわしてもらっておりますが、九段の議員宿舎にいろいろな物件の広告が入ります。わずかな面積の、私らの田舎でいったら三千万円か二千五百万円ぐらいの物件と思われるようなものが二億円、三億円というような形で出てきまして、これはもうどうしたって世の中の風潮が、一獲千金を夢見て、それを追わなければとても自分の生涯のうちにすべてのことを前へ進めていくことができないというような今日の経済の状況になっておると思う。それが私は国民の意識に反映していると思う。したがって、何としても政府がそういう犯罪面から出てくるいろいろな現象というものをもう一度政策に返してみて、そしてそこに対する対策を立てていただかなければならぬと思います。
 例えば政治家が株を操作するとか、そういうことについては、特に法務大臣でありますから、政府、閣僚の一員としてどういうふうなお考えをお持ちですか。
#107
○左藤国務大臣 政治に携わる者は、例えば会社のいろいろな状況、事情とか、そういうものをほかの人よりも聞くチャンスが多いとかいうふうなこともあります。そういうふうなことになりますと、インサイダーというような問題で疑いを持たれる心配もあるわけでありますが、今お話しのように、そうしたことについて株の操作によって大きな金を得るというふうなこと自体、政治家に対する信頼の問題、そういう意味から見ましても、これは非常に適切でない、このように私は考えます。そういったことのないようにということで、国民の皆さんの信頼を得るためにも株の操作ということをすべきではない、このように思います。また、それによって得た収益を脱税というふうな問題になってきますと、さらに大きな個人としての倫理的な責任が追及されなければならない、このように私は考えます。
#108
○小森委員 株の操作によって比較的よくもうけられる、そういう情報の入りやすい立場に政治家があるとすれば、それはやはり政府がそこのところを先んじて、倫理的にそういうことをしないようにするという申し合わせはもちろん必要なことでありますけれども、つまり、やろうにもやれないようにするということが非常に大事だと思います。犯罪が起きるが、その犯罪を起こさなくてもまずまずの生活ができるようにするということが、刑事政策のもう一つ根本のところにあると私は思うのであります。特に、知識の豊富な、国政を論ずるような立場の者にはしかるべき具体的な法律的、制度的枠組み、こういうものが大事だと思いますが、法務大臣はいかがでしょうか。
#109
○左藤国務大臣 私は、政治改革という問題について、リクルート事件とかそういったことに関連しまして、当然国民の皆さんの政治に対する不信を除去することが必要な点から見まして、政治資金の問題について、またそういうことで議員の資産公開の問題を含めて、政治に対する国民の信頼を回復するための方途を、自由民主党の中におきましてそういった問題についていろいろ努力しまして、国会の御審議に提出したことがございます。
 現在これは、解散になりましてその後どういうふうに取り扱われているか存じませんけれども、議院運営委員会の方でこの問題について論議をしていただいて、政治家全体の問題として、資金の使途の明確化とかいろいろな問題を含めまして、国民の皆さんの信頼を回復することを図っていただきたいということを願っておるものでございます。
#110
○小森委員 先ほど社会党の鈴木喜久子議員が、閣僚の一員として政令の問題について法務大臣は意見を述べられたかということで、述べなかったと言うのを私聞いて、少し中座をいたしておりましたがもうこのことは再度繰り返しませんが、閣僚の一員として先ほどそういうことが大事だという意味のことは意思の表明があったわけでありますから、積極的に推進をして、そしてまずは政治の先頭部隊にある者が法の秩序の維持ということについて国民の前に先鞭をつけていただくということを、強く要請しておきたいと思います。
 続きまして、法務大臣の所信表明の中で、二ページの第一行目にありますが、検察権というものに対して触れておられます。これは、犯罪の問題に強く対処するというか、正しく対処するために関係機関と密接な連絡協調を行い、検察権が適正妥
当に行使されるよう配慮するということを言われておるわけでありますが、例えば今日の検察権の行使というものについて、法務大臣としてはいささか心もとない点があるからこそ、ここで改めて適正妥当に行使するように配慮する、こう言われておると私は聞き取らせていただいたのでありますが、どういう点を強化したいと法務大臣はお考えでしょうか。
#111
○左藤国務大臣 私は、法務行政の責めに任ずる者といたしまして、検察には全幅の信頼を寄せております。そして、その検察が長年にわたりましてよき伝統を尊重しつつ今後ともその使命を全うするということについて、検察の態勢が、今私は充実していると思いますけれども、さらにこのことについて、犯罪が非常にふえてくるとかいろいろなこともありますので、一層そういった態勢の整備を図りまして、適正妥当な検察権の行使がなされるよう配慮していかなければならない、このように考えておるわけでございます。
#112
○小森委員 法務大臣、いろいろと言葉は続くのですけれども、それはしかし、質問に対して何も答えていないのであります。したがって、例えば検察官が少ないからもう少し何とかしたいんだとか、あるいは検察官の待遇をもう少し改善して後顧の憂いなく思い切ってやらしたいんだとか、あるいはこういう点が行き過ぎだからここはセーブして、ここをこういうふうに民主的に改革するように法務大臣として指揮をとりたいんだとか、そういうことを言われないと私はわかりませんから、それをひとつお願いいたしたいと思います。
#113
○左藤国務大臣 検察官ばかりではございませんで、こういった問題に対する態勢というのは、当然警察当局もありましょうし国税局もありましょうし、それから公正取引委員会とかいろいろな関係の機関もありますので、そういったところも整備を図らなければなりません。そして、検察当局とお互いにそういうことについての十分の連絡をとって、そしていろいろな点で、特に研修を強化するとかいろいろなことをしまして、検察官の能力をフルに発揮していただける態勢というものを、今お話しのような点も我々もっと努力いたしまして、例えば定員の問題とかいうようなものも十分でなければさらに努力するというふうなことをいたしまして、検察権の行使が適正妥当に行われるように努力すべきである、このように考えております。
#114
○小森委員 多少言葉が具体の方に近くはなっておりますけれども、法務大臣、これだけあなたが文章に書かれて表明をされたということになると、限られた議論の時間ですから何もかにも全部言うてもらうわけにいかぬけれども、一つだけでも、例えば検察官が足らぬということも、司法試験に合格をして修習を終えた人が検察官に着任することに余り魅力を示さないというようなこともあるようでありますが、「検察権が適正妥当に行使されるよう配意し、」といったら、私らは、読み方によると、ははあ、これは検察官はちょっと警察に押されぎみなのかな、適正にやるというから、何か権力間のバランスのことで、ちょっと検察側は人数も足らぬし、職員をたくさん持っておらぬし、押されぎみなのかなと読めないこともないわけです。
 ただの一つでもいいから、これだけのことを言われたということは何かあるはずですから、実はいろいろあるけれども例えばこういうことをやるんだということをひとつお答えいただきたいと思います。
#115
○左藤国務大臣 先ほど御説明申し上げましたように、今の時代は非常に犯罪そのものも多様化し、複雑化してきているというようなこともありますから、それに的確に対処できるように一人の能力をさらに発揮できるような、経済の関係のものをやることもできれば一般の刑事罰の問題について対処することもできるような、非常に能力といいますか、そういうものについてのものが幅広いことができるような研修を強化していきたいということも一つの問題だと思います。
#116
○小森委員 研修の問題だけちょっと具体的に出ましたが、時間の関係で、予定しておることをなるべくきょうお尋ねをしたいと思いますから、検察権が時の政治勢力におもねることなく堂々と、まだ国民もかなり検察権に対しては信頼をしておるわけでございますから、ひとつぜひ国民の信頼にこたえて正義を実現するように、法務大臣は先頭に立ってその国民の期待にこたえるように要請をしておきたいと思います。
 三番目に、これは法務大臣にもお尋ねをしますが、きょう文部省の説明員としておいでをいただいております方にもお尋ねをいたしたいと思いますが、法務大臣が非常に気を使っておられます非行少年の問題について、少年院等矯正施設による施設内の処遇と更生保護機関による社会内処遇を一層充実強化する、こういうことを打ち出されておりまして、これは非常に結構なことでございまして、大きく期待をさせていただきたいと思います。
 先ほど一般の犯罪の問題につきまして、社会状況の変化とそれの国民意識への反映、こういう形でとらまえられておるわけでありまして、少年は特に敏感に社会の状況を、頭の中がまだ白地であるだけに、余り汚れていないだけに、敏感に少年は社会の矛盾を反映させると思うわけでございます。したがって、少年の非行とか犯罪とかいうことにつきまして、法務大臣は今日我が国社会の社会的状況の中のどういうことが一番少年に災いをしておるというふうにお考えか。
 それと同じ質問は、文部省に対してもお尋ねをいたしたいと思います。
#117
○左藤国務大臣 少年非行、また犯罪に走らせる要因は何かというようなことでお尋ねでございますけれども、これは一概には私は申し上げることはできないと思います。価値観の多様化とかあるいは社会が非常に複雑化してきた、それに対しまして少年が適応がなかなかしにくい問題、あるいは都市化に伴います人間関係の希薄化、あるいは地域社会の非行、犯罪抑止力の低下、それから家庭の保護環境の不十分さ、いろいろな要因が複雑に交錯しましてこうした犯罪が非常にふえてきている、こういうようなことではないか、このように思います。
#118
○遠藤説明員 お答え申し上げます。
 青少年が非行に走る原因や背景につきましては、それぞれの事件によってさまざまであるとは存じますけれども、一般的に申し上げますと、物質的な豊かさの中で心の大切さが見失われがちな社会の風潮や、少子化、核家族化のもとでの家庭における過保護、過干渉や放任など幼少時点からの養育の問題、また学校生活における教育指導のあり方など、社会、家庭、学校、それぞれの要因が複雑に絡み合っているものと考えておる次第でございます。
#119
○小森委員 話を具体的にしなければならぬと思いますが、例えば高等学校あたりで、これは後にまたお尋ねしますけれども、高校生が少し社会的に逸脱した行為をやる、例えばしばらく以前まではたばこを吸うとかシンナーを吸うとかというような現象が主なる問題であったように思いますが、私が最近いろいろかかわったりまた聞かしてもらったりすることでは、最近の状況というのは、いじめ現象の中身として、腕っ節の強い者が腕っ節の弱い者に金銭的なたかりをやる、こういう現象がかなり出てきております。したがって、私の周辺でいろいろ見たり聞いたりすることは、それで学校へ行くのがもう嫌になって、ついに不登校の現象になる。そのまま学校に行かない。中途退学になるか、よほどしっかりした指導する人がその子の周辺にいる場合には他の学校に転校するとか、それでも一年おくれになるとかあるいは定時制の高等学校にかわるとか、そういうような形になっておると思うのでありますが、これを一体どういうふうに、今抽象的に言えばあらゆる人の協力ということになりますけれども、手っ取り早いところそういうことをどういうふうに解決をして、我が国の中学校や高等学校の青年期を迎えてきた十代の諸君らを指導していくか、これは我が国の大変大事な財産ですからね、次の時代を背
負っていく、そういうことにつきましてお考えを承りたいと思います。
#120
○辻村説明員 お答えを申し上げます。
 先生お尋ねの御質問に関連しまして、私ども最近の調査では、高等学校を中途で退学した者の数が十二万人を超えたということで、それを一つの素材にいたしまして、どうした状況の中でこうした問題が起こってくるのかということを、各県の担当者等から調査する等して分析をいたしておりますけれども、多く挙げられます理由といたしましては、高等学校に適応できない、したがって、就職をしていく、それから、その学校になじめないのでよその学校にかわっていくというようなものが表面的には出てくるわけでございますけれども、その根底に、今先生がお話しされましたような生徒と生徒との間のいわゆるいじめのような問題も、私は少なからずあるのではないかというふうに考えております。
 これらの対応でございますけれども、もちろん学校だけですべてが解決をするというものではございません。本人あるいは友人間の問題もございますし、家庭の御協力もいただくわけでございますけれども、やはり高等学校が生徒として預かっているわけでございますので、生徒一人一人が存在感を持って生き生きと学校に通えるようにという基本的な共通理解のもとに、学業面でしっかりとわかる授業を展開するということ、それから、クラブ活動、部活動その他生徒相互間の人間関係の面で、生き生きとした学生生活が送れるような努力をするというような学校の指導のあり方、それから友人関係のあり方等、学校でどのような取り組みができるかにつきまして、それぞれの学校がそれぞれの生徒、学校の実情に合わせてこれまでの指導を見直すべきは見直し、改善すべきは改善して取り組んでいく、そういう努力を我々としては要請をしておるというところでございます。
#121
○小森委員 答弁の方がなお抽象論に終わっておるように私は思いますけれども、しかし、限られた時間内でのやりとりですから、今言葉として出てきたようなものをいかに具体化するか。例えば学校だけの教育力でいけないということになれば、PTAと一体どういう関係を持つのか、あるいは先生と家庭の親たちとどういう関係を持つのかというようなことを真剣に考えていただきまして、我々の将来を継いでくれる人的な財産を何とか健やかにひとつ育て上げてもらわなければいかぬ、こういうように考えますので、その点はひとつ配慮の上にも配慮を重ねていただきたい、かように思います。
 それで、私もやはり、これは学力の問題というのがありますので、小学校、中学校等から高校教育に対してこの子がおくれずに行けるかどうかというようなことが考えられるような、そういう一貫した見通しを持った教育というものが大事であろう。最初のちょっとのきっかけでつまずいて学力的にわからなくなる、もう分数の計算が高校でわからない、一けたの分数の計算がわからないというようなことも聞いておりますが、それではとても高校教育の体をなしませんので、その点はひとつ真剣に考えていただきまして、そして、それらのことを法務行政でさらにフォローするところはフォローするというのは、これはもう法務大臣もちゃんと項目に挙げられておるわけでありますから、緊密な連絡をとってやっていただくようにお願いしたいと思います。
 そこで、関連してお尋ねをいたしますが、この十二万人の中途退学の高校生諸君、高校中退したのだから高校生とは言えないか、高校中退生諸君十二万人という数字が出ておるのですが、きょうは地域改善対策室長も来ておられますし、また文部省の関係でも私はこのくらいのことは数字でつかんでおかなければならぬと思いますが、同和地区の高校生の中退率、全国的な平均と比べてどういう状況にあるか。これは今地対協で議論されておることと深くかかわります。何でもかんでももう差別はなくなったのだということだけを言うて物を打ち消していこうという考え方が政府の部内にあるようでありますけれども、しかしそれは、そこらのところをぐんぐん掘り下げていって、日本の教育というものはどうあるべきかということの一つの理論というものが導き出されるわけでありますから、したがって、どのような状況になっているだろうか。それは正確な数字でなくてもよろしいです、大体どういう傾向であるいうことをお答えをいただきたいと思います。
#122
○近藤説明員 お答えをいたします。
 高校の中退率の比較でございますが、昭和六十三年度の数字で申し上げますと、全国平均が二・一%でございます。それに対しまして、対象地域の高校中退率が三・四%、約一・三%ほどの格差があると承知をしております。
#123
○小森委員 この点はきょう時間を割いて主として論ずることの項目に私は挙げておりませんが、パーセンテージ一・三%の差ということですけれども、倍率でいったら、二・一に対する三・四の倍率というのは相当大きな倍率になるわけであります。しかし、これは厳密にまた政策を立てるときは調べていただきたいと思います。
 私も長らく部落解放同盟中央本部の書記長をし、それよりもさらに長く広島県解放同盟の委員長を務めておりますが、この数字よりはもう少し格差が大きい、こういうふうに私とすれば認識をいたしておりますから、比較的調べにくい数字であることは間違いはありませんけれども、広島県のようにしっかりとした運動の組織率を上げているところは調べやすいわけで、そういうところで調べてみるとこの数字はもっと高い。つまり、この格差こそ今日の教育の考えなければならない重要なポイントだ。生活の水準と社会の教育力あるいは学力が低いために、入学した学校の状況と、そんなものが集約的にあらわれたものがこういう形になるわけでありますから、文部省も一層意を用いていただきまして、ここから教育のあるべき姿を導き出すようにひとつ努力をしていただきたいということを申し上げておきたいと思います。
 そこで、一つの学校の問題点といたしまして、昨年の夏のことでしたか、大変ショッキングな事件が起きました。神戸市のあの高塚高等学校の問題。これは、一口に言いまして管理主義の教育、何でもかんでもぴしっと枠にはめて管理主義で動かそう、こういう考え方から出てきた最大の欠陥ではなかったか、私はこう思いますが、この点、文部省いかがですか。
#124
○辻村説明員 ただいまお尋ねの点でございますけれども、兵庫県立神戸高塚高校で校門指導中に生徒を門扉で失わせる、生徒のかけがえのない命をなくならせるという事件が起きましたことは、私どもまことに厳粛に受けとめておりまして、教育の場では二度とあってはならないことであるというふうに思っております。
 ただ、この背景でございますけれども、県の教育委員会を通じましていろいろとなぜこうした事件が起こってしまったのかということを聞いておるわけでございますが、さまざまな事情があるようでございます。しかし、ただいま先生が御指摘になりましたように、先生の側がいたずらに規則の実行ということにとらわれて、そしてそれを最大限眼目に置いて指導してしまった、そうした形にとらわれ過ぎた形での指導があった、そのことがこのような痛ましい事件を起こした一つの要因としてあるということは、私どもも認識をしているところでございます。
#125
○小森委員 そのことに関係しまして、私とすれば、全国の高等学校の教育に対して、そもそも文部省というものが管理主義的な指導をしておるのではないでしょうか。
#126
○辻村説明員 管理主義という言葉につきましては、いろいろなとり方があるわけでございますけれども、私ども理解をいたしておりますのは、先ほど申し上げましたように、規則を守らせること、そのことを最大目的にして、そして一方的な命令や指導を行う、それを指して一般に管理主義と言われているように思われます。
 それで、文部省についてそれがどうかということでございますけれども、私どもといたしましては、この管理主義という形での教育は決して教育
としての本来の成果を達成し得ない、そうしたものであるという立場に立ちまして、県の教育委員会や学校に対しまして御指導やらお願いをしているわけでございまして、私どもとしてはそのような批判を受けないような努力をしているわけでございます。ただ、今言われましたような点が私どもとして完全にないかと言われますれば、私もそれまでの自信はないわけでございますけれども、私どもとしては、そうした批判や非難等を受けないような努力を文部省としては最大限しているという点は御理解を賜りたいと思います。
#127
○小森委員 これは文教の委員会でございませんから、文部省が打ち出しておる管理主義的な、私らが管理主義で嫌だなと気づくことがありますので、また機会を得て、同僚議員の皆さんに指摘をしていただくか、私自身が衆議院の予算委員会の分科会へ出て尋ねるか、きょうのところはその程度のことにさせていただきますが、一つだけ、気づいておることがありますから申し上げておきます。
 この高塚高等学校の一番最寄りの電車の駅、駅の名前をちょっと私は忘れましたけれども、そこから私は徒歩で歩いてみました。そうすると、始業時間と高校生が一番たくさん来る時間との間が、その距離を歩いてもぎりぎりの時間なんであります、私が一人で身軽に速足で歩いていって。それはもう一つ前の電車で来ればよいという理屈はありますよ。しかし、やはりこれが現実の問題とすれば、もう一つ前の電車で来るよりはその一番手近な電車で来たいと思うでしょう、若い子は朝眠たいから。そこで、五十人も七十人も束になって歩いていくと普通のスピードの二割や三割は落ちるのでありまして、結局駆け込まなければならなくなる。駆け込もうと思ったら戸をばしんと閉める。これは私は、教育とすればまことに知恵のないことをやっていると思います。管理だけに目が向いたら、そういうことに教師たちの目が向かなくなるのですね。その辺は一つ申し上げておきます。
 それから、私心配だから高塚高等学校まで行ってみました。亡くなってから十日か二週間近くたっておるときでありましたけれども、新聞記者がたくさん、事故のあった門のところにおりました。そして、兵庫県の文教委員会、県会議員の皆さんが弔意を表して、亡くなったところへ花を供えてありました。私が行ったら、関係のない人は近寄るなという意味のことを学校側が掲示してあるのです。
 この亡くなった子のお母さんの実家が広島県府中市、私の町です。私の家から道をぐにゃぐにゃ曲がって行っても、三百メートルか四百メートルぐらいの近くのところなんです。高等学校は一つなんです。そうすると、これは私は関心を持たざるを得ぬし、その管理主義について校長にも面会をして一言でも物が言いたい。けれどもそれはシャットアウト。新聞記者は大変怒っておったですね。管理主義を表面的に糊塗していこうと思えば思うほどそういうことの繰り返しになるわけでありまして、それは子供の感性にはよい影響を持ちません。そんなことも参考までに申し上げておきたいと思います。
 さて、法務大臣の方へ話を返してお尋ねをいたします。法務大臣がこの三ページの終わりごろで述べております、俗に言われるところの拘禁二法、これまで幾たびか継続審議の扱いとなって廃案となってきた、それをこの国会で再提出して、やりたい、こういうことを言われております。その刑事施設法案の「早期成立を図る必要性はいささかも変わっておりませんので、」というところがございますが、私は、これが廃案になったということは、立法府と提案をなさった政府との関係について、立法府側がちょっと待ったらどうかという意味であると受けとめます。
 そこで、政府側はこの早期成立を図る必要性はいささかも変わっておりませんと言う。そのいささかも変わっておらぬのなら何の所要の検討があるのだろうか。これはちょっと矛盾しておると思います。いささかも変わっておらぬのなら何遍でもぶつけたらよいわけでありまして、私は手数をとるからぶつけてもらいたくないけれども、片方でいささかも変わっておらぬと言いながら、片方で所要の検討をしておる。何の検討をされておるのか、ひとつ明らかにしていただきたいと思います。
#128
○井嶋政府委員 私の所管ではございませんけれども、官房長として前回までこの法案に関与しておりましたので、申し上げたいと思います。
 いささかも必要性について変わりがないと申し上げておるのは、委員既に御案内のとおり、明治の法律でありまして、受刑者に対するいろいろな権利関係その他の規定が非常に不備であるといったこともございます。近代行刑思想とマッチしない面もございます。いろいろな問題がございますから、早期に成立させたいということでやっておるわけでございます。
 所要の検討が必要であると言っておりますのは、実はそういう中身の問題というよりもむしろ手続的な問題を述べておるわけでありまして、提出するについて必要な手続的な面の検討を行っておるという趣旨で書いておるものでございます。
#129
○小森委員 では、それはその程度で、ひとつ前へ進ませていただきたいと思います。
 そこで、治安の維持ということに関連して法務大臣にお尋ねいたしますが、検察官のところはひとつ叱咤督励をして適正妥当な検察権の行使ということになるわけでありますが、さきの国会でも私ちょっと口汚く警察に対して言ったと思いますけれども、きょう警察が来てないので、私警察に直に質問するということを言ってないからなのですけれども、ついでに、治安の任務を果たさなければならぬ警察官のところが乱れるということについて、法務大臣は治安と幾らか関係ありますから、ちょっと見解を聞かせておいていただきたいと思います。
#130
○左藤国務大臣 治安の維持に大きな責任のあるのは警察と検察だ、私はこのように考えております。双方が相まって初めて本当の治安を確保することができるのではないか、このように考えております。
#131
○小森委員 法務大臣、やはり話は少し具体に入らなければいかぬので、しかも法務大臣に限界があるからまたそのことは警察側に来てもらっていつか話したいと思いますけれども、私の危惧するところは、おまえ、悪いことをしていかぬではないかと言って捕まえる立場の者が、新聞を見るとあれこれ起こしておるということです。だから、そこらを引き締めるというか教育するというか、しっかりとした使命感を持たすというか、それは検察と相まってやってもらわなければいかぬという意味のことですから、ひとつ頭に入れておいていただきたいと思います。
 さて、それでは質問を次に移すといたしまして、法務大臣は人権ということについて述べておられます。これは非常に大事なことでありまして、私の考え方から申しますと、この世の中は人間が構成主体であり、人間が運営している社会でありますから、すべて人間を排除しては考えられない。それほど人間はこの世の中の主人公であります。その主人公たるべきものの権利、人権というものがすべてのことを考えていく上で中心的な課題とならなければならぬ、私はこう考えております。法務大臣が就任された直後の、大臣のプロフィールが書かれておりましたある新聞を読んだときに、法務大臣は人権に一生懸命取り組むということが書かれておりまして、非常に心強く感じとらせていただいておるわけであります。
 なお、私の個人的な記憶からいえばたしか法務大臣のお父さんになられる方だと思いますが、元大阪府知事、閣僚の経験もあったかと思います。私どもの運動の場に出てこられまして、そして、同和行政本気でやっておる、人権の取り組みも本気でやっておる、ついては政府が同和行政をどうしなければならぬかということをもし本当に研究する気があったら大阪に来てくれ、私は自分がやっておることを全部政府に示すという意味のことを、我々の組織の運動というよりは国民運動に
少し場を広げた集会で言われたことを、今私、鮮明に記憶しておるのです。そういう意味で、あの元大阪府知事の左藤義詮先生の息子さんになられる、息子さんといっても私より随分年が上だと思いますけれども、人権ということを新聞で言われておることは重みがあるなと私は受けとめておるのです。その点、私もそういうふうに期待をさせてもらっておりますから、どうぞひとつ大臣も全力を挙げてやっていただくようにお願いをしたいと思います。
 ついては、そのことに関係をいたしまして総務庁にお尋ねをしますが、差別の現実ですね、先ほどちょっと文部省の関係でも申しましたが、差別の現実を今日どうとらまえられておるか。これは法務省にも啓発の関係でお尋ねしなければいかぬと思うのですけれども、つまりこの現状認識がしっかりしてなかったら政策も宙に浮いたことになりますからね。そういう意味で、今日差別というものをどう受けとめておられるか。抽象的には内閣総理大臣答弁も本会議でありました。この間、予算委員会で総務庁長官の答弁もありました。そのことを踏まえてなおこの法務委員会でも私は確認をしておきたいと思うのでありますが、どういう認識を持っておられるか、お尋ねをいたします。
#132
○萩原説明員 差別の現状についてどのように認識しておるかというお尋ねでございますが、差別というものが存在しておることは否定できない事実でございます。差別を生み出す物理的な環境、あるいは現実に部落の方たちが過去から置かれておった住環境その他の物理的な低位な条件というものにつきましては、昭和四十四年以降の三回にわたります特別措置法によりまして、かなりの改善を見てきておるということは私どもも自負しておりますし、運動団体の方からも一定の評価をいただいておるというふうに考えております。
 この物理的環境と差別の問題というのは、どちらが因でありどちらが果であるかと言うこともなかなか難しい問題で、物理的な環境があるから差別がある、それからその差別という問題があって環境が悪くなる、そういう構造を持っておるわけでございます。そういう意味で、物理的な環境の方をかなり改善してきたということは言えると思います。
 しかしながら、心理的差別という問題につきましては、なおいろいろな差別事象というものが、やはり残念ながらまだ存在しておるということは事実でございまして、このような問題について今後はさらに一層力を入れていかなければいけないのではないか、このように考えております。
#133
○小森委員 法務省とも深くかかわりますから、ひとつ法務大臣も人権擁護局長もお聞き取りをいただいておきたいと思います。
 この地域改善対策室長の話の中には、大きく言って矛盾が二つあると思うのです。その一つは何かというと、かなり物事の成果は上がったが、差別事象はある。これは本当にあなたが答弁されたように、実態的差別と心理的差別とは互いに因となり果となる相互因果関係だというなら、片方が成果が上がっておったら片方もかなり解決しなければいかぬのであります。これは物事の当然なのであります。ただ、私らは、私らはというよりは、それぞれの人間にはそれぞれの哲学なりそれぞれの人生観というものがありますから、私は単純に因となり果となるというような単純な相互因果関係ではないと思っています。これは哲学の領域に属する問題で、唯物論的な観点に立つか観念論的な観点に立つかという論争の問題ですから、行政のこの場になじみませんから申し上げませんけれども、しかし最大限同対審は、因となり果となるということになれば、どちらが因であろうがどちらが果であろうが、どちらかの事象というものがなお相当の状況にあるということは、もう一つの方もよく掘り下げてみないとこれは相当の状況にあるのではないか、ここに気づかなければならぬのであります。それが先ほどの室長の話では、その辺が非常にあいまいである。これは一つの矛盾なのです。
 もう一つは、そういうようなことから立論されておりながら、心理的差別に対しては一生懸命やらなければいかぬ。これは、簡単に言うたら余り金がかからぬ、心理的差別は。人的な配置は、それを金と言えばかなりかかるけれども。いろいろな行政施策の住宅とか道路、下水、河川工事とか、これは同和問題でいっぱい指摘しなければならないことはあるのですけれども、それに比べたら余り金がかからぬから啓発、啓発という方へ逃げよるのですけれども。しかし、その心理的差別自体が、あなたが冒頭に言われた因となり果となるという観点から言うたら、もとの部分というか、もう一つの因果関係にあるところもきちんと手だてをしていかなかったら解決つかぬじゃないですか。
 先ほど私が法務大臣に、ある程度社会の状況と国民の意識の問題という関連性を聞きました。なぜかといったら、社会の一般的状況と人間の意識との関係があるからなんです。法務大臣もそのことは言われておるのです。
 これは、古くさかのぼれば、京都大学の滝川幸辰という刑法学の先生が客観的刑法学説を唱えて、マルクス主義刑法学だというてからにやり玉に上がって、事実上追放されたのですね。あのときに京都大学の優秀な先生が、末川博先生とか恒藤先生とかいうのが皆同情で退官されたのです。つまり、刑事罰を加えるということも大事だけれども、そういう刑事罰に至らないような国民の生活というものをちゃんとつくり出さなければならぬ、こういう意味のことを言われたのでありますが、心理的差別に至らないまでの状況というものをつくり出さなければいかぬのであります。
 問題は、今地対協でいろいろ議論なさっておるし、国会でも本会議でも問題になったということは、そこのところがなお政府によくわかってない。例えば大きな川がありまして、ここだけ堤防がない。どうしたのかと思って行ってみたらそこが部落。群馬県の桐生川だってそうですよ。あそこの部落の大衆がまだ解放運動に立ち上がっていないことにつけ込んで放置しておったわけでしょう。私はそこに視察に行って、そしてそこの地域の人と建設省と話をして、やるなら速やかにやってくれ。それならば、もう年度途中だけれどもボーリングから始めようと、今できておるはずですよ。これは、大水が出たら部落の方にばあっと水が流れる。遊水地みたいにつかる。今まで私は全国各地のことを指摘してきました。まあ一例を挙げるとそんなこともあって、実態と心理との関係というのはそういうことなんですから、あなたの言われたことは矛盾がありますよ。
 どういう厳しい心理的差別があるか。これは啓発と関係がありますから、人権擁護局長も聞いておいてもらいたいと思うが、これは広島県の甲奴郡甲奴町でキャッチしたパケット通信というものです。登録番号がJR4YSB、どういうような番号になっておるのかわかりませんけれどもね。私に報告してくれた人がそうですね。その発信者はわかるのですよ、わかるのだけれども、発信番号は人のを使うてやりよるから正体はつかめない。どういうことを発信しておるかというたら、「私がもっとも嫌いな物はもちろんあつかましい奴(よつ?)えたである。皆はえたって知ってるかな。部落民の事を一般にはえたとかえったあるいはよつと言うんです。こいつらは生意気にバケバケをしたり」バケバケをしたりというのは何の意味かわかりませんけれどもね。「アマチュア無線をしたり」だからパケット通信をしたりという意味ですかな。「アマチュア無線をしたりし一般の人の邪魔をする、」どうですか、皆さん。きょうび無線を使うて趣味でやっている人たくさんおりますがね、部落の者がしたら、アマチュア無線をしたりして一般の人の邪魔をする、こういう認識なんですよ。非常に深刻な心理的差別ですよ、これは。「この連中は教養もないため牛殺し等の職業をしているが誰でもとれる運転免許でトラッカー」トラックの運転手ですね。「トラッカー等もしていてUCでF3に出てくる、」これは私は何かわかりませんよ。やはりこういうパケット通信に関係することでしょう。「これがもっとも嫌い
な部落民だ!!」こんなのが無線とあれを結んで流れてくる、全国に。だから、なまはんかな考え方を持ってもらってはいけません。物事の総まとめをする総務庁の地対室長、あなたはこういうことはいっぱい報告を聞いておるはずですよ。なお心理的差別にあれを入れなければならぬ言うて、こういう意識が出てくる我が国の客観的な社会経済の状況というものをどうするかということが問題なのであります。そのとき一番わかりやすいのは、私が言っておるのは、なお千部落全く手をつけてないところがあるではないかということを言っているのです。それをごまかしていこう、こうなっておるわけでありますから、その点はよく考えていただきたいと思います。
 人権擁護局長、このような差別の実態を、あなたは人権擁護行政の責任者として、局の責任者としてどういうふうに問題を啓発していこうと思われていますか。
#134
○篠田政府委員 お答え申し上げます。
 先ほど来問題とされておりますように、実態面における差別、それから心理面における差別、これはいろいろな形で関係があるわけでございますけれども、その関係がどういうようなあり方の関係かということも、一つ非常に難しい問題であろうかと思います。私どもといたしましても、私どもが担当しておりますのは心理的差別の解消という啓発面が重要な問題でございますけれども、それに当たりましては、極力実態面についての認識も深めてやってまいりたいと思っております。
#135
○小森委員 単純な言葉のやりとりではそのとおりで済むのだけれども、毎日差別をずっしり肩に背負っておる者は、局長、そうはいかぬのですよ。
 これはえらい個人的なことになって済まぬけれども、具体的な事例だから申し上げるけれども、私の娘がお産のためにある病院に入院をした。そして、診察してもらうところでお医者さんと看護婦さんが差別発言したんだ。で、私は聞いたから、すぐ病院かわれ、そんなところにおったらだめだ。それでかわった。しかし、そのお医者は自責の念に駆られて、何回か、お産以後、その後子供元気に育っているかといって私の娘のところに訪ねてきた。それは人間味のあふれたことですよ。しかし、思えば、おなかの中におる間から差別されるんだから、それはそう簡単なものではないですよ。それを口の先でころっころっと言ってもらったら済むと思ったら大間違いですよ。
 そこは局長、私があなたに会いさえすればあなたにきつくきつく言うようだけれども、それは当事者の立場からしたらたまらぬ気持ちで言っているのですからね。だから、民主的な政府なら民主的な政府のように私はやるべきだと思いますよ。物をよくわからずに、いやそれは今はもう物が片づいたろうというようなことを簡単に言うけれど、人間の心理というものは、なまじっか頭脳が高度に発達しておるだけに、非常にいびつに根深く物事は動くのですよ。これは、哲学の領域では、私は観念の相対的独立性というふうに言っているのですけれども、表面上きれいにしたように見えても、一たん覚え込んだものはぐっと潜り込んでいく。人間というものは、宗教で言うたらそういう煩悩を持っておるのですよ。左藤法務大臣は何か僧籍があるということも聞いておりますが、大谷派にいろいろお世話になっておるのですけれども、そうでしょう、人間というものを底の世界まで掘り下げて、これは何も仏教、親鸞の教えだけでいく必要はないと思うけれども、いわゆるそういう深い人間のとらまえ方をしてやってもらわないと私はいかぬと思うのですよ。軽々しくやってもらってはいかぬと思うのですよ。
 そこで、これはいつか私は総務庁にも話しましたけれども、「翔べ 熱気球 ぼくたちの明日」、これは要するに人権問題とか部落問題に対する啓発の子供用の本なんです。これは総務庁が委託をして地域改善啓発センターというところでつくってもらった。子供用だから子供だましの点もあってもいいけれども、猫と人間が話をするような場面が出てきたり、ちゃらくさいことをやって、私は余り茶化さずに人権問題をやってもらいたいと思うのだけれども、最終的にはこういうことになっているのです。「俺の住んでいる世界には江戸時代のように醜いしくみは、もうないけど、でもやっぱりおかしなことがまだまだある。そして、それはおれたちみんなで絶対変えていかなければいけないんだ」。「変えていかなければいけない」というところはいいですよ。しかし、この全遍を通じて部落問題が取り扱われていて、そして一番最後の結論が「江戸時代のように醜いしくみは、もうないけど」、こう言ったのでは、もうないじゃないですか。ないものを、何を解決するのですか。こういう人をだますようなことをしてはいかぬのですよ。
 そして、しかもこれは総務庁が文部省と話をして、小中学校の子供らに読ませてくれといって配っておる。これは県教委なんか気兼ねをして配ったようなふりをしておるが、余りこれは問題になっていませんよ。こんなものを配ったら、自分らのやっておることと全然違ってくるから。中学の社会科の教科書の歴史分野や、小学校の社会科の六年生ぐらいのところになるとどう書いておりますか。もうなくなったと書いていますか。なくなってないから、そこを真剣に考えようということを教科の中で展開しておるのでしょう。この点は主として私は、同じ政府部内にあっても、そういう形で物事が展開をされておるということを人権擁護局長に聞いておいていただきたいのです。後ほど少しずつは答えていただきますけれども、物事こんなにちぐはぐになっているのですよ。何のために内閣総理大臣が「人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、」というような憲法第十四条の条文を引用して、抽象的な文言ではあるけれども、憲法上の非常に重大な問題であると言わなければならぬのですか。非常に重要な憲法上の問題だというものを、総務庁が、もうなくなった、まだしかしあれこれちょこちょこあるけどなというような、そんな軽いタッチで済みますか。そこを言うているのですよ。これはちょっと総務庁からも答えてもらいたい。
 それから、ついでに披露しておきますけれども、これは徹底的なやりとりはきょうの時間でできないから披露しておきますけれども、全国の学校の現場や教育委員会から、これについてどういう意見が出ておるのですか。でたらめ言うなという意見が出ておるでしょう。文部省は恐らくだまされぎみでやったんだと私は思いますけれども、そこを答えてもらって、それから人権擁護局長、あなたももう少し決意の、熱意のあるところを示してください。
#136
○萩原説明員 今お持ちの「翔べ 熱気球」というパンフレットは、小学生を対象に、私どもの地域改善啓発センターで、総務庁から委託をいたしましてつくったもので、小学生に読んでもらえるように漫画のスタイルになっております。
 粗筋を申し上げますと、現在の子供が江戸時代に移行します。移行する過程で、今小森先生がおっしゃったような、雷に打たれて少年と猫が合体するというようなSF的な漫画のようなシチュエーションをつくっておるわけです。それで江戸時代に行って、江戸時代における身分制度、そのおかしさというものを体験をして、再び雷に打たれて現代に帰ってきて、その後に先ほど言われたようなせりふがあるわけです。私ども「おかしなことがまだまだある。」ということでの認識を持っております。具体的な事例で、例えば教科書において、就職や結婚というところで根強く差別が残っておるというような記述があるのは私どもも承知しておりますが、漫画の性格上、そこを具体的に言うことまではしませんで、「おかしなことがまだまだある。」という表現にしたわけでございます。
 それから、制度の仕組みはもうないけれどもということを言っておるわけですが、これは同じ江戸時代のところで、醜い仕組みということで、江戸時代の身分制度を説明をしておりまして、現在に帰ったところで、「江戸時代のように醜いしくみは、もうないけど」ということで、現在においては身分制度という法制度というものはないとい
うことを言ったわけでございます。しかしながら、まだまだおかしなことはあるという認識をしておるわけでございまして、そういう意味で、現在の差別があるという事実そのものを否定しておるものではないというふうに私ども考えております。
#137
○篠田政府委員 先ほど差別されている側の痛みという立場からいろいろおっしゃられましたけれども、私どもとしては、極力それを理解して人権擁護行政を進めてまいりたいと思っております。熱意が足らないのではないかという御指摘ですけれども、私どもとしては、全力を挙げて取り組んでまいりたいと思っております。
#138
○小森委員 そこで、大事なことをちょっと申し上げておきますが、我が国の部落問題を解決する取り組みは、明治の時代もそれなりにありました。大正の時代もそうだし、昭和の初期もそうだし、第二次大戦に、非常に厳しい戦争に突入するまで、それなりのことが行われておったわけであります。それで、私が見たところ、これはまた一般質問等で展開をしたいと思っておりますからきょうは簡単に言いますけれども、要するに、つまり人権ということが余り叫ばれていないあの古い時期においてさえ、いろんな人が知恵を絞って問題を解決しようとしてこられた。その論理展開は、大事なところはどこかといったら、当事者が余り腹を立てぬでも済むように我々がやろうじゃないかという呼びかけなんです、当時は。きょうも私は、当時のそういう運動の先頭に立った人の、国会議員の同僚の中にその人の子孫の方がおられまして、あなたの先祖は当時こういう文書を、こういう考え方でやっておりますよ、私らの考えと一致はしていないけれども、先駆的なこれは考え方だと。
 ところが、今はどうですか。これは総務庁も法務省も聞いておいてくださいよ。今は、当事者が差別に対してそれはけしからぬと言うことについて、邪魔をされるでしょう、あなた方は。それに類似した、例えば障害者が立ち上がって、私らを差別するなと言ったら、精神異常者と言っておるのですよ。新しくなられたほかの委員の方にはすぐにはおわかりにならぬかもわからぬけれども、この前の話の続きだから、あなたと私の間ではわかると思う。権利を行使しようと思ってもなかなか行使できない病気の人を指して、そして、やくざは怖くないけれども精神異常者は怖い、こんな差別してくれるなと言ったら、それが何が差別ですか、こう開き直っているでしょう、あなたのところは。そういうことが行われる間はだめなんですよ。
 だから、きょうここへ持ってきておるけれども、時間がないから、最後にやらなければいけないことがありますから次の論理に行きますけれども、要するに、我が国の部落問題なりそれを頂点とするような人権問題というのは、何十年も昔には、自主的な運動で抵抗や権利獲得の動きが出てはいけないから、政府がしっかりやろうと言った。それでも半分だけは正しいでしょう。しっかりやろうというところは正しいでしょう。今は、自分らが余り本気でしないために、運動をやらせまい、この論理ですよ。これはまたいつか徹底的な討論をやります。これはどうしたところで討論をやっておかなければいかぬことですからね。
 それで、それの打ち明け話が、今地対室長が苦しい答弁をされたここなんです。先ほどちょっと声が出ておりましたけれども、そんなことが子供にわかりますか。そんなことを説明しなければいけぬようなことで、これが何で子供の人権感覚をもたらすものになりますか。大人の世界で、地対室長が答弁されたようなことを丸ごと私が信用すれば、それはそれでいいんです。あれ以上のことをやらなかったら、それはそれでいいんですよ。子供にはわからぬですよ。しかし、私はほかのことの知識を持っておるからあれはごまかしだと思っているけれども、それだけでいってくれたら結構なことですと言いたいですよ、私は。きょうはもうこのことはその程度にしておきます。あともう時間が余りありませんから。
 それで、法務大臣、もとへ戻しますが、法秩序維持ということで憲法のことについて私はお尋ねするということを冒頭に申し上げておきました。私が一番心配するのは、この湾岸危機の問題をめぐりまして、海部総理が本会議でも予算委員会でも、あるいは海部総理のみならず外務大臣もちょっとそういう口ぶりになりかけたのを私聞いて、非常に問題だなと思っているのは、我が国憲法の前文の「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。」というところがあるのです。
 憲法ができたのは一九四七年ですから、これは私が中学二年生です。中学二年生のときに文部省がわざわざ我々全部に配付してくれた「あたらしい憲法のはなし」というところから学んでおるのですよ、ここに文章持ってきておりますけれども。それは何を学んでおるかといったら、日本は戦争を放棄して、軍備を持たぬ。だったら、よその国から攻められたらどうするのかという素朴な疑問がわいてくるわけです。いや、そのときに一生懸命にみんな平和を守るために日本の国民が火の玉になって努力したら日本を疑う者がなくなって、日本はそういう形で安全と生存を保持するんだ、何も心配することはないというように書いてあるのだよ、「あたらしい憲法のはなし」に。全く逆の読み方をしておるんじゃないですか、これは、今日の海部内閣は。法務大臣、ちょっと見解を聞きます。
#139
○左藤国務大臣 私はそうは思いません。やはり法秩序の維持、擁護について述べておりますそれは、やはり基本はもちろん憲法にあるわけでありますが、その憲法の精神というのは、やはり、国の平和と繁栄、国民の幸福の基礎というものを、法秩序が厳正に維持されれば、しっかりそれがやれれば、そういったことで平和、繁栄そして国民の幸福というもののあくまで基礎になるんだ、こういうことを憲法はうたっておられるんだ、このように解釈いたします。
 そして、今お話ございましたときに、「正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求」するというような言葉がこの憲法の中にあるわけでありますが、これは我が国の憲法の平和主義といいますか国際協調主義という理念になっているんじゃないか、私はこのように考えます。
#140
○小森委員 大臣が答弁の言葉として引用された「正義と秩序を基調とする」というのは、もちろん憲法の九条の書き出しであります。それはもう私も海部総理から何遍も本会議で聞いています。結局、つまり、我々が平和を維持するために何を考えたかというと、実力と実力との勝負ではそこに本来の意味の正義も秩序も貫かれない、これは第二次大戦の、つまり日本の国民が到達した平和哲学というべきものだと思うのです。
 確かにクウェートをフセインが侵略した。いや、歴史的にあれはうちの領地であったとかなかったとかいう言い分はあるでしょう。あるけれども、それは長い間の外交交渉によって解決すべきものなんですよ。ところが彼がやった。いかぬです、これは。それがいかぬということがわかっておるのなら、それをまた武力で解決するというのもいかぬのじゃないですか。それを、「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、」という憲法の前文がそこへ通用しますか。そのことによってどれだけ多くの人が死ぬのですか。九十億ドル出して医療や運送に使うというけれども、それは、仮にその金を使ったとしても、ほかの金をまた爆弾に使うのですから、一つのものにプールして使うだけのものであって、我々が出した金がイラクの国民を殺すための費用になるわけでしょう。だから、我々は武力によって物を解決しないというのが国是でしょう。自分の国がそういう国是を持っておって人がするのはええんですか。そこをちょっと答えてください。
#141
○左藤国務大臣 今回イラクが武力によって今お話がありましたようにクウェートを侵略した、併合した、こういうことは、これは明らかな国際法違反であり、そして国際秩序に対する挑戦である、このように思います。そういった意味で国際社会が国際連合を中心としてそのイラクの行為に対し
て非難して、そして安全保障理事会で決議をした。その決議に従って例えば経済制裁を行う、いろんなことで平和的な解決を努力してきたけれども、後はもうこの国連安全保障理事会の決議に従って平和の回復を願ったわけでありますが、それが今度はそういった国々が、イラクのそういったことで、クウェート侵略から手を引かないから交戦に入ってしまった。非常に残念なことではありますけれども、私は、やはりそういう意味での平和回復のための最後の手段として多国籍軍が武力を行使した、このように考えております。
#142
○小森委員 一つの国際的な紛争が起きたときに、戦後国際連合というものが発足したときに、強力な武力を持っておる、まあ大国と言われる国に拒否権を認めたということは、拒否権ということ自体が多数決原理からいえば大変これは矛盾しておることなんですけれども、どのように国連の精神を我々は学び取らしてもらっとるかというたら、大変な武力を持っとる国をすぐさまみんなで追い込めるようなことをしたら余計に暴れる、それよりはじわじわじわじわいった方がええ、だから矛盾の現状をある程度固定化さして、それから物事を解決していこうというのが拒否権の制度なんです。イラクは、日本が武器売ったんじゃないですけれども、アメリカもソ連もイギリスもフランスも、今多国籍軍じゃ言いよる国がみんな武器を売ったんですよ。その武器と今多国籍軍は戦争しとるんですよ。日本が売ったわけじゃないですよ。そうすると、アメリカから見てもイラクは大変な軍事大国になっておるわけでしょう。それとやったらどれだけ人類が被害をこうむるか、そこを考えたらよその国とは一味違う日本の外交政策があってもいいんじゃないですか。日本の平和憲法を今のような読み方をせずに、「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼」する。だから、日本が行って説得したらソ連が言うよりもなお客観性がある。これが必要じゃなかったんですか。
 私はあの戦争の始まった日に、これは院の許可を得ておるから御承知いただいておると思いますけれども、国連のNGOの登録の問題で行きまして、ニューヨークでいろんな人に会いました。日本人のいろんな見識のある人にも会いました。みんな口をそろえて、十五日という日にちを切ったら十五日過ぎたらすぐやらにゃいけぬのかな、努力が足らぬなとみんな言いよりますよ。それを全面的に支持すると言うのは、平和憲法持っておる国の首相の言うべきことではないし、閣僚もまたそれに同調すべきじゃないでしょう。
 時間の関係ありますからもう一つだけ反論じみたことを申し上げておきますけれども、この間私は予算委員会で聞いておったら、総理は、自国のことのみに専念して他国を無視してはならないのであるからあのアメリカを応援するんだ、こう言っておる。自国のことのみに専念してはならないのじゃったら、イラクの防空ごうへ入っておる者が殺されたことに対してどういう心の痛みを持っておるんかと問いたい。罪はないですよ、これは。私は戦争負けた年は中学一年生。私より二級、三級上は死んでますからね。私はまあ広島からずっと離れたところですけれども、広島一中、広島二中の私と同じ年齢の者は全員死んでますからね。罪はないですよ。だから戦争はいけないんですよ。自国のことのみに専念してはいけぬと言うてアメリカのことばっかし考えて、あれですか、それで自国のことのみに専念してはならぬと言うんですか。イラクやその他、この戦争を心配しておる者のことを考えるというのも普遍的な立場じゃないですか。政治道徳に関する法則は普遍的なものである、「この法則に従うことは、自国の主権を維持し、他国と対等関係に立とうとする各国の責務」と言うてますよ、憲法は。あんまり憲法を読み違えて詭弁じみたことを言わぬようにしてください。
 さきに鈴木委員が政令の問題言うたのもそれなんですよ。政令の問題でも申し上げておきましょう。法律にこう書いてあるんだからと言うけれども、国論を二分するような問題ですよ、これは。国論を二分するような問題を、国会は国権の最高機関であるという条文があるのに何で国会に諮らないか。これも、それこそ論語の言葉じゃないけれども、行くに小道によらずですよ。あんまりこせこせした道を通らぬことですよ。しかもこれが世界平和に関係する問題ですから。ちょっと、もう一度法務大臣、ひとつあなたの考えを聞かしてもらいましょう。
#143
○左藤国務大臣 先ほどお答え申し上げましたように、この問題については政府の統一見解に私は従うわけでございます。いろいろ御議論はあると思いますが、それは十分伺っておきたいと思います。
#144
○小森委員 閣僚、閣内意見不一致ということになったらいかぬからね。だけれども、やっぱりそれは世界の危機的状況ということになったら、また論語じゃないけれども、義を見て立たざるは勇なきなりですよ。ひとつ気骨のあるところを、まあ今までのことはこれから与野党の激しい討論でどっちかにどうにか片がつくものと思いますけれども、しかし法務大臣、あなたは人権ということを問題にされる担当の大臣ですから、世界的な規模において人権ということをひとつ念頭に置いていただきたい。
 それで、私が考えておることは何か私のひとり合点かと思うとったら、きのう、私の郷里の広島県が主なる舞台でありますけれども、中国五県に出ている新聞で中国新聞というのがありまして、こういう新聞が出ておる。「人気じわじわ憲法副読本」、四十何年前の副読本が今刷り直されてどんどん売れてるそうですよ。これは、政府が詭弁を言うから、素直な子供のときにすっと入った論理をみんながもう一遍読み返そう。私はそれは、海部総理があれを本会議で言うたときに、中学時代のことを思い出した。いやあ、あんまり年齢は違わぬのにどうしてああいううそを言うんかなあと。これは私だけがそう思っておるのかと思うたら、この憲法副読本がどんどん売れていく、こういうことですから、法務大臣、ひとつよく考えてください。
 それからもう一つ。時間内にはやめますが、そのことに関係して、まことに皮肉なことにその日の中国新聞のコラム欄「天風録」というところに、なかなか我々に参考になることが書いてある。それはどういうことかというと、ほかの動物は何ぼけんかしても自分の種を殺し合うということはしない。例えば一匹と一匹のけんかはありますよ。しかし、その同族を大々的に殺し合うということはやらない。ところが人間はどうですか、人間は。人間は物すごく殺し合いするでしょう。原爆がそれですよ。延べ八万数千回空爆が行われたという。どうですか、これ。つまり、イラクがクウェートを侵攻してそこから生まれてきた世界的な矛盾よりも、八万何千回飛行機が行って爆弾落とした方が矛盾が大きいんじゃないですか。そういうことがあるから、経済制裁でみんなでずっとくくっていって解決しようということから踏み出したわけでしょう。もし日本があのときにもう少しすかっとした態度をとっていたら世界の情勢は変わっているかもしれませんよ。ゴルバチョフがやっていることを日本の海部総理がやったら、まだ日本の立場からすればええんですよ。浄土真宗大谷派の僧侶の一員でもあられる法務大臣、人間が人間を殺し合うということにもう少しひとつ真剣な立場をとって、日本がどういう努力をしたら一日も早くこの戦争が終息をするかということをひとつ考えていただきたいと思います。答弁はもうよろしい、時間来ましたから。
 ありがとうございました。
#145
○伊藤委員長 御苦労さまでした。
 次に、冬柴鐵三君。
#146
○冬柴委員 公明党・国民会議の冬柴鐵三です。
 先ほど左藤法務大臣の所信表明を伺いました。その中で、法律扶助制度の拡充という点に言及されなかった点は、私にとってはまことに残念だと思います。しかし、当委員会における大臣答弁におきまして、法律扶助事業に対する国の補助金というものを平成元年度から五年度にかけて毎年一千五百万円ずつ積み増しをしていく、累増してい
く、こういうふうに公約された件につきまして、一年繰り上げて平成三年度には二千二百五十万円を積み増しされるという予算案を閣議決定いただいた。今回の予算案にそのように要求をしていただいていることにつきましては、法務大臣初め担当部局の方々に対して心から敬意を表したいというふうに思います。
 ところで、昨年末に平成三年度の予算編成に当たっての重点要求についての党首会談というものが行われまして、公明党の石田委員長は海部総理大臣に対して、法律扶助基本法の制定に向かっての調査費用を平成三年度では計上してもらいたい、このような申し入れをいたしたわけでございます。これが、金額は別としまして、今年度できなかったということは、人権擁護を重視される法務大臣としましての初めての予算としては画竜点睛を欠くのではないか、このようにも思うわけであります。今後この点について努力をされることを切に要望したいと思います。
 それはともあれ、平成元年三月二十四日、当委員会におきまして私の質問に答えて、当時の高辻法務大臣が、法律扶助というのは「何人も、裁判所において裁判を受ける権利を奪はれない。」とする憲法三十二条に由来する国の義務である、このようなことを明確にされました。左藤法務大臣も、この点についての御認識とともに、この法律扶助事業の一層の拡充に努力されるということについての決意を御表明をいただきたいな、このように思うわけであります。
#147
○左藤国務大臣 憲法三十二条によります裁判を受ける権利、これは国民の基本的人権の中でも極めて重要なものであることは申すまでもございません。法律扶助制度そのものは、貧困者に対して訴訟を援助をするものでありまして、裁判を受ける権利を実質的に保障する、そういう意味での重要な制度であるというふうに私も認識をいたしております。今後ともこの制度の安定、そして充実に努めていかなければならない、このように考えておるところでございます。
    〔委員長退席、星野委員長代理着席〕
#148
○冬柴委員 もう一つこの扶助についてお尋ねをしていきたいと思いますが、この法律扶助に関しましてはまた機会を改めて詳しくお尋ねをしていきたいのですが、法務省と日弁連、日本弁護士連合会、それから法律扶助協会、この三会で定期的な打合会をお持ちになっているということは過去の答弁でも再々聞いているわけでありますが、これはどういう話で進展をしているのか。これは法務省のどなたか担当官で結構でございますけれども、その点についても若干御説明をいただければと思います。
#149
○篠田政府委員 法律扶助制度いかにあるべきかという事柄なんですけれども、現在のところは法律扶助協会に対する補助金ということで、かなり長年にわたって定着をしているというふうに考えております。ただ、その額につきましては、少しでも増額へ向けて努力をしてまいってきているところでございます。
 それで、さらに制度としていかにあるべきかという点につきましては、まだ模索中の段階でございまして、先ほどの法律扶助協会等との勉強会を続けている段階でございまして、法制定の是非をも含めて、今後とも法律扶助制度の充実安定に向けて検討していきたい、こういう段階でございます。
#150
○冬柴委員 それでは、次の問題に移りたいと思います。
 外国人弁護士の問題についてであります。外国弁護士による法律事務の取扱いに関する特別措置法、昭和六十一年五月二十三日、法律第六十六号でありますが、これは六十二年四月一日に施行されました。この法律は、、米国法曹協会ABAや米国通商代表部USTRの強い要請を契機といたしまして、相当長期にわたる日米交渉を経て妥結した結果を要綱として成立したものと承知しているわけであります。施行後約四年、この法律に基づき約八十数名の外国弁護士が我が国において外国法事務弁護士という資格を取得いたしまして活躍し、徐々に制度として定着しつつあると思います。
 ところが、この法施行二年半後の平成元年十一月十六日に、先ほどのUSTRのカーラ・ヒルズ代表から当時の後藤法務大臣に対しまして、二年半前に施行されたこの特別措置法の改正をも含む規制緩和の申し入れをされました。そして、以来今日まで政府間協議が続けられているというふうに伺うわけであります。
 そこで、法務省に伺いたいのですが、現時点における日米交渉の主たる議論の焦点となっているのは、どのような事項なのか、御説明をいただきたいと思います。
#151
○濱崎政府委員 お答えいたします。
 現在、アメリカ側が要求している事項は五点にわたっておりますが、そのうち最もアメリカ側から強く要求しており、重大な問題は、共同経営及び雇用の問題、この二点でございます。すなわち、外国法事務弁護士と日本の弁護士とが経営を共同にするということは、現行法では禁止されておりますが、これを認めるようにすべきであるということ、それから、外国法事務弁護士が日本の弁護士を雇うということは禁止されておりますが、これを許容するようにすること、この二点が最も重要な争点でございます。
 そのほか、承認の要件の経験年数の問題でございますとか、外国法事務弁護士が本国で所属しているローファーム名を使うことであるとか、あるいは国際商事仲裁手続に外国法事務弁護士が代理人となることができるようにすべきである、そういった点の要求がされております。
#152
○冬柴委員 今説明された五点のうち、特に焦点とされている外国人弁護士、外弁と省略しますが、外国人弁護士が資格を有する日本の弁護士を雇用する、使用する、そういうこととか、あるいは外弁が日本の弁護士と共同して事務所を経営するということが一番重要な論点だ、その点について禁止されていることを規制を緩和してほしいという点が一番大きな論点だという御説明だったと思うのですが、この特別措置法制定以前の長年にわたる交渉の中で、この二つの問題は日米間では交渉されたのかどうか。議論になったのかどうか。意見が妥結したからこそこの法律ができたと思うのですけれども、その関係はどんなことになっていたのでしょうか。
#153
○濱崎政府委員 今委員御指摘の二点につきましては、外弁法と略称させていただきますが、いずれも外弁法制定当時の交渉におきまして問題になった点であります。アメリカ側としてはそういうことを許容すべきであるという主張でございましたけれども、我が国におきましては、両方ともこれは適当でないという意見が強うございまして、これを踏まえまして折衝した結果、現行法に規定するような制約、制限をすることになったわけであります。
#154
○冬柴委員 そうすると、二年半前に話し合いがついたことを、二年後にもう一度同じ事項を同じ論拠のもとに蒸し返すといいますか、そういうふうに聞こえたわけですが、そう理解していいのかどうか。その結果この二点について制限する規定が外弁法の中には置かれたと思うのですが、その置かれた立法趣旨ですね、なぜ外弁が日本の弁護士を雇用してはいけないのか、なぜ外弁と日本の弁護士が我が国で共同事務所を経営することがいけないのか、その立法理由はどういうところにあったのかということと、この法律をつくるにつきまして、担当官庁として法務省は当時いろいろな調査研究をされたと思うのですが、その過程において外国の弁護士法制、そういうものが外弁による自国の弁護士の雇用を禁止しているのかどうか、あるいは共同経営は許さないとしていたのかどうか、そういう点についても調査した結果があれば、概略で結構です、御説明いただきたいと思います。
#155
○濱崎政府委員 外弁法導入当時そういう折衝があって妥結したわけでありますが、当時からその結果についてはアメリカ側は不満であった、そういうことを踏まえて、制度が定着して何年かたっ
たので、時代の変化等も踏まえて改めて検討してくれというのがアメリカ側の立場でございます。
 それから、今御指摘の規制、これは外弁法の規定上第四十九条に禁止規定があるわけでありますが、その趣旨を申し上げますと、外国の弁護士はもとより日本法に関する専門的知識を有するものではございませんので、外国法事務弁護士は日本法に関する法律事務は取り扱うことができないということがこの外弁法の基本点でございます。ところが、もし外国法事務弁護士が日本の弁護士を雇って、日本の弁護士が雇われた立場において我が国において日本法を取り扱いますと、結局そういう形を通じて外国の弁護士が日本法の事務を我が国において取り扱うということになる、そういう結果になるということから、これを禁止することにしたわけであります。また、共同経営につきましても、経営を共同するという形で雇用と同様の事態となるおそれがあるということから、これも禁止するということにしたわけであります。
 当時の諸外国のこの問題に関する情勢として調査したところによりますと、イギリス、フランス、西ドイツ等の欧州各国とも、弁護士との、雇用、共同経営を禁止しておりましたし、アメリカにおきましても、アメリカン・バー・アソシエーションのモデルコードによりますと、弁護士は非弁護士と共同経営することができないということになっていた、そういうふうに当時の状況としては理解していたわけであります。
#156
○冬柴委員 そうすると、立法理由は、単に日本だけの利己的な理由でアメリカに押しつけたというものじゃなしに、比較法的に見ても、それぞれが持っている弁護士制度というものが尊重されるというところから、自国の資格を持たない弁護士に正規の弁護士が雇用されるとか共同経営する、そういうことを通じて、資格のない人が例えば日本の法律を取り扱うのと同じ結果になる、そしてまた、それによって報酬を得ることにもなる、そういう結果は日本として好ましくない、そういうところに立法理由があるということはよくわかりました。
 そこで、アメリカ合衆国について、バーアソシエーションのことについて言及されましたけれども、アメリカ合衆国の各州、それごとに州法を持っていますが、この州法の中で外国の弁護士の法律事務の取り扱いを認めているところがあるのかどうか。端的に言えば、日本の弁護士がアメリカの各州に行って、そこで日本の法律じゃなしに向こうの、アメリカのそれぞれの土地の法律を扱うことを許容するようなものを持っている州があるのかどうか。それから、日本の弁護士資格に基づいて日本法についての活動が、アメリカの地で日本法を取り扱うことを認める州があるのかどうか、その二点について、もしその用意がなければ用意がある範囲で結構ですから、お答えいただきたい。
#157
○濱崎政府委員 アメリカの各州において日本の弁護士、外国の弁護士が直接にアメリカの法律事務を取り扱うことができるということになっている州はないというふうに承知しております。
 なお、アメリカで外国弁護士を日本の外国法事務弁護士と同じように外国の法律を取り扱うという形で受け入れる制度を持っているかどうかという点について申し上げますと、アメリカ全州、五十州と一特別区でありますが、そのうち十州と一特別区においてこれを受け入れております。合計十一州区において受け入れているわけであります。また、そういう形で現在アメリカで日本の弁護士の資格に基づいて活動を認められており、活動している者は、カリフォルニア州、ハワイ州、ミシガン州それぞれ一名であるというふうに承知しております。
    〔星野委員長代理退席、委員長着席〕
#158
○冬柴委員 そうすると、日本の場合、外弁法によって、アメリカ人だけじゃありませんけれども、八十数名が現に活躍していらっしゃる。ところが、今日本に対してもっと広げろと要求しているアメリカにおいて、日本の弁護士がアメリカの地で活躍しているというのはたった三人にしかすぎない。一人一州ですね。先ほど調査部長が挙げられた、各州において一人ずつ、三名しか活躍していないということがわかりました。
 さて、話を変えますが、日本の司法試験、法曹資格を取得するための登竜門ですが、これには国籍要件があるのですか。すなわち、日本人でなければ受けられない、合格できない、こういうことがあるのですか、そういうものはないと私は心得るのですが。日本の司法試験に通った外国人、日本人と同じように競争して合格した外国人は過去にいるのかどうか、そして、その通った人で日本で弁護士として活躍している人はいるのかどうか、いるとしたら何人ぐらいいるのか、そういうことについてお尋ねしたいと思います。
#159
○濱崎政府委員 御指摘のとおり、我が国の司法試験には国籍の要件はございません。また、昭和二十四年以来の数字でありますが、合計四十六名の外国国籍の人が司法試験に合格しております。現在外国国籍で弁護士として活動しておられる方は九名いるというふうに聞いております。
#160
○冬柴委員 これは世界に向かってもっと日本がPRをしてもらいたい。日本は何か閉鎖的なことを言われるけれども、全然閉鎖的じゃなしに、こういう国籍要件も設けてないという点は非常に誇るべきことだと思うのです。
 さて、アメリカ各州ですが、弁護士資格試験に、国籍要件のことはもうやめますが、毎年アメリカ人、外国人を含めて何人ぐらいずつ合格しているのですか。正確な数字は結構ですが、大ざっぱで結構ですが、そのオーダーですね、何名ぐらいアメリカでは弁護士が毎年試験に通って、ふえているのかということでございます。
 それから、これはまた別のことですが、日本人であって、アメリカの法律で、英語で、アメリカ人と競争して資格試験に通った人が過去に何人ぐらいいるのか、そして今アメリカで日本人が何人ぐらいアメリカの弁護士として活躍しているのか、わかれば教えてください。
#161
○濱崎政府委員 アメリカの統計資料によりますと、これは一九八八年、昭和六十三年の資料でありますが、アメリカ全体でのその年の司法試験合格者は、約四万五千名程度というふうになっているようであります。
 なお、後半の方の、アメリカで日本人が司法試験にパスして活動している者の数ということでございますが、申しわけありませんけれども、相当数の方がいると思われますけれども、数は把握しておりません。
#162
○冬柴委員 日本では、弁護士だけじゃなしに判事、検事含めて司法試験合格者は数百名オーダーですから、アメリカが約四万五千名ということは大変な違いがあるということがよくわかりました。
 さて、アメリカにおいて外国弁護士、例えば日本人であって日本の弁護士資格のみを持っている者がアメリカの弁護士を雇用する、あるいはアメリカの弁護士と共同事務所を経営する、そういう事例があるのかどうかということ、裏返せば今アメリカが日本に要求していることですね、そういうことが果たしてあるのかどうか。それが事実の問題として一つ。それから、そういうものをもし希望する者があればそれを許すという州があるのかどうか、その点についてお尋ねしたいと思います。
#163
○濱崎政府委員 アメリカでは各州ともそういう点について明文の規定を持っておりません関係で、そういうことを許容する制度になっているかどうかを把握するのが大変難しいわけでございますが、ニューヨーク州におきましては、外国の弁護士がアメリカの弁護士を雇う、あるいはアメリカの弁護士と共同経営をするということは認められているというふうに、州のバーアソシエーションが言明しているところであります。またコロンビア特別区におきましても一九九一年からそういう共同経営を認めるようになったということであります。しかしその他の州につきましては、そういうことが認められているのかどうか、実例もないことから判然といたしません。
 実際に日本のそういう形で活動している弁護士
がいるかという御質問でございますが、そういう人がいるというふうには聞いておりません。
#164
○冬柴委員 コロンビア特別区、一九九一年と言われますと、ことしですね。それからニューヨーク州、これにはいろいろな沿革がありまして、これは前例にならないと思います。これは余り立ち入りますと時間が足らなくなりますから省略をいたしますが、これはフランスと相互主義をとっていまして、もしニューヨーク州がそのような規定を置かないならば、フランスにおけるアメリカの弁護士活動が数年以内には全部許されなくなる、そういう追い込まれた状況のもとにニューヨーク州が慌ててこういう外弁を受け入れる一つのルールをつくったというふうに私は理解をいたしておりまして、決してアメリカの一般的、普遍的な原理をそこに示した代表例であるということではない、こういうふうに理解するわけであります。
 したがいまして、今駆け足でお尋ねをしたことを総合いたしますと、今アメリカから言ってきている、いわゆるアメリカの弁護士が日本国内において日本の弁護士を雇用したり、あるいは日本国内において日本の弁護士と共同事務所を持って活躍したいという、そのような強い申し入れは決して普遍的なものではない、むしろ非常に異例なものである、このようなことがわかると思うわけであります。
 さて、今のアメリカの、日本の弁護士を雇用させろ、あるいは日本の弁護士と共同で事務所をつくらせろ、そういうものを、もし日本が今アメリカの申し入れを入れて受け入れるとした場合にどんな問題が起こるんだろうかということを考えてみました。
 その一つは、我が国の法曹養成制度を混乱に陥れる可能性があるのではないかという心配であります。先ほども申しましたように、日本の司法試験というのは国家試験の中でも非常に難しい試験だと言われている部類に属しておりまして、判事、検事そして弁護士、この三者の共通の法曹資格というものを取得する前提になっておりますが、毎年数百名しか合格をさせておりません。これが、判事あるいは検事に任官する人が少ないということがいろいろな面で大きな問題も呼んでいるわけでありまして、今国会、いわゆる司法試験制度の改革ということを大臣も言われましたけれども、このような問題を解決するために第一歩を踏み出そうじゃないかというような年にも当たっているわけでありますけれども、これによって改革されましても、せいぜい二百名とかいう合格者をふやしていこうとかというようなことが当面非常な問題になって、ようやく到達しようとしているわけでございます。そういうようなことと、アメリカの年間四万数千人が毎年合格していくという制度の大きな違いがありまして、後で論及いたしますけれども、もしアメリカの大ローファームが日本にいわゆる進出をし、日本の若い弁護士を、優秀な弁護士を高給で雇用するということになったときのことを考えれば、この法曹養成制度というのが根底から覆される結果が起こるのではないかということを私は心配するわけであります。
 その二は、我が国に対して異質な外国の法文化あるいは法意識というものが持ち込まれて、日本人の平均的な考え方あるいは長い間かけて熟成されてきた日本の法文化というものに重大な影響を与える結果になるのではないかということを心配するわけであります。
 かかる観点から、この外弁問題というのは、決してアメリカのUSTRが言うような通商問題あるいは貿易障壁の問題というような局面でとらえられるべきものでありませんし、いわんや日米双方の法律家の、いわゆる弁護士同士の利害に関する問題だというような矮小化したとらえ方をすべき問題ではないというふうに思うわけであります。私は弁護士出身でありますので、何か弁護士の業界問題をここで取り上げているように勘違いされたらいけませんので、私申し上げますけれども、決してそんな矮小化された問題ではない。これは、歴史的に長い時間をかけて成熟してきたそれぞれの国の法文化、法制度というものをそれぞれの国がいかに尊重をし、そしてそれと調和をさしていくか、こういう問題を含んでいると思うわけであります。
 我々日本国民は、弁護士に対して、基本的人権の尊重とか、あるいは社会正義の実現というようなものを期待しております。そしてまた、弁護士もこれにこたえる活動をしてきた歴史があると思うわけであります。それは、先ほど冒頭取り上げました法律扶助の問題、これ一つを取り上げましても、日本の弁護士会というものは、貧困者のそのような訴訟救済のために、年間一億数千万円、すなわち弁護士一人当たり年間一万円以上を拠出をいたしまして、この法律扶助制度というのは、昭和二十七年以降今日まで、それこそ石にかじりつくような努力のもとに維持されてきた経過があります。ところがこれをビジネス重視のアメリカ型弁護士観に変えていっていいのかという問題は、これは法曹関係者だけではなく、広く国民の間で論議を重ねて、そしてコンセンサスを得べき重大問題であって、ここで急カーブを切ってしまうということは非常に危険な面がある、こういうふうに思うわけであります。
 そこで、抽象論を言っておってもわかりませんので、日本と米国との法文化、特に弁護士制度の違いというのがどんなにあるのかということについて、若干質問を進めていきたいと考えます。
 まず、法律的な紛争を解決する手段として、紛争に巻き込まれた人たちがどういう手段をとろうと考えるのか、日本人と米国人とではその手段選択に違いがあるのかどうか、感覚的で結構ですが、御答弁をいただきたいと思います。
#165
○濱崎政府委員 法務省として申し上げるのは大変難しい御質問でございまして、一概に言うことができない問題でありますけれども、一般的な情報として私も聞いておりますところでは、アメリカは権利意識が高い社会である、契約社会である、そして訴訟社会であるというふうに言われております。そのため、アメリカ人と日本人を比べてみました場合には、アメリカ人の方が紛争が生ずれば訴訟によって解決しようという傾向、志向が強いというふうに言われておると承知しております。
#166
○冬柴委員 これは年度はいつでも結構ですが、我が国と米国、アメリカとの間での比較をしてみたいのですが、一年間当たりの民事事件の裁判所の一審受理件数、そういうものがわかれば比較をしていただきたいと思うのです。
#167
○濱崎政府委員 我が国の民事第一審の新受件数は、これは昭和六十三年の統計では、高裁と地裁とで合わせて十二万六千九百二十五件、平成元年が十一万七千七百六十九件ということであります。ほぼ同程度の事件が簡裁に提起される第一審事件としてございます。
 アメリカの各州の裁判所の件数は、残念ながら私ども掌握しておりません。連邦地方裁判所の統計資料はあるわけですが、この連邦地方裁判所の民事の第一審新受件数は、昭和六十三年、一九八八年の数で二十三万三千五百二十九件という統計がございます。各州の裁判所に提起される数が圧倒的に多いと思われますから、それからある程度推測するほかはないわけでございます。
#168
○冬柴委員 各州、それをお尋ねしたかったのですが、どこかの文献で、その年度は違ってもいいのですが、もし書かれているものがあれば挙げていただきたいと思うのですが、わかりませんか。
#169
○濱崎政府委員 申しわけありませんが、ちょっと把握しておりません。
#170
○冬柴委員 非常に残念ですが、一千四百万件というオーダーが書かれている文献があると私は記憶します。簡裁、地裁、高裁、日本の場合合わせて二十数万件。法制度が違いますから、アメリカと日本とを単純に比較することはできませんけれども、連邦裁判所の件数がほぼ同じということになりますと、五十州一特別区での民事一審受理件数というのが一千数百万件に達しておるというのはあながち不自然ではないというふうに思うわけであります。
 さて、これを処理する弁護士の数ですが、日本
は一万四千人というふうに承知していますけれども、大体その程度のことで結構ですが、アメリカは今何人ぐらいいられるのか、そして、もし何か比較するものがあれば、国民何人当たりに一弁護士がいるとなるのか、そこら辺についてもお知らせいただきたいと思います。
#171
○濱崎政府委員 我が国の弁護士数、今委員がお示しになったところでありますが、平成二年現在で一万四千百七十三名、人口比でいきますと、人口が約一億二千数百万人ということでありまして、弁護士一人当たりの人口は八千六百九十六人ということになります。アメリカの弁護士数は、同じ年の統計で六十七万九百九十四人という統計がございます。人口が約二億四千数百万人でございますので、弁護士一人当たりの人口は三百六十六人ということでありまして、人口比で二十数倍の弁護士がいるということになります。
#172
○冬柴委員 それだけの弁護士が活躍をしてやっているわけですから、訴訟の数も多いし、それからもう一つ無視できないのは、アメリカでは契約の場面でも、例えば五百ドル以上の物品の売買、遺言の執行、保証、結婚、土地の売買、履行期間が一年以上にわたるような契約についてはすべて書面による合意が存在しないと契約そのものが成立しない、いわゆる要式行為とされていると承知しているわけであります。そして、その一定要件のもとではありますけれども、この書面の合意に反するような口頭合意の立証は許されない、こういう原則もあるようであります。したがって、ちょっとした土地の売買とかあるいはマンションの賃貸借においてすら、貸し主、借り主両方に弁護士がついて複雑な書面をつくらないといけない、そのような社会を、契約社会といいますか、形成している、こういうふうに私は承知しているわけであります。
 日本の場合は、契約はいわゆる口頭契約で成立いたしますし、そして信頼関係といいますか、そういうことが前提で契約が締結されているのが多いようであります。ですから、必然的に弁護士がそれに介入するというよりは素人同士が契約を締結するということが原則とされている。そういう違いも日米間で物すごく大きいと思うわけでございます。弁護士の活躍場面も違う、こういうふうに思うわけです。
 アメリカの弁護士六十数万、七十万近い人がいるというふうに言われたと思いますが、その人たちの活躍場面も、ローファーム、法律の工場といいますか、そういうものを形成して活躍をしているようでございます。このローファームにつきまして、アメリカの連邦最高裁判所の判決で、宣伝広告を規制するということは表現の自由を侵害するもので許されないのだ、法律事務所も宣伝広告ができる、それからまた弁護士の報酬基準、こういうものの特に最低基準を決めるということも、これは独占禁止法に違反するのだ、こういうような判例が出たために、ローファームの経営というものが非常にビジネス志向性を強めていると言われております。しかも、ローファーム間の相互の競争が熾烈で、新しい職域開発、特に海外進出に対して強い意欲を持っているというふうに文献上言われているわけであります。
 一方、我が国の弁護士の場合は、宣伝広告は強く規制をされております。アメリカのようにテレビで法律事務所の宣伝をするとか、ある場合はアドバルーンで法律事務所の宣伝をするとか、うちでは相談料はこんなに安い、このような宣伝をするとかいうことは、我が国では考えることができないわけであります。また、報酬基準につきましても、上限、下限とも相当厳格な規定を我が国は持っております。
 随分違うのだなということがおわかりだと思いますけれども、もう一つその違いについて非常に典型的なものを挙げてみたいのです。アメリカに「アメリカン・ロイヤー」という雑誌がある。相当発行部数があるようですが、これに毎年アメリカの法律事務所のベスト百というものを選んで掲載される。これの選考基準は、その業務内容の質じゃなしに、その事務所の総収入とか総利益という要素を基準として、一番から百番まで、何という事務所がどういう人数を抱えていて、そしてことし総収入をどれぐらい上げて、どれだけの純利益を上げている、こういうようなことがずっと百番まで掲げられているというふうに知っているわけです。法務省、この雑誌掲載の、何年度でも結構ですが、ナンバーワンの事務所の名前、それから所属弁護士の数、年間総収入、これがどう書かれているのか。それからあと、真ん中はすっ飛ばしていいですから、百番目の事務所はどういうふうに書かれていたか、それについて、もしあればお知らせいただきたいと思います。
#173
○濱崎政府委員 御通告をいただいて調べたわけですが、直接アメリカン・ロイヤー誌は今手元にございませんでした。ただ、このアメリカン・ロイヤー誌の数字を紹介している文献がございますのでそれによりますと、一九八七年版による第一位の事務所名は、スキャデン・アープス・スレート・ミーガー・アンド・フロムという事務所でございまして、弁護士数が約七百名、年間総収入約二億二千八百万ドルであるという紹介がされております。また、第百位はバッキャルター・ネマー・フィールズ・アンド・ヤンガーという事務所で、弁護士数は約百四十五名、年間総収入約三千七百万ドルということであります。
#174
○冬柴委員 そのとき、円は表示されてないのですか。ドルじゃちょっとわかりにくいのだけれども。
#175
○濱崎政府委員 第一位の収入の円換算では約二百八十五億円、第百位の円換算は約四十八億円というふうになっております。
#176
○冬柴委員 私も大阪で十六名ほどで弁護士事務所をやっておりますけれども、大阪では大きい方だと思うのですが、収入はもう取るに足らない事務所になりますね。
 さて、全米弁護士の推定総収入、それからアメリカのGNP比というものも、これが本当かどうかは別として、文献中にはよく引かれて書かれているのです。日本の弁護士の総収入も税務申告等でわかると思うのですが、もし調べたものがあれば、そういうものについてもお知らせいただきたいと思うのです。
#177
○濱崎政府委員 これも、日米とも弁護士収入の実態を法務省としては掌握しておりませんので、先ほどの御質問で申し上げた文献で紹介されているところだけを紹介させていただきますと、これは全米の一九八四年、昭和五十九年になりますが、弁護士の推定総収入が約六百億ドル、円に換算して七兆五千億円であると言われておりまして、当時のアメリカのGNPが約四兆ドル程度であったと思いますので、GNP比が約一・数%ということになります。
 日本の数字といたしましては、これはやや古いのですが、一九七九年、昭和五十四年の数字といたしまして、弁護士の総収入が約二千億円であるという紹介がございまして、これは全体といたしますと、当時の我が国のGNPが約二百二十兆円余りでございましたので、弁護士の総収入のGNP比は約〇・一%ということでございます。日米比較しますと、アメリカの方がGNP比が十数倍多いという推計ができることになります。
#178
○冬柴委員 時間もありませんが、こういう以上のやりとりでおわかりだと思うのですが、アメリカは確かに訴訟社会と言って間違いがない。そして我が国は、どちらかといえば話し合いというか、そういうことで訴訟は余りやらないという傾向が出てくるのではないか。したがって弁護士も数は少ないし、弁護士の収入もアメリカに比べれば非常に貧素だということがわかると思います。いいか悪いかは別です。
 さて、これは昭和六十二年九月十四日付の日経新聞に、クライスラーの会長であったアイアコッカ、これは有名な人ですが、この人が日本の新聞に投稿しているのですね。アメリカの訴訟社会の病理的側面を次のように寄稿しておられます。アメリカ国民は世界で一番訴訟好きな国民であり、世界じゅうの法廷で審理される民事訴訟の九〇%はアメリカ国民が関与したものである。そのため
に我々は年間三百億ドルもの金を非生産的なことに費やしている。しかも、この訴訟は著しい増勢にある。一九七五年から一九八五年の間に製造物責任訴訟は十一倍に、医療過誤に基づく損害賠償額は九倍にそれぞれ増加し、それらを含む全体の責任損害賠償額は五倍にも増加しているとして、これらの訴訟過剰社会がアメリカの国際競争力低下の一因となっていると、そのマイナスの側面を評論しているわけです。これは日本人が言っているのじゃないのです、アメリカ人が言っているわけですから。
 さて、製造物責任訴訟が世界で一番大きいアスベストメーカーのマンビルという会社を倒産に追い込んでしまったという、訴訟社会ならではの現象があるわけですが、この概要がわかれば説明していただけますか。
#179
○濱崎政府委員 もとより詳細は承知しておりませんけれども、概要として聞いておりますところは、アスベストの大メーカーであるマンビル社に対しまして、アスベスト公害に基づく損害賠償請求訴訟が多数の被害者から申し立てられた、さらには、アスベストを使って建築した建物の所有者からそのアスベスト材を撤去するための費用を請求するという訴えが多数提起された、こういうことのために結局同社は倒産状態になりまして、会社更生の申し立てをするに至った、こういう事案であると聞いております。
#180
○冬柴委員 多数の訴訟という、何かその訴訟の数などはわからないのでしょうか。わからなければまあそれは後で結構です。
 さて、これをアメリカではリティゲーションエクスプロージョン、訴訟の爆発的増加現象というふうに表現されているようですが、製造物責任保険を扱っている保険会社が、余りの大きな訴訟の多さとか保険金の支払いとかで、もうこの製造物責任に関する保険業務はやめよう、その部分はもうとてもじゃないけれどもできないというふうに、最近停止が相次いでいる。それからまた中小企業は、要するに新しい商品を開発しても、これをコマーシャルベースに乗せるためには製造物責任保険を掛けられなければとてもじゃないけれども怖くて売れないということから、みすみすこれをコマーシャルベースに乗せられなくなってしまう事例が相次いでいる。
 それから、今製造物責任ばかり言ったのですが、もう一つの爆発的現象が医療過誤事件。これはお医者さんが医療過誤を起こしたということで物すごい金額の訴訟が相次いで起こされて、結局もう業務を停止せざるを得ないという状況に追い込まれているところがたくさんあるようですね。特に産婦人科医に対する過誤というのが多いようでして、聞くところによると、文献には、産婦人科医の一二%が営業を廃止してしまった。もうできない。そういう訴訟社会の病理的現象もあります。
 それからまた地方公共団体も、公の営造物の設置、保存の瑕疵、特に道路ですね、道路にでこぼこがある、そのために転んだとか事故が起こったということによる、地方公共団体を被告とする損害賠償請求訴訟は物すごいものでして、これに対してニューヨーク州には、お抱えの弁護士といいますか、百二十人が走り回っても処理できないという事例も報告されているようであります。
 今ざっと読みましたけれども、何かそういうことについて、法務省でその種のことでお知りの事実があればお答えいただきたいと思います。
#181
○濱崎政府委員 先ほどのマンビル社に対する損害賠償請求の件数でございますが、私の見ました文献によりますと、被害者からの損害賠償請求件数が一万六千件余り提起されたというふうに紹介されております。建物所有者からの請求については件数が紹介されておりません。
 それから、アメリカの訴訟の増加が保険業務あるいは中小企業あるいは医療業等に与えている影響、それから道路の設置の瑕疵に基づく損害賠償訴訟の実態、こういった点については、ただいま委員御指摘のような実態が紹介されているということを私ども承知しております。なお、ニューヨーク州で、道路の設置の瑕疵に基づく損害賠償請求をニューヨーク市が市民から提起された、そういう訴訟を常時一万四千件程度抱えているという紹介もございました。
#182
○冬柴委員 法務大臣、ずっと聞いていただきまして、日本とアメリカの、これは私決してどこがいいとか悪いとか言っているわけではありません、しかしながら非常に違いがあるということはおわかりいただいたと思います。ニューヨーク州に対する損害賠償請求訴訟だけでも一万四千件というのはいかに大きいかというのは、日本の全裁判所の受理件数と比較していただいてもわかるわけでございまして、マンビル社がアスベストを壁材、天井材にあれしたものが長年空気中に剥離をしてきて、それが吸い込んだ人の肺に突き刺さって、そしていろいろな病理現象を起こす、そういうものがはっきりした。しかし、マンビル社はまさかそういうことを認識してそんな営業を始めたわけではないと思うわけでございますが、一万六千件の訴訟が殺到した。そのために世界一の会社が倒産してしまった。これは非常に象徴的な事実だと思うわけであります。
 さて、私が言いたいのは、このように法文化、法意識というものが異質と思えるほどアメリカと日本では乖離している、そういう事実であります。それを処理する弁護士の数におきましても、片や一方四千、片や七十万人という、全然オーダーが違います。その所得、そしてまたビジネス志向性等におきましても、その善悪の評価はいたしませんけれども、格段の差があることも先ほどの答弁でおわかりいただいたと思います。
 さて、その外弁問題の本質は、今言いましたように法文化とかあるいは国の司法制度の根幹に触れるものだということを私は言いたかったわけであります。決して通商問題とか貿易障壁、この面が全然ないとは申しませんけれども、過大に評価されるべき面ではないと思います。また、アメリカから入ってきたら日本の弁護士が職域を奪われるから弁護士会ががちゃがちゃ言っているのだろう、そういう問題ではないこともおわかりいただいたと思うわけであります。
 大変答えにくい問題ではありますけれども、今、日米協議の所管庁として交渉の窓口になっておられる法務省、その責任者である法務大臣がこの問題についてどのような御所見をお持ちなのか、明らかにしていただきたいと思います。
#183
○左藤国務大臣 今委員御指摘のように、日米の法文化の違いというものは非常に大きいと思います。そしてまた、今お話しのように、外国人弁護士、外弁問題というものが単なる通商問題とか単なる非関税障壁だとかいうことでなくて、そしてまた、今のお話のように弁護士さんの利害の問題だけにとどまる問題ではなくて、根本的な我が国の司法のあり方の問題に関連してくる問題だ、私はそういうことにつきまして十分承知もいたしておりますので、今先生御指摘のような、これからどういう姿勢でこの問題に対処するかということにつきましては、これは慎重に対処していかなければならないことでありますし、また弁護士会の皆さん方の御意見も十分に伺った上で進めていかなければならない重要問題である、このように認識いたしております。
#184
○冬柴委員 時間が参りましたので、私は終わります。
#185
○伊藤委員長 木島日出夫君。
#186
○木島委員 日本共産党の木島日出夫でございます。
 法務大臣の所信表明の中の監獄法の全面改正の問題、刑事施設法案について、特に代用監獄の問題について集中して質問を行いたいと思います。
 法務大臣の所信表明では、「監獄法の全面改正を図るための刑事施設法案につきましては、」云々、廃案になった。「しかし、その早期成立を図る必要性はいささかも変わっておりませんので、今国会に法案を再提出いたすべく、所要の検討を行っているところであります。」という重大な記述がございます。刑事施設法案並びに地方行政委員会に提出されたことのある留置施設法案、いわゆる警察拘禁二法案につきましては、歴史的
に経緯を見ますと、最初の提出が第九十六回国会、昭和五十七年四月二十八日であります。これが一年七カ月後、五回の国会を経て第百回国会、昭和五十八年十一月二十八日に衆議院解散により廃案となっております。続いて再提出がありました。第百八回国会で昭和六十二年四月三十日に提出をされました。そしてこれは十回の国会を経過いたしまして、計四年三カ月間国会に継続をされ、平成二年一月二十四日、第百十七国会におきまして衆議院解散によって廃案になったことは、法務大臣も御存じのとおりであります。
 都合八年余の長きにわたりまして刑事施設法案が国会、当法務委員会に継続をされたにもかかわらず、二回にわたって廃案になったことの最大の原因の一つには、私は、これらの法案が、明治四十一年に成立している監獄法が急場しのぎとして認めたいわゆる代用監獄をこの刑事施設法案によって永久化する、そして未決の拘禁者を捜査官署である警察署の常時支配下に置くという、もう今日では国際人権法上全く通用しない制度を日本においては固めていこうという時代錯誤のものであったからであると考えるわけであります。ともあれ、二回にわたって法案が法務省、政府から提出をされたにもかかわらず廃案になるという事態は、立法府の意思としては明白になっていると思わざるを得ない、極めて重い事実であると思うわけであります。
 最初に法務大臣に伺います。にもかかわらず法務大臣が同じような内容の法案を今国会に三たび出そうとするのはなぜなのか、二度廃案になったというこの重い事実をどのように受けとめているのか、最初にしかとお聞きしたいと思います。
#187
○左藤国務大臣 刑事施設法案は、法律の形式と内容の近代化を図って、そして被収容者の法的地位に応じた権利義務関係を明らかにして、受刑者について国際的に承認されております各種の処遇を確立しようとするものでありまして、国際水準から見ても問題があるとは考えておりませんので、今国会にぜひ再提出をしてその成立をお願いいたしたい、こう考えておるところでございます。
#188
○木島委員 刑事施設法案について法制審議会とのかかわりで歴史を調べますと、これは今から十年も前の、昭和五十五年十一月二十五日に法制審議会が「監獄法改正の骨子となる要綱」を決定したのが一つの出発点であります。それに至る経過にはいろいろありますけれども、私はここでその問題に立ち入ることはするつもりはありません。後から私指摘しますが、その後の十年間は、特に国際的には被拘禁者の処遇に関する国際人権法の分野で目覚ましい進展があった十年であります。とりわけこの五年間の進展は目覚ましいものであります。今、前回廃案になった刑事施設法案と同じものを、こうした国際人権法の進展との関係を考慮することなく、学識経験者が参加している法制審議会にかけることなく、再びこの日本の国会に提出しようとすることは、国際社会の目から見てまことにゆゆしい問題だと私は思うわけであります。日本の法制審議会がまことに国際的に時代おくれの法制審議会という非難、嘲笑を浴びせられることにもなるのではないかと私は懸念をしているわけであります。法制審議会にもう一度かけ直して一から出直すおつもりはありやなしや、法務大臣にお聞きしたいと思います。
#189
○堀政府委員 お答えいたします。
 今回再提出を予定しております法案につきましては、昭和六十二年に提出して以来さまざまな国際準則が国連総会等で採択されておりますけれども、それに照らしましても特に問題となる条項はないと考えておりますので、再び法制審議会に審議をお願いするということは考えておりません。
#190
○木島委員 重大な答弁だと私は受けとめざるを得ません。先ほど来私が指摘しておりますように、前回廃案になった刑事施設法案の一つの中心問題は、前回の法案の百六十六条によりまして、いわゆる代用監獄を恒久化するということであるわけであります。
 それでは、これから順次代用監獄について、国際人権保護がどのように進展してきているかについてお伺いをしたいと思うわけであります。
 最初に、一九八八年、昭和六十三年十二月九日に国際連合総会におきまして、あらゆる形の拘禁・受刑のための収容状態にある人を保護するための諸原則、ちょっと長いので、私はこれから国連被拘禁者人権原則というように要約したいと思うのですが、これが採択をされました。これは法務省、外務省も御存じのことと思います。
 そこでまずお伺いいたします。法務省でも外務省でも結構であります。国連総会でこの原則が採択をされたときに、日本政府はどういう態度をとったのか、そして、どういう採択の形態であったのかをまずお聞きしたい。
#191
○角崎説明員 お答え申し上げます。
 先生御指摘の原則は、国連総会におきましてコンセンサスにて採択されております。したがいまして、採決には付されませんで、全会一致で採択されております。
#192
○木島委員 日本政府も参加していたのですね。そして、日本政府も賛成したのですね。そこだけはっきりさせてください。
#193
○角崎説明員 日本も参加しております。コンセンサスに参加しております。
#194
○木島委員 英語を使われても私はわかりません。全会一致で賛成と、日本政府も賛成とお聞きをいたします。
 そこで次に、この原則というのは国際法上法的にどういう性格のものであると認識をしているのか、お伺いいたします。
#195
○角崎説明員 この原則は、国連総会の決議として作成され、勧告的な性格を有するものでございます。ただし、法的な義務を課すものではないというふうに考えます。
#196
○木島委員 単なる勧告なんというものでは全くないと、私はこの原則を理解をしております。
 例えば、原則七がこう書いています。「各国政府は、本原則に包含される権利・義務に反する行為をすべて法により禁止し、」云々と。それから、原則の前文の四、「この原則が広く知られ尊重されるようあらゆる努力がなされることを求める。」少なくとも私は、本原則はこれに賛成をした各国が国内法を整備するときの最低の基準だと理解するわけであります。アムネスティー・インターナショナルは、この原則に対する、どういうものかについての考え方について、国内法を整備するときのガイドラインであると言っていることもそのことかと思いますが、こういうものであるという受けとめを法務省、外務省はしておらないのですか。
#197
○角崎説明員 繰り返しになりますが、これは国連総会の決議として作成されたものでございまして、その性格はあくまでも勧告的な性格ということであろうかと思います。
#198
○木島委員 日本政府は、この原則の法的意味を非常に低めよう、低めようとしているふうに思われてなりません。まことに残念であります。これは明らかなように、既に今日の国際社会、国連に加盟している国際社会においては被拘禁者の処遇に関する最低の基準だ。これを下回るような被拘禁者に対する処遇をしているような国は、それを是正しなければならぬという大変重い意味を持っているわけであります。
 もう一つ、この原則の持っている法的意味として、既に日本政府も批准しております通称国際人権規約B規約と言われている市民的及び政治的権利に関する国際規約、これは国連総会で一九六六年十二月十六日に採択され、日本政府も一九七八年五月三十日に署名をし、七九年六月六日に国会で承認をされ、既に日本においても発効している極めて有名な人権規則でありますが、この人権規則の解釈の指針にもなり得る文書であるというふうに私は理解しているのですが、政府は今度つくられた原則というものをそのように受けとめることはできませんか。どうでしょう。
#199
○角崎説明員 お答え申し上げます。
 この原則は、国際人権規約の解釈基準等を定めたものではないというふうに理解いたしており
ます。
#200
○木島委員 次に移ります。
 それでは、この原則は全部で三十九の原則を打ち立てておりますが、端的に伺います。この三十九の原則のうち、代用監獄にかかわりを持った原則というものがどこにあるか、どういう認識であるか、お答え願いたい。
#201
○堀政府委員 お答えいたします。
 直接関係があると思われる原則は、原則の三十七というふうに理解しております。
#202
○木島委員 それだけだという認識ですか。
#203
○堀政府委員 代用監獄制度について直接かかわり合いのあるのは、この三十七というふうに考えております。
#204
○木島委員 原則二十一にはこういう文言があります。「一 自白させ、その他自己に罪を帰せ、又は他人に不利な証言をさせることを強制するため、拘禁された者」、これは未決拘禁者のことであります。「又は受刑者」、これは既決拘禁者のことであります。「受刑者の状態を不当に利用することは、禁止される。」まさにこれは、日本においては代用監獄はあってはならぬ。
 御存じのように、代用監獄というのは、捜査官憲の支配のもとに四六時中未決の者が拘禁されるというものであります。日本の刑事法制の大原則は、未決の拘禁者を拘禁する官署は拘置所であります。捜査官署はこれにいささかも手を触れてはならぬというのは大原則なはずであります。その例外が明治四十一年につくられた監獄法の一条三項にあった。これは当時、まだ日本の政府が拘置所がたくさんなかったという歴史的な制約による一時的なものにすぎないわけであります。それが今日まで連綿と続けられてきたところに問題があり、それが国際的に批判をされているわけでありますが、原則二十一は、まさに日本におきます代用監獄まかりならぬという条文だと思うわけであります。そうは読まないのですか。
#205
○堀政府委員 お答えいたします。
 原則二十一と代用監獄制度との関係でございますが、代用監獄制度は論理必然的に人権侵害をもたらすものではないというふうに考えておりますし、また、代用監獄において自白を強要するために暴行等による拷問が行われているとも理解しておりません。
#206
○木島委員 それもまことに重大な発言だと思います。代用監獄こそ事実上も論理的にも人権侵害の温床になっているということは、後で私が指摘しますアムネスティー・インターナショナルの日本政府に対する勧告書にも厳しく触れられていることだと思います。
 もう一つ、原則九、「人を逮捕、拘禁し、又は事件を捜査する機関は、法律によって与えられた権限のみを行使するものとし、その権限の行使については裁判官等の審査、救済の対象とされなければならない。」こういう文言になっております。要するに、事件を捜査する機関、日本の場合は第一次捜査権は警察が持っております。それから、人を拘禁する機関は法務省所管の拘置所であります。逮捕する機関は、これはいろいろ刑訴法上あるでしょう。少なくとも原則九は、拘禁する機関あるいは事件を捜査する機関は、「法律によって与えられた権限のみを行使するものとし、」要するに、捜査する機関、警察署が拘禁する機関である拘置所の分野まで権限を拡張してはならぬと読める文章であります。これはもう、論理必然から、この文章から、日本の監獄法一条三項はもう廃止しなきゃならぬということを読まざるを得ない。素直に読めばそう読まざるを得ないと思うわけでありますが、そう読めませんか。
#207
○堀政府委員 お答えいたします。
 必ずしもおっしゃるように読めるとは思いません。
#208
○木島委員 まことに私は、日本政府の、法務省のこの原則に対する受けとめ、なってはいないと思うわけであります。刑事法の最高権威である東京大学名誉教授の平野竜一教授の文章などもあるわけでありますが、人権規約の解釈として、もう日本の代用監獄はまかりならぬというふうに読み取るのは、これはもう国際的な解釈なのであろうと言っておるわけであります。後に私が指摘するアムネスティーもそうだと思うのですが、どうも日本政府だけが、代用監獄はこの国連総会で採択された原則で許されるのだというようなことをかたくなにとっておるように思われてなりません。
 それでは、逆に質問しましょう。この国連原則の中に、代用監獄結構ですという文章ありますか。
#209
○堀政府委員 お答えいたします。
 積極的に代用監獄という用語を用いて、原則は何も触れるところはございません。
#210
○木島委員 言葉の問題ではなくて、捜査権限を持った官署が未決拘禁者に対して拘禁する権限まで持ってもいいということを触れた文章は、この原則にありますか。
#211
○堀政府委員 特にそのようなことを書いた部分は見当たらないように思います。
#212
○木島委員 もうこの問題については深くは立ち入りませんが、もう一点だけ聞きます。
 一九八八年十二月九日に国連総会でこれが採択されたのですが、その出発点というのは一体いつだったのでしょうか。
#213
○角崎説明員 お答え申し上げます。
 一九七五年国連総会第三十回総会は、人権委員会に対しまして本原則作成のため必要な措置をとるように要請をいたしております。
#214
○木島委員 国連は十三年の長きにわたって、この原則を打ち立てるために非常な努力と作業を積み重ねているわけですね。最初に草案が出され、その草案が日本政府を含む世界各国の政府に送付される、そして各国の政府から意見を求める、そしてまた練り直す、そして出された第二次草案をまた世界各国の政府に送る、そしてまた政府の意見を聞く。非常な努力の結果打ち立てられたものがこの原則であります。日本政府も、もちろんのこと非常に深くこれにはコミットしているわけであります。先ほど来再三答弁されておるような、軽々しくこの原則を扱えるようなものではないということは、この原則が作成された経過を見ても明らかであります。まことに日本政府、法務省の態度は納得できないと思いますが、時間の関係で次の問題に入ります。
 ことしの一月二十五日、アムネスティー・インターナショナルは、日本政府に対して、死刑の廃止の問題と被拘禁者の人権保障の問題について勧告をいたしました。御存じでしょうか。受け取っていますか、法務省か外務省。
#215
○堀政府委員 お答えいたします。
 そのような勧告がなされたということは承知いたしております。
#216
○木島委員 もう今さら私からアムネスティー・インターナショナルというのがどういう団体であるかをここでるる言う必要もないと思いますが、アムネスティー・インターナショナルは、国連の諮問機関として最大かつ最も権威のあるNGO、非政府機関であり、世界百五十カ国に会員七十万名を擁し、その活動は全世界に及んでおり、これまでも拷問禁止条約の制定など、国際人権法の分野では幾多の人権条約、人権基準の制定に重要な役割を果たして、その活動は各国政府、国連、NGO等人権団体からも高い評価と信を得ている、そういう団体でありますが、いつ、どういう調査をしていたのかは御存じですか。死刑の問題は今回触れませんので、被拘禁者の人権保障の問題について、特に代用監獄を中心とする問題についてお聞きします。
#217
○堀政府委員 お答えいたします。
 アムネスティー国際事務局のスタッフから成るアムネスティー代表団が日本を訪問して、拘禁その他の法的手続を調査したということでございます。
#218
○木島委員 いつでしょう。
#219
○堀政府委員 一九八九年三月というふうに承知しております。
#220
○木島委員 代用監獄の問題について、結論はどうであったのか、お答えください。
#221
○堀政府委員 お答えいたします。
 「取り調べ当局と拘禁当局との分離」というとこ
ろの最後に、「アムネスティ・インターナショナルは、当局がこの点に関して現行の実務を検討し、取り調べ担当官と囚人の拘禁と福祉を担当する当局者とを正式に分離する保障措置を導入し、そのような責任体制の分離が被拘禁者に確実に認識されるよう要請する。」ということになっております。
#222
○木島委員 結論がそうなっております。非常に言葉を選んで指摘がされておりますが、法務大臣、法律の最高権威でありますから、この文章をどう読むかはもう明らかであります。取り調べ担当官、捜査官署、警察署と、囚人の拘禁と福祉を担当する当局者、法務省所管の拘置所、これを正式に分離する、要するに代用監獄はあってはならないのだということを意味しているわけであります。アムネスティー・インターナショナルの正式な調査に基づく勧告が、日本政府にことしの一月二十五日提起されたわけであります。非常に重い提起だと思います。法務大臣、この提起に対してどう受けとめるつもりですか。
#223
○左藤国務大臣 そういった御提起があったことは伺いましたけれども、我々よくその提起の内容を読んで、そして今回の代用監獄制度との関係につきまして十分検討はしていかなければならない、このように考えております。
#224
○木島委員 もし法務省が、前回廃案になった刑事施設法案と同じようなものを、要するに代用監獄を永久化することを含む刑事施設法を今国会に提出しようとするのであれば、まさにこのアムネスティー・インターナショナルの日本政府に対する勧告と真っ向から抵触する、全く逆の道を行く態度にならざるを得ないと思うわけであります。したがって、このアムネスティー・インターナショナルの提起を真摯に受けとめるならば、法務大臣の所信にある刑事施設法案を今国会に出したい、出すべく検討しているということは撤回をされ、これはもう出さないということをここで述べていただきたいと思うわけであります。
#225
○左藤国務大臣 そうしたことについての御意見は十分検討いたしますが、今ここでその法案を出さないということは申し上げるわけにはいきません。提案を出すという線でいろいろ検討をさせていただきたいと思います。
#226
○木島委員 法務大臣にお聞きいたしますが、アムネスティーの勧告と代用監獄を永久化する法案とは真っ向から抵触する、百八十度違う方向を向いているものだという認識はありますか、法務大臣。
#227
○左藤国務大臣 もう少し中身を、私は十分検討いたしておりませんから、今おっしゃったようなことであると断定はできない、このように思います。
#228
○木島委員 それでは、法務省の最高幹部はどうですか。
#229
○堀政府委員 お答えいたします。
 このアムネスティーの勧告が、三の四の三「取り調べ当局と拘禁当局との分離」というところのまとめとして、先ほど私が申し上げました要請が出されておるわけでございますが、その本文を見ますと、一九八〇年、つまり昭和五十五年以降でございますが、「勾留を担当する警察職員は総務部門、取り調べを担当するのは刑事部門ということになっている。これが小さな警察署、とくに大都市から離れた人的資源が明らかに不足しているような警察署においても同様かどうかはさだかではない。」という記述がございまして、このことは、昭和五十五年以降、被疑者留置規則の第四条によりまして警察が、総務または警務を主管する係の長が、留置主任官として、留置場で看守勤務する警察官を指揮監督し、捜査に当たる警察官とはその職分を分けておるということを評価しておるのではないかというふうに考えられるのであります。
#230
○木島委員 アムネスティーの勧告書の最後の結論部分の直前の導入部分をちょっと読みますと、「アムネスティとしては、世界中の拷問と不当な取り扱いの実例を記録しているという経験に照らし、またそのような虐待が起こることを阻止しようとしていることからも、被疑者や被告人の取り調べにあたる当局者と、被疑者や被告人の拘禁と福祉を担当する当局者とを正式に分離することは、被拘禁者をより保護することになるであろうと考える。」と極めて明確な記述をした上で、先ほど来再三答弁にもあり、私も指摘した結論を導いているわけであります。もう中身を一々せんさくする必要なく、この勧告の求めていることは明らかだと思います。
 日本弁護士連合会も、このアムネスティーの勧告を受けとめまして、今国会に法務省が刑事施設法案を提出しようとしていることは到底容認できないという決議を上げているわけでありますが、従前衆参両院の法務委員会におきましては、司法制度について重大な制度の変更をやる場合には、法曹三者がよく話し合い、合意をしてから国会に提出すべきであるという決議がなされているわけであります。日弁連は、かつて既に廃案になった刑事施設法の問題について、法務省当局とまた警察庁当局とも再三国会の決議を受けまして話し合い、協議が行われていたわけでありますが、日弁連の側に言わせますと、不本意ながら一方的に打ち切られて提出をされたと伺っております。昨年の二月の解散で刑事施設法案が正式に廃案になって、そしてことし一月、アムネスティー・インターナショナルからもこういう勧告を突きつけられるという事態、また先ほど私が指摘した八八年の十二月には国連原則が全会一致で、日本政府も賛成をして採択をされるというような事態、そういう事態を踏まえて、日弁連が三たび刑事施設法案を出すのは到底容認できないと言っておるわけであります。
 そこで法務省に、法務大臣にお聞きします。この刑事施設法案、かつて出された法案は、代用監獄の問題、それから弁護人の接見の問題、いろいろ司法制度の根幹にかかわる問題が入っているわけで、当然当委員会の決議である法曹三者の合意を踏まえて提出すべきということに入ると思うのですが、今回法曹三者の合意を得る手続をとらなければならぬと思うのですが、どうですか、法務大臣。
#231
○堀政府委員 お答えいたします。
 この関係につきましては、昭和六十三年十二月十六日、衆議院法務委員会におきまして、当時の林田国務大臣がお答えしているところでございますが、そこでは「刑事施設法案は、法曹三者によって支えられるべき司法制度自体を改革するものではないのでありまして、同法案の国会提出は、御指摘の国会決議に反するものではありませんが、同法案は、裁判官及び弁護士を含む各界の有識者を構成員とした法制審議会や個別の協議を経まして、法曹三者の理解を得て上程したものであります。」というふうにお答えしているところでございます。
#232
○木島委員 それは日弁連と警察、日弁連と法務省との協議が、日弁連側に言わせますと一方的にけ飛ばされて、提出を強行された。その審議の中で法務大臣が言っている言葉にすぎませんよ。それは自分の立場を弁解するための言葉にすぎないわけですよ。私が言っているのは、昨年廃案になった。そして国際的な被拘禁者の処遇にかかわる国際人権法は目覚ましい進展をしている。日本が本当に取り残されている。こういう代用監獄が世界にあるのは、お隣の韓国、南朝鮮と戦時下にあるイスラエルぐらいしかない。さきの審議の過程で幾つかの国を法務省は挙げましたが、その後日本の弁護士たちが現実に調査に行ったら、それは日本の代用監獄とは全く異なるものであったという報告書も、私は読んでおります。
 そういう新たな事態で、これからさてどうしようかということを考えるときに、これから当法務委員会でも審議される司法試験制度の改革などについては、日弁連と法務省、最高裁との間では論議が積み重ねられた上で出してくるのでしょう。それであるならば、弁護活動にとっても検察官の活動にとっても、また裁判官の対応にとっても重大な、そしてまさに日本の司法制度の一つの核をなすこの被拘禁者の処遇の問題、代用監獄の問題については、当然我々法務委員会が決議をした、
司法制度、法曹三者でしっかり話し合いをしてから持ち出してほしいという、これは院の決議の枠内のものだと、勝手に法務省がその枠外でないなどと考えるのは許されないと思うわけであります。
 法務大臣に希望いたします。院の決議を踏まえて、こういう大事な被拘禁者の処遇にかかわる問題、それは弁護活動の問題にも関係してきますし、検察官、裁判官の対応にもかかわってきますから、弁護士会等のこういうはっきりした意思が表明されているわけですから、勝手に、それに耳を傾けないで、協議なんかしなくて出していいんだという態度をとらないで、少なくとも今国会に出すことはやらないでほしいと思うのですが、いかがでしょう。
#233
○左藤国務大臣 弁護士会の方の御意見は十分伺いますが、今のところ私らはそういうことについて、法案を出していくという方向で検討させていただきたい、このように考えています。
#234
○木島委員 最後に、もう一度戻りますが、法制審議会にかけ直さなくていいという考えですか、法務大臣本当に。法制審議会にかけずに出していいと考えておりますか、法務大臣。法務大臣の考えで決まるのですから、答えてください。
#235
○左藤国務大臣 法制審議会にかけなければならないという性格のものではないのじゃないかな、私はこのように思います。
#236
○木島委員 時間が来ましたから終わりますが、実はもう一つ、きょうは時間がないので指摘できませんでしたが、一九八九年二月に、人権国際連盟というところのパーカー、ジョデル両氏がやはり同じような調査に日本を訪れ、そして八九年三月二十七日、報告書を出している。この報告書は国連にも出されている。やはり日本の代用監獄は廃止すべきであるという結論になっているということを一つ指摘をいたしまして、国際法的にも全く時代錯誤となった、人権後進国の最たるものになってしまったこの代用監獄を恒久化するような法案は断じて提出せずに、代用監獄全廃に向けて法務省が努力をされますことを希望いたしまして、質問を終わります。
#237
○伊藤委員長 次回は、来る二十二日金曜日午前九時五十分理事会、午前十時委員会を開会することとし、本日は、これにて散会いたします。
    午後四時十五分散会
ソース: 国立国会図書館
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