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1990/06/21 第118回国会 参議院 参議院会議録情報 第118回国会 商工委員会 第7号
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1990/06/21 第118回国会 参議院

参議院会議録情報 第118回国会 商工委員会 第7号

#1
第118回国会 商工委員会 第7号
平成二年六月二十一日(木曜日)
   午前十時一分開会
    ─────────────
  出席者は左のとおり。
    委員長         倉田 寛之君
    理 事
                中曽根弘文君
                福間 知之君
                井上  計君
    委 員
                大木  浩君
                合馬  敬君
                下条進一郎君
                前田 勲男君
                松浦 孝治君
                向山 一人君
                大渕 絹子君
                梶原 敬義君
                庄司  中君
                谷畑  孝君
                吉田 達男君
                広中和歌子君
                三木 忠雄君
                市川 正一君
                池田  治君
                今泉 隆雄君
   国務大臣
       通商産業大臣   武藤 嘉文君
   政府委員
       通商産業大臣官
       房長       熊野 英昭君
       通商産業大臣官
       房総務審議官   関   收君
       通商産業大臣官
       房審議官     横田 捷宏君
       通商産業省通商
       政策局長     畠山  襄君
       通商産業省産業
       政策局長     棚橋 祐治君
   事務局側
       常任委員会専門
       員        小野 博行君
    ─────────────
  本日の会議に付した案件
○不正競争防止法の一部を改正する法律案(内閣提出、衆議院送付)
    ─────────────
#2
○委員長(倉田寛之君) ただいまから商工委員会を開会いたします。
 不正競争防止法の一部を改正する法律案を議題といたします。
 本案の趣旨説明は既に聴取いたしておりますので、これより質疑に入ります。
 質疑のある方は順次御発言願います。
#3
○梶原敬義君 通産大臣、本議題に入る前に聞いておきたいんですが、私も先般ずっと予算委員で審議に参加をいたしましたけれども、通産省だけということではないが、やはり資料の国会への提出といいますか、世の中はまさにグラスノスチで情報公開が非常に洋の東西を問わず進んでおりますが、通産行政の中にもここまでは出して国会や国民の皆さんに知らせてもいいんじゃないか、こういうところが非常に強く最近感じられるんですが、この点について私は積極的な対応をやはりしていただきたいと思うんですが、いかがでしょうか。
#4
○国務大臣(武藤嘉文君) たまたま私がヨーロッパへ出張させていただいているときに予算委員会で起きたことでございまして、それだけではございませんが、通産省の関係は原子力発電の問題で御指摘をいただいたわけでございますけれども、正直、通産省だけではない、すべての行政が政策を実行していく上に当たりましては、国民のためにやることでありますし、そのためには国民の御理解を得てやらなきゃいけないということは当然のことだと私は思います。国会というのは国民の代表が集まっているところでございますから、その国民の代表である皆様方にできる限り情報を公開し提供するということは、当然の私は政府の務めだと思います。
 ただ問題は、やはり立法、行政、司法と三権分立の日本の立場でございますから、そういう面において行政上もやはり秘密を守らなきゃいけないというものも確かにあるわけでございまして、例えば個人のプライバシーを保護するという問題であるとかあるいは財産権の問題であるとか、あるいは行政当局としてこれは国家安全保障上どうしても表に出してはいけないという問題であるとか、いろいろあるわけでございます。
 今回この法律案でお願いをいたしておりますのも、営業の秘密もやはり秘密にするべきところは秘密にし、その辺をきちんと区分けをしていくべきではないかというふうに思うわけでございまして、通産省だけではない、政府全体といたしましてこれからやはりできる限り情報は公開をしていく、しかしこれこれこれというものはどうしてもこういう理由で公開できませんということをはっきり私は申し上げることが誤解を招かないようなことになるんではないか。そういうものでないものはできるだけ公開をし、国会にもできるだけ資料は提供させていただくということに今後努めていくというのが行政当局としての当然の姿勢だと私は考えております。
#5
○梶原敬義君 よくわかりました。
 特に参議院の場合は、与野党逆転のような状況ですし、そういう意味では、余り今までのように与党の部会とか何かで、そこら辺で話をしておけばもうあとは適当にやれば乗り切れるんだというような情勢では私はなくなったと思います。今大臣からお話がありましたように、ここは出せる、ここまでは出せる、これからこっちはどうして出せないかというところをしっかりわかるように私どもにも伝えていただいて、今言われたような対応をこれからもお願いしたいと思います。
 さて、本不正競争防止法の一部改正案、私も何回かこれを読んでみまして、読めば読むほど頭が痛くて、非常に難解でもうそれだけでこの法律は余りよくないなと、こう思っております。特に片仮名で、しかも昭和九年ごろのペースに合わせた片仮名の文面でざっと書いておりますね。これは本当は、今度の法律を提出するのにこんなにそそくさと出すんじゃなくて、片仮名全部、わずか短い法律ですから平仮名にもう書きかえて私は出していただきたかった。大臣、これは何回も読んでわからない。それは大臣もなかなかわかりにくいと思うんです。それから、使っている用語が非常に古い用語で難しいのがありまして、法律用語かわかりませんが、第二条の第一項ですか「権原」、これは取引によって得た権原の範囲内において、いろいろ辞書で権原というのは何か調べてみまして初めて意味も少しわかったんですが、こういうような法律を無神経に出してくるという、まさに通産省というのは一番情報化社会なんかが進んでおり先端を行っていると思うんですけれども、無神経、こういう法律が出てくるというのはどうも納得がいかないんですね。大臣、いかがでしょうか、その点について。
#6
○国務大臣(武藤嘉文君) 正直、私どもできる限り本当は平仮名の法律にしたいという気持ちは持っておったわけでございます。それはなぜかと言
えば、先ほどの話で国民にわかりやすいやはり法律に直していくべきではないかと思っておりまして、この点は内閣法制局と詰めさせていただいたわけでございますが、内閣法制局の姿勢は、例えば今回この国会にも提出させていただきました商法の改正案、実はこれも片仮名でございます。そういうようなことで平仮名にしたのは、例えば民法でそれこそ編のところまでいろいろ直したようなときは全部直したようでございますけれども、どうも私どもの姿勢というよりは、政府全体で法律を出すものでございますから、どうしても内閣法制局と調整をとらなければなりません。
 そこで、内閣法制局の考え方としては、全体的に大きく改正する場合には平仮名に直すけれども、部分的な改正の場合は片仮名でというのが従来の通例できたようでございまして、残念ながらこの法律の改正案につきましても、そういう意味で片仮名でお願いをせざるを得なかったということで、決して私どもが神経がずうずうしくてこういうようなことをやったわけではございません。どうかその辺のところだけはぜひひとつ御理解をいただき、それを補てんする意味で、私どもできるだけわかりやすい解説書をやはり今回はしっかりつくりますことと、それから、できるだけ場所などもいろいろと変えまして全国的に回数もなるべく多くして説明会なども十分させていただかなきゃならないと、こう考えておるわけでございます。
#7
○梶原敬義君 先般、私ども去年の秋に消費税廃止法案を出しまして、その文面や何かに対して随分皆さんからやられましたよ。もしこういう法律をこういうようなタイプで出しておれば、もう本当に一日ももちません、火を噴くように出てくるんですからね。それで、つくづく思いました。憲法というのは国の基本法ですから、憲法と法律とを読んでみると、憲法はやっぱり一番さらっと読めるんです。法律になりますと読みにくい。最近できた法律というのは比較的読みやすいんです。しかし、今度できたこの法律だけはさっぱりですね、これは相当法律の専門家か何かじゃないと。皆さん、本当に何回か読んでください。
 だから、法律というのは専門家のために、あるいは国が取り締まるためにつくるのか、あるいはその前に国民にやっぱりよく知らせて、こんなことはいけませんよということをするためにつくる法律か、どうもそのところが逆になっているような気がしてならないんです。もう余り言ってもしようがありませんが、通産大臣、これからはやっぱり法律についてはできるだけ全般にわかりやすく、そしてこういう場合はできるだけ早目に取りかかって、片仮名は平仮名に直せるような努力をするように、ひとつ閣議の方でも反映をさせていただきたいと思うんですが、最後にお聞きしておきます。
#8
○国務大臣(武藤嘉文君) 実は、閣議の方でございますが、たまたま自民党の方でこれはやはり大きな問題になりまして、正直なかなかこの法律が通していただけそうに、御承認がいただけそうになかったという経緯もあるわけでございます。それを踏まえて、今自民党の政調会の方でいろいろこの問題を取り上げて、どういう方向にいこうかということの検討を始めておっていただいておりますので、その辺を踏まえながら、政府としても前向きに対処していかなきゃならないと考えておるわけでございます。
#9
○梶原敬義君 次に移りますが、この不正競争防止法改正案の大臣の提案理由を読み返してみましたら、この改正に至った理由、必要性について一つは、「近年、技術革新の著しい進展、経済社会の情報化等を反映して、経済活動において技術上または営業上のノウハウ等の営業秘密の重要性が増大しており、これを不正な競争行為から保護する必要性が高まっており」と、これが一つ国内で、それからもう一つは、「営業秘密の保護のあり方については、本年末が交渉期限であるガット・ウルグアイラウンドにおいて交渉項目として取り上げられるなど、国際的な制度の調和を図ることが求められており」、こういう二つのことが同時に並べられておりますね。
 どっちもわかるんです。だけれども、さっき言いましたように、そういう非常に難解な法律をそそくさと出したような感じというのは、私は後者にウェートがかかり過ぎたんじゃないかという気がしておりますが、この点は前者後者どちらにウェートがかかってございますか、この点について。
#10
○国務大臣(武藤嘉文君) 提案理由に書いてあるとおりでございまして、私ども両方とも十分ウェートを置いて考えておるつもりでございます。
#11
○梶原敬義君 具体的なことについてお尋ねしますが、いろいろアンケート調査の数字やなんかの表やグラフも見せていただきましたが、本法改正に対する産業界における要請といいますか、ニーズといいますか、その実態についてできるだけ簡単にわかりやすく説明をしていただきたいと思います。
#12
○政府委員(棚橋祐治君) 今大臣が申されましたように、技術の高度化、経済のソフト化、サービス化、こういうことで企業の事業活動における営業秘密の重要性が高まっておるわけでございます。
 委員御質問のこの具体的な事例でございますが、昨年十月に財団法人の知的財産研究所が実施したアンケート調査がございます。この調査によりますと、技術上のノウハウにつきましては、生産技術情報、設計技術情報、製品企画情報等の分野においてこのごろ製品の付加価値が非常に高くなってきておる関係で、技術の高度化、新規分野への進出等を背景に、業種別に見ますと化学、機械、電気機器等の業種を中心に調査対象の約七割の企業が技術的ノウハウの増加率が著しく高まっていると回答をいたしておりますし、約八割の企業が今後重要性がますます高まるものと答えております。
 それから営業上のノウハウにつきましては、顧客名簿等、営業上のいろいろのコストをかけた情報、これらが今後競争の活発化あるいは顧客ニーズをきめ細かく把握する、さらには新規分野へも進出するというようなことなどを理由として、業種別には金融業、サービス業を中心に対象の約六割の企業がこの営業上の秘密のノウハウ等についての重要性を強く認識をいたしておりますし、やはり八割の企業が今後ますます高まるものと回答をしております。
 また、私ども産業構造審議会の報告書の取りまとめに先立ちまして本年一月に主要業界団体百五十の団体に細かく本問題についての意見をお出しいただくようにお願いをいたしましたが、ほとんどの業界から営業秘密の保護が必要である旨の御回答をいただいておりまして、こういう御回答をベースにしまして産構審の報告書にもそれを盛り込んで今回この法改正に至ったわけでございます。
#13
○梶原敬義君 知的財産研究所の調査、六百四社の回答状況というのはずっと出ておりますが、これはきのう質問通告をちょっと落としておりますが、これは中小企業の意見がどれだけ反映されているか。六百四社というこの内訳がちょっとわからないんですが、この点はいかがでしょうか。
#14
○政府委員(棚橋祐治君) 委員御指摘の、私ども千九百数十社について調査をお願いしまして、六百四社から御回答をいただいたわけでございます。中堅企業が若干入っておりますが、御指摘の中小企業につきましては今回私ども特にその分野に重点を置いて調査をいたしませんでしたので、率直に申し上げまして中堅企業を含む大企業が中心でございます。
#15
○梶原敬義君 後で問題になると思いますが、やはりそこが一番心配されるところでありまして、そういう調査の数字というのは、これだけで見ますと、ほうっと言ってびっくりするような全く異議なしという数字ですが、少しそういう中小の心配というのがありますから、この点については後からまた重ねて質問をいたします。
 次に営業秘密について、営業秘密とは何かということで大体三点にわたって通産省の説明がなさ
れておりますが、重ねてその点についてお尋ねをいたします。
#16
○政府委員(棚橋祐治君) 営業秘密の要件としては御指摘のように三つ法律で規定をいたしております。一つは、秘密として管理されておること。二つ目は、事業活動に有用な技術上または営業上の情報であること。それから三つ目には、公然と知られていないということであります。
 この営業秘密の要件は、いずれも営業秘密の保有者の主観的な尺度で決められるものではなくて、客観的に判断されるものであります。したがって、例えば企業のスキャンダル、公害等その他の脱税とかそういうスキャンダル情報等は、幾ら秘密として管理しておりましても、客観的な有用性は認められないわけでございます。したがって、営業秘密としての救済の対象にはならないわけでございます。また、きちっと管理はされておりましても、あるいは事業活動上有用なものであってもたまたま公然と業界において知られておる、こういう場合にはまた対象にならないわけでございます。
 こういうことで私どもとしてはこの三つの要件は、諸外国の不正競争防止法等におきます営業秘密の概念規定の中では、欧米諸国の判例、先例を前提に三つを特定したわけでございますが、一番進んでおるといいますか、きちっと明確な定義をしておるものだと考えております。
#17
○梶原敬義君 今三つの概念を申されましたが、この概念を読んでみますと非常に腕に落ちないんですね。だから、秘密として管理をされているこの管理の範囲ですね、管理の範囲と言ったら一体どういうことか、これが一つ。それからもう一つは、生産方法、販売方法等の事業活動に有用な技術情報、これまた有用なというのが非常に抽象的でこれもわかりにくいんです。それから、公然とというものですね、今少しお話がありましたが公然とは一体どの辺まで公然というのか。この今言いました三つのことについてもう少し具体的に説明をお願いいたします。
#18
○政府委員(棚橋祐治君) まず、御指摘の秘密管理の具体的な方法といたしましては大きく分けまして二つございまして、当該情報にアクセスできる者、近寄れる者が制限されていること。例えば社員以外の者はアクセスできないような措置や、当該情報にアクセスした者に権限なしに開示してはならない旨の義務を課す等の措置が講じられておることなどであります。それからもう一つの要件は、アクセスした者に当該情報が営業秘密であることを認識できるようにされておること。たまたま従業員が営業秘密であることがわからないような状況では困りますので認識できるようなものであること。こういうことが大きな二つの要件かと思います。
 それから、事業活動に有用性というものはどういうものかということでございますが、この技術に関する情報または営業活動において使用、利用される情報であって、企業が財・サービスの生産、販売、研究開発等の事業活動を行っていく上で、例えば費用の節約とか経営効率の改善とか、あるいは営業の売り上げを増加させることに役立つもの、こういうようなものであろうかと思います。
 もう少し具体的に申し上げますと、例えば技術上の情報ではノウハウ、設計図あるいは製法、研究データ等が挙げられますし、営業上の情報としましては顧客の名簿とか、それから顧客のニーズに対応した販売のマニュアル、こういうものについての情報が主要なものではないかと思っております。
 それからもう一つ、三番目の公然と知られていないことでございますけれども、具体的には主観的に自分が秘密であるといってもどこかにその情報が漏れてしまっておる、例えば刊行物の中で調べてみたら記載されておったということでは、不特定多数の方が目にすることが当然あるわけでございますので、これはもう公然と知られておるわけでございます。あるいは一般的に入手できない状態にあって、人数の多少にかかわらず当該情報を取得した人に守秘義務がかけられている場合等がそのケースかと思います。
 以上、三点でございます。
#19
○梶原敬義君 なかなかそれだけでわかりにくいんですが、次に移りまして、あとはまた具体的に質問していきます。
 営業秘密の範囲ですね、範囲というのは、今言われたような内容では非常に抽象的ですから、とり方によってはどこまでも広がるような気がいたしますが、これは無制限に営業秘密の範囲というのがつばつけていけばどんどん膨らんでいく可能性というのが心配されるんですが、その点については、いかがでしょうか。
#20
○政府委員(棚橋祐治君) 確かに日進月歩の世の中でありますので、特に先端技術分野におきましては技術情報は非常に範囲が広がっていくこともございますし、それから最近は経済のサービス化、顧客のニーズが非常に多様化しておるということから、販売における営業上の情報などもいろいろ膨らんで範囲が広がっていくことは、先生御指摘のとおりでございます。しかしながら、営業秘密であってもこれについての不法行為について本法案で差しとめ請求等を認めておるわけでございます。
 これにつきましては、法律をごらんいただければでございますが、例えば一号において不法行為、窃取、詐欺等の不正手段で営業秘密を取得する行為あるいは使用、開示する行為とか、二号では不正取得をした人から故意・重過失でそれを取得した行為、またはその使用、開示する行為とか、それから取得したときには善意であっても、後でこれが窃取等で入手された情報であるということを知ってそれを使っておる場合とか、こういうようにいろいろ行為体系が決められております。
 それから、窃取等でなくて経営者と従業員の正常な雇用契約において知った情報を、今度は不正な競業あるいはその他不正な利益を図るために会社に損害を与えるような目的でほかへ開示するというようなケースについては、この法律の一条三項四号において、転々流通する場合、あるいは収得のときには善意であっても後で知ってそれに故意・重過失があった場合にはやはり五号、六号において差しとめ等の対象になるというように、営業秘密の三つの要件のほかに行為類型が六つ特定されております。
 そういう意味で、ここの法律の中で保護される営業秘密と不正行為については当然おのずから限定があると、こういうふうに考えておるわけでございます。
#21
○梶原敬義君 この点については庄司委員の方からも後からまたあると思います。
 これから恐らく労働力が非常に流動化してくる、果たして終身雇用制度というのがいつまで続くか、こういう情勢を考えた場合に、消滅時効というのは三年、十年と比較的長くなっておりますが、人間の頭の中では、企業秘密にしようとするものかどうかわからないが、その前におった会社の中で入っていたものが、それがほかへ移って仕事をしていく中で知らず知らずのうちに出てくる。そうすると、そういうのは全部これも企業秘密、営業秘密でざっとつばをつけられておる。やがてそれがまた問題になってくる、こんな心配もこれからあるわけです。
 この点についてはこの法律は非常に漠然としていますから、ここでしっかり答弁の中できちっとしていただかないと、個人の職業の選択の自由とかあるいは契約の自由の原則、基本的人権、こういうものも使いようによっては悪用されますから、その点についてしかと伺います。
#22
○政府委員(棚橋祐治君) この法律案の中で非常に議論になりました大きな問題は、確かに職業選択の自由あるいは職業をかえる場合の自由を制約する問題との関連であります。本法案の作成過程におきまして、この重要な問題につきましては労働者の代表の方に産業構造審議会の委員になっていただきまして積極的な御議論もいただきましたし、それから労働省の方にもいろいろ十分な協議
をいたしまして、そうした観点で労働界の御意見も十分取り入れさせていただいておるつもりでございます。
 例えば従業員が頭の中に入れておるノウハウ、研究者が入れておるノウハウにつきまして、たまたま会社をかわって、頭の中に入れておるそのノウハウを使ってまた新しい仕事をするというケースなどが、設計図を盗んだり何かするケースじゃなくて、一番微妙な問題であります。一般的に、その従業者が前の会社において自分が開発したノウハウ等については、当然これは前の会社において開示され、知らされた情報、ノウハウ等ではありませんので、次の会社においても当然それは自由に使えるわけでございます。
 ただ、前の会社において会社のいろいろの研究活動において教えていただいた、あるいはそれによって習得した技術について一定の制約がある場合がございます。例えば契約によって転職した場合でも前の会社において習得した技術については、全くのライバル会社において例えば二年間は競業避止義務といいますか競業禁止契約といいますか、使わないというような約束、契約がある場合がございます。この契約自体が五年も十年もライバル会社で同じような仕事はしてはいけないというような場合には、欧米の判例ではその契約自体が労働関係法その他民法の公序良俗あるいは経営者の権利の乱用というようなことで無効であるという判例もございますが、契約がリーズナブルな範囲内で、しかもその会社をやめた方に相応の退職金その他を上乗せして払っているようなケースについては契約自体が有効であるということで、仮に次の会社で契約に違反してそのノウハウを開示したり使用したりするときについては従来も損害賠償が認められたケースもございますし、今後その内容いかんによっては差しとめ請求の対象になるようなケースもあろうかと思います。
 今申し上げましたのは一例でございますが、そのケース、ケースでいろいろ裁判所が判断するわけでございます。ただ単に前の企業側の意見だけでそれが決まるわけではなくて、転職後の労働者、研究者の方の生活権の問題等々についても幅広い見地からの総合的な判断が下されるケースが従来の判例でございます。
#23
○梶原敬義君 営業秘密は特許権等の他の知的財産権とどのように区別をさるべきものか。
#24
○政府委員(棚橋祐治君) この点は確かにひとつ十分御説明をさせていただかなければいけない点でございます。
 新しい製造技術等につきましては、特許権の対象となる発明、これはもちろん多いわけで日米構造協議でも我が国の場合には特許権の出願が多過ぎて、これを審査するのに大変時間がかかるというほど日本では特許権の出願が多いわけでございます。当然、特許権というのは公開されます。公開されると、そのかわり非常に強い排他的な権利が与えられるということで特許権制度があるわけでございますが、中にはしばらくの間出願をせずに、知られずに自分の営業上、技術上の情報としてそれを使いたい、こういう企業もあるわけでございます。それからまた、この対象として当然特許の対象にならないものもありますが、特許の対象になり得てもそういうことで出願をしない場合には出願した場合と比較して利害得失がございまますが、この場合は出願をしないことに伴ってのリスクが若干ありまして、例えばその方が出願をしない、そうするとだれか第三者がたまたま自分たちの技術開発で同じような特許権の対象となる技術を開発してしまって、特許権の出願をした場合には前から使っておるといっても今度はもう特許権が取れなくなってしまうというリスクがあるわけでございますので、その辺の技術開発をどうするかという企業の営業戦略といいますか、そういう総合的な判断があるわけでございます。
 申し上げましたように、特許権の対象になりますと公開が前提になるが、大変強い排他的権利が付与される。ところが、今回の営業秘密の保護制度はそういう排他的な権利を与えるものではなくて、不正な行為からの救済措置を講ずるにとどまっておるわけでございまして、その対象の内容として差しとめ請求権あるいは損害賠償を請求することができるというようなことで特許権のような強い排他的権利がない、そういう点でいろいろの違いがあるわけでございます。
 ただ、いずれにいたしましても二つの点は、このノウハウ等について保護をするという点については同じでございまして、技術開発のインセンティブを開発者に与える、それによって相互に補完的な役割がある、こういうつながりは当然あるわけでございます。
#25
○梶原敬義君 本法案で言われているこのノウハウとか営業秘密というのは、我が国において実態として売り買いをされている状況というのは実際に今どのくらいのものでしょうか。
#26
○政府委員(棚橋祐治君) これは数を正確に我々なかなか把握できないわけでございますが、最近のノウハウの活発化の定量的な把握がきちっとできない点で申しわけありませんが、独占禁止法第六条に基づきまして公正取引委員会に届け出がありました国際的技術等取引契約件数というのがございます。この統計を見ますと、ノウハウ契約の件数が八十七年度が五百五十八件、八十八年度が六百四十六件というふうに増加をいたしておりまして、特許契約の件数は八十七年度二百二十七件、八十八年度二百三十件でございますので、これは国際的な技術取引に限定された統計でございますけれども、非常にノウハウの国際的な往来といいますか、交換も大変ふえておるわけでございます。国内において恐らくこれは相当おびただしい契約件数があるわけでございますが、今定量的にきちっとした把握をする制度はございません。
#27
○梶原敬義君 欧米の企業のノウハウ、営業秘密を日本のある企業がどこか何かを介して日本に持ち込んだと、それを差しとめする場合にそのやり方というのは、アメリカの国内法でやれるのか日本の法律でやるのか、その辺は難しいと思うんだけれども、ちょっと聞いておきたいんですが。
#28
○政府委員(棚橋祐治君) 不法行為につきましては行為地主義というのが原則でございまして、例えばアメリカのノウハウをアメリカにおいて日本の企業が不正取得して不法行為をしたという場合には、アメリカは州法が多いんですが、アメリカのトレードシークレットに関する三十二州の州法でその問題が裁かれるわけでございます。残りの十八州は、これはコモンローと言いまして判例法の形でございます。それから、我が国でアメリカのノウハウを輸入して、我が国の国内でそれを不法に取得したり開示したりして使うというようなケースについては、今までは民法七百九条あるいは契約がある場合には民法四百十四条でございますが、今回この法案が成立しますれば、あわせてこの法律の対象になるわけでございます。
#29
○梶原敬義君 次に移ります。
 この改正案の一条の二項ですか、「知ラザリシコトニ付重大ナル過失アリテ」というのが出てくるんですが、「重大ナル過失」これほどの程度のことを言っているのか。
#30
○政府委員(棚橋祐治君) 委員は第一条三項の二号を御指摘だと思います。「其ノ営業秘密ニ付営業秘密ノ不正取得行為ガ介在シタルコトヲ知リテ若ハ知ラザリシコトニ付重大ナル過失」云々でございますが、「重大ナル過失」といいますのは、当該営業秘密について不正取得行為や不正開示行為が介在したことを、通常の商取引上に要求されます注意義務を尽くせば容易にわかるにもかかわらず、その注意義務について著しく反して当該営業秘密を取得した場合、これが「重大ナル過失」でございます。もう一つ申し上げますれば、注意義務につきましては、通常の取引活動あるいは営業等の経済活動に要求される程度のもので足りるというのが従来の判例等で示されておる解釈基準でございます。
 具体的に一つ例を申し上げますと、例えばある取引において身元不詳のブローカーが寄ってきて、こういう営業上の秘密があるけれどもどうだろうかというときに、この身元も確かめずに、これはいい情報だといって飛びついてそれを買って
使ってしまった場合には、やはり通常身元は十分調べなきゃいけない、それによってどういう出所の情報であるか、そういう程度の注意義務は当然要請されるということで、そういう場合には一般論としては「重大ナル過失」があったと、こういうケースが多いのではないかと考えております。
#31
○梶原敬義君 なかなかそこは難しくて、それは財力のある強い企業は差しとめ請求、仮処分やなんかですぐやるでしょう。それに対して、いやもうそれを争ってもということになって、小さいところはそれは反論があってもなかなか簡単にはいかない問題があって、この「重大ナル過失」、それは調べればいいけれども、調べる暇もない、わからぬ、そういう場合だってあると思う。その辺が非常にあいまいな気がいたします。
 それから、差しとめ請求をやる場合は恐らく裁判をやるしかない。裁判は憲法八十二条ですか、公開の原則。営業秘密というのはこれは秘密にしておくところにまた値打ちがあるわけですが、裁判では公開の原則。その辺の整合性というのか、これは一体どうように保たれるのか。
#32
○政府委員(棚橋祐治君) 裁判につきましては、今委員御指摘のように憲法の大原則があるわけでございまして、「裁判の対審及び判決は、公開法廷でこれを行ふ。」ということで、特定の場合――公の秩序、善良の風俗を非常に害する場合以外、しかもそれが裁判官の全員一致の場合には対審は公開しないことができるということですが、八十二条の原則は欧米に余り例がない非常に公開性の強い規定であることは御指摘のとおりでございます。
 翻って、営業の秘密というのは公然と知られてしまうと営業の秘密ではなくなってしまいますので、この問題は確かにいろいろあるわけでございますけれども、例えば民事訴訟法二百八十一条一項三号におきましては営業秘密については証言拒絶の事由となるという訴訟手続の過程においてそういう規定もございますので、それなども外に漏れることについてある程度の保護が図られておりますし、その他現行の訴訟手続に関するいろいろの法令、民事訴訟法の二百四十九条の準備手続とか二百六十五条の裁判所外での証拠調べとか、いろいろ現訴訟手続でも憲法の八十二条の原則のもとである程度こうしたものが保護される、そういうものもございます。
 ただ、全体的にこの問題については、営業秘密に関する訴訟だけに固有の問題ではなくて、憲法の大原則の中で民事訴訟手続全体としてどう考えるかということで、過去からいろいろ議論が各方面であるところでもございます。法務省が中心になられる問題だと思いますけれども、この本法案が成立した後で、運用状況がいろいろ蓄積されていく過程においてまたこういう問題について十分対応を考えなければいけない事態も生ずるかもしれまぜん。今後の検討課題でございます。
#33
○梶原敬義君 そんなに、憲法の原則まで変えてやるというのではなくて、もっと何かそうじゃないやり方を指導すべきだろうと思います。
 次に、具体的に我が国における差しとめの対象となるような不正行為が、さっきちょっと数字が聞きにくかったんですが、厳然として起こっておるのかどうなのか。あるいはそういう差しとめがこの法律ができることによって、非常に我々見通しにくいんだけれども、ずっとふえてくるのか、現状維持程度でいくのか、この辺についてお伺いをしたいと思います。
 それから、欧米の状況は、いろいろ法律ややり方の違いはあるとしても、実態は一体どのようになっておるのか、その点。
#34
○政府委員(棚橋祐治君) 我が国においては、営業秘密の差しとめ請求が認められたケースは戦後の判例において皆無でございます。ただ、一つかなり有名な裁判例がございます。これはワウケシャ事件、昭和四十一年の東京高裁の裁判例でございますが、ドイツのメーカーから船舶のプロペラに関するノウハウの供与を受けたワウケシャという会社が、契約上守秘義務があったのでございますが、日本に設立した子会社の中越ワウケシャという会社にノウハウを開示したわけでございまして、これが親会社の方から差しとめの仮処分の申請があったわけでございます。当時の裁判所は、損害賠償の責めならば当然負うであろう、ただしこの場合、損害賠償の請求をしてなかったわけでございまして差しとめの仮処分だけだったものですから、しかしながら差しとめの仮処分に値するほどの権利性はなく、損害賠償は必ずしも権利性が前提にならないが、差しとめ請求の仮処分は権利性がもうちょっとはっきりしないといかんと言って、その仮処分申請を退けたケースがございます。この営業秘密に関して具体的な先例らしきものはこれだけでございます。損害賠償が認められたケースはもちろん何件かございます。
 それからもう一つ、観点を変えて、実は民法四百十四条で、契約法に基づいて契約がある場合、契約がない場合は今のようなケースですが、契約がはっきりある場合には幾つかの事件がございまして、これについての判例も幾つかございます。
 それから、営業秘密についてのそういう差しとめのケースは契約がない場合には皆無と申し上げましたが、もちろん商法等で先生御承知のように法律上株主の差しとめ請求等が認められております。例えば商法上の義務違反に関する例としては昭和六十三年の判例で日本設備事件とか損害賠償請求を認めた例としてはいろいろございますけれども、差しとめ請求が認められたケースはありません。それから民法の不法行為の七百九条で、ここでは営業秘密についてこの差しとめ請求は申し上げたようにないんですけれども、例えば公害など社会、人命、人体に著しく問題があるケースについて七百九条の不法行為の中で差しとめ請求を認めたケースがございます。こんな状況でございます。
 欧米においては、特にアメリカにおいてはこれは差しとめ請求の事例は非常に数多く見られます。例えば有名な事件ではグッドリッチ事件と言って、宇宙服の開発を行っておりますオハイオ州のグッドリッチ社で研究開発の担当者が六年間そこにいて、それが立ちおくれた同業の会社に行って宇宙服を開発したケースについて差しとめを認めた事件とか、それからミッシェル事件と言いまして、化粧品会社で働いていた従業員が口紅の処方の技術上の情報を得て、退職後自分が会社をつくって、そこで同じような手法で製品を開発したことについて差しとめ請求があったとか、主な事件でも相当の数があるわけでございます。
#35
○梶原敬義君 中小企業の経営者あたりは、地方の人は時々東京へ出てこなきゃいかぬということで出てきてあっちこっち見て回りまして、そして常日ごろ事業をやっていたりいろんな生産活動をやっていてちょっと行き詰まっているときに、いろんなところへ行ってヒントをぱっと得てきてやるわけね。それはこっちでどこかの企業が営業秘密にしているのと同じような結果になるのかもわかりません。そういうことの繰り返しをやっているわけです。それがやっぱり今日の我が国の経済の発展を支えている一つの大きな力にもなっていると思うんです。
 そういう点では、これからこの法律ができまして、非常にこれは神経を使うと思うんです。やっぱり差しとめといったら、事業を続けているときに差しとめをされたら、これは損害賠償どころじゃない。そこで倒産の憂き目を見なきゃならないような内容に直結しますから、これは乱用するようなことになりますと大変だし、その辺についてはこの法律の運用に当たって通産省にはやはり非常に大きな責任が生ずると思うんです。開発途上国なんかでも、日本に来て日本のやっていることをまねしてどんどん生きていくと思うんです。大きな力を持っている企業がそういうようなものまで全部ノウハウ扱いして抑えていくというようなやり方、これは非常に心配になります。この点が一つ。
 それから、時間がありませんから先に言ってしまいますと、中小企業の場合は、この営業秘密の管理というのは非常にあいまいです。それは毎日毎日もう食うのに忙しいわけですから、その点で
非常に不利な面が出るのではないか。できれば、私はさっきのその六百何社の世論調査の中に、もっと中小企業の皆さんの意見が反映された数字を見て判断をしたかった。それが第二点。
 第三点としては、今まさにまた戦前と同じように大企業中心の系列化というのが非常に進んでおる。商社あるいはメーカーを通じてそれぞれ進んでおります。金融界もそういうようになっております。だから、一つの傘の中に入ってよそと取引を始めようとしてもノウハウ問題等が非常に厳しい問題がやっぱりありますから、これが一つの制約を加えるようになりはしないか。これが第三点。
 四点といたしまして、これは振り返ってみて、日本の独占禁止法はやはりよかったと思うんですが、縦系列の集約というのがまたどんどんかつてのように今進んでおります。アメリカが指摘しております縦系列の集約が進むとこれはやはり問題が将来いろんなところで出てきますから、この心配がないのか。
 それから最後に、刑事罰の創設の布石になりはしないかという心配もこれは弁護士会の方もしておりますが、これはそうはさせちゃいけないと思うんですが、以上、答弁をお聞きしまして、終わりにさせていただきたいと思います。
#36
○政府委員(棚橋祐治君) まず、いろいろの御質問の中で、中小企業が大変大企業に比べてこういう制度ができると不利になるのではないかという点が先生の基本的に御懸念の点かと思いますが、これにつきましては、例えば秘密管理要件の管理体制につきましては、大企業の場合にはアクセスする人間も大変たくさんおりましょうし、先ほども申し上げましたが、そういう意味で、きちっとした管理として金庫に入れておくとか、アクセスする人間が非常に限られておるとか、そういう守秘義務をきちっと課するとか、もう一つの要件としてはそれが営業秘密であることが多くの従業員によく認識させられるような体制になっておるとか、大企業の場合にはかなり秘密管理の要件が厳しいことが一般的に期待されているんではないかと思います。中小企業の場合には、従業員も少ないわけでございますので、例えばこの営業秘密についてはアクセスする人間はこれだけしかできませんよとか、これを外へ出しては絶対いけませんよ、というようなかなり口頭の注意等で十分秘密管理の体制が行われておるという要件を充足しておるように見られるケースもありますので、特に中小企業において大企業並みの管理体制が必要かどうか、そこはむしろ大企業の方が厳しい体制を必要とするのではないかという感じがいたします。
 それからもう一つ、企業の縦の系列化が今進んでおる中でこういう制度ができますと、大企業が営業秘密が漏れないように下請企業に対して発注元を限定したりなんかして締めつけを強くしていくということで、縦の系列化が進んでいくんではないかという問題がございます。これにつきましては私どもも中小企業政策の中でもいろいろの配慮をしていかなければいけないと思います。もしそういう今回の営業秘密の保護の制度を縦の系列化のために使っておるというようなケースがありますれば、中小企業施策の中でもきめ細かくよく実情を把握して、中小企業の方からそういう苦情があれば、私どもは中小企業対策としていろいろの対応策を考えていかなければいけない、現実にあったらいろいろ方法を考えていかなければいけないと思いますが、何はともあれ大臣も冒頭に申し上げましたように、この法律の趣旨を十分解説書、講演会その他で徹底をして、本来の趣旨を御理解いただくというようにしたいと考えております。
 それから、先ほど早い段階で先生の御質問の六百四社の中に中小企業が入ってなかったんではないか、だから中小企業のいろいろの意見を聞かれていないんじゃないかというような御意見でございましたけれども、中小企業性の高い団体、例えば鋳鍛造業界、これはもうほとんどが中小企業でございますし、それからソフトウェアの開発の業界、これも中小企業が大変多いわけでございますが、こういった中小企業性の団体からは私どもも十二分に御意見をちょうだいいたしておりまして、それらも十分検討の対象にいたしたつもりでございます。
 それからもう一つ、これができると国内の中小企業がノウハウを取得する場合に非常に制約されるのではないかということでございますが、あくまでこれは不正な手段によって取得した場合にそれが差しとめの対象等になるわけでございまして、取引によって得られた場合はもちろんですし、そういう不正行為でない場合には、従来どおりいろんなやっぱり取材活動等もこれは情報交換という形で十分行われていいわけでございます。
 それから、海外において従来日本も先進国から情報を取得して技術開発の情報等を取得して今日に至ったんではないか、海外の発展途上国においてそういう道が非常に制限されるのではないかということでございますが、確かにこれが今大変大きな争点でございまして、ウルグアイ・ラウンドにおきましてアメリカが一番急先鋒ですが、日米欧全体そうですが、発展途上国との間でもっと技術の流通を自由にすべきだという発展途上国の意見と、我々が開発した権利を保護してもらわなければだめだという意見が対立して、ウルグアイ・ラウンドの中における重要な知的財産権を中心とした議論になっておることも事実でございます。
 他方、観点を変えますと、例えばある国がアメリカから技術を導入して、それが保護される体制がなくて、そのライセンシーが自由にまた、自由にといいますか、それを勝手に第三者に開示してしまう。こういう場合に欧米、日本もそうでございますが大変これは困るということで、そういうことだと逆に技術をトランスファーしないケースがかなり見られます。したがって、特許権もそうですが、相手国がそういう制度をつくりますと権利を持っている人がちゃんと保護されるわけでございますので、そういう点でむしろノウハウの流通が促進される面もございまして両面ございますが、そういう面もございまして、これらは今後国際的なルールの中でいろいろ検討を進めていく必要があるわけでございますが、必ずしも国際的に権利の流通の阻害になるのではなくて、全体としてきちっと環境が整備されれば、発展途上国にもそういう技術が流れていく道がむしろふえていくんではないかと考えております。
 それから、最後に刑事罰のことを御指摘になられましたが、私ども、今回の不正競争防止法の中で営業秘密の保護を図ることにつきましては、あくまで民事上の救済でございまして、差しとめ請求、損害賠償だけに限定をいたしておりまして、現在のところ我々はこの営業秘密の保護に刑事罰を設ける考えは持っておりません。ただ、当然のことながら現行刑法におきまして、民法の不法行為の規定においてもそうですが、例えば不正取得や不正開示が窃盗とか強盗とか詐欺とか背任罪等の刑法上の構成要件を満たすような手段でとられている場合には、過去の判例もそうですが、刑法上の罪に問われる。これはまた別の問題でございますけれども、現在の営業秘密の保護そのものについて刑事罰を考える所存は現在ございません。
 以上でございます。
#37
○庄司中君 これまでの質問、それから御答弁で大体のことはわかりましたけれども、ただいまの御答弁に関係しまして、少し視点を変えまして二、三質問させていただきたいというふうに思います。
 一つは、この営業秘密の問題について三つの要件を定義されておりました。詳しい説明があったわけでありますけれども、例えばアメリカのモデル法とか西ドイツの同じような法律をとってみますと、「有用な」というふうな文言はないわけですね。いずれも経済的価値というふうに言っているように思います。
 私が考えますのは、つまりこの秘密というものの定義については普遍性を持たなきゃいけない。主観が入ってはいけない、主観が入りますと無限に秘密がふえてくるということになりますから。
なぜアメリカとか西ドイツがはっきりと経済的価値――経済的価値というのは普遍的な価値としてはっきりわかっていますよね。しかも、さっきの説明ですと、どうも「有用」という言葉の中には企業側で非常に主観的な意図が入りやすい。主観的にこれは秘密だというふうになりやすい、そんなふうに思いますけれども、その辺の御答弁をまずお願いしたい。
#38
○政府委員(棚橋祐治君) 庄司委員御指摘の経済的な価値と、それから私どもがここで「生産方法、販売方法其ノ他ノ事業活動ニ有用ナル技術上又ハ営業上ノ情報」と、有用なる情報というふうにしておることの違いを御指摘になられているんだと思いますが、この産業構造審議会で各界の権威者に集まっていただいた御議論の中でもその議論はいろいろございまして、産業構造審議会の御答申の中で「財産的情報を保護する利益は、」「具体的には、当該情報により財・サービスの生産・販売、研究開発、費用の節約、経営効率の改善等の現在又は将来の経済活動に役立てることができるもの」、これを言うなれば「経済的な価値のある情報」と、こういうふうにここでは「経済的」と書いてございまして、まさしく先生御指摘の欧米の表現とここは似ておるわけでございます。
 私どもこれを有用な情報といたしましたことについて違いがあるものとは認識をいたしておりません。ここに言います有用な情報とは、企業の秘密であれば何でも保護されるのではなくて、今委員御指摘の主観的に何でも保護されるのではなくて、保護されることに一定の、この産構審の答申にありましたと同じような社会的意義と必要性の認められるものに限定をする。事業活動に有用な情報というのは、そういう意味に理解をいたしております。
 具体的には、企業が財・サービスの生産、販売、研究開発等の事業活動を行っていく上で、例えば費用の節約とか経営効率の改善等に役立つものであるわけでございまして、さらに申し上げれば、設計図、製法あるいは研究データについてのいろいろの技術上の情報、営業上の情報としてはマニュアルとか顧客名簿等で、ここのところを私どもは、表現は違いましたが実態は全く同じであると、このように考えておるわけでございます。
#39
○庄司中君 先を急ぎますので、とにかく実態は変わらないということを確認しておきたいと思います。
 それから、局長はさっきウルグアイ・ラウンドの話をちょっとされましたから、その点で一つだけ確かめておきたいわけですけれども、先進国の中でも多少は知的所有権についての意見が違うというのがございます。特にアメリカの場合には保護ということを非常に重視をするというふうに見えます。例えば、二国間協議で韓国を初めとして途上国にかなり強引に保護制度をつくらせる。つまり、保護をすることによって取引を有利にするとか、それは保護も必要でありますけれども、それを余り突っ込んで強引にやっていきますと、逆に技術の移転を阻害するという視点がございますよね。それから、取引を有利にするためにやっているんじゃないのか。アメリカの物をつくる技術というのが八〇年代には少し下がってきましたので、ソフトの方にアメリカの力が入ってるんじゃないか、そんなふうに思います。
 ところが、ヨーロッパの方は必ずしもそうじゃなくて、法律を読んでみますと、不正行為を排除するんだということですね。むしろ保護よりも不正行為の方に軸足がかかっている。法律を読んだだけですから、その姿勢とか立場というのは必ずしもはっきりいたしませんけれども。だから、アメリカとヨーロッパとどうも違うということですね。
 そうしますと、我が国のこの法律というのはどっもの方に実は軸足を置いているのか、これはもう簡単でいいわけですから、両方あるわけですから、こっちの方に軸足を置いているんだよという話をちょっと答えていただきたい。
#40
○政府委員(棚橋祐治君) アメリカはアメリカ的な知的財産権として保護をする方に重点が置かれているんじゃないか、ヨーロッパは不法行為、不正行為を排除することに重点が置かれているんではないかということでございますが、いろいろアメリカ、ヨーロッパの法令を勉強しました私どもの認識では同じではないか、やはりアメリカの場合も不正行為を排除する点に当然目的があるわけでございます。
 ただ、トレードシークレット法という題名が何か営業秘密法というような名前になっておりまして、これは権利をむしろ表に出してそちらに重点が置かれているように先生が御解釈なさるのも、大変失礼ですが、一つの見方というか、無理からぬところもありますが、アメリカもコモンローとして判例でずっと積み重ねてきまして、その内容を見ますと、やはり不正行為を防止する、差しとめの対象にする、損害賠償を認める。これは全米の法律家が集まりまして、過去の判例を集めてそれを中心に一つのモデル法をつくりまして、このモデル法で各州において法律をおつくりになったらどうですかという一つのモデルがあるんですが、確かにこのモデル法はトレードシークレット法というふうに題名がなっておるわけで、そういうような見方も出てくるかと思いますが、実態は不正行為を排除するということで、同じような考え方でアメリカもヨーロッパもやっておるわけでございます。
 それからもう一つ、欧米が今度ウルグアイ・ラウンドに共同の意見を出しておりまして、この意見では、公正な商慣習に反する行為からの保護をウルグアイ・ラウンドにおいてルール化しろと、こう言っておりまして、その点からも同じではないかと私たちは考えております。
#41
○庄司中君 その辺はニュアンスをどう感じ取るかという立場ですから、これからまた研究をしていきたいというふうに思います。
 次の問題に移りますと、これが一番私は気になる事項でございまして、例えば局長が話されました産講審の部会の答申、これはもう梶原委員がさっき指摘しましたように非常にややこしいわけですけれども、それを我慢して何回か繰り返して読んでみまして最後にひっかかりましたのは、やっぱり報告書の第四章の1の(4)というところで「保護されることに正当な利益があること」、さっき局長が答弁をされましたように、つまり公害の垂れ流しであるとかあるいは脱税、これは企業にとっては大変な秘密でありますけれども、それを告発をする、あるいは取材をしてオープンにするということはいいんだと。つまり、営業秘密というのは正当な利益でなきゃいけない、不当な利益ではいけない、ここにこう書いてあるわけですね、実際に。今度は法律を逆に読んでみまして、産構審の部会の報告書あるいは建議というものがなぜ法律の文言として入らなかったのか。これは非常に大変な問題だろうというふうに思いますけれども、なぜ入らなかったか、その点を中心にお答えいただきたいと思います。
#42
○政府委員(棚橋祐治君) 庄司委員御指摘のように、産業構造審議会でいろいろ御議論いただいたところで、言うなれば第四の要件として「秘密として保護されることに正当な利益があること」ということで、具体的に公害の垂れ流しや脱税に関する情報等は社会正義に反する情報であり、これを内部告発しても差しとめ対象とすべきではない等々の記述があることは事実でございます。
 この点につきましては私どもも内閣法制局で随分細かく議論をいたしました。それで、私どもと内閣法制局とのいろいろの議論の結果として、これは特定しなくても当然正当な利益が言うなれば第四の要件であるということで、これは法制局の強い意見でございます。私どもいろいろ整理をいたしますと、御承知の民法第一条第三項では「権利ノ濫用ハ之ヲ許サス」という大原則がございまして、そういう意味でこれも正当な利益を判断する場合の大きな要件でございますし、それから民法九十条に記載されております「公ノ秩序又ハ善良ノ風俗ニ反スル事項ヲ目的トスル法律行為ハ無効トス」という両文とも有名な条文でございますが、この法理は当然本法案にも適用があるという
前提がまず第一でございます。それから、民事法規において正当な利益を特段に規定した立法例がなく、つまり今申し上げました民法の大原則がこの法律の中にも当然入る、こういうふうに解釈されることから、法制局の御意見を中心にこれをあえて入れなかったわけでございます。
 今回この法案の条文の解釈といたしましても、保護されることに正当な利益のない情報が保護されることはないとはっきりこれは我々もそう考えております。保護対象たる営業秘密は有用な情報でなければいけませんが、公序良俗に反する情報は事業活動において有用なものとは考えられない。それから、差しとめを請求することができる請求権者は、営業秘密の保有者であっても、営業上の利益が害されるという場合に、これは正当な利益が害される場合であって、すべての利益が害されるわけじゃない。この点もはっきりこの法律の解釈で読めるわけでございまして、委員御指摘のようにこれが書いてございませんけれども、当然これはこの法律の中で働いてくる実質的な要件であると、このように解釈いたしまして、法制局のはっきりした意見をいただいてこうしたわけでございます。
#43
○庄司中君 せっかく産構審の答申がありまして、しかもその点は非常に大きな問題だろうと思います。例えば局長が話されましたように、特許の場合には、排他的な保護がある反面、公開が義務づけられている。それで特許制度が安定をするということがあります。ところが今度の場合には、絶対に漏らさないということで秘密ですよ。ある意味じゃ一つの柱しかないわけです。二本の足で歩いてないわけですよね。そうしますと、むしろ社会に向けた一種の保障といいますか、そういうものがありませんと、ある意味では秘密が非常に拡大をされていく。そして、さっきもちょっと局長が言いましたけれども、系列の支配の道具に使われている、あるいはほかの企業に対する一つの強制になっている、こういうのがやっぱりあるだろうというふうに思います。
 そういう点では、これから例えば幾つかの判例、これは労働者が退職したときのノウハウの移動の問題なんかあると思いますので、判例を持たなきゃいけない。単に民法だけの問題じゃないだろうというふうに思いますけれども、私が希望いたしますのは、むしろこの点は非常に大事だから通産省としてはこの法律についてガイドラインをやっぱりつくるべきで、そのくらいこの点については社会的に大きい問題じゃないだろうか。しかも、答申自身が力を込めて言っているわけですね、具体的な事例を挙げて。そういう点では、社会的に例えばこの法律が国民的な支持を得るためにはむしろそういうものについてガイドラインをつくった方がいい。こういうふうに私は思いますけれども、その点についてどういうふうにお考えでしょうか。
#44
○政府委員(棚橋祐治君) 委員のお気持ちは我々もよくわかるわけでございますが、まず原則としまして行政府が――これは裁判規範でございますので、裁判所の裁判の過程において判断される事項についてガイドラインという形ではなかなか行政当局としてはそれを決めるのはいかがなものか、難しいかなという感じがございます。
 ただ、実質的に、ただいま申し上げましたように産構審のいろいろの御議論がございまして、これは当然公表されておりますし、私どもはこの法律が幸いにしてお認めいただいて成立しました後には、十分この立法過程におきます各方面の御意見として、こういう正当な利益、これがどういうものであるかというような営業上、技術上の情報というものが正当な利益であり、かつ請求権者として要求できる営業の利益というものも正当なものでなければいけない。その辺の法案を作成するに至った経緯、考え方について十分各方面にこれを御説明し、正しい御理解をいただくように努力してみたいと、このように考えております。
#45
○庄司中君 私があえてこの問題を言いますのは、例えば判例をとってみますと、判例自身が固まってくるといいますか、一つの考え方が定着をしてくるのにはやっぱり時間がかかるという問題があります。それからもう一つは、最初の段階、特に下級審の場合には、こんなことを言っちゃ申しわけないんですけれども、ある意味では裁判官の心証によって非常に大きく変わってくるという問題があるわけですね。これは非常に重要な問題だから時間をかけて判例をつくればいいということだけじゃなくて、むしろこの法律の施行のときにその点を非常にはっきりさせていく、その必要があるだろうというふうに思います。
 例えば念のために申し上げますけれども、四十九年だと思いましたが、例の改正刑法草案三百十八条問題というのがございました。今から十六年前でございましたけれども、このときに御存じのとおり企業秘密の保護という項目が入りまして、そのときに日弁連を中心にしまして非常な反対がございました。もう一度今読んでみますと、かなり今日の不正競争の今度の法律と共通しております。特に日弁連の見解なんかはそうであります。やはり企業秘密という三百十八条の草案を入れるときに大変な問題になりまして、結局これは日の目を見ないまま十六年間ここに来ているわけだというふうに思います。
 そういう意味では、つまり情勢は変わりましたよね。例えば名簿が流れてプライバシーが侵されるという新しい問題が出てきました。これはもう十六年前とは違いますけれども、何とかしなきゃいけない。しかし、何とかするについては、こういうふうな経過があるわけでありますから、やっぱりちゃんと国民のきちんとした合意が求められる、国民の支持が受けられるような措置をつくらなきゃいけない。そのためには、法律に載っていないとしますと、指針といいますか、ガイドラインといいますか、そのくらいきちんとしたものをやっぱりつくる必要があるというふうに、くどいようですけれども、私はそんなふうに考えます。
 この法務省の十六年前の経過がありますから恐らく御存じのとおりだろうというふうに思いますけれども、これはスタートしたらすぐやらなきゃいけないわけですから慎重の上にも慎重に、判例というのは時間がかかるわけですので、そういう点から見て、重ねてその点について、ひとつ非常に大事な問題ですから、この扱いにつきましてどうするのか、これからどうしていきたいのか、大臣の方から御答弁をお願いしたいと思います。
#46
○国務大臣(武藤嘉文君) 今私も承っておりまして、確かに大変難しい問題だと思います。ただ私は、それじゃ今のいわゆる差しとめ請求権をお願いしておるこの法律案があったがいいか、なかったがいいかといえば、今も御指摘のございましたように、例えばこの間の銀行の顧客名簿などがああいう形で流れていくということは決して好ましいことではございませんし、そういう形でやっぱりこういうものはないよりはあった方がいいんじゃないかと思うのでございます。
 ただ、今御指摘のように、ガイドラインをつくってしまいますと、先ほど局長も答弁いたしましたように、やっぱり司法、立法、行政という三権分立の立場からまいりまして、何か司法に少し入り込むという点が非常に心配じゃないかということが、私はガイドラインで考えられるわけでございます。やはり行政、立法という立場からまいりますと、立法としてはこういう形で法律をおつくりいただき、それに基づいて執行する行政側といたしましては、この法律ができ上がるときには、こんなようなことでございましたよと、大体こういうものが営業秘密と思いますよというようなことをできるだけ解説をするということで、ガイドラインというのはリードしてしまうわけでございますからちょっとそれは行き過ぎじゃないかと、中身は同じことであっても、やはりこれは解説書としていくところに一歩下がった行政当局の立場というのはあるんじゃないか。
 そういう面で、先ほど局長の答弁いたしました解説書、そしてそういうものに基づいてできるだけ回数を多くして説明会をやらせていただき、それこそ法曹界の皆様方も、あるいは経済界の皆様方も、あるいは先ほどお話のございました労働界
の皆様方も十分御理解をいただくということが私は必要ではないかというふうに思っておるわけでございます。
#47
○庄司中君 大臣の答弁で、司法の領域に入っていかない、つまり行政の領域の中でこの点につきましてはぎりぎりの対処を行っていただきたい。そういうことをお願いしまして、次の問題に移りたいというふうに思います。
 営業利益の問題につきまして、この法律を読んでいきまして、もう一つやっぱりひっかかる問題といいますのは、営業上の利益が害されるおそれ、おそれというのは蓋然性です。ある意味では予防ですよね。そういうふうになりますと、先ほど局長の答弁の中にもありましたけれども、転退職者の問題が非常に大きな問題になる。例えば図面であるとか製品であるとか、これを持ち出しますと刑法の問題になりますからこれはこれでいいわけでありますけれども、さっきのお話の中にありましたように、やっぱり何といいますか、情報の価値というのは非常に高まってまいりましたね。先日、本委員会でも頭脳立地ということをやりましたけれども、頭の中、つまり体に化体してしまった問題、それがやっぱり情報だろうというふうに思います。
 そうしますと、片方では営業の利益が害されるおそれがあるとかということになりますと、ある企業に勤務をしていた人が別の企業に移る場合、ある企業秘密の仕事をしていたと、これは正当な開示を当然受けていたわけでありますけれども、その人がやめてほかの会社に移るような場合、これが非常に大きな問題になってくるだろうというふうに思います。例えば、さっきのお話にもありましたように、産業の進歩が非常に早いわけであります。そして、これは人不足にも関係をしますけれども、労働力の移動が非常に激しくなってきているということがあります。それから、企業の方から言いましても、他業種へ移っていくというのがありますよね。つまり、新しい成長分野に移っていく。本業をやりながらなおかつ別のところに移っていく。そういうふうになりますと、企業側からいきますとやっぱり即戦力が欲しいということになりますね、即戦力が欲しい。それから、求職側でいきますとなれた仕事がいいということになります。そうしますと、企業秘密を扱っていた人は動きにくくなるという状態が出てくるだろうというふうに思いますけれども、その辺につきましては一般的に今の状況から考えましてどういうふうにお考えになっていらっしゃるか、この辺をまずお聞きしたいと思います。
#48
○政府委員(棚橋祐治君) 委員御指摘の「営業上ノ利益ヲ害セラルル虞アルトキハ」ということで、確かにおそれの場合でもおそれがあるということで差しとめ請求ができることになっておるわけでございまして、その点について申し上げますが、やはりこの法律の不法な行為になる場合は、そのノウハウを持っておる保有者から示された営業秘密を不正の利益を図る目的、または会社等に損害を与える加害の目的を持って使用または開示する場合に当然限定されておるわけでございます。
 したがって、この保有者が差しとめを請求する場合には二つ要件がありまして、不正の利益を図る目的または加害の目的を持って相手がやるということを立証する必要がありますし、もう一つは、使用または開示が行われる相当の可能性があるんだということを立証する必要性がありまして、こうした二つの立証の上でさらに営業上の利益が害されるおそれがあると、こういうことを立証する必要があるわけでございます。
 幾つかの立証の前提があるわけでございますが、例えば委員が御指摘のように、ある研究者がA会社からB会社に移って、競業会社ではあるけれども、そのB会社では前の企業の秘密をそのまま使えるようなところではないところへとりあえず移しておいて、そこの中の企業から一年か一年半たったらそれとなく全く競合するような研究開発部門にその研究者を移すというような、単にそのことによって自分の方はその研究者が営業上の利益を害するおそれを持っておるということで訴えても、これは恐らく通常の場合は単にそういう外見的なことでは差しとめの対象にはならない。ただ、繰り返して恐縮ですが、その研究者がやはり不正の利益を得る目的とか、相手方に損害を与える目的とかそういうこと、あるいはそういうことをやる可能性が非常に高いという要件がある場合に限られるということで十二分にこの転職の自由は、その点で私は保証されていると思います。
 アメリカの例は、委員御指摘のようにアメリカは訴訟の世界であるというやや日本とは違う面もありますけれども、アメリカのようにきちっとトレードシークレット法によって保護されておって、しかも訴えられるケースが主なケースだけでも数千件あるわけですが、そういう中において転職の自由は日本よりも相当行われかつ保障されているわけでございまして、私どもは委員御指摘の点の御心配はないものと考えております。
#49
○庄司中君 実際には不正な開示の不正の問題ですよね。この条件をどう考えるかによってかなり変わってくる。開示一般ではなくて、それが正当であるか不正であるかというところにやっぱり問題があるだろうというふうに思います。
 御存じのように、例えば昭和四十五年の奈良地裁の数少ないこの問題についての判例がございますけれども、このときに企業と二年間競争会社には行かないという約束があった、ところが競争会社へ行って同じ製品をつくり、それから前にいた企業のお得意さんをどんどん荒らしていったということで、これが避止、つまりそこに就職してはいけないというふうになったのでありますけれども、この場合に、企業と契約をしていたからこうなったのか、それからこの契約自身がまた改めて妥当かどうかということになってきますと、この判例の中では、条件によってはそうじゃない場合もあるというニュアンスがありますよね、実際には。ですから、不正の開示という、何をもって不正とするかというのが非常に大きな問題になってくるだろうというふうに思います。
 私が考えますには、本来の意味からいきますと、つまり何か不正なことをしてはいけないのと、それから、再就職をする、しかし職業を選択する職業選択の自由と、これはかなり違うものでありまして、それがおそれがあるということでひっかかってくる。そのおそれがあるからそこの会社へ行ってはいけないということでひっかかってくる。本来違うものがおそれがあるということで結びつけられて、それが実際の行為につながっていくということを非常に心配をされるわけです。
 ですから、奈良地裁の判例を見ましても、必ずしも二年の契約ということにはこだわってない。その契約自身の妥当性が問われているわけですから、局長のおっしゃったように、不正の例示の不正の意味ですね、今申し上げました幾つかの例の中で、どんなふうにお考えになっていらっしゃるか。
#50
○政府委員(棚橋祐治君) 委員御指摘の判例はフォセコ・ジャパン・リミテッド事件、昭和四十五年の奈良地裁判決でございます。これは、競業会社に二年間移ってはいけないという契約に反して、競業関係の金属鋳造用副資材の製造販売会社の取締役となって行った場合の事件であったわけでございます。これにつきましては判決の中にもいろいろ問題点といいますかが指摘されているわけでございますが、二年というある意味では妥当な期間、しかも転職してはいけない制限された分野が化学金属分野で非常に限定されておるということ、それから、移った人のいろいろな生活権の問題、その他いろいろな総合的な判断でこの競業禁止契約が有効である、こういう判断をしたわけでございます。
 このように大変いろいろの要素で判断をしておるわけでございますが、一般的に不正の競業の目的、この場合の不正とは、私どもの理解では、営業秘密を示した保有者との信頼関係にかんがみまして、相手の利益を不当に害してはならない信義則上の守秘義務が認められる場合において、当該、義務に違反して競業目的あるいは利益獲得目的等
を持ってそういうノウハウ等を使用または開示することを指す、一般論ではそういうことかと思います。
 今先生御指摘の判例のほかにも、例えば我が国の判例では、通信販売会社に在職中の取締役が顧客名簿を持ち出しまして別会社においてその名簿をそっくり使用して競業行為を行ったことにつきまして、大阪高裁、昭和五十八年、コルム貿易事件というんですが、千四百万円の損害賠償請求を認めたケースがございます。このケースについては、不正の競業の目的がこういう場合にはあるんだということであったわけでございまして、この法律ができますと、こういうケースについては損害賠償のほかに差しとめの対象になる可能性は高い。こういうふうに考えておりまして、不正の利益を図る目的等の構成要件につきましては、いろいろの判断で総合的に考えられる問題ではないかと思っております。
#51
○庄司中君 私がお尋ねをしましたのは、さっきの正当な利益と同じでありまして、例えばもといた会社とある人が誓約書を交わした。その誓約書は、奈良地域の例でいきますと、二年間競業行為をしてはいけないというふうになっていて、あそこの会社に行ってはいけない、同じような会社に行ってはいけないというふうに誓約書を交わした。それを奈良地裁は、ああいう条件の場合には二年は有効であるというふうに言ったんだろうと思うんです。しかし、有効であるかどうかということはそれ以外の条件ですね。本来はこれこれの条件を考えなきゃいけないということが同時にありますよね。
 ですから、私が聞きたかったのは、例えば誓約書で二年といったらその二年はもう永久に、永久にというよりもどんな場合にもまかり通っていくのか。一体、誓約書で例えば二年間もう競業会社に行きません、あるいは三年間行きませんといったら、それ自身がもうついて回ってあくまでも有効なのかどうか。この辺が不正な開示云々の問題と非常にかかわってくる。社会的な常識、例えばさっきも梶原委員の方から三年、五年というものがありました。保有者がわかったときから三年以内、使っている人は十年以内、十年という時効のあれがありましたよね。ですから、期限を切るその期限の妥当性という問題も条件によっては恐らく問題になってくる。そういうふうに何か前の企業で労働者が誓約書でそれを確認をした、それが十年とか五年とか長かった場合にはえらいことになるわけですね、労働者にとっては生存権の問題になるわけであります。その契約自身がやっぱり問われないのか問われるのか、その辺の見解も聞いておきたいというふうに思います。
#52
○政府委員(棚橋祐治君) なかなかケースごとに議論される問題でございますが、委員御指摘の二年、これが五年であったり十年であったりする場合もどうかというような御議論もございますが、フォセコ・ジャパン・リミテッドの事件は、これは民法四百十四条で契約があってその契約違反で認められたわけでございますが、欧米の判例等では二年程度だと、期間だけに限って言えば、競業禁止契約は公序良俗あるいは労働者の転職の自由を不当に束縛するものでないという、そういう判例が多うございます。それよりもさらに長くなりますと、期間だけの問題でいくと行き過ぎだということで使用者の権利の乱用とか公序良俗に反するとか、先ほど御議論のあったことで競業禁止契約が無効だというケースもございます。
 今委員御指摘の事件のほかに、例えば広島高裁、昭和三十二年の原田商店事件というのがありまして、この場合は、たまたま四百十四条の契約違反にならないということで女店員が守られたケースでございますが、広島百貨店内にある原田商店の女店員が他の店に就職しないという誓約に反して退職後同業の会社に転職をした。この事件では裁判所は、例えば店員というのはそんなに営業上の妨害になるような地位にない、それからその女店員の方がもしそこに行かなければ生活権に影響があるということで、企業側の論理だけじゃなくて女店員側の立場を考えて、この契約に違反した行為であってもこれは個人の自由を拘束するおそれがあって公序良俗に反するんだということで、逆にこれを認めなかったケースもございます。その辺は期間の問題、それから生活権の問題、エリアの問題――遠いところに行って競合しているかしないか、遠いところに行けば余り競合しないと言えるんではないかとか、いろんな総合的な判断を裁判所が今までの判例でもいたしております。そういうことかと思います。
#53
○庄司中君 国際的な例から見ましても普通だったら二年ぐらい、それを超えてはいけない、それを超える例は余りないというふうにお考えですね。大体それでいいですね、その辺は。
#54
○政府委員(棚橋祐治君) 期間だけに限るというのはなかなか難しゅうございまして、いろんな要素があるわけでございます。日本でも原田商店事件のケースもございますが、欧米の先例では期間については二年程度だとそんなに行き過ぎた縛りではないということでございますが、例えばその当該従業員が二年間であってもたくさんの退職金を上乗せしてもらった、そういうようなケースがある場合は、二年以内に転職をして、二年というのはリーズナブルであっても、それに対して代償を相当もらっているのに違反したということで、例えば上乗せの退職金を返還しろとか、そういうような損害賠償的なものが認められたケースもございますので、期間だけに限定すればそうですが、やはりいろいろな要素との兼ね合いかと思います。
#55
○庄司中君 一律的な期間の問題じゃないということはよくわかっております。むしろ期間を短くする、できればゼロにしていく方が恐らくいいだろう。これは代償の問題は別ですよ。当然返すという例もあるわけでありますからこの判例ははっきりしている、そんなふうに思います。
 それからもう一つ、別な観点でこれを突き詰めて競業避止という問題を考えてみますと、ある会社をやめた、別な会社に行く、つまりライバル企業に行くという場合に頭から企業秘密を扱っていた人は行っちゃいけないというのか、あるいは行ったところで企業秘密を扱わない部署ならいいというのか。あるいは扱わない部署に行って、また何年かたったら扱う部署に配転をする。これは企業ですから異動がありますよ。こんな具体的なケースで考えてみますと、例えば今言った不正の開示に関係をする、あるいはおそれという問題にこだわっていきますと、かなり問題が出てくるだろうというふうに思います。
 例えば受け入れる側の企業でも雇っていいのかどうかちゃんと調べなきゃならないという問題があります。そして、本人はもちろんあそこの企業に行きたいんだけれども、誓約書を一応入れているということになりますと行けない、困ったというふうな問題も実際あるわけでありまして、その辺が非常に難しい問題になってくる。つまり、不正かどうかということをめぐってそれぞれがコストをしょうという問題がここに出てくるのではないか。異動がスムーズにいかないという問題が恐らく出てくるだろう、こういうふうに思います。
 この問題はかなり大きい問題で、デリケートな問題でありますから、解説書をちゃんと書かれるということでありますから、この辺につきましてはさっきも言いましたように行政の限界のところまで示しておいていただかないと、やっぱりいろんな制約条件が出てくる。御存じのように、憲法二十二条の職業選択の自由の問題が改めてクローズアップされるということになると思います。その辺は時間の関係がありますから、次に移りたいというふうに思います。
 人の移動の問題と関係をしまして、やっぱり産業によっては非常に難しいという問題が出てくるだろうというふうに思います。例えば情報処理産業といいますか、情報サービスというふうに言われておりますけれども、これはエレクトロニクスの産業でも同じでありまして、技術というのは日進月歩です。それから技術の性格としまして、前の技術を種にしてそれを膨らませるとか高度化するという技術が非常に多いわけであります。最初
は大したことはなかったけれども、それに手を加えて、そして発想の角度を変えますとすばらしい技術が出てくるという問題がこういうところには多いわけであります。しかし、情報サービスでありますから一種の受注産業でありまして、A社の仕事をするあるいはB社の仕事をする。そしてA社の仕事をした場合にそこで開発をする。そうしますと、今度はそこで開発したノウハウというものがB社に移行するからB社の仕事がとれないという問題が出てきはしないだろうか。特に、こういうふうに変化の激しいところはどんどんしようと思えば、企業秘密がふえていくわけでありますからそういうことが起こらないだろうか。
 あるいは、ハードのメーカーとソフトのメーカーというのは一種の系列関係にございますので、そうしますとソフトの企業が系列をかえたいということが果たしてできるだろうか。Aという系列の中で今まで仕事をしていた。そこでノウハウを持っていた。そして、その企業がBの系列のところへ行けるだろうかというふうな、率直に言って、人の動きに関係してやっぱり問題がある。それ以外にもいろいろあると思います。情報サービスがA社からB社に移る、大体これは研究開発型の産業でありますから、それで問題もあります。
 それから、よくありますけれども、今まで勤めていた人が一本立ちをするというのも企業には非常に多いわけでありますから、それも果たしてできるだろうか。勤めていた企業は一本立ちすることにやっぱりおもしろくないという気持ちも持つでありましょうから、ある種の営業妨害みたいなことをするかもしれない。つまり、そういうことによって人の動きといいますか仕事の流れが制限をされてしまうのじゃないだろうか。極端に言いますと、今情報処理、情報サービスの業界はそういう状態にあるのじゃないか。
 その辺につきましてはヒアリングをされたようでありますから、そうはならない、大丈夫だという点があったらひとつお聞かせいただきたいと思います。
#56
○政府委員(棚橋祐治君) 先生御指摘の点は非常にデリケートな問題をたくさん含んでいることは事実でございますが、まず基本的に、ある従業員がA社でいろいろの開発に従事しておりましても、その会社の中で自分の頭で自分が開発したノウハウ等はその人に帰属するのが特許法上の原則でございます。したがいまして、特約がない限りは、その方がB社に移りまして自分の開発したノウハウをベースに、あるいはそれをさらにエクステンションなりしまして、向上させていろいろの技術開発を行うこと自体は、この法律のどこにもひっかからないわけでございます。
 さてしかしながら、自分が開発したノウハウじゃなくて前の会社においていろいろ開示され教えてもらって頭の中に入ったノウハウ等は、これはやはりそれが頭の中へ入っているわけですからB社に行っても当然それは使うわけでございますが、使った場合にすべてが差しとめ請求になるわけじゃございませんので、まず申し上げたように原則論ですが、やはりそのノウハウ等が営業秘密としてきちっと管理されておる、これは営業秘密だよということでだれしもが客観的に認められた管理をされておる、それからその前の会社において有用な情報であったこと、これはどんな程度の低い情報でも守られて管理されておれば営業秘密になるんじゃなくて営業上、技術上のやはり有用な情報であること。さらに、当該従業員が自分で不正の利益を得るとか、前の会社に損害を与えようという、この損害を与えるというのは結果的に損害を与えるのじゃなくて、はっきりとした積極的な損害を与える意図を持ってやった場合に差しとめの対象になるわけでございまして、そういう点でかなり転職の自由は保障されておるわけでございます。
 ちょっと申し忘れましたが、前に自分が所属していた会社で自分で開発したノウハウでも、特約がありまして、A社で開発してA社の就業規則その他であなたが開発してもこの特許権は会社に帰属しますよという契約がある場合もあります。この場合には通常、開発した従業員は当然その会社に対価を要求できる権利があります。特許法その他においてもそういうことになっておりまして、その場合、契約があって別の会社へ移ってその契約違反をしたときにはこの法律の対象にもなりましょうし、それから民法四百十四条の債務不履行――契約違反に関する対象にもなりまして、差しとめの対象になる場合もございます。しかしながら、全体としては、先ほど申し上げたようなことで、広範にやはり営業の自由に支障を及ぼすことのないような形になっていると思います。
#57
○庄司中君 そうなっているといいましても、あの業種の場合には日進月歩ですから、どんどんどんどん新しいノウハウが出てくる。そうしますと、企業秘密にしようと思えば管理すればいいわけですよね。どんどん変わってくるわけですから、余り公然と知られてないわけですから、やろうと思えばできるわけです。だから、おもしろくないと思ったら企業秘密で差しとめ請求をしていくということが比較的できやすいといいますか、やろうと思えば企業秘密がどんどんふえてくるということであります。つまり、この法律に書いてあります「虞」ですよね、蓋然性がもうフルに使われたら取引の障害になっていくだろう。技術の進歩の早いところは何も情報サービスだけじゃありません。エレクトロニクスの産業もそうであります。つまり、保有者の方は悪意を持ったらいろんなことで制限をすることができる。この規定だと恐らく「虞」でどんどんやってくるということだって考えられるわけです。
 私が心配をしますのはやっぱり「虞」の中身です。もっと本当に慎重に細かく考えていかないと、ある産業にはこれでいいかもしれない、しかしある産業については非常にやっぱり問題が起きやすい。起きやすいということは取引条件に混乱を与える、それから技術の水準の高度化を阻害するという問題になるわけでありますから、その点につきましては、各業種ごとに企業秘密の意味というものも恐らく違ってくるだろうというふうに思いますので、その条件を踏まえて行政としての対応をくれぐれもお願いしたいというふうに思います。
 それでは、次の問題に移りたいというふうに思います。
 一つは、先ほどもお話がありましたけれども、知的財産研究所のアンケート調査で、大体一部上場の企業が対象になっているということでありますけれども、非常に営業秘密の問題について関心が高いということが言えるだろうというふうに思います。例えば秘密として管理という項目をとってみますと、管理規定が七四%既にあるというふうになっていますね。それから種別でいきますと、雇用契約が二五%。それから就業規則が九四%、これは非常に高いですね、ほとんど一〇〇%に近い。誓約書が二八%で三〇%に近いわけであります。この一つ一つをとってみますと、恐らくこの法律ができますと、各企業はこれへの対応を決めてくると思うんですよ。だから、現在ここまで行っているけれども、これがもっと急速に高まってくる。私が予測をしますと、誓約書のところはかなり高まってくるおそれがありますね。つまり、やめてもほかの企業に営業秘密を移転させないという気持ちはかなり強いだろうと思いますから、この辺が高まってくる可能性があるだろうというふうに思います。
 ただ、私が考えてみまして、契約ということが恐らく裁判のときになると非常に重視をされる。契約がつくられる条件というものはやっぱり考えておかなきゃいかぬだろうと思います。例えば雇用契約というのが二五%で四分の一ありますけれども、これは、会社が雇用をする、就職をするときに、恐らく企業と個人の間に結ばれる契約だろうというふうに思います。そうしますと、企業と個人ですから力関係が実際には物すごく違いますよね。こんなのはひどい契約だと思ってもやっぱりサインせざるを得ないだろうというふうに思いますね。そこで約束をしてしまうことはもう圧倒的に多いだろう、力関係で。拒否したらそこの会社
に就職できませんから、おもしろくないと思ってもやっぱりサインするということがあるだろうと思います。
 それから就業規則でありますけれども、これも労働協約と違いまして、就業規則の場合には雇用者の方がかなりイニシアでこれを決められるわけですね。過半数の労働者を代表する人に見せればいいわけです。見せてオーケーをとればいいわけです。双方が協議をして決めるような労働協約とは違うわけです。そういう点では、何といいますか従業員の意思が必ずしも十分に反映をしていないという問題がありますね。反映をしていないけれども、それが契約としてみなされた場合はどうだろうかというふうな問題が実はあるわけです。
 問題は誓約書だろうというふうに思います。営業秘密のある箇所の仕事をやっている人がやめた場合に、やめるについての誓約書をとるということがこれから恐らく考えられてくる。今はそれでも三〇%でありますけれども、これが急速にふえてくるということになりますと、むしろ私が心配をしますのは、従業員と使用者の間の営業秘密という問題です。これは使用者の方がある意味では強制力で圧迫して何かに使うようなことじゃなくて、ノーマルな労使関係の中にこの問題を入れていっていただいて、例えば雇用契約のときはもう企業と個人で力関係が違いますから、その処理についてはこういうふうにするとか、そういうふうなことをやっぱり考えていかないと、心ならずもサインをしないと雇ってくれないというふうなことが起こりますので、営業秘密という問題、これは不正な開示か正当な開示かという問題が非常に大きいわけでありますから、そして守秘義務を負うわけでありますから、そういう意味では一種の企業側の強制とか圧迫ということだけではなくて、むしろノーマルに自覚的に守秘義務が行われるというふうにやっていただくということが必要だろうというふうに思います。
 先ほども局長は、労働省とも十分相談をしたというふうな話をされておりますけれども、とかく系列関係、下請関係を含めまして一つの強制力といいますか、支配、労務管理の道具に使われますので、その辺は十分にノーマルな労使関係の中でこの問題をやっていただくように配慮していただきたいというふうに思います。
 そろそろ時間が来ました。その問題については、これから努力をしていただきたいと思います。今までの経過をひっくるめて簡単に御返事をいただければと思います。
#58
○政府委員(棚橋祐治君) 基本的に、委員御指摘のように行き過ぎたいろいろの就業規則、労働に関する管理規則等は、これはやはり労働基準法あるいは労働組合法その他の労使関係の基本に触れる問題であろうかと思います。過去のそういった労使間のいろんな争いの中にも行き過ぎたそういう雇用契約に関する規定が公序良俗の見地から争われたケースも、あるいは権利の乱用の見地から問題になったケースもたくさんございまして、そういう問題は主として労働関係法に係る裁判の過程においていろいろこのケースが異なってくると思います。
 しかしながら、私ども基本的には営業秘密の管理が行き過ぎて非常に過酷な行き過ぎた就業規則、管理規定になることについてはもちろん大きな懸念を持っておりますので、この法律の議論の際にも労働界の御意見もいろいろございましたし、労働省とも緊密な連携をとっておりますので、今後この法律の運用の過程において、そうした労使間のいろいろの契約関係にどういう問題が出てくるかは注意深く見守っていきたいと思っております。
 なお、委員御指摘のように、また大臣もお答えしましたように、今までのいろんな法律案制定の過程におきますこの問題についての御意見は十分踏まえまして、法案が成立した暁には各条文ごとの解説、あるいはその本来の趣旨の徹底等について最大限の努力をして、委員御懸念のようなケースがないように努力してみたい、このように考えております。
#59
○庄司中君 終わります。
#60
○委員長(倉田寛之君) 午前の質疑はこの程度にとどめ、午後一時まで休憩いたします。
   午後零時一分休憩
     ─────・─────
   午後一時一分開会
#61
○委員長(倉田寛之君) ただいまから商工委員会を再開いたします。
 休憩前に引き続き、不正競争防止法の一部を改正する法律案を議題とし、質疑を行います。
 質疑のある方は順次御発言願います。
#62
○広中和歌子君 産業構造審議会で検討していらっしゃいましたときには、経済的価値のある情報という意味で財産的情報という言葉を用いられていたわけですが、なぜ営業秘密という言葉にかえられたのでしょうか。午前中少し触れられたわけですが、昭和四十九年五月二十九日におきますところの法制審議会総会決定の改正刑法草案における企業秘密漏えい罪に対して、産業界から非常に強い反発があったというふうに伺っております。ともかく、秘密といったような非常に国民になじまないような、また企業風土になじまないような言葉をあえてお使いになった理由は何でしょうか。
#63
○政府委員(棚橋祐治君) 今、広中委員御指摘の産業構造審議会では、財産的情報という表現がとられておったことは事実でございます。私ども、法律用語として営業の秘密という言葉を用いましたが、実態的にはほとんど――ほとんどといいますか、同意義に理解をいたしておりまして、財産的情報という言葉が率直に言って必ずしも日本語として十分熟していないという意見が法制局にございまして、営業の秘密という形での表現を採用したわけでございます。ちなみに、諸外国の不正競争防止法等の規定も営業の秘密という表現を用いております。
 それから今、委員御指摘の改正刑法草案第三百十八条、午前中にも御質疑がございましたが、ここでは確かに昭和四十九年のこの草案では「企業秘密の漏示」という表現になっております。これは御承知のように、企業の生産方法その他の技術に関する秘密を守るということで刑罰の対象にしようという案でございますが、この場合は営業上のいわゆる技術以外の先ほど来申し上げております顧客リストとか販売のマニュアル等のそういうものは、刑罰の対象とするには余りにも漠然としておるということで、草案の段階でも対象になっていないわけでございます。
#64
○広中和歌子君 次に、営業秘密を保有する事業者という言葉が使われておりますけれども、その事業者の範囲と営業秘密とは何かということについてお伺いしたいんですが、例えば事業者の範囲ですけれども、公益法人、社団法人、財団、宗教法人、また法律によって設立された特別認可法人、病院、NTT、JR、そしてまた個人、こうしたものも含まれるんでしょうか、お伺いいたします。
#65
○政府委員(棚橋祐治君) まず、営業秘密の範囲につきましては三つの要件で、秘密として管理されておること、事業活動に有用な技術上または営業上の情報であること、それから公然と知られていないことの三要件でございます。具体的な例としては、製造方法、設計図、実験データ等の技術的なノウハウとか顧客名簿、マニュアル等の営業上のノウハウ、そういうものがこの営業秘密の範囲になるわけでございます。
 それから、この営業秘密を侵された場合に、それを守るべく請求権者になり得る人の範囲でございますが、これは、本法案においては「営業上ノ利益ヲ害セラルル虞アルトキハ」と規定されておりますが、この営業とは、いわゆる営利事業に限定されずに、利潤獲得を図らないまでも、収支相償を目的とした事業を反復継続して行います場合でありますれば、同様に不正行為からの保護の必要性が認められるという解釈でございまして、広く経済上その収支計算の上に立って行われるべき事業はその請求権者になるという解釈でござい
ます。
 したがいまして、国、特殊法人または病院等の公益事業でありましても、申し上げました収支相償を目的とする場合には請求権者になり得る、こういうふうに考えておるわけでございます。
#66
○広中和歌子君 ちょっと具体的な形で伺います。
 例えば学校の卒業生名簿であるとか宗教団体の名簿であるとか、政治団体、政治家の名簿でございますね、そういうようなものが第三者によって使われた場合、こういうのはどういうふうな取り扱いがされるのでございましょうか。使われた個人にとっては、それが例えばある政治団体に寄附をしたというようなことが別の第三者に漏れるといったような場合には、その名簿に載った人の権利というんでしょうか、利益が著しく害される、そういうようなこともあるのではないかと思いますけれども、いかがでしょうか。
#67
○政府委員(棚橋祐治君) 本不正競争防止法案では、営業上の秘密というものを守ろうという趣旨でございまして、今申し上げましたように、必ずしも営利会社じゃなくても、公益法人等であってもそれが収支相償うような団体の場合であれば、それが広い意味での営業上の秘密に該当する。したがって請求権者となり得ると、このように解釈をいたしております。
 ただ、今委員御指摘の学校の卒業生の名簿とかあるいは政治家の後援会の名簿とか、そういうものはプライバシーの保護の対象としてどうするかという問題はもちろんございますけれども、この法律の営業上の利益を守ってもらう請求権者としては対象に入らないのではないかと考えております。
#68
○広中和歌子君 わかりました。つまり、カバーされないということでございますね。プライバシーの法律またはその他でというものがあれば、別の法律でカバーされなければならない。少なくともこの法律ではカバーされない。そういうことでございますね。
#69
○政府委員(棚橋祐治君) 委員御指摘のように理解いたしております。
#70
○広中和歌子君 それでは、具体的にどのようなケースが差しとめの対象になるのか。過去の事例で差しとめ請求というのは今まで一例あったと伺っておりますけれども、そのほか賠償請求とかそうしたもの、例を挙げながら、また件数、そして裁判に要した時間などをお知らせください。
#71
○政府委員(棚橋祐治君) まず、本法案において差しとめの対象となる不正行為の内容につきましては、お配りしてございます法案の第一条第三項各号に規定をされておるわけでございます。順次申し上げますと、第一号は、窃取、詐欺等の不正手段で営業秘密を取得する行為、またはその後で使用、開示する行為であります。いわゆる泥棒等が持ってくる一番典型的なケース。それからその次の二号は、そうした窃取等の不正取得行為があって、その取得から悪意、重過失で営業秘密を取得する行為は、あるいはその後使用する、開示する行為は当然また対象になります、転々流通していく場合。それからもう一つ、取得した段階では善意であっても、その後に故意、重過失がある場合にはやはり対象になるわけでございます。
 それで、今の一号、二号の対象となったこの民法の七百九条の損害賠償しか認められていないケース、それからもう一つ刑法の刑事事件の対象になったケースでございますが、それのケースで一、二申し上げますと、例えば東京地裁で昭和六十二年の京王百貨店事件というのがございまして、これは不法行為論で争われたわけじゃなくて、刑事事件で争われたケースがあります。
 これは、百貨店に勤務しておりましたコンピューター技術者が顧客名簿のコピーテープを名簿業者に売り渡す目的でお客の名簿が入力されております磁気テープを勤務先の京王百貨店から繰り返し持ち出して名簿会社に売却した場合でございまして、この事件は窃盗罪が認められたケースであります。もし法律が成立いたしますと、当該コンピューター技術者の窃取行為や、あるいは窃取した後の開示行為が一号の不正行為にも該当しまして、差しとめの対象にもなり得るわけでございます。また、このケースで名簿販売会社が当該名簿が盗まれたものであることを知って、あるいは知らなかったことに重過失があった場合には、先ほどの二号で当該名簿の取得、使用、開示等が差しとめの対象になるわけでございます。
 以上が不正行為がはっきりしておる場合でございますが、法律の四号以降がもう一つのパターンでございまして、これは経営者とそれから研究者等の被雇用者が正当な雇用契約で入社して研究開発活動に従事しておる場合に、その当該会社から営業秘密でありますよと言って示された営業秘密を、研究者や従業員等が不正の利益を図る目的等で使用あるいは開示する行為であります。この四号に該当します過去の典型的な事例としては、大阪高裁で昭和五十八年のコルム貿易事件というのがございます。
 このケースでは、趣味雑貨品の通信販売業を営む会社の取締役の方が在職中に競業会社を設立いたしまして、新会社の取締役にしてやると、この競業会社の従業員をそそのかして、得意先名簿、これは二万名分ぐらいあったようですがこれを持ち出しまして、この名簿を使いまして営業を行って相手方に損害を与えたということで訴えられまして、これはやはり訴えた方が勝ちまして、民法七百九条で千四百万円の損害賠償を認められたというケースでございます。新会社の取締役のポストを得るためにもとの企業の得意先の名簿を持ち出して使用する行為などは、この四号の保有者から示された営業秘密を不正の利益を図る目的で使用したという場合で差しとめの対象になるわけでございます。
 ちょっと長くなって恐縮ですが、もう一つ一条三項五号というのがございます。今この正常な雇用関係等で示されたケースに関連するわけでございますが、今度はその場合に不正な開示行為があった、あるいはその存在について悪意、重過失であったというケースでございます。この過去の例と五号に相当するケースとしましては、先ほどちょっと申し上げましたが、ワウケシャ事件、東京高裁昭和四十一年の裁判例がございます。
 このケースは、ドイツのメーカーから船舶用のプロペラに関するノウハウの供与を受けましたワウケシャという会社が契約上守秘義務、これはほかに渡してはいけませんよという守秘義務があったわけでございますが、それに違反して日本で設立いたしました子会社にノウハウを開示したわけでございます。この子会社がそのノウハウで船舶のプロペラをつくりまして販売したことに対して、ドイツのメーカーが差しとめの仮処分申請をしたわけでございます。この場合はどういうわけか損害賠償の請求はいたしませんで、差しとめの仮処分申請をいたしたわけでございます。
 この判決では、営業秘密を開示する相手方が守秘契約に違反しておるということで、金銭的な賠償の対象にはなるかもしれないけれども、いわゆる差しとめを認めるほどの権利性があるとは認められない。金銭賠償の場合には権利性がなくても広い意味で損害賠償が認められるので、多分この判決の裏から言いますと、損害賠償を要求したらそれは認められたかもしれないが、差しとめの仮処分を認めるほどの権利性はなかったということで、これが実は民法七百九条で差しとめ請求権が認められないという一般的な解釈の一つの大きな先例になったケースでございます。
 それから、今までそういうことで大きな例を申し上げましたが、不法行為に関する今までの判例はそのほかにも若干ございますけれども、それほど多くはございません。今申し上げましたコルム貿易事件のほかに、アイ・シー・エス事件、昭和六十二年東京地裁。それから美濃窯業事件、これはエンドレスキルン事件と言われておりますが、名古屋地裁の六十一年の事件。チェストロン事件、東京地裁六十三年。それから今申し上げた東京高裁四十一年のワウケシャ事件ぐらいでございまして、我が国の場合には民法七百九条における判例としてはそう数多いものではございません。
 それから、委員あれでございましょうか、判決に至るまでの期間をお尋ねになりましたが……
#72
○広中和歌子君 できたら費用も。
#73
○政府委員(棚橋祐治君) これはケース・バイ・ケースでございますが、例えば上記のコルム貿易事件では、第一審におきます結審までに一年五カ月かかっておりますが、第二審で争われましてさらに一年一カ月かかりまして、それで二年六カ月でこの裁判が確定したと、こういうケースでございます。
 それから訴訟費用は、実は弁護士費用というのは御承知のように厳密な意味での訴訟費用じゃないわけでございまして、いわゆる訴訟費用というのは鑑定人とか証人の日当等が訴訟費用と言われておりますが、これはそう大きなものではないと思います。通常の場合は、訴訟費用は日当等が中心になりますが、やはり弁護士の成功報酬というのは確かにこれはケース・バイ・ケースでございまして、今申し上げました厳密な意味での訴訟費用じゃない。ただ一般的には、何となく弁護士費用も広い意味での訴訟費用には入っておりますので、それを含めますと高いケースもありましょうが、弁護士費用はケース・バイ・ケースですが、成功報酬ですから裁判に勝った場合にはかなりの額になるケースもございます。これも一概には言えないわけでございます。
#74
○広中和歌子君 ともかく今回の法改正が必要になった理由でございますけれども、各企業では秘密保持契約を締結していたり、あるいは盗難については刑法等が適用されるなど、現行法制度においても十分保護されているのではないかと思われますし、またガットの民間三極においても日米欧間で各国において保護されている旨合意されているはずですが、それについてどう思われますか。
#75
○政府委員(棚橋祐治君) 委員御指摘のように、民法七百九条で先ほどの数件の判例がございますが、この七百九条の解釈の中で、学説によっては差しとめ請求を必ずしも否定したものではないという学説もあるようですが、少なくとも今までのケースでは差しとめ請求が認められたケースはありませんし、ワウケシャ事件のようにむしろそれをやや否定的に見ておる判例が先例としてあるわけでございまして、一般的には現在のところ七百九条では差しとめ請求権が認められないというのがむしろ多数説でございます。
 それから、もちろん契約違反の場合には民法四百十四条等でこれは損害賠償も差しとめ請求もあるわけでございますが、契約がない場合についてはそれが差しとめ請求はないわけでございます。
 それからもう一つ、刑法の問題でございますが、これは窃盗等であれば、刑法上の構成要件に該当する場合には窃盗罪、強盗罪、背任罪等が構成されることは当然でございます。しかし、この場合には差しとめ請求とは関係が一応ないわけでございます。そういうことで、いわゆる営業秘密につきましては現在の我が国の法制では契約違反以外には差しとめ請求権がないという現状でございます。
 他方、欧米先進国、むしろ発展途上国の一部にも差しとめ請求権がない国はないわけでございまして、欧米は全部不正競争防止法とかトレードシークレット法や各州のコモンローによって、あるいはフランスの場合には一般の民法において判例上差しとめ請求が認められておりまして、ウルグアイ・ラウンドにおいて知的所有権の問題が非常に大きくクローズアップされております。発展途上国とアメリカを中心とする先進国の間のいろんな激しい対立の中で、日本がウルグアイ・ラウンドを成功させるための非常に重要なアイテムでありますこの問題について重要な役割を期待されておるわけでございますけれども、残念なことながら肝心の日本においてそういう点での法の欠缺がある。それでは我々が重要な役割を果たせませんので今国会においてぜひお願いをしたいと、こういうことで提出をさせていただいているわけでございます。
#76
○広中和歌子君 ちょっと定義のところで、逆戻りするようでございますけれども、ノウハウのライセンシー、つまり営業上のノウハウを契約によって得ている人ですね、その保有者にも原告適格を有するということはございますか。
#77
○政府委員(棚橋祐治君) 我々は、ライセンシーであってもこの営業秘密を守る要件を充足しておればやはり差しとめ請求権を請求できると、このように考えております。
#78
○広中和歌子君 つまり、ライセンシーも差しとめ請求権を持っているということですけれども、特許では通常実施権者に差しとめ請求権を認めておりません。この関係はいかがでしょうか。
#79
○政府委員(棚橋祐治君) 今申し上げましたこのライセンシーについても、ライセンサー――ノウハウを渡しておる方に対価を支払って開示を受けた営業秘密を合法的に使用しておるわけでございまして、例えばライセンサーが契約に違反して別の人にこれを開示してしまって、ライセンシーの方が自己の営業上損害を受けるという因果関係が認められる場合には差しとめ請求権を認めなければいけないと、こういうふうに考えておるわけでございます。
 なお、現行不正競争防止法におきましては、いろいろのやはり競争上の不正行為についての規定が従来からあるわけでございます。例えば商標等につきましても、現行不正競争防止法においてライセンシーにも差しとめ請求権を認めておる先例はございます。
#80
○広中和歌子君 次に、従業員関係について伺います。
 営業秘密は現実には従業員が生み出す場合が多いと思われます。従業員と企業の関係においては営業秘密はどちらに属するのでしょうか。
#81
○政府委員(棚橋祐治君) 特許対象となる技術のような場合には原則として、それを開発した人にこの権利が属するという解釈でございます。この場合に特許のケースが一番我々参考になるわけでございますが、特許法の保護対象となり得る営業秘密であれば原則として労働者に帰属するという考え方でございまして、この特許法の考え方をちょっと御紹介いたしますと、特許法の三十五条「職務発明」の規定の中で――使用者は、従業員が職務発明について特許を受けたときは通常実施権を有する。従業員がした職務発明についてはあらかじめ使用者に特許権を承継させる契約、勤務規則等を設けることができる。従業員は、職務発明について使用者に特許権を承継させたときは相当の対価の支払いを受ける権利を有する。この対価の額は、その発明によって使用者が受けるべき利益の額等を考慮して定めなければいけない。こういう規定がございまして、私どももこの特許法の規定が特許対象となる技術のような場合には原則としてこの営業秘密の帰属についても当てはまるものと考えておるわけでございます。
#82
○広中和歌子君 原則的に従業員に帰属するものにつきましてですけれども、営業秘密を会社に帰属させるためには、会社は対価を払わなければならないわけでございますか。それは行われているのでしょうか。
#83
○政府委員(棚橋祐治君) この営業秘密のノウハウ等について従業員が開発いたしました場合には、その権利は特許対象技術のようなものは原則として開発をした従業者に権利が帰属するわけでございます。したがって、契約によってそれを会社側が取得する、使用する場合には相応の対価を支払うことになるのだと思っておりますし、また、特許法の場合には当然対価が支払われているわけでございます。
#84
○広中和歌子君 特許の場合は非常にはっきりしているわけですけれども、ノウハウの場合には意外とあいまいなところがあるんじゃないかと思いますが、営業秘密が従業員に所属している場合でございますね、その場合、第三者に盗まれた場合ですけれども、会社に原告適格があるのか、また従業員自身が職務を離れてそれを利用するときにはどういう関係が生ずるのか、伺います。
#85
○政府委員(棚橋祐治君) まず、従業員が持っておる権利についてそれを第三者が侵害して、その従業員が営業上の利益を侵犯されたという場合に
は、従業員も営業上の利益を害されるおそれがあると認められる場合には請求権者となり得ると思います。
 それから、会社との契約において会社がその従業員の権利を一応持っておる、しかるべき対価を払って持っておるという場合には、会社も当然請求権者になると考えております。
#86
○広中和歌子君 先ほど午前中でも御質問がございましたけれども、従業員は、特に就職の際には弱い立場でございますから、就業規則などをよく読まないでサインしてしまう、または読んだとしてもサインをせざるを得ない状況があるかもしれません。そういう中で企業が防衛のために一斉に就業規則を改定し、営業秘密の保有者を企業とするといったような条項を加えて、そしてそれに従業員がサインをしていたような場合でございますけれども、そうしたときに従業者が会社をやめる、つまり職業選択の自由は阻害されませんでしょうか。これは仮定のもとに御質問しているわけでございますけれども。
#87
○政府委員(棚橋祐治君) ただいまの御質問で、まず例えば特許法のケースでいきますと、特許椎を開発したこの従業者、研究者がまず一義的にその権利を持っておるわけでございますね。それについては確かに雇い主である企業は通常実施権を有するケースが一般的であります。契約上その通常実施権を取得する場合には、当然しかるべき対価を開発した特許権者である従業員に払っております。
 それからもう一つ、今おっしゃった就業規則その他特約であるいは入社のときあるいは入社後、会社と研究者が契約を結びまして研究者が開発した発明もその会社に属するというような契約がある場合には会社に権利は帰属するわけでございますが、その場合に特許法では、先ほども申し上げましたが、研究者はしかるべき対価、それに見合う対価、その対価の額はその会社がその特許権を取得したことによって得た利益をベースとして算定されるべきであるという特許法上の規定があるわけでございます。仮に特許法上の規定に違反して、そういうことを行わずに一方的に権利を召し上げてしまうというような雇用契約あるいは就業規則があれば、これは原則としてやはり公序良俗違反あるいは権利の乱用ということになって、もしその研究者が争えばその契約は無効になる可能性が十分あり得ると思いますが、これはその契約の内容のケース・バイ・ケースで裁判所が判断することになろうかと思います。
 それからもう一つ、その方が、会社に帰属させた契約があった後、契約を前提にしてその会社をやめてよその会社に行ってその契約に違反した場合は、やはりこれは会社側に権利が帰属しておる。しかるべき対価も払っておるということであれば、これは民法四百十四条の契約違反という条項で会社側はその使用を差しとめたり、損害賠償を請求することができると、こういうような順序になるのではないかと考えております。
#88
○広中和歌子君 非常に複雑なので、こういうふうに御説明いただくと非常に参考になりますし、それが記録として残された場合に大変に参考になるのではないかと思います。
 個人が転職後使用できる情報と、企業の営業秘密との切り分けというのはどういうふうになされるのでしょうか。
#89
○政府委員(棚橋祐治君) 先ほども申し上げたと思いますが、個人が開発した特許対象になるような技術上のノウハウ等契約がある場合以外は、原則としてその個人に帰属するわけでございます。したがって、先ほどの特許権の例と同じように、まずその方が別の会社に移りましてもその方の持っておるノウハウについては、この法律の第一条第三項第四号、今回新たに追加しております第四号で、保有者より示されたる営業秘密ではない、つまり自分が開発した営業秘密に属するものであっても自分が開発したものですから、相手方から示されたものでないわけですから、それを新しい職場で使おうと、これはこの法律の違反にはならない。つまり、相手方が訴えても差しとめ請求等の対象にはならないというのが原則であろうかと思います。
#90
○広中和歌子君 先ほど営業秘密ということで定義はしてくださったわけですけれども、一人の人がある企業で長いこと働いていたときに得た情報というものは非常に大きなものがあるんじゃないかと思います。そういう人がよその会社に移りましたときに、その人がもとの会社に対して敵対的な行為、関係になるというようなことが多いと思いますけれども、例に出していかがとは思いますが、例えばフォードからクライスラーに移られたアイアコッカさんですね。ああいうようなケースは日本の今度の新しい法律の解釈ではどのようになるんでしょうか。全然質問通告もしていなくて、先ほど多くの質問が既に答えられてしまったものですから、申しわけございません。よろしくお願いいたします。
#91
○政府委員(棚橋祐治君) 今のアメリカの有名な自動車会社のチェアマンがフォードからクライスラーに移った経緯は、大変大型トレード問題として話題になりましたが、私の承知する限りにおいては、これはアメリカではよくあるケースでございます。
 会社と取締役というような関係におきましては、我が国においては取締役は商法上の忠実義務というのが商法第二百五十四条の三というものでございますし、善意による管理者としての注意義務、善管注意義務というのが商法の二百五十四条三項においてありますし、競業避止義務、商法の第二百六十四条等の規定があります。これに違反する行為がありますと、前の会社は、あるいはまた前の会社の株主はその取締役に対して商法上の義務違反として、損害賠償とかあるいは差しとめ請求でございますが、そういうものを要求することができる仕組みに我が国においてもなっております。先ほど申し上げました取締役の商法上の義務違反を認めた判例がコルム貿易事件でもありますし、内容は省略いたしますが、日本設備事件という昭和六十三年の東京地裁の事件も、そういう取締役の商法上の義務違反として訴えられたケースであります。
 ただ、アイアコッカさんの場合に、どの程度前のフォードに損害を与える、あるいは与える可能性があったのかあるのか私はよくわかりませんが、アメリカのあれだけの訴訟社会において訴えられなかったところを見ますと、アメリカの商法関係でも、そういういろいろの義務というか、前会社の取締役としての義務違反がなかったのではないかと、これは私の推定でございますけれども、そんなように考えております。
#92
○広中和歌子君 最初の営業秘密の定義のところで、秘密として管理されることということがございまして、午前中の御答弁の中で、中小企業の場合にはどちらかというとそうした管理が十分ではないから非常に配慮するべきであると、そのようにおっしゃったわけですけれども、確かに裁判などになりましたときに、これはきちんと管理をされていたという証明、それがしにくいのではないかと思います。立証できない、そういう可能性が非常にあるんじゃないかと思いますけれども、裁判のときのこうした不利な立場ということについてどのような御配慮をなさいますでしょうか。
#93
○政府委員(棚橋祐治君) 秘密として管理されておることの一番重要なことは、当該情報にアクセスできる人がいろいろの形で制限されておることが一つでございますし、それからもう一つは、それが秘密でありますよということがその情報にアクセスする人たちにわかっておるという、この二つが不可欠な要件ではないかと思っております。
 大規模といいますか、管理体制がきちっとしている企業においては、例えばその当該秘密について限定的な人しかアクセスできない、それから単にマル秘の判こを押してあるだけではなくて、それがアクセスできる人を限定するほかに、さらにあそこにある情報は非常に秘密だなというようなことがわかるような物理的その他のいろんなシステム、設備等が設けられておるケースが多いと思います。
 ただ、委員御指摘のように、中小企業、零細企業の場合には、そこのところが大企業の管理体制と違うケースもあると思いますが、他方、大企業の場合には大勢の方がアクセスする危険性もありますので、よりかたい管理体制をつくらなければいけないケースがあると思います。中小企業の場合には限られた従業員でありましょうから、そういう方々に例えば経営者が、この秘密は我が社の重要な営業秘密でありますよと、ほかに知られてない、公知のものでない非常に重要なものでありまして、当社にとって非常に有用な技術でありますよというようなことを口頭で注意を喚起しておるというようなことでも、場合によるとこれはその営業秘密の管理体制としては兼ね備わっておるというように言えますので、大企業において管理しやすく中小企業において管理しにくいということは一概には言えないと思います。
#94
○広中和歌子君 私の心配したのは、裁判の際に立証のために使われるか、証拠として使われるかどうかといったことなんでございます。
 それはこれから後の裁判の判断にゆだねるといたしまして、さらに中小企業との関係についてお伺いいたします。
 大企業が法改正を契機として秘密管理を過度に厳重に行い、下請の系列や流通経路の系列化が強度になり、市場参入を阻害するおそれがあるのではないか。午前中もそういう質問がございましたけれども、この法律を乱用した事業者は不公正取引の対象となり得るでしょうか。
#95
○政府委員(棚橋祐治君) 先ほども御質問がありましたが、大企業が系列化を進めるために営業秘密の保護を図られる制度を乱用するといいますか、それによって締めつけをする、あるいは選別をする、そういうことが行き過ぎた場合には、大企業の優越的な地位を乱用するという形で下請企業等をいじめるというようなことで、不公正な取引方法ということで、独占禁止法の対象としてそれが問題になるケースはあり得ると思います。
#96
○広中和歌子君 時間が迫ってまいりましたので急ぎますけれども、報道関係の取材活動や報道機関と不正競争防止法との関係についてお伺いいたします。
#97
○政府委員(棚橋祐治君) 一般的に、報道の自由との関係におきましては、正常な取材活動においてこれが問題になるようなケースはないものと考えております。例えばある社長が非常に親しいジャーナリストに、これは我が社の最高機密ですよ、技術開発上大変なノウハウですよというようなことを言いまして、そのジャーナリストがどこか新聞に書いたり、あるいはテレビなどでそれを言ってしまったというような場合には、それがその会社にとって極めて有用な技術上、営業上の情報であっても、果たして十分に秘密として管理されておるかどうかは極めて疑問であるわけで、そのジャーナリストは、一般的にはやはり正常な活動で得た情報は外に漏らされる可能性が通常であるわけでございますから、幾ら信頼関係が厚い方にでも、そういう職業の方にそれを漏らされるというのは、営業上の秘密として十分に管理されておるとは言えない。二人の間の信頼関係、道義的な関係は別といたしまして、法律上の問題としては、それをもって差しとめ請求とするというようなことにはなかなかならないのではないかと思っております。
 一般的に、報道機関の報道は、国民が国政に関与するについて重要な判断の資料を提供し、国民の知る権利に奉仕するものであるわけでございますので、報道の自由あるいは取材の自由は憲法二十一条の精神に照らして十分尊重されるべきであるということで、昭和四十四年の博多駅テレビフィルム事件においても最高裁のそういう先例があるわけでございます。
#98
○広中和歌子君 それから、裁判なんでございますけれども、裁判公開制度のもとでは、具体的に訴訟になった場合に裁判の過程で営業秘密が公知となってしまうということがございます。そういうようなこともあるのでしょうか。
 これまで不正競争防止法関係の裁判について調べていただいたわけですが、これは東京地裁だけでございますけれども、六十二年に訴訟が二十七、仮処分三十四、合計五十一件、平成元年が四十八件、これを全国にならしますと、恐らくこれの三倍ぐらいということで非常に数が少ないようなんでございます。日本は弁護士の数が一万五千人でございますが、一方アメリカは六十五万。どちらがいいかということは別といたしましても、日本では裁判体制というのは、例えばこういうように不正競争防止のために裁判をしたいと思いましても非常にやりにくい状況にあるのではないかということもありますし、また一般に国の現状というんでしょうか、文化というんでしょうか、文化的土壌にもなじまないということもあるんじゃないかと思います。
 アメリカの場合ですと、ペリー・メイスンのテレビ番組などはシリーズ物で十何年というふうにやっておりまして、いわゆる市民あるいは事業者の啓蒙に役立っておりますし、またポイント・オブ・ローというラジオ番組がございまして、毎日一つずつ判例を紹介するんですね。そして、争点を明らかにして裁判の結果を知らせる。その過程で、我々聞いている者はどのようなふうに法律でもって裁かれるのかということで、非常に庶民、一般の人でさえ、素人でさえ興味を持つ、そういう土壌があるんですけれども、日本の場合に果たしてこういったことでこのような法律ができましても十分に利用されるのかどうか。恐らく、利用するのは強い大企業だけではないかなというおそれが一点、それは局長にお答えいただきたいんですが、それとあわせまして大臣にも、不正競争防止法は企業活動のモラルを示す意味もあるんではないかと思いますけれども、今回の改正内容を含めまして、不正競争防止法の適切な運用のために、通産省としてどのような態度をとっていかれるか、そうした基本方針もお聞かせいただきたい、そして私の質問を終わります。よろしくお願いいたします。
#99
○政府委員(棚橋祐治君) まず、裁判のときの秘密保護の問題は、別の委員も御指摘になられたわけでございますが、現在憲法の八十二条の大原則がございまして、裁判の対審、判決は公開法廷でこれを行うということで、特殊な例外的な場合に裁判官の全員一致で非公開が認められるだけでございます。これが欧米のどこよりも公開性が強く保障されておるわけでございます。
 さて、公知のものになっては困る営業秘密の保護について、訴訟を提起したことによってかえって秘密が漏れるのではないかという問題点は、一般的には確かに指摘されるところがいろいろあると思いますが、現在、民事訴訟法二百八十一条一項三号の中で証言拒絶の事由となるなどの規定もございますし、それから民事訴訟法の二百四十九条の準備手続とか、同法の二百六十五条の裁判所外での証拠調べとか、これは訴訟手続における裁判所の運用の問題でもありますけれども、そういう面でいろいろの対策が講じられていくのではないかと、このように期待をいたしております。ただ、全体的に、これは今申し上げました憲法との兼ね合いで、民事訴訟手続全体の中で検討されるべき問題ではないかと思っております。
 それから、不正競争防止法あるいはトレード・シークレット法、アメリカでは確かに大変な訴訟社会と言うと語弊がありますが、おっしゃるように委員が非常にお詳しいと思いますが、いろんな面において訴訟が物すごい数でございます。弁護士の数も御指摘のようなことだと思いますが、これの功罪につきましては、アメリカの社会においても、むしろ構造協議の中でも若干問題になるケースでもありますが、権利を守るという意味でのそういう意識が非常に高い、強いということからくることではありましょうが、逆に今、乱訴という弊害もこれは産業社会においても消費社会においても消費生活においてもあるわけでございまして、アメリカ自身においていろいろその是非についての議論があるやに承知いたしております。
 我が国においては、現在は民法七百九条の差しとめ請求権がないと理解されておりますが、損害
賠償はできるわけですけれども、これの事例も、先ほど来申し上げましたように、営業の秘密に関する不法行為の問題としては数件でございまして、我が国の国民性といいますか、まずいろいろ話し合ってみて、それからどうしようもないときに訴訟にいくというような、そういう今までの社会の違いは確かにある。アメリカではまず訴訟に移されていって後でよく話し合うというようなことも言われておりますので、かなり確かに違うところはあると思います。
 ただ、この御提案しております不正競争防止法で差しとめ請求権が認められますと、この権利が守られるということで、また、権利を侵害すれば訴えられるということで、企業間のモラルについてもこれが大きく貢献することは事実であると思いますし、この規定に基づいて自分の権利を守ろうとする人は当然訴訟を起こすというようなことにもなろうかと思うわけでございます。
 それから、大企業と中小企業で、仮に権利を侵害されても中小企業はなかなかこの条文を利用できにくいんじゃないかということでございますが、中小企業の場合でもすぐれた技術開発を行うベンチャービジネスが最近非常にふえてきておりまして、逆に中小企業の中で自分たちの権利が他の企業に侵犯されて泣き寝入りをしておるケースもありまして、むしろ中小企業も管理体制をしっかりしておいて、営業秘密が侵犯されたときにはこの条文を援用して自分たちの権利が守れるというようなメリットも、中小企業サイドには当然出てくるものと思います。
 なお、中小企業政策一般の問題として、今後こういう技術開発について中小企業の権益をどう守っていくか、あるいは先ほど来ございましたいわゆる縦型の系列の締めつけ等について、これをよくウオッチいたしまして、中小企業が不当に圧迫されないように配慮をしていくということは、我我としても今後当然考えていきたいと思っております。
#100
○国務大臣(武藤嘉文君) この不正競争防止法というのは、御指摘のとおり、企業の事業活動におけるモラルといいますか行動規範と言ってもいいものではないかと思います。そういう意味において、今日までもできる限り経済界あるいは労働界の皆様方にその目的、趣旨を十分徹底して御理解をいただき、健全な経済の発展に資してきたと私どもは思っておるわけでございます。
 今回の改正に当たりましても、当然そういう意味からいって、先ほども御答弁申し上げましたように、やはりこれが正しく理解をされるということが大変必要でございますから、いろいろのできるだけ詳しい解説書をつくらせていただいて、それをもとに全国あちらこちらで説明会をいたしまして、これが正しく行われていくように、これは今のお話のとおりで、モラルというか、これがやはりあくまでも自由経済社会における企業活動の行動規範だと私は思いますから、そういうような方向で今度の改正をさせていただければ、その部分についてもそのような考え方で対処していきたい、こう考えております。
#101
○市川正一君 最初に、私ども日本共産党の基本的な立場と申しますか姿勢というものを明らかにしてまいりたいと思うのであります。
 私どもも、工業所有権、著作権あるいはノウハウなどの知的所有権を人類の英知の所産として保護することは極めて重要な政策課題である、こう考えております。と同時に、そうした成果が一部の大企業の市場支配あるいは労働者支配に利用されるようなことがあってはならない、可能な限り公開されて産業経済全体の発展のために活用されることが望ましい、こう考えております。
 そのことを申し述べた上で、以下質問をいたしたいのでありますが、まずお伺いしたいのは、なぜこの法案成立をそんなに急ぐのかという問題にかかわってです。午前中、梶原議員も文言としても熟していない法案をそそくさとして何で出すのかという指摘をなさいましたが、この法案が国会に提出されたのは五月二十四日です。本日まで一カ月もたっておりません。また、我が国とは法体系の違うアメリカのトレードシークレット法、ここにございますが、その定義を引き写しといいますか、そういうさまざまな問題があるにもかかわらず、十分な審議を保障しないまま成立を急ぐ。なぜそんなに急ぐのか、こう言いたいんですが、まずお伺いしたいと思います。
#102
○国務大臣(武藤嘉文君) 文言が私は必ずしも熟していない……
#103
○市川正一君 それは私が言うているのと違います。
#104
○国務大臣(武藤嘉文君) いや、私の方から申し上げれば、先ほども片仮名の話とかいろいろございましたが、これは法制局との間でのいろいろのいきさつでこういう形になったわけでございまして、その点はぜひ御理解いただきたいと思うのでございます。
 なぜ急ぐかということでございますが、たまたま昨年から既に産業構造審議会でこの問題を議論していただいてきたところでございますし、今日の日本の経済がなぜこう大きくなったか、それはやはり私は技術開発、技術革新が非常に日本経済を大きくした原因だろうと思います。そういう面において、今共産党も御理解いただいているようでございますが、技術開発をしながらそこから生まれたものは大切にし、それは国民のためにと、こういうことでございますが、同時に、やっぱりそれを開発した人の利益というのは守っていかなきゃいけないというのも当然だろうと私は思うのでございます。
 そういう面からいって、せっかく産構審の答申がなされたわけでございますから、それに基づいて、やはりこういう技術革新の時代にできるだけノウハウを守ってあげなきゃいけないということは、私は悪いことではないと思うのでございます。
 たまたまウルグアイ・ラウンドでガットのルール強化を何とかことしじゅうにまとめなきゃいけないという問題がたまたま今ございまして、そこの中でTRIPの問題とかいろいろやっておりますと、こういうノウハウに対するいわゆる偉業秘密と申しますか、その営業秘密に対する損害賠償は、日本も民法で行われておりますけれども、そういうものが不正に行われたというときに差しとめ請求権がないというのが、正直、先進国ではどうも日本だけのようでございまして、開発途上国にも一部そういうものがあるわけでございます。
 そうなると、このウルグアイ・ラウンドのガットのルールを強化することが日本の国にとっては自由貿易体制を維持するという点からいっても大変大切なことでございます。そこで、何とかこれをうまくまとめていこうというときにたまたまそういう話が出てきておるということがありましたので、これは渡りに船ではございませんけれども、ちょうど片っ方で産構審の答申がなされ、片っ方でそういう国際的な問題が起きてくれば、これはやっぱりそのときに一緒にお願いするのがいいんじゃないかということでお願いをしたというのが今回の趣旨でございます。
#105
○市川正一君 営業秘密ということになりますと、民法や刑法など現行法体系の中でこれは保護されております。
 例えば私ここに持ってきましたのは日本特許協会、この特許協会というのは御承知のように大企業で構成されていますが、その意見書も、「わが国において、現行法上、財産的情報の保護は、民法・商法・刑法等の適用および判例法の下に行なわれており、一応の保護は図られていると思われる。」という所見を述べております。
 大阪の言葉に冷や飯から湯気が出るという言葉があるんです。にわかに冷や飯から湯気が出てくるような急ぎ方というのは、これは結局差しとめ請求権を明示せよというアメリカの要求にこたえるためです。今大臣がいみじくもおっしゃいました。勘定しておったら、たまたまという言葉が四回出てきたんですよ。たまたまウルグアイ・ラウンドやと、たまたまガットやと。そのたまたまじゃなくて、言うならば、ことし秋のガット、ウルグアイ・ラウンドへの最終協議までにこの法律を
つくっておきたいというのが事の真相だ、私はそう言わざるを得ぬのです。これは日弁連も、この異様、異常さについて二月一日、二月二日の意見書で触れております。
 例えば「このような短時間では、この重要問題について、日弁連が会内討議を進めることさえ不可能であり、本件照会のあり方自体が真に遺憾であるといわなければならない。」、なるほど、ずっと今まで協議がされてきたでしょうけれども、いざ最後の段階でこういう冷や飯湯気方式では困ると言うているんです。それからさらに、二日付の意見書では、「営業秘密の保護法は新設である上、産業界に与える影響は重大であるから十分慎重に検討する必要があると考える。」、こう日弁連意見書で述べております。
 そこで、大臣、首をいろいろ振っていらっしゃるので御意見があると思うんですが、一応中身に入っていきますから……
#106
○国務大臣(武藤嘉文君) 確かに、今まで損害賠償その他は民法でも行われておりますし、ただ正直、今度の産構審の答申でもございますように、やっぱり営業秘密というのを守っていくという面において差しとめ請求権がなかったものをやろうというのは例えばノウハウで、特許はこれは裁判でやれますけれども、ノウハウなどある一つの技術が開発された、それが案外こういうものがないために世間にわっと出ちゃって、そしてそれによって損害を受けても、実際問題、例えば流布された人と損害賠償の問題が民法で行われたといたしましても、金額で必ずしも十分賄えない場合もあるんじゃないか、カバーできない部分もあるんじゃないか。やっぱり差しとめ請求権というのはあった方がよりベターであるということだけは私は言えるのではないかと思うわけでございます。
 確かに、たまたまという言葉を申し上げましたけれども、ちょうどいいチャンスなんですね。ちょうどいいチャンスでございますから、こういうチャンスにやるという方がいいことであれば、やっぱりそういうチャンスをとらえてやるということが私どもは必要ではないか、こう思っておるわけでございます。
#107
○市川正一君 入り口で時間をもう十分とってしもうて中へ入れない、出口がなくなってしまいますので。
 そこで、保護の対象になるいわゆる営業秘密の定義なんです。これはずっと午前中からもありました。三つあります。それはもう私は言いません。この範囲が無限に広がるおそれがあるし、しかも大事なことは、それを第一義的に判断するのはその営業秘密を持っている企業なんですね。だとすると、最終的な判断はもちろん裁判所になるにしても、それに至る過程を通じてこの定義を第一義的に判断する企業の利益を守ることが極めて厚くなり、またトラブルが多発すると考えられます。
 私は、通産省からいただいた知的財産研究所のアンケート調査をここに持ってまいりましたが、これをいろいろ読ませていただくと、この法案の成立によって営業秘密をめぐる今後の情報管理は量的にも質的にも広く厳しく行われるであろうということがここから予想できるんです。というのは、企業の人事管理とそして労働者への権利と処遇の問題が大きな課題になっておる。アンケートによりますと、雇用契約における情報管理規定を持っている企業は七割以上あるというんですね。新たに作成しようとしている企業を加えると八割を超えます。その中で、守秘義務規定があるものは七割を占めております。しかも、それが全従業員を対象にしている場合が圧倒的であります。こういう状況のもとでは、その企業を退職してほかの企業に再就職しようとする場合、あるいは転職しようとする場合、これまでの経験を生かして転職するわけでありますから、競合関係にある企業には行けない可能性が生じてきます。
 午前中からの議論を通じて、棚橋局長はそんなことにはならぬ、心配するなと、こうおっしゃいました。私もそういうことはあってならぬというふうに思います。思いますけれども、しかし企業は現実に職場の実態はまさに職場には憲法なしというのが、事例は申しませんが、これはもう実態です。ですから、企業は営業秘密を盾にこういう圧力をかけてくることは必定と思われませんでしょうか。柳橋さん、いかがでしょうか。
#108
○政府委員(棚橋祐治君) 市川委員御指摘のように、最近技術上、営業上について企業が守らなければいけないノウハウ等が非常にふえてきておるということで関心が深まり、就業規則、雇用の際のいろいろの契約等で守秘義務等も決めておる企業がふえてきておることは事実でございます。
 他方また、そうした企業の営業秘密を守る必要性が出てまいりまして、先ほど委員は現在の法律でもそれは守られるべきではないかとおっしゃったんですが、例えば民法の七百九条では差しとめ請求権がない、金銭賠償だけである。これでは企業の営業秘密が漏出して不正に使われた場合に、お金だけいただいてもそれがどんどん使われるのでは損害はなくならない。こういうことで、欧米諸国においても差しとめ請求権を全部の国が認めておるわけでございまして、現在のこの法律では金銭賠償はありますけれども大きな欠缺がある、こういうふうに考えております。
 刑法ではもちろん窃盗罪とか背任罪とかそういうケースに当たる場合には刑法の規定で守られますが、これも差しとめ請求等とは関係のない別の観点からのものでございまして、そういうことで今回この法案を提出しているわけでございます。
 他方また、委員御指摘のように、非常に企業が研究者等の従業員に対して厳しい守秘義務、あるいは転職した後の競合会社に何年間か行ってはいけないというような厳しい条件をつけた場合には、もしそれが争われた場合には、例えば転職できない期間の問題、あるいはそういうオブリゲーションを課したことのコンペンセーションとして、どういう退職金の上乗せその他対価を払ったのか。それから、その従業員の生活がどうなるのか。あるいは競合する企業が地理的といいますか、エリアとしてどういう間柄にあるのか。東京の近接の中にあるのか、東京と地方でかなり離れておって、その人が行っても余り競合という問題が出てこないんではないかというようないろいろの要素で裁判所で具体的ケースについて争われるわけでございまして、余りにも不当なものは当然公序良俗違反ということで、そういう契約自体が無効になる。原田商店事件というようなケースもございますので、私どもは、そういう形にはならない、この法律によってそういう形になるものと推定することはない、こういうふうに考えておるわけでございます。
#109
○市川正一君 私は、この従業員にかかわっての問題として、今の御答弁を踏まえつつ、例えば賠償、契約の違約というケースが実際ありますから、それが労働基準法第十六条とどういうかかわり合いにあるのかとか、あるいはまた労働組合運動における団体交渉権の正当な要求に対する拒否とか、あるいは労働基準法第百四条の監督機関に対する労働者の申告権の問題とかいろいろお伺いいたしたいんですが、入り口で時間をとりまして時間がなくなってまいりました。
 そこで今度は、労働者の問題は一応そういう問題があるという主題だけにとどめて、次に私がどうしてもお聞きしなければならぬのは、営業秘密の保護が企業の違法行為を隠ぺいすることにならないかという問題なんです。例えば企業の公害隠し、あるいは原子力発電所の事故隠し、これらの違法行為は、通常、生産活動や営業活動と結びついて行われるものであります。これを内部告発した場合、労働者の責任が問われることになるんでしょうか。その点はいかがでしょうか。
#110
○政府委員(棚橋祐治君) いわゆる公序良俗に反するようなものは、その当該企業が仮に主観的に営業秘密であるといっても、この法律では当然の条理であるということで、民法の九十条の条理が当然働くということで、これは守られるべき営業上の秘密にはならないという大原則が働くものと考えておりますので、委員御指摘の、例えば公害を垂れ流ししておるとか、脱税をしておるとかと
いうようなものは、この法律の保護の対象には当然ならないと理解をいたしております。
#111
○市川正一君 局長はそういうふうにお答えいただいたんですが、実は私、この法案の審査研究のために、経団連のこの分野の担当セクションに私の秘書がいろいろ状況を聞きに参りました。そして今と同様の質問を行いました。そうしますと、そのサイドのお答えは、やはり内部告発に対して責任が問われるということにこの法律によってなるであろうという、そういうお答えがあったんです。ですから、私はこの問題については極めて重視をいたしております。
 そして私は、今までのやりとりを通じても、午前中からの棚橋局長の誠実な立場からの御答弁はそれとして承っております。しかし実際には、それを今後の運用、今後の実態の中でその御答弁が極めて重要な意義を持つということを私も重視しながら、実際の企業の現場ではどうなのか。例えば防衛庁から受注した製品をつくっている大企業の職場ですが、その生産現場はほかの職場とは隔離される、出入りも厳しくチェックされる。そして、そこに従事する労働者の思想や素行あるいは実族や友人関係まで調べ上げるというような、言うならば秘密保護を理由に人権侵害も意に介さぬような人事管理が行われております。名前は挙げませんけれども。
 そうすると、今回の法改正がそういうことをやれとは決して要求もしておりませんが、実際にこれが現場へ入ったときに、営業秘密という名で管理する側の企業は、こういうやり方を職場全体に広げていく可能性が十分にあるということを私は指摘せざるを得ぬのです。私は、そのほか報道の自由、取材の自由の問題も準備しておりましたが、先ほど同僚議員も御質問になったので、もうこれは割愛いたします。
 そして、時間が参りましたので、ただ一問だけでありますが、裁判の公開の問題なんです。これも先ほど来ずっとやられてまいりました。そして、訴訟の過程で営業秘密が公然化されるという矛盾が生じるという指摘に対して局長は、民事法だとか訴訟手続などを引用されて、その矛盾点の解決を求められようとなさいました。
 私がお聞きしたいのは、それは裁判の公開の原則が言うならばすりかえていく抜け道にもしなったとしたらこれは重大だ、そうじゃなしに、憲法原則に基づいてあくまでもそれを貫くという立場なのかどうか。民事法や訴訟手続の問題にすりかえてはならない問題だと、こう思うんですが、この点はいかがでしょうか。
#112
○政府委員(棚橋祐治君) 委員御指摘のように、憲法八十二条の裁判の公開の原則は厳然たる大前提であるわけでございます。当然のことながら、民事訴訟法等関係の法律もこの憲法の八十二条の許容する範囲内で、いろいろの訴訟手続について、秘密の保護を守れるような規定を設けておるわけでございますので、私どもはその大原則に抵触するような法律の改正とか運用を考えておるつもりは毛頭ございません。
#113
○市川正一君 そんなこと考えていると言われたらもう重大事件でありますが、残念ながらもう時間がまいりました。
 私は、この問題は後で同僚の池田委員が取り上げられるやに承っておりますので、それに期待をいたして結びたいと思うんです。やはり各方面からずっと慎重な検討の要請が出ております。だから私は、何でそんなに急ぐんやということをもう一遍原点に、入り口に戻って、そしてこの法案を撤回されて、もう一度国民的合意をかち取る御努力をなさるべきであろうということを申し述べて、質問を終わります。
#114
○池田治君 私も基本的姿勢を最初に申し上げます。
 もともと不正競争防止法というものは昭和九年に制定されたものでございまして、これも経済発展に伴って日本国内での立法の必要性から制定したというものでもございませんし、工業所有権の保護に関するパリ条約、ハーグ改正条約の批准の必要性から急ぎ制定されたと伺っております。今回の秘密保護法もまた、ウルグアイ・ラウンドで知的所有権の保護と並んでこのノウハウの保護もしなくちゃいけないということで、慌てて政府は改正をなさっておると私は思っておりますが、この点は、先ほど市川委員の質問に答えて通産大臣は正直にお答えになりましたので、これ以上お尋ねはいたしません。
 しかし、同時にまた、経済社会が高度に発展しまして、刑法改正の時代とかこの前の時代のような、単なる秘密を保護しなくてもいいような時代ではなくなりました。確かに営業上の秘密、ノウハウ、設計上のもの、その他研究の成果、こういうものは企業にとって保護しなければ自由主義経済の活性化をもたらさないと、かように認識しております。しかし、若干細かい点がございますのでお尋ねをいたしたいと思います。
   〔委員長退席、理事中曽根弘文君着席〕
いろいろ私も問題を用意してまいりましたが、午前中ほとんど諸先輩が質問していただきましたので、私は幸か不幸か簡単な質問で終わらしていただきます。
 まず、秘密につきましては午前中からいろいろ言われましたから省略いたしまして、不正行為の点でございますが、不正行為というのは、盗むとか人をだますというか、不正な手段によって営業秘密を取得する行為、これがもともとの不正行為なんですね。これだけなら窃盗罪とか詐欺罪とか背任罪とかこういうもので刑法上は補いがつきます。民事上はそれに基づく不法行為に対する損害賠償、こういうものもちゃんと規定しておられるわけですからこれで足りるのではないかと思いますが、その行為そのものに限った御答弁をお願いします。失礼ですが、質問通告はありませんから、質問通告したのはずっと皆さんがおやりになりましたので、簡単でございますけれども。
#115
○政府委員(棚橋祐治君) 確かに委員御指摘のように、刑法、商法、民法等でそれぞれ営業秘密についてそれをブロックする規定がございます。それは、窃盗罪、背任罪等の刑法の規定あるいは民法七百九条の一般的な不法行為で金銭賠償が認められる。ただし、差しとめ請求は先例がない。商法上の取締役のいろいろの責任等を総合しますと、委員御指摘のようにある程度営業秘密について従来から保護する法制は整っておりますが、肝心の差しとめ請求については、契約違反の場合は委員御承知のように民法の四百十四条ございますが、それ以外の場合には認められていないわけでございます。
 それで、不法行為の類型でございますが、確かに窃盗等のこれはもう歴然とした刑法に触れるような、あるいはそれに準ずるような不法行為はこれははっきりしたものでございますが、今回の法律でもう一つの体系として、正常な雇用契約等でいろいろのノウハウを開発した、しかしそれがいろいろな事情で転職をした場合に、転職をしたからといってそれが不法行為になるわけではもちろんございませんが、その転職先で不正の競業その他の不正の利益を図る目的をなし、もしくは前の保有者に損害を与える、この損害を与えるというのは積極的な意図があるというふうに解釈されるべきだと思いますが、そういうような行為もこの法律で言う不正な行為、こういうことでとらえて所要の法律の整備を考えたわけでございます。
#116
○池田治君 ちょっと局長は私の問いよりか先に進んで御答弁を出してきています。もう少し区切って、細かくいきましょう。私は、取得する行為そのものを言っているわけです。行為そのものは私の言ったような刑法上のものと民事上の損害賠償で足りる。ただ、雇用上の問題、契約上の関係に立つとかその他盗んできたものを使用した場合とか、こういうことまでまだ進んでいません、次に行きますから。
 取った行為というものは、泥棒というものは人の物を取ればとった瞬間に行為は終わるわけです。そしてまた、人をだまして財物を騙取した瞬間で行為は終わるわけです。そういう行為については、私はこの必要がないと思います。例えば強姦罪のように女の子を押さえ込んでその前にやめ
た、それなら差しとめ請求権はぴたっときますよ。財物を盗んできてそれでこれがつかまる、取ってしまえばもうそれは行為は終わっているわけです。反復継続的な行為でない限り、一回限りの行為はこれで終わっていると思うんです。これについてまで本法は認める必要はなかったのではないのか、不正行為の全般で答えてください。
#117
○政府委員(棚橋祐治君) 確かに不正行為が一回限りである場合には、おっしゃるように差しとめ請求の意味がないわけでございます。
   〔理事中曽根弘文君退席、委員長着席〕
しかしながら、反復継続的に営業秘密が不正に取得されていることを知った場合や、不正に取得された営業秘密が開示されようとしていることを事前に察知した場合には、それぞれ取得または開示の差しとめを請求することもありますので、そういう意味で収得や開示の差しとめも当然必要であると考えておりますし、先進国各国とも大体そういう体制になっているわけでございます。
#118
○池田治君 よくわかりましたが、差しとめというのは具体的にどのような方法や手続で行うことを予定されておるんですか。
 通常の場合ですと、我々はまず内容証明を書いてやめてくれという通告をしまして、従わなければ急ぐものは仮処分をやる。仮処分をやると同時に本所を起こす、差しとめ請求の裁判を起こす、こういうことで行われているわけですが、立法者としてはそういうところはどういう形で差しとめを予定されておりますか。
#119
○政府委員(棚橋祐治君) 池田委員はもう実務については私どもの何十倍か知識をお持ちでございますので、釈迦に説法でございますが、私ども立法者の意図としてのお尋ねでございますのでお答えいたします。
 営業秘密にかかわる不正行為について、その利益が害されるおそれのある保有者は、まず管轄の地方裁判所に対して不正行為の差しとめを求める訴えを提起するのがまずこれは原則でございますが、おっしゃったように、緊急性の高い場合には、仮処分の申請をあわせて行うというケースもあり得ると思います。裁判所では一般的な訴訟手続に従って口頭弁論を行いまして、例えば原告は別紙目録記載の製造方法を用いた生産を行ってはならない等の判決が、仮にでございますが、そういうことになれば下るわけでございます。また、被告が生産設備等の不正行為の用に供する設備等を有する場合には、使用の停止に附帯いたしましてその設備の廃棄処分を請求することもできる、こういうふうになるわけでございます。
 以上でございます。
#120
○池田治君 できるということですが、それは判決で求められるということでございますね。判決に従わなかったらどういう強制執行の手続をとられますか。
#121
○政府委員(棚橋祐治君) 御指摘の、被告がなお判決を無視して生産活動を継続する場合には、民事執行法で定められております間接強制、つまり使用を停止しない限り毎日一定の金額で支払いを賦課する間接強制、これは民事執行法の百七十二条でございますが、あるいは代替執行、これは執行官が人夫等を伴って生産設備を実力行使で廃棄し、その費用を被告から徴収するという、これは民事執行法の百七十一条、それに関連して民法四百十四条の債務不履行に関する規定がございます。こうした強制執行の方法により、判決を無視した被告に対してその履行を確保することができると考えております。
#122
○池田治君 裁判の話が出ましたので、二点ほど裁判の話を続けます。
 まず、裁判を起こすには印紙を貼って裁判所に出さなければなりませんけれども、訴額の決定基準はどの程度に考えておられますか。
#123
○政府委員(棚橋祐治君) 非常に難しい実務上の問題でございますが、訴額に関する民事訴訟法上の規定に従ってそれを決めて訴えるということになると承知いたしております。
#124
○池田治君 それは、法律に従うことは当然でございますが、法律の内容は今のところ不動産の場合は評価証明の何千分の一、それで請求債権のように金を貸していてそれを返してもらうのには訴える金額の何分の一と、こういう形で一応訴える金額を中心とした形での訴額が決定されているわけです。行政訴訟に至りましては一律五百円でいい。こういういろいろな規定があるわけでございますが、新法をつくられるわけですから、そうすると民事訴訟のそういう規定もまた変えていかなければ、ノウハウなんというものは恐らくわからないんだから、それは立法者はそこまでお考えになっていないとまずいと思うんですが。
#125
○政府委員(棚橋祐治君) 委員御指摘の点でございますが、率直に申し上げて、私どもなかなか訴訟手続の実務上の細かい問題について知識が浅いわけでございますが、今までのところ、法務省とのいろんな法律についての協議の過程において、法務省からそのような要請ないし必要性の指摘は受けていないわけでございます。
#126
○池田治君 私が心配しますのは、このノウハウを盗むことによって何百億円の利益を得たという場合に、その利益の中を中心として訴額を決定されるのか、それともノウハウそのものは価値はありませんから、使用して初めて価値があるわけですから、取得する行為と初め私は分けて考えてくれと言ったでしょう、取得する行為そのものには何の価値もないわけです。利益もないわけです。ところが、それを使えば金が何千億もうかるかわからないというノウハウもあるわけですから、その場合どこを基準とした訴額の決定を与えるか。これは法務省ともう一度詰めていただきたいと思います。
 次に、秘密の保護の問題ですが、公開の原則がとられておりまして、市川委員も広中委員も申されましたけれども、その際に局長は、民事訴訟上の手続で、裁判になっても大丈夫だ、こういうことをるるおっしゃいましたけれども、何条と何条か、もう一遍教えてくれませんか。
#127
○政府委員(棚橋祐治君) 委員御承知のように、憲法第八十二条の大原則があるわけでございます。その大原則は当然前提になるわけでございますが、現在民事訴訟法二百八十一条一項三号で、営業秘密については証言拒絶の事由となる規定があるものと承知いたしております。
 また、ここのところは訴訟手続の運用上いろいろ議論があるようでございますが、民事訴訟法二百四十九条の準備手続、「裁判所ハ口頭弁論ノ準備手続ヲ為スコトヲ得」という規定とか、あるいは第二百六十五条の裁判所外での証拠調べ、「裁判所ハ相当ト認ムルトキハ裁判所外ニ於テ証拠調ヲ為スコトヲ得」というような規定も関連しまして、これは裁判所の訴訟手続において、これからケースごとのいろいろの判例の積み重ねによって、営業秘密の該当性を立証することによってかえって公知性が生じてしまうというようなことをできるだけ防ぎとめるような運用といいますか、そういうものが出てくることを私どもは期待をいたしておるわけでございます。
#128
○池田治君 私も、局長と同様に期待はしておりますが、裁判というのはもともと訴えるには、何月何日、どこそこで、だれが、どのような営業上のノウハウを盗んだ、よってこれを差しとめてくれ、これに係る損害を何億か受けた、この損害を支払えという訴状をつくるわけです。そしてまた、相手の方は、いやそんなことはない、取られたのじゃなくて、あれはほかからだれかが取ったので、あれじゃないということでお互いに戦争するわけです。そのときに、公開の裁判でそれをやるわけですから、ノウハウを取られたと公開の際に言わなければ裁判は始らぬでしょう。
 そしてもう一つ、裁判というものは訴えて、お互いが足りないところを準備書面を出して、それで足りない分を証人や証拠書類で立証するわけです。その立証の過程で、証言拒否があるから、大丈夫だと言ってみても、証言拒否すれば秘密ということがわからぬじゃないですか。裁判はそういう証言を重ね、書面を出して、それで実体的な真実追求ということをやって、そのうちに判決になるわけです。証言拒否すれば秘密ということがわ
からないですから、証言拒否すれば証拠にならぬでしょう。何を考えているんですか。
#129
○政府委員(棚橋祐治君) 御指摘のように、確かに我が国においてはこの公開の原則が非常に欧米の法令と比べて大原則として強いものがあるわけでございますが、現在でも民法七百九条の営業秘密に関する訴訟におきましては、私ども承知する点でも、裁判所外での証拠調べにおいて相当程度そういうものが外に漏れることについての配慮をなされる訴訟手続が行われておるものと、私どもは伺っております。
#130
○池田治君 裁判所外での訴訟調べというときは、相手が病人であるとか、足が悪くて何か出られないとか、刑務所の中におる在監者とか、こういう者について裁判所外でやります。一般的には公開の法廷でやらなければいけません。その場合、裁判所外でやる場合でも公開の原則は一応認められておるわけです。認めなければ証拠としての価値が認められません。それこそ憲法違反になってしまいます。
 ですから、局長の今のお考えでは、裁判公開の原則というのには全然当てはまりません。もっと憲法上の原則というのは強いものです。ですから、秘密というものが法廷へ出ることによってもう既に秘密じゃなくなるじゃないか、こういう点はどうも説得力が弱いように思いますので、もうちょっと御答弁を願えますか。
#131
○政府委員(棚橋祐治君) この点は、確かに問い詰められますと非常に苦しいところでございまして、片方憲法の八十二条の原則が、繰り返して恐縮ですが、立派な原則であると思いますけれども、欧米におけるよりは極めて強い大原則であるわけでございまして、何も諸外国の例を出してそうしてほしいということだけでもありませんが、アメリカにおいては、いろいろ手続においてこういう営業秘密の訴訟における秘密が守られておるわけでございますけれども、我が国の場合大原則がございますので、繰り返して申し上げますが、民事訴訟手続全体のあり方の中で法務省におかれましても、十分にこの営業秘密を守る本法の趣旨を体していただきまして、憲法の原則を守りながらいろいろ工夫をしていただきたいと思う次第でございます。
#132
○池田治君 ぜひ法務省と相談なさってその点ももう少し詰めた上でなければ、これは立法として問題だと私は思っております。なぜそう言いますかというと、裁判官の法解釈もわからない、学者の解釈もわからないときは立法者の意図が那辺にあったかということを考えるわけです。その場合に、今のような法務省と相談して決めますというだけでは法案としては私は本来賛成できかねる法案だと解釈せざるを得ないのであります。よくその点は詰めておいていただきたい、お願いします。
 そこで、もう時間もございませんから大臣に最後にお聞きしますが、この法案によりまして企業の情報管理が強化されたり労働者の行為を制約するような懸念はないのかあるのか、私はあると思っているんですが。また、労働組合の活動にも支障を来すようなことはないのか。それを心配しておりますので、御答弁をお願いします。
#133
○国務大臣(武藤嘉文君) 今心配しているという御指摘でございましたけれども、私どもこの法案の作成に当たりましては極力情報公開が阻害されたり、あるいは労働者の権利あるいは労働組合の活動が阻害されることのないようにという配慮からいろいろそれぞれの業界の皆様方とも御意見を交換しながらつくってきた。こういう経緯があることは事実でございますので、その点は、私は十分配慮してそのような形で法律案をまとめた、こう考えておるわけであります。
#134
○池田治君 終わります。
#135
○井上計君 けさほどから各同僚委員の大変詳細な濃密な質問がありました。また、棚橋局長から非常に事細かく明快な御答弁がありましたのでほとんど言い尽くされております。私も二、三質問通告をしたんですが、もうすべて出尽くしましたので、通告外になりますけれども皆さん方の論議をお聞きしておって感じたことを一、二ちょっとお伺いしたいと思います。
 いろいろと質疑の中で出ておりますけれども、この法案がやはり諸般の情勢からして緊急を要するということもよくわかります。同時にまた、この法案によって営業の自由であるとかあるいは情報公開等々についての阻害をされるおそれがあるということもこれまた無理からぬことだ、こう思います。私は、情勢等から考えるとやはり急いでこの法案を成立させることが必要であろうという前提に立ちますが、運用いかんによってはやはりもろ刃の剣になるおそれがあるわけでありますから、今後運用面で十二分の配慮をぜひしていただかなくちゃいかぬ、まずこれを前提としておきます。
 それで、具体的に実は既にこういう疑問が私もそうですが一般にあるんです。というのは、先般ある中小企業の会合で私が今度こういう法律ができますよ、改正されますよ、こう言ったら、途端に出た質問がこういう質問なんです。大臣も局長もよく御存じの印刷関係ですが、受注産業、受注企業の場合は一番大切なのはお得意と営業マンとの接点なんです。営業マンが自分で新しいいわばお得意を開拓しておる。非常にそのお得意の発注がふえてその会社としては大変ないわばウエートを占めておる。しかし、その営業マンがその会社で何年か修業をし、見習いをし、いろんな技術等々を全部習得してそれで営業活動をやっておる。人柄といいますか、いわば人間的な関係で今まで開拓できなかったお得意を開拓して主要なお得意にしたという人、これはありますね、往々にして。すべてのいろんなところがあると思うんです。ところが、お得意の信頼が厚くて、お得意から、もう君いつまでもあそこにいなくて独立したらどうだと、独立すれば従来どおり全部発注してやるよ、こう言われるケースが実にたくさんあるわけです。その場合、果たしてどうなるのであろうか、実はこういう疑念があるわけです。
 特に中小企業に就職する人は、大企業に就職する条件あるいは能力がないから中小企業という人もありますけれども、大体中小企業に就職する人の中のかなりの人は、中小企業に就職するのは自分がその仕事を覚えいろんな技術を見習い習得して、自分が独立して自分自身が経営をしたいという意欲のある人が実は相当いるわけですね。そういう人たちがやはり前途に不安を持つのではなかろうかな、こんなふうな感じがするわけであります。
 今実例を挙げましたけれども、そういうふうな営業マンが自分が持っておったお得意を抱えといいますか、持って独立した場合、当然のことその会社はかなりのダメージを受けるわけですね。その場合この法律の中で今度の改正法でどうなるかということ、ちょっと私まだよくわからぬ点があるんですが、局長、どうでしょうか。
#136
○政府委員(棚橋祐治君) まず御質問の関係の条文は、この法案の一条三項四号の「保有者ヨリ示サレタル営業秘密ヲ」云々というところの雇用関係にあって雇い主から、経営者から営業マンが知り得たる、示された営業秘密になるかどうかという点になるわけでございます。これにつきましては、一般的に営業マンがみずからの足でもってお得意さんを開拓しまして、それで御自分の顔で長年の蓄積で一つの顧客の情報リスト等をつくった、こういう場合は原則として企業から示された営業秘密には該当しないのではないか。したがって、こういう場合に本法案に基づいて差しとめの対象になることはないのではないか、一般論でございますが、このように考えておるわけでございます。
#137
○井上計君 私もそういう理解をしておるんですが、これは業種によっていろいろありますけれども、営業のノウハウというのがあるんですね。特に複雑な受注産業の場合には、その企業その企業独特の積算方式があるわけですよ。これはやっぱり一種の秘密なんですね。そういう技術を習得してそれをもって自分でお得意を開拓したという場合、そこにどうも微妙な問題が起きるんではない
かなという懸念があるんですが、これはいいんです。ただ、こういうふうなことが随分と今後起き得る可能性がある、こういう懸念をするものでありますから今伺ったということであります。したがって、今後とも運用についてはやはりそういうふうないわばボーダーラインといいますか、そういうふうな案件が随分と起きるんではないか。その場合にどのように処置されるのか、処理されるのかなという不安があるということを一つ申し上げておきます。
 それから、参考資料の三十八ページにいろんな判例があります。先ほど同僚議員の質問に対して棚橋局長からこの十二番目のドイツのメーカーから船舶のプロペラの問題についてお話がありました。そこで、判例十の名古屋地裁の六十一年九月二十九日の判例ですが、これは台湾企業に対して技術の指導を行って対価を受けた、こうなっておる。この判決については原告の請求を棄却しておる。その理由は不法行為に該当することは明らかだが、ただし、違法行為と損害発生との間の因果関係が直ちに認めがたい、こうなっていますね。だから、因果関係をこういう場合に事実上認めることはやっぱり難しいという事実が今後も起きるんじゃなかろうか。
 特に今国内のいろんな企業に東南アジア等々から研修生が随分と来ています。そういう研修生がその技術を習得する、ノウハウを持ち帰る、自国の産業の発展にも使うわけですが、これはこれで大変結構ですけれども、しかし台湾なら台湾、韓国なら韓国あるいはフィリピン、東南アジア等々で日本で習得した技術、ノウハウを持って帰ってつくった製品が当然のこと国内に輸入されるというケースが事実あります。これからふえていきますね。その場合にこれはどうなるのであろうか、こういう疑念が一つあるんです。同じようなことが研修生でなくても国内のいわば雇用されておる人がそういう第三国に、今の判例十と同じようなケース、その場合向こうで類似製品をつくって、あるいは酷似した製品かわかりませんが、それが国内に持って帰られた場合に、これについての侵害が不法な行為になるのかどうか、なったとしても因果関係がつかめないのではないかな、こんな懸念があるんですが、こういう問題は大いにこれまた起き得ると思うんですね。
 これはお答えは要りませんけれども、だからこういうようなことについてもあらかじめ何か示しておかないとどうかなと。先ほどどなたかガイドラインを示したらどうだという質問がありました。局長の方は非常にいわば裁判所当局と違うから示しにくいという、これはごもっともだと思いますが、そういうボーダーラインのケースがいっぱい出てくると思うんです。そういうふうな場合にきてどうするかというのが、これは原告となる人あるいは被告となる人も大変難しい問題が随所に起きてくるおそれがある、こう思うんです。
 そこで、余り時間もありませんし、また私は大体質問時間を短縮して早く上げたいと思いますから、最後にお願いというか要望でありますが、先ほど広中委員からの御質問の中にも弁護士さんの数のことがありました。実際にこれが差しとめ請求あるいはさらに民事訴訟なんというたら大変なことになって、これは池田先生のような専門家がこれから今の三倍も五倍もふえなきゃどうにもならぬということになるし、また中小企業あるいはまた中小企業で働いておる人たちにとっては訴訟費用も耐えられぬだろう。実際に本訴に持っていった場合に、これまた日数の関係からして二年も三年も五年もかかったらもう全く意味がない、こういうふうなことがあるんです。
 そこで、通産省が適当なのか法務省なのかわかりませんけれども、少なくとも各地の商工会議所あたりにこれの指導員といいますか相談員といいますかそういう窓口をつくって、いわば差しとめ請求というふうな訴訟行為に入る以前の問題の処理あるいは話し合い、あっせんというふうなものが必要ではないかなということを先ほど皆さん方の審議を聞いておって非常に強く感じるんですが、これらのことについてはお考えになる余地があるかどうか、大臣かあるいは局長からお答えいただいて、それで終わりとします。
#138
○政府委員(棚橋祐治君) 井上委員御指摘のいろいろの因果関係等についてはなかなか難しい問題でございますが、これはできるだけ私どもも欧米の判例、我が国でも数は多くはございませんが、その判例をさらに分析をいたしまして、いろいろの機会を通じてそれが皆様に御理解いただけるようなそういうことも考えてみたいと思っております。
 それから、今委員御指摘の中小企業が訴訟費用あるいは弁護士費用等の関係で非常に大きな負担になるのではないかということで、商工会議所等においていろいろの相談に応じたらいいのではないかということにつきましては、中小企業対策の一環として原則論としては私どももできるだけいろいろ考えてみたいと思っておりますが、例えばこの法律の仕組み、あるいは今申し上げましたような先例等の説明等に照らして自分のケースがどうなるかというようなことについての周知徹底等はできるだけのことをしたいと思っております。
 ただ、委員も御承知かと思いますが、法律相談になりますと、これは弁護士法との関係もありまして、一般の商工会議所の職員等がどこまでできますか、その辺いろいろまたよく検討いたしまして対処していきたいと考えております。
#139
○井上計君 終わります。
#140
○今泉隆雄君 先輩の委員たちの御質問に私の準備した質問は全部取られてしまいまして、何か企業秘密ではなくて質問の秘密が全部盗まれたような気がしますけれども、それで急遽、通告していないんですけれども、簡単なことを一つだけお聞きして終わりにしたいと思います。
 これは、営業秘密そのほかの問題をもうちょっと広い意味で知的財産権のこととしてちょっとお尋ねをしたいんです。
 かつて私がつくりました作品が著作権を約十年前に盗まれまして、ほとんど同じような作品が再び出てきて、その作品が非常に売れたがために音楽著作権協会に問題として提起して審議会でいろいろやったのでございますけれども、結果的に言うと、非常にあいまいに終わってしまった。それで私も面倒くさいので裁判までは起こしませんでした。そういうようなこともありましたし、また今、私の親友の漫画家のやなせたかしさんという人がアンパンマンというのをつくりましてこれがなんと一千万部売れている。それで、私はずっとその音楽を十五年間やってきているんですけれども、これも企業秘密ではなくて公開されているものですが、それがアンパンマンというんじゃなくてパンアンマンとかアンマンマンとか何かそういう似たようなもので出されているとか、そういうのも一つの盗用だと思うんです。
 この通産省のいろいろな書類を読んでみますと、この中でも問題になっていましたが、もちろん民法とか刑法とかいろいろあるでしょうが、不正行為を行っても金銭的な解決によるという解決だけではやっぱり不正行為をやった方が結局得するんじゃないか。不正行為がやり得になるという気が非常にするんですが、そのことが一つ。
 それからもう一つ、これは私どもの場合もよくあるんですけれども、AとBという人間がおりまして、Aが一つの発明を行った。Bがまたその発明を行った。そうすると、そのノウハウは全く同じ時期であるということで争われることもあると思うんですね。それで、非常に同じようなものができてきた場合にそれがやはり不正競争になるのかどうか、それだけちょっとお聞きして質問を終わりたいと思います。
#141
○政府委員(棚橋祐治君) 今泉委員のこのアンパンマンの例でございますが、私どももちょっとこれから研究をしてみますが、現行の不正競争防止法にはいろいろの不法行為についての規定がございまして、例えば第一条第一項の周知商品表示との誤認混同行為、例えばカメラのヤシカと誤認混同を生じるヤシカ化粧品というような表示をした行為について差しとめ、損害賠償を認めたケースもございますし、それからこれは別の規定です
が、商品の内容等を誤認させる行為、ビールとは異なるアルコール飲料についてライナービアというまるでビールのような印象を与えるそういう表示をして販売する行為について差しとめ、損害賠償等を認めたケースもあるわけでございます。アンパンマンの場合はどういうケースに当たりますか、現行不正競争防止法で防止できるかどうか、著作権法との兼ね合いもありまして、なお今後研究課題としてちょうだいしておきたいと思っております。
 一般的に、委員御指摘のようにやはり差しとめ請求権がありませんと、いずれにしても権利の保護については不十分であるということが今回の法律提案の理由でございます。
 なお、ほぼ同じ時期にたまたま似たようなノウハウを開発したというケースにつきましては、これはもちろん窃取等で行われた不正行為があるわけじゃありませんし、それは一号以下の規定でございますが、四号の「保有者ヨリ示サレタル営業秘密」ということにもならない、自分で独自に開発したものがたまたま二つあるいは三つ四つ存在するということで、これは今回の不正競争防止法で、たまたまA社とB社が両方あってA社はおれが開発したものだと言っても、こちらで独自に開発されたものがたまたま同じであっても、それは差しとめ請求の対象にはならない、こういうふうに我々は理解をいたしておるわけでございます。
#142
○今泉隆雄君 わかりました。ありがとうございました。
#143
○委員長(倉田寛之君) 他に御発言もないようですから、質疑は終局したものと認めます。
 これより討論に入ります。
 御意見のある方は、賛否を明らかにしてお述べ願います。市川君。
#144
○市川正一君 私は、日本共産党を代表して不正競争防止法の一部を改正する法律案に反対の討論を行います。
 日本共産党は、工業所有権、著作権あるいはノウハウなどの知的所有椎を人類の英知の所産として保護することは重要な政策課題と考えております。
 同時に、そうした成果が一部の大企業の市場支配や労働者支配に利用されることがあってはならず、可能な限り公開され、産業経済全体の発展のために活用されることが望ましいと考えるものであります。こうした立場から見ますと、以下述べるような多くの問題点が含まれております。
 その第一は、我が国における営業秘密については、現行法でも民法、刑法など多くの法律で保護されており、差しとめ請求権を新設しなければ著しく保護に欠けるとは言いがたいからであります。しかも、今回の法改正が、日弁連の意見書にもあるように、営業秘密の保護のあり方について十分に検討されないまま、日米経済摩擦問題を背景に唐突に提案されたものである点であります。
 その第二は、営業秘密の定義があいまいなため、保護されるべき範囲が無限に広がり、しかも一義的判断は営業秘密の所有者である企業であることから、本法の企業による恣意的な利用が危惧される点であります。
 その第三は、営業秘密の保護を理由に転職者の行動を制限し、職業選択の自由を侵し、さらに労使協議の内容が営業秘密にされれば、正常な労働組合活動を制限するおそれもある点であります。
 その第四は、企業による公害隠しや原発の事故隠しを内部告発した場合、労働者が営業秘密を理由に処罰され、またこうした問題に関する報道機関による取材活動も制限されるおそれがある点であります。
 その第五は、営業秘密について訴訟を起こせば、その内容を開示して争わなければならず、かえって訴訟の利益がなくなるという矛盾が生ずることになります。これを解決するため、憲法第八十二条で規定している裁判の公開の原則をゆがめるおそれがある点であります。
 以上を指摘し、反対討論を終わります。
#145
○委員長(倉田寛之君) 他に御意見もないようですから、討論は終局したものと認めます。
 これより採決に入ります。
 不正競争防止法の一部を改正する法律案に賛〕成の方の挙手を願います。
   〔賛成者挙手〕
#146
○委員長(倉田寛之君) 多数と認めます。よって、本案は多数をもって原案どおり可決すべきものと決定いたしました。
 なお、審査報告書の作成につきましては、これを委員長に御一任願いたいと存じますが、御異議ございませんか。
   〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
#147
○委員長(倉田寛之君) 御異議ないと認め、さよう決定いたします。
 本日はこれにて散会いたします。
   午後二時五十二分散会
ソース: 国立国会図書館
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