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1989/12/12 第116回国会 参議院 参議院会議録情報 第116回国会 法務委員会 第4号
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1989/12/12 第116回国会 参議院

参議院会議録情報 第116回国会 法務委員会 第4号

#1
第116回国会 法務委員会 第4号
平成元年十二月十二日(火曜日)
  午前十時開会
    ─────────────
  委員の異動
 十二月八日
    辞任         補欠選任
     鹿熊 安正君     斎藤 十朗君
 十二月十一日
    辞任         補欠選任
     白浜 一良君     矢原 秀男君
    ─────────────
  出席者は左のとおり。
    委員長         黒柳  明君
    理 事
                鈴木 省吾君
                福田 宏一君
                安永 英雄君
                矢原 秀男君
    委 員
                下稲葉耕吉君
                中西 一郎君
                林田悠紀夫君
                北村 哲男君
                清水 澄子君
                千葉 景子君
                橋本  敦君
                山田耕三郎君
                櫻井 規順君
   国務大臣
       法 務 大 臣  後藤 正夫君
   政府委員
       法務大臣官房長  井嶋 一友君
       法務省民事局長  藤井 正雄君
       法務省刑事局長  根來 泰周君
       法務省人権擁護
       局長       高橋 欣一君
   最高裁判所長官代理者
       最高裁判所事務
       総局民事局長
       兼最高裁判所事
       務総局行政局長  泉  徳治君
   事務局側
       常任委員会専門
       員        播磨 益夫君
   説明員
       警察庁長官官房
       審議官      関口 祐弘君
       法務大臣官房審
       議官       濱崎 恭生君
       法務大臣官房参
       事官       山崎  潮君
    ─────────────
  本日の会議に付した案件
○理事補欠選任の件
○民事保全法案(第百十四回国会内閣提出、第百十六回国会衆議院送付)
    ─────────────
#2
○委員長(黒柳明君) ただいまから法務委員会を開会いたします。
 委員の異動について御報告いたします。
 去る八日、鹿熊安正君が委員を辞任され、その補欠として斎藤十朗君が選任されました。
 また、昨日、白浜一良君が委員を辞任され、その補欠として矢原秀男君が選任されました。
    ─────────────
#3
○委員長(黒柳明君) 理事の補欠選任についてお諮りいたします。
 委員の異動に伴い現在理事が一名欠員となっておりますので、その補欠選任を行いたいと存じます。
 理事の選任につきましては、先例により、委員長の指名に御一任願いたいと存じますが、御異議ございませんか。
   〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
#4
○委員長(黒柳明君) 御異議ないと認めます。
 それでは、理事に矢原秀男君を指名いたします。
    ─────────────
#5
○委員長(黒柳明君) 民事保全法案を議題といたします。
 これより質疑に入ります。
 質疑のある方は順次御発言願います。
#6
○千葉景子君 民事保全法案につきましては前回、法務大臣の方から提案の理由を御説明いただきました。
 まず、今回提案をされました御趣旨のあたりから少しお尋ねをさせていただきたいというふうに思っております。
 今回の民事保全法案の提案理由を拝見いたしますと、これまで民事訴訟法が明治時代に制定をされまして規定が実務の取り扱い上大変不便になってきているということ、また、民事保全手続にかなりの時間を要しているということもあって、迅速な処理のためにやはり手続を充実させて迅速な処理ができるようにするというようなことが今回の法律案の基本の趣旨といいましょうか、そういうことにもなっているようでございます。
 そこで、まずその一つの柱といたしまして、手続の適正迅速化という柱でございますけれども、今回の法案の中で迅速な事件処理を図るために、総論的にですが、どのような点、これまでの手続に改善が図られているのか、あるいは新しい規定が設けられて迅速処理に適応するような形になっているのか、その辺をこれまでの手続などとの差異なども踏まえながら、迅速処理のための今回の法案の幾つかのポイントといいましょうか、そういうところをまず御説明いただければというふうに思います。
#7
○政府委員(藤井正雄君) 仮差押えと仮処分の手続は、民事訴訟の本案の権利の実現が不能となったり困難となったりすることをあらかじめ防ぐ、また本案の権利関係について争いがあることによって権利者に生ずる不安や危険を除くというようなことを目的といたしておりますので、その性質上、当然に迅速性が要求されてまいります。
 現在の法律におきましては、仮差押えはその命令を発するに当たりましては決定手続によるか判決手続によるか、そのいずれか選択的な規定の仕方になっておりますし、仮処分につきましては判決手続を原則とし、例外的に決定手続によることができるということになっております。
 このように両方の手続が用意されているのでありますが、判決手続ということになりますと、口頭弁論を経なければならない。口頭弁論は常に当事者双方の立ち会いの機会を与えて厳格な手続によって運用されるために、裁判所あるいは当事者双方の都合などによって期日が先になるとかというようなことで、どうしても運用上の工夫にも限界がございます。また、一たん発令された仮差押えあるいは仮処分に対する不服の手続はすべて判決手続ということになっておりまして、これは本案の手続と全く同じ手続をやらなければならないということで迅速性という面から難があることになるわけでございます。
 そこで、これまでの長い間の裁判実務における経験を踏まえ、今回の改正法におきましては民事保全の手続はすべて決定手続によって行うこととするというふうに改めることとしているわけでございまして、この点が審理の迅速化を図るという今回の改正のキーポイントであると考えております。
 もちろん、迅速化することによって審理が粗略
になってはならないわけでございまして、当事者双方の手続上の地位を実質的に保障する制度を設けるということをいろいろと工夫をいたしております。その審理の充実を図るという意味合いから、発令手続におきましては第九条で釈明処分の特例を設けるとかあるいは第十条、第十一条のような規定、さらに保全異議の手続におきましては参考人審尋ができるという三十条の規定を設け、これは保全取り消しなどの手続にもすべて準用するというような仕組みをとっているわけでございまして、こういう両面の配慮をすることによりまして審理の迅速化そして審理の充実というものを図ることをねらっております。
#8
○千葉景子君 今、御説明をいただきまして、幾つか具体的な条項の中にも審理の迅速化、その一方で充実した審理という両面を備えて今回の法案がつくられているという御説明がございました。
 そこで今、幾つか各ポイントとなる条文の御指摘をいただきましたので、この際ちょっとそこをもう少し具体的に御説明をいただければというふうに思うんですが、審理の充実という意味で、総則の中で今回は第九条で釈明処分の特例の規定が設けられておりますが、これは現行手続との比較などにおきまして具体的にはどのような形で機能をするということになるんでしょうか、御説明をいただきたいと思います。
#9
○政府委員(藤井正雄君) 現行法では、釈明処分というのは民事訴訟法百三十一条に規定がされているわけでございまして、ここにおきましては当事者の提出する主張などあるいは証拠関係について不明瞭な点がある場合にその内容をただすということがこの規定によって行われるわけでございます。
 保全命令に関する手続におきましては、保全命令の緊急性などの要請から特に手続を迅速に進める必要がある。その事実関係については当事者を審尋することができるわけでございますけれども、事実関係については当事者そのものよりも、当事者と密接な関係を有する者がその事実関係についてよく熟知しているという場合がございます。例えば会社が当事者であります場合に、会社の代表者本人よりも、その会社における事務の担当者といったような人がよく事実関係を承知している。そういう場合には、裁判所において当事者そのものにかえまして、そのような関係者から事情を聞いた上で主張を整理し、事案の解決に資するような手続を進めることができるようにすることを可能にするというのがこの第九条でございます。このような関係人に対して陳述をさせることができる、そのような関係人は陳述をすることができるということをこの「釈明処分の特例」によって明らかにしているものでございます。
#10
○千葉景子君 それからもう一つは、例が幾つかの中にありましたが、保全異議の中では「参考人等の審尋」という、これは三十条の規定でございますけれども、これも現行の手続と対比をいたしまして、どういう今回機能が働くのでしょうか。
#11
○政府委員(藤井正雄君) 審尋は、現行法のもとにおきましては当事者の主張を明らかにする、当事者の主張、弁解を聞くという手続というふうに理解をされております。
 ところで、保全の手続におきましてこれを決定手続によらせるということにいたしました場合に、その決定手続の中で当事者から証拠資料を得る手段としましては、もちろん任意的口頭弁論を開いて、そこで証人尋問をするということも可能なわけでございますけれども、そこまでの厳格な手続を経なくても、迅速かつ適切にその事案に応じて簡易に証拠調べをすることができるようにすることが望ましい。そこで、保全異議あるいは保全取り消しの手続におきましては、参考人などを審尋するということによりまして、簡便な手続によりまして、いわば無方式の証拠調べ類似の手続によりまして証拠資料を収集するという、そういう仕組みを設けることが迅速性を達成する上からも望ましい、こういうふうに考えられましてこの三十条のような規定が置かれたわけでございます。したがいまして、ここに言う審尋は、従来一般的に言われておりました当事者の主張、弁解を聞く手続としての審尋とは多少意味合いを異にした証拠調べ的性格を持っている審尋であるということが言えるかと思います。
#12
○千葉景子君 ちょっと戻りますが、先ほどの釈明処分の特例の九条でございますけれども、これは規定の仕方が「事実関係に関し、当事者の主張を明瞭にさせる必要があるとき」という形になっておりますが、これはここで陳述をされたことというのは、裁判官の心証形成といいましょうか、そういうところにもこれがしんしゃくをされるというふうに考えてよろしいのでしょうか。
#13
○政府委員(藤井正雄君) 当事者の主張を明瞭にさせるために「当事者のため事務を処理し、又は補助する者」に陳述を求めるわけでございまして、それ自身は証拠調べの手続ではございませんけれども、その陳述された事柄というのはその事案を明らかにするために役に立つことでございますので、審理の全趣旨とでも申してよろしいかと思いますけれども、それは裁判官の心証に影響を与えるものでございまして、その事案の解明の資料とすることができることは当然でございます。
#14
○千葉景子君 まだその他の規定もございますが、それはまた時間が許せばお尋ねをしたいと思いますが、今回の趣旨、適正かつ迅速にということでございます。
 ところで、現在法律関係というのは、権利関係と申しましょうか、非常に社会が複雑になってきているのと同時に、やはり権利関係もかなり複雑な様相を帯びてきているのではなかろうかというふうに思うんですね。例えば不動産に関する事件、あるいは建築にかかわる問題、労働関係の事件、消費者にかかわる事件などもふえているところでございますが、かなり中身が複雑になってきている。こういう場合に、迅速とともに適正な判断を加えるためにはやはり当事者の双方から十分にその事実関係等を聞かなければ判断がなかなかしにくいという問題も多くなってきているだろうと思います。これまでも口頭弁論あるいは当事者双方の審尋などを通じてこういう事件が審理されているというケースがやはり多いのではなかろうかと思います。特に、私も幾つかかかわらせていただきますが労働関係の事件などは、やはり労使の対立というものが大変背景にございますので、保全事件で仮処分などで実効を上げると同時に、その内容としては双方から十分に意見、話、事実関係を聞いて、それによっていい処理が、解決が図られているというケースが多いだろうというふうに思うんです。
 そういう意味では、今回のこの法案でも、今後ますますふえていくだろう複雑な内容を持つ事件ですね、本来の典型からいえば保全というのは権利関係がある程度簡明である、むしろ密行性を必要とし、それによって迅速な処理を図るというのが典型かとは思うんですけれども、それだけで事足りるというものではなかろうと思うんです。こういう複雑な様相を帯びている現在の権利関係などについては、今回の法案の中であるいはこの法案をこれから運用していく上でどういうふうに取り扱われることになるのか、あるいはどういうことを認識なさりながらこの法案というのができているのか、その辺のことをちょっと御説明をいただければと思います。
#15
○政府委員(藤井正雄君) 保全の事件というのは実に多種多様なものがございます。極めて定型的な簡易な処理のできるものから、ただいまお話のございましたような大変複雑な権利関係のものに至るまでいろいろな種類のものがございます。そこで、今度の改正法案におきましてはそれぞれの事案に応じまして適切な審理方式を選択することができるように、そしてそれと同時に迅速な審理が図れるように、審理方式について幾つかのメニューを用意しておるわけであります。
 決定手続でございますが、民事訴訟法の百二十五条によりまして任意的口頭弁論を開いて証人尋問をするというようなことももちろん可能でございますし、審尋の手続によって当事者の審尋をして命令を出すということも可能でございますし、
さらに最も簡易なやり方でございますと書面だけの審理でやることも可能である。事案の内容に応じて、そしてまた進行の程度に応じまして、その手続内でいろいろな審理方式を選ぶことができる。任意的口頭弁論でございますと、一度口頭弁論を開いて証人尋問等の審理をいたしましても、再びもとに戻って決定の手続でやることができるということになります。これが現行法と一番違うところでございまして、現行法では決定でもできるけれども、一度口頭弁論を開いたならばもはや後戻りはきかない。それ以後は厳格な判決手続によらなければならないということで、これが審理の遅延を招く一つの原因になっていたと思われますが、その点を改めまして、かつ審理は充実したものができるようにするということをねらったわけでございます。
 でございますから、複雑な事件でございますと、ただいま申し上げましたように審尋、そしてそれで足りなければ口頭弁論を開くというようなやり方を随時組み合わせることによりまして、事案事案に応じて適切な審理がなされ、充実した裁判がなされ得るものと考えております。
#16
○千葉景子君 この法の趣旨というのはいろいろな複雑な事案にも対処できるような形で整備が図られているということだと思いますけれども、今の実務の中での傾向を見ますと若干、本当にそうなんだろうかというふうに思われる点が幾つかございますので、ちょっとそのあたりを踏まえて御質問をさせていただきたいと思います。
 最近の特に複雑な労働関係の仮処分などを考えてみますと、裁判所によりましては地位保全の仮処分、これと普通は賃金の仮払いなどが両方出されるケースが多いわけですけれども、地位保全の仮処分は中身も非常に複雑になることもあり、できれば本案の方でやってほしい、あるいは本案でやった方がよろしいのではないか、こういうお勧めをいただくようなケースが多くなっているような気もするわけですね。とりわけ、労働部などが置かれているところにそういうケースが多いのではなかろうかという気がするんです。
 ちょっと最高裁の方にお伺いいたしますが、現在労働仮処分、地位保全の仮処分などについて、そういう裁判所としての取り扱い方をなさっているのか、あるいはこれまでの手続上、地位保全の仮処分が保全手続で大変やりにくいとか、何かそういうことがあるのかどうか、その辺をお聞きしたいと思うんです。
#17
○最高裁判所長官代理者(泉徳治君) 実務におきまして、地位保全を求めます労働仮処分の事件におきまして、裁判官が地位保全の仮処分について取り下げを勧告するとかそういったことが行われているかどうか、これは必ずしも私どもは承知していないわけでございますけれども、私どもの方でわかりますのは裁判の結果でございますので、その結果から申し上げさしていただきたいと思います。
 これは昭和六十三年度の地方裁判所全体の傾向でございますけれども、地位保全の仮処分が申請されまして、その七一%に当たる事件におきましては地位保全が認められております。二九%の事件におきましては地位保全が認められておりません。そういう関係でございますので、大半の事件におきましては地位保全が認められているということでございます。
 ただ、最近におきましてこのように約三〇%の事件が却下されているという、この傾向でございますけれども、その原因がどこにあるかということでございます。これは裁判例などから私ども判断する以外にはないのでございますけれども、理由は二つあるのではないかというふうに思われます。
 一つは、地位保全の仮処分と申しますのは御承知のように任意の履行を求める仮処分でございますので強制執行ができないわけでございます。初期の段階におきましては任意の履行を求めます地位保全の仮処分で目的を達しました。これは使用者側がそれに応じて履行してくれたわけでございますが、そういう傾向がだんだん薄れまして、それだけでは使用者側が履行してくれないということで、より実効性のあります賃金の仮払いを求めるという形態が出てきたわけでございます。そうしますと、賃金の仮払いを求めるほかにさらに保全すべき権利があるかという関係でもって釈明をいたしまして、それで、ないということになりますと、それが却下という形になってくるのではないかというふうに思われます。そのほかにさらに、社宅から追い出されようとしているというような事態がございますと、それは社宅使用妨害の禁止を求める仮処分を進める、こういった傾向が出てきているのではないかと思います。
 それからもう一つは、地位保全の仮処分は労働者の包括的な地位を仮に確定するものでございますから、これは影響がかなり強うございます。そこで双方当事者が本案並みのしのぎを削って争うという形になりますので、どうしても審理が長引いてまいりまして本案化してくるという傾向がございます。そういたしますと、解雇によって生活困窮に追い込まれた労働者の方に対して迅速な救済が図れないということでもって、その点は一応置いておいて当面必要な賃金仮払いだけでいこうじゃないか、それによって迅速にその決定を出そうじゃないか、こういった考え方があるのではないかと思います。
 そういった二つの考え方が底流にあるのではないかというふうに理解しております。
#18
○千葉景子君 今、二点御説明をいただきまして、二番目の方ですけれども、包括的な地位を定めるということで大変影響が大きい、審理もそのために双方の対立関係が大きいものですから長期化するということが挙げられております。しかし、これは考えてみますと、本案でもしこれをしっかり争うということになればさらに長期化をする。本案の方も迅速性は求められているわけですけれども、今の実態から考えますとやはり保全処分に比較しては本案の方の裁判の長期化というのは極めて憂慮するぐらいの長さになっているわけで、そういう中で地位保全の仮処分という形で包括的な働く者としての基本的な権利を守るということは、やはり大きな意味を持っているのではなかろうかというふうに思うんですね。
 それからもう一つ、任意の履行で強制執行ができないということで、むしろ地位保全を認めるよりも賃金の仮払いとかあるいは社宅の使用ができるような形、個別の救済を図った方がよろしいということがどうも底流にあるようですけれども、これもやはり、その包括的な地位をきちっと認めて定めておくということによる利益といいますか、そういうことも否定できないことだというふうに思うんです。
 この任意の履行で強制執行ができない、効力の問題なんですけれども、それに関連しましてちょっとお尋ねをしたいんですが、今回はこの法案のポイントといたしまして、利用頻度の高い仮処分などについてはその執行方法とか効力を明確化することで手続の運用をやりやすくする、あるいはその後の実効力といいましょうか、そういうものを図るということが一つ改善点といいましょうか、ポイントとして挙げられるのではなかろうかというふうに思うんです。そこで、ちょっとその中身を御説明をいただきたいというふうに思うんですが、不動産に関する権利についての登記請求権あるいは不動産に関する所有権以外の権利設定の登記請求権を保全するための問題、それから物の引き渡しまたは明け渡し請求を保全するための占有移転禁止の仮処分、これらの点について効力等が今回は明示をされ明確化されているということですが、ちょっとそれ一つ一つ、これまでの制度などとの差異などを含めて少し御説明をいただけましょうか。
#19
○説明員(濱崎恭生君) 御指摘のとおり、今回の改正の柱の一つといたしまして、利用頻度の高い仮処分についてその執行方法及び効力を明確化する、あわせてその内容の改善を図るという改正をしているわけでございます。この対象にしておりますのは、仮処分の中で非常に大きな割合を占めております係争物に関する仮処分としてのいわゆ
る処分禁止の仮処分及び占有移転の禁止の仮処分、これが中心でございます。
 これらの仮処分は単に利用頻度が高いというだけではなくて、係争物に関する仮処分として極めて定型的に発令されるものでございます。しかも、その効力につきましてはこれまで解釈で大勢において異論のないところが煮詰まっておって、ただ、解釈にゆだねておいたのではその目的を適切に達することができない若干の部分がある。そういう問題でございますがために、その効力について明確化を図るということについて余り大きな異論がない、そういう立法をすることが比較的しやすい、かつそれを明確化することが適当であるということでございますために、そういう主要な仮処分につきまして効力の明確化、適正化を図るということにしているわけでございます。
 ところで、個々の制度についてでございますが、まず不動産登記請求権を保全するための処分禁止の仮処分につきまして規定を設けることにしております。これは委員御案内のとおり、処分禁止の仮処分は登記をするという方法によって行われるわけでありますが、登記をしましても、その後に第三者に対するいろんな登記をするということは禁じられておりません。登記をすることはできる。しかしながら、仮処分におくれる登記につきましては、その仮処分の被保全権利としての登記が実現される場合にはその登記は抹消されるという取り扱いが現在解釈、運用において定着しているところでございます。まあそれは仮処分の当事者でない第三者に影響を及ぼす事柄でございますから、その効力を明らかにした方がいいと、規定上明らかにした方がいいということでその規定の明確化を図るということが改正の第一点でございます。
 それから、第三者の登記は今申しましたようなことで被保全権利の登記がされる場合には抹消されるわけでございますが、現在の運用におきましては抹消される第三者が全く知らないままに抹消されてしまうという運用がされておりまして、これでは第三者の立場を保護するという観点から十分ではないのではないか。もちろん第三者としてはそういう登記がされていることを承知の上でおくれる登記をしたわけでありますから、一般的に言えばそれは後で消されても仕方がないということなのかもしれませんけれども、ただ、その仮処分の原因になりました被保全権利とは別の後から生じた登記原因に基づいてその仮処分当事者間で登記をしたとか、あるいは第三者が仮処分債権者に対抗することができる権利を持っているとか、そういう場合には抹消された登記をもとに戻してもらう、抹消登記の回復の登記の請求をすることができるという実体的な地位にあるわけであります。そういう権利を的確に行使することができるようにするためには、少なくとも抹消をする前にあらかじめ抹消するということを通知するぐらいの手当ては必要であろうということで、そういう第三者の保護のための手当てを設けるというのが第二点でございます。
 第三点目といたしまして、これも委員御案内と思いますが、例えば抵当権の設定登記請求権を保全するために処分禁止の仮処分をするということも現在認められておりますが、抵当権の設定登記請求権を保全するという見地からいたしますと、後に仮処分におくれてされた登記をその抵当権設定登記を実現する際に抹消してしまうまでの必要はないはずであります。後で所有権を取得した者に対してその被保全権利たる抵当権が対抗することができる、優先することができるということであれば足りるわけでありますが、現在特別の手当てが設けられておりませんために、一般の場合と同様にその抵当権設定登記をする際に第三者の例えば所有権移転登記を抹消してしまうという取り扱いがされておりますが、これは仮処分の目的からいえば過ぎたる効力を与えているということで問題があったわけであります。
 そこで、そういう場合につきましては、いわばその被保全権利の順位を保全する効力が与えられれば足りるということにするのが適当である。その方法としていろいろ検討がされたわけでありますが、不動産登記法上の仮登記という手法を借用することによってその順位の保全の効力を実現させるということが適当であろうということで、仮処分による仮登記、保全仮登記と呼んでいますが、その手法を用いましてその所有権以外の権利の保存、設定等の登記請求権の保全のための仮処分についてはそういう執行方法をとり、そういう効力のみを認めるということにしたわけであります。
 いま一点は、占有移転禁止の仮処分の効力の問題でございますが、これも実務上極めて多用されている仮処分でございます。これにつきましても現在の解釈はほぼ定着しているわけでございますが、現在の解釈運用上問題がありますのは、一点はその仮処分執行後に占有を債務者から承継した者に対しては仮処分の効力が及ぶけれども、占有の承継ということではなくて、例えば空き家になっているところを勝手に占有したとか、あるいは実力でもって占有したとか、そういう非承継の方法で占有を取得した者に対しては仮処分の効力は及ばないというのが定着した解釈でございます。そういう解釈でございますといわゆる占有屋という執行妨害を専ら行う人たちの活躍の道をあけるということにつながっておって、その仮処分の実効性が十分に確保されない。
 そういう問題がありますために、この点につきましては、仮処分の存在を知って占有をした者につきましては、債務者からの承継という方法によらないで占有を取得した者に対してもこの仮処分の効力を及ぼすことにするという改正を実現したわけでございます。
 あわせてこの点につきましても、そういう執行を受ける第三者の主張すべき権利がある場合にはその権利の保護の機会が確保されるように、それを争うことができる立場にある第三者は簡易な執行文付与の異議の申し立てという方法によってその執行を排除することができるという道を明確にいたしまして、あわせて第三者の立場の保護も図るという改正をしようとしているわけでございます。
#20
○千葉景子君 今るる御説明をいただきましたが、これにつきましてもまた問題ございましたら後ほど質問させていただきたいと思います。
 今回、こういう利用頻度の高い仮処分などについては効力を明確化してこの実効を上げるという手段がとられております。そして、ちょっと先ほど私は労働仮処分の問題を指摘をさせていただいたんですが、最高裁の御認識によりますと、そのなかなか利用しにくい理由の一つとしては、強制執行ができない任意の履行でしかない、強制力がないといいますかね、そういうことによって地位保全の仮処分などはある程度使いにくい部分があるというようなこともお聞きしました。今の不動産にかかわる問題に明確な効力などを明示したという問題と労働仮処分などにつきましては若干次元の違う部分がございますけれども、ある意味では労働仮処分などもその実効力といいますか、その効力が一定明確であり、それが後に効力を生ずるものだということが明確であれば、かなり利用度といいますかそういうことも上がってくるのではなかろうかというふうに思うんです。
 その第一点としては、例えば地位保全の仮処分が出された場合、これは一つには相手方、労働仮処分であれば使用者の側をどう拘束できるか。それから第二点目としては、これが後の裁判とか仮処分事件にどう効力をもたらすかという二点で今大変議論が分かれるといいましょうか、その効力が対立をしているという部分でこの地位保全の仮処分というのがなかなか使いにくい、実行しにくいというところがあるんじゃないかと思うんです。
 例えば、一たん地位保全の仮処分がなされた後、ほかの従業員の賃金がアップした。そういうときに追加して、ほかの人も上がって自分も当然上がるべきものであるから、その上がった分を請求したいというときに、もう一度改めてまた地位そのものを確定しなければいけない。もしこれが効力が後の裁判に引き継ぐということであれば、ここ
で地位は定まっているから賃金のアップ分だけ仮払いなりを認めるということも可能になる。そういう意味では包括的に地位を認めておくということが非常に有効な手段になるだろうというふうに思うんです。
 それから第二点目としては、例えば使用者側に対して、これは地位を保全をしておくことによって、例えば地位が認められたから私は会社へ出て働くよと。ところが使用者の側がそれを拒んだというような場合を想定しますと、そういうときにもその地位があることで、例えば労務を提供したけれども相手方が受け取らなかったために受領遅滞といいますかね、そういう形で労務提供した賃金分は支払いを求めることができる、こういうようなことも地位保全の効力を一定認めておくことで後の裁判あるいはそれからの新しい権利関係に対応していくことができるのではなかろうかというふうに思うわけです。
 そういう意味では、労働仮処分というのはやはり働く者の生活にとってそれが基盤になりますので、利用頻度は必ずしも高いとは言えないかもしれませんけれども、ある意味で重要な保全処分の一つだというふうに思うわけですけれども、そのあたりの効力について今回の法律ではとりわけて確定をするというようなことはされておりませんけれども、この辺のことについてはいかがお考えでしょうか。その効力を一定法律の中で認めておく、それによって仮処分の実効を上げるということも一つは必要な部分ではなかろうかと思いますが、そのあたりはいかがお考えでしょうか。
#21
○政府委員(藤井正雄君) 今回の法律案で特に効力について規定を設けました処分禁止の仮処分とか占有移転禁止の仮処分は、これは大変古くから極めて定型的に用いられてきたものでございます。これは我が国の民事訴訟法がいわゆる当事者恒定主義をとっていないこととの関連において、それを補って裁判の一回性を保障するためにどうしても必要であるという解釈上の要請から生まれてきたものでございまして、その解釈の内容というものはほとんど異論のないところにまで固まっていた、かつその解釈が法律上の規定のないことから生ずる必然的な制約として一、二の問題点を包含していた。
 例えば、ただいま説明をいたしましたように抵当権設定登記請求権を保全するための処分禁止の仮処分の場合であるとか、あるいは占有の非承継人に対して占有移転禁止の仮処分がどういう効力を持つかといったような点につきまして問題があるということは、これまた一致して指摘をされていたことでございまして、これを今回法律案で内容を明確にするということに異論がなかったわけでございます。
 ところで、そのような係争物に関する仮処分と異なりまして地位保全の仮処分につきましては、これは労働仮処分を初めといたしましていろいろな態様がございますが、これらはいずれも比較的新しい時代になりまして新たに生まれてきたものが多いわけでございまして、その仮処分の効力につきましてこれまたいろいろな考え方がありまして、現在定説を見ていない状態にございます。その解釈についてはいろいろな変遷がございます。これから先も時代の変遷によりましてなお変わっていく部分もあるのではないかと思われます。
 ただいま委員の方から、労働者の地位保全の仮処分が発せられた場合に、これが後の裁判において一定の拘束力を持つかとかいうような問題を御提示になったわけでございますけれども、これなども、果たしてそのような仮処分が一定の形成的効果を持って後の仮処分を拘束するものであるのか、あるいは任意の履行に期待する仮処分であって第二次の仮処分の判断を別に拘束するものでないのかというような両様の考え方があるところでございます。
 さらに就労請求権についてお触れになったかと思いますけれども、これなども、果たして地位保全の仮処分によって労働者が使用者に対して就労請求権を持つのかということにつきましても考え方が一定しているとは言えない、むしろこれを否定する考え方の方が多いのではないかと思われる現状にございます。
 今、そのような段階におきましてこの法案において一定の効力を定めるということは、これは大変難しいことでございますし、また、そのようにするということは今後のこの分野におけるいろいろな考え方の進展というものに束縛を与える、硬直化させるような嫌いがあるのではないかと思われます。そのような意味合いにおきまして、この法案におきましては特に地位保全の仮処分につきましては効力の規定を設けていないわけでございます。
#22
○千葉景子君 今御説明ありまして、なかなか考え方についてもまだ一定の定まった方向にあるわけではなく、対立した意見もあるという中で難しい面があるというのは十分わかるところでもございますけれども、ただ、先ほど最高裁の方でも御認識なさっているように、こういう効力などの点でなかなか強制力を持たない、拘束力を持たない、こういうところも含めてこの地位保全の仮処分などがなかなか実効しないあるいは利用しにくい面があるというところだと思うんですね。
 ただ、やはり請求する側、とりわけ労働者の側にしてみると、これはできるだけ早く、迅速に、そして自分の生活の基盤となる立場を保全しておくという意味では重要な保全処分の一形態だというふうに思うんです。そういう意味では今後も、難しい面はあろうかと思いますけれども、今回の法律案でも別に保全処分を使って労働仮処分をやっていけないというわけではありませんし、求める立場に立って、この利用をできるだけしやすい、あるいはそこから排除をしないような取り扱いをぜひしていただきたいというふうに思います。
 中身ということになりますと裁判の一つ一つにかかわりますのでお答えは難しいと思いますけれども、できるだけ労働仮処分というものを有効に生かして、そしてそれを利用しやすいように裁判所の方でも御努力をいただきたいというふうに思うんですけれども、その点はいかがでしょうか。
#23
○最高裁判所長官代理者(泉徳治君) どういう場合に地位保全の仮処分を認めるかという問題につきましては、これは法律問題でございますので私どもがお答え申し上げる立場にはございませんけれども、先ほど申しましたような考え方に対するまた一方の反論といいますか、地位保全の仮処分の有効性を強調する論文も最近は出ておりますので、現場の裁判官方はそれを見て最終的には自分の考え方で判断していくものというふうに思われます。
 それから、先ほど地位保全の仮処分の認容率が七一%と申しました。これを六十三年の数値として申し上げましたが、これは六十一年から六十三年度の三年間の平均でございましたので、おわびして訂正させていただきます。
#24
○千葉景子君 次に、やはり労働仮処分の関係を一点お尋ねしたいと思うんですけれども、今回の二十三条で、仮処分命令につきまして「仮処分命令の必要性」ということが規定をされております。「仮の地位を定める仮処分命令は、争いがある権利関係について債権者に生ずる著しい損害又は急迫の危険を避けるためこれを必要とするときに発することができる。」、これは仮処分の当然の要件ということになるんでしょう。地位保全の必要性というところですね。これも労働仮処分などの場合は非常に、本当に地位保全の仮処分を認めるかどうかというような点で必要性があるかどうかというのが争いといいましょうか、問題になるところなわけですね。
 こういうことの問題になることを考えますと、一般に働く者の生活ということを考えると、それが脅かされる、何らかの形で不安定なところに追いやられるというのは、これはもう審理をすることもなくというんでしょうか、普通の生活から考えてもこれは直ちに著しい損害を生ずる可能性のある事情なわけですね。そういう意味ではこの部分も地位保全仮処分あるいは賃金仮払いの仮処分などの際にはこの必要性というのは当然推定されるものというふうに考えるべきだと私などは思う
わけですね。ここでは一般論として、必要があるときには発することができるということで、中身として判断をされるということになろうかと思うんですけれども、ここに例えば、一定の場合には必要性が推定される、その一例としてはこういう地位保全の仮処分あるいは賃金の仮払いの仮処分などのような場合には必要性が推定されるというような注意書きあるいは規定を設けてもおかしくないのではないかというふうに思うんですが、その点についてはどのようにお考えでしょうか。
#25
○政府委員(藤井正雄君) 仮処分の必要性につきましては、この二十三条に一般的に書いてあるわけでございますけれども、これは結局は個々の事件の内容などによって決まるものでございまして、どうも一律に何らかの推定規定を設けるということは必ずしも適切ではないのではないかと考えております。
 仮の地位を定める仮処分としましては、労働者の地位保全の仮処分のほかにもいろいろな種類のものがございます。それぞれのものにつきまして個別に吟味をして、この種類の仮処分についてはこうである、この種類の仮処分についてはそうではないというふうなことを一々法律で規定をするということになりますと、これは裁判所における審理あるいは裁判を甚だ硬直化させるものではなかろうか。事案に応じて適切な裁判所の判断がなされるような、そういう規定を置くことで足りるのではなかろうかと考えておるわけであります。
#26
○千葉景子君 確かに個々のケースというのは大分異なるわけでございまして、これは仮の地位を定める仮処分も労働仮処分に限らず問題があるわけですから、おっしゃることは本当に一般論としてはよくわかります。ただ労働関係の仮処分、地位保全とか賃金仮払いというのは、まさに今働く場が失われそうだと、生活にすぐそれはかかわることで、そういう意味ではある一定絞った形で、例えば賃金の仮払いのようなケースについては権利関係さえ一定明確になる場合であればこれはもう当然必要性はだれにもあるわけで、そういう意味での絞った形で推定規定を置いたりすることは、これは私は可能ではなかろうかなというふうに思うんですね。
 それは労働仮処分について一つとってみればそうであり、またほかのケースをとればまたそれなりの問題は出てくる。個別全部決めておかなきゃいけないかということにもなりかねないわけで大変難しいところではあろうかと思いますけれども、やはり人の生活に直接かかわる一番重要な部分ですので、そういう意味では可能な部分ではなかろうかなというふうに思いますが、これは個々のケースで処理されるというようなことでお答えはやむを得ないのかなということになりますが、そういう絞った形でできないものかどうか、もう一回ちょっと御見解をお尋ねしたいと思います。
#27
○政府委員(藤井正雄君) 労働者の場合に雇用の存否が直接に生活にかかわってくるということは、もうまさに御指摘のとおりであろうと思われます。実際になされておる裁判の結果を拝見いたしておりますと賃金仮払いという形でいわゆる満足的仮処分が行われておりますが、本案の権利がそのまま仮処分において実現されるような、そういう満足的仮処分というのはそうめったには行われることではないと思われます。裁判の実務で賃金仮払いというのがかなり多く見られるというのは、やはり実際面において労働者の置かれている立場というものがおのずから理解されてそういう判断に至っているものではないかと思われます。そういう意味合いにおきまして、これは個々の事案に応じまして裁判における裁判所の判断にゆだねられることで適切な解決が得られるんじゃないかと思っております。
#28
○千葉景子君 じゃ、あと一点お伺いしておきたいというふうに思います。
 今の問題に絡みまして、今度は賃金仮払いの仮処分につきまして認められても、最近仮払いの金額を一定制限をするとか、それから仮払いの期間、これについても例えば六カ月とかいう形で一定の期限を決める、そういう傾向が裁判例などの中で強まっているようにも思うんですね。これも先ほど言いましたように、労働部などの置かれている裁判所などでそういう傾向があろうかというふうに思うんですけれども、これは最高裁の方でこれもやはり何か理由があるのかどうか、何か統一的にお考えをお持ちでやっていらっしゃることなのか。その辺のことをお聞きしたいと思うんです。
 これは、仮払いの金額、一定の生活できる範囲ならいいではないかと、あるいは仮払いの期間も一定の仕事を探せるだけの期間があれば十分じゃないかというようなどうもニュアンスで制約をされているということもあるようにも聞くのですが、その点については最高裁の方はどういう取り扱いをなさっているんでしょうか。
#29
○最高裁判所長官代理者(泉徳治君) この点につきましても、昭和六十一年から六十三年度までの三年間の平均でまず裁判の状況を申し上げさせていただきたいと思います。
 これは地方裁判所の数値でございますが、仮払い金額につきましてほぼ労働者側の申請を認めたものが七一%でございます。それから、その請求金額全部じゃなくて一定額に限ったものが二九%でございます。それから期間でございますけれども、仮払い期間を本案の第一審判決まであるいは本案判決確定までというふうに認めたものが八六%でございます。それから、一年などというふうに期間を限ったものが一四%でございます。そういった関係で取り扱いは二つに分かれておりますけれども、緩やかな取り扱いの方が圧倒的に多いという状況でございます。
 そこで、数値は少ないにいたしましても、期間を制限したりあるいは金額を制限したりする裁判例がどういうふうにしてどういう考えのもとで出てきたかというお尋ねかと思いますが、これも先ほどの地位保全の仮処分と同様な理由でございまして、全額そして一審あるいは本案判決の確定までということになりますと、これはかなり影響力が強うございます。そのために、どうしても審理が長引いてしまうためにとりあえずは簡易な疎明でもって必要なものに限って認める、こういう考え方が一つにあろうかと思います。
 それからもう一つは、これは民事訴訟法七百六十条の「著シキ損害ヲ避ケ若クハ急迫ナル強暴ヲ防ク為メ」というこの解釈の問題でございまして、その解釈のために、解雇された労働者が解雇の当初暫定的に必要な期間に限り、またその生活を保持していくために必要な金額に限るという考え方、そういった考え方から今言ったような制限的な裁判例も出てきているのではないかというふうに思われますけれども、決して大勢ではないわけでございます。
#30
○千葉景子君 この点につきましても、やはり一定期間に区切るというようなことになりますと、またその期間過ぎてたび重ねて請求を起こさなければならないというようなことにもなりかねませんし、それから金額の減額につきましても、なぜ減額なのか、一定の疎明で早く一定の範囲だけは認めて救済をしようというような御趣旨はわからないわけではないんですけれども、減額をする必要があるのだろうかというようなこともどうもよくわからない部分があるわけですね。それが二九%、あるいはまた期間だと一四%あるというようなことで、これも仮処分の実効性というか不安定さにつながっている部分ではなかろうかというふうに思います。
 これはまた先ほどの問題と同じような質問になってしまいますけれども、今回、二十四条は「仮処分の方法」ということで一定の行為を命じたりすることができるという規定ですけれども、こういう部分に、例えば賃金の支払いなどを命ずる仮処分、こういうことについては原則としては本案訴訟の判決が確定するまでこの効力をやはり維持するというような意味で、その間支払いを命じることができる、支払わなければならないというような形で注意書きあるいは規定を置く必要があるのではないかというふうにも思うんですけれども、その点についてはいかがでしょうか。
#31
○政府委員(藤井正雄君) 先ほども申し述べたこ
とと同じでありますけれども、やはり仮処分の必要性は個々の事案について判断されるべきものでありまして、特定の仮処分の必要性に関しまして一定の規定を設けるということは不適切でもあり、また困難なことであると思っている次第でございます。
#32
○千葉景子君 ところで、衆議院の方で今回修正がなされまして、二十三条四項に「第二項の仮処分命令は、口頭弁論又は債務者が立ち会うことができる審尋の期日を経なければ、これを発することができない。ただし、その期日を経ることにより仮処分命令の申立ての目的を達することができない事情があるときは、この限りでない。」、こういう規定が付加されたわけでございますけれども、これはどういう趣旨といいましょうか、この規定によって初めてこの第二項、仮の地位を定める仮処分の場合には口頭弁論あるいは双方審尋しなければいけないということになったのか。あるいは本来私は、これは注意規定でもございますけれども、やはり満足的な仮処分を行う場合については、この仮処分が大変大きな影響を及ぼすという意味では口頭弁論あるいは双方の審尋を踏まえて行わなければならないというふうに思うわけですが、全体のこの法案の趣旨とそれから付加されました第四項、これとの関係はどういう形になるのでしょうか。
#33
○政府委員(藤井正雄君) 現在、現行法のもとての裁判所の実務は、修正をされました二十三条第四項と同じ運用を行っていると承知をいたしております。仮の地位を定める仮処分は一般に密行性がございませんし、この仮処分によって相手方に対して与える打撃は大変大きいものがございますので、規定は特にございませんでもこの四項のような運用をすること自体現在も行われておりますので、別に反対もございませんし、それで何ら不都合はないわけでございます。
 この法案では必要的口頭弁論を任意的口頭弁論にして釈明処分の特例などの規定を新設しただけで、仮処分命令の申し立てについての審理方式については何ら変更を加えていないのでございまして、現行法のもとの実務運用を踏襲するという考えでございます。そのように考えてこの法案を作成したわけでございますが、衆議院における議事を通じまして、この法案は審理手続の充実化、迅速化のみならず、当事者双方の手続上の地位の保障をも明確にしていくという立法趣旨を有しているのであるから、単に運用にゆだねるということではなくて法的に明確にすべきであるという御意見がございまして、この御意見に基づきまして修正がなされたものと承知をいたしております。つまり、当事者の手続上の地位を法的にも明確にしたという観点から修正が行われたものでございます。
#34
○北村哲男君 御質問をします。
 裁判所にお聞きしたいんですが、先ほど千葉委員からの御質問で、一定額あるいは一定期間を定める仮払い仮処分の統計を言われまして、緩やかな取り扱いが一般的傾向であるというふうに言われました。
 ところが、最近「判例時報」に掲載された納谷肇さんと言われる現在松江地裁の裁判官の論文で「従業員の地位保全仮処分及び賃金仮払仮処分の必要性について」という論文があります。これはこの人が昭和六十年の四月から六十三年三月まで東京地裁労働部の十一部と十九部で判断した裁判例二十件を挙げておられまして、これによりますと二十件のうち十九件までが地位保全と賃金仮払い仮処分を求めている。そのうち地位保全を認めているのはわずか一件だけで他はすべて却下。賃金仮払いについては、過去分はともかくとして、将来分については期間を定めたもの、すなわちそれは一年とかあるいは二年とかあるいはさらに十カ月あるいは六カ月と定めたものが八件、それに一審判決までを認めたものが八件、本案判決確定までを認めたのが二件というふうな統計になっております。
 これを見ると、東京地裁においては明らかに一つの明確な傾向が見られると思いまして、先ほどおっしゃった緩やかな傾向というものが東京地裁においてはまるで逆転しているように思えるんですけれども、その点はいかがですか。
#35
○最高裁判所長官代理者(泉徳治君) 仮払い期間につきまして、東京地方裁判所の昭和六十三年度の裁判例によりますと、一審判決までと認めたものが一件でございまして、それから一年間に限ったものが一件ございます。あとは大体和解とかそういうもので片づいているように見受けられます。
#36
○北村哲男君 私が御紹介した「判例時報」千二百七十号に示された二十件の例というのは、東京地裁十九部それから十一部で示されたこの一年間の例をすべて指しているのではないということなんでしょうか。特殊な例だけを挙げている例なんでしょうか。
#37
○最高裁判所長官代理者(泉徳治君) ただいま北村委員御指摘のその論文に掲げられたものにつきまして私どもちょっとフォローしておりませんので、今ちょっとお答えは差し控えさせていただきたいと思いますが、昨晩、急遽裁判例を繰ってみたところによりますと、先ほどのような結果になっているわけでございます。
#38
○北村哲男君 そうすると、最高裁のお考えですとまだ傾向としては地位保全を認めるかつ賃金仮払いを認めるというふうないわば緩やかな認め方が一般的である、そういう御認識であるというふうに伺ってよろしゅうございますか。
#39
○最高裁判所長官代理者(泉徳治君) そのとおりでございます。
#40
○北村哲男君 それでは次の質問に移りますが、今回の民事保全法提案理由説明の中に、これは合本の中の二ページの最初の項でございますが、「第一は、命令手続の審理の適正迅速化を図ることであります。すなわち、現行法では、保全命令の申し立てについての審理については、一定の場合に決定手続によることが許容されているものの、判決手続によることを原則としており、」という表現がございます。現行法において保全手続というのは民訴の七百四十一条一項と七百五十七条の二項に定めてありまして、内容的には仮差押え、それから仮処分については係争物に関する仮処分並びに仮の地位を定める仮処分、その三つがあるというふうに言われておりますが、そのうち前者すなわち仮差押えについては、これは判決手続が原則ではなくて決定手続がその原則であるというふうに一般的に言われておりますし、しかも実務上の取り扱いについてはほとんど決定手続であるというふうに言われておりますけれども、その辺はいかがでしょうか。
#41
○政府委員(藤井正雄君) ただいまは仮差押えの審理の手続の実際についてのお尋ねかと思われますが、これは私どもが承知しております限りでは具体的な統計までは知らないのでありますけれども、まずほとんど一〇〇%決定手続で行われている実情ではないかと承知をいたしております。
#42
○北村哲男君 としますと、ここに書いてあります「判決手続によることを原則としており、」という表現は大きな柱の一本が抜けておるということになりませんでしょうか。
#43
○政府委員(藤井正雄君) ここでは保全命令というように一括して書いておりまして、仮差押えと仮処分とを区別いたしておりません。仮処分につきましては判決手続によることを原則としておるわけでございますので、その両者を全体をひっくるめてこのように簡潔に記載したわけでございますが、御指摘のようにいささか不正確な面があろうかと思います。
#44
○北村哲男君 余りこだわっても仕方がない問題、言葉の問題かと思いますけれども、しかしその後にも関連しますのでもう一言この点につきまして、保全手続は大きな柱は三本ですね、今申しましたように。仮差押え、それから係争物、それから仮の地位。その三本のうち二本についてはもうほとんど決定手続でやるということが一般的に言われておりますし、実務でもほとんどそうであるというふうに思います。それで、しかもまた片方の大きな仮差押えについては口頭弁論を経ないで裁
判をするのが原則であるし、そう解すべきだと解釈上も一致しておりますし、実務例においてももうほとんど一〇〇%というふうに言われておるわけですから、その点についてはあえてこれは判決手続によって一般的に遅いから今度改正するんだというふうな、やっぱり一つの偏った見方をしながら一つの新しい法案をつくろうとしていることがやや見られるような感じがしますので、その点はちょっと気をつけて言ったわけです。
#45
○政府委員(藤井正雄君) 先ほど一点申し落としましたが、仮差押えにしろ仮処分にしろ、発令されました後の異議手続それから取り消し手続はすべて判決手続となっております。
 今回は、発令手続のみならず、その後の不服手続まで含めて全部決定手続にすることによりまして迅速化を図るということにいたしておるわけでございます。現行法は発令手続と不服手続と両者を合わせて見てまいりますと、ここに書いてございますように判決手続を原則にしていると言ってもそれほどおかしくはないのではないかと思っております。
#46
○北村哲男君 ところで実際の、特に労働部のことに関して伺いますけれども、労働部の特に仮の地位を定める仮処分に関する問題ですけれども、東京地裁のやり方と大阪地裁のやり方が違うというふうに言われております。それぞれが仮処分の審理の実情等に即して独自の方式をつくり出しているというふうに言われているんですけれども、その大阪方式というのはどういうものなのか、裁判所にお伺いしたいと思います。
#47
○最高裁判所長官代理者(泉徳治君) 大阪方式と東京方式とで大きな違いは、第三者審尋を大阪で行っているという点でございます。
 釈明処分といたしまして当事者を審尋できることは、これはもう法律上明らかでございますけれども、そのほかに当事者に準ずるものといたしまして、労働事件で申しますと使用者側ですと人事担当者、それから労働者側で申しますと当該組合あるいは上部団体の役員あるいは担当者を審尋するということは、これは東京でも大阪でも行われているわけでございますけれども、大阪の場合にはそのほかに証人的立場の人を公開の法廷でもって審尋をするということが行われているようでございます。その点が大阪方式の大きな特徴になっているわけでございます。
#48
○北村哲男君 それに比較する意味で東京の方式について特徴を説明してください。
#49
○最高裁判所長官代理者(泉徳治君) 東京におきましては、当事者に準ずる者の審尋を行っていることは変わりないわけでございますが、その範囲がやはり先ほど申しましたようなものに限られていまして、証人的立場の者は審尋をしないということ。それから、審尋をする場合にも公開の法廷では行いませんで審尋室で行っているということ。それから、当事者は立ち会いのもとで審尋を行いますことがございますが、原則といたしましては一方ずつの審尋を行っているということ。この点が大阪と違う点でございます。
#50
○北村哲男君 特に、今大阪のやり方というのは大阪以外によその裁判所でされていることがあるのか、あるいはそれ以外に今言った大阪、東京以外の別のやり方をとっておられる裁判所があるかどうか、その点についてお伺いしたいと思います。
#51
○最高裁判所長官代理者(泉徳治君) その点につきましては私ども十分に承知していないわけでございますが、裁判官がいろんな雑誌に発表しております論文などによりますと、大阪という方式は余り行われていない。大体が東京方式といいますか、そういった方式で行われているというふうに理解しております。
#52
○北村哲男君 特に、大阪方式でやる第三者審尋というやり方について、今回の改正案がこの道を封ずるんではないかということが言われておるんですけれども、その点についてはいかがでしょうか。
#53
○最高裁判所長官代理者(泉徳治君) 今度の法案におきましては任意的口頭弁論という新しい制度が設けられたわけでございます。この任意的口頭弁論では、当然のことといたしまして証人等の取り調べもできることになったわけでございます。
 したがいまして、大阪で行われております第三者審尋というものが任意的口頭弁論に移行する可能性はあるかと思います。しかしながら、大阪の方で当事者あるいは裁判所が長年の経験でもってつくられた慣行というものが審尋の中でやはり生き続けていくという可能性も十分あるわけでございまして、その辺のところは今後の推移を見てみなければはっきりしたことは申し上げられないという状況でございます。
#54
○北村哲男君 今回の法案の中の三十条という規定がございます。これは、「裁判所は、当事者双方が立ち会うことができる審尋の期日において参考人又は当事者本人を審尋することができる。ただし、参考人については、当事者が申し出た者に限る。」と、これは保全異議に関する条文でございますが、この条文があるために決定手続には否定する趣旨になるのではないか、この規定の反対解釈として決定手続には否定する趣旨になるのではないかということも考えられるんですけれども、この辺の解釈はいかがでしょうか。
#55
○最高裁判所長官代理者(泉徳治君) ただいまの現行法のもとにおきましても、第三者審尋というものは建前的にいきますと法律では認められていないものでございますけれども、一種の慣行としてでき上がっているわけでございますので、この法律のもとにおきましてもそういう慣行が続けられないとは限らないわけでございますので、その辺はちょっと今後の推移を見てみなければわからないということでございます。
#56
○北村哲男君 三十条の参考人審尋と先ほど御説明になった大阪方式のいわゆる第三者審尋というものは同じことを言っているんでしょうか。その点についてはいかがなんでしょうか。
#57
○政府委員(藤井正雄君) 保全命令の申し立て手続において第三者審尋を認めるべきかどうかということは、法制審議会の審議で関係者、特に法曹界の関係者の間で非常にいろいろな意見がございまして、大変論議されたところでございますが、保全命令の申し立て事件は一般的には密行性のある事件が多いわけでございまして、そういう場合には債務者に立ち会いの機会を与えないわけでございますので、債務者に立ち会いの機会を与えないで第三者審尋を簡易な証拠調べとして行うのは必ずしも相当でない、こういうお考えがございまして、この考え方によりまして第三者審尋を制度として正面からこれを認めるということはしなかったわけでございます。
 ただ、先ほどから委員のお話がございますように、大阪地裁を中心にして行われている大阪方式というものがあるわけでございまして、この審理方式が許されるかどうかということは恐らく民事訴訟法の百二十五条二項の解釈で賄っているのではないかと思われます。この法案では、一般民事事件全体を考える場合には必ずしも第三者審尋というものは必要であるとは言えないし、また大阪地裁方式が一般的な方法として広く行われているわけでもないということのようでございますので、法の規定として正面からはこれを認めていないわけでありますけれども、民事訴訟法百二十五条二項に基づくような考え方によりまして大阪地裁の審理方式が行われるということも解釈運用上考えられる一つの方式ではあろうと思っております。この法案では、同時に保全命令の手続におきまして第九条の釈明処分の特例のような規定も設けまして、これでもって恐らくほとんどの場合が実質的には賄えるのではないか、そういうふうな手当てもいたしておりますし、もちろん任意的口頭弁論によって証人尋問を行うということもできるわけでございます。そういうような考え方をいたしております。
#58
○北村哲男君 そうしますと、今の大阪方式に関しては、九条の解釈並びに民事訴訟法百二十五条の解釈から、今後もそういう方式をとることについて道を封ずるものではないというふうに伺ってよろしいわけですね。
#59
○政府委員(藤井正雄君) 長年築き上げられてき
た慣行というふうに伺っておりますし、これを私ども特にそれは今回の法案によってよくなったとか悪くなったとかということを申し上げるつもりはございません。
#60
○北村哲男君 次の質問に移りますが、二十五条について伺いたいと思います。
 二十五条、これは仮処分解放金の規定でございますけれども、地位保全などの仮の地位を定める仮処分にもこの解放金の制度が適用があるんではないかという疑問が聞かれます。これは将来に疑問を残さないためにも説明をしていただきたいと思うんですけれども、十三条に「保全すべき権利又は権利関係」という言葉が使われておりますけれども、これについてもあわせて御説明をしていただきたいと思います。
 特にこの疑問というのは、賃金仮払い仮処分について二十五条の解放金制度が利用されるんではないかということが間々言われておりますし、近時、裁判所は賃金の仮払いの必要性について高度なものを要求し、仮払い期間についても一定期間に限定する傾向にあるというのは先ほどの話にもあったんですけれども、この傾向を突き詰めると、賃金の仮払い仮処分の被保全権利は一定額の金銭債権と同視し得ることになって解放金制度になじむようになってしまうんだと。そうすると労働者の地位保全の仮処分なんかの場合には、労働者の方は圧倒的に不利な立場に置かれてしまう、すなわちお金を積まれれば解放されてしまうんだと。どうも私もそういう解釈を必ずしもとるわけではないんですけれどもそういう疑問が言われておるという現状に関して、将来に疑問を残さないためにも詳しくその辺の説明をお願いしたいと思います。
#61
○政府委員(藤井正雄君) 仮の地位を定める仮処分について二十五条が適用される余地は全くございません。
 仮の地位を定める仮処分は、二十三条の二項にございますように「争いがある権利関係について債権者に生ずる著しい損害又は急迫の危険を避けるためこれを必要とするときに発することができる。」のでございまして、この場合に金銭の供託によって債権者のした仮処分の目的が達せられるということは考えられないのでございます。したがって性質上、仮処分解放金を仮の地位を定める仮処分に付することはできないと考えております。
 念のため申し上げておきますと、二十五条では「保全すべき権利が」と書いてございます。この法律案におきましては、まず第一条をごらんいただきますとおわかりいただけるかと思いますけれども、係争物に関する仮処分については「本案の権利」というふうに表現をいたしております。それから、仮の地位を定めるための仮処分につきましては「本案の権利関係」と表現をいたしております。この「権利」とか「権利関係」という表現は、これは現行の民事訴訟法にやはりそのように使い分けをされているのでございまして、これをこの法案に取り入れているわけでございますが、この「権利」と「権利関係」の使い分けはこの法案全体を通じて一貫させております。
 先ほどの二十三条の第一項で、係争物に対する仮処分命令については「権利」という表現を用い、二項で、仮の地位を定める仮処分では「権利関係」という表現を用いております。そして、この両者を合わせて表現する場合には、例えば十三条でございますとか三十八条にございますように、「権利又は権利関係」というように両者を並べて規定をしているわけでございます。そういう文理解釈からいたしましても、二十五条は係争物に関する仮処分のある場合に、一定の場合に限られるということは明白であろうと思います。
 現行法のもとで、仮処分は仮差押えに関する規定を包括的に準用しておりますがために、仮差押解放金の規定が準用されまして、いささか幅広く用いられている嫌いがなきにしもあらずというふうに思われますので、これの適用範囲を明確に限定する意味合いからこの二十五条という規定を設けたものでございます。
#62
○北村哲男君 そうすると、仮処分解放金については二十五条で「保全すべき権利」というふうに書いてあるというところから、仮の地位を定める仮処分については「権利関係」というふうに言葉がはっきり法文上分けてあるので全く適用がないというふうに確定的に理解してよろしいということでございますね。
#63
○政府委員(藤井正雄君) そのとおりであります。
#64
○北村哲男君 二十三条第四項の債務者審尋について聞きたいと思います。
 先ほども千葉委員がお聞きになりましたが、第四項が修正して加えられております。すなわち、仮の地位を定める仮処分については必ず口頭弁論または債務者が立ち会うことができる審尋をしなければならないという規定であります。この趣旨については、まず現在の実務ではほとんどそれがなされておるということで、新しい保全法案のもとでも排除しているものではないので、あえて成文化する必要はないけれども確認的な意味で規定したということになると思うんですけれども、そのように考えてよろしゅうございますか。
#65
○政府委員(藤井正雄君) 先ほどもお答え申し上げたところでありますけれども、現行の運用がまさにこのように行われておるということでございまして、今回の改正法によってそういう実務の運用を変えようとは毛頭考えているわけではないのであります。この二十三条四項は、まさにそのことを明確にしたものだと考えております。
#66
○北村哲男君 そうなりますと、仮の地位を定める仮処分についてはすべて口頭弁論ないし審尋を要するということになりますと、この仮の地位を定める仮処分というのは三条のいわゆる任意的口頭弁論という原則の例外ということになるんでしょうか。
#67
○政府委員(藤井正雄君) 第三条で規定をいたしておりますのは、この保全命令の手続におきましては任意的口頭弁論によることができるんだ、こういうことを規定しているわけでございます。この法律の第七条によりまして民事訴訟法が準用されるわけでございまして、その民事訴訟法の百二十五条一項によりまして決定をもって完結すべき事件については裁判所は口頭弁論をなすか否かを定めることができる、任意に決められるということでございまして、この規定によりまして口頭弁論を開いて証人尋問等の手続を公開の法廷ですることもできるし、書面審理あるいは審尋というような手続でもよろしいということが決められているわけでございます。今回の修正によります二十三条の四項におきましては、この保全命令の手続のうち仮の地位を定める仮処分の発令に当たりましては必ずそういう任意的口頭弁論かまたは債務者が立ち会うことのできる審尋の期日を経なければ発令をしてはならない、つまり書面審理だけではだめであるということをあらわしたものでございます。
#68
○北村哲男君 すなわち、仮地位仮処分については必要的に口頭弁論あるいは審尋をしなきゃならないということで、もう任意的ではなくなってきていると思いますが、そうなると逆に仮地位仮処分以外については口頭弁論とか審尋は開く必要はないというふうな反対の、というのは私先ほど言いましたように、保全処分の三本柱のうちの一本が必要的に口頭弁論あるいは審尋を設けることになると、あとの二本についてはもう必要がないんだ、だから迅速にかつ簡明にということに固まっていってしまうんではないかというおそれというか危惧があるんですけれども、その辺についてはどのようにお考えでしょうか。
#69
○説明員(山崎潮君) ただいま御指摘の点につきましては、特にこの法案では触れていないところでございます。
 もともと、この二十三条四項の規定を置かない限り、それらの運用につきましてはすべて裁判所の判断にゆだねるということになるわけでございます。この二十三条四項は、仮の地位を定める仮処分、これについて規定を設けたというにすぎないわけでございまして、その他は従来どおり裁判所の運用にゆだねる、こういう趣旨であるわけで
ございます。
#70
○北村哲男君 二十三条一項は係争物に関する仮処分についての規定ですけれども、その係争物に関する仮処分でも債務者の影響が大きい場合は債務者が立ち会う審尋の期日が必要だと思われる場合があります。例えば労働組合がピケッティングあるいは職場占拠をしている場合に使用者から職場の執行官保管の仮処分を申し立てられることがありますけれども、この場合は占有移転禁止の仮処分に基づく執行官保管の仮処分として係争物に関する仮処分であるというふうに実務上解釈されておりますけれども、この場合は債務者審尋を経ないですることができるということにもなりませんでしょうか。
#71
○説明員(山崎潮君) ただいま御指摘の点につきましては、確かに一般の事件の占有移転禁止の仮処分、それに伴う執行官保管の仮処分でございますが、こういうものにつきましては一般に当事者を固定する、いわば恒定するというふうに言っておりますけれども、それを目的とする仮処分でございまして、このような仮処分の場合には、委員御指摘のように通常は債権者が使用する場合でありましても係争物の仮処分、こういうふうに言われているということでございます。
 しかしながら、今御指摘のような労働争議に絡む仮処分の場合につきましては、この場合でも執行官保管の仮処分が行われることがございますが、このような場合には通常、当事者の恒定を目的としているというわけではございませんで、また相手方に秘密にしなければならないというような性質のものでもないわけでございます。ですから、そのような実質を考えた場合には、通常の占有移転禁止の仮処分とは異なりまして、その実質はやはり妨害の排除であるということになろうかと思います。それを仮の明け渡しという断行の仮処分をするというまでの必要性はない、いわば執行官保管で債権者が使用できるという、半断行と通常言っておりますが、半分の断行でございますが、半断行の仮処分で足りるという場合に使われることであるわけでございます。そのような実質を考えますと、形式は似ておりますけれどもやはりこれは性質上仮の地位を定める仮処分であるというふうに理解できるところでございます。
 この衆議院におきまして修正されました第二十三条第四項の規定におきましても、この仮の地位を定める仮処分の中に実質的にただいまのような仮処分が含まれるというふうに理解をしているところでございます。
#72
○北村哲男君 ただいま半断行の仮処分というふうに大変難しい言葉をお使いになりましたけれども、そうすると係争物に関する仮処分として審尋をするのか、あるいは仮の地位を定める仮処分として審尋をするのかという、そのメルクマールというか、そういうものはどの辺に置けばよろしいんでしょうか。
#73
○説明員(山崎潮君) 通常は審尋をする、しないという問題は、やはり相手方に知らせてはならないという場合、それから現状維持かどうか、そういうような判断になろうかと思いますが、この場合におきましては相手方、これは労働組合でございますが、に知られては困るというそういうことはございませんので、それから相手方に与える打撃が大変大きいという点も考えあわせまして、そういう点を判断基準にいたしまして審尋を行う、こういうふうになろうかと思います。
#74
○北村哲男君 今の場合はどちらというか、申請する人間が選べるのか、裁判所が裁判所の権限でどちらを選ぶのかという点はいかがでしょうか。
#75
○説明員(山崎潮君) それは裁判所が判断をすることであります。
#76
○北村哲男君 次の質問に移ります。
 ちょっと飛びますけれども、六十二条についての御説明をもう一回いただきたいと思うんですが、これは占有移転禁止の仮処分の効力の拡張の問題なんですが、先ほどされたかと思うんですけれども、一つ六十二条の問題で次のようなことが考えられます。
 すなわち正当な争議行為によって職場占拠中に、占拠不動産を使用者が売却して事前に占有移転禁止の仮処分がなされていた場合に、買い主が占拠している労働組合に対して本案の明け渡しの債務名義によって労働組合に無審尋で組合の占拠を排除することができるんではないだろうかと、こういう例による危惧がありますけれども、このようなことがこの条文によって考えられないかどうかという点について御説明を願いたいと思います。
#77
○説明員(山崎潮君) ただいま委員御指摘の点は、既に労働組合がその職場を占有しているという前提で言われたかと思いますが、そのような場合に買い主たる者が占有移転禁止の仮処分を行う場合には、会社が使用しているところは会社を相手に占有移転禁止をやるわけでございますし、労働組合が独立に占有している分については労働組合を相手に占有移転禁止の仮処分を行わなければ、会社に対する仮処分の本案の債務名義をもって労働組合に明け渡しを求めるということはできないわけでございます。いわばその占有移転禁止の仮処分の効力が労働組合に及んでいないということでございますので、御心配になるような点はないかと存じます。
#78
○北村哲男君 次の質問に移ります。
 一般的な質問になりますけれども、仮処分を初めとする複雑事案といいますか、特に労働事件というのは東京地裁の中でどのくらいの割合を占めているのかという点について裁判所の方にお伺いしたいと思います。
#79
○最高裁判所長官代理者(泉徳治君) 東京地方裁判所の数値は持ち合わせていないわけでございますが、昭和六十三年度に全国の地方裁判所におきまして仮処分が行われた、処理がされた事件は一万五千八十二件でございますけれども、そのうち労働事件と申しますのは五百六十四件でございます。
#80
○北村哲男君 労働事件の中で、特に先ほどから問題にしておりますいわゆる地位保全の仮処分を求めるというのはどのくらいの割合になるわけですか。
#81
○最高裁判所長官代理者(泉徳治君) 従業員の地位保全を求める仮処分、これには賃金の仮払いを求める仮処分も含まれておりますけれども、これが三百四十三件でございます。それから賃金等の仮払いだけを求めている事件が九十四件でございます。
#82
○北村哲男君 傾向として、地位保全の仮処分を求めるところから単に賃金だけの仮払い仮処分を求めるというふうな流れは認められますか。
#83
○最高裁判所長官代理者(泉徳治君) 大きな傾向といたしましては、そういう傾向があろうかと思います。
#84
○北村哲男君 労働事件に関しては、東京地裁でかつては三つの部、すなわち六部、十一部、十九部という大きな部を設けておりますし、大阪でも特殊な部を設けておりました。そして戦後長い間、非常に膨大な労働判例なんかもつくられてきておりまして、その中で労働事件に対するさまざまな審理方式、判例等を積み重ねられております。
 今回の保全法の中で労働事件もひっくるめて一つの迅速化の方向でまとめようとしておられますけれども、労働事件に関して別体系の法律をつくろうというふうな動きというか、そういうものはないんでしょうか。
#85
○政府委員(藤井正雄君) 労働関係の仮処分がその事案の性質上なかなか複雑であり、かつ困難な事案が多いということはまさに御指摘のとおりであろうと思いますし、またそれが一般市民法原理と異なった指導原理によって解釈が構築されてきているということも現実にあろうかと思われます。しかしながら、日本の裁判所は最高裁判所を頂点といたしまして、その下にある下級裁判所が一つの組織をなしまして、そこに司法権が帰属をするということになっておりまして、労働事件もその司法権のもとにおきまして民事事件の一つの類型として審理がなされてきた長い実績があるわけでございます。
 これにつきまして特別の手続を設けるかどうか
ということは、これは考え方としてあり得ないことではなかろうかと思いますけれども、そういうことになりますと、これは単に労働事件に限らず、そのほかにも特許事件でございますとかあるいは会社事件でございますとか、複雑困難な事件がいろいろございまして、それぞれについて特別な立法をするのが妥当であるかどうかという問題も生じてくるところでございます。外国の立法例などにおきましても、西ドイツあたりにおきましては労働裁判所という別個の裁判所がございますけれども、手続面におきましてはやはり一般の民事訴訟法をそのまま準用して行われているという実情にあるようでございまして、今直ちにこれについて特別の立法をするということはなかなか難しいことではなかろうかと思っております。
#86
○北村哲男君 保全処分というと、一般的なイメージとしてはわかるんです。というのは処分禁止の仮処分とかあるいは仮差押えなど、請求しようとしてもどうもよそに売られてしまいそうだから直ちに押さえるとかいう一般的なことはわかるんですけれども、労働事件を今特殊な例と申されましたが、そのほかに非常に特殊専門的で別体系を考えざるを得ない、あるいは判例法がっくり上げられているという例は、今、会社法あるいは何か幾つか言われましたが、どのような類型が大まかに言って考えられますか。現実にあるわけですか。
#87
○政府委員(藤井正雄君) そのような特殊な類型に属するものは仮の地位を定める仮処分に属するものが多いかと思われますけれども、さしあたって頭に浮かびますのは、先ほど申し上げましたように労働事件のほか、特許その他の無体財産権に関する事件、それから会社における取締役の職務執行停止、代行者選任というような例に代表される会社組織をめぐる訴訟、その他新株発行の差しとめなどを含めますいわゆる商事事件と言われるものなどが考えられるかと思います。
#88
○委員長(黒柳明君) 午前中の審査はこの程度にとどめ、午後一時に再開することとし、休憩いたします。
   午後零時六分休憩
     ─────・─────
   午後一時一分開会
#89
○委員長(黒柳明君) ただいまから法務委員会を再開いたします。
 休憩前に引き続き、民事保全法案を議題とし、質疑を行います。
 質疑のある方は順次御発言願います。
#90
○矢原秀男君 この改正の経緯を見ておりますと、現行民事訴訟法における仮差押え、仮処分制度は明治二十三年制定の民事訴訟法第六編強制執行第四章として定められたものであって、大正十五年の民訴法大改正のときにも、また昭和五十四年の民事執行法制定の際にも仮差押え、仮処分の命令手続に関する部分には手がつけられずに今日までの検討、特に四十八年に公表された強制執行法要綱第二次試案の中にもこの命令手続に関する改正の具体案は含まれておりましたけれども、結局民事執行法制定の際にも見送りとなった。
 今回の改正作業は昭和五十八年十月に着手され、まず仮差押え及び仮処分の命令及び手続に関する検討事項について各界の意見照会を行い、その結果を参酌しながら民訴法部会において改正審議要綱等を決定し、昭和六十年一月から実質審議に入った。非常に慎重に討議が重ねられて御苦労されている様子が歴史的にわかるわけでございます。
 私、まず最初に、大臣に質問する前に御当局にお伺いしたいと思うんですが、私も数次の変遷にはいろいろと興味がございまして、多段階の、そしていろんな各界の参考ということで分析をする癖があるわけでございますが、当局から出されております仮差押・仮処分事件統計表で、これは最高裁判所事務総局編でございますけれども、まず一つお伺いしたいことは、仮差押え、仮処分事件数の受理区分及び既済、未済の問題でございます。これは昭和五十三年度から年度別で、昭和六十二年度を見ますと受理件数の総数四万八千五百三十五、それから既済、未済となっておりまして、現陣容の中で一生懸命四万五千四百六十九と既に済ましていらっしゃいますけれども、未済の件数もまた三千六十六、こういうふうなことで非常に御苦労されていらっしゃることを受けとめるわけでございますけれども、私が今申し上げました数字的なデータの中でのいろいろの分析、端的に言って傾向のようなものがございましたらお教えをいただきたいと思います。
#91
○政府委員(藤井正雄君) お手元にございます合本の一番終わりのところに仮差押仮処分事件統計表がございます。これは最高裁判所の司法統計年報から抜粋したものでございますが、その三十八ページをごらんいただきますと、ここには仮差押えと仮処分の事件を合わせた事件数の推移が昭和五十三年から六十二年までの十年間について記載をされております。年によって多少の波はございますが、これを平均いたしますと一年間におよそ五万二千件という数字になります。この中の仮差押えと仮処分の内訳でありますが、三十九ページの方に仮処分の事件数が書いてございまして、それの残りが仮差押えということになるわけでございまして、大体仮差押えが年間約三万七千百件、仮処分が約一万四千九百件でございます。近年の傾向では仮処分が十年前に比べますと漸次事件が増加してきている傾向がうかがわれると思われます。
 三十九ページに仮処分の既済事件数が記載してございますが、これをごらんいただきますとおわかりになりますように、不動産関係では処分禁止の仮処分と占有移転禁止の仮処分が非常に多いわけでございまして、この十年間で平均をとってみますと、処分禁止の仮処分は全体のおよそ三五%、占有移転禁止の仮処分は全体のおよそ二八%という割合になっております。当事者を恒定するためのこの仮処分の二つの類型が国民に大いに利用されているという状況がおわかりいただけるかと思います。
 その次、四十ページに仮処分の既済事件数を審理期間別に分類したものが書いてございます。これは現行法のもとにおきまして決定手続によったものと判決手続によったもの、両者を合わせたものでございまして、これで見ますと十日以内に処理されたものが六八%、一月以内で八〇%が処理されておりまして、一年以内でとりますと九七・五%の事件が処理されております。しかしながら二年を超えるもの、これは終わりの二つの数字でございますが、これが平均いたしまして一・二%でございます。
 ところが、その次の四十一ページに参りますと、これはただいま申し上げました決定手続によるものと判決手続によるものの合計の仮処分既済事件の中から判決手続によったものだけを抜き出したものでございますが、この表によりますと、一年以内に処理できたものが五一%でございます。二年を超えるもの、終わりの二つの欄でございますが、これを合わせますと三〇%になるわけでございます。
 その次の四十二ページ、四十三ページは、仮差押え異議それから仮差押えの取り消しの既済事件数、また仮処分異議と仮処分取り消しの既済事件数がいずれも審理期間別に書かれておりますが、これらは現行法のもとではいずれも口頭弁論を経て、すなわち判決でもって処理されるものでありまして、これをごらんいただきますと、仮差押えの場合には一年以内に六六%、仮処分の場合には一年以内に五六%の事件しか処理ができていないということがおわかりいただけると思います。
 四十四ページは仮差押え、仮処分の異議、取り消しの既済事件について、何回の口頭弁論を経たのかということがこの表で一覧できるようになっております。
 以上でございます。
#92
○矢原秀男君 まず、大臣に質問をいたします。
 民事保全法案についてでございますが、この法案の趣旨についてお尋ねをしたいと思います。
 この法案は、現行法で判決手続によることを原則としている民事保全の命令手続について、決定
手続を全面的に採用するとともに、仮処分の効力についての規定を新設していると思うのでございます。この法案の趣旨について、簡単で結構でございますけれども法務大臣の御所見を伺いたいと思います。
#93
○国務大臣(後藤正夫君) お答えいたします。
 現行の民事保全の制度につきましては、先ほど矢原委員の冒頭の御質問のときにもお触れになりましたように、明治二十三年に構築をされました制度が約百年の間改正されないまま今日に至っております。したがって、その間に社会経済情勢の変化は極めて著しいものがございます。そして多様化、複雑化した民事訴訟について、迅速かつ適切な審判を求める国民の要請に必ずしも十分に対応することができない事態が生じつつあるというのが現実でございます。
 民事保全の制度は、特に迅速に権利の保全を行うことが制度の趣旨でございますが、この裁判においてすら長期間を要するものがあり、これでは国民の信頼を得られなくなってしまうということは明らかであると思われます。
 民事保全の審理が長引く最大の原因は、本裁判と同じ判決手続という厳格な手続を原則的に採用しているということにあると考えられます。そこで、この改正法案におきましては、事案に応じて柔軟に対処することができますよう決定の手続を全面的に採用すること、それによりまして充実した審理を迅速に行うことができるようにしようとするものでございます。
 また、現行法におきましては仮処分の効力に関する規定がなく、そのためにすべて解釈に基づく実務の運用により処理されておりますが、解釈にはおのずから限界がありますために権利の保全が十分に図られないといった問題点がございます。そこで、現行の運用をより適切なものといたしますために、利用頻度の高い仮処分について明文化して、その効力をはっきりと定めることといたしたものでございます。
 このような改正を行うことによりまして、民事保全制度が国民の信頼を得られるようになるものと確信いたしております。
#94
○矢原秀男君 今大臣が国民の信頼をかち得るためという形で御答弁をいただきました一つとして、決定手続の全面的採用による審理の充実と迅速化ということをお話しをいただきました。もう一点は仮処分の効力の規定の新設、これにつきましても、仮処分の執行方法及び効力の明確化と改善の御答弁をいただいたわけでございます。何といいましても、やはり国民の信頼ということが前提になるわけでございますので、まずよろしくお願いをする次第でございます。
 第二点目に質問申し上げたいわけでございますが、これは当局の皆様に伺いたいと思いますが、現行法では保全命令に関する手続は民事訴訟法におきまして、保全執行の手続は民事執行法に規定されております。この法案は民事保全の手続等に関する単行法の形式となっておりますけれども、このような形式をとられた理由というものは那辺にあるのか、お伺いをしたいと思います。
#95
○政府委員(藤井正雄君) ただいま大臣から申し上げましたように、大変古い法律でございまして、この法律につきまして昭和二十六年に法務大臣から法制審議会に対し民事訴訟法改正についての諮問がなされました。さらに、二十九年に強制執行及び競売に関する制度の改正に関する諮問がございました。それを受けまして、長年にわたりまして審議がなされてまいりまして五十四年に民事執行法が生まれたわけでありますけれども、その際に仮差押え、仮処分の執行の制度の部分だけが民事執行法の中に取り入れられて、仮差押え、仮処分の発令手続の部分は民事訴訟法の中に取り残された形になったわけでございます。
 しかしながら、仮差押え、仮処分の手続は、これは形の上では命令を発する発令手続とそれからその命令を執行する執行手続とに分かれますけれども、この両者は非常に密接な関連を有しておりまして、発令されれば直ちにそれが執行されるという関係にあるわけでございます。さらに、仮処分につきましては、仮処分命令が発令されて、そしてそれが執行されたというだけでは不十分なのでありまして、その仮処分の執行が本裁判の裁判の効力にどういうふうに結びつくかということまで明らかにしなければならない。それはまさに仮処分の効力の問題でございます。
 そこで、命令を発する手続と執行の手続とそれから仮処分の効力、この三者を一体として一つの法典にまとめ上げて民事保全法として一つの体系をつくり上げることが最もふさわしいものであるというふうに考えたわけでございます。
#96
○矢原秀男君 この間非常に御苦労があったと思うんですけれども、ここに至るまでいろいろとこの三者の密接な関係、今お話しをいただいたわけですけれども、やはり一番懸念をされました点を、重なるかもわかりませんけれどももう一回ちょっとお伺いをしたいと思います。
#97
○政府委員(藤井正雄君) 法制審議会での審議の過程の中で問題とされた点についてのお尋ねかと思いますけれども、昭和五十八年から法制審議会民事訴訟法部会で仮差押え、仮処分制度の改正についての審議を行うということを決定いたしまして、それから民事局で試案を公表し、意見を求め、そして昭和六十三年十二月に要綱案にまとめ上げたわけでございますが、これは裁判所における手続でございますので、一番関係の深いのは裁判所と弁護士会でございます。
 この審議の過程におきまして、日本弁護士連合会は改正試案に対しまして、決定手続を会面的に採用するという点については条件つきで賛成をする、ほかの点については賛成であるという基本的な態度でございました。ここで日弁連が決定主義を採用するための条件として挙げられましたのが、当事者の手続保障と申しますか、その中における審理の充実ということが一つでございます。それから仮差押え、仮処分の決定の理由の記載に関する事柄が一つでございます。それからもう一つは、不服申し立ての審理裁判において判事の職権のない判事補が単独で裁判ができるかどうかということが一つでございます。
 この三つの点が日弁連の指摘した問題点でございまして、その後の審議の過程におきましてこれらの点についてはいずれも日弁連の意向が組み入れられたわけでございます。釈明処分の特例とか参考人審尋等による審理の充実を図るということが明文でもって規定され、また決定の理由につきましてもこの法律案の十六条にございますような規定が設けられ、判事補の権限につきましては三十六条の規定が設けられたということで、日弁連は六十三年十二月に民事保全法の要綱案につきまして賛成をされまして、結局法制審議会ではこの要綱案を全会一致で決定いたしまして法務大臣に答申をされ、この法案に至ったということでございます。
#98
○矢原秀男君 私も法制審議会の審議の経緯を、今御答弁いただきました中で、非常に気にしておりましたんですけれども、日本弁護士連合会の皆さんの御意向もよくわかりました。
 続きまして、現行法では保全命令の申し立てについての審理は決定手続または判決手続とされております。保全異議等の不服申し立てについての審理は判決手続となっておりますけれども、この法案では民事保全の命令に関する手続についてすべて決定手続によるとなっておりますけれども、なぜでございましょうか、伺います。
#99
○政府委員(藤井正雄君) 判決手続における審理の方法は法廷における口頭弁論に限られまして、ここでは必ず当事者双方に立ち会いの機会を与えなければなりません。これに対しまして、決定手続におきましては口頭弁論を開く開かないは任意でございます。法廷外において審尋をする、あるいは書面による審理をする、そのどの方法でも自由に選択ができ、審理に融通性を持たせることができるわけでございます。
 仮差押え、仮処分の事件と申しますのは、簡単なものから複雑なものまでいろいろな態様、種類のものがございまして、その審理というのは事件の内容に応じて適宜に行われる必要がある、その
ためにはこれらの事件の内容に応じた複数の審理方式が用意されておることが望ましいわけであります。簡単な事件は書面審理で、あるいはまた当事者の審尋という手続を経て審理され、特に複雑困難な事件は口頭弁論を開いて証人尋問を行ったりするということができるようにすることが望ましいわけでございます。
 それからまた、仮差押え、仮処分事件の特色の一つに密行性ということがございまして、事件の多くは債務者に知られないように権利の保全を図る必要がございます。そうなりますと当事者双方に立ち会いの機会を与えてよろしいかどうかということも、これまた事件の種類に応じて考えなければならないわけでございまして、そのようなことから、さらに先ほど統計資料をごらんいただきましたように判決手続によった事件は非常に審理に時間を要しているということもございますので、仮差押え、仮処分事件における基本的な要請である迅速な審理を図る、さらにその中で内容の充実した審理を行うということのために今回決定手続を全面的に採用し、かつそこにおける審理のあり方についての基本的な規定を設けたわけでございます。
#100
○矢原秀男君 この法案では、保全異議等の不服申し立ての手続については、厳格な審理手続である判決手続から柔軟な審理手続である決定手続に改めようとしておられます。決定手続に改めるに伴い、当事者の手続保障に配慮すべきと思いますけれども、この法案ではどのようになっているのでございましょうか。
#101
○政府委員(藤井正雄君) 審理の方式は現行法のもとでも決定手続で行うか判決手続で行うか、これは裁判所の運用、裁量にゆだねられておりまして、裁判所で審尋のみでやるか口頭弁論を開いて審理するかということは事件に応じて選択をされているわけでございますが、当事者の手続保障という観点から特に保全異議等の不服申し立て事件について見てみますと、今回の法案では不服事件もすべて決定手続によるとしたこととの関連におきまして、この法案の二十九条で、裁判所は口頭弁論かまたは当事者双方が立ち会うことのできる審尋の期日を経なければ決定をすることができない、こういう規定を置きまして、必ず当事者双方が他方の主張を知り反論を加える機会を確保するという点に配慮をいたし、また三十一条におきまして、裁判所は審理を終結するに当たりましては相当の猶予期間を置いて審理を終結する日を決定しなければならないということを定めて、不意打ちになることのないような制度的な保障をするということに配慮をいたしております。
 こういうことによりまして、当事者にとっては不意打ちがなく、かつその審理においてみずからの主張あるいは反論をする機会を確保されるという仕組みにいたしているわけでございます。
#102
○矢原秀男君 今御答弁いただいたわけでございますが、決定手続を全面的に採用する理由として審理の充実を掲げておられます。これは今も承ったとおりでございます。
 この法案において審理の充実のために配慮した点、それはどのようなものがあるのか、また重なるかと思いますけれども伺ってみたいと思います。
#103
○政府委員(藤井正雄君) この法案では、まず保全命令に関する手続全般につきまして九条から十一条までの規定を置いております。これは釈明処分の特例といたしまして、裁判所は、当事者のほかに当事者のため事務を処理しまたは補助する者で裁判所が相当と認めるものにつきまして主張を明瞭にさせるための陳述をさせることができるという規定を置きましたり、あるいは受命裁判官による審尋を認めることによりまして機動性を発揮する。また、証人尋問におきましても、主尋問は陳述書でもってこれに充てることとして反対尋問から入ることができるように、証人の尋問の順序を事宜に応じて変更して審理の充実を図るということも規定をいたしております。
 さらに保全異議等の不服申し立ての手続におきましては、三十条で参考人などの審尋ということを認めまして、いわば簡易な証拠調べをこのような形で行うことができるようにして審理の充実を図る、そういうような配慮をいたしております。
#104
○矢原秀男君 仮の地位を定める仮処分の発令については原則として双方審尋等をすべきであるという修正がさきの衆議院でもされておりますけれども、この点についての当局の所見を改めて伺いたいと思います。
#105
○政府委員(藤井正雄君) 双方、特に相手方の審尋をするかどうかは、仮処分事件におきましてはその事件が密行性を要求しているものであるかどうかということにもかかわってまいります。一般的に係争物に関する仮処分の場合には相手方に知られないうちに財産について処分を制限するなどして凍結する必要があるわけでありますが、これに反しまして、仮の地位を定める仮処分におきましては一般的に必ずしも密行性はない。相手方に仮処分の申請があるということを知られることも格別差し支えはないわけでございます。
 そのような場合には、特に仮処分によって相手方に与える打撃は大きいのが通常でございますから、相手方の審尋をするということが実際上の運用として行われているわけでございまして、そういう実際上の運用から見てみますと、仮の地位を定める仮処分の発令に当たりましては原則として相手方の立ち会うことのできる審尋の期日あるいは口頭弁論期日を経る、そして相手方に意見を言う機会を与えるということにいたしましても現実の実務と何ら矛盾、そごは来さないわけでございます。むしろ、そういうことを法律上明らかにすることが当事者に対する手続保障という意味からも望ましい、こういう御意見が出されまして、それはそのように御主張になる御見解もまことにもっともな面がございます。そういう見解に基づきましてこの修正がなされたものというふうに承知をいたしております。
#106
○矢原秀男君 保全命令の申し立てについての決定におきましては、口頭弁論を経ない場合には「理由の要旨」で足りるとするのはなぜなのか、この問題ですね。そしてまた、理由の要旨とはどのようなものを指していらっしゃるのか、この点も明確にしていただきたいと思います。
#107
○政府委員(藤井正雄君) 民事訴訟法では、判決につきましては判決書の記載事項を法律で定めておりまして、決定につきましてはその性質に反しない限り判決に関する規定を準用するということになっております。
 しかし、決定で裁判される事柄は実に多種多様なものがございます。そこで、判決の記載事項とされているものの中でどのようなものが決定に記載されなければならないのかということはなかなか一概には言えないところがございます。主文でありますとか当事者とか裁判所はこれは必ず記載しなければならないでしょうけれども、事実及び争点とか理由とかはどこまで記載をするのが決定書にふさわしいかというようなことはいろいろ論じられるところであります。
 そこで、保全命令の申し立てについての決定において、必要的に明らかにすべき事項について何の規定も設けないとすると、どうも保全命令の緊急性とか暫定性というような特質をどの程度考慮してどういうふうな記載にするのがいいのかということで解釈が分かれるおそれがございます。そこでこの法案では、十六条におきまして決定には理由を付するという原則を立てた上で、ただし口頭弁論を経ないでする決定については理由の要旨を示せば足りるということにいたしました。これは、口頭弁論を経る事件は経ない事件に比べまして事柄が重大で複雑である、そういう事件のおのずからなる性質の違いがあるわけでございまして、そのような事件については理由を付するものとするけれども、口頭弁論を経ない事件につきましては概して定型的なあるいは簡易な事件が多いと思われますので、理由の要旨を示せば足りるというふうにしたわけでございます。
 この「理由の要旨」というのは幅のある概念でございまして、事件の内容に応じてこれを示すことになります。例えば仮差押えのような場合でご
ざいますと、これは極めて簡略に示すことになろうかと思います。要は、事案の内容の複雑性に応じてその事案にふさわしい十分な理由が付されるべきものだと思います。
#108
○矢原秀男君 この十六条のいわゆる保全命令の申し立てについての決定、この「理由の要旨」につきましても、できましたら可能な限りやはり当事者の皆さんにわかるような理由というものが私たちは必要ではないかなと、こういうふうに思っているわけなんですが、これはひとつ検討課題としてまたいろいろ今後詰めていただきたいと思っております。
 次に、現行法では仮処分の解放金について明確な規定がないと思います。この法案で仮処分解放金について規定を設けたのはなぜか、こういう問題が一つ。また、どのような場合に仮処分解放金を付することがてきるのか。仮の地位を定める仮処分、二十三条第二項、これらについての仮処分解放金を付することができるのか。こういう問題について、数点申し上げましたけれども御見解を伺います。
#109
○政府委員(藤井正雄君) 現行法は、仮処分につきましては仮差押えの規定を包括的に準用しておりますために、仮差押え解放金の規定が仮処分にどの程度準用されるのかということが必ずしも明確でございません。そこでこの法案では、債務者と債権者との間の適正な利害の調整と手続の整備をする必要上、仮処分解放金を付する要件と手続を、またその性質などを明らかにしようとしたわけでございます。
 これが付される典型的な例と申しますと、譲渡担保を設定しているものにつきまして譲渡担保権を行使するためにその物件の引き渡しを求める場合、あるいは所有権留保つき売買で債務不履行がございまして売買契約を解除して債権者がその引き渡しを求める場合のように、その基礎に金銭債権関係がございまして、その担保となっている担保物の引き渡しを求めているんだけれども、実は金銭の支払いを得られれば完全に経済的満足を得られるというような場合がこの仮処分解放金の付される典型的な例であると考えられます。そのほか、詐害行為取り消し権に基づいて債務者のところから逸失した財産を債務者のところに取り戻す、そういう請求権の場合もやはり金銭債権の保全についてのケースでございますので、このような仮処分解放金を付することができると考えられます。
 ただいまお話にございました仮の地位を定める仮処分について仮処分解放金がつけられるということは全く考えられません。
#110
○矢原秀男君 現行法では解釈にゆだねられているかと思いますけれども、保全執行の停止についてこの法案はどのような理由で規定を設けられたのか、この点はいかがでございますか。
#111
○政府委員(藤井正雄君) 現行法のもとでは保全命令に対して不服を申し立てましたときに執行停止の裁判ができるかどうかということについては解釈にゆだねられております。
 最高裁判所の判例などもございまして、一定の場合に執行停止ができるとされておりますが、その要件としては一般に満足的仮処分であるときとか債務者に償うことができない損害を生ずるおそれがあるときに執行停上の申し立てができるというふうに解されております。しかし、これらはいずれも大変幅の広いものでございまして、満足的仮処分のときにすべて執行停止ができるというのも広きに失しますし、また償うことのできない損害が生ずるおそれがあるときに執行停上ができるというのも、これまた広過ぎるということになります。
 そこで、仮差押え、仮処分という暫定的な処分について、さらにその上に執行停止というもう一つ暫定的な裁判を重ねるということは、民事保全制度の全体のあり方とすると原則的には認められるべきではないでありましょうけれども、ただ全く否定してしまうと、不服申し立てをする場合に、その意味がなくなってしまうという場合もございます。
 そこで、極めて厳格な要件のもとにこの執行停止というものができるのであるということを明文の規定を設けてはっきり限定をするということを考えたわけでございまして、この趣旨を明らかにするために保全執行の停止についての規定を新設したわけでございます。
#112
○矢原秀男君 この法案の第二十七条第一項及び第四十二条第一項の「原因となるべき事情」、これを衆議院では「原因となることが明らかな事情」と、こう修正をされております。この点については法務当局の所見はどうなのか伺います。
#113
○政府委員(藤井正雄君) ただいまも申し上げましたように、執行停止の裁判については、この要件は厳格にすべきものでございます。
 そこで、この二十七条におきましては、「取消しの原因となるべき事情」の疎明があることと、それから「償うことができない損害を生ずるおそれがあることにつき疎明」があることと、この二つを要件として重ね合わせたわけでございます。この前者の「取消しの原因となるべき事情」というのは、例えば債権者の提出した文書が偽造文書であることが明らかであるというような場合とか、あるいは法令の解釈が明らかに誤っている場合というようなことが考えられるわけでございます。
 そのことをより一層明確にしまして実務上の混乱を防止すべきであるという観点から、こういう修正がなされたものと承知いたしております。要するに、疎明される事情が取り消しの原因となるという関係が明らかな場合をいうものであるということを意味しているものと理解されます。
#114
○矢原秀男君 この原案では原状回復の裁判が必要的であったのに、衆議院ではこれが裁量的になっております。この点については当局はどういう所見なのか伺います。
#115
○政府委員(藤井正雄君) 原案におきましては、仮処分という極めて優位な地位にあった者が、それが取り消されたときには原状回復をするのが当事者の公平上当然であるという考えから、原状回復の裁判を必要的としていたものでございます。
 しかし、仮処分が取り消しになる事情というものはいろいろあり得るわけでございまして、例えば仮処分の基礎となる権利の存在は認められるけれどもその必要性がないとして仮処分命令が取り消されるという場合もあると思われます。そういう場合には、仮処分では債権者は結果的には負けたけれども本案訴訟では債権者の方が勝つのではないかという予測ができる場合もあるわけでございまして、事案事案によってそういう予測は必ずしも否定はできないと考えられるわけでございます。
 そのほか、事案によりましては、必ず返還を命じるというのが酷な場合もあるかもしれません。そこで、返還命令を発するか否かをそれぞれの事案に応じまして裁判所の裁量とするというのも一つの政策論として選択肢の中に入ってくるというふうに考えられます。そういうふうな意見に基づいて修正がなされたものと考えております。
#116
○橋本敦君 法案に入るに先立ちまして、ごく短い時間ですが、緊急に一般調査として質問したいことがありますので、まずそれから入ります。
 今大きな社会問題にもなっておりますが、元大阪府警警部補あるいは元香川県警警部補、こういった人たちが大手信販会社のセントラルファイナンス、ここにおりまして、絶対極秘で門外には出してはならないはずの国民個人の警察犯歴、これをデータとして流しておったという事実が明るみに出ました。私もその一端を事実をもって見てはおりますが、その回答内容が個人のこれまでの犯罪歴、それに加えて体の部位のどこに入れ墨があるとかそんなことまで書かれているという内容のものでありまして、こんなものが正当の理由なしに一民間会社に流されるなどということは、これはゆゆしい人権問題であります。まさにこれはそういった意味で法務省としては人権問題として厳しく調査する重大な事案だと思いますが、法務大臣の受けとめ方はいかがでしょうか。
#117
○国務大臣(後藤正夫君) このたびの警察が持っております犯歴等のデータが企業に漏えいしたと
伝えられております事件につきましては、関係の各地方法務局におきまして情報の収集に目下努めているところでございます。人権擁護という見地から遺憾のないように対処してまいりたいと存じております。
#118
○橋本敦君 人権擁護局長にお越しいただきましたが、今大臣がおっしゃるように法務省としては人権問題として大阪、高松と早速調査をされておるわけですか。そしてまた、この問題は重要な人権侵害事件として調査の結果、しかるべき厳しい処置をおとりいただくのが相当だと思いますが、いかがですか。
#119
○政府委員(高橋欣一君) ただいま新聞等の情報で探知できました事実のある土地を管轄する法務局、具体的に申しますと高松と大阪と名古屋の法務局におきまして事情の調査に入っております。その調査結果を待ちまして、適切な判断と処置をしていきたいと考えております。
#120
○橋本敦君 これは人権侵害事件だけにとどまりません。お忙しい刑事局長にわざわざ来ていただいたのは、現職の警察官が依頼を受けて外部にデータを流した、こうなりますと明白にこれは公務員法上の犯罪を構成する要件に該当する疑いが濃いと私は思うのですが、法的な立場でいかがですか。
#121
○政府委員(根來泰周君) 一般的にこういう事件の報道がなされますと、私どもは直観的にいわゆる秘密漏えい罪といいますか、秘密漏せつの罪を思い浮かべるわけでございまして、それが国家公務員に係るときには国家公務員法の百条違反、あるいは地方公務員に係るときには地方公務員法三十四条違反で、いずれも罰則は懲役一年以下、罰金三万円以下だと思いますけれども、そういう罰則が思い浮かぶわけでございますが、何分事実関係が明確ではないということと、それから私どもは犯罪捜査機関を所管しているものですから、捜査が尽くされる以前に犯罪の疑いあるいは犯罪の成否を論ずるというのは早計であろうと思いますので、その辺で御勘弁いただきたいと思います。
#122
○橋本敦君 一方、セントラルファイナンス側の元警官が現職警官にいろいろと工作をして秘密のデータを手に入れるということをしたというのであれば、私はその場合はいわゆる講学上刑法で言う共犯、教唆罪、これが成立する可能性が法的にはあると思いますが、いかがですか。
#123
○政府委員(根來泰周君) ただいま私どもの立場を申し上げましたように、具体的事案に即して、それが教唆罪あるいは一般的に共犯と言われますけれどもそういうものに当たるかどうかということは断言できないところでございますし、疑いについても何とも言えないところでございますが、講学上その主体と共謀した場合あるいは教唆した場合は共犯として処罰されることは事実でございます。
#124
○橋本敦君 今お話が慎重な言葉ではありますがございましたけれども、要するにこの事案は、事実を解明するならば人権侵害事件だけではなくて現職警官及び元警官であった当人にかかわる刑法上の罪を構成する、そういったことが重大な問題としてあるということであります。
 そういう意味ですから、私はこの問題は警察庁は単なる内部服務規律違反だとかあるいは通達違反だとかいうことではなくて、厳しくそういった人権侵害事件あるいは犯罪を構成する疑いのある違法行為事件として断固たる処置をとるべきだと思いますが、警察庁の見解はいかがですか。
#125
○説明員(関口祐弘君) お尋ねの点につきましては、現在香川県警察及び大阪府警察におきまして関係者の事情聴取等を含めまして事実関係を解明中のところでございます。その結果を見まして適切な対応をいたしたいというふうに考えております。
#126
○橋本敦君 今おっしゃった適切な対応というのは当然でありますが、私が指摘した重大な関係を含む重大事件だという認識はお持ちですか、こういうことです。
#127
○説明員(関口祐弘君) 先生の今の重大なという意味は、恐らく私の判断するところ犯罪云々ということかと存じますけれども、ただいま申し上げましたように現在は事実解明中のところでございますけれども、犯罪の容疑というものがあるといたしますれば法に照らしまして厳正に対処いたしてまいりたい、かように考えております。
#128
○橋本敦君 セントラルファイナンス側の元大阪府警警部補だとか香川県の元警部補だとかというのはこれは特定されておりますが、この人物の氏名を言ってください。
#129
○説明員(関口祐弘君) 現在香川県警察と大阪府警察におきまして元警察官の事情聴取をしているところでございますけれども、現在何分にも事実解明の最中でございます。そうしたことで現段階ではそうした人の氏名等につきましては差し控えさせていただきたいと思います。
#130
○橋本敦君 本当ははっきり言ってもらわねばならぬという重大な問題だと思うんですが、現職の警察官の側でこれらの人たちにデータを流した疑いがある、そういう状況ですから、この犯歴を取り扱う関係での警察官及びこの人たちから働きかけられた疑いのある警察官、そういった意味で警察官の側も厳重に調べる必要がありますが、もちろんそれはやるわけですね。
#131
○説明員(関口祐弘君) 事実解明を徹底するという意味で、現在のところは警察のOBの方から聞いておるところでございますが、またその調査の進捗によりまして関係の職員というものにつきましてもいろいろと調べをするということになろうかと思います。
#132
○橋本敦君 それは当然であります。
 ただ問題は、この元警部補という人たちが、あなたたちの調査にもかかわらず、現職警官のだれから、どこからその情報を入手したか、だれに依頼したか、これを黙秘して一切語らないということが報道されていますが、そういう状態ですか。
#133
○説明員(関口祐弘君) 現在までのそれぞれの府県からの報告によりますと、その元警察官が再就職先の信販会社での資料とするために、それぞれの警察に勤務する職員を介しまして個人情報の提供を受けていたということでございます。それがどういうルートで提供を受けていたかということにつきましては今後の調査にまつところでございます。
#134
○橋本敦君 すべてが今後の調査ということでありますが、大臣、お聞きのようにまさに重大な警察官の犯行の疑い、人権侵害の疑いがある事件であります。こういった事件について法務省が人権擁護の関係で厳しい調査をすることは当然でありますけれども、私はこの問題については地方公務員法違反という観点からも厳しく犯罪捜査という観点で追及していく必要があると思っておりますが、そういう立場で今後の徹底解明を早急にやるように、大臣としてもしかるべき立場で御見解を明確にしていただきたいと思いますが、いかがですか。
#135
○国務大臣(後藤正夫君) 法務省の立場でやれますことにつきましては、先ほど私が申し上げたとおりでございます。
 なお、関係各省につきましてはそれぞれ各省庁の立場で対処するものと考えておりますので、適正に行われるよう私も望んでおります。
#136
○橋本敦君 最後に刑事局長に一言伺いますが、警察庁は今言われたように関係者の調査を進める、こういうことであります。私は、先ほど指摘したように、これは地公法違反という犯罪にかかわるそういった重要な事実も解明によっては出てき得る事案だ、こう見て私は厳しい調査やあるいは取り調べをお願いするわけでありますが、検察庁としては犯罪捜査に責任を持つ当局としてこの問題の経緯に重大な関心を持っていただきたいと思いますが、いかがですか。
#137
○政府委員(根來泰周君) ただいま御指摘の点については、現地の検察庁も十分承知しているはずでございますから、適切厳正に対処するものと考えております。
#138
○橋本敦君 それでは、この問題は今後の解明を一層厳しく要求するということできょうは終わりたいと思います。関係者の皆さんありがとうござ
いました。
 そこで、本案に入ってまいります。
 この民事保全法につきましては、私は時間が余りありませんので、労働者の裁判を受ける権利なり労働者の権利が公正かつ的確に救済されるかどうかという観点から問題を見ていきたいと思うわけであります。
 そういう意味で、今度の保全法が保全手続の簡易迅速化ということを言っておりますが、労働事件というしばしば言われる重要なそしてまた複難な事件については、手続を迅速簡素化することによって労働者の権利救済が受けられないような事態をもたらすようなことがあっては絶対ならない、そういう立場で見ていかなくちゃならぬと思うわけであります。その点は民事局長、いかがですか。
#139
○政府委員(藤井正雄君) この民事保全法案は、仮差押え、仮処分の手続につきまして全体に通ずる一般的な通則を定めるものでございます。
 もちろんこの仮差押え、仮処分の事件と申しますのは多種多様なものがございまして、ただいま仰せになりました労働事件に関する仮処分もその一つの重要な分野をなしているわけでございまして、それらの全体を通じて手続が迅速にかつ審理を充実したものとして行われるような、そういう仕組みのものでなければならないと思っております。
#140
○橋本敦君 局長はしばしば、今度の改正につきまして、現在の実務で行われている審理の仕組みをこの法案で変えるというふうには毛頭考えていないとか、あるいはまた現行法において審尋という問題をとらえても、その審尋が証処調べ的性格を持っているという状況もあるけれども、そういったものについても現在行われている運用を根本的に変えることをこの法案は企図しているものではないということを言っておられますが、これは間違いありませんね。
#141
○政府委員(藤井正雄君) 今度の法案におきましては、現行法が判決手続を主体にして規定しておりますがために、判決手続を選択した事件につきまして極めて審理の遅延が著しい、そういう弊害を生じておりますのを除去して、仮処分事件が本来目指すべき審理、裁判の迅速化を実現するものとするそういう法制度を構築すべきである、こういうふうに考えて立案したものでございます。
 現に裁判所で行われている実務では、現在では判決手続で行われている事件は極めて数少ないものだというふうに承知をいたしております。それは、判決手続によったのでは事件の処理の遅延が著しいということがあらわれてきているから、実務上の知恵としていろいろな工夫を凝らして今のような実務慣行ができ上がったものだと思っております。そのような実務慣行につきまして、今私どもがこの法律の制定によりましてこれを動かすとかそういうふうな考えは持っているわけではないと申し上げているわけであります。
#142
○橋本敦君 その一つに、午前中北村委員からも指摘のあった大阪方式といういわゆる労働仮処分における審理の方式があるわけであります。私も大阪で数々の労働裁判事件を扱ってまいりましたから、この大阪方式がつくり上げられるプロセスについてはよく知っておる一人でありますけれども、先ほど最高裁民事局長がおっしゃったように、審尋ということではありますが、複雑な事案に応じて権利関係の存否の解明のために第三者の審尋も含めていろいろな工夫が積み重ねられてきたわけであります。
 例えば「判例タイムズ」の三百四十一号、三百四十五号では、昭和五十二年当時のことでありますが、「最近における大阪地方裁判所保全部の事件処理の実情」と題しまして裁判官がこれをまとめていらっしゃいます。そういった大阪方式の手続についてこれらの裁判官の皆さんは、この論文の中でも、労働仮処分を迅速かつ適正公平に処理するのに非常に有用だというようにおっしゃっており、また「労使双方いずれの当事者からも歓迎されこそすれ格別の批判攻撃を受けていない」というようにもおっしゃっているわけであります。つまり、労働者の地位保全の仮処分等労働裁判において大阪の保全部でこのように工夫されてきたのは、これは単に我々労働弁護士の側だけではなくて使用者の側の弁護士も同意し、かつ裁判所も合理的な審理方式を探求される中でこういった積み上げがなされてきたわけでありますから、そういった意味ではこの慣行はまさに関係者が努力をして積み上げてきた貴重なものだというように私も思うわけであります。
 そして、この点について先ほど最高裁の民事局長は、この法案が通った後も将来この大阪方式はどうなるかという北村委員の質問に対して、今後の帰趨にまつ、つまり推移を見なければならない、わからないというようにおっしゃっておるわけでありますけれども、この慣行が生かされる可能性もあるということもまた別におっしゃっておられます。
 そこでまず私は端的に伺いますが、最高裁判所としては民事保全法の成立後もこの大阪方式が慣行として続けられるということについて、それはこの民事保全法から見て許されないというような判断は全く持っていない、慣行として続けられる可能性もあれば、それが続けられればその審理方式もまた尊重していくことが可能だというお考えかと思いますが、いかがですか。
#143
○最高裁判所長官代理者(泉徳治君) 私どももただいま橋本委員から御指摘のありました論文を読ませていただいております。午前中の私の説明、若干言葉足らずだったかと思います。
 今度の新しい民事保全法案のもとにおきましては任意的口頭弁論という制度が設けられたわけでございまして、これはいわば大阪で行われておりますような第三者審尋を立法化したといいますか、認知した面もございます。そういった面で、大阪で行われている現在の第三者審尋のある一定の部分が任意的口頭弁論に移るという可能性もあるということを申し上げたわけでございまして、現在の大阪方式の第三者審尋がなくなるかどうかはわからないという趣旨で言ったわけではございません。大阪の第三者審尋というものは今後も継続していくものというふうに考えております。
 その後、私どもの方で大阪の現在の保全部でどういうような考え方を持っているかということを確かめてみたわけでございますけれども、大阪の方では新法案のもとにおきましてもこの長年の間培ってでき上がってきた大阪方式第三者審尋というものを続けていきたいと、こういう希望を持っているというふうに聞いております。
#144
○橋本敦君 この法案第八条で、最高裁は民事保全の手続に関して必要な事項を規則で定めると、こうなっておりますが、今大阪の裁判所が続けていきたいというようにおっしゃっている意向も尊重するならば、最高裁がお決めになるこの規則の中で大阪方式は認めない、許さない、そういうようなことが出てくるはずはないというように私は当然のこととして思っておりますが、それはそれでいいんですね。
#145
○最高裁判所長官代理者(泉徳治君) この法案が通りました暁に、早速最高裁判所規則の制定にかかるわけでございますけれども、現在のところの考えは橋本委員ただいま御指摘のとおりの考えを持っております。
#146
○橋本敦君 藤井民事局長も大阪で裁判官としてお仕事をなさいましてこの方式はよく御存じと思いますが、審尋室ではなくて、時には、重要関係者が多い場合、事案が複雑な場合、公開の法廷を使って審尋ということで当事者がそれぞれの関係者の尋問を行い、それを後にテープを起こして書面として疎明方法として提出するなど、口頭弁論に近い方式だけれども厳格な口頭弁論手続ではなくて審尋ということで、合理的に迅速にやる方法を探求してきたわけですね。こういったことで、今最高裁の御見解はよくわかりましたが、今後こういった方式が従来の慣行を生かして続けられていくということについて、今度は民事局長の立場ではどうお考えですか。
#147
○政府委員(藤井正雄君) 長年の実務上の知恵として慣行化され、生かされてきたものにつきまし
て私どもがとやかく申し上げる立場にはございません。
#148
○橋本敦君 そこで、ひとつ具体的に民事局長にお聞きしたいんですが、法案の第九条で、先ほども議論になりましたが、当事者の主張を明瞭にさせる必要があるときに口頭弁論または審尋で当事者を補助する者、当事者そのものでなくても補助する者、裁判所が相当と認めれば陳述をさせるこができると、こういった特例を認めております。これは口頭弁論だけではなくて審尋にもこの規定は適用されるわけですから、いわゆるここで言う審尋というのは保全手続の総則部分でありますけれども、民訴百二十五条の審尋、つまり講学上は第三者は審尋はできないという議論がなされるのが百二十五条ですが、それを超えてここではこの特例として総則的に審尋でも調べることができる、陳述させることができる、こう言って規定をしておる趣旨は、これはまさに民事保全法の今度の法案の審尋というのがいわゆる証拠調べ的性格を持つ審尋は一切許さないということではないことのあらわれと解釈してよろしいんですか。
#149
○政府委員(藤井正雄君) この第九条は、民事訴訟法の百三十一条に規定されております釈明処分の保全手続における一つの特例という位置づけで規定をしているわけでございまして、その限りにおきましては、これは争いある権利関係について当事者の意見、陳述、弁解の機会に際しまして、当事者そのものではなくても、その当事者に密接に関係のあるいわば準当事者というべきものに陳述の機会を与えるということでございます。したがいまして、ここでは証拠調べ的性格を持っている審尋だとは必ずしも考えておりません。しかしながら、そういう準当事者たるべきものが陳述をしたことは、これは裁判官の心証に影響を与えるものでございまして、審理の全趣旨の中に組み込まれまして実質的に心証形成の一助になるものと考えられます。
#150
○橋本敦君 この審尋の場所は審尋室でなければならない、どこでなければならないということは特に定めているわけではない。したがって、事情によっては大阪方式のように公開の法廷でやることも裁判官の訴訟指揮の問題としてあり得る。それから同時に、どの範囲で関係者を審尋するかもこれは大きく言えば訴訟指揮の範囲でありますけれども、いわゆる先ほどの大阪方式で言う第三者に近い関係者の審尋を行うという手続を任意的口頭弁論に近い形として審尋ということを運用してとるということについても、法三十条あるいは九条にかかわらずそれは裁判官の審理手続の裁量の問題、訴訟指揮の問題として尊重していくという立場は変わりませんか。
#151
○政府委員(藤井正雄君) 審尋は当事者の意見、陳述を書面または口頭で聞く無方式の手続でございまして、それ自体本質的に公開が要請されているものではございません。しかしながら、それをどのような場所でどのような手続で行うのか、どういう範囲で行うのかということは、この法律の規定の範囲内で裁判所の訴訟指揮にゆだねられるべき事柄であると思っております。
#152
○橋本敦君 最後に聞きますが、私が聞いたのは、その訴訟指揮にゆだねられるということは私もよくわかって聞いて、おっしゃるとおりなんですが、それが民事保全法、この法案が成立したときに違法だとか、この九条があるから三十条があるからだめだとかというような関係にはならないということを確認する、こういう質問なんですよ。
#153
○政府委員(藤井正雄君) そのようなことを申し上げるつもりはございません。
#154
○山田耕三郎君 民事保全法についてお尋ねをいたします。
 私のような法律の素人が民事保全法案に対する質問勉強をしてみて、その文言や文章の難解さには何とかならないのかと直観的に思いました。例えば本法律案の中にも「審尋」、「疎明」、「解放金」等の文言が随所に出てきます。しかも、この文言のいずれもが一宇漢字を含めて六万語程度が登載をされております卓上辞典程度の辞書には全然記載されておりません。岩波の広辞苑、小学館の国語大辞典等でようやくお目にかかれるものであります。最近流行の新語辞典にはさらさら見当たりません。
 例えば「審尋」について見ますと、小学館の国語大辞典には「裁判所が、ある事柄に関し書面または口頭で当事者・利害関係人・証人などに問いただし、陳述の機会を与えること。」と説明をしてあり、岩波の広辞苑にはごんべんの「審訊」がありますが、もちろん意味が異なり、「くわしくといただす」と説明されてありますとおりで、法案の「審尋」は見当たりません。「疎明」については、国語大辞典には「裁判官に、確信というまでには至らないが、一応確からしいとの推測を抱かせること。証明よりも低い程度の心証で足りる。」とあります。広辞苑も大体同様であります、この文言については。
 法律は、私は国民のためにあるものであり、法律の専門家だけのものではないと思います。国民がみずからを守るためには素人なりにも平素から法律に親しんでおくものでなければなりませんが、この状態では到底平素から親しめるものではありません。みずからを孤高に置き、国民を見下しておいでになるのかとさえ思わざるを得ません。今や世界の歴史が書きかえられるほどの大きな変化の流れが起こっておる時代です。難解な法律用語や文章を根本的に改め、庶民の近づきやすい法律にすべきと私は考えますが、法務省御当局の所信をお尋ねいたします。
 あわせて、なぜそれをかえることができないのかの理由も明示を願いたいと思います。
#155
○政府委員(藤井正雄君) ただいま委員から御指摘がございましたように、この法案の中に「審尋」とか「疎明」など民事手続法に特有な技術的、専門的な用語が用いられております。これは明治二十三年に民事訴訟法が規定されまして、その民事訴訟法全体を通じましてこのような用語が使われまして、その後百年間を経過し、その意味内容も確定してまいっておりますので、この法案でもこれを踏襲することとしたわけでございます。
 確かに、御指摘をまつまでもなく、法律は国民のためにあるべきものでございまして、わかりやすさということも非常に大事なことでございますけれども、何分この民事手続法におきまして一定の意味内容を持った概念として長年使われてきたものでございまして、これを今何かほかの言葉にかえようということになりますと、実はそれでもって大変混乱が生ずるわけでございます。
 「審尋」という法律用語につきましても、これに近いものとして連想されるのが「尋問」でございますとか「審問」でございますとか「聴問」でございますとか、いろいろ考えられるわけですけれども、それらはそれぞれ特別の、それに固有の意味内容を持ったものとして法律にも既に使われております。それらとはまた「審尋」というのは違った意味を持っております。
 また「疎明」は、これはただいま委員が辞典に記載されているものとして御説明がございましたが、まさにそういうもので意味内容を持っているものでございまして、これは証明とは心証の程度とかあるいは手続などが違うものでございまして、ほかに置きかえる適切な言葉も実はないわけでございます。そういうことで、これを踏襲して使わせていただきました。
 「解放金」と申しますのは、これはこの条文の中には使っておりません。条文の見出しとして二十二条と二十五条に使っておるのですが、これは実は学者が講学上の用語として使っておりましたものを、新しい法律をつくるに当たりましては見出しをつける必要がございますので、これを使ったわけでございます。
 この法律案の中では、そのほかの点では古い用語を若干の工夫をいたしまして言いかえたところも実はございます。
 それから、「疎明」にしろ「審尋」にしろ、「疎明」の「疎」とか「審尋」の「尋」は民事訴訟法に書いてある漢字を改めまして、現在の常用漢字を使うというふうな工夫はいたしておりますが、その辺が限度であったということを御理解いただき
たいと思います。
#156
○山田耕三郎君 私は大正生まれでございます。世間では、大正は遠くなりにけり、こう言われておりますけれども、ただいまの局長さんの答弁ですと明治でございますから、もう百年経過をいたしております。しかし、経過した百年は長うございますけれども、もうどれぐらいしたらかわるとかという見通しもないのでございますから、永久としか思えないように思います。おっしゃったように、確かにそれにかわる言葉は素人なりにも難しいなと思っておりますけれども、そこをやっぱりかえてもらわなかったらいつまでも太政官布告が生きておるというようなことになりかねませんので、その点また十分御検討をしておいていただきたいと思います。
 その次には、この民事保全法案は労働者等いずれかといえば社会的に弱い立場の人たちから大きな不安の声が起こっておりますことは、既に今朝来の質問の中でそれぞれの議員が出しておいでになります。今申し上げましたように、法律が一般的に難解な姿のままで国民から遊離しておる現状の中で、この民事保全法案の内容が、労働事件の仮処分の審理に当たって迅速化を理由に非公開の審尋だけで決定がされ、命令段階での審理が尽くされないおそれがあります。
 そういったことだとか、さらにはまた、決定で労働者の言い分を認めたとしても、不服段階での手続の簡略化で使用者の異議が出されると同時に執行停止が認められ、その上仮処分が取り消されると同時に原状回復の命令となりまして、そういったことが現実に行われていく可能性があります。これは仮処分が簡単に覆されるということであり、その決定の安定性に心配を抱かれるという原因になっております。
 さらには、この法案は使用者側からの立入禁止などの仮処分を容易にするばかりでなく、占有移転禁止仮処分の効力を拡大し、職場占拠などに対し善良な占有者の正当な権利まで侵害される場合も考えられます等々、案ずれば案ずるほど尽きることのない不安が内容とされた法律案だからであります。
 ただいま難解な法律用語の中でお尋ねをいたしましたように、疎明は裁判官に一応確からしい推測を抱かせる行為で、この程度の心証で足りるとありますけれども、そうしたら、その心証さえ抱かせたら後は裁判官の判断だけなのでございますけれども、果たして公平な審理が確保できるのかどうか、こういう心配に対して、心配がなければないということで御所見を賜りたいと思います。
#157
○政府委員(藤井正雄君) この民事保全法案に対しまして、労働者の側の方から労働関係の仮処分事件についていろいろと不安と申しますか、疑念の表明がなされてまいっておることはただいまお話のありましたとおりでございますけれども、私どもは全くそういう懸念はないものであるというふうに申し上げてはばからないところでございます。
 この法案は、審理の迅速化を目的とするというふうにかねて申し上げております。これは保全手続というものが本来的に迅速性を要求している本案の裁判の前の手続として、本案の裁判がより効果あるようにそれを保全することを目的としておるものでございますので、迅速になされなければならないのは当然でございますけれども、同時にそれは審理が十分に充実したものであることも要請をしているわけでございまして、仮処分にはいろいろな態様がございます。その態様に合わせてその事件に適した審理方式を選べるように、そして全体として迅速に手続が進むように、そういう配慮をしてこの法律案をつくったわけでございます。
 現行法のもとでも実際には判決手続というのはもうほとんど用いられませんで、おおむね決定手続によって行われておりますが、それに当たりましても相手方当事者の審尋などを通じまして十分にその意見、弁解などを聞いて手続が行われております。この運用自体まことに正当なものでございまして、それが今回の法案で妨げられるものではございません。
 衆議院におきまして二十三条に第四項を追加する修正が行われた、これは現行の実務で行われていることを法律の明文をもって明らかにしようということでございまして、このようなところにもそういう精神があらわれております。御心配のような事態が生ずるおそれがあるとは考えておりません。
#158
○山田耕三郎君 ただいまもお尋ねをいたしましたとおり、この法律が適正に運営されるためには裁判官の適正な判断が必要であります。裁判官も人間、わけても保全関係事件の審理の迅速化の要求の強い中で公正な判断を下せるようにするためには、それなりの手だてを必要とするかと思います。
 今日の裁判官は余りにも忙し過ぎると私は見ております。中央の状況はよく存じません。地方の裁判官においては一人で三役も四役もこなしておいでになるというのが現状であり、これでは事件数を減らしていくか裁判官をふやすか、いずれかの選択に迫られておる実情にあります。例えば疎明のために提出される資料も膨大な量になるそうでありますが、裁判官の負担軽減のためにも提出できる資料の範囲をさらに制限するなどのことは考えなくてもよろしいのかどうか。その辺についてお尋ねをいたします。
#159
○最高裁判所長官代理者(泉徳治君) 現行法のもとにおきましても、疎明の資料は即時に取り調べ可能なものに制限しているわけでございます。その上で、万一の誤りに備えまして債権者に担保を立てさせる、あるいは簡易な異議の申し立てを認めるという制度になっているわけでございます。つまり大枠におきましては、ただいま山田委員御指摘のような仕組みになっているわけでございます。
 そこで、疎明のための資料をさらに制限することはどうかということでございますが、仮処分と申しましても当事者に与える影響は千差万別でございまして、仮処分といえども当事者に極めて大きな利益、不利益を与えるものがございますので、そういった事件ではおのずから多くの資料の取り調べが必要となってまいりますので、一律に制限するのはいかがかと存じております。
 裁判所といたしましては、事案に応じ、当事者の提出する資料を取り調べますことは事実関係を可能な限り正しく認定するための不可欠の職務と考えておりまして、これにより裁判事務に特段の支障も生じておりませんので、裁判所の立場といたしましてもこの法案に盛り込まれた以上に資料の制限をするまでの必要はなかろう、このように考えている次第でございます。
#160
○山田耕三郎君 いずれにいたしましても、命令段階で当事者本人の審尋だけで、あとは裁判官の判断にゆだねられることは極めて危険なのではないかと思います。口頭弁論を経ることを原則として、柔軟な審理方式の選択の幅を拡大する必要があるのではないかと痛感をいたしておりますけれども、法務省の所信をお尋ねいたしまして、時間の関係で残りは次回の質問に譲ることにして、本日の質問を終わります。
#161
○政府委員(藤井正雄君) 保全命令の申し立てにつきまして口頭弁論を開くということは、債務者の陳述を聞くということになるわけでございますけれども、仮差押え、仮処分の事件というのは密行性のある事件が多い。すなわち、債務者が何か財産の隠匿をしようとしているとか不当な財産処分をしようとしているときに、それをあらかじめとめて財産関係を凍結しておくという機能を果たすわけでございますので、債務者に察知される前に手を打つ必要があるということが多いわけでございます。そこで仮差押え、仮処分につきまして原則として口頭弁論を開くということを規定するのはちょっと問題があるのではなかろうか。
 ただ、仮の地位を定める仮処分という範疇に属するものにつきましては、一般に密行性のない事件が多いと思われますので、今回修正によって加えられました二十三条四項におきまして、口頭弁論または当時者双方が立ち会うことのできる審尋
期日を経るということを定めたわけでございます。
 そういうふうにいたしまして、事案の性質に応じまして相手方当事者の地位を適切に保障していく、相手方に陳述の機会を与えないで仮差押え、仮処分の命令を発したときには、それより後に速やかに不当なものは取り消せるようにそちらの手続を整備をするということで、両当事者の公平を図るべきものだと思っております。
#162
○櫻井規順君 民事保全法の質問をさせていただきます。
 私自身も労使紛争で労働側の立場に立って、いわば第三者の立場で仮処分に携わり、数少ないですが借地借家の問題等で借地人、借家人の立場に立って第三者の立場でかかわってまいりまして、仮処分の決定にいたしましても充実あるいは迅速化ということを願うものでございます。果たして、この民事保全法がそうした市民の期待にこたえるものになっているかどうなのか、質問をさせていただきたいと存じます。
 最初に統計資料を見させていただきました。これ以上新しい資料を見るまでもなく、ここ数年の傾向を読み取ることができるわけでありますが、審理の充実迅速化、こういう主題になっているわけですが、この仮処分の決定状況あるいは決定に対する取り消しの状況等々を見てみた場合に、必ずしも遅延現象というのはこの表の中では見られないのではないか。それから仮処分決定に対する取り消し処分等も、減少こそすれ、ふえてはいないというふうに読み取りますが、ここの表に出ていないもう少し先の問題で、慢性的遅延というふうな現象で対応されているのかもしれませんが、その辺がどうなのか。それから、現状を見たときに現行制度の主要な欠陥というのは何なのか、その辺の御指摘を簡潔にいただければと思います。
#163
○政府委員(藤井正雄君) 合本の一番終わりの方にございます仮差押・仮処分事件統計表の四十ページにございますのは、仮処分事件につきまして口頭弁論を経たものと経ないものとを全部合わせたものでございまして、これを見る限りにおきましては、二年を超える審理期間を要したものは一・二%にとどまるわけでありますけれども、四十一ページの口頭弁論を経た仮処分事件の審理期間を見てまいりますと、二年を超えるものが三〇%、一年を超えるものというふうにいたしますと四九%のものがそれだけの審理期間を要しているということになります。
   〔委員長退席、理事矢原秀男君着席〕
これは迅速性を生命とする仮処分事件といたしましては極めて異例と申しますか、非常に長期を要していることを物語っているのじゃないかと思われます。また、四十二ページ、四十三ページには、異議、取り消しの既済事件についての審理期間が載っておりますが、これを見てみましても二年を超える審理期間を要したものが、仮差し押さえ関係では一八・七%、仮処分の方では二九%というような数字になっております。
 結局、口頭弁論を経ることによってこれだけの長い期間をどうしても必要とする、しかも異議あるいは取り消しの訴訟になってまいりますと、本案の訴訟と並行して進むがために同じような審理をして同じような手続を踏まなければならない、そこに顕著な弊害があらわれていると思われます。
#164
○櫻井規順君 仮処分の決定につきましては、傾向的に遅延現象というのは生まれていないと思うんです。それから一般的に仮処分の決定に対する異議申請、取り消し申請に伴う口頭弁論というのは、早く結論が出ればいいわけですが、手続上口頭弁論等を経るわけでございますので長期化するのはやむを得ない面があるのではないかと思うわけであります。
 問題は、今度の新法を制定するに当たって、やや重複をいたしますが、各地での労働問題の仮処分の申請を頭に私は描いて発言しておりますが、大阪の経験あるいは私のいる東海地方の経験等々、各裁判所で弁護士あるいは関係者を中心にそれぞれの地域で実績を積んできていると思うわけであります。そうした実績について今度の新法制定の上でどう配慮をしているのか。
 要するに充実にかかわる問題でございますが、それはもう当事者の意見をよく聞く制度になっていたというふうに思うわけであります。交互尋問制度、当事者主義の原則とかあるいは第三者証人尋問とか、特に処分取り消しの段階におきましては口頭弁論を中心に進めてきているわけでございまして、そうした充実という面におきまして各地のそういう実績というのをどういうふうに新法制定の過程で酌み取ったのか、その考え方、基本をお聞かせ願いたいと存じます。
#165
○政府委員(藤井正雄君) 昭和五十八年以来、法制審議会の民事訴訟法部会でこの民事保全法案に関しまして審議をお願いしてまいったわけでありますが、この手続に一番深いかかわりを持つのは弁護士でございます。そういう関係から、東京及び大阪の弁護士の方に委員として出ていただきまして、それぞれの方々にはその弁護士会において幅広く意見を集約していただきまして、それを審議の中に反映をするように努めたわけでございます。各地で仮処分につきましてはいろいろ審理についての慣行というべきものがございます。そういったものにつきましてもいろいろとお話を伺ってまいりました。
 そういうことを踏まえまして、例えばこの法律の第九条、十条、十一条というような保全命令発令手続に関して審理の充実を図るいろいろな手だてを法文の中に盛り込んだわけでございます。
#166
○櫻井規順君 かいつまんで言うと、これは衆議院の議事録で読んだところですが、今度の新法はこうした仮処分あるいは仮差押えの手続について出しやすく取り消しやすい法律として整備したのではないかと言っているわけですが、そういうふうに理解していいかどうか。
 そして、仮処分決定の手続にしても、あるいは取り消しの手続の仕方にしましても、審尋を原則として行う、そして債権者あるいは裁判官中心の進め方であって、債務者の立場というのはかなり任意的に行うものである。衆議院段階で二十三条四項の修正補強が入りまして、若干趣が変わってきたわけでございますが、そういう理解を私はしておりますが、認識の間違いでしようか。
#167
○政府委員(藤井正雄君) 今度の法案の特徴を、出しやすく取り消しやすいというような表現でもって言いあらわしたことがございます。これは多分に比喩的な表現でございまして、今までのように種類によっては非常に長期化するというようなことがあっては保全手続の本来の趣旨に合わないことでございますので、もっと迅速に裁判がなされるようにする必要があるということと同時に、そのような裁判がもし誤っている場合には、これまただらだらと取り消しに時間がかかるのではおかしいのでありまして、速やかに取り消しがなされるようにするべきであるということを表現したものでございます。
 しかしながら、これが迅速のみを意味して審理の粗雑化を招くものであるという誤解を与えたといたしますと、この言い方は必ずしも適切でなかったというふうに言わなければならないかと思います。
   〔理事矢原秀男君退席、委員長着席〕
 今回の改正法は、審理の迅速化と充実化の両面を追い求めるということに特色があるものと御理解をいただきたいわけでございます。
 審尋を行うかどうかということは、これは仮差押え、仮処分事件の個々の事案に応じまして裁判所がみずからの訴訟指揮の問題として決めるべきことであろうと思います。
 先ほども申し上げましたが、係争物に関する仮処分の場合には一般的に密行性が尊重されるがゆえに審尋というものは余り行われないでありましょうし、他面、仮の地位を定める仮処分の場合には一般的に密行性がございませんことと相手方に与える影響が非常に大きいということからいたしまして、審尋の行われる場合が多いであろうと思います。そういう運用でなされてまいったものと承知しておりますが、そのことを条文にあらわ
した方がいい、こういうお話でございまして二十三条四項のような修正が実現をしたわけでございます。
#168
○櫻井規順君 衆議院の法務委員会の議事録の中に、一九八一年十月、裁判官協議というものがなされて、全国の労働関係事件を担当しておられる裁判官が一定の協議をして何かまとめられた文書があるとのことでございますが、その中では、専ら今の仮処分あるいは仮差押えの手続について簡素化するということで幾つかの指摘があるようでございます。「当事者の方が本案化した審理を望む場合でも、裁判所としてはそうならないようにするのが、裁判所の基本的に採るべき態度ではないか」とか、あるいは「裁判官が自ら主尋問をやるという方向で無駄な尋問を省くということも可能ではないか」とか、労働仮処分事件の判決などが非常に長文のものがありますが、その判決の年月日と事件番号をもっと簡素化すべきであるとか、今度の民事保全法に流れるたくさんの考え方が指摘されているところでございますが、この最高裁の考え方というものが今度の民事保全法に結びついているのかどうなのかということを関係者にお聞きしたい。
 いま一つは、そもそもこの仮処分決定に対する最高裁の判断というものは既にあるわけでありまして、従来の判例でいきますと、仮処分決定というのは非常に重いものである、それを取り消し、執行停止というふうなことは極めて例外的なものに限るべきである、むしろ仮処分決定を取り消すということは本当に例外的なことであるというような観点に貫かれていたと思うんです。こういう立場を尊重すべきだと思うんですが、いかがでしょうか。
#169
○政府委員(藤井正雄君) 今回の民事保全法につきましては、昭和五十八年から法制審議会でいろいろ審議をいたしまして、その当初に私ども民事局の方から検討すべき問題点を提示しまして、各方面から意見を徴して、それを民事訴訟法部会の審議の中に反映をさせてきたものでございまして、最高裁判所でどういうふうな協議がなされていたかということは直接にもこの審議の中に出てきたわけのものではございません。それと今回の立法とは関係のないことでございます。
 それから、執行停止についてのお話があったかと思いますが、判例でもって執行停止が仮処分異議についても認められるということが打ち出されたわけでございますけれども、その要件が極めて不明確であった。これは明文の規定がないがためにそういう解釈上のあいまいさを残したままに推移してきたわけでございますので、仮処分の執行を停止するというのはごく例外的なことでなければならないはずでございますから、この際要件を明確化しようということで、極めて厳重な要件のもとにこの執行停止を認めることにしたわけでございます。
#170
○櫻井規順君 最後の質問でございますが、仮処分解放金の関係でお聞きしたいと存じます。私の地元の弁護士さんたちからもこれが一番問題だと、こういうふうな御指摘を受けているところでございます。
 賃金の仮払い仮処分決定が出されて、収入の道を断たれた労働者が当面の生活を保障されるわけでございます。しかし、この仮処分解放金として一定の金額が出されることによってその仮処分の執行が免除されるというようなことは避けるべきものだというふうに思うわけでございます。特に今までの仮処分の積み重ねの中で、きょうの審議の中でも出ておりましたが、いろいろと期限は切られているわけですが、結審になるまでそれの仮処分が生きるというふうなケースもたくさんあるわけでございます。そういう意味で仮処分解放金がこの権利の、何といいますか賃金分に比べまして著しく少ない金額でその仮処分決定が免除になるというようなケースが十分考えられるわけですが、そういう点がないようにどのような保障がなされているのか、これは余り適当な条文じゃないと思いますので、これは地元の私の弁護士先生たちの御意見では削除することを強く望んでおりまして、私はその負託を受けているわけでございますが、そういう心配がないかどうか。極めて適当な条文じゃないものですから、その意見を申し述べておきたいと思います。いかがでしょうか。
#171
○説明員(濱崎恭生君) 御指摘は仮処分解放金の制度が賃金仮払いの仮処分についても適用されるというおそれが条文上あるのではないかという御懸念かと思います。しかしながら、賃金仮払いの仮処分は二十三条二項に規定しております仮の地位を定める仮処分でございます。この仮の地位を定める仮処分は「争いがある権利関係について債権者に生ずる著しい損害又は急迫の危険を避けるためこれを必要とするときに発することができる。」というものでございますから、したがって、こういう仮処分につきまして債務者が解放金を供託するということによって債権者がその権利の行使の目的を達することができる性質のものではないわけでございます。したがいまして、事柄の性質上そういう仮処分につきまして解放金が付されるということは理論的にあり得ないというふうに考えてこの条文をつくっているわけでございます。
 それから、文言上から申しましても、第一条におきまして、いわゆる係争物に関する仮処分につきましては、その保全すべき権利について「権利」という表現を使っておりますのに対しまして、仮の地位を定めるための仮処分については「本案の権利関係」という言葉を使って明確に書き分けているわけでございます。その点は二十三条第一項と第二項を対比していただきましても、係争物に関する仮処分については「権利」という言葉を使っておりますし、仮の地位を定める仮処分につきましては「権利関係」という言葉を使っております。この区分というのは、この法律案の全体を通しまして厳格にそういう使い分けをしているわけでございまして、二十五条におきまして、保全すべき権利がこういうものであるときというふうに規定しておりますのは、そういう区分を意識いたしまして、この仮処分解放金を付することができるのは係争物に関する仮処分についてだけであるということを明確にする、そういうことを意識してこういう用語を使っているわけでございますので、理論上からも、また条文の文言上からもそういう仮払い仮処分について解放金が付されるということはあり得ないというふうに考えております。
#172
○委員長(黒柳明君) 本案に対する審査は、本日はこの程度といたします。
 本日はこれにて散会いたします。
   午後三時五分散会
ソース: 国立国会図書館
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