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#1
第108回国会 本会議 第2号
昭和六十二年一月二十六日(月曜日)
    開 会 式
 午前十時五十八分 参議院議長、衆議院参議院の副議長、常任委員長、特別委員長、参議院の調査会長、衆議院参議院の議員、内閣総理大臣その他の国務大臣、最高裁判所長官及び会計検査院長は、式場に入り、所定の位置に着いた。
 午前十一時 天皇陛下は、衆議院議長の前行で式場に入られ、お席に着かれた。
   〔一同敬礼〕
 午前十一時一分 衆議院議長原健三郎君は、式場の中央に進み、次の式辞を述べた。
   式 辞
  天皇陛下の御臨席をいただき、第百八回国会の開会式を行うにあたり、衆議院及び参議院を代表して、式辞を申し述べます。
  現下、わが国をめぐる内外の諸情勢は、まことにきびしいものがあります。
  このときにあたり、われわれは、わが国の現状と将来を広く展望し、外に対しては、諸外国との相互理解と協力をいつそう深め、世界の平和と繁栄に寄与するとともに、内にあつては、政治、経済の各般にわたり、時局に即応する適切な施策を強力に推進して、国民生活の安定向上をはかり、もつて国運の伸長に一段の努力をいたさねばなりません。
  ここに、開会式にあたり、われわれに負荷された重大な使命にかんがみ、日本国憲法の精神を体し、おのおの最善をつくしてその任務を遂行し、もつて国民の委託にこたえようとするものであります。
 次いで、天皇陛下から次のおことばを賜った。
   おことば
  本日、第百八回国会の開会式に臨み、全国民を代表する諸君と親しく一堂に会することは、私の深く喜びとするところであります。
  現下の内外の諸情勢に対処し、国民生活の安定向上と世界平和の実現に努めることは、極めて重要であると思います。
  ここに、国会が、国権の最高機関として、その使命を遺憾なく果たし、国民の信託にこたえることを切に望みます。
   〔一同敬礼〕
 衆議院議長は、おことば書をお受けした。
 午前十一時六分 天皇陛下は、参議院議長の前行で式場を出られた。
 次いで、一同は式場を出た。
   午前十一時七分式を終わる
     ―――――・―――――
昭和六十二年一月二十六日(月曜日)
   午後三時一分開議
    ━━━━━━━━━━━━━
#2
○議事日程 第二号
  昭和六十二年一月二十六日
   午後三時開議
 第一 国務大臣の演説に関する件
    ━━━━━━━━━━━━━
○本日の会議に付した案件
 議事日程のとおり
     ―――――・―――――
#3
○議長(藤田正明君) これより会議を開きます。
 日程第一 国務大臣の演説に関する件
 内閣総理大臣から施政方針に関し、外務大臣から外交に関し、大蔵大臣から財政に関し、近藤国務大臣から経済に関し、それぞれ発言を求められております。これより順次発言を許します。中曽根内閣総理大臣。
   〔国務大臣中曽根康弘君登壇、拍手〕
#4
○国務大臣(中曽根康弘君) 第百八回通常国会の再開に当たり、内外の情勢を展望して施政の方針を明らかにし、国民の皆様の御理解と御協力を得たいと思います。
 まず、昨年十一月末の三原山の噴火により、一時離島を余儀なくされた伊豆大島の方々に対し、心からお見舞いを申し上げます。幸い、噴火活動も小康を得、島民の皆様はお正月を大島で迎えることができました。私たちにとって、我が家で家族と団らんすることぐらい大きな喜びはありません。いわんやお正月においてをやであります。
 今後とも大島島民の皆様の幸せの日々を全国民とともにお祈りし、そのために全力を尽くす決意であります。
 本年は、日本国憲法が施行されてから四十年目に当たっており、憲法の基本理念である民主主義は、今や、国民の最もとうとい共有の財産となっております。私は、民主主義のすぐれた点は、人道主義の理想のもとに、独善を排し、衆議を求め、常にみずからを反省し改革を行って時代の要請にこたえていく柔軟性と力強い対応力にあると考えます。
 このような考えに基づき、私は、内閣総理大臣就任以来、政治の見直しと新しい政治の建設のために「戦後政治の総決算」を唱え、また、世界の潮流に沿った「国際国家日本」の建設を訴えてまいりました。
 幸い、国民の皆様の御協力により、行財政改革、国鉄、社会保障、教育等の分野における諸改革や、国際協調型経済構造への転換、国際国家への前進等は速度は遅くとも一歩一歩実現を見てきていると存じます。
 しかしながら、昭和六十二年の年頭に当たって痛感いたしますことは、我が国の立憲政治、すなわち民主政治、政党政治確立のこれまでの歩みの中で、戦後の約四十年間が、行政の簡素化や民主化、地方自治の充実、立法府と行政府相互間の適正な牽制と協力、政党の民意吸収と機能の充実などの民主政治の大本、議会政治の大道に実態的にいかほどの進歩をもたらしたかという反省であります。
 特に近年、我が国民主政治充実への努力という面において、戦争直後の燃えるような情熱が減衰し、形式主義やマンネリズム、漫然たる前例の踏襲が繰り返され、日に日に新たに熱情を込めて民主政治の改革と議会政治の新たな前進に挑戦する意欲が欠けてはいないかという憂慮を持つものであります。
 ローマは一日にして成らずといいますが、我が国の民主政治の発展のため、さらに忍耐と寛容、識見と勇気を旨として、その大本と大道を国民の皆様とともに切り開く努力を続けることを決意するものであります。
 今国会においては、税制の抜本的改革案等諸法案について御審議を願うことになっておりますが、日本国憲法施行四十年の記念すべき年に当たり、戦後民主政治全般について検討と建設的討議を行い、行政の責任を負うべき政府の分野についても貴重な御示唆を賜れば幸いとするものであります。
 これと密接に関連する衆議院の議員定数の抜本的是正の問題については、国会決議によって示された方針に基づく各党間の御論議を踏まえながら、政府としても最大限の努力をしてまいります。
 さらに、政治倫理の向上につきましては、国民からいやしくも疑念を持たれることのないよう、清潔な政治と規律ある行政の確立に引き続き努力してまいります。
 以上の考え方を踏まえ、国政の各分野について私の基本的考え方を申し述べます。
 今日の国際情勢は、東西関係、特に米ソを中心とする軍備管理・軍縮交渉の見通し等に必ずしも楽観を許さないものがあること、地域的な紛争や対立状態が依然として存在していることなど、基本的には厳しいものがあります。他方、このような状況のもとで、我が国の国際社会における地位の向上と影響力の増大に伴い、我が国が果たすべき責任も著しく高まっており、また、我が国に対する期待も急速に強まっております。
 このような観点に立って、私は、内閣総理大臣に就任以来、世界各国の首脳と世界の平和と繁栄を確保するため積極的に話し合いを進め、東西関係の打開や南北問題の解決などに微力を尽くしてまいりました。
 先般も、東西関係の接点にあるフィンランド、ドイツ民主共和国、ユーゴスラビア及びポーランドを訪問し、これら諸国との相互理解及び友好関係の増進を図るとともに、緊張の緩和と東西の政治対話の進展に向け、お互いに努力することにつき各国首脳と意見の一致を見てまいりました。
 もとより、我が国外交の基本は、世界の平和と繁栄のため、国連憲章を守り、価値観を共有する自由世界の連帯と団結を進め、また、アジア・太平洋の一員として地域の発展に貢献し、自由貿易主義を推進しつつ、開発途上国の経済と福祉の増進に積極的に協力することにあります。
 開発途上国に対しては、政府は、引き続き第三次中期目標のもとで、政府開発援助の着実な拡充と公正で効果的な推進を図るとともに、貿易、投資等を通ずる協力を促進し、累積債務国の努力に対応して、これらの国への資金の還流を進めてまいります。また、特に、国際機関を通じた資金協力にも最大限の努力を払っているところであります。
 一方、厳しい国際情勢の中で我が国の平和と安全を確保するため、日米安全保障体制を堅持するとともに、自衛のため必要な限度において、節度ある質の高い防衛力の整備を図っていかなければなりません。このため、政府としては、そのときどきの経済財政事情等を勘案し、他の諸施策との調和を図りつつ中期防衛力整備計画の着実な実施に努めているところであります。もとより、平和憲法のもと、他国に脅威を与えるような軍事大国とはならず、文民統制を堅持しつつ、専守防衛と非核三原則とを遵守するとの方針にいささかの揺るぎもありません。
 防衛費については、昭和五十一年の閣議決定「当面の防衛力整備について」にかえて、新たな閣議決定を行い、中期防衛力整備計画の期間中は、その所要経費を固定し、その枠内で各年度の防衛費を定め、その後におけるあり方については、改めて国際情勢及び経済財政事情等を勘案し、前述の方針のもとで定めることとし、同時に昭和五十一年の閣議決定の節度ある防衛力の整備を行うという精神は、これを引き続き尊重することといたしました。
 政府は、この閣議決定に基づき、防衛費の取り扱いに関しては、従来どおり慎重を期する所存であります。
 米国との関係は我が国外交の基軸であり、両国関係の一層の発展は世界の平和と安定の重要な礎石となるものであります。政府は、日米間の諸懸案の解決に最大限の努力を傾注し、友好信頼関係の一層の発展に努力してまいります。
 自由民主主義諸国の結束が求められている今日、米国と並ぶ重要な柱である西欧諸国とは、経済関係のみならず、政治、文化等広範な分野における協力関係を一層強化していきたいと考えます。
 ソ連との間では、北方領土問題を解決して平和条約を締結することにより、真の相互理解に基づく安定的な関係を確立することが、従来からの一貫した基本方針であり、政府は、引き続き、この方針にのっとり、日ソ関係を打開し、善隣友好関係を確立するために努力する所存であります。
 アジア諸国との関係につきましては、今後とも過去の歴史に謙虚に学び、一層の友好協力関係の強化に努め、その安定と発展のために積極的に協力してまいります。
 韓国とは、現在の良好かつ安定した関係をさらに発展させるとともに、朝鮮半島における緊張が緩和するよう、南北対話を支持し、さらには、来年のオリンピックの成功などに向けできる限り協力を行ってまいります。
 中国との間で、良好かつ安定した関係を維持発展させることは、我が国外交の主要な柱の一つであり、政府は、引き続き、日中共同声明、日中平和友好条約及び「平和友好、平等互恵、相互信頼、長期安定」の四原則を踏まえ、友好関係の一層の強化を図ります。
 ASEAN諸国に対しては、その有する豊かな可能性をそれぞれの国の発展に結びつけていくことができるよう可能な限り協力していきます。
 近年重要性が増してきている大洋州諸国及びカナダとの友好関係もさらに発展させてまいります。
 また、国際連合を通ずる国際協力を一層推進していくとともに、本年から二年間、国連安全保障理事会の非常任理事国として、世界の平和と安全の維持のため重要な責務を果たしてまいります。
 私は、行財政改革を初めとする諸改革の遂行を、国政上の最重要課題の一つとして位置づけ、全力を挙げてこれに取り組み、着実にその実現を図ってまいりました。
 戦後四十年を経て、税制を取り巻く我が国の経済社会情勢は、大きく変化してきております。このような変化に伴い、三十七年前にシャウプ勧告に基づきつくられた直接税を中心とする我が国の現行税制には、ゆがみ、ひずみ、税に対する重圧感等さまざまな問題が生じており、国民の皆様の不満や改善に対する強い要望は、もはや放置することを許されない状況にあると痛感しております。
 このため、政府は、重税感が指摘されていた中堅サラリーマンの負担の軽減を中心とする個人所得課税及び法人課税の軽減合理化と見直し、間接税制度の改革及び非課税貯蓄制度の再検討を大きな柱とする抜本的な税制改正案を今国会に提出することとしております。
 今回の税制改革は、国際的潮流とも調和したものであり、この改革によって、我が国の経済活動や国民生活が従来の制約を破り、新たな活力を獲得し、二十一世紀に向け、広大な新天地において自由に発展の道を歩むことを念願するものであります。
 政府は、全力を挙げて関連法案の速やかな成立を期するものであります。
 また、我が国の経済の発展と国民生活の安定向上を図っていくためには、引き続き財政を改革し、その対応力を回復しなければなりません。
 このため、昭和六十二年度予算においても、経費の徹底した節減合理化に努めたほか、可能な限り税外収入の確保を図ったところであります。公債依存度は、実績において昭和五十七年度の二九・七%から、昭和六十年度には二三・二%に低下し、また、昭和六十二年度予算においては、特例公債発行下初めて二〇%を下回ることができ、財政改革は一歩一歩その歩を進めてきております。
 また、地方財政については、所要の措置を講じ、その円滑な運営を期することとしております。
 教育改革は、二十一世紀に向けて我が国が創造的で活力ある社会を築いていくために、ぜひとも推進していかなければならない重要な課題であります。
 政府は、臨時教育審議会の二度にわたる答申を受けて、大学入試の改革、教育内容の改善、教員の資質向上、高等教育の個性化、多様化、国際化、学術研究の振興などに向けて、鋭意努力しているところであります。
 また、昨年、東京サミットで私が提唱したハイレベル教育専門家会議が、今月十九日から京都で開催され、各国が当面する教育の諸問題とその改革、教育分野における国際協力等について熱心な討議が行われ、その結果は、ベネチア・サミットに報告されることになりました。
 いじめの問題については、まず学校において適切に対応していくことが何より重要であり、家庭、地域社会がこれと一体となって取り組むよう施策を推進しているところであります。また、青少年の健全な育成のため、野外活動やボランティア活動等社会参加活動も促進してまいります。
 行政改革における最大の懸案であった国鉄改革は、さきの国会で関連法案が成立し、これによって国鉄事業を二十一世紀に向けて未来ある鉄道事業として再生させるための軌道をしくことができました。政府としては、現在、本年四月一日からの新経営形態への移行を円滑に実施するため、諸準備を進めてきているところであり、また、国鉄職員の雇用対策を、国鉄改革実施に当たっての最重要課題の一つと認識し、全力で対応しているところであります。
 行政組織の簡素化、国家公務員の定員縮減、特殊法人等の整理合理化、地方行革の推進などについては、昨年末に、昭和六十二年度に実施する予定の行政改革方針を取りまとめたところであり、この方針の着実な具体化を推進いたします。
 また、政府は、さきの国会において設置が決定された新たな臨時行政改革推進審議会が十分成果を上げ得るよう、その発足に向けて諸般の準備を進めてまいります。
 さらに、地方公共団体の自主性、自律性の強化を図るとともに、地方行革大綱に沿って、地方公共団体の行政改革が自主的、総合的に推進されるよう、その積極的な促進を図ってまいります。
 世界経済は、緩やかながらも息の長い景気拡大を続けておりますが、米国の財政赤字、主要国における対外不均衡、これらを背景とする保護主義的な動き、さらには、開発途上国における累積債務問題など多くの問題を抱えております。一方、我が国経済は、全体として景気に底がたさはあるものの、産業により格差が生じており、雇用問題を重視しなければならない状況に立ち至りつつあります。
 他方、我々は、臨時行政調査会の答申を最大限に尊重して、むだのない効率的政府を目指す厳しい財政改革の途上にあります。昭和六十二年度末の国債残高が百五十二兆円に達しようとしている状況において、最も心しなければならないことは、子孫たちに過大な負担を残さないように現在の我々が汗を流すことであります。しかしながら、このような中にあっても、我が国としては、円高の進展に対し、各般の施策の連携のもと、引き続き適切に対応していくとともに、雇用の安定や地域経済の活性化を図り、調和ある対外関係の実現、さらには、世界経済活性化へ積極的貢献を行っていくため、内需を拡大し景気を活気づけるべく、予算の肥大化を避けつつ最大限の努力を傾注しなければなりません。
 このため、昭和六十二年度予算においては、財政投融資等の活用により、一般公共事業につき昨年よりさらに事業規模の拡大に努めたところであり、また、都市開発、リゾートゾーンの整備等の施策を強化するなど引き続き民間活力が最大限に発揮されるよう環境の整備を行います。
 また、為替レートについては、今後とも、経済の基礎的条件を適正に反映した為替相場の安定を実現するため各国と幅広い話し合いを続けるなど努力いたします。
 円高差益の還元については、電力、ガスに関し、総額約二兆円の家庭及び企業に対する還元措置が一月から新たに実施されました。また、今後とも、輸入品等について、円高差益の還元の促進と監視に努めてまいります。
 特に、最近の厳しい雇用情勢に対応するため、格別の対策を講ずることとし、昨年十二月には、政府・与党雇用対策推進本部を設置し、雇用機会の増大と雇用の安定に政府・与党一体となって取り組んでいるところであり、産業構造の転換等に対応した緊急対策として、約一千億円の予算により三十万人雇用開発プログラムを実施いたします。
 また、地域雇用対策の充実、不況地域の経済の活性化等による雇用機会の創出、産業構造の転換の円滑化等を図るための特別立法の準備等を進めるとともに、円高等の厳しい環境に直面している中小企業については、下請企業の構造調整への支援を初めとする構造転換対策等を強力に実施いたします。
 さらに、国際社会へ積極的に貢献するとの観点からも創造的技術開発を総合的に推進するとともに、高度情報化社会に向けて基盤整備を進めます。
 政府は、昨年五月に策定した経済構造調整推進要綱に基づき、市場アクセスの改善と製品輸入の促進等を図るとともに、国際的に調和のとれた産業構造への転換のための諸施策を着実に推進いたします。
 特に、農業政策については、内外価格差の是正、生産性の一層の向上等に国民各層から強い関心が寄せられているところであり、政府としては、二十一世紀へ向けての農政の基本方向に関する先般の農政審議会の報告を尊重し、農業者、農業団体と協力し、国内の供給力の確保を図りつつ、構造改善を進め、国民が納得し得る価格で農産物が供給されるよう逐次政策の適切な運営、改革に努めてまいります。
 また、長期的な雇用機会の確保と国際社会における先進国の労働時間との水準調整のため、法定労働時間の改正等を進めます。
 さらに、ガットのウルグアイ・ラウンドの提唱国として、自由貿易体制の維持、強化を図ります。
 我が国の戦後の目覚ましい発展は、今や、長寿社会の実現という大きな成果として実を結んでまいりました。国民すべてが長い一生を安心して生きがいを持って暮らすことができるよう、豊かで、活力ある経済社会システムへの転換を進め、急速に迫り来る本格的な長寿社会に的確に軟着陸していかなければなりません。
 政府は、この観点から、昨年六月策定した長寿社会対策大綱に基づき、総合的な政策の実施を進め、国民の皆様の協力を得て、世界の模範となる質の高い長寿社会の実現を期してまいります。
 人生の幸せのもとは健康と生きがいにあります。すべての国民が、生涯を通じて健康な生活を送ることができるよう、きめの細やかな保健医療対策を推進いたします。特に死因の第一位であるがんの制圧について「対がん十カ年総合戦略」に沿って、政府は懸命の努力を払い、その成果も上がってきておりますが、引き続き、その推進に取り組んでまいります。エイズ対策、難病の克服に努め、また、覚せい剤等の乱用防止にも努力してまいります。
 生きがいを確保する重要な基礎である社会保障については、長期的に公平で安定した制度を目指し、医療・年金制度等の諸制度について累次の改革を行い、またさきの国会で老人保健制度の改革を見たところであります。今後とも、医療保険、年金について、一元化の検討を進めるなど長寿社会にふさわしい制度の確立に努めてまいります。
 また、高齢者の社会参加の促進、痴呆性老人対策、寝たきり老人対策の充実を図るとともに、本年は、「国連障害者の十年」中間年に当たっており、障害者対策の一層の強化に努めてまいります。
 婦人の地位向上のため、さきに制定した法律に基づき雇用の分野における男女の機会均等の確保を図るほか、社会の各分野にわたるきめの細かい施策をさらに積極的に推進してまいります。
 本年は、「国際居住年」に当たっており、この分野での国際協力を進めるとともに、住宅建設の促進、良質な宅地の計画的供給等、我が国の住宅問題の改善にも積極的に取り組んでまいります。
 東京等一部地域における地価高騰の問題に対しては、投機的土地取引の抑制、土地の需給バランスの改善のための施策を講ずるほか、昨年十二月に設置した地価対策関係閣僚会議を機動的に運営する等地価対策を総合的かつ強力に実施いたします。
 さらに、国民生活の安全を確保するため、災害対策のほか、治安の確保、交通安全対策の充実にも努めてまいります。特に、広く国民に不安を与えるテロ・ゲリラ事件等については、国民の皆様の御協力を得てその防圧に努めてまいります。
 豊かな社会を建設していくためには、国民一人一人が愛着を持って暮らすことのできる国土づくり、水と緑に恵まれた豊かな自然や歴史と文化の薫りあふれる生活環境づくりを進める必要があります。このため、大都市圏、地方圏を通じ、各地域がそれぞれの特性を生かし、国土の均衡ある発展を図るとの観点から、多極分散型の国土の形成を目指す第四次全国総合開発計画を策定し、二十一世紀に向けた国土づくりの指針を明らかにする所存であります。
 さらに、日本の伝統的芸術の振興、新しい芸術文化の創造、スポーツの奨励等、青少年を初め広く国民が健康で心豊かな生活を享受することができるよう施策を充実させてまいります。
 第二次世界大戦後、平和と自由な経済体制を背景に、国際間の相互交流は飛躍的に拡大し、また、各国の内部にもさまざまな変化が起きつつあります。
 私は、二十一世紀に向けて、真の「国際国家日本」を建設して、世界の平和と繁栄に積極的に貢献していくために、我々が基本的に銘記しておかなければならない重要な二つのことがあると思います。
 第一は、世界において多様な生活信条や異なる文化が存在することを認識し、それらを理解し受け入れる寛容さと、さらに積極的に相互協力を進める熱意がなければならないということであります。
 その基本的立場に立って、我々日本人が新しい世界文明の創造に意欲的に参加し、貢献していかなければなりません。そのためには、まず、我々が、我が国の長い歴史の中ではぐくんできた文化的特質や伝統をもう一度掘り下げて分析し、学問的批判に十分耐え得る科学的研究成果を体系化し、積極的にそれを世界に向けて正しく説明していくことが必要であります。このような観点から、国際日本文化研究センターを設立することとしております。
 世界の人々が、現代の日本について特に注目している点は、その古い文化的伝統と近代科学の両立であります。例えば、関西地方を訪れる外国人は、奈良や京都にある法隆寺や桂離宮のような古い文化的遺産の近くに、世界の最先端をいくエレクトロニクスの研究所やファインセラミックの製造工場を発見し、目をみはるのであります。
 我が国においては、近代科学が伝統を押しつぶしてしまうことなく、我が国固有のきめの細かい繊細な感性がIC製造技術や通信ソフトウエア開発技術の有力な基礎となり、その特性を発揮しているのであります。また、生産組織や社会の運用についても、思いやりと合意を中心にする日本人の生き方は、そこに近代科学を取り入れて、均衡と調和力と発展性に満ちた平和な社会や生産効率の高い産業をつくり出しているのであります。
 私がかねて主張しておりますように、科学技術は文化のすべてを覆い尽くすものでなく、文化の一部としてこれを人間が適正に位置づけることが重要であります。
 我々は、このように固有の民族的特徴及び古い文化的伝統と近代科学を巧みに、そして相互に補完結合させ、それぞれの特色を発揮させ合う日本人の生き方の独自性を、誇るべき特色として子々孫々にわたって維持し、発展させるべきであります。
 もちろん、独善偏狭な民族主義、国家主義は避けなければなりません。高度情報化時代になって地球はさらに狭くなり一つの世界が着実に実現しつつあるのであります。
 今や、世界の発展なくして日本の発展はないこと、我々は日本人であると同時に「地球村」の住民であること、そして、我々の終局的目標は、世界の新しい文明の創造に参画することであることを常に肝に銘じなければならない時代なのであります。
 第二は、「国際国家日本」として、世界の平和と軍縮、東西・南北間の融和と協力に努力しなければならないということであります。特に、核兵器の存在のもとに苦悩している現代世界において、人類共通の最高にして最重要の現実的課題の一つは、世界平和の確保と核兵器の終局的廃絶であります。
 我が国は、貿易によって初めて生存していける国家であり、また、貿易にとって必要不可欠の条件は平和であります。平和の確保は、人道的にも経済的にも我が国にとって決定的に重要なことであります。
 私は、今や、戦争の最大抑止力は、長い目で見て、人権尊重と国の内外における自由な情報交流であると信じます。
 もし、今日のように、衛星通信によってテレビの即時中継があったなら、第二次世界大戦は起きなかったでありましよう。
 私は、先般、ヨーロッパ四カ国を歴訪してまいりましたが、人と人との心の間には、いわゆる「鉄のカーテン」を感ずることはほとんどありませんでした。国境を越えて交流しているテレビやラジオ放送は、人間の意識の中においてカーテンや壁を消滅させているのであります。
 このような見地から、我々は、平和確保のために、人権尊重の保障と情報の自由交流を国際的に強化し拡充することを強く推進してまいりたいと存じます。
 また、当面の国際問題打開のために最も重要なことは、国際間における対話と協調の継続であり、東西・南北問題もこの考え方により可及的速やかに解決を促進すべきであります。
 米ソ両国の首脳は、レイキャビク会談のいわゆる潜在的合意を、今度こそ真に成果あるものとすべく早期に再び取り上げ、米ソ首脳会談を再開されんことを強く要望するものであり、我が国もこのために側面的に協力する決意であります。
 また、南北問題解決のための努力の一環として、国連貿易開発会議、ガットのウルグアイ・ラウンド等においても開発途上国の主張に耳を傾け、相互協調によって問題解決に努力していく所存であります。
 今、我が国は、コンピューター、マイクロエレクトロニクス等の新しい技術を基礎とするいまだ全貌のわからない高度情報化社会の入り口に立っております。
 我が国は、これまで欧米諸国の後を追う形で発展を遂げ、この面で世界の最先端に位置する国の一つにまでなりました。今や、みずから風を正面に受け、波濤を越えて、新しい地平線を開拓していかなければならないのであります。
 また、日本の歴史上、いや世界の歴史でも初めての本格的長寿社会が目前に迫っており、我々は、旧来の人生五十年から人生八十年や社会の仕組みの設計変更を行いつつ、対応しているところであります。
 我々は二十一世紀を目前にし、国際社会において日本が名誉ある地位を占めるために、そして、子供たちに、国の負債をできるだけ残さず、世代間の公平を確保し、長期的に、安定し充実した生活や社会の仕組みを確立して、引き渡していくために、今、苦難に満ちた改革を行っております。国鉄の大改革も、緊縮と節約の財政も、医療や年金制度の改革も、税制の大改革も、結局は、すべてこのための改革なのであります。
 かつて駐日大使として在任した著名な米国の日本学者エドウィン・ライシャワー博士は、昨年の八月、その著「ライシャワーの日本史」の序文で次のように述べております。「日本人はいまや自らの将来の方向を決めるべき重大な局面にある。あと数十年間にわたる彼ら自身の運命を決するような大決断に直面している。賢明な決断を下すにあたっては、過去のすぎゆきと現在の可能性とをできるだけ明確に把握することが欠かせない。」と言っております。
 二十一世紀まで残す時間はわずかでありますが、なお克服すべき問題は山積しております。それは、あたかも乗り越えていくべき連山を望むがごときであります。
 しかし、この議場でかつて私は申し述べたことがございますが、このような重大な困難と危機のときにこそ、日本人は常に大局を失わず、団結を強固にして苦難を乗り切ってきたのであります。
 過般の第二次大戦及び戦後の日本が経験した苦悩を全く知らず、パソコンを巧みに使いこなし、素直に、純真に、すくすく育っている子供たちや孫たちに充実したよりよき二十一世紀の日本を引き渡すために、我々は、休むことなく、手に手をとって、この山々を踏破し、前進しようではありませんか。
 重ねて国民の皆様の一層の御理解と御協力をお願いする次第であります。(拍手)
    ―――――――――――――
#5
○議長(藤田正明君) 倉成外務大臣。
   〔国務大臣倉成正君登壇、拍手〕
#6
○国務大臣(倉成正君) 第百八回国会が再開されるに当たり、我が国外交の基本方針につき所信を申し述べます。
 今日、我が国を取り巻く国際情勢は、引き続き楽観を許さない状況にあります。
 国際政治面では、東西関係が依然として厳しい状況にある中、昨年十月、レイキャビクにおいて米ソ首脳会合が開かれました。同会合では、軍備管理・軍縮を初めとする諸問題について、突っ込んだ話し合いが行われ、進展の兆しが見られましたが、結局、具体的合意を得るには至りませんでした。
 他方、インドシナ、中東、アフリカ、中米などの地域では、紛争や混乱が続いており、さらに、国際的テロ事件の頻発も、国際情勢の不安定要因になっております。
 世界経済については、昨年九月のガット・ウルグアイ・ラウンドの開始、インフレ率の大幅低下、金利の低下、国際的政策協調の進展など、明るい側面がある一方、経常収支不均衡や高い失業率を背景とした保護主義的圧力の増大、累積債務問題など、依然多くの問題が見られます。
 このように厳しい国際情勢のもとにおいて、自由世界第二の経済力を持つ我が国が果たすべき役割に対し、世界の関心はますます高まりつつあります。我が国が、国際社会の中で孤立することなく、引き続き繁栄していくためには、異なる文化に対して寛容かつ謙虚な姿勢を保つとともに、世界に開かれ、世界に貢献する日本を目指して、より積極的な役割を果たしていくことが肝要であると考えます。
 そのため、我が国としては、単に自国の短期的利益のみを追求するのではなく、各国と互いに痛みを分かち合い、ともに長期的な繁栄を確保していくとの、より高次の視点を持つことが不可欠であります。私は、かかる観点から、国際社会の直面するさまざまな課題を我が国がみずからの問題としてとらえ、これに積極的に取り組んでいくことを提唱いたしたいと思います。
 十四年後に迫った新しい世紀の始まりに向けて、各国とともに明るい未来を切り開いていくために、我が国外交に課せられた使命はまことに重大であります。私は、このような認識に立ち、日本外交の課題に一つ一つ誠実に対処していく所存であります。
 我が国が、平和と繁栄を維持していく上で、自由と民主主義という基本的価値観を共有する西側先進諸国との連帯と協調は不可欠であります。重要なことは、我が国を含む西側諸国が、緊密な協議と連絡を保ちつつ、おのおのの国力、国情にふさわしい役割と責任を分担することにより、全体として最大限の力を発揮していくことであります。
 我が国としては、軍備管理・軍縮の促進のため、みずからなし得る限りの努力を傾注するとともに、より安定した東西関係の樹立を目指す米国の努力を支援し、また、ソ連に対しては、建設的姿勢で臨むよう呼びかけていく所存でございます。
 日米安保体制を基盤とする日米友好協力関係は、我が国外交の基軸であります。我が国としては、防衛力の整備と並んで、日米安保体制の一層円滑な運用のため引き続き努力していく考えであります。日米両国は、それぞれの貿易不均衡是正のためさまざまな努力を傾注しておりますが、米国においては、議会を中心として保護主義的機運が一層高まっております。先般のブラッセルにおけるシュルツ国務長官との会談でも、日米経済をめぐる状況は依然として厳しいとの認識のもとに、今後とも両国経済関係の健全な発展を図り、日米関係を円滑に保つべく、一層の努力を重ねていくことを確認し合いました。
 日米関係は、今や世界的視野に立った協力関係にまで発展しており、我が国は、米国との協力の維持強化を通じ、広く世界の平和と安定に寄与していく所存であります。
 カナダとの間では、昨年の両国首脳の相互訪問を通じ樹立された新たな協力関係の一層の増進を図っていく考えであります。
 西欧諸国との間で緊密な連帯と協調を図っていくことは、我が国外交の主要な柱の一つであります。西欧が、統合と域内協力により、国際社会において政治的、経済的に重要な地位を占めていく中で、幅広い日欧関係の強化が一層重要となっておりますが、貿易不均衡問題をめぐる西欧側の対日姿勢には極めて厳しいものがあります。私は、先月訪欧し、日・EC委閣僚会議に出席するとともに、ベルギー、イタリア、バチカン及びフランスを訪問し、またブラッセルにおいてハウ英国外相などと会談しましたが、今後ともこのような日欧間の対話を積み重ね、経済摩擦の解決を図るとともに、日欧関係の一層の強化のために努力をしていく所存です。
 軍備管理・軍縮を進めるには、力の均衡による抑止を維持しつつ、軍備のレベルを一歩一歩下げていく地道な努力が必要であります。我が国が、昨年十二月より開始した核実験検証能力向上のための地震波データ交換実験は、かかる努力の一環であります。我が国は、今後とも、現実的な軍縮審議の活発化に貢献してまいる所存であります。
 我が国は、アジア・太平洋国家として、域内諸国との友好協力関係の一層の強化を図りつつ、この地域の発展のために積極的役割を果たしてまいる所存であります。
 そのため、我が国は、歴史とその教訓に学び、アジア・太平洋諸国の自主性を尊重するとの基本的立場に立ち、平和国家として同地域の安定に貢献すること、広範な分野における交流と対話を進め、相互理解と相互信頼を確立すること、及び、真に各国の必要とする協力を推進していくことを目指していく考えです。
 韓国との関係は、一段と緊密の度を増しており、政治、経済、文化等のあらゆるレベルで両国のきずなを強化させていく必要性につき両国の認識は一致しております。朝鮮半島における南北対話は、昨年一月以来中断されたままとなっておりますが、同半島における緊張緩和の実現のために、南北両当事者間の対話が早期に再開されることを期待するとともに、一九八八年のオリンピックの成功のためできる限りの協力を行っていく考えであります。また、北朝鮮との間では、経済、文化等の分野における民間レベルの交流を今後とも積み重ねていく方針であります。
 中国との友好協力関係の維持発展は、両国にとってのみならず、アジアひいては世界の平和と安定にとり緊要であります。最近の中国の政治情勢については、政府としても、深い関心を持って見守っておりますが、今般来日した田紀雲副総理よりは、日中関係を含む中国の対外基本方針に変更はないとの説明を受けた次第です。私は、今後とも、日中共同声明、日中平和友好条約及び日中関係を律する四原則に従って、各般の交流を推進するとともに、中国が種々の困難の中で進めている経済建設に対し、引き続き協力してまいりたいと思います。
 東南アジアの安定勢力であるASEAN諸国との間では、引き続き友好協力関係の着実な進展を図るとともに、現在、これら諸国の多くが経済的な試練に直面していることを踏まえ、同諸国に対しできる限りの協力を続ける所存であります。特に、フィリピンにつきましては、昨年十一月にアキノ大統領を国賓として迎えましたが、我が国としても、フィリピン政府が進めている新たな国づくりに支援を惜しまぬ所存であります。
 東南アジアの平和と安定のためには、カンボジア問題の政治解決が不可欠であり、我が国は、ASEAN諸国の和平への努力を支援し、ベトナム等関係諸国との対話を重ね、平和への環境づくりに努力してまいります。
 我が国と南西アジア地域諸国との関係については緊密化が進み、ブータンとの外交関係も樹立いたしました。この地域においては、南アジア地域協力連合の活動も活発化しております。我が国としては、今後とも、この地域の安定的発展に対し協力していく所存であります。
 私は、今般、豪州、ニュージーランドを訪問し、豪州では第九回日豪閣僚委員会に出席し、世界経済の環境の変化に伴う日豪両国の新たな協力関係拡大の方途につき、忌憚のない意見交換を行いました。また、この機会に、近年、重要性を増しているフィジー、バヌアツ、パプアニューギニアといった太平洋の島嶼国を訪問し、これら諸国との関係強化に努めてきました。特に、フィジーでは、我が国と太平洋島嶼国との関係強化のための具体的方策に関する所信を明らかにし、我が国の積極的姿勢を強く打ち出したところであります。
 また、アジア・太平洋地域の調和のとれた発展を目指して、民間レベルを中心とした太平洋協力が進展しつつあることは歓迎すべきことであり、政府としても、引き続きASEAN諸国、太平洋島嶼国などの意向を尊重しつつ、これに協力してまいる所存であります。
 我が国とソ連との間では、昨年八年ぶりに、しかも二度にわたり外相間定期協議が行われてこれが定着化し、さらに、領土問題を含む平和条約交渉が再開され、その継続が合意されました。その際、最高首脳レベルを含めて、日ソ間の政治対話の一層の強化につき合意を見ましたが、これらは、今後の対ソ政策をを進めるに当たって重要な第一歩であったと考えます。
 我が国としては、ゴルバチョフ書記長が訪日の意欲を示していることを歓迎するものであり、この訪問が早期に実現することを期待しております。
 領土問題について、ソ連は依然かたくなな立場をとっておりますが、昨年十月、衆参両院において改めて全会一致で採択された北方領土問題の解決促進に関する決議の御趣旨をも体し、北方領土問題を解決して平和条約を締結することにより、真の相互理解に基づく安定した関係をソ連との間に確立するという不動の基本方針にのっとり、今後とも、北方四島一括返還の実現に向けて、粘り強く努力を重ねてまいる所存であります。
 今般、中曽根総理が、我が国総理として初めて、フィンランド、ドイツ民主共和国、ユーゴースラビア、並びにポーランドを公式訪問し、各国最高首脳との間で忌憚のない意見交換を行ったことは、これら諸国と我が国との関係発展に新たな弾みを与えるとともに、東西間の政治対話と相互理解の増進にも寄与するものとして極めて有意義でありました。
 中近東では、国家間、民族間の対立と紛争が依然続いており、情勢は流動的であります。中東和平問題、なかんずくその中核であるパレスチナ問題に関しては、昨年来停滞している和平のための動きが進展するよう強く希望するとともに、中東和平の早期実現のため関係当事者が一層努力するよう、今後とも働きかけていく考えであります。
 イラン・イラク紛争については、国連や関係諸匡とも協議しつつ、早期平和的解決へ向けての環境づくりのための努力を粘り強く継続していく考えであります。
 アフガニスタンでは、ソ連の軍事介入が七年余にわたり続いていることは極めて遺憾であり、ソ連軍の全面撤退を含む政治解決のため、我が国としても努力してまいる所存であります。
 中南米諸国においては、近年、民主化の進展、定着が見られる一方で、累積債務問題を初めとする経済困難が続いております。我が国は、メキシコの経済再建に向け積極的に協力するなど、これら諸国の債務問題解決のため貢献してまいりましたが、今後とも、各国の努力に対し可能な限りの支援を行う所存であります。昨年、アルゼンチンのアルフォンシン大統領とメキシコのデラマドリ大統領が訪日しましたが、これらの訪問は、我が国と中南米地域との関係強化を図る上で大きな成果を生んだものと考えます。中米紛争につきましては、コンタドーラ・グループ等、域内の和平努力を強く支援するとともに、中米・カリブ地域の経済的・社会的発展のため協力していく考えであります。
 アフリカにおいては、依然、構造的食糧不足や、累積債務を初めとする深刻な経済困難が続いております。我が国としても、アフリカ諸国の自助努力を支援する一方、これら諸国の食糧・農業問題の解決のため、我が国が提唱している「アフリカ緑の革命」構想の実現に努めていく考えであります。
 南アフリカにおける情勢は、ますます悪化しており、まことに憂慮すべき状況にあります。我が国は、一貫してアパルトヘイトに断固反対するとの立場を堅持しており、今後とも、国際社会と協力して、すべての当事者に対しその撤廃と問題の平和的解決のための努力を訴えるとともに、特にアパルトヘイトの犠牲者に対する支援を強化してまいります。
 我が国の経常収支黒字は、依然、高い水準で推移しております。かかる対外不均衡の継続は、国際経済社会の調和ある発展にとっても、我が国の長期的経済運営にとっても、決して望ましい事態ではなく、今後とも黒字の着実な縮小に向けてあらゆる努力を傾注していかなければなりません。
 具体的には、アクションプログラム等による一層の市場開放に努めつつ、経済構造の調整を推進することが求められております。その過程では種々の国内的困難が生じましょうが、我々は、これを我が国が引き続き繁栄していくための試練と受けとめ、一つ一つ克服していかなければなりません。また、構造調整をできる限り円滑に進めるためにも、内需の拡大と、これに伴う新たな雇用機会の創出が不可欠であります。
 国際貿易面では、我が国を初めとする関係国の一致した努力により、昨年九月のガット閣僚会議でウルグアイ・ラウンドが発足したことは、保護主義を防圧し、自由貿易体制の将来に確固たる展望を切り開いていく上で大きな前進でありました。現在、重要なことは、一刻も早く実質交渉に取りかかることであり、我が国としては、現在、各国間で協議が進められている交渉の組織・計画づくりを早急に完了すべく貢献するとともに、交渉の成功に向けてみずからなすべきことを果断に実行していく決意であります。
 開発途上国の安定と発展は、世界の平和と繁栄にとって不可欠であり、我が国としては、これら諸国への協力を重要な国際的責務と考え、心と心の触れ合いを大切にして進めていきたいと考えております。
 かかる認識に立って、我が国は、第三次中期目標を掲げ、政府開発援助(ODA)の拡充に努めております。政府は、六十二年度のODA予算として対前年度比五・八%増を計上するとともに、適正かつ効果的な援助を実施していくため、国際協力事業団の業務改善、国際緊急援助体制の整備等を行うほか、円借款の金利引き下げを初めとする援助の質の改善を行い、今後とも、開発途上国のニーズの多様化に弾力的に対応できるよう努力していく所存であります。
 私は、累積債務問題が多くの開発途上国の直面する最大の問題の一つであるとの認識のもとに、今後ともその解決のため積極的に協力してまいる所存であります。さらに、貿易、投資、金融、技術移転等の各分野における協力を通じ、途上国の国づくりの努力を支援していくことも重要であります。特に、本年は、七月の第七回国連貿易開発会議に向けて、建設的な南北対話促進のため積極的に貢献していく所存です。
 我が国は、世界的に依然深刻な状況にある難民問題に対しても、資金・食糧援助やインドシナ難民の受け入れなどを通じて、引き続き鋭意取り組んでまいる考えであります。
 我が国は、本年より二年間、国連安全保障理事会の非常任理事国として、国際の平和と安全の維持のため重責を果たしていく所存であります。
 国連を真に実効性ある国際協力の場とするためには、その機能の活性化を図ることが急務であり、かかる観点から、昨年十二月、国連総会において行財政改革を図る旨の決議が採択されたことは、高く評価されるべきであります。我が国は、「国連効率化のための賢人会議」の提唱国として、今後とも改革への協力を惜しまない所存であります。
 近年、凶悪な国際テロ事件が頻発しておりますが、かかるテロは国際社会に対する挑戦であり、海外にある我が国民の安全を確保する上でも看過し得ない問題であります。我が国は、東京サミットにおいても明らかにしたとおり、いかなる国際テロにも断固反対するとの立場から、テロ防止のための国際協力を一層強化推進していく所存であります。
 我が国と諸外国との摩擦の背景に、彼我の相互認識の不足やずれが指摘される現在、互いの国情、政策についての正しい認識と異なる文化への理解を深めていくことは重要な課題であり、政府としては、地方自治体や民間各方面の御理解と御協力を得つつ、国際問題研究の強化拡充、広範な広報活動の充実、並びに青少年交流、留学生交流を初めとする文化、教育、スポーツなど、種々の分野での交流に努めてまいります。
 以上述べましたとおり、我が国外交は多くの重要かつ厳しい課題を抱えております。このような外交を強力かつ機動的に推進していくためには、外交実施体制の強化、なかんずく、高度の情報・通信システムの拡充等により、我が国を取り巻く国際情勢の動きを迅速かつ的確に把握し、これに先手をとって対応する体制を充実していくことが急務であると考えます。さらに、近年急増している海外渡航者及び在留邦人の保護、特に、各種の緊急事態における邦人保護体制の整備や、海外子女教育の拡充などにつき一層の配慮を払っていく所存であります。
 二十一世紀に向けて、我が国が引き続き平和と繁栄を享受し、世界のために積極的に貢献していけるよう、私は、決意を新たにして、誠心誠意、地道な努力を傾ける考えであります。
 外交はもとより国民の御理解なくしては成り立たないものであります。国民各位及び同僚議員の一層の力強い御支援をお願いいたします。(拍手)
    ―――――――――――――
#7
○議長(藤田正明君) 宮澤大蔵大臣。
   〔国務大臣宮澤喜一君登壇、拍手〕
#8
○国務大臣(宮澤喜一君) 昭和六十二年度予算の御審議をお願いするに当たりまして、今後の財政金融政策の基本的な考え方につき所信を申し述べますとともに、予算の大綱を御説明申し上げます。
 我が国経済は、戦後、国際環境に恵まれる中で、国民の勤勉と創意とに支えられ、目覚ましい発展を遂げました。石油危機など幾多の試練を克服しつつ、その都度、変化する環境に即応して国民経済の体質を改善してまいりました。
 今日、世界経済の約一割を占めるに至りました我が国が、これまで成し遂げた成長と発展をもとに今後進むべき道は、対内的には、豊かで活力のある経済社会を構築し、対外的には、国際社会の期待にこたえて、我が国の占める地位にふさわしい貢献をしていくことでございます。
 現下の経済情勢を見ますと、先進各国の経済は、物価及び金利の低下を背景に、全体として見れば、緩やかな拡大を続けております。しかしながら、大幅な対外不均衡がなお続いており、雇用情勢が厳しい国々もあることなどから、保護主義の高まりが懸念される情勢にございます。また、開発途上国における累積債務問題への対応も重要であります。我が国は、こうした中で、国際社会から、対外不均衡の是正と開発途上国に対する一層の協力を求められております。
 一昨年以来の主要国通貨の為替調整は、対外不均衡の是正を目的としたものでありますが、当面、我が国経済は、急速な円高の進展により、製造業を中心に企業の業況判断には停滞感が広がっており、雇用への影響が憂慮される情勢となっております。
 他方、財政は、巨額の国債累積を抱え、その利払いが政策経費を圧迫している結果、政策選択の幅が極めて狭く、経済情勢の変化にも十分対応しがたくなっているなど、極めて厳しい状況となっております。
 私は、このような現在の諸情勢の中で、我が国が、国内にあっては、豊かで活力ある経済社会の建設を進め、外に対しては、国際社会への責任を果たすため、今後の財政金融政策の運営に当たって、以下に申し述べる諸課題に全力を挙げて取り組んでまいる所存でございます。
 課題の第一は、内需を中心として、経済の持続的成長を確保していくことであります。
 豊かで活力ある社会を構築し、また、自由世界第二の経済大国としての国際的な役割を担っていくためには、我が国が長期にわたって成長を持続していく必要があります。特に、今日の経済情勢にかんがみ、景気の拡大が重要な課題でございます。
 政府は、こうした見地から、昨年秋、補正予算を編成して、総合経済対策を講じてまいりましたが、昭和六十二年度予算におきましても、厳しい財政状況のもとではありますが、一般公共事業の事業費について、名目経済成長率見通しの伸びを上回ります五・二%の伸びを確保することとし、このため、財政投融資資金の積極的活用を図るとともに、民間活力の活用にも配意いたしました。また、住宅金融公庫融資を拡充する等の住宅対策など景気の維持拡大に資する施策を講じております。さらに、円高の進展等の急激な変化に直面している産業の構造調整等を円滑に進めるため、産業基盤整備基金(仮称)を設けるなどのほか、雇用情勢の先行きにかんがみ、三十万人雇用開発プログラムの実施等雇用対策の大幅な拡充を図るなどの努力を行っております。
 後ほど申し述べます税制の抜本的見直しも、我が国経済社会の豊かさと活力の中長期的維持増進に資するものと期待いたしております。
 金融面におきましては、昨年十一月より公定歩合が三・〇%に引き下げられ、史上最低の水準になっており、これを受けて、預貯金金利を含む金利水準全般の引き下げを図ったところであります。今後とも、金融政策の運営につきましては、内外経済動向及び国際通貨情勢を注視しつつ、適切かつ機動的に対処してまいる所存であります。資金運用部の預託金利につきましても、その法定制を改めることとし、所要の法律案を今国会に提出し、御審議をお願いすることといたしております。
 さらに、持続的成長を確保していくためには、為替相場の安定が重要であります。私は、機会あるごとに、各国との協調的な行動を通じて為替相場の安定を図るべく、諸外国と話し合いを行ってまいりました。昨年十月末には、ベーカー米財務長官との間で、為替市場の諸問題について協力を続けることについて合意したところであり、また、今月二十一日にも為替相場の安定につき、同長官と協議してまいったところでございますが、今後とも、各国との政策協調及び適時適切な介入を通じて、為替相場の安定を図っていく所存であります。
   〔議長退席、副議長着席〕
 第二は、財政改革を引き続き強力に推進することであります。
 財政改革の目的は、言うまでもなくできるだけ早期に財政がその対応力を回復することにより、高齢化の進展、国際社会への対応等今後の社会経済の変化に弾力的に対応し、我が国社会経済の豊かさと活力を維持増進していくことにあります。このため、政府は、昭和六十五年度までの間に特例公債依存体質からの脱却と公債依存度の引き下げに努めるという努力目標に向けて懸命の努力を重ねてきたところであります。
 昭和六十二年度予算におきましても、昭和五十八年度以降五年連続で一般歳出を前年度同額以下に圧縮する等、歳出歳入両面にわたっての厳しい見直しに最大限の努力を払い、公債発行額を前年度当初予定額に比し、四千四百五十億円減額することといたしております。この結果、公債依存度は、特例公債を発行して以来初めて二〇%を割ることができました。
 しかしながら、このような努力を行いましてもなお、昭和六十二年度予算においては、国債の利払い費が歳出予算の二割を占め、また昭和六十二年度末の公債残高は総額で百五十二兆円に達する見込みとなるなど、財政事情は一段と厳しいものとなっております。
 今後とも財政改革を強力に推進し、財政が二十一世紀に向かって我が国内外に求められている課題に十分に対応できる弾力性を回復することは、喫緊の国民的課題でございます。行財政の改革を推進するに当たっては、種々の困難が伴うものと思われますが、これまでの努力が水泡に帰することのないよう、さらに一層努力を払い着実にその歩を前進させていく必要があると考えます。
 第三の課題は、税制の抜本的見直しであります。
 我が国税制は、戦後四十年間にわたる産業・就業構造の変化、所得水準の上昇と平準化、消費の多様化を初めとする社会経済情勢の著しい変化に十分対応し切れておらず、さまざまなゆがみ、ひずみを抱えております。
 このような状況にかんがみ、また、今後の我が国経済社会の展望を踏まえ、税制全般にわたり公平、公正等の基本理念のもとに抜本的な見直しを行うことにより、国民の理解と信頼に裏づけられた安定的な歳入構造を確立することが急務となっております。
 既に税制調査会におきまして、「税制の抜本的見直しについての答申」及び「昭和六十二年度の税制改正に関する答申」の中で、抜本的税制改革案が提案されております。
 政府といたしましては、これらを踏まえ、昭和六十二年度税制改正において、改革案の全体を一体として実現してまいりたいと考えております。具体的には、中堅所得者層の負担軽減を主眼に、最低税率の引き下げを含む税率構造の見直し、配偶者特別控除の創設等を内容とした所得課税の思い切った軽減合理化を行い、法人課税の税率水準を段階的に引き下げるとともに、間接税について物品税等の個別消費税制度を売上税に改め、また少額貯蓄非課税制度及び郵便貯金非課税制度を老人・母子家庭等に対する利子非課税制度に改組する等の措置を講ずることといたしました。このため、所要の法律案を今国会に提出し、御審議をお願いすることといたしております。
 第四に、我が国が国際的な地位の高まりに応じた調和ある対外経済関係を形成する必要がございます。
 現在、大幅な対外不均衡等を背景に保護主義の圧力が高まっておりますが、こうした中で、我が国としては、率先して自由貿易体制の維持強化に努めるとともに、市場の開放、経済構造の調整等、我が国経済自身の国際化を進め、対外不均衡の是正を図っていく必要がございます。
 このような観点から、昭和六十二年度関税改正におきましては、特恵関税制度の改善、紙巻きたばこ、アルコール飲料等の関税率の引き下げなどを行うことといたしております。
 また、昨年始まったウルグアイ・ラウンドにつきましては、我が国としてもこれを積極的に推進していく所存であります。
 さらに、昭和六十二年度予算におきましても、経済構造調整の円滑化を推進するための諸施策を講じているところであります。
 金融の自由化及び円の国際化は、我が国経済の効率化、国際化に資すると同時に、世界経済の発展に貢献していく上で有意義なものと考えます。金利の自由化、短期金融市場の整備、資本市場の国際化、ユーロ円市場発展のための措置、オフショア市場の開設等を逐次とってきたところでございますが、今後とも、環境整備を図りつつ、自由化、国際化を積極的に進めてまいります。
 我が国金融の自由化や円の国際化については、海外から強い関心が寄せられており、米国を初め、主要先進国等と金融協議の場を設け、意見交換に努めており、金融制度や金融行政をめぐる諸情勢について相互の協調と理解の増進に努めているところでございます。
 開発途上国の自助努力を支援するとともに、累積債務問題の解決を図り、もって世界経済の安定と発展に資することも、我が国の大きな国際的責務と考えております。
 このため、政府開発援助につきましては、第三次中期目標に沿った着実な拡充を行うこととし、昭和六十二年度一般会計の政府開発援助予算について五・八%の増加といたしますとともに、援助の質の改善等を図る観点から、本年一月より円借款金利の引き下げを行うことといたしました。
 また、国際金融機関を通じた開発途上国等への資金協力として、国際開発協会第八次増資及びアジア開発基金第四次財源補充へそれぞれ二十六億ドル、十三億ドルの拠出を行い、さらに、IMFへの三十億SDRの貸し付け、世銀への二十億ドルの特別ファンドの創設を行うなど、最大限の努力を図ることとしたところであります。
 今後とも開発途上国の開発問題、債務問題の解決に向け引き続き努力をしていく所存でございます。
 次に、昭和六十二年度予算の大要について御説明いたします。
 歳出面におきましては、既存の制度、施策の改革を行い、また、補助金について引き続き整理合理化を行うなど、あらゆる分野にわたり経費の節減合理化に努めるとともに、社会経済情勢の推移に即応するため、公共事業の事業費確保、雇用対策の充実を行うほか、限られた財源を重点的、効率的に配分するよう努めることといたしました。
 なお、国家公務員の定員につきましては、新たに策定された第七次定員削減計画を着実に実施するとともに、真に必要とされる新規行政需要についても極力振りかえによって対処し、増員は厳に抑制いたしました。この結果、行政機関職員について、三千四百三十二人に上る大幅な縮減を図ることといたしております。
 以上の結果、一般歳出の規模は、三十二兆五千八百三十四億円と前年度に比べて八億円の減額といたしております。これは昭和五十八年度以降五年連続の対前年度減額であります。
 これに国債費及び地方交付税交付金を加えた一般会計予算規模は、前年度当初予算に比べ、百二十四億円増額の五十四兆一千十億円となっております。
 次に、歳入面について申し上げます。
 歳入の基幹たる税制につきましては、さきに申し述べました抜本的税制改革案の実現を図るため、昭和六十二年度税制改正において、以下の措置を講ずることといたしました。すなわち、中堅所得者層の負担軽減を中心とした所得税の軽減合理化、法人税の税率の引き下げ、売上税の創設、非課税貯蓄制度の見直しを図るほか、賞与引当金の廃止、有価証券取引税の見直し、登録免許税の引き上げ等を行うことといたしております。
 税の執行につきましては、今後とも、国民の信頼と協力を得て、一層適正、公平な税務行政を実施するよう、努力してまいる所存であります。
 また、税外収入につきましては、一段と厳しい財政事情にかんがみ、可能な限りその確保を図ることといたしております。
 公債につきましては、以上申し述べました歳出歳入両面にわたっての最大限の努力により、その発行予定額は前年度当初予算より四千四百五十億円減額し、十兆五千十億円となっております。その内訳は、建設公債五兆五千二百億円、特例公債四兆九千八百十億円となっております。この結果、公債依存度は、特例公債発行下で初めて二〇%を割る一九・四%に引き下げることができました。特例公債の発行等につきましては、別途昭和六十二年度の財政運営に必要な財源の確保を図るための特別措置に関する法律案を提出し、御審議をお願いすることといたしております。
 また、昭和六十二年度においては、十五兆七千二百七億円の借換債の発行を予定しており、これを合わせた公債の総発行額は二十六兆二千二百十七億円となります。
 財政投融資計画につきましては、内需の拡大、地方財政の円滑な運営など、政策的な必要性を踏まえ、積極的かつ重点的、効率的な資金配分に努めたところであります。
 この結果、昭和六十二年度の財政投融資計画の規模は二十七兆八百十三億円となり、昭和六十一年度当初計画に対し、二二・二%の増加となっております。
 次に、主要な経費につきまして申し上げます。
 まず、公共事業関係費につきましては、一段と厳しい財政事情にかんがみ、総額として前年度を下回る水準としておりますが、一般公共事業の事業費につきましては、内需の拡大に資するためできるだけ確保することとし、このため、財政投融資の活用、民間活力の活用、補助・負担率の引き下げ等の工夫を行い、五・二%の伸びを確保することといたしております。なお、各地域への配分に当たりましては、地域経済の実情に十分な配慮がなされるよう対処してまいる所存であります。また、住宅金融公庫の融資戸数の増加、貸付限度額の拡大等住宅対策の拡充も図っております。
 雇用対策につきましては、雇用情勢の先行きに対応するため、新たに三十万人雇用開発プログラムを実施することとし、地域雇用対策の充実、雇用関係給付金制度の活用等積極的な推進を図ることといたしております。
 産業の構造調整等を推進するため、予算におきましても種々の配意をいたしております。すなわち、産業構造の転換、地域経済の活性化等を図るため、産業基盤整備基金(仮称)を設けるとともに、第八次石炭対策の円滑な実施を図っております。中小企業対策費につきましては、下請中小企業構造調整対策、特定地域中小企業対策等、最近の中小企業を取り巻く内外の環境変化に対応し、その近代化、構造改善を促進するための施策を講ずることといたしております。また、農林水産関係予算におきましても、生産性が高く、産業として自立し得る農林水産業の確立に向けて施策の重点化、効率化を図ることとし、昭和六十二年度に発足する水田農業確立対策については、構造政策の推進に重点を置いたものとする等の措置を講ずることとしております。このほか、日本国有鉄道清算事業団の運営に支障のないよう、所要の助成を行うとともに、資金繰りの円滑化にも配意いたしております。
 社会保障関係費につきましては、今後の高齢化社会を展望し、引き続き制度、施策の合理化、適正化に努めるとともに、恵まれない人々に対する各種の福祉施策についてきめ細かく推進することとし、特に、老人や心身障害者に対する在宅福祉施策及び健康増進のための事業等を充実させております。文教及び科学振興費につきましては、引き続き既存の施策の見直しを図るとともに、初任者研修の試行、基礎的・創造的研究の充実など、教育・研究環境の整備のための施策の推進に努めております。
 経済協力費につきましては、第三次中期目標に沿って、政府開発援助予算の増額について特段の配慮を行いました。防衛関係費につきましては、厳しい財政事情のもとで、他の諸施策との調和を図りつつ、中期防衛力整備計画を踏まえ、その質的充実に配意いたしました。
 エネルギー対策費につきましては、中長期的な需給見通しをも踏まえ、各種施策の着実な推進を図ることといたしております。
 地方財政につきましては、税制の抜本的見直しに伴い、売上譲与税の創設、地方交付金の対象税目の追加等の措置を講ずることとしております。また、昭和六十二年度におきましては、補助・負担率の引き下げによる影響等を織り込んで二兆三千七百五十八億円の財源不足が見込まれますが、地方交付税交付金の特例措置等の地方財政対策を講ずることとし、地方財政の適正な運営に支障の生じないよう配慮いたしております。地方団体におかれましても、歳出の節減合理化をさらに推進し、より一層効率的な財源配分を行うよう要請するものであります。
 以上、昭和六十二年度予算の大要について御説明申し上げました。御審議の上、何とぞ速やかに御賛同くださるようお願い申し上げます。
 我が国経済は、現在、内外情勢とも、厳しい局面を迎えております。この情勢を乗り越え、豊かで活力に満ち、国際社会に貢献し得る日本を築いていくためには、これまで申し述べました諸課題を一歩一歩着実に実行していく必要があると考えます。
 国民各位の一層の御支援と御協力を切にお願いする次第でございます。(拍手)
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#9
○副議長(瀬谷英行君) 近藤国務大臣。
   〔国務大臣近藤鉄雄君登壇、拍手〕
#10
○国務大臣(近藤鉄雄君) 我が国経済の当面する課題と経済運営の基本的考え方について所信を申し述べたいと存じます。
 我が国経済は、今日、幾つかの意味で大きな転換期に直面しています。
 まず初めに、一九八〇年代前半の世界経済を形づくってきた基本的な枠組みは、一昨年から昨年にかけて大きな変化を遂げました。すなわち、ドル高、原油高、高金利の是正という三つの条件の変化であります。こうした変化は、我が国の経済全般にプラス面でもマイナス面でも大きな影響を及ぼしております。
 次に、我が国が国際経済に果たす役割が急速にしかも飛躍的に増大しているという点であります。戦後の国際経済のシステムは、米国の政治、経済両面における優越的な力を背景に維持されてまいりましたが、経済面で米国の圧倒的な優位性が崩れるとともに、長期的に見て、主要先進国の協調に支えられたシステムに移行しつつあります。このような状況の中で、世界のGNP一割国家、世界最大の債権国とも目されている我が国が果たすべき国際的責務は、飛躍的に増大していると言わねばなりません。
 さらに、こうした状況は、我が国経済が目指すべき目標の転換を迫っていると言えましょう。今や、我が国の経済規模は大きく拡大しましたが、経済の外需依存構造が大幅な経常収支黒字の一因となっております。我々は、今、目標の歴史的転換を図る必要があると考えます。それは経済構造の変革を行い、内外均衡の達成を図るとともに経済大国にふさわしい画期的な国民生活の質の改善を目指すことであります。
 私は、以上のような我が国経済社会の基本的な流れとその課題を認識しつつ、今後の経済運営に当たっていく必要があると考えます。
 ここで、内外経済の現状について申し述べたいと存じます。
 世界経済は、低下した原油価格のもとで物価が極めて落ちついており、その中で緩やかながらも息の長い景気拡大が持続しております。アメリカの財政赤字、主要国の対外不均衡、発展途上国の累積債務問題等世界経済が抱えている問題は数多くありますが、原油価格の低水準での安定、ドル高の修正及び金利の低下は、世界経済にとって全体としてプラスの効果を持つものと考えられます。
 我が国経済は、現在、個人消費、とりわけ堅調な住宅投資を中心に国内需要は緩やかに増加する一方、輸出が弱含みであること等から鉱工業生産は依然として停滞傾向で推移しており、景気は底がたさはあるものの、その足取りは緩やかなものとなっております。また、非製造業は交易条件の改善の効果等もあり堅調に推移しておりますが、これまでの急速な円高の進展等により、製造業を中心に企業の業況判断には停滞感が広がっており、特に最近においては雇用面にも影響が及びつつあるなど景気の二面性がより明瞭になっております。他方、経常収支は、原油価格の低下、円高による黒字の一時的拡大等により大幅な黒字が続いております。
 こうした状況のもと、政府は、昨年九月の総合経済対策の決定、十一月の公共事業の追加等を内容とする補正予算の成立等内需の拡大に努めてきたところであります。
 このような内外経済の動向を勘案しますと、昭和六十一年度については、内需は総合経済対策の効果等もあり、当初見通しを若干上回る堅調な動きを見せているものの、急激な円高による輸出減と輸入の拡大によって、実質経済成長率は三・〇%程度にとどまるものと見込まれます。しかし、このことは、我が国経済の成長が従来とは明らかに異なる内需主導型に転換しつつあることを示すものであります。
 以上のような状況を踏まえ、私は昭和六十二年度の経済運営に当たっては、次の諸点を基本としてまいりたいと考えます。
 第一は、内需を中心とした景気の持続的拡大を図るとともに、雇用の安定及び地域経済の活性化を促進することであります。そのためにも、最近における余りにも急激な円レートの変動に対しては、各国との政策協調に努めつつ適切な対応を行いその安定化を図る一方、急速な円高の進展等により影響を受けた地域等に十分配慮しつつ、以下の点に留意しながら、適切かつ機動的な経済運営に努めてまいる所存であります。
 まず、内需拡大を図るため、昭和六十二年度予算におきまして、一般公共事業の事業費につき五・二%の伸びを確保したほか、地域配分にも十分配意することとしております。住宅建設については、住宅取得を促進するための税制上の措置を拡充するほか、金融上の措置を充実して、増改築、リフォーム等の質的改善を含めその促進に努めてまいりたいと考えております。
 次に、民間活力が最大限発揮されるよう環境の整備を行い、設備投資等積極的な民間投資の喚起を促すとともに、公共的事業分野への民間活力の導入を促進してまいります。また、地価対策の効果的かつ総合的な推進を図ることといたします。さらに、中小企業の近代化及び構造改善を促進していくための各種中小企業対策の実施、産業構造調整を円滑化するための基金の創設、円滑な労働移動の促進、地域雇用対策の整備等の雇用対策の推進など地域に密着したきめの細かい対策を進めてまいります。
 さらに、昨年来の累次にわたる公定歩合の引き下げや消費者信用金利の引き下げ等による低金利の状況に対応しつつ、今後とも財投金利の弾力化を図る等金融政策の適切かつ機動的な運営を図る必要があります。
 以上のような政府の諸施策と民間経済の活力が相まって、昭和六十二年度の我が国経済は経常収支の不均衡の是正を進めつつ引き続き内需を中心として着実に拡大し、実質経済成長率は三・五%程度となるものと見込まれます。
 第二は、中長期的な観点に立って、調和ある対外均衡と国内均衡の実現という内外均衡の同時達成に努めることであります。
 我が国は、経常収支不均衡を国際的に調和のとれるよう着実に縮小させることを国民的目標として設定しております。しかし、為替レートの調整のみによって対外均衡を達成することは、国内均衡との両立を図る上で問題が多いと考えられます。したがって、需給両面における経済構造の変革を進め、内需主導型経済構造を実現させ、内外均衡の同時達成を中長期的に中成長のもとで図ることが必要であります。経済構造の変革は、摩擦や負担を伴う面もありますが、今後我が国が積極的に取り組むべき課題であり、国民に与える影響にきめ細かく配慮しつつ、一歩一歩着実に歩を進めていかなければなりません。特に雇用問題については重点的に取り組んでいく所存であります。また、政府は、昨年末には、「一九八〇年代経済社会の展望と指針」について第三回の見直し作業を行い、「内外均衡の同時達成」という考え方を基本とした「経済審議会報告」を公表いたしました。さらに、昨年九月経済審議会において経済構造調整特別部会を設置し、今春を目途に経済構造調整の具体的な施策及び経済構造調整後の経済の姿について、できる限り明確にお示しいただけるよう精力的な審議をお願いしているところであります。
 我が国の調和ある対外均衡という目標は、あくまで世界経済の拡大均衡の中で達成されるべきものであります。私は、自由貿易体制の維持強化に向けて率先して努力するとともに、調和ある対外経済関係の形成に努めることが重要であると考えます。このため、我が国市場の積極的な開放等による市場アクセスの改善を図り、新たな多角的貿易交渉の着実な進展に貢献してまいりたいと考えております。また、政府開発援助の第三次中期目標のもとで経済協力の着実な拡充を図るとともに、世界全体の資金の発展途上国への還流に積極的に貢献するなど、国際経済に占める我が国の地位にふさわしい役割を果たしていく必要があると考えます。
 第三は、物価の安定と国民生活の充実向上であります。
 昨年、累次にわたる円高差益還元策等が実施されたことに伴い、円高、原油価格低下のメリットは、国民経済全体に相当程度浸透してまいりました。こうした状況を反映して、過去一年の消費者物価上昇率は一%を切るなど、最近の我が国の物価動向は昭和三十年代前半以来の極めて安定した動きを示しております。
 政府は、本年に入り電気・ガス料金の再引き下げを実施し、さらに麦の政府売り渡し価格等の公共料金の引き下げを図ることといたしておりますが、今後とも、円高等のメリットの還元はさらに努めてまいりたいと考えます。このような施策を推し進めることにより、物価は引き続き安定基調を維持することができるものと考えられ、売上税の導入等の影響を考慮しても、昭和六十二年度の卸売物価は一・〇%程度、消費者物価は一・六%程度の上昇にとどまるものと見込んでおります。
 我が国の国民生活は、国民のたゆまぬ努力により、多くの面で着実な改善を遂げております。しかしながら、今日の国民生活の状況を考えますと、良質な住宅や良好な生活環境等のストック面の充実や豊かな余暇時間の確保等、必ずしも十分とは言えない面も見られます。こうした観点から、今後、住生活の質的改善等、国民生活の充実向上のための施策について検討を行ってまいる所存であります。
 また、最近の消費の多様化は国民生活に豊かさをもたらしておりますが、その反面、消費者問題は複雑化しております。私は、国民が安心して充実した消費生活を送ることができるように、消費者教育の充実、悪質な商法による被害の防止、消費者に対する情報提供、啓発等、消費者保護施策の推進に努めてまいりたいと考えます。
 以上、我が国経済の主な課題と経済運営の基本的方向について所信を申し述べました。
 私は、冒頭において、我が国経済は大きな転換期にあると申しました。我が国が次の時代にさらに飛躍するためには、我が国の経済、産業、企業等をみずからの手で転換していくことがどうしても必要であります。私は、我が国経済の柔軟な適応力に加え、経済運営のよろしきを得れば、我が国経済がこの課題を克服し、急速な円高の進展等による影響を乗り越え、内外均衡への道を着実に進むことができると確信いたしております。そして、ともすればこれまで輸出に傾注しがちであった我が国のすぐれた技術力、経済力を国内に向けることにより、国力にふさわしい充実した国民生活を実現することができるものと信じます。
 私も全力を尽くしてまいる所存であります。
 国民の皆様の御支援と御協力を切にお願いする次第であります。(拍手)
#11
○副議長(瀬谷英行君) ただいまの演説に対する質疑は次会に譲りたいと存じますが、御異議ございませんか。
   〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
#12
○副議長(瀬谷英行君) 御異議ないと認めます。
 本日はこれにて散会いたします。
   午後四時四十五分散会
ソース: 国立国会図書館
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