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#1
第108回国会 本会議 第4号
昭和六十二年二月二日(月曜日)
    ―――――――――――――
 議事日程 第六号
  昭和六十二年二月二日
    午後一時開議
 一 国務大臣の演説に対する質疑
    ―――――――――――――
○本日の会議に付した案件
 中曽根内閣総理大臣の発言
 国務大臣の演説に対する質疑
    午後一時三分開議
#2
○議長(原健三郎君) これより会議を開きます。
     ――――◇―――――
 内閣総理大臣の発言
#3
○議長(原健三郎君) この際、内閣総理大臣から発言を求められております。これを許します。内閣総理大臣中曽根康弘君。
    〔内閣総理大臣中曽根康弘君登壇〕
#4
○内閣総理大臣(中曽根康弘君) 私が一月二十六日の施政方針演説において述べました間接税制度の改正は売上税の創設を含めたものであります。(拍手)
     ――――◇―――――
 国務大臣の演説に対する質疑
#5
○議長(原健三郎君) これより国務大臣の演説に対する質疑に入ります。土井たか子君。
    〔土井たか子君登壇〕
#6
○土井たか子君 私は、日本社会党・護憲共同を代表して、中曽根総理大臣の施政方針演説に対する質問をいたします。(拍手)やっと質問することができます。
 中曽根総理、あなたは実に恐ろしい方です。昨年の秋、あなたが自民党総裁としての任期を延長され、中曽根政治の仕上げの時期に入ったという自覚のもとに次々にあらわにしてきた政策は、私たちがあなたの登場以来危ぶんできたことが決して杞憂でなく、それどころか、予想をはるかに上回る荒々しい顔つきのものであることを示しました。それは、一言で言えば、中曽根総理の時代に日本が平和主義、民主主義をかなぐり捨てようとしていることにほかなりません。政治不信のちまたにあふれる怨嗟の声を代表して、今度ばかりは何と言われようとも黙っているわけにはいかない事態だと私は思います。(拍手)
 以下、まず、そのことを順を追って申し上げることにいたします。
 中曽根内閣と自民党が今国会での審議を強行しようとしているもののうち、当面、最も重要なものが二つあります。すべての同僚議員の皆さんが御承知のとおり、それは売上税を目玉にした税制改革と、軍事費のGNP比一%枠撤廃の問題であります。しかも、この二つのものは実は別々のものでは決してなく、表裏一体のものであると私には見えます。たとえ今直ちにではなくとも、やがては軍事大国へと進む仕掛けをともに用意したものだからであります。これまでも、自民党の内閣の中には、平和憲法があるにもかかわらず、あわよくば日本を軍事的にも強い国にしようとする考えの内閣がありました。しかし、どんなに憲法を無視しようとしても、実際問題としてそれをある程度阻んだのが予算上の制約でありました。
 戦後の日本が復興から今日の段階を歩んでいるのは、もちろん国民の勤勉が第一ではありますが、国としても軍備に多くのお金をかけず、経済成長に役立ち、そのひずみを正し、立ちおくれた生活を充実させるための社会資本を整備させることに予算を使ってきたことが大きな力になっております。そのような予算の構造の中では、たとえ福祉などを切り詰めて軍事費に回したところで、予算の総枠が急上昇しない限り、軍事費の突出にはおのずと限度があったと申せましょう。私たち社会党は、無論福祉優先を主張し、軍事費の増大に反対してまいりましたが、私たちの予想をはるかに超える突出であっても、政府・自民党の一部の人々にとってはなお不十分であると思われたのには、そのような予算上の制約があったのであります。売上税という名の大型間接税の導入が持つ第一の意味は、そうした財源の制約を取り払う用意ができたというところにあります。
 今回提案されます大型間接税は、その持ち出され方、国民生活への影響など多くの問題があります。それらにつきましては少し後に触れることにいたしまして、内容上の最も本質的なことは、それが一たん導入されれば税の増収が簡単にできること、いわゆる金の卵を産む鶏であるところにあります。俗に税率一%アップで一兆円の歳入増と言われておりますが、売上税は、所得税、法人税の税率引き上げのような直接の痛みを国民に余り感じさせないで多くの税収を上げることができます。大蔵省や自民党の一部に、もはや行政改革の時代は終わった、これからは「増税ある財政再建」だという声があると伝えられるのは、まさにそのことを示しております。(拍手)
 もし政府・自民党の方々が言われるように、防衛力は必要に応じて充実するものだという理屈が通るなら、その必要に応ずるための増税も当然だということになりましょう。そうして、その増税はいともたやすく、売上税の税率を上げさえすれば、防衛費を幾らでもふやすことができるのではありませんか。ヨーロッパ各国での売上税の例を見れば、一たん創設されれば後は税率を上げ、ふえる一方であるという実態は明らかであります。
 さて、軍備増強のために歳入をふやす、つまり、国民から軍費をより多く吸い上げる仕掛けができても、もう一つ邪魔なものが総理、あなたの目の前にあったはずであります。それが防衛費GNP比一%枠であります。しかし、もはや予算の総額という実質的な枠についてはいつでも天井が抜けることにすれば、それに比べれば三木内閣の時代に決めたことはあなたの目にはごく形式的なことと映ったのでありましょう。極めてあっさりと一%枠を打ち破ることが閣議決定されました。こうして軍事大国への道を阻んできた歯どめが実質、形式、二つながら吹っ飛んでしまうのであります。例えて言えば、これまで軍事大国という表通りに出ないように扉にかけてあったロックとドアチェーンが二つとも同時に外されるのであります。
 あるいは総理は、売上税によって増税をねらってはいない、所得税、法人税の減税に見合った分を補うのだと言われるでしょう。一%枠を超えたといっても千分の四%超えただけで、軍事大国になったなどというばかなことはないともおっしゃっておられます。しかし、今の例えで言うならば、総理の弁明は、ドアはまだあけ放たれてはいないというのに等しいのです。一見ドアには変化がない、閉まったままである、ところが、その気になればいつでもさっとあけて軍拡へ、軍事大国の道に飛び出すことができる、そういう仕掛けが今国会の焦点と言われるものになっていると私は思うのであります。(拍手)
 ここで忘れてはならないものがもう一つあります。それは、総理と自民党は国家秘密法を再び今国会に提出することを考えていると伝えられることです。
 国家秘密法の持つ意味は、このような仕掛けによって国民の血税が軍備に用いられても、その使い方について主権者国民の目、耳、口をふさいでしまおうということにほかなりません。この仕組みを加えれば、一見無関係に見える売上税導入、防衛費一%枠突破、国家秘密法の三つは、中曽根総理という御者がむちを振るって進めようとする軍拡路線を引っ張る三頭立ての馬車なのであります。(拍手)今、それが中曽根政治の太い柱として、今国会に隠れようもない姿で立ちあらおれたということになるのであります。
 そうして、それゆえにこそ、総理は、日本国憲法施行四十年に当たって、「戦後政治の総決算」を声高に言い、民主政治全般の見直しをこれまでのかすかな遠慮も振り捨てて、憶するところなく施政方針にうたったのでありましょう。「戦後政治の総決算」とは、突き詰めれば、戦後この国を支えてきた憲法と憲法の精神を総決算する、つまり捨て去ろうとするたくらみにほかなりません。まことに四年余り前の就任直後の不沈空母発言以来の総理持ち前の執念と言わねばなりますまい。(拍手)
 以上申し述べましたような、だれの目にも明らかな事態の認識に基づきまして、私は、総理に幾つかの点についてお尋ねをいたしたいと思います。
 全国を私はこの四カ月駆けめぐりまして、つぶさに党派を超えた地域の方々、女性の方々にお会いをして、生の声を聞いてまいりました。その声を生かしてただいまから総理に質問をさせていただきます。総理もひとつしっかり、国民にわかるように誠意を持ってお答えいただきたいと思うのであります。
 まず、税制改革についてであります。
 第一は、あなたは半年前の選挙中「国民や自民党員が反対するような大型間接税と称するようなものはやりません」と言われました。結局、今日ここに売上税という大型間接税を持ち出してこられたのはなぜかということをお尋ねしたいのであります。(拍手)
 このような明白過ぎる公約破りをするには二つの場合が考えられます。一つは、今指摘いたしましたような将来の軍拡への執念を持って、実は大型間接税の導入を総理は初めから決意しておられた。決意していたけれども、そうあからさまに言ったのではもちろん国民の支持は得られません。だから選挙ではうその公約をしておこう。うそでも何でも選挙に勝ってしまえばこっちのものだという考えであります。もう一つは、いや、総理は本当に大型間接税などしたくはなかった。レーガンさんのように所得税を簡素化し軽減することだけを格好よくやりたかった。しかし、赤字国債依存からなかなか脱却できないことにいらいらしている大蔵省と、公共事業一つとっても以前のようにふえないことに不満を暮らす自民党の期待や圧力にどうしても勝つことができず、心ならずも公約を破ることになってしまったという場合であります。前の場合なら、明白に国民を愚弄する所業であります。後の場合は、幾ら弁明をされても、結果としての公約違反の責任は免れません。
 総理は、あるいは選挙中に公約したのは、投網をかけるような間接税は導入しないというのであって、今回提案するのは、年商一億円以下の企業は非課税にし、四十三項目の非課税品目を設けている、したがって、公約違反ではないと強弁なさるおつもりかもしれません。しかし、当初の非課税四十三項目がその後四十四になり、今は五十一品目になっているように、まさに欠陥税法であり、審議に値しないばかりか、大型間接税という言葉の定義を自分勝手におつくりになって、それとは違うから大型間接税ではないなどというのは、詭弁中の詭弁であります。(拍手)中国故事に言う「白馬馬にあらず」は詭弁の代表とされますが、現代日本では「売上税大型間接税にあらず」と言いかえねばならないのでしょうか。(拍手)政治家の公約とは一体どういうものなのでしょうか。中曽根総理は雄弁家を自負しておられるようですが、詭弁家として歴史に名を残したいのでしょうか。(拍手)
 ここで、今私は、もう一人の総理の姿を思い起こすのであります。それは、今は亡き大平元総理のことにほかなりません。一般消費税の導入を正面切って言われたがために選挙で痛烈な批判を受け、国民のこの批判にこたえて消費税導入をついに断念されたあの大平総理が、この点に関する限り何と見事なステーツマンシップの持ち主であると見えることでありましょうか。(拍手)大平総理は、一般消費税導入を言われ、一敗地にまみれたけれども、政治家としての信頼は全く損なわれることはなかったのであります。
 売上税は、物やサービスに税金をかけて値段を上げ、消費者に転嫁するのを前提とした税金です。便乗値上げも心配され、消費者物価が四%もアップするという試算も既に出ていることは御存じのとおりです。低所得者になればなるほどつらいことは言うまでもありません。一方では、政府は、年商一億円以下の事業者八七%は免税業者となるから包括的でないと言われますが、税収は九一・三%確保できるということになっており、投網をかぶせるものであります。
 税率の五%分は下請業者がかぶる事態が予想されます。売上税が導入されることにでもなれば、来年三月決算の事業者は、その途中から不可解な増税が加わる決算がどのようになるのか不安で、企業活動に戸惑い、見通しが立たず困っている声が相次いています。二重、三重に経済活動を混乱させ、不況感をあおり、企業意欲を奪う悪税の新設をそれでもなさろうとするのか。この悪税の導入に世上は既に不安と心配で、怨嗟の声が上がっております。(拍手)所得税、法人税の減税は、売上税を実施して税収を上げるという方式で、売上税をてこに使い、本来、税制改革の柱である不公平税制の問題は依然手つかずの税制がどうしてシャウプ勧告以来の大改革と言えましょう。(拍手)
 また、同じ公約を裏切って強行しようとするマル優廃止も、預貯金の多い金持ちにとっては利子課税の三五%から二〇%への軽減であっても、マル優限度以下の貯金しかない多くの国民にとっては、ゼロから二〇%への新規課税となります。子供の教育の蓄え、老後の生活のため、まじめな庶民のとらの子をむしり取ることをやめていただきたいという悲痛な声にどうおこたえになりますか。マル優廃止を撤回し、限度額管理をきちんとすれば、国民の要求にこたえることができます。(拍手)売上税導入とマル優廃止の撤回について総理の御決断を促し、私にだけではなく、国民に向かってはっきりお答えをいただきたいと存じます。(拍手)
 税に関する第二の質問として、概括して弱い者いじめの税制改革を選んだのはなぜかとお尋ねしたいのであります。
 所得税の最高税率引き下げにしても、結局は高額所得者が優遇されることになっております。日本経済全体が御承知のとおりの円高にあえぎ、雇用不安を初め先行きの不安をだれもが感じているとき、なぜあえてこのような国民の八割を占める年間所得六百万以下の国民にとっては重税を求めるような税制に移行しようとしているのですか。今なすべきは、売上税の導入とマル優廃止をちゅうちょなく撤回することであります。(拍手)このことは、我が党だけでなく、すべての野党、さらには国民大多数の声であります。(拍手)今度のように増税のねらいを隠し、国民にわからないうちに密室で決めた税制改革は、断じて実施すべきではありません。(拍手)まず撤回をして、その上で改めて時間をかけ、国民の理解が得られるような税制改革を目指すべきであります。そうなれば、私どもも、不公平税制をまず是正して、そして税制改革に案を示して、努力を惜しまないものであります。総理の決断を求めます。
 そして第三に問題になるのは、この間の政府の経済運営のあり方です。
 昨年後半から小康を保つかに見えた円が年明けから再び急上昇いたしました。宮澤大蔵大臣が急ぎ訪米してベーカー財務長官と会談し、二月上旬には日、米、独、仏、英の五カ国蔵相会議、いわゆるG5が開かれるとの報道もある中で、急速な円高是正は望めないという観測が定着しようとしています。一体今の状態を耐え忍んでいけばやがて春が来るのか、それとも長い冬が続くのか、多くの国民は心細い思いをいたしております。政府は、どのような活路を開く展望を持っておられますか。総理、いかがでございますか。宮澤大蔵大臣、いかがでございますか。
 既に、石炭、造船、鉄鋼を初めとする重要産業は円高の打撃をまともに受け、地域経済が衰退し、失業はふえる一方で、自殺者まで出るという悲惨な状態です。総理は、このような成り行きを二十一世紀を展望する日本経済の構造が変わる一環としてやむを得ないと言われるのでしょうか。余りにも急激な変化、いや悪化は、明らかに中曽根内閣の失政によるものと断ぜざるを得ません。(拍手)
 中曽根内閣は、昨年の春も私も、そして今回も、こうした困難を和らげ、米国、EC諸国に対する国際的責任を果たすために内需拡大を内外に約束してきたはずです。しかし、内需拡大は遅々として進まず、今回の政府予算案でもそれはおぼつかないものです。それどころか、五年連続のゼロシーリングによる福祉の後退、医療費の負担増、年金受給額の停滞、教育費の値上がり、いずれも財政再建の名のもとに、経済効率が悪いという理由で切り捨てられてきました。また、多くの産業はてこ入れもないまま打ち捨てられていきます。いわば政府の無策によって内需拡大は絵にかいたもちになってしまっているのです。(拍手)
 総理、日本の働く人々は、先進諸国の中で最も長い時間働き、すし詰めの通勤時間に耐え、ウサギ小屋とやゆされる住宅に住めればよい方で、最も効率よく工業製品をつくり出しております。しかし、この勤勉な人々が先進諸国の労働者のようには報われていません。よく知られたように、下水道も都市公園も、欧米諸国に遠く及ばないのです。また、世界に誇ると言われる新幹線にしても、地域住民の生活の足を切り捨て、国鉄職員の職場を奪い、膨大な赤字を国民にツケ回しすることで支えられているのではありませんか。ここには企業と働く者が担う日本の経済的力量と裏腹な政治的貧困が映し出されていると言わねばなりません。言葉をかえて言えば、内需拡大のための生活関連の社会資本整備の必要と余地は極めて大きいにもかかわらず、政府はそれを怠り、さらなる円高とそれによる困窮を招いたのであります。これを失政と言わずして何と言うのでありましょうか。(拍手)
 私たち日本社会党は、来年度予算で回ないし五%の経済成長を達成できる積極型予算に大幅修正すべきであると考えます。所得税の大幅減税や賃上げ、十四兆円に上る円高差益の消費者への還元などで可処分所得の増加を実現して、まず個人消費支出をふやすことでしょう。住宅や下水道整備など生活環境、社会資本の充実や技術革新による設備投資など積極政策の実施に踏み出せば、景気の回復に役立つでありましょう。こうした内需拡大は、諸外国の信頼を取り戻し、円の安定に寄与するに違いありません。
 貿易摩擦や円高不況の克服といい、雇用不安の解消といい、あるいは財政再建への取り組みといった我が国経済が今問われている重大なことの数々は、政府が経済運営の基本を内需拡大にはっきりと据えることであります。その内需拡大は、何よりもまず国民の仕事と暮らしの安定を保障する政策から始まるのであります。総理は、この基本に照らして経済政策の抜本的転換を決断されるべきだと思いますが、御所見を伺いたいのでございます。(拍手)
 内需拡大と言いながら、総理がされたことといえば土地の地価が高騰したことであります。大切なことは抜本的な土地対策であります。東京都心では一年に地価が倍にはね上がり、一坪八千万円とか一億円などという異常な地価はあれは何でございますか。土地への投機は海外にまで及んでいます。アメリカのニューヨークを初め西海岸の経済各都市の中心街の土地やビルを買いあさる日本企業が値段をつり上げたという批判が相次いていることは、アメリカの対日感情を悪くすることがあってもよくすることはありません。お金がすべてであるという、今やエコノミックモンスターまがいの姿勢が円高の中ですさまじい勢いでばく進しています。
 総理、あなたは一生懸命働けば勤労者が自分の家が持てると言えますか。一生懸命働いても土地つき住宅は買えないでしょう。営々と働き、マイホームの夢を持っている人たちがもう嫌になった、働くかいかないと漏らすため息が経済大国の出来事として当然と思われますか。まず、地価の異常な値上がりを抑えることは急務です。土地転がしや土地を投機、マネーゲームの道具にさせないために、私どもの党は、その皮切りとして、土地優遇税制の是正、土地取引審査の強化、土地譲渡課税と遊休地に対して課税を強化すること、そして、政府が実施しようとしている長期土地譲渡課税緩和を中止することを提唱しています。(拍手)
 私は、以下の経済運営の問題を通じて、総理の考えられる内需拡大の方法とその見込み、地価の異常高騰の対策をぜひ聞かせていただきたい。そうして、もし日本経済の先行き不安が解消しないならばどのように責任をおとりになるつもりか、お尋ねしたいのであります。
 それにつけても私が不思議に思いますのは、アメリカのニューズウィーク誌一月二十九日号巻頭の論文の題のようにこの円高が「アメリカの逆襲」によるものならば、日本はアメリカにきちんと物を言っているのだろうかということであります。日ごろ総理御自慢のロン・ヤス関係という親密さがありながら、これはどうしたことだろうという思いが強くいたしますのは私だけではありますまい。ぜひ御存念を承りたいのでございます。(拍手)
 さて、防衛費のGNP一%枠突破の問題は、初めに申しました軍備拡大への布石が最も基本的なことでありますが、それと絡んで、今の経済運営の諸問題に関係する疑問が幾つか浮かんでまいります。
 まず、一%枠は本当に突破しなければならなかったのかという問題であります。内需拡大の国際公約を果たせない日本政府が、防衛費の一%枠突破でアメリカの御機嫌を取り結んでおこうとしたのではありませんか。そのため無理やり突破したのではありませんか。年末予算編成のぎりぎりまで大蔵省は、防衛予算について円高と石油が安くなったことで一%以下におさまると自信を持っておられました。それがこのような結果になったことの本当の理由については強い疑いを持たざるを得ないのであります。納得のいく御説明を総理からいただきたいと存じます。また、予算編成の最後まで一%以下におさめようと努力された宮澤大蔵大臣の心情を国民は聞きたがっております。宮澤大蔵大臣、いかがでございますか。(拍手)
 さらに、円高との関係ではもっと直接的な問題がございます。
 政府提出の予算案は一ドル百六十三円のレートが基礎になっているとのことであります。ところが、現在の円相場は一ドル百五十円近くに上がっております。ほぼ八%の値上がりであります。これによって計算いたしますと、防衛費はGNPの一%以内におさまるはずであります。仮にこの計算が素人考えに過ぎるというのなら、政府は円高による補正値を国会に報告する義務があります。見通し次第では予算の組み替えをする必要があります。ひとつはっきり総理に御見解を承りたいと思います。(拍手)それとも政府には百六十三円の相場に戻る確実な見通しがあるとおっしゃるのでしょうか、お聞かせいただきたいのであります。
 さらに、この問題は、GNP比一%を打ち破っておいて、政府が一月二十四日に、この国会を前に大急ぎで決定した一%枠にかわる新しい基準と称するものにも大きくかかわってまいります。政府決定によれば、昭和六十年九月に閣議決定した中期防衛力整備計画の総額を新しい枠とするようであります。
 ところで、この新しい基準について大変な疑義を申し上げたい。昭和三十二年の一次防から二次防へ、三次防、四次防へと、防衛費が倍々ゲームで膨れ上がると批判され、昭和五十二年の防衛白書が、我が国の防衛力はどこまで大きくなるのかという反省から総額明示方式はとらないということで、「防衛計画の大綱」と一%枠とが決められたはずであります。この政府自身の反省をかなぐり捨てて、またUターンして、総額を新しい基準とするのは一体いかなる理由によるのですか。いつか来た道であります。そうした上で、一%枠を決めた三木内閣の閣議決定の精神は尊重すると言われることは、自己矛盾も甚だしいと言わねばなりません。(拍手)中期防衛力整備計画といえば五年間計画です。予算は単年度主義です。総額方式はこれとは相入れるものではありません。中期防衛力整備計画の十八兆四千億円は昭和六十年当時、一ドル二百三十円で計算されています。今ではそれから三〇%強も円高になっており、到底客観的歯どめの名に値するものではないのじゃありませんか。御所信を承りたいと思います。(拍手)
 総理は、さきの北欧、東欧諸国訪問の節、フィンランドの中立政策を評価されました。八三年夏の参議院選挙で「何もしないでいるとフィンランドのようにソ連にお情けを請うような国になってしまう」とたしかおっしゃった総理であってみれば、今回のごあいさつには大変重みがございます。現地でのごあいさつは、単なる方便で済みません。相互信頼と主権尊重、平和友好関係、人と人の、また、文化の交流をどこまでも大切にする非軍事的手段でみずからの平和と安全を確保している中立政策を直視すべきであります。
 国際国家日本は、東西両陣営の交流促進、緊張緩和、南北の協調を図ることは言うまでもなく、みずから平和憲法の国として世界に平和を築く責任があります。経済大国日本がどのような進路をとるかは世界の運命を変えると言えましょう。軍事費の枠を外して軍拡に進み、近隣諸国から不信と危惧の念を持たれてどうして平和に貢献する国際国家と言えましょう。(拍手)決然として軍縮に踏み出すことが日本は戦争をしない、戦争に加担しない国としてのあかしであり、経済国としての信頼を受ける平和国際国家となる道であります。中立政策を評価された総理の御所信を承りたいと存じます。
 平和とは単に戦争のない状態を言うだけでないことは自明であります。総理は、昨年末に日本に来られました米国のジェシー・ジャクソン師とお会いになったと存じます。私も会いました。彼は私たちに対して、人権こそ平和のかぎであるとの信念を持つべきだと言い、その節「残念ながら日本は国際的に経済の点では黒字国、しかし、モラリティーの点では赤字国と見える」と語りました。含蓄に富んだ指摘であります。
 人種差別、性による差別、部落差別、少数者差別を初め地球上に存在しているあらゆる差別と偏見に対して人権尊重の観点でどのように対応しているかは、その国の民主主義のバロメーターにほかならないと思います。所信表明の演説で戦争の最大抑止力は人権尊重であると言われた総理に、この際、前々から我が党が強く要求してまいりましたあらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約の早期批准を求めます。(拍手)この通常国会中にできるのではありませんか。
 また、数ある国内法整備の中で、悪質な差別が後を絶たない部落問題の根本的解決に努力しなければなりません。既に確かめられている一九六五年の、部落問題の解決は国の責務であり国民的課題であると述べた内閣同和対策審議会答申の精神に立ち返って、部落解放基本法を制定する必要があります。名より実をもって示せという言葉どおり、中曽根総理の条約批准と国内法整備についての御決意を承りたいと存じます。(拍手)
 さて、日本国憲法施行四十周年のこの国会の質問を終えるに当たって、私は、明治、大正、昭和とその生涯を憲政のためにささけられた尾崎行雄先生の演説を振り返りたいのであります。
 戦前の風雲急を告げる昭和十二年、政府の軍備拡張と増税案に反対する辞世を懐にしての演説の一節であります。尾崎先生は「世間では軍備の充実と国防の安全とを同じもののように思っているようだが、軍備を充実して国防がいよいよ危うくなることもある。国防というのは相手のあることだから、向こうがこちら以上に軍備を充実すれば日本の国防は危うくなるのである。一体日本はどこに行くつもりで政府はかじをとっているのか」という演説であります。政治家としてしみじみとかみしめなければならぬときであります。
 総理にとってもはや時間は余りありません。この際、せめて総理には、売上税導入、マル優廃止、防衛費の一%枠撤廃、国家秘密法制定の策謀をきっぱりおやめになることであります。それができないのなら、総理、あなたがおやめになることです。(拍手)これをはっきり申し上げて、代表質問を終わります。(拍手)
    〔内閣総理大臣中曽根康弘君登壇〕
#7
○内閣総理大臣(中曽根康弘君) 土井議員にお答えをいたします。
 まず、売上税と防衛費との関係でございますが、売上税と防衛費とを結びつけてお話しなさるということには非常に迷惑をいたします。(拍手)
 私は、施政方針演説でも申し上げましたけれども、また、この席上で何回も申し上げましたけれども、戦後の日本の民主主義及び我々が行ってきた成果については非常に大きな評価をしておるものであります。戦後、日本は日本歴史の中でもまれな、偉大なピラミッドを建設したと思う、そういうふうにも申し上げておるのであります。それは、我々がやはり戦争の教訓に学びまして、平和と民主主義を我々の信条に、中枢に据えて懸命に努力してきた結果であると思い、その平和と民主主義を守るために一生懸命お互いにやりましょうとこの間施政方針で、ここで申し上げたばかりなのであります。(拍手)
 我々は、国家の防衛は重大な国務であると考えております。非武装中立の態度はとりません。(拍手)やはり平和を守り、日本の主権と独立を守るためには、必要最小限の努力を我々はしなければならない、そう考えておるのであります。(拍手)しかし、防衛費が無制限に膨張することは、これは阻止しなければなりません。そういう意味におきまして、三木内閣の決定をできるだけ守ってきたところでございますけれども、今回の予算編成におきましては、やはり防衛庁並びに自衛隊員の待遇改善あるいは練度の向上、通信機能の充実あるいは労務費の問題、こういう問題から、まことに残念ではありましたけれども、一%をわずか超えざるを得なかったのであります。その一つの原因には、GNPの成長率もまた絡んでおるのであります。三木内閣の決定を行いましたときには、成長率は一三%程度というものが見込まれておりました。今日は残念ながら三%台でございます。そういう面から、ある程度、一%を今のようなわずかばかり超えざるを得なかったということを御了承願いたいと思うのであります。
 しかし我々は、これについては厳重な歯どめをつくっております。かぎはちゃんとかかっておるのであります。それは何であるかといえば、憲法や憲法に基づいて我々がここで国民の皆さんにお誓いしてきたことです。専守防衛あるいは軍事大国にはならない、非核三原則を守る、文民統制を全うする、そして節度ある防衛力を我々は心がける、そのことをはっきり申し上げておるのであります。それと同時に、今回は中期防、中期防衛力整備計画の約十八兆四千億円、昭和六十年度価格でございます、これを大きな枠として、歯どめとして厳然と据えておるのであります。つまり、金額によってちゃんと歯どめを据えたということは非常に重い、厳重な歯どめに今度はなっておるのであります。(拍手)そういう意味におきまして、いわゆるリボルビング制度をやめた、途中で見直しすることはやめた、そういうこともはっきり閣議決定もしておるわけでございます。
 売上税はこの防衛費とは関係ありません。これは、長い間、シャウプ税制以来三十七年たちまして、税のひずみやゆがみができて、特に家庭を持っておる中堅サラリーマンの皆さん方の減税を断行したいという念願に燃えて実はやっておるのであります。それと同時に、日本の税体系を調整しよう、そういう考えを持ちましてゆがみ、ひずみの是正ということも心がけて行ったものなのでございます。この売上税につきましては後でまた申し上げますけれども、これは、今回の税制改正におきましては、本年度において約十四兆四千億円の減税を先行させます。そういう意味におきましては、できるだけ早期にこの減税法案を成立させたいと思っておるのであります。売上税の実施は……(発言する者あり)
#8
○議長(原健三郎君) 静粛に願います。
#9
○内閣総理大臣(中曽根康弘君)(続) 来年の一月一日からであります。(発言する者あり)
#10
○議長(原健三郎君) 静粛に願います。
#11
○内閣総理大臣(中曽根康弘君)(続) それから、いわゆる利子課税の問題は十月からでございます。したがいまして、我々は、減税を先行させるという考えに立ちまして税制を組んでおるのであります。もちろんいわゆるレベニュー・ニュートラルと申しておりますから、増減税は同額でありますけれども、少なくともサラリーマンに関しては減税が先行するのであります。
 次に、大型間接税の……(発言する者あり)
#12
○議長(原健三郎君) 静粛に願います。
#13
○内閣総理大臣(中曽根康弘君)(続) 問題でございます。
 我が国の税体系は、所得税、住民税、法人税等の直接税に偏り過ぎておりまして、その間幾多のひずみが発生して、このままでは日本の租税制度は袋小路に入って、動きがとれない情勢になりつつあります。今回、サラリーマンの重税感を和らげる等のため大幅減税を行う機会に、あわせて売上税の創設を含む間接税制度の改革を行いたい、そう考えておるわけであります。(拍手)
 この売上税は公約に違反するものではございません。まず第一に、免税点が一億円であり、小売業、サービス業を中心に全事業者の約九割が免税となるということ、食料品や医療、教育、住宅、一般の旅客輸送など国民生活に密接に関連する分野の多くが非課税とされ、消費者物価指数の計算対象となる物品・サービスのうち課税されるもののウエートは約三五%となっていることでございます。
 ただいま一兆四千億円と申しました。十四兆四千億円を間違えましたので訂正いたします。(発言する者あり)
#14
○議長(原健三郎君) 静粛に願います。――静粛に。
#15
○内閣総理大臣(中曽根康弘君)(続) 次に、税率が五%と、諸外国と比して極めて低い水準にございます。また、そのような大幅な制限、限定がなされておりまして、我々が、私が公約で導入しないと約束したいわゆる大型間接税には該当しないと考えております。なお、免税点以下の小規模事業者は原則は非課税事業者でありますが、それぞれの取引の実態に応じて課税業者になることが有利であれば課税を選択することができるともしております。(発言する者あり)
#16
○議長(原健三郎君) 静粛に。――静粛に願います。
#17
○内閣総理大臣(中曽根康弘君)(続) しかし実際には、小規模事業者の大半を占める零細な小売業者やサービス業者を初めとして工賃収入に依存している中間業者については、課税を選択することは少ないと考えております。
 また、今回の税制改革におきましては、改革全体としても、また六十二年度においても、税収中立性の原則を堅持しているところでありまして、増税への布石との御指摘は当たらないものであります。
 次に、マル優の見直しの問題であります。
 現在、個人貯蓄の約七割が非課税貯蓄の適用を受け、多額の利子が課税対象から外れております。また、現行制度は高額所得者により多くの恩典を与える結果となっております。非課税貯蓄制度は、もともとは貯蓄奨励の見地から設けられたものでありますが、今日では非課税となっている利子の額は、法人所得の総額の約半分程度という巨額なものとなっております。以上にかんがみまして、今回、税負担の実質的な公平を進める見地からこの制度を見直して、老人、母子家庭、身体障害者等に対する利子非課税制度に改組することとして、一般の利子所得に対しては二〇%の源泉分離課税を課することといたしました。今回の利子非課税制度の改革は、老人、母子家庭、身体障害者等真に手を差し伸べる必要がある方々に対しては十分な配慮を加えておるところであり、従来から私が申し上げているところでございます。
 なお、一般にマル優等について徹底した限度管理を行うことは、利子所得の所得者及び発生源がおびただしい数に上ること、その元本である金融商品が多様なものであるという事情から、金融機関、税務当局、さらには貯蓄者に対して著しく過大な事務負担を強いることになるおそれがあります。今回は、簡素で効率的であり、かつ金融商品相互で中立的な課税方式として一律の源泉分離課税に踏み切ったものであります。
 今回の税制改革は、思い切った個人所得減税を行うとともに、社会共通の費用はできるだけ特定の分野に偏ることなく薄く、広く、公平に分かち合うべきであるとの観点から、利子課税の見直し、売上税の創設を含む間接税制度の改革を行うこととしております。また、改革に当たりましては、老人そのほかの弱い方々に対する特別の配慮も行っておるところであり、なお、キャピタルゲイン課税や土地取引に係る課税の見直しなど、高額所得者の保有する株式や土地に対する課税を強化いたしております。
 さらに、この売上税につきまして撤回せよという御質問でございますが、撤回する考えはございません。(拍手)
 経済運営の問題でございますが、やはりこれから大事な問題は内需と為替の安定である、こう考えております。政府は、内需を中心とした景気の着実な拡大を図り、雇用の安定を確保するため、昨年四月の総合経済対策、五月の当面の経済対策に加え、九月十九日に公共投資等の拡大等を内容とする総合経済対策を決定したところであります。これを実効あるものとするようその着実な実施に全力を挙げておるところであります。また、六十二年度予算においては一般公共事業の事業費の確保、地方財政との協力、住宅金融公庫融資の拡充、雇用対策の充実など経済情勢にも適切に対応しており、予算の早期戒立を図る必要があると考えます。さらに、昨年十一月一日には昨年四度目の公定歩合引き下げを実行いたしました。そのほか消費者金融利子の引き下げ、所得税、住民税減税の先行実施等により消費の拡大を促進する考えでございます。
 また、為替レートにつきましては、今後とも経済の基礎的条件を適正に反映した為替相場の安定を実現するため、各国と幅広い話し合いを続ける努力をしてまいるつもりでおります。主要国との協調的な経済政策の実施を促進すること、円レートの長期的安定を図ること等につきまして、機動的な対策を今後とも講じてまいる所存でおります。
 円高対策につきましては、急激なこの円高に伴い、かつ為替相場の乱高下に対する適時適切な介入とともに、機会あるごとに米国通貨当局等と為替相場安定のための話し合いを行ってきております。今後とも、経済の基礎的諸条件を適正に反映した為替相場の安定を実現するために、各国と幅広い話し合いを続ける努力をいたします。G7の早期開催という点についても留意しておるところであります。
 円高不況対策といたしましては、鉄鋼、石炭あるいは造船、繊維等を初めとした我が国の業況は厳しい状況にありまして、雇用面への影響も見られてまいりました。また、業況が悪化している産業に大きく依存した地域においては特に経済情勢の悪化が著しく、影響が及んできております。こうした情勢に対処するため、経済の基礎的条件を適正に反映した為替相場の安定を実現するために努力すると同時に、内需の拡大、産業構造の転換の円滑化、地域経済の活性化等のための施策、三十万人雇用開発プログラムの実施等の雇用対策の特段の強化を図る決意でございます。
 次に、財政改革を強力に推進するため、各年度においては厳しい概算要求基準を設定して、歳出の節減合理化を図ってまいりました。五十八年度以降五年連続で一般歳出を対前年度以下に圧縮してきているところでございます。その中で、各年度の予算編成においては、国民生活に配慮して各種の福祉施策をきめ細かく推進する等財源を重点的、効率的に配分してきたつもりでございます。
 社会資本の整備につきましては、六十二年度予算におきましては、現下の経済情勢にも適切に対処するため、一般公共事業の事業費について種々の工夫により、名目GNPの伸び四・六%を上回る五・二%の伸びを確保した次第であります。この事業費確保は、内需拡大に資するとともに、国民生活の基盤となる社会資本の着実な充実に資するものであります。
 円高差益の還元につきましては、政府も懸命な努力をしてまいってきておるところでございます。今まで政府が努力してきた項目を申し上げますと、電力、ガス料金の引き下げ、工業用アルコールの値段の引き下げ、輸入牛肉の差益の還元、小麦に対する価格の引き下げ、国内航空運賃割引制度の拡大、国際航空運賃の方向別格差の是正、国際通信料金、この負担の軽減、砂糖価格の引き下げ、塩の値段の引き下げ、あるいは石油、ガソリン等の還元促進、配合飼料価格の引き下げ、あるいは輸入品一般に関する還元を我々としては努力してまいったところでありまして、今後とも、円高メリットが国民全般に及ぶように懸命の努力をいたす所存でおります。
 積極予算への転換を御示唆なさいましたけれども、やはり我々は、臨時行政調査会あるいは臨時行政改革審議会の答申を守りまして、行政改革、財政改革の道をやめるわけにはまいらないのであります。六十二年度予算においては、財政改革を着実に推進するとともに、経済情勢に対応するために、公共事業の事業費については昨年度を上回る五二一%の伸びを確保し、雇用対策についても真剣に努力いたさんとしておるところでございます。
 この行財政改革の基本路線のもとで、調和ある対外均衡と国内均衡の実現という内外均衡の同時達成を図る決意で今後とも政策を進める考えでおります。すなわち、内需主導型経済への転換をさらに強めるということ、供給面においても、需要の変化に見合った産業構造の転換、輸入の拡大を図ることが必要であります。
 所得税の減税につきましては、中堅所得層の負担軽減を主眼に思い切った軽減合理化を行わんとしております。具体的には、最高税率の引き下げを含む税率構造の見直しを行うこと、すなわち、最低税率は今度は一〇%にしようとしておるところであります。夫婦子供二人のサラリーマンで言えば、年収四百五十万程度までの人たちに適用される税率を、これまでの一〇・五%と一二%から一〇%に引き下げる。納税者であるサラリーマンの半分はこの一〇%だけが適用されるものと考えられます。また、一〇%の上の税率を一五%といたしまして、夫婦子供二人のサラリーマンで言えば、年収九百万円程度までの所得について適用することとしております。この結果、約三千六百万人の税金を払っているサラリーマンがいらっしゃる由でありますが、ほとんどのサラリーマンにとって、就職してからある程度の地位に達するまでに適用される所得税率は、一〇%一本か一〇%と一五%の二本となりまして、税率の上昇頻度が大幅に減少し、最低税率の引き下げと相まって、税負担の重圧感は大幅に緩和されると考えております。(拍手)
 さらに、平年度におきまして所得税の税率を十五段階から六段階に、個人住民税の税率を十四段階から四段階として、思い切って簡素にいたさんとしております。社会の活力を維持増大する見地に立って、全体の累進構造をなだらかにしていくのとあわせて、国、地方合わせて八八%に達する最高税率を六五%に引き下げようとしておるのであります。引き下げ後でも、国、地方を合わせた最高税率は先進諸国の中で我が国はまだ最も高く、我が国の個人所得課税は国際的に見て依然として下に軽く、上に重いものとなっております。
 次に、サラリーマンが抱いている税負担の不公平感を緩和するために、主としてサラリーマン世帯の税負担を調整する見地から、新たに所得税で十五万円、個人住民税で十二万円の配偶者特別控除を創設することにしてあります。サラリーマンについては、特定支出の額が給与所得控除額を超える場合には、申告によりその超える部分を控除することを認めるいわゆる必要経費の控除という制度も認めようとしておるところであります。
 このほか、老年者世帯の負担軽減に配慮して、老年者控除についてこれまでの二十五万円を五十万円に引き上げることにしておるのであります。公的年金の課税の整理合理化を図り、これまでの老年者年金特別控除及び給与所得控除にかえて、新たに公的年金等控除を創設するということを実行いたします。これらによる所得税減税の規模は、平年度一兆九千五百億円、個人住民税を含めますと二兆七千億円に上る減税になるのであります。(拍手)
 次に、土地の課税でございますが、今回、土地譲渡所得について長期、短期の区分の特例を設けて、取得後二年以内に転売するような超短期保有分につきさらに重課を行う等の改正を行うこととしていますが、これは全体として当面の土地政策の要請にもこたえつつ、資産性所得に対する課税の一層の適正化の見地から行うこととしたものであります。遊休地課税については、基本的に土地の利用規制のあり方に関し、幅広く土地政策全般の中で研究していくべき問題でありますので、今後検討してまいるつもりでおります。
 地価の対策につきましては、全国的にはやや安定しておりますが、東京等一部地域においては著しく高い地価上昇が認められます。東京の地価上昇は基本的には旺盛な事務所需要等によりますが、これに投機的な土地取引が拍車をかけていると理解しています。この地価上昇に対しては、業務機能の適正な配置、分散を図るほか、事務所用地等の供給策とあわせて、投機的な土地取引を抑制するため、国土利用計画法の的確な運用に努めておるところであり、地方公共団体とも協力しておるところでございます。また、昨年十二月に地価対策関係閣僚会議を設置いたしまして、機動的にこの会議を開催して、強力に地価対策を進める考え方でおります。
 今後の経済運営につきましては、先ほど来申し上げましたように、内需と為替の安定と二つを重視するということを申し上げ、今まで行いました諸般の経済対策を着実に全力を挙げて遂行していく考えでおります。
 さらに、円高是正への努力の問題でございますが、為替相場の安定のためには、基本的に各国の政策協調が重要であります。この一環として、昨年十月末、日米蔵相間で為替安定について合意をし、さらに、本年一月二十一日にも、為替市場の諸問題について協力を続けていく意向を再確認いたしました。これらの合意が為替相場の安定に資することを期待し、今後とも努力してまいるつもりでおります。
 次に、GNP一%の問題でございますが、先ほど申し上げました事情でやむなく一%を突破せざるを得なくなったのであります。しかしいずれにせよ、中期防の枠組みを厳正に守っていくということ、なお、さらに今後六十六年以降の次の防衛計画策定という問題につきましても、昭和五十一年十一月の閣議決定の節度ある防衛力の整備を行うという精神は引き続きこれを尊重してまいる考えでおります。防衛経費について申し上げますと、予算関係の中で六十年は六・九%、六十一年は六・五八%、六十二年は五・二%と、やはり比率は漸減しておるのでございます。
 円高による減額修正の問題でございますが、従来より、各年度の予算編成においては、編成時までの為替市場の動向を勘案しつつ、できる限り予算の積算レートとして適切なものを設定しております。六十二年度予算においては、一ドル百六十三円を予算の積算に使用しております。年度途中の経済動向等により為替相場は変動するものでありますが、為替相場の変動が外貨関連予算にどのような影響を与えるかは予算執行の段階の問題でありまして、現在におきましては防衛費の減額修正を行う考えはございません。
 次に、予算ベースの為替レートの問題でございますが、本年度の百六十三円は六十一年十一月の平均をとったものでありまして、為替相場の見通しといった性格のものではございません。為替レートの安定を図ることは重要であり、為替相場の動向を十分見守っていく必要はありますが、最近のように為替レートが不規則な変動を示すこともありますので、その影響を考えるに当たっては、ある程度の期間についてならして見る必要があると考えます。
 次に、為替差益による一%遵守の御指摘がございました。中期防の限度額おおむね十八兆四千億円程度は、この計画に定める事業の実施に必要な経費を昭和六十年度価格で実質表示したものでありますが、中期防の対象期間内の各年度の予算は、為替レートを含め各種の価格変動を織り込んだ当該年度の価格、すなわち名目ペースで決定されるものであります。いずれにせよ、各年度の名目額は変動するとしても、六十年度価格で示されている総額の限度は変わるものではなく、五カ年間の防衛力整備に要する経費の限度額を明示する合理的な指針であると考えているところであります。六十二年度防衛関係費については、円高等も踏まえ、全体の規模の圧縮に努める一方、同時に、中期防の着実な実施を図ることとして、ぎりぎりの努力を払ったところでございます。名目GNPの動向もあってやむを得ずGNP一%を上回るものとなったことを御了解願いたいと思うのであります。
 平和外交の推進の問題でございますが、フィンランドはその歴史的経験等を踏まえて、東西関係の安定化のため独自の外交を展開しており、これを評価しているものであります。その国の防衛や外交政策というものは、その国独自の事情に基づいて独自に決定されるものであると考えております。我が国の平和と繁栄は、世界の平和と繁栄なくしてはあり得ないものであり、平和外交の推進は我が国外交の基本的方針の一つであります。具体的には、我が国としては、今後とも自由民主主義諸国の一員として、東西間の対話・相互理解の増進、軍備管理・軍縮の促進、地域紛争の早期平和解決のための環境づくり等に向けて積極的に努力をし、なお、南北問題の解決についても積極的に努力したいと思います。
 人種差別撤廃条約の問題でございますが、この問題は前向きに今まで深く検討してきたところでございます。しかし、我が国憲法の表現の自由等との問題がありまして、今慎重に検討しているところであります。すなわち、この条約におきましては、人種的優越または憎悪に基づく思想のあらゆる流布あるいは扇動、こういうようなことが実は処罰の対象になっております。そうなりますというと、日本国憲法の十九条「思想及び良心の自由は、これを侵してはならない。」あるいは二十一条「集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。」こういう憲法の条文に抵触するおそれがあるわけであります。そういう意味におきまして、今慎重に検討しているということを申し上げるのであります。
 部落解放基本法の問題でございますが、現行地域改善対策特別措置法失効後の措置については、昨年十二月の地域改善対策協議会意見具申において新規の限時法を制定する必要がある旨の御指摘をいただいており、政府としては、この意見具申を踏まえ、今国会に最終の特別法として新規時限立法を提出すべく鋭意検討中であります。地対法失効後の措置として恒久法である部落解放基本法を制定する考えはございません。
 最後に、尾崎咢堂先生のお言葉をお引きになりましたが、戦前と戦後とは日本の社会は一変しておるのであります。あの強力な力を持った軍部もありません。憲法は厳然として機能しておりますし、市民社会は厳然と岩盤を張っておるのであります。また、日本のジャーナリズムは世界のどの国にも負けないぐらい強力であります。文民統制は、これは厳守されております。我々は、現在の日本の民主主義に自信を持ってたくましく前進していきたいと考えております。
 残余の答弁は関係大臣がいたします。(拍手)
    〔国務大臣宮澤喜一君登壇〕
#18
○国務大臣(宮澤喜一君) 土井委員長から為替の問題につきましてお尋ねがございました。
 一昨年の九月のいわゆるプラザ合意以来の円の上昇が余りにも急速かつ大幅でございましたから、それが国民経済に容易ならざる影響を与えておりますことは私どももよく認識をいたしております。したがいまして、財政の厳しい中ではございますが、先ほど総理からお話のございましたように、内需拡大に財政も精いっぱいの努力をいたしつつございますが、他方でまた、相場そのものの安定を何とか図れないものだろうかという努力をいたしてまいりました。昨年の十月末に、アメリカの財務長官と話をいたしましたわけでございますが、その後二月ほどは相場が安定をいたしておりました。しかし、ことしの一月の中旬になりまして、ヨーロッパの方の事情の影響もありまして、相場にかなり乱れがございまして、私としましては、これは昨年十月の末にベーカー長官と話し合いをいたしましたいわば協議をすべき事態であると考えまして、渡米をいたしたわけでございます。
 その結果、今回のこの不安定と見られる現象を不安定としていわば認識をして、これらの問題について協力をしようといういわば合意ができたわけでございます。その後、アメリカの国際収支の十二月分の結果が予想よりもよかったといったようなこともございまして、しょせんはやはり米国の国際収支が好転に向かうということが一つ大きな大事な点でございますので、この点につきましては、先般、アメリカのスピークス副報道官も引き続き改善が予想されるということを言っておりまして、米国の国際収支の改善のためにお互いに協力をしてまいるということが一つ大きなかぎになるというふうに考えているわけでございます。
 次に、先進国の蔵相会議についてお尋ねがございました。
 この点につきましては、昨年の東京サミットにおきましても、先進国間の協調、協議というものが必要であるということが確認をされておりますし、また、ベーカー氏と私との会談でも、二度にわたりまして一般的にそういうことは話し合いをいたしておるわけでございます。そこで、ただいまの段階で、いつの機会にそういうことをすることがいいか、また、どういう運びにしていくかというようなことについて内々の相談は関係国岡でいたしておるわけでございますが、ただいまの段階でまだ確たることを申し上げることができません。そういうことが好ましいことであるというふうに私どもは考えておるところでございます。
 それからもう一つ、GNPの一%を防衛費が昭和六十二年度予算編成の際に突破をすることになった、そのような経緯について説明をせよというお尋ねでございます。
 あらかじめ一%を突破するというもとより意図があったわけではございません。私どもが、私と防衛庁長官との間で予算折衝をいたしておりまして、大臣折衝を二度いたしたわけでございますけれども、両方の意見の違いと申しますのは、防衛庁としてはこの際、隊員の隊舎であるとか宿舎であるとか、いわゆる長年放置されておりました後方支援と称するところの経費あるいは住宅の防音対策等々の基地対策、それらを合わせまして、金額で申しますと三百数十億の開きがあったわけでございます。
 私として考えましたことは、これらは確かに長いこと施策がおくれておるという事実、それから財政の事情から申せば負担できないほどの金額ではない、さらにまた、これを負担いたしましても、対前年比の伸びから申しますれば、過去において最も実は伸びとしては低いものにとどまるといったようなことがございますので、ただその段階でGNPの伸びが非常に低うございますために、それを計上すれば一%を突破することになる。大蔵大臣といたしましては、この点で安全保障会議並びに閣議の議を求めたわけでございます。それらの会議におきまして、突破することまたやむを得ないであろうという、そういう決定がございましたので、合計いたしまして三百七十億円の経費を計上をいたしたわけでございます。
 以上のようないきさつでございますが、今後のことを考えますと、分母、分子両方の事情にもよりますが、一遍こういうことになりましたから防衛費がどんどんふえていく、際限なくふえていくというような感じは私はいたしておりません。殊に中期防衛力整備計画がございますので、これはある意味で定量的な歯どめになっておりますことは確かであると思います。いずれにいたしましても、財政当局といたしましては、国民の税金が決してむだになりませんように、有効に使われますように、今後とも厳しく査定を続けてまいる考えでございます。(拍手)
    ―――――――――――――
#19
○議長(原健三郎君) 伊東正義君。
    〔伊東正義君登壇〕
#20
○伊東正義君 私は、自由民主党を代表して、中曽根総理の施政方針に対する質問を行います。
 質問の冒頭に、若王子三井物産マニラ支店長の誘拐事件について伺います。
 事件発生以来二カ月、若王子さんの安否は日本国民のひとしく気遣うところでありましたが、最近の報道は情勢が極めて急迫してきたことを物語っております。我が党としても、事態打開の道を得るため、本院議員石原慎太郎君、参議院議員大木浩君、森山眞弓君をマニラに派遣いたしました。私は、この機会に、この間のフィリピン当局の努力に深謝するとともに、政府としては、若王子さんが一日も早く無事救出されるようあらん限りの手段を尽くされんことを要望いたす次第でございます。政府の対処をお伺いいたします。(拍手)
 中曽根総理、一九八七年も明けて、二十一世紀まであとわずかとなりました。残された十数年を我々がいかに費やすかは、新たな世紀に生きる子孫たちにとって極めて大きな意味を持つものであります。しかしながら、内外の情勢を見るとき、我々は、薄明の中に濃い霧に襲われたような感を抱かざるを得ません。すなわち、あたりはやみに閉ざされているわけではありませんが、目に見えるものはおぼろげであり、時に光が近づいても、たちまちのうちに霧の中に消えてしまうというようであります。このような不透明な時代において、我々はいかなる道標を求めて進むべきでありましょうか。
 ある欧州の思想家は、我々の時代は以前よりも多くの手段、多くの知識、多くのすぐれた技術を持ちながら、過去のあらゆる時代よりも不幸な時代だと言っております。他方、総理は、先日の施政方針演説において、高度情報化時代になって地球がさらに狭くなり、一つの世界が着実に実現しつつある。我々は日本人であると同時に地球村の住民であって、世界の新しい文明の創造に参画することを終局的目標としなければならないと訴えられました。総理は、この地球社会の未来についてどのような見解をお持ちでありましょうか、お伺いいたします。
 中曽根総理、総理は、日本国憲法施行後四十年間に民主政治の大本、議会政治の大道にどれほどの進歩があったか、その改革と新たな前進に挑戦する意欲が欠けてはいないかと反省と憂慮を表明されました。これに関連して、私は次の二つの点についてお尋ねをいたします。
 その第一は、多数党と少数党の役割に関する問題であります。
 今日、我が自由民主党は衆参両院のいずれにおいても議席のほぼ六割、いわゆる安定多数を占めております。これは、昨年の同日選挙において国民の大多数が自由民主党の政策と公約を支持した結果であり、政権を担う我が党がこれを強力に実行すべきことは申すまでもありません。しかし他方、我が党と異なる政策、公約を掲げた政党を支持された国民も少なくなく、政治はこのような人々の意思をも反映しなければならないと思います。同日選挙の結果判明した当日、総理が「議席数とは政策を実行するのに必要な最後の力であるが、政策の質については野党や国民の意見を聞いていく」と申されたのもこのためであると考えます。
 しかるに、この国会の冒頭、一部を除く野党の諸君は、総理の施政方針演説の内容について総理が補充演説を行わなければ代表質問をしないと通告されました。これはまさに国会審議開始前の審議拒否とも言えるものであります。(拍手)我が党は、単独議会運営を行うことをできるだけ避けるとの方針に立って、これら野党との話し合いを行いましたが、このため国会は貴重な数日間を空費することになりました。まことに遺憾と言わざるを得ません。今国民は、本国会で、税制改革や防衛費等今後の国政に極めて重要な意義を有する諸問題につき、与野党間に白熱した議論が展開されることを期待しております。我々は、この期待にこたえて、切れ目なく充実した審議を行わなければなりません。総理、それこそが野党を支持する方々の意見を国政に反映する道でもあるのではないでしょうか。(拍手)
 第二は、国会の現状についてであります。
 今日、官公庁においては国鉄の分割・民営化という大改革を初めとする行政改革、民間においては自主的努力によって合理化、減量経営等が進められている中で、最も改革のおくれているのは遺憾ながら立法府たる国会であります。一票の重みの格差についてだけは、最高裁の違憲判決もあり、昨年の第百四回国会で緊急避難的措置としてようやく三対一以内に定数を是正いたしました。しかし、これとても一議席の増という結果を伴ったのであります。同僚議員諸君は、このとき全会一致で行った「昭和六十年国勢調査の確定人口の公表をまって、速やかにその抜本改正の検討を行う」との決議を記憶しておられることでありましょう。これは、政治の国民に対する公約であると言わなければなりません。私は、抜本改正に当たって、格差是正だけではなく、定数の思い切った削減をも含めた改正が国民の要望にかなうゆえんだと思うのであります。中曽根総理、おくればせではありますが、国会も行政改革、民間の減量経営と足並みをそろえて国民の要請にこたえるべきではないでしょうか。(拍手)
 この正月、厳寒のさなか、総理は東西関係の接点にある欧州四カ国を日本の総理として初めて訪問し、世界の平和と軍縮のため東西対話の促進、特に米ソ首脳会談の再開、相互理解、相互信頼の努力を強く訴えられたのであります。私は、総理の世界平和実現の熱意に深い敬意を表するとともに、このたびの訪問が四カ国のみならず世界の各国から注目を浴びたことを重視したいと思います。時あたかも、我が国は国連安保理非常任理事国に選任されました。国連憲章は「国際連合加盟国は、国際の平和及び安全の維持に関する主要な責任を安全保障理事会に負わせる」と定めており、我々の責任はますます大きなものとなったのであります。
 我々は、これまでも世界の平和と繁栄の中にみずからの平和と繁栄を求めることを基本とし、平和と軍縮、自由貿易体制の堅持、開発途上国の支援等に力を尽くし、世界の平和と繁栄の受益者から積極的な貢献者へとその立場を改めることに努めてまいりました。しかし総理、有史以来島国に育ち、時には国を閉ざして外界との接触を断ってきた日本民族は、かつて地球的規模の問題を処理したことはなく、無論そうした責任をみずからのものと実感した経験はないのであります。日本人が国際的な場において時に厳しい批判を浴びるのは、急速に発展した国力と国際経験不足との間のギャップに起因するものでありましょう。中曽根総理、我が国のかかる立場と責任、そしてこれに応ずべき行動について御所見をお承りいたしたいと思います。(拍手)
 次に、こうした国際環境の中における我が国の経済運営についてお尋ねいたします。
 懸念されていた円の対ドル相場は、先般、瞬間風速値ではありますが、ついに百四十円の大台に突入し、日本の全産業界に大きな衝撃を与えました。宮澤大蔵大臣は直ちに訪米して米側当局者と協議し、今日田レートは百五十円台を維持しておりますが、前途は予断を許さないものがございます。景気の動向も不透明であります。個人消費、住宅投資を中心に国内需要は緩やかに増加しつつあるものの、輸出の弱含み等から鉱工業生産の落ち込みは甚だしく、六十一年については、第一次石油危機以来初めて前年を下回るものと見られています。また、企業の多くも大幅な減益で、これを補うため、財テクや資産売却に走っておるのであります。
 こうした中で、経済の失速を防ぎ、景気の浮揚を図るには、何としてもまずこの急激な円高の進展を食いとめなければならないのであります。もとより基本的には、この円高の原因は米国の双子の赤字、すなわち財政赤字と貿易赤字にあり、我々は、米国に対しその解消を強く求めていくべきであります。しかし他方、我が国が輸出依存型の経済体質により膨大な貿易黒字を抱えていることも重要な原因の一つであって、これを解消するには内需の拡大を推進しなければならぬのであります。それには、まず何よりも昭和六十二年度予算の成立であります。同予算は、ここ数年来横ばいもしくはマイナスを続けてきた一般公共事業の事業量を財政投融資の増大等によりまして五・二%増加するほか、民間活力の活用等、できるだけ内需振興にも配慮して編成したものであります。その執行は景気の下支えに大きな役割を果たすものと信じております。円高対策、景気浮揚について総理の御所見をお尋ねいたします。
 中曽根総理、今日の日本経済は、三十年前我々が夢想だにしなかったものであります。当時世界の中流並みだった我が国の一人当たり国民所得は、現在先進国のトップランクに入りました。不足に悩んだ資本を輸出するようにもなり、日本は世界一の対外債権国だと言われております。しかし、これまで日本経済を支えてきた輸出の拡大は、各国との間に貿易摩擦を引き起こしております。累積する貿易黒字で、日本は世界の非難のあらしの中に立たされております。日本の今日の繁栄を明日につなぐためには、我が国の経済構造を国際的に調和のとれたものとするように転換しなければならなくなったのであります。かかる経済構造調整策推進に関する総理の御決意を承りたいと存じます。
 中曽根総理、先般長崎県高島炭鉱が閉山されましたが、その後、同炭鉱の労組書記長だった山崎清嗣さんがみずからその生命を絶たれました。閉山によって職を離れた従業員の方々の再雇用問題について心痛の余りのことだったと思います。このような悲劇を二度と繰り返してはなりません。我々は、国鉄職員の再就職問題を含め、現下の雇用問題について、政策の最優先課題の一つとしその対策を推進する決意であります。(拍手)
 今日の雇用失業情勢は、産業構造の転換を背景に生じている不況業種及びその関連地域を中心に失業者が増加するという形で深刻化しつつあります。自由民主党としては、緊急雇用対策特別委員会を設置して対策を検討し、三十万人雇用開発プログラムを提言したところであります。また、中長期的に展望すれば、経済構造調整等の進行に伴って雇用変化はさらに大規模なものになると予想されますので、今からその備えを固めておかなければならないと思います。雇用対策について総理の御所見をお伺いいたします。
 円高は、今日中小企業に最も深刻な影響を及ぼしております。すなわち、中小企業製品の輸出額は、最近対前年度マイナス二〇%余、また、円高関連倒産件数は前回の円高時の倍以上に達しております。この傾向は輸出型産地や不況業種の企業城下町等に著しいものがございます。政府は、これまでにも苦境にある中小企業のための特別立法を行い、構造改善対策に取り組んできましたが、今後とも、よりきめ細やかな施策を展開することが求められております。
 他方、私は、こうした苦境の中にあって、日本の中小企業が大企業にない変わり身の早さと、地域やニーズへの密着性を生かして、新しい発想に基づく高付加価値製品やサービスの開発に取り組んでいることを高く評価するものであります。このような中小企業の努力が、大企業などによって横からトンビに油揚げをさらわれるような結果となることなく、正しく報われるように配慮すべきであると思います。中小企業対策につき総理の所信をお伺いいたします。(拍手)
 さて、自由化要請の波はついに米にまで及んできました。生産者、消費者を問わず、国民が今日ほど農業、農政の将来について強い関心を抱くようになったことはなく、その意味で、今はこれまでの農業を見直すべき好機であります。総理が言及された農政審議会の報告は、農業の生産性の向上、合理的な農産物価格の形成のため、農業構造の改善を徹底することが必要だと指摘しております。
 我が党は、農は国の基との基本精神のもとに農業政策を推進してきましたが、この精神を貫く上でも、農政審議会の報告を踏まえ、我が国の農業を若い人々が夢と希望を持って取り組める産業として、活力ある農村社会の建設を進めなければならないと思います。(拍手)米が我が国農業生産の三分の一を占め、国民が摂取するカロリー量の三割を供給していることは事実でありますが、私は、議論の対象となっている食管制度や米の輸入については、国民の納得のできるような価格や制度への改善に努力することが大切だと考えますが、今後の農業政策について総理の御所見を承りたいと存じます。(拍手)
 中曽根総理、総理は就任以来「戦後政治の総決算」を目指し、各種制度の改革を精力的に推進してこられました。昨年の第百七回国会における国鉄改革法の成立で、行政改革は新たな段階に入りました。今後さらにこれを推進しなければなりません。一方、財政改革は、依然国政の急務であります。六十二年度予算においては、特例公債発行下において初めて公債依存度を二〇%以下に抑えましたが、それでもなお、六十二年度末の公債発行残高は百五十兆円を上回り、その利払い等の公債費が歳出予算の二割を超えております。政府目標の六十五年度特例公債依存体質脱却は、従来にも増して一層達成が困難の度を加えておりますが、果たしてこの目標が達成可能か、また、今後の具体的な進め方をどうするかについて総理の率直なお考えをお示しいただきたいと存じます。
 我が党は、先般、戦後四十年間の我が国社会経済情勢の変化を踏まえまして、二十一世紀に向けて日本経済が活力にあふれ、国民が生き生きと生活を営み得るよう、税制全般にわたる抜本的改正案を提示するとともに、それを具体化した六十二年度税制改正案を取りまとめたのでございます。
 この税制改革は、公平、公正、簡素、選択、活力という総理の主唱された五原則のもとにゆがみ、ひずみのない税制の確立を目指したものであります。改革の中心は、税に対する重圧感、不公平感が強い中堅所得者層の所得税減税と、国際化が一層進展する中での産業活動の健全な発展を図るための法人税の軽減であり、その規模は四兆五千億円にも及ぶ大減税であります。そしてその財源措置として、売上税の創設を含めた間接税の改革と、利子所得課税の適正化を図ったものであります。野党の諸君が我が党と考え方を異にされるならば、現実的な対案を示して、民主主義のルールに従って堂々と国会において論議を尽くされることを心から希望するものであります。(拍手)シャウプ勧告以来三十七年ぶりというこの税制の画期的な大改革について、総理の御決意をお聞かせいただきたいと存じます。
 教育は国家百年の大計でありますが、近年における経済や社会の変化はまことに著しいものがあり、二十一世紀に向けて創造的で活力のある社会を維持発展させるには、教育を時代の変化に対応して見直し、改革することが重要な課題でございます。先般、総理の提唱により、各国の教育関係者が一堂に会する国際的なハイレベル教育専門家会議が京都で開催されましたが、これは、教育改革の必要が我が国だけのものではないということを物語っておるのでございます。このような重大な教育改革への使命と国民の期待を担って発足した臨時教育審議会は、今春には第三次答申が、夏には最終答申がなされると聞きますが、総理は今後どのような決意をもって教育改革に取り組んでいかれる所存か、お伺いいたします。
 国の安全と平和を保障し、国民の生命財産を守ることは国家としての最高の使命、責任であります。そのため、我が国は、平和憲法のもと、他国に脅威を与えるような軍事大国とならず、専守防衛、非核三原則、文民統制を厳守することを防衛の基本方針としつつ、防衛力の質的向上と日米安全保障体制の効果的運用に努めてきたのでございます。
 昭和五十一年には、当時の経済見通し等を前提として「防衛力整備の実施に当たっては、当面、各年度の防衛関係経費の総額が当該年度のGNPの百分の一に相当する額を超えないことをめどとしてこれを行うものとする。」との閣議決定が行われました。この決定は、十年間にわたり、節度ある防衛力の整備という精神を貫く上で大きな成果を上げてきたものと私は高く評価します。このたび、六十二年度予算において、防衛関係経費は対GNP比一%を千分の四上回ることになりましたが、これは、六十年九月に策定されました中期防衛力整備計画に基づき、必要な経費を積み上げた結果であり、私はやむを得ないことと考えております。
 とはいえ、これをもって防衛関係経費が野放しになってよいわけではなく、政府は、自由民主党との協議の上、一月二十四日、新たな歯どめとして、中期防衛力整備計画による総額明示方式を採用することを閣議決定いたしました。あわせて同閣議は、節度ある防衛力の整備を行うという五十一年十一月の閣議決定の精神を引き続き尊重することを決定し、同時に、各年度の防衛関係経費については、おおむね当該年度のGNPの一%程度となるものと予想される旨の官房長官談話が発表されたのでございます。私は、これは従来の防衛政策の基本を変更するものではなく、その継続性は保たれるものと理解しておりますが、国民が十分に理解し、納得し、安心できるよう中期防衛力整備計画の理念と内容、従来の防衛政策との関連、総額明示方式の運用等について、総理のお考えを国民の前に明確にしていただきたいと思います。
 中曽根総理、時代の変化は同本においてのみ生じているわけではありません。世界の各国もそれぞれ激変の中にあり、我が国とそれらの諸国との関係もまた新しい目で見直さなければなりません。かかる観点から、まず日米関係について伺います。
 日米関係が日本外交の基軸であることは申すまでもありませんが、この両国の関係について、近時、識者の間には二つの異なった意見があります。その一つは、両国関係は今ほど緊密なときはないというものであり、もう一つは、今ほど険悪な状態はないというものであります。そのいずれが正しいか、私は二つとも真実であると考えます。すなわち、現在両国間の焦点である貿易問題をとってみても、日米間の往復貿易総額は、六十一年の総計が約千百億ドルと史上空前であって、これは、両国が互いに相手なしには存在し得なくなっていることを示しております。他方、こうした貿易の間に生じている米国の対日赤字は、六十一年五百億ドル余とこれまた史上最高であり、これが米国民のいら立ちをかき立てていることも理解にかたくはないのでございます。
 私は、基本的には、日米関係が緊密であるがゆえの貿易摩擦であって、両国の努力によって解決は可能だと考えております。しかしながら、最も警戒を要するのは、現在米国で急速に台頭しつつある保護主義的傾向であります。もしこれが支配的になるならば、世界経済は縮小均衡の方向をたどり、日米両国のみでなく、自由貿易体制を信奉する自由主義諸国を初め第一次産品生産諸国も大きな打撃を受けるに違いございません。この意味からして、合わせて世界の経済力の三分の一を占める日米両国の責任は極めて大きいと言わざるを得ないのであります。中曽根総理、私は、総理が本年のペニス・サミットを前に米国を訪問し、米国議会で保護主義立法を企図している米国の国会議員に両国の責任を訴え、ともにひざを交えて語り合われるならば極めて有意義だと考えますが、総理の御意向はいかがでありますか。
 次に、日中関係についてお尋ねいたします。
 今年は蘆溝橋で日中戦争が始まってから五十年、また、日中国交正常化から十五年という日中両国関係にとって節目に当たる年であります。幸いに日中両国は、中曽根総理を初め官民の努力によって基本的には良好な関係を続けてまいりました。特に、残留孤児の肉親捜しについては、中国側が国境を越えた人道的な立場に立って協力されていることに対し心から感謝するものであります。私は、世界の平和と安定が思想、体制、宗教、伝統等を異にする国々の共存と協力の成否にかかるようになった時代において、社会体制を異にする日中両国間の友好協力関係を維持発展させることは、総理が言われる地球村の将来にとって極めて重要であり、日中共同声明、日中平和友好条約及びいわゆる四原則に基づき、両国関係の一層の強化を図っていくべきであると考えております。
 先般、中国指導部に人事上の問題が生じましたが、同国が四つの近代化の方針のもとに進めている対外開放路線が揺らぐことはないでありましょう。我が国としては、中国の経済建設に対しこれまで同様の協力を進めていくべきであると思います。なお中国側は、資本協力の強化だけでなく、日中科学技術交流センターの設立、技術者同士の交流による共同研究、一段と進んだ高度技術の供与等科学技術面の協力を要請してきております。我が国としてはこれにどう対処すべきか、総理の御意見をお聞かせいただきたいと存じます。
 次に、日ソ関係でございますが、日ソ関係の新しい展開を予測させたゴルバチョフ書記長の訪日は延期されました。今後の事態がどのように推移するかは我が国国民のみならず、世界の人々の注目するところでございます。私は、同書記長がアジアにおける平和を重視していることを歓迎すべきだと考えますが、もしソ連が真に平和と安定を望むならば、極東における中距離核戦力配備の削減や軍事基地の縮小などにより、その意思を態度で示すべきでありましょう。日ソ友好関係の増進はもちろん必要でありますが、我が国としては、戦後四十年、我が国のたびたびの要求にもかかわらず、いまだに解決の糸口が見えない北方領土問題などについて主張すべきことは主張するとの態度を堅持しつつ、慎重な態度でソ連の出方を見守ることが必要であると思いますが、総理のお考えはいかがでありましょうか。
 来年、一九八八年のソウル・オリンピックは、アジアにおける二回目の民族の祭典であります。朝鮮半島における緊張緩和の好機でもあります。我が国としては、同オリンピックの成功のためにあらゆる協力を惜しんではならないと思います。また、朝鮮半島の平和的統一を実現するため、我が国としてその環境づくりに力を尽くすべきであります。伝えられるところによれば、総理は、中国訪問の際に同国の指導者に中韓関係の進展を慫慂されたとのことでありますが、それであれば、他方、我が国として朝鮮人民民主主義共和国との間の人的あるいは経済、文化面の民間レベルの交流を漸次増大し、朝鮮半島の緊張緩和に寄与すべきではないかと私は考えますが、総理のお考えはいかがでしょうか。
 国民の信任を受け、国政を担当する政治家の倫理観が一般国民よりも一層厳しくなければならないことは申すまでもありません。とりわけ、内外の厳しい情勢下、時には国民にとって痛みの伴う政策をもあえて遂行しなければならない現在、政治が有効な指導力を発揮するには、政治に対する国民の信頼が不可欠であり、政治の浄化はそのための第一条件ということができましょう。
 我々政治家は、恐々としてみずからを持し、いやしくも国民が政治に不信を差し挟むような行為には一切手を染めるべきでありません。しかしながら、政治浄化に当たって最大の問題は、同僚議員諸君もよく御承知のとおり、選挙に金がかかり過ぎるという事実であります。これを放置しては政治腐敗の根を断つことができません。そればかりか、金のある者しか選挙で当選できないということになり、野に遺賢あらしめないという真の民主政治に反する結果を招くでありましょう。(拍手)政治倫理の問題を風化させてはなりません。我々は、政治家一人一人の倫理観に訴えるだけでなく、選挙制度等の改革を検討して、国民と政治の信頼関係を常に不動のものとすることに努めるべきだと信じますが、総理のお考えをお伺いいたします。(拍手)
 最後に、中曽根総理御自身の問題について伺います。
 総理は、先般、マスコミの進退問題に関する質問に答えて「行政や政治を運営して行く責任の大きさから見ると、いつ辞めると時期を相当前に明示するのは、政治常識ではあり得ない」と述べられました。私は、政治家の任務は何よりもその職責を果たすことにあると思いますので、総理のお考えはよく理解できるのであります。しかし反面、総理・総裁の出処進退が国政にとって極めて重大なものであることも否定できません。かつて池田政権が実現したとき、後に総理になった当時の大平官房長官は、池田さんに向かって「政権担当をいつまで許されるかは国民が決めることであって、あなたがお決めになることではないと思います。ついてはこの際、長期政権という言葉を絶対の禁句にしていただきたい」と言われ、池田さんも素直に「そうしよう」と応じられたということを聞いております。事情は当時とは異なりますが、このエピソードに総理・総裁の出処進退のあり方を見るように思えてなりません。
 私は、中曽根総理が辞任されるその日まで、国家国民のために立派に職責を果たされるよう心から願うものであります。(拍手)就任以来多大の功績を上げてこられた総理が、その出処進退も後世の範となるよう対処されることを心から期待して、私の質問を終わります。(拍手)
    〔内閣総理大臣中曽根康弘君登壇〕
#21
○内閣総理大臣(中曽根康弘君) 伊東議員にお答えをいたします。
 まず、三井物産の若王子さんの件でございますけれども、本当に奥さんやお子さんのことを考えますと胸が締められる思いがいたします。政府といたしましても、昨年事件発生直後に、角谷在比大使を通じまして直ちにアキノ大統領、ラモス参謀長等に、一刻も早く無事救出されるように厳重にお願いを申し上げたところでございます。比政府も、アキノ大統領が陣頭に立って捜査に全力を尽くしてくれておられるのであります。解決が長引いておりますので、最近の動向にかんがみまして、先日、総理特使として梁井外務審議官を、また、自民党総裁特使として石原慎太郎議員をマニラに派遣いたしまして、人命尊重と早期救出について重ねてお願いをいたしたところであります。アキノ大統領は、陣頭に立ちまして懸命な努力をしてくだすっております。問題がこのような微妙な問題でございますので、取り扱いはあくまで慎重を要し、人命尊重ということを第一にして、今後とも、政府は全力を尽くすということをここでお誓い申し上げる次第でございます。(拍手)
    〔議長退席、副議長着席〕
 次に、地球社会の未来についての御質問でございますが、私は、地球社会の未来については希望を捨てておりません。人道主義あるいは人権、民主主義の考えは、大きな流れとなって地球を覆ってきつつあるわけであります。世界はあくまで一つであって、戦争とか侵略というものがそろばんに合わないということは、最近特に歴然としてきたと思います。そうして、国家的利己主義というものが排斥され、各国の協調連帯が大いに唱道されているという昨今の現象は歓迎すべきであります。私は、この議場におきまして、人権と情報の重大性、それから対話と協力の重大性を申し上げましたが、今後とも国連を中心にいたしまして、この人類共存の日本的考え方を徹底いたしまして、さらに理解と対話が持続され、平和が、そして繁栄の日が一日も早く地球を覆うように努力してまいりたいと考えております。
 次に、議会政治の問題でございますが、国会というものは国民代表が政策を中心に審議を尽くす場所であると心得ております。その意味におきまして、やはり充実した審議というものを我々は歓迎し、また我々は、真剣にお互いに努力していかなければならないと思います。政府といたしましては、謙虚にいろいろな御疑問や御質問に対してはお答えを申し上げまして、野党の皆さんの御理解もいただきたいと考えております。
 定数是正の問題につきましては、昨年の第百四回国会において衆議院議長、各党の御努力によりまして一定の措置がされました。その際、衆議院本会議で定数是正に関して決議が行われたのであります。この決議に沿いまして各党で検討が行われるものと考えておりますが、できるだけこの検討を促進して、政府もそれにつきましては最大限の努力をいたしたいと考えておるところでございます。
 国際社会における日本の役割でございますが、最近の情勢を見ますと、国際社会における日本の地位と責任は著しく増大してきているように思います。やはりこのような日本の地位の向上というものを考えますと、国際ルールの厳守あるいは国際的連帯への我々の真摯な努力というものをさらに強めていかなければならないと思います。我が国は、ややもすれば従来は一方的な受益者となりがちであったと批判をされておりました。我々は、この際、国際国家を真に実現すべく、積極的に世界に貢献するという態度をさらに強めてまいりたいと思います。それと同時に、やはり日本の国情の説明あるいは日本文化の御理解をいただく努力あるいは経済協力や南北問題の解決等につきましても、積極的に努力してまいりたいと思うところでございます。
 円高対策、景気浮揚の問題につきましては、昨年九月十九日に総合政策を発表し、また、今回の六十二年度予算におきましても、公共事業の事業費の確保や住宅金融公庫融資の拡充や雇用対策の充実等について懸命な努力を払ったところであり、公定歩合も四度目の引き下げを昨年十一月一日には行ったところでございます。なおまた、為替レートの問題についても、極めてこれを重視いたしまして、長期的安定、経済の基礎的条件を適正に反映した為替相場の安定を実現すべく、各国と協調しつつ今努力しておるところでございます。
 さらに、消費の拡大や消費者金融の拡充という面も、景気の動向について我々は注目すべきポイントであると考えております。そのほか、今国会提案いたしまする所得税や住民税や法人税の減税という問題も、やはり景気浮揚について重大な因子にもなると思いまして、これらについて積極的御審議をお願いいたしたいと思う次第でございます。
 経済構造調整の問題でございますが、我が国の経済構造を国際社会と調和したものに変革することは緊急な課題でございます。日本の貿易黒字をこのように突出した状態で続けることは許されません。しかし、これが解消を余りにも急激に行うということになりますとショックが大きく、経済も混乱をいたします。したがいまして、いわゆるソフトランディングという形で、この黒字を減少させながらしかも輸入を増大させ、できるだけ均衡状態へ早めていくという努力を我々が現在行っておるところでございまして、経済構造調整推進要綱を決定し、かつまたその本部をつくって実行しているのも、それが線に沿って行っておるところでございます。なお、六十二年度予算におきましても、この構造調整の円滑化に資するように三十万人雇用開発プログラムの実施、産業基盤整備基金の設置、中小企業の構造転換対策の推進等々の施策を講じておるところでございます。
 なおまた、雇用対策につきましては、昨年、私は、当局に対しまして、全国の雇用地図というものをつくってもらいまして、いつごろ日本のどの地域にどういう種類の失業あるいは雇用問題が発生するかという検討を行わさせ、各省庁協力してそれに対応する対策をその時点から今とらしておるところでございます。なお、この厳しい情勢にかんがみまして、政府・与党雇用対策推進本部を設置いたしまして、これが対策に重点を入れており、かつ、この雇用地図に基づきまして、地方に八ブロックごとに地方協議会を地方公共団体も含めてつくりまして、その地域的な解決策を各地域ごとに今行わしておるところでございます。
 最近におきましては、円高にかんがみまして、輸出関係あるいは地場産業、鉄鋼、造船、繊維、石炭あるいは先般来の北洋漁業、こういうような問題や、非鉄金属鉱山等について深刻な事態が生まれつつあります。我々といたしましては、内需を中心とした景気の持続的拡大、為替相場の安定等々を中心にいたしまして、ただいま申し上げましたような政策を強力に推進し、また、予算の成立を待ちまして、公共事業関係予算の重点的配分というものも考慮しておるところでございます。
 高島炭鉱の山崎書記長のみたまに対しまして、心から哀悼の意を表する次第でございます。
 円高中小企業対策につきましては、中小企業の構造転換等を促進するために、一昨年の十二月以来、事業転換対策、地域中小企業対策というものを立法を含めまして進めているところであります。資金面、指導面、人材養成面等多岐にわたりましてこれを進めております。昭和六十二年度におきましては、さらに、親企業の生産縮小等に伴い対応を迫られている下請中小企業の構造調整支援策も拡充することとしております。
 さらに、中小企業に関しましては、やはり持ち前の創造力と活力を生かしまして、果敢に自分たちの技術革新という方面に努力を傾倒しておられますが、これらの努力に対しまして政府としても最大限の支援を行うように、多面的かつ総合的な対策を考えてまいりたいと思っております。
 農業政策につきましては、最近、農業に対する国民の関心がつとに深く、大きくなってまいりました。農は国の基と我々も考えておりまして、農業関係につきましては親身になってお互いに考え合い、協力し合う必要があると考えております。農業者に不安を与えないように行うことがまた大事でございます。そうして、農業を産業として自立させ、担い手が明るい希望を持って農業に取り組めるようにすることが大事でございます。このために、先般の農政審議会の報告を尊重いたしまして、構造政策を進め、農業の生産性向上を図るとともに、合理的な価格形成を目指して適切な政策を実行いたしたいと思っております。やはりある程度市場原理や競争原理というものを導入する必要もございます。過度の価格政策依存というものは、ややもすれば農業の停滞を招きがちでもございます。そういう点について批判もあるのであると考えております。
 しかし、一面において米は国民の主食であり、かつ我が国農業の基幹的部分でもあります。したがいまして、米は国内産で自給するとともに、食管制度については、制度の基本は今後も堅持しつつ運営面等での適切な改善を図ってまいりたいと思いますし、農業者や農業団体と協力して、一緒に汗をかいてまいりたいと考えておる次第でございます。
 六十五年度特例公債依存体質脱却、この旗は下げません。やはりこの実現は容易ならざるものであることはよく知っておりますけれども、政府の肥大化を防ぎ、行革の実を継続していくためには、最大限努力を傾倒していかなければならないと思っております。やはり小さい政府あるいは子孫にツケを残さない、そういう考え方は政治家として捨ててはならぬ考えであると考えておるところであります。(拍手)
 税制改革につきましては、シャウプ税制以来三十七年経過いたしまして、社会情勢の急激な大規模な変化に対応いたしましてゆがみやひずみが出てき、重税感が訴えられておるところでございます。そのために、私は、これらの御期待にこたえて減税を行うとともに、税制の一大改革を行うということを皆様に申し上げてきたところであります。今のまま続くならばなかなか減税もできませんし、日本の税体系あるいは産業というものが袋小路に入って動きがとれない状態になりつつあり、あるいはさらに、国際条件から著しく劣弱な条件に企業が甘んじなければならない危険すら出てきております。
 各国は皆税制改革をやっておるわけであります。そういう面からいたしまして、今や税制改革を行うべき重大な時期に到達したと考えておるところであり、その意味におきまして、久しい間我々がその苦情を聞かしていただいた中堅サラリーマンの負担軽減を中心とした個人所得課税の軽減、法人課税の見直し、こういうことのために、売上税の創設や非課税貯蓄制度の見直し等を柱とする大きな改革法案を提出しようとしておるところなのでございます。この抜本的な税制改革は、今の国情全体を考えますと、ぜひとも国民の皆様方によく御理解をいただき、我々も理解していただく努力をいたしまして、そして国民の皆様方に受け入れていただきまして、これを実行いたしたいと考えておるところでございます。(拍手)
 売上税につきましては、いろいろな御批判もございます。しかし、今世界で大体四十カ国がこれを行っておりまして、隣の韓国や台湾もあるいはインドネシアもこれを行い、アメリカにおきましても各州州税として存在しておるものであります。日本では、これを日本型に改革をいたし、しかも、私の選挙公約に違反しないように、いろいろな制限措置を講じまして実行いたしたところでございます。さらに、この売上税の実施につきましては、関係業者の御意見も十分拝聴いたしまして、納得のいく、公平な、簡易な税法にいたしたいと考えておるところでございます。(拍手)さらに、このための国税庁の職員の増員は極力抑制いたしまして、国鉄からの採用者約六百名、これをもって基本的には充てる、その他の増員は極力回避する、そういう考えに立って国税庁も今用意を進めておるところでございます。
 教育改革につきましては、先般京都におきまして、二十四カ国、二国際機関、四十四人の世界各国のエキスパートの会議を実行いたしました。やはり社会の急激な変動に対して、どの国も教育が対応できないという悩みを持っております。我が国と同じような悩みを持った国も多うございました。しかし、我が国には我が国の独特の試験制度やその他の問題もございました。非常にいい勉強をさせていただいたと思います。
 政府は、臨教審のこれまでの答申を受けまして、教育内容の改善あるいは教員の資質向上その他につきまして、最大限に答申を尊重してこの改革を進めてまいりたいと思っております。初等中等教育等につきましては、基礎学力とか品性の問題とか言われております。高等教育におきましては、個性や多様性や国際性の問題が論ぜられております。大学教育におきましては、大学の開放性あるいは運営の改革という問題が挙げられております。教員の資質向上あるいは再教育の問題も論ぜられております。特に学歴社会の是正あるいは生涯教育の実現というような大きな問題を抱えておりまして、今やっておりまする試験制度の改革等とともに我々は強力に推進する考えでおります。
 次に、防衛政策の問題でございますが、中期防は、大綱水準の達成を図ることを目的として、そのときどきの経済財政事情に応じて国の他の諸施策との調和を図りつつ、節度あり、かつ有効な防衛力整備を行う方針のもとに、おおむね総額六十年度価格で十八兆四千億円程度として決定したものでありまして、今回の閣議決定は、専守防衛等々の我が国の基本方針を引き続き堅持しつつ、また、中期防の所要経費の枠内で各年度の防衛費を決定する、さらに、昭和五十一年十一月の閣議決定の節度ある防衛力整備を行うという精神は引き続いて尊重する旨を確認いたしまして、これを閣議決定いたしまして、そして従来からの政策の継続性を維持しようと努めたところでございます。加えて、中期防の所要経費が明確な限度となることを明らかにするために、いわゆるローリング方式はとらない、三年後の新たな計画作成し直しは行わない、そういうことも明定したところでありまして、このような方法を通じまして国民の御理解を得られるよう努力してまいりたいと思っております。
 米議会の保護主義の問題と私の訪米の問題でございますが、米国の大幅な対外貿易赤字を背景としまして、米議会には保護主義的な圧力の高まりが非常に強まっていることは事実であります。この動きについては深甚なる注意を払っておるところでございます。現在のところ訪米の具体的計画を私は持っておりません。がしかし、引き続き自由貿易体制の維持強化に努力していくとともに、米議会に対しても理解を得るように積極的に働きかけてまいるつもりであります。
 中国に対する科学技術協力でございますが、我々は今までの日中国交回復の諸原則あるいは四原則を堅持しつつ、中国と友好関係をさらに増進しつつ二国間の関係をさらに良好に推移させるように努力してまいりたいと思っております。先般来幾つかの変化は起こりましたけれども、先方の対日政策が変わらない限り当方の対中国政策は変わらない、そういう原則を堅持してまいるつもりでおります。今後とも、中国の近代化建設にできる限り協力するという方針のもとに、引き続き中国といろいろ相談し、話し合いは進めてまいりたいと思います。科学技術協力協定もございますし、原子力平和利用の協定もございます。そのほか両国間における科学技術者の交流も積極的に進んでまいりました。これらを踏まえまして、我々は、さらにその弾みを強くするように今後努力してまいりたいと思っておるところでございます。ちなみに、八五年現在におきまして中国から受け入れた研修員の累積は、官民を通じて三千百五十名の多きに及んでいる次第でございます。
 対ソ外交姿勢の問題でございますが、日ソ間の最大の懸案である北方領土問題を解決して平和条約を締結することにより、我が国の重要な隣国であるソ連との間に真の相互理解に基づく安定的な関係を確立することは、従来よ力一貫した我が国の対ソ基本方針であり、無原則な政経分離はとらないということも申し上げているとおりであります。政府としては、今後ともあらゆる機会を通じて、さきの基本方針を堅持して、日ソ関係打開のため引き続き粘り強く努力してまいる所存でおります。
 朝鮮半島をめぐる情勢につきましては、南北の問題は南北当事者が話し合って解決するというのが第一義であり、我々はその環境をつくり上げるように積極的に努力してまいりたいと思っております。特にオリンピックの問題は、全世界の祭典としてアジアのソウルにおいてこれが行われるように我々も積極的に協力もしておるところでございます。先般訪中の際に、韓国側の韓中関係進展に関する熱意を私は中国側にお伝えはいたしました。我が国は北朝鮮との間に外交関係はございませんが、朝鮮半島に対するこれまでの基本政策のもとで、今後とも経済、文化等の分野における民間レベルの交流を積み重ねていくという方針は変わりはございません。
 次に、選挙の問題でございますが、公正で金のかからない選挙は、議会制民主政治の健全な発展を期するための極めて重要な基礎であります。そのためには政党、候補者、有権者の一層の自覚にまつところも多いのでございますが、選挙制度の面でも改善の努力が必要であると考えます。参議院議員選挙における比例代表制の導入等もこのような努力のあらわれであったと思われます。政府としてもさらに独自の検討も加えますが、これは事柄上、共通の土俵づくりに見することでありまして、各党間において十分御論議願うことが適当であると考えております。
 次に、私の進退の問題でございますが、五年目のこの施政方針ができましたということは望外の幸いでありました。全国民の皆さんの御支援に本当に心から感謝を申し上げ、また、各党の御鞭撻に謝意を表する次第であります。しかし、国政には一時の停滞も許しません。おろそかにすることはできません。一日一日全力を挙げて公約を達成するために今後も努力いたします。私は政権に恋々とするものではありません。進退は私みずから決する考え方でおります。(拍手)
    ―――――――――――――
#22
○副議長(多賀谷真稔君) 矢野絢也君。
    〔矢野絢也君登壇〕
#23
○矢野絢也君 私は、公明党・国民会議を代表いたしまして、国民が最も強い関心と危惧を持っております三点、つまり、防衛費、円高不況。雇用対策、税制改正などに論点を限定し、集中的に掘り下げて御質問いたします。(拍手)
 総理、あなたは、昨年の衆参同日選挙で三百議席を超える勝利を得られました。その後、あなたを拝見しておりますと、いささかおごりの姿勢が目立つのであります。アメリカへの知的水準、人種差別発言は、あなたの国際感覚が疑われた一幕でした。はるかなる山々、連山を踏破するという大変な意気込みで、防衛費のしゃにむになGNP比一%枠の突破、マル優廃止、売上税へとエスカレートしていく。これでは日本の平和も国民生活も踏みつぶされてしまいます。私たちも身構えざるを得ないのであります。
 そこで、まず防衛費であります。
 政府は、我が国の重要な平和原則となってきた防衛費はGNP一%以内とする昭和五十一年の閣議決定を弊履のごとく、破れ草履のごとく廃止され、五年ごとの総額明示方式を決定されました。申すまでもなく、一%枠は、長年にわたって、国内的には防衛費の無制限な増加を防ぐ歯どめであり、かつ、国民の自衛隊に対する理解とコンセンサスの大前提でございました。日本が再び軍事大国とならない国際的なあかしでもあります。あなたは、これらの歯どめ、前提、あかしを平然と取り払われたのであります。これを断じて容認することはできません。(拍手)
 来年度予算では防衛予算を行政改革の聖域にしないとの断固たる決意が政府にあれば、円高、原油安のメリットもあります。一%枠は当然に守れたはずであります。大蔵原案の段階で一%以内におさまっていたものをどうしても突破させたいために、さほど重要でないものが作為的に追加されたと私は推測をいたしております。いかなる費目、いかなる内容が政治折衝において追加されたのか。また、どういういきさつであったのか、これは大蔵大臣にお答えをいただきたい。
 次に総理、政府の立場で考えてみましても、防衛庁調達に課せられる売上税を非課税扱いにすれば一%以内におさまるはずであります。ほかの省はその努力をしておる。なぜ防衛庁はその努力をしなかったのか。しかも、売上税が防衛庁の調達に課せられるとの前提に立ては、十八兆四千億円の中期防衛力整備計画の増額の口実を与えることになるがどうか、その点をお答えをいただきたい。今回の一%枠突破のいきさつは初めに突破ありき、とにかく突破というやり方であります。なぜかかる粉飾的、作為的なやり方で無理やりに一%枠を突破しなければならないのでありましょうか。
 それに加えて、このように強引に一%枠突破を演出してみせた上で、この虚構を前提、既成事実化し、一%枠堅持の五十一年閣議決定を覆してしまいました。これは、六十二年度予算にとどまらず、将来にわたって重大な意味を持ちます。百歩譲って、この予算が本年度一%枠を仮に突破したとしても、六十三年度に再び一%枠に戻すことが正しいやり方であります。つまり、波が防波堤を越えても、この防波堤を取り除く必要は断じてないのであります。まさに言語道断の暴挙であると言わざるを得ません。(拍手)新しい総額明示方式が何の歯どめにもならないことは、一兆三千億円の二次防が三次防で二兆五千三百億円、四次防で五兆六千億円と、倍々ゲームで膨張した過去の経験からも明らかであります。しかも、その総額明示方式をとる新しい閣議決定では、一%枠という客観的な歯どめはなくなってしまいました。特に、ポスト中期防の六十六年以降の新計画決定は何の歯どめもなくなり、そのときの内閣の自由な判断にすべて任せられ、フリーハンドとなってしまっております。この国民の不安にどう説明されるか、納得のできる答弁を強く求めます。
 一%枠は国民の自衛隊へのコンセンサスの土台でもありました。公明党は、一定の前提で我が国の自衛能力を認めている政党であります。そのゆえにこそ私は、このようなやり方では我が国の平和路線は崩壊し、安全保障についての国民的コンセンサスは混乱、自衛隊への国民の理解と信頼がなくなってしまうと声を大にして叫ばざるを得ないのであります。(拍手)
 また、中国は一%枠突破に強い懸念を示し、アジア諸国にも日本に対する不信と警戒心を与えています。これをどう見ておられるか。いずれにせよ、一%以内で専守防御に徹した防衛力の節度ある整備は十分可能であります。六十二年度予算案において一%以内にとどめる削減をなし、今回の新しい閣議決定を撤回して、五十一年閣議決定を守るべきであります。これを強く要求をいたします。総理の御所見を承りたい。御答弁によりましては、我が党はこの国会、重大な決意をせざるを得ません。しかと承りたいのであります。(拍手)
 総理、あなたは、我が国のかかる軍拡路線を転換し、世界軍縮への働きかけを率先して行うべきであります。米ソのレイキャビク会談の際に見られた軍縮を目指す世界の熱いあの願い。この会談を単なる失敗とみなさず、潜在的合意を具体化し、実現してほしいと世界が望んでいます。総理は、米ソ両国に再会談を強く要請されるべきであります。また、来年の第三回国連軍縮特別総会へ向けて、世界的な軍縮の流れへの突破口を切り開く国際世論を高めるために、国際軍縮年の設定や軍事費を凍結させるための国際会議開催を呼びかけるなど、我が国が積極的に平和への努力を尽くされるべきであると御提案したいが、御見解を承りたいのであります。(拍手)
 さて次に、円高不況と雇用対策の問題に質問を移します。
 円ドル為替レートは、一昨年九月のG5、先進五カ国蔵相会議から驚くべき短期間で四〇%の円高となりました。余りにも大幅、急激過ぎます。G5は保護主義を食いとめ、日本の対米貿易黒字の縮小のための政治的シナリオであり、そのための円高でありました。しかし、今対米黒字は、八五年五百億ドルから八六年は八百五十億ドルの見込みという異常な増加を示し、その政策目標が何ら達成されないまま円高は日本を直撃し、国民経済は辛らつな不況に苦しみ、失業は大きくふえつつあります。しかも、アメリカ議会では再び保護貿易論が日本けしからぬと名指しで台頭しております。そして、この一月に入っての異常な円高は最高値を更新し、国民の憤りは沸騰点に達しているのであります。
 古典的な経済学のセオリーでは、円高。ドル安はアメリカ経済における国際競争力の強化、つまり輸出産業の発展、海外からの輸入に対抗し得るアメリカ国内産業の発展へと進み、さらに、アメリカの輸出増大と輸入の減少をもたらし、アメリカの国際収支を好転させるはずであります。しかし、現実はそのように動いておらない。なぜだろうか。アメリカ経済は今や多国籍企業、いや、国籍すら超える超国籍企業化しているものが多いわけであります。そして生産、流通、サービスのうち生産を海外拠点に移す傾向があります。いわゆるアメリカ経済の空洞化現象が起こっており、また、アメリカ企業の合理化も、種々の理由からそれほど熱心に進められているとも思えないとする見方もあるわけでございます。
 その結果、ドル安によってアメリカ企業の国際競争力が強化される条件が本来整っているにもかかわらず、アメリカ経済の活性化につながらず、対外赤字はふえるばかりでございます。我が国からの対米輸出も、円建てででも数量的ででも明らかに減少しております。しかし、四〇%も円高になった結果、ドルベースの計算では輸出額は増大せざるを得ない状況にあります。
 例えば、一ドル二百五十円のとき千円の物を輸出すればこれは四ドル。それが一ドル百五十二円では、同じ物が六ドル五十七セント。仮に千円を八百円に値下げいたしましても五ドル二十六セント。やはりドルベースでは大幅に黒字になってしまうわけです。たとえJカーブ効果があるといたしましても、それを超えて円高・ドル安が逆にドル建ての日本の対米黒字を増大させているのであります。そしてアメリカの対外収支が、我が国への赤字だけではなくEC、カナダなどにも軒並みに大幅赤字であることは、日本が悪いというよりも、アメリカ経済自身に問題があることを明らかに証明しておるのであります。(拍手)総理は、これらの状況についてどのようにお考えですか。
 さらに、レーガン大統領にアメリカ経済の実態についてこのような苦言を呈されましたか。その反応、その結果はどうでありましたか、ぜひ明らかにしていただきたいのであります。
 私は、G5への対応に、中曽根内閣は大変失礼でありますけれども、致命的なミスを犯したのではないかという大きな疑問を提示せざるを得ません。総理、G5にはその調整幅と調整期間について暗黙の了解が存在していたのでありましょうか。もし存在しておらないとすれば、これは日本政府、大変な怠慢ということになります。日本政府としては、調整期間に二、三年をかけたいと提案する必要があったと私は考えます。どんな内容であったのか、具体的に率直にお答えをいただきたいのであります。
 また、昨年十月三十一日の宮澤さん・ベーカーさんの共同声明で、これで円高もおさまるのではないかと期待されました。しかし、最近の動きは裏切られております。この背景として、米財務省がドル下落を容認する発言を連発した。特に、宮澤・ベーカー合意をほごにすると受けとめられるベーカー氏の発言は、マルク高中心の相場展開を円を前面に押し出す相場展開に情勢を変えてしまいました。これは米国の背信行為ではないかという声もあります。総理大臣及び大蔵大臣の御見解を伺いたい。
 アメリカの議会では、早速貿易法案の公聴会がスタートし、ストラウス前通商代表の発言など為替市場が神経質になっております。アメリカ議会の動きをどう見ておられるのか。宮澤大蔵大臣の一月二十一日の日米蔵相会談、御苦労さまでございました。しかし、我が国はもっと言うべきことをはっきり言う必要がございます。(拍手)会談の内容と今後の展望について御説明願いたい。また、十二月のアメリカの貿易収支が好転したと報道されておりますが、この動きは今後定着するものと見ておられるのか、伺いたい。また、近くG5開催の予定がうわさされておりますが、その見通し、特に、その際の我が国の政策スタンス、主張はどういうものなのか、私がるる指摘して申し上げた論点を踏まえ、御説明を願いたいのであります。(拍手)
 さて、問題はそれだけではありません。より基本的な疑問があります。著名な経済学者のサミュエルソン氏は、「日本には金融緩和よりも財政面からの景気刺激政策が必要なんだ。大きな黒字は日本の政策ミスであった」と言っておられます。また、西ドイツの前首相であるシュミット氏も「日本の膨大な貿易黒字は政策ミスである。にもかかわらず、日本は世界景気は上向きであると考えて、世界経済の拡大を過大評価した。日本は財政の赤字を恐れて貿易による景気上昇は無限に可能だと考えたに違いない」と中曽根経済政策とその運営が誤りであったと鋭い批判が出ているわけであります。
 中曽根経済路線とは、臨調路線堅持と貿易拡大主義の二本柱、つまり、緊縮予算とそれに伴う内需拡大への消極姿勢、これは六十二年度予算案を見ても歴然としておるわけであります。その結果、成長率を高めるための輸出拡大がいや応なしに必要とされた政策路線でありました。これが可能なためには、世界貿易が無限に大きくなっていくという基礎前提が必要であります。しかし、世界貿易は八〇年、八一年をピークにして縮小傾向に向かいました。総理、世界経済の拡大が頭打ちになった時点、すなわち、八〇年代に入ってあなたの内閣が発足したその時点で、もっとグローバルな視点に立った政策の大転換が必要でありました。にもかかわらず、それをやらずに内需拡大に失敗し、結果としてアメリカ、ECへの輸出ドライブが強まった。そのツケが今まとめて襲いかかっていることを私は声高に訴えるものであります。どう反論されますか。(拍手)
 私は、行政改革を否定しておるものではございません。むしろ、公明党は行政改革をさらに熱心に推進せなければならないと決意をしております。しかし、政府は臨調答申のつまみ食いでした。臨調の第一、第二、第三部会の部会報告にほとんど手つかずの状態で、お世辞にも行政改革が進んだとは言えません。つまり、行政改革とはいえ及び腰で、電電と国鉄の民営化以外では見るべき成果なく、結局、財政収支の帳じり合わせにあなたの政策は極めて矮小化され、輸出ドライブにストップをかけ得る内需拡大政策に成果をおさめ得なかったのであります。その結果、我が国の貿易黒字は異常拡大した。その解決策として円高政策しかない袋小路にあなたのせいで日本は追い込まれてしまったのであります。(拍手)
 先ほどのサミュエルソン、シュミット両氏の指摘は、日本の実情への認識ギャップはあるといたしましても、グローバルな視点から見て厳しく受けとめざるを得ません。まさに今日の円高不況は政策ミスによる人災であると言えます。(拍手)そして何が残ったかといいますと、日本の産業界の目を覆うばかりの大不況であります。総理、設備といい、技術といい、経営能力といい、勤勉な労働力といい、優秀な下請といい、どこへ出しても世界の超一流の工場が今、一つまた一つと消えていきます。まさに日本経済の圧殺、虐殺ではありませんか。あなたは、これをやむを得ない、日本経済の産業構造の転換だ、仕方がないと知らぬ顔でおれますか。しかと御答弁を願いたいのであります。(拍手)
 経済同友会が昨年六月実施したアンケート調査によりますと、代表的な製造メーカー三百五十九社のうち、海外へ生産、研究、開発部門の移転を検討しておる企業は九四%、三百三十七社、生産の空洞化のみならず技術の空洞化までが今我が国では深刻に心配されておる現状であります。現在、日本的経営の本質と言われた終身雇用制、親会社と下請の緊密な関係、企業城下町など地域と企業との共存共栄が音を立てて崩れようとしております。雇用、下請、地域が切り捨てられようとしているのであります。また、日本経済データ開発センターの分析では、今後五年間製造業部門で九十万人の職場が消えてしまうと分析をしております。これは鉄鋼、造船、繊維のみならず自動車、エレクトロニクス、家庭電器製品などもその例外ではないと報告をしておるのであります。
 失業は三%を突破しそうです。しかも、この陰には統計にあらわれないパート、婦人、老人の切り捨てが既に進行しており、さらに、企業が抱えておる百五十万人と推定される余剰人員があります。この円高、この日本経済の空洞化、失業はますます厳しい状況を迎えたと言わざるを得ません。とりわけ、五十五歳から六十四歳までの定年前後層の再就職は極めて困難となってまいりました。
 六十二年度予算を見ましても、何ら効果のある内需拡大策もなく、雇用対策もありません。総理、この冷酷な雇用、下請、地域の三つの切り捨て、どう見ておられるのか、どう対処しようとされておるのか、しかと御答弁をいただきたいのであります。(拍手)
 さらに、このままではアメリカの保護貿易主義が円高に重ね打ちされまして、そうした保護貿易主義がEC諸国にまで及ぶ場合は、我が国が壊滅的な打撃をこうむるとともに、世界経済は破局的な局面へ突入してしまうことになりかねません。事態は中曽根経済政策そのものを転換しなければならないところに来ております。この私の批判を甘受されますか、そうでないとしたらどうぞ具体的に御反論を願いたいのであります。
 次に、税制の問題を御質問いたします。
 総理、あなたは一昨年二月、予算委員会で、あのとき、予算委員会の審議が閣内意見、答弁の不一致をめぐって紛糾し、中断されてしまいました。そのとき、私の質問に対して「多段階、包括的、網羅的、普遍的で大規模な消費税を投網をかけるやり方でやることはしない」と政府の統一見解の形で私や予算委員会に約束をされたのであります。そして総理は、昨年のダブル選挙の際には、連日、大型間接税の導入を否定する演説をされました。今にして思えば、随分白々しい演説をされたものであると言わざるを得ません。自民党税制調査会の山中会長もあなたの公約について「うそをついたと思う。公約違反であることは認めざるを得ない」と言われたと聞きます。総理、この売上税はどう弁解されても明らかに重大な公約違反であります。(拍手)弁解の余地がありますか。反論があれば、お聞かせをいただきたい。
 恐らく総理は、全企業の八七%、五百三十万業者が非課税だから大型ではない、包括的ではない、だから約束違反ではないと言われるのでしょう。しかし、課税される一億円以上の業者数は一三%と少ないかもしれませんが、売上高では実に九二%、ほとんどがカバーされてしまいます。しかも、非課税業者も結局課税業者に追い込まれ、また、非課税品目も原材料費や輸送費に課税されることになります。つまり、最終的に負担する消費者の立場からいえば完全に大型であり、包括的であり、網羅的であると言わざるを得ないのであります。(拍手)お答えをください。
 非課税とされる業者につきましても、税額の控除票が発行できない。前段階で売上税支払い済みでございますという売上税の控除ができない。そこで鎖が切れてしまう。具体的に申し上げますと、この売上税では、例えばA商店がB商店に一万円の品物を売ったとき一万円の五%、五百円が売上税。B商店はA商店に一万五百円を支払うことになります。A商店はこのうちの五百円を売上税として納税をいたします。B商店はそれに付加価値をつけまして二万円で次のCデパートに。そして二万円の五%の千円が売上税分で、B商店は二万一千円を受け取るので……(発言する者あり)よくお聞きなさい。千円が税金ですが、前の段階でA商店に五百円の税金を払ってございますので、A商店がもう既に五百円納税済みでございますから、B商店はCデパートから受け取った売上税千円から五百円を差し引いた残りの五百円を納税するわけであります。Cデパートはこれを三万円で。しかし、消費者が買うときには、三万円とその五%の千五百円の売上税分の計三万一千五百円を消費者はデパートに支払う。CデパートはB商店から仕入れた際に既に千円の売上税を払ってございますから、お客さんから受け取った売上税千五百円から千円を引いた残り五百円を納税する。
 この仕組みをよく見ますと、A商店もB商店もCデパートも売上税を納めるものの、決して自分のお金を払うのではない。最終的に消費者が千五百円を余分に取られ、その税負担が消費者にすべて転嫁されるのであります。もしB商店が非課税業者である場合、B商店は売上税とは無関係になりますので、A商店からの一万円に五百円の税金分を加算した一万五百円の仕入れ値段に先ほどと同じ付加価値一万円を上乗せして、Cデパートに対して二万五百円で売ります。しかし、B商店はCデパートに対して前段階で五百円の売上税を納入済であるという証明書を出すことができません。したがって、Cデパートは三万五百円に丸ごと五%の千五百二十五円が売上税として加わり、先ほどの三万五百円プラス千五百二十五円、三万二千二十五円取られる。消費者は、前段階で非課税業者が入った場合、仕組みの矛盾によってさらに五百二十五円も余分に払うということになるわけであります。ですから、前段階までの売上税との二重払いとなってしまう。また、前段階の税が仕入れ値段の中に潜り込むために、税にまた五%の税がかかるという、この二十五円がそうですが、まことに奇々怪々な現象が発生します。これをどう説明されますか。
 だから、非課税業者は取引から排除される。既に某自動車メーカーがそのような方針を決められたと新聞報道されているわけでございます。この売上税のシステムでは、非課税業者が流通のネットワーク再編成の中で排除される。年商一億円未満は非課税ですよと猫なで声で弁解されましても、取引のラインからはじき飛ばされ、結局、泣く泣く課税を選ぶケースが多くなってしまうわけであります。これでは全く弱い者いじめであり、そして多段階、包括的、網羅的になり、公約違反と言わざるを得ません。これをお認めになりますか。(拍手)
 経済界では、売上税を導入すれば税率を簡単に引き上げられ、怪物に育つという声があります。ヨーロッパの現状は軒並みに十数%と、まさしくそのとおりであります。そうならないと断言できますか。その保証はどうなっておりますか、お答えいただきたい。特に、今経済界では、売上税による仕入れ、販売、経理の複雑さに悲鳴を上げ、また、企業が負担する納税事務コストの巨大さに恐れおののいています。それに加えてこの円高不況で、業者は売上税を価格に転嫁することは力関係から見て到底無理ではないかという見方もある。税は結局業者が負担してしまうという心配もあります。これらの悲鳴、心配は、特に零細小企業、商店、お店にあっては深刻であります。また、売り値とは別個に税額を表示する外枠表示方式をなぜとらないのかという声もあります。これらをどう見ておられるか、具体的にお答えをいただきたいのであります。
 さらにまた、アクションプログラムで関税を引き下げられまして、二・一に下げられた。この売上税はすべての輸入品に五%かかる。関税が七・一%になるのと同じであります。手続の複雑さと相まって、また貿易摩擦の原因になるではございませんか。御答弁をいただきたい。
 さて、政府は、約四兆五千億円の所得税の減税、法人税の減税を掲げられております。しかし、サラリーマン世帯でいえば、年収五、六百万円までの家庭の税負担は現行を上回る重税に泣かされなければなりません。高額所得者には減税に、八割を占める中堅及びそれ以下の所得者にはむしろ増税であります。特に、中堅所得層への公平な減税という総理の約束は全くほごとなったのではありませんか。どう説明されますか。一方、マル優制度の廃止は、老後、不時の病気への備え、子供の教育、住宅計画などのライフサイクル、庶民の生活を直撃してしまうものであります。さらに、一律分離課税は、今まで無税だったのに、零細な庶民の預貯金にも二〇%課税するだけではない、金持ちに対しては今までの三五%が二〇%に軽減されるという不公平、金持ち優遇ぶりであります。預貯金の利子が下がっておる現状の中で、庶民の生活設計は危機に瀕してしまいます。
 今回の税制改正の特徴は、総合課税制度がまずます骨抜きとなり、税の所得再配分機能を低下させたことにあると言えましょう。この不況により、今後低所得者層の所得格差はますます大きくなる可能性があります。しかも、この税制改革はその所得格差拡大に拍車をかけるものと言わざるを得ないのであります。(拍手)額に汗する多数の勤労者、弱い立場の庶民の不安にこたえるのが政治の責任であると私は申し上げたいのでございます。特に総理、行政府は新しい制度につきましては、立法府において法律が成立してから後に予算編成をなし得る、これは三権分立、当然のことであります。
 六十二年度の予算案を拝見いたしますと、経済界、消費者など幅広く、強烈な反対の集中しておる新しい制度が、あたかももう法律が成立したかのごとく前提となって予算編成されているのであります。つまり、マル優の廃止、二〇%の一律分離課税制度、そして売上税が税収として計上されております。既存税制度の範囲内で、例えばパーセンテージなどの手直しをして予算を編成するというのであれば、これは前例もあります。また、税収見込みも、既存税制というわけで根拠もそれなりにあると言えましょう。しかし、売上税などは全くの新税であります。新制度であります。何の法律根拠も、この予算編成に当たってはございません。ましてや、税収の客観的な積算根拠も全くあいまいであります。しかも、その法律案なるものもまだ議会に提出されておらず、私たちは拝見しておらないのであります。これは立法府軽視と言わざるを得ません。したがって、本来ならば、まず法律が成立してから、減税、増税その他を補正予算などで予算措置されてしかるべきものであります。(拍手)
 総理、こういうわけでございますので、公明党は、このような先ほど来るる申し上げた不公平と矛盾に満ちた内容の、そしてまた、このような議会を軽視したやり方での売上税の導入、マル優の廃止を絶対容認することはできません。(拍手)度これが実施されますと、もはやこれの修正は極めて困難なものとなり、重大な悔いを残すことになります。このような予算案を撤回して再提出され、税制改正案の提出も断念されることを強く要求するものでございます。(拍手)しかと御答弁を願いたい。
 私は、グリーンカード制を速やかに実施し、マル優制度を存続、そして利子配当を総合課税方式で課税し、株式売却利益や土地投機の巨大な利益などキャピタルゲインに重課するなど、所得の多い者には高い税率、少ない者には低い税率で公平を実現し、かつ減税財源を確保することが十分可能であることを指摘し、その実施を強く要求いたします。お答えを願いたいと思います。
 私は、円高不況の質問で内需拡大を怠った政府の責任について言及をしました。総理は、財政難で金がないと言う。しかし、一方ではマネーゲーム、土地の狂乱的高騰、さらにはアメリカへの大量の資金流出など、この様相は金の余り過ぎ以外の何物でもありません。この金余り症候群を減税や公共投資の財源として見る視点、政策をなぜ政府は持てないのですか。この余ったお金に国内の社会資本の充実など、魅力ある民間の投資先を見出せるような手だてを政府はなぜ講じないのか。このなぜにお答えをいただきたい。
 例えば、相続税をおそれておるお金には相続税や譲渡税を軽減ないしは免除する、そのかわりに利子はありませんよという長期の無利息の国債を発行し、引き受けてもらうというやり方。公共事業の土地買収のケースにもこの国債は検討される価値があると思います。まことに膨大な余り金や用地買収費をこの無利息国債でもし吸収することができれば、国債の利払いが減少し、その分、減税財源なども確保することができます。売上税やマル優廃止などという経済の混乱を招き、弱い者いじめをする必要は全くないではありませんか。将来に得られる相続税、譲渡税を失うことになりますけれども、それ以上に今日の時代が求める課題に適切な対策をとることの方が、将来によい結果をもたらすという意味で御提案をいたしました。
 他方、高齢者は自分が何歳まで生きられるかわからず、老後の設計が難しいという悩みを持っておられます。中高年の方々は、生存中ずっと安全と高利回りの年金を望んでおられます。例えば、それらの方々の退職金や貯蓄などで資金を拠出し、国に資金運用を任せる。国は、同世代でグループを設定し、元本は償還しないことを条件に、そのかわり死亡されるまで十分老後の生活ができる高利回りの年金を保障する。もしグループの仲間が亡くなられると、その配偶者に例えば半額を保障し、だんだんと亡くなっていかれます。その分生存者により高利回りの年金を提供する、いわゆるトンチン年金の改良案も御提案をしたい。これが実現すれば、豊田商事事件などにお年寄りが巻き込まれることもなく、国も内需拡大の原資を得ることができます。
 総理、これは一例でありますが、従来のせせこましい発想から脱皮されたらどうかという意味で申し上げました。対案を出せ、対案を出せとおっしゃいますが、ぜひ御検討をお願いしたいわけでございます。(拍手)
 さて次に、最近の東京都心部の土地の高騰はまさに狂乱というべきであります。四全総計画案は、この狂乱にさらに拍車をかけていると言えます。その結果、内需拡大も地価高騰により効果が大きく減殺され、人、金、情報はますます東京に集中し、地方はますます捨て去られております。総理、この土地狂乱をあらゆることに優先して歯どめをかけなければなりません。いかなる対処をされようとしておるのか。また、四全総をもっと地方重視に見直さなければなりません。お答えをいただきたいと思います。
 労働時間の短縮は、もう時代の趨勢でございます。雇用を拡大し、休暇の増加による消費など内需拡大のため、週四十時間、週休二日制を推進するとともに、ヨーロッパ先進国で効果を上げておりますワークシェアリングを推進する必要があると思います。お答えをいただきたい。
 また、指紋押捺制度についてでございますが、最近、国際化が急速に進展しており、外国人の人権を侵害するこの制度は一刻も早く廃止すべきであります。さしあたり登録証の常時携帯は生活圏内、例えば生活しておる都道府県内では緩和されるべきだと考えます。総理と韓国大統領の約束が守られていないのではありませんか。
 総理が施政方針演説で触れられましたエイズ対策につきましても、緊急かつ具体的な対策と今後の展望を明らかにしていただきたい。
 今、世界が人類史的な転換点に差しかかってきております。そのあらわれの一つとして、日米など先進諸国の急速な脱産業社会化が進んでおるわけであります。とりわけ物の生産と消費が最大の社会目標であった高度産業社会とは異なり、脱産業社会では人間のマインド、心、精神の充実が目標となります。こうした社会では、当然、文化や教育にかかわる人的、物的な社会資本の充実がより重要な問題となります。いわゆる生涯教育、社会人の再帰教育も大切ですが、余暇や高齢者福祉の面においても、人々の文化的欲求の高まりに対応していく必要がございます。これは、従来の中央集権的、巨大テクノロジー一辺倒の、また物の生産重視では対応できません。そのため、地域社会への住民の創造的参加をいかに実現されるか、種々の発想の転換が必要であります。総理、人間マインドへの深い洞察が必要とされる時代、このような時代の転換にどう対応しようとされるのか、見解を伺いたい。
 特に、この人間マインド、人の心と精神の時代には、とりわけ人権の尊重、報道や学問、言論、信条、思想、信仰、結社の自由が極めて重要であり、不可欠であります。スパイ防止に名をかりた人権の抑圧、自由の侵害は絶対に容認できるものではありません。スパイ防止法あるいは国家機密法は断念されるべきものであります。所見を伺い、私の質問を終わらせていただきます。(拍手)
    〔内閣総理大臣中曽根康弘君登壇〕
#24
○内閣総理大臣(中曽根康弘君) 矢野議員にお答えをいたします。
 まず、防衛費と売上税の関係でございます。
 売上税は消費に関して負担を求める消費税でありまして、国が調達、消費するものについても負担を求めるのが原則であります。昭和六十二年度防衛関係費については、厳しい財政事情のもとに、他の諸施策との調和を図りながら、円高、油価格の低下等も踏まえまして全体の規模の圧縮に努力する一方、同時に、中期防衛力整備計画の着実な実施を図ることとしてぎりぎりの努力を払ったところでありますが、名目GNPの動向もありまして、やむを得ずGNP一%をやや上回ったという現実でございます。
 中期防衛力整備計画の総額の限度、おおむね十八兆四千億円程度は、昭和六十年度価格で表示されているものでありますが、売上税により装備品の価格に影響があっても、これは各年度の名目金額にかかわる変動要因でありまして、六十年度価格で表示されている総額の限度が変わるものではありません。いずれにせよ、政府としては現在の中期防衛力整備計画の総額の限度を見直す考えはありません。
 次に、一%の問題でございますが、政府は、従来から大綱水準の早期達成を図ることを基本方針として、五十一年十一月の閣議決定を尊重し、これを守るように努めたところでございます。六十二年度防衛関係予算の編成に当たりましても、以上のような考えに立ちまして、一面において圧縮に努めると同時に、一面においては中期防の着実な実施を図る、そのぎりぎりの努力をいたしました。そして一%をやむを得ずやや上回ったのでありますが、政府としては、五十一年十一月の閣議決定の節度ある防衛力の整備を行うという精神を引き続き尊重していく方針には変わりはございません。新たな歯どめを閣議決定した次第でありますし、これによって自衛隊に対する信頼が失われるとは思いません。
 次に、六十六年度以降の防衛費については、同計画終了までに改めて国際情勢や経済財政事情等を勘案して、平和国家としての我が国の基本方針のもとで、慎重審議の上適切な決定が行われるものであり、いずれにせよ、五十一年十一月の閣議決定の節度ある防衛力の整備を行うという精神は引き続きこれを尊重するものであり、国民に不安を与えるものではない。歯どめが閣議決定されているということを申し上げるのであります。
 アジア諸国の反応につきましては、中国は日本政府が防衛力増強に限度を持たせること等の希望を表明いたしておりますが、その他のアジア諸国政府は公式の見解は表明しておりません。防衛力整備は自主的に決定するものでありますが、アジア諸国との過去の関係にかんがみまして、種々の機会に我が国防衛政策の基本方針が不変であることを説明し、理解を得るように努力をいたします。
 次に、六十二年度防衛予算の編成に当たって行いましたこの閣議決定につきましては、慎重な検討を行ったものでありまして、今後の防衛力整備の指針として適切であると判断をいたしたものであり、これを撤回する考えはございません。
 国際軍縮年の設定、平和への努力の問題であります。
 平和の維持と軍縮の促進は人類共通の重要な課題であります。今後とも、国際的な安全保障の維持に留意しつつ、実効的かつ具体的な軍縮措置を進めるよう各国に訴えるとともに、国連、ジュネーブの軍縮会議等の場を通じ、かつまた超党派軍縮議員連盟等の御意見も参考としつつ、軍縮へ向けての国際的協力に貢献してまいります。特に、米ソ岡の軍備管理交渉は、世界の平和と安全にとって極めて重要であります。したがいまして、この議場でも申し上げましたとおり、再び交渉を再開して早期妥結を行うように強く希望し、そのための環境整備について我々も努力いたしたいと申し上げた次第でございます。
 次に、アメリカの貿易赤字の問題でございますが、八六年のアメリカの貿易赤字は千六百九十八億ドルの赤字となり、八五年の千四百八十五億ドルからさらに増加いたしております。つまり、約二百十三億ドルの増加になっております。アメリカの貿易収支は、対日のみならず対EC、対カナダ、さらには発展途上国に対しても軒並み赤字となっておるのであります。このようなアメリカの大幅な貿易赤字については、八五年初めまでのドル高やその後のドル高修正に伴うJカーブ等の効果もありましたが、財政赤字の増大、アメリカの国内需要の強さ、産業構造が輸入増を招きやすい構造になっている、こういう要因によるものが大きいと考えます。しかし、最近におきましては、ドル安等の効果によりまして改善のしるしも見えてまいりまして、恐らくこの傾向はさらに強化されると予想いたしております。
 さらに最近、アメリカ議会におきましては、生産性の向上について声が高まってきておりまして、我々は、これらの声は当然の声であると考えておるのであります。ちなみに、アメリカの貿易収支状況を見ますと、対世界が八六年は千六百九十七億ドルの赤字ですが、うち日本が五百八十五億ドル、ECが二百六十三億ドル、ドイツが百五十五億ドル、対カナダが二百三十三億ドル、そのほか発展途上国が五百四十一億ドル、こうなっております。つまり、軒並みに赤字になっているという現象であります。
 アメリカのこのような実態につきましては、従来、私からもレーガン大統領に対して、その会見のたびごとに財政赤字の削減、あるいは生産性や輸出努力につきまして強く要請してきておるところでございます。最近におきましても、東京サミットやあるいは一昨年の国連総会においてニューヨークで会ったときも同様でございますし、キャンプ・デービッドにおきましても、貿易赤字の問題については強く指摘したところであります。
 G5の問題につきましては、一昨年の九月のG5において、為替相場が各国の経済ファンダメンタルズをよりよく反映すべきであり、また、その観点からドルの水準が高過ぎるとの認識が一致いたしました。為替相場の水準については、特定の予測なり合意があったわけではありません。実態に応じまして適時協議をし、そして適切な措置をとる、そういうことが話し合われたのであります。
 最近におきまして、通貨問題について正式の権限を有する米側責任者がドル下落を容認するごとき重言を行い、ドル安を誘導するようなことは行一でいないと考えます。為替相場が不安定な状況にあったため、一月二十一日には日米蔵相会談が行われまして、昨年十月末の為替安定等についての合意を引き続き堅持することが再確認されました。一月二十一日直前の円ドル関係の乱高下の状況は非正常であるという認識において一致し、その後両国の協力関係がさらに前進したのであります。
 アメリカ議会の動きにつきましては、最近、保護主義の圧力が強まってまいりました。そして多数の貿易関連法案が新議会に提出され、公聴会も行われております。本年は貿易問題が米議会の重要関心事になることは疑いを入れません。公聴会等において、財政赤字削減、競争力強化等、米国自身がやるべきことを重視する発言が強まってきておりますが、また一方、貿易相手国を問題にする意見も多々ございます。最大の貿易相手国である我が国に対する関心も強まってきております。我が国は、引き続き自由貿易体制の維持強化に努力すると同時に、輸入の増大、あるいは関西空港とかそのほかの懸案事項の前進等、誠心誠意努力しつつ、アメリカ議会に対しても理解を得べく努力してまいるつもりでおります。
 次に、経済路線の問題でございますが、政府は、調和ある対外経済関係の形成に努めると同時に、内需を中心とした景気の着実な拡大、雇用の安定を確保する、それと可時に、円ドル等の為替相場関係の適正な長期安定を図るという基本路線について今後も努力してまいるつもりであります。
 サミュエルソン教授の御意見の御引用がございましたが、アメリカ自体もやはり努力しなければならぬ要素もかなりあるのであります。御存じのとおり、アメリカの財政赤字あるいは貿易赤字の削減への努力、これらも大いにアメリカ自体が責任を持ってもらわなければならぬことであり、日本側だけの一方的努力で解決するものではないのであります。そういう意味におきまして、政策協調、それと相互の構造改革ということが今や我々の世界的課題になってきていると考え、それについて努力していくつもりでおります。
 円高不況対策につきましては、先ほど来申し上げましたように、内需の振興と為替ルートの適正な長期安定というものを我々は真剣に顧慮し、努力してまいり、今までの累次の政策を着実に遂行してまいりたいと思います。六十二年度予算においては、一般公共事業の事業費の確保、地方財政との協力、住宅金融公庫融資の拡充、雇用対策の充実など、適切に対処してまいりたいと思っております。また、昨年十一月一日には四度目の公定歩合引き下げも実施したところであります。なお、そのほか消費の拡大という点も景気の上昇のためには大事でありまして、消費者金融利子の引き下げあるいは減税の速やかな実施、これらについても心がけたいと考えておるわけであります。
 さらに、企業が海外生産を進める現状に対してどう対処するかという御質問であります。
 急激な円高によりまして、企業の中には海外生産を進めるという動きが出てきております。それが下請企業や雇用面にも影響が出てくることを我々は真剣に検討しつつあります。これに対処するためには、経済の基礎的条件を適正に反映した為替相場の安定を図るとともに、内需の拡大を図る。このために、六十二年度予算案においても、産業構造の転換の円滑化、地域経済の活性化のための施策、三十万人雇用開発プログラムの実施、あるいは転換に対する特別対策の実施等を今回我々は政策として掲げておるものであります。
 経済政策か転換の問題でございますが、我が国としては、国際経済社会に占める地位にふさわしい役割と責任を果たさなければならないし、自由貿易体制の維持強化についても率先して努力していかなければなりません。我々は、今まで臨調路線を守りながら、状況に応じて緊急措置として、国際経済との調和も考えながら内需の振興等の政策を逐次実施してきたところでございますが、さらに我々は、ODA予算の充実、一般公共事業の事業費の確保、あるいは雇用対策の充実などについても今対応しておるところでございます。また、今後主要国との間の協調的な経済政策の実施を推進しつつ、為替相場につきましても、円レートの適正な長期的安定を図るために機動的かつ適切に関係国とも協議をしてまいるつもりでおります。
 さらに、経済構造調整のために昨年八月、政府・与党経済構造調整推進本部を設置いたしましたが、六十二年度予算におきましても産業基盤整備基金を設けるなどの施策を講じており、また、六十二年度関税改正における特恵関税制度の改善を初めアクションプログラムの着実な実施等にも努めてまいっておるところであります。
 次に、売上税の問題でございますが、いわゆる大型間接税というものは、私が御答弁申し上げましたように、多段階、包括的、網羅的、普遍的で、縦横十文字に大型の消費税を投網で全部ひっくくるような意味のものであるということを申し上げました。今回の売上税は極めて限定性を持ったものでありまして、公約違反であるとは考えておりません。売上税につきましては、免税点が一億であります。また、食料品や医療、教育、住宅、一般の旅客輸送など国民生活に密接に関連する分野の多くが非課税とされておりまして、消費者物価指数の計算対象となる物品・サービスのうち課税されるもののウエートは約三五%であります。さらに、税率にいたしましても、外国から見ればかなり低位の水準にもあります。このような大幅な限定がなされておるものでありまして、いわゆる大型間接税には該当しない、自由民主党税制調査会においてもこれは公約を実行しているものであると認定されているところであります。
 次に、最終負担の問題でありますが、税の負担が国民全般に及ぶという点においては、特定の取引段階で特定の品目、例えば石油とか酒とか砂糖というものに現行個別消費税が課税されております。これは消費者にも回っていくものでありますが、消費課税の性格からそういうことはやむを得ないものであると思います。今回の売上税は、先ほど来申し上げましたように、大幅な限定がなされており、先ほど来申し上げたとおりなのであります。
 次に、課税の選択の問題でございますが、免税点制度は、本来、末端の零細な小売業者やサービス業者の負担を軽減するためのものであり、これらの業者が課税事業者を選択することは全体の中では少ないと考えられます。また、非課税事業者が中間業者の場合でも、下請業者のように、主として工賃収入に依存しており、仕入れに含まれる税額がわずかである場合には、非課税のままでいても取引から排除されることは少ないと考えられますので、中間業者すべてが課税事業者を選択するとは考えられないものであります。したがって、免税点制度を設けることによりまして納税者が大幅に減少することには変わりはなく、売上税はなお相当の限定性があり、いわゆる大型間接税には該当しないと考えております。
 次に、税率の問題でございますが、売上税の税率は法定することとしており、これを改正するためには国会の議決が必要でありまして、国会の御意思に反して税率の引き上げが行われることはありません。なお、ヨーロッパにおける付加価値税の税率の引き上げのほとんどは所得税減税を実施する組み合わせで行われていると承知しております。
 売上税の創設に当たっては、納税者の事務負担を最小限にするために税率を五%の単一税率としたこと、税額票については最長三カ月のまとめ発行を認める、請求書や納品書を活用することができるので、新たな書類を作成する必要はない。また、税務署に提出する必要もありません。課税期間(三カ月)及び申告納付期限(課税期間終了後二カ月以内)については、諸外国の例に比べて非常に長くなっております。このような工夫も凝らしております。
 また、税の転嫁については、売上税の導入時には財貨・サービスの価格は一様に引き上げられると思われ、各事業者が個々別々に値上げする場合とは事情が異なります。このような場合につきまして、独禁法との関係がございますが、実情に即して適正に行われるものと考えております。売上税においては税額控除票を用いて前段階税額控除を正確かつ簡素に行えるような仕組みにいたしております。したがいまして、転嫁は行われるものと考えます。また、税額票におきましては、原則として税額の外枠表示を考えておりますが、販売価格の表示については、税額を別掲することは我が国の社会風土上なじまないと考えられますので、別額表示を義務づけることは考えておりません。
 売上税と貿易摩擦の問題でございますが、売上税は国内産品、輸入品に対して同じ負担を求めるものであって、輸入の障害となる性質のものではございません。欧州等において行われる付加価値税も全く同じシステムであります。一方、関税は輸入品と国内産品の競争条件を等しくする等の観点から課せられるものでありまして、売上税と課税の趣旨を異にするものでございます。したがって、貿易摩擦の原因となるとは考えておりません。
 中堅所得層への減税の問題でございますが、今回の税制改革では働き盛りの中堅サラリーマンを中心とした思い切った個人所得減税を行おうとしているものであります。例えば、年収三百万の給与所得者、子供二人の場合、所得税と住民税を合わせた負担額は三六・三%も軽減され、年収九百万の場合は二一・四%を軽減される等おおむね二けた台の大幅な負担減となります。なお、改革後においても高額所得者が支払う所得税額は依然として多大なものがあります。また、法人税の減税が国民経済や生活にプラスになることを無視すべきではないと思います。法人税の減税の効果は、めぐりめぐって株主やあるいは消費者やあるいは従業員の給与やボーナスに帰着する、こういうふうに考えているわけであります。その他売上税の創設、利子課税の見直し等を含む税制改革全体として見ても、働き盛りで収入が多いものの教育、住宅等の支出のかさむ中堅層を中心に負担が軽減される結果となっており、大衆増税との批判は当たらないものであります。
 マル優の問題につきましては、実態的に巨額の利子を課税対象から外すことによりまして、労働に対する所得、利子による所得等、所得種類間の税負担の不公平をもたらしておるとともに、高額所得者ほどより多くその恩典を受けておるという現状にあることにかんがみまして、老人とかあるいは母子家庭とか身障者等真に手を差し伸べるべき人に対する利子非課税制度は存続させつつ、それ以外の利子所得については一律源泉分離課税とする。実質的公平を進めたつもりなのであります。
 予算案につきましては、撤回する考えはございません。
 次に、キャピタルゲインの問題でございますが、今回の利子課税の見直しにおいて、老人や母子家庭や身障者等について利子非課税制度を維持しつつ、実質的により多くの恩典を受けている高額所得者に相当の負担を求めているほか、有価証券譲渡益課税について、その課税対象を大幅に拡大する等、資産性所得課税の一層の適正化を図っておるところであります。なお、今回の改革後の所得税の最高税率は五〇%であり、これに個人住民税を加えると六五%になりますが、この率は先進諸国の中でも引き続き最高のものとなっておりまして、金持ち優遇ということではないのであります。
 次に、民間資金の活用の問題でありますが、六十二年度予算は、引き続き財政改革を強力に推進するとともに、種々の工夫によりまして、現下の経済情勢に適切に対応することが緊要な政策課題であるとの基本方針のもとに編成を行いました。民間資金を活用して社会資本整備を進めていくため、六十二年度予算においても民間活力が最大限発揮されるよう種々の政策を用意しているところであります。なお、いわゆるマネーゲーム的な動きについては今後とも十分注意し、税制、土地利用規制、金融証券行政の適切な運用を期する所存でございます。
 次に、無利息国債の問題でございますが、相続税免除等の無利息国債のアイデアは、これは一つのアイデアであると考えます。しかし、相続税の優遇措置については、一部の高額財産家のみを優遇する結果になって、税負担の公平を著しく阻害し、相続税の根幹を揺るがすおそれはないか、無利息の国債消化促進を図るため相続税等の軽減、免除を行えば、必ずしも財政コストの軽減にはならないのではないか、金融市場を混乱させるおそれはないか等々の問題がありまして、慎重に検討すべきものであると考えます。
 いわゆるトンチン年金につきましても、これも一つのアイデアであるとは思いますが、年々の運用益を拠出グループの生存者に配分する仕組みとなっておりまして、死者がふえるたびに給付額が増大して、最終的には巨額のお金が一人の生存者に支給されるという理屈になります。このため、射幸性が極めて強い、他人の死を期待する刺激を持っている、そういう道徳上の問題もあります。仮に死亡者の配偶者等も受給者に加えるなどの手直しをしても、こうした問題は解決されないとも考えられますので、国営の事業として取り上げることには慎重を要すると思います。老後の所得保障としては、公的年金を中核として、これを補完する企業年金等の充実に努めることが肝要であると考えております。
 地価対策でございますが、全国的には一応安定しておりますが、東京等一部の地域において顕著な上昇が見られます。東京の地価上昇は、基本的には旺盛な事務所需要、それに投機的な土地取引が拍車をかけていると考えます。この地価上昇に対しましては、業務機能の適正な配置、分散を図るほか、事務所思地等の供給策とあわせ投機的な土地取引を抑制するため、国土利用計画法の的確な運用に努めてきたところであります。特に東京の場合には、東京都と協力いたしまして、規制の強化と、また一面においては緩和と、両方を考えつつ、そのほか転売期間その他については国有地について厳重に、これを長くする等の政策を行っておるところでございます。昨年十二月にこの地価対策のために閣僚会議を設置いたしましたが、本会議を機動的に活用いたしまして、対策を強化していくつもりでおります。
 四全総につきましては、多極分散型国土の形成を目指すものにしております。私がいわゆる東京プロブレム、大阪プロブレムと申し上げましたのは、これは地価対策がルーズである、それを直しなさいという意味で東京プロブレム、大阪プロブレムということを申したのであります。ただいまの案によりますれば、国土の均衡ある発展を図るという観点から四全総の策定は進められております。
 次に、雇用問題、労働時間の問題でございますが、この短縮については、長期的な雇用機会の確保や内需拡大等の観点から、今後とも週休二日制の普及に努める所存でおります。また、昨年十二月の中央労働基準審議会の建議に沿いまして、法定労働時間の短縮等を内容とする労働基準法改正法案を今国会に提出する予定でおります。
 指紋押捺制度の問題につきましては、特に必要がある場合を除いては重ねて押捺は求めないという改革を行おうとしております。また、携帯の便に資するため、登録証明書をカード式に改めるという法の改正を行わんとしております。これは韓国大統領に私からお伝えしたものと同じ趣旨であります。登録証明書の常時携帯制度は必要であると思います。法律上の携帯義務を緩和するという考えはありません。
 エイズ対策については、かねてから矢野議員から御注意を承っておるところでございます。我が国のエイズ患者の発生数は、アメリカ等に比べると極めて少ない状態ではありますが、最近の新たな情勢にかんがみまして、一層の努力を払う必要があると考えております。これが対策としては、患者等の発生状況の把握、すべての献血血液についての抗体検査等を鋭意進めてきております。今後はさらに、国民に対する衛生教育の一層の推進、エイズの発症予防、治療法確立に向けての研究の充実を図るとともに、法改正を含め、新たな対策の強化について検討を進めてまいりたいと思います。
 次に、最後に、人間性の問題等に対する御質問でございますが、現代は物的な豊かさだけでなく、心の豊かさも強く求められております。人口の高齢化や自由時間の増大等、経済社会の変化を背景として、個性の伸長、創造性の開拓、あるいは精神生活の充実向上等を目指し、多様な文化活動あるいは教養的学習活動等を行う国民の欲求は増大してきております。これらの多様な文化的、知的欲求にこたえるべく必要な条件を整備することが必要である。全く同感であります。
 スパイ防止法につきましては、いわゆる国家における重要な防衛等に関する秘密保護法案は、自民党においてこの種の立法が必要であるとの立場から現在種々検討を行っておりまして、この立法については、国民の基本的人権、いわゆる知る権利などにかかわる問題等もありまして、国民の十分な理解が得られることが望ましい、各般の観点から慎重に検討さるべきものであると考えております。
 残余の答弁は大蔵大臣がいたします。(拍手)
    〔国務大臣宮澤喜一君登壇〕
#25
○国務大臣(宮澤喜一君) 予算編成に際しまして、いわゆる政治折衝段階で新たに加わった防衛関係費はどういう費目であるかというお尋ねが最初にございました。
 これは概して申しますと、自衛隊、防衛庁の内部関係と申しますか、後方充実と言われるものが多いわけでございますが、一番大きゅうございましたのは隊員のための隊舎、宿舎等、あるいは航空保安施設の整備百二十八億円、第二に、住宅の防音等の基地対策九十五億円、第三に車両、通信機等の老朽器材の更新六十億円、第四に、訓練者にもう少し長い訓練時間を与えてほしい、これはそのための油等の余分の消費が要るわけでございますが、そういう経費、あるいは教育訓練器材の購入二十三億円、全部合わせまして三百七十億円ほどであったわけでございます。
 そこで、私としましては、これは確かに必要なものであるということは理解をいたしましたし、財政としてもたえ得る額であるし、これを加えましても対前年比伸び率で申しますと過去よりも伸び率は低うございますので、認めることにやぶさかでなかったのでございますけれども、ただ経済成長率が御存じのとおりでございますので、分母の関係でこれは明らかに一%を突破する、したがいまして、その点をいかに扱うべきかについて安全保障会議並びに閣議の決定を求めた、このような経緯でございます。
 次に、為替の問題につきまして、在来、アメリカ側に円を故意に上げると申しますか、ドルを故意に下げるような発言がしばしばあったのではないかという御指摘がございました。
 私の承知しております限りでは、米国では、為替の問題については大統領と財務長官以外の者は公の重言をしてはならないという由でございますけれども、それはしかし、議会もございますし、学界もございますし、経済界もございます。いろいろな発言が報道をされて、あたかもそれが政府の公式見解であるかのように聞こえたことも、こちらとしてはなかったわけではございません。ございませんが、正式にあるいは正確にはそういうことというふうに承知をしておりまして、現実にベーカー財務長官は国会で証言をいたしまして、行政府はドル下落を促すということはしたことはないし、また、いわゆる口先介入と申しますか、発言をしてドルを落とす、トークダウンといったようなことをしたことはないということを正式に述べておられます。
 次に、一月二十一日の日米蔵相会談がどういう性格のものであったかというお尋ねでございましたが、先ほども申し上げたことでございますけれども、昨年の十月三十一日以降二月間というものは、まずまず相場は安定をしておったわけでございます。それが一月の中旬になって、ヨーロッパ等との影響もありまして、かなり市場が攪乱的な動きをいたしました。これは、十月の末にベーカーと約束した、何か事のあるときには相談をしようという、まさにそのケースに当たると考えまして会談を求めたわけでありますが、その結果としまして、為替市場の問題について両国が積極的に協力していくという確認をいたしましたことは、先ほど総理からお話があったとおりでございます。
 そこで、米国の貿易収支等を今後どう見るかというお尋ねでございましたが、統計を見ますと、昨年の八月以来アメリカの貿易収支は少しずつ改善をしておるわけでございます。ただ、十一月に非常に大きな例外がございまして、大変にこの月また赤字が拡大をいたしました。したがって、今までの動きが趨勢的なものであるかどうかに疑問が持たれるに至りまして、これが一月の円の相場の乱れの一つの原因になったわけでございますが、その後、十二月には非常にまた貿易収支が改善をされたということで現在に及んでおるわけでございます。Jカーブがおくれると申しましても、プラザ合意以来一年四カ月余りでございますので、これはやはり遅かれ早かれ貿易収支に反映されることが私は当然のことではないかとひそかに考えておりますが、なかなか思ったほどこれがはかばかしくないということも事実でございます。せんだってのアメリカのホワイトハウスのスピークス副報道官によりますと、ドル安の効果がおくればせながら出てきた、引き続き改善を予想しているという、これは一応公式見解であろうと思いますが、そういう見解と承知をいたしております。
 最後に、いわゆる先進国の蔵相会議のことでございますが、この点については、東京サミットでもこういうものは必要であるということは述べておられますし、私とベーカー長官との間でも、今回も一般論としてはやはり各国間の協力が望ましいということを合意しておるわけでございますが、まあ、どの段階でいたしますか、いたすとしますとどのような運びにするかというようなことがございます。また、日程調整の問題もございまして、ただいま内々検討をいたしておるところでございまして、正確に申し上げられる段階になっておりません。
 その場合の我が国のスタンスはどういうことかというお尋ねでございますが、やはり我が国のスタンスとしましては、今我が国に求められておりますのは内需の拡大であり、そのためにはそれ相応の経済成長を必要とするわけでございますけれども、このように為替相場が不安定でありますと、実は経済成長そのものが阻害される、大事である内需拡大そのものが阻害される、したがって、それは世界のためにもやはり為替市場の安定というものは大切である、こういうスタンスで従来参りましたし、これからもそうあるべきであろうと思っております。(拍手)
     ――――◇―――――
#26
○谷垣禎一君 国務大臣の演説に対する残余の質疑は延期し、明三日午後二時から本会議を開きこれを継続することとし、本日はこれにて散会されることを望みます。
#27
○副議長(多賀谷真稔君) 谷垣禎一君の動議に御異議ありませんか。
    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
#28
○副議長(多賀谷真稔君) 御異議なしと認めます。よって、動議のとおり決しました。
 本日は、これにて散会いたします。
    午後四時四十六分散会
     ――――◇―――――
ソース: 国立国会図書館
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