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1985/04/22 第104回国会 参議院 参議院会議録情報 第104回国会 法務委員会 第7号
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1985/04/22 第104回国会 参議院

参議院会議録情報 第104回国会 法務委員会 第7号

#1
第104回国会 法務委員会 第7号
昭和六十一年四月二十二日(火曜日)
   午後一時開会
    ―――――――――――――
   委員の異動
 四月十一日
    辞任         補欠選任
     柳川 覺治君     林  ゆう君
 四月十四日
    辞任         補欠選任
     橋本  敦君     小笠原貞子君
 四月十五日
    辞任         補欠選任
     抜山 映子君     中村 鋭一君
 四月十六日
    辞任         補欠選任
     中村 鋭一君     田渕 哲也君
 四月十七日
    辞任         補欠選任
     安永 英雄君     矢田部 理君
     小笠原貞子君     橋本  敦君
     田渕 哲也君     抜山 映子君
 四月十八日
    辞任         補欠選任
     矢田部 理君     安永 英雄君
 四月二十二日
    辞任         補欠選任
     林  ゆう君     吉村 真事君
     橋本  敦君     立木  洋君
    ―――――――――――――
  出席者は左のとおり。
    委員長         二宮 文造君
    理 事
                海江田鶴造君
                小島 静馬君
                寺田 熊雄君
                飯田 忠雄君
    委 員
                大坪健一郎君
                土屋 義彦君
                秦野  章君
                吉村 真事君
                安永 英雄君
                橋本  敦君
                抜山 映子君
                中山 千夏君
   政府委員
       法務大臣官房長  根來 泰周君
       法務大臣官房審
       議官       稲葉 威雄君
       法務省民事局長  枇杷田泰助君
   事務局側
       常任委員会専門
       員        片岡 定彦君
   参考人
       立教大学教授   澤木 敬郎君
       一橋大学教授   あき場準一君
    ―――――――――――――
  本日の会議に付した案件
○扶養義務の準拠法に関する法律案(内閣提出)
    ―――――――――――――
#2
○委員長(二宮文造君) ただいまから法務委員会を開会いたします。
 委員の異動について御報告いたします。
 去る四月十一日、柳川覺治君が委員を辞任され、その補欠として林ゆう君が選任されました。
 また、本日、林ゆう君が委員を辞任され、その補欠として吉村直事君が選任されました。
    ―――――――――――――
#3
○委員長(二宮文造君) 扶養義務の準拠法に関する法律案を議題といたします。
 本日は、本案につきまして御意見を伺うため、お手元に配付いたしております名簿のとおり、二名の方々に参考人として御出席をいただいております。
 この際、参考人の方々に一言ごあいさつを申し上げます。
 本日は、御多忙中のところ当委員会に御出席をいただき、まことにありがとうございます。皆様から忌憚のない御意見を拝聴し、今後の本案審査の参考にいたしたいと存じます。よろしくお願いいたします。
 なお、御意見の陳述は、議事の進行上、お一人十五分以内でお願いし、お二人の御意見の陳述が終わりましたら、二時間程度委員の質疑にお答え願いたいと存じますので、御了承願います。
 それでは、これより各参考人に順次御意見をお述べいただきます。
 まず、立教大学教授澤木敬郎参考人、お願いいたします。
#4
○参考人(澤木敬郎君) 御紹介いただきました澤木でございます。
 ただいまは委員長から大変御丁重なごあいさつをいただきましてありがとうございます。また、この委員会における扶養義務の準拠法に関する法律案の御審議に当たりまして、私ごとき者の意見を述べる機会を与えていただきましたことを御礼申し上げます。
 それでは、短い時間でございますので、私から若干の点について意見を述べさせていただきたいと思いますが、あき場参考人とも相談いたしまして、私の方からはこの法案提出の背景になる一般的な問題点、それから法案をめぐる春子細かな論点についてあき場参考人の方からということで二人で相談してまいりましたので、私からはこの法案の背後にある基本的な考え方とか提案理由に準ずるようなことを申し上げさせていただきたいと思います。
 なお、これからお手元に法務省の方で準備されました「扶養義務の準拠法に関する法律案関係資料」というのがございますが、この一枚目の目次のところに一から七までの番号が振ってございます。それで、それぞれの場所によってさらにそれが細目次になっているところがございますけれども、資料一の何ページというような形でこの中から若干の資料を援用しながら説明をさせていただきたいと思います。
 私のお話ししたいのは、その資料の一になりますが、法務省の方でつくられました「法律案提案理由説明」の一ページでございますが、そこで二つほどのことが述べられております。この点についてまず意見を述べさせていただきたいと思います。
 その提案理由説明の二行目のところに、昭和四十八年にヘーグ国際私法会議において扶養義務に関する国際私法の統一を目的とする条約ができた、こういう趣旨のことが書かれておりますが、この点は本法案の性質ということに関連しまして非常に重要なポイントでございますので、一言述べさせていただきたいわけですが、国際私法という法律分野につきましては諸先生方既に御存じのとおりでございますが、ごく簡単に申し上げますと、現在の国際社会は国によって法律の内容が違うという状態になっております。例えば本法律案の対象になります扶養という問題ですと、日本ですと三親等以内の親族の範囲でしか扶養義務を負わない。しかし、すぐお隣の韓国では八親等内の親族まで相互に扶養義務を負うというふうに、各国の民法が全く内容が違っているのが現在の国際社会でございます。そういたしますと、日本在住の韓国人の扶養問題とかそういったような問題が起こってまいりますと、日本民法を適用して判決
をするのかあるいは韓国の民法を適用して判決をするのかということによって解決が違ってまいりますので、これでは困るということになります。
 そこで、国際私法という分野がわずか百五十年ほど前からだんだんにできてきたわけでございますが、その法律の基本的な仕組みは、そういう国際的な法律問題が起こったときにどこの国の法律を適用して裁判をするか。扶養について申しますと、現在、日本の法例二十一条という規定は「扶養ノ義務ハ扶養義務者ノ本国法ニ依リ」と、こういう規定の仕方をしております。そうしますと、国際結婚をした夫婦あるいは国際的な親子の間での扶養というような問題が起こったときには、日本の裁判所では扶養義務者の本国法、扶養を請求される人の本国の民法を適用して扶養という問題を解決する、こういうふうに考えているわけでございます。したがって、国際私法という法律は、その国際社会の中にたくさんある法律の中のどれを具体的な国際的な性質を持った民事紛争について適用するか、チョイス・オブ・ローというふうに申しますが、法の選択を規律する、そういう法律でございます。そうやって選び出された法律のことを準拠法というふうに言うわけですが、そうしますと、この国際私法もまた実は国ごとに違っているわけでございます。
 日本の国際私法では、例えば扶養義務は扶養義務者の本国法によるということになっておりますが、今度御審議いただくこの法律案では、扶養義務は扶養権利者の常居所地法によるというような考え方がとられておりまして、どこの国の民法を適用するかということの考え方そのものが国によって違っているわけでございます。そういたしますと、国によって国際私法が違っているということの結果、実は判決の不調和といいますか、どこの国の裁判所に訴えを起こすかによって判決の結論が変わるという非常に不都合な状態ができてしまうわけでございます。例えば日本の裁判所へ訴えを起こせば扶養義務者の本国の法律が適用される、だったら一番扶養給付がたくさんもらえるような国はどこか、そういうことを考えながら、どこの国の裁判所へ訴えを起こすかというようなことも作戦としては成り立つようなことになるわけでございます。
 そこで、国によって国際私法の内容が違っていては困るではないか。要するに、どこの国の裁判所に訴えを起こすかによって判決の結論が違うというような事態は国際社会にとって望ましいことではないということから、国際私法の統一運動というものが起こってまいりました。
 この資料に書かれておりますヘーグ国際私法会議というのは一八九三年、非常に古い時代でございますが、オランダのアッセルという学者が言い出しまして、それで、オランダ政府がイニシアチブをとってヨーロッパ諸国十四カ国に働きかけて、最初はたから非常に小ぢんまりとしたものだったわけでございますが、国際私法の統一をヨーロッパの中で実現しようという形で始まったものでございます。しかし、現在ではこの構成国は、この資料六の六でございますが、五十六ページのところにこの条約の現在の構成国が載っておりますが、三十四カ国でありまして、最初はヨーロッパ圏だけであったものが、イギリス、アメリカあるいは東欧圏の国々、あるいは南米なども含んでおります。しかも、ここに載せられております三十四の構成国のほかに、非加盟国であっても二十四カ国もの国々、その中には東ドイツであるとかソビエトあるいはルーマニア、シンガポールといったような国々が含まれますが、そういう国国もこのハーグ会議で成立した国際私法統一条約を批准しております。そんな国が二十四カ国もあるということで、かなり国際的な規模の国際私法統一運動ということが言えるわけでございます。
 そして、このハーグ国際私法会議と日本との関係でございますが、先ほど申しましたように一八九三年にこの会議がスタートいたしまして、資料六の六の四十六ページのところにこの会議の規則が載せられておりますけれども、そこの三条のところでは四年に一度ずつ会議を開くということが規定されております。ずっと四年ごとにこの会議が開かれて今日まできておりますが、日本は第四回の国際会議、一九〇四年からこのハーグ国際私法会議に代表を派遣してきております。そのすぐ前、四十五ページのところをごらんいただきますと、ヘーグ国際私法会議関係資料として会議規程が載っておりますが、その冒頭には十六の国の名前が載っております。その中に日本が入っておりまして、この一九五一年時点ではまだ十六カ国の構成であったわけですけれども、局本はこの中の一員になっております。そういう意味で、日本はこの国際私法の統一を目的とするハーグ国際私法会議に古くから積極的な協力関係に立っていたということが言えるわけでございます。
 日本の批准状況は、同じくその五十六ページのところに書かれておりますが、今までハーグ国際私法会議で成立した条約のうちの五つを批准しております。私ども国際私法学者といたしましては、この国際私法の統一という問題の重要性、意義を国会も十分御理解いただきまして、積極的にハーグの国際私法会議の成立した諸条約のうち、日本の国益にとって妥当と考えられるものはむしろ積極的に批准するというふうにお考えいただければ非常にうれしく思うわけでございます。そういう意味で、本条約の批准ということは私どもにとって非常に重要なことであるというふうに考えている次第でございます。
 それから第二点でございますが、以上がハーグの国際私法会議で成立した条約を批准するという事柄に関連した部分でございますが、こういう条約を批准した場合に、批准しっ放しでそのままにしておくという措置も可能なわけでございます。事実、この資料にも載せられております。十七ページのところの六の三ですが、そこには「子に対する扶養義務の準拠法に関する条約」というのが載せられておりますが、これは条約を批准しただけで特別の国内法を制定しておりません。しかし、十九ページのところを見ていただきますと、第六条ですが、「この条約は、第一条の規定によって指定される法律が締約国の法律である場合にのみ適用する。」と、これを相互主義と言っておりますが、条約加盟国同士の間でだけこの条約を適用しようといういわば閉鎖的な条約なわけでございます。したがって、子供の扶養義務については日本にも国内法があるわけですけれども、その国内法はそのままにしておいて、あとは条約加盟国相互の間でだけはこの条約によろうと、そういう閉鎖的な条約であるために特別国内法上の措置をしなくても済むことになったわけでございます。
 ところが、今度の扶養義務の準拠法に関する条約は開放的な条約なわけで、六の一の資料の一ページ目のところでございますが、第三条として「この条約によって指定される法律は、いかなる相互主義の条件にも服することなく、また、締約国の法律であるかないかを問わず、適用する。」と、こういう規定になっておりますので、したがって日本がこの扶養義務の準拠法に関する条約を批准いたしますと、この条約によって指定される準拠法が締約国の法律であるか否かを問わず適用するということになりますので、従来日本に存在しております扶養義務の準拠法に関する法律の条文を廃止して、そしてこの条約そのものを日本法の一部に取り込む、こういうことをしなければいけないことになるわけでございます。それがこの条約を批准するという趣旨になります。
 したがって、この扶養義務の準拠法に関する条約を批准いたしますと、現在扶養に関しては法例二十一条という条文がございますが、これは資料の四のところで扶養義務の準拠法に関する法律案の新旧対照条文を規定しておりますけれども、そこで現行の二十一条を削除するというふうに書かれております。この趣旨は、現在日本には「扶養ノ義務ハ扶養義務者ノ本国法ニ依リテ之ヲ定ム」という条文がございますが、扶養義務の準拠法に関する条約を批准いたしますと、現在国内法としてあるこの日本の扶養義務の準拠法に関する規定を廃止いたしまして、条約そのものを日本の国内法として採用する必要がある、そういうことから
この法律案が特別法として立法されているわけでございます。
 そういう意味で、この法律案は条約の趣旨を国内法化するということに主眼が置かれている法律でありまして、条約の条文がそのまま国内法の条文になっているわけではございませんけれども、内容的に見ますと、条約の条文を読みやすくする条文の整理とか、そういうことが中心になって全体が構成されております。
 時間が参りましたので、あとは御質問の中で説明をさせていただきたいと思います。
 どうも御清聴ありがとうございました。
#5
○委員長(二宮文造君) どうもありがとうございました。
 次に一橋大学教授あき場準一参考人、お願いいたします。
#6
○参考人(あき場準一君) ただいま御指名にあずかりましたあき場準一でございます。このたびは、本委員会の席上、当方の卑見を申し述べる機会を賜り光栄に存じております。
 当面の課題でありますところの扶養義務の準拠法に関する法律案につきまして、その法案に盛り込まれた諸政策並びにそれらを今ここで上程するに至ったその趣旨、目的に関しましては既に法務省の方から御説明のあったところと伺っております。また、ただいまの澤木教授による御指摘によって本法案についての諸問題はほぼ十分に説明が尽くされており、今さらそれにつけ加えるべきものが残っているかという疑問もございますが、せっかくの御指名でございますので、ただ一点についてだけお話し申し上げることとし、諸先生方の御教示を賜りたく存じます、
 それは、本法案を法律として制定するに当たって他の法令等と矛盾、抵触を示すところがあるかないか、このところに尽きます。この点の検討に入る前に、現在我が国では当面の問題たる扶養義務の準拠法についてどのような法の仕組みになっているのか、この大略を通説に従い御説明を申し上げておく方がよろしくはないか、こう思いますので、これまでの澤木教授の御説明と多少重複するところもあり得ましょうが、その点はお許しいただきたく存じます。
 今回上程されております法律案の対象とする夫婦間、離婚当事者間、親子間、その他の親族間のいわゆる親族法的扶養に関し、我が国の国際私法ではそれらの準拠法を次のように定めております。これにつきましては、この参考資料の五の扶養義務の準拠法に関する法律案参照条文の一ページ「法例」というところに十四条から後の条文が載っておりますが、それをごらんになれば直ちにおわかりのところと思います。
 まず、夫婦間につきましては婚姻の効力の問題の一つとして法例十四条に従い夫の本国法、離婚当事者間のものは離婚に付随するいわゆる離婚給付の問題として法例十六条により離婚原因発生当時の夫の本国法、その他の親族間の扶養は法例二十一条に基づき義務者の本国法にそれぞれよらしめております。そして、最も重要な親子間のものは、これを大ざっぱに分けて、未成年子に対するものと既に成年になった親子間のものとに区別し、後の方は一般の親族間の扶養と同様に法例二十一条に従い義務者の本国法、未成年の子に対するものは法例二十条を根拠に父があるときは父の、父のないときは母のそれぞれ本国法、これらを準拠法といたしておりました。
 ところが、既に御承知のとおり我が国は子に対する扶養義務の準拠法に関する条約、これは六の参考資料の十七ページについてございますが、これを昭和五十二年に批准し、同条約は五十二年九月十九日から我が国に関し発効いたしておりますために、同条約の適用対象たる二十一歳未満で未婚の子の条件に該当します子が、我が国及び同条約の締約国、これは同じく参考資料の二十五ページに記載がございますが、その締約国に常居所を持つ限り、この条約に従い、さきに述べました父または母の本国法ではなくて、子の常居所地の法律を準拠法とすることになっております。
 このたびの法律案は、その子条約と略称いたしますが、子条約においてとられております子、言いかえれば権利者の常居所地法を基準とするという準拠法選択の政策を一般の扶養義務についてまでいわば拡大しようという基本的な立場を持っており、その限度で、先ほど述べました我が国際私法の現行規定を改正する実質を持っているわけでございます。その基本方針に関しましては私も賛意を表するものでございますが、子に関する部分につきましては、それは我が国の現行法ではありますけれども、我が国だけのいわば独自の改正が不可能な国際的合意、つまり条約をもとにしている箇所がありますために、このたびの法律案と子条約との間の抵触のいかんが気にかかるということになるわけでございます。
 そこで、この点についてだけ申し上げてみようと考えました。この点につきましては、お手元の法律案関係資料の最後のところ、法律案逐条説明の一ページ、第三条第二項のところにもう既に説明がなされております。子条約との関係では姻族についてのみ問題を生ずるわけでございますが、姻族間の扶養義務につき、本法案第三条第一項は義務者に異議申し立て権を与えております。子条約にはこうした政策はなく、真正面からの抵触があると言えるかもわかりません。そこで、我が国が子条約に従わねばならない場合には、こうした異議申し立て権を認めるわけにはいかない。そこで、第二項を置いて、少なくともこの点では子条約によることをいわば規定しているわけでございます。
 ところで、右に述べましたような子条約によらねばならない場合とは我が国にとってどういう場合か、この点にちょっと触れておきますと、まず条約締約国相互の間という局面で言いますと、今回上程されております法律案のもとは、先ほどの澤木教授の御説明にもございましたように、参考資料の一ページにつけられております、ハーグで一九七三年に採択された扶養義務の準拠法に関する条約、以下七三年条約と申しますが、これでございます。この七三年条約は、同じくハーグで一九五六年に採択されました、今まで子条約と申し上げてきた条約にかわるべきものとしてつくられたものでありまして、その趣旨は七三年条約の第十八条第一項に明らかにされております。
 参考資料の六ページにございますが、そこで七三年条約と五六年条約、つまり子条約ですが、その双方の締約国の間では、同項によりまして七三年条約の方が優先する、七三年条約によって取ってかわられる、このことが明文化されております。その第二項では、仮に七三年条約をも批准したとしても、子については七三年条約に従わないことを定め得る余地が認められております。ところが、今日までのところ、両方の条約を締約した国で本項を援用し、留保した国はございませんわけですので、両条約の当事国となった国の相互の間では、現在のところ七三年条約が常に優先するということになるわけでございます。したがって、問題を生ずるのは、五六年の子条約だけの当事国との関係ということになりましょう。
 これは参考資料の二十五ページにありますように、それは具体的にはオーストリア、ベルギー、西ドイツ、スペイン、リヒテンシュタインとの間だけにとどまります。こうした国々との間では、子条約に従い、二十一歳未満で未婚の子に対する扶養義務に関しましては、その者がこれらの国に常居所を有する以上、法律案第三条第一項の義務者に与えられた異議申し立て権が認められない結果が生まれてくるわけであります。また、法律案第八条第二項の、権利者の需要、義務者の資力、これらの考慮もなされない。しかし、政策的に見まして、これらはいわば保護を必要とする子に有利な結果になるわけでして、仮に抵触が生ずるとしましても、実質的にはその難点とはならない。しかも、右の子条約だけの当事国のうち、我が国と最も関係の深いと思われます西ドイツでは、今のところ七三年条約の批准はなされていないようですが、同条約の批准を前提とし、国際私法の改正作業が進んでおりまして、その一九八三年の草案の扶養義務のところ、同草案の第十八条に当た
りますが、これを見ますと、同条の内容はただいま御審議中の法律案や七三年条約とほとんど同一でありまして、同国との間ではほとんど問題を生ずる余地はないように思われます。
 それからもう一つ、さらに本来の準拠法である子の常居所地法によれば扶養を受けられない場合どうするかという点に関しまして、今回の法律案の第二条及びそのもとになった七三年条約の第五、第六条に従いますと、まずは当事者の共通本国法を見、それによっても扶養を受けられない場合、最後は法廷地、日本で問題になっているときならば日本法に従うと、こういう三段階の仕組みになっているわけです。もう一度申し上げますと、まず権利者の常居所地、それでだめであれば当事者の共通本国法、それでもだめならば日本法と、こういう三段階にして何とか扶養を受けさせようと、こういう政策になってございます。
 五六年の子条約では、その第三条におきまして、同様の問題について、常居所地法の次は今の例で言いますと日本の国際私法の規定によって定められている準拠法に従うと、こういうふうになっております。ここでは二段階でありまして、まず常居所地法、その次は日本の国際私法、こうなっておるわけです。この点も形の上では子条約と異なるところでありますが、この場合の法廷地、今の例では日本の国際私法の規定は我が国が独自に定めているものでよいわけですので、今回法律案のように定めますと、その法律案が右に言う法廷地の国際私法の規定に該当するわけで、その内容は七三年条約と同趣旨であるがためにここでも実質的には問題がないと、こういうふうになろうかと思います。
 このようにいたしまして、ほかにも幾つか論点はございましょうと思いますが、時間の関係もございまして、できるだけ先生方の御意見を承りたいと思いますので、この辺で私が一方的に申し上げるのは差し控えたいと存じます。以上のようなぐあいで、澤木教授からもお話がございましたように、現行法との抵触というものもほとんどございません。大変内容におきましてもその根本的な精神におきましても妥当な政策を持った今回の扶養義務の準拠法に関する法律案でございますので、私どもといたしましては、できるだけ慎重御審議を願った上でこれを法律として制定していただければ幸甚に存ずる次第でございます。
 御清聴ありがとうございました。
#7
○委員長(二宮文造君) どうもありがとうございました。
 以上で参考人各位の御意見の陳述は終わりました。
 これより参考人に対する質疑を行います。
 質疑のある方は順次御発言を願います。
#8
○寺田熊雄君 大変簡にして要を得た御説明をいただきまして、ありがとうございました。
 まず第一にお伺いしたいのは、先生方がおっしゃった関係資料の五十二ページ、ここに「ヘーグ国際私法会議諸条約」というのがありますね。「(注) 戦後に採択されたものを掲げる。」として、ここに(1)ないし(30)の条約が挙げられておりますが、その中で我が国が署名したもの並びに批准まで進んだもの、全然未サインのものと、こう分かれるわけでありますが、まず先生方におかれて、この条約は速やかに調印ないし批准すべきではないかと考えられるものはどれとどれでしょうか。ちょっとそれを両参考人にお伺いしたいと思います。
#9
○参考人(澤木敬郎君) 私の方が先に御説明させていただきましたので、私の方から先に申し上げます。
 なかなか難しい御質問なんですけれども、学界の中でそういう話題が出ますときに一番話が出ますのは、十四番のところにあります管轄の合意に関する条約、これは訴訟法上の問題なんですけれども、どこの国の裁判所に訴えを起こすかという問題について管轄合意というものを認めるか認めないか、こういうことが国によって違っていることは余り望ましくないし、早く統一した方がいい。しかも、この問題の批准に当たってはそう極端な政治的な利害関係の対立がないわけでございます。
 そういうことで申しますと、例えば二十一番の、製造物責任の準拠法に関する条約というのがございますが、これは現在日本をめぐってこれだけの商品が輸出され、輸入されているそのときに製造物責任という非常に重要な消費者保護の問題についでこれが国によって法が統一されていないということは非常に望ましくないわけですから、ハーグ会議がこういう問題を取り上げて既に条約をつくっているということ、しかもこれは発効しておりますので一定の国々が批准しているということなんですが、このあたりになりますと本当に国際的な利害の対立が非常に明確に出てまいります。恐らくまだ我が国としてこういう問題をすぐ批准というところまでいくのにはいろいろ検討すべき問題が多いのではないかというふうに思います。
 それに対して、一番は既に日本は批准しておりますが、二番、三番、このあたりも、有体動産の国際的性質を有する売買という文字が書かれておりますけれども、これは平たく申し上げれば貿易取引のことなんで、貿易取引がこれだけ日本をめぐって起こっているときに、一々契約が後で紛争になったときにどこの国の民法で処理するのか、例えば日本とアメリカで貿易取引をやっておいて、裁判になってからこの契約は日本民法で裁くのかそれともアメリカの民法で裁くのかがその時点になって問題になるということじゃ困るわけなんですから、できればそういうことは統一した方が望ましいと考えますけれども、やはりこのあたりも輸出国と輸入国といったようないわば一種の国際的な利害の対立がございますので、そう簡単に批准というところまで進めるかどうかは問題がございます。
 そういう意味で、無難なものを選ぶというだけが能ではないわけですが、これまで恐らく法務省当局あるいは法制審議会の国際私法部会等々で、日本の立場として批准可能な条約から順次取り上げていくということでこれまで処理してきたのではないかと思っております。
 私、直接御質問にお答えできなかったのですが、よく話題として出るのは、管轄条約などはどうだろうかということが話題に出ているということは申し上げてよろしいと思います。
#10
○参考人(あき場準一君) 先ほど澤木教授が御説明になりましたところでほぼ尽くされているかとは思いますが、先ほど澤木教授も触れられました二番から四番、この問題につきましては、実は三十番でございますが、これでいわば改定が進められているようなこともございます。これは今日の国際的な物の交流関係の発展、複雑化に対応して幾分手直しが必要だということがあって出てきたものでございましょう。また、このような事柄に対しましては国際連合の国際貿易法委員会、UNCITRALと言っておりますが、そちらで統一法がつくられている、こういうこともございます。
 そこで、そうなりますと、統一法でやる方がよろしいのか、こういう国際私法的な処理がよろしいのか、大きな問題がございますが、やはりより広い舞台でつくられました国際連合の貿易法委員会の案、これはウィーン条約というのがあるのですけれども、そういう方をそのまま直接やる方がいいのかもしれないというような考え方もございます。そういうわけで、この点はまだ多少流動的でございますけれども、恐らく早い時期に批准の方へ進んでいく可能性があるのではないかという感じがいたします。
 なお、そもそもこのハーグの国際私法会議といいますのは、後ろの方に構成国が出ておりますけれども、当初はやはり西ヨーロッパ主導型で、大ざっぱな言い方をいたしますと、いわば北のクラブであったかもわかりません。それに対しまして国連の方は地球的なクラブである、場合によりましては南の意見、新国際経済秩序などと言われておりますけれども、そういう方に傾いた議論があるかもわかりません。こういう問題とも絡んでお
りまして、単に全く無性格な法律の議論だけでは済まないこともございますので、なお慎重に検討した上で意見を申し述べたいと思うわけでございますけれども、このような問題につきましては、確かに一般的に言いますならば、早い時期に世界統一法ができる方がよろしいであろう、こういうふうに考えます。
 その他の点につきましては、これはいろいろございますわけですけれども、例えばでアトランダムに申し上げますと十七番の、離婚及び別居の承認に関する条約であるとか、あるいは二十四番の、夫婦財産制の準拠法に関する条約であるとか、二十五番の、婚姻の成立及び効力の承認に関する条約、実はこういった問題につきましては、この条約を批准するという形もございますけれども、その内容をいわば先取りして我が国の法律を変える、こういう方法もございます。これは諸国で行われているやり方でございますけれども、そういうところで我が法務省の方では、法制審議会の場等々を通じましてその条約の中身を既に実現に移そうと努力をいたしておるわけでございまして、そういう点から言いますと単にハーグ条約の批准の数をふやせばいいというものではないような感じもいたします。要はその中身でございますので、中身において国際的な協調を旨とする我が国の全体の方針に従う方向で動いている限り、方法はいかようであろうともこれはよろしいのではないかと、こういう感じがいたしておるわけでございます。
 以上、先生の御質問に対しまして十分にお答えできなかったかもわかりませんが、今回の扶養義務等々のような問題について言いますと、判断基準を何にするか、これが今回の問題でございますが、外国でこの条約に基づいてなされたそのような裁判を日本で承認すること、これが必要な局面もございます。そのような点につきましては、できるだけ容易に承認するような方向に持っていくか、あるいは日本でなされた判決を外国でより容易に承認してもらうような方向に持っていくか、これはそういう種類の問題に関する条約もないわけではございません。例えば二十二番がそうでございます。扶養義務に関する判決の承認及び執行に関する条約でございますが、これなども観念的に言えば批准した方がいいのかもわかりません。ただ、訴訟手続といいますものは御承知のとおり国によって大変異なっておりますので、にわかにこのままでいいという形にもまいりません。そういうところで、この点もやはり法務省の方で慎重に審議をされている途中だと伺っております。
 以上でございます。
#11
○寺田熊雄君 我が国の国際私法に関する法律は御承知のような法例がありますが、何分にもこれ非常に古い法律で明治三十一年の法律第十号であります。今法務省の方でこれのやはり全面的改正を法制審の方に諮っているようでありますけれども、私どもが気になるのは、やはり先般批准を完了いたしましたあらゆる形態の男女不平等の撤廃に関する条約であるとか、その以前に暁に批准をいたしました国際人権規約、あるいは男女平等を要求しておる憲法第十四条、そういうものに抵触するかのような規定が間々見られるわけでありますけれども、こういうことを考えますと、法例の速やかな改正を必要とするという、私の方はそういう持論を持っておるわけであります。それについて先生方はどういう御見解を持っていらっしゃるのか。
 それからまた、これは日本だけでなくして、かなり西欧の民主主義国家にもやはり国際私法規則において男女平等規定に対する抵触というのもあるようでありますが、そういう点の御見解を両先生にお伺いできればと思います。
#12
○参考人(澤木敬郎君) 意見を述べさせていただきます。
 ただいまの御質問は二点にわたるように思います。一点は、女子差別撤廃条約の批准ということあるいはその他一般に両性平等原則との関係で日本の現行法例をどう評価するかという問題と、そもそも日本の現行法例が非常に古くなってしまっているのではないか、そういうこととは別に全面的な見直しが要るのではないかという二つの問題があったと思います。
 順次答えさせていただきますと、第一の問題、両性平等原則と現行法例の関係につきましては、一応私個人といたしましては、法例十四条から十六条まで、婚姻の効力、それから夫婦財産制、離婚について夫の本国法を適用するとしているもの、それから法例二十条で、親子間の法律関係で「父ノ本国法ニ依ル」と言っている部分は両性平等原則の少なくとも精神には反する。
 と申しますのは、実は夫の本国の法律の方が大変民主的であって妻の本国の法律の方が女性差別の法律を持っているということが現実には起こり得るわけなものですから、妻の本国の法律を選べばいいということにはならないわけですね。そこが国際私法といわゆる民法の違いなわけです。憲法十四条の両性平等原則ということから、実質的な差別ということで考えますと、むしろ夫の本国の法律を選ぶ方が民法上は非常にいい民法と言ったら変ですけれども、そういうことになっていて、妻の本国の民法の方が大変差別的だということも起こらなくはない。だから、夫の本国の法律を選ぶのか妻の本国の法律を選ぶのかというだけでは、直接両性平等原則には反しないという考え方もございます。
 しかし、私は先ほど精神としてと申しましたが、確かに夫の本国の民法の方が男女平等原則を十分貫徹した民法を持っていたとしても、だからといって夫の本国の法律を準拠法にするということが許されるわけではない。やはり憲法の精神からいって望ましくないというふうに考えております。
 したがって、両性平等原則に反するか反しないかという評価、判断についてはそれぞれの見解があると思いますけれども、現在私の了承しておりますところでは、そういう規定を改正するという方向で現在法制審議会は審議をしているというふうに申し上げてよろしいと思います。
 それからもう一点ですが、そもそもこの法例は古くなったのではないか、全面改正の要はないかという問題点でございますが、その点も私賛成でございます。
 国際私法は非常に理論的な法律なんです。民法も刑法も千五百年近い歴史を持っているのに、国際私法という法律は、いわば近代国家ができてきてたかだか百五十年ぐらいの間にこういう法分野ができ上がってきたものですから、まだ十分な歴史的な背景もありませんし、かなり理論で法が積み重ねられている部分がございます。ところが、国際社会の実情がどんどん変わっていくにつれまして、やはりその理論構造も非常に変わってきているわけです。そういう意味で、確かに非常に古くなってきておりまして、この条文はどうも現代の国際社会の実情に合わないということが指摘されている条文が非常に多いことも事実なんです。
 それではどう直すかということになりますと、またこれが議論百出という状態で、まだ十分おさまるところまでおさまり切っていないのじゃないか。現在法制審議会でも十分いろんなテーマについて検討中ではございますが、ヨーロッパなどではここ十年ぐらいの間に各国がどんどん国際私法の全面改正を実現しております。そういう意味では、一つの国際私法の全面改正の立法の時期がだんだん近づいているということは言えるのかもしれませんが、私としては、今直ちに日本において国際私法の全面改正をするのはちょっと時期尚早ではないかというふうに考えております。
#13
○参考人(あき場準一君) お答え申し上げます。
 先ほど澤木教授がまとめられました二点、やはり先生の御質問の趣旨であろうかと思います。
 まず最初に、婦人に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約、これとの関係で申しますと、やはり私も基本的には現行法例が直ちに違反するとは考えられないわけでありまして、また、そのゆえにこそこの法例が直ちに無効とはなっておらないとは思いますけれども、条約の表題にもありますように、「あらゆる形態の差別」という
わけでして、澤木教授が御説明をしてくださいましたのは、いわば民法のレベルにおける差別があるかないか、国際私法の上では差別があるように見えるけれども、下の民法のところではある意味ではフィフティー・フィフティーであって、夫の本国の法律の方が妻に有利な場合もあり得る。だから、実質的な差別がないからこれは必ずしも基本的には差別になっておらないという、通常私ども教壇の上からはそういう説明をいたしまして現行法のことを解説いたしておるわけでありますけれども、個人的な見解で申し上げますと、幾分先走るかもわかりませんが、「あらゆる形態」というところに少し手がかりを求めまして、民法のレベルでの差別はもちろんのこと、国際私法の上のところでも差別があってはいかぬだろう、こう思います。
 その意味では、少なくとも憲法二十四条あるいはこの差別撤廃条約と抵触するおそれのあるところは直ちに改正した方がよろしいというふうに考え、また、実は法務省の側といたしましても、記憶は幾分正確ではございませんが、既に昭和三十四年にこのような夫の本国、夫の国籍を優先するような政策はやめようということがもう内部的には決まっているはずでございます。これは三十四年ですから、もう相当以前のことになりますね。なかなかそれが実現しなかったのは一般の社会情勢の関係があるのかもわかりませんが、今日では、かつてとりましたそのような方向をさらに一歩進めるような形で審議が進んでいると伺っております。それを大いに期待するわけでございまして、そのような改正案が本委員会にかかりましたときには、ぜひとも早急に通していただけるようにお願いいたしたいと思います。幾分場違いではございますが、そういう感じがいたすわけでございます。
 もう一つ、古いという観点、これは確かにそうでございますが、実は日本の場合には幾つかの時代を日本は過ごしてまいりました。現在の日本の領土以外にも日本の領土と称されるところがあった時代がございます。その時代には、国籍としましては日本でございますけれども、民族的には異なる方々が幾つか分かれておりまして、日本の国内だけでも、ある意味では国際的と申しますか、そのような本来の意味におけるインターナショナルな関係がございましたわけでございますが、今日の段階になりますと、物あるいは技術、学術、こうした交流はやや活発になってはおりますけれども、人の間の交流、特に日常生活の交流というのは必ずしも日本は活発ではないように思われます。
 例えば結婚について話をしますと、国際結婚ということが盛んにジャーナリズムを騒がすことはございますが、統計を見ますと、日本の場合には千人に二人ぐらいしか国際結婚をいたしません。その国際結婚をする方々の中の八五%はいわゆる日本に長い間おられます朝鮮籍の方とされるのが多く、いわば日本の国の外へ出ていって結婚する方というのは非常に少ないようです。これがドイツですと百人に十七人、スイスですと百人に三十五人ぐらいは国際結婚をされるわけでして、そういう国々に比べますと、いわば本来の意味での日本人の通婚圏といいますか、それが狭いわけです。これは、ある意味では国際私法ということに対する需要といいますか、これが少ない。極端なことを言えば、国際私法なくても何とかやっていけるような社会ではないかという、実はこういう面がちょっとあるのじゃないか。だから、結果としてなかなか時代に対応するような改正ができなかった、改正を要請するような社会的な需要がなかったと言えるかもわかりません。
 近時、先ほど澤木教授が御説明されました欧米諸国における改正の最大の原因は、既に御承知かと思いますけれども、いわゆる移住労働者の問題なんです。実はこの扶養義務の準拠法に関する条約もそれにかかわるところが少なくないわけですけれども、これは先生十分御承知だと思いますが、ベルリン市内の三分の一の人口はトルコ人である、こういうような状況がございます。しかも、なかなか本国へ帰っていかない。そういう状況をいかに処理しようかという形で非常に急務になってきている、こういうこともあったかもわかりませんので、ただ古いということだけではやはりそれを改正する理由にはならないだろうと思います。
 単に古さだけではなく、改正を促すような何らかの社会的な需要というものがある意味で果たして日本にあったか、その結果がこういうふうになっているのではないか。しかし、今日先生方のお知恵を拝借せざるを得ないような状況になっているということは、徐々にではございますが、まさに日本も真の意味における国際化へ移りつつあるのではないか、こう思いますので、今後はますますこうした国際私法関係の法令の御審議を願う機会が多くなろうかと思います。
#14
○寺田熊雄君 それから、今、男女の平等の理想に抵触する規定、これは澤木先生ですな、夫の本国法を適用する方が当事者に有利であると。それは両当事者に有利というふうにおっしゃるのか、女性の側に有利とおっしゃるのか、その点はちょっと聞き漏らしましたけれども、当事者はいずれの本国法も適用できるというふうにしておいて、そして判例にありますように、非常に不合理な結果を生ずるような場合は公序良俗の法理を適用して救済していく、信義則を適用する場合もあるかもしれませんが、あるいは法の理想というようなものを掲げて、夫の本国法を適用した方が法の理想にかなう、あるいは女性の本国法を適用した方が法の理想にかなうというような裁判所の裁量の範囲内にその決定をゆだねるか、いろいろな立法技術があると思いますけれども、何にしても、夫だけに限定して規定するということは、どうも私ども、やはり先ほどの男女平等撤廃条約なり憲法十四条あるいは国際人権規約等に正面から抵触するような感じを持つわけで、これは私どももこれから十分検討してみたいと思うんです。
 きょうは先生方の御意見は御意見としてお伺いしておくわけですが、このような国際私法の統一に仮に関連をいたしまして、将来は各国の私法の内容を統一する、そういう方向がやっぱりあり得ると思うんですね。それから、また渉外的な事項に関する私法関係にのみ適用される統一私法を制定する、いわゆる渉外統一私法というんですか、そういうこともあり得るわけですが、これは先生方の御意見としては、どうですか、近い将来にやはり可能だと思われますか。どうも私どもは非常に困難なように思うんです。殊に財産関係は非常に経済的な利害を追求いたしますので合理主義が支配する、ところが身分関係の法律といいますと、やっぱりいろいろ国民感情なり伝統なり風俗習慣等の支配がそこにありますのでなかなか難しいのじゃないかと思うんですが、その点はいかがでしょうか。それを最後にお伺いして質問を終わりたいと思います。
#15
○参考人(澤木敬郎君) お答えさせていただきます。
 ただいま私法の統一、国際私法の統一ではなくて、いわば民法、商法等々ですが、私法の統一という方向で国際的な問題の解決ができないかということが御質問の趣旨だったと思います。
 これはやはり法領域、分野ごとに考えていくより仕方がないと思いますが、家族法の分野に関して言いますと、よほどのことがなければ統一はできないのじゃないか。と申しますのは、カトリックですと一夫一婦制で離婚禁止というところから始まりまして、イスラム圏では一夫多妻制、タラクディボースといいますか、男子の一方的専制離婚がまだ認められているというような状況で、果たしてカトリック圏の国々とイスラム圏の国々が集まって国際会議を開いて世界婚姻法というものがつくれるかといえば、そう単純ではないと思います。ただし、もちろん人権問題とかそういう部分的な国際的合意というものは徐々につくっていくことは可能だろうと思うんです。
 これに対して、取引法の分野ですと、ある程度経済的な合理性があれば統一は可能なんですけれども、現実には経済的利害、東西南北の対立のほ
かにも、実は法律の分野では非常に技術的な違いが多うございまして、実際には法の統一がかなり困難なわけです。よく私どもが講学上例に引きますのは、手形小切手法の統一ができているのですが、アメリカとイギリスがこれに入っていない。結局、英米法系と大陸法系の考え方の根本的な違いが法の統一の大きな障害になっているということがよく指摘されるわけです。その他、最近の大韓航空事故なんかで問題になりましたワルソー条約、航空運送に関する条約、あれも一見統一法のようなんですけれども、実はオリジナル・ワルソーといいましょうか、最初のワルソー条約から始まりましてグアテマラ修正規定だとかいろんな修正規定がありまして、なかなか国際的な統一ができないのが実情でございます。
 お答えになったかどうかわかりませんけれども、その程度で……。
#16
○参考人(あき場準一君) 私も澤木教授と大体同じようなふうに考えておりますが、寺田先生の御意見を伺いまして、まさによく御存じであるなという感じがいたしました。
 先生のおっしゃいますとおり、財産関係につきましては統一の可能性もあるやに思いますが、身分関係それから財産関係でも土地に関する問題、これはなかなか統一が難しいのじゃございませんでしょうか。ですから、物権的な側面とでもいいますか、ここはかなり難しい。やはり郷に入れば郷に従う、こういうやり方にならざるを得ないのではないか。
 しかし、考えてみますと、親族法の方も、身分関係と申しましても財産的な側面があるわけです。今回上程されておりますような扶養、これは家族関係を基礎にしてはおりますが、基本的にはお金の問題ですね。そういうこともあるわけですから、一般に身分法、親族法だから難しいと言うこともできませんし、一般に財産法だから統一ができるとも言えない。やはり個々別々に考えていかなければなりません。結局、何も言わない結果と同じではありますが、できることから国際的に統一していかなければいけないと、こうなるわけです。
 ただ、その際に何でも一挙に、いわば国連方式とでもいいますか、全地球的なレベルで統一をするということを考える必要はないのでありまして、例えば環太平洋地域だとかあるいは日本と朝鮮とか中国とか、こういういわば地域的な国際社会でならば、一見困難と思われますような親族法のところでも何か統一が可能かもわからない。だから、いつも全世界的に目を配ることは必要でありますけれども、結果としてそれで北と南が対立してみたりすることはよくないのでありますから、できるところからという意味はそういうこともあるのじゃないかと、こういうふうに考えております。
#17
○寺田熊雄君 ありがとうございました。終わります。
#18
○飯田忠雄君 ただいまいろいろお話を承りまして大変ありがとうございました。
 二、三お伺いいたしたいのは、今度の法案の三条と四条に関しましてこれの背景となるもの、つまり必要性はどういうところからこういう条文が出てきたのだろうかという点につきまして、もしお差し支えなければお教え願いたいと思います。と言いますのは、第四条で見ますと、「離婚をした当事者間の扶養義務」と、こうございますが、離婚をしてしまえば赤の他人なのにどうして扶養義務が問題になるのだろうかということが常識的に考えられます。ところが、国を異にすればこういうこともあるのだろうかということもまた思われますのでお尋ねをするわけでございます。
 また、三条の方でいきますと、例えば「傍系親族間又は姻族間の扶養義務」とございますが、これは国籍は関係ないとしましても、それにしても何か特別にこういうことを必要とする背景があったのだろうかということを考えるわけです。例えば姻族間の扶養義務といいますと、これは国と国とを異にするところに住んでおる姻族間の扶養義務ということだろうと思いますけれども、一体だれを中心としての姻族なのか、また、その姻族というものの範囲が、それぞれの国によって姻族というものは違う定義があるのか、あるいは傍系親族につきましても、これも国を異にするところにおける傍系親族間の扶養義務だと思いますが、こういうものについてそういうことを特に決めなければならぬようなことだろうか。例えば日本国内におるところの傍系親族であればもちろん日本のこれで済むようです。
 ただ、問題は日本国内において外国人同士の夫婦がやってきてそれで起こる問題だということになりますと、それは一体どういう場合に生ずることなのだろうか。考えてみますと、私ども知識が足らぬものですからこの三条、四条は全くわからない条文だと、こういうことになっておりますので、ぜひお教えを願いたいと思います。よろしくお願いします。
#19
○参考人(澤木敬郎君) お答えさせていただきます力
 まず、四条の方が簡単でございますので、四条の方を申しますと、実は私どもがごく常識的に扶養と考えますのは、生活能力のない人に対してほかの親族関係にある者がその生計の資を補給する、そういう制度でございますが、だれに一体どの程度でどういう義務を負わせるかということについては各国非常に多様な制度をとっているわけでございます。
 先ほど御質問の中にありましたように、確かに日本の民法では離婚後扶養という観念はないわけでございますが、アメリカ等では昔からアリモニーといいまして、よくハリウッドの俳優さんなんかの離婚で、離婚した後も毎月別れた妻に送金をしなきゃならぬというような記事が出ることがあるわけですけれども、アメリカ法なんかではかつては、離婚後扶養、配偶者が再婚するまで一定期間扶養料を毎月送るといったような制度もございます。ドイツなんかではごく最近民法を改正しまして、それまでは離婚の際の慰謝料というようなものを認めていたわけですけれども、それを廃止しまして完全な破綻主義民法を採用すると同時に、離婚によっては、いわば財産関係の清算といいましょうか、離婚給付をしない、そのかわり、もし離婚後配偶者の一方が生活能力がない場合には、離婚後も経済力のある一方配偶者が他方配偶者を扶養する、こういう離婚後扶養というような制度をドイツの比較的最近の民法で新しく入れているぐらいでございます。
 ですから、まさに国際社会の中には国内法でも離婚後扶養という制度をとっている国があるということですね。それが一つの前提になりまして、そうしますと、離婚後扶養というような問題をこの扶養義務の準拠法条約の対象にすることが適当かどうかということを判断して、どうもこれはむしろ離婚の効果の問題だから、国際私法的な表現を使いますと、扶養の問題として考えるよりは離婚の問題として考える。日本法的に言いますと、財産分子とか慰謝料とかという言葉があるわけですが、むしろそういう性質の問題として問題を処理した方が妥当ではないかというのがハーグ会議での結論でこのような条文、四条ができ上がっている。
 もう一度詰めて簡略に申しますと、要するに離婚の際の財産給付に関して、日本のようにこれを全く離婚の効果の問題として考えている国と、そうではなくて、民法の用語としましては扶養というような言葉を使っている国がドイツとかアメリカとかございますが、これを一体国際私法上扶養条約の対象として考えるべきか、あるいは離婚条約というものを別につくった場合ですね、離婚の効果の問題として考えるかということを議論した結果、これはやっぱり離婚の問題として扱おうということになった。こういうふうに四条に関しては御理解いただければと思います。
 これに対して三条の方ですが、これは全く性質の違う問題でございまして、例えば子と親との間の扶養ですと、扶養を請求する方は大体子供で、親が扶養の義務者になります。特に子供が未成熟子の場合には親が子供に向かって扶養を請求するというようなことは普通考えられないわけです
が、傍系親族とか姻族ということになりますと、例えば兄が日本人で弟がブラジルへ移民して現在ではブラジル国籍を持っている、そういう兄弟のようなものを考えてみますと、兄の方が生活力がなくなれば弟に対して生活を助けてくれということになりますし、逆の場合も考えられる。
 そのときに二人に共通な法律というのがあればいいのですけれども、この条約のように扶養権利者の常居所地法ということにしますと、兄弟が日本とブラジルに別れている場合に、日本にいる方が生活力がなくなりますと日本法に基づいてブラジルにいる兄弟に請求する、日本法上は兄弟は扶養義務がある、だから何がしかのものがいただける。ところが、逆に今度ブラジルにいる弟の方が生活力がなくなって請求しようとしたら、もしもブラジル法が兄弟同士は扶養義務がないと言っておりますと、向こう側からは取れなくなってしまいます。一種のそういう不公平のようなものが生じてしまう可能性があります。
 したがって、親子扶養、特に未成年の子と親との扶養であるとか夫婦間扶養の場合はこういう特例を設ける必要がないと条約は考えたのでございますが、傍系親族とか姻族のような関係の扶養の場合には一種の公平みたいなものを考えて、それぞれの扶養を必要としている要扶養者の常居所地の法律だけで問題を処理してしまうのじゃなくて、たとえそこで権利が認められていても、その二人に共通の法律によって扶養義務がない場合、その場合には断れるというような制度をつくる方がいいのではないかというのがこの三条の背後にある考え方ではないかと思いますが、あとあき場さんの方からまた補充していただきたいと思います。
#20
○参考人(あき場準一君) 補足いたします。
 最初に澤木教授の御説明の順番に従いまして第四条関係を申し上げますが、恐らく飯田先生御質問の趣旨は、離婚した当事者間はもう既に親族関係がない、本来親族関係があるのを前提にしての扶養義務ではなかろうか、理論的にも幾分疑問がありはしないかと、こういう御趣旨ではなかろうか。誤解かもわかりませんが、その趣旨でお答えいたしたいと思います。
 これは確かにおっしゃるとおりでございまして、そういう意味では、草案の説明などを見ておりますと、今回の法律案の前提になりました条約では、単に親族関係だけではなく、疑似親族関係に基づくもの、こういうものも入れておりまして、その一つがこれに当たるのじゃないかと思います。認知をされていない子供との間もある意味では疑似親族関係でございます。それがあるわけですが、じゃ、なぜそのようなものの間にということになるわけでございます。
 これは一つには、今日離婚法の主たる観点は、これは既に澤木教授も御説明になりましたように、離婚することによって経済的な困難に陥ることあり得べき当事者、これは今日では女性だけではございませんで、男の場合も少なくないわけでございますけれども、そういう者に対する保護というものを考えなければいけないということで、これがいわば離婚法の法政策の二大支柱の一つになっておるわけであります。そこで、やはりこれが通常は一定の何がしかの全員の給付をもってなされると同時に、これも澤木教授おっしゃるおつもりで私のためにとっておかれたことでございますが、社会保障との関係がございます。
 最近、澤木先生もお触れになりましたドイツの改正法では、いわば夫が将来六十歳になったときに受けることあり得べき年金の一部分について、もう既にそれを離婚の際に配分してしまうというような年金調整といいますか、扶養調整といいますか、そういう制度すらできておるわけであります。これは、一度結婚してもう別れてしまったにもかかわらずという問題は残るわけでございますけれども、やはり離婚をした結果保護を必要とする状態になったいずれかの当事者に対して何らかの救済をする、その第一次の責任をかつての配偶者が負うべきではないか、こういう発想に基づいていると思います。
 もしその点につきまして、それもすべて社会が第一次に責任を負う、こういう制度に変わったなら話はまた別でございますが、そうはなっていない。ほとんどすべての国でそうはなっておりません。まず第一は、我が国の場合には、この後ろにもついておると思いますが、生活保護法の第四条で親族関係に基づく者の間の扶養を優先して考えております。その中にこの疑似親族関係も入ってくるのでありまして、これはいわば社会政策的立法の趣旨がないわけではない。だから、これがここに入っているのだ、そう理解いたしますとあながち場違いな感じがないのではないかと私は考えるわけでございます。
 もう一つ、第三条、先生の御質問の趣旨、これもまた誤解いたしておるかもわかりませんが、なぜ傍系あるいは姻族の者に対してだけ異議申し立て権を認めたのか、こういう形でとらえるといたしますと、これも既に説明がなされておりますけれども、通常、扶養義務といいますものは、権利者のいわば社会的なニーズにこたえるというのが一つ、つまりニーズがなければいけないというのが大原則でありますが、必要のないところにする必要はない、これが一つ。もう一つは、やはり一定の関係の深い者からお互いに助け合うというのが本来ではないか、これもやはり世界的な立法の傾向でございます。
 そこで考えていきますと、直系の親族に比べ傍系あるいは姻族は非常に関係が薄い。だから、その者に対してはもしその義務がないという法律があり、かつそれが同じ国に属している場合、そのようないわば一種の家族関係における民族的な慣行というものを尊重すればどうか、こういう形でこの異議申し立て権が特に認められている。
 しかし、この異議申し立て権は、そこにも書いてありますように、裁判所が黙っておれば当然にあなたは異議が認められますよという形でするのではなくて、あくまでもその当事者の主張を待っているわけですので、もちろん姻族であろうと傍系であろうと進んで扶養する気持ちがある人に対しては、それを抑えるような方向にはなっていないのであります。ただ本人が、いやそれならば自分よりもほかの人の方にという気持ちがある場合には、より近い近親の方に義務をまず負わせる、こういうことがより妥当ではなかろうか、こう考えられてできているのではないか、このように私は考えておるのでございます。
#21
○飯田忠雄君 大変御丁寧な御説明でありがとうございました。よくわかりました。
 ついでに、これは少し出過ぎた質問かもしれませんが、お尋ねをいたしたいのは、我が国には、終戦後たくさん女性の人がアメリカの軍人と関係を持ちまして、実際はこちらで子供ができておるが、夫はもうアメリカへ行ってしまっている、こういうのが非常に多いわけです。こういう場合にこの法律を適用になるようなことになるでしょうかという質問なんです。
 つまり、昔は内縁関係にあったんですが、現在はもう内縁関係は切れてしまっておる、しかし子供はいる、その子供が大きくなっておるんですが、大きくなったその子供はアメリカにおる親の子供との間で扶養義務が生ずるだろうか。父親が向こうへ行きまして結婚して子供ができておる、その子供と日本におる子供との間は、これは親族関係としての扶養義務があるかという問題。それから、母親とは姻族関係でこの扶養義務関係が生じておるだろうかという問題ですが、こういう問題はどういうことになるのでございましょうか。
#22
○参考人(澤木敬郎君) お答えさせていただきます。
 確かに、戦後間もないころに、日本をめぐる国際関係、国際私法上の問題として最もたくさんあったものは、アメリカの軍人と日本人女性が結婚し、さらにその後離婚、そして大抵の場合子供を日本人女性が引き取ってアメリカ人男性は本国へ帰ってしまう、そういう後の問題が多かったわけでございますが、御質問の論点、国際私法上の問題と民法上の問題との区別が必要かと思いますけれども、扶養がとれるかとれないか、これは特
定の国の民法による判断でございます。だから、日本の民法では、子供は母親の離婚後も生みの父親に対して請求ができるということでございますが、国によってそういう権利がない国があるかもしれませんので、どこの国の民法で決めるかということが問題になろうかと思います。
 そうしますと、この条約の批准以前は、日本の法例では二十一条で、扶養は扶養義務者の本国法によることになっておりました。親子関係ですと法例二十条という学説もあるわけですが、一応説明の便宜のために二十一条の方で説明いたします。そうすると、子供が父親に向かって扶養義務を請求する場合には義務者の本国法、したがってアメリカのいずれかの州の法律が適用されまして、そのアメリカの州の法律上父親が子供に対してどういう内容の扶養義務を負うか、それに従ってそれを負う義務が裁判上の判決として認められるということになります。
 これが、今度この法律案が通りますと、今後は全部扶養権利者の常居所地法ということになりますので、もし子供が母親とともに日本に住んでいるという場合には、今度はアメリカの法律ではなくて日本の民法によって父親に対する扶養請求権が認められるかどうかということが決定されることになります。
 そこから先は、参考資料にハーグの国際私法会議のいろいろな条約が並んでおりますが、その中で、扶養義務に関する裁判の承認執行条約というのがございます。例えばアメリカに住んでいるアメリカ人父親を被告として日本の裁判所で日本人の子供を原告とする扶養料支払いの判決がおりたときに、その判決がアメリカで有効な判決として認めてもらえるか、アメリカで直ちに強制執行ができるかといったような、そういう問題ですね。
 これは、日本裁判所の判決をアメリカが承認してくれるかどうかという問題に係りますし、国によっては、今度は外為法の関係で送金不能といったような国もございます。そうしますと、一国で取り立てた扶養料を国外に送金するためのまたさらに国際的な仕組みとか、かなり実際問題としては、国際的に親子が別れている場合のお金の送金についてはいろいろな問題がございますけれども、一応そういうことで、この法律が日本の国内法になりますと、少なくとも適用する法律に関しては、子供が日本にいる限り日本法が基準になって、それで裁判ができる、そこの点が違うということが言えると思います。
#23
○飯田忠雄君 どうもありがとうございました。
#24
○橋本敦君 二、三お尋ねをさせていただきます。
 先ほど先生からお話がありましたいわゆる子条約ですが、この子条約を締結をしておる国がオーストリア、ベルギー、フランス、西ドイツ以下、この参考資料にもありますように、割にたくさんあるわけです。扶養義務の準拠法に関する条約の締約国はそれに比べると非常に少ないという状況になると思います。この関係はどういうように見たらいいのでしょうか、これがまず第一点でございます。
 それからこの条約の第十四条で、この条約を適用しない権利の留保、留保権ということでございますが、どういう場合にどういう支障で留保しているのか、その実例が幾らかございましたら御説明をいただきたい。
 まず、この二点お願いしたいと思います。
#25
○参考人(澤木敬郎君) それではお答えさせていただきます。
 前の点でございますが、私も事情よく存じません。あき場参考人が御存じでしたらお答えいただいた方がよろしいと思いますが、ごく常識的に申しますと、子の扶養義務の準拠法に関する条約の方はかなり前にできております。なかなか条約の批准というのは各国それぞれ問題点の検討等時間がかかりますので、恐らくこの国の差は条約の成立の時期にかなり影響されているのではないかと私は考えております。扶養義務の方が特に加入が難しいような条約だというふうには考えませんのでそんなことではないかと思いますが、一応存じ上げないのでその程度にさせていただきます。
 それから、十四条の留保でございますが、この条約の二十四条のところに規定がございまして、いずれの国も条約の批准等々の際に十三条から十五条までに規定されている事柄について留保できるということですから、今十四条というふうに御発言がありましたけれども、十三条及び十四条、十五条、この三カ条に規定されている事項についての留保権でございます。
 そして、十三条留保というのはこの条約の適用を一定の扶養義務の範囲だけに限るという限定的な留保でございます。要するに、扶養に関して言いますと配偶者間の扶養それから子供の扶養、これが恐らく最も重要な扶養だと思いますが、それ以外にも先ほど話題になりました離婚後扶養であるとか一般の傍系親族扶養あるいは姻族間扶養というようなものがあるわけでございます。そのうち、この十三条留保は、最も重要な現在夫婦である者の間の扶養義務と、それから二十一歳未満の未婚の子供に対する扶養、これだけについてこの条約を適用する、それ以外の扶養は、先ほどもあき場参考人の方から御発言がありましたように、比較的縁の薄い者同士の扶養義務ですので、その問題についてまではこの条約で縛られたくない、そういうことを考えた場合にこの留保ができるという規定でございます。
 それから、十四条の留保はそれの裏側ということになるのでしょうか、次のような扶養については今度この条約を適用しないということで三つ、傍系親族間の扶養義務と姻族間の扶養義務、それから離婚後の扶養義務についてはこの条約によらないということを規定しているわけでございます。
 それから十五条、これはちょっとそういう扶養の性質によるものではなくて、実質的に自分の国に密接な関係に立つ扶養関係であって、しかも準拠法が外国法になってしまうケース、ここで考えておりますのは、扶養権利者も扶養義務者も日本国民であって、しかも扶養義務者が日本に常居所を有しているというケースですから、例えば親子扶養で考えてみますと、子供だけが外国に常居所を持っていて親が日本にいる、二人とも日本国民である、そういうときにこの条約をそのまま適用いたしますと、この親子の間の扶養義務は、扶養権利者である子供が常居所を持っている外国の法律によって決めるということになってしまうわけですが、日本人同士の扶養で義務者も日本人でしかも日本に住んでいる、こういうときはまさか日本の法律以外の国の法律でもって扶養義務を判断するのは妥当ではないというふうに考える国は、そういうシチュエーションだけは我が国はこの条約を適用しない。要するに扶養権利者の常居所地法によるというルールの例外を認めてほしいということで、やはり自国民同士の間の家族法上の関係には自分の国の民法を適用するのだという考え方をとる国もございますので、そのために認められている留保でございます。
 そんなことでよろしいでしょうか。
#26
○参考人(あき場準一君) 幾分補足をさせていただきます。
 まず最初に、一般条約の方が子条約よりも批准数が少ないのではないかは、澤木先生のおっしゃったとおりの事情だと思います。
 他方、子条約ができました背景は、先ほどちょっと申し上げましたヨーロッパでは移住労働者、これが例えばイタリア人なりトルコ人なりがドイツへやってきて家族を顧みず帰ってもこない、送金も滞りがちになる、こういう事態に対して何とかしなきゃいけないというのでつくったということもありまして、それぞれの国でかなり実質的なものがあったのだろうと思います。
 今回のは、先ほども説明いたしましたように、そういう未成年の子だけではなくて、傍系親族とか姻族とか離婚当事者、いろいろ入ってございます。この委員会でも先生方御議論なられましたと思いますが、幾分範囲が広がっていますだけに、こちらはいいがこちらは果たしてどうかという議論が必ず起こってくると思いまして、各国それぞ
れ慎重に審議をしているからおくれているのではないか、こういうふうに思います。
 大ざっぱに言いますと、ゲルマン系の諸国、ドイツとかオランダとか、イギリスもアメリカもそうですが、こういう国では傍系にはまず認めないわけです。姻族には認めることもございます。それに対して、傍系なり姻族、これを非常に広く認めますのはラテン系の国でありまして、イタリアなどというのは、ある調査によりますと、国民が一番信頼するのは家族であり、次は教会、国家は三番目に来るというような話がございますように家族の国でございまして、マフィアなどというのも何がしかのファミリア、こう言っているようでございまして、それからもわかりますように広いんです。そのあたりの、地中海諸国とそうでないアルプスから北の国との間の調整なんかいろいろあって、ちょっとやっぱり難しいのだろう、そういうことじゃなかろうか。これは単なる憶測でございまして、先生へのお答えとしては少し不謹慎でなかろうかと恐れますが、要するに余りよくは存じ上げないということじゃないかと思います。
 あと十四条等々の留保でございますが、この点は参考資料の二十五ページの各国批准状況等一覧表に、扶養義務の準拠法に関する条約についての各締約国の留保状況が三番のところに書いてございます。先生は既に御承知であったので、なおこの背景をと言われますと困るのでございますが、例えば十四条一項、ちょっとわかりにくいのでございますが、これは対照して見るとわかりますように、これは傍系親族に関係するものですね。二項が姻族であり、三項が離婚当事者の問題。
 十五条は、これは一定の条件を従えましたときには常居所地の法律じゃなくて法廷地の法律を適用するという考え方でございます。この十五条的な留保、つまり十五条の方を見るとわかりますように、「扶養権利者及び扶養義務者が当該締約国の国籍を有し、かつ、扶養義務者が当該締約国に常居所を有する場合には、当該締約国の当局がその国内法を適用する」という形になるわけで、結局日本でやるときはもう全部日本だ、簡単に言えばそういう形の留保ですので、外国法の調査も必要ではございませんし非常に便利なので、これはかなり行われる可能性があるのではないか、これはもう非常によくわかることだろうと思います。
 あと傍系とか姻族とか離婚当事者、これについて留保するしないといいますのは、先ほど澤木教授からも説明のございました、各国によって親族、姻族の範囲が違います。そこで、そもそも傍系には認めないような国もございますものですから、国内関係で、例えばこれですとどこに常居所があるかが基準になるわけで国籍いかんはかかわりありませんから、本来、同一人で、兄弟姉妹にないのに例えば日本へ来ると扶養義務ができてしまう、これは果たしていいことだろうか考えますわけですね。そうしますと、どうしてもこれは留保していくということですので、日本のように御承知のとおり比較的広く認めている国ではまず問題はないと思いますが、そうじゃない国にとりましては、あるいは重大な問題だろうと思います。そのような結局、国内法制、基本的には家族というものに対する法感情、それの違いによって起こってくることだというふうに考えております。
#27
○橋本敦君 ありがとうございました。よくわかりました。
 もう一つお尋ねしたいことは、さきの私の質問に関連するんですが、この資料によっても、十三条で一項、二項を留保しているという国がないわけです。つまり、十三条の子供に対する扶養あるいは配偶者間の扶養ということについてはほとんどの国が、国際的にも私法の統一運動というお話もございましたが、平均化していっているという国際社会の現状が一つはあるのではないか。それともう一つは、子に対する扶養というのが非常に大事な中心的課題になることが多いので、この子条約をかなりの国が批准をしておる、そういう状況がやはり国際社会の今日の平均的基準をもうつくっているのじゃないか。
 そうしますと、子条約はお話しのように閉鎖的な相互主義でありますけれども、これはやっぱり一般的に我が国からしていくという建前も含めて、子条約についての準拠法をはっきり決めるか、そういうようなことを検討する時期にそろそろ来ているのではないかという気もするんですが、そこらあたりの御見解はいかがでしょうか。
#28
○参考人(澤木敬郎君) お答えさしていただきます。
 今の御質問の趣旨でございますが、子の扶養義務に関する準拠法条約というのが既にできている、それの内容をもっと検討するという御趣旨でございましょうか。
#29
○橋本敦君 それは、この十三条を留保している国がないという事実から見ても、いわゆる子条約は相互主義で批准した国同士の関係しか規律しないと、こうなっているが、これはもう国際的に一般的に通用性を持っているのじゃないだろうか、そういう状況にもうなっているのじゃないだろうかと、こう一つは思うわけです。だから、そういう方向に向けての条約なり国内立法なりという運動がもっと進んでもいい段階に今国際的にあるのじゃないかと、こういう私の考えがあるので、そういう認識はどうだろうかと、こういう質問でございます。
#30
○参考人(澤木敬郎君) 先ほどあき場参考人の方からの御説明の中にございましたように、この扶養条約では、少なくとも子条約の加盟国相互に関して言えば、子条約にとってかわるという条文がございます。ということは、子条約の趣旨は実質的にこの扶養条約の方に吸収されたのだ、今まで閉鎖的な相互主義条約であったわけですけれども、もう子供に対する扶養義務の問題の処理の仕方は、これは一般条約としてこういう形で今後規律していこうと、そういう合意ができてこれへ移行したというふうに御理解いただいてよろしいと思います。そういう意味では私も全く同じように考えております。
#31
○橋本敦君 それにしてもこの一般条約の批准国が少ないのが気になる、こういうことでございます。結構でございます。
#32
○抜山映子君 もう既に同僚委員から数々の問題が提起されましたので、私は一問だけちょっとお伺いしたいと思います。
 今度の扶養義務の準拠法に関する法律によりまして、今まで扶養義務者の方を保護する方に力点がありましたのが百八十度転回したと、こういうふうに了解していいのだと思うんです。
 この第八条なんでございますけれども、扶養の程度は扶養権利者の需要と扶養義務者の資力を考慮して定めると、こういうようになってございます。私が疑問というか、どういうように実際にはその扶養料を決定するのかなというように感じますのは、例えば貨幣価値が十倍も二十倍も違う国同士の国籍を有する当事者の間で扶養料の請求があったときに、これはどういうように扶養料を決めるのだろうか。日本の家庭裁判所では扶養料の決め方について一定のルールを設けてはおりますけれども、国際的なものにつきましては、例えば中国と日本というように考えて、中国の兄弟から日本の兄弟に請求してきたというような場合に、恐らく日本の月給は初任給でも十五万ぐらい、向こうの初任給は五千円ぐらいと、こういうことになってくると随分格差が開くわけで、そういう場合にこれはどういうように扶養料を決めるのか。あるいはこの書き方の順序によって、扶養権利者の需要の方に力点が置かれるのかどうか、そのあたりどういうようにお考えでしょうか。
#33
○参考人(澤木敬郎君) 大変難しい御質問なんですが、これはこの扶養条約のみに限った問題ではございませんで、国際的にこれだけ経済的な条件の違いがございますと、国際的な性質を持った紛争における損害賠償額の算定の問題にしましても、こういう扶養料の算定にしましても、常にそういう問題が起こります。
 ちょっと脱線してしまうようで申しわけないんですけれども、例えばまだ経済水準がそう高くない国の国民が日本へ観光旅行にやってきて交通事
故に遭って損害賠償というときに、例えば日本並みの相場で一千方とか二千万というお金をもらって本国へ帰りますと、本国では大財閥になるという可能性もございます。逆もあるわけで、日本人が外国へ観光旅行に行って、そこのお金としてはもう精いっぱいの最高の損害賠償をもらって帰ってきても、日本では到底何の意味もないというようなことになってしまうので、これは本当に国際的な経済格差がそのまま国際的な損害賠償額の算定というような問題になるわけでございます。そういうことを前提にしますと、果たして国際的な性質を持った事件で、損害賠償額にしろ扶養料の算定にしろ、どういう基準が妥当か大変難しい問題だと思います。
 実はこの規定は非常に奇妙なところに規定が置かれておりまして、条約ですと十一条ですし法律案ですと八条なんですが、見出しは「公序」というところに書いてあるわけです。公序というのは、準拠法になった外国の法律が日本から見て非常に妥当性を欠く場合、本来は外国の法律を適用するのだけれども、その適用を排除して日本独自の解決をする場合があるという、一種のそういう留保に関する条文なんですが、そこにこういう規定を入れているわけです。
 したがって、この規定の性質がどういうことなのかというのは、私どももいろいろ考えたわけですけれども、今御質問がありましたように、一応準拠法国の経済水準あるいは損害賠償額の算定の相場といいましょうか、そういうもので機械的に数字を出しただけでは実際に扶養料を支払ったことにならないとか、あるいは逆に今度は扶養義務者の側からすると到底支払い能力がなくなってしまうとか、両面あると思うんですが、その総合的な配慮が必要だということをここでは言ったのじゃないか。
 それを公序というふうに考えるかどうかなんですけれども、あえて扶養料の額の問題につきましてこういう条項を置いたというのは、本当に御指摘のとおりの問題が背後にあってのことだろうと思います。実際に今後実務の上でこの問題を裁判所が処理していくときに、今まででもあった問題でございますけれども、やはり重要な問題だろうと思います。お答えになりませんですけれども……。
#34
○参考人(あき場準一君) 幾分補足をさせていただきます。
 一つには、先ほど澤木教授からの御説明の中にございましたように、八条二項の意義づけ、大変難しいわけでございますが、これが入りましたいきさつを説明しました報告書がございまして、それを見ますと、例えば扶養の程度を決める際に権利者の需要を調べるのはどこでもやるわけでありますが、国によりましては義務者の資力を考慮しないという国があるわけでございます。例えばドイツ民法の千七百八条という規定が、これは現在改正されておりまして、ないのでありますが、これは非嫡出子に対する父親の義務に関する規定でございまして、これは父親の資力いかんにかかわらず、とにかく扶養せよという強行的な規定がございました。これは今日、少なくとも分娩費用については必ず負担せよという形で残っているようでございますけれども、今は変わっているのでありますが、そういう国はほかにもあるだろう、そういうものに対して、それではやはりよろしくないということで、むしろ義務者の資力を考慮し、いわば最も妥当な線を持ってくるためにできた規定ではないか、こういうふうに考えるわけでございます。
 今日、ドイツの先ほども例に出しました一九八三年の国際私法の草案十八条の第七項は、この第八条の規定と全く同じでございまして、そこでもこの扶養義務者の資力を考慮するような方に変わっております。だから、ドイツも事情が変わったのでありますが、そういうのがありましてこれが入っているわけなんです。こんなことは実は書かなくても当たり前のことじゃないかと思いますが、そういう規定の国がありますために特にこれを書いておかなきゃいかぬ。そういう義務者だけ書いて権利者の需要を書かないのもおかしいだろう、需要がないにもかかわらず扶養しなきゃいけないような誤解を生じてはいけないだろうという形でこれは残っているのじゃないか。これは私の全くの偏見でございますが、そのように考えます。
 なお、先生の御質問されました一番肝心なポイント、つまり実質的にどの程度なのか、この程度を決定する標準というものは、扶養義務といいますものが本来はその要保護者のニーズにこたえるというところにあるとすれば、やはりその要保護者がどのようなニーズの状況にあるかというところを客観的に調査した上でやる。だから、非常に形式的に申し上げますと、権利者の常居所地の標準というのになるのではないかと思います。ただ、具体的にそれがどれぐらいかということを決定するのは、これはやはり大変難しいことであり、今後私どもが知恵を絞らなきゃいけないところとは思いますが、ルールだけで申し上げますならば、やはり現実の生活費の基準に従う、こういうのでよろしいのじゃないかと思っております。
#35
○抜山映子君 ありがとうございました。
#36
○中山千夏君 私は、二点につきまして両教授のお話を伺いたいと思います。
 一つは、最初の澤木教授のお話の中で一例を示していただいたんですけれども、扶養義務の範囲について各国で差があると思うんです。広いところ、狭いところ、これの例を幾つかもう少しお示しいただければと思うんです。
 それからもう一つ、第二点は、第八条の一項に関連したことなんですけれども、従来の我が国の裁判所で公序規定というものが適用されているその適用状況についての御所見をちょっと伺いたいんです。両方とも、実際この法律が運用されていく上で現実にどういうことが起こるのか、ちょっと考えてみたいものですから、その参考にお話を聞かせていただければと思います。
#37
○参考人(澤木敬郎君) それではお答えさせていただきます。
 学殖豊かなあき場参考人が下調べの時間をとる間、私が場つなぎをするというぐらいにお心得おきいただきたいと思います。
 第一点でございますが、扶養義務の範囲に関する比較法的な問題点ということですけれども、ごく常識的に私などはとらえておりまして、夫婦、親子の間では、大体どこの国でも扶養義務がある。ただ、順位とか、これは例えば現行法がそうかどうかわかりませんけれども、扶養義務について兄弟扶養の方が夫婦扶養よりも優先するなんという考え方、要するに血縁社会ですと配偶者というものの位置づけがずっと低くなりますから、まず兄弟に扶養を請求して、それでもだめなとき、最後に夫婦関係といったような考え方もあるやに聞いておりますし、若干、順位については差があるかもしれませんけれども、範囲については夫婦と親子に関して言えば、恐らくどこの国も扶養義務をほぼ認めていると言っていいと思うんです。
 問題になるのは、傍系親族、それから姻族にどこまで扶養義務を認めるかということですが、先ほど韓国が父の系統では八親等と申し上げたのは、日本に非常に近くて実際に国際私法的な問題が最も起こりやすい国の一つである、それがいかに日本と違うかという例として申し上げたので、そうたくさん比較法的な資料をきょう持ってきたわけではございません。ただ、日本はかなり狭いのではないか、兄弟姉妹三親等までですが、かなり狭いように思います。これはちょうど相続権と裏腹になっておりまして、ある人が死亡した場合にその人の遺産をどの範囲の人が承継できるかという範囲、それが今度は裏返しになりますと扶養の義務の範囲につながっておりまして、韓国なんかではやはり相続権の範囲も非常に広うございます。
 ですから、それぞれの国家、民族の伝統に従って差異があるのだと思いますが、そこまで資料を準備してきませんでしたので、大変申しわけありませんが、お許しいただきたいと思います。
 それから公序ですが、日本の判例で公序則を援
周した判例はかなりの数がございます。しかも、私どもはよく反対するんですが、外国の法律を適用して出てきた結論が日本の民法を適用して出てきた結論とちょっとでも違う場合には、もう公序良俗に反するというようなことを言いがちな判例がどちらかといえば多いわけです。代表的な例を申しますと、現在では韓国民法は改正になってしまいましたのでそういう問題はなくなりましたが、死後認知という問題がございまして、日本では父親が死んだ後、認知の訴えというのは、三年間訴えを起こすことができる、父親が死んでから三年間なんですが、韓国ではかつて二年。そうすると、日本だったら実の父親が死んでから三年間死後認知の訴えを起こせるのに、韓国では二年でもう訴えが起こせなくなってしまう。そうすると、二年数カ月たってから訴えを起こした場合に、準拠法である韓国法によればもうあなたは認知の訴えを起こせませんよと、こうなるわけですけれども、そんなことを認めるのは公序良俗に反すると、こういう形で結局認知を認めてしまうわけです。
 しかし、二年か三年かぐらいのことでもって公序良俗といったような伝家の宝刀をすぐ抜くのが妥当かどうか。むしろ本当にそんな外国法を適用したら日本の公序良俗に反する場合、教科書に書いてある代表的な例では、奴隷制を認めるとか一夫多妻制を認めるとかというような例があるわけですけれども、そこまでいかないにしても、もう少し公序良俗という場合には要件そのものをきちんと考える必要があろうかと思っております。
 それから、あともう少し理論的な問題になりますけれども、法例三十条の公序という条文が、この八条もそうなんですけれども、「外国法によるべき場合において、その規定の適用が」というふうに八条ではなっておりますが、法例三十条の方は、その規定が公序良俗に反するときはというふうに書いておりますので、何か外国の条文だけを見る失うに条文上は読めるわけです。しかし、私どもの考え、日本の通説と言ってよろしいと思いますが、その規定が問題なんではなくて、規定の適用の結果が日本の公序良俗に反する場合というふうに解釈すべきだ。
 わかりやすい例で申しますと、フィリピンは離婚を禁止しております。そうしますと、日本の女性がフィリピン人の男性と結婚した場合に、離婚を夫の本国法によらせるということになりますと、フィリピン法では離婚禁止ですから、そうすると離婚は許されないということになるわけですが、そんなことでは公序良俗に反すると、これはもう日本の裁判所一貫してそう言っているわけですけれども、その場合でも程度とか夫婦の生活状況というものがあろうかと思います。
 特に問題なのは日本在住のフィリピン人夫婦の場合です。それも会社の用務で二、三年日本にいるだけというのであれば、いずれは日本から帰ってフィリピンへ行く人だし、離婚が認められなくても仕方がないということになりますから、外国の法律の規定だけが問題なんではなくて、その規定の適用結果が問題だというふうに考えております。
 しかし、今のところ日本の裁判所の判決の中では、むしろ規定を問題にする判例がかなり多かったことは事実ですけれども、最近では適用結果を十分評価した上で個別事案ごとに公序を発動するという方向に変わりつつあると言っていいと思います。全体の印象として申しますと、公序判例はかなり日本では出ておりますけれども、初期には今申しましたように若干問題がありましたけれども、だんだんよくなってきているというふうに申し上げていいと思います。
#38
○参考人(あき場準一君) しばらく資料をあさる時間を与えていただきましたので申し上げることができるかと思います。
 まず最初に、どの程度まで扶養義務があるのかということですが、日本が恐らく今後このような問題について最も関係を持つことがあり得べき韓国の法律についてちょっと申し上げますと、考えようによりましては、ある意味では明治時代の日本の民法と同じような範囲と言ってもいいかもわかりません。三本立てになっておりまして、まず一つは直系血族及びその配偶者間、これは九百七十四条一号ですが、それからもう一つのラインは戸主と家族間、これがあります。その他の者の間では、生計を同じくする親族の間に限られる。だから、この場合、戸主の扶養義務というのがあるところが少し違うのじゃないかと思いますし、一概に親族の範囲と必ずしも一致しない。実際上の共回生活をしているかどうかということでやりますものですから、実は兄弟姉妹は扶養義務がないんですね。それは他の親族と生計を同一にしている場合に限って兄弟姉妹の間にあるというような違いがございます。これがちょっと違うところじゃないかと思います。
 一般に親族の範囲といいますと、これは韓国民法の七百七十七条に規定がございまして、八親等以内の父系血族、四親等以内の母系血族、夫の八親等以内の父系血族、夫の四親等以内の母系血族、妻の父母、配偶者、こういう範囲になっているわけですが、今言いましたように家が同じかとか生計を同一にしているかとか、限定がつきますので、実際上は具体的にどうなっているのかよくわかりませんが、それほど不合理なものではないと思います。
 そのほかに、南欧系の国なんかでも扶養義務が広いのだという話をいたしましたが、例えば一九七〇年のスペインの改正法を見ていきますと、夫婦、直系血族、父母及び裁判所の決定により嫡出子の身分を取得した手並びにその直系卑属、父母及び認知された嫡出でない手並びにその直系卑属等々まで広がっております。さらに、兄弟姉妹は、直系血族の場合に限り、他方が肉体または精神的不具者であり、もしくは被扶養者の責めに帰せられない理由により独力で生活を維持し得ない場合は、扶養する義務を有する。こういうことでありまして、このような場合の扶養義務の中身ですが、初等教育及び専門または職業教育を与える義務が含まれる、こういうふうにどうもなっているのが多いようです。ここは兄弟姉妹はあるわけです。
 それでは、例えばの話ですが、東の方の国はいかがであろうかと、こう思いましてロシアなどを見ていきますと、ソビエト連邦のロシア共和国の方です。これを見ていきますと、ここでは、継父及び継母の継男子及び継女子を扶養する義務というような規定が第八十条にございまして、そういう関係のこれも明文の規定で認められている、こういうのがございます。ここではもちろん兄弟姉妹の傍系も認められております。こういう例が幾つかございます。このような実例につきましてはそれなりの本があると思いますので、ごらんいただければと思います。以上でございます。
 公序の点につきましては澤木教授の説明でほぼ尽きていると思います。
#39
○中山千夏君 ありがとうございました。終わります。
#40
○委員長(二宮文造君) 以上で本日御出席いただきました参考人に対する質疑は終わりました。
 参考人の方々に一言お礼を申し上げます。
 本日は、長時間にわたり貴重な御意見をお述べいただきまして、まことにありがとうございました。委員会を代表して厚くお礼を申し上げます。
 以上をもちまして本日の審議を終わります。
 本日はこれにて散会いたします。
   午後二時五十五分散会
     ―――――・―――――
ソース: 国立国会図書館
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