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1984/05/29 第102回国会 参議院 参議院会議録情報 第102回国会 社会労働委員会 第22号
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1984/05/29 第102回国会 参議院

参議院会議録情報 第102回国会 社会労働委員会 第22号

#1
第102回国会 社会労働委員会 第22号
昭和六十年五月二十九日(水曜日)
   午前十時開会
    ─────────────
   委員の異動
 五月二十九日
    辞任         補欠選任
     片山 甚市君     和田 静夫君
    ─────────────
  出席者は左のとおり。
    委員長         遠藤 政夫君
    理 事
                佐々木 満君
                関口 恵造君
                高杉 廸忠君
                中野 鉄造君
    委 員
                石井 道子君
                大浜 方栄君
                曽根田郁夫君
                田中 正巳君
                前島英三郎君
                糸久八重子君
                浜本 万三君
                中西 珠子君
                安武 洋子君
                藤井 恒男君
                下村  泰君
   政府委員
       労働省職業安定
       局長       加藤  孝君
   事務局側
       常任委員会専門
       員        此村 友一君
   参考人
       自由法曹団常任
       幹事
       弁  護  士  坂本  修君
       信州大学経済学
       部教授      高梨  昌君
       弁  護  士  宮里 邦雄君
       全日本労働総同
       盟政策室長    幸重 義孝君
    ─────────────
  本日の会議に付した案件
○労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律案(内閣提出、衆議院送付)
○労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律案(内閣提出、衆議院送付)
    ─────────────
#2
○委員長(遠藤政夫君) ただいまから社会労働委員会を開会いたします。
 労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律案及び労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律案を議題といたします。
 本日は、お手元に配付いたしております名簿の参考人の方々に御出席をいただいております。
 この際、参考人の方々に一言ごあいさつ申し上げます。
 本日は御多忙中のところ御出席いただきまして、まことにありがとうございます。皆様方から忌憚のない御意見を拝聴いたしまして、今後の両法案の審査の参考にいたしたいと存じます。
 これから参考人の皆様方に順次御意見をお述べいただくわけでございますが、議事の進行上お一人十五分以内で御意見をお述べ願いたいと存じます。全部終わりましたところで委員の質疑にお答え願いたいと存じますので、御了承をお願いいたします。
 なお、委員会の終了予定は午後零時二十五分の予定でございますので、よろしくお願い申し上げます。
 それでは、これより各参考人に順次御意見をお述べいただきます。
 まず、自由法曹団常任幹事・弁護士坂本修参考人にお願いいたします。
#3
○参考人(坂本修君) 坂本でございます。ただいまから参考人としての意見を述べたいと思いますが、委員長、念のために私の発言の内容をワープロにして事務局の方に届けてありますので、言い違いなどないように配付さしていただければと思いますが、よろしゅうございますか。
#4
○委員長(遠藤政夫君) はい、結構です。
   〔資料配付〕
#5
○参考人(坂本修君) それでは発言をさせていただきます。
 私は、二十六年間弁護士として、主に労働者の権利が問題となる裁判を担当してまいりました。そういう中で得た経験を通じて、今度の労働者派遣法を見て、私は、これは労働者とその家族の人間らしく生きる権利を守らない、奪ってしまう。それだけではなく、憲法と労働法制と全く矛盾し、その根幹を崩すものだ。そういうふうに考えざるを得ませんでした。そのような考えに立って、以下反対意見を申し述べます。
 第一に申し上げたいのは、御承知のとおりこの法案には、法案一条の後ろの方に、「派遣労働者の雇用の安定その他福祉の増進に資することを目的とする」と、こう明記されております。だが、私たち法律家が調べて、しかも現場と照合して調べてみますと、中身はそうは言えないということであります。現に百万とも二百万とも言われている派遣労働者は何に苦しんでいるんでしょうか。
 私たちの法律事務所には数十人の法律家がおります。たくさんの派遣労働者の諸君が相談に来られます。その中で私たちが知ったことは、派遣労働者の身分が極めて不安定であり、いつやめさせられるかわからない。中間搾取がひどく、賃金が安過ぎる。コンピューター関係などでは特に超過密労働になっており、一番極端な場合には月間三百三十四時間という残業、百時間を超える者はざらだという状態になっている。このために八三年度に電産労という組合が調べた調査によりましても、二千三百三十一人の回答者中、健康に異常なしというのはわずかに一一・一%、入院、通院という完全に病気になっている者が二一・九%、これはいずれも若年の労働者であります。こういう数字が出ている。だから、このままだと三十代半ばでスクラップ化するんじゃないかという危険を彼らは訴えているわけです。もし労働者派遣法がその目的のとおり派遣労働者を保護するというのならば、こういう実態を私は抜本的に解決するものでなければならないんじゃないかというふうに思うわけです。
 だが、何の身分保障もない、注文に応じて派遣され、注文がとぎれれば失業してしまうにすぎない、身分保障のない登録型の事業が、この法案には認められております。これはやはりおかしいのではないでしょうか。しかも驚くべきことに登録型、常用型を含めて極めて大きな問題である中間搾取の規制には、何ら役立つ条文がございません。ひどい例としては、労働者を現実に使用する者は七十万の金を支払ったのに、結局最終的に実際に働いている本人は十八万円しか渡されない、そういう恐るべき中間搾取さえ今起きているんです。一般に事務処理業の派遣労働においては、三割が派遣元会社に取られているというのが普通であります。
 政府は、衆議院の速記録を速読した限りで言いますと、雇用元会社と労働者との関係では、法律上中間搾取がないということを非常に強調しておられます。時間がないので、法律論を詳しく展開するのは避けますが、労働省が言っておられるように、たとえその派遣元の会社が実際に雇用し、社会保険を払っていても、中間搾取の罪(労基法第六条、同百十八条)が成立し、有罪判決が東京地方裁判所で昭和五十三年十月十七日花王航空事件で下されているのでありまして、労働省の、あるいは政府の答弁は、根本において間違っていると私たち法律家は考えております。
 実はそのこと以上に大事なことは、国会は、ある事実についてそれが法律違反かどうかということで裁判をやっているところではないと思うんです。国会のすべきことは、現実に法の網の目をくぐって存在しているひどい中間搾取を改めさすために、まさに国権を行使して、立法権を行使してどういう法律をつくるのかというのが国会の責務だろうし、それがまた私たち法律家にできないことであり、皆様に対する心からの期待であります。人転がしをして、他人の労働を他社に売って大きく利ざやを稼ぐ。世の中にいろいろな商売あるけれども、これはおかしい、認めない。もしどうしても認めなきゃならぬところがあるなら、そこはぎりぎり厳しくコントロールすべきだ、規制すべきだ、これが法律家の常識であり、また国民の常識だと、私はそう思います。
 そして、ILO九十六号条約、有料職業紹介所に関する条約があって厳しく制約しているところを見ても明らかなように、このことは今日の世界の常識であります。したがいまして、法案がその目的どおりのものと言うのなら、少なくとも料金は労働者にも公表する、利益の上限規制は法律をもって明確に行う、違反者は処罰する、こういう規定がなかったら、どうして労働者保護法と言えるでしょうか。これに対して、労働者の生身の命と分けることのできない労働力について、他の命なき商品と同一視して、転売の利益を規制したり、調べさせたり、公表させたりするのは契約の自由の侵害であるという労働者の考え方は、余りにもへんぱな考え方だと私たちは思います。
 過密労働、長時間残業、職業病の多発の阻止との関係でも、法案は無力であります。最も問題にされております情報産業で働く労働者たち、その労働者たちを保護しなければならないと言うのならば、むしろしり抜け規定として悪名の高い労基法三十六条を、せめてこの分野の労働者についてだけでも改正して、許容される残業時間を法律によって厳しく規制する、これが保護法としての当然の問題の立て方であります。なのに、この法律は残業する派遣労働者は、現実かつ直接に残業を命ずる派遣先会社とは残業協定を結べないというふうになっているんです。私たち法律家は、どう考えてもこれでは逆立ちしているんじゃないか。おかしい。それを本当に規制する、守ろうと思うなら、幾らでもやる方法はあるじゃないか。しり抜けの労基法を改めたらいいんです。そんな簡単なことをやらないで、逆に残業協定結べなくする。これはどうしても、どの法律家に話しても納得のできないところであります。
 第二に、私はこの法案が、憲法と労組法にどうにもならない矛盾がある。両立し得ない矛盾立法だ、ぜひ国会審議に当たってはこの点を徹底的に重視していただきたいということをお願いしたいのです。我が国の憲法と労働法体制は、労基法などによって労働者を守るという一本の柱で労働者を守っているのではありません。それだけではだめなんです。基本にあるのは、労働者が団結をし、団体交渉を行い、その中で自力で自分たちの労働条件を労基法の最低条件から引き上げていく。これは私たち自由法曹団の弁護士の見解ではなくて、だれが見ても、どんな保守的な憲法学者を含めても、今法律学者の中で疑いを入れない法律の解釈であります。
 派遣労働者の団結権が派遣労働者の生活を守るためにいかに重要であるかについては、衆議院での参考人であられる高梨教授も、その中で、何とかもう少し派遣社員の方々が団結して就業条件の改善の行動を起こしてもらいたいという希望を持っているということを言っておられます。まさにそうだと思います。
 だが、法案はそうなっていない。その一番わかりやすい証拠は、派遣先会社に対する団交権を認めないという法案の内容であり、労働省の解釈であります。労働省は繰り返し繰り返し、派遣先は使用者ではなく、したがって派遣労働者の団結権はないんだと言っております。一方、法案は、派遣労働者の安全衛生にかかわる義務を負うのは派遣先であり、派遣元ではない。労基法上の労働時間、休日、休憩について義務を負うのは派遣先であって派遣元ではない。直接に労働の指揮命令を行うのは派遣先であって派遣元ではないと言っております。生きた生身の労働者が派遣先の職場で働いて、その中で、これは安全衛生上問題がある、何とかしなきゃいかぬと思う。この休日の使い方はおかしいということで議論しなきゃならぬ。ベルトコンベヤーのこのスピードではちょっと健康に障害がある、交渉しなきゃいかぬ。今の労働法でいえば、全てこれは団体交渉の重要なテーマであります。なのに、派遣先にそういう労働指揮権や義務を認めておいて、義務のある者と団体交渉を認めないなどということはどういうわけですか。これは百万とも二百万とも言われる派遣労働者から、その重要な部分で憲法と労組法に決めてある団交権や団結権を奪うことではないですか。これは僕は法律家として、矛盾してどうにもならないということを申し上げておきます。これなら憲法や労組法の改悪まで踏み切らなきゃいけないんだと思う。
 同じ問題は、団結権の保障についてもございます。時間がないのではしょって申し上げます。
 不当労働行為救済は、一体この法制のもとにできるんでしょうか。労働委員会は、使用者でないとされる派遣先に実効のある救済命令を出せるんでしょうか。できないんじゃないでしょうか。そもそもその以前に、団結することが不可能ではないでしょうか。高梨教授も、未組織労働者が多く、団結が非常に難しいということを衆議院でおっしゃっておられます。しかし労働者の台帳は、これは公表されておりません。もし、三千人の派遣労働者を結集した派遣元会社で団体を組織しようと思えば、だれか自分のところの労働者であるか知らなければなりませんけれども、それさえ不可能な状態になっているんです。だれが自分のところの会社の労働者かわからなくて、どうして団結権の保障ができるでしょうか。したがって、この法案は団結権と団体交渉権をも奪うものであって、認められないというのが私の意見であります。
 時間が四分しかなくなってまいりました。
 第三の問題として、正規常用労働者の派遣労働者化の危険が非常に大きいということを申し上げておきます。法案三十二条の第二項の一部改正は、残念ながらこの危険を解消しておりません。正規常用労働者について、業として行うものでなければ、その者を派遣労働者にすることについては業務範囲の制限もなければ、三十二条二項の派遣労働者の同意の必要の準用もございません。また、政府は、余剰人員の対策として行われたものである限りは、これは業として行う派遣ではないということを衆議院で答弁してございます。こうなりますと、現在の労使関係のもとで、終身雇用を信じ入社し、結婚し、ローンで家を建て、子供をつくり、学校に入れ、そこで生きていこうと思っている圧倒的多数の正規常用労働者も、またいつ派遣労働者にされるかわからないということになる。配転、出向があるじゃないかと言われますが、時間がないので省略しますけれども、私たちは労働者の同意がなければ一方的な配転、出向はできないんだという、たくさんの判決を労働者の皆さんとともに裁判所で争い、獲得をしてまいりました。こういう法律ができることによって、その権利が飛ぶことをおそれます。
 さらに、大企業が派遣業を兼業し、就業規則にそのことを明記し、労働契約でそのことをうたい、これから入ってくる新規従業員を全部自由に派遣労働者にできる仕組みも、私はこの法案に残っていると思います。こうなりますと、すべての労働者が派遣労働者にされることになるではありませんか。そのことが正規常用労働者、派遣労働者の双方を含めて、つまり、我が国のすべての労働者の地位を危うくし、その家族の人生を危くするものだということを私はどうしても強調しなければなりません。
 あと一分数十秒しか残っておりません。私の意見を終えるに当たって、最後に、参議院各党の各議員に対する私たちの願いを二つ述べて終わりにしたいと思います。
 率直に申します。私たちの願いは、憲法と労働法制を根幹から崩すこの矛盾した立法を一たん廃案にしていただきたいということであります。その上で、中間搾取の状況を労働省はまだ実際には調べていないと思われる。調べていただきたい。長時間労働の実態、職業病の状況など、しっかりと職場に入って調べる。こうした事実を踏まえて、職安法四十四条の厳守、労働組合の労働者供給事業の発展を基本にして、どう問題を解決するかについて開かれた討議を起こし、知恵を集めようではないか。本当に特別立法が必要なんでしょうか。もしそれならば、それはどういう法律なのか。私は各地での公聴会、日弁連、労働委員会との協議、ILOに対する照会などを通じて、そのために過ちなきを期すというのが今の時点で最も正しいことだというふうに思います。
 申し上げました私の意見に必ずしも賛成していただけない議員の方がおられると思います。その方々に私はぎりぎりのお願いをしたいと思います。これだけの大問題を持っている法案を、国会の会期末が迫っているということにとらわれて、尽くすべき審議を尽くさず強行成立させるということだけは何としても避けていただきたい。
 私たちにもわかりづらかったこの法案の内容は、今多くの人たちに知られるところになりました。既に統一労組懇、総評、新産別、純中立、さらにはこうしたところに入っていないたくさんの労働者、労働組合、日本弁護士連合会、大阪、京郡の各弁護士会、法政大学総長青木宗也氏ら五十一人の労働法学者など、たくさんの法律家が反対しております。新聞の社説にも慎重審議を望むものがふえてまいりました。ILO九十六号条約に明らかに違反するんじゃないかという疑いが指摘され、この法案が成立したならば全国三十万の労働組合員を結集して提訴するということが先日決まったと聞いております。提訴のための案文も和訳をしたものを私きょう持参しておりますので、必要ならば後に委員長のところに提出をいたします。万一にも不幸にしてこの法案が成立したらILOに提訴するんだということについて、ILOに対して文書を出す、きょうあたり出すんだということも聞いております。
 こういう一連の事実、今私たちの国の労働者のあり方、経済のあり方、社会のあり方、もっと大きく言うならば我が国の文明のあり方として、この法案については慎重な審議が要るんだということを明らかにしたいと思います。参議院が良識の府として私たち法律家の、そしてたくさんの労働者の、国民の願いを聞いていただき、期待にこたえていただけることを心から願って、私の意見陳述を終わります。どうもありがとうございました。
#6
○委員長(遠藤政夫君) ありがとうございました。
    ─────────────
#7
○委員長(遠藤政夫君) 委員の異動について御報告いたします。
 本日、片山甚市君が委員を辞任され、その補欠として和田静夫君が選任されました。
    ─────────────
#8
○委員長(遠藤政夫君) 次に、信州大学経済学部教授高梨昌参考人にお願いいたします。
 高梨参考人、おぐあいが悪いそうでございますので、どうぞお座りのままで結構でございます。
#9
○参考人(高梨昌君) ありがとうございます。実は、私の不摂生で健康を若干害しまして、きょうもどうにかやっと出席できた次第でございますので、座ってお話しさしていただきたいと思います。よろしくお願いいたします。
 私、中央職業安定審議会の労働者派遣事業問題等小委員会の座長を務めまして、今回国会に提案されました法案の骨子をつくるための作業を進めてきた責任者、こういう立場から参考人としての意見を申し述べたいと思います。
 政府提案の法案は、私ども審議会の意見をほぼ取り入れている、こういうことで、参考人といたしましては賛成という立場から意見を申し上げたいと思います。
 まず、中央職業安定審議会でのこの法案をめぐります審議の経過と審議の方法にかかわることでございますけれども、御承知かと思いますが、この問題は、既に昭和五十年時点で中央職業安定審議会で問題になりまして、きょう委員長であられます遠藤先生が当時は職業安定局長でございました。それで、五十一年から施行されました建設雇用改善法がございますが、たまたま建設雇用改善法の審議に私も部会の委員として参画し、その審、議の過程で、いろいろ職業安定法に制度的なまた、法律上の仕組みの欠陥があるのではないか、とりわけ戦後職業安定法が施行されましてから既に四十年近く経過をしておりまして、安定法が想定する労働力需給調整システムの中に新たなタイプのものが出てきて、その辺が法律と現実との間でミスマッチを起こしているのではないか、こういうようなことで、職業安定法の全面的な再検討を加えたらどうか、そのための調査研究会を設置すべきだということを私は審議会の席で申し上げました。それを受けまして労働力需給システム研究会が発足しまして、私がいわばその問題の提起者でありましたので、需給システム研究会の座長として職業安定法の全体的な見直しを必要とする意見を五十五年の四月に職業安定局長に提案した次第でございます。
 それを受けまして、労働者派遣事業等調査会が発足いたしまして、昨年の二月に調査会の報告が出されました。その報告の中で、人材派遣業については何がしかのルールづくりが必要だということで公労使三者の意見が一致した次第でございます。それを受けまして、中央職業安定審議会の中に労働者派遣事業等小委員会が昨年三月から発足いたしました。これは審議会の公益代表、労働組合代表、使用者代表各三名ずつの委員で構成されました。そこでこの法案の具体的な作案作業に入ったわけでございます。小委員会といたしましては、昨年十一月に安定審議会総会に報告し、その了承を得て大臣に建議した次第でございます。
 まず、この小委員会の審議の進め方でございますけれども、この法案は、今日でもいろいろ世間で問題にされておりますように、種々問題点をはらんだ法律だということを私は十分承知しております。それからまた、いろいろな関係の方々の間でも意見の食い違いがあることも十分承知しておりました。そこでまず私としましては、小委員会の審議の進め方としまして、各種の労働力需給調整システムの現状はどうなのか、この実態把握に努めるということでございます。実際には派遣という言葉で呼ばれているさまざまな事業形態が一方にございますけれども、こういうような派遣的契約事業と一般に通称呼ばれているものの関係業界、または関係の業界団体の方々、またユーザー企業の方々、また派遣社員の方々、これらの方々をこの小委員会にお呼びいたしまして事情聴取をいたしました。また、関係資料の提出を求めました。そういうようなまず実態把握を一方で進めながら、もう一方では、現行の法律並びに政省令、通達等、職業安定法にかかわる幾つかの問題点を洗い出す、こういうような作業をいたしまして、実態として存在する派遣契約形態と、また、現行法での中心は職業安定法と労働基準法でございますけれども、これとの対応関係を見た場合に、派遣契約形態というものがどうもその中にうまく位置づけできていない。こういうようなことから、私どもとしましては、まず派遣形態の事業というものの定義、概念構成をするということをいたしました。これがこの法律でうたわれています定義でございますけれども、自己の雇用する労働者を他人の指揮命令を受けて労働に従事させることを業として行うもの、こういう定義を初めていたしました。これは職業安定法が禁止します労働者供給事業とも、また、安定法の施行規則四条一項が想定いたします請負契約事業ともタイプの違った事業形態だと、こういうことで、タイプの違った事業形態だとすれば、そこで働く労働者の雇用または賃金、労働諸条件等の改善方策についていかなる法律上の仕組みが考えられるのか、こういうようなことで、立法政策の審議を進めた次第でございます。これとあわせて、職業安定法の中で定められております労働組合のみ例外的に許可されて行い得る労働者供給事業、無料職業紹介事業、民営企業の行います有料職業紹介事業等の見直しも行う必要がある。こういうことを小委員会で提言した次第でございます。
 こういうようなことを通しまして一応人材派遣業法案なるものの骨子をつくり上げたのでありますけれども、その審議の進め方につきましては、それぞれ公労使の方々でさまざまな意見もございますし、容易に合意形成がやりにくいという面もございましたので、小委員会の運営に当たりましては、それぞれの審議の各段階ごとに安定審議会の総会に中間報告をしまして、労使のそれぞれの代表の方々がおられますから、それぞれの組織にお持ち帰り願って、その合意を得た上で次のステップの議論に入る。こういうようなことで、都合五回ほど中間報告を安定審議会にいたしました。小委員会といたしましては十六回の小委員会の審議を経てこの法案にこぎつけた次第でございます。もちろん労使各側の方々から、審議会でさまざまな意見が提示されました。私としましては、法律の目的は労働者の保護、雇用の安定でございますので、それに適するようなこと、また、立法政策上どうしても法律上の論理的整合性が必要でございますので、それに反しない限りで可能な限り労使の各側の御意見を取り入れて作案したつもりでございます。
 それからなお、これは派遣元と派遣先と派遣社員と三者の契約関係になりますので、当然それにつきましては労働基準法の解釈適用上の問題が起こってまいります。そこで、労働基準法研究会にも研究検討をお願いいたしました。基準法研究会の方といたしましては、私もかねがねそう思ってきましたけれども、オイルショックの後特に出向契約事業というものが、出向形態というのが大変普及してまいりました。出向につきましては、移籍出向については政府の助成金が出ているところでございますけれども、出向契約も出向元と出向先と出向社員と三者の法律関係でございますので、これも含めまして、出向と派遣契約についての労働基準法上の解釈適用、この検討を求めたところ、一応私どもの小委員会が考えておりました見解と意見が一致いたしましたので、それを踏まえて派遣業法の法案の骨子を作案した次第でございます。
 その後、政府法案がことし一月の審議会にかけられまして、審議会の議を経て、おおむね妥当ということで意見をまとめ答申した次第でございます。
 さて、それならば、派遣事業の実態についてのさまざまな御意見がございます。どうも政府当局は十分に実態を把握していないんじゃないか、こういう御批判も一方であるわけでございますけれども、私どもといたしましては、先ほど申し述べましたように、小委員会で関係業界、またユーザー、派遣社員の方からそれぞれヒアリングをいたしまして、関係資料の提示を求めました。その際、それぞれの業界の方々は、現行法に抵触しかねない面もおありだという、こういう懸念もございまして、なかなかその本音のところは伺いにくい面もございましたので、あくまでそこで提示願った資料は小委員会限りにとどめると、こういうことでかなりな資料の提示をいただきました。そういうようなことで、それが一つ実態把握のことでございます。
 それから私自身は、昭和五十年既に提案し、派遣事業形態について専門家としてもかなり興味と関心がございまして、その関係から、私は幾つかの資料の収集やまた実態調査を進めてまいりました。私の専門は労働経済に関する実態調査研究、これが私の専門でございますので、かなりな資料は集めてまいりました。私の手元に段ボール十箱分ぐらい集まっておりますけれども、そういうような私自身の独自の調査の資料ももう一方でバックにしてまいりました。
 もう一つは政府統計の件でございますけれども、派遣契約形態の事業につきましてはどういうような定義かということが明確でございませんので、政府の行管の承認統計として実行することは不可能でございます。その意味で包括的な統計資料は確かに現実にはございません。多くは断片的もしくはケーススタディー的なデータに限られてくることは明らかなことでございます。当然これは派遣契約事業につきましてタイプ分けができたわけでございますから、行政的にそれに従った概念構成をして統計的調査を実行することは私は可能だと思っております。また、早急にそれはすべきだと私は思っております。それによって派遣社員の頭数、派遣事業の頭数、また派遣業務の内容のもっと包括的な資料が得られるものと私は期待しているところでございます。
 さて、私は衆議院でも参考人として意見を申し述べましたけれども、その後さまざまな御意見が出されておりますので、その中から重立ったもののみについてちょっと私の見解を申し述べさせていただきたいと思います。
 この派遣事業法が誕生いたしますと、いわゆる終身雇用、年功賃金と言われています常用雇用労働分野を狭め、ょき日本的労使関係を崩すのではないか、こういう御批判が一方でございます。それにつきましては、この法案でも業務指定の原則ということでうたわれておりますように、一つは「専門的な知識、技術又は経験を必要とする業務」と、こういうものは業務対象の際に考慮すべき第一基準である。それから第二基準は、終身雇用、年功制管理になじみにくい業務、これを業務指定にしましょう。こういう二つの原則をうたっています。それから、それ以外にも適用除外といたしまして港湾運送業務、それから建設業務についてはこの法律の適用除外にする。それから安定審議会の中での小委員会報告でも、安定審議会で申し合わせたことでありまずけれども、製造業の直接生産工程業務は派遣業務とはしない。これは造船業、鉄鋼業など、社外会社が請負形態として定着しておりますので、それはそれの社外会社の請負形態の方で行政指導をすれば足りるのではないか、こういうようなことでございます。
 そういうようなことで、もちろんまだ専門的知識、技術といいましても、どういうような業務をそれに加えるかとなりますと、この小委員会報告でも十四の業務例を試案として例示してあります。さしあたりそれが検討すべき業務になると思いますが、この業務の範囲内でどこまで具体的に政令で決めていくかは今後の安定審議会の審議を待つわけでございますけれども、私といたしましては、できるだけ業務指定の範囲は限定していきたい。労使各側の御要望も強うございますので、そういう態度で業務指定には臨みたい、こう考えているところでございます。
 それからもう一つ、日本の労働市場の特徴といたしまして、本工・正社員、それから臨時社員、それから派遣社員と、派遣社員の一つのこれは社外工タイプに入るわけでございますけれども、こういうように雇用形態が大変複雑、多様化しているのが日本の労働市場の特徴だと考えますけれども、私は本工・正社員の市場というものは、今後は伸び率は相当鈍化するに違いない、高度経済成長期にはかなりふえてまいりましたけれども、今後はそれほどその伸びは期待できない。これに対しまして、パートタイマー市場とか派遣社員市場は若干伸びるだろう。これは急速に伸びるとは私は予想しておりません。これから派遣業法が通ればそれぞれいろいろな派遣会社が誕生して派遣社員がふえるに違いないと、こういうような御意見も強うございますけれども、私の専門の立場から予測しますと、それほど急速に伸びる雇用形態とは言いがたい、こういうように考えているところでございます。
 なお、パートタイマーとか派遣社員というのは大変雇用が不安定だと、こういう見解が大勢を占めておりますけれども、私はパート形態でも、これから基幹業務をするパート形態、それから熟練パートが出てくるに違いないわけでございまして、パートタイマーの勤続年数も徐々に伸びております。そういうことで、終身雇用的に定着していくパートがふえる。派遣社員の場合も当然そうでございまして、常用雇用型の場合には明らかに常用労働者でございます。登録型の場合の派遣社員では臨時日雇いということで雇用が間欠的になりがちでございますけれども、派遣会社としては、優良なスタッフを抱えるためにはそれらの人の定着策を図らなければならないと思いますので、そういう意味では派遣社員の雇用身分が非常に不安定になるとは到底予測できない、こういうことを申し上げたいと思います。
 それから、派遣元企業の不当利益の規制方法の問題でございますけれども、いわゆる中間搾取、ピンはね問題、これを公に認めるではないか、こういうような御批判もございますけれども、経済学から申しますと、不当な利益というのは、一つは、独占禁止法上の独占的行為に基づく超過利潤は少なくとも不公正競争に基づく不当な利益、こういうことで規制の対象になる、これは現行法の仕組みであります。それからもう一つ、賃金を底なしに低下させていく、これに対しましては、法定最低賃金、今各都道府県別に賃金が日額で定められておりますけれども、地域別最低賃金が最低限であって、これを下回らない限りこれは違法でない。もちろん法定最低賃金すれすれでは優良な労働者が集まらないことは確かなことでございまして、それを集めるためには少なくとも市場相場の賃金を払わざるを得ない。そうしないと企業としてはその業界の中で優秀なまた有能な社員を派遣できない、私はこういうことになるかと考えているところでございます。問題は、そうなれば賃金水準はどう決まるかとなりますと、先ほど坂本参考人も私が衆議院で申し述べましたことを引用されておりましたけれども、私は、何といっても派遣社員を労働組合に組織化し、団体交渉で賃金、労働諸条件の維持改善を図るべきだ、これはあくまで派遣元と派遣社員の間で図り、その就業条件に従って派遣契約を派遣元と派遣先で結ぶべきだ、こういうように労働組合は大いに努力してもらいたい、私はこういうように期待しているところでございます。
 それからまた、この人材派遣業法によりまして、従来はどちらかと言えば放任されてきた現状でございますけれども、これは派遣元会社の過当競争がかなり予防できるのではないか。過当競争の結果はどうしても労働者にしわが寄りがちでございますので、できるだけこの過当競争は防ぐような仕掛けが必要でございます。この人材派遣業法にはそういうような不当な過当競争が起きないように、届け出もしくは許可、それから営業活動の事業報告を安定機関に届け出る義務づけ、こういうようなことをこの法案の中ではうたっているところでございますので、この派遣事業法が誕生したからといってそれほど派遣社員が急速にふえ、しかも労働条件が低下していく、こういうようには到底予測しがたい、こういうことを申し添えたいと思います。
 以上で私の参考人としての意見を終わりたいと思います。どうも失礼しました。
#10
○委員長(遠藤政夫君) ありがとうございました。
 次に、弁護士宮里邦雄参考人にお願いいたします。
#11
○参考人(宮里邦雄君) 弁護士の宮里でございます。
 本日は、労働者派遣法について参考人として意見を開陳する機会を与えていただきましたことについて感謝申し上げます。
 労働者派遣法は、雇用の場における戦後民主主義の原点と言われております昭和二十二年制定の職安法、これを抜本的に改正するものであります。職安法四十四条によって禁止をされておりました労働者供給事業から労働者派遣事業を取り出して、これを制度として正式に認知しようという法案であります。これまで法律で、しかも罰則によって禁止されていた事業、つまり刑罰法規によって禁止されていたわけですから、いわば法が反社会的事業とみなしていた事業を一転して認めようとするのでありますから、これは労働立法の重大な改定であり、労働政策の一大転換であると思うわけであります。
 御承知のとおり、職安法四十四条が労働組合のほか労働者供給事業を禁止した趣旨は、中間搾取の排除、強制労働の排除、雇用形態の民主化ということであると言われておりますけれども、私は、これを現代的な意味でとらえ直すならば、このような職安法の指導理念は、人間の尊厳に値する労働権の保障、言いかえますならば公正な労働基準の定立された人間の尊厳に値する雇用の保障、これがまさに職安法の現代的な指導理念としてとらえられるべきであると思います。このような指導理念は、まさにILOの志向する指導理念でもありますし、雇用にかかわる労働立法や労働行政の基本に置かれるべきものであるということについては異論がないと私は信じます。労働者派遣法の制定の是非、その内容の当否を判断するに当たりまして、私はこのような基本的立場がぜひとも踏まえられなければならないと考えるのでございます。
 このような点を踏まえまして、労働者派遣法の制定による政策の大転換がもし支持し得る条件があるとすれば、私は次の二つだろうと思います。
 その第一の条件とは何か。それは、派遣事業は今日においてはもはや社会的実態として制度として容認してよいほど弊害の伴わないものになっているということが証明された場合であります。派遣事業に伴う弊害については、私は先ほど坂本参考人が述べられたところに賛成をしたいと思います。第二の条件は、職安法四十四条による禁止方式に比べて、この労働者派遣法がより有効に派遣事業の弊害を排除する保証があるということであります。この二つの条件がいずれかが満たされたときに、初めて私は労働者派遣法の制定の意義が肯定されると思います。
 しかしながら、まず第一条件について申しますと、私は、政府・労働省は、派遣事業、派遣労働の実態について十分調査し、少なくともその弊害がなくなっていることを国民の前に国会の前に資料によって明らかにしていないと思います。高梨先生のところにはダンボール十個の資料があるかもしれません。しかし、私どもは見ておりません。国会の先生方も恐らくごらんになっていないんだろうと思います。まず実態が国会の前に明らかになること、これが大前提ではないでしょうか。私がこの法案について最も疑問として提起をしたい第一点でございます。そして、立法の変更に当たって最も重要なのは、まずその変更の必要性、合理性、正当性を裏づける資料の存在、事実の存在ではないでしょうか。
 次に、第二の条件について申します。これはまさにこの法案の内容の評価にかかわる問題でありまして、私は六点ばかり、私が主要な問題点として認識するところを申し上げたいと思います。
 第一の問題は、派遣事業を認める対象について、極めて広いかつ不明確な業務基準を採用しているという点であります。職種や業種ではなく業務によって規制しようというわけでありますが、四条一号、二号で定められている業務基準は、私は事実上無限定に近いと思います。このような基準では、あらゆる産業分野に派遣事業が拡大される危険性をぬぐうことはできません。
 第二の問題、これは私最も強調したい点でございますが、登録型派遣事業を認めているということなのであります。登録型は派遣事業の中でも最も弊害の多い派遣事業とされてきたものでありまして、私はこれは実質上有料紹介事業とも目すべきものであると思います。したがいまして、例えば先ほど高梨先生がおっしゃられた労働力需給システム研究会の報告書においても、弊害があるとして登録型は否定され、常時雇用型のみ、しかも本法案のような届け出制ではなく、許可制で認めるという立場がとられているのであります。重ねて申し上げたいのでありますが、もしも登録型と常用雇用型の二つの併存を認めた場合、私は競争メリットの有利な登録型が拡大をすることは間違いないと考えるわけであります。私は、このような登録型すら認めているところに本法案の持っている基本的な性格が端的にあらわれていると思うのでありまして、法案は派遣事業を適正に規制しようというのではなく、現に存在する派遣事業を追認するのみか、さらに増大、拡大のきっかけを与えるものであると言わざるを得ないのであります。私は政府案においてせめて登録型ぐらいはきちっと否定するほどの良識が望まれたと思うのであります。
 第三に、派遣理由、派遣期間について、本法案は全く規制していないのでございます。例えばこの点につきましては、フランスで一九八二年二月五日に制定をされたオールドナンス、大統領命令では、派遣労働者について一時的理由に限定をしておりますし、また、派遣期間についても原則として六カ月を超えることができないとしているのでありまして、これはまさに派遣労働者が常用労働者に代替をすることを防止しようとする政策に基づくものであります。残念ながら我が法案にはこのような姿勢は全く見られないのでございます。
 第四に、兼業禁止の規定がないことであります。このことは一般企業が容易に派遣事業に進出できることを意味するのでありまして、既に新聞報道等で伝えられておりますように、金融機関や商社等が急成長産業と目して派遣事業へ参入しつつあるのであります。このことは一般企業の正規雇用労働者が容易に派遣労働者にかえられるということでもあります。派遣事業の法制化論は昭和五十三年以降論議されてまいりましたけれども、法制化に賛成する立場の方においても一貫して言われていた基本的立場がございます。それは、企業が直接労働者を雇い入れ、終身的な雇用管理を行うという我が国の雇用慣行に基本的に影響を与えないようにする、派遣労働が常用労働者に代替しないようにする、これが法制定賛成論者の基本的な立場としていたところであります。労働省も衆議院でそのような御答弁をなさっておられます。
 しかしながら、果たしてこのような基本的立場は法案の中に見られるでしょうか。私はむしろ法案はそれとは逆に、登録型を容認していることといい、派遣理由、期間について何らの制限もしていないことといい、兼業禁止をしていないことといい、むしろ派遣労働者をたやすくつくり出し、常用労働者への代替化を促す仕組みを法案は準備したのではないか、このように評価せざるを得ないものでありまして、これはこれまで政府がとっていたはずの雇用政策の根本的な転換を意味するのでありましょうか。私はそのように指摘したいと思います。
 第五に、派遣先の使用者責任の問題であります。法案では、派遣先は指揮命令権を持つかぎ括弧つきの使用者として位置づけられ、雇用者としての責任を否定されているわけでありまして、労基法、労働安全衛生法の適用も限定的でございます。法案は、労働力を利用しながら利用に伴う使用者責任を免脱させるという使用者をつくり出したわけでございます。実はこのような使用者は、企業にとって大変メリットのある、魅力のあるいわば安上がりの使用者ではないでしょうか。このような安上がりの使用者が合法的に許容されることによって派遣事業、派遣労働を生み出し、拡大させる構造がつくっていくのではないでしょうか。私は、派遣先に対しても使用者責任をとらせる規制方法が講じられなければならないと思いますし、なかんずく雇用関係が仮に否定されるにせよ、集団的労使関係上の責任は派遣先についても明確にすべきであると思います。派遣先と派遣労働者間における労働組合法の適用、とりわけ労組法七条の団体交渉応諾責任、不当労働行為責任の明確化は最低限の要請であるということを強調したいと思います。
 六番目に申し上げたいのは、中間搾取の規制の問題であります。この点については何の規制もございません。派遣労働者保護において最も緊急の課題とも言うべき低賃金構造にメスを入れることなくして一体労働者保護のための法案と言えるでありましょうか。
 その他、本法案においては、時間外労働協定を派遣元ではなく派遣先と締結するとされていることの問題、派遣労働者の不安定な地位の保護について実効的な規制を欠いている問題等々多くの問題があることもつけ加えておきたいと思います。
 時間の制約がございますので十分述べることができませんが、本法案には、以上に指摘しましたように派遣事業を許容する対象範囲の問題、派遣事業の拡大に対する抑制措置の問題、派遣労働者の常用雇用への代替化に対する歯どめの問題、常用労働者が派遣労働者に転化していくことについての歯どめの問題、中間搾取の規制や労働条件、地位等派遣労働者の保護にかかわる問題等々検討を要する実に多くの問題点が存在するのでございます。
 衆議院の段階におきまして、本法案については三年間で見直すという修正がなされました。このこと自体、本法案に賛成をする立場であっても、法案に少なからざる問題点があることを認識されているからではないでしょうか。私は、この種の法案は、一たび成立するならば、そのもとで派遣事業が拡大し、派遣労働が大量に生まれるという既成事実が生まれた後に法律の見直しをすることは容易ではないと思います。
 ここでぜひ委員の皆さんに注意を喚起したい点が一つございます。今日派遣がこのように拡大をした、社外工が拡大をした、この大きなきっかけをつくったのは一体何だったんでしょうか。これは実は昭和二十七年の職業安定法施行規則の改正なのであります。昭和二十七年に、労働者供給事業と請負契約の認定基準を定めた職安法施行規則を労働省が変えた、このことが社外工をふやし、請負形態の事業をふやしてきた、派遣型の請負をふやしてきた原因であるということは今日定まっている評価ではないでしょうか。
 八幡製鉄所八十年史というのがございます。この社史は、昭和二十七年の職安規則の改正についてこう言っているのであります。戦後二十七年に至り、待望の職安法が改定されたと述べているのであります。この待望という表現の中に、職安法がいかに目の上のたんこぶであったかを如実に示しているのでございます。私は、今回の労働者派遣法が、派遣事業に乗り出そうとしている企業、派遣労働者を導入しようとしている企業にとって、後に、昭和六十年に待望の労働者派遣法が制定されたと言われるのではないかと危惧するものであります。
 当院におかれまして、以上の問題点について十分な審議を尽くされ、法案の成立を急がれることなく、慎重な審議を尽くし、抜本的な再検討を要望して要見の開陳を終わります。ありがとうございました。
#12
○委員長(遠藤政夫君) ありがとうございました。
 次に、全日本労働総同盟政策室長幸重義孝参考人にお願いいたします。
#13
○参考人(幸重義孝君) 全日本労働総同盟の幸重でございます。
 労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律案につきまして、私の考え方を明らかにし、法案審議に当たって私どもの意見につきまして御配慮いただきますようお願いを申し上げたいというふうに思います。
 最初に、私を初めといたしまして私ども同盟は、本法律案につきまして、原則的に賛成の立場であることを明確にいたしておきます。もちろん、本法律案が国会に提出をされて以来今日までの論議の結果、幾つかの問題につきまして修正をされたり、あるいは附帯決議として決議をされていることも承知をいたしているわけでありますが、なお十分でない点がかなりあろうかというふうに考えておりますので、以下申し上げます諸点につきまして論議を尽くしていただきたいと考えておるわけであります。
 まず、総合的な立場で申し上げてみますと、この問題は、先ほど高梨先生の方からかなり経過的な説明がございましたように、昭和五十三年七月の行政管理庁の「民営職業紹介事業等の指導監督に関する行政監察結果に基づく勧告」から問題解決が急がれていたものであります。昭和五十五年四月の労働力需給システム研究会の報告や、労働者派遣事業問題調査会や、高梨先生が座長をなさって私も委員の一人として参加をいたしたわけでありますが、労・使・学識で構成をされました派遣事業等小委員会で検討が続けられまして今回の法律案となったものだと理解をいたしております。
 この間、職安法制定当時には見られなかった社会的、経済的なニーズを背景としながら、ビルメンテナンス業や警備、情報サービスの分野、あるいは事務処理サービスの分野で、みずからの雇用する労働者を第三者に使用させることを目的とする労働者派遣事業が増加を続けたわけであり、職安法第四十四条との関係から、いわば疑似請負業とも言うべき姿で拡大してまいったというふうに理解をいたしております。
 このことから、第一に指摘できることは、まさに労働行政として監督責任が十分であったのかとする指摘であります。もちろん技術革新の進展や経済社会活動の変化あるいは多様化等の背景があり、そのことが現行法で有効に対処し得なくなっている原因であることは十分理解をいたしているわけでありますが、それにしても、行政の今日までの責任を免れるものではなかろうというふうに考えているわけであります。
 第二点は、私ども自身の反省を込めて申し上げるのでありますが、行政の対応とともに、これらの新しい経済社会の状況に労働組合のアプローチが運動として十分であったのかとする指摘であります。第二次産業、製造業を中心として発展を遂げてまいりました我が国の労働組合運動の弱点が、この問題を中心として、総評、同盟を問わずここに噴き出してきたというふうに考えざるを得ません。ただ、このようなことを承知をしながらも、いたずらに行政の責任のみを追及するだけでは問題は解決をいたさないというふうに考えております。私たちは労働団体として、現実に数多くの労働者が不安定雇用のまま無権利状態で法と行政のはざまに取り残されている現実を放置をしていいはずがありません。その意味で、本法案の成立をもって派遣労働者の雇用の安定と就業条件の整備を図る必要があると考えているわけであります。この基本的な立場は、労働団体間において違いがあるとは考えておりません。
 ちなみに、派遣事業等小委員会におきまして約一年近くの討議の結果報告書をまとめるに当たり、労働団体代表の三委員、労働団体代表は総評、同盟、中連三者からそれぞれ出されておりまして、共同して意見書をまとめ、報告書を本文に添付をいたしてあります。
 意見書の冒頭に、職安法第四十四条の規定を堅持し、労働者供給事業は原則的に禁止すべきであること。しかしながら、今日、労働者派遣事業が疑似請負業として多数存在している状況下で、この種の事業に従事する労働者の保護と雇用の安定を確保するための実効ある新たな社会的ルールづくりを前提に、労働者供給事業禁止規定の一部緩和を考慮せざるを得ないと、明確に表現をいたしております。
 今まで数々の団体から御要請を受けまして、あるいは本日の参考人さんの御意見の中でも随分出されております法律論としての反対論をいろいろと聞かされております。ただ私は、生きている労働問題を扱っている労働団体としては、今申し上げたような基本認識はまさに当然なことであるというふうに考えております。
 以下、具体的な内容に関しまして若干触れてまいりたいと思います。
 最初に、本委員会審議の中で、疑点につきまして明確に解明をしてもらいたいものがあります。それは、先ほども出されておりましたけれども、法第三十八条におきまして、派遣元事業主以外の労働者派遣をする事業主についての準用規定があります。現実にいかなるケースをもってその対象としようとするのか極めて不明であります。この法案に反対する多くの方々の意見もまた、この部分をもって、業としない労働者派遣の自由化と主張されているようであります。
 私どもは、この法律案の基本的な骨格は、法第四条に言うところの適用対象業務があり、その上で一般、特定の派遣元があり、第二十六条で言うところの派遣契約があって初めて派遣労働という事実に結びつくと理解をいたしております。第二十六条第二項の規定は、派遣元は労働者派遣契約を結ぶとき、当該契約の相手方に対し、第五条第一項、第十六条第一項によるところの派遣元であることを明示をすることが義務づけられております。第三十八条で言うところの「派遣元事業主以外の労働者派遣をする事業主」とは一体何を指すのか極めて不明確であると言わざるを得ません。この種新法の制定に当たっていわば骨格に当たる部分であるだけに、本委員会におきまして十分論議をされ、疑点を明らかにされることを望みたいものであります。
 第二点は、衆議院修正第四項となりました、特定企業へ恒常的に反復して労働者派遣を行うことを目的とする事業活動は禁止されるべきであるというふうに考えております。これは、主として事務処理サービスの分野で多く散見されると思われるものでありますが、昨年十月三十一日付の日経新聞によりますと、次のような報道がなされておりました。「金融機関を中心に大手企業の間で自前の人材派遣子会社を設立する動きが目立ってきた。」「明治生命保険は今年の春、全額出資で明生スタッフサービスを設立した。現在、新会社はキーパンチャー、ワードプロセッサーのオペレーター女性など三百人を登録、明治生命に派遣している。 また東京海上火災はこの夏、東京海上キャリアサービスを設立した。」という報道でありました。
 私は、少なくともほかの専門的な分野ならばいざ知らず、事務処理サービスの分野におきまして、今日OA化の導入と同時に、このような形で常用雇用に多大なインパクトを与える可能性がある、そういう事実が先行していくことに関しまして、極めて重大であるというふうに考えざるを得ませんでした。あくまでも事務処理サービスの分野におきましては、専門的なもの、そしてさらには事務量のピークカットに限定するものでないと、将来の雇用の量、あるいは雇用の形態にさまざまな影響を与えかねないと考えております。その意味で第四十八条第二項の修正は当を得たものと評価いたしておりますが、なお不十分であります。この辺の論議をどうか論点として十分にやっていただきたいというふうに考えているわけであります。
 第三点は、これもまた衆議院で修正をされたポイントでありますが、私どもは、先ほど来、中間搾取という表現が使われておりますけれども、この事業が不当な利益を得てはならず、民営職業紹介とのバランスを配慮すべきであるという意見を、先ほど申し上げました小委員会報告に添付をいたしました。どうかひとつ、今申し上げた民営職業紹介とのバランスという意味で何らかの処置が講じられないものかというふうに考えているわけであります。
 第四点として、海外派遣の問題があります。これもまた、既に修正がなされておりますが、基本的に、人材派遣という分野の中において海外派遣というのは本来限定的に取り扱われるべき性格のものであろうというふうに考えております。もちろん、例えば添乗サービス等を主とした職業の分野における海外派遣は別でございますけれども、今申し上げたように、人材派遣分野におけるところの海外派遣の問題については、極めて慎重な取り扱いが必要ではないだろうかというふうに考えております。
 司じく衆議院修正で、三年間の経過から見まして見直すことを附則として入れていただきました。新しい法律であるだけに、労働基準法の適用関係を含めて、十分に問題点をえぐり出すことが現状においてはできないかもわかりません。その意味で今後の政省令の作成に当たっても、あるいは今後三年間において、十分監視を続けながら、具体的な問題点が提起をされるとすれば、三年後におけるところの見直しにおいて、勇断をもって対処してほしいというふうに考えておるわけであります。
 この問題に関する随分多くの反対論を聞かせていただきました。その反対論の大部分というのが、いわば、まさに法律論的な展開をもって反対が論じられているわけであります。極めて残念なことは、その反対論の方々が、ではしからば、現実に法と行政のはざまでもってあえいでいる労働者を一体どう保護していくのかという提案がなされていないことであります。私どもは労働組合の運動としてそういった立場を最も重視をしていかざるを得ません。そういう立場から、本法律案が成立をし、それらの労働者の保護への第一段階が踏めるというふうに考えているわけであります。
 以上が私の意見であります。
#14
○委員長(遠藤政夫君) どうもありがとうございました。
 以上で参考人の御意見の陳述は終わりました。
 これより参考人に対する質疑を行います。
 質疑のある方は順次御発言を願います。
#15
○佐々木満君 大変貴重な御意見をいただきましてありがとうございました。
 そこで、坂本先生に一つだけお考えをお聞かせ願いたいと思いますが、先生の御結論は、法案を一たん廃案にして、それで基本問題に立ち返って検討をし直せと、こういうお考えのように私なりにまとめたわけでありますが、私も、この派遣事業なりこの法案につきましてはいろんな問題点がある、それも私は承知をしております。しかし、今もお話しございましたが、現実に派遣事業が増加をしておる、また、労働者もその中で生活をしておる。そういう現状があるわけでありますから、そうした方々の保護なり、あるいは雇用の安定、そのための措置を急がなければならぬ。これは社会の現実の要請だろうというふうには思うわけであります。
 そこで、現段階における私の全く個人的な考えでありますが、先生から言わせますと、いろんな問題、余りにも問題が多過ぎるということでありましょうけれども、こういう社会の現状を踏まえて、まずこの法律案を成立させる。これは衆議院の修正どおりになるか、本院で何か加えるかは別としまして、まず成立をさして、そして実施状況を見て改善を加えていく、そして徐々に立派な法律に仕上げていく。こういう現段階における私の個人的な見解に対して、先生はどうお考えでございますか。一点だけお聞かせをいただきたいと思います。
#16
○参考人(坂本修君) お答えいたします。
 私は、先ほど申し上げましたとおり、職安法の四十四条の厳守、労働組合の労働供給事業、これを保護し育成していくということが基本だというふうに思っております。しかし、現に多発してきております派遣労働者の状態について、それだけで済むのかというのは一つの問題だと思っております。
 それについてどうするのかということにつきましては、宮里参考人も申し上げましたけれども、私はやっぱり資料もちゃんと集めなければいかぬし、中間搾取がどのぐらいあるかもわからない、調べていない。たしかマンパワージャパンだったでしょうか、衆議院で参考人として出ておられますが、一番歴史の古いこの会社がいまだに就業規則をつくっておらず――これは違法ですね、就業規則をつくっていないことについて、現になお労働省が指導中であるという、このような状態では、何が本当にこの労働者の人たちを救済することであるかということについて、データもないし、知恵も集まっていないと思うわけです。したがって、私はその点では宮里参考人とも意見が一致するのではないかと思いますが、早急な調査を枠を広げてやるべきだ。日本弁護士連合会も、これは経営法曹の方もみんな入っている団体でございますが、再検討を望むと言っておりますし、そういうありとあらゆる知恵を集めて、新しい立法が要るか、要るとしたらどうすべきかを検討すべきだと思います。
 今の法律の修正ということでございますが、ちょっと構想骨身が、労働組合法との整合を含めまして、余りにも、大変失礼でございますが、土台から狂った家をつくつているので、その家を建て直すために名大工を集めて日をかけても、非常に難しいんじゃないか、本当に労働者保護のためにつくらなければならぬという善意でこの法案が提出されたのならば、逆に、今これを機会にそこにみんな関心が集まったんだから、さらに、本当に家が必要かどうか、どんな家を建てるべきかということに着手されることの方が百年の計を誤らないし、本当の労働者の保護になる、そう思っておるわけでございます。
#17
○中西珠子君 きょうは大変お忙しい中、参考人の皆様方御苦労さまでございます。
 まず、高梨先生にお伺い申し上げたいんでございますが、どうぞお座りになりましたままで。きょうはお体のおぐあいも悪いのにお越しいただきまして、まことに恐縮でございます。
 高梨先生が大変御苦労あそばしまして、この法案作成に対しても大変御助言をなさいまして、労働者保護のためをお考えになってこういう法案ができたわけでございますが、先ほど高梨先生は、派遣労働者ができる限り労働組合に組織化されて、そして派遣元とそれからその組合との間に就業規則などができることが望ましいと、このようにおっしゃいましたわけでございますが、派遣元の組合ができまして、そしてお互いに団体交渉をし、就業規則ばかりじゃなく協約ができるということも大変結構なんでございますが、派遣元というのは、派遣先に比べますと力関係からいっても、派遣先の方がお得意さんなわけですから、やはりいろんな面で遠慮というか、これから派遣の契約が結べないと困るし、もう少し我慢してくれというふうな状況が出てくるのではないかと思うわけでございます。
 それで、せっかく労働組合ができましても派遣先には、もうこれは派遣先に言わなければどうにもならない、派遣先と交渉しなければどうにもならないという問題が出てくるのではないかと私は思うんですけれども、そういった場合の派遣先の団体交渉応諾義務というものについては高梨先生ほどのようにお考えでいらっしゃいますか、お伺いしたいと思うのでございます。
#18
○参考人(高梨昌君) お答え申し上げます。
 原則は、今回の法案では、派遣元対派遣社員の団体交渉関係で、そこで派遣先に行くに際しては本人の同意が必要と同時に、派遣に当たっての就業条件は文書で事前に明示し、その同意を得た上で派遣先で働く。ですから、もちろん派遣先でトラブルが起きないということは考えられない、起きることは当然考えられるわけでございまして、そのトラブルは一種の苦情でございますから、派遣元と約束した就業条件と違反する、例えば始業終業時間とか定められておりますけれども、その場合には当然相手方と、苦情が起きますから、派遣先にも管理責任者を置いて派遣元と連絡調整して苦情は処理しなさい、こういう法律のしかけになっております。団交応諾義務の問題になりますとこれ労使関係法上の問題で、使用者の抱括的使用者責任は派遣元にこの法律では考えているわけでして、部分的使用者責任が派遣先に移る。労働安全衛生法上の責任は当然派遣先にも発生しますから、安全衛生義務は怠ることはできないわけで、そういうことは事実として派遣社員と派遣先との話し合いが私は行われるに違いないと、こう考えています。
 これはちょっと事例として適切かどうか御批判もあるかと思いますけれども、オイルショックの後、出向制度というものがかなり普及いたしまして、出向先で多くの人が働いているというのが実情でございます。そうしますと、幾つかのタイプがございまして、出向先の組合にその出向社員を組合員の中に抱え込んでいる例もございます。これは移籍出向の場合はそうですけれども、そうすると、その中で出向先と出向社員とが事実上団体交渉に入っちゃう。そういうようなことで派遣社員も二、三人の少数の場合はそううまくいかないでしょうけれども、多数かなり長期間派遣される場合には、事実としてはそういう労使関係は発生するだろう、こういうように私は予想しているわけですけれども、現状ではまだそこまでいっておりませんので、法律の問題としては派遣元対派遣社員の団体交渉義務と、こういうことでうたっている次第でございます。
 もちろん、派遣先との団交応諾義務までいきますと、労働組合法の根幹にかかわることもございますので、これは組合法の改正問題を呼び起こしかねません。そういう意味で今回はそこまでは踏み込んでいない、こういうことにお返事申し上げます。
#19
○中西珠子君 どうもありがとうございました。
 坂本先生にお聞きしたいんでございますが、先ほど、既に日本も批准していると思うんですが、ILOの第九十六号条約ですね、これに、今回の法案並びに派遣事業が法的に認知された場合に違反するという可能性を御指摘になりましたけれども、どの点が違反するとお考えになっていらっしゃるのか。そして私はちょっと情報として、民放労連だとか全農協労連とか、そういったところが提訴するんではないかなんということを聞いてはおりますけれども、どの点が先生としては違反とお考えになっているかどうか、明らかにしていただきたいと思います。
#20
○参考人(坂本修君) お答えいたします。
 ILO九十六号条約の第三部に、「有料職業紹介所の規制」というのがございます。この有料職業紹介所という訳文が必ずしも適切ではないのではないかという点もございますが、ともかくそういう規定がございます。この中で、営利を目的として経営される有料職業紹介所については、「権限のある機関の監督を受けるものとする。」というのが(a)項にあり、(b)項に、「権限のある機関の裁量で更新される有効期間一年の許可証を有しなければならない。」というのがあり、(c)項に、「権限のある機関に提出してその承認を受け、又は権限のある機関が定めた金額表による料金及び経費に相当する額のみを徴収しなければならない。」というのがあり、(d)項に、「国外にわたる労働者の紹介又は募集については、権限のある機関が許可した場合において、現行の法令に定める条件の下においてのみ行うものとする。」という規定がございます。少なくともこの(b)項、(c)項、(d)項は、我が国の少なくとも登録型の派遣事業が認められてこれが海外に人を出す場合、あるいは中間搾取の規制なしに料金を全く法的に定められないでやる場合、ストレートに該当するというふうに思います。
 問題は、有料職業紹介所に登録型の派遣事業が当たるかという問題であります。これについては定義が第一条にございますが、この定義につきまして、こういうのは当たるんだろうかということを照会したのがスウェーデン政府、スウェーデンの健康・社会問題省がILOの事務局に対して、タイピストを臨時に派遣する事業形態につきまして、請負のものと請負でないものとを区別して、請負でないものについて当たるかというふうに問い合わせに対する回答文がございます。英文のものでございまして、私もその翻訳を見たのでございますが、それによりますと、該当するとされているようであります。そして私が見た限りで言えば、それは日本の登録型派遣事業はもろにこれに該当するというふうに思います。したがってILO条約違反の問題は必ず起きると私たち法律家は考えております。
 これにつきましては、今私がさしあたって申し上げていいと思いますが、生協労連、民放労連、出版労連、自交総連、都職労、農協労連ほかの労働組合が、万一この法律が通った場合には提訴せざるを得ないということで合意を形成しているというふうに聞いております。ただ、先生御承知のとおり、法律上法案の国会審議中は提訴はできないということですので、けさ電話で担当者の人に聞いたところによりますと、提訴ができないというのはどうもまどろこしくてしようがない。国際摩擦を起こしている最中に、こんなソーシャルダンピングのもとになるようなことをやってもらっちゃ困るので、国内で一生懸命自分たちは努力するけれども、もしその節にはよろしくという手紙を出すんだというふうに言っておられました。ここに提訴状の原案と思いますが、英文を和文で訳したものがございますので、これは先ほども言いましたが、他の資料とともに委員長を通じて必要ならば諸先生のところに配付してまいります。
#21
○中西珠子君 ただいまの提訴文の案ですね、それと関係資料、委員長の方に提出していただいて、そして全委員に配付していただくようにお願いいたします。よろしゅうございますね。
 私は質問を終わります。
#22
○高杉廸忠君 社会党の高杉理事であります。
 本日は、いわゆる労働者派遣事業法案の審議に際しまして、参考人の方々には御多用のところ御出席をいただきまして、かつ、本法案に対して貴重な御意見を賜りましたことにまず敬意を表し、お礼を申し上げる次第であります。
 限られました時間でありますから、私は主として宮里参考人に五点ほど重要な事項について順次お伺いをいたしたいと考えます。
 まず第一に、先ほど宮里先生は中間搾取の規制が行われていないことを重要な問題点として指摘されましたが、派遣先と派遣労働者との間には雇用関係があるから、労働基準法で言う第六条の中間搾取という問題はないという見解があるわけですが、宮里先生ほどのようにお考えになりますか。
 また、中間搾取の規制の方法等について御意見があれば、この際、具体的にひとつお聞かせをいただきたい。まずお願いをいたします。
#23
○参考人(宮里邦雄君) お答え申し上げます。
 派遣元と派遣労働者との間で雇用関係が存在するとされているわけですが、したがって、雇用関係の存在するところに中間搾取はないという議論があるようでございます。どうも衆議院段階でそういう御趣旨の答弁を労働省がなさっているように思われるわけですけれども、労働基準法六条は、他人の就業に介入してはならないと言っているわけでありまして、他人の労働協約の締結ないし成立に介入してはならないと言っているわけではありません。他人の就業に介入してはならないということでありまして、実はこの点については最高裁の判決もございまして、他人の就業に介入するというのは民法上の雇用契約に限らず広く労働関係に第三者が何らかの因果関係を有する、関与することである、こういう定義をしているわけですから、法案においては指揮命令権を派遣先に設定をする、私はまさに労働関係に対する介入、他人の就業に対する介入であろうと思います。そういう意味で、それはまさに中間搾取の問題としてとらえられるべきであります。そしてこれは、とりわけ登録型においては明確であると考えます。
 そこで二番目の御質問でございますが、それでは中間搾取の規制といったってどうするのか、方法論の問題が立法技術的にあろうかと思うのですけれども、私は、方法論としては二つあり得ると思います。一つは、派遣料金と賃金額についての直接的規制という方法が一つありますし、もう一つは、間接的規制と申しますか、そういう方法があり得ると思います。派遣料金と賃金額についての一定の比率といいますか、これを細かく立法で規制することは困難だと思いますので、少なくとも法案においては中間搾取を規制できるという規制根拠を明確にする規定を設け、その具体的方法は労働省令にゆだねてもいいだろうと考えます。
 第二の間接的規制の方法でございますが、これは派遣労働者に派遣料金とみずからの賃金の関係、実態を把握させるということを通じて社会的に中間搾取が存在することを明らかにし、団体交渉その他を通じて中間搾取を改善していくという間接規制という方法があろうかと思います。そのためにはまず派遣料金とみずからの賃金との関係が明らかでなければならない。つまり、派遣料金の実態が当該派遣労働者に明らかになることが大前提になろうかと思います。実は、この点に関しまして衆議院で修正が行われ、事業計画書に派遣料金の額を書かなければならないということが修正されました。これは私は政府提案よりは一歩前進だとは思いますけれども、しかしながら、当該派遣労働者は何らそのことを知る権利が保障されていないのでございます。労働省はわかるんでしょうけれども、派遣労働者はわからないのでございます。私は少なくとも派遣料金額についての派遣労働者の情報開示の権利、この点は最低限保障されるべきであると考えます。
 以上でございます。
#24
○高杉廸忠君 さらに伺いますけれども、派遣先の団体交渉応諾義務、これを認めるべきであると先生先ほど述べられました。本法案を前提にしますと、派遣先と派遣労働者との間には雇用関係がないとされているわけであります。
 そこで伺いますけれども、このような場合においても団交権が保障さるべきであるとする専門家としての根拠ですね。どのようにお考えになりますか、伺います。
#25
○参考人(宮里邦雄君) 御承知のように、労組法では使用者の定義をしていないのであります。労組法は決して、雇用関係が存在するかしないかによって使用者であるかないかを決定するという立場をとっているわけではございません。最近の裁判所の判決や命令等におきまして、労組法上の使用者、とりわけ団交義務を負う使用者、不当労働行為責任を負う労組法七条の使用者につきましては、形式的に雇用関係がなくても実質上当該労働者の労働条件に影響を及ぼし得る地位、あるいは実質上労働条件の決定に影響を与え得る地位、そういう地位にある者は労組法七条で言う使用者であるということが、例えば最高裁判所の油研工業事件、五十一年に出されておりますけれども、そういう判決においても確認されております。最高裁は労働組合法上の雇用関係という概念をとっているわけでございますが、いずれにしても、民法上の雇用契約と団体交渉権が直結するわけではないのであります。
 この法案によりますと、派遣先は指揮監督権を持っている、限定的とはいえ労基法、安全衛生法の適用がある等々、それからまた派遣契約において賃金に基本的な影響を与える労働条件の枠組みが決定される、こういう等々の点から見ますと、私は雇用関係を派遣先との間に認めないからといって、団体交渉権を否認する理由には全くならないと思います。むしろこの法案で定義されている派遣先の性格からしても当然団体交渉権を認めるべきであり、むしろそれが今日の判例、命令に沿う当然の法的処理であると考えます。
 もしこれを認めないということは、判例、命令によって認められた団体交渉権をこの法案は剥奪をするということを意味するのではないでしょうか、このように考えます。
#26
○高杉廸忠君 ありがとうございました。
 さらに伺いますけれども、派遣労働者の労働条件の問題の一つに、長時間残業という問題がある、こう思うんです。この法案で残業規制が適切に行い得るのかどうか、私どもも疑問に思っているわけなんです。この点についても先生からもう少し詳しくお聞かせをいただきたいと思うんです。
#27
○参考人(宮里邦雄君) 御承知のように、現在の法制を前提にする限り時間外労働規制は労働基準法三十六条協定しかないのであります。したがって、この三十六条協定をいかに有効適切に活用するかということが時間外労働規制のポイントでございます。法案は、三六協定を派遣先ではなくて派遣元と締結をするというふうにしているわけであります。私は、このことに根本的に疑問を覚えるわけでございます。法的には、法的といいますか、従来の労働省の通達、解釈等に照らしても三つの問題が指摘できると思います。
 第一点は、労働基準法は三六協定の締結を工場、事業場単位に行うということ、そういう立場をとっています。一体派遣労働者にとって工場、事業場とはどこなんでしょうか。少なくとも私は登録型においては派遣元を工場、事業場という解釈は成り立つ余地はないんじゃないかと思うんです。もしそういう解釈が合理的な法解釈としてできるならば、私はお示しいただきたいと思います。少なくとも登録型について言いますならば、工場、事業場は派遣先である。そうすると、労働基準法からすれば、協約締結権は派遣先との間でなければならないと思うわけであります。
 それから第二番目は、そもそも時間外労働を規制するというのは、時間外労働をさせたいと思っている使用者との間で規制することに意味があるのでありまして、現実に時間外労働をさせているのは派遣先であります。時間外労働を求めているのは派遣先なのであります。現に時間外労働を求めているところと協定を結ばなくして何の協定でございましょうか。この点、まず基本的な二番目の疑問です。
 それから労働省は、三六協定の適切な運用のために労働者代表が公正でかつ民主的な方法で選任されなければならないという通達を五十三年に出しておられます。一体どうやって公正かつ民主的な選任方法ができるんでしょうか。派遣先との間で――お互いに顔も知らない、名前も知らないでしょう、そういう中で労働省が言っているような選挙だとか投票だとか、そういうことが一体可能なんでしょうか。私は、労働省が派遣元との間において協定を締結するといったことは、これはもう時間外労働を規制する方針を事実上全く放棄した、こう言っても過言ではないと思っております。
#28
○高杉廸忠君 さらにお伺いするんですけれども、この法案には若干の派遣労働者保護の規定、例えば第二十七条などがそうだと思いますけれども、保護規定が置かれているんですけれども、先生から見て、法律の専門家から見て、この保護規定の有効性をどのようにお考えですか。具体的にひとつお聞かせをいただきたいと思うんです。
#29
○参考人(宮里邦雄君) お答え申し上げます。
 確かに法案には、二十七条におきまして、「労働者派遣の役務の提供を受ける者は、派遣労働者の国籍、信条、性別、社会的身分、派遣労働者が労働組合の正当な行為をしたこと等を理由として、労働者派遣契約を解除してはならない。」という規定がございます。これはある意味で労働者保護の一つの規定であると思います。しかしながら、この法案、実は罰則がございません。罰則がつけられておれば、罰則を通じての間接強制といいますか、罰則を通じてこのような不当なことが行われないように働くということが一つ考えられると思うんですが、まず、罰則がないという点が一つであります。
 それから、この二十七条は、例えばこういう場合は含むんでしょうか。労働者派遣契約を解除するのではなくて、特定の派遣労働者の労働力の提供を拒否する、受け入れを拒否する。例えば、五人なら五人派遣するという契約がある。そのうちの一人について、労働組合に入っている、思想、信条が気に食わないということで受け入れを拒否する、こういう事態が発生する余地はあります。現に、そういう事件が裁判所で係争しております。こういう場合に、この二十七条はカバーするのかどうか、この点について疑問に思うわけですが、労働省は、衆議院での御説明によりますと、そういう個別労働者の受け入れ拒否も二十七条で言う労働者派遣契約の解除である、こういう答弁をなさっているように理解をいたしました。しかし、果たしてそのような解釈ができるのかどうか。派遣契約の当事者は派遣元と派遣先でございますので、もしそういう解釈に立ってこの二十七条をおつくりになったのであれば、そのことを明確にする意味で、この二十七条を、例えば、正当な行為をしたこと等を理由として、当該派遣労働者の役務の提供を拒否し、もしくは労働者派遣契約を解除してはならないとか、こういうことになれば、派遣労働者保護をより法案が明確化する、そしてそのことを通じて当該派遣労働者が直接派遣先に対して、不当な行為をしないようにという直接的な関係が出てくるのではないか、このように考えるわけでございます。
#30
○高杉廸忠君 次に、請負との関係について伺いますけれども、仮に法案のように派遣事業について一定の規制をしても、法にのっとった派遣事業ではなく、これまでのように請負という名目で実質上の派遣事業が行われるならば、今回のこの法律案というのはまさにざる法だというふうになりかねないと思うんですね。
 そこで伺いますが、こうした問題についてもどういうふうに先生はお考えになるのか、また、具体的に例があればひとつお教えをいただきたいと思うんです。
#31
○参考人(宮里邦雄君) 先生御指摘のように、仮にこの法案ができたといたしましても、適用対象業務から外れた業務についての派遣事業の存在、あるいは労働者派遣法の許可もしくは届け出という手続によらないで行われる請負形式の実質上の派遣、こういうことの存在が、いわば違法な派遣事業の存在が予定されると思うわけでありますけれども、その点をきちっと規制をしなければ、おっしゃるように大きな点でざる法化しかねないと思います。
   〔委員長退席、理事佐々木満君着席〕
 それに対する対応策は、実は現在の職安法施行規則四条が請負契約とそれから労働者供給事業との認定基準を決めているわけです。この職安法施行規則四条は、私は、その内容自体については改正の経過に照らして批判を持っているものでございますけれども、しかし、昭和二十七年以前の状態に現時点で戻すということはこれはもう不可能でございます。そういう意味では、この職安法施行規則四条の趣旨を今後徹底をするという意味で、この職安法施行規則を職安法本法の中に取り入れて、そして疑似的請負を防止するという趣旨を行政指導の中で徹底をするということが必要ではないだろうかと、こういう意見を持っております。
#32
○高杉廸忠君 参考人の方々からそれぞれ御意見を伺いまして、法案に対する基本的な評価についてはわかったんですが、この際でありますから高梨先生にお伺いしたいと思うんです。
 先ほどもお話しがありました、先生が責任者としてまとめられました労働力需給システム研究会の報告書を見ますと、報告書では、登録型派遣事業を認めない、常用型を許可制で認めるとされていますが、これは、今宮里先生からもお話しがありました、登録型では非常に弊害が多い、こういうことではなかったかと思うんです。
 そこで伺いますが、この法案に賛成の先生もこの点だけは少なくとも問題があると、こうお考えだと考えますけれども、いかがでございましょうか。この際、先生の御見解を伺いたいと思います。
#33
○参考人(高梨昌君) お答えいたします。
 需給システム研究会で、派遣事業を公に認めるべきだということを研究会として提言いたしました。その際、今高杉先生から御質問のあったとおりになっておりますけれども、そこで、附則ただし書きでこううたっております。
 登録型を全部常用雇用型にしなければならないという場合に、派遣社員として働いている方々、これは多くは、とりわけ事務処理サービスの場合は女性の方が多いんですけれども、その人たちは、短期間雇用もしくは短時間就労を大変期待しておる人が多いものですから、この人たちのニーズにもこたえる、それとの調整が必要だということで、それを全部登録型を否定する、そこまでは言っておりません。そのことをあわせて調査会の方で審議していただきたいと、こういうことでございます。とりわけ事務処理サービスの場合でも、人材派遣業の多くが、一たん子育てのために家庭に入った女性の方々に、少なくともかなりな雇用機会を提供しているという面がございます。
 それからビルメンテナンスなどは高齢者に、企業で受け皿会社をつくっている例もありますけれども、雇用機会を提供しております。日本ではそういうような中途採用市場というような、言葉は余りよくありませんけれども、通例は学校を卒業して直らに入職してそこの企業に定着して終身雇用すると、こういうことでございまして、なかなか中途で入職することは困難でございます。
   〔理事佐々木満君退席、委員長着席〕
一たん離職した人にも雇用機会を提供している形態としては、私は派遣事業というのはそれなりの労働者の側のニーズにも十分こたえているんではないか。そういう調整で今回は登録型は許可制で厳しい要件をかけます、常用雇用型の場合には届け出制にいたしますと、こういうように私の当初の考えを修正した次第でございます。
#34
○高杉廸忠君 この際、幸重参考人に伺いますが、先ほどの陳述の中で、衆議院修正の第四項については原則として禁止すべきだと、こういう御意見に聞こえたんですけれども、確認の意味も含めまして、この四項におけるものは労働大臣の勧告ですね。これは原則としては禁止さるべきだというような御意見だったと思いますが、確認の意味で伺うんですが、そういうように理解してよろしゅうございますか。
#35
○参考人(幸重義孝君) お答えをいたします。
 私が申し上げましたのは、この点、実は内容的には二つの点を指摘をいたしているわけでありますが、一つは、特定企業へ恒常的に反復して労働者派遣を行うことを目的とする、そういった人材派遣業というのはこれは禁止をしなければいけないというのは私どもの意見である。もちろんそういう意見ではありますけれども、衆議院で修正をされた努力に関してはそれなりの評価をいたしているわけであります。これが一点であります。
 もう一点は、いわゆる一般的な登録型の事務処理サービスの分野におけるあり方に関する意見を申し上げているわけであります。もちろん当然今第一点で申し上げたことは、現実問題としてこれからどういう発展を遂げていくかわかりませんけれども、少なくとも同一グループ内でもってこういった事務処理サービスが、いわばグループ内の事務処理サービスのみを目的としてつくられてくるような形態というのはこれは法律で縛るのは非常に難しいかと思いますけれども、何とか制限を加えていかなければいけないのじゃないのか、そういうふうに私は考えている、そういうことであります。
#36
○高杉廸忠君 時間もだんだん迫りましたから、最後になろうかと思いますが、この際でありますから坂本参考人、それから宮里参考人にそれぞれお伺いをします。
 まず坂本先生に伺いますが、この法律案がこのまま成立した場合、これはあくまでも仮定でありますが、どのような影響、先ほどいろいろな問題があるということの御指摘をいただいたのですが、特に重要と思われる、問題が生ずる、こういうことをお考えだろうと思いますが、具体的に幾つかの点挙げていただければありがたいと思います。
 同じく、宮里参考人にもお願いしたいと思います。簡潔で結構です。
#37
○参考人(坂本修君) お答えいたします。
 箇条書き的に申します。
 無権利の派遣労働者が大変にふえるだろうというふうに思います。例えば女性の場合で言っても、今ビルメンテナンス業で二十日以上働いている人が九八・三%、事務処理業で働いている人が七七%です。決していわゆる短期雇用にはなっていない。先ほど高梨先生の言われたようなことではない。こうなりますと、ある婦人の労働者が言っておりますが、婦人労働者について言うならば、深夜労働の開放などとも絡んで、正規常用労働者の職場は、少なくとも女については大幅になくなるのではないか、これは私は合理的なおそれだというふうに考えております。
 それから二番目に、そういう正規常用労働者の職場にたくさんの無権利な、しかも団交義務を使用者が負わなくて済む人たちが流入してくるわけですから、それは正規常用労働者のかなりの部分の人減らしにならざるを得ない。それから、経済同友会の中間労働市場論などで、制度を変える最大の目的は、ME革命などとは関係なく、構造不況下で余剰人員をどこの企業に放出していくかの問題なんだという趣旨の記載があることは御承知のとおりと思います。したがって、そういうことと結合すればその意味でも正規常用労働者の人減らしが行われる。
 最後に、以上を組み合わせたときに、私が非常に恐れるのは、私は秋田県の片田舎の能代市というところの生まれですけれども、私たちは、東京の会社に勤める、秋田市のどの会社に勤めるというと、今出向や配転があるのはよく知っていますけれども、でもやっぱりその会社で生きていけると思って赤飯も炊くし、親も祝います。しかし、これからこういうふうにくるくるくるくる回されたのでは、NHKのあの単身赴任のテレビではございませんけれども、子供を育てるということはどうなるのだろうか、家を建てて生きていくということはどうなるのだろうか、憲法で保障している人間らしく生きる権利というのは、そういうことではないのじゃないか。それはやはり社会を崩壊させていくことにつながっていくというのは大げさではない。少年非行の事件なんかもたくさんやっております。先ほど参考人の一人の方が法律論を言っておると言いましたが、別にここで論争するつもりはありません。ただ、私たちが言っておる法律論は、たくさんの、配転で争っているうちに一家の二人までが死んでしまったとか、そういう労働者自身が、その家族が命を失ったような事件を二十六年間に何十件となくやってきて、その思いから法律とか権利というやつは明確にしておかなければいかぬのだということを言っておるのでありまして、法律の理論遊びをして意見を申し上げたのではないということを一つだけつけ加えておきます。
#38
○参考人(宮里邦雄君) 正確に事態を予測することは困難かもしれませんけれども、しかし大筋の予測は私は可能ではないかと思うわけです。その点においては、先ほど高梨先生のおっしゃった点とはかなり見解を異にすると思います。
 まず、私は、間違いなく、この法案の成立の結果派遣事業に参入しようとする企業はますますふえてくるだろう。そして、既存の企業もまた派遣事業に乗り出してくるだろうということが考えられます。
 それから二番目には、このような法律ができることによっていよいよ常用労働者に対する雇用調整がやりやすくなるのではないか。つまり、雇用調整をした後、派遣労働者を採用できる条件が生まれるわけですから、いよいよ常用労働者に対する人減らし圧力というのは強まると私は思います。
 三番目は、登録型と常用雇用型を考えますと、登録型がふえてくると思います。
 それから四番目には、仮に労働組合の労働者供給事業を認めても、民間企業との競争に労働組合は耐え得ず、結局労働組合の労働者供給事業を認めたこと自体が形骸化していくのではないかということを恐れます。
 それからもう一つは、いわばこのような派遣事業は民間の職安みたいなものです。ちょっと失礼な言い方かもしれません。一体こういうものができたら、本当に労働省は公共的な職業紹介の事業をきちっとやるのでしょうか。私はいよいよ民間依存が強まると思います。そういう意味では公共的職業紹介機能をみずから否定していくことにつながっていくのではないかというふうに思います。
 そして最後に申し上げますと、私は今まで大卒、高卒の新規労働者が最初から派遣ということを余り考えていないと思うのですね、途中で退職したりとか。しかし私は、これからは新卒にとっても最初に出くわす職場が派遣労働ということになりかねないと思うのです。私は、このような法律ができてきますと、派遣労働者は労働者のニーズではなくて、やむを得ず選択を迫られる雇用形態になりかねない、そのことを強調したいと思います。
#39
○高杉廸忠君 ありがとうございました。
#40
○安武洋子君 共産党の安武でございます。
 各参考人、本当に御苦労さまでございます。
 私は、坂本参考人にお伺いをしてまいります。
 本法案は、労働者保護というふうなことを言われておりますが、労働者保護との関係でお伺いをいたしとうございますが、今でも団交権それから団結権、これが侵害されているというふうに思います。この点については、本法案の成立によりましてさらに加速されるのではないかというふうな危惧を持っておりますが、この点、いかがお考えでございましょうか。
#41
○参考人(坂本修君) 団交権と団結権と両方についての御質問と伺ってよろしいでしょうか。
 団体交渉権については、少なくとも労働省の衆議院段階での答弁及び日本弁護士連合会の代表が労働省に伺った見解、これは繰り返し繰り返し派遣先の会社は雇用していないのだから団交権かないということを言われております。しかし、これは先ほども申し上げたことですが、労働意識の中で労働者がいろんな要求を持ち、それについて交渉をしなければならず、交渉するのを権利として認めているわけですね。ですから、高梨参考人はそういうのを認めると労働組合法がおかしくなるんだと言うんだけれども、私たちは、それは全く違っているんであって、そういうことをやっている人には団体交渉の義務があるとしているのが労働組合法であり、裁判所の判例もそう言っており、きょう私ここに中央大学の近藤先生という労働法学者の論文を持ってきていますが、派遣労働などでいわば二重に使用するような形が出てくる以上は、二重に、どちらに対しても団交ができるようにしなければ労働者の権利を守ることにならない、こういうふうに言っているんです。したがって、労働省の見解は、あるいは高梨先生の見解でいけば、百万とも二百万とも、これからさらに三百、四百万とこの法律によってふえた労働者が、奇妙なことに自分の命や健康に一番関係のあること、毎日どう働くかということに一番関係のある労働の場所とか、ベルトコンベヤーのスピードとか、そういう一番交渉したいことについて、団体交渉というのはあなたにはありませんという労働者になる。憲法のもとで、まあ公務員のスト権の問題などは別といたしまして、そういう特別の権利制限をこの法律でやるということはこれはどうしても矛盾であって許されない。
 それから、時間がないので簡単に申し上げますけれども、団結権の問題については、実際上団結ができないということと同時に、不当労働行為提訴が非常におかしくなるんじゃないかというふうに思っております。例えば、登録型の労働者が派遣先の会社に行きますね、自由に。そこで組合をつくろうと思ったら、組合活動を理由に切られたとします。そのことに対して、派遣元会社が派遣先会社に文句を言う権利があっても、個々の労働者にどういう権利があるのかということは、この法律では、宮里参考人が言ったように、はっきりいたしません。労働委員会に提訴したときに、それは使用者じゃないから不当労働行為が成立しないんだとされる可能性も、これは私たちはそうならないように努力いたしますけれども、あるだろうというふうに思います。ですから、もしこの法律を本当に保護法としてきちっとつくるという場合には、労働組合法などとの整合性を知恵を集めてきちっとしておかなければ、片方で奪って何も与えないということになってしまう。これは高梨参考人も、衆議院段階でも、労働組合法との問題が一つの壁になり、そっちの方はまだ――正確な表現じゃありませんが、解決していないんだというような陳述があると思います。そちらを解決しないでこちらだけを先行さすというのは労働者にとっては片手落ちであって間違っているというのが私の意見でございます。
#42
○安武洋子君 正規の常用労働者、これを派遣労働者化するためにいろんな仕組みが考えられるのではないかというふうに思います。これが複合的に行われてまいりますと、一体どのような状態になるというふうにお考えでございましょうか。その点お聞かせ願いとうございます。
#43
○参考人(坂本修君) たくさんあると思うんですが、限られた時間の中で一つの形を具体的に申し上げます。
 やはり、例えば日立であれ、東芝であれ、そういう大会社が兼業として労働者派遣事業をやりますということがこの法律ではできます。何も中小会社が人材派遣をやるだけではございません。そうすると、兼業して、そのことを就業規則に明記して、労働契約のときに、当社に入ってもらうけれども、君を採用するけれども、当社は二つの仕事をしているんです。それを認めて契約してくださいと言うことが当然できます。そのときに、いや私は正規常用労働者の身分だけでないとおたくの社に入らないと言うことは、労働市場の現状からいってできません。入りますね。そうすれば、今度は雇い入れに当たって派遣労働者であることを明示したものと解されて、結局、何年かたってくると新入社員の層が全部自由に派遣できる常用労働者になるんじゃないか、これが一つです。
 それからもう一つは、業としない派遣ということで、先ほど申し上げました中間労働市場論がまさに言っているようなやり方で、おまえは余ったんだ、若い労働者かたくさん入り、プログラマーが外部の派遣会社から入ってきた、おまえは余ったんだ、したがって派遣するとやられたときに、これは業としないものと思われるというふうに政府答弁は衆議院でされております。そうだとすると、これもまた派遣労働者になる。
 最後に、これは直接には法律の問題ではありませんが、法律がどういう現実を爆発的にふやすかという問題ですけれども、今でも会社に肩をたたかれて、おまえは過員なんだ、まだ定年は前だけれどもあっちに行ってくれ、こっちに行ってくれと、民間放送の重要な部署で働いていた労働者が、他の会社の経営しているコイの釣り堀の番人にされるなんということがあるわけです。そういうことに対して労働者はなかなか拒否できない。しかし、派遣労働者が今言ったような形で労働者派遣法で多方面から自由化されたときに、そういう事実上の派遣強制に対して、ますます労働者は抵抗する力が非常に乏しくなるだろうということで、極めて不安定な労使関係にならざるを得ないというふうに考えております。
#44
○安武洋子君 今の請負会社の規制につきまして、労働者派遣法、これが実効性があるというふうにお考えでございましょうか。私の時間が限られておりますので、今の点を坂本参考人と宮里参考人にお伺いをさせていただきとうございます。
#45
○参考人(坂本修君) では、簡潔に答えます。
 実効は余りないのではないかと思います。つまり、この労働者派遣法によりますと、労働者派遣でやる会社と、そのほかに請負でやる会社を認めておるわけですから、例えばマンパワージャパンとかああいう会社は請負でやっているというふうになっていますね。これからも請負でやると言われると思います。そのことを規制する仕組みは、少なくとも今まで労働省は規制してきませんでした。そして、マンパワージャパンだったと思うんですが、間違っておればごめんなさい、衆議院で参考人に出られた日本最古と言われております会社は、労働就業規則さえまだ届けてなくて八年間営業しているという状態ですから、したがって、この法律によって請負会社がなくなるということはない。したがってまた、この法律は嫌だから自分は請負でやるぞ、今の労働省行政のもとで請負でやるぞと構えられたら、それを規制するものはこの法律にはない。その意味で言うとしり抜けである、大しり抜けであるというふうに思います。
#46
○参考人(宮里邦雄君) 先ほども申し上げたように思いますが、結局、請負契約であればこれは法的な規制の対象にならないわけですが、しかし、名目は請負契約と言いながら実質上労働者派遣事業をやっているというのがたくさんあるわけでございまして、結局、その認定基準を明確にして、偽装的請負に対してきちっと法律上そして行政上対応することが重要だろうと思います。
 そのための一つの手段としては、例えば先ほど私が申し上げましたような、職安法施行規則を本法に格上げをすることを通じて偽装的請負に対する行政の姿勢、取り締まりの姿勢、公的規制の姿勢を明確にするということが必要ではないだろうか。少なくとも現行法のままでは今先生の御指摘のような偽装的請負を規制することはできないというふうに考えます。
#47
○安武洋子君 最後に坂本参考人に一言だけお伺いいたしますけれども、本法案に日弁連それから大阪、京都弁護士会が強く反対をしているということを聞いておりますけれども、主にどういう点に反対をされているのか、簡潔で結構ですのでお答えをいただきとうございます。
#48
○参考人(坂本修君) お答えいたします。
 日弁連の六十年三月の意見書は、結びを次のように結んでおります。
  以上述べたところから明らかなように、「派遣法」案は、職安法四四条が禁止している労働者供給事業の弊害と労基法六条の中間搾取による弊害を除去しないままこれを労働者派遣事業として制度化し、その上使用者と雇用者とを完全に分離することによって派遣先の使用者責任を免責し、派遣労働者の不安定な身分や低賃金等劣悪な労働条件を固定化せしめ、派遣先における常用雇用者の代替をも促進する危険性を孕むものというべきである。
  よって、「派遣法」案の立法化は再検討されるべきである。
大阪、京都も基本的な趣旨は同じです。ただ京都で特徴的なのは、これは私たまたまその審議をしたときの内容をその会議に出席した人から伺ったんですが、やっぱり経営側の事件をやっている先生方も含めて、範囲の指定、あれがああいうふうなあいまいな規定しか法文になくて、そして、それがあとは全部政令にゆだねられる、審議会にゆだねられていくのは、これは立法権の制限ではないか。そしてまた、立法主義の立場から見て、人権にかかわることは少なくともそこを明確にしないというのは、これはやはり弁護士の立場から見て、法律家としてどうしても許容できないという意見が非常に強く、そのことが特に意見の中に入っておると記憶しております。
#49
○安武洋子君 ありがとうございました。
#50
○藤井恒男君 各参考人、本日は大変御苦労さまでございます。お昼になりましたが、もう少しでございますので御辛抱いただきたいと思います。
 幸重参考人にお伺いするわけですが、あなたは第一線の労働運動を現にやっておられるという立場からお答えいただきたいと思うんだけど、本法案が通ったときに、派遣労働者が常用労働者に代替される、あるいは正規社員が派遣労働者化していくというふうに今参考人からの御意見があったんだけど、私は、日本の労使関係あるいは現在の労働運動、労働運動の基本というのは、どういうタイプの労働組合があろうとも、組合員の雇用の安定ということを第一義にしているわけですからね。だから、労働組合がみずからの組合員の雇用の安定を放棄するということは、それはどういうタイプの労働組合であろうとも、どういう産別の労働組合であろうとも考えられないことだと私は思うわけなんだけど、あなた、単に同盟だけじゃなく総評、中立労連あるいは新産別、いろんな形の労働組合との交流もお持ちだと思うわけだけど、こういった点についてどういうふうな感想をお持ちですか。
#51
○参考人(幸重義孝君) 今藤井先生の方からお話しのありました労働運動の現実的な動向の中でもって、労働組合がいわば派遣労働問題をみずからの労働組合内部の課題として、問題が発生をしたときにそれに十分対応しないのではないかというようなことはあり得ない、そういうふうに私は考えておる、それが一つです。
 それから、私は冒頭意見を申し上げました途中でもって、私の考え方を少し反省を込めながら申し上げました。今日まで日本の労働組合運動というのは、ある意味では日本におけるところの製造業を中心とした産業の発展と同じ形でもって日本の労働組合運動というものは発展をしてまいっております。したがって、これは総評といわず同盟といわず、あるいはその他のナショナルセンターといわず、どこの組合といえども、運動の方式あるいは組織の持っているメカニズムあるいは課題に対するアプローチの手法、そういったものがすべて、いわば製造業を中心とした仕組みの上でもって成り立ってきているというのが私は今日までの姿でないのかと思います。現実に社会はそういうものからかなりな速さでもって動き始めてまいっている。その動き始めている社会に対して、今日、日本にあるところのナショナルセンター四つが具体的にどうアプローチをしてまいったのかということになれば、幾つかの産別はそれなりにやっております。
 例えば我が同盟の中では、ゼンセン同盟さんがパートタイム労働者の組織化に関して努力をされておりますし、あるいはその他の組合もあります。しかし、残念ながら全体として日本の労働組合運動は、やはり今日まで依然として製造業中心の労働運動の分野からなかなか出ていけない面がある。したがって、そういったものがこういった問題に対して弱点として私は出てきているような気がしますので、これからの運動の非常に大きな課題として、この分野におけるところのアプローチを労働組合運動自身の問題として取り上げていかなければならない、そういうふうに考えておるというのが第二点であります。
 そこで、正規雇用、すなわち常用雇用に対して派遣労働者が代替という形になっていくんだろうか、あるいは、いわば正規社員が、あるいは常用雇用されている労働者が派遣労働者化していくというようなことが、果たして現実に将来展望として想定をされるのかという課題でありますけれども、私どもは、第一線で働いている労働組合として、実はそれぞれの担当者と話し合いをしてまいっておりますけれども、非常に難しい問題であることだけは間違いありません。だから、どういう可能性があるかというのは、これはちょっと断言はできませんけれども、現実問題として、今日まで日本の労使関係を形成してきた、ある意味では我が国の骨格を形成してまいったのは、日本型の労使関係というのが我が国の骨格的な基盤を形成してまいった。その基盤をもし仮に崩すようなそういった行動が例えば経営者の側から利益の追求だけでもって出てくるとすれば、それに対する反動的な私どもの闘いというのがその段階から明らかに始まっていく、こういうことになります。したがって、むしろ日本の労使関係が全くこういったものを許しながら、ある意味では欧米型の労使関係に転化をしていくような可能性についてどうだということを聞かれるとすれば、私は、私自身の判断としては、これはなかなかそうはなっていかない。それはまさに日本の歴史とカルチャーをみずから全く否定し去るものだと、そういうふうに考えますので、我が国の労使関係というのはそんな易しいものではないというふうに考えております。
 以上です。
#52
○藤井恒男君 高梨参考人にお伺いするわけですが、派遣労働者の直接的な労働条件に対する団体交渉権、それは直接雇用責任があるところの派遣元にあるということは、私はこれは理解するものでありますが、一方、長期間派遣される労働者の立場に立って見ると、派遣先における著しい生産工程の変更あるいは福利厚生にかかわる部分等の問題があろうかと思う。
 それで、一般的な労使関係というものを見たときに、これは正規社員とその企業とにおける労使関係を指すわけですが、そういった場合に、団体交渉とは別に労使協議会とか労使会議、あるいは生産会議というものを持っているのが通常だと私は思う。ここでは団体交渉にかかわる事項以外、つまり基本的労働条件を除く部分について話し合いをする、こういう形になっているのが私は労働組合の今の普通の姿であろうというふうに思います。したがって、労使会議で論議される事項の不調和をもって直接労働争議に発展しない。もしそのことをもって争議行為に移行するとするならば、そういった事項が団体交渉にアップしていく。それで、団体交渉で取り上げられて不調に終わったときに争議行為に入っていく。こういう整理をされた形が四十年経過して現在定着している姿だと私は見ている。
 そうだとすれば、団体交渉権は派遣元にありましょうが、そうじゃない、今言った福利厚生にかかわるもの、あるいは生産工程の著しい変更などについては、派遣先と派遣労働者の間にその種の労使会議的なものを設定することをこの法は妨げていないんじゃないか。また、そういうことは行政指導すべきじゃないかというふうに私は思うんだけど、法案の生みの親である高梨参考人、その辺についての御見解を承りたいと思います。
#53
○参考人(高梨昌君) お答えいたします。
 私は先ほど申し述べましたように、派遣先で事実上の労使関係は発生するだろうとは十分考えられるわけですね。ただ、今御質問いただいた点について、福利厚生とか生産方法の改革とか、これはもともと派遣契約にうたわれている事項であって、派遣契約の修正問題になると思うんですね、派遣契約の中に就業条件が明示されているわけですから。したがって、派遣元会社は就業条件の変更ということで派遣社員と派遣元との間で調整をしなければならないと、こういう手順になるかと思うんです。したがいまして、それはあくまで派遣契約の中身まで修正を伴うので、これは派遣元と派遣先との契約内容の変更と、こういう手順が第一義的に先行すると思います。その上で、その派遣社員がもともと行った派遣先の作業環境とかその他が変わった場合には、当然改めて派遣元会社と派遣に当たっての就業条件の修正の協議なり話し合いをしなきゃならない、こういう手順だと思うんですね。
 だから、福利厚生やその他の問題について、直ちに派遣先対派遣社員との間で、事実上の団体交渉までいかない労使協議がそこで制度化できるかになりますと、私は、それはちょっと若干疑問じゃないか。いろいろな苦情処理というような場合にルールが決まっていて、就業条件が明示されているにもかかわらずそれに違反している場合には、当然派遣先と派遣社員との間でトラブルが起きますから、これはちゃんと苦情処理として派遣元と派遣先との管理責任者の連絡調整で処理しなさい、こういうように法律上は考えている次第でございます。
#54
○藤井恒男君 時間が来ましたので、終わります。
#55
○下村泰君 各参考人の皆さん、御苦労さんです。
 高梨先生に伺いますけれども、高梨先生のいろいろとお答えになっておられる「労働法律旬報」、こういう本がございまして、この中で述べられていらっしゃる高梨先生の御意見もよく伺い――伺いというよりもこの活字を通しての私の知る範囲のものなんですけれども、この中で先生は、日本の企業別組合運動の欠陥がこういう派遣事業形態を大変ふやしていると思うというようなお話の滑り出しで、日本の企業の中にある組合が派遣元から派遣されてきている労働者を組み入れていない、取り入れてない、そういうことからこういうような問題が起きてくるんだと、今度の法案についての労働権の問題が起きてくる、こういう組合のあり方が今まで間違いであった、だからこれからそういうのは是正していかなきゃいけないというようなこともおっしゃっております。そのほかに幾つか御意見があります。
 高梨先生の御意見として、今国会に提出されているこの法案というのは、完璧とまではいかないけれども是としますか。それとも、やはり少し足りないところもあるんだというふうにお考えでしょうか。そこのところの御意見を聞かしていただきたいと思います。
#56
○参考人(高梨昌君) 私は法律家でございませんで、むしろ労働経済、労使関係専門でございまして、法律家の方々は、現行法の解釈、適用は大変いろいろお詳しいのでありますが、立法政策になりますと、どうも法律家の中から立法政策が出てこないのが現実でございます。今回も私が立法政策を手がけたわけでございますけれども、立法政策を手がけるに当たって、こういう派遣形態という働き方が非常に普及した中で、日本の企業別労働組合運動の大きな特徴というのは、正社員もしくは常用労働者のみしか組織の範囲に置いていないという、こういう大変な特徴がございます。だから、同じ職場で働くパートタイマーの人たちとか社外会社の社外工の方々とか、これを組織の縄張りのうちに入れてこなかったということがございまして、一企業一組合と言われますけれども、そこには未組織の労働者を絶えず同じ職場に抱えながらきている。私はこれは何といっても日本の企業別組合の欠陥だと考えます。だから、欠陥を是正するために、私はかねがね申し上げてきたことですけれども、労働組合はもっと労働者供給事業活動を熱心にしなさい、無料職業紹介活動を熱心にしなさい、今回の人材派遣業でも労働組合はお金と人を出して派遣会社を経営してそれを組織化の手段に用いていく、こういうようなことの知恵を働かさないと、日本の労働組合の組織率は大変低下していくんではないか、この点については大変私は危惧しておるところでございます。
 それで、今回の法案が完璧かどうかと言われますと、何とも私お答えしにくいんですけれども、少なくとも最善の法案だと、そう考えております。
#57
○下村泰君 そうしますと先生も、完璧ではないにしてもある程度までと言っても、完全、ベストではない、どこかに手直ししなきゃならない点というものはあり得るというふうにやっぱりお認めですか。
#58
○参考人(高梨昌君) 小委員会報告でもうたいましたように、この法律施行後三年後に見直しを図る、こういうことを付言しておりまして、これも衆議院の附帯決議の中にも取り入れられたことでございますけれども、そういうようなことでこの法律が発足してからさまざまな事態が変わってきております。歴史的にそれぞれ社会変動、経済変動が起きるわけでございますから、こういう変動に法律がミスマッチを呼び起こさないように絶えず手直しをすることは大変私は重要だと思っていますから、そういうふうにこの法律の後それぞれ事実関係がそれなりに規制されていくと思いますから、その中で問題があれば当然法律をもっと有効に機能させるように手直しする必要は十分ある、このように考えております。
#59
○下村泰君 実は、高梨先生が日経産業新聞昭和六十年四月十七日の水曜日に広告を出していらっしゃるんですね。もちろん、これは高梨先生個人の広告じゃないわけです。いわゆる派遣元と称される派遣事業をなさっている会社の社名が全部載りまして、先生の御意見として出ているんです。その下に「広告」とちゃんと明文が入っております。
 ところが、この文章を読ませていただきますと、広告じゃないんですね。別に揚げ足をとるわけじゃありません。私のおりました芸能界ではこういうのはちょうちん持ちと言うんですね、この文章の内容は。これが解説ならいいんですね。これこれこういうところはこういうふうになる、ああなるというふうな、インタビューアーがいて、それに対して解説なさる。そして、これこれこういうふうであるからこういう見直しもあるんだというふうな解説ならよろしいんです。ところが、これでいくともう完璧な宣伝文なんですね。しかも、四月十七日というのは、衆議院でこの案が通過してきたのが五月十七日なんですね。一カ月も前に、しかも完全にでき上がったというような申し述べ方でこれ先生がしゃべっていらっしゃる。しかも、この中に、「国会での審議がどうなるかはもちろん確言できないが、大筋では野党も賛成しているので今国会で可決、成立すると思っている。」――「大筋では野党も賛成している」、どこと、どこと、どこの党がということになる。そうしますと、これに反対を唱えている野党の皆様方はこれは異議を唱えることになると思います。ここの言葉を使いますと、我々を侮辱している、国会軽視だなどということになる。私はそんなこと言いません。そんなことは申し上げませんけれども、こういうような記事をもう先生が既に新聞で公に発表しているということ。そうしますると、この法案はこのまま通ってしまうんだ、もうこの法案は既に通っているんだというような印象を、四月十七日の時点でこれを読んだ人にはもう納得してしまうということになる。そうすると、私たちは一体これから何を審議すればいいんだというような疑心暗鬼にとらわれます。しかも、この最後の文章に、「人材派遣業の市場規模は六十三年度には一千百億円になる見通しだ。法制化を契機に、新たな飛躍が望まれている。」、こんなふうに結ばれたんじゃどうしようもないと思うんですね、これ。
 ですから、一体労働者のことを考えてこの立案をなされたのか、それとも全然企業側を背景にして立案なされたのか、ここのところが非常に私は納得いかないので、そこのところだけ先生にひとつ御意見を聞かせていただいて終わります。
#60
○参考人(高梨昌君) 日経産業新聞、私取材を受けまして、インタビューで、日経産業新聞の方がその記事をまとめた、こういうことでございまして、私は派遣事業等小委員会の座長としてこの派遣事業法案なるものの骨格をつくった責任者でございますので、せっかくの努力は、可能な限り本案として成立していただきたい、こういう希望を持つのは当然のことでございます。私どもの小委員会なり安定審議会の報告に従って政府提案立法ができておりますので、私はこれを支持するという、こういう立場からインタビューに応じてお話しした次第でございます。
#61
○委員長(遠藤政夫君) 以上で参考人に対する質疑は終了いたしました。
 参考人の方々に一言お礼申し上げます。
 本日は、長時間にわたりまして貴重な御意見をお聞かせいただきましてまことにありがとうございました。委員会を代表いたしまして厚く御礼申し上げます。
 以上をもちまして、本日の審議を終わります。
 これにて散会いたします。
   午後零時十九分散会
ソース: 国立国会図書館
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