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1947/08/16 第1回国会 参議院 参議院会議録情報 第001回国会 司法委員会小委員会 第2号
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1947/08/16 第1回国会 参議院

参議院会議録情報 第001回国会 司法委員会小委員会 第2号

#1
第001回国会 司法委員会小委員会 第2号
  付託事件
○國家賠償法案(内閣提出、衆議院送
 付)
○民法の一部を改正する法律案(内閣
 送付)
○刑法の一部を改正する法律案(内閣
 送付)
○罹災都市借地借家臨時處理法の一部
 を改正する法律案(衆議院送付)
○皇族の身分を離れた者及び皇族とな
 つた者の戸籍に關する法律案(内閣
 送付)
○家事審判法案(内閣送付)
  ―――――――――――――
昭和二十二年八月十六日(土曜日)
   午前十時四十二分開會
  ―――――――――――――
  本日の會議に付した事件
○國家賠償法案
  ―――――――――――――
   〔伊藤修君假委員長となる〕
#2
○假委員長(伊藤修君) 大變お待たせいたしました。これより委員會を開きます。本日は刑法を提出する筈でありましたが、都合上國家賠償法案に對しまして質疑を繼續いたしたいと思います。
#3
○鬼丸義齊君 國家賠償法に對しまする疑義につきましては、これまで數次に亙つて質疑應答を重ねておりましたので、大體了解を得ることができましたけれども、尚重要なる點において了解が付きにくい點がございまするために、幸い司法大臣御臨席でありまするから、この際大臣より率直明快なる御答辯を得たいと思うのであります。
 それは賠償法の第一條の規定に書かれておりまするところの、賠償條件となつております公務員の主觀的條件でありまする故意又は過失の事實と、客観的條件でありまする違法という點であります。損害賠償の成立條件は、言うまでもなくこの主觀的條件と客観的條件を具有いたしまする場合において賠償が成立つのでありまするが、昨日例を擧げまして政府委員の御答辯を仰いだのでありまするが、その御答辯につきまして多大の不安を感じまするが故に、改めてこの點について大臣より責任ある明快なる御答辯を頂きたいと思う次第であります。即ち檢事が過つて或る者が或る種の犯罪を犯しておるものなりと誤認をいたしました。その職權に基ずいて勾留状の發令を裁判所に求めた結果、すべて正規の手續を經まして、被疑者を勾留取調べました結果、その者には何らの犯罪責任ないということが明らかになりました場合に、實例を示してこうしたような場合において被勾留者に對して損害を賠償する責任ありや否やということについてお尋ねをしたのであります。政府委員はこうした場合でも、元來罪のない國民に對して檢事が過つて勾留したのであるから、國家はその損害を賠償すべきであるという御答を頂きました。若しその御答辯が正しきものであるといたしましたならば結構でありまするが、若しこの檢事が過つて観測違いで以て或る者に犯罪ありと思慮いたしました場合に、檢事はその事實を明らかにするためには、許されたる職權の範圍において被疑者を勾留するのであります。それが後に至つて無罪の者であつたということが判明いたしましても、檢事の取りました行動はすべて法規の手續によつて留置取調べたものでありまするから、その手續におきましては、聊さかも違法の手續をとつていないというようなことになるのでありまして、檢事の過で以て犯罪ありと思慮した點は、過失の事實がありといたしましても、その以後の手續については違法がないのである。ここに損害賠償の客観條件であるところの違法と言うことはでき得ないのじやないかということの解釋をせられる虞れがありまするので、若しこれをこの場合でも賠償すべきであるということになりまするならば、今後相當の國家の賠償ということが續出するのではないかということも憂慮されます。さればといつて、若しこの賠償の責なしということにいたしましたならば、憲法のいわゆる不法行爲によりまする損害の賠償ということの實を收めることができ得ないのであります。そこで先般も大臣にお伺いいたしたのでありまするが、憲法の第四十條によりまする拘束によつた事件であつて、無罪の裁判を受けた場合には、過失の罪をも問わず、又損害の理由を問わず、賠償する今用意をしておるという御答辯があつたのであります。これはもう憲法制定の結果としまして當然であり、只今施行されておりまする刑事訴訟法は改正されることになると思いまするが、併しこれは起訴後のことであります。國家の裁判によつて無罪か有罪かということを決するのは、起訴後でなければなりませんが、只今疑問となつておりまするのは起訴前の行爲で、起訴前の行爲の場合には憲法に規定してありまするがごとくに、裁判という手續を經ませんので、無罪か有罪かということは、ただ起訴事實によつて、無罪と言うことも一概に言い得ないことにもなります。檢事は微罪とか或いはその他被告人の環境、情状等を斟酌をいたしまして、起訴せずして不起訴處分に附することも許されておるのであります。ともかく犯罪があつた場合には、賠償責任のないことは言うまでもありませんけれども、犯罪がないということがはつきりいたしました場合においても。すべてこの場合調べたる結果犯罪なし、その犯罪なしということは、言うまでもなく結果から見ますと檢事の過ちによつて嫌疑をかけて勾留處分をしたことになるのであります。そうした場合に、すべてやはりこの賠償法によつて國家が賠償の責を負うのであるのかどうか、この點をこの際明確に一つ大臣より御答辯を承わりたいと思います。
#4
○國務大臣(鈴木義男君) 違法と申しますのは、加害行爲が違法性を有しなければならないということを意味するのでありまして、その點は政府委員からしばしば御説明申上げました現行民法と同じ趣旨であると御了解を願いたいのであります。ただ民法は權利侵害という言葉で表現しておりまするが、權利侵害というだけでは、特定な權利の侵害を伴わない加害行爲がありました場合に、被害者を救濟するのに十分でないという、從來學者の指摘いたしておりますことでもあり、又判例も解釋上特定の權利侵害を必要としないというふうに申しておりまするから、それでこの第一條は特別法でありまして、民法の不法行爲の章の中に規定されておりまする十百九條の場合とは違うのでありまして、特に違法性を必要とする趣旨を條文の上に明らかにいたしたに過ぎないのであります。要するに現行民法の不法行爲に關する規定と同じ趣旨であるということは、政府委員から御答辯申上げた通りでありまして、御承知を願いたいのであります。ただ具體的な實例を示されてお話に相成りますると、これは非常にデリケートでありまして、お答をいたすのに非常にむずかしくなつて參るのであります。どんなに具體的と申しましても、現實の事實でない限りは、いろいろな條件について考えなければならんことに相成りまするので、お答をいたすのに非常に困難を感ずるのでありまするが、お示しになりましたような、客観的に犯罪を疑うべき何らの根據がないのに檢事が檢擧をした、拘束をした。そうして起訴前に釋放した。そういうふうな場合に本條が當て嵌まるかという御質問でありますが、そういう場合が若し假にあつたとすれば、當然それは違法なる行爲でありまして、決して檢事であるから、一應犯罪があるかと疑つて、亳も的確な根據がないのに疑つて檢擧をするというようなことは許さるべきことではないのでありまするから、これは當然本條によつて損害の賠償をしなければならん場合に該當すると思うのであります。併しながら苟くも正當な根據がありまして、犯罪の嫌疑ありと思料することが一般的に許されると考えられる條件の下においてやりまするならば、これはどうも違法と申すわけには行かんと思うのであります。適法行爲でありまするから、本條によつて賠償を負うことはできない。けれども憲法第四十條のいわゆる寃罪者の賠償というものは求めることができる。こういうことに相成ると思うのでありまして、無論その具體的の例の場合は、いろいろの場合に分けて詳密に考えなければならんことになります。答が餘り概括的に過ぎると思いまするが、そういうことに御承知を願いたいと思います。
#5
○鬼丸義齊君 昨日も私は政府委員の方に申上げたのでありまするが、憲法第四十條の結果としまして、刑事訴訟法改正を機會に、寃罪者の損害賠償について只今の刑事訴訟法を改正されて萬全を期するという先般の大臣の御答辯がありましたが、私は起訴後であると起訴前であるとに拘わりませず、同じくこの不當拘束によりまする損害の賠償というようなことにおきましては、大體同質のものであろうと思いはす。ひとり檢事の場合のみでなく、警察の場合におきましても、その他強制力を用いますることを許されたる類似のやはり不當拘束事件等でありまするものは、一括いたしまして、同一行爲によりまする規定によつて統一されることの方が、混乱を避けられるばかりでなく、國家意思の統一を圖り得るものと思います。それはこの賠償法に、更に一括してすべての國家賠償というようなふうにすることも亦一策でありまするが、別に定めりとしまするならば、そうした不當拘束に關しまするものは、大體すべてその一つの法律の範疇において規定をするということにいたしたらどうかということを、昨日も御研究願うことに申上げて置いたのであります。大臣の御所見はどうでありましようか。
#6
○國務大臣(鈴木義男君) 可なり鬼丸委員の御質問はデリケートな問題でありまして、私共はできるだけ國民の權利侵害に對して、精神的に物質的に損害を賠償するということを希望いたしておるのでありまして、さればこそこの種の法律も提案いたしたのでありまするから、御質問のような場合も、いわゆる寃罪者賠償法、刑事訴訟法を改正いたしまする際に、詳密に研究をいたしまして規定をいたしたいと、こう存ずるのであります。
#7
○松村眞一郎君 私は只今の大臣のお答えでは了解いたしかねます。その意味は、違法にということと、適法にということについての解釋が、私は大臣と御所見を異にいたしておるのであります。大臣は只今の御答辯では、犯罪ありと考えることが一般的に根據ありと思わるるときは適法行爲である、こういうことを今おつしやいました。一般的にそれが根據ありと認むることは、誰が決めるのですか、それを伺います。
#8
○國務大臣(鈴木義男君) 一般的と申したかどうかちよつと忘れましたが、客觀的にというつもりなのであります。私の氣持では、要するに問題となりました場合に、結局裁判によつて裁判官の御認定に俟つ外はないと思いますが、この程度の根據があれば、犯罪ありと疑われても止むを得ないという條件がありますれば、いわゆる根據ある場合、人違いとか、單なる流言に惑わされて檢擧に著手したというようなことは、客觀的に根據ありと言うことはできないと思うのであります。そういう意味においてのつもりの根據という意味であります。
#9
○松村眞一郎君 それでは極めて不明確であると思います。今大臣のおおせられたことでありますると、この程度なれば犯罪の疑があると思うことが正當であるという、そういう判斷を裁判所ではできないと思います。この程度であるならば犯罪あることが疑あるというような裁判は司法裁判所ではできないのでありまして、裁判所が裁判をするのは、有罪か無罪かということしか判斷いたしません。その行爲が疑あるかどうかというようなことは、何も要求していない。犯罪が有罪か無罪かということを裁判所では決めればよろしいのであります。要點はこういうことであります。檢察官が犯罪ありと思料した、それが無罪であつたときはどうか、これが要點なんであります。疑があつたかどうかという問題ではないのです。勿論疑あると思うから檢擧することは當然であります。檢察官が檢擧しました場合に、大臣の議卒でいうと、客觀的に見て疑ありと思われる、その疑ありと檢擧した場合に、裁判所が無罪とした場合に責任があるかどうかという點である、極めて簡單なんです。デリケートでもなんでもありませす。すべてを綜合して犯罪が何人でも、何人と言つてはおかしいのですが、世間の、大臣の言われる一般的に見て、客觀的でもよろしい、客觀的に見てどうも犯罪がありそうに思われるから、それで檢察官が告訴した。ところが裁判所で無罪となつた時に、それに對して國家が責任があるかどうかということを、ただ簡單に伺つておるので、デリケートでもなんでもない、その問題をお答え願えればいいのであります。どう見ても萬人が……萬人といつてもいい、どうも疑わしい、犯罪があると思う方が尤もらしいというので檢擧した。ところが裁判所は無罪と判決した。その場合に國家は賠償の義務があるかどうかということを簡單に伺うのです。ありますか、ありませんか。
#10
○國務大臣(鈴木義男君) それは寃罪者賠償法による賠償の義務があります。この條文による賠償事案に該當するかどうかは、先ず大體はなかろうと思いまするが、具體的な場合において稀にないとは保證できませんから、それは具體的な事實に即しないと判斷がむずかしくなつて來ると思うのでありますが、はつきりどつちかに決めろとおおせられますれば、先ず餘程でなければ客觀的に見て犯罪の嫌疑ありと見られない場合に檢擧するというような檢事はなかろうと思います。御杞憂のような場合はないと思いまするが、そういうふうなお答えをいたして置きます。
#11
○松村眞一郎君 甚だ私は大臣の答辯は不明瞭であると考えます。私はそういうデリケートなことを言つておるのじやない。端的なことを言つておる。いろいろの状態から見て被疑者が犯罪人であると思うことが尤とも思われるとき、それを裁判所が無罪とやつたときに賠償の義務があるかないかという、具體的の問題でもなんでもない、理論を聽いておるのです。
#12
○國務大臣(鈴木義男君) 賠償の義務はありませんとお答え申上げるのであります。
#13
○松村眞一郎君 私はありますというのです。裁判所が無罪と決めておるのに、檢擧したならばそれは違法でありましようか、適法でありましようか、どういうわけで適法でありましようか。
#14
○國務大臣(鈴木義男君) それは檢事が職權に基ずいて檢擧したのでありまして、少しも違法の行爲ではありません。私自身の經驗からいたしましても、幾多の裁判において無罪の判決を得ましたが、併し一應疑われる根據のあつた事件でありまして、全く根據なき事件というのは殆んどないのであります。そうすれば檢事は違法に起訴したとか、檢擧したとかいうことは言われないのであります。全く人違いをして、本當に空中樓閣を夢みて起訴したという場合の外は、ちよつとそういう場合は見當らないのじないかと思います。
#15
○松村眞一郎君 全然私と大臣とは意見を異にしておるのでありますから、そういう場合は、大臣は適法だという御解釋ですね、私は違法だと思います。意見が違いますからそれは解釋論です。凡そいかなる疑があつても、裁判所が無罪とやつた場合におきましては、檢擧が問違つておるので、それは私は違法だと思います。どうして適法でありますか、そういうことは書いてありません。刑事訴訟法には、「檢事犯罪アリト思料スルトキハ犯人及證據ヲ搜査スヘシ」とありまして、ありと思料したが、なかつたらこれは違法であります。私は違法と考えます。それは賠償の關係で申すのです。賠償關係で今度のこれで賠償いたしますのは、そういう場合に賠償させる必要があるから今度法律を作るのであつて、大臣のようなことをおおせられますならば、殆んど賠償は取れません。およそ常識のある檢察官として、疑のないときに檢擧するということはありません。そういうことが私は間違いだと思います。凡そ檢察官の職におる者は、常識を持つておれば、客觀的に見て犯罪ありという疑があるから檢擧する、告訴するのです。大臣がそんなことを言われたら、全然賠償の場合はありません。大臣はないことを想像されておるのですが、そういうことをやるわけはないじやありませんか、凡そ檢察官として……、だから疑わしいところを、それは適法なんだと從來は考えておるけれども、この賠償法の適用においては違法になる。それでなければ行政訴訟は成立ちません。今まで行政訴訟をやつておりますときに、租税の法規で行政裁判に付しますときに、納税令書を出します税務署は、適法なりとして出しておるのです。ところがそれが課税すべき義務がないのだから、これは違法なんです。誰も惡意で税金を課する者はありません。すべてそういうものなんです。違法とか適法とかいう問題は、客觀的に裁判所が決めることであつて、大體を見て違法であるとか、適法であるとかいう判斷以外に、裁判所がここに判斷と加えるということは間違つておると思います。全然大臣と所見を異にしておるということを申上げて置きます。
#16
○鬼丸義齊君 起訴後において、裁判の結果無罪となりまするならば、故意とか過失とか或いは客觀的に疑を容れるに十分だというふうな問題が起るのではなく、その無罪という一つの結果を得ただけに對して、國家が賠償することに補償法もなつておりまするし、又憲法四十條の規定によつて見ましても、やがて改正さるべきものであります。その場合においても當然そうした規定ができるものと豫想いたします。ところがそれに比べまして、檢事が客觀的状況から見て、疑をかけるに當然であるというふうなことに基ずいて、搜査を開始し、勾留したというような結果、無罪となつても責任なしとするならば、起訴前の場合を起訴後の場合に著しくつて參ります。そこで昨日私の方から政府委員に伺いましたところが、ともかく檢事が犯罪ありと考えて、そうして搜査に著手し勾留をして、調べた結果は無罪であつたとするならば、無罪者を勾留すること自體がすでに違法である。その場合はやはりこの賠償法によつて賠償するというふうな御答辯を頂きましたについて、それだといたしますと賠償の場合が非常に多くなると同時に、この違法という文字の趣旨が私共に理解できない。そういうようなところから本日お確かめいたしたのであります。果して私の心配いたしておりましたごとくに、檢事の搜査の開始竝びに勾留というものが、客觀的に疑を容れるに十分であるというような場合に、檢事の活動となり、勾留をした。併し調べた結果無罪となりました場合に、賠償されないといたしましたならば、私共が昨日伺いましたこととその點が大變違つて參るのであります。昨日の速記録もございますが、幸い政府委員御臨席でありまするから、殊更それを讀み上げるまでもないと思いますが、その點に對しまする大なる不安を持ちました故に重ねて本日伺つたのであります。私の不安は果して大臣から只今御答辯のありましたごとくに、客觀的に犯罪の嫌疑あるものと見るのが相當だというふうな事情を備えたことによつて、捜査を開始し勾留をいたしました。併し調べたところが罪なかりし者であつたというような場合には、いわゆる第一條の違法ならざることに當るのだ、こういうように御答辯で私了解したのであります。そこでいかにもそういうことになりますると、起訴前と起訴後におきまする賠償の場合が大變違つて參ります。それ故に私はこのすべての寃罪による不當拘束というものを一律にして、起訴後は故意とか過失とかいうことを詮議するに及ばず、その無罪それ自體によつて賠償するということであるが、その前は檢事の活動に客觀的嫌疑をかけるに十分な事情を備えた場合には、賠償なしということでありまするならば、大變なそこに差違ができて參りまするのみならず、賠償を受けまする場合が、極めてこれによつて限局されて參ることと思います。ここにいわゆる違法なりや違法ならずやということは、そうしたいわゆる公權力行使の公務員の行爲が適法なりや否やということに、私共は了解してよろしいのでありまするか、重ねて一つ伺いたいと思います。
#17
○松村眞一郎君 大臣の御答辯前に私は發言したいと思います。私は今鬼丸さんが大臣に頻りに質問されますけれども、私は國會が立法するのでありますから、大臣がどういう御解釋をお取りになろうと、我々は自己の信ずる所によつて立法する考であります。私は大臣と所見を異にしておる。凡そ違法なりや違法ならずやということは、裁判所の判斷の外はありません。それでありますから、大臣の考えておるような場合は、私は頭が極めて明確であります。國家が賠償するというのです。併しながら檢察官が國家に對して償う必要なし、何故ならば重大なる過失でないから……、こういうことになります。これは極めて明瞭に解釋しております。大臣の説を鬼丸さんはお聽きになりますけれども、大臣と私は所見を異にしておるのでありまするから、私は大臣の所見に關係なく違法ということは、無罪が決つた場合には違法になるということを固く確信いたしておりますから、原案はそれでよろしいと思います。大臣がどういう説明をされようと、原案がどういうものを出されようと、法律を作る者は我々でありますから、そういう場合には、我々は國家が賠償するものである、委員と委員との間に應答する必要はありませんが、今言われましたように、國家の賠償は非常に多くなるだろうというようなことを言われますが、多くなりません。檢事はそんな輕率なことはやりません。ただこういうことは言えます。賠償が多くなるから慎重に檢擧をせよ。こういう問題になります。それはいいことであるか、惡いことであるか、これは十分考えなければなりません。國家が賠償するということになりまするというとその職に當つておる公務員は非常に慎重に考慮いたします。併しながら慎重の結果、これが怯懦になつてはいけないということを、我々はこの賠償法において憂えるのでありますから、そこで重大なる過失でない場合は、國家に對して償うの義務なし。こういう保障を置けば役人は斷乎として自己の信ずる所によつて職務を遂行してよろしいと思うのであります。そうしてそれがために、國家の賠償が非常に多くなるというごとき疑いを私は全然持つておりません。この案でよろしいという考であります。
#18
○國務大臣(鈴木義男君) 松村さんの御見解は非常に立派な御見解でありまして、そういうふうに是非ありたいと思うのであります。大臣が何を言おうと、政府がどう言おうと、國會が御立法下さるのでありまするから、國會において獨自の見解で進まれることが、一番立派な御態度であると思うのであります。ただ先程から御議論を伺つていると、違法ということに對する考え方に喰い違いがあることは否定できない。できるだけ議論を好まない意味において、御答辯をする必要がないようなお言葉でありましたが、實際はこの法人の不法行爲能力というものは、學説の上では非常に議論の存するところでありまして、國家は殊に一つの法規範體系であるというような、新カント派の法律學者が主張するような立場を是認いたしますると、國家というものは不法行爲はできないのである、況んや犯罪をや。そこでやるものは單なる官吏という肩書を持つている自然人たる個人が、違法行爲をやるのであつて、責任を國家が代つて負うか負わないかという問題として考えられることになるのでありまして、そういうふうに考えて行けば、假にそういう説を採るとすれば、先程お話になりましたような檢事があるとすれば、その檢事個人の責任問題として論究できるのでありまして、結局は民法の適用で論ぜられることになると思うのであります。ただ學説がまだ決してそう決まつたわけでもありませんから、そこでできるだけ國民の權利を尊重する。そういう意味で特別法たるかくのごとき法規を作つたわけであります。できるだけ救濟する氣持を持つている。但し寃罪者、無罪者の判決を受けた者は、違法行爲に對しても寃罪者賠償法という法律によつて損害賠償は取れるのであります。無罪の判決を受けない内に許された者は、遺憾ながらそこに一線を引くわけに行きませんので、立法上いろいろ決して見ても、どこかで線を引かなければならん。結局は、無罪という判決が出た場合には、適法なる行爲に對しても損害を補償する。こういうことにいたしたわけでありますから、その場合と均衡が取れないということについては、私も遺憾に存じまするが、併も程度の重き者は、殊にその檢事その人の故意、過失を疑われるような者は、この條文によつてやはり損害の賠償を要求することができるのだ、こう解釋願うことによつて、十分に國民の權利が尊重されるのではないかと存ずるのであります。
#19
○松村眞一郎君 私はここで法律論を討わす必要はないと思いますが、今法人に犯罪行爲ありや否やということを大臣が言われました。これは目的法人についての議論であります。法人は目的の範圍内において存在するという學説を採りまするならば、犯罪は目的の外でありますから、法人の行爲でないと言えましよう。それは會社とかいう法で作つた法人の話です。國家というものは法で作つたものじやありません。國家は目的法人でありますから、全法人であります。國家というものは全法人であつて、國家は犯罪をしないというようなことを考えるのは、これは、私は大間違いであると思います。ただ從來は、國は惡いことをしないという、そういうようなフイクシヨンで、國は犯罪行爲を背負わなかつただけの話で、行爲は嚴然としてある。國がやつたことは明暸であります。これは一番明暸なことを申しますと、これはよくあることですが、瀬戸内海において軍鑑が非常に早く走りますと、海岸に乾してあるものを流してしまうということがある。これは軍鑑の走ることが國家の行爲であるならば、これは國家の行爲がそういうものを流したということに見て差支えない。併しながら從來は賠償しませんでしたが、今度こういう規定ができれば、賠償することになる、こういうことでありますから、そういうことはすべて見解の相違でありますから、大臣の御親切なる御答辯によつて、我々の蒙を啓いて頂くことは非常に私は仕合せと存じます。併しながら我々はこの上は委員獨自の見解を以て進んで行くことが適當であるという意味におきまして、議事の進行の上からこれ以上大臣にいろいろなことをお聽きして、學説の相違を討わせる必要は私はないと思います。それ故に私は大臣の御答辯を求めません。
#20
○國務大臣(鈴木義男君) 丁度只今GHQから實は呼ばれておりまして、今行かなければならんのでどうか……。
#21
○松井道夫君 私は敢て大臣の御答辯を求めないのでありまして、民事局長でも、或いはどなたでも適當な方からお答え頂けば結構であります。私はこの第一條の不法行爲の要件が、民法の不法行爲の要件を書き換えたものであつて、その實質は同じであるというように拜聽したのであります。それでそれに信頼いたしまして、第一條は結構な規定であると、かように存じておつたのでありまするが、深く考えて参りますと、疑問なきにしもあらずなのであります、それで民法の原則によりますと、故意、過失を證明いたしまして、それから權利侵害を證明する民法の權利侵害という言葉が、適當でないかどうかは、これはまあ疑問でありまするが、假に不法行爲……法律上保護される利益を權利とかように見まするならば、民法の表現で結構分ると存じまするが、とにかく權利侵害を立證さるるならば、それは一應違法の行爲であるという工合に見られまして、被告の方でその違法の阻却原因があることを立證して來なければならん。かようなことに相成ると了解しております。ところがこの第一條について考えますと、只今私が申考しました民法の原則と同一でありますならば、先程申しましたように文句はないのでございまするが、假に實例を今問題になつておりまする不當勾留の場合について考えて見まするに、私は檢事がその職務行爲と稱して國民を逮捕、監禁いたしたということを立證さえいたしますれば、それで故意がすでにある、こういうことに相成ると存ずるのであります。それが民法の原則であると信ずるのであります。それで檢事側、國家側といたしましては、それは適法に刑事訴訟法の規定により逮捕監禁したものである。刑事訴訟法の逮捕、監禁の要件はこうこうであつて、それに該當すると信ぜられるこうこういう事實があつた。それで逮捕監禁したのであるということを主張し、立證しなければならない。それからその事業が無罪に窮極においてたつたといたしまして、その違法を阻却いたす諸事實を認識する上において、過失がなかつたということも立證しなければならない。かように考えるのであります。苟くも行爲の違法であるかどうか、客観的に見てその逮捕監禁したということが違法であるかどうかということは、只今松村さんが言われたように、窮極において犯罪行爲のない者を逮捕監禁したということは、これは客観的に違法であると存ずるのであります。但しその違法を阻却する原因があれば、今のようにそれを國家側で主張、立證しなければならない。さように存ずるのでありまして、この第一條に書いてある故意、過失、これは民法の原則による故意、過失であれば問題ないのでありまするが、ともいたしますとこれを違法性阻却事由を認識しないのに拘わらずやつたということは故意と解される虞れはないか、これは勿論違法阻却事由を認識しないに拘わらずやれば、これは職權の濫用でありまして、勿論問題ないわけでありますが、これは併し違法阻却事由の側におきます故意であつて、民法のいわゆる故意、過失といつた故意とは違うのであります。又過失についても違法阻却事由を認識する上において過失がある。さような意味の過失ということに解釋される。或いは誤解される虞れはないか、さように考えるのであります。要するに私の懸念いたし、且つ御質問申上げる點は、くるめて見ますれば冒頭に申しましたように、この第一條の原則が民法の不法行爲の原則と同じ要件を書いたものであるかどうか。それから具體的に申上げますれば、只今の例で申上げたように、これを不當勾留の場合に例を取つて言えば、基本的人權を侵害された。要するに逮捕監禁されたという事實を立證するか、又進んで無罪になつたというような事實も立證する。この無罪になるならんということは、これ亦多少問題でございまするが、いずれにいたしましても一方は逮捕監禁されたということを立證し、自由權の侵害、それで損害を被つたということを立證いたします。一方は適法なる檢察權の行使として刑事訴訟法の規定に從つて、その要件に從つてやつた行爲であつて、その要件に合すると信じた點について過失はないということで、被告側、國家側においてそれぞれ立證するという段取に相成るのではないか。さような點をお尋ねいたすのであります。
#22
○政府委員(佐竹晴記君) 大臣竝びに局長より從來御答辯申上げております通りでありますが、前から關與いたしておりませんために、つい齟齬をいたしまする場合があれば、前の大臣竝びに局長の答辯の通りと御了承を願いたのであります。
 私ちよつと聽取り得ない點がございましたが、例えば故意に犯罪ありと信じて被疑者を勾留する、その時に別個に違法の問題を考うべきか否や、その場合においても尚違法を別途に考慮すべきもののごとき前提を以て御説を立てておるように、どうも聞えましたのでございますが、故意に人權を蹂躙して拘束をいたしました場合に、勿論これは違法でありますことは申上げるまでもないのであります。違法阻却の原因のないことを認識して人權を蹂躙する、勿論これは故意であると同時に違法であるのであります。而してその違法阻却の原因のないこと、即ちこれは自分の職權内でないこと、或いは逮捕する正規の法律上の手續を踏まないで、違法に人の體を留置場へ拠り込んだ、これは全く故意でありまして、故意であると同時に手續を踏んでおりませんから、勿論違法であります。ただ解釋を誤りまして、適法だと信じてやつたが、注意を缺いた、實は拘束し得べき場合でないのに拘わらず、拘束し得べきものと誤信した場合、その誤信が一般的に客観的に見て、何人が見ても、それはそう解釋するのが當り前であると解釋するか、いやそれはどうも甚だしい誤りであつたと見るか、このことによつて過失のあるかないかが決せられますることは、私より申上げるまでもないしであります。從いまして故意、過失によつて違法にと書いてはありますが、この「違法に」と書いてあるのは、そう強い意味に御解釋頂きませずに、民法の原則と大體において相違ないもの、特に特別法であります關係で、この國家賠償法の性格を明らかにする意味において、「違法に」という文字を加えておりますけれども、併し民法の原則とその點においては別に相違ないものと御解釋を賜わりたいと思うのであります。而してその「故意又は過失」の立證についても、身法及び民事訴訟法の原則と異なるところはありません。これは故意、過失のあることを主張する側において立證しなければならないことは原則でございまして、これを免めるものは免れるだけのことを反證し、又反對の主張をし、反證を擧げなければなりませんことは、これ亦同樣でありまして、その意味においても、民法及び民事訴訟法の原則と殊更に異なつた原則を立てているものでないということだけ御了承賜わりたいと存じます。
#23
○松井道夫君 只今の御答辯は民法の原則と異なるものではないということで、その點は從前通りでございまして、了承いたすわけなんでありまするが、その實際の適用に當りまして、公權力の行使という特殊な事實から、いろいろ立證責任その他が轉換されるというようなことで、要するに國家賠償法が皆さんが心配していらつしやるように、国家不賠償法になりはせんか、かようなことを恐れているのでありまして、實は只今の質問は、私民事局長がおられるものと思いまして、從來の關係から民事局長に御答辯をお願いするつもりでありました。私といたしましては、只今の御答辯には滿足できませんので、又民事局長の出席を求めました後質問いたします。
#24
○委員長(伊藤修君) 本日はこの程度で質疑を打切りまして、散會いたしたいと思います。
   午前十一時三十七分散會
 出席者は左の通り。
   假委員長    伊藤  修君
   委員
           松井 道夫君
           大野 幸一君
           齋  武雄君
           鬼丸 義齊君
           岡部  常君
           小川 友三君
           來馬 琢道君
           松村眞一郎君
           阿竹齋次郎君
  國務大臣
   司 法 大 臣 鈴木 義男君
  政府委員
   司法政務次官  佐竹 晴記君
   司法事務官
   (民事局長)  奧野 健一君
ソース: 国立国会図書館
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