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1947/07/26 第1回国会 参議院 参議院会議録情報 第001回国会 司法委員会 第4号
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1947/07/26 第1回国会 参議院

参議院会議録情報 第001回国会 司法委員会 第4号

#1
第001回国会 司法委員会 第4号
  付託事件
○國家賠償法案(内閣送付)
○刑法の一部を改正する法律案(内閣
 送付)
○昭和二十一年法律第十一号(弁護士
 及び弁護士試補の資格の特例に関す
 る法律)の一部を改正する法律案
 (内閣提出)
○岐阜地方裁判所多治見支部を設置す
 ることに関する請願(第十一号)
○帶廣地方裁判所設置に関する陳情
 (第四十九号)
○刑事訴訟法を改正する等に関する陳
 情(第六十号)
○民法の一部を改正する法律案(内閣
 送付)
  ―――――――――――――
昭和二十二年七月二十六日(土曜日)
   午前十時五十四分開会
  ―――――――――――――
  本日の会議に付した事件
○昭和二十一年法律第十一号(弁護士
 及び弁護士試補の資格の特例に関す
 る法律)の一部を改正する法律案
○國家賠償法案
  ―――――――――――――
#2
○委員長(伊藤修君) 大変お待たせいたしました。これから委員会を開きます。
 政府より付託せられました昭和二十一年法律第十一号(弁護士及び弁護士試補の資格の特例に関する法律)の一部を改正する法律案、この法案を上程いたします。先ず政府委員の提案理由の御説明を願うことにいたします。
#3
○政府委員(國宗榮君) 只今上程せられました昭和二十一年法律第十一号の一部を改正する法律案の提案理由を御説明申上げます。
 終戰後滿州から引揚げた人々の中には、我が國の高等試驗司法科試驗に、合格した後、滿州國に参りまして司法官となつた人々が若干あるのでございます。この人々は同國の司法官としまして相当年月の径驗を積んでおるのでありまするが、何分外國の裁判官又は檢察官であつたため、当然には我が國の裁判官又は檢察官のみならず、弁護士の資格をも有しないので、帰國いたしましても直ちに司法事務の從事することができず、精神的、径済的に悩んでおる実情であります。この法案はこれらの人々に我が國の弁護士たる資格を與えることによりまして、その経驗を活用し、併せてこの人々を救済しようとするものであります。
 立法の形式は、既に存しまする昭和二十一年法律第十一号の一部を改正する方法を取りました。この法律は、朝鮮弁護士令によつて弁護士及び弁護士試補の資格を得た引揚者に、弁護士審査委員会の銓衡を経て、弁護士又は弁護士試補たる資格を與える弁護士法の特令であります。
 この法案の内容は、弁護士法第三條の試驗即ち高等試驗、司法科試驗に合格した後、滿州國の司法官の職に在つた引揚者で、先程申上げました弁護士審査委員会の銓衡を経た者には、弁護士法第二條第一項第二号の規定に拘わらず、即ち弁護士試補として一年六月以上実務の修習を了え、考試を経ないに拘わりませず、弁護士たる資格を付與しようとするものであります。この人人は既に我が國の高等試驗、司法科試驗に合格して後、更に滿州國において我が國の從來の司法官試補に相当いたします学習法官として実務を修習し、審判官又は檢察官の職に就いていた者でありますので、この事実及び滿州國の法律が、大体我が國の法律と同一系統のものであつたこと等を考えますと、法律的素養の点では、実質的に我が國の弁護士試補の修習を了えた者と同視して差支えないと思料するのであります。
 尚弁護士審査委員会の銓衡を経ることといたしましたのは、愼重を期しまして、人物、実務その他各方面よりの十分な審査を行い、資格付與に遺憾のないことを期したためであります。
 何卒愼重審議の上、速かに可決せられんことを希望いたす次第であります。
#4
○委員長(伊藤修君) それではこれより質疑に入ります。
#5
○小川友三君 この精神が、日本の試驗方法と同一視して差支えないという只今政府委員の御説明でありましたので、それに加えて愼重を期して、弁護士審査委員会にかけまして、適任者を選ぶという方法がついておりますので、本案に対しまして賛成するものであります。
#6
○松井道夫君 ちよつとお尋ねしたいのでありますが、この改正法律によつて、弁護士の資格を有した者が、弁護士の職務を数年乃至十数年やつた、かような場合に、裁判所法第四十一條乃至第四十四條によりまして、判事に任命されることのできる資格を有する者であるかどうか、その点をお示し願いたいと思います。
#7
○政府委員(國宗榮君) 只今の御質問にお答えいたします。裁判所法施行令の第十條によりますというと、裁判所法施行の当時におきまして弁護士たる資格を有するものでありまして、それが施行後三年の期間弁護士の職務にあるという者に対しまして、判事補たるの資格を與えておるのであります。その外に、今回の法律によりまして、新らしく弁護士の資格を與えんとするものに対しましてはなんらの規定がございません。その当時弁護士たるの資格を有しておりません。從つて判事補たることも‥‥從つて檢察廳法の附則の第三十一條によりまして、同様の意味合から檢察官となることも、弁護士たる職務に在職したるということのみを以てはなり得ないのであります。併しながら、司法事務に多年経驗を積んだとか、学識経驗があるという点から、簡易裁判所の判事に任用されることがあります。簡易裁判所の判事といたしまして、審判官といたしまして、十年の期間を経過いたしますと、判事又は高等裁判所の長官に任用されるところの資格を得るのであります。又檢察官につきましては、我が國の司法科高等試驗に合格しておる者でありますから、これらの者は副檢事に採用される資格を持つております。副檢事に採用されました後三年を経過いたしますと、一定のコースを経まして二級の檢事に採用されることに相成ります。その途は開かれておりますけれども、弁護士に在職しておつたということだけでは、直ちに判事補又は檢事に採用されることは、先程申上げました裁判所施行令の第十條と檢察廳法の附則の第三十七條の規定によりまして、できないということを申上げます。
#8
○松井道夫君 朝鮮の弁護士の資格を有する者で、この昭和二十一年法律第十一号によりまして、裁判所法施行の以前から弁護士たる資格を有しておりますので、從つて弁護士に在職年数が三年に裁判所法施行後達しまするならば、これは当然裁判所法四十一條乃至四十四條によつて判事になり得る資格を有することになると存じます。只今問題になつておりまする滿州國の審判官乃至檢察官の職に在つた者は、先程詳細提案理由の御説明にありましたように、内地の司法科高等試驗を合格いたしまして、滿州國に参りまして司法官試補に該当する学習法官の修習を一年半余も受ける、更にその後審判官、檢察官といたしまして日本人の裁判檢察に当つておつた者でありまして、この朝鮮の弁護士の資格を有しておつた者と区別いたしまして、只今の問題になつております審判官、檢察官に何年弁護士をやつておりましても、当然には判事、檢事に採用されることができないということでありますことは、非常に権衡を失することであると存ずるのであります。成程只今の御説明のように、特別の銓衡任用手続で、簡易裁判所の判事或いは檢事に任用できるという途は開かれておるのでしようけれども、これは当然の権利として要求できるものではないのであります。
 そこで、私のお尋ねしたいと存じますことは、今の満州國の審判官乃至檢察官であつた者と、それから今の朝鮮の弁護士の資格のあつた者と比べまして、満州國の審判官乃至檢察官の方の素質が惡いとお認めになつておるものかどうか、審判官、檢察官の職に在つた者に対しまして、今の裁判所法四十一條乃至四十四條の適用を受け得る規定を設けることが適当でないと考えられておるものかどうか。若しもさような意見でございませんでしたならば、何らかの法案の修正によりまして、今の満州國の審判官乃至檢察官でありました者が、司法修習生の修習を了えたものとみなすといつたような規定を設けまして、この人達を当然の権利として永年弁護士を日本においてやりました暁に、判事、檢事に任用して戴けるという途を開くことができないものかどうか。その点についての御見解御意見を拜聽したいと思います。
#9
○政府委員(國宗榮君) お答えいたします。只今の御質問は誠に御尤ものことと存ずるのであります。朝鮮弁護士で以て昭和二十一年の法律第十一号によりまして、内地におきますところの弁護士の資格を與えられた者が、五月三日以前にその資格を取得した場合には、先程御説明申上げましたように判檢事になり得る機会が與えられておるのであります。今回の場合におきましては、五月三日以後にこれが該当いたしますので、先程申上げました施行令並に檢察廳法の関係から、どうしても直ちに判檢事になり得る資格を與えることができないような方針になつております。この点につきましては、満州國の檢察官或いは審判官であつた者と朝鮮弁護士であつた者との間に差異を設けたように考えられますけれども、今後とも朝鮮弁護士であつた方々で、内地の引揚げられました者につきましては、同樣な関係を生ずるのであります。先程御質問にありましたように、その素質に両方に差異があるというふうには私共は考えておりません。殊に昭和二十一年の法律第十一号は、朝鮮から帰られました、引揚げた方々を我々司法部において仕事をして貰いたい、同時に、この方々の救済の趣旨のためにできた法律でありまして、檢察廳法並びに裁判所法施行令によつて、その点においてこの点を予想していなかつたとも考えられますので、かような不都合な規定になつたと存ずるのであります。この点につきましては、私の方におきましても十分に尚一層研究いたしまして、この五月三日前に資格を回復された方と、五月三日後の方との間の差別を成るべく撤廃したいというふうに考えております。
#10
○松井道夫君 この法律案を多少修正いたしまして、將來というのでなしに、直ちにそういつた仰つしやる工合に救済方法を講ずることはできないものでしようか。
#11
○政府委員(國宗榮君) 何分にも檢察廳法或いは裁判所法というのは、大きな法律に関係いたしておりますので、今直ぐそういうふうに取計ろうことは如何かとも考えられます。
#12
○松井道夫君 これを修正いたしまして、そういう工合にできるようにするということでありましたら、政府といたされまして、これを反対するという強い意味でございましようか。
#13
○政府委員(國宗榮君) 別に強い意味ではございません。
#14
○委員長(伊藤修君) 他に御質疑はございませんか。
#15
○松井道夫君 私はこの法律案には非常に敬意を表して賛成しておるのでありますが、只今質疑の中にありました意見のように、何とかして急速に、これらの方々に当然受けられて然るべき待遇が、受れられるようにさして上げたい、かように存じておるのであります。それでその点につきまして、尚突き進みまして、司法当局乃至は衆議院の司法委員会、乃至國会の各派の意嚮も聽いて見たいと思つておりますので、これは裁判所法、重大な法律に関係いたしますることでありまするけれども、御承知の通りその現実の規定は、裁判所法施行令によつて規定されておりまして、これは政令の改正、今の施行令の改正でもできることなんでありますから、法律でその点の救済の規定を設けまするならば、これも勿論適法であるのであります。でありまするから、私はこの際この程度で今日は議事を打切られまして、次の機会にその審議を更に続行せられたいということの動議を提出いたします。
#16
○委員長(伊藤修君) 只今の松井さんの動議をお諮りする前に、ちよつと一言お質問いたしたいと思います。
 さつきの朝鮮弁護士の特例に、弁護士も同列に置いてあるのですが、満州國には弁護士で救済すべき人はあるのかないのか。
#17
○政府委員(國宗榮君) 満州國には例の律師というものがございます。これに該当する者は現実にはいないのであります。全部こちらの弁護士法による弁護士の資格を有する方が向うに参られまして、そうして律師の職務に当られておりまして、現実に救済する方はないのであります。
#18
○委員長(伊藤修君) いま一点伺います。又後日、他の方面の占領地とか或いは蒙古とか、ああいう所に派遣されている司法官で、こういう救済をするという必要が生じて來る場合があるかどうか。満州國と特定に法案を限らずに……
#19
○政府委員(國宗榮君) 蒙疆にも全部こちらの判檢事又は弁護士法による弁護士の資格を有する方が行つておられまして、現実に向うで以て、そういうふうな資格を有せられている方は一人もいないのであります。それから朝鮮は、昭和二十一年の法律第十一号によりまして救済規定ができております。台湾におきましては、台湾の裁判官並びに檢察官は、裁判所構成法の資格を有する者に限られております。弁護士も、弁護士法による弁護士の資格者に限られております。南洋におきましては、全部こちらの資格ある者が行つております。將來外地からの帰還者につきまして、今後かような救済方法を取る必要はないと、こういうふうに考えております。
#20
○委員長(伊藤修君) 只今松井さんからこの程度で打切つて、後日審議なさるということの御動議に対して如何でございますか。
#21
○委員長(伊藤修君) それでは松井さんの御動議に賛成の方多数と認めますから、この程度で法案に対する審議は打切ります。それでは休憩いたします。
   午前十一時十八分休憩         
   ―――――・―――――
   午前十一時二十八分開会        
#22
○委員長(伊藤修君) それではこれより休憩前に引続いて委員会を開きます。
 國家賠償法案を上程いたします。これは御承知の通り予備審査で付託されている次第でありますが、先にこの法案に対する御説明を伺つたのですが、尚もう一度本日政府の御説明をお伺いすることにいたします。
#23
○政府委員(奧野健一君) 只今司法大臣が衆議院の方に行つておりますので、私が代つて御説明を申上げたいと思います。
 只今議題になりました國家賠償法案は、新らしく憲法十七條におきまして「何人も、公務員の不法行爲により、損害を受けたときは、法律の定めるところにより、國又は公共團体に、その賠償を求めることができる。」という規定がありますので、この規定に基く法律として立案いたしたのがこの賠償法案であります。
 御承知のように、従來におきましては、國又は公共團体がその公権力の行使によりまして、損害を生ぜしめた場合におきましては、國家に賠償責任がないという学説、判例になつておつたのでありますが、いわゆる民主的な思想から言いますと、國家公権力の行使といえども、その公務員の不法行爲によつて損害を受けた者は、國家に賠償を求めるべきであるというところから、只今読み上げました憲法の十七條ができたのであります。ただ従來公務員の不法行爲につきましては、戸籍法でありますとか、或いは不動産登記法でありますとか、その他特別法に、被害者がその救済を求め得る道を開いておつたのでありますが、それでは不十分でありまして、その他の國家或いは公共團体の公権力の行使の場合に、損害を被つた者の救済の途はなかつたのでありますが、今回この法律が実施になりますれば、廣くすべての場合において、國家又は公共團体の公権力の行使に当つて、損害を被つた者に賠償請求権を認めることになつた次第であります。
 そこで、大体條文に当りまして御説明を申上げますならば、第一條が主たる條文でございます。即ち従來は公権力発動によつての損害を被つた場合に、損害賠償請求権がないという学説、判例を引いておりまして、「國又は公共團体の公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によつて違法に他人に損害を加えたときは、國又は公共團体が、これを賠償する責に任ずる」ということを明らかにいたしたわけであります。この故意又は過失によつて違法に他人に損害を與えるという行爲の内容は、大体民法の七百九條と同じ趣旨であります。即ち公務員が公権力の行使を担当しておる場合に、その職務を行うについて不法行爲があつた場合というので、即ち職務を行う際というよりはやや狭いのでありますが、その職務行爲自体によつてというよりも、やや廣く、その職務を行うについてという、要するに職務行爲と関連を持つ、いわゆる純然たる職務行爲自体でなく、又單に職務をやつておる際というのではなく、について、関連して不法行爲をやつた場合の損害であります。そうして故意又は過失という中には勿論軽過失も入るわけであります。ただここに御注意申上げたいことは、國家が賠償いたしますと、その場合に直接事実行爲をやりました公務員に対して求償権を求めておるのが第二項であります。公務員が國家に対して求償しなければならない場合は、故意又は重大なる過失があつた場合ということにしておきまして、即ち第一項によりますと、重大な過失がなくても故意又は過失があれば、國家自体は國民に対して責任を負担するのでありますが、國家がその事実行爲をした公務員に求償する場合には、公務員に故意又は重大な過失があつた場合に限ることといたしたのであります。これは、軽過失の場合でも、一々公務員が國家に対して求償義務があるということでは、公務員が職務の執行について臆病になつて、正当な職務の執行さえ十分に行えないことになることを恐れたわけであります。
 第二條は、道路とか河川とか、その他の公の営造物の設置又は管理に瑕疵があつたために、その結果、そういう営造物が倒壊をするとかいうことによつて他人に損害を生ぜしめた場合に、國又は公共團体がこれを賠償する責があるということを規定したのであります。この点につきはしては、従來古い判例におきましては、やはりこれは公法関係の施設によるものであるから、國家に賠償義務がないという判例がありました。又段々最近の判例によりますと、そういう場合には、民法の七百十七條で國家に賠償義務があるのだという判例もあります。即ち判例、学説も区々でありますので、そういう場合に國家に損害賠償の責があるのだということを二條によつて明確にしたわけであります。この二條がなくても、大体近頃の判例では、やはり民法の七百十七條で責任ありということになろうかと思いますが、これによつて明確にしたわけであります。
 第三條におきましては、いわゆる國又は公共團体が損害賠償の責があるという場合において、この費用負担をする者と公務員の選任監督する者とが違う場合があります。例えば河川或いは道路というような場合におきましては、その行政作用の主体は國でありますが、その費用の負担はその公共團体が負担するということになつております。その場合に公共團体が費用を負担するのでありますが、結局そういう損害賠償の義務ということも費用の一部分になるわけでありまして、費用負担者である公共團体が負担すべきが当然であります。従いまして、若し國家がこれを賠償すれば、費用として費用負担者たる公共團体に、更にそれの賠償を求めて行くていう二重の手間になるわけでありますので、むしろそれよりも直截明確に、費用負担者がその場合に直接被告となつて、損害賠償の義務に任ずるのだということを明らかにいたしたのが第三條であります。従來そういう場合に、費用負担者を被告にすべきか、或いは管理者である國を被告にすべきか、或いは双方被告にできるかというようなことについて、いろいろ学説が分れておつたのを明確にして、費用負担者が表に出て賠償義務に任ずるのだということを明確にいたしたわけであります。
 次に四條は、「國又は公共團体の損書賠償の責任については、前三條の規定によるの外、民法の規定による」というので、いわゆる損害賠償の時効の点でありますとか、過失相殺の問題、或いは胎兒が損害賠償できるかどうかていう問題は、すべて民法で決めるという趣旨でございます。
 第五條は、これは郵便法でありますとか、そういつたような特別に規定が他の法律にある場合は、その法律によるという、特別法の定めのある場合を予想した規定であります。
 第六條は、國家賠償の義務を認めておる國は、外國もいろいろ区々になつております。お手許に國家賠償制度に関する外國の立法例の参考資料をお渡しいたしておるかと思いますが、そういうように外國において区々でありますから、外國人が被害者である場合は、その外國人の國において同じような制度のある場合に限つて、我が國においても國家賠償の義務があるということにすべきであろうと考えまして、第六條がそれであります。
 その外、例えば損害賠償の請求権の時効でありますとか、或いは被害者の過失相殺の問題でありますとか、或いは損害賠償については、胎兒は既に生まれたものとみなすといつたような、民法の一般の規定は、ここに規定がないけれども、当然そういう民法の一般規定の適用があるのだという趣旨を現わしたのが第四條であります。
 附則は、個々的に今まで戸籍法とか、或いは不動産登記法でありますとか、民事訴訟法の行政執行に関する場合の執達吏の責任でありますとかいつたようなものはすべて削除して、この法律によつて救済を求め得るということにいたしたわけであります。
 以上が大体であります。
#24
○委員長(伊藤修君) それではこれより質疑に入ります。
#25
○小川友三君 今の國家賠償法の御説明を詳細に亘つて戴きまして、誠に感謝に堪えない次第であります。特に第一條に「國又は公共團体の公権力の行使に当る公務員が、」という規定がありすが、現在陸海軍病院が國立病院に編入になりまして、特に神経病科は、公権力を行使して、これを治療するというような状態に入つておるのであります。そこでこの場合におきまして、その職務を行うについて、故意又は過失によるということがありますが、今の國立病院を本員が視察をして見ますると、誠に設備不完全でありまして、例えばサルパルサン、俗に言う六〇六号、化学的に言うとアルゼノベンゾール・ナトリウム、これが一ケ年以上たちますと、空氣が入つて変質をしておつて、毒藥の砒素に変化して参ります。それを注射すると、注射しておるうちに、三三分のうちに死んでしまつて、これは医者が心臓麻痺として葬り去る場合が非常に多いのであります。それから下剤として、甘汞に重曹を混ぜますと昇汞という猛毒ができまして、それによつて直ちに心臓麻痺で死んでおる。或いはストリキニーネを、〇・〇一グラムが極量であるのを、間違つて〇・一グラムと書いて、これ又一分間で死んでおる。或いはヘロイン・モルヒネの量を間違つたために、モヒの中毒患者が枚挙に暇がない程出ておるような現状でありまして、こうした場合の多くが、その國立病院に試驗所がない、設備不完全に起因するものでありまして、故意又は過失でなく、設備不完全に原因をいたしておるのであります。そうしますると、故意又は過失であるとして葬られるならば、医者並びに藥剤師、看護婦、歯科医師は、進退がきわまりまして、立身出世の道は止まり、左遷に次ぐに左遷、しまいには首切られるというような状態になるのであります。その原因が、医療機関に至りましては、設備の完全を期すということが必要なのでありまして、ここに「設備が不完全であつた場合は」ということをお入れ願いたいと私は希望するものでありますが、併し原案通り、何がなんでもこの際やりたい、この次にこれは入れようというお考えでしたらば、それでも賛成いたします。
 それから第二條でありますが、「道路、河川その他の公の営造物の設置又は管理云々」という言葉がありますが、空路のエア・ポケットに対する氣象通報を誤りまして、旅客機が落ちて、これに対する死傷があつた場合のことが書いてありませんので、徳川時代に帰つたようなこれは法律であります。空を忘れておる法律であります。そうした空路に対する氣象通報のエア・ポケットの問題も、これに入れて戴いたらいいんではないか、かように私は思うのであります。これに対しまして、お答えを願いたいと思います。
#26
○政府委員(奧野健一君) 空路の問題でありますが、地上施設即ち信号等の施設が惡いために、そういう事故が起つたという場合には、そういうやはり営造物の設置、管理に関する過失ということになつて、その場合には、やはり第二條の適用があろうかと思います。
#27
○鬼丸義齊君 この第一條によりまする公務員の職務を行うに当りまして、特に故意、過失ということがなければ賠償の責任なしということにつきまして、違法ということになりまするならば、殊更この「故意又は過失」ということを入れなくてもいいんではないかと思います。僅かな場合にはそういうことも想像できまするけれども、すでに故意或いは過失ありやということを、被害者の方で以て立証いたしまする上におきましては、非常な大きな不便を感ずることになります。第二條におきましては故意過失もなく、その瑕疵の一点によつて直ちに賠償の責を負うこととなりまするが、殊更第一條に限つて故意又は過失を入れて、而もその上違法に他人に損害を掛けたというならば、むしろこの故意過失というものを格別に入れなくても、違法に他人に損害を加えたというならば、それで十分じやないかと思います。この点について明らかにいたしてもらいたいと思います。
 それから更に、今度制定されまする國家賠償法は、これは勿論一般的のものを網羅せられておりますが、特別法といたしまして刑事補償法、或いはこの参考資料として出されましたる郵便法等に特別なる賠償規定がございますが、この賠償規定中にありまする以外の場合におきましては、やはりこの法案によつて殘る部分の賠償の責も負うのであります。例えて申しまするならば、刑事訴訟法の起訴におきまして無罪或いは免訴になりました場合に限つて、刑事補償法は賠償の責に任ずることになつておりますが、その他の強制処分というような程度の場合におきましては、刑事補償法においては許されておりません。そうした場合には刑事補償法の規定以外の公務員職務執行法によりまする違法の損害賠償、或いは又これこれの場合には責任を負うということに郵便法三十三條ですかにありますが、尚この外の場合におきましても損害を掛けるような場合が想像されると思います。そういうふうな特段なる規定のなき場合以外のことは、特にその種の規定がありましても、尚且つ余すところなく皆この賠償法によつて賠償の責に任ぜられるものであるか、この点についてお答を願いたいと思います。
#28
○政府委員(奧野健一君) 第一点の故意又は過失によつて違法云々という‥‥故意又は過失というものをなくしてはどうかという御意見であります。この点非常に問題でありまして、國家は無過失賠償責任を負わしていいのではないかという議論も十分成り立ち得ると考えます。が、矢張り絶対に公務員の故意、過失がなくても國家に賠償責任を負わしむるということにいたしますと、自然公務員としては、故意過失がなくても國家に賠償の負担を負わすのではないかというために、いろいろなすべき職務の執行も臆病からやらないようになりはしないかというふうなことも考えまして、又賠償は、現在におきましては、原則として過失主義を採つておりますので、やはり現在の状態におきましては、賠償の責に任ずるのは、その行爲者の過失のあつた場合に限ることが適当ではないかというふうに考えまして、自然人たる公務員の行爲の結果、國家の賠償の責に任ずる場合に限つて、過失主義を採つて、自然人にあらざる物的設備の缺陷のための場合には、大体民法の現在の七百十七條では殆ど無過失責任に近いのでありますから、二條におきましては、物的設備からの損害を受けた場合には、これは無過失賠償の主義を採つたわけであります。
 第二点の、大体特別法のない限りは、すべてこの法律が適用されることになるわけであります。殊に刑事補償法等の関係からいたしますと、御承知のような刑事補償法は憲法の第四十條と関係を持つており、この規定は憲法の第十七條と繋がるもので、別の関係になつております。むしろ刑事補償法におきましては、いわゆる不法行爲に基く損害賠償という問題ではないと考えますので、刑事補償法がありましても、更に故意過失のある場合においては、重ねて本法によるいわゆる損害があれば、損害の賠償の請求を出して差支えのないものというふうに考えております。
#29
○鬼丸義齊君 この故意過失の場合の過失主義でありますが、既に違法ということになりまするならば、無過失責任の主義を固執されるという意味とは別に考えて差支えないのじやないかと思います。違法に他人に損害を加えたという一事がありまするならば、殊更に故意過失ありや否やということを重ねて立証いたしますることになれば、非常にこの損害の基礎を確立する上におきまして、立証上、事実上非常に困る場合があるわけであります。眞に國家がそうした被害者に対して賠償をするという熱意があるといたしましたならば、そうした不可能に帰するようなふうなことを強いるのでなくして、もう少し大きな氣持で、違法という事実があるならば、直ちにこの賠償の責を負うといつたところで、決して私は差支えないのじやないか、只今御説明にありました無過失責任というようなふうな問題におきましても、これは既に時代はやはり無過失責任の制度を布くべきことを要求していると思います。況んやこうした賠償法を作つて、そうして國家の権利義務を明らかにいたしますることになる場合におきましては、そうした故意過失ということを入れますることは、事実上その責任を果すことができないことになると思います。例えば只今御説明になりました刑事補償法におきましても、警察官の不当拘束、或いは又檢事の不当拘束に対しまする被害の賠償を求めるといたしましても、果してこれが故意過失であるや否やということまで、別々に詮議立ていたしまするようなことになるならば、殆どこの法は治めることができないと思います。私はそうしたただ單に過失主義を採つているからというだけの理由でなく、違法ということがありまするならば、この点は特に私は考慮を拂つて戴きまして、いま一歩親切なる規定にして、活用してもろうようなふうにしなければいけないのじやないかと思います。その点重ねてお答を願います。
#30
○政府委員(奧野健一君) その点は非常に重大な点でありまして、立案の当時もその点を篤と考慮いたして参つたのでありますが、非常に保守的と申される非難があるかと思いますが、現行民法七百九條以下我が國の民法は、その建前が、自然人の行爲について賠償責任を規定する場合においては、大体過失主義を取つておるのでありまして、これを無過失責任にいたすということは、余程寧ろ進んだ考であるかも知れませんが、或いは將來はそういうことも十分考慮いたしたいと考えますが、今まで國家の公権力の行使について、國家は切捨御免で全然責任を負わなかつたのを、今度新らしく賠償の責任を負わさるることになつたわけであります。一足飛びに、然らばその公務員に全然過失のない場合でも、國家に賠償を負わすということも、一つの考ではあろうと思いますが、大体現行の法律の建前を踏襲いたしまして、そういう一般的な法制が、そういう方向に参る場合においては、やはり自然、そういうことになろうかと思いますが、現在の段階においては、やはり過失主義を取ることが適当でなかろうかということで、只今の案におきましては、一應過失主義を取つた次第であります。さよう御了承を願います。
#31
○山下義信君 この法案が実施せられるということになりますと、私共の考えますところでは、非常にこれは大きな反響を呼び起すと思うのであります。やがて公務員法というものも御提案になるのだろうと思います。公務員が非常に範囲が拡大せられまして、殊に最近の政治動向といたしましては、御承知のごとく、こういう現在のような情勢の場合ですから、公務員が故意過失或いは違法に、人民に損害を與えるというような場合が非常に予想せられるような氣がいたします。この法案が実施せられますると、事件がどういうふうに増加して來るか、増加というと語弊がございますが、只今当局の御見込…この法案の実施後の御見込がどうでございますか。非常に事件が沢山に発生するというような御見込でございましようか、承りたいと思います。且つ又折角こういう法案ができましても、これが裁判所に手続をせられまして、そうして容易にその判決がないということになりましたのでは、法の精神が生きませんので、こういうような法律の執行に当りましては、速かに本当に賠償ができるというような運用がなされなければならん筈でございます。例えて申しますると、早く賠償額を決定いたしますために、委員会でも設けまして、そしてその委員会が早くそれを判定するというようなことも、他に運用の上において例があるのではないかと思います。そういうふうな事件の取扱の上におきまして、迅速に処理するという面につきまして、当局におかれましては、何かそういうような対策の御予定でもありますれば、この際承つて置きたいと思います。
#32
○政府委員(奧野健一君) 將來これを実施した場合における予想でありますが、実は新らしき試みでありますので、率直に申しまして予想はつかないのであります。しかし相当の件数の事件が起るのではないかという点を予想しております。御承知のように、現在例えば鉄道とか、そういつたような公でない、私企業に属するような場合に、國は勿論これは民法で責任を負うことになつております。即ち輸送関係によつて、國が現在の民法上損害の賠償の責に任ずる事例は相当にあるのでありまして、過失で人を轢いたとか、或いはその他輸送事故によつて國が賠償の責に任じた例は、これは相当の額に上つておりますので、この点は御参考に損害賠償額の表を取つておりますから差上げたいと考えております。こういうふうに私企業による損害賠償ではなくして、公の公権力の行使による損害賠償ということについては、どれだけの事件が係つて参りますものでありますか、実は予想が付かないのでありますが、現在でも公証人でありますとか、或いは執達吏でありますとか、戸籍吏員でありますとか、登記官吏でありますとか、というような者が、故意又は重大な過失で損害を加えた場合には、損害賠償の責があることになつております。その事例をいろいろ調査いたしましたのでありますが、これは殆ど件数がないように伺つております。会長、その他の人々の記憶によつていろいろ古い資料を集めたのでありますが、殆どその事例がない、ただ登記官吏に関する事柄で一件数年前にあつたようで、これも訴訟にまならないで示談で片附いたというふうなことが一件あるということで、現在における公務員の損害賠償の規定はあつても、それによる事件は殆どないような状態であります。ただ非常にあるのは、先程申しましたように、鉄道事故等によつての損害賠償の件数であります。今後この公権力の行使の場合の損害賠償はどれ位の予想になるかということについては、遺憾ながらちよつと予想がつかないのでありまして、この点は衆議院でも議論になりまして、これについてどれだれの予算を一体用意しておるのかというようなことの質問がありましたが、これはどうしても実施して見てからでなければ予想がつきませんので、このためにどれだけ國家の賠償に当てるという意味の予算を実は計上してないわけでありまして、これは恐らく予備金等で賄つて行くことになろうと思いますが、これは実施の曉、改めてそれらの点につきまして考慮して参りたいというふうに考えております。
 尚、訴訟になつたような場合において委員会でも設けて損害の額を決定して行くというふうなことにつきましては一つの御案かとも考えますが、現在のところは別に、そういつたような委員会を設けて早く決定して行くというところまではまだ考えておらないのでありますが、將來実施を見て、そういう点を十分考慮いたしたいと考えております。
#33
○齋武雄君 この法律は無論憲法の十七條から來ておるのでありますが、憲法の十七條には「何人も、公務員の不法行爲により、損害を受けたときは、」とこういうふうになつておるのでありまして、この法律の第一條には「故意又は過失によつて違法に他人に損害を加えた」、こういうふうに書いてあるのでありますが、この憲法十七條の不法行爲ということと、この法律の故意又は過失による違法ということは同一だと考えておるのであるかどうか。私の考では、「故意又は過失によつて他人が損害を受けたとき」で沢山じやないか、違法という文字を入れなくてもよいのぢやないかというふうに考えるのであります。不法行爲による故意又は過失によつて損害を與えることは、違法でない場合もあり得るのじやないかというふうに想像され得るのでありますが、先程鬼丸さんから話したように、故意又は過失、その他に違法でなければならんということは、ちよつと憲法の不法行爲ということと相違の点があり得るのじやないか、こういうふうに思うのでありますが、この点を一点お伺いしたいのであります。
 それから今一点は、この法律は実体法でありまして、手続に関することは、無論民事訴訟法によると考えておるのでありますが、從來訴訟事件が困難なために、効果を現し得ないのであります。一般の國民は実際こういつた法律が作つてあつても、そういうことはできないのであります。法律がむづかしい、手続が困難である。私の考えでは、苟くも公務員が不法行爲によつて損害を與えた場合において、損害賠償を要求されなくても、政府が損害の責任に任ずるのは当然でないかと考えておるのであります。併し憲法では、損害賠償の請求権ありということになつておりますから、これも止むを得ないのでありますが、積極的にやるのが、本当でないか、こういうふうな考えを私は持つておるのであります。憲法にはそういう規定がありませんので致し方ありませんから、手続法において簡便に、民事訴訟のみでなく、特別に簡便にこの損害賠償を実行し得るような方法を講ずる御意思があるかどうか、この二点をお伺いしたいのであります。
#34
○政府委員(奧野健一君) 第一点のお尋ねでありますが、憲法の「公務員の不法行爲」というのは、大体矢張り民法の七百九條以下の不法行爲と同じ字を使つておりますので、要するに民法の不法行爲といえば、やはり故意過失によつて、不法に他人の権利を侵害して、損害を與えるという場合であろうかと考えますので、それと同じ趣旨におきまして、故意過失によつて「違法に」というのは、結局これは「不法に」というのと同じでありまして、不法行爲であること、言い換えれば、いわゆる違法性を阻却するような事由があれば、それは不法行爲にならないから責任がないというだけの趣旨であります。そういう意味を以ちまして、憲法の公務員の不法行爲によつてていう趣旨を、ここに、故意又は過失によつて、違法に他人に損害を掛ける、という現し方をいたしておるつもりであります。即ち、我が國において、大体不法行爲といえば、故意過失、いわゆる過失主義を取つておる現在の法制の建前によつてここに規定をいたしたのであります。
 第二点の、訴訟について無論國家が進んで賠償をし、又その間迅速にこれを処理することを考えるべきではないかという御意見でありますが、御尤もと考えます。この國家賠償法を施行して見て、その結果がどういうふうに進展して來るかということについては、先程申しましたように、ちよつと予想がつきかねているのでありまして、取敢えずこの法律といたしましては、憲法の要請に基いて、そういう國家に対して賠償を請求することができるということを明らかにした法律を制定するという趣旨で、現在のところは一般の民事訴訟法で請求するという考えでありますが、今後この法律の運用がどういうように進んで行くかということも、それを見た上で更に適当な施設或いは処理方法があれば、その上で十分考慮いたしたいというふうに考えております。
#35
○齋武雄君 第二の点は了承しましたが、第一の点で、今仰つしやいましたのは、民法の不法行爲と同じに解釈している。民法の不法行爲というのは、故意又は過失によつて不法に他人の権利を侵害して損害を與えるということで、不法ということは違法ということだというふうにお聽きしたのであります。ところが、民法の不法行爲には不法も違法もない、「故意又ハ過失ニ因リテ他人ノ権利ヲ侵害シタル者ハ之ニ因リテ生ジタル損害ヲ賠償スル責ニ任ズ」、不法ということも違法ということもないのであります。私は違法でなくても、故意過失によつて損害が生じ得る場合があるのじやないか、こう考えているのでありますが、その点をはつきりお答え願います。
#36
○政府委員(奧野健一君) これは民法には不法行爲というので、一般的に違法性のある場合を規定しているものといふうに考えるのでありますが、先程も申しましたように、「違法に」というのは、違法性の阻却するような事情のある場合は除外するという当然なことを規定しているのでありまして、やはりその点は民法も同樣の趣旨かと考えます。民法のように不法行爲というふうな條文の章を設けておりませんので、要するにその民法の趣旨をここに「不法に」とか或いは「違法に」とかということで現したわけでありまして、例えば違法でないいわゆる適法な正当なことで、他人がそのために損害を被つても、これはそういう場合にまで國家が一々賠償の責に任じないのだという趣旨を現しているのでありまして、違法性の問題と故意過失の問題というのは、主観的要件としての故意過失、客観的要件としての違法性ということを現しているのでありますが、この点は、故意過失と違法という関係について学者間においてもいろいろ論爭のあるところでありまて、違法ということを、特にここに規定する必要はないのではないかという議論も相当成立つかとも考えまするが、要は違法性のない場合は、違法性を阻却するような場合は、半面賠償の責に任じないのだという趣旨を現したに外ならないのであります。
#37
○大野幸一君 私の第一点は、前質問者と同じですが、それはやはり將來ですね、不法行爲の條文に違法という文字がないと、どうも賢明なる裁判官のみ全國にあるわけじやなくて、七百九十二條には違法とない、こちらには違法とある、こういう意味で、まだこういう委員会の空氣が全國に知れるわけじやなくて、或いは又被告の側の弁護人は、これを違法の意味を非常に重く解して、違法の立証責任まで求めるというようなことがある、こういうことを、我々その実務家としてよく経驗して、所謂三百理窟でこの違法は相当問題になると思う。民法の不法行爲と全く同じならば、從來の用語例に習つて同じにすると、こういう意味で、これは削除された方が却つていいのじやないかと思う。尤も先程のように、立證責任を顛倒するというならば、所謂阻却の事実ある場合はこの限りにあらず、こういうふうに書いた方がいい。新らしく違法と入れたところに、先程の鬼丸委員なんかが、ここに疑問を持たれたのでありまして、我々も將來裁判上においては、これは却つてこういうものを入れると誤解を招き易いと考えるから、できるならば、これはあつさり削除された方がいいと希望する次第であります。委員会でも後で相談して載きたいと思います。
 それから第三條は、一体これは國家の利益から考えたものか、或いは又被害者の側からの利益を考えて作つたものか。前段においては、「前二條の規定によつて國又は公共團体が損害を賠償する責に任ずる場合において」、こう書いてあつて、第一條、第二條においては、損害賠償がある場合において、他に費用負担者がある場合においては、その負担者のみが損害を賠償するということになると、公共團体、國家は賠償しないことになる、こういう場合に考えられると、費用負担者の方が多くは資力無力の人がある、内部関係がそうなつていたために、被害者は國家には請求できなくて、その費用負担者だけに請求しなければならない、こういうような矛盾を生じて來るのであります。從つてここは所謂國家にも責任があるし、そうして又費用負担者にもある。この点は私ちよつて間違いなければ学説上不眞正連帶債務と、こういうことにされる意味か、その点の御解釈というかを承わりたいのであります。
#38
○政府委員(奧野健一君) 後の問題からお答えいたしますと、例えば道路の管理者と、それからそれの費用を負担するのが、公共團体であるというふうに違つておる場合が、余り例はありませんが、多少あるのであります。そういう場合は一体、國を相手にしておるのか、或いは費用負担者である公共團体を相手にしておるのかというようなことについて、いろいろ疑問がありまして、判例等もいろいろあるわけで、その点を明確に、訴訟でも起す場合に誰を相手にして請求していいのか、ということが不明確であつては困るというのが明らかにしたのであります。そこで、然らばその場合に國ということにしてもいいのでありますが、そういう損害賠償というのも、結局費用の負担者である公共團体が負担すべきものでありますから、今度は國の方から更に費用負担者である公共團体に求償して行くというふうなことになるのでありますから、審ろ積極的に、直接的に、費用負担者である公共團体を相手にして請求をすればいいという趣旨で、まあ規定を設けたのでありますが、お説のように、寧ろこの場合に、國にも、費用負担者である公共團体にも、双方にどちらかへ請求ができるということに致しても、勿論結構であると考えます。一應これは、今まで被告を誰にするかということについて、いろいろ不明確であつたがために、爭ひが起きておつたので、誰を被告にすべきかという点を明確にした趣旨に外ならないのであります。初めの方の「故意又は過失によつて違法に云々」という違法というものを削つたらどうであろうかという点は、これはまあこれ以上は御議論になると考えますが、まあ民法のように一應不法行爲というふうな字が出でおりますれば、大体不法な場合というふうに普通考えられますが、ここに全然違法性というものを謳つておりませんと、ややその点は、正当なことによつて迷惑を蒙る、例えば避病院なら、避病院に収容された、それがために、その間働けなかつたから損害があつたからというふうな、まあ適法な場合にまで損害の請求ができるというふうに誤解されては困る、やはりこれは公務員の行爲の場合における國家の賠償だという趣旨を、ここに違法ということに現したに過ぎないのでありまして、これは一般的にこの規定がなくても大体そういうふうになるんだということでありますれば、それは、これがなくてもそういうことになるということでありますれば、不必要な文字になるかとも考えますが、一般的にこれは独立法として、民法から離れて……民法の中へこれを規定して行くということになれば、これはそういう字がなくつても分るかと思いますが、これは民法とは独立した特別法にいたしましたので、やはり違法性のある場合に適用があるんだということを、まあ注意的に明確にした次第であります。
#39
○大野幸一君 第三條ですね、もし双方にも義務があるというようにお考を下されるならば、最後の「費用を負担する者が」というのを、「費用を負担する者も又」と、こういうふうに入れて戴ければいいわけだということを参考までに……。これは大したことじやなくて、「費用を負担する者も又その賠償する責に任ずる」ということを言わなければ、初めの方の「前二條の規定によつて國又は公共團体が損害を賠償する責に任ずる場合において」、外の者が負担するのと全く論理上矛盾するようになるから、なるべく被害者はどつちを選択してもよいということに、若しできたら一つやつて戴きたいと、こう思うのであります。
#40
○鬼丸義齊君 先程來から政府委員の御答弁を拜聽しておつたのでありまするが、本法の制定によりまする結果として、非常に濫訴を恐れるような嫌いがあるのじやなかろうかと思います。私は、多分四十六議会だと思いまするが、刑事訴訟法について、当時議院提出の法律案として提出いたしましたときに、衆議院は満場一致で通過いたしましたが、貴族院で以て審議未了に終りました。その後これが基礎となりまして、只今施行されておりまする刑事訴訟が実施されたのでありまするが、当時もこの濫訴に対しまする結果を非常に恐れておりまして、折角この補償法を作りましたけれども、結局若しこの被拘束者の方で故意若しくは過失があつたというふうな場合には、賠償の責に國家が任じないというふうなことが規定されましたことから、多くの場合、一つの事件に対しまする被疑者が自白しておるというふうなことから、それがいわゆる権利者の一つの過失によるものであるというような趣旨から、当時多分予算が八万円か計上されておつたと思います。ところが、折角この補償法が制定されましたけれども、その八万円の予算中多分二千円を出でざる範囲の賠償で以てその補償は終つたように記憶いたしております。結局そうした意味におきまして、いつも賠償法だとか、或いは補償法だとかいうふうにして立派な規則を明文上作りましても、監訴とか、或いは結果とかいうものに対しまして非常に大きな関係を持たれるようなところから、動もするというと、やはり死法に等しいような結果に終るのであります。既に憲法において、公務員の行爲に対しては國家が補償の責を負うということを、いわゆる基本人権の上において明確に規定されてあります。これに基きまする法律としたしましたならば、私は濫訴とか或いは結果とかいうことに対しましては、一点の考慮を拂う必要がないと思います。寧ろ勇敢にやはり憲法の示すごとくに、違法行爲があるならば……不法爲があるならば、それ自身で以て直ちに國家は賠償するというふうにして、先ず以て実行されることに私は忠実でなければ、法を如何に作りましても、全く死法に帰するのではなかろうかと思います。被害の回復に対しましては、成るべく簡易な手続によつて、そうして一刻も早く之を回復してやるということでなければ親切な法規ではない、又法律を規定いたしました趣旨にも適わんと思います。殊更過失主義を取つておるからということにこだわる考えでなく、勇敢にやはりこの際憲法の趣旨を立派に私は考えられますように、この賠償法を作つて戴きたいと思います。この意味からいたしまして、政府としては「故意又は過失」というものを第一條からどうしても抜くことができないのであるか、或いは又「違法」という文字を二重に作る必要をどうしても死守するか、この点に対しまする政府の私は確乎たる御意見をこの際拜聽いたしたいと思います。
#41
○政府委員(奧野健一君) 故意、過失、という点につきましては、立案の際いろいろ議論もし、考慮もいたしたのでありますが、先程來申しましたように、現段階においてはやはり不法行爲についての賠償の責任は、過失なければ責任はないという原則が最も妥当ではないかというふうに考えました次第であります。又違法の点につきましても、先程來申しましたように、不法とか或いは違法とかいうような文字を明確にすることによつて、本当に正当な事のために損失を被つたような場合でも、國家の賠償の義務ありというふうな解釈から濫訴に陥る幣があるのではないかというふうに考えまして、この点は原案通り御了解願いたいと考えておる次第であります。
 尚前段お述べになりましたように、この法律の施行によつて、基本的人権が相当やはり補償されることになろうかと考えます。これは刑事補償法の場合とやや違つて、これによつて相当やはり請求が出て來るのではなかろうかと考えておりますのは、この度はすべての行政処分に対しまして、司法裁判所へ行政処分の取消変更を求めることを許しておりまして、從來のように、列挙した場合……制限された場合にのみ行政官廳の処分の違法性の主張が許されるというのではなく、一般的に行政官廳の行政処分が不服の対象になるというふうに拡げましたのと相堤携いたしまして、違法な公権力の行使の処分によつての損害の賠償を求めるということと、行政行爲の違法処分の取消変更を求めるというのと、両方の法律規定によりまして、基本的人権が擁護されて参つたのでありますから、國民のこういう法律思想或いは権利主張の思想が向上するにつれて、この國家賠償法も相当の範囲においてこれが実施の際に適用される場合が予想されようかと考えております。この点につきまして刑事補償法とはやや趣を異にするのではないかというふうに想像しております。
#42
○松井道夫君 少し細かい点になりますけれども、第二條の第二項の「前項の場合において、他に損害の原因について責に任ずべき者があるときは、國又は公共團体はこれに対し求償権を有する。」こういうことになつておりますが、「他に損害の原因について責に任ずべき者」は、これは官吏とか公吏とかいう者を予想しておられるのですか、或いは公共團体といつたようなものを予想しておるのか、或いは單に個々の私人もあり得るというようなふうに考えておりますが、その辺をちよつとお聞せ願いたいと存じます。
#43
○政府委員(奧野健一君) その点は同じような規定が民法の七百十七條にありますので、それと同じような考で、例えば公の営造物を作る、例えば請負師であるとか、大工がその営造物を作る上に過失があつた、過失と言ひますか、欠陥があつたというような場合には、原因は結局その大工の工事のやり方が惡かつたというふうなことに帰着するので、それが結局損害の原因を與えたことになりますので、そういう者に対して、國は更に求償ができるというようなことを予想しておる訳であります。
#44
○委員長(伊藤修君) それではこの程度で本日は打切りまして、明後二十八日午後一時から本日の両案を審議いたすことにいたします。本日はこれにて散会いたします。
   午後零時四十一分散会
 出席者は左の通り。
   委員長     伊藤  修君
   理事
           松井 道夫君
   委員
           大野 幸一君
           齋  武雄君
          大野木秀次郎君
           鬼丸 義齊君
           山下 義信君
           來馬 琢道君
           松村眞一郎君
           岡部  常君
           小川 友三君
           宮城タマヨ君
           西田 天香君
  政府委員
   司法事務官   奧野 健一君
   同       國宗  榮君
ソース: 国立国会図書館
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