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1947/10/07 第1回国会 参議院 参議院会議録情報 第001回国会 司法委員会 第31号
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1947/10/07 第1回国会 参議院

参議院会議録情報 第001回国会 司法委員会 第31号

#1
第001回国会 司法委員会 第31号
  付託事件
○刑法の一部を改正する法律案(内閣
 提出、衆議院送付)
○岐阜地方裁判所多治見支部を設置す
 ることに関する請願(第十一号)
○帶廣地方裁判所設置に関する陳情
 (第四十九号)
○刑事訴訟法を改正する等に関する陳
 情(第六十号)
○民法の一部を改正する法律案(内閣
 送付)
○家事審判法案(内閣提出、衆議院送
 付)
○函館市に札幌高等檢察廳支部設置に
 関する陳情(第百四十号)
○法曹一元制度の実現に関する陳情
 (第百四十五号)
○農業資産相続特例法案(内閣提出)
○経済査察官の臨檢檢査等に関する法
 律案(内閣送付)
○裁判官彈劾法案(衆議院提出)
○裁判所法の一部を改正する等の法律
 案(内閣送付)
○札幌高等裁判所並びに高等檢察廳帶
 廣支部設置に関する陳情(第三百二
 十四号)
○最高裁判所裁判官國民審査法案(衆
 議院送付)
○廣島高等裁判所岡山支部設置に関す
 る請願(第二百八十一号)
  ―――――――――――――
昭和二十二年十月七日(火曜日)
   午前十時三十七分開会
  ―――――――――――――
  本日の会議に付した事件
○刑法の一部を改正する法律案
  ―――――――――――――
#2
○委員長(伊藤修君) これより委員会を開きます。本日は衆議院より送付されましたところの刑法の一部を改正する法律案を議題といたします。本案に対する予備審査に引続きまして質疑を継続いたしたいと存じます。
 尚この際お諮りを申上げて置きたいと思うことがありますから、一言申上げて置きます。從來の質疑の経過からいたしまして、この法案に対するところの論点は、先ず姦通罪に対する罪、侮辱罪の復活に関する件、刑の消滅に関する件、公務院の候補者に関する件執行猶予の年限及び金額の変更に関する件、執行猶予取消事由に関する件、皇室に対する罪並びに外國元首に対する罪、強盗罪の刑の短期を変更する件及び松井議員より提案されておるところの二十五條の変更に関する件、二十六條に関する件、並びに皇室に対する罪に関してこれが変更を求むる件、九十條及び百五條、二百條、二百五條、二百十一條、二百三十一條、これらの点が從來論点になつておられるようでありますが、本日はこの点に対しまして御論議の中心を置いて頂きまして、御質疑がありますれば御質疑をお願いいたし、そうして本案に対するところの論点を明らかにいたしまして、皆樣のこれらに対するところの修正案がありますれば、それを本日大体纏めて行きたいと存じます。
#3
○山下義信君 誠に恐縮に存じますが簡單な事項でございますので、この際ちよつと質疑をさして頂きたいと存じます。それは二百三十二條の改正せられまする箇條につきましてでございますが「告訴ヲ爲スコトヲ得可キ者ガ天皇、皇后、太皇太后、皇太后又ハ皇嗣ナルトキハ内閣總理大臣代リテ之ヲ行フ」という箇條につきましてでございますが、これは本委員会におきましてこの点の質疑がありましたことを記憶いたしておるのでございますが、内閣総理大臣が天皇、皇后、太皇太后、皇太后又は皇嗣の告訴を代理いたしまする法的根拠をいま一度念のために伺いたいと存じます。
#4
○政府委員(佐藤藤佐君) 内閣総理大臣は行政についてすべての官廳を主宰いたしておりまするので、本來ならば天皇以下ここに列挙されておる方々の告訴の代理としては、或いは宮内府において代理するのが適当であろうとも考えられるのでありまするけれども、宮内府の方々では余りに皇室に対して身近でありまするので、この際には天皇の、或いは天皇以下のここに列挙されておる方々の意思如何に拘わらず代理するという趣旨から、宮内府を統轄しておる総理大臣が代つて告訴する方が適当であろうというふうに考えたのであります。法的根拠といたしましては、別にこういう事柄について総理大臣が代理権があるというような法的根拠は別にございません。ただ総理大臣は政府の代表者であり、又行政一般についての統轄者であるというところから、最も適当な地位であろうかというふうに考えまして、総理大臣というふうに規定いたしたのであります。
#5
○山下義信君 天皇は國の象徴であるという建前からいたしまして、天皇の各譽毀損に関しまして内閣総理大臣が代つて告訴をいたすという趣旨も含まれて、この総理大臣の代理の告訴ということに相成つておるのでございますか。天皇が國の象徴であるという建前はこの際意味いたしませずして、宮内府の行政を統轄する総理大臣であるからという建前でございましようか。その点をいま一度伺いたいと思います。
#6
○政府委員(佐藤藤佐君) 実は両方の意味を含んでおるのでありまして、仰せのように天皇は新憲法の第一條に明定されておるように國の象徴であり、又國民統合の象徴であらせられまするので、天皇並びに皇后、太皇太后、皇太后又は皇嗣という方は天皇と同樣に國民の一人に対して、たとえそれが名譽毀損の加害者であつても、それを告訴されるというようなことは到底期待することができきませんので、そういう事実に基いて天皇の告訴ということをここで直接に取上げないで、さような場合には、誰かが代つて告訴することにする方が、適当ではなかろうかというふうに考えたのであります。そういたしまして、どなたが天皇に代つて告訴することにしようかということになりますると、政府の代表者であり、又行政一般の統括者である総理大臣が最も適当であろう、こういうふうに考えたのであります。
#7
○山下義信君 國の象徴、元首という立場におきまして総理大臣が告訴の代理をいたしますということは、國務という意味で了承のでき得る筋合とも考えるのでございます。その際は云うまでもなく國家の元首、國民統合の象徴という立場に対しまする名譽毀損、いろいろ不敬罪というようなものも当然考えられると思うのでございますが、その点はいま暫く別といたしまして、天皇に代りまして総理大臣が告訴をいたしますということになりますと、その総理大臣の行爲につきましては、当然國会に対して責任を負わなければならんと思いますが、さように承知いたしましてよろしうございましようか。例えて申しますと、総理大臣が代つて告訴をいたしました場合、それが罪にならないで、その告訴が不適当であつたというような場合に、総理大臣は当然國会に対して責任を負わなければならんと考えられます。この点に対しまする御所見を承りたい。
 次に天皇に対しまして総理大臣が代理告訴いたすべき筋合を、只今申しましたように私共も了承いたしますが、皇后、皇太后、太皇太后、皇嗣、これらの方々は日本國の象徴でも何でもないのでございまして、これらに代つて内閣総理大臣が告訴をいたしまする理由を御説明願いたいと思います。
#8
○政府委員(佐藤藤佐君) 先程申上げましたように、総理大臣が天皇に代つて告訴するということにつきましては法律上そういう事務を総理大臣が代理しなければならん、或いは代理する権限があるというような法的な根拠は別にないのであります。併しながら実際問題として天皇の國民に対する告訴というようなことは到底期待し難いのでさような場合に誰かが代つて告訴するような制度にした方が、最も適当であろうというようなところから、結局政府の代表者である総理大臣が最も適当であろうというふうに考えまして、かような立案にいたしたのでありまするが、若し総理大臣の告訴が過ちであつたということが後で分りました場合には、それは一般人の告訴権者が告訴した場合の事件の成行きについて、その告訴権者の行動に対してどういう責任を生ずるか、その場合と全然同一であろうと思うのでありまして、その他に國会に対して、どういう責任を負うかというようなことは、これは全然別問題ではなかろうかと存ずるのであります。
 更に天皇以外の太皇太后、皇太后、皇后、皇嗣という方々の告訴を代理されるということは、これは天皇と同様に天皇の極く身近の方でありまするので、天皇に國民に対する告訴を期待し難いと同樣に、これらの方々も國民に対して告訴するというようなことは到底考えることができませんので、そういう告訴を期待することのできない方方の告訴というものは、やはりどなたかに代理して貰わなければならないのでありまするが、かような場合にもやはり天皇に準じて総理大臣が告訴されるということが適当であろう、かような考えの下に立案をいたしたのであります。
#9
○山下義信君 情におきましては政府委員の御説明の点はよく了承いたすのでございます。併しながら私の伺いまする総理大臣が代つて告訴をいたしまする法的根拠、天皇の場合におきまする内閣総理大臣の代理ということは、これ亦よく了承いたすのでございますが、併しながら総理大臣のいたしましたることが、政府の仰せになりますように宮内府がやるべきが最も適法である、併しながらその宮内府を統轄いたす内閣総理大臣という立場でこれをやるということが、法的の根拠ともいえる、こういうことに相成りますると、行政府の責任者といたしまして、総理大臣のいたしましたる行爲は、悉く憲法の定めるところによりまして、國会に対して責任がありますることは、当然でございますので、只今の政府の御説明には私は了承いたし兼ねるのでございます。且つ又皇后、皇太后その他の方のときに内閣総理大臣が代つて告訴をいたしますという法的根拠はお示しがございませんので、別段これはその根拠がないものであると了承いたすの外はございません。若し私共の納得いたしまする法的根拠がありますれば、更にお示しを願いたいと思います。
#10
○政府委員(佐藤藤佐君) 総理大臣が宮内府の行政についての統轄者であり又政府を代表する地位にあるものでありまするので、そういう意味から天皇の告訴を代つて行うのに最も適当な方であるという見方から、ここに総理大臣の告訴ということを立案いたしたのでありまするが、その法的根拠といたしまして、只今御意見のように憲法で定めてある國務を総理大臣がなされたものとみなされたものと見るべきか、或いはそういう國務とはいえない、天皇の告訴というようなことは、これは天皇個人のなすべき行爲であるから、さような行爲について代理することはそれは公けの総理大臣の職務ではないというふうにも考えられまするので、この告訴については私共は別に総理大臣の告訴について法的根拠がこれであるというふうに明確には考えておらないのでありまして、天皇が本來個人としてなすべき告訴の行為はそれを期待し難いことであるから、それを誰かに代つて行わしむる方が適当であろうかということを考えると、行政府の代表者たる総理大臣が最も適当であろうというところから、ここに新らしい一つの手続を定めたに過ぎないのでありまして、私の考えるところでは、総理大臣が憲法で定める公けの一つの國務としてなすべき行爲であり、從つてその行爲について議会に対して責任を問うべきかというようなことについては考えておらないのであります。
#11
○山下義信君 皇后、太皇太后、皇太后又は皇嗣に関しますることが國務か國務でないかという点に帰するのでございます。私はこれは議論はいたしませんが、天皇は私は個人という立場はないと考えております。天皇はいつでも天皇である。天皇はいつでも日本國の元首であり、いわゆる國民統合の象徴であらせられる。でありまするから天皇に関する限りは、常に國務であるということはよく了承をするのでありまするから、天皇に代りまして、内閣総理大臣が告訴をいたすその限りにおきましては、國会に対しまして、國務といたしまして、責任を負わなければならんということは、これはもう当然のことであると私は信じております。併し皇后、太皇太后、皇太后、皇嗣は個人であらせられます。元首でもなければ象徴でもあらせられません。個人であります。併し若しこれらの方々が御本人で当られることが我が國の目下の立場におきましても適当でないということでございますれば、宮内府長官が代つて行うべきが何人が見ましても適当ではないか。でありまするから、天皇に代りまする者は内閣総理大臣、皇后以下に代りまする者は宮内府長官と定むべきが私は至当ではないかと考えまするので、御所見を伺つて置きましたのでございますが、これ以上は討論になりまするから、この点で止めて置きます。
#12
○委員長(伊藤修君) 他に御質疑はございませんか。
#13
○松井道夫君 この際審議の参考といたしますために、只今議題になつております衆議院が修正して参りました修正議決案、政府の原案を修正いたしました部分の趣旨竝にそれに対する政府の御見解、これを拜聽したいと思います。
#14
○政府委員(佐藤藤佐君) 刑法の一部を改正する法律案につきまして、衆議院におきましては御承知のように三点について修正をなされたのであります。
 その第一は第三十四條の二、即ち「刑ノ執行ヲ終リ又ハ其執行ノ免除ヲ得タル者罰金以上ノ刑ニ處セラルルコトナクシテ十年ヲ經過シタルトキハ刑ノ言渡ハ其效力ヲ失フ」という改正案に対しまして、これをつまり前科が禁錮以上の刑であるか、或いは罰金以下の刑であるかということによつて区別いたしまして、禁錮以上の刑の前科の場合には、十年の経過を以て刑の言渡しが効力を失うが、罰金以下の刑の執行を終え、又は執行の免除を得た者の場合には、五年の経過によつて刑の言渡しの効力を失うというふうに修正されたのであります。この点につきましては、前科の刑の執行を終え、又は執行の免除を得てから、罰金以上の刑に処せられることなくして、一樣に十年の経過を以て刑の言渡しの効力を失うとすべきか、或いは前科の刑の軽重によつて刑の言渡しの効力を失う、いわゆる時効の期間を差別すべきか、これは議論のあるところと思いまするが、前科の刑の重い者と前科の刑の軽い者とは、その前科を犯した当時の犯人の性格を推して考えますると、重い刑を犯した者の性格が、軽い刑を犯した者よりも惡性であるというふうに一應考えられるのであります。從つて前科の刑の重い者は、刑の消滅についても相当長い期間を経過しなければならん、軽い前科の刑の執行を終えた者は比較的短い期間の経過によつて刑の言渡の効力を失うというふうに差別して考えることが、原案よりもむしろ妥当であるようにも思われまするので、政府当局といたしましては、衆議院の改正案に対して贊成いたしたいと思うのであります。
 それから第二の点は、政府原案においては第二百三十一條即ち單純侮辱罪の規定を削除いたしたのでありまするが、これに対して衆議院はこの削除を復活して、現行刑法通り第二百三十一條を存置するという修正案でございます。この單純侮辱罪を削除すべきか、或いは存置すべきかという点についても、勿論御議論のあるところと思われまするので、むしろこの点につきましては、私共は國会の意思を尊重して、そうして若し國会の方で單純侮辱罪の存置を御主張なさるならば、勿論その御意思を尊重して存置いたしたいと思つておつたのでありまするが、刑法の一部改正案を提出する際には、名譽毀損罪を一般に刑を高めたが、極く軽微の單純侮辱罪は、そう事例も沢山これまでの例でありませんし、事件としても極く軽微でありまするから、かような軽微のものは一應削除したらどうかという意見の下に立案いたしたのでありまするけれども、現下の情勢に鑑みまして、現行刑法において事実を摘示しないで人を侮辱した場合、即ち單純侮辱罪を折角規定されてあるのを、これを廃止することによつて、却つて侮辱の行爲が相当行われるのではなかろうかという心配もございまするし、又他面一般の名譽毀損罪の刑を高めて、個人の名譽をいやが上にも尊重しようという立案の趣旨から考えましても、いかに軽微なる犯罪と雖も、人の名譽を侮辱するというような場合には、やはりこれを刑法において処罰する方がむしろ適当であろうというふうにも考えられまするので、政府当局といたしましては、衆議院の刑法第二百三十一條の削除を復活して存置するという案に対しては、賛同いたしたいと考えておるのであります。
 次に修正案の第三は、附則におきまして、「この法律施行の期日は、政会でこれを定める。」という原案を、衆議院においては、「この法律は、公布の日から起草して二十日を経過した日から、これを施行する。」というふうに修正されたのであります。政府原案におきましては、これまでの法律の立案の例に倣いまして、施行期日は以前ならば勅令、今後は政令でこれを定めるという例に倣つたのでありまするけれども、かような重大な法律の施行期日は、政令で定められるということよりも法律で定める方がより適当であろうというふうに考えられまするので、この点につきましても衆議院の修正案が立憲政治の下においてはふさはしい修正と思われまするので、この点も賛成いたしたいと存じておるのであります。
#15
○松井道夫君 今の附則の修正に関聯いたしましてお尋ねしたいと存じます。政府とされましては、原案といたしまして「施行の期日は、政令でこれを定める。」ということになつておりましたが、腹案といたしましては、いつから施行する、施行の期日をいつに定めるおつもりでありますか。その点を……。
#16
○政府委員(佐藤藤佐君) 衆議院の修正案におきましては「公布の日から起算して二十日を経過した日から、これを施行する。」というふうになつておりまするので、刑法の改正案が幸い國会を通過いたしまして公布されましたならば、その後二十日の期間内で、ラジオ、新聞その他の方法で一般國民に、又法律を執行する官公廳に対して十分改正案の趣旨が徹底するように努力いたしまして、二十日の経過から直ちに実施できるように準備いたしたいと考えているのであります。
#17
○松井道夫君 次に他の点について御質問申上げたいと存じます。これはすでに以前の質問にも出たことでございますけれども、尚念を入れてお尋ねしたいと存ずるのであります。
 第四章の「國交ニ關スル罪」その中の九十條及び九十一條を削除いたす原案になつておるのでありますが、新憲法で外國を尊重いたすということが前文に明記されておるのでありまして、外國の君主、大統領その他外國の元首並びに、例えばマツカーサー元帥のごとき地位にある外國人、外國の大使、全権大使といつた、そういう方々に対しまして暴行脅迫を加えた、さような場合に、いまの外國の元首その他個人に対する侵害という意味を超えまして外國そのものの尊嚴を侵すという意味合いにおきまして、何らか一般個人に対しまする暴行脅迫等と別個の加重いたしましたる刑をこれに科するということが非常に適当であり、望ましいことではないかという工合に考えられるのであります。その点についての御見解を伺いたいと思います。
#18
○政府委員(佐藤藤佐君) 新憲法施行後の我が國といたしまして、從來以上に外國と親善関係を保たなければならん、又國際法規、國際慣習というものを努めて尊重しなければならんということは誠にお説の通りであります。從つて國際慣例で認められておる外國の元首、大統領、使節に対して特別な保護をしなければならんということもこれはお説の通りであります。從つて現行刑法において第九十條及び第九十一條が外國の元首、大統領、使節に対する暴行、脅迫、侮辱等について特別な保護規定を設けてあるのでありまするが、新憲法の精神に副うて今囘刑法の一部を改正するに当りまして、一般人に対する暴行、脅迫、名譽毀損等の刑罰を引上げまして、個人の生命、身体自由、名譽等の基本的人権を侵した場合に、刑法においては從來よりも重くこれを処罰するという趣旨の下に改正案を立案いたしたのであります。若しこの改正案が幸い國会を通過して公布されることになりますれば、從來の刑法において個人の生命、身体、自由及び名譽に対する保護よりも一層厚く保護する結果となるのであります。でありますから、この改正案が施行された曉におきましては、たとい現行刑法の九十條及び九十一條を削除いたしましても、外國の元首、大統領、使節に対する保護において何ら欠くるところがないと考えておるのであります。ただ一般國民に対する保護が從來よりも厚く規定されておるが、併しながら刑法の規定の上で外國の君主、大統領、使節に対して更にそれ以上に厚く保護する必要があるのではないかという御意見もあるだろうと思うのでありまするが、その点につきましては、新憲法の精神に副いまして、刑法においては成るべく人によつてその保護の厚薄を附けたくないという考えから、新憲法においても明らかに國家の象徴、國民の統合の象徴として特別な地位を認められておる天皇に対してさへも、刑法において特別な保護規定を設けないで、一般國民と同樣な規定に直しまするこの際に、この外國の君主、大統領、使節に対しても特別なる保護規定を設けなくとも、一般人に対する保護規定が修正されて厚く保護されることになつたのであるから、特別な差別を設けなくとも、外國の君主、大統領、使節に対する保護については今後遺憾の点はないであろうというふうな考えの下において削除いたしたのであります。併しながら刑法の規定において特別な差別を設けなくとも、我が國といたしましては、当然外國の君主、大統領、使節に対して十分尊敬も拂わなければなりませんし、又我が國に滯在した場合には、我々一般國民よりも十分厚く保護し、又できるだけの待遇もなさなければならんということが、國際憤例として又儀礼として当然のことであろうと思われまするので、法の運用の上においても、さような点は十分期待できるのではないかというふうに考えておるのであります。
#19
○松井道夫君 只今の御説明で、九十條、九十一條の削除せられましたその理由はますます明確に認識することができたのでありまするが、私はこの九十條、九十一條によつて保護せられておつた人たち、これらの人たち個人の利益を保護するという建前で了解できたのでございまして、これを外國の國家そのものに対する尊嚴を冒涜する行爲であるとかいう意味においては必ずしも了解ができ兼ねるのであります。九十條におきましては、外國の君主又は大統領個人の行爲、個人の行動中にこれを侵しましても成立いたすのであります。その意味で一般國民と同等に取扱われても、これは一般國民に対する刑が重くなるのであるから、その間で賄われるということが言えると存ずるのでありまするが、これを外國の國家の尊嚴を侵す罪というように拜察いたしまして、その角度から拜察いたしまするならば、おのずからそこに異なつたものがあるのではないかと存ずるのであります。この九十條の要件を変えまして、嚴格に外國の國家そのものに対する尊嚴の侵害という形にいたしまするならば、その形で九十條と別個のものとして在存する意味があるのではないか、私はさように考えるのであります。例えば外國の君主又は大統領が公けの資格におきまして、公けの職務を執行中に、これに対しまして暴行脅迫、侮辱を加えるという場合がございましたならば、これは外國の君主、大統領個人に対しまする犯罪と見る面がおのずからございましようけれども更に先程申しました外國の尊嚴そのものを侵すのである。公の資格における君主、大統領に対する犯罪でございまするから、外國の代表者といたしましての行動中の犯罪でございまするからこれを外國の尊嚴を侵すものと見ることができるのであります。從つてそういう規定を設けまして、外國の尊嚴を保護するということは、新憲法下必要な事項ではないか、私はさように考えるのでありまするが、そういう点に対する御見解を伺いたいと思います。
#20
○政府委員(佐藤藤佐君) 現行刑法の九十條及び九十一條において、一般國民に対する保護よりも厚い保護を外國の君主、大統領、使節に対して與えておるのであります。かような特別規定を設けました趣旨は、これは御説のように、外國の代表者である君主、大統領、使節に対して、いずれの國においてもこれは厚く保護しなければならんという國際慣例に副うて特別な規定を設けたと思われるのであります。併しながらこの九十條及び九十一條の犯罪の性質を考えますると、これはいずれも個人の生命、身体、自由、名誉に対する犯罪であると解せられるのであります。さような個人の基本的人権に対する犯罪ではあるけれども、これを処罰するについては、國際慣例の精神に副うて重く処罰するということによつて、これらの人を厚く保護することになり、それがやがて國際慣例に副う所以であるというふうな考えの下に規定されておるものと思われるのであります。であるまするから、今改正案において九十條及び九十一條を削除いたしましても、外國の君主、大統領、使節の個人の権利に対する侵害は、先程申上げましたように、一般國民に対する刑罰を引上げたことによつて当然重く保護される結果となりまするので、これらの人々の個人的人権保護については少しも遺憾がないであろうというふうに考えられるのであります。そういたしますると、只今お説のように個人の権利を保護することには十分であろうが、外國の代表者であるから、その代表者を侵害することによつて、それらの人々の属しているところの外國の尊嚴を侵すことになりはしないか、その外國の尊嚴を侵した者に対して、特別な規定を設ける必要があるのではないかという御意見のように承つたのであります。個人の権利を侵害し、或いはその他の方法によつて外國の尊嚴或いは外國の名誉或いは外國の利益を侵害することが、これはいろいろな場合に考え得られるのでありまするが、さような全般的な問題に対し、外國の利益に侵害し、或いは外國の尊嚴を侵し或いは個人の名誉を侵害することによつて、やがて外國の名誉を侵害することになるというようないろいろな場合について特別な規定を設ける必要があるかどうかということにつきましては將來刑法の全面的な改正について審議する際に十分考究いたしたいと存ずるのであります。今囘の改正案はしばしば申上げましたように、新憲法の精神に副うて個人の尊嚴を從来よりも重く保護しようという建前から、又法の前に各人が平等でなければならんという新憲法の精神に副わんがために一部改正案を立案した次第でありまするから、只今のような全般的な問題に対しては後日の研究に讓りたいと考えておるのであります。
#21
○松井道夫君 今の問題は一應それで打切りたいと存じます。次に執行猶予の関係についてお尋ねをしたい。新らしい刑法の原案によりますると、罰金の執行猶予というものが認められておるのであります。これは趣旨といたしまして私は賛意を表する者でございまするが、ただここに疑問といたしますることが一、二あるのでございます。刑法第二十六條によりますると、現行刑法におきましては、執行猶予の期間内に更に罪を犯しまして禁錮以上の刑に処せられたという場合には、執行猶予の言渡しを取消すことに相成つておるのであります。又執行猶予言渡し前に犯した他の罪について禁錮以上の刑に処せられた、同じく執行猶予の要件に合致していなかつた、執行猶予を附すべき要件を合致していなかつた者を過つて執行猶予にしたというような場合には、やはりその執行猶予を取消すということに相成つておるのでありまするが、罰金の執行猶予の言渡しにつきまして第二十六條のごとき取消意義を認めなかつた理由をお尋ねしたいのであります。
#22
○政府委員(佐藤藤佐君) 現行刑法の二十五條に明記してありまするように執行猶予をするには、前に禁錮以上の刑に処せられたことがないということが前提としておるのでありまして、若し執行猶予を附した後で、実は禁錮以上の刑に処せられたことがあつたという事実が発覚された場合には、二十六條の三号によつて取消されることとなるのであります。で、今改正案におきまして執行猶予を付し得る條件としてこれを拡張いたしまして、罰金刑についても執行猶予を付し得ることといたしたのでありまするが、その前提要件たる禁錮以上の刑に処せられたことのない者に限るという二十五條の要件につきましては、何ら変わりはないのであります。從つて以前に罰金刑に処せられても、処せられないでも、とにかく禁錮以上の刑に処せられたことさえなければすべて執行猶予を付し得るのでありますから、一旦執行猶予を付せられた者が前に罰金刑の言渡しがあつたということが発覚いたしましても、それは取消事由にいたさなくともよろしいというふうに考えましたので、この点の取消事由を更に拡張いたさなかつたのであります。
#23
○松井道夫君 必要がないと認められる、こういうことなのでございまするがこの二十六條の第一号によりますと「猶豫ノ期間内更ニ罪ヲ犯シ禁錮以上ノ刑ニ處セラレタルトキ」ということに相成つております。それで仮に罰金の執行猶予を得た者がその期間内に更に罰金刑を犯した、かような場合には今の改正案の二十六條の第二項になりますが、「罰金ニ處セラレタルトキハ刑ノ執行猶豫ノ言渡ヲ取消スコトヲ得」ということになつておりますので、これは運用上よろしきを得るように期待せられたのであると存ずるのであります。併しながらこの現行法の二十六條第一号を設けてある趣旨から推しますると、そこにいささか不安の念も禁じ得ないものがあるやに存ぜられるのであります。例えば執行猶予期間三年ということになつておりまして、一年も経たずに又罰金刑を犯す、それも執行猶予を付けることができるのであります。又それを犯し一年も経たないうちに罰金刑に処せられたのも執行猶予を付けることができる。前の執行猶予の取消しもこれも自由ということになつておる。その辺いかがかと存ぜられる節があるのであります。又この第二号についてみましても、これは勿論第二十五條の要件と関聯いたしておることでございますが、第二号の要件が、前に幾ら重い罰金刑に処せられても執行猶予を附けることができることになつておりますので、從つて問題に相成るのでありまするが、この第二十六條二号のような、勿論第二十五條の要件と関聯いたすのでありますが、こういうものがありました場合に、執行猶予の取消しということが考えられるのであります。先に五千円、三千円程度の罰金刑で執行猶予の言渡しを受ける、ところが、それより先の三千円、四千円の罰金刑に処せられておつたという事実が発覚いたす、その場合にこれを取消すとかいう手続は何もないというのは、いささかどうかと存ぜられるのであります。又三号についても同じことであります。これを罰金刑の場合に拡張する必要がないと認められたというのでありますが、そのお認めになりましたについて、どれだけの根拠、どういう理由があるのでありますか、その点に疑いを持つておるのであります。その点についての御説明を伺いたいと思います。
#24
○政府委員(佐藤藤佐君) 改正案におきまして第二十六條に一項を追加して猶予期間内に更に罪を犯して罰金に処せられたときは、刑の執行猶予の言渡しを取消すことができるという規定を追加いたしましたために、只今のようないろいろな均衡論から御意見が出ることと思われるのであります。この「取消スコトヲ得」というのは、御説明申上げるまでもなく、執行猶予の期間内に更に罪を犯した、本來謹愼をしておるべき者が、猶予期間内に更に罪犯して、その罪が禁錮以上の刑に処せられた場合には、現行刑法の二十六條によつて執行猶予の言渡しは必ずこれを取消さなければならないのであります。併しながら罰金刑を犯した場合には、現行刑法では取消すことはできないのであります。いかに重い罪を犯し、又重い罰金刑に処せられた場合でも、これを取消すことができない、非常に不均衡な又不合理な場合も多々生じまするので、本來謹愼しておらなければならない執行猶予期間内に、罰金刑に当てるような犯罪を犯して、そうしてその罪が重い、或いは言渡されたる罰金刑が非常に重いというような場合には、裁判所は具体的な事情を判断されて、情状によつて取消すことができる。若しその執行猶予期間内に犯した犯罪が極く軽い罪で、言渡された罰金刑も大して重くないという場合には、情状によつて執行猶予を取消さないこともできるというふうに、裁判所の自由裁量にその点を委せておるのでありまして、猶予期間内に罰金刑に当る言渡しを受けた場合には、必ず取消さなければならんというのではないのでありますから、只今御意見のような、いろいろ不均衡を考えられるようなこともなかろうと存じます。元々刑の執行猶予という制度は、申上げるまでもなく、短期自由刑の弊害をなくするために、今まで刑務所に入つたことのない者を初めて刑務所に入れようというときに、その情状によつて刑の執行猶予をする方が、犯人の將來のためによろしいという刑事政策的な意味から、刑の執行猶予の制度を設けられたのでありますから、前に罰金刑の前科があるかないかというようなことは考えられておらないのでありまするから、今囘刑の執行猶予を認め得る制度を拡張しようというこの際に、罰金の前科があつたかないかということによつて、執行猶予の恩典を附し得る場合を制限するということは適当でなかろうという考えから、この点に改正案は及ばなかつたのであります。
#25
○齋武雄君 先程山下委員から、天皇皇后その他の方々の告訴について、総理大臣に代理権があるということにつきまして御説明があつたのであります。総理大臣が代理権を持つということについては、先程の御説明によつて了承したのでありますが、この際明らかにして置きたいことは、総理大臣と被害者たるお方の意思が相違したる場合においてはどういうようになるのであるか。例えば皇后の名誉が毀損された場合において、総理大臣が代理を以て告訴をしたという場合において、皇后陛下が告訴すべきものでないという意思をお持ちになつておる場合、或いは告訴されても取下げするのが適当だという御意思を持つておつた場合において、どういうふうになるのであるか。
 それと関聯しまして、この代理ということは民法上の法定代理権の代理の規定が適用になるのであるかどうか、この点を明らかにして置きたいのであります。
 この二点について御説明を願います。
#26
○政府委員(佐藤藤佐君) 刑法改正案の第二百三十二條に特に一項を設けまして、天皇、皇后、太皇太后、皇太后、皇嗣が名誉毀損の被害者である場合には、内閣総理大臣が代つて告訴を行うという全く新らしい制度を設けたのであります。この総理大臣の告訴権というものは、被害者と独立した告訴権という考えの下に立案いたしたのであります。從つて被害者たる天皇、皇后、太皇太后、皇太后、皇嗣の意思如何に拘らず内閣総理大臣が自己の意思を以て独立して告訴権があるというふうな考えの下に立案いたしたのであります。
#27
○齋武雄君 告訴というものは被害者の意思によつて行うことはこれは通常の状態でありまして、被害者が告訴を必要としないということを、他の人が自分の意思によつて告訴をするということは適当でないと私は考えるのであります。そういうことはないと思うのでありますが、或いは内閣総理大臣の性格如何によつて、或いは政爭の激甚な場合においてこれは利用されるようなことがあつては甚だ面白くない結果を生ずるというのでありまして、大体において被害者の意思如何に拘わらず独立してやるということは不穏当であると考えるのでありますが、そういう点についてお考えになつたかどうか、この機会にお伺いして置きたいと思うのであります。
#28
○政府委員(佐藤藤佐君) 只今お尋ねの点につきましては十分考慮いたしたのであります。ここに言う代つて告訴権を行うという趣旨は、普通の代理の場合の観念と違いまして、本人の意思と関係なく、独立して告訴権を行うという新らたなる権利を法律の上において認めたのであります。何故さような異例の、特別な規程を設けたかということは、これはしばしば申上げましたように、國の象徴であり、又國民統合の象徴であらせられる天皇が、國民の一人を罰せられたいという告訴の意思を表示されるということは、我が國といたしましては到底期待することができない事実であるというふうに考えておるので、天皇の最も身近かであらせらるる皇后、太皇太后、皇太后及び皇嗣についても同樣であろうと存ずるのであります。かような方々が告訴をすることが期待することができないからそこで内閣総理大臣が代つて告訴権を行うという新らしい制度をここに設けたのでありまするが、一般の代理権の観念を以ては律することができないのであります。これまでも被害者の意思如何に拘わらず告訴をすることができる、独立して告訴をすることができるという事例も刑事訴訟法に規定されておるのでありまするけれども、併しながらその場合と雖も、後で本人がこれを取消すというような場合には、その本人の意思を尊重するという建前になつておりまするので、この二百三十二條に新らたに設けましたこの場合においては、さような本人の意思によつて後で告訴が取消されるというような事例を全然考えておらないのであります。
#29
○齋武雄君 陛下が國民を告訴されるということはあり得ないことでありましても、それでも総理大臣が代つてやる、これは当然のことでありますが、然らば総理大臣が告訴をした場合に、陛下が告訴すべきでない、或いは陛下でも、皇后でも、皇太后でもよろしうございますが、告訴すべきものでない、自分は告訴を取消したいと明らかに意思表示されたならば、どういうふうになるのでございますか、そういう点をいま一度お伺いして置きたいのであります。
#30
○政府委員(佐藤藤佐君) 天皇が名誉毀損の被害者であらせられる場合に、天皇みづから告訴の意思を表示される或いは告訴したくないという意思を特に表示されるということはないと思いまするが、若しそういうようなことがありましても、制度の上においては、内閣総理大臣は被害者の意思如何に拘わらず独立して告訴権を持つており告訴権を行使することができるものである、かように解釈いたしております。
#31
○山下義信君 簡單に私もいま一度伺つて置きたいのでありまするが、総理大臣が代つて告訴をいたしますことがここで規定をせられまして、それが單なる事務的のことであるというような御答弁の趣旨もございましたが、併し苛しくも國の元首、象徴であるその方の御意思如何に拘わらず総理大臣が代つてやるのであるということになりましたらば、これは実に立派なる國務でありまして、当然そのことに関しましては内閣は國会に対しまして責任を負わなければ相成らん。然る場合にこの総理大臣の代理告訴ということは、只今齋藤委員からもお説がありましたが、若し天皇以下の方々に対する名誉毀損の事件が種々に起りましたる場合に、総理大臣の代理告訴権を用いてこれを取上げないというがごときことになりますると、必ずや総理大臣はこの條文によりましての責任を問われるということに相成ります。若し又代理告訴をいたしますというがごときことが内閣の性質によりまして、いわゆる天皇制護持の立場から或る意味の、今囘削除されたる不敬罪の心持を以ちましてどしどしと名誉毀損ということによりまして、総理大臣が告訴をいたしまするというと、そのことが行い得られまするが、然るにこの天皇その他の方方が、それは意思でない、自分は告訴する考えは持つていないということをお示し相成ることに相成りますと、総理大臣は実に進退極まる立場となりまして、國会に対しまして非常なる責任を負い、遂にはそれがために内閣の顛覆を見るというがごとき事態が生ぜざるを保し得ないのでございます。併し或る意味におきましては、これは実に我が國の國体を、この新憲法に示されたる皇室の尊嚴を維持いたしまする日本國の傳統の精神が、この一條によりまして無限の意味を持つておりまする代りには、又この皇太后、大皇太后或いは皇太子というがごときお方々の意思によりましては、いかようにしても政府を更送せしめることができるというがごときことにも利用せられるという一ケ條に相成りまするので、そこでただ單にこういうふうな意味から、告訴遊ばすことができませんお立場の方々に代つて告訴をいたしますということは、單なる告訴の手続きというがごときことでありますれば、宮内府長官の程度でよろしいのではないかということが我共の考えでございます。但し天皇に関する限りは、これは即ち國務でございまするから内閣総理大臣でもよろしいということは或程度了承いたしまするのでございまするが、その他の方々までも総理大臣が代つて告訴をいたしまするというがごとき場合には、只今のような事態ということに関聯をいたしまして、先般來から伺つておるのでございまするが、只今のような場合の総理大臣の立場に関しまして何らかのお考えをお持ちでございますればお示しを願いたいと存じます。
#32
○政府委員(佐藤藤佐君) 御意見のように、この場合の告訴権者を宮内府の長とすべきではないかということも一應考えられたのであります。併しながら宮内府の長となりますれば、常時天皇のお側におられまするので余りに身近であるという点と、又宮内府を統轄しておる、而も政府を代表しておる総理大臣が愼重にこの告訴権を行使するというふうにする方が、より適当であろうというところから、総理大臣を告訴権者にするという新らしい制度を設けたのであります。かような規定によつて、初めて総理大臣が他人の告訴権を代つて、而も独立してこれを行うという制度を設けられたのでありまするがその総理大臣の告訴について、只今お説のようないろいろな政治上の責任というものが、場合によつては或いは起きることがあるかも存じませんが、私共の解釈としては、法理上は総理大臣の責任ということは、全然これは別な問題であろうと解釈いたしておるのであります。
#33
○鬼丸義齊君 私も只今の問題に関聯しまして一言伺いたいのであります。先程來から、政府委員の御答弁によりますると、代つてと申される傍から独立してと申されております。改政案によりますると、「代リテ之ヲ行フ」ということになつておりまするが、代つてこれを行う場合と、独立してという場合とは勿論大なる相違があります。若し独立して内閣総理大臣が告訴をいたしまするとするならば、天皇、皇后、皇太后、これらの方々も亦みずから告訴をなすことができるかどうか。独立して告訴をなすこともできるかどうか、その点を伺いたい。
#34
○政府委員(佐藤藤佐君) 御質問の点は誠に御尤もに存ずるのであります。刑事訴訟法において告訴の手続きなり告訴権者が誰であるかということが詳細に規定されておるのでありまするが本來告訴というものは、被害者がこれを行う、まず第一に被害者が告訴権者であるということはこれは勿論のことであります。それでありまするから、特に規定を設けなければ被害者たる天皇が唯一の告訴権者であるということは明らかなのであります。併しながら先程來申上げましたように、國民敬仰の表象であらせられます天皇が國民を告訴するということは事実上期待ができない、全然それは信ぜられない事実である、こう考えられまするので、然らば告訴権者たる天皇に告訴権の行使が期待できないとすれば、誰にその告訴権を代つて行わせるかということについて、いろいろ考えを囘らしまして愼重に考究した結果、行政の主宰者である総理大臣が最も適当な地位にあるというところから、総理大臣が天皇の告訴権を代つてこれを行う。從つて総理大臣の告訴権というものは本來天皇の告訴権であるが、それを代つて行うのである。而もそれは天皇の意思如何に拘わらず独立してこれを行うのであるという趣旨をここに現わしておるのであります。若し代つてという文字を用いてないで或いは独立してこれを行うというふうに規定いたしますると、総理大臣にも告訴権があり、本來の告訴権者たる天皇にも告訴権があるという両建てになりまするので、そういう結果の生じないように、総理大臣のみが代つてその告訴権を行使するのであるという趣旨を現わしたいと思つて、かような規定を立案いたしたのであります。
#35
○松井道夫君 先程の執行猶予の関係ですが、尚これにつきまして御質問いたしたいと存ずるのであります。罰金の前科はすべてこれは不問に付した方がよかろうということであつたのでありまするが、併し考え方によつては、罰金の執行猶予を附ける上におきまして、何年間以内に相当重い、例えば政府の原案によりますれば、五千円以下の罰金でなければ執行猶予は附けられないという制限がございまするが、例えば一年なら一年前に五千円以上の罰金の前科があつた場合には附けられないとか、何らかの前科の関係を執行猶予の條件に入れるということについては何らの考慮も拂われなかつたかどうであるか、その点を一つ……。
 それから只今も問題になつておりました天皇その他皇族関係の告訴の問題であります。一案として宮内府の方で告訴を行うということが考えられたということでございまするが、皇室会議の議長乃至皇室会議がこれを行う、皇室会議は皇室のいろいろ私的事項も取扱われる権能もありますので、皇室会議の関係においてこれを取行うということを、特に考えに置かれなかつたかそういうことが考えられるものであるかという点を一つお尋したい。
#36
○政府委員(佐藤藤佐君) 罰金刑の言渡しを受けた者に対して執行猶予を言渡すことができるというふうに、執行猶予の制度を拡張いたしたのでありまするが、その罰金刑について執行猶予を言渡す際に、前に罰金刑の言渡しを受けたことがあるかないかということを調べて、罰金刑の言渡しを受けたことがある者に対しては、絶対に執行猶予の言渡しをしてはいけない。言い換えれば、刑の執行猶予の言渡しをする際に、前に罰金刑の言渡しを受けたことがない者に限るというふうに、その前提條件を制限いたしますることは現在の刑の執行猶予の制度よりも更に嚴格になりまするので、わざわざそういうふうに制限を嚴しくする必要がないであろうという考えの下に、條件を追加いたさなかつたのであります。併しながら、以前に非常に惡質な罰金刑の言渡しを受けておる、或いは度々罰金刑の言渡しを受けたのに拘わらず、改悛の情なくして、又罰金刑の言渡しを受けるというような場合には、恐らく裁判所において、情状によつて執行猶予の言渡しをすることができるという制度でありまするから、そこは裁判所の自由裁量によつて、さような悪質な者に対しては恐らく執行猶予の言渡しをしないだろうということが期待できまするので、わざわざ刑法二十五條の制限を拡張して、罰金刑の言渡しを受けた者は絶対に執行猶予の恩典に預かり得ないというような制限を設けなかつたのであります。
 第二の点は、天皇が名誉毀損の被害者である場合に、皇族会議が天皇の告訴権を代つて行うというふうにしたらどうかという御意見のように承つたのでありますが、個人に專属しておる告訴権を行使するには、やはり個人の意思によつて告訴するかどうかということを決める方が最も妥当であろうと考えられまするので、或る会議体、合議体において告訴するかどうかということを決定することは適当ではないのではなかろうかというような考えの下に、合議体に告訴権を認めなかつたのであります。それは外國の君主、大統領が被害者たる場合におきましても、その外國が告訴を行うというふうにはしないで、その國の代表者が代つてこれを行うというふうに規定いたしたのであります。
#37
○松井道夫君 私の今の執行猶予の点についてお尋ねいたしておりますのはこの要件を強化する、現行法二十五條の要件を強化するという意味じやないのでありまして、罰金刑に対する執行猶予ということは初めてできた制度でありまするから、その罰金刑の執行猶予につきましては、その要件をどうするかという問題なんであります。現に現行刑法におきまして、第二号におきまして、七年以内に禁錮以上の形に処せられたことがあるときは執行猶予にすることができないということになつておりますので、それと同じ立法の趣旨から、或る程度以上の制限を置けないかどうであるかということが考えられるのでありまして、現行法の要件を強化するという意味でお尋ねしておるのではないのであります。
 それから今の皇室会議の関係でございまするが、個人でなければ工合が惡いということも尤もにも存ぜられるのでありまするが、皇室会議自体でなくて、皇室会議議長ということでありますれば、これは個人であるのであります。特に皇室会議の性質乃至は皇室会議の議長の性格からいいまして、起訴権者として不適当な筋があるのかという点をお尋ねしたのであります。
#38
○政府委員(佐藤藤佐君) 天皇の告訴権を代つて行う者が、皇室会議の議長の方が適当か、或いはその他の者が適当か、いろいろ考えられるでありましようけれども、政府といたしましてはやはり原案のように、内閣総理大臣の方が最も適当であろうという考えからかような案になつたのであります。
#39
○委員長(伊藤修君) 本法施行に関する費用についてお伺いいたしたいと思います。まだ他に御質疑ありますか。
#40
○松村眞一郎君 ちよつと速記を止めて下さい。
#41
○委員長(伊藤修君) 速記を止めて。
   〔速記中止〕
#42
○委員長(伊藤修君) 速記を始めて。
#43
○來馬琢道君 只今の名誉毀損のことでありまするが、この二百三十條ノ二が新らしく設けられた。これは私は予ねて本委員会において質疑いたしたことでありまして、昔の新聞紙條例が中頃新聞紙法となつて、今その機能は失われておるようでありまするが、元々新聞記者に対する権利を保護するためにできた法文であつて、それがここに移つて來たものであると考えて、この條文ができたために、新聞記者でない者であつても、いわゆる演説者、論客というような者が、盛んにこれを濫用することがありますと、先程も出ました選挙の場合などには、弱いものが甚だ不利益なことがあるだろう。この点について、その事実の賛否をとやこう言つていても、もう選挙のようなときには間に合わないことがあると思ひますが、これはかような意味において而もそれが証拠不十分の場合などには全く迷惑を感ずるのであります。何か新聞記者というようなことに、新聞というようなことに、もう少し制限されることは考慮されなかつたのでありますか。
 それからもう一つ、只今大分論ぜられました、「天皇、皇后、太皇太后、皇太后又ハ皇嗣ナルトキハ」というので内閣総理大臣が代つて告訴するという問題ですが、攝政は、親王及び内親王がなさることもあるので、攝政に対しては、御自分でなさるということになつてよろしいのですか。この点について伺いたいと思います。
#44
○佐藤藤佐君 天皇以外の方で、ここに列挙されておられる方が攝政であらせられる場合には、勿論内閣総理大臣が代つて告訴を行うということになりまするけれども、若しここに列挙されておる方々以外の方が攝政になられました場合には、攝政信身が告訴権を行使するということになると解せられます。
 それからその次に御質問の二百三十條の二において、名誉毀損の事実が本当であるかどうかという事実の眞否を判断して、若しそれが事実であり、而もその事項が公共の利害に反する事実であり、更にその暴いた的目が專ら公益を図るに出でたものというふうに裁判所で判断されました場合には名誉毀損罪が成立しないという免責規定が新らたに設けられたのでありますが、これと同じような趣旨の規定が、お話のように出版法及び新聞紙法にすべてに規定されておつてのでありまして、これらの規定の適用といたしまして、これまで新聞紙法や出版法違反の名誉毀損罪が長い間法廷で爭われて、その間被害者に更に多大の迷惑を掛けた事実がしばしばあつたのであります。新聞紙法、出版法については、全面的に、新らたなる觀点に立つてこれを立案しなければならんと考えておるのであまりするが、現在は御承知のように中止状態、眠つておる状態にありまするので何とか出版、新聞に関する取締法を判定しなければならんということは朝野の識者において力説されておるところでありまするから、恐らく早晩何らかの取締法ができるだろうと思いまするけれども、現在のところは、出版及び新聞紙に関して特別な規定を刑法において取上げて規定する段階に至つておりませんので、ここにはさような規定を設けなかつたのであります。併しながら新聞紙及び出版に拘わらず、すべて名誉毀損の事実の眞否を判断して、眞実なことの証明があつた場合には、これを罰しないことにするという立法例は御承知のように各國の立法の趨勢になつておりまするので、刑法の改正に当りまして、特にこの点を掲げて、新憲法の言論の自由を尊重する趣意にも副いたいというつもりで立案いたしたのであります。
#45
○委員長(伊藤修君) 他に御質疑がないようでありますから、質疑はこれを以て終了いたしたことに御異議ありませんか。
   〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
#46
○委員長(伊藤修君) それでは質疑はこれを以て終了いたします。
 直ちに討論に入るべきところでありますが、本案は重大法案でありますから、各修正意見もおありになることと存じますから、明日にいたしたいのでございますが、皆さんの御都合はいかがでございましようか。明日でもよろしうございますか……。
   〔「明日で結構です。」と呼ぶ者あり〕
#47
○委員長(伊藤修君) では明日午後一時から本案に対する討論に入ることにいたしたいと思います。從つて修正御意見の方は、事前にどうか御提出願いまして、委員部に印刷をお願いいたしたいと存じますから……。本日はこれを以て散会いたします。
   牛後零時三十二分散会
 出席者は左の通り。
   委員長     伊藤  修君
   理事
           松井 道夫君
   委員
           大野 幸一君
           齋  武雄君
          大野木秀次郎君
           鬼丸 義齊君
           岡部  常君
           小川 友三君
           來馬 琢道君
           松村眞一郎君
           山下 義信君
           阿竹齋次郎君
  政府委員
   司 法 次 官 佐藤 藤佐君
ソース: 国立国会図書館
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