くにさくロゴ
1982/04/11 第98回国会 参議院 参議院会議録情報 第098回国会 安全保障特別委員会 第3号
姉妹サイト
 
1982/04/11 第98回国会 参議院

参議院会議録情報 第098回国会 安全保障特別委員会 第3号

#1
第098回国会 安全保障特別委員会 第3号
昭和五十八年四月十一日(月曜日)
   午後一時一分開会
    ─────────────
   委員の異動
 三月三日
    辞任         補欠選任
     大島 友治君     源田  実君
     立木  洋君     上田耕一郎君
 四月九日
    辞任         補欠選任
     上田耕一郎君     立木  洋君
    ─────────────
  出席者は左のとおり。
    委員長         堀江 正夫君
    理 事
                大坪健一郎君
                竹内  潔君
                勝又 武一君
                渋谷 邦彦君
                立木  洋君
                柄谷 道一君
    委 員
                板垣  正君
                大木  浩君
                夏目 忠雄君
                林  ゆう君
                村上 正邦君
                大木 正吾君
                佐藤 三吾君
                寺田 熊雄君
                秦   豊君
   事務局側
       常任委員会専門
       員        林  利雄君
   参考人
       軍事評論家    阿曽沼廣郷君
       評  論  家  海原  治君
       日本戦略研究セ
       ンター理事    北村 謙一君
       軍事評論家    藤井 治夫君
    ─────────────
  本日の会議に付した案件
○理事補欠選任の件
○国の安全保障に関する調査
 (シーレーン(三海峡を含む)防衛の本質と問題点に関する件)
    ─────────────
#2
○委員長(堀江正夫君) ただいまから安全保障特別委員会を開会いたします。
 まず、理事の補欠選任についてお諮りいたします。
 委員の異動に伴い、現在理事が二名欠員となっておりますので、その補欠選任を行いたいと存じます。
 理事の選任につきましては、先例により、委員長の指名に御一任願いたいと存じますが、御異議ございませんか。
   〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
#3
○委員長(堀江正夫君) 御異議ないと認めます。
 それでは、理事に立木洋君及び柄谷道一君を指名いたします。
    ─────────────
#4
○委員長(堀江正夫君) 国の安全保障に関する調査を議題といたします。
 本日は、シーレーン(三海峡を含む)防衛の本質と問題点に関する件について、お手元に配付いたしております名簿の方々を参考人として、御出席をいただいております。
 この際、参考人の皆様に一言ごあいさつを申し上げます。
 本日は、御多忙中のところ、当委員会に御出席いただきましてありがとうございます。皆様から忌憚のない御意見を拝聴し、今後の本委員会の参考にいたしたいと存じます。
 つきましては、議事の進行上、阿曽沼参考人、海原参考人、北村参考人、藤井参考人の順序でお一人十五分程度御意見をお述べいただき、その後委員の質疑にお答え願いたいと存じます。
 なお、御発言は御着席のままお願いいたします。
 それでは、まず阿曽沼参考人にお願いいたします。
#5
○参考人(阿曽沼廣郷君) 御紹介にあずかりました阿曽沼でございます。
 私の持論をひとつ中心に申し上げたいと思いますが、私はシーレーンの防衛という前に、シーレーンの安全保障という概念でこの問題を追求していくべきだと考えておるものであります。
 まず、シーレーン防衛を考える場合に、世界の戦略環境というものを概括化をしてみる必要がある。現在の国際政治の政治学的、地政学的背景は、単に海と陸の対立、そんな単純な見方は当を得なくなっておりますけれども、しかし振り返ってみると、単純ではありますけれども、やっぱり陸と海の対立というのが基本的な問題として存在意義は持っておる。大陸国家群と海洋国家群の対立、こういう構図が地球儀を眺めてみた場合に現在の国際情勢を見る一つの物差しではないか、こういうふうに考えるわけであります。これは現在の米ソの双極体系を説明するのに役立つと思います。 このような考え方は、歴史、地理及び政治の接点、交会点を見出す概括化の作業でありますけれども、とかく作戦、戦術あるいは予算の問題に論点を集中するよりも、これを指導する国家の戦略という問題についてもっと考える必要がある。シーレーンの防衛についてもそうである、こういうふうに私は考えるわけです。一国の対外政策や国家戦略を微視的な知識や顕微鏡的な解釈で論ずるべきではない、シーレーンの防衛問題の解決も世界史的あるいは全球的な視野が必要だ、これが私が申し上げる一つの最初のポイントであります。
 日本は海洋国家、ザ・シーパワーでありまして、決して大陸国家、ザ・ランドパワーでもない。またアウタルキーの経済の自給自足の島国でもない、こういうところが日本の国家戦略を決めるかぎである。したがって、わが国の立場に立てば、私は、海洋政治、オーシャノ・ポリティックスというものが政治の理念として確立されなきゃいかぬ、こういうふうに考えます。また、細かいことは後からも御質問があろうかと思いますが、日本とアメリカの同盟関係、NATOの同盟関係、これは言ってみれば海洋同盟システム、こういうとらえ方を私はしたいと思います。海洋国家日本の今日的な課題は、まさに海洋の自由で安全な利用を図る、こういうことが国家戦略の基本になければいけない、こういうふうに考えるわけです。日本の富と力は大部分を海から手に入れております。この海の安全な利用、それから日本の国民生活、国家経済を成り立たせております資源の循環、資源のサーキュレーションの中で致命的に大事な海上輸送、これは平時にあっては必要な資源の輸入であり、戦時にあっては軍隊の輸送等を含む海上の利用であろうと思います。
 それから、シーレーンの防衛の必要条件と十分条件というものを十分に考えにゃいかぬ。この必要条件は何かといいますと、私は、要約してみまして、情報と知恵である。十分条件は、シーレーンの防衛にかかわりますハードウエア、船であり飛行機であり予算である。そういう問題が十分条件であろう、こういうふうに考えるわけですが、この情報は何を追求するか。一つだけ申し上げますと、これは海洋の安全な利用を脅かすリスクを考量する、カリキュレートする、そして分析をする、こういう作業を一つ代表的な問題として挙げることができると思います。
 なお、もう一つは、海洋を安全に利用するための客体といいますか、船舶の情報、これも十分に把握していなければいけない。もちろん私は、シーレーンの安全保障ないし防衛に決め手はないと思います。決め手はないけれども、よい手はある。よい手というのは、将棋や碁で言いますように、その手を打ったがために後の情勢がきわめて有利に展開する手である。よい手は、私は、情報システムを十分に整備することだと、そうして海洋の安全を脅かすリスク、これは、平時においては経済的なリスクあるいは政治的なリスク、非常に多様でありますけれども、有事に限って申し上げますと、海洋の安全を脅かすものとして航空機があり、水上艦艇があり、潜水艦がある、そのうち最も厄介なものは潜水艦ということになろうかと思います。そうして、このリスクは、平時から未知のまま放置しておかないで、未知のリスクから既知のリスクにする努力を平時からやる必要がある。海上自衛隊がP3Cを持ち、水上艦艇を整備するのも、未知のリスクから既知のリスクに転換させるためのツールであるという認識もできると思います。このほかに、先ほど申し上げました守られるべき客体の船舶の情報をどうやって把握するかというシステム、これは、幸いなことに海上保安庁でも海洋情報システムというものをこれから整備されるそうでありますけれども、これが速やかに整備をされて、いわゆるトータルな情報システムを整備するという方向にこれから向かうべきであろう、こういうふうに思います。私は、情報システムはシーレーンの防衛を望ましい方向に持っていく基盤であると、こういうふうに考えます。
 それから、知恵の方で言いますと、これはやはり、為政者が、日本が海洋国家であり、海の安全な利用についてこれをバイタルな問題として考えるという、いわゆるシーマインドフルネス、海洋に対する知覚が十分であるということがこの知恵であろうかと思います。いま、日本にシーレーンの防衛に関しましても、決断のシステムというのがない。これは後から質問があれば申し上げますが、いずれにしましても、安全保障について決断のシステムがないということはわれわれ非常に危惧するところであります。安全保障全般に現在の日本は非常に矛盾に富んでおります。矛盾の中でいろんなことを決断してやっておるわけでしょうけれども、この矛盾の根源は何にあるかということも十分考える必要がある。日本のシーレーンの安全にとって責任を負う行政機関というのは多々ございます。ただし、これの行政の成果が国としてどういうふうに統合されるかという面については非常にまだ疑義があるところであります。
 たとえば、ことし答申が出ました海運の危機管理に関する作業にいたしましても、軍事的な脅威が顕在化して挑戦を受けるような事態というものについては、これは防衛政策、その他の問題、政策は中心になるので検討から外れるということになっておりまして、いずれはこの問題を国としてシーレーンの安全保障について総合的に考えるような施策が講ぜられなきゃいけないと思います。
 時間も参りましたのでこの程度にさしていただきます。
#6
○委員長(堀江正夫君) ありがとうございました。
 次に海原参考人にお願いいたします。
#7
○参考人(海原治君) まず第一に申し上げたいことは、シーレーンの安全の確保とか海上交通の安全の確保という言葉がこの数年来いろいろと言われておりますが、一体、シーレーンの安全の確保とは何か、これが具体的にはっきりいたしておりません。それぞれの人々がそれぞれの立場でこのシーレーンの安全の確保ないしは海上交通の安全の確保という言葉の内容を自分なりに決めて、そうして議論が行われております。そこで、非常に混乱した状態が現に日本の国内にございます。
 これをまず大きく分けますと、一つは、このシーレーンの安全の確保というのは、日本の防衛努力、それを象徴的にあらわすものとして、いわゆる政治的なスローガンとして使われている。それはそれなりの意味がございましょう。そういうものとして扱うのか。それとも、第二の、現実の具体的な事態に臨んで、何をどうすることによってどういう効果が現実的に具体的に入手できるか、そういう具体的な問題としての把握、これに分かれます。私は、もと防衛庁におりました。防衛庁におりましたときから、このシーレーンの安全の確保という言葉は明確にその内容を決めてかからないと幾ら議論をしても結論は出ないということを言い続けております。
 もう一つの問題点は、防衛白書等にも出ておりますが、一体、それは平時の問題なのか、それともいわゆる有事――有事と言えば、これは、戦時ないしは紛争時、すなわち交戦状態を前提とする言葉だと私は思いますが、その場合の言葉か、これがわからぬわけであります。
 これにつきまして整理しますと、この前の戦争が終わりまして以来、旧帝国海軍軍人さんのつくっておられますところの団体で平時における海上交通の安全の確保、これが絶対に必要だということを公に提唱しております。この考え方では、戦時ではございません。平時であります。平時になぜそういうことが必要か。それは、共産圏の国、「某国」と書いてありますが、この某国が日本を屈服させようと思った場合には、国籍不明の潜水艦を仕立てる。この国籍不明の潜水艦が日本に向かう貨物船、輸送船、こういうものを撃沈する。これによって日本は生きていけなくなるから屈服せざるを得ない。これが某国のとる日本を屈服させるための絶対的な方法である。そこで、海上自衛隊はこの国籍不明の潜水艦の発見と探知と掃討をやるべきである、これが旧帝国海軍軍人を中心とした主張であります。すなわち、これは平時の主張であります。しかし、こういう考え方は世界じゅうで日本しかございません。日本以外の国ではいわゆるシーレーン的なものの安全の確保はいわゆる有事の場合であります。この平時におけるいまの国籍不明の潜水艦、これを退治しろという思想に似た思想が現職の海上自衛隊の幹部学校長からも表明されたことがあります。それは、日本に対して武力攻撃をかける某国は、この四つの島に対しての武力攻撃の前に必ず海上交通破壊戦をやる、それが戦略の常道である。そこで、海上自衛隊としてはこの戦略の常道である日本に対しての武力攻撃の前の海上交通破壊戦に備えるべきである、これが海上自衛隊の幹部学校長がその在職中に発表した論文であります。以上は平時におけるシーレーンの安全の確保です。
 これにつきまして、私は、そういうことはあり得ない事態であるということで従来言っておりますが、この平時か、戦時か、有事かを明確にしろということを言っておりましたら、現在の中曽根内閣になりましてこの点が明確になりました。すなわち、総理大臣の中曽根さん、さらには防衛庁の政府委員、これが今回の国会で言っておりますことは、有事の場合、航路帯を設けるならばということでいわゆるシーレーンの安全の確保を説明しております。私はこの政府の説明が理解できないのです。航路帯を設けるならばという仮定法で政府が説明をする。一体その航路帯とは何か。設けるのか設けないのか。いつそれは設けるんだ。それは船と飛行機とどういうものから成り立つのか。こういう具体的な質疑応答は、私の知る限り、今度の国会における論戦として新聞には報道されておりません。私はこれが非常におかしいと思うんです。もう一度申しますが、シーレーンの安全の確保とは、何を、いつ、どうすることによって、どういう効果が期待できるのか、この論議の対象を明確にすることが必要だと思います。
 これにつきましてひとつ、最近NHKが出しました「シーレーン・海の防衛線」という本がございます。ここではこれを読んでもよろしいんですかな、使っても。
#8
○委員長(堀江正夫君) どうぞ。
#9
○参考人(海原治君) これには海上自衛隊の元の幹部の四人の言葉が出ていますが、一人の元海幕長をした人は、シーレーンとは船の数だけあると言っております。質問者が、船の数だけあるとおっしゃったのですか。はい、そうですと答えている。日本に対して物資を運んでいる船の数だけシーレーンは存在する、これが元幕僚長の言葉であります。あとの人々の言葉は、戦争の場合に戦争を続けるために必要な弾薬、食糧、これを守る、これを確実に日本に持ってくる、これがシーレーン防衛だと言っています。もう一人の人は、もっと広い意味で言うべきで、自由陣営の結びつき、それがシーレーンである、こう言っております。もう一人の幹部は、日本は安保条約というもので太平洋を挟んでアメリカと結ばれている。このことはヨーロッパのNATOも同じである。大西洋を通じてアメリカとつながっている。そういう二つの側面を持っておる海が、いつでも使える、利用できる、自由に開かれている、そういう概念がシーレーンなんです、こう言っております。この四人の元海上自衛隊の幹部の言っている言葉は全部違っております。一体何がシーレーンか、私にはわからない。これが基本的な問題です。
 で、有事とは何か。有事とは、先ほど申しましたが、日本がどこかの国から武力で攻撃をされておるときです。では、どういう状態が想定されるのか。元の自衛隊の幹部、これが入りました国防論というものの中に書いてありますが、仮にソ連が日本を攻撃するとすれば、五百機ないし千機の航空機が奇襲で日本の各方面に対して全面的に縦深攻撃をやる。こういう想定を言っております。そういう状態のもとで一体日本はどういう状態になるか。私は、仮に私がソ連の司令官であるならば、真っ先にやることは、日本のレーダーサイトを無能力にすることである。そうしておいて航空基地を破壊することである。そうすれば対潜哨戒機は飛べません。防空戦闘機も飛べません。それを可能にすることは、現在の状態のもとにおいてはあっと言う間の出来事であると思います。さあ、そこで問題は、もう一度もとに返ります。有事の場合のシーレーンの安全の確保とは何か。これがわからぬわけであります。
 で、この航路帯を設けるならばという言葉でありますが、日本のいまのマスコミでの特に新聞は、航路帯を二つに書きます。大体北緯二十度の線までの二つの航路帯がそこに設定される。そういう状態でこのシーレーンをうたっておりますが、これはかつていまの中曽根さんが、防衛庁長官として防衛庁の次期防衛力整備計画の原案を一般に説明したときに出てきた考え方であります。すなわち、航路帯を二つ設ける。ここにヘリコプターを六機搭載したヘリコプター母艦が出現するというと、この航路帯において敵の潜水艦の跳梁を許さぬ。それが当時の防衛庁としての考え方でございました。それが防衛庁の第四次防の原案として発表されたわけでありますが、私は当時、国防会議の事務局長をしておりました。そして、この防衛庁の原案を国防会議で検討いたしましたときに、この六機搭載のヘリコプター母艦によるこの二つの航路帯における潜水艦の制圧、それがいかに非現実的かということがわかりましたために、それを指摘したがために、防衛庁はついにこの構想を取り下げます。すなわち、四次防というものができましたときに存在しておった航路帯、このためには、八千トンのヘリコプター六機を搭載したヘリコプター母艦、これが絶対に必要だということであります。
 ところが、いまの国会で言われております航路帯を設けるならばという場合の航路帯にはその母艦が要るのか要らないのかわかりません。ここでまた改めて申しますが、一体何をどうしようとしているのか私にはわからぬことであります。
 もともとこのシーレーンの安全の確保とか、海上交通の安全の確保ということは、旧帝国海軍が当時やろうとしておったことであります。私は昭和二十七年の八月の二十日に保安庁の保安課長になるわけでございますが、そのときすでに海の幕僚の考え方としましては、いわゆるA、B、Cの海上交通路、この安全の確保という思想がございました。それほかつての帝国海軍が果たし得なかった夢を将来において実現したいという気持ちでしかございません。帝国海軍は、昭和十八年の十一月に海上護衛総司令部というものを設けます。しかし、この総司令部の開設のときに臨みました軍令部総長は、いまごろになって護衛総司令部を設けるということは、病が危篤の状態になって医者を呼ぶようなものだということを訓辞の際に言っておるわけであります。そういう過去の体験から、将来においての海上交通の安全の確保ということが、この旧帝国海軍の人々の一つの悲願としていまにつながっているような感じがいたします。
 さて、時間があと三分となりましたが、なぜこういうことが言葉の選択の遊びになっているかと申しますと、基本的な問題は、いまの政府が方針としております防衛計画の大綱、この基礎となっているのは、いわゆる基盤的防衛力という構想であります。この基盤的防衛力という構想は、昭和五十一年六月の防衛白書に出てまいりますが、要するに平時には――現在は平和時でありますから、平時には戦うことは必要でない。いざというときに戦う力が手に入ればいいんだというのが当時採用された防衛庁の基盤的防衛力の構想であります。それに従っていまの防衛計画の大綱ができておりますから、この大綱のいわゆる水準とは何かがわかりませんし、計画の大綱の水準が達成されて一体どういう力が手に入るのかもわかりません。私をして言わしめますというと、現在の防衛論議はことごとくこれは抽象的な観念論の遊びであります。私は前から、防衛力というものは現実的な具体的な戦う力でなければならないということを防衛庁におるときから言い続けております。現在でもそう確信いたしておりますが、その立場で見ますと、いまの防衛論議はことごとく言葉の遊びだという感じがいたします。
 ところが外国では、そういう、現在は平和時であるからどうでもいいんだという考えはございません。それの具体的な象徴の例として申しますのは、いわゆる有事即応であります。防衛庁では昔から有事即応と言われております。前のアメリカの国務長官のへイグさんが総司令官として雑誌に語っていますが、NATOでは四十八時間の時間を前提に部隊の有事即応を考えております。ソ連では、特に防空部隊は秒単位、分単位で考えている。これに対して日本では、かつて防衛局長が国会でも申しましたが、一年三百六十五日の余裕があると思って防衛力の整備を考えております。この辺の防衛についての取り組み方の、考え方の相違が、先ほど申しましたような問題を現に招来しておる、こういう感じがいたします。
 もう一度整理いたしますと、私には問題となる、きょうの当委員会で御審議になるシーレーンの安全の確保、海上交通路の安全の確保とは何を目標に審議されるのか、その点をまず明確にしていただきたい。これが参考人としての意見でございます。
 終わります。
#10
○委員長(堀江正夫君) ありがとうございました。
 次に、北村参考人にお願いいたします。
#11
○参考人(北村謙一君) 委員長、ありがとうございます。
 北村でございます。
 本論に入る前に、この問題に取り組むに当たっての私の基本的な態度を明確にしておきたいと思います。
 わが国の防衛論議におきましては、とかく憲法問題が先に立ってあれもできないこれもできないと自衛隊の装備や行動に制約を課しておるのでありまするが、それで果たして国の防衛が成り立つのかどうかということが議論されない。また、日本にはできることとできないことがあるとよく言われます。それは事実であります。しかしながら、できないことがあるという言葉の裏には、できることだけやっておればあとはアメリカが何とかやってくれるだろうというアメリカに対する甘い期待があるのではないかと思われるのでありますが、果たしてこのような甘えが今日も許されるかどうか、こういうことも議論されません。しかし、有事においては国の防衛とかあるいは国民の生存、これは国家の総力を挙げて守らなければならないものであると、できる範囲でやっておればよいということで済むわけではないというのが私の基本的な考え方であります。
 以下、シーレーン防衛の本質と問題点について申し述べますが、私は軍事戦略の専門的な立場から申し上げることにいたしたいと思います。
 ただいま海原参考人の方からNHKのこの本の紹介がありましたが、その中に私も入っておるのであります。私はこの中で申しましたが、シーレーン防衛の目的、これは航路帯そのものを守備することではない、そこを通る船舶の安全を図ることだというよりは、その船に積まれておる品物が無事目的地に届くように敵の攻撃からこれを守ってやることだと、私はこのようにとらえておるのであります。四人の陳述が皆ばらばらであったと指摘されましたが、表現そのものはばらばらでありますけれども、考え方は根底においてはみんな同じような考え方を持っておるのであります。したがいまして、言うまでもなく、シーレーン防衛は日本が外国と戦争状態に入った状態において起こってくる問題である、平時における問題ではないということを私ははっきり申し上げたいと思うのであります。
 次には、ところでこの政府の防衛計画大綱によりますと、わが国に対する小規模かつ限定的な侵略を対象事態としております。しかしながら、日米安保体制が有効に機能しておる限りほかの地域が平和なときに日本だけを侵略してくる国はないだろうと思うのであります。もし日本に対して武力攻撃が行われるとするならば、それはたとえば中東の湾岸産油地帯をめぐって米ソ間に本格的な軍事対決が起こる、それが局地的に解決することができずして北東アジアあるいは北西太平洋方面にまで拡大されてきた、そういった事態ではなかろうかと思うのであります。これがわれわれが真剣に備えなければならない事態であります。シーレーン防衛が現実の問題となるのはこのような状態においてであると私は考えておるのであります。
 一たんこのような事態が起こりましたならば恐らく事態は短期間に収拾されることはないでしょう。相当期間続くことが予想されるわけであります。その間、海上におきましては西側のシーレーンに対して、もちろん規模においては起伏の差はあれ継続的に攻撃が加えられることを覚悟しなければならない。というのはソ連には現にそれをなし得るだけの能力がありますし、西側諸国は程度の差こそあれ防衛の継続と国民の生存のためにはシーレーンを確保しなければならないからであります。もし、このような事態が起こるならばこれは重大かつ深刻であります。したがって、われわれは何とかしてこのような事態が起こらないようにしなければならない。もちろんこれは日本単独でやるわけではありませんが、やはり西側全体としてそのような抑止体制をつくらなければならない。とするならば、われわれとしても日本の自衛のための努力を通じて西側全体の戦争抑止体制の形成に貢献するように努力する必要があると考えるのであります。
 ところで、このシーレーン防衛の意義でございます。
 まず最初に申し上げておきたいことは、日本が行おうとしておる三海峡の防備あるいは本土から約千海里以内のシーレーンの防衛は、これは日本自身のためであってアメリカのためではないということであります。有事には、アメリカの経済にとってはこの海域のシーレーンは死活的に重要ではないからであります。
 アメリカが日本に対してこの海域におけるシーレーン防衛能力の向上を強く求めておるのは、第一義的には、西側の重要な一員である日本が生き残るためにシーレーンの防衛が必要であるからであると、私は考えるのであります。もちろん、それは結果的には、後から申し述べますように、アメリカの太平洋戦略に大きく寄与いたします。しかしながら、それを主目的としてアメリカは日本に対してシーレーン防衛の能力の向上を求めているのではないと、私は見ておるんであります。
 ところで、まず、その三海峡防備の意義でございます。
 ソ連の艦艇部隊の外洋進出を海峡地域において抑制することができるならば、次のような意義を持ってきます。
 それは、第一は、日本のみならず、西側諸国の外洋におけるシーレーンの安全に大いに寄与するであろうということです。第二は、日本のみならず、日本より南にある西側諸国の安全保障に対しても間接的ではありますが、寄与するということであります。これほどこの海峡防備というものは日本のためではありますが、結果的には西側全体の安全保障、太平洋戦略にとって非常に大きな意義を持っておる。
 次は千海里以内のシーレーン防衛の意義でございます。
 本土から千海里以内は日本に向かいあるいは日本から出ていくすべての船舶がここを通過します。また、日本の防衛を支援する米軍の多くは、この海域を通って日本の方へやってくるか、あるいはこの海域から作戦行動を行います。したがって、この海域は日本の防衛及び生き残りの上で最も重要な海域であります。したがって、ソ連としてはこの海域が最も重視すべき海域となるはずであります。しかも、この海域はソ連のいろいろな基地から近いところにある。
 以上から、この海域におけるシーレーンの防衛は、次のような意義を持ってまいります。
 第一は、この海域はシーレーンにとって最も危険が大きい海域である。それだけに、この海域におけるシーレーン防衛は重要であり、もし、これに成功するならば非常に効果的であるということであります。第二は、結果的に北東アジアの防衛を支援する米軍の安全と行動の自由に寄与する、これはそのまま日本の安全保障に返ってくるわけであります。
 ところで、問題点でございますが、まず第一が海峡防備の問題であります。
 三海峡、特に宗谷海峡はソ連にとっても戦略上非常に重要であるということは申すまでもありません。このため、ソ連はわが国の宗谷海峡の防備をあらゆる手段によって妨害しようとするかもしれません。状況によっては北海道、特にその北部地域に対して積極的な行動に出るかもわからないわけであります。したがって、海峡防備は、単にシーレーン防衛のための海上自衛隊だけが行う作戦ではなくて、陸海空三自衛隊の統合作戦になる、また状況によっては米軍との共同も必要になってくるといったような性格を持っておるんであります。
 次には、アメリカの要請によって海峡を封鎖しますならば、米国がほかの地域でやる戦争に日本は巻き込まれると言って心配する向きがあります。が、日本が巻き込まれると心配するけれども、それは私をして言わしめれば、因果関係が逆であります。たとえアメリカがほかの地域で軍事介入しておりましても、それが米ソ間の本格的な軍事対決に発展しない限り海峡防備の問題は起こってこないはずであります。もし、米ソ間に本格的な軍事対決が起こり、それがこの地域にまで拡大して初めて海峡防備の問題が起こってくるんであります。
 また、この事態においては、ソ連が北鮮を支援して韓国に侵入させることにより第二戦線をつくるのみならず、地上作戦の進展に応じて対馬海峡の制圧、支配を企てるかもしれません。こうなりますというと、現在のところは宗谷海峡の防備を真剣に考えておるのでありますが、同様に対馬海峡の防衛というものもそれに劣らず重視しなければならない。これもまた宗谷海峡の場合と同じく陸海空三自衛隊の統合作戦となり、情勢によってはアメリカとの共同作戦となるかもしれないわけであります。
 次は、千海里以内のシーレーン防衛であります。
 外洋におけるシーレーン防衛には、広範囲にわたって行う哨戒とか防空とかあるいは潜水艦に対する阻止とか掃討、並びに船舶そのものの護衛、いろいろな作戦があるわけであります。このシーレーン防衛というのは、単に一つの方法だけによってその目的を達成することができるものではなくて、基地の攻撃、海峡の防備、外洋におけるいま申し上げましたような作戦、あるいは本土の港湾、水道における掃海とか、そういったもの全部の作戦を並行的に行い、その相乗効果によって成果を上げようとし、またそれをある期間継続することによって時間的な累積効果を上げようとするわけであります。そのような相乗効果、累積効果の結果として、逐次船舶の安全を高めていこうというのがわれわれの構想であります。したがいまして、何らかの形による船団護衛は依然必要であり、また、それは最も効率的また効果的な方法であります。ただし、この場合は遠方からミサイル攻撃が可能な潜水艦あるいは大型爆撃機からいかにして船舶を防衛するかということが問題になっております。
 後で御質問いただくかもしれまぜんので簡単に申し上げますが、潜水艦に対しましてはP3Cの直接支援のもとに護衛艦やヘリコプターが曳航する聴音式のセンサーを活用する、あるいはヘリコプターを活用する等によって、従来考えられていたよりもはるかに広い範囲を効果的にカバーすることができるようになりました。また、大型爆撃機に対しましては、護衛部隊自体の防空体制の整備はもちろん必要でありますが、それとともに、付近に広範囲にわたって散在しておる船舶をカバーし得るような防空体制が必要であります。これにつきましては、せんだってフォークランド付近において海空戦が行われ、実際に生きた教訓が与えられましたので、それを大いに研究して将来の装備体系に活用する必要があると思うのであります。しかしながら、イギリスの報告にもすでにありますように、結論は大体出ておるのであります。それは、部隊自身が要撃用の戦闘機、まあ海軍でしたら垂直離着機でございますが、それを持ち、また早期警戒機の協力を得る。したがって、自衛隊としてもその方向に進む必要があると見ておるのであります。
 いま申しましたのは主として作戦部隊についての問題でありますが、政府レベルにおきましては、これは前々から言われておりますように、有事における船舶の運航統制を行うための法令あるいは組織、そういったものを平時から準備しておく必要がありますが、それはできておらない。それよりも先に、有事に果たして船員が船に乗って危険な航海をやってくれるかどうか、有事に船員にそれをやってもらうためにはどうすべきであるか、こういった対策も全然講じられておらないのであります。もし日本の船が出ていかなければシーレーン防衛というものは無意義になります。もちろんこのシーレーン防衛は、有事における緊急物資の輸入計画、それから国内の生産、国内の備蓄、そういったものと整合して、必要最小限度のものをどこから、何を、幾ら運んでくる、というような政府の基本計画があって初めて防衛庁においてどれだけの兵力を整備するという答えが出てくるわけでございます。
 以上をもって一応終わりますが、最後にシーレーンの防衛努力は有事日本にとって死活的に重要であるとともに、大きな立場から言いますならば、西側としての東側に対する軍事バランスの維持に寄与する。こうして、米ソ間の本格的な軍事対決が起こらないようにそれを抑止する、それに寄与するものであるということを繰り返して申し上げたいと思うんであります。こうして、もしそのような事態が起こることを抑止することができるならば、よその戦争に巻き込まれるといって心配したり、あるいはそういうことをやるのは集団的自衛権の行使に当たるから問題だといって国会で騒ぐ必要もないわけであります。
 ころんだ後のことをとやかく心配するよりは、ころばぬ先のつえの用意が肝心であると申し上げて私の陳述を終わります。
#12
○委員長(堀江正夫君) ありがとうございました。
 次に、藤井参考人にお願いいたします。
#13
○参考人(藤井治夫君) 藤井でございます。
 今日、三海峡防衛を含むシーレーン防衛の問題をめぐって非常に危険な動きがあらわれていると私は考えております。それは、何よりも軍事的な思考、軍事一辺倒的な考え方が独走し始めているということであると思います。
 もし、今後日本が戦争に直面するとすれば、いま北村参考人が述べられましたように、米ソ間の軍事対決がこの日本地域に及んできた、そういう事態である。といたしますと、それはどういうものとわれわれは理解しなければならないのか、それは決して第二次大戦の延長ではないはずであります。つまり、今日は核ミサイルの時代である、そうして、第二次大戦とは違って、アメリカと戦うのではなく、ソ連と戦うということになる、この二つの点が非常に大きく変わった点だと思います。
 そういう戦いにおいて、海峡防衛あるいはシーレーン防衛というものがどういう様相のもとで戦われるのか、その点についてこの軍事的思考を優先する人たちの読みが全く間違っている、このことを私は第一に指摘しなければならないと思います。つまり、相手のソ連が日本の海上交通の破壊を意図したときには、まず何よりもアメリカと日本の対潜兵力を無力化するはずである。対潜兵力が顕在であるときに、相手の潜水艦は出撃してこない。潜水艦はP3Cとか、あるいは対潜艦艇とは互角にもちろん戦えないわけであります。発見されたらもうお手上げであります。勝てないわけであります。そういうところへむざむざと出撃してくるはずはございません。まずやはりこちら側の対潜兵力を無力化するはずである。これが相手のとるべき第一の手段であります。
 そうして、こちらの対潜兵力、基地なしには行動できない。P3Cでいえば八戸とか厚木とか、そういう基地は、先ほど海原参考人も述べられましたように、ソ連の目の前にあるわけであります。しかも動かない、きわめて攻撃しやすいのであります。したがいまして、この対潜作戦なるものはどういうふうに推移するかといえば、日米の対潜兵力が出撃したときには、ソ連の潜水艦を発見できないということになります。なぜなら、ソ連の原潜はそこに来ていないからであります。いかにP3Cの能力がすぐれておりましても、ないものを発見することはできないはずであります。発見できなくて帰ってきたときに、その基地が破壊されているということになるのではないか。読みの誤り、手順の前後、これがどういう結末をもたらすかということはもう申し上げるまでもないと思います。
 こういうふうな非常に何と申しますか、短絡した考え方、これは第二次大戦における日本海軍、アメリカ艦隊を小笠原海域で迎え撃つ、だが相手は来なかった。来ない相手と戦うことはできなかった。いかに名将知将といえども、相手がないのに戦うことはできないわけであります。そういうことをもう一度繰り返そうとしているのではないか。きわめて単純なこと、アメリカと日本の間には太平洋があり、その戦いにおいては、太平洋におけるシーレーン防衛は非常に重要であった。これが第二次大戦の教訓であったといたしましても、日本とソ連の間にあるのは日本海である。この日本海の安全が、何よりも日本の国民の安全のためには大事なものである。こういう自明の事実を抜きにしてシーレーン防衛を論じても始まらないと私は考えます。軍人は過去の戦争を戦う、こういうふうに言われますが、この言葉の正しさが、今日の防衛論でもやはり認められるのではないか。そういうところに、軍事的思考の独走の非常に無意味かつ有害な面があらわれていると私は考えます。
 シーレーン防衛について申し上げますと、それは不可能である、不必要である、無意味である、かつ危険である、これが私の結論であります。
 なぜ不可能であるのか。これは軍事理論、長いものは守りにくい、守るものはお城のようなものでなくちゃならぬ、こういう原理に反しているわけであって、守るのであれば四つの島、それからさらにどんどん広げていくというふうなことは全く無理な話である。太平洋がどれくらい広いか。さらにインド洋も守らなくちゃならない、地球の表面積の半分を守らなくちゃならない、こういうことに結局はなっていくわけであります。
 しかも、相手は潜水艦である。シーレーン防衛は不必要である。今日まで三十数年間、何もそういうことを必要とするような事態は起きなかった。つまり、戦争を起こさなければシーレーンは安全なのであります。平和を守ることが唯一のシーレーンの安全を確保する道である。戦争になれば、もはや守り切れない、これが歴史の教訓であります。
 そしてさらに、シーレーンだけを守って一体どういう意味があるのか。たとえば、せっかく石油を持ってきても、製油所が破壊されていれば、もはやそれは使えない。あるいは向こうの積み出し自体が無理になった、あるいは途中の海峡が通れなくなった、こういう事態を考えますと、シーレーンを守っただけでは意味がない。しかも、相手はやはり、その海峡なり、あるいは製油所なり、こういうところを、いざ米ソ間の軍事対決、そして日本がそれに巻き込まれるというふうな事態においては、当然そこをねらってくるはずである。
 それから、危険であると申しますのは、これが国土防衛から離れていく、際限なく広がっていく、そうしてそのことが結局は限りのない軍備の拡充を必要とする、第三に、そこから集団的自衛権の行使に進む、この傾向がすでに出てきておりますが、この三つがきわめて危険な面であると思います。
 それから最後に、海峡防衛について申し上げますが、確かに海峡はソ連の弱点であります。これを押さえれば、相手は決定的なパンチを受ける。だがしかし、それゆえにこの海峡をめぐる攻防はきわめて厳しいものになると覚悟しなければなりません。その影響は、決して海峡自体だけではない、当然に日本全体に及んでくるわけであります。したがって、封鎖の態勢を構えるだけではなく、相手が掃海する、これを妨害する態勢も整えなくちゃならない。さらに再敷設の能力も持たなくちゃならない。また、相手がこの海峡を突破するために行うであろう作戦すべてに備えなくちゃならない。そういうことはもちろんこちら側の基地が必要である。その基地を相手は当然攻撃してくるはずであります。だから、結局海峡防衛というのは、まさに日ソの全面戦争をもたらす。これをふさぐということになりますと、それはソ連に対する宣戦布告ということになるわけですから、結果はきわめて重大である。
 それから第二の問題は、この海峡封鎖に成功いたしまして、ソ連太平洋艦隊を日本海に封じ込めたといたします。その封じ込めた後一体どうするのか、相手はどう出てくるのか、このことが全く考えられていないわけであります。日本海に封じ込められたソ連太平洋艦隊は、そこでおとなしく、もう手も足も出ないということで黙っていてくれるものかどうか。そのソ連太平洋艦隊を私たち日本国民が、金魚鉢の金魚を見るように眺めていれば済むものであろうか。決してそうではないはずであります。ただ、そのことを考えないだけであります。海上自衛隊にとって、それは所管外であるということになるのかもしれませんが、しかし日本の安全保障にとっては、実はそこから先が非常に大事であると私は思います。
 それから、さらにもう一つ、海峡封鎖する、ソ連海軍が出ていった、帰りを待ち伏せするのが一番効果的なのだという発言がございます。去る二月十五日、海上幕僚長の前田さんは記者会見において、相手国の艦船が弾薬補給などに寄港するのを阻めるんだというふうに語っておられますが、これは全く、私をして言わしめれば、ナンセンスである。確かに魚雷を使い果たす、ミサイルを使い果たす、そうして帰ってくるソ連の海軍は、全く戦力ゼロであります。この戦力ゼロのソ連艦艇をとらまえるのは、一体何によって可能かと言えば、軍艦は不必要である、漁船の投網でも捕らえられるわけであります。だがしかし、果たしてソ連のこの海軍の司令官は、帰りにつかまえられるのを承知の上でその海軍艦艇を太平洋に出すであろうか。帰ってくるのを保証できないのに、出撃を命じるというふうなことは考えられないわけであります。玉砕を命じる、かつての日本軍はそういうことをいたしましたが、ソ連もまたそういうふうにやるだろうと思うのは、やはりひとりよがりではないか。当然、出撃させたならば、その友軍の艦艇を迎えるために全力を尽くすはずである。海峡は当然確保するでしょう。その確保する相手方の戦いは、きわめて巌しいものになってくるはずであります。
 そういうふうに考えますと、この海峡封鎖はきわめて危険なものである。一体なぜそういう危険なものを、また無意味なものをやろうとするのか。これを求めているのは、申し上げるまでもなくアメリカであります。何よりもアメリカの戦略的利益に奉仕するものである。日本列島を盾にして、自衛隊を最前線の守備隊としてアメリカの安全を守ろうとしている、またアメリカの海洋支配を確保しようとしている、こういうふうに見るべきだと思います。そうしてそのためには、いま北村参考人もおっしゃいましたように、どうしてもやはりソ連に対する基地攻撃が必要である、ソ連海軍力の撃滅が伴わなくてはこれは有効ではない、こういうことになってまいります。
 したがいまして、結局ソ連との全面戦争、その全面戦争においてソ連に勝つ力を持たなきゃならない。戦っても負けるのでは意味がない。こういうふうにユニホームも考え出しますから、結局勝たなくてはならない、ソ連に勝つ態勢を固めよう、こういうふうになってまいりますから、もう大変な軍備拡充が必要になり、かつ、その結果はきわめて大変なものである。日本国民の安全保障をむしろ損なうことになる。それは第二次大戦の歴史の教訓である。
 だから私は、最後に申し上げたいのは、過ちを再び繰り返してはならないということであります。平和日本の国是に立って、その平和の方向でいかに安全保障を確保するか、これを考えなくてはならないわけであり、現在言われている海峡防衛、シーレーン防衛論というのはそれに全く逆行するものではないか、こういうふうに危惧しているわけであります。
 以上です。
#14
○委員長(堀江正夫君) ありがとうございました。
 以上で参考人からの意見の聴取は終わりました。
 これより参考人に対する質疑を行います。
 なお、参考人の皆様には、各委員の質疑時間が限られておりますので、簡潔にお答えくださるよう、お願いいたします。
 それでは、質疑のある方は順次御発言願います。
#15
○大坪健一郎君 いま四人の先生から大変貴重な御意見をいただきまして、ありがとうございました。
 安全保障の問題は、いろいろな意味で非常に国民の関心の深い問題でございますけれども、海と非常に深い関係のある日本の安全保障について、実は、どういうわけか、戦後一貫してまじめな議論が行われておりません。私どもは、日本が海洋国家であるという点から考えても、また、現在の世界の情勢が米ソ間で緊迫しておるという状態から考えても、安全保障の問題について真剣に検討しておかなければならないと思うのです。そういう意味で、それぞれの先生方に時間の範囲内で御質問さしていただきたいと思います。
 一番最初に考えなければならぬのは、阿曽沼さんも海原さんも言われましたように、シーレーン防衛とはどういうことであるかということの意味であろうかと思います。阿曽沼さんはシーレーンの安全保障を考えたいと、シーレーンの防衛というハードの直接面の話以上に、シーレーンの持つ安全保障の意味を考えたいと言われたし、海原さんは、シーレーンというのは意味ははっきりせぬけれども、日本の防衛努力をあらわす政治的スローガンではないかというようなことを言われたわけですね。私は、海原さんの議論を伺っておりましたら、どうもその政治的スローガンとして考えるならば、それはまあ一つの意見だけれども、そうでなければいろいろ難点があるというふうに聞こえましたけれども、その点はいかがですか。
#16
○参考人(海原治君) 時間の関係で、簡潔にといいますか、簡単にはしょりましたので、あるいははっきり私の意思が通ってないかもしれませんが、政治的スローガンと申しましたのは、先ほどもちょっと申しましたように、どういう状態のもとで何をどうすればどうなるかという具体的な説明のないままに、シーレーンの安全の確保とか海峡の防衛とかが言われております。そこで、そういうことが国会の本会議なり委員会の席上で言われておりますから、おっしゃっている方は、それは日本の防衛努力を示すための一つのスローガン的なものではなかろうかと思うと。それならばそれなりの、いわゆる日米安保体制運用のための必要な政治的なゼスチャーとしての判断が政治家という立場においてあるのであろう、こういう意味であります。しかし、事柄が現実的な具体的な軍事的な施策の討議となるならばということで後のお話をしたわけです。だから、御質問の趣旨は大体において私は合っていると思います。
#17
○大坪健一郎君 そうすると、海原さんの御意見では、何を目標としてこの議論をするかということですから、あなたは、何をいつどうすることが日本の安全保障にとって筋道だとお考えになっていますか。
#18
○参考人(海原治君) まず私は、これはことにお答えしますが、前から言っていることでありまして、役人をやめて評論家になったから言っているのではございません、この点を前もって申しますが。かつての大日本帝国の大本営は、当時の日本の最高の頭脳集団であったはずであります。その大本営の作戦計画というのは、当初の真珠湾の強襲とマレー作戦を除きましては全部、ことごとく失敗しています。なぜか。それは願望の表明でしかない、具体的な方法論の裏打ちがない、そのことが大日本帝国を滅ぼした、そういう意識が日本人の意識にあると思いますので、そういう同じ過ちをしてはいけないというのが私の個人的な気持ちです。そこで、ことさらに防衛庁におりますとき以来、現実的具体的防衛論と言っております。その立場で見ますと、いわゆるシーレーンの安全確保論は、平時は不必要であります。なぜか。どこの海軍も現在ただいま、そういうことはやっておりません。ところが一部では、アメリカの艦隊が、その空母がどこかをパトロールしておる、そのおかげで日本の商船が自由に海上を交通しておるというふうな錯覚があります。私はそれは幻想だと言っております。もう一遍申しますが、平時は不必要であります。
 戦時においては、相手はだれかということであります。ソ連の脅威がもっぱら強調されます。最悪の事態を考えて最善を尽くすのが防衛だと思いますから、じゃ、ソ連と交戦状態のときはどうかと考えますと、先ほどちょっと申しましたように、真っ先に、私がソ連の司令官であるならば、破壊する目標は二十八カ所のレーダーサイト、それから十数の飛行基地、さらに横須賀、佐世保等の基地であります。これが破壊されましたら何もできない。したがって、有事においてはいわゆるシーレーンの安全の確保は不可能であると私は考えます。
#19
○大坪健一郎君 そうすると、つまり海原さんの御議論ですと、要するにシーレーンの防衛論というような議論はどうしても抽象的になるからやめた方がいいということですか。
#20
○参考人(海原治君) そういうふうに極端になるので困りますが、たとえば例を申しましょう。
 私はかつてP3Cについて国会で証言したことがあります。私はP3Cという対潜哨戒機の保有は必要だと思います。なぜか。それは平時、日本の周辺における外国の潜水艦の動静を絶えずキャッチしておく。そして、それを同盟国であるアメリカに通報する。そのためにはP3Cという対潜哨戒機は絶対に必要なものであります。すなわち、このP3C対潜哨戒機は平時においては必要であります。ただし、戦時にはそれは飛べませんよと、こう言っているわけです。終わり。
#21
○大坪健一郎君 先ほど藤井さんは、ふだんはそういう外国の船は、特に戦闘艦は余り海に出ておらぬから、ふだんそういうことをやるのはむだだというような御議論をなさいましたけれども、海原さんはそれをどうお考えですか。
#22
○参考人(海原治君) これはまあ、むだだというお立場、お考えの基礎がございますから、これはそれぞれの方がそれぞれの立場で物を考える、先ほども申しましたけれども。私は、くどくなりますが、ふだん、そういう日本の防衛を考える立場でのいろいろな努力があること自体が、この付近における平和の安全を維持するために必要な条件の一つではないかと考えております。したがって、むだとは思いません。
#23
○大坪健一郎君 前に防衛庁におられたからお伺いするんですけれども、たとえば日本の近海に対して外国の潜水艦が出没したり、航空機が出没するという事態が、非常にある意味で言えば防衛力を整備する場合の要素として考えられているものなのかどうなのか、それはどうお考えですか。
#24
○参考人(海原治君) 当然これは防衛庁で物を考えます場合には、日本の周辺の現に存在する客観的な情勢、さらには発展するであろう将来の情勢、そういうものを踏まえまして物を考えますから、いまの御質問は、そうだということでございます。
#25
○大坪健一郎君 わかりました。
 それじゃ、ちょっと阿曽沼さんにお話を戻してお伺いしたいわけです。
 阿曽沼さんのお話、大変論理的に伺ったんですけれども、日本が海洋国家であることは、もう理の当然でございます。海洋国家として非常に重要な国際的な関連で言えば、たとえば近ごろできました海洋法に対して日本がどう対応すべきかというような問題もありますけれども、あなたのおっしゃるような安全保障の観点でシーレーン論を展開する場合に、日本の置かれておる現状から見て、シーレーン防衛の目的といいますか、ということは、たとえば日本の経済サイクルをあなたは維持するためにぜひ必要だということで言っておられたようですけれども、そこのところもう少し詳しくお話しをいただきたい。たとえば藤井さんのお話では、要するにシーレーンの防衛をやってもほとんど無意味だから、そういうことをやるよりは平和一辺倒の政策で戦争のようなことを起こさないようにするのがいいという御議論がございましたけれども、そういうことで事が済むのかどうか、それは後から議論をいたしたいと思いますけれども、あなたのおっしゃる、シーレーン防衛の必要条件と十分条件と言われましたけれども、そこのところもう少し日本国の置かれておる現状との関連で御説明いただきたいと思います。
#26
○参考人(阿曽沼廣郷君) シーレーンの安全保障というくくり方をしましたのは、平時、戦時を問わずこの問題は日本の国民生活と国民経済を成り立たせる不可欠な条件である。この条件としては資源の循環ということがこれを成り立たせる要件であろうかと思います。その中で資源の輸送という問題が大きく取り上げられなきゃいかぬ。そういう意味で海洋国家である日本はこの資源の輸送というものについて平時、戦時を問わず考えておかなければいかぬ。もちろんそれに弾力性を与えるものは資源の備蓄という問題がありますが、これはあくまでもある時期、一時的な代替手段である、こういうふうに考えますので、ただしこの場合に、本当に戦時になったら資源の供給地をどこに求めるかというようなことは特に特定はできませんけれども、そういう状況の変化に応じてこの船舶のフローを、フローと言いますか船舶の流れというものを安全に安定的にやらなければいかぬ。しかし、安定と安全というのはこれは二律背反的でありまして、どうしても安全を追求するならば安定的な輸送というものはある程度犠牲にならなければいけないかとも思います。
 それから、シーレーンの安全保障のためには軍事的措置と非軍事的措置というものを両面を考えておかにゃいかぬ。かつて朝日新聞の論壇に全日本海員組合の組合長の小論文が載っておりまして、第二次大戦中帝国海軍ですら不可能であった、できなかった海上交通の保護を、いまのような環境の中で考えるのは時代錯誤だというような表現もその中にありました。
 もう一つは、海の平和というものが絶対に輸送を維持するために必要だ。海の平和は外交によってやるべきだ。ところがこのシーレーンの安全保障の中の軍事的側面というのは外交でできなくなったときどうするかということを論ずるわけでありますから、海の平和は外交でやるべきだで思考を停止してはいけない。したがって、非軍事的要素と軍事的要素というものをバランスよく考えていかなきゃいかぬというふうに考えます。
 確かに、先ほどおっしゃったように海洋法による新しい海洋秩序の問題、それから国際海峡の問題、これはシーレーン全般においてチョークポイントになります、航路の収束点になる。この航路の収束点における安全をどうするか。やはりたとえばマラッカ・シンガポール海峡であればその沿岸三国との友好関係を維持するということがこれ絶対に必要になる。あるいはアフリカのケープタウン沖合いの航路、これも一つのチョークポイントである。ロンボク海峡もしかり、日本の海峡もしかりであります。こういうふうにチョークポイントに対する配慮、これは外交でやるべきであり、情報システムを整備することによって的確にその情報をつかんでおくということも必要であろうかと思います。
 先ほども申し上げましたが、いずれにしても情報システムが整備してないと、非軍事的な措置をしようにも軍事的措置をとろうにも手がかりがないということになろうかと思います。
#27
○大坪健一郎君 いま情報システムのようなものをまず整えたらどうだというようなお話がございましたけれども、要するに平和的な外交手段で戦争が起こらないようなあらゆる努力をするということは御参会の皆さんの共通した考えだと思います。その後があり得るかどうかというような議論になるわけですが、その点について日本の国内の一般の議論を伺っておりますと、そこから先は思考断念というのか、海原さんが言う現実的具体的な防衛論というようなことになると拒否反応が非常に多いわけですけれども、国内コンセンサスの確立にどういうふうな手を尽くしたらいいとお思いでしょうか。特に海洋問題、シーレーン防衛も含めた海洋問題について。
#28
○参考人(阿曽沼廣郷君) 私は多少抽象的になるかもしれませんけれども、一九六八年にイギリスの労働党政府がスエズ以東から兵力を撤退するという政策を立てました。そのときに一番とにかく敏感に反応したのはどこであったか。ノルウェー政府であります。ノルウェー政府は政府声明まで出して、こういうイギリスの政策はノルウェーにとって海上、いわゆるシーレーンでありますね、ノルウェーの海上交通に対して脅威を生む、こういう政府声明を出しました。日本の場合は全く無感覚な反応であった。ところがソ連が敏感に反応いたしました。インド洋に対するソ連の一つの知覚、パーセプションというものがそこに働いたと思いますけれども、私はそのときに日本とノルウェー、代表的な貿易国でありますが、ノルウェーとの成熟さの違いをそこで感じました。これは海洋国家としての成熟さの違いだったと思います。これは言ってみれば、先ほど言いましたように為政者がシーマインデッドネスをしっかり持つということが根本だろうと思います。
#29
○大坪健一郎君 どうも政治家が少し考えろということのようですけれども、もう少し考え方詰めまして、そういったシーレーンの防衛問題のようなことで、たとえば資源の問題とか海運の問題とか、安全保障の防衛の問題で各省がばらばらじゃないかというような議論がありますけれども、これをどうやってまとめるべきだとお考えですか、あるいは何か別の機関をつくって調整すべきだとお考えですか。これは具体的な海洋問題に対する日本の出方として阿曽沼さんと海原さんにお伺いしたいんですけれども。
#30
○参考人(阿曽沼廣郷君) シーレーンの防衛というのは単なる防衛庁のみが取り扱うテーマではない、国全体としてやるというのはこれは伊藤防衛庁長官が閣議において質問をされたときの、時の総理大臣の答えの中にありまして、総合安全保障関係閣僚会議でやる、これは備蓄の問題を含めて、海運の危機管理も総合安全保障関係閣僚会議でやるというふうな内閣の決定になったようでありますけれども、果たしていまの総合安全保障関係閣僚会議でやれるものかどうかという多少の疑問がございますし、法律的裏づけがあるものとすれば、私は国防会議というものがあろうかと思います。シーレーンの安全保障という問題について、もしもこれをナショナルプロジェクトとして重視するならば、国防会議が活発にやるべきだ、こういうふうに思いますし、もう一つはその前に、要するに私をして言わしめれば、資源の循環においてシーレーンの安全保障に非常にかかわりのある各行政機関の中にナショナルセキュリティーに関して専門的にやるスタッフ機構が要る、そういうのが整備して初めて国防会議も活性化する、こういうふうに思います。
#31
○大坪健一郎君 海原さん、ちょっとそれに追加して、いまの問題に兼ね合って、あなたは国防会議の事務局長をしておられたから、いまの関連で、そういうことについて国防会議の事務局はいまのままでいいんだろうか、もう少し何か、あなたは提案があるんだろうからそれもついでにお話ししてくださいませんか。
#32
○参考人(海原治君) 私は、長く防衛庁の中と国防会議におりましたので、いま御質問のあったようなことは前からその都度国会でも問題になり、政府レベルでも問題になっているんです。国の防衛ということは、国が全部で取り組まねばならないということは、これは最も基本的な常識ですから。
 そこで、政府が昭和三十六年七月十八日、第二次の防衛力整備計画を決定いたしましたが、このときの国防会議の了解事項としては、関係の各委員と申しますと大臣です、それは日本の国の防衛体制、堅実な防衛体制の整備のために各方面の施策について努力をするということの決定、了解事項ができているわけです。その中には当然教育の問題も入ってまいりますし、各省間の問題も入ってまいりますし、いわゆる有事法制的な問題についての検討も当然あるわけです。ところが、それを受けまして、たとえば防衛庁で非常事態の法制の検討をやりました。それがしかし、テレビとかラジオ、新聞に報道されますと、官房長官からお召しがありまして、一体いま何をこんなことやっているのだということであります。いま国会が大事なときだと、重要法案の審議に影響がある、何もいまこれをやらぬでもいいではないかというのが当時の政治家の方々の役人に対する御指示であります。その状態がずっと続いております。
 私は、防衛庁から国防会議に移りました。国防会議の事務局長のときにもいろいろな問題についての検討方、これを意見具申したのでありますが、しかし私が五年五カ月事務局長をいたしておりましたが、この間の国防会議はいわゆる開店休業の状態であります。そして、関係の委員会に呼び出されて、一体国防会議は何を何回審議したのかという御質問が出るのが当時の状態でございます。さあ、そういう状態でございますから、これ以上は私はお答えできません。終わります。
#33
○大坪健一郎君 あなた過去のことに少し執着して物を言っておられるように思いますけれども、将来に目を向けて議論する場合に、いまの阿曽沼さんのお話にもあるように、どっかでやっぱり問題提起をして議論を整理をしていかなきゃならないと思うんですが、あなたの意見で、国防会議の事務局にそういうことができる余地があります
か。
#34
○参考人(海原治君) これは、社会党の方も言っておられますが、いまの日本の防衛関係の体制はいわゆる文民統制、政治優位の原則の確保のための機構は整備されているわけです。問題は、その機構が動いていないということなんです。だれがこれを動かすか。それは、言うまでもなく内閣総理大臣であり、時の政府である、これしか考えられません。別にいまの国防会議の機構を変更する必要は私の体験から申しますと認めません。現にあるものを活用することについてもっと真剣になっていただきたい、これが私の過去の役人としての体験からの言葉であります。終わります。
#35
○大坪健一郎君 どうもありがとうございました。
 そこで、少し具体的な議論に入りたいと思いますが、北村さんからいろいろ御説明いただいた具体的な千海里シーレーン防衛のハードのシステムとかそういう議論に対して藤井参考人は、要するに、そういうことをやってもむだだからやらぬ方がいいというように聞こえましたけれども、藤井さんにお伺いしたいんですけれども、ソ連と戦うということになるのだから、非常に強大なソ連と戦うということは、こちらが考える先手に向こうが出て基地が爆撃されたり、生産力が破壊されたりして結局ろくなことにならぬのだから、平和を守るような外交政策に集中すべきだというふうに伺ったんですけれども、要するに防衛的なことは何もせぬ方がいいというお考えなんでしょうか、それとも何か抑止力という最近の国際戦術論があって、ソ連もアメリカも抑止力ということを盛んに言うようですけれども、そういう議論、相当具体的な議論でこっちが持てばこっちも持つという、目には目を、歯には歯をという考え方かもしれませんけれども、そういうものが現実にあるということをどういうふうにお考えか、御見解をちょっと聞かしていただきたい。
#36
○参考人(藤井治夫君) 確かにおっしゃるような側面がございます。つまり、軍事力、そういうものがある場合において侵略を防ぐ、こういうケースがあることを私も否定はいたしません。
 ただ、戦後の状況を考えてみますと、この抑止力の論理というものが結局現在のような米ソの緊張あるいは年間六千億ドルに上る軍事予算、軍事支出、こういう結果をもたらしているわけです。実はやはり日本国は戦後の再出発においてもうそういうことは繰り返すまい、明治以来五十年にわたるあのいわばきわめてむだで有害だったこういうコースはもうとらないということを憲法の制定において世界に宣言したんだと思います。したがって、確かにソ連の軍事力が強大であり、それがたとえばSS20を持っている、こういうものが日本にとって脅威であることは明らかであります。その存在自体が脅威である。万一使われたときには大変なことになってしまう。だがしかし、それに対抗してこちら側もまた軍事力を増強していくという政策をとってはならない。
 つまり、阿曽沼参考人もおっしゃいましたが、非軍事的手段というものの価値というものをやはりもっと見詰めるべきである。それについての何といいますか、政策的な開発を急がなくてはならない。今日までどうもやはりそういう努力がなおざりにされておりまして、安全保障といえば軍事力である。つまり、これは何といいますか、最初に申し上げましたように軍事の独走、こういうことでもって防衛論議がなされてきたわけであります。やっぱりその根本は、シビリアンコントロールというものが本当に機能していない。十分に論議され、国民の意思を基本にして政策を出していくということになりますと、結局軍事力にはならない。非軍事的手段ということになるわけであります。確かに問題解決はそう簡単でございません。この核軍備にいたしましても、通常軍備にいたしましても、本当に縮小の方向へ転ずるというふうな気配はなかなか認められないわけでありますけれども、しかし、だからといって、じゃ、こちらもやるんだということではいつまでたっても問題の解決は得られない。
 そこで、私は具体的なやはり政策としてどういうことが可能なのか、それを考えていかなくちゃならないし、何よりもそれは国会において御議論いただくべき問題ではないかと思うわけです。やはりどこかにこのこんがらがったシーソーゲーム、これを解きほぐしていくものがやはりあるし、それをつかまなくちゃならないんではないか、こういうふうに考えております。
#37
○大坪健一郎君 藤井さんと余り深刻な哲学論争をする気はありませんけれどもね。あなた軍事評論家ということだけれども、むしろ非軍事評論家であられるような気がするんですけれども。実際上はたとえばヨルダンをPLOの代弁に仕立てて、あの地区の平和問題を議論しようとすれば、その議論をしている人はピストルで撃ち殺されるような時代ですからね。あなたのおっしゃっているような雲をつかむような話で一体事が前進するのかどうか、非常に私は疑問に思うんです。
 それで、多少具体的な話に入りますから北村さんに移りますけれども、私は海峡防備力の充実とかアメリカの共同作戦で海峡を防衛するという決意を表明してその努力をするとかいうことは、単に実際に戦争が起こったときのどうこうというよりも、日本がいわば日本海をめぐる情勢について一種の抑止力としての問題提起をしているというふうに受け取りたいんだけれども、あなたはそこのところをどうお考えでしょうか。
#38
○参考人(北村謙一君) 全く同感でございます。
 実際に世界戦争になりますと、その事態はきわめて深刻で重大でありまして、仮にシーレーン防衛ができるにしても、あるいは国土の防衛ができるにしても、国民が受ける被害は非常に大きゅうございます。したがって、何としてもそれを未然に抑止しなければならない。いかにして抑止するかという問題でありますが、いままではもっぱらアメリカに依存しておりましたけれども、米ソ間の軍事バランスが崩れて、アメリカは独力ではどうしようもできなくなったというのがこの数年の情勢であります。
 私の基本的な考え方は、そういう戦争を抑止するためには、第一はアメリカによる対ソ核戦力バランスの維持と、それからもう一つは空母部隊とかあるいは緊急展開兵力とか、そういったような機動兵力の整備、それから基盤兵力の前進展開、これはアメリカに依存せざるを得ない。そのかわりに、アメリカの国力には限界がある以上は同盟国、これは日本もそうでありますが、それ自身の国土並びに周辺の防衛は同盟国が第一の責任を持ってやる。ところがさっきも申しましたように、西側諸国はそれぞれ程度の差はあれ、防衛の継続並びに国民の生存をシーレーンに依存しておる。また相互協力もシーレーンに依存しておる。したがって、西側全体としてシーレーンの防衛体制を固める。それのバランスができるならば、それは有事の場合にはソ連の思うとおりにはならないんだというような体制ができるならば、ソ連も無理をしてまで侵略を企図しないであろう。ですから、私はあくまでもその抑止ということを大前提としてこのシーレーン防衛を考えておるわけであります。
#39
○大坪健一郎君 どうも日本の世論とか、軍事関係を議論されるとき、抑止力という議論は余り日本の人は好まないように思いますけれども、かつてヒットラーが南下政策をとろうとしたときに、スイスを避けて通りましたね。何か司令部でえらい大議論をやって、スイスに侵入したらそれは非常に時間と兵力のロスだということで、スイスを通り越してフランスからイタリアに入ったという話を私は聞いたことがあるんですけれども、抑止力の効果というのがそういうものであると。とするならば、たとえばシーレーン防衛とか三海峡防衛ということについて、率直に言って、いまの日本の防衛力で、藤井さんおっしゃるように、軍事独走というようなものであるのか、その抑止力にも足らないものであるのか、あなたの御判断をひとつ聞かせていただきたいんですが。
#40
○参考人(北村謙一君) 現在の防衛力では十分ではないと思います。
 たとえば海峡防備にいたしましても、従来は主として海上自衛隊が有事――潜水艦が通れないようにするんだということで考えておりましたが、私も申しましたように、ソ連としても、たとえば宗谷海峡はぜひ開いておきたい。とするならば、あらゆる努力を払って宗谷海峡を確保しようとするであろう。とするならば、われわれも海上自衛隊だけじゃなしに陸上及び航空自衛隊と一体となってやらなければならない。
 なお、北海道の防衛の場合に、ソ連の航空力が非常に大きいから航空優勢をとられてしまう。だから防衛はできないんだというような意見もありますけれども、事実、現在の状況においては航空自衛隊の能力も不十分である。しかし、そうならばもっと防空力を増強して、ソ連がやるようなことはわれわれもできるはずであります。もちろんこれはその局地の問題でありますから、ソ連全部を相手にしてやるわけではありませんのでそう大きな兵力は必ずしも必要ではない。それをやらなければ十分な抑止はできないと、私はそう考えております。
#41
○大坪健一郎君 だんだん時間がなくなってきましたけれども、たとえばソ連がバックファイアを大分シベリアに増強しておるというようなことが言われておりますけれども、バックファイアを例にとった場合に、いまの海上自衛隊の護衛艦のような程度のものでバックファイアというものが有効に防げてシーレーンが防衛できるのかどうか。あるいは小笠原列島からずっと南の方に、要するに対空警戒システムをつくった方がいいんじゃないか、あるいは硫黄島にもやっぱり基地をつくった方がいいんじゃないかというような議論もある。現実に、千海里シーレーンの一番先端には、大体日本の小さな島が日本の領土としてあるわけですから、そういうことを考えると、そういうことも議論に出るようですけど、その辺についてはどういう考えをお持ちでしょうか。
#42
○参考人(北村謙一君) バックファイアに対する船舶の防衛の問題でございますが、バックファイアは小笠原列島の東の方からこの海域に侵入してくることもできますので、現状のままでは不十分であります。
 この問題は、二つに分けられると思いますが、一つは護衛水上部隊自体の防空であります。これは海上自衛隊、逐次整備しつつあります。しかしながら、こちらがたとえば対空ミサイルを装備しましても、相手はそれよりもさらに射程の長い対艦船ミサイルを開発してそれを装備する。したがって、こちらのやりの届かないところから攻撃するということになりますので、われわれとしてもそれに対する対策を考えなければいかぬ。
 一つの方法は、これは現在の問題ではありませんが、将来問題としては、もっと射程の長い対空ミサイルを装備する、これも一つであります。しかしながら、射程の長いミサイルを装備するならば、どうしてもそれを誘導するための、あるいは目標を発見するための早期警戒機というものが必要になってくる。それからもう一つは、水上部隊それ自体が要撃用のそのような能力のある飛行機を搭載する。もちろん固定翼の航空機を準備するとなれば大型の航空母艦を必要としますので、イギリスの例にならって垂直離着機でいいと。こういう教訓はフォークランドの海空戦において十分出ておるわけでございますので、私は、それをやるならば活路を開けると確信しております。
 次は、小笠原列島線のこの問題でありますが、小笠原列島線、これは早期警戒システムを整備していただきたい。これは情報が入るだけでもこの圏内におる水上部隊は対応が非常にやさしくなります。それから、硫黄島にできるならば戦闘機を配備する。配備すれば、それだけバックファイアはこの地域に侵入する場合に行動が制限されるから、それだけわれわれは対策が容易になります。しかしながら、それをやりましてもやはり十分ではない。したがいまして、どうしてもその護衛水上部隊自体がそのような対策を講ずる。
 さらに船舶の問題でありますが、船舶の近くにおってそれに対して防空の傘を提供してやらなければならない。なるほど護衛水上部隊は、自体の防空はできても、船舶に対して傘を差しかけてやることができなかったならばシーレーンの防衛の目的は達成できない。ところが、早期警戒機の協力のもとに防空用の垂直離着機を装備するならば、恐らく私は半径百海里かその間に対して防空の傘を差し伸べることができる。とするならば、その圏内を行動する商船に対して、商船はそれだけ安全になる。
 最後に私が申し上げたいことは、敵のやること、こちらのやること、これは相対的であるわけです。こちらが何もやる能力がなかったならば、相手は安心して、たとえばバックファイアでも低高度で来て商船の上で爆弾を正確に落とすことができる。こちらにミサイルがあれば、向こうは遠方から今度はミサイル攻撃をしなければならない。それだけ船舶が安全になる。したがって、十分な防衛ができなくても、わが方にそういう能力があるということが相手の攻撃行動を制約をする。それだけ船舶の安全が高まっていくと、そういうように私は考えておるわけであります。
#43
○大坪健一郎君 もう時間ぎりぎりですけれども、最後に阿曽沼さんに。
 さっきあなた、情報の問題が重要だと特におっしゃいましたけれども、これはリスクをはかったり対応の対策を練るためにも必要だということですけど、たとえばそれはP3CとかE2何とかとか言われているような航空機とか、あるいは潜水艦追尾のいろいろなシステムをつくるとか、バックファイアに対するいろいろな、いまの警戒システムをつくるとかいうことを意味しておられるんですか、それ以上に何かあるんですか。そこのところを最後にちょっと一言。
#44
○参考人(阿曽沼廣郷君) 私は、先ほど申し上げましたときに、国としての決断のシステムに寄与するトータルシステムとして申し上げました。もちろん海上自衛隊が整備するセンサーシステムあるいは航空機、いずれも情報獲得の手段でありますけれども、そのほかに外交における情報獲得の手段も必要でありましょうし、あるいは平時においてシーコントロールに寄与する海上保安庁の情報システムも必要だろう、こういうように思います。
#45
○大坪健一郎君 どうもありがとうございました。これで終わります。
#46
○寺田熊雄君 先ほど北村参考人、藤井参考人のお二人方は、日本の自衛隊が他国と現実に戦闘を交えるというのは、日本が単独に小規模な侵略を受けるというような場合ではなくして、直截に言いますと、米ソが対決するような場合だというような、そういう御意見のように承りましたが、この点は海原参考人と阿曽沼参考人はどういう御意見をお持ちでしょうか。
   〔委員長退席、理事竹内潔君着席〕
阿曽沼さんから。
#47
○参考人(阿曽沼廣郷君) ちょっといま質問の意味がよく理解できなかったんですが……。
#48
○寺田熊雄君 もう一遍申しましょうか。
 日本の自衛隊が他国と戦闘を交えるような場合を想定してあなた方防衛政策を論じられるわけですが、そういう場合というのは、日本がどこからか、どこの国からか小規模な限定的な侵略を受けるというんじゃなくして、現実には米ソが対決するような場合だというお考えかどうかということをお伺いしたわけです。
#49
○参考人(阿曽沼廣郷君) シナリオは私は多様にあると思います。ただし、私の軍事的ないわゆる構えをとるという根本的な考え方は、事態が起きるという蓋然性よりも、事態を起こす可能性について物を考えていこう。
   〔理事竹内潔君退席、委員長着席〕
たとえ蓋然性が小さくても、起きる事態がきわめて深刻ならば十分な備えをして構えをとらなきゃいかぬ。先ほどから抑止ということが根本の理念としてあると陳述がありましたけれども、私はその抑止には四つの条件がある。それは第一は、大事なのは政府並びに国民が、戦う意思と決意を持っている決意を表明することも必要である。それからもう一つ、第二の条件は実力を持っている。その実力は、何か事があって対処するときに、勝てる、あるいはそれに耐えられると、こういう力を言うと思います。それからもう一つは、十分な兵力がある。十分というのは、これは非常に日本の場合はむずかしゅうございまして、やっぱり日米安保条約というコレクティブなパワーにおいて考えなきゃいかぬ、こういうように考えます。その中でどうだと……
#50
○寺田熊雄君 私のお尋ねした趣旨は、あなたのいまお答えになったようなことではなくして、軍事評論家というのはもうほとんどの方が有事というのを想定して、それは防衛力整備の大綱にあるような小規模な侵略というようなものは実際上考えられないと。むしろ、それは米ソの対決のときにしか考えられないと言っているんですよ。こちらに、いままでお見えになった参考人も、それから北村さんも藤井さんも先ほどそういう御意見をちょっと述べられたから、ただその問題を、あなたと海原さんはそれにお触れにならなかったからその点をお伺いしているんです。それを簡明にお答えいただければと思います。
#51
○参考人(阿曽沼廣郷君) 防衛計画の大綱というのは、いろんな生まれ出たいきさつがあると思います。小規模、限定的な侵略というのもこれも一つのシナリオであります。当時、やはり防衛の目標を決めて、それを演繹して決めたんじゃなくて、あの防衛計画の大綱というのは、生まれ出たいきさつは、GNP一%以内に何とかして抑えよう、こういうことから、私をして言わしめれば逆説的にあれが決まってきたと、こういうふうに認識しております。したがって蓋然性の問題としては、確かにあの当時のデタントが非常に強調されておった時代にはあれでよかったと思いますが、私は、防衛力を考える本当の考え方は、可能性についてよく考える必要があると、こういうふうに考えます。
 いま言われた小規模限定というのは、あの当時の環境、どこまでいったら――兵力の歯どめがないじゃないかというような社会的環境の中で生まれ出たと……
#52
○寺田熊雄君 これは時間が限られていますから、私の問いにやっぱり簡明にお答えいただきたいと思うんですよ。
 あなたは、やはりシナリオはシナリオとして、具体的に、現実のいま世界情勢の中で日本に対する小規模な限定的な侵略というようなものがあり得ると思いますか、あり得ないと思いますか。その点をお伺いしているわけです。
#53
○参考人(阿曽沼廣郷君) 現実においては、侵略そのものは蓋然性としては非常に少ない、こういうように考えます。
#54
○参考人(海原治君) 簡潔に答えろという御要望でございますので簡潔に申します。
 私は、これまで何冊も本を書きましたし、また現に評論家として講演もいたしておりますし、公に言っておりますが、まず、大綱に決めてある「限定的かつ小規模な侵略」、これは意味が不明である。ある国の駐在武官に聞きましたけれども、負けるために攻めてくる国はないだろうという答えでした。したがって、日本に武力攻撃があるとすれば、こちらの抵抗力を排除するだけの力でもって攻めてくると考えるのが私は常識だと思います。では、いつそれがあるか。私の本にも書いておきましたが、シナリオとしましては二つございます。
 一つは、米ソ戦争の場合、日本が基地として利用されることを防ぐためのソ連からの攻撃でありますが、これは私は米ソは戦わないと言っております。戦えない。何となれば、それぞれに膨大な核戦力を持っております。米ソが戦えば必ず核戦争になる。そういうばかなことはやらぬだろうと思います。私はまず米ソは戦わないと思う。
 じゃ、第二のシナリオは何か。それは、いまの日米安保体制で在日米軍のおる限りは、在日米軍は米国の国家を代表して日本におりますから、この存在する日本をソ連が攻撃することは、米ソ戦を決心せねばできません。したがって、仮に私がソ連の指導者であれば、まず日本から在日米軍を追い出します。かつて民社党が唱えておられましたようないわゆる駐留なき安保の状態が出た場合、日本の経済が乱れてまいります。政治情勢も混乱いたします。そのとき日本国内で共産日本をつくろうという動きが当然出てまいりましょう。現にそういうグループもおられますし、これは信念の問題でございますから。そこで、その共産日本を実現するためのグループが、たとえば仮に北海道で人民民主主義政府をつくる。これがソ連に援助の要請をする。その援助の要請にこたえてソ連から民族解放戦争の形での軍事援助がある。アフガニスタンの例、これが私は具体的なシナリオではないかと書いておりますし、そう申しておりますし、そう考えております。終わりです。
#55
○寺田熊雄君 軍事的な手段でわが国を防衛するという考え方ですね、それからもう一つは、そのためには軍事力のパリティといいますか、そういうものをあくまでも堅持しなければだめだ、それが戦争を抑止する唯一の力になるんだという考え方に立ちますと、結局、相互に相手方の攻撃力というものを過大に評価していわゆる防衛力を整備していく。相手方はまたこちらの防衛力の整備の状況を見てさらに自国の防衛力を拡大していく。そういうイタチごっこになって無限にいわゆる軍備というものが拡大していくということになりはしませんかな、その点はどうでしょうか。その点、四人の参考人にそれぞれ簡単にお答えいただけませんか、さっきのように一問でもう十分もかかったんでは困るんですが。
#56
○参考人(阿曽沼廣郷君) 軍事均衡政策というものは確かに二面性がございます。それによって戦争が起きる可能性もある、同時に片面においては戦争を抑止する条件にもなる、こういうように思います。
#57
○参考人(海原治君) 二つ申します。
 日本単独でどうだこうだという形は私は非現実的だと思います。そこで日米安保体制というアメリカの軍事力を利用しての国の安全保障体制が現在の政策です、第一。
 第二、無限に拡大するのではないかというおそれをおっしゃいましたけれども、これはあり得ません。まず、財政的な制約もございましょう。国会という政治的な制約もございますから、いわゆる防衛費の歯どめにつきましての枠は新聞と国会であると私は書いております、申しております。終わりです。
#58
○参考人(北村謙一君) 私も結論的には海原参考人と同意見であります。
 現在のところは米ソの軍事バランスが崩れつつあるからアメリカはそれを回復しようとしておる。ところが、アメリカだけではできないから同盟国も一緒にやってくれというて日本に対して協力を求めておるわけでありますが、これがだんだん大きくなっていくとするならば、海原さんが言われましたように、当然国内的にも制約がある。同時にそういう状況においてはアメリカも恐らくソ連も際限なく軍備を拡張することの愚かさを悟ってこれを縮小する方向に動いていくだろう。そうするならばバランスが保たれたままそのレベルをだんだん下へ下げていく。そういう努力が行われるだろうと私は思うんであります。ただ、現在は向こうの方が上がっておるからそこまで持っていくんだという状況だと私は思います。
#59
○参考人(藤井治夫君) 相手の方が下げてくるのであれば、別に軍事力で対応せずにそれを下げさせる方法を考えればいいと私は思います。
 それでもう一つは、抑止力論に立ちますと、結局相手とバランスをとる、あるいは相手が攻撃によって得られる利益よりも反撃によってこうむるところの損失を上回らせる、これが抑止力の論理ですから、結局相手よりも強くならなくちゃならないということになっていきます。
 先ほどミサイルの問題、射程の長いのを相手が持ったからこちらも長いのを持たなきゃいかぬ、こういう競争が結局起こる。それから、現在はやはり、ソ連について申しますと、SS20が問題になっております。このSS20、これがこちらに与えるところの被害というのはもうきわめて深刻である。つまり、可能性に備えるということになりますと、これに備えなきゃならぬということになる。一体何によって備えるのか。また、安保条約に依存すると申しましても、アメリカがSS20に対応するものを一体持っているのか。ないとすればそれを持ってきてもらわなくちゃならぬ。こういうことにもなっていくし、しかし、持ってきてもらったところでSS20を防ぐ手段というのは全くないわけであります。だから、もはやすでにもう限界に来ているわけでありまして、したがって、そこで軍備の縮小というのがいま国際的な世論になってきている。だからいまさら抑止力論に立ってアメリカやソ連の後を追う必要はない、こういうふうに私は考えております。
#60
○寺田熊雄君 相互の防衛力増強が無制限というのは多少私の言い方が悪かったかもしれませんが、たとえば、アメリカのレーガン大統領のいまの軍拡政策なんかを見ますと、とてもあれですね、海原さんがおっしゃったように、縮小の傾向というようなことは考えられないわけで、むしろ、大軍拡の方向に行って、多少上院、下院、アメリカの国会がそれを牽制しているということがありましても、基本的な方向としては実質的に大変増強を図っていますね。
 それから日本の場合、政治家やマスコミの抑制力が働く、あるいは財政的な抑制力が働くといいましても、ちょうど私ども昭和十年に高橋大蔵大臣、高橋是清さんが軍部の要求を拒み切れずに軍事予算を盛りまして、国力の限度をすでに超えると言って非常に慨嘆されたことを覚えているけれども、日本の政治家の中ではむしろ防衛力増強を叫ぶ――自由民主党は叫んでいらっしゃる、野党の方が数は少ないし、全体の予算の分配の状況を見ますと、軍事予算の方がやっぱり突出しているということは紛れもない事実なんで、やはり日本も軍備競争に巻き込まれつつあるという現実は否定しようがないように思いますが、この点海原さん、どうでしょうか。
#61
○参考人(海原治君) まず最初におっしゃいましたアメリカのレーガン大統領の政策を前提にして日本がそれに追随していくのが当然のような傾向のようにおっしゃいましたけれども、私はこれは別だと思うんです。米国は米国、日本は日本だと思います。
 米国もレーガンになりましてから、いままでの一カ二分の一戦争という戦略がこれは誤りであるということになりました、昨年のワインバーガー報告で。そして、いま同時多発紛争に対して同時に対処するという新しいレーガン政策を出しております。これについてはアメリカ国内でもいろいろ意見があることは御存じのとおりであります。したがって、日本は一体何のために防衛力を持つのかという点をはっきりと政治家の皆さん方が基本的な構想をお決めいただいて、それに従って同盟国のアメリカとお話しになることが必要だと思います。その点につきまして日本の防衛費が、予算が突出しているぞということをおっしゃいましたが、これはそれぞれのお立場でのお勘ぐりがございましょう。
 ただし、言えますことは、いまの陸海空の自衛隊は、歴代の総理が言っておりますような精強な自衛隊ではございません。もし戦うことを前提とするならば、いまの陸海空自衛隊はいろんな面できわめて哀れな状態にございます。したがって、私はこの自衛隊を本当に精強にするためには、もっと多くの予算が必要だと思います。終わります。
#62
○寺田熊雄君 あなたの御所論を承ってどうも率直に公正な目で見ていらっしゃるような印象を受けないんですよね。
 それから、現実に自衛隊というものをもっと増強しなきゃいけないという結論になってしまった。それは、結局先ほど私が言ったような、お互いに相手方の武力というものを高く考量をして、自国の軍備をさらに拡大していかなければいけないんじゃないかという結論にあなた自身がいまなってしまったわけです。
 それからアメリカのレーガンに、アメリカに追随しているわけじゃないと言ったけれども、アメリカの国防報告などを見てみても、われわれは日本を激励している、われわれの激励によって日本は次第に防衛力を高めているということをはっきりうたっているわけで、アメリカの影響というものを否定するというのは少しも公正な見方とは言えないと私は考えるわけで、その点どうでしょうかね。
#63
○参考人(海原治君) 二つ申します。
 私は自衛隊の増強とは申しておりません。整備という言葉を使います。現在の陸海空自衛隊の現実の規模のもとにおいて、歴代の総理大臣や防衛庁長官が言っておられますような精強な役に立つ自衛隊をつくるならば、現在の規模の範囲で防衛費の増強が必要だということです。費用は減らされませんということであります。第一。
 第二、アメリカとの関係でございますが、それは日本とアメリカとの間で十分にそういう点をお話し合いになるべきだと思います。
#64
○寺田熊雄君 それから、日本の安全を守るということは、戦争を起こさないようにするか、それとも戦争が起きた場合に軍事力で守るかという、結局二つのいずれの道を選ぶかということになると思うんですね。あなた方の御所論を承りますと、ある方は、外交によってもう防ぎ切れずに、現実に手がなくなったときに戦争は起きるんだから、だからそれをわれわれは論じる必要があるということをおっしゃったんで、おっしゃるお気持ちはわかるんです、私どもにも。だけれども、果たして日本が戦争を抑止するための外交を真剣に行っているだろうかと、そういう政策を本当に探求しているだろうかといいますと、決してそうではないんで、たとえば先ほどスイスのお話が出ました。スイスは何か非常に精強な軍隊をつくっているし、ナチの軍隊がそれを攻撃してもメリットが少ないから防いだというお話がありましたが、よく調べてみると、当時の、いま名前を忘れたが、スイスの外務大臣が、いかにナチとの間の衝突を防ぐために外交的な努力をしたかということを非常にいまになって高く評価されているわけです。
 それから、スウェーデンにしても、当時、軍隊は十分なものは持っていたが、やっぱりナチと衝突を避けてナチの通過を許してますわね。あの場合、ナチと衝突した方がスウェーデンにとってよかったのか、それともナチの通過を許しても戦禍に巻き込まれないという外交手段をとった方がよかったか。それはいまになってみると、戦った方がよかったと言う人は一人もいないわけで、むしろスウェーデン外交をたたえる議論の方が多いわけです。
 それから、オーストリーにしろ、いまは米ソの谷間にあって軍隊などほとんどないです、行ってみると。そうして、戦争に巻き込まれまいとする。日本の戦前のあれを考えてみても、幣原外務大臣が閣議で関東軍やなんかの態度を論断して、南陸軍大臣に閣議の席で殴られたということがありました。それが日本の外交の働いた最後で、後はもう外交はなかったんです。もう軍部に追随しただけなんです。いまも日本の外務省が果たして本当に平和を保つための外交をやっているかというと、そうじゃないんで、防衛庁のしり馬に乗って防衛防衛と言っている。外交はないですよ。あなた方は本当に世界平和を保つための外交というものは軍事的なパリティを、アメリカと日本との結びつきを深めればそれで戦争を防げると思っていらっしゃるのか。軍事的な対等力といいますか、そういうものさえ持てば戦争は防げると安心していらっしゃるのか、その点はどうでしょう。四人の参考人のお方にそれぞれ簡単にお答えいただきたいと思います。
#65
○参考人(藤井治夫君) 私は、戦争を防ぐというために何をやればいいのかというのは、きわめてはっきりしているんじゃないかと思うんです。人類の英知はそういう問題について解答をすでに出している。軍事力というのはその場合ほとんど無意味であり、有害である、こういうことだと思います。
 それをはっきりいたしておりますのが国連憲章である。そうしてさらにそれを徹底させたものが日本国憲法である。したがいまして、日本国憲法を読みますと、もうどうすれば日本の平和、世界の平和が守れるかという解答が出されていると思います。国連憲章には、さらに国際的な観点においてとりわけ侵略戦争の否定、国際紛争の平和解決、そうしてさらに諸国民の相互理解、民族主権、基本的人権の尊重、男女の平等、こういうすべてこれができれば平和を守れるということがちゃんと書かれておるわけです。ただ残念ながら、それが不徹底である、守られていないという面がございます。つまり、それは守るための努力をすればいいということであって、その不十分さを是正していけばいいんだと、こういうふうに私は思います。
#66
○参考人(北村謙一君) 平和を維持するためには軍事バランスの維持と並行して平和外交を推進する必要があると思います。一つだけではだめであります。両者お互いに補完し合います。しかしながら、軍事というものは外交によって代替することはできないものであると私は考えております。
#67
○参考人(海原治君) 一般に国の安全保障というものを成立させる条件が三つございます。外交面の努力、経済面の努力、そして軍事面の努力、この三つの面の努力の総合によって初めて国家は安全と考えるのが現在の世界の通念であります。それが国連憲章にもあらわれております。これが第一。
 それから第二、日本が備える防衛力は、かつての陸軍、海軍とは違いまして、外へ出ていくためのものではございません。どっかの国が攻めてきたときに、これに対応するものでございますから、かつての軍隊のような政策遂行の手段ではない、すなわち外交経済の安全保障の手段が破れたときに、万一防衛力の出動を必要とする事態、すなわち具体的には武力侵略が起こったときに備えるものでありますから、ほかの二面の努力とはその質が違う、この点を明確にする必要があると私は思います。終わり。
#68
○参考人(阿曽沼廣郷君) 北村参考人も言われましたように、非軍事的措置というのは軍事的措置に代替できない、代替できてもごく限られた一部分だけである、これは言えると思います。同時に、やはり国家の安全、国民の幸福の増進のために指導者というのはリスクを常に考えなきゃならない、リスクというのは非常に怪物でありますが、リスクに常に指導者というのは巻き込まれている。したがって、このリスクマネジメントあるいはクライシスマネジメントというものを常に考えなきゃいかぬ。残念ながら日本の憲法はこの点については空白であろうかと思います。
#69
○寺田熊雄君 日本が現実に戦争状態になるのは米ソ戦のとき、あるいはそれに巻き込まれるとき、あるいは防衛力整備の大綱にあるように、限定的な小規模の戦争があってそれが拡大したとき、いずれかだと思いますけれども、まあ想定としてはですよ、あなた方のいわゆる想定としては。
 いずれにしましても、日本が戦争に巻き込まれるとき、まあ近代的な戦争、これは非常な破壊力を伴うわけですが、かつての日本の軍人でいらっしゃった方、たとえば遠藤三郎さんのようなお方、やはりこの委員会で参考人として御意見をお述べになったときに、実際上守れないということをおっしゃるわけですね。まあ守れないという御趣旨が地政学的な面も非常に強調なさったのですが、いずれにしても非常な破壊を伴うという点を強調なさるわけですね。そういう破壊に耐えられるか、耐えられないかという問題なんですが、その点については皆様方どういうふうにお考えなんでしょうか。そういう大きな破壊、それから国民の肩にかかる非常な惨害、国民生活の非常な困窮、そういうものについてはやはり率直におっしゃらなきゃいけないと思うんですね。それを隠して国民に何か国を守る気概というような勇ましいことで戦争へ引っ張っていくというのは大変な政治家としての罪悪だと私は思うんですが、その点はどういうふうにお考えでしょうか。
#70
○参考人(阿曽沼廣郷君) 破壊に耐えられるかという御質問でありますが、恐らく核を想定されてのことだろうと思います。しかし現実の日本は、防衛政策を考えるときにも核の問題はアメリカの核の傘に頼るということになっておりますが、核を考えないでこれからの非常事態というものを考えることはできないと思います。したがって破壊に耐えられるようにどうしたらいいかと、これを考えなきゃいかぬ、こういうように思います。
#71
○参考人(海原治君) 非常な大きな破壊に耐えるかどうか、おまえはどう思うかという御質問でございますが、これは国民が決めることでございますね。国民がいまの自由日本という体制を守るために、この自由日本の体制を破壊する外部からの武力行為があった場合にこれに耐えるか、耐えないか、それは各国民の判断です。じゃその国民の判断は何によって生まれるか、当然政治家のそれぞれの立場でのお考え、これが国民に反映する、その多数の意思によって結論が出る、そういうことではないかと思います。
 ただし、一言申しておきますと、あのベトナム戦争の経緯をわれわれ見ておりますが、北ベトナムという小さな国はアメリカが実に六百七十万トンという爆弾、これは第二次世界大戦の全期間に使用した爆弾量の三倍以上の爆弾を、何と三十三万平方キロのところに落としております。その破壊力に耐えて、アメリカを遂に追っ払ったというのがベトナム戦争の経緯です。そういう姿をわれわれ見ておりますから、国民が将来の大きな破壊に耐えるかどうか、これはまさに政治家の皆さん方がどのような方面に国民を持っていくかによって私は決まることだと思います。終わり。
#72
○参考人(北村謙一君) 私は現在のままでおるならば非常に危険だと思います。しかしながら日本人はそのような段階になってくると、恐らくみんなが日本の国をあくまでも守ろうというような気持ちになると私は確信しておるわけであります。もちろんそれに耐え得るためには、やはり破壊を局限するような努力が必要であると思います。それは、一つは防衛力の整備であり、もう一つはいわゆる民間防衛体制の整備、そういったことを並行的に進めていくのでなかったならばいけないと、そのように私は考えております。
#73
○参考人(藤井治夫君) 結局いままでの経過を戦後の日本の移り変わりについて見てみますと、軍事力が整備され、増強されてまいりますと、身の丈に合った形で脅威というものを設定するようになる。結果としてだんだんと大きな戦争に備える、またそういう戦争が起きることになる。戦前の場合も結局はそうであったわけであります。いまや限定的かつ小規模な侵略に備えるというふうなことではなくて、核の破壊に耐えられるように、こういう主張も出てきているわけであります。そしてとりわけSS20の脅威が強調され、さあそれに備えられるようにということでお互いに核を持ち合う。パーシングIIでも持ち込んでもらいたいというふうな声もちらほらいまは出てきております。その結果として何が起こるかどういうことになるか。これはもう申し上げるまでもないことでありまして、結局日本の場合は地理的条件からいたしましても、社会的条件からしましても、経済的条件からしましても普通の戦争にさえ耐えられないわけであって、核戦争にはもちろん全然対応できない。もし仮に一部の人が生き残ったとしても、その核戦争の後に続く荒廃の中で一体どうやっていくのかという問題についての解答は出せないわけで、これはアメリカといえども出せませんし、ソ連といえども出せない。アメリカの二十六分の一、ソ連の六十分の一の国土面積しかない日本がそれに解答を出せるはずはないと思います。
#74
○寺田熊雄君 きょうは、参考人の皆さんの御意見を伺う場で論争の場ではありませんので、余り私どもが自説を押しつけるということは避けたいと思うんですが、ただ阿曽沼参考人と北村参考人、藤井参考人のお三方はやはり核戦争を全く捨象してはいけないという点をお認めになっておられる点で私は良心的だと思います。いま核が現実にあり、その核抑止力が破れないという保証はありませんし、これは欧米の軍事専門家は大部分核戦争がないという保証はないということは言っておるようですね、それから政治家も言っておるようですから。そういう意味ではやっぱり核戦争があり得るということを前提にしないとあなた方の御所論はおかしいと思うんですね。ただ、核戦争があっても耐えられるということを、またその準備をしなければいけないという点をおっしゃる阿曽沼さんと北村さんには、私どもの過去の事例を見て歴史に少しも教訓を得ていらっしゃらないのではないかということを感ずるわけです。現実に日本は二発の原爆を受けましたね。あれがもう戦争には耐えられないということを日本が決定した重要なモメントになりました。それはお認めになるでしょう。しかし、いまはその二発の原爆どころじゃない。その何百倍という水爆の時代に入ってきておるのに、あなた方はそれでもなおかつ耐えられるという、また、耐えなきゃいかぬと、結論をやはり御主張になりますか、お二方に。
#75
○参考人(北村謙一君) 私は核戦争を前提として申し上げたのではないのであります。
 私も現在の核のバランスが維持されるならば、維持されるならばアメリカもソ連も核の使用は差し控えるだろうと思います。しかるがゆえに、核バランスの回復、維持をわれわれもアメリカに対して強く求め、同時に通常兵力によるところの防衛体制の整備を求めておるわけであります。私が申し上げましたのは非核通常戦争の場合のことであります。
 それで私が申し上げたいことは、もしそのような事態になった場合に耐えられないとするならば日本がどうなるんだろうかということであります。もちろん、私は混乱はあると思いますが、やはりわれわれは戦い抜き生き残るように努めなければならないんだということを悟ればそのように努力していくだろうと私は思うのであります。
#76
○参考人(阿曽沼廣郷君) 核の問題はきわめてパラドクシカルな問題であろうかと思います。したがって、核の恫喝もしきりに行われるというのが現実だろうと思います。耐えられる、耐えられないの問題の前に、たとえば核攻撃に対してはどういう備えをしなきゃいかぬかという研究も当然なきゃいけない。そうでなければ無作為の責任を負わなきゃいかぬと思いますし、イギリスの場合は、たとえば農林省に類するようなところにもナショナルセキュリティーのデビジョンがある。これは何をやっているか。これは核の攻撃を受けたときに食糧の備蓄、配分をどうするかという研究をやっておる。研究まで恫喝に屈してやめてしまうというのはいけないんじゃないかと、私はこう考えます。耐えられる、耐えられないの問題の前に非常に核はパラドクシカルであるということも申し上げたいと思います。
#77
○寺田熊雄君 そうすると、先ほどの御意見と少し違ってきたわけですね。核戦争はやはり起こり得ないという前提に、藤井参考人以外のお方は核戦争は起こり得ないという、そういう前提でもうすべてを論じていらっしゃるわけでしょうか。お三人のお方に。
#78
○参考人(阿曽沼廣郷君) 起こり得ないということを断定はできません。これはなぜかというと、核の抑止力は核を使うということを前提に抑止が成り立っておると、こういうように思います。しかし、と言い条、核の問題は非常に使いにくいと、使われないかもしらぬと、政治学的兵器の色彩が非常に強いと、これは言えると思います。
#79
○参考人(海原治君) 将来のことは、これは神様しかわかりません。先ほど申し上げましたのは、私の判断を申し上げたわけです。米ソの核戦争はないであろうと思うと。ただし、この数年前からソ連の国内では、われわれは核戦争を恐れない、核の第一撃を発射する者は相手の第二撃を受けてみずからも倒れる、だから核戦争は起こし得ないと考えるのはブルジョア国家の議論である、われわれは核戦争を恐れないという論文が権威ある刊行物に出ております。このことがあちこちにいろんな影響を及ぼしています。したがって、いわゆる限定核戦争の可能性ということも米ソ双方で非常に議論されております。ただし、私は米ソの核戦争はないと思います。
 第二、仮に米ソが戦争しようとする場合、日本人が幾らやめてくれと言ってもこれはやめるはずがない。もし米ソの核戦争を恐れるならば、スイスがやっておりますように、核戦争があっても国民の全部を防護する、そういう施設をつくる、それが私は政策だと思います。終わり。
#80
○参考人(北村謙一君) 海原参考人の意見と同じであります。
#81
○寺田熊雄君 まあ、軍事評論家としては、核戦争はないだろうという想定でいろいろ御論じになることは、これは許されると思いますね。しかし政治家は一国の国民を率いるのに、そういう漠然たる想定で国民を戦争の危険の方向に引っ張っていくということは、とうていこれは許されないことなんですよね。われわれは、ですからそういう漠然たる想定で、ないだろうというような想定で国を引っ張っていく政治家の罪悪というものを強く指摘してまいったわけですが、あなたがたはないだろうとこうおっしゃるから、それを無責任だと言って私が非難するわけにはまいりません。あなた方は政治家じゃないんだから、軍事評論家でいらっしゃるから、これは、その問題はそれだけにしておきましょう。
 それから海原参考人にお尋ねしたいんですが、あなたはたしかシーレーン防衛は不可能というような御意見を過去におっしゃったことはなかったでしょうか。あるいは私の記憶違いであったらこれは改めますが、その点はどういうふうにお考えなんでしょうか。
#82
○参考人(海原治君) 先ほども冒頭御説明いたしましたが、いわゆるシーレーンの防衛という言葉で表現される具体的な内容がはっきりいたしませんので、まずその内容をはっきりしてからでしか議論はできないのですが、世上に伝えられているようなシーレーンの安全の確保、これは不可能であると申しております。平時は不必要、有事の場合には不可能ということを私はアメリカへ行っても言っております。
#83
○寺田熊雄君 まあこの問題は憲法論とも非常に深く結びついておるんですが、河曽沼参考人と北村参考人、いずれも軍事的な面で専門家でいらっしゃるから、余り憲法論の方でお尋ねしてもなんでしょうが、あれでしょうか、船舶の安全を保持するためには、結局あなた方は必需物資が日本に到着せねばいけないんだというお考えを根底にお持ちのように承ったわけですけれども、そうしますと、まあ突き詰めて言いますと、石油を運ぶために日本のタンカーが遠くアラビア半島の方に、中東の方に行きますね。それをシーレーン一千海里というだけじゃなくて、必要ならばやはり一千海里の枠を越えて行っても差し支えないし、それもまた必要だという御議論に発展しますか。それとも、やはり防衛庁が言うように、一千海里を越えることがあっても原則としては一千海里の範囲で防衛すれば足るというお考えなんでしょうか。
#84
○参考人(北村謙一君) まず最初に、いま海原参考人は有事シーレーンの防衛はできないと言われましたが、私はできると断言いたします、軍事的に。もちろん一〇〇%船舶の安全は確保することはできません。しかし、ゼロ%ということはないわけであります。ゼロと一〇〇との間、われわれはなるべくそれを大きくしていくと。それで、われわれは一つだけの方法によってシーレーンの安全を図るのではないわけです。幾つかの方法を並行的にやるわけでありますから。
 ところで、いま御設問の千海里の問題でございまするが、新聞によりますと、昨年のハワイ会議においてアメリカ側が、もし日本が千海里以内のシーレーンの防衛をやるならば、この海域内における攻勢作戦と千海里以遠のシーレーンの防衛はアメリカの方がやるというように言ったということは、私は新聞で見たのであります。したがいまして、現段階においてはその線に沿うてアメリカと具体的に話し合うべきであると。もちろん、現実に事態が起こってどういう状況になるか、それは予測できません。しかし、そのときはそのときで日米両国政府が話し合って、そのときの情勢に適した対策を講ずべきであり、恐らく講ずるであろうと私は考えます。
#85
○参考人(阿曽沼廣郷君) 資源の問題については、防衛庁サイドに立ってもしも考えた場合は実は受け身なんですね。国としてどういう事態においてどれだけのものが必要なのかということがまず決まらなきゃいかぬ。それの供給地はどうなっておるのか、経路はどうなるのかということが国としてトータルに議論された後に、考えていかなきゃいかぬと思います。
 それから、平時においては当然海運の危機管理……
#86
○寺田熊雄君 いや、有事です。有事。
#87
○参考人(阿曽沼廣郷君) 有事の場合は、先ほど私も冒頭に申し上げましたように、日本の置かれている立場、スタンスは海洋同盟システムの一員であると、私はそう認識しております。NATOにおけると同じように、周辺の海域においてシーコントロールについては責任を持つべきだ、これによって海洋同盟システムがその目的を達すると、こういう立場に立っております。
#88
○寺田熊雄君 あと一分ありますので、最後に。
 まあ藤井参考人は海峡を封鎖する――防備というのと封鎖というのとそれぞれ言葉の使い分けがあるようですが、封鎖する場合にはソビエトとの全面戦争に発展せざるを得ないという御所論でありました。私どももそういうふうに見ておりますが、藤井参考人以外の参考人の方はこの点はどうお考えでしょうか、簡単にひとつ結論だけをお願いいたしたい。
#89
○参考人(阿曽沼廣郷君) 海峡封鎖という言葉は余り適切でないかもしれません。私は、一つの考えの中で、やはり情報システムの中の一つとして海峡の管制をして、平時においてもこれは十分にやるべきだ……
#90
○寺田熊雄君 すべて有事を言っているんですよ。
#91
○参考人(阿曽沼廣郷君) 有事においてもそれが生きてくる、この情報システムを生かすという意味において海峡のコントロールということをやらなきゃいかぬと思います。
#92
○参考人(海原治君) 海峡の封鎖という言葉も、先ほどから申しますシーレーンと同じでありまして、何をやるのかがはっきりいたしません。最近のところでは三割の阻止ができれば成功だと海幕長は言っていますが、どういう状態で、何の敵に対して三割を阻止できるのか、現在能力があるかないか全く不明なんであります。三割阻止できても七〇%はゆうゆうと通過するわけです。どういうことになるのか、そのことを考えますと、いわゆる通峡阻止、海峡封鎖、海峡のコントロール、すべての言葉が私は観念の遊戯だと思います。
#93
○参考人(北村謙一君) 私は、冒頭で申し上げましたように、順序が逆であると考えるのであります。海峡封鎖するからソ連との全面戦争になるのではなくして、ソ連との全面戦争、もちろんこれは日本だけではありません、西側と東側との全面戦争になるがゆえに海峡封鎖の必要が生ずるのであります。
#94
○寺田熊雄君 終わります。どうもありがとうございました。
#95
○渋谷邦彦君 きょうは四人の参考人の方々、大変御苦労さまでございます。
 持ち時間が大変限られておりますので、相当集約されたお尋ねしかできないであろうというふうに思います。
 防衛力、きょうはシーレーンの問題、本質と問題点ということが主題になっておるわけでありますが、それに関連して今後の日本の防衛力のあり方というものはどうあるべきかということでいま御質疑があったわけでありますが、確かに主題のシーレーン一つを考えましても、過去の太平洋戦争の時代、あるいはもっと規模が大きくなるかもしれない、そしてまた仕組みが相当複雑に入り組んだ戦術的、戦略的なそういう対応というものがこれからとられるかもしれない、予測のできない問題が今後考えられるであろう、恐らくそういう想定に立って、起こり得るかもしれないというその前提に立ちながら、シーレーンにしても日本の防衛力整備というものはどういうふうに考えるのかということであろうというふうに思います。それぞれ四人の方々から、むしろ提言をある意味においては含めて御意見を開陳されたのではなかろうかというふうに思います。
 私は、いま、シーレーンに一応限って考えてみた場合に、アメリカの要請もこれあり、それに基づいて日本としても何らかの対応策を立てる必要があるであろう、いろんな今日までの経過の中にシーレーン防衛というものが表面化してきた。しかし、海原さんが先ほど来から明確におっしゃっておりますように、これは事実上不可能ではないか、また藤井さん御自身も大変言葉をきわめておっしゃっておられる、いわゆる不必要、無意味、不可能、危険、こういうことでおっしゃっておられる。確かに私たちは軍事専門家じゃありませんので、ただ過去における事態と今日のこれから起こり得るであろうというその問題を想定しながら、その比較をしながら判断の基準に、材料にしなければならない。
 あれだけ広い海洋において、果たしてそういうシーレーン防衛というものが成り立つであろうか。先ほど北村さんは、ゼロということはあり得ない、一〇〇%もあり得ない、その辺どこかで、ぎりぎりの線で商船やなんかが防衛できればいい、こういうお話のようでございました。すべてそれも実際、有事ということを前提にしてお話があったんだろうというふうに思うわけであります。
 そこで、それらを整理して申し上げたいことは、これも予測でしかないわけでありますから、絶対こうだとか、そうではないという、この議論は成り立たないと思うんですが、一つは、将来、現在のこの米ソ対立のような背景のもとに全面戦争というものがあり得るのか、あるいは限定戦争というものがあり得たとすれば、どういう規模のものがどういう状況のもとで起こり得るというふうに予測されるんだろうか。朝鮮半島の問題もありましょう。まず最初に、全面戦争というものが起こり得る可能性、あるいはいや、それは絶対に起こり得ない、限定戦争ならばあり得るかもしれない、この点についてはどんなふうにお考えになっていらっしゃるか、これはむしろお四方にそれぞれお伺いをしておきたいと思います。
#96
○参考人(阿曽沼廣郷君) 米ソ全面核の交換をやる戦争というのはまず起こりにくいと思います。
 しかし、核の抑止が効いている中で世界の各地でいろいろ紛争が起きているというのも事実である。その紛争が起きたときに、原状がなかなか回復できない、回復するために核の抑止が逆に効く、こういう皮肉な状態も起きております。したがって、既成事実というものをつくらせないようにするのが核戦略体制下で大事である、そういう意味においては、既成事実をつくらせないようにする努力をいかにしたらいいかを研究しなきゃいかぬ、こう思います。
#97
○参考人(海原治君) まず、米ソの核戦争ですが、これは先ほども申しましたように、私はそれはないと判断いたします。
 ただし、これもまた先ほど申しましたように、ソ連の中では、われわれは核戦争を恐れない、こういう考え方もあることも事実であります。さあどちらを選ぶか、これはそれぞれの方の判断と思います。
 非核戦につきましては、私はセミナーでも申しましたがソ連のいまの物の考え方、すなわち世界の共産化が国家の目標であって、この目標を達成するためには民族解放戦争、これは正義の戦争である、この戦争は不可避であるという考え方が変わらない限り、共産主義者はその先頭に立って進むと宣言、これを実践いたしておりますから、この意味のいわゆる民族解放戦争の可能性は論理的には否定できない、こう考えます。
#98
○参考人(北村謙一君) 核戦争につきましては、さきも申し上げたとおりでございます。私は、この全面戦争が起こり得るかどうかということにつきましては、起こり得ると思うんであります。
 その一つのケースは、たとえば中東方面であります。この情勢がどのように進展するか、それはわかりませんが、もし東西間の軍事バランスが崩れた状況においてソ連があの方面に進出してくる、もし中東の湾岸産油地帯がソ連の支配下にあれば西側同盟は崩壊するわけでありますから、恐らくアメリカはそのときに立つであろうと思うんであります。もしそれが局地的に解決できなかったならば、北東アジアあるいは北西太平洋に拡大することは避けられない。と申しますのは、米ソともに世界戦略の上に立って兵力を整備し、世界的規模において展開しておるからであります。もちろんアメリカの方が先に手をつけるかどうか、それはわかりませんが、われわれとしては朝鮮半島の事態というものを考えております。これは私は冒頭に申し上げたとおりでありますが、アメリカの中東方面に兵力を集中することを牽制するために、自分は余り自分の腹を痛めずに北鮮をしてやらせる、そういったところが契機となって、この北西太平洋、北東アジアに事態が拡大してくることは大いにあり得るわけであります。
 もちろんそれ以外の事態もあります。しかしながら、われわれはそのような全面戦争が起こらないように、西側全体として抑止体制を整えるんだ、抑止体制というのは、万が一事態が起こってもそれに対処できるような、そのような能力がなければ抑止効果がないわけであります。したがいまして、もしそれより以下の小規模な事態が起こるならば、十分それに対して対処し得ることができる、そのように私は考えております。
#99
○参考人(藤井治夫君) 現在、たとえば「國防」という雑誌を読んでおりますと、防衛庁の官房長の佐々さんが「日本が戦火に巻き込まれるとすれば、第三次世界大戦であって、日本とある他国だけの戦争はあり得ません。」こういうふうに語っておられますが、私もそうだと思います。
 では、第三次世界大戦の起こる可能性はどうかと言えば、これは結局それをやれるだけの能力を持った国が米ソ二つあるわけですから、能力がなければ起こらないというふうに言えますが、能力のある以上ある条件が整えばそういうことになる可能性がある、こういうふうに言えると思います。そしてそれには核戦争も含まれると。先ほど海原さんが引用されましたが、ソ連の方は核戦争になっても身が守れないということはないんだと、こういうふうに国民を教育しております。またアメリカの方は限定核戦争というのを採用している。その限定核戦争から全面核戦争へと発展する可能性ももちろん当然にあるわけであります。つまり結局それは核能力を持てば、核戦争がやれるようにしなければ核抑止力は無効である、こうなってまいりますから。で、やれるようになったときには一体どうか、結局やる可能性というものが高まってくる、こう見なければならないし、今日までの世界で戦争が起きたそのケースについての統計によれば、こういうふうな軍備競争が行われて、そしてまあ敵対的な関係が強まってきている状況のもとでは、七〇%までが現実に衝突すると、こういうことも言われているわけでありますから、危険性はきわめて高いと見るべきだと思います。
#100
○渋谷邦彦君 いまそれぞれ軍事バランスを通じての全面戦争があり得るかどうかという点についてお触れになったようであります。
 さて、そこで問題になりますのは、軍事バランス、特に核を中心としたこの軍事バランスというものが将来にわたってその均衡が破れるかどうかという問題も、これは重大関心事の一つであろうというふうに思えてならないわけであります。もしバランスが崩れた場合に戦争回避の抑止力としての機能が果たせなくなる。いま藤井さんもおっしゃったようなそういう危険性というのは非常に高まってくる。そうなりますと、米ソはもうしのぎを削るような思いで軍拡の道をまっしぐらに突っ走らなければならぬと。まあいま軍縮委員会あたりでもその方向へ向かって取り組みがなされているようでありますけれども、きわめて難航いたしておりまして、昨年の国連の第二回軍縮特別総会においてもいろんな提言がなされているにもかかわらず、決してそれが前向きにとられていない。ジュネーブの軍縮委員会においてもそうであります、STARTを初め。そうするとこれはもう信頼感というものは、先ほどの海原さんのお話じゃありませんけれども、どういう点で一体信頼感が回復されて軍縮への道へ歩めるのかと、まあそれなりに米ソ両国が中心になって努力をしていることは否定いたしませんけれども、しかし現状に関する限りは限定核戦争の発言等もこれあり、きわめて深刻なそういう事態に向かいつつあるということをわれわれは憂慮せざるを得ないわけであります。こうなるとやはりこれからも拍車が、核を中心とした軍拡の道をまっしぐらに進むそういう危険性というものは高まりつつあるというふうに思えてならないわけでありますが、これも四人の方々にそれぞれその危険性があると、あるいはないと、こういうふうに判断されているかどうか、バランスは絶対に崩れないと、崩れなければこれは軍拡ますますもう広がる一方でございますから、その辺の御判断をひとつお聞かせいただければ大変ありがたいと思います。
#101
○参考人(藤井治夫君) 核バランスというのは常に崩れているというふうに申し上げても、これは逆説的になりますが、いいと思います。つまり、やはりどちらかが優位に立つ、それを盛り返すためにまた一層軍拡努力を一方がいたしまして、そしてその方がさらに上に立つと、こういうことで今日まで来たわけでありまして、いまから二十年ばかり前と今日の状況を比べますともう本当に二百倍近い戦略核兵器の増強がなされているわけです。今日でも具体的には、まあたとえば欧州における戦域核の制限交渉もございますが、一つ一つ見てみますともうずいぶんとバランスはとれていない。つまり、ICBMではソ連がまさっている、SLBMではアメリカだと、弾頭数ではアメリカである、爆発力ではソ連であると、そういうすき間を埋める努力をお互いやるわけでありますから、結局全体としてレベルアップしてくる、こういうことになってしまっているわけです。だからそういう、いわば軍備競争のバランスが保たれているようなかっこうでありまして、破局にだんだん近づいてきつつあるんじゃないかと、だれしもが危惧しているわけです。
 ただ、そこでもう一つ考えられるのは、やはり核戦争を抑止しているのは、結局その相互の核バランスであるだけではないわけです。と申しますのは、それを否定している日本国民、ずっと三十数年にわたる原水爆禁止の願いがございます。そして、見ておりますと、この三十数年間に原水禁、核否定のこの悲願がだんだん世界的に広がってきているということも、これはやはり事実としてございます。大衆的なレベルで、かつては日本国民しか原水爆禁止の運動はやらなかったけれども、いまではアメリカもあるいはヨーロッパの民衆もそれぞれやっているわけです。だから、こういうふうになってまいりますと、結局最後にはこの問題を決定するのはやはりそれぞれの国の主権者である、国民であるというふうになってまいりますから、核戦争を防ぐのはバランスじゃなく、むしろこの民衆の願いじゃないかと、これが発展すれば私は展望が開けてくるというふうに思います。
 だから、したがって軍事力バランスというのはやはり一つの幻想と申しますか、あるいは妄想である。むしろそれは軍備競争の原因になるんじゃないかと、これが私の考え方です。
#102
○参考人(北村謙一君) 軍事バランスが保たれておるか、あるいは崩れるかというこの評価はなかなかむずかしいと思うんであります。
 ただ、核について言いますならば、戦略核について言えば、部分的な凸凹はありますけれども、大体現在のところは米ソはパリティであると、しかしながら、中距離核においてはソ連の方がはるかに優位である。しかるがゆえに、現在これは大きな問題になっておるわけであります。通常兵力につきましては全体的にソ連の方が優位でありますが、いま問題になっておりますシーレーン、あるいは海軍の問題について言いますならば、全体としては西側の方が優位であります。しかしながら、部分的に言いますならば、西側にとってバイタルに重要であり、もし失うなら、これは非常な弱点となりますシーレーンの攻防をめぐっては、ソ連の方が優位にあると。したがって、このバランスが崩れている部分を取り返そうとするのが現在のアメリカの努力であり、アメリカが同盟国に求めておるところだと思うんであります。
 ところで、こうして西側の方が防衛力を増強する、際限なく軍拡に進んでいくかということは、先にもこの問題が出ましたが、私は限界があると思うんであります。と申しますのは、恐らくソ連の方が経済的に先に限界に達すると、恐らくそれはアメリカの方からソ連に対して攻勢をかけるということはないでありましょう、そういうことはソ連もよく知っておるはずであります。そうしますならば、自分たちの能力の限界が来たと、このまま続けていくならば社会が崩壊するおそれがあるというような段階まで追い詰められたならば、ソ連の方はじゃこのバランスのレベルを下げようじゃないかというような気持ちになってきて、縮減の方に向かっていくものと私は考えております。現在あるのは、ある部分においてソ連の方が優位なるがゆえに、そのところを補おうとしておるのが西側の防衛努力であります。
#103
○参考人(海原治君) きょうは最初から言葉の解釈ばかり問題にして申しわけないんですが、またしても、バランスが保たれるか破れるかというのは、私はバランスという言葉はわからないんです。本来、バランスという言葉は両方が同じ重さであることがバランスだと思うんです。たとえば、核の力につきましては、十年前においてはアメリカは圧倒的に強かった。アメリカを一〇〇としますと、ソ連は一〇か二〇ぐらいです。そのときのバランスというのは、これはどういうことになるかわかりません。そのはるかにおくれておったソ連が、いまやアメリカと対等になった、これはいま初めてバランスが保たれておるわけでしょうね。これが、仮にアメリカの方がソ連より弱くなった場合、これはバランスが破れたと考えるのか、それともバランスが保たれたと考えるのか、この辺がわからないわけです。
 それと、現在ただいまの姿につきましても、アメリカのレーガン政権の判断と、元の各内閣の国防長官の判断では、どっちがまさっているかについていろいろと異なった意見がございます。その点でも一体どっらが優位なのかわからない。したがいまして、バランスがどうだこうだという議論は私は非常に危険だと思います。特に申し上げたいのは判断の問題と対処の問題、この二つは明確に区分をしていただきたいということであります。私は核戦力のバランスが破れる結果戦争が起こるとは判断としては考えておりません。終わりです。
#104
○参考人(阿曽沼廣郷君) いま海原参考人も言われたバランスというのは、両方おもりが同じ重さであるというのですが、実はその政策の中には必ずどっちかがバランサーというものを使うと。先ほど言いましたように、海洋同盟システムというものと大陸システム、大陸のシステムと考えた場合に、その力の中心はやはりアメリカであります。このシーレーンの防衛についてもそうなんですが、核の問題についてももちろんそうである。全体的なバランスをとるときに、アメリカの視座に立てば日本は一つのバランサーであると、こういう見方も成り立つかと思います。
#105
○渋谷邦彦君 シーレーン防衛ということについてはこれはもう際限がない、一般常識としてはそんなふうな受けとめ方がまず先行するんじゃないかというふうに考えられるわけであります。現在の海上自衛隊あるいは航空自衛隊の防衛力自体から考えましても、あれだけの広い区域を一体どうして防衛するのか。それはP3Cの援護あるいはヘリコプター等の問題もございましょう。しかしわずかな機数でもってそれを防衛するというのはナンセンスでありましょうし、また、いまヘリ搭載の護衛艦も逐次建造されております。それが一隻や二隻あの辺を遊よくいたしましても、とても守り切れる問題じゃないであろう。しかも四六時中、あるいはソビエトの原潜が、しかも深海をいま走っているわけでありますから、果たして現在ソナーあたりでそれが捕捉できるのかどうなのかというようなわれわれなりのささやかな疑問というものが常につきまとって、それを、一〇〇%でなくても、先ほどの北村さんのお話じゃありませんけれども、たとえ五〇%、六〇%と、水準を上げて日本独自の立場で防衛をしようと思っても、大変なこれは予算がかかるということはもう火を見るよりも明らかでございましょう。
 もう一つは、これは侵略は日本はしないわけでありますから、絶えず攻撃を受けた際に最小限度防衛力を発揮してこの国を守ると、これしか考えられないわけですね。ですから、われわれとしては戦争が起きないことをまず大前提にして、先ほどもお話がありましたように外交なら外交を中心として起きない方向へ努力をすることがまず先決であろうというのは私は同感だと思うんです。
 いま考えてみますと、油の問題もありましょうけれども、日本にとってもっと必要な問題は非鉄金属類なんです。これなんかも一体備蓄量がどのくらいあるかということを考えてみた場合、もう背筋の寒い思いがするわけですね。たしか砲弾の材料になる銅が、いまどうでしょう、約一カ月ぐらいですか。あるいはアルミやその他マンガンにしてもコバルトにしてもニッケルにしても、もう一日あるかないかというやつも物によってはあるわけであります。継戦能力をもし持続させようとするならば、そういったものをやはり絶えず日本へ運んできて日本で生産しなきゃならぬという問題が当然起こるわけであります。それやこれや考えてみますと、とにかく起きないことをまず大前提にして考えなくちゃなりませんし、そしてもう一つは、そのシーレーンを防衛するために必要と思われる航空機にしても護衛艦にしてもあるいは駆潜艇にしても、相当数やはり配備しなきゃならぬということになると、先ほどもどなたかおっしゃられたように、むしろ軍拡の方向へ日本自体が進む危険性が出てくるんじゃないか。
 なるほど防衛計画大綱、まあ一応歯どめをかけてありましょう、GNPの一%以内と。しかしいまそれが突破されようとしている事態は国民ひとしく認めているところであります。一遍その歯どめが取り除かれますと、これはもう恐らく傾斜的に、予算の方も考えの中に入れつつ、日本が大きく軍拡の方へ踏み出す危険性があるんではないだろうか。ですから、もう一遍原点に立ち戻って領海専守防衛というそういう考え方に立っての防衛力整備ということに視点をしぼった方が、日本としては主権国家として体面が保てるのではないかなというふうに私は考えるのでございますけれども、これを四人の方々にお伺いするとこれで時間切れということになって、肝心の細かいことまで聞けないことを残念に思うわけでありますが、これは大事な点でございますので、やはり四人の方々にそれぞれお伺いを却し上げたい、こう思います。
#106
○参考人(藤井治夫君) 確かにおっしゃるような危険性は非常に強いと思います。
 最近はやはり先ほども海洋の共同防衛というようなお話も出ておりましたが、結局全世界につながってシーレーンを守るとすれば、そういう共同防衛体制が必要になってくる。日韓米というふうな問題も取りざたされておりますが、東南アジアが入ってき、さらに中東というふうにずっと防衛的な軍事面におけるつながりがやはり出てくる。つながりが出てくると、結局そこで相互協力、相手を助けてあげるということもしなければこちらを助けてもらうわけにいかない、こういうふうになってまいりまして、結局車守防衛という原則それ自体をやはり損なうというふうになってくると思います。集団的自衛権の問題、海外派兵の問題というふうなことで、国会において平和憲法に基づいて歯どめをかけていらっしゃいます三つ、武器輸出禁止の歯どめがどうも怪しくなってまいりましたし、それから非核三原則、さらに海外出動禁止、この参議院の決議自体も空洞化していく、こんな危険性があるように私は思うわけです。
#107
○参考人(北村謙一君) まず第一に、このシーレーンの防衛がとてもできないということを再び指摘されましたが、これ恐らく陸上の防衛、陸上の鉄道とか道路の守備、これを何百キロ、何千キロと長い間にわたって守ることはとてもできないから、海上においてはなおさらだろう、相手はもぐっておるというようなところから連想されるのかもしれませんが、ちょっとここで御説明する時間的な余裕もありませんが、しかしながら最近の潜水艦を捜索する兵器の性能は非常に伸びておるわけであります。私は自衛艦隊で幕僚あるいは部隊指揮官として七年間勤務をやり、みずからまた海上の第一線の護衛隊群司令として一年半の間いろいろな状況におけるシーレーン防衛の作業をみずから計画して演習を行い、訓練を行い、その評価をしてきたのでありますが、当時の兵器の性能においてもできたのであります、いまのような著しく性能が向上した兵器システムをもってやるならば、私は十分にできると考えております。
 ところで、さっき石油だけではない、レアメタルだということもおっしゃられましたが、全く私も同感でございます。ですから、政府において緊急時にそのようなものをいかにして補給するか、もし日本の国内生産ができないならば備蓄をやらなければいけない。しかしながらその備蓄し得る量にも限界がある。とするならば、それは有事になれば最小限のものは輸入しなければならないというようなところから、いわゆる有事における需要を満たすための、これは必要最小限度の需要を満たすための備蓄計画と緊急輸入計画、それがあって、それに見合うような防衛力ということになってくるのであります。したがって、この計画がなければ根拠のある自信を持ってお答えすることのできる防衛力の量というものは出てまいりませんが、無責任と言われたら残念でございますけれども、大体の勘としては、私は護衛隊群を現在の倍ぐらいやればよろしい、現在四群であります、護衛艦の数にしますならば、現在は約六十隻でありますが、その中には地方隊のものも入っておりますので、あと二十五隻か三十隻ぐらい増加すれば大体最小限度のものは賄えるのではないかと考えております。また対潜の航空機にしましても、P3C、現在大型百機を目標にしておりますが、あと二、三十機をふやせばいいんではないか。したがって、無制限に所要の兵力が増大するというものではないということを申し上げたいと思うんであります。
 それから最後に、シーレーンの防衛をもうあきらめて、専守防衛に徹したらどうだ、国土の専守防衛に徹したらどうかという御指摘でございますが、ではその専守防衛に徹する、国土の専守防衛に徹するとすると、その間の食糧はどうするのか、国民は生きていくことは恐らくできないだろうと思うんです。御承知のとおり、穀類に換算しますというと、食糧の国内自給率は四〇%未満、三十数%、そういう状況であります。そうするならば、国土の防衛に専念するとしても、国民は生きていくことはできない、しかし手を挙げることもできない、野たれ死にせざるを得ないということになる。したがって、私は、最小限度の輸入は確保し得るような態勢を整えておくのでなかったならば日本の防衛というものは成り立たないと、そう考えております。
#108
○参考人(海原治君) 私は、日本の陸海空自衛隊、この任務は、海を渡って空を飛んで日本に攻撃してくる外国からの侵略を撃破するための存在だと前から言っております。簡単に申しますと、陸海空自衛隊は、四つの島の守備隊である。航空自衛隊は空で、海上自衛隊は海上及び海中において、陸上自衛隊は国内で上陸した敵に対して戦う、それが陸海空の自衛隊の本来の任務であると、こう申しております。いまでもそう思っております。
 それから、二つ申し上げたいことは、一つ、一千海里という言葉でございますが、これは昔は、そこまで哨戒をしたいということでした。哨戒をする、パトロールをする範囲です。それがいつの間にか、そこまでの防衛の責任をとるというふうに内容が変わりました。いつ、どうして変わったのか、私わかりません。パトロールをするということと、その範囲内の海域の防衛責任を持つことは、全く質的に意味が違うんでありますが、この点についての国会の討議はございません。
 第二、よく防衛論議は、「できる」という三つの文字、「できない」という四つの文字、これで議論されますが、これは非常に危険です。いかなる状態のもとで、何をどうすればどういう効果が手に入るのかということの「できる」「できない」という議論が必要であります。ところが、その具体的な数字については全くない。結論として、「できる」とか「できない」とかいう判断だけの応酬は、算術の答えだけを出し合っていることで、全く私は無意味で危険だと思います。終わり。
#109
○参考人(阿曽沼廣郷君) 私は、日本の防衛論議はどうも帰納的な傾向がある。むしろ演繹的にやっていかなきゃいかぬ。それは、国として何を結果として求めるか、国の目標が論議されなきゃいかぬ。その上に立って初めて防衛政策も具体的になると、こういうふうに思います。
#110
○渋谷邦彦君 どうもありがとうございました。
#111
○立木洋君 最初に海原参考人にお尋ねしたいんですが、お尋ねする前に、先ほど同僚議員の質問に対しまして、有事のシナリオについて、第二の点をお述べになっております。米軍が日本から撤退をして、共産日本を実現しようという動きが活発になると、北海道に民主連合政府ができるような場合、ソ連の軍隊を導き入れて、アフガニスタンの例を引かれて述べたわけですが、これは民主連合政府というふうな言葉を私たちが使っておるのですから、念のために申し上げておきたいんですが、私たちは手法的に民主連合政府をつくるなんという方針は持っておりません。それから同時に、われわれはソ連を導き入れるなんというふうなことも毛頭考えておりません。それから同時に、私たちはソ連が日本に対して介入、干渉するような場合には毅然として反対して戦うという方針をとっておりますので、誤解があったらいけませんので、念のために申し上げておきたいと思うんです。わが党を念頭に置いて海原さん言われたかどうかわかりませんけれども、私たちが使っておる言葉を引用されたので。それで、もしか疑念がございましたら、私たちの党の文献をお見せすることも可能ですから、どうぞごらんになっていただきたい。
 それで、お尋ねする件については、先ほど、今日世上で言われておる、つまりシーレーン防衛ということに関して言えば、平時は不必要であり、有事の際もこれは不可能だというふうにお述べになった。それで、有事の際に不可能だという原因については、その前に有事になればレーダー基地がたたかれるだろうし、飛行基地がたたかれる、だから実際には可能性がないんだというふうに言われた。それで、そんならレーダー基地が防衛され、飛行基地が防衛されるという状況のもとならばシーレーン防衛というのは有事で可能なのかどうなのかという点についてお尋ねしたいんです。
#112
○参考人(海原治君) まず、先ほどの私の発言についての御叱正、おしかりがございましたが、私は私の記憶では人民民主主義政府と言ったつもりで、民主連合とは言わなかったと思うんですが、もし言ったとしまして、それは別に特定の現存する政党あるいはグループを言ったのではございません。いわゆる人民民主主義ということで民族解放戦争との関連において申した言葉でございますから、もし先ほどそう言ったとすればそれは私の言い方の間違いでございます。謹んで訂正をさしていただきます。
 それから、その次の質問でございますが、レーダーサイトの例を出しましたのは、いかに日本がソ連の攻撃に対して弱いかという具体的な一つの例証でございます。レーダーサイトさえ生きておれば云々ということではございません。ということは、現在ただいまのシーレーンの防衛、安全の確保のための議論は、シーレーンの安全の確保イコールすなわちASW、対潜水艦作戦、イコール哨戒機プラス護衛艦、こういう方式がまかり通っているんです。私はこれは間違いだと思います。もし戦時の場合に日本の海上交通の安全が阻害されるとしますと、それは海中の潜水艦、それから水上艦。これには航空母艦もございます。巡洋艦もございます。駆逐艦もございます。それから、長距離の爆撃機、それから海洋の哨戒機、空からの攻撃も当然ございます。したがって、海上交通の安全の確保イコール対潜水艦作戦と置きかえるのは危険です。その対潜水艦作戦で潜水艦の探知、発見、いかに困難かということは、先ほど御説明するときに使いましたように、NHKのこれに具体的に出ております。もっと詳しい例がございますが、これは時間がございませんから申し上げません。非常に困難なことなんです。イワシの群れか、鯨か、船か、その船が潜水艦かそれとも水上艦か発見をすることが大変にむずかしいということは現地に行けばわかります。そういうことで、非常に困難な技術的な問題がございますが、それは一切捨てまして私は簡単に結論を申し上げたわけですから、別にレーダーサイトが仮に常時大丈夫だからという場合を想定したときにどうだということについては、私はそういうことも含めましてノーという判断をいたしております。
#113
○立木洋君 その御見解よくわかりました。
 ただ、先ほど言われた、平時には不必要であり、有事にも不可能だと言われるのに、なぜこれを一生懸命やろうとする動きがあるのか、その点は、これは政治の問題ですけれども、もしかよろしかったら御見解を……。
#114
○参考人(海原治君) それは冒頭に申し上げました。シーレーンの安全の確保ということについては、いわゆる日本の防衛努力、それを同盟国の米国に示すための一つのゼスチュアあるいはあかし、具体的な努力という見方もございます。アメリカ側が日本にいろいろ言っておりますのは、もともとこの考え方は日本側が言ったものなんです。冒頭申しましたように、私が保安庁の保安課長になりましたのは昭和二十七年、そのときからすでに当時の海の人々はアメリカと連絡の上でヘリコプター母艦をつくりたいと言っておりました。第二次防衛力整備計画をつくる直前に私は防衛局長になりました。これが昭和三十五年の十二月二十七日でございますが、その一週間前まで当時の防衛庁はヘリコプター母艦、これを四群つくるということを言っておりました。私は防衛局長になりましてその具体的内容を検討した結果、これはその後の二次防には出てまいりません。こういうことでこのときのヘリコプター母艦は当時の文書にございますが、アメリカの海軍作戦部長の方にもいっておるわけです。すなわち日本側がこういうことをやりたいということは同盟国の方がちゃんと知っておりますから、アメリカとしては日本の防衛努力が足りない、そのために日本はこうするということを言っているんだから、どうぞやってくださいということが鈴木総理が行かれたときの共同声明の文言にはっきりと出ております。すなわち一部でアメリカの強制とか要求とかいうふうに見ておられる方がおりますが、これは私は完全な間違いだと思います。日本がこうしたい、ああしたいと言っておりますからどうぞということを言っておるわけです。それが昨年十二月のアメリカの上院の本会議の決議として、一九九〇年までに日本はその安全保障の体制の整備をやれと、こういうことになったと私は見ております。終わります。
#115
○立木洋君 次に北村参考人にお尋ねしたいんですが、先ほどのお話を聞いていますと、アメリカが始めた戦争に日本が巻き込まれるというふうな懸念はないと、そういうふうに考えるのは妥当ではないということを述べられた。同時に、今日の国際情勢の動きを見れば、大局的に見る必要があり、日本ではなくて他のところで米ソ戦争が始まったときに結局日本に対して攻撃がかけられるという事態が想定されると、そういうふうにお述べになったんですが、これはアメリカの始めた戦争に巻き込まれるということはあり得ないと、そういう考え方は正しくないと言われたのと若干矛盾するのじゃないかというふうに感じたんですが、その点をちょっと御説明いただきたいんですが。
#116
○参考人(北村謙一君) これは二つの異なった質問を混同しておられるのではないかと私は思うんでございます。
 私は、後の方に、アメリカの戦争に巻き込まれる、巻き込まれないということは、これは海峡防備をやったならばアメリカの戦争に巻き込まれるという議論があるけれども、それは順序が逆であって、もうすでにそのような事態が起こったから海峡防備をやらなければならないんだと、そういうように申し上げたんであります。それから、しかしながら全体のシナリオとしては、一番大きな規模としては、たとえば中東方面において米ソの本格的な軍事対決が起こって、それが局地解決ができずして世界的な規模に拡大された場合であろうと、この場合はあるいは巻き込まれるということになるかもしれませんが、要するに東西間の大戦争に日本は直面するわけであります。そのように私は申し上げたんであります。
#117
○立木洋君 それから先ほどの同僚議員の質問に対してのお答えの中で、たとえばシーレーン防衛が事実上可能だという御見解で、これは御自身が自衛艦隊の司令官をなさっておられたんで、そういう演習だとかいろいろなあれを引かれて、たとえば護衛艦がいま六十隻だけれども二十五隻程度さらにふやされたいと、あるいは飛行機、P3Cなどでしたら百機あるが、さらに二十機か三十機と。まあ護衛艦が一隻六百億円しますから、そうするとさらに一兆五千億ぐらいの予算が必要だ。飛行機が、P3Cが一機百十億円しますと、三十機ふやすとこれは三千三百億円。そうすると、大体シーレーン防衛が可能だと言われる予算的な金額を概算すると、北村参考人はどれぐらいあればいいというふうにお考えでしょうか。
#118
○参考人(北村謙一君) 現在手持ちの資料はありませんが、私日本戦略研究センターにおいて二、三年前に試算したことがございます。それはこうすれば日本は守れるという本で出ておるんでありますが、あのときは、陸上自衛隊、航空自衛隊、海上自衛隊それぞれが若干ずつ増強をしていくと、そういったような前提で、全部の費用ではございますが、毎年逐次パーセンテージを上げていって、最後はたしかGNPの二・五%ぐらいのところ、それぐらいのところまで出していただけるならば、一応日本が大体において守れるというような兵力になるだろうという計算をしたことがございます。その程度でございます。
#119
○立木洋君 「自衛隊の見たソ連軍」という中に北村参考人も書かれてあるんですね、この本の中に。まあ藤井参考人も別のところで書いていますが、この中で参考人がお述べになっているのは、日本の商船が攻撃を受けるというふうな事態が生じた場合、日本に対する直接攻撃とみなすかどうかという問題になるが、それは直接攻撃とみなさざるを得ない。したがって、国際法上明らかに自衛の範囲に入る以上、日米安保条約の発動が可能だと、こういうふうにお述べになっている部分があるんです。
 これは、いままで日本の領域への武力攻撃の際、安保条約発動が可能だというのがこれまでの政府の見解なんですが、この点については参考人はどのようにお考えです。これは集団自衛権にかかわるのじゃないかというふうな懸念が多分にあるんですが、いかがでしょうか。
#120
○参考人(北村謙一君) 私ははっきり記憶しておりませんので、いま読まれたとおりかどうか存じません。私はそのようには言っていないつもりなんです。恐らく私はこういうつもりで言ったと思うんでありますが、公海上において日本の船舶が攻撃されてもこれは自衛権発動の対象になると、これは国際法の解釈であります。しかしながら日本が日米安保体制を発動するかどうかというものは、これは安保条約のあの条項に従うわけでありまして、日本の管轄下にあるところに対して攻撃が加えられた場合と、こうありますので、日本独自の自衛権発動の対象にはなる、しかしながら日米安保体制が発動するかどうかというのは、これは別問題であります。
#121
○立木洋君 この二百二十一ページに日米安保条約の発動は可能とはっきり書かれてあるんです。
#122
○参考人(北村謙一君) ああそうですか。
#123
○立木洋君 私がいいかげんに言っているのではごさいませんので、その点だけひとつ……
#124
○参考人(北村謙一君) もしそうあるとするならば、それは間違いだと思います。私はそういうつもりでは書いてないはずであります。
#125
○立木洋君 間違いだという御訂正があったら、わかります。
 それから、四人の方にお尋ねしたいんですけれども、いまアメリカでは、たとえば核の凍結というふうな問題での運動が非常に盛んになっております。またヨーロッパにおいても、御承知のように西ヨーロッパでは、いわゆる核配備、これについてはアメリカの新型ミサイルの配備に反対するというだけではなくして、ソ連のヨーロッパにおける核配備にも反対だと、つまりいかなる国の核に対してもわれわれは配備を認めないというふうな運動が広がっております。御承知のように日本においても核問題に関する運動というのは前進しておると思うんですけれども、これらの運動について、つまり平和を求める運動について、いわゆる将来への平和の維持ということとの関連で希望があるものと見られるのか、あるいは軍事評論家というお立場でこういう事態をどういうふうに御所見をお持ちになっているのか、お答えいただければ幸いです。
#126
○参考人(阿曽沼廣郷君) いま平和というお言葉を使われましたので、私なりに言いますと、平和というのは空想的な平和ではないと、現実的で現在存在する平和だと、これを維持していくという観点で見なきゃいかぬと思います。
   〔委員長退席、理事竹内潔君着席〕
 現実の平和、現に存在する平和とは何か。やはり核抑止の状態の中における平和だと、先ほど私ちょっとしり切れトンボになりましたけれども、核抑止力の条件の中に、戦略的に展開されているというのが抑止力の条件だろうと思うんです。海の平和もSLBMが戦略的に展開されておるという状態における平和だと、それに対するASW努力は米ソともにやっておると、こういう状況の平和だろうと思うんです。
#127
○参考人(海原治君) 評論家ではありますけれども、その前にといいますか、同時に一市民であります。その一市民の希望としては核はなくなることが望ましいことであります。これはもう絶対にどなたも反対されないと思います。したがって、現在米ソ双方、ほかにも核保有国はございます。あり余る核戦力を持っているわけですから、それを凍結、そして縮小、削減、これの廃棄の方向への政治努力というものは、私は当然に尊重さるべきですし、それを国際政治がくみ上げることは絶対に必要だと思います。ただし、そのための手段、方法となりますと、これはそれぞれの立場でのいろいろな思惑がございますから、どうだこうだということは私は申し上げる立場にございませんし、資格はございません。終わりです。
#128
○参考人(北村謙一君) 私は、基本的にいまのレーガン政権がやっている方法以外にソ連に対して
   〔理事竹内潔君退席、委員長着席〕
核のレベルを下げることを求めることはできないと思います。
#129
○参考人(藤井治夫君) 戦争に備えることが戦争を引き起こす、平和を守るための努力こそが戦争を防ぐことができる、これはもう歴史的なはっきりとした事実、教訓であります。
 せんだって沖縄へ参りましたときに、小学六年生の子供たちが、戦争を引き起こさないためにどうしたらよいと思うかというアンケート調査に対して、戦争のこわさを教え、戦争反対者を多くする、こういうふうにまあ一つ答えを出しておりました。もう一つ非常に大事なことを述べております。この小学六年生の子供たちは、世界の政治家を全部平和を考える人に変える、こういうふうに言っております。私はこういうふうにすることによって戦争を防ぐことができると、そう考えます。
#130
○立木洋君 これは最後になると思いますが、藤井参考人にお尋ねしたいんですが、先ほど海原参考人の御説明によりますと、シーレーン防衛ですね、これは日本側から提起したものであったということを当時の御自身の仕事の内容を通じて述べられた。で、先ほどの藤井参考人の御説明によりますと、シーレーン防衛というのはアメリカの戦略であり、アメリカのつまり目的にかなうものという趣旨のことが述べられたわけですが、そこらあたりをもう少し御説明いただきたいと思います。
#131
○参考人(藤井治夫君) 結局、私も最初に申し上げましたように、第二次大戦でシーレーン防衛に失敗したということについての日本の旧軍人の方々、海上自衛隊の創設をされた方々、そういう体験に立って、つまりこれから第三次大戦を戦おうとされている、こういう側面があることは否定できないと思います。だがしかし、同時にこれはつまりアメリカの世界戦略において前方防衛戦略、とりわけソ連の潜水艦というものを対潜バリアによって阻止するというところから非常に重視され始めている。そして、海上自衛隊自体が創設以来そういう任務を受け持たされている対潜兵力であるにすぎない。まあ国土防衛と言いましたが、国土防衛にはほとんど役に立たない潜水艦狩りだけをやっていると、こういう面がございました。
 この問題が非常にクローズアップされ始めましたのが七五年ごろからでありまして、それ以来のアメリカの軍の当局者の発言をずっと調べてみますと、やっぱりアメリカが必死になってこのことを進めてきたという側面がございます。たとえば、戦後ずっと日本海での制海権をアメリカが持っていたが、いまやそれを失ったと。そういうところから、すぐに、日本にひとつがんばってもらいたい、対潜作戦能力を強化せよと、こういう話が七六年にすでに出てきております。それ以来ずっとテンポ、ピッチを増してこの動きが出てきているわけであります。だからまあ、世界戦略的に見ますと、これはアメリカの要求、そして日本にとっては全然無意味であり、危険でさえあると、そういうものであるにもかかわらず、海上自衛隊がそれをやっているというのは、やっぱりアメリカの補完戦力である、そういうふうな習性のもとにこれは出てきたということにプラス、日本海軍の亡霊がつきまとっていると、こういうふうに言えるのではないかと思います。
#132
○柄谷道一君 阿曽沼参考人にお伺いいたします。
 わが国は決して大陸国家でもなければ自給自足経済の島国でもない。いわゆる海洋国家であり、そしてそれゆえに海洋国家の理念が確立されなければならない。この御指摘には私も同感でございます。したがって、私は、海洋の価値をどうして守るかという問題は、非軍事的措置、軍事的措置を含めて、国家的な見地から総合的に政府全体として取り組むべき問題であると、こう思うのでございます。ところが、わが国では、現在海上輸送の安全確保についてどのような国家的配慮が払われているかという点を考えてみますと、経済面、技術面、政治面、軍事面の各リスクに対する取り組み方に非常にアンバランスがあるというのが実態であろうと、こう思うのです。
 そこで、私は、参考人の論文等も読ましていただきましたが、最大の弱点は、国家戦略の不在であるという指摘をされておりますし、本日も、矛盾の本質を見きわめる必要があるとか、決断のシステムがないと、こういう御指摘もあったわけでございます。国家的な見地から、マクロ的アプローチ、さらにミクロ的アプローチをバランスをとりながら政府全体として取り組む場合に、問題は、だれかリーダーとなって、どういう機関で、どういう省庁が参加してこれを進めていくかというのが一つの重要な問題になってくると思います。ところが、海原参考人も指摘をされましたし、私も国会でしばしば取り上げておるわけでございますが、現在の国防会議、そして総合安全保障関係閣僚会議、いわば現在率直に言えば冬眠中であり、開店休業の実態でございます。その機能を十分果たしていないというのが残念ながら日本の現状であろうと、こう思うのでございますが、こういう問題に対する阿曽沼参考人の御意見を参考にお伺いいたしたい。
#133
○参考人(阿曽沼廣郷君) 先ほどもいささか触れましたけれども、私は冒頭に、シーレーンの防衛という言葉を使わないで、シーレーンの安全保障という概念でとらえた方がいいと、これは年来の主張でございますけれども、当然平時においてシーレーンの安全確保、これは海運行政の中で行われておるわけであります。海運行政並びに外交も当然。同時に資源政策、これも絡みます。この方策は、先刻私も御紹介いたしましたけれども、運輸省に総合安全保障部会というものができて、年来研究をいたしまして、ことしその答申が出ております。平時においていろいろあるリスクの中でこの海運の安定を確保するリスクマネジメントとしてはいろいろな施策が中に盛り込まれております。しかし、それを軍事的な挑戦を受けるときの政策は、これは防衛政策その他のものが中心になってやるんで、その研究の対象にしないということになっておりますが、結局、現在の縦割り行政の中ではそれを国として総合的にやる仕組みはございません。で、先ほど私も申し上げましたように、まず関係の各資源、海運、防衛――防衛は無論別としましても、農林水産その他の各省庁に、単なる窓口でなくて、常時国の安全保障を考える部局がまずでき上がる、スタッフ機構ができ上がるということが前提になって、あと、国防会議、まあ国防会議の組織としてはいろいろ幹事会とか参事官会議とかあるわけでありますが、それが活発に動き出す、研究を進めるということが必要かと思います。
#134
○柄谷道一君 さらに引き続いてお伺いいたしますが、私も外交的、経済的努力というものが、海洋の価値、平和を守るために、当然その前提にならなければならない、これは当然の議論でございます。また、これとあわせて、総合的、段階的な各通常兵器を含む軍縮というものが達成される国際環境を日本の努力によって成熟さしていかねばならぬ。これまた当然のことだと思うのです。そこで、これは藤井参考人にははなはだ失礼になるかもしれませんが、議論をいわばそうした片目の議論で終わらしてしまうか、それとも、戦争抑止力の機能というものを重視しつつ、あわせて外交的、経済的努力というものが、努力がその限界を越えたとき、軍事的に海上輸送というものをどうして確保するか、ないしは被害を最小限にとどめて最低の国民生活と継戦能力を維持していくかということがこのシーレーン問題に対する私は今日的課題である、こう思うわけでございます。
 そこで、端的にお伺いいたしますけれども、このシーレーン防衛にそのような視点から本格的に取り組もうとする場合、これは財政的その他いろんな制約があるわけでございますが、法的ないしは制度的に最低限これだけは整備しておかなければならぬというのはどういう点か、ないしは軍事的に最低限整備しておかねばならぬという課題は一体何なのか、阿曽沼先生のひとつ御所見をお伺いしたいと思います。
#135
○参考人(阿曽沼廣郷君) 法的、制度的という問題も若干あいまいな問題かとも思いますが、たとえば先ほど国の決断のシステムということを申し上げましたけれども、私が例を引きました国防会議が活性化するということも、これは現実には法的には裏づけがあるわけです。で、制度的にもある程度総理府令で補完されておる、これが有効に動くということが問題のまず発端だろうと思うんですね、問題解決の。それから、軍事的な問題について言えば、私は、船をつくる、飛行機を整備するのも必要でございますけれども、これを有効に運用できるシステム、これが望ましいと。これはいわゆるC3Iシステムというのが非常に最近はやり言葉になっておりますが、指揮・管制・通信・情報システムを整備すると。そして、問題はこれは平時からどう有事につながるか。有事にいきなり情報なくしてできるわけではありませんので、現在進められております海上保安庁の海洋情報システムと防衛庁の情報コマンド・コントロール・システムが有効に情報のトランスファーができるように整備をしていくということが私は非常に大事なことではないかと。予算の配分におきましても、たとえば防衛白書の五十五年度にはいろいろな問題点、欠陥が出ておりますが、これがどう改善されていくかがこれからの問題だろうと思います。
#136
○柄谷道一君 北村参考人も、有事の場合のシーレーン防衛についてはあらゆる戦術を同時並行的に展開することによってその相乗効果を上げていくという着想が必要である、現実にそれが必要だ、こういう御指摘をされたわけですが、阿曽沼参考人と北村参考人に率直にお伺いいたしますが、私はシーレーン防衛にとって洋上防空という問題は欠かすことができないこれは要件であろう、こう思うんです。ところが、政府が言っております二航路帯のうち南西航路には沖縄という航空基地を現在持っておりますが、南東航路には何もないというのがこれ現状でございますね。そこで、私も昨年、内閣委員といたしまして硫黄島にも行ってきたわけでございますが、この南東航空路の洋上防空という点から硫黄島の存在というものがクローズアップされてくる、こう思うわけでございます。政府は現在硫黄島はいわゆる訓練基地といわばまやかしているような状態でございますけれども、両参考人はシーレーン防衛上この硫黄島というものをどういうふうに位置づけておられるのか、また今後どのような整備が必要であるとお考えになっているのか、この点を率直にお伺いいたします。
#137
○参考人(北村謙一君) 南東航路の洋上防空につきましては、硫黄島は非常に重要な位置を占めておる。これは一つは早期警戒システム、いわゆるレーダーでありますが、もちろんこれは硫黄島だけではだめでありまして、小笠原列島線に沿うてギャップができないようにやっていく必要がある。情報が入れば部隊としても非常に対処が容易であります。硫黄島はそのほかにでき得れば要撃戦闘機を配備してもらいたい。そうしますならば、もちろんそれによって十分なカバーはできないんでありますけれども、このシーレーン地帯に東から侵入してくる相手の航空機の行動は大いに制約される、とするならば、われわれはそれだけ対処がしやすいわけであります。どのような施設を整備しなければならないかとなれば、必要に応じて戦闘機を配備できるような、そのような諸般の設備が必要であろうと思います。滑走路を含めシェルターも必要でしょうし、あるいは隊員の居住、そういったものもやはりやらなければいかぬと私は思っております。
#138
○参考人(阿曽沼廣郷君) 私も大体同じような意見でありますけれども、例を引きますと、イギリスの海軍、これはやはり陸上の基地、航空兵力の傘のもとにおいてASWをやる、こういうふうな一つの整備方針になっておるようであります。これはフォークランドでいろいろ欠陥も出たわけでありますが、そういう意味におきまして、陸上の基地の航空兵力を十分整備するということが大事だ、その観点から硫黄島が非常に存在価値を持つというふうに思います。
#139
○柄谷道一君 阿曽沼参考人は、シーレーン防衛には海洋同盟システムの確立が必要だという指摘も行われましたし、日米安保体制下アメリカとの協力が不可欠であるとも指摘されておるところでございます。
 そこで、アメリカとの協力体制について現在のままでよいとお考えになっているのか。日本としてこの協力体制についてさらに改めるべき点はどういうところにあると思っていらっしゃるのか。また、アメリカに対して何を要求すべきであるとお考えになっているのか。以上三点でございます。
#140
○参考人(阿曽沼廣郷君) 海洋同盟システムが必要というよりも、海洋同盟システムであるという
意味を申し上げたのですが、実は、アメリカとの同盟というのは、これは私は一つの歴史観に立てば、第二次大戦の貴重な教訓である。これは海洋国家同士が戦ってはいけない、海洋国家は同盟を結ばねばいかぬ。日本が海洋国家と同盟を結んでいるときに非常に利得があった。こういう史観に立つわけであります。
 それで、米国との協力体制ですが、これは確かにいまの日本の海上自衛隊なら海上自衛隊の持っているシステムの欠陥は防空にもございます。恐らくE2Cは持ちましたけれども、広域なアーリーウォーニングシステムがない。こういう問題については協力を得なければいかぬ。あるいは情報のシステムにおいて日本でとれないものはアメリカにとってもらう。日本のとったものはアメリカにやる。こういうふうな同盟システムが有効に働くように、これから持っていくべきだ、こういうふうに考えます。
#141
○柄谷道一君 最後の質問になりますが、まず藤井参考人に対して、外交的平和努力というものを非常に強調されました。私もその考えは全く同感でございます。先ほど失礼ながら片目の議論という表現を使わしていただいたのですが、それによって日本の平和が維持され、海洋の安全が確保される、これはもうベストでございます。もちろんベストに向かって政治が努力しなければならぬというのは、これは当然でございますけれども、しかし、それらの努力が限界を超えるということはあり得るわけでごさいます。その場合、海洋国家として海洋の価値、いわゆる海洋国家としての海洋の価値の限界を超えた場合どのようにして守っていくべきだとお考えになっているのか、もう前段の議論ですべて尽きるというお考えなのか、これは藤井参考人に対してでございます。
 あわせて三名の参考人の、他の阿曽沼、海原、北村、三人の参考人にお伺いしたいことは、私は予算委員会の外交・防衛に関する集中審議でこういう指摘をいたしました。中曽根総理がアメリカにおいて不沈空母という例示を引かれてわが国の防空能力の向上、そして三海峡の封鎖問題、いわゆる海峡阻止の問題、それからシーレーン防衛の問題、これを首脳会議、ワシントンポストとの会談等で強調された。これはかねがねアメリカが日本に対して期待しておったところでございますから、これが拍手喝采を受けることは当然でございます。したがってこれから日本に対する要求といいますか、期待というものは総理の発言を一つの契機として一層強まってくるであろうということは容易にアメリカの世論等から見て想像されるところでございます。
 ところが、そのようなアメリカの期待が大きくなりましても、現在の五六中業を期間内に上方修正するということは財政余力から見てなかなかむずかしい状態にある。まして五六中業そのものを期間内に達成するとしても初年度予算がしぼられておりますから、実質八ないし九%の対前年比の伸びを確保しなければその五六中業すら達成できない。いわゆる期間を先に繰り延べねばならぬという事態が生じてくる。強引にこれをやろうとすれば財政問題が生じてくる。こうした実態が、私はかえって日米不信の種をまいたという結果をもたらしたんではないかと、こういう指摘を行いましたが、総理は五六中業が多少延びても日本が精いっぱい努力すれば日米関係を損なうことがないと、こう言い切られたわけでございます。
 シーレーン防衛問題と関連して、日米安保体制が外交の基軸である、シーレーン防衛にとってもこれが前提となっているという考え方から、この問題についてどうお考えなのか、これを質問しまして時間が参りますから終わります。
#142
○参考人(藤井治夫君) 私は出征兵士になったつもりでがんばりますというふうな御発言がございましたが、そういう方向で日本列島を不沈空母にするというふうな方向でのがんばり方では、これは実際非軍事的手段による安全ということについて努力しているとは言えないと思うんです。むしろ逆行している。だから私はやはり背水の陣をしいて本当に平和のためにやるというのが政治の任務ではないか、そこで活路を開くのである、こういう決意がやはり必要ではないかと感じております。
#143
○参考人(北村謙一君) 私は五六中業の期間内達成ができないような場合には日米関係は再び悪くなるだろうと思います。
 いま財政上の限界のお話ありましたが、私は財政の問題は全然わかりません。素人でありますからわかりませんが、素人ながらも新聞で見ますというと、むだな経費が相当あるのではないかと。これを必要なものに限定すれば防衛庁が要求しているような予算は簡単に出てくるのではないかというような気がするわけであります。
#144
○参考人(海原治君) 総理大臣の発言についておまえどう思うかと言われると、これは非常に困るわけでございます。まことに無責任な、評論家としての感じを申しますと、中曽根さんは防衛庁長官として十三年前アメリカでレアード国防長官に同様のことを言っておられますね。これはいろんなところに出ていますけれども、日本海を日本湖にするとか、海峡のコントロールをやるとか、これは正式の訪米のとき言っておられるわけです。その後何もそれはできていません。で、同じことを今度言われた。なぜ言われたか。帰ってきてからの読売新聞の記事を読みますと、要するにアメリカ側に対して、国を守る決意、これを示さないことには、いざという場合には日米安保条約が機能しない、だから言ったんだということで、日本国内で発言をしたんでは日本人は余りびっくりしない、そこでアメリカでやったというふうにとれるようなことを言っておられます。それかどうかわかりません。しかし、そういうことではなかろうかと思います。しかし、問題は、いやしくも一国の総理大臣が同盟国の首都で有力紙に言ったことは、当然これを実行するだけの決意と努力と自信を含めての発言ではないかと思います。そして五六中業の上方修正というお言葉がございましたが、私は、いわゆる防衛庁の五六中業には思想はないと思います。いろんなところで書いておりますけれども、陸海空の自衛隊の幕僚の買い物計画の集合でありますから、これはもっと、一体日本の防衛とは何をどうすることによってどういう力が入るかという基本的な考え方をはっきりした上で検討されてしかるべきものと、こう思っております。したがいまして、その五六中業の達成のために予算がどうだこうだということについては、私は答える立場にはございませんし、そういうことは意味がないと思います。
#145
○参考人(阿曽沼廣郷君) 私は、防衛力を一つのシステムとして考えた場合には、やっぱり目的、目標というものをはっきりしなきゃいかぬ。それから、そのシステムを整備していくためには現状分析ということが欠かせないと思います。いままでの過去の防衛力整備の歴史においてどれだけ現状分析ということがやられたかということは多少疑問でございます。現状分析には相当なシステムアナリストも要るし、予算もかかります。これをやらせるのはシビリアンコントロールで大事なことじゃないかと思います。
#146
○柄谷道一君 終わります。
#147
○秦豊君 お疲れでしょうが、これで終わりますから、北村さん、ちょっと確認さしてください。
 いま柄谷委員に対するあなたの御答弁の中で、自衛隊にはかなりむだがある、見直せば財源が浮いてくるだろうと言われた真意は、海出身のあなたとして、たとえば陸上の大幅削減、海空重視を貫くという思想が根底にあり、そういうことを意図されたものですか。
#148
○参考人(北村謙一君) いや、私は防衛庁のことを言っておるんじゃないのです。国政一般であります。たとえば社会福祉関係でも、いま医療問題でもずいぶん問題になっておりますが、こういったところはもっと削れるのではないかとか、それから、いろんな補助金があるようでございますが、私、新聞を読みましても、何のためにわれわれはこんなむだな税金を納めておるのかと考えるぐらいであります。だから、防衛庁以外のむだな金のことを私は言ったわけです。
#149
○秦豊君 国政全般ね。
#150
○参考人(北村謙一君) はい、そうです。
#151
○秦豊君 それからもう一つ、さっきたしか八個護衛隊群が望ましいという意味に私は聞こえたんですがね、これは一体どういう見積もりを踏まえたものですか。
#152
○参考人(北村謙一君) それは、私も申し上げましたように、本来ならば政府として緊急時の輸入計画というものがあってしかるべきなんですね。どこから何を幾ら運ぶ、そのためには配船計画はどうする、護衛兵力はどうする、護衛をする場合には日米間の話し合いによって日本はどの範囲を担当するというようなものがあって初めて所要兵力ははじき出せるのでありますが、それがありませんので、まあ大体の案だというわけであります。
 その根拠としましては、恐らく七群ないし八群あるとしますというと、外航すなわち南東航路それから南西航路、これに常時少なくとも二つぐらいの群は配備しなきゃならない、一群は恐らく補給、整備中であるだろう、それからまた一部のものは、内海付近において沿岸の航路の安全と、それから国土の周辺において緊急事態が発生した場合にそれに備えなきゃいかぬ、それからまた状況によればある特定の地域において潜水艦の阻止とか、あるいは捜索、攻撃、こういったものをやる、七群ないし八群あれば大体のところできるのではないかというのであります。
#153
○秦豊君 それから、念のためですが、海幕がかつて分析班でデータを出しましたね、一定の数字を。ある年度の国民生活を基準にして例の二億トン輸入説、これはしかし国家の最高意思としてオーソライズされてはまだいないわけですよ。私はそう思うんですよ。だから、あなたの意見に共感する部分があるとすれば、探してみると、自衛隊の装備計画の大前提になる、むしろグルントになる国家の最高意思、整合性のある国家戦略、しかも合意を裏づけにした、これが整っていないから、海原氏じゃないが買い物計画が檜町ペースで独走をする、東京・ワシントンの合作になる、こういう図式になるのも、やっぱり政治にかなりな責任が逆に問われているという面は、その点はあなたに共感する部分もある。しかし、あなたの言われた八個護衛隊群なんという数字は、たとえば八一年夏、ハワイで提案されたとされているアメリカのいわゆる原案、あれを突き破るたくましい案だし、せいぜい一致する点は対潜機の数ね、これは百二十五から百三十で整合していますが、海上の護衛艦等についてはあなたの案はかなり突き破っている。だから、あなたの意見を勝手に私が敷衍すれば、いま五六中業の上方修正論があったけれども、あなたの場合は五六中業はもちろん不十分、次の五九中業で大綱を突き破る装備調達計画を全うせよ、つくり上げろと、こういう意見になるわけでしょう。
#154
○参考人(北村謙一君) 五六中業では不十分であります。五六中業は平時の兵力であります。しかも、ありそうもないところの小規模限定的な事態であります。したがってこれは不十分である。ところが、平時の基盤的防衛力にしても、防衛庁は五つの護衛隊群を要求したわけであります。ところが、そのときに財政当局の方の圧力によって大平大蔵大臣が反対して四群になった。したがって、五群をやってもこれは平時の基盤的防衛力であって不十分である。もっとふやす必要があるというのが私の本当の気持ちであります。
#155
○秦豊君 五九中業……。
#156
○参考人(北村謙一君) はい。ただし、べらぼうに多くなるというようにお考えかもしれませんが、なるほど護衛隊群の数は倍近くになるかもしれません。三群あるいは四群プラスだと。しかしながら、所要の兵力は、いまの約六十隻というものは地方隊のものも入っておるわけです。一群が仮に八隻とするならば、四群つくって三十二隻、もし三群をふやすとするならば三、八、二十四隻。だから二十五ないし三十隻前後ということになるわけです。
#157
○秦豊君 この安保特別委員会で去年、鈴木政権のとき宮澤官房長官と私の間に一つの議論が交わされた。それはシーレーンの防衛というふうな問題が一防衛庁マターとあなたは限局的に考えるのか、それとも内閣マターと思うかと言ったら、渋々政府マターと認めた。そんなことは常識中のアルファベットのAなんだか、認めるのにかなりの時間がかかる。さらに私は不満だったから一連の質問主意書を出して、それで政府から出た回答の中に、先ほど阿曽沼氏が引用された、例の総合安全保障関係閣僚会議において総合的な検討を加えるという答弁が初めて出てきたわけだ。これもあなた、常識中の常識だ。ただ、私がそれを出した真意は、つまり防衛はシステムであるという点においては皆さんのある部分の意見と共通する。システムでなきゃいけない、つまり総合でなければならない。ところが大平政権はみずからそれを策定する労をいとい、その知恵もなかったもんだから民間のシンクタンクに委嘱をして調査費を与え、そして作文を受けた。それがいわゆる総合安全保障政策と言われているものであるが、ああいうものを僕は国家戦略とは思っていない。それじゃ「国防の基本方針」と基盤的防衛力構想の解説文書と、そういうものを、あるいは「防衛計画の大綱」、一連の文書を全部集めて合本にしたところで国家戦略とは僕は思っていないんだ。だけれども、シーレーンに問題を限れば、にもかかわらずシーレーン問題を考えるのはわれわれ国会の重要なマターだから、それを総合的にすれば、あなたもちらっと言われたように北村さん、備蓄についての配慮、渋谷議員も言われたが、レアメタル、こういう問題は、より賢い選択とは何か、限られた国家原資を配分するプライオリティーは何か、これを峻烈に議論するのが本来国会の機能なんだ。ところが、解釈論とかなんとかかんとかで本当にまあまあ堂々めぐりしている。だから恐らく、整合性のある総合安全保障政策が日本に確立されるのは僕は来世紀の話だろうと思っていますがね。
 それは別として、あなたに聞いておきたいのは、あなたはさっき日本の有事のところで、私の聞き間違いでなければ、かなり長期間にわたり海上破壊戦もそれに応じて長期間であるという認識を述べられたように思うんですよね。それはどういうことを踏まえての御判断ですか。
#158
○参考人(北村謙一君) 米ソの本格的な軍事対決が仮に中東で起こり、それが世界的な規模に発展していったとするならば、現在の、たとえばアフガニスタンの問題にしてももう三年間、イラン・イラク戦争にしてもああいう状況であります。したがってそう簡単におさまるはずはないと。もちろん陸上における、あるいは空をめぐっての熱い戦いというものはある期間やって、それからしばらく休止して、それが繰り返されるかもしれません。しかしながら海上においては、きわめてじみではある、陰うつではあるけれども、このシーレーンの攻防をめぐって戦いがずうっと続いていくだろう、ただし、その間においては多少の起伏はあるでしょうけれども。そのように私は申し上げたのであります。
#159
○秦豊君 そうすると、あなたの大前提は――いまのは前提ですよね。大前提は、非核戦争が長期化するという、そういう判断ですか。
#160
○参考人(北村謙一君) もちろん核戦争の可能性を全然否定するものじゃありませんが、大体において核の使用は米ソともにお互いが強く厳しく抑制するだろう。ただし、これは核のバランスが維持されるというのが前提であります。そうするならば、通常兵力で戦うならば、相当長期にわたって続くだろうというわけであります。
#161
○秦豊君 それから北村さん、あなたに集中して悪いんだけれども、あなたが最高幹部であった海上自衛隊が、かつて一度たりとも二億トンの最低所要量――国家の意思としてはオーソライズされてない、それはそうですが、それを目標として装備計画を進めたとか、そういうことは、じゃ全くなかったわけですね。
#162
○参考人(北村謙一君) 私が海幕におりましたときはまだそれほどの輸入量はなかったわけであります。しかしそのときにおいても、基盤的には平時には四群から五群、有事になれば七群、八群というのは、これはもう三十年代の初期においてもすでにありました。そのときには、一応われわれとしてはいろんなものについて計画をして、どこからこれをこれだけ運ぶというのを計算いたしました。しかしながら、いまのように五億トン、六億トンという状況になっては、私のおる間ではそういう計算はしておりません。
#163
○秦豊君 そうすると、当然いま輸出入入れますと六億七千万トン突き破っていますよ、輸出が七千八百万トンぐらいですからね。そうしますと、海幕の作業は労は多とするが、一省庁のあるセクションの、ある時期の分析にすぎない。タイムラグは相当あるし、実態とずれている。新しく分析を積み上げて一つの計数を持つ必要があるとはお考えになりませんか。
#164
○参考人(北村謙一君) 全く同感であります。しかしこれは防衛庁だけがやれる問題ではありませんので、政府の作業としてやっていただきたい。それがシーレーン防衛の前提であります。
#165
○秦豊君 もちろん。そのあなたの言われたことは、つまり、安全保障というのはボトムアップじゃなくてトップダウンというのがぜひ必要なわけだ。つまり、国家の意思で檜町こうあるべしとオーダーが来ると。イギリスや西ドイツの場合みごとにそれをやっていますね。わが国においては倒錯をしている。だからユニホームが張り切り過ぎる。政治のすき間を突いている。僕はそういう認識と偏見を自信を持って持っていますがね。
 それで、ちょっと時間がまだありますから。北村さん、この点あなたはさっき同僚議員に対して、E2Cの話にちらっと触れられて、そのときに、それではどうも足りないのでというふうなニュアンスにちょっと僕には聞こえて、それはE3AというふうなAWACS的なものの導入が望ましいという御判断と結びつきますか。
#166
○参考人(北村謙一君) これは私はそのときには申し上げなかったつもりでございます。質問があればお答えしたいと思いますが。
#167
○秦豊君 E2Cのことで何か言われましたか。
#168
○参考人(北村謙一君) それは言いません。早期警戒機という……
#169
○秦豊君 ならば、私の言ったようなことは、当然アメリカは六機、七機の購入を対日要求として出そうというふうなことを言い始めていますが、あなた方はユニホームであったわけですから、つい先日まで、やっぱりE2C八機の導入ぐらいでは能力が限定されると。望むらくはE3Aの導入というようなことはあなた方の発想の中ではごく自然でしょう。
#170
○参考人(北村謙一君) これは航空自衛隊のことでありますから、私がお答えする限りではないと思います。
#171
○秦豊君 軍事的な専門家の意見としてはどうですか。
#172
○参考人(北村謙一君) お答えするだけの資料を持っておりません。
#173
○秦豊君 結構でしょう。それから、じゃあなたの専門の海に返りましょう。
 あなたが最高幹部であったころに、いわゆる戦略情報ね、北大西洋に範囲を限定しましょうか。それは日本が独自に収集する能力というのは、エリント、コミントを含めてそれはありますよ。だけれどもトータルとしてははなはだ貧寒であると私思っているんですよ。しかし、あなたがトップであったころ、海上自衛隊の、日米間のシステムとしての戦略情報の意思疎通、情報のレシーブ、こういう点は十全でしたか。
#174
○参考人(北村謙一君) 私は主として防衛方面をやっておりまして、情報調査関係は全然経験ございませんので、それに対してはお答えできません。
#175
○秦豊君 しかし、あなたは部隊を、実際に鑑隊を動かしている方ですからね、それはわかり切って、知ってて聞いているんですけれどもね。あなた方の作戦運用、全体で言えば年防とか、その基盤になるのは戦略情報の解析ですよ。だから、艦隊司令官としてはある程度のものを持っていなければ自信を持って運営できない。そういう意味の在職当時の感触を聞きたかったからそういう質問をしたんです。
#176
○参考人(北村謙一君) 現在の海上自衛隊の情報能力は不十分であります。
#177
○秦豊君 どの辺をどう改善したらややベターになるとお考えですか。
#178
○参考人(北村謙一君) これはもう私も自衛隊を退職しまして十年になりますので、ひとつ防衛庁にお聞きいただきたいと思いますが。
#179
○秦豊君 まあ、そういう御答弁で結構ですよ、非常に御謙遜でね。
 それで、北村さんにちょっとひとつつけ加えたいんですが、予算委員会や何かで政府委員という人種とやりとりをしていますと、ある一線からは非常に警戒的になるわけですね。軍事的な合理性ではこうだと言ってもいいえというふうな感じ。その場合には政治的答弁でしのぐわけで、それが巧みであればあるほど優秀な政府委員とされているわけだ。ところがここに、宗谷の話をあなたされましたしね、対馬も場合によっては日米共同作戦と、そんなことは軍事常識でしょう。だけれども、大韓海峡と韓国が言っているあの西水道の方ですね、あの場合、その韓国のASW能力はまことに貧しいですよ、それは。そんなことはわかり切っている。だけれども、それに対する配慮なくしてはすき間ができるから、軍事常識としては対馬の東と西、東西を合わせた、海峡管制と言おうが、防衛と言おうが、阻止と言おうが構わないけれども、この作戦は論理的、軍事的合理性としては日米韓連携作戦にならざるを得ないと、こう見る方が常識的じゃないでしょうか、どうでしょう。
#180
○参考人(北村謙一君) 西水道につきましては、日本の領海部分と公海部分に対してはカバーすることはできるわけであります。しかしながら、韓国の領海の部分までは入っていくことはできないと。しかしながら、日本と韓国が軍事的に共同してやるということは政治的にできない状況にあるわけであります。そこは私は、期待でありますが、アメリカは、米韓条約があり、それから日米条約があると、両方見ておるのでありますから、そこのところをうまくコーディネーターとしてやれるんじゃないかと私は思いますから。だから、われわれはわれわれが必要なところだけやっておればそれでよろしいと。
#181
○秦豊君 なるほど。まだ二分半ほどありますから十分ですが。
 北村さん、海幕長の言うその三割通峡阻止をすれば有効だというさっきもちょっと議論があったんですが、これは僕は希望的観測じゃないかと思う。現有勢力も厳重な解析や見積もりを踏まえた数字であるとはなかなか思えない。たとえば掃海能力はかなりなものだと僕らも委員会視察で行ってわかるがね、ある程度は。あるいは朝鮮戦争の古い先例もあり。だけど敷設能力に至っては、空からしようが、敷設艦を走らせようが、あるいは対潜機からまこうが、キャプター機雷一つ持っていない状況の中で有事を迎えた場合にお寒いと私は思うんですよね。だから、現有のパワー、もちろんあなたは十年前の際にトップだけれども、いろいろ情報お持ちでしょうから。掃海能力に比べて敷設能力が極度に段差がある、これが常識でしょう。だから、大した海峡封鎖能力はないと私は思っていますが、いかがですか。
#182
○参考人(北村謙一君) 大した能力はありませんけれども持っております。と申しますのは、P3Cにしても、P2Vにしても数は少ないですけれども、機雷は敷設することができるわけであります。
#183
○秦豊君 一定の有効性は作戦上持ち得る能力はあると、こういうことですか。
#184
○参考人(北村謙一君) 特に、この機雷というものはどこに落とされたかわからぬという状況になりますというと、実際にその及ぼす効果よりも心理的な効果が非常に大きいと、それで相手の行動を大いに制約することができるわけであります。そういう特徴がございます。
#185
○秦豊君 最後に、阿曽沼参考人に伺いますが、さっき十分条件とたしか必要条件という言葉を使われたと思います。ハードとソフトとも言われましたね。現在の防衛庁当局ないし国防会議当局の政府の装備調達計画あるいは防衛計画、僕はそう緻密じゃないと思っているけれども、それをそのまま進めていけばあなたの言うソフト、ハード、必要条件と十分条件がまあ何となく満たされるのか、そうじゃなくて思い切って発想を転換して重点思考をするか、さっきあなたシステム解析と言われたが、相当な再検討というか、見直しが必要とお考えなのか。ならば、具体的にどの辺を重点として見直せとおっしゃりたいのか、この辺を最後に伺っておきたいと思います。
#186
○参考人(阿曽沼廣郷君) 具体的には現状解析がぜひ必要だろうと思います。現状解析をただやれといってできるものではなくて、それなりのシステムアナリストも要るし、仮定を設ける議論も要るし、予算もかかると、こういうことでありますが、いずれにしても、次のステップを踏むためには現状解析が要ると、これをもって初めて次の目標の確定もできますし、目標に沿ったシステムの整備のフィードバックも有効に働くと、こういうように思います。
#187
○委員長(堀江正夫君) 以上で参考人に対する質疑は終わりました。
 参考人の皆様に一言御礼を申し上げます。
 本日は長時間にわたり貴重な御意見をお聞かせいただき、まことにありがとうございました。委員会を代表して厚く御礼を申し上げます。
 本日の調査はこの程度にとどめ、これにて散会いたします。
   午後五時八分散会
ソース: 国立国会図書館
姉妹サイト