1982/03/03 第98回国会 参議院
参議院会議録情報 第098回国会 商工委員会 第3号
#1
第098回国会 商工委員会 第3号昭和五十八年三月三日(木曜日)
午前十時三十五分開会
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出席者は左のとおり。
委員長 亀井 久興君
理 事
野呂田芳成君
降矢 敬義君
吉田 正雄君
市川 正一君
委 員
大木 浩君
金丸 三郎君
川原新次郎君
福岡日出麿君
松尾 官平君
森山 眞弓君
阿具根 登君
馬場 富君
井上 計君
森田 重郎君
国務大臣
通商産業大臣 山中 貞則君
政府委員
経済企画政務次
官 辻 英雄君
経済企画庁長官
官房長 西垣 昭君
経済企画庁長官
官房会計課長 遠山 仁人君
通商産業政務次
官 前田 勲男君
通商産業大臣官
房長 柴田 益男君
通商産業大臣官
房審議官 野々内 隆君
通商産業大臣官
房審議官 池田 徳三君
通商産業省通商
政策局長 中澤 忠義君
通商産業省貿易
局長 福川 伸次君
通商産業省産業
政策局長 小長 啓一君
通商産業省立地
公害局長 福原 元一君
通商産業省基礎
産業局長 植田 守昭君
通商産業省機械
情報産業局長 志賀 学君
通商産業省生活
産業局長 黒田 真君
工業技術院長 石坂 誠一君
資源エネルギー
庁長官 豊島 格君
中小企業庁長官 神谷 和男君
事務局側
常任委員会専門
員 町田 正利君
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本日の会議に付した案件
○産業貿易及び経済計画等に関する調査
(通商産業行政の基本施策に関する件)
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#2
○委員長(亀井久興君) ただいまから商工委員会を開会いたします。産業貿易及び経済計画等に関する調査を議題といたします。
まず、通商産業行政の基本施策に関し、通商産業大臣から所信を聴取いたします。山中通商産業大臣。
#3
○国務大臣(山中貞則君) 第九十八回国会における商工委員会の御審議に先立って、通商産業行政に対する私の所信の一端を申し上げます。わが国経済を取り巻く諸情勢はきわめて厳しく、いまやわが国は、国際社会の中においてひとりで歩くことを許されない環境に置かれております。
われわれは、このような厳しい状況のもとで諸困難を克服し、わが国経済の発展基盤をより確かなものとして三十一世紀に引き継いでいくというきわめて重大な使命を担っております。この使命の達成は、内外の諸情勢を冷静、的確に把握し、常にわが国経済のあるべき姿を念頭に置き、政府と国民が一体となって知恵と力の限りを尽くして、当面する課題を一つずつ着実に解決していくことにより初めて可能となるものであります。
私は、いまほど、あすへの進路を切り開くため、官民挙げての取り組みが強く求められているときはないと考えております。
翻って、わが国をめぐる内外の諸情勢を見ますと、まず国内面では、やがて到来する高齢化社会へ備え、活気とゆとりにあふれた福祉社会を建設していくため、経済の持続的、安定的な発展を確保することが不可欠の課題となっております。
このためには、当面の経済運営について確固たる方向を明らかにするとともに、中長期的に、資源エネルギーを初めとする多くの制約条件を克服することにより、経済の先行きに対する国民の確信を深め、わが国経済の発展の原動力である民間の活力が十分に発揮されるような環境を整備することが必要であります。
また、目を外に転じますと、国際環境は、流動的な政治情勢、世界経済の長期的低迷、保護主義的風潮の高まり、発展途上国における債務累積の増大等、かつてないほど厳しい状況にあります。一方、世界各国は、大きな経済力を身につけ、また最近においても国際収支、物価等の面で比較的良好な実績を上げてきているわが国に対し、その国力にふさわしい役割りを果たすことを強く求めております。
このような状況のもとで、わが国が国際社会の中で孤立せず、各国と協調して世界の繁栄等を築き上げていくためには、何よりもわが国自身、国際社会における責任ある一員としての自覚を持つとともに、耳を傾けるべき点は謙虚に耳を傾け、言うべきことは堂々と言う、また約束したことは必ず実行するという姿勢を貫き、みずから進んで世界の期待にこたえ、積極的に役割りを分担していくことが必要であります。
私は、以上のような内外諸情勢に対する基本的認識のもとに、わが国経済の発展等を将来とも確保するために解決しなければならない課題は、次の六つであると考えております。
その第一は、内需中心の安定成長の実現と中長期的展望を踏まえた産業の活性化、第二は、自由貿易主義の堅持と円滑な対外経済関係の構築、第三は、総合的な資源エネルギー政策の展開、第四は、技術立国を目指した技術開発の促進と産業構造の創造的知識集約化の推進、第五は、多様化する経済社会の要請に即応する中小企業政策の展開、第六は、魅力ある地域経済社会の形成と国民生活の質的向上であります。
以上六つの課題のそれぞれについて、次のような通商産業政策を、行政改革の理念をも十分に踏まえ、強力に展開してまいる決意であります。
現下のわが国経済を見ますと、物価は安定基調にあるものの、国内需要は全般的に盛り上がりに欠け、また輸出についても世界経済の長期的低迷による落ち込みが続いております。このため、生産活動は低調に推移し、とりわけ基礎素材産業や中小企業において停滞色が強まっており、また雇用情勢も引き続き悪化傾向にあるなど、景気は依然足踏み状態にあります。
一刻も早く内需を中心とする安定成長路線の定着を実現することが必要であります。内需中心の
経済の着実な成長は、貿易摩擦を解消し、先進各国と協調して経済運営を行っていくためにも必要不可欠であります。
このような観点から、政府は、昨年、公共事業の追加を柱とする総合経済対策を決定し、その着実な実施に努めているところであります。今後ともわが国経済の有する潜在的な成長力を最大限に発揮させるよう、経済の実態を十分に踏まえ、これまでの対策に加えて、中小企業の設備投資促進のために税制上の措置を講ずるなど機敏かつ適切な経済運営に万全を期してまいります。
また、原材料、エネルギーコストの上昇などにより構造的困難に直面している石油化学やアルミ製錬等の基礎素材産業については、これら産業が加工組み立て産業等関連産業の発展や雇用、中小企業、地域経済の安定等の各面で重要な役割りを果たしていることを踏まえ、各業種における構造改善、活性化を図るための自主的な努力を支援し、これら産業が中長期的に経済合理性を有する産業となるよう総合的な対策を推進してまいる考えであります。具体的には、過剰設備処理、事業提携、活性化に資する設備投資、技術開発の円滑化等のため、予算、金融、税制上の特段の支援措置を講ずるほか、特定不況産業安定臨時措置法の本年六月の期限切れに対応し、独占禁止法との調整も含め、企業の自主的努力の環境整備を図るため、特定不況産業安定臨時措置法の一部を改正する法律案を提出しております。
現下の世界経済は、いまだに第二次石油危機の影響から脱し切れず、ことに欧米先進諸国は、長期にわたる景気低迷と平均して十人に一人という高い失業率に悩んでおります。
このような状況の中で、これらの諸国において、保護主義的動きが強まっており、また、わが国市場の開放を求める声も一段と高まっております。
わが国は、資源小国であるにもかかわらず戦後目覚ましい発展を遂げ、いまや、米国に次いで自由世界第二の経済規模を有するに至りましたが、これは言うまでもなく、ガット・IMF体制を基軸とする自由貿易体制の枠組みが維持されていて初めて可能となったものであります。保護主義の蔓延は、世界経済の縮小均衡、ひいては、わが国経済の発展の道を閉ざすという重大な問題をもたらします。保護主義の台頭の未然防止と世界経済の活性化が喫緊の課題となっております。
世界経済の円滑な発展を図るためには、世界各国、特に先進諸国が自由貿易体制の維持、強化に向けて一層の努力を払うとともに、各国経済の活性化と世界経済の拡大に向けて相互に協調していくことが必要不可欠であります。特に、世界経済の一割国家の地位を占めるわが国としては、いまこそ、各国に率先して世界経済の諸困難の克服と国際社会の発展のために貢献していかなければなりません。
このような観点から、政府としては、一昨年末以来、一連の市場開放対策を決定し、実施に努めてまいりました。最近においても、諸外国の関心品目の関税の大幅引き下げ、諮問会議の開催等OTOの機能強化、基準・認証制度の全面的検討等を決定したところであります。今後とも、内需を中心とする景気の着実な回復を図る一方、世界経済の発展のため、先進各国との間で産業協力や先端技術協力を進めるとともに、世界に開かれた日本の認識に立って、合理的な市場開放対策の一層の推進に努めてまいる考えであります。
なお、先般、東京で開催されました日・米・加・EC四極会合において、私は、米国のブロック通商代表を初めとする通商の最高責任者との間で、世界経済と世界貿易の現状と課題についての認識を共通にするとともに、自動車、VTRの輸出自粛問題を初め、主要な懸案事項を解決いたしました。また、わが国の市場開放努力に対する理解を得ることができました。
貿易摩擦の一因として、しばしば、諸外国との間における相互理解の不足が指摘されております。私は、去る一月、日・ECシンポジウム出席のため欧州を訪問し、トルン委員長を初めとするEC各国首脳と文字どおり腹蔵のない意見交換を行ってまいりました。シンポジウムにおいて、私は、日本、ECを含め先進諸国は、対決ではなく連帯と協力の精神のもとに、自由貿易体制の維持、強化のため、ともに協力することの必要性を強く訴え、参加者の賛同を得ることができました。また、一月末には、米国のシュルツ国務長官と会見し、世界経済情勢、日米貿易関係などについて、ひざを交え、忌憚のない意見を交わしたところであります。今後とも、あらゆる機会をとらえて諸外国との間の対話を進めてまいりたいと考えております。
一方、目を発展途上国に向けますと、これら発展途上国経済も世界経済停滞の中で、成長の鈍化、債務累積の著増等の困難に直面しており、混迷の度は一層深まっております。
これら諸国の自立と安定なくしては、世界経済、ひいてはわが国経済の発展も望み得ません。わが国としても、経済協力を通じて発展途上国の経済社会開発への自助努力を支援することにより、世界経済の調和ある発展に貢献することが必要であります。
このような観点から、今後とも、新中期目標のもと、政府開発援助の積極的拡充に努めるとともに、民間活力を最大限に活用した総合的な経済協力の推進を図ってまいる考えであります。
わが国経済は、資源エネルギー供給の大宗を海外に依存せざるを得ないきわめて脆弱な構造となっております。わが国経済の持続的、安定的成長の実現、さらにはわが国の総合安全保障の確立のために、資源エネルギー問題の解決が必要不可欠なことは、過去二度にわたる石油危機の経験に照らしても明らかであります。
最近のエネルギー情勢は、世界経済の低迷により需要が減退しているほか、官民挙げての努力の成果もあって、需給緩和の状況にあります。また、先月中旬来、原油価格下落の動きも見られるに至っております。しかしながら、中東情勢は、依然流動的であり、また中長期的にもわれわれがエネルギー問題解決への努力を怠るならば、需給が不安定化、逼迫化の方向に向かった場合に再び困難が立ちふさがることは避けがたいものと考えられます。むしろ、現在のような需給緩和時においてこそ、中長期的展望のもとに、総合的な資源エネルギー政策を積極的に推進し、エネルギーの安定供給のための基盤づくりを着実に進めていかなければなりません。
具体的には、まず第一に、石油の安定供給確保を図るため、その担い手である石油産業の構造改善を促進するとともに、引き続き石油備蓄、石油開発の着実な推進に努めてまいる考えであります。
第二に、長期的なエネルギー需給の見通しを踏まえ、原子力、石炭、LNG、水力、地熱、新エネルギー等の石油代替エネルギーの開発、導入の一層の促進を図ってまいります。中でも、石油代替電源の中核を担う原子力発電については、安全性の確保に万全を期し、国民各位の御理解と御協力を得て、電源立地、核燃料サイクルの事業化を推進してまいる考えであります。
第三は、省エネルギーの一層の推進であります。省エネルギーについては、官民一体となった取り組みにより、相当な成果を上げているところでありますが、今後とも、産業、民生、輸送の各エネルギー消費部門における省エネルギーを一層推進するため、技術開発等の促進に努めてまいります。
さらに鉱物資源をめぐる国際情勢が、第三次海洋法会議における先行投資保護決議の採択など新たな段階を迎えていることに対応し、深海底鉱物資源開発の推進を図るとともに、経済安全保障の観点をも踏まえ、希少金属備蓄を強力に進めてまいる考えであります。このため、希少金属の備蓄制度の創設を内容とする金属鉱業事業団法の一部を改正する法律案を提出しております。
わが国が、今後、直面する幾多の制約を克服し、社会の活力を維持して内外均衡のとれた経済発展を遂げていくためには、唯一の資源ともいえ
る頭脳資源を最大限に活用し、真の技術立国を目指した独創的な自主技術開発を推進し、産業構造の創造的知識集約化を図っていくことが必要不可欠であります。また、先端技術に関する国際研究開発協力等により、技術革新をリードし、世界経済の活性化に貢献していくことは、経済大国としての、また、先進技術国としてのわが国の責務であります。
このような観点から、今後とも、国民経済上、重要性、緊急性の高いエネルギー関連技術開発や基礎素材産業の活性化に不可欠な技術開発を推進するほか、エレクトロニクス、新材料、バイオテクノロジーなど九〇年代以降に成果が期待されている次世代産業技術開発を強力に推進してまいります。
また、技術的波及効果も大きく、今後の技術先端産業としても期待される情報、航空機、宇宙、原子力機器、ファインセラミックス産業等について、引き続き、その育成振興に積極的に取り組んでまいる考えであります。
さらに、特許情報の積極的活用等工業所有権行政の充実にも努めてまいります。
中小企業は、わが国経済の活力の源泉であり、発展のための大きな原動力であります。このような中小企業の果たしている重要な役割りに対する認識は、ひとりわが国のみならず、世界各国共通のものであります。このことを、私は、去る一月、約三十カ国の代表百七十名を集め、大阪において開催いたしました中小企業政策国際会議に出席し、強く感じたところであります。
しかしながら、最近の中小企業をめぐる環境を見ますと、長引く景気の低迷の影響は、特に中小企業に色濃くあらわれております。中小企業の健全な発展なくしてわが国経済の真の発展はあり得ないことを踏まえれば、今後、一刻も早くこのような状況を克服し、国民ニーズの多様化、地域経済における役割りの増大、国際化の進展等内外の環境変化に積極的に対応し得る活力ある中小企業の育成を図っていく必要があります。
このような観点から、今後とも、中小企業の景気動向に細心の注意を払いながら、政府系中小企業金融機関の融資の拡充等による資金調達の円滑化や、下請中小企業、小規模企業の経営基盤の確立に努めるとともに、技術力の向上、人材の養成、情報化の推進等のソフトな経営資源の充実を図るなど、きめ細かな施策の実施に万全を期してまいります。特に来年度においては、中小企業者に希望を与え、その活力の維持に資するよう、中小企業の事業承継の円滑化と設備投資の促進を図るため、新たに税制上の措置を講ずるとともに、先端技術の中小企業への導入を促進することを目的とする地域フロンティア技術開発事業を創設することとしております。さらに、不況の長期化により、深刻な状況に陥っている地域の中小企業については、特段の施策を講ずるほか、産地中小企業、地場産業、伝統的工芸品産業や中小小売商業の振興にも引き続き力を傾注してまいる考えであります。以上申し上げました施策の一環として、構造不況業種に属する事業所に大きく依存している地域の中小企業の経営の安定を引き続き図るとともに、新たに新分野開拓事業等を推進するため、本年六月に期限切れとなる特定不況地域中小企業対策臨時措置法の一部を改正する法律案を提出しております。
わが国経済社会は、長期化する不況の影響などから深刻な状況に陥っている地域が増加しつつあります。活力とゆとりにあふれた社会を実現していくためには、このような状況を早急に克服し、国土の均衡ある発展と魅力ある地域経済社会の形成、さらには国民生活の質的向上を図ることが必要となっております。
このような観点から、地域経済を活性化し、その安定的な発展を確保するため、各地域において自主的に推進されているテクノポリス建設構想を積極的に支援してまいる考えであります。このため、各地域において技術先端産業が発展していくため、基盤整備を促進することを内容とする法律案を提出するよう、現在鋭意準備を進めております。
さらに、産業の適正化配置に引き続き努めてまいるとともに、快適な生活環境を実現するため、環境の保全、産業保全、往生活の向上、流通の近代化、消費生活の環境整備等にも努力してまいります。
以上、通商産業行政を展開します上での所信の一端を申し述べました。
現在の難局は、新たな発展に向かって乗り越えなければならない試練であります。
私は、わが国経済の明るい未来への足固めを行うため、国民各位の御理解と御協力のもとに、強力に通商産業行政を推進し、難局の克服に全力を傾注してまいる決意であります。
委員各位におかれましても、一層の御理解と御協力を賜りますようお願い申し上げます。
#4
○委員長(亀井久興君) 以上で通商産業大臣の所信の聴取は終了いたしました。なお、経済企画庁長官の所信及び公正取引委員会委員長の業務の概略の説明につきましては、後日に聴取いたします。
また、昭和五十八年度通商産業省関係予算につきましては、お手元の配付資料で御了承願います。
所信等に対する質疑は後日に行うことといたします。
本日はこれにて散会いたします。
午前十時五十五分散会